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ビューティフルマインド【統合失調症】

ジョン・ナッシュ―統合失調症のノーベル経済学賞受賞者私たちは、統合失調症の人に接する時、つい身構えてしまうことはありませんか?「頭がおかしい」「何をするか分からない」という先入観にとらわれていることはありませんか?確かに、かつて「精神分裂病」と言われ、治療が難しい時代には、暗い過去がありました。しかし、現在、薬物療法の大きな進歩により、状況は変わってきており、将来的な見通しは明るくなってきていると言えます。今回は、私たちが統合失調症の人たちのことをもっとよく知るために、映画「ビューティフルマインド」を取り上げます。主人公の天才数学者ジョン・ナッシュは、統合失調症を発症しますが、家族や友人の支えによって回復し、そして、晩年には、かつての功績が認められ、ノーベル経済学賞(1994年)を受賞するという実話に基づいたストーリーです。統合失調症の世界が主人公の視点で描かれているため、この病気のつらさや支えられるありがたさが、見ている私たちに生々しく伝わってきます。そこから、私たちが統合失調症の人を目の前にして、どう寄り添っていくことができるか気付かされます。さらには、統合失調症を詳しく知ることを通して、「なぜ統合失調症という病気が存在するのか?」という文化人類学的な謎解きに、みなさんといっしょに迫っていきたいと思います。統合失調型パーソナリティ―奇妙で神秘主義的な性格時代は、第二次世界大戦直後。主人公のナッシュがプリンストン大学に入学した時から、ストーリーは始まります。野外パーティで、ナッシュは、独りでグラスを光にかざして、その分光を目の前の初対面のクラスメートのネクタイに重ね合わして、突拍子もなく「君のネクタイの趣味の悪さを数学的に説明できそうだ」と言い放ちます。関係性やパターンを見抜くという彼ならでは天才的なひらめきが描かれたワンシーンです。また、「全てを支配する真理、真に独創的なアイデアを見つけたい」という発言からは、彼の直感的で神秘主義的な一面が見えます。しかし、同時に、周りのクラスメートたちの目には、発言も行動もあまりにも独特すぎて、風変わりで奇妙に映っています。その後もナッシュは、授業にほとんど出席せず、友達付き合いも悪く、恋人もつくらず、部屋にこもって独学を続けます。マイペースなだけに、非社交的で非社会的であることが伺えます。彼は自ら打ち明けます。「小学生の時に『脳みそは2倍だが、心は半分』と担任教師から言われた」と。彼は、自分が無感情で冷淡な一面があることをよく分かっており、孤立していることを好んでいます。周りも彼を数学の天才として一目置いています。このような、奇妙で神秘主義的な性格(統合失調型パーソナリティ)は、統合失調症を発症する前のくすぶった状態の性格(病前性格)として見受けられることがよくあります。そして、この特徴は、同時に、ミステリアスな魅力を醸し出すこともあります。これが、後に妻となるアリシアのハートを射止めたとも言えそうです。つまり、ナッシュの性格には、以下(表1)のような二面性があると言えます。困った面良い面「無感情」「冷淡さ」「孤立」「非社交性」「非社会性」「奇妙」「独りよがり」「エキセントリック」「ミステリアス」「孤高」「マイペース」「神秘主義」「独特」「独創性」「創造性」「直感」「ひらめき」幻覚妄想―真に迫る生々しい世界ナッシュは、論文で功績をつくり、卒業後は、エリートとして政府機関の研究所で、暗号解読などの極秘任務に就きます。この頃から、徐々に、彼の周りでは、奇妙なことが起こり始めます。アリシアとのデートでも、怪しげな男たちに監視され、国際スパイ組織の接触があり、不特定の雑誌の記事に隠された暗号の解読の極秘任務を本業とは別に受けるようになります。その後、命を狙われ、カーチェイスの末に、銃撃戦があり、敵の車は川に沈んでしまうというエピソードもあります。極秘任務だけに、彼は妻のアリシアに打ち明けることができず、妻にとっては、彼の言動はますます奇妙で突飛になっていきます。見ている私たちは、主人公はとんでもない事件に巻き込まれたとハラハラし、アリシアに状況がうまく伝わらないもどかしさにヤキモキしてしまいます。しかし、やがて、精神科医と名乗る男の登場により、ナッシュが強制入院してから、事態は急展開します。実は、彼が体験していた様々な奇妙な出来事は、全て彼の幻覚や妄想の産物だったのでした。幻覚とは、見えないものが見えて(幻視)、聞こえないものが聞こえること(幻聴)です。妄想とは、理屈に合わないこと(不合理)をかたくなに思い込むことです。実際に、膨大な雑誌の文字と隠されたわずかな暗号を関係付けることはあまりに不合理です(関係妄想)。また、ロシアのスパイ組織の陰謀により、理屈に合わない身の危険を感じることです(被害妄想)。ちなみに、実際の統合失調症の症状として幻聴はよくみられますが、幻視はあまりみられません。この映画で幻視の症状が描かれているのは、やはり、ナッシュの視点に立って、彼が感じている真に迫る生々しい世界を私たちに伝えたいという映画製作者の意図があったからではないかと思います。だからこそ、見ている私たちも彼といっしょに、「事件」に巻き込まれる恐怖を味わうことができました。自傷他害行為―幻覚妄想が現実を乗っ取ってしまうナッシュの入院後、画面の視点はナッシュからアリシアに移っていきます。精神科医は彼女に「彼は現実を見失っている」と説明し、ナッシュの精神状態が徐々に明らかになっていきます。アリシアは、ナッシュが幻覚妄想に陥っている証拠を探し出し、突き付けます。それは、すでにスパイ組織に行き渡っているはずの暗号解読入りの封筒の束です。ナッシュが思い込んでいた「秘密」のポストに未開封のままで貯まっていたのでした。しかし、彼はその現物を目の当たりにしても、現実を受け入れようとはしません。それどころか、幻覚妄想の中で腕に埋め込まれたダイオードのチップを探すため、爪で手首を掻き分けるという流血騒ぎを起こします。このシーンで、彼にどんなに説得しても無理であることを私たちも悟ります。これがまさに精神科医が言う「妄想が現実を乗っ取ってしまう」ということなのです。退院して自宅療養している時期、こっそり薬を飲むのをやめたために、幻覚妄想が再び現れるシーンがあります。ナッシュは銃口を突き付けられたのに反応して、とっさに赤ん坊を抱いているアリシアを突き飛ばしてしまいますが、彼女はわけが分からず、身の危険を感じてしまい、精神科医に助けを呼ぶのでした。このように、幻覚妄想に振り回されて自分を見失い(心神喪失)、自分を傷付けたり他人を害したりすること(自傷他害)のおそれがある場合は、速やかに保護のために警察通報する必要があります。身体療法―インスリンショック療法から電気けいれん療法へ入院中に自傷行為に至ったナッシュの心の状態は、かなり切迫していることが分かります。もはや薬の治療(薬物療法)の効果を待っている猶予はなく、体への直接的な治療(身体療法)が行われます。それは、インスリンを体内に投与することで、人工的に低血糖によるけいれん発作を引き起こすものです(インスリンショック療法)。けいれんが起きることで、頭の中がリセットされ安定するという仕組みです。この治療により、彼は幻覚妄想による危機(急性期)を脱していきます。このインスリンショック療法は脳へのダメージのリスクが高いために、現在は治療方法として認められていません。現在行われている身体療法は、頭に電気を流してけいれん発作を引き起こす治療方法(電気けいれん療法)です。さらには、麻酔科医の立会いのもと筋弛緩薬を使用して体のけいれんを起こさせず、頭の中だけけいれんを起こさせる治療方法(無けいれん電気療法)も確立しています。頭に電気を流すと聞くと、みなさんはびっくりされるかもしれませんが、適切な電気の量を流すため副作用や後遺症はほとんどありません。かつて懲罰的に使用された歴史があったこともあり、一時期は治療法として忌み嫌われ廃れていましたが、現在は、見直されてきています。薬物療法―予防薬としても大事退院後、自宅療養しているナッシュは、尋ねてきた元同僚に「薬を飲んでると頭がぼうっとして(数学の問題を解こうとしても)答えが見えない」と漏らし(集中力低下)、落ち込んで引きこもってしまいます。精神科医には、「(薬のせいで)夜に妻を愛せない」と嘆いてもいました(性機能障害)。一方で、妻も日常生活や夫婦生活がうまく行かないことでいら立ち、苦しんでいる様子が率直に描かれています。この彼らの葛藤があったからこそ、乗り越えた後の支え合う穏やかな生活のありがたみも自ずと私たちに伝わってきます。再発予防のために、薬は長期的に飲む必要がありますが、当時の薬は、効果はあるものの、副作用もいろいろありました。現在は、薬の飛躍的な進歩により、副作用も少なくなり、内服を続けることに抵抗感がなくなってきています。もはや予防薬として薬を飲み続けていれば、症状が落ち着いて生活に支障をきたすことなく、かなりの人が社会復帰しているという点では、糖尿病や高血圧などの治療とほとんど変わりはありません。治療可能な心の病というふうに見方が変わってきています。周りのかかわり―説教から支持へ自宅療養をし続けているナッシュは、アリシアと精神科医に打ち明けます。「仕事ができない」「赤ん坊の世話もできない」「夜に妻を愛せない」「それでも生きる価値があるのか」と。ナッシュは、何もすることもなく(無為)、家に閉じこもってばかりいる状況(自閉)の情けなさに気付いていくのです。ナッシュが薬を一時期こっそりやめて幻覚妄想が悪化したことで、アリシアは家を出ていこうと思い立った時がありましたが、最終的には、彼を支え続けることを決意し、接し方も変わっていきます。口うるさく説教する(高い感情表出)のではなく、彼の気持ちの揺れに粘り強く寄り添っていくのです(支持)。すると、彼も変わっていきます。ナッシュは一大決意して、なんと思い切って母校の教官になっているかつてのライバルの所に行き、大学の出入りの許可をもらうのです。彼は元ライバルに言います。「アリシアと相談して、社会の一員として生活するのがいいんじゃないかって」「慣れ親しんだ場所で親しい人たちと付き合うことで病気を癒していきたいと。そして、この元ライバルの友情にも支えられて、彼は、毎日、大学の図書館に通い、研究を続け、学生とかかわり、慕ってくれる教え子ができるようになったのです。これは、現代にも通じる統合失調症の精神科リハビリテーションです。ナッシュの性格は、もともと前向きでひたむきでしたが、妻や友人に支えられることにありがたみや喜びを素直に感じることができ、ユーモアも加わっていきます。この心のあり方こそが、タイトルでもある「ビューティフルマインド(すばらしい心)」と言えます。さらには、支えることに喜びを感じることができる妻や友人も、「ビューティフルマインド(すばらしい心)」の持ち主であると言えそうです。これらの周りのかかわりや本人の心のあり方は、病気が回復していくための大きな強み(ストレングス)となります。レジリエンス―心の回復力ナッシュは、日々の生活において、研究を続けること、学生たちなどの周りとかかわることをとても大事にしています。これこそが、彼が人生で望んでいること(アスピレーション)です。妻を始めとする周りは、この彼の姿勢を尊重し、支えています。実際、統合失調症の人が、具体的に、最終的にどんな仕事を望むのか、どんな人間関係(友人やパートナーなど)を望むのかは人それぞれです(生活特性)。だからこそ、私たちがこれらを本人といっしょに見極めていくことです。そして、本人が「自分にはやることがある」という役割や「自分を認めてくれる場所がある」という居場所を見いだしていくことです。そこには、日課や目標という心のメリハリが生まれ、日々の生活が生き生きとしていきます。そして、日課をこなして目標に向かうことが、病状の回復や安定に大きくつながっていくのです。この病状を回復させていく力(レジリエンス)の源は、病気に対する本人や周りの強み(ストレングス)や本人が人生で何を望んでいるかはっきりしていること(アスピレーション)です(表2)。ちなみに、現代の精神科リハビリテーションの核となるデイケアや作業所も、日課をこなす点、仲間とつながる点で大きな強み(ストレングス)であると言えます。人生で望んでいること(アスピレーション) 強み(ストレングス)本人周り研究を続ける学生とかかわる数学の能力前向きでひたむきな性格ユーモアがある妻アリシアの支え友人の支え母校の受け入れ慕う教え子がいる際立ち(サリエンス)仮説―ワクワク感やハラハラ感の正体晩年、ナッシュは、かつての功績が認められてノーベル経済学賞を受賞します。その授賞式の壇上でのスピーチで彼は言います。「私はいつも方程式や論理の中に『答え(reason)』を求めてきました」「そして、ついに、人生で最大の発見をしました」「それは愛の方程式です」「今夜、私がここにいるのは君のおかげだ」「君がいてくれたからこそ僕がいるんだ」「君が僕の全ての『答え』だ」と。支えてくれた妻アリシアへの感謝のメッセージを込めた彼らしい言い回しです。とても感動的なラストシーンでした。ナッシュの若い頃からの究極的な「答え」を求めようとする心構えは、ものごとパターン化して、関係付けを見いだそうとする人間本来の特性と言えます。そこには、気になって意味付けし、特別視する好奇心の心理(新奇希求性)があります。この人間本来の本能的な心理モデルから、統合失調症のメカニズムを説明する仮説があります。「際立ち(サリエンス)仮説です。人間はそもそも、いつもと違う状況(新奇)に遭遇すると、ドパミンという神経伝達物質が脳内で分泌され、感覚が研ぎ澄まされて覚醒します。それはまさに、私たちが新しく何かを経験したり珍しいものを見たりした時に感じるワクワク感や、普段にはない怪しいものを見たり身の危険が迫った時に感じるハラハラ感です。そして、この心理に衝き動かされ(動機付け)、特別であると意味付け(価値観)、その正体である「答えを突き止めることで、原因と結果の関係付け(因果関係)をします。いつもと違う状況には、いつもと違う行動ができるようになります。そうやって、原始時代から、よりワクワク感で新しい獲物を見つけ、よりハラハラ感で危険から身を守った種が、より生き延びてきました(適者生存)。また、いつもと違う状況には、いつもと違う原因や理由があります。この因果関係をより見抜くことで(パターン認識)、様々な関係付けができるようになるわけです(パターン学習)。 そこから、世界をよりいっそう認識していくのです(学習)。ナッシュは、酒場で、女性グループと自分たち男性グループがいかにカップリングできるかという状況に好奇心を抱き、「最良の結果は、自分とグループの利益を同時に考えることである」という新しいパターン(因果関係)がひらめきました。これは、「自分の利益を考えることこそのみがグループ全体の利益につながる」という当時常識であった理論を根底から覆すものでした。彼は、酒場のこの状況に際立ち(サリエンス)を感じたからこそ「自分とグループの利益を同時に考える →「最良の結果」という因果関係を導いたのでした。ちなみに、この考え方は、日本で今をときめく人気アイドルグループの組織作りにも応用されています。また、別の例として、多くの登山家は、「なぜエベレストに登るのか?」と問われたら、「そこに山があるから」と答えるでしょう。それはまさに、エベレストが世界で最も高い山であり、その登山家にとってエベレストは特別に際立っており(サリエンス)、命を預ける価値があるからだと言えます。こうして、ドパミンによって衝き動かされた私たちの行動による学習の積み重ねが、現在の私たちの高度な文明であり、豊かな文化であると言えます。サリエンスの異常―統合失調症のメカニズムサリエンスのメカニズムは、私たち人類の繁栄になくてはならないものだったということが分かりました。それでは、もし先ほど登場したドパミンが誤作動して出すぎてしまうと(ドパミン過剰分泌)、どうなるでしょうか?新奇な状況とドパミン分泌はセットで連動しています。よって、もしもドパミンが勝手に分泌しすぎて溢れてしまうと、逆に、いつもと同じ状況がいつもと違う状況(新奇)に勝手に際立って感じてしまいます(サリエンスの異常)。何気なかった物音や人込みの雑踏がうるさく聞こえ、景色が鮮やかに眩しく見えるなど過敏に感じ、考え過ぎで深読みや裏読みをしてしまいます(神経過敏)。実際、ナッシュは、自分の家の前に黒い車が止まっただけでビクビクしています。そして、その車から子どもたちが出てきて、ホッとするシーンが分かりやすいです。さらにドーパミンの分泌が暴走してしまうと、頭の中で出てくる声(「内なる声」)や思い描くイメージが、敏感な知覚として幻覚になってしまいます。また、何かとんでもないことが起きてしまうと思い込み、関係があるかどうかの確かさが勝手に高まってしまい、あり得ない関係付け(関係妄想)やあり得ない嫌がらせや陰謀(被害妄想)に発展し、敏感な思考として妄想になっていくのです。幻覚妄想と創造性―人類の進化の必然の産物ノーベル賞受賞の候補に上がっていると聞かされた時にナッシュは言います。「いまだにないものが見えてしまうから」「薬で頭のダイエットをしている」「そして、パターン(因果関係)の発見や自由な想像や夢に対しての『食欲』を抑えている」と。サリエンスのメカニズムを考えると、文化人類学的には、創造性を発揮するかあるいは幻覚妄想を発症するかは、言わば紙一重であるとも言えそうです。ナッシュは、創造性を発揮して功績を残した一方で、幻覚妄想は長らく続いてしまいました。そして、最終的には、薬物療法と妻アリシアを始めとする周りの支えで、回復することができました。統合失調症という病は、私たちの進化の中で生まれてしまった必然の産物とも言えます。そして、この病気のメカニズムである「際立ち(サリエンス)」は、私たちの文明や文化に恩恵をもたらしています。だからこそ、私たちも、この統合失調症の人たちを支えることによって、ビューティフルマインド(素晴らしい心)であり続けて、いっしょに乗り越えていく必然もあるのではないでしょうか?1)「ビューティフルマインド」(新潮社) シルヴィア・ナサー 塩川優(訳)2)「天才と分裂病の進化論」(新潮社) デイヴィッド・ホロボン 金沢泰子(訳)3)「統合失調症を生きる」(新興医学出版社) 長嶺敬彦4)「生活臨床の基本」(日本評論社) 伊勢田尭

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認知症のエキスパートドクターが先生方からの質問に回答!(Part2)

CareNet.comでは10月の認知症特集を配信するにあたって、事前に会員の先生より認知症診療に関する質問を募集しました。その中から、とくに多く寄せられた質問に対し、朝田 隆先生にご回答いただきました。今回は残りの5問について回答を掲載します。6 アルツハイマー病と血管性認知症を簡単に鑑別する方法はあるか? 血管性認知症の具体的な治療方法は?6 この鑑別方法は認知症医療の基本と言えるテーマですね。鑑別については、血管性認知症では片麻痺をはじめとする神経学的な所見があり、その発症と認知症の発症との間に時間的な密着性があることが基本かと思います。そのうえで、段階的な悪化や、障害される認知機能の不均等さ(斑認知症)などの有無が鑑別のポイントになるでしょう。ところで、かつてはわが国で最も多いのは血管性認知症で、これにアルツハイマー病が次ぐとされていました。ところが最近では、両者の順位が入れ替わったとされます。また実際には、両者が合併した混合型認知症が最も多いともいわれます。それだけに、この鑑別は二者択一の問題から、両者をどう攻めたら効率的かの方略を考えるうえでの基本、という新たな意味を持つようになったと思います。7 アルツハイマー病とてんかんとの鑑別点は?7 認知症もどきの「てんかん」は最近のトピックスになっていますね。てんかんはややもすると子どもの病気というイメージがありましたが、最近では初発年齢が高くなる傾向があり、患者数も高齢者に多いという事実が知られるようになりました。てんかんも、明らかなけいれんを伴うタイプであれば、認知症との鑑別は簡単です。ところが、けいれん発作がないタイプのてんかんもあります。とくに海馬付近に発作の焦点をもつケースでは、主症状が健忘ということが少なくありません。注意深く観ているとそのような人では、時に数秒から数分、「ぼーっ」として心ここにあらずという状態が生じがちです。これが家族や同僚など周囲の人に気づかれていることも少なくありません。本人にはこのような発作中のことは、ほぼ記憶に残りません。また傍目には普通に過ごしているように見える時であっても、本人はぼんやりとしか覚えていないことがあります。このような状態が、周囲の人には認知症ではないかと思われてしまうのです。8 薬物治療を開始する際、専門医にアルツハイマー病の診断をしてもらうべきか? また、精神科へ紹介すべきなのはどのようなケースか?8 これもまた悩ましい問題ですね。と言いますのは、すごく診断に迷うような例外的なケースは別ですが、最も多い認知症性疾患はアルツハイマー病ですから、普通の認知症と思われたら、即アルツハイマー病という診断になるかもしれません。それなのにいちいち専門医にアルツハイマー病の診断をしてもらうべきなのか?というのもごもっともなことです。しかし、時としてアルツハイマー病と誤診されるものに、たとえば意味性認知症や皮質基底核変性症など、各種の変性性認知症があります。あるいは正常圧水頭症も、最大の可逆性認知症に位置づけられるだけに要注意です。臨床経過、神経心理学的プロフィール、神経学的所見、脳画像所見などから、これらとの鑑別がついているという自信があれば、紹介は不要でしょう。逆に、何となくひっかかりを覚えたら、必ず専門医に相談するようにされていれば、後悔を生まないことでしょう。次に、精神科医であれば誰でも認知症が診られるというわけではありません。しかし、他科の医師との比較で精神科医が得意とするのは、幻覚妄想などの精神症状や攻撃性・不穏興奮などの行動異常(両者を併せてBPSD)への対応でしょう。とくに暴力が激しくなった認知症のケースでは自傷他害の危険性も高いですから、早めに対応設備のある精神科の専門医に依頼されるようにお勧めします。9 抗アルツハイマー病薬の使い分けは? また、増量、切り替え、追加のタイミングは?9 ここでは、現在わが国で流通している抗アルツハイマー病薬の特徴と処方の原則を述べます。これらの薬剤は、コリンエステラーゼ阻害薬とNMDA受容体拮抗薬に二分されます。前者にはドネペジル(商品名:アリセプト)、ガランタミン(同:レミニール)、リバスチグミン(同:イクセロン、リバスタッチ)の3種類があります。後者はメマンチン(同:メマリー)です。前者について、どのようなタイプのアルツハイマー病患者にはどの薬が適切といったエビデンスレベルは今のところありません。総じて言えば、どれもそう変わらない、同レベルと言っても大きな間違いではないでしょう。たとえ専門医であっても、3つのうちのどれかで始めてみて、効果がないとか副作用で使いづらい場合に、次はこれでというパターンが一般的かもしれません。増量法は、それぞれ異なりますが、ガランタミン、リバスチグミンの場合は、副作用のために最大用量の24mg/日、18mg/日まで増量せずに中間用量を維持した方がよい場合もあります。適応については、ドネペジルは軽症から重症まですべての段階のアルツハイマー病に適応があります。野球のピッチャーにたとえるなら先発完投型と言えます。これに対してガランタミン、リバスチグミンは軽度と中等度例を適応としますので、先発ながら途中降板のピッチャーです。NMDA受容体拮抗薬であるメマンチンについては、中等度と高度の例が適応ですからリリーフ専門のピッチャーと言えるでしょう。使用上の特徴として、コリンエステラーゼ阻害薬は複数処方できませんが、コリンエステラーゼ阻害薬と本剤の併用は可能なことがあります。この薬は原則として1週間ごとに増量していきます。ところが、わが国では15~20mg/日の段階で、強い眩暈や眠気などの副作用を来す例が少なくないことがわかっています。この副作用を防止するために、2~4週間毎に増量する方法を勧める専門医もいらっしゃいます。10 BPSDに対する抗不安薬や気分安定薬などの上手な使い方は?10 BPSDに対する治療の基本は薬物治療ではなく、対応法の工夫・環境調整やデイケアも含めた非薬物療法にあります。薬物は、それらでだめな場合に使うセカンドチョイスと位置づけたほうがよいと思われます。その理由として、せん妄や幻覚・妄想など精神面のみならず、錐体外路症状そして転倒などの副作用があります。また高齢者では10種類以上の薬剤を服用していることも珍しくありませんから、処方薬を加えることでさまざまな副作用を生じるリスクは指数関数的に上昇します。そうは言っても薬物治療が求められるのは、暴言・暴力、不眠・夜間の興奮、幻覚・妄想などのBPSDが激しいケースでしょう。このような場合に向精神薬を処方するとしたら、とくに以下の点を考慮してください。筋弛緩・錐体外路症状などの易転倒性を惹起する可能性、それに意識障害を起こす危険性です。そうなると、ほとんどの抗精神病薬(メジャートランキライザー)、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬・睡眠薬は使えません。また三環系の抗うつ薬も同様です。そこで、あくまで私的な方法ですが、私は漢方薬を好んで使います。抑肝散、抑肝散加陳皮半夏などが主です。抗不安薬では、鎮静効果を狙って非ベンゾジアゼピン系のタンドスピロン、睡眠薬としてはむしろ睡眠・覚醒のリズム作りを狙ってラメルテオンを使うことがあります。こうした薬剤で無効なときには、バルプロ酸やカルバマゼピンといった抗てんかん薬も使います。どうにもならない激しい暴力・攻撃性には最後の手段として、スルトプリドをごくわずか(20~30mg/日)処方します。多くの場合、適応外使用ですから、このことをしっかり説明したうえで処方すべきでしょう。

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重症ARDS患者への筋弛緩薬早期投与、90日生存率を改善

急性呼吸窮迫症候群(ARDS)で人工呼吸器を装着した患者に対する、新しい筋弛緩薬である神経筋遮断薬cisatracurium besylateの早期投与が、臨床転帰を改善したことが、フランスUniversite de la Mediterranee Aix-MarseilleのLaurent Papazian氏ら「ACURASYS」研究グループにより報告された。神経筋遮断薬投与は酸素化を改善し、人工呼吸器によって誘発された肺損傷を改善する可能性の一方、筋力低下を招く可能性が懸念されていたが、Papazian氏らによる多施設共同プラセボ対照二重盲検無作為化試験の結果、筋力低下を招くことなく90日生存率が改善したことが認められたという。NEJM誌2010年9月16日号より。340例をプラセボ対照で無作為割り付け試験は、2006年3月~2008年3月にフランス国内20施設のICUに、48時間以内に収容された重症ARDS患者340例を、神経筋遮断薬cisatracurium besylate(178例)またはプラセボ(162例)のいずれかを、48時間にわたって投与するよう無作為に割り付けられた。重症ARDSの定義は、動脈血酸素分圧(PaO2)/吸入酸素濃度(FiO2)150未満、呼気終末陽圧5cmH2O以上、1回換気量6~8mL/kg予測体重とされた。主要評価項目は、退院前または試験登録後90日以内に死亡した患者の割合(90日院内死亡率)とした。あらかじめ定義された共変量とベースラインの群間差はCoxモデルを用いて補正された。90日生存率を改善、呼吸器を外す時間も増加プラセボ群との比較によるcisatracurium群の90日死亡のハザード比は、PaO2/FiO2・呼気プラトー圧・重症度スコア(Simplified Acute Physiology II score)をベースラインで補正後、0.68(95%信頼区間:0.48~0.98、P=0.04)だった。90日粗死亡率は、cisatracurium群が31.6%(95%信頼区間:25.2~38.8)、プラセボ群が40.7%(同:33.5~48.4)(P=0.08)。28日死亡率は、cisatracurium群23.7%(同:18.1~30.5)、プラセボ群33.3%(同:26.5~40.9)(P=0.05)だった。ICUでの後天性の不全麻痺の発生率は、2群間で有意差は認められなかった。これらの結果から研究グループは、重症ARDS患者への神経筋遮断薬による早期投与は、筋力低下を招くことなく、補正後90日生存率を改善し、人工呼吸器を外す時間が増したと結論している。(朝田哲明:医療ライター)

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筋弛緩回復剤「ブリディオン」承認取得

シェリング・プラウ株式会社は20日、筋弛緩回復剤「ブリディオン静注200mg / 500mg(一般名:スガマデクスナトリウム)」の承認を同日付で取得したと発表した。ブリディオンは、旧シェリング・プラウ・コーポレーション(現:Merck & Co., Inc., Whitehouse Station, N.J., U.S.A)が創製した、新たな筋弛緩回復剤で、平成21年9月現在、世界35カ国以上において承認を取得している。同剤は、筋弛緩剤ロクロニウム/ベクロニウムを選択的に直接包接して筋弛緩作用を不活化する、世界初の筋弛緩回復剤(SRBA:selective relaxant binding agent)。このような作用機序を有する同剤は、自発呼吸の回復を待たずに、深い筋弛緩状態からも速やかに回復することが可能であり、コリン作動性神経系への影響もない薬剤とのこと。詳細はプレスリリースへhttp://www.schering-plough.co.jp/press/index.html

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ボトックスに適応追加 小児脳性麻痺の下肢痙縮治療に新たな選択肢

グラクソ・スミスクライン株式会社は、2月23日付で同社のA型ボツリヌス毒素製剤「ボトックス注50」「ボトックス注100」(一般名:A型ボツリヌス毒素)について、「2歳以上の小児脳性麻痺患者における下肢痙縮(かしけいしゅく)に伴う尖足(せんそく)」を効能・効果として、厚生労働省より適応追加の承認を取得したと発表した。「ボトックス」は、ボツリヌス菌が作りだしたA型ボツリヌス毒素(天然のタンパク質)を有効成分とする筋弛緩剤。神経と筋肉の間では、アセチルコリンという化学物質が放出されて刺激が伝わり筋肉が収縮する。同剤は、投与した部位に作用して、アセチルコリンの放出を阻害することにより、神経の働きを抑え、筋肉のけいれんや緊張を抑えることができる。1995年以降、「2歳以上の小児脳性麻痺患者における下肢痙縮に伴う尖足」の適応では世界60ヵ国以上で承認されており、日本においても本効能・効果に対する本剤の必要性が認められていた。今回、本効能・効果に対する本剤の有効性と安全性および医療上の必要性について小児薬物療法検討会議がまとめた報告書等の内容に基づいて審議された結果、追加効能が承認されたという。詳細はプレスリリースへhttp://glaxosmithkline.co.jp/press/press/2009_01/P1000535.html

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眉間のしわの改善に「ボトックスビスタ」の承認取得

グラクソ・スミスクライン株式会社は21日、同社のA型ボツリヌス毒素製剤「ボトックスビスタ 注用50単位」(一般名:A型ボツリヌス毒素)について、「65歳未満の成人における眉間の表情じわ」を効能・効果として、製造販売承認を厚生労働省より取得したと発表した。ボトックスビスタは、ボツリヌス菌が作りだしたA型ボツリヌス毒素(天然のタンパク質)を有効成分とする筋弛緩剤。表情筋に直接注射することで表情筋の収縮を弱め、表情でつくられるしわを改善することができるという。本剤は、眉間の表情じわの治療薬として、本邦においては初めて承認を取得し、国内で使用できる唯一のA型ボツリヌス毒素製剤となった。現在、同効能・効果で米国、イギリス、ドイツ、フランスをはじめ世界50ヵ国以上で承認されている。本剤はGSKが「眼瞼(がんけん)けいれん」「片側顔面(へんそくがんめん)けいれん」「痙性斜頸(けいせいしゃけい)」の治療薬として販売している「ボトックス」と同一の有効成分を含む製剤で、今回承認を取得した「65歳未満の成人における眉間の表情じわ」の用途においては、「ボトックスビスタ」という製品名で発売される予定。詳細はプレスリリースへhttp://glaxosmithkline.co.jp/press/press/2009_01/P1000521.html

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欧州でBRIDION(SUGAMMADEX)の発売を開始

2008年9月10日、米国ニュージャージー州ケニルワース―シェリング・プラウ・コーポレーションは、スウェーデンでの発売を皮切りに、欧州におけるBRIDION(sugammadex)の発売を開始し、英国およびドイツでは近日発売、また欧州のその他複数の市場でも今年末から2009年初めにかけて発売を開始すると発表した。BRIDIONは選択的筋弛緩薬結合剤(SRBA)で、7月29日に欧州委員会から販売承認を取得した。詳細はプレスリリースへhttp://www.schering-plough.co.jp/press/index.html

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肺動脈性肺高血圧症治療に初めてのPDE5阻害薬

ファイザー株式会社は、肺動脈性肺高血圧症治療薬「レバチオ」(シルデナフィルクエン酸塩)の承認を取得したと発表した。「レバチオ」は、ホスホジエステラーゼ5(PDE5)阻害という新たな作用機序を有する肺動脈性肺高血圧症の経口治療薬。酵素であるPDE5の活性を阻害することにより、平滑筋弛緩作用をもつサイクリックGMP(cGMP)の分解を抑制し、その結果、肺動脈平滑筋が弛緩し、肺動脈圧及び肺血管抵抗が低下する。詳細はプレスリリースへhttp://www.pfizer.co.jp/pfizer/company/press/2008/2008_01_29_02.html

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