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第177回 「令和の米騒動」と神戸・甲南医療センター専攻医自殺・労災認定で感じた共通する“病根”(前編)

中日ドラゴンズで「令和の米騒動」勃発こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。2週間ほど前から日本のプロ野球で話題となっている「令和の米騒動」をご存知でしょうか。2023年8月23日、夕刊フジが「中日ドラゴンズ・立浪和義監督が、試合前の食事会場にて白米を食べることを突如禁止した」という内容の記事を掲載したことに端を発し、ネットの世界を中心にあることないことが乱れ飛び、異様な盛り上がりをみせている“事件”です。あの江川 卓氏もこの騒動に関してコメントを寄せたほどです。夕刊フジの報道によれば、きっかけとなったのは2023年8月3日の阪神戦です。この日、立浪 和義監督によるトップダウンで、突如試合前のケータリングから炊飯器による白米の提供がなくなりました。理由は、細川 成也選手が夏場に入り調子が落ちてきたのを、立浪監督が「ご飯の食べ過ぎで動きが鈍くなったからだ」と考え、同選手に白米制限を命じたところ調子が上向いたためだそうです。それを根拠に、立浪監督は連敗中のチーム状態を改善するため全選手にも白米制限を課したのです(投手は1日で解禁、8月31日現在野手は白米制限を続行中とのこと)。ミスタードラゴンズと呼ばれた立浪氏が中日ドラゴンズの監督となり指揮を執り始めたのは昨シーズンから。昨年は66勝75敗2分で6年ぶりの最下位、今年も9月4日現在借金25、勝率3割9分3厘と歴史的な低迷を続けています。昨シーズン終了後の2022年10月には、NHK BSで『逃げるな 泥にまみれても~中日ドラゴンズ監督 立浪和義~』というタイトルのドキュメンタリーが放送されました。番組では、PL学園時代からスター選手だった立浪監督が、若手の気持ちや考えをうまく掴みきれない中、前近代的とも言える厳しい指導や采配をするもチームは低迷・迷走を続け、監督自身も悩み孤立していく姿が生々しく描かれていました。今回の「米騒動」も、昨年来の迷走がまだ続いている表れと言えそうです。甲南医療センターの男性専攻医自殺を労災認定一部では、立浪監督の試合後のコメントが選手に手厳し過ぎる点も話題となっています。8月10日の日本経済新聞のスポーツ面のコラム「悠々球論」で野球評論家の権藤 博氏は、「セ・リーグの最下位、中日の立浪和義監督について気になるのは、試合後のコメントだ。選手に『反省』を求めることがある。1軍の試合に出す選手はチーム内の競争を勝ち抜き、監督も『合格』と認めた選手のはず。それで負けたら仕方がない、と割り切り、反省は求めない方がいい」と書いています。「名選手、名監督にあらず」とは昔からよく言われてきた言葉ですが、昨今の“Z世代”の選手の登場は、スポーツの監督業にも新たな変革を求めているのかもしれません。さて、今回は神戸市東灘区の公益財団法人甲南会・甲南医療センターで勤務していた男性専攻医が昨年5月に自殺したことについて、西宮労働基準監督署(兵庫県)が「長時間労働で精神障害を発症したのが原因」として労災認定したニュースを取り上げます。専攻医の労災認定の背景には、「令和の米騒動」にも共通する、世代間断絶という“病根”も存在している気がしてなりません。「先輩医師と同等の業務量を割り当てられ、指示された学会発表の準備も重なり長時間労働に」男性専攻医の自殺について労災認定していたことが判明したのは8月17日で、読売新聞はじめ全国紙、NHKなどが一斉に報じました。読売新聞等の報道によれば、労災が認められたのは、神戸大医学部卒業後2020年4月からセンターで研修医として勤務し、2022年4月から消化器内科の専攻医として働いていた男性医師です。同年5月17日の退勤後、神戸市の自宅で亡くなっているのを訪ねた家族が見つけ、兵庫県警が自殺と断定したとのことです。26歳でした。労災が認定されたのは2023年6月5日付で、認定によると、男性医師の死亡直前1ヵ月の時間外労働は207時間50分で、3ヵ月平均でも月185時間を超えており、いずれも国が定める精神障害の労災認定基準(月160時間以上、3ヵ月平均100時間以上)を大幅に上回っていたとのことです。労基署は「専攻医になったばかりで先輩医師と同等の業務量を割り当てられ、指示された学会発表の準備も重なり、長時間労働となった」と判断、長時間労働で精神障害を発症したことが自殺の原因、と結論付けています。病院は「過重な労働をさせた認識はまったくない」と長時間労働の指示を全面否定労災認定が明らかになった8月17日、甲南医療センターの具 英成(ぐ・えいせい)院長は記者会見し、「病院として過重な労働をさせた認識はまったくない」と長時間労働の指示を全面否定しました。甲南医療センターでは、タイムカードで出退勤時間を記録していましたが、労働時間は医師の自己申告に基づいて管理していたとのことです。労基署が認定した労働時間は207時間に対し、男性医師が甲南医療センターに申告した死亡前月の時間外労働は30.5時間だったそうです。具院長は記者会見で、労基署の認定には労働にあたらない自主的な「自己研鑽」の時間が含まれているとの見方を示し、「見解に相違がある」と述べたとのことです。なお、労基署が認定した労働時間に基づき、公益財団法人甲南会が未払い残業代130万円を遺族に支払ったことも明らかにしました。ただ、長時間労働はあくまでも認めず、「『解決金』という考え方で支払った」としています。医師の働き方改革を前に労働時間を極力減らしておきたい病院具院長は「見解の相違」と語ったようですが、その背景には、医師人件費をできるだけ抑えたいという経営方針に加え、来年度から始まる医師の働き方改革を前に、労働時間を極力減らしておきたい病院側の強い意向も働いていたと考えられます。8月19日付の読売新聞は、甲南医療センターでは「残業を申請しにくい雰囲気があった」とする勤務医の証言を報じています。さらに、甲南医療センターでは2020年6月頃、職員向けに「時間外労働の削減」を求める通知があり、具院長から業務と自己研鑽の時間を明確に分けるよう指示があったとも書いています。また同紙は、「『残業は2時間まで』という暗黙のルールがあった」、「上司から『今は自己研さんの時期で、仕事ができないのに残業を申請するのはおかしい』と言われ、申請しなかった」など、勤務医の証言も報じています。自己研鑽名目で長時間労働を余儀なくされる医師来年から始まる医師の働き方改革で、残業時間の罰則付き上限が導入され、原則年960時間、研修医などで特別に認められた場合は年1,860時間となります。自己研鑽の時間は労働時間には含まれませんが、その解釈・運用については病院によって大きな差があるようです。今回の甲南医療センターの専攻医自殺、労災認定の報道をきっかけとして、自己研鑽名目で長時間労働を余儀なくされている医師の実態を多くのメディアが報じています。たとえば8月28日付の読売新聞は、「医師『自己研さん』で疲弊 業務外100時間…「残業ゼロ」扱い」というタイトルの記事を掲載、関西地方の病院に勤務する20歳代の女性研修医の「病院や患者のためにヘトヘトになるまで仕事をしているのに、全て自己研さん扱い」、「自己研さんという言葉がいいように使われ、まじめな医師ほど心身ともに追い込まれていく」といった現場の言葉を紹介しています。男性医師勤務当時、甲南医療センターに自己研鑽の基準を明文化した指針なし自己研鑽と労働の区別については、厚生労働省が2019年7月に通知でその考え方を示しています1)。この通知では、上司の指示に基づく学習や練習は労働にあたるとしています。また、研鑽の不実施について就業規則上の制裁等の不利益が課されており実施を余儀なくされている場合や、研鑽が業務上必須である場合、そして業務上必須でなくとも上司が明示・黙示の指示をして行わせる場合は労働時間に該当する、としています。この通知に則って、各医療機関が自己研鑽の基準を定めているわけですが、各紙報道等によれば、男性医師が勤務していた当時、甲南医療センターは自己研鑽の基準を明文化した指針はなく、男性医師が亡くなった約5ヵ月後の2022年10月に初めて示されたそうです。私も最近、病院の幹部クラスの医師を取材すると、「俺たちが若い頃は自己研鑽か労働かの区別もなく、残業代もなく遮二無二働いていた。それで腕を磨いたもんだ」といった言葉をよく聞きます。「働き方改革」とは真っ向から対立する意見ですが、甲南医療センターの経営幹部たちも、「医師の働き方改革」には表面的には賛成するポーズを示しながらも、そうした意識で若手医師たちを見ていたのかもしれません。中日ドラゴンズでは、世代間の断絶、上司の無理解、理不尽な押し付けはチームの成績低迷という目に見える形で表れました。しかし、病院ではそのしわ寄せは目に見える形ですぐには表れません。現場の医師や職員の疲弊を招き、それが医療事故につながる可能性もあります。しかし、たとえ事故が起こってもその責任を経営幹部が取ることは稀で、事故を起こした医師に責任を取らせて終わりとなってしまうケースは少なくありません。文春が甲南医療センターの自己研鑽の指針をすっぱ抜くところで、この甲南医療センターの自己研鑽の指針の詳しい内容については、8月21日付けの文春オンラインが「『院外持出厳禁』文書入手 病院が職員に配った「あれも業務外、これも自己研鑽」マニュアル」と題する記事で、詳細に報じています。指針には、「手術や処置等の予習や振り返りは自己研鑽」「(業務/自己研鑽は)最終的には上司が判断します」などの文言が並んでおり、自己研鑽名目で医師に長時間労働を強いる甲南医療センターの経営体質や幹部たちの本音がうかがい知れる内容となっています。(この項続く)参考1)「医師の研鑽に係る労働時間に関する考え方について」令和元年7月1日基発0701第9号/労働基準局長通知

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検診で寿命が延びるがんは?

 一般的に行われているがん検診により、寿命が延びるのかどうかは不明である。今回、ノルウェー・オスロ大学のMichael Bretthauer氏らが、乳がん検診のマンモグラフィ、大腸がん検診の大腸内視鏡検査・S状結腸鏡検査・便潜血検査、肺がん検診の肺CT検査、前立腺がん検診のPSA検査の6種類の検診について、検診を受けた群と受けなかった群で全生存率と推定寿命を比較した無作為化試験をメタ解析した結果、寿命が有意に増加したのはS状結腸鏡検査による大腸がん検診のみであったことがわかった。JAMA Internal Medicine誌オンライン版2023年8月28日号に掲載。 一般的に使用されている上記の6種類のがん検診について、検診を受けた群と受けなかった群を9年以上追跡し、全死亡率および推定寿命を比較した無作為化試験の系統的レビューおよびメタ解析を実施した。論文の検索はMEDLINEおよびCochrane libraryデータベースで2022年10月12日まで実施した。検診を受けた群と受けなかった群でみられた生存期間の差を検診による寿命の増加とし、各検診による寿命の増加日数と95%信頼区間(CI)をメタ解析または単一の無作為化試験から算出した。 主な結果は以下のとおり。・計211万1,958人が対象となった。・追跡期間中央値は、CT検査、PSA検査、大腸内視鏡検査で10年、マンモグラフィで13年、S状結腸鏡検査、便潜血検査で15年であった。・検診で寿命に有意な増加がみられたのはS状結腸鏡検査のみであった(110日、95%CI:0~274日)。・マンモグラフィ(0日、95%CI:-190~237日)、PSA検査(37日、95%CI:-37~73日)、大腸内視鏡検査(37日、95%CI:-146~146日)、毎年または隔年の便潜血検査(0日、95%CI:-70.7~70.7日)、肺CT検査(107日、95%CI:-286~430日)において有意差はみられなかった。 著者らは「このメタ解析の結果から、現在のエビデンスでは、S状結腸鏡検査による大腸がん検診を除き、一般的ながん検診による寿命延長を証明できないことが示唆された」としている。

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双極性障害患者の原因別死亡率~メタ解析

 双極性障害は、早期死亡と関連しているといわれている。双極性障害患者におけるすべての原因による死亡および特定の死亡リスクに関しては、十分明らかになっておらず、これらを理解し、双極性障害患者の死亡を予防する戦略を考えるうえでも、さらに多くの研究が必要とされる。ブラジル・サンパウロ大学医学部のTais Boeira Biazus氏らは、一般集団と比較した双極性障害患者の死亡リスクを評価するため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。その結果、双極性障害患者の早期死亡リスクは、自殺や不自然死によるものだけでなく、身体合併症とも関連していることが示唆された。著者らは、双極性障害患者の早期死亡率を改善するためには、自殺予防だけでなく、身体的な健康増進や身体合併症の予防も重要であるとしている。Molecular Psychiatry誌オンライン版2023年7月25日号の報告。 主要アウトカムは、すべての原因による死亡率とし、副次的アウトカムは、自殺、自然死、不自然死、特定の原因による死亡の割合とした。 主な結果は以下のとおり。・57件の研究(67万8,353例)をメタ解析に含めた。・双極性障害患者は、すべての原因による死亡率(RR:2.02、95%信頼区間[CI]:1.89~2.16、k=39)が高かった。・特定の原因による死亡率は、自殺(RR:11.69、95%CI:9.22~14.81、k=25)が最も高かった。・不自然死(RR:7.29、95%CI:6.41~8.28、k=17)および自然死(RR:1.90、95%CI:1.75~2.06、k=17)の死亡リスクも高かった。・分析された特定の自然死の中で、感染症による死亡(RR:4.38、95%CI:1.5~12.69、k=3)がより高かったが、研究数が少なく、限定的であった。・呼吸器疾患(RR:3.18、95%CI:2.55~3.96、k=6)、心血管疾患(RR:1.76、95%CI:1.53~2.01、k=27)、脳血管疾患(RR:1.57、95%CI:1.34~1.84、k=13)による死亡リスクも同様に高かった。・がんによる死亡リスク(RR:0.99、95%CI:0.88~1.11、k=16)に差は認められなかった。・サブグループ解析およびメタ回帰は、結果に影響を及ぼさなかった。

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記憶力に不安がある高齢者の運転はいかに危険か/長寿研ほか

 日本の高齢ドライバーを対象とした横断研究の結果、客観的認知障害の有無にかかわらず、主観的な記憶力の心配(subjective memory concerns、以下「SMC」)や、SMCに加えて歩行速度低下を有する運動認知リスク症候群(motoric cognitive risk syndrome、以下「MCR」)を有する人では自動車衝突事故やヒヤリハットを経験する確率が有意に高かったことを、国立長寿医療研究センターの栗田 智史氏らの研究グループが明らかにした。JAMA Network Open誌2023年8月25日号掲載の報告。 先行研究によって、MCRは処理速度や実行機能の低下などとの関連が報告されているが、MCRと自動車衝突事故との関連性に関する検討は十分ではない。簡便に実施できるMCR評価を行うことで衝突事故リスクに早期に気付くことができる可能性があるため、研究グループはMCR評価と衝突事故やヒヤリハットとの関連を検討した。 研究グループは、2015~18年に実施された同センターの大規模コホート研究(NCGG-SGS)のデータを用い、愛知県在住の65歳以上の高齢者の衝突事故やヒヤリハットの経験を調査した。運転しない人、認知障害がある人(ミニメンタルステート検査21点未満)、認知症の病歴のある人などは除外した。SMCは、老年期うつ病評価尺度(GDS)などを数種類の方法を用いて評価し、歩行速度低下は年齢や性別の平均値より-1.0SD以下とした。 参加者は、過去2年間の衝突事故と前年のヒヤリハットを対面で聴取され、(1)SMCも歩行速度低下も有さない群(対照群)、(2)SMCのみを有する群(SMC群)、(3)歩行速度低下のみを有する群(歩行速度低下群)、(4)MCRを有する群(MCR群)の4群に分けられた。ロジスティック回帰モデルを用いて、衝突事故またはヒヤリハットのオッズ比(OR)と95%信頼区間(CI)を求めた。データは2023年2~3月に解析された。 主な結果は以下のとおり。・参加者1万2,475人の平均年齢は72.6(SD 5.2)歳で、56.9%が男性であった。・対照群は3,856人(30.9%)、SMC群は6,889人(55.2%)、歩行速度低下群は557人(4.5%)、MCR群は1,173人(9.4%)であった。・SMC群とMCR群では、衝突事故およびヒヤリハットの割合が他の群よりも多かった(調整標準化残差>1.96、p<0.001)。・ロジスティック回帰分析の結果、対照群と比べて、SMC群とMCR群では衝突事故が有意に多かった(【SMC群】補正後OR:1.48、95%CI:1.27~1.72、p<0.001、【MCR群】補正後OR:1.73、95%CI:1.39~2.16、p<0.001)。・同様に、SMC群とMCR群ではヒヤリハットも有意に多かった(【SMC群】補正後OR:2.07、95%CI:1.91~2.25、p<0.001、【MCR群】補正後OR:2.13、95%CI:1.85~2.45、p<0.001)。・MCR評価を客観的認知障害で層別化した結果、客観的認知障害の有無に関係なくSMC群とMCR群で有意に衝突事故とヒヤリハットが増加していた。・これらの結果は、高齢ドライバーの過失割合が半分以下の衝突事故を除外しても同様であった。 これらの結果より、研究グループは「これらの知見の一般化可能性を高め、外的妥当性を検証するためには、異なる環境におけるさらなる研究が必要である。これらの関連性のメカニズムも今後の研究の課題となる」とまとめた。

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CVD2次予防でのアスピリン、低所得国では不十分/JAMA

 アスピリンは、アテローム動脈硬化性心血管疾患(CVD)のイベントを減少させ、CVD既往例の死亡率を改善する効果的で安価な選択肢とされる。米国・セントルイス・ワシントン大学のSang Gune K. Yoo氏らは、CVDの2次予防においてアスピリンは世界的に十分に使用されておらず、とくに低所得国での使用が少ないことを明らかにした。研究の成果は、JAMA誌2023年8月22・29日合併号で報告された。51ヵ国の健康調査のデータを用いた横断研究 研究グループは、51の低・中・高所得国で2013~20年に実施された全国的な健康調査から収集した個々の参加者のデータを用いて横断研究を行った(米国国立心肺血液研究所[NHLBI]などの助成を受けた)。 参加者は年齢40~69歳の非妊娠成人で、対象となった健康調査には自己申告によるCVD既往歴とアスピリン使用に関するデータが含まれた。国別の1人当たりの所得水準、地域、個々の参加者の社会経済的な人口統計学データに基づき、自己申告によるCVDの2次予防におけるアスピリンの使用状況を評価した。 12万4,505人が解析に含まれた。年齢中央値は52歳(四分位範囲[IQR]:45~59)で、50.5%(IQR:49.9~51.1)が女性、53.4%(95%信頼区間[CI]:52.0~54.8)が農村部に居住していた。1万589人(8.2%)が自己申告によるCVDの既往歴を有していた。使用率は40.3%、WHO目標値を下回る CVD既往例における2次予防のためのアスピリン使用率は40.3%(95%CI:37.6~43.0)であった。 所得別の2次予防のためのアスピリン使用率は、低所得国(7ヵ国)が16.6%(95%CI:12.4~21.9)、低中所得国(23ヵ国)が24.5%(20.8~28.6)、高中所得国(14ヵ国)が51.1%(48.2~54.0)、高所得国(7ヵ国)は65.0%(59.1~70.4)だった。 CVDの2次予防におけるアスピリン使用率の世界保健機関(WHO)の目標値(適格者の50%以上)を満たした国は、ベラルーシ、チェコ、英国(評価はイングランドで行われた調査データに基づく)、イラン、イラク、ヨルダン、クウェート、レバノン、トルクメニスタン、米国であった。 CVD既往例では、若年より高齢、女性より男性、低学歴より高学歴、農村部より都市部居住者でアスピリンの使用率が高く、これらの個々の特性(年齢別、性別、学歴別、居住地別)では、所得が高い国ほど使用率が高くなる傾向を認めた。低所得国と比較して高所得国では、年齢別、性別、学歴別、居住地別の2次予防のためのアスピリン使用率が、相対的には2~5倍に達し、絶対的には20~60%大きかった。 著者は、「CVDを含む非感染性疾患による早期死亡を減少させるという目標を達成するには、国の保健政策と保健システムが、エビデンスに基づくアスピリンの使用を促進する方法を開発し、これを実践し、結果を評価する必要がある」としている。

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英語で「エビデンスがない」は?【1分★医療英語】第96回

第96回 英語で「エビデンスがない」は?The drug you are using does not seem to have any efficacy data in my disease. Why do you recommend it?(先生が使用している薬は私の病気での有効性のデータはないようですが、なぜそれを勧めるのですか?)The absence of evidence is not the evidence of absence.(エビデンスが存在しないことは、[有効性などの効果が]ないことの証明にはなりません)《例文1》 We do have anecdotal evidence in many patients that this drug works well.(われわれの経験的には、この薬はよく効きます)《例文2》That study data has many limitations and does not apply to your case.(その研究結果には多くの限界があり、あなたの病気には当てはまりません)《解説》正しく計画された臨床研究の結果(=エビデンス)に基づいて診療を行うことは現代の医療においては「常識」であり、“Evidence-based medicine (EBM)”という言葉は当たり前すぎて、米国の臨床の場ではあまり聞かれなくなりました。しかし、十分なエビデンスが存在しないことは多くあり、日常診療の多くの場面でエビデンスが十分にはない診療も行われていることは、皆さんもご存じのとおりです。会話例の医師のセリフ、“The absence of evidence is not the evidence of absence.”は語呂が良く、慣用句として重宝します(「ないこと」の証明にはnon-inferiority test[非劣性検定]などの特殊な検定が必要です)。2つの例文も、「エビデンス」がまだない診療を行う根拠として一般的なもので、患者さんへの説明によく使う表現です。講師紹介

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標的部位で持続的に放出される潰瘍性大腸炎薬「コレチメント錠9mg」【下平博士のDIノート】第128回

標的部位で持続的に放出される潰瘍性大腸炎薬「コレチメント錠9mg」今回は、潰瘍性大腸炎治療薬「ブデソニド腸溶性徐放錠(商品名:コレチメント錠9mg、製造販売元:フェリング・ファーマ)」を紹介します。本剤は、標的部位の大腸にブデソニドが送達され、持続的に放出されるように設計されている1日1回服用の薬剤で、良好な治療効果や服薬アドヒアランスが期待されています。<効能・効果>活動期潰瘍性大腸炎(重症を除く)の適応で、2023年6月26日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>通常、成人にはブデソニドとして9mgを1日1回朝経口投与します。投与開始8週間を目安に本剤の必要性を検討し、漫然と投与を継続しないように留意します。<安全性>2~5%未満に認められた副作用として潰瘍性大腸炎増悪があります。2%未満の副作用は、乳房膿瘍、感染性腸炎、乳腺炎、口腔ヘルペス、不眠症、睡眠障害、腹部膨満、口唇炎、ざ瘡、湿疹、蛋白尿、月経障害、末梢性浮腫、白血球数増加、尿中白血球陽性が報告されています。<患者さんへの指導例>本剤は、大腸に送られて持続的に炎症を鎮める潰瘍性大腸炎活動期の薬です。服薬時にかまないでください。生ワクチン(麻疹、風疹、おたふく風邪、水痘・帯状疱疹、BCGなど)を接種する際には医師に相談してください。疲れを残さないよう十分な睡眠と規則正しい生活が重要です。消化の悪い繊維質の多い食品や脂肪分の多い食品、香辛料などを避けて、腸に優しい食事を心がけましょう。<Shimo's eyes>潰瘍性大腸炎は、活動期には下痢や血便、腹痛、発熱などを伴い、寛解と再燃を繰り返す炎症性腸疾患であり、わが国では指定難病に指定されています。潰瘍性大腸炎の活動期には、軽症~中等症では5-アミノサリチル酸製剤が広く用いられ、効果不十分な場合や重症例にはステロイド薬などが投与されます。ステロイド抵抗例ではタクロリムスや生物学的製剤、ヤヌスキナーゼ阻害薬などが使用されます。本剤の特徴は、MMX(Multi-Matrix System)技術を用いた薬物送達システムにあり、pH応答性コーティングにより有効成分であるブデソニドを含むマルチマトリックスを潰瘍性大腸炎の標的部位である大腸で送達し、親水性基剤と親油性基剤がゲル化することでブデソニドを持続的かつ広範囲に放出させます。また、本剤の有効成分であるブデソニドはグルココルチコイド受容体親和性が高いステロイド薬であり、局所的に高い抗炎症活性を有する一方、肝初回通過効果によって糖質コルチコイド活性の低い代謝物となるため、経口投与によるバイオアベイラビリティが低いと考えられ、全身に曝露される糖質コルチコイド活性の軽減が期待されるアンテドラッグ型のステロイドとなります。本剤は1日1回投与の経口薬であることから、良好な服薬利便性や服薬アドヒアランスも期待でき、海外では2023年3月現在、75以上の国または地域で承認されています。なお、本成分を有効成分とする既存の潰瘍性大腸炎治療薬には、直腸~S状結腸に薬剤を送達するブデソニド注腸フォーム(商品名:レクタブル2mg注腸フォーム)がありますが、本剤は大腸全体が作用部位となる点に違いがあります。本剤の主な副作用として、潰瘍性大腸炎の増悪が2~5%未満で報告されています。本剤はほかの経口ステロイド薬と同様に、誘発感染症、続発性副腎皮質機能不全、クッシング症候群、骨密度の減少、消化性潰瘍、糖尿病、白内障、緑内障、精神障害などの重篤な副作用に注意が必要です。本剤投与前に水痘または麻疹の既往歴や予防接種の有無を確認しましょう。製剤の特性を維持するために、本剤を分割したり、乳鉢で粉砕したりすることはできません。患者さんにもかんで服用しないように伝えましょう。潰瘍性大腸炎治療の新たな選択肢が増えることで、患者さんのQOL向上が期待されます。

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第179回 血液凝固タンパク質2つがコロナ感染後の脳の不調と関連

血液凝固タンパク質2つがコロナ感染後の脳の不調と関連疲労に加えて認知機能障害、いわゆる脳のもやもや(brain fog)が数ある新型コロナウイルス感染(COVID-19)罹患後症状(long COVID)の1つとしてよく知られています。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染して認知機能障害に見舞われる人とそうでない人を隔てる仕組みへの血液凝固タンパク質2つの寄与を示唆する大規模観察試験結果が報告されました1)。試験ではCOVID-19で入院した患者約2千例(1,837例)が追跡され、入院時のそれらタンパク質2つと感染から半年と1年時点での認知機能障害の関連が認められました。その1つはフィブリノゲンです。C反応性タンパク質(CRP)に比してフィブリノゲンが入院時に多かった患者は少なかった患者に比べて記憶や注意などの認知機能の客観的検査成績や主観評価が劣りました。もう1つはDダイマーで、CRPに比してDダイマーが多かった患者は認知機能の主観評価が劣りました。たとえばDダイマーが多かった患者の6ヵ月時点の認知機能主観評価C-PSQ(0~7点)の点数は約1.5点劣りました。また、Dダイマーが多かった患者は疲労や呼吸困難の訴えや仕事への差し障りをより多く報告しました。フィブリノゲンやDダイマーとCOVID-19の関連を示した報告は今回が初めてではありません。先立つ複数の試験でCOVID-19入院患者にそれらタンパク質の増加が血栓過剰とともに認められています2)。フィブリノゲンが多いことと認知機能障害や認知症の関連を示したCOVID-19流行前の報告もあり、フィブリノゲンは認知機能欠損と何はさておき関連するのかもしれません。一方、DダイマーはCOVID-19以外で認知機能障害との関連は示されておらず、SARS-CoV-2感染に特有の指標かもしれません。フィブリノゲンやDダイマーが認知機能障害を引き起こすとしてその仕組みがいくつか想定されています。フィブリノゲンは脳の血液循環を妨げる血栓を形成するのかもしれません。あるいは神経系の受容体と直接相互作用することも想定されます。Dダイマーは肺での血栓形成をより反映していると思われ、それが呼吸困難に寄与し、酸欠による脳の不具合をもたらすのかもしれません。今回の試験結果を解釈するうえでいくつか注意点があります。1つは変異株がぼこぼこ出現する前のコロナ流行初期に募った被験者を対象にしていることであり、変異株が優勢の現在の感染患者に今回の結果が当てはまるかどうかは不明です。また、ワクチン非接種の重症の入院患者を対象としていることも注意が必要です。感染症状が軽度だったlong COVID患者は多く、そういう患者は今回の試験の対象ではありません。フィブリノゲンやDダイマー、あるいはより大まかに血栓を標的とする治療のlong COVID予防の裏付けはほとんどありません。抗凝固薬が治療手段の1つとしてみなされていますが、決定的な試験結果はまだありません2)。それに抗凝固薬は出血などの副作用と隣り合わせでもあります。抗凝固薬の検討のために必要な前段階として、認知機能障害をSARS-CoV-2感染後に被った患者の脳を画像診断して脳虚血の兆候があるかどうかを調べることを著者は提案しています1)。もし脳虚血が見つかるようなら先行きが心配な患者の感染初期のころの抗凝固薬使用の試験を実施する価値はありそうです。参考1)Taquet M, et al. Nat Med. 2023 Aug 31. [Epub ahead of print] 2)Clotting proteins linked to Long Covid’s brain fog / Science

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不安で眠れない時はどうしたらいい?【医学生お悩み相談ラヂオ】第7回

動画解説第7回は、医学部6年生の女性からのお悩み。卒業試験が徐々に近づくにつれ、不安感が増して眠れなくなるとのこと。大学受験とはまた違った緊張感に苦しんでいる様子です。卒業試験、マッチングで失敗も成功も経験してきたえど先生のアドバイスには説得力があります。

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化療後の閉経前乳がんへのタモキシフェン+卵巣機能抑制、長期結果は(ASTRRA)

 手術および術前または術後化学療法後の閉経前エストロゲン受容体(ER)陽性乳がん患者に対する、タモキシフェン(TAM)+卵巣機能抑制(OFS)併用の有効性を検討するASTRRA試験について、追跡期間中央値8年の長期解析結果を、韓国・Asan Medical CenterのSoo Yeon Baek氏らがJournal of Clinical Oncology誌オンライン版2023年8月22日号に報告した。 ASTRRA試験では、閉経前または化学療法後に卵巣機能が回復した45歳未満の女性1,483例が、5年間のTAM単独投与(TAM群)と、5年間のTAM投与と2年間のOFS併用(TAM+OFS群)に1:1の割合で無作為に割り付けられた。 主要評価項目は無病生存期間(DFS)、副次評価項目は全生存期間(OS)であった。 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中央値106.4ヵ月の時点で、TAM+OFS群ではDFSイベントの発生率が連続的に有意に減少した。・8年DFS率はTAM+OFS群で85.4%、TAM群で80.2%だった(ハザード比[HR]:0.67、95%信頼区間[CI]:0.51~0.87)。・OS率はTAM+OFS群で96.5%、TAM群で95.3%と高く、両群間で有意差はなかった(HR:0.78、95%CI:0.49~1.25)。 著者らはTAM+OFS併用による一貫性のあるDFSベネフィットが得られたとし、同患者集団に対するOFS追加を考慮すべきであることが示唆されたとまとめている。

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病院機能評価「医療安全」への対策強化で「カルテレビュー」導入へ

 最近では紙カルテ(診療録)から電子カルテへの普及が進み、病院のみならずクリニックでの導入も多くみられるようになった。また、国が推進するマイナンバーカードによる健康保険証には、個人のカルテ情報の搭載も予定され、いつでも、どこでも自分のカルテが読める時代が期待されている。そんなカルテは、医療事故などが発生した場合、真っ先に調査が行われる患者や患者遺族、医療機関などにとって事故と結果の因果関係を証明する大切な資料となるが、カルテの中身の記載については個々の医師の判断に任されている。 今般、日本医療機能評価機構は、「医療安全」の対策強化を目的に、病院機能評価の「カルテレビュー」の強化を行った。従来よりも多数の症例のカルテについてチェックをされることになる。本稿では特別寄稿として病院機能評価の受審を2022年に受けたばかりの井上 雅博氏(稲沢市民病院 内科)が、「カルテレビュー」への対応について述べる。医療事故で顕在化したカルテの不備 先日、兵庫県の神戸徳洲会病院で心臓カテーテル検査や治療後に複数の患者の死亡が発生し、第三者を交えた医療事故調査が決まりました。さらに神戸市が8月28日に、病院に対して行政指導を行いました。●参考記事カテーテル処置後死亡 神戸市“安全管理体制に複数の問題点”(NHK/7月28日)カテーテル治療後に死亡相次ぐ神戸徳洲会病院 市が行政指導へ カルテに記載なし、実質一人で業務か(神戸新聞/7月28日)神戸徳洲会病院への医療安全管理体制に関する行政指導の実施(神戸市/8月28日) 事故の報道で当初から問題とされていたのは、患者の急変などがあったにも関わらず、診療にあたっていた医師によるカルテ記載が十分ではないことでした。 事故露見のきっかけは、今年の1月から赴任した医師の施行したカテーテル手術後に、死亡事例や容体悪化した症例が多発していたにもかかわらず、病院側が再発防止や医療安全のために検証に取り組んでこなかったため、匿名による内部告発で発覚となりました。 カルテの記載は医師法24条1項には「医師は、診療をしたときは、遅滞なく診療に関する事項を診療録に記載しなければならない」と定められているように義務となっています。残念ながら、この医師は毎日のカルテ記載を怠っていただけでなく、病状が急変して死亡された患者についても記載がなく、今回のような指導へとつながってしまいました。 患者安全の確立のためにも、診療にあたる医師による患者や家族への同意説明の内容や臨床経過についてはカルテへの記載が必須事項とされています。 医療事故が発生したときに問題となるのは、医療事故に遭われた患者の治療経過や処置など、具体的に行った医療の内容、さらには事故発生後の経過について記載が不十分であると、カルテ開示を求められた場合、患者側に医療不信を引き起こし医療訴訟につながるということです。 医療事故の解析や再発防止策の立案にカルテ記載は必要であることは言うまでもないですが、「説明と同意」が必須の時代に、十分な同意取得がないまま侵襲性の高い医療行為や手術が実施された場合、今回の事例のように、地方厚生局や自治体などの行政側からも指導が下されることになります。また、最近では、説明同意文書以外にも、インフォームドコンセントの取得時に医師や看護師からの説明を受けた患者や家族の理解度についてもカルテ記載に必要とされてきています。病院機能評価でもカルテ記載の内容を問う時代に 今年の4月から新たに日本病院機能評価機構による病院機能評価も新しいバージョン3.0が導入されました。従来はサーベイヤーが審査するのは当日に選ばれた病棟の退院患者の症例のカルテの中から、実際に1症例を外来から入院、手術や検査、そして退院など一連の流れを審査側に説明してチェックを受けていたものが、カルテの記載内容について「定常状態」を確認するため、ランダムに選ばれたカルテを5症例ほど連続して確認することになりました。 日本医療機能評価機構は、医療機関が質の高い医療を提供するのを支援するために1997年から全国の病院に対し医療機能評価を行っています。2023年7月時点で2,000病院が認定病院となっていますが、これは全国の病床の約4割を認定病院の病床が占めており、ほぼ急性期病院の大半が網羅されています。 この25年で、幾度ものバージョンアップを通して評価項目・評価方法の見直しを行ってきました。今回の新しいバージョンでは、全国の受審病院に対して、これまでのサーベイヤーの審査に際しては、カルテの記載が充実している先生のいわゆる「チャンピオンカルテ」を用意しておけば間に合っていたものが、すべての入院患者について「カルテ記載の充実」を求めていることです。 すでに大学病院や高度急性期病院では医師、看護師、薬剤師、栄養士、セラピストなど、多職種からなるチームで医療が行われています。新しいバージョンの病院機能評価では、これを一般病院に対して実践を求めることになりました。詳しくは病院機能評価機構の説明資料(新しい病院機能評価[3rdG:Ver.3.0]の運用開始について)を参照ください。 この中で、従来は大学病院など「一般病院3」だけで実施されてきた「カルテレビュー」が、機能評価を受審するすべての病院で実施されることになりました。 患者・家族への説明や同意文書の不備の有無のチェックだけではなく、複数のカルテ記載から診療・ケアの適切性、説明と同意の適切性、カルテ記載の定常状態などを確認するために、病院における日々の診療内容、患者・家族への説明についての理解度の評価など記載が求められます。 今までのように特定のカルテだけではなく、入院患者の全員について入院から退院までのカルテが審査対象とされるため、退院後2週間以内のサマリーの作成だけではなく、従来は、個別の医師のカルテ記載についてまではあまり立ち入っていなかったのを、病院側が診療録管理委員会などを通して監督・指導しなければならなくなっています。 さらにカルテレビューの導入に合わせて、バージョン3.0では、400床以上の【区分4】、200~399床【区分3】の病院では、医療安全・感染対策ラウンドが実施され、情報伝達エラーの防止策や医薬品の安全管理や誤認対策、ハイリスクな医療行為の実施にあたっての院内ルールの規定など、細かくチェックをするものとなっています。 これまでのような小手先での対策ではなく、医師が病院の全職員と共に医療安全のためにしっかりとした対策を講じていく必要が出てきたと思います。 病院機能評価は、救急体制充実加算や回復期リハビリテーション病棟入院料1の加算を受けるためには病院機能評価や第三者評価が条件となっているものが複数あり、避けて通れなくなっています(病院機能評価が影響する診療報酬や施設基準等について)。 医療機能評価を受審するにあたっては、病院側はカルテ記載をしっかりと医師に積極的に働きかける必要があり、新入職員の研修医や中途入職の医師に対してもカルテ記載について導入教育を行う必要が出てきていると思われます。 今年の4月から新バージョンの運用開始に伴い、大学病院以外でもカルテレビューが行われており、対策が急がれます。●参考資料機能種別版評価項目(3rdG:Ver.3.0)の機能種別と評価項目について3rdG:Ver.3.0の訪問審査当日の進行について病院機能評価が関連する診療報酬や制度等について

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統合失調症患者の抗精神病薬治療反応を予測する最適な期間は

 治療開始後、早い段階で治療反応が不十分な統合失調症患者に対する抗精神病薬の長期的な治療反応を予測することは難しい。中国・Second Xiangya Hospital of Central South UniversityのYujun Long氏らは、統合失調症患者に対する抗精神病薬の長期的な治療反応を適切に予測するための、治療初期段階におけるノンレスポンダーのカットオフ予測値を明らかにするため、多施設共同オープンラベルランダム化比較試験を実施した。その結果、治療開始2週間後の症状改善効果は、統合失調症患者に対する抗精神病薬のノンレスポンダーを予測可能であり、さらに正確に予測するには、ベースライン時の重症度や治療薬剤の違いを考慮する必要性があるとし、最初の2週間の後、さらに2週間の治療反応を評価することで抗精神病薬の変更が必要であるかを判断可能であるとしている。BMC Medicine誌2023年7月19日号の報告。 本研究は、中国の精神科センター19施設による8週間の多施設共同オープンラベルランダム化比較試験である。本研究に参加した統合失調症患者は、オランザピン、リスペリドン、amisulpride、アリピプラゾールのいずれかによる8週間の単剤治療にランダムに割り付けられた。ベースラインおよび2、4、8週目に、陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)による評価を行った。主要アウトカムは、ノンレスポンダーの予測とした。ノンレスポンダーの定義は、ベースラインからエンドポイントまでのPANSS合計スコア減少率が20%未満とした。重症度は、ベースライン時のPANSS合計スコアで次のように定義した。軽度(PANSS合計スコア:58)、中等度(同:75)、重度(同:95)。 主な結果は以下のとおり。・2週目時点でのPANSS合計スコア5%未満の改善は、重度(総精度:75.0%)および軽度(同:80.8%)の統合失調症患者およびリスペリドン群(同:82.4%)、amisulpride群(同:78.2%)で、最も高精度でその後のノンレスポンダーを予測した。・中等度(同:84.0%)の統合失調症患者およびオランザピン群(同:79.2%)、アリピプラゾール群(同:77.4%)では、2週目でのPANSS合計スコア10%の減少が、ノンレスポンダーの最も高精度な予測因子であった。・4週目では、抗精神病薬の種類や疾患重症度とは無関係に、最良のノンレスポンダーのカットオフ予測値は、PANSS合計スコア20%未満の改善であった(同:89.8~92.1%)。

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ASCVDリスク評価、タンパク質リスクスコアが有望/JAMA

 アテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)のリスク評価において、プロテオミクスに基づくタンパク質リスクスコア(protein risk score)は、1次および2次予防集団の双方で優れた予測能を示し、1次予防集団で臨床的リスク因子にタンパク質リスクスコアと多遺伝子リスクスコアを加えると、統計学的に有意ではあるもののわずかな改善が得られたことが、アイスランド・deCODE genetics/AmgenのHannes Helgason氏らの検討で示された。研究の成果は、JAMA誌2023年8月22・29日合併号に掲載された。3つのリスク評価法を比較するアイスランドの研究 研究グループは、1次および2次予防集団において、ASCVDのリスクを予測するタンパク質リスクスコアを開発し、臨床的リスク因子モデルおよび多遺伝子リスクスコアと比較した。 主解析は1次予防集団の後ろ向き研究であり、募集時にプロテオミクスのデータを有し、主要なASCVDイベント既往のない年齢40~75歳のアイスランド居住者1万3,540人を対象とした。募集期間は2000年8月23日~2006年10月26日で、2018年まで追跡調査を行った。 2次予防集団の解析では、スタチン治療を受けている安定期のASCVD患者を対象とした二重盲検無作為化試験(FOURIER試験、2013~16年)の参加者で、プロテオミクスのデータを有する6,791人を対象に含めた。 4,963人の血漿タンパク質の値に基づき、1次予防集団の訓練セットを用いてタンパク質リスクスコアを開発し、冠動脈疾患と脳卒中の多遺伝子リスクスコア、および血漿採取時の年齢、性別、スタチン使用、高血圧治療、2型糖尿病、BMI、喫煙状況などを含む臨床的リスク因子のモデルと比較した。 主要アウトカムは、心筋梗塞、脳卒中、冠動脈性心疾患死、心血管死の複合とした。Cox生存モデルと、非ASCVD死の競合リスクを考慮した判別および再分類の指標(C index)を用いて、3つのリスク評価法の性能を解析した。アフリカ/アジア系の2次予防で、MACEと有意な関連 1次予防集団のテストセット(白人4,018人[女性59.0%]、イベント発生数465件、追跡期間中央値15.8年)では、タンパク質リスクスコアの1標準偏差(SD)当たりのハザード比(HR)は1.93(95%信頼区間[CI]:1.75~2.13)であった。 また、臨床的リスク因子モデルに、タンパク質リスクスコアと多遺伝子リスクスコアを加えると、C indexが有意に上昇した(C indexの変化量:0.022、95%CI:0.007~0.038)。臨床的リスク因子モデルに、タンパク質リスクスコアのみを追加した場合も、C indexの有意な上昇を認めた(群間差:0.014、95%CI:0.002~0.028)。 2次予防集団(白人6,307人、イベント発生数432件、追跡期間中央値2.2年)では、タンパク質リスクスコアの1SD当たりのHRは1.62(95%CI:1.48~1.79)であり、臨床的リスク因子モデルにタンパク質リスクスコアを加えた場合、C indexが有意に上昇した(C indexの変化量:0.026、95%CI:0.011~0.042)。 また、2次予防集団のアフリカ系およびアジア系の人種では、タンパク質リスクスコアが主要有害心血管イベント(MACE:心筋梗塞、脳卒中、心血管死の複合)と有意な関連を示した(アフリカ系の1SD当たりのHR:1.82、p=0.001、アジア系の同HR:1.82、p=0.008)。 著者は、「タンパク質リスクスコアと多遺伝子リスクスコアが、スクリーニングを目的とした場合に臨床的に有用かを明らかにするために、さらなる検討を要する」としている。

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医師の役割が重要な高齢者の肺炎予防、ワクチンとマスクの徹底を/MSD

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染者数の増加や、インフルエンザの流行の継続が報告されているが、高齢者にとっては肺炎球菌による肺炎の予防も重要となる。そこで、これら3つの予防に関する啓発を目的として、MSDは2023年8月28日にメディアセミナーを実施した。国立病院機構東京病院 感染症科部長の永井 英明氏が「人生100年時代、いま改めて65歳以上が注意しておきたい肺炎対策-Life course immunizationの中での高齢者ワクチン戦略-」をテーマとして、高齢者の肺炎の特徴や原因、予防方法などについて解説した。肺炎は高齢者の大敵、肺炎による死亡の大半は高齢者 肺炎は日本人の死因の第5位を占める疾患である1)。65歳を超えると肺炎による死亡率は大きく増加し、肺炎による死亡者の97.9%は65歳以上と報告されている2)。そのため、肺炎は高齢者の大敵であり、とくに「慢性心疾患」「慢性呼吸器疾患」「腎不全」「肝機能障害」「糖尿病」を有する患者は肺炎などの感染症にかかりやすく、症状も重くなる傾向があると永井氏は指摘した。また、「高齢者の肺炎は気付きにくいという問題も存在する」と言う。肺炎の一般的な症状は発熱、咳、痰であるが、高齢者では「微熱程度で、熱があることに気付かない」「咳や痰などの呼吸器症状が乏しい」「元気がない、食欲がないという症状のみ」といった場合があるとし、「高齢者の健康状態については注意深く観察してほしい」と述べた。とくに肺炎球菌に注意が必要 肺炎の病原菌として最も多いものは肺炎球菌である3)。肺炎球菌の感染経路は飛沫感染とされる。主に小児や高齢者において侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)を引き起こすことがあり、これが問題となる。IPDの予後は悪く、成人の22.1%が死亡し、8.7%に後遺症が残ったことが報告されている4)。 インフルエンザウイルス感染症も2次性細菌性肺炎を引き起こすため、注意が必要である5)。季節性インフルエンザ流行時に肺炎で入院した患者の原因菌として肺炎球菌が最も多いことが報告されている6)。肺炎予防の3本柱 肺炎を予防するために重要なこととして、永井氏は以下の3つを挙げた。(1)細菌やウイルスが体に入り込まないようにする当然ではあるが、マスク、手洗い、うがいが重要であり、とくにマスクが重要であると永井氏は強調する。「呼吸器感染症を抑制するためには、マスクが最も重要である。国立病院機構東京病院では『不織布マスクを着用して院内へ入ってください(布マスクやウレタンマスクは不可)』というメッセージのポスターを掲示している」と述べた。また、口腔ケアも大切であると指摘した。高齢者では誤嚥が問題となるが、「咳反射や嚥下反射が落ちることで不顕性誤嚥が生じ得るため、歯磨きなどで口腔内を清潔に保つことが重要である」と話した。(2)体の抵抗力を強める重要なものとして「規則正しい生活」「禁煙」「持病の治療」を挙げた。(3)予防接種を受ける肺炎球菌ワクチンやインフルエンザワクチン、新型コロナワクチンなどのワクチン接種が肺炎予防のベースにあると強調した。医師の役割が大きいワクチン接種 永井氏は、高齢者に推奨されるワクチンとして肺炎球菌ワクチン、インフルエンザワクチン、帯状疱疹ワクチン、新型コロナワクチンの4つを挙げた。「これらの4つの感染症は疾病負荷が大きく、社会に与えるインパクトが大きいため、高齢者に対して積極的にワクチン接種を行うことで、医療機関の負担の軽減や医療費削減につながると考えている」と述べる。しかし、健康に自信のある高齢者はワクチンを打ち控えているという現状があることを指摘した。そこで、医師の役割が重要となる。本邦の家庭医クリニックに通院中の65歳以上の患者を対象として、23価肺炎球菌ワクチン(PPSV23)の接種につながる因子を検討した研究では、PPSV23を知っていること(オッズ比[OR]:8.52、p=0.003)、PPSV23の有効性を認識していること(OR:4.10、p=0.023)、医師の推奨(OR:8.50、p<0.001)が接種につながることが報告されている7)。 また、COVID-19の流行後、永井氏は「コロナワクチンのほかに打つべきワクチンがありますか?」と患者から聞かれることがあったと言う。そこで、COVID-19の流行によって、ワクチン忌避が減ったのではないかと考え、ワクチン接種に対する意識の変化を調査した。COVID-19流行前に肺炎球菌ワクチン、インフルエンザワクチン、帯状疱疹ワクチンを打ったことがない人に、それぞれのワクチン接種の意向を調査した。その結果、新型コロナワクチン0~2回接種の人と比べて、3~4回接種した人はいずれのワクチンについても、接種を前向きに検討している割合が高かった(肺炎球菌ワクチン:27.3% vs.54.5%、p=0.009、インフルエンザワクチン:15.8% vs.62.0%、p<0.001、帯状疱疹ワクチン:18.8% vs.41.1%、p=0.001)。この結果から、「コロナワクチン接種はワクチン接種に対する意識を変えたと考えている」と述べた。 ワクチン接種について、永井氏は「肺炎球菌ワクチンは定期接種となったが、接種率が低く、接種率の向上が求められる。ワクチン接種の推進には、医療従事者の勧めが大きな力となる。コロナワクチン接種はワクチン接種に対する意識を変えた」とまとめた。■参考文献1)厚生労働省. 令和4年人口動態調査2)厚生労働省. 令和3年人口動態調査 死因(死因簡単分類)別にみた性・年齢(5歳階級)別死亡率(人口10万対)3)日本呼吸器学会成人肺炎診療ガイドライン2017作成委員会編集. 成人肺炎診療ガイドライン2017. 日本呼吸器学会;2017.p.10.4)厚生労働科学研究費補助金 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究事業「重症型のレンサ球菌・肺炎球菌感染症に対するサーベイランスの構築と病因解析 その診断・治療に関する研究」(2023年8月31日アクセス)5)Brundage JF. Lancet Infect Dis. 2006;6:303-312.6)石田 直. 化学療法の領域. 2004;20:129-135.7)Sakamoto A, et al. BMC Public Health. 2018;18:1172.

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第162回 2022年度の医療費46兆円、2年連続過去最高/厚労省

<先週の動き>1.2022年度の医療費46兆円、2年連続過去最高/厚労省2.新学期スタートでも学級閉鎖相次ぐ、新型コロナ感染者数が5類移行後で最多に/厚労省3.ワクチン接種後の副反応の解析用にデータベースを整備へ/厚労省4.30年ぶりの肥満症新薬の登場も、メディカルダイエットの流行が弊害に/厚労省5.生殖補助医療における課題の解決に向け、公的機関の設立を/日本産科婦人科学会6.2021年度の介護費用、過去最大の11兆円に、高齢化が影響/厚労省1.2022年度の医療費46兆円、2年連続過去最高/厚労省2022年度の日本の概算医療費が46兆円に達し、2年連続で過去最高を更新したことが厚生労働省から発表された。前年度に比べて4.0%増加しており、新型コロナウイルスの感染拡大と高齢化が主な影響因子とされている。厚労省によると、新型コロナウイルスのオミクロン株の流行が、とくに影響を与え、発熱外来などの患者数が大幅に増加した。コロナ患者の医療費は前年度の倍近い8,600億円に上った。また、75歳以上の人々が全体の医療費の約39.1%(18兆円)を占め、その1人当たりの医療費が95万6千円であり、75歳未満の24万5千円に比べ3.9倍だった。診療種類別では、医科が34.3兆円(4.5%増)、歯科が3.2兆円(2.6%増)、調剤が7.9兆円(1.7%増)といずれも増加。とくに、医科の外来や在宅などの入院外が16.2兆円(6.3%増)と目立つ伸びをみせた。診療所においては、不妊治療の保険適用が拡大したことで、産婦人科が前年度比41.7%増と大幅に伸びた。このような背景から、医療費の増加が持続している現状において、その抑制方法が課題となっている。とくに新型コロナウイルスの影響と高齢化が相まって、今後も医療費の増加が予想される。参考1)令和4年度 医療費の動向-MEDIAS-(厚労省)2)医療費が過去最大46兆円 4年度概算、コロナ影響(産経新聞)3)医療費1.8兆円増の46兆円 2年連続過去最高 新型コロナが影響(朝日新聞)4)22年度概算医療費46兆円、2年連続で過去最高 前年度比4%増(CB news)2.新学期スタートでも学級閉鎖相次ぐ、新型コロナ感染者数が5類移行後で最多に/厚労省厚生労働省によると、全国の新型コロナの患者数は前週比で1.07倍増となり、とくに岩手、青森、宮城の患者数が多い状況が明らかとなった。新たな入院者数は全国で1万3,501人と、前週よりは減少しているものの、重症患者数は増加している。新型コロナウイルスの感染拡大が続く中で、学校における影響も顕著になっており、とくに新学期が始まった地域で学級閉鎖が相次いでいる。日本学校保健会によると、全国の小中高校と幼稚園、保育園で149クラスが閉鎖されている。長野県では、新学期が始まったばかりで31クラスが閉鎖され、これは5月以降で最多。感染症の専門家は、学校が再開されることで、子供たちでの感染がさらに広がる可能性を指摘している。また、ワクチン接種から時間が経過すると効果が下がるため、高齢者や基礎疾患のある人は、次の接種が必要になると警告している。自治体や学校は、発熱や倦怠感などがある場合には、無理に登校しないよう呼びかけており、基本的な感染対策の徹底を求めている。参考1)新型コロナで学級閉鎖相次ぐ 「5類移行」後、最多更新の地域も(毎日新聞)2)新型コロナ 全国の感染状況 前週の1.07倍 2週連続の増加(NHK)3)コロナ感染者数、2週続けて増加 前週比1.07倍 5類後最多に(朝日新聞)3.ワクチン接種後の副反応の解析用にデータベースを整備へ/厚労省厚生労働省は、9月1日に厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会を開き、自治体が管理している予防接種の記録や、国が保有する副反応の情報などをまとめた全国的なデータベースを作成する方針を明らかにした。これまでの手書きでの報告を改訂し、効率的に情報収集を行う予定。データベースには、接種記録や副反応疑い報告などが匿名化されて格納され、他のデータベースと連携し、予防接種の有効性・安全性の調査・研究が可能となるため、大学研究機関などに第三者提供も行われる予定。これらの取り組みで、ワクチン接種後の副反応や重篤な有害事象の発生について、副反応の情報と接種歴を結びつけて詳細な分析を可能になる見込み。また、データベースの情報は、レセプト(診療報酬明細書)とも結びつけられ、接種した人としていない人の間で副反応が疑われる症状が起きる割合に差があるかを調査することも計画されている。厚労省は、このデータベースを令和8年度中に稼働させ、ワクチンの有効性や安全性の分析に役立てる方針としている。参考1)予防接種データベースについて(厚労省)2)予防接種データベース「整備イメージ」提示 厚労省、報告様式改訂し情報収集を効率化(CB news)3)ワクチン分析 自治体や国保有の情報データベース作成へ 厚労省(NHK)4.30年ぶりの肥満症新薬の登場も、メディカルダイエットの流行が弊害に/厚労省今春、肥満症治療の新薬「セマグルチド(商品名:ウゴービ)」が承認され、1992年に承認されたマジンドール(同:マサノレックス)以来、約30年ぶりの肥満症治療の新薬の登場で、肥満症の治療は大きく進歩している。さらに糖尿病治療薬として承認された持続性GIP/GLP-1受容体作動薬「チルゼパチド(同:マンジャロ)」は20%の体重減少効果が確認されており、GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)受容体作動薬は、糖尿病の治療だけでなく、肥満症の治療としても注目されている。その一方、近年、痩せるために糖尿病薬を処方する「メディカルダイエット」が横行し、その弊害として欠品が問題となっている。厚生労働省は、この問題に対処するために、医療機関や卸業者に対してGLP-1受容体作動薬について「買い込みを控え適正使用」を呼びかけ、適正な使用と供給の優先を求めている。メーカー側は「医師の処方権」や「独占禁止法」により、適応外処方を厳しく規制することができないとしている。しかし、GLP-1受容体作動薬が適応外使用での処方や適応外でありながら大量に広告されていることから有害事象の発生など懸念が広がっている。参考1)GLP-1 受容体作動薬の在庫逼迫に伴う協力依頼(厚労省)2)30年ぶりの肥満症新薬と、「メディカルダイエット」が招く弊害(毎日新聞)3)“体重20%減”のダイエット効果があだに、糖尿病薬「空前の品不足」で診療に支障も(ダイヤモンド・オンライン)5.生殖補助医療における課題の解決に向け、公的機関の設立を/日本産科婦人科学会日本産科婦人科学会は、生殖補助医療の倫理的課題やデータ管理に対応するための公的機関設立の準備を始めたと発表した。医療技術の進展に伴い、第三者からの精子や卵子の提供など、新たな治療法が増加している一方で、倫理的な議論や法制度の整備が遅れている現状に対処するよう国側に強く働きかけたいとして同学会が決定した。1978年に世界で初めて体外受精が成功して以降、多くの国では親子関係や提供者の情報管理に関する法制度が整備されているのに対し、わが国では、生殖補助医療に関する法整備が世界に比べて遅れており、法整備が進まず、議論が始まったのは比較的最近であり、その結果としての法制度も不十分な状態が続いている。2020年には「生殖補助医療法」が成立し、一定の規定は確立されたが、提供者と子の「出自を知る権利」などがいまだに十分に考慮されていないのが現状。この法には2年以内に詳細を検討するという付則があったが、その期限が過ぎても議論は進展していない状態となっている。具体的には、新たな改正案で提案されている公的機関(独立行政法人)は、提供者の氏名や住所、生年月日などを100年間保存するよう求められている。しかし、この機関が情報を開示するかどうかは、提供者の同意に依存しており、その点が問題視されている。また、法案では提供を受けられるのは法律上の夫婦に限定されているなど、性的マイノリティーや代理出産に対する規定も不明確となっている。これらの課題を解決するためには、公的機関の設立だけでなく、広範な倫理的、法的議論が必要であり、産婦人科学会は国や関連団体に対して、専門の調査委員会を設けて、これらの課題に十分に議論を重ねることを求めている。参考1)“生殖補助医療の課題対応” 学会 公的機関の設立準備委(NHK)2)世界から遅れ 生殖補助医療法の必要性を指摘してきた識者の憂い(毎日新聞)3)生殖補助医療法、2年の改正期限過ぎるも議論混迷、次期国会どうなる(朝日新聞)6.2021年度の介護費用、過去最大の11兆円に、高齢化が影響/厚労省厚生労働省は、2021年度の介護費用(保険給付と自己負担を含む)が11兆2,838億円に達し、過去最大を更新したと発表した。この額は2年連続で11兆円を超え、高齢化に伴い、介護サービスの利用者が増加している。同時に、介護保険の給付費(利用者負担を除く)も前年度比2.0%増の10兆4,317億円となり、これもまた過去最高を更新した。介護や支援が必要とされる人々も、21年度末時点で前年度比1.1%増の690万人となり、うち601万人が75歳以上であることが明らかとなり、これも過去最多の数値。給付費の内訳については、訪問介護などの「居宅サービス」が4兆9,604億円で最も多く、次いで特別養護老人ホームなどの「施設サービス」が3兆1,938億円となっている。高齢化が進む中で、介護費用と給付費の増加は持続的な問題となっている。とくに、75歳以上の高齢者が多くを占めていることから、今後もこの傾向は続くと予想される。参考1)令和3年度 介護保険事業状況報告(厚労省)2)介護費、最大の11兆円 21年度(日経新聞)3)介護給付費、10兆4千億円 21年度、高齢化で更新続く(共同通信)

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臓器がわかる3Dグラフィックス ORGAN ROOMS

医学専門出版社がつくったしっかり学べるアートブック本書は、イユダエマさん(2021年大阪芸術大学デザイン学科グラフィックデザインコース卒業)による卒業制作作品「ORGAN ROOMS」をもとに制作したアートブックです。本作品は9つの臓器をそれぞれの部屋に見立ててその働きをわかりやすく表現したもので、大阪芸術大学卒業制作選抜展で公開された段階でも、医学的にかなり調べこんで制作されたものでした。単行本化にあたり、アートのよさを残しつつ、医学専門出版社として、より正しくわかりやすい表現にできないかと検討を重ねるとともに、アートブックとしてだけでなく、読み物としても楽しめるよう、臓器にまつわる豆知識を盛り込んでいます。なお、幅広い読者層を想定し、全ページにわたり振り仮名をつけています。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    臓器がわかる3Dグラフィックス ORGAN ROOMS定価2,750円(税込)判型A4判頁数42頁発行2023年7月著者ORGAN ROOMS編集部(編・著)

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交通事故診療で困ることとその対応(1)

ケアネットをご覧の皆さま、はじめまして。整形外科医の濱口 裕之と申します。交通事故絡みの診療って面倒くさいなぁ…。きっと、そう思っている方が多いことでしょう。何を隠そう私もその1人です。そんな私が、交通事故診療についてお話しする機会をいただきました。その理由は、私が日本で最もたくさんの交通事故患者さんに関わっている医師だからです。一体どれぐらいの数の患者さんかって? ナントその数、年間1,000症例!これほどたくさんの交通事故患者さんに関わっている理由は、勤務医をしながら2016年に創業した弁護士向けの会社にあります。主に交通事故の後遺障害認定サポートを行っており、整形外科医が代表を務める会社としては業界最大手となりました。全国の弁護士や保険会社から毎日たくさんの相談を受けているので、交通事故診療の疑問や悩みなら何でもござれというワケです。そこで今回は、交通事故診療に携わる医師のよくあるお悩みについて回答していきます。どうかご笑覧いただきますようお願い申し上げます。接骨院との併診を希望する患者が多くて困っています。医療機関と接骨院との併診を認めてよいのでしょうか?接骨院は、柔道整復師が施術を行う施設で、整骨院とも呼ばれています。もちろん、接骨院は医療機関ではありません。1998年に柔道整復師養成校設立の規制が緩和されたため、接骨院の数はコンビニエンスストアと同じぐらいにまで増加しました。熾烈な生存競争を勝ち抜くため、接骨院は交通事故患者さんの取り込みに躍起になっています。夜間営業や日祝日営業は当たり前なので、交通事故患者さんは通いやすい接骨院に流れがちです。もちろん、患者さんが接骨院に行くのは自由です。しかし、医療機関と並行して通っていると、いくつかの不具合が発生します。よく見かけるのが、「なか飛ばし」と呼ばれる初診時と症状固定時だけ医療機関を受診して、その間は接骨院に通うパターンです。なか飛ばしでは、医師には診察していない期間の経過がわからないので、症状固定時の症状が事故によるものか否かがわかりません。このため、後遺障害診断書作成が困難になります。なか飛ばしよりもさらに対応が難しいのは「経過後初診」です。受傷してから一度も医療機関を受診せずに接骨院に行ってしまい、症状固定時期に初めて医療機関を受診するパターンです。症状と事故との因果関係がまったくわからないので後遺障害診断書を書けません。また、接骨院にいくら頻回に通っても、一定頻度の医療機関受診がなければ後遺障害に認定されません。接骨院との併診を希望する患者さんには、接骨院併診のデメリットを説明した上で選択してもらうことをお勧めします。どのタイミングで治療終了にするのでしょうか? 症状固定の時期の判断が難しいです症状固定とは、症状が依然として残っているものの、治療を行ってもこれ以上症状が良くならない状態です。症状固定は治癒と混同されがちですが、両者はまったく異なります。治癒は、文字どおり治った状態なので症状はありません。一方、症状固定はリハビリテーションや薬物療法で一時的には症状が改善しても、治療を止めると症状がぶり返してしまう一進一退の状態です。日常診療で症状固定を考えるべきタイミングは、治療していても効果がなくなってきたなと感じる時期です。症状固定と言うと症状がなくなった状態を連想しがちですが、そうではありません。症状がまだ残っているからと言って、治療効果が不十分になったにもかかわらず、漫然と治療を続けることは厳に慎むべきでしょう。もちろん、症状固定したら治療も終了しなければいけないわけではありません。あくまでも自賠責保険での治療を終了するだけです。患者さんの希望があれば、症状の緩和を目的として、健康保険を使用して治療を続けることは可能です。受傷して間もないのに全治までの期間の判断を求められることがあります。何故、保険会社は全治までの期間をすぐに知りたがるのでしょうか?受傷後早期にもかかわらず、保険会社が全治までの期間の判断を求めるケースは、大きく2つに分けられます。1つ目は、保険会社の決算期の関係で備金計上を迫られているケースです。備金とは、決算日までに発生した事故に支払うために積み立てる準備金です。備金計上にはある程度の正確さが要求されるので、保険会社の担当者は全治までのおおよその期間を知りたいと思うのです。2つ目は、保険会社が患者さんの症状や医療機関の治療内容について疑念を抱いているケースです。具体的には、軽い事故にもかかわらず、ほぼ毎日通院しているケースなどが挙げられます。保険会社は詐病や過剰診療の可能性を念頭に置いて調査します。後遺障害診断書の記載内容の書き換え要求があって、患者さんや担当弁護士と揉めることがあります。どのように対応すればよいのでしょうか?最近、交通事故診療の現場に弁護士が介入するケースが増えています。その理由は、自動車保険の弁護士費用特約が普及しているからです。弁護士費用特約とは、交通事故に遭った際に、弁護士に委任する費用を補償してくれる特約です。患者さんの立場では、経験豊富な弁護士に依頼できるので、多くの人が加入しています。弁護士の立場では、弁護士費用特約が附帯されていると費用の取りはぐれがありません。このため、多くの弁護士が交通事故患者さんから受任しようと躍起になっています。弁護士報酬は成功報酬部分が大きいので、患者さんが後遺障害に認定されるように、あの手この手を使います。このため、後遺障害認定に大きな影響を及ぼす後遺障害診断書の書き換え要求をする弁護士が後を絶ちません。後遺障害診断書の書き換え要求があった場合には、自賠責保険の記載ルールから逸脱している場合は追記や修正に応じるべきでしょう。たとえば、関節可動域について他動を記載せず、自動しか記載していないケースです。一方、症状固定日をもう少し後にして欲しいなどの医学的根拠が不明瞭な書き換え要求には応じる必要はありません。あくまでも医師としての専門的な診断を優先しましょう。

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DOAC内服AF患者の出血リスク、DOACスコアで回避可能か/ESC2023

 心房細動患者における出血リスクの評価には、HAS-BLEDスコアが多く用いられているが、このスコアはワルファリンを用いる患者を対象として開発されたものであり、その性能には限界がある。そこで、米国・ハーバード大学医学大学院のRahul Aggarwal氏らは直接経口抗凝固薬(DOAC)による出血リスクを予測する「DOACスコア」を開発・検証した。その結果、大出血リスクの判別能はDOACスコアがHAS-BLEDスコアよりも優れていた。本研究結果は、オランダ・アムステルダムで2023年8月25日~28日に開催されたEuropean Society of Cardiology 2023(ESC2023、欧州心臓病学会)で発表され、Circulation誌オンライン版2023年8月25日号に同時掲載された。 RE-LY試験1)のダビガトラン(150mgを1日2回)投与患者5,684例、GARFIELD-AFレジストリ2)のDOAC投与患者1万2,296例を対象として、DOACスコアを開発した。その後、一般化可能性を検討するため、COMBINE-AF3)データベースのDOAC投与患者2万5,586例、RAMQデータベース4)のリバーロキサバン(20mg/日)投与患者、アピキサバン(5mgを1日2回)投与患者1万1,1945例を対象に、DOACスコアの有用性を検証した。 以下の10項目の合計点(DOACスコア)に基づき、0~3点:非常に低リスク、4~5点:低リスク、6~7点:中リスク、8~9点:高リスク、10点以上:非常に高リスクに患者を分類し、DOACスコアの大出血リスクの判別能を検討した。また、DOACスコアとHAS-BLEDスコアの大出血リスクの判別能を比較した。【DOACスコア】<年齢> 65~69歳:2点 70~74歳:3点 75~79歳:4点 80歳以上:5点<クレアチニンクリアランス/推算糸球体濾過量(eGFR)> 30~60mL/分:1点 30mL/分未満:2点<BMI> 18.5kg/m2未満:1点<脳卒中、一過性脳虚血発作(TIA)、塞栓症の既往> あり:1点<糖尿病の既往> あり:1点<高血圧症の既往> あり:1点<抗血小板薬の使用> アスピリン:2点 2剤併用療法(DAPT):3点<NSAIDsの使用> あり:1点<出血イベントの既往> あり:3点<肝疾患※> あり:2点※ AST、ALT、ALPが正常値上限の3倍以上、ALPが正常値上限の2倍以上、肝硬変のいずれかが認められる場合 主な結果は以下のとおり。・RE-LY試験の対象患者5,684例中386例(6.8%)に大出血が認められた(追跡期間中央値:1.74年)。・ブートストラップ法による内部検証後において、DOACスコアは大出血について中等度の判別能を示した(C統計量=0.73)。・DOACスコアが1点増加すると、大出血リスクは48.7%上昇した。・いずれの集団においても、DOACスコアはHAS-BLEDスコアよりも優れた判別能を有していた。 -RE-LY(C統計量:0.73 vs.0.60、p<0.001) -GARFIELD-AF(同:0.71 vs.0.66、p=0.025) -COMBINE-AF(同:0.67 vs.0.63、p<0.001) -RAMQ(同:0.65 vs.0.58、p<0.001) 本研究結果について、著者らは「DOACスコアを用いることで、DOACを使用する心房細動患者の出血リスクの層別化が可能となる。出血リスクを予測することで、心房細動患者の抗凝固療法に関する共同意思決定(SDM)に役立てることができるだろう」とまとめた。

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