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週1回投与のinsulin efsitoraはインスリン頻回注射療法中の2型糖尿病患者においても有効である(解説:住谷哲氏)

 BantingとBestによってインスリンが発見されたのは1921年である。翌1922年にイーライリリー社がブタ膵臓の抽出物からインスリンの製剤化に成功し、その翌年には大量生産にも成功して「アイレチン(Iletin)」として販売を開始した。販売当初は力価も安定せず不純物も多かったが、その後の種々の改良により現在のレギュラーインスリンが市場に登場した。その後の100年間はレギュラーインスリン改良の歴史であるが、1つの方向はブタインスリンからヒトインスリンへの変換であり、いまひとつはその作用時間の延長であった。 レギュラーインスリンの作用時間は約6時間と短く、インスリン分泌の枯渇している1型糖尿病患者では1日数回の注射が必要になる。その後の改良により中間型インスリン、持効型インスリンと作用時間が延長し、現在は週1回投与可能なインスリンアナログであるアウィクリ(一般名:インスリン イコデク)が使用可能である。ノボ ノルディスク社のアウィクリに対して、イーライリリー社が開発しているのが本試験で用いられたinsulin efsitora alfa(以下efsitora)である。 QWINT試験はefsitoraの臨床開発プログラムであり、QWINT-1~5の5試験が実施され結果はすべて論文化されている1-4)。ちなみにQWINTはQW(quaque week, once-weekly)insulin therapyの略である。本試験QWINT-4はインスリン頻回注射療法を受けている2型糖尿病患者を対象としている。基礎インスリンをグラルギンU-100とefsitoraとに無作為化し、食事インスリン(prandial insulin)は両群ともリスプロを用いた。主要評価項目は26週後のHbA1c変化量であり、efsitoraのグラルギンU-100に対する非劣性を検証した。結果はefsitoraのグラルギンU-100に対する非劣性が証明された。 筆者も週1回投与のインスリンアナログであるアウィクリを使用しているが、現時点ではインスリンを毎日投与することが不可能な患者に限定されている。やはりシックデイへの対応が困難である点がその理由の1つである。しかし日常臨床では毎日の注射は不可能であり、週1回投与のGLP-1受容体作動薬投与でもコントロールが不良でインスリン投与が必要な患者、フレイルがありGLP-1受容体作動薬ではなくインスリン投与が適切な患者が一定数存在している。これらの患者に対する週1回投与のインスリンアナログの有用性を評価する試験が実施されることが望まれる。

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第274回 ケネディ氏のワクチン開発支援打ち切りを深読み

INDEX米国、mRNAワクチン開発を縮小へ契約終了と継続、わかっていること保健福祉省長官の意図悪魔はどっち?米国、mRNAワクチン開発を縮小へ当の本人は大真面目なのだろうが、傍から見ると、もはやガード下の居酒屋にいる酔っ払いオヤジが政治を語っているようだ。何のことかと言えば、米国・保健福祉省(HHS)が8月5日、傘下の生物医学先端研究開発局(BARDA)が行っているmRNAワクチンの研究開発支援を段階的に縮小すると発表した件である。ご存じのように現在のHHS長官はあのロバート・F・ケネディ・ジュニア氏である(第264回参照)。今回、影響を受けるのはBARDAで行われていた総額約5億ドル(約700億円)におよぶ22件のmRNAワクチン開発プロジェクトである。このプロジェクトすべてとその支援金額の詳細は明らかになっていないが、現時点で判明しているのは以下のような感じである。契約終了と継続、わかっていることまず契約が終了したのが、エモリー大学が行っていた吸入できるパウダータイプのmRNAワクチン研究、Tiba Biotech社(本社:マサチューセッツ州ケンブリッジ)が行っていた支援額約75万ドル(約1億2,000万円)のインフルエンザに対するRNA医薬の研究。また、BARDAへの提案そのものが却下されたのが、ファイザー社によるmRNAワクチン開発(詳細不明)、サノフィ・パスツール社によるmRNAインフルエンザワクチン開発、グリットストーン・バイオ社(本社:カリフォルニア州エメリービル)に対する支援額最大4億3,300万ドル(約637億6,300万円)の新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)に対する汎変異株対応の自己増幅型mRNAワクチン開発などである。一方でモデルナ社とテキサス大学医学部が国防総省と協力するフィロウイルス感染症(エボラ出血熱やマールブルグ病)へのmRNAワクチン開発、アークトゥルス・セラピューティクス社(本社:カリフォルニア州サンディエゴ)との支援総額最大6,320万ドル(約9億円)のH5N1鳥インフルエンザ自己増幅型mRNAワクチン開発の一部などは維持されるという。わかっている範囲だけでも、かなり広範な新規mRNAワクチンと既存ワクチンの新規モダリティに影響が及ぶことになるようだ。保健福祉省長官の意図この決定に関するHHSのプレスリリース1)には、「私たちは専門家の意見に耳を傾け、科学を検証し、行動を起こした。BARDAは、これらのワクチンがCOVID-19やインフルエンザなどの上気道感染症を効果的に予防できないことを示すデータに基づき、22件のmRNAワクチン開発への投資を停止する。私たちは、この資金をウイルスが変異しても効果を維持できる、より安全で幅広いワクチンプラットフォームへとシフトさせている」とするケネディ氏のコメントも含まれている。前述のように今回影響を受けるプロジェクトには、ケネディ氏が言うところの「ウイルスが変異しても効果を維持できる」ワクチン開発も含まれているのだが、どうやら本人のmRNAワクチン嫌悪が先に立っている模様だ。そもそも本人のコメントにある「上気道感染症を効果的に予防できないことを示すデータ」とは何を意味するのかは明記されていない始末である。この辺について、より深読みすると、いわゆるワクチンの三大効果と呼ばれる「感染予防」「発症予防」「重症化予防」のうち、ワクチンに懐疑的な人たちがよく示す「感染予防そのものが効果的に得られていないではないか」という主張なのかもしれない。確かに以前の本連載でも取り上げたが、内閣官房の新型インフルエンザ等対策推進会議 新型コロナウイルス感染症対策分科会会長だった尾身 茂氏(現・公益財団法人結核予防会 理事長)がテレビ出演時に言及したように、オミクロン株以降、mRNAワクチンの感染予防としての効果は高くないのが現実である。しかし、最も重大な事象である入院・死亡といった重症化予防効果に関して確たるものがあるのは、もはや異論はないだろう。もし感染予防効果うんぬんだけで測るならば、現在使われているインフルエンザの不活性化ワクチンも同様に無用なものとなってしまうが、そうした認識を持つ医療者はかなり少数派であるはずだ。また、mRNAワクチンは新規ウイルスに対する迅速なワクチン開発という点では、かつてない威力を発揮したことも私たちは実感している。今回のコロナ禍を従来型の不活性化ワクチン開発で乗り切ろうとしていたならば、今のような平常生活に戻るまでに要した時間は相当長いものになっていた可能性が高い。もはやmRNAワクチンについては、これがあることを前提に(1)これまでワクチン開発が難しかった病原体での新規開発、(2)抗体価持続期間の延長、(3)副反応の軽減、という方向性に進むフェーズに来ていると考えたほうがよい。その意味では今回影響を受けたワクチン研究開発プログラムを見ると、(2)については日本発の新型コロナワクチンとなったコスタイベで使われた自己増幅技術が次世代ワクチンとして注目を集めていることもうかがえる。悪魔はどっち?いずれにせよ、ケネディ氏の打ち出した方針はかなりの頓珍漢ぶりである。ちなみに同氏の最近のX(旧Twitter)の投稿を見ると、FDAの中庭のベンチに刻まれたセンテンスという投稿がある。そのセンテンスとは「The devil has got hold of the food supply of this country(悪魔がこの国の食糧供給を掌握している)」というもの。しかし、Xに搭載されている生成AIのGrokが「この写真は改変されている可能性が高い」と指摘している。要はそんなセンテンスなどベンチに刻まれていないということだ。いやはやとんだ人がHHS長官になったものである。「悪魔」はあなたではないのか、と問いたい。 参考 1) U.S. Department of Health and Human Services:HHS Winds Down mRNA Vaccine Development Under BARDA

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チゲサイクリン、5つの重要事項【1分間で学べる感染症】第31回

画像を拡大するTake home messageチゲサイクリンは広い抗菌スペクトラムを有する一方で、使用に際しての注意点が多い抗菌薬であることを理解しよう。皆さんは、チゲサイクリンという抗菌薬を知っていますか? チゲサイクリンは日本では2012年に発売が開始されていますが、まだ使用実績は低い薬剤です。多剤耐性菌に対する治療選択肢の1つとして注目されており、特定の状況下での「最後の切り札」的な役割を有する抗菌薬の1つです。適応や使用上の注意点が多いため、正しい理解と慎重な使用が求められます。今回は、使用時に必ず押さえておきたい5つの重要事項について解説します。1.カバー範囲が広いチゲサイクリンは、テトラサイクリン系抗菌薬の構造を改変して開発されたグリシルサイクリン系抗菌薬であり、多剤耐性菌への活性を持つ静注薬です。チゲサイクリンは、グラム陽性菌(MRSA、VREなど)に加えて、グラム陰性菌(ESBL産生腸内細菌、カルバペネム耐性腸内細菌、カルバペネム耐性Acinetobacter属、Stenotrophomonas属など)や嫌気性菌にまで活性を示します。このように広範なカバー範囲を持つことが特徴です。2.消化器症状の頻度が高いチゲサイクリンの主な副作用として嘔気・嘔吐が挙げられ、これらは投与患者の20~30%にみられるとされています。これによってほかの薬剤の内服が困難となる場合や、チゲサイクリンの投与継続自体が難しくなる可能性もあるため、患者への事前の説明が必須です。3.菌血症には推奨されない分布容積が大きく、組織移行性に優れる反面、血中濃度が低いため、菌血症の治療には適していません。したがって、菌血症を伴わない腹腔内感染、肺炎、皮膚軟部組織感染症などへの適応が中心となります。4.3つの代表的な起因菌に推奨されないチゲサイクリンは、Pseudomonas aeruginosa、Proteus属、Providencia属といった一部のグラム陰性菌に対しては効果が乏しいとされています。これらの菌が起因菌として想定される場合は、ほかの抗菌薬を選択する必要があります。5.ほかの抗菌薬との併用を考慮チゲサイクリンは単剤での治療において失敗例が多く報告されていることから、ほかの抗菌薬との併用が望ましいとされています。起因菌や感受性を基に、ほかの選択肢がないかどうかを必ず確認するようにします。チゲサイクリンは感染症コンサルトが必須とされる薬剤の1つです。適切な使用のために最低限の知識を押さえておくことが重要です。1)Prasad P, et al. Clin Infect Dis. 2012;54:1699-1709.2)Tamma PD, et al. Clin Infect Dis. 2021;72:e169-e183.3)Cai Y, et al. Infect Dis (Lond). 2016;48:491-502.4)Hawkey PM. J Antimicrob Chemother. 2008;62 Suppl:i1-9.

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副作用編:発熱(抗がん剤治療中の発熱対応)【かかりつけ医のためのがん患者フォローアップ】第3回

今回は化学療法中の「発熱」についてです。抗がん剤治療において発熱は切っても切り離せない合併症の1つです。原因や重症度の判断が難しいため、抗がん剤治療中の患者さんが高熱を主訴に紹介元であるかかりつけ医に来院した場合は、多くが治療施設への相談になると思います。今回は、かかりつけ医を受診した際に有用な発熱の鑑別ポイントや、患者さんへの対応にフォーカスしてお話しします。【症例1】72歳、女性主訴発熱病歴局所進行大腸がん(StageIII)に対する術後補助化学療法を実施中。昨日から38.5度の発熱があったため、手持ちの抗菌薬(LVFX)の内服を開始した。解熱傾向であるが、念のためかかりつけ医(クリニック)を受診。診察所見発熱なし、呼吸器症状、腹部症状なし。食事摂取割合は8割程度。内服抗がん剤カペシタビン 3,000mg/日(Day11)【症例2】56歳、男性主訴発熱、空咳病歴進行胃がんに対して緩和的化学療法を実施中。3日前から38.2度の発熱と空咳が発現。手持ちの抗菌薬(LVFX)内服を開始したが、改善しないためかかりつけ医(クリニック)を受診。診察所見体温38.0度、SpO2:93%、乾性咳嗽あり、労作時呼吸苦軽度あり。腹部圧痛なし。食事摂取は問題なし。抗がん剤10日前に免疫チェックポイント阻害薬を含む治療を実施。ステップ1 鑑別と重症度評価は?抗がん剤治療中の発熱の原因は多岐にわたります。抗がん剤治療中であれば、まず頭に浮かぶのは「発熱性好中球減少症(FN:febrile neutropenia)かも?」だと思いますが、他の要因も含めて押さえておきたいポイントを挙げます。(1)発熱の原因が本当に抗がん剤かどうか確認服用中または直近に投与された抗がん剤の種類と投与日を確認。他の原因(主に感染:インフルエンザや新型コロナウイルス感染症、尿路感染症など)との鑑別。発熱以外の症状やバイタルの変動を確認。画像を拡大するFNは、末梢血の好中球数が500/µL未満、もしくは48時間以内に500/µL未満になると予想される状態で、腋窩温37.5度(口腔内温38度)の発熱を生じた場合と定義されています。FNは基本的には入院での対応が必要ですが、外来治療を考慮する場合には、下記のようなリスク評価が重要です。1)MASCC( Multinational Association for Supportive Care in Cancer)スコアMASCCスコアは、FN患者の重症化リスクを予測するための国際的に認知されたスコアリングシステムであり、低リスク群(21点以上)は外来加療が可能と判断されることがあります。画像を拡大する※該当する項目でスコアを加算し、スコアが高いほど低リスク。21点以上で低リスクとなる。2)CISNE(Clinical Index of Stable Febrile Neutropenia)スコア臨床的に安定している固形腫瘍患者では、CISNEスコアによる評価も推奨されています。画像を拡大する※低リスク群(0点)、中間リスク群(1~2点)、高リスク群(3点以上)。高リスクでは入院治療を考慮する。低リスク群:合併症1.1%、死亡率0%、中間リスク群:合併症6.2%、死亡率0%、高リスク群:合併症36%、死亡率3.1%。ステップ2 対応は?では、冒頭の患者さんの対応を考えてみましょう。【症例1】の場合、すでに抗菌薬を内服開始しており、解熱傾向でした。Vitalも安定しており、胸部X線写真でも異常陰影を認めませんでした。念のためインフルエンザおよび新型コロナウイルス感染症抗原検査を実施しましたが陰性でした。このケースでは抗菌薬の内服継続と解熱薬(アセトアミノフェン)処方、および抗がん剤の内服中止と治療機関への連絡(抗がん剤の再開時期や副作用報告)、経口補水液の摂取を説明して帰宅としました。【症例2】の場合、免疫チェックポイント阻害薬が投与されていて、SpO2:93%と低下しています。インフルエンザおよび新型コロナウイルス感染症抗原検査は陰性。胸部X線検査を実施したところ、両肺野に間質影を認めました。ただちに治療機関への連絡を行い、irAE肺炎の診断で即日入院加療となりました。画像を拡大する抗がん剤治療中の発熱対応フロー抗がん剤治療中の発熱は原因が多岐にわたるため、抗がん剤治療中に発熱で受診した場合は治療機関への受診を促してください。上記のケースはいずれも「低リスク」へ分類されますが、即入院が必要なケースが混在しています。詳細な検査や診察を行った上でのリスク評価が重要です。内服抗がん剤を中止してよいか?診察時に患者さんより「発熱しても抗がん剤を継続したほうがよいか?」と相談を受けた場合、基本的に内服を中止しても問題ありません。当院でも、「38度以上の発熱が発現した場合は、その日はお休みして大丈夫です」と説明しています。抗がん剤の再開については受診翌日に治療機関へ問い合わせるよう、患者さんへ説明いただけますと助かります。<irAEと感染>免疫チェックポイント阻害薬の普及した現代では、irAEはもはや日常的な有害事象となってしまいました。重篤なirAEに対して高用量のステロイド治療を導入することは年間で複数回経験します。その中で、最も注意が必要なのは、ステロイド治療中の感染症は発熱が「マスク」されるということです。採血検査ではCRPもあまり上昇しません。日々の身体診察がいかに重要であるかを痛感します。先日もirAE腎炎を発症した胆道がんの患者さんに対して、入院で高用量のステロイドを導入しました。順調に腎機能も改善し、ステロイド漸減に伴い外来へ切り替えてフォローしていましたが、ある日軽い腹痛で来院されました。発熱もなく、採血検査では炎症反応もさほど上昇していません。しかし、「何かおかしいな…」と思い、しつこく身体診察をすると右季肋部痛をわずかに認めました。胆管ステントを留置していたこともあり、念のためCT検査を実施してみると、以前存在した胆管内ガス(pneumobilia)の消失を認め、胆管ステント閉塞が疑われました。黄疸は来していないものの、ステント交換を依頼してドレナージをしてもらうと胆汁とともに膿汁が排液されました。初歩的なことですが、ステロイドカバー中は発熱もマスクされ、採血検査もアテにならないことが多いです。やっぱり基本は身体診察ですね。1)日本臨床腫瘍学会編. 発熱性好中球減少症(FN)診療ガイドライン(改訂第3版). 南江堂;2024.2)Klastersky J, et al. J Clin Oncol. 2000;18:3038-3051. 3)Carmona-Bayonas A, et al. J Clin Oncol. 2015;33:465-471.

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小児白血病の最新診療

小児科領域新シリーズ誕生!裏付けされたKnowledge&Skillで日常の小児科診療に自信を持つ「小児診療 Knowledge & Skill」第1巻特色は小児科診療に不可欠な8テーマから構成。各分野のエキスパートが培った臨床眼により小児科診療の本質を展開。エビデンスとエクスペリエンスを融合させた「知(knowledge)」と「技(skill)」により、最適な方針を提供。箇条書きでテーマの要点をまとめ、脚注やコラムで専門用語の解説、二次元コードにより関連サイトへリンク、キーポイントの詳細情報、逸話などを収載。冒頭のQuick Indexで、特異的な切り口でテーマの概略を紹介。となっている。第1巻で取り上げた小児白血病はコモンな疾患ではない。白血病を疑ったときは速やかに専門医に紹介しなければならない。それでも知れば身近な疾患になる。重篤な疾患に特定の遺伝子が胎生期から関わっていることは、ポストゲノム時代を迎えたいま、揺るぎない事実として眼前にあり、小児科学ほど分子生物学に親和性が高い領域はない。小児白血病を通して拓かれたmolecular pathobiologyの扉が小児診療の本質を提供してくれる。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する小児白血病の最新診療定価9,350円(税込)判型B5判(並製)頁数216頁発行2025年7月総編集加藤 元博(東京大学)専門編集富澤 大輔(国立成育医療研究センター)ご購入(電子版)はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら

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「風邪のときのスープ」に効果はある?

 風邪症候群や咽頭炎、インフルエンザ様疾患などの急性気道感染症の症状を和らげるために、温かいスープを飲むと良いとされることがある。この伝統的な食事療法の有効性を検討することを目的に、英国・University of the West of ScotlandのSandra Lucas氏らが、システマティックレビューを実施した。その結果、スープの摂取は、急性気道感染症の症状緩和や炎症抑制をもたらす可能性が示唆された。本研究結果は、Nutrients誌2025年7月7日号で報告された。 本研究では、急性気道感染症に対するスープの効果を評価した研究を対象として、システマティックレビューを実施した。2024年2月までに公表された論文を対象に、MEDLINE、Embase、Scopus、CINAHL、CENTRAL、Cochrane Database of Systematic Reviewsなどを用いて文献を検索した。適格基準を満たした4件の無作為化比較試験(対象342例)を抽出し、メタ解析は行わずナラティブ統合を行った。解析対象となった研究で用いられたスープは、鶏肉ベースのスープに野菜やハーブを追加したものが主なものであった。評価項目は、症状重症度、罹病期間、炎症マーカーなどとした。 主な結果は以下のとおり。・3試験において、スープ摂取群は鼻閉、咽頭痛、咳といった急性気道感染症の症状がわずかながら軽減した。・1試験において、スープ摂取群は罹病期間が1~2.5日短縮した。・2試験において、スープ摂取群でC反応性タンパク(CRP)、IL-6、TNF-αといった炎症マーカーが低下する傾向がみられた。・小児を対象とした1試験において、免疫グロブリン(IgA、IgG、IgM)値の上昇など、免疫機能の改善を示唆する結果が得られた。 著者らは、「スープは水分補給、栄養補給、抗炎症作用の相乗効果により、急性気道感染症の症状軽減、全体的な健康の維持に寄与する可能性がある。ただし、研究間の異質性や標準化されたプロトコールの欠如などの限界が存在するため、より厳密かつ多様な研究による検証が求められる」とまとめた。

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妄想性障害や急性精神病などの精神疾患と統合失調症や双極症との遺伝的関連性

 妄想性障害、急性精神病、特定不能精神病、統合失調感情障害の4つのまれな精神疾患における病因的な相互関係は、いまだに解明されていない。米国・バージニア・コモンウェルス大学のKenneth S. Kendler氏らは、妄想性障害、急性精神病、特定不能精神病、統合失調感情障害患者における統合失調症、双極症、うつ病の家族遺伝子リスクスコア(FGRS)レベルを評価し、これらの遺伝的関係を明らかにするためコホート研究を実施した。JAMA Psychiatry誌オンライン版2025年7月9日号の報告。 1950〜2000年にスウェーデン生まれの両親のもとスウェーデンで生まれた人を対象に、2018年までフォローアップを行った。国家レジストリーの診断コードに基づき診断した。統合失調症、双極症、うつ病患者の統合失調感情障害は、同居を考慮したうえ、第1〜5近親者より算出した。主要アウトカムは、妄想性障害、急性精神病、特定不能精神病、統合失調感情障害の診断とした。 主な結果は以下のとおり。・各疾患の患者数は次のとおりであった。【うつ病】66万7,012例(女性:42万142例[63%]、男性:24万6,870例[37%])【双極症】5万8,385例(女性:3万6,344例[62%]、男性:2万2,041例[38%])【統合失調症】1万7,465例(女性:6,330例[36%]、男性:1万1,135例[64%])【統合失調感情障害】7,597例(女性:4,125例[54%]、男性:3,472例[46%])【急性精神病】1万6,315例(女性:7,907例[49%]、男性:8,408例[51%])【特定不能精神病】2万7,127例(女性:1万2,277例[45%]、男性:1万4,850例[55%])【妄想性障害】1万1,560例(女性:5,060例[44%]、男性:6,500例[56%])・統合失調症、双極症、うつ病のFGRSの遺伝子マップでは、妄想性障害は単独で存在し、統合失調症の遺伝子リスクは統合失調症患者の約半数であり、双極症、うつ病リスクと同程度であった。・統合失調感情障害は、統合失調症と双極症の両方で非常に高い遺伝子リスクを有する唯一の疾患として特徴付けられ、精神病性双極症とは明確な差が認められた。・急性精神病と特定不能精神病は、類似した遺伝子プロファイルを有しており、統合失調症FGRSレベルは妄想性障害と同程度であったが、双極症、うつ病の遺伝子リスクはより高かった。・各疾患をアウトカム別に細分化すると、妄想性障害の遺伝子プロファイルは最小限の影響であり、急性精神病と特定不能精神病では中程度、統合失調感情障害では大きな影響が認められた。良好な社会的アウトカムは、統合失調症FGRSの低下および双極症FGRSの増加と関連が認められた。 著者らは「遺伝的観点から、妄想性障害、急性精神病、特定不能精神病、統合失調感情障害は、統合失調症、双極症、うつ病のサブタイプとは考えられない。これら4つのまれな精神疾患に関するさらなる遺伝学的研究は、遺伝的リスクや精神疾患の臨床症状および経過との関連に多くの知見を提供することにつながるであろう」とまとめている。

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8月10日「ハートの日」には循環器病の予防に支援を/日本心臓財団ほか

 日本心臓財団、日本循環器協会、日本循環器学会、日本AED財団の諸団体は共催で、8月10日の「健康ハートの日」を前に、都内で循環器病に関するシンポジウムを開催した。日本心臓財団が、循環器病予防と健康を呼びかける「健康ハートの日」の活動を開始し40周年の節目を迎え、「循環器病予防の40年:過去・現在・未来」をテーマに、循環器病予防活動を振り返り、将来の20年に向けた新たな展望を議論した。 シンポジウムでは、名誉総裁の高円宮妃殿下が登壇、40年の取り組みをねぎらうとともに「本日のシンポジウムの内容が今後各地域で十分に活用され、循環器病予防の取り組みがされることを心より願う」と祝辞を寄せた。 第1部では循環器病予防の過去と現在、大阪万博の自動体外式除細動器(AED)と緊急体制などが講演され、第2部のパネルディスカッションでは「次の20年の循環器予防」をテーマに活発な意見交換が行われた。AEDの活用、AIの活用と進化する循環器病予防の今 「健康ハートの日 40年の歩み」をテーマに和泉 徹氏(日本心臓財団 評議員)が、「健康ハートの日」の制定からこれまでの活動を振り返った。 健康ハートの日は、心臓病に対応するために国民の予防意識を向上させることを目的に1985年に制定された。 2003年からはAEDの啓発を開始し、特定健診も行われるようになった。また、この日を前後に全国で循環器専門医による健康相談をターミナル駅などで実施し、予防の啓発に努めている。わが国の心臓病患者の多くが傘寿者(80歳)であることから早期介入できるように循環器病対策推進基本計画の策定などの整備を目指していると説明した。 次に「循環器予防対策の半世紀」をテーマに岡村 智教氏(日本循環器病予防学会 理事長)が、生活習慣病への疾病変遷と特定健診制度の成立と現在の運営などを講演した。 過去に成人病と称していた疾病名を、1次予防として早期介入ができることを目的に生活習慣病に変更されたこと、老人保健法が制定され、全国民の健康診断制度が担保されて個別の健康教育や特定健診が始まったことを説明した。 健康増進法で定められた方針が「健康日本21」で定められ、健康寿命の延伸や健康格差の縮小を目的にさまざまな取り組みが行われている。とくに循環器病分野では、高血圧の改善に減塩への取り組みや全国のコホート研究によるアウトカムの把握などにより、危険因子対策と地域の健康格差解消の取り組みが行われていると説明した。 次に「大阪万博のAEDと緊急体制」をテーマに、石見 拓氏(日本AED財団 専務理事)が、イベントなどでのAEDの設置・使用状況などについて講演した。 わが国には約67万台のAEDが設置され、20年間で8,000人が救命されたという。イベントでのAEDの活用は、2005年に開催された「愛・地球博」からであり、約100台のAEDが設置され、5例の心停止事例が発生、うち4例でAEDが使用され、いずれも救命された。そして、今年(2025年)開催の「大阪万博」では、AEDに最短で行けるためにスマートフォン(スマホ)を用いてAEDの設置位置が把握できる仕組み「AED GO」を構築し、運用している。 課題としては、心停止の発生場所が「自宅」というケースも多く、「将来的にはウェアラブル機器などでの早期の循環器の異常把握とホームAEDの設置・活用などを今後考えなくてはいけない」と述べた。 次に「AIを用いた循環器病予防 現状と未来」をテーマに、笹野 哲郎氏(日本循環器学会 代議員)が、現在進行中、また将来のAIを用いた循環器病の予防について講演した。 とくに隠れ心房細動の患者について、その数は100万例以上と推定され、うち心臓発作時に自覚症状がない人は約40%とされ、治療を受けていないために循環器病だけでなく脳梗塞のリスクが高いと指摘した。 現在活用されているAIでは、心電図の自動診断からの有病予測や再発予測が行われている。12誘導心電図の深層学習のために全国の施設で2,700例のデータが集められ、解析が行われているという。 また、AIおよびリモートテクノロジーによる心房細動発見の地域医療プロジェクトを静岡市清水区で行い、362例の参加者から11例の隠れ心房細動の患者を見つけることができたと報告した。 ただAI予測での注意点としては、AI診断はまだ途上であり、従来からのリスク評価も重要であることを指摘した。 今後の課題としては、健診などを受けない隠れ心房細動患者をいかに発見するかであり、東京都と共同してこうした患者を見つける実証試験を、カプセルホテルなどの協力で行っていることを説明した。 最後に今後の取り組みとして、「AIによる疾病有病予測は、結果の解釈と指導までを考慮し行うことが望ましい」と講演を終えた。女性の循環器疾患を“Go red for women”で予防したい 第2部では「次の20年の循環器病予防」をテーマに、磯部 光章氏(日本心臓財団 常任理事)、木田 圭亮氏(日本循環器協会 幹事)、東條 美奈子氏(日本循環器病予防学会 理事)の3人のパネリストが、今後の循環器病予防への取り組み、「ハートの日」啓発活動の将来、“Go red for women Japan”の活動について説明した。 磯部氏は、東京都で行われている施策を中心に、医療従事者への講演・研修会の実施や調理や運動による循環器病予防事業を説明したほか、患者同士の交流会の取り組みなどを説明した。 木田氏は、「ハートの日」の啓発活動について漫画『キャプテン翼』(作・高橋 陽一氏)に登場する三杉 淳をアンバサダーにさまざまなメディアで啓発活動を展開し、全国の薬局での血圧計測活動の実施やプロサッカーチームとの協業、スポーツ選手のインタビュー動画の公開とともに多くの企業ともコラボレーションを行っていることを紹介した。 東條氏は、アメリカで行われている“Go red for women ”について説明を行った。アメリカでは、循環器病で亡くなる女性が多く、米国心臓協会(AHA)がこの活動を開始し、2月の最初の金曜日を“National Wear Red Day”と定め、女性の心臓病や脳卒中の予防・早期発見の啓発が行われているという。この活動をわが国でも行おうというものであり、日本の女性は更年期以降に循環器病が増加し、重症化しやすい傾向にあることを説明した。 今後は、早期かつ定期的な診療受診の働きかけや企業との連携などを行うと、その展望を語った。 ディスカッションでは、今後、サッカー以外のスポーツ、たとえばバスケットボールなどの競技を通じて広く啓発活動を行うことやハートの日だけでなく、年間を通じ循環器病予防の取り組みを行うこと、小児期から疾患啓発を行うことなどが議論された。 8月10日の「ハートの日」の前後には全国で循環器病予防の啓発や予防のイベントが開催されるほか、全国の名所で赤い色のライトアップが実施される。

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末梢血幹細胞移植後のGVHD予防、移植後シクロホスファミド+シクロスポリンが有効/NEJM

 骨髄破壊的または強度減弱前処置後にHLA一致血縁ドナーからの末梢血幹細胞移植(SCT)を受けた血液がん患者において、移植片対宿主病(GVHD)のない無再発生存期間は、標準的なGVHD予防法と比較し移植後シクロホスファミド+カルシニューリン阻害薬併用療法により有意に延長したことが示された。オーストラリア・Alfred HealthのDavid J. Curtis氏らAustralasian Leukaemia and Lymphoma Groupがオーストラリアの8施設およびニュージーランドの2施設で実施した第III相無作為化非盲検比較試験「ALLG BM12 CAST試験」の結果を報告した。高リスク血液がん患者に対する根治的治療としては、HLA一致血縁ドナーからの骨髄破壊的前処置後同種末梢血SCTが推奨され、GVHD予防はカルシニューリン阻害薬と代謝拮抗薬の併用が標準治療となっている。移植後シクロホスファミドを代謝拮抗薬に追加または置き換えることで、HLA一致血縁ドナーからのSCT後GVHDリスクを低減できることが示唆されているが、移植後シクロホスファミドの有効性、とくに骨髄破壊的前処置下での有効性は明らかになっていなかった。NEJM誌2025年7月17日号掲載の報告。シクロスポリン+メトトレキサートと比較、GRFSを評価 研究グループは、急性白血病の第1または第2寛解期、ならびに骨髄中芽球<20%の骨髄異形成症候群(MDS)で、骨髄破壊的前処置または強度減弱前処置後にHLA一致血縁ドナーからのSCTを受ける18~70歳の患者を、移植後シクロホスファミド+シクロスポリン(試験予防群)またはシクロスポリン+メトトレキサート(標準予防群)に、年齢(50歳未満、50歳以上)および前処置の強度(骨髄破壊的、強度減弱)で層別化し1対1の割合で無作為に割り付けた。 試験予防群では、シクロホスファミド50mg/kgを移植後3日目および4日目に投与した後、シクロスポリン(各施設のガイドラインに従った用量)を移植後5日目から開始し、90日目以降に漸減した。 標準予防群ではメトトレキサートを移植後1日目に15mg/m2、3日目、6日目および11日目に10mg/m2、シクロスポリン(同上)を移植前1~3日から開始し、90日目以降に漸減した。 主要評価項目は、無GVHD・無再発生存期間(GRFS)で、ITT集団を対象としてtime-to-event解析を行った。移植後シクロホスファミド+シクロスポリンでGRFSが有意に延長 2019年4月4日~2024年1月30日に、134例が登録および無作為化された(試験予防群66例、標準予防群68例)。 GRFSの中央値は、試験予防群26.2ヵ月(95%信頼区間[CI]:9.1~未到達)、標準予防群6.4ヵ月(5.6~8.3)であり、試験予防群で有意に延長した(log-rank検定のp<0.001)。3年時点でのGRFS率は、試験予防群で49%(95%CI:36~61)、標準予防群で14%(6~25)であった(GVHD・再発・死亡のハザード比[HR]:0.42、95%CI:0.27~0.66)。 Grade III~IVの急性GVHDの3ヵ月累積発生率は、試験予防群で3%(95%CI:1~10)、標準予防群で10%(4~19)であり、2年全生存率はそれぞれ83%および71%(死亡のHR:0.59、95%CI:0.29~1.19)であった。 SCT後100日間における重篤な有害事象の発生率は、両群で同程度であった。

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認知機能への多領域ライフスタイル介入、構造化型vs.自己主導型/JAMA

 認知機能低下および認知症のリスクがある高齢者において、構造化された高強度の介入は非構造化自己主導型介入と比較し、全般的認知機能を有意に改善した。米国・Wake Forest University School of MedicineのLaura D. Baker氏らが、同国5施設で実施した2年間の無作為化単盲検比較試験「The US Study to Protect Brain Health Through Lifestyle Intervention to Reduce Risk(US POINTER)研究」の結果を報告した。著者は、「機能的アウトカム、バイオマーカー、長期追跡のさらなる調査により、観察された認知機能改善効果の臨床的意義と持続性が明らかになるだろう」とまとめている。JAMA誌オンライン版2025年7月28日号掲載の報告。60~79歳で認知機能低下リスクの高い高齢者を無作為化し2年間追跡 US POINTER研究の対象は、認知機能低下リスクの高い患者、すなわち60~79歳で、座位時間が長く(中等度強度の運動が週60分未満)、不適切な食生活(MIND食スコアが14点中9点以下)に加え、次のうち2つ以上に該当する患者であった。(1)記憶障害の家族歴(第1度近親)、(2)心血管代謝リスクが高い(収縮期血圧≧125mmHg、LDLコレステロール≧115mg/dL、またはHbA1c≧6.0%)、(3)人種(アメリカまたはアラスカ先住民、黒人、アフリカ系米国人、アフリカ系、中東または北アフリカ系)、(4)民族(ヒスパニック、ラテン系、スペイン系)、(5)高齢(70~79歳)、(6)男性。 研究グループは、適格患者を構造化介入群(1,056例)と自己主導型介入群(1,055例)に1対1の割合で無作為に割り付けた。両群とも、身体活動と認知活動の増加、健康的な食事、社会参加、心血管系の健康管理を奨励していたが、介入の構造、強度および責任の点で異なっていた。 主要アウトカムは、実行機能、エピソード記憶、処理速度の複合的な尺度で評価した全般的認知機能の2年間における年間変化率の群間差であった。構造化介入で自己主導型介入より全般的認知機能が改善 2019年5月~2023年3月に2,111例が無作為化された(最終追跡調査日2025年5月14日)。患者背景は、平均(±標準偏差)年齢68.2±5.2歳、女性1,455例(68.9%)で、2,111例中1,879例(89%)が2年目の評価を完了した。 両群とも、認知機能複合Zスコア平均値はベースラインから経時的に増加し、年間平均増加率は、構造化介入群で0.243 SD(95%信頼区間[CI]:0.227~0.258)、自己主導型介入群で0.213 SD(0.198~0.229)であった。年間平均増加率の群間差は0.029 SD(0.008~0.050、p=0.008)で、構造化介入群が自己主導型介入群より有意に高かった。 事前に規定されたサブグループ解析の結果、構造化介入のベネフィットはAPOEε4保因者と非保因者で一貫していた(交互作用のp=0.95)が、ベースラインで認知機能が低い人のほうが高い人より効果が高かった(交互作用のp=0.02)。 有害事象は、構造化介入群(重篤151件、非重篤1,091件)が自己主導型介入群(190件、1,225件)より少なかった。主な有害事象はCOVID-19の検査陽性で、構造化介入群で高頻度であった。

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見落とされがちな高血圧の原因とは?

 ホルモン異常が原因で高血圧が生じる一般的な疾患について、多くの患者が医師に見逃されている可能性があるとして、専門家らが警鐘を鳴らしている。米国内分泌学会(ENDO)の専門家のグループがこのほど発表した臨床ガイドラインによると、循環器専門医の診察を受ける高血圧患者の最大30%、プライマリケア医の診察を受ける高血圧患者の最大14%が、「原発性アルドステロン症」と呼ばれる疾患を抱えている可能性があるにもかかわらず、その多くがこの疾患を見つけるための血液検査を受ける機会を一度も提供されていないという。このガイドラインは、「The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism(JCEM)」に7月14日掲載された。 原発性アルドステロン症は、副腎からアルドステロンというホルモンが過剰に分泌される疾患だ。アルドステロンは、血中のナトリウムとカリウムのバランスを調整する働きを担っている。アルドステロンの値が高過ぎると体内のカリウムが失われてナトリウムが保持されやすくなり、それによって血圧が上昇する。 ガイドラインによると、原発性アルドステロン症の検査の機会が全く提供されない高血圧患者が多くを占める一方、高血圧の診断から何年も経ってから初めて検査を受けたときには、すでにこの疾患による重い合併症を発症している患者もいるという。 本ガイドラインの筆頭著者で、米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院の内分泌科医であるGail Adler氏は、「原発性アルドステロン症患者は、本態性高血圧の患者と比べて心血管疾患のリスクが高くなる。低価格の血液検査を用いれば、より多くの原発性アルドステロン症の患者を見つけ出し、適切な治療につなげることができる」とニュースリリースの中で述べている。 ガイドラインの情報によると、過去の研究では、原発性アルドステロン症患者は脳卒中を発症するリスクが約2.6倍(オッズ比2.58)、心不全に至るリスクが約2倍(同2.05)、不整脈を発症するリスクが約3.5倍(同3.52)、冠動脈疾患を発症するリスクが約1.8倍(同1.77)上昇することが示されている。 今回新たに発表されたガイドラインでは、高血圧と診断された全ての患者がアルドステロン値をチェックするための検査を受けること、また、原発性アルドステロン症と診断された場合には、この疾患に特化した治療を受けることが推奨されている。 米ジョンズ・ホプキンス・メディスンによると、原発性アルドステロン症の治療にはスピロノラクトンやエプレレノンなどの処方薬が使用できる。これらの薬はいずれも血圧を下げ、カリウムの値を上げる効果がある。また、ガイドラインの著者らによると、アルドステロンを過剰に産生している副腎が片側のみの場合、その副腎を摘出する手術を医師が勧めることもある。このほか、ジョンズ・ホプキンス・メディスンによれば、患者には、バランスの取れた減塩食を心がけ、減量に努めるよう指導も行われるという。

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GLP-1RA処方が糖尿病患者の新生血管型加齢黄斑変性と関連

 糖尿病患者に対するGLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)の処方と、新生血管型加齢黄斑変性(nAMD)の発症リスクとの関連を示すデータが報告された。交絡因子調整後にもリスクが2倍以上高いという。トロント大学のReut Shor氏らの研究によるもので、詳細は「JAMA Ophthalmology」に6月5日掲載された。 この研究は、カナダのオンタリオ州の公的医療制度で収集されたデータを用いた後ろ向きコホート研究として実施された。組み込み基準は、糖尿病と診断後12カ月以上の追跡が可能な66歳以上の患者であり、除外基準はデータ欠落、およびGLP-1RAが処方された患者においてその期間が6カ月に満たない患者。 これらの条件を満たす111万9,517人から、傾向スコアマッチングにより背景因子を一致させた13万9,002人(平均年齢66.2±7.5歳、女性46.6%)を抽出し、GLP-1RA処方群4万6,334人、非処方群9万2,668人から成る、患者数1対2のデータセットが作成された。 追跡期間3年におけるnAMD発症率は、GLP-1RA非処方群が0.1%であるのに対して処方群は0.2%であった。Cox比例回帰分析では、交絡因子調整の有無にかかわらず、GLP-1RA処方群のnAMD発症リスクが2倍以上有意に高いことが示された(粗モデルではハザード比〔HR〕2.11〔95%信頼区間1.58~2.82〕、調整モデルではHR2.21〔同1.65~2.96〕)。 著者らは、「得られた結果は、nAMD、糖尿病網膜症、非動脈炎性前部虚血性視神経症の増悪に、GLP-1RAが関与する可能性のある組織低酸素状態という機序を示唆する既報文献と一致している。ただし、本研究で明らかになった関連性に真の因果関係があるのか否かを判断し、その上でGLP-1RAを用いることのメリットとリスクのトレードオフの関係を理解するため、さらなる研究が求められる」と総括している。 一方、本研究には関与していない米ノースウェル・ヘルスのTalia Kaden氏は、「網膜にGLP-1受容体が存在していることは既に知られている。よってGLP-1RAの網膜に対する薬理的な作用を理解しようとし、その作用がどのような結果をもたらすのかを知ろうとするのは当然である。ただし、これまでに明らかにされたGLP-1RAが持つさまざまなメリットを考慮すると、本研究に登録された特定のコホートで見られたわずかなリスクの増加は、多くの人々にとってGLP-1RAの使用を避けるという判断の根拠にならないのではないか」と述べている。 なお、1人の著者が複数の医薬品・医療機器関連企業との利益相反(COI)に関する情報を開示している。

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重度irAE後のICI再治療、名大実臨床データが安全性と有効性を示唆

 免疫チェックポイント阻害剤(ICI)はがん治療に革命をもたらしたが、重度の免疫関連有害事象(irAE)を引き起こす可能性がある。今回、irAE発現後にICIによる再治療を行った患者でも、良好な安全性プロファイルと有効性が示されたとする研究結果が報告された。研究は、名古屋大学医学部附属病院化学療法部の水野和幸氏、同大学医学部附属病院消化器内科の伊藤隆徳氏らによるもので、詳細は「The Oncologist」に6月14日掲載された。 抗CTLA-4抗体、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体を含むこれらのICIは、単剤または併用療法として患者の予後を大きく改善してきた。ICIは抑制性シグナル伝達経路を阻害することで抗腫瘍免疫応答を高める一方、重度のirAEを引き起こす可能性がある。irAEは一般的に内分泌腺、肝臓、消化管、皮膚などに発生する。グレード3以上の重度の非内分泌irAEに対しては、現行のガイドラインに基づき、ICIの一時的または恒久的な中止が推奨される。このため、重度のirAE発症後のICI再治療は、効果と再発リスクのバランスが課題となる。過去の報告ではirAE再発率は約30%とされているが、患者背景や重症度の詳細が不十分だった。既存のメタ解析も、研究間の異質性やイベント報告の不備が課題とされている。こうした背景から、著者らは重度のirAE後のICI再治療の安全性と有効性を明らかにすることを目的に、ICI再治療後のirAE発生と患者の転帰に焦点を当てた後ろ向き解析を実施した。 解析対象には、2014年9月~2023年6月までに名古屋大学病院で悪性腫瘍に対してICIによる治療を受けた患者1,271名が含まれた。PD-1/PD-L1阻害剤および/またはCTLA-4阻害剤を、単独療法または他の薬剤との併用療法として少なくとも1サイクル投与された患者を適格とした。CTCAE(Ver 5.0)に従い、グレード3以上のirAEを「重度」と定義した。連続変数はt検定またはMann-WhitneyのU検定、カテゴリ変数はカイ二乗検定またはFisherの正確確率検定を用いて、それぞれ群間比較を行った。 解析対象1,271人のうち、重度のirAEは222人(17.5%)に発現した。これらのirAEには内分泌障害、肝毒性、皮膚炎などが含まれた。そこから単独の内分泌障害を有する患者60人が除外され、162人のうち46人(28.4%)がICIによる再治療を受けた。再治療後、14例(30.4%)でirAEの再発または新たなグレード2以上のirAEが発現した。初回ICI治療時に肝毒性(グレード3)を発現した1人でグレード4の再発が認められた。 抗腫瘍効果については、ICI再治療を受けた46人の客観的奏効率は28.3%(13人)であり、完全奏効が10.9%(5人)、部分奏効が17.4%(8人)だった。病勢安定は30.4%(14人)、病勢進行は34.8%(16人)に認められた。再治療後のICI投与期間の中央値は218日(95%信頼区間〔CI〕84~399)であり、全生存期間および無増悪生存期間の中央値はそれぞれ665日(95%CI 443~929)、178日(95%CI 70~301)だった。 競合リスクモデルによる再治療1年後の治療中止理由の内訳は、irAEが15.4%(95%CI 6.8〜27.4)、病勢進行が44.4%(95%CI 29.7〜58.1)、投与スケジュール完了が6.6%(95%CI 1.7〜16.3)だった。また、33.4%(95%CI 20.3~47.2)の患者でICI治療が継続された。 本研究について著者らは、「本研究は、名古屋大学病院内の診療科の垣根を越えて実施され、重度のirAE後のICI再治療に関する重要な指針を示した。再治療は、グレード2以上のirAEの再発・新規発現リスクが30.4%ある一方で、客観的奏効率は28.3%と一定の有効性も確認された。本研究の知見は、臨床医がICI再治療の可否をより十分な情報に基づいて判断する一助となり、重度のirAEを経験したがん患者に対する治療機会の拡大につながる可能性がある」と述べている。

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経口GLP-1受容体作動薬の進化:orforglipronがもたらす可能性と課題(解説:永井聡氏)

 GLP-1受容体作動薬は、2型糖尿病の注射製剤として、すでに15年以上の歴史がある。減量効果だけでなく、心血管疾患や腎予後改善のエビデンスが示されるようになり、さらに経口セマグルチド(商品名:リベルサス)の登場により使用者が増加している。しかし、本剤が臨床効果を発揮するためには、空腹かつ少量の水で服用することが必須であり、服薬条件により投与が困難な場合もあった。 今回、経口薬であり非ペプチドGLP-1製剤であるorforglipronの2型糖尿病を対象とした第III相ACHIEVE-1試験が発表された。orforglipronは、もともと中外製薬が開発した中分子化合物で、GLP-1受容体に結合すると、細胞内でG蛋白依存性シグナルを特異的に活性化する“バイアスリガンド”という、新しい機序の薬剤である。経口セマグルチドのようなペプチド医薬品と異なり、胃内で分解されにくく、吸収を助ける添加剤を必要としない。そのため、空腹時の服用や飲水制限といった条件を課さず、日常生活における服薬の自由度が格段に向上することが特徴である。 試験の結果では、血糖降下作用や減量効果は、週1回セマグルチド注射製剤と同等かやや上回るほどであった。注射製剤の受け入れや空腹での服用条件により、経口セマグルチドの投与が困難だった人にも使用が可能になるという「投与条件の容易さ」は大きなインパクトである。 orforglipronが臨床現場に与える影響は少なくない。投与方法に制限がないことにより、「GLP-1受容体作動薬は特別な治療」という印象が減り、切り替えや他剤と同時服用も可能になり、DPP-4阻害薬やSGLT2阻害薬と同様に、早期導入が一般的になる可能性がある。投与方法が容易であることは、治療自体のQOLの向上を意味し、セルフケア行動を促進しアウトカムをより一層改善する「好循環」を後押しする。現在でも、GLP-1受容体作動薬により減量が進んでから運動を始める人がいる。その人は「体が軽くなった」から運動する気持ちになったと言うが、本当は減量できた成功体験によって「気持ちが軽くなった」から運動できると思い始めたのである。 処方が増加しても、錠剤は一般的に注射剤より生産工程が容易で大量生産可能であり、輸送コストも低く、世界的な需要拡大にも対応が可能と考えられる(近年問題となった某GLP-1受容体作動薬関連の処方制限を思い出してほしい)。 懸念点はないだろうか。有害事象は、他のGLP-1受容体作動薬と同様、嘔気や下痢といった消化器症状が中心であるが、第III相ACHIEVE-1試験では4~8%の症例で投与中止に至っている。さらに、本剤は分子量が小さく、血液脳関門を通過し、中枢性の嘔気症状が増える可能性が指摘されているため、消化器症状のため内服できなかった人が服用できるようになるわけではないと思われる。また、新しい機序の薬剤は、中長期的な有害事象も既存のGLP-1受容体作動薬と同様なのか、良くも悪くも現時点では何とも言えない。さらに、「多くの患者に使える薬」になるということは、裏を返せば「不適切に使われるリスク」も増すということである。フレイルを伴う高齢者への投与や安価な薬剤で十分な患者でも漫然と投与される可能性がある。保険財政への影響も懸念がある。 これからの糖尿病治療において重要なのは、薬剤選択肢の拡大そのものではなく、それをいかに適切に、患者個々の病態や背景を踏まえて用いるかである。適切な患者選択と丁寧なモニタリングを通じて、本剤の真価を最大限に引き出し、「糖尿病のない人と変わらぬQOLの実現」を後押しできるかが医療者に期待されることである。

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銃の乱射事件とCTE【Dr. 中島の 新・徒然草】(592)

五百九十二の段 銃の乱射事件とCTE大変な暑さですね。ついに群馬県の伊勢崎市では、日本の観測史上最高温の41.8度を記録したのだとか。大阪でも、蛇口から出てくる水道水が、お湯みたいに感じることがあります。今こんな状態だったら、5年後や10年後は一体どうなってしまうのでしょうか?さて、2025年7月28日、アメリカ・ニューヨークで衝撃的な銃乱射事件が発生しました。事件現場はマンハッタンにある高層ビルで、ここにはNFL(ナショナル・フットボール・リーグ、National Football League)の本部が入居していたそうです。容疑者とされるのは、ラスベガス在住のシェーン・タムラ、27歳。タムラというのはよくある日本人の苗字なので、日系アメリカ人かもしれません。彼は軍用自動小銃を用いて警官1名を含む4名を射殺し、その後自ら命を絶ちました。遺留品からは「自分はCTE(慢性外傷性脳症、Chronic Traumatic Encephalopathy)を患っており、この責任はNFLにある」と主張する手書きのメモが含まれていたと、ニューヨーク市のアダムス市長が記者会見で明らかにしました。CTEは、近年スポーツ医学の分野で注目されている疾患です。アメリカンフットボールやボクシングなど、頭部に繰り返し衝撃を受けるコンタクトスポーツの選手にみられ、その症状は記憶障害や認知機能の低下、衝動性、うつ状態、自殺傾向など。ボクサーのいわゆる「パンチドランカー」はその最たるもので、繰り返す外傷によって脳にダメージが蓄積した結果だと考えられています。私は頭部外傷後の高次脳機能障害に数多く対応してきましたが、そのような患者さんたちも、CTEと同じように、記憶障害、注意力低下、易怒性がみられました。ただ、私が診てきたのは、交通事故など1回の強い衝撃で発症するケースです。このような症例の画像診断では、びまん性軸索損傷、脳萎縮、脳室拡大などが多く見られました。頭部外傷後に高次脳機能障害を来す患者さんも、いろいろな障害を抱えていますが、外見上は正常に見えることが多いため、周囲の理解を得にくいという問題があります。一命をとりとめた後に、無事に復職しても人間関係がうまくいかなかったり、業務遂行が難しかったりして、仕事を辞めてしまう例が少なくありません。こういった患者さんが、少しでも幸せな人生を送るためにはどうしたらいいのか、いつも私は外来で悩まされています。さて、CTEに話を戻しましょう。この疾患の存在が広く知られるようになった背景には、映画化もされた『コンカッション』という作品があります。ナイジェリア出身の病理医ベネット・オマル博士が、死亡した元NFL選手たちの脳を解剖し、CTEの病理学的所見を発表したものの、当初NFLはこの事実を否定し続けました。結果として、引退選手ら5,000人以上に集団訴訟を起こされ、NFLは多額の和解金を支払うこととなりました。本事件のタムラ容疑者が本当にCTEを患っていたかは、解剖を含む今後の調査によって明らかになるでしょう。CTEの問題に加えて、銃社会アメリカでは、比較的容易に銃器を入手できてしまうことが、今回のような大規模な事件となって現れたと考えられます。日本では銃の所持が厳しく規制されてはいますが、それでも他の手段を用いた殺傷事件や放火事件も現実に起こってきました。ニューヨークの事件は、決して他人事ではないということですね。日本で働く医療従事者として、まずはCTEや高次脳機能障害を正しく理解することが大切かと思います。同時に、このような事件に自分が巻き込まれる可能性も、想定しておくべきでしょう。そうすれば、突発的な状況に遭遇しても、少しはマシな対応ができる……かもしれません。ということで最後に1句 暑い夏 腹を立てるな ちょっと待て

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8月7日 鼻の日【今日は何の日?】

【8月7日 鼻の日】〔由来〕「は(8)な(7)」の語呂合わせから、鼻の病気を減らすことを目的に、1961年に日本耳鼻咽喉科学会が制定。同会では、この日に全国各地で専門医の講演会や無料相談会などを行っている。関連コンテンツ長寿の村の細菌がうつ病や鼻炎に有効【バイオの火曜日】鼻血を繰り返す患児、最初にするべき検査は?【乗り切れ!アレルギー症状の初診対応】最新の鼻アレルギー診療ガイドラインの読むべき点とは/日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会1日1杯の緑茶が花粉症を抑制か~日本人大規模コホート鼻茸を伴う難治性慢性副鼻腔炎、テゼペルマブ追加が有効/NEJM

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尿路感染症へのエコー(3):腎盂腎炎と水腎症【Dr.わへいのポケットエコーのいろは】第3回

尿路感染症へのエコー(3):腎盂腎炎と水腎症前回、ポケットエコーを用いて尿ジェットを観察し、尿路結石を指摘する方法や、カラードプラで腎盂・尿管を描出し、水腎症がわかるようになるための手技について解説しました。今回は、「腎盂腎炎を診断できる」「B modeで水腎症がわかる」という目標を設定してポケットエコーの手技を解説していきます。腎盂腎炎を指摘できる腎臓の圧痛を評価すれば腎盂腎炎の診断に役立ちます。じつは、腎臓は直接触診することができます。身体診察では腎臓の双手診という手法があります。実臨床ではあまり用いられていないかもしれませんが、エコーを併用すれば画面を見ながら安全に圧痛を確認できます。腎臓の圧痛を確認する際は、肋骨脊柱角を叩打される場合がありますが、これは腎臓の圧痛を間接的に判断しているにすぎず、特異度は高くありません。そこで、sonographic Murphy's sign(超音波プローブによる胆嚢圧迫時の疼痛)の腎臓版として、プローブで腎臓を押しながら観察していきます。それでは、実際の手技を動画で見ていきましょう。このように、腎臓をエコーガイド下で触診していくという方法があるのです。B modeで水腎症がわかるつづいて、腎臓を長軸にきれいに描出し、B modeで水腎症を確認する方法を紹介します。実際の手技を見る前に、まずは次の2点を押さえておきましょう。まず1点目は「腎臓は後腹膜に固定されている」ということです。腎臓は後腹膜に固定されていますが、海底に根を張る昆布がゆらゆら揺れるのと同様に、息を吸うとよく動きます。2点目は「腎臓は上極(頭側)から下極(足側)にかけて腹側に傾いている」ということです。このことを意識して、エコーのプローブを斜めに傾けるときれいに断面を見ることができます。それでは、以上を踏まえて動画を見ていきましょう。いかがでしょうか? 「腎臓は断片的にしか見えない」と感じられていた先生もいるのではないでしょうか。しかし、B modeで見ることで腎臓をきれいに描出することができ、大きな情報が得られるのです。それでは、次回からは「胆道系疾患の手技」について紹介していきます。

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第22回 未来の自分への最高の投資は「食事」にあり!科学が解き明かす“健康的な加齢”の秘訣

「人生100年時代」と言われる今、多くの人が願うのは、ただ長く生きることだけではないでしょう。できる限り自分の足で歩き、頭はクリアで、心穏やかに、人生の後半を豊かに楽しみたい――。そんな「健康的な加齢(Healthy Aging)」は、多くの人が望む理想の姿かもしれません。では、その理想を実現するために、私たちに何ができるのでしょうか。運動、睡眠、社会との関わりなど、さまざまな要素が挙げられますが、Nature Medicine誌に発表された最新の研究1)が、その鍵を握る最も重要な要素の一つが「日々の食事」であることを、強力なデータとともに示しました。今回は、米国の10万人以上を30年間にわたって追跡したこの大規模研究から、未来の自分を健やかに保つための「食の投資術」を紐解いていきましょう。「健康的な加齢」とは?まず、この研究が目指した「健康的な加齢」とは、具体的にどのような状態を指すのでしょうか。研究チームはそれを明確に定義しました。それは、「70歳に到達した時点で、がんや心疾患、糖尿病といった11の主要な慢性疾患がなく、さらに認知機能、身体機能、精神的健康のいずれにも大きな衰えがない状態」です。この条件を、調査対象となった10万5,015人のうち、一体どれくらいの人が達成できたと思いますか? 答えは、わずか9.3%でした。これは、多くの人が何らかの慢性疾患を抱え、心身の機能の衰えを感じながら歳を重ねる現実を示唆しているかもしれません。しかし裏を返せば、約1割に「健康に歳を重ねた」人がいることも事実です。そして、彼らの生活習慣、とくに「食事」に、他の人との違いがあったのです。この研究では、長期間にわたる食生活と「健康的な加齢」の達成率との関連が分析されました。その結果、調査された8つの健康的な食事パターンのすべてにおいて、食事の質が高いグループほど、健康的に加齢する確率が著しく高いことが明らかになったのです。最も効果的だった食事法を示す「AHEI」とそのシンプルな中身数ある食事の指数の中で、最も「健康的な加齢」と強い関連を示したのが「AHEI(代替健康食指数)」でした。これは、もともと慢性疾患のリスクを予測するために開発された食事評価法です。その効果は大きく、AHEIのスコアが最も高い(最も健康的な食事をしていた)グループは、最も低いグループと比較して、「健康的な加齢」を達成する確率が1.86倍も高かったのです。さらに、「健康的な加齢」の基準を「75歳」まで引き上げて分析すると、その差はさらに広がり、達成確率は2.24倍にまで達しました。では、その「AHEI」が高い食事とは、一体どのような食事なのでしょうか。特別なサプリメントや高価な食材が必要なわけではありません。その中身はシンプルで、私たちが日々の生活で実践できることばかりです。積極的に摂りたい食品果物野菜全粒穀物(玄米、全粒粉パンなど)ナッツ類と豆類多価不飽和脂肪酸(魚や植物油に含まれる健康的な脂質)摂取を控えるべき食品砂糖入り飲料やフルーツジュース赤身肉や加工肉(ソーセージ、ベーコンなど)トランス脂肪酸(マーガリンやショートニングなど)ナトリウム(塩分)これらのポイントは、地中海食やDASH食といった他の健康的な食事法とも多くの共通点を持っています。つまり、健康的な加齢への道は、根拠の乏しい書籍や特定の流行りの食事法に飛びつくことではなく、「野菜や果物、全粒穀物を増やし、健康に良い油を選び、肉や加工品、砂糖、塩分を控える」という、食生活の基本に忠実であることが最も重要だということなのでしょう。今すぐできる!未来を変える食生活の3つのヒントこの研究成果を、私たちの生活にどう落とし込めばよいのでしょうか。もちろん完璧を目指す必要はありません。「生きることは食べること」というぐらい、食はその人の幸福度にも結びつくものですから、自分を縛りつける必要もないでしょう。今日からできる、具体的な3つのヒントをご紹介します。1. 「禁止」より「丁寧な整理整頓」「あれもダメ、これもダメ」と考えると、食事は窮屈なものになってしまいます。まずは「これを食べたら心から満足できるかな?」という感覚に、丁寧に耳を澄ますところから始めるとうまくいくかもしれません。そのような食べ方は「インテュイティブ・イーティング(直感的な食事法)」と呼ばれています。果物、野菜、全粒穀物、ナッツ、豆類などがマッチするようなら、そういったものを少しずつ取り入れてみてはどうでしょうか。小腹が減った時のカップヌードルを、フルーツに変えてみる。ランチの白米を、たまに玄米に変えてみる。おやつのスナック菓子を、一袋のナッツに変えてみる。こういった小さな「整理」が、無理なく食生活全体をポジティブな方向に修正する第一歩になるかもしれません。2. 「超加工食品」の存在を少しだけ意識する今回の研究では、「超加工食品」のリスクについても厳しい結果が示されました。スナック菓子、カップ麺、菓子パン、甘い清涼飲料水などがこれに当たります。超加工食品の摂取量が最も多いグループは、最も少ないグループに比べて「健康的な加齢」を達成する確率が32%も低かったのです。それが好きな人にとって、完全に断つことは難しいかもしれませんが、少し距離を置く意識を持つだけで、未来の健康は大きく変わる可能性があります。3. 「現在の食事」が未来の自分をつくるこの研究が特に重要なのは、参加者の中年期(平均年齢53歳)からの食生活を追い、その30年後の結果を見ている点です。これは、「もう歳だから手遅れ」でもなければ、「まだ若いから大丈夫」でもないことを意味します。40代、50代の食生活が、70代、80代の健康状態を大きく左右するようです。未来の自分が、旅行や趣味を楽しみ、友人や家族、孫と笑い合っている姿を想像してみてください。その姿を実現するための最も確実な投資は、高価なサプリメントや真新しく見える「健康法」などではなく、今あなたが口にする一食一食なのかもしれません。この研究は、日々の食事が未来の健康をかたち作るという、基本的かつ力強いメッセージを私たちに届けてくれています。「完璧な食事」を目指す必要などまったくありません。一食、一品から。未来の自分への投資は、今日の食卓から始められます。参考文献・参考サイト1)Tessier AJ, et al. Optimal dietary patterns for healthy aging. Nat Med. 2025;31:1644-1652.

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1日7,000歩で死亡リスクが半減!?

 ウォーキングが健康に良いことが知られているが、具体的な歩数についてはさまざまな報告があり、明確な目標値は定まっていない。そこで、オーストラリア・シドニー大学のDing Ding氏らの研究グループは、成人の1日の歩数と死亡や疾患の発症、健康アウトカムとの関連を検討することを目的として、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。その結果、1日7,000歩でも死亡リスクが低下し、心血管疾患や認知症などの疾患の発症リスクも低下することが示された。本研究結果は、Lancet Public Health誌2025年8月号で報告された。 研究グループは、PubMedおよびEBSCO CINAHLを用いて、2014年1月~2025年2月に発表された文献を検索した。そのなかで、1日の歩数と死亡、心血管疾患(発症・死亡)、がん(発症・死亡)、2型糖尿病発症、認知症発症、うつ症状、身体機能、転倒との関連を検討した前向き研究を抽出した。57研究(35コホート)が抽出され、そのうち31研究(24コホート)をメタ解析に組み入れた。1日2,000歩を対照とし、歩数増加に伴う各アウトカムのリスクの変化を評価した。 主な結果は以下のとおり。・1日2,000歩を対照とした場合、1日7,000歩の歩行により、死亡やさまざまな疾患の発症、健康アウトカムのリスクが低下した。詳細は以下のとおり(ハザード比[95%信頼区間]、エビデンスの確実性を示す)。 死亡:0.53(0.46~0.60)、中程度 心血管疾患発症:0.75(0.67~0.85)、中程度 心血管死:0.53(0.37~0.77)、低い がん発症:0.94(0.87~1.01)、低い がん死亡:0.63(0.55~0.72)、中程度 2型糖尿病発症:0.86(0.74~0.99)、中程度 認知症発症:0.62(0.53~0.73)、中程度 うつ症状:0.78(0.73~0.83)、中程度 転倒:0.72(0.65~0.81)、非常に低い・死亡、心血管疾患(発症・死亡)、がん死亡、認知症発症、転倒のリスクと歩数の関連は非線形であり、歩数増加に伴うリスク低下の効果は、1日5,000~8,000歩程度で鈍化する傾向がみられた。・がん発症、2型糖尿病発症、うつ症状のリスクと歩数の関連は線形であった。 著者らは、本研究結果について「1日7,000歩という歩数は現実的な目標であり、調査したほとんどの健康アウトカムのリスク低下と関連した」とまとめた。

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