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意外と身近なODTS、この正式名称は?【知って得する!?医療略語】第2回

第2回 意外と身近なODTS、この正式名称は?先生、「ODTS」を初めてカルテで見ました。この患者さんに共通する特徴はありますか?「ODTS」は日本では、あまり馴染みない疾患概念かもしれませんが、有機粉塵が原因となり、インフルエンザ様の症状が出現します。ODTSの診断の鍵は、ズバリ問診です!やはり問診は大切です。ODTSは発症前イベントや職業情報の重要性を痛感する疾患ですね。≪医療略語アプリ「ポケットブレイン」より≫【略語】ODTS【日本語】有機粉塵中毒症候群【英字】organic dust toxic syndrome【分野】呼吸器・アレルギー【診療科】呼吸器内科【関連】有機粉塵過敏性肺炎・職業性過敏性肺炎実際のアプリの検索画面はこちら※「ポケットブレイン」は医療略語を読み解くためのもので、略語の使用を促すものではありません。今回は筆者が過敏性肺炎の調査中に出会った有機粉塵中毒症候群(ODTS)を取り上げたいと思います。近年、過敏性肺炎は症例の集積が進み、原因により細分化が進んでいます。その1つにキノコ栽培者肺があり、同疾患は職業関連過敏性肺炎でもあります。筆者が調べたところ、日本国内では椎茸、なめこ、エリンギ、エノキダケ・シメジなど、私たちの馴染みのあるキノコ栽培者の症例報告があります。キノコ栽培に関連し、2012年に川崎 聡氏らがODTS 22名の集団発生を報告しています。同報告によれば、2004年の新潟県中越地震で被災したエノキダケ栽培工場で、復旧作業に従事したボランティアが、相次いでインフルエンザ様の症状を発症し、ODTSと診断されました。そのうち1名が犠牲となり亡くなりました。この事例はほとんど報道されなかったことから、上述の川崎氏の報告論文は、ODTSの臨床像を知れるだけでなく、過敏性肺炎の病因解明において示唆に富む内容が記録されています。筆者はこの報告は、大変貴重な報告だと思います。ODTSは本邦では耳にする機会の少ない疾患概念ですが、Googleで「Organic dust toxic syndrome」を検索すると6,020万件のヒットがあります。また、WHO国際疾病分類ICD11のCA70とCA80には、それぞれHypersensitivity pneumonitis due to organic dust、Airway disease due to specific organic dustとして有機粉塵に関する気道疾患が明記されています。有機粉塵による疾患は、世界ではより一般的な疾患概念かもしれません。有機粉塵は小麦粉や木粉など、私たちの身近なところに存在します。ODTSは発熱を呈するため、発熱疾患の鑑別の1つでもあります。問診で発症前のイベントや職業を確認することが、素早い診断につながると考えられます。お時間が許せば、下記の原著論文をお読みいただくことをお薦めします。被災したエノキダケ栽培工場の復旧ボランティアに集団発生した organic dust toxic syndrome の臨床的検討川崎 聡ほか. 日本呼吸器学会誌. 2012;1:p287-293.

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原因不明の足の痛み、プライマリでPADを疑うポイントは?【足の血管を守ろうPROJECTインタビュー・前編】

原因不明の足の痛み、プライマリでPADを疑うポイントは?【足の血管を守ろうPROJECTインタビュー・前編】<お話を伺った先生方>宇都宮 誠氏(左)TOWN訪問診療所城南院院長/東邦大学医療センター大橋病院 循環器内科仲間 達也氏(中)東京ベイ・浦安市川医療センター 循環器内科 副部長鈴木 健之氏(右)東京都済生会中央病院 循環器内科/TECC2021大会長――はじめに、TECCの活動内容とEVTの現状について教えてください。TECCは、末梢動脈疾患(PAD)および末梢血管インターベンション(EVT)の啓発と発展を目的に、2018年に活動を開始した一般社団法人です。居住地や年代にかかわらず誰でも参加できるよう、もともとオンラインベースで活動しています。なので、コロナ下でもスムーズに活動を続けられています。設立当初は年1回、実際の手術(カテーテル治療)をオンライで中継する「オンラインライブコース」がメインでしたが、現在は参加者も増え、年に複数回(2021年は20回以上!)の教育コース、企業協賛セミナーなどのイベントを開催しています。ほかにも、海外の医師と意見交換ができる場や、海外の手術をオンライン中継で見学できる場などがあり、これからも参加者が時間と距離を飛び越えて学べる機会をたくさん作っていけたらと考えています。つい先日、4日間にわたる総会(TECC2021)を終えたばかりです。合計1,145名の方にご参加いただきました。TECC2021記念写真(東京都済生会中央病院にて)これまでの4年間は、主に循環器・血管系を専門とする医療従事者向けに発信して、専門的な教育を望む医療従事者からは概ね好評でしたが、活動を通じて、PAD患者さんの早期受診が増えた、治療の中でもとくにEVTを求める患者さんが増えた、または他院からの紹介が増えたという実感がはっきりと得られていません。そこで、PAD患者さんが適切な治療を受けられる医療機関にたどり着くためには、われわれのような専門医だけでなく、プライマリケアを担うかかりつけ医の皆さんにもご協力いただく必要があると考えるようになりました。実際の外来では、足が痛くて歩けなくなる原因が足の血管だと診断される(もしくは疑われる)までに、年単位の時間がかかる例も珍しくありません。たまたま受診した整形外科で原因が発覚して紹介してもらえたが、それまでに何年にもわたって治らず転院を繰り返して…という患者さんも多いです。足の組織が壊死に至ってから運ばれてくるケースもあり、足や指を切断しなければならない事態になることもあります。おそらく、PADという病気自体は皆さんご存じでも、実際に自分の目の前の患者さんにどのくらい発症の可能性があって、いざ足の血管が詰まった、足が壊疽になったときにどう対応したらいいのかなどが、実体験として得られていないのではないかと思います。患者さんはほとんどの場合、初めての経験なので、自分の足に何が起こっているのかわかりません。周りに同じ経験をした人がいれば疾患の可能性に気付くかもしれませんが、そうでない限りは難しいでしょう。そうですね。しかし、患者さんが循環器科で「足の痛み」を訴えるのはまれで、最初に相談するのはかかりつけの内科だったり、整形外科や皮膚科だったりします。そのために、地域医療を支える先生方にもぜひわれわれの活動を知っていただいて、PADとその治療、とくにわれわれが専門に行っているEVTに関心を持ってもらいたいです。――普段診るPAD患者について、診断が遅れるとどうなりますか?実際に診た例では、足の指の一部が少し黒くなっている程度から、全体が真っ黒になってしまった方もいます。広範囲だと足を(太腿や膝下で)切断するしか方法がなく、歩行能力を失うことになります。小さい範囲であれば、カテーテル治療(EVT)と創傷の処置(デブリードマン)など、ADLに大きな影響を及ぼさない方法で十分に対処可能です。ただ、懸命に治療しても壊死した組織は元には戻りません。足は残せても指は切らなければならないという例も珍しくないのです。切除部位が少ないほど、歩行障害など後遺症のリスクが少なく済むため、早期の発見と治療が必要になります。とくに足の裏やかかとの組織は代替が利かないので、失うわけにはいきません。PADは、血管の詰まりさえ取れば全部元通りになるという疾患ではありません。壊死が始まっている場合は、時間が経つほど組織がダメージを受けるので、早く専門の医療機関を受診してほしいです。また、血管は詰まった箇所だけが悪いわけではないので、受診をきっかけに生活習慣を改善し、予防することもとても重要です。そうですね。診断が遅れたとしてもEVTは可能ですが、治療後の生活を考えると壊死の範囲がより小さいうちに対処できたほうがよいです。中には、「なぜこんなに悪くなるまで…」と思うような患者さんもいらっしゃいます。また、壊死したところから感染を引き起こすと、足の切断どころか命に関わる事態にもなることもあります。感染は治療が長引く原因にもなります。傷が大きくなり、治るまでに時間がかかるので、その間に(足は助かっても)筋力低下などで歩けなくなることもあります。短期間・低リスクで治療をするためにも、やはり早い受診が重要です。――プライマリでPADを疑うポイントは? 見つけた場合はどう対処すべきでしょうか。まず、PADで壊死に至ってしまうような人は、もともと高齢で動脈硬化などのリスク因子を持っている人が多いです。専門機器などを使わずにPADを疑うポイントは、足を触ってみて「冷たい」「脈が触れない」という2つです。患者さんに履き物を脱いでもらい、足に傷がないか、触ってみてどうかを確かめます。脈が触れない場合は、足の血流に障害があって痛みなどを引き起こしている可能性が疑われるので、足の血管治療ができる循環器科に紹介していただきたいです。われわれとしては、PADを少しでも疑った時点でご紹介いただいて構わないと考えていますが、「まずは自分たちで治せるところを治そう」と考えるのも理解できます。とくにABI(ankle brachial index:足関節上腕血圧比)などの測定機器がない場合は難しく考えがちですが、足の違和感を訴える患者さんの「脈が触れるか」「足が冷たいかどうか」も、十分な根拠になると思います。血管に問題がなくても脈が触れにくい患者さんはいますが、たとえ間違っていても良いので、早めに紹介していただくことが大事だと思います。それこそ、われわれ循環器科医が心筋梗塞の患者さんを少しでも早く救命するために、「胸の痛みを訴える人がいたら、とにかく一度心電図をとって循環器科に送ってください」と言い続けたことで疾患啓発が進み、心筋梗塞の死亡率が下がったという過去があります。それと同じで、「足が痛い」「傷の治りが悪い」「脈が触れない、足が冷たい」などでも、循環器科や血管外科などの“血流を診る科”で診断できます。なので、紹介の際は「間違っていたらどうしよう」などと心配せず、「専門家に判断を委ねよう」と考えていただいて大丈夫です。中核病院とかかりつけ医との連携が成り立たなければ、救える患者さんも救えませんからね。われわれは地域から信頼される循環器科医でなければならないと思っていますし、「お気軽にどうぞ」とお伝えしたいです!EVTは、治療直後に患者さんの良くなった実感が大きくて、「足が温かくなった」「ずっと痛かったのに歩けるようになった」という声をよく聞きます。治療は患者さんの症状やQOLに直結しますし、その結果がわれわれにも直接伝わってくるので、とてもやりがいがあるんです。患者さんの喜びと達成感を共に分かち合えたらうれしいです。ところで、最近はコロナによる受診控えの影響で、PADだけでなくさまざまな疾患の診断遅れが問題となっています。今は感染状況がだいぶ落ち着いていますし(オミクロン株の影響がどうなるか未知数ではありますが)、このタイミングでコロナ以外の病気にも目を向けていかないといけないですよね。今回、われわれTECCは『はたらく細胞』とのコラボ漫画を制作し、PADの啓発活動「足の血管を守ろうプロジェクト」を開始しました。医療者が読んでも一般の方が読んでも、「面白い」そして「PADやEVTのことがよくわかった」と思ってもらえる内容になっているので、ぜひ多くの方に読んでいただきたいです。

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第89回 がんが大変だ!線虫がん検査に疑念報道、垣間見えた“がんリスク検査”の闇(後編)

大々的に持ち上げて報道してきたマスコミにも衝撃こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。暮も押し迫ってまいりました。週末は大掃除の合間を縫って、東京・新宿の紀伊国屋ホールに演劇を観に行ってきました。演出家、横内 謙介氏が主催する劇団扉座の創立40周年記念公演、「ホテルカリフォルニア」です。最近、テレビでもよく見るようになった六角 精児氏が所属する劇団で、演目はカリフォルニアとはほぼ無関係、横内氏や六角氏らが卒業した神奈川県立厚木高校を舞台とした、1970年代後半の高校生を描いた青春群像劇です。60歳前後となった劇団員が真面目に高校生を演じるのがバカバカしく、笑えました。個人的には、劇中劇として一瞬演じられた、つかこうへい氏の代表作「熱海殺人事件」の場面がオリジナルかと見紛うほどの完コピぶりに感心しました。横内氏のつか氏への深いリスペクトが伝わってきました。さて、先週に続き今週もがんの検査について書いてみたいと思います。前回書いたように、日本のがん検診は今、深刻な状況に置かれています。そんな中、週刊文春12月16日号が、「15種類のがんを判定できる」と全国展開中のHIROTSUバイオサイエンスの線虫がん検査キット「N-NOSE (エヌノーズ)」が、「『精度86%』は問題だらけ」と報道、医療界のみならず、大々的に持ち上げて報道してきたマスコミにも衝撃を与えています(同社のCMに出ている、ニュースキャスター・東山 紀之氏も驚いたことでしょう)。線虫ががん患者の尿に含まれるにおいに反応することを活用「N-NOSE」は九州大学助教だった広津 崇亮氏が設立したHIROTSUバイオサイエンスが2020年1月に実用化したがんのリスク判定の検査です。がんの「診断」ではなく「リスク判定」と言っている点が、この検査の一つの肝とも言えます。「N-NOSE」は、すぐれた嗅覚を有する線虫(Caenorhabditis elegans)が、がん患者の尿に含まれるにおいに反応することを活用、わずかな量の尿で15種類のがんのリスクを判定する、というものです。これまでに約10万人が検査を受けているとのことです。健康保険適用外で、料金は検体の回収拠点を利用した場合で1万2,500円(税込)です。事業スタート当初は同社と契約した医療機関で検査受付を行っていましたが、新型コロナウイルスの感染拡大などを理由に、利用者に直接検査キットを送り、検体を運送業者に回収してもらうか拠点に持ち込むシステムが中心となっています。最近の報道では、今年10月、九州各地にこの持ち込み拠点を増設したそうです。また、同社は11月に記者会見を開き、膵がんの疑いがあるかどうかを調べる手法を開発したと発表しています。カウンターを使って手作業で線虫の数をカウント週刊文春の報道では、線虫がん検査で「がんではない」と判定された女性で乳がんが見つかったケースなど、同検査で陰性でもがんと診断される患者が何人もいた事実を紹介、その上で検査方法や、同社が公表している感度(がんのある者を陽性と正しく判定する割合)、特異度(がんのない者を陰性と正しく判定する割合)の信憑性に疑問を投げかけています。検査方法について同誌は、「寒天を敷いたシャーレの左側に薄めた尿を置き、真ん中に線虫を50匹程度置く。するとがん患者の尿には線虫がよってくとされる。(中略)検査員がカウンターを使って手作業で線虫の数をカウント。左右に分かれた線虫の数を比べ、がんか否かの判定をする」と書いています。私も知らなかったのですが、「手作業」とは驚きです(最近、オートメーション化が始まったそうです)。同社のホームページや同社を紹介するさまざまなメディア報道では、線虫の集団ががん患者の尿に集まっている写真がよく使われていますが、週刊文春は「『こんなにはっきりと分かれるのをみたことがない』、こう断言するのは、H社(同社)の社員だ」と書いています。「20人分のがん患者の尿を送付したものの、3人分しかがん患者と特定できず」さらに同誌は、ある医療機関から提供された尿検体の実験で「線虫が50匹の場合、左右に分かれた線虫の差は、300回以上行われた検査の中で、1回を除き10匹以下」であった事実や、ブラインド(がんかどうか結果がわからない状態)で検査した場合、「感度は90%だったが、(中略)特異度はわずか10%だ」とも指摘、「ある検査員が健常者の尿をブラインドで検査した場合は陽性と出たが、非ブラインドで同じ尿を検査すると健康であるという判定もされている」という元社員の声も紹介しています。極めつけは、「陽性率もコントロールしている。今年1月に作成された『判定ルール』を見てみると、<陽性率15%以内>との記載がある」として、倉敷市の病院が20人分のがん患者の尿を送付したものの、3人分、15%しかがん患者と特定できなかったと伝えている点です。17人のがんが見過ごされていたことになります。それが事実とするなら、がんの診断ではなくリスク判定とは言え、医療に使う以前の問題と言えそうです。線虫がん検査に3つの疑問ということで、「N-NOSE」という線虫がん検査について、医学的な側面から疑問点を少し整理してみました。1)検査と言えるレベルのものなのか?臨床検査には、「分析学的妥当性」「臨床的妥当性」「臨床的有用性」という3つの評価基準があります。分析学的妥当性とは、検査法が確立しており、再現性の高い結果が得られることを言います。「N-NOSE」の場合、週刊文春報道を読む限り、分析学的妥当性があるとは思えません。そもそも、線虫が尿の中の何の成分に反応してがんを嗅ぎ分けているのか、HIROTSUバイオサイエンスは公表していません。ひょっとしたら、彼らもわかっていないのかもしれません。これでは第三者が再現することができず、分析学的妥当性を評価できません。臨床的妥当性とは、検査結果の意味付けがしっかりとなされているかどうかです。「N-NOSE」で言えば、「線虫が何匹集まった場合に、がんである可能性は何%〜何%である」という評価法が確立していて、その検査をやる意義があるということです。しかし、そもそも分析的妥当性も曖昧なのに、臨床的妥当性を求めるのは酷と言えるかもしれません。2)臨床的に役に立つものなのか?最後の臨床的有用性は、その検査の結果によって「今後の疾患の見通しについて情報が得られる」「適切な予防法や治療法に結び付けることができる」など、臨床上のメリットがあることを指します。「N-NOSE」について言えば、特異度が非常に低い値を示すことは、がんの検査として偽陽性を多く出し過ぎる危険性があります。週刊文春の報道では「見落とし」の数も相当あるようです。また、被験者としては、15種類のがんのうち「何かのがんがありそうだ」と言われても、そこから通常のがん検診に行けばいいのか、内視鏡検査やCT検査を受ければいいのか戸惑うばかりではないでしょうか。現状では臨床的有用性についても大きな疑問符が付きます。そもそも、分析学的妥当性、臨床的妥当性、臨床的有用性を証明するデータを、きちんとしたプロトコールによって行った臨床試験等で出し、それが評価されれば、保険診療において使用が認められますし、海外でも用いられるかもしれません。しかし、こうした「がん(病気)のリスクを判定する」と喧伝する検査の多く(類似のものに「アミノインデックス」や「テロメアテスト」などがあります)は、お金と時間が膨大にかかる臨床試験を敢えて避け、日本だけの一般向け検査でお茶を濁しているようで、気になります。3)がんリスク判定は「判定」できているのか?臨床的有用性の話と関連しますが、「がんのリスク判定」とは一体何なのでしょう。検査会社は、医師が行う「診断」を業として行うことはできないので、リスク判定という曖昧な表現になっていると思われますが、これも無責任です。同社のホームページには、「N-NOSEは、これまでの臨床研究をもとに検査時のがんのリスクを評価するもので、がんを診断する検査ではありません。そのため、検査で『がんのリスクが検出されなかった方』でもがんに罹患していないとは言い切れませんし、 検査で『がんのリスクが高いと判定された方』でも、必ずしもがんに罹患していることを示すものではありません」と長々とエクスキューズが書かれています。また、ある人の実際の「N-NOSE」の結果を見せてもらったことがあるのですが、留意事項として、「体調がすぐれないとき」「疲労が激しいとき」「長期の睡眠不足や徹夜明けのとき」「アルコール摂取時やアルコールの影響が残っているとき」など、8つの項目の時に「正確な評価を行うことができない可能性がある」と書かれていました。これでは、いったいいつ検査をすれば、正確な評価をしてもらえるのかわかりません。とくに私を含め中高年はだいたい体調がすぐれず、疲れているのでほぼ判定は不可能ではないかと思ってしまいます。このようにエクスキューズの連発となってしまうのは、先に述べた分析学的妥当性が曖昧で、検査の再現性が低いからだと考えられます。もう一つ気になったのは、人の体調で検査結果がこれだけ変動するというのだから、線虫の“体調”によっても変動するのではないか、という点です。線虫の1匹1匹の診断能力の質の担保は、しっかりと行われているのでしょうか。ちなみに同社が根拠とする臨床研究ですが、ホームページにはそれらしき関連論文が海外文献も含めて列挙されています。しかし、ダブルブラインドにより、がんの有無を明確に見分けた、というような決定的とも言える成果を発表した論文はないようです。線虫が尿の中の何の成分に反応し、がんを判別するかについての論文もありません。健常者をまどわせ、がん患者のがんを見落とす危険性代表取締役の広津氏は週刊文春の取材に対し、「この検査を作ったのは五大がん検査を受ける人を増やしたかったからです」と話しています。五大がん検査とは、国が推奨する5つのがん検診のことです。しかし、がん検診を受けるきっかけを与えるにしては、無用の心配を被験者にさせたり、見落としによって手遅れになったりと、リスクが多過ぎます。また、検査を受けた人がアコギな医療機関に食いものにされる危険性もあります。提携医療機関の中には、「N-NOSE」陽性の人に対し、自費でのPET-CT検査を勧めるところもあると聞きます。「N-NOSE」はあくまでリスク判定であるため、そこで陽性の判定が出ても、すぐに保険診療とはなりません。一度、自費検査を挟み、病気が見つかってはじめて保険診療となるわけです。「N-NOSE」は手軽なように見えて、医療機関において保険診療を受けるまで、2度手間、3度手間となってしまいます。そう考えると、健常者を惑わせるだけの検査では、と思えてきます。「N-NOSE」は、医療機器でもなく診断薬でもありません。医師が診断のために使う検査でもなく、保険診療にも使われていません。つまり、薬機法や医師法、健康保険法など、厚生労働省所管の法律外にある検査法なのです。宗教団体などが売る、“ありがたい壺”のように、何か大きな問題が起こるまで行政が口を挟むことはないかもしれません。自費でわざわざがんのリスク検査を受けて、「リスクが低い」という結果からがんを見落とす人が出ないことを願います。そして何よりも、がん検診の受診者が増えるよう、国や自治体はもっと知恵を絞ってほしいですし、日本医師会の言うところの“かかりつけ医”は自分の患者にがん検診を勧めるアクションを起こしてほしいと思います。

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『はたらく細胞』コラボ漫画で疾患啓発を全国に【足の血管を守ろうPROJECTインタビュー・後編】

『はたらく細胞』コラボ漫画で疾患啓発を全国に【足の血管を守ろうPROJECTインタビュー・後編】<お話を伺った先生方>仲間 達也氏(左)東京ベイ・浦安市川医療センター 循環器内科 副部長鈴木 健之氏(中)東京都済生会中央病院 循環器内科/TECC2021大会長宇都宮 誠氏(右)TOWN訪問診療所城南院院長/東邦大学医療センター大橋病院 循環器内科――漫画『はたらく細胞』とタイアップした経緯について教えてください。これまで、TECCで若手育成などさまざまなことを試みてきた中で、ここからさらに自分たちの使命として何ができるかと考えたとき、末梢動脈疾患(PAD)の啓発を社会貢献活動の一環として取り組むのはどうかという話になりました。その中で『はたらく細胞』とタイアップすることになったわけです。この漫画は、ヒトの体内で起こっていること、たとえば傷口から侵入した細菌を白血球が攻撃するなどの生体防御を、擬人化された細胞たちによってわかりやすく伝えています。認知度の高い作品とタイアップすることで、「われわれが専門とするPADやEVTをわかりやすく伝えることができるのではないか」という思いから、講談社へ企画を持ちかけました。医療のプロであるわれわれと、漫画企画・編集のプロである講談社が何度も打ち合わせを重ねた結果として、とても素晴らしい作品が出来上がったと思います。――完成した漫画作品はどんな内容ですか?漫画の内容は、原作の世界観を大事にしながら、PADという疾患の重要性や病態を自然と理解できるストーリーになっています。個人的に一番の見どころは、チーム医療が垣間見えるラストシーンですね。あと、かわいらしい「血小板ちゃん」が、文句を言う赤血球集団に激ギレしているシーンも好きです(笑)。生活習慣の重要性がよく伝わると思います。私はよく、患者さんに「治療が成功しても50%の成功だよ」と言っています。「残りはあなたが今後の生活習慣を改善することで100%になります」とね。ここだけの話、今回の漫画はハッピーエンドなので、前回話したような足や指をなくすなどのシビアな事実は表現しきれていません。漫画だけではPADの深刻さや悲惨な一面を伝えにくい部分もあるので、医療者からは、「皆が漫画のようにうまく治療できるわけではない」と、漫画を読んだ患者さんにやんわり伝えていただいてもいいかなと思います。漫画と現実のギャップを埋めるというか。そうですね。実際は、糖尿病や透析の患者さんで足を膝上・膝下で切断しなきゃいけなくなる人や、足が痛くて歩けないまま原因不明で寝たきりになってしまう人も少なくありませんから。正しい情報が広く伝わって、適切な治療につながってくれたら、PADによるいろんな不幸を防げるのではないかと思います。全国の医療機関に配られる予定の漫画は、患者さんが手に取るだけではなくて、まずは医療者一人ひとりに読んでもらいたいという思いがあります。漫画はあくまでもきっかけとして、自分たちに何ができるのか、足の血管の詰まりを放置したらどうなるのか、ぜひ興味を持って学んでいただきたいですね。われわれがこのような形で地域の先生方にメッセージを発すると同時に、循環器や血管系の専門医の皆さんにも、TECCの活動を通して、PADに対して真剣に取り組んでいただくように訴えていく必要があると考えています。また、紹介が来たら常にオープンに受けて、使命感をもって取り組むべき疾患であることも啓発していきたいです。医療者側へ、そして患者さんへ、双方向での活動が実って初めて、世の中に大きいムーブメントを生み出すことができると思います。現在、この漫画を全国の医療機関に紙媒体で配りたいと考え、クラウドファンディングを実施中です。医療者や患者さんにぜひ直接読んでいただきたいと考えています。現実的には、PADの罹患リスクが高い人は主に高齢者なので、患者さんに同行するご家族などに漫画を読んでもらうことになるかもしれないですね。子供や孫に読んでもらえれば、「うちのお父さん(おじいちゃん)、もしかして…?」と、循環器科の受診につながるかもしれません。また、PADの患者さんは、どちらかというと自分の健康に興味がない、もしくは糖尿病などで視力が悪く、自分の体の状況がよく見えない人などが多いので、なかなか危機感を持ってもらえず、情報が届きにくい層なんですよね。漫画が全国にじわじわと浸透した結果、「『はたらく細胞』を読んだ」と循環器科外来を受診する患者さんが増えるかもしれないし、かかりつけのクリニックに漫画が置いてあって、患者さんから「私の足は大丈夫なの?」と医師に尋ねてくれるかもしれない。あるいは、看護師さんが読んで、「自分たちでもチェックしよう」などと働きかけてくれるかもしれない…。もしかしたら、自分たちの想像とはまったく違う形で、全国の皆さまに影響をもたらしてくれるかもしれない。医療系の学会や研究会が、これまで行ったことがないようなチャレンジなので、結果は未知数ですが、それが楽しみでもあります。私としては、この漫画を通じて1人でも足を失う患者さんが減ったら良いなと思います。――最後に、今後の展望と活動にかける先生方の思いを聞かせてください。今回、一般向けの情報発信を試みる中で最も難しいと感じたのが、循環器内科を受診すればどこでも足の血管を診てくれるわけではないという点です。循環器内科医にもそれぞれで専門領域があります。PADの診察や足の血管治療が得意な人もいれば、あまり詳しくない人もいます。だからこそ、TECCとしてまずは専門医向けに情報発信を始めたという経緯があります。なので、引き続きTECCの活動も頑張りつつ、かかりつけ医にも広く伝えていくことが大事だと考えています。この漫画をきっかけに、今まではあまりPADに注目していなかった循環器や血管系の先生方にも、「漫画とコラボした病気だ」と興味を持ってもらえるのではないかと期待しています。将来的に、若手の医師が「自分もPADの診療やEVTをやってみようかな」と考えてくれるようになったらとてもうれしいです。循環器のメインストリームは心臓ですので、われわれのようにPADに注力している医師は「少し変わっている」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、われわれがアクティブにいろいろな活動に取り組み、とくに社会貢献活動に参入したということは、一般市民へのPADの啓発だけでなく、循環器領域においてPAD診療の価値を高めることにつながると思っています。これから循環器領域の診療を志す若い医師たちに、PADという専門領域がもっともっと、魅力的に映ってほしいですね。そのような意味でも、大きな意義があることだと思います。今回、医療者・一般人問わず、なるべく多くの人に活動を知ってもらいたいと考えて、プロジェクトの準備を進めてきました。地域医療が1つのチームとなれるかというミッションもあると感じています。もし、われわれの活動に興味を持っていただけたら、ぜひTECCのホームページを見に来てください。今後、PADを正しく治療できる医療機関を探せるシステムなども作ろうと取り組んでいるところです。患者さんにとって一番身近なかかりつけ医の皆さんにも役立つ取り組みをこれからも考えていきたいです。ぜひ、クラウドファンディングへのご賛同・ご支援もよろしくお願いいたします。

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円形脱毛症患者、網膜疾患リスクが3.1倍

 円形脱毛症(AA)患者は網膜疾患リスクが高いことが、台湾・国立陽明交通大学のHui-Chu Ting氏らによる検討で示された。AA患者では網膜構造の異常を認めるエビデンスが増えていたが、AAと網膜症との関連は明らかになっていなかった。 研究グループは、今回の研究はレトロスペクティブなものであり、台湾住民のみを対象としていることから他の人口集団に該当するかは不明である、としながらも、「AAと網膜疾患の病態生理を明らかにするため、さらなる研究が必要である」と述べている。Journal of the American Academy of Dermatology誌オンライン版2021年11月1日号掲載の報告。 研究グループは、台湾の全民健康保険研究データベースを用いて、AAと網膜疾患の関連を調べた。9,909例のAA患者と、その適合対照として9万9,090例を特定し、網膜疾患リスクについて評価した。すべての解析は、Cox回帰モデルを用いて行った。 主な結果は以下のとおり。・対照群と比較して、AA患者の網膜疾患に関する補正後ハザード比(aHR)は3.10(95%信頼区間[CI]:2.26~4.26)であった。・AA患者において対照群よりも有意に発症リスクが高い網膜疾患は、網膜剥離(aHR:3.98、95%CI:2.00~7.95)、網膜血管閉塞症(2.45、1.22~4.92)、網膜症(3.24、2.19~4.81)であった。

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精神科医、患者、介護者における統合失調症の治療目標

 米国のリアルワールドにおける精神科医、統合失調症患者、その介護者の治療目標の類似点および相違点について、米国・Lundbeck社のHeather M. Fitzgerald氏らが調査を行った。Neuropsychiatric Disease and Treatment誌2021年10月21日号の報告。 精神科医および成人統合失調症患者を対象として2019年6月~10月に実施した調査(Adelphi Schizophrenia Disease Specific ProgrammeTM)よりデータを収集した。精神科医は、連続した8例の外来患者および2例の選択基準に適合する入院患者についての情報を提供した。調査に参加した精神科医、患者、介護者は、調査の一環として治療目標に関する質問に回答した。 主な結果は以下のとおり。・精神科医124名は、統合失調症患者1,204例のデータを提供した。薬物療法に関するデータが1,135例(外来患者928例[82%]、入院患者207例[18%])分含まれていた。また、アンケートは患者555例および介護者135例より収集した。・最も重要な治療目標として、主要な症状の改善と回答した患者の割合は、患者自身は64%、精神科医は63%、介護者は68%であった。・患者、精神科医、介護者はいずれにおいても、性的問題が少ない、体重増加が少ないの項目を最も重要度の低い目標としていた。・患者は、現在投与されている薬剤が最も重要な目標達成のために必要であると感じていた(症状の改善:68%、思考の明瞭さ:39%)。・治療方法や年齢別の分析においても、治療目標に対する全体的な傾向は類似していた。 著者らは「主要な治療目標は、症状改善であることが明らかとなった。この調査結果は、患者、精神科医、介護者が話し合いをするうえで役立ち、効果的なマネジメント戦略や共通の意思決定を促進する可能性がある」としている。

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「不退転の覚悟で挑む大きな医療政策とは?」衆議院議員・松本 尚氏インタビュー(後編)

 新型コロナウイルス感染症が社会を覆い尽くしたこの2年。世の中の常識や既定路線にも大小の揺らぎが生じ、来し方行く末を考えた人は少なくないだろう。今秋の衆議院選挙で、千葉県の小選挙区において初出馬ながら当選を果たした松本 尚氏(59歳)は、救急医療(外傷外科)専門医であり、国内のフライトドクターの第一人者としてその名前を知る人も多いはずだ。34年の医師のキャリアを置き、新人代議士として再出発を切った松本氏に、キャリア転換に至ったいきさつや、医療界と政界それぞれに対する思いや提言について伺った。 「コロナ禍、僕がいるべき場所は医療現場でも地方行政でもなく、国会だった」衆議院議員・松本 尚氏インタビュー(前編)はこちら。*******――医療政策を考える際、課題は医療界と政界の乖離。両者が協働する上ではコミュニケーションが不可欠だが? そこには結構難しい問題が横たわっている。今回のコロナ禍でも、それが浮き彫りになった。新型コロナについて専門的知見からの分析が必要になり、多くの“医療者”がさまざまなメディアに出て発言した。もちろん、言うべきことをきちんと弁えている人もいたが、中にはテレビなどに出ること自体に舞い上がってしまっているような人もいたのではないか。そこに関して、僕はコロナ禍以前からメディアの取材を受ける機会が多かったので、ニュートラルに話すことができたが、それは意識的にやらなければならないこと。とくに感染症という限定的な領域で白羽の矢が立ち、メディア取材に慣れていない医療者は、なおさら意識的に注意しなければならなかったと思う。 重要なのは、その発言内容はコンセンサスが得られていることなのかどうか、というところだろう。コンセンサスが得られている内容であれば、メディアを問わず、テレビだったらどのチャンネルでもおおむね同じ内容が伝えられないとおかしいはずだが、実際は人によりてんでバラバラ。ということは、個々人がそれぞれ自分の考えを聞かれるままに述べているだけということになる。それは、あなたの個人的見解なのか、多くの医療者の一致した見解なのか、そこを明確にしなかったのが問題だ。 一般の人は、メディアが伝えることを拡大・誇張して聴きがち。結局、どれが正しいかもわからない。だから医療者側にもコミュニケーション上の問題があったと思う。取材の中には、個人的見解を問われる場合もある。しかしその場合でも、コンセンサスが得られている情報と切り分けるために、「あえて言うなら、これは自分の意見だが」と繰り返し断りながら、誤解を生じさせない意見の出し方を工夫していかないと、間違った話がひとり歩きしてしまう可能性がある。 コロナ報道を巡っては、アカデミアの先生方もそれぞれの意見を述べていたが、学問としてはそれでよいのかもしれない。ただ、これも臨床医と同様で、学問的な論戦を公の場に持ち込んでも、世間は学問としてはみてくれない。コンセンサスが得られていない学問的主張を公のメディアに持ち込んでも、その情報の精査は一般の人にできない。そこを切り分けない主張が、今回のコロナ禍で散見されたのは確かだ。 自戒も込めて医療者側の課題を挙げるなら、そこにあると思う。医療界から一歩出たところでのコミュニケーションでは、その専門性を前面に出すべきではない、ということに尽きる。専門家というのは、一般の人に伝えるべき情報と専門家の中で議論すべき情報を取捨選択できるのが本物だろう。そこを切り分けずに皆が各々主張するものだから、情報の混乱が起こった側面がある。テレビなどの情報量が限られるメディアでも、専門的な用語の羅列に終始している人もいたが、その時点で視聴者は、理解できずに「専門家が何か難しいことを言っている」という受け止めでしかない。最後に頭に残っているのは、何もわかっていないコメンテーターの薄っぺらな感想だけ。そんな報道を繰り返しているメディア側にも確かに問題はあった。 政治家とのコミュニケーションについても同様だ。感染対策を医学的側面だけで考えれば、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の専門家たちが提唱してきた、人の流れをとにかく抑制するということは間違っていない。しかし、社会的側面を考えると、その一本鎗だけでは経済は回らない。人の流れを抑えつつも継続し、その上でどう感染制御するかを考えるのが肝要。結局、政治家たちは医学的知見に対し何も抗弁できない。だがそれは、政治的には健全なコミュニケーションの在り方ではない。 私の役目は、相反する両者の意を汲んで落としどころを見つけること。先生方から医学的知見を聞き、政治家たちには「先生方はこういう理由でこのように言っているので、ここまでは我慢が必要です」とかみ砕いてポイントが伝えられる。いわば「接着剤」として、僕が媒介できる存在になりたい。今後別の何かが起こっても、国会議員の中にそういう役割ができる人がいなければならないと思うし、次に何が起きても対処できるよう、あらかじめルールを整備しておくことの重要性は、コロナ禍を通じてより明確になった。僕は議員なので、「ロー・メーカー(立法者)」としてルールを作ることが、これからの自分の責務だと自覚している。――これから代議士として目指すところは? いつどこで国民が健康危機に見舞われても、しっかり対応できる医療体制を作ることが、ロー・メーカーとしての僕の役目。法だけでなく、有事に1つの方向に進んでいくためのルールや組織体、そういうものを作りたいという思いがある。 日本の医療界というのは、「モザイク状態」と表現すべきだろうか。医師会があり、病院団体があり、各々の病院の運営母体も私立があれば公的もある。大学もまたしかり。そうしたモザイク状態が、たとえば今回のようなコロナ禍に直面すると、機動的にヒト・モノが集められなかった。せめて、非常時であるという認識を皆が持った時、医療全体が1つにまとまって、同じ方向に進んでいくためのルール、組織体を作りたい。それがあれば、国がどんな状況に陥ろうとも、国民の健康だけは守れるようになるのでは、また、そうならなければならないと考える。それが今、僕が代議士としてやるべき究極の仕事だと自覚している。もちろん、小選挙区から選出された以上は、地元の暮らしや人々のことも疎かにはできない。しかし、最終的に目指すのはそうした国全体を包括した医療の仕組み、枠組み作りのところにあると思う。もちろん大きな構想なので、1期では完遂できないことも承知している。そうなると、大事なのは次の選挙でも勝つということ。衆院議員は、任期満了すれば4年だが、いつ何時、解散総選挙ということになってもおかしくない。極端に言えば、明日解散、ということもあり得る。しかし、僕は来年で60歳になる。そこから先、どんなに頑張っても10~15年が活動の限界だろう。その間に何度選挙があるかわからないが、自分の年齢に照らした限界を見据え、そこまでには何としても形にしなければならないと思っている。――朝の辻立ちなど、代議士の活動は独特。医師時代とは大きく違うのでは? 今朝も、地元で辻立ちをしてから永田町へ来た。毎日この繰り返し。だが、決して無理しているわけではない。選挙に落ちれば、その瞬間から僕は1人の私人。一度現場を離れた以上、臨床医はできないという覚悟で臨んでいる。それでも、代議士として自分がどうしても成し遂げたい仕事があるから、それを達成するためであれば、寒かろうと暑かろうと辻立ちするし、どんな人にも頭を下げる。強がりではなく、まったく苦にならない。それくらい腹を括って決めたことだから。――なぜそこまでして代議士なのか? 国のために仕事がしたかったから。どんな理屈や理由を考えても、最後はそこに尽きる。最後は国のために尽くしたい、貢献したいという思い。それを実現するための入り口は、僕の場合は医療ということになる。現場は離れたが、医療を通じて国に貢献したいという思いは強くある。――医療界を統治する仕組み作り、かなり壮大だが? これまでの話でも、「コンセンサスの重要性」がキーワードだったと思うが、例えば、国家的有事が起きた時、医療界のさまざまな組織・団体の人たちのコンセンサスを得た、ある1つの「組織体」の下に結集する。さまざまな団体の壁を超え、一段高いところにある組織として、政府とも協議し、あらかじめ決めたルールに従って国民全体の医療体制を提供していく、そういうイメージを思い描いている。今はそういう構想を僕が持っていることを周りに知ってもらい、仲間を増やしていく段階。そこで知恵を集め、どんなメンバーが必要で、どんな「組織体」が良いのかを具体的に議論していきたい。その地道な積み重ねの先に、大きな医療政策の実現があると信じている。 今は、政府も国民もコロナが最重要懸案という共通認識を持っている。こういう時こそ、政策実現に向けた第一歩を進めるチャンスだと思う。この状況が落ち着いて来ると、問題意識の在り方も変わってくる。「喉元は過ぎたが、まだなお熱い」ということを、何度も繰り返し伝えていかなれければならない。そこを訴え続けるのも代議士の重要な仕事だろう。 コロナワクチン1つとっても、国民への説明が足りていない部分が多くあると感じる。追加接種がもっぱらの話題だが、その必要性を疑問視する人も多くいる。高齢者はリスクを自覚して積極的に接種する人がほとんどだが、30~40代でも懐疑的な人は一定層いる。若い世代となれば、副反応が怖くて打たないという人も多い。もう少し、そこは踏み込んだ説明と後押しが必要だと感じているし、それも僕に課せられた責務だろう。<了>

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重症COVID-19患者への高流量酸素療法、気管挿管を低減/JAMA

 重症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の治療において、鼻カニューレを用いた高流量酸素療法は従来型の低流量酸素療法と比較して、侵襲的機械換気の必要性を低減し、臨床的回復までの期間を短縮することが、コロンビア・Fundacion Valle del LiliのGustavo A. Ospina-Tascon氏らが実施した「HiFLo-Covid試験」で示された。研究の成果は、JAMA誌2021年12月7日号に掲載された。コロンビアの3病院の無作為化試験 本研究は、コロンビアの3つの病院の緊急治療室と集中治療室が参加した非盲検無作為化試験であり、2020年8月13日~2021年1月12日の期間に参加者の無作為化が行われ、2021年2月10日に最終的な追跡調査を終了した(Centro de Investigaciones Clinicas, Fundacion Valle del Liliの助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上の重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)感染の疑いまたは確定例(鼻咽頭ぬぐい液を用いた逆転写ポリメラーゼ連鎖反応法による)で、動脈血酸素分圧(PaO2)/吸気酸素濃度(FIO2)比<200の急性呼吸不全が認められ、呼吸窮迫の臨床的徴候を伴う患者であった。 被験者は、高流量鼻カニューレ酸素療法を受ける群または従来型の酸素療法を受ける群に無作為に割り付けられた。 主要複合アウトカムは、無作為化から28日以内における気管挿管の必要性と臨床的回復までの期間とされた。臨床的回復は、修正7段階順序尺度(1[退院し、日常生活動作が完全に回復]~7[死亡])で評価した、ベースラインから2段階以上の改善(低下)と定義された。入院期間や死亡には影響がない 199例(年齢中央値60歳、女性65例[32.7%])が登録され、高流量酸素療法群に99例、従来型酸素療法群に100例が割り付けられた。高流量酸素療法群は中央値で6日間(IQR:3~9)連続の酸素療法を受け、従来型酸素療法群では65.7%(65/99例)が中央値で6日(4~7)までに酸素療法からの離脱に成功した。ステロイド全身性投与はそれぞれ93.9%および92.0%で行われた。 28日以内に気管挿管が行われた患者の割合は、高流量酸素療法群が34.3%(34/99例)と、従来型酸素療法群の51.0%(51/100例)に比べ有意に低かった(ハザード比[HR]:0.62、95%信頼区間[CI]:0.39~0.96、p=0.03)。また、28日以内の臨床的回復までの期間中央値は、高流量酸素療法群が11日(IQR:9~14)、従来型酸素療法群は14日(11~19)で、臨床的回復の達成割合はそれぞれ77.8%(77/99例)および71.0%(71/100例)であり、有意な差が認められた(HR:1.39、95%CI:1.00~1.92、p=0.047)。 8項目の副次アウトカムのうち、7日以内の気管挿管(高流量酸素療法群31.3% vs.従来型酸素療法群50.0%、HR:0.59、95%CI:0.38~0.94、p=0.03)、14日以内の気管挿管(34.3% vs.51.0%、0.63、0.41~0.97、p=0.04)、28日時点での機械換気なしの日数中央値(28日[IQR:19~28]vs.24日[14~28]、オッズ比:2.08、95%CI:1.18~3.64、p=0.01)は、いずれも高流量酸素療法群で良好であった。一方、腎代替療法なしの日数や入院期間、死亡には、両群間に差はみられなかった。 重篤な有害事象として、心停止が高流量酸素療法群2例(2.0%)、従来型酸素療法群6例(6.0%)で発現した。また、細菌性肺炎の疑い例がそれぞれ13例(13.1%)および17例(17.0%)、菌血症が7例(7.1%)および11例(11.0%)で認められた。 著者は、「HiFLo-Covid試験は、高流量酸素療法の生理学的な効果を前提に構築されたが、呼吸の代謝作用の測定や推定、食道内圧のモニタリング、経肺圧の動的測定、分時換気量の測定、1回換気量の不均一分布の推定は行っていない。したがって、この試験では、高流量酸素療法は肺損傷の進行の防止や呼吸努力の軽減、ガス交換の向上に関与するメカニズムを改善するとの仮定の下で、臨床アウトカムのみが評価されている」としている。

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モデルナ製ワクチン、追加接種でオミクロン株への中和抗体が37倍に増強

 米国・モデルナ社は12月20日付のプレスリリースで、新型コロナウイルスワクチンのオミクロン株に対する効果について、予備的試験データを公表した。それによると、同社ワクチンの初回接種(1、2回目)ではオミクロン株への中和抗体価が従来の変異株より低下していたが、3回目接種を受けた後では中和抗体価が約37倍まで増強されたという。 今回発表されたのは、疑似ウイルスを用いた中和抗体価測定試験のデータ。モデルナ製ワクチンを2回接種した20例について、3回目接種を受けた後ではオミクロン株に対する中和抗体価が大幅に上昇し、被験者のGMT(幾何平均値)は、50μg(日本の追加接種に承認された用量の0.25mLに相当)接種により、ブースター接種前の約37倍となった。また、初回接種の用量100μg(同0.5mLに相当)を接種した別の20例のGMTは、約83倍まで増強されたという。追加接種による有害事象の頻度や症状は、初回接種時と同様だったが、接種用量が多いほうがより多くの副反応が起こる傾向が見られたという。 モデルナ社は、世界的に拡大が懸念されているオミクロン株の状況に鑑み、オミクロン株に特化したワクチン開発は継続し、2022年初頭には臨床試験を実施する予定だが、感染予防のファーストラインは、現在使用されているワクチンのブースター接種であるとの見解を示している。

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コロナ禍でさらに遅れる認知症の初診【コロナ時代の認知症診療】第10回

より早期の診断がもたらすものAducanumabが条件付きながら米国において承認されたことで、アルツハイマー病初期に診断される方々の人数が増えることが期待される。そもそもこうした疾患修飾薬は、アルツハイマー病によるMCIやその初期が適応範囲である。早期診断は、こうした新規薬の効果はもとより、当事者やその家族が将来設計をしたり今後の人生を考えたりする時間をもたらす。ところが以前から、認知症の方が医療機関を初めて受診するタイミングが遅すぎると指摘されてきた。私自身が認知症に関わるようになって40年近い。当時と最近を比べると、さすがにこの頃は軽度の段階で受診する人が増えた。当時は、重度に至りBPSDがどうにもならなくなって受診する例が多かった。介護保険の主治医意見書でいえば、IVやMといった重度のレベルである。大ざっぱな印象だと、40年前の初診者のMMSE平均が10点以下、今なら20点ぐらいというところだろうか。初期診断が遅れる原因、医師側/患者側とは言え、認知症においては、初期診断が行われなかったり誤った診断がなされたりすることが多いと報告され続けてきた。なぜこのような事が起こるかを検討した系統的なレビューもある。そこでは、医師、患者そして患者の家族に分けて、要因を分析している。医師の要因として特筆すべきは、認知症に関する教育やトレーニングの不足である。また神経心理学的検査など、どういう手順で検査してよいのかわかっていないとされる。さらにコミュニケーションの問題、とくに診断を得たとしても、それをどのように本人や家族に伝えてよいのかわからない事もある。これらについては、日本老年精神医学会と日本認知症学会の専門医を合わせても、今のところ実数4,000人以下だろうから、多くの非専門家にとってこのような事情は理解できる。次に本人や家族の要因としては、まず年齢や教育歴、居住地域といった基本属性がある。これらは認知症の知識に関わるのだろう。また大切なことは、異常に気づいたとしても、この程度のことは正常な老化に見られる現象だと認識することである。むしろそう思いたいのかもしれない。さらに否認も多いが、これは否定というより、自分はそうではないと考えること、またこうしたことを考えるのを拒むことである。さらに告知への恐怖感や拒否感、恐怖心もしばしばみられる。日常診療において、このような事を感じたり、患者・家族の言動から見て取ったりした経験をお持ちの方は、少なくないだろう。臨床現場では、こうした思いを集約するかのような、またよく耳にする当事者の質問がある。それは結果を説明した後に、「じゃ、先生、私が年齢相応ですか?」というものである。注目すべきは、説明した内容や、当事者の検査結果とは関係なく、こうした質問が寄せられる点である。こうなると私の場合、告知する気持ちが萎えてしまって言葉が濁る。もう一つ、医療機関へのアクセスという問題がある。そもそも認知症を専門とする医師は少ない。こうした医師を探し出し、そこの受診につなげることも難しい。コロナ禍はこのハードルをさらに上げているかもしれない。いかにして受診タイミングを早めるか2021年11月以降、コロナの感染者数が一息ついた状況にある。けれどもオミクロン株などにより、第6波が来る可能性が指摘されている。これまで様々な組織から、コロナ禍による自粛生活で認知症患者の心身機能が低下していることが報告されてきた。また自粛により、将来的には認知症パニックにも繋がるのではないかという警鐘もある。筆者自身は、2020年の2月頃から、初診患者数の変動に注目してきた。これまで5つのコロナ患者発生の波がある。この波の高まりに反比例して初診患者は減り、波の静まりとともに逆に増えるという基本的なリズムを繰り返してきた。つまりコロナ禍は、認知症の初期診察のタイミングに大きな影響をもたらしている。このような状況を考えた時、いかにして認知症の受診タイミングを早めるかの工夫が求められる。筆者はチェックリストを考えている。これは医療機関でMMSEや改訂長谷川式などの検査が行われる前に、当事者や家族がチェックするものである。記憶や注意などの認知機能テストをするのでなく、第三者が客観的に見てとれる当事者の言動(例:薬の自己管理ができない、何を言っても答えはハイかイイエ)をチェックする性質である。早期診断に役立つチェック項目には、このように客観的にわかることに加えて、よくある症状であること、また早期から出る症状であることが求められる。ここで注意すべきは、当事者は自分の症状を軽く評価し、周囲の人は重くみなすところである。だから週刊誌などによくある10質問のうち3つ以上該当なら軽度認知障害、5つ以上だと認知症といった単純な評価法では物足りない。誰が回答するか、また回答者の年齢・性別等を考慮したアルゴリズムを作り、その上で総合点が出るアプリ仕立てのようなものでないと有用性は期待できないだろう。こうしたものが活用できるようになり広まると、上記の認知症早期診断が遅れる要因を多少とも軽減し、早期の受診を促進してくれるかもしれない。

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更年期障害のHRTに保険適用を有する黄体ホルモン製剤「エフメノカプセル100mg」【下平博士のDIノート】第88回

更年期障害のHRTに保険適用を有する黄体ホルモン製剤「エフメノカプセル100mg」今回は、天然型黄体ホルモン製剤「プロゲステロン(商品名:エフメノカプセル100mg、製造販売元:富士製薬工業)」を紹介します。本剤は、更年期障害および卵巣欠落症状のホルモン補充療法(HRT)に使用される卵胞ホルモン剤による子宮内膜増殖症の発症を抑制することが期待されています。<効能・効果>本剤は、更年期障害および卵巣欠落症状に対する卵胞ホルモン剤投与時の子宮内膜増殖症の発症抑制の適応で、2021年9月27日に承認され、同年11月29日に発売されました。<用法・用量>卵胞ホルモン剤との併用において、以下のいずれかを選択します。持続的投与法:卵胞ホルモン剤の投与開始日からプロゲステロンとして100mgを1日1回就寝前に経口投与。周期的投与法:卵胞ホルモン剤の投与開始日を1日目として、卵胞ホルモン剤の投与15~28日目までプロゲステロンとして200mgを1日1回就寝前に経口投与。これを1周期とし、以後この周期を繰り返す。<安全性>国内第III相試験において報告された主な副作用は、不正子宮出血117例(33.5%)、乳房不快感16例(4.6%)、頭痛11例(3.2%)、下腹部痛、浮動性めまい各10例(2.9%)、腹部膨満、便秘各8例(2.3%)、腟分泌物7例(2.0%)などでした。なお、重大な副作用として、血栓症(頻度不明)が報告されており、心筋梗塞、脳血管障害、動脈または静脈の血栓塞栓症(静脈血栓塞栓症または肺塞栓症)、血栓性静脈炎、網膜血栓症が現れることがあります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、更年期障害などに伴う症状を軽減する目的で投与される卵胞ホルモン剤とともに服用することで、卵胞ホルモン剤による子宮内膜への影響を軽減します。2.ふくらはぎの痛み・腫れ、手足のしびれ、鋭い胸の痛み、突然の息切れなどの症状が現れた場合、血栓症を引き起こしている可能性があるので、直ちに医師・薬剤師に連絡してください。自己判断での中止や量の調節はしないでください。3.眠気や浮動性めまいを引き起こすことがあるので、自動車などの危険を伴う機械の操作には注意してください。4.突然服用を中止すると、不安や気分変化を引き起こす恐れがあります。<Shimo's eyes>本剤は、更年期障害および卵巣欠落症状に対する卵胞ホルモン剤投与時の子宮内膜増殖症の発症抑制を目的とした天然型黄体ホルモン製剤です。経口投与では吸収されにくい天然型黄体ホルモンをマイクロナイズド化(微粒子化)することで吸収率を上げています。ホルモン補充療法(HRT)は、エストロゲン欠乏に伴う更年期障害などの諸症状や疾患の予防・治療に有用です。しかし、エストロゲン製剤を単独投与すると、子宮内膜増殖作用により子宮内膜がんを発症する懸念が高まります。エストロゲン製剤に黄体ホルモン製剤を併用することで、子宮内膜がんの発症が抑制されるという報告を踏まえ、現在では子宮を有する患者にHRTを行う際には、黄体ホルモン製剤を併用することが一般的です。国際閉経学会などでは、天然型黄体ホルモンは乳がんリスクや血栓症リスクが低いことが示唆されています。しかし、わが国では子宮内膜増殖抑制に関する適応のある経口剤はなく、これまで適応外で合成黄体ホルモン製剤が使用されてきました。このような背景から、日本産科婦人科学会および日本更年期医学会(現:日本女性医学学会)から開発の要望書が提出され、「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」の評価に基づき、厚生労働省が製薬企業を募集し、開発されました。用法としては、エストロゲン製剤と本剤を初めから併用する「持続的投与法」と、最初の2週間はエストロゲン製剤単独で、あとの2週間は本剤も併用する「周期的投与法」のいずれかを選択します。本剤は食後投与では絶食下に比べてAUCとCmaxが上昇し、服用後1~3時間は一過性の傾眠・めまいを起こす可能性があるため、就寝前に服用します。副作用では、不正性器出血が高い頻度で報告されています。継続服用に伴い徐々に軽減してゆくので、服薬を中断しないように前もって説明する必要があります。重大な副作用としては、血栓症に注意が必要です。血栓症の初期症状について説明するほか、定期的に体を動かしてこまめに水分補給をするなどの生活上の工夫も伝えましょう。参考1)PMDA 添付文書 エフメノカプセル100mg

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見逃してはならない“しびれ”とその部位は?【Dr.山中の攻める!問診3step】第9回

第9回 見逃してはならない“しびれ”とその部位は?―Key Point―しびれは重大な疾患の一つの症状のことがあるしびれの分布や部位から原因疾患を絞り込むことができる頻度が高い疾患は、症状の特徴を覚えておくと診断が容易である症例:68歳 女性主訴)右胸痛、呼吸苦現病歴)7日前、突然左指と左口唇がしびれたが数分で改善した。脳MRI検査を受けたが異常なし。昨夕から徐々に右胸痛と右背部痛が出現。体動時と深呼吸時に痛みは増悪。動くと息切れあり。本日、外出時に痛みの増悪を認め来院した。既往歴)COPD薬剤歴)なし社会歴)たばこ:20歳から45歳まで30本/日アルコール:飲まない経過)左指と左口唇のしびれからは視床の病変が連想される(手口感覚症候群)。視床では口唇と手指の感覚領域が近接して存在する息をすると胸が痛むという症状は胸膜に病変が及んでいることを示唆する胸部レントゲン写真で異常陰影を認めたので、胸部CT検査を行い原発性肺がん(S4) と右第7肋骨骨転移の診断となった肺がんのため過凝固となり手口感覚症候群を起こしたと考えられた◆今回おさえておくべき臨床背景はコチラ!高齢者はしびれをよく訴える多発神経障害は臨床で遭遇する頻度が高い多発性単神経障害なら原因疾患を絞り込みやすい【STEP1】患者の症状に関する理解不足を解消させよう【STEP2-1】見逃してはならないしびれかを考察する1)手口感覚症候群(視床の出血/梗塞)指先がしびれている時には、口もしびれていないか必ず確かめるWallenberg症候群(延髄外側症候群)病側の顔面温痛覚低下(V)+構音障害/嚥下障害(IX、X) + ホルネル症候群 + 小脳失調、反対側の体幹/上下肢の温痛覚低下(外側脊髄視床路)Guillain-Barre症候群数日から数週間で急速に進行する。カンピロバクター感染症による下痢が先行することがある。症状は下肢から始まる左右対称性弛緩麻痺、呼吸筋麻痺、自律神経障害(血圧変動、頻脈、徐脈)。感覚障害はなくてもよい。閉鎖孔ヘルニア患側大腿内側から下腿の痛み/しびれ(Howship-Romberg兆候)、やせ型の高齢女性に多いNumb chin syndrome顎がしびれる。悪性リンパ腫/乳がん/前立腺がんが三叉神経(V3下顎神経)に浸潤【STEP2-2】しびれの分布から考える多発神経障害(polyneuropathy)2)神経線維の長い足底から上方にしびれが進行。左右対称性<主な原因>DANG THERAPIST(ひどい療法士)*以下の各頭文字を表しているDM(糖尿病)Alcohol(飲酒)Nutritional(ビタミンB12、銅欠乏)Guillain-Barre(ギランバレー症候群)Toxic(中毒:重金属、薬剤)Hereditary(Charcot-Marie-Tooth)Renal(尿毒症)Amyloidosis(アミロイドーシス)Porphyria(ポルフィリン症)Infection(感染症:HIV、ライム病)Systemic(全身性:血管炎、サルコイドーシス、シェーグレン症候群)Tumor(腫瘍随伴症候群)多発性単神経障害(mononeuritis multiplex)いろいろな部位の単神経障害が左右非対称に進行糖尿病、血管炎、膠原病(SLE、関節リウマチ)、HIV【STEP3】部位から原因を鑑別する■母指~環指橈側のしびれ(正中神経支配)手根管症候群(最も頻度の高い末梢性絞扼神経障害)夜間に増悪、手を振ると軽快、リスクファクターは手を使う職業、甲状腺機能低下症、糖尿病、関節リウマチ、アミロイドーシス、末端肥大症、妊娠。猿手■環指尺側と小指のしびれ(尺骨神経支配)肘部管症候群変形性関節症、ガングリオン、スポーツ、小児期の骨折による外反肘が原因。鷲手変形■手背母指と示指のしびれ(橈骨神経支配)橈骨神経麻痺飲酒後に肘掛け椅子で寝て上腕内側を圧迫。下垂手■上肢のしびれ…頸椎症による神経障害3)神経根症頸部~肩甲骨部の痛み、デルマトームに沿った根性疼痛(しびれだけなら脊髄症)脊髄症手のしびれで発症し、手指が器用に動かせなくなる。10秒テスト: 手掌を下にしてできるだけ速く、グーとパーを繰り返す。10秒間で正常者では25~30回できる。胸郭出口症候群上肢のしびれ、肩/上肢/肩甲骨周囲の痛み、腕神経叢の障害■大腿外側のしびれ大腿外側皮神経痛体重増加、妊娠、きついベルトが原因。股関節の伸展/深い屈曲で症状増悪■腰痛+殿部や膝より末梢の下肢に放散痛3)椎間板ヘルニアSLR(straight leg raising)test陽性(感度80%、特異度40%)。95%はL5とS1の根が関与。膝蓋腱反射低下(L4)足関節/母趾背屈力低下(L5)アキレス腱反射低下/つま先立ちができない(S1)■下腿外側~足背のしびれ総腓骨神経麻痺右下肢外側腓骨頭での圧迫。外傷やギプス固定が原因。下垂足のため鶏様歩行■足底~つま先のしびれ足根管症候群内果後方の足根管で脛骨神経を圧迫閉塞性動脈硬化症下肢のしびれや痛み、冷感、間欠性跛行(休息で改善)ABI(ankle-brachial index)1.3<治療>原疾患の治療を行う。 <参考文献>1)塩尻俊明.非専門医が診る しびれ. 羊土社. 2018.2)Mansoor AM. Frameworks for Internal Medicine. 2019. p525-539.3)仲田和正. 手・足・腰診療スキルアップ. シービーアール. 2004.

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英語で「眠気が出ます」は?【1分★医療英語】第7回

第7回 英語で「眠気が出ます」は?Are there any side effects of this med?(何か副作用はありますか?)This medication may cause drowsiness.(服用後、眠気が出る可能性があります)《例文1》I feel drowsy during the daytime.(昼間に眠気がひどいです)《例文2》When did you start feeling drowsiness?(眠気の症状はいつから始まりましたか?)《解説》「眠気」は“drowsiness”や“sleepiness”で表現します(文語では“somnolence”を使うこともあります)。これが「疲労」となると“tiredness”や“fatigue”(文語では倦怠感・不快感として“malaise”)、「だるい」「ぼーっとする」は“sluggish”(文語では“lethargic”)など、似たような症状でも多くの単語があります。現場では、患者のさまざまな表現を聞き取り、チャートには文語を使って書くなど、使い分けをしています。また、日本語は主語を省略しても成り立つので、日本語から英語へ直訳しようとすると、「あれ?」となることも多くあります。「眠気が出る可能性がある」を“There is a possibility…”と一字一句を訳すのではなく、会話例のように“The medication(この服薬)”を主語にする、または“You may feel drowsiness.”にするなど、直訳ではなく、自分が知っている単語を使って状況を説明するように心掛けると、さらにスムーズに英語が出てくるようになるかもしれません。講師紹介

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第91回 オミクロン株がより広まりやすいことに寄与しうる特徴

治療で除去されたヒト組織を使った香港大学の研究の結果、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)オミクロン(Omicron)株は去年2020年のSARS-CoV-2元祖やデルタ株に比べておよそ70倍も早く気管支で増えることができました1)。オミクロン株が人から人により広まりやすいゆえんかもしれません。一方、肺でのオミクロン株の複製はよりゆっくりでSARS-CoV-2元祖の10分の1足らずでした。もしオミクロン株感染がより軽症であるとするなら肺で増え難いことがその一因かもしれません。スパイクタンパク質に無数の変異を有するオミクロン株の感染しやすさが他のSARS-CoV-2を上回ることにはヒト細胞のACE2との相性の良さも寄与しているようです。SARS-CoV-2代理ウイルス(pseudovirus)を使った実験の結果、SARS-CoV-2がヒト細胞に感染するときの足がかりとなる細胞表面受容体であるACE2へのオミクロン株スパイクタンパク質の結合はデルタ株やSARS-CoV-2元祖のどちらにも勝りました2,3)。著者によるとオミクロン株代理ウイルスの感染しやすさは調べた他のSARS-CoV-2変異株のどれをも上回りました。重症度はどうかというと、南アフリカ最大の保険会社の先週14日の発表を含む同国からの一連の報告ではオミクロン株感染入院率がデルタ株に比べて一貫して低く、オミクロン株感染は比較的軽症らしいと示唆されています4)。その保険会社Discovery Healthの解析ではオミクロン株感染が同国で急増した先月11月中旬(15日)から今月12月初旬(7日)のおよそ8万件近くを含む21万件超のSARS-CoV-2感染症(COVID-19)検査情報が扱われ、オミクロン株感染者の入院率は同国での昨年2020年中頃のD614G変異株流行第一波に比べて29%低いことが示されました5,6)。それに、入院した成人がより高度な治療や集中治療室(ICU)に至る傾向も今のところ低く5)、入院後の経過も比較的良好なようです。とはいえ、他国の状況を鑑みるにオミクロン株感染は軽症で済むとまだ断定はできないようです。英国の大学インペリアル・カレッジ・ロンドンの先週16日の報告7,8)によると、同国イングランドでのオミクロン株感染の重症度はデルタ株と異なってはおらず、南アフリカからの報告とは対照的に入院が少なくて済んでいるわけではありません4)。ただしイングランドでの入院データはまだ十分ではありません。いずれにせよオミクロン株感染の重症度はまだ症例数が少なすぎて結論には至っておらず4)、さらなる調査が必要なようです。オミクロン株感染の増加が医療を圧迫する恐れ今後の研究で幸いにしてオミクロン株感染の重症化や死亡のリスクが低いと判明したとしてもその感染数が莫大ならとどのつまり重症例も多くなります。その結果医療への負担は大きくなり、他の病気の治療に差し障るかもしれません4)。たとえば英国バーミンガム大学が率いた研究では、オミクロン株流行で入院が増えることで同国イングランドのこの冬(今年12月~来年4月)の待機手術およそ10万件が手つかずになりうると推定されました9,10)。待機手術を受け入れる余力を残しておく必要があると著者は言っています。参考1)HKUMed finds Omicron SARS-CoV-2 can infect faster and better than Delta in human bronchus but with less severe infection in lung / University of Hong Kong 2)mRNA-based COVID-19 vaccine boosters induce neutralizing immunity against SARS-CoV-2 Omicron variant. medRxiv. December 14, 2021 3)Preliminary laboratory data hint at what makes Omicron the most superspreading variant yet / STAT4)How severe are Omicron infections? / Nature5)Discovery Health, South Africa’s largest private health insurance administrator, releases at-scale, real-world analysis of Omicron outbreak based on 211 000 COVID-19 test results in South Africa, including collaboration with the South Africa / Discovery Health6)Covid-19: Omicron is causing more infections but fewer hospital admissions than delta, South African data show / BMJ7)Report 49 - Growth, population distribution and immune escape of Omicron in England. MRC Centre for Global Infectious Disease Analysis8)[Summary] Report 49 - Growth, population distribution and immune escape of Omicron in England. MRC Centre for Global Infectious Disease Analysis9)COVIDSurg Collaborative.Lancet. December 16, 2021 [Epub ahead of print] 10)Omicron may cause 100,000 cancelled operations in England this winter / Eurekalert

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未診断のCOPDを放置しないで!早期診断・治療に質問票の活用も

 先日、アストラゼネカが「世界COPDデー(11月17日)」にセミナーを開催した。室 繁郎氏(奈良県立医科大学 呼吸器内科学講座 教授)が、要介護の前段階“フレイル”の予防という視点から、COPDの早期診断・治療の重要性についての講演を行った。つづいて、山村 吉由氏(奈良県広陵町町長)が自治体として2014年度から取り組んでいるCOPD対策事業について講演した。また、セミナーの後半では、3年前にTV番組でCOPDの診断を受けた経験のある松嶋 尚美氏をゲストとして、トークセッションが設けられた。COPDによる死亡者は気管支喘息の約14倍 室氏は、はじめに正常肺組織の電子顕微鏡写真を示し、長期の喫煙が正常な肺にどのように影響を及ぼすのかを図示。COPDに生じる肺気腫や慢性気管支炎・細気管支病変などの病態を説明した。正常肺では、肺胞隔壁は弾性繊維を豊富に含み、吸気において肺は横隔膜筋の収縮により主に頭尾方向に伸長し、呼気では肺自身の弾性収縮力により呼気位に戻る。しかし、COPDでは肺の弾力性が失われており、呼気の気道の虚脱も生じるため、「頑張るほど息が吐けない(胸郭内圧が上昇すると気道虚脱を招いて呼出に時間が掛かる)」状態になるという。 また、COPDに罹患すると肺がん、心不全、心筋梗塞・狭心症、高血圧症、骨粗しょう症、糖尿病、不整脈、消化性潰瘍、胃食道逆流症、うつ病などが併存するリスクが上昇することがガイドラインに記載されている。2020年の人口動態統計では、わが国のCOPDによる死亡者数は1万6,125例で、気管支喘息による死亡者の約14倍だった。とくに男性では死亡原因の第10位となっている。 NICE studyで調査された日本のCOPD有病率は、日本人の全人口あたりでは8.6%だが、喫煙歴(過去も含む)のある高齢者を対象としたデータでは、60歳で15~20%、70歳を超えると35~45%がCOPDという報告もある。高齢喫煙者の5人に1人以上がCOPDを発症する一方で、GOLD日本委員会が一般人を対象に実施したCOPD認知度把握調査によると、COPDを「知らない」と答える人は7割を超えている。室氏は「COPDは、主に喫煙によって引き起こされるありふれた疾患であるにも関わらず、(一般社会や患者さんに)あまり認知されていない」と警鐘を鳴らした。COPDもフレイルも進行させないことが重要 続いて、室氏は「COPDは早期診断・早期治療が重要で、放置しておくと“フレイル”に陥ることも考えられるため、社会課題として取り組まなければいけない疾患だ」と説明。COPD患者の呼吸機能(FEV1)の経年低下は、病早期に最も大きいことをグラフで示した。なお、軽症のうちであれば、禁煙することで呼吸機能が回復する余地があるという。COPDの発症年齢の中央値は現喫煙者で55歳、過去喫煙者で65歳という疫学調査データもあるので、日本が長寿社会であることを踏まえると、早めにやめるほど健康上のメリットが大きい。 COPDによる呼吸機能障害は、身体活動性の低下や疲れやすさにつながり、ゆくゆくは筋肉の質・量の低下、栄養障害による体重減少を引き起こすなど、フレイルとの親和性が非常に高く、その進展をくい止めなければならない。室氏は、COPDやフレイルの簡易的なスクリーニングに「COPD-Q」「COPD-PS」「簡易フレイル・インデックス」など、診察室でも使える質問票の活用を勧めた。 COPDの受診勧奨を自治体として行っている山村町長は、「ハイリスクの方と治療中断者を特定し、受診勧奨のはがきを対象者に送付することで、受診率を上げることができた」と、実際の対策事例を紹介。 講演を聞いた松嶋氏は、診断後も本数は減ったものの喫煙は続いており、治療も受けていないことを明かした。「フレイルという言葉を今回初めて知ったので、COPDの治療を早く行うことが大事だと思いました。子供もいて、将来寝たきりになると困るので、すぐに受診します」と語った。また、その場でセルフチェックを行い、COPD-PSで5点だったことを踏まえ、「喫煙経験のある方はぜひ自分でチェックして、COPDの可能性がある場合は受診しましょう!」と呼び掛けた。

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COVID-19感染クロザピン使用患者における好中球数の変化

 クロザピンは、無顆粒球症・顆粒球減少症などの重篤な副作用リスクを有しているものの、治療抵抗性統合失調症の重要な治療選択肢である。そして、クロザピンのモニタリングシステムは、無顆粒球症の発生率や死亡率の低下に貢献している。しかし、COVID-19のパンデミックは、このモニタリングシステムに影響を及ぼしている。マレーシア・ケバングサン大学のFitri Fareez Ramli氏らは、COVID-19に感染したクロザピン治療患者における好中球の変化に関する現在のエビデンスより、各症例における、絶対好中球数(ANC)レベル、正常、低下、上昇に関する情報を収集し、評価を行った。International Journal of Environmental Research and Public Health誌2021年10月27日号の報告。 主な結果は以下のとおり。・無顆粒球症の報告は認められなかった。・中等度~重度のANCレベルであった1例については、クロザピン治療期間が18週であった。・最初の症例集積の累積分析では、決定的な結果は報告されなかった。・サンプルサイズの大きな最近の研究では、COVID-19感染によりANCレベルが有意に低下することが報告されている。しかし、ベースライン時と感染後のANCレベルに有意な差が認められないため、この影響は一時的なものであると考えられる。 著者らは「COVID-19は、ANCレベルの一時的な低下を引き起こす可能性が示唆された。本結果は、クロザピンモニタリングの頻度を減らすことをサポートするものであった」としながらも「研究デザイン、サンプルサイズ、統計分析などの制限を考慮すると、この結果を明らかにするためには、さらなるデータが必要とされる」としている。

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成人成長ホルモン分泌不全症の週1回の治療薬発売/ノボノルディスクファーマ

 ノボノルディスクファーマ株式会社は、12月10日に「成人成長ホルモン分泌不全症(重症に限る)」を効能または効果とする長時間作用型ヒト成長ホルモンアナログ製剤ソマプシタン(商品名:ソグルーヤ)を発売した。 成人成長ホルモン分泌不全症のとくに重症例では、自覚症状として易疲労感、スタミナ低下、集中力低下、気力低下、うつ状態などの症状があり、体組成異常として体脂肪の増加、除脂肪体重の減少などの異常、その他脂質代謝異常などを生じる。 今回発売されたソマプシタンは、長時間作用型遺伝子組換えヒト成長ホルモン(hGH)アナログであり、hGHを単一置換したアミノ酸骨格とアルブミン結合部位からなり、アルブミン結合部位(側鎖)は、親水性のスペーサーおよび16鎖の脂肪酸部位から構成され、化学結合によりアミノ酸骨格の101位に結合する。内因性アルブミンとの可逆的な非共有結合によりソマプシタンの消失が遅延し、その結果、in vivoでの半減期および作用持続時間が延長する。 日本におけるソマプシタンの承認では、日本人125人を含む454人の重症成人成長ホルモン分泌不全症患者が参加した臨床試験プログラム(REAL)の結果に基づいている。hGH製剤による治療歴がない患者に対するソマプシタンの週1回投与により、血清IGF-I値はプラセボと比較して統計学的に有意に上昇したが、ノルディトロピンの1日1回投与との比較では、ベースラインからの上昇に差はみられなかった。また、ソマプシタンは、躯幹部体脂肪率をプラセボより統計学的に有意に減少させた。体組成に関連するパラメータ(総脂肪量、内臓脂肪組織、除脂肪体重、体肢骨格筋量など)の変化量に、ソマプシタンとノルディトロピン間で統計学的に有意な差は認められなかった。そのほか、REAL全体を通じて、新たな安全性に関する問題は認めなかった。 ソマプシタンは、2021年1月22日に国内の医薬品製造販売承認を取得し、11月25日に薬価基準に収載された。ソマプシタン製品概要一般名:ソマプシタン(遺伝子組換え)販売名:ソグルーヤ皮下注5mg、ソグルーヤ皮下注10mg効能または効果:成人成長ホルモン分泌不全症(重症に限る)用法および用量:通常、ソマプシタン(遺伝子組換え)として1.5mgを開始用量とし、週1回、皮下注射する。なお、開始用量は患者の状態に応じて適宜増減する。その後は、患者の臨床症状および血清インスリン様成長因子-I(IGF-I)濃度などの検査所見に応じて適宜増減するが、最高用量は8.0mgとする。承認年月日:2021年1月22日薬価基準収載日:2021年11月25日薬価:ソグルーヤ皮下注5mg:2万6,107円ソグルーヤ皮下注10mg:5万2,214円発売日:2021年12月10日製造販売元:ノボノルディスクファーマ株式会社

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有害事象を追記、COVID-19ワクチンに関する提言(第4版)公開/日本感染症学会

 日本感染症学会(理事長:四柳 宏氏[東京大学医学部教授])は、12月16日に同学会のホームページで「COVID-19ワクチンに関する提言」の第4版を公開した。 今回の提言では、昨今のオミクロン株拡大の懸念を踏まえ「COVID-19ワクチンついて、その有効性と安全性に関する科学的な情報を解説し、接種を判断する際の参考にしていただくために作成いたしました。第3版のあとに明らかになったことや今後の課題について追記し、第4版として公開いたします。COVID-19の終息に向かって、COVID-19ワクチンが正しく理解され、安全性についても慎重に検証しながら、接種がさらに進んでゆくことを願っています」と今後のさらなるCOVID-19の予防に期待を寄せている。第4版の主な改訂点・COVID-19ワクチンの開発状況をアップデート・モデルナのCOVID-19ワクチンモデルナ筋注の臨床試験結果を追記・実社会での有効性をアップデート・変異株とワクチンの効果でデルタ株、オミクロン株を追記・ワクチンの効果の持続性で「ワクチンで誘導される免疫の減衰」と「実社会でのワクチン効果の推移」を追記・ワクチンの安全性で「海外の臨床試験における有害事象」をアップデート・わが国での臨床試験における有害事象の「モデルナのCOVID-19ワクチンモデルナ筋注」、「アストラゼネカのバキスゼブリア筋注」、「mRNAワクチン接種後の心筋炎・心膜炎」、「ウイルスベクターワクチン接種後の血栓塞栓イベント」をアップデート・国内での接種の方向性で「妊婦への接種」、「免疫不全者への接種」、「3回目のブースター接種」、「5~11歳の小児への接種」などを追記

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新型コロナ感染のがん患者の15%に後遺症、生存率にも影響

 がん患者がCOVID-19に感染した場合の後遺症の有病率、生存率への影響、回復後の治療再開と変更のパターンを調べた研究結果が、2021年11月3日のThe Lancet Oncology誌に掲載された。 本研究は、固形がんまたは血液がんの既往歴があり、PCR検査でSARS-CoV-2感染が確認された18歳以上の患者を登録する欧州のレトロスペクティブ試験で、ベルギー、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、英国の35施設で患者が登録された。2020年2月27日~2021年2月14日にSARS-CoV-2感染と診断され、2021年3月1日時点でレジストリに登録された患者を解析対象とした。 COVID-19による後遺症の有病率を記録し、それらの発症に関連する因子とCOVID-19後の生存率との関連を検討した。また、COVID-19診断後4週間以内に治療を受けた患者の全身性抗がん剤治療の再開についても評価した。 主な結果は以下のとおり。・2,795例が登録され、2,634例が解析対象となった。1,557例のCOVID-19生存者が、がん診断から中央値22.1ヵ月(IQR:8.4~57.8)、COVID-19診断から44(28~329)日後に再評価を受けた。なお、COVID-19ワクチンを少なくとも1回接種していたのは178例(7%)に過ぎず、そのすべてがCOVID-19回復後の接種であった。・234例(15.0%)がCOVID-19による後遺症を報告し、その中には呼吸器症状(116例[49.6%])と残存疲労感(96例[41.0%])が含まれていた。後遺症は、男性(対女性:p=0.041)、65歳以上(対その他の年齢層:p=0.048)、2つ以上の併存疾患(対1つまたはなし:p=0.0006)、喫煙歴あり(対喫煙歴なし:p=0.0004)に多く認められた。後遺症は、COVID-19による入院(p

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「僕がいるべき場所は医療現場より国会だった」衆議院議員・松本 尚氏インタビュー(前編)

 新型コロナウイルス感染症が社会を覆い尽くしたこの2年。世の中の常識や既定路線にも大小の揺らぎが生じ、来し方行く末を考えた人は少なくないだろう。今秋の衆議院選挙で、千葉県の小選挙区において初出馬ながら当選を果たした松本 尚氏(59歳)は、救急医療(外傷外科)専門医であり、国内のフライトドクターの第一人者としてその名前を知る人も多いはずだ。34年の医師のキャリアを置き、新人代議士として再出発を切った松本氏に、キャリア転換に至ったいきさつや、医療界と政界それぞれに対する思いや提言について伺った。*******松本 尚氏「ここにいることはとても不思議。半年前まで僕は1人の医師だったのだから」 ――医師としてコロナ対応にも追われたと思うが、そんな中で代議士へのキャリア転換を果たした。このタイミングは偶然、それとも必然? ……(しばし考え)やはり、コロナ禍がなかったら(衆院選への出馬は)していなかったかもしれない。振り返ってみてそう思う。僕の活動を支援してくれた旧知の医師が、今回の選挙後に言ってくれたことが印象的だった。「20年前、松本先生が日本医科大学北総病院に赴任したこと、その後、北総にドクターヘリが導入されたこと、地域の救急医療に従事してきた活動のすべては、ここが到達点だったのではないか」という内容だった。自分はあくまでその場その場で、与えられた仕事を一生懸命やってきただけなのだけれど、第三者から見た僕の20年間というのは、そのような総括もできるのかと思った。確かに、選挙区の中にもドクターヘリで治療された経験があるという人も結構いて、選挙活動の時に、家族や友人、場合によってはご自身が運ばれたと言う人もいた。直接伝えてくださった方だけでも本当にたくさん。あるいはドクターヘリ普及の過程では、消防の方とも協力してやってきた。そういった方々の応援も心強かった。もちろん、普段から北総病院に通院している人が、そこの医師だからという理由で応援してくれる人も少なくなかった。そうした20年間の積み重ねの上に、今回のコロナ禍があり、その中で心を決めたという側面は確かにあるなと自身でも思えた。したがって、(転身の)タイミングとしては偶然とも言え、必然とも言える。 決断を後押しした1つとして、新型コロナ感染症の対応時、千葉県庁にいたことが大きい。ある意味、それもまた偶然だったかもしれないが、行政側に身を置いてコロナ対策を俯瞰的立場で見た時に、あまりに課題が多いことを痛感したからだ。もっとも、選挙区のポストが空いたことも僕にとっては大きな偶然の1つ。 しかし、考えてみれば今ここにいることはとても不思議だ。半年前まで、僕は1人の医師だったのだから。――さかのぼるが、そもそも政治家を志すことになった具体的な転機は? 7~8年くらい前だろうか。もともと僕は保守的な思想信条を持っていたが、民主党が政権交代した時(2009~2012年)に、政治に対する関心を強く持たざるを得なかった。あの当時、日本全体がそうだったように、僕自身もある種の政治が変わる高揚感、何か大きく世の中が変わるんじゃないかという期待感があった。新政権とうまくつながることで、世の中の変革をより体感できるのではないかという思いで、ツテをたどって当時の文科副大臣に会いに行ったこともあった。しかし、現実は何も変わらなかった。その時点で、改めて自分の主義主張というものを見つめ直した。さらには、国をもっと良くするためにどうすべきなのかを考える時に差し掛かっていることも実感した。そろそろ僕らがそれを考える世代だと。 この時期、僕自身はテレビの医療監修など、臨床以外に活動の幅を広げ始めたころだったように記憶している。代議士になった自分が言うのもなんだが、議員の中には、与野党問わず資質を疑いたくなるような人物も確かにいる。発言内容が稚拙だったり、当選回数が多いというだけで閣僚になったりするような議員も少なくないことがよくわかる。当時の僕は、そういった議員の姿をさまざまなメディアで見るにつけ、自分のほうがよほど真剣に国のことを考え、実行できるのではないかと思った。しかも自分と同じ世代だとしたら、なおさらだ。さらに、医学の領域で地道にやってきたことが評価されるようになってくると、それを政策に生かすとしたらどうすべきかという視点でも考えるようになった。自分が積み上げてきた経験を活かせば、ここ(国政)だったらもっと良い仕事ができるのではと心密かに思うようになった。したがって、二度の政権交代が政治への関心を持つ大きなきっかけの1つだったかもしれない。 そのころ、千葉の自民党県連で公募があった。これだと思い立ち、大学の卒業証明書や戸籍謄本を取り寄せ、準備を進めた。公募に必要な書類の中に、「政治について」というテーマで2,000文字の論文があった。もちろん書き上げていざ挑戦、と思ったのだが……これが1文字も書けなかった。ネットや新聞の文言を継ぎ接ぎすれば、何がしかの文章を作ることはできる。しかしそれは、当然ながら中身のない薄っぺらなものでしかない。だからと言って、自分の言葉はなかなか出て来ない。それが、7~8年前の苦い経験。松本 尚氏「政策立案側と立法側の乖離。そこに、医師であり議員である僕がいれば」 ――歳月を経て、再びの挑戦となった今回は違った。 奇しくも、レポートのテーマは前回と同じだったが、今度はスムーズに書き上げることができた。この数年間、もちろんたくさんの勉強をした。多くの本を読み、歴史を学び、一般メディアにも寄稿した。医学論文にとどまらず、さまざまな文章を意識して執筆するよう心掛けてきた。それらも自身の訓練になっていたのだろう(ホームページ「論説」を参照)。公募論文を書き終えたところで、これは行けるという確信が持てた。それくらい、ある意味で世の中のタイミングと自分の機が熟すタイミングがうまく重なったのだろうと思う。――転身を決める大きな理由となった行政側でのコロナ対応の経験についても伺いたい。 今回、コロナを巡るさまざまな地方行政の問題、あるいは国の政策としてのコロナ対策の問題があることが、千葉県庁で対策に携わった目線から考えるところが多かった。あえて厳しいことを言うが、政府には大局に立った絵も描けていなかったし、そもそも、初っ端からリスクコミュニケーションでつまずいていると感じていた。その場しのぎの対策に追われるものだから、国民は一体誰の言うことを聞いたらいいのかわからないという状況に陥った。もう少しきちんとした危機管理ができていないとダメではないかと、早い段階から旧知の議員にも個人的には伝えていた。一体この国はどうなっているのかと思った時、少なくとも県庁にいてもダメだった。ならば医療現場にいる場合かというと、それも違った。現場は、とにかく懸命にコロナ診療をこなしていくことで精いっぱい。その中に入って一緒にやることもできるが、それが僕の役目なのかというと、そうじゃない。当時、千葉県庁の対策室で災害医療コーディネーターとしての役割を与えられた僕は、全体を見ながらコントロールすることだと自覚していたが、実質は機能不全状態だった。その経験から、もっと上に行くしかないとその時に痛感した。 あれは第1波のころだっただろうか。のちの第5波などに比べたら、“さざ波”程度だったと今なら思えるが、コロナ患者が一気に増えて病床が足りず、第5波の時と同じくらい切実な状況だった。感染者数がピーク時は、患者のトリアージをせざるを得なかった。トリアージの判断基準になるスコアを決め、その点数に沿って厳密に対応していた。保健所からは、「状況は理解できるが、それでも何とか(入院できるように)してほしい」という訴えがあったが、「こちらもルールに則ってやっている」と断るしかない。はじめは県庁職員が対応をしていたが、医療者でもないのに矢面に立たせているのは申し訳ないと思い、「対策室でやっていることの最終的なすべての責任は僕が取るので、断る際も怖がらずに対応に当たってほしい」と伝えた。 当時は状況が状況だけに気も張っていて、その対応が精いっぱいだったので腹を括ってやっていた。しかし、後になって冷静になって考えると、本当はそうじゃなかったのではないかと思うようになった。災害時のトリアージそれ自体は間違っていない。そう理屈ではわかっているものの、本当は医療を受けたい人が受けられないというのは、やはり間違っているという思いが強くなった。誰もが初めて直面した新型コロナウイルス感染症だったが、緊急事態宣言の出し方ひとつとっても、もっと違うやり方があったのではないか、もっと上手にルールが作れなかったのかという思いに至った。ならば何をすべきか。それは、次のパンデミックに備えたルールづくりだろう。 コロナ対応で頑張っていたのは当然、医療者も同様だ。県庁でコロナ対策の専門部会メンバーとの会議で、医療者側からの意見はとても重要で、コーディネーター役の僕としても首肯する場面が多かったが、それを政策まで落とし込む術がない。なぜなら、その落とし込みをする側に医師がいないから。医師と政策側には、どうしても埋めがたい乖離がある。「現場はこうだ」と言っても「ルールはこうですから」の平行線。やはり、そこをうまく橋渡しする役目の人が不可欠だと痛感した。千葉県庁では、医師である僕にその役目を任せてほしかったが、残念ながらそうはならなかった。そして恐らく、国でも同じ問題に直面しているのではないかというのは、容易に想像できた。 政策立案側と立法側の間の乖離。そこに、医師であり議員である僕がいれば、両者の事情を理解しながら仕事ができるのではないかと考えた。ここがもしかしたら、僕が方向転換を決めた大きなきっかけだったではないかと、今振り返ってみてそう思う。<後編に続く>

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