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米国での循環器専門医試験を終えて【臨床留学通信 from Boston】第8回

米国での循環器専門医試験を終えて昨年の10月に、米国の循環器専門医試験を受けました。結果として無事に合格でき、晴れて日米総合内科、循環器内科専門医となれましたので、その過程を共通させていただきます。この専門医試験は、合格しなければ仕事にならない、もしくは仕事がみつからないほど重要な試験です。そのため真剣に試験を受ける必要があるのですが、今回はとくに過酷なスケジュールでした。10月下旬に試験が行われましたが、私は7月からMGH(マサチューセッツ総合病院)のカテーテルフェローとして昼夜問わず多忙で疲弊しきっていたため、正直なところ十分な準備時間を確保することができていませんでした。それでも試験の申し込み費用が2,500ドル(約40万円)と高額であることから、とりあえず不合格だけは避けることを目標に試験対策を行いました。主に使用した教材として、ACC(米国心臓病学会)に準拠した「ACCSAP」というアプリベースの問題集を、隙間時間に約600問解きました。総合内科は「MKSAP」という問題集がありましたが、それの循環器版です。循環器領域は馴染みがあるので難なく対応できるのですが、先天性心疾患など普段診ない専門性の高い疾患については特別な対策が必要でした。この分野に関しては、メイヨークリニックから出されているボードレビュー動画を活用しました。動画は35時間もあり、到底全部見ることはできませんが、弱点の分野を絞り込み、英語ですが1.5倍速で視聴しました。試験は2日間で行われました。1日目は2時間×4セッションで、知識問題をコンピューターベースで解答します。米国の試験はすべてコンピューターベースになっていて、日本のように東京の会場に集まるということはありません。ただし8時間もあるのがなかなか大変でした。合格点は320点、平均点が459点の中、私は567点で問題ありませんでした。2日目は心電図、心エコー、冠動脈造影の読影テストです。5つの選択肢から解答を1つ選ぶといったよくある形式だと楽なのですが、この試験はユニークな形式で、たとえば心電図所見の選択肢が100個ほどあり、その中から適切なものだけ選びます。選び過ぎると減点される過酷な形式でした。心電図を見て、洞調律、左房負荷、左室肥大、であればそれだけしか選べず、微妙な左軸偏位がないのにそう読んでしまうと減点、というようなものです。この試験はより対策が必要で、「ECG source」というウェブサイトで600問の問題をひたすら解きました。すべて解くのは到底無理で、効率も悪く、実際の感触は今ひとつでした。試験本番では、合格点が352点、平均点が463点の中で、私は542点を取得し、無事クリアしました。おそらく合格率は80~90%程度だと思われます。ほっと一息つくことができました。今年の11月にはInterventional Cardiologyの専門医試験があります。この試験の受験費用はなんと2,900ドルと45万円超。フェローの収入でこれだけの費用を捻出するのは厳しいので驚愕しています。Column今年は幸先良く、ACCの機関誌であるJACC(IF:21.7)に、私がcorresponding author/co-senior authorを担当した、STEMIに対する完全血行再建に関するメタ解析を掲載することができました1)。また、JAMA Cardiology(IF:14.7)に、co-first authorとしてApoBに関する論文を発表しました2)。カテーテル手技に多くの時間を費やしていますが、研究活動も続けていきたいと思います。1)Ueyama HA, Kuno T, et al. Optimal Strategy for Complete Revascularization in ST-Segment Elevation Myocardial Infarction and Multivessel Disease: A Network Meta-Analysis. J Am Coll Cardiol. 2025;85:19-38.2)Slipczuk L, Kuno T, et al. Heterogeneity of Apolipoprotein B Levels Among Hispanic or Latino Individuals Residing in the US. JAMA Cardiol. 2025 Jan 2. [Epub ahead of print]

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GIP/GLP-1受容体に作用する週1回の肥満症治療薬「ゼップバウンド皮下注」【最新!DI情報】第32回

GIP/GLP-1受容体に作用する週1回の肥満症治療薬「ゼップバウンド皮下注」今回は、持続性GIP/GLP-1受容体作動薬「チルゼパチド(商品名:ゼップバウンド皮下注2.5mg/5mg/7.5mg/10mg/12.5mg/15mgアテオス、製造販売元:日本イーライリリー)」を紹介します。本剤は、週1回投与の肥満症治療薬であり、食欲を調節すると同時に、脂質などの代謝を亢進させることによって体重を減少させることが期待されています。<効能・効果>肥満症を適応として、2024年12月27日に製造販売承認を取得しました。本剤は高血圧、脂質異常症または2型糖尿病のいずれかを有し、食事療法・運動療法を行っても十分な効果が得られず、以下に該当する場合に使用されます。BMIが27kg/m2以上であり、2つ以上の肥満に関連する健康障害を有するBMIが35kg/m2以上<用法・用量>通常、成人には、チルゼパチドとして週1回2.5mgから開始し、4週間の間隔で2.5mgずつ増量し、週1回10mgを皮下注射します。患者の状態に応じて適宜増減し、週1回5mgまで減量、または4週間以上の間隔で2.5mgずつ週1回15mgまで増量することができます。なお、本剤は週1回投与する薬剤であり、同一曜日に投与します。<安全性>重大な副作用として、低血糖、胆嚢炎、胆汁うっ滞性黄疸、アナフィラキシー、血管性浮腫(いずれも頻度不明)、急性膵炎、胆管炎(いずれも0.1%未満)が報告されています。胃腸障害が現れた場合は急性膵炎の可能性を考慮し、必要に応じて画像検査などによる原因の精査が行われることがあります。また、下痢や嘔吐が続くことで脱水となり、急性腎障害を起こす恐れがあるため、適度な水分補給が必要です。その他の副作用は、悪心、嘔吐、下痢、便秘、腹痛、消化不良、食欲減退、注射部位反応(紅斑、そう痒感、疼痛、腫脹など)(いずれも5%以上)、腹部膨満、胃食道逆流性疾患、おくび、鼓腸、疲労、浮動性めまい、脱毛症(いずれも1~5%未満)、心拍数増加、低血圧、血圧低下、胆石症、糖尿病網膜症、過敏症(湿疹、発疹、そう痒性皮疹など)、味覚不全、異常感覚、膵アミラーゼ増加、リパーゼ増加、体重減少(いずれも1%未満)があります。<患者さんへの指導例>1.この薬は肥満症の患者さんのうち、高血圧や脂質異常症、または2型糖尿病のいずれかを有し、食事療法・運動療法を行っても十分な効果が得られない人に用いられます。2.この薬は食欲を調節すると同時に、脂質などの代謝を亢進させることによって体重を減少させる作用があります。3.美容やダイエットの目的で使用しないでください。4.この薬の使用中も食事療法・運動療法を継続してください。5.週1回の投与で効果が持続するように製剤的な工夫をした注射薬です。毎週、同じ曜日に注射してください。6.のどの渇きや立ちくらみなどの脱水症状が現れた場合は、十分な水分摂取を行い、速やかに主治医に相談してください。<ここがポイント!>ゼップバウンドは、持続性のグルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)およびグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)の2つの受容体に作用する持続性GIP/GLP-1受容体作動薬です。本剤の成分であるチルゼパチドは、2023年4月より2型糖尿病の治療薬としてマンジャロの商品名で販売されていますが、今回新たに肥満症の治療薬として承認を取得しました。肥満症は個人の生活習慣のみによって引き起こされるという誤解がありますが、遺伝的、心理的、社会的なさまざまな要因が複合的に影響し発症する慢性疾患です。チルゼパチドは中枢神経系においてGIP/GLP-1受容体に作用して食欲を調節すると同時に、脂肪細胞のGIP受容体に作用して脂質などの代謝を亢進し、体重を減少させる効果があります。本剤は、食事療法や運動療法を行っても十分に効果が得られない高血圧、脂質異常症または2型糖尿病のいずれかを有する患者を対象にしています。美容や痩身、ダイエットなど肥満症治療以外の目的で使用することはできません。投与には1回使い切りのオートインジェクター型注入器(商品名:アテオス)を使用し、週1回皮下注射します。適切な在宅自己注射教育を受けた患者または家族は自宅で自己注射が可能です。日本人肥満症患者を対象とした国内第III相試験(GPHZ試験:SURMOUNT-J)において、投与72週時の体重のベースラインからの平均変化率は、プラセボ群が-1.8%であったのに対し、チルゼパチド10mg群では-18.4%、チルゼパチド15mg群では-22.6%であり、チルゼパチド両群でプラセボ群に対する優越性が示されました。また、5%以上の体重減少を達成した試験参加者の割合は、プラセボ群が21.2%であったのに対し、チルゼパチド10mg群では94.9%、チルゼパチド15mg群では96.9%であり、チルゼパチド両群でプラセボ群に対する優越性を示しました。

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第252回 依存や鎮静などを回避しうる新しい鎮痛薬を米国が承認

ここ20年以上なかった新しい作用機序の非オピオイド鎮痛薬を米国FDAが先週金曜日に承認しました1,2)。承認されたのは昨春2月に本連載でも取り上げた米国のバイオテクノロジー企業であるVertex Pharmaceuticals社の経口錠剤です。製品名をJournavxといい、その成分suzetrigineは依存や鎮静などの有害事象と背中合わせのオピオイド受容体ではなく、痛み信号伝達に携わる末梢感覚神経のNaチャネルを標的とします。suzetrigineは数ある電位開口型Naチャネルの1つであるNaV1.8に限って阻害します。Naチャネルは扉のような役割を担い、神経細胞を伝う電気信号に応じて開閉します。その働きによるNaイオンの通過をとっかかりとする一連の神経反応によって脳へと痛み信号が伝わっていきます3)。suzetrigineの開発はNaV1.8の活性を高める変異一揃いの発見4)に端を発します。NaV1.8を開きっぱなしにするそれらの変異を有する人は、無傷にもかかわらずひどい神経痛を被っていました。ゆえに、NaV1.8を阻害することで痛みを減らせるだろうと想定され、NaV1.8を強力に阻害するsuzetrigineがいくつかの試みから頭ひとつ抜けて今回の承認に漕ぎ着けました。suzetrigineは昨年1月に初出の2つの第III相試験の結果5)を拠り所にして承認されました。その1つでは軟部組織の痛みを代表する腹部美容手術(腹部の過剰脂肪を除去する腹壁形成術)後の痛み、もう1つでは骨痛として代表的な外反母趾手術後の痛みへの同剤の効果が調べられ、2試験ともsuzetrigineの鎮痛効果がプラセボを上回りました。ただし、オピオイド含有薬(ヒドロコドンとアセトアミノフェンの組み合わせ)との鎮痛効果の比較でsuzetrigineは勝てませんでした。suzetrigineの安全性はより良好で、有害事象の発現率はプラセボ群より少なくて済みました5)。中等度~重度の急な疼痛の治療に使うことが許可されたsuzetrigineの1錠の値段は15.5ドルです。初回の用量は100mgで、その後1日に1錠を2回服用6)する患者の1日当たりの値段は31ドルとなります。慢性痛への効果はどうやら覚束ない次にsuzetrigineが目指すのはオピオイドに代わるより安全な鎮痛薬がより切実に待望される、いわば本丸の慢性痛治療の適応獲得であり、糖尿病性末梢神経障害患者を対象にした同剤の第III相試験が昨年の後半にすでに始まっています7)。一見順調そうだったその前途は、昨年の暮れに発表された第II相試験結果を受けて今や傍目には覚束なくなったように見えます。同試験には坐骨神経痛(LSR)患者が参加し、suzetrigine投与群102例の疼痛数値評価尺度(NPRS)の低下はプラセボ群100例と差がつきませんでした8)。Vertex社によると、プラセボ効果は試験を担った54施設ごとにまちまちでした。プラセボ効果がより低かったおよそ40%の施設のsuzetrigine投与患者47例の12週時点のNPRS低下は2点弱で、全体集団と遜色がありませんでした。ゆえにそれら40%の施設でのsuzetrigineの効果は、プラセボ群36例の1点弱のNPRS低下に比べて良好でした9)。Vertex社にどうやら迷いはなく、LSR相手のsuzetrigineの第III相試験を米国FDAなどの規制当局との相談(discussions with regulators)の後に始めます。第III相試験はより整ったプラセボ効果になるように設計すると同社は言っています8)。参考1)Vertex Announces FDA Approval of JOURNAVX (suzetrigine), a First-in-Class Treatment for Adults With Moderate-to-Severe Acute Pain / BusinessWire2)FDA Approves Novel Non-Opioid Treatment for Moderate to Severe Acute Pain / PRNewswire 3)Dolgin E. Nature. 2025 Jan 31. [Epub ahead of print]4)Faber CG, et al. Proc Natl Acad Sci USA. 2012;109:19444-9.5)Vertex Announces Positive Results From the VX-548 Phase 3 Program for the Treatment of Moderate-to-Severe Acute Pain / BusinessWire6)Journavx prescribing information7)Vertex Announces Positive Results From the VX-548 Phase 3 Program for the Treatment of Moderate-to-Severe Acute Pain / BusinessWire 8)Vertex Announces Results From Phase 2 Study of Suzetrigine for the Treatment of Painful Lumbosacral Radiculopathy / BusinessWire 9)SUZETRIGINE (VX-548) PHASE 2 RESULTS IN PAINFUL LUMBOSACRAL RADICULOPATHY / Vertex

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治療転帰、男女医師で有意差~35研究のメタ解析

 これまでに、女性医師が治療した患者は男性医師が治療した患者よりも転帰が良く、医療費も低くなる可能性が報告されている。医師と患者の性別の一致も転帰に影響する可能性があるが、これまでの研究では有意差は確認されておらず、統合解析によるエビデンスはほとんどない。今回、米国・メイヨークリニックのKiyan Heybati氏らがランダム効果メタ解析を実施した結果、女性医師の治療を受けた患者は、男性医師の治療を受けた患者に比べ死亡率が有意に低く、再入院も少なかったことがわかった。BMC Health Services Research誌2025年1月17日号に掲載。 本研究では、MEDLINEとEMBASEの開始から2023年10月4日まで検索し、関連研究を手作業で検索した。メタ解析には、成人(18歳以上)を登録し、内科および外科の専門領域にわたって医師の性別の影響を評価した観察研究を含めた。バイアスのリスクはROBINS-Iを用いて評価した。事前のサブグループ分析は、患者タイプ(外科対内科)に基づいて実施した。主要評価項目は全死亡率、副次評価項目は合併症、再入院、入院期間など。 主な結果は以下のとおり。・35件(1,340万4,840例)の観察研究のうち、20件(891万5,504例)は外科医の性別の影響を評価し、残りの15件(448万9,336例)は内科治療/麻酔ケアにおける医師の性別に焦点を当てた研究であった。バイアスのリスクがmoderateと評価されたのは15件、severeが15件、criticalは5件だった。・女性医師が治療した患者の死亡率は男性医師が治療した患者よりも有意に低く(オッズ比[OR]:0.95、95%信頼区間[CI]:0.93~0.97、PQ=0.13、I2=26%)、これは外科医と非外科医で一貫していた(相互作用:p=0.60)。・有意な出版バイアスは検出されなかった(Egger検定:p=0.08)。・女性医師による内科治療/麻酔ケアを受けた患者では再入院率が有意に低かった(OR:0.97、95%CI:0.96~0.98)。・9件(716万3,775例)の研究の質的統合では、医師と患者の性別の一致は良好なアウトカムと関連し、とくに女性医師と女性患者の一致で良好だった。 著者らは「すべての患者の健康アウトカムを最適化するためには、異なる国々のほかの医療状況におけるこれらの影響を検証し、根底にある機序と長期アウトカムを理解するために、さらなる研究が必要」としている。

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軽症例が多かった2023年の救急搬送の現状/消防庁

 総務省消防庁は、1月24日に「令和6年版 救急・救助の現況」を公表した。2023(令和5)年の救急出動件数(消防防災ヘリコプターを含む)は764万987件、搬送人員は664万3,379人だった。また、現場到着所要時間*1の平均は約10.0分だった。1)救急出動件数および搬送人員 救急出動件数は全体で764万987件(対前年比40万8,869件増、5.7%増)、搬送人員は664万3,379人(対前年比42万4,080人増、6.8%増)で前年と比較して救急出動件数、搬送人員ともに増加した。そのうち救急車による救急出動件数は763万8,558件(対前年比40万8,986件増、5.7%増)、搬送人員は664万1,420人(対前年比42万4,137人増、6.8%増)で救急出動件数、搬送人員ともに前年と比較して増加した。2)事故種別の救急出動件数および搬送人員 救急車による救急出動件数の内訳を事故種別ごとにみると、「急病」が517万4,494件(対前年比28万9,864件増、5.9%増)、「一般負傷」が118万5,397件(対前年比8万4,116件増、7.6%増)、「転院搬送」が55万6,367件(対前年比1万9,008件増、3.5%増)の順で多かった。また、事故種別ごとの搬送人員をみると、「急病」が449万5,904人(対前年比30万9,454人増、7.4%増)、「一般負傷」が105万9,922人(対前年比7万3,964人増、7.5%増)、「転院搬送」が55万2,422人(対前年比2万206人増、3.8%増)の順で多かった。 過去20年における事故種別の搬送人員と構成比の5年ごとの推移では、事故種別ごとの救急出動件数と同様に、「急病」と「一般負傷」が増加していた。3)年齢区分別の搬送人員 救急車による搬送人員の内訳を年齢区分別にみると、「高齢者」が409万3,552人(対前年比23万399人増、6.0%増)、「成人」が196万8,232人(対前年比10万5,844人増、5.7%増)、「乳幼児」が33万6,047人(対前年比6万1,907人増、22.6%増)の順で多かった。とくに高齢者では、65~74歳が93万627人(構成比14.0%)、75~84歳が155万3,433人(構成比23.4%)、85歳以上が160万9,492人(構成比24.2%)と年齢が上がるほど増加していた。4)傷病程度別の搬送人員 救急車による搬送人員の内訳を傷病程度別にみると、「軽症(外来診療)」が321万8,832人(対前年比27万8,726人増、9.5%増)、「中等症(入院診療)」が285万622人(対前年比14万7,825人増、5.5%増)、「重症(長期入院)」が48万1,993人(対前年比1,042人増、0.2%増)の順で多かった。また、過去20年における傷病程度別の搬送人員と構成比の5年ごとの推移をみると、「軽症(外来診療)」の構成比は減少しているが搬送人員は増加しており、「中等症(入院診療)」は搬送人員、構成比ともに増加していた。5)救急車による現場到着所要時間および病院収容所要時間 救急車による現場到着所要時間*1の平均は約10.0分(前年約10.3分)となっており、新型コロナ流行前の2019年の8.7分と比べ、約1.3分延伸していた。また、病院収容所要時間*2の平均は約45.6分(前年約47.2分)となっており、2019年の39.5分と比べ、約6.1分延伸していた。*1 現場到着所要時間:119番通報を受けてから現場に到着するまでに要した時間*2 病院収容所要時間:119番通報を受けてから医師に引き継ぐまでに要した時間

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血清ビタミンDレベルと片頭痛との関連

 ビタミンDは片頭痛の発症と関連していると考えられているが、その関連の本質は、十分に解明されているとはいえない。いくつかの研究において、ビタミンD欠乏と片頭痛との関連が示唆されているが、一貫性はなく、決定的な結果が得られていない。中国・河南中医薬大学のShunfa Hao氏らは、ビタミンDと片頭痛の関連をより深く理解するため、本研究を実施した。その結果、血清ビタミンDレベルと片頭痛有病率との間に、負の相関が認められたことを報告した。PloS One誌2025年1月3日号の報告。 対象患者は、2001〜04年の米国国民健康栄養調査(NHANES)データより抽出した9,142人。血清ビタミンDレベルの定義は、25(OH)D2+25(OH)D3(nmol/L)とした。片頭痛に関する情報は、NHANES質問票のその他の頭痛の項より、自由記入に基づき収集した。ビタミンDと片頭痛リスクとの関連性の評価には、多重ロジスティック回帰、smoothed curve fitting、層別化解析を用いた。 主な結果は以下のとおり。・片頭痛の有病率は20.53%であった。・血清ビタミンDレベルが低い人は、片頭痛の有病率が高かった。・完全に調整したモデルにおいて血清ビタミンDレベルの最高四分位群は、最低四分位群と比較し、片頭痛の有病率が16%低かった(オッズ比:0.84、95%信頼区間:0.71〜0.99)。・この結果は、層別化解析、smoothed curve fittingでも同様であった。

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過体重/肥満の2型糖尿病、ダパグリフロジン併用で寛解率が大きく改善/BMJ

 過体重または肥満を伴う2型糖尿病患者において、カロリー制限療法単独と比較してSGLT2阻害薬ダパグリフロジンと定期的なカロリー制限の併用は、大幅に高い糖尿病寛解率を達成し、体重減少やさまざまな代謝性リスク因子(体脂肪率、インスリン抵抗性指数[HOMA-IR]、収縮期血圧、空腹時血糖値、HbA1c値など)も有意に改善することが、中国・復旦大学のYuejun Liu氏らの検討で示された。研究の成果は、BMJ誌2025年1月22日号に掲載された。中国の無作為化プラセボ対照比較試験 研究グループは、2型糖尿病の寛解に及ぼすダパグリフロジン+カロリー制限療法の有効性の評価を目的に多施設共同二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験を行い、2020年6月~2023年1月に中国の16の施設で患者を登録した(中国国家自然科学基金などの助成を受けた)。 年齢20~70歳の2型糖尿病(罹患期間6年未満)で、BMI値25以上、HbA1c値6.5~10%の患者328例を対象とした。これらの患者を、カロリー制限療法に加え、ダパグリフロジン(10mg/日)を投与する群(165例)、またはプラセボを投与する群(163例)に無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、糖尿病の寛解(抗糖尿病薬の投与を2ヵ月以上受けておらず、HbA1c値<6.5%かつ空腹時血糖値<126mg/dL)とした。 全体の平均年齢は46.7歳、男性が218例(66%)で、平均BMI値は28.2、平均HbA1c値は7.3%であり、148例(45%)がベースラインでメトホルミンの投与を受けていた。介入期間中央値は、ダパグリフロジン群が9ヵ月(四分位範囲:4~12)、プラセボ群は12ヵ月(4~12)だった。HDLコレステロール、トリグリセライドも改善 12ヵ月の時点での糖尿病寛解率は、プラセボ群が28%(46例)であったのに対し、ダパグリフロジン群は44%(73例)と有意に良好であった(リスク比:1.56[95%信頼区間[CI]:1.17~2.09]、p=0.002)。 また、副次アウトカムであるベースラインから最終受診時までの体重の変化量(ダパグリフロジン群-5.0[SD 4.5]kg vs.プラセボ群-3.2[3.8]kg、推定群間差:-1.3kg[95%CI:-1.9~-0.7]、p<0.001)およびHOMA-IRの変化量(-1.8 vs.-0.6、-0.8[-1.1~-0.4]、p<0.001)も、プラセボ群に比べ、ダパグリフロジン群で優れた。 同様に、体脂肪率の変化量(-2.1[SD 2.8]% vs.-1.4[3.4]%、-0.5%[95%CI:-0.9~0]、p=0.05)、収縮期血圧の変化量(-4.0[12.3]mmHg vs.-3.6[13.1]mmHg、-1.9mmHg[-3.0~-0.7]、p=0.002)、空腹時血糖値の変化量(-23.4[25.0]mg/dL vs.-13.8[29.1]mg/dL、-9.2mg/dL[-11.8~-6.7]、p<0.001)、HbA1c値の変化量(-1.0[1.0]% vs.-0.8[0.9]%、-0.2%[-0.3~-0.1]、p=0.003)のほか、HDLコレステロール値の変化量(4.8[6.9]mg/dL vs.2.3[6.2]mg/dL、1.3mg/dL[0.4~2.2]、p=0.003)、トリグリセライド値の変化量(-17.3[-62.0~7.1]mg/dL vs.-4.4[-35.4~20.4]mg/dL、-16.4mg/dL[-31.3~-1.6]、p=0.03)もダパグリフロジン群で良好だった。軽度~中等度の有害事象の発現率は同程度 ダパグリフロジン群で重篤な有害事象が2例(1.2%、いずれも尿路感染症による入院)に発現した。試験期間中の死亡例はなく、軽度~中等度の有害事象の発現率は両群で同程度だった。 著者は、「これらの知見は、初期の2型糖尿病患者の寛解の達成において、強力な体重管理以外の新たな選択肢として、より実践的な戦略を提供するものである」としている。

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がん診断前の定期的な身体活動はがんの進行や死亡リスクを低下させる?

 がんと診断される前に運動を定期的に行っていた人では、がんとの闘いに成功する可能性が高まるようだ。がんの診断前に、たとえ低水準でも身体活動を行っていた人では、がんの進行リスクや全死亡リスクが低下する可能性のあることが明らかになった。ウィットウォーターズランド大学(南アフリカ)のJon Patricios氏らによるこの研究結果は、「British Journal of Sports Medicine」に1月7日掲載された。 研究グループによると、運動ががんによる死亡のリスク低下に重要な役割を果たしていることに関しては説得力のあるエビデンスがあるものの、がんの進行に対する影響については決定的なエビデンスがない。 この点を明らかにするためにPatricios氏らは今回、南アフリカで最大の医療保険制度であるDHMS(Discovery Health Medical Scheme)のデータを用いて、2007年から2022年の間にステージ1のがんと診断された患者2万8,248人を対象に、がんの進行および全死亡と診断前の身体活動との関連を検討した。がん種で最も多かったのは乳がん(22.5%)と前立腺がん(21.4%)であった。フィットネスデバイスのデータやジムでの運動記録などから、がんの診断前12カ月間の対象者の身体活動レベルを調べ、身体活動なし(62%)、低水準の身体活動量(中強度以上の身体活動を週平均60分未満、13%)、中〜高水準の身体活動量(中強度以上の身体活動を週平均60分以上、25%)の3群に分類した。 解析の結果、中〜高水準の身体活動量の群では、がんの進行率と全死亡率の低いことが明らかになった。がん進行のリスクは、身体活動なしの群と比べて、低水準の身体活動量の群では16%(ハザード比0.84、95%信頼区間0.79〜0.89)、中〜高水準の身体活動量の群では27%(同0.73、0.70〜0.77)、全死亡リスクはそれぞれ33%(同0.67、0.61〜0.74)と47%(同0.53、0.50〜0.58)低かった。 診断から2年後にがんの進行が認められなかった対象者の割合は、身体活動なしの群で74%、低水準の身体活動量の群で78%、中〜高水準の身体活動量の群で80%であった。同割合は、3年後ではそれぞれ71%、75%、78%、5年後では66%、70%、73%であった。全死亡についても同様のパターンが認められ、2年後に生存していた対象者の割合は、91%、94%、95%、3年後では88%、92%、94%、5年後では84%、90%、91%であった。 Patricios氏らは、「身体活動は、がんと診断された人に対して、がんの進行と全死亡の観点で大きなベネフィットをもたらすと考えられる」と結論付けている。また、研究グループは、身体活動には自然免疫力を強化して、体ががんと闘う準備を整える効果があるのではないかと推測している。身体活動はまた、体内のエストロゲンとテストステロンのバランスやレベルの調整を改善することで、乳がんや前立腺がんなどのホルモンが原因のがんの進行リスクを低下させる可能性も考えられるという。 本研究結果に基づき研究グループは、「がんが依然として公衆衛生上の重大な課題である現状を踏まえると、身体活動の促進は、がんの進行だけでなく、その予防と管理においても重要なベネフィットをもたらす可能性がある」と指摘。「公衆衛生ガイドラインは、がんを予防するだけでなく、がんの進行リスクを軽減するためにも身体活動の実施を奨励すべきだ」と提言している。

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高齢者の集中力維持に最適な室温はどれくらい?

 室温は、高齢者の脳の健康に直接的な影響を与える可能性があるようだ。米マーカス加齢研究所のAmir Baniassadi氏らによる新たな研究で、65歳以上の高齢者が、「集中力を維持するのが困難だ」と報告する可能性が最も低い温度は20〜24℃であることが明らかになった。この研究の詳細は、「The Journals of Gerontology: Series A」に12月3日掲載された。 本研究の背景情報によると、人間は、加齢とともに気温の急激な変化に対応する能力が低下する。体温を調節する能力は加齢とともに低下するものだが、慢性疾患を抱えていたり、それに対する治療薬を服用していたりする場合には、その傾向がさらに強まる。研究室ベースの研究では、周囲の温度と認知機能は因果関係にあり、極端な温度の上昇が高齢者の認知機能に悪影響を与え得ることが示されている。 この研究では、室温がどの程度上昇または低下すると、高齢者の自己報告による集中力に影響が現れるのかを検討したもの。Baniassadi氏らは、研究参加者である65歳以上の高齢者47人の自宅に、温度を監視するセンサーを設置するとともに、12カ月間にわたって毎日スマートフォンを使って、「今、自分がやっていることに集中し続けるのは困難ですか?」というアンケートに答えるよう求めた。 その結果、集中力に関する調査時の室温と集中力との間にU字型の関係が確認された。参加者が「集中力の維持が困難」と報告するオッズ比は、室温が20〜24℃のときに最も低くなり、この範囲から4℃上昇または低下すると同オッズ比は2倍になることが明らかになった。 こうした結果を踏まえてBaniassadi氏は、「われわれの研究結果は、室温などの環境要因が高齢者の認知機能に与える影響を理解することの重要性を強調している」とマーカス加齢研究所のニュースリリースで述べている。 これらの研究結果が示唆する重要なことは、気候変動が多くの高齢者の脳に影響を及ぼし、認知機能低下のリスクを高める可能性があるという点だ。Baniassadi氏らは、「裕福な社会であっても、高齢者の多くは暖房や冷房のシステムを購入する経済的余裕がないか、システムがあってもそれらを適切に使用するための運動能力や認知能力が不足していることもある。そのため、家庭内の環境は重要な役割を果たす」と述べる。そして、「したがって、われわれは、高齢者が快適に過ごすことができ、健康増進につながる家庭内の温熱環境を維持できるようにするための技術的、財政的、政策的介入を検討することを推奨する。そのような介入の例としては、認知障害や身体障害のある高齢者の特定のニーズに応える自動温度制御システムの開発、彼らをエネルギー貧困から守るための財政支援、住宅改修への投資、受動的な形で将来の気候変動に対応するための住宅の耐性を高める政策などが挙げられる」と付言している。

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COVID-19パンデミック前後で医療の利用状況が大きく変化

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック前後で、国内医療機関の利用状況が大きく変わったことが明らかになった。全国的に入院患者の減少傾向が続いているという。慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュートの野村周平氏、東京海洋大学の田上悠太氏、東京大学のカオ・アルトン・クアン氏らの研究の結果であり、詳細は「Healthcare」に11月19日掲載された。著者らは、「入院患者数の減少は通常の状況下では医療システムの効率化の観点からポジティブに捉えられる可能性がある一方で、パンデミック期間中には超過死亡も観測されていることから、入院患者数の減少による国民の健康への潜在的な影響も排除できない」としている。 COVID-19パンデミックが世界中の医療体制に多大なインパクトを与えたことは明らかで、影響の大きさを詳細に検証した論文も既に多数報告されている。ただし、パンデミック収束後の実態に関する研究は多くない。また、日本は他の先進国と異なり、パンデミック初期には患者数が少なかったものの、オミクロン株が主流になって以降に患者数が顕著に増加するというやや特異な影響が現れた。これらを背景として野村氏らは、パンデミック以前の2012年1月から2023年11月までの厚生労働省「病院報告」の月次データを用いて、パンデミックによって国内の医療機関の利用状況がどのように変わったかを検討した。 「病院報告」では、一般病床、精神病床、感染症病床、療養病床などの病床種類別の入院患者数や利用率、在院日数などが月ごとに報告されている。これらのうち本研究では、パンデミックが医療に与えた間接的な影響(COVID-19治療以外の医療)に焦点を当てるという意図から、一般病床と精神病床のデータを解析対象とした。解析には、準ポアソン回帰モデルという手法を用いた。 まず、一般病床に関する解析結果を見ると、入院患者数はパンデミック以前から経年的に減少傾向にあった。これは、病院から地域(在宅や療養型施設)へという政策の推進によるものと考えられる。しかし、パンデミックが始まった2020年3月以降の入院患者数は、パンデミック以前の減少傾向から予測される患者数を有意に下回り、解析対象期間の最終月である2023年11月まで有意に少ない状態が続いていた。例えば、2023年の一般病床の1日平均在院患者数は62万6,450人で、パンデミック前の2017~2019年の67万9,092人と比較して、7.8%少なかった。月当たりの新規入院患者数についても、パンデミック以降は予測値より有意に少ない月が多く発生し、約10%減少していた。 病床数も2021年以降に減少傾向が見られたが、その変化は入院患者数の減少速度より緩徐であり、絶対数の減少幅は1%未満だった。病床数がわずかな減少で入院患者数は大きく減少した結果として、病床利用率は、パンデミック前の2017~2019年の平均が73.5%であるのに対して、パンデミック以降の2020~2022年は67.5%と、6パーセントポイント低下していた。 次に、精神病床について見ると、一般病床と同様、パンデミック前から入院患者数が経年的に減少傾向にあったが、パンデミック発生後には以前の減少傾向から予測される患者数を有意に下回り、解析対象期間の最終月である2023年11月まで有意に少ない状態が、ほぼ連続していた。また、新規入院患者数についても、パンデミック以降は予測値より有意に少ない月が多く発生し、約8%減少していた。病床利用率は、パンデミック前の2017~2019年が平均85.6%であったのに対し、2023年には81.3%へと5.3パーセントポイント低下していた。 これらの解析の結果として著者らは、「COVID-19パンデミックは国内の医療機関の利用状況を根本的に変え、その影響は世界保健機関(WHO)が2023年5月に緊急事態宣言を終了した後も続いている」と総括している。また、国内においてパンデミック後期にCOVID-19以外の超過死亡が報告されていたことに関連して、入院患者数の減少が国民の健康アウトカムに潜在的な影響を及ぼしていた可能性を指摘。「脱施設化や長期ケアの地域医療への移行を進める中で、政策立案者は医療提供パターンの変化を注意深くモニタリングし、適切な医療アクセスの確保に注意を払う必要がある」と付け加えている。

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第228回 2022年版「健康寿命」静岡県が1位、全国平均で男性が短縮/厚労省

<先週の動き>1.2022年版「健康寿命」静岡県が1位、全国平均で男性が短縮/厚労省2.2030年までに全医療機関に標準型電子カルテ導入を/厚労省3.物価高騰で病院経営が悪化、過去最大の赤字に/病院5団体4.東京女子医大も元理事長の逮捕で、私学助成金不交付に/文科省5.社会保険診療報酬支払基金で不適切な審査 職員290人処分/厚労省6.医療脱毛クリニックが相次いで破綻、少子化と価格競争で経営悪化か/帝国データ1.2022年版「健康寿命」静岡県が1位、全国平均で男性が短縮/厚労省厚生労働省は、2022年の健康寿命推計値を公表した。2022年の健康寿命は、男性72.57歳、女性75.45歳だった。男性は前回調査から0.11歳短くなり、女性は0.07歳延びた。平均寿命と健康寿命の差は、男性で8.49年、女性で11.63年となり、調査開始以降最も短くなった。都道府県別では、男女ともに静岡県が最も健康寿命が長く、男性は73.75歳、女性は76.68歳だった。最も短かったのは、男女ともに岩手県で、男性は70.93年、女性が74.28年。今回、1位となった静岡県では、運動、食生活、社会参加の3要素を「健康長寿の3要素」と位置付け、県民の健康作りを促すための動画を新たに作成し、YouTubeや静岡駅のデジタルサイネージで配信するなど啓発活動を強化している。また、静岡県では、生活習慣病予防に向けて40~74歳の県民が受診する約75万人分の特定健診データを活用し、地域ごとの健康課題の把握につなげている。そのほか、野菜摂取量の少なさなどが全国平均より高く、脳卒中による死亡率上昇につながっていると分析し、2022年度から「野菜マシマシプロジェクト」を開始した。野菜嫌いの人でも食べやすいギョーザを開発したほか、野菜摂取量を手のひらで測る機器の貸し出しなども進めている。さらに、2021年には静岡社会健康医学大学院大学を設置し、データを活用した健康施策推進に向けた人材育成にも取り組んでいる。厚労省は、2040年までに健康寿命を男性で75.14歳以上、女性で77.79歳以上に延ばすことを目標とし、介護が必要になる前段階の「フレイル」や認知症の予防対策を進めている。参考1)健康寿命の令和4年値について(厚労省)2)健康寿命、静岡県が男女とも全国首位 ビッグデータ活用(日経新聞)3)静岡県「健康寿命」全国1位 県“さらなる延伸につなげたい”(NHK)2.2030年までに全医療機関に標準型電子カルテ導入を/厚労省厚生労働省は、1月31日に「医療DX令和ビジョン2030」厚生労働省推進チームの標準型電子カルテ検討ワーキンググループを開催し、標準型電子カルテのモデル事業について討議を行った。この中で、厚労省側は現在開発中の標準型電子カルテα版(試行版)の第1弾を3月、第2弾を夏頃に提供開始する予定。半年以上かけて実施するモデル事業で明らかになった課題を収集し、α版を適宜改修していく。標準型電子カルテは、日常診療で使うのに最低限必要な機能を搭載したクラウド型のシステムで、低コスト化が期待されている。α版の対象となるのは、電子カルテを導入していない医科の無床診療所で、診療科によらない共通の診療行為を想定している。その一方で、病院においては、電子カルテやレセプトコンピュータ、各部門システムなどの情報システムについて、院内にサーバーやネットワーク機器、ソフトウェアなどを設置するオンプレミス型が採用されている。しかし、サイバーセキュリティ対策の確保、IT人材の確保、診療報酬改定等の制度対応などに課題があるため、病院情報システムのクラウド化を進めることになった。2025年度を目途に国がクラウド型病院システムの「標準仕様」を示し、2030年までのできる限り早い時期に「希望する病院が導入できる環境」を整備する予定。政府は、医療分野のデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するため、標準型電子カルテの導入と病院情報システムのクラウド化を進めており、一連の取り組みは、昨年(2023年)6月に政府が取りまとめた「医療DXの推進に関する工程表」に基づいて進められている。標準型電子カルテについて、2030年にはおおむねすべての医療機関での導入を目指すことなどが具体的なスケジュールとして示されている。参考1)第3回標準型電子カルテ検討ワーキンググループ(厚労省)2)標準型電子カルテ試行版 第1弾3月に提供開始 第2弾は夏ごろ モデル事業で(CB news)3)病院の電子カルテ等のクラウド化・共有化、2025年度目途に国が標準仕様示し、30年までに希望病院が導入できる環境整える-厚労省(Gem Med)3.物価高騰で病院経営が悪化、過去最大の赤字に/病院5団体病院経営が急速に悪化している現状を受け、日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会などの5団体は1月に、厚生労働省に緊急的な財政支援や診療報酬の改善などを要望した。福祉医療機構の調査によれば、2023年度の一般病院の医業利益率はマイナス2.3%と、統計開始以来、過去最低を記録した。コロナ禍では、コロナ対応の補助金により、経常収支では7割ほどの病院が黒字だったが、23年度に補助金が打ち切られたことで、赤字病院は51.0%に上り、10年度以降で最多となった。病院5団体は、物価や人件費の上昇に対し、診療報酬が十分に引き上げられていないことが経営悪化の要因だと指摘している。24年度の診療報酬改定では、医療者の人件費などに回る部分はプラス0.88%に止まり、病院5団体は「非常に低い」と訴えるとともに、物価上昇に連動した診療報酬の仕組みの導入や、消費税負担の軽減などを求めている。さらに、電子カルテの更新や医療DX導入の費用負担も経営を圧迫しているとの指摘もある。病院経営の悪化は、医療の質低下や医療崩壊につながる可能性があり、早急な対策が求められている。石破 茂首相は27日の衆議院本会議で、医療機関への支援について「適切に対応していく」と述べており、2024年度の補正予算では、物価高騰への対応として「重点支援地方交付金」を積み増し、医療機関の賃上げ支援や診療所の承継、開業支援などを盛り込んでいるが、一層の経営支援が求められている。参考1)病院経営は破綻寸前 地域医療崩壊の危機(病院5団体)2)「民間病院は絶滅してしまう」 過去最大の病院赤字、見えない解決策(朝日新聞)3)病院経営は危機に瀕しており、「緊急的な財政支援」「物価・賃金上昇に対応できる診療報酬」などを実施せよ-5病院団体(Gem Med)4)医療機関支援「経営状況を把握し適切に」石破首相(MEDIFAX)4.東京女子医大も元理事長の逮捕で、私学助成金不交付に/文科省文部科学省の外郭団体の日本私立学校振興・共済事業団は30日、日本大学と東京女子医科大学に対する2024年度の私学助成金を全額不交付とすることを決定した。日本大学は、元理事長の脱税事件やアメリカンフットボール部の薬物事件などを受け、4年連続の全額不交付となる。東京女子医科大学は、1月に元理事長が背任容疑で逮捕された事件や、同窓会組織をめぐる不透明な資金問題、推薦入試での寄付金考慮問題などが問題視され、初の全額不交付となった。両大学とも、ガバナンス不全や不祥事が相次いでおり、事業団は改善状況を厳しく注視していた。私学助成金は、私立大学の経営を支援するために国が交付するもので、大学側には法令違反や著しい定員超過などがないことなどが交付の条件となっている。不交付になると翌年度も原則として不交付となり、改善が認められれば翌々年度から段階的に引き上げ、最短で5年後に満額に戻る。女子医大は、2023年度は約20億円の交付を受けており、今回の決定は大学経営に大きな影響を与える可能性がある。大学側は、決定を厳粛に受け止め、改善計画を確実に実行し、ガバナンス体制の再構築や推薦入試の適正化に取り組むとしている。参考1)日大と東京女子医大、私学助成が全額不交付に 日大は4年連続(朝日新聞)2)東京女子医大への補助金 国は今年度 全額交付しないと決定(NHK)3)東京女子医科大学、助成金不交付に 再建への道険しく(日経新聞)5.社会保険診療報酬支払基金で不適切な審査 職員290人処分/厚労省厚生労働省所管の社会保険診療報酬支払基金は、医療費の請求書を審査する際に、不適切な手順で審査を行っていたとして、職員290人を処分した。処分対象となったのは、審査業務の効率化を目的としたシステムツールを不正に使用していた職員で、使用したツールは医療機関が提出したレセプト(診療報酬明細書)を審査する際に、一定の秒数が経過すると自動的に画面上の書類のページをめくるもので、一部の職員が作成し、共有フォルダーで他の職員が使えるようにしていた。支払基金は、年間約13億件のレセプトを審査しており、そのうち1割程度は職員が目視で確認している。しかし、ツールの使用により、職員が目視で確認していないレセプトが確認済みとして処理されていた可能性がある。支払基金は、ツールの使用が不適切だったと陳謝し、外部ソフトを無断で導入した職員を停職処分、ツールの作成者を戒告処分、使用者を文書注意処分とした。また、再発防止策として、USBメモリーの使用禁止や情報セキュリティ研修の実施などを挙げている。その一方、厚労省は、支払基金の名称を「医療情報基盤・診療報酬審査支払機構」に変更し、医療DXを担う組織に変更する方針を明らかにした。2025年の通常国会に関連法の改正案を提出する予定。参考1)医療費請求書、ずさん審査 厚労省所管団体、職員290人を処分(日経新聞)2)社会保険支払基金、名称変更へ 医療DXへ組織改正(同)3)不適切な手順で医療費審査 厚労省外郭団体 職員25人を懲戒処分(朝日新聞)6.医療脱毛クリニックが相次いで破綻、少子化と価格競争で経営悪化か/帝国データ医療脱毛クリニック「トイトイトイクリニック」を経営する医療法人社団雪焔会が1月31日までに事業を停止し、自己破産を申請する意向であることが明らかになった。同クリニックは、2018年8月に設立され、東京都内に原宿院、新宿院、池袋院の3院を展開していた。2023年2月期には年収入高約13億3,500万円を計上していた。報道によると、近年、少子化や脱毛業界の競争激化、昨年の医療脱毛の大手「アリシアクリニック」の破綻による顧客の流出などが影響し、同法人の2024年2月期の年収入高は約12億8,000万円にまで減少、最終利益も100万円以下に落ち込み、資金繰りが悪化。2024年下半期にはノンバンクが債権譲渡登記を設定するなど、一部で資金繰りへの注目が高まっていた。クリニックは、1月31日に休業のお知らせを各院に掲示し、同日付で従業員も解雇された。負債額は2024年2月期末時点で約3億9,785万円。参考1)「脱毛サロン」の倒産動向(2024年1-11月)(帝国データバンク)2)医療脱毛「トイトイトイクリニック」を経営する雪焔会が事業停止(同)3)医療脱毛「トイトイトイクリニック」の医療法人社団雪焔会が営業停止(東京商工リサーチ)

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線形回帰(重回帰)分析 その2【「実践的」臨床研究入門】第51回

直線回帰一方の連続変数x(説明変数)が大きくなると、他方の連続変数y(目的変数)が直線的に増加する、もしくは減少するような関係を直線回帰(linear regression)といいます。すなわち、説明変数xと目的変数yの関係がy=a+bx の式で表されます。これは中学校の数学で勉強する1次方程式です。bは回帰直線の傾き(回帰係数)で、xの値が1増加すると、yがどの程度増加するかを表しています。aは切片でxが0の時のyの値であり、回帰直線がy軸と交差する点のyの値に相当します。この式を用いてデータに最もよく合う1次方程式を求める、言い換えると、最も適当なa、bの値を決める、ということを考えます。前回、「2つの連続変数間の直線的な関係」を表す散布図を描き、最小二乗法を用いた回帰直線を描く手順を示しました(連載第50回参照)。今回は、前回描いた回帰直線の切片aと回帰係数bの求め方と結果の解釈について解説します。まず、以下の手順で仮想データ・セットをEZR(Eazy R)に取り込みます。仮想データ・セットをダウンロードする※ダウンロードできない場合は、右クリックして「名前をつけてリンク先を保存」を選択してください。「ファイル」→「データのインポート」→「Excelのデータをインポート」次に「統計解析」→「連続変数の解析」→「線形回帰(単回帰、重回帰)」を選択、ポップアップウィンドウ(下図)のとおり、目的変数は「diff_eGFR5」を、説明変数は「age」を指定します。※「diff_eGFR5」は、われわれのResearch Question(RQ)のセカンダリO(アウトカム)に設定されている、ベースラインから5年後の糸球体濾過量(GFR)変化量「OK」をクリックすると。EZRの出力ウィンドウに下図の結果が表示されます。画像を拡大する“Intercept”は切片であり、y=a+bxにおける“a”の値です。“Intercept”の推定値は-12.6(以下、可読性を高めるために数値はすべて有効数字3桁で丸めます)とありますが、これは説明変数xが0の場合の目的変数yの推定値です。説明変数「age」の目的変数「diff_eGFR5」に対する回帰係数推定値は-0.038と表されています。これは説明変数「age」が1単位(1歳)増加した時の目的変数「diff_eGFR5」の変化量を示しており、回帰係数が負の値であるので、説明変数と目的変数は負の相関関係にあることを意味します。95%信頼区間(95%confidence interval:95%CI)の上限〜下限は-0.007〜-0.069で0をまたいでいません。またp値は1.57e-02と表記されています。この表記法は科学的記数法と呼ばれるもので、"e-02"は10の-2乗(0.01)を表しており、1.57×0.01=0.0157となり有意水準0.05を下回っています。ここのp値は回帰係数が0であるという帰無仮説が棄却される確率です(連載第44回参照)。p値が0.05未満であるので、説明変数「age」は目的変数「diff_eGFR5」に対して統計学的に有意な影響を与えていると判断されます。結果の解釈をまとめると下記のようになります。切片:-12.6⇒年齢が0の場合のベースラインから5年後の糸球体濾過量(GFR)変化量「diff_eGFR5」の推定値です。回帰係数:-0.038⇒年齢が1歳増加すると、「diff_eGFR5」は-0.038減少すると推定されます(p<0.05)。

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髄膜播種の症状は難しい【非専門医のための緩和ケアTips】第93回

髄膜播種の症状は難しい緩和ケアではたまに出合う難しい症状があるのですが、そのうちの1つが「髄膜播種」に関連した症状です。脳や脊髄の周りを流れている「脳脊髄液(CSF)」にがん細胞が入り込み、それが髄膜全体に広がってしまうことで起こります。病態の解決は難しいのですが、その難しさを理解し、少しでも患者さんにできることを考えてみましょう。今回の質問訪問診療で診ていたがん患者が頭痛を訴えたため、薬物療法を試してみたものの効果がなく、嘔気も出てきて基幹病院に入院となりました。その後、原疾患の髄膜播種だったとの報告をもらったのですが、疑うことができなかったと反省しています。どうすれば気付けたのでしょうか?がん患者を担当していると、まれに経験するのが髄膜播種です。今回の質問のように診断が難しく、気付かれないケースも多いと感じます。前提として原疾患の進行があり、予後が限られた状態で生じることが多いため、さらに診断を難しくします。ましてや在宅診療であれば、適切なタイミングでの診断はなかなか難しいのが現実でしょう。髄膜播種の症状としては、頭痛と嘔気が代表的です。ただ、ここに神経症状が加わるため、症状が多彩になります。意識障害、認知機能の低下はまだわかりやすいのですが、視覚・聴覚障害という局所的な神経症状があることがさらに診断を難しくします。私自身、担当するがん患者さんが難聴を訴え、調べていくと髄膜播種を併発していた、という経験を何度かしています。ほかにも下肢の感覚異常や尿閉なども髄膜播種の一症状であることがあります。典型症状だけに捉われていると、見逃しやすい病態なのです。髄膜播種の診断には、髄液検査やMRIを用います。ただし、これらは血液検査のように手軽にできるものではないため、検査前確率が高いことが求められます。進行がん患者で新規の神経症状があった際には、まずは髄膜播種を疑うことから始めましょう。髄膜播種の症状緩和はなかなか難しいのですが、一般的なオピオイドなどの疼痛緩和に加え、ステロイドの投与を考慮します。頭痛は頭蓋内圧亢進が症状を悪化させると考えられており、ステロイドによりこれらの改善が見込まれるためです。加えて、化学療法や放射線治療は原疾患への治療効果だけでなく、症状緩和の観点からも有効とされています。ただし、これは予想される予後などを含め、がん治療医の判断によることになるでしょう。私は進行した患者さんを担当することが多く、髄膜播種併発例に侵襲的な治療が適応となることは少ない印象です。最後に、こういった中枢神経に影響が及ぶ状況になると、痙攣が生じる可能性に留意する必要があります。入院していれば、抗けいれん薬をすぐに投与できるでしょうが、在宅であれば備えが必要です。在宅での痙攣の対応については次回にまとめますが、まずはベンゾジアゼピンの注射薬や坐薬を常備することを覚えておきましょう。以上、診断だけでなく、対応も難しい髄膜播種についてお話ししました。多彩で難治の症状に悩まされることも多いですが、丁寧にアセスメントをしながら対応してみてください。今回のTips今回のTips多彩な症状を特徴とする髄膜播種、まずは「疑う」ことが大切。

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2月3日 不眠の日【今日は何の日?】

【2月3日 不眠の日】〔由来〕「不眠」について、記念日を通して不眠の改善の適切な情報発信を行うことを目的に「ふ(2)み(3)ん」(不眠)と読む語呂合わせから治療薬などの販売を行うエスエス製薬が制定した。また、同じ語呂合わせから毎月23日も「不眠の日」と制定。関連コンテンツ睡眠で認知症予防、良質な睡眠を誘う音楽とは?【外来で役立つ!認知症Topics】高齢者の睡眠時間の目安は?【患者説明用スライド】小児期の睡眠障害、若年期の精神病リスクにつながる可能性バス運転手の危険運転に対する不眠症の影響睡眠が認知症発症に及ぼす影響

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とくに注意すべき血液検査のパニック値とは?死亡事例の分析と提言~医療安全調査機構

 日本医療安全調査機構(医療事故調査・支援センター)は、血液検査パニック値が関与していた死亡事例の分析を実施し、事故防止のための提言(医療事故の再発防止に向けた提言 第20号)を公表した(2024年12月)1)。パニック値とは「生命が危ぶまれるほど危険な状態にあることを示唆する異常値」とされ、緊急異常値や緊急報告検査値などとも呼ばれる。今回、死亡に至った過程で血液検査パニック値が関与していた12事例が分析対象とされ、分析を基に5つの提言が示された。 今回の提言では、医療事故調査・支援センターに届けられた医療事故報告(2015年10月~2023年8月)のうち院内調査結果報告書2,432件の中から、死亡に至った過程で血液検査パニック値が関与していた17例を抽出。パニック値は検査項目や閾値が医療機関により異なるため、今回の分析では、日本臨床検査医学会『臨床検査「パニック値」運用に関する提言書(2024年改定版)』2)で示された“パニック値の例”(今回の提言書では資料1として掲載、32の検査項目のパニック値の例が示されている)に該当した9例と、医療機関内で設定されていたパニック値に該当していた事例3例の計12例を対象としている。その他の5例は化学療法前の検査値に関連した2例と、パニック値の項目として取り扱うか議論があるD-dimerに関連する3例で、今回の分析では参考事例とされている。 12例中、カリウム(K)がパニック値として検出された事例は5例あり、4例で致死的な不整脈の出現を認めた。また、プロトロンビン時間-国際標準比(PT-INR)がパニック値であった事例は2例あり、脳出血に至っていた。 5つの提言は以下の通り。提言1(パニック値の項目と閾値の設定):医療機関は、診療状況に応じてパニック値の項目(グルコース[Glu]、K、ヘモグロビン[Hb]、血小板[Plt]、PT-INRなど)と閾値を検討し、設定する。※今回の提言書では、日本臨床検査医学会『臨床検査「パニック値」運用に関する提言書(2024年改定版)』2)からパニック値の例を示しており、上記とくに優先して設定することが望ましいとした5項目については、以下の数値が例示されている。Glu:低値50mg/dL、高値350mg/dL(外来)・500mg/dL(入院)K:低値1.5mmol/L、高値7.0mmol/LHb:低値5g/dL、高値20g/dLPlt:低値3万/μL、高値100万/μLINR:高値2.0(ワルファリン治療時は4.0)提言2(パニック値の報告):パニック値は、臨床検査技師から検査をオーダーした医師へ直接報告することを原則とする。また、臨床検査部門は報告漏れを防ぐため報告したことの履歴を残す。提言3(パニック値への対応):パニック値を報告された医師は、速やかにパニック値への対応を行い、記録する。また、医師がパニック値へ対応したことを組織として確認する方策を検討することが望まれる。提言4(パニック値の表示):パニック値の見落としを防ぐため、臨床検査情報システム・電子カルテ・検査結果報告書において、一目で「パニック値」であることがわかる表示を検討する。提言5(パニック値に関する院内の体制整備):パニック値に関する院内の運用を検討する担当者や担当部署の役割を明確にし、定期的に運用ルールを評価する体制を整備する。さらに、決定した運用ルールを院内で周知する。 提言書では、各事例の概要やパニック値検出時の対応フローのほか、D-dimerをパニック値項目として扱う際の課題などについてもまとめられている。

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T-DXd治療後のHER2発現の変化

 転移のある乳がん患者におけるトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)の治療後のHER2発現状況の変化について、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターのMohamed A. Gouda氏らが後ろ向きに検討したところ、約半数の患者でHER2の消失や低下がみられたという。Clinical Cancer Research誌オンライン版2025年1月22日号に掲載。 本研究では、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターでT-DXd治療を受けた転移乳がん患者を後ろ向きに検討した。T-DXd治療の前後で生検を実施しIHC染色を用いてHER2発現を評価した患者を対象とした。 本研究の結果、対象患者41例のうち、T-DXdによる治療後に11例(治療前にIHCスコアが1+、2+、3+だった34例のうち32.4%)でHER2の消失がみられた。さらに、10例(34例中29.4%)でHER2スコアの減少がみられた。 著者らは「T-DXdによる治療を受けている転移乳がん患者において、HER2の消失および低下が多く見られる。T-DXdの治療後にHER2過剰発現が必要なHER2標的療法を実施する際は、HER2の再評価を考慮すべき」としている。

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自閉スペクトラム症の易怒性に対するメトホルミン補助療法の有用性

 糖尿病治療薬は、自閉スペクトラム症(ASD)の症状緩和に有効であることが示唆されている。しかし、メトホルミンがASDに伴う易怒性に及ぼす影響についての臨床研究は、不十分である。イラン・テヘラン医科大学のZahra Bazrafshan氏らは、小児ASD患者の易怒性に対するリスペリドン+メトホルミン補助療法の有効性および安全性を評価するため、10週間のランダム化二重盲検プラセボ対照試験を実施した。Journal of Psychopharmacology誌オンライン版2024年12月15日号の報告。 本研究は、2024年3〜5月にイラン・Roozbeh Hospitalの小児自閉症外来で実施した。対象患者は、リスペリドン+メトホルミン(500mg/日)群またはリスペリドン+プラセボ群にランダムに割り付けられた。主要アウトカムは、易怒性とした。aberrant behavior checklist-community scale(ABC-C)を用いて、ベースライン、5週目、10週目に評価を行った。 主な結果は以下のとおり。・最終分析には、55例を含めた。・メトホルミン群は、プラセボ群と比較し、易怒性の有意な減少が認められた(p=0.008)。・ABC-Cの4つのサブスケールのうち、多動性/ノンコンプライアンススコアは、ベースラインから5週目までに有意な低下を示した(p=0.021)。・メトホルミン群は、プラセボ群と比較し、ベースラインから5週目までの不適切な発言スコアの有意な減少が認められた(p=0.045)。・無気力/社会的引きこもり、常同行動スコアについては、統計学的に有意な差は認められなかった。 著者らは「メトホルミン補助療法は、ASD患者の易怒性軽減に有効であり、この結果は以前の研究と一致していたが、実臨床で推奨するためには、さらなる研究が必要である」と結論付けている。

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切除可能食道腺がん、FLOTによる周術期化学療法が有効/NEJM

 切除可能な食道腺がん患者の治療において、術前化学放射線療法と比較してフルオロウラシル+ロイコボリン+オキサリプラチン+ドセタキセル(FLOT)による周術期化学療法は、3年の時点での全生存率を有意に改善し、3年無増悪生存率も良好で、術後合併症の発現は同程度であることが、ドイツ・Bielefeld大学のJens Hoeppner氏らが実施した「ESOPEC試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2025年1月23日号に掲載された。ドイツの医師主導型無為化第III相試験 ESOPEC試験は、切除可能食道がんの治療におけるFLOTによる周術期化学療法の有用性の評価を目的とする医師主導の非盲検無作為化対照比較第III相試験であり、2016年2月~2020年4月にドイツの25の施設で患者を登録した(ドイツ研究振興協会の助成を受けた)。 年齢18歳以上、組織学的に食道の腺がんが確認され、食道の腫瘍または食道胃接合部の原発巣から食道へ進展した腫瘍を有し、原発巣のUICC病期分類がcT1 cN+、cT2-4a cN+、cT2-4a cN0のいずれかで、遠隔転移がなく、全身状態の指標であるEastern Cooperative Oncology Group performance status(ECOG PS)のスコアが0、1、2点の患者を対象とした。 被験者を、FLOTによる周術期化学療法+手術を受ける群、または術前化学放射線療法+手術を受ける群に1対1の割合で無作為に割り付けた。FLOT群では、術前に2週を1サイクルとする化学療法(FLOT)を4サイクル施行し、術後に同様の化学療法を4サイクル(退院から4~6週後に開始)行った。術前化学放射線療法群では、カルボプラチン+パクリタキセル(週1回[1、8、15、22、29日目]、静脈内投与)と放射線治療(総線量41.4Gy:23分割、1.8Gy/日)を施行した後に手術を行った。 主要エンドポイントは全生存とした。全生存期間は66ヵ月vs.37ヵ月 438例を登録し、FLOT群に221例(年齢中央値63歳[範囲:37~86]、男性89.1%)、術前化学放射線療法群に217例(63歳[30~80]、89.4%)を割り付けた。FLOT群の193例、術前化学放射線療法群の181例が手術を受けた。全体の追跡期間中央値は55ヵ月だった。 3年の時点での全生存率は、術前化学放射線療法群が50.7%(95%信頼区間[CI]:43.5~57.5)であったのに対し、FLOT群は57.4%(50.1~64.0)と有意に高い値を示した(死亡のハザード比[HR]:0.70、95%CI:0.53~0.92、p=0.01)。全生存期間中央値は、FLOT群が66ヵ月(36~評価不能)、術前化学放射線療法群は37ヵ月(28~43)だった。 また、3年時の無増悪生存率は、FLOT群が51.6%(95%CI:44.3~58.4)、術前化学放射線療法群は35.0%(28.4~41.7)であった(病勢進行または死亡のHR:0.66、95%CI:0.51~0.85)。術後の病理学的完全奏効は16.7% vs.10.1% 完全切除(R0)は、FLOT群の193例中182例(94.3%)、術前化学放射線療法群の181例中172例(95.0%)で達成した。術後の病理学的完全奏効(ypT0/ypN0:切除された原発巣およびリンパ節に浸潤がんの遺残がない)は、それぞれ192例中32例(16.7%)および179例中18例(10.1%)で得られた。 Grade3以上の有害事象は、FLOT群で207例中120例(58.0%)、術前化学放射線療法群で196例中98例(50.0%)に発現した。重篤な有害事象は、それぞれ207例中98例(47.3%)および196例中82例(41.8%)にみられた。手術を受けた患者における術後の手術部位および手術部位以外の合併症の頻度は両群で同程度であり、術後90日の時点での死亡はそれぞれ6例(3.1%)および10例(5.6%)であった。 著者は、「病理学的完全奏効の解析は、各試験を通じて標準化するのが困難な因子に依存するため、先行試験との比較では慎重に解釈する必要がある」「併存症のためFLOTが施行できない患者やFLOT関連有害事象を呈する患者では、2剤併用化学療法へのde-escalationや術前化学放射線療法への切り換えが望ましいアプローチであるかは、本試験では回答できない問題である」としている。

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