inclisiran、家族性高コレステロール血症でLDL-Cを50%低下/NEJM

提供元:ケアネット

印刷ボタン

公開日:2020/03/30

 

 家族性高コレステロール血症(FH)ヘテロ接合体の成人患者の治療において、低分子干渉RNA製剤inclisiranの非頻回投与レジメンはプラセボに比べ、LDLコレステロール(LDL-C)値をほぼ半減させ、安全性プロファイルは許容範囲内であることが、南アフリカ共和国・ウィットウォーターズランド大学のFrederick J. Raal氏らによる「ORION-9試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2020年3月18日号に掲載された。FHは、LDL-C値の上昇と、早発性のアテローム動脈硬化性心血管疾患のリスク増大を特徴とする。前駆蛋白転換酵素サブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)を標的とするモノクローナル抗体は、LDL-C値を50%以上低下させるが、2~4週ごとの投与を要する。一方、inclisiranは年2回の投与により、FHヘテロ接合体成人患者においてPCSK9の肝臓での合成を阻害すると報告されている。

非頻回投与の有用性を評価する無作為化試験

 本研究は、FHヘテロ接合体患者の治療におけるinclisiranの非頻回投与レジメンの有用性を評価する二重盲検プラセボ対照無作為化第III相試験であり、2017年12月~2019年9月の期間に実施された(Medicines Companyの助成による)。

 対象は、遺伝学的確認またはSimon Broome基準でFHと診断され、エゼチミブ併用の有無にかかわらず、最大許容量のスタチンを投与してもLDL-C値が100mg/dL(2.6mmol/L)以上の患者であった。被験者は、inclisiran(300mg)またはプラセボを、第1、90、270、450日に皮下注射する群に無作為に割り付けられた。

 主要エンドポイントは、ベースラインから510日までのLDL-C値の変化率と、ベースラインから90日および540日までのLDL-C値の時間で補正した変化率の2つであった。

LDL-C値が39.7%低下、プラセボとの差は-47.9ポイント

 482例が登録され、inclisiran群に242例、プラセボ群には240例が割り付けられた。ベースラインの全体の平均年齢は56歳、47%が男性で、94%が白人であった。冠動脈疾患の既往は25%、糖尿病の既往は10%に認められた。

 ベースラインで90%がスタチンの投与を受けており(全体の75%が高強度スタチン)、50%強がエゼチミブを併用していた。平均LDL-C値は153.1±54.0mg/dLだった。inclisiran群の91.7%、プラセボ群の96.3%が540日間の試験を完遂した。

 ベースラインから510日までのLDL-C値の変化率は、inclisiran群が39.7%(95%信頼区間[CI]:-43.7~-35.7)低下したのに対し、プラセボ群は8.2%(4.3~12.2)増加し、群間差は-47.9ポイント(-53.5~-42.3、p<0.001)であった。また、90日と540日のLDL-C値の時間平均変化率は、inclisiran群が38.1%(95%CI:-41.1~-35.1)低下したのに対し、プラセボ群は6.2%(3.3~9.2)増加し、群間差は-44.3ポイント(-48.5~-40.1、p<0.001)だった。

 ベースラインから510日までのLDL-C値の平均絶対変化量は、inclisiran群が59.0mg/dL(95%CI:-64.8~-53.2)低下したのに対し、プラセボ群は9.9mg/dL(4.1~15.8)増加し、群間差は-68.9mg/dL(-77.1~-60.7、p<0.001)だった。

 一方、ベースラインから510日までのPCSK9値の変化率は、inclisiran群が60.7%(95%CI:-64.4~-57.0)低下、プラセボ群は17.7%(13.9~21.4)増加し、群間差は-78.4ポイント(-83.7~-73.0、p<0.001)であった。また、510日までのPCSK9値の平均絶対変化量は、inclisiran群が282.6μg/L(-297.9~-267.2)低下、プラセボ群は54.5μg/L(39.1~70.0)増加し、群間差は-337.1μg/L(-358.9~-315.3、p<0.001)だった。

 有害事象は、inclisiran群が76.8%、プラセボ群は71.7%で報告され、そのうち94.6%および91.9%は軽症~中等症であった。重篤な有害事象の頻度は、inclisiran群で低かった(7.5% vs.13.8%)。両群で1例ずつが死亡したが、いずれも試験介入との関連はないと判定された。inclisiran群で頻度の高い有害事象は、鼻咽頭炎(11.6%)、注射部位反応(9.1%)、背部痛(7.1%)、上気道感染症(6.6%)、インフルエンザ感染症(5.4%)であった。

 著者は、「inclisiranの大部分は、主なPCSK9産生臓器である肝臓で働くため、FH患者におけるLDL-C低下効果は抗PCSK9モノクローナル抗体製剤とほぼ同等である。最大許容量スタチン治療を受けた患者のLDL-C値を、年2回投与でほぼ半減することから、アドヒアランスを改善する可能性がある」としている。

(医学ライター 菅野 守)