サイト内検索|page:26

検索結果 合計:36020件 表示位置:501 - 520

501.

日帰り経カテーテル大動脈弁置換術の安全性は?

 心臓弁置換術を受ける一部の患者は日帰り手術できる可能性のあることが、新たな研究で示された。経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)の実施日に退院した患者と、健康状態の懸念から入院継続となった「同日退院の適格者」との間で、予後に差は認められなかったという。英ジェームズ・クック大学病院の循環器専門医であるKrishnarpan Chatterjee氏らによるこの研究は、欧州心臓病学会(ESC)の部会の一つであるEuropean Association of Percutaneous Cardiovascular Interventions(EAPCI)が主催する「EAPCI Summit 2026」(2月19〜20日、ドイツ・ミュンヘン)で発表された。 TAVIは、鼠径部の大腿動脈からカテーテルを挿入し、大動脈弁部まで進めて人工弁を留置する治療法である。Chatterjee氏は、「TAVI後の翌日退院は、技術の進歩やケアパスウェイ(ケアの計画)の効率化によって、近年広がりつつある。同日退院は、その次のステップだ。これは、厳密な基準で選ばれた患者においては安全であることが示されている」と述べている。 この研究では、2018年6月から2024年12月までの間にTAVIを受けた790人の患者の記録を調査した。このうち279人(35.3%)は、初期スクリーニングで、重度の末梢血管疾患がなく、すでにペースメーカーを植え込み済みか心拍リズムが正常で、手術当日の夜に自宅でのサポートが確保できることから、同日退院の適格基準を満たす患者と判断された。しかし、実際に予定通りに同日退院できたのは160人(57.3%)にとどまり、残りの患者は、不整脈、血管の問題、その他の健康上の理由で、医師により入院継続と判断された。同日退院した患者の平均年齢は80.4歳で、40%が女性であった。 同日退院群と入院継続群の臨床アウトカムを比較した結果、30日以内の死亡率は、同日退院群で1.8%、入院継続群で0.8%、30日以内の再入院率はそれぞれ4.4%と9.2%であり、いずれについても両群間に統計学的な有意差は認められなかった(P=0.472、P=0.102)。 Chatterjee氏は、「患者を慎重に選定すれば、TAVIを受けた患者の約5人に1人が、合併症リスクを増加させることなく安全にその日のうちに退院できることが示された。同日退院により、入院に伴う感染症やせん妄といった合併症のリスクが低下するため、この結果は患者にとって重要だ。また、医療資源の使用の削減にもつながる。同日退院に関するさらなる研究が必要だ」と述べている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

502.

鉄腕の鼓動、語源の深淵 ―「アトム」からひもとく外科の三種の神器―【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第94回

黎明の光を纏った少年ロボット幼い頃、私はテレビの前に正座し、画面の隅々まで吸い込まれるように見つめていました。その中心でひときわ輝いていたのが、大空を自由に切り裂いて飛ぶ一人の少年ロボットです。「空をこえて、ラララ星のかなた……♪」。『鉄腕アトム』。主題歌の第一声は、未来への扉を押し開く福音のように響きました。手塚 治虫が生み出したのは、小さな機械の体に限りない正義と慈愛を宿す少年。歩くたびに響く「キュッポ、キュッポ」という足音は、無機質でありながら、人間以上に温かな生命のリズムを刻んでいました。あの時代、彼に胸を焦がした記憶は、私を含めた同世代の原風景と言ってよいでしょう。原子に託された「未来」の記憶主人公の名は「アトム(原子)」、妹は「ウラン」。この兄妹の名は象徴的でもあります。アトムの初出は1951〜52年の『アトム大使』、続く『鉄腕アトム』の連載は1952年、アニメ放送は1963年──広島・長崎の悲劇から決して遠くない時代です。凄惨な記憶を抱えた戦後日本にとって「原子力」という言葉は、破壊の象徴から「未来を照らすエネルギー」への転換を模索していました。アトムという名は、重い歴史を背負った国が希望を託した光の象徴でもあったのです。「分かつこと能わざる」語源の旅「atom(原子)」という語の由来は古代ギリシャ語の「ἄτομος(atomos)」。否定を表す「a-」と、「切る」を意味する「tomos」が組み合わさり、本来は「これ以上分割できないもの(uncuttable)」を意味します。デモクリトスらが物質の最小単位を示す語として用いたと言われています。医学・科学の世界でも、否定の接頭辞「a- / an-」は頻繁に姿を現します。apnea(無呼吸)は「呼吸(pnea)がない」状態、anemia(貧血)は「血液の状態(-emia)がない」こと。leukemia(白血病)や hyperglycemia(高血糖)にも、この「血液」を意味する「-emia」の響きが通奏低音のように流れています。外科語彙を司る「三種の神器」さらに医学用語を探れば、アトムの語源にも潜む「tomos(切る)」の概念が、臨床の最前線で息づいていることに気付きます。とくに「切開(-tomy)」「切除(-ectomy)」「造設(-stomy)」は、外科語彙の“三種の神器”とも呼ぶべき存在です。1.-ectomy(切除・摘出)gastrectomy(胃切除)や hysterectomy(子宮切除)。「外へ(ec- / ex-)」+「切る(tomy)」で、「切って取り出す」という不可逆的な手技を示します。2.-tomy(切開)laparotomy(開腹)や tracheotomy(気管切開)。最も原初的で、「切り開く」という操作そのものを表します。3.-stomy(造設)ギリシャ語 stoma(口)を語源とし、「切って新たな“口(開口部)”をつくる」操作。gastrostomy(胃瘻造設)、tracheostomy(気管孔造設)などが代表例です。語尾がわずかに異なるだけで、「切る」「切って出す」「切って作る」という医師の目的が、霧が晴れるように浮かび上がります。切れない想い、切れない「アトム」外科語尾を一つひとつ辿るだけで、これほど豊かな知の風景が広がります。医学用語の語源とは、実に奥深いものです。もっとも、私は循環器内科医であり、日々メスを振るう心臓血管外科医ではありません。「切る」の定義を熱心に語っていると、同僚からは「君はそんなに切らないではないか」と苦笑されるかもしれません。しかし、案ずることはありません。幼いころに憧れたあの少年は──atomos、すなわち“決して切れぬもの”であるのだから。その足音は今も、胸のどこかで「キュッポ、キュッポ」と響いています。

503.

高血圧管理・治療ガイドライン2025(4):孤立性拡張期高血圧【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q162

高血圧管理・治療ガイドライン2025(4):孤立性拡張期高血圧Q162診療所へとくに既往のない35歳男性が高血圧の相談で受診した。家族が高血圧症で自宅に血圧計があることから、律儀に自分も一緒に血圧を測定していたという。家庭血圧の平均をとると130/100mmHgと拡張期血圧が高い。とくに自覚症状はなく、特筆すべき家族歴もない。介入をどうしようか。

504.

1日1回経口投与の片頭痛発作の発症抑制薬「アクイプタ錠60mg/30mg/10mg」【最新!DI情報】第59回

1日1回経口投与の片頭痛発作の発症抑制薬「アクイプタ錠60mg/30mg/10mg」今回は、経口CGRP受容体拮抗薬「アトゲパント水和物(商品名:アクイプタ錠60mg/30mg/10mg、製造販売元:アッヴィ)」を紹介します。本剤は、1日1回経口投与の片頭痛の予防治療薬です。片頭痛発作の発症を抑制することで、患者さんの健康や生活の質の向上、社会における生産性の向上が期待されています。<効能・効果>片頭痛発作の発症抑制の適応で、2026年2月19日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>通常、成人にはアトゲパントとして60mgを1日1回経口投与します。なお、本剤投与開始後3ヵ月を目安に治療上の有益性を評価して症状の改善が認められない場合には、本剤の投与中止を考慮します。3ヵ月以降も本剤投与を継続する場合には、定期的に投与継続の要否を検討し、頭痛発作発現の消失・軽減などにより日常生活に支障を来さなくなった場合には、本剤の投与中止を考慮します。<安全性>重大な副作用として、過敏症反応(頻度不明)があります。その他の副作用として、悪心、便秘、食欲減退、傾眠、体重減少、ALT/AST増加(いずれも1%以上)、疲労、そう痒症(いずれも0.1~1%未満)があります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、経口CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)受容体拮抗薬で、片頭痛発作の発症抑制に用いられます。片頭痛発作時の治療だけでは日常生活に支障を来している人に使用されます。2.CGRPがCGRP受容体へ結合することを阻害し、片頭痛に関与するシグナルの伝達を阻害することで、片頭痛発作の発症を抑制します。3.この薬は起こってしまった頭痛発作を和らげる薬ではないので、この薬を服用中に頭痛発作が起こった場合には、必要に応じて頭痛発作治療薬を頓用で使用してください。<ここがポイント!>片頭痛は慢性の神経疾患であり、わが国における15歳以上の有病率は8.4%と報告されています。片頭痛が日常生活に及ぼす影響は、「いつも寝込む」が4%、「ときどき寝込む」が30%、「寝込まないが支障あり」が40%であり、全体の74%が何らかの形で日常生活に支障を来しています。このように日常生活への影響が認められる場合は、積極的な治療介入が必要です。片頭痛の治療は、発作に対する急性期治療および予防療法に大別されます。急性期治療薬としては、アセトアミノフェンやNSAIDs、トリプタン系薬剤、ラスミジタン、リメゲパント、エルゴタミン、制吐薬などが用いられます。予防療法は、片頭痛発作が月に2回以上、あるいは生活に支障を来す頭痛が月に3日以上認められる患者において、積極的に実施を検討する必要があります。CGRPは、片頭痛の病態において重要な役割を果たす神経ペプチドです。三叉神経終末から放出されたCGRPがCGRP受容体に結合することで、硬膜血管周囲の血管拡張や神経原性炎症を引き起こし、片頭痛発作につながります。アトゲパント水和物は選択的経口CGRP受容体拮抗薬であり、CGRPの作用を阻害することで血管拡張や炎症を抑制し、片頭痛発作を予防します。本剤は経口CGRP受容体拮抗薬としてはリメゲパントに次ぐ2番目の薬剤ですが、今回承認された適応症は「片頭痛発作の発症抑制」のみであり、急性期治療に使用できない点に注意が必要です。なお、2025年12月に片頭痛発作の急性期治療に関する製造販売承認申請が行われており、近いうちに急性期治療にも使用できる可能性があります。本剤を調剤する際は、常に最新の情報を確認し、適応症を把握したうえで処方監査を行うことが重要です。慢性片頭痛患者を対象とした国際共同第III相試験(PROGRESS:3101-303-002試験)において、主要評価項目である投与開始12週間における平均月間片頭痛日数(MMD)のベースラインからの変化量は、本剤60mg群で-6.88日(95%信頼区間[CI]:-7.67~-6.08)、プラセボ群との差は-1.82日(95%CI:-2.89~-0.75)であり、プラセボ群に対する優越性が検証されました(p<0.001)。また、日本人反復性片頭痛患者を対象とした国内第II/III相試験(RELEASE:M22-056試験)においても、投与開始12週間における平均MMDのベースラインからの変化量は、本剤60mg群で-3.34日(95%CI:-3.83~-2.85)、プラセボ群との差は-2.10日(95%CI:-2.78~-1.43)であり、プラセボ群に対する優越性が検証されました(p<0.001)。

505.

無症候性細菌尿か判断しにくい患者、治療要否はどう考える?【Dr.山本の感染症ワンポイントレクチャー】第23回

Q23 無症候性細菌尿か判断しにくい患者、治療要否はどう考える?寝たきり、認知機能障害、膀胱機能低下などで、無症候か否か判断しにくい患者における細菌尿の治療の要否について教えてください。

506.

第310回 早漏のスマホアプリ治療で射精までの時間が2倍も延長

世界の男性の実に3人に1人近く1)に認められる早漏を治療するスマートフォンアプリの効果が、ドイツでの無作為化試験2)で示されました3,4)。意に反して挿入からたいてい1分と経たず射精してしまう早漏は寄り添う2人にとって厄介な問題で、人それぞれさまざまな負担を被ります。局所麻酔や選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)服用などの治療があるといえばあるものの、効果はその場限りであって都度使用しなければなりませんし、副作用の心配もあります。決め手となる治療がないこともあってか病院に出向く早漏男性は少なく、10人に1人足らずです。試験で検討されたスマートフォンアプリのMelongaは、心理学者と泌尿器科医が誂えた課題の実行を早漏男性に指南します。早漏などの肩身の狭い思いをさせる病気を治療する情報技術やソフトウェアに取り組むオランダのPrognoix社によって開発されました。Melongaが指南するのは射精を察知する訓練、骨盤底の鍛錬、瞑想法(mindfulness)、考えや振る舞いを改めるようにする認知行動療法です。射精を堪えられなくなる段階を男性が認識できるようにし、呼吸、リラックスすること、止めたり始めたりすることで性的興奮を軽減させる術を身に付けさせます。加えて、連れ合いとの意思疎通を後押しし、ネガティブな思考パターンの解消を促します。試験に参加した男性80例は、12週間Melongaを使用する群か、まずは使わず12週間後に使えるようになる対照群のいずれかに無作為に割り振られました。性交の塩梅についての問い一揃いへの回答を一通り済ませた66例のうち、Melonga使用患者は挿入から射精までの時間が2倍ほど長くなりました。もとは平均1分程度(61秒)だったのが12週間後には2分超(125秒)に延長していました。アプリ非使用患者の挿入から射精までの時間はほとんど変化せず、1秒に満たない0.5秒上昇したのみでした。Melonga使用男性は射精の制御がだいぶ改善し、射精と関連する心配が減り、パートナーとの関係の支障が減ったと報告しました。また、挿入から射精までの時間の延長と関連して性交をより楽しめるようになりました。そして何よりなことにMelonga使用男性の4人に1人に近い22%は、12週時点の自己評価でもはや早漏ではなくなっていました。試験結果は欧州泌尿器科学会(EAU)の年次総会で発表されました。挿入から射精までの時間がほんの1~2分でも延びることは大成功であり、およそ4人に1人を早漏から解放したMelongaの効果は絶大だとEAUの一部門の長を務めるイタリアのGiorgio Russo氏は述べています4)。Russo氏はより大規模な試験でさらなる裏付けが得られることを期待しています。また、デジタル技術がその使用者の連れ合いの満足度にもたらす効果にも期待を寄せています。早漏治療アプリはすでに山ほどありますが、Melongaとは異なり、どれも対照試験で検討されてはいません4)。Melongaは試験が実施されたドイツをはじめ、アイルランド、オーストリア、ルクセンブルク、リヒテンシュタイン、ベルギーで利用可能となっています。参考1)Carson C, et al. Int J Impot Res. 2006;18:S5-13.2)CLIMACS(CLinical efficacy and systemic Improvements for MAnagement of premature ejaCulation Symptoms using a digital application) / German Clinical Trials Register3)Press release: Smartphone app can help men last longer in bed, finds research / European Association of Urology4)A smartphone app can help men last longer in bed / NewScientist

507.

うつ病診療ガイドラインの効果的な使い方

 日本うつ病学会は、2025年12月25日に『うつ病診療ガイドライン2025』1)を公開した。そこで、本ガイドラインの改訂のポイントについて、作成ワーキンググループの代表・責任者を務める加藤 正樹氏(関西医科大学医学部精神神経科学講座)、統括を務める渡邊 衡一郎氏(杏林大学医学部精神神経科学教室)、馬場 元氏(順天堂大学医学部附属順天堂越谷病院メンタルクリニック)の3名に話を聞いた。「改訂の背景と概要、重症度別の治療」について取り上げた前編に続き、後編では「治療過程のフェーズ別の治療、サブタイプ・ライフステージ別の治療」について、紹介する。難治例の新たな概念「DTD」 これまで、標準的な抗うつ薬治療を行っても改善しない症例は「治療抵抗性うつ病(Treatment Resistant Depression:TRD)」と呼ばれてきた。TRDは主に「2剤以上の抗うつ薬に反応しない」という薬剤への反応性に焦点を当てた定義である。これに対し、本ガイドラインでは「難治性抑うつ(Difficult-to-Treat Depression:DTD)」という概念を導入した。DTDは、単なる薬剤抵抗性だけでなく、機能回復の遅れ、副作用による治療困難、再発頻度なども包括した、より広い臨床概念である。この概念の導入について、加藤氏は「こだわったポイントの1つ。従来のTRDよりも幅広く、社会機能が戻らない、副作用で薬が使いにくい、再燃を繰り返すといったケースも含めて対策を考えようというものである」と語った。 本ガイドラインでは、「初期治療」、初期治療で十分な効果が得られなかった場合の「後続治療」、「さらなる段階の治療」、寛解を維持するための「維持期治療」という縦軸を採用している。DTDには「後続治療」「さらなる段階の治療」の2つが含まれる。これは、従来のTRDとは異なり、再燃・再発が反復する不安定な経過を有する患者、抗うつ薬の忍容性に問題がある患者なども包含する。 後続治療について、渡邊氏は「1剤目が効かなかった場合に、治療の強化が注目されがちであるが、まずは効果や副作用、服薬アドヒアランスなどを確認してほしい」と指摘する。具体的な確認事項については「半年で約半数が服用しなくなるというデータもあるため、そもそも薬を服用していない可能性もある。また、初期用量からの増量が行われず、適切な用量に至っていない場合もあるため、用量の確認も必要だ」と述べる。このようなことをすべて確認したうえで、薬剤の増量や変更、薬剤の追加、精神療法の付加などを検討することが、後続治療の基本となる。ライフステージ別の治療戦略は? 今回の改訂において「児童・思春期」「周産期」「老年期」の各ライフステージについて独立した章が設けられた。その背景について、馬場氏は「それぞれのステージで配慮すべき事柄が多く、それぞれ大きく異なる。しかし、臨床試験ではこれらの集団は除外されていることが多い。そこで、一般成人と同じ治療戦略で良いのかという疑問に答える必要があった」と述べる。<児童・思春期> 児童思春期のうつ病は、成人のような抑うつ気分よりも「易怒性」として表現されることが多い。馬場氏は「これを知らないとそもそも診断に至らない」と指摘する。治療においては、環境調整や心理教育などの基礎的介入、精神療法が優先され、新規抗うつ薬の使用は「選択肢のひとつ」にとどまる。<周産期> 周産期のうつ病は、強い不安、幻覚・妄想といった精神症の症状など、特有な精神症状を伴うことがある。約10%が周産期に抑うつを経験するとされ、重要な集団といえる。治療については、中等度以上であれば抗うつ薬を「使用することを弱く推奨する」としている。授乳中についても、母乳への移行率が低い薬剤が多く、抗うつ薬を「使用することを提案する」としている。なお、本ガイドラインには、母乳への移行率を示す相対的乳児投与量をまとめた表が掲載されているため、参考にされたい。周産期の治療について、馬場氏は「胎児の奇形リスクや発達への影響はほとんど上昇せず、逆に治療しないリスクの方が高いというエビデンスがある。授乳中の服薬についても、母乳への移行が少ない薬剤が多く、使用を提案している」と述べた。<老年期> 高齢者では、身体疾患や脳器質性疾患による抑うつ状態、低活動性せん妄、アパシー(意欲低下)などがみられることがあり、鑑別が重要となる。また、高齢者の場合は薬物治療による有害事象も発現しやすいため注意が必要である。これについて、馬場氏は「高齢者の場合は、薬物治療を控えたほうが良いのではないかと考える方もいるかもしれないが、中等度以上の場合は、抗うつ薬治療を行うことが強く推奨されている」と述べ、有害事象に注意しながらも、適切な治療を検討することの重要性を指摘した。 ライフステージについて、馬場氏は「中等度以上のうつ病に対する薬物療法をみても、児童・思春期では『選択肢のひとつ』、周産期であれば『弱く推奨する』、老年期では『強く推奨する』と異なっており、ライフステージに対する配慮が必要である」と語った。ガイドラインの効果的な使い方 馬場氏は「ガイドラインは治療を決定するルールブックではなく、治療方針を患者と一緒に決めるために情報を共有するツールである」と強調する。たとえば、重症度が中等度で、ライフステージは老年期に該当し、不眠症状を伴う患者の例を考える。この場合は、中等度/重度に関するClinical Question(CQ)3、老年期に関するCQ6、不眠症状に関するCQ8が該当する。これらの情報を患者と共有して、SDMを行う。 実際に各CQをみると、CQ3では新規抗うつ薬による単剤治療が強く推奨され、ベンゾジアゼピン系抗不安薬・睡眠薬の併用療法を行わないことが弱く推奨されている。老年期に関するCQ6でも、新規抗うつ薬による単剤治療が強く推奨され、睡眠に関する記載はない。一方で、不眠症状に関するCQ8では、まずは睡眠衛生指導を行ったうえで、必要があれば抗うつ薬に睡眠薬を併用することが弱く推奨されている。これらの情報を患者と共有したうえでの治療方針の一例として、馬場氏は「新規抗うつ薬を使い、不眠に対しては睡眠衛生指導を実践してみよう。それでも不眠が改善しない場合は、ベンゾジアゼピン系以外の睡眠薬を併用しようといった選択が考えられるのではないか」と述べた。 本ガイドラインは膨大な情報を含むが、実臨床での使いやすさを重視して設計されている。各章にCQX-1(治療開始に際して考慮すべきこと)とCQX-2(治療概説)が配置され、ここを参照するだけで標準的な診療方針が把握できるようになっている。そのため馬場氏は、非専門医の先生方に向けた活用法として「まずは第1章を読んでうつ病診療の原則を理解していただきたい。そのうえで、実際の診療では該当する章の『CQX-1』と『CQX-2』だけでも見ていただければ、適切な診療方針が立てられる」と活用法を述べた。

508.

日本の実臨床における片頭痛予防薬CGRP関連抗体の治療継続率は

 カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)関連抗体は、片頭痛治療に有効な注射剤である。名古屋大学の種井 隆文氏らは、日本の実臨床におけるCGRP関連抗体治療の継続率、再開率、中止率を評価するため本研究を実施した。Neurology International誌2025年12月24日号の報告。 対象は、CGRP関連抗体治療を開始後3ヵ月以上のフォローアップ調査を受けた未治療の片頭痛患者。CGRP関連抗体治療の継続、中止、再開の決定は、患者の自由意思に基づいて行われた。頭痛影響テスト-6(HIT-6)および片頭痛特異的QOL質問票(MSQ)は、治療開始前および各CGRP関連抗体の使用から1ヵ月後に実施された。評価項目は、治療開始後の治療継続率、再開率、中止率、HIT-6スコアおよびMSQスコアの変化、再開群と中止群における背景因子の違いとした。 主な結果は以下のとおり。・片頭痛患者1,162例のうち146例が解析対象となった。・CGRP関連抗体治療後の3、6、9、12、18、24ヵ月の時点での継続率は、それぞれ93.2%、80.2%、68.9%、58.8%、55.4%、51.7%であった。・CGRP関連抗体治療を中断した患者における再開率は76.8%、中止率は20.7%であった。・HIT-6スコアおよびMSQスコアは、CGRP関連抗体治療前と比較して、すべての評価時点で有意な低下が認められた。・再開群と中止群の間で統計学的に有意な背景因子の違いは認められなかった。 著者らは「患者が自由に治療を選択できる実臨床の状況においては、CGRP関連抗体治療開始後12ヵ月時点での継続率は58.8%であり、24ヵ月後も半数以上の患者が治療を継続していた。また、再開率は76.8%、中止率は20.7%であった」と報告している。

509.

小児のドラベ症候群、zorevunersenが有望/NEJM

 ドラベ(Dravet)症候群は、主にSCN1A遺伝子のハプロ不全によって引き起こされる重篤な発育性てんかん性脳症であり、てんかんを有する一般集団と比較して、てんかんによる予期せぬ突然死および認知機能障害のリスクが高いとされる。米国・Northwestern University Feinberg School of MedicineのLinda Laux氏らは、2つの臨床試験(MONARCH試験およびADMIRAL試験)と、その延長試験(SWALLOWTAIL試験およびLONGWING試験)において、zorevunersenの投与により、痙攣発作の頻度が大幅に低下し、有害事象の多くは軽度または中等度であったことを示した。zorevunersenは、ドラベ症候群の基盤となるチャネル病(channelopathy)を標的とし、NaV 1.1ナトリウムチャネルの発現を亢進するようデザインされたアンチセンスオリゴヌクレオチドである。研究の成果は、NEJM誌2026年3月5日号に掲載された。米国と英国の非盲検第I/IIa相試験+延長試験 MONARCH試験およびADMIRAL試験は、それぞれ米国および英国で実施した多施設共同非盲検第I/IIa相試験(Stoke Therapeuticsの助成を受けた)。MONARCH試験は2~18歳、ADMIRAL試験は2~<18歳のドラベ症候群で、標準的な抗痙攣薬による治療を受けている患者を対象とした。 MONARCH試験は、単回投与の用量漸増コホート(5つの用量[10、20、30、45、70 mg]のzorevunersenを1日目に髄腔内投与)および複数回投与の用量漸増コホート(3つの用量[20、30、45mg]のzorevunersenを1、29、57日目に髄腔内投与)から成る。ADMIRAL試験は、複数回投与の用量漸増コホート(3つの用量[30、45、70mg]のzorevunersenを1、57、85日目に髄腔内投与)を擁する。 これらの試験を完了し、適格基準を満たした患者を、それぞれの非盲検延長試験であるSWALLOWTAIL試験およびLONGWING試験に登録し、4ヵ月ごとにzorevunersen(≦45mg)の投与を継続した。 主解析では、zorevunersenの安全性と薬物動態を評価し、臨床効果の評価も行った。腰椎穿刺後症候群が25%に発現 2つの第I/IIa相試験に合計81例(平均年齢9.9[±5.1]歳、女児40例[49%])を登録し、2025年5月30日現在、延長試験に合計75例(10.4[±5.0]歳、37例[49%])を登録した。第I/IIa相試験のベースラインにおいて、患者の81%が3種以上の抗痙攣薬の投与を受けていた。 第I/IIa相試験の78例(96%)および延長試験の75例(100%)に有害事象が発現したが、ほとんどが軽度または中等度であった。第I/IIa相試験で最も頻度の高かった有害事象は腰椎穿刺後症候群(25%)であり、延長試験では脳脊髄液(CSF)中タンパク質濃度上昇(45%)の頻度が最も高かった。 予期せぬ重篤な有害反応が疑われる患者が1例、試験中止に至った有害事象が1例、てんかんによる予期せぬ突然死が2例、栄養失調による死亡が1例に認められた。 複数回投与の用量漸増コホートでは、最終投与後3ヵ月時のCSF中zorevunersen濃度が、初回または2回目投与後1ヵ月時よりも高値を示した。この所見は、月1回または2ヵ月ごとの投与で、CSF中へのzorevunersenの蓄積が生じることを示唆する。延長試験で、臨床状態、生活の質、適応行動も改善 第I/IIa相試験でzorevunersen 70mgを投与され、その後延長試験で最大45mgの投与を受けた患者では、延長試験開始後20ヵ月間における、1ヵ月ごとの痙攣発作の頻度のベースラインからの変化量中央値は、-58.82%から-90.91%の範囲にあり、どの時点でも大幅に低下していた。 延長試験における最長36ヵ月間の継続治療では、全般的な臨床状態、生活の質、適応行動の改善が、データによって裏付けられた。 著者は、「患児の介護者は、新しい治療法では発作以外の症状の緩和が重要と指摘しており、zorevunersenによる全般的な臨床状態や適応行動の変化について、さらなる検討を進める必要がある」「本研究の良好な安全性プロファイルと初期の臨床的改善は、ドラベ症候群に対する疾患修飾治療薬として、zorevunersenの開発を続けることを支持するものである」としている。 現在、zorevunersenの初回投与量70mg、継続投与量45mgによる第III相試験が進行中だという。

510.

老いに対する不安が老化を加速させる可能性も

 「心配ばかりしているとしわが増える」と言われるが、その影響は、しわの増加だけにはとどまらないかもしれない。新たな研究で、年を取ることに対して不安を抱いている女性は老化が早く、老化への恐れが細胞レベルでの老化を加速させていることが示唆された。米ニューヨーク大学(NYU)グローバル公衆衛生学大学院のMariana Rodrigues氏らによるこの研究は、「Psychoneuroendocrinology」2月号に掲載された。Rodrigues氏らは、「老いへの恐れは、その人の実年齢の積み重ねよりも速いスピードで身体の老化を招くことが分かった」と結論付けている。 Rodrigues氏は、「われわれの研究は、主観的な体験が老化の客観的な指標に影響を及ぼしている可能性があることを示唆している。老化に対する不安は、単なる心理的問題ではなく、実際に健康への影響を伴いながら身体に痕跡を残すのかもしれない」とニュースリリースの中で指摘している。 今回の研究では、米国の中年層を対象としたMidlife in the United States(MIDUS)研究に参加した726人の女性のデータを用いて、老化に対する不安と生物学的老化との関連が評価された。老化に対する不安は、魅力度の低下、健康状態の低下、生殖機能の老化の3つの領域で測定された。また、生物学的年齢は、第2世代のエピジェネティック指標であるGrimAge2、DunedinPACEを用いて評価された。 その結果、健康が衰えることへの不安が強いほど、DunedinPACEが0.07標準偏差(SD)高く、これは統計学的に有意であった。しかし、飲酒や喫煙などの健康行動を調整すると、有意性は失われた。このことから、健康の衰えに対する不安が強い人の健康行動の変化が老化速度に影響している可能性が示唆された。また、加齢に対する不安の累積量が多いことも、DunedinPACEの0.07SD高いことと有意に関連していた。しかし、慢性疾患や健康行動を調整すると、関連は有意ではなくなった。一方で、女性としての魅力が失われることや妊孕性の低下に対する不安は、老化の加速には関連していなかった。研究グループは、「これは、健康に関する不安は長期にわたって持続しやすい一方で、美しさや妊孕性に関する不安は年齢とともに薄れていくためかもしれない」との見方を示している。 Rodrigues氏らはこの分析結果について、「精神的な健康状態と身体的な健康状態が生涯にわたって密接に結び付いていることを改めて示したものだ」と説明している。またRodrigues氏は、「中年期の女性は、年老いた親の介護など複数の役割を担っている可能性もある。家族が年齢を重ね、病気になるのを目の当たりにすることで、自分にも同じことが起こるのではないかと心配する人がいるのかもしれない」と言う。 論文の上席研究者でNYUグローバル公衆衛生大学院社会・行動科学分野のAdolfo Cuevas氏は、「われわれの研究によって、老いに対する不安は老化の生物学的な仕組みを形作っていると考えられる、測定可能かつ修正可能な心理的要因であることが明らかになった」とニュースリリースの中で述べている。ただし研究グループは、老化速度に影響する要因が他にも存在する可能性は除外できないとして、慎重な解釈を求めている。 研究グループは、不安がもたらすこのような潜在的な影響について、今後さらなる研究で調べる必要があるとの見解を示している。Rodrigues氏は、「誰もが老化を経験する。われわれは、社会が規範や構造的要因、人間関係を通じて老いの課題にどのように向き合うのかについて、議論を始める必要がある」と話している。

511.

がん患者の心血管疾患リスクに糖尿病が影響か

 がん治療の進歩により、生存期間が延びる患者が増える一方で、治療後に心血管疾患(CVD)を発症するリスクが新たな課題として注目されている。しかし、どのような患者がCVDを発症しやすいのかは、十分に明らかになっていない。今回、大阪府の大規模がん登録データを用いた解析で、がんの初回診断時に糖尿病を併存する患者では、CVDの新規発症および全死亡リスクが有意に高いことが示された。研究は、大阪国際がんセンターがん対策センターの桒原佳宏氏、宮代勲氏らによるもので、詳細は1月22日付で「PLOS One」に掲載された。 がん治療の進歩により生存期間が延び、がんサバイバーが増加する一方、がんとCVDは共通の危険因子を多く持ち、治療自体もCVDリスクを高めることから、治療後のCVD発症が重要な課題となっている。しかし、がん患者においてCVD発症に影響する因子は十分に明らかではない。糖尿病は一般集団でCVDリスクを高めることが知られているが、がんの初回診断時にCVDを有さない患者における影響は不明である。欧州心臓病学会(ESC)が策定した心臓とがん医療に関するガイドラインでは、がん患者の糖尿病管理の重要性が示されているが、十分なエビデンスはそろっていない。本研究は、糖尿病併存がCVD発症および死亡に与える影響を明らかにすることを目的とした。 本研究は多施設の後ろ向きコホート研究であり、大阪府がん登録をDPCデータと連結した集団ベースのデータを用いた。2010~2015年にがんと診断され、初回診断時にCVDのない患者を対象とした。糖尿病の有無は糖尿病治療薬の処方歴から判定し、CVD発症はICD-10コードで同定した。がん診断後3年間追跡し、がん診断時の糖尿病併存の有無と全死亡およびCVD発症との関連を、年齢、性別、がん種、病期、BMIなどで調整したCox比例モデルおよび競合リスク解析で評価した。 本研究の解析対象12万1,997人のうち、4,317人は、がんの初回診断時に糖尿病を併存していた。糖尿病を併存する群は、併存しない群と比較して男性の割合が高く、比較的高齢の患者が多かった。また、遠隔転移を有する患者の割合も高かった。 糖尿病を併存する群の3年生存率は61.5%で、併存しない群の78.2%を下回っていた。交絡因子を調整したCox比例ハザードモデルの結果、糖尿病を併存する群では、併存しない群と比較して全死亡リスクが有意に高く(調整ハザード比1.40〔95%信頼区間1.33~1.48〕)、予後不良との関連が示された。がん部位別解析では、糖尿病の併存は一部のがん種を除き、ほとんどのがん部位で予後不良と関連していた。がん診断後に糖尿病と診断された患者を除外した感度解析でも、結果は一貫していた。 死亡を競合リスクとして考慮した競合リスク回帰分析では、糖尿病を併存する患者は、併存しない患者と比較して全CVDの発症リスクが有意に高かった(同1.43〔1.34~1.53〕)。また、心血管イベントの種類やがん種によって関連の強さには差がみられたが、がん種別解析でも全体解析と同様の傾向が認められた。なお、がん診断後に糖尿病と診断された患者を除外して解析しても、主要な結果は変わらなかった。 死亡直前2か月以内に入院歴のあった2万1,292人を対象に死因を推定した解析では、糖尿病を併存する群でCVDによる死亡割合が高かった(6.94% vs. 4.57%)。交絡因子を調整したロジスティック回帰分析でも、糖尿病の併存はCVDによる死亡リスクの上昇と有意に関連していた(オッズ比1.47〔95%信頼区間1.19~1.81〕)。がん種別では、胃がんおよび胆嚢がんでこの関連が有意であった。 著者らは、「がん診断時に心血管疾患のない患者でも、糖尿病を併存している場合、その後の心血管疾患の発症や予後に悪影響を及ぼす可能性が示された。糖尿病管理ががん患者の転帰改善につながるかどうか、今後の検証が必要である」と述べている。 なお、本研究の限界として、診療報酬データに基づく後ろ向き観察研究である点、糖尿病やCVDの誤分類や未調整の交絡因子の影響を否定できない点などを挙げている。

512.

毎日のアスピリン服用で妊娠高血圧腎症の発症リスクが低下

 妊娠中の危険な高血圧症の発症率を、ある簡単な対応を取ることで減らせる可能性があるようだ。米テキサス大学サウスウェスタン医療センターのElaine Duryea氏らの研究で、初回妊婦健診時に全ての妊婦にアスピリンを処方することが、重症所見を伴う妊娠高血圧腎症(以下、重症妊娠高血圧腎症)のリスク低下と関連することが明らかになった。この研究は、母体胎児医学会議(SMFM 2026、2月8〜13日、米ラスベガス)で発表された。Duryea氏は、「高リスク妊婦に対して直接アスピリンを提供する手法は、重症妊娠高血圧腎症の発症を遅らせ、場合によっては発症を完全に防ぐこともできるようだ」と述べている。 妊娠高血圧腎症は、妊娠中に持続的な高血圧と蛋白尿を伴い、母体の臓器に損傷を引き起こすことがあり、早産や死産のリスクも高める。一部の患者では、重症の高血圧と肝機能・腎機能障害により、母体と胎児に重大なリスクを生じる重症妊娠高血圧腎症に陥る。妊娠12〜28週の間に低用量アスピリンの服用を開始することは、妊娠高血圧腎症の予防に有効であることが知られているが、研究グループによると、これは広く用いられている治療法ではないという。 研究グループは2022年8月3日より、妊娠16週以下の全妊婦に対し、アスピリン162mgを毎日服用するよう処方し始めた。特筆すべきは、クリニックでアスピリンを患者に直接配布し、薬剤へのアクセスを確実にした点である。Duryea氏らは、アスピリンが提供された後に出産した1万8,457人の妊婦(アスピリン群)の結果を、アスピリンを処方されなかった同数の女性(非アスピリン群)と比較した。 その結果、アスピリン群では非アスピリン群と比べて、重症妊娠高血圧腎症の発症リスクが29%低下していた(オッズ比0.71、95%信頼区間0.66〜0.78、P<0.001)。また、重症妊娠高血圧腎症を発症するまでの時間も、アスピリン群で有意に長かった。さらに、すでに慢性高血圧を有する妊婦においても、アスピリン群では重症妊娠高血圧腎症の発症リスクが28%低下していた(オッズ比0.72、95%信頼区間0.60〜0.87)。安全性に関しては、アスピリン群と非アスピリン群の間で、新生児の脳室内出血(IVH)や腹壁破裂、常位胎盤早期剥離の頻度に差は見られず、出血量1,000mL超の産後出血は、非アスピリン群でやや低下した(9.5%対8.9%、P=0.03)。 Duryea氏は、「他の患者集団でも同様の効果が見られるのかについては断言できないが、アスピリン投与の有害性のエビデンスは見当たらなかった」と述べている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

513.

地方在住のがん患者は手術のために都市部へ行くべきか

 地方のがん患者は、主要な医療機関で治療を受けるために長距離移動することが多いが、そうした長旅は、必ずしも必要ではないかもしれない。肺がんまたは大腸がん患者を対象にした新たな研究で、地元の病院で治療を受けた場合と都市部の医療機関へ移動して治療を受けた場合で、死亡率や手術の転帰に大きな差は認められなかったことが明らかになった。米ルイビル大学外科学分野のMichael Egger氏らによるこの研究結果は、「Journal of the American College of Surgeons」に2月11日掲載された。 Egger氏は、「地方に住むがん患者は、高品質で多職種が連携するがん治療を受ける機会を得られないことが多い。しかし、全ての患者が手術を受けるために長距離を移動できるわけではないし、すでに受け入れ能力の限界に達している都市部のハイボリューム施設にとっても持続可能ではない」とニュースリリースで指摘している。 Egger氏らは今回、SEER(Surveillance, Epidemiology, and End Results)-メディケアのデータを用いて、地方在住で65歳以上の大腸がん患者1万383人および肺がん患者6,006人を対象に、がんの手術を地方で受けた場合と都市部で受けた場合の転帰を比較した。 肺がん患者では、75%(4,493人)、大腸がん患者では54%(5,633人)が都市部の病院で手術を受けていた。肺がん患者、大腸がん患者のいずれにおいても、地方で手術を受けた群(地方群)と都市部で手術を受けた群(都市部群)の間に、人口統計学的特徴やがんのステージについて有意な差は認められなかった。術後3カ月間の死亡率は、肺がん患者では地方群で5.2%、都市部群で4.8%、大腸がん患者ではそれぞれ7.3%と6.9%であり、いずれも有意な群間差は認められなかった。さらに、術後30日間の再入院率についても、肺がん患者では両群とも10.4%、大腸がん患者では両群とも14.0%であり、群間差は認められなかった。 一方で、都市部の病院で治療を受けた患者は、治療のためにより長距離を移動していた。具体的には、大腸がん患者の移動距離の中央値は、地方群での16マイル(約26km)に対して都市部群は49マイル(約79km)と約3倍の距離を移動していた。これを移動時間に換算すると、それぞれ23分と58分に相当した。肺がん患者でも、地方群で35マイル(約56km)、都市部群で61マイル(約98km)と都市部群の移動距離が長く、移動時間はそれぞれ49分と72分に相当した。 地方在住の患者の一部は、依然として必要な治療を受けるために都市部へ移動しなければならない場合はあるが、研究グループは、「今回の結果は、地域病院でも一定のがん手術を十分に提供できることを示している」と述べている。Egger氏は、「移動時間の長さや移動に伴う費用は、地方在住のがん患者の多くにとって大きな負担となり得る。医療システムが医療供給体制を地域ごとに再編していく中で、地元で治療を受けても問題ない患者と、より集約化された医療を受けることで利益を得られる患者を見極めることが重要になってくるだろう」と述べている。 研究グループは今後、地方と都市部の病院のうち、最良の結果を出している施設を分析し、何が優れていたのかを明らかにする予定だという。また、地方の病院が、手術以外のがん治療においても都市部の施設と同等のケアを提供しているかどうかも調べる計画があるとしている。

514.

心臓画像診断の放射線量比較が示したもの(解説:野間重孝氏)

 心臓画像診断に伴う放射線被曝は臨床上しばしば議論される問題であるが、その実態を世界規模で比較した研究は多くない。JAMA誌オンライン版2026年2月25日号に掲載された本研究は、101ヵ国742施設における約2万例の検査を対象として、SPECT、PET、冠動脈CT angiography(CCTA)、冠動脈石灰化スコア(CACS)などの心臓画像検査に伴う患者被曝量を比較した国際調査である。著者らは検査法間および地域間の放射線量の差を示し、とくにCCTAで地域差が顕著であることを報告している。これらの結果から、放射線量低減のための教育や撮影プロトコルの標準化の重要性が強調されている。 本研究の意義は、心臓画像診断に伴う患者被曝量を世界規模で俯瞰した点にある。これまで放射線量の報告は単一施設や限られた地域での調査が多く、国際的な診療実態を同一の枠組みで比較した研究はほとんどなかった。多数の国と施設が参加する形で地域差を具体的に示した点は、本研究の重要な貢献である。 もっとも、本研究の結果を理解するためには、この分野の研究に特有の事情を念頭に置く必要がある。本研究ではSPECT、PET、CCTA、CACSといった複数の検査法が同一の枠組みで比較されているが、その研究デザインや統計手法にはこの分野特有の前提が含まれている。 たとえば、放射線量の分布は一般に強くゆがんだ分布を示すため、平均値ではなく中央値と四分位範囲で示されることが多い。また、本研究では多数の施設参加を可能にするため、データ収集期間を1週間に限定するスナップショット型の研究デザインが採用されている。この方法は世界的な診療実態を概観するうえでは現実的であるが、各施設の通常診療をどこまで代表しているかについては一定の留保が必要であろう。 さらに本研究で用いられた放射線量データは各施設から報告された値に基づいており、中央での再測定や画像品質評価は行われていない。多数の国が参加する国際研究では避け難い方法であるが、施設間の診療体制や報告精度の違いが一定程度影響している可能性も考慮する必要がある。また、本研究では性質の異なる検査が患者被曝量という単一の尺度で比較されているが、これらは本来診断目的や撮影条件が異なるため、単純な線量比較のみでその適否を論じることはできない。 なお、著者らは地域差の分析に際し、各国を世界銀行の経済分類に基づいて整理している。この枠組みは国際比較を行ううえで実用的であるが、放射線量の差が単純に経済水準のみで説明されるものではないことにも留意する必要がある。実際には装置世代や撮影方法、技術教育など医療技術の運用に関わる複数の要因が関与している可能性がある。本研究はその意味で、世界の心臓画像診断における技術環境の不均一を示した資料として、医療資源へのアクセスや技術普及の格差という、より広い文脈の中で理解することもできる。 このように研究方法にはいくつかの制約があるものの、本研究の価値は統計学的因果関係の検証というより、世界各地域における心臓画像診断の実態を可視化した点にあると考えられる。むしろ本研究が示しているのは、放射線量そのものの問題というより、医療技術の運用体制の差、すなわち心臓画像診断における技術格差であるように思われる。 本稿でこの点に注目して論じたのは、本研究のデータが示す問題の本質がそこにあると考えたからである。筆者自身、心臓カテーテル診断や心臓画像検査の技術が施設ごとに大きく異なっていた時代を経験してきたが、医療技術は装置の普及だけで均質化するものではない。本研究で観察された放射線量の差もまた、医療技術体系の成熟度の差を反映した現象として理解するのが自然であろう。 本研究は、心臓画像診断における世界的な技術格差の存在を可視化した点に、その重要な意義がある。

516.

第286回 OTC類似薬に追加負担、出産実質無償化 医療保険改革法案を閣議決定/政府

<先週の動き> 1.OTC類似薬に追加負担、出産実質無償化 医療保険改革法案を閣議決定/政府 2.小児医療センターで何が起きたのか 髄腔内注射で死亡発生/埼玉県 3.大学病院機能強化事業77校決定 収賄事件で東大対象外/文科省 4.赤穂市民病院の元執刀医に禁錮1年、執行猶予3年の有罪判決/神戸地裁 5.リハビリ病院で799件不正請求 2027年4月に保険医療機関指定取り消し/北海道 6.再生医療投与中に60代女性死亡、都内のクリニックに緊急停止命令/厚労省 1.OTC類似薬に追加負担、出産実質無償化 医療保険改革法案を閣議決定/政府政府は3月13日、健康保険法などの改正を柱とする医療保険制度改革法案を閣議決定した。現役世代の社会保険料負担の上昇抑制と、限られた医療財源の効率的配分を目的としたもので、OTC類似薬への追加負担導入や正常分娩の実質無償化などを盛り込んだ。主な柱は、「OTC類似薬の追加負担導入」「後期高齢者医療で金融所得を保険料や窓口負担に反映」「正常分娩の実質無償化」「高額療養費制度見直し時の長期療養患者への配慮」の4点。OTC類似薬とは、市販薬と成分や効果が似た処方薬で、77成分・約1,100品目が対象と想定される。政府は薬剤費の25%を追加負担とする方向で検討しており、子供やがん・難病患者、長期療養者、低所得者には配慮措置を設ける方針。また、後期高齢者医療では、これまで十分反映されてこなかった配当などの金融所得を把握し、保険料や窓口負担に反映させることで、負担能力に応じた公平化を図る。その一方で、正常分娩については全国一律の基本単価を設定し、保険給付と現金給付を組み合わせて妊婦の自己負担を軽減する。出産費用の地域差や施設間格差の是正も狙う。ただ、薬剤自己負担の見直しなどによる保険料軽減効果は1人当たり月183円程度との試算もあり、がん患者団体や野党は「重症患者や子育て世代に負担が集中する」と反発している。医療現場では、患者説明や処方行動、産科施設の経営や地域医療への影響など、制度改正の実務的な影響を注視する必要がある。 参考 1) 現在検討している医療保険制度改革についての考え方(厚労省) 2) 【OTC類似薬の自維合意】薬剤費の25%の上乗せされる薬剤(77成分1,100品目)(保団連) 3) 健康保険法など改正案決定 OTC類似薬に追加負担、75歳以上の医療費は金融所得反映(産経新聞) 4) 健保法改正案が閣議決定 OTC類似薬に追加負担 分娩、保険適用で無償に(日経新聞) 5) 市販薬と成分・効果似る「OTC類似薬」は患者が追加負担、健康保険法など改正案を閣議決定(読売新聞) 6) ロキソニンやアレグラなど1,100品目、27年3月から患者追加負担…厚労省が「OTC類似薬」提示(同) 7) “出産の無償化”法案が閣議決定 分娩1件の単価設定 分娩施設に直接支給へ 妊婦の負担軽減・現金支給も(FNNプライムオンライン) 2.小児医療センターで何が起きたのか 髄腔内注射で死亡発生/埼玉県埼玉県立小児医療センターで、白血病治療のため抗がん剤の髄腔内注射を受けた3人に重篤な神経障害が生じ、10代男性1人が死亡、10歳未満の男児と別の10代男性2人が重体となっている。3人はいずれも2025年1月、3月、10月に治療を受け、歩行困難や大腿部痛、全身まひなどを発症した。病院は2025年11月に髄腔内注射を中止し、外部有識者を含む調査対策委員会を設置。髄液検査の結果、本来この治療で使用しない抗がん剤のビンクリスチンが3人全員から検出され、原因薬剤の可能性が高いと判断した。ビンクリスチンは、白血病や悪性リンパ腫に用いる一方で、強い神経毒性があり髄腔内投与は禁止されている。世界でも誤投与事例が報告され、わが国でも2021年に静岡県内で同種の事故が起きていた。今回の髄腔内注射自体は、小児急性リンパ性白血病で中枢神経再発を防ぐ標準治療で、通常は慎重な管理のもと行われる。調剤室は3重のセキュリティー管理下にあり、薬剤は鍵付き保管庫で厳重保管、調剤・運搬・投与も複数職種で確認していたとされ、記録上も使用形跡や手順上の明確な不備は確認されていない。このため病院は事故と事件の両面を視野に3月10日に県警へ届け出た。当初病院側は1例目、2例目は副作用として捉えていたが、3例目を受け「9ヵ月で3回は異常」と判断して本格的な調査に着手した。上野 賢一郎厚生労働大臣はさいたま市と連携して対応する考えを示し、埼玉県も原因究明と医療安全の徹底、患者家族への説明を求めている。同センターは、県内小児高度医療の中核施設で、2024年には延べ512人、2025年も中止までに427人が髄腔内注射を受けていた。専門家からは「通常では考えられない」との声が出ており、同様の治療を受ける患者家族への不安対応も課題となっている。 参考 1) 小児医療センターにおける髄腔内注射治療後の重篤な神経症状の発症について(埼玉県立小児医療センター) 2) 髄くう内注射で患者が神経症状 病院 “3回は異常”で調査(NHK) 3) 埼玉県立小児医療センターで抗がん剤の髄腔内注射を受けた10代男性死亡、2人に重度の後遺症(読売新聞) 4) 小児医療センター、抗がん剤手順に「落ち度なし」「事件事故両面の可能性」(同) 5) 3重セキュリティーの調剤室、鍵付き保管庫、分単位の調剤記録…抗がん剤で患者死亡は「考えられない事態」(東京新聞) 6) 埼玉県立小児医療センターの患者死亡「市と連携し対応」厚労相(NHK) 7) 埼玉県立小児医療センター死亡問題 県「重く受け止める」 早期究明を要請(東京新聞) 3.大学病院機能強化事業77校決定 収賄事件で東大対象外/文科省文部科学省は3月11日、大学病院の教育・研究基盤の強化を支援する「大学病院機能強化推進事業」の対象として国公私立77大学を選定したと発表した。物価高や人件費上昇などで経営環境が悪化する大学病院を支援するため、2025年度補正予算で349億円を計上し、最先端医療機器の整備や人材育成、研究体制の強化などに対し1大学当たり最大5億円を補助する。医学部を持つ81大学のうち78の大学が申請したが、東京大学は唯一選定されなかった。その理由として大学院医学系研究科の元教授らが収賄容疑で逮捕・起訴された事件を受け、医学部・附属病院の組織風土改革や病院長のマネジメント体制など具体的な改革案が示されていない点が問題視された。また、九州大学は病院長が出張旅費の不正支出問題で辞任したことを踏まえ、交付額が3割減額された。選定委員会は、大学病院が高度医療の提供や医師養成、地域医療の中核を担う一方で、近年は経営悪化が進んでいると指摘している。また、各大学が提出した改革プランや自治体との連携体制、設備整備計画などを審査し、選定したとしている。大学病院を巡っては高度医療と教育研究を担う役割が大きいだけに、今回の選定結果は経営改革やコンプライアンス体制の重要性を示すものとなった。 参考 1) 大学病院機能強化推進事業(経営環境の改善に資する教育研究基盤の充実)の選定結果について(文科省) 2) 文科省の大学病院支援事業、東京大学選ばれず 汚職事件が影響(日経新聞) 3) 国の大学病院支援に東京大学のみ選ばれず 元教授らの収賄事件が影響(朝日新聞) 4) 大学病院機能強化事業、東大以外77大学を選定…文科省(リセマム) 4.赤穂市民病院の元執刀医に禁錮1年、執行猶予3年の有罪判決/神戸地裁兵庫県の赤穂市民病院で2020年、腰椎手術中に81歳女性患者の脊髄神経を医療用ドリルで切断し重い後遺障害を負わせたとして、業務上過失傷害罪に問われた元執刀医に対し、神戸地裁姫路支部は3月12日、禁錮1年、執行猶予3年の有罪判決を言い渡した。判決では、止血が不十分で術野の視認性が確保できないまま、ドリル操作を続けた点について、「止血に努めるのは基本中の基本」であり、基本的注意義務違反は明白だと指摘。患者は下半身不随や膀胱直腸障害、強い疼痛など全治不能の障害を負っており、「罰金刑にとどまる事案ではない」とした。その一方で、助手を務めた上級医が手術を止めず、経験の浅い術者を支えるチームが機能していなかったことや、被告が事実上医師として就労困難で社会的制裁を受けている事情を踏まえ、執行猶予を付けた。同病院では、同医師が関与した手術で計8件の医療事故が判明しており、本件はウェブ漫画『脳外科医竹田くん』を通じても広く知られた。被害者家族は判決後、「奪われた身体の自由と時間は戻らない」と厳しい処分を求め、代理人は医道審議会での免許取り消しも検討すべきだと訴えた。赤穂市は判決を厳粛に受け止め、医療安全体制の強化と再発防止に取り組むとしている。民事訴訟ではすでに市と元医師に約8,900万円の賠償を命じる判決が確定している。今回の刑事判決は、個人の手技上の過失だけでなく、指導・監督体制やインシデント把握後の組織対応も含めて医療安全を問い直す事案として受け止められている。被害者側は、通常の医療事故の刑事事件化拡大には慎重姿勢を示しつつも、本件は「基本中の基本」を欠いた特異な事案だと強調。判決を1つの節目としながらも、再発防止と信頼回復を求める声はなお強い。また、病院事業管理者は経営悪化の責任を取って3月末で辞任する意向を示しており、病院運営全体への影響も広がっている。 参考 1) 赤穂の患者神経切断、元執刀医に有罪 目視困難でもドリル操作(日経新聞) 2) 手術中ドリルで神経切断、半身不随に 医師に禁錮1年・執行猶予3年(朝日新聞) 3) 手術中に神経切断 元赤穂市民病院医師に執行猶予付き有罪判決(NHK) 4) 経営責任取り今月末で辞任 高原秀典・病院事業管理者(赤穂民報) 5.リハビリ病院で799件不正請求 2027年4月に保険医療機関指定取り消し/北海道北海道厚生局は3月11日、札幌市西区の平和リハビリテーション病院(160床)について、診療報酬の不正請求を理由に、保険医療機関の指定を2027年4月1日付で取り消すと発表した。確認された不正請求は2024年3~9月診療分までの799件、総額約1億8千万円に上る。厚生局によると、同院は療養病棟入院基本料1の施設基準である看護職員や看護補助者の配置数を満たしていないことを認識しながら、必要な変更届を出さないまま、同基本料や夜間看護加算、療養病棟療養環境加算1、医療安全対策加算2、感染対策向上加算3などを請求していた。開設者からの報告を受けた厚生局は、個別指導後に監査へ移行し、2025年3月から9月に計5回の監査を実施して不正を認定した。同病院を運営する医療法人社団静和会は謝罪し、保険指定取り消し後は運営継続が困難になるとして、地域医療への影響を避けるため、札幌市南区の医療法人社団CHCPヘルスケアシステムへの事業譲渡に向け調整を進める方針だと公表した。病院側は、内部監査で不正請求を把握したとし、「意図的ではなく管理不足が原因」と説明しているが、厚生局は保険診療の根幹を揺るがす重大事案と判断した。同院は内科、整形外科を標榜し、病床稼働率は9割超という。療養病床の看護配置や加算算定は慢性期医療の収益基盤に直結するだけに、届出基準と実態の乖離を放置した責任は重い。事業譲渡まで診療は継続する方針で、患者受け入れ体制を維持しながら信頼回復と再発防止策の具体化が求められる。慢性期病院を巡っては、人員確保難が続くが、基準未達のまま算定することは認められず、今後は法人統治とコンプライアンス体制の立て直しが焦点となる。 参考 1) 診療報酬不正請求799件 札幌の病院指定取り消し-来年4月1日付(CB news) 2) 札幌・平和リハビリテーション病院、保険指定取り消し 27年4月 診療報酬1億8千万円不正受給(北海道新聞) 3) 札幌市の病院が不正請求1億8,000万円 保険医療機関指定取り消し(毎日新聞) 6.再生医療投与中に60代女性死亡、銀座のクリニックに緊急停止命令/厚労省東京都中央区の「医療法人ネオポリス診療所銀座クリニック」で自由診療の再生医療を受けた外国籍の60代女性が死亡し、厚生労働省は2026年3月13日、再生医療安全性確保法に基づき同クリニックなどに業務の一時停止を命じる緊急命令を出した。女性は10日、慢性的な痛みの改善を目的として、自身の脂肪から採取した幹細胞を培養し、静脈内に投与する治療を受けていたが、投与中に容体が急変し、救急搬送中に心肺停止となり、搬送先の医療機関で死亡が確認された。死因は現時点で不明で、厚労省は原因究明を進めている。治療に用いられた細胞は、京都市の「JASC京都幹細胞培養センター」と韓国・ソウルの「RBio幹細胞培養センター」で製造されていた。厚労省は国内施設である京都のセンターに対して細胞製造の一時停止を命じ、韓国の施設には日本向けの出荷停止を要請した。さらに同施設の細胞加工物を使用している国内の医療機関にも使用中止を求めている。再生医療を巡っては、2025年8月にも都内の別のクリニックで患者が死亡する事案が発生しており、今回の緊急命令は2例目となる。厚労省は、再生医療を提供する医療機関に対し、救急対応体制の整備や法令順守の徹底を求める通知も出しており、自由診療の再生医療の安全管理のあり方が改めて問われている。今後、厚労省は立ち入り調査などを含め、治療の安全性や運用体制の実態解明を進める方針だ。 参考 1) 再生医療等の安全性の確保等に関する法律に基づく緊急命令について(厚労省) 2) 再生医療で60代女性死亡 銀座のクリニックなどに業務一時停止の緊急命令 厚労省(時事通信) 3) 都内クリニックで再生医療受けた60代女性が死亡…死因は不明、厚労省が医療提供一時停止の緊急命令(読売新聞) 4) 自由診療の細胞投与で死亡 厚労省、東京の診療所に治療提供停止命令(日経新聞)

517.

第95回 ロジスティック回帰分析かプロビット回帰分析か【統計のそこが知りたい!】

第95回 ロジスティック回帰分析かプロビット回帰分析かロジスティック回帰分析とプロビット回帰分析は、医療統計において2値の結果(例:疾患の有無、治療の成功と失敗)を予測・解析する際によく用いられる手法です。これらの手法は、複数の要因(説明変数)から2値の結果(目的変数)を予測する多変量解析の一種です。しかし、両者には理論的背景や適用方法に違いがあり、論文を読む際にはその違いを理解しておくことが重要です。今回は、ロジスティック回帰分析とプロビット回帰分析ついて解説します。■ロジスティック回帰分析(logistic regression analysis)とはロジスティック回帰分析は、目的変数が2値(0または1)の場合に適用されます。この手法では、説明変数と目的変数の関係についてロジスティック関数を用いてモデル化します。具体的には、ある事象が発生する確率をオッズとして表現し、そのオッズの対数(log-odds)を説明変数の線形結合で表します。このモデルは、オッズ比を直接的に解釈できるため、医療分野でのリスク評価や要因解析において広く利用されています(図1、2)。■プロビット回帰分析(probit regression analysis)とはプロビット回帰分析も目的変数が2値の場合に適用されますが、こちらは正規分布を基盤としています。具体的には、説明変数の線形結合を標準正規分布の累積分布関数に適用し、事象が発生する確率をモデル化します。プロビットモデルは、誤差項が正規分布に従うと仮定しており、心理学や経済学の分野でよく用いられます(図1、2)。※「probit」は、考案者のチェスター・ブリス氏が「probability」+「unit」から命名しました。図1 ロジスティック回帰分析とプロビット回帰分析のモデル式画像を拡大する図2 ロジスティック回帰分析とプロビット回帰分析のグラフ画像を拡大する図2は年収と持ち家の関係を調べたアンケートの結果を例に説明します。年収をx、持ち家の人をy=1、持ち家でない人をy=0として散布図を描くと図2の左図のようになりました。xとyで単回帰分析をすると、回帰直線は負の値や1以上の値がでてきて、うまくありません。そこで直線の代わりに、xが大きくなるにつれて1に近付き、xが小さくなるにつれて0に近付くような関数を用いて回帰分析をしようというのが、ロジスティック回帰分析やプロビット回帰分析です。x→+∞で1,x→-∞で0となるような関数として、f(x)やΦ(x)が選ばれています。f(x)、Φ(x)のグラフは図2の右図になります。図2の左図のようなグラフを得ることができれば、yの値は年収xの人が持ち家である確率を表していると解釈できます。得られたデータ(xi、yi)から、α、βを求めるには「最尤法」を用います。プロビット回帰分析であれば、尤度関数をyiと設定します。線形回帰の場合と異なり、α、βの最尤値は(xi、yi)を用いて表すことはできません。■ロジスティック回帰分析とプロビット回帰分析の違い(1)ロジスティック回帰は、ロジスティック分布、プロビット回帰は正規分布を仮定しています。(2)ロジスティック回帰では、ロジット関数(log-oddsの逆関数)、プロビット回帰ではプロビット関数(標準正規分布の累積分布関数の逆関数)を使用します。(3)ロジスティック回帰は、計算が比較的簡単でオッズ比の解釈が直感的に理解することができます。その一方で、プロビット回帰は正規分布の累積分布関数の逆関数を計算する必要があり、数値計算が複雑になることがあります。■使い分けのポイントロジスティック回帰とプロビット回帰の選択は以下の点を考慮して行います:(1)データの特性説明変数が広範な範囲の値を取る場合、ロジスティック回帰の方が適しています。これは、ロジスティック分布の裾が重い(0への近付き方が遅い)ため、極端な値に対してもモデルが柔軟に対応できるからです。(2)計算の容易さロジスティック回帰は計算が比較的簡単です。その一方で、プロビット回帰は計算が複雑になることがあります。(3)解釈のしやすさロジスティック回帰では、オッズ比を直接解釈できるため、医療分野でのリスク評価に適しています。プロビット回帰では、結果の解釈がやや直感的でわかりにくい場合があります。■ロジスティック回帰分析と対数オッズは関連があるロジスティック回帰分析の式でとおくと、となります。確率pに対して、をオッズ(odds)、を対数オッズまたはpのロジット関数と言います。ロジスティック回帰分析とは、対数オッズを1次式で表すモデルを用いた回帰分析であると言えます。説明変数をk個にして、y=f(α+β1x1+…+βkxk) y=∅(α+β1x1+…+βkxk)をモデルにした場合も同様に、ロジスティック回帰分析、プロビット回帰分析と言います。なお、(x1,x2,…,xk,y)(yは0または1)型の予測は判別分析でも分析は可能です。しかしながら、この回帰分析のように予測値が0から1までの実数値で返ってくるわけではありません。■論文を読む際の注意点論文でこれらの手法が使用されている場合、以下の点に注意してください。(1)モデル選択の理由論文の著者がなぜロジスティック回帰やプロビット回帰を選択したのか、その理由を確認しましょう。データの特性や研究の目的に応じて適切な手法が選ばれているかを判断する材料となります。(2)結果の解釈ロジスティック回帰の結果として提示されるオッズ比は、ある要因が目的変数に与える影響を示しています。その一方で、プロビット回帰の係数は直接的な解釈が難しいため、平均限界効果などの指標を確認すると良いでしょう。(3)モデルの適合度モデルがデータにどの程度適合しているか、適切な指標(たとえば擬似R2やAICなど)を用いて評価されているかを確認しましょう。ロジスティック回帰分析とプロビット回帰分析は、2値データを予測・解析する際によく用いられる手法です。それぞれの特性や適用条件を理解し、データの特性や研究目的に応じて適切に使い分けることが重要です。論文を読む際には、使用されているモデルの選択理由や結果の解釈に注意をすることが大切です。■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ「わかる統計教室」第4回 ギモンを解決! 一問一答質問18 ロジスティック回帰分析とは?質問19 ロジスティック回帰分析の判別スコアと判別精度とは?質問20 ロジスティック回帰分析のオッズ比とは?統計のそこが知りたい!第64回 ロジスティック回帰分析とは?第65回 ロジスティック回帰分析のオッズ比?

518.

「フォシーガ」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第85回

第85回 「フォシーガ」の名称の由来は?販売名フォシーガ®錠 5mg フォシーガ®錠 10mg 一般名(和名[命名法])ダパグリフロジンプロピレングリコール水和物(JAN)効能又は効果◯2型糖尿病◯1型糖尿病◯慢性心不全ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。◯慢性腎臓病ただし、末期腎不全又は透析施行中の患者を除く。用法及び用量<2型糖尿病>通常、成人にはダパグリフロジンとして5mgを1日1回経口投与する。なお、効果不十分な場合には、経過を十分に観察しながら10mg1日1回に増量することができる。<1型糖尿病>インスリン製剤との併用において、通常、成人にはダパグリフロジンとして5mgを1日1回経口投与する。なお、効果不十分な場合には、経過を十分に観察しながら10mg1日1回に増量することができる。<慢性心不全、慢性腎臓病>通常、成人にはダパグリフロジンとして10mgを1日1回経口投与する。警告内容とその理由設定されていない禁忌内容とその理由1.本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者2.重症ケトーシス、糖尿病性昏睡又は前昏睡の患者[輸液、インスリンによる速やかな高血糖の是正が必須となるので本剤の投与は適さない。]3.重症感染症、手術前後、重篤な外傷のある患者[糖尿病を有する患者ではインスリン注射による血糖管理が望まれるので本剤の投与は適さない。]※本内容は2026年3月16日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2025年4月改訂(第15版)医薬品インタビューフォーム「フォシーガ®錠5mg、10mg」

519.

英語で「筋肉痛」ってどう言う?【患者と医療者で!使い分け★英単語】第53回

医学用語紹介:筋肉痛 myalgia今回は「筋肉痛」「筋肉の痛み」について説明します。医療現場ではmyalgiaという専門用語が使われますが、患者さんとの会話ではどのような一般的な英語表現を使えばよいでしょうか?講師紹介

520.

日本人の腸内細菌叢、世界と異なる特徴は?

 ヒトの腸内細菌叢(マイクロバイオーム)は、宿主の免疫や代謝、健康状態と密接に関わっている。東京大学の西嶋 傑氏らの研究グループは、日本人5,000人以上の腸内メタゲノムデータを解析し、世界37ヵ国と比較した。その結果、日本人の腸内細菌叢にはビフィズス菌が豊富であり、9割が海藻の分解酵素を持つという独自の特徴や、腸内細菌叢の構成には特定の薬剤が大きく影響することなどが判明した。Proceedings of the Japan Academy, Series B誌2026年2月号に掲載。 本研究では、疾患(Disease)、薬剤(Drug)、食習慣(Diet)、アルコール、喫煙、睡眠などの生活習慣(Daily life)、などの詳細な情報と腸内細菌データを統合して収集した大規模オミクス研究基盤である「Japanese 4Dマイクロバイオームコホート」を用いて、日本人5,466人(平均年齢65.9±13.2歳、男性56.9%)の腸内メタゲノムデータを、世界37ヵ国3万1,695人のデータを比較解析し、日本人の独自性を特定した。さらに、1,500項目以上の変数を用いて、細菌叢の多様性に寄与する要因を評価した。 主な結果は以下のとおり。・日本人の腸内には、他の高所得国と比較してビフィズス菌(Bifidobacterium属)が豊富に存在することが認められた。これは日本人に乳糖不耐症が多く、乳製品を摂取して消化されない乳糖が腸に到達し、ビフィズス菌の増殖を促進する可能性が示唆されている。・日本人において、ノリやワカメなどの海藻に含まれる多糖類を分解する酵素遺伝子を持つ個人の割合が約90%に達し、欧米諸国(0~16.7%)より圧倒的に多かった。・腸内細菌叢の構成には、生活習慣よりも薬剤の影響が大きかった。関連の強い順に、胃腸薬、糖尿病薬、抗菌薬/抗ウイルス薬であった。・プロトンポンプ阻害薬(PPI)の使用は腸内細菌の多様性を上昇させる一方で、口腔内に多い細菌(レンサ球菌[Streptococcus属]、Lactobacillus属など)が腸内で増加し、日和見感染症の原因となる多剤耐性菌(肺炎桿菌[Klebsiella pneumoniae]、Enterococcus faecium、肺炎球菌[Streptococcus pneumoniae]など)の定着を促進するリスクが示された。・5種類以上の多剤併用により、有益な短鎖脂肪酸(SCFA)産生菌(Roseburia属、Dorea属、Faecalibacterium属、Alistipes属、Coprococcus属、Eubacterium属など)が減少し、日和見病原菌が増加して、腸内細菌叢の多様性が低下することが示された。 本研究により、日本特有の文化的・遺伝的背景によって形成された、集団特異的な腸内細菌叢の特徴が示された。著者らは、とくに高齢者における不要な薬剤の使用中止を含む薬物療法の最適化が、腸内環境の健全性を維持するうえで不可欠だと指摘し、国際的な腸内細菌叢データセットの構築は、精密医療(プレシジョンメディシン)を推進する鍵となるだろうとまとめている。

検索結果 合計:36020件 表示位置:501 - 520