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がんは世界の疾病負担の大きな要因であり、2050年まで症例数と死亡数の増加が続くことが予測され、とくに資源の乏しい国との負担格差が大きくなることが見込まれること、また、がんの年齢標準化死亡率は低下するものの、国連による2030年の持続可能な開発目標(SDG)の達成には不十分であることが、米国・ワシントン大学のLisa M. Force氏ら世界疾病負担研究(Global Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors Study:GBD)2023 Cancer Collaboratorsの解析で示された。がんは世界的に主要な死因の1つで、政策立案には正確ながん負担情報が欠かせないが、多くの国では最新のがんサーベイランスデータがない。著者は、「世界的ながん負担に効果的かつ持続的に対処するには、予防、診断、治療の全過程にわたるがん対策戦略の策定と実施において、各国の医療システムや開発状況を考慮した包括的な国内外の取り組みが必要である」と提言している。Lancet誌オンライン版2025年9月24日号掲載の報告。1990~2023年の204の国と地域のデータを解析、2050年のがん負担を予測 研究グループは、GBD 2023の枠組みを用い、204の国と地域別および年齢別、性別による、「1990~2023年における47種またはグループのがん負担」「1990~2023年における特定の危険因子に起因するがん負担」、ならびに「2050年までのがん負担予測」を推計した。 GBD 2023におけるがん負担の推計には、がん登録、出生登録、口頭による死因調査のデータを使用した。がん死亡率はCause of Death Ensembleモデルを用いて推定し、罹患率は死亡率推定値と死亡率/罹患率比(MIR)に基づいて算出した。有病率は生存率モデルから推定し、障害加重を乗じて障害生存年数(YLD)を推定し、年齢別がん死亡数に死亡年齢時のGBD標準余命を乗じて損失生存年数(YLL)を推定した。障害調整生存年数(DALYs)は、YLLsとYLDsの合計として計算された。 また、GBD 2023比較リスク評価フレームワークを用い、44の行動、環境、職業および代謝リスク因子に起因するがん負担を推定するとともに、GBD 2023予測フレームワークを用いて2024年から2050年までのがん負担を予測した。この予測フレームワークには、関連リスク因子曝露の予測が含まれており、社会人口統計指数を共変量として、これらのリスク因子の影響を受けない各がんの割合を予測した。 国連のSDG3.4に掲げられた「非感染性疾患による死亡を2015年から2030年の間に3分の1減少させる」という目標に向けた進捗状況について、がん関連の進捗を推定した。2050年には新規発症やがん死亡が増加、低所得国~中所得国でとくに顕著 2023年は、非黒色腫皮膚がんを除き、世界全体で1,850万人(95%不確実性区間[UI]:1,640万~2,070万)のがん新規症例と、1,040万人(95%UI:965万~1,090万)の死亡が発生し、DALYは2億7,100万(95%UI:2億5,500万~2億8,500万)であった。このうち、世界銀行の所得分類に基づくと、新規症例の57.9%(95%UI:56.1~59.8)およびがん死亡の65.8%(95%UI:64.3~67.6)が低所得国~上位中所得国における発生であった。 2023年において、がんは心血管疾患に次いで世界第2位の死因であった。また、2023年には、世界全体で433万人(95%UI:385万~478万)のリスク因子に起因するがん死亡があり、これは全がん死亡の41.7%(95%UI:37.8~45.4)を占めた。リスク因子起因がん死亡は1990年から2023年にかけて72.3%(95%UI:57.1~86.8)増加し、世界全体のがん死亡は同期間に74.3%(95%UI:62.2~86.2)増加した。 最も可能性の高い基準予測では、2050年には世界全体でがん新規発症例が3,050万人(95%UI:2,290万~3,890万)、がん死亡が1,860万人(95%UI:1,560万~2,150万)と推定され、これは2024年と比較し、それぞれ60.7%(95%UI:41.9~80.6)および74.5%(95%UI:50.1~104.2)の増加であった。 このうち死亡数増加の予測は、高所得国(42.8%、95%UI:28.3~58.6)より、低所得国および中所得国(90.6%、95%UI:61.0~127.0)で大きかった。これらの増加のほとんどは人口動態の変化に起因するものと考えられ、年齢標準化死亡率は2024年から2050年の間に世界全体で-5.6%(95%UI:-12.8~4.6)減少すると予測された。また、2015年から2030年の間に、30~70歳の年齢層におけるがんによる死亡確率は、相対的に6.5%(95%UI:3.2~10.3)減少すると予測された。