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セマグルチド、CKDを伴う2型DMの腎機能低下や心血管死亡を抑制/NEJM

 慢性腎臓病(CKD)を伴う2型糖尿病患者は、腎不全、心血管イベント、死亡のリスクが高いが、GLP-1受容体作動薬セマグルチドによる治療がこれらのリスクを軽減するかは知られていない。オーストラリア・ニューサウスウェールズ大学のVlado Perkovic氏らFLOW Trial Committees and Investigatorsは「FLOW試験」において、プラセボと比較してセマグルチドは、主要腎疾患イベントの発生が少なく、腎特異的イベントや心血管死、全死因死亡のリスクを低減することを示した。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2024年5月24日号に掲載された。28ヵ国387施設の無作為化プラセボ対照試験 FLOW試験は、28ヵ国387施設で実施した二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験であり、2019年6月~2021年5月に参加者を募集した(Novo Nordiskの助成を受けた)。 対象は、2型糖尿病とCKDを有する患者とし、推算糸球体濾過量(eGFR)が50~75mL/分/1.73m2で尿中アルブミン-クレアチニン比(アルブミンはミリグラム、クレアチニンはグラムで測定)が>300~<5,000、またはeGFRが25~50mL/分/1.73m2で尿中アルブミン-クレアチニン比が>100~<5,000と定義した。 被験者を、セマグルチド1.0mgを週1回皮下投与する群、またはプラセボ群に無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、主要腎疾患イベント(major kidney disease event)であり、腎不全(透析、移植、eGFR<15mL/分/1.73m2)の発生、eGFRのベースラインから50%以上の低下、腎臓関連の原因または心血管関連の原因による死亡の複合と定義した。主要アウトカムの相対リスクが有意に低下 3,533例(平均[±SD]年齢66.6±9.0歳、女性30.3%)を登録し、セマグルチド群に1,767例、プラセボ群に1,766例を割り付けた。中間解析の結果に基づき、独立データ安全性監視委員会は有効性について試験の早期終了を勧告し、試験終了時の追跡期間中央値は3.4年だった。 主要アウトカムのイベント発生の頻度は、セマグルチド群で低く(初回イベント:セマグルチド群331件[5.8/100人年]vs.プラセボ群410件[7.5/100人年])、主要アウトカムの相対リスクはセマグルチド群で24%低かった(ハザード比[HR]:0.76、95%信頼区間[CI]:0.66~0.88、p=0.0003)。 また、主要アウトカムの腎特異的構成要素の複合(HR 0.79、95%CI 0.66~0.94)および心血管死(0.71、0.56~0.89)についても、結果は主要アウトカムと同様であった。eGFR年間変化率の勾配、主な心血管イベント、全死因死亡も良好 3つの確認のための主な副次アウトカムは、いずれもセマグルチド群で良好だった。eGFRの無作為化から試験終了までの平均年間変化率の傾きの程度(eGFR slope)は、プラセボ群に比べセマグルチド群で1.16mL/分/1.73m2(95%CI:0.86~1.47)低く、減少の仕方が緩徐であった(p<0.001)。主な心血管イベント(非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、心血管死の複合)のリスクは、セマグルチド群で18%低く(HR:0.82、95%CI:0.68~0.98、p=0.029)、全死因死亡のリスクは20%低かった(0.80、0.67~0.95、p=0.01)。 重篤な有害事象の報告は、プラセボ群に比しセマグルチド群で少なかった(49.6% vs.53.8%)。一方、試験薬の恒久的な投与中止の原因となった有害事象の頻度はセマグルチド群で高かった(13.2% vs.11.9%)。 著者は、「これらの知見に基づくと、2型糖尿病とCKDを有する患者に対するセマグルチドの使用は、腎保護作用とともに、心血管リスクの低減に有効である可能性がある」としている。

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プラチナ+ICI既治療NSCLCへのSG、第III相試験結果(EVOKE-01)/ASCO2024

 プラチナ製剤を含む化学療法および免疫チェックポイント阻害薬(ICI)による治療で病勢進行に至った非小細胞肺がん(NSCLC)の標準治療は、いまだにドセタキセルとなっており、治療成績は十分ではない。そのため、新たな治療法の開発が望まれている。そこで、既治療のNSCLC患者を対象として、Trop-2を標的とする抗体薬物複合体sacituzumab govitecan-hziy(SG)の有用性を検討する国際共同第III相比較試験「EVOKE-01試験」が実施された。スペイン・Hospital Universitario 12 de OctubreのLuis G. Paz-Ares氏が、米国臨床腫瘍学会年次総会(2024 ASCO Annual Meeting)において、本試験の結果を報告した。なお、本発表の詳細はJournal of Clinical Oncology誌オンライン版2024年5月31日号に同時掲載された1)。・試験デザイン:国際共同第III相無作為化比較試験・対象:プラチナ製剤を含む化学療法およびICIによる前治療歴を有するNSCLC患者603例・試験群(SG群):SG(21日間を1サイクルとして、各サイクルの1、8日目に10mg/kg) 299例・対照群(ドセタキセル群):ドセタキセル(75mg/m2、3週ごと) 304例・評価項目:[主要評価項目]全生存期間(OS)[副次評価項目]治験担当医師評価に基づく無増悪生存期間(PFS)、安全性など 主な結果は以下のとおり。・ICIによる前治療への奏効率は、SG群35.5%、ドセタキセル群37.2%であり、actionableな遺伝子変異がある患者の割合は、それぞれ6.4%、8.2%であった。・データカットオフ時点(2023年11月29日)における追跡期間中央値は12.7ヵ月であった。・6ヵ月以上治療を継続した患者の割合は、SG群33.4%、ドセタキセル群17.4%であった。・主要評価項目のOSの中央値は、SG群11.1ヵ月、ドセタキセル群9.8ヵ月であり、SG群が良好な傾向にはあったが、統計学的有意差は認められなかった(ハザード比[HR]:0.84、95%信頼区間[CI]:0.68~1.04、片側p=0.0534[片側有意水準α=0.0223])。1年OS率はそれぞれ46.6%、36.7%であった。・事前に規定されたOSのサブグループ解析において、組織型による差はみられなかったが、ICIによる前治療に奏効しなかったサブグループ(HR:0.75、95%CI:0.58~0.97)、actionableな遺伝子変異があるサブグループ(同:0.52、0.22~1.23)で、SG群が良好な傾向にあった。・ICIによる前治療に奏効しなかったサブグループにおけるOSは、組織型にかかわらずSG群が良好な傾向にあった。・PFS中央値は、SG群4.1ヵ月、ドセタキセル群3.9ヵ月であった(HR:0.92、95%CI:0.77~1.11)。・Grade3以上の有害事象は、SG群66.6%、ドセタキセル群75.7%に発現した。治療中止に至った有害事象は、それぞれ9.8%、16.7%に発現した。 Paz-Ares氏は「主要評価項目のOSについて、統計学的有意差は認められなかった。しかし、SG群はOSの数値的な改善を示し、ICIによる前治療に奏効しなかったサブグループでは、ドセタキセル群と比べてOSが3.5ヵ月改善した。SGは良好な安全性プロファイルを示し、忍容性はドセタキセルよりも高かった。以上から、SGは既治療の転移を有するNSCLC患者における有望な治療選択肢の1つであると言える」とまとめた。なおSGについては、ペムブロリズマブとの併用下における有用性を検討する第II相試験「EVOKE-02試験」、PD-L1高発現例の1次治療における有用性を検討する第III相試験「EVOKE-03試験」が進行中である。

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口腔内細菌の検査で胃がんが検出可能に?

 がんによる死亡者数としては世界で4番目に多い胃がんが、いつの日か、診察室での口腔洗浄液を用いた簡単な検査で発見されるようになるかもしれない。米ラトガーズ・ロバート・ウッド・ジョンソン医科大学のShruthi Reddy Perati氏らによる研究で、胃がん患者やその予備軍の口腔から採取した細菌サンプルは、健康な患者から採取した細菌サンプルとは明らかに異なることが明らかになった。この研究結果は、米国消化器病週間(DDW 2024、5月18〜21日、米ワシントン)で発表された。 Perati氏は、「口腔マイクロバイオームと胃のマイクロバイオームはつながっており、口腔内にどのような細菌がいるかを知ることで、胃の環境についても知ることができる。このことは、診療で用いられている検査や診療ガイドラインの変更につながるほど大きな意味を持つ」と述べている。 この研究でPerati氏らは、胃がん患者30人(胃がん群)と、胃がんの前段階にある患者30人(前がん群)、および健康な人38人(対照群)から口腔内細菌サンプルを採取して比較した。その結果、対照群と比べて、胃がん群と前がん群の口腔内細菌には明白な違いのある一方で、胃がん群と前がん群の口腔内細菌にはほとんど違いのないことが判明した。具体的には、胃がん群では、ヘリコバクター属、セレノモナス属、ラクトバチルス属など32種類の細菌属が、前がん群でも胃がん群と類似した23種類の細菌属が、対照群と比べて際立っていた。 研究グループは、「この結果は、胃の環境が変化して細胞が最終的にがん化し始めると同時に、口腔内のマイクロバイオームにも変化が生じる可能性を示唆している」と述べている。もし、これが事実であるなら、医師は、口腔洗浄液検査により患者の胃がんを未然に防ぐことができるかもしれない。 Perati氏は、「米国では胃がんの正式なスクリーニングガイドラインはなく、胃がん患者の半数以上が、がんがすでに進行した段階で診断を受ける」と話す。その上で同氏は、「がんの治療では、がんになってから患者を見つけるのでは遅過ぎる。がんを予防する上で理想的なタイミングは、がんになりかけているときだ。われわれが試した検査法では、前がん状態にある人を特定することができた。この検査法は、がんのスクリーニングや予防のツールとして非常に大きな可能性を秘めている」と話している。 この結果に基づき、研究グループは、健康な人と胃がんへ進行しつつある人の間で最も大きな違いを示す13種類の細菌種を取り上げたモデルを開発した。今後は、本研究で得た知見を検証するため、複数の病院でより大規模な研究を行う予定であるという。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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極端な運動でも寿命が縮まることはない

 何世紀にもわたり、運動と健康の間にはU字型の関係があると考えられてきた。つまり、運動量は少な過ぎても多過ぎても健康を損なうという考え方だ。しかし、最大限のパフォーマンスに自分を追い込むアスリートは、長寿に関しては代償を払う必要はないようだ。1マイル(約1.6km)を4分以内で走り切った最初の200人のアスリートは、一般的な人よりも平均5年近く長生きする可能性のあることが、新たな研究で明らかにされた。アルバータ大学(カナダ)のMark Haykowsky氏らによるこの研究結果は、「British Journal of Sports Medicine」に5月10日掲載された。 この研究は、英国の神経学者にしてアスリートであったRoger Bannister氏が、1954年5月、25歳のときに、人類で初めて1マイルを4分以内に走り切ること(以下、「1マイル4分」)を達成してから70周年に当たる年(2024年)に実施された。Bannister氏は2018年に88歳で亡くなった。 研究グループは今回、「1マイル4分」を達成した最初の200人を対象に、「1マイル4分」が寿命に与える影響を、その人の出身国での平均寿命との比較で検討した。対象とされた200人は、1928年から1955年の間に28カ国で生まれた男性で、1954年から1974年の間に「1マイル4分」の記録を達成していた。記録達成時の平均年齢は23歳だった。 200人のうち60人(30%)は本研究の解析時にすでに死亡していたが、残りの140人は生存していた。解析の結果、「1マイル4分」を達成した人は、予測される平均寿命よりも平均で4.7歳長く生きる可能性のあることが示された。「1マイル4分」を達成した年代(1950年代、1960年代、1970年代)を考慮して解析すると、これらの人では、平均寿命が年代ごとにそれぞれ、9.2年、5.5年、2.9年延長するという結果になった。 Haykowsky氏は、「これらは、極端な持久運動が長寿に有害だとする考え方を覆す結果であり、トップレベルのパフォーマンスに必要なトレーニングレベルであっても、運動が寿命にとって有益であることが再確認された」と結論付けている。 研究グループは、年代を追うごとに「1マイル4分」が走者の寿命にもたらすベネフィットが低下していたのは、人口全体での平均寿命の向上により説明できる可能性があると述べている。つまり、主要疾患の診断、治療、予防の進歩により一般の人が長生きするようになったのであり、アスリートが早死にするようになったわけではないということだ。 一方、アスリートが一般の人より全体的に長寿であるのは、持久運動が健康に寄与している可能性があるとの見方を研究グループは示している。また、「1マイル4分」を達成した最初の200人の中に6組の双子を含む20組のきょうだいや、親子の組み合わせも含まれていたことに注目し、健康的なライフスタイルや遺伝も長寿に一役買っている可能性があると述べている。

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心房細動アブレーション手技における左心耳隔離の位置付けについて(aMAZE試験)(解説:香坂俊氏)

 心房細動に対するアブレーション治療(肺動脈起始部のカテーテル焼灼術)のプレゼンスが年々高まっている。が、課題も多く残されている。 たとえば、アブレーション治療は発作性の心房細動に関しては十分な医療を発揮し、1年後の洞調律維持率80~90%に達すると報告されているが、永続性の心房細動に関しては、その洞調律維持率は60~70%に留まっている。 こうした課題を克服するために、肺動脈起始部以外の場所も「焼く」必要があるのではないかと考えられており、その有力なターゲットの1つが左心耳であった。電気生理学的な臨床研究からは、心房細動患者のうち約30%の方が、肺動脈起始部だけでなく、左心耳(LAA:Left Atrial Appendage)も起源となっていることがわかっている。 このため、LAAも肺動脈起始部と一緒に隔離するほうがよいのではないかという視点から行われたのがaMAZE試験であった。このaMAZEで用いられたLARIATというシステムは、純粋な外科的な結紮とは異なり、心腔内カテーテルと心嚢内カテーテルを併せて用いて経皮的に左心耳を閉鎖するシステムである(スニアを用いて心嚢内から左心耳を結紮:https://www.youtube.com/watch?v=5H6akOkXaHY&ab_channel=UniversityHealth)。LARIATシステムの利点は、低侵襲であり、外科手術と比べてリスクが少ないことであるが、この試験でも、手技の安全性に関しても問題がなかったことが確認されている。 しかし、この試験では、LAA結紮術(+PVI)がPVI単独と比較して12ヵ月後の心房細動の発現に有意な差がないことが示された(その数値については下記の通り)。> The primary endpoint, freedom from atrial arrhythmias lasting more than 30 seconds at 12 months, was similar in both groups (64.3% for LAA ligation plus PVI vs.59.9% for PVI alone LAAを結紮することは、LAAを電気的に孤立させることのみならず、左房容積も小さくせしめ、AFの再発抑制にはダブルで貢献するはずであったが、今回の試験では予想通りの結果とはいかなかった。サブ解析の結果からは、より早期のAF(early AF)、さらに左房の容積が大きい方のほうがこの手技のベネフィットを得やすいのではないかということも議論されている(米国FDAへの申請も行われているとのことである)。ただ現段階では、心房細動アブレーションを実施するに当たり、LAAの結紮をさらに加えて行ったとしても、そのメリットはあまり多くはみられないであろうと結論される。

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第197回 新型コロナ死者数10万人超え、新規感染者は4週連続で増加/厚労省

<先週の動き>1.新型コロナ死者数10万人超え、新規感染者は4週連続で増加/厚労省2.2023年の出生率1.20に低下、少子化がさらに進行/厚労省3.ヤングケアラー支援法が可決、国と自治体の支援義務を明確化/国会4.JMATの能登地震支援活動終了、指揮体制強化と長期支援を/日医5.クリニックが高評価の口コミ依頼、ステマ行為で行政処分/消費者庁6.患者死亡事故が相次いだ神戸徳洲会病院に厳しい改善指摘/神戸市1.新型コロナ死者数10万人超え、新規感染者は4週連続で増加/厚労省厚生労働省は、令和5年度の人口動態統計月報年計(概数)を6月5日に発表した。これによると、2023年末までに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による国内の死者数が累計で10万人を超えたことがわかった。2023年には3万8,080人がCOVID-19で死亡し、20年以降の累計死者数は10万5,950人にのぼった。2020年の死者数は3,466人だったが、デルタ株が流行した2021年には1万6,766人に増加し、その後、オミクロン株が主流となった2022年には感染者数が急増し、死者数は4万7,638人に上った。死者のうち、男性が5万7,222人、女性が4万8,728人だった。厚労省は、5月27日~6月2日までの1週間で報告されたCOVID-19の新規感染者数は1万7,401人であり、1定点当たり3.52人と、前週比で1.05倍とほぼ横ばいであると発表した。ただ、新規感染者数は4週連続で増加しており、とくに沖縄では1医療機関当たり19.74人と突出していた。沖縄では一部の高齢者施設で集団感染が発生し、医療機関が逼迫している状況。全国的には鹿児島(7.11人)、北海道(5.44人)と続き、少なかったのは福井(1.38人)、愛媛(1.80人)、香川(1.87人)だった。さらに、5月27日~6月2日の1週間に全国の定点医療機関から報告された新規入院患者数は1,260人で、前週比0.85倍と減少した。しかし、集中治療室(ICU)に入院した患者は61人で、前週から7人増加した。武見 敬三厚労大臣は、新たな感染症危機に備えるため、「新型インフルエンザ等対策政府行動計画」の改定や「国立健康危機管理研究機構」の設立準備を進めると説明し、国内外の感染症動向を注視しながら基本的な感染対策の周知に努めると述べている。参考1)令和5年(2023)人口動態統計月報年計(概数)の概況(厚労省)2)新型コロナ感染者数、ほぼ横ばい 前週比1.05倍、沖縄突出(共同通信)3)コロナ死者、昨年までに国内で10万人超 新規感染者数は4週連続増(朝日新聞)2.2023年の出生率1.20に低下、少子化がさらに進行/厚労省厚生労働省が、6月5日に発表した令和5年の人口動態統計(概数)によると、2023年のわが国の出生率は1.20と過去最低を更新し、出生数も72万7,277人と過去最少となった。厚労省によれば、出生数は前年より4万3,482人(5.6%)減少し、合計特殊出生率も0.06ポイント低下した。出生率の低下は8年連続で続いており、とくに東京都では0.99と初めて1を下回った。これはわが国の少子化が急速に進行していることを示しており、厚労省の担当者は、経済的不安や仕事と子育ての両立の難しさが、結婚や出産に対する希望を阻む要因として複雑に絡み合っていると指摘する。とくに東京都のような大都市部では、出生率が著しく低い傾向がみられ、埼玉、千葉、神奈川の首都圏でも1.1台に止まっている。地域別にみると、最も高いのは沖縄県の1.60で、次いで宮崎県と長崎県が1.49と続く。一方で、北海道(1.06)、宮城県(1.07)など、東日本では低い傾向が強く、西日本との間に「西高東低」の差がみられた。経済的な要因に加え、晩産化も少子化の一因とされている。2023年に第1子を出産した女性の平均年齢は31.0歳と初めて31歳台に達し、結婚年齢の上昇が影響している。婚姻件数も戦後最少の47万4,717組に減少し、婚外子が少ないわが国では結婚数の減少が直接的に出生数に影響している。専門家は、少子化対策として賃上げや働き方の改善が不可欠だと指摘する。とくに、長時間労働や転勤が前提の働き方を改め、家庭と仕事を両立できる環境を整えることが重要とされている。厚労省では、男性の育休取得推進や若い世代の所得向上などの取り組みを加速させる意向を表明している。政府は、少子化対策を急務として、包括的な支援策を推進している。林 芳正官房長官は、「2030年代までが少子化の傾向を反転できるラストチャンスである」と述べ、「社会全体で子育て世帯を支援する機運を高めることが重要だ」と強調する。参考1)令和5年(2023)人口動態統計月報年計(概数)の概況(厚労省)2)去年の合計特殊出生率 1.20で過去最低に 東京は「1」を下回る(NHK)3)2023年の出生率1.20、過去最低を更新 東京都は0.99(日経新聞)4)出生率1.20で過去最低、東京は1を割り0.99 出生数も過去最少の72万7,277人(産経新聞)3.ヤングケアラー支援法が可決、国と自治体の支援義務を明確化/国会6月5日、参議院本会議で「子ども・若者育成支援推進法」の改正案が賛成多数で可決され、家族の世話や介護を担う「ヤングケアラー」への支援強化が正式に法律として成立した。ヤングケアラーは、家族の世話や介護を担うため、学業や友人関係に支障を来し、精神的・身体的な負担が大きいことが問題視されている。改正法では、ヤングケアラーを「家族の介護その他の日常生活上の世話を過度に行っていると認められる子ども・若者」と定義し、国や自治体が支援に努めることを明確にした。とくに、18歳以上の若者にも支援を継続することが明文化され、成年になっても介護負担が続く若者たちが法的に保護される。また、同日に成立した「子ども・子育て支援法」改正法もヤングケアラーへの支援強化を盛り込んでおり、児童手当の所得制限撤廃や育児休業給付の拡充が含まれている。政府は、2030年までに少子化対策を徹底し、ヤングケアラーを含むすべての子どもたちが適切な支援を受けられる体制を整えるため、2026年度から新たに「支援金制度」を運用し、財源を確保する予定。これらの法改正により、ヤングケアラーへの支援が法的に強化され、彼らの直面する困難が軽減されることが期待されている。今後、国や自治体が具体的な支援策を実行し、ヤングケアラーが健全に成長できる環境を整えることが求められる。参考1)ヤングケアラー支援法が成立 国や自治体の努力を明確に(日経新聞)2)ヤングケアラー支援法成立へ 背景に相談窓口整備の地域差(毎日新聞)3)「支援金制度」 子ども・子育て支援法などの改正法 成立(NHK)4.JMATの能登地震支援活動終了、指揮体制強化と長期支援を/日医本年1月に発生した能登半島地震に対し、日本医師会の災害医療チーム(JMAT)は被災地に1,097チーム、3,583人の医療チームを派遣し、5月末でその活動を終了した。JMATの活動は、地域医療の復旧と地域社会の再建に大きく貢献したが、同時にいくつかの課題も浮き彫りとなった。松本 吉郎会長は、石川県医師会や郡市医師会をはじめ、全47都道府県の医師会がJMATの派遣に協力したことに感謝の意を示した。また、地域社会の再建と地域医療の復旧が密接に関連していることを強調し、今後も石川県の自治体や医師会が連携して復旧・復興に努めるよう呼びかけた。災害担当の細川 秀一常任理事は、今回の経験を踏まえ、日医から派遣するチームが発生初期の指揮命令体制を支援することが有用であると指摘した。被災した都道府県医師会が、すぐに支援チームを統括するのは難しく、日医が早期に現地にチームを派遣して、指揮統括機能を支援する必要があると述べた。JMATの派遣は、震災発生後すぐに先遣隊を送るなど、迅速な対応が行われた。しかし、活動が5ヵ月にも及んだ結果、派遣が一定期間できない「空白」や引き継ぎの滞りなどの問題も発生した。細川常任理事は、長期支援に備えた対策として、長期に支援活動に参加できる医師を発掘・登録する仕組みの必要性を強調した。また、JMATの活動を通じて、現地で必要なものを把握し、的確に指揮できる人材の育成や情報共有ツールの精緻化も今後の課題として挙げられた。これらの改善点を踏まえ、日医では「救急災害医療対策委員会」でJMATの在り方を検討し、さらなる災害対応能力の向上を目指すとしている。今回の能登半島地震を教訓に、JMATは支援体制の強化とともに、迅速かつ持続可能な支援を提供するための対策を進めていく方針。参考1)2024年能登半島地震に対する日本医師会の対応(JMAT活動の終了等)について(日本医師会)2)JMAT、1097隊・3,583人が活動 5月末で終了、能登地震(MEDIFAX)3)JMATの指揮統括、「日医で支援を」 細川常任理事、能登地震踏まえ(同)4)JMAT活動終了、能登半島地震で延べ1万人超を派遣-日医(CB news)5.クリニックが高評価の口コミ依頼、ステマ行為で行政処分/消費者庁消費者庁は6月7日、東京都大田区にある医療法人に対し、ステルスマーケティング(ステマ)行為が確認されたとして、景品表示法違反で措置命令を出した。この措置命令は、昨年10月から施行された新規制に基づく初の行政処分。対象となった医療法人が運営するクリニックでは、昨年10月2日から17日間、インフルエンザワクチン接種の料金を割引する代わりに、接種を受けた人に対してグーグルマップの口コミで高評価(星4または星5)を投稿するよう依頼していた。消費者庁の調査によると、この期間に投稿された口コミの約90%が星5の評価だった。とくに、以前の9ヵ月間では全投稿のうち星5の評価はわずか5%だったが、この依頼期間中には急増した。同庁は、これらの投稿が実質的にクリニック側の依頼によるものであるにもかかわらず、一般の利用者の感想として表示されていたことから、ステマに該当すると判断した。同庁は、この期間中に投稿された269件のうち45件を不当表示と認定し、すでに10件が削除されている。医療法人に対する措置命令は、口コミの削除と再発防止策の実施を求めるもので、これに対し法人側はコメントを控えている。ステマは、消費者に対する誤認を招くとして景品表示法で規制されており、広告であることを明示しないままに高評価の投稿を依頼する行為が含まれる。今回のケースは、新規制が導入された後の初の行政処分であり、同庁では今後も同様の監視を強化する方針。参考1)医療法人社団祐真会に対する景品表示法に基づく措置命令について(消費者庁)2)ステマ規制で初の行政処分 ワクチン割引で高評価口コミを依頼 東京・大田の医療法人(産経新聞)3)ステマ規制、初の行政処分 高評価投稿を条件に料金割引 消費者庁、クリニックに(日経新聞)4)「☆星4以上のクチコミで割引」はステマ 消費者庁が措置命令(NHK)6.患者死亡事故が相次いだ神戸徳洲会病院に厳しい改善指摘/神戸市カテーテル治療の後に患者死亡事故が相次いだ神戸徳洲会病院での事件について、その原因が医療過誤であることが明らかになった問題に対し、同病院は再発防止策を講じるための改善計画を策定した。しかし、神戸市が開催した神戸圏域地域医療構想調整会議病床機能検討部会において外部専門家の指摘により、病院側の対策が不十分であることが浮き彫りとなった。2023年に、同病院でカテーテル治療を受けた11人の患者が死亡し、そのうち2例が医療過誤によるものであることが確認された。1例は、動脈硬化を患っていた92歳の患者に対し、器具が誤って動脈に入り出血した事例であり、もう1例は、70代の糖尿病患者に対する不適切な薬物投与によるもの。これらの事例について、福田 貢副理事長は謝罪し、改善に努める姿勢を示した。神戸市は、今年2月に医療法に基づく改善命令を出し、病院側は医師1人当たりの担当患者数を25人以下に制限するなどの再発防止策を盛り込んだ改善計画書を提出した。しかし、6月6日に行われた会議では、外部の医師や専門家から、病院側の対策が不十分であるとの厳しい指摘が相次いだ。とくに、地域住民の安全と安心を提供する視点が欠如しているとされ、再発防止策の甘さが問題視された。具体的な改善策として、病院は院内での医療安全調査委員会の対象となる事例のリスト化や医療事故が発生した場合の迅速な対応、カテーテル治療を複数の循環器内科医で実施することなどを計画している。また、患者やその家族に対する説明の充実やカルテの監査も行う予定。病院は、来年8月までにこれらの改善策が実施されているかどうかを確認し続けるとしている。一連の問題を受けて、地域住民からの信頼回復を目指す神戸徳洲会病院は、医療安全管理体制の強化に取り組んでいるが、外部からの厳しい目を通してさらなる改善が求められている。参考1)神戸圏域地域医療構想調整会議 病床機能検討部会(神戸市)2)神戸徳洲会病院「過誤による死亡は2例」 医療法人幹部が謝罪(NHK)3)患者死亡の医療ミス、2件認める 神戸徳洲会 2月にも改善命令(毎日新聞)

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第74回 パラメトリック検定・ノンパラメトリック検定とは?【統計のそこが知りたい!】

第74回 パラメトリック検定・ノンパラメトリック検定とは?統計的検定で必ず目にする「パラメトリック検定」と「ノンパラメトリック検定」。今回は「パラメトリック検定」と「ノンパラメトリック検定」の意味や検定の種類に関して解説します。■パラメトリック検定(parametric test)とはパラメトリック検定とは、「母集団の分布が、ある特定の分布に従うことがわかっているデータに対して行う検定法」のことです。検定統計量を計算するためには、その統計量が従う分布が明らかになっている必要があります。検定統計量の計算には、「平均」「割合」「標準偏差」が用いられます。代表的手法にt検定があります。このようにパラメトリック検定は、事前にデータの分布を知っている必要があります。つまり、パラメトリック検定を用いたい場面は「すでに多くの研究でデータの分布が、ある程度わかっているケース」となります。■ノンパラメトリック検定 (non-parametric test)とはノンパラメトリック検定とは、「パラメトリックじゃない検定」です。ノンパラメトリック検定は、パラメトリック検定で行うような母集団に対する一切の前提を仮定しないのです。その代わりに、データにおけるデータの大小の順位、すなわち順序尺度を利用します。ノンパラメトリック検定は、得られたデータ数が少なく、データが従う分布を仮定することが困難であり、パラメトリック検定を利用することが不適切であると判断される際に利用されます。このようにノンパラメトリック検定は、「事前にデータの分布を考慮しなくても良い」という点でとても便利です。たとえば新規に作成したアンケートのデータなど、事前にデータがどのような分布になっているのか想像ができないというデータです。そのような場合には、ノンパラメトリック検定を実施すればいいわけです。■ノンパラメトリック検定の活躍場面とその短所先述のようにノンパラメトリック検定は、母集団の分布を仮定しない便利な検定法です。基本的には、調査、実験で得られたデータに対する仮説検定の際に、ノンパラメトリック検定を実行することは、間違いではありません。とくに得られたデータのサンプルサイズが小さいときは、パラメトリックな方法で検定すると検出力が低下するため、ノンパラメトリックな方法を選択した方が良いわけです。しかしながら、短所も存在します。本来パラメトリック検定を行うことができるデータに対してノンパラメトリック検定を行うと、帰無仮説を棄却できるのにもかかわらず帰無仮説を棄却できないとしてしまう確率(有意であるものを有意としない確率:第2種の過誤β)が大きく上昇します。すなわち、検定の検出力(1-β)が低下します。得られたデータに対し、適切な検定法を選定することが重要となります。■ノンパラメトリック検定の種類ノンパラメトリック検定には多数の手法がありますが、代表的なノンパラメトリック検定は表に示した4つです。次回は「確率分布」について説明いたします。■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ「わかる統計教室」第3回 理解しておきたい検定セクション11 対応のない場合の仮説検定セクション12 t検定の種類と選び方第4回 ギモンを解決! 一問一答質問6 比較する群が3つ以上ある場合の母平均の差の検定方法は?(その1)質問6(続き) 比較する群が3つ以上ある場合の母平均の差の検定方法は?(その2)

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事例001 ユビデカレノン錠の査定【斬らレセプト シーズン4】

解説高血圧症の患者に虚血性心疾患の症状が発現したためユビデカレノン錠を処方したところ、A事由(医学的に適応と認められないもの)が適用されて査定となりました。ユビデカレノン錠の添付文書の効果・効能には、「基礎治療施行中の軽度及び中等度のうっ血性心不全症状」と記載があります。レセプトに表示された「虚血性心疾患」は、心不全を来たす基礎疾患も含まれた総称的な病名とされており、確実に心不全を伴っていることを表す病名ではありません。したがって、「効果・効能に記載された要件を満たしていない」と判断され、病名不足を表すA事由が適用されたものと推測ができます。医師には、軽度であっても確実に心不全状態であることが伝わる病名もしくはコメントをいただけるようにお願いしました。レセプトチェックシステムにて、「病名不足」の指摘はありましたが、そのまま提出されてしまったようです。レセプト担当には、添付文書の要件を確認して修正が行われるように指導をして査定対策としました。

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小児急性中耳炎診療ガイドライン 2024年版 第5版

大幅アップデートの最新版登場!6年ぶりの改訂となる2024年版では、以下多くのアップデートがなされています。肺炎球菌結合型ワクチン(PCV)のエビデンスの強化や、従来からの抗菌薬適正使用に基づいた一部抗菌薬の用量・選択候補薬の見直し、軽症・中等症・重症のアルゴリズムを合体した「アルゴリズムのまとめ」の追加、重症度判定などの参考用の鼓膜画像の更新など、本ガイドラインの「中耳炎診療の基本を伝える」使命に則った大改訂版となりました。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する小児急性中耳炎診療ガイドライン 2024年版 第5版定価2,860円(税込)判型B5判頁数116頁(図数:4枚、カラー図数:2枚)発行2024年5月編集日本耳科学会日本小児耳鼻咽喉科学会日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会ご購入(電子版)はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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日本における市中感染と院内感染の罹患率と死亡率~全国7千万例超のデータ

 細菌および真菌感染症の罹患率や死亡率の現状と年次傾向について、市中感染と院内感染の観点から報告した研究はほとんどない。今回、千葉大学の高橋 希氏らが日本の全国保険請求データベースに登録された7千万例超の入院患者のデータを調べたところ、院内死亡率は院内感染のほうが市中感染よりも有意に高かったが、両群とも死亡率は低下傾向であることが示された。BMC Infectious Diseases誌2024年5月23日号に掲載。 著者らは、全国保険請求データベースから、2010年1月~2019年12月に入院し培養検査が実施され抗菌薬が投与された患者を抽出し、罹患率と院内死亡率の年次推移を患者の年齢で4群に分けて算出し評価した。 主な結果は以下のとおり。・7,396万2,409例の入院患者のうち、市中感染は9.7%、院内感染は4.7%であった。これらの罹患率は両群とも経年的に増加する傾向にあった。・感染症で入院した患者のうち、85歳以上では有意な増加(市中感染:+1.04%/年、院内感染:+0.94%/年、p<0.001)がみられたが、64歳以下では有意な減少(市中感染:-1.63%/年、院内感染:-0.94%/年、p<0.001)がみられた。・院内死亡率は、市中感染より院内感染で有意に高かった(市中感染:8.3%、院内感染:14.5%、調整平均差:4.7%)。・院内感染群は、臓器サポートや患者当たりの医療費が高く、入院期間も長かった。・死亡率は両群で減少傾向が認められた(市中感染:-0.53%/年、院内感染:-0.72%/年、p<0.001)。 今回の日本の大規模請求データベースの解析から、とくに85 歳以上において市中感染と院内感染の両方で入院が増加傾向にあること、院内感染は高齢社会の入院患者にとって大きな負担となっていることが示された。

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NSCLCにおけるamivantamabの皮下投与、静脈内投与との違いは?(PALOMA-3)/ASCO2024

 EGFR変異陽性非小細胞肺がん(NSCLC)に対するamivantamabの皮下投与と静脈内投与を比較するPALOMA-3試験の結果が、米国臨床腫瘍学会年次総会(2024 ASCO Annual Meeting)で、カナダ・Princess Margaret Cancer CentreのNatasha B. Leighl氏より発表された。 amivantamabは静脈内投与製剤として米国で開発されているが、投与時間の短縮などを目的として皮下投与における有用性が検討されている。本試験では、lazertinib併用下で、amivantamabの静脈内投与に対する皮下投与の薬物動態の非劣性などが確認された。・対象:EGFR変異陽性(ex19delまたはL858R)で、オシメルチニブとプラチナベースの化学療法後に進行したNSCLC患者・試験群(SC群、n=206):amivantamab皮下投与(体重に応じ1,600mgまたは2,240mg、最初の4週間は週1回、それ以降は隔週)+lazertinib経口投与(240mg、1日1回)・対照群(IV群、n=212):amivantamab静脈内投与(体重に応じ1,050mgまたは1,400mg、最初の4週間は週1回、それ以降は隔週)+lazertinib経口投与(240mg、1日1回)・評価項目:[主要評価項目]2サイクル目1日目もしくは4サイクル目1日目のトラフ濃度(Ctrough)、2サイクル目の血中濃度曲線下面積(AUCD1-D15)[副次評価項目]奏効率 (ORR) 、奏効期間(DOR)、無増悪生存期間 (PFS) 、患者満足度、安全性[探索的評価項目]全生存期間(OS) 主な結果は以下のとおり。・薬物動態の評価項目(Ctrough、AUCD1-D15)は非劣性基準を満たした。・ORRはSC群30%(95%信頼区間[CI]:24〜37)、IV群33%(95%CI:26〜39)で、非劣性基準を満たした(相対リスク:0.92、95%CI:0.70〜1.23、非劣性のp=0.001)。・DOR中央値はSC群11.2ヵ月、IV群8.3ヵ月であった。・PFS中央値はSC群6.1ヵ月、IV群4.3ヵ月であった(ハザード比[HR]:0.84、95%CI:0.64〜1.10、p=0.20)。・OSはSC群で長く(HR:0.62、95%CI:0.42〜0.92、名目上のp=0.02)、1年OS率はSC群65%、IV群51%であった。・インフュージョンリアクションの発現率はSC群で13%(Grade3以上0.5%)、IV群で66%(Grade3以上4%)と、SC群における発現率はIV群の約5分の1であった。・静脈血栓塞栓症(VTE)の発現率はSC群で9%、IV群で14%であった。・投与時間はSC群で中央値5分未満、IV群で2~5時間であった。 Natasha氏は本試験の結果を「amivantamabの静脈内投与と比較した場合の皮下投与の非劣性が示され、インフュージョンリアクションとVTEの発現率の低下が認められた」とまとめ、皮下投与への期待を述べた。

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sacituzumab tirumotecan、複数の治療歴のあるTN乳がんのPFSとOSを改善(OptiTROP-Breast01)/ASCO2024

 複数の治療歴がある進行トリプルネガティブ乳がん(TNBC)において、抗TROP2抗体薬物複合体sacituzumab tirumotecan(sac-TMT)が、医師選択による化学療法に比べて無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)を有意に改善した。無作為化第III相OptiTROP-Breast01試験の中間解析結果について、中国・Cancer Hospital Chinese Academy of Medical SciencesのBinghe Xu氏が、米国臨床腫瘍学会年次総会(2024 ASCO Annual Meeting)で発表した。・対象:転移に対する治療を含む2ライン以上の化学療法歴(タキサン含む)のある局所再発/転移を有するTNBC・試験群(sac-TMT群):sac-TMT(5mg/kg静注)2週ごと 130例・対照群(化学療法群):医師選択の化学療法(エリブリン、カペシタビン、ゲムシタビン、ビノレルビン)133例・評価項目:[主要評価項目]盲検下独立中央判定(BICR)によるPFS[副次評価項目]OS、治験責任医師評価によるPFS、奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)、安全性 主な結果は以下のとおり。・年齢中央値は両群とも51歳、内臓転移ありはsac-TMT群88.5%/化学療法群85.0%、PD-1/PD-L1阻害薬による治療歴ありはsac-TMT群24.6%/化学療法群27.1%、前治療のライン数(中央値)はsac-TMT群3.0/化学療法群2.0であった。・BICRによるPFSは、追跡期間中央値5.1ヵ月(データカットオフ:2023年6月21日)での中間解析において、sac-TMT群で有意な改善がみられ、進行/死亡のリスクは69%低下した(ハザード比[HR]:0.31、95%信頼区間[CI]:0.22~0.45、p<0.00001)。中央値は、sac-TMT群で5.7ヵ月(95%CI:4.3~7.2)、化学療法群で2.3ヵ月(同:1.6~2.7)であった。また、すべてのサブグループにおいてsac-TMT群で改善していた。・TROP2高発現(Hスコア>200)患者において、BICRによるPFS中央値はsac-TMT群で8.3ヵ月、化学療法群で2.3ヵ月であった(HR:0.29、95%CI:0.19~0.46)。・OSは、追跡期間中央値10.4ヵ月(データカットオフ:2023年11月30日)での最初の中間解析において、sac-TMT群で有意な改善がみられ、死亡リスクが47%低下した(HR:0.53、95%CI:0.36~0.78、p=0.0005)。中央値はsac-TMT群は未到達(95%CI:11.2~NE)、化学療法群は9.4ヵ月(同:8.5~11.7)であった。・BICRによるORRは、sac-TMT群45.4%、化学療法群12.0%であった。・sac-TMTは管理可能な安全性プロファイルを示し、治療関連有害事象(TRAE)による投与中止例は1.5%だった。主なGrade3以上のTRAEは両群ともに血液毒性で、Sac-TMT群において、好中球数減少は32%(化学療法群47%)、貧血は28%(同6%)、白血球数減少は25%(同36%)に発現した。 Xu氏は、「本試験は、既治療のTNBCにおいてsac-TMTが有効な治療選択肢であることを示している」とした。現在、PD-L1陰性TNBCの1次治療におけるsac-TMT単剤での第III相試験、早期TNBCの術後補助療法におけるsac-TMT+ペムブロリズマブの第III相試験が進行中である。

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KRAS G12C変異大腸がんへのソトラシブ+パニツムマブ、OS最終解析(CodeBreaK 300)/ASCO2024

 前治療歴のあるKRAS G12C変異を有する転移大腸がん患者に対するソトラシブ+パニツムマブの有用性を検証するCodeBreaK 300試験。昨年の欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2023)では、本レジメンが医師選択化学療法群と比較して無増悪生存期間(PFS)を延長したことが報告されている。米国臨床腫瘍学会年次総会(2024 ASCO Annual Meeting)では、米国・City of Hope Comprehensive Cancer CenterのMarwan Fakih氏が、全生存期間(OS)データを含む本試験の最終解析結果を発表した。・試験デザイン:国際共同第III相非盲検無作為化比較試験・対象:化学療法抵抗性KRAS G12C変異を有する転移大腸がん患者、PS 0~2・試験群1:ソトラシブ960mgを1日1回+パニツムマブ6mg/kg(ソトラシブ960mg群)53例・試験群2:ソトラシブ240mgを1日1回+パニツムマブ6mg/kg(ソトラシブ240mg群)53例・対照群:治験責任医師が選択したTAS-102またはレゴラフェニブ(選択治療群)54例・評価項目:[主要評価項目]PFS[副次評価項目]OS、奏効率(ORR) 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中央値13.6ヵ月時点で82例が死亡した(ソトラシブ960mg群24例、ソトラシブ240mg群28例、選択治療群30例)。・OS中央値はソトラシブ960mg群で推定不能(95%信頼区間[CI]:8.6~推定不能)、ソトラシブ240mg群で11.9ヵ月(7.5~推定不能)、選択治療群で10.3ヵ月(7.0~推定不能)だった。・ソトラシブ960mg群の選択治療群に対するハザード比(HR)は0.70(95%CI:0.41~1.18)、ソトラシブ240mg群の選択治療群に対するHRは0.83(0.49~1.39)であった。・アップデートされたORRは、ソトラシブ960mg群30.2%、ソトラシブ240mg群7.5%、選択治療群1.9%だった。・奏効期間(DOR)中央値は、ソトラシブ960mg群10.1ヵ月、ほか2群は未達だった。 Fakih氏は「本試験においてOSは有意差を検出できなかったものの、ソトラシブ960mg群はOSが改善する傾向が示された。PFSおよびORRとともに、これらの結果は化学療法抵抗性KRAS G12C変異転移大腸がんに対するソトラシブ960mg+パニツムマブの使用を支持するものである」とした。

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日本人における頭痛で受診する患者としない患者の特徴

 富士通クリニックの五十嵐 久佳氏らは、頭痛で医療機関を受診した患者と受診しなかった患者の特徴を明らかにするため、観察研究を実施した。BMJ Open誌2024年4月29日号の報告。 横断的なオンライン調査および医療請求データを用いて、観察研究を実施した。オンライン調査は、2020年11月に自己記入式アンケートで実施し、2017年12月〜2020年11月の医療請求データは、DeSCヘルスケアより提供された。性別と年齢が請求データと一致した19〜74歳の回答者2万1,480人のうち、頭痛を経験した人は7,311人であった。アウトカムは、参加者の特徴、医療機関の受診状況、薬物療法、片頭痛のQOLアンケート(MSQ)Ver.2.1より測定したQOL、頭痛重症度とした。 主な結果は以下のとおり。・頭痛を経験した7,311人のうち、医療機関を受診した人は735人、6,576人は受診しなかった。・医療機関を受診した人は、受診しなかった人と比較し、次の特徴が認められた。 ●頭痛頻度が高い(頭痛頻度中央値:3ヵ月当たり10日vs.5日) ●MSQスコアが低い(MSQスコア平均値:77.1±18.1 vs.87.6±13.0) ●薬物治療なしでは頭痛重症度の中〜重度が多い(41.2%[735人中303人]vs.19.0%[6,576人中1,252人])・医師の診察を求める最も一般的な理由は、頭痛に耐えられないためであった(36.5%[735人中268人])。・痛みがひどくなかったため、医師の診察を受けなかった人は、35.3%(6,576人中2,323人)であった。・1ヵ月当たり15日以上頭痛を経験した人は、どの病院、あるいはどの診療科を受診すべきかを迷っていた。 著者らは「患者は、痛みに耐えられない場合に助けを求めるが、1ヵ月当たり15日以上の頭痛を経験してもなお、診察を受けなかった人も存在する。そのため、症状やそれに伴う負担が増大し、効果的な頭痛のマネジメントができなくなる前に、意識を高めて早期の医療機関の受診を推奨することが重要である」としている。

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閉塞性CADのない患者の予後予測、冠動脈周囲脂肪減衰指数が有用/Lancet

 冠動脈周囲脂肪減衰指数(FAI)は、とくに閉塞性冠動脈疾患(CAD)を持たない患者において、現在の臨床的リスク層別化や冠動脈コンピューター断層血管造影(CCTA)の解釈を超えた炎症リスクを捉えており、この情報を予後アルゴリズムに統合した人工知能(AI)支援リスク予測アルゴリズム(AI-Risk)とAI-Risk分類システムは、従来のリスク因子に基づくリスク評価の代替法となる可能性があることが、英国・オックスフォード大学のKenneth Chan氏らORFAN Consortiumが実施した「ORFAN試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2024年5月29日号に掲載された。英国8病院の縦断コホート研究 ORFAN試験は、英国の8つの病院で実施した縦断コホート研究であり、CCTAを受けた患者4万91例(コホートA:年齢中央値59歳[四分位範囲[IQR]:50~70]、女性46.7%)を対象とし、主要有害心イベント(MACE:心筋梗塞、新規発症心不全、心臓死)について追跡期間中央値2.7年(IQR:1.4~5.3)にわたる調査を行った(英国心臓財団[BHF]などの助成を受けた)。 追跡期間が最も長かった2施設(期間中央値7.7年[IQR:6.4~9.1])の患者3,393例(コホートB:年齢中央値62歳[IQR:50~73]、女性43.6%)において、閉塞性CADの有無別にFAIスコアの予後予測能を評価した。 次いで、同じ集団でFAIスコア、冠動脈プラーク指標、臨床的リスク因子を統合したAI強化による心臓リスク予測アルゴリズムであるAI-Riskの評価を行った。閉塞性CAD患者は18.9%のみ、心臓死、MACEとも予測能が向上 中央値2.7年の追跡期間中に、コホートAの4万91例のうち、追加の検査または介入を要した閉塞性CADは7,558例(18.9%)のみで、残りの3万2,533例(81.1%)は閉塞性CADのない患者であった。全体の心臓死数は1,754件で、このうち閉塞性CADのない患者では1,118件(63.7%)、また全体のMACE数は4,307件で、このうち閉塞性CADのない患者では2,857件(66.3%)発生した。 どの血管であれ、炎症を起こした冠動脈が1本あれば、FAIスコアの良好な予後予測能が確証された。閉塞性CADの有無にかかわらず、FAIスコアが75パーセンタイル(第3四分位数)以上の血管数が増加すると、3本の冠動脈すべてが25パーセンタイル(第1四分位数)未満の患者と比較して、心臓死(ハザード比[HR]:29.8、95%信頼区間[CI]:13.9~63.9、p<0.001)およびMACE(12.6、8.5~18.6、p<0.001)の双方のリスクが同様に上昇した。AI-Risk分類は、心臓死、MACEの発生と正の相関 AI-Risk分類システムは、心臓死(低および中リスク例と比較した超高リスク例のHR:6.75[95%CI:5.17~8.82]、p<0.001、低および中リスク例と比較した高リスク例のHR:2.47[1.77~3.45]、p<0.001)およびMACE(4.68[3.93~5.57]、p<0.001、2.33[1.89~2.87]、p<0.001)の発生と正の相関を示した。また、閉塞性CADの有無を問わず、同様の有意な結果を認めた。 著者は、「この結果は、閉塞性CADがない患者のリスク評価とその管理における、FAIスコアとAI支援リスクアルゴリズムの導入を支持し、実臨床を最適化するためのツールとしてのこれらの活用の可能性を示唆するものである」としている。

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抗ネフリン抗体、ネフローゼ症候群の活動性マーカーの可能性/NEJM

 成人の微小変化型と原発性巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)、および小児の特発性ネフローゼ症候群は、ネフローゼ症候群を引き起こす免疫介在性のポドサイト障害(podocytopathy)とされる。ドイツ・ハンブルク・エッペンドルフ大学医療センターのFelicitas E. Hengel氏らは、循環血中の抗ネフリン抗体(自己抗体)は、微小変化型または特発性のネフローゼ症候群の患者に多くみられ、これらの疾患の活動性のマーカーと考えられるとともに、スリット膜でのこの抗体の結合がポドサイト(糸球体上皮細胞[足細胞])の機能障害とネフローゼ症候群を誘発し、これは病態生理学的な意義を示すものであることを明らかにした。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2024年5月25日号で報告された。抗ネフリン自己抗体を解析する多施設共同研究 研究グループは、糸球体疾患(微小変化型、FSGS、膜性腎症、IgA腎症、抗好中球細胞質抗体[ANCA]関連糸球体腎炎、ループス腎炎など)の成人と特発性ネフローゼ症候群の小児、および対照群において、抗ネフリン自己抗体を解析する目的で多施設共同研究を行った(ドイツ研究振興協会[DFG]などの助成を受けた)。 また、遺伝子組み換えマウスネフリンを用いた能動免疫法により実験的マウスモデルを作製して解析を行った。 539例(成人357例、小児182例)の患者と117例の対照を解析の対象とした。成人微小変化型の44%、原発性FSGSの9%、小児特発性ネフローゼ症候群の52%で検出 成人患者では、微小変化型の105例中46例(44%)、および原発性FSGSの74例中7例(9%)で抗ネフリン自己抗体を検出したが、他の疾患の患者ではまれであった。 また、特発性ネフローゼ症候群の小児患者では、182例中94例(52%)で抗ネフリン自己抗体を検出した。 一方、免疫抑制療法を受けていない活動性の微小変化型および特発性ネフローゼ症候群のサブグループでは、それぞれ69%および90%と高い確率で抗ネフリン自己抗体を認めた。ネフリンを標的とした治療法開発の可能性も 抗ネフリン自己抗体の値は、成人、小児患者とも、試験開始時と追跡期間中に疾患活動性と相関を示した。 実験的な免疫法により、マウスにおいて、ネフローゼ症候群、微小変化型様の表現型、ポドサイトのスリット膜へのIgGの局在、ネフリンのリン酸化、重度の細胞骨格の変化を誘導することが示された。 著者は、「抗ネフリン自己抗体の測定は、微小変化型および特発性ネフローゼ症候群の診断、治療評価、予後予測において有用なツールになると考えられる。また、ネフリンを標的とした治療法の開発にも貢献する可能性がある」としている。

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90%近くの米国成人が心血管・腎・代謝(CKM)症候群に該当

 米国の20歳以上の成人の10人中9人が、心血管・腎・代謝症候群(cardiovascular-kidney-metabolic syndrome;CKM症候群)の初期から後期の段階にあり、10%近くはすでに心血管疾患(CVD)を発症しているとする研究結果が報告された。米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院とハーバード医学大学院のMuthiah Vaduganathan氏らによるこの研究は、「Journal of the American Medical Association(JAMA)」に5月8日掲載された。 CKM症候群は、米国心臓協会(AHA)により新たに提唱された疾患概念で、肥満や糖尿病などの代謝リスク因子、慢性腎臓病(CKD)、および心不全・心房細動・冠動脈疾患・脳卒中・末梢動脈疾患などのCVDの関連に起因する健康障害と定義される。CKM症候群は、次の4つのステージに分けられる。・ステージ1:体内に健康不良のリスク因子である脂肪が過剰に蓄積する。・ステージ2:高血圧、高コレステロール、糖尿病などの代謝リスク因子が顕在化するとともに、CKDリスクが中等度から高度になる。・ステージ3:高度の腎臓病リスク、および/または、今後10年以内にCVDの診断を受けるリスクが高まる。・ステージ4:腎臓病の有無にかかわらずCVDの診断を受ける。 研究グループは今回の研究で、2011年から2020年までの米国全国健康栄養調査(NHANES)のデータを分析し、上記の4つのステージに該当する20歳以上の米国成人の数を概算した。対象者は1万762人(平均年齢47.3±17.0歳、女性51.8%)であった。 その結果、研究対象期間中にCKM症候群に該当しなかった(ステージ0)対象者の割合はわずか10.6%であり、25.9%がステージ1、49.0%がステージ2、5.4%がステージ3、9.2%がステージ4に該当することが明らかになった。これらの数値は、9年間の研究期間を通じてほぼ横ばいであったという。 また、想像される結果ではあるが、CKM症候群の重症度は年齢とともに上昇する傾向があることも示された。ステージ3とステージ4を合わせた「進行したCKM症候群」に該当する対象者の割合は、65歳以上では55.3%であったのに対し、45〜64歳では10.7%、20〜44歳では2.1%であった。ただし、20〜44歳の人でもリスクは高く、ほとんど(81.8%)が、すでにこれらの心臓と腎臓のリスク因子の影響を受けていることを意味するステージ1〜4に分類された(ステージ1:36.6%、ステージ2:43.2%、ステージ3:0.1%、ステージ4:1.9%)。さらに人種も重要な因子であり、黒人は白人に比べて進行したCKM症候群であるリスクが38%高かった。 研究グループは、黒人の間でCKM症候群が広がっていることを指摘し、「心血管、腎臓、代謝の健康を優先させる公平なヘルスケアアプローチが喫緊に必要とされている」と結論付けている。

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ハゲタカジャーナルの査読をしているのは誰?【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第258回

ハゲタカジャーナルの査読をしているのは誰?世の中にはハゲタカジャーナルというものがあります。著者が論文投稿料を支払うことで、誰でも論文を読むことができるオープンジャーナルのモデルを悪用した医学雑誌のことで、すみやかに出版したい著者をだまして高額な投稿料をせしめるとんでもないジャーナル群のことを指します。ハゲタカジャーナルは、査読は形式的に行われるか、あるいはまったく行わないため、投稿された論文の質は極めて低いものが多いです。そんなハゲタカジャーナルにまつわる珍しい論文を紹介しましょう。Severin A, et al. Characteristics of scholars who review for predatory and legitimate journals: linkage study of Cabells Scholarly Analytics and Publons data.BMJ Open. 2021 Jul 21;11(7):e050270.この論文はPublonsに登録された査読が対象となっています。Publonsは世界における査読者の査読実績を集める事業を展開しています。Publonsのアカウントを取得した研究者は、Publonsに自分が担当した論文の査読歴を登録・管理することができます。まあ、この事業のことは今回の本旨とは異なりますので割愛します。この論文では、1万9,598人のレビュアーによってPublonsに投稿された18万3,743件の査読が分析対象となりました。このうち、6,077件のレビューがハゲタカジャーナル(1,160誌が該当)に対するもの(レビュー全体の3.31%)、17万7,666件のレビューが非ハゲタカジャーナル(6,403誌が該当)に対するもの(96.69%)であることがわかりました。全体の90%の査読者は、これまでハゲタカジャーナルに関与したことはない、と回答しています。ハゲタカジャーナルの査読を行っている人は、学歴が若く、研究・出版物や査読数自体も少ないということがわかりました。つまり、まだまだ研究の世界では未熟とされる若者たちが査読を行っているという現状が浮き彫りになったわけです。また、ハゲタカジャーナルの査読のほとんどが、アフリカから行われていることも示されています。査読というのは、闇が存在します、闇が。私のもとにもハゲタカジャーナルの査読依頼はよく来ますが、すべて断っています。というか、スパムメールフォルダに入っているので、基本的に無視しています。

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