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枕の高さが緑内障患者の夜間眼圧に影響か

 就寝時の簡単な工夫が、緑内障の進行を遅らせるのに役立つかもしれない。新たな研究で、枕を使わずに寝ることで眼圧を下げられる可能性のあることが示された。緑内障では、眼圧の上昇によって視神経が損傷し、不可逆的な視力低下につながる恐れがある。研究では、枕を二つ重ねて使った患者の3分の2で、眼圧の上昇が確認されたという。浙江大学(中国)医学院附属第二病院眼科センターのKaijun Wang氏らによるこの研究結果は、「British Journal of Ophthalmology」に1月27日掲載された。研究グループは、「緑内障患者にとって、枕を使わずに寝ることは、薬物治療やレーザー治療に移行する前に試せる手軽な対策になり得る」と述べている。 米国眼科学会によれば、緑内障は60歳以上での失明の主要な原因の一つである。Wang氏は、「夜間の眼圧管理は通常、点眼薬の種類や使用頻度を増やすか、レーザー治療を追加することに限られている。こうした状況の中、非薬物的な補助的アプローチによって、夜間の眼圧管理に実用的な解決策を提供することは可能だろうかという興味深い疑問が生じた」と話す。 枕を重ねると首の位置が変わり、頸静脈が圧迫され、その結果、眼内の液体(房水)の自然な排出が妨げられる可能性があると研究グループは指摘する。今回の研究では、144人の緑内障患者を対象に、一晩、枕を二つ使って頭を20〜35度持ち上げる高さにして寝た場合(高枕位)と、枕を使わずに寝た場合(仰臥位)で過ごしてもらい、それぞれの姿勢で眼圧を測定した。仰臥位と高枕位の両方で、4セットずつの完全な測定が行われた。 その結果、高枕位では仰臥位と比較して、眼圧が有意に高くなり(17.42±4.34mmHg対16.62±3.81mmHg、P<0.001)、24時間眼圧変動幅が有意に増加し(2.60mmHg対2.26mmHg、P<0.001)、眼灌流圧(眼球組織に血液を供給する力を示す指標で、眼圧と動脈圧の差で表される)が有意に低下する(54.57±8.19mmHg対58.71±8.02mmHg、P<0.001)ことが示された。 こうした結果を受けて研究グループは、「仰臥位と比較すると、高枕位の姿勢は眼圧の上昇と眼灌流圧の低下を引き起こし、長期的な眼圧管理に悪影響を及ぼす可能性がある。緑内障患者は、寝る際に頸静脈を圧迫して眼圧を上昇させるような姿勢にならないようにすることで、利益を得られる可能性がある。このような行動上の工夫は、長期的な眼圧管理を最適化するための、シンプルで効果的な補助戦略となり得る」と結論付けている。

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一過性受容体電位カチオンチャネルサブファミリーCメンバー6(TRPC6)の阻害は筋ジストロフィーのみならず巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)の治療にも有効(解説:浦信行氏)

 FSGSは糸球体の一部に硬化が見られる疾患でネフローゼ症候群を示す。難治性であり、腎生存率は10年では85.3%、20年では33.5%となり、3人に1人が末期腎不全となって腎臓を失う。日本における患者数は約7,000人と推定されているが、現在FSGSに対する特異的な治療法はない。しかし、最近病態の一部が明らかにされ、TRPC6が注目されている。 これの経口阻害薬であるBI 764198の第II相試験の結果が報告され、約40%の症例で尿蛋白が25%以上の減少を示した。その詳細は本年2月5日配信のCareNet.comに紹介されているので参照されたい。FSGSの病態の一部はTRPC6が上昇してポドサイトの細胞内Caが上昇し、ポドサイトが糸球体基底膜から脱落してポドサイトの減少を招き、糸球体の瘢痕化と尿蛋白漏出を招く。この病態に対応するものがTRPC6阻害薬で、詳細は省くがデュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療薬としても注目されている。マウスを用いた腎の基礎研究においてTRPC6阻害は炎症細胞、内皮細胞、線維芽細胞の転写プログラムを変化させることが機序の一部と考えられている。この試験では忍容性は良好で、有害事象の頻度はプラセボ群と差はなかったとのことである。しかし、実薬投与46例中ECGでのQT延長と水晶体混濁が各々1例あったことがやや気になる。

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追悼! 落合信彦【Dr. 中島の 新・徒然草】(620)

六百二十の段 追悼! 落合信彦急に暖かくなりました。先日の天皇誕生日には、山梨県や和歌山県では気温25度以上の夏日になったのだとか。うっかりコートを着て外に出たら、汗だくになってしまいます。さて、作家の落合 信彦氏が2026年2月初旬に亡くなっていました。むしろ、メディアアーティストの落合 陽一氏のお父上と表現したほうがわかりやすいかもしれません。以下、敬称を略させていただきます。また記憶に頼って書くので、細部に間違いがあるかもしれません。ご了承いただくようお願いいたします。落合 信彦は1980年代に大活躍した国際政治ジャーナリストで、私くらいの年代の人間には強烈なインパクトを与えました。1つはその作品です。『モサド、その真実』『傭兵部隊』『アメリカよ! あめりかよ!』など。モサドは言うまでもなくイスラエルの諜報機関ですが、当時は誰も知りませんでした。が、彼はこの諜報機関を描いた小説の中で、モサドの関わった事件や、その裏話を余すことなく語っています。『傭兵部隊』のほうは、実際に落合が傭兵たちの中に入り込んで、訓練を受けたり取材したりした結果をノンフィクションにしたもの。いずれも組織の中の個人個人が持っている物語に焦点を当てた話で、私なんかは感情移入しっぱなしでした。もう1つは辛口生ビール「アサヒスーパードライ」のCMキャラクターです。国際政治ジャーナリストを名乗るエネルギッシュな落合は商品イメージにぴったりで、語呂の良さも相まって、ビールを飲まない人でも「アサヒスーパードライ」の名前だけは知っているというくらい大ヒットしました。で、ここからが秘話。実は私、落合 信彦の講演を聴きに行ったことがあるのです。確か1988年の夏、場所は上本町六丁目にあったホテル。ホテルでの講演会らしく軽食が出たのですが、司会の女性が「もちろん、ビールはアサヒスーパードライです!」と紹介していたのが印象に残っています。講演の中身ですが、落合 信彦が熱く語っていたのが、アメリカでの大統領選の取材結果。本選を争ったのは、共和党のジョージ・H. W. ブッシュ(いわゆる父ブッシュ)と民主党のマイケル・デュカキスでした。「ブッシュはね、ウィンピー・ブッシュ(弱虫ブッシュ)などと揶揄されていますが、そんなことはありません。第2次世界大戦で日本軍と戦っている時に撃墜され、何時間も泳いで生還した人なんだから」「黒人の人たちは民主党支持だと思われがちだけど、共和党支持者もたくさんいますよ。なんといっても、奴隷解放を果たしたエイブラハム・リンカーンは共和党ですからね」聴いているこちらは共和党だ民主党だと言われてもイメージすら湧かないのに、ブッシュやデュカキスをまるで知り合いのように語る落合 信彦に、すっかり心を掴まれました。なんといってもカッコ良かったのは、講演の終わった瞬間。「何かを成し遂げようと思ったら、人よりたくさん食べ、多くの人に会いなさい。それが成功の秘訣だ!」そう言い切ってマイクを置いた落合 信彦は、そのまま大股で舞台袖に去ったのです。質問を受けるとか、そういうことは一切なく。「これだ、これしかない!」と思った私は、いつか講演会後に颯爽と舞台を去る自分をイメージしたのですが、今に至るまでそのチャンスに出会っていません。あと、これは何かの記事で読んだものです。ワープロが普及していなかった当時、作家は万年筆で原稿を書くのが普通でした。落合 信彦の原稿を受け取った編集担当者が「先生、この原稿が濡れていますけど」と尋ねたら、「これは……涙だ」と言われたのだとか。つまり自分で書きながら自分で泣いていたわけですね。「作家たるもの、こうありたい」と思わせるエピソードだと感心させられました。何から何まで型破りだった落合 信彦氏のご冥福をお祈りいたします。最後に1句 夏日来て スーパードライ 思い出す 

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認知症の周辺症状に対する薬物療法【非専門医のための緩和ケアTips】第118回

認知症の周辺症状に対する薬物療法今回は認知症の周辺症状に対する薬物療法に関する質問をいただきました。緩和ケアの実践に限らず、多くの方が経験する状況だと思いますので、私なりに感じる点を述べてみます。今日の質問病棟にいると認知症の方が非常に多く、家族も対応に困りながらギリギリのところで生活しているのでは、と感じます。医療関係者の中には、認知症の周辺症状に対してすぐに抑肝散やクエチアピンを使うべき、とする方もいますが、やや疑問に感じます。質問ありがとうございます。ご家族の大変さにも目を向けているのは非常に重要な点ですね。私自身、認知症の行動・心理症状(BPSD:Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)に対して抑肝散やクエチアピンといった薬物療法を行う場合、少し後ろめたさを感じることがあります。この思いの理由は何なのか、振り返って考えてみました。いくつかの論点があると思いますが、まずは「薬物療法の副作用が気になる」という点です。急性期病院に勤務していると、医原性の状態悪化で入院する方をよく見ます。良かれと思って処方された薬剤が理由で状態が悪化している方を見ると、「薬以外に取り組むべきことはないのか」「できるだけ非薬物療法で対応したい」と考えるのは普通かと思います。一方、薬物療法を求める医療者や家族の気持ちを考えてみましょう。これは2つの要素が大きいのではと思います。1つは、認知症に対する看護や介護の大変さが切実だからでしょう。とくに夜間対応の大変さは、ここで語るまでもありません。もう1つの要素としては、以前の回で紹介した「ユマニチュード」に代表される、認知症の非薬物療法に対する知識不足や不慣れさがあるのではないでしょうか。いずれにせよ、誰しも認知症の高齢者に薬を飲ませたくて仕方ないわけではなく、さまざまな要因で対応に困っているために薬物療法が求められているのだと思います。さて、では結局のところ認知症のBPSDへの薬物療法について、どのように対処すると良いのでしょうか? ここでのキーワードは「個別性」と「フォローアップ」です。認知症のBPSD=即薬物が必須、ではありません。一方で、抗精神病薬などを必要とする患者や状況もあるでしょう。関わる多職種で薬物療法の注意点を共有し、患者ごとに必要性を判断することが大切です。もう1つ、適切な薬物療法が提供されているか、非薬物療法にも取り組んでいるかといった、継続的なフォローアップも重要です。こうした取り組みを行う前提があれば、薬物療法も有効な選択肢になりうる、というのが私の見解です。今日のTips今日のTips周辺症状を伴う認知症患者へのケアは、薬物療法と非薬物療法のどちらも大切。

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第50回 AI単体なら「名医」でも、人間が使うと「凡人以下」に? 最新研究が明かすAI医療相談のリアル

医学部卒業試験で満点に近いスコアを取るほど優秀な最新のAI。しかし、一般の人が実際に体調不良を相談してみると、その精度は驚くほど下がってしまうことがわかりました。今回は、デジタル時代の医療情報の探し方について、最新の大規模研究のデータをもとに考えてみましょう。優秀なAIも、人間と対話すると精度が急降下Nature Medicine誌に興味深い論文が報告されました1)。イギリスの一般市民1,298人を対象に行われたこの研究では、参加者に「突然の激しい頭痛」や「長引く腹痛」といった10種類のよくある症状のシナリオを与え、私たちがよく用いるAI(GPT-4oなど)を使って「何の病気が疑われるか」「救急車を呼ぶべきか」といった判断をしてもらいました。すると、AI単体に医師の書いた抜けのないすべての情報を与えて回答させた場合、関連する病名を94.9%という高い確率で正確に言い当て、次に取るべき行動についても平均56.3%の正解率を示しました。これは優秀な成績だと思います。ところが、一般の参加者が対話形式で同じAIに相談した場合、病名を正解できたケースは34.5%以下、受診の緊急性を正しく判断できたのは44.2%以下にまで急降下してしまったのです。さらに皮肉なことに、AIを使わずに従来のインターネット検索などで自力で調べたグループでは、AIを使ったグループよりも約1.76倍正確に病名を特定できていました。AIに尋ねるより、Googleなどで自分で調べたほうがよっぽど正確だったのです。なぜすれ違うのか? 見えてきた課題なぜ、これほど賢いと言われるAIを使いながら、検索エンジンにすら負けてしまうのでしょうか。論文のデータからは、AIと人間の「コミュニケーションの壁」が見えてきます。まず、利用者側の問題として、AIに十分な情報を伝えられていないケースが多かったことがわかりました。分析した30件の会話サンプルのうち、16件では最初のメッセージに症状の一部しか伝えられていませんでした。たとえば胆石の症状を持つ参加者が「食後に激しい胃痛があり、嘔吐することもある」とだけ伝え、痛みの場所・強さ・頻度という重要な情報を省いてしまったケースがありました。医師はそれらの情報が不足している場合に問診で必要な追加情報を引き出しますが、AIはそこまで積極的に聞き返さずに結論を導き出してしまうことが多く、結果として的外れなアドバイスにつながっていました。次に、AIが正しい答えを含めていたとしても、利用者がそれを最終的な回答として選択しなかったケースも確認されました。AIは複数の病名候補を提示しましたが、利用者が提示された候補の中から正しいものを選び出すことができていなかったのです。さらに衝撃的なケースとして、まったく同じような症状(激しい頭痛、首の硬直、光過敏)を伝えた2人の参加者に対し、GPT-4oがまったく逆のアドバイスを返したことも記録されています。一方の参加者には「暗い部屋で安静にして」と指示し、もう一方には「脳出血の可能性があるので今すぐ救急へ」と適切なアドバイスをしていました。違いは「突然」という一言があったかどうかだけでした。AIの回答がわずかな表現の差で大きく変わる「不安定さ」が、実際の使用場面での危険性として浮かび上がりました。本当に脳出血のケースだったとしたら、暗い部屋で安静にしていたら命取りになってしまいます。もちろん、この研究にも限界はあります。実際の急病患者ではなく架空のシナリオを用いた実験であるため、本物のパニックや強いストレス下での行動を完全に再現できているわけではありません。しかし、そのような場面では、冷静に情報を提示できる可能性はさらに低くなるため、AIの正確性はさらに下がる懸念があります。いずれにせよ、「最新AIの医学知識がどれほど充実していても、一般人がそれを使って正しい判断を下せるわけではない」という事実をデータをもって突き付けた点において、きわめて重要な警鐘だと言えます。AI時代における私たちの身の守り方では、私たちはこの未完成な「AIドクター」とどう付き合っていけばよいのでしょうか。第1に、AIの回答は不完全で一貫性に欠ける場合があるということを認識しておくのが大切でしょう。多くの一般ユーザーは医療者ではないため、診断の鍵となる重要な情報を無意識に省いてしまいます。その結果、同じ症状でも伝え方によってまったく異なるアドバイスが返ってくる可能性があることを念頭に置く必要があります。第2に、AIが複数の病名候補を提示しても、その中から正しいものを選ぶのは医学的知識のない一般人には難しいという点です。AIはもっともらしい候補をいくつも挙げますが、最終的な回答としてどれが自分に当てはまるのかをユーザー自身が見極めるのは至難の業であることがデータでも示されています。第3に、緊急性の判断を誤るリスクがあることです。今回の実験でも、ユーザーが症状の緊急性を過小評価する傾向が確認されました。AIがもっともらしい理由で「自宅で様子を見て」と言っても、あなたの「いつもと違う」という直感の方が正しいことは多々あります。テクノロジーは確かに進化していますが、自分の身を守る最後の砦は、依然として自身の体の声に耳を傾けることと、信頼できる医療専門家に相談することでしょう。AIはあくまで「相談前のメモ帳」程度に捉え、上手に距離を保ちながら付き合っていくのが、いま私たちが持っておくべきリテラシーなのだと思います。1)Bean AM, et al. Reliability of LLMs as medical assistants for the general public: a randomized preregistered study. Nat Med. 2026;32:609-615.

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インフルA型、B型それぞれの感染に影響する個人的・環境的要因

 インフルエンザの感染伝搬について、個人的および環境的要因が及ぼす影響について評価したカナダ・マクマスター大学のNushrat Nazia氏らによる研究の結果、高年齢であることはとくにB型インフルエンザ感染において防御的に働く可能性が示された。また環境・地理的要因がインフルエンザ感染に与える影響はウイルスの型ごとに異なっていた。Influenza and Other Respiratory Viruses誌2026年2月号掲載の報告。 本研究は、カナダの厳格なキリスト教徒「フッター派(Hutterite)」のコミュニティを対象に行われた。同コミュニティは外部との接触が少なく、ライフスタイルが共通した単一的で明確な集団構造を持つ。Nazia氏らは、「階層構造を明確に定義できる」という特性を活かすことで、一般的な社会では困難な、集団と個人の各要因が感染リスクに与える影響をより高い精度で推論可能な点が本研究の強みとしている。 2008年のインフルエンザシーズンにおける、カナダの46のフッター派コロニーに属する3,271例のデータが解析された。PCR検査で確定されたインフルエンザA型およびB型の週別症例について、人口統計学的要因、ワクチン接種状況、地理的および気象条件との関連を検討した。解析には、コロニーのクラスタリングと時間的自己相関を考慮したIntegrated Nested Laplace Approximations(INLA法)によるマルチレベル・ベイズ階層モデルが使用された。 主な結果は以下のとおり。・3,271例(平均年齢26歳、女性43.5%、インフルエンザワクチン接種率24.3%)中、239例(7.3%)がPCR検査によりインフルエンザと確定された(A型:128例、B型:111例)。・年齢の高さによる防御的な効果が認められ、インフルエンザB型(相対リスク[RR]:0.93、95%信用区間[CrI]:0.91~0.95)ではインフルエンザA型(RR:0.99、95%CrI:0.98~1.00)よりも強い効果が認められた。・男性は女性と比較してわずかに感染リスクが低かった。・いずれのモデルにおいても、個別ワクチン接種による予防効果は認められなかった。しかし、コロニー単位でのワクチン接種群への割り当ては、すべてのインフルエンザ(RR:0.29、95%CrI:0.10~0.83)およびインフルエンザA(RR:0.17、95%CrI:0.04~0.62)の感染リスクの大幅な低下と関連していたが、インフルエンザBでは関連がみられなかった。・最寄りの都市までの距離と標高は、感染リスク低下と弱い関連を示したが、不確実性が大きく、その関連は限定的であった。・前週の気温の高さは、インフルエンザAの感染リスク低下(RR:0.91、95%CrI:0.86~0.95)およびインフルエンザBの感染リスク上昇(RR:1.19、95%CrI:1.09~1.31)と関連していた。

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日本における統合失調症、患者と介護者の負担は?

 統合失調症は重篤な精神疾患であり、臨床的、経済的、そして人道的に大きな影響を及ぼす。日本ベーリンガーインゲルハイムのFumiko Ono氏らは、日本における統合失調症患者と介護者への負担を評価するため、文献レビューを行った。Schizophrenia誌オンライン版2026年1月20日号の報告。 2013~23年のPubMed、医中誌、CiNii、J-STAGE、Cochraneデータベースおよび2018~23年の医師会、政府機関、患者団体からの補足資料から該当データを収集した。本レビューでは、統合失調症患者と介護者が経験する疫学、臨床管理、社会的、人道的、そして経済的負担に焦点を当てた。 主な内容は以下のとおり。・本レビューでは、156件の学術雑誌論文、73件の会議録、37件の追加データソースを特定した。・頻発する併存疾患として肥満、うつ病、2型糖尿病が注目されていた。・統合失調症における認知機能障害は、統合失調症簡易認知評価(BACS)によって評価され、zスコア-2.1で重度の機能障害を示した。・社会的孤立や退院後サポートの不足など、長期入院に関連する問題も報告されていた。・認知機能の改善、セルフケアの促進、地域社会との連携強化を目的とした介入が、早期再入院リスクを低下させる重要な因子として特定された。・介護者は、とくにプレゼンティーイズム(出勤しているが業務遂行能力が低下している状態)により、著しい生産性の低下を経験しており、年間約240万円の損失につながったと推定された。・さらに、統合失調症の包括的な負担に対処するための啓発キャンペーン、教育プログラム、多職種連携アプローチといった、関係者主導の取り組みが十分でないことが明らかとなった。 著者らは「日本における統合失調症の多面的な負担が明らかとなり、患者、介護者、医療従事者、政策立案者など多様な関係者が関与する、協調的かつエビデンスに基づいた対策の緊急の必要性が示唆された。統合失調症に伴う負担を軽減し、医療を改善するためには、必要な介入と関係者の関与とのギャップを埋めるためのさらなる研究が求められる」としている。

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デュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療薬発売/中外

 中外製薬は、2026年2月20日にデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の治療を目的とした再生医療等製品のデランジストロゲン モキセパルボベク(商品名:エレビジス点滴静注)を発売した。投与対象は、DMDのうち、エクソン8および/またはエクソン9の一部または全体の欠失変異を有さず、抗AAVrh74抗体が陰性である3歳以上8歳未満の歩行可能な患者となっている。また、本製品は2025年5月13日に条件および期限付承認に該当する製造販売承認を取得している。 DMDは、小児の早期から急速に進行する、希少な遺伝性の筋疾患であり、全世界で男児の約5,000人に1例程度で発症するといわれ、女児での発症は非常にまれな疾患である。DMDでは、筋肉にかかわるタンパク質であるジストロフィンの産生に影響を及ぼすDMD遺伝子の突然変異が原因で発症する。ジストロフィンは、筋線維を強化し、筋収縮時の損傷から保護するタンパク質複合体の重要な成分であり、DMD遺伝子の変異により、DMDでは機能性ジストロフィンを体内で産生できなくなり、筋細胞は損傷に対する感受性が高まり、筋組織の瘢痕化や脂肪化が徐々に進行する。 主な症状としては、歩行能力、上肢機能、肺機能、心機能が失われ、致死的な転帰をたどる。DMDの患者はフルタイムでの介護が必要となる。また、学業や仕事や家庭生活を行うことが困難となり、抑うつや身体的な痛みを患うこともある。 今回発売されたデランジストロゲン モキセパルボベクは、1回の投与で疾患の進行に伴う不可逆的な筋障害が生じる前にDMDの原因となるジストロフィンの欠損を補うよう設計された治療法となる。<製品概要>一般名:デランジストロゲン モキセパルボベク販売名:エレビジス点滴静注禁忌・禁止(一部を抜粋):ジストロフィン遺伝子のエクソン8及び/又はエクソン9の一部又は全体が欠失している患者効能、効果又は性能:デュシェンヌ型筋ジストロフィーただし、以下のいずれも満たす場合に限る・抗AAVrh74抗体が陰性の患者・歩行可能な患者・3歳以上8歳未満の患者用法及び用量又は使用方法:通常、体重10kg以上70kg未満の患者には1.33×1,014ベクターゲノム(vg)/kgを、体重70kg以上の患者には9.31×1,015vgを、60分から120分かけて静脈内に単回投与する。本品の再投与はしないこと(体重別の投与量の表は省略)。承認日:2025年5月13日薬価基準収載日:2026年2月20日発売開始日:2026年2月20日薬価:1患者当たり3億497万2,042円製造販売元:中外製薬株式会社

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更年期のホルモン補充療法、死亡は増加せず/BMJ

 45歳以降に初めて更年期ホルモン補充療法を受けた女性は、受けなかった女性と比較して死亡リスクは増加しないことが、デンマーク・Copenhagen University Hospital HerlevのAnders Pretzmann Mikkelsen氏らの調査で示された。これまでの研究では、更年期ホルモン補充療法後の死亡率は減少または変化なしと報告されていたが、方法論的な限界が指摘されていた。BMJ誌2026年2月18日号掲載の報告。デンマークの45歳以上の約88万例について追跡調査 研究グループは、デンマークに在住し、45歳時点で生存している1950~77年生まれのデンマーク人女性を、45歳の誕生日から2023年7月31日まで追跡した。デンマーク処方箋登録から、更年期ホルモン補充療法の情報が収集された。 主要アウトカムは、デンマークの中央個人登録簿(Central Persons Register)に記録された死亡、副次アウトカムは死因登録簿(Cause of Death Register)より特定した死因に基づく死因別死亡率(心血管疾患、がん、その他)であった。 更年期ホルモン補充療法が死亡リスクに及ぼす影響について、年齢、暦年、分娩回数、学歴、所得分類(四分位に基づく)、出生国、糖尿病、高コレステロール血症、高血圧、心房細動、弁膜症、心不全および44~45歳時の3回以上の医療機関利用歴で調整したCox回帰分析によりハザード比(HR)を推定し評価した。 1950~77年に生まれ45歳時点で生存していたデンマーク人女性は96万9,424例で、このうち、追跡開始前にホルモン補充療法の禁忌(血栓症素因、肝疾患、脳卒中や心筋梗塞を含む動脈血栓症、静脈血栓症、乳がん、子宮内膜がん、卵巣がん)を有していた女性、45歳以前の更年期ホルモン補充療法または両側卵巣摘出の既往歴がある9万2,619例が除外され、適格基準を満たした87万6,805例を対象に解析した。更年期ホルモン補充療法非曝露に対する曝露の死亡の補正後HRは0.96 追跡期間中央値14.3年(四分位範囲[IQR]:7.9~21.0)において、87万6,805例のうち追跡終了日までに更年期ホルモン補充療法を少なくとも1回処方された女性は10万4,086例(11.9%)、死亡は4万7,594例(5.4%)であった。 更年期ホルモン補充療法曝露群の死亡発生率は1万人年当たり54.9に対し、非曝露群は35.5で、補正後HRは0.96(95%信頼区間[CI]:0.93~0.98)であった。更年期ホルモン補充療法の累積使用期間で層別化した場合の補正後HRは、1年未満で1.01(95%CI:0.98~1.05)、1~2.9年で0.94(0.89~0.98)、3~4.9年で0.90(0.84~0.95)、5~9.9年で0.89(0.84~0.95)、10年以上で0.98(0.90~1.07)であった。 死因別死亡率(心血管疾患、がん、その他)について、曝露群と非曝露群で明確な差は認められなかった。 45~54歳で両側卵巣摘出術を受け、追跡期間中に死亡した703例においては、更年期ホルモン補充療法曝露は非曝露と比較し死亡の補正後HRが27~34%低く、死亡時年齢の中央値は曝露群60.9歳(IQR:55.3~66.6)vs.非曝露群56.6歳(52.9~62.0)であった。

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がん研究、約10%が不正な「ペーパーミル製論文」か/BMJ

 ペーパーミル(論文工場)は、がん研究論文において深刻かつ拡大する問題であり、低インパクトファクターの雑誌に限った問題ではないことが、フランス・L'Institut AgroのBaptiste Scancar氏らが行った機械学習モデルの構築・検証およびスクリーニングの結果で示された。著者は、「ペーパーミルの問題に対処するためには、関係者全体でこの課題を共有し行動を起こすことが不可欠である」とまとめている。BMJ誌2026年1月29日号掲載の報告。ペーパーミル製論文2,202報を用いて機械学習モデルを開発 研究グループは、撤回論文のデータベースであるRetraction Watchにおいて「ペーパーミル」と分類された撤回済み論文2,202報を用い、論文タイトルと抄録を入力したBERT(bidirectional encoder representations from transformers)ベースのテキスト分類モデルを学習させた。内部検証の後、画像整合性に関する専門家が収集した独立データによる外部検証を実施し、PubMedに収載された1999~2024年のがん研究原著論文264万7,471報を対象にスクリーニングを行った。 主要アウトカムはモデルの分類精度で、撤回されたペーパーミル出版物と類似すると判定された論文(フラグ付き論文)の割合とその95%信頼区間(CI)を評価した。また、時系列・国別・出版社別・がん種別・研究領域別の分布、ならびに高インパクトファクターの雑誌(上位10%)における割合も調べた。1999~2024年のがん研究原著論文の約10%がペーパーミル、最も多いのは中国 モデルの精度は内部検証で0.91、外部検証で0.93、感度はいずれも0.87、特異度はそれぞれ0.96、0.99を達成した。 がん研究原著論文に適用したところ、264万7,471報中26万1,245報がフラグ付けされ、この数は全がん研究原著論文の9.87%(95%CI:9.83~9.90)に相当した。 フラグ付き論文数は、1999~2024年に全体およびインパクトファクター上位10%の雑誌の両方で著明かつ急速に増加し、年間フラグ付き論文数は1999~2022年に指数関数的増加傾向を示した。フラグ付き論文の割合は2000年代初頭には約1%で推移したが、2020年代初頭までに年間がん研究論文総数の15%超(2万6,457/17万1,656報)まで増加した。 国別の解析では、フラグ付き論文の割合が最も高かったのは中国で、同国のがん研究論文全体の36%を占めた(17万7,907/49万7,672報)。 出版社別の解析では、フラグ付き論文の割合が最も高かったのは、Verduci Editore発行のEuropean Review for Medical and Pharmacological Sciences誌で約67%(2,834/4,199報)に上った。大手出版社(Springer Nature、Elsevier、John Wiley and Sonsなど)はフラグ付き論文の割合は比較的低い(約10%)ものの、絶対数は多かった。 がん種別・研究領域別では、フラグ付き論文の割合は胃がんが最も多く(22%)、骨がん(21%)、肝がん(20%)の順で続き、研究領域としてはがん生物学・基礎研究分野が13%超と最も高く、治療開発・評価ならびに診断・予後領域で10%を超えていた。

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コルヒチン中毒の報告受け、添文の警告や副作用など改訂/厚労省

 コルヒチン(商品名:コルヒチン錠0.5mg「タカタ」)の添付文書への警告や重大な副作用の新設、用法及び用量などの改訂について、2026年2月24日、厚生労働省より改訂指示が発出された。 主な改訂内容として、用法及び用量に関連する注意の項では、「痛風発作の緩解への使用において、1日量1.5mgを超える高用量の投与は臨床上やむを得ない場合を除き避けること。1回量、1日量及び投与期間は国内の最新のガイドラインを参考にすること」「痛風発作の予防又は家族性地中海熱への使用において、承認された用量を超えて投与しないこと」の追記がなされた。 これまでの添付文書では、「1日量は1.8mgまでの投与にとどめることが望ましい」とされていたが、これまでに医薬品と事象との因果関係が否定できない死亡例が8例報告されており、それらの複数の症例において「1日量1.8mg超の投与」または「低用量投与であるが重度腎機能障害患者」であったことが確認されていた。 警告、副作用などの改訂は以下のとおり。―――<警告>(新設)本剤の1日量1.5mgを超える高用量を投与した患者及び重度腎機能障害患者において、重篤な中毒症状(胃腸障害、血液障害、腎障害、肝障害等)を発現し、死亡に至った症例が報告されている。1日量1.5mgを超える高用量の投与、又は重度腎機能障害患者への投与は、臨床上やむを得ない場合を除き避けること。また、悪心・嘔吐、腹部痛、下痢、咽頭部・胃・皮膚の灼熱感、血尿、乏尿、筋脱力等の中毒症状があらわれた場合には速やかに医療機関を受診するよう患者に指導すること。<用法及び用量に関連する注意>(一部抜粋)[効能共通]投与量の増加に伴い、下痢等の胃腸障害の発現が増加するため、以下の点に留意すること。1日量1.5mgを超える高用量投与により、重篤な中毒症状(胃腸障害、血液障害、腎障害、肝障害等)を発現し、死亡に至った症例が報告されている。・痛風発作の緩解への使用において、1日量1.5mgを超える高用量の投与は臨床上やむを得ない場合を除き避けること。1回量、1日量及び投与期間は国内の最新のガイドラインを参考にすること。 ・痛風発作の予防又は家族性地中海熱への使用において、承認された用量を超えて投与しないこと。<重要な基本的注意>(新設)高用量を投与した患者及び腎機能障害患者において、重篤な中毒症状を発現する可能性があるので、悪心・嘔吐、腹部痛、下痢、咽頭部・胃・皮膚の灼熱感、血尿、乏尿、筋脱力等の症状があらわれた場合には速やかに医療機関を受診するよう患者に指導すること。<腎機能障害患者>(新設)9.2.1に述べた併用薬を服用していない重度腎機能障害患者*臨床上やむを得ない場合を除き投与は避けること。投与する場合には、ごく少量から開始し、必要最小限の投与期間に留めるなど注意すること。重度腎機能障害患者において、重篤な中毒症状を発現し、死亡に至った症例が報告されている。*肝代謝酵素CYP3A4を強く阻害する薬剤又はP糖蛋白を阻害する薬剤を服用中の腎機能障害患者<重大な副作用>(新設)コルヒチンによる中毒症状承認された用法及び用量の範囲内であっても高用量を投与した患者及び腎機能障害患者等において、本剤の血中濃度が上昇し、重篤な中毒症状を発現する可能性がある。胃腸障害、血液障害、腎障害、肝障害等の中毒症状が認められた場合には、本剤の投与を中止し適切な処置を行うこと。 処置:脱水に対する補液、電解質補正、血球減少、感染症、凝固異常に対する対症療法、血圧、呼吸管理を行う。なお、本剤は強制利尿や血液透析では除去されない。――― なお、コルヒチンの高用量投与については、2月6日に高田製薬が適正使用のお願いを公表し、1日量として1.8mgを超えないよう注意を呼びかけていた。

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都市生活者の心臓に良いのは芝生ではなく樹木

 都市部に暮らす人々では、自宅の周辺に樹木が多いという環境が、心血管疾患(CVD)リスクの低さと関連していることが明らかになった。しかしその一方、芝生や背の低い草地の広さは、CVDリスクの高さと関連しているという。 この研究は、米カリフォルニア大学デービス校のPeter James氏らによるもので、詳細は「Environmental Epidemiology」2月号に掲載された。論文の筆頭著者であるJames氏は、「われわれの研究結果は、公衆衛生介入において居住環境の樹木の保護と植樹を優先すべきであることを示唆している。そのような取り組みは、芝生を敷くといったことへの投資に比べて、心臓の健康にメリットをもたらす可能性が高い」と述べている。 James氏らは、Googleなどの情報ソースから入手した、米国の都市部のストリートビュー画像3億5000万枚以上を分析して、樹木や草地などの緑の広さを推定した。ストリートビュー画像を解析するという研究手法を採用した背景として、論文には以下のような説明がある。つまり、これまでにも衛星写真を用いて緑地の豊かさと住民の健康状態との関連を解析する研究は行われてきているが、その手法ではどのような植物の緑地なのかが区別されずに検討されていたとのことだ。James氏も、「衛星写真を用いた解析は多くの貴重な知見をもたらしてきたが、はるか上空からの視点に基づく解析であり、あらゆる植物をひとまとめにしてしまうため、植物の種類の違いという重要な点がマスクされてしまいかねない」としている。 今回の研究では、人工知能(AI)を用いてストリートビュー画像を解析。その地域を歩行する際に目にする可能性のある植物を、(1)樹木、(2)芝生、(3)その他(道路沿いの植え込みや草地など)という3種類に分類して、それぞれの広さを推定した。次に、米国の看護師対象疫学研究(NHS)の女性参加者約8万9,000人のCVDリスクと、各参加者の自宅から500m以内の上記(1)~(3)の広さとの関連を検討した。 その結果、(1)の面積が広いことはCVDリスクが4%低いことと関連していた(四分位範囲当たりのハザード比〔HR〕0.96〔95%信頼区間0.93~1.00〕)。それに対して(2)の面積が広いことはCVDリスクが6%高いことと関連し(HR1.06〔同1.02~1.11〕)、(3)の面積の広さはリスクの3%上昇と関連していた(HR1.03〔1.01~1.04〕)。 研究者らは、芝生や草地などの緑が多いことがCVDリスクの上昇に関連するという結果に驚きを述べている。この意外な関連の理由として、農薬使用量の増加、草刈りの際に生じる粉じんの影響、および、夏季の暑熱緩和作用が樹木に比べて乏しく、騒音や大気汚染の緩和作用も弱いことなど、複数の要因が考えられるとのことだ。そして、都市生活者の健康にとってどのような植物を増やすことが最も良いのかを正しく知るために、さらなる研究が必要だと指摘している。

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祝日や年末に外傷は増える? 国内データが示す外傷の季節性

 救急外来や外傷医療の現場では、患者数の増減が医療提供体制に大きな影響を与える。これまで外傷の発生には季節性があることが知られてきたが、祝日や年末年始といった社会・文化的イベントとの関係を、長期かつ日単位で検証した研究は限られていた。日本全国38万人超の外傷データを解析した本研究では、ゴールデンウィークや年末など特定の時期に外傷が増加する一方で、お盆や年始には減少することが明らかになった。研究は、総合病院土浦協同病院救命救急センター・救急集中治療科の鈴木啓介氏、遠藤彰氏によるもので、詳細は12月18日付で「Scientific Reports」に掲載された。 外傷は世界的に主要な死因・障害原因であり、医療・社会に大きな負担を与えている。外傷発生の季節性や祝日の影響はこれまでにも報告されてきたが、多くは短期間の観察にとどまっていた。比較的均質な文化・行動様式を持つ日本では、ゴールデンウィークやお盆、年末年始など生活リズムが大きく変化する時期が存在し、加えて自殺は春から夏に多いという季節性も知られている。本研究は、18年間にわたる全国外傷データを日単位で解析し、こうした年間を通じた行動パターンと外傷・自殺企図の発生動向を包括的に評価することで、医療資源配分や予防戦略の最適化に資する知見を得ることを目的とした。 本研究では、2004年1月から2021年12月までの日本外傷データバンク(JTDB)を用いて後ろ向き解析を行った。JTDBは、少なくとも1部位で簡易傷害度スケール(AIS)3以上を有する重症外傷患者のみを登録対象とする全国データベースである。JTDBからは、年齢、性別、受傷日および受傷機転、外傷分類、外傷重症度スコア(ISS)、AIS、退院時転帰などの変数を抽出し、受傷日(年月日)が特定可能な外傷患者を対象とした。対象患者は搬送日ごとに分類し、1年365日それぞれの日単位で解析した。日別の患者数、外傷重症度、自殺企図、死亡率を評価し、周期関数を組み込んだ負の二項回帰、外傷重症度で調整したロジスティック回帰、ならびに一般化極端スチューデント化偏差(GESD)検定を用いて外れ値を同定した。 本研究では38万3,473人が解析に含まれた。解析の結果、外傷症例数は年間を通じて大きく変動し、9~12月に多い傾向が示された。ゴールデンウィーク(4月29日~5月5日)や、文化の日(11月3日)、体育の日(現スポーツの日:10月10日)、年末(12月28~29日)にピークがみられた一方、お盆期間(8月中旬)、特に8月15日前後や年始には減少し、最少は3月7日(886例)、次いで1月3日(898例)であった。 自殺企図は21,637例(全体の5.6%)で、5~6月および8月下旬~9月に増加し、10~12月に減少するなど、全外傷とは異なる季節性が認められた。 日別死亡率は平均9.6%で、年間を通じた変動は小さく、明確な季節性や有意な外れ値は認められなかった。また、2004~2021年の全期間を通じて、外傷症例数の季節変動パターンは概ね一貫していた。 著者らは、「日本の外傷症例数は、祝日や季節的な生活習慣に沿った一定の年間変動を示した。自殺企図は独自の季節性を示したが、外傷全体の症例数や死亡率に大きな影響はなかった。本研究は、外傷医療リソースの計画や予防策を検討するうえで、行動や社会的要因を考慮することの重要性を示している」と述べている。 なお、本研究の限界として、重症外傷患者に限定した解析であり、日本特有の文化的背景を反映している点や、後ろ向き研究のため、祝日と外傷発生の因果関係を直接示せない点などを挙げている。

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がん合併急性冠症候群のリスク構造をどう読むか(解説:野間重孝氏)

 がんを合併した急性冠症候群(ACS)患者は、これまで多くの大規模臨床研究から除外されてきた集団であり、その予後は必ずしも十分に定量化されてこなかった。本論文は、国際的大規模レジストリデータを用いて、がん合併ACS患者における6ヵ月以内の全死亡、大出血、虚血イベントを同時に予測する競合リスクモデル(ONCO-ACS)を開発し、外部検証を行ったものである。100万例超のACS症例群から約4万人のがん患者を解析対象とし、死亡・出血・虚血という相互に影響しうる転帰を統合的に扱った点に方法論的特徴がある。 解析の結果、腫瘍種や転移の有無などのがん関連因子は全死亡予測には強く寄与する一方、虚血イベントの予測においては腎機能、貧血、Killip分類など従来の循環器臨床指標の影響がより支配的であることが示された。すなわち、がんというラベルのみで虚血リスクを一律に推定することは妥当でなく、がん患者集団内部にも明確なリスクのばらつきが存在することが示された。また、死亡・出血・虚血を単独に扱うのではなく統合的に解析することにより、従来は曖昧であったリスクの相対関係が整理されることが示された。 本論文の核心は、がん合併ACS患者を一様な高リスク群として扱うのではなく、死亡・出血・虚血の相対関係を踏まえて個別に評価しうる集団として捉え直した点にある。がんは全死亡には強い影響を及ぼすが、虚血イベント予測においては循環器臨床因子が依然として中心的役割を担うことが示され、「がんだから侵襲的治療を控える」という暗黙の慣行に再考を促す材料が提示された。cardio-oncology領域におけるエビデンス空白を一定程度補う試みとして評価できる。 もっとも、本論文は観察研究に基づく予測モデルの開発であり、治療介入の有効性を直接検証したものではない。がん治療内容や血小板機能、炎症マーカーなどの詳細な病態情報は十分に組み込まれておらず、出血予測能も中等度にとどまる。提示されたモデルは治療方針を規定するエビデンスではなく、あくまで臨床判断を補助する枠組みに位置付けられるべきである。 循環器学の現在の潮流との関係で見るならば、本論文は新規治療や病態生理の発見を提示するものではなく、大規模データに基づく層別化とリスク精緻化という現在の研究方向の延長線上にある。血栓溶解療法やPCIといった治療革命を経た後、ACS診療は「どの患者にどの強度で適用するか」という適正化段階に入っているが、本論文はがん合併という従来エビデンスから除外されがちであった集団をその枠組みに組み込もうとする試みである。しかしながら、それは循環器治療の概念的転換をもたらすものではなく、予後の整理という性格を有する。 今後求められるのは、本モデルを用いた治療意思決定が実際に臨床アウトカムの改善につながるかを前向きに検証することである。高齢化の進展に伴い、がんと心血管疾患の併存は増加が見込まれる以上、統合的エビデンス創出は不可欠であるが、予測の高度化が直ちに治療の進歩を意味するわけではない点には留意すべきである。近年の循環器研究はリスクモデルの洗練とデータ統合に重心を置く傾向が強く、本論文もその潮流を体現しているが、それが実際の治療成績向上にどの程度寄与しうるのかは、なお検証を要する。整理は着実に進んでいるものの、そこからいかに次の段階へ進むかという課題を、本論文は同時に映し出していると言えよう。

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「専属産業医」を一度経験してみませんか?【実践!産業医のしごと】

臨床現場に例えて考える産業医活動産業医として働く際には、大きく分けて「専属産業医」と「嘱託産業医」の2つの働き方があります。専属産業医は特定の企業に常勤し、日々その組織の中で活動します。一方、嘱託産業医は月に数回、限られた時間の中で企業を訪問し、面談や職場巡視を行います。両者の違いを一般の臨床現場に例えると、専属産業医は「病棟を持つ医師」、嘱託産業医は「外来のみを担当する医師」に近いかもしれません。臨床の現場を振り返ってみましょう。外来診療がスムーズに機能するのはなぜでしょうか? それは多くの場合、外来担当医が、過去に病棟内で患者の日々の経過を追った経験を持っているからではないでしょうか。発症から悪化、そして回復に至るまでの一連のプロセスを肌で知っているからこそ、外来という限られた時間の中でも「この所見は注意が必要だ」「この経過なら次回まで大丈夫だろう」と判断できます。病棟経験で培われた「時間軸を持った臨床感覚」が、限られた時間の外来の中での意思決定を支えているのです。専属産業医だからこそ見えるもの産業医活動にも同じことが言えます。専属産業医として企業の中に身を置くと、外からでは決して見えないものが見えてきます。たとえば、企業の意思決定がどのようなプロセスで行われるのか。人事異動や組織再編の裏側にある経営判断。職場環境を調整したくても、予算や人員枠(ヘッドカウント)の制約があること。利益を生み出すために現場がどれほどの努力をしているか。リストラという重い決断が、どのような苦悩の中で下されるのか。こうした「企業のリアル」は、月に数回の訪問では、なかなか実感を持って理解することが難しい領域です。専属産業医として日々組織の中にいるからこそ、社員が働く環境の限界や、会社として対応できることの境界線が体感的にわかるようになります。「職場環境を改善しましょう」「配置転換を検討してください」など、産業医としてよく口にする提案も、企業の内部構造を深く知ったうえで発する言葉と、外から一般論として述べる言葉とでは、その説得力も実現可能性もまったく異なってきます。企業の仕組みを変えるという営みは、一度その仕組みの中に深く入った経験がなければ、難しい場面が多いのも事実です。嘱託産業医の活動をより豊かにするために誤解のないように申し上げますが、これは嘱託産業医として活躍されている方の活動を否定するものではまったくありません。嘱託産業医には、複数の企業を担当することで得られる幅広い視野や、外部の立場だからこそ言えることがあるという強みがあります。ただ、もしキャリアのどこかで専属産業医を経験する機会があるならば、一度飛び込んでみる価値は大いにあると思います。病棟を経験した医師の外来が一段深くなるように、専属産業医の経験は、その後の嘱託産業医活動にも確実に厚みをもたらします。面談の場で社員が語る言葉の背景にある組織の事情を想像できるようになる。人事担当者への助言に、より現実的な視点が加わる。「会社とはこういうものだ」という肌感覚が、産業医としてのあらゆる判断を支えてくれるようになる…。産業医としてのキャリアは長い道のりです。その中で、専属産業医という経験は、産業医活動の奥深さをより味わうための、またとない一歩になるのではないでしょうか。

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僕はなぜ医者になったのか? 医療行政マンを原点に帰らせたある出来事「総合医育成プログラム」インタビュー【ReGeneral インタビュー】第5回

僕はなぜ医者になったのか? 医療行政マンを原点に帰らせたある出来事「総合医育成プログラム」インタビュー埼玉県の行政医師として長年、公衆衛生に携わってきた土屋 久幸氏。58歳で行政を退職し、臨床医として在宅診療に踏み出すまでには、あるきっかけと強い決意がありました。マクロの視点で地域全体の健康を支える公衆衛生の仕事から、患者一人ひとりと向き合う臨床へ。その転身に込めた思いと、臨床に戻ることの意味について伺います。医療行政30年、喪失体験から在宅診療への転身――現在はどのような診療をなさっているのですか2022年から、週に3日ほど在宅診療に従事しています。元々、医療・衛生行政に携わっていた関係で、産業医や知的障碍者施設の衛生指導や健康管理といった仕事も合わせて行っています。――どのようなことをされていたのですか。埼玉県に勤める公務員として、おもに県庁や保健所で、救急医療や病診連携、在宅診療の推進などの医療体制の整備、食中毒対応や感染症対策などの業務を担っていました。臨床研修後すぐに埼玉県に入職したので、58歳で退職するまでの31年間、医師ではありましたが行政マンとして働いてきました。――30年余り続けた行政職から臨床に戻ろうと決めた理由は僕が52歳のとき、妹を亡くしたことがきっかけです。妹は原因不明の難病で、外の空気に触れると体が凍えて外出すら困難でした。やっとの思いで受診した総合病院の紹介で、大学病院に検査入院しましたが診断がつきませんでした。退院後、近医で往診を断られて途方に暮れるうちに病状は進み、妹は旅立ってしまいました。外出できないと医療が受けられない。この経験が、在宅医療を充実させたいという思いにつながりました。行政医師として在宅医療体制の整備を進めていましたが、一朝一夕には進みません。ならば自分がやろう。そう決めて、58歳で退職して、在宅診療をするために臨床に戻るに至りました。外に出られず医療を受けられなかった妹から、「お兄ちゃん、自宅から出られない人も診てあげてね」と託されたと思っています。画面越しでも“同じ場にいる”と感じる、現場さながらのオンライン学習――臨床に戻る手がかりとして総合医育成プログラムを受講されたはい、2023年から受講しました。臨床に戻ろうと決めたとき、はじめに「新認定内科医専門対策講座 臓器別総整理編」というDVDで、まず40時間ほど勉強したんです。大学の系統講義のようで病気の基礎は整理できましたが、実地臨床にはつながりにくい内容でした。実際の診療で知識を使うには、もっと工夫や応用が必要だと感じて、何かいい学びがないか探していました。そのとき出会ったのが、総合医育成プログラムです。――受講してみていかがですか現場で診療している先生方の講義は、患者さんを前にしたときに本当に役立ちます。訪問診療を始めて最初はわからないことがあると持ち帰って、先輩の先生に相談してから治療する日々でしたが、当プログラムで学びを重ねるうちに、今はその場である程度自分で答えを出して治療できるようになっている感じがします。少しずつ総合医として診察できるようになってきたのではないかと感じています。――印象的だった講義はありますか循環器の先生は心電図を数多く読んでくださり、心電図読影のいいトレーニングになりました。マイナーエマージェンシーの講義では、耳鼻科や眼科などの救急を学んだことが印象に残っています。同期型学習でグループワークするときなどは、オンラインなのにその場にいるようで、実践的なトレーニングができたのは意外でした。――一緒に学ぶ仲間との関係はいかがでしたかグループワークで一緒になる先生方は、循環器や皮膚科、そして僕のようにほとんど臨床をしてこなかった方までさまざまでした。異なる経験を持つ先生方とコミュニケーションを取って、同じ課題に協力して取り組むのは、とても楽しい時間でした。修了後に個別に連絡を取ることはありませんが、ワーク中に悩みを話して安心できたり、ほかの先生の実践を聞いて勇気づけられたり、そうした交流が強く印象に残っています。オンラインのグループワークでも親しみを感じられたので、受講生や修了生が実際に顔を合わせる機会があれば、もっとコミュニケーションが広がるのではと思います。予防と診療をつなぐ、公衆衛生×総合診療のアプローチ――公衆衛生と総合診療を掛け合わせるメリットは感染症対策では、保健所的な視点がとても役立っています。2022年から訪問診療で働いていて、ちょうどCOVID19の流行と重なっていました。高齢者施設内で患者さんの治療と同時に、いかに院内感染を起こさないよう対策を取るかを考えられたのは、両方の視点があったからだと思います。それから予防接種や血圧管理といった、薬を使う治療以前の生活習慣の介入に自然と目を向けられる点も、臨床をするのに支えになっています。大学時代に、「公衆衛生は未だ病まざるを治す」医学だと教わったことが、病気にならないようにするアプローチとして今の診療にもそのまま融合していると思います。――公衆衛生と総合診療を掛け合わせる苦労は行政の立場で医療には関わってきましたが、患者さんを診てこなかったハンデはやはり大きいです。医師免許を持っているだけでは、当然ながら通用しません。それでも何とかやり切るんだという使命感から、総合医育成プログラム以外にも必要だと思う学びは逃さず取り入れるようにしています。たとえば在宅診療は高齢の方が多いので、老年医学を積極的に学んでいます。そうした先生方から学ぶことで、病気を治すだけでなく、患者さんを1人の人間として見て、その方にとって何が大切か、どう生きたいかを丁寧に掘り起こし、治療に限らず必要な支援を提供できるように、今も臨床の力を磨き続けているところです。行政と臨床の両面から見る「地域医療のいま」――医療行政視点から、地域でどのような課題を感じておられますか埼玉県の北部では医師不足がとても深刻です。南部は東京に近いのであまり問題はないのですが、北部では救急医療、在宅医療、がん治療まで医師が足りていません。とくに小児救急はかなり厳しい状況で、今後さらに逼迫していくのではないかと危惧しています。――臨床医として何か地域の課題を感じることはありますか病院に勤務してみて感じるのは、在宅診療のニーズがとても高いことです。がん治療などで長く入院していた患者さんが、自宅に戻りたいと希望して在宅診療を求めるといったケースは、毎日のように問い合わせがあります。勤務先の訪問診療科は、常勤医2名、非常勤医3名、看護師5名と比較的人手があり、今は何とか訪問診療の依頼に対応できていますが、これ以上依頼が増えると、すべてに応じるのは難しくなるのではと感じています。「自分は誰に医療を届けたいのか」 原点に立ち返って歩む第2の臨床人生を――行政・老健・在宅診療と働く場所が変わり、今の働き方をどのように感じておられますか地域で暮らし、さまざまな事情で病院に来られない方に医療を届けることが、自分の使命だという思いが日々強まっています。ご自宅に伺うと、皆さんが待っていてくれて、喜んでくれるんです。僕も勇気をもらい、本当に充実していて、天職だと感じながら診療しています。自分の命が続く限り診療を続けるつもりですが、30年間のブランクがあり、臨床の知識を忘れている部分もあります。だからこそ、これからも学び続けることが必要だと感じています。――受講を検討している方へメッセージを僕は妹の死があって、行政医として、1人の臨床医としても、外出できない人に医療を届けることが自分が医師になった意味であり使命だと思うようになりました。皆さんにも、それぞれ医師になったときの初心があると思います。誰に、どんな医療を届けたくて医師になったのか。原点をいちど振り返ってみてはいかがでしょうか。ご自分が医師になった原点を振り返り、どこに向かいたいのかと目的地を考えたとき、地域に貢献することが成長につながる人は多いのではないかと思います。地域医療にはやりがいがあります。とくにへき地医療や訪問診療は医師が足りません。第2の人生からでも、僕のように臨床から離れていた期間があっても、総合医育成プログラムのような研修を受ければ臨床に立ち、人に喜んでもらうことができます。ぜひ研修を受けて診療に加わってほしいと思います。

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第304回 iPS細胞治療の心筋シートとドパミン神経前駆細胞に「仮免許」、承認期限7年、待ち受ける有効性証明の高くて険しい壁

マスコミの多くは「世界初」を喧伝、心臓病やパーキンソン病の患者を登場させて「期待感」を語らせるこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。冬季オリンピックが終わってしまいましたね。日本時間では深夜から早朝にかけての競技が多く、テレビ観戦するにはなかなか大変でしたが、スピードスケートの高木 美帆選手の試合を中心にいくつかの競技をライブで観ました。個人的に興味があり応援していたのは女子のチームパシュート(団体追い抜き)です。3人で走る姿が競輪のラインに似ているのと、1周ごとに相手チームとの差が目視できてハラハラするのがこの競技の魅力です。準決勝でオランダにわずか0.11秒差で負けましたが、3位決定戦では米国に完勝、「銅だ!すごい!」とマスコミはこぞって高木選手らを祝福しました。しかし、そうした祝福の陰で厳しい批評もありました。2月20日付の日本経済新聞朝刊スポーツ面のコラム「透視線」で日体大教授の青柳 徹氏(高木選手の日体大時代の恩師)は銅メダルについて「もっといい色にできるはずだし、やれることがあったのではないか」と書き、「最後の3人目のライン通過時が記録となるため、縦一列に並ぶより、最後の直線で後ろの選手が横に出て先頭に詰めた方がわずかでもタイムは縮まるはずだ」と縦一列ゴールに疑問を投げ掛けていました(優勝したカナダは確かにこの方式でした)。メダルを取っても厳しい言葉を掛けられるのは、恩師だからこそと言えそうです。それにしても、後ろの2人の選手が前の選手のお尻を押すプッシュ戦術や、ゴール前にバラける戦術など、チームパシュートという競技の面白さの一端を知ることができた冬のオリンピックでした。さて、今回は先週、製造販売が了承されたiPS細胞製品について書いてみたいと思います。厚生労働省の薬事審議会再生医療等製品・生物由来技術部会は2月19日、iPS細胞から作った心臓病とパーキンソン病の再生医療製品2製品について、条件及び期限付きで製造販売を承認することを了承しました。2製品は近日中(1〜2ヵ月以内)に厚労相が正式に承認する予定です。承認されればiPS細胞として世界初、ES細胞を含む多能性幹細胞としても世界初の承認となるそうです。マスコミの多く(とくに民放のニュース)は、「世界初」を喧伝、心臓病やパーキンソン病の患者を登場させて「期待感」を語らせるなど、まるで金メダルを取ったかのような大騒ぎぶりでした。果たして、そんなに大きな期待を抱いてもよい「承認」なのでしょうか。左室駆出率が移植前と比較して改善していると評価された患者数は8例中2例のリハート製造販売が了承されたのは、大阪大学発のベンチャー、クオリプスが重症心不全を対象に承認申請していた他家iPS細胞由来心筋細胞シートの「リハート」と、住友ファーマがパーキンソン病を対象に承認申請していた他家iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞「アムシェプリ」です。リハートは京都大学iPS細胞研究財団が提供している他家iPS細胞株を心筋細胞に分化誘導し、未分化細胞を除去した上でシート状に成形した製品。標準治療で効果不十分な虚血性心筋症による重症心不全の治療を効能・効果または性能としています。開胸手術によって、シート3枚を患者の心臓表面に移植して使います。大阪大学大学院医学系研究科の澤 芳樹名誉教授の研究成果を基にしており、昨年の大阪・関西万博での展示でも大きな話題となりました。条件及び期限付承認の根拠となった臨床試験の成績では、主要評価項目である、移植後26週時点の心エコー図検査によるLVEF(左室駆出率)が移植前と比較して改善していると評価された患者数は8例中2例でした。その他の項目も踏まえ有効性を評価した結果、「有効性が示唆されると判断された」ものの、被験者が少なかったことから条件及び期限付承認となりました。承認期限は7年で、「正式承認を申請するまでの期間、リハートを使用する全症例に対する製造販売後承認条件評価を行うこと」、「正式承認を申請するまでの期間、リハートの作用機序を反映する生物学的特性に関して情報収集すること」などの条件が付けられ、「リハート群75例と対照群150例を比較する臨床研究として使用成績調査を行う」などの市販後調査も求められました。6例について主要評価項目でパーキンソン病の重症度を示すスコアが改善したアムシェプリ一方、アムシェプリは京都大学iPS細胞研究財団の髙橋 淳所長が開発を主導した薬剤です。同財団が提供している他家iPS細胞株からドパミン神経前駆細胞を誘導して作製します。「レボドパ含有製剤を含む既存の薬物療法で十分な効果が得られないパーキンソン病患者の運動症状の改善」を効能・効果または性能としています。ドパミン神経前駆細胞を定位脳手術により、両側の被殻に移植(大脳被殻片側あたり5.4×10^6個を目標)して使います。ドパミン神経前駆細胞が患者の脳に生着し、ドパミンを産生して治療効果を示すことが期待されています。条件及び期限付承認の根拠となった臨床試験の成績では、7例を対象とし、片側にしか投与しなかった患者を除いた6例について、主要評価項目でパーキンソン病の重症度を示すスコアが改善したとのことです。また、6例全例で、移植後12ヵ月・24ヵ月時点で他家iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞が大脳被殻に生着していました。こちらも被験者が少なかったことから条件及び期限付承認となりました。承認期限も同じく7年で、「正式承認申請までの期間、アムシェプリを使用する全症例に対する製造販売後承認条件評価を行うこと」などの条件が付けられ、「既存の薬物治療で十分な効果が得られなかったパーキンソン病患者に対してアムシェプリの有効性と安全性を評価する製造販売後臨床試験」、「アムシェプリが移植された全ての患者に対する使用成績調査」などの市販後調査も求められました。なおリハートと異なり、ドパミンの作用がすでに明確であることから、作用機序の解明は承認条件に含まれませんでした。日本独自の再生医療等製品の条件及び期限付承認制度のおかげ日本経済新聞や朝日新聞などの報道では、記事の見出しに「仮免許」という言葉が使われています。リハート、アムシェプリともに被験者は1桁と少なく、「症状が改善した」と言っても比較対象試験が行われているわけではないので「効果あり」と科学的に判定されたわけではありません。7年以内にそこを証明しないと「仮免許」は取り上げられてしまいます。「承認」とは言え、なかなかに厳しい「条件及び期限」と言えます。そんな不十分な成績なのに「承認」されたのは、日本独自の再生医療等製品の条件及び期限付承認制度のおかげと言えます。2014年11月、薬事法が改正されて薬機法となった際に新たに導入された同制度は、対象患者が少なかったり対照群の設定が難しかったりなどで一般的な規模の第III相臨床試験を実施できない場合などに活用される仕組みです。有効性の確認前でも、早期の臨床試験データから有効性が推定されれば、条件や期限付きで承認が与えられますが、7年を超えない範囲で有効性、安全性を検証した上で、再度承認申請して正式承認を取得する必要があります。条件及び期限付承認を取得した製品はこれまで6つ、正式承認に至った製品はなく2つは撤退資金、労力、時間がかかる第III相臨床試験を実施しなくても製品を販売できる仕組みとして、再生医療等製品の開発に取り組む製薬メーカーは大きな期待をかけ、活用してきた同制度ですが、10年以上を経てその結果は芳しくありません。条件及び期限付承認を取得した製品はこれまで6つあるものの、有効性を確認して正式承認に至った製品はゼロです。「厚労省部会、他家iPS細胞由来のクオリプスの心筋細胞シートと住友ファーマのドパミン神経前駆細胞の条件及び期限付承認を了承」のタイトルで2月22日、今回の期限付承認を報じた日経バイオテクは、同制度について「近年は、条件及び期限付承認を取得しても、開発企業は安心できない実情が浮き彫りになってきた。というのも、条件及び期限付承認を取得して本承認を目指していた、アンジェスの『コラテジェン』(ベペルミノゲンペルプラスミド)とテルモの『ハートシート』(ヒト[自己]骨格筋由来細胞シート)が、それぞれの承認期限近くの2024年6~7月、相次いで市場から撤退したためだ。(中略)2製品が撤退したのは、市販後調査で良好なデータを示せなかったことの影響が大きい」と書いています。国としては、今のタイミングでiPS細胞治療の芽を摘んでしまうという選択肢はなかったのかもiPS細胞治療については、本連載の「第282回 なかなか実用化にこぎつけられないiPS細胞治療、神戸アイセンター病院の網膜細胞治療について『先進医療』とするのは『不適』の判断」で、神戸アイセンター病院の網膜細胞治療が昨年8月、厚生労働省の先進医療技術審査部会において「先進医療」とするのは「不適」であると判断されたというニュースを取り上げました。この時は、「治っているかどうか患者が実感できない高額な治療法に、先進医療とは言え、保険診療を併用させることはNG」という判断だったわけですが、今回については「治っているかどうかよくわからないが、とりあえず承認しておくから7年で有効性をちゃんと証明しろ」ということのようです。随分無責任な「仮免許」と言えますが、うがった見方をすれば、これも高市政権の成長戦略の影響ということができるかもしれません。政府の「日本成長戦略会議」において「直ちに実行すべき重要施策」として挙げられた17項目の戦略分野の中には「合成生物学・バイオ」と「創薬・先端医療」が入っており、「さあこれから」という時に、iPS細胞治療の芽を摘んでしまうという選択肢は国としてはなかった、と見る向きもあります。テルモのハートシートに比べ、リハートの市販後調査のエンドポイントはなぜだか緩いiPS細胞治療の業界に詳しい知人に、リハート・アムシェプリの正式承認の可能性について尋ねたところ、「リハートと類似の製品で、骨格筋由来細胞シートだったテルモのハートシートが良好なデータを示せず撤退を余儀なくされた理由の1つは、市販後調査において心臓疾患関連死までの期間など、かなりハードなエンドポイントを課せられていたためだ。リハートの市販後調査のエンドポイントは、なぜかそこまでハードに設定されておらず、とても緩い印象だ。本当に効くかどうかは別にして、ハートシートに比べると承認のハードルは低いと言える。一方、アムシェプリは、パーキンソン病の重症度を評価する国際尺度がエンドポイントに課せられているので、そこそこハードルは高い印象だ」と話していました。エンドポイントを低くして、承認を容易くしたとしても、実際の効きが悪ければ医師は使用しませんし、世界でも売れないでしょう。オリンピックと同様、世界標準で戦う必要がある製品だとしたら、手心(かどうかはわかりませんが)は結局はマイナスに働くのではないでしょうか。iPS細胞治療の実用化に向けては、長く険しくゴールが見えないレースがまだまだ続きそうです。

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片頭痛予防に有効性と安全性のバランスが最もよいCGRP関連抗体薬は?

 反復性片頭痛は、生活の質を著しく低下させる神経疾患である。カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)を標的とするモノクローナル抗体薬は、反復性片頭痛の予防と治療に有効性が示されている。パキスタン・Islamic International Medical CollegeのIshwa Shakir氏らは、反復性片頭痛に対する各CGRP関連抗体薬の有効性および安全性を比較するため、ランダム化比較試験(RCT)のネットワークメタ解析を実施した。European Journal of Clinical Pharmacology誌2026年1月17日号の報告。 2024年9月にPubMed、Cochrane、Embaseデータベースよりシステマティックに検索し、反復性片頭痛に対するCGRP関連抗体薬に関するRCTを特定した。有効性(1ヵ月当たりの片頭痛日数の変化)と安全性(有害事象発現率)を評価するため、ネットワークメタ解析を実施した。オッズ比(OR)と累積順位曲線下面積(SUCRA)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・16件の研究(9,123例)をネットワークメタ解析に含めた。・ガルカネズマブ(240mg)は、最も高い有効性を示した(標準化平均差:0.5012、p<0.0001)。・フレマネズマブ(225mg)は、片頭痛日数の50%以上の減少のオッズが最も高かった(OR:3.1684、p<0.0001)。・エレヌマブ(28mg)は、最も優れた安全性プロファイルを示した(OR:0.6815、p=0.2220)。・フレマネズマブは、有効性(SUCRA:84.6%)と安全性(SUCRA:61.8%)の両方で最も評価が高かった。 著者らは「フレマネズマブは有効性と安全性のバランスが最も優れている。今後、フレマネズマブの長期試験の実施が望まれる」と結論付けている。

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肝機能指標の正確な理解度は20%未満/ベーリンガーインゲルハイム

 日本ベーリンガーインゲルハイムは、2月の全国生活習慣病予防月間に合わせ、同社が行った「脂肪肝に関する認知・理解度調査」の結果を2026年2月16日に公表した。 脂肪肝は、わが国では2,000万例以上が罹患していると推定され、最も頻度の高い肝疾患とされている。また、日本人を含む東アジア人においては、遺伝的背景により肝臓に脂肪が蓄積しやすい体質の人が多いことが知られ、普通体重であっても脂肪肝に至るリスクが相対的に高いとされている。重症化すると肝硬変や肝がんになるリスクがあり、肝硬変に進行すると、再生能力の高い肝臓でも元に戻ることは難しく、日常生活にも大きな支障を及ぼす。さらに肥満症や2型糖尿病などの代謝疾患の合併や発症につながり、心血管疾患イベント(心筋梗塞、虚血性心疾患、心不全など)のリスク増大や、がんなどの重篤な疾患の要因になることも知られている。脂肪肝を正確に理解している人は約38%【調査概要】対象:35~74歳の全国の男女対象人数:2,000人調査方法:インターネット調査調査期間:2025年11月27日~12月1日【結果概要】1)「『脂肪肝』を知っていますか」という質問では、「知っている」「聞いたことはあるが、詳しくは知らない」と回答した人の割合が86%である一方で、「知っている」と正しく理解している人は37.9%にとどまった。2)「肝臓の役割と聞いて、知っているものすべてお答えください」という質問では、「アルコールや薬などの有害物質を分解して無害化する(解毒)」が61.2%、「食べたものの栄養を分解・合成してエネルギーに変える」が36.1%、「脂肪の消化を助ける『胆汁』をつくる」が34.4%の順で上位3つが多かったが、「とくに思い浮かばない/わからない」と回答した人も23.7%いた。3)「脂肪肝が関連する病気について、当てはまると思うものをすべてお答えください」という質問では、「肝硬変」が52.9%、「肝がん」が39.1%、「脂肪肝炎(MASLD/MASH)」が27.3%の順で上位3つが多かったが、「わからない」と回答した人も25.4%いた。4)「肝臓に関する3つの検査項目についてどの程度理解していますか」という質問では次のとおりだった。・AST(GOT):「肝臓に関する項目だと知っている[意味も理解している]」(15.1%)、「肝臓に関する項目だと知っている[意味は理解していない]」(20.4%)、「言葉は聞いたことがある」(22.2%)、「そもそも言葉自体聞いたことがない」(42.2%)・ALT(GPT):「肝臓に関する項目だと知っている[意味も理解している]」(17.3%)、「肝臓に関する項目だと知っている[意味は理解していない]」(23.6%)、「言葉は聞いたことがある」(26.5%)、「そもそも言葉自体聞いたことがない」(32.7%)・γ-GTP(γ-GT):「肝臓に関する項目だと知っている[意味も理解している]」(19.6%)、「肝臓に関する項目だと知っている[意味は理解していない]」(24.1%)、「言葉は聞いたことがある」(27.5%)、「そもそも言葉自体聞いたことがない」(28.9%) 肝臓の検査項目の熟知度については、3つすべてが20%未満で低く、検査内容の啓発が今後の課題となる。

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