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第254回 新型コロナ、全国的に再拡大 定点報告数が20週ぶりに4人台/厚労省

<先週の動き> 1.新型コロナ、全国的に再拡大 定点報告数が20週ぶりに4人台/厚労省 2.熱中症搬送、今年最多の1万人超 高齢者が半数以上占める/消防庁 3.高難度の外科手術は集約、外科医に報酬強化を 中医協で議論進む/厚労省 4.無床診療所が初の10万件超え 一方で有床診は7万床割れが現実に/厚労省 5.国立病院機構、全体の83%が赤字に 新型コロナ補助終了と物価高が打撃/国立病院機構 6.マイナ保険証、9月からスマホ対応へ 制度周知と現場支援が課題に/厚労省 1.新型コロナ、全国的に再拡大 定点報告数が20週ぶりに4人台/厚労省厚生労働省の発表によると、2025年第30週(7月21~27日)の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の定点報告数は全国平均で1医療機関当たり4.12人となり、20週ぶりに4人台に達した。感染者数は全国で1万5,924人(前週比約32%増)となり、定点報告医療機関の削減(5,000→3,000ヵ所)以降では最多となる。地域別では、沖縄が最多(14.13人)で、宮崎(10.07人)、鹿児島(9.33人)、熊本(7.85人)と南九州での拡大が著しい。宮崎県では、2週前と比べて1医療機関当たりの患者数が2.43人から4倍となる10.07人に急増し、昨年8月以来の水準になった。過去、夏季に1施設当たり30人規模まで感染が広がった記録があり、夏休みや帰省による人流増加に伴うさらなる流行拡大が懸念される。県では、手洗い・うがい、マスク着用、換気の徹底など基本的な感染症対策の再徹底を呼びかけている。また、今回の感染拡大は沖縄を除く全国46都道府県で報告数が増加しており、全国的な再流行の兆候が明確になっている。2025年春以降の「定点縮小体制」の下では、定点数が減ったため総感染者数の統計的把握は難しくなっているが、1施設当たりの報告数の上昇は実質的な感染拡大を示すものとみられる。今後も地域間の感染格差と重症化リスクの高い層への対応が重要となる。 参考 1) コロナ定点報告数、20週ぶりの4人台 感染者は前週比3割増1.59万人 厚労省(CB news) 2) 宮崎 新型コロナ患者急増 この2週間で4倍 感染防止対策を(NHK) 3) コロナ感染者増 前週比1.32倍 定点当たり4.12人(沖縄タイムス) 2.熱中症搬送、今年最多の1万人超 高齢者が半数以上占める/消防庁総務省消防庁の速報によると、2025年7月21~27日の1週間で熱中症により救急搬送された人は全国で1万804人となり、今年最多を記録した。前週比ではほぼ倍増(103.5%増)、5月以降の累計搬送者数は5万3,126人に達し、前年同期より約7,000人多い。東京都が最も多く1,099人、以下埼玉(750人)、北海道(690人)、大阪(641人)と続く。とくに北海道では、北見市で39.0℃を観測するなど記録的な暑さとなり、搬送者数は前年同期の2倍以上に上った。傷病程度別では、外来対応の軽症が6,821人、中等症3,624人、3週間以上の入院を要する重症が260人。死亡も16人確認され、14都道府県に分布していた。年代別では65歳以上の高齢者が6,012人と半数以上を占め、成人(18~64歳)が3,759人、少年(7~17歳)が969人、7歳未満は64人だった。発生場所では住居内が最多(4,083人)、続いて道路(2,094人)、駅や駐車場などの屋外公衆空間(1,328人)、職場(1,244人)と続き、屋内外問わず広く発生していた。とくに高齢者の自宅内での発症が多く、エアコンの使用を控える傾向も指摘されている。消防庁は、こまめな水分補給やエアコンの使用、作業時の休憩に加え、離れて暮らす高齢者への声かけや見守りの重要性を強調している。猛暑は今後も続く見込みであり、医療機関・行政機関ともに、高リスク者への啓発と搬送体制の強化が求められる。 参考 1) 全国の熱中症による救急搬送状況 令和7年7月21日~7月27日(消防庁) 2) 熱中症搬送、全国で今年最多の1万804人 16人の死亡確認 21~27日(産経新聞) 3) 熱中症搬送 27日までの1週間 全国1万人余 前週の2倍近くに増加(NHK) 4) 熱中症搬送者数、今年最多1万804人-前週比倍増 消防庁(CB news) 3.高難度の外科手術は集約、外科医に報酬強化を 中医協で議論進む/厚労省厚生労働省は、7月31日に中央社会保険医療協議会(中医協)の「入院・外来医療等の調査・評価分科会」を開き、外科医の減少と診療科偏在を背景に、急性期入院医療や高難度手術の「集約化」と、それを担う病院や外科医への診療報酬上の支援強化が議論された。とくに消化器外科医は、若年層で減少傾向にあり、外科医の勤務実態(業務負担・ワークライフバランス)を反映した経済的インセンティブの付与が急務とされた。同分科会では「集約化」が医療の質と病院経営の安定化に寄与する一方で、患者の医療アクセスや均てん化医療とのバランスも重要視された。また、症例数と治療成績の相関や、人口規模と医師数・症例数の関係が示され、とくに人口20万人未満の地域では、消化器外科医が1~2人のみの病院が多く、集約化の必要性が高いとされた。外科医確保に向けては、時間外・休日加算の活用や診療報酬による直接的な処遇改善策が提起されたが、現行制度の届け出が困難であることから、取得要件の緩和や新たな支援スキームの検討が必要との意見も出た。今後の診療報酬改定では、手術集約の促進に加え、外科医個人に報いる新たな加算制度の創設も検討課題となる。 参考 1) 令和7年度 第8回入院・外来医療等の調査・評価分科会[議事資料](厚労省) 2) 外科医不足解消に向け、「急性期入院医療・高難度手術の集約化」や「外科医の給与増」などを診療報酬で促進せよ-入院・外来医療分科会(Gem Med) 3) 手術を集約的に担う病院「適切に評価を」外科医不足対策で 中医協・分科会(CB news) 4.無床診療所が初の10万件超え 一方で有床診は7万床割れが現実に/厚労省厚生労働省が、7月31日に公表した医療施設動態調査(2025年5月末概数)によると、無床診療所の施設数がついに10万119施設となり、過去の修正を経て統計上初めて10万件を突破した。前年同月比で331施設の増加となり、無床診療所の増加傾向が鮮明となっている。その一方で、有床診療所は5,240施設と11施設の減少を記録し、1年前からは271施設の減。病床数も6万9,659床と前年同月比で4,116床の減少を示し、2025年4月末時点ではついに「7万床」を割り込んだ。減少ペースが続けば、2026年3月には5,000施設、7月には6万5,000床を下回る可能性が高い。この傾向の背景には、診療報酬の制度改正にもかかわらず経営環境の厳しさや後継者不足などの構造的課題がある。厚労省は、過去の改定で「地域包括ケア型」有床診への支援を強化し、初期加算の細分化や新加算(透析患者やハイリスク分娩管理への評価)を導入したが、有床診療所の減少に歯止めはかかっていない。有床診は一部地域では地域医療の4分の1を担っており、入院対応が可能な地域資源としての意義が大きい。今後の診療報酬改定に向けて、有床診の役割を再評価し、制度的・人的支援の在り方を見直すことが求められる。 参考 1) 医療施設動態調査(令和7年5月末概数)(厚労省) 2) 無床診療所が10万カ所を突破 5月末概数 1年で331カ所増加(CB news) 5.国立病院機構、全体の83%が赤字に 新型コロナ補助終了と物価高が打撃/国立病院機構国立病院機構(NHO)は、2024年度の経常収支が375億円の赤字となり、設立以来最大の損失を記録した。新木 一弘理事長は、厚生労働省の有識者会議で「このままでは機構の存続も危うい」と述べ、経営改善の緊急性を強調した。前年度は190億円の赤字であり、1年で倍近くに悪化し、赤字病院は117施設(83.6%)に上った。主因は新型コロナ病床補助金の廃止(-233億円)に加え、人件費(+138億円)、材料費(+69億円)、光熱費の高騰などで経常費用は393億円増加。一方、入院・外来収益は増加傾向にあり、病床利用率も78.8%へ改善。クリティカルパス実施率や訪問看護利用、地域連携指標も一定の成果をみせたが、マイナ保険証のオンライン資格確認利用は22.8%に止まり、DX推進の遅れが浮き彫りとなった。業績改善策として、NHOは「経営改善総合プラン」を策定し、病院別KPIの可視化、好事例の横展開、院長層への経営研修強化などを実行している。チーム医療や特定行為研修修了者の配置も推進し、2024年度は特定行為看護師が596名へと前年比173名増となった。なお、他の公的病院でも赤字拡大傾向が続いており、済生会270億円、日本赤十字(日赤)450億円と並ぶ水準にあり、経営改善には診療報酬での対応が求められる。 参考 1) 独立行政法人評価に関する有識者会議 国立病院WG [配布資料](厚労省) 2) 国立病院機構が375億円の赤字に転落「過去最悪に」 24年度(CB news) 6.マイナ保険証、9月からスマホ対応へ 制度周知と現場支援が課題に/厚労省2025年7月末をもって、国民健康保険(国保)加入者の約7割(1,700万人)と後期高齢者医療制度加入者全員(1,900万人)の保険証が有効期限を迎え、原則「マイナ保険証」または「資格確認書」が必要となった。だが、制度や書類の違いを理解していない患者が多く、現場では混乱と説明負担が拡大している。厚生労働省は、急増する問い合わせや誤持参への対応として、これまで保険証として使えなかった「資格情報のお知らせ」の単独使用を国保加入者に限り来年3月まで特例的に認める方針へと転換した。加えて、75歳以上の高齢者には原則全員に資格確認書を配布し、移行を円滑にする意図を示したが、制度はかえって複雑化している。この混乱の背景には、昨年12月の保険証新規発行停止を皮切りに、厚労省が短期間に複数のルール変更や特例通知を繰り返したことがある。現場の医療機関や自治体などは、周知が追い付かず、患者対応に多大な事務負担を強いられている。中には「制度を知らずに期限切れの保険証を持参した」、「資格確認書とお知らせの違いがわからない」といった事例が各地で報告されている。一方、厚労省は新たな利用促進策として、スマートフォンによる「スマホ保険証」導入を進めており、読み取り機器(汎用カードリーダー)購入に1台5,000円を上限に補助する制度を創設し、早ければ9月から一部医療機関で運用を開始する。ただし、導入には顔認証端末や周辺機器整備が必要で、対応の遅れや補助制度の認知不足も懸念されている。今後は、制度の安定運用に向け、患者・医療機関の双方に対するわかりやすい周知と、例外措置の整理・一元化が急務となる。 参考 1) 9月からマイナ保険証がスマホでも使えます(厚労省) 2) 医療機関・薬局の窓口に訪れる患者に対する資格確認方法等に関するセミナー(同) 3) 外来診療等におけるマイナ保険証のスマホ搭載対応について(1)[スマホ搭載の概要](国保連合会) 4) 一部の健康保険証きょうから“原則使えず” 医療機関の対応は(NHK) 5) 「スマホ保険証」対応準備に補助 機器購入で5000円上限-厚労省(時事通信) 6) 国保などの健康保険証が7月末で期限切れ、「マイナ保険証」移行呼びかけ…来年3月まで使用は可能(読売新聞) 7) マイナ保険証でまたルール変更…知らない人続出の「資格情報のお知らせ」で 大量の期限切れ前に 厚労省の弁解は(東京新聞)

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事例29 疥癬へのストロメクトール錠3mgが査定【斬らレセプト シーズン4】

解説事例では、2024年6月診療分のイベルメクチン(商品名:ストロメクトール錠)にB事由(医学的に過剰・重複と認められるものをさす)が適用されて査定となりました。この査定は再審査等支払調整額通知表による連絡であり、約1年前の診療に対して保険者からの申し出による過誤調整であることが記載されていました。査定の原因を調べるにあたりカルテの当該日を閲覧しました。ストロメクトール錠の添付文書に記載された用法・用量に従い、2024年4月の初診時から7週間にわたって、KOH鏡検の陽性確認とその後の投薬が繰り返されていました。難治性の疥癬の経過を辿っていたことも記載されていました。2024年6月になってKOH鏡検の陰性確認を2週間連続して「治療終了」とも記載されていました。レセプトの控を見てみると、2024年5月分には「鏡検にてヒゼンダニ陽性」とコメントが記載されていましたが、2024年6月分にはコメント記載がありませんでした。コメント記載がないことから保険者において「投与期間が過剰」と判断されたものと推測できます。この査定に対して経過を詳しく記載するとともにカルテの写しを添付して再審査請求を行ったところ復活しました。同様の査定を避けるため、「ストロメクトール錠の2週間を超える繰り返し投与には症状詳記が必要」であることをレセプトチェックシステムに表示させて査定防止策としました。

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電話相談って困るんだけど…【救急外来・当直で魅せる問題解決コンピテンシー】第9回

電話相談って困るんだけど…Point受診時期、受診可能な施設、搬送手段が明確になるような相談をしよう。相手の現状理解や、今後どう行動するかを確認する丁寧な対応を心がけよう。電話相談で診断をつけず、病態から予想されうる疾患の徴候を伝えて、再相談・受診の目安をわかりやすく伝えよう。症例その日の深夜帯は忙しく、立て続けに心筋梗塞やクモ膜下出血が搬送され、当直帯のスタッフは処置につきっきりだった。そんな時、2歳男児の母親から受診相談の電話がかかってきた。その日の午後に近医を受診し、嘔吐、下痢、腹痛で受診し胃腸炎と診断されたが、まだ、痛がっているので救急外来に受診したい旨の電話だった。母親によると前日に男児の4歳の姉も胃腸炎と診断され、姉は元気になったが、兄は痛がって寝つけないため心配だとの相談だった。当直医は処置に追われていることもあり、すでに診断されて内服薬もあるのだから大丈夫だろうと、やや早口で「胃腸炎でしたら、様子をみてもらえば大丈夫です」とだけ告げて電話を切った。翌日に小児科を受診し、腸重積と診断されそのまま入院となった。男児の両親から、「すぐに入院が必要な状態だったのに前日の電話対応はなんだ」と怒りのクレームを受けることになった。おさえておきたい基本のアプローチ昨今、電話救急医療相談(救急安心センター事業#7119)は全国的に広まりつつあり、日本国民の79%をカバーしている1)。一方で、多くの地域ではサービスが利用できず、またかかりつけ医に直接電話で相談する患者もいるだろう。夜中の電話相談は、なかなか難しいものだ。診察なしに、患者本人や家族からの情報だけで適切な判断を求められる、「これは何かの罠だろうか? あー、早く偉い人がAIとか進歩させて患者相談が全自動になって、この原稿もお役御免にならないかなー」と流れ星に願いをかけてみるも、もうしばらくは電話相談と付き合っていかなければならなさそうだ。そもそも、電話相談で大事なポイントは何だろうか? 相談相手が適切な受診行動をとることが最重要だ。(1)受診時期、(2)受診可能な施設、(3)搬送手段が相手に伝わるようにしよう。まず、受診時期については、病態の緊急度が相関する。今すぐに治療が必要な病態で、急いで救急外来を受診すべき状態か、今すぐの受診は必要ないが2、3日以降にかかりつけ医を受診して診察・治療が必要な状態か、かかりつけ医の次の予約外来の診察で間に合うのか、われわれの判断で患者の受診行動が大きく変わり、患者の転帰が変わることもある。前医の診断を鵜呑みにして判断すると、痛い目にあうのが電話相談の大きな落とし穴だ。実際に診察しないと、はっきりしたことは言えないとしっかり電話越しに伝える必要がある。夜中だと電話を受ける側も楽な疾患に飛びつきやすく、バイアスに陥りやすいものだ。受診可能な医療機関については、その地域ごとのルールを参照してほしい。とくに精神科、小児科、歯科については特別なルールがあることが多いだろう。かかりつけ医での対応なのか、対応する専用の施設があるのか、輪番病院での対応なのか。また、休日や夜間帯によっても、対応施設が変わるので、そこも考慮してほしい。搬送手段についても病態に応じたアドバイスが必要だ。酸素投与やルート確保も必要で救急車による搬送が考慮される病態、公共交通機関で受診が可能な病態、病態は緊急ではなくともADLの低下などで歩行不可能な高齢者で民間の介護タクシーなどの手段が必要な病態などが考えられる。病態に応じた搬送手段を提案しよう。上記を考慮に入れた電話相談のポイントを表に示す。表 電話相談のポイント画像を拡大する落ちてはいけない・落ちたくないPitfalls「電話対応で心配いらない旨を伝えたのですが、もう一度電話がかかってきて、別のスタッフにまた同じ相談をしていました賢明な読者は、普段の病状説明では紙に病名や対応を大きな文字でわかりやすく書き、ときに図示して工夫されていることだろう。一方、電話相談では音声でのコミュニケーションに限られる(今後オンライン診療やWeb会議システムで相談が置き換わるようであれば変わるかもしれないが)。普段は文字で書けば通じる言葉でも、音声だと一気に難易度アップ! まして、難聴の高齢者からの電話相談ではなおさらだ。ちゃんとこちらの伝えたい意図が伝わっているかを確認するうえで、現在の状態をどう理解したのか、これからどう行動するのかを相手から言ってもらって(復唱してもらって)、相談の終わりに確認しよう。これで不要な受診や電話が減って、平和な夜が過ごせること請け合いだ。Point電話相談は音声伝達であるため、相手の理解、どう行動するかを確認しよう話を聞いたら、前医で診断、処方があって外来でのフォロー予定も入っていたので、そのまま経過をみるように伝えました前医で診断を受け処方をされ外来でのフォローの予定が決まっていても、何か様子が変わったところがあったり、別の症状が出現したりで、心配になり電話をかけてきたのだろう。その心配な点を聞かずに、ただ経過を見なさいでは、相談者も納得がいかないだろう。相手の不安な点、ニーズを丁寧に聞き取ると、実は見逃してはいけない疾患が隠れていたなんてこともあるだろう(いや、これが結構あるんだよ。今回の症例でも腹痛がメインになる「胃腸炎」なんて誤診もいいところ!)。前医の診断をそもそも電話で聞いただけで信じてはいけない。診察なしに診断なんてできないと、明確に電話相談者に伝えるべきである。でもつっけんどんに冷たくあしらうのではダメ。共感的声色をもって対応しよう。落とし穴にはまらないよう、カスタマーセンターのスタッフになったつもりで聞いてみよう。日中、自分の病院にかかっている場合は、日中見逃されていた可能性もあり、ハイリスクと考えて受診してもらうほうが無難なんだよ。Point相手の不安に思う点を丁寧に聴取して、解消に努め、必要があれば再受診を促そう前医の診断は疑ってかかれ!不眠の訴えで電話があったので、翌日受診をお勧めしたのですが、自殺企図で救急搬送されました不眠の訴えの裏に、うつ病などの希死念慮を伴う精神疾患が存在することもある。緊急性のある精神疾患が隠れていないか確認して、場合によっては精神科救急への受診を勧めることも必要になる。また精神疾患があっても、生命を脅かすのは器質的疾患や外因によるものだから、精神疾患で片づけてしまってはいけない。Pointメンタルヘルスの電話相談にも緊急性のある疾患を考慮して適切に受診を促す電話で小児の母親から「嘔吐と下痢と腹痛があって周囲に流行もある」と聞いたので感染性胃腸炎と診断し、伝えましたあくまで電話相談では、現在の病態が受診すべきどうかを判断して、受診時期や施設、搬送手段についてアドバイスすることが求められる。限られた情報での診断は難しいし危険である。疑われる疾患やありうる疾患と徴候などを伝え、どうなったら再相談、受診したほうがよいのかを丁寧にアドバイスしよう。そのうえで、実際に診察しない電話だけでは診断はなかなかわからないものなので、適切なアドバイスができなくてすみませんと伝えよう。「どうせ電話でなんて診断がわかるわけがないんだから、心配ならきちんと受診しなさいよ!」なんて高圧的な態度で対応するのはダメチンだよ。また、高齢者や小児の家族からの相談は自分でうまく症状が伝えられないことが多く、訴えが聴取しにくい。高齢者では急にいつもと様子が違う状態になったならば、感染症などの背景疾患からせん妄になっていることも考えられるため、高齢者の受診の閾値は下げるべきだ。高齢者では、症状をマスクする解熱鎮痛薬、循環作動薬、抗凝固薬、抗血小板薬、抗がん薬やステロイドなどの免疫抑制薬を定期内服していることも多い。カルテなどの情報がなければ、内服の丁寧な聴取も病態判断に重要だ。また、小児では予備能が低く血行動態が破綻しやすいため、重症になるまでの時間が成人よりも急激であることが多い。症状が持続しているならば受診を勧めよう。親にとって、子供は自分の命に代えても大事な宝物なのだから。Point電話相談だけで診断はつけられない。予想される疾患や再相談や受診の目安を伝えようワンポイントレッスン電話相談の小ネタ〜これであなたも電話相談したくなる!?電話相談では、どんな相談が多い?スウェーデンの80歳以上の高齢者の電話医療相談の研究では、全体の17%が薬剤関連で、自分の入院に関連した情報(既往歴や内服などの情報照会)、尿路関連、腹痛といった相談が続く2)。薬剤関連が多いのは高齢者という特性が大きく関連しているだろうが、皆さんの実感とも近いだろうか。電話相談で不要な診察はどのくらい減らせる?デンマークの研究では、電話相談による介入で不適切な頻回受診が16%減らせるとの報告がある3)。また、英国の電話相談サービス“NHS111”にかかってきた救急外来受診相談にgeneral practitionerが介入することで、73%が救急外来受診以外の方針(1次医療機関や軽傷対応施設の受診:45.2%、経過観察など:27.8%)となったことが報告された4)。適切な電話相談で相当数の不要不急の診察が減らせそうだ。電話相談だけで済ませることになっても有害事象は起こっていない?電話相談を行っている地域と行っていない地域とで比較した報告によると、有害事象や死亡の転帰をたどった率はそれぞれ、0.001%、0.2〜0.5%だった3)。適切な電話相談が行われれば、相談者に有害な転帰をたどる可能性はきわめて低いといえる。 電話相談による医療コストは減らせる?これだけ不要な診察を減らして有害事象も起こさない電話相談なら、医療費削減にもよいのでないかと思うだろう。しかし、現在のところ英国の研究によれば、議論の余地があるところだ。救急医療コストの29%を減らしたとする一方、そのうちの75%は電話相談サービスの運営コストで相殺される。今後AIなどの発達によって相談サービスのコストが削減できると結果は変わってくるだろう。電話相談で患者の救急医療の満足度は変わる? 認識は変わる?電話相談によって大幅なコストダウンは見込めないが、患者満足度はどうだろうか?イギリスの電話相談サービス“NHS 111”のあるエリアとないエリアで比較して、救急外来を受診した患者の満足度や救急医療に対する認識に変化があるか調査したが、救急医療への満足度、認識に変化はないとの報告だった5)。こちらも相談サービスの質向上によって改善しうるだろう。勉強するための推奨文献 Ismail SA, et al. Br J Gen Pract. 2013;63:e813-820. Knowles E, et al. BMJ Open. 2016;6:e011846. 石川秀樹 ほか. 日本臨牀. 2016;74:p.303-313. 参考 1) 総務省消防庁HP. 救急安心センター事業(#7119)関連情報 2) Dahlgren K, et al. Scand J Prim Health Care. 2017;35:98-104. 3) Ismail SA, et al. Br J Gen Pract. 2013;63:e813-820. 4) Anderson A, Roland M. BMJ Open. 2015;5:e009444. 5) Knowles E, et al. BMJ Open. 2016;6:e011846. 執筆

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英語で「傷の縫合」は何と言う?【患者と医療者で!使い分け★英単語】第28回

医学用語紹介:傷の縫合 suture「傷の縫合」を表す医学用語はsutureで、救急外来などでしばしば使われる単語です。ただし、この言葉では患者さんに伝わらないこともあります。何と言えばいいでしょうか?講師紹介

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具体的な食事・運動プログラムとは【脂肪肝のミカタ】第8回

具体的な食事・運動プログラムとはQ. 食事・運動療法は具体的にどのようにすればよいか?食事療法に関しては、欧州・米国共にガイドラインで、過度な糖質制限食よりも地中海食等のバランスの良い食事が提案されている。炭水化物や飽和脂肪酸を控え、食物線維と不飽和脂肪酸を豊富に含む食事が提案されている1)。地中海食は低糖質食と比べて無理のない減量に繋がったことが2年間の研究で示されている(図1)2)。バランスが良い食事という意味では、日本食もエビデンスはまだ十分ではないが検討に値する。運動療法に関しては、欧州のガイドラインでは、中等度の運動強度で週に150分以上、高度の運動強度で週に75分以上の運動療法を推奨している。(図1)低糖質食と地中海食における体重の推移画像を拡大するQ. 食事・運動療法入院プログラムとは?虎の門病院は、リハビリテーション部と栄養部の協力のもとに、個別化医療を視野に入れた多職種連携に基づく6日間の入院プログラムを行っている(脂肪肝改善入院)。運動療法は、理学療法士から運動強度4~5METsの有酸素運動(20~30分/日)と筋力トレーニング(15~20 分/日)の指導を連日行っている。食事療法は管理栄養士の指導下に、食事エネルギー量/日として25~30kcal/kg×標準体重、エネルギー産生栄養素比率(%)は蛋白質:脂質:糖質が15~17:25:58~60となるよう提供している。これまで、平均年齢68歳、延1,300例のSLD患者に入院加療を行ってきた。治療開始後6ヵ月時点の体重は低下、肝機能や糖脂質代謝は改善、心血管リスクスコアも改善している(図2)3)。最近では、6ヵ月毎定期的に入院を繰り返すことで、2年経過時点の肝機能が改善、維持されることを確認している。(図2)虎の門病院で脂肪肝改善入院を行った症例の6ヵ月時点の肝機能推移画像を拡大する 1) Rinella ME, et al. Hepatology. 2023;77:1797-1835. 2) Shai I, et al. N Engl J Med. 2008;359:229-241. 3) Akuta N, et al. Hepatol Res. 2023;53:607-617.

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日本人の肥満基準、BMI 25以上は適切?

 現在の日本における肥満の定義はBMI 25kg/m2以上とされているが、これは約30年前の横断研究の結果に基づくものである。そのため、現在における妥当性については議論の余地がある。そこで、京都府立医科大学大学院の笠原 健矢氏らの研究グループは、大規模な長期コホート研究のデータを用いて、現在の日本人における最適な肥満の基準値を検討した。その結果、BMI 22kg/m2を対照とした場合、2型糖尿病や慢性腎臓病(CKD)はBMI 25kg/m2付近でハザード比(HR)が2を超える一方で、冠動脈疾患(CAD)や脳卒中などのHRが2を超えるのは、BMI 30kg/m2超であった。本研究結果は、Metabolism誌オンライン版2025年7月15日号に掲載された。 本研究は、2008~23年にかけてパナソニック社の健康診断を受けた40歳以上の16万2,136人を対象とした。ベースライン時のBMIと追跡期間中における疾患(2型糖尿病、CKD、高血圧症、CAD、脳卒中、脂質異常症)の発症との関連について、制限付き3次スプラインを用いた多変量Cox比例ハザードモデルにより評価した。BMI 22kg/m2を対照とした場合の各疾患のHRが2となるBMIを推定した。 主な結果は以下のとおり。・各評価疾患の平均追跡期間は6~8年であった。・BMI 22kg/m2を対照とした場合、それぞれの疾患のHRが2となるBMI(kg/m2)は、以下のとおりであった。 -糖尿病:24.6 -CKD:25.0 -高血圧症:26.8 -CAD:30.8 -脳卒中:32.0 -高トリグリセライド血症:32.3・これらの結果は、性別や年齢で層別化したサブグループ解析においても同様であった。

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小児期ビタミンD不足で、将来のCVDリスク増

 ビタミンD不足は心血管イベントと関連するという既報があるが、小児期におけるビタミンD値低下も成人後のアテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)リスク増と関連している可能性があることが、新たな研究で示唆された。フィンランド・トゥルク大学のJussi Niemela氏らによる研究はEuropean Journal of Preventive Cardiology誌オンライン版2025年4月29日号に掲載された。 研究者らは、「若年フィンランド人における心血管リスクの前向き研究」(Young Finns study)の参加者を対象に、25-OHビタミンD濃度と従来の小児期のリスク因子(BMI、LDLコレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪、収縮期血圧、果物・野菜・魚の摂取量、身体活動、社会経済的地位、喫煙歴)を調査し、フィンランド国民全員をカバーする全国登録データベースを用いてASCVDアウトカムを追跡調査した。これらのデータから小児期のビタミンDレベルと成人発症のASCVDイベントとの関係を評価した。 主な結果は以下のとおり。・3,516例(平均年齢10.5歳、女子50.9%)が組み入れられた。参加者が3~18歳時の1980年に採取・保存された冷凍サンプルから、25-OHビタミンDの血清濃度を測定した。ビタミンD欠乏症のカットポイントは30nmol/L未満とした。・2018年までに95例(2.7%)が、少なくとも1回のASCVDイベントの診断を受けた。初回のイベント発生時の平均年齢は47歳だった。・小児期のビタミンDの低レベルは、37nmol/L(調整ハザード比[aHR]:1.84)、35nmol/L(aHR:2.19)、33nmol/L(aHR:1.76)、31nmol/L(aHR:2.07)それぞれのカットポイントで、成人期のASCVDイベントのリスク増加と有意に関連していた。・これらの結果は、従来の小児期のリスク要因の調整後、成人のビタミンDレベル調整後、ビタミンD欠乏のカットポイント30nmol/L未満を使用した場合、いずれにおいても一貫していた。 著者らは「この結果は、約40年間の追跡調査において、小児期の25-OHビタミンD濃度が37nmol/Lに満たないことが、成人期におけるASCVDイベントと関連していることを示した。小児期の最適化されたビタミンD補給を支援することで、CVDリスクを簡単かつ費用対効果の高いかたちで軽減できる可能性がある」と記している。

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HR+/HER2-進行再発乳がん、CDK4/6i直後のS-1の有用性は?/日本乳学会

 HR+/HER2-の進行・再発乳がんに対して、CDK4/6阻害薬による治療直後の経口フッ化ピリミジン系薬剤(以下「経口5-FU」)は有望な選択肢になり得ることを、九州がんセンターの厚井 裕三子氏が第33回日本乳学会学術総会で発表した。 HR+/HER2-の進行・再発乳がんの標準療法は、CDK4/6阻害薬と内分泌療法の併用療法である。乳診療ガイドラインにおいて、S-1やカペシタビンなどの経口5-FUは、HR+/HER2-の転移・再発乳がんの1次・2次化学療法として弱く推奨されているが、これらの推奨の根拠となる臨床試験はCDK4/6阻害薬が臨床導入される以前の試験であるため、CDK4/6阻害薬の前治療歴がない患者が対象となっている。そこで研究グループは、HR+/HER2-の進行・再発乳がんに対するCDK4/6阻害薬治療後の経口5-FUの治療効果を調査した。 対象は、2018年1月~2023年12月に九州がんセンターにおいて、CDK4/6阻害薬による治療の直後に経口5-FUを投与されたHR+/HER2-の進行・再発乳がん患者40例であった。患者データをレトロスペクティブに診療録より抽出して解析した。治療成功期間(TTF)はカプランマイヤー法を用いて推定した。StageIV治療開始日または再発確認日からの観察期間中央値は4.8年(範囲:1.8~11.3)であった。 主な結果は以下のとおり。・年齢中央値は53歳、術後再発が82.5%、de novo StageIVが17.5%。内臓転移ありが87.5%で、転移部位が1ヵ所は17.5%、2ヵ所は35.0%、3ヵ所以上は47.5%。進行・再発に対する内分泌療法が1ラインだったのは15.0%、2ラインは37.5%、3ライン以上は47.5%。経口5-FUの前に投与されたCDK4/6阻害薬はアベマシクリブが97.5%で、CDK4/6阻害薬の治療期間中央値は13.0ヵ月(範囲:2.1~37.9)。投与された経口5-FUは、S-1が95.0%、カペシタビンが5%。7例がS-1継続中。・経口5-FUのTTF中央値は13.3ヵ月(範囲:1.2~28.9、95%信頼区間:7.4~13.9)であった。・完全奏効(CR)が0%、部分奏効(PR)が37.5%、安定(SD)が40.0%、病勢進行(PD)が22.5%であった。・Grade3以上の有害事象は17.5%(7例)に発現した(好中球減少症2例、貧血2例、ALT上昇2例、浮腫1例)。いずれも減量によってマネジメントが可能であり、治療中止に至った症例はなかった。・単変量解析では、経口5-FUの治療効果の持続期間に関する有意な因子は認められなかった。内臓転移のない症例は、内臓転移のある症例に比べて持続期間が長い傾向にあったが、統計学的な有意差は認められなかった(ハザード比:0.44、p=0.089)。 厚井氏は考察として、本研究における経口5-FUのTTF(13.3ヵ月)は他のランダム化比較試験で示されたTTF/無増悪生存期間と類似した結果であったことに言及したうえで、「益と害のバランスを考慮する必要があるが、経口5-FUはCDK4/6阻害薬後の化学療法の選択肢になり得る」とまとめた。

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医療従事者におけるベンゾジアゼピン使用が仕事のパフォーマンスに及ぼす影響

 不眠症や不安症の治療によく用いられるベンゾジアゼピン(BZD)は、スペインでの使用が増加しており、濫用や依存のリスクに対する懸念が高まっている。スペイン・Miguel de Cervantes European UniversityのCarlos Roncero氏らは、医療従事者におけるBZDおよびその他の向精神薬の使用状況を調査し、その使用率、関連因子、そしてCOVID-19パンデミック後のメンタルヘルス問題との関連性を評価した。Journal of Clinical Medicine誌オンライン版2025年6月16日号の報告。 Salamanca University Healthcare Complex(CAUSA)の医療従事者1,121人を対象に、2023年3月〜2024年1月に匿名オンライン調査を実施した。完全解答が得られた685人のデータを分析した。不眠症、不安症、うつ病の評価には、不眠症重症度質問票(ISI)および患者健康アンケート(PHQ-4)を用いた。 主な結果は以下のとおり。・回答者のうち、睡眠薬を使用していると解答した割合は23.8%、そのうち27.8%は処方箋なしと回答した。・さらに、うつ病または不安症の治療薬を使用していた人の割合は14.7%、処方箋なしと回答したのは、わずか0.6%であった。・睡眠薬の使用と関連していた因子は、高齢、不眠症、不安症、うつ病、心理療法または精神科治療、COVID-19の後遺症、睡眠障害の診断であった。・夜勤は、男性では睡眠薬の使用増加と関連が認められたが、女性では認められなかった。・これらの薬剤の使用は、QOL低下や仕事のパフォーマンス低下との関連が認められた。 著者らは「BZDの使用、とくに自己判断での使用は、医療従事者の間で広くみられており、一般集団よりも高かった。これらの結果は、向精神薬の使用に対処し、不眠症に対する他の薬理学的および非薬理学的な代替療法の促進、脆弱集団に対するメンタルヘルス支援の強化などターゲットを明確にした介入の必要性を浮き彫りにしている」と結論付けている。

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中等症~重症の活動性クローン病、グセルクマブ導入・維持療法が有効/Lancet

 中等症~重症の活動期クローン病患者において、プラセボおよびウステキヌマブと比較して、グセルクマブ(ヒト型抗ヒトIL-23 p19モノクローナル抗体)の静脈内投与による導入療法後、同薬の皮下投与による維持療法を行うアプローチは、有効性の複合エンドポイントが有意に優れ、忍容性も良好で安全性プロファイルは潰瘍性大腸などでの承認時のデータと一致することが、カナダ・カルガリー大学のRemo PanaccioneらGALAXI 2 & 3 Study Groupが実施した「GALAXI-2およびGALAXI-3試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌2025年7月17日号に掲載された。同一デザインの2つの第III相無作為化treat-through試験 GALAXI-2・3試験は、試験期間48週間のプラセボおよびウステキヌマブ(実薬)を対照とする同一デザインの第III相二重盲検無作為化トリプルダミーtreat-through試験であり、2020年1月~2023年10月に日本を含む40ヵ国257施設で参加者の無作為化を行った(Johnson & Johnsonの助成を受けた)。 年齢18歳以上、3ヵ月以上続く中等症~重症の活動期クローン病の患者を対象とし、(1)クローン病活動指数(CDAI)スコアが220~450点で、1日の平均排便回数が3回を超えるか、または1日の平均腹痛スコアが1点を超える、(2)スクリーニング時の内視鏡検査でクローン病の証拠があり、簡易版クローン病内視鏡スコア(SES-CD)が6点以上、(3)回結腸の5つのセグメントのいずれかに潰瘍が存在することと定義した。 これらの患者を、次の4つの群に2対2対2対1の割合で無作為に割り付けた。(1)グセルクマブ200mg(0、4、8週目、静脈内投与)、同200mg(12~44週目、4週ごと、皮下投与)、(2)グセルクマブ200mg(0、4、8週目、静脈内投与)、同100mg(16~40週目、8週ごと、皮下投与)、(3)ウステキヌマブ約6mg/kg(0週目、静脈内投与)、同90mg(8~40週目、8週ごと、皮下投与)、(4)プラセボ(0、4、8週目、静脈内投与)、同(12~44週、4週ごと、皮下投与)。 プラセボ群のうち、12週目の時点で臨床的奏効が得られなかった患者は盲検下にウステキヌマブによる救済療法(12~44週、8週ごと、皮下投与)を受け、他の群の患者は12週時の奏効の有無にかかわらず当該治療を継続した。 主要複合エンドポイントとして、(1)12週時の臨床的奏効(CDAIスコアのベースラインから100点以上の低下、またはCDAIスコア150点未満)と48週時の臨床的寛解(CDAIスコア150点未満)、(2)12週時の臨床的奏効と48週時の内視鏡的奏効(SES-CDスコアのベースラインから50%以上の改善、またはSES-CDスコアが2点以下)を評価した。ウステキヌマブ群との比較でも良好な結果 1,021例(GALAXI-2試験508例[4群の年齢中央値の範囲:32.0~36.0歳、男性の割合の範囲:48~60%]、GALAXI-3試験513例[33.0~35.0歳、57~65%])を主解析の対象とした。 12週時の臨床的奏効と48週時の臨床的寛解の達成率は、GALAXI-2試験ではプラセボ群が12%(9/76例)であったのに対し、グセルクマブ200mg群は55%(80/146例)(補正後群間差:43%[95%信頼区間[CI]:32~54]、p<0.0001)、同100mg群は49%(70/143例)(38%[27~49]、p<0.0001)といずれの投与法とも有意に良好で、GALAXI-3試験でも同様の結果であった(13%[9例]vs.48%[72例]、補正後群間差:35%[95%CI:24~46]、p<0.0001/13%[9例]vs.47%[67例]、34%[23~45]、p<0.0001)。 また、12週時の臨床的奏効と48週時の内視鏡的奏効の達成率は、GALAXI-2試験ではプラセボ群の5%(4例)に比べ、グセルクマブ200mg群は38%(56例)(補正後群間差:33%[95%CI:24~42]、p<0.0001)、同100mg群は39%(56例)(34%[24~43]、p<0.0001)であり、いずれの投与法とも有意に優れ、GALAXI-3試験でも同様の結果が得られた(6%[4例]vs.36%[54例]、補正後群間差:31%[95%CI:21~40]、p<0.0001/6%[4例]vs.34%[48例]、28%[19~37]、p<0.0001)。 2つの試験の統合解析では、ウステキヌマブ群に比べ2つのグセルクマブ群とも、4つの長期(48週)的な有効性の主な副次エンドポイント(内視鏡的奏効、内視鏡的寛解[SES-CDスコアが4点以下、同スコアのベースラインから2点以上の低下、SES-CDの個々の項目のサブスコアがいずれも1点を超えない]、臨床的寛解と内視鏡的奏効の複合、深い寛解[臨床的寛解かつ内視鏡的寛解])がいずれも有意に良好だった。クローン病悪化とCOVID-19が多かった 2つの試験で48週までに、重篤な有害事象がグセルクマブ200mg群で21例(7%、発生率9.7件/100人年)、同100mg群で32例(11%、14.9件/100人年)、ウステキヌマブ群で35例(12%、18.4件/100人年)、プラセボ群(ウステキヌマブによる救済療法を受けた患者を含む)で23例(15%、23.8件/100人年)に発現した。 試験薬の投与中止に至った有害事象は、それぞれ19例(6%)、21例(7%)、22例(7%)、17例(11%)に、重篤な感染症は、3例(1%)、1例(<1%)、12例(4%)、6例(4%)に認めた。48週までに10%超で報告された最も頻度の高い有害事象は、クローン病の悪化および新型コロナウイルス感染症(COVID-19)だった。全体で死亡例の報告はなかった。 著者は、「グセルクマブの有益性は、生物学的製剤による治療を受けていない患者や、生物学的製剤に不耐または効果不十分の既往歴を有する難治性の集団でも明らかであった」「treat-throughの研究デザインは、特定の時点における臨床アウトカムが維持療法の要件とはならないため、これまでの研究に比べ実臨床により近いものとなっている」「このデザインが寄与した重要な点は、導入療法で臨床的奏効が得られなかった患者のかなりの割合が、グセルクマブの皮下投与でアウトカムが改善したことである」としている。

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小細胞肺がんへのタルラタマブ、プラチナ製剤後の2次治療に有効(DeLLPhi-304)/NEJM

 白金製剤ベースの化学療法の施行中または終了後に病勢が進行した小細胞肺がん(SCLC)の2次治療において、化学療法と比較してタルラタマブ(二重特異性T細胞誘導[BiTE]分子製剤)は、全生存期間(OS)が有意に延長し、無増悪生存期間(PFS)も有意に良好で、がん関連呼吸困難や咳嗽が少ないことが、ギリシャ・Henry Dunant Hospital CenterのGiannis Mountzios氏らDeLLphi-304 Investigatorsが実施した「DeLLphi-304試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2025年7月24日号で報告された。30ヵ国の第III相無作為化試験の中間解析 DeLLphi-304試験は、SCLCの2次治療におけるタルラタマブの有効性と安全性の評価を目的とする第III相非盲検無作為化対照比較試験であり、2023年5月~2024年7月に日本を含む30ヵ国166施設で参加者を登録した(Amgenの助成を受けた)。今回は、事前に規定された中間解析の結果が報告された(データカットオフ日:2025年1月29日)。 年齢18歳以上、白金製剤ベースの化学療法による1次治療中または終了後に病勢が進行したPS0~1のSCLC患者を対象とした。脳転移を有する場合も症状がなく、病態が臨床的に安定していれば組み入れ可能とした。被験者を、タルラタマブまたは化学療法薬(トポテカン[和名:ノギテカン]、lurbinectedin、アムルビシンから選択[日本での選択肢はアムルビシンのみ])の投与を受ける群に1対1の割合で無作為に割り付けた。主要評価項目はOSであった。客観的奏効、奏効期間も良好 509例を登録し、タルラタマブ群に254例、化学療法群に255例を割り付けた。化学療法は、185例(73%)でトポテカン、47例(18%)でlurbinectedin、23例(9%)でアムルビシンが投与された。ベースラインの全体の年齢中央値は65歳(範囲:20~86)で、45%が脳転移を、35%が肝転移を有しており、71%が過去にPD-1またはPD-L1阻害薬による治療を受けていた。 ITT集団におけるOS中央値は、化学療法群が8.3ヵ月(95%信頼区間[CI]:7.0~10.2)であったのに対し、タルラタマブ群は13.6ヵ月(11.1~未到達)と有意に延長した(死亡の層別化ハザード比[HR]:0.60[95%CI:0.47~0.77]、p<0.001)。6ヵ月OS率は、タルラタマブ群が76%、化学療法群が62%、12ヵ月OS率はそれぞれ53%および37%だった。 また、12ヵ月時のPFSの境界内平均生存期間(restricted mean survival time:RMST)は、化学療法群の4.3ヵ月に比べ、タルラタマブ群は5.3ヵ月であり有意に優れた(p=0.002)。無作為化から3ヵ月の前後のイベント数で重み付けした、病勢進行または死亡の区分加重平均HRは0.71(95%CI:0.59~0.86)であった。6ヵ月PFS率は、タルラタマブ群が31%、化学療法群が23%、12ヵ月PFS率はそれぞれ20%および4%だった。 客観的奏効率は、タルラタマブ群35%(完全奏効3例[1%]、部分奏効86例[34%])、化学療法群20%(同0例、52例[20%])、奏効期間中央値はそれぞれ6.9ヵ月および5.5ヵ月であった。サイトカイン放出症候群、ICANSはほとんどが軽度 患者報告アウトカムのうち、ベースラインから19週までに化学療法群に比べタルラタマブ群で有意な改善を示したものとして、呼吸困難(症状スコアの変化量の群間差:-9.14点[95%CI:-12.64~-5.64]、p<0.001)と、咳嗽(咳スコア低下のオッズ比:2.04[95%CI:1.17~3.55]、p=0.01、咳スコア低下のリスク比:1.74[95%CI:0.99~2.49])を認めた。 Grade3以上の有害事象(54%vs.80%)、投与中止に至った有害事象(5%vs.12%)は、いずれもタルラタマブ群のほうが低頻度であった。治療関連のGrade3以上の有害事象(27%vs.62%)、投与中止に至った治療関連の有害事象(3%vs.6%)もタルラタマブ群で少なかった。また、治療関連の重篤な有害事象は、タルラタマブ群の28%、化学療法群の31%に認めた。 タルラタマブ群では、サイトカイン放出症候群を56%に認めたが、多くがGrade1(42%)または2(13%)で、Grade3は1%、Grade4/5は発現しなかった。免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)はタルラタマブ群の6%(15例)にみられ、1例(Grade5)を除きGrade1または2であった。 著者は、「この再発例を対象とした研究の結果は、より早期の治療ラインにおいてタルラタマブの評価を行うことの重要性を強調しており、そのような試験(DeLLphi-305、DeLLphi-306、DeLLphi-312)が進行中である」としている。

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胃がんはピロリ菌が主原因、米国の若年で罹患率が増加

 胃がん症例の4分の3(76%)はヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori、以下、ピロリ菌)感染が原因であることが、新たな研究で明らかになった。国際がん研究機関(フランス)のJin Young Park氏らによるこの研究結果は、「Nature Medicine」に7月7日掲載された。Park氏らは、「胃がんのほとんどはピロリ菌への慢性感染によって引き起こされていることから、抗菌薬とプロトンポンプ阻害薬(PPI)の組み合わせによる治療により予防できるはずだ」と述べている。 米メイヨー・クリニックによると、世界人口の半数以上が、生涯、どこかの時点でピロリ菌に感染する可能性があるという。ピロリ菌は、嘔吐物、便、唾液などの体液との接触により広がると考えられており、感染すると、胃痛、お腹の張り(膨満感)、頻回なげっぷなどの症状や、胃や小腸の消化性潰瘍などが引き起こされる。米国がん協会(ACS)によると、米国では2025年に胃がんの新規症例が約3万300件発生し、約1万780人が胃がんにより死亡すると予想されている。胃がん症例のほとんどは、高齢者であるという。 今回の研究では、2008年から2017年の間に生まれた185カ国の若年コホートの将来の胃がん症例数が、胃がんに対する現行の予防措置に変更がないとの仮定のもとで推定された。この推定は、グローバルがん統計(GLOBOCAN)2022による各国の年齢別胃がん罹患率と、国連の人口動態予測に基づくコホート別死亡率を組み合わせて行われた。 その結果、これらのコホート全体で1560万人が胃がんを発症することが推定された。症例の68%(約1060万人)はアジアに集中しており、とりわけ中国とインドでの症例数が多く、全体の42%(約650万人)を占めていた。アジアに次いで多かったのは、南北アメリカ(13%)とアフリカ(11%)であった。ピロリ菌を原因とする症例は全体の76%(約1190万人)であり、そのうちの67%(約800万人)はアジアで生じていた。また、新規症例の58%はもともと罹患率の高い地域での症例だったが、残りの42%は人口増加などの要因により、これまで罹患率が低かった地域で生じることが予想された。発症数の急増が特に大きかったのはサブサハラ・アフリカ地域であり、研究グループは、「将来的には2022年の推定発症数の6倍近くになると予測される」と記している。 研究グループは、「先進国においてさえもピロリ菌を原因とする胃がんが一定数見られるのは、公衆衛生対策が不十分だからだ」と指摘している。また、「米国では現在、胃がん予防に関する国のガイドラインや正式な勧告はないが、胃がんはアジア系・ヒスパニック系・アフリカ系米国人、アメリカ先住民やアラスカ先住民に不均衡に多く発生している。加えて、2016年から2022年の間に50歳未満での胃がん罹患率が増加傾向にあり、特に女性で顕著なことも報告されている」と記している。 Park氏らは、ピロリ菌除去の治療は簡単ではあるものの、この細菌に対するワクチンの開発が最善の策との考えを示している。その上で、「現在、第3相臨床試験で安全性と有効性が確認されたピロリ菌のワクチンは1種類だけだ。小児集団に焦点を当てた将来のワクチン試験へのさらなる投資を行い、ワクチン接種による免疫保護のメカニズムを解明する必要がある」と述べている。

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糖尿病患者では血清脂質レベルと黄斑体積が相関か

 糖尿病(DM)の深刻な合併症として、糖尿病網膜症(DR)が挙げられるが、今回、糖尿病患者で血清中の脂質レベルと網膜黄斑体積が関連するという研究結果が報告された。DMがあるとDRがなくても網膜黄斑体積が減少し、また、DMがなくても血清脂質が高いと体積は減少することが示された。さらに、DRがあり、かつ血清脂質が高いと網膜黄斑体積が病的に増加する可能性が示唆されたという。研究は慶應義塾大学医学部眼科の虫賀庸朗氏、永井紀博博士、および同眼科にも籍を置く藤田医科大学東京先端医療研究センターの小沢洋子教授らによるもので、詳細は「PLOS One」に6月4日掲載された。 血糖値のコントロールがDRの進行予防に有効であることは以前から報告されているが、近年では、脂質異常症の管理にも注目が集まっている。国内の「糖尿病網膜症診療ガイドライン」では、脂質異常症を適切に管理することでDRの進行を予防できる可能性が示唆されている。しかし、血清中の脂質レベルと網膜神経組織との潜在的な関係は依然として明らかになっていない。このような背景を踏まえ、著者らは視力の判定基準となる黄斑部の網膜組織体積と血清中脂質濃度の関係を評価することを目的として、健常対照群、DM患者、DMでDRを合併している患者を比較する横断的観察研究を実施した。 本研究は2020年10月1日から2022年9月30日にかけて実施され、解析対象にはDM患者29名と、年齢をマッチさせた健常者12名の計41名が含まれた。解析は全参加者の右目41眼を対象に行った。網膜黄斑部の厚みは、光干渉断層撮影(OCT)を用いて撮影された。撮影は訓練を受けた視能訓練士によって行われ、各スキャンは4回の平均化で画像の質を高めた。撮影後、直径3mmの範囲内で網膜神経線維層(RNFL)、神経節細胞層(GCL)、神経網膜層(NRL)の厚みや体積が自動的に測定され、画像および自動解析の精度は、2名の網膜専門医により確認された。血液採取はOCTの実施と同日に行われ、HbA1c、総コレステロール(TC)、低密度リポ蛋白コレステロール(LDLC)、マロンジアルデヒド修飾LDL(MDA-LDL)、高密度リポ蛋白コレステロール(HDLC)が測定された。 全参加者41名の平均年齢は49.1歳であり、うち男性は23名であった。DM患者29名のうち、14名(14眼)にはDRは認められず(DM群〔DRなし〕)、15名(15眼)にはDRが認められた(DM群〔DRあり〕)。DM群(DRなし)では、対照群と比較して、GCL(P=0.023)およびNRL(P=0.013)の平均体積が有意に減少していた。DM群(DRあり)では、対照群との比較でGCLの体積が有意に減少していた(P=0.067)。 血液検査の結果、MDA-LDLの平均値は、DM群(DRなし)およびDM群(DRあり)で、対照群より有意に高かった(それぞれP=0.046、P=0.021)。一方、HDLC平均値はDM群(DRなし)およびDM群(DRあり)で対照群より低かった(それぞれP=0.004、P<0.001)。 次に各層の黄斑体積と血清中脂質レベルとの相関を解析した。対照群では、TC値はGCL(P=0.014)およびNRL(P=0.041)体積と負の相関を示した。一方、DM群(DRあり)群では、TC値はRNFL(P=0.001)およびNRL(P=0.013)体積と正の相関を示した。さらに、対照群ではLDLC値がGCL体積と負の相関を示し(P=0.005)、RNFL(P=0.060)およびNRL(P=0.051)体積とも同様の負の相関傾向が認められた。しかし、DM群(DRあり)群では、LDLC値はRNFL(P=0.002)、GCL(P=0.034)、およびNRL(P=0.002)体積と正の相関を示した。また、対照群ではMDA-LDL値がGCL(P=0.055)およびNRL(P=0.052)体積と負の相関傾向を示したが、DM群(DRあり)では、MDA-LDL値はRNFL(P<0.001)およびNRL(P=0.006)体積と正の相関を示した。 本研究について著者らは、「網膜黄斑部の体積は、糖尿病により減少し、糖尿病がなくても血清脂質が高いと減少する可能性が示唆された。ただし、糖尿病網膜症発症後に血清脂質が上昇すると、逆に黄斑部の体積が増加する可能性があることが分かった。これは、糖尿病網膜症の患者の場合、血液網膜関門の破壊が進行しているため、網膜内に脂質の蓄積が起こり、結果として黄斑部の体積が増加するというメカニズムが考えられる」と述べている。 なお、本研究は千寿製薬株式会社と聖路加国際病院での共同研究として開始され、その後千寿製薬株式会社と藤田医科大学での共同研究として引き継がれた。

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アルコールを一滴も飲んでいないのに「飲酒運転」で逮捕【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第287回

アルコールを一滴も飲んでいないのに「飲酒運転」で逮捕46歳の健康な建設業者が2011年、拇指外傷の治療でセファレキシンを3週間服用しました。抗菌薬終了後まもなく、記憶障害、集中力低下、攻撃的行動が現れ、温厚だった彼は別人のようになりました。そして、2014年のある朝、彼は飲酒運転で逮捕されました。「アルコールは一滴も飲んでいない」と訴えましたが、血中アルコール濃度はきわめて高い結果でした。医療スタッフも警察も、「飲んでいない」という彼の言葉を信じませんでした。Malik F, et al. Case report and literature review of auto-brewery syndrome: probably an underdiagnosed medical condition. BMJ Open Gastroenterol. 2019 Aug 5;6(1):e000325.その後6年間、複数の専門医を受診しても原因は不明。症状悪化により転倒して頭蓋内出血を起こし、入院中も血中アルコール濃度が高い状態で変動していました。「隠れてお酒を飲んでいるんでしょう」と疑っている人も多かったそうです。転機は、叔母がインターネットで見つけた類似症例の情報でした。2015年、オハイオ州の医師を訪れた彼に、ついに「自動醸造症候群」の診断が下されました。―――自動醸造症候群(Auto-brewery syndrome)。聞いたことありますか? これは、摂取した炭水化物が腸管内の真菌によってアルコールに変換される、きわめてまれな疾患です。患者は文字通り「体内で酒を造る」状態となります。便検査により醸造酵母であるSaccharomyces cerevisiaeとSaccharomyces boulardiiが検出されました。炭水化物チャレンジテストでは、50g摂取後8時間で血中アルコール濃度が57mg/dLまで上昇。彼の腸内で文字どおり「酒造り」が行われていたのです。2017年の精密検査では、内視鏡で採取した腸管分泌物からCandida albicansとCandida parapsilosisも検出されました。複数の真菌が入れ替わりながら、継続的にアルコールを産生していた可能性が示唆されました。何らかの理由により腸内細菌叢が破綻し、通常は抑制されている酵母菌が胃や上部小腸で異常増殖したことが推察されます。摂取した炭水化物(米、パン、パスタ)が腸内の真菌によってアルコールに変換され、血中に吸収されて酔っ払うという症状を引き起こしていました。治療としていろいろな抗真菌薬が試されましたが、最終的に6週間のミカファンギン点滴により真菌は完全除去されました。治療後は、炭水化物摂取でも血中アルコール濃度は上昇しなくなりました。現在、彼は正常な食事を摂り、仕事に復帰しているそうです。めでたし、めでたし。というわけで、「体内で酒を造る人間」というSFのような病態があることを、私たちは知っておく必要があります。

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第273回 孤軍奮闘を迫られる、三次救急でのコロナ医療の現状

INDEX5類感染症移行から2年、コロナの現状日本の平均的都市、岡山県の専門医の見解入院患者が増加する時期と患者傾向今も注意すべき患者像治療薬の選択順位ワクチン接種の話をするときの注意5類感染症移行から2年、コロナの現状今年もこの時期がやってきた。何かというと新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の流行期である。新型コロナは、一般的に夏と冬にピークを迎える二峰性の流行パターンを繰り返している。2025年の定点観測による流行状況を見ると、第1週(2024年12月30日~2025年1月5日)は定点当たりの報告数が5.32人。冬のピークはこの翌週の2025年第2週(2025年1月6~12日)の7.08人で、この後は緩やかに減少していき、第21週(同5月19~25日)、第22週(同 5月26日~6月1日)ともに0.84人まで低下。そこから再び上昇に転じ、最新の第29週(同7月14~20日)は3.13人となっている。2023年以降、この夏と冬のピーク時の定点報告数は減少している。実例を挙げると、2024年の冬のピークは第5週(2024年1月29日~2月4日)の16.15人で、今年のピークはその半分以下だ。しかし、これを「ウイルスの感染力が低下した」「感染者が減少した」と単純に捉える医療者は少数派ではないだろうか?ウイルスそのものに関しては、昨年末時点の流行株はオミクロン株JN.1系統だったが、年明け以降は徐々にLP.8.1系統に主流が移り、それが6月頃からはNB.1.8.1系統へと変化している。東京大学医科学研究所システムウイルス学分野の佐藤 佳教授が主宰する研究コンソーシアム「The Genotype to Phenotype Japan (G2P-Japan) Consortium」によると、LP.8.1系統はJN.1系統と比べ、ウイルスそのものの感染力は低いながらも免疫逃避能力は高く、実効再生産数はJN.1とほぼ同等、さらにNB.1.8.1系統の免疫逃避能力はLP.8.1とほぼ同等、感染力と実効再生産数はLP.8.1よりも高いという研究結果が報告1)されている。ウイルスそのものは目立って弱くなっていないことになる。つまり、ピーク時の感染者が年々減少しているのは、結局は喉元過ぎれば何とやらで、そもそも呼吸器感染症を疑う症状が出ても受診・検査をしていない人が増えているからだろうと想像できる。そしてここ1ヵ月ほど臨床に関わる医師のSNS投稿を見ても感染者増の空気は読み取れる。おそらく市中のクリニック、拠点病院、大学病院などの高度医療機関では、感染者増の実態の中で見えてくる姿も変わってくるだろう。ということで新型コロナの感染症法5類移行後の実際の医療現場の様子の一端を聞いてみることにした。日本の平均的都市、岡山県の専門医の見解場所は岡山県。同県は47都道府県中、人口規模は第20位(約183万人)で県庁所在地の岡山市は政令指定都市である。人口増加率と人口密度は第24位、人口高齢化率は第28位(31.4%)とある意味、日本国内平均的な位置付けにある。同県では県ホームページに公開された新型コロナの患者報告数や医療提供のデータを元に、感染症の専門家など5人の有志チームが分析コメントを加えた情報を毎週発表している。今回話を聞いたのは、有志メンバーである岡山大学病院感染症内科准教授の萩谷 英大氏と津山中央病院総合内科・感染症内科部長の藤田 浩二氏である。岡山大学病院は言わずと知れた特定機能病院で病床数849床、津山中央病院はへき地医療拠点病院で病床数489床。ともに三次救急機能を有する(岡山大学は高度救命救急センター)。ちなみに高齢化率で見ると、岡山市は27.2%と全国平均より低めなのに対し、中山間地域の津山市は32.4%と全国平均(29.3%)や岡山県全体よりも高い。まず感染の発生状況について萩谷氏は「保健所管内別のデータを見れば数字上は地域差もあるものの、その背景は率直に言ってわからない。かつてと違い、今はとくに若年者を中心に疑われてもほとんど検査をしないのが現状ですから」と話す。藤田氏も「定点報告は、あくまでも検査で捕捉されたものが数字として行政に届けられたものだけで、検査をしない、医療機関を受診しない、あるいは受診しても検査をしてないなどの事例があるため、実態との間に相当ロスがある。あくまでも低く見積もってこれぐらいという水準に過ぎません」とほぼ同様の見解を示した。ただ、藤田氏は「大事なのは入院患者数。この数字は誤魔化せない」とも指摘した。入院患者が増加する時期と患者傾向では新型コロナの入院実態はどのようなものなのか? 萩谷氏は「大学病院では90代で従来から寝たきりの患者などが搬送されてくることはほぼありません。むしろある程度若年で大学病院に通院するような移植歴や免疫抑制状態などの背景を有する人での重症例、透析歴があり他院で発症し重症化した例などが中心。ただ、ここ数ヵ月で見れば、そのような症例の受診もありません」とのこと。一方で地域の基幹病院である津山中央病院の場合、事情は変わってくる。藤田氏は「通年で新型コロナの入院患者は発生しているが、お盆期間やクリスマスシーズン・正月はその期間も含めた前後の約1ヵ月半に70~80歳の年齢層を中心に、延べ100人強の入院患者が発生する」と深刻な状況を吐露した。また、高齢の新型コロナ入院患者の場合、新型コロナそのものの症状の悪化以外に基礎疾患の悪化、同時期には地域全体で感染者が増加することから後方支援病院でも病床に余裕がないなどの理由から、入院は長期化しがち。藤田氏は「こうした最悪の時期は平均在院日数が約1ヵ月。一般医療まで回らなくなる」との事情も明かす。さらに問題となるのは致死率。現在のオミクロン系統での感染者の致死率は全年齢で0.1%程度と言われるものの「基礎疾患のある高齢者が入院患者のほとんどを占めている場合の致死率は5~10%。昨年のお盆シーズンは9%台後半だった」という。今も注意すべき患者像こうしたことから藤田氏は「新型コロナではハイリスク患者の早期発見・早期治療の一点に尽きる」と強調。「医療者の中にも、厚生労働省の新型コロナウイルス感染症診療の手引きの記述を『症状が軽い=リスクが低い』のような“誤読”をしている人がいます。しかし、基礎疾患がある方で今日の軽症が明日の軽症を保証しているわけではありません。率直に言うと、私たちの場合、PCR検査などで陽性になりながら、まだ軽症ということで解熱薬を処方され、経過観察中に症状悪化で救急搬送された事例を数多く経験しています。軽症の感染者を一律に捉えず、ハイリスク軽症者の場合は早期治療開始で入院を防ぐチャンスと考えるべき」と主張する。藤田氏自身は、新型コロナのリスクファクターの基本とも言える「高齢+基礎疾患」に基づき、年齢では60代以降、基礎疾患に関してはがん、免疫不全、COPDなどの肺疾患、心不全、狭心症などの心血管疾患、肝硬変などの肝臓疾患、慢性腎臓病(透析)、糖尿病のコントロール不良例などでは経口抗ウイルス薬の治療開始を考慮する。前述の萩谷氏も同様に年齢+基礎疾患を考慮するものの「たとえば60代で高血圧、糖尿病などはあるもののある程度これらがコントロールできており、最低でもオミクロン系統までのワクチン接種歴があれば、対症療法のみに留まることも多い」と説明する。治療薬の選択順位現在、外来での抗ウイルス薬による治療の中心となるのは、(1)ニルマトレルビル/リトナビル(商品名:パキロビッド)、(2)モルヌピラビル(商品名:ラゲブリオ)、(3)エンシトレルビル(商品名:ゾコーバ)の3種類。この使い分けについては、藤田氏、萩谷氏ともに選択考慮順として、(1)⇒(2)⇒(3)の順で一致する。藤田氏は「もっとも重視するのはこれまで明らかになった治療実績の結果、入院をどれだけ防げたかということ。この点から必然的に第一選択薬として考慮するのはニルマトレルビル/リトナビルになる」と語る。もっとも国内での処方シェアとしては、(3)、(2)、(1)の順とも言われている。とくにエンシトレルビルに関しては3種類の中で最低薬価かつ処方回数が1日1回であることが処方件数の多い理由とも言われているが、萩谷氏は「重症化予防が治療の目的ならば、1日1回だからという問題ではなく、重症化リスクを丁寧に説明し、何とか服用できるように対処・判断をすべき」と強調する。また、モルヌピラビルについては、併用禁忌などでニルマトレルビル/リトナビルの処方が困難な場合、あるいはそうしたリスクが評価しきれない重症化リスクの高い人という消去法的な選択になるという点でも両氏の考えは一致している。また、萩谷氏は「透析歴があり、診察時は腎機能の検査値がわからない、あるいは腎機能が低過ぎてニルマトレルビル/リトナビルの低用量でも処方が難しい場合もモルヌピラビルの選択対象になる」とのことだ。ワクチン接種の話をするときの注意一方、最新の厚労省の人口動態統計でも新型コロナの死者は3万人超で、インフルエンザの10倍以上と、その深刻度は5類移行後も変わらない。そして昨年秋から始まった高齢者を対象とする新型コロナワクチンの接種率は、医療機関へのワクチン納入量ベースで2割強と非常に低いと言われている。ワクチン接種について藤田氏は「実臨床の感覚として接種率はあまり高くないという印象。医師としてどのような方に接種してほしいかと言えば、感染した際に積極的に経口抗ウイルス薬を勧める層になります。実際の診療で患者さんに推奨するかどうかについては、そういう会話になれば『こういう恩恵を受けられる可能性があるよ』と話す感じでしょうか。とにかくパンデミックを抑えようというフェーズと違って、今は年齢などにより受けられる恩恵が違うため、一律な勧め方はできません」という。萩谷氏も「やはり年齢プラス基礎疾患の内服薬の状況を考え、客観的にワクチンのメリットを伝えることはあります。とくに過去にほかの急性感染症で入院したなどの経験が高い人は、アンテナが高いので話しやすいですね。ただ、正直、コロナ禍の経験に辟易している患者さんもいて、いきなり新型コロナワクチンの話をすると『また医者がコロナの話をしている』的に否定的な受け止め方をされることも少なくないので、高齢者などには肺炎球菌ワクチンや帯状疱疹ワクチンなどと並べてコロナワクチンもある、と話すことを心がけている」とかなり慎重だ。現在の世の中はかつてのコロナ禍などどこ吹く風という状況だが、このようにしてみると、喉元過ぎて到来している“熱さ”に、一部の医療者が人知れず孤軍奮闘を迫られている状況であることを改めて認識させられる。 参考 1) Uriu K, et al. Lancet Infect Dis. 2025;25:e443.

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帯状疱疹ワクチン【今、知っておきたいワクチンの話】各論 第17回

ワクチンで予防できる疾患帯状疱疹は、水痘帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus:VZV)の初感染後、脊髄後根神経節、脳神経節に潜伏感染しているVZVが再活性化によって、支配神経領域に疼痛を伴う水疱が集簇して出現する疾患である。合併症として発症後3ヵ月以上にわたり痛みが持続する帯状疱疹後神経痛(post herpetic neuralgia:PHN)のほかに髄膜炎、脳炎、ラムゼイ・ハント症候群といった生命の危険や神経学的後遺症を来す疾患が知られている。国内で実施されている大規模疫学調査にて、1997~2020年の間で帯状疱疹は年々増加傾向を認め、罹患率は50代から上昇し、70代(2020年度10.45/千人・年)でピークを示した。別の調査では、50歳以上の帯状疱疹患者の19.7%がPHNを発症し、年齢別では80歳以上で32.9%と高齢になるほど発症しやすい傾向を認めた。ワクチンの概要帯状疱疹ワクチン接種の目的は、「帯状疱疹発症率を低減させ、重症化を予防すること」である。国内で2つのワクチンを使用することができるので表に概要を示す。表 帯状疱疹ワクチンの概要画像を拡大する2025年度から、65歳の方などへの帯状疱疹ワクチンの予防接種が、予防接種法に基づく定期接種の対象となった。接種の対象者は、以下に該当する方である。65歳を迎える方60~64歳で対象となる方(※1)2025~29年度までの5年間の経過措置として、その年度内に70、75、80、85、90、95、100歳(※2)となられる方※1ヒト免疫不全ウイルス(HIV)による免疫の機能に障害があり、日常生活がほとんど不可能な方※2100歳以上の方については、2025年度に限り全員対象となる。帯状疱疹発症、年齢以外のリスク因子帯状疱疹は、前述した年齢のほかに罹患率を上げるリスクが知られている。HIV/AIDS(相対リスク[RR]3.22)、悪性腫瘍(RR2.17)、SLE(RR2.08)などの免疫不全疾患だけではなく、慢性疾患としての心血管疾患(RR1.41)、COPD(RR1.41)、糖尿病(RR1.24)。他にも精神的ストレス(RR1.47)、身体的外傷(RR2.01)、家族歴(RR2.48)もリスク要因としてあげられる。リスク因子のある方に帯状疱疹が発症した場合は、生命を脅かす疾患となってくるため、ワクチン接種を推奨する意義は高い。免疫不全状態では、生ワクチンは接種不適当であり、シングリックスが推奨される。今後の課題・展望2025年4月からすべての国民で65歳時以降に定期接種として帯状疱疹ワクチンを接種する機会を得ることになった。喜ばしいことではあるが、任意接種としてでも接種を勧めたい対象者が65歳まで接種を待ってしまう可能性が出てくる。前述した高リスク群の方々(とくに免疫不全疾患)には、定期接種を待つことのデメリットを伝え、適切な時期に接種を勧めることも重要である。近年、帯状疱疹と水痘の流行様式に変化がみられる。2014年に小児水痘ワクチンが定期接種となり、水痘患者数の減少と罹患年齢の上昇傾向がある。水痘は罹患年齢が上がるほど重症化する。妊婦が水痘に罹患すると流産や先天性水痘症候群になるリスクがある。接種率の低い任意接種期間でかつ低年齢期に水痘に罹患しなかった若者が、重症化リスクの高い年齢になってきている。2021年9月の国立健康危機管理研究機構(旧国立感染症研究所)の報告によると入院水痘患者は成人割合が71.2%となっており、もはや水痘は麻疹・風疹と同じく成人疾患として重要になりつつある。留意すべきは感染経路であり、水痘感染源として帯状疱疹の割合が増加傾向を認める。増加する帯状疱疹患者から重症水痘患者を発生させないためには、小児期に水痘に罹患せずかつ水痘ワクチン接種も受けていない若者に対する水痘ワクチンのキャッチアップ推奨と中高齢者に対しては今後も帯状疱疹ワクチンを推奨していくことが、今後しばらくの間のVZV感染症対策として必要である。参考となるサイト1)帯状疱疹ワクチンファクトシート 第2版2)こどもとおとなのワクチンサイト 帯状疱疹ワクチン3)乾燥弱毒生水痘ワクチン「ビケン」添付文書4)シングリックス筋注用 添付文書5)国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト 水痘ワクチン定期接種化後の水痘発生動向の変化~感染症発生動向調査より・2021年第26週時点~講師紹介

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8月1日 肺の日【今日は何の日?】

【8月1日 肺の日】〔由来〕「は(8)い(1)」(肺)と読む語呂合わせから、肺の健康についての理解を深め、呼吸器疾患の早期発見と予防についての知識を普及・啓発することを目的に日本呼吸器学会が1999年に制定し、翌2000年から実施。学会では、肺の病気・治療について全国で一般市民を対象にした講座会や医療相談会を行っている。関連コンテンツある呼吸法活用で禁煙継続(Dr.坂根のすぐ使える患者指導画集)英語で「肺炎」、患者さんに通じない場合の言い換え法も【患者と医療者で!使い分け★英単語】診療科別2025年上半期注目論文5選(呼吸器内科編)肺炎へのセフトリアキソン、1g/日vs.2g/日~日本の約47万例の解析COVID-19の世界的流行がとくに影響を及ぼした疾患・集団は/BMJ

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抗うつ薬中止後の離脱症状発生率とうつ病再発への影響

 抗うつ薬中止後にみられる離脱症状の発生率やその性質は依然としてよくわかっていない。英国・キングス・カレッジ・ロンドンのMichail Kalfas氏らは、抗うつ薬の服用を中止した患者において、標準化された尺度(Discontinuation-Emergent Signs and Symptoms[DESS]など)を用いた離脱症状の有無およびそれぞれの離脱症状の発生率を評価するため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。JAMA Psychiatry誌オンライン版2025年7月9日号の報告。 2023年11月7日までに公表された研究をEmbase、PsycINFO、Ovid MEDLINE、Cochrane Libraryの各データベースよりシステマティックに検索した。対象研究は、抗うつ薬中止後に、標準化された尺度を用いて離脱症状を報告したランダム化臨床試験(RCT)、それぞれの離脱症状(有害事象など)を報告したRCTとした。抽出したデータは、2人のレビューアーによるクロスチェックを行った。11件のRCTより未発表のデータも追加で対象に含めた。抗うつ薬中止患者、抗うつ薬継続患者、プラセボ中止患者との標準化平均差(SMD)を算出するために、ランダム効果メタ解析を実施した。プラセボと比較したそれぞれの離脱症状の発生率を評価するため、割合およびオッズ比(OR)のメタ解析を行った。異なる抗うつ薬の比較は、サブグループ解析として実施した。データ解析は、2024年9〜12月に行った。主要アウトカムは、標準化された尺度または標準化されていない尺度を用いて測定した抗うつ薬中止に伴う離脱症状の発生率とその性質とした。 主な結果は以下のとおり。・50研究(1万7,828例、女性の割合:66.9%、平均年齢:44歳)のうち、49研究をメタ解析に含めた。・フォローアップ期間は、1日〜52週間。・DESSのメタ解析では、抗うつ薬中止患者は、プラセボまたは抗うつ薬継続患者と比較し、1週間後の離脱症状の増加が認められた(SMD:0.31、95%信頼区間[CI]:0.23〜0.39、11研究、3,915例)。・エフェクトサイズは、DESSにおける1症状増加に相当した。・抗うつ薬中止は、プラセボ中止と比較し、浮動性めまい(OR:5.52、95%CI:3.81〜8.01)、悪心(OR:3.16、95%CI:2.01〜4.96)、回転性めまい(OR:6.40、95%CI:1.20〜34.19)、神経過敏(OR:3.15、95%CI:1.29〜7.64)のオッズ増加と関連していた。・最も多く認められた離脱症状は、浮動性めまいであった(リスク差:6.24%)。・離脱症状の測定は、うつ病患者(5研究)で測定されたにもかかわらず、抑うつ症状との関連は認められなかった。 著者らは「抗うつ薬中止後1週間目における離脱症状の平均数は、臨床的に意義のある離脱症候群の閾値を下回っていることが示唆された。気分症状の悪化は、抗うつ薬中止と関連していなかったことから、中止後の抑うつ症状の再燃は、うつ病の再発を示唆する可能性がある」と結論付けている。

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ゴルフ場の近くに住む人はパーキンソン病リスクが高い?

 パーキンソン病(PD)は、環境要因と遺伝的要因の複雑な相互作用によって引き起こされる神経変性疾患である。環境要因の中でも、農薬への曝露はPDのリスク増加に関連するとされる。米国・Barrow Neurological InstituteのBrittany Krzyzanowski氏らの研究によると、ゴルフ場の近くに住むことがPD発症リスクの2倍以上の増加と関連している可能性が示された。JAMA Network Open誌2025年5月8日号に掲載。 本研究では、1991~2015年のロチェスター疫学プロジェクト(REP)のデータを用いて、ミネソタ州南部とウィスコンシン州西部にまたがる1万6,119平方マイルの地域内における139のゴルフ場への距離とPD発症との関連性を症例対象研究で評価した。さらに、水道環境として、水道サービス区域内のゴルフ場の有無、地下水域の脆弱性(荒い土壌、浅い岩盤、カルスト地形)、市営井戸の深さでなどの条件でリスクを比較した。 主な結果は以下のとおり。・本解析には、PD症例群419例(診断時の年齢中央値73歳[IQR:65~80]、男性257例[61.3%])、対照群5,113例(インデックス時の年齢中央値72歳[IQR:65~79]、男性3,043例[59.5%])が含まれた。・ゴルフ場から1マイル以内の居住者は、ゴルフ場から6マイル以上離れている居住者に比べてPD発症オッズが2倍以上であった(調整オッズ比[aOR]:2.26、95%信頼区間[CI]:1.09~4.70)。・ゴルフ場から3マイル以内の居住者では、PD発症オッズが比較的一定で(1マイル増加当たりのaOR:0.98、95%CI:0.84~1.11)、ゴルフ場から3マイル以上離れた居住者では、ゴルフ場から1マイル離れるごとにPD発症オッズは13%ずつ減少した(1マイル増加当たりのaOR:0.87、95%CI:0.77~0.98)。・ゴルフ場のある水道サービス区域の居住者は、ゴルフ場のない水道サービス区域の居住者に比べてPD発症オッズが約2倍(aOR:1.96、95%CI:1.20~3.23)であり、個人の井戸を持つ人に比べて1.5倍高かった(aOR:1.49、95%CI:1.05~2.13)。・脆弱な地下水域にあるゴルフ場のある水道サービス区域の居住者は、脆弱でない地下水域でゴルフ場のある水道サービス区域の居住者に比べてPD発症オッズが82%高かった(aOR:1.82、95%CI:1.09~3.03)。 本研究により、ゴルフ場の近隣住民は、距離が離れている居住者に比べてPD発症リスクが上昇することが示された。著者らは、ゴルフ場で使用されている有機リン系農薬、クロルピリホス、MCPP、2,4-D、マンネブ、有機塩素系農薬など、PD発症との関連が知られている農薬が、地下水に浸出したり、空中を漂ったりすることで、曝露経路となっている可能性を指摘している。

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セマグルチドやペムブロリズマブなど、重大な副作用追加/厚労省

 厚生労働省は7月30日、セマグルチドやペムブロリズマブなどに対して、添付文書の改訂指示を発出。該当医薬品の添付文書の副作用の項に、重大な副作用が追記されることとなった。 該当医薬品と改訂内容は以下のとおり。GLP-1受容体作動薬:セマグルチド(商品名:ウゴービ、オゼンピック、リベルサス)GIP/GLP-1受容体作動薬:チルゼパチド(同:マンジャロ、ゼップバウンド)インスリン/GLP-1受容体作動薬配合薬:インスリン グラルギン/リキシセナチド(同:ソリクア配合注ソロスター) イレウス関連症例を評価した結果、重大な副作用の項に「イレウス」(腸閉塞を含むイレウスを起こすおそれがある。高度の便秘、腹部膨満、持続する腹痛、嘔吐等の異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと)を追記。また、合併症・既往歴等のある患者の項に「腹部手術の既往又はイレウスの既往のある患者」を追記した。抗PD-1抗体:ペムブロリズマブ(同:キイトルーダ) 血管炎関連症例を評価した結果、重大な副作用の項に「血管炎」(大型血管炎、中型血管炎、小型血管炎[ANCA関連血管炎、IgA血管炎を含む]があらわれることがある)を追記した。抗PD-L1抗体:アベルマブ(同:バベンチオ) 硬化性胆管炎関連症例を評価した結果、重大な副作用の項の「肝不全、肝機能障害、肝炎」に「硬化性胆管炎」を追記した。また、重要な基本的注意の項の「肝不全、肝機能障害、肝炎」に関する記載に「硬化性胆管炎」に関する注意を追記した。チロシンキナーゼ阻害薬:アファチニブマレイン酸塩(同:ジオトリフ)抗エストロゲン薬:フルベストラント(同:フェソロデックス) 各製剤においてアナフィラキシー関連症例を評価した結果、重大な副作用の項に「アナフィラキシー」を追記した。キナーゼ阻害薬:スニチニブリンゴ酸塩(同:スーテント) 高アンモニア血症関連症例を評価、専門委員の意見も聴取した結果、肝機能異常を伴わずに発現する高アンモニア血症の症例が認められ、本剤との因果関係が否定できない症例が集積したことから、重大な副作用の項に「高アンモニア血症」を追記した。

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