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第100回 COVID-19ワクチン接種後の90分間の運動で抗体反応が増す

アイオワ州立大学の研究チームが実施した無作為化試験の結果、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19)ワクチンやインフルエンザワクチン接種後すぐから心拍数およそ120~140/分の運動を1時間半(90分間)したところその後数週間の検査でのそれらワクチンへの抗体反応が一貫して非運動群を上回りました1,2)。ワクチン接種前の運動が抗体反応を改善することは先立つ研究ですでに知られており、去年スペインの研究者Pedro Valenzuela氏等は運動がCOVID-19ワクチンのアジュバント(増強役)を担いうる可能性を示唆し、接種前の運動習慣や接種直前の単発の運動のCOVID-19ワクチン免疫反応への効果を調べることを提案しました3)。アイオワ州立大学のJustus Hallam氏等はその提案を受けて上述の試験を実施したわけですが、一捻り加えています。ワクチンの接種後に身体に負荷をかけると抗体反応が増すことが示されていることを頼りに、接種前の運動の効果ではなく接種後の有酸素運動が抗体反応にどう影響するかを検討しました。試験は週に2回以上の程々にきついかきつめ(moderate or vigorous)の運動習慣がある人を募って実施され、Pfizer/BioNTechのSARS-CoV-2ワクチン接種後に90分間の軽め~程々にきつめ(light- to moderate-intensity)の運動をした群のその後の検査での抗体反応は接種後に運動しなかった群を上述の通り上回りました。重要なことにCOVID-19ワクチン接種後に運動しても副反応は増えませんでした。ワクチン接種後の運動が抗体反応を上向かせる効果はどうやらCOVID-19ワクチンに限ったことではないらしく、インフルエンザワクチン2種類を接種した42人の検討でも同様の抗体反応増強効果が認められています。抗体生成を増やす役割を担う1型インターフェロン(1型IFN)を誘発するアジュバントはワクチンへの抗体反応を促すことが知られており、試験の運動時間を90分としたことはその長さの運動が1型IFNの一種・インターフェロンα(IFNα)を有意に増やすことが未発表ながら確認されていることを根拠の一つとしています。Hallam氏等はマウスの実験でその根拠がどうやら正しいことを確認しています。運動がワクチン接種の抗体反応を高める効果がIFNα阻害抗体をワクチン接種時に投与したマウスでは弱く、運動のワクチン抗体反応増強にはIFNαがどうやら貢献しているようです。インフルエンザワクチンの試験では接種後90分間の運動に加えてその半分の45分間の運動の効果も検討されました。というのも齢を重ねた成人には90分間の運動より45分間の運動のほうがより容易いであろうからです。結果はというと残念ながら45分間の運動のワクチン効果増強は認められず、運動しなかった群の抗体反応を上回りませんでした。研究者は1時間の運動ならどうかを調べるつもりです2)。試験では運動習慣がある人を募ったように、日頃運動していない人がCOVID-19ワクチン接種後に運動するという選択肢を選ぶことはおそらく土台無理な話で、その選択肢を選べるようにするにはまずは日頃の運動習慣を身に付けてもらう必要がありそうです。COVID-19患者およそ5万人を調べた試験4)では運動習慣がCOVID-19重症化を防ぐ効果があることが示されています。常に運動不足な人は必要とされる運動を日頃こなしている人に比べてCOVID-19入院、集中治療、死亡をより多く被っており、運動を促す保健の取り組みを優先し、いつもの診療で運動を後押しすることが必要と著者は結論しています。体力をつけることは若いころから始めるに越したことはありません。スウェーデンでの試験の結果、若かりし18歳ごろの心肺機能が高かった男性は低かった男性に比べてSARS-CoV-2感染しても大事に至ることは少なく、入院、集中治療、死亡をより免れていました5,6)。心肺機能が良好だった男性のCOVID-19死亡率は最も悪かった男性のおよそ半分であり、若いころの筋力が高いこともCOVID-19重症化し難いことと関連しました。COVID-19重症化を防ぎ、ワクチンの効果も高めうる運動で世間みんなの体力を底上げすることは感染流行の阻止に大いに貢献するでしょう5)。参考1)Exercise post-vaccine bumps up antibodies, new study finds / Iowa State University2)Hallam J,et al. Brain Behav Immun. 2022 Feb 5;102:1-10. [Epub ahead of print]3)Valenzuela PL, et al. Brain Behav Immun. 2021 May;94:1-3. 4)Sallis R, et al.Br J Sports Med. 2021 Oct;55:1099-1105. 5)Af Geijerstam A, et al. BMJ Open. 2021 Jul 5;11:e051316. 6)Highly fit teenagers coped better with COVID-19 later in life / Eurekalert

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オミクロン株に対するコロナ治療薬の効果を比較検証/NEJM

 オミクロン株が世界中で猛威を振るう中、新型コロナウイルスの新たな治療薬の開発が進んでいる。国立感染症研究所の高下 恵美氏ら研究グループが、7種類の抗体薬と3種類の抗ウイルス薬について、in vitroでのオミクロン株に対する効果について検証した。本研究の結果は、NEJM誌オンライン版2022年1月26日号のCORRESPONDENCEに掲載。ソトロビマブ、tixagevimab・cilgavimab併用はオミクロン株に対して中和活性を維持 今回、研究対象となった薬剤は、臨床試験中、FDA(米国食品医薬品局)で承認済み、日本で承認済みのものが含まれる。検証の結果、抗体薬のetesevimab・bamlanivimab併用とカシリビマブ・イムデビマブ併用(商品名:ロナプリーブ)のオミクロン株に対する中和活性は、著しく低いことがわかった。それに対し、tixagevimab・cilgavimab併用とソトロビマブ(商品名:ゼビュディ)は、オミクロン株に対して中和活性を維持していることが判明したという。抗ウイルス薬のレムデシビル(商品名:ベクルリー)、モルヌピラビル(商品名:ラゲブリオ)は、オミクロン株の増殖を抑制することが示された。 オミクロン株は、初期のSARS-CoV-2と比較して、スパイク蛋白に少なくとも33の変異を有していることが判明しているため、FDAで承認されているモノクローナル抗体は、オミクロン株に対して効果が低い可能性があることが示唆されていた。 今回の検証では、7種類の抗体薬(etesevimab、bamlanivimab、イムデビマブ、カシリビマブ、tixagevimab、cilgavimab、ソトロビマブ)の単剤および併用について、オミクロン株の培養細胞への感染を阻害(中和活性)するかどうかを、ライブウイルス焦点減少中和アッセイ(FRNT)を用いて、モノクローナル抗体の中和活性を評価した。 etesevimab、bamlanivimab、イムデビマブ、カシリビマブ、tixagevimab、cilgavimab、ソトロビマブの単剤および併用について、オミクロン株に対する効果を検証した主な結果は以下のとおり。・etesevimab、bamlanivimab、イムデビマブの単剤使用では、最も高いFRNT50値(>5万ng/mL)でも、オミクロン株に対する中和活性は見られなかった。・カシリビマブは、ベータ株、ガンマ株、オミクロン株に対して高いFRNT50値(187.69~1万4,110.70ng/mL)で中和活性を示したが、オミクロン株に対するFRNT50値はベータ株に対して18.6倍、ガンマ株に対して75.2倍高かった。・tixagevimab、cilgavimab、ソトロビマブの単剤使用は、ベータ株、ガンマ株、オミクロン株に対して中和活性を保持していたが、これらのFRNT50値は、ベータ株またはガンマ株に対して、オミクロン株は3.7〜198.2倍高かった。・etesevimab・bamlanivimab併用では、ガンマ株に対する中和活性が著しく低下し、最も高いFRNT50値(>1万ng/mL)でも、ベータ株とオミクロン株に対する中和活性は見られなかった。・カシリビマブ・イムデビマブ併用では、ベータ株、ガンマ株、デルタ株に対する中和活性は維持されたが、最も高いFRNT50値(>1万ng/mL)でも、オミクロン株に対する中和活性は見られなかった。・tixagevimab・cilgavimab併用では、ベータ株、ガンマ株、オミクロン株に対する中和活性は維持されたが、ベータ株またはガンマ株に対して、オミクロン株のFRNT50値は24.8倍~142.9倍高くなった。 また、3種類の抗ウイルス薬(レムデシビル、モルヌピラビル、PF-07304814)について、50%阻害濃度(IC50)を測定したところ、レムデシビルとモルヌピラビルは、オミクロン株に対する有効性が高く、PF-07304814は、オミクロン株に対する有効性が低いことが判明した。 本研究グループは、COVID-19治療薬がオミクロン株の増殖を効果的に抑制するのかどうかを動物モデルで引き続き検証する予定だ。

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統合失調症の再発に影響を及ぼす要因

 統合失調症は再発率が高い疾患である。再発は、患者だけでなくその家族にとっても大きな影響を及ぼすが、生物心理社会学的および精神医学的要因を見直すことで、改善する可能性がある。統合失調症の再発に影響を及ぼす潜在的なリスク因子を明らかにすることは、医師、患者およびその家族の意識を向上させるために役立つと考えられる。医師は、患者を診察し、マネジメントや教育を行い、再発を抑制することが求められる。インドネシア・エアランガ大学のMargarita M. Maramis氏らは、統合失調症患者の再発発生に影響を及ぼす生物心理社会学的および精神医学的要因について、分析を行った。International Journal of Social Psychiatry誌オンライン版2021年12月28日号の報告。 インドネシア・東ジャワの3施設Soetomo Academic Hospital Surabaya(33.2%)、Menur Hospital Surabaya(32.7%)、Radjiman Wediodiningrat Mental Hospital Lawang(34.1%)より統合失調症患者226例を対象とし、横断的観察分析研究を実施した。生物心理社会学的および精神医学的要因を含む33因子のデータを収集し、二変量および多変量ロジスティック回帰分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・1年間の再発率は、59.73%であった。・統合失調症の再発に有意な影響を及ぼした因子は以下の12因子であった。 ●妊娠中の母親における身体的疾患歴(p<0.001、B=27.31、95%信頼区間[CI]:3.96~188.52) ●トリガーの存在(p<0.000、B=6.25、95%CI:2.61~14.96) ●ネガティブな信念(p<0.000、B=4.94、95%CI:2.10~11.61) ●遺伝的要因(p<0.001、B=4.84、95%CI:1.93~12.10) ●洞察(p<0.003、B=4.27、95%CI:1.62~11.27) ●1年間のGAFスケール(p<0.015、B=3.79、95%CI:1.30~11.09) ●治療反応(p<0.006、B=3.68、95%CI:1.45~9.36) ●家族の理解(p<0.011、B=3.23、95%CI:1.31~7.93) ●頭部外傷歴(p<0.029、B=3.13、95%CI:1.13~8.69) ●薬剤の副作用(p<0.028、B=2.92、95%CI:1.12~7.61) ●薬物使用歴(p<0.031、B=2.86、95%CI:1.10~7.45) ●職業(p<0.040、B=2.40、95%CI:1.04~5.52) 著者らは「統合失調症の再発リスクを予測する生物心理社会学的および精神医学的要因の12因子が特定された。これらの因子は、介護や再発予防を目指すうえで、患者およびその家族の心理教育を行う際、取り入れるべきであろう」としている。

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cemiplimab、再発子宮頸がんに有効/NEJM

 プラチナ製剤を含む化学療法による1次治療後に再発した子宮頸がん患者の治療において、完全ヒトプログラム細胞死1(PD-1)阻害モノクローナル抗体cemiplimabは単剤の化学療法と比較して、全生存期間が延長し、無増悪生存期間への効果は明確ではないものの、客観的奏効率や奏効期間も良好であることが、米国・カリフォルニア大学アーバイン校のKrishnansu S. Tewari氏らが実施した「EMPOWER-Cervical 1/GOG-3016/ENGOT-cx9試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2022年2月10日号に掲載された。全生存期間を評価する国際的な無作為化第III相試験 研究グループは、再発・転移を有する子宮頸がんの治療におけるcemiplimabの有効性と安全性の評価を目的に、日本を含む14ヵ国が参加する非盲検無作為化第III相試験を実施し、2017年7月~2020年8月の期間に患者の登録を行った(Regeneron PharmaceuticalsとSanofiの助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、プラチナ製剤を含む化学療法による1次治療後に病勢が進行した再発・転移を有する子宮頸がん患者で、プログラム細胞死リガンド1(PD-L1)の発現の有無は問われなかった。 被験者は、cemiplimab(350mg、3週ごと、静脈内投与)の投与を受ける群、または担当医が選択した単剤化学療法(ペメトレキセド、トポテカン、イリノテカン、ゲムシタビン、ビノレルビンのいずれか)を受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要エンドポイントは全生存期間とされ、無増悪生存期間や安全性の評価も行われた。 本試験は、予定されていた2回目の中間解析(追跡期間中央値16.8ヵ月)で、扁平上皮がんにおける有効性に関する事前に規定された基準に則り、中止となった。死亡リスクが31%低減、奏効率と奏効期間は2倍以上に 608例の女性患者が登録され、2つの群に304例ずつが割り付けられた。全体の年齢中央値は51歳(範囲22~87)で、473例(77.8%)が扁平上皮がん、135例(22.2%)は腺がんまたは腺扁平上皮がんであった。また、259例(42.6%)が再発病変に対する全身治療を2ライン以上受けており、296例(48.7%)はベバシズマブによる治療歴を有していた。 治療期間中央値は、cemiplimab群が15.2週(範囲1.4~100.7)、化学療法群は10.1週(1.0~81.9)で、全体の追跡期間中央値は18.2ヵ月(6.0~38.2)だった。 全生存期間中央値は、cemiplimab群が12.0ヵ月と、化学療法群の8.5ヵ月に比べ有意に延長した(ハザード比[HR]:0.69、95%信頼区間[CI]:0.56~0.84、両側検定のp<0.001)。化学療法群の全生存期間中央値は、トポテカンの6.5ヵ月からイリノテカンの11.9ヵ月までの幅が認められた。 組織型別の全生存期間中央値は、扁平上皮がん(11.1ヵ月vs.8.8ヵ月、HR:0.73、95%CI:0.58~0.91、両側検定のp=0.006)および腺がん/腺扁平上皮がん(13.3ヵ月vs.7.0ヵ月、0.56、0.36~0.85)のいずれにおいても、cemiplimab群で良好であった。 また、無増悪生存期間中央値は、両群間に大きな差はなかったものの、有意差がみられ、cemiplimab群で良好であった(HR:0.75、95%CI:0.63~0.89、両側検定のp<0.001)。扁平上皮がん(0.71、0.58~0.86、同p<0.001)では有意差があったが、腺がん/腺扁平上皮がん(0.91、0.62~1.34)では差がなかった。 客観的奏効率は、cemiplimab群が16.4%(95%CI:12.5~21.1)と、化学療法群の6.3%(3.8~9.6)に比し、有意に優れた(両側検定のp<0.001)。cemiplimabの投与を受けた患者のうち、腫瘍細胞のPD-L1の発現が1%以上の患者の客観的奏効率は18%で、発現が1%未満の患者でも11%であった。また、奏効期間中央値は、cemiplimab群が16.4ヵ月(95%CI:12.4~未到達)、化学療法群は6.9ヵ月(5.1~7.7)だった。 Grade 3以上の有害事象は、cemiplimab群が45.0%、化学療法群は53.4%で発現した。最も頻度の高いGrade 3以上の有害事象は、貧血(cemiplimab群12.0%、化学療法群 26.9%)、尿路感染症(5.0%、2.8%)、好中球減少(1.0%、9.0%)であった。治療中止の原因となった有害事象は、それぞれ26例(8.7%)および15例(5.2%)で発現した。免疫関連有害事象の発現率は、15.7%および0.7%だった。 著者は、「この試験では、腫瘍細胞のPD-L1の発現が1%未満の患者でも客観的奏効が得られた。PD-L1の発現状況の評価が可能な患者が少なく、cemiplimab治療の奏効におけるPD-L1の役割をどう解釈するかは、評価が難しい問題ではあるが、PD-L1陰性例にもcemiplimabが奏効する患者が存在する可能性があることが示唆される」としている。

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GIP/GLP-1受容体作動薬tirzepatide併用で、血糖コントロール改善/JAMA

 インスリン グラルギンで血糖コントロールが不十分な2型糖尿病患者の治療において、インスリン グラルギンにデュアルGIP/GLP-1受容体作動薬tirzepatideを追加する治療法はプラセボの追加と比較して、40週後の血糖コントロールが統計学的に有意に改善し、用量により5~9kgの体重減少が得られたとの研究結果が、ドイツ・Gemeinschaftspraxis fur innere Medizin und DiabetologieのDominik Dahl氏らによって報告された(SURPASS-5試験)。研究の成果は、JAMA誌2022年2月8日号に掲載された。8ヵ国45施設のプラセボ対照無作為化第III相試験 研究グループは、血糖コントロールが不良な2型糖尿病患者におけるインスリン グラルギンへのtirzepatide追加の有効性と安全性の評価を目的に、二重盲検プラセボ対照無作為化第III相試験を実施し、2019年8月~2020年3月の期間に、日本を含む8ヵ国45施設で患者の登録を行った(Eli Lilly and Companyの助成を受けた)。 対象は、2型糖尿病の成人患者で、一定用量のインスリン グラルギン(>20 IU/日または>0.25 IU/kg/日)±メトホルミン(≧1,500mg/日)の投与を受け、ベースラインの糖化ヘモグロビン(HbA1c)値が7.0~10.5%(53~91mmol/mol)、BMIが≧23の集団であった。 被験者は、tirzepatide 5mg、同10mg、同15mg、プラセボを週1回、40週間皮下投与する群に、1対1対1対1の割合で無作為に割り付けられた。tirzepatideの初回投与量は2.5mg/週とされ、割り付けられた用量に達するまで4週ごとに2.5mgずつ増量された。すべての患者が、インスリン グラルギンの1日1回の投与を継続した。 主要エンドポイントは、HbA1c値のベースラインから40週までの変化量とされた。HbA1c値<7%達成率8割以上、インスリン用量も少ない 475例(平均年齢[SD]60.6[9.9]歳、女性211例[44%])が無作為化の対象となり、全例が試験薬の投与を少なくとも1回受けた(tirzepatide 5mg群116例、同10mg群119例、同15mg群120例、プラセボ群120例)。全体のベースラインの平均HbA1c値(SD)は8.31(0.85)%、平均BMIは33.4、平均糖尿病罹患期間は13.3年、インスリン グラルギンの投与量中央値は30.0 IU/日で、394例(82.9%)がメトホルミンの投与を受けていた。 451例(94.9%)が試験を完遂し、424例(89.3%)が試験治療をすべて終了した。早期の投与中止は、tirzepatide 5mg群が10%、同10mg群が12%、同15mg群が18%、プラセボ群は3%で発生した。 40週時の平均HbA1c値のベースラインからの変化量は、tirzepatide 10mg群が-2.40%、同15mg群は-2.34%であり、プラセボ群の-0.86%に比べいずれの用量とも有意に低下した(プラセボ群との差 10mg群:-1.53%[97.5%信頼区間[CI]:-1.80~-1.27]、15mg群:-1.47%[-1.75~-1.20]、いずれもp<0.001)。また、5mg群の平均HbA1c値のベースラインからの変化量は-2.11%であり、プラセボ群に比し有意に改善した(群間差:-1.24%、95%CI:-1.48~-1.01、p<0.001)。 平均体重のベースラインからの変化量は、tirzepatide 5mg群が-5.4kg、同10mgが-7.5kg、同15mg群は-8.8kgであり、プラセボ群の1.6kgに比べいずれも有意に減少した(プラセボ群との差 5mg群:-7.1kg[95%CI:-8.7~-5.4]、10mg群:-9.1kg[-10.7~-7.5]、15mg群:-10.5kg[-12.1~-8.8]、すべてp<0.001)。 40週時にHbA1c値<7%を達成した患者の割合は、tirzepatide 5mg群が87.3%、同10mgが89.6%、同15mgは84.7%であり、プラセボ群の34.5%と比較していずれも有意に高かった(すべてp<0.001)。また、空腹時血糖値のベースラインからの変化量は、tirzepatide群はそれぞれ-58.2mg/dL、-64.0mg/dL、-62.6mg/dLであり、プラセボ群の-39.2mg/dLに比べいずれも有意に低下した(すべてp<0.001)。インスリン グラルギンの用量の変化量も、3つの用量のtirzepatide群で有意に低かった(5mg群:4.4 IU、10mg:2.7 IU、15mg群:-3.8 IU、プラセボ群:25.1 IU、プラセボ群との差は3つの用量群のすべてでp<0.001)。 治療下で発現した有害事象が少なくとも1件認められた患者の割合は、tirzepatide 5mg群が73.3%、同10mg群が68.1%、同15mg群が78.3%、プラセボ群は67.5%であった。 最も頻度が高かったのは消化器症状で、下痢がtirzepatide 5mg群12.1%、同10mg群12.6%、同15mg群20.8%、プラセボ群10.0%で発現し、吐き気がそれぞれ12.9%、17.6%、18.3%、2.5%でみられたが、ほとんどが軽度~中等度であった。 重篤な有害事象は、tirzepatide 5mg群7.8%、同10mg群10.9%、同15mg群7.5%、プラセボ群8.3%で発現した。試験薬の投与中止の原因となった有害事象は、それぞれ6.0%、8.4%、10.8%、2.5%で認められた。低血糖(血糖値<54mg/dL)の発現率は、15.5%、19.3%、14.2%、12.5%であり、重症低血糖は3例(10mg群2例、15mg群1例)で報告された。 著者は、「本試験の結果は、基礎インスリンとtirzepatideの併用に関する臨床的に重要な情報をもたらし、この治療選択肢を考慮する際に、臨床医にとって有用なものとなるだろう」としている。

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TN乳がん1次治療におけるペムブロリズマブ+化学療法、アジア人解析結果(KEYNOTE-355)/日本臨床腫瘍学会

 未治療の手術不能または転移を有するPD-L1 CPS 10以上のトリプルネガティブ(TN)乳がん患者において、ペムブロリズマブ+化学療法はプラセボ+化学療法と比較して、全生存(OS)期間を有意に改善したことが、ESMO 2021で発表されている。同試験のアジア人サブグループの解析結果を、がん研有明病院の高野 利実氏が、第19回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2022)で発表した。なお本邦では、PFSを有意に改善した同試験の中間解析結果を基に、2021年8月に承認されている。[KEYNOTE-355試験]・対象:18歳以上の手術不能な局所再発または転移を有するTN乳がん(ECOG PS 0/1)・試験群(2:1の割合で下記2群に無作為に割り付け):ペムブロリズマブ群:ペムブロリズマブ(200mg、3週ごと)+化学療法(ナブパクリタキセル、パクリタキセル、ゲムシタビン/カルボプラチンの3種類のうちいずれか)プラセボ群:プラセボ+化学療法 ・層別化因子:化学療法の種類(タキサンかゲムシタビン/カルボプラチン)、PD-L1発現(CPS≧1かCPS<1)、術前/術後化学療法の有無・評価項目:[主要評価項目]PD-L1陽性患者(CPS≧10およびCPS≧1)およびITT集団におけるOSと無増悪生存期間(PFS)[副次評価項目]奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)、病勢コントロール率(DCR)、安全性 アジア人サブセットにおける主な結果は以下のとおり。・データカットオフは2021年6月15日。ITT集団における追跡期間中央値は43.8ヵ月だった。・アジア人サブセットには160例(ペムブロリズマブ群113例、プラセボ群47例)が含まれた(日本人は87例)。・ベースライン特性を全体集団と比較すると、ECOG PS1の患者および化学療法としてタキサンの投与を受けた患者の割合が若干少なく、同クラスの化学療法歴のある患者がプラセボ群に若干多かった。[OS中央値]CPS≧10:ペムブロリズマブ群26.7ヵ月 vs.プラセボ群17.4ヵ月(ハザード比[HR]:0.54、95%信頼区間[CI]:0.28~1.04)全体集団では23.0ヵ月 vs.16.1ヵ月(HR:0.73、95% CI:0.55~0.95、p=0.0093)CPS≧1:22.0ヵ月 vs.16.9ヵ月(HR:0.62、95%CI:0.40~0.97)全体集団では17.6ヵ月 vs.16.0ヵ月(HR:0.86、95% CI:0.72~1.04、p=0.0563)ITT集団:24.1ヵ月 vs.17.2ヵ月(HR:0.57、95%CI:0.39~0.84)全体集団では17.2ヵ月 vs.15.5ヵ月(HR:0.89、95% CI:0.76~1.05)[PFS中央値]CPS≧10: 17.3ヵ月 vs. 5.6ヵ月(HR:0.48、95% CI:0.24~0.98)全体集団では9.7ヵ月 vs.5.6ヵ月(HR:0.66、95% CI:0.50~0.88)CPS≧1:7.7ヵ月 vs.5.6ヵ月(HR:0.58、95%CI:0.37~0.91)全体集団では7.6ヵ月 vs.5.6ヵ月(HR:0.75、95% CI:0.62~0.91]ITT集団:8.8ヵ月 vs.6.7ヵ月(HR:0.66、95%CI:0.44~0.99)全体集団では7.5ヵ月 vs.5.6ヵ月(HR:0.82、95% CI:0.70~0.98)・Grade3以上の治療関連有害事象は、ペムブロリズマブ群77.9% vs.プラセボ群78.7%と全体集団と比較して若干多く報告された(全体集団では68.1% vs. 66.9%)が、安全性について全体の傾向は同様で、管理可能であった。 高野氏は、ペムブロリズマブ群におけるベネフィットがアジア人でより大きい傾向がみられることについて、症例数の限られたサブグループ解析であり、慎重に解釈する必要があるとの見解を示しつつ、新たな臨床研究で検討すべき重要なポイントであると述べた。

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第90回 外科医9人脳神経外科医5人退職に揺れ動く大津市民病院の今後は?

<先週の動き>1.外科医9人脳神経外科医5人退職に揺れ動く大津市民病院の今後は?2.乳腺外科医裁判の最高裁、有罪判決を破棄し高裁に差し戻し3.まん防適用地域で発熱外来のオンライン診療料が2倍に4.医師の働き方改革に向けて、スライド集やeラーニングを提供/厚労省5.労働時間調査から地方の周産期医療体制の崩壊を危惧/日本医師会6.国内医薬品ランキングトップは中外製薬、2位武田薬品/IQVIA調べ1.外科医9人脳神経外科医5人退職に揺れ動く大津市民病院の今後は?滋賀・大津市立大津市民病院は、京都大学から派遣されている外科・消化器外科・乳腺外科の医師9人が、今年3月末~6月末にかけて順次退職する意向を示している問題で、今後京大からの医師派遣が見込めず、同診療科では軽症患者の手術しか実施できなくなる恐れがあることを明らかにした。救急受け入れや新型コロナウイルスの診療体制にも影響する可能性がある。報道によれば、経営状況をめぐって理事長ら経営陣と外科医とで意見が対立し、理事長による「自身が名誉教授を務める京都府立医大から代わりの医師を派遣してもらう」という趣旨の発言に対し、外科医側は退職を強要するパワーハラスメントだと主張している。慰留は難しく、同病院へ多数の医師を派遣する府立医大からも同診療科への医師派遣は見込めないという。また、脳神経外科でも理事長が京都府立大学の医師3人を招き脳卒中科を新設するとして、「(京大の派遣)医師2人を減らすよう」求めたことから、京大側は「信頼をもとに人事関係を構築していくことが困難」と判断。今年度中に脳神経外科医5人の退職も想定されており、今後の行方が懸念される。(参考)大津市民病院、手術は軽症のみの恐れ 医師9人退職意向、京大から派遣見込めず(京都新聞)「9医師が退職意向」と医師側文書 大津市民病院が弁明(産経新聞)脳神経外科5人も退職の可能性 医師一斉退職意向の大津市民病院(毎日新聞)2.乳腺外科医裁判の最高裁、有罪判決を破棄し高裁に差し戻し手術直後の女性患者にわいせつ行為をしたとして準強制わいせつ罪に問われていた乳腺外科医に対し、最高裁判所第2小法廷は18日、上告審判決で二審・東京高裁による懲役2年の判決を破棄し、高裁に差し戻した。本事件をめぐっては、原告の訴えを元に幻覚やせん妄の可能性を否定した高裁判決や、患者胸部から採取された被告の唾液のDNAデータを捜査当局が処分していることなど、問題があるとされてきた。最高裁はこれらの問題について、科学的検討が不十分で審理不尽の違法があるとして、審理を差し戻すこととした。被告の弁護団は、最高裁が無罪を確定せず審理を差し戻したことについて、「さらに被告人に過酷な試練を与え、非人道的な判断」と批判した。(参考)逆転有罪の医師、審理差し戻し DNA「信頼性解明を」―術後患者わいせつ・最高裁(時事通信)「審理尽くされていない」 手術後わいせつ事件で有罪破棄、最高裁(朝日新聞)術後の準強制わいせつ事件 最高裁が男性医師の有罪破棄、審理差し戻し「鑑定結果の信頼性は不明確」(東京新聞)3.まん防適用地域で発熱外来のオンライン診療料が2倍に政府は、まん延防止等重点措置が適用されている地域で、自宅療養中の患者に対するオンライン診療報酬の上乗せを、従来の2倍となる5,000円に引き上げた。これにより、すべての自宅・宿泊療養者について、陽性判明翌日までに健康観察や診療を実施できる体制を確保する。ただし、医療機関が発熱外来を行っていること公表する、あるいは保健所から健康観察の委託を受けていることが条件となっている。(参考)オンライン診療の報酬、発熱外来公表で2倍に(日経新聞)自宅等療養するコロナ患者へのオンライン診療等、一定要件下で二類感染症診療加算×2(500点)を算定可―厚労省(Gem Med)新型コロナウイルス感染症に係る診療報酬上の臨時的な取扱いについて(その66)(事務連絡 令和4年2月17日)新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針(令和4年2月18日変更)4.医師の働き方改革に向けて、スライド集やeラーニングを提供/厚労省厚生労働省は16日、「第4回 勤務医に対する情報発信に関する作業部会」で、2024年4月に始まる時間外労働規制の強化を前に、長時間労働が多い勤務医に対して情報発信する内容の検討や医療現場において行動変容を促す取り組みについて議論した。勤務医に向けて情報の周知を行うためにスライド集やeラーニング教材などのコンテンツを作成し、公式サイト「いきいき働く医療機関サポートWeb」から発信を行っていく。また、実際にモデル病院で、若手医師からベテラン医師、メディカルスタッフ、事務職も交えて意見交換を行う場を設け、「働き方改革に向けた課題抽出」を行った事例について共有し、このような場が「極めて有意義であった」とした。今後、働き方改革のためには「時間外労働を少なくする」だけでなく、業務の見直し、病院集約化が必要であり、今後現場に情報発信を行うために、25日に開催される第5回の作業部会で提言をまとめていく。(参考)医師の働き方改革、院内周知用eラーニング教材を作成「いきサポ」でコンテンツを公開、厚労省(CB newsマネジメント)多くの病院で「働き方改革意見交換会」実施を、働き方改革では病院集約化が必要―医師働き方改革・情報発信作業部会(Gem Med)5.労働時間調査から地方の周産期医療体制の崩壊を危惧/日本医師会日本医師会は16日の記者会見で、大学病院の産婦人科および周産期母子医療センターの指定を受けた一般病院産婦人科医師の時間外・休日労働時間に対する調査結果を公表した。その結果、約4割(39.4%)の医師がA水準の上限時間(年960時間)を越え、10%の医師が年1,860時間を超えている状態であり、2024年4月に続勤務時間制限や勤務間インターバル規制が行われた場合、連続勤務せざるを得ない地域では周産期医療体制の崩壊につながると指摘した。医師の派遣について、大学病院側で「今後も派遣を制限する可能性はない」と答えたのは約1割、「制限する可能性がある」と回答したところは約半数、判断がつかないとの回答も約4割あり、産科医の派遣を制限する病院が増加する可能性がある。周産期医療の維持と医師の健康確保の両立のためには、医師独自の宿日直基準を設ける必要性がある。(参考)産科医療機関における宿日直許可に関する調査結果(大学病院・周産期母子医療センター)について(日本医師会)資料 産科医療機関における宿日直許可に関する調査結果について(同)6.国内医薬品ランキングトップは中外製薬、2位武田薬品/IQVIA調べ医薬品開発や医薬品情報サービスを提供するIQVIAジャパンは、2021年の薬価ベースの国内医療用医薬品市場データを17日に公表し、総売上高が2年ぶりに前年を上回ったと発表した。薬価ベースで前年比2.2%増、金額では2,270億円増となる10兆5,990億3,100万円。市場別にみると病院、薬局が2年ぶりのプラス成長に戻ったものの、開業医は2年連続でマイナスに沈んだ。売上ランキングでは5期連続で過去最高益を確保した中外製薬がトップ、前年首位だった武田薬品は2位となった。中外製薬は主力品のアテゾリズマブ(商品名:テセントリク)やエミシズマブ(同:ヘムライブラ)が伸びたほか、新型コロナ関連で軽症~中等症IのCOVID-19に対して使われる中和抗体薬カシリビマブ/イムデビマブ(同:ロナプリーブ)や、中等症IIからの重症患者に適応がある抗体医薬のトシリズマブ(同:アクテムラ)の売り上げ増加によると考えられる。国内市場は薬価改定や後発品推奨を受けて伸び悩んでおり、成長分野であるバイオ医薬品に力を入れてきた中外製薬の戦略が、今回、国内首位に押し上げる形となった。(参考)IQVIA・21年国内医療薬市場 中外製薬が首位奪取 製品トップはキイトルーダ 売上1000億円超に6製品(ミクスオンライン)国内医薬品市場 2年ぶりプラス…2021年、中外製薬が初の売り上げトップに(Answers News)IQVIA医薬品市場統計ー売り上げデータ(2021年1-12月)

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肺がん2021Wrap Up (3)周術期治療【肺がんインタビュー】 第74回

第74回 肺がん2021Wrap Up (3)周術期治療出演:兵庫県立がんセンター 副院長(医療連携・医療情報担当) 兼 ゲノム医療・臨床試験センター長 呼吸器内科部長 里内 美弥子氏2021年肺がんの重要トピックを兵庫県立がんセンターの里内 美弥子氏が一挙に解説。これだけ見ておけば、今年の肺がん研究の要点がわかる。

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医師が目指すべきは“サイドFIRE”【医師のためのお金の話】第53回

「FIRE」というキーワードを目にする機会が増えました。ここでいうFIREとは“火”ではなく、“Financial Independence and Retire Early(=経済的自立と早期リタイア)”という考え方です。私がFIREを知ったきっかけは、2018年11月に掲載されたTHE WALL STREET JOURNALの記事でした。それまでも「早期リタイア」という考え方はありましたが、FIREとは少し趣が異なります。早期リタイアは「高収入のエリートサラリーマン」が「若いうちからハードワークして蓄財することで達成するもの」というイメージでした。一方で今話題のFIREは、「ハードワーク」ではなく「節約と資産運用」が両輪となっています。つまり従来の早期リタイアが「攻め」主体だったのに対し、FIREは「守り」を固めて経済的自立を達成しようとしているのです。FIREという概念がこれだけ一般的になった理由は、誰もが実践できる可能性があることでしょう。従来型の早期リタイアができるのは高収入を稼ぎ出す能力を持つ人に限られるため、ほとんどの人にとって現実的な話ではありませんでした。一方、FIREは節約と資産運用による経済的自立なので、ほとんどの人が目指すことができます。このため社会現象になるほどの広がりを見せたのですが、医師にとってもFIREは目指すべきものなのでしょうか?10年以上前に経済的自立を達成した私の視点FIRE達成の定義は、資産運用による経済的自立です。保有資産の運用益だけで生活できる状況になれば、理論上はリタイアが可能になります。ふむふむ、そう聞くとなんだか良さそうな感じがしますね。何を隠そう、私は2009年頃に経済的自立を達成しています。当時は金融資産が1億円の大台に乗ったばかりでしたが、不動産投資も行っていたために賃料収入だけで月間100万円以上が手元に残りました。このためいつでもリタイアできる状態だったのです。2013年には金融資産が融資残債を上回る、実質的無借金の状態となって現在に至っています。そんな状態なのに、なぜ今でも早期リタイアせずに働いているのでしょうか? 周囲の非医療者の知人からはよく不思議がられます。でも、医師であるあなたには、その理由がわかることでしょう。何といっても医師の仕事はとてもやりがいがあって楽しいですから。そして経済的自立を達成した状態で医師を続けることには、信じ難いほど大きな恩恵があります。しんどくなればいつでも辞めることができる…。これほど最強の立場はないと断言できます。医師として働いているとそれなりに嫌なことやストレスもあるものですが、2009年以降の私はこうしたものとはほぼ無縁になりました。もちろん手術等のプレッシャーは今でもありますが、職場環境や人間関係での理不尽さによるストレスは皆無です。ストレスフリーなので業務もサクサクはかどります。するとさらに働きやすくなる、という相乗効果で正のループが発動するのです。医師が目指すべきは「サイドFIRE」多くの人がFIREを目指せるとはいっても、実際に達成することは困難です。このため、資産運用だけでは足りない収入を副業やアルバイト収入で補う「サイドFIRE」が注目されています。これならハードルがさらに下がりそうですね。一方、医師にとってもサイドFIREは現実的だと思います。医師は若いときから比較的高収入なので、やり方次第ではFIRE達成が可能です。それにもかかわらずサイドFIREがお勧めなのはなぜでしょう。それは仕事のやりがいと社会とのつながり維持のためです。医師の資産形成をテーマとしたオンラインサロンのメンバーで、実際に早期リタイアした医師の話を聞く機会がありました。すると、経験者にしかわからないデメリットがありました。仕事をしていないと社会とのつながりが希薄になって、精神的におかしくなることまであるそうです。FIREも良いことずくめではないのです。FIREの概念が生まれた米国では、FIRE実現のためには利回り4%で資産運用をして生活費をまかなう必要がある、といわれています。しかし現在の日本で4%の資産運用は現実的ではありません。仮に2%で運用するとすれば、平均的な年収に当たる600万円を生み出すためには3億円の資産が必要です。オリジナルのFIRE実現には3億円程度の資産が必要、ということです。3億円という資産を築くハードルの高さに、医師の仕事のやりがいを捨てる難しさを加味すると、医師にとってサイドFIREが現実的な目標となることが、さらに理解していただけるでしょう。そしてサイドFIREを実現することで、医師として素晴らしい人生を謳歌できる可能性が高まります。あなたもサイドFIREを目標にして資産形成に取り組み、自由と仕事のやりがいの両取りを目指してください。

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痙攣性発声障害〔SD:Spasmodic dysphonia〕

1 疾患概要■ 概念・定義痙攣性発声障害は、発声器官に器質的異常や運動麻痺を認めない機能性発声障害の1つで、発声時に喉頭筋の不随意的、断続的な収縮により音声障害を来す疾患である。1871年にTraubeが“spastic dysphonia”として初めて報告した。1968年にAronsonらが内転型と外転型の2つの病型に分類して“spasmodic dysphonia”という名称を提唱し、それ以降その名称が用いられている。発声時の声帯筋の筋緊張に関わるフィードバック機構の異常による喉頭の局所性ジストニア(focal dystonia)と考えられている。■ 病因痙攣性発声障害では約12%の患者でジストニアの家族歴がみられ、少なくとも一部の例では遺伝的要因が関与すると考えられている1)。ジストニア関連遺伝子のうちGNAL遺伝子変異の関与が指摘され、GNAL遺伝子変異を認めた例ではfunctional MRIにより前頭頭頂葉皮質の活動が亢進し、小脳の活動が低下していることが示されている。本症の病因は十分には解明されていないが、大脳白質における神経細胞の解剖学的異常、発声に関わる感覚-運動ネットワーク障害、中枢の神経伝達物質であるドーパミンやGABAの代謝異常などの関与が推測されている1)。■ 病型および症状本症は大きく内転型と外転型に分けられる。内転型では発声時に声帯が内転して声門が過閉鎖されることで発声中の呼気流が遮断され、発声時に断続的な声の途切れ、声の詰まり、努力性発声などを呈する。一方、外転型は発声時に声帯が外転して声門が開大することで、断続的な気息性嗄声、声の抜けなどの症状を呈する。いずれの病型においても、スムーズな会話が障害され日常生活上、大きな支障が生じる。■ 疫学筆者らが2013年に行った全国疫学調査などによると、病型別では内転型が90~95%と大部分を占め、男女比は約1:4で女性に多く、年齢は20および30歳代が約60%を占める2)。また、有病率は3.5~7.0人/10万人で、いわゆる希少疾病である。海外と比較するとわが国では女性の比率が高く、発症年齢は低い傾向にある。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)数年前まで、国内外を通じて本症の明確な診断基準はなかったが、厚生労働省研究班により2017年に診断基準と重症度分類が作成された。診断基準は必須条件、主要症状、参考となる所見、発声時の所見、治療反応性からなる(表1)3)。主な鑑別疾患は、音声振戦症、過緊張性発声、心因性発声障害、吃音がある。表1 痙攣性発声障害の診断基準(概要)画像を拡大する重症度分類はまず主観的重症度と客観的重症度に分けて評価する(表2)。主観的重症度は、音声障害の自覚度評価法であるVoice Handicap Indexと社会的・心理的支障度(声の障害により社会生活にどの程度の支障があるか)をそれぞれ点数化する。客観的重症度は規定文朗読や自由会話を検者が聞きとって、声の異常度を点数評価する。そして、両者の点数の組み合わせから、疾患の総合的重症度を決定する(表3)3)。表2 主観的および客観的重症度基準画像を拡大する表3 痙攣性発声障害の総合的重症度分類3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 保存的治療1)音声治療内転型痙攣性発声障害は発声時に声門が過閉鎖することによる音声障害であることから、発声時の喉頭筋の緊張を軽減させることで、症状を軽減できる場合がある。具体的な手技として、発声と呼吸のパターンを整えて楽な発声を誘導する腹式発声、喉頭筋の過緊張を軽減するための喉頭リラクゼーション法、高音での発声などがある。ただし、いずれも根本治療ではなく音声治療のみでの効果は限定的である。2)ボツリヌストキシン治療ボツリヌストキシンを喉頭筋に注入することで、筋の異常収縮を抑えて音声症状を改善させる治療法である。侵襲性が少なく奏効率が高いことから、米国耳鼻咽喉科・頭頸部外科学会の「嗄声の診療ガイドライン」、わが国における「ジストニア診療ガイドライン」や「音声障害診療ガイドライン」において、本症に対する標準治療と位置付けられている。通常、内転型では輪状甲状間膜経由で甲状披裂筋に、外転型では輪状軟骨外側からのルートで後輪状披裂筋に、筋電図モニター下に投与する(図1)。治療効果は注入の1、2日後より現れ、平均15週間程度持続する。治療に伴う副作用としては、一過性の気息性嗄声や液体嚥下時のむせがある。国内では2018年にA型ボツリヌストキシン(商品名:ボトックス)の適用承認が得られた4)。先進国ではオーストラリアに次いで2ヵ国目である。図1 ボツリヌストキシン治療内転型では輪状甲状間膜経由で、外転型では輪状軟骨外側からのルートでそれぞれ標的筋に投与する。■ 外科的治療内転型痙攣性発声障害に対しては、以下に示す外科的治療があり、近年、適用症例が増えつつある。一方、外転型に対しては有効性が確立された外科的治療はない。1)甲状披裂筋切除術全身麻酔下に経口的に喉頭へアプローチし、声帯上面に切開を加えて責任筋である甲状披裂筋を両側性に鉗除する。手術手技が比較的簡単で皮膚切開を要しないという利点があるが、術後に気息性嗄声がみられる短所がある。2)選択的反回神経内転筋枝切断-再支配手術反回神経の内転筋枝を一旦切断したのちに再支配させる選択的反回神経内転筋枝切断-再支配手術(selective laryngeal adductor denervation-reinnervation surgery)が米国を中心に行われている。手技がやや煩雑でやはり術後に嗄声を来すことが多く、わが国ではあまり行われていない。3)甲状軟骨形成術2型局所麻酔下に甲状軟骨上に皮膚切開を置き、甲状軟骨を正中で縦切開して離断する。離断した軟骨を左右に開大することで、声帯前方を拡げて声帯の過閉鎖が起こらないようにする(図2)。術直後より音声が改善し、長期的にも安定した治療効果が得られることから5)、わが国を中心に手術例が増加しつつある。図2 内転型痙攣性発声障害に対する甲状軟骨形成術2型の模式図甲状軟骨を正中で切開し左右に開大してチタンブリッジにより固定することで、声帯内転による声門の過閉鎖を防止する。4 今後の展望近年の国内外における研究により、本症の病態は明らかになりつつある。また、治療においてもボツリヌストキシン治療や外科的治療の有効性が普及してきた。一方、本症に対する根治的治療法はまだない。発声に関わる中枢へのアプローチによる根治的治療法開発も進められており、今後のさらなる研究の発展が期待される。また、患者は耳鼻咽喉科のみならず、脳神経内科、脳神経外科、心療内科、精神科などさまざまな診療科を受診することが考えられる。本症の認知度はまだ十分とは言えず、早期診断や適切な治療に向けて、これらの診療科の医師や国民に対する啓発活動も望まれる。5 主たる診療科耳鼻咽喉科、脳神経内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診断・治療に関する情報日本音声言語医学会ホームページ(痙攣性発声障害の診断基準および重症度分類、ボツリヌストキシン治療実施可能施設一覧を掲載)患者会情報SDCP発声障害患者会(痙攣性発声障害を含む発声障害患者さんの交流と情報交換)1)兵頭政光. Clinical Neuroscience. 2020;38:1122-1124.2)Hyodo M, et al. Auris Nasus Larynx. 2021;48:179-184.3)鈴木則宏ほか編. Annual Review 神経 2020. 中外医学社;2020:229-235.4)Hyodo M, et al. Eur J Neurol. 2021;28:1548-1556.5)Sanuki T, et al. Otolaryngol Head Neck Surg. 2017;157: 80-84.公開履歴初回2022年2月21日

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60歳以上への交互接種vs.同種接種、感染率・重症化率は/JAMA

 日本と同様に国民の多くがファイザー社およびモデルナ社製のCOVID-19ワクチンによる1回目および2回目接種(初回シリーズ)を受けているシンガポールで、60歳以上を対象に3回目接種での交互接種と同種接種後の感染・重症者の発生状況が調査された。シンガポール国立大学のSharon Hui Xuan Tan氏らによる、JAMA誌オンライン版2022年2月11日号リサーチレターでの報告。 シンガポールでは人口の8割以上がCOVID-19ワクチンを2回接種していたにもかかわらず、2021年9月に社会的距離と検疫についての措置が緩和され、感染者が急増した。これを受けて政府は、6ヵ月以上前に2回目接種を終えた60歳以上の成人に追加接種を受けるよう呼びかけ、30μgのBNT162b2(ファイザー社)と50μgのmRNA-1273(モデルナ社)のいずれかを選択するようにした。 本研究では、2021年9月15日~10月31日に追加接種を受けた人を対象に、SARS-CoV-2感染率と重症化率を、シンガポール保健省に報告された公式データに基づいて分析した。症例は、有症者、無症状の高リスク労働者および濃厚接触者の検査によって特定された。評価項目はPCR検査で確認された感染および重症化(酸素投与が必要、集中治療室への入院、COVID-19による死亡)であった。 抗体価の上昇に要する時間を考慮し、追加接種を受けた12日後に追加接種群に分類された。ポアソン回帰を用いて,初回シリーズでのワクチンの種類(BNT162b2またはmRNA-1273)別に、追加接種群と非追加接種群の感染と重症化の発生率比(IRR)を推計。共変量には、性別、人種、社会経済状態の指標となる住居形態、年齢層、2回目のワクチン接種日、調査期間中の感染力の変化を調整するための暦日別ダミー変数などが含まれていた。また、追加接種として同メーカーのワクチンを接種した人(同種接種;homologous boosted)と異なるワクチンを接種した人(交互接種;heterologous boosted)のIRRも算出された。 主な結果は以下の通り。・70万3,209人の対象者のうち、調査期間中に57万6,132人が追加接種を受けた。・研究対象となったのは、追加接種群933万9,981人日、非追加接種群2,264万3,521人日だった。・人日別では、60~69歳が59%、70~79歳が29%、80歳以上が11%で、女性が53%を占めていた。[初回シリーズでBNT162b2を接種]・非追加接種群で(100万人日当たり)感染:600.4件、重症化:20.5件。・追加接種での同種接種群で(100万人日当たり)感染:227.9件、重症化:1.4件、感染確定症例のIRR(非追加接種群を対照)は0.272(95%信頼区間[CI]:0.258~0.286)、重症例のIRRは0.047(95%CI:0.026~0.084)。・追加接種での交互接種群で(100万人日当たり)感染:147.9件、重症化:2.3件、感染確定症例のIRRは0.177(95%CI:0.138~0.227)、重症例のIRRは0.078(95%CI:0.011~0.560)。[初回シリーズでmRNA-1273を接種]・非追加接種群で(100万人日当たり)感染:507.0件、重症化:4.5件。・追加接種での同種接種群で(100万人日当たり)感染:133.9件、IRRは0.198(95%CI:0.144~0.271)。・追加接種での交互接種群で(100万人日当たり)感染:100.6件、IRRは0.140(95%CI:0.052~0.376)。・初回シリーズでmRNA-1273の投与を受けた人の重症者数は少なく、IRRは評価されなかった。 著者らは、短い追跡期間、mRNA-1273投与後の感染数が少ないことなどの本研究における限界を挙げたうえで、交互接種は同種接種と比較してSARS-CoV-2感染率を低下させたとしている。本結果は、追加接種の推奨を支持し、また交互接種がCOVID-19に対するより大きな予防効果をもつ可能性を示唆しているとまとめている。

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「災害としてのCOVID-19と血栓症Webセミナー」ホームページで公開中/日本静脈学会

 新型コロナウイルス感染症はほかの感染症と比較して血栓リスクが高いことは知られている。今回、日本静脈学会はこのコロナ第6波を受け、コロナ×血栓症に関する内容を多くの医療者に発信したいと、昨年11月10日(水)と12月7日(火)にクローズド開催した『災害としてのCOVID-19と血栓症Webセミナー』の編集動画を本ホームページへ公開した。 本学会は「日頃COVID-19治療に従事している医療従事者の皆さんのVTE対応への指標の一つとなるよう」思いを込めてセミナーを企画しており、本講演会については医師のみならず誰でも視聴可能だ。災害としてのCOVID-19と血栓症(前編)1『COVID-19患者で注意すべき血栓症・静脈血栓塞栓症とは?』 山下 侑吾氏(京都大学医学部附属病院 循環器内科)2『日本でもCOVID-19患者のVTE発症は多いのか?』 西本 裕二氏(兵庫県立尼崎総合医療センター 循環器内科)3『COVID-19:血栓症の診療指針と抗凝固療法の実際』 谷地 繊氏(JCHO東京新宿メディカルセンター 循環器内科)災害としてのCOVID-19と血栓症(後編)4『災害時VTEから考える自宅・宿泊療養患者さんのVTEの危険性』 岩田 英理子氏(JCHO南海医療センター心臓血管外科)5『静脈血栓症予防の理学療法 下肢運動と予防用弾性ストッキングの着用法』 杉山 悟氏(広島逓信病院)コメンテーター: 山本 尚人氏(浜松医療センター 血管外科) 佐戸川 弘之氏(福島県立医科大学附属病院 心臓血管外科) 福田 幾夫氏(吹田徳洲会病院 心臓血管センター長) 相川 志都氏(筑波メディカルセンター病院 心臓血管外科)

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化学療法+ニボルマブ+ベバシズマブによるNSCLC1次治療の全生存期間(TASUKI-52)/日本臨床腫瘍学会

 非扁平上皮非小細胞肺がん(NSCLC)に対するニボルマブとプラチナダブレットおよびベバシズマブ併用の1次治療を評価する国際無作為化二重盲検第III相TASUKI-52試験の全生存期間(OS)の成績が、第19回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2022)で発表された。同併用群はOSについても改善を示した。・対象:未治療のStage IIIB/IVの非扁平上皮NSCLC患者(PD-L1発現問わず)・試験群:ニボルマブ(360mg)+カルボプラチン+パクリタキセル+ベバシズマブ(3週間ごと6サイクル)→ニボルマブ+ベバシズマブ(ニボルマブ群)・対照群:プラセボ+カルボプラチン+パクリタキセル+ベバシズマブ→プラセボ+ベバシズマブ(プラセボ群) ニボルマブ/プラセボ+ベバシズマブは、疾患進行または許容できない毒性発現まで継続・評価項目:[主要評価項目]独立放射線審査委員会(IRRC)評価の無増悪生存期間(PFS)[副次評価項目]全生存期間(OS)、全奏効率(ORR)、安全性 主な結果は以下のとおり。・最小追跡期間は19.4ヵ月であった。・OS中央値はニボルマブ群30.8ヵ月、プラセボ群24.7ヵ月、とニボルマブ群で有意に良好であった(HR:0.74、95%CI:0.58~0.94、p=0.0135)・18ヵ月OS率はニボルマブ群69.0%、プラセボ群61.9%、24ヵ月OS率はそれぞれ59.8%と50.3%で、その差は開いている。・OSのサブグループ解析では、ほとんどの項目でニボルマブ群が優位であった。・PD-L1発現レベルによるOSのHRはPD-L1<1%集団で0.84、1~49%集団で0.59、≧50%で0.83、と発現レベルをとわずニボルマブ群で良い傾向であった。・全Gradeの治療関連有害事象(TRAE)は、ニボルマブ群98.5%に対しプラセボ群99.6%、治療中止にいたったTRAEはそれぞれ16.5%と4.4%であった。 この結果は、非扁平上皮NSCLCの1次治療におけるニボルマブとプラチナ含有化学療法およびベバシズマブの併用をさらに支持するものだと発表者は述べている。

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双極性障害患者の睡眠評価~主観的および客観的アプローチの比較

 双極性障害患者では、睡眠障害が頻繁に認められる。そのため、双極性障害患者の睡眠を正確に評価することは重要である。双極性障害患者の睡眠を評価するうえで、睡眠日誌や質問票などの主観的な睡眠評価ツールが用いられることが多いが、これらのツールがアクチグラフなどの客観的なツールと同程度の精度があるかはよくわかっていない。藤田医科大学の藤田 明里氏らは、双極性障害患者の睡眠を評価するための主観的および客観的ツールについての比較を行った。Journal of Psychiatric Research誌オンライン版2021年12月13日号の報告。 双極性障害外来患者164例を対象に横断的研究を実施した。客観的な睡眠評価は、アクチグラフを用いて、7日間連続してプロスペクティブに評価し、主観的な睡眠評価は、睡眠日誌を用いてプロスペクティブに評価した。 主な結果は以下のとおり。・総睡眠時間と入眠潜時の評価では、睡眠日誌(r=0.81)とアクチグラフ(r=0.47)の相関性は高く、中程度であった。・これらの関連は、多重検定(総睡眠時間、入眠潜時のいずれもp<0.001)および正常状態(総睡眠時間:r=0.86、入眠潜時:r=0.51)と残存症状状態(総睡眠時間:r=0.77、入眠潜時:r=0.40)の患者いずれにおいて、補正後も有意なままであった。・総睡眠時間の割合の差(睡眠日誌パラメータからアクチグラフパラメータを引き、アクチグラフパラメータで割った値)の中央値(四分位範囲)は、比較的小さかった(6.2%[-0.2~13.6%])。 著者らは「アクチグラフまたは睡眠ポリグラフが実施できない場合、睡眠日誌を用いた総睡眠時間の評価は、臨床的に有用であると考えられる」としている。

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妊産婦の新型コロナ感染、産科合併症と関連/JAMA

 妊娠中および出産後の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染は、妊産婦死亡または重篤な産科合併症の複合アウトカムのリスク増加と関連していることが、米国・ユタ大学のTorri D. Metz氏ら国立小児保健・人間発達研究所(Eunice Kennedy Shriver NICHD)のMFMU(Maternal-Fetal Medicine Units)ネットワークによる「GRAVID(Gestational Research Assessments of COVID-19)研究」で明らかとなった。これまで、妊娠中または出産後のSARS-CoV-2感染が重篤な産科合併症のリスクを特異的に増加させるかどうかはわかっていなかった。JAMA誌オンライン版2022年2月7日号掲載の報告。2020年3月~12月に出産した妊産婦、SARS-CoV-2感染者vs.非感染者 研究グループは、GRAVID研究に参加している米国の17施設において、2020年3月1日~12月31日の期間に出産した妊産婦1万4,104例について後ろ向きに解析した(最終追跡調査2021年2月11日)。 妊娠中または産後6週間以内にPCR検査または抗原検査が陽性であった患者をSARS-CoV-2感染者とし、同期間の無作為に選んだ日に出産しSARS-CoV-2検査が陽性でない非感染者と比較した。SARS-CoV-2感染者は、COVID-19の重症度でさらに層別化した。 主要評価項目は、妊産婦死亡、または妊娠高血圧症候群、産褥出血、SARS-CoV-2以外の感染症に関連する重篤な疾患の複合、主要な副次評価項目は帝王切開による出産であった。中等度以上感染者で、妊産婦死亡/産科合併症、帝王切開の発生率が有意に高い 解析対象1万4,104例(平均年齢29.7歳)のうち、SARS-CoV-2感染者は2,352例、非感染者は1万1,752例であった。 SARS-CoV-2感染者は非感染者と比較し、主要評価項目のイベントと有意に関連していた(13.4% vs.9.2%、群間差:4.2%[95%信頼区間[CI]:2.8~5.6]、補正後相対リスク[aRR]:1.41[95%CI:1.23~1.61])。 妊産婦死亡の5例はすべてSARS-CoV-2感染者であった。SARS-CoV-2感染と帝王切開との間に有意な関連はなかった(34.7% vs.32.4%、aRR:1.05[95%CI:0.99~1.11])。 COVID-19の重症度が中等度以上のSARS-CoV-2感染者(586例)は、非感染者と比較して主要評価項目のイベント(26.1% vs.9.2%、群間差:16.9%[95%CI:13.3~20.4]、aRR:2.06[95%CI:1.73~2.46])、ならびに帝王切開による出産(45.4% vs.32.4%、12.8%[8.7~16.8]、1.17[1.07~1.28])と有意に関連していた。 一方、軽度または無症状のSARS-CoV-2感染者(1,766例)は非感染者と比較して、主要評価項目(9.2% vs.9.2%、群間差:0%[95%CI:-1.4~1.4]、aRR:1.11[95%CI:0.94~1.32])、ならびに帝王切開(31.2% vs.32.4%、-1.4%[-3.6~0.8]、1.00[0.93~1.07])のいずれも有意な関連はみられなかった。

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早期TN乳がん、術前PEM+化学療法と術後PEMでEFS改善/NEJM

 早期トリプルネガティブ乳がん(TNBC)に対し、術前補助療法でペムブロリズマブ+化学療法→術後補助療法でペムブロリズマブによる治療は、術前補助療法での化学療法のみと比較して、無イベント生存期間(EFS)を有意に延長することが、英国・ロンドン大学クイーン・メアリー校のPeter Schmid氏らが21ヵ国181施設で実施した無作為化二重盲検プラセボ対照試験「KEYNOTE-522試験」で示された。すでに本試験の最初の解析において、術前補助化学療法にペムブロリズマブを追加することで、根治的手術実施時に病理学的完全奏効(pCR)(乳房内に浸潤がんがなく、リンパ節転移陰性と定義)を得られた患者の割合が有意に増加することが報告されていた。NEJM誌2022年2月10日号掲載の報告。術前化学療法へのPEM追加+術後PEMの有効性を、プラセボと比較 研究グループは、未治療の早期TNBC患者(AJCC/TNM分類でT1c N1-2またはT2-4 N0-2、ECOG PS 0/1)を、ペムブロリズマブ+化学療法群とプラセボ+化学療法群に2対1の割合で無作為に割り付けた。 ペムブロリズマブ+化学療法群では、術前補助療法としてペムブロリズマブ(200mg、3週ごと)+パクリタキセル(80mg/m2、週1回)+カルボプラチン(AUC 1.5、週1回またはAUC 5、3週ごと)を4サイクル投与後、ペムブロリズマブ+シクロホスファミド(600mg/m2)+ドキソルビシン(60mg/m2)またはエピルビシン(90mg/m2)を3週ごとに4サイクル投与し、術後補助療法としてペムブロリズマブを3週ごとに9サイクル投与した。プラセボ+化学療法群では、術前補助療法でプラセボ+化学療法(同上)、術後補助療法でプラセボを投与した。 主要評価項目は、pCRおよびEFS(無作為化から、根治的手術不能となる病勢進行、局所または遠隔再発、2次原発がんの発生、または全死因死亡までの期間と定義)とし、安全性についても評価した。3年EFS率は84.5% vs.76.8% 2017年3月~2018年9月に計1,174例が割り付けられた(ペムブロリズマブ+化学療法群784例、プラセボ+化学療法群390例)。 計画されていた今回の第4回中間解析(データカットオフ日:2021年3月23日)における追跡期間中央値は39.1ヵ月(範囲:30.0~48.0)で、EFSのイベントはペムブロリズマブ+化学療法群で123例(15.7%)、プラセボ+化学療法群で93例(23.8%)に認められた。 3年無イベント生存率は、ペムブロリズマブ+化学療法群84.5%(95%信頼区間[CI]:81.7~86.9)、プラセボ+化学療法群76.8%(72.2~80.7)であった(イベントまたは死亡のハザード比:0.63、95%CI:0.48~0.82、p<0.001)。 有害事象は主に術前補助療法期に発現し、ペムブロリズマブおよび化学療法ですでに確立されている安全性プロファイルと一致していた。

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ワキ汗に困る女性の頻度は、〇%【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第204回

ワキ汗に困る女性の頻度は、〇%photo-ACより使用多汗症の女性って結構多いです。うちの妻も、手から源泉のごとく汗が湧き出る時期がありました。さて、日本における原発性腋窩多汗症の有病率は、5~64歳の人口で5.75%とされています。20人に1人以上が悩んでいることになります。かなり多いですね。女性のほうが多いのかなと思っていたら、意外にも男性6.06%、女性4.72%と男性のほうがメジャーな疾患でした。Murota H, et al.Cost-of-illness study for axillary hyperhidrosis in JapanJ Dermatol . 2021 Oct;48(10):1482-1490.この研究は、日本における腋窩多汗症の疾病コストを推定することを目的としたものです。全国の保険請求データベースの分析と、Webベースの横断的調査を実施しました。2012年11月~2019年10月の間、一度でも原発性腋窩多汗症と診断された患者のうち、1,447例の健康保険受給データを分析しました。また、16~59歳の腋窩多汗症患者321例を対象に、横断的なWebアンケートを実施し、衛生用品にかかったお金と、仕事の生産性と活動性の障害に関するアンケート調査を用いた生産性損失を算出しました。結果、腋窩多汗症患者さん1人当たりの年間直接医療費は、2016年が9万1,491円、2017年が9万3,155円、2018年が7万5,036円という結果でした。なかなかの医療費ですぞ!いずれも、ボツリヌス毒素注射が総費用の約9割を占めていることがわかりました。ボツリヌス毒素注射には、効果の持続に限りがあるので、いつの間にか元通りに戻ることが多いです。腋窩多汗症患者1人当たりの衛生用品の年間総費用は9,325円という結果でした。仕事の生産性も落ちますので、作業効率が低下することも今回の研究で示されています。そして、この研究では、腋窩多汗症によって年間3,365億円のコストが発生していることを記載しています。あなどれませんよ、多汗症――。

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第96回 行政や官公庁はなぜ気づかない!?国民がワクチン3回目接種したくなるひと手間

オミクロン株による新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の感染拡大は新規感染者報告数だけを見ればややピークを過ぎつつあるようだ。もっともまだ気を緩められる状況ではないだろう。たとえば、東京都は過去1週間の各曜日の新規感染者報告数が前週同一曜日と比べて減少しているものの、後続指標である重症者数は一貫して増加している。国基準での重症病床使用率は2月16日現在、46.5%である。その中で数少ない切り札になりそうなのがワクチンの3回目接種だが、国内の3回目接種率は2月16日現在11.1%に止まり、先進国の中ではほぼ最低クラスと言ってよい。そんな最中、これを執筆中の私自身も3回目接種を終え丸1日が経過した。私の場合は過去2回の接種はファイザー製を選択したが、今回は交互接種でモデルナ製を選択した。私の住む自治体の場合、区の集団接種会場はモデルナ、個別接種医療機関はおおむねファイザーという住み分けがされており、接種券が届いた際はどちらも相当の余裕があった。たぶん、細かいことにこだわらなければ2週間前には接種は完了していただろう。しかし、自称『ワクチンマニア』のこだわりのため遅れてしまった。そのこだわりとは、ワクチンの種類としては「交互接種になるようモデルナを選択したい」というのが第一。次いで私自身は接種歴が記録されたイエローカードを2種類(米・CDC版とWHO版)保有しており、「接種後にカードへの英語記入をお願いしたい」。さらに欲を言えば「自分の接種風景を写真に収めておきたい」、この3つだ。イエローカードの記入を考えると、区の集団接種会場でお願いされても、接種実施者の項目に「○○区」と記入するのかどうかという問題もあるし、それ以上に集団接種会場のオペレーションは個別医療機関と違って現場に裁量がないはずなのでカード記入や写真撮影をお願いされても困るだろう。予約システムを見ると、区内のあるクリニックならばモデルナ製の接種が可能だったが、最寄り駅が7つも離れていることと、一見さんが写真撮影をお願いしてOKしてもらえるかどうかわからないので予約を躊躇してしまった。どうしようかと思いながら、1、2回目を接種したクリニックのホームページを念のため覗いてみたところ、ワクチン在庫の関係で特定週だけモデルナ製を接種すると記述がある。ここでは前回、イエローカード記入も写真撮影も了承してもらえたので、早速予約を入れた。接種当日、クリニックに到着すると、前回の接種時の補助をしていた看護師さんと目が合い「ああ、村上さん。今回もイエローカードと写真?」と先回りで言われてしまう始末。接種担当医師も前回と同じで「前回は副反応どうでした?」と聞かれたので、「まったくと言っていいくらい何もなく、仕込んだネタを外して笑ってもらえない芸人の気分でした」と答えると大笑いされた。ちなみに丸1日経っているが、今のところ注射部位を指で押せば軽い痛みがある程度で発熱もない。今回も「ネタを外した」ようだ。さて前置きが長くなってしまったが、3回目接種が進展していないことへの批判を受けて岸田 文雄首相は、菅 義偉前首相時代と同じく「1日100万回接種」の目標を掲げた。しかし、この実現に当たって目下障害になるものがある。それは当初定めた3回目接種の目標時期である「2回目接種から8ヵ月以上経過」という条件である。この件は本連載の第84回でも触れたが、あくまで行政的な判断である。医学的には各ワクチンで承認された追加接種適応にあるように「6ヵ月以上」である。第84回の執筆時に私は行政的判断としては妥当ではないかとの見解だったが、それはあくまで執筆時点での推定在庫を念頭に置いたもので、すでに状況は変わっている。地域差はあるものの当時と比べれば在庫はある。その意味ではもはや8ヵ月以上の条件はほぼ不要と言っていい。厚生労働省もホームページでも「追加接種の予約枠に空きがあれば、一般の方も順次前倒しで3回目のワクチン接種を受けられるようになりました」と但し書きをしているが、その下にまるで残骸のように過去の接種基準を付記したままである以上混乱を招きやすい。もちろん最近の目まぐるしい情勢変化があるため、ある種の「アリバイ」表記は必要だろうが、こうした表記は紛らわしく、誤解を生むことが多いもの。ならば、国から今まで以上に積極的に“予約枠次第で前倒しは可能”と情報発信すべきだ。結局、今はヒトも予算も国よりも限られる自治体がその負荷を追う形となり、あちこちの自治体で接種券に表記された接種可能時期と国の方針変更に応じた最新の接種時期を反映した各自治体ホームページでの情報の不一致が散見される。接種券を印刷し直している余裕がないため致し方ない措置だが、これではインターネット弱者は置き去りにされてしまう。一方で自治体も改善可能な点はある。一部では2回目接種から6ヵ月以上が経過したことで接種券が送付されているが、目下の予約状況に空きがあるにもかかわらず、予約開始日がかなり先の日時に固定されているという自治体もあるのだ。こうした自治体に居住している人によると、この件を区に問いただしても「あくまで区の方針なので」で押し切られ、予約開始日前の空き枠を指を咥えて見ているしかないそうだ。自治体も柔軟な対応が必要だろう。3回目接種になってから今回私が選択したモデルナ製は不人気で、そのことが3回目接種推進のハードルになっているかのようなことが書かれた記事がやけに目立つ。確かにファイザー製と比べ、心筋炎なども含めやや副反応の頻度が高いという報告もあり、避けられている側面はあるだろう。その意味では確かに足かせの一つかもしれないが、ここに挙げたもの以外にも、あちこちに目詰まりの要素は散見されるはずだ。その一つ一つを丁寧に解きほぐしていかない限り、3回目の接種率は思ったように上昇しないのではないかと内心危惧している。

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標準薬ながら血糖降下薬を超えるメトホルミンの可能性【令和時代の糖尿病診療】第5回

第5回 標準薬ながら血糖降下薬を超えるメトホルミンの可能性今回のテーマであるビグアナイド(BG)薬は、「ウィキペディア(Wikipedia)」に民間薬から糖尿病治療薬となるまでの歴史が記されているように、なんと60年以上も前から使われている薬剤である。一時、乳酸アシドーシスへの懸念から使用量が減ったものの、今や2型糖尿病治療において全世界が認めるスタンダード薬であることは周知の事実である。そこで、メトホルミンの治療における重要性と作用のポイント、その多面性から血糖降下薬を超える“Beyond Glucose”の可能性もご紹介しようかと思う。なお、ビグアナイドにはフェンフォルミン、メトホルミン、ブホルミンとあるが、ここから先は主に使用されているメトホルミンについて述べる。作用機序から考えるその多面性まず、メトホルミンについて端的にまとめると、糖尿病治療ガイド2020-20211)の中ではインスリン分泌非促進系に分類され、主な作用は肝臓での糖新生抑制である。低血糖のリスクは低く、体重への影響はなしと記載されている。そして主要なエビデンスとしては、肥満の2型糖尿病患者に対する大血管症抑制効果が示されている。主な副作用は胃腸障害、乳酸アシドーシス、ビタミンB12低下などが知られる。作用機序は、肝臓の糖新生抑制だけを見ても、古典的な糖新生遺伝子抑制に加え、アデニル酸シクラーゼ抑制、グリセロリン酸シャトル抑制、中枢神経性肝糖産生制御、腸内細菌叢の変化、アミノ酸異化遺伝子抑制などの多面的な血糖降下機序がわかっている2)。ほかにも、メトホルミンはAMPキナーゼの活性化を介した多面的作用を併せ持ち、用量依存的な効果が期待される(下図)。図1:用量を増やすとAMPキナーゼの活性化が促進され、作用が増強する1990年代になって、世界的にビグアナイド薬が見直され、メトホルミンの大規模臨床試験が欧米で実施された。その結果、これまで汎用されてきたSU薬と比較しても体重増加が認められず、インスリン抵抗性を改善するなどのメリットが明らかになった。これにより、わが国においても(遅ればせながら)2010年にメトホルミンの最高用量が750mgから2,250mgまで拡大されたという経緯がある。メトホルミンの作用ポイントと今後の可能性それでは、メトホルミンにおける(1)多面的な血糖降下作用(2)脂質代謝への影響(3)心血管イベントの抑制作用の3点について、用量依存的効果も踏まえてみてみよう。(1)多面的な血糖降下作用メトホルミンもほかの血糖降下薬と同様に、投与開始時のHbA1cが高いほど大きい改善効果が期待でき、肥満・非肥満によって血糖降下作用に違いはみられない。用量による作用としては、750mg/日で効果不十分な場合、1,500mg/日に増量することでHbA1cと空腹時血糖値の有意な低下が認められ、それでも不十分な場合に2,250mg/日まで増量することでHbA1cのさらなる低下が認められている(下図)。また、体重への影響はなしと先述したが、1,500mg/日以上使用することにより、約0.9kgの減量効果があるとされている。図2:1,500mg/日での効果不十分例の2,250mg/日への増量効果画像を拡大するさらには高用量(1,500mg以上)の場合、小腸上部で吸収しきれなかったメトホルミンが回腸下部へ移行・停滞し、便への糖排泄量が増加するといわれており、小腸下部での作用も注目されている。これは、メトホルミンの胆汁酸トランスポーター(ASBT)阻害作用により再吸収されなかった胆汁酸が、下部消化管のL細胞の受容体に結合し、GLP-1分泌を促進させるというものである(下図)3)。図3:メトホルミンによるGLP-1分泌促進機構(仮説)画像を拡大するまた、in vitroではあるが、膵β細胞に作用することでGLP-1・GIP受容体の遺伝子発現亢進をもたらす可能性が示唆されている4)。よって、体重増加を来しにくく、インクレチン作用への相加効果が期待できるメトホルミンとインクレチン製剤(DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬)の併用は相性が良いといわれている。(2)脂質代謝への影響あまり知られていない(気に留められていない?)脂質代謝への影響だが、メトホルミンは肝臓、骨格筋、脂肪組織においてインスリン抵抗性を改善し、遊離脂肪酸を低下させる。また、肝臓においてAMPキナーゼの活性化を介して脂肪酸酸化を亢進し、脂肪酸合成を低下させることによりVLDLを低下させるという報告がある5)。下に示すとおり、国内の臨床試験でSU薬にメトホルミンを追加投与した結果、総コレステロール(TC)、LDLコレステロール(LDL-C)、トリグリセリド(TG)が低下したが、有意差は1,500mg/日投与群のみで750mg/日ではみられない。糖尿病専門医以外の多くの先生方は500~1,000mg/日までの使用が多いであろうことから、この恩恵を受けられていない可能性も考えられる。図4:TC、LDL-C、TGは、1,500mg/日投与群で有意な低下がみられる画像を拡大する(3)心血管イベントの抑制作用メトホルミンの心血管イベントを減らすエビデンスは、肥満2型糖尿病患者に対する一次予防を検討した大規模臨床試験UKPDS 346)と、動脈硬化リスクを有する2型糖尿病患者に対する二次予防を検討したREARCHレジストリー研究7)で示されている。これは、体重増加を来さずにインスリン抵抗性を改善し、さらに血管内皮機能やリポ蛋白代謝、酸化ストレスの改善を介して、糖尿病起因の催血栓作用を抑制するためと考えられている8)。ここまで主たる3点について述べたが、ほかにもAMPKの活性化によるがんリスク低減や、がん細胞を除去するT細胞の活性化、そして糖尿病予備軍から糖尿病への移行を減らしたり、サルコペニアに対して保護的に働く可能性などを示す報告もある。さらに、最近ではメトホルミンが「便の中にブドウ糖を排泄させる」作用を持つことも報告9)されており、腸がメトホルミンの血糖降下作用の多くを担っている可能性も出てきている。しかし、どんな薬物治療にも限界がある。使用に当たっては、日本糖尿病学会からの「メトホルミンの適正使用に関するRecommendation」に従った処方をお願いしたい。今や医学生でも知っている乳酸アシドーシスのリスクだが、過去の事例を見ると、禁忌や慎重投与が守られなかった例がほとんどだ。なお、投与量や投与期間に一定の傾向は認められず、低用量の症例や投与開始直後、あるいは数年後に発現した症例も報告されている。乳酸アシドーシスの症例に多く認められた特徴としては、1.腎機能障害患者(透析患者を含む)、2.脱水、シックデイ、過度のアルコール摂取など、患者への注意・指導が必要な状態、3.心血管・肺機能障害、手術前後、肝機能障害などの患者、4.高齢者とあるが、まずは経口摂取が困難で脱水が懸念される場合や寝たきりなど、全身状態が悪い患者には投与しないことを大前提とし、以上1~4の事項に留意する。とくに腎機能障害患者については、2019年6月の添付文書改訂でeGFRごとの最高用量の目安が示され、禁忌はeGFRが30未満の場合となっているため注意していただきたい。図5:腎機能(eGFR)によるメトホルミン最高投与量の目安画像を拡大するBasal drug of Glucose control&Beyond Glucose、それがBG薬まとめとして、最近の世界動向をみてみよう。米国糖尿病学会(ADA)は昨年12月、「糖尿病の標準治療2022(Standards of Medical Care in Diabetes-2022)」を発表した。同文書は米国における糖尿病の診療ガイドラインと位置付けられており、新しいエビデンスを踏まえて毎年改訂されている。この2022年版では、ついにメトホルミンが2型糖尿病に対する(唯一の)第一選択薬の座から降り、アテローム動脈硬化性疾患(ASCVD)の合併といった患者要因に応じて第一選択薬を判断することになった。これまでは2型糖尿病治療薬の中で、禁忌でなく忍容性がある限りメトホルミンが第一選択薬として強く推奨されてきたが、今回の改訂で「第一選択となる治療は、基本的にはメトホルミンと包括的な生活習慣改善が含まれるが、患者の合併症や患者中心の医療に関わる要因、治療上の必要性によって判断する」という推奨に変更された。メトホルミンが第一選択薬にならないのは、ASCVDの既往または高リスク状態、心不全、慢性腎臓病(CKD)を合併している場合だ。具体的な薬物選択のアルゴリズムは、「HbA1cの現在値や目標値、メトホルミン投与の有無にかかわらず、ASCVDに対する有効性が確認されたGLP-1受容体作動薬またはSGLT2阻害薬を選択する」とされ、考え方の骨子は2021年版から変わっていない。もちろん、日本糖尿病学会の推奨は現時点で以前と変わらないことも付け加えておく。メトホルミンが、これからもまだまだ使用され続ける息の長い良薬であろうことは間違いない。ぜひ、Recommendationに忠実に従った上で、用量依存性のメリットも感じていただきたい。1)日本糖尿病学会編・著. 糖尿病治療ガイド2020-2021. 文光堂;2020.2)松岡 敦子,廣田 勇士,小川 渉. PHARMA MEDICA. 2017;35:Page:37-41.3)草鹿 育代,長坂 昌一郎. Diabetes Frontier. 2012;23:47-52.4)Cho YM, et al. Diabetologia. 2011;54:219-222.5)河盛隆造編. 見直されたビグアナイド〈メトホルミン〉改訂版. フジメディカル出版;2009.6)UKPDS Group. Lancet. 1998;352:854-865.7)Roussel R, et al. Arch Intern Med. 2010;170:1892-1899.8)Kipichnikov D, et al. Ann Intern Med. 2002;137:25-33.9)Yasuko Morita, et.al. Diabetes Care. 2020;43:1796-1802.

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