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ニューモシスチス肺炎(PCP)は、かつて「カリニ肺炎」と呼ばれHIVの合併症として注目を集めていました。しかし今日のPCPはもはや、HIV感染例に特異的な疾患ではありません。HIV例のPCP(HIV-PCP)と表現型や病態、予後がまったく異なる、非HIV感染例が発症するPCP(non-HIV PCP)の特徴と対策についてご紹介したいと思います。HIVとは無関係のPCPが著増よく知られているとおり、PCPはHIVに限らず、「免疫不全」を基礎とする呼吸器疾患です。そのため、ステロイド、あるいは臓器移植後の免疫抑制薬使用頻度の増加、さらに新規の抗がん剤やリウマチ治療薬などの登場に伴い、この免疫不全を引き起こす状態はHIVに限られることなく、多岐にわたるようになりました。その結果、著明に増加したのが、HIV感染を伴わないnon-HIV PCPです。英国のデータでは、HIV PCP例の入院数が経時的に減少を続けているにもかかわらず、PCP入院例の総数は逆に増え続けています(図1)[Maini R, et al. Emerg Infect Dis. 2013;19:386-392.]。この増加のほとんどは、non-HIV PCPと考えられます。図1.英国におけるニューモシスチス肺炎患者数の推移non-HIV PCPは病態進行が早く予後は悪いnon-HIV PCPの表現型は、HIV PCPとまったく異なります。最大の相違点は「病態の進行速度」です。緩徐に進行するHIV PCPと対照的に、non-HIV PCPは「日~週単位」で病態が増悪します。さらに予後も良くありません。台湾からの報告によれば、診断後30日間の死亡率は、HIV PCP例の6.7%に対し、non-HIV PCPでは50%という高値でした[Su YS, et al. J Microbiol Immunol Infect. 2008;41:478-482.]。したがって、早期の診断と治療開始が必要となります。HIV PCP例を診るのと同じ感覚で経過観察していると、取り返しのつかない事態に追い込まれかねません。診断は困難、まず患者背景からリスクを評価しかし困ったことに、「診断が困難」なのもnon-HIV PCPの特徴です。すなわち、HIV PCPのような定型的臨床像や画像を示す患者はきわめてまれです。また、HIV PCPと異なり菌体量が少ないため、検出も困難です。では、non-HIV PCPをどのように診断すればいいでしょう? 最も重要なのは、「鑑別疾患としてnon-HIV PCPを想起する」という点につきます。最初に注目すべきは「患者の背景因子」です。先述のとおり、non-HIV PCPも背景にあるのは免疫不全です。したがって、免疫を低下させるステロイドや免疫抑制薬、ある種の抗がん剤など、特定の薬剤(表1)を用いている場合、「高リスク」と認識します。また、non-HIV PCP発症率の高い疾患も明らかになっています。フランスにおける1990年~2010年までのnon-HIV PCP患者データの解析からは、小・中血管炎、血液がん、固形臓器移植(とくに腎移植)、関節リウマチ例における高い発症率が報告されています[Fillatre P, et al. Am J Med. 2014;127:1242.e11-7.]。これらの背景因子からまず、non-HIV PCP高リスクを否定できるか考えます。表1.ニューモシスチス肺炎の発症と関連が示唆されている薬剤「傍証」を集め、総合的に判断背景因子からnon-HIV PCPを除外できなければ、迅速に検査を始めます。「血清β-d-グルカン濃度」は、non-HIV PCPを疑う良い指標となります。高値を示す場合、その理由が説明できないならば、non-HIV PCPを疑います。ただし、除外診断には必ずしも有用とは言えません。発症からしばらく経過しないと、低値が維持されるケースがあるためです。そのうえで、疑いがあれば、気管支肺胞洗浄液(BAL)や誘発喀痰を用いて、Diff-Quik染色、ギムザ染色(栄養体の検出)、あるいはグロコット染色(嚢子の検出)をします。PCR法は定着菌を判断している可能性が否定できないため、血清検査や画像など傍証を集めて総合的に判断する必要があります。また染色やPCR法では「偽陰性」の可能性もかなりありますので、陰性であっても、それだけではnon-HIV PCPを除外できません。問題は、施設内でグロコット染色ができない場合です。外注の場合、結果を待っている間に、non-HIV PCPならば症状は著明に増悪します。そのような場合、先述の「高リスク例」であればnon-HIV PCPであるという前提で治療を開始するのも(見切り発車)、予後を考えれば選択肢の1つとなるかもしれません。