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医師の子供の約6割が中学受験または予定している/医師1,000人アンケート

 2023年の調査によると、東京都では5人に1人が中学受験をして進学するなど、大都市圏では中高一貫校に人気がある。「公立学校よりも豊かな学習環境で学ばせたい」や「来るべき大学受験のために進学校で学ばせたい」など理由はさまざまである。 では、大都市圏の医師の子供は中学受験を行っているのであろうか。また、受験の動機や合格するための対策、受験までの費用などどのくらい支出しているのだろうか。 CareNet.comでは、3月21~27日にかけて、関東圏(東京都・埼玉県・神奈川県・千葉県)、関西圏(大阪府・兵庫県・京都府)の会員医師1,000人に「中学受験」の実状について聞いた。中学受験の動機は「親の希望」がトップ 質問1で「中学受験をしたか。あるいは、受験する予定か」(単回答)を聞いたところ、「受験した/する予定」と回答した医師が64%、「受験しなかった/しない予定」が36%と半数以上の医師の子供が中学受験をしていた。地域別の比較では、わずかだが関西圏(66%)で受験したあるいは予定の人が多かった(関東圏62%)。 質問2で「中学受験の動機」(3つまで選択/複数回答)を聞いたところ、「親の希望」が70%、「子供本人の希望」が50%、「進学実績」が25%の順で高かった。地域別で5%以上差があった項目は「学校の設備」で、関東圏が9%に対し関西圏では4%だった。 質問3で「中学受験対策」(複数回答)を聞いたところ、「塾」が92%、「親など家族が勉強をサポート」が27%、「家庭教師」が12%の順で高かった。地域別では関東圏で「家庭教師」(16%)が関西圏(9%)よりも高かった。 質問4で「小学6年生のときに支出した教育費(塾・家庭教師・通信教育などの費用のみ、受験費用などは含まない)の合計」(単回答)について聞いたところ、「50万円以上100万円未満」が30%、「100万円以上150万円未満」が23%、「50万円未満」が18%の順で高かった。地域別では、100万円未満だった家庭の割合は、関西圏(55%)が関東圏(49%)よりも高い傾向がみられた。 質問5で「中学受験に関する意見や受験でのエピソード」を自由回答で聞いたところ、次のコメントが寄せられた。【受験動機や家族のサポートなど】・ある程度自由な校風で、自然も多く、本人に合っていて良かった。おかげで、国公立大学医学部に現役で合格した(60代/内科)・子供をやる気にさせるのに毎日苦労した(40代/放射線科)【受験勉強や受験日当日のハプニングについて】・連日受験で親子ともども大変だったので、早い段階で1つ合格校を確保しておくと、精神的に楽になる(40代/糖尿病・代謝・内分泌内科) ・子供が第1志望の受験日にインフルエンザになった(60代/精神科)【受験後の様子や中学受験への見解について】・親子で同じ目標に向かうという体験はとても貴重だった(50代/麻酔科)・小学生のうちにやれることがいっぱいあるのに、今の子供達は時間がないのがかわいそう(60代/小児科)アンケート結果の詳細は以下のページで公開中。医師の子の中学受験率は約6割

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高齢の大動脈弁狭窄症、TAVI後のダパグリフロジン併用で予後を改善/NEJM

 重症の大動脈弁狭窄症で経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)を受け、心不全イベントのリスクが高い高齢患者において、標準治療単独と比較してSGLT2阻害薬ダパグリフロジンを併用すると、全死因死亡または心不全悪化の発生率が有意に改善することが、スペイン・Centro Nacional de Investigaciones Cardiovasculares Carlos IIIのSergio Raposeiras-Roubin氏らDapaTAVI Investigatorsが実施した「DapaTAVI試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2025年4月10日号に掲載された。スペインの無作為化対照比較試験 DapaTAVI試験は、TAVIを受けた大動脈弁狭窄症の高齢患者におけるダパグリフロジン併用の有効性と安全性の評価を目的とする医師主導型の無作為化対照比較試験であり、2021年1月~2023年12月にスペインの39施設で参加者の無作為化を行った(Instituto de Salud Carlos IIIなどの助成を受けた)。 重症大動脈弁狭窄症でTAVIを受け、心不全の既往歴に加え腎不全(推算糸球体濾過量[eGFR]25~75mL/分/1.73m2)、糖尿病、左室駆出率(LVEF)<40%のうち少なくとも1つを有する患者1,222例(平均[±SD]年齢82.4±5.6歳[72%が80歳以上、7%以上が90歳以上]、女性49.4%)を対象とした。これらの患者をTAVI施行後に、標準治療に加えダパグリフロジン(10mg、1日1回)の経口投与を受ける群(605例)、または標準治療のみを受ける群(618例)に無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、追跡期間1年の時点における全死因死亡または心不全の悪化(心不全による入院または心不全で緊急受診し利尿薬静脈内投与を受けたことと定義)の複合とした。主要アウトカムを有意に改善 全体の43.9%が糖尿病、17.0%がLVEF<40%、88.6%がeGFR 25~75mL/分/1.73m2で、平均eGFRは56.2±16.4mL/分/1.73m2であった。追跡期間中にダパグリフロジン群の103例(17.0%)が投与中止となり、標準治療単独群の43例(7.0%)が心不全以外の理由でダパグリフロジンの投与を開始した。標準治療単独群の1例が追跡不能となり主解析から除外された。 主要アウトカムのイベントは、標準治療単独群で124例(20.1%)に発生したのに対し、ダパグリフロジン群では91例(15.0%)と有意に減少した(ハザード比[HR]:0.72[95%信頼区間[CI]:0.55~0.95]、p=0.02)。 全死因死亡はダパグリフロジン群47例(7.8%)、標準治療単独群55例(8.9%)(HR:0.87[95%CI:0.59~1.28])、心不全悪化はそれぞれ57例(9.4%)および89例(14.4%)(サブHR:0.63[95%CI:0.45~0.88])で発生した。性器感染症、低血圧症の頻度が高い 非外傷性四肢切断(ダパグリフロジン群0.8%vs.標準治療単独群0.6%、p=0.72)、重症低血糖症(0.7%vs.1.3%、p=0.26)、がん(5.0%vs.3.6%、p=0.23)の発生率は両群で同程度であった。両群とも糖尿病性ケトアシドーシスの報告はなかった。 一方、性器感染症(1.8%vs.0.5%、p=0.03)および低血圧症(6.6%vs.3.6%、p=0.01)はダパグリフロジン群で高頻度だった。ダパグリフロジン群の37例(6.1%)が、有害事象により投与中止となった。 著者は、「これらの結果は、高齢患者においてSGLT2阻害薬は安全で、臨床的有益性をもたらすことを裏付けるものと考えられ、高齢患者へのSGLT2阻害薬の処方が少ない現状を考慮すると重要な知見といえるだろう」としている。

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テレビを消すと糖尿病になりやすい人の心血管リスクが低下する

 2型糖尿病になりやすい遺伝的背景を持つ人は、心臓発作や脳卒中、末梢動脈疾患などのアテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)のリスクも高い。しかし、そのリスクは、テレビのリモコンを手に取って「オフ」のスイッチを押すと下げられるかもしれない。香港大学(中国)のMengyao Wang氏らの研究によると、テレビ視聴を1日1時間以下に抑えると、2型糖尿病の遺伝的背景に関連するASCVDリスクの上昇が相殺される可能性があるという。この研究の詳細は、「Journal of the American Heart Association(JAHA)」に3月12日掲載された。 Wang氏らの研究は、英国の一般住民対象大規模疫学研究「UKバイオバンク」参加者のうち、遺伝子情報のデータがある成人34万6,916人(平均年齢56±8.0歳、女性55.4%)を対象に行われた。2型糖尿病に関連する138の遺伝子情報を用いて多遺伝子リスクスコア(PRS)を算出し、低位(PRSの下位20%)、中位(低位・高位以外)、高位(PRSの上位20%)の3群に分類。また、テレビ視聴時間は自己申告に基づき、1日1時間以下の群(20.7%)と2時間以上の群(79.3%)の2群を設定した。 中央値13.8年間追跡したところ、2万1,265件のASCVDイベントが記録されていた。ASCVDリスクに影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、BMI、喫煙・飲酒・運動習慣、睡眠時間、就業状況、肉・魚・果物・野菜などの摂取量、経済状況ほか)を調整後、テレビ視聴時間が1日2時間以上の群はPRSにかかわらず、1日1時間以下の群よりもASCVDリスクが12%高かった(ハザード比1.12〔95%信頼区間1.07~1.16〕)。またPRSが中位および高位の群でも、テレビ視聴時間が1日1時間以下である限り、ASCVDリスクの上昇は認められなかった。 その一方で、PRSが低位であっても2時間以上テレビを視聴している群は、向こう10年間のASCVDリスクが2.46%であり、この数値は、PRSが高位ながらテレビ視聴時間が1時間以下の群のASCVDリスクである2.13%よりもやや高かった。 論文の筆頭著者であるWang氏は、「われわれの研究結果は、テレビ視聴時間を減らすことが、2型糖尿病の遺伝的背景に関連するASCVDを予防するための、重要な行動目標となる可能性を示唆している」と総括。また、「疾患を予防し健康を増進するために、特に2型糖尿病の遺伝的リスクが高い人々に対しては、テレビを見る時間を減らして健康的な習慣を身に付けることを奨励すべきだ」と付け加えている。論文の上席著者である同大学のYoungwon Kim氏も、「2型糖尿病および長時間の座位行動は、ASCVDの主要なリスク因子である。そして、座位行動の多くをテレビ視聴が占めており、それが2型糖尿病とASCVDのリスク上昇につながっている」と解説している。 米国心臓協会(AHA)の身体活動委員会の委員長である、米バージニア大学シャーロッツビル校のDamon Swift氏は、「この研究は、テレビの視聴を減らすことが、2型糖尿病のリスクが高い人にも低い人にも有益であることを示唆している」と論評。また「健康増進におけるライフスタイル選択の重要性を示している」と語っている。なお、同氏は本研究には関与していない。

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輸液バッグからマイクロプラスチックが血流に流入か

 医師や健康分野の専門家の間で、人体の奥深くにまで侵入するマイクロプラスチックに対する関心が高まりつつある。こうした中、医療行為でさえもこの微小なプラスチックへの曝露を増やす要因となり得ることが、新たな研究で示された。プラスチック製の輸液バッグから投与される液剤の中にもマイクロプラスチックが含まれていることが明らかになったという。復旦大学(中国)環境科学・工学部教授のLiwu Zhang氏らによるこの研究は、「Environment & Health」に2月14日掲載された。Zhang氏らは、「われわれの研究から、マイクロプラスチックが血流に入り込むという、人間に最も直接的に影響するプラスチック汚染の一面が浮き彫りになった」と述べている。 Forbes誌の最近の記事によると、マイクロプラスチックは、認知症や脳の健康問題、心疾患、脳卒中、生殖機能の問題、乳幼児の疾患など、さまざまな健康問題と関連していることが複数の研究で示されているという。2025年2月初旬に「Nature」に発表された研究によると、人間の脳から検出されるマイクロプラスチックの量は、2016年と比べて2024年には約50%増加したという。さらに、研究グループによると、マイクロプラスチックは人間の血中からも検出されている。血中を流れるマイクロプラスチックは、肺、肝臓、腎臓、脾臓などの臓器に蓄積されやすいという。 研究グループは今回、2つの異なるメーカーの点滴用生理食塩水入りの輸液バッグを購入し、その中身を静脈内輸液速度と同じ40~60滴/分でガラス容器に滴下した。次に、収集した液体を、0.2μmのポリカーボネートろ紙を用いた真空ろ過装置でろ過し、ろ紙上に残った物質をイオン水に浸して超音波処理した後に乾燥。最終的にSEM-EDS(走査型電子顕微鏡とエネルギー分散型X線分光分析)とラマン分光分析法を用いて、マイクロプラスチックの分析を行った。 その結果、どちらのメーカーの生理食塩水にも、ポリプロピレン製の輸液バッグと同じポリプロピレン粒子が相当数(約7,500個/L)含まれていることが明らかになった。この結果は、点滴を通して何千個ものマイクロプラスチックが人間の血流に混入する可能性があることを示唆していると研究グループは言う。研究グループはこの結果に基づき、複数の輸液バッグが必要になる脱水症状の治療では血流に入り込むマイクロプラスチックの数が約2万5,000個、腹部手術の場合には約5万2,500個に達する可能性があると試算している。 Zhang氏らは、輸液バッグを紫外線や熱から遠ざけることで、マイクロプラスチックが液剤に混入しにくくなる可能性があるとの見方を示している。また、病院や診療所では、患者が点滴を受けている間にマイクロプラスチックを除去するろ過システムの導入を検討しても良いかもしれないとしている。 研究グループは、「今後の研究では、より直接的な毒性学的研究に重点を置いて、マイクロプラスチックの潜在的な毒性とそれに関連する健康リスクを総合的に評価するべきだ」との見解を示し、「今回の研究結果は、マイクロプラスチックが人間の健康にもたらす潜在的な危険性の軽減に向けた適切な政策や対策を立案するための科学的根拠となるだろう」と述べている。

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肝硬変患者において肝硬変自体はCAD発症リスクの増加に寄与しない

 冠動脈疾患(CAD)は肝硬変患者に頻発するが、肝硬変自体はCAD発症リスクの上昇と有意に関連しない可能性を示唆する研究結果が、「Journal of Clinical and Translational Hepatology」に2024年11月21日掲載された。 CADは、慢性冠症候群(CCS)と急性冠症候群(ACS)に大別され、ACSには、不安定狭心症、非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)、およびST上昇型心筋梗塞(STEMI)などが含まれる。肝硬変患者でのCADの罹患率や有病率に関しては研究間でばらつきがあり、肝硬変とCADの関連は依然として不確かである。 中国医科大学附属病院のChunru Gu氏らは、これらの点を明らかにするために、システマティックレビューとメタアナリシスを実施した。まず、PubMed、EMBASE、およびコクランライブラリーで2023年5月17日までに発表された関連論文を検索し、基準を満たした51件の論文を抽出した。ランダム効果モデルを用いて、これらの研究で報告されている肝硬変患者のCAD罹患率と有病率、およびCADの関連因子を統合して罹患率と有病率を推定した。また、適宜、オッズ比(OR)やリスク比(RR)、平均差(MD)を95%信頼区間(CI)とともに算出し、肝硬変患者と非肝硬変患者の間でCAD発症リスクを比較した。 51件の研究のうち、12件は肝硬変患者におけるCAD罹患率、39件はCAD有病率について報告していた。肝硬変患者におけるCAD、ACS、および心筋梗塞(MI)の統合罹患率は、それぞれ2.28%(95%CI 1.55〜3.01、12件の研究)、2.02%(同1.91〜2.14%、2件の研究)、1.80%(同1.18〜2.75、7件の研究)と推定された。CAD(7件の研究)、ACS(1件の研究)、MI(5件の研究)の罹患率を肝硬変患者と非肝硬変患者の間で比較した研究では、いずれにおいても両者の間に有意な差は認められなかった。 肝硬変患者におけるCAD、ACS、およびMIの統合有病率は、それぞれ18.87%(95%CI 13.95〜23.79、39件の研究)、12.54%(11.89〜13.20%、1件の研究)、6.12%(3.51〜9.36%、9件の研究)と推定された。CAD(15件の研究)とMI(5件の研究)の有病率を肝硬変患者と非肝硬変患者の間で比較した研究では、両者の間に有意な差は認められなかったが、ACS(1件の研究)の有病率に関しては、肝硬変患者の有病率が非肝硬変患者よりも有意に高いことが示されていた(12.54%対10.39%、P<0.01)。 肝硬変患者におけるCAD発症と有意に関連する因子としては、2件の研究のメタアナリシスから、糖尿病(RR 1.52、95%CI 1.30〜1.78、P<0.01)および高血圧(同2.14、1.13〜4.04、P=0.02)が特定された。一方、CAD有病率と有意に関連する因子としては、高齢(MD 5.68、95%CI 2.46〜8.90、P<0.01)、男性の性別(OR 2.35、95%CI 1.26〜4.36、P=0.01)、糖尿病(同2.67、1.70〜4.18、P<0.01)、高血圧(同2.39、1.23〜4.61、P=0.01)、高脂血症(同4.12、2.09〜8.13、P<0.01)、喫煙歴(同1.56、1.03〜2.38、P=0.04)、CADの家族歴(同2.18、1.22〜3.92、P=0.01)、非アルコール性脂肪肝炎(NASH、同1.59、1.09〜2.33、P=0.02)、C型肝炎ウイルス(HCV、同1.35、1.19〜1.54、P<0.01)が特定された。つまり、肝硬変患者においては、肝硬変ではなく、古典的に知られている心血管リスク因子、NASH、およびCHCVがCADリスクの上昇と関連があった。 著者らは、「肝硬変の高リスク集団におけるCADのスクリーニングと予防方法を明らかにするには、大規模な前向き研究が必要だ」と述べている。 なお、1人の著者が、「Journal of Clinical and Translational Hepatology」の編集委員であることを明らかにしている。

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血栓溶解療法は後方循環系脳梗塞に発症後24時間まで有効か?(解説:内山真一郎氏)

 中国で行われたEXPECTS研究は、CTで高度の早期低吸収域がなく、血栓除去術が予定されていない、発症後4.5~24時間の後方循環系脳梗塞患者において、アルテプラーゼ投与と標準的内科治療を比較した無作為化試験である。結果は、90日後の自立例がアルテプラーゼ投与群で標準的内科治療群より有意に多く、36時間以内の症候性頭蓋内出血は両群間で有意差がなかった。 最近行われた無作為化比較試験では、灌流画像で証明された前方循環系の大血管閉塞患者で発症後24時間まで治療時間枠を拡大できる可能性が示唆されていたが、この研究により実用的で安価なCTでも症例選択に代用できることが示された。後方循環系は前方循環系よりも側副血行が豊富で虚血耐性が高く、血栓溶解療法による脳出血リスクが低いと考えられる。本研究では、血栓除去術が予定されていた大血管閉塞による重症例が除外されたことも脳出血リスクの低下に貢献したと思われる。本研究の限界として、対象患者が漢人のみであったため他の人種には全般化できないことを挙げているが、人種的に近い日本人患者には大いに参考になる結果ではないかと思われる。

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直美を再考する――偏在する志望診療科と、偏らせてはならない希望【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第83回

活気に満ちた学会会場2025年3月末、第89回日本循環器学会がパシフィコ横浜で開催されました。活気に満ちた会場、熱のこもった発表。私も一参加者として学び、そして応援に駆けつけました。当科の若手医師が初めて全国規模でのポスター発表に挑戦する姿を見届けるためです。事前の予行演習から気合い十分で、緊張感がみなぎっていました。ポスター会場へ向かうには、製薬企業や医療機器メーカーのブースが立ち並ぶ展示ホールを通る必要があります。学会運営に欠かせない資金を、こうした企業の出展料で賄うという仕組みです。企業は、お金をかけてブースを出展しても、訪ねてくれる人がいなければ意味がありません。訪問者数を確保するために、口頭発表の会場からポスター会場に移動するには、展示ホールを通過しなければならないように配置されています。ブースへの来場を促すための導線設計には、思わず感心してしまいます。まるで祭りの夜店を冷やかすような感覚で、私もこの華やかな通路を歩くのが密かな楽しみです。その中に、ひっそりと佇むオーストラリア心臓病学会のブースがありました。「ぜひ現地の学会にも参加を」という誘いの展示です。ふと掲示物を眺めていると、快活な笑顔の大柄な女性が現れ、コアラのぬいぐるみを手渡してくれました。両手がクリップになっている愛らしい作りです。私はカバンのストラップにそのコアラをぶら下げ、足取り軽くポスター会場へ向かいました。「中川先生! お久しぶりです」会場で声を掛けてくれたのは、仕事上で親交のある若手の女性医師でした。「お元気そうで何よりですね」しばらく世間話を交わし、別れ際に彼女が言いました。「先生、コアラ似合ってますよ」内心では結構な歳のオヤジが何をはしゃいでいるのだ!と感じていたのかもしれません。「あのブースで配ってますよ、ぜひどうぞ」やや照れながら返しました。数日後、彼女から1通のメールが届きました。内容はこうです。彼女には小さな娘さんがいて、そのコアラをとても気に入っているとのこと。「子供は早く大きくなってほしいような、でもずっと小さいままでいてほしいような……そんな気持ちになります」と締めくくられていました。その言葉に、私は胸を打たれました。母親としての喜びと、時の流れへのかすかな寂しさ。その複雑な感情がにじむ、やさしい一文です。学会出張の数日間だけ子供の顔を見なかった母親には、その時間に確実に成長した証に気付いたのかもしれません。親のまなざしが感じられます。彼女は確かに「今」を大切にして子育てを楽しんでいるのだと感じました。わが循環器内科のスタッフにも、小さな子供を育てる医師が多くいます。果たして私は、彼らが「今」を大切にできる環境を整えているだろうか、そう問い直さずにはいられませんでした。診療科偏在――どうすれば「きついけれど、やりがいある」科に集まるか?さて、日本の医療が抱える構造的な課題の一つに、若手医師の診療科偏在があります。外科系や循環器内科など、「忙しくて過酷」「報われにくい」とされる科は敬遠されがちです。一方で美容外科などは、自由診療ゆえに高収入で、時間の融通も利きやすいことから人気を集めています。象徴的な存在が、「直美」と呼ばれる若手医師たちです。初期研修を終えるとすぐに美容医療に進む医師たちを、やや皮肉を込めてそう呼ぶことがあります。消化器外科などの一般外科医として何年か経験した後に美容外科に転向する医師も存在します。直美よりも、転科して加わる者のほうが多いかもしれません。自分の知り合いにも、心臓血管外科医として10年以上の経験がありながら転向する決断をした医師がいます。そこには子供の病気という背景がありました。家族のために費やす時間を確保する必要があったのです。彼は、美容外科医として成功し、またお子さまも元気に成長しています。どの医師にも、それぞれの場面で優先すべき家庭内の事情があるのです。美容外科を選択する医師を非難するだけでは解決しません。では、どうすれば再び、循環器内科のような「きついけれど、やりがいある」診療科に若手医師が集まるのでしょうか。待遇改善はもちろん必要です。しかしそれ以上に、当直明けの確実な休養や、子供と過ごす時間を大切にできる柔軟な働き方、こういった医師としての人生と、親としての人生、その両方を尊重できる職場づくりが不可欠だと私は思うのです。医療は、人の命と人生に寄り添う仕事です。だからこそ、医師自身も人生の喜びを犠牲にしてはならないのです。若い医師たちがやりがいを持って働きながら、家族との時間も慈しむことができる社会こそが、医療の未来を支えるのではないでしょうか。

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コンビニと症状検索アプリが連携、何のため?【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第150回

コンビニエンスストアのセブン-イレブンが、症状検索アプリを提供する会社と手を組み、新たなサービスを展開するようです。それはどのようなサービスで、それぞれのメリットはどこにあるのでしょうか?セブン-イレブン・ジャパンは31日、医療スタートアップのUbie(ユビー、東京・中央)と資本業務提携を結んだと発表した。ユビーの症状検索サービスを利用する人向けに、セブンの宅配サービスを提案する。今後コンビニ店舗でユビーが持つ健康関連の情報を発信するなどして、実店舗をヘルスケアの拠点として活用する。(2025年3月31日付 日本経済新聞)セブン-イレブンは、言わずと知れたコンビニエンスストア最大手で、全国で2万1,743店舗(2025年2月末時点)を有し、最近では商品お届けサービス「7NOW(セブンナウ)」を展開しています。一方、Ubieは医師と技術者が2017年に立ち上げたベンチャー企業で、症状検索アプリ「ユビー」やAI問診などの医療機関向けパッケージ「ユビーメディカルナビ」、さらに製薬企業と協業して疾患・治療情報を提供する「ユビー for Pharma」などのサービスを展開しています。「テクノロジーで人々を適切な医療に案内する」をミッションとし、医療業界全体のDXを推進している会社です。今回、リアル店舗を有するセブン-イレブンと、医療テクノロジーを提供するUbieが提携することにより、新たなサービスを展開するようです。第1弾として、「7NOW」と「ユビー」との相互連携に関する実証実験を開始すると発表しました。具体的には、「ユビー」を利用する体調不良で外出が難しい人に、症状検索結果の画面で「7NOW」の利用を案内します。また、体調不良を感じた人が「7NOW」を利用した際、注文完了後にシームレスに「ユビー」で症状を検索できるように連携するとしています。ユビーを利用する人にはセブン-イレブンの商品が提案され、セブン-イレブンを利用する体調不良の人にはユビーが案内される、というイメージでしょうか。セブン-イレブンのプレスリリースでは、「両社は本提携を通じ『生活の中で一番身近なヘルスケアステーション』として食と医療を掛け合わせた新たな価値創造に取り組み、お客様の健康寿命延伸に貢献してまいります」としています。これまでもコンビニエンスストアはさまざまな医療サービスとの提携を実施しています。調剤薬局を併設しているお店もありますし、今では一般用医薬品の販売も当たり前に行われています。一方で、それらがきちんと利益を生み出しているかどうかは疑問です。健康や医療は異業種が参入したがる領域ではありますが、国民皆保険がある日本において、食と医療を掛け合わせたサービスできちんと利益を上げて、それを継続させるということは、実はとても難しいことではないでしょうか。セブン-イレブンが最大手であること、また今回のサービスは両社にデメリットやリスクが少ないことから続けやすいかもしれませんが、今回のサービスを使ったお客さんが「提案されてよかった!」と思えるものになるのか、その反響や今後発表されるであろう第2弾の取り組みを楽しみにしたいと思います。

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肝障害患者へのオピオイド【非専門医のための緩和ケアTips】第99回

肝障害患者へのオピオイドモルヒネは腎不全患者に投与する時は注意が必要というのは有名ですが、肝障害患者に対してはどのような注意が必要なのでしょうか? さまざまな基礎疾患の患者に対応する必要のある緩和ケア領域、肝障害について考えてみたいと思います。今回の質問在宅診療でアルコール性肝硬変のある大腸がん患者を診ているのですが、オピオイドを使用する場合、どのような注意点があるでしょうか? 肝障害があると薬剤の代謝も悪くなると思うので、心配です。今回も臨床的な質問をいただきました。実はこの肝障害患者へのオピオイドの使用は、あまりエビデンスが確立されていない分野です。医薬品インタビューフォームなどの情報を見ると、フェンタニルは「比較的用量調整不要とされるが、慎重に使用」と記載されており、それ以外のオピオイドは「投与量の調節が必要、もしくは使用を推奨しない」という記載となっています。肝障害患者に使用が推奨されていないのは、メサドン、コデイン、トラマドールです。とくにメサドンは「重度の肝疾患患者において、半減期が大幅に延びた」という報告があり、私も基本的には使用しません。一方、モルヒネやオキシコドンなどほかのオピオイドは減量したうえで慎重に投与することを検討します1)。ただし、先述のように確立されたエビデンスはなく、ほかの文献では「フェンタニルも投与量調整が必要」や「メサドンも投与量を調整すれば使用可能」とする報告もあり、迷うところです。臨床的には安全な範囲を見積もりながら慎重に投与し、効果と副作用を評価することになります。こういった機会でないとなかなか勉強することのない、薬剤の代謝について復習してみましょう。肝機能障害がある際に代謝が低下する理由はいくつかあるのですが、代謝酵素(CYP3A4など)の活性が半分程度まで低下することが大きく影響します。私も専門家ではないのでざっくりとした説明になりますが、CYPは種類があり、薬剤ごとに関与するCYPが異なります。このため、薬剤ごとに代謝の影響を確認する必要があるのです。「障害されている肝細胞が多いほど代謝機能が低下する」というのはイメージしやすいでしょう。今回の質問のように肝臓全体に影響があるアルコール性肝硬変の場合は肝細胞が広範に萎縮し、代謝機能が大きく低下するケースが多いでしょう。一方、肝細胞がんでは比較的肝細胞数が維持されることが多いとされます。こうした意味でも病態ごとに考える必要があるのです。今回は緩和ケアの専門家でもクリアカットにコメントしにくい、肝障害患者へのオピオイドについて考えてみました。まずは「重度肝障害患者に対しては、メサドン、コデイン、トラマドールは避ける」という点を押さえましょう。今回のTips今回のTips肝障害患者へのオピオイド投与。避ける薬剤を確認し、使用できる薬剤も慎重に投与量を考えよう。1)Pharmacokinetics in Patients with Impaired Hepatic Function: Study Design, Data Analysis, and Impact on Dosing and Labeling/FDA

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異常のない長引く咳嗽【日常診療アップグレード】第28回

異常のない長引く咳嗽問題46歳男性が長引く咳を訴えて来院した。12日前から微熱と倦怠感があり咳、鼻水、咽頭痛が出現した。発熱と鼻水、咽頭痛はよくなったが、咳だけが続いている。既往歴にうつ病がありSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)を内服中である。バイタルサインは正常で胸部聴診も異常を認めない。SARS-CoV-2とインフルエンザの検査は陰性である。しばらくすれば咳は止まるでしょうと安心感を与え帰宅させた。

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第263回 パーキンソン病の幹細胞治療の2試験の結果がひとまず有望

パーキンソン病の幹細胞治療の2試験の結果がひとまず有望幹細胞から作った神経細胞によるパーキンソン病治療の2試験の待望の結果が、時を同じくして先週16日にNature誌に報告されました1-4)。それら試験の被験者はおよそ安全に経過観察の2年間を過ごすことができ、移植された神経細胞はパーキンソン病で失われるドーパミン生成/放出神経細胞(DA神経)に成り代わって十分長く存続してドーパミンを作りうると示唆されました。2つのチームがめいめい実施したそれらの試験はともに小規模で、主な目的は安全性の検討です。被験者数は2試験合わせて19例ばかりで、震えがはっきりと減った被験者もいますが、プラセボ群がないことなどもあって効果の判定には不十分で、より大規模な試験での検討が今後必要です5,6)。両試験で神経を作るのに使われた幹細胞はおよそ無限に増え続けることができ、心身を形成するあらゆる細胞に分化しうる特別な能力を有します。2試験で移植された神経細胞の起源は幹細胞ですが、その出所が異なります。一方では受精後の胚から得られるヒト胚性幹細胞(hES細胞)、もう一方では成人の体細胞から人工的に生み出される人工多能性幹細胞(iPS細胞)から神経細胞が作られました。パーキンソン病はDA神経が失われることによる進行性の神経病態で、振戦、こわばり、動作緩慢を引き起こします。残念ながら根治療法はなく、2050年までに世界のパーキンソン病患者数はおよそ2,500万例に達すると予想されています7)。失われたDA神経をそれに代わる細胞の移植で補充してパーキンソン病治療を目指す取り組みの先駆けの報告は1980年代にさかのぼります8)。試されたのはDA神経が豊富とされる胎児の中脳腹側の細胞のパーキンソン病患者への移植です。胎児由来細胞が移植された脳領域では幸いにしてドーパミンの量が回復し、運動機能の改善が長続きしました。それらの結果はパーキンソン病の細胞移植の治療効果を裏付けるものですが、胎児脳組織はそう簡単に手に入るものではありませんし、手に入ったとしてその質はまちまちかもしれません。それに倫理的な懸念もあります。そういう課題の解決手段の1つとして幹細胞からDA神経を大量に作る試みが始まり、しばらくすると世界の多くのチームがヒト幹細胞からDA神経を生み出せるようになりました。研究はさらに進んでパーキンソン病を模す動物への移植実験で症状や動作の改善効果が示されるようになり、2020年にはパーキンソン病患者の初のiPS細胞治療例が報告されるに至ります9)。その1例の患者には自身の皮膚細胞由来のiPS細胞を分化させて作った前駆DA神経が2017~18年に脳の左側と右側に2回に分けて移植されました10)。移植細胞の存続がPET写真で確認され、移植後18ヵ月と24ヵ月時点での患者の症状は安定か改善していました。実用に堪える細胞を作る技術は原料がiPS細胞とhES細胞の場合のどちらでもその後改善し、今や複数例を集めての臨床試験が実施されるようになっています。今回発表された2試験の1つはわが国の京都大学医学部附属病院で実施された第I/II相試験で、iPS細胞から作った前駆DA神経がパーキンソン病患者7例の脳の両側の被殻に移植されました。移植細胞が拒絶されないように免疫抑制薬が15ヵ月間投与されました。2年間(24ヵ月)の経過観察で幸いにも重篤な有害事象は生じておらず、効果検討対象の6例のうち4例は薬の効果がない状態での運動症状検査値(MDS-UPDRSパートIIIによるOFFスコア)の改善を示しました。もう1つはBayerの子会社のBlueRock Therapeutics社が米国とカナダで実施した第I相exPDite試験で、パーキンソン病患者12例が参加し、京都大学の試験とは違ってhES細胞由来の前駆DA神経が脳に移植されました。移植場所は被殻で、京都大学での試験と同じです。やはり免疫抑制薬が投与されました。投与期間は1年間です。exPDite試験の18ヵ月間の安全性経過は日本での試験と同様におよそ問題はなく、移植細胞と関連する有害事象は生じていません。MDS-UPDRSパートIIIによるOFFスコアは高用量群でより下がっており、18ヵ月時点ではもとに比べて平均23点低くて済んでいました。脳の写真を調べたところドーパミン生成の上昇が認められ、免疫抑制薬の使用停止後も含む18ヵ月間の観察期間のあいだ、少なくともいくらかの移植細胞は存続したようです5)。京都大学での試験でも同様にドーパミン生成の増加を示す結果が得られています。昨年2024年9月にBlueRock社はexPDite試験のさらに長い24ヵ月(2年間)の経過を速報しています11)。安全性は引き続き良好で、移植細胞と関連する有害事象はありませんでした。MDS-UPDRSパートIIIによるOFFスコアの低下もおよそ維持されており、高用量投与群は24週時点を22点低下で迎えています。BlueRock社の前駆DA神経はbemdaneprocelと名付けられて開発されており、exPDite試験での良好な結果を頼りに早くも本年前半、すなわちこの6月末までに第III相試験が始まる見込みです12)。 参考 1) Tabar V, et al. Nature. 2025 Apr 16. [Epub ahead of print] 2) Sawamoto N, et al. Nature. 2025 Apr 16. [Epub ahead of print] 3) 「iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞を用いたパーキンソン病治療に関する医師主導治験」において安全性と有効性が示唆 / 京都大学医学部附属病院 4) Potential Treatment for Parkinson’s Using Investigational Cell Therapy Shows Early Promise / Memorial Sloan Kettering Cancer Center 5) ‘Big leap’ for Parkinson’s treatment: symptoms improve in stem-cell trials / Nature 6) Clinical trials test the safety of stem-cell therapy for Parkinson’s disease / Nature 7) Su D, et al. BMJ. 2025;388:e080952. 8) Lindvall O, et al. Arch Neurol. 1989;46:615-631. 9) Schweitzer JS, et al. N Engl J Med. 2020;382:1926-1932. 10) Novel Treatment Using Patient's Own Cells Opens New Possibilities to Treat Parkinson's Disease / PRNewswire 11) BlueRock Therapeutics’ Investigational Cell Therapy Bemdaneprocel for Parkinson’s Disease Shows Positive Data at 24-Months / BUSINESS WIRE. 12) BlueRock Therapeutics announces publication in Nature of 18-month data from Phase 1 clinical trial for bemdaneprocel, an investigational cell therapy for Parkinson’s disease / GlobeNewswire

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未治療CLLへのアカラブルチニブ+オビヌツズマブ、6年PFSの結果(ELEVATE-TN)/Blood

 未治療の慢性リンパ性白血病(CLL)に対するアカラブルチニブ単独またはアカラブルチニブとオビヌツズマブ併用の有用性を評価した第III相ELEVATE-TN試験において、追跡期間中央値74.5ヵ月での成績を米国・Willamette Valley Cancer InstituteのJeff P. Sharman氏らが報告した。アカラブルチニブ+オビヌツズマブ群の有効性と安全性は維持され、無増悪生存期間(PFS)は、高リスク患者を含めてchlorambucil+オビヌツズマブ群より延長していた。Blood誌オンライン版2025年4月8日号に掲載。 本試験は、未治療CLLを対象に、アカラブルチニブ単独およびアカラブルチニブ+オビヌツズマブをchlorambucil+オビヌツズマブと比較した無作為化多施設共同非盲検第III相試験である。主要評価項目は、独立判定委員会(IRC)評価によるアカラブルチニブ+オビヌツズマブ群のPFS(vs.chlorambucil+オビヌツズマブ群)、重要な副次評価項目は、IRC評価によるアカラブルチニブ単独群のPFS(vs.chlorambucil+オビヌツズマブ群)で、他の副次評価項目は、全奏効率、次治療までの期間、全生存期間(OS)などであった。 主な結果は以下のとおり。・535例がアカラブルチニブ+オビヌツズマブ群(179例)、アカラブルチニブ単独群(179例)、chlorambucil+オビヌツズマブ群(177例)に無作為化された。・PFS中央値は、アカラブルチニブ+オビヌツズマブ群およびアカラブルチニブ単独で未達、chlorambucil+オビヌツズマブ群では27.8ヵ月であった(いずれもp<0.0001)。推定72ヵ月全PFS率は順に78.0%、61.5%、17.2%であった。・アカラブルチニブ+オビヌツズマブ群はアカラブルチニブ単独群よりPFSを改善した(ハザード比[HR]:0.58、p=0.0229)。IGHV変異なし、17p欠失/TP53変異、Complex karyotypeを有する患者では、アカラブルチニブ単独群、アカラブルチニブ+オビヌツズマブ群はchlorambucil+オビヌツズマブ群より有意にPFSが改善した(アカラブルチニブを含む両群でそれぞれp<0.0001、p≦0.0009、p<0.0001)。・OS中央値は3群とも未達であり、アカラブルチニブ+オビヌツズマブ群はchlorambucil+オビヌツズマブ群より有意にOSが延長した(HR:0.62、p=0.0349)。推定72ヵ月OS率は、アカラブルチニブ+オビヌツズマブ群83.9%、アカラブルチニブ単独群75.5%、chlorambucil+オビヌツズマブ群74.7%であった。・4年経過以降に発現した有害事象はほとんどがGrade1~2で、有害事象、重篤な有害事象、注目すべき事象の発現割合は、アカラブルチニブを含む群で同程度であり、アカラブルチニブおよびオビヌツズマブの既知の安全性プロファイルと一致していた。

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帯状疱疹、有害事象として報告が多い薬剤は

 米国食品医薬品局(FDA)の有害事象報告システム(FAERS)データベースを用いて、帯状疱疹の報告と関連薬剤を評価した後ろ向きpharmacovigilance研究の結果、複数の高リスク薬剤が特定された。さらに、これらの薬剤の中には添付文書に帯状疱疹リスクについての記載がないものがあることも明らかになった。中国・Xuzhou Medical UniversityのJiali Xia氏らによるFrontiers in Pharmacology誌オンライン版2025年3月26日号への報告。 本研究では、2004年第1四半期~2024年第3四半期までのFAERSにおける帯状疱疹に関する報告を解析し、とくに帯状疱疹発症の報告数が多い上位30薬剤を抽出した。また、薬剤と帯状疱疹との潜在的関連を評価するために、不均衡分析(disproportionality analysis)の手法を用いて、比例報告比(PRR)および報告オッズ比(ROR)を推定した。 主な結果は以下のとおり。・2004~24年の対象期間において、FAERSには帯状疱疹に関する報告が5万164件登録されていた。関連が示唆された薬剤の大部分は免疫抑制剤であった。・発症年齢としては、41~65歳が最も多く(31.11%)、次いで65歳以上(26.05%)、19~41歳(7.46%)、18歳以下(1.33%)の順であった。性別では女性の割合が高く(64.41%)、男性を大きく上回った。・報告件数が最も多かったのはアダリムマブ(3,577件)であり、エタネルセプト(3,380件)、トファシチニブ(2,696件)、インフリキシマブ(2,240件)、レナリドミド(1,639件)が続いた。・報告件数が多かった30薬剤のうち24薬剤は添付文書に帯状疱疹リスクが記載されていたが、残る7薬剤にはその記載がなかった。7薬剤は、セクキヌマブ、インターフェロンβ-1a、ヒト免疫グロブリンG、ゴリムマブ、アレンドロン酸ナトリウム、プレガバリン、イブルチニブであった。・RORが最も高かったのはアニフロルマブ(n=45、ROR:20.97、PRR:19.87)であり、ロザノリキシズマブ(n=7、ROR:16.05、PRR:15.40)、ocrelizumab(n=1,224、ROR:9.64、PRR:9.42)、アレムツズマブ(n=286、ROR:9.34、PRR:9.13)、トファシチニブ(n=2,696、ROR:8.27、PRR:8.11)が続いた。・RORが高かった30薬剤のうち18薬剤は添付文書に帯状疱疹リスクが記載されていたが、残る12薬剤にはその記載がなかった。12薬剤は、ロザノリキシズマブ、トジナメラン、エラペグアデマーゼ、サトラリズマブ、エフガルチギモド アルファ、プララトレキサート、シクレソニド、efalizumab、Ambrosia artemisiifolia pollen、アレンドロン酸ナトリウム、pentoxifylline、anakinraであった。 著者らは、本研究で実施された不均衡分析は因果関係を証明するものではないとし、リスクを定量化し根本的なメカニズムを解明するには、前向き研究が必要としている。そのうえで、これらの薬剤を使用する際に、臨床医は帯状疱疹リスク増加の可能性について考慮する必要があるとまとめている。

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指の動きを測定することで認知症の重症度が評価可能な可能性あり

 藤田医科大学の鈴村 彰太氏らは、アルツハイマー病患者の手の指の動きと認知機能との関連を推定するため、本研究を実施した。Brain and Behavior誌2025年3月号の報告。 国立長寿医療研究センターのもの忘れセンター外来でアルツハイマー病と診断された患者を対象に、15秒間の両手交互タップ課題を行い、手の指の動きを測定した。その後、アルツハイマー病の重症度により軽度または中等度に分類し、手の指の動きを比較した。両群間のパラメーターの比較には、マンホイットニーU検定およびエフェクトサイズを用い、算出されたp値をボンフェローニ法で補正した。手の指の動きと認知機能との関連を評価するため、スピアマン順位相関係数を用いた。認知機能は、ミニメンタルステート検査(MMSE)により評価した。 主な結果は以下のとおり。・アルツハイマー病患者163例のデータを分析した。・重症度別の内訳は、軽度アルツハイマー病患者64例、中等度アルツハイマー病患者99例。・中等度群は、軽度群よりも指のタップ回数が少なく(p=0.005、r=0.22)、親指と人差し指でのタップ間隔が長かった(p=0.007、r=0.21)。・MMSEスコアと手の指の機能との相関は、タップ回数については弱い正の相関、タップ間隔の平均値については弱い負の相関が認められた。 著者らは「これらのパラメーターは、認知症の進行段階に伴う手の指の機能低下を反映しており、アルツハイマー病の重症度評価に役立つ可能性がある。さらに、これらの知見は、アルツハイマー病の重症度を評価するうえで、臨床的に有用であり、進行段階の分類精度向上につながる可能性がある」と結論付けている。

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膝OA患者のアウトカム改善、筋トレvs.ヨガ

 変形性膝関節症(膝OA)の運動療法として、ヨガと筋力増強トレーニングの有効性を比較検討した結果、両群ともに有意に膝関節痛を軽減し、ヨガ群では筋力増強トレーニング群よりも機能や硬直、健康関連QOLなどが良好であったことを、オーストラリア・タスマニア大学のBedru J. Abafita氏らが明らかにした。JAMA Network Open誌2025年4月8日号掲載の報告。 運動療法は、膝OAの疼痛、身体機能、日常生活機能の改善のために推奨されているが、異なる種類の運動の有用性を比較した試験は限られているため、最も効果的な運動の種類は明確ではない。また、ヨガはマインドフルネスや柔軟性、ウェルビーイングを高めることで疼痛の軽減が期待できるが、膝OAに対するヨガの有用性を示す質の高いエビデンスは少ない。そこで研究グループは、ヨガは筋力増強トレーニングよりも膝OA患者の膝関節痛を緩和し、身体機能やQOLを改善する運動として有用であるという仮説を立て、評価者盲検無作為化優越性試験を実施した。 対象は、オーストラリアのタスマニア州の膝OA患者で、100mm視覚アナログスケール(VAS)の膝痛スコア(0[痛みなし]~100[耐え難い痛み])が40mm以上の40歳以上の成人であった。参加者は24週間にわたってヨガを行う群と筋力増強トレーニングを行う群に1:1に無作為に割り付けられた。両群ともに、前半12週間は週2回の対面プログラムと週1回の在宅プログラムに参加し、後半12週間は週3回の在宅プログラムに参加した。 主要評価項目は、12週時点の膝痛VASスコアによる膝関節痛の変化で、事前に規定した非劣性マージンを10mmとした。副次評価項目は、24週時点の膝痛VASスコアによる膝関節痛の変化、12週および24週時点のWestern Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index(WOMAC)の疼痛スコア、機能障害スコア、硬直性スコアの変化などの27項目が設定された。 主な結果は以下のとおり。・合計117例の参加者がヨガ群(58例)と筋力増強トレーニング群(59例)に無作為に割り付けられた。参加者のベースライン特性は類似しており、平均年齢は62.5(SD 8.3)歳、85例(72.6%)が女性であった。ベースライン時の膝痛VASスコアの平均は53.8(SD 16.0)mmであり、中等度の膝関節痛を有していた。・両群ともに12週時点で膝痛VASスコアが改善し、ヨガ群が−17.7mm(95%信頼区間[CI]:−22.4~−13.0)、筋力増強トレーニング群が−16.7mm(95%CI:−21.4~−11.8)であったが、有意な群間差は認められなかった(平均群間差:-1.1mm[95%CI:-7.8~5.7]、p=0.76、Cohen’s d:−0.2[95%CI:−1.6~1.2])。・24週時点の膝痛VASスコアの変化量は、ヨガ群が−24.4mm(95%CI:−29.2~−19.6)、筋力増強トレーニング群が−18.6mm(95%CI:−23.6~−13.6)で、こちらも有意な群間差は認められなかった(平均群間差:-5.8mm[95%CI:-12.9~1.2]、p=0.11、Cohen’s d:−1.1[95%CI:−2.5~0.3])。・24週時点において、ヨガ群では27項目の副次評価項目のうち6項目(WOMAC疼痛スコア、WOMAC機能障害スコア、WOMAC硬直性スコア、患者の全般的評価、40m歩行テスト[40m fast-paced walk test]、健康関連QOL[AQoL-8Dスコア])で有意な改善を示した。 これらの結果より、研究グループは「膝OA患者の運動療法としてヨガを代替または補完的に取り入れることが、膝OAの管理に役立つ可能性がある」とまとめた。

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経口セマグルチド、ASCVD/CKD合併2型DMでCVリスク減/NEJM

 経口セマグルチド(GLP-1受容体作動薬)は、2型糖尿病で心血管リスクの高い患者において心血管系の安全性が確立されている。米国・テキサス大学サウスウェスタン医療センターのDarren K. McGuire氏らSOUL Study Groupは「SOUL試験」により、2型糖尿病でアテローム動脈硬化性心血管疾患または慢性腎臓病、あるいはこれら両方を有する患者において、プラセボと比較して同薬は、重篤な有害事象の発生率を増加させずに主要有害心血管イベント(MACE)のリスクを有意に減少させることを示した。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2025年3月29日号で報告された。33ヵ国の無作為化プラセボ対照優越性第IIIb相試験 SOUL試験は、アテローム動脈硬化性心血管疾患または慢性腎臓病を有する2型糖尿病患者における経口セマグルチドの安全性の評価を目的とするイベント主導型の二重盲検無作為化プラセボ対照優越性第IIIb相試験であり、2019年6月~2021年3月に33ヵ国444施設で参加者の無作為化を行った(Novo Nordiskの助成を受けた)。 年齢50歳以上、2型糖尿病(糖化ヘモグロビン値6.5~10.0%)と診断され、冠動脈疾患、脳血管障害、症候性末梢動脈疾患、慢性腎臓病(推算糸球体濾過量[eGFR]<60mL/分/1.73m2)のうち少なくとも1つを有する患者9,650例(平均[±SD]年齢66.1±7.6歳、女性28.9%)を対象とした。 被験者を、標準治療に加え、セマグルチド(3mgで開始し、7mg、14mgに増量、1日1回)を経口投与する群(4,825例)、またはプラセボ群(4,825例)に無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、MACE(心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中の複合)とし、time-to-first-event解析で評価した。主要アウトカムは、経口セマグルチド群12.0%vs.プラセボ群13.8% 全体の70.7%に冠動脈疾患、23.1%に心不全、21.2%に脳血管疾患、15.7%に末梢動脈疾患の既往歴があり、42.4%に慢性腎臓病の既往歴を認めた。両群とも、ベースラインで26.9%がSGLT2阻害薬の投与を受けていた。平均(±SD)追跡期間は47.5±10.9ヵ月、追跡期間中央値は49.5ヵ月(四分位範囲:44.0~54.9)で、9,495例(98.4%)が試験を完了した。 主要アウトカムのイベントは、プラセボ群で4,825例中668例(13.8%、イベント発生率3.7件/100人年)に発生したのに対し、経口セマグルチド群では4,825例中579例(12.0%、3.1件/100人年)と有意に優れ(ハザード比[HR]:0.86[95%信頼区間[CI]:0.77~0.96]、p=0.006)、MACEの発生に関して経口セマグルチド群の優越性が示された。 主要アウトカムの個々の項目のイベント発生率のHRは、心血管死が0.93(95%CI:0.80~1.09)、非致死的心筋梗塞が0.74(0.61~0.89)、非致死的脳卒中が0.88(0.70~1.11)であった。 また、検証的副次アウトカムの解析におけるイベント発生率のHRは、主要腎障害イベントが0.91(95%CI:0.80~1.05、p=0.19)、主要有害下肢イベントが0.71(0.52~0.96)だった。注射薬の知見と一致 重篤な有害事象は、経口セマグルチド群で47.9%、プラセボ群で50.3%に発現した(p=0.02)。消化器系の障害はそれぞれ5.0%および4.4%にみられた。試験薬の恒久的な投与中止に至った有害事象は、15.5%および11.6%に認めた。 著者は、「これら結果は、この患者集団での経口セマグルチドの心血管系における有益性を示しており、セマグルチド注射薬や心血管系における有効性が確立されている他のGLP-1受容体作動薬で報告されている知見と一致する」としている。

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手術を受けるなら週末の前より後の方が転帰は良好

 金曜日に手術を受ける予定の人は、可能であれば手術の日程変更を検討した方が良いかもしれない。新たな研究で、週末直前に手術を受ける人は、週末直後に手術を受ける人に比べて死亡や合併症のリスクが大幅に高まる可能性が示唆された。米ヒューストン・メソジスト病院のRaj Satkunasivam氏らによるこの研究結果は、「JAMA Network Open」に3月4日掲載された。 病院や医療システムは、週末に最小限の人員で運営される傾向があることから、週末に患者が受ける医療の質は、平日よりも低くなる可能性が懸念されている。このような現象は、一般に「週末効果」と呼ばれている。 Satkunasivam氏らは、週末効果は、週末直前に手術を受け、手術後に病院で療養する人にも当てはまる可能性があると考えたと説明する。この点を明らかにするために同氏らは、カナダのオンタリオ州で2007年1月1日から2019年12月31日の間に一般的な外科手術を受けた患者42万9,691人(平均年齢58.6歳、女性62.8%)のデータを1年間追跡し、手術を週末の直前(通常は金曜日、または連休の前日)に受けた患者と直後(通常は月曜日、または連休の翌日)に受けた患者との間で転帰を比較した。手術は、冠動脈バイパス術、大腿動脈-膝窩動脈バイパス術、虫垂切除術、大腸切除術など25種類だった。主要評価項目は、手術から30日時点の死亡、合併症、および再入院の複合転帰とした。また、副次評価項目として、手術後90日時点および1年時点の死亡、合併症、および再入院のリスクを個別および複合的に評価したほか、入院期間や手術時間についても評価した。 42万9,691人の患者のうち、19万9,744人(46.5%)は週末直前に、22万9,947人(53.5%)は週末直後に手術を受けていた。解析の結果、週末直前に手術を受けた群では、週末直後に手術を受けた群に比べて、3つの時点の全てにおいて複合転帰が発生するオッズが高く、調整オッズ比は手術後30日時点で1.05(95%信頼区間1.02〜1.08)、90日時点で1.06(同1.03〜1.09)、1年後で1.05(同1.02〜1.09)だった。また、週末直前に手術を受けた群では、3つの時点の全てにおいて死亡のオッズも高く、調整オッズ比は、30日時点で1.09(同1.03〜1.16)、90日時点で1.10(同1.03〜1.17)、1年後で1.12(同1.08〜1.17)だった。 こうした結果を踏まえて研究グループは、「患者が曜日に関係なく優れたケアを受けられるようにするためには、医療システムが、この現象が医療現場にどのような影響を与えるかを評価することが重要だ」と述べている。 研究グループは、人員不足以外にも、週末前に病院の医療の質が低下する理由はいくつか考えられると指摘する。金曜日は月曜日に比べて経験年数の浅い若手外科医が担当する手術が多いこと、また、週末に働く医師は、より上級の同僚や専門医からのサポートを受けにくいことなどが、そうした理由の例である。さらに、週末に働く医療チームは、平日にケアを管理していたチームよりも患者に詳しくない可能性や、週末は、より適切な治療を行う上で有用となり得る検査へのアクセスが限られている可能性も考えられるという。 研究グループは、「これらの観察結果の根底にあるケアの違いを理解し、患者が曜日に関係なく質の高いケアを受けられるようにするためには、さらなる研究が必要だ」と結論付けている。

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赤ワインはがん予防につながらない?

 赤ワインには抗炎症作用と抗酸化作用のあるレスベラトロールが多く含まれているため、がん予防効果があると考えられてきたが、新たな研究から、そのような明確なエビデンスはないという結論が示された。米ブラウン大学のEunyoung Cho氏らの研究の結果であり、詳細は「Nutrients」に1月31日掲載された。 ワイン摂取量とがんリスクとの関連を調査した研究結果はこれまでにも複数発表されており、そのメタ解析の報告もあるが、赤ワインと白ワインを区別して検討した研究は少ない。そこでCho氏らは、2023年12月までに文献データベース(PubMedまたはEMBASE)に収載された論文を対象とするレビューを実施した。 包括基準は、赤ワインまたは白ワインの摂取とがんリスクとの関連を検討している前向きコホート研究または症例対照研究であり、ワイン摂取量を三つ以上のカテゴリーに分けて報告していて用量反応関係を解析できる研究とした。学会発表、症例報告、基礎研究、レビュー論文、および英語以外の論文は除外した。観察研究のメタ解析に関するガイドライン(MOOSE)に準拠し、42件の報告(コホート研究20件、症例対照研究22件)を抽出し、ランダム効果メタ分析を行った。 まず、ワインの種類を区別せずに、ワイン摂取量が最も少ない群と最も多い群のがんリスクを比較した結果を見ると、相対リスク(RR)0.99(95%信頼区間0.91~1.06)であり、ワイン摂取が多いことによるがんリスク低下は認められなかった。研究デザイン、性別、地域、報告年などで層別化したサブグループ解析でも、ワイン摂取によるがんリスクへの影響が見られる集団や条件は特定されなかった。 次に、赤ワインと白ワインを区別した解析を実施。その結果、赤ワインについてはRR0.98(同0.87~1.10)、白ワインはRR1.00(0.91~1.10)であり、いずれもワイン摂取による有意な影響は観察されなかった。 また、性別、がんの部位別に解析した場合、赤ワインについては、全て有意な影響は見られなかった。それに対して白ワインについては、性別の解析において女性では、摂取量とがんリスク上昇との有意な関連が観察され(RR1.26〔1.05~1.52〕)、部位別の解析では皮膚がんにおいて有意なリスク上昇が観察された(RR1.22〔1.14~1.30〕)。 赤ワインのがんリスク抑制作用が認められなかったことの理由について研究者らは、赤ワインに含まれているレスベラトロールは体に入るとすぐに代謝されてしまうためではないかと述べている。そして、「われわれの研究結果は、赤ワインを飲むことが白ワインを飲むことよりも、がんリスクという点で優れているわけではないという、重要な公衆衛生メッセージとなった」と総括している。 一方、白ワインの摂取量が女性のがんや皮膚がんのリスクと関連がある理由については「不明」とした上で、白ワインは赤ワインに比べて、紫外線に曝露されやすいシーンで飲む機会が多いことが関係している可能性を指摘している。研究者らはこのほかに、アルコールそのものは体内でDNAやタンパク質にダメージを及ぼす化合物に分解されるため、がんリスクの一因となることを指摘。2020年には世界全体で過度の飲酒が関連して74万人ががんに罹患し、これは全がん患者の4%を占めると解説している。

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院外心停止、最も重要なのは心肺蘇生実施までの時間

 院外心停止者に対する心肺蘇生法(CPR)は、適切に行われる限り、医師や救急救命士か、経験のないバイスタンダー(その場に居合わせた人)かなどの実施者のタイプが生存に影響することはなく、迅速に行うことが何よりも重要な可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。トリエステ大学(イタリア)のAneta Aleksova氏らによるこの研究結果は、欧州急性心血管ケア学会議(ESC ACVC 2025、3月14〜15日、イタリア・フィレンツェ)で発表された。研究グループは、「CPR実施者のタイプにかかわりなく、迅速な心拍再開が院内生存にとって非常に重要であることが示された。バイスタンダーによる初期のCPRと救急医療サービスによるCPRを比較しても、長期生存については同等だった」と述べている。 この研究でAleksova氏らは、2003年から2024年の間にST上昇型心筋梗塞(STEMI)を発症してトリエステ大学病院に入院した患者3,315人のデータの分析を行った。これらの患者のうち、172人は院外心停止を起こし、44人はバイスタンダーによるCPRを受けていた。 研究対象期間を5つの期間(2003〜2007年、2008〜2011年、2012〜2015年、2016〜2019年、2020〜2024年)に分けて見ると、バイスタンダーによるCPRを受けた患者の割合は、期間を追うごとに増加していたことが明らかになった。具体的には2003~2007年には患者のわずか26%しかバイスタンダーによるCPRを受けていなかったのが、2020~2024年には69%にまで増加していた。心拍再開に至るまでに要した時間の中央値は、全体で見ると10分だったが、バイスタンダーによるCPRの方が救急医療サービスによるCPRよりも要した時間が長かった(20分対5分)。 入院初期に患者の25.6%が死亡していた。解析では、左室駆出率の低下、心拍再開までにかかる時間が長いこと、高齢であることが、院内死亡の予測因子として示された。具体的には、心拍再開までの時間が5分遅くなるごとに、または、左室駆出率が5パーセントポイント低下するごとに、死亡リスクがそれぞれ38%上昇し、年齢が5歳増加するごとに死亡リスクが46%上昇していた。その後、中央値7年の追跡期間中に18人の患者(14%)が死亡していたが、死亡率にCPR実施者のタイプによる差は認められなかった。 こうした結果を受けて研究グループは、「心停止者の生存において重要なのは、いかに迅速にCPRを行うかであり、誰が行うかではない」と述べている。Aleksova氏は、「これらの結果は、院外心停止者には即時のCPRが重要であることを浮き彫りにしている。また、院外心停止後の生存率を現状よりも向上させるためには、人々の意識向上と一次救命処置の訓練の促進が必要なことを強調するものでもある」と述べている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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敗血症性ショックにおけるバソプレシンの最適な開始時期(OVISS強化学習研究)(解説:寺田教彦氏)

 敗血症性ショックは「急性循環不全により細胞障害・代謝異常が重度となり、ショックを伴わない敗血症と比べて死亡の危険性が高まる状態」と定義される(『日本版敗血症診療ガイドライン2024』)。早期診断のためのスコアリングやバンドルの整備、知識の広報などのキャンペーンにより、徐々に死亡率は改善しているものの、今でも重篤な病態である。 敗血症性ショックの初期蘇生では、蘇生輸液のみで目標血圧を維持できない場合、並行して血管収縮薬の投与も行われる。世界的な診療ガイドラインを参考にすると(Evans L, et al. Crit Care Med. 2021;49:1974-1982.)、第一選択薬としてノルアドレナリンが使用されているが、ノルアドレナリンのみで血圧が保てない場合に、第二選択薬としてバソプレシンが使用されている。本邦のガイドライン『日本版敗血症診療ガイドライン2024 』においても、「CQ3-7:敗血症性ショックに対して、血管収縮薬をどのように使用するか?」に対して、ノルアドレナリン+バソプレシンと第二選択薬としてバソプレシンの使用が弱く推奨されている。バソプレシンは、高価な薬剤ではなく国内でも広く使用されているが、使用開始のタイミングについては明確な基準がなく、現場では医師や医療機関ごとに判断されているのが実情である。 世界的にもバソプレシン使用開始のタイミングに関するコンセンサスはなく、本研究では、敗血症性ショック患者の電子カルテデータを用い、強化学習によりバソプレシンの最適な開始時期を導出し、外部データセットでその有効性と死亡率低下との関連を検証した。この強化学習は、医療におけるAI応用の中でも、動的な意思決定を必要とする分野で注目されており、与えられた環境内での「行動」と「報酬」の関係を学習して最適な行動方針を導出する手法である。 本研究結果の要約は、ジャーナル四天王「敗血症性ショック、強化学習モデルのバソプレシン投与で死亡率低下/JAMA 」に記載されている。 筆者らも指摘しているとおり、バソプレシンを早期に投与することで、カテコラミンの使用量を減少させ、頻脈性不整脈や心筋虚血のリスクを軽減できる可能性があり、また、バソプレシンの相対的欠乏の補正や糸球体濾過圧の改善といった理論的な利点も期待される。本研究結果は、敗血症性ショックに対してより早期にバソプレシンを併用することで予後が改善する可能性を示唆しており、今後のRCT(Randomized Controlled Trial)による検証が期待される。さらなるエビデンスが蓄積されれば、本研究で示唆されたような「より早期の併用」が新たな治療戦略として確立される可能性がある。 加えて、敗血症性ショックに対してノルアドレナリンとバソプレシンを併用した場合、血行動態が改善すれば昇圧薬の漸減が行われる。現時点では、両薬剤を併用中の患者において、ノルアドレナリンを先に漸減することで低血圧の発生頻度が低いとされており、これに関する系統的レビューとメタアナリシスが報告されている(Song JU, et al. J Korean Med Sci. 2020;35:e8.)。今後、昇圧薬の離脱戦略においても同様の機械学習を用いた最適化手法が提示されることで、現場の診療判断をさらに支援することが期待される。

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