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血栓除去術は中位~遠位の脳動脈閉塞に有効性と安全性は証明できなかった(解説:内山真一郎氏)

 中位または遠位の脳動脈閉塞による急性期脳梗塞に対する血栓除去術の有効性と安全性は確立されていない。DISCOUNT試験は、発症後8時間以内の中位または遠位の脳動脈閉塞患者において血栓除去術施行群と内科治療のみの対照群を比較したフランスの多施設共同無作為化試験であった。3ヵ月後の転帰良好例は血栓除去群と対照群の間に有意差がなく、症候性頭蓋内出血は血栓除去群で有意に多かった。遠位部の動脈は狭くて屈曲が多いため、カテーテルやガイドワイヤーによる損傷や穿孔が起こりやすく、血栓溶解療法だけでも転帰良好例が多いため、血栓除去術の有効性と安全性のバランスが期待しにくいことが結果に反映されてしまったと考えられる。 遠位部の動脈にも安全で柔軟なデバイスの開発とともに、最近発表された試験の詳細や現在進行中の試験において、どのような条件を有する患者ならば有効で安全か、どのような併用療法により有効性と安全性のバランスが高まるか、などの課題が解決することを期待したい。

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第39回 怖い咽頭痛、見逃せない咽頭痛【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)咽頭痛の鑑別疾患を理解しよう!2)危険な咽頭痛を疑うサインを知ろう!3)心血管疾患も忘れずに鑑別しよう!【症例】65歳男性咽頭痛を主訴に救急外来を独歩受診した。●受診時のバイタルサイン意識清明血圧108/74mmHg脈拍52回/分(整)呼吸18回/分SpO297%(RA)体温35.9℃瞳孔3.5/3.5mm+/+既往歴高血圧内服薬詳細不明だが降圧薬を1剤内服している咽頭痛の鑑別喉の痛みを訴え来院した患者さんではどのような疾患を考えるでしょうか。頻度が高いのはウイルス性咽頭炎です。細菌性では、A群溶血性レンサ球菌(group A Streptococcus:GAS)による咽頭炎が代表的です。その一方で、見逃してはいけないものとして、急性喉頭蓋炎などの“killer sore throat”が挙げられます1)。また、頻度は決して高くはありませんが、初診時に必ず意識しておいてほしいのが心血管疾患です2)(表1)。急性冠症候群(acute coronary syndrome:ACS)の放散痛(関連痛)は有名ですね。表1 咽頭痛の鑑別疾患画像を拡大する心筋虚血では、前胸部痛だけでなく、頸部、顎、肩、上肢、背部、上腹部の痛みや不快感が生じることがあります。咽頭の痛み、締めつけ感、灼熱感、詰まり感として自覚されることもあります。これは、心臓からの内臓感覚入力と体性知覚入力が中枢神経系で収束するために生じる関連痛と考えられています。危険な咽頭痛の見極め方:発症様式、姿勢、痛みの程度に注目危険な咽頭痛と聞くと、表1のkiller sore throatがパッと思いつくでしょう。もちろんそれらも重要なのですが、心血管疾患も忘れずに意識するようにしましょう。初療では、“Hi-Phy-Vi”(History,Physical examination,Vital signs)を評価する必要があります。なかでも、まずは以下の3点に注目するとよいでしょう。(1)突然発症か否か感染症が突然発症することはありません。数時間から数日かけて症状が進行するのが一般的です。それに対して、心筋梗塞や大動脈解離は秒から分の単位で発症します。そのため、発症様式、とくに突然発症か否かを意識して確認することが重要です。「痛みが生じていたときに何をしていたのか」を確認し、発症時の様子が頭に浮かぶように確認しましょう。(2)姿勢に注目患者さんの姿勢に注目しましょう。患者さんは自身が最も呼吸がしやすい姿勢を自然ととっているはずです。座位で前傾姿勢、頸部を伸展させ、顎を突き出すような姿勢をとっていたら要注意です。これは、腫脹した喉頭蓋や周囲の組織による気道狭窄を代償しようと、上気道をなんとか開通させようとしているものであり、気道緊急ととらえ迅速な対応が求められます。“tripod position”や“sniffing position”と呼ばれますよね。(3)痛みで唾が飲み込めなかったら要注意咽頭痛のために固形物を飲み込みにくいことは、通常の咽頭炎でも起こります。しかし、「飲水も難しい」「唾液を飲み込めない」「口から唾液が垂れている」という場合には要注意です。唾液を処理できないほどの嚥下痛や流涎に加えて、含み声、嗄声、呼吸困難、吸気性喘鳴(stridor)などを認める場合には、急性喉頭蓋炎など急を要する病態を考える必要があります。表2の急性喉頭蓋炎の症状は頭に入れておきましょう3)。表2 急性喉頭蓋炎の症状バイタルサインはもちろん重要です。ただし、SpO2は酸素化の指標であり、上気道の開存性を直接示すものではありません。急性喉頭蓋炎などでは、SpO2が保たれていても気道狭窄が進行している可能性があります。呼吸数やSpO2だけで安心せず、呼吸仕事量、吸気性喘鳴、声の変化、姿勢、流涎、唾液を嚥下できるかといった所見を重視しましょう。咽頭痛の注意点「喉はあまり腫れていないので大丈夫そう」と判断してはいないでしょうか。咽頭といっても上咽頭・中咽頭・下咽頭が存在し、扁桃炎などで異常所見が認められる口蓋扁桃など中咽頭の所見は確認できても、その奥の喉頭蓋は目視することは困難です。つまり、かなり痛がっているのに喉が腫れていない、そのような場合にはむしろ安心するのではなく、焦らないといけないのです。今回の症例では、発症様式を確認すると仕事中に数分でピークに達する咽頭痛であり、嚥下にはとくに問題はありませんでした。ACSも考慮し胸部症状を聞いてみると、「胸部に違和感がある」と訴え、心電図を確認すると前胸部誘導でST上昇が認められました。ST上昇型心筋梗塞(ST-elevation myocardial infarction:STEMI)だったのです。咽頭痛を訴える患者さんは、感染症の流行期には救急外来を数多く受診します。本症例も、トリアージの段階で心筋虚血が鑑別に挙がらなければ、心電図が記録されないまま待合室で待つことになったかもしれません。今回の症例では、トリアージナースの素晴らしい判断により早期に心電図が記録され、STEMIの診断と迅速な再灌流治療につなげることができた1例でした。 1) Miller JM. et al. Clin Infect Dis. 2024:ciae104. 2) 坂本壮. それって本当に咽頭炎?!見逃せない救急・見逃さない救急.プライマリ・ケア. 2022;Vol.7:No.1. 3) Sideris A, et al. Laryngoscope. 2020;130:465-473.

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高血圧管理・治療ガイドライン2025(12):薬物療法(2)【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q173

高血圧管理・治療ガイドライン2025:薬物療法(2)Q173『高血圧管理・治療ガイドライン2025』では、ARNI(アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬)のほかに新規で推奨された高血圧症の内服薬はないが、従来の内服薬を含め、内服薬がG1(グループ1)からG3までグルーピングされた。G2降圧薬は何か?

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最大80日間の連続投与が可能な月経困難症治療薬「マルシロン配合錠」【最新!DI情報】第69回

最大80日間の連続投与が可能な月経困難症治療薬「マルシロン配合錠」今回は、月経困難症治療薬「デソゲストレル・エチニルエストラジオール(商品名:マルシロン配合錠、製造販売元:オルガノン)」を紹介します。本剤は、エストロゲンの配合量が従来薬よりも減量されており、エストロゲンに起因する副作用の発現リスクを最小限に抑えることが期待されています。<効能・効果>月経困難症の適応で、2026年6月19日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>1日1錠を24~80日間連続経口投与し、その後4日間休薬します。以後連続投与と休薬を繰り返します。<安全性>重大な副作用として、四肢、肺、心、脳、網膜などの血栓症があります(1.0%)。その他の副作用として、月経中間期出血(50.7%)、悪心(5%以上)、食欲減退、気分の落ち込み、抑うつ気分、気分変化、頭痛、傾眠、浮動性めまい、前兆を伴わない片頭痛、高血圧、腹部不快感、軟便、腹部膨満、肝機能異常、胆石症、筋骨格硬直、四肢痛、子宮出血、重度月経出血、異常子宮出血、骨盤痛、乳房不快感、乳房痛、乳房腫脹、乳房圧痛、末梢性浮腫、倦怠感、浮腫、体重増加、肝酵素上昇、AST増加、ALT増加(いずれも0.1~5%未満)などがあります。なお、35歳以上で1日15本以上の喫煙者は、心筋梗塞などの心血管系の障害が発生しやすくなるので禁忌です。<患者さんへの指導例>1.この薬は、黄体ホルモンと卵胞ホルモンの混合ホルモン薬で、排卵抑制作用および子宮内膜増殖抑制作用により、月経時の下腹部痛や腰痛などの症状を改善します。2.1日1錠を24日から最大80日間連続して服用し、その後4日間休薬します。以降は連続して服薬と休薬を繰り返します。3.この薬を避妊目的で使用しないでください。4.飲み始めだけでなく、飲んでいる間はいつでも血栓症にかかる可能性があります。血栓症の症状に注意し、症状が現れたときはすぐに使用を中止し医療機関を受診してください。5.年齢および喫煙量により心血管系の重篤な副作用の危険性が増大するとの報告がありますので、この薬を服用している間は禁煙してください。6.この薬を服用している間は、6ヵ月ごとの検診(血圧・乳房・腹部の検査、臨床検査など)が必要です。7.妊娠または妊娠している可能性がある人は、この薬を使用することはできません。【ここがポイント!】月経困難症は、月経時または月経直前から始まる強い下腹部痛や腰部痛を主症状とし、腹部膨満感、悪心、嘔吐、下痢、頭痛などの症状が現れます。生殖年齢の女性の25%以上に認められ、とくに若年層ほどその頻度は高いといわれています。その多くは機能性月経困難症であり、学校の欠席、集中力の低下、スポーツ活動への支障など、学業や社会生活に影響を及ぼすことが指摘されています。月経困難症の痛みにはプロスタグランジン(PG)が関与しているため、治療の第1選択薬はNSAIDsです。しかし、NSAIDsで十分な鎮痛効果が得られない場合や副作用が問題となる場合には、低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)が用いられます。とくに思春期の月経困難症では、日常生活への影響の軽減や子宮内膜症の進行予防の観点から、NSAIDsが有効であってもLEPを併用することがあります。月経困難症に適応のあるLEP製剤には、ドロスピレノン・エチニルエストラジオール錠(ヤーズ配合錠など)、ノルエチステロン・エチニルエストラジオール錠(ルナベル配合錠LD/ULDなど)、レボノルゲストレル・エチニルエストラジオール錠(ジェミーナ配合錠)があります。投与方法には28日周期でプラセボまたは休薬期間を設けて消退出血を起こす「周期投与」と、長期間にわたり連続して服用する「連続投与」があります。本剤は、有効成分としてデソゲストレルおよびエチニルエストラジオールを含有するLEP製剤です。経口避妊薬としてすでに発売されているマーベロンと同一成分ですが、エストロゲンに起因する副作用の発現リスクを最小限に抑える目的で、エチニルエストラジオールの配合量が0.03mgから0.02mgに減量されています。また、従来のLEP製剤との違いとして、28日(24日間の服用期間/4日間の休薬期間)から最大80日(80日間の服用期間/4日間の休薬期間)まで連続投与できる点が挙げられます。24~80日の間で、いつ消退出血を起こすかをコントロールできるので、消退出血の頻度を減らすだけでなく、個々の生活スタイルに合わせたスケジュール調整が可能になります。月経困難症の日本人患者を対象とした国内第III相臨床試験(OG8276A-301試験)において、主要評価項目である月経困難症スコア合計(TDS)を指標とするベースラインから84日までの変化量の平均値は、本剤群では-2.50±0.113、プラセボ群で-0.84±0.187でした。群間差(本剤群-プラセボ群)の平均値は、-1.67(両側95%信頼区間:-2.08~-1.26)であり、本剤のプラセボに対する優越性が検証されました。

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5人に1人はLp(a)高値、CVD死を見落とさないために~Lp(a)の今をインタビュー(前編)

『2022 EAS Lp(a) Consensus Statement』を皮切りに、2025年3月にはLp(a) Global Summitにて『Lp(a)検査と管理に関するブリュッセル国際宣言』が採択された。さらに同年8月の『2025 ESC/EAS Focused Update』、翌2026年3月の『ACC/AHA脂質異常症ガイドライン』改訂へと続き、国際的にLp(a)測定の推奨強化へ向けた大きな潮流が生まれている。では、日本における現在のLp(a)測定のあり方は、諸外国と比較してどのような状況にあるのだろうか。日本版コンセンサスステートメントの発出を目前に控え、国内でLp(a)測定を普及・啓発していくうえで留意すべきポイントとは――。今回、Lp(a)研究の第一人者であるFlorian Kronenberg氏(オーストリア・インスブルック医科大学 遺伝疫学研究所 教授/所長)が来日。ケアネットの単独インタビューに応じ、Lp(a)測定の臨床的意義や最新の知見について語った。※本編は2回にわたってお届けします。後編「Lp(a)測定での4つの重要プロセス、Lp(a)研究の第一人者がアドバイス」は8月27日公開予定です。INDEXLp(a)がこれほどまで注目される理由Lp(a)が心血管リスクを高めるメカニズムLp(a)高値の驚くべき頻度、Lp(a)の特性と啓発すべき対象者とはCVD死の多くは“予防可能”、Lp(a)測定を促す取り組み―Lp(a)がこれほどまで注目される理由欧州全体において、心血管疾患(CVD)が死因第1位であるという深刻な問題は広く認識されています。同時に、これらの死亡の多くは予防可能であることが分かっています。ところがCVD有病率の3分の1はコレステロールが原因である一方で、Lp(a)測定の理解、家族性高コレステロール血症(FH)への治療介入不足が原因で十分にコントロールできていないこと、一般市民における認知不足などが課題となっています。われわれは2025年3月24~25日にベルギー・ブリュッセルで開催された「Lp(a) Global Summit」において『Lp(a)検査と管理に関するブリュッセル国際宣言』を行いました1)。その宣言および複数のガイドライン推奨も踏まえて、欧州委員会(EU)は「EU Safe Hearts Plan(欧州心血管疾患対策計画)」において、加盟国に対してスクリーニング項目に何を含めるべきかなど、非常に明確な指針を打ち出し、そこにはLp(a)高値やFHのスクリーニングが盛り込まれました。それと同時に、上述の課題解決のためにもEUは国民自身が「リスクを知る」ことを非常に重要視しています。リスクを認識すれば、健康へのモチベーションやヘルスリテラシーが向上し、最終的には治療アドヒアランスの向上につながると捉えています。上記計画の中では何度もLp(a)やFHについて言及されており、加盟国がプログラムを実装できるよう委員会がサポートしています。具体的な認知向上への取り組みについては後述します(CVD死の多くは“予防可能”、Lp(a)測定を促す取り組み)。―Lp(a)が危険な理由、そのメカニズムと心血管リスクの過小評価Lp(a)濃度と心血管リスクには明確な相関関係があることが知られており、Lp(a)濃度が高くなればなるほど、心筋梗塞や脳卒中リスクが比例して高くなります。とくに125nmol/L(50mg/dL)を超えると、リスクが格段に跳ね上がります。その理由は、Lp(a)粒子1個あたりの動脈硬化惹起性が、通常のLDL粒子と比較して格段に高いためです。構造を見るとLDL粒子に似ていますが、Lp(a)には「アポリポ蛋白(a)」という特別なタンパク質が結びついており、さらに、多くの「酸化リン脂質(OxPL)」を搬送しているため、非常に動脈硬化を起こしやすい性質を持っているのです2,3)。(図1)注意すべきLDL様粒子の構造4)画像を拡大するただし、これまでの研究結果5)から、Lp(a)が高値であっても従来の一般的なリスク因子(高血圧、糖尿病、過体重、不健康な生活習慣など)に早期介入することで、CVDの絶対的生涯リスクが大きく低減することが示されています。たとえば、従来のリスク因子を多く持っている人でも、Lp(a)が低ければ、生涯の心血管イベントの絶対リスクは25%程度に留まります。一方で、同じように従来の一般的なリスク因子を多く持ち、Lp(a)が150mg/dLの高値である場合、生涯の絶対リスクは68%にまで跳ね上がってしまいます。もし、医師がその患者のLp(a)の数値を知らなければ、心血管リスクを劇的に「過小評価」してしまうことになります。しかし、従来の危険因子を持たずLp(a)濃度のみが高い人の場合、心血管イベントの生涯リスクは、欧州一般人口における心血管疾患死亡の平均リスクよりも低いんです。人々が過度に不安になるのを避けるためにも、また健康的なライフスタイルを継続し、可能な限り危険因子を増やさないよう心掛けてもらうためにも、この点は伝えるべきです。これに対し、従来の危険因子を有し、かつLp(a)が高い人に対しては、危険因子プロファイルの改善に徹底的に取り組むよう助言すべきです。(図2)Lp(a)濃度が高くても、心血管疾患リスク増加と必ずしも関連しない画像を拡大する(表1)UK Biobankデータ[図2参照]に基づく、Lp(a)と従来リスク因子の有無による介入方法画像を拡大する―Lp(a)高値の驚くべき頻度、特性や啓発すべき対象者とはLp(a)を啓発するにあたり、医療者(医師)側にも認識不足というギャップがあるため、医師と一般公衆の双方への啓発が必要です。現在、Lp(a)はさまざまなコンセンサスステートメントやガイドラインに織り込まれるようになり、「成人は生涯に少なくとも一度は必ずLp(a)を測定すべきだ」という方針が示されています。というのは、Lp(a)高値の頻度は“5人に1人”と言われており、決して“珍しい状態”ではないからです。たとえば、FHの発症頻度は地域によって異なりますが250~350人に1人と言われています。それに比べ、Lp(a)高値の人は周りを見渡せば必ず身近に該当者がいるレベルです。つまり、患者自身がLp(a)高値だと知ることは、適切な対処ができるという意味で「特権」とも言えるのです。次に、『生涯に1度の測定』が推奨される理由は、遺伝的にほぼ90%決定付けられ、生活習慣(食事や運動)によって数値を下げることはできないからであり、一般的には、信頼性が高く十分に標準化された測定法が用いられていることを前提とすれば、多くの場合、生涯に一度の測定で十分です。Lp(a)値には±20%程度の変動がみられますが、これは測定技術上の変動、検体採取方法(前分析条件)、および一部の生理学的変化に関連するものであるため、この変動を過大評価すべきではありません。ただし、以下の患者では、Lp(a)の再測定が推奨されます。◯腎機能障害の患者Lp(a)値が上昇。とくにネフローゼ症候群では、Lp(a)値が3~4倍に上昇することがある◯肝機能障害のある患者Lp(a)は肝臓で産生されるため、肝機能障害の場合にはLp(a)値が低下するこのほかにも、再測定の意義が問われることが多い対象者について、私見を交えながらお伝えしますと、以下のようになります。(表2)現時点での患者背景ごとの再測定の是非画像を拡大する―CVD死の多くは“予防可能”、Lp(a)測定を促す取り組みこれまでに説明してきたとおり、CVDとの戦いにおいて最も重要な柱となるのは、Lp(a)などのリスク因子のスクリーニングです。Lp(a)やコレステロール、血圧などの値は、心筋梗塞や脳卒中を発症するよりもかなり前の段階から、高値を示しているため、これらのリスク因子を早期に検出し、対処することがきわめて重要なのです。そのLp(a)測定に関する認知向上には多くの方法があります。Lp(a)に関する国内のコンセンサスステートメントを作成すること(日本でも数週間以内に利用可能になる予定)Lp(a)を、より幅広い医師を対象とした脂質異常症あるいは心血管疾患診療に関するガイドラインに組み込むこと(これは、脂質代謝および脂質管理・治療というより広い文脈の中にLp(a)を位置付けることを含む)さまざまな診療科・専門領域の学会・学術集会でLp(a)に関する講演の実施、また、Lp(a)測定を提供することLp(a)を説明するための、医師向けおよび患者向けの優れた情報資材を作成することLp(a)およびASCVDリスクに関する典型的な症例[Lp(a)の重要性を強く印象付けるもの]を紹介しながら、メディアでの注目を集めること患者団体と連携し、Lp(a)の重要性が伝わるような症例を紹介・発信することLp(a)アンバサダーグループを構築すること繰り返し、繰り返し、繰り返し…あらゆる機会を捉えて発信し続けることアンバサダーグループは、Lp(a)とともに生きる経験を持ち、Lp(a)について十分な教育を受けた人々です。私たちはFH EuropeおよびLp(a) International Task Forceにおいて、この取り組みを行っています。そして、世界中の人々に啓発を促すため、私自身は年間70回ほど、Lp(a)について講演を行っています。後編に続く―――。 参考 Kronenberg F, et al. Eur Heart J. 2022;43:3925-3946. Kronenberg F,et al. Atherosclerosis. 2023;374:107-120. 1) FH Europe Foundation:Say YES to better cardiovascular health across the world 2) Kronenberg F, et al. J Int Med. 2013;273:6-30. 3) Koschinsky ML, et al. Atherosclerosis. 2022;349:92-100. 4) Koschinsky ML, et al. Pharmacol Res. 2023;194:106843. 5) Kronenberg F, et al. Curr Atheroscler Rep. 2024;26:75-82.

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メディカルアフェアーズ学―患者さんにくすりが届く そのすべての道のりを科学する―

アンメットメディカルニーズに挑む製薬企業や医療機器企業では、今、メディカルアフェアーズ部門の活動が重視されています。そこでは、医師や薬剤師、研究者などが高度な専門性をベースに、営利活動とは独立した立場で、患者さんに最適な治療を届けるための取り組みがなされています。この「メディカルアフェアーズ」を学問と位置づけ、体系的に学べる教科書です。科学的に、中立的に、そして患者さんを第一とする価値観を、いかにして企業内外のステークホルダーと共有し実践へとつなげるのか。グローバルとのコミュニケーションはどうするか。高度専門人材としての真価が問われるさまざまな場面に、本書が役立ちます。医薬品開発能力促進機構(DDCP)による各種セミナーの予習・復習にも。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大するメディカルアフェアーズ学患者さんにくすりが届く そのすべての道のりを科学する定価5,940円(税込)判型B5変形判頁数248頁発行2026年7月著者芹生卓・玉田寛・中鉢知子ご購入(電子版)はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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第332回 チルゼパチドは食べるのを減らすのみならずカロリーを燃やす褐色脂肪を活性化する

LillyのGLP-1受容体とGIP受容体の両方の作動薬であるチルゼパチドが、食べるのを減らしてカロリー摂取を抑制するのみならず、熱を生んでカロリーを消費する褐色脂肪組織(BAT)を活性化することが、小規模ながらプラセボ対照の無作為化試験で示されました1,2)。チルゼパチドで体重が減るのは食欲を減らし、食べる量を少なくすることにおよそ起因するとみられていました。しかし、チルゼパチドは少食にするばかりが能ではないかもしれません。中枢や末梢のGLP-1受容体活性化がもたらす体重減少が、摂食抑制のみならずエネルギー消費向上のおかげでもあることがいくつかの動物実験で示唆されています。チルゼパチドで活性化するGLP-1受容体はもっぱら膵臓と中枢神経系(CNS)で発現します。一方、チルゼパチドで同じく活性化するもう1つのGIP受容体は脂肪組織で発現しており、脂肪組織機能に直接寄与しているようです。GIP受容体活性化は栄養処理や代謝制御を改善して脂肪組織機能を向上させるようです。GLP-1受容体のみの作動薬に比べてチルゼパチドが体重、糖、トリグリセリドを下げる効果が一層高いことにそれらのGIP受容体活性化の恩恵が貢献しているかもしれません。さらに、チルゼパチドは寒さでBATが熱を発生するときのように、BATのケト酸や分枝鎖アミノ酸の分解を増やすことがマウスでの検討で示されています3)。そこで、スロベニアのリュブリャナ大学病院のRok Herman氏らは、チルゼパチドがBATの量や活性を高めるかどうかや、白色脂肪組織を褐色細胞化するかどうかを臨床試験で調べてみることにしました4)。かつてBATは幼少期を過ぎると消失すると考えられてきましたが、最近の試験で成人にも存在することが判明しています。肥満だとBATは働かなくなり、寒さで活性化します。TABFAT(Tirzepatide Brown and Beige Adipose Tissue Activation)と銘打つHerman氏らによるプラセボ対照無作為化試験には、肥満の閉経前(35.5~45.0歳)の女性34例が参加しました。34例は24週間のチルゼパチドかプラセボを投与する群に1対1の比で割り振られました。BATの寒さに応じた活性や量をPET/CTやMRIの画像を使って測定したところ、ベースラインでは41.2%だったBAT検出患者の割合がチルゼパチド群で64.7%に上昇しました。プラセボ群のBAT検出患者の割合は変化しませんでした。また、チルゼパチド群のBATの活性や量の上昇がプラセボ群を有意に上回りました。さらには、どうやら皮下脂肪が褐色細胞化し、より代謝が盛んなベージュ脂肪へと変換しているらしいことも見てとれました。以上の試験結果は本年6月のEndocrine Societyの年次総会で発表され、3千ドルの授与を含む駆け出しの研究者への賞(C. Wayne Bardin, MD, International Travel Award)を受賞しています。その受賞を称える同月のニュースでHerman氏は試験のデータ解析が終わりつつあり、主だった結果を本年中に論文にして発表すると述べています5)。参考1)ORF50-04 - Tirzepatide Stimulates Brown Adipose Tissue Activity Independent of Weight Loss in Women with Obesity: TABFAT Trial / ENDO 20262)Tirzepatide may change how the body uses energy / Endocrine Society3)Samms RJ, et al. Mol Metab. 2022;64:101550.4)Herman R, et al. Trials. 2025;26:300.5)Game Changer: 2026 Bardin Award Winner Rok Herman, MD / Endocrine Society

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メタボ解消、正常BMIまでの減量は必要ない?

 メタボリックシンドローム(MetS)の解消に向けた減量は、体重、BMI、腹囲など何がよく、どの程度必要だろうか。このテーマに関し、中国の湖北省疾病予防管理センター慢性・非感染性疾患予防管理研究所のJunfeng Qi氏らの研究グループは、約7,000例を対象にデータを解析。その結果、MetSの解消にBMIを完全に正常化させる必要はないことが示唆された。この結果は、Obesity誌2026年7月31日オンライン版に公開された。MetS解消に必要な減量幅:過体重で2~8%、肥満で3~9% 研究グループは、ベースラインBMIに基づいて尺度化された新たな指標「BMI正常化達成率(BMI-NAR)」を導入し、MetS解消に向けた個別化の減量目標を検討することを目的に、China HEARTプロジェクトのデータを解析した。過体重/肥満かつMetSを有する成人7,340人を対象とした縦断的コホート研究を実施し、BMI-NARは、BMIの正常値(24.0kg/m2未満)到達に向けた進捗率(%)として定義した。また、ロジスティック回帰分析および制限付き3次スプラインを用い、BMI-NARとMetS解消との用量反応関係を評価した。 主な結果は以下のとおり。・BMI-NARが50%上昇するごとに、MetS解消との有意な関連が認められた。・全体ではオッズ比[OR]1.10、95%信頼区間[CI]:1.07~1.12、過体重ではOR:1.08、95%CI:1.06~1.11、肥満ではOR:2.36、95%CI:2.00~2.80だった。・探索的に特定された最小有効閾値(BMI-NARは全体で37%、過体重で53%、肥満で22%)を超えると、解消の確率は急激に上昇した。・全体集団ではBMI-NAR約165%までMetS解消の有益性が認められたが、それを超える高値域は症例数が少なかった。・過体重および肥満の集団において、明確な効果の上限は確認されなかった。・これらの探索的閾値を個別化減量目標に換算すると、一般的な過体重(ベースラインBMI25~27.99)では最低2~8%、肥満では3~9%の減量が必要となる。 研究グループはこの結果から「MetSの解消には、BMIを完全に正常化させる必要はない。BMI-NARは、この高リスク集団における個別化された最小有効減量目標を検討するための、仮説提唱のための定量的フレームワークを提供するものである。ただし、臨床応用には外部検証が必要」と結論付けている。

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COPD・心血管疾患併存患者、β遮断薬で全死亡リスクは低下するか

 慢性閉塞性肺疾患(COPD)と心血管疾患の併存患者において、β遮断薬で全死亡リスクは低下するものの、心不全または虚血性心疾患患者に限られ、長時間作用性β2刺激薬(LABA)の併用によってその効果が減弱する可能性があることが示された。カナダ・McGill UniversityのSamy Suissa氏らが、英国のプライマリケアのデータベースを用いて実施した標的試験エミュレーション(target trial emulation)研究の結果をChest誌オンライン版2026年8月11日号に報告した。 本研究では、英国CPRD(Clinical Practice Research Datalink)の2002年1月~2021年3月のデータを使用し、40歳以上のCOPD・心血管疾患併存患者のコホートを構築した。臨床試験を模倣するように設計された新規使用者デザインを採用し、β遮断薬開始例と非投与例を、投与開始時期、傾向スコア、心血管疾患(心不全、虚血性心疾患、心房細動、高血圧)でマッチングした。as-treated解析により、全死亡のハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を推定した。 主な結果は以下のとおり。・β遮断薬開始群は非投与群と比較して、全死亡リスクが12%有意に低下した(HR:0.88、95%CI:0.81~0.95)。・全死亡リスクの低下は、心不全患者(HR:0.77、95%CI:0.66~0.89)および虚血性心疾患患者(HR:0.84、95%CI:0.73~0.98)で認められたが、心房細動患者(HR:0.96、95%CI:0.83~1.11)および高血圧患者(HR:1.10、95%CI:0.87~1.38)では認められなかった。・LABA非併用患者ではβ遮断薬による死亡リスクの低下が認められた(HR:0.80、95%CI:0.71~0.91)が、LABA併用患者では認められなかった(HR:0.95、95%CI:0.85~1.05、相互作用のp=0.04)。この影響は虚血性心疾患患者によるものだった(相互作用のp=0.01)。 著者らは、「大規模集団データを用いた臨床試験模倣研究により、β遮断薬がCOPD・心血管疾患併存患者の全死亡リスクの低下に有効であるものの、その効果は心不全または虚血性心疾患患者に限られ、心房細動や高血圧患者では認められないことが示された。また、LABAの併用はβ遮断薬の全死亡率の低下効果を減弱する可能性がある」と結論している。

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gBRCA病的バリアントを有する若年早期乳がん、周術期化学療法の種類と生存アウトカムの関係

 生殖細胞系列BRCA1/2病的バリアントを有する40歳以下のHER2陰性(HER2-)早期乳がん患者において、周術期化学療法のレジメン間で生存アウトカムに統計学的な有意差はみられないことが、国際多施設共同後ろ向きコホート研究(BRCA BCY Collaboration研究)の結果で示された。イスラエル・Sheba Medical CenterのRinat Bernstein-Molho氏らが、European Journal of Cancer誌オンライン版2026年8月11日号に報告した。 本研究では、2000~2020年にStageI~IIIのHER2-乳がんと診断された40歳以下のBRCA1/2病的バリアント保持者を対象に、アントラサイクリン+タキサン系、アントラサイクリン系(タキサンなし)、非アントラサイクリン系の各術前/術後化学療法による無病生存期間(DFS)および全生存期間(OS)を評価した。また、トリプルネガティブ乳がん(TNBC)においてはプラチナ製剤の使用とアウトカムとの関連も評価した。 主な結果は以下のとおり。・109施設から4,200例が解析対象となり、うち58.7%がTNBCであった。・追跡期間中央値は8.1年(四分位範囲:4.7~12.6年)であった。・使用された化学療法レジメンの割合は、アントラサイクリン+タキサン系が74.4%、アントラサイクリン系(タキサンなし)が19.3%、非アントラサイクリン系が6.3%であった。また、TNBCでは19.8%でプラチナ製剤が投与されていた。・多変量調整後、アントラサイクリン系(タキサンなし)とアントラサイクリン+タキサン系との間で、DFS(調整ハザード比[aHR]:0.88、95%信頼区間[CI]:0.73~1.05)およびOS(aHR:1.20、95%CI:0.87~1.67)に有意差は認められなかった。・同様に、アントラサイクリン系(タキサンなし)と非アントラサイクリン系の比較においても、DFS(aHR:1.07、95%CI:0.82~1.38)およびOS(aHR:1.16、95%CI:0.68~2.00)に有意差は認められなかった。・TNBC症例において、プラチナ製剤の使用とアウトカム改善の間に関連はみられなかった。 著者らは今回の結果について、同患者集団における化学療法のde-escalation戦略を評価する今後の前向き研究に有益な情報をもたらすものとしている。

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治療抵抗性うつ病に対するSGA増強療法、その有効性・安全性は?

 治療抵抗性うつ病は、うつ病患者の多くに影響を及ぼしており、依然として治療上の大きな課題となっている。第2世代抗精神病薬(SGA)による増強療法は、一般的に行われているが、その有効性と安全性を比較したエビデンスは限られている。英国・Leeds and York Partnership NHS Foundation TrustのRashed Khalid氏らは、成人治療抵抗性うつ病患者を対象に、SGAによる増強療法の有効性および忍容性を評価するため、システマティックレビューを実施した。Cureus誌2026年5月26日号の報告。 PubMed/MEDLINE、Embase、Web of Science、Scopus、Cochrane Libraryより、2016~25年に公表されたランダム化比較試験(RCT)をシステマティックに検索した。対象研究は、SGAによる増強療法を受けている成人治療抵抗性うつ病患者を対象とした研究とした。2人の評価者が独立して研究のスクリーニングとデータ抽出を行い、Cochrane RoB 2ツールを用いてバイアスリスクを評価した。介入やアウトカムに臨床的な異質性が認められたため、結果は記述的統合を行った。 主な内容は以下のとおり。・ブレクスピプラゾール、cariprazine、アリピプラゾール、クエチアピン徐放錠(XR)を評価したRCT11件(5,300例)を分析に含めた。・多くの研究において、プラセボと比較し、抑うつ症状のより大きな改善が報告された。・評価には、主にMontgomery Asbergうつ病評価尺度(MADRS)の変化量が用いられていた。・ブレクスピプラゾールおよびアリピプラゾールとセルトラリンの併用療法において、最も一貫した改善が認められた。・ブレクスピプラゾールによる増強療法は、寛解率が22~31%の範囲であり、cariprazineによる増強療法は、用量調節可能な試験において22~32%の寛解率が示された。・いくつかの薬剤では、2~3週間以内という早期の作用発現が認められた。・一般的な有害事象は、アカシジア、不眠、落ち着きのなさ、体重増加などであった。・有害事象による治療中止率は0.4~8.6%の範囲であった。・10件の研究が、バイアスリスクが低いと評価された。 著者らは「SGAによる増強療法は治療抵抗性うつ病に対する有効な治療戦略であり、とくにブレクスピプラゾールにおいて一貫した有用性が示された。ただし、慎重なリスク・ベネフィット評価と有害事象のモニタリングが不可欠である。個別化された治療を推進するためには、さらなる直接比較試験や長期的な研究が求められる」としている。

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転移大腸がん1次治療への高用量ビタミンD3上乗せ、PFSを延長せず/JAMA

 未治療の転移を有する大腸がん(mCRC)の1次治療において、高用量ビタミンD3の補充は標準用量のビタミンD3の補充と比較して無増悪生存期間(PFS)を延長しないことが、米国・ダナファーバーがん研究所のKimmie Ng氏らによる第III相「SOLARIS(Alliance A021703)試験」の結果で示された。前臨床研究および疫学研究により、大腸がんにおけるビタミンDの抗悪性腫瘍薬としての役割が示され、第II相SUNSHINE試験では、標準用量と比較して高用量ビタミンD3の補充はPFSを改善する可能性が示唆されていた(13ヵ月vs.11ヵ月、多変量補正後ハザード比[HR]:0.64、片側95%信頼区間[CI]:0~0.90、p=0.02)。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2026年8月3日号に掲載された。米国の無作為化第III相試験 SOLARIS試験は、米国の151施設で実施した二重盲検無作為化第III相試験である(米国国立がん研究所[NCI]の助成を受けた)。2019年10月~2022年12月に、年齢18歳以上で、未治療の切除不能な局所進行または転移を有する大腸がん患者を登録した。 被験者455例(年齢中央値59歳[四分位範囲[IQR]:50.0~68.0]、女性181例[39.8%])に、血管新生阻害薬ベバシズマブ(2週ごと)とともに、標準化学療法としてmFOLFOX6(5-フルオロウラシル/ロイコボリン+オキサリプラチン)またはFOLFIRI(5-フルオロウラシル/ロイコボリン+イリノテカン)を投与した。 これらの患者を、高用量ビタミンD3(負荷用量:8,000 IU/日×14日間投与後、4,000 IU/日)(228例)または標準用量ビタミンD3(400 IU/日)(227例)を投与する群に無作為に割り付け、病勢進行、耐用不能な毒性、同意の撤回のいずれかが発生するまで継続投与した。 主要評価項目はPFS(log-rank検定で評価)であった。副次評価項目は、客観的奏効率、全生存期間(OS)および毒性などであった。奏効率、OSにも差はない 原発巣は、左結腸が高用量群38.2%、標準用量群39.8%、右結腸がそれぞれ35.1%および33.6%、直腸が21.5%および20.4%であった。多くの患者が、基礎化学療法としてmFOLFOX6を受けた(高用量群85.8%、標準用量群84.2%)。 追跡期間中央値20ヵ月の時点で、PFS中央値は高用量群が11.8ヵ月(95%CI:10.3~13.3)、標準用量群は10.3ヵ月(95%CI:9.4~12.2)であり、両群間に有意な差を認めなかった(片側log-rank検定のp=0.25)。 また、客観的奏効率(高用量群51%[95%CI:44~58]vs.標準用量群44%[37~50]、p=0.12)およびOS中央値(25.6ヵ月vs.27.0ヵ月、HR:1.05、95%CI:0.81~1.36、片側log-rank検定のp=0.66)にも、両群間に有意差はみられなかった。Grade3以上の好中球減少、高血圧が高頻度 Grade3以上の毒性の発生に関して、両群間に臨床的に意義のある差を認めなかった。Grade3の有害事象は高用量群で115例(54.2%)、標準用量群で109例(52.2%)、Grade4はそれぞれ34例(16.0%)および31例(14.8%)、Grade5は5例(2.4%)および6例(2.9%)に発現した。高用量群におけるGrade5の有害事象のうち試験治療に関連したものはなかった。 最も頻度の高いGrade3以上の有害事象は、好中球減少(高用量群67例[31.6%]vs.標準用量群62例[29.7%])、高血圧(42例[19.8%]vs.49例[23.4%])、白血球減少(19例[9.0%]vs.9例[4.3%])、末梢性感覚神経障害(19例[9.0%]vs.7例[3.3%])、下痢(16例[7.5%]vs.10例[4.8%])であった。 ビタミンD関連の有害事象(全Grade)として、高カルシウム血症(高用量群7例[3.3%]vs.標準用量群3例[1.4%])、高リン血症(7例[3.3%]vs.10例[4.8%])、腎結石(3例[1.4%]vs.0例)などがみられた。 著者は、「これらの知見に基づき、未治療のmCRC患者に対し、標準化学療法に高用量のビタミンD3を追加することは推奨できない」としている。また、SUNSHINE試験との間に結果の相違がみられたことの説明の1つとして、ベースラインの血漿25(OH)Dが本試験で高かった点(両群中央値21.8ng/mL vs.17.6ng/mL)を挙げ、「ベースラインの25(OH)D値が低いほど、ビタミンD3補充に対する反応が大きいことが知られており、したがって本試験の患者は高用量ビタミンD3補充療法から、それほど大きな恩恵を受けなかった可能性がある」と指摘している。

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GLP-1受容体作動薬、自己免疫疾患患者の死亡・血栓リスク低下と関連

 肥満を伴う関節リウマチ、乾癬性関節炎、炎症性腸疾患などの自己免疫疾患の患者の中で、GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)が処方されている人は、死亡リスクや血栓症のリスクが低いという研究結果が報告された。米フロリダ大学のAmy Sheer氏らが、フロリダ州などの3州にある14の医療機関の電子カルテ情報を用いて検討したもので、詳細は6月6日付で「Journal of the American Heart Association(JAHA)」に掲載された。 GLP-1RAは、2型糖尿病の血糖管理のほかに減量目的でも用いられている。肥満では、全身性の慢性炎症や血管内皮機能の低下により血栓が形成されやすいことが知られていて、また自己免疫疾患も炎症反応を強めるために、肥満を伴う自己免疫疾患患者では、心血管イベントや血栓イベントのリスクが高いと考えられている。Sheer氏らは、2014~2024年の電子カルテデータから、自己免疫疾患と肥満のある18歳以上の成人患者を抽出。背景因子を傾向スコアでマッチングさせ、GLP-1RAが処方されていた患者と処方されていない患者、各群1万3,204人のデータセットを作成し、全死亡や心血管・血栓イベントのリスクを比較した。解析対象者全体の平均年齢は54.7±14.5歳、女性73.4%で、BMIは37だった。 解析の結果、GLP-1RAの処方は、全死亡リスクが44%低いことと関連していた(ハザード比〔HR〕0.56〔95%信頼区間0.47~0.66〕)。また、脳卒中・一過性脳虚血発作(HR0.87〔同0.76~0.99〕)、肺塞栓症(HR0.69〔0.56~0.86〕)、静脈血栓塞栓症(HR0.83〔0.72~0.95〕)、救急外来受診(HR0.79〔0.75~0.83〕)のリスクも有意に低かった。一方、心筋梗塞リスクについては有意な低下は認められなかった。 この結果について、米マサチューセッツ総合病院のFatima Cody Stanford氏は、「肥満と自己免疫疾患を併発している患者において、全死因リスクが44%減少したという結果は注目すべき発見だ」と述べている。米国心臓協会(AHA)ライフスタイル・心血管代謝評議会の一員でもある同氏は、「肥満の専門医・研究者として普段から複雑な炎症性疾患を抱える患者を診察している立場からすると、今回の研究結果はわれわれが抱いていた臨床疑問と期待に答えるものだ。つまり、GLP-1RAのメリットは血糖コントロールや体重減少にとどまらず、最もリスクの高い自己免疫疾患患者の一部において、疾患の経過そのものを変える可能性があるということだ」と話している。 研究者らは、この結果について、「GLP-1RAは免疫系を調節し、血液凝固能を抑制することが知られている。今回の研究結果はそのような作用によって説明できるのではないか」と述べている。またSheer氏は、「既存の自己免疫疾患治療薬とGLP-1RAの併用効果に期待される。過体重や肥満を伴う自己免疫疾患患者にとって本研究は、処方薬が心血管疾患のリスク軽減にもつながっている可能性を示す、希望の兆しとも言えるのではないか」としている。

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ADHD治療薬、種類により体重への影響は異なる

 注意欠如・多動症(ADHD)の治療で広く用いられる2種類の中枢神経刺激薬、dexamphetamine(デキサアンフェタミン、デキストロアンフェタミン)とメチルフェニデートは、いずれも同程度に症状を改善するものの、体重に与える影響には違いが見られ、dexamphetamine群ではより体重が減少する傾向が認められたことが、臨床試験で示された。シドニー大学(オーストラリア)小児科・小児保健学分野のAlison Poulton氏らによるこの試験の詳細は、7月7日付で「Journal of Paediatrics and Child Health」に掲載された。 ADHDは、注意を持続することや衝動を抑えることなどに困難が生じる神経発達症である。ADHDを有する小児では、学校生活、友人関係の構築、集中力の維持など、日常生活のさまざまな場面で困難が生じる。世界では2021年時点で、20歳未満でのADHD患者数は約4700万人と推定されている。米国では3~17歳の約12%がADHDと診断されている一方、オーストラリアでは約8%とされている。2023年にオーストラリアでADHD治療薬を処方された18歳未満の人の数は、10年前と比べて約2.5倍に増加したという。 この研究では、これまで中枢神経刺激薬による治療を受けていなかったADHDの小児100人(平均年齢9.08歳、男児73%)を対象に、dexamphetamineまたはメチルフェニデートのいずれかを投与する群に50人ずつランダムに割り付け、有効性と副作用を比較した。薬の投与開始後は4週間の用量調整期間を設け、その間は毎週、教師が学校でIOWA Conners評価尺度で症状を評価した。その後は、臨床判断に基づいて用量調整や薬の変更を行い、対象者を12カ月間追跡した。 その結果、いずれの群も全ての評価時点でADHD症状が有意に改善し、両群間で効果に有意差は認められなかった。12カ月時点で62人が割り付けられた薬の使用を継続しており、患者・保護者による薬の選好にも有意差は認められなかった。さらに、3カ月時点で両群ともに体重減少が認められたが、減少幅はdexamphetamine群の方がメチルフェニデート群より大きかった(1.44 kg対0.31 kg)。12カ月時点では、メチルフェニデート群ではベースラインから1.26 kg増加したのに対し、dexamphetamine群では0.84 kg減少していた。一方、12カ月時点の身長増加量は、メチルフェニデート群で4.9 cm、dexamphetamine群で4.4 cmで、両群間に有意差は認められなかった。 Poulton氏は、「大きな違いは、dexamphetamineを服用した小児で、体重減少がより大きかったことだ。これは治療薬を選択する際や成長を経過観察する際に考慮すべき重要な点である」とニュースリリースで述べている。

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多内分泌代謝性卵巣症候群は心筋梗塞や脳卒中のリスクと関連

 若年女性に見られる卵巣関連の内分泌・代謝疾患である多内分泌代謝性卵巣症候群(polyendocrine metabolic ovarian syndrome;PMOS)は、心筋梗塞や脳卒中のリスク上昇と関連している可能性がある。新たな大規模研究で、PMOSの女性では、アテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)イベントの発生リスクが、PMOSではない女性と比べて4倍以上高いことが明らかになった。米ペンシルベニア大学病院産婦人科のAnuja Dokras氏らによるこの研究結果は、7月20日付で「The Lancet Obstetrics, Gynaecology, & Women's Health」に掲載された。 Dokras氏は、「この研究結果は、臨床医がPMOS患者の心血管の状態を綿密に追跡・評価することの重要性を示している。また、PMOS患者自身が心血管の健康維持を心がけるとともに、喫煙、運動不足、肥満、高LDLコレステロール(LDL-C)値、糖尿病、高血圧といったリスク因子を管理することも重要である」と述べている。 PMOSでは多くの場合、卵巣内に発育途中の小卵胞が複数見られる。また、アンドロゲンの過剰産生により排卵障害や月経異常、不妊症のほか、代謝異常や心血管疾患のリスクが高まる。研究グループによると、PMOSは妊娠可能年齢の女性の約10~13%に認められるが、そのうちの最大70%は自分がPMOSに罹患していることに気付いていないという。 今回の研究では、Optum社の匿名化医療保険請求データベース(Clinformatics Data Mart Database)を用いて、ASCVDの既往がない18~50歳の女性を対象に、PMOSとASCVDイベントとの関連を検討した。対象者のうち、41万3,450人(平均年齢31.1歳)がPMOSと診断されていた。定期健康診断のICDコードを有し、年齢およびPMOS診断月をPMOS群の女性と一致させた女性206万7,250人を対照群とした。ASCVDは、冠動脈疾患、脳血管疾患、末梢動脈疾患と定義した。 その結果、ASCVDイベント全体の発生のハザード比(HR)はPMOS群で対照群よりも高く、年齢などの交絡因子で調整後もHRは4.40だった。疾患別に解析すると、心筋梗塞や脳卒中のリスクは約2.5倍、脳卒中発症の前兆となる一過性脳虚血発作(TIA)のリスクは約3.4倍、末梢動脈疾患のリスクは約4倍であることも示された。媒介分析では、高血圧、脂質異常症、2型糖尿病、肥満などの心血管疾患リスク因子だけでは、PMOSとASCVDとの関連の約3分の1しか説明できないことが示唆された。 PMOSは、もともとは多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)と呼ばれていたが、2026年5月、国際的なコンセンサスプロセスを経て、PCOSはPMOSへ名称変更された。Dokras氏は、「『多嚢胞性』という言葉は、この疾患の実態を正確に表していなかった。今回の研究で示したように、PMOSの影響は婦人科領域にとどまらない。新しい名称は、内分泌系の複数のホルモンが関与する疾患であることを示している。この名称変更により、臨床医がより包括的な医療を提供できるようになることを期待している」と述べている。

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第308回 手足口病、全国25都道県で警報レベル 東北でも感染拡大/JIHS

<先週の動き> 1.手足口病、全国25都道県で警報レベル 東北でも感染拡大/JIHS 2.千葉の豪雨で25市町に災害救助法、マイナ保険証なくても受診可能に/厚労省 3.地域ごとに「推奨薬」選定へ 地域フォーミュラリ普及を本格化/厚労省 4.チルゼパチドの薬価25%減 低価格化による不適正使用を懸念/リリー 5.MMR混合ワクチンを個別接種へ 接種率低下と感染拡大に懸念/米国 6.沢井製薬が46品目販売中止、低薬価・設備老朽化で安定供給が課題に/沢井 1.手足口病、全国25都道県で警報レベル 東北でも感染拡大/JIHS国立健康危機管理研究機構(JIHS)の感染症動向調査によると乳幼児を中心に流行する手足口病が、東北各県で高い水準となっている。青森県では8月3~9日の患者報告数が257人で、6週間ぶりに減少したものの、1定点医療機関当たり7.56人と警報基準の5人を上回った。県内6保健所管内のうち5管内が警報レベルで、青森市・東津軽では10.33人、八戸市・三戸では9.14人だった。その一方で、岩手県では同期間の患者数が415人と前週から69人増加。1定点当たり15.37人で10週連続の増加となり、警報基準の3倍を超えた。一関27.0人、中部26.5人、県央25.0人など、10管内中7管内が警報レベルとなっている。宮城県も1定点当たり10.45人と今季最多を更新し、4週連続で警報基準を超えた。同じく福島県でも9.71人と2週連続で今季最多となり、警報レベルが4週続いている。全国では7月27日~8月2日の定点当たり報告数は6.03人。2週連続で減少したものの、25都道県で警報基準を超えており、依然として広範な流行が続いている。手足口病はエンテロウイルスなどによる感染症で、多くは軽症だが、まれに脳炎などの中枢神経合併症を来す。飛沫や接触のほか便を介して感染し、症状消失後も数週間にわたり便中へウイルスが排泄されることがある。医療現場では乳幼児の発熱、口腔内病変、手足の発疹に加え、意識障害、けいれんなど重症化を示唆する症状に注意が必要である。家庭や保育施設では石けんと流水による手洗い、タオルの共用回避、おむつ交換時の排泄物処理の徹底が求められる。 参考 1) 手足口病の減少続くも、感染性胃腸炎やコロナは増転【感染症動向調査第31週:7月27日~8月2日】(Medical Tribune) 2) 青森「手足口病」感染者数減少も依然5保健所管内で警報レベル(NHK) 3) 岩手県内「手足口病」患者数さらに増加 警報基準の3倍余に(同) 4) 福島県内 「手足口病」今季最多に お盆休みの感染対策徹底を(同) 2.千葉の豪雨で25市町に災害救助法、マイナ保険証なくても受診可能に/厚労省8月13日に千葉県を中心に発生した記録的豪雨で、県内の医療機関にも浸水や停電などの被害が広がっている。厚生労働省によると、14日午前10時時点で大規模病院を含む22医療機関から被害報告があり、千葉市、柏市、八千代市などを中心に影響が確認された。内閣府は多数の住民が生命・身体に危害を受ける、またはその恐れがあるとして、千葉県の21市4町、計25市町に災害救助法を適用した。厚労省は14日、被災者の保険診療や診療報酬に関する特例措置を通知した。避難時にマイナンバーカードや資格確認書を紛失、または自宅に残した場合でも、氏名、生年月日、連絡先に加え、被用者保険では事業所名、国保・後期高齢者医療では住所などを申し立てれば保険診療を受けられる。医療機関は可能な限り保険者を確認した上でレセプト請求するが、特定できない場合も住所や事業所名、連絡先などを記載して請求できる。被災者受け入れに伴う診療報酬上の特例も適用される。許可病床数を超えて患者を受け入れても減額措置を適用せず、DPC病院も従来通り診断群分類点数表による算定が可能となる。患者急増や災害支援への職員派遣によって看護配置や夜勤時間などの施設基準が一時的に満たせなくなった場合も、一定範囲では変更届を不要とする。また、被災医療機関からの転院患者については、平均在院日数や重症度、医療・看護必要度などの算定から除外できる場合があり、ICU・HCUにやむを得ず本来の対象外患者を収容した場合も特例が設けられた。そのほか、避難所で継続的な診療が必要な通院困難患者には、条件を満たせば在宅患者訪問診療料の算定も認められる。その一方で、保団連は医療機関や介護施設、在宅人工呼吸器・酸素療法、人工透析患者への電力・水供給の早期確保、医薬品・医療材料の供給、被災者の医療費窓口負担免除などを政府に要望した。豪雨災害では直接的な外傷だけでなく、停電・断水による透析や在宅医療の継続困難、慢性疾患治療の中断も重要な課題となる。 参考 1) 令和8年8月13日からの大雨に伴う災害に係る災害救助法の適用について(内閣府) 2) 令和8年8月13日からの大雨に伴う災害の被災者に係るマイナ保険証又は資格確認書の提示等について(厚労省) 3) 千葉豪雨 県内の22の医療機関から被害報告 厚労省(テレビ朝日) 4) 千葉の大雨、死者8人に…被災者の“医療費免除”と“最大850万円の支給”を医師団体が国に緊急要望(弁護士JPニュース) 5) 2026年8月13日からの千葉県を中心とする大雨被害、保険診療受診や診療報酬算定に関する特例を適用-厚労省(Gem Med) 3.地域ごとに「推奨薬」選定へ 地域フォーミュラリ普及を本格化/厚労省厚生労働省は、地域ごとに使用を推奨する医薬品を定める「地域フォーミュラリ」の普及を本格化させる。今秋をめどに、医療関係者らを対象とした全国説明会を開き、制度への正確な理解を広げる方針。地域フォーミュラリは、高血圧、脂質異常症、胃潰瘍などの治療薬について、有効性、安全性、費用、供給状況などを踏まえ、地域で推奨する医薬品をリスト化する仕組み。院内フォーミュラリと異なり、病院だけでなく診療所や薬局も含む地域全体で運用する。医師の処方権を制限するものではなく、標準的な薬物療法の共有、後発医薬品の適正使用、医薬品の安定供給を目的とする。日本フォーミュラリ学会によると、2026年2月時点で18都道府県30地域に導入が済んでおり、31地域が準備中。大阪府八尾市ではスタチンなど10薬効群、茨城県つくば地域では14薬効群について策定している。学会も31薬効群の「モデルフォーミュラリ」を公開しており、各地域はこれを参考に独自の事情を加味して策定できる。2026年度診療報酬改定では、医科・調剤の施設基準に、地域の医療機関、薬局、関係団体と医薬品の品目情報を共有し、安定供給に向けた事前の取り決めを行うことが望ましいとの考え方が盛り込まれた。現時点では努力目標だが、国が地域フォーミュラリを政策的に後押しする姿勢が鮮明になった。厚労省は全都道府県に医師会や薬剤師会などが参画する検討会の設置を求める。普及の背景には医療費適正化に加え、後発薬の供給不安や災害対応がある。健保連は2019年、高血圧、脂質異常症、糖尿病で後発薬への切り替えが進めば、全国で年間3,100億円の薬剤費削減につながると試算している。また、地域で使用薬をある程度集約すれば、薬局の在庫負担軽減や供給途絶時の代替、災害時の備蓄・配送にも役立つ。今後は、地域の実情を反映しながら、医師の処方判断とどう両立させるかが普及の鍵となる。 参考 1) 地域フォーミュラリ、厚労省が「全国説明会」今秋、医療関係者ら向けも(MEDIFAX) 2) 高血圧・脂質異常症・胃潰瘍…地域ごとに異なる「使用が推奨される医薬品」、リスト作りを国が推進(読売新聞) 3) 報酬改定も策定を後押し、広がる地域フォーミュラリ(日経メディカル) 4.チルゼパチドの薬価25%減 低価格化による不適正使用を懸念/リリー日本イーライリリーは、2型糖尿病治療薬チルゼパチド(商品名:マンジャロ皮下注)の薬価が8月1日付で25%引き下げられたことを受け、「画期的な医薬品に対する不当に不利益な対応」とする声明を発表した。今回の引き下げは、販売額が想定を上回った医薬品の価格を調整する「持続可能性特例価格調整」の適用によるもの。厚生労働省によると、同薬の保険診療での年間販売額は1,000~1,500億円規模に達している。薬価は2.5mg製剤で1本1,443円、15mg製剤で8,658円となった。リリーは、日本の価格は従来からG7で最も低い水準にあり、今回の引き下げにより同規模の経済圏でも最低水準になるとしている。同社は低価格化により、適応外となる痩身目的での不適正使用、海外からの医療ツーリズム、利益目的の買い占めや海外転売が拡大し、本来治療を必要とする2型糖尿病患者への安定供給に影響する可能性があると警告。政府に海外転売を厳格に規制する措置を求めている。チルゼパチドは週1回投与のGIP/GLP-1受容体作動薬で、食欲を抑制する作用も有する。わが国では2023年に2型糖尿病治療薬として発売されたほか、2025年には肥満症治療薬として別製品が発売されている。その一方で、糖尿病治療用製剤を美容・ダイエット目的で自由診療に使用する例が広がっており、適応外使用に伴う健康被害や、医薬品副作用被害救済制度の対象外となる可能性も指摘される。リリーは、今回の薬価引き下げについて、研究開発や国内投資の予見可能性を損ない、将来的なドラッグラグ・ドラッグロスにつながる恐れもあると主張している。高額な革新的医薬品による医療費増大への対応と、適正使用、安定供給、創薬イノベーションをどう両立させるか、薬価政策のあり方が改めて問われている。 参考 1) マンジャロの大幅な薬価引き下げに対する声明を発表~国際競争下における日本への長期的投資の持続のために、そして患者さんがイノベーションを享受するためには、予見可能で透明性の高い政策環境が不可欠~(日本イーライリリー) 2) 糖尿病薬マンジャロ「インドより安い」 不適正使用の助長に懸念(日経新聞) 3) 英アストラゼネカCSO 革新医薬への支出「先進国で公平負担を」(同) 4) リリー、マンジャロ薬価引き下げは「不当に不利益な対応」(AnswersNews) 5.MMR混合ワクチンを個別接種へ 接種率低下と感染拡大に懸念/米国米国のトランプ大統領は8月10日、小児のワクチン接種方針を見直す大統領令に署名した。麻しん、おたふく風邪、風しんを予防するMMR混合ワクチンについて、それぞれを別の機会に接種することを推奨するとともに、すべての小児に一律で推奨するワクチンを従来の17種類から11種類に縮小する方針を示した。A型・B型肝炎、ロタウイルス、髄膜炎菌、インフルエンザ、新型コロナワクチンなどは、医師と保護者による個別判断に移行するとしている。トランプ氏はワクチン接種数の増加と自閉症との関連を示唆しているが、米国小児科学会は「数百万人を対象とした多くの研究で関連がないことが示されている」と反論し、今回の見直しを「危険で誤解を招く」と批判している。WHOも、ワクチンと自閉症との因果関係を示す証拠はなく、MMRを単独接種に分ける医学的利点を裏付ける根拠もないとしている。さらに、麻しん・風しん・おたふく風邪の単独ワクチンは現在米国内では入手ができず、分割接種には製造体制の整備が必要となる。接種回数や受診回数の増加により、接種完遂率が低下するとの懸念も強い。米国では今年、8月6日時点で麻疹患者が2,465人に達しており、専門家はワクチン忌避の拡大がさらなる流行につながる可能性を警告している。なお、接種義務の決定権は各州にあり、大統領令のみでただちに接種スケジュールや保険適用が変更されるわけではない。 参考 1) 米、混合ワクチンを個別接種に 推奨対象も削減(共同通信) 2) 「ワクチンと自閉症が関連」が持論のトランプ氏、混合ワクチンを別々に接種する方針打ち出す…感染リスク拡大の恐れ(読売新聞) 3) 米医師ら、トランプ氏の大統領令に懸念 家庭でのワクチン離れにつながるか(CNN) 6.沢井製薬が46品目販売中止、低薬価・設備老朽化で安定供給が課題に/沢井沢井製薬は、後発医薬品22成分46品目について、在庫がなくなり次第、順次販売を中止すると医療関係者に通知した。大半は安定供給体制の構築と生産効率改善を目的とした製品構成の見直しによるもので、一部は協業する日医工グループ製品などへ統合する。対象にはアテノロール、アマルエット配合錠、アルファカルシドール、エバスチン、クアゼパム、テルミサルタンOD錠、ドネペジル、ニフェジピン、フルボキサミン、ブロナンセリン、メマンチンなど、日常診療で処方される薬剤も多数含まれる。沢井製薬は各品目について代替品・代替候補品を提示している。たとえばアマルエット配合錠はアムロジピンとアトルバスタチンの単剤、セチリジンOD錠は通常錠、ドネペジル錠は同社OD錠への切り替えが候補とされている。在庫消尽時期は品目ごとに異なり、多くは2027年4月だが、プロブコールは2026年10月、ザルトプロフェンやプロピベリン20mgは同年11月、ニフェジピンカプセルは2028年3月とされる。その一方で、アテノロールやアルファカルシドール、クアゼパムなどはすでに供給停止中となっている。経過措置期間の満了は2028年3月の予定。背景には後発薬業界の構造的な供給問題がある。日本製薬団体連合会の調査では、医療上の必要性が高い2,882品目のうち255品目、約9%で将来の供給継続が困難と回答された。主因は薬価低下や製造設備の老朽化であり、なかには全身麻酔薬や注射用抗菌薬など重要薬も含まれている。臨床現場では今後、単なる銘柄変更だけでなく、剤形や規格、配合剤から単剤への変更が必要となるケースもあり、処方時には院内採用品や地域薬局の在庫状況を含めた確認が求められる。 参考 1) 販売中止品目のお知らせ(沢井製薬) 2) 沢井製薬、後発薬46品目を販売中止へ 供給安定へ製品構成見直し(日経新聞) 3) 沢井製薬が46品目、高田製薬が31品目を販売中止に(日経メディカル) 4) 重要度高い薬「供給継続できず」1割 低薬価や老朽化で、日薬連調査(日経新聞) 5) 医療用医薬品供給状況報告(厚労省)

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第100回 有意差がなかった場合に、なぜ「同じ」と言えないのか?【統計のそこが知りたい!】

第100回 有意差がなかった場合に、なぜ「同じ」と言えないのか?統計学的仮説検定において、帰無仮説(H0)が棄却されなかった場合、必ずしも帰無仮説が採択され、正しいと結論するわけではありません。これは、帰無仮説が棄却されなかったからといって、帰無仮説が正しいと断定することはできないからです。今回は、「有意差がなかった場合に、なぜ『同じ』と言えないのか」について解説します。■「統計学的に有意差がない=同じである」は間違いたとえば、ある薬剤Xの効果を調べたい場合、統計学では一般的に「仮説検定」を行います。薬剤Xを投与した群とプラセボを投与した群(対照群)とを比較し、その効果に統計学的有意差があるかどうかをみることになります。仮説検定は、2つの事象の差異が偶然生じたものかどうかを統計学的に結論付けるものです。もし、統計学的有意差がある(薬剤Xを投与した群の効果の方が有意に大きい)なら「薬剤Xには効果がある」という結論を導くことができますが、有意差がなかった場合はどう解釈すればいいのでしょうか。「統計学的に有意差がある=効果がある」なら「統計学的有意差がない=同じである(効果がない)」と考えてしまいそうになりますが、このように有意差がない場合、“差がない”あるいは“同じ”といった断定的結論をすることができません。■「有意差がある」の反対は「有意差があるとはいえない」帰無仮説(H0)は、研究者が否定したい仮説であり、通常「差がない」「効果がない」といった内容です。対立仮説(H1)は、帰無仮説に対する反証であり、「差がある」「効果がある」といった内容です。有意差検定の結果の解釈は、有意差検定の結果、帰無仮説が棄却されると、対立仮説が採択されます。これは、観測されたデータが帰無仮説の下で得られる確率が非常に低いと判断された場合です。その一方で、帰無仮説が棄却されなかった場合、帰無仮説が採択され、正しいと結論するわけではありません。これは、観測されたデータが帰無仮説の下で得られる確率が高いと判断された場合でも、帰無仮説が正しいとは限らないからです。薬剤Xの例での帰無仮説は「2群の効果は同じ」となります。これを検定手順を踏み棄却することで、「薬剤Xを投与した群の効果の方がプロセボ群(対照群)より大きい」という対立仮説を採択することができるのです。帰無仮説を棄却するかどうかの基準が有意水準です。帰無仮説の下で計算したある検定統計量のその値となる確率(p値)が、有意水準(多くは5%)を下回れば、帰無仮説は棄却できます。つまり「『2群の効果は同じ』という仮説は誤りだと判断されるので、『薬剤Xを投与した群の効果の方が有意に大きい(薬効がある)』といえる」となります。問題はp値が有意水準より大きい場合です。この場合、帰無仮説を棄却することはできませんが、帰無仮説が正しいことも示しているわけでもありません。結果、「2群に有意差があるとはいえない」というあいまいな表現になるのです。■論文の約50%が統計を間違って解釈「統計学的に有意差がないため、2つのデータには差がない-こんな結論の導き方は統計の誤用だ」とする声明が、科学者800人超の署名入りで英科学論文誌“Nature”に2019年3月20日付で掲載されました。図のように調査した論文の約半数が「統計学的有意性」を誤用しており、科学にとって深刻な損害をもたらしていると警鐘を鳴らしています。5つの論文誌に掲載された791文献を調査したところ、51%が統計を間違って解釈していたという画像を拡大する■統計学的有意性の代わりに信頼区間をこの声明では「(ある・ないの二分法ではなく)統計の不確実性を受け入れる必要がある」とした上で、「(統計学的有意差ではなく)信頼区間を使うべきだ」と指摘しています。さらに、「信頼区間」という単語も「互換区間」(compatibility intervals)に言い換え、計算結果への過剰な信頼を避けるようにすべきだと表明しています。2016年3月には、統計学研究の世界的な拠点団体であるアメリカ統計学会“American Statistical Association”(ASA)が、学会の名の下に「p値についてのASA声明」を、その機関誌“American Statistician”に発表しています。この声明は、「統計学的に有意」であることの本来の意味を確認し、その拡大解釈や誤用に警鐘を鳴らすものでした。論文を読む際には、p値の値から著者が誤った解釈、考察をしていないかを確認するとともに、検定だけではなく、(1)推定を重視する信頼区間や信用区間、予測区間に基づく方法(2)ベイズ統計学の方法(3)尤度比やベイズファクター(4)統計学的決定理論など異なる観点からのアプローチなどでの解析も行われたうえでの結果の解釈、考察を読むことが大切です。「統計のそこが知りたい!」の連載は、本稿が最終回となります。10年以上にわたるご愛読、ありがとうございました。●Topics以前、「わかる統計教室 第4回 ギモンを解決! 一問一答」で掲載した内容を再度お示しします。ご参照ください。「質問1 p値は小さければ小さいほど差がある(よく効いた)といえるのか?」2016年3月7日に「p値や有意性にこだわり過ぎるな、p<0.05かどうかがすべてを決める時代はもう終わらせよう」という米国統計学会の声明が発表されています。ご興味のある方は下記をご参照ください。AMERICAN STATISTICAL ASSOCIATION RELEASES STATEMENT ON STATISTICAL SIGNIFICANCE AND P-VALUESProvides Principles to Improve the Conduct and Interpretation of Quantitative ScienceThe ASA's statement on p-values: context, process, and purpose

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「ロケルマ」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第88回

第88回 「ロケルマ」の名称の由来は?販売名ロケルマ®懸濁用散分包5gロケルマ®懸濁用散分包10g一般名(和名[命名法])ジルコニウムシクロケイ酸ナトリウム水和物(JAN)効能又は効果高カリウム血症用法及び用量通常、成人には、開始用量として1回10gを水で懸濁して1日3回、2日間経口投与する。なお、血清カリウム値や患者の状態に応じて、最長3日間まで経口投与できる。以後は、1回5gを水で懸濁して1日1回経口投与する。なお、血清カリウム値や患者の状態に応じて適宜増減するが、最高用量は1日1回15gまでとする。血液透析施行中の場合には、通常、1回5gを水で懸濁して非透析日に1日1回経口投与する。なお、最大透析間隔後の透析前の血清カリウム値や患者の状態に応じて適宜増減するが、最高用量は1日1回15gまでとする。警告内容とその理由設定されていない禁忌内容とその理由設定されていない※本内容は2026年8月17日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2025年10月作成(第6版)医薬品インタビューフォーム「ロケルマ®懸濁用散分包5g、ロケルマ®懸濁用散分包10g」

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相続は「争族」か「争続」か?―患者の死後に問われる「意思能力」判定の4つのポイント【外来で役立つ!認知症Topics】第44回

高齢社会の進行に伴う認知症の人の増加とともに、相続に関わる診断書や意見書が必要になることが増えてきた。こうした場合に求められる最も大切なことは、本人に「意思能力」があるか否かを医学的根拠に基づいて判定することだ。「意思能力」とは法律用語で、自分の行う契約などの行為の意味や結果を正しく理解し、判断できる知的な能力を指す。つまり、自分が行う契約締結や遺言書作成などがどのような結果をもたらすかを、正しく認識・判断できる能力のことである。以下では、医師としてこうした判定を求められた場合を想定して述べる。筆者の経験では、そのようなケースは2つに大別される。被相続人(財産を譲る人)が「生存しているか」あるいは「すでに死亡しているか」である。前者の場合は、ご本人と直接面談したり認知機能テストを行ったりすればよいので、話は比較的スムーズだ。容易でないのは後者である。とくに、問題となっている時点(遺言書作成時など)の能力や状況に関するデータが乏しかったり、まったくなかったりする場合である。この「時点」とは、たいていは遺言書が作成された時期を指すが、書の内容が明らかになるのは本人が亡くなった後だからだ。本人が亡くなった後に意思能力の有無を判断する「4つの要素」 意思能力の有無は、医師の診断書に書かれた医学的判断と、行動や契約内容といった事実関係に基づく法律的判断の両面を総合的に考慮して、裁判所が判断する。実務上、具体的には以下の4つの要素が大切だとされる。1. 精神状態・認知機能の評価まず基本となるのが、医師の診察に基づく評価と、改訂長谷川式(HDSR)やミニメンタルステート(MMSE)などの定量的なデータである。実務において、この認知機能と深く関わってくるのが「成年後見制度」だ1)(2028年ごろには改正法が施行される予定である2,3))。現行制度では軽いほうから「補助」「保佐」「後見」の3段階がある。法曹界における意思能力の判断原則は、「補助=能力あり」「後見=能力なし」とスッキリしているが、中間の「保佐」は裁く裁判官にとっても判断が悩ましいようだ。筆者が保佐レベルと判断しても、裁判官の判断はケースバイケースだが、私見ながら「HDSRが20点以上は補助」「9点以下は後見」「その間(10~19点)が保佐」という暗黙の了解や通念があるようにも思える。なお、担当医による記載では、認知症の進行度、長期的な症状の変化などいわゆる現病歴からの判断や考察が中心になるが、幻覚・妄想やうつ症状の有無も裁判官にとって重要な判断材料となり得る。困るのは、認知機能に関するデータが乏しい場合だ。そんなときにまず想起すべきは、介護保険の主治医意見書や介護保険認定調査票といった「公文書」である。とくに後者は詳細で、金銭の扱いや契約に関わる能力も評価されている。それらがなければ、かかりつけ医の診療録や看護記録、デイサービスの連絡帳、さらには故人の日記や手帳、手紙なども有用な情報源となる。2. 当時の知的能力でわかる「契約・行為の難易度」だったか?意思能力は一律に決まるものではなく、「その行為の難易度」によっても左右される。今後施行予定の改正後見制度でも、まさにこの「行為の難易度に応じた判断力を有するか否か」が鍵となっている。たとえば、医師が「中等度の認知症」と考えたケースを例にとる。コンビニで買い物をするくらいなら問題なかろう。しかし、相続となると話は難しくなってくる。「不動産はすべて長男に、現金はすべて次男に、株券はすべて三男に譲る」という遺言書があったとする。もしそれらすべてが等価ならよいが、現実にはまずあり得ない。一見シンプルな分け方に見えても、子供の誰かが自分に有利になるように、知的能力が低下した被相続人を口説いた可能性も考えられるからだ。3. 当時の言動・状況のリアルな記録(動画・録音など)遺言書や高額な契約に関わる意思能力の有無が問われるケースでは、当時のリアルな記録(動画・録音など)が強力な証拠になり得る。筆者の自験例では、弁護士の立ち会いのもと、自分の言葉でしっかり意図を話している様子を動画と音声で記録し、それを証拠として提出して有効だったことがある。これに比べると証拠能力は劣るものの、写真・日記・メモ・家族の証言なども役立つ可能性がある。4. 契約内容の「合理性」「なぜその選択をしたのか?」という動機や背景の自然さも大切だ。判決文ではよく「合理的」という言葉が使われる。たとえば2人兄弟で、長男はこれまで親の世話をせずに、被相続人のお金を少なからず使った。対して次男は、夫婦でよく面倒をみて自分のことを支えてくれて、経済的依存もなかったとする。この状況で「次男への贈与を厚くする」という遺言なら「合理的」だろう。逆に、そのような長男であると判明しているにもかかわらず、「長男に厚く遺産を譲る」としていれば、不自然であり合理的とは思えない。 今回は、主に故人となった人の生前の意思能力の判定におけるポイントについて述べた。なお実際のケースによっては、HDSRやMMSEの得点と意思能力の判定結果が必ずしも一致せず、乖離することもあり得ることを付け加えておきたい。 1) 法務省. 成年後見制度・成年後見登録制度 2) 法務省. 「民法等の一部を改正する法律」(成年後見及び遺言の制度の見直し)について. 令和8年6月30日 3) 厚生労働省. 成年後見制度の見直し等について. 令和8年1月19日

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