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脳卒中後の血圧コントロール不良、看護師電話管理で改善/JAMA

 コントロール不良の高血圧で主に低所得の黒人およびヒスパニックの脳卒中生存者では、家庭血圧遠隔モニタリング(HBPTM)単独と比較して、電話を用いた看護師による患者管理(NCM)をHBPTMに追加することで、1年後の収縮期血圧(SBP)が有意に低下し、2年後の脳卒中の再発には差がないことが、米国・ニューヨーク大学ランゴーン医療センターのGbenga Ogedegbe氏らの検討で示された。研究の成果は、JAMA誌2024年7月2日号で報告された。ニューヨーク市8施設で無作為化試験 本研究は、ニューヨーク市の合計8つの脳卒中センターと外来診療施設で実施した臨床ベースの無作為化試験であり、2014年4月~2017年12月に参加者を登録した(米国国立神経疾患・脳卒中研究所[NINDS]の助成を受けた)。 年齢18歳以上、中等度以下の機能障害(修正Rankin尺度≦3)を有し、退院後1ヵ月以上が経過した脳卒中で、コントロール不良の高血圧(スクリーニング受診時に3回測定したSBPの平均値が≧130mmHg)を呈する黒人またはヒスパニックの患者450例を登録した。HBPTM+NCM群に224例、HBPTM単独群に226例を無作為に割り付けた。 両群の患者に遠隔モニタリング機能を備えた自動家庭血圧測定器が支給され、患者は週に12回、12ヵ月間にわたり測定結果を医師に送信した。HBPTM単独群には、米国国立衛生研究所(NIH)が作成した脳卒中と高血圧管理に関する冊子が配布され、HBPTM+NCM群は、患者管理の訓練を受けた看護師から、カウンセリングのための電話を12ヵ月間に20回受けた。 主要アウトカムは、12ヵ月の時点におけるSBPの変化量および24ヵ月時の脳卒中の再発とした。SBP変化量の群間差-8.1mmHg ベースラインの全体の平均(SD)年齢は61.7(11.0)歳、51%(231例)が黒人、44%(200例)が女性で、31%(137例)が3つ以上の併存疾患を有し、72%(情報が得られた324例中234例)が世帯年収2万5,000ドル未満であった。 SBPは両群とも有意に改善した。HBPTM単独群では、ベースラインの147.1mmHgから12ヵ月時には141.3mmHgへと5.8mmHg(95%信頼区間[CI]:3.7~7.9)低下したのに対し、HBPTM+NCM群は、148.3mmHgから133.2mmHgへと15.1mmHg(13.0~17.2)低下し、変化量の群間差は-8.1mmHg(95%CI:-11.2~-5.0)とHBPTM+NCM群で有意に良好であった(p<0.001)。 24ヵ月時までに、脳卒中の再発は、HBPTM+NCM群が9例(4.0%)、HBPTM単独群も9例(4.0%)で発生した(p>0.99)。再発例の3分の2は虚血性だった。130/80mmHg未満、140/90mmHg未満の達成はNCM追加群で良好 血圧コントロールは経時的に改善し、130/80mmHg未満の達成(p<0.001)および140/90mmHg未満の達成(p=0.002)はいずれも、HBPTM単独群に比べHBPTM+NCM群で有意に優れた。 また、血圧遠隔モニタリング装置を含む患者1例当たりの費用は、NCM+HBPTM群が1,594.03ドル、HBPTM単独群は938.77ドルであった。 著者は、「併存疾患の多い低所得の黒人およびヒスパニックの脳卒中生存者の管理では、NCMで強化した遠隔医療プログラムが有効であることが示唆されるが、長期的な臨床アウトカム、費用対効果、一般化可能性、およびその標準治療としての普及について解明するにはさらなる研究を要する」としている。

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特定の前立腺肥大症治療薬がレビー小体型認知症の予防に有効か

 特定の前立腺肥大症治療薬が、レビー小体型認知症のリスク低下に役立つ可能性のあることが新たな研究で示唆された。米アイオワ大学内科学分野のJacob Simmering氏らによるこの研究の詳細は、「Neurology」に6月19日掲載された。Simmering氏は、「レビー小体型認知症は、神経変性により生じる認知症としてはアルツハイマー病に次いで多いが、現時点では予防や治療のための薬剤がないため、今回の結果には心が躍った。既存の薬剤がこの衰弱性疾患の予防に有効であることが確認されれば、その影響を大幅に軽減できる可能性がある」と同大学のニュースリリースで述べている。 米国立老化研究所(NIA)によれば、米国でのレビー小体型認知症の患者数は100万人以上に上るという。レビー小体型認知症は、高度にリン酸化したα-シヌクレインと呼ばれるタンパク質が脳の神経細胞に凝集・沈着して形成されるレビー小体が原因で発症するとされている。レビー小体型認知症では、思考力や記憶力、運動機能が障害されるほか、幻視が生じる可能性もあり、実際に、80%以上の患者では実在しないものが見えるという。 前立腺肥大症の治療では、排尿障害を改善する治療薬として、前立腺と膀胱の筋肉を弛緩させる作用のあるα1受容体遮断薬のテラゾシン、ドキサゾシン、アルフゾシンが用いられている。研究グループによると、これらの薬剤にはまた、脳細胞のエネルギーとなるATP(アデノシン三リン酸)の産生に重要な酵素を活性化する作用もあり、過去の研究では、パーキンソン病においてこれらの薬剤が神経保護作用を有する可能性が示唆されているという。今回の研究では、パーキンソン病と密接に関連するレビー小体型認知症でもα1受容体遮断薬が同様の効果を示すのかが検討された。 Simmering氏らは、Merative Marketscanデータベースから、テラゾシン、ドキサゾシン、アルフゾシンのいずれかを使用している男性12万6,313人と、ATP産生を増大させない別の2種類の前立腺肥大症治療薬、すなわちα1受容体遮断薬のタムスロシンと5α-還元酵素阻害薬(5ARI)を使用している男性を抽出し(タムスロシン:24万2,716人、5ARI:13万872人)、レビー小体型認知症の発症リスクを比較した。 その結果、テラゾシン、ドキサゾシン、アルフゾシンのいずれかを使用している男性でのレビー小体型認知症の発症リスクは、タムスロシンを使用している男性よりも40%(ハザード比0.60、95%信頼区間0.50〜0.71)、5ARIを使用している男性よりも27%(同0.73、0.57〜0.93)低いことが明らかになった。 こうした結果を受けてSimmering氏は、「テラゾシン、ドキサゾシン、アルフゾシンの使用とレビー小体型認知症の発症リスク低下との関連を明らかにするためには、さらなる研究で長期にわたって追跡する必要がある。それでも、これらの薬剤が、高齢化に伴い多くの人が罹患する可能性のあるレビー小体型認知症に対して予防効果を持つことは期待しても良いように思う」と述べている。 研究グループは、本研究には男性しか参加していないことに触れ、「この結果が女性にも当てはまるのかどうかは不明だ」としている。NIAによると、レビー小体型認知症は女性よりも男性の方が罹患率がわずかに高いという。また、レビー小体型認知症は診断が難しいため、本研究では、全てのレビー小体型認知症の発症者が対象に含まれていなかった可能性があることにも言及している。

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自宅の改造が脳卒中患者の自立を助け生存率を高める

 シャワーを浴びる、階段を上るなどの日常的な動作は、脳卒中発症後に後遺症の残った人にとっては危険を伴い得る。しかし、階段に手すりを設置したり、つまずき防止のためにスロープを設置したりといった安全対策を講じることで、多くの人が自立した生活を送れるようになり、早期死亡リスクを低下させられることが新たな研究で確認された。米ワシントン大学公衆衛生研究所のSusan Stark氏らによるこの研究結果は、「Archives of Physical Medicine and Rehabilitation」に5月18日掲載された。 脳卒中患者の8人に1人は退院後1年以内に死亡する。Stark氏は、「脳卒中患者にとって、数週間の入院中のリハビリを経て自宅に戻る移行期は重要だ。自宅の環境は、設備が整った施設とは違って、困難に満ちた場所に見えるだろう」と話す。脳卒中後には筋肉が衰えているため、例えば、洗濯かごからシャツを取り出すなどの簡単な作業にも労力を要する。また、バランス感覚に障害が生じていれば、トイレの使用が困難になり、階段の上り下りは障害物コースのように感じられるかもしれない。このような困難があると、友人や隣人とも疎遠になりがちになり、それが今度は抑うつの原因となる。 Stark氏らは今回の研究で、脳卒中後の患者のコミュニティーへの参加移行プログラム(Community Participation Transition after Stroke;COMPASS)の安全性と有効性を検討した。COMPASSでは、作業療法士が脳卒中患者の自宅を訪問し、高さの低いトイレや手すりのない階段など、自宅の中で患者にとって障害となるものを探し出し、患者の個々のニーズに対応して改造する。また、利用しやすい交通手段を見つけるなど、問題を解決する方法を患者に教えたりもする。 対象者は、入院中にリハビリを受け、退院後は自宅で自立した生活を送ることになっていた50歳以上の脳卒中患者183人。これらの患者は、自宅の改造と作業療法士によりセルフマネジメントの訓練を自宅で4回受ける介入群(85人)と、脳卒中に関する教育を自宅で4回受ける対照群(98人)にランダムに割り付けられた。 その結果、研究期間中に対照群では10人が死亡したのに対し、介入群で死亡した人はいなかったことが明らかになった。また、高度看護施設に入居した対象者の数も、対照群での19人に対し介入群では8人と少なかった。 2021年に脳卒中を発症したDonna Jonesさんは、本研究への参加を通してバランス感覚を取り戻し、自立した生活を送るための新たなスキルを学んだ。また、自宅の改造により、自立した生活を送ることに対する自信を得たという。Jonesさんは、「改造された浴室は、自分の人生が正しい方向に向かっているという希望を与えてくれる。私に授けられた実用的なツールとサービスは、私の新たな人生の基盤になっている。私はこれまでとは違う人生を歩んでいて、それをとても気に入っている」と話す。 Stark氏は、「もっと多くの人を対象にこの介入の効果を検証する必要があり、保険会社を納得させるためには、住宅の改造に関連するコストと改造により節約されるコストを明確にしなければならない。現状では、このコストをカバーできる制度はない」と話す。同氏はさらに、「このプログラムを実施するための最大の障壁は、住宅改造費用を保険会社に払い戻させることだ。500ドル(1ドル160円換算で8万円)の住宅改造で病院や高度看護施設を利用せずに済むのなら、私には何の問題もないように思われる」と付け加えている。

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脂質低下薬が糖尿病網膜症の進行を抑制する可能性

 脂質低下薬のフェノフィブラートが、糖尿病による目の合併症を抑制することを示唆するデータが報告された。網膜症の進行、それによる治療を要するリスクが、プラセボに比べて27%低下するという。英オックスフォード大学人口保健研究所のDavid Preiss氏らが米国糖尿病学会年次学術集会(ADA2024、6月21~24日、オーランド)で発表するとともに、論文が「NEJM Evidence」に6月21日掲載された。 Preiss氏は、「糖尿病網膜症は依然として視力喪失の主要な原因であり、その進行を抑えるために、広く利用可能なシンプルな戦略を必要としている」と解説。また本研究の結果について、「フェノフィブラートは糖尿病網膜症の患者に対して、有益な追加効果をもたらす可能性があることを示唆している」としている。なお、糖尿病網膜症は、高血糖の持続により眼球の奥の血管がダメージを受けることで発症し、血管から血液成分が漏れ出したりすることによって視野が欠けたり視力が低下して、最終的には失明することもある病気。一方、脂質低下薬であるフェノフィブラートは、糖尿病患者の心血管イベント抑制を主要評価項目として検証した複数の臨床試験で、網膜症を抑制するという副次的な効果を有することが示唆されている。 この研究は、英スコットランドの12歳以上の糖尿病患者を対象に実施されている糖尿病眼スクリーニングプログラムのデータを用いて行われた。眼科的治療を要さない初期の糖尿病網膜症、または黄斑症(網膜の中でも視力にとって特に重要な黄斑に異常が生じる病気)を有する成人糖尿病患者1,151人を無作為に2群に分け、1群をフェノフィブラート群、他の1群をプラセボ群とした。投与量は145mg/日で、腎機能が低下している場合は隔日投与とし、糖尿病網膜症や黄斑症の進行またはそれらの治療(レーザー光凝固、硝子体内注射、硝子体切除術)で構成される複合エンドポイントの発生率を比較した。 中央値4.0年の追跡で、フェノフィブラート群では576人のうち131人(22.7%)、プラセボ群では575人のうち168人(29.2%)にエンドポイントが発生し、前者の方が27%低リスクであることが示された(ハザード比〔HR〕0.73〔95%信頼区間0.58~0.91〕、P=0.006)。評価項目を個別に見ると、網膜症または黄斑症が進行した患者数は、フェノフィブラート群が185人(32.1%)、プラセボ群が231人(40.2%)、治療を要した患者数は同順に17人(3.0%)、28人(4.9%)だった。視力や生活の質(QOL)の群間差は非有意だった。 介入期間中の平均推定糸球体濾過率は、フェノフィブラート群の方がプラセボ群より7.9mL/分/1.73m2(95%信頼区間6.8~9.1)低値だった。重篤な有害事象は、フェノフィブラート群の208人(36.1%)、プラセボ群の204人(35.5%)で発生した。 研究者らは、「フェノフィブラートが健康に及ぼす長期的な影響をより深く理解するため、今後も研究参加者を継続的に追跡する予定」と述べている。

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心筋梗塞の後追いをする脳卒中治療―カテーテルインターベンション時代に備えたほうがよい?(解説:後藤信哉氏)

 心筋梗塞の原因が冠動脈の閉塞血栓とわかった後、各種の線溶薬が開発された。30日以内の心血管死亡率の減少を明確に示したストレプトキナーゼにはフィブリン選択性がなかった。線溶を担うプラスミンは強力かつ汎用的なタンパク質分解酵素である。血栓となっているフィブリンのみならず、全身循環するフィブリノーゲンも分解してしまった。循環器でもフィブリン選択性の高いt-PAは、ストレプトキナーゼより出血リスクが少ない可能性のある薬剤として期待された。t-PAの分子を改変して、持続投与不要とする分子などが多数開発された。しかし、線溶薬による血栓溶解はいつ起こるかわからない。冠動脈造影に通暁していた循環器内科医は、速やかに自らの手で確実に再灌流できる冠動脈インターベンションに治療の基本をシフトした。再灌流時に心室頻拍などの致命的イベントが起こるため、搬送中のt-PAも推奨されない。心筋梗塞治療では、特殊な場合以外にはt-PAなどの線溶薬の需要はほぼなくなった。 脳梗塞の発症メカニズムは心筋梗塞に類似している。脳血管の血栓性閉塞による急性虚血が病態である。早期の再灌流が予後を改善することも心筋梗塞に類似している。しかし、循環器医がはるか以前から冠動脈造影を日常的に行っていたのと異なり、心臓ほど動かない脳の血管の形態はMRIなどにて体外から評価可能であった。循環器医が日常的冠動脈造影からPCIに移行できたほど容易に、脳卒中治療は血管内治療に移っていない。本研究では古典的な線溶薬t-PAであるアルテプラーゼと、分子を改変したreteplaseの有効性と安全性が比較された。確かに両者に差はあった。しかし、循環器の世界にて心筋梗塞治療の変遷を見てきた筆者からすると、有効性指標の到達率は両方とも70%程度であり、両方とも数%に頭蓋内出血を起こしている。歴史的プロセスはまだまだ必要かもしれないが、自らの治療中に症状が消失し、出血も少ない血管インターベンションに移行するのは必然だと思う。過去の先例があるので、経過は早いかもしれない。脳卒中の専門医であれば血管インターベンション医になるほうがよいと私は思う。

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冠動脈バイパス術後の抗血小板薬療法(解説:後藤信哉氏)

 冠動脈のカテーテルインターベンション(PCI)後の抗血小板療法は、2剤併用の期間短縮の方向に向かっている。PCI後のMACEが減少し、抗血小板薬による出血の問題が相対的に大きくなったことが主な理由である。PCIの適応が拡大し、バイパス手術に回る症例の困難性は以前よりも増加していると想定される。リスクの重畳したMACEリスクの高い症例が多いかもしれない。本研究では中国の6つの病院で施行したオープンラベルではあるが、ランダム化比較試験である。 日本では90mg×2/日のチカグレロルとアスピリンの併用は、急性冠症候群では有効性より安全性の懸念を示唆した(Goto S,et al.Circ J. 2015;79:2452-2460.)。本研究では(1)90mg×2/日のチカグレロルとアスピリン(DAPT)、(2)チカグレロル単独、(3)アスピリン単独、の3群が比較された。5年間のMACEはDAPT群にて、他の単剤治療群よりも低かった。抄録だけを読む、提示されているprimary eventのカプランマイヤー曲線のみを注目する、などの読み方をしていると本研究の本当の価値はわからない。 5年間の観察期間内の重篤な出血リスクはDAPT群にて最も高く、5年間の死亡数もDAPT群が多かった。1次元のパラメーターに着目して、臨床的仮説を検証するランダム化比較試験の結果のみに注目してはいけない。薬の薬効と直接関係しないかもしれない総死亡、安全性のリスクも重要である。死亡数が多く、重篤な出血イベントも多いDAPTを、MACEが少ないとの理由で推奨するだろうか?

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昔話「うらしまたろう」(その1)【なんでおじいさんにならなければならなかったの?なんで数百年経っていたの?(伝承の心理)】Part 1

今回のキーワード伝承訓話(説教)ラブストーリーファンタジー言い伝え(伝説)隠喩浦島太郎といえば、日本人の誰もが知っている昔話ですよね。ただ、他の昔話と違って、エンディングが理不尽すぎて奇妙に思ったことはありませんか? なぜおじいさんにならなければならなかったのでしょうか? なぜ乙姫は開けてはいけない玉手箱をわざわざ渡したのでしょうか? そして、なぜ帰ってきたら数百年という途方もない年月が経っていたのでしょうか? 仮に数百年経っていたとして、なぜ後世の人がただの村人の行方不明を覚えていたのでしょうか? このストーリーには何かが隠されていないでしょうか?今回は昔話「浦島太郎」を取り上げ、伝承の心理の視点から、これらの謎を解き明かします。浦島太郎の3つの謎とは?実は浦島太郎のストーリーは、時代の流れによって何度も作り変えられてきました。まず、それぞれの時代背景から、3つの謎を紐解いてみましょう。(1)なんでおじいさんになっちゃったの?現在の浦島太郎は、19世紀末の明治時代に作られた「日本昔話」がもとになっています。これが当時に小学校の国語の教科書に採用されたことでほぼすべての国民に広まりました。さらに遡ると、「日本昔話」のもとになったのは、14世紀頃の室町時代から続く「御伽草子」1)です。まずは、「日本昔話」←「御伽草子」として、その明らかな変化を具体的に挙げてみましょう。「浦島太郎が子供たちにいじめられていた亀を助けた」↑↑↑「浦島太郎が釣り上げた亀を逃がした」「戻ってきた亀が恩返しとして浦島太郎を背に乗せて海底の竜宮城に案内した」↑↑↑「海で遭難したとの口実で乙姫(後で正体が助けられた亀だと明かす)が近づいてきて助けを求め、浦島太郎に故郷(竜宮城)まで連れて帰ってもらった」「竜宮城で宴を楽しんだ」↑↑↑「乙姫と夫婦の契りを交わした(セックスした)」「乙姫から『開けてはいけません』とだけ言われて玉手箱をお土産として渡された」↑↑↑「乙姫から『私だと思って受け取って。でも開けてはいけません』と言われて玉手箱を乙姫の形見として渡された」「浦島太郎が玉手箱をつい開けると老人になり絶望した」↑↑↑「実は玉手箱には浦島太郎の年齢が詰め込まれており、浦島太郎は老人になったあと、鶴になり蓬莱山(不老不死の世界)に飛び立ち、亀になった乙姫と再び結ばれた」以上の変化からわかるのは、実はおじいさんになったあとの続きがあったことです。そして、子供向けのバッドエンドな訓話(説教)は、もともと大人向けのハッピーエンドなラブストーリーから意図的に作り変えられたものだったということです。あの封建的な明治の国定教科書に採用されるほど道徳的な要素を取り入れ、逆に恋愛の要素をすべて取り除いているので、つじつまが合わなくなり、はっきり言えば話の展開としては破綻しています。しかし、もともとの知名度とあいまって、その不可解さ、シュールさが結果的に多くの人の心をさらにつかむという奇跡を起こしています。つまり、浦島太郎がおじいさんになったのは、平民が目上のお姫様の言いつけを守らなかった罰ではなく、対等な夫婦として不老不死の世界に行くために仙人に姿形を変える演出であったということです。これは、もともと中国からの神仙思想が色濃く反映されています。次のページへ >>

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昔話「うらしまたろう」(その1)【なんでおじいさんにならなければならなかったの?なんで数百年経っていたの?(伝承の心理)】Part 2

(2)なんで乙姫は開けてはいけない玉手箱を渡したの?先ほどご紹介した「御伽草子」のもとになったのは、さらに遡って8世紀の奈良時代に書かれた「丹後国風土記」2-4)などです。次は、「御伽草子」←「丹後国風土記」として、その明らかな変化を具体的に挙げてみましょう。「昔、丹後国に浦島太郎という漁師がいた」↑↑↑「雄略天皇の御代、丹後国の与謝郡、日置の里、筒川の村に、日下部氏の祖先にあたる、浦嶋子(うらしまこ)という美男子がいた」「竜宮城の乙姫がやってきて、竜宮城に招いた」↑↑↑「天上の仙人(神)の家の神女(しんにょ)がやってきて、蓬莱山に招いた(竜宮城は登場しない)」「玉手箱は形見で、開けてはいけません」↑↑↑「玉匣(たまくしげ:化粧箱)は私(神女)のもとに戻って来るためのものなので、開けてはいけません」「玉手箱を開けると、煙が出てきて、浦島太郎は老人になった」↑↑↑「玉匣を開けると、香しい神女の煙が出てきて、天上へと消えていった(浦島太郎は老人にならない)」以上の変化からわかることは、玉手箱を開けてはいけませんと言った明確な理由があったことです。そして、架空の名称を用いたファンタジーは、もともと具体的な時代、場所、人物が特定された実在の名称による言い伝え(伝説)から作り変えられたものだったということです。たとえば、「美男子」という描写は高貴な人を連想することからも、浦島太郎は平民ではなく、丹後国の身分の高い人(王族)であったことが示唆されます。また、蓬莱山は、確かに神仙思想上の架空の地名ですが、古代中国に実在した秦始皇碣石宮などの海上宮殿がモチーフになっている可能性が指摘されています1)。ちなみに、現在、その海上宮殿の石碑までの途中の航路の近くに、蓬莱(ポンライ)という地名があります1)。「天上の仙人(神)の家」と表現されたのは、当時の中国のその地域の文明が、丹後国と比べものにならないほど進んでいたからでしょう。つまり、以下のような解釈ができます。丹後国という海洋国家の王族(浦島太郎)は、中国の文明が進んだある海岸地域(蓬莱山)と交易をして、現地で高貴な女性(乙姫)を妻としてもうけた。何年かして帰国する時、その妻の高価な持ち物(玉手箱)を、再入国のための「通行証」として受け取った。しかし、帰国してみると丹後国は衰退しており、再び妻のもとへ行くことができないと悟ったその王族はやけになり、その「通行証」を無効にした(玉手箱を開けた)。つまり、乙姫が玉手箱を開けてはいけませんと言ったのは、厳封された通行証の役割を果たしていたからです。当時、写真は当然なく、文字(漢字)もまだ十分に伝わっていないとしたら真の通行証はないわけで、自分が何者で誰と関係があるかは持ち物(匂いを含む)で証明するしかなかったでしょう。最後に出てきた煙は、化粧箱(玉手箱)から舞い上がった化粧の粉であり、その匂いがその王族に妻を思い出させ、煙が妻の姿のように見えただけ(フラッシュバック)だったと解釈すれば、きわめて現実的です。なお、当時に伝わった神仙思想を踏まえると、玉手箱は開けたら壊れる魔法の道具で、最後に出てきた煙は乙姫の分身で、浦島太郎が竜宮城に戻りたいと願った時にその分身が何らかの方法で浦島太郎を導くはずだったとも解釈できます。結局、開けない理由が抜け落ちた不可解なセリフが後世に伝わったことで、乙姫のキャラクター自体もますますファンタジックになってしまったのでした。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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昔話「うらしまたろう」(その1)【なんでおじいさんにならなければならなかったの?なんで数百年経っていたの?(伝承の心理)】Part 3

(3)なんで帰ってきたら数百年経っていたの?先ほどご紹介した丹後国風土記は、もともと実際の話の言い伝えであることがわかったわけですが、まだ謎が残っています。それは、やはり帰ってきたら300年経っていたことです。1つの解釈としては、「雄略天皇の御代」(5世紀)から丹後国風土記の完成時期(8世紀)までちょうど300年であり、作者がつじつまを合わせている可能性です。ちなみに、さらに時代が進んだ御伽草子では、「300年後」ではなく「700年後」に書き換えられており、当時の作者が計算してつじつまを合わせようとしていることがうかがえます。しかし、正史なら歴史書の改変は理解できますが、丹後国風土記は史実の記録であるはずです。わざわざ「300年後」と書いてあることには意味があるのではないでしょうか?この謎のヒントが、さらに遡って2~3世紀頃の弥生時代末期に書かれた「魏志倭人伝」にありました1)。「…東南方向に百里行った場所の奴国(北九州)に、官名を『シマコ(&#x5155馬觚)』と呼び…」この一文からわかるのは、「シマコ」と呼ばれる官名(役職名)があったことです。そして、この官名は、当時のヤマト王権が海外との交易のために設置した地方官の1つと考えられています4)。つまり、神官や武官と同じように、「シマコ」官は、当時から丹後国にもいた可能性が十分に考えられ、浦嶋子(浦島太郎)につながります。そして、「シマコ」官は、丹後国で代々引き継がれていたでしょう。つまり、「シマコ」(浦島太郎)とは1人の人物ではなく丹後国を代表する組織の隠喩であった、そして浦島太郎のストーリーとは丹後国の繁栄と衰退の壮大な歴史(史実)を潜ませた隠喩であったことが示唆されます。これが、帰ってきたら数百年経っていた理由です。そして、最初に触れた浦島太郎に隠されたメッセージです。だからこそ、浦島太郎が300年後に帰ってきて、その名前を憶えていた村人(後世の人)がいたという設定が成り立つのです。文字(漢字)の普及がままならない当時に、数百年前の1人の人物の名前、ましてやただの漁師の行方不明を憶えているわけがありません。以上より、「雄略天皇の御代」(5世紀)とは、浦島太郎が船出した時期ではなく、帰ってきた時期だったことになります。つまり、丹後国風土記の「300年」とは、5世紀から8世紀ではなく、2世紀から5世紀であったということです。なお、古墳などの調査による考古学的な視点からも、2世紀から5世紀までは丹後国が王国として存在していた時期であり、一致します。実際に、当時の中国からの交易の品として、ガラス細工などが古墳から出土しています。これらの隠喩が「玉手箱」とも言えそうです。そして、交易の相手(パートナーシップ)の隠喩が「竜宮城の乙姫」とも言えそうです。1)「仮面をとった浦島太郎」P89、P106、P147、P187、P230:高橋大輔、朝日文庫、20222)「浦島太郎はどこへ行ったのか」P24、P135:高橋大輔、新潮社、20053)「よみがえる浦島伝説」P31:坂田千鶴子、新潮社、20014)「桃太郎と邪馬台国」P201:前田晴人、講談社現代新書、2004<< 前のページへ

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COPD患者の飛行機旅行【日常診療アップグレード】第8回

COPD患者の飛行機旅行問題72歳男性。慢性閉塞性肺疾患(COPD)のため通院中。子供や孫と欧州旅行を計画している。呼吸機能検査では1秒率(FEV1%)は50%で、在宅酸素は使っていない。長時間作用性抗コリン薬(LAMA)と長時間作用性β2刺激薬(LABA)の吸入薬を処方されている。安静時のSpO2は93%である。「楽しんで来てくださいね」と送り出した。

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ASCO2024 レポート 老年腫瘍

レポーター紹介昨今、ASCOで老年腫瘍に関する重要な臨床研究の結果が発表されるようになった。高齢がん患者を対象とする臨床研究の枠組みとしては、(1)高齢がん患者を対象とした治療開発(特定の治療の有用性を検証)に関する臨床試験、(2)特定の因子、とくに高齢者機能評価が予後因子になるか否かを評価する臨床研究、(3)「高齢者機能評価+脆弱性に対するサポート」の有用性を評価する臨床試験に大別されるだろう。ASCO2024では、それぞれの枠組みの中で、日常診療の参考になる臨床研究が多数発表されていた。その中から、興味深い研究を紹介する。転移性膵がんを患う「脆弱な」高齢者を対象としたランダム化比較試験(GIANT study: #40031))近年、高齢者という集団は不均一であり、暦年齢だけで治療方針を決めるべきではない、という認識が浸透しつつあるように思う。とくに欧州では、高齢者という集団を全身状態の良いほうから順番に、fit、vulnerable、frailに分類するという考え方が提唱されている。すなわち、“fit”は、積極的ながん治療の恩恵を受けられるような全身状態の良い患者、“frail”はベストサポーティブケアの適応となるような全身状態の悪い患者、“vulnerable”は、その中間に位置することが提唱されている2)。しかし、それぞれの分類の線引きは定まっておらず、がん種ごと、病態ごとに定義が異なっているのが現状である。米国のECOG-ACRINグループが実施したGIANT試験は、“vulnerable”な高齢者を独自に定義し、GEM+nab-PTX vs.5FU/LV+nal-IRIの有用性を比較したランダム化比較第II相試験である。70歳以上、転移性膵管腺がんを有する、ECOG-PS:0~2かつ高齢者機能評価(生活機能、併存症、認知機能、暦年齢、老年症候群[転倒、失禁])の結果で“vulnerable”な高齢者と判断された患者が本試験に登録された(表1)。登録患者は、ゲムシタビン(1,000mg/m2)とナブパクリタキセル(125mg/m2)を14日ごとに投与するA群および5-フルオロウラシル(2,400mg/m2)、ロイコボリン(400mg/m2)、リポソームイリノテカン(50mg/m2)を14日ごとに投与するB群に無作為に割り付けられた。Primary endpointは全生存期間、secondary endpointsは、無増悪生存期間、奏効割合、有害事象などであった。A群の生存期間中央値を7.7ヵ月、B群を10.7ヵ月(HR:0.72)、片側α:0.10、検出力80%とした場合、予定登録患者数は184例であった。本試験は想定よりも予後が悪すぎたため、第1回目の中間解析で無効中止となった。92施設から176例の患者が登録され、年齢中央値は両群とも77歳。登録はしたものの治療を開始できなかった患者はA群で10.2%、B群で14.8%、1~3コースしか治療ができなかった患者はA群で34.2%、B群で42.7%であった。全生存期間は、A群で4.7ヵ月、B群で4.4ヵ月(HR:1.12、0.76~1.66、p=0.72)であり、無増悪生存期間はA群3.0ヵ月、B群2.4ヵ月であった。Grade3以上の有害事象発生割合は、A群45.6%、B群58.7%であった。残念ながら早期中止となってしまったが、“vulnerable”な高齢者を対象として治療開発を試みた意欲的な試験である。高齢者機能評価を用いて高齢者を分類するという手法を用いた臨床試験は過去にも複数存在3)するが、このタイプの臨床試験では試験結果がnegativeになった場合、「試験治療が適切なのか」という問題以外にも、「そもそも高齢者機能評価を用いた分類方法が適切なのか」という問題がつきまとう。本試験の場合、両群で治療強度を弱め過ぎたのかもしれないという問題と、本試験で定義した“vulnerable”という分類方法が適切ではなかったのではないかという問題が生じる。治療が開始できなかった患者や治療期間が極端に短かった患者が多かったことを踏まえると、本試験で定義した“vulnerable”の大部分が本当は“frail”なのではないかという疑問を持ってしまう。患者の大多数は、認知機能障害(46%)、暦年齢が80歳以上(36%)、併存疾患(31.4%)により“vulnerable”と判断されており、これらの患者は、より慎重に化学療法を実施、またはベストサポーティブケアを提案してもよいのかもしれない。一方、サブグループ解析では、75歳以上と75歳未満の集団の生存曲線に大きな違いはなかったため、やはり暦年齢だけで治療方法を決めるのは避けるべきなのだろう。本試験は早期中止となり、また“vulnerable”な高齢者を定義することの難しさを改めて知ることになったが、このような意欲的な試験のデータが蓄積されていくことで、より適切な集団を設定することができ、その集団に適切な治療を提供できるようになると考えている。画像を拡大する日本発の高齢者機能評価+介入のランダム化比較試験の副次的解析(NEJ041/CS-Lung001: #15024))“vulnerable”な高齢者をどう定義するのか、という議論は以前からある。生理的予備能が乏しい高齢者が全身化学療法などで重篤な有害事象が生じると全身状態が悪化することが予想されるため、重篤な有害事象が生じうる集団を“vulnerable”な高齢者とするという考え方もある。化学療法の毒性を予測するツールで有名なものとして、米国の高齢がん研究グループ(Cancer and Aging Research Group:CARG)が作成したChemo Toxicity Calculator(以下、CARGスコア)がある。CARGスコアは簡単な11項目(年齢、がんの種類、予定されている化学療法の投与量、予定されている化学療法の薬剤数、ヘモグロビン、クレアチニンクリアランス、聴力、転倒、服薬管理、身体活動、社会活動)を評価するだけでGrade3以上の有害事象の出現頻度を予測できるとされている5,6)。CARGスコアは米国では妥当性が検証されており、また正式な手順で翻訳されたCARGスコア日本語版があるため日本でも使用しやすいツールである(当該URLのlanguageをJapaneseにすれば日本語になる)7)。しかし、日本人での有用性が評価されていないこと、また分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬などは予測式を作成する際の対象集団に含まれていなかったことから、その使用には注意が必要であるとされていた。今回、日本発の高齢者機能評価+介入のランダム化比較試験の副次的解析の中で、日本人におけるCARGスコアの有用性が評価された。NEJ041/CS-Lung001は、非小細胞肺がんを患う75歳以上の患者を対象とした、高齢者機能評価+介入の患者満足度における有用性を評価したクラスターランダム化比較試験であり、主たる解析の結果はASCO2023で報告された。1,021例が登録され、そのうち911例がCARGスコアで評価された。CARGスコアは19点満点であり、0~5点を「低い」、6~9点を「中間」、10~19点を「高い」とした場合、米国のデータでは、それぞれのカテゴリーとGrade3以上の有害事象の発生割合に関連がみられたため、CARGスコアは重篤な有害事象を予測できるという結論に至ったが、今回の日本人データではそれらに関連がみられなかった。また、CARGスコアの対象外とされていた分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬を受けている集団でもCARGスコアの有用性を評価したものの、いずれもCARGスコアのカテゴリーと重篤な有害事象に明らかな関連はみられなかった。欧米のKey opinion leaderが提唱しているツールをそのまま日本に流用することなく、日本人データで妥当性を検証し、日本人でのCARGスコアの有用性をきちんと否定するという重要な研究である。CARGスコアの日本語版はCARGのホームページに掲載してもらっているのだが、日本人でも毒性を予測できるか否かの評価がされていなかったため、研究目的以外でのCARGスコアの使用は推奨してこなかった。今回、副次的解析ではあるものの、日本人ではCARGスコアの有用性が示せなかったことは、臨床上重要である。ただし、欧米でもCARGスコアは絶対的なツールではない。実際、「全がん種」を対象として生まれたCARGスコアでは予測精度が低いという理由で、「乳がん」に特化した予測ツールCARG-BC(Breast Cancer)が作成されている8)。このように、それぞれのがん種、人種に特化した予測ツールが望まれており、今後、日本独自の毒性予測ツールが求められる。『高齢者機能評価+脆弱な部分をサポートする診療』モデルの費用対効果分析(#15099))欧米の老年腫瘍ガイドラインでは、高齢者機能評価(Geriatric Assessment:GA)を実施するのは当然であり、「高齢者機能評価+脆弱な部分をサポートする診療」、いわゆるGeriatric Assessment and Management (GAM)の実施までもが推奨されるようになった。これは、世界中で「高齢者機能評価+脆弱な部分をサポートする診療」の有用性を検証するランダム化比較試験が公表されたためである。ただ、それぞれの試験におけるGAMの診療モデルはまったく異なるため、どの診療モデルが最適なのかはわかっていない。このため今回、GAMの有用性を検証したpivotal study 4試験のデータを基に、費用対効果分析が行われた(表2)。これらの試験のGAMモデルを概説すると、(1)The 5C試験は「老年医学の訓練を受けたチームによる電話を用いてフォローアップするモデル」10)、(2)GAIN試験は「老年医学の訓練を受けたチームによる脆弱な部分をサポートする方法を提示するモデル」11)、(3) GAP70+試験は「老年医学の訓練を受けたチームがいない状態でのGA実施および脆弱な部分をサポートする方法を提示するモデル」12)、(4)INTEGERATE試験は「適宜、老年科医にコンサルトしながら診療を行うモデル」13)である。本試験はカナダの研究者が実施したため、カナダの医療費をベースとして、さまざまなシナリオの下でそれぞれの試験における12ヵ月以内の、がん薬物療法に伴う費用、有害事象に伴う費用、入院/救急外来受診に伴う費用、GAM実施に伴う費用を推定し、質調整生存年(Quality-adjusted life years:QALY)当たりの医療費および増分純金銭便益(incremental monetary benefit、INMB)を計算した(INMB=[λ*ΔQALY]-ΔCosts、閾値は50,000ドル)。患者当たりの平均QALYはGAM群で0.577~0.662、通常診療群(GAMを実施しない通常診療)で0.606~0.665、平均総費用は、GAM群で3万1,234~3万9,432ドル、通常診療群で2万9,261~4万1,756ドルであった。がん薬物療法の費用は総費用の46~66%を占めていた。INTEGERATE試験およびGAP70+試験では、INMBが3,975ドルおよび1,383ドルと正の値だったが、GAIN試験、The 5C試験では、INMBの値がそれぞれ-3,492ドル、-2,125ドルと負の値であった。INTEGERATE試験の診療モデル(適宜、老年科医にコンサルトしながら診療を行うモデル)は最も高価なモデルであったが、入院の減少(GAM群での入院/救急外来受診割合:26.6%、通常診療群:40.2%)により費用対効果が良好になったと考察されている。結果の解釈には慎重になる必要がある研究である。すなわち、12ヵ月のみのデータであること、カナダの医療費を基に計算されたものであること、入院/救急外来受診のしやすさは環境によって変わりうることなど、多くのlimitationがある。しかし、それぞれの診療モデルの一長一短は推察できるため、どの診療モデルが自施設に適していそうかの考察には使えると考えている。欧米の老年腫瘍ガイドラインがGAMを推奨しており、また日本老年医学会が発刊した『高齢者総合機能評価(CGA)に基づく診療・ケアガイドライン2024』でも悪性腫瘍を患う患者に高齢者総合機能評価(ほぼGAMと同じ意味)は推奨しているが、これらガイドラインはGAMを推奨しているにもかかわらず、具体的にどのようなモデルを用いればよいかは提示していない。日本では現状、がん治療に携わる老年科医が少ないため、「老年医学の訓練を受けたチームがいない状態でのGA実施および脆弱な部分をサポートする方法を提示するモデル」、すなわちGAP70+モデルが費用対効果の意味でも適しているのかもしれない。しかし、将来的には老年科医と協働して高齢がん患者の診療を進めてゆける環境がつくられることを祈っている。画像を拡大する参考1)Dotan E, et al. A randomized phase II study of gemcitabine and nab-paclitaxel compared with 5-fluorouracil, leucovorin, and liposomal irinotecan in older patients with treatment-naive metastatic pancreatic cancer (GIANT): ECOG-ACRIN EA2186.J Clin Oncol.2024;42:s4002)Ferrat E, et al. Performance of Four Frailty Classifications in Older Patients With Cancer: Prospective Elderly Cancer Patients Cohort Study. J Clin Oncol. 2017;35:766-777.3)Corre R, et al. Use of a Comprehensive Geriatric Assessment for the Management of Elderly Patients With Advanced Non-Small-Cell Lung Cancer: The Phase III Randomized ESOGIA-GFPC-GECP 08-02 Study. J Clin Oncol. 2016;34:1476-1483.4)Furuya N, et al. Geriatric assessment in older patients with non-small cell lung cancer: Insights from a cluster-randomized, phase III trial―ENSURE-GA study (NEJ041/CS-Lung001).J Clin Oncol.2024.42:s15025)Hurria A, et al. Predicting chemotherapy toxicity in older adults with cancer: a prospective multicenter study. J Clin Oncol. 2011;29:3457-3465.6)Hurria A, et al. Validation of a Prediction Tool for Chemotherapy Toxicity in Older Adults With Cancer. J Clin Oncol. 2016;34:2366-2371.7)Cancer and Aging Research Group, Chemo-Toxicity Calculator.8)Magnuson A, et al. Development and Valida39tion of a Risk Tool for Predicting Severe Toxicity in Older Adults Receiving Chemotherapy for Early-Stage Breast Cancer. J Clin Oncol. 2021;39:608-618.9)Selai A, et al.Cost-utility of geriatric assessment (GA) in older adults with cancer: A model-based economic evaluation of four randomized controlled trials (RCTs). J Clin Oncol.2024;42.16:s150910)Puts M , et al. Comprehensive geriatric assessment and management for Canadian elders with Cancer: The 5C study. 2021. J Geriatr Oncol. 2021;12:s40.11)Li D, et al. Geriatric Assessment-Driven Intervention (GAIN) on Chemotherapy-Related Toxic Effects in Older Adults With Cancer: A Randomized Clinical Trial. JAMA Oncol.2021;7:e214158.12)Mohile SG, et al. et al. Evaluation of geriatric assessment and management on the toxic effects of cancer treatment (GAP70+): a cluster-randomised study. Lance. 2021;398:1894-904.13)Soo WK, et al. Integrated Geriatric Assessment and Treatment Effectiveness (INTEGERATE) in older people with cancer starting systemic anticancer treatment in Australia: a multicentre, open-label, randomised controlled trial.Lancet Healthy Longev. 2022;3:e617-e627.

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プライベートパーツを診る!

半分アトラス、臨床写真500枚超!「皮膚科の臨床」66巻7号(2024年6月臨時増刊号)“プライベートパーツ”疾患を網羅した豊富なアトラスと、エキスパートによる“プライベートパーツ”診療の注意点、鑑別診断、治療法などの解説からなる本特集。梅毒やエムポックスなど性感染症の最新トピックスも。貴重な臨床写真を眺めて学ぶもよし、興味のあるテーマから読み進めるもよし。皮膚科医のみならず外陰部疾患を診るすべての方へ。永久保存版の1冊です。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大するプライベートパーツを診る!定価8,800円(税込)判型B5判頁数244頁発行2024年6月編集「皮膚科の臨床」編集委員会ご購入(電子版)はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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早期アルツハイマー病におけるレカネマブの安全性〜第III相試験

 アルツハイマー病(AD)は、世界における医療制度、患者、家族に多大な負担を強いる高齢化に伴う主要な健康問題である。早期ADに対しFDAが承認しているアミロイドベータ(Aβ)標的抗体であるレカネマブは、可溶性Aβ凝集体に高い親和性を示す薬剤である。一方、可溶性Aβ凝集体は、単量体や不溶性フィブリルよりも神経毒性が高いことが示唆されている。レカネマブは、複数の臨床試験において、忍容性が良好であると報告されているが、プラセボと比較し、アミロイド関連画像異常(ARIA)および注射部位反応の発生リスクが高いことが問題となる。米国・コロンビア大学のLawrence S. Honig氏らは、早期アルツハイマー病におけるレカネマブの安全性について、第III相試験であるClarity AD試験の結果を報告した。Alzheimer's Research & Therapy誌2024年5月10日号の報告。 Clarity AD試験は、早期AD患者を対象に18ヵ月のレカネマブ治療の有効性、安全性を評価した多施設共同二重盲検プラセボ対照並行群間試験(コア試験)であり、非盲検延長試験(OLE試験)が実施された。対象患者は、レカネマブ群(レカネマブ10mg/kg隔週投与)またはプラセボ群に1:1でランダムに割り付けられた。安全性の評価には、バイタルサイン、身体検査、有害事象、臨床検査パラメータ、12誘導心電図モニタリングを含めた。ARIAの発生は、研究全体を通じMRIにより局所と中央の両方でモニタリングを行った。 主な結果は以下のとおり。・対象は、コア試験参加者1,795例およびレカネマブを1回以上投与した1,612例(コア試験+OLE試験)。・Clarity AD試験では、おおむね忍容性が良好であり、コア試験におけるレカネマブ関連の死亡例はなかった。・OLE試験の死亡例は9例であり、そのうち4例は試験治療に関連する可能性があると判断された。・コア試験+OLE試験における死亡例は24例であり、そのうち脳出血(ICH)は3例であった。コア試験ではプラセボ群で1例、OLE試験ではレカネマブ群で2例(組織プラスミノーゲン活性因子:1例、抗凝固療法中:1例)のICHが認められた。・コア試験+OLE試験において、レカネマブ群で最も多く認められた有害事象は、注射部位反応(24.5%)であり、次いでヘモジデリン沈着を伴うARIA脳微小出血(16.0%)、COVID-19(14.7%)、浮腫を伴うARIA(ARIA-E:13.6%)、頭痛(10.3%)であった。・ARIA-EおよびARIA-Hは、主にレントゲン画像で軽度〜中程度であった。・ARIA-Eは、一般的に治療後3〜6ヵ月以内で発生し、ApoE e4キャリア(16.8%)でより多く、ApoE e4ホモ接合(34.5%)で最も多かった。 著者らは「レカネマブは、一般的に忍容性が良好であるが、有害事象では注射部位反応、ARIA-H、ARIA-Eが認められた。臨床医、参加者、介護者は、最適なケアを行うためにも、これらのイベントに対するモニタリングやマネジメントについて、より理解する必要がある」としている。

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人間のペニスから初めてマイクロプラスチックを検出

 人間のペニスから7種類のマイクロプラスチックが初めて検出されたことを、米マイアミ大学ミラー医学部のRanjith Ramasamy氏らが、「IJIR: Your Sexual Medicine Journal」に6月19日発表した。この研究では、5点のペニスの組織サンプルのうちの4点でマイクロプラスチックが検出されたという。研究グループは本年5月に人間の精巣から驚くべきレベルのマイクロプラスチックが検出されたことを報告したばかりであった。研究グループは、マイクロプラスチックは主要臓器の細胞や組織に浸潤する可能性があると話している。 Ramasamy氏はCNNの取材に対し、「今回の研究は、人間の心臓の中からマイクロプラスチックが見つかったことを明らかにした先行研究を土台にしている」と述べ、「ペニスは心臓と同様、非常に血管の多い臓器であるため、ペニスからマイクロプラスチックが見つかったことに驚きはなかった」と語っている。 Ramasamy氏らは今回、勃起不全(ED)と診断され、2023年8月から9月の間に陰茎インプラント手術を受けるためにマイアミ大学の病院に入院していた6人の患者から採取したペニスの組織サンプルを用いて、赤外イメージングシステムによる分析を行った。組織サンプルは陰茎体部から採取され、うち5点のサンプルは洗浄済みのガラス器具に保存された。残る1点は、プラスチック容器に保存して対照サンプルとした。 その結果、ガラス器具に保存した5点のサンプルのうちの4点と対照サンプルから7種類のマイクロプラスチックが見つかった。最も多く検出されたのはポリエチレンテレフタレート(PET、47.8%)、次いで多かったのはポリプロピレン(PP、34.7%)であった。また、マイクロプラスチックのサイズは20〜500µmであった。 このような結果を踏まえた上でRamasamy氏は、「今後は、マイクロプラスチックがEDに関係しているのか、病理学的症状を引き起こすレベルはどの程度のものなのか、どのような種類のマイクロプラスチックが病理学的症状を引き起こすのかを明らかにする必要がある」と述べている。 Ramasamy氏は、この研究が「人間の臓器内に異物が存在することについての認識を深め、このテーマをめぐる研究の促進につながる」ことを願っていると付け加えている。同氏はさらに、「われわれは、ペットボトルやプラスチック製の容器から水や食品を摂取することに留意し、今後の研究で病理学的症状を起こし得るレベルが特定されるまでは、そうしたものの使用を制限するよう努めるべきだ」と述べている。 米ニューメキシコ大学薬学部教授のMatthew Campen氏はCNNの取材に対し、「プラスチックが体内の至る所に入り込んでいることを裏付ける興味深い研究だ」と話す。同氏は、「プラスチックは一般的に、人間の体の細胞や化学物質と反応はしないが、勃起や精子の生成に関与する機能を含め、体が正常に機能するためのプロセスに対して物理的に破壊的である可能性はある」と指摘する。 Campen氏は、共著者として参加した人間の精巣に関する研究において、人間の精巣中で検出されたマイクロプラスチックのレベルが、犬の精巣や人間の胎盤で検出されたレベルより3倍高かったことに言及。「われわれは、体内のマイクロプラスチックがもたらし得る脅威にようやく気付き始めたところだ。マイクロプラスチックが不妊症や精巣がん、その他のがんに関与しているのかどうかを明確にするためにも、このテーマに関する研究の急増が必要だ」と述べている。 一方、米国小児科学会(AAP)の食品添加物と子どもの健康に関する政策声明の筆頭著者である、米ニューヨーク大学ランゴンヘルスのLeonardo Trasande氏は、マイクロプラスチックがもたらす脅威が明らかになるまでの間にわれわれがやるべきこととして、「まず、可能な限りステンレスやガラスの容器を使い、プラスチックの使用量を減らすこと。また、乳幼児用の粉ミルクや搾乳した母乳を含め、プラスチック製の容器に入った食品や飲料を電子レンジで温めるのはやめること。さらに、熱により化学物質が溶出する可能性があるので、プラスチックを食器洗浄機に入れないようにすること」とCNNに対して語っている。

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便検査異常所見から6カ月以内の大腸内視鏡追跡検査率は低い

 大腸がん(CRC)のスクリーニング便検査(SBT)で異常があった後、6カ月以内に大腸内視鏡の追跡検査を受ける成人は半数以下であるとする研究結果が、「JAMA Network Open」に3月25日掲載された。 米国医師会(AMA)のElizabeth L. Ciemins氏らは、CRCのSBTで異常が認められた後6カ月以内の大腸内視鏡追跡検査に関する、品質評価指標を開発し検証するため、後ろ向き品質改善研究を実施した。データベース研究で6カ月以内の大腸内視鏡追跡検査率を求めるため、米国の医療機関(HCO)38カ所でCRCの初回SBTを受け、異常所見のあった50~75歳の成人を観察した。 解析の結果、38カ所のHCOにおける対象成人2万581人のうち、47.9%がCRCのSBTで異常結果が出た後6カ月以内に、大腸内視鏡追跡検査を受けていた。HCO間で有意差が見られた。大腸内視鏡追跡検査の受診率が有意に低かったのは、黒人患者(37.1%)とメディケアまたはメディケイドの保険に加入している患者(それぞれ49.2%、39.2%)であった。SBTの異常所見から6カ月以内の追跡検査率を測る品質評価指標は、実行性、有効性、信頼性があると判断された。信頼性統計はHCO間で中央値94.5%であった。 著者らは、「SBTの使用は全体として検診率を向上させるかもしれないが、CRCを診断するためには、理想的にはできるだけ早く、どんなに遅くとも異常な検査結果が出た後6カ月以内に、大腸内視鏡検査で追跡しなければならない」と述べている。 なお1人の著者が、エグザクトサイエンス社との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。

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米国におけるGLP-1RA治療開始後の中止の実態

 米国でGLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)による治療を開始した糖尿病または肥満患者のうち、3分の1以上が12カ月でその治療を中止しているという実態が報告された。米エバーノース研究所のDuy Do氏らによる研究の結果であり、詳細は「JAMA Network Open」に5月24日、レターとして掲載された。 この研究は、2021~2023年の医療情報データベース(Komodo Healthcare Map)を用いて行われた。解析対象は、2型糖尿病または肥満治療のために、医療保険(民間保険、メディケア、メディケイド)を利用してGLP-1RA(デュラグルチド、エキセナチド、リラグルチド、セマグルチド)の処方を受けた18歳以上の患者19万5,915人(平均年齢53.8±12.5歳、女性58.9%)。 GLP-1RAの最初の処方日から3、6、12カ月後の処方状況を把握し、各時点から135日以内に再度GLP-1RAが処方されていなかった場合を、GLP-1RAの処方が中止されたケースと定義した。その間、処方が途切れていた期間があったとしても、断続的に続いていた場合は中止に含めなかった。なお、処方間隔が135日以内という設定は、処方期間の長い(90日)処方箋が全体の5.3%とわずかであり、その90日よりもさらに長く追跡することで、使用が中止に至ったことを厳格に判断するために設定された。 解析の結果、GLP-1RAの中止率は、3カ月時点で26.2%、6カ月時点で30.8%、12カ月時点で36.5%と計算された。12カ月時点の中止率を治療目的別に見ると、肥満のみの患者に対するGLP-1RA処方での中止率が高かった。具体的には、2型糖尿病患者での中止率は35.8%、2型糖尿病と肥満の双方を有する患者での中止率は34.2%と、いずれも3分の1強であるのに対して、肥満のみの患者では50.3%と過半数を占めていた。 ロジスティック回帰分析の結果、2型糖尿病のみの患者を基準として、肥満のみの患者の中止のオッズ比(OR)は1.79(95%信頼区間1.74~1.85)、2型糖尿病と肥満を有する患者はOR0.91(同0.89~0.93)となった。性別に関しては、女性より男性で中止のオッズ比が高かった〔OR1.02(1.00~1.04)〕。年齢に関しては、35歳以上に比し18~34歳の若年層でオッズ比が高く、加入保険については民間保険よりメディケアやメディケイドの場合にオッズ比が有意に高かった。 このほかに、消化器症状の出現〔OR1.04(1.02~1.06)〕や薬剤費自己負担額の高さ〔1%高いごとにOR1.02(1.02~1.03)〕も、中止率の高さと有意に関連していた。また、ベースラインで心不全〔OR1.09(1.05~1.14)〕や心血管疾患〔OR1.08(1.05~1.11)〕を有する場合にも、中止のオッズ比が有意に高かった。一方、慢性腎臓病〔OR1.03(0.99~1.06)〕は有意な関連がなかった。 以上に基づき著者らは、「GLP-1RAの中止には、使用目的の差異や人口統計学的因子が関連している」とまとめている。なお、研究の限界点として、肥満者での中止における減量効果の違いや副作用の関与の程度を詳細に検討できていないこと、および新規GLP-1RAであるチルゼパチドの処方ケースが評価されていないことを挙げている。

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試験紙による簡便な検査でインフルエンザウイルスの種類を判別

 試験紙を用いた簡便で安価な検査によりインフルエンザウイルス感染の有無を調べることができ、さらにその原因となったインフルエンザウイルスの種類まで特定できる可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。この検査により、A型とB型のインフルエンザウイルスを区別できるほか、A型インフルエンザウイルス亜型のH1N1やH3N2など、より毒性の強い株をも判別できるという。米プリンストン大学のCameron Myhrvold氏らによるこの研究の詳細は、「The Journal of Molecular Diagnostics」7月号に掲載された。 この検査法は、SHINE(Streamlined Highlighting of Infections to Navigate Epidemics)と呼ばれる、CRISPR-Cas技術を用いたウイルス検出法をベースにしたもの。SHINEは、CRISPR-Cas酵素を利用してサンプル中の特定のウイルスのRNA配列を識別する技術である。研究グループはまず、新型コロナウイルスを検出するために、その後、デルタ株とオミクロン株を区別するためにSHINEを利用した。 次いで研究グループは2022年から、時期を問わず環境中に循環している他のウイルス、特にインフルエンザウイルスの検出にこの技術を適用し始めた。その目的は、ウイルス検査を病院や高価な設備を持つ臨床検査室ではなく、臨床現場で行えるようにすることだった。こうして開発された新たな検査法は、異なるインフルエンザ株(A型とB型)、およびその亜型(H1N1とH3N2)を区別することができる。研究グループが、臨床サンプルを用いてこの検査法の性能を確かめたところ、RT-PCR検査による検査結果と100%の一致度を示したという。 論文の共著者の1人である米マサチューセッツ工科大学(MIT)ブロード研究所のJon Arizti-Sanz氏は、「患者に感染しているインフルエンザウイルスの株や亜型を区別できることは、治療だけでなく、公衆衛生政策にも影響を及ぼす」と述べている。 一方、論文の筆頭著者である米ハーバード大学医学大学院のYibin B. Zhang氏は、「高価な蛍光測定装置の代わりに試験紙読み取り装置を使うことは、臨床医療だけでなく、疫学的サーベイランスの目的においても大きな進歩だ」と述べている。 一般的な診断アプローチであるPCR検査は処理に時間を要する上に、訓練を受けた人員、特殊な機器、試薬を−80°Cで保存するための冷凍庫を必要とする。これに対し、SHINEは室温で実施可能であり、所要時間も約90分と短い。現在、この診断方法で必要となるのは、反応を促進するための安価な加熱ブロックのみだ。研究グループは、処理工程を簡素化して15分で結果を出せるようにすることを目指しているという。Myhrvold氏は、「最終的には、この検査が新型コロナウイルス感染症の検査に使われている迅速抗原検査と同じくらい簡便なものにしたいと思っている」と話している。 研究グループは目下、この検査を、ヒトに感染する恐れのある鳥インフルエンザウイルス株や豚インフルエンザウイルス株を追跡できるように改良しているところだと話している。

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母親のスマホ使用は乳児への語りかけの減少と関連

 母親がスマートフォン(以下、スマホ)を使っているときには、乳児への語りかけが16%減少し、乳児の言語発達に悪影響を及ぼす可能性のあることが、新たな研究で示唆された。1~2分程度の短時間のスマホ使用は、母親の乳児への語りかけをさらに減少させていたという。米テキサス大学オースティン校心理学分野のMiriam Mikhelson氏らによるこの研究結果は、「Child Development」に6月26日掲載された。 Mikhelson氏は、「新米の親へのアドバイスは、スマホの使用が子どものニーズに対応する親の能力に影響するということを認識することだ。子どもにとっては、自分の求めに応じて一貫性のあるケアを受けることが非常に重要だ。しかし、親がスマホに夢中になっていると、そのようなケアを受けにくくなることがある」と話す。 研究グループによると、親のスマホの使用は子どもの言語発達に影響を与える可能性が先行研究で示唆されているという。しかし、これらの研究結果のほとんどは、管理された実験室で親子を観察して導き出されたものである。これに対しMikhelson氏らは今回の研究で、実生活での母子のやりとりと親のスマホ使用との関連を検討した。具体的には、16人の乳児(平均月齢4.1カ月、白人75%、女児63%)に1週間オーディオレコーダーを装着し、その録音データを、1万6,673分に及ぶ親のスマホの使用時間と同期させて、スマホの使用が母親の乳児への語りかけにどのような影響を与えるのかを調べた。 その結果、母親のスマホの使用は乳児への語りかけの16%の減少と関連することが明らかになった。また、長時間の使用に比べて、短時間(1〜2分)の使用の場合には乳児への語りかけが26%減少することも示された。研究グループはこの点について、「長時間のスマホ使用では電話やビデオチャットなどでの会話を伴うことがあるため、乳児が耳にする音声の量が増えるのに対して、短時間のスマホ使用は電子メールのチェックやメッセージの送信のような非言語的な活動が主流となるからではないか」と推測している。 さらに、スマホの使用が母子のやりとりに与える影響は、特定の時間帯(午前9〜10時、正午から午後1時、午後3〜4時)に顕著になることも判明した。Mikhelson氏らは、「これらの時間帯は、食事の時間や、きょうだいが学校や保育園から帰ってくる時間など、母親が子どもと接する機会が多い時間帯と重なる」と指摘している。 研究グループは、「親は、スマホの使用が乳児への対応に与える影響を過小評価している可能性がある」と話している。Mikhelson氏は、「もちろん親の中には、仕事上の義務やその他の責任から、スマホを使わないでいることが難しい人もいるだろう」と一定の理解を示しつつも、「自分の育児の質に不安がある人に対して、われわれは、できる限り子どもに関心を向けるよう努力すること、そして、スマホがその能力をどの程度妨げているかについて自分に正直になることを勧めている」と語っている。そして、「スマホを極力使わないでおこうと思いながらも、ついついスマホを使っていると自覚することが、重要な第一歩だ」と付け加えている。 研究グループは、今後の研究では、メッセージングや電話などの特定のスマホの使用と、食事中や遊びの最中など異なる状況でのスマホの使用が、親の子どもへの語りかけに与える影響を調べる必要があるとしている。

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「孤食」の人は自殺リスクが2.8倍に?

 日本の高齢者4.6万人を7年間追跡し、社会的つながりと自殺との関連を調べたところ、「孤食」の状態にある人は、自殺死亡のリスクが約2.8倍、高かったという推計結果が発表された。日本福祉大学社会福祉学部の斉藤雅茂氏らによる研究であり、「Social Science & Medicine」4月号に掲載された。 日本では依然として、国際的に見て自殺率が高い。社会的孤立の問題が指摘されているが、個人の社会的つながりに関する多様な指標と自殺死亡を検証した研究は少ない。また、日本では50~59歳の年齢層の自殺者数が最も多いが、70~79歳と80歳以上の自殺者数を合計するとそれを上回る。そのような中、高齢者の自殺に関する研究は不足している。 そこで著者らは、日本老年学的評価研究の「健康とくらしの調査」に回答した、北海道・千葉・山梨・愛知・三重・長崎における要介護認定を受けていない65歳以上の人を対象に前向きコホート研究を実施した。2010年にベースライン調査を開始、2017年まで追跡し、死亡した人の死因を人口動態統計に基づいて特定した。 社会的つながりの乏しさの指標については、孤食(一人で食事をすることが多い)、情緒的・手段的サポート授受の欠如(心配事などを聞いてくれる/聞いてあげる人や、病気のときに看病などをしてくれる人/してあげる人がいない)、社会的活動への不参加(ボランティアや趣味などのグループに参加していない)、友人との交流の欠如(知人・友人と会っていない)を調査した。 その結果、解析対象者4万6,144人(女性2万4,710人)のうち、7年間の追跡期間中に55人が自殺した(10万人当たりの年間自殺率は18.96)。社会的つながりが乏しかった人や抑うつ傾向の人では、自殺率が高かった。 ベースライン時の性別、年齢、教育年数、婚姻状態、世帯構成、等価世帯所得、治療疾患の有無の影響を考慮して統計解析を行った結果、孤食状態にあった人は、自殺リスクが2.8倍ほど高いことが明らかとなった(ハザード比2.81、95%信頼区間1.47~5.37)。抑うつ傾向の影響を考慮しても、自殺リスクは約2.5倍だった(同2.49、1.32~4.72)。また、孤食により、年間1,800人程度の高齢者の自殺(年間の高齢自殺者の29%)が生じている可能性があると推計された。 今回の研究結果から著者らは、「孤食による高齢者の自殺は、抑うつ傾向による自殺と比べても無視できない規模といえる」と総括している。また、社会的つながりは可変的なものであるとして、「うつへの対策だけでなく、特に孤食をなくすことは自殺対策において有用であり、自殺リスクの『気づき』のポイントとしても、孤食への対策が有用であることが示唆された」と述べている。

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第219回 解消しない医薬品不足に厚労大臣が放った“迷言”とは?

「それはちょっとないんじゃないの?」と思わず、PCでニュース記事の画面を開きながら口を突いて出そうになった。7月4日に厚生労働大臣の武見 敬三氏がジェネリック医薬品企業(以下、GE企業)13社のトップを呼び、業界再編を促したと報じられたことについてだ。鎮咳薬不足の時も同じように製造企業を厚生労働省(以下、厚労省)に呼んで要請している武見氏に失礼かもしれないが、ややパフォーマンスじみているとしか言いようがない。民業であるGE企業トップを“呼びつけ”て「再編せい!」と号令をかけるのは、国務大臣として越権行為にすら映ってしまう。この日、武見氏は「薬の成分ごとの供給社数は、理想は5社程度」と具体的な数字を挙げている。確かに一つの目安かもしれないが、大臣という立場の人が口にすると一人歩きする懸念もあり、この辺は慎重な発言が求められる。そもそもこの件に関しては、武見氏に限らず、「雨後の筍のごとく存在するGE企業同士が合併してしまえばいいではないか?」と思う人は意外と多いのではないだろうか? だが、これは簡単ではない。以前、CareNeTV LIVEで講演した時にもお話ししたことだが、GE業界は近代経済学の世界でいう「完全競争」状態である。「完全競争」とは主に(1)市場に多数の企業がおり、どの企業も市場価格に影響を与えられない、(2)その市場への新規参入・撤退に障壁がない、(3)企業の提供する製品・サービスが同業他社と同質、の3条件を満たす市場を指している。完全競争市場の最大の特徴は、過当競争の結果、最悪は「企業の超過利潤がゼロ」状態に陥ることだ。再編となると避られない茨の道GE企業では完全競争の主要条件のうち(3)が再編を阻む大きな要因となる。その理由は、GE企業は複数社で同一成分の医薬品を提供しているからだ、たとえば降圧薬アムロジピンを製造するGE企業A社とB社が合併した場合、合併後の新会社がA社ブランドのアムロジピンとB社ブランドのアムロジピンを製造することはあり得ず、どちらかに統一する。よく企業同士の合併では「シナジー(相乗効果)」という言葉が聞かれるが、これは相互補完となるサービス(製品)がある場合のことだ。品目統合が必至のGE企業同士ではこの面でシナジーはほとんどない。しかも、公的薬価制度に則って販売されている医薬品では、重複品目の統合を企業が「一抜けた」的に行えるわけではない。通常、供給停止の場合、企業側は厚労省にまず「供給停止品目の事前報告書」を提出する。ここでは供給停止が医療上の不都合をもたらさないかが判断される。ちなみに事前報告書の提出時点で、製薬企業側は関連学会などから供給停止に関してすでに事前了承を取り付けていることが前提となっている。同報告書上、厚労省が供給停止に問題ないと判断してもことが済むわけではない。実はこの先に日本医師会の疑義解釈委員会があり、ここに厚労省が供給停止希望品目情報を上程し、同委員会に参集する医学系学会の全会一致で供給停止しても差し支えないと決定して初めて供給停止ができるという、やや不思議な慣例がわが国では続いている。同委員会が何をもって供給停止を了承するかの明文規定はなく、一方で従来から「不採算という理由だけで供給停止は認めない」との不文律があると言われる。おそらく国民の目から見ると、厚労省の先に日医の疑義解釈委員会という屋上屋があることは不可解極まりないだろうが、これが慣例なのだ。しかも、こうした手続きの間にさまざまな労力とコスト(金)が発生している。もしGE企業同士が合併するならば、数十~数百品目についてこの作業を行わなければならない。これ以外にも当然ながら企業同士の合併では、給与なども含めた社内制度、ソフト・ハード両面での物流や販売などの社内システムなどの統合も必要だ。製薬企業の場合、取引している医薬品卸が異なれば、その調整も必要である。企業同士の主要取引銀行が異なれば、この点もまとめねばならない。実はこの取引銀行の調整は、合併企業同士の主要取引銀行が都銀や地銀のライバル行同士の場合はかなり難儀な作業となる。また、合併する企業同士が規模に差がある場合、規模の大きい企業のほうが社内管理システムなどにおいて優れていることが多い。率直に言ってしまえば、規模の大きい側からすると、小さい側のシステムや管理部門の人材はほとんど不要と言ってもよい。つまるところ、GE企業同士の合併では、「スクラップ&ビルド」ではなく、「スクラップ&スクラップ」になる。持ち出しコストのほうが上回り、強いて言えば、そのシナジーは工場という製造部門くらいしかない。極端な話、中小GE企業が大手GE企業に買収される場合は、中小側が工場以外の人員整理、金融機関への債務返済、重複品目の薬価削除まで完了して、「あとはどうぞ」と差し出すくらいでなければ、大手側にメリットはほとんどない。しかも、日本の中堅GE企業は売上高で100~200億円くらいの規模はある。これをまともに買収するならば、将来価値の目減り分を折り込んでも、買収金額は最低数十億円になるだろう。しかし、国内大手GE企業の東和薬品や沢井製薬ですら、決算からわかる通り、現預金保有高は300億円に満たない。また、両社とも近年の医薬品供給不足に対応し、金融機関からの借り入れなどで400~500億円規模の工場新設をすでに行っている。これで企業再編を行えというのは無理筋である。厚労省が考える再編モデル、どれがいい?厚労省の「後発医薬品の安定供給等の実現に向けた産業構造のあり方に関する検討会」が5月末にまとめた報告書では、GE企業の協業について、▽大手企業が他の後発医薬品企業を買収し、品目統合や生産・品質管理を集約する等の効率化を実現▽後発品企業が事業の一部または全部を他の企業に譲渡▽ファンドが介在して複数の後発品企業や事業の買収を行って統合▽複数の後発医薬品企業が新法人を立ち上げ、屋号統一化の下、品目・機能を集約・共有、という4つのモデルを示している。しかし、前述のような事情を考えれば、どのモデルも容易ではない。そもそも同報告書では、こうした再編について政府による金融・財政支援などの必要性を強調しているが、これついて具体策はまだ出ていない。冒頭で取り上げた武見氏とGE企業トップとの懇談の場では、武見氏が国として支援策を講じていくとも口にしたらしいが、その支援策を用意したうえで呼びかけるのが筋ではなかろうか?同時に、報じられた記事の中で武見氏が「過度な低価格競争からも脱却する必要がある」と発言した点については、厚労相として形式的には言わねばならないのだろうが、「それ、言う?」と思ってしまった。現行の薬価制度とGE企業の性格上、低価格競争が起こるのは必然である。確かに2024年度薬価改定では、一部の不採算品目の薬価引き上げは行われた。しかし、これは対症療法に過ぎない。もっとも現行の薬価制度の薬価調査に基づく引き下げは仕組みとして理解はできる。これがなければ国民は高止まりの医薬品の入手を強いられることになるからだ。ただ、制度上で必然として起こっていることをGE企業だけのせいにするかのように発言するのは、これまたいかがなものかと思ってしまう。いずれにせよ、今、国に求められているのは業界再編がしやすい支援策の早急な策定である。掛け声だけの再編要請なぞ、国家権力によるパワハラに等しい。そしてこの間にも医薬品不足というツケを払わされているのは患者という名の国民一人一人であることを忘れてほしくはない。

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