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妊婦コロナ患者、中等症以上になる3つのリスク/成育医研・国際医研

 国立成育医療研究センター 感染症科の庄司 健介氏と国立国際医療研究センター国際感染症センター・AMR臨床リファレンスセンターの都築 慎也氏らの研究チームは、デルタ株・オミクロン株流行期における妊婦の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)入院例の臨床的な特徴を分析した研究結果を発表した。 本研究は、国立国際医療研究センターが運営している国内最大のCOVID-19レジストリ「COVID-19 Registry Japan(COVIREGI-JP)」を利用したもの。 この研究は、2021年8月~2022年3月までの間に登録された妊婦のCOVID-19入院患者310人(デルタ期:111人、オミクロン期:199人)を対象に実施された。その結果、オミクロン期の患者はデルタ期の患者に比べ、鼻汁と咽頭痛が多く、倦怠感、嗅覚・味覚障害が少ない傾向にあった。また、多変量解析で、軽症の入院患者と中等症-重症の入院患者の比較を行ったところ、中等症-重症に至った患者は「デルタ期の患者」「妊娠中期以降」「ワクチン2回接種未完了」の患者が多いことが判明した。COVID-19で入院した妊婦310人を解析【背景・目的】 これまでわが国の妊婦におけるデルタ株とオミクロン株流行期の妊婦COVID-19の臨床的特徴に関する情報は限られていた。 そこで、COVIREGI-JPを利用して、妊婦のCOVID-19入院患者における(1)デルタ株流行期とオミクロン株流行の臨床的特徴の違いを比較すること、(2)中等症-重症に至った患者の特徴を明らかにすること、の2点について検討を行った。【研究概要・結果】研究対象:2021年8月~2022年3月の間にCOVIREGI-JPに登録された妊婦COVID-19入院患者。研究方法:対象患者の患者背景、重症度、治療内容などのデータを集計・分析。デルタ株・オミクロン株流行期の臨床的特徴についての比較検討を行った。また、軽症と中等症-重症の患者背景を多変量解析で中等症から重症に関連する要因を探索した。【研究結果】・期間中に1万4,006人の患者情報が登録され、そのうち研究対象となった妊婦の入院患者は310人(無症状患者38人を除く)。そのうち、デルタ期の妊婦は111人、オミクロン期の妊婦は199人だった。・オミクロン期の患者は、デルタ期の患者に比べて鼻汁(26.1% vs.15.3%)、咽頭痛(52.8% vs.37.8%)が多く、倦怠感(29.6% vs.43.2%)、嗅覚障害(1.5% vs.18.9%)・味覚障害(2.5% vs.16.2%)が少ないという結果だった。・本研究の定義による中等症-重症患者と軽症患者の多変量解析では、デルタ株流行期、妊娠中期以降のオッズ比はそれぞれ2.25(95%信頼区間[CI]:1.08~4.90、p=0.035)、2.08(1.24~3.71、p=0.008)、とそれぞれ有意に中等症-重症と関連していることがわかった。一方、ワクチン2回接種完了はオッズ比0.34(95%CI:0.13~0.84、p=0.021)と、中等症-重症となることを防ぐ方向に関連していることが判明した。・同様の検討をオミクロン株流行期の患者に限って実施したところ、ワクチン接種についてはオッズ比0.40(95%CI:0.15~1.03、p=0.059)と有意差は認めなかった。 研究チームは、これらの結果を踏まえ、「今後の妊婦COVID-19の診断、治療、予防を考えていく上での重要な基礎データとなると考えられる。今回の検討でも明らかであったように、流行している変異株によりその臨床的特徴が変化していくため、今後も最新の情報を用いた解析を実施し、情報をアップデートしていくことが必要」と展望を述べている。※なお本研究は、オミクロン株BA.5の流行前の時期に実施され、その影響は検討できていない点、各患者の株は明確に証明されているわけではなく、それぞれの株が国内の主流であった時期の患者を比較した研究である点、すべてのCOVID-19患者が登録されているわけではない点、中等症-重症の定義は本研究で定めた定義である点など注意が必要としている。

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コロナ診療報酬の臨時的な取扱いが延長・新設/日医

 日本医師会常任理事の長島 公之氏は、2022年9月28日の定例記者会見で、新型コロナウイルス感染症に係る診療報酬上の臨時的な取扱いが厚生労働省より示されたことを報告した。発熱外来の特例的加算が10月31日まで延長 2022年9月30日までを期限として算定可能な特例的加算である「2類感染症患者入院診療加算(250点)」および「電話や情報通信機器による療養上の管理に係る点数(147点)」は、1ヵ月延長して2022年10月31日まで引き続き算定が可能となる(新型コロナウイルス感染症に係る診療報酬上の臨時的な取扱いについて[その77])。1. 2類感染症患者入院診療加算(250点) 診療・検査医療機関(発熱外来)において、新型コロナウイルス感染症であることが疑われる患者に対し、必要な感染予防策を講じた上で外来診療を実施した場合に「2類感染症患者入院診療加算(250点)」の算定が可能となる。なお、「院内トリアージ実施料(300点)」と併せて550点が算定できる。2. 電話や情報通信機器による療養上の管理に係る点数(147点) 自宅・宿泊療養中の新型コロナウイルス感染症患者のうち重症化リスクの高い者に対し、保健所などから健康観察に係る委託を受けている保険医療機関または診療・検査医療機関の医師が、電話などを用いて診療を行った場合に「電話や情報通信機器による療養上の管理に係る点数(147点)」の算定が可能となる。なお、上記の「2類感染症患者入院診療加算(250点)」も算定できる。入院患者の2つの特例的加算が新設 疾患別リハビリテーションが必要な患者や、回復後も引き続き入院管理が必要な患者に関する2つの特例的加算が新設された(新型コロナウイルス感染症に係る診療報酬上の臨時的な取扱いについて[その76])。1. 2類感染症患者入院診療加算(250点) 入院中の新型コロナウイルス感染症患者に対し、必要な感染予防策を講じた上で疾患別リハビリテーションを実施した場合に「2類感染症患者入院診療加算(250点)」の算定が可能となる。2. 救急医療管理加算1の100分の200に相当する点数(1,900点) 新型コロナウイルス感染症から回復した後、引き続き入院管理が必要な患者が退院に関する基準を満たし、入院の勧告・措置が解除された後、最初に転院した保険医療機関における入院日を起算日として30日を限度として、「救急医療管理加算1」の100分の200に相当する点数(1,900点/日)の算定が可能となる。

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lecanemabが早期アルツハイマー病の症状悪化を抑制、今年度中の申請目指す/エーザイ・バイオジェン

 エーザイ株式会社とバイオジェン・インクは2022年9月18日付のプレスリリースで、抗アミロイドβ(Aβ)プロトフィブリル抗体lecanemabについて、脳内アミロイド病理が確認されたアルツハイマー病(AD)による軽度認知障害(MCI)および軽度AD(これらを総称して早期ADと定義)を対象とした第III相Clarity AD試験において、主要評価項目ならびにすべての重要な副次評価項目を統計学的に高度に有意な結果をもって達成したと発表した。 Clarity AD試験は、早期AD患者1,795例を対象とした、プラセボ対照、二重盲検、並行群間比較、無作為化グローバル臨床第III相検証試験。被験者は、lecanemab 10mg/kg bi-weekly投与群またはプラセボ投与群に1:1で割り付けられた。ベースライン時における被験者特性は両群で類似しており、バランスがとれていた。被験者登録基準においては、幅広い合併症あるいは併用治療(高血圧症、糖尿病、心臓病、肥満、腎臓病、抗凝固薬併用など)を許容している。試験実施地域は日本、米国、欧州、中国。 主要評価項目はベースラインから投与18ヵ月時点でのCDR-SB(Clinical Dementia Rating Sum of Boxes)の変化。主な副次評価項目はベースラインから投与18カ月時点での、アミロイドPET測定による脳内アミロイド蓄積、ADAS-cog14(Alzheimer's Disease Assessment Scale-cognitive subscale 14)、ADCOMS(Alzheimer’s Disease Composite Score)およびADCS MCI-ADL(Alzheimer's Disease Cooperative Study-Activities of Daily Living Scale for Mild Cognitive Impairment)。 lecanemab:可溶性のアミロイドβ(Aβ)凝集体(プロトフィブリル)に対するヒト化モノクローナル抗体で、ADを惹起させる因子の1つと考えられている、神経毒性を有するAβプロトフィブリルに選択的に結合して無毒化し、脳内からこれを除去することでADの病態進行を抑制する疾患修飾作用が示唆されている。 今回発表されたClarity AD試験の主な結果は以下のとおり。・intent-to-treat(ITT)集団における解析の結果、投与18ヵ月時点での全般臨床症状の評価指標であるCDR-SBスコアの平均変化量は、lecanemab投与群がプラセボ投与群と比較して-0.45となり27%の悪化抑制を示し(p=0.00005)、主要評価項目を達成した。・また、CDR-SBは投与6ヵ月以降すべての評価ポイントにおいてlecanemab投与群がプラセボ投与群と比較して統計学的に高度に有意な悪化抑制を示した(全評価ポイントでp<0.01)。・副次評価項目であるアミロイドPET測定による脳内アミロイド蓄積、ADAS-cog14、ADCOMSおよびADCS MCI-ADLの投与18ヵ月時点での変化についても、すべての項目においてプラセボと比較して統計学的に高度に有意な結果を示した(p<0.01)。・抗アミロイド抗体に関連する有害事象であるアミロイド関連画像異常(ARIA)について、ARIA-E(浮腫/浸出)の発現率は、lecanemab投与群で12.5%、プラセボ投与群で1.7%だった。そのうち症候性のARIA-Eの発現率は、lecanemab投与群で2.8%、プラセボ投与群で0.0%だった。・ARIA-H(ARIAによる脳微小出血、大出血、脳表ヘモジデリン沈着)の発現率は、lecanemab投与群で17.0%、プラセボ投与群で8.7%だった。症候性ARIA-Hの発現率は、lecanemab投与群で0.7%、プラセボ投与群で0.2%だった。ARIA-Hのみ(ARIA-Eを発現していない被験者でのARIA-H)はlecanemab投与群(8.8%)とプラセボ投与群(7.6%)で差はみられなかった。・ARIA(ARIA-Eおよび/またはARIA-H)の発現率はlecanemab投与群で21.3%、プラセボ投与群で9.3%であり、総じてlecanemabのARIA発現プロファイルは想定内であった。 本試験結果については、2022年11月29日にアルツハイマー病臨床試験会議で発表し、査読付き医学誌で公表する予定となっているほか、同社では本試験結果をもとに2022年度中の米国フル承認申請、および日本、欧州での承認申請を目指している。

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高リスク腎細胞がん術後補助療法、アテゾリズマブの有効性は/Lancet

 再発リスクが高い腎細胞がん術後患者において、アテゾリズマブはプラセボと比較し無病生存(DFS)期間を有意に延長せず、腎細胞がんの術後補助療法としてアテゾリズマブを支持する結果は得られなかった。米国・City of Hope Comprehensive Cancer CenterのSumanta Kumar Pal氏らが、28ヵ国215施設で実施した多施設共同無作為化二重盲検第III相試験「IMmotion010試験」の結果を報告した。局所腎細胞がんに対する標準治療は手術であるが、再発例が多く、免疫療法を含む術後補助療法が検討されていた。Lancet誌オンライン版2022年9月10日号掲載の報告。再発リスクが高い腎細胞がん778例、アテゾリズマブ群またはプラセボ群に無作為化 研究グループは、18歳以上の淡明細胞型腎細胞がんまたは肉腫様腎細胞がんで、再発リスクが高く(Fuhrman grade4のT2、grade3/4のT3a、全gradeのT3b-cおよびT4またはTxN+、同時性副腎/肺転移または異時性肺/リンパ節/軟組織転移で最初の腎摘除術後12ヵ月以上経過後の再発)、全身療法未実施の患者を、アテゾリズマブ(1,200mg)群またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付け(層別化因子:病期、地域、PD-L1発現)、無作為化後12週以内に腎摘除術(±転移巣切除)を行い、アテゾリズマブまたはプラセボを術後3週ごと16サイクルまたは1年、あるいは再発または許容できない毒性発現等まで投与した。 主要評価項目は、治験責任医師の評価によるDFS、副次評価項目は全生存(OS)期間等とし、無作為化された全患者(intention-to-treat集団)を解析対象とした。また、安全性評価対象集団は、アテゾリズマブまたはプラセボを投与量にかかわらず1回以上投与されたすべての患者とした。 2017年1月3日~2019年2月15日の期間に778例が登録され、アテゾリズマブ群に390例(50%)、プラセボ群に388例(50%)が割り付けられ追跡評価を受けた。DFSはアテゾリズマブ群57.2ヵ月、プラセボ群49.5ヵ月で有意差なし データカットオフ(2022年5月3日)時点で、追跡期間中央値は44.7ヵ月(四分位範囲[IQR]:39.1~51.0)であった。 治験責任医師評価によるDFS期間中央値は、アテゾリズマブ群57.2ヵ月(95%信頼区間[CI]:44.6~評価不能)、プラセボ群49.5ヵ月(47.4~評価不能)であった(ハザード比[HR]:0.93、95%CI:0.75~1.15、p=0.50)。 主なGrade3~4の有害事象は、高血圧(アテゾリズマブ群7例[2%]vs.プラセボ群15例[4%])、高血糖(10例[3%]vs.6例[2%])、下痢(2例[1%]vs.7例[2%])であった。アテゾリズマブ群69例(18%)およびプラセボ群46例(12%)に重篤な有害事象が発現した。治療に関連した死亡の報告はなかった。

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慢性期統合失調症患者に対する音楽療法の有効性および睡眠障害の予測因子

 統合失調症患者に睡眠障害がみられることは少なくない。このような場合、非侵襲的介入である音楽療法が有益である可能性がある。台湾・輔英科技大学のMei-Jou Lu氏らは、統合失調症患者の睡眠障害に対する音楽療法の有効性を調査した。その結果、統合失調症患者の睡眠障害に対する音楽療法のメリットが実証された。Archives of Psychiatric Nursing誌2022年10月号の報告。 慢性期病棟で睡眠障害を伴う統合失調症患者を対象に、プロスペクティブ研究を実施した。対象者は、標準療法のみを行う対照群と、標準療法に加えて4週間の就寝前音楽療法を行う介入群に割り付けられた。睡眠障害の重症度を測定するため、ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)を用いた。両群間のベースライン時と4週間後のPSQIスコアの変化を分析するため、一般化推定方程式を用いた。介入群における治療効果の予測因子の特定も試みた。 主な結果は以下のとおり。・対象は、介入群35例、対照群31例の計66例。・人口統計学的変数で調整した後、介入群のPSQIスコアの変化は対照群と比較し、有意に大きく(群×時間の推定値:-7.05、p<0.001)、音楽療法の有効性が示唆された。・無宗教の患者や慢性疾患を有する患者では、より優れた有効性が予測された。・高齢患者では、音楽療法の有効性が乏しい可能性が示唆された。・統合失調症患者に対する音楽療法の有効性が示唆される一方で、医療従事者は実臨床において統合失調症患者の重症度の変化を考慮する必要がある。

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妊娠糖尿病診断の明確なカットオフ値perfect lineはあるのか?(解説:住谷哲氏)

 現在の妊娠糖尿病(GDM)の診断は HAPO(Hyperglycemia and adverse pregnancy outcomes)研究の結果を受けてIADPSG(International Association of Diabetes and Pregnancy Study Groups)が2010年に発表した診断基準に基づいている1)。わが国においても、当初は日本糖尿病学会、日本産科婦人科学会および日本糖尿病・妊娠学会で見解の相違があったが2015年に統一された。GDMの診断基準は「75gOGTTにおいて、(1)空腹時血糖値92mg/dL以上、(2)1時間値180mg/dL以上、(3)2時間値153mg/dL以上のいずれか1点を満たした場合」とされている(ただし妊娠中の明らかな糖尿病[overt diabetes in pregnancy]は除く)。 注意する必要があるのは、HAPO研究においてLGA(large for gestational age)の発症と血糖値との間には直線的関係があり、閾値が認められなかった点である2)。つまり血糖値が低ければ低いほどLGAの発症は減少する。したがって現在のGDMの診断基準はexpert consensusであり、LGAを含む主要評価項目のオッズ比(OR)が、HAPO研究でのコントロール群(全例を7群に分けた際に最も血糖値の低いカテゴリー)と比較して1.75倍になる血糖値(92-180-153)がカットオフ値として採用された。したがって、海外ではこのIADPSGの診断基準を採用していない国もあり、本試験が実施されたニュージーランドもその一つである。ニュージーランドでは2014年に公表された妊娠糖尿病の診断基準が用いられており、それが今回の試験の高基準値(99-xx-162)に相当する3)。 結果は、主要評価項目であるLGAの発症率は低基準値群と高基準値群との間に有意差はなかった。さらに母児の健康状態に関連するその他の副次評価項目にも両群にほとんど差はなかった。当然であるが、低基準値群で妊娠糖尿病の診断率が高く、医療介入も増加し、医療費も増大している。この結果だけから見ると、高基準値を採用するのに問題はないように思われるが、問題は低基準値と高基準値の間に分類された妊婦のアウトカムがどうであったかにある。この群は、低基準値を採用すれば妊娠糖尿病と診断されて介入対象となったが、高基準値を採用すると妊娠糖尿病と診断されず介入されなかったことになる(milder degree of GDM、以下milder GDM)。この群に対するサブグループ解析は事前に設定されており、その結果も記載されている。低基準値で妊娠糖尿病と診断された310人のうち、195人(63%)がmilder GDMであり、高基準群では178人がmilder GDMに分類された。両群におけるLGAの発症は、低基準値群12人(6.2%)、高基準値群32人(18.0%)であり、LGA発症の調整後相対リスク比は0.33(95%信頼区間[CI]:0.18~0.62)、NNTは4(95%CI:2~17)であった。したがって、milder GDMにおいては低基準値による診断が母児に健康上のベネフィットをもたらす可能性が示唆された。 本試験の結果より、高基準値による妊娠糖尿病の診断は母児に対して健康上のリスクとならないことが明らかとなった。医療経済的には高基準値の採用がより正当化されるだろう。しかし事前に設定されたサブグループ解析の結果をどのように解釈するか? ニュージーランド当局が本試験の結果を踏まえて、妊娠糖尿病の診断基準に対してどのような判断を下すかを注視したい。

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総合診療をやっていて感じること【Dr. 中島の 新・徒然草】(445)

四百四十五の段 総合診療をやっていて感じること朝夕、冷え込むようになりましたね。かといって、昼は暑かったりします。読者の皆さん、体調管理は万全でしょうか?さて、私は脳外科を半分、総合診療科を半分くらいの割合でやっております。内科外来で総診をしていると、これまで見過ごしていたことにいろいろ気付かされます。その1つは、内科の先生は何でも緻密に考えるということです。たとえば鑑別診断です。10個くらいの疾患を挙げて、その中から正しいものを選び出すのが内科のイメージ。「違う、違う、違う、これだ!」そうやって正しいと思われる疾患にたどりついても、そこで終わりません。残りの6個についても、「違う、違う、違う、違う、違う、違う」というところまで確認しています。偉いですね。一方、私なんか鑑別疾患の数がそもそも5つくらいしか浮かびません。その上、これだと思ったら、それ以外の疾患が正しいか否かは考えていませんでした。かくして、いきなり「これに違いない!」で始まります。再診の時に間違っていることに気付いたら「じゃあ、こっちかな?」と。……本当に情けない。ここは内科医の姿勢を見習って、キチンとすべての可能性を考えるべし。そう自分に言い聞かせています。鑑別診断ではありませんが、最近、こういうことがありました。私は、夜間・休日に入院された患者さんの、各診療科への振り分けを翌朝にやっています。初診の肺炎や尿路感染症などの、いわゆるフレイル症例については、毎日の当番の診療科が決まっており、そこに振り分けます。が、こういった症例が3例とか4例になると、当番も大変です。なので、当日の当番に振り分けるのは2例までとし、3例目は翌日の当番、4例目は翌々日の当番にしようという提案があり、その新ルールを開始しました。ちょっとわかりにくいですかね。たとえば、月曜の当番が脳卒中内科、火曜の当番が血液内科、水曜の当番が呼吸器内科だったとします。月曜の朝にフレイル症例が4例あったとして、これまでは4例とも脳卒中内科に振り分けていたのですが、当然ながら脳卒中内科がパンクしてしまいます。そこで、脳卒中内科に2例、血液内科に1例、呼吸器内科に1例、と振り分けをするわけです。で、新ルールを開始したある朝のこと。実際にフレイル症例が3例あったので、当日の当番である脳卒中内科に2例、翌日の当番の血液内科に1例を振り分けようとしました。ところが、一緒に作業していた内科の先生から疑問が呈されたのです。内科医「中島先生。3例のうちのどれを血液内科に回すのですか?」中島「えっ、リストを打ち出したときに、1番下にあった症例にしようと思うのですが」内科医「どの症例を血液内科に回すのか、その根拠がいるんじゃないでしょうか」中島「そう言われれば」そうなんですよ。仮に3例の内訳が軽症、中等症、重症となっていた場合。もし一番重症の患者さんを翌日当番の血液内科に回したりしたら「俺達はサポートしてやっているのに、何で重症を回すんだ」ってことを言われかねません。一方、当日の当番の脳卒中内科からは、「重症を1例担当するのと、軽症+中等症で2例担当するのだったら同じくらいの負担になるから、ちょうどいいじゃん!」と言われる可能性があります。そもそも、軽症か重症かなどというのは、結構主観的なものです。で、いろいろ考えた結果、重症度とは関係なく、来院時刻の1番目と2番目を当日の当番に振り分けし、3番目を翌日の当番に、4番目を翌々日の当番にあてる、ということになりました。今回で言えば、1番目と2番目を脳卒中内科、3番目を血液内科に振り分けるわけです。とくに忖度はなし。そうすれば、誰かから文句を言われることはありません。でも、私なんか、こういうところまで頭が回らないわけです。思わず、「さすがですね!」と誉めたら、言われたほうの内科の先生はキョトンとしておられました。心から感心したんですけど。というわけで、総合診療をやって気付いたことを述べました。読者の皆さま、とくに外科系の先生方の参考になれば幸いです。最後に1句彼岸すぎ 頭を使う よい季節

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スライドのフォントを一括でそろえよう【学会発表で伝わる!英語スライド&プレゼン術】第1回

スライドのフォントを一括でそろえよう1)読みやすいフォントを使用する2)フォントを統一する3)スライドを作り始める前にスライドマスターでフォントを固定する学会発表のスライド作りで失敗しないためのポイントの1つは、読みやすいフォントを使用し、スライドの中で使用するフォントの種類をそろえることで、これは日本語でも英語でも共通しています。悪い例を〈図1〉に提示しています。MSゴシックなど、英数字だとバランスが悪いフォントが使用されており、またさまざまなフォントが入り交じっていて読みにくいスライドになっています。〈図1〉一方、〈図2〉は「Segoe UI(シーゴー UI)」という読みやすいフォントを使用し、種類も統一しています。英数字のフォントではSegoe UIやArialなどは視認性が高く、判読性も高いのでお薦めです。〈図2〉フォントをそろえるのが重要なことはわかっていても、気が付くとフォントがバラバラになっていた…、ということはよくあります。意外と知られていないのですが、パワーポイントの「スライドマスター」の機能を使うとこの問題を簡単に解決できます。スライドマスターは、すべてのスライドに一括して変更を適用できる便利な機能です。スライドを作り込み始める前に、〈図3〉〈図4〉で示すように表示タブからスライドマスターをクリックし、その中にあるフォントのボタンをクリックします。フォントのカスタマイズを選択すると日本語、英数字用のフォントをそれぞれ指定することができ、その後スライドを作った時に指定したフォントで入力されます。本人の好みや学会の指定がなければ英数字は「Segoe UI」、日本語は「メイリオ」を選択することをお勧めします。〈図3〉〈図4〉講師紹介

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第13回 「療養証明書が発行されないなんて聞いていない」と苦情

「健康フォローアップセンター」構想9月26日から、(1)65歳以上の方、(2)重症化リスクがあり治療薬の投与等が必要と医師が判断する方、(3)入院を要する方、(4)妊婦、の4類型にCOVID-19の発生届が限定されるようになりました1)。また、療養証明書も4類型に限定され、今後は軽症者に発行されなくなります。入院給付金も同様の扱いで、9月26日以降は「みなし入院」での支払いはありません。「証明書好き」の日本人にとっては気になるテーマかと思いますが、そもそも「療養証明書提出を求めないように」と通達を出しているのですから、企業・学校・保険会社に対して求めないスタンスが正しい。それでも証明が必要な場合は、以下のもので代用します。My HER-SYSの療養証明書(電子的証明) ※みなし陽性者を除く届出対象者のみ発行可能保健所から陽性者に出された案内文(医療機関で配布された患者説明用シート等)診療明細書(医学管理料に「二類感染症患者入院診療加算」[外来診療・診療報酬上臨時的取扱を含む]が記載されたもの)医療機関等で実施されたPCR検査や抗原検査の結果がわかるものコロナ治療薬が記載された処方箋、服用説明書陽性者サポートセンターへの登録結果(SMS等)PCR検査や抗原検査を実施する検査センター(医療機関以外でも可)の検査結果(市販の検査キットは除く)など自治体によって少し差異はありますが、4類型以外の軽症者については陽性の自己登録を促しており、これによって健康サポート(悪化時の電話)や配食等のサービスを受けられることになります。東京都や大阪府のように、登録すれば手厚いサービスが受けられる自治体もあれば、先行して対応を簡略化している茨城県のように、届出対象外の軽症者の健康観察、食料配送などを取りやめている自治体もあります。これらは、まとめて「健康フォローアップセンター」という名称の構想になっています。概要は図のとおりとなっています。現場としては、とてもラクだなと思ったのですが、一般の人々への認知度が低過ぎました。ちょっと政府の啓発をしっかりしてほしいです。画像を拡大する図. 健康フォローアップセンター構想(自治体によって差異がある)(筆者作成)「そんな話は聞いていない」最近陽性になった患者さんを診察したのですが、30歳代の軽症者だったので発生届の対象外であることを説明して、「陽性者登録センター」へ誘導しようと思ったのですが、「軽症者が届出対象外なんて初耳だ、友人は保健所に届出を出してもらっている」「療養証明書がないと困る、そんな話は聞いていない」というご意見をいただき、この説明だけでかなり時間が掛かってしまいました。とくに療養証明書が発行されないというのは、かなり不満を持たれていた印象です。「なくても大丈夫」という安心感がまったくないわけですから、当然です。過渡期の混乱はやむを得ないとはいえ、せめて第8波までの間に、もう少し国民への周知を促してほしいところです。参考文献・参考サイト1)厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部 Withコロナの新たな段階への移行に向けた全数届出の見直しについて

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プラチナダブレット不適NSCLCに対するアテゾリズマブ1次療法の有用性(IPSOS試験)/ESMO2022

 プラチナ化学療法の1次治療が不適格な進行非小細胞肺がん(NSCLC)に対して、アテゾリズマブは単剤化学療法(ビノレルビンまたはゲムシタビン)よりも全生存期間(OS)を有意に延長した。 NSCLCの実臨床では、複数の合併症を持つなど治療忍容性の低い高齢者が多い。また40%以上がPS≧2と全身状態不良の患者である。実臨床で多いこれらの患者はほとんどの臨床試験から除外されており、新たな治療選択肢を検討する研究への医学的なニーズは高い。 そのような中、これらの患者を対象とした、多施設オープンラベル無作為化第III相試験IPSOSが行われている。欧州臨床腫瘍学会(ESMO2022)では、英国・ロンドン大学のSiow Ming Lee氏がその試験結果を報告した。・対象:ECOG PS 2〜3(70歳以上で併存疾患がある、またはプラチナダブレット不適の場合はPS0〜1も許容)の未治療StageIIIB/IV NSCLC(EGFRおよびALK陽性は除外、無症状の安定した脳転移は許容)・試験群:アテゾリズマブ 1,200mg 3週ごと(302例)・対照群:単剤化学療法(ビノレルビンまたはゲムシタビン) 3週~4週ごと(151例)・評価項目:[主要評価項目]OS[副次評価項目]6、12、18、24ヵ月OS率、無増悪生存期間(PFS)、奏効率(ORR)、奏効期間(DoR)、PD-L1陽性患者におけるOSとPFS 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中央値41.0ヵ月のOS中央値は試験群10.3ヵ月、対照群9.2ヵ月、2年OS率はそれぞれ24.4%と12.4%、と試験群で有意な改善を認めた(ハザード比[HR]:0.78、95%信頼区間[CI]:0.63〜0.97、p=0.028)。・年齢、全身状態(PS)、組織型、PD-L1発現レベルなどのすべてのサブグループにおいて、試験群のOS改善効果は一貫して示されていた。・ORRは試験群16.9%、対照群7.9%であった。・DoR中央値は試験群14.0ヵ月、対照群7.8ヵ月であった。・PFS中央値は試験群4.2ヵ月、対照群4.0ヵ月(95%CI:2.9~5.4)で、試験群の対照群に対するHRは0.87(95%CI:0.70~1.07)であった。・試験群の20.2%、対照群の29.8%が後治療を受けており、試験群では化学療法(15.9%)、対照群では免疫療法(18.5%)や化学療法(10.6%)などの後治療が多かった。・Grade3/4の治療関連有害事象の発現率は、試験群が16.3%、対照群が33.3%であり、有害事象により投薬中止に至ったのは、試験群で13.0%、対照群で13.6%であった。・試験群では健康関連QoLの安定化が見られ、胸痛の増悪が確認されるまでの期間の改善に関するHRは0.51(95%CI:0.27〜0.97)であった。 発表者のLee氏は、IIPSOS試験により、生命予後の悪いこれらの患者に対し、アテゾリズマブの1次治療によるOS改善が初めて無作為化試験で示された、とまとめた。

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dMMR大腸がん術前療法としてニボルマブとイピリムマブの併用が有用な可能性(NICHE-2)/ESMO2022

 DNAミスマッチ修復機能欠損(dMMR)の大腸がんに対する術前療法としてのニボルマブ・イピリムマブ併用療法の有用性が、オランダ・Netherlands Cancer InstituteのMyriam Chalabi氏から、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2022)で発表された。 2020年にNICHE-1試験において両剤併用の術前療法としての有用性は報告されている。今回は同様にオランダ国内で実施されたNICHE-2試験の結果も統合しての解析結果発表である。・対象:他臓器転移のないdMMR大腸がん(T3以上またはN+)(112例)・試験群:ニボルマブ3mg/kg+イピリムマブ1mg/kgを1回投与、その2週間後にニボルマブ3mg/kgを1回投与初回投薬から6週以内に手術を施行・評価項目:[主要評価項目]安全性、忍容性、3年無病生存率(DFS)[副次評価項目]病理学的効果、ctDNA解析など病理学的奏効率(pRR:原発巣の残存腫瘍が50%以下)、主要病理学的奏効率(mPR:原発巣の残存腫瘍が10%以下)、病理学的完全奏効率(pCR:原発巣とリンパ節の両方共に残存腫瘍が0%) 主な結果は以下のとおり。・NICHE-1試験からの32例とNICHE-2試験からの80験の全症例が安全性解析の対象となり、5例が除かれた107例が有効性判定に用いられた。・症例背景は、年齢中央値が60歳、病期分類は高リスクIII期が74%であった。高リスクの内訳はT4aが35%、T4bが28%、N2が62%、T4かつN2だったのが48%だった。・免疫関連性有害事象については61%の症例に認められ、Grade3以上の事象は膵臓機能障害、肝炎、筋炎、皮膚障害などで4%に発現した。・全症例で中央値5.4週間以内にR0切除術が施行された。・各奏効率はpRRが99%、mPRが95%、pCRは67%と高率であった。とくにリンチ症候群症例ではpCRが78%であった。・14例で術後化学療法が追加され、追跡期間中央値13.1ヵ月時点で、1例も再発の報告は無かった。 演者は「dMMR大腸がんに対する術前の免疫チェックポイント阻害薬の使用は、今後の標準治療となる可能性を示した」と結んだ。

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乳房温存手術後の遠隔再発と局所再発を最小にするマージンを検討/BMJ

 早期浸潤性乳がんの乳房温存手術においてマージン状態が遠隔再発と関連するかどうか、また局所再発リスクと遠隔再発リスクの両方を最小にするために必要なマージンについて、英国・リーズ大学のJames R. Bundred氏らが系統的レビューとメタ解析により検討し報告した。BMJ誌2022年9月21日号に掲載。 本研究では、Medline(PubMed)、Embase、Proquestのデータベースから、乳房温存手術(StageI~III)を受けた乳がん患者を対象にマージン状況との関連でアウトカムを推定可能な追跡期間60ヵ月以上の研究を検索した。非浸潤性乳管がん(DCIS)の患者、術前化学療法を受けた患者、乳房切除術を受けた患者を除外し、断端陽性(tumour on ink)、断端近接(no tumour on inkだが2mm未満)、断端陰性(2mm以上)に分類した。 主な結果は以下のとおり。・1980年1月1日~2021年12月31日の68研究、11万2,140例の乳がん患者が適格とされた。・これらの研究全体では、患者の9.4%(95%信頼区間[CI]:6.8~12.8)が断端陽性、17.8%(同:13.0~23.9)が断端陽性または断端近接であった。・遠隔再発率は、断端陽性で25.4%(同:14.5~40.6)、断端陽性または断端近接で8.4%(同:4.4~15.5)、断端陰性で7.4%(同:3.9~13.6)であった。・断端陽性は断端陰性と比較して、遠隔再発リスク(ハザード比[HR]:2.10、95%CI:1.65~2.69、p<0.001)および局所再発リスク(HR:1.98、95%CI:1.66~2.36、p<0.001)とも高かった。・術後化学療法および放射線療法の調整後、断端近接は断端陰性と比較して遠隔再発リスク(HR:1.38、95%CI:1.13~1.69、p<0.001)および局所再発リスク(HR:2.09、95%CI:1.39~3.13、p<0.001)とも高かった。・2010年以降に発表された5研究では、遠隔再発リスクは断端陰性と比べて、断端陽性(HR:2.41、95%CI:1.81~3.21、p<0.001)および断端陽性または断端近接(HR:1.44、95%CI:1.22~1.71、p<0.001)で高かった。 今回のメタ解析の結果、早期浸潤性乳がんの乳房温存術後の患者において、断端陽性または断端近接の場合は遠隔再発リスクおよび局所再発リスクが高かった。著者らは「外科医は、1mm以上で最小のクリアマージンを達成することを目指すべき」としている。

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認知症リスク低下に寄与する1日当たりの歩数

 認知症予防ガイドラインでは身体活動を推奨しているが、認知症の発症と歩数やその強度との関連は明らかになっていない。南デンマーク大学のBorja Del Pozo Cruz氏らは、英国成人を対象に毎日の歩数やその強度とすべての原因による認知症発症との関連を調査した。その結果、歩数が多いほどすべての原因による認知症発症リスクが低く、1日当たり1万歩を少し下回る程度の歩数が、最も効果的であることが示唆された。JAMA Neurology誌オンライン版2022年9月6日号の報告。 UK Biobankの集団ベース・プロスペクティブコホート研究(2013年2月~2015年12月)を実施し、フォローアップ期間は6.9年、データ分析は2022年5月に行った。10万3,684人中、有効な歩数データを有する40~79歳の成人7万8,430人を分析対象に含め、認知症発症はレジストリベースで2021年10月までに確認した。歩数計から得られた1日の歩数、1分当たり40歩未満の偶発的な歩数、1分当たり40歩以上の意図的な歩数、1日の最も歩数の多い30分間(ピーク30分間)における1分当たりの歩数(必ずしも連続とは限らない)を分析した。主要アウトカムは、致死的および非致死的な認知症の発症とし、入院記録またはプライマリケア記録と関連付けて収集するか、死亡記録の死因を参照した。歩数との用量反応関連を評価するため、Spline Cox回帰を用いた。 主な結果は以下のとおり。・対象者は、平均年齢61.1±7.9歳、男性3万5,040人(44.7%)、女性4万3,390人(55.3%)、アジア人881人(1.1%)、黒人641人(0.8%)、混合人種427人(0.5%)、白人7万5,852人(96.7%)、その他または特定不能629人(0.8%)。・7万8,430人中866人が認知症を発症した(フォローアップ期間中央値:6.9年[6.4~7.5年]、平均年齢:68.3±5.6歳、男性:480人[55.4%]、女性:386人[44.6%]、アジア人:5人[0.6%]、黒人:6人[0.7%]、混合人種:4人[0.4%]、白人:821人[97.6%]、その他:6人[0.7%])。・分析では、1日の歩数と認知症発症との間に非線形の関連が認められた。・最大のリスク低下が認められた歩数は9,826歩(ハザード比[HR]:0.49、95%信頼区間[CI]:0.39~0.62)であり、リスクの低下が認められた最小の歩数は3,826歩(HR:0.75、95%CI:0.67~0.83)で、リスク低下は最大のリスク低下の50%であった。・偶発的な歩数で最もリスク低下が認められたのは3,677歩(HR:0.58、95%CI:0.44~0.72)、同じく意図的な歩数では6,315歩(HR:0.43、95%CI:0.32~0.58)、ピーク30分間の歩数では1分当たり112歩(HR:0.38、95%CI:0.24~0.60)であった。

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男女別、心血管イベントのリスク因子は/Lancet

 脂質マーカーとうつ病は、女性より男性で心血管リスクとの関連が強く、食事は男性よりも女性で心血管リスクとの関連が強いことが、カナダ・マックマスター大学のMarjan Walli-Attaei氏らによる大規模前向きコホート研究「Prospective Urban Rural Epidemiological:PURE研究」の解析の結果、示された。ただし、他のリスク因子と心血管リスクとの関連は女性と男性で類似していたことから、著者は、「男性と女性で同様の心血管疾患予防戦略をとることが重要である」とまとめている。Lancet誌2022年9月10日号掲載の報告。35~70歳の約15万6,000例で、各種リスク因子と主要心血管イベントの関連を解析 研究グループは、現在進行中のPURE研究における、高所得国(11%)および低・中所得国(89%)を含む21ヵ国のデータを用いて解析した。 解析対象は、2005年1日5日~2021年9月13日に登録され、ベースラインで35~70歳の心血管疾患既往がなく、少なくとも1回の追跡調査(3年時)を受けた参加者15万5,724例であった。 主要評価項目は、主要心血管イベント(心血管死、心筋梗塞、脳卒中、心不全の複合)とした。代謝リスク因子(収縮期血圧、空腹時血糖値、ウエスト対ヒップ率、非HDLコレステロール)、血中脂質(総コレステロール、中性脂肪、LDLコレステロール、HDLコレステロール、総コレステロール/HDLコレステロール比、ApoA1、ApoB、ApoB/ApoA1比)、行動的リスク因子(喫煙、飲酒、身体活動、食事[PURE食事スコア])および心理社会的リスク因子(うつ症状、教育)と主要心血管イベントとの関連を男女別に解析し、ハザード比(HR)ならびに人口寄与割合(PAF)を算出した。脂質マーカーとうつ症状は、女性より男性で心血管リスク上昇 解析対象15万5,724例の内訳は、女性9万934例(58.4%)、男性6万4,790例(41.6%)、ベースラインの平均(±SD)年齢はそれぞれ49.8±9.7歳、男性50.8±9.8歳で、追跡期間中央値は10.1年(四分位範囲[IQR]:8.5~12.0)であった。 データカットオフ(2021年9月13日)時点で、主要心血管イベントは女性で4,280件(年齢調整罹患率は1,000人年当たり5.0件[95%信頼区間[CI]:4.9~5.2])、男性で4,911件(8.2件[8.0~8.4])発生した。男性と比較して、女性はとくに若年で心血管リスクプロファイルがより良好であった。 代謝リスク因子と主要心血管イベントとの関連は、非HDLコレステロールを除き、女性と男性で同様であった。非HDLコレステロール高値のHRは、女性で1.11(95%CI:1.01~1.21)、男性で1.28(1.19~1.39)であった。また、他の脂質マーカーも女性よりも男性のほうが一貫してHR値が高かった。 うつ症状と主要心血管イベントとの関連を示すHRは、女性で1.09(95%CI:0.98~1.21)、男性で1.42(1.25~1.60)であった。一方、PUREスコア(スコア範囲:0~8)が4以下の食事の摂取は、男性(HR:1.07[95%CI:0.99~1.15])よりも女性(1.17[1.08~1.26])で主要心血管イベントと関連していた。 主要心血管イベントに対する行動的および心理社会的リスク因子(合計)のPAFは、女性(8.4%)よりも男性(15.7%)で大きく、これは主に現在喫煙のPAFが男性で大きいためであった(女性1.3%[95%CI:0.5~2.1]、男性10.7%[95%CI:8.8~12.6])。

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塩野義の経口コロナ治療薬、第II/III相Phase 3 partで主要評価項目を達成

 塩野義製薬は9月28日付のプレスリリースにて、同社が開発中の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬のensitrelvir(S-217622)について、第II/III相臨床試験Phase 3 partにおいて良好な結果を得たことを発表した。主な結果として、軽症/中等症患者において、重症化リスク因子の有無にかかわらず、オミクロン株に特徴的なCOVID-19の5症状(鼻水または鼻づまり、喉の痛み、咳の呼吸器症状、熱っぽさまたは発熱、倦怠感[疲労感])が消失するまでの時間(発症前の状態に戻るまでの時間)を、プラセボに対して有意に短縮することなどが認められたという。 プレスリリースによると、今回のPhase 3 partの臨床試験では、本剤(低用量、高用量の2用量)を1日1回、5日間経口投与した際の臨床症状の改善効果を検証することを主な目的として、日本、韓国、ベトナムの1,821例の患者が、重症化リスク因子の有無、またワクチン接種の有無にかかわらず登録され、軽症/中等症患者を対象に実施された。本試験における主要評価項目は、発症から72時間未満の患者集団における、オミクロン株流行期に特徴的な5症状(鼻水または鼻づまり、喉の痛み、咳の呼吸器症状、熱っぽさまたは発熱、倦怠感 [疲労感])の消失までの時間が設定された。 主な結果は以下のとおり。・申請用量(低用量)の本剤投与により、対象患者集団においてCOVID-19の5症状が消失するまでの時間は、プラセボ群と比較して約24時間短縮され、統計学的に有意な症状改善効果が確認された(p=0.04)。症状消失までの時間の中央値は、本剤の申請用量投与群167.9時間vs.プラセボ群192.2時間。・同患者集団における投与4日目(3回投与後)のベースラインからのウイルスRNA変化量は、プラセボ群と比較して1.4 log10コピー/mL以上大きく(p<0.0001)、これまでに実施された臨床試験と同様に優れた抗ウイルス効果が示された。・いずれの用量においても、本剤の投与による重篤な副作用や死亡例の報告はなく、これまでの試験と同様の良好な忍容性と安全性が確認されている。・比較的高頻度に見られた副作用は、これまでの試験でも観察された高比重リポ蛋白の減少および血中トリグリセリドの上昇であった。 同社によると、本結果は、厚生労働省と独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)とすでに共有されており、今後の承認審査ならびに審議について、協議が開始されたという。

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鼻腔ぬぐい液を用いた新型コロナウイルス検査-自己採取と医療従事者採取の比較-(解説:小金丸博氏)

 4~14歳の小児において、鼻腔ぬぐい液を用いた新型コロナウイルスの検出率を自己採取と医療従事者採取で比較した横断研究がJAMA誌オンライン版2022年8月26日号に報告された。自己採取は簡単な説明資材(ビデオと印刷物)を見た後に行い、その次に医療従事者が2回目の検体を採取した。その結果、陽性一致率は97.8%(95%信頼区間[CI]:94.7~100.0)、陰性一致率は98.1%(同:95.6~100.0)と高率だった。陽性検体のCt値も検討されているが、両群間で同等の結果であった。検査結果が不一致となったのが4例あったが、陽性検体において比較的高いCt値を示しており、ウイルスの排出量が少ない場合に一致率が低下する可能性が示唆された。 自己検体採取に関しては、過去に性感染症や呼吸器系ウイルス感染症で検討されており、成人において高い一致率が示されてきた。本研究では、小児において自己採取の高い精度を示しており、学校等におけるマススクリーニングで活用できる可能性がある。医療従事者が検体採取を行う場合、自己採取と比較して時間と費用がかかり、加えて、医療従事者は常に患者からの感染リスクを伴う。これらの観点から自己採取のメリットは大きく、自己採取と医療従事者採取で検査結果の一致率が高いのであれば、今後さらに自己採取による検査が広がる可能性がある。 本研究のLimitationとして以下のようなことが挙げられる。第1に、本研究の参加者はすべて有症状者であり、無症状の小児において同等の結果が得られるかは不明である。自己採取のメリットのひとつは、学校などの集団環境でのスクリーニング検査で用いることであるが、多くの人が無症候性であることが想定される場面での使用には大きな懸念事項がある。第2に、本研究は 2021年7月~8月のデルタ変異株の流行期に行われたことであり、変異株の違いがテスト結果に与える影響は不明である。第3に、不快感を伴う研究への自発的な参加においては、とくに子供が関与している場合、より協力的な子供だけが登録され、テストに消極的な子供の親は参加を辞退する可能性があるため、選択バイアスにつながる可能性がある。 新型コロナウイルス感染症は、早期に診断することによって重症化の防止や感染拡大の抑制につながる。自己検体採取はさまざまな場面で早期診断のための重要なツールとなりうるため、今後、無症候者や変異株の違いが検査結果に与える影響が検証され、検査方法として確立することを期待したい。

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高大連携で将来の外科医の種を蒔きました!【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第52回

第52回 高大連携で将来の外科医の種を蒔きました!先日、高校生に講義をする機会がありました。高校と大学が共同して教育を行う「高大連携」という取り組みです。高大連携とはその名の通り「高校と大学が連携して教育を行う」ことで、基本的には大学の講義を高校生のうちから体験できるというものです。大学受験では、行きたい学科を深く考えることなく選んでしまい、行ってみたら想像と違って後悔することも多いようです。高校生のうちに高大連携により大学の講義を受講すれば、学科で何をやっているかきちんと理解することができます。医学部医学科は、高校生にとって将来像がイメージしやすい学科といえるでしょう。大学にとっては、高校と連携して直接大学の魅力を知ってもらい、優秀な人材を集めることを期待できます。小生の場合は、地域の進学校といわれる高校で循環器内科領域の講義をしました。地域医療に貢献してくれる人材を滋賀医科大学にゲットすることが目標です。模擬講義として簡易な内容ではなく、実際に医学生に講義するレベルで真剣勝負してみました。実際に心臓が拍動する様子や、心臓カテーテル治療の様子、さらには心臓外科手術の様子など動画を交えて紹介しました。医療もののドラマが人気を博しているとはいえ、所詮はつくりものです。生の現場の醸し出す緊張感に高校生たちは目を凝らして聴講してくれました。講義の後に質疑応答の時間がありました。「医学部に進学し将来は外科医になりたいです。手が不器用なのですが大丈夫ですか?」「大丈夫! トレーニングすればOKです!」自分は外科医ではないのですが、勝手に自信をもって返答しました。不満に感じる外科医の方々もおられるかもしれません。小生も心臓カテーテル治療という手先の細かな動きが要求される手技をこなしてきた立場から、返答する資格はあるものとお許しください。そもそも、器用・不器用とは何なのでしょうか。手術は手品ではありません。1つ1つの手順を確実に間違うことなく積み重ねていくことによって手術が達成されます。アクロバティックなイチかバチかの手技をマジシャンのように行うわけではありません。むしろアクロバティックな手技を操ることができる術者は、どこかで大失敗しそうで怖いように思います。心臓外科では1つの手術に千以上の手順があるとされます。1つの手順の成功率が99.99%であったとします。つまり1万回に1回のミスしかしないということで、素晴らしく上手に感じます。99.99%つまり0.9999の1,000乗は90.4%と計算されます。1,000の手順をすべてミスなく順調に完遂する確率は約9割、1割はどこかで不都合が起きることになります。1割もの手術中の合併症発生率が容認されるはずがありません。それも術者1人ではなくチーム全体で全手順を完璧に行う必要があります。外科手術は、チームとして愚直なまでに個々の手順を確実に重ねていくことが大切なのです。トレーニングを積み重ね、個々の手順の手技を確実に遂行することが肝要で、逆説的にいうと個々の手順は神業的な手先の器用さを要求されるものではありません。トレーニングに邁進することができる能力がプロフェッショナルなのかもしれません。そうです、外科医に限らず医師はプロでなければならないのです。手術中に想定外に大出血しても淡々と血を止める動揺しない精神の強さや、スタッフをチームとして統率するコミュニケーション能力、イライラしたりしてスタッフに当たり散らかすことのない忍耐力などなど、外科医として、医師として必要な能力は多々あります。この完成の域に遠く及ばない自分ですが、いつかは極めてみたいプロフェッショナルの境地です。さきほどの高大連携の講義での質問の件に戻ります。不器用でも大丈夫と大見えを切ったのちに次の解説を加えました。外科医は、メスという刃物を凶器としてではなく治療器具として使います。「外科医は唯一人間を刃物で傷つけても許される職業」という言葉があります。自分自身は内科医ですが、外科医は誇りと責任感を常に持ち続けながら手術に臨んでいることが伝わってきます。今回の受講生から、医師となり循環器内科医や外科医を志す人材が登場することを願うばかりです。

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悪化するその慢性頭痛、MOHの可能性は?【知って得する!?医療略語】第20回

第20回 悪化するその慢性頭痛、MOHの可能性は?薬が原因になる頭痛があると聞きました。鎮痛薬の過剰な使用による頭痛があり、MOHと呼ばれています。≪医療略語アプリ「ポケットブレイン」より≫【略語】MOH【日本語】鎮痛薬使用過多による頭痛 (薬物乱用頭痛)【英字】medication-overuse headache【分野】脳神経【診療科】脳神経外科【関連】慢性片頭痛実際のアプリの検索画面はこちら※「ポケットブレイン」は医療略語を読み解くためのもので、略語の使用を促すものではありません。外来で慢性片頭痛患者の求めに応じて鎮痛薬を処方していると、いつの間にか鎮痛薬の処方量や処方頻度が増えていることがあります。そのような時、薬剤の使用過多による頭痛(MOH:medical-overuse headache)の可能性を疑う必要があります。MOHは国際頭痛分類(ICHD)では、物質またはその離脱による頭痛として二次性頭痛に分類されます。同分類は第2版(ICHD-2)までは「薬物乱用頭痛」と訳されていました。しかし、「薬物乱用頭痛」は、まるで非合法な薬剤を乱用しているようなイメージが連想されるため、第3版(ICHD-3)からは「薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛)」に翻訳が変更されています。MOHは片頭痛や緊張型頭痛で市販薬を含む鎮痛薬を過剰に服用することで生じる頭痛です。最初は月に数回程度の頭痛で鎮痛薬を服用していたものが、気付いたらほぼ連日にわたり頭痛薬を服用しているというものです。薬剤の使用過多は、薬の鎮痛効果の減弱を招き、さらに服用量が増えるという悪循環を招きます。MOHが生じるメカニズムは、痛みの調節系の異常だけではなく、薬物依存を形成する神経系と類似した機序の関与も推定されています。日本では市販の複合鎮痛薬によるMOHが主流を占める一方で、近年はトリプタン乱用頭痛の増加が指摘されています。ICHD-3によれば、MOHの診断基準は、慢性的な頭痛が月に15日以上存在し、1種類以上の治療薬を3ヵ月以上にわたり定期的に乱用し、ほかに最適なICHD-3の診断がないこと、となっています。MOHの治療原則は、使用過多になっている鎮痛薬の中止です。MOHが疑われる場合、患者さんにMOHの可能性を伝え、乱用している薬剤を中止し離脱を試みます。まずは患者さんにMOHについて説明し、使用過多の薬剤中止と予防薬を含めた代替薬の提案をします。MOH患者は、患者自身も薬が効かなくなっていることに薄々気付いていることも多く、中止に向けて努力してくれる方も少なくありません。しかし、筆者の経験上は多用していた鎮痛薬をスパッと止められないケースも多いのが現状です。軽い頭痛による鎮痛薬の使用を控え、「頭痛になるのでは…」という予期不安での薬剤使用を控えることから始めてもらう場合もあります。なお、うまく鎮痛薬の使用から離脱できても慢性頭痛が増悪する場合は、MOHは否定的となり、診断を考え直す必要があります。片頭痛に緩徐進行性(たとえば、肥厚性硬膜炎など)の二次性頭痛が併存する可能性も念頭に置く必要があると考えられ、必要に応じて画像のフォローも必要だと考えます。1)国際頭痛分類第3版(ICHD-3)日本語版:二次性頭痛2)五十嵐 久佳.神経治療. 2019;36:229-232.3)濱田 潤一. 臨床神経. 2011;51:1150-1152.

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第128回 厚労省有識者検討会で珍事、会の名称変更と第1回やり直しの背景に「薬価差益」

医薬品に関する有職者検討会が突如廃止こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末も、前半は台風が首都圏を直撃、屋外の遊びが難しい天候となりました。することもないので、再び映画館に「トップガン」を観に出かけました。「トップガン マーヴェリック」については、「第112回 規制改革推進会議答申で気になったこと(前編)タスクシフトへの踏み込みが甘かった背景」でも少し書きましたが、今回は、36年前の1986年に公開された「トップガン」第1作と、今年公開の「トップガン マーヴェリック」の連続上映です。大ヒットの「マーヴェリック」に気を良くしたパラマウント・ピクチャーズが、9月中旬から全国の主要映画館で上映しています。2作続けて観ると、最新作がいかに第1作をリスペクトして作られ、さまざまな伏線を見事に回収しているかがわかります。トム・クルーズの絶妙の老け具合や、前作では主役機だったF-14トムキャットの描かれ方。さらには、かつてマーヴェリックのライバルだった、ヴァル・キルマー演ずるアイスマンとのやり取りの意味などは、連続上映だからこそより深く伝わってくると言えるでしょう。ただ、続けて観ると上映時間は4時間を超えます(2本の間に休憩あり)ので、鑑賞前にビールはあまり飲まないほうがいいかもしれません。さて、今回は厚生労働省が開いた有識者検討会での珍事について書いてみたいと思います。8月31日に第1回が開かれたばかりの「医薬品の迅速かつ安定的な供給のための流通・薬価制度に関する有職者検討会」が突如廃止に追い込まれ、9月22日には「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」と名称が改められ、構成員も増員して再度仕切り直しの第1回が開催されたのです。会の名称自体は大して変わっていないのに、一体何が起こったのでしょう。この珍事の背景には、薬価差の議論のあり方を巡って、厚労省と日本医師会との間で激しいやりとりがあったようです。利害関係者を入れずに学識経験者のみで構成8月31日に開かれた第1回の「医薬品の迅速かつ安定的な供給のための流通・薬価制度に関する有識者検討会」では、冒頭、厚労省が国内市場の動向、国内未承認薬の状況、新薬創出等加算の状況、薬価改定の概要、後発医薬品の使用促進施策、後発品企業の不祥事やそれに伴う供給不足、流通改善に向けた課題などについて説明し、その後8人の構成員がそれぞれの問題意識を発表しました。この有識者検討会は利害関係者を入れずに大学教授など学識経験者のみで構成したのがポイントで、利害から離れた自由な議論の中から薬価制度の今後の方向性を導きたい、というのが厚労省の狙いでもありました。日医が「『診療側抜き』での薬価差論議に反発」と報道しかし、この動きに敏感に反応したのが日本医師会でした。そのあたりの裏事情を9月21日付のRISFAXは、「業界期待の有識者検討会、たった1回で廃止 厚労省『診療側抜き』での薬価差論議に反発、“あるべき論”の理想崩れる」というタイトルで詳報しています。同記事は、有識者検討会は「初会合終了後にはさっそく、日本医師会周辺から厚生労働省に対して強烈な“横やり”が入り、病院経営に不可欠な薬価差のあり方にも踏み込んだ議論を『診療側抜きで進めようとしているのはけしからん』との圧力がかか」って、「異例の『廃止』に追い込まれた」と報じています。有識者検討会は9月8日に第2回が開催予定でしたが、開催案内が一向に公表されず、20日になってようやく、「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」と名称を変えて、22日に改めて初会合が開かれることが公表されました。RISFAXは、「8月の内閣改造で、日医の組織内候補である羽生田 俊参院議員が副大臣に就くといった状況もあり、独立した議論を行うという厚労省の理想が崩れてしまった」と書いています。“外野”では製薬団体も市場実勢価格に基づく薬価改定方式の見直しを主張実はこの有識者会議と並行する形で、“外野”ではこんな議論も行われていました。ミクスOnlineなどの報道によれば、日本製薬工業協会の岡田 安史会長(エーザイ代表執行役COO)は8月30日の記者会見で、「医療機関や薬局にとっては薬価差から得られる収益が経営の極めて重要な要素となっている現状だ。一方で、その薬価差に関する“透明性・妥当性には課題がある”」との問題意識を示したうえで、「薬価差は国民負担となっている」とし、「現行の市場実勢価格に基づく薬価改定方式の抜本的見直しを検討する時期にまさしく来ている」と強調、8月31日から開かれる「医薬品の迅速かつ安定的な供給のための流通・薬価制度に関する有識者検討会」での議論への期待を語っていました。また、日本製薬団体連合会の眞鍋 淳会長(第一三共代表取締役社長兼CEO)も有識者検討会が開かれた後の9月1日、日刊薬業の取材に対し、市場実勢価に基づく薬価改定方式の抜本的見直しについて、「製薬企業や卸、薬局・医療機関がそれぞれ適切なマージンを取った上で余った薬価差を国民に還元する」という具体案を示しています(9月2日付日刊薬業)。このような、製薬企業側から薬価制度見直しに向けた発言が活発化している背景には、市場実勢価格に基づく薬価引き下げが長年行われてきたことで、薬価が限界近くまで下がりきってしまい、製薬企業の経営や新薬開発などにも影響が及んでいることや、日本市場の魅力低下や、ドラッグラグの発生をも招いていることが挙げられます。薬価差を手放したくない医療機関ただ一方で、公定価格である薬価と、医療機関が薬を実際に購入する価格の差である薬価差は、医療機関にとっても経営的に手放したくない部分であるのは確かです。こうした“外野”からの発言に対し、就任後はあまり表に出てこなかった日医の松本 吉郎会長が動きました。9月7日の定例会見で、「薬価差は、あくまで市場が決めるということが基本的な考えだ」と語るとともに、現行の市場実勢価格に基づく薬価改定方式について、「ある程度の薬価差益はやむを得ないものと考える。これを急に変えることは、かえって混乱を起こす」と見直しに慎重な姿勢を表明したのです。4人の構成員を追加して再スタートといった流れの後、9月22日に初会合が開かれた第1回「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」では、INCJ(旧:産業革新機構)役員や医療コンサルタント会社社長など、4人が構成員に加わりました。また、開催要項の中の検討事項には、それまでの「医療用医薬品の流通・薬価に関する現状の課題」「現状の課題を踏まえた医療用医薬品の目指すべき流通や薬価制度の在り方」に加えて、「産業構造の検証」も入ることになりました。この日は、最初の第1回にあったような厚労省からの状況説明はなく、日本製薬団体連合会、日本製薬工業協会、米国研究製薬工業協会等からのヒアリングが行われました。「薬価差」が議論の焦点となり、日刊薬業などの報道によれば、日本製薬団体連合会の眞鍋会長は薬価差について「医療機関や薬局の経営原資の一部となっており、薬価が引き下げられても同程度の薬価差は再び発生する」として、「現行の市場実勢価格に基づく薬価改定方式の継続は新薬アクセスや医薬品の安定供給に影響を及ぼす」と主張、薬価改定方式のあり方を検討する際は「薬価差について関係者が共通の認識を持つ必要がある」と述べたとのことです。そして、共通認識の論点として「薬価差を是とするか非とするか」「医療機関や薬局の経営原資の一部になっているということでよいか」などを挙げたとのことです。全体、内容的には第1回というより、第2回の体裁と言えそうです1)。検討会の名称を変え、メンバーを追加し、「産業構造の検証」を検討事項に追加した以外に、厚労省が日本医師会と裏でどういった“手打ち”を行ったのかは不明です。薬価差益をひたすら追い求める経営姿勢は改められるべきこの20年ほどで医薬分業が急速に進みました。医療機関にとって薬価差益はあまり関係ない(むしろ薬局の問題だ)と見る向きもありますが、2021年社会医療診療行為別統計の概況によれば、院外処方を採用している病院は病院81.1%、診療所は77.6%で、以前2割近くの病院・診療所が院内処方のままで、薬価差の収入をあてにした経営を行っています。しかし、製薬協の岡田会長も述べたように、最終的に「薬価差は国民負担となっている」のです。後発品使用が推進される中でも、薬価差が大きい先発品を使い続ける医療機関、同じく薬価差目当てでバイオシミラーではなく、先行バイオ医薬品だけを使い続ける医療機関など、国の医療費増大は他人事として、経営のため薬価差益をひたすら追い求める姿勢はやはり改められるべきでしょう。新しい有識者検討会では、医療機関への影響が最低限となるような制度改革の提言に落ち着きそうな予感もしますが、せめて、薬価差が医療機関や薬局を必要以上に潤す構造にはメスを入れてほしいと思います。参考1)医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会/厚生労働省

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