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低リスク分化型甲状腺がん、全摘後のアブレーションは回避できるか/Lancet

 低リスクの分化型甲状腺がん患者の治療において、甲状腺全摘後に放射性ヨウ素治療(アブレーション)を行った場合と比較して、アブレーションを行わない場合でも5年無再発生存期間(RFS)は非劣性であり、有害事象の発現は両群で同程度であることから、この治療は安全に回避可能であることが、英国・Freeman HospitalのUjjal Mallick氏らが実施した「IoN試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2025年6月18日号で報告された。英国の第III相無作為化非劣性試験 IoN試験は、英国の33のがん治療施設で行われた第III相非盲検無作為化対照比較非劣性試験であり、2012年6月~2020年3月に参加者を登録した(Cancer Research UKの助成を受けた)。 甲状腺全摘で根治切除(R0)が達成され、TNM病期分類でpT1、pT2、pT3(TNM7基準)またはpT3a(TNM8基準)で、リンパ節転移がN0、Nx、N1aの病変を有する患者を対象とした。これらの患者を、甲状腺全摘後に1.1GBqアブレーション群または非アブレーション群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは5年RFS率とした。RFSは、構造的な局所・領域再発または遺残病変、遠隔再発、甲状腺がんによる死亡のいずれもが発生しないことと定義された。非劣性マージンは5%ポイントであった。全体ではpT3/pT3a、N1aで再発率が高い 504例(ITT集団)を登録し、非アブレーション群に251例(年齢中央値48歳[範囲:17~77]、女性76%)、アブレーション群に253例(47歳[17~80]、79%)を割り付けた。非アブレーション群の249例が実際にアブレーションを受けず、アブレーション群の231例がアブレーションを受けた(per-protocol集団)。 追跡期間中央値は、非アブレーション群が6.8年、アブレーション群は6.6年で、この間に17例で再発を認めた(非アブレーション群8例、アブレーション群9例)。5年RFS率は、ITT集団では非アブレーション群が97.9%(95%信頼区間[CI]:96.1~99.7)、アブレーション群は96.3%(93.9~98.7)であり(ハザード比[HR]:0.84[90%CI:0.38~1.87])、per-protocol集団ではそれぞれ97.9%(95%CI:96.1~99.7)および96.9%(94.7~99.1)であった(1.03[90%CI:0.44~2.42])。 ITT集団における両群間のRFS率の5年絶対リスク差は0.5%ポイント(95%CI:-2.2~3.2)であり、非アブレーション群のアブレーション群に対する非劣性が示された(非劣性のp=0.033)。 全体(504例)の病期別の再発率はpT3/pT3aの腫瘍を有する患者で高く(pT3/pT3a腫瘍9%[4/46例]vs.pT1/pT2腫瘍3%[13/458例])、リンパ節転移の状態別ではN1aの患者で高かった(N1a 13%[6/47例]vs.N0/Nx 2%[11/457例])。一方、非アブレーション群ではこのような違いはなかった。疲労感、嗜眠、口渇が多かった 有害事象の頻度は両群で同程度であり、多くが一過性であった。最も頻度の高い有害事象は、疲労感(非アブレーション群25%[63/249例]vs.アブレーション群28%[65/231例])、嗜眠(14%[34例]vs.14%[32例])、口渇(10%[24例]vs.9%[21例])だった。治療関連死の報告はなかった。 著者は、「低リスクの分化型甲状腺がん患者では、甲状腺全摘後のアブレーションを安全に回避できることが示された」「これにより、アブレーション関連の有害事象や入院を回避でき、家族や友人、職場の同僚との密接な接触を避ける必要性がなくなるなどの有益な影響がもたらされ、医療費の削減につながると考えられる」としている。

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大手術前のRAS阻害薬の継続/中止、心血管リスク有無での判断は?

 昨年JAMA誌に掲載されたStop-or-Not試験では、非心臓大手術前のレニン-アンジオテンシン系阻害薬(RASI:ACE阻害薬またはARB)の継続と中止のアウトカムを比較し、全死因死亡と術後合併症の複合アウトカムに差は認められなかった。しかし、術前の心血管リスク層別化がこの介入に対する反応に影響を与えるかどうかは依然として不明である。そこで、米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のJustine Tang氏らはStop-or-Not試験の事後解析を行い、術前の心血管リスクが患者の転帰に影響を与えないことを明らかにした。JAMA Cardiology誌オンライン版2025年6月25日号に短報として掲載された。 本研究は、術前の心血管リスク層別化が非心臓大手術前のRASI管理戦略に影響を及ぼすかどうかを評価するため、Stop-or-Not試験(フランスの病院40施設において、2018年1月~2023年4月にRASIによる治療を3ヵ月以上受け、心臓以外の大手術を受ける予定の患者を対象に行われたランダム化比較試験)の事後解析を行った。主要評価項目は、全死因死亡と術後合併症の複合。副次評価項目は、主要心血管イベント(MACE)および急性腎障害であった。なお、心血管リスク層別化は、ランダム化前に改訂版心リスク指標(revised cardiac risk index:RCRI)、ベイルート・アメリカン大学(AUB)-HAS2心血管リスク指数、および収縮期血圧を用いて行った。 主な結果は以下のとおり。・2,222例(年齢中央値[IQR]:68歳[61~73]、女性:771[35%])のうち、1,107例がRASI継続群に、1,115例がRASI中止群に無作為に割り付けられた。・RCRIでは、592例が低リスク(0点)、1,095例が中低リスク(1点)、418例が中高リスク(2点)、117例が高リスク(3点以上)に分類された。・AUB-HAS2心血管リスク指数では、1,049例が低リスク(0点)、727例が中低リスク(1点)、333例が中高リスク(2点)、113例が高リスク(3点以上)に分類された。・計2,132例が術前収縮期血圧の四分位群に分けられた。・術後合併症およびMACEのリスクはRCRIスコアによって異なったが、RASIの継続と中止戦略は、術後合併症のリスク上昇とは関連していなかった。 研究者らは本結果を踏まえ、「非心臓大手術前のRASI継続/中止の決定は、患者の術前の心血管リスク評価によって左右されるべきではない」としている。

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カロリー制限食は抑うつ気分を高める?

 カロリー計算は単に気が滅入る作業であるだけでなく、実際にうつ病のリスクを高める可能性があるようだ。新たな研究で、カロリー制限食を実践している人では、特定の食事法を実践していない人と比べて抑うつ症状のスコアが高かったことが示された。トロント大学(カナダ)精神医学准教授のVenkat Bhat氏らによるこの研究の詳細は、「BMJ Nutrition Prevention & Health」に6月3日掲載された。 Bhat氏らは今回、2007年から2018年にかけての米国国民健康栄養調査(NHANES)に参加した2万8,525人の健康状態を追跡した。参加者は抑うつ症状を評価する質問票であるPatient Health Questionnaire-9(PHQ-9)に回答していたほか、実践している食事療法の有無についても調査が行われていた。 調査の結果、参加者の7.79%が抑うつ症状のあることを報告していた。参加者を食事パターンに基づき分類したところ、実践している特定の食事法はないと回答した参加者が全体の87.23%を占めていた。残る8.10%はカロリー制限食、2.90%が特定の栄養素の制限を伴う食事(以下、栄養制限食)、1.77%が健康問題の管理を目的とした食事を実践していた。 食事パターンと抑うつ症状の関係について分析した結果、カロリー制限食を実践している人では、特定の食事法を実践していない人と比べてPHQ-9スコアが0.29点高かった。特に、過体重の人では、カロリー制限食はPHQ-9スコアの0.46点の上昇、栄養制限食は同スコアの0.61点の上昇と関連していた。また、何らかの食事法を実践している男性では実践していない男性に比べて身体症状のスコアが高く、さらに、栄養制限食を実践している男性では、食事法を実践していない女性と比べて認知・情動症状スコアが0.40点高いことも示された。 Bhat氏らは、「カロリー制限食が抑うつ症状スコアの上昇と関連することを示した本研究結果は、これまでに報告されている対照研究の結果とは大きく異なっている」と述べている。そして、「このような(結果の)不一致は、先行研究の多くがランダム化比較試験であり、参加者が栄養バランスの取れた、綿密に計画された食事を遵守していたために生じた可能性がある」と付け加えている。 実生活では、カロリー制限食はしばしば栄養不足やストレスを引き起こし、それが抑うつ症状を悪化させることは少なくないとBhat氏らは指摘する。また、このような食事法を実践している人は、減量の失敗や体重のリバウンドを経験することで抑うつ状態に陥る可能性もあるという。さらに同氏らは、グルコースや脂肪酸は脳の健康に不可欠であるが、「炭水化物(グルコース)や脂肪(オメガ3脂肪酸)が少ない食事は理論上、脳の機能を低下させ、認知・感情症状を悪化させる可能性がある。特に、より多くの栄養を必要とする男性ではその傾向が強まるかもしれない」と述べている。 英国のNNEdPro食品・栄養・健康グローバル研究所のチーフサイエンティスト兼エグゼクティブ・ディレクターであるSumantra Ray氏は、この新たな研究によって、「食事パターンとメンタルヘルスの関連を示すエビデンスの蓄積がさらに進んだ。また、認知機能に有益と考えられているオメガ3脂肪酸やビタミンB12といった栄養素が少ない食事制限が抑うつ症状を誘発する可能性についての重要な示唆も得られた」とコメントしている。  ただしRay氏は、この研究で認められた抑うつ症状への影響は比較的小さかった点を指摘し、「今後、食事摂取を正確に把握し、偶然の影響や交絡因子の影響を最小限に抑えた、適切にデザインされたさらなる研究により、この重要な分野の理解を深める必要がある」とニュースリリースの中で述べている。

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睡眠中の脳にカフェインはどう作用するのか

 朝のコーヒーは活力をもたらしてくれるが、夜にコーヒーを飲んで眠りにくくなったことはないだろうか。新たな研究で、カフェインは睡眠中の脳の電気的信号の複雑性を増大させ、「臨界状態」に近付けることが示された。臨界状態とは秩序と無秩序の境目にある状態で、脳が外からの刺激に最も敏感に反応し、最も適応力が高く、情報処理の効率も最大になると考えられている。モントリオール大学(カナダ)のPhilipp Tholke氏らによるこの研究の詳細は、「Nature Communications Biology」に4月30日掲載された。 Tholke氏らは40人の健康な成人を対象に、脳波計(EEG)と人工知能(AI)を用いて、睡眠中の脳に対するカフェインの影響を分析した。試験参加者は、就寝前にカフェイン200mg(コーヒー1〜2杯に相当)を含んだカプセルまたはプラセボを摂取した。 その結果、カフェインは脳の電気的信号の複雑性を増大させ、それにより神経活動はより多様で柔軟になることが示された。また、カフェイン摂取により脳活動のパターンは臨界状態に近付き、脳の電気的リズムにも顕著な変化が見られた。具体的には、精神的な集中や覚醒状態に関係するベータ波は増大する一方で、回復に導く深い睡眠に関係するシータ波やアルファ波などのより遅い脳波は抑制されることが明らかになった。こうした変化は、特に、記憶の定着と認知機能の回復に重要なノンレム睡眠中に顕著であった。 さらに、こうしたカフェインの影響は、レム睡眠中の20〜27歳の若年層において、41~58歳の中年層よりも顕著に現れた。この違いは、眠気を引き起こす脳内の神経伝達物質であるアデノシン受容体の変化に起因する可能性があるという。共著者の1人であるカナディアン・スリープ・アンド・サーカディアン・ネットワーク会長のJulie Carrier氏は、カフェインはアデノシン受容体を阻害することで覚醒状態を保つが、若年層はこれらの受容体を多く持っているため、カフェインの刺激作用がより強く現れる可能性があると指摘している。同氏は、「アデノシン受容体は加齢に伴い自然に減少するため、それらを阻害して脳の複雑性を改善するカフェインの作用も弱まる。これが中年層でカフェインの影響が減弱する一因かもしれない」と話している。 Carrier氏は、就寝前のカフェイン摂取により就寝中に脳が臨界状態に近付くことが示された点について、「この状態は日中に集中力を高めるには有用だが、夜間の休息を妨げる可能性がある。脳はリラックスできないため、十分な回復は望めないだろう」と言う。一方、論文の上席著者であるモントリオール大学心理学教授および同大学認知・計算論的神経科学研究所所長のKarim Jerbi氏は、「本研究結果は、睡眠中であってもカフェインの影響下では脳がより活性化し、回復力が低下した状態にあることを示唆している。脳のリズミカルな活動の変化は、カフェインが脳の記憶の処理や夜間の回復効率に影響を与える可能性を説明するのに役立つかもしれない」と述べている。 研究グループは、カフェインが脳の健康に与える長期的な影響についてより深く理解し、年齢層ごとに個別化された推奨を導き出すために、さらなる研究が必要であるとしている。

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就学前までのBMIの変化で将来の肥満リスクを予測可能

 幼少期のBMIの変化の軌跡から、その後の肥満リスクを予測できるとする、米ワシントン州立大学のChang Liu氏らの研究結果が、「JAMA Network Open」に5月22日掲載された。1~6歳の間にBMIが低下しない場合、9歳時点で小児肥満となっている可能性が高く、米国の子どもの約1割がこれに該当するという。 この研究では、米国立衛生研究所(NIH)がサポートしている、小児の健康に関する大規模コホート研究(Environmental influences on Child Health Outcomes;ECHO)の1997年1月~2024年6月のデータが縦断的に解析された。この期間に体重と身長の測定が4回以上行われた1~9歳の子ども9,483人(男児51.9%)を対象として、BMIの変動パターンを検討。その結果、典型的なパターンとそうでない非典型的なパターンの2種類に、明確に分類可能であることが分かった。 典型的なBMI変動パターンは全体の約9割(89.4%)を占めていた。このパターンでのBMIは1~6歳にかけて直線的に低下し6歳時点で最も低値となり、その後は9歳になるまで直線的に上昇。9歳時点のBMIは平均17.33だった。一方、全体の約1割(10.6%)を占める非典型的な変動パターンでは、1~3.5歳までBMIが低下せず横ばいで推移し、3.5歳から9歳にかけては急な傾きで直線的に上昇。9歳時点でのBMIは平均26.2に達していた。このBMI平均値は、米国の9歳児のBMI分布の99パーセンタイルを超えている。 Liu氏は、「3歳半という早い段階でBMIの異常な変動パターンを特定できるという事実は、成長後の肥満を予防するために、幼少期がいかに重要であるかを示している」と述べている。研究者らによると、BMIの高い子どもは成人後に過体重や肥満であることが多く、結果として糖尿病や心臓病などの慢性疾患のリスクが高まる可能性があるという。 この研究では、BMIの変動が非典型的なパターンであることの関連因子の検討も行われた。その結果、女児(オッズ比〔OR〕1.22〔95%信頼区間1.05~1.42〕)、出生体重高値(OR1.40〔同1.21~1.63〕)、および、母親の妊娠前BMI高値(OR1.09〔1.07~1.12〕)、妊娠中の喫煙(OR1.76〔1.31~2.37〕)、妊娠中の体重増加の大きさ(OR1.26〔1.11~1.43〕)などとの有意な関連が認められた。 これらの結果に基づきLiu氏は、「われわれの研究は、妊婦に対し妊娠中の適切な体重増加をサポートすること、喫煙習慣のある妊婦に対しては禁煙を促すこと、および、急激な体重増加の兆候を示している子どもを注意深くモニタリングすることなどが、小児肥満を減らす上で重要な介入となり得ることを示唆している」と述べている。

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経口セマグルチドはASCVDかつ/またはCKDを合併した肥満2型糖尿病患者の心血管イベントを減らす(解説:原田和昌氏)

 GLP-1受容体作動薬の注射剤は、さまざまな異なる患者像において心血管系の有効性が確立しており、メタ解析でも同様の結果が得られている。しかし、経口セマグルチドはPIONEER 6試験にて2型糖尿病(T2DM)かつ心血管リスクの高い患者における安全性は確立されたが、主要有害心血管イベント(MACE)に対する有効性は示されなかった。米国のDarren K. McGuire氏らはSOUL試験により、アテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)かつ/または慢性腎臓病(CKD)を有する平均BMI 31のT2DM患者において、経口セマグルチドがプラセボと比較してMACEのリスクを有意に減少させることを示した。 SOUL試験は二重盲検無作為化プラセボ対照第IIIb相試験であり、50歳以上のT2DM(HbA1c値6.5~10.0%)、ASCVDかつ/またはCKD(eGFR<60mL/分/1.73m2)を有する9,650例(平均年齢66.1±7.6歳、女性28.9%)を対象とした。標準治療に加えてセマグルチド(1日1回)を経口投与する群(4,825例)、またはプラセボ群(4,825例)に無作為に割り付けた。平均追跡期間は47.5±10.9ヵ月で、9,495例(98.4%)が試験を完了した。全体の70.7%に冠動脈疾患、23.1%に心不全、21.2%に脳血管疾患、15.7%に末梢動脈疾患の既往歴があり、42.4%にCKDを認めた。また、26.9%がSGLT2阻害薬の投与を受けていた。主要アウトカムは、プラセボ群で13.8%、経口セマグルチド群では12.0%に発生し(ハザード比[HR]:0.86、95%信頼区間[CI]:0.77~0.96、p=0.006)、セマグルチド群の優越性が示された。 個々の項目のイベント発生率のHRは、心血管死が0.93(95%CI:0.80~1.09)、非致死的心筋梗塞が0.74(0.61~0.89)、非致死的脳卒中が0.88(0.70~1.11)であった。検証的副次アウトカムのHRは、主要腎障害イベントが0.91(95%CI:0.80~1.05、p=0.19)、主要有害下肢イベントが0.71(0.52~0.96)であった。重篤な有害事象はセマグルチド群で47.9%、プラセボ群で50.3%に発現し(p=0.02)、消化器系の障害は5.0%および4.4%にみられた。試験薬の恒久的な投与中止に至った有害事象は、15.5%および11.6%であった。 GLP-1受容体作動薬は経口投与と皮下注射で血中濃度が異なるためか、主に皮下注製剤でMACEに対する有効性が証明されてきた。本試験によりASCVDかつ/またはCKD合併の肥満T2DMというハイリスク患者では、経口のセマグルチドがMACEを14%有意に抑制することが証明された。実臨床では経口投与を好む患者も多いため重要な試験であると考えられる。また、副次アウトカムで主要有害下肢イベントが抑制されたのはセマグルチド皮下注のSTRIDE試験と同様であるが、GLP-1受容体作動薬の別のメタ解析1)(ほとんどが皮下注製剤)ではマクロアルブミン尿の新規発症に限らない、主要複合腎臓アウトカムの有意な低下が示されていることから、患者像やアウトカムによってGLP-1受容体作動薬の製剤を使い分ける必要があるのかもしれない。

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わが国初の肥大型心筋症治療薬「カムザイオスカプセル1mg/2.5mg/5mg」【最新!DI情報】第42回

わが国初の肥大型心筋症治療薬「カムザイオスカプセル1mg/2.5mg/5mg」今回は、選択的心筋ミオシン阻害薬「マバカムテン(商品名:カムザイオスカプセル1mg/2.5mg/5mg、製造販売元:ブリストル・マイヤーズ スクイブ)」を紹介します。本剤は、肥大型心筋症における左室での心筋の過収縮を抑制し、閉塞性肥大型心筋症患者における拡張機能障害や左室流出路狭窄を改善することが期待されています。<効能・効果>閉塞性肥大型心筋症の適応で、2025年3月27日に製造販売承認を取得し、5月21日より発売されています。<用法・用量>通常、成人にはマバカムテンとして2.5mgを1日1回経口投与から開始し、患者の状態に応じて適宜増減します。ただし、最大投与量は1回15mgとします。<安全性>重大な副作用として、収縮機能障害により心不全を起こすことがあります(頻度不明)。ヒト脳性ナトリウム利尿ペプチド前駆体N端フラグメント(NT-proBNP)の上昇がみられた場合や、呼吸困難、胸痛、疲労、動悸、下肢浮腫などが発現または増悪した場合は、速やかに心機能の評価を行います。その他の副作用として、浮動性めまい、頭痛、疲労、末梢性浮腫、心房細動、動悸、労作性呼吸困難、呼吸困難、筋力低下、駆出率減少(いずれも1~3%未満)があります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、閉塞性肥大型心筋症の治療薬です。心臓の過剰な収縮を抑え、血液の送り出しにくさを緩和します。2.1日1回、水やぬるま湯で服用してください。3.この薬には併用してはいけない薬や併用を注意すべき薬や食品もありますので、他の薬を使用している場合や、新たに使用する場合は、必ず医師または薬剤師に相談してください。4.妊娠する可能性がある人は、この薬の投与中および最終投与後4ヵ月間は適切に避妊してください。<ここがポイント!>肥大型心筋症(HCM)は、高血圧や弁膜症などの基礎疾患がないにもかかわらず、心室の肥大を引き起こす原発性の心疾患です。HCMは、左室拡張機能が低下しており、閉塞性HCMでは左室流出路(LVOT)が閉塞しています。主な原因は、心筋収縮関連タンパクの遺伝子異常とされていますが、未解明の点も少なくありません。初期には無症状または軽微な症状を示すことが多いですが、不整脈に伴う動悸やめまい、運動時の呼吸困難などが現れることがあります。心筋の収縮は、ミオシンヘッドがアクチンと結合し、クロスブリッジ(架橋)を形成することで起こり、アデノシン三リン酸(ATP)を消費します。HCMは、過剰な数のミオシンがクロスブリッジを形成する(動員される)ことにより心筋の過収縮が生じると考えられています。本剤は、心筋ミオシンに対する選択的かつ可逆的なアロステリック阻害薬です。ミオシンとアクチンのクロスブリッジ形成を抑制することで、HCMにおける左室での心筋の過収縮を抑制し、閉塞性肥大型心筋症患者における拡張機能障害やLVOT狭窄を改善します。なお、本剤は2023年6月にHCMに対する希少疾病用医薬品に指定されています。閉塞性肥大型心筋症患者を対象とした海外第III相試験(MYK-461-005)において、投与30週後の臨床的奏効(「最高酸素摂取量[pVO2]の1.5mL/kg/min以上の増加、かつNYHA心機能分類のI度以上の改善」または「pVO2の3.0mL/kg/min以上の増加、かつNYHA心機能分類の悪化なし」のいずれかを満たす)割合は、マバカムテン群で36.6%、プラセボ群で17.2%でした。プラセボとの差は19.4%(95%信頼区間:8.67~30.13)であり、群間に有意な差が認められたことから、マバカムテン群のプラセボ群に対する優越性が検証されました。同じく閉塞性肥大型心筋症患者を対象とした国内第III相試験(CV027004)において、ベースラインから30週後までの運動負荷後LVOT圧較差の変化量の平均値は-60.7(平均差:31.56)mmHgであり、運動負荷後LVOT圧較差はベースラインに比べて改善しました。

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PAD疑い例の検査・診断【日常診療アップグレード】第33回

PAD疑い例の検査・診断問題72歳男性。1年前から20分間の歩行で左ふくらはぎが痛くなる。座位になり5分くらい休息すると軽快する。既往歴は高血圧、脂質異常症、2型糖尿病である。リシノプリル、メトホルミン、アトルバスタチンを内服している。バイタルサインに異常はなく、左膝窩動脈と左足背動脈は脈拍が触れにくい。下肢のCTアンギオグラフィーをオーダーした。

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第273回 GLP-1薬に片頭痛予防効果があるかもしれない

GLP-1薬に片頭痛予防効果があるかもしれない肥満治療で売れているGLP-1受容体活作動薬(GLP-1薬)が治療しうる疾患一揃いは終わりがないかのように増え続けています1)。最近発表された小規模試験の結果によると、その果てしない用途候補の一覧に次に加わるのは片頭痛かもしれません。試験はイタリアのフェデリコ2世ナポリ大学(ナポリ大学)で実施され、GLP-1薬の1つであるリラグルチドが肥満患者の1ヵ月当たりの片頭痛の日数を半分近く減らしました。その結果は先月6月17日にまずHeadache誌オンラインに掲載され2)、その数日後の21日に欧州神経学会(EAN)年次総会でも発表されました。ノボ ノルディスク ファーマのリラグルチドは、2型糖尿病(T2D)や肥満治療(本邦では適応外)に使われます。同社は肥満治療としてはウゴービ、T2D治療としてはオゼンピックという商品名で売られている別のGLP-1薬セマグルチドも作っています。リラグルチドやセマグルチドは属する薬剤群の名が示すとおり、GLP-1というホルモンの働きを真似ます。GLP-1は血糖調節や食欲抑制に携わることがよく知られていますが、他にも種々の働きを担うようです。それらの多岐にわたる機能を反映してかGLP-1薬も多才で、目下の主な用途である体重管理やT2D治療に加えて、他のさまざまな病気や不調を治療しうることが示されるようになっています。たとえば今年1月にNature Medicine誌に掲載されたT2D患者200万例超の解析3)では、心不全、心停止、呼吸不全や肺炎、血栓塞栓症、アルツハイマー病やその他の認知症、アルコールや大麻などの物質乱用、統合失調症などの42種類もの不調が生じ難いこととGLP-1使用が関連しました4,5)。ナポリ大学の神経学者Simone Braca氏らがリラグルチドの片頭痛への効果を調べようと思い立ったのは、片頭痛の発生にどうやら頭蓋内圧上昇(ICP)が寄与し、ICPを下げうるGLP-1薬の作用がラットでの検討6)で示されたことなどを背景としています。その効果はヒトでもあるらしく、2023年に結果が報告されたプラセボ対照無作為化試験では、GLP-1薬の先駆けのエキセナチドが特発性頭蓋内圧亢進症(IIH)患者のICPを有意に下げ、頭痛を大幅に減らしています7)。ナポリ大学のBraca氏らの試験では片頭痛と肥満の併発患者が2024年1~7月に連続的に31例組み入れられ、リラグルチドが1日1回皮下注射されました。それら31例は片頭痛予防治療を先立って2回以上受けたものの効き目はなく、片頭痛の日数は1ヵ月当たり平均して約20日(19.8日)を数えていました。先立つ治療とは対照的に12週間のリラグルチド投与の効果は目覚ましく、1ヵ月当たりの片頭痛日数はもとに比べて半分ほどの約11日(10.7日)で済むようになりました。試験でのリラグルチドの用量(最初の一週間は0.6mg/日、その後は1.2mg/日)は欧州での肥満治療用途の維持用量(3.0mg/日)8)より少なく、体重の有意な変化は認められず、BMIが34.0から33.9へとわずかに減ったのみでした。回帰分析したところBMI変化と片頭痛頻度の変化は無関係でした。対照群がない試験ゆえ片頭痛頻度低下のどれほどがプラセボ効果に起因するのかが不明であり、無作為化試験での検証が必要です。頼もしいことに、頭蓋内圧の測定を含む二重盲検無作為化試験が早くも計画されています9)。リラグルチド以外のGLP-1薬に片頭痛予防効果があるかも検討したい、とBraca氏は言っています。 参考 1) Obesity drugs show promise for treating a new ailment: migraine / Nature 2) Braca S, et al. Headache. 2025 Jun 17. [Epub ahead of print] 3) Xie Y, et al. Nat Med. 2025;31:951-962. 4) Quantifying Benefits and Risks of GLP-1-Receptor Agonists for Patients with Diabetes / NEJM Journal Watch 5) GLP-1 Agents' Risks and Benefits Broader Than Previously Thought / MedPage Today 6) Botfield HF, et al. Sci Transl Med. 2017;9:eaan0972. 7) Mitchell JL, et al. Brain. 2023;146:1821-1830. 8) Saxenda : Product Information / EMA 9) From blood sugar to brain relief: GLP-1 therapy slashes migraine frequency / Eurekalert

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不適切な医療行為は一部の医師に集中~日本のプライマリケア

 日本のプライマリケアにおける「Low-Value Care(LVC:医療的価値の低い診療行為)」の実態を明らかにした大規模研究が、JAMA Health Forum誌2025年6月7日号に掲載された。筑波大学の宮脇 敦士氏らによる本研究によると、抗菌薬や骨粗鬆症への骨密度検査などのLVCを約10人に1人の患者が年1回以上受けており、その提供は一部の医師に集中していたという。 LVCとは、特定の臨床状況において、科学的根拠が乏しく、患者にとって有益性がほとんどない、あるいは害を及ぼす可能性のある医療行為を指す。過剰診断・過剰治療につながりやすく、医療資源の浪費や有害事象のリスク増加の原因にもなる。本研究で分析されたLVCは既存のガイドラインや先行研究を基に定義され、以下をはじめ10種類が含まれた。 ●急性上気道炎に対する去痰薬、抗菌薬、コデインの処方 ●腰痛に対するプレガバリン処方 ●腰痛に対する注射 ●糖尿病性神経障害に対するビタミンB12薬 ●骨粗鬆症への短期間の骨密度再検査 ●慢性腎疾患などの適応がない患者へのビタミンD検査 ●消化不良や便秘に対する内視鏡検査 研究者らは全国の診療所から収集された電子カルテのレセプト連結データ(日本臨床実態調査:JAMDAS)を用い、成人患者約254万例を対象に、LVCの提供頻度と医師の特性との関連を解析した。 主な結果は以下のとおり。・1,019例のプライマリケア医(平均年齢56.4歳、男性90.4%)により、254万2,630例の患者(平均年齢51.6歳、女性58.2%)に対する43万6,317件のLVCが特定された。・約11%の患者が年間1回以上LVCを受けていた。LVCの提供頻度は患者100人当たり17.2件/年で、とくに去痰薬(6.9件)、抗菌薬(5.0件)、腰痛に対する注射(2.0件)が多かった。・LVCの提供は偏在的であり、上位10%の医師が全体の45.2%を提供しており、上位30%で78.6%を占めた。・年齢や専門医資格、診療件数、地域によってLVC提供率に差が見られた。患者背景などを統計的に調整した上で、以下の医師群はLVCの提供が有意に多かった。 ●年齢60歳以上:LVC提供率が若手医師(40歳未満)に比べ+2.1件/100人当たり ●専門医資格なし:総合内科専門医に比べ+0.8件/100人当たり ●診療件数多:1日当たりの診療数が多い医師は、少ない医師に比べ+2.3件/100人当たり ●西日本の診療所勤務:東日本と比較して+1.0件/100人当たり・医師の性別による有意差はなかった。 著者らは、「本分析の結果は、日本においてLVCが一般的であり、少数のプライマリケア医師に集中していることを示唆している。とくに、高齢の医師や専門医資格を持たない医師がLVCを提供しやすい傾向が認められた。LVCを大量に提供する特定のタイプの医師を標的とした政策介入は、すべての医師を対象とした一律の介入よりも効果的かつ効率的である可能性がある」としている。

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TN乳がん術前ペムブロリズマブ併用化学療法、ddAC vs.AC

 高リスクの早期トリプルネガティブ乳がん(TNBC)に対し、ペムブロリズマブ+化学療法による術前補助療法およびペムブロリズマブ単独による術後補助療法は、病理学的完全奏効(pCR)および無イベント生存期間(EFS)を有意に改善することがKEYNOTE-522試験で示された。しかし、同試験では術前化学療法のレジメンとしてdose-denseAC(ddAC)療法は使用されていなかった。カルボプラチン+パクリタキセルとペムブロリズマブにddAC療法を併用した術前補助療法の有効性と安全性を評価する目的で、ブラジル・Hospital do Cancer de LondrinaのVitor Teixeira Liutti氏らはメタ解析を実施。結果をBreast Cancer Research and Treatment誌オンライン版2025年6月13日号で報告した。 本解析では、AC療法(3週ごと)との比較の有無にかかわらず、TNBCを対象にカルボプラチン+パクリタキセルおよびペムブロリズマブとddAC併用術前補助療法を評価した研究を、システマティックレビューにより特定した。両レジメンを比較した研究にはランダム効果モデル、ddAC療法のエンドポイントの評価には単群比例メタアナリシスの手法を用いて、統計解析が実施された。 主な結果は以下のとおり。・535例(ddAC群329例、AC群206例)を対象とした4件の観察研究が、本解析の包含基準を満たした。うち3件は両レジメンの比較を行い、1件はddAC併用療法のみの評価であった。・病理学的完全奏効(pCR)率に有意差は認められなかった(ddAC群66.1%vs.AC群61.6%、リスク比[RR]:1.10、95%信頼区間[CI]:0.94~1.28、p=0.25)。・一方、Grade3以上の有害事象の発現率は、ddAC群で有意に高かった(43.7%vs.29.7%、RR:1.65、95%CI:1.15~2.37、p=0.007)。・用量調整や治療遅延の発生率には、両レジメン間で有意差は認められなかった。・ddAC併用療法を評価した研究の統合解析では、全体的なpCR率は63%で、治療遅延の発生率は40%であった。今回対象となった研究でddAC併用療法を受けた患者の生存データは報告されていない。 著者らは、「ddAC療法を含む術前のペムブロリズマブ併用化学療法は、KEYNOTE-522試験で報告されたpCR率と同等の結果を示した。AC療法との比較において、pCR率に有意差は認められなかったものの、ddAC療法では有害事象の発現率が高いことが明らかとなった」とまとめている。

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非定型うつ病に対する薬理学的治療の比較〜ネットワークメタ解析

 非定型うつ病は、気分反応性、過眠、鉛様の麻痺を含む非常に一般的なサブタイプであり、メランコリックうつ病との異なる治療アプローチが求められる。イタリア・University School of Medicine of Naples Federico IIのMichele Fornaro氏らは、これまで実施されていなかった非定型うつ病に対する薬理学的治療についてのネットワークメタ解析を実施した。European Neuropsychopharmacolojy誌2025年7月号の報告。 PubMed/Central、ClinicalTrials.gov、Embase、Psycinfo、Scopus、WebofScienceより、PRISMAに準拠したシステマティックレビューおよびネットワークメタ解析を実施した。共通主要アウトカムは、抑うつ症状の変化(標準化平均差:SMD)、治療反応、すべての原因による治療中止(許容性:リスク比[RR])。忍容性は副次的アウトカムとした。バイアスリスクおよびglobal/local inconsistenciesを測定し、エビデンスに対する信頼性評価によりネットワークメタ解析(CINeMA)を行った。 主な結果は以下のとおり。・抽出された2,214件のうち、適格なRCT21件を含め、20件をネットワークメタ解析に含めた。・有効性については(16件、903例、12種の治療)、phenelzineのみがプラセボよりも有効であった(SMD:−1.13、95%信頼区間[CI]:−2.14〜−0.49)。・phenelzine、moclobemide、isocarboxazid、イミプラミン、セレギリン、セルトラリン、fluoxetineは、ノルトリプチリンよりも優れていた(SMD:−4.54[95%CI:−8.02〜−1.07]〜−3.08[95%CI:−5.42〜−0.75])。・治療反応については(13件、1,442例、7種の治療)、phenelzine(RR:2.58、95%CI:2.02〜3.31)、セルトラリン(RR:2.25、95%CI:1.01〜4.99)、moclobemide(RR:2.16、95%CI:1.12〜4.19)、fluoxetine(RR:1.89、95%CI:1.30〜2.76)、イミプラミン(RR:1.76、95%CI:1.35〜2.28)は、プラセボよりも優れ、phenelzine(RR:1.56、95%CI:1.25〜1.96)はイミプラミンよりも優れていた。・許容性については、プラセボと比較し、有意な治療の差は認められなかった。・分析力の喪失による可能性が高く、CINeMA全体の評価が低い/非常に低いため、高リスクバイアスおよびITTの試験を除外した場合には、感度分析の結果に対し、プラセボよりも優れる介入はないと考えられる。 著者らは「非定型うつ病に対してphenelzineは、他の薬剤よりも優れている可能性がある。また、いくつかの薬剤はプラセボよりも有効であり、ノルトリプチリンは他の薬剤よりも悪化のリスクが高かった。これらの結果を明らかにするためにも、より高品質の研究が求められる」と結論付けている。

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希釈式自己血輸血、心臓手術時の同種血輸血を減じるか/NEJM

 心臓手術を受ける患者は赤血球輸血を要することが多く、これには多額の費用や、供給量が不足した場合の手術の延期、輸血関連合併症のリスクが伴うため、輸血の必要性を減じるアプローチの確立が求められている。イタリア・IRCCS San Raffaele Scientific InstituteのFabrizio Monaco氏らANH Study Groupは「ANH試験」において、通常ケアと比較して希釈式自己血輸血(acute normovolemic hemodilution:ANH)は、人工心肺装置を使用した心臓手術時に同種赤血球輸血を受ける患者の数を減らさず、出血性合併症も抑制しないことを示した。研究の詳細は、NEJM誌オンライン版2025年6月12日号に掲載された。11ヵ国の無作為化第III相試験 ANH試験は、ANHの使用が同種赤血球輸血の必要性を減少させるとの仮説の検証を目的とする実践的な単盲検無作為化第III相試験であり、2019年4月~2024年12月に北米、南米、欧州、アジアの11ヵ国32施設で参加者を登録した(イタリア保健省の助成を受けた)。 人工心肺装置を使用した待機的心臓手術が予定されている成人患者を対象とした。麻酔導入とヘマトクリット値の測定を行った後、被験者をANH(650mL以上の全血を採取、必要に応じて晶質液を投与)を受ける群、または通常ケア(各施設の標準的処置、ANHは行わない)を受ける群に無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、無作為化から退院までに行われた1単位以上の同種赤血球の輸血とした。合併症の発生は同程度 2,010例を登録し、ANH群に1,010例(年齢中央値59歳[四分位範囲[IQR]:52~66]、女性21.7%)、通常ケア群に1,000例(61歳[53~68]、18.6%)を割り付けた。67例で試験治療のクロスオーバーが発生した(ANH群から通常ケア群へ35例、通常ケア群からANH群へ32例)。ANH群の採血量中央値は650mL(IQR:650~700)で、データを入手できた1,006例のうち45例(4.5%)で採血量が650mL未満であった。ANHの処置に伴う有害事象は発現せず、2例(血液バッグの破損1例、バッグ内での血液凝固1例)を除き採取された全血が再輸血された。 データを入手できた集団における入院中に1単位以上の同種赤血球の輸血を受けた患者の割合は、ANH群が27.3%(274/1,005例)、通常ケア群は29.2%(291/997例)であり、両群間に有意な差を認めなかった(相対リスク:0.93[95%信頼区間[CI]:0.81~1.07]、p=0.34)。 副次アウトカムである術後30日以内または手術入院中の全死因死亡の割合は、ANH群で1.4%(14/1,008例)、通常ケア群で1.6%(16/997例)であった(相対リスク:0.87[95%CI:0.42~1.76])。術後の出血に対する外科的処置はそれぞれ3.8%(38/1,004例)および2.6%(26/995例)で行われ(1.45[0.89~2.37])、術後12時間の時点での胸腔ドレナージによる総出血量中央値は290mLおよび300mL(群間差:-11.66mL[95%CI:-35.54~12.22])と、出血性合併症に対するANHの効果は確認できなかった。 また、急性腎障害はANH群で8.5%(85/1,005例)、通常ケア群で8.9%(89/996例)に発生し(相対リスク:0.95[95%CI:0.71~1.26])、虚血性合併症(心筋梗塞、脳卒中/一過性脳虚血発作[またはこれら両方]、血栓塞栓イベント)の発生率も両群で同程度であった。安全性アウトカムにも差はない 安全性アウトカムについても両群間に差を認めず、主な評価項目の結果は以下のとおりであった。48時間を超える昇圧薬または強心薬の投与(ANH群15.1%vs.通常ケア群 14.6%、p=0.73)、心原性ショック(3.7%vs.3.2%、p=0.57)、機械的循環補助(2.7%vs.2.3%、p=0.59)、ICU入室中の最低ヘマトクリット値中央値(32%vs.32%、p=0.60)、腎代替療法を要する急性腎障害(1.5%vs.1.4%、p=0.87)、ICU入室時間中央値(38時間vs.40時間、p=0.82)、無作為化から30日以内の再入院(6.1%vs.5.9%、p=0.90)。 著者は、「ANHは有害事象のリスクを増加させなかったものの、同種赤血球輸血を受ける患者の数を減らす効果はなく、自己血輸血の方法としては推奨できない」「他の心臓手術の研究に比べ女性の割合が低かったのは、ベースラインのヘモグロビン値が低いことに関連した安全上の懸念が原因の可能性がある」としている。

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脳全体のアミロイドβとタウタンパク質の蓄積量は性別によって異なる

 女性や父親にアルツハイマー病(AD)歴がある人の方が、脳全体のアミロイドβ(Aβ)とタウタンパク質の蓄積量の間に強い関連が認められるという研究結果が、「Neurology」5月13日号に掲載された。 マギル大学(カナダ)のValentin Ourry氏らは、患者自身の性別やADを発症した親の性別がAβとタウタンパク質の蓄積に影響を与えるかどうかを検討するため、カナダで実施されたPresymptomatic Evaluation of Experimental or Novel Treatments for ADコホート研究から対象者243人のデータを分析した。 ベースライン時、すべての対象者の認知機能は正常であった。242人の対象者から長期的な認知機能データが得られた(追跡期間6.72±2.38年)。対象者のうち71人が軽度認知機能障害を発症した。解析の結果、女性の方がタウタンパク質の蓄積量が多く(標準化β=0.13±0.3)、脳全体のAβ蓄積量とタウタンパク質蓄積量の関連は男性より女性の方が強かった(同0.79±0.1)。脳全体のAβ蓄積量とタウタンパク質蓄積量の関連は、父親がADを発症している対象者の方が、母親がADを発症している対象者よりも強かった(同0.65±0.1)。女性において、Aβと関連のある海馬の萎縮は経時的に減少した(同0.24±0.1)。 著者らは、「女性の方が、そして驚いたことに、父親がADを発症している人の方が、Aβと関連のあるタウタンパク質が側頭葉内側部の外に広がりやすいと考えられる。このように女性ではタウ病変が形成されやすいにもかかわらず、Aβと海馬の萎縮の関連が低下した。これは何らかの脳のレジリエンスが働いているか、または女性で起こる萎縮の促進要因としてAβがそれほど重要ではないことを示唆している可能性がある」と述べている。

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電子タトゥーが脳への負担を測定

 何らかの問題について長時間にわたり考え過ぎて、顔が熱くなって頭が疲れ果て、目がかすんでしまったことはないだろうか。新たな研究で、一時的に肌に貼り付けるワイヤレスの電子タトゥーにより、このようなメンタルワークロード(精神的作業により生じる負荷)を測定できる可能性が示された。米テキサス大学オースティン校工学分野教授のLuis Sentis氏らによるこの研究の詳細は、「Device」に5月29日掲載された。 メンタルワークロードは人間の認知パフォーマンスや意思決定に大きな影響を与えることから、研究グループは、この電子タトゥーが航空管制官やトラック運転手など、常に集中力を必要とする職業に従事している人々の安全性を向上させるのに役立つ可能性があるとの見方を示している。 研究グループによると、人間はメンタルワークロードが高過ぎて圧倒されている状態でも、あるいは低すぎて退屈している状態でもないときに最高のパフォーマンスを発揮する。論文の上席著者であるテキサス大学オースティン校のNanshu Lu氏は、「最適なパフォーマンスを得るには最適なメンタルワークロードが必要だが、その程度は人によって異なる」と指摘する。 Sentis氏らが開発したワイヤレス電子タトゥーは、軽量のバッテリーパックと、波状のループとコイル構造を持つ紙のように薄いセンサーで構成されている。センサーは伸縮性があり着用者の肌にぴったりとフィットするため、計測された脳波(EEG)および眼電図(EOG)の信号を、より明瞭に、かつ安定してとらえることができる。 この電子タトゥーは、脳波キャップとほぼ同じ方法で脳の電気信号を分析するが、精度はそれよりも優れているという。Lu氏は、「驚くべきことに、脳波キャップは脳のさまざまな領域に対応するセンサーを多数搭載しているものの、頭の形は人それぞれ異なるため、完璧な信号を取得することはできない。これに対し、われわれは使用者の顔の特徴を測定して、センサーが常に正しい位置に配置され確実に信号を受信できるよう、個別にカスタマイズされた電子タトゥーを製造している」と話している。 Sentis氏らは、6人の被験者を対象にこの電子タトゥーの性能をテストした。被験者はタトゥーを貼り付けた状態で、難易度が増していく記憶力の課題を受けた。その結果、このタトゥーにより、認知的要求を示すシータ波およびデルタ波の増加と精神的疲労を示すアルファ波およびベータ波の減少を捉えられることが確認された。同氏らは、これらの脳波の測定値を組み合わせることで、脳が過度な負荷を受けているかどうかを判断できると述べている。 さらに研究グループは、電子タトゥーから取得した信号に基づいて人のメンタルワークロードを予測する人工知能(AI)プログラムのトレーニングも行った。その結果、AIはメンタルワークロードのレベルを区別し、人の脳が負荷に耐えきれなくなるタイミングを予測できることが示された。 この電子タトゥーは低価格設計で、チップとバッテリーパックは約200ドル(1ドル143円換算で2万8,600円)、使い捨てセンサーは1個当たり約20ドル(2,860円)である。研究グループは、従来の脳波測定装置が1万5000ドル(214万5,000円)であることを考えると、電子タトゥーは非常に安価だとしている。 現在、この電子タトゥーは無毛の皮膚でしか使用できないが、Sentis氏らは有毛の頭皮にも対応可能なインクベースのセンサーと組み合わせる研究を進めている。同氏らは、成功すれば、頭部全体をカバーする、より包括的な脳のモニタリングが可能になると話している。

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糖尿病と高血圧の併発が命を脅かす

 米国では2型糖尿病と高血圧を併発している患者が過去20年間で倍増し、そのような患者は全死亡リスクが約2.5倍、心血管死のリスクは約3倍に上ることが明らかになった。これは米コロンビア大学メイルマン公衆衛生大学院のNour Makarem氏らの研究の結果であり、詳細は「Diabetes Care」に5月21日掲載された。 この研究には、1999~2018年の米国国民健康栄養調査(NHANES)に参加した4万8,727人の成人のデータが用いられた。参加者全体を、2型糖尿病も高血圧もない群(50.5%)、2型糖尿病のみの群(2.4%)、高血圧のみの群(38.4%)、両方に罹患している群(8.7%)という4群に分類して、全死亡(あらゆる原因による死亡)と心血管死のリスクを比較した。なお、2型糖尿病と高血圧を併発している患者の割合は、前記の期間中に6%から12%へと倍増していた。 中央値9.2年の追跡期間中に7,734人の死亡が記録されていた。2型糖尿病のみの群の死亡率は20%、高血圧のみの群では22%であるのに対して、両疾患併発群では約3分の1が死亡していた。一方、どちらの疾患もない群での死亡率はわずか6%だった。死亡リスクに影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、人種/民族、飲酒・喫煙状況、教育歴、婚姻状況、世帯収入、がん・うつ病の既往など)を統計学的に調整後、以下のようなリスク差の存在が浮かび上がった。 2型糖尿病も高血圧もない群を基準とすると、両疾患併発患者群は全死亡リスクが約2.5倍であり(ハザード比〔HR〕2.46〔95%信頼区間2.45~2.47〕)、心血管死リスクは約3倍(HR2.97〔同2.94~3.00〕)と有意に高かった。性別に解析すると、女性の方が男性よりも両疾患の併発と死亡リスクとの関連が強く認められた(交互作用P<0.01)。 また、糖尿病とは診断されない程度の高血糖状態(前糖尿病)や、高血圧とは診断されない程度の血圧上昇(血圧高値)の死亡リスクに対する影響も明らかにされた。例えば、前糖尿病と血圧高値の双方に該当する群の全死亡リスクは、両方とも該当しない群に比べて10%有意に高かった(HR1.10〔1.09~1.11〕)。さらに、血圧高値のみ、または前糖尿病のみが該当する群を基準とする比較でも、両者該当群は有意なリスク上昇が認められた。 これらの結果についてMakarem氏は、「注目すべき点の一つは、解析対象期間中に、糖尿病と高血圧を併発している患者がほぼ倍増したことが挙げられる。また、糖尿病や高血圧の診断基準に至らない程度の血糖値や血圧の上昇であっても、死亡リスクを押し上げることが明らかになった」と総括。その上で、「血糖値と血圧がともに高い人が増加傾向にあるという状況を変化させるため、両者の併存を効果的に予防・管理し得る公衆衛生戦略の立案が、喫緊の課題であることが強調される」と述べている。

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妊娠中のカルシウム摂取量が子供のうつ症状に関連か

 栄養バランスの偏りや特定の栄養素の不足は、うつ症状の発症リスクを高める可能性があるとされている。今回、妊娠中の母親のカルシウム摂取量が、子供のうつ症状の発症リスクと関連しているとする研究結果が報告された。妊娠中の母親のカルシウム摂取量が多いほど、生まれた子の13歳時うつ症状に予防的であることを示したという。愛媛大学大学院医学系研究科疫学・公衆衛生学講座の三宅吉博氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of Psychiatric Research」に5月6日掲載された。 2017年に実施された5つの研究を含むメタ解析では、カルシウム摂取量とうつ病のリスクとの間には有意な負の関連が認められている。さらに、国内の九州・沖縄母子研究(KOMCHS)のデータから、カルシウム摂取量と妊娠中のうつ症状の有病率との間に負の関連があることが示された。しかし、妊娠中の母親のカルシウム摂取量と生まれた子のうつ症状との関連を検討した研究は存在しない。また、思春期は精神衛生上きわめて重要な時期であり、この時期に発症するうつ症状の修正可能なリスク因子を特定することで、若年層の精神疾患の増加を抑えられる可能性がある。このような背景から筆者らは、KOMCHSのデータを活用し、妊娠中の母親のカルシウム摂取量と13歳時うつ症状のリスクとの関連を前向きに検討した。 KOMCHSは母子の健康問題に関するリスク要因と予防要因を特定することを目的とした前向きの出生前コホート研究である。KOMCHSでは、2007年4月から2008年3月にかけて、九州7県および沖縄県に在住していた妊婦1,757名がベースライン調査に参加した。ベースライン後の追跡調査は、出産時、産後4ヵ月時、1、2、3、4、5、6、7、8、10、11、12、13歳の時点で実施した。本研究では13歳時追跡調査に参加した873組の母子を対象とした。13歳時追跡調査では、子供がCenter for Epidemiologic Studies Depression Scale(CES-D)の日本語版に回答し、うつ症状の評価を行った。CES-Dスコアのカットオフ値は16点とした。また、母親の妊娠中の食習慣に関するデータは、自記式食事歴法質問票(DHQ)を用いて収集した。 873組において、子供の13歳時うつ症状の有症率は23.3%であった。ベースライン調査時の平均妊娠週は17.0週目、母親の平均年齢は32.0歳であり、約18%が妊娠中にうつ症状を呈していた。1日のカルシウム摂取量の中央値は482.5mgであった。 次に、ベースライン時の母親の年齢、妊娠週、両親の教育歴などで補正した多重ロジスティック回帰分析により、妊娠中の母親のカルシウム摂取量別にみた、13歳時の子供のうつ症状に対するオッズ比(OR)を算出した。その結果、妊娠中の母親のカルシウム摂取量の第1分位(最低摂取量)を基準として比較した場合、第2、第3、第4分位における子供のうつ症状の補正OR(95%信頼区間)は0.63(0.39~0.99)、0.91(0.58~1.41)、0.58(0.36~0.93)であった(P=0.10〔傾向性P値〕)。 本研究の結果について筆者らは、「本研究では、妊娠中の母親のカルシウム摂取量を増やすことで、13歳時の子供がうつ症状を発症するリスクが低下する可能性が示唆された。この知見は、小児期のうつ症状を予防する手段として、妊娠中の母親のカルシウム摂取量の増加がもたらす潜在的なメリットを明らかにしている」と述べている。

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第249回 医療事故調査制度10年 問われる「報告文化」と診療所の安全対策/厚労省

<先週の動き> 1.医療事故調査制度10年 問われる「報告文化」と診療所の安全対策/厚労省 2.百日咳が過去最多ペースで拡大、マクロライド耐性株による死亡例も/小児科学会 3.救急車の選定療養費、半年で徴収率4%も軽症搬送は1割減/茨城 4.高度がん医療機関の「集約化」へ、医師確保と症例偏在が課題に/厚労省 5.看護師養成数が減少、地域医療に深刻な影響、人材確保へ政策転換が急務/看護協会 6.美容医療バブルに陰り 利益率2.6%・淘汰の時代へ/東京商工リサーチ 1.医療事故調査制度10年 問われる「報告文化」と診療所の安全対策/厚労省医療事故調査制度の施行から10年を迎え、厚生労働省は6月27日、「医療事故調査制度等の医療安全に係る検討会」を設置し、初会合を開いた。制度は、患者の予期せぬ死亡事例の原因を調査・分析し、再発防止に資することを目的として2015年に開始され、これまでに3,338件の報告がなされている。会合では、横浜市立大学病院が取り組む重大事例への会議体での分析と改善策検討の事例が紹介され、座長には中央大学の山本 和彦教授が就任した。一方で、地域医療を担う診療所における医療安全体制の遅れも明らかとなっている。日本プライマリ・ケア連合学会の調査では、医療安全指針の策定は53%、インシデントレポート件数は年間10件未満が約65%と、体制未整備や過少報告の実態が浮かび上がった。教育機会や外部支援体制の不足、データ活用の課題も指摘されており、安全文化の定着には支援強化が不可欠とされる。検討会では、生成AIを活用した好事例の抽出や標準モデルの提示、医学生・研修医への安全教育の強化、遺族の声の反映などが論点として挙げられた。また、医療安全対策加算や地域連携加算の届出施設数は年々増加しているが、中でも事故リスクが高い集中治療室や内視鏡手術に対しては、届出要件の厳格化も進められている。国は今秋を目途に施策の方向性を取りまとめ、医療安全体制の標準化と格差是正、とくに診療所や中小病院の支援策に向けた制度的整備を進める構えだ。 参考 1) 第1回医療事故調査制度等の医療安全に係る検討会(厚労省) 2) 患者の予期せぬ死亡の原因探る 医療安全施策の課題解決へ 厚労省検討会が初会合(産経新聞) 3) 診療所にも義務付けられている医療安全確保のための指針、約5割が作成せず(日経メディカル) 2.百日咳が過去最多ペースで拡大、マクロライド耐性株による死亡例も/小児科学会百日咳の全国的な流行が深刻化している。国立健康危機管理研究機構(JIHS)によると、2025年第24週の報告患者数は2,970人で、過去最多の前週に次ぐ規模。累計では前年の約8倍に達し、東京都では第25週に278人が報告され、3週連続で過去最多を更新している。とくに10~19歳の患者が多く、乳幼児にも拡大している。日本小児科学会はワクチン未接種の生後2ヵ月未満児への感染防止を呼び掛け、感染症対策の徹底とマクロライド耐性菌(MRBP)を想定した治療体制の整備を求めている。また、MRBPによる重症例や死亡例も確認されており、医療機関にはST合剤使用などを含む柔軟な対応が求められている。百日咳は飛沫・接触感染を介し、咳が数ヵ月持続することもあり、新生児や乳児では重篤化しやすい。2023年以降は世界的にも流行が拡大しており、コロナ禍による集団免疫の低下や感染対策の緩和が要因とされる。また、妊婦へのワクチン接種も感染予防の有効策として注目されている。海外では成人用百日咳ワクチンの妊娠中接種による乳児重症化予防の効果が報告されており、わが国でも小児用3種混合ワクチンの使用で抗体移行が期待できる。産婦人科専門医らは、妊娠27~36週の接種を推奨しており、家族全体での予防接種の重要性が増している。百日咳の今後の動向には警戒が必要であり、医療従事者には迅速な診断、耐性菌への備え、ワクチン啓発の三本柱による対策が求められている。 参考 1) 生後2ヵ月未満の乳児における重症百日咳の発症に関する注意喚起と治療薬選択について(日本小児科学会) 2) 生後2ヵ月未満の百日咳、感染対策の徹底呼び掛け 全国的な流行拡大止まらず 日本小児科学会(CB news) 3) 百日咳の報告数、微減も過去2番目の2,970人-累計は昨年の約8倍 JIHS公表(同) 4) 都内の百日咳報告数、3週連続最多の278人 前週比2割増、累計もワーストに迫る(同) 3.救急車の選定療養費、半年で徴収率4%も軽症搬送は1割減/茨城茨城県が2023年12月から導入した、緊急性の低い救急搬送患者から「選定療養費」を徴収する制度について、導入半年の徴収率はわずか約4%に止まった。一方、県内の「軽症など」による救急搬送は前年同期比で1割以上減少し、県は制度に一定の効果があったと評価している。主な徴収対象は腰痛や風邪症状などで、県の救急電話相談利用も増加した。救急要請に慎重になる傾向もみられ、とくに学校現場では、保護者への負担や判断責任をめぐる混乱が生じている。水戸市やつくば市では、生徒の軽症搬送で選定療養費が徴収され、教職員の間で救急要請をためらう事態も発生している。これを受け県は「緊急性が疑われる場合はためらわず救急車を」と繰り返し呼びかけている。相談で搬送助言があれば徴収は原則免除されるが、制度周知は不十分との指摘もあり、県はホームページなどを通じて説明強化に乗り出した。議会や市民団体からは、教育現場を徴収対象から除外するよう求める意見書や陳情も出されているが、県は現時点で除外の考えはないとしている。今後、熱中症搬送の増加も想定される中、制度の適正運用と現場支援の両立が問われている。 参考 1) 選定療養費 徴収率4% 茨城県内開始半年 軽症等搬送1割減(茨城新聞) 2) 選定療養費 学校、救急要請で苦慮 茨城県「緊急時 迷わずに」(同) 3) 「選定療養費」茨城県 “救急電話相談で助言あれば徴収ない”(NHK) 4.高度がん医療機関の「集約化」へ、医師確保と症例偏在が課題に/厚労省厚生労働省は6月23日に「がん診療提供体制のあり方に関する検討会」を開き、2040年に向けたがん医療の需給推計と、均てん化・集約化の方針案を提示した。推計によれば、がん患者数は大都市部を中心に増加する一方、地方では減少が見込まれる。治療法別では、手術療法の需要は減少傾向にある一方で、放射線療法や薬物療法は全国的に増加が予測される。とくに東京・沖縄・滋賀・神奈川では放射線療法の需要が30%以上増加する見込み。同時に、外科医の数は横ばいで、消化器外科医は減少傾向にあり、放射線科医も多数の施設に分散し、治療件数が少ない施設が目立つ。このような供給面の制約を踏まえ、厚労省は、医療技術の高度化や人材確保の観点からも集約化の必要性を強調した。希少がんや高度手術、粒子線治療などは都道府県単位での集約化、標準的な治療は医療圏単位での集約化の検討を求めている。今後は、各都道府県のがん診療連携協議会において、診療実績や患者数、医療従事者の配置状況などのデータをもとに、集約化・均てん化すべき医療の切り分けを進める。地域の実情や患者の医療アクセスに配慮しつつ、質の高い持続可能ながん医療提供体制の構築が求められる。 参考 1) 第18回がん診療提供体制のあり方に関する検討会[資料](厚労省) 2) がん放射線療法の需要、4都県で3割以上増 25-40年に 厚労省推計(CB news) 3) 多くの地域でがん患者が減少する点、手術患者は減少するが放射線・薬物療法患者は増加する点踏まえて集約化検討を-がん診療提供体制検討会(Gem Med) 4) 地域のがん診療実績踏まえ、患者アクセスにも配慮し、各都道府県で「がん医療の集約化」方針を協議せよ-がん診療提供体制検討会(同) 5.看護師養成数が減少、地域医療に深刻な影響、人材確保へ政策転換が急務/看護協会看護師養成の現場が、いま大きな転換点に立たされている。厚生労働省の報告によると、看護師学校養成所の卒業者数は2021年度をピークに減少に転じ、2024年度には大学卒業者も初めて減少した。看護系3年課程の定員充足率は9割を下回り、養成基盤そのものが揺らいでいる。背景には、少子化や大学進学志向の高まり、処遇改善の遅れがある。日本看護協会の調査では、看護師の平均基本給は12年間で約6,000円の増加に止まり、物価上昇に追いつかず、低賃金層では離職率が高い傾向が示された。17.5万円未満の初任給では離職率が16.9%と、27.5万円以上の倍に及ぶ。地方ではさらに深刻であり、釧路市医師会看護専門学校(北海道)や浜田准看護学校(島根県)など、入学者減少により複数の看護学校が閉校に追い込まれており、2028年度までに閉校予定の学校は全国で相次いでいる。これにより、医療過疎地域での看護職員供給に大きな穴が空く恐れがある。医師会立の看護学校でも定員割れが深刻化。群馬県では医師会立の准看護学校の6校中4校で存続が危ぶまれている。こうした中、ふるさと納税や自治体支援を活用した財源確保や、オンライン講義・地域密着型実習の導入など、各地で独自の取り組みも始まっている。また、看護学校内でのパワハラ問題も学生離れの一因とされている。教員の不適切な言動や旧来型の上下関係がハラスメントとして報じられ、若年層の看護職志望者にマイナスの影響を与えている。教育現場では、教員の意識改革と学生の主体性を育む学習スタイルへの転換が求められている。こうした危機を受け、福井県では定員充足率が90%未満の民間養成所への支援を盛り込んだ「看護師養成所学生確保重点支援事業」を新設し、運営費や広報支援を拡充するなどの対策が始まった。2025年には日本看護協会初の男性会長も就任し、「処遇改善を国に求め、地域で必要な看護師を確保したい」と意欲を示す。医療現場を支える看護職の安定確保は、医師の業務負担や診療機能の維持にも直結する喫緊の課題である。医師会や関係団体が連携し、看護教育・待遇改善への具体的支援と政策提言を強化する必要がある。 参考 1) 中央社会保険医療協議会 総会 医療提供体制等について(厚労省) 2) 看護師の新規養成数、ピークアウト 大卒が初の減少 厚労省調べ(CB news) 3) 看護師の基本給、12年でアップ約6千円のみ 低賃金だと離職率高く日看協調べ(同) 4) 看護師等養成所を取り巻く厳しい状況や新たな取り組みを報告(医師会) 5) 2024年度 「看護職員の賃金に関する実態調査」看護師のベースアップの低さが浮き彫りに(日看協) 6) 日本看護協会 初の男性会長が就任 “男性看護師 増加を期待”(NHK) 7) 釧路市医師会看護専門学校 入学者減り2030年度末に閉校へ(同) 8) 浜田准看護学校、2026年3月末で閉校へ(中国新聞) 6.美容医療バブルに陰り 利益率2.6%・淘汰の時代へ/東京商工リサーチ美容医療市場は拡大の一途をたどっている。東京商工リサーチによれば、全国248の美容クリニックの2024年の売上高は約3,137億円で、2022年比1.5倍に成長。SNSや自己投資志向を背景に需要が高まり、性別・年齢を問わず受診が一般化している。その一方で、利益率は2.6%と低く、倒産や休廃業が2024年には計7件と過去最多になった。単一施術型や広告依存型の経営はリスクが高く、差別化と持続的経営力が問われている。市場の急成長と裏腹に、美容医療による健康被害の報告も急増している。厚生労働省の分析では、施術件数は2019年の約123万件から2022年には約373万件に急増。2024年度には国民生活センターなどへの相談が1万700件あり、そのうち健康被害の訴えは898件に上った。施術結果への不満、合併症や後遺症も多く、顔のやけどやしびれ、感染例も報告されている。トラブルの背景には、SNS経由で施術を知った若年層がリスクを十分に理解せず施術を受ける傾向や、研修経験の乏しい「直美(ちょくび)」医師の増加もある。カウンセラー主導で契約が進み、医師の診察やリスク説明が不十分なケースも目立つ。厚労省は美容クリニック勤務医の資格や安全管理状況の年次報告を義務付ける方針。美容医療は「施術力」と「経営力」に加え、安全性・倫理性が問われる時代に入った。医師にとっては、信頼される提供体制の再構築が急務となっている。 参考 1) 「美容医療」市場は3年間で1.5倍に拡大 “経営力”と“施術力”で差別化が鮮明に(東京商工リサーチ) 2) 美容医療市場の売上高、3年で1.5倍 利益率は2.6%にとどまる 東京商工リサーチ(CB news) 3) 美容医療のトラブルが急増 結果に不満、合併症や後遺症も(中日新聞)

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英語で「動悸」は?「ドキドキ」と「バクバク」の違いも表現【患者と医療者で!使い分け★英単語】第24回

医学用語紹介:動悸 palpitation今回は「動悸」についてお話しします。palpitationという医学用語を、患者さんにはどのような一般用語を使って伝えたらいいでしょうか? 講師紹介

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