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次期診療報酬改定巡り財務省が強烈な先制パンチこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末は、今年最後のテント山行ということで、山梨・埼玉・長野県境にピークがある甲武信岳(百名山です)に、山仲間と重い荷物を背負って行ってきました。山梨県側の西沢渓谷から入り、甲武信小屋前でテント泊。翌日、甲武信岳を登頂後、三宝山、十文字峠を経て長野県側の毛木平に抜けるルートです。前の週とは打って変わって日本上空に強い寒気が入り込み、小屋前のテントサイト(標高2,360メートル)の気温は氷点下、朝はあまりの寒さに日が昇る前に目が覚めてしまいました。年齢や体力を考えると、冬山並みの装備が必要な秋のテント山行からはそろそろ引退したほうがいいかもれません…。さて、野球シーズンも終わり、来年の診療報酬、介護報酬の同時改定に向けての議論、“診療報酬改定シリーズ”が本格化してきました。今回は、財務省対日本医師会という恒例のマッチアップからスタートした、診療報酬改定を巡る動きについて書いてみたいと思います。「診療所は多額の利益剰余金が存在、取り崩して賃上げに充てるべき」と財務省財務省の財政制度等審議会・財政制度分科会は2023年11月1日、社会保障予算について議論しました。財務省は、2020~2022年度における診療所の経常利益率が急増しているとの調査結果を公表。多額の利益剰余金が存在していることを踏まえ、剰余金を取り崩して賃上げに充てるべきだと指摘、診療所の初・再診料を中心に報酬単価を引き下げることなどにより、診療報酬本体をマイナス改定とすることが適当だ、と主張しました。日本医師会などの医療関係者の団体は、物価高や賃上げなどを理由に診療報酬の大幅な引き上げを求めていますが、議論の初っ端から財務省が強烈な先制パンチを放った形となりました。「1,900万円の剰余金で、3%の賃上げに伴う人件費増を14年間賄える」財務省がこの日公表したのは、20〜22年度の全国38都道府県の約2万2,000の医療法人の経営状況について、財務局が調査した結果です。それによれば、病床を持たず診療所のみを運営する1万8,207の医療法人の経常利益率平均は20年度3.0%、21年度7.4%、22年度8.8%と改善が目立っていました。一方、中小企業の経常利益率は22年度では全産業3.4%、サービス産業3.1%で、医療法人の利益率はこの水準より高い結果となりました。企業の内部留保にあたる利益剰余金の平均は20年度の1億500万円から1億2,400万円へ増えました。20~22年度の増額幅は1,900万円で、18%の伸びです。さらに、財務省は現場従事者の賃金を3%上げるには年140万円が必要と試算、2年間で増えた1,900万円の剰余金を使えば3%の賃上げに伴う人件費増を14年間にわたって賄える、としました。以上を踏まえ、財務省は「2024年度改定においては、診療所の極めて良好な経営状況等を踏まえ、診療所の報酬単価を引き下げること等により、現場従事者の処遇改善等の課題に対応しつつ診療報酬本体をマイナス改定とすることが適当」と提言しています。また、病院については、看護職員の賃上げにつなげる「看護職員処遇改善評価料」の成果の検証や、7対1といった看護師配置に過度に依存した診療報酬体系から、患者の重症度や救急受け入れ、手術といった実績を反映した体系に転換していくべき、としました。「診療報酬の大幅なアップなしでは賃上げは成し遂げられない」と日医会長当然、日本医師会はこうした財務省の考えにすぐさま反対を表明しました。11月2日、日本医師会の松本 吉郎会長は記者会見で、財務省の診療所の利益剰余金が積み上がっているとの指摘に対し、「この3年間はコロナ禍の変動が顕著であり、特に、コロナ特例による上振れ分が含まれている。そもそもコロナ禍で一番落ち込みが厳しかった2020年をベースに比較すること自体がミスリードであり、儲かっているという印象を与える恣意的なものである」と反論しました。そして、利益剰余金は大規模修繕等に充てるほか、法人が解散する際、最終的には国庫等に帰属するなど、医師、役員に帰属するものではないと説明、「『医療機関の賃上げは公定価格の中では対応しない』『利益剰余金を取り崩して実施しろ』という姿勢はあまりにも理不尽であり、地方の医療提供体制の弱体化を招くことを財務省はしっかりと認識すべきだ」と語りました。以上を踏まえ、松本会長は、「秋の新たな経済対策の中で、入院中の食事療養等の補助金や光熱費等の物価高騰に対する継続支援を要請しているが、あくまでも当面の対応であり、今後は報酬改定で対応すべきである。診療報酬の大幅なアップなしでは賃上げは成し遂げられない」と主張しました。診療報酬本体プラスマイナスゼロ近辺で決着か?今年の診療報酬改定は、例年と比べても勘案すべき要素が多過ぎて、なかなか先が見通せません。物価高、国からの賃上げ要請、来年から始まる医師の働き方改革などに加え、コロナ対応で必要以上に潤った医療機関の中にポストコロナになって経営が失速しているところが少なくない点も見逃せません。そんな状況下、「診療所は儲かっている。過去の利益の蓄積を元手に職員の賃上げも可能。診療報酬本体を上げる必要はない」という財務省の強烈な先制パンチが、どこまで改定率に響くのか、気になるところです。診療報酬の改定率や、実際の個々の診療報酬の中身についての議論はこれから本格化しますが、物価高、賃上げを考慮して表向きは少々プラス、肝心の本体はプラスマイナスゼロ近辺、というのが現実的な落とし所になりそうです。ちなみに日経ヘルスケア11月号の特集記事「徹底予測!2024年度診療報酬改定・介護報酬改定はこうなる」も、財務省の「巨額のコロナ補助金で積み上がった資産状況を含め、医療機関・介護施設の財務状況を見ながら、引き上げの必要性を慎重に議論すべき」という財務省の考えを紹介しつつ、「2021年以降は薬価改定が毎年実施されているため、次回の薬価改定の引き下げは小幅になると見込まれる。これらの背景から、物価や賃金高騰に対応しつつも、診療報酬本体の改定率はプラスマイナスゼロ近くでのせめぎ合いになりそうだ」と予想しています。例年使っていた「薬価を大幅に下げて財源を捻出する手法」が今回はフルに使えない点もマイナス要素です。もっとも、日医会長として初の改定に臨む松本会長と、その松本会長を会長選で推した横倉 正義・元日医会長(麻生 太郎副総裁と昵懇と言われています)、初当選以来医師会の応援を受け続けてきた武見 敬三・厚生労働大臣がどういった動きをするかで、数字は微妙に変わりそうですが……。地域別の診療報酬の導入の検討についても言及ところで、11月1日の財務省の財政制度等審議会・財政制度分科会の資料には、もう1点、気になる内容が盛り込まれていました。かねてから主張してきた地域別の診療報酬の導入の検討についても言及しているのです。次期改定に関する資料の中に、再度するりと潜り込ませるあたり、財務省の地域別診療報酬導入への強いこだわりが感じられます。(この稿続く)