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日本人へのbempedoic acid、LDL-C20%超の低下を認める(CLEAR-J)/日本循環器学会

 スタチンで効果不十分あるいはスタチン不耐の高コレステロール血症の日本人患者に対する12週後のbempedoic acidの安全性と有効性が明らかになった―。3月28~30日に開催された第89回日本循環器学会学術集会のLate Breaking Clinical Studies2において山下 静也氏(りんくう総合医療センター 理事長)が発表し、Circulation Journal誌2025年3月28日号に同時掲載された。 本研究は、bempedoic acid 180mgを12週投与した場合のプラセボに対する優位性を確認したプラセボ対照無作為化二重盲検並行群間第III相試験(NCT05683340)。高コレステロール血症患者のうち、18~85歳、スタチンで効果不十分あるいはスタチン不耐、アテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)リスクを有し2017年のLDLコレステロール(LDL-C)基準を達成していない、日本人患者を対象(ホモ接合体家族性高コレステロール血症[FH]、妊娠または授乳中、3ヵ月以内にASCVDを発症した患者は除外)とし、国内28施設の96例をbempedoic acid群あるいは対照群に1:1に割り付けた。主要評価項目はベースラインから12週のLDL-Cの変化率。副次評価項目は有効性(非HDLコレステロール[non-HDL]、総コレステロール[TC]、apoB、高感度C反応性蛋白[hsCRP]の12週の変化率、およびLDL-C目標達成率)と安全性であった。 主な結果は以下のとおり。・両群の患者特性は、平均年齢64歳、約50%が男性、平均BMIは約24kg/m2、約20%はヘテロ接合体FH、約30%がASCVDであった。また、スタチンで効果不十分な患者は75%、スタチン不耐は25%であった。・12週時のLDL-C変化率はbempedoic acid群で-25.25%、対照群で-3.46%となり、その群間差(95%信頼区間[CI])は-21.78%(-26.71~16.85)で統計学的に有意差が認められ(p<0.001)、その変化は投与2週目から有意な低下が認められ、12週まで持続した。・スタチン効果不十分例(-20.17%[95%CI:-25.82~-14.53])とスタチン不耐例(-25.77%[-36.61~-14.92])のいずれにおいてもその効果が認められた。・副次評価項目の1つであるhsCRPの群間差(95%CI)は-26.6%(-47.8~-5.4)で統計学的に有意差が認められた。これは既知の報告と一貫性のある結果となった。・安全性について、治療中に発現した有害事象(TEAE)はbempedoic acid群で3例、対照群で2例が報告されたが、両群で死亡または重篤なTEAEはみられなかった。bempedoic acid(ベムペド酸)とは bempedoic acidは肝臓中のクエン酸分解酵素であるATPクエン酸リアーゼに作用することでコレステロール合成経路を阻害してLDL-Cを低下させる。この薬剤を活性化体へ変化させるACSVL1は、主に肝臓に発現し、筋肉への発現がないことから、スタチンのように筋症状が出現しない点が特徴である。日本国内では、2024年11月26日に大塚製薬が「高コレステロール血症、家族性高コレステロール血症」の適応で製造販売承認申請を行っており、国内での承認・発売が待たれるところである。(ケアネット 土井 舞子)そのほかのJCS2025記事はこちら

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2型DMへの自動インスリン投与システム、HbA1c値を改善/NEJM

 自動インスリン投与(AID)システムの有用性は、1型糖尿病では十分に確立されているが、2型糖尿病における有効性と安全性は確立されていない。米国・メイヨークリニックのYogish C. Kudva氏ら2IQP Study Groupは「2IQP試験」において、インスリン治療を受けている成人2型糖尿病患者では、従来法のインスリン投与と持続血糖測定器(CGM)の併用と比較して、AIDとCGMの併用は、糖化ヘモグロビン(HbA1c)値の有意な低下をもたらし、CGMで測定した低血糖の頻度は両群とも低いことを示した。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2025年3月19日号で報告された。北米の無作為化対照比較試験 2IQP試験は、2型糖尿病患者におけるAIDの有用性の評価を目的とする無作為化対照比較試験であり、2023年6月~2024年6月に米国とカナダの21施設で患者を登録した(Tandem Diabetes Careの助成を受けた)。 年齢18歳以上、2型糖尿病の罹患期間が6ヵ月以上で、1日に複数回のインスリン注射を受け、このうち少なくとも1回は超速効型インスリン製剤であるか、試験登録の3ヵ月以上前からインスリンポンプを使用している患者を対象とした。これらの患者を、AIDを使用する群(AID群)または試験前のインスリン投与法を継続する群(対照群)に、2対1の割合で無作為に割り付けた。両群ともCGMを使用した。 主要アウトカムは13週の時点でのHbA1c値とした。目標血糖値達成時間も有意に改善 319例を登録し、AID群に215例(平均[±SD]年齢59[±12]歳、女性49%、罹患期間中央値18年[四分位範囲:11~26]、平均HbA1c値8.2[±1.4]%)、対照群に104例(57[±12]歳、47%、18年[11~24]、8.1[±1.2]%)を割り付けた。 HbA1c値は、対照群ではベースラインの8.1(±1.2)%から13週目には7.7(±1.1)%へと0.3%ポイント減少したのに対し、AID群では8.2(±1.4)%から7.3(±0.9)%へと0.9%ポイント減少し有意な改善を示した(平均補正後群間差:-0.6%ポイント[95%信頼区間[CI]:-0.8~-0.4]、p<0.001)。 患者が目標血糖値(70~180mg/dL)の範囲内にあった時間割合の平均値は、対照群ではベースラインの51(±21)%から13週目には52(±21)%に増加したのに比べ、AID群では48(±24)%から64(±16)%に増加し有意に良好であった(平均群間差:14%ポイント[95%CI:11~17]、p<0.001)。1例で重篤な低血糖、13例でデバイス関連高血糖 平均血糖値、血糖値>180mg/dLの時間の割合、同>250mg/dLの時間の割合、週当たりの遷延化高血糖イベント数は、いずれもAID群で優れた(すべてp<0.001)。また、CGMで測定した週当たりの低血糖イベント数は、両群とも低値であり群間に有意差を認めなかった。AID群では、1例で重篤な低血糖が発現し、13例(20件)でデバイス関連の高血糖がみられた。 著者は、「多くの2型糖尿病患者は、GLP-1受容体作動薬や他の非インスリン血糖降下薬による治療を受けており、今回の試験結果は、これらの薬剤を含む糖尿病管理レジメンにAIDを追加した場合にはHbA1c値をさらに低下させる可能性があることを示している」とし、「インスリン治療を受けている2型糖尿病の多様な患者集団において、従来法のインスリン投与とCGMの併用と比較して、AIDとCGMの併用は低血糖を増加させることなく安全にHbA1c値と高血糖を減少させた」とまとめている。

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BMIを改善すると心房細動リスクが低減か

 肥満や過体重が、脳心血管疾患のリスクとなることは知られている。では、体重が減るとこのリスクも減らすことができるのであろうか。この課題に上海交通大学医学院および上海第9人民病院内分泌代謝研究部門のJiang Li氏らの研究グループは、中年期における長期的な体重変化と代謝状態の推移が心房細動(AF)のリスクに与える影響を研究した。その結果、AFの1次予防には、体重管理と代謝の健康維持が勧められることが示唆された。この結果は、Heart Rhythm誌2025年3月13日オンライン版に掲載された。過体重と肥満はAFを増加させる 研究グループは、BMI変化とBMI-代謝健康状態の推移がAFに及ぼす影響を評価することを目的に、英国のUK Biobankを使用し、前向きコホート研究を実施した。メタボリックヘルスの定義は、血圧、C反応性タンパク質、トリアシルグリセロール、LDLコレステロール、HDLコレステロール、糖化ヘモグロビンを含む6つのメタボリックヘルシー(MH)基準のうち4つ以上を有することとした。 主な結果は以下のとおり。・ベースライン時のBMI解析のために最初に組み入れた49万969人の参加者のうち、中央値14.0年の追跡期間で3万3,297件のAF症例が観察された。・過体重(ハザード比[HR]:1.12、95%信頼区間[CI]:1.09~1.15)および肥満(HR:1.74、95%CI:1.68~1.79)は、AFリスクを有意に増加させた。・BMIが年間2%以上低下するとAFリスクは低下し(HR:0.75、95%CI:0.57~0.99)、とくに肥満から過体重への移行ではその傾向が顕著(HR:0.74、95%CI:0.54~1.02)であったが、統計学的な有意差は認められなかった。・MH-標準体重と比較すると、MH-肥満および代謝性不健康(MU)-肥満のHRはそれぞれ1.74(95%CI:1.67~1.81)および1.76(95%CI:1.69~1.83)だった。・MH-過体重/肥満からMU-過体重/肥満への移行は、AFリスクを増加させた(HR:1.35、95%CI:0.97~1.88)。 研究グループは、これらの結果から「BMIの年間2%以上の低下は、とくに肥満から過体重に変化する人でAFリスクの低下と関連していた。MH-過体重/肥満からMU-過体重/肥満への移行は、AFリスクを増加させた。AFの1次予防には、体重管理と代謝の健康維持が推奨されるべき」と結論付けている。

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SGLT2阻害薬およびGLP-1受容体作動薬は女性と高齢者に対しても有効か?(解説:住谷哲氏)

 SGLT2阻害薬およびGLP-1受容体作動薬が、心不全や慢性腎臓病を合併した2型糖尿病患者の予後を改善することは多数のRCTおよびそのメタ解析の結果から明らかにされている1)。しかし、その有効性が性別および年齢によって異なるのかはこれまで明らかではなかった。そこで本論文では既報のRCTの結果を基に、MACEとHbA1cとを主要評価項目として、年齢×治療、性別×治療の交互作用interactionsの有無をネットワークメタ解析により推定した。 592試験がHbA1cの解析対象となり、そのうちでGLP-1受容体作動薬の9試験、SGLT2阻害薬の8試験がMACEの解析対象となった。性別でみると男性の比率が最も高かったのはSGLT2阻害薬エンパグリフロジンのEMPA-REG OUTCOME試験で71.5%であり、最も低かったのはGLP-1受容体作動薬デュラグルチドのREWIND試験で53.7%であった。また年齢でみると、SGLT1/2阻害薬sotagliflozin(国内未発売)のSOLOIST-WHF試験で68.7歳が最高齢であり、SGLT2阻害薬カナグリフロジンのCREDENCE試験が56.4歳で最も若かった。 結果は、SGLT2阻害薬およびGLP-1受容体作動薬の両薬剤ともに、HbA1cの低下およびMACEの減少に性別は有意な影響を及ぼさなかった。つまり性別を問わず両薬剤は有効であった。しかし年齢に関しては、SGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬とは異なる交互作用が認められた。HbA1cの低下については、SGLT2阻害薬では高齢者は若年者に比較して有意に小さく、逆にGLP-1受容体作動薬では高齢者は若年者に比較して有意に大きかった。MACEの減少については、SGLT2阻害薬では高齢者は若年者に比較して有意に大きく、逆にGLP-1受容体作動薬では高齢者は若年者に比較して有意に小さかった。これから考えると両薬剤のMACE減少効果とHbA1c低下作用とは関連がないことがわかる。 以上の結果から、MACE減少を期待するならば高齢者にはSGLT2阻害薬を、若年者にはGLP-1受容体作動薬の投与を積極的に考慮すべきだろうか? 注意すべきは、解析対象となった試験はすべて心血管イベントリスクのきわめて高い患者を対象としたCVOTであり、80歳以上の高齢者はほとんど対象に含まれていない点だろう。高齢者ではフレイルの有無が薬剤選択に影響することが少なくない。両薬剤ともに体重減少を伴うことが多い点は十分に考慮する必要がある。

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Lp(a)測定の国際標準化、新薬登場までに解決か/日本動脈硬化学会

 60年前に初めて発見され、LDLコレステロール(LDL-C)と独立して動脈硬化を促進させる血清リポプロテイン(a)(以下「Lp(a)」)。その存在自体は医師にも知られているが、「一生に一度測定すればよい」との勧告や治療薬が存在しないことも相まって、測定する意義や基準値に関する理解が今ひとつ進んでいないのが実情である。しかし、数年後にLp(a)を低下させる新薬が登場すると期待されている今、これらの解決が急務とされている。そこで、日本動脈硬化学会が「Lp(a)と測定値の標準化について」と題し、プレスセミナーを開催。三井田 孝氏(順天堂大学医療科学部 臨床検査科)がLp(a)測定を推進していく中で問題となる測定値の標準化にフォーカスして解説した。 Lp(a)とは、そもそも何か Lp(a)とは、低比重リポ蛋白(LDL)を形成しているapoB-100にapo(a)が結合して形成されるリポ蛋白粒子である。apo(a)にはクリングルと呼ばれる領域があり、なかでもクリングルIV(KIV、KIV1~10のサブタイプあり)のうちKIV2の繰り返し数がLp(a)濃度を決定付ける。「この繰り返しは遺伝子によって決まるが、それが少ないほどLp(a)濃度が高くなる」と、三井田氏は遺伝子レベルで個人差があることを説明した。さらに、Lp(a)は酸化リン脂質と結合するとLDLと独立した動脈硬化リスク因子となり、心筋梗塞や虚血性脳卒中、大動脈弁狭窄症の発症との関連性も明らかになってきている1)。Lp(a)測定の意義 このLp(a)に対し、医師の本音として“数値の解釈が難しい”、“検査キットによって数値のばらつきがあるから測定したくない…”といった声も挙がっているようだが、強力なLDL低下療法を行っているにもかかわらず思うようにコントロールできない残余リスクのある患者では、Lp(a)の影響が高い可能性がある。そのためLp(a)を測定し、高値であれば冠動脈疾患高リスク患者と捉え、LDL-Cをはじめとする介入可能な危険因子管理をより厳格に行う2,3)ことが求められる。「既存薬で避けられなかった残余リスクを低下させられる可能性があるため、2次予防の観点からもLp(a)の測定は重要」と述べた。また、近い将来に核酸医薬や経口薬といったラインナップの薬剤が上市されることを見越して、「今のうちから高リスク患者だけでも測定しておく意義はある」ともコメントした。測定基準、国際標準化の必要性 このように新薬の上市が期待される中で、Lp(a)の検査をオーダーする医師が少ない以前に解決すべき問題がある。それはLp(a)測定値は30年以上前から測定キットによってばらつきがある点だ。これについて同氏は「Lp(a)測定値は世界的に見ても施設や試薬によって大きく異なり、国際的な標準化が急務。過去に標準化の試みがあったものの、標準物質の入手困難などで頓挫してしまった」と説明した。「各国のガイドラインでハイリスク群のカットオフ値が決められているが、検査に用いる測定キットにより実際の値に2倍もの乖離が生じている。実は30年前に一度、国際臨床化学連合(IFCC)がワーキンググループを設立して一次標準物質としてSRM-2B*を選定したが、残念ながら標準化は達成できなかった。それ以来、各社バラバラの測定値を報告してしまっている。しかし、IFCCは新たなワーキンググループを設立し、2023年には質量分析装置を用いたLp(a)の基準測定法を発表して、ようやく測定基準の標準化に向けて一歩を踏み出した」とコメントした。*SRM:Standard Reference Material<現時点での各ガイドラインにおけるLp(a)の取り扱い>●米国・AHA/ACCガイドライン(2019年) <30mg/dL 有意なアテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)リスクなし ≧50mg/dL ASCVDのリスク増強因子●欧州・ESC/ ESAガイドライン(2020年) ≧50mg/dL ASCVDのハイリスク群●日本・JASガイドライン(2022年) その他の考慮すべき危険因子・バイオマーカー今、日本で進められていること そして残るは測定値の国際標準化だが、三井田氏らが世界をリードして国内からカットオフ値を発信していく取り組みを行っている。それを推し進める理由として「Lp(a)の分子量はapo(a)のアイソフォームにより異なるため、正確に知ることができず、mg/dLで表示することは計量学的な誤りがある。標準化に際し、各キットの値をすべて変更しなければ臨床現場で大きな混乱を招く恐れがあり、標準化値(SI単位)へ移行すれば過去のデータも有効活用することができる」と説明した。 このようにLp(a)は混乱の渦中にあるため、現行の国内ガイドライン2,3)には測定の推奨や基準がまだ明確にされてはいない。同氏は「2027年の改訂時には標準化されたLp(a)値が記載されることが期待される」と述べ、「臨床系の学会への啓発が不足していたこれまでの反省を胸に、各学会や一般市民、世界を巻き込んで標準化を進めていかなければならない」と意気込みをみせた。

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家庭内空気汚染の疾病負担、1990~2021年の状況は?/Lancet

 世界的には家屋内で固形燃料(石炭・木炭、木材、作物残渣、糞)を用いて調理をする家庭は減少しており、家庭内空気汚染(household air pollution:HAP)に起因する疾病負担は大幅に減少しているものの、HAPは依然として主要な健康リスクであり、とくにサハラ以南のアフリカと南アジアでは深刻であることが、米国・ワシントン大学のKatrin Burkart氏ら世界疾病負担研究(Global Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors Study:GBD)2021 HAP Collaboratorsの解析で示された。著者は、「本研究で得られたHAPへの曝露と疾病負担に関する推定値は、医療政策立案者らが保健介入を計画・実施するための信頼性の高い情報源となる。多くの地域や国でHAPが依然として深刻な影響を及ぼしている現状を踏まえると、資源の乏しい地域で、よりクリーンな家庭用エネルギーへ移行させる取り組みを加速させることが急務である。このような取り組みは、健康リスクの軽減と持続可能な発展を促進し、最終的には何百万もの人々の生活の質と健康状態の改善に寄与することが期待される」とまとめている。Lancet誌オンライン版2025年3月18日号掲載の報告。1990~2021年の204の国と地域のデータを解析 研究グループは、1990~2021年の204の国と地域におけるHAPへの曝露と傾向、ならびに白内障、慢性閉塞性肺疾患、虚血性心疾患、下気道感染症、気管がん、気管支がん、肺がん、脳卒中、2型糖尿病および生殖に関する有害なアウトカムの媒介要因に関する疾病負担を推定した。 まず、調理に固形燃料を使用する人が曝露する微小粒子状物質(PM2.5)の燃料種別平均濃度(μg/m3)を、燃料種、地域、暦年、年齢および性別ごとに推定した。次に、疫学研究のシステマティック・レビューと、新たに開発されたメタ回帰ツールを用いて、疾患特異的ノンパラメトリック曝露反応曲線を作成し、PM2.5濃度の相対リスクを推定した。 また、曝露推定値と相対リスクを統合し、性別、年齢、場所、暦年ごとの原因別の人口寄与割合と疾病負担を推定した。HAP起因の疾病負担は減少、ただしサハラ以南アフリカと南アジアでは高リスク 2021年には、世界人口の33.8%(95%不確実性区間[UI]:33.2~34.3)にあたる26億7,000万人(95%UI:26億3,000万~27億1,000万)が、あらゆる発生源からのHAPに曝露しており、平均濃度は84.2μg/m3であった。これは、1990年にHAPに曝露した世界人口の割合(56.7%、95%UI:56.4~57.1)と比較すると顕著に減少しているが、絶対値でみると、1990年のHAP曝露者30億2,000万人から3億5,000万人(10%)の減少にとどまった。 2021年には、HAPに起因する世界の障害調整生存年(DALY)は1億1,100万(95%UI:7,510万~1億6,400万)であり、全DALYの3.9%(95%UI:2.6~5.7)を占めた。 2021年のHAPに起因する世界のDALY率は、年齢標準化DALYで人口10万人当たり1,500.3(95%UI:1,028.4~2,195.6)で、1990年の4,147.7(3,101.4~5,104.6)から63.8%減少した。 HAP起因の疾病負担は、サハラ以南のアフリカと南アジアで依然として最も高く、それぞれ人口10万人当たりの年齢標準化DALYは4,044.1(95%UI:3,103.4~5,219.7)と3,213.5(2,165.4~4,409.4)であった。HAP起因DALY率は、男性(1,530.5、95%UI:1,023.4~2,263.6)のほうが女性(1,318.5、866.1~1,977.2)よりも高かった。 HAP起因の疾病負担の約3分の1(518.1、95%UI:410.1~641.7)は、妊娠期間の短縮と低出生体重が媒介要因であった。 HAP起因の疾病負担の変化の傾向と要因分析の結果、世界のほとんどの地域で曝露の減少がみられたが、とくにサハラ以南のアフリカでは曝露の減少が人口増加によって相殺されていたことが示された。

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新型コロナ入院患者、退院後も2年以上にわたり死亡リスクは高い

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による入院歴がある人は、回復して自宅に戻れたとしても、決して安心できる状態とは言えないことが新たな研究で示唆された。COVID-19で入院した患者は、初回の感染から最長で2年半の間、全死亡リスクの高いことが明らかになったという。パリ・ビシャ病院(フランス)のSarah Tubiana氏らによるこの研究の詳細は、「Infectious Diseases」に2月27日掲載された。 Tubiana氏は、「これまで人々の関心の多くは新型コロナウイルスの短期的な危険性に向けられてきたが、われわれの研究では、COVID-19による入院歴のある人では、数カ月後、さらには数年後まで、重度の合併症リスクが高い状態が続くことが示された。この公衆衛生に対する長期的な影響は重大だ」と指摘する。 Tubiana氏らは今回の研究で、2020年1月1日から8月30日までの間にCOVID-19に罹患して入院したフランスの成人6万3,990人(平均年齢65歳、男性53.1%、COVID-19入院群)を追跡し、年齢、性別、居住地を一致させた、同時期にCOVID-19で入院していない対照群31万9,891人の健康状態と比較した。追跡期間中央値は、COVID-19入院群で894日、対照群で896日だった。 最長で30カ月間にわたる追跡期間中の10万人年当たりの累積全死亡率は、COVID-19入院群で5,218件であったのに対し、対照群では4,013件であった(発生率比1.30、95%信頼区間1.27〜1.33)。6カ月単位で分けて分析すると、COVID-19入院群の全死亡リスクは最初の6カ月間で最も高く(調整ハザード比2.93)、6〜12カ月後では低下し(同1.08)、その後は30カ月後まで大きく変化することはなかった(同1.07)。 また、COVID-19入院群はあらゆる原因により再入院するリスクも高く、10万人年当たりの累積入院率は対照群の1万2,095件に対してCOVID-19入院群では1万6,334件であった(発生率比1.35、95%信頼区間1.33〜1.37)。6カ月単位で見ると、COVID-19入院群の再入院リスクは、最初の6カ月間で最も高く(全入院の調整部分分布ハザード比2.47)、6〜12カ月後の期間で低下し(同1.21)、その後、30カ月後まで低下し続けた(同1.05)。 疾患別にCOVID-19入院群の再入院リスクを見ると、特に呼吸器疾患による再入院リスクが約2倍高かった(発生率比1.99)。また、糖尿病、慢性腎臓病、神経疾患、心血管疾患、精神疾患による再入院リスクも高かった。このような過剰リスクは、入院から6カ月(0〜6カ月)および6〜12カ月後では低下したが、24〜30カ月後では、神経疾患、呼吸器疾患、慢性腎不全、糖尿病による再入院リスクが統計学的に有意に上昇していた。 論文の上席研究者で、パリ・シテ大学(フランス)の感染症専門家であるCharles Burdet氏は、「入院から30カ月が経過しても、COVID-19患者では死亡あるいは重度の健康上の合併症リスクが高い状態が続いていた。これは、この疾患が人々の生活に長期にわたって広範な影響を及ぼすことを示している」と「Infectious Diseases」を発行するTaylor & Francis社のニュースリリースの中で述べている。同氏は、「この研究結果は、こうした長期的な健康リスクの背後にあるメカニズムと、リスクを軽減する方法を解明するための、さらなる研究の必要性を明確に示している」と付け加えている。 研究グループによると、COVID-19は全身の臓器やシステムにダメージを与えることが知られており、特に命に関わる重症の感染症となった場合、その可能性が高いという。「ただ、今回の研究は新型コロナウイルスの新しい変異株が出現する前の感染者を対象としているため、こうしたリスクはその後に新型コロナウイルスに感染した、より最近の入院患者には完全には当てはまらないかもしれない」と研究グループは付け加えている。

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第4回 急拡大する「やせ薬」、新たなリスクにも警戒を

肥満に対し驚くほどの効果を示したGLP-1製剤。私の住むアメリカでも爆発的にその使用が広がっていますが、一方でまれな副作用や長期使用に伴う副作用が十分明らかになっていないという現状もあります。そんな中、以前から話題になっていた「目の副作用」の可能性を示す研究報告1)が出たので、ご紹介します。GLP-1製剤の新たな副作用リスクを示唆する研究今回ご紹介する研究では、デンマークとノルウェーの国民健康登録データを用いて、2型糖尿病治療として使用されたGLP-1受容体作動薬セマグルチドと、SGLT-2阻害薬との比較をするためのコホート研究が行われました。研究では、デンマークでセマグルチド治療を開始した患者4万4,517例、ノルウェーで1万6,860例が対象となり、合計32件の非動脈炎性前部虚血性視神経症(NAION)の発生が確認されています。NAIONは、視神経の血流の障害により、視野欠損や視力低下を引き起こす病気です。片眼に突然起こることが多く、下半分が見えなくなる水平半盲が特徴です。デンマークでは、セマグルチド使用患者でのNAION発生率が1万人年当たり2.19件であったのに対し、SGLT-2阻害薬使用患者では1.18件、ノルウェーではそれぞれ2.90件と0.92件と報告されています。交絡因子調整後の解析で、両国を合わせたハザード比が2.81(95%信頼区間:1.67~4.75)、絶対リスク差は1万人年当たり+1.41件となり、事後のプロトコル遵守解析ではより高いリスク(ハザード比6.35)が示されました。これらの結果から、セマグルチド使用によりNAIONリスクが上昇する可能性が示唆されました。一方、発生件数自体は低く、因果関係があったとしてもまれな副作用であることが考えられます。もちろん、単一のコホート研究の結果のみであり、未知の交絡因子など、研究の限界に注意する必要がありますが、興味深い結果です。急速な普及と不適切使用への懸念近年、米国ではGLP-1製剤を基盤とした安価なコンパウンド医薬品が急速に普及しており、糖尿病治療のみならず、体重管理や美容分野への応用が注目されています。一方、日本では、自由診療や美容業界において、適正な使用法が守られないままGLP-1関連医薬品が導入されるケースが散見されています。適切な診察や検査を経ずに、肥満のない人への体重減少や美容効果を期待して投与される不適切な使い方は、健康を支えないばかりか健康リスクばかりを高めている懸念があります。今回の研究が示唆したような、まれな副作用リスクは、今後も追加で報告されてくる可能性があります。そんな中、十分な指導が行われずに使用された場合にはこうした副作用への発見が遅れ、重大な障害へと発展する可能性があるため、とくに注意が必要です。今回の研究結果は、治療効果の裏に潜むまれなリスクを明らかにするとともに、医薬品の適正使用の重要性を再度認識させるものだと思います。急速な普及に飛びつく前に、その副作用やリスクについても十分に理解、検討をする必要があります。とくに日本国内での自由診療や美容目的での不適正使用に対しては、厳密なルール作りが求められると同時に、消費者への注意喚起も急務といえるでしょう。参考文献・参考サイト1)Simonsen E, et al. Diabetes Obes Metab. 2025 Mar 17. [Epub ahead of print]

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糖尿病者では間歇スキャン式血糖測定の値が高値となる

 糖尿病ではない人が間歇スキャン式持続血糖測定(isCGM)を行った場合、測定値が高値を示す傾向のあることが報告された。英バース大学のJavier Gonzalez氏らの研究によるもので、詳細は「The American Journal of Clinical Nutrition」に2月26日掲載された。 isCGMは指先穿刺を必要とせずに血糖値をリアルタイムで確認できるため、「糖尿病患者の人生を変え得る機器」といったアピールとともに普及してきている。しかし、新たな研究によると、健康な人の場合、血糖自己測定のゴールドスタンダードである指先穿刺による測定(SMBG)に比べてisCGMは、高値を示すことが多いようだ。論文の上席著者であるGonzalez氏は、「isCGMは糖尿病患者にとって素晴らしいツールだ。糖尿病患者の場合、たとえ測定結果が完璧に正確ではないとしても、全く測定しないよりは良い。しかし、健康な人が用いると、不必要な食事制限や不適切な食事選択につながる可能性がある。血糖値を正確に評価したいのであれば、依然として従来の方法が最適だ」と話している。 isCGMは、腕に貼ったパッチを介して血糖値を連続的に測定し、その測定結果をスマートフォンなどのデバイスに送信するシステム。このisCGMは、もともとは糖尿病患者の血糖管理をサポートする目的で開発された。ところが現在このデバイスは、糖尿病でない人の健康管理にも用いられ始めている。例えば、さまざまな食品を摂取後に、血糖値がどのように変化するかを知るために使われたりしている。 この研究では、15人の健康なボランティアに、果物を丸ごとそのまま食べてもらったり、スムージーにして飲んだりしてもらい、その後の血糖変動をisCGMで測定し、SMBGでの測定値と比較した。その結果、スムージーの血糖上昇指数(GI)はSMBGでは53(低GI)と判定されたのに対して、isCGMでは69(中GI)と示され、SMBGより30%過大評価された。また、果物を丸ごと食べた場合、SMBGではやはり低GIであることが示されたが、isCGMでは中GIまたは高GIと判定された。この結果から研究者らは、果物を丸ごと食べると血糖値が急上昇するかもしれないと誤解した健康な人が、果物を避けるようになる可能性があるとしている。 また、isCGMは血糖値が140mg/dL以上になっている時間の長さを約3.8倍、過大に評価することも明らかになった。食品を摂取する前の血糖値などの影響を調整してもなお、約2倍に過大評価していた。 Gonzalez氏は「isCGMは、血液中のブドウ糖である血糖の濃度を直接測定するのではなく細胞を取り囲む液体中に含まれているブドウ糖の濃度を測定するため、不正確になる可能性がある。血流の変化、血糖の体内での分布速度の影響などによりタイムラグが発生することもあって、実際の血糖値と不一致が生じ得る」と解説している。 なお、この研究は、英国を拠点にスムージーの製造・販売を展開しているInnocent Drinks社の資金提供により実施された。

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わが国への直接応用は難しいが…(解説:野間重孝氏)

 まず論文評を始めるにあたって、近年における冠動脈疾患(CAD)の危険因子に対する考え方の変化に言及する必要があるだろう。従来危険因子(risk factor)とは、高血圧・糖尿病・喫煙・脂質異常・肥満など生活習慣の改善や薬物療法によって修正可能な因子を指し、年齢・性別・家族歴などコントロールが困難な因子はリスク要因(risk marker)と呼んで区別してきた。しかし、近年になり非修正可能な因子も重要なリスク要因として考慮すべきではないかという動きが強まっている。その原因の第一には、多因子リスク評価の重要性が見直されてきたことにある。つまり、一つひとつの危険因子の影響は独立ではなく、複合的なリスク評価が重要だと考えられるようになったことが挙げられる。たとえば、年齢+男性+早発性CADの家族歴という要因が重なると、単独の要因よりもリスクが著しく上昇することが明らかになってきた。これに、予防医療の発展という要因も付け加えなければならないだろう。今回取り上げられたCACスコアのような画像診断が普及したことで、非修正可能な要素がある人こそ、より積極的な検査が必要だという認識が広まったのである。実際、ASCVDリスクスコアやSCORE2といった新しい評価法では非修正可能因子も加味されている。 今回の研究は「予測されるリスクがある患者に対して徹底的な予防治療を行えば、より良い結果が得られる」という一見当たり前のことを示したものとも捉えられるだろう。確かに表面的には当たり前の結論のように見えるが、次のような意義があると考えられる。第一は「誰に徹底治療を行うべきか」という判断基準を提示したことである。この研究では、CACスコアを用いることにより、徹底的な治療が本当に必要な患者をより正確に見極めることができた点に意義があるといえる。さらに、CACスコアが0であればリスクが低いと判断して、過剰な治療を避けられる点も重要だろう。第二には「中等度リスクと判断された患者に対しても、徹底的な治療を行うことが重要である」ことを示した点である。ややもすればリスクが見逃されやすい層に対して、より積極的な治療が必要であるというエビデンスを示したともいえる。第三には治療の個別化が挙げられるだろう。近年の医療では「全員に同じ治療」ではなく「個々のリスクに応じた治療」が求められており、CACスコアの活用によって「誰に積極治療を行うべきか」を見定めたことの重要な例として挙げられるだろう。 さて、わが国に目を転じてみて、今回の研究成果はどのように実臨床に適用されるだろうか。繰り返しになるが、本研究は徹底的な予防治療の有用性を示した点で重要な意義があるといえる。しかし、国民皆保険制度の下でわが国の「標準的治療」は相当程度高いレベルにあるといえる。さらにCADの発生率そのものの違いも挙げなければならないだろう。したがって、本研究の成果をそのまま適用することには限界があるといえる。しかし「誰に徹底的な治療を行うべきか」という判断基準の精度を上げることが重要な課題であることに変わりはない。現在わが国ではCACスコアの測定は保険収載されていない。今後CACスコアの費用対効果やリスク層別化の精度を検証し、わが国においても「無駄な治療の回避」と「適切な治療の実施」を両立させることが期待される。 最後になるが、CACスコアの限界についても一言触れておかなければならないだろう。日本人は欧米人に比べて血管が細く、CADの発生には純粋な動脈硬化の進行だけではなく、冠動脈の緊張度の変化、冠動脈攣縮(スパスム)や細動脈硬化の要素が相当程度関与するが、こうした要素の検知にはCACスコアは無力である、ということである。CACスコアをわが国で応用するためには、わが国独自のデータが必要であると考えられる。

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治療ワクチンで超高齢社会を乗り越える!~医療の2050年問題解決に向けて

日本抗加齢医学会総会が2025年6月13日(金)~15日(日)の3日間、大阪国際会議場にて開催される。今回のテーマは『抗加齢医学4半世紀、頑張ろうぜ』。大会長である中神 啓徳氏(大阪大学大学院医学系研究科健康発達医学講座寄附講座 教授)に本総会に込める思いや注目演題について話を聞いた。医学における2050年問題のカギは技術と心の調和日本抗加齢医学会総会は今年で25年目、四半世紀の節目を迎えます。数年前には2025年問題が国内で取り沙汰されていましたが、2025年を迎えた現在、そのさらに25年後の2050年にもさまざまな分野において問題が立ちはだかっており、“2050年問題”が話題になっています。2050年という年は、第2次ベビーブームの世代が後期高齢者となる一方で労働生産人口は少ない、“支える人と支えられる人のバランスが非常に崩れた状態”で、言い換えると、後期高齢者・要介護者・認知症患者が増加する「多死の時代」です。そのような時代を迎える前に、この2025年に向けて行われてきた政府による社会保証制度の整備、医療界での健康寿命延伸などの試みなどについて効果検証し、どういう未来が待っているのかなどを議論する機会として、本学会総会がその役割を担えればと考えています。また、生成AI技術の発展などに伴い、医学が進歩するスピードはこの十数年で目まぐるしく加速し、将来予測が不能な状況にあります。今後さらにこのスピードは加速すると考えられますが、そんなときこそ医学界において重要なのは、医療技術の進歩と心の調和であり、人間に調和するような技術が必要なのではないでしょうか。治療ワクチンの現状と展望 そのような思いを込めて活動し続けているのが、疾患予防・早期治療介入のためのワクチン開発です。もともとは高血圧症や糖尿病の治療薬となるようなワクチン開発を行っていましたが、現在はその基盤やシステム構築が確立した点を活かして、眼科(網膜症)や整形外科(脊椎関節炎)などのさまざまな領域で共同研究を始めています。そして、抗体医薬品が効果を発揮しているような分野(関節リウマチ、がんなど)ではワクチンの効果が得られやすい可能性があるとも言われ、試行錯誤しながら取り組んでいます。治療薬をワクチンにするメリットには、既存医薬品のように連日投与し続ける必要がなくなる可能性がある、遺伝子検査と組み合わせることで早期の個別化治療が可能となることが挙げられます。ワクチンによる予防医学が慢性疾患などの治療選択肢の1つとなるよう、長期の効果持続が得られるように目指しています。画像を拡大するまた、近年では老化細胞を標的としたワクチンの開発研究が世界中で進められていますが、われわれも順天堂大学の南野 徹教授らと共に取り組んでいるところです。この老化細胞にはsenescenceが影響しているのですが、このsenescenceというのは“細胞が老化した状態”のことを言い、細胞が細胞分裂を繰り返していく中で「増殖を続ける(がん細胞)」「細胞が減少(apoptosis)」とも異なる、「細胞は死なないが増殖もしない」フェーズに入る状態のことです。このような老化細胞が存在するとその周囲の細胞も巻き込まれて一緒に老化が進んでしまうため、それを除去するためのワクチンを開発しています。一方で、細胞が老化することでがん化を抑制できる可能性もあるわけで、そのような視点からも老化細胞は世界中の研究者に注目されています。画像を拡大するなお、ワクチンを将来的に実用化するうえで非常に重要な指標となるのが、生物学的年齢です。暦年齢は絶対に変わることはありませんが、本当に老化を抑制できたのかどうかの判定に必要なため、生物学的年齢に関しても併せて理解しておかねばなりません。<生物学的年齢とは>「老化」は、生活習慣・外的ストレスなどの後天的要因に影響暦年齢とは異なり、「老化」をさまざまな指標で高い精度で定量生物学的年齢は介入により改善「老化」を標的とした治療薬や予防法の開発指標として着目大会長厳選、ぜひ聴講してほしい講演今大会にはこのような社会問題やわれわれの取り組みなどを反映した会⾧企画シンポジウムを予定しております。『2050年の未来医療予想図』において、小林 宏之氏(危機管理専門家・航空評論家)が「2050年の社会における危機管理」、高山 義浩氏(沖縄県立中部病院感染症内科 副部長)が「地域医療と地域包括ケアにおける連携」と題して講演を行う予定です。2050年の世界をどのように想像しているのか、危機管理の観点からぜひお話をお伺いしたく小林氏をお招きしました。また、沖縄県において急性期在宅を推進している高山氏からは、コロナパンデミックを振り返り、地域医療の観点から将来の医療の形などについてお話を伺います。画像を拡大するそしてInvited Lecture1では、生物学的年齢についてMahdi Moqri氏やSteve Horvath氏にご講演いただき、生物学的年齢が現段階でどの程度利用可能で、今後どのような活用方法がなされていくのかなどを議論したいと考えています。画像を拡大する最後となりますが、会長特別企画では元マラソンランナーでスポーツ解説者の野口 みずき氏をお招きして参加者と一緒に走るモーニングファンラン企画や万博会場内に多数のスペシャルゲストをお迎えする音楽とパフォーマンスが融合したステージイベントなどを企画しています。この機会にぜひ、職場の皆さまやご家族と共に第25回日本抗加齢医学会総会をお楽しみください。

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肥満症に対するチルゼパチド、4月11日に発売/リリー・田辺三菱

 日本イーライリリーと田辺三菱製薬は、持続性GIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチド(商品名:ゼップバウンド皮下注アテオス)について、3月19日に「肥満症」を効能または効果として薬価収載されたことを受け、4月11日に発売すると発表した。 チルゼパチドは、グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)とグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)の2つの受容体に作用する持続性GIP/GLP-1受容体作動薬。天然GIPペプチド配列をベースとした単一分子が、GLP-1受容体にも結合するように改変され、選択的に長時間作用するため週1回投与が可能。 本剤は、1回使い切りのオートインジェクター型注入器アテオスにより、週1回皮下注射で投与される。あらかじめ取り付けられている注射針が、注入ボタンを押すことで自動的に皮下にささり、1回量が充填されている薬液が注入される。患者さんが注射針を扱ったり、用量を設定したりする必要はない。 また、本剤の用量は2.5mg、5mg、7.5mg、10mg、12.5mg、15mgの6規格が用意され、患者さんの状態に応じ使い分けができる。通常、成人にはチルゼパチドとして週1回2.5mgの用量から開始し、4週間の間隔で2.5mgずつ増量し、週1回10mgを皮下注射する。なお、患者さんの状態に応じて適宜増減するが、週1回5mgまで減量、または4週間以上の間隔で2.5mgずつ週1回15mgまで増量できる。<製品概要>一般名:チルゼパチド販売名:ゼップバウンド皮下注 2.5mg/5mg/7.5mg/10mg/12.5mg/15mgアテオス効能または効果:肥満症。ただし、高血圧、脂質異常症または2型糖尿病のいずれかを有し、食事療法・運動療法を行っても十分な効果が得られず、以下に該当する場合に限る。・BMIが27kg/m2以上であり、2つ以上の肥満に関連する健康障害を有する・BMIが35kg/m2以上用法および用量:通常、成人には、チルゼパチドとして週1回2.5mgから開始し、4週間の間隔で2.5mgずつ増量し、週1回10mgを皮下注射する。なお、患者の状態に応じて適宜増減するが、週1回5mgまで減量、または4週間以上の間隔で2.5mgずつ週1回15mgまで増量できる。薬価:ゼップバウンド皮下注2.5mgアテオス 0.5mL1キット 3,067円同5mgアテオス 同 5,797円同7.5mgアテオス 同 7,721円同10mgアテオス 同 8,999円同12.5mgアテオス 同 10,180円同15mgアテオス 同 11,242円製造販売承認日:2024年12月27日薬価基準収載日:2025年3月19日発売予定日:2025年4月11日製造販売元:日本イーライリリー株式会社販売元:田辺三菱製薬株式会社

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第235回 日本人の死因、認知症が首位に、30年間の健康分析で判明/慶大

<先週の動き>1.日本人の死因、認知症が首位に、30年間の健康分析で判明/慶大2.がん医療の集約化へ、高度治療の質向上と医療資源の有効活用を目指す/厚労省3.iPS細胞による脊髄損傷治療で世界初の回復/慶大4.政府、病院船の整備を閣議決定 2026年1月までに運用開始へ/政府5.美容医療の違法広告が急増、ネットパトロールを強化/厚労省6.有料老人ホームの不正是正へ、運営透明化に向け検討会設置/厚労省1.日本人の死因、認知症が首位に、30年間の健康分析で判明/慶大慶應義塾大学と米ワシントン大学の研究グループは3月21日、過去30年間の日本人の健康状態を分析し、2015年以降、認知症が死因の第1位になったと発表した。高齢化が進む中、医療技術の向上で脳卒中などの死亡が減少したことが要因。2021年の認知症による死亡は10万人当たり約135人と、世界的にみても高い水準。研究によると、2021年の平均寿命は85.2歳と延びたが、健康上の問題なく生活できる健康寿命との差は11.3年に拡大。健康を損なってから亡くなるまでの期間が長期化している。都道府県別では、平均寿命の差は1990年の2.3年から2.9年に拡大。滋賀県が最長で青森県が最短であり、医療アクセスや生活習慣の違いが影響しているとみられる。また、高血糖や肥満といった生活習慣病のリスク増加も明らかになった。これらは認知症の発症リスクと関連しており、生活習慣の改善が重要。専門家は、認知症予防や医療体制の強化、患者が安心して暮らせる環境整備の必要性を指摘。厚生労働省の推計では、2050年には認知症高齢者が586万人に達する見込み。研究グループは、健康寿命の延伸と地域格差の是正に向け、生活習慣病対策を含めた総合的な取り組みが不可欠としている。この研究成果は、ランセット・パブリック・ヘルス誌に掲載され、日本の健康政策の指針となる可能性がある。参考1)Three decades of population health changes in Japan, 1990?2021: a subnational analysis for the Global Burden of Disease Study 2021(Lancet Public Health)2)認知症、死因首位に 医療技術進み脳卒中減少 慶大など30年分析(日経新聞)3)寿命の地域格差30年で拡大 都道府県間最大2.9年に 医療、生活習慣影響か 慶応大など分析(東京新聞)4)全国47都道府県の30年間の健康傾向を包括分析 平均寿命延長も「健康でない期間」長期化、地域格差の拡大も明らかに-認知症が死因1位に、健康改善の鈍化、糖尿病・肥満リスク増、心の健康悪化も判明-(慶大) 2.がん医療の集約化へ、高度治療の質向上と医療資源の有効活用を目指す/厚労省厚生労働省は、3月21日に「がん診療提供体制の在り方に関する検討会」を開催し、がん医療の質向上と医療資源の有効活用を目的に、高度ながん手術療法・薬物療法・放射線治療の「集約化」の必要性について議論した。少子高齢化の進行により、医療従事者の確保が困難になる中、がん診療の質を維持しつつ持続可能な体制を整えるため、拠点病院の役割分担を強化する方針が示された。検討会では、医療の集約化を「医療需給の観点」と「医療技術の観点」の2軸で分類。医療需給の面では、需要と供給のバランスを考慮し、高度な治療を特定の施設に集約することで医療の効率化を図る。医療技術の面では、新規治療や特殊設備が必要な治療を対象とし、症例の集積による技術向上を目指す。具体的には、日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会、日本放射線腫瘍学会が手術療法、薬物療法、放射線療法の各分野で集約化すべき治療法を提案。たとえば、食道がんや膵がんの高度手術、小児がんの薬物療法、粒子線治療などを対象とする案が示された。とくに手術療法については、高度な治療を国立がん研究センターや大学病院本院などで実施することが望ましいとされた。ただし、がん医療の集約化には、患者や地域住民、医療現場の理解と納得が不可欠である。治療のための長距離移動や費用負担の問題も考慮し、地域の実情に応じた柔軟な対応が求められる。今後、2025年6月に議論を整理し、夏頃に厚労省が「がん医療提供体制の均てん化・集約化」に関する通知を都道府県に発出する予定。これに基づき、各自治体での具体的な議論が進められる見込み。参考1)第17回がん診療提供体制のあり方に関する検討会(厚労省)2)高度ながん手術療法・薬物療法・放射線治療は「集約化」を検討せよ、その際、患者・地域住民・医療現場の理解も重要-がん診療提供体制検討会(Gem Med)3.iPS細胞による脊髄損傷治療で世界初の回復/慶大慶應義塾大学などの研究チームは、iPS細胞から作製した神経細胞のもとを脊髄損傷患者に移植する臨床研究を実施し、4例中2例で運動機能の回復がみられたと発表した。これはiPS細胞を用いた脊髄損傷治療で、症状の改善が確認された世界初の事例となる。今回の臨床研究では、脊髄を損傷し、体を動かせなくなった4例の患者に、iPS由来の神経細胞200万個を移植。その後1年間、免疫抑制剤を投与しながらリハビリを実施した。その結果、1例は3段階改善し、支えなしで立てるようになり歩行訓練を開始。もう1例は2段階改善し、補助具を使って食事ができるようになった。残る2例はスコアに変化はなかったが、筋力の向上がみられた。重篤な副作用は確認されなかった。脊髄損傷の患者は国内に10万人以上おり、年間6,000人が新たに診断されている。しかし、現在、確立された治療法はなく、リハビリによる改善が期待できるものの、最重度の「完全まひ」から2段階以上回復する例は約10%に止まる。今回の研究では、4例中2例が2段階以上改善し、従来の回復率を上回ったが、症例数が少ないため、iPS細胞の効果とリハビリの影響を区別することは難しいとされる。今後、研究チームは、治療の有効性を確認するための治験を行い、移植細胞の数を増やすことや、損傷から時間が経過した慢性期患者への適用も検討する。参考1)iPS細胞使った脊髄損傷治療で機能改善 慶応大学などのグループ(NHK)2)脊髄損傷の患者にiPS由来の細胞移植、4人中2人で一部回復 慶大(朝日新聞)3)iPS細胞で脊髄損傷治療「2人の重症度が改善」 慶応大など発表(毎日新聞)4.政府、病院船の整備を閣議決定 2026年1月までに運用開始へ/政府政府は3月18日、大規模災害時や感染症の拡大時に医療を提供する「病院船」導入に向けた整備推進計画を閣議決定した。石破 茂首相は関係閣僚に対し、2026年1月までに船舶を活用した医療提供体制を整備するよう指示した。病院船の運用は、南海トラフ巨大地震や首都直下地震などの大規模災害発生時に、陸上医療の補完を目的とする。計画では、患者を被災地外の医療機関へ搬送する「脱出船」と、被災地付近に停泊し、医療を提供する「救護船」の2種類を想定。これらの病院船は災害派遣医療チーム(DMAT)や日本赤十字社の協力のもと運用される。政府は、多額の費用を要する専用病院船の新造には慎重な姿勢を示しており、当面は民間の既存船舶を活用する方針を採る。とくに、医療スペースを確保しやすいカーフェリー型船舶が候補とされ、民間事業者との協定締結や必要な資機材の調達を進める。実際の運用を通じて実績を重ねた後、国が病院船を保有する可能性も検討されている。今後は、医療従事者や船舶職員の確保、実地訓練の実施、運用ガイドラインの策定などが課題となる。坂井 学防災担当相は「船舶活用医療の実効性を高めるため、1つ1つ着実に進めていく」と述べ、関係機関と連携しながら運用開始に向けた準備を進める方針を示した。参考1)病院船運用体制、来年1月までに整備 政府が推進計画閣議決定(時事通信)2)政府が海上治療できる「病院船」整備へ 災害時に活用(毎日新聞)3)災害時に船舶で医療提供 来年までに体制整備を指示 石破首相(NHK)4)来年1月までに災害時の病院船活用体制構築へ 閣議決定、民間船で運用しDMATなど従事(CB news)5.美容医療の違法広告が急増、ネットパトロールを強化/厚労省美容医療クリニックの競合が高まる中で、違法な広告がネット上で急増している。厚生労働省の調査によると、2023年度に美容医療関連の違反広告は362サイト、計2,888件確認され、とくにSNSでの「ビフォーアフター」動画や主観的な「体験談」の広告が問題視されている。こうした広告は、施術の効果を誇張し、リスクを十分に説明していないため、患者に誤解を与える可能性が高い。厚労省は、この状況を受け、ネットパトロールを強化。違反広告を掲載した医療機関に通知し、修正を促すとともに、悪質なケースについては自治体を通じた行政処分を検討する方針を明らかにしている。また、日本美容外科学会などの業界団体もガイドラインを策定し、適切なクリニック選びを支援する仕組みを構築しようとしている。違反広告の影響で、施術後にトラブルを抱えるケースも増えている。SNSの広告をみて美容整形を受けた20代女性は、施術後に鼻の穴が狭まり、呼吸困難に陥ったが、クリニックの対応は不十分だったという。患者は「リスクをもっと重く受け止めるべきだった」と語り、違法広告に対する警戒が必要だと訴えている。厚労省は、違反広告の横行を受け、「医療広告規制におけるウェブサイト等の事例解説書」を今年3月に改訂し、SNS広告の規制を強化。とくに動画広告内での体験談掲載を明確に禁止し、違反広告の具体例を示すことで、患者の誤認防止を図る方針。美容医療は本来、医学的根拠に基づいた安全な治療を提供するものであり、広告の適正化が求められる。今後、行政と業界の双方が協力し、患者が正しい情報に基づいて治療を選択できる環境を整備することが急務となっている。参考1)医療広告規制におけるウェブサイト等の事例解説書[第5版](厚労省)2)美容医療で法令違反の広告 厚労省 取り締まり強化へ(NHK)3)二重整形や医療脱毛などの美容広告 何が違反?(同)4)SNS・動画の医療広告、注意点を追記 「解説書」改訂、医政局(MEDIFAX)6.有料老人ホームの不正是正へ 運営透明化に向け検討会設置/厚労省厚生労働省は、有料老人ホームにおける高額な紹介料の支払いや過剰な介護サービス提供といった問題を受け、施設の運営透明性とサービスの質の向上を目的とした有識者検討会を設置する。検討会では、施設運営の適正化や不適切な慣行の是正に向けた具体策を議論し、2025年夏頃までに対策を取りまとめる予定。有料老人ホームは近年急増し、2023年6月時点で全国に1万6,543施設と、この10年でほぼ倍増した。しかし、施設は届け出制が中心であり、入居者の要介護度やサービス実態の把握が自治体に任されているため、運営の実態を十分に把握できていない状況が続いていた。その結果、施設を紹介する業者が、入居者の要介護度に応じて高額な紹介料を請求し、施設側が過剰な介護サービスを提供し、より多くの介護報酬を得る「囲い込み」の実態が指摘されている。厚労省の検討会には、学識経験者、事業者、消費者団体、自治体関係者のほか、国土交通省もオブザーバーとして参加し、有料老人ホームの運営基準や指導・監督の強化策について議論する。具体的には、(1)施設紹介事業の適正化、(2)施設のケアプランが利用者のニーズに即しているかの検証、(3)届け出制の改善と監督の強化が論点となる見込み。今回の対策は、2023年12月の社会保障改革方針や2024年の「骨太の方針」において、有料老人ホームの「囲い込み」防止や不適切な人材紹介手数料の是正が求められたことを受けたもの。介護保険部会では、不適切な事業者への立ち入り調査の実施や、「囲い込み」の明確な定義を求める声も上がっている。検討会の結果は、社会保障審議会の介護保険部会に報告され、2027年度に予定される介護保険制度改正にも反映される見通し。参考1)有料老人ホームの“質の確保”へ 厚労省 有識者の検討会設置(NHK)2)有料老人ホームの「囲い込み」対策具体化へ 新たな検討会で夏までに 厚労省(CB news)3)有料老人ホームの高額な紹介料問題受け 検討会立ち上げへ 厚労省(朝日新聞)4)ホスピス最大手で不正か 全国120ヵ所「医心館」(東京新聞)

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お酒をやめるとLDL-Cが上昇?~日本人6万人のデータ

 飲酒による健康への悪影響が広く報告されているが、飲酒を始めたときや禁酒したときにコレステロール値がどう変化するかはわかっていない。今回、聖路加国際病院の鈴木 隆宏氏らが日本人約6万人のコホート研究で評価した結果、飲酒者が禁酒するとLDLコレステロール(LDL-C)値が上昇し、HDL-コレステロール(HDL-C)値が低下することが明らかになった。逆に、非飲酒者が飲酒を開始したときはLDL-C値の低下とHDL-C値の上昇がみられた。これらの変化はどちらも飲酒量が多いほど顕著だったという。JAMA Network Open誌2025年3月12日号に掲載。 このコホート研究は、2012年10月~2022年10月に東京の予防医学センターで毎年健康診断を受けている人(脂質低下薬投与中の人は除外)を対象とした。連続した2回の健康診断の間に、飲酒を開始した人と非飲酒を継続した人、および禁酒した人と同量の飲酒を継続した人のLDL-C値とHDL-C値の変化を比較した。なお、飲酒量は純エタノール10gを1杯とした。 主な結果は以下のとおり。・5万7,691人(平均年齢:46.8歳、女性:53.0%)の32万8,676回の受診を分析した。・禁酒を評価するコホート(2万5,144人、平均年齢:48.9歳、女性:49.1%、4万9,898回の受診)において、事前の平均(SD)LDL-C値とHDL-C値はそれぞれ114.7(28.4)mg/dLと65.5(16.4)mg/dLであった。・禁酒によるLDL-C値の変化は、禁酒前の飲酒量が1.5杯/日未満では1.10mg/dL(95%信頼区間:0.76~1.45)、1.5~3.0杯/日では3.71mg/dL(同:2.71~4.71)、3.0杯/日以上では6.53mg/dL(同:5.14~7.91)であった。禁酒によるHDL-C値の変化は、1.5杯/日未満では-1.25mg/dL(同:-1.41~-1.09)、1.5~3.0杯/日では-3.35mg/dL(同:-4.41~-2.29)、3.0杯/日以上では-5.65mg/dL(同:-6.28~-5.01)であった。・飲酒の開始を評価するコホート(2万9,042人、10万7,880回の受診)では、LDL-C値が低下、HDL-C値が上昇し、禁酒とは逆の用量反応関係が認められた。 このコホート研究では、飲酒の開始は緩やかなコレステロール改善と関連していたが、禁酒は好ましくない変化と関連していた。著者らは「禁酒後は、個人・集団の両方のレベルで心血管疾患リスク管理を最適化するために脂質プロファイルの変化を注意深く監視する必要がある」としている。

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2050年、世界の成人の半分が過体重と肥満に/Lancet

 1990~2021年にかけて世界のあらゆる地域と国で成人の過体重と肥満が増加しており、この傾向が続くと2050年までに世界の推定成人人口の半数超を過体重と肥満が占めると予測されることが、米国・ワシントン大学のSimon I. Hay氏ら世界疾病負担研究(Global Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors Study:GBD)2021 Adult BMI Collaboratorsの解析で示された。成人の過体重および肥満の増加率を抑制できた国は現在までのところない。著者は、「即時かつ効果的な介入が行われなければ、過体重と肥満は世界中で増加し続け、とくにアジアとアフリカでは人口増加により過体重と肥満が大幅に増加すると予測された。肥満は、現在および将来にわたって最も回避可能な健康リスクの1つであり、地域、国、および世界レベルで疾患の早期発症や死亡の脅威をもたらす。この危機に対処するには、より強力な対策が必要である」とまとめている。Lancet誌2025年3月8日号掲載の報告。1990~2021年の204の国と地域の成人のデータを解析し、2050年までの傾向を推定 研究グループは、GBD 2021の確立された方法論を用い、1990~2050年の204の国と地域における25歳以上の過体重と肥満の有病率を年齢別および性別別に推定した。 過去および現在の有病率の傾向は、調査データや報告書、公開された文献を含む1,350の独自のデータソースから抽出された自己申告および実測による身体測定データに基づいた。自己申告によるバイアスを補正するために、特定の調整を適用した。 1990~2021年の過体重と肥満の推定有病率は時空間ガウス過程回帰モデルを用いて、2022~50年の予測有病率は過去の傾向が継続すると仮定した一般化アンサンブルモデリング法を用いてデータを統合し、疫学的傾向における空間的および時間的な相関を活用することで、異なる時点および地域間での結果の比較可能性を最適化した。 予測推定値は、社会人口学的指数の予測値と、年平均変化率として表される時間的相関パターンを使用して将来の動向を推定するとともに、過去の傾向が継続することを前提とした参照シナリオを考慮して生成した。過体重と肥満は世界中で増加、とくにアジアとアフリカでは大幅に増加 1990~2021年に、過体重と肥満の割合は世界レベル、地域レベル、そしてすべての国で増加した。2021年には、推定10億人(95%不確実性区間[UI]:0.989~1.01)の成人男性と、11億1,100万人(11億~11億2,000万)の成人女性が過体重/肥満であった。 過体重/肥満の成人人口が最も多いのは中国(4億200万人[3億9,700万~4億700万])で、次いでインド(1億8,000万人[1億6,700万~1億9,400万])、米国(1億7,200万人[1億6,900万~1億7,400万])の順であった。年齢標準化過体重および肥満の有病率が最も高かったのは、オセアニア、北アフリカ、中東で、これらの国々の多くで成人の有病率が80%を超えていた。 1990年と比較すると、世界の肥満有病率は男性で155.1%(95%UI:149.8~160.3)、女性で104.9%(100.9~108.8)増加した。とくに、北アフリカおよび中東地域では、肥満の年齢補正後有病率が、男性で3倍以上、女性で2倍以上増加し、最も急激な上昇がみられた。 過去の傾向が続くと仮定すると、2050年までに過体重/肥満の成人の総数は38億人(95%UI:33億9,000万~40億4,000万)に達し、その時点での世界の成人推定人口の半数超を占めると予測された。中国、インド、米国は引き続き過体重/肥満の世界人口の大部分を占めるが、サハラ以南アフリカ地域では過体重/肥満が254.8%(95%UI:234.4~269.5)増加すると予測された。とくにナイジェリアでは、過体重/肥満の成人が2050年までに1億4,100万人(1億2,100万~1億6,200万)に増加し、過体重/肥満の人口が世界で4番目に多い国になると予測された。

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第254回 肥満症治療薬の販売が絶好調!おかげで販売元は豊満に?

海外企業の多くは12月末が決算である。このため5月以降に佳境を迎える日本と違い、すでに主要企業の決算はほぼ出そろっている。医療に関係する企業で言うならば、やはり一番大きいのが製薬業界である。2023年実績で世界ランキング20位までの製薬企業のうち、日本企業ゆえにまだ決算が発表されていない武田薬品、大塚ホールディングスと非上場のためまだ発表されていない独・ベーリンガー・インゲルハイム以外の17社はすでに決算を発表済みだ。これら各社の決算結果では当然、各社の主要製品の売上高も公表されている。この各社発表の医療用医薬品の売上高をランキング化すると、改めて近年の傾向が見えてくる。そのトップ10を見ていきたい。なお、売上高はドル換算だが、各薬剤を円換算に表示すると、やや読みづらいと思うので、100億ドル=約1兆5,000億円を軸に各読者が概算で捉えていただければと思う。売上高トップ5、2024年で変わったことまず、2024年の売上高トップの医薬品は抗PD-1モノクローナル抗体のペムブロリズマブ(商品名:キイトルーダ)の294億8,200万ドルである。近年、免疫チェックポイント阻害薬ががん治療の主流を占める中で、2023年からこの薬が世界売上高トップにつけている。第2位が抗凝固薬のアピキサバン(同:エリキュース)の206億9,900万ドル(併売するブリストル・マイヤーズスクイブとファイザーの合算)。以下順に第3位がGLP-1受容体作動薬のセマグルチドの注射薬(同:オゼンピック)の176億4,200万ドル、第4位が抗IL-4/13受容体モノクローナル抗体のデュピルマブ(同:デュピクセント)の139億4,700万ドル、第5位が抗HIV薬のビクテグラビルナトリウム・エムトリシタビン・テノホビル アラフェナミドフマル酸塩の配合剤(同:ビクタルビ)の134億2,300万ドル。このトップ5は2023年とほぼ順位は同じなのだが1点だけ異なる点がある。2023年は第3位に抗TNFαモノクローナル抗体のアダリムマブ(同:ヒュミラ)がランクインしていた。同薬は免疫疾患に広く使われ、ペムブロリズマブが同年にトップになるまで、医療用医薬品売上高の王座だった。で、2024年にはどうなったのかというと、売上高89億9,300万ドルでトップ10圏外の第11位までランクダウンした。それもこれも2023年に特許が失効し、バイオ医薬品版ジェネリックのバイオシミラーが登場し始めたからである。ちなみに特許失効前の2022年の売上高は212億3,700万ドル。実に過去2年間で57.7%の減収である。製薬業界ではこの特許失効時期を境に該当製品の売上が急減することを「パテントクリフ」、日本語で直訳すると「特許の崖」と評するが、まさにその状況である。もっともこれでもアダリムマブはまだましなほうである。というのも、低分子の経口薬ならば、特許失効後半年程度で売上高の6割がジェネリック医薬品に置き換わるからである。ご存じのように低分子の経口薬と違い、培養が必要なバイオ医薬品では完全に同一条件で製造ができないため、バイオシミラーは先発のバイオ医薬品の同一成分ではなく同等・同質の成分。この結果、経口薬のジェネリック医薬品に比較的寛容な欧米の医師でも処方には慎重になりがちだ。6~10位にもある変化がさて第6位以降はどうだろう。第6位が抗IL-23p19モノクローナル抗体のリサンキズマブ(同:スキリージ)の117億1,800万ドル、第7位が抗CD38モノクローナル抗体のダラツムマブ(同:ダラザレックス)の116億7,000万ドル、第8位が持続性GIP/GLP-1受容体作動薬のチルゼパチド(同:マンジャロ)の115億4,000万ドル、第9位が抗IL-12/23p40モノクローナル抗体のウステキヌマブ(同:ステラーラ)の103億6,100万ドル、第10位が抗PD-1モノクローナル抗体のニボルマブ(同:オプジーボ)の93億400万ドル(ブリストル・マイヤーズスクイブ分のみの売上高)だった。第6~10位を2023年と比べると、トップ5と同じくある医薬品がトップ10外にランクダウンしている。それは一般人にとってはもはや喉元過ぎた熱さと言えるかもしれない、ファイザーの新型コロナウイルス感染症ワクチンのコミナティである。2023年には112億2,000万ドルの売上高だったが、2024年は53億5,300万ドルで52.3%の減収となった。もっとも新型コロナに限らず、感染症ワクチンはある種季節もの的な側面はあるため、取り立てて驚くような話でもない。一方、アダリムマブとコミナティのランクダウンに代わって2024年に新たにトップ10入りしたのが第6位のリサンキズマブと第8位のチルゼパチドである。前者はアダリムマブの製造販売元のアッヴィが戦略上、アダリムマブの後継品の1つに位置付けている医薬品である。現状、両薬で共通する適応症は乾癬と炎症性腸疾患だが、今後、新規患者では企業側自体がリサンキズマブに注力する可能性が高いため、アダリムマブの後退に代わって、より伸長していく可能性が高いだろう。そして第8位のチルゼパチドは前年比2.24倍という驚異的な売上伸長で初めてトップ10入りした。もともとは2型糖尿病治療薬として発売(同:マンジャロ)され、2025年4月11日に肥満症治療薬(同:ゼップバウンド)として発売が決定している。ちなみに第3位のセマグルチドも商品名としてのオゼンピックは2型糖尿病が適応だが、同一成分で肥満症を適応とするウゴービがある。ただ、以前の本連載でも触れたが、オゼンピック、マンジャロとも純粋に2型糖尿病治療薬として使われているとは言い難く、実際にはいわゆるダイエット目的の自由診療で相当程度使われ、今回の両製品の公式売上高もその分が相当含まれていると思われる。そして公式の肥満症治療薬としての2024年の製品売上高は、ウゴービが85億3,300万ドル、ゼップバウンドが49億2,600万ドルだった。それぞれ2023年比で1.86倍、24.6倍も売上高が伸長している。この調子だとウゴービ、ゼップバウンドともに2025年もかなりの売上伸長となりそうだ。ウゴービの場合は今回の集計では第12位で、2025年売上高はトップ10にGLP-1受容体作動薬関連が4製品もランクインする事態が現実味を帯びている。もちろんこれが適応症に沿って医学的に正しく使われているのならば何も問題はないが、そうではないことを否定できる人は誰もいないはずだ。もはや世界的に“なんだかなあ?”と言いたくなるような状況なのである。

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医学生/初期研修医時代に戻れるなら「直美」に進みたい?/医師1,000人アンケート

 初期研修を終えてすぐ、保険診療を経験せずに自由診療である美容医療業界に直接進む「直美(ちょくび)」の医師が増えている。診療科の医師偏在や医局の人材獲得が課題となっているなか、保険診療の医師は「直美」をどのように考えているのかを調査するため、CareNet.comでは会員医師1,024人を対象に「直美」に関するアンケートを行った(実施:2025年2月12日)。年代が上がるほど問題と考える医師が多い Q1では、「直美」の増加を日本の医療における問題と考えているかどうかを聞いた(単一回答)。全体では、「非常に問題と考えている」が35.4%、「どちらかというと問題と考えている」が43.2%、「どちらかというと問題とは考えていない」が13.9%、「まったく問題とは考えていない」が7.5%であり、大多数の医師は問題と捉えていた。 年代別の「非常に/どちらかというと問題と考えている」および「どちらかというと/まったく問題とは考えていない」の割合は、20代が75.7%vs.24.4%、30代が78.4%vs.21.5%、40代が78.6%vs.21.4%、50代が80.3%vs.19.7%、60代以上が80.0%vs.20.0%であり、年代が上がるほどおおむね問題と捉える医師が多い傾向にあった。医療界の最大の課題は「給与が低い」 Q2では、「直美」の増加の背景にある医療界の課題としてとくに大きいものを選択式(3つまで)で聞いた。全体では「給与が低い」が最も多く、「労働時間が長い」「休みが取れない」「診療報酬制度の限界」「業務量が多い」「責任が重い」などと続いた。 若手医師では「給与が低い」「労働時間が長い」「休みが取れない」がとくに多かったが、ベテラン医師では「診療報酬制度の限界」「業務量が多い」「責任が重い」という回答も多くばらつきがみられた。なお、50代と60代以上では若手医師よりも「キャリア形成や人間関係が大変」の回答が目立ち、これまでのご苦労がうかがえた。若い世代ほど「直美に進みたい」が多い Q3では、もし医学生/初期研修医時代に戻れるなら「直美」に進みたいと思うかどうかを聞いた(単一回答)。全体では、「進みたい」が10.8%、「進みたくない」が89.2%と大差がついた。 年代別では、20代が18.4%vs.81.6%、30代が13.2%vs.86.8%、40代が10.7%vs.89.3%、50代が5.3%vs.94.7%、60代以上が6.8%vs.93.2%であり、Q1と同様に年代が上がるほど「直美」を懸念していることが示唆された。給料の良さvs.お金のためではない Q4.では上記Q3の理由をフリーコメントで聞いた。「直美」に進みたい派の意見で多かったのはやはり給料の良さなど圧倒的にお金に関するものであったが、進みたくない派の意見としても「医師を志したのはお金のためではない」「金銭だけではない」などお金への言及が多く、直美=高給という認識が根底にあることが浮き彫りになった。そのほかの進みたくない派の意見は、「理想とする医師像ではない」「患者さんの命を救いたい」「命に関わる診療科で働きたい」「国公立大学だったので多くの税金を使って医師にさせてもらったのに、その技術・知識をあまり社会に還元できない」など志の高いコメントが寄せられたほか、「美容医療の道に進むとしても、ある程度医療スキルを磨いてからのほうがよい」「研修医のときの知識だけでは不十分だと思う」など知識・経験不足を危惧するコメントや、「美容関係はレッドオーシャンで続けるのは難しい」「その先のキャリア形成が難しい」など美容業界に対する懸念も寄せられた。 Q5ではフリーコメントとして、「直美」に対するご意見やご感想、保険診療でこそ得られたご経験、若手医師へのアドバイスなどを聞いた。「直美」や美容業界に関するご意見(抜粋)・自分の好きな道に本気で取り組むことが一番大事。・直美だろうと保険診療だろうと、真剣に極めようと思うくらい頑張れば問題ないと思う。・美容に進むのはある程度皮膚科、形成外科領域を専門で研修してからに限るのがよいのではないか。・まずは基本的修練を積むべきで、形成外科的能力がないとリスク評価すら難しい。・自分がやりたいことに進むのが一番と思うが、若い時期、研修期間しか得られないことも多いのでいろいろ経験してから選択していくこともよいと思う。・美容に関する法改正や需要減などリスクも抱えていることを承知の上であれば問題ない。・直美を選択したら保険診療の医師に変更するのはかなり労力が必要と思う。・最初に苦労するのはどの仕事も同じ。まずは医師という仕事の奥深さを一度は知ってから将来を考えてもよい。・中高生の学習塾で成績の良い子には医学部受験を勧めて、塾の実績とするような社会状況も、動機付けがなされていない医学生を増やしている一因ではないかと思う。・美容外科でのトラブルの治療のために受診する人も多く、美容外科で最後まで責任を取って診るべき。・保険診療以外で生じた医療事故については保険制度を利用しないで対応してほしい。保険診療、制度に関するご意見(抜粋)・若いうちは専門の診療科について経験を積んだほうよいと思う。・ひとまずどんな患者でも診察できるというのは意外に大きい。・ある程度の臨床経験が医師としても人間としても成長させてくれると思う。・どの職種も修行している間は給与が低い。学びながら高給取りなんてありえない。卒後10年は給与低くても当然。卒後一桁は何もできないに等しい。・専門医取得までは低賃金、長時間労働、休日返上が必要となるが、取得したら見える景色が変わる。・人命救助の経験は代え難い。・保険診療点数の低さがそもそもの根源と思う。・直美が悪いのでなく、直美を選ぶ人が増えるくらい保険診療の先行きが暗いことが問題と感じる。・報酬と働き方を変えない限り、保険診療に従事する若手は少なくなる一方だと考える。・行きたければ自由にどうぞとは思うが、国の政策としてなんらかのペナルティーをもうけるべき。・地域枠の医師の直美が存在する件に関しては、約束が守れていないのではないかと考える。・美容外科は自由診療なので、医師の資格とは別の資格を創設すべき。アンケート結果の詳細は以下のページに掲載中。「直美」の増加の背景にある医療界の課題は?/医師1,000人アンケート

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失明を来し得る眼疾患のリスクがセマグルチドでわずかに上昇

 2型糖尿病の治療や減量目的で処方されるセマグルチドによって、非動脈炎性前部虚血性視神経症(NAION)という失明の可能性もある病気の発症リスクが、わずかに高まることを示唆するデータが報告された。米ジョンズ・ホプキンス大学ウィルマー眼研究所のCindy Cai氏らの研究によるもので、詳細は「JAMA Ophthalmology」に2月20日掲載された。 NAIONは、網膜で受け取った情報を脳へ送っている「視神経」への血流が途絶え、視野が欠けたり視力が低下したり、時には失明に至る病気。一方、セマグルチドはGLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)という薬の一種で、血糖管理や減量のために処方される。2024年に、同薬がNAION発症リスクを高めるという論文が発表された。ただし、ほぼ同時期にその可能性を否定する研究結果も発表されたが、安全性の懸念が残されている。これらを背景としてCai氏は、複数のデータベースを統合した大規模サンプルを用いた後ろ向き研究を実施した。 解析には、医療費請求データや電子カルテなど計14件のデータを使用し、二つの手法でNAION発症リスクを検討した。一つ目は、セマグルチドが新たに処方された患者と、セマグルチド以外のGLP-1RA、およびGLP-1RA以外の血糖降下薬が処方された患者を比較する、実薬対照コホートデザインによる検討。二つ目は、同一患者内で当該薬剤を使用していた期間と使用していなかった期間とでリスクを比較する、自己対照研究デザインによる検討。 解析対象は3710万人の2型糖尿病患者であり、そのうち81万390人がセマグルチドの新規使用者だった。NAIONの発症リスクの検討には、1件の診断コードのみで定義した高感度モデルと、90日以内に2件以上の診断コードが記録されている場合で定義した高特異度モデルという2パターンを用いた。NAION発症率は、高感度モデルでは10万人年当たり14.5、高特異度モデルでは同8.7だった。 実薬対照コホートデザインの高感度モデルでは、セマグルチドはSGLT2阻害薬のエンパグリフロジン、DPP-4阻害薬のシタグリプチン、SU薬のグリピジドとの比較でNAIONリスクに有意差はなかった。高特異度モデルでは、エンパグリフロジンとの比較でのみ、リスクが有意に高かった(ハザード比〔HR〕2.27〔95%信頼区間1.16~4.46〕)。 自己対照研究デザインにおいてセマグルチドは、高感度モデルで発生率比(IRR)1.32(同1.14~1.54)、高特異度モデルでIRR1.50(同1.26~1.79)と有意なリスク上昇が認められた。また、別のGLP-1RAであるエキセナチドも高特異度モデルでIRR1.62(同1.02~2.58)と有意なリスク上昇が認められた。 著者らは、「われわれの研究により、セマグルチドとNAIONリスクとの関連についての新たなエビデンスが示された。認められたリスクは先行研究に比べて小さかった。潜在的なメカニズムや因果関係の特定のために、さらなる研究が求められる」と述べている。またCai氏は、「セマグルチドは全身性の副次的効果が豊富な薬剤ではあるが、患者と医師はNAIONのリスクに留意する必要がある」としている。

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