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HER2+転移乳がん、T-DXd後のtucatinibレジメンの有用性は?

 トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)の治療歴のあるHER2陽性の転移乳がん患者(活動性脳転移例を含む)の後治療において、経口チロシンキナーゼ阻害薬tucatinibとトラスツズマブおよびカペシタビンの併用(TTC療法)が、臨床的に有意義な転帰と関連していたことを、フランス・Institut de Cancerologie de l'OuestのJean-Sebastien Frenel氏らが明らかにした。JAMA Network Open誌2024年4月1日号掲載の報告。 研究グループは、T-DXdの治療歴のあるHER2陽性の転移乳がん患者におけるTTC療法後の転帰を調査するためにコホート研究を実施した。対象は、2020年8月1日~2022年12月31日にフランスのがんセンター12施設でT-DXdによる治療を受けた転移乳がん患者全例であった。tucatinib(1日2回300mgを経口投与)とトラスツズマブ(21日ごとに6mg/kgを静脈内投与)およびカペシタビン(21日サイクルの1~14日目に1日2回1,000mg/m2を経口投与)を併用した。主要評価項目は、RECIST v1.1に基づく無増悪生存期間(PFS)、次治療までの期間(TTNT)、全奏効率(ORR)、全生存期間(OS)であった。 主な結果は以下のとおり。・合計101例の患者が組み入れられた。年齢中央値は56歳(範囲:31~85)、65歳未満が79例(78.2%)、脳転移があったのは39例(38.6%)でそのうち活動性脳転移は16例であった。・前治療ライン数の中央値は4(範囲:2~15)で、T-DXdの前治療歴ありは100%、トラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)の前治療歴ありは93.1%、トラスツズマブおよび/またはペルツズマブの前治療歴ありは81.2%であった。・追跡期間中央値11.6ヵ月(95%信頼区間[CI]:10.5~13.4)で、病勢進行により75.2%がTTC療法を中止し、有害事象により24.8%が中止した。・PFS中央値は4.7ヵ月(95%CI:3.9~5.6)、TTNT中央値は5.2ヵ月(4.5~7.0)、OS中央値は13.4ヵ月(11.1~未到達)であった。・ORRは32.6%、病勢コントロール率は64.0%であった。・T-DXd治療の直後にTTC療法を受けた患者のPFS中央値は5.0ヵ月(95%CI:4.2~6.0)、TTNT中央値は5.5ヵ月(4.8~7.2)、OS中央値は13.4ヵ月(11.9~未到達)であった。・活動性脳転移のある16例のPFS中央値は4.7ヵ月(95%CI:3.0~7.3)、TTNT中央値は5.6ヵ月(4.4~未到達)、OS中央値は12.4ヵ月(8.3~未到達)であった。 これらの結果より、研究グループは「T-DXd治療歴のあるHER2陽性の転移乳がん患者において、TTC療法は臨床的に意義のある転帰と関連していた。急速に変化する治療環境において、最適な薬剤選択を検討するには前向き試験のデータが必要である」とまとめた。

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肺静脈隔離術+左心耳結紮術、心房細動の予後を改善するか/JAMA

 初回カテーテルアブレーションを受ける非発作性心房細動患者では、肺静脈隔離術(PVI)単独と比較して左心耳(LAA)結紮術+PVIは、術後30日以内の重篤な有害事象の発現(安全性)を有意に改善するものの、12ヵ月後の時点で心房細動の発現がない状態(有効性)に有意な差はないことが、米国・Kansas City Heart Rhythm InstituteのDhanunjaya R. Lakkireddy氏らが実施した「aMAZE試験」で示された。研究の詳細は、JAMA誌2024年4月2日号で報告された。米国53施設の非盲検無作為化試験 aMAZE試験は、非発作性心房細動に対するカテーテルアブレーションにおけるLAA結紮デバイス(LARIAT、AtriCure製)の安全性と有効性の評価を目的とする非盲検無作為化試験。2015年10月~2019年12月に米国の53施設で患者を登録し行われた(AtriCureの助成を受けた)。 過去3年以内に症候性の非発作性心房細動と診断され、少なくとも1剤のI/III群抗不整脈薬による治療が無効で、カテーテルアブレーションが予定されている患者610例を登録し、LAA結紮術+PVI群に404例(年齢中央値68.0歳[範囲:29~80]、男性71%)、PVI単独群に206例(68.0歳[40~80]、77%)を無作為に割り付けた。 有効性の主要エンドポイントは、PVI施行後12ヵ月以内に30秒以上持続する心房性不整脈が記録されないことであった。また、安全性の主要エンドポイントは、事前に規定された重篤な有害事象の複合であり、術後30日時の性能目標(10%)と比較した。有効性の主要エンドポイントは満たさず、安全性は確認 ベイズ適応分析による有効性の主要エンドポイントの発生率は、LAA結紮術+PVI群が64.3%、PVI単独群は59.9%であり(群間差:4.3%、95%信用区間[CrI]:-4.2~13.2)、優越性の事後確率は0.835と、優越性を確立するための統計学的基準(0.977)を満たさなかった。 また、安全性の主要エンドポイントである30日以内の重篤な有害事象の発生率は、LAA結紮術+PVI群で3.4%(95%CrI:2.0~5.0、事後確率1.0)と、事前に規定された閾値である10%を下回っており、安全性が確認された。12ヵ月時の左心耳完全閉鎖は80%、残存血流5mm以下は99% PVI施行後12ヵ月の時点での左心耳完全閉鎖(残存血流0mm)の割合は、LAA結紮術+PVI群が80%(250/314例)、PVI単独群は84%(253/302例)であり、5mm以下の残存血流はそれぞれ99%(307/310例)および99%(295/299例)で達成された。 著者は、「補助的LAA結紮術は、心房性不整脈の再発においてPVIに有意な有益性を付加しないが、持続的な長期の左心耳閉鎖をもたらし、安全性に関して重篤な有害事象を有意に抑制した」としている。

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第190回 2025年、かかりつけ医機能報告制度スタートに向けて検討/厚労省

<先週の動き>1.2025年、かかりつけ医機能報告制度スタートに向けて検討/厚労省2.新型コロナ治療薬ラゲブリオ、7月から8.2%薬価引き下げ/厚労省3.マイナ保険証利用促進に向けた集中取り組み月間開始/厚労省4.少子高齢化が進行、65歳以上の人口が初めて2,000万人を超える/総務省5.子供の入院時、4割の医療機関が家族付き添いを要請/こども家庭庁6.画像診断の報告書確認が遅れ、患者が死亡/名古屋大学1.2025年、かかりつけ医機能報告制度スタートに向けて検討/厚労省厚生労働省は、4月12日に「かかりつけ医機能が発揮される制度の施行に関する分科会」を開催、2025年4月に施行予定の「かかりつけ医機能報告制度」に向けて、医療機関からの報告要件を議論した。この制度は、医療機関がどのようなかかりつけ医機能を有しているかを患者に対して明らかにし、患者の医療機関選択をサポートする目的で実施される。さらに地域医療の提供体制を強化するため、地域全体で機能を補完する形の協力体制を確立することも求められている。分科会では、医療機関に要求される報告内容として、通常の診療時間外の対応、入退院時の支援、在宅医療の提供、介護との連携などが提案されている。また、地域における医療ニーズに応じたかかりつけ医機能の確保と、それに必要な医師の教育や研修の充実が議論された。報告の具体案は、2024年5月の会合で示される予定であり、病院や診療所がどのように機能しているかの透明性を高めることが期待されている。報告制度は、地域ごとの医療の質の向上に寄与し、患者が自分の症状に最適な医療機関を選べるようにすることを目指している。参考1)第4回 かかりつけ医機能が発揮される制度の施行に関する分科会 資料(厚労省)2)「かかりつけ医機能」報告、厚労省が論点示す 報告内容など、5月中に具体案(CB news)3)かかりつけ医機能報告制度、「患者の医療機関選択」支援を重視?「地域での医療提供体制改革」論議を重視?-かかりつけ医機能分科会(Gem Med)2.新型コロナ治療薬ラゲブリオ、7月から8.2%薬価引き下げ/厚労省厚生労働省は、新型コロナウイルス感染症治療薬ラゲブリオ(一般名:モルヌピラビル)の薬価を7月1日から8.2%引き下げると発表した。この薬価改定は、中央社会保険医療協議会(中医協)において承認された費用対効果評価結果に基づいて行われるもの。モルヌピラビルは現在、1回の治療費が9万4,312円で、7月からの新薬価は8万6,596円となる。この薬はとくに重症化リスクが高い成人患者向けに使用され、治療の有効性とコストのバランスが評価された。分析では、ラゲブリオを使用した患者群と抗ウイルス薬を使用しない患者群との間で入院や死亡リスクに有意な差はみられなかった一方で、治療費の増加が確認されたため薬価の調整が必要と判断された。同様の評価が他の薬にも適用され、一例として慢性腎臓病治療薬ケレンディア(同:フィネレノン)は2.7%の薬価引き下げとなった。これらの薬価調整は、医療機関の在庫への影響を考慮し、新薬価の適用開始日が設定されている。中医協は、この決定を通じて、医療の費用効率の向上と患者への負担軽減を図ることを目指している。参考1)医薬品・医療機器等の費用対効果評価案について(厚労省)2)コロナ飲み薬 7月から薬価引き下げ 厚労省、費用対効果を分析(朝日新聞)3)中医協総会 ケレンディアは2.7%、ラゲブリオは8.2%薬価引下げ了承 費用対効果評価で 7月1日適用(ミクスオンライン)4)ラゲブリオ薬価8.2%引き下げ、7月から ケレンディアはマイナス2.7%(CB news)3.マイナ保険証利用促進に向けた集中取り組み月間開始/厚労省厚生労働省は、4月10日に社会保障審議会医療保険部会を開催した。現行、紙の健康保険証は、2024年12月2日に廃止される一方、利用が伸び悩んでいるマイナ保険証の利用促進強化を進めることを決定した。厚生労働省によれば、2023年3月のマイナ保険証利用率は5.47%と低迷しており、これを改善するために2024年5月~7月までを「マイナ保険証利用促進集中取組月間」と定め、積極的な推進活動を行う。経済団体、医療団体、保険者などが連携する健康寿命延伸と医療費適正化の支援活動を行う「日本健康会議」は、4月25日に東京都で医療DX推進フォーラム「使ってイイナ!マイナ保険証」を開催する。このイベントはオンラインでも中継され、武見 敬三厚生労働省大臣を含む3閣僚が参加し、利用促進宣言を行う予定。具体的な施策として、医療機関や薬局でマイナ保険証の利用者数を増やした場合、最大20万円の一時金が支給されることになった。支給の条件には、患者への声掛けやチラシの配布などが条件となっているさらに、厚労省は広範なメディアを利用した広報活動を展開し、医療機関のデジタル化推進体制整備に対しても支援を行う。また、新たに設けられた一時金は、医療機関が2023年10月以降に利用率向上を達成した場合に支給される。一方、この政策には批判もあり、公的資金を使用してのキャンペーンに対する疑問の声が上がっている。とくに金銭的インセンティブを用いた利用促進策が適切かどうかが議論の的となっている。しかし、厚労省はマイナ保険証が医療の質を向上させる重要なツールであるとし、その普及に向けた努力を続けるとしている。参考1)医療DX推進フォーラム「使ってイイナ!マイナ保険証」開催のお知らせ(日本健康会議)2)マイナ利用増、支援金 厚労省、医療機関に最大20万円(毎日新聞)3)「マイナンバーカードによる受診」実績等もとに、最大で病院20万円、クリニック10万円の一時金を今夏支給-社保審・医療保険部会(Gem Med)4)マイナ促進、6-11月の支援金を「一時金」に見直し 医療DX推進加算の新設に伴い(CB news)5)マイナ保険証利用促進宣言へ、日本健康会議 25日の医療DXフォーラムで、3閣僚出席(同)4.少子高齢化が進行、65歳以上の人口が初めて2,000万人を超える/総務省総務省は、4月12日に2023年のわが国の人口が前年比59万5,000人減少し、総人口は1億2,435万2,000人になったと発表した。わが国の人口減少は、13年連続で減少率は1950年以降で2番目に大きい。とくに、65歳以上の高齢者人口は2,007万8,000人増加し、全人口の約16.1%を占める。これは、少子高齢化の進行を示し、生産年齢人口(15~64歳)は1995年をピークに減少が続き、全体の約59.5%となった。厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、2033年には世帯の平均人数が初めて2人を割り、1.99人になると予測されている。2050年までに、わが国の5,261万の全世帯のうち44.3%が1人暮らしの独居世帯となり、高齢者が半数近くを占める見込み。さらに未婚率の高い高齢者の割合も急増し、未婚の男性高齢者は約60%、女性は約30%に上るとされている。この人口動態の変化は、社会保障制度、とくに年金制度に大きな影響を与えており、労働力人口の減少と高齢者人口の増加により、年金財政の悪化が進行し、将来的な制度改革が急務となっている。さらに、外国人労働者の増加が新たな労働力として注目されている一方で、わが国の社会保障制度の持続可能性の確保が重要な課題となっている。参考1)人口推計(2023年)ー全国:年齢(各歳)、男女別人口・都道府県:年齢(5歳階級)、男女別人口ー(総務省)2)『日本の世帯数の将来推計(全国推計)』[2024年推計](国立社会保障・人口問題研究所)3)日本人人口、減少幅最大の83万人 外国人が労働力補う(日経新聞)4)平均世帯人数、初の2人割れへ=22年に、厚労省研究所推計-未婚化で単独高齢者増加(時事通信)5)23年総人口、13年連続減 59万人少ない1億2,435万人(日経新聞)6)2023年の日本の総人口 前年より60万人近く減少と推計 総務省(NHK)5.子供の入院時、4割の医療機関が家族付き添いを要請/こども家庭庁こども家庭庁によると、子供が入院する際、44%の医療機関が家族の付き添いを要請していることが明らかになった。付き添い入院は、原則任意であり、看護師が主にケアを担当することが一般的だが、小児の入院の際は家族が協力を求められるケースが多いとされていた。同庁が実施した調査結果によれば、付き添いが難しいと感じた家族が入院を見送ったり、他院への転院を考えたりする例が36%に上った。多くの医療機関は、とくに小さな子供の場合に付き添いを求める際に、家族の付き添いは子供の不安を和らげる効果もあるためと回答している。しかし、付き添い中の家族が直面する困難も多く、適切な寝具の提供がないためソファで寝るケースや、食事の調達が問題となることもある。実際、寝具の貸与が行われていない病院は15%に上り、食事は主にコンビニでの購入となっている。今回の調査結果を受け、同庁は医療機関に対して、保育士の配置など家族を支援する体制整備を促している。今後、付き添い入院の環境改善に向けた対策が、さらに進むことが期待される。参考1)令和5年度子ども子育て支援推進調査研究事業「入院中のこどもへの家族等の付添いに関する病院実態調査」の報告書及び事例集について(こども庁)2)子供入院時の家族付き添いは「病院が要請」44%、ソファで寝るケースも こども庁調査(産経新聞)3)子どもへの「付き添い入院」医療機関の4割要請…こども家庭庁調査、保育士らの手厚い配置促す(読売新聞)4)こどもの入院で家族の付き添い4割、転院調整も 全国医療機関調査(朝日新聞)6.画像診断の報告書確認が遅れ、患者が死亡/名古屋大学名古屋大学医学部附属病院は、画像診断の報告書の見落としによって肺がん診断が遅れ、患者が死亡する事例が発生したことを4月11日に公表した。報告書によると2016年3月、80代男性患者が腹痛を訴え胸腹部のCT検査を受けた。放射線科医は、肺に異常陰影を認めたため、肺がんの除外目的で追加検査を推奨した。しかし、泌尿器科の主治医はこの報告書を十分に熟読せず、放置したため、患者はその後、無治療で過ごし、2019年7月に肺がんと診断された。肺がんの発見が遅れたために患者の病状は進行し、手術不可能な状態となり、患者は2022年3月に肺がんおよび転移による腫瘍死によって死亡した。名古屋大学の安全推進委員会によって設置された「事例調査委員会」によってこの事例が調査され、2024年3月に調査報告書が取りまとめられた。報告書によると、肺がんの診断が適切に行われていれば、肺がんは初期段階で発見され、根治可能であった可能性が高いとされている。事例調査委員会の報告を踏まえ、病院は遺族に対して説明と謝罪を行い、賠償を行った。さらに、放射線科の報告書に対する対応の見落としを防ぐための再発防止策を強化することを発表した。この事例から、画像診断レポートの確実な読解と対応の重要性が再確認され、放射線科医からの報告に対する適切な臨床的フォローアップの必要性が浮き彫りとなった。また、患者とのコミュニケーションの改善と、医療チーム内の情報共有の徹底が求められている。参考1)画像診断レポートに記載された所見に対応せず、肺が進行し死亡した事例について(名大)2)肺がん疑い見落とし治療2年以上遅れるミス、病状悪化し80代男性死亡…名古屋大病院が遺族に謝罪(読売新聞)3)名大病院で医療ミス、医師がCT結果見落とす 肺がん進み男性死亡(朝日新聞)

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本「ギネスブック」【2位じゃダメなんでしょうか?(「天才ビジネス」のからくり)】Part 1

今回のキーワード心の癖(認知バイアス)1位バイアス概念化自閉スペクトラム症統合失調症権威バイアスランキングビジネス比較癖皆さんは、世界一と聞くとワクワクしませんか? さまざまな世界一の記録を集めた本がギネスブック、現在の正式名は「ギネス世界記録」です。そして、これは独自のガイドラインに従って世界一の記録を認定する組織でもあります。それにしても、あの政治家の有名なセリフを借りれば…世界一になる理由は何があるんでしょうか?2位じゃダメなんでしょうか?今回は、ギネスブックを取り上げます。いつもと違い、シネマセラピーのスピンオフバージョン、「ビブリオセラピー」(読書療法)としてお送りします。この本を通して、私たちの心に潜む、1位に過剰な価値を付けたがる心理を掘り下げます。その心理を踏まえて、1位から「天才」を祭り上げる「天才ビジネス」のからくりにも迫ります。さらに、おまけとして、2位以降の順位付け(ランキング)も気になってしまう心理も掘り下げてみましょう。1番であることで過剰に価値が付けられるギネスブックでは、「最も」という言葉によって、大きさ、長さ、多さ、そして速さなどを主に認定しています。たとえば、これまで最も高い身長は272cmで、その人の写真を見たことがある人は多いでしょう。一方、2番目に身長が高い人は知らず、そこまで興味もありません。やはり、1番であることにとくに大きな注目が向きます。実際に、2番目はギネスブックに載りません。しかし、世界で何千番目であっても、日本で1番目となると、また気になります。私たちは、当たり前すぎてあまり気にも留めませんが、明らかに何かで1番であることで過剰に価値が付けられていることがわかります。これは、私たちの心の癖(認知バイアス)です。しかし、このバイアスには名前が見当たりません。近いバイアスとしては、権威によって価値が付けられる権威バイアスが挙げられます。しかし、このバイアスは1位だけでなく、2位以降の人たち、専門家、権力者にもかかり、概念として広いです。また、希で少ないことで価値が付けられる希少性バイアスが挙げられます。しかし、このバイアスは1番ではなくても、ただまれで少ない人や物にもかかり、概念としてやはり広いです。よって、より正確に言えば、「1位による権威と1位以上は1人だけという希少性の両方の要素を併せ持ったバイアス」です。ただ、長たらしいので、この記事では「1位バイアス」と名付けます。逆に価値を付けるために1番になるカテゴリーがつくられるギネスブックでは、走りながら手作業をするなど、2つの行動の組み合わせの「最も」も多数認定されています。また、「最も」多い人数でやる同じ行動も認定されています。さらに、16歳未満の「子供限定記録」の部門も新しくできています。あまりにも細分化されてしまい、「記録のための記録」になっているようにも見えてきます。つまり、もともとあるカテゴリーで1番であることに価値が付けられていたのに、逆に価値を付けるためにあえて1番になるカテゴリーがつくられるようになっています。すごいから1番なのではなく、1番だからすごい(はずだ)という認知的なすり替えが起きています。これは、世界的に有名なあるサッカー選手の名言にも通じます。それは、「強い者が勝つのではない。勝つ者が強いのだ」です。私たちは「強い者」(1番)につい目が行きがちだけど勝負の世界はわからないよというメッセージです。逆に、このような「1位バイアス」をうまく利用することもできます。たとえば、プロフィール紹介で、「大学で首席だった」はわかります。しかし、「全国模試で1位だった」は中身がよくわからないですが、何かすごそうと印象付けることができます。そもそもなんで1番であることで過剰に価値が付けられるの?それでは、そもそもなぜ1番であることで過剰に価値が付けられるのでしょうか? もちろん、特許や著作権などの権利を第一人者に与える法的な場合はわかります。しかし、そうじゃない場合はどうでしょうか?その答えは、脳の解釈装置が働くからです。これは、概念化と呼ばれています。私たちの脳は、社会生活を送る中、すべての体験をそのまま丸ごとは覚えきれません。そのため、ざっくりとしたイメージや言葉(概念)に置き換えています。進化心理学的に考えれば、原始の時代、たとえば「1番のしっかり者が長(おさ)」としてみんなが認めたわけですが、年を取ってしっかりしなくなっても「長(おさ)だから1番のしっかり者」とみんな思い込んでいたほうが、リーダーが簡単に交代せずに部族の上下関係が安定します。「1番助け合うから親友」として認めたわけですが、疎遠になっても「親友だから1番助け合う」と思い込んでいたほうが、協力関係が保てて人間関係が安定します。「1番すばらしい異性が自分の妻(夫)」として選んだわけですが、年月が経っても「自分の妻(夫)だから1番すばらしい」と思い込んでいたほうが、離婚せずに家族関係が安定します。このように解釈(概念化)に偏り(バイアス)があったほうが、部族としてより生き残り、夫婦としてより子孫を残したでしょう。このような「長(おさ)」「親友」「夫婦」などは概念であり、これが、「1位バイアス」という概念化の起源です。これは、「すごい」ということ(概念)にすごいと思うことです。ちょうど、逆の「ダメだ」ということにダメだと思うマイナス思考(回避性パーソナリティ)や、不安であることに不安に思う予期不安(パニック症)と同じ心理メカニズムです。なお、概念化の起源の詳細については、関連記事1をご覧ください。次のページへ >>

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本「ギネスブック」【2位じゃダメなんでしょうか?(「天才ビジネス」のからくり)】Part 2

実は「天才」は存在しない!?1番であることで過剰に価値が付けられているのは、概念化という脳の解釈装置が働くからであることがわかりました。それは、「すごい」ということにすごいと思うことでした。実はこれは、「天才」という概念に重なります。天才とは、天性の才能、つまり生まれつきのものであり、努力だけでは得られないものとされています。たとえば、「天才物理学者」「天才ピアニスト」「天才プレーヤー」「天才クリエイター」「天才子役」「天才棋士」「天才起業家」「お笑いの天才」のように、突出して何かを達成した人です。しかし、よくよく考えると、このような認知能力にしても身体能力にしても、ある能力について、その達成度のレベルをグラフ化すれば、正規分布になります。より厳密に言えば、正規分布になるようにその能力のレベル分け(判定基準)を意図的に人間がつくっていると言えます。たとえば、お笑いでさえ、漫才や大喜利などを競技化して判定基準を形式としてつくることで可能にしています。その正規分布の最も右端の先細りした部分は、1位であり、1人しかいません。当たり前ですが、ナンバーワンでオンリーワン、いわゆる類いまれです。つまり、天才だから類いまれなのではなく、 類いまれだから天才と呼んでいるだけです。実際の研究では、世界で上位0.03%に入る「天才」と呼ばれる約1,400人のゲノム(全遺伝子配列)の分析を行ったところ、一般人との違いはないとの結果が出ました1)。つまり、天才は「天性(遺伝性)の才能」とされていながら、その遺伝子は突き止められなかったのでした。このことからも、実は「天才はいる」のではなく、私たちが無意識的にも意識的にも「天才にしている」だけであることがわかります。なお、天才とされる人たちは、通常の人と違う飛び抜けた能力を発揮(発達)している点で、自閉スペクトラム症や統合失調症などの非定型発達と関係があることは指摘されています。これらの詳細については、関連記事2、関連記事3をご覧ください。「天才ビジネス」のからくりとは?世の中では、天才とされる人たちに注目が集まり、ビジネスになっています。たとえば、「天才〇〇」の著作や関連の啓発本から、テレビ出演、講演会、グッズ、さらには「〇〇の天才を生んだ母親」の著作や講演会にも広げられています。また、「天才を育てる幼児教育」もよく見かけます。しかし、先ほど触れたように、天才はそう仕立て上げられ、私たちが思い込んでいるだけです。これ自体、良くも悪くも、私たちの文化です。つまり、天才とは、絶対的な存在ではなく、相対的にたまたま1位になった人を私たちの社会の文化によってそう意味付け価値付けた単なる記号であり、称号であり、フィクションであると言えます。これが、「天才ビジネス」のからくりです。そして、これは、「天才ビジネス」にとって不都合な真実でしょう。もちろん、天才として祭り上げるこのフィクションを1つの文化として楽しむことはできます。しかし、「天才」という言葉に踊らされて、むやみにビジネスに利用されないように、私たちは賢明になる必要もあるでしょう。これは、権威や希少性に振り回されないようにするのと同じです。ギネスブックとは?実は、ギネスブック自体も、「最も売れている年刊本」として自らギネス世界記録に認定しています。結局、ギネスブック自体も「1位バイアス」を利用して、自らの売り上げにちゃっかり貢献して、ビジネスとして回っているわけです。この記事の最初に問いかけた質問は、「世界一になる理由は何があるんでしょうか?」「2位じゃダメなんでしょうか?」でした。この答えは、私たちが文化的に楽しむためと言えるでしょう。そして、2位じゃダメではまったくないのですが、私たちが2位じゃダメと思う原因は「1位バイアス」「天才ビジネス」に惑わされているからと言えるでしょう。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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本「ギネスブック」【2位じゃダメなんでしょうか?(「天才ビジネス」のからくり)】Part 3

おまけ先ほどまで、私たちが「1位バイアス」「天才ビジネス」にとらわれている心理に迫りました。ここからはおまけとして、私たちが2位以降の順位付け(ランキング)にもとらわれている心理を掘り下げます。ランキング上位であるというだけで価値が生まれる世の中では、「〇〇ランキング」「〇〇の格付け」が溢れています。もちろん、私たちがそれを参考にして、物を買ったりサービスを利用して、社会生活をより充実させているのはよくわかります。ちなみに、このコラムにも「人気記事ベスト3」を自動更新できるようにして表示しています。しかし同時に、ランキングが上位であれば、勝手に好印象を持ってしまってもいます。つまり、人気(価値)があるからランキング上位であったのに、ランキング上位であるというだけで人気(価値)が出るようになってしまっています。これは、先ほどにも触れた権威バイアスによるものです。逆に人気を生み出すためにランキングをつくるよくよく考えると、細かく順位付けする必要がないものまでも、私たちはランキングがあるとつい見てしまいます。たとえば、先ほども触れたお笑いや、演技、美術品です。また、ギョーザ好きの地域、本好きの地域などです。これらは、好きか、楽しめるか、価値があるか自分で決めればいいだけで、他の人や地域全体がどうかは気にする必要はないはずなのにです。これは、心理学で比較癖とも呼ばれています。つまり、もともと価値があるからランキングをつくっていたのに、逆にランキングをつくることで価値を生み出しています。これは、ランキングによって注目度を高めていることから、「ランキングビジネス」と名付けることができます。これも、権威バイアスによるものです。もっと言えば、そのランキング自体(ランキング会社)にも、それだけ注目されるために価値が生まれています。このランキングビジネスを巧妙に利用しているのが、進学校の偏差値ランキングや有名大学に進学する出身高校ランキングです。情報化した現代社会で、高校にしても大学にしてもその教育機能にそれほど差はないでしょう。「秘伝の教育メソッド」があったとしても、すぐに広まります。しかし、このようなランキングがあることで、より偏差値ランキング上位の学校に、より偏差値ランキング上位の生徒が集まります。よほどその学校が世間とズレた教育をしていない限り、とくに上位の学校のランキングは不変です。当たり前の話です。つまり、学校間のランキングに差があるとしたら、それは学校教育そのものにあるのではなく、集まる生徒のもともとの認知能力にあるということです。そもそもなんでランキングにとらわれているの?それにしても、そもそも私たちはなぜこれほどにもランキングにとらわれているのでしょうか?進化心理学的に考えれば、私たちの祖先がまだ類人猿だった約2000万年前、彼ら(サルたち)はケンカの強さをもとにした序列(上下関係)によって群れをつくるようになったでしょう(社会性)。実際に、集団で暮らすサルたちは、ケンカしている仲間の2匹のサルを見て、それぞれ自分との力関係を推し量っていることがわかっています2)。これが、ランキングの起源であり、比較癖の起源です。つまり、私たちがランキングにとらわれているのは、人類が社会(集団)を維持するために必要な機能の1つだったからです。その後に、先ほどご紹介した脳の解釈装置(概念化)が発達したことによって、そのランキングに過剰な価値が付けられるようになったのです。これが、権威バイアスの起源です。1)「脳科学的に正しい一流の子育てQ&A」P5:西剛志、ダイヤモンド社、20192)「人は感情によって進化した」P47:石川幹人、ディスカヴァー携書、2011<< 前のページへ■関連記事インサイド・ヘッド(続編・その3)【意識はなんで「ある」の? だから自分がやったと思うんだ!】ガリレオ【システム化、共感性】ビューティフルマインド【統合失調症】

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C. difficile 感染のリスク【1分間で学べる感染症】第1回

画像を拡大するTake home messageC. difficile 感染のリスクを大まかに高リスク・中リスク・低リスクに分類して理解しよう。広域抗菌薬、とくに嫌気性菌をカバーする抗菌薬はリスクが高い。C. difficile 感染を引き起こすリスクのうち、最も重要なものが抗菌薬によるものです。それでは一体どのような抗菌薬が、リスクが高いのでしょうか。一般的には、広域抗菌薬、とくに嫌気性菌をカバーする抗菌薬はリスクが高いとされています。具体的には、上記のように、メロペネム、イミペネム、モキシフロキサシン、第3世代・第4世代セファロスポリンなどが最もリスクが高いとされ、次にシプロフロキサシン、レボフロキサシン、クリンダマイシンなどが続きます。一方、アモキシシリン、第1世代セフェム系、アジスロマイシン、アズトレオナム、ダプトマイシン、リネゾリド、テトラサイクリンなどはリスクが低いとされています。C. difficile 感染のリスクをできるだけ最小限にするために、可能な限り狭域な抗菌薬にde-escalationできないか、常に検討しましょう。1)Di Bella S, et al. Clin Microbiol Rev. 2024 Feb 29. [Epub ahead of print]

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メトホルミンのがんリスク低減、がん種別では?~166研究のメタ解析

 メトホルミンは、糖尿病管理のほかにがんリスクを低下させる可能性が報告されている。今回、米国・国立がん研究所(NCI)のLauren O'Connor氏らが、メトホルミン使用とがんリスクの関連を包括的系統的レビューとメタ解析により検討した。その結果、消化器がん、泌尿器がん、血液腫瘍のリスク低下との関連が示唆された。しかしながら、有意な出版バイアスがみられたことから信頼性には限界があるという。Journal of the National Cancer Institute誌2024年4月号に掲載。 本研究では、PubMed/MEDLINE、Embase、Cochrane Library、Web of Science、Scopusにおける開始から2023年3月7日までの研究の中から、メトホルミンが「使用歴あり」または「使用あり」に分類され、がんの診断をアウトカムとした研究を同定した。論文の質はNational Heart, Lung, and Blood Instituteのガイドラインを用いて評価し、出版バイアスはEgger検定、Begg検定、ファンネルプロットを用いて評価した。統合相対リスク(RR)推定値はランダム効果モデルを用いて算出し、感度分析は1つ抜き交差検証により行った。 主な結果は以下のとおり。・がん罹患情報を有する166研究をメタ解析に含めた。・症例対照研究(RR:0.55、95%信頼区間[CI]:0.30~0.80)および前向きコホート研究(RR:0.65、95%CI:0.37~0.93)において、メトホルミン使用によるがん全体のリスク低下が観察された。・がん種別のリスクについては、消化器がん(RR:0.79、95%CI:0.73~0.85)、泌尿器がん(RR:0.88、95%CI:0.78~0.99)、血液腫瘍(RR:0.87、95%CI:0.75~0.99)のリスク低下と関連していた。・統計学的に有意な出版バイアスがみられた(Egger p<0.001)。 本結果から、著者らは「メトホルミンは多くのがん種のリスク低下と関連している可能性があるが、異質性が高く、出版バイアスの恐れもあるため、これらの結果の信頼性には限界がある」とし、「がん予防におけるメトホルミンの有用性をよりよく理解するためには、非糖尿病集団での追加研究が必要である」とした。

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特発性間質性肺炎の指定難病・診断基準改訂、外科的肺生検なしでも診断可能に/日本呼吸器学会

 間質性肺疾患は、2022年の日本人の死因の第11位となっており1)、対策の必要な疾患である。特発性間質性肺炎(IIPs)は、特発性肺線維症(IPF)を代表疾患とする原因不明の間質性肺炎の総称で、国の指定難病となっている。2024年4月より、本疾患の厚生労働省の診断基準および重症度分類基準が改訂され、蜂巣肺を伴わないIPFやIPF以外のIIPsでも外科的肺生検なしで認定可能になるなど大きな変更があった。そこで、第64回日本呼吸器学会学術講演会のランチョンセミナーにおいて、千葉 弘文氏(札幌医科大学医学部 呼吸器・アレルギー内科学講座 教授)が診断基準および重症度分類基準の改訂のポイントを解説した。外科的肺生検なしでも診断可能、iPPFEも認定可能に これまで、高分解能CT(HRCT)で蜂巣肺が認められるIPFを除き、IIPsの診断には外科的肺生検が必要であった。しかし、外科的肺生検は侵襲が大きく、IIPsの急性増悪の誘因の1つとして挙げられるなどリスクが高い。高齢であったり呼吸機能が低下していたりする患者では、外科的肺生検を行うことができず、指定難病の申請が不能となってしまうということがあった。そこで、このたびの改訂では蜂巣肺のないIPFやIPF以外のIIPsにおいても、外科的肺生検を実施せずに認定可能となった2,3)。 また、特発性胸膜肺実質線維弾性症(iPPFE)や分類不能型IIPsは『特発性間質性肺炎診断と治療の手引き2022 改訂第4版』でIIPsの1つとして記載されているが、厚生労働省の診断基準に含まれていないという課題もあった。そこで、今回の改訂ではiPPFEの臨床診断基準が設定され、IIPsの診断基準の細分類に「iPPFE」群および「分類不能」群が追加された2,3)。6分間歩行時の最低SpO2が90%未満は安静時PaO2が良好でも重症度分類III度以上 これまでの重症度分類では、動脈血液ガス検査で酸素状態が良好(安静時PaO2 80Torr以上)であれば、6分間歩行試験(6MWT)において低酸素状態であっても重症度分類I度に分類されていた。しかし、予後からみると、旧重症度分類I度のIPF患者の45%はGAPモデル(米国の重症度分類で、予後予測の指標となる)のStageIIまたはIII(肺移植の適応)に該当したことが報告されている4)。また、6MWTで低酸素状態となる重症度分類I度の予後は重症度分類III度の予後に相当するという研究結果も存在する5)。そこで、今回の改訂では安静時PaO2に基づく重症度分類がI度であっても、6MWTにおいて最低SpO2が90%未満であれば公費助成の対象となる重症度分類III度に認定されることとなった2,3)。 しかし、6MWTを多忙な外来のなかで日常的に実施することは難しい。そこで千葉氏は、1分間椅子立ち上がりテストの実施を提案した。この方法であれば、診察室の椅子で実施することができるという。また、この結果は6MWTの結果と非常によく相関することも知られている。この方法の実施タイミングと意義について、千葉氏は「われわれは、3ヵ月に1回などのフォローアップ時に1分間椅子立ち上がりテストを組み入れることで、日常生活における酸素化の悪化を診察室でつかむようにしている。指定難病の申請時に必要な6MWTにおいても、このテストによって最低SpO2が90%未満となることの予想が可能となり有用である」と述べた。患者の難病の制度に関する情報源は主治医 2023年10月に「間質性肺疾患を伴う指定難病:難病法・難病医療費助成制度に関する調査」を日本ベーリンガーインゲルハイムが実施している。この調査結果から、千葉氏は患者の声を紹介した。難病医療費助成制度を利用するうえでの課題として、「制度の変更に関する情報が入りにくい」「制度に関する情報が手に入りにくい」「制度がわかりにくい」という意見が多かった。情報源としては、主治医が圧倒的に多かった(制度利用者の7割超)。この結果を踏まえて、千葉氏は「今回の改訂の内容をしっかりと患者さんに伝えていただきたい。患者さんの生活に直結する制度の変更であるため、われわれもさまざまな手法を用いて情報を伝えていきたいと考えている」と述べた。 最後に、本セミナーの座長を務めた須田 隆文氏(浜松医科大学 内科学第二講座 教授)が「今回の特発性間質性肺炎の診断基準および重症度分類の改訂は非常に大きなものである。これは、確実に患者さんへ適切な医療を届けることにつながるため、多くの先生方に周知いただき、ご対応いただけると幸いである」と述べ、セミナーを締めくくった。

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レビー小体型認知症に対するドネペジルの有用性~国内第IV相試験

 ドネペジルは日本において、レビー小体型認知症(DLB)に対する治療薬として承認された。大阪大学の森 悦朗氏らは、DLBに対するドネペジルの有効性を評価するため、12週間の二重盲検期間における全体的な臨床症状に焦点を当てた第IV相試験の結果を報告した。Psychogeriatrics誌オンライン版2024年3月4日号の報告。 DLBが疑われる患者をプラセボ群(79例)またはドネペジル10mg群(81例)にランダムに割り付けた。主要エンドポイントは、臨床面接による認知症変化印象尺度-介護者入力(Clinician's Interview-Based Impression of Change plus Caregiver Input:CIBIC-plus)を用いて評価した全体的な臨床症状の変化とした。また、CIBIC-plusの4つの領域(全身状態、認知機能、行動、日常生活活動)およびミニメンタルステート検査(MMSE)、Neuropsychiatric Inventory(NPI)で測定した認知機能障害と行動および精神神経症状の変化も評価した。 主な結果は以下のとおり。・ドネペジルの優位性は、全体的な臨床状態では示されなかったが、認知領域では有意な好ましい効果が認められた(p=0.006)。・事後分析で調整後のMMSEスコアは、ドネペジル群で改善が認められた(MMSE平均差:1.4、95%信頼区間[CI]:0.42~2.30、p=0.004)。・NPIの改善は、両群間で同様であった(NPI-2:-0.2、95%CI:-1.48~1.01、p=0.710、NPI-10:0.1、95%CI:-3.28~3.55、p=0.937)。 著者らは「DLB患者に対するドネペジル10mgによる治療は、認知機能改善において臨床的に意味のある有効性が観察された。全体的な臨床症状の評価は、本研究に登録された軽度~中等度のDLB患者により影響を受ける可能性がある。また、新たな安全性の懸念は認められなかった」としている。

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センチネルリンパ節転移乳がん、腋窩リンパ節郭清は省略可?/NEJM

 臨床的リンパ節転移陰性乳がんで、センチネルリンパ節に肉眼的転移を有する患者では、センチネルリンパ節生検のみを行い、完全腋窩リンパ節郭清を省略した場合、センチネルリンパ節生検+完全腋窩リンパ節郭清に対して、5年無再発生存(RFS)率が非劣性であることが、スウェーデン・カロリンスカ研究所のJana de Bonifaceらが実施した「SENOMAC試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2024年4月4日号で報告された。5ヵ国の第III相無作為化非劣性試験 SENOMAC試験は、5ヵ国(スウェーデン、デンマーク、ドイツ、ギリシャ、イタリア)から67病院が参加した第III相無作為化非劣性試験であり、2015年1月~2021年12月に患者の登録を行った(Swedish Research Councilなどの助成を受けた)。 臨床的リンパ節転移陰性の原発性T1~T3乳がん(T1:腫瘍最大径≦20mm、T2:同 21~50mm、T3:同>50mm)で、センチネルリンパ節に肉眼的転移(転移巣の最大径>2mm)を1または2個有する患者を、センチネルリンパ節生検を行った後、完全腋窩リンパ節郭清を行う群(郭清群)、またはこれを省略する群(センチネルリンパ節生検単独群)に、1対1の割合で無作為に割り付けた。術後補助療法と放射線療法は、各国のガイドラインに準拠して実施した。 主要評価項目は全生存期間(OS)とした。今回の解析では、副次評価項目であるRFSのper-protocol解析と修正ITT解析のデータが提示された。再発または死亡のハザード比(HR)の95%信頼区間(CI)の上限値が1.44未満の場合に、センチネルリンパ節生検単独群は非劣性と判定することとした。多くの患者が放射線療法と全身療法を受けた 登録患者2,766例のうち2,540例がper-protocol集団であり、センチネルリンパ節生検単独群が1,335例(年齢中央値61歳[範囲:20~94])、郭清群が1,205例(61歳[34~90])であった。リンパ節標的体積を含む領域の放射線療法は、センチネルリンパ節生検単独群の1,326例中1,192例(89.9%)、郭清群の1,197例中1,058例(88.4%)で行った。全体で、26例を除きいくつかの全身療法を受けていた。 追跡期間中央値は46.8ヵ月(範囲:1.5~94.5)であり、全体で191例(センチネルリンパ節生検単独群95例[7.1%]、郭清群96例[8.0%])が再発または死亡した。 per-protocol集団における推定5年RFS率は、センチネルリンパ節生検単独群が89.7%(95%CI:87.5~91.9)、郭清群は88.7%(86.3~91.1)であり、参加国を補正した再発または死亡のHRは0.89(0.66~1.19)と、95%CIの上限値が非劣性マージンを下回り、非劣性が示された(非劣性のp<0.001)。修正ITT集団でもほぼ同様の結果 修正ITT集団における5年RFS率の結果はper-protocol集団とほぼ同様であった(HR:0.89、95%CI:0.67~1.19)。 ほとんどのサブグループ(per-protocol集団)で、再発または死亡のHRはセンチネルリンパ節生検単独群で良好な傾向を認め、エストロゲン受容体陽性/HER2陽性の患者でとくに良好な傾向にあった(HR:0.26、95%CI:0.07~0.96)。男性は10例(0.4%)と少な過ぎたため、サブグループ解析はできなかった。 著者は、「本試験の結果は、この患者集団においては、完全腋窩リンパ節郭清を安全に省略できることを示す強固なエビデンスをもたらす」としている。

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新型コロナが世界の死因の第2位に(GBD 2021)/Lancet

 米国・ワシントン大学のMohsen Naghavi氏らGBD 2021 Causes of Death Collaboratorsは、「世界疾病負担研究(GBD)」の最新の成果としてGBD 2021の解析結果を報告した。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行により、長期にわたる平均余命の改善や多くの主要な死因による死亡の減少が妨げられ、このような悪影響が地域によって不均一に広がった一方、COVID-19の流行にもかかわらず、いくつかの重要な死因の減少には継続的な進展がみられ、世界的な平均余命の改善につながったことが明らかとなった。研究の詳細は、Lancet誌オンライン版2024年4月3日号に掲載された。1990~2021年の世界の原因別死亡率、YLLを評価 本研究では、1990~2021年の204の国と地域、および各国の811の地方(郡、州など)における288の死因による死亡率と損失生存年数(YLL)を、年齢、性、場所、年ごとに評価した(米国・ビル&メリンダ・ゲイツ財団の助成を受けた)。 解析には、人口動態登録や口頭剖検のほか、国勢調査やサーベイランス、がん登録など、5万6,604件のデータソースを用いた。平均余命や高死亡率の地理的な集中の解析も行った。COVID-19が2021年の死因の第2位に 2019年の世界の主要な年齢調整死因は1990年と同じであり、第1位が虚血性心疾患、次いで脳卒中、慢性閉塞性肺疾患、下気道感染症の順であった。これに対し2021年には、COVID-19(年齢調整死亡率:人口10万人当たり94.0人[95%不確定区間[UI]:89.2~100.0])が脳卒中に代わって第2位となり、脳卒中は第3位、慢性閉塞性肺疾患は第4位であった。 2021年にCOVID-19による年齢調整死亡率が最も高かった地域は、サハラ以南のアフリカ(10万人当たり271.0人[95%UI:250.1~290.7])と中南米・カリブ海諸国(195.4人[182.1~211.4])であった。 一方、2021年のCOVID-19による年齢調整死亡率が最も低かったのは、高所得地域(10万人当たり48.1人[95%UI:47.4~48.8])と東南アジア・東アジア・オセアニア(23.2人[16.3~37.2])であった。2019~21年に平均余命が1.6年短縮 世界の平均余命は、解析した22の死因のうち18について、1990~2019年の間に着実に改善した。この改善に最も寄与したのは腸管感染症による死亡数の減少で、平均余命が1.1年延長した。次いで下気道感染症で0.9年、脳卒中で0.8年、その他の感染性疾患、虚血性心疾患、新生物、新生児疾患でそれぞれ0.6年の延長が得られた。 一方、2019~21年の間に世界の平均余命は1.6年短縮したが、これは主にCOVID-19やその他の世界的流行に関連した死亡による死亡率の増加に起因するものであった。 また、平均余命の変動は地域によって大きく異なり、東南アジア・東アジア・オセアニアは全体で8.3年(95%UI:6.7~9.9)延長し、COVID-19による平均余命の短縮が最も小さかった(0.4年)。COVID-19により平均余命が最も短縮したのは中南米・カリブ海諸国だった(3.6年)。 さらに2021年の時点で、288の死因のうち53が世界人口の50%未満の地域に高度に集中しており、同様のパターンを示した死因が44だけであった1990年以降、これらの死因は徐々に地理的に集中するようになっていた。この集中現象は、腸管感染症、下気道感染症、マラリア、HIV/AIDS、新生児疾患、結核、麻疹について指摘されている。 著者は、「高死亡率の地理的な集中のパターンを調査することで、公衆衛生上の介入が成功した地域が明らかになり、このような成功例を特定の死因が強く残存する地域に適用することで、あらゆる地域の人々の平均余命を改善するための施策の立案に資する可能性がある」とし、「GBD 2021における死因推定の包括的な性質は、死亡率の改善と悪化から学ぶ貴重な機会を提供し、死亡率減少の進展を加速させる一助となるであろう」と述べている。

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2型糖尿病患者に対する肥満外科手術bariatric surgeryの長期有効性が示された(解説:住谷哲氏)

 2型糖尿病の寛解diabetes remissionは、これまで夢物語であったが、近年は現実のものとなっている。寛解の定義は疾患により異なるが、2型糖尿病においては血糖降下薬を使用せずにHbA1c<6.5%が3ヵ月以上維持できた状態を寛解と定義している1)。契機となったのはDiRECT(Diabetes Remission Clinical Trial)研究で、15kg以上の減量により肥満2型糖尿病患者の86%が寛解したと報告されたことである2)。この報告はかなりの衝撃であり、付属論評のタイトルも”Remission of type 2 diabetes: mission not impossible”であった3)。 DiRECT研究は、超低カロリー食very low calorie diet VLCDを基本とした生活習慣改善プログラムを使用していた。カロリー制限が減量において最重要であるのは当然であるが、現実的にはなかなか難しい。そこで従来から減量目的で実施されていたのが肥満外科手術bariatric surgeryである。2型糖尿病患者における肥満外科手術の有効性を検討したRCTは複数あるが、すべて単施設からの報告であり、症例数、観察期間も限られていた。そこで本研究グループは、Alliance of Randomized Trials of Medicine versus Metabolic Surgery in Type 2 Diabetes (ARMMS-T2D) consortiumを立ち上げ、統合解析を実施した。追跡開始3年後の解析結果は、すでに報告されており4)、本論文はその7年または12年後の追跡結果である。主要評価項目であるベースラインからのHbA1cの変化量は薬物療法・生活習慣改善群に比較して肥満外科手術群で有意に大であった。さらに副次評価項目である2型糖尿病の寛解率も、薬物療法・生活習慣改善群vs.肥満外科手術群で、7年後で6.2% vs.18.2%(p=0.02)、12年後で0.0% vs.12.7%(p<0.001)であり肥満外科手術群で有意に大であった。 本統合解析に含まれた4つのRCTが実施されたのは2007年から2013年にかけてであり、当時はGLP-1受容体作動薬のセマグルチドもチルゼパチドも市場に登場していなかった。両薬剤の体重減少効果は肥満外科手術に匹敵するものがあり、仮りに同様のRCTを現時点で実施すれば結果は異なったかもしれない。しかし両薬剤共に薬剤中止後ほぼ1年で体重が元に戻ることが明らかにされており5,6)、体重減少を維持するためには継続使用が必要である。一部の患者ではあるが、肥満外科手術後10年以上にわたり2型糖尿病の寛解が維持できることが示されたのは大きな一歩といえるだろう。■参考文献1)Riddle MC, et al. Diabetes Care. 2021;44:2438-2444.2)Lean ME, et al. Lancet. 2018;391:541-551.3)Uusitupa M. Lancet. 2018;391:515-516.4)Kirwan JP, et al. Diabetes Care. 2022;45:1574-1583.5)Rubino D, et al. JAMA. 2021;325:1414-1425.6)Aronne LJ, et al. JAMA. 2024;331:38-48.

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第206回 紅麴サプリ、小林製薬に問われた2つの論点(後編)

3月29日に大阪市内で開かれた紅麹サプリの健康被害に関する記者会見。冒頭でテレビ朝日の報道ステーションのキャスター下村 彩里氏の質問以降も、この時点で一切可能性として名前が挙がっていなかった原因物質に関する質問が相次いだ。以下、質問に対する小林製薬側の回答を会見での質疑応答の順に抜粋する。*梶田氏、渡邊氏とは、それぞれ同社の梶田 恵介氏(ヘルスケア事業部食品カテゴリー カテゴリー長)、渡邊 純氏(執行役員/信頼性保証本部 本部長)のこと。「(原因の可能性がある)想定していない成分は、だいぶ構造体は見えていますが、国の研究機関とともに解明を進めていきたいというふうに考えております。紅麹と言われる原料にはさまざまな成分が入っており、今回の想定していない成分と何らかの相互作用で悪影響を及ぼした可能性も現在は否定できない。(国の研究機関との連携による原因確定までは)プランが私どものほうにはまだ見えていないので、現時点は迅速に対応をしていくと回答させていただく」(梶田氏)「未知の成分と紅麹由来の成分が新しい生成物を引き起こしたことを否定はできないが、可能性は限りなく少ないと思っている。何か新しい成分が入ったことは、推定はしているが、国の研究機関とともにわれわれの持っている情報を提供しながら、迅速に解決に向けて進めていきたい」(梶田氏)「一刻も早く原因物質を特定し、それが疾患を起こしていたことを明確にしたいのですが、そこが非常に難しく、特定して発表するに至らないところ」(渡辺氏)「環状構造体ということしかわかっていないので、実際にはこれから論文調査を本格的に進めて解明していく計画」(梶田氏)「さまざまな構造体がわれわれの中では仮説があり、それぞれの腎疾患との関連性に大小がある。その1つには、そういう(腎疾患と関連がある)ものがあるが、それと今回の健康被害を紐付けてよいのか、われわれではまだ判断できていない」(梶田氏)質疑当初、原因物質についてはかなり暗中模索のようにも思えたが、「論文検索」や「仮説」などから、かなり絞り込まれているのがわかる。この時点で私自身は、小林製薬側は可能性の高い原因物質を1~2種類くらいに絞り込んでいるのではないと考えていた。というのもこの会見に先立つ3月22日の記者会見で小林製薬側が記者に配った補足資料(なぜか同社公式HPにはアップされていない)を入手しており、それによると3月16日時点で「一部の製品ロットと紅麹原料ロットにおいて通常は見られないピークを検出」という記述があったからだ。「ピーク」という表現からは、ガスあるいは液体のクロマトグラフ分析を実施したことをうかがわせていた。そして会見開始から約58分、前述の下村氏から数えること9番目の質問指名が自分に回ってきた。原因物質は混入したのか、生成されたのか前述した記者会見の補足資料で、未知の成分が紅麹原料と製品の双方の一部から検出されたと記述されていることから、 私はまず“今回の健康被害の原因物質と考えられるものは、紅麹原料の製造過程で混入あるいは生成されたと同社が考えているか”を尋ねた。これに対して山下 健司氏(執行役員/製造本部本部長)が「はい、そのように考えております」と回答した。続いて尋ねたのは、この時点での“紅麹原料の製造手順書と現場のオペレーションに相違がなかったかの調査の有無”である。これに対しても山下氏が「現時点で調査を進めている状況。この点で何らかの問題があったと今のところは認識していない」とのことだった。実は最も聞きたかったのは3番目の質問だった。クロマトグラフによる分析をしているなら、原因の可能性のある物質の分子量を特定できているのではないかということだった。これには梶田氏が回答した。私はその言葉を一つも漏らすまいと梶田氏のほうを凝視した。「われわれの推察ではだいたいわかっておりまして、150~250ぐらいの間の分子量ではなかろうかと、データではわかっている」数字が出た、と内心思った。ただ、私は引き続き質問を続けた。それはこれまで多くの医師が原因ではないかと疑っていたシトリニンの件である。それまでの小林製薬側の説明では「検出されなかった」としているが、これが本当にゼロを意味するのか、それとも検出限界以下だったかということだ。これについては梶田氏が「外部の機関で測定しまして不検出(すなわちゼロ)」だったと説明した。この後、ドラッグストアでの対応も聞いたが、ここでは詳細は省いておく。とりあえず合計5つの質問をして一旦切り上げた。ほかの記者もいるし、小林製薬側はすべての質問に答えるとあらかじめ言っているのだから、2回目の質問をすればよいと思ったのだ。「それでも1回の質疑で5問は多過ぎだろう」と批判されるかもしれないが、記者会見はすべて現場のみの勝負。小林製薬側も質問数は限定していなかった。ここで聞かないで、後でうっかり忘れてしまうこともなくはない。また、4人もの責任者が並んでいる以上、この場を逃す手はないからである。一部に「会見での質問はできるだけ絞って後で広報部門に確認すれば?」と、メディア関係者外のみならずメディア関係者内でも口にする人がいるが、これも私は違うと思っている。問い合わせを受けた担当者から上位に役職者が多いか否かで、同じ質問に対する相手の回答はかなり変化してくるのだ。有体に言えば、よりシャープな言葉も数多くの人を経るにしたがって丸くなり、ゼロ回答のような結果になることは少なくない。原因物質は低分子化合物さて会見の話に戻そう。分子量150~250という回答を得て、その後、私の頭の中はこのことで一杯になった。まず、この分子量は、大雑把に言えば低分子と高分子の境界のやや低分子よりになる。しかも、問題の製品が紅麹菌から作られることを考え合わせても、合成化合物よりも天然化合物の可能性が高い。ただ、分子量150~250の天然化合物といってもたくさんある。何だろうと思いながら、最初に疑われたシトリニンがカビ毒の1種、いわゆるマイコトキシン類だったことを思い出し、ほかの記者の質疑に耳をダンボにしながらも、スマートフォンで検索を始めた。なかなかこれぞというモノが見つからない。会見開始から約2時間。有料ネットニュースサイト「NewsPicks」副編集長の須田 桃子氏(元毎日新聞記者、「捏造の科学者 STAP細胞事件」で2015年に大宅壮一ノンフィクション賞受賞)がオンラインから質問をしていた。それに対する回答の中で梶田氏が「シトリニンの分析は終わり不検出、そのほかのカビ毒だと言われている成分も数種類分析をしてこちらも不検出」との説明が耳に入った。カビ毒ではないのか。振り出しに戻ったと思いながら、再びほかの記者の質疑応答に耳を傾けながら、合間に無駄とは知りつつ原因物質が何かについて思考をめぐらした。ちょうど16時20分、スマホに入っているFacebookメッセンジャーが立ち上がった。知人の大手紙記者からである。「16時からの厚労省会見では物質名を出していますよ。プベルル酸。青カビから出る物質で、抗マラリア薬。強い毒性のある抗生物質」は? 何だそれ? 確かに16時から厚生労働省、国立医薬品食品衛生研究所、小林製薬の合同会見があることは聞いていた。しかし、そっちで可能性のある物質名を出したとは。しかも、「プベルル酸って何?」。私自身は初めて聞く化合物である。2回目の指名を受けるために挙手し続けながら、再びスマホで検索をするが、ほとんどそれらしい情報がひっかからない。それから4分後、毎日新聞の記者が「厚生労働省が今、記者会見しているそうなんですが、未知の物質がプベルル酸と同定されたとの発表があったのですが、それについて説明をしてください」と質問した。これに対し、梶田氏は「われわれが意図しない成分の候補との一つとして、先ほど申し上げたプベルル酸をこれじゃなかろうかということで、厚労省に情報提供した。(人体への影響は)まだわれわれの文献調査等々が追いついていない」と回答した。毎日新聞の記者からは、会見冒頭から原因の可能性が高い物質名について小林製薬側は一切言及せず、同時進行の会見で厚労省側から発表があったことの齟齬も質問されたが、梶田氏は「われわれは事前に把握をしていなかった」と答えるに留まった。プベルル酸に対する小林製薬側の主張以後、プベルル酸に関する質問の小林製薬側の主な回答は以下のようなものだ。「プベルル酸の可能性に気付いたのは3月25日夜」「微量ながらも青カビから生成の可能性としてあるため、青カビが生えるようなところがないか、今、製造ラインすべてを点検中」「(プベルル酸の異性体の数は)最近、調査結果が明らかになったばかり。われわれはまだ把握できていない」「(プベルル酸と紅麹などの相互作用は)われわれは取り扱ったことがなく、どのような作用を持っているのかは、正直、わかっていない」。「(紅麹自体がプベルル酸を産生する可能性は)われわれが持っている分析(結果)からは生成しにくいと考えている」再び質問、プベルル酸の50%致死量は?会見開始から4時間5分。再び指名を受けた。この時点でもネット検索で確たる情報が得られなかったので、私は“プベルル酸の50%致死量(LD50:Lethal Dose 50)のデータを把握しているか”を尋ねた。梶田氏からは「そこまでの情報が把握できていない」との回答だった。2つ目の質問として、“今回のプベルル酸が検出された紅麹原料の大本である米、水、紅麹菌のサンプルが残っていないか”を尋ねたが、残っていないとのこと。加えて今回、同時並行の厚労省側の会見に小林製薬も参加しながら、プベルル酸の名称が公開されることを知らなかったことについて確認を求めたが、梶田氏によると「発表内容まではわれわれは把握していなかった」とのことだった。この後、5~6人の質問で会見は終了となった。外はすでに真っ暗になっており、私は急ぎ東京行きの新幹線に飛び乗った。この帰りの新幹線内で、「そうだ!」と思い付き、Google検索で「プベルル酸 acid」とAND検索を掛けた。そこから「puberulic acid」の単語が見つかった。会見場では焦っていたので、こんなことも思いつかなかったのだ。そこでPubMedにこのキーワードを入れたところ、ヒットした論文はわずか6本。これほど報告が少ない物質なのかと驚いた。となると、完全に原因として特定され、かつ混入した経路を特定するには、相当な時間がかかるだろう。これは長丁場の事件になると、改めて思っている。

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本当に株高、不動産高なのか? シャバシャバになった日本円の現実を直視しよう【医師のためのお金の話】第79回

日経平均株価が、2024年2月22日に34年ぶりの史上最高値を更新しました。不動産価格も大都市圏を中心にして高騰が止まりません。また、春闘では今年も大企業の賃上げが実現しています。景気の良い話が目白押しですね。株式投資をしている方や都市部でマイホームを購入した方はホクホク顔でしょう。このまま株価や不動産価格が上昇してくれれば、資産形成は成功したのも同然。こんな感じで楽観的になっている方は少なくないかもしれませんね。一方、コロナ禍以降は物価上昇が続いています。ガソリン価格は高止まりしているし、食料品や水道光熱費の値上がりは半端ではありません。収入が物価上昇に追いついていない人が多いのが現実です。「まぁ、株価やマイホームが値上がりしているのなら、物価が多少上がっても問題ないか」。しかし、ちょっと待ってください。株価や不動産が値上がりしているのではなく、実は日本円の価値がなくなってきているとすればどうでしょうか。日本円を取り巻く状況を整理しよう私たちのように日本で暮らしている人間にとって、日本円はあらゆる価値を推し量る基準となっています。単にモノやサービスを購入する時だけではなく、給料や時給などの収入に関しても日本円で判断しています。すべての判断の基準になるので、日本円の価値は「不動」と思いがちです。ところが実際には、日本円の価値は日々変動しています。最もわかりやすいのは外国為替市場でしょう。ドル円を筆頭に、日本円の価値は常にほかの主要通貨との力関係で変動しています。一方、モノやサービスに対する力関係はどうでしょうか。2024年3月時点で値上がりしている主要なものは、以下のごとくです。株式不動産(都市部)貴金属物価(食料品、水道光熱費、各種サービス)給料(大企業)世の中に存在する多くのモノが値上がりしています。逆に値下がりしているモノやサービスは少数派ではないでしょうか。つまり、国内においても、日本円の相対的な力関係は弱くなっているのです。株価や不動産価格の上昇ではなく日本円の価値が下落している可能性は?現状を整理すると、日本円は外国の通貨に対してだけではなく、国内で買えるモノやサービスに対しても価値を下げています。日本円の価値は不動であるという考え方を改める必要があるかもしれません。このように日本円に対する見方を変えてみると、恐ろしい可能性が浮かび上がってきます。それは、他国の通貨、株価、不動産、物価が上昇しているのではなく、日本円の価値が下落し続けているのかもしれないことです。日本円は私たちが物事を判断する際に基準の1つです。基準は不動だと認識しがちなので、発想の転換は少し難しいです。しかし、日本円の価値は変化し続けていると認識すると、真実に1歩近づきます。私たちの身の回りに起こっている変化が日本円の価値下落の裏返しだとすると大変です。昔から通貨は価値の保存手段として機能してきました。日本円の価値が将来も保たれると思うからこそ貯金に精を出します。前提条件が変わると人生設計まで狂ってしまいますね。日本円の価値毀損に対抗する方法もし今起こっている変化が、日本円という通貨の価値毀損であれば、私たちはどうすればよいのでしょうか。もちろん、日本円の価値が変動するのなら、逆に日本円の価値が上がる可能性もあります。そうであれば、貯金は合理的な判断でしょう。しかし、短期的に株価や不動産価格は下がる可能性があるものの、物価に関しては大幅に下がる可能性はほぼないでしょう。日本は長らくデフレが続いていましたが、実は大幅に物価が下がったわけではありません。デフレ経済が本格化してからインフレ転換するまでの長い期間中も、消費者物価指数は大幅に下がりませんでした。前年と同じか、せいぜい数%程度の小幅な下落にとどまっています。デフレでも物価が大幅に下落しないことは、日本円の価値上昇が難しいことを意味します。そうであれば、日本円の下落に対抗する手段を考えるべきでしょう。私は優良株式や好立地の不動産が選択肢の筆頭だと考えています。それらの本質的価値は「人」に由来するからです。もちろん、短期的には株価や不動産価格は大幅に下落するかもしれません。しかし、人生と同じぐらい超長期の目線では風景が異なります。数十年の長い年月に渡って価値を貯蔵する手段として、株式や不動産は良い選択肢であることは歴史が証明しています。安易に飛び込むのは禁物ですが、株式や不動産の研究を始めてもよいかもしれません。

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dementia(認知症)【病名のルーツはどこから?英語で学ぶ医学用語】第3回

言葉の由来認知症は英語で“dementia”といいますが、この言葉は“de-ment-ia”と3つの部分に分解していくと言葉の由来が見えやすくなります。まず、“de”という接頭辞はほかの医学用語でもよく見かけるものかもしれません。たとえば、「処方する」を“prescribe”というのに対し、「脱処方する(減薬する)」を“deprescribe”といったりします。このように、“de”という接頭辞には、“away from”または“out of”(~から脱する、離れる)という意味があります。では、この“dementia”では「何から脱するか」といえば、後ろの“ment”の部分ということになります。“ment”はラテン語のmenteまたはmensに由来しているとされ、“mental”などの言葉からも想像できるかもしれませんが、「心、精神、知」というような意味があります。なお、最後の“ia”は病名などを表す際によく用いられる接尾辞で、これ自体には意味を持ちません。これらを合わせると、認知症の英名“dementia”は“out of mind”(心、知能が離れてしまった)という意味を持つ言葉のようです。今でこそ“dementia”は、医学界では「認知症」の意味で定着していますし、病気への理解が進んで「心が離れてしまった」状態ではないこともよく理解されていますが、そのような語源が一般市民レベルでの先入観や偏見につながっていることもたびたび指摘されています。このため、病気への偏見をなくすために、病名自体を“cognitive impairment”(認知機能障害)に置き換えるべきだ、と指摘する専門家もいます。併せて覚えよう! 周辺単語軽度認知障害mild cognitive impairmentせん妄delirium遂行機能executive function海馬の萎縮hippocampal atrophy行動障害behavioral disturbanceこの病気、英語で説明できますか?Dementia is a general term for the impaired ability to remember, think, or make decisions, which interferes with doing everyday activities. Alzheimer’s disease is the most common type of dementia. 講師紹介

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早期アルツハイマー病に対するレカネマブの費用対効果

 2023年1月、米国FDAより軽度認知障害(MCI)またはアルツハイマー病による軽度認知症に対する治療薬としてモノクローナル抗体レカネマブが承認された。しかし、認知症に対するレカネマブの費用対効果は、不明なままである。カナダ・Memorial University of NewfoundlandのHai V. Nguyen氏らは、レカネマブの費用対効果およびアルツハイマー病の検査制度とAPOE ε4の状況によりどのように変化するかを定量化するため、本研究を実施した。Neurology誌2024年4月9日号の報告。 検査アプローチ(PET、CSF、血漿アッセイ)、治療法の選択(標準的治療、レカネマブ併用)、ターゲティング戦略(APOE ε4非キャリアまたはヘテロ接合性患者を特定するか否か)の組み合わせにより定義した7つの診断治療戦略について比較した。有効性は、クオリティ調整された生存年数により測定し、第3者および社会の観点から生涯期間にわたるコスト(2022年米国ドル)を推定した。次の5つの状態でhybrid decision tree-Markov cohort modelを構成した。(1)MCI(臨床的認知症重症度判定尺度[Clinical Dementia Rating Sum of Boxes:CDR-SB]スコア:0~4.5)、(2)軽度認知症(CDR-SBスコア:4.6~9.5)、(3)中等度認知症(CDR-SBスコア:9.6~16)、(4)高度認知症(CDR-SBスコア:16超)、(5)死亡。 主な結果は以下のとおり。・7つの診断治療戦略のうち、費用対効果の観点では標準的治療が最適な治療戦略であった。・レカネマブ治療、APOE ε4遺伝子型の有無にかかわらずその治療は、早期アルツハイマー病の診断に使用される検査とは無関係に、標準的治療と比較し、費用対効果が高かった。・しかし、レカネマブの薬剤費が年間5,100米国ドル未満であれば、CSF検査とその後の標準的治療の費用対効果が高くなった。・これらの結果は、診断検査の精度、レカネマブの中止および有害事象の発生率に対しロバストであった。 著者らは「レカネマブ治療、ε4遺伝子型の有無にかかわらない治療は、MCIまたはアルツハイマー病による軽度認知症の患者にとって、標準的治療と比較し、費用対効果が優れているとはいえなかった。レカネマブの価格が年間5,100米国ドル未満となれば、状況により費用対効果が高くなるであろう」としている。

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身長低下と動脈硬化が相関~60歳以上の日本人

 動脈硬化と身長低下はそれぞれ心血管系疾患との関連が報告されているが、動脈硬化と身長低下の関連はこれまで明らかになっていない。今回、長崎大学の清水 悠路氏らによる後ろ向き研究で、高齢者において動脈硬化と身長低下が関連することが示された。Scientific Reports誌2024年4月2日号に掲載。 本研究は、年1回の健康診断を受けた60~89歳の2,435人を対象にした後ろ向き研究。動脈硬化は頸動脈内膜中膜厚(CIMT)が1.1mm以上とし、身長低下は年間の身長減少が最高五分位群にあることとした。 主な結果は以下のとおり。・参加者のうち555人がアテローム性動脈硬化症と診断された。・アテローム性動脈硬化症と身長低下には、既知の心血管リスク因子とは関係なく正相関がみられ、調整オッズ比は1.46(95%信頼区間:1.15~1.83)であった。また、男女別にみると男性1.43(同:1.01~2.04)、女性1.46(同:1.07~1.99)であった。

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