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乳がん患者のQOLと死亡リスクの関係

 乳がん患者は生活の質(QOL)に悪影響を及ぼすさまざまな問題を抱えているが、乳がん患者のQOLと死亡リスクとの関連については議論の余地がある。静岡県立静岡がんセンターの鈴木 克喜氏らは、QOLが乳がん患者の予後に与える影響についてシステマティックレビューおよびメタ解析を実施し、結果をBreast Cancer誌オンライン版2024年4月9日号で報告した。 本研究では、CINAHL、Scopus、PubMedのデータベースを用いて、2022年12月までに発表された乳がん患者のQOLと死亡リスクを評価した観察研究が検索された。 主な結果は以下のとおり。・11万9,061件の論文が検索され、6件の観察研究がメタ解析に含まれた。・身体機能QOL(ハザード比[HR]:1.04、95%信頼区間[CI]:1.01~1.07、p=0.003)、情緒機能QOL(HR:1.01、95%CI:1.00~1.03、p=0.05)、および役割機能QOL(HR:1.01、95%CI:1.00~1.01、p=0.007)は、死亡リスクとの有意な関連が示された。・一方で、全般的QOL、認知機能QOL、および社会機能QOLは、死亡リスクとの関連が示されなかった。・治療時点に従い行われたサブグループ解析によると、治療後の身体機能QOLが死亡リスクと関連していた。 著者らは、身体機能QOL、情緒機能QOL、および役割機能QOLが乳がん患者の死亡リスクと関連したとし、治療後の身体機能QOLは、治療前の身体機能QOLよりも生存期間延長とより有意な関連を示したとまとめている。

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出生前検査、胎児異常例対応に医療者の75%が「葛藤」

 妊娠後に胎児の染色体異常を調べる「出生前検査」は手軽になり、多くの妊婦が受けるようになった一方で、検査を手掛ける医療機関が増え、適切な検査前の説明や遺伝カウンセリングがされないなどの問題が生じていた。これを受け、2022年に日本医学会による新たな「出生前検査認証制度」がスタートし、こども家庭庁は啓発事業によって、正しい知識の啓蒙と認証を得た医療機関での受診を呼びかけている。 この活動の一環として2024年3月に「『出生前検査』シンポジウム」と題したメディアセミナーが開催された。本シンポジウムにおける、聖マリアンナ医科大学・臨床検査医学・遺伝解析学の右田 王介氏と昭和大学・産婦人科の白土 なほ子氏の講演内容を紹介する。右田氏講演「出生前検査に関する基本情報と取り巻く環境」――出生前検査にはさまざまな種類がある。なかでも、2010年代に母体の採血のみで実施可能な「母体血中遊離核酸によるNIPT(Non-Invasive Prenatal Testing:非侵襲的出生前検査)」の受検が広がり、注目を集めている。このNIPTは妊娠9または10週以降に採血を行い、胎児の21トリソミー(ダウン症候群)、18トリソミー、13トリソミーの可能性を判断するものだ。 検査が広がった背景の1つに、染色体数に伴う疾患と出産年齢との関係がある。新生児の染色体異数性の頻度は妊婦の年齢と共にわずかずつだが増加する。一般に母体が35歳以上の出産を高年出産と呼ぶが、2000年頃には1割とされていた高年での出産は、2022年には約30%となった。母親の年齢によって染色体異常が急増するわけではないものの、不安を感じる妊婦が増えている。 NIPTは、母の採血のみで実施でき、検査としての安全性や検査特性が優れている。妊婦やその家族は胎児の健康を願い、検査から安心を得たいと考えているが、NIPTは胎児の疾患診断につながる検査であることに注意が必要だ。結果には偽陰性や偽陽性も含まれ、その確定には羊水穿刺など侵襲的検査が必要となる。 また、NIPTは羊水穿刺や母体血清マーカーといった検査に比べ、より早い妊娠週数で検査が実施される。検査実施には十分な情報提供と熟考が必須であるにもかかわらず、妊婦や家族が意思決定に掛けられる時間は短い。 加えて、NIPTの原理は将来さまざまな遺伝性疾患に応用される可能性があり、このことで遺伝的な個性を排除するという社会の動きが加速する可能性がある。出生前検査の実施や選択に、女性の生殖に関する自己決定権が強調されることもあるが、検査を検討し選択する責任は母親だけが負うべきものではない。より広く議論することが必要である。 NIPTについての意思決定は時間を掛け、慎重に行われるべきだ。出生前検査の施設認証では専門外来で検査前から十分な遺伝カウンセリングを行うことを求めている。また日本小児科学会では2022年4月に出生前コンサルト小児科医の認証制度をスタートさせた。妊婦やその家族の希望に応じ、検査実施前から小児科医の立場からの情報提供を行うことができる。このような支援制度もぜひ活用いただきたい。白土氏講演「出生前検査に対する支援体制における現状とこれから」――認証制度の前身となる日本医学会の「出生前検査認定施設」は2013年の制度スタート時は15施設だった。2022年7月に要件を緩和した「出生前検査認証制度」となってから登録施設数は急増し、2023年10月時点の認証施設は478施設となっている。認証施設は遺伝カウンセリングができる体制にあり、出生前コンサルタント小児科医との連携、検査についての情報提供と意思決定支援、検査後のフォロー体制を持つことなどが条件となっている。 白土氏らが認証制度開始前後にNIPT受検者を対象とした調査を行ったところ、「どこで検査を受けたか」という質問に対し、「認定・認証施設」が50%強、「非認定・認証施設」が20~30%、残りは不明という回答分布で、これは制度開始前後で大きな変化はなかった。「何を重視してNIPTを受ける施設を決めたか」という質問に対しては、「認定・認証施設」の受検者は「検査前のカウンセリングがある」「かかりつけ医の紹介」といった回答が多かった。一方で、「非認定・認証施設」の受検者は「口コミがよい」「ネット予約が可能」「アクセスがよい」といった回答が目立った。 同時期に、NIPTを提供する医療機関と医療者個人(医師、看護師・助産師、遺伝カウンセラー等)へのアンケート調査も行った。1次調査として医療機関に対してハード面に関するアンケートを行い、同意が取れた施設に2次調査として医療者個人にNIPTへの対応経験を聞いた。調査は2021年10~12月に行い、1次調査は316施設、2次調査は204人が回答した。 出生前検査で陽性になった症例について、「自施設で対応しているか」という設問に対し「対応している」と回答したのは316施設中71%、うち半数強の57%が「自施設内で決めた基本的な対応方針やルールがある」とした。「対応している」施設では妊娠を継続した場合の実施項目として「NICU/小児科との連携」「院内カンファでの症例共有・検討」「自治体・行例との連携」などの項目に「必ず行う」「症例によって行う」とした施設が多かった。一方で、「患者会・当事者会の紹介」「精神科/心療内科との連携」は「必ず行う」「症例によっては行う」とした施設数が少なかった。 中絶を選択した場合、「助産師との面談」は9割近くの施設が「必ず行う」「症例によっては行う」と回答し、「産婦人科の臨床遺伝専門医の診察」も7割程度が「必ず行う」「症例によっては行う」と回答したが、中絶時は妊娠継続時より全体として実施項目が少ない傾向にあった。 医療者個人へのアンケート調査では、「陽性例の対応業務」は「自身の職種として当然の業務」とした回答が99%を占めたが、「できれば避けたい業務」と考える回答者も3割程度存在した。さらに「検査陽性例についての自身の業務」について「葛藤がある」とした医療者が75%に上り、その要因として「時間的な制約がある」「予後予測が困難」「個別化した対応が必要」といった理由を挙げる人が多かった。 総合して、2021年10月時点では出生前検査を行っているものの陽性例には対応していない施設が3割あり、陽性例対応施設においても一定の方針を定めていない施設が半数程度あることがわかった。検査へのアクセス強化のために受検施設を増やすと同時に、地域連携の充実、基幹施設における他診療科を含めた連携による支援体制の強化が望まれる。 また、施設での支援者が葛藤(精神的負担など)を抱いている実態もわかった。ケアが担当医療者個人の努力に依存して行われている状況がうかがえた。医療者の心のケアも含めたサポート体制の充実が必要であるとともに、ケアを担う医療スタッフの負担軽減策も必要だと考えられる。 本調査の結果は「出生前検査に関する支援体制構築のための研究」報告書として、事例の紹介とともにサイトで公開されている。

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オシメルチニブ耐性肺がんに対するamivantamab+化学療法はPD後も生存ベネフィットを示す(MARIPOSA-2)/ELCC2024

 amivantamab+化学療法は化学療法単独と比べ、オシメルチニブ耐性のEGFR変異陽性進行非小細胞肺がん(NSCLC)の治療進行後の有意な生存ベネフィットを示した。 MARIPOSA-2試験における、amivantamabと化学療法の併用はオシメルチニブ耐性EGFR変異陽性NSCLC の無増悪生存期間 (PFS)を有意に延長している1)。・対象:オシメルチニブ単剤療法耐性のEGFR変異(exon19 delまたはL858R)NSCLC・試験群1:amivantamab+lazertinib+化学療法(カルボプラチン+ペメトレキセド)(ALC群、n=263)・試験群2:amivantamab+化学療法(同上)(AC群、n=131)・対照群:化学療法(同上)(C群、n=263)・評価項目:[主要評価項目]盲検下独立中央判定(BICR)評価によるPFS[副次評価項目]客観的奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)、全生存期間(OS)、PFS2、安全性、治療開始から後治療までの期間(TTST)など[探索的研究]治療開始から中止までの期間(TTD) 主な結果は以下のとおり。・BICR評価のPFS中央値はAC群6.3ヵ月、C群4.2ヵ月でAC群で有意に改善した(HR:0.48、95%信頼区間[CI]:0.36~0.64、p<0.001。・TTD中央値はAC群11.0ヵ月、C群4.5ヵ月でAC群で有意に改善した(HR:0.37、95% CI:0.28〜0.50、P

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統合失調症における安静状態と作業状態の機能的接続異常

 統合失調症の主な病理学的仮説として、聴覚処理障害と大脳ネットワーク内の接続不全が挙げられる。しかし、多くの神経画像研究では、統合失調症患者の安静状態またはタスクに関連した機能接続障害に焦点が当てられている。九州大学の高井 善文氏らは、統合失調症患者の聴覚定常状態応答(ASSR)タスク中の血中酸素濃度依存性(BOLD)シグナル、安静状態およびASSRタスク中の機能的接続性、安静状態とASSRタスクの状態変化について、検討を行った。The European Journal of Neuroscience誌2024年4月号の報告。 対象は、統合失調症患者25例および健康対照者25例。スキャナーノイズによる機能への影響を軽減するため、安静状態およびスパースサンプリング聴覚fMRIパラダイムを採用した。聴覚刺激は、周波数20、30、40、80Hzのバイノーラルクリックトレインとした。検出されたASSR誘発性BOLDシグナルに基づき、安静状態とASSRタスク状態における視床と両側聴覚皮質の機能接続およびそれらの変化を調査した。 主な結果は以下のとおり。・統合失調症患者では、80HzでASSRタスク中に視床および両側聴覚皮質でBOLDシグナルの有意な減少が認められた(補正済みp<0.05)。・統合失調症患者の視床聴覚ネットワーク内の機能的接続の変化において、安静状態とASSRタスク状態とでは、有意な逆相関が認められた。・統合失調症患者では、安静状態の機能接続性がより強く(p<0.004)、ASSRタスク中の機能的接続性の低下が認められ(p=0.048)、これは異常な状態変化により媒介されることが示唆された。 著者らは、「統合失調症患者における安静状態と作業状態との移行の欠陥に関連する異常な視床皮質接続の存在が示唆された」としている。

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PNHに対するC5阻害薬と併用する世界初の経口薬、ボイデヤ発売/アレクシオン

 アレクシオンファーマは2024年4月17日、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の治療薬としてボイデヤ(一般名:ダニコパン)を同日より発売開始したことを発表した。 PNHは、血管内溶血として知られる血管内の赤血球破壊と、白血球および血小板の活性化を特徴とするまれで重度の血液疾患であり、血栓症を引き起こし、臓器障害や早期死亡に至る可能性がある。C5阻害薬のユルトミリス(一般名:ラブリズマブ[遺伝子組換え])またはソリリス(一般名:エクリズマブ[遺伝子組換え])は、補体C5を阻害して終末補体を抑制することで症状および合併症を軽減し、PNH患者の生存率への影響が期待できる薬剤である。C5阻害薬を投与下のPNH患者の約10~20%に臨床的に問題となる血管外溶血が顕在化し、持続的な貧血症状や定期的な輸血が必要となるケースがある。 本剤は、「発作性夜間ヘモグロビン尿症」を効能または効果とし、C5阻害薬による適切な治療を行っても十分な効果が得られない場合にC5阻害薬と併用して投与される。C5阻害薬のユルトミリスまたはソリリスと併用投与する薬剤として開発されたファースト・イン・クラスの経口補体D因子阻害薬である本剤は、C5阻害薬の治療中に臨床的に問題となる血管外溶血が生じる特定のPNH患者(約10~20%)のニーズに対応する。 本剤の承認は、国際共同第III相臨床試験(ALPHA試験)から得られた肯定的な結果に基づく。同試験における12週間の主要評価期間の結果については、Lancet Haematology誌に掲載されている1)。ALPHA試験では、ヘモグロビンが9.5g/dL以下かつ網状赤血球数が120×109/L以上と定義した臨床的に問題となる血管外溶血を示すPNH患者を対象に、ユルトミリスまたはソリリスに本剤を併用した際の有効性および安全性を評価した。その結果、プラセボ群と比較した投与12週時点のヘモグロビンのベースラインからの変化量という主要評価項目を達成したほか、輸血回避および慢性疾患治療の機能的評価-疲労(FACIT-Fatigue)スコアの変化量を含む主な副次評価項目を達成した。ALPHA試験の結果において、安全性と忍容性に新たな懸念は認められず、本試験で最も多く報告された有害事象は頭痛、悪心、関節痛および下痢であった。 アレクシオンファーマ社長の笠茂 公弘氏は、「当社は『すべての希少疾患をもつ人々に人生を変える治療法と希望を届ける』というパーパスを掲げ、より早く、より多くの患者さんのニーズに応えるよう務めている。ボイデヤが、これまで以上にPNHをもつ患者さんとそのご家族のより良い生活に寄与できることを願っている」としている。

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がんスクリーニング試験の主要評価項目、StageIII/IVがん罹患で代替可能か/JAMA

 がんスクリーニングに関する無作為化試験では一般的に、がん特異的死亡が主要評価項目として用いられている。その代替評価項目としてStageIII~IVのがん罹患を用いるのは、一部のがん種については適切ではないことが、フランス・国際がん研究機関(IARC)のXiaoshuang Feng氏らによる検討で示された。StageIII~IVのがん罹患を代替評価項目として用いると、がんスクリーニング無作為化試験をより早期に終了できる可能性が示唆されていた。著者は、「今回の結果は、多がんスクリーニング検査の臨床試験に影響を及ぼすだろう」と述べている。JAMA誌オンライン版2024年4月7日号掲載の報告。介入群と比較群との間の減少率を評価 研究グループは、メタ解析およびシステマティックレビューにて、がんスクリーニング無作為化試験の評価項目としてのがん特異的死亡とStageIII~IVのがん罹患を比較した。 検討には、2024年2月19日までに出版された欧州、北米およびアジアで行われた41の無作為化試験の論文を包含した。介入群(がんスクリーニングに関する臨床試験でスクリーニング検査が実施された群)と比較群(がんスクリーニングに関する臨床試験の比較群)の参加者数、がん種、がん死者数のデータを抽出し、各臨床試験におけるスクリーニング効果について、がん特異的死亡およびStageIII~IVのがん罹患の介入群と比較群との間の減少率を算出して評価した。 評価項目としてのがん特異的死亡とStageIII~IVのがん罹患を、ピアソン相関係数(95%信頼区間[CI])、線形回帰および固定効果メタ解析を用いて比較した。減少率の相関関係、がん種によりばらつき 解析対象は、乳がん(6件)、大腸がん(11件)、肺がん(12件)、卵巣がん(4件)、前立腺がん(4件)およびその他のがん(4件)のスクリーニングの有益性を検討した無作為化試験であった。 がん特異的死亡とStageIII~IVがん罹患の減少率の相関関係は、がん種によってばらつきが認められた。 相関関係は、卵巣がん(ピアソン相関係数p=0.99[95%CI:0.51~1.00])、肺がん(p=0.92[0.72~0.98])で最も強く認められたが、乳がん(p=0.70[-0.26~0.96])は中程度であり、大腸がん(p=0.39[-0.27~0.80])、前立腺がん(p=-0.69[-0.99~0.81])では弱かった。 線形回帰スロープ(LRS)推定値は、卵巣がん1.15、肺がん0.75、大腸がん0.40、乳がん0.28、また前立腺がんは-3.58であり、StageIII~IVがん罹患の減少の大きさが、がん特異的死亡の発生に異なる大きさの変化をもたらすことが示唆された(不均一性のp=0.004)。

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エンパグリフロジン、急性心筋梗塞後には?/NEJM

 心不全リスクが高い急性心筋梗塞後の患者に対し、エンパグリフロジンによる治療はプラセボ治療との比較において、入院を要する初回心不全または全死因死亡リスクの有意な低下にはつながらなかった。米国・Baylor Scott and White Research InstituteのJaved Butler氏らが、無作為化プラセボ対照試験の結果を報告した。先行研究でエンパグリフロジンは、心不全を有する患者、心血管リスクの高い2型糖尿病患者、慢性腎臓病(CKD)患者において心血管アウトカムを改善することが示されていたが、急性心筋梗塞後の患者における安全性および有効性は不明であった。NEJM誌オンライン版2024年4月6日号掲載の報告。心不全による入院または全死因死亡の複合イベントを対プラセボで評価 本試験はevent-driven二重盲検法にて実施された。急性心筋梗塞を呈し入院中で心不全リスクの高い患者を、入院後14日以内に標準治療に加えてエンパグリフロジン10mg/日またはプラセボを投与する群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。なお、両群とも治験責任医師の判断により、非盲検下でエンパグリフロジンまたはほかのSGLT-2阻害薬への切り替えを可とした。 主要エンドポイントは心不全による入院または全死因死亡の複合で、time-to-first-event解析にて評価した。 2020年12月~2023年3月に、22ヵ国451施設で6,610例がスクリーニングを受け、6,522例(エンパグリフロジン群3,260例、プラセボ群3,262例)が無作為化された。 入院から無作為化までの期間中央値は5日(四分位範囲:3~8)。ベースラインにおける両群の患者特性は類似しており、65歳以上(患者の50.0%)、2型糖尿病(31.9%)、三枝冠動脈疾患(31.0%)の患者が多くみられた。約75%が無作為化時にST上昇型心筋梗塞(STEMI)を呈し、89.3%の患者に血行再建術が実施された。 エンパグリフロジン群で684例(21.2%)、プラセボ群で716例(22.2%)が死亡以外の理由で試験薬が中断された。試験期間中に436例(6.7%)が非盲検でSGLT2阻害薬の投与を開始した(エンパグリフロジン群201例[6.2%]、プラセボ群235例[7.2%])。 主要エンドポイントの発生について、6,328例(97.0%)を試験の最後まで追跡し、6,467例(99.2%)のバイタルデータを試験終了時に入手した。追跡期間中央値17.9ヵ月、ハザード比は0.90 追跡期間中央値17.9ヵ月において、心不全による初回入院または全死因死亡は、エンパグリフロジン群267例(8.2%)、プラセボ群298例(9.1%)で報告された。100患者年当たりのイベント数は、それぞれ5.9件と6.6件であった(ハザード比[HR]:0.90、95%信頼区間[CI]:0.76~1.06、p=0.21)。 主要エンドポイントの項目別にみると、心不全による初回入院は、エンパグリフロジン群118例(3.6%)、プラセボ群153例(4.7%)(HR:0.77、95%CI:0.60~0.98)、全死因死亡は、それぞれ169例(5.2%)、178例(5.5%)(0.96、0.78~1.19)であった。 有害事象は両群間で同程度に認められ、エンパグリフロジンの安全性プロファイルは既知のものと同様であった。

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時間制限食で心血管死リスク上昇?

 1日の中で食事を摂取する時間枠を短時間に制限する「時間制限食」によって、死亡リスクが上昇する可能性を示唆するデータが報告された。食事摂取時間枠を8時間未満に限定している人は、心血管死リスクがほぼ2倍に上るという。上海交通大学大学院(中国)のVictor Wenze Zhong氏らが、米国心臓協会(AHA)の生活習慣科学セッション(EPI-Lifestyle 2024、3月18~21日、シカゴ)で発表した。 時間制限食は、1日の中で4~12時間程度に制限した時間枠内であれば、カロリーを気にせず食事を取ってよいとする食事スタイル。その手軽さから人気が高まっており、また短期的には心血管代謝マーカーを改善するという報告もある。ただし、死亡というハードエンドポイントで評価した長期的な研究はなされていない。Zhong氏らは、2003~2018年の米国国民健康栄養調査(NHANES)のデータを利用してこの点を検討した。 24時間思い出し法による食事調査を2回受けて、2回とも標準的な食事摂取量だった20歳以上の成人2万78人(加重平均年齢48.5±0.3歳、男性50.0%)を中央値8.0年(四分位範囲4.2~11.8)追跡したところ、心血管死840人、がん死643人を含む全死亡2,797人が記録されていた。1日の中で食事摂取の時間枠が12~16時間である群(全体の58.9%)に比べて、8時間未満の群(同2.1%)は心血管死リスクが約9割高かった〔ハザード比(HR)1.91(95%信頼区間1.20~3.03)〕。全死亡リスクやがん死リスクは有意差がなかった。 ベースライン時点で心血管疾患の既往のあるサブグループ(8.2%)で比較した場合、食事摂取時間枠が8時間未満の群は12~16時間の群に比べて、心血管死リスクが2倍を超え〔HR2.07(同1.14~3.78)〕、また時間枠が8~10時間の群も6割以上ハイリスクだった〔HR1.66(1.03~2.67)〕。 研究者らは、「この結果には驚かされた。これまで時間制限食は、血圧や血糖値、コレステロール値などの、心臓の健康状態に関連する指標を改善する可能性が示されていたが、それらの研究とは正反対の結果である」と語っている。またZhong氏は、「食事時間枠を設けることと心血管死のリスク増加との関連性を認識することが極めて重要だ」とし、「われわれの研究結果は、人々に対する食事スタイルの推奨に際しては、より慎重かつ個人の健康状態や最新の科学的エビデンスに一致する、個別化されたアプローチを採用すべきであることを強調している」と付け加えている。 今回の研究では、食事摂取時間枠が12~16時間よりも短い場合、全死亡、心血管死、がん死のいずれについても、死亡リスクの低下は認められなかった。ただしZhong氏は、「この研究は、時間制限食と死亡リスクとの因果関係を証明可能なデザインでは行われていない。時間制限食が健康へ悪影響を及ぼす可能性と、その理由のより深い理解のため、さらなる研究が必要だ」と述べている。 本研究には関与していない米スタンフォード大学のChristopher Gardner氏は、「時間制限食を行っている人々の特徴についての解析が必要ではないか。例えば、体重、遺伝的素因、ストレスなどが、時間制限食を行っている人はそうでない人と異なる可能性がある」と指摘している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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CPRはいつまで続けるべきか? In-Hospital CPA レジストリからの報告(解説:香坂俊氏)

 レジストリデータとは臨床的なデータベースのうちで「特定の手技・手術や疾患イベント[診断確定や入院等]を起点として収集されるもの」と自分は考えていますが、本研究はこの特性をフルに活かした形で、心肺蘇生(CPR)に関する重要な情報の提供を行っています。研究の内容を非常に短く要約すると、「CPR開始から32分が経過すると神経学的に予後が良好な退院率は1%未満となり、39分が経過すると生存退院率そのものが1%未満となる」ということになりますが、この研究の長所としては、1. ランダム化を行いえない領域での研究である(例. 蘇生の現場で30分でCPRを止めるかどうかのランダム化など、倫理的にはほぼありえない)2. 特定のカットオフを追うのではなく、CPR実施時間と予後がLinearな関係であることを示したうえで、リーズナブルな閾値を提示した3. 比較的周辺の条件がそろっており、Onset(発症起点)なども同定しやすい「院内」のイベントのみを扱った ということになります。逆に短所としては、これも後ろ向き研究である以上避けることができないことではあるのですが、・CPR実施側に代表性バイアスが介在している可能性がある ということが挙げられるかと思います。つまり、いつまでCPRを続けるのかというのは、かなり「不確か」な状況で判断せざるを得ないことが多く、施行者側で単純なルールに収束させてしまっている可能性があります(例. その施設で20分というカットオフが暗黙のうちに設定されていたとすると、20分以降の蘇生成功率というのは過小評価されている可能性がでてくる)。 こうした限界はありますが、現場感覚としても冒頭に挙げたようなカットオフは多くの方が首肯される範囲内に入ってくるのではないでしょうか。32分や39分というのは絶対的なラインではありませんが、今後診療ガイドライン等で現場での「参考値」として取り入れられてくる可能性は高いのではないかと思われます。

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慢性腎臓病の入院抑制を意図した電子記録+診療推進者介入の効果は証明されず(解説:浦信行氏)

 慢性腎臓病(CKD)、2型糖尿病、高血圧は腎不全に至る3大疾患であるが、これらを合併した症例に1年間の電子記録+診療推進者介入が入院を減少させるかを、非盲検クラスター無作為化試験で検討した成績がNEJM誌に報告された。その結果は4月17日公開のジャーナル四天王に詳述されているが、主要アウトカムと副次アウトカムのいずれも通常ケア群に対して有意な効果を示さなかった。 結果は1年という比較的短期間の検討であることが影響した可能性は否定できない。加えて腎機能障害の程度もeGFRで49mL/min程度、HbA1cで7.5%前後、血圧は133/73mmHg前後といずれも比較的コントロールされており、また使用薬剤もRA系阻害薬が68%ほどの症例に使用されており、通常ケア群においても良好な治療がなされていることで差がつきにくかった要素もあると思われる。関与した診療推進者は看護師あるいは薬剤師であった点も介入の限界をうかがわせる。腎機能障害に対する運動療法の効果や栄養摂取バランスの効果も注目されるようになった昨今、介入者がリハビリ職や栄養士であればどうであったか。フレイルやサルコペニア、栄養バランスに介入する試みであれば、違った結果を見られたかもしれない。BMIは33と肥満者が多いが、サルコペニア肥満も機序は異なるが心血管疾患の有意なリスクである。 話は異なるが、腎不全に至る3大疾患としてこの対象を抽出しており、急性腎障害はいずれも10%以上と多いが、アウトカムとしての透析導入は0.6~0.7%と低値にとどまっていた。一方、心血管疾患は20%前後と比較的多く、これら3大疾患は心血管系の重要なリスクであることが改めて確認された。なお、退院後30日以内の再入院が37%と著明な高値であるが、米国とわが国の入院医療の基本的立ち位置の違いが顕著に現れたといえるであろう。

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孤食は高齢者の自殺リスク【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第255回

【第255回】孤食は高齢者の自殺リスクillustACより使用日本は比較的自殺が多い国であり、とくに高齢者の自殺が多いとされています。私は、独りで食事をすることはそんなに寂しいとは思いませんが、高齢になってくると、どうやら孤食は自殺のリスク要因になるようです。社会的孤立と高齢者の自殺リスクの関連を明らかにするため、日本の12の自治体に住む65歳以上の高齢者約4.6万人を対象に、7年間の追跡調査を行った大規模な前向きコホート研究を紹介しましょう。Saito M, et al.Social disconnection and suicide mortality among Japanese older adults: A seven-year follow-up study.Soc Sci Med. 2024 Mar 11;347:116778.この調査でわかったことは、孤食が自殺リスクを高めるということです。抑うつなどの交絡因子で調整しても、独りで食事をする高齢者は、誰かと一緒に食事をする高齢者と比べて、自殺リスクが2.81倍高いことが示されました(ハザード比:2.81、95%信頼区間:1.47~5.37)。社会的孤立の指標が重なるほど自殺リスクが上昇していき、複数項目が該当する孤立者は自殺リスクが非常に高いという結果になりました。このことから、日本では毎年約1,800人の高齢者が「孤食に関連した自殺」で亡くなっている可能性があると書かれています。社会のつながりが大事だよ、と言いながらも、お隣さんのことを気にかける人は減っており、マンションなどでは隣に誰が住んでいるか知らないこともある時代です。何か解決策があればよいのですが、SNSを使った試みや、体操・サロンなどの充実くらいしか思いつきません。ただ、「自宅に閉じこもっているほうが精神的にラクだ」と思っている人は、他者との関わりをそもそも持とうとしないので、根本的に行政などが解決策を講じることは難しいかもしれませんが…。

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第207回 消費者がいまだに不安抱える紅麴、医療者による適切な説明は?

小林製薬の紅麹サプリ問題はサプリそのものの服用者だけでなく、紅麹原料を染料に使う食品にまで不安が及んでいるのは周知のことだ。一部の食品会社では消費者からの問い合わせが殺到しているとも聞く。厚生労働省(以下、厚労省)は4月5日付1)で、小林製薬が紅麹原料を直接卸している52社、この当該企業52社などから小林製薬の紅麹原料を入手している173社の計225社について、健康被害の報告はないことを明らかにしている。しかし、やはり消費者の不安は尽きないようで、なぜか私個人にまで知人・友人から問い合わせがくる状況だ。先日はある医療従事者からまで「どう思う?」という連絡をもらった。実はこれらに対して私個人は「現時点ではこれ以上の健康被害が出る可能性は低いのではないか?」と回答している。なぜそう考えるかは過去2回、本連載(第205回、第206回)で触れた3月29日の小林製薬の記者会見で明らかにされた事実関係が「正しい」という前提に立って説明している。ある意味、性善説ではあるが、今はこれしか判断材料がないのが現実である。そこで記者会見で明らかにされた事実関係と、それをベースに私が“可能性が低い”と考える理由について、今回は述べておこうと思う。まず、問題になった紅麹原料について小林製薬が説明した製造過程は、米に水を加えて加熱をし、そこに紅麹菌を加えて培養する。培養終了時点で米、水、紅麹菌の混合物を再加熱し、それを粉砕してから一旦保管。この保管物は培養状態によって有効成分の含有量にバラツキがあるため、保管されたものを複数混合して濃度の均一化を図り、再度、加熱・殺菌し最終段階の紅麹原料が完成する。使う紅麹菌に関しては、親株と言われる菌株からその都度取り分けて培養しているという。この紅麹原料は、▽今回問題になった紅麹コレステヘルプなどに加工・販売(B to C:Business to Consumer)▽食品会社などへの出荷(B to B:Business to Business)、の2つの流通ルートに乗る。小林製薬によると、問題となっている2023年の製造分に関しては、紅麹菌の親株から2度取り分けて別々に培養してから紅麹原料の製造に使用。このうち一方をA株、もう一方をB株と仮定すると、A株からはB to Cが13ロット、B to Bが21ロットの合計34ロット、B株からはB to Bのみ54ロットの紅麹原料がそれぞれ製造され、全ロットのサンプルが残っており、小林製薬側では全サンプルの検査を終了した。この結果、A株のB to Cで4ロット、B to Bで6ロットからプベルル酸と思しき異常な物質が検出されたものの、B株では全サンプルから異常な物質は確認されなかったとしている。これらから、A株で製造された紅麹原料で問題が発生したことは一目瞭然といえる。つまり食品会社などへの販売用だったものはA株由来、B株由来が合計75ロットで、そのうちプベルル酸と思しきものが含まれていたのは6ロットと全体の12分の1未満に過ぎない。さてここで「6ロットもあるのだから健康被害が出る可能性は現時点では低いとは言えないのでは?」という意見もあるだろう。これについては(1)製品の性格上、サプリメントは原料を濃縮するため、有害物質が含まれていた場合はそれらも濃縮される恐れがある/食品用はごく一部を添加するため、含まれる紅麹原料は相対的にサプリメントよりも微量、(2)サプリメントの場合は健康状態の改善を期待して毎日摂取される可能性が高い/一般食品の場合は毎日食べ続ける食品はごく一部、で説明できる。現在、小林製薬から紅麹原料を購入して製品に使っていた食品会社などは、製品の自主回収を進めている。これは厚労省が平成16年に創設した「食品等の自主回収報告制度」に基づくもので、これら企業とその製品は厚労省のHPに一覧が掲載されている。これを見るとわかる通り、主な用途は食品の着色料としてで、毎日必ず摂取する可能性のある食品は少ない。ただし、よく見ると、味噌など食事に毎日使う可能性があるものも含まれている。これについての答えはまさに(1)となる。また、前述の一覧を見るとわかるが、そこには、健康への危険性の程度を示す「CLASS分類」が付記されている。それを見ると、ここに記載された一般食品について、行政側はすべてが「CLASSII(喫食により重篤な健康被害又は死亡の原因となり得る可能性が低い場合)」あるいは「CLASSIII(喫食により健康被害の可能性が、ほとんど無い場合)」と評価している。これはまさに(1)が理由と考えられる。もちろんこの解釈の仕方には異議もあるかもしれない。だが、順当に考えるならばこうなるのではないだろうか。今回の一件、ともすると紅麹全体が悪のように考えられてしまいがちだが、小林製薬以外で製造されている紅麹では今のところ何も問題は指摘されていない。少なくとも私はこれらの点から「紅麹」という言葉を一括りにして過度に警戒しすぎるのは考えものと思っている。参考1)厚生労働省:小林製薬社製の紅麹を含む食品に係る確認結果について(令和6年4月5日)

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原因がわからなかったときに納得してもらうためには?【もったいない患者対応】第4回

原因がわからなかったときに納得してもらうためには?登場人物<今回の症例>30代男性2日前からの右下腹部痛を主訴に外来受診右下腹部に圧痛を認めるも、腹膜刺激兆候はなし<腹部造影CTでも、痛みの原因となりうる病変が認められませんでした>先生、いかがでしょうか?CT検査ではとくに異常はありません。そうですか…。じゃあこのお腹の痛みは何なんでしょうか?検査では異常はないので、何の痛みかははっきりしませんね。でもこんなに痛いんですよ。原因は何かあるんじゃないですか?CTでは何もないので、原因は不明ですね。大丈夫ですよ、緊急性はないので、まずは痛み止めで様子を見てみましょう。そうですか…。【POINT】右下腹部痛を訴える患者さんに、唐廻先生は腹部造影 CT で精査しましたが、異常所見は見当たりませんでした。痛みの原因がはっきりしないことを伝えたところ、どうやら患者さんは納得できない様子です。最後のセリフはもしかすると、「この先生は腹痛の原因を見つけてくれなかった。原因不明なのに薬だけ出された。頼りにならないから他の病院に行こう」という意味かもしれません。患者さんは「原因」が知りたくて受診する私たち医師は、患者さんの症状の原因が、診察や検査によって明らかにならないケースがしばしばあることに “慣れっこ”になっています。人間の体は複雑系ですから、痛みやつらさの原因がいつもクリアにわかるわけではありません。むしろ、「原因ははっきりしないが、緊急性はないので経過観察が可能である」という判断をする場面のほうが多いはずです。ところが、患者さんはこういう考え方には慣れていません。「腕の良い名医が診察すれば、あるいはしっかり精密検査をすれば、症状の原因は明らかになるものだ」と考えたり、「治療するなら症状の原因を明らかにし、その原因を取り除けるような対応策を提案してほしい」と考えたりする人も多いはずです。医師は原因がはっきりしなくても、「経過観察が可能である」「緊急性はない」「即座の治療介入は不要である」という事態をポジティブに捉えられますが、患者さん側は「自分の体に起こった異変の原因は不明なまま」とネガティブに捉えてしまいます。「他の医師なら原因を突き止めてくれるかもしれない」という思いで、別の医療機関を受診するかもしれません。こうした感情が、ドクターショッピングの原因になっている人もいます。いま考えられる「原因の可能性」を伝える「原因不明だ」という突き放した説明では、患者さんは納得しない可能性が高いでしょう。そこで、はっきりした原因はわからなくとも、医学的に考えうる可能性をいくつか提示するのが望ましいと考えます。「症状の原因として複数の可能性が浮上しているが、いずれも決め手がない」という方向性で説明するわけです。今後起こりうる「経過の可能性」を伝えるさらに、「いまは原因がはっきりしなくても、数日経って症状が変化してくれば、その時点で原因が明らかになる可能性もある」という点を伝えることも大切です。なぜなら、自院での診療に満足できなかった患者さんが他の病院を受診した時点で原因が明らかになると、ますます自院での診療クオリティに疑念を抱かれ、患者さんとの信頼関係が完全に崩れるおそれがあるためです。たとえば今回のケースで、もし他の病院で「虫垂炎」だと診断され、重症化してからの手術になって合併症を起こしたとしたらどうでしょう。場合によっては、「原因不明」だと言い放った唐廻先生が誤診したとして、訴訟問題に発展するおそれもあります。「原因不明」は、医師-患者間のコミュニケーションエラーの温床です。慎重な説明を心がけましょう。これでワンランクアップ!先生、いかがでしょうか?CT検査ではとくに異常はないようです。そうですか…。じゃあこのお腹の痛みは何なんでしょうか?右下腹部には、大腸や小腸、虫垂など、さまざまな臓器があります。たとえば、「憩室」という腸の壁にある窪みが炎症を起こす憩室炎や、いわゆる盲腸(虫垂炎)では、こういう痛みを生じることがあります※1。もしかすると、こういう炎症がわずかに起き始めていて、検査ではまだ捉えられない段階なのかもしれません※2。あるいは、腸が蠕動するときに起こる「蠕動痛」とよばれる痛みの可能性もありますね。それならしばらく何もせず様子を見ても大丈夫でしょう※3。さまざまな可能性が考えられますが、現時点では「これが原因だ」とははっきり言えない段階ですね※4。※1:まずは、いま考えられる可能性を伝える。※2:今後わかるかもしれない、という伝え方もよい。※3:経過観察でも大丈夫な場合があることを伝えると、より不安は和らぐ。※4:診断のプロセスをみせると納得してもらいやすい。なるほど、いろんな可能性があるわけですね。でも、本当に放置して大丈夫でしょうか?まずは痛み止めで様子を見てみましょう。それでも痛みが悪化するようなら※5、その時点でもう一度診察させていただく必要があります。そこで初めて異常が捉えられる可能性もありますからね※6。※5:再診の目安は必ず伝える※6:「経過の可能性」を伝える。

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大腸がん患者の死亡リスクが高くなる超加工食品は?

 大腸がんと診断された後の超加工食品摂取量と死亡率を調査した前向きコホート研究によって、アイスクリーム/シャーベットの摂取量が多いほど大腸がんによる死亡リスクが高く、超加工食品全体および油脂/調味料/ソースの摂取量が多いほど心血管疾患(CVD)による死亡リスクが高いことを、中国・南京医科大学のDong Hang氏らが明らかにした。eClinicalMedicine誌2024年3月号掲載の報告。 これまでの研究により、超加工食品の摂取が多い男性では大腸がんの発症リスクが約30%高いことが報告されている1)。しかし、大腸がんと診断された後の超加工食品摂取が大腸がんの予後にどのような影響を与えるかはまだ解明されていない。そこで研究グループは、米国のNurses’ Health Study(NHS)に参加した35~55歳の女性看護師と、Health Professionals Follow-Up Study(HPFS)に参加した40~75歳の男性医療者のデータを用いた前向きコホート研究を行った。 解析対象は、1980~2016年にStageI~IIIの大腸がんと診断された2,498例(NHS:1,764例、HPFS:734例)であった。約130品目の食物や飲料の摂取頻度の調査票から、診断後6ヵ月以上(積極的な治療期間を除外するため)4年未満における超加工食品の全体およびサブグループの摂取量(1食分として食べる量:サービング)を推定した。追跡調査は隔年に行われた。交絡因子で調整した逆確率重み付け法によるCoxモデルを用いて、超加工食品摂取に関連する全死因死亡率、大腸がんによる死亡率、CVDによる死亡率のハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)を推定した。 主な結果は以下のとおり。・大腸がん診断時の患者の平均年齢は68.5(SD 9.4)歳であった。追跡調査期間中央値11.0年で1,661例が死亡し、そのうち大腸がんによる死亡は321例(19.3%)、CVDによる死亡は335例(20.2%)であった。・診断後の超加工食品全体の摂取量の中央値は6.0(四分位範囲:4.6~7.8)サービング/日であった。摂取量の多かったサブグループは、超加工パン/朝食用食品(27%)、油脂/調味料/ソース(24%)、スナック菓子/デザート(17%)であった。・超加工食品の総摂取量が最も少ない五分位(中央値:3.6サービング/日)と比較して、最も多い五分位(中央値:10サービング/日)では、CVDによる死亡リスクが高かった(HR:1.65、95%CI:1.13~2.40、p for trend=0.01)。大腸がんによる死亡と全死因死亡では有意な関連はみられなかった。・超加工食品のサブグループ間では、アイスクリーム/シャーベットの摂取量が最も多い五分位では、大腸がんによる死亡リスクが高かった(HR:1.86、95%CI:1.33~2.61、p for trend=0.02)。・油脂/調味料/ソースの摂取量が最も多い五分位では、CVDによる死亡リスクが高かった(HR:1.96、95%CI:1.41~2.73、p for trend=0.001)。・超加工食品のサブグループと全死因死亡との間に有意な関連性はみられなかった。

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進行肺がん、初診から治療までの待機期間が治療効果に影響/日本呼吸器学会

 肺がん治療において、初診から治療開始までの時間が長くなるほど悪液質の発症率は増加し、さらに悪液質があると治療効果が低下すると示唆された。 悪液質は進行がんの50〜80%に合併し、がん死亡の20〜30%を占める予後不良な病態であるため、早期からの介入が重要である。肺がんでは、治療が進化する一方、病期診断、病理学的診断に加え、遺伝子変異の有無やPD-L1の発現率などの専門的検査が必要となり、初診から確定診断・治療開始までに一定の期間が必要となる。 この初診から治療開始までの待機期間に全身状態が悪化し、抗がん剤治療の導入自体ができなくなる例がある。また、治療導入できても悪液質に陥った状態で化学療法を開始した患者では、初回治療の効果が不良となりやすい。関西医科大学の勝島 詩恵氏は、初診から治療開始間に起きる身体機能変化、がん悪液質の発生について、第64回日本呼吸器学会学術講演会で発表した。 主な結果は以下のとおり。・初診から治療開始までの期間中央値は、手術症例37.0日、化学療法症例42.5日であった。・初診時と治療開始時の身体機能の変化はBMI(p=0.001)、握力(p=0.009)、MNA-SF(Mini Nutritional Assessment-Short Form)精神ストレススコア(p=0.001)と有意に相関していた。・初診から治療開始までの期間中央値を基準に早期群と遅延群で悪液質発症率を評価すると、早期群では初診時61%、治療開始時61%と変化がなかった。一方、遅延群では初診時37%、治療開始時87%と悪液質の発生が増加していた。・病期別で悪液質発症率を評価すると、StageI~IIIAでは初診時と治療開始時で変化はなかった一方、StageIIIB/CとIVでは治療開始時に悪液質発症が増えた。とくにStageIVでは初診時から治療開始時のあいだに新規に悪液質発症が有意に増加していた(8例→16例、p=0.008)。・悪液質発症の有無と治療効果を評価すると、病勢制御率(DCR)は悪液質あり群66.7%、なし群100%、初回治療完遂率は悪液質あり群58.3%、悪液質なし群では100%であった。 進行期の肺がん患者においては、初診から確定診断・治療までの待機時間は長く1ヵ月を超える。この期間に悪液質を発症した結果、初回治療の機会さえ失ってしまう症例がある。たとえ治療導入ができても、この待期期間中に身体機能が落ち、悪液質の状態となっていると初回化学療法の効果が劣ることが示唆された。 勝島氏は「よりよい治療選択のための精査にかかる時間は、初回治療導入のチャンスを失うリスク、身体機能低下のリスク、治療効果を下げるリスクを抱える。悪液質に対する真の『早期』からの介入とは、化学療法開始時ではなく、さらに前の初診時なのかもしれない。今後、悪液質に対する適切な介入時期についても検討していきたい」と述べた。

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ALK陽性非小細胞肺がんの術後補助療法、アレクチニブvs.化学療法/NEJM

 切除可能なStageIB~IIIAのALK融合遺伝子陽性非小細胞肺がん(NSCLC)の術後補助療法として、アレクチニブはプラチナ製剤ベースの化学療法と比較し無病生存期間(DFS)を有意に改善した。中国・南方医科大学のYi-Long Wu氏らALINA Investigatorsが、日本を含む26ヵ国の113施設で実施した国際共同無作為化非盲検第III相試験「ALINA試験」の結果を報告した。切除可能なALK融合遺伝子陽性NSCLC患者の術後補助療法はプラチナ製剤ベースの化学療法が標準治療であるが、化学療法と比較したアレクチニブの有効性および安全性についてはデータが不足していた。NEJM誌2024年4月11日号掲載の報告。StageIB~IIIAのALK融合遺伝子陽性NSCLC患者が対象、DFSを比較 研究グループは、18歳以上で抗がん剤による全身療法歴のない切除可能なStageIB(腫瘍≧4cm)、II、またはIIIA(UICC/AJCC第7版に基づく)のALK融合遺伝子陽性NSCLC患者を、アレクチニブ群(600mgを1日2回、24ヵ月間または再発・容認できない毒性発現まで経口投与)またはプラチナ製剤ベースの化学療法群(1サイクル21日として最大4サイクル静脈内投与)に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要評価項目はDFS、副次評価項目は全生存期間(OS)と安全性で、探索的評価項目は中枢神経系のDFS(CNS-DFS)などとした。DFSの解析には事前に規定した階層的手順を用い、まずStageII~IIIAの患者集団で有意差が認められた場合にITT集団で解析した。 本試験は、事前に計画され独立データモニタリング委員会により実施された中間解析(StageII~IIIAの患者でDFSイベントが予定の67%発生した時点で実施)において、統計学的に有意な結果が得られたことから、本報告となった。2年DFS率、アレクチニブ93.8%、化学療法群63.0% 2018年8月~2021年12月に、計257例がアレクチニブ群(130例)または化学療法群(127例)に無作為に割り付けられた。手術から無作為化までの期間中央値は1.7ヵ月で、データカットオフ日(2023年6月26日)時点で、アレクチニブ群の20.3%が治療を受けていた。 2年DFS率は、StageII~IIIA集団において、アレクチニブ群93.8%、化学療法群63.0%(再発または死亡のハザード比[HR]:0.24、95%信頼区間[CI]:0.13~0.45、p<0.001)、ITT集団においてはそれぞれ93.6%、63.7%であった(HR:0.24、95%CI:0.13~0.43、p<0.001)。 CNS-DFSについても、アレクチニブは化学療法と比較して臨床的に意義のある改善を示した(HR:0.22、95%CI:0.08~0.58)。 OSは、イベントの発生がアレクチニブ群2例、化学療法群4例であり、データとして未成熟(immature)であった。 安全性については、予期しない所見は確認されなかった。 なお、著者は研究の限界として、非盲検試験であること、再発後の治療の選択肢は治験責任医師の裁量であること、分子標的薬を用いた術後補助療法の最適な時期や期間については確立されていないことなどを挙げている。

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多枝病変のSTEMI、FFRガイド下完全血行再建か責任病変のみPCIか/NEJM

 多枝病変を有するST上昇型心筋梗塞(STEMI)または超高リスクの非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)患者において、追跡期間4.8年時点の全死因死亡、心筋梗塞または予定外の血行再建術の複合リスクは、血流予備量比(FFR)ガイド下完全血行再建術と責任病変のみの経皮的冠動脈インターベンション(PCI)で差は認められなかった。スウェーデン・カロリンスカ研究所のFelix Bohm氏らが、スウェーデン、デンマーク、セルビア、フィンランド、ラトビア、オーストラリア、ニュージーランドの7ヵ国32施設で実施した無作為化試験「FFR-Guidance for Complete Nonculprit Revascularization trial:FULL REVASC試験」の結果を報告した。多枝病変を有するMI患者およびSTEMI患者におけるFFRガイド下完全血行再建術の有益性は明らかになっていなかった。NEJM誌オンライン版2024年4月8日号掲載の報告。計1,542例を責任病変に対する初回PCI成功後に無作為化 研究グループは、責任病変へのPCIが予定された多枝病変を有するSTEMI患者、または超高リスクのNSTEMIで多枝病変を有し緊急PCIを受けた患者を、責任病変に対する初回PCI成功後6時間以内に、入院期間中FFRガイド下完全血行再建術を施行する群、または入院期間中はそれ以上の血行再建術を行わない(責任病変のみのPCI)群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、全死因死亡、心筋梗塞または予定外の血行再建術の複合とした。また、全死因死亡または心筋梗塞の複合、ならびに予定外の血行再建術を、重要な副次アウトカムとした。 2016年8月8日~2019年9月11日の間に、計1,542例が無作為化され、764例がFFRガイド下完全血行再建術群に、778例が責任病変のみのPCI群に割り付けられた。各患者の最終追跡調査日は2023年4月15日~7月17日であった。複合イベント発生19.0% vs.20.4%、有意差認められず 追跡期間中央値4.8年(四分位範囲[IQR]:4.3~5.2)において、主要アウトカムの複合イベントは、FFRガイド下完全血行再建術群で145例(19.0%)、責任病変のみPCI群で159例(20.4%)に発生した(ハザード比[HR]:0.93、95%信頼区間[CI]:0.74~1.17、p=0.53)。 重要な副次アウトカムについても、全死因死亡または心筋梗塞の複合(HR:1.12、95%CI:0.87~1.44)、予定外の血行再建術(0.76、0.56~1.04)のいずれも両群間で有意差は認められなかった。 安全性について、造影剤に関連した急性腎障害と神経学的合併症に関しては、グループ間に明らかな差は認められなかった。また、全追跡期間中、脳卒中、大出血、心不全による再入院の発生率に明らかな群間差はみられなかった。 なお本試験は、COMPLETE試験(ジャーナル四天王「STEMI合併多枝冠動脈疾患、完全血行再建術は有効か/NEJM」)の結果が2019年9月に発表された後、実行可能性と倫理的な理由から患者の登録が中止されている。当初の重要な副次アウトカムが主要アウトカムに変更され、追跡期間1年以降に発生したイベントは主要解析に含まれた。

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親を見れば自分の肥満リスクが分かる

 中年期に太ることを心配している人は、両親がその頃にどうだったかを確認してみてほしい。新たな研究で、両親が中年期に肥満だった場合、その子どもも中年期に肥満になる可能性は、両親が正常体重だった場合に比べて6倍高く、また両親のどちらかが中年期に肥満だった場合でも、子どもが中年期に肥満になる可能性は3倍以上高いことが示された。ノルウェー北極大学地域医療学のMari Mikkelsen氏らによるこの研究結果は、欧州肥満学会(ECO 2024、5月12~15日、イタリア・ベネチア)で発表される。 Mikkelsen氏は、「この研究結果は、小児期の肥満と親の体重との間に確立された関連が、子どもが年齢を重ねても消失しないことを示したものだ」と言う。同氏は、「小児期、特に思春期の肥満は早期成人期まで続く傾向があるため、われわれは、中年期になっても肥満の状態が続くのではないかと推測していた」と学会のニュースリリースの中で説明し、「今回の研究により、その推測が正しかったことが分かった。肥満の親を持つ子どもは、親元から独立して長い年月が経過し、中年期になったときに肥満である可能性が極めて高いことが明らかになったのだ」と付け加えた。 この研究でMikkelsen氏らは、ノルウェーの一般住民を対象とした進行中の健康調査プロジェクトであるトロムソ研究に参加した2,068組の親子の健康データを分析した。子どもは、トロムソ研究の第7次調査(2015~2016年)への参加者で、その時点での年齢は40~59歳だった。一方親は、40~59歳の頃に第4次調査(1994~1995年)に参加していた。肥満の基準はBMI 30以上とした。 その結果、親のBMIが子どものBMIに直接影響することが明らかになった。母親と父親のBMIが1標準偏差上昇するごとに子どものBMIはそれぞれ、0.8単位と0.74単位上昇した。また、両親が肥満ではなかった子どもと比べて、母親が中年期に肥満であった場合、子どもが中年期に肥満になるオッズ比は3.44(95%信頼区間2.31〜5.11)、父親が中年期に肥満であった場合、子どもが中年期に肥満になるオッズ比は3.74(同2.54〜5.50)、両親ともに肥満だった場合、子どもが中年期に肥満になるオッズ比は同6.01(同2.85〜12.66)になることも示された。 Mikkelsen氏は、遺伝的要因と環境要因が組み合わさることで、親の体重が子どものその後の体重に影響を及ぼしているのではないかとの見方を示している。同氏は、「遺伝子は、体重の増えやすさに影響するとともに、不健康な食生活など肥満を促す環境への対応の仕方にも影響するため、重要な役割を果たしている」と言う。 またMikkelsen氏は、「同じ屋根の下で一緒に暮らしていると、子どもは親と同じような食生活や運動習慣を身に付ける傾向があり、その結果としてBMIも似てくると推測する研究もある」と付け加えている。その上で、「今後の研究で体重に影響を与える明確な要因を特定し、そのリスクを軽減できるかどうかを調べる必要がある」と話している。 なお、学会発表された研究は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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カルシウムとビタミンDの摂取は閉経後女性の全死亡リスクに影響せず

 慢性疾患の予防効果を目的にカルシウムとビタミンDを摂取している更年期の女性をがっかりさせる研究結果が報告された。閉経後女性の慢性疾患の予防戦略に焦点を当てた「女性の健康イニシアチブ(Women's Health Initiative;WHI)」のデータを事後解析した結果、カルシウムとビタミンDの摂取により、閉経後女性のがんによる死亡リスクは7%低下するものの、心血管疾患による死亡リスクは6%上昇するため、全死亡に対する正味の効果はないことが明らかになった。米アリゾナ大学健康推進科学分野教授のCynthia Thomson氏らによるこの研究の詳細は、「Annals of Internal Medicine」に3月12日に掲載された。 骨の健康を守るために、長年にわたってカルシウムとビタミンDを摂取している閉経後女性は少なくない。しかし、致死的な心疾患やがんなどの慢性疾患に対するこれらの栄養素の予防効果については明確になっていない。 1991年に米国立衛生研究所(NIH)により開始されたWHIは、数十年にわたって閉経後女性の健康を追跡してきた大規模研究で、数万人の女性が登録されている。今回の研究テーマである、閉経後女性でのカルシウムとビタミンDの摂取効果については、2006年に初めて、7年間の追跡データの解析結果が報告されていた。研究グループによると、その結果は「ほとんど効果なし」というものだった。 今回の研究では、長期追跡データを解析することでこの結果に変化が認められるのかどうかが調査された。対象は、3万6,283人の閉経後女性で、乳がんや大腸がんの既往がある者は含まれていなかった。女性は、1日1,000mgの炭酸カルシウム(カルシウム含有量としては400mg)と400IUのビタミンD3を摂取する群(CaD群)とプラセボを摂取する群(プラセボ群)に1対1の割合でランダムに割り付けられていた。 その結果、累積追跡期間中央値22.3年の経過後にCaD群で1,817人、プラセボ群で1,943人ががんにより死亡しており、前者では後者に比べてがんによる死亡リスクが7%低下することが示された(ハザード比0.93、95%信頼区間0.87〜0.99)。一方、心血管疾患による死亡については、CaD群では7,834人、プラセボ群では7,748人が確認されており、前者では後者に比べて死亡リスクが6%高いことが示された(同1.06、1.01〜1.12)。それゆえ、死亡リスクという点でカルシウムとビタミンD摂取の有益性は確認されなかった。 Thomson氏は、「カルシウムサプリメントの摂取が冠動脈の石灰化を促し、心血管疾患による死亡リスクを増加させる可能性は考えられる」との見方を示している。 研究グループはこの研究の結論として、「閉経後女性を20年以上追跡した調査の解析結果に基づくと、カルシウムとビタミンDの摂取は、がんによる死亡リスクを低減する一方で心血管疾患による死亡リスクを増大させ、結果的に全死亡リスクには影響を及ぼさないことが明らかになった」と述べている。

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特殊なMRIが治療抵抗性統合失調症の予測に有用か

 特殊な脳スキャンによって、精神病患者が治療に反応しない(治療抵抗性)統合失調症に移行するかどうかを正確に予測できる可能性があるとする研究結果を、アムステルダム大学(オランダ)のMarieke van der Pluijm氏らが、「The American Journal of Psychiatry」に3月13日報告した。 この脳スキャンは、中枢神経系のニューロメラニンと呼ばれる色素を測定するもので、ニューロメラニン感受性(neuromelanin-sensitive)MRI(NM-MRI)と呼ばれる。この色素を視覚的に示すことで、ドーパミンの機能レベルを知ることができる。ドーパミンは脳の報酬系から分泌される神経伝達物質の一つで、やる気や幸福感、運動調節に関わっている。そのため、ドーパミンの分泌過多は精神病に付随する攻撃性や衝動制御の低下をもたらす可能性がある。 研究グループは、「治療抵抗性の統合失調症患者を早期に見つけ出し、そうした患者に対する有効性が証明されている唯一の抗精神病薬であるクロザピンによる治療のタイムリーな開始を促すためのマーカーが喫緊に必要とされている」と述べている。治療に反応しない統合失調症患者では、治療してもドーパミン機能が増強しない。研究グループは、「このことは、NM-MRIによるニューロメラニンの評価(ドーパミン機能の指標)が、治療抵抗性の患者を早期に発見するためのマーカーとなる可能性のあることを示唆している」と述べている。 今回の研究では、初回精神病(統合失調症)エピソードを有する患者79人と、これらの患者とマッチさせた健康な対照20人にNM-MRIスキャンを実施した。また、その6カ月後の追跡調査時に治療応答性の評価を行った。抗精神病薬を2回使用後も、妄想、幻覚、異常な姿勢、異常な思考の五つの領域のいずれかに中等度または高度の症状が認められた場合、一種類の抗精神病薬で効果が認められなかったか重篤な副作用が生じた場合、あるいは追跡調査中にクロザピンに変更された場合は、「非応答」と見なされた。 その結果、ベースラインのNM-MRIでは、15人の非応答者で、ドーパミンニューロンが豊富な脳領域(黒質)の信号が有意に低いことが明らかになった。また、ニューロメラニンの評価に基づくことで、どの患者が治療に反応するかを最大68%の精度で予測できると推定された。追跡調査を受けた治療応答者28人と非応答者9人では、6カ月間の間にNM-MRIの信号強度に変化は認められなかった。 研究グループは、「本研究により、NM-MRIが統合失調症患者における治療抵抗性の非侵襲的マーカーとして早期から有用であることが示唆された」と結論付けている。その上で、「最終的には、適切な予測モデルによって統合失調症における治療抵抗性を早期に同定することが可能となり、それによって効果的な治療が遅れる患者の数を大幅に減らし、転帰を改善することができるようになるだろう」との見通しを示している。

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