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PTSDの精神薬理学アルゴリズムの最新情報

 米国・サウスフロリダ大学のLaura A. Bajor氏らは、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の精神薬理学アルゴリズムの最新情報をレビューした。Psychiatry and Clinical Psychopharmacology誌2025年8月11日号の報告。 主な内容は以下のとおり。・ハーバード大学サウスショア・プログラムにおけるPTSDアルゴリズムの精神薬理学アルゴリズム・プロジェクト2022年の最終発表以降、新たなエビデンスが主要な治療推奨事項を裏付けている。・プラゾシンは、悪夢や覚醒障害を含むPTSD関連の睡眠障害に対する第1選択薬であり、アルコール使用障害や頭痛を併発している患者にも有効である可能性がある。・PTSDによる不眠症の治療後、日中の症状が顕著に残存する場合には、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI:セルトラリンまたはパロキセチン)が推奨される。SSRI治療抵抗性の精神病症状が認められる場合には、抗精神病薬(まずアリピプラゾール)の併用を検討する。・それでも効果が不十分な場合には、SSRIまたは選択的ノルエピネフリン再取り込み阻害薬(SNRI)の併用を検討可能であるが、過覚醒症状には効果が不十分である。また、残存する日中の症状には、プラゾシンを試してみる価値がある。・本アップデートでは、経頭蓋磁気刺激法、直流電流刺激法、星状神経節ブロック、pimavanserinなどの新たな治療法も評価されているが、現時点ではこれらの治療法をコアアルゴリズムに含める根拠は乏しいと結論付けられた。 著者らは「本アップデートは、PTSDの薬理学的マネジメントに対する最新のデータに基づいたアプローチを臨床医に提供している」としている。

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デュルバルマブの非小細胞肺がんおよび膀胱がん周術期療法、国内承認/AZ

 アストラゼネカは、2025年9月19日、デュルバルマブ(商品名:イミフィンジ)について、「非小細胞肺における術前・術後補助療法」および「膀胱における術前・術後補助療法」を効能又は効果として厚生労働省より承認を取得したと発表。非小細胞肺がんの承認 非小細胞肺がん(NSCLC)の承認は第III相AEGEAN試験の結果に基づくもの。AEGEAN試験は、切除可能なStage IIAからIIIB(AJCC第8版)NSCLCに対する周術期治療としてのデュルバルマブをPD-L1発現の有無を問わずに評価する第III相無作為化二重盲検プラセボ対照国際多施設共同試験。中間解析において、デュルバルマブベースの周術期レジメン群は術前補助化学療法単独群と比較して、再発・進行または死亡イベント発現リスクを32%低下させ、統計学的に有意かつ臨床的に意義のある結果が認められた(無イベント生存期間[EFS] ハザード比[HR]:0.68、95%信頼区間[CI]:0.53~0.88、p=0.003902)。 日本ではNSCLCのうち20%〜25%は根治目的の手術が可能という報告もある。しかし、これら患者の多くは再発し、診断後 5 年生存率は、Stage IIで56〜65%、IIIで24〜41%とされ、新たな治療選択肢が求められてきた。膀胱がんの承認 膀胱がんの承認は第III相NIAGARA試験の結果に基づくもの。NIAGARA試験は筋層浸潤性膀胱がん(MIBC)に対する周術期治療薬としてのデュルバルマブを評価する第III相国際多施設共同無作為化非盲検試験。中間解析において、デュルバルマブベースの周術期レジメン群は術前補助化学療法単独群に対して、病勢進行、再発、手術未施行、または死亡のリスクを32%統計学的に有意に低下させた(EFS HR:0.68、95%CI:0.558~0.817、p<0.0001)。 2020年に日本で膀胱がんと診断された患者は2万3,185例で、9,168例が死亡している。MIBCは新たに診断された膀胱がんの25~30%を占める。MIBCでは根治手術が行われているにもかかわらず、現在の標準治療である術前補助化学療法を受けた患者のうち約50%が術後に再発を経験している。非小細胞肺がんにおける術前・術後補助療法の用法及び用量 術前補助療法では、他の抗悪性腫瘍剤との併用において、通常、成人にはデュルバルマブ(遺伝子組換え)として、1回1,500mgを3週間間隔で4回まで、60分間以上かけて点滴静注する。その後、術後補助療法では、デュルバルマブ(遺伝子組換え)として、1回1,500mgを4週間間隔で12回まで、60分間以上かけて点滴静注する。ただし、体重30kg以下の場合の1回投与量は20mg/kg(体重)とする。膀胱がんにおける術前・術後補助療法の用法及び用量 術前補助療法では、ゲムシタビン塩酸塩及びシスプラチンとの併用において、通常、成人にはデュルバルマブ(遺伝子組換え)として、1回1,500mgを3週間間隔で4回まで、60分間以上かけて点滴静注する。その後、術後補助療法では、デュルバルマブ(遺伝子組換え)として、1回1,500mgを4週間間隔で8回まで、60分間以上かけて点滴静注する。ただし、体重30kg以下の場合の1回投与量は20mg/kg(体重)とする。

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心室性不整脈予防のための最適なカリウム戦略は?/NEJM

 心血管疾患患者では、低カリウム血症により心室性不整脈のリスクが増加するが、血漿カリウム値が正常下限域であっても同様のリスクの増加が知られている。デンマーク・コペンハーゲン大学のChristian Jons氏らPOTCAST Study Groupは、血漿カリウム値が正常下限域で、心室性不整脈のリスクが高い心血管疾患患者において、カリウム値を正常上限域まで積極的に上昇させる戦略の有効性の評価を目的に、非盲検イベント主導型無作為化優越性試験「POTCAST試験」を実施。植込み型除細動器(ICD)を装着した心室性不整脈のリスクが高い心血管疾患患者において、標準治療単独に薬物療法と食事指導を加えたことによって血漿カリウム値が上昇したことにより、標準治療単独と比べてICD適切作動、不整脈または心不全による予定外の入院、全死因死亡の複合のリスクが有意に低下したことを報告した。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2025年8月29日号で発表された。デンマークの3施設でICD装着例を登録 本研究では、2019年3月~2024年9月にデンマークの3施設で参加者の無作為化を行った(Independent Research Fund Denmarkなどの助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、心室性不整脈のリスクが高く(ICDまたは心臓再同期療法用の除細動器[CRT-D]の装着者と定義)、ベースラインの血漿カリウム値が4.3mmol/L以下の患者であった。 被験者を次の2つの治療群に1対1の割合で無作為化に割り付けた。(1)血漿カリウム値の正常高値域(4.5~5.0mmol/L)までの上昇を目標とする治療(カリウム補充[塩化カリウム錠750mg]またはミネラルコルチコイド受容体拮抗薬、あるいはこれら両方+食事指導)+標準治療を受ける群(正常高値カリウム群)、(2)標準治療のみを受ける群(標準治療群)。 主要エンドポイントは次の3項目の複合とし、time-to-first-event分析を行った。(1)持続性心室頻拍(心拍数125拍/分以上、30秒以上持続)またはICD適切作動、(2)不整脈または心不全による24時間超の予定外の入院で、薬剤の変更または侵襲的治療を要した場合、(3)試験期間中の全死因死亡。約0.3mmol/L上昇、目標値到達は249例 1,200例を登録し、両群に600例ずつを割り付けた。全体の平均(±SD)年齢は62.7(±12.0)歳、19.8%が女性であった。43.3%が1次予防としてICDを装着し、64.6%が心不全の既往歴を、半数が虚血性心疾患の既往歴を有していた。追跡期間中央値は39.6ヵ月。 ベースラインの全体の平均血漿カリウム値は4.01±0.24mmol/Lであり、正常高値カリウム群は期間中央値85日(四分位範囲:58~119)の時点で4.36±0.36mmol/L、標準治療群は6ヵ月後の時点で4.05±0.33mmol/Lへとそれぞれ上昇した。正常高値カリウム群では、249例が血漿カリウム値の目標値(4.5~5.0mmol/L)に到達した。主要エンドポイントが有意に改善 主要エンドポイントのイベント発生率は、標準治療群が29.2%(175例、9.6件/100人年)であったのに対し、正常高値カリウム群は22.7%(136例、7.3件/100人年)と有意に低かった(ハザード比[HR]:0.76[95%信頼区間[CI]:0.61~0.95]、p=0.01)。5年の時点での群間差は7.7%ポイントで、1件のイベントの予防に要する治療必要数は12.3例(95%CI:2.0~14.0)だった。 主要エンドポイントの個別の構成要素のイベント発生状況は次のとおりだった。(1)心室頻拍/ICD適切作動:正常高値カリウム群15.3%vs.標準治療群20.3%、HR:0.75(95%CI:0.57~0.98)、(2)全死因死亡:5.7%vs.6.8%、0.85(0.54~1.34)、(3)不整脈による予定外の入院:6.7%vs.10.7%、0.63(0.42~0.93)、(4)心不全による予定外の入院:3.5%vs.5.5%、0.64(0.37~1.11)。 また、正常高値カリウム群では、低カリウム血症による入院が1件、高カリウム血症による入院が7件、腎不全による入院が9件(合計17例に17件)発現し、標準治療群ではそれぞれ4件、2件、6件(10例に12件)であり、両群で同程度であった(HR:1.75[95%CI:0.80~3.82])。試験レジメン関連死はなかった 試験レジメンに関連する死亡例は認めなかった。試験期間中に、358例に802件の入院が発生し、正常高値カリウム群が168例、372件、標準治療群が190例、430件であった。また、24時間を超える予定外の入院または全死因死亡の発生は、正常高値カリウム群が177例(29.5%)、標準治療群が199例(33.2%)であった(HR:0.88[95%CI:0.72~1.08]、p=0.22)。 著者は、「本試験の治療法は安価で、ほとんどの医療環境で利用可能である。目標値に達した患者は半数未満であったが、ほぼ4例に3例が試験期間中に継続して薬物療法を受けた」「最近の健常者を対象とするメタ解析では、ナトリウム摂取量の増加とカリウム摂取量の減少が、用量依存性に心血管リスクの上昇と関連することが示されている。したがって、心血管疾患患者を含む一般集団においても、カリウム摂取量の増加が恩恵をもたらす可能性がある」としている。

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高齢者への高用量インフルワクチン、肺炎などの入院減少せず/NEJM

 インフルエンザの不活化ワクチンでは、標準用量と比較して高用量で優れた感染予防効果が示されているが、重症のアウトカムに対する高用量ワクチンの有効性に関する無作為化試験のデータは十分でないという。デンマーク・コペンハーゲン大学病院のNiklas Dyrby Johansen氏らの研究チームは、高齢者におけるインフルエンザ感染の重症アウトカム(入院)に対する高用量ワクチンの有効性の評価を目的に、実践的なレジストリに基づく非盲検無作為化対照比較試験「DANFLU-2試験」を実施。高齢者への高用量インフルエンザ不活化ワクチン投与は、標準用量と比較してインフルエンザまたは肺炎による入院率を低下させなかったことを報告した。なお、「副次エンドポイントについては決定的な結論は導き出せないものの、高用量ワクチンは、インフルエンザによる入院および心肺系疾患による入院の予防において有益性を示す可能性がある」としている。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2025年8月30日号で発表された。デンマークの流行期3回の調査 研究グループは、デンマークの直近3回のインフルエンザ流行期(2022~23年、2023~24年、2024~25年)に、年齢65歳以上の高齢者を高用量または標準用量の4価インフルエンザ不活化ワクチンの接種を受ける群に無作為に割り付け、ワクチン接種後14日目から翌年5月31日までに発生したインフルエンザまたは肺炎による入院の割合(主要エンドポイント)を比較した(Sanofiの助成を受けた)。 3回の流行期に合計33万2,438例(平均[±SD]年齢73.7[±5.8]歳、女性16万1,538例[48.6%])を登録し、高用量ワクチン群に16万6,218例、標準用量ワクチン群に16万6,220例を割り付けた。主要エンドポイントに差はない 主要エンドポイントのイベントは、高用量群で1,138例(0.68%)、標準用量群で1,210例(0.73%)に発生し(相対ワクチン有効率[(1−相対リスク)×100%]:5.9%、95.2%信頼区間[CI]:-2.1~13.4)、両群間に有意な差を認めなかった(p=0.14)。 また、主要エンドポイントの個別の構成要素を含む5つの副次エンドポイントの結果は次のとおりだった。(1)インフルエンザによる入院:高用量群0.06%vs.標準用量群0.11%、相対ワクチン有効率:43.6%(95.2%CI:27.5~56.3)、(2)肺炎による入院:0.63%vs.0.63%、0.5%(-8.6~8.8)、(3)心肺系疾患による入院:2.25%vs.2.38%、5.7%(1.4~9.9)、(4)あらゆる入院:9.38%vs.9.58%、2.1%(-0.1~4.3)、(5)全死因死亡:0.67%vs.0.66%、-2.5%(-11.6~5.9)。重篤な有害事象は同程度 ワクチン接種後3ヵ月間の安全性評価期間中に観察された重篤な有害事象(入院または死亡)の発生状況は両群で同程度であった。重篤な有害事象は2万5,953件発現し、少なくとも1件の重篤な有害事象を認めたのは高用量群で9,814例(5.91%)、標準用量群で9,804例(5.91%)だった(p=0.95)。このうち盲検下の評価で132件が試験治療関連と判定され、両群間に差を認めなかった(高用量群75件vs.標準用量群57件、p=0.16)。 予期せぬ重篤な有害反応が疑われる事例が高用量群で2件発生した(接種後3日目の抗合成酵素症候群、接種後1日目の心膜炎)。この2例は、同じ日にCOVID-19ワクチンの接種も受けていた。また、安全性評価期間中に682例が死亡したが、試験治療と関連があると判定されたものはなかった。 著者は、「最近の無作為化試験のメタ解析では、標準用量に比べ高用量ワクチンはインフルエンザまたは肺炎による入院を23.5%低下させたと報告されている。この本試験との不一致は、COVID-19の世界的流行以降、呼吸機能検査の増加によりインフルエンザの検出および診断の精度が向上し、試験期間中のインフルエンザによる入院率がCOVID-19流行前に比べほぼ倍増したという事実で説明が可能と考えられる」としている。

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植物性食品中心の食事は慢性疾患の併発を予防する

 植物性食品中心の食生活が、がん、心血管疾患、2型糖尿病のいずれか二つ以上を併発する状態の予防につながることを示唆するデータが報告された。ウィーン大学(オーストリア)のReynalda Cordova氏らの研究によるもので、詳細は「The Lancet Healthy Longevity」8月号に掲載された。 この研究では、欧州6カ国で行われている「欧州がん・栄養前向き調査(EPIC)」と英国で行われている「UKバイオバンク」という二つの大規模疫学研究のデータが解析に用いられた。年齢35~70歳で、がん、心血管疾患、2型糖尿病の既往のない40万7,618人を解析対象とした。食事スタイルの評価には、全粒穀物や果物、野菜、ナッツ、豆類などの健康に良い植物性食品の摂取量が多いことを表す「hPDI」と、精製穀物やジャガイモ(フライドポテトなど)といった健康にあまり良くない植物性食品の摂取量が多いことを表す「uPDI」という、二つの指標を用いた。 EPICでは中央値10.9年、UKバイオバンクでは同11.4年の追跡期間中に、合計で6,604人が、前記3疾患のうち二つ以上を併発していた。解析の結果、hPDIスコアが10ポイント高いごとに、複数疾患併発リスクが約1~2割低いことが示された(EPICではハザード比〔HR〕0.89〔95%信頼区間0.83~0.96〕、UKバイオバンクではHR0.81〔同0.76~0.86〕)。 年齢で層別化すると、高齢者よりも中年成人の方が、食事スタイルによる複数疾患併発リスクへの影響がより強く認められた。具体的には、EPICでは60歳未満ではhPDIスコアが10ポイント高いごとに14%のリスク低下が認められたのに対し(HR0.86〔0.78~0.95〕)、60歳以上では有意なリスク低下が示されなかった(HR0.92〔0.84~1.02〕)。UKバイオバンクでは60歳未満は29%のリスク低下(HR0.71〔0.65~0.79〕)、60歳以上では14%のリスク低下だった(HR0.86〔0.80~0.92〕)。 一方、uPDIスコアとの関連については、UKバイオバンクにおいて、10ポイント高いごとに複数疾患併発リスクが22%高いことが示された(HR1.22〔1.16~1.29〕)。EPICでは有意な関連は示されなかった(HR1.00〔0.94~1.08〕)。 論文の筆頭著者であるCordova氏は、「われわれの研究結果は、健康的な植物性食品中心の食事が、個々の慢性疾患の発症抑制につながるだけでなく、複数の慢性疾患を併発するリスクも抑制することを示している」と総括している。この関連の機序について著者らは、「健康的な植物性食品中心の食生活を続けていると、体重が増えにくく、全身の慢性炎症やインスリン抵抗性が生じにくい。これらはいずれも、2型糖尿病、心血管疾患、がんのリスク上昇を抑制すると考えられる」と解説。さらに、「植物性食品は食物繊維が豊富であり、免疫機能を高めたり腸の炎症を抑えたりする」と指摘している なお、Cordova氏によると、「動物性食品を完全に排除する必要はない」という。研究者らは、「健康的な植物性食品を中心としつつ、少量の動物性食品を加えた食生活が、老後の健康を維持するのに役立つ」と付け加えている。

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前頭側頭型認知症患者はてんかん有病率が高い

 これまでの研究で、てんかんと前頭側頭型認知症(FTD)との関連性が示唆されてきているが、体系的なデータの裏付けは少ない。東フィンランド大学のAnnemari Kilpelainen氏らは、FTD患者のてんかん有病率を、健常対照者(HC)やアルツハイマー病(AD)患者と比較する症例対照研究を実施。結果が「JAMA Neurology」に6月2日掲載された。 この研究では、フィンランドの認知症専門医療機関2施設の外来FTD患者と、年齢、性別、地理的条件をマッチングさせたHC群、およびAD患者群のてんかんの有病率、抗てんかん発作薬(ASM)の処方受取率が4時点で比較された。各群の該当者数と年齢(FTD群とAD群は疾患診断時年齢)、女性の割合は以下のとおり。FTD群245人(65.2±8.7歳、49.4%)、HC群2,416人(65.0±8.5歳、49.3%)、AD群1,326人(71.7±9.8歳、58.6%)。 解析の結果、FTD群においてFTD診断の10年前のてんかん有病率は3.3%であり、同時点におけるHC群の有病率は0.8%、AD群では1.4%だった。FTD群のてんかん有病率は、HC群(群間差2.5パーセントポイント〔ppt〕、P<0.001)、およびAD群(同1.9ppt、P=0.03)より有意に高かった。同様に、FTD診断の5年前の有病率は、FTD群4.9%、HC群1.3%、AD群1.7%であり、FTD群はHC群(3.6ppt、P<0.001)、AD群(3.2ppt、P=0.002)より有意に高かった。 FTDを診断された年のてんかん有病率は、前記と同順に6.5%、1.8%、5.0%であり、FTD群の有病率はHC群より有意に高く(4.7ppt、P<0.001)、AD群との比較では有意差がなかった(1.6ppt、P=0.32)。FTD診断の5年後は有病率が11.2%、2.2%、6.9%であり、HC群との比較で有意に高く(9.0ppt、P<0.001)、AD群との差の有意性は統計学的に境界値だった(4.2ppt、P=0.05)。 ASMの処方受取率については、FTD群ではFTD診断10年前に11.4%、診断5年前に16.7%、診断の年に28.6%、診断5年後に40.0%だった。それに対してHC群では同時点の処方受取率が5.0%、9.1%、14.6%、18.8%、AD群では5.6%、10.3%、17.8%、23.8%だった。FTD群の処方受取率は全ての時点で他の2群より有意に高かった。 論文の共著者の1人である同大学のEino Solje氏は、「この研究結果は、てんかんとFTDの関連性に関する新たな研究課題を提起している。すなわち、これら両疾患が何らかの病態生理学的メカニズムを共有しているのか、またはFTDが脳内神経回路の電気活動を変化させてんかんを惹起するのかという問題だ」と述べている。 なお、一部の著者が医薬品関連企業との利益相反(COI)の存在を開示している。

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物価高に負けない! 医師の暮らしに効くふるさと納税お米活用法【医師のためのお金の話】第97回

食料品をはじめとする物価高騰が家計を直撃する中、とくに毎日の主食であるお米の価格上昇には、頭を悩ませます。他の食材と異なり、お米を完全に避けるのは難しい。だからこそ、家計への影響は無視できません。何か手軽に家計の負担を減らす方法はないものか…。そう考える先生方にぜひ知ってほしいのが、ふるさと納税です。この制度をうまく活用すれば、お米を実質2,000円の自己負担で手に入れられます。ふるさと納税は、応援したい自治体に寄付をすることで、地域の特産品などを返礼品として受け取れる制度です。日々の暮らしに欠かせないお米は、まさに「必ず消費する日用品」であり、節約効果も高いため、ふるさと納税の返礼品として圧倒的な人気を誇ります。家計簿をつけると、月々の食費、とりわけお米代が家計全体に与える影響の大きさを実感するはず。ふるさと納税でお米を確保することは、家計管理において有効な対策となります。では、どうすればお米をおトクに手に入れられるのか? その秘訣を見ていきましょう。おトクにお米を受け取るための選び方のコツふるさと納税でお米を選ぶ際に、まず確認すべきは「寄付1万円あたり何kgのお米がもらえるか」です。2025年現在、市場価格や需給バランスの変動もあり、「1万円で3~4kg」が標準的な水準と言えるでしょう。しかし、時期や自治体によっては5kg以上もらえる、いわゆる「コスパの良い」返礼品も見つかります。同じ寄付額でも、もらえるお米の量が異なるケースがあるため、比較検討は欠かせません。一方、「還元率」ランキングには注意が必要です。還元率は「(返礼品の市場価格÷寄付金額)×100」で計算されますが、「市場価格」は調査方法によって大きく変動するため、必ずしも正確とは言えません。お米の返礼品で人気が高いのは、新潟県、山形県、宮城県といった有名産地です。コシヒカリ、つや姫、ひとめぼれなど、それぞれにブランド米があります。ブランド米は品質が安定しているのが魅力ですが、産地限定品や数量限定の新米も要チェックです。ランキングサイトやレビューを参考にして、ご自身の好みや年間消費量に合ったものを選びましょう。ちなみに、私が個人的に推しているのは熊本県の「森のくまさん」。味と価格のバランスが絶妙だと感じています。定期便vs.スポット注文―どちらがおトク?定期便とスポット注文では、どちらの方がおトクなのでしょうか。価格面では、スポット注文の方がやや有利なケースが多いようです。消費ペースが少ない方や、まちまちの方にはスポット注文が向いているでしょう。新米シーズン(9~12月)は、各自治体で新米の受付や先行予約が活発になります。旬のお米を最速で味わえるだけでなく、早期申込キャンペーンなどで通常より量が多い返礼品を選べる場合も。人気のブランド米や産地限定品は、比較的早期に受付を終了する傾向があります。最新の受付開始日や特典に目を光らせるのが得策でしょう。まさに、秋が狙い目の季節なので、ポータルサイトを覗いてみてください。一方、定期便は毎月や隔月、四半期ごとに計画的・自動的にお米が届くので、保管場所を気にしなくても大丈夫です。精米したてのお米が届くため、風味も新鮮。家族の多い世帯なら、定期便で1年分まとめて枠を使い切ると、お米代の平準化・節約が同時に実現します。お米の価格変動リスクを回避するには?近年の異常気象や農業資材費の高騰によって、お米の市場価格は大きく変動しています。米価高騰の年には、ふるさと納税の返礼量(コスパ)が減ったり、受付停止になったりすることも少なくありません。そのため、狙っている返礼品がある場合は、早めに申し込むのが賢明です。定期便は、申し込んだ時点の条件が1年間固定されるため、途中で市場価格が上がっても返礼品量が減ることはありません。一方、翌年度には、市況に応じて自治体が値上げや返礼量のカットを行う場合があります。残念ながら、今年のふるさと納税でよく見かける状況ですね。好条件の定期便を早めに確保しておけば家計の安定につながるので、積極的に探してみましょう。とはいえ、将来の米価を正確に予測するのは難しいのが現実です。米価が数年前のレベルにまで下がる可能性は低いとされていますが、絶対はありません。株式投資や不動産投資と同じで、価格変動によって損をする可能性もゼロではないのです。しかし、ふるさと納税に関しては「損をする」というより、「コスパが悪くなる」と考えたほうが正確でしょう。「当たるも八卦、当たらぬも八卦」くらいの気持ちで、気軽に寄付をしてみるのがおすすめです。

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脳梗塞への抗血小板薬【日常診療アップグレード】第39回

脳梗塞への抗血小板薬問題62歳の男性が3ヵ月前に脳梗塞の診断を受けた。後遺症として左上下肢の麻痺がある。既往歴は高血圧、脂質異常症、末梢動脈疾患である。内服薬はアムロジピン、アスピリン、アトルバスタチンである。バイタルサインは正常。左上下肢に軽度の筋力低下がある。頸動脈エコーと心電図は正常である。クロピドグレルを追加した。

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第285回 通説を覆す小細胞肺がんの起源が判明

通説を覆す小細胞肺がんの起源が判明神経内分泌がんの類いの中で最も悪性度の高い小細胞肺がん(SCLC)の主な出どころが、通説の神経内分泌細胞ではなく、肺の細胞各種の再生を担う基底細胞であることを裏付ける研究成果が報告されました1,2)。神経内分泌がんは肺、前立腺、胃腸を含む全身のあらゆるところに生じ、進行が早いことで知られます。転写因子POU2F3に依存するタフト様(tuft-like)と呼ばれる神経内分泌がんの一種は他の神経内分泌がんと遺伝子発現特徴が異なり、治療への反応も独特なようです。POU2F3は病原体を感知して相手にするタフト細胞のマーカーでもあります。肺がん全体の15%ほど3)を占めるSCLCは神経内分泌がんの類いの中で最も悪辣で、5年間生存率はI期なら4割近いものの、IV期ともなるとわずか2%です4)。分子の目印で4つに分類しうるSCLCは、神経細胞とホルモン生成細胞の両方の特徴を兼ね備える肺神経内分泌細胞を端緒とするとされています。しかしタフト様神経内分泌がんと同様にPOU2F3発現を目印とするSCLCの一種(SCLC-P)はそうともいえないようです。というのもSCLC変異を有する肺神経内分泌細胞はSCLC-Pを生み出せないからです。ただでさえ難儀なSCLCの中でも輪をかけてたちが悪いSCLC-Pは、先立つ研究によるとPOU2F3発現で共通するタフト/刷子細胞からどうやら発生するようです。幹細胞様の肺基底細胞は、損傷修復の際に転写因子PNECとタフト細胞に分化することができます。ゆえにタフト様がんを含む神経内分泌がんの各種は基底細胞を共通項とするかもしれません。そのような背景を受けて実施された新たな研究の結果、神経内分泌細胞ではなく基底細胞を変異させたときに限ってタフト様がんが生じ、基底細胞がタフト様を含むSCLCの起源となることが裏付けられました。研究では遺伝配列改変マウス、腫瘍の立体培養、SCLC患者の944の検体が使われました。時を同じくして発表された別の報告でも、どうやら基底細胞こそSCLCの主な起源らしいことが示唆されています。37のがんの起源が調べられ、大部分のSCLCがどうやら基底細胞を発端とするらしいことが示されました5)。とはいうもののSCLCはどれも基底細胞を起源とするというわけではなさそうで、喫煙と関連せず、より若くして生じうるまれな非定型(atypical)SCLCが神経内分泌細胞を起源とするらしいことがその報告では示されています。そのようなまれなSCLCも視野に入れつつ、多くのSCLCの発端と思しき基底細胞を焦点とするSCLC進展阻止手段の試みが今回の研究を契機に今後進みそうです。研究者によると、がん化する前の基底細胞に免疫系がどう絡むかを検討できるようになっており2)、SCLCを生じる前の段階での予防すら担う治療手段の道が開けています。 参考 1) Ireland AS, et al. Nature. 2025 Sep 17. [Epub ahead of print] 2) Basal stem-like cells identified as origin of small cell lung cancer in lab models / (Eurekalert 3) Rudin CM, et al. Nat Rev Dis Primers. 2021. 4) がん情報サービス:院内がん登録生存率集計結果閲覧システム 5) Bairakdar MD, et al. Nat Commun. 2025;16:8301. -----------------------------------------【大画像】 /files/kiji/20200326175635-sns.jpg 【サムネイル】 /files/kiji/20200326175621.png-----------------------------------------

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診療所の経営環境の悪化が顕著に進行/日医

 日本医師会(会長:松本 吉郎氏[松本皮膚科形成外科医院 理事長・院長])は、9月17日に定例記者会見を開催した。会見では2025年6~7月にかけ会員に行われた「診療所の緊急経営調査の結果」について、常任理事の城守 国斗氏(医療法人三幸会 理事長)が、調査結果の概要を報告した。医療法人の4割が赤字【調査概要】目的:令和5(2023)年度と6(2024)年度の2年分の診療所の経営実態を早急に把握し、今後の議論に備える調査対象:日医A1会員の診療所管理者(院長)7万1,986施設調査時期:令和7(2025)年6月2日~7月14日調査手法:Web調査と郵送調査の併用調査内容:令和5・6年度の2年度分の収支、課題など回収数:1万3,535施設(回収率18.8%)のうち収支部分が有効な回答は1万1,103施設(うち医療法人6,761、個人立4,180)【主な結果】1)利益率の推移(1)医療法人・医業利益率は6.7%から3.2%へ悪化・経常利益率は8.2%から4.2%へ悪化・令和6年度の医業利益は45%が赤字、経常利益は39%が赤字(2)個人立・医業利益率は30.8%から26.4%へ悪化・経常利益率は31.1%から26.0%へ悪化※個人立事業所は、医療法人の事業所と収支構造が違うために、利益の意味が異なるので注意2)医業収益と医業費用の推移(1)医療法人・医業収益は2.3%減少し、医業費用は1.4%増加した・コロナ補助金、診療報酬上の特例措置の廃止が減収に大きく影響していた(2)個人立・医業収益は3.7%減少し、医業費用は2.4%増加した3)令和6年度の医業費用の項目別増減率(1)医療法人・全体で1.4%の増加のうち、医薬品・材料費が3.1%、給与費が1.7%、減価償却費が0.6%の増加(2)個人立・全体で2.4%の増加のうち、医薬品・材料費が5.2%、給与費が2.4%、委託費など0.8%の増加4)収益・費用増減率の分布(医療法人/個人立)・約7割の施設で医業収益が対前年比で減少し、約6割の施設で医業費用が増加・医療法人で医業収益が減少していたのは65.5%、個人立で71.2%※個人立事業所は、医療法人の事業所と収支構造が違うために、利益の意味が異なる5)診療科別の利益率(1)医療法人では、ほぼすべての診療科で医業利益率、経常利益率が悪化した。とくに、発熱外来など感染症対応を実施してきた内科、小児科、耳鼻咽喉科では、令和6年度のコロナ関連補助金・診療報酬上の特例措置廃止や診療報酬改定の影響が大きく、小児科では呼吸器感染症の変動も影響した。(2)個人立はすべての診療科で医業利益率、経常利益率が大幅に低下した。6)決算期別の利益率・医療法人の決算月は法人によって異なるが、令和7年1月~3月の間に令和6年度の決算を迎えた診療所では、医業利益率が2.8%、経常利益率が3.2%だった。・決算期が直近に近付くほど利益率が低下していた。令和6年度の4~6月決算以降、前回改定の影響も受けて、経営環境の悪化が顕著に進んでいた。7)地域別の利益率・診療所の地域に関わらず経営悪化がみられた。医業利益率、経常利益率は、大都市から町村まで、いずれの地域においても低下していた。8)経営問題・「物価高騰・人件費上昇」、「患者単価の減少」、「患者減少・受診率低下」を課題に挙げる診療所が半数以上を占めた。「施設設備の老朽化」が41.3%、「近い将来、廃業」が13.8%を占め、これらはどの地域でも課題とされていた。 以上の調査結果から以下の5点が考察されると結んでいる。(1)診療所の直近の経営状況は、医療法人、個人立ともに減収減益で、前年度から大幅に悪化した。医療法人の約4割が赤字となり、個人立では経常利益が約2割減少した。(2)物価高騰・人件費上昇に加え、コロナ補助金・診療報酬上の特例措置を含めた影響の結果であり、診療所の診療科や地域に関わらず、経営が悪化した。(3)直近の決算期ほど利益率が低く、経営環境の悪化が顕著に進んでいる。(4)診療所の経営者は厳しい経営に直面しており、この状況が続けば、多くの診療所が地域から撤退・消滅し、病院とともに担っている地域の患者さんへの医療提供を継続できなくなる可能性が高い。(5)地域の患者さんへの医療を安定的に提供し続けるため、次期診療報酬改定での大幅な手当と、早期の補助金ならびに期中改定による緊急かつ強力な支援が不可欠である。

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朝食抜きがうつ病リスクに及ぼす影響〜メタ解析

 うつ病は世界的に重要な公衆衛生上の問題であり、うつ病の発症には朝食習慣が関連している可能性がある。中国・成都中医薬大学のJunwen Tan氏らは、朝食とうつ病の相関関係を分析するため、先行研究のメタアナリシスを実施し、朝食抜きとうつ病リスクとの関連性を包括的に評価し、異質性の潜在的な因子を調査した。Frontiers in Psychiatry誌2025年8月5日号の報告。 2024年9月1日までに英語で公表された観察研究を、PubMed、Embase、Web of Scienceのデータベースより検索した。選択された研究のデータ解析は、ニューカッスル・オタワ尺度(NOS)を用いて評価した。PRISMA、Prospero Registration Agreementのガイドラインに従い実施した。混合効果モデルは、最大調整推定値を組み合わせ、I2統計量を用いて異質性を評価した。感度分析により分析の堅牢性を検証し、出版バイアスを評価した。 主な結果は以下のとおり。・12件の研究を対象としたメタ解析では、朝食抜きとうつ病発症率との間に正の相関が示唆された(相対リスク=1.83、95%信頼区間:1.52〜2.20、τ2:0.09、I2:96.37%)。・朝食抜きとうつ病の関係についてEgger検定を行ったところ、p=0.067で0.05超となり、有意な出版バイアスは認められなかった。・サブグループ解析では、異なる地域で実施されている現在の研究には依然として欠陥があることが示された。・うつ病発症は、性別および研究のサンプルサイズと関連していることが示唆された。 著者らは「食文化や評価方法の違いによる異質性の高さが示唆された」としながらも「朝食抜きはうつ病リスクを高める可能性がある。うつ病リスクを軽減するためには、規則正しい標準化された朝食を摂ることに注意を払う必要がある」と結論付けている。

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統合失調症の陰性症状に有効な運動介入は〜RCTネットワークメタ解析

 統合失調症の陰性症状は、抗精神病薬への治療反応性が低く、生活の質を著しく低下させる。統合失調症に対する運動介入は、非薬物療法的な補助的戦略となりうる可能性があるが、異なる種類の運動の相対的な有効性は依然として不明である。中国・Hunan Applied Technology UniversityのZixia Wang氏らは、成人統合失調症患者における陰性症状の改善に対する有酸素運動(AE)、レジスタンス運動(RE)、有酸素運動とレジスタンス運動を組み合わせた運動(AE+RE)、心身運動、ヨガの有効性を比較するため、ランダム化比較試験(RCT)のシステマティックレビューおよびネットワークメタ解析を実施した。Psychiatry Research誌オンライン版2025年8月7日号の報告。 メタ解析の対象とした研究は、成人統合失調症患者に対して、さまざまな構造化運動介入と対照群(運動なし/最小限)またはその他の運動介入を比較したRCTとした。2024年9月までに報告された研究を5つのデータベースよりシステマティックに検索した。主要アウトカムは、陰性症状スコア(PANSS陰性症状尺度、SANS、BNSS)の変化とした。2人のレビュアーが独立して研究の選択、データ抽出を行い、バイアスリスクを評価した。ランダム効果ペアワイズメタ解析およびネットワークメタ解析において、標準化平均差(SMD)、95%信頼区間(CI)を算出した。SUCRA確率を用いて各介入のランク付けを行った。エビデンスの確実性の評価にはGRADEを用いた。 主な結果は以下のとおり。・32件のRCT(アジア:23件、欧州:6件、北米:2件、南米:1件)、1,773例を解析に含めた。・運動介入の期間は、4〜24週間(中央値:12週間)であった。・すべての運動介入において、対照群と比較し、陰性症状の改善が認められた。【ヨガ】SMD=-1.14、95%CI:-1.54〜-0.75【レジスタンス運動】SMD=-1.15、95%CI:-1.96〜-0.34【有酸素運動】SMD=-0.79、95%CI:-1.13〜-0.46【心身運動】SMD=-0.53、95%CI:-1.02〜-0.03【AE+RE】SMD=-0.57、95%CI:-1.17〜0.04・SUCRAによるランキングでは、ヨガが最も効果的な運動介入であることが示唆された。【ヨガ】87.1%【レジスタンス運動】82.1%【有酸素運動】56.9%【AE+RE】38.5%【心身運動】34.4%・サブグループ解析では、31〜40歳の統合失調症患者およびアジアで実施された研究において、より大きなベネフィットが示された(各々、p=0.022)。・ネットワーク構造は良好に連結しており、有意な矛盾や小規模研究の影響は認められなかった。・GRADE確実性による評価では、ほとんどの直接比較および間接比較において低く、SUCRAに基づくランキングにおいては中程度であった。 著者らは「統合失調症の陰性症状改善に対し、ヨガとレジスタンス運動が有効であることが、低〜中程度の確実性のエビデンスレベルで明らかとなった。年齢と地理的状況は治療効果に影響を及ぼすため、個別化された運動介入の必要性が示唆された。これらの知見を確認するためにも、より大規模で質の高いRCTが求められる」とまとめている。

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赤肉の摂取は腹部大動脈瘤の発症につながる?

 赤肉を大量に摂取すると、致死的となることもある腹部大動脈瘤(AAA)の発症リスクが高まる可能性があるようだ。赤肉や他の動物性食品に含まれる成分は、腸内細菌によって分解されたのち、肝臓で酸化されてTMAO(トリメチルアミンN-オキシド)となり、血液中に蓄積する。新たな研究で、血中のTMAOレベルが高い人ほどAAAの発症リスクが高いことが示された。米クリーブランド・クリニック血管医学部門長のScott Cameron氏らによるこの研究結果は、「JAMA Cardiology」に8月20日掲載された。 AAAは腹部の最も太い動脈(腹部大動脈)に瘤のような膨らみが生じる病態である。通常、大動脈の壁は、心臓から送り出される血液の圧力に耐えられる程度に強固である。しかし、動脈硬化などにより部分的に血管壁が弱くなると、そこに膨らみが生じる。このような大動脈瘤は、大きくなるにつれて破裂のリスクが高まり、破裂が病院外で発生した場合には、80%のケースで致死的になるという。 Cameron氏によると、現状ではAAAに対する治療選択肢は手術かステント留置術のみであり、動脈瘤リスクを有する人を予測できる血液検査は存在しない。また、AAA患者は通常、大動脈が破裂して体内に大量出血が起こるまで症状が現れないという。 動物実験では、TMAOはAAAの進行や破裂を促進することが報告されている。今回の研究では、大動脈の定期的な画像検査サーベイランスを受けている2つのコホートのデータを用いて、TMAOレベルとAAA発症や急速な拡大(年間4.0mm以上)、外科手術が推奨される状態(直径5.5cm以上、または急速な拡大)との関連が検討された。コホートの1つはヨーロッパ人(237人、年齢中央値65歳、男性89.0%)、もう1つは米国人(658人、年齢中央値63歳、男性79.5%)で構成されていた。 解析の結果、ヨーロッパコホートでは、血中のTMAOレベルが高いことはAAAの従来のリスク因子(喫煙、高血圧など)や腎機能とは独立してAAAリスクの上昇と関連していることが示された。また、高TMAOにより、急速に拡大するAAAのリスク(調整オッズ比2.75、95%信頼区間1.20〜6.79)、および手術が推奨される状態になるリスク(同2.67、1.24〜6.09)を予測できる可能性も示された。さらに、米国コホートでも、ヨーロッパコホートと米国コホートを統合して解析しても、同様の結果となることが確認された。 Cameron氏は、「これらの結果は、TMAOレベルを標的とすることが、手術以外の動脈瘤疾患の予防と治療に役立つ可能性があることを示唆している」と述べている。また研究グループは、今回の結果がAAAの有効な血液検査の開発につながる可能性があるとの見方も示している。 さらに研究グループは、本研究結果が、AAAリスクを有する人が赤肉の摂取量を減らすことで、自らを守るための対策を講じるのに役立つ可能性があると話している。論文の上席著者である、クリーブランド・クリニック心臓血管・代謝科学部長のStanley Hazen氏は、「TMAOの生成には腸内細菌が関与しており、動物性食品や赤肉を摂取すると、そのレベルが高くなる。TMAOの産生経路を標的とした薬剤は、前臨床モデルにおいて動脈瘤の発生と破裂を阻止することが示されているが、ヒトではまだ利用できない。本研究結果は、手術が必要になるまで経過観察する現在の臨床診療と比較して、大動脈の拡張や早期動脈瘤の予防や治療における食事療法の重要性を示唆しているため、共有する価値がある」と述べている。 ただし研究グループは、赤肉や動物性食品を多く含む食生活とAAAを直接結び付けるには、さらなる研究が必要だと指摘している。

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脂肪分の多い食事が好中球性喘息の一因か

 脂肪分の多い食べ物は、子どもの喘息の一因となる可能性があるようだ。特定の食品に含まれる脂肪が、微生物や細菌のタンパク質によって引き起こされる非アレルギー性の喘息である好中球性喘息に関連していることが、新たな研究で示された。米フィラデルフィア小児病院のDavid Hill氏らによるこの研究結果は、「Science Translational Medicine」に8月27日掲載された。Hill氏らによると、好中球性喘息はアレルギー性喘息よりも治療が難しく、入院が必要になるほど重篤な症状が引き起こされる可能性がアレルギー性喘息よりも高いという。 好中球性喘息は、好中球が過剰に集まって炎症を起こすタイプの喘息であり、この過程には免疫細胞のマクロファージも関与している。マクロファージは吸入されたアレルゲンなどの異物を認識し、炎症性サイトカインなどを分泌する。これにより好中球が誘導され、気道炎症が悪化する。一方、肥満は、慢性炎症や代謝異常を通じてマクロファージを含む免疫細胞の性質を変化させることが知られている。過去の研究では、肥満が喘息、特に好中球性喘息と関連することが示されていたが、その要因が肥満そのものなのか、食事成分なのかは明らかになっていない。 この研究でHill氏らはまず、前臨床試験として動物に高脂肪食を与える実験を行った。その結果、動物性脂肪や加工食品に含まれていることの多い飽和脂肪酸の一種、ステアリン酸が肺のマクロファージに蓄積し、肥満を引き起こすことなく気道の炎症を誘導することが確認された。その一方で、オリーブオイルなどに含まれている一価不飽和脂肪酸のオレイン酸には炎症抑制効果が認められることや、炎症性サイトカインのインターロイキン(IL)-1βやタンパク質のIRE1αを阻害すると、ステアリン酸による肺炎症が抑えられることも確認された。さらに、肥満の小児喘息患者においても、高脂肪食の摂取に関連してマクロファージ様細胞の活性化が認められた。 Hill氏は、「この研究以前は、小児肥満を好中球性喘息の原因と疑う人が多かった。しかし、肥満ではない小児でも好中球性喘息が見られるため、別のメカニズムが存在する可能性も指摘されていた」と同病院のニュースリリースの中で説明する。その上で同氏は、「本研究では、前臨床研究と小児を対象にした研究の両方において、特定の飽和脂肪酸を含む食事は、肥満とは無関係に好中球性喘息を引き起こす可能性のあることが示された」と述べている。 一方、論文の共著者であるフィラデルフィア小児病院呼吸器・睡眠医学部長のLisa Young氏は、「喘息は小児の最も一般的な慢性疾患の一つであり、喘息のサブタイプに応じて異なる治療が必要になることもある。喘息に関連するリスク因子や誘因はさまざまにあるが、本研究は、特定の食事成分が、特に治療の難しい好中球性喘息にどのように関連しているかを示すエビデンスを提供している。これらの知見は新たな治療戦略の開発を促すものであり、標的を絞った食事療法がこのタイプの喘息の予防に役立つ可能性を示唆しており、大変励みになる」と述べている。

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音楽は血圧の調節に役立つ?

 英語では「Music hath charms to soothe the savage breast(音楽には怒りを鎮める力がある)」というフレーズがあるが、音楽は心臓の健康状態にも同様の効果をもたらし得るようだ。新たな小規模研究で、血圧が音楽のパターンに「同期」する可能性のあることが明らかになった。この研究を実施した、英キングス・カレッジ・ロンドン工学教授でピアニストでもあるElaine Chew氏らは、「このことは、身体の血圧を調節する能力である圧受容体反射感受性を高める助けになるかもしれない」との見方を示している。この研究結果は欧州心臓病学会年次総会(ESC Congress 2025、8月29日~9月1日、スペイン・マドリード)で発表された。 Chew氏は、「この研究から、将来的に、特定の生物学的反応を引き起こすための音楽療法を設計できる可能性が生まれた。音楽療法を個々の患者に合わせて調整することも考えられ、プレシジョンメディシン(個別化医療)としての音楽の活用にも1歩近付く。長期的には、音楽を使って心臓病を予防する、あるいは進行を遅らせる、止める、回復に向かわせるといったことが可能になるかもしれない」と説明している。 Chew氏らの研究は「フレーズ構造」と呼ばれる音楽の側面に着目したものである。演奏中、音楽家は楽曲のフレーズの境界を際立たせるためにテンポや音の強弱を変化させ、聴衆を引き付ける音楽パターンを作り出す。Chew氏らによると、一部の楽曲には他の楽曲よりも予測しやすいフレーズ構造が存在するという。同氏らは過去の研究で、楽曲のフレーズが予測しやすいものであるほど呼吸や心拍数の調節に役立つことを突き止めていた。そこで、同じことが血圧にも当てはまるのかどうかを調べることにした。 今回の研究でChew氏らは、92人の参加者(平均年齢42歳、女性60人)が、著名なピアニストが演奏した30曲のピアノ音源のうち9曲を聴いている間の心臓の活動を調べた。各曲の「音楽のテンポと音の強弱のフレーズの弧の境界」は、コンピューターアルゴリズムを用いて特定された。Chew氏らが特に着目したのは「エントレインメント(同期、同調)」だった。これは、音楽のような外部刺激に対して生理的リズムを同期させる身体の能力のことである。 その結果、血圧は多くの場合、テンポの変化よりも音の強弱の変化に同期しやすいことが示された。また、フレーズ構造の予測可能性が高い曲では、聞き手が次の変化を先読みできるため、血圧と音楽の同期が強まった。Chew氏らは、こうした仕組みが血圧を調節する能力を高める可能性があるとの考えを示している。 このことは直感的にも納得できるとChew氏は言う。「時代や文化を超えて、人間は音楽に合わせて体を動かすことを楽しんできた。外部のリズムに自分の動きを合わせる能力には、ボートの上で息を合わせてオールを漕ぐ人たちに見られるように、生物学的にも社会的にも利点がある可能性がある」と同氏は指摘している。 この種の協調的な動作には、リズムのサイクルの始まりと終わりを予測する能力が必要であるとChew氏は言う。同氏は、「この予測こそが、われわれの心臓や呼吸のリズムに影響を与えている可能性が高い」と付け加えた上で、「音楽の構造に同期すると心地良く感じられる。音楽は食べ物やセックス、ドラッグと同じ報酬系が関与していることが研究から明らかにされている」と説明している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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座席位置で変わる生存率、運転席は重症外傷リスクが最大に

 自動車の座席位置によって生存率、外傷リスクはどう変わるのか?日本の地域中核病院で20年にわたり収集された交通事故患者のデータを解析した研究により、座席位置が死亡率や外傷の重症度と関連することが示された。特に運転席の乗員は後部座席の乗員に比べて院内死亡や重症外傷のリスクが高かったという。研究は神戸大学大学院医学研究科外科系講座災害・救急医学分野の鵜澤佑氏、大野雄康氏らによるもので、詳細は「BMC Emergency Medicine」に7月30日掲載された。 交通事故は社会に大きな経済的負担を及ぼす公衆衛生上の課題である。世界保健機構(WHO)によると、2023年には約119万人が交通事故で死亡したと報告されている。自動車事故に巻き込まれた負傷者の生存率や転帰を改善するためには、死亡率や解剖学的重症度に影響を与える因子を明らかにすることが極めて重要である。中でも、運転席、助手席、後部座席に分類される座席位置は交通事故による死亡の重要な要因と考えられている。しかしながら、この座席位置と死亡率の関連を検証した先行研究では矛盾する結果も報告されており、依然としてその関係は明確ではない。そのような背景から、著者らは後部座席の位置が死亡率および解剖学的重症度の低下と関連しているという仮説を立て、国内の地域中核病院のデータベースを用いた後ろ向きコホート研究を実施した。 解析対象は、太田西ノ内病院救命救急センター(福島県郡山市)のデータベースより、2000年から2022年までに四輪自動車乗車中に受傷し、同院に救急搬送された交通事故患者5,906名とした。主要評価項目は院内死亡率とした。その他の評価項目には、重症外傷(外傷重症度総合スコア〔ISS〕が15超と定義)および各部位別(頭頸部、胸部、腹部および骨盤内臓器、四肢および骨盤)の重症外傷(部位別外傷重症度スコア〔AIS〕が3以上と定義)が含まれた。 対象患者5,906人のうち、運転席の乗員は4,104人(69.5%)、助手席は1,009人(17.1%)、後部座席は793人(13.4%)であった。3群間では、年齢、性別、暦年、季節、時間帯、曜日、病院前搬送時間、車種(普通自動車または軽自動車)、受傷機転(衝突の種類や原因)、シートベルトの装着、エアバッグの展開、高エネルギー外傷の有無において有意差が認められた。 多変量ロジスティック回帰モデルを用いて、年齢、性別、暦年、季節、時間帯、曜日、病院前搬送時間、車種、受傷機転、シートベルトの装着、エアバックの展開、高エネルギー外傷などの重要な交絡因子を調整した上で解析した結果、後部座席の乗員は運転席の乗員よりも院内死亡リスクが低いことが明らかになった(調整オッズ比〔AOR〕 0.396、95%信頼区間〔CI〕 0.216~0.727、P<0.025)。 その他の評価項目においても、交絡因子を調整後、後部座席群は運転席群と比較してISS>15の重症外傷リスクが低かった(AOR 0.428、95%CI 0.308~0.596、P<0.025)。特にAIS≧3の胸部(AOR 0.474、95%CI 0.333~0.673、P<0.025)、腹部および骨盤内臓器(AOR 0.373、95%CI 0.218~0.639、P<0.025)において、重症外傷リスクの低下が認められた。 本研究について著者らは、「本研究から、運転席に座る人は死亡や重症外傷のリスクが高く、特別な注意が必要であることが示された。今回の知見は、車に乗る人々だけでなく、救急医療の現場や自動車メーカーにとっても重要な示唆を与えている」と述べている。 なお、サブ解析において後部座席乗員の院内死亡に特有の因子を検討したところ、シートベルトの不適切な着用が院内死亡率の上昇と関連していた(P=0.024)。一方で、後部座席でシートベルトを適切に着用していた乗員に死亡例は認められなかったことから、著者らは後部座席乗員に対してもシートベルト着用を徹底するよう教育・啓発していく必要があると指摘している。

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第261回 診療所の4割が赤字転落、26年度改定で大幅引き上げを/日医

<先週の動き> 1.診療所の4割が赤字転落、26年度改定で大幅引き上げを/日医 2.スマホ保険証スタート 利用率は2割、医療DX加算に反映へ/厚労省 3.サイバー攻撃増加で、電子カルテ共有サービスを基幹インフラに追加へ/厚労省 4.特定機能病院に新基準、総合診療や形成外科を必須領域に追加/厚労省 5.美容医療の立入検査が本格化、診療録不備・誇大広告は処分対象に/厚労省 6.元理事長を提訴 背任起訴受け2.5億円請求、ガバナンス再建へ/東京女子医大 1.診療所の4割が赤字転落、26年度改定で大幅引き上げを/日医日本医師会が9月17日に公表した緊急調査で、2024年度に医療法人立診療所の約4割が赤字経営に陥った実態が明らかになった。医業利益が赤字の診療所は45.2%、経常利益赤字は39.2%で、いずれも前年の2023年度から大幅に増加。医業利益率の平均は6.7%から3.2%へ、経常利益率は8.2%から4.2%へと半減した。中央値はさらに低く、実際の経営状況は平均値以上に厳しいことが浮き彫りとなった。調査は日医会員の診療所の院長など約7万2,000人を対象に実施し、1万1,103施設の有効回答を得た。その結果、物価高騰や人件費上昇に加え、新型コロナ関連補助金や診療報酬特例措置の廃止が収益悪化の主因とされた。医業収益は2.3%減少、費用は1.4%増加し、給与費や医薬品費・材料費が重くのしかかった。診療科別では内科、小児科、耳鼻咽喉科など感染症対応を担ってきた分野で、とくに利益率の低下が顕著となった。直近に決算を迎えた診療所ほど利益率が低下しており、2025年度には赤字診療所が5割に達する恐れが指摘された。さらに、「近い将来廃業を検討」との回答は13.8%に上り、地域医療体制維持への深刻な影響が懸念されている。経営課題として「物価高騰・人件費上昇」(76%)、「患者単価減少」(60.6%)、「受診率低下」などが挙げられ、設備老朽化も41.3%が回答した。松本 吉郎会長は会見で「このままでは診療所の事業継続や承継が困難となり、地域医療の基盤が失われかねない」と危機感を表明。2026年度診療報酬改定での大幅引き上げに加え、補正予算による緊急支援や期中改定の必要性を強く訴えた。また、人件費の高騰が経営を直撃している現状に触れ、「人件費率が高い医療機関に十分な手当てを行わなければ地域医療が崩壊する」と警鐘を鳴らした。 参考 1) 「令和7年 診療所の緊急経営調査」結果について(日医) 2) 医療法人診療所の利益率最頻値は「0~2%未満」、日医が実態調査(日経メディカル) 3) 診療所の4割赤字、医師会長「地域医療継続できなくなる恐れ」…診療報酬引き上げや経営支援を要望(読売新聞) 4) 日医が緊急調査 医療法人の診療所4割赤字、廃業懸念も14% 松本会長「26年度改定大幅アップを」(ミクスオンライン) 5) 診療所の4割が赤字経営 日本医師会「極めて厳しい状況」(毎日新聞) 6) 診療所の4割が経常赤字に 利益率は半減、特例廃止で医業収益も大幅減 日医(CB news) 2.スマホ保険証スタート 利用率は2割、医療DX加算に反映へ/厚労省厚生労働省は9月19日、スマートフォンを健康保険証として利用できる「スマホ保険証」の本格運用を開始した。マイナンバーカードと健康保険証を一体化した「マイナ保険証」の機能をスマホに搭載し、医療機関や薬局に設置されたカードリーダーにかざすことで本人確認と資格確認が可能となる仕組みである。患者の利便性向上や医療DXの推進が狙いとされ、医療DX推進体制整備加算の算定要件における「マイナ保険証利用率」にも反映されることが示された。12月適用分から支払基金による集計に反映される予定。その一方で、全国の対応状況は限定的であり、22万超の医療機関・薬局のうち、対応できる施設は約4万7,000ヵ所にとどまり、全体の2割程度となっている。厚労省は8月末から導入費用の半額補助を行っているが、9月18日時点で約1万5,000施設が補助を利用しているものの、依然として普及は道半ばとなっている。厚労省は、対応施設が少ないために現場の混乱を避ける目的で、暫定的に「スマホ画面の目視確認」を認めている。患者がスマホ保険証のみを持参し、リーダー未設置の医療機関を受診した場合、その場でマイナポータルにログインし、資格情報を画面表示すれば、窓口職員が目視で確認し、通常の自己負担割合で診療を受けられる仕組み。従来の健康保険証が失効した後も、資格確認書や一部の暫定措置により受診が可能とされる。一方で、制度移行期には患者や医療機関双方に戸惑いも多い。カードリーダーの故障や暗証番号の失念、高齢者や障害者の利用困難など実務上の課題も残る。さらに、マイナ保険証を利用しない場合は、資格確認書の自動交付が行われるが、患者の理解不足や情報不足によるトラブルも想定される。福岡 資麿厚生労働大臣は「患者の利便性向上が期待される」と述べつつ、事前に受診先が対応しているか確認するよう呼びかけている。厚労省は対応施設にステッカーを配布し、今後はホームページで一覧を公表する予定。 参考 1) スマホ保険証、医療DX加算の利用率に反映 12月適用分から 厚労省(CB news) 2) スマホ保険証、全国4.7万医療機関・薬局で運用開始 対応2割どまり(日経新聞) 3) “スマホ保険証” きょう運用開始 利用可能な施設は一部に限定(NHK) 4) 「スマホ保険証」スタートしたけど「目視OK」のアナログ運用 デジタル対応できる医療機関がたった2割で(東京新聞) 3.サイバー攻撃増加で、電子カルテ共有サービスを基幹インフラに追加へ/厚労省厚生労働省は9月19日、医療分野を「基幹インフラ制度」の対象に追加する方針を社会保障審議会の医療部会に示した。近年、医療機関や関連システムへのサイバー攻撃が増加する中、地域医療の安定的提供を守る「最後の砦」を確保する観点から、医療分野の対応強化が狙いとなっている。基幹インフラ制度は経済安全保障推進法に基づき、電気・ガス・通信など国民生活に不可欠な分野を対象に、重要設備の導入時に事前の国審査を義務付ける仕組み。2023年11月の法施行を経て、2024年5月に運用が始まり、現在15分野が指定されている。政府は2024年の「骨太の方針」で医療分野の追加を検討する方針を示しており、今回の提案はその具体化となる。厚労省案では、社会保険診療報酬支払基金を基幹インフラ事業者に指定し、同基金が運用する電子カルテ情報共有サービス、電子処方箋管理サービス、オンライン資格確認システムなどを特定重要設備として事前審査の対象に加える。また、救命救急や災害医療を担う高度医療機関も制度対象とする方向も示している。特定重要設備の導入にあたっては、事前に届け出て厚労相による30日間の審査を受けることになり、国外からの妨害リスクが高い場合には、国が勧告や命令を行うことができる。一方で、制度対象となる医療機関の経費など負担増の懸念も委員から指摘された。公定価格で診療報酬が定められているため、他の産業分野のようにコストを価格に転嫁できないことから、十分な配慮を求める声もあがっている。厚労省は今後、有識者会議と並行して、対象医療機関の範囲や特定重要設備の具体像を検討していく見通しである。今回の制度追加は、医療のDX化が進む中で不可欠なインフラを守り、サイバー攻撃や災害時にも持続可能な地域医療を確保することを目的としている。法改正を視野に議論が進められることで、医療機関のセキュリティ対策と財政的支援の両立が今後の焦点となる。 参考 1) 基幹インフラ制度への医療分野の追加について(厚労省) 2) 電子カルテ共有、経済安保「基幹インフラ」に 妨害防止へ厚労省案(日経新聞) 3) 「基幹インフラ制度」への医療分野の追加検討へ 特定重要設備の導入に届け出必要 厚労省(CB news) 4.特定機能病院に新基準、総合診療や形成外科を必須領域に追加/厚労省厚生労働省は9月18日、「特定機能病院及び地域医療支援病院のあり方に関する検討会」を開き、特定機能病院の承認要件を大幅に見直す方針を示した。大学病院本院に求める「基礎的基準」のうち診療科については、現行の16領域に加え、形成外科、病理診断科、臨床検査科、リハビリテーション科、総合診療の5領域を新たに必須とする。病理・臨床検査・総合診療は、部門で実質的に診療を担っていれば設置とみなし、専門医配置の基準にも算入される。教育面では、これらを含む全19領域で専門研修プログラムの基幹施設となることが求められる。看護師・薬剤師の実習受け入れも義務化され、地域医療機関への教育機会提供が明文化された。研究では、従来の「年間70本以上の査読付き英文論文」に加え、Academic Research Organization(ARO)など研究支援組織の設置が必要となる。そのほか、地域医療への貢献も強化され、大学病院本院から半年以上派遣された医師を常勤換算で評価し、派遣元で3年以上勤務した医師が対象となる。分院やサテライトへの派遣は原則除外となるが、医師少数区域であれば算入可能とする。2027(令和9)年度からは派遣医師の名簿作成と毎年の報告が義務付けられる。医療安全も重点項目とされ、重大事象を「A類型」「B類型」に分け、全例の報告・検証を義務化する。管理者の介入権限や医療安全管理責任者の要件を厳格化し、監査委員会には特定機能病院の実務経験者を必須とした。さらに相互ピアレビューを通じた継続的改善が求められる。既存の病院が新基準を満たせない場合は旧基準での存続を認め、ナショナルセンターについては一部基準を代替する。厚労省は今回の見直しを通じ、特定機能病院を「地域・研究・教育の拠点」と再定義し、医師偏在の是正や2040年の人口減少社会を見据えた体制整備を進める考えを示している。 参考 1) 第27回特定機能病院及び地域医療支援病院のあり方に関する検討会(厚労省) 2) 特定機能病院に設置求める基本診療科の案示す 総合診療など5領域を追加 厚労省(CB news) 3) 特定機能病院の新基準に「薬剤師の育成」厚労省、大学病院本院やNC対象(じほう) 5.美容医療の立入検査が本格化、診療録不備・誇大広告は処分対象に/厚労省厚生労働省は、美容医療を巡る健康被害・相談の増加を受け、違法の疑いがある行為を明示し、保健所の立入検査や是正命令につなげやすくする解釈通知を発出した。通知では、(1)無資格カウンセラーなどが個別状況に応じ治療方針を提案・決定すること、脱毛・アートメイク・HIFUなどの医行為を行うことを医師法17条違反と整理し、形式が「料金説明」であっても実質が医学的判断なら違反、(2)医師の指示なく看護師のみで診察・処置・治療方針決定を行うことは医師法17条・保助看法37条違反の可能性、(3)メールやチャットのみの「無診察」診断・処方はオンライン診療指針に反し医師法20条違反の恐れ、(4)診療録の未作成・不備は医師法24条違反で罰則対象と具体例付きで示した。加えて、管理者の不在・安全管理体制(指針・研修・薬機/医機安全管理)の欠落、広告の虚偽・誇大・比較優良、「No.1」表示や術前後写真の不適正な掲出、自由診療情報の不備などについて医療法違反の手順・対応期限の考え方を提示した。保健所は医療法25条に基づく立入検査・報告徴収・是正命令、違反時の業務停止・許可取消までを段階的に行使でき、刑事罰の対象となる事案は警察・消費者庁と連携して告発可能とした。自由診療で実態が見えにくい領域に法的根拠を与え、現場の執行力を高める狙いである。各医療機関は、委任・説明・広告・記録・オンライン診療運用の全工程を点検し、院内規程と研修の即時是正、カウンセリング工程の医師介入・記録化、広告物の総点検を急ぐ必要がある。 参考 1) 違法美容医療、厚労省指導強化へ 相談増で保健所立ち入り事例示す(共同通信) 2) 美容医療、違法疑い事例明示 無資格者関与やメール診断など指導強化(日経新聞) 3) 美容医療に関する取扱いについて(厚労省) 6.元理事長を提訴 背任起訴受け2.5億円請求、ガバナンス再建へ/東京女子医大東京女子医科大学(東京都新宿区)は9月17日、背任罪で起訴されている岩本 絹子元理事長に対し、約2億5,290万円の損害賠償を求める民事訴訟を東京地裁に提起したと発表した。提訴は8月12日付。大学は2024年8月に公表した第三者委員会報告書で、業務委託費や出向者人件費に関する不正支出の疑い、権限集中によるガバナンス不全を指摘されていた。責任追及委員会による調査で、元理事長に善管注意義務違反が認められると判断し、今回の提訴に至った。岩本元理事長は、2018~21年に河田町キャンパスの新校舎建設や付属病院移転に伴う工事を巡り不正な支出を行い、大学に計約2億8,000万円の損害を与えたとして、2025年1月に逮捕、2月に起訴され、大学は昨年8月に同氏を解任している。今回の訴訟について大学は、「専横体制を招いたガバナンス機能不全の責任を明確化する」とコメント。責任追及委員会は今後も調査を続け、他の案件についても提訴などを検討するとしている。また、大学は、専横体制下で損なわれた教職員の心理的安全性を回復するため「心理的安全性確保の宣言」を策定し、組織再建とガバナンス再構築に取り組む姿勢を強調した。清水 治理事長は声明で「新生東京女子医科大学に向け、全教職員のコンプライアンス意識を高め、健全な運営を実現する」と表明。大学は法的責任追及と並行して、透明性と信頼回復を重視した改革を進める方針を打ち出している。 参考 1) 元理事長に対する責任追及の訴えの提起について(東京女子医大) 2) 東京女子医大、元理事長を提訴(朝日新聞) 3) 東京女子医大、岩本元理事長を提訴 「不正で損害」2億円請求(日経新聞) 4) 東京女子医大が岩本絹子元理事長を提訴 「不正支出で損害」2億5000万円請求(産経新聞)

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事例32 診療情報提供料(I)の査定【斬らレセプト シーズン4】

解説事例の「B009 診療情報提供料(I)」が、D事由(告示・通知の算定要件に合致していないと認められるもの)を適用されて査定となりました。査定の原因を調べるためにカルテを参照しました。診療情報提供書発行日の内容に「○○病院に受診、同院△医師から診療状況の問い合わせあり返信」と記載がありました。診療情報提供書の算定要件はその「注1」に「保険医療機関が、診療に基づき、別の保険医療機関での診療の必要を認め、これに対して、患者の同意を得て、診療状況を示す文書を添えて患者の紹介を行った場合に、紹介先保険医療機関ごとに患者1人につき月1回に限り算定する」とあります。要約すると「(1)診療に基づき、(2)別の保険医療機関での診療の必要性を認め、(3)患者の同意を得て、(4)診療状況を示す文書(紹介先機関ごとに定められた項目がすべて記入された文書)を添えて、(5)患者の紹介を行った場合」です。紹介先保険医療機関(注に定められた機関を含む)ごとに患者1人につき月1回に限り算定できます。事例では、レセプト内に患者の同意があったことの補記がなく、診察料の算定もないことから「(1)診療に基づき」と「(3)患者の同意を経て」の要件を満たしていないと判断されてD事由が適用されたものと推測ができます。診療情報提供料の算定でよく誤解されるのは、文書のみをもって算定ができると判断されることです。あくまで、患者さんの了解のもとで他の医療機関に紹介する際に算定できるものです。紹介元への単なる返事など診察料を伴わない診療情報提供料は、療養担当規則第2条の2、第16条の2「診療に関する照会には適切に対応する」と定められているために診療情報提供料として算定できないのです。算定要件を満たしたうえで診察料を伴わない診療情報提供料を算定しようとする場合には、患者の同意があったことをレセプトに補記する必要があるのです。医療機関に対して行われる個別指導などにおいて、よく指摘される内容は次のとおりです。紹介先の医療機関名を診療録に明記されていない患者の同意があることを診療録に記載されていない診療録に「提供した文書」の写しが添付されていない同月内で同じ医療機関に同じ患者さんを複数回紹介している

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論文やケースレポート作成にどこまで使っていいのか?研究倫理を守りつつAIを活用する方法【誰でも使えるChatGPT】第5回

皆さん、こんにちは。近畿大学皮膚科の大塚です。これまで4回にわたって、日常診療でのChatGPT活用法をご紹介してきました。Googleレビューへの返答作成から始まり、鑑別診断支援、ガイドライン比較、患者説明資料の作成まで、さまざまな場面での実践的な使い方をお伝えしてきましたが、いかがでしたでしょうか。さて、今回は多くの先生方から質問を頂く「学術的な文書作成」でのAI活用について取り上げます。論文執筆やケースレポート作成において、ChatGPTをどこまで、どのように使ってよいのか。研究倫理や投稿規定を守りながら、効率的に質の高い学術論文を仕上げるための実践的なガイドラインをお示しします。関連サイトChatGPTINDEX学術論文におけるAI活用の現状と課題やっていいこと・やってはいけないこと研究倫理と投稿規定への対応注意点と限界「自分で行うべき」6つの原則AI活用における品質管理Take-Home Message「成功のための3つの原則」学術論文におけるAI活用の現状と課題2023年以降、多くの医学雑誌がAIツール使用に関するガイドラインを発表しています。Nature、NEJM、Lancetなどの主要誌は「適切な使用であれば認める」というスタンスを取りつつも、明確な制限と開示義務を課しています。一方で、「どこからがAI使用で、どこまでが許容範囲なのか」という境界線は、必ずしも明確ではありません。とくに日本の医療現場では、このような新しい技術の取り扱いについて、まだ十分なコンセンサスが形成されていないのが実情です。やっていいこと・やってはいけないことまず、AI活用における基本的な線引きを整理しましょう。適切とされる使用方法として、大まかに以下のようなものが挙げられます。【文章の構造化と整理】既存のアイデアや知見を論理的に整理する文章の流れを改善する英語表現の修正・校正【研究デザインの検討】統計手法の選択肢を検討する文献検索戦略を立てる研究の限界や課題を整理する【執筆プロセス全体のサポート】アウトライン作成推敲・校正の支援専門用語の適切な使い方の確認一方で、避けるべき使用方法もあります。最も重要なのは、データの創作や改変でしょう。引用の自動生成も厳禁ですし、専門的判断の代替も慎むべきです。具体的には以下のようなことです。【データの創作や改変】存在しない研究結果を生成させる統計データを推測で作成させる患者データを想像で補完させる【引用の自動生成】存在しない論文を引用として使用する引用内容の正確性を確認せずに使用する【専門的判断の代替】診断や治療方針の医学的判断をAIに委ねる倫理的な問題の判断をAIに依存する実践例1:ケースレポート作成支援では、具体的にどのように活用するか、皮膚科のケースレポートを例に見ていきましょう。シナリオ67歳女性の薬疹症例について、まれな臨床経過をたどった症例報告を作成したいと考えています。構造化の段階あなたは医学論文執筆の専門家です。以下の症例について、ケースレポートの構造を提案してください。【症例概要】67歳女性、慢性腎不全でアロプリノール開始2週間後に、Stevens-Johnson症候群を発症。ステロイドパルス療法で改善したが、その後6ヵ月にわたり色素沈着が遷延し、最終的に白斑化したまれな経過。以下の形式で構造を提案してください:1.タイトル案(簡潔で内容を表すもの)2.Abstractの構成要素3.Introductionで触れるべき背景知識4.Case Presentationの記載項目5.Discussionで検討すべき論点6.この症例の学術的意義条件:皮膚科専門誌への投稿を想定症例の特殊性(色素沈着→白斑化)を強調既存文献との比較検討を含めるChatGPTからの回答例ケースレポート構造の提案1.タイトル案「アロプリノール誘発性Stevens-Johnson症候群後に遷延する色素沈着から白斑化に至った1例」2.Abstract構成(250語以内)BackgroundSJS後の色素変化の一般的経過と本例の特殊性Case患者背景、薬剤、臨床経過の要点Results治療反応、組織学的所見、6ヵ月後の転帰Conclusionまれな経過として報告する意義3.Introduction(背景知識)アロプリノール誘発性SJSの頻度と臨床的特徴SJS後の色素沈着の病態生理学的メカニズム色素沈着から白斑化への移行に関する既報告の渉猟結果本症例報告の学術的意義の位置付け4.Case Presentation(記載項目)患者背景年齢、性別、基礎疾患(慢性腎不全の詳細)薬剤投与歴(アロプリノール開始理由、用量)臨床経過発症時の皮疹の性状・分布(写真必須)診断根拠(臨床所見、組織所見)治療内容(ステロイドパルスの詳細)経時的な皮疹の変化(時系列写真)検査所見血液検査(発症時と経過中)組織学的所見(発症時、色素沈着期、白斑化後)アロプリノール特異的リンパ球刺激試験(DLST)5.Discussion検討論点本例の臨床経過の特殊性の考察色素沈着のメカニズム(炎症後色素沈着vs.メラノサイト障害)白斑化への移行機序の仮説類似症例の文献レビューと本例の位置付け治療選択(ステロイド使用)の妥当性予後予測における示唆6.学術的意義SJS後の色素変化の多様性を示す貴重な症例病態解明への新たな知見の提供類似症例遭遇時の治療方針決定の参考資料アロプリノール誘発性SJSの長期予後に関する情報蓄積初回の構造提案を受けて、さらに詳細な検討を求めます。Discussionの深堀り先ほどの提案を踏まえ、Discussion部分をより具体的に展開してください。とくに「色素沈着から白斑化への移行機序」について、以下の観点から考察してください。1.考えられる病態生理学的メカニズム2.既存文献での類似報告の有無3.組織学的所見から推察される過程4.治療介入の影響の可能性5.今後の研究課題条件:仮説的内容は明確に「推測される」等の表現を使用文献引用が必要な部分を明示論理的な構成で記載INDEXへ戻る研究倫理と投稿規定への対応AI使用の開示義務多くの医学雑誌では、AI使用について以下の開示を求めています。開示が必要な項目として、使用したAIツールの名称とバージョン、使用した具体的な目的(校正、翻訳、アイデア整理等)、そして著者が最終的な責任を負うことの明示が求められています。共著者資格との関係現在の国際的なコンセンサスでは、AIは共著者となることはできません。なぜなら、論文の内容に対する説明責任を負えないからです。著者として満たすべき条件(ICMJE基準)には、研究の構想・デザイン、データ収集・分析・解釈に実質的に貢献すること、原稿の執筆または重要な内容の批判的校閲を行うこと、最終原稿の承認を行うこと、そして研究のあらゆる部分の正確性・誠実性について説明責任を負うことが含まれます。AIはこれらの条件を満たすことができないため、共著者とはなりえません。プロンプト作成のコツ効果的にChatGPTを論文作成で活用するためには、プロンプトの作り方にいくつかのコツがあります。1)段階的アプローチを心掛ける一度にすべてを完成させようとせず、構造化、内容検討、推敲というステップに分けて活用することで、より質の高い成果を得られます。各段階で具体的な指示を出し、前の段階の結果を踏まえて次の段階に進むという方法が効果的です。2)専門性のレベル指定「あなたは皮膚科専門医として~」「あなたは臨床研究の方法論専門家として~」など、求める専門性を明確に指定することで、より適切な回答を得ることができます。3)出力形式を明示する出力形式を明示することで、使いやすい形式での回答を得られます。段落構成、表形式など、目的に応じて最適な形式を指定しましょう。また、文字数制限、投稿先雑誌の特徴、研究の制約といった制約条件を明記することで、より実践的で使える提案を受けることができます。INDEXへ戻る注意点と限界1)ファクトチェックの重要性論文作成においてAIを活用する際、とくに注意すべき項目があります。薬剤名・用量については実在性の確認が必須であり、統計値・疫学データは必ず一次情報源での確認が必要です。また、引用文献の存在確認と内容の正確性チェック、診断基準・治療ガイドラインの最新版との照合も欠かせません。2)文献引用の扱いChatGPTは存在しない論文を引用することがあるため、すべての引用について慎重な確認が必要です。論文の実在性、著者名・雑誌名の正確性、引用内容と原著の一致性、発表年月の確認といった基本的な事項を必ず検証してください。とくに重要なのは、引用文献は必ず自分で追加・確認することです。AIが提案する引用は参考程度にとどめ、実際の引用文献はすべて自分で原著を確認し、適切な引用形式で記載することが不可欠です。3)研究データの取り扱い患者データやまだ発表していない研究結果をChatGPTに入力することは避けましょう。情報漏洩のリスクがあります。推奨される方法として、仮想的なデータでプロンプトをテストし、一般化された情報のみを使用し、個人特定可能な情報は絶対に入力しないという原則を守ることが重要です。研究の機密性を保持しながらAIの支援を受けるためには、これらの配慮が不可欠です。INDEXへ戻る「自分で行うべき」6つの原則学術論文の品質と誠実性を保つため、以下の原則は必ず守ってください。1)図表は自分で作る図表の作成については、論文の図・表・グラフはすべて自分で作成することが基本です。AIが生成した図表は参考程度にとどめ、実際のデータに基づいて自作しましょう。図表の体裁や色使いの提案を求めることは可能ですが、最終的な成果物は自分の手で仕上げることが重要です。2)統計解析は自分で実施データ解析・統計計算では、統計解析は必ず自分で実施し、結果を確認してください。AIに統計手法の選択肢を相談することは可能ですが、実際の計算は専用ソフトウエアで行い、p値や信頼区間などの数値に、AIの出力をそのまま使用することは避けるべきです。3)結果・考察は自分で執筆論文の原文執筆において、論文の中核となる内容、とくに結果や考察の主要部分は自分で執筆することが不可欠です。AIはアウトライン作成や表現の改善に活用できますが、内容の創作は行わず、自分の研究成果と見解を自分の言葉で表現することが大切です。4)翻訳内容を再確認最終原稿の言語チェックとして、英語論文の場合は最終原稿を日本語に翻訳して内容を再確認することを強く推奨します。DeepLなどの翻訳ツールで日本語化し、意図した内容と相違ないかチェックし、とくに結論部分や数値データは入念に確認してください。5)記載義務を順守研究方法への記載義務では、生成AIを使用した場合はMaterials and Methodsに明確に記載する必要があります。使用目的、使用範囲、最終確認プロセスを明示し、透明性を保って査読者・読者が判断できるようにすることが求められています。6)著者が最終責任を負う最後に、最終責任の明確化として、すべての内容について著者が最終責任を負うことを確認し、AIの提案内容についても医学的妥当性を検証し、論文のすべての主張について説明責任を持つという意識を忘れてはいけません。INDEXへ戻るAI活用における品質管理投稿前の確認事項論文投稿前には、いくつかの重要な確認事項があります。まず、前述の「自分で行うべき6つの原則」の順守状況を確認しましょう。図表はすべて自作したか、引用文献はすべて自分で確認・追加したか、データ解析・統計計算は自分で実施したか、論文の原文は自分で執筆したか、最終原稿を日本語で読み返し確認したか、そしてMaterials and Methodsに生成AI使用を記載したか、という点を必ずチェックしてください。次に、内容の正確性について、すべての医学的事実を一次資料で確認し、統計データの出典を明記し、薬剤情報を添付文書等で検証する必要があります。とくに、AIが提案した内容については医学的妥当性を自ら検証することが不可欠です。倫理的配慮の面では、患者同意の取得状況、倫理委員会承認の有無、利益相反の適切な開示といった基本的な研究倫理の要件を満たしているか確認しましょう。最後に、投稿規定の順守として、AI使用の適切な開示をMaterials and Methodsに記載したか、文字数・図表数の制限を守っているか、引用形式が統一されているか、そして共著者資格の適切な判定(AIは共著者にならない)を行ったかといった点を確認する必要があります。INDEXへ戻るTake-Home Message「成功のための3つの原則」学術論文作成におけるChatGPT活用は、適切に使用すれば大きな効率化をもたらします。しかし、研究倫理と品質管理を軽視してはいけません。成功のための3つの原則があります。1)AIは助手、責任者は医師AIは助手、医師が責任者という原則です。最終的な判断と責任は必ず医師が負い、AI生成内容は必ず医学的妥当性を検証することが不可欠です。2)透明性を保つ次に、透明性を保つことが重要です。AI使用について適切に開示し、使用目的と範囲を明確にすることで、読者や査読者が適切に判断できる環境を整えましょう。3)品質を妥協しない最後に、品質を妥協しないという姿勢が大切です。すべての情報を一次資料で確認し、段階的チェックプロセスを確立することで、AI時代においても信頼性の高い学術論文を発表し続けることができます。学術論文は医学の発展と患者さんの利益に直結する重要な成果物です。AIという強力なツールを活用しながらも、研究者としての責任と倫理を決して忘れることなく、質の高い論文作成を目指していきましょう。ChatGPTを「優秀なリサーチアシスタント」として位置付け、その能力を最大限活用しつつ、最終的な品質と責任は私たち医師が担保する。この姿勢を貫くことで、AI時代の学術活動をより豊かで価値あるものにできるはずです。INDEXへ戻るまとめ:論文作成でのAI活用の心構え今回は学術論文作成におけるChatGPT活用について、研究倫理を踏まえた実践的なガイドラインをお示ししました。AIツールは確かに強力ですが、学術的誠実性を損なわない範囲での使用が不可欠です。とくに重要なのは「自分で行うべき6つの原則」です。図表作成、データ解析、原文執筆、言語チェック、研究方法への記載、そして最終責任の明確化。これらを守ることで、AI時代においても信頼性の高い学術論文を発表し続けることができるでしょう。

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英語で「骨粗鬆症」、医学用語と患者さんへの言い換え法は?【患者と医療者で!使い分け★英単語】第33回

医学用語紹介:骨粗鬆症 osteoporosis「骨粗鬆症」について説明する際、患者さんにosteoporosisと言って通じなかった場合、何と言い換えればよいでしょうか? 現場の実感として、osteoporosisはそのままで通じる方もそれなりにいる印象ですが、当然通じないケースもあり、この場合には言い換えが必要になります。講師紹介

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