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第17回 禁煙をし続けるために本当に必要なこと(1)Key Points禁煙とは、新型タバコも含めてタバコをすべて止め続けること依存症から脱出するために必要なスキルは、「知る」ということタバコ産業は意図的にタバコの依存性を高めてきた「タバコ会社による搾取がいかにひどいか」を「知る」ことで、より簡単に「タバコを止め続ける」ことができるようになるまずは、新型タバコ時代の禁煙の定義とは何か、明確にしておきたいと思います。作家マーク・トウェインが「禁煙は簡単だ。私はこれまで何千回も禁煙した」と語った、というのは有名な笑い話ですが、ここで語られたマーク・トウェインの禁煙は、私の考える禁煙ではありません。「禁煙とは、新型タバコも含めてタバコをすべて止め続けること」だと考えています。タバコを一本でも吸ってしまうとニコチン依存症の脳内回路が回りだし、容易に喫煙を再開してしまうため、「禁煙し続けてもらう」のは大変なことです。新型タバコ時代になり、禁煙の定義すら難しくさせられてしまっています。「禁煙できました!アイコスにしました」という患者の声を多く聞くようになりました。残念ながら、これも禁煙とは言えません。禁煙し続けてもらうために、禁煙とは何かも含めて、医療者からうまく情報提供しつつ、禁煙支援・禁煙指導を継続的に繰り返し実施していく必要があります。禁煙し続けてもらうために必要なスキルとは何か。人に言われていったん止めることができたとしても、長く止め続けることは難しいものです。禁煙は続けてもらわなければ、禁煙とは言えません。ニコチン依存だけでなく、アルコール依存や違法薬物依存等さまざまな依存症から脱出するために必要なスキルは、「知る」ということです。自分から知ろうとするということが、回り道のようで、止め続けるための近道となります。図1は、現在までの50年間に、タバコ会社がどのようにタバコを変えてきたのか、代表的な9つの手法を示したものです。長年にわたるタバコ問題研究者の取り組みや、タバコ病訴訟などで公開されたタバコ会社の内部文書*1等の分析から、明らかにされた驚くべき事実です。*1:Truth Tobacco Industry Documentsのウェブサイトでは1400万件におよぶタバコ会社の内部文書が公開されている。また、British American Tobacco Documents Archiveのウェブサイトでは600万ページ分のブリティッシュ・アメリカン・タバコ社の内部文書が公開されている。画像を拡大するタバコ産業は、意図的にタバコへの依存性を高めてきたということが分かっています。タバコに含まれるニコチン自体を増やしてニコチン依存症になりやすくしたことに加えて、さらにアンモニアなどの添加物によりニコチンが脳に届けられやすくなるようにしました。メンソールや香料を加えることで、煙でむせないように、のどがイガイガしにくいように、そしてより女性や子ども、今までタバコを吸ったことがない人が吸いやすくなるようにしてきました。フィルターの横に穴をあけて空気を取り込めるようにすることで煙をより深く吸い込みやすいように、ニコチンが直接届くようにもしてきました。50年前のタバコと比べて、現在のタバコは、吸いはじめた人をより早くニコチン依存症にすることができ、女性や子どもからも受けがよくなったというわけです。日本ですでにブレークしてしまった加熱式タバコは、タバコを改造してきたタバコ会社が製造・販売しているタバコ商品です。実は、加熱式タバコは、タバコがずっと改変されてきたという歴史のなかの1ページに相当します。タバコ会社はもうずっと前から、タバコの害が明らかになってからも、意図的に積極的な広告宣伝、販売促進活動そしてロビー活動を行ってきました。そのため、タバコのことを悪く言いにくい空気が作られてきたのです。タバコ会社が意図的に何十年もかけて、情報操作してきた影響が積み重なって、人々のタバコ問題に対する認識が形作られています。タバコ会社は、タバコを吸うのは文化であって、タバコを吸う権利がある、他人にとやかく言われるようなことでない、と人々が思うように仕向けてきたのです。従来から、タバコ産業は知識人や専門家を広告塔として活用してきました。図2は1931年に米国で使われたタバコ広告ですが、医師がタバコを勧めています。現在の日本でも、いまだに医師などの専門職が広告や宣伝、販売促進活動に活用されています。現在では、タバコの害がはっきりと実証されているわけですから、タバコを勧めるような態度をとる医師や知識人の罪は非常に重いといえるでしょう。画像を拡大するタバコ産業はずっと社会的に不利な状況の若者をターゲットにしてきました。タバコ産業の内部文書の分析から、先進国において、社会経済的に恵まれない状況の若者を主要なターゲットとしていることが分かっているのです。先進国だけでなく発展途上国も含むすべての国において、タバコ産業によるタバコ広告は、喫煙を女性の解放のシンボルとして印象付けることによって、とくに低学歴で社会経済的に不利な若い女性を喫煙させるように仕向けてきました*2。*2:David A, Esson K, Perucic A, Fitzpatrick C. Tobacco use: equity and social determinants. In Blas E, Kurup A (eds): Equity, social determinants and public health programmes. Geneva, Switzerland: World Health Organization 2010; 199-217.学歴というのは、人の社会経済状況を表すとされる代表的な要因です。もちろん例外もありますが、一般に学歴と所得などさまざまな社会的要因は相関しています。学歴別に喫煙率をみると、図3のように中卒や高卒の者における喫煙率が高く、大卒や大学院卒の者における喫煙率が低くなっていると分かります。この関連は、世界中の先進国で観察されています。人は誰でもまわりにいる人から影響を受けます。学校や職場の仲間がタバコを吸っていたら、タバコを吸いやすくなってしまうのです。タバコ会社は意図的に喫煙者の多い組織や集団をターゲットにして囲い込もうとしてきました。画像を拡大するいかにタバコを魅力的にみせて、若者や女性、まだ吸ってない人に吸わせるか? どうやって喫煙者をより強固なニコチン依存にして、やめられないようにするか? どうすればタバコの害が軽視されるようになるか? タバコ産業はずっと注力してきたのです。また、意図的に愛煙家というような言葉を使って、タバコを吸う人と吸わない人を分断して対立させるようにも仕向けてきた経緯があります。それにのってはいけないのです。タバコ会社がこれまでやってきたこと、すなわち「タバコ会社による搾取がいかにひどいか」を「知る」ことで、より簡単に「タバコを止め続ける」ことができるようになると考えます。第18回は、「禁煙をし続けるために本当に必要なこと(2)」です。