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マラソン大会中の心肺停止:米国の大規模データ収集から見えてくる「備え」の在り方(解説:香坂俊氏)

 米国のRACER 2研究が2025年3月のJAMA誌オンライン版に報告された(※RACER 1研究は2012年にNEJM誌に掲載)。この研究では、2010~23年の間に米国で公認されたフルマラソンとハーフマラソン443大会(完走者約2,930万人)の記録を全米陸上競技連盟(USATF)の協力の下で収集し、走行中の心肺停止事故の発生率とその原因を調査した。前回のRACER 1は、研究者がRunning USAというNPOが収集している情報を基に新聞記事などをさかのぼり情報を収集したが、今回は陸上競技連盟の協力を得られたことで、より網羅的かつ詳細なデータ収集が可能になったものと考えられる。 まず、走行中の心肺停止事故の発生率は、10万人当たり0.54例と、2000~10年を対象としたRACER 1と同率であった。しかし心臓死は0.39例から0.20例へとほぼ半減し、AED普及や救命体制強化の効果が示唆される結果となった。原因は冠動脈疾患によるもの(急性冠症候群)が最多(生存例の56%、死亡例の9%)、次いで冠動脈起始異常(同7%と9%)、肥大型心筋症(同2%と9%)の順であり、RACER 1と比較して若年例の肥大型心筋症の比率は低下していた(ただ、剖検後も原因が不明であった症例もかなり多い[死亡例の41%])。 わが国では、心筋症や冠攣縮とされる症例が相対的に多いという印象がある(個人の経験:原因不明症例が冠攣縮と見なされている可能性もある)。とはいえ、ゴール前で発症が集中する傾向は共通しており(これも個人の経験)、搬送導線、カテーテル検査やVA-ECMOなどの即応体制を、大規模な大会開催当日に整える重要性は変わらない。 救命率が上がっているというのは非常に良いニュースであるが、経験的に救命後も2つのジレンマが待つ。若いランナーに対し「競技禁止」を進言するか、そしてさらに「ICD植え込み」をどう判断するか、というところである。若い方というのは、高齢の方とはまた違った価値観を持っており、ここで悩む方も多い。数は少ないが冠動脈異常やMyocardial bridgeが見つかった際に手術を行うか、ということも同様にジレンマとなることが多い。 また、心肺停止には至らなくとも、胸部症状や意識障害など、いろいろなことが起こることも忘れてはならない(トロポニンが陽性になる方は本当に多い)。「マラソン大会」の当日というのは、ランナーの方も緊張してレースに参加しているのだと思われるが、救命救急医と循環器内科医もドキドキしながら勤務することとなる。今後もRACER 2をはじめとする最新のエビデンスを羅針盤とし、救命体制を整備していく必要があるだろう。

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学会オンライン参加の効能【Dr. 中島の 新・徒然草】(581)

五百八十一の段 学会オンライン参加の効能5月だというのに、無茶苦茶暑い日が続いています。外来に来られる患者さんの第一声が「暑い、暑い!」というのが最近の日常となりました。私が中学生や高校生だった頃は、6月1日と10月1日に一斉に衣替えをしていたものです。白い夏服に切り替わるその日は、季節の変化をはっきりと感じさせてくれました。ところが最近では、その習慣もすっかり時代遅れになりつつあります。初夏の暑さが年々厳しさを増しており、夏服への移行は2週間ほど前倒しにした方がよいのでは、と思わざるを得ません。さて、今回は学会参加についてお話ししたいと思います。新型コロナウイルスの流行をきっかけに、全国規模の学会の開催形式は大きく様変わりしました。現地参加に加えて、オンライン参加が選択肢として定着してきたのです。私はもっぱらオンライン派。理由は単純で、遠くまで出掛ける必要がないからです。新幹線や飛行機を使って半日がかりで現地入りするだけで、すでに疲労困憊。宿泊先のホテルでもぐっすり眠れないこともあり、翌日まで疲れを持ち越すこともありました。その点、オンライン参加であれば移動のストレスもなく、慣れた環境で視聴できます。画面の見やすさも利点の一つです。パソコンのモニターに映し出されるスライドは、多少文字数が多くても読みやすく、視認性に優れています。また、イヤホンを使えば音声も非常にクリア。とくに外国人演者による英語の発表のリスニングには強力な味方です。病院にいながら空き時間を使ってセッションを視聴できるのも、オンラインならではの利点。時には発表を聴きながら簡単な事務作業をこなすこともできます。とはいえ、院内PHSが鳴って呼び出されることもあり、ようやく戻ってきたらセッションが終わっていた、ということもしばしば経験しました。そこで今年の春は、もっぱら自宅からの参加に切り替えています。これが思いのほか快適で、今後もこのスタイルを続けようと思わされました。もちろん自宅にいても完全に集中できるとは限りません。急な来客や宅配便の対応で、途中退席を余儀なくされることもあります。それでも、見逃したセッションは後日オンデマンドで視聴可能。オンライン形式ならではの強みですね。また、領域講習単位を取得する目的で、専門外の発表を視聴する機会も増えました。各演者が何年もかけて積み上げてきた研究成果が、わずか20分ほどに凝縮されて発表され、毎回のように「世の中、こんなに進んでいるのか!」と驚かされます。こうした発表の情報の質や密度は、日常的に配信されているYouTube動画などとは比較になりません。その一方で、各発表演題の内容を理解するには大変な集中力が必要です。私の場合、4演題ほど視聴すると疲れてしまうので、自然に瞼が下がって……すみません。考えてみれば、今では院内の全職員参加必須講演会ですらオンデマンド配信が併用される時代です。学会出席もまた、現地参加に加えてオンラインやオンデマンドを組み合わせることで、より柔軟な対応が可能となりました。オンライン参加はやむを得ず選ぶという位置付けではなく、むしろ積極的に活用すべき手段だと思います。これからますます暑くなる季節に、涼しく快適な部屋からのオンライン参加。たとえコロナが完全に終息しても、こういった多様な参加形式はぜひ続いてほしいものです。最後に1句学会は 麦茶片手に オンライン

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タルラタマブってどんな薬?安全に使うポイントは?【DtoD ラヂオ ここが聞きたい!肺がん診療Up to Date】第9回

第9回:タルラタマブってどんな薬?安全に使うポイントは?パーソナリティ日本鋼管病院 田中 希宇人 氏ゲスト国立がん研究センター東病院 泉 大樹 氏※番組冒頭に1分ほどDoctors'PicksのCMが流れます関連サイト専門医が厳選した、肺がん論文・ニュース「Doctors'Picks」(医師限定サイト)講師紹介

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記念日「多様な性にYESの日」(その2)【だから遺伝しないはずなのに遺伝してるんだ(同性愛)】Part 1

今回のキーワード包括適応度血縁選択新生児同種免疫性血小板減少症同種免疫反応性的拮抗性的二型前回(その1)、性の多様性とはどのようなものか、そして、その性が多様であるのはなぜかを進化心理学的に掘り下げました。ここで、進化論の視点から、大きな疑問が湧いてきます。同性愛では自分の子供をつくれない(遺伝しない)わけですが、人口の約3%、たとえば学校で30人ちょっとのクラスに1人はいる計算になります。この頻度の高さから、遺伝子の突然変異では説明できません。ちなみに、その1でも登場した、遺伝子の異常であるアンドロゲン不応症や先天性副腎過形成症は、ともに人口の約0.005%(10万人に5人)です。それでは、なぜ同性愛はこれほどにも「ある」(遺伝している)のでしょうか?今回(その2)も、5月17日の「多様な性にYESの日」に合わせて、「記念日セラピー」と称して、この謎に迫ります。なんで同性愛は「ある」の?実は、動物の同性愛(同性間の性行動)は、珍しくありません。たとえば、人間に最も近い種であるボノボ(チンパンジー)は、とくにメス同士が向き合って性器をこすり合わせる「ホカホカ」(G-G rubbing)と呼ばれる行動を頻繁に行います。また、イルカ、ゾウ、コウモリ、テンジクネズミなどでも、それぞれのやり方での同性間の性行動が確認されいます1)。ただし、これらの目的は、あくまで群れの中での同性同士の協力関係や上下関係を確かめ合うためであったり、異性との性行動に向けて練習するためであったり、異性がいない状況での代替行動であったりなどです。人間のように、同性愛のみに限って逆に異性愛を避けているわけではありません。つまり、動物の同性愛は、厳密には両性愛です。そして、あくまで異性愛を主目的とした副次的なものであり、生存と生殖に適応的であることがわかります。それでは、人間の同性愛はなぜ「ある」のでしょうか? 代表的な3つの説を、進化心理学の視点から一緒に検討してみましょう。(1)親族の子供を助けるため?-血縁選択たとえば、働きバチや働きアリは、自ら生殖能力を失い、女王バチや女王アリが自分の妹(※母系家族のためオスが生まれるのはもともとごくわずか)をよりたくさん産めるように働き続けます。同じように、人間は、自分が同性愛であることで子供がつくれない代わりに、親族の子供のサポート役(血縁のヘルパー)になることで、間接的に自分の遺伝子を残している(包括適応度を上げる)と仮定することができます。1つ目は、同性愛になって親族の子供を助けるため、つまり血縁選択です。しかし、実際の調査では、同性愛男性よりも異性愛男性の方が、むしろ兄弟との交流があり、兄弟に対して経済的援助をする傾向があることがわかっています2)。よくよく考えると、この説を主張するなら、血縁のヘルパーになるためにわざわざ同性愛になる必要はなく、働きバチや働きアリのように無性愛(性的指向なし)の独身になって親族を助けた方がより間接的に自分の遺伝子を残せます。この状況は、現代ではなく、原始の社会であっても同じです。つまり、同性愛の原因は、血縁選択で説明するには無理があります。なお、摂食障害については、この血縁選択(包括適応度)が成り立つ可能性が考えられます。この詳細については、関連記事1のページの最後をご覧ください。次のページへ >>

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記念日「多様な性にYESの日」(その2)【だから遺伝しないはずなのに遺伝してるんだ(同性愛)】Part 2

r(2)兄が多いため?―同種免疫反応たとえば、母親と胎児の血液型が違う場合、母親の免疫系で胎児の血小板への抗体がつくられることがあります。それが胎盤を通して胎児の血小板を攻撃して血小板が減っていく病態(新生児同種免疫性血小板減少症)があります。同じように、母親と胎児の性別が違う、つまり胎児が男性の場合、母親の免疫系で男性特有の物質(H-Y抗原)への抗体がつくられると仮定します2)。すると、それがその後に胎盤を通して次の男性胎児(弟)のその抗原を攻撃することが考えられます。そして、その抗原がとくに多く分布するのは、男性化するはずの脳であると考えられます。また、この抗体は、母親が男児の妊娠出産を繰り返すたびに増えていくと考えられます。2つ目は、胎児期の兄への母親の免疫反応が、その後に胎児期の弟に及んで、脳が男性化しにくくなる(同性愛になる)、つまり、同種免疫反応です。実際の調査2)では、兄が多くなればなるほど、確かに同性愛男性の割合が上がっています。なお、姉が多くなるにつれて同性愛女性の割合が上がるわけではない原因については、母親にとって、姉も妹(本人)も同じ女性であり、同種免疫反応が起こりにくいからです。しかし、これだけでは、女性の同性愛が「ある」原因を説明できません。また、つくられた抗体が攻撃するはずの、男性特有の抗原があるとしたら、それは男性の脳だけでなく男性の性器にもあるはずです。しかし、同性愛男性が不妊になることはありません3)。さらに、同種免疫反応が実際にあるとしたら、兄が同性愛なら弟たち全員が同性愛になるはずです。しかし、実際にそうなっているとの調査結果はありません。そもそも、先ほどの新生児同種免疫性血小板減少症は人口の約0.03%(10万人に30人)程度であり、同種免疫反応は頻度がとても低い病態です。つまり、同性愛の原因は、同種免疫反応で説明するには無理があります。なお、兄が多くなると同性愛の割合が高くなる、この「兄効果」の原因については、兄が多ければ多いほど、一緒にいる刺激が性的指向に影響を与えていると指摘する学者はいます3)。確かに、その1でも説明しましたが、性的指向は胎児期に固定化されるとはいえ、性的指向はスペクトラムであることから、完全な異性愛または完全な同性愛ではなく、両性愛を含む中間層は、環境の刺激によって異性愛になるのと同じように、同性愛にもなる可能性は十分に考えられます。実際に、双子研究(行動遺伝学)において、男性の同性愛への影響度は遺伝22%、家庭環境14%、家庭外環境64%、女性の同性愛への影響度は遺伝37%、家庭環境1%、家庭外環境62%と算出されています3)。男性において、家庭環境の違いによる影響度が出ているのは、やはり兄と一緒にいる刺激によるものである可能性が示唆されます。また、家庭外環境の影響が男女ともに60%以上あることから、とくに性的欲求が高まる思春期での男子校や女子校、男女別の部活動など同性集団の凝集性が高い環境では同性愛になりやすくなる可能性が示唆されます。しかし、これに関連した調査を行った研究は現時点で見当たりません。参考までに、一時的ながら刑務所で同性愛になる現象(刑務所効果、機会的同性愛)は少なからずみられます。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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記念日「多様な性にYESの日」(その2)【だから遺伝しないはずなのに遺伝してるんだ(同性愛)】Part 3

(3)親族の子供が増えるため?-性的拮抗たとえば、男性と女性では腰の大きさは明らかに違います。なぜなら、性別役割分業をしていた原始の時代を想定すると、男性は狩りをするためになるべく身軽でスリムな腰になるように進化した一方、女性は安全に出産をするためになるべく大きな腰になるように進化したからです。このように、男女で最適条件が対立することがあり、父親由来の遺伝子と母親由来の遺伝子の綱引き(拮抗)によって、生まれてくる子供の腰の大きさが決まります。ここで極端に考えて、とても大きな腰になる遺伝子を持つ母方の家系があるとします。すると、その家系で生まれた女性は、もちろん大きな腰を持つために安全に出産するでしょう。そんな女性はモテるでしょう。一方で、その家系で生まれた男性も、大きめの腰を持つわけですが、鈍くなりうまく狩りができません。そんな男性は女性からモテないでしょう。逆に、とてもスリムな腰になる遺伝子を持つ父方の家系があるとします。すると、その家系で生まれた男性は、もちろんスリムな腰を持つため、しっかり狩りができるでしょう。そんな男性は女性からモテるでしょう。一方で、その家系で生まれた女性は、スリムな腰を持つため、難産になるでしょう。そんな女性は、現代とは違い原始の時代ではモテないでしょう。このように、同じ遺伝子でありながら、生存と生殖の適応度において男女で真逆になってしまうことがわかります。同じように、もともと男性ホルモンが少なくなる(相対的に女性ホルモンが多くなる)遺伝子を持つ母方の家系があるとします。その家系で生まれた女性は、もちろん女性ホルモンが多いので、ふくよかな体型で妊娠出産をしやすいでしょう。そして、とても共感的なので男性にモテるでしょう。一方で、その家系で生まれる男性は、胎児期に男性ホルモンが少ないので、同性愛になると考えることができます。逆に、もともと男性ホルモンが多くなる(相対的に女性ホルモンが少なくなる)遺伝子を持つ父方の家系があるとします。その家系で生まれた男性は、もちろん男性ホルモンが多いので、筋肉質な体型でしっかり狩りができるでしょう。そして、狩りの能力の高さをほのめかすこだわりの仕草から女性にモテるでしょう。一方で、その家系で生まれる女性は、胎児期に男性ホルモンが多いので、同性愛になると考えることができます。3つ目は、自分が同性愛であるのと引き換えに、自分とは異性の親の家系(親族)で子供がより多く生まれている、つまり性的拮抗(性的対立)です。同性愛の遺伝子は、それ自体では適応度を下げていますが、それをチャラにしてお釣りが出るくらいに、その血縁の異性の適応度を上げているというわけです。実際の調査では、異性愛男性よりも同性愛男性の母と母方オバの子供の数がともに多くなっています3)。つまり、同性愛の原因は、性的拮抗で説明できそうです。ただし、現在のところ、同性愛女性の父と父方のオジの子供の数については明らかになっていません。また、同性愛の遺伝子は現在でも特定されていません。とても頻度が高いのに特定できないということは、先ほどの腰の大きさと同じように、そもそも多因子で散らばりすぎており、遺伝的にありふれていると考えることもできるでしょう。つまり、同性愛は、性(異性愛)の進化の歴史のなかで、そして性別役割分業に徹した人類の歴史のなかで、男女差(性的二型)の進化の副産物であったと捉え直すことができるでしょう。1)「進化が同性愛を用意した」pp.17-31:坂口菊恵、創元社、20232)「同性愛の謎」p.81、pp.176-179、pp.204-206:竹内久美子、文春新書、20123)「同性愛は生まれつきか?」pp.52-53、pp.89-92:吉源平、株式会社22世紀アート、2020<< 前のページへ■関連記事映画「心のカルテ」(後編)【なんでやせ過ぎてるってわからないの?(エピジェネティックス)】Part 2

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第12回 アルツハイマー病の診療が変わるーFDAが血液検査を承認

米国食品医薬品局(FDA)が、アルツハイマー病の診断を補助する初の血液検査「Lumipulse G pTau217/β-Amyloid1-42 Plasma Ratio」を承認しました1)。この承認は、アルツハイマー病の診療に大きな変革をもたらし、認知症診療の新たな時代を開くと期待されます。検査名が長過ぎてあまりピンとこないかもしれませんが、とにかくすごい検査なのです。血液検査による早期発見の可能性これまでアルツハイマー病の診断には、アミロイドPETや脳脊髄液(CSF)検査といった高価で侵襲的な方法が用いられてきました。 アミロイドPETは、脳内のアミロイド斑を可視化できますが、コストが高く、患者さんへの放射線被ばくも伴います。 また、アミロイドがどこにあるかを知ったところで、それが患者さんの症状に反映されないといった限界もありました。脳脊髄液検査も、腰椎穿刺という侵襲的な方法で検体を採取する必要がありました。今回承認された新しい血液検査は、血液(血漿)中のpTau217とβアミロイド1-42という2つの数値を測定し、その比率を算出します1)。pTau217はアルツハイマー病患者の血液中で増加傾向を示し、認知機能障害の悪化に比例して増加するという特徴も報告されています。一方で、βアミロイド1-42はアミロイド斑に沈着するため、血液中からは減少します。それぞれ単独では診断精度に限界がありましたが、この比率を用いることで、検査精度が向上し、的確な診断をもたらすことができるようになりました。これにより、PETの必要性を減らし、脳脊髄液検査の置き換えになることが期待されています。 簡単な採血のみで行えるため、患者さんにとって負担が少なく、検査を受けやすくなります。200ドル程度と、費用負担も小さくなります。 FDA長官は、「2050年までにアルツハイマー病患者の数が倍増すると予測される中、このような新しい検査が患者の助けとなることを期待している」と述べています。診断プロセスの変化と期待される効果近い将来、アルツハイマー病の血液検査は、血圧やコレステロールのチェックのように、とてもありふれた日常的なものになる可能性が高いと思います。認知機能検査で異常が見られた場合、次のステップとして血液検査が行われるという流れはごく一般的なものになるでしょう。この検査の普及により、以下のような変化が予想されます。誤診の減少LATE(辺縁系優位型加齢性TDP-43脳症)のように、アルツハイマー病と症状が似ていても原因が異なる疾患(LATEの場合はTDP-43が関与)との鑑別がつきやすくなります。これまで診断方法が限られていたため、誤った情報共有が行われるケースがありましたが、より正確な診断が可能になることで、患者は適切なケアを受けられるようになります。適切な予防策と予後予測早期かつ正確な診断は、適切な予防策の実施や、より正確な予後の情報提供につながります。治療薬開発の加速より簡便で正確な診断方法が確立することで、治療薬の開発も促進されると期待できます。「認知症」診断前の「アルツハイマー病」診断診断ツールの普及により、症状に基づく診断である「認知症」よりも前に、脳内の変化に基づく診断である「アルツハイマー病」という診断が先につくケースが増えるでしょう。「あなたは『アルツハイマー病』ですが、『認知症』ではありません」という説明が一般的になるかもしれません。注意点と今後の課題一方で、この血液検査は無症状の人に行うスクリーニングや単独の検査として開発されたものではなく、他の評価や検査と合わせて診断を行う必要があります。この点はFDAも強調しています。 臨床試験では、この検査で陽性だった人の91.7%がPETまたは脳脊髄液検査でもアミロイドの存在が確認され、陰性だった人の97.3%がそれらの検査でも陰性でした1)。 しかし、偽陽性や偽陰性の可能性も指摘されており、偽陽性の場合は不必要な治療や精神的な苦痛を、偽陰性の場合は適切な診断の遅れを招く可能性があります。 当面は、不必要な人にまで過剰に検査を行い、不適切な投薬が増えるといったマイナス面が生じてしまうことへの懸念もあります。いずれにせよ、FDAによるアルツハイマー病の血液検査の承認は、診断のあり方を根本から変える可能性を秘めています。より負担が少なく、アクセスしやすい検査方法の登場は、早期発見・早期介入を促進し、誤診を減らし、最終的には患者さんとその家族の生活の質向上に貢献することが期待されています。多くの医師が、この新しい知識を習得し、患者側も理解を深めることで、認知症診療は新たな時代を迎えることになるでしょう。 1) FDA Clears First Blood Test Used in Diagnosing Alzheimer’s Disease. FDA. 2025 May 16.

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女性のオーガズム持続性とADHD症状との関係

 注意欠如多動症(ADHD)症状の有無による女性のオーガズムの持続性の違いを評価するため、カナダ・Kwantlen Polytechnic UniversityのTina Jensen-Fogt氏らは、十分な検出力を有する事前登録制オンライン調査より、性的自己主張および性的態度といったこれまで検討されていない構成要素を対照に調査を行った。Journal of Sex Research誌オンライン版2025年4月21日号の報告。 対象は、Qualtricsという調査プラットフォームを通じてオンライン調査に回答した18歳以上、過去6ヵ月間で1人以上のパートナーと性交を有する女性(シスジェンダー)815人(平均年齢:28.93±9.23歳)。既存のADHD診断は不要とした。 主な内容は以下のとおり。・研究仮説を検証したところ、ADHD症状はオーガズムの持続性を予測し、とくに不注意症状が強いほど、オーガズムの持続性が低いことが明らかとなった。・ADHD症状マネジメントのための薬物療法に関する調査では、現在ADHD症状の基準を満たしていない女性においてのみ、薬物療法がオーガズムの安定性に有意な影響を及ぼすことが示唆された。・性的マイノリティ女性と性的マジョリティ女性を比較したところ、ADHD症状の基準を満たしていない女性においてのみ、オーガズムの安定性に有意な差が認められた。 著者らは「オーガズムを安定して得ることが難しい女性は、人間関係の満足度、自尊心、性的満足度の低下、精神的苦痛の増加を経験する可能性が高いと考えると、本研究結果は、ADHD症状を有する女性の性的健康や幸福において重要な意味を持つと考えられる。これらの結果は、とくに不注意型のADHD症状を有する女性に当てはまるであろう」としている。

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イプタコパンがC3腎症の適応を追加/ノバルティス

 ノバルティス ファーマは2025年5月19日、補体B因子阻害薬イプタコパン塩酸塩水和物(商品名:ファビハルタ)について、C3腎症に対する適応を取得したことを発表した。 今回の承認は、腎移植を受けたことのないC3腎症患者74例(日本人4例を含む)を対象に、本剤200mg 1日2回経口投与の有効性および安全性を評価した国際共同第III相APPEAR-C3G試験の結果に基づいている。二重盲検投与期の主要評価項目である投与6ヵ月時の24時間蓄尿による尿蛋白/クレアチニン比のベースラインに対する比(幾何平均値)において、イプタコパンはプラセボと比べて35.1%の減少を示し、プラセボに対する優越性が検証された。また、イプタコパンは、投与14日時点の早期から尿蛋白の減少が認められ、12ヵ月時点でも持続していた。非盲検投与期間にプラセボからイプタコパンに切り換えた患者でも尿蛋白の減少がみられた。 C3腎症では、免疫系の一部である補体第二経路が過剰に活性化することにより、腎糸球体にC3が沈着する。そして炎症および糸球体損傷が誘発され、蛋白尿、血尿および腎機能低下が引き起こされる。非常にまれな腎疾患であり、主に若年成人で診断され、約半数は10年以内に腎不全に進行する。イプタコパンは、C3腎症に対して初めて承認された治療薬であり、C3腎症の根本原因とされる補体第二経路の過剰活性化を阻害することで、C3腎症に対する治療効果を発揮すると考えられている。電子添付文書情報 ※下線部が今回の変更一般名:イプタコパン塩酸塩水和物商品名:ファビハルタカプセル200mg効能又は効果:発作性夜間ヘモグロビン尿症、C3腎症用法及び用量:通常、成人にはイプタコパンとして1回200mgを1日2回経口投与する

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早期HER2+乳がん、術後化療+トラスツズマブへのペルツズマブ上乗せでOS改善(APHINITY)/ESMO BREAST 2025

 HER2陽性乳がんに対する術後化学療法+トラスツズマブへのペルツズマブの上乗せを検証した第III相APHINITY試験の最終解析の結果、ペルツズマブの上乗せにより全生存期間(OS)が有意に改善したことを、スペイン・International Breast Cancer CenterのJavier Cortes氏が欧州臨床腫瘍学会乳がん(ESMO Breast Cancer 2025、5月14~17日)で報告した。 APHINITY試験は、HER2陽性の手術可能な早期乳がん患者(4,804例)を対象に、術後療法として化学療法+トラスツズマブにペルツズマブを上乗せした際のプラセボに対する無浸潤疾患生存期間(iDFS)における優越性を検証したプラセボ対照無作為化比較試験。中間解析において、ペルツズマブ群では、プラセボ群よりもiDFSの有意な改善を示した。今回は、追跡期間中央値11.3年の最終解析結果が報告された。 主な結果は以下のとおり。・死亡はペルツズマブ群205例(8.5%)、プラセボ群247例(10.3%)に発生した(ハザード比[HR]:0.83、95%信頼区間[CI]:0.69~1.00、p=0.0441[有意水準はp≦0.0496])。・10年OS率は、ペルツズマブ群91.6%、プラセボ群89.8%であった。・リンパ節転移陽性患者(HR:0.79、95%CI:0.64~0.97)ではペルツズマブ上乗せによるOSの有意な改善が認められたが、リンパ節転移陰性患者(HR:0.99、95%CI:0.66~1.49)では認められなかった。・ホルモン受容体陽性患者(HR:0.76、95%CI:0.60~0.97)ではペルツズマブ上乗せによるOSの有意な改善が認められたが、ホルモン受容体陰性患者(HR:0.94、95%CI:0.70~1.26)では認められなかった。・中間解析で認められたペルツズマブ上乗せによるiDFSの改善は11.3年時点でも維持されていた(HR:0.79、95%CI:0.68~0.92)。・10年iDFS率は、ペルツズマブ群87.2%、プラセボ83.8%であった。・リンパ節転移陽性患者ではペルツズマブ上乗せによるiDFSのベネフィットは引き続き臨床的に意義のあるものであったが、リンパ節転移陰性患者ではベネフィットは認められなかった。・心臓に対する新たな安全性シグナルは特定されなかった。 これらの結果より、Cortes氏は「リンパ節転移陰性の場合には化学療法+トラスツズマブを引き続き術後補助療法として選択すべきであるが、リンパ節転移陽性の場合にはペルツズマブも投与すべきである」とまとめた。

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進行・再発子宮頸がんに対するチソツマブ べドチン発売/ジェンマブ

 ジェンマブは2025年5月21日、がん化学療法後に増悪した進行または再発の子宮頸がんに対する治療薬として、チソツマブ べドチン(遺伝子組換え)(商品名:テブダック点滴静注用40mg)を発売したことを発表した。本剤は、組織因子を標的とするヒトモノクローナル抗体に、プロテアーゼ切断可能なリンカーを用いて微小管阻害薬モノメチルアウリスタチンE(MMAE)を共有結合させた、進行または再発の子宮頸がんに対するファースト・イン・クラスの抗体薬物複合体(ADC)である。 チソツマブ べドチンは、国際共同無作為化非盲検第III相試験(innovaTV 301/SGNTV-003試験)などの成績に基づいて承認された。innovaTV 301/SGNTV-003試験では、化学療法の前治療歴がある進行または再発の子宮頸がん患者502例(日本人患者101例を含む)を対象として、治験担当医師が選択した化学療法単剤との比較において、主要評価項目である全生存期間を統計学的有意に延長した。<製品概要>商品名:テブダック点滴静注用40mg一般名:チソツマブ ベドチン(遺伝子組換え)効能又は効果:がん化学療法後に増悪した進行又は再発の子宮頸効能又は効果に関連する注意:1.本剤の1次治療における有効性及び安全性は確立していない。2.本剤の術後補助療法における有効性及び安全性は確立していない。用法及び用量:通常、成人にはチソツマブ ベドチン(遺伝子組換え)として1回2mg/kg(体重)を30分以上かけて、3週間間隔で点滴静注する。ただし、1回量として200mgを超えないこと。なお、患者の状態により適宜減量する。薬価:テブダック点滴静注用40mg 252,241円製造販売承認日:2025年3月27日薬価基準収載日:2025年5月21日発売日:2025年5月21日製造販売元:ジェンマブ株式会社

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サイアザイドに重大な副作用追加、ループ利尿薬は見送り/厚労省

 2025年5月20日、厚生労働省より添付文書の改訂指示が発出され、該当医薬品の副作用の項などに追記がなされる。サイアザイド系、ループ利尿薬の全16製品を検討 スルホンアミド構造を有する炭酸脱水酵素阻害薬(経口剤、注射剤)、サイアザイド系利尿薬について、「急性近視、閉塞隅角緑内障および脈絡膜滲出」に関する国内外の副作用症例や公表文献の評価などから、使用上の注意を改訂することが適切と判断された。これまで海外では、サイアザイド系利尿薬(サイアザイド類似利尿薬含む)およびアセタゾラミドを含む利尿薬について、急性近視、閉塞隅角緑内障および脈絡膜滲出に関するリスク評価または措置が行われており、スルホンアミド構造を有する医薬品と急性近視、閉塞隅角緑内障および脈絡膜滲出のリスクとの関連性を示唆する報告が挙がっていた。なお、ループ利尿薬3製品(フロセミド、トラセミド、アゾセミド)については、改訂が検討されたが指示には至らなかった。※2025年5月26日20時、本文中に誤りがあり、一部修正(フロセミド、トラセミド、アゾセミドを削除)しました。 改訂の対象医薬品は全13製品(サイアザイド系利尿剤、同成分とARBの配合剤)で、9製品の添付文書の「重要な基本的注意」の項目に「急性近視、閉塞隅角緑内障、脈絡膜滲出」に関する注意を、また、「副作用」の重大な副作用の項に「脈絡膜滲出」あるいは「急性近視、閉塞隅角緑内障、脈絡膜滲出」が追記される。その他の4製品については、ほかのサイアザイド系薬剤で副作用が現れた旨の報告が追記される。<対象医薬品>※2025年5月26日20時、フロセミド、トラセミド、アゾセミドを削除しました。・アセタゾラミド(商品名:ダイアモックス錠ほか)・アセタゾラミドナトリウム(同:ダイアモックス注射用)・インダパミド(同:ナトリックス錠ほか)・メフルシド(同:バイカロン錠ほか)・ヒドロクロロチアジド(同:ヒドロクロロチアジド錠)・ベンチルヒドロクロロチアジド(同:ベハイド錠)・トリクロルメチアジド(同:フルイトラン錠ほか)・カンデサルタン シレキセチル・ヒドロクロロチアジド(同:エカード配合錠LD/HDほか)・テルミサルタン・ヒドロクロロチアジド(同:ミコンビ配合錠AP/BPほか)・テルミサルタン・アムロジピンベシル酸塩・ヒドロクロロチアジド(同:ミカトリオ配合錠)・バルサルタン・ヒドロクロロチアジド(同:コディオ配合錠MD/EXほか)・ロサルタンカリウム・ヒドロクロロチアジド(同:プレミネント配合錠LD/HDほか)・イルベサルタン・トリクロルメチアジド(同:イルトラ配合錠LD/HD)ドンペリドン、妊婦禁忌が削除 このほか改訂指示が出されたものとして、ドンペリドンの「禁忌」から妊婦または妊娠している可能性のある女性が削除される。 厚生労働省の妊婦・授乳婦を対象とした薬の適正使用推進事業の情報提供ワーキンググループ(WG)は、「女性が妊娠に気付いていなかった場合に、結果的に妊婦に対して本薬を処方される事例が一定数存在しており、そのような事例において、妊娠判明後に本薬が妊婦禁忌であることを知った女性が妊娠を継続するかどうか不安を抱え、人工妊娠中絶を選択する可能性がある」ことを指摘。また、『産婦人科診療ガイドライン-産科編2023』において、「妊娠初期のみに使用された場合、臨床的に有意な胎児への影響はないと判断してよい医薬品」として本薬の記載があること、当該ガイドラインにて本薬の服用により奇形発生の頻度や危険度が上昇するとは考えられない旨の根拠が示されている点などを踏まえて、今回の判断に至った。

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切除不能肝細胞がん1次治療でのニボルマブ+イピリムマブ、OSを有意に改善/Lancet

 前治療歴のない切除不能肝細胞がん(HCC)患者において、ニボルマブ+イピリムマブ併用療法はレンバチニブまたはソラフェニブの単剤療法と比較して、有意な生存ベネフィットを示し、安全性プロファイルは管理可能なものであったことを、香港大学のThomas Yau氏らCheckMate 9DW investigatorsが非盲検無作為化第III相試験「CheckMate 9DW試験」の結果で報告した。切除不能HCC患者の予後は不良であり、長期的ベネフィットをもたらす治療が待望されている。本報告は、CheckMate 9DW試験の事前規定の中間解析の結果であり、著者は、「結果は、前治療歴のない切除不能HCC患者に対する1次治療として、ニボルマブ+イピリムマブ併用療法を支持するものであった」とまとめている。Lancet誌オンライン版2025年5月8日号掲載の報告。25ヵ国163施設で試験、主要評価項目はOS 切除不能HCC患者に対する全身性1次治療としてのニボルマブ+イピリムマブ併用療法の有効性および安全性を、レンバチニブまたはソラフェニブの単剤療法と比較検討したCheckMate 9DW試験は、アジア、オーストラリア、欧州、北米および南米の25ヵ国163施設で行われた。 被験者は、全身療法歴のない切除不能HCCで、RECIST v1.1に基づく測定可能な未治療病変が1つ以上あり、Child-Pugh分類A(5または6点)、ECOG performance status 0または1の18歳以上の患者を適格とした。 被験者は、ニボルマブ(1mg/kg)+イピリムマブ(3mg/kg)を3週ごと最大4回静脈内投与後、ニボルマブ480mgを4週ごと最長2年投与する群(ニボルマブ+イピリムマブ併用群)、治験担当医の選択でレンバチニブ(8mg/日[体重<60kgの場合]または12mg/日[≧60kgの場合])を経口投与またはソラフェニブ(400mgを1日2回)を経口投与する群(対照群)に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 無作為化は、双方向応答テクノロジーシステムを用いて行われ、病因(HBV vs.HCV vs.非感染)、大血管浸潤または肝外転移もしくは両者の有無、ベースラインのアルファフェトプロテイン(AFP)値により層別化された。 主要評価項目は全生存期間(OS)とし、無作為化された全患者で評価した。安全性は、無作為化された全患者のうち治療を1回以上受けた患者で探索的に評価した。追跡期間中央値35.2ヵ月、ニボルマブ+イピリムマブ併用群のOS有意に改善 2020年1月6日~2021年11月8日に、668例が無作為化された(ニボルマブ+イピリムマブ併用群335例、対照群333例)。 Kaplan-Meier法を用いてプロットした両群の生存曲線(Kaplan-Meier曲線)において、無作為化後6ヵ月間の死亡例はニボルマブ+イピリムマブ併用群で多かった(死亡リスクのハザード比[HR]:1.65[95%信頼区間[CI]:1.12~2.43])が、早期に交差しその後は両群のKaplan-Meier曲線は乖離した状態が維持され、ニボルマブ+イピリムマブ併用群での生存が良好であることが観察された(死亡リスクのHR:0.61[0.48~0.77])。 追跡期間中央値35.2ヵ月(四分位範囲:31.1~39.9)時点において、OSはニボルマブ+イピリムマブ併用群(中央値23.7ヵ月[95%CI:18.8~29.4])が対照群(20.6ヵ月[17.5~22.5])と比較して有意に改善したことが認められた(HR:0.79[95%CI:0.65~0.96]、両側層別化log-rank検定のp=0.018)。24ヵ月OS率は、ニボルマブ+イピリムマブ併用群49%(95%CI:44~55)、対照群39%(34~45)であり、36ヵ月OS率は、それぞれ38%(32~43)、24%(19~30)であった。 全体でGrade3~4の治療関連有害事象は、ニボルマブ+イピリムマブ併用群137/332例(41%)、対照群138/325例(42%)で認められた。治療関連死はニボルマブ+イピリムマブ併用群で12例、対照群で3例が報告された。

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降圧薬の心血管リスク低減効果、朝服用vs.就寝前服用/JAMA

 降圧薬の就寝前服用は安全であるが、朝の服用と比較して心血管リスクを有意に低減しなかったことが、カナダ・University of AlbertaのScott R. Garrison氏らが、プライマリケアの外来成人高血圧症患者を対象として実施した無作為化試験で示された。降圧薬を朝ではなく就寝前に服用することが心血管リスクを低減させるかどうかについては、先行研究の大規模臨床試験における知見が一致しておらず不明のままである。また、降圧薬の就寝前服用については、緑内障による視力低下やその他の低血圧症/虚血性の副作用を引き起こす可能性が懸念されていた。今回の結果を踏まえて著者は、「降圧薬の服用時間は、降圧治療のリスクやベネフィットに影響を与えない。むしろ患者の希望に即して決めるべきである」とまとめている。JAMA誌オンライン版2025年5月12日号掲載の報告。カナダのプライマリケアで試験、朝服用vs.就寝前服用を評価 研究グループは、降圧薬の朝服用と就寝前服用の、死亡および主要心血管イベント(MACE)に与える影響を、プラグマティックな多施設共同非盲検無作為化・エンドポイント評価者盲検化試験で調べた。被験者は、カナダの5つの州にある436人のプライマリケア臨床医を通じて集めた、少なくとも1種類の1日1回投与の降圧薬の投与を受けている地域在住の成人高血圧症患者であった。募集期間は2017年3月31日~2022年5月26日、最終追跡調査は2023年12月22日であった。 被験者は、すべての1日1回投与の降圧薬を朝に服用する群(朝服用群)もしくは就寝前に服用する群(就寝前服用群)に1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要複合アウトカムは、全死因死亡またはMACE(脳卒中、急性冠症候群または心不全による入院/救急外来[ED]受診)の初回発生までの期間であった。あらゆる予定外入院/ED受診、視覚機能、認知機能、転倒および/または骨折に関連した安全性アウトカムも評価した。主要複合アウトカムイベントの発生、安全性に有意差なし 計3,357例が無作為化された(就寝前服用群1,677例、朝服用群1,680例)。被験者は全体で女性56%、年齢中央値67歳であり、併存疾患は糖尿病が18%、冠動脈疾患既往が11%、慢性腎臓病が7%であった。また、単剤治療を受けている被験者が53.7%であり、降圧薬の種類はACE阻害薬36%、ARB 30%、Ca阻害薬29%などであった。 全体として追跡調査期間中央値4.6年において、主要複合アウトカムイベントの発生率は、100患者年当たりで就寝前服用群2.30、朝服用群2.44であった(補正後ハザード比[HR]:0.96、95%信頼区間[CI]:0.77~1.19、p=0.70)。 100患者年当たりの主要アウトカムの項目別発生率(死亡:就寝前服用群1.11 vs.朝服用群1.28[補正後HR:0.90、95%CI:0.67~1.22、p=0.50]など)、あらゆる予定外入院/ED受診の発生率(23.26 vs.25.15[0.93、0.85~1.02、p=0.10])および安全性について、両群間で差は認められなかった。とくに、転倒の自己申告率(4.9%vs.5.0%、p=0.47)や100患者年当たりの骨折(非脊椎骨折:2.18 vs.2.40[0.92、0.74~1.14、p=0.44]、大腿骨近位部骨折:0.27 vs.0.43[0.65、0.37~1.15、p=0.14])、緑内障の新規診断(0.60 vs.0.54[1.13、0.73~1.74、p=0.58])、18ヵ月間の認知機能低下(26.0%vs.26.5%、p=0.82)について差はみられなかった。

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COVID-19は糖尿病患者の院内死亡率を高める

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は高齢者や基礎疾患のある人で重症化しやすいことが知られているが、今回、治療中の糖尿病がCOVID-19による院内死亡率や人工呼吸器使用、血液透析といった腎代替療法の重大なリスク因子である、とする研究結果が報告された。研究は東京医科大学病院糖尿病・代謝・内分泌内科の諏訪内浩紹氏、鈴木亮氏らによるもので、詳細は「PLOS One」に3月19日掲載された。 COVID-19は多臓器障害を伴い、重症化した場合は、急性呼吸窮迫症候群、急性腎障害、その他の臓器不全を引き起こすことが多い。日本ではCOVID-19による死亡率は比較的低いが、糖尿病患者の場合では死亡リスクの上昇が報告されている。一方で、糖尿病患者におけるCOVID-19の治療と転帰を検討する包括的な研究は依然として限られている。そのような背景から、著者らはCOVID-19が糖尿病患者に及ぼす影響を評価するために、多施設の後ろ向きコホート研究を実施した。本研究では、院内死亡率、人工呼吸器の使用、ICUへの入院、血液透析(HD)、持続的血液濾過透析(CHDF)、医療リソースの利用状況に関する影響が検討された。 研究には、千葉県内38医療機関の診断群分類包括評価(DPC)データより、2020年2月1日~2021年11月31日までの間にCOVID-19と診断された1万1,601人が含まれた。この中から、18歳未満、妊娠中、糖尿病未治療の症例など計825人が除外され、最終的な解析対象を1万776人(対照群7,679人、糖尿病群3,097人)とした。連続変数とカテゴリ変数の比較には、それぞれスチューデントのt検定とフィッシャーの正確確率検定を使用した。 糖尿病群の患者は対照群の患者よりも平均年齢とBMIが高かった(67.4歳 vs 55.7歳、25.6kg/m2 vs 23.6kg/m2、各P<0.001)。糖尿病の治療に関しては、インスリン使用率は88.4%、経口血糖降下薬は44.2%であり、インスリン療法の割合が高かった。 COVID-19による平均入院日数は、糖尿病群で17.8±15.3日であり、対照群(10.2±8.5日)と比べて有意に延長された(P<0.001)。院内死亡率は、糖尿病群と対照群でそれぞれ、12.9%と3.5%であり、糖尿病群で高くなっていた(オッズ比OR 4.05〔95%信頼区間3.45~4.78〕、P<0.001)。また、年齢別のサブグループ解析を行った結果、50~59歳にORのピークがみられ(同12.8〔3.71~44.1〕、P<0.01)、この年齢層がCOVID-19による院内死亡の強いリスク因子であることが示唆された。 次に、糖尿病がアウトカム(院内死亡率、人工呼吸器の使用、ICU入院、HD、CHDF)に及ぼす影響を検討するため回帰分析を行ったところ、糖尿病群の全てのアウトカムのORは対照群と比較して有意に高かった。また、年齢、性別、BMI、救急車の利用で調整した重回帰分析を行った場合でも、全てのアウトカムのORは有意なままであったことから、糖尿病がこれらのアウトカムの独立した因子であることが示された。 本研究について著者らは、「2020~2021年のDPCデータの解析から、糖尿病はCOVID-19における院内死亡率、人工呼吸器の使用、ICU入院、HD、CHDFの独立したリスク因子であることが示された。院内死亡率に関しては特に18~79歳の糖尿病群で対照群より高く、働き盛りの50~59歳で最もオッズ比が高かったことから、以降の若年世代に対してのワクチン接種勧奨や行動制限は有効だったのではないか」と述べている。 また、本研究の強みとして、レセプトデータをベースとしており、患者の使用している糖尿病治療薬などの臨床情報や、かかった医療費に関しての情報が含まれていた点を挙げており、「本研究はCOVID-19と糖尿病の臨床的特徴を明らかにし、将来の治療の改善に役立つものと考えている」と付け加えた。 本研究の限界点として、今回使用したDPCデータには、入院前の情報、臨床検査値やCOVID-19の重症度分類に関する情報、ワクチン接種に関する情報が含まれていないことを挙げている。

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バロキサビル単回投与による家庭内インフルエンザ伝播予防効果(解説:寺田教彦氏)

 ウイルス性上気道炎に対する抗ウイルス薬の伝播抑制効果は従来注目されてきたが、臨床研究においてその有効性を明確に示すことは困難であった。そうした中、2025年にNew England Journal of Medicine誌に掲載された本研究は、メーカーからの後援を受けた研究ではあるものの、インフルエンザ発症者に対して発症後48時間以内にバロキサビルを単回投与することで、家庭内でのウイルス伝播が有意に抑制されることを示した。 バロキサビルは日本で開発された新規抗インフルエンザ薬であり、以下のような特徴を有する。【長所】・単回経口投与で治療が完結する。・ウイルス力価の迅速な低下が期待される。・臨床効果はオセルタミビルなどのノイラミニダーゼ阻害薬(NAI)と同等であり、とくにインフルエンザB型に対して優れているとする報告がある(Ison MG, et al. Lancet Infect Dis. 2020;20:1204-1214.)。【懸念点】・投与後にPA/I38X変異を有するウイルスが一定頻度で検出されており、バロキサビルの使用が増加すると耐性ウイルスの拡大が懸念されうる(Hayden FG, et al. N Engl J Med. 2018;379:913-923.)。・妊婦、免疫不全者、重症入院患者に対する有効性に関するエビデンスが現時点では不足している。・他の抗インフルエンザ薬と比較して薬価が高い。 本研究は、インフルエンザ発症から48時間以内の指標患者(index case)にバロキサビルを単回投与し、家庭内接触者へのインフルエンザ伝播抑制効果を検討した無作為化比較試験である。指標患者に重篤な合併症リスクのある者は含まれておらず、また家庭内接触者に2歳未満児、妊婦、免疫不全者といったインフルエンザ感染症の重症化リスクが高い者がいる場合も除外されていた。 主な結果として、無作為化から5日目までの家庭内接触者の感染率はバロキサビル群で9.5%、プラセボ群で13.4%と有意に低く(相対リスク低下29.0%)、インフルエンザ伝播に対する抑制効果が確認された。一方で、有症状インフルエンザの発症率はバロキサビル群5.8%、プラセボ群7.6%であり、統計学的有意差は認められなかった。 本研究結果は、バロキサビル投与により、インフルエンザ伝播率は有意に抑制されたが、有症状のインフルエンザ発症の抑制は限定的であることを示唆している。抗インフルエンザ薬の役割を「他者への伝播抑制」とした場合、指標患者の周囲に健常者のみがいる状況では、薬の内服による追加的なメリットは限定的であろう。だが、同居家族に高リスク者がいる場合には、バロキサビルの投与は、感染拡大とインフルエンザ重症化を予防することが期待されうる。 さらに、公衆衛生的観点からは、2020年のCOVID-19のようなパンデミックがインフルエンザで発生した場合、ワクチン展開以前の初期対応としてバロキサビルを活用する戦略も理論的に検討されうる。 なお、本研究では次の2点も注目された。 第1に、副作用の頻度である。バロキサビル群における有害事象発現率は4.6%、プラセボ群では7.0%であり、いずれも軽度(Grade1または2)であった。これまでの報告と同様に、本剤の忍容性は良好と考えられる。 第2に、バロキサビル投与に伴う耐性変異の出現である。バロキサビルを投与された指標患者においてPA/I38X変異は7.2%で認められたが、家庭内接触者では耐性ウイルスに感染した症例はなかった。これは、耐性ウイルスが患者体内でのみ発生したことを意味するのではなく、家庭内接触者は指標患者がバロキサビルを服用する前にすでに感染していたと考えられる。 バロキサビルは、インフルエンザ治療における重要な薬剤の1つであり、今後も耐性ウイルスの出現状況を注視しつつ、適正使用が求められる抗微生物薬である。[結論]バロキサビルは、インフルエンザの家庭内伝播を有意に抑制する効果を示し、とくに高リスク者の保護という観点で臨床的意義を持つ可能性がある。一方で、耐性ウイルスの出現や、重症例・免疫不全患者への有効性など、今後さらに検証を要する課題もある。

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第264回 日本の診療報酬改定の財源確保はますます困難に?米国のトランプ大統領の医薬品価格引き下げ政策の影響を考える

消費税が社会保障の重要財源になっていることを軽視・無視する政治家たちこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。夏の参院選をにらみ、消費税の扱いについて各党幹部からの発言が相次いでいます。とくに野党からの消費税減税・撤廃の声は強く、立憲民主党は来年4月から原則1年間、食料品の消費税をゼロにするよう求め、日本維新の会は食品にかかる消費税を再来年4月まで時限的に撤廃するよう求めています。この他、国民民主党は時限的に一律5%下げることを提案、共産党も将来的な廃止を目指して緊急で一律5%に引き下げるよう求めています。れいわ新選組は従来からの主張通り、消費税そのものを廃止するよう求めています。これに対し、自民党は社会保障などの財源になっていることを理由に、税率引き下げに依然否定的な考えを示しています。ただ、これも党執行部の意見であり、一部からは税率引き下げの声も出ているようです。不思議なのは、どの政党も消費税が社会保障の重要な財源になっていることを軽視(あるいは無視)しており、代替財源について大した案を示していないことです。私の自宅のポストに入っていた共産党のチラシなどは、「いますぐ消費税減税を」と書く一方、「国費投入で医療・介護の危機打開」とも書かれており、もはやわけがわかりません。「消費税率を下げる=社会保障財源を減らす」なのですから。さて、「わけがわからない」と言えば、米国のトランプ大統領が、米国内の医療用医薬品価格を引き下げる指示をする大統領令に署名したというニュースもある意味「わけがわからない」です。同様の政策をトランプ大統領は第1次政権の時にも敢行しようとしましたが、製薬会社の抵抗や連邦裁判所の大統領令一時差し止めにより頓挫しています。改めて打ち出された米国の医薬品価格引き下げ政策は、日本の医療にどんな影響を与えるのでしょうか。「世界の医薬品業界が最も恐れていた事態が起きた」トランプ大統領は5月11日(現地時間)、自身のSNSに医療用医薬品の価格について、「最恵国待遇(most favored nation:MFN)」政策を導入する大統領令に署名すると表明、翌12日に署名しました。このニュースを報じた5月12日付の日経バイオテクは、「世界の医薬品業界が最も恐れていた事態が起きたといっても過言ではない」と書いています。最恵国待遇とは、世界貿易機関(WTO)協定の基本原則の1つで、ある国に与えた貿易上の優遇措置をその他の加盟国にも同様に適用し、平等に扱うというルールです。トランプ大統領はこのルールを米国の医薬品価格に適用、米連邦政府が支払っている特定の医薬品の価格を、ほかの先進国が支払っている最も低い医薬品価格に連動させるとしています。各紙報道によれば、トランプ大統領は最恵国待遇政策の導入によって「医薬品価格を59%引き下げる」と主張したとのことです。「米国の医療用医薬品の価格は『研究開発費をカバーするため』として高い価格設定が正当化されてきた」とトランプ大統領大統領令に署名する前に開いた記者会見の席上、トランプ大統領は、「米国の医療用医薬品の価格は『研究開発費をカバーするため』として高い価格設定が正当化されてきたが、実際には他国が低い価格を設定しており、米国が不当に高い価格を支払ってきた」と主張、「この政策により、他国が医薬品の研究開発費を公正に負担するよう促され、米国と他国の薬価が同等になる。製薬企業が他国での不公平な価格交渉からも保護される仕組みだ」と語ったとのことです。今回の大統領令の対象となるのは、連邦政府が提供する公的医療保険制度のうち、65歳以上の高齢者や障がい者などを対象としたメディケア(Medicare)と、低所得者向けのメディケイド(Medicaid)で使用される医薬品とみられていますが、一部の医薬品に留まるのか、より広範な医薬品が対象になるのかは未定です。なお、製薬企業に対しては、大統領令の日から30日以内に、米保健福祉省長官が米メディケア・メディケイドサービスセンター管理者や関連する行政機関などの職員と連携し、製薬企業に最恵国待遇価格の目標値を伝達するとしています。「外国政府に医薬品にかかる費用を公平に負担させるのは正当」とPhRMAこうした動きに対し、米国研究製薬工業協会(PhRMA)は同日、声明を発表しています。日経バイオテクなどの報道によれば、PhRMAは米国で医薬品の価格が高い「本当の理由」として、「他国が正当な負担を負っていない」「中間業者が米国の医薬品価格を押し上げている」と指摘。米国で医薬品にかかる費用の50%は薬剤給付管理業者、保険会社、病院が受け取っているとして、「これらのお金を患者に直接渡すことで、患者負担が軽減し、欧州との価格差が大幅に縮まる」と主張したとのことです。またPhRMAは、政府が貿易交渉によって「外国政府に医薬品にかかる費用を公平に負担させるのは正当」と支持した一方で、医薬品価格の引き下げは「米国の患者や労働者の治療機会や治療の選択肢を減らすことになる」と反論もしています。トランプ大統領の考えを全面否定はせず、「他国が正当な負担を負っていない」、「外国政府に医薬品にかかる費用を公平に負担させるのは正当」などと、どちらかと言えばすり寄ったコメントをしている点はなかなか興味深いです。この段階でトランプ大統領を怒らせて、“業界いじめ”がさらに加速することを嫌ったためと考えられます。他国が米国の医薬品開発に「ただ乗り」しており、米国民だけが高値で薬剤を買っている状況は「不公平」就任以来、さまざまな政策を打ち出すものの、なかなか米国民のプラスが見えてこない状況で、「医薬品の価格を大幅に下げる」という政策は、確かに国民の共感を呼びそうです。米国は世界最大の創薬大国と言われていますが、創薬のための巨額の研究開発費が医薬品の価格に上乗せされていることで成立しているとの見方があります。ちなみに日本と異なり、米国では原則、製薬会社が独自に医薬品の価格を決めています。というわけで、他国が米国の医薬品開発に「ただ乗り」しており、米国民だけが高値で薬剤を買っている状況は「不公平」というのがトランプ大統領の考え方なのです。今後の具体的な政策としては、前述したようにメディケア、メディケイドで使用される医薬品の価格を下げることや、PhRMAも賛同している薬剤給付管理業者、保険会社、病院など中間業者の“取り分”を減らす施策を講じること、そして国外で製造された薬剤を米国で販売するメーカーには、薬価引き下げを要求するという流れになります。薬価引き下げに応じない国には追加関税を課す考えもトランプ大統領は示しています。そうした意味では、グローバルに展開する日本の製薬メーカーにとっては、米国の医薬品価格下げは大きなダメージとなるでしょう。日本の薬価はこれまで以上に“維持”、あるいは“引き上げ”圧力が高まるこの政策、第1次トランプ政権のときは頓挫しており、今回も実現するかどうかはまだわかりませんが、仮に実現した場合、日本の医療現場にはどんな影響が出るのでしょうか。約1ヵ月前、本連載「第259回 トランプ関税で2026年度診療報酬改定の財源確保に暗雲?国内では消費税率の減税論もくすぶり、医療費削減圧力はさらに増大の予感」では、トランプ大統領が4月2日に発表した全世界を対象とした相互関税について取り上げました。この時は、「仮に薬価改定による診療報酬財源の捻出法も税率低減のためのカードに使われることになれば、来年以降の診療報酬改定の財源確保に大きな影響が出ることになります」と書きました。日本の薬価についてはこれまで以上に“維持”、あるいは“引き上げ”圧力が高まりそうです。なぜならば、米国内での医薬品価格を下げれば米国の製薬企業の収益を圧迫するので、製薬企業には海外市場でその分稼いでもらわなければならないからです。トランプ政権が米国の医薬品開発に「ただ乗り」を許さない姿勢を強めてくれば、石破政権後の方針転換によって、2025年度中間年改定で革新的医薬品の薬価引き下げのルールを拡大するなどしてきた日本の薬価制度について大幅な見直しを迫ってくる可能性もあります。PhRMAは昨年末に欧州製薬団体連合会(EFPIA)と出した共同声明で、「予期せぬ決定により、企業の中には、10年以上前から長らく策定してきた綿密な投資回収計画の見直しを迫られ、数百億円もの損失を被る可能性がある」と中間年改定の政策を強く批判していました。ポピュリズム政治の割りを食うのは最終的に国民というわけで、2026年度診療報酬改定の財源確保はますます厳しいものとなりそうです。そして国内では、相変わらずの「消費税減税・撤廃」の議論。目先のことしか考えない国内外の政治家たちによるポピュリズム政治の割りを食うのは最終的に国民(とくに現役世代や子供たち)です。日本でも与野党含めた政治家たちがトランプ政権のやり方を批判していますが、少なくとも「消費税減税・撤廃」を叫ぶ政治家にその資格はまったくないのではないか、と考える今日この頃です。

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患者安全文化が向上すれば「看護ケアの未実施」は減る?【論文から学ぶ看護の新常識】第15回

患者安全文化が向上すれば「看護ケアの未実施」は減る?患者安全文化と「看護ケアの未実施」の関連を調べた最新の研究で、両者に明確な負の相関(安全文化が良いほど「看護ケアの未実施」が少ない)が示された。Leodoro J. Labrague氏らの研究で、Journal of Advanced Nursing誌オンライン版2025年1月23日で報告した。医療現場における患者安全文化と看護ケアの未実施との関連:システマティックレビューとメタアナリシス研究者らは、患者安全文化と「看護ケアの未実施(Missed Nursing Care:MNC)」との関連性に関する既存研究を評価・統合することを目的に、システマティックレビューとメタアナリシスを実施した。2010年以降に出版された査読付き論文を対象に、5つのデータベース(CINAHL、ProQuest、PubMed、ScienceDirect、Web of Science)で検索を行った。その結果、合計9件の研究が特定され、うち7件の研究(対象者総計1661例)がメタアナリシスの対象となった。主な結果は以下の通り。メタアナリシスの結果、全体の患者安全文化と看護ケアの未実施との間には有意な負の相関が認められ、プールされた相関係数は −0.205(95%信頼区間[CI]:−0.251~−0.158、p<0.001)であった。異質性は低度から中程度(I2=13.18%、95%CI:0.00~78.60)であり、出版バイアスの検定でも有意なバイアスは示されなかった(Eggerテスト:p=0.0603、Beggテスト:p=0.3476)。本研究の結果は、患者安全文化と看護ケアの未実施との間に有意な負の相関関係があることを強調している。とくに管理職のサポート、組織学習、および部署レベルの安全文化が、看護ケア未実施の予測因子としての役割を果たすことが示された。したがって、医療組織内における患者安全文化の強化は、看護ケアの未実施を軽減するための戦略的アプローチとなり得る。医療現場における患者安全文化と「看護ケアの未実施」の関係性を検証した本メタ分析は、看護の質と患者安全における重要な課題に光を当てるものです。研究の結果、患者安全文化が良好であるほど、必要な看護ケアが実施されない状態、すなわち「看護ケアの未実施」が少ないという明確な負の相関が確認されました。とくに、管理職による安全へのサポート、組織全体での学習の推進、そして病棟単位での安全文化の醸成が、「看護ケアの未実施」を防ぐ上で極めて重要であることが示されています。これは、看護師個人の努力や能力だけでなく、組織全体の文化とシステムが、日々の看護実践の質に深く関わっていることを強く示唆しています。「看護ケアの未実施」は、患者の回復遅延、感染リスクの増加、転倒や褥瘡の発生といった、多様な有害事象を引き起こす可能性があります。それに加え、必要なケアを十分に提供できない状況は、看護師の倫理的な苦痛や燃え尽き症候群の一因ともなり得ます。本研究の結果が示すように、組織的に患者安全文化を強化することは、こうした課題を軽減するための有効な方策となり得ます。具体的には、風通しの良い組織風土のもと、リーダーが安全確保に対する強い責任感を示し、発生したインシデントから学び改善に繋げる仕組みを構築すること、そして病棟単位で職員間の円滑なコミュニケーションと相互支援を推進する取り組みが不可欠です。これらの取り組みを通じて、看護師が質の高いケアを自信を持って提供できる環境が整備され、結果として患者の安全確保と看護ケア全体の質の向上に貢献できると考えられます。この研究は、患者安全文化への組織的な投資の重要性を裏付ける、強力なエビデンスを示すものです。論文はこちらLabrague LJ, Cayaban AR. J Adv Nurs. 2025 Jan 23. [Epub ahead of print]

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乳製品摂取と慢性肝疾患・肝がんリスクが関連

 乳製品摂取量と慢性肝疾患死亡率および肝がん発症率との関連性を評価した結果、高脂肪乳製品摂取は慢性肝疾患死亡リスクを高める一方で低脂肪乳製品摂取はリスクを下げ、乳製品全体・高脂肪乳製品・牛乳は肝がんリスクを高めることを、米国・ハーバード大学のXing Liu氏らが明らかにした。The American Journal of Clinical Nutrition誌オンライン版2025年4月28日号掲載の報告。 本研究は、1995~96年の米国国立衛生研究所-AARP 食事・健康研究の参加者を対象とした前向きコホート研究。がんの既往歴のある参加者や過剰なカロリー摂取歴のある参加者は除外された。乳製品の摂取量や摂取頻度などは、検証済みの食品摂取頻度質問票を用いて聴取した。Cox比例ハザードモデルを用いて関連を検討した。 主な結果は以下のとおり。●合計48万5,931人の適格参加者が解析に含まれた。男性は59.8%、平均年齢は61.5(SD 5.4)歳であった。追跡期間中央値15.5年の間に、慢性肝疾患による死亡が993件、肝がんが940件発生した。●慢性肝疾患死亡率は、高脂肪乳製品および高脂肪牛乳の摂取と正の関連を示した。ハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)は以下のとおり。 -高脂肪乳製品摂取が21以上vs.0~3.5サービング/週のHR:1.51(95%CI:1.24~1.84)、傾向のp=0.009 -高脂肪牛乳摂取が14以上vs.0サービング/週のHR:2.03(95%CI:1.31~3.14)、傾向のp<0.001●低脂肪乳製品、低脂肪牛乳、ヨーグルトの摂取と慢性肝疾患死亡率は逆の関連を示した。 -低脂肪乳製品摂取が21以上vs.0~3.5サービング/週のHR:0.62(95%CI:0.46~0.84)、傾向のp=0.002 -低脂肪牛乳摂取が14以上vs.0サービング/週のHR:0.54(95%CI:0.41~0.70)、傾向のp=0.028 -ヨーグルト摂取が4以上vs.0サービング/週のHR:0.60(95%CI:0.37~0.97)、傾向のp=0.057●乳製品全体と高脂肪乳製品の摂取は、肝がん発症率とわずかながら正の関連を示した。 -乳製品総摂取が21~28vs.0~7サービング/週のHR:1.26(95%CI:0.99~1.59)、傾向のp=0.040 -高脂肪乳製品摂取が14~21vs.0~3.5サービング/週のHR:1.35(95%CI:1.07~1.70)、傾向のp=0.014●牛乳摂取は肝細胞がん発症率と正の関連を示した。

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