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超加工食品は若年成人の糖尿病リスクを押し上げる

 工業的に作られ添加物が多用されている「超加工食品」が、若年成人の糖尿病リスクを高める可能性を示唆するデータが報告された。米南カリフォルニア大学ケック医科大学のVaia Lida Chatzi氏らの研究によるもので、詳細は「Nutrition & Metabolism」に11月10日掲載された。 この研究から、超加工食品の摂取量が多いことが、血糖値を下げるホルモンであるインスリンの働きが悪くなること(インスリン抵抗性)や、2型糖尿病または前糖尿病(初期の高血糖状態であり2型糖尿病のリスクが高い状態)と関連のあることが示された。論文の上席著者であるChatzi氏は、「超加工食品の摂取量が少しでも増えると、肥満リスクのある若年成人の血糖調節が乱れる可能性がある。食生活は修正可能であり、若年者に生じる早期の代謝性疾患を予防する上で速やかに対処すべきターゲットであることを、われわれの研究結果は示している」と話している。 超加工食品は主に、飽和脂肪酸、でんぷん、添加糖など、自然食品から工業的に抽出された物質で作られ、風味や見た目を整え保存性を高めるために、着色料、乳化剤、香料、安定剤などのさまざまな添加物が含まれている。例えば、個別包装の焼き菓子、砂糖入りのシリアル、ほとんど手をかけずに食べられる加工食品、ハムやサラミなどの加工肉が該当する。 Chatzi氏らの研究では、過体重または肥満に該当する17~22歳の若年者85人を4年間追跡調査した。研究参加者は、食事に関するアンケートに回答したほか、インスリンに対する体の反応や血糖値を調べるための血液検査を受けた。研究参加時点での超加工食品の摂取量(重量)が食事に占める割合は、平均20.40±12.68%だった。 結果に影響を及ぼすことのある因子(年齢、性別、摂取エネルギー量、運動習慣など)を統計学的に調整した解析により、食事に占める超加工食品の摂取割合が10パーセントポイント高いごとに、インスリン抵抗性が生じていることを示唆する状態(耐糖能異常)の該当者が158%多く、2型糖尿病や前糖尿病の該当者は51%多いという関連性が明らかになった。また、研究参加時点での超加工食品の摂取量が多い人ほど、追跡期間中にインスリンの分泌量がより増大するという関連も見つかった。インスリンの分泌量が増えることは、インスリン抵抗性が生じ始めていることを意味する。 論文の筆頭著者である米ダートマス大学のYiping Li氏は、「これらの研究結果は超加工食品の摂取が若年成人の2型糖尿病や前糖尿病のリスクを高めることを意味し、かつ、それらの食品の摂取を減らすことが糖尿病の予防に役立つ可能性を示している」と語っている。研究者らは今後、どのような超加工食品が最も大きなリスクをもたらすのかを明らかにするために、より大規模な集団を対象により詳細な食事調査を行った上で、リスクを追跡する必要があるとしている。

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毎年、極端な暑さや寒さで何千人もの人が死亡

 米国では、1999年から2024年の25年間に6万9,000人以上が極端な暑さや寒さを根本原因または一因として死亡したことが、新たな研究で明らかになった。米マサチューセッツ総合病院心臓血管画像研究センターのShady Abohashem氏らによるこの研究結果は、「Annals of Internal Medicine」に11月18日掲載された。 Abohashem氏は、「これまでの研究の多くは生態学的研究かモデルや予測に基づく研究であり、暑熱関連死と寒冷関連死を別々に調査していた。それに対し本研究は、主要な人口統計学的サブグループ全体における極端な暑さや寒さという両端の非最適気温に関連する死亡について、全国規模で実際に観察された最新の評価を提供している」と述べている。また同氏は、「米国では毎年、暑さや寒さへの曝露により何千人もの命が奪われ続けているが、この研究結果は、その多くが予防可能であることを示している」とも述べている。 Abohashem氏らは、米疾病対策センター(CDC)のWONDER(Wide-ranging Online Data for Epidemiologic Research)のプラットフォームのデータを分析し、医療記録のコードに基づいて、死亡証明書に気温が死因または寄与因子として記録されている症例を特定した。 その結果、1999年から2024年の間の米国での死亡者数は6971万3,971人であり、そのうち6万9,256人(約1,000人に1人)では、極端な気温曝露が根本的または寄与的死因として記録されていた(暑熱35%、寒冷65%)。粗推計では、気温関連死亡率は、近年ほど高くなることも示された。このほか、65歳以上の高齢者は若年成人と比べて極端な気温により死亡するリスクが約4倍高かった。また、男性は女性より同死亡リスクが約2.6倍高かった。さらに、黒人は白人と比べて極端な暑さによる死亡リスクが約2倍高く、極端な寒さによる死亡リスクも他の人種・民族より高いことが示された。 Abohashem氏は、「気温に関連した死亡のほとんどは、依然として寒さへの曝露によって引き起こされているが、気候変動が加速するにつれ、熱に関連した死亡者も増加すると予想される」と述べている。 またAbohashem氏は、「気候変動は深刻な気象現象のリスクを高めている。本研究結果は、極端な気象現象が激化する中で脆弱な人々を守るために、住宅の質の向上、冷暖房へのアクセス、早期警報システムなど、的を絞った適応戦略が必要であることを強調している」との考えを示している。さらに、「この結果は、どの集団が不釣り合いに大きな影響を受けている可能性があるのかを理解する助けとなり、それに応じて公衆衛生戦略を効果的に変更することを可能にする」と付け加えている。

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男性患者のED・LUTSに潜む肝線維化、FIB-4 indexによる包括的アセスメントの重要性

 男性のEDや下部尿路症状(LUTS)は、前立腺やホルモンの問題として扱われることが多い。しかし、新たな研究で、肝臓の状態もこれらの症状に関係している可能性が示された。男性更年期障害(LOH)のある男性2,369人を対象に、肝線維化指標(FIB-4 index)を用いた解析を行ったところ、FIB-4 indexの上昇とEDおよびLUTSの悪化が有意に関連することが明らかになった。研究は順天堂大学医学部附属浦安病院泌尿器科の上阪裕香氏、辻村晃氏らによるもので、詳細は10月31日付で「Investigative and Clinical Urology」に掲載された。 中高年男性におけるLOHや性機能障害は、代謝異常や動脈硬化と関連することが報告されている。一方、近年の食生活の乱れや飲酒により、男性の肝機能障害が増加しており、早期発見の重要性が高まっている。肝線維化を評価する非侵襲的指標としてFIB-4 indexが注目され、性機能やLUTSとの関連も示唆されているものの、大規模集団を対象とした包括的解析は限られている。こうした背景を踏まえ、本研究ではFIB-4 indexと性機能、LUTS、LOH指標との関係を明らかにするため、診療データを後ろ向きに解析した。 本研究では、2016年5月〜2024年3月に順天堂大学医学部附属浦安病院および関連クリニックを受診したLOH症状のある男性2,369名を後ろ向きに解析した。LUTS、性機能、LOHの評価には、国際前立腺症状スコア(IPSS)と生活の質指数、勃起機能問診票(SHIM)および勃起の硬度スケール(EHS)、男性更年期障害質問票(AMS)をそれぞれ用いた。内分泌・代謝指標としてDHEA-S、IGF-1、総テストステロン、コルチゾール、HbA1c、中性脂肪を測定し、FIB-4 indexは五分位に層別化した。まずFIB-4 indexと各臨床指標との関連をトレンド解析で検討し、続いてFIB-4 indexと有意に関連した内分泌・代謝因子を調整因子として、症状スコアとの関連を多変量解析で評価した。有意であった症状スコアについては、その重症度とFIB-4 indexとの関係も追加で検討した。 患者の平均年齢は50.6歳であった。解析の結果、FIB-4 indexの五分位が上昇するにつれて、年齢や肝酵素値は高くなり、血小板数は低下する傾向が認められた(傾向検定、いずれもP<0.001)。症状スコアについても、FIB-4 indexの上昇に伴い、IPSSおよびAMSは上昇し、SHIMおよびEHSは低下することが示された(同 P<0.001)。 内分泌因子では、DHEA-SおよびIGF-1はFIB-4 indexの上昇に伴い低下し、コルチゾールは上昇した(同P<0.001)。興味深いことに、FIB-4 indexとテストステロン値との間には有意な関連は認められなかった(同P=0.091)。同様に、代謝指標では、FIB-4 indexの上昇に伴いHbA1cは増加した(同P<0.001)が、中性脂肪との関連は見られなかった(同P=0.181)。 さらに、症状スコアをDHEA-S、IGF-1、コルチゾール、HbA1cで補正した多変量回帰解析を実施した。その結果、FIB-4 indexが上昇するにつれてSHIMスコアは低下し(同P<0.001)、重度のEDの場合(SHIMスコアが低い)ではFIB-4 indexも高値を示した(同P<0.001)。同様に、FIB-4 indexが上昇するほどIPSSは増加し(同P<0.001)、LUTSが重い場合(IPSSが高い)ではFIB-4 indexも高値であった(同P<0.001)。 著者らは、「本研究では、大規模コホートでEDやLUTSがFIB-4 indexで評価される肝線維化と密接に関連することを示した。この結果は、症状を呈する男性の評価において潜在的肝線維化も考慮した多職種的アプローチの重要性を示唆している。今後は、縦断的なホルモン測定や画像・組織評価を組み込んだ前向き研究が求められる」と述べている。 なお、本研究の限界として、後ろ向き研究であるため生活習慣や併存疾患の影響を十分に評価できなかったこと、また前立腺容積や尿流測定などの客観的泌尿器評価や、ホルモンの縦断的測定も行われなかったことを挙げている。

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第273回 2025年度補正予算通過、診療所には1施設当たり32万円支給へ/政府

<先週の動き> 1.2025年度補正予算通過、診療所には1施設当たり32万円支給へ/政府 2.医師臨床研修制度、都市集中は緩和も大学病院が減少/厚労省 3.OTC類似薬、保険外し見送り 患者に追加負担で医療費抑制へ/厚労省 4.医学部女子41%時代へ、「医学部=男子優位」は過去の話に/文科省 5.医療DXで人手不足に挑む「働きやすい病院」の認定制度創設を検討/厚労省 6.電子カルテ情報共有、全国運用は26年冬へ モデル課題で工程見直し/厚労省 1.2025年度補正予算通過、診療所には1施設当たり32万円支給へ/政府政府の総合経済対策の裏付けとなる2025年度補正予算案(一般会計18兆3,034億円)は12月11日、衆議院本会議で可決され参議院に送付された。与党に加え国民民主党、公明党などが賛成に回り、会期内成立が確実視される。補正予算は物価高対策(電気・ガス代支援、子供1人当たり2万円給付など)を柱とするが、医療分野では「医療・介護等支援パッケージ」を中心に、病院・診療所の経営を下支えする補助が盛り込まれた。厚生労働省関係は2兆3,252億円で、このうち医療・介護等支援パッケージは1兆3,649億円。医療機関・薬局の「賃上げ・物価上昇」への緊急支援として5,341億円を計上し、診療体制の維持と人材確保を狙う。具体的には、病院に対し1床当たり「賃金分8.4万円+物価分11.1万円」の計19.5万円を基礎的に支給する。さらに救急医療を担う病院には、救急車の受入件数に応じ、1施設当たり500万円から最大1億5,000万円を加算し、3次救急病院には件数にかかわらず1億円を加算する仕組みも設けた。有床診療所は1床当たり8.5万円、無床の診療所(医科・歯科)は1施設当たり32万円を支援する。薬局も店舗数に応じた傾斜配分とし、訪問看護ステーションも対象に含める。また、病床再編を促す「病床数適正化緊急支援基金」として3,490億円を計上し、病院(一般・療養・精神)や有床診療所が病床削減などを行う場合、1床当たり410.4万円(休床は205.2万円)を補助する。さらに、施設整備の資材高騰分などを支援する事業(462億円)や、ICT機器導入など生産性向上を後押しする支援(200億円、1病院当たり上限1億円)も盛り込み、物価高・人件費高騰局面での経営悪化に歯止めをかける構成となっている。予算成立後は交付要綱で要件が示され、現場では申請実務と資金繰りへの速効性が焦点となる。なお、病院向け支援額については下記参考中の計算ツール(東日本税理士法人 長 英一郎氏作成)で概算が試算できる。 参考 1) 医療分野における賃上げ・物価上昇に対する支援 病院向け支援額計算ツール【交付額】 2) 令和7年度厚生労働省補正予算案の主要施策集(厚労省) 3) 18兆円の25年度補正予算案、午後の衆院本会議で可決へ…国民民主・公明も賛成の方針(読売新聞) 4) 政府25年度補正予算案を閣議決定 医療機関の賃上げ・物価上昇に5,341億円計上 後発品基金は844億円(ミクスオンライン) 5) 病院経営の危機踏まえ、1床当たり「賃金分8万4,000円、物価分11万1,000円」の緊急補助、救急病院では加算も-2025年度補正予算案(Gem Med) 2.医師臨床研修制度、都市集中は緩和も大学病院が減少/厚労省厚生労働省は2025年12月5日に、医道審議会医師分科会医師臨床研修部会で、2027年度臨床研修医の募集定員上限案を了承した。募集定員倍率は前年度と同じ1.05倍とし、定員上限は約1万1,000人規模となる。地域枠学生の増加などで算出上の乖離が生じたため、上限総数を超過した分(約100人規模)を各都道府県の「基本となる数」に応じて按分する仕組みを初めて導入する。また、前年度比で減少率が1%を超える都道府県への追加配分や、離島人口に加えて離島数も考慮する新たな加算を設け、地域の実情をより反映させる。制度導入以降、研修医の都市部集中は緩和され、大都市6都府県の採用割合は約4割まで低下した。その一方で、募集定員に占める大学病院の割合は減少傾向が続き、教育・研究機能の低下や医局を通じた地域医師派遣への影響を懸念する声が相次いだ。委員からは、大学病院の経営悪化が研修環境を損ねているとして、国による財政的支援やインセンティブの必要性を訴える意見が出された。あわせて、2026年度から開始された医師少数県と多数県を結ぶ「広域連携プログラム」は、初年度からマッチ率約8割と順調な滑り出しをみせた。基礎研究医プログラムも一定の成果を上げており、今後は定員や設置要件の柔軟化が検討されている。反面、医師働き方改革の本格実施から1年超が経過し、地域医療への影響は限定的とされるものの、若手医師の症例経験や研究意欲が制限され、将来の医療の質低下を懸念する声が強まっている。時間規制と人材育成・研究機能の両立が、今後の臨床研修制度と医療政策の大きな課題となっている。 参考 1) 令和9年度の各都道府県の募集定員上限について(厚労省) 2) 27年度臨床研修、定員上限総数を調整 厚労省部会、109人分(MEDIFAX) 3) 臨床研修病院の2027年度募集定員倍率も「1.05倍」、離島数に応じた係数などを新たに設置(日経メディカル) 4) 若手医師等の「もっと症例経験したい、手術に入りたい」等の意欲を阻害しない医師働き方改革の仕組みが必要-全自病・望月会長(Gem Med) 3.OTC類似薬、保険外し見送り 患者に追加負担で医療費抑制へ/厚労省市販薬と成分・効能が類似している「OTC類似薬」をめぐり、政府・与党と日本維新の会は、公的医療保険の適用を維持した上で、患者に追加負担を求める新たな仕組みを導入する方向で調整に入った。維新が主張してきた「保険適用からの原則除外」は見送られることになった。OTC類似薬は、湿布薬や風邪薬、花粉症治療薬など、市販薬でも対応可能とされる一方、医師の処方が必要な医療用医薬品として保険適用され、患者は1~3割の自己負担で入手できる。維新は現役世代の保険料負担軽減を目的に、保険外しによる医療費削減を訴えてきたが、急激な患者負担増への懸念が強く、方針転換に至った。今後は、薬剤費の4分の1や3分の1などを「特別料金」として患者に追加で負担してもらう案が検討されている。対象薬や負担割合は、成分や用量、症状の重さなどで線引きする方向で、子供や慢性疾患患者への配慮も盛り込まれる見通し。この見直しは、医療現場にも影響を及ぼす。軽症患者が自己判断で受診を控え、市販薬へ移行すれば、外来受診の減少につながる可能性がある一方、追加負担を避けるために処方を求める患者との調整が医師の負担になる懸念もある。とくに慢性疾患の患者では、治療継続への影響や薬剤選択をめぐる説明責任が増す可能性が指摘されている。また、立憲民主党などからは、患者への影響を十分に検証しないまま結論を急ぐべきではないとの声が上がっており、負担増による受診控えや治療中断への懸念も根強い。医療費適正化と患者・医療現場への影響をどう両立させるのか、制度設計の丁寧さが今後の焦点となる。 参考 1) OTC類似薬の保険外し見送りへ 政府・与党、利用者に追加負担を要求(日経新聞) 2) 維新、OTC類似薬の保険適用除外を断念 追加負担求める方向で調整(毎日新聞) 3) OTC類似薬、患者に追加負担導入へ 保険適用維持に維新が同調(朝日新聞) 4) OTC類似薬、「患者への影響」検証を 立民、厚労相に要請(MEDIFAX) 4.医学部女子41%時代へ、「医学部=男子優位」は過去の話に/文科省文部科学省は、2025年度の医学部医学科入試において、入学者に占める女性の割合が41.0%となり、過去10年で最高を更新したと発表した。前年度の39.8%から1.2ポイント上昇し、2年ぶりに4割を超えた。入学者数は男性5,438人、女性3,780人で、男性が59.0%、女性が41.0%だった。女性の受験者数は5万3,917人と3年連続で増加し、調査開始以来最多となった。男性の受験者数6万7,480人の約8割に迫っている。合格者数は男性8,286人、女性5,593人で、合格率は男性12.3%、女性10.4%と女性が1.9ポイント低かった。全体の受験者数は12万1,397人、合格率は11.4%だった。大学別にみると、女性入学者の割合が5割を超えたのは女子医大を除いて10大学に上った。北里大(58.5%)をはじめ、埼玉医大、弘前大、聖マリアンナ医大、川崎医大、香川大、杏林大、秋田大、島根大、昭和医大で女性が過半数を占めた。一方、京都大は18.8%にとどまり、東大と阪大はいずれも21.0%と低水準だった。東大などでは女性受験者数自体が少なく、合格率に大きな男女差はなかったとされる。医学部入試をめぐっては、2018年に一部の大学で女性受験者を一律に減点するなどの不適切な運用が社会問題化した。これを受け、文科省は2019年度以降、全国81大学を対象に男女別の受験者数や合格率、入学者数を毎年公表している。今回の結果は、入試の透明化が定着する中で、女性の医学部志向が着実に高まっている現状を示す一方、大学間のばらつきや合格率格差といった課題も浮き彫りにした。医師養成の担い手が多様化する中、入試の公平性に加え、卒後のキャリア形成や就労環境の整備が改めて問われている。 参考 1) 医学部医学科の入学者選抜における公正確保等に係る調査について(文科省) 2) 医学部の女性入学者41% 過去10年で最高 25年度(CB news) 3) 医学科の女子受験者、3年連続で増加…文科省調査(Rese Mom) 5.医療DXで人手不足に挑む「働きやすい病院」の認定制度創設を検討/厚労省少子高齢化で医療人材の確保が難しくなる中、政府は医療DXを「人手不足対策」と「職場環境改善」の柱として制度的に後押しする方針が明らかとなった。厚生労働省は、12月8日に社会保障審議会・医療部会を開催し、すでにDXを導入して業務効率化を進めてきた医療機関の取り組みを提示するとともに、未導入・遅れがちな医療機関にも裾野を広げる支援について検討した。2025年度補正予算案では、試行的な取り組みだけでなく幅広い医療機関を対象にDX化を支援する枠として200億円を計上し、効果が出るまで時間を要する点を踏まえ継続的支援のあり方も論点となった。効果検証では、労働時間の変化、医療の質・安全、経営への影響などを統一基準で収集・分析し、医療情報の標準化や医療機関の負担軽減にも配慮する。さらに、業務効率化に資する機器・サービスの価格や機能、効果を透明に把握できる仕組みや新技術開発の推進、都道府県の勤務環境改善支援センターによる伴走支援強化も盛り込んでいる。さらに注目されるのは「業務効率化・職場環境改善に計画的に取り組む病院」を公的に認定し公表する制度案で、医療者の職場選択に影響し、認定病院が人材確保で有利になる可能性がある。その一方で、非認定病院が相対的に不利となり地域格差や医師偏在を助長しないか、財政的に厳しい中小医療機関への支援をどう担保するか慎重論も出た。改正医療法では2030年末までの電子カルテ普及目標が明記されたが、現場では「普及率100%」より、データ利活用の価値提示が重要との指摘が強い。自治体と医療機関が連携し、予防や地域単位の健康施策に活用するモデル事業を示すこと、サイバーセキュリティや制度整備を含め、DXを「負担」ではなく、「定着と質向上」につなげる設計が問われている。 参考 1) 令和7年度補正予算案(保険局関係)の主な事項について(厚生省) 2) 「働きやすい病院」国が認定 AI活用で効率化、生産性も向上(日経新聞) 3) 「業務効率化・職場環境改善に積極的な病院」を国が認定、医療人材確保等で非常に有利となる支援充実も検討-社保審・医療部会(Gem Med) 4) 改正医療法でも強調された医療DX、「電カル普及100%」より大事な議論は(日経メディカル) 6.電子カルテ情報共有、全国運用は26年冬へ モデル課題で工程見直し/厚労省厚生労働省は、12月10日に開かれた「健康・医療・介護情報利活用検討会」の医療等情報利活用ワーキンググループで、医療機関間で診療情報を共有する「電子カルテ情報共有サービス」について、全国での本格運用開始時期を当初想定していた2025年度内から見直し、2026年度の冬ごろを目標とする方針を示した。同サービスは、診療情報提供書、退院時サマリー、健診結果報告書の「3文書」と、傷病名、アレルギー、感染症、薬剤禁忌、検査、処方など「6情報」を標準化し、必要時に医療機関や患者が閲覧できる仕組み。2025年2月から各地でモデル事業が進み、現在は複数地域・医療機関で運用しているが、臨床情報の登録段階で、医療機関や電子カルテベンダーごとに状況が異なる複数の課題が確認されたという。厚労省は原因の特定と解決を優先し、サービス側と電子カルテ側の双方を改修した上で再検証を行い、支障なく運用できる文書・情報から順次、全国で利用可能にする考え。また、処方情報の取り扱いは方針を転換し、電子カルテ情報共有サービスでは抽出を行わず、電子処方箋管理サービスに1本化する案を示した。医薬品コードの違いにより処方の一部しか抽出できない場合、情報が欠落したまま「すべての処方」と誤認される恐れがあるためとしている。その一方で電子処方箋は院内処方を含む登録が進み、網羅性と即時性の点で活用が見込めるとしている。構成員からは、全国展開時に医療機関の負担が再発しないようメーカーとの連携を求める声や、患者説明が医療機関任せになっている点への懸念、電子処方箋未導入施設では処方情報が拾えない課題が指摘され、今後の検討事項となった。 参考 1) 電子カルテ情報共有サービスに関する検討事項について(厚労省) 2) 電子カルテの普及について(同) 3) 電子カルテ情報共有、全国運用は26年冬に 処方情報は電子処方箋に1本化 情報利活用WG(CB news) 4) 電子カルテ情報共有サービス、モデル事業での検証・改修経て「2026年度冬頃の本格運用」目指す-医療等情報利活用ワーキング(Gem Med)

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第92回 コルモゴロフ・スミルノフ検定とは?【統計のそこが知りたい!】

第92回 コルモゴロフ・スミルノフ検定とは?コルモゴロフ・スミルノフ検定(Kolmogorov-Smirnov test)には1標本と2標本の2種類ありますが、本稿では「2標本コルモゴロフ・スミルノフ検定」を解説します。2標本コルモゴロフ・スミルノフ検定とは、カテゴリーデータの場合は選択肢が同じ、数量データの場合は階級幅が同じである2つの項目の度数分布について、確率分布の相違を検定する方法です。■コルモゴロフ・スミルノフ検定を使うにあたっての注意点階級幅(数量データ)が同じ2つの項目の比較には、母平均の比較と確率分布の比較があります。この検定は確率分布の比較であって、母平均の比較ではありません。検定結果がp<0.05だからといって2項目の母平均に有意差があるとはいえません。適合度の検定は次の手順によって行います。(1)帰無仮説を立てる2つの項目の度数分布について確率分布は同じ(2)対立仮説を立てる2つの項目の度数分布について確率分布は異なる(3)両側検定・片側検定がある(4)検定統計量を算出する(5)2標本に累積相対度数を作成し、各カテゴリーについて差を求め、その最大値をDとするただし、n1、n2は2項目のサンプルサイズ(6)p値を算出するn1≧40、n2≧40のとき、検定統計量はカイ2乗分布に従う。p値は、カイ2乗分布において両側検定は検定統計量の上側確率の2倍、片側検定は上側確率である。p値<有意水準0.05→対立仮説がいえるp値≧有意水準0.05→対立仮説がいえないn1≧40、n2≧40の場合、コルモゴロフ・スミルノフの検定表より、n、有意水準0.05に対応する値を求める。求められた値と検定統計量の比較で有意差判定する。■コルモゴロフ・スミルノフ検定の結果具体例を基に説明します。膝痛の軽減を目的としたリハビリテーションプログラムを受けた男女100人ずつに、このリハビリテーションプログラムがどの程度好きかを5段階評価で聞きました。表1に男性100人、女性100人の回答結果を集計し、図1に度数分布と確率分布を求めました。その上で、このリハビリテーションプログラムの好き嫌いが男女で異なるかを調べてみました。表1 事例の男女別回答集計表図1 事例の検定結果p値<0.05より、このリハビリテーションプログラムの好き嫌いの確率分布は男性と女性で異なるといえます。■コルモゴロフ・スミルノフ検定の計算方法1)検定統計量の計算方法男性の相対度数と累積相対度数を算出する女性の相対度数と累積相対度数を算出する男性累積相対度数と女性累積相対度数の差分を求める(表2)表2 男女別累積相対度数の差分差分の最大値をDとする。D=0.2検定統計量を算出する。2)p値の計算方法検定統計量はカイ2乗分布に従う。p値は、カイ2乗分布において検定統計量の上側確率の2倍である。カイ2乗分布の上側確率はExcelの関数で求めることができます(図2)。図2 カイ2乗分布の上側確率のExcel関数式このように、2標本コルモゴロフ・スミルノフ検定は、医療データの分布を比較するための強力な統計ツールです。本手法を正しく理解し適用することで、臨床試験結果の解釈がより信頼性の高いものとなります。■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ統計のそこが知りたい!第21回 カイ2乗検定とは? その1第23回 仮説検定における2つの間違い 第一種の誤りとは?第31回 検定の落とし穴とは?第75回 確率分布とは?「わかる統計教室」第3回 理解しておきたい検定 セクション1

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英語で「尿閉」、患者さんはどう訴える?【患者と医療者で!使い分け★英単語】第42回

医学用語紹介:尿閉(排尿困難) urinary retention今回は「尿閉(排尿困難)」について説明します。医療現場ではurinary retentionという専門用語が使われますが、患者さんとの会話ではどのような一般的な英語表現を使えばよいでしょうか?講師紹介

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インクレチン製剤がもたらす 肥満合併HFpEFの新たなパラダイム【心不全診療Up to Date 2】第5回

インクレチン製剤がもたらす肥満合併HFpEFの新たなパラダイムKey Points肥満の評価は、BMIでいいのか?HFpEF患者の多くに中心性肥満を認め、これがHFpEF発症の重要な病態因子と考えられるセマグルチドは肥満合併HFpEF患者の症状と運動耐容能を有意に改善し、チルゼパチドは心不全イベントを38%減少させたBMI 25~30程度の軽度肥満患者における有効性の検証が今後の課題であるはじめに左室駆出率の保たれた心不全(HFpEF)は、高齢化を背景に本邦の心不全患者の半数以上を占める主要な表現型となっており、高齢、高血圧、心房細動、糖尿病、肥満など多彩な併存症を背景とする全身性の症候群として捉えるべき病態である1)。HFpEFがこのように心臓に限局しない全身的症候群であることが、心臓の血行動態のみを標的とした過去の治療薬が有効性を示せなかった一因と考えられる。そして近年、SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬、GIP/GLP-1受容体作動薬といった、代謝など全身へ多面的に作用する薬剤が成功を収めたことは、この病態の理解を裏付けるものである。本稿では、肥満合併HFpEFに対するインクレチン製剤の臨床エビデンス、作用機序、進行中の臨床試験、そして今後の展望について解説する。HFpEFにおける肥満の重要性HFpEF患者において肥満は極めて高頻度に認められる。従来、BMI≧30kg/m2で定義される肥満はHFpEF患者の60~70%に存在するとされてきた2)。しかし、BMIは骨格筋量や骨量の影響を受けるため、とくに民族差のある集団では脂肪量の正確な評価指標とはならない。より重要なのは内臓脂肪の蓄積である。ウエスト・身長比(≧0.5)で評価した中心性肥満は、HFpEF患者の95%以上に認められることが報告されており、画像診断による脂肪量の定量化でもこの高い有病率が確認されている3)。さらに、複数の前向きコホート研究において、内臓脂肪の蓄積がHFpEF(HFrEFではない)の発症を特異的に予測することが一貫して示されている4,5)。なお、アジア人集団では、欧米に比べてBMIは低いものの内臓脂肪が蓄積しやすい「内臓脂肪型肥満」の表現型が知られている6)。肥満合併HFpEFの病態生理肥満合併HFpEFの病態は多因子的であり、複数の機序が複雑に絡み合っている。内臓脂肪の蓄積が、炎症、循環血漿量の増加、心外膜および胸壁脂肪の増加を促進し、心室の相互依存性を増幅させることで、最終的にHFpEFの発症と進行を促進することを示すエビデンスが蓄積している7)。そのなかでも、最近Packer博士らにより提唱された「アディポカイン仮説」は、肥満合併HFpEFの病態を統一的に説明しようとする試みである(図1)8)。(図1)画像を拡大するこの仮説では、内臓脂肪組織の拡大と機能不全により、脂肪細胞から分泌される生理活性物質(アディポカイン)のバランスが崩れることが、HFpEF発症の中心的機序であるとされる。このアディポカイン不均衡が、神経体液性因子の活性化、全身性炎症、心筋肥大・線維化、血漿量増加を引き起こし、HFpEFを発症させるという概念である。アディポカイン仮説は現時点ではあくまで仮説の段階であり、今後のさらなる検証が必要であるが、後述するインクレチン製剤の作用機序を理解する上で、有用な枠組みの一つを提供している。インクレチン製剤の作用機序と期待される効果GLP-1受容体作動薬GLP-1受容体作動薬(GLP-1RAs)は、膵β細胞に作用して血糖依存的にインスリン分泌を促進する消化管ホルモン(インクレチン)の一つであるglucagon-like peptide-1(GLP-1)の作用に基づく2型糖尿病治療薬である。体重減少効果もあることから、2023年に肥満症治療薬としても承認されている。GLP-1RAsは、心血管代謝リスク因子に良好な影響を及ぼすとされ9)、肥満症患者と糖尿病患者のいずれにおいても動脈硬化性疾患や心不全新規発症イベントのリスクを減少させるという報告があり、肥満合併心不全患者への効果も期待されてきた10)。心血管系への作用機序として、次の3つのことが考えられている。第1に、体重減少を介した効果として、循環血漿量の減少、左室充満圧の低下、心臓への機械的負荷軽減が挙げられる。第2に、直接的な心血管保護作用として、心筋細胞のアポトーシス抑制、抗炎症作用、酸化ストレスの軽減、内皮機能改善が報告されている。第3に、代謝改善として、インスリン抵抗性の改善、脂質代謝改善、血糖コントロール改善(糖尿病合併例)がある。さらに、脂肪組織への直接作用として、内臓脂肪の選択的減少(体重減少を上回る)、心外膜脂肪組織の縮小、脂肪組織の炎症抑制、アディポカインプロファイルの改善(抗炎症性アディポカインの増加、炎症性アディポカインの減少)が示されている11)。GIP/GLP-1受容体作動薬もう一つの主要なインクレチンであるglucose-dependent insulinotropic polypeptide(GIP)の受容体にも作用するGIP/GLP-1受容体作動薬(チルゼパチド)は、単独のGLP-1作動薬を上回る体重減少効果を示す。GIP受容体を介した追加作用として、脂肪細胞での脂肪分解促進、白色脂肪組織での無駄なカルシウムサイクリング誘導(エネルギー消費増加)、インスリン感受性改善が報告されている11)。持続的なGIP受容体刺激が、大幅な体重減少に大きく寄与すると考えられている。インクレチン製剤の臨床エビデンス肥満合併HFpEF患者に対するGLP-1RA(セマグルチド)の有効性を検証したSTEP-HFpEF試験では、2.4mgのセマグルチド週1回皮下投与が、肥満合併HFpEF(LVEF≧45%かつBMI≧30kg/m2)患者のKCCQ-CSS(Kansas City Cardiomyopathy Questionnaire clinical summary score)により評価される健康関連QOLをプラセボと比較して有意に改善させ、体重も有意に減少させた(図2)12)。(図2)STEP-HFpEF試験:主要エンドポイント画像を拡大するさらに、2型糖尿病を有する肥満合併HFpEFを対象としたSTEP-HFpEF DM試験でも同様の結果が得られている13)。なお、STEP-HFpEF DM試験ではSGLT2阻害薬を併用した症例が33%含まれていたが、SGLT2阻害薬併用の有無にかかわらず、セマグルチドの心不全関連転帰に対する効果は一貫していた。GIP/GLP-1受容体作動薬も、肥満合併HFpEF(LVEF≧50%かつBMI≧30kg/m2)患者を対象にその有効性を検証したSUMMIT試験において、複合心不全イベント(心血管死または心不全増悪イベント)リスクを38%低下させ、KCCQ-CSSで評価された健康関連QOLを有意に改善させたと報告されている(図3)14)。(図3)SUMMIT試験:主要エンドポイント画像を拡大するただし、悪心・嘔吐などの消化器症状や食欲減退といった副作用には注意が必要であり15)、患者ごとの病態や既存の治療との併用状況を考慮した上で投与方針を検討することが求められる。このように、肥満合併HFpEF患者に対するインクレチン製剤の有効性は確立しつつある一方、わが国に多いBMI 25~30程度の内臓脂肪型肥満を呈する症例において、同薬が有効かどうかは不明であり、今後の試験が期待される16)。次世代インクレチン製剤の開発現在、複数の次世代インクレチン関連薬が開発されている(図4)17)。(図4)現在臨床試験が進行しているインクレチン関連薬画像を拡大するGLP-1/グルカゴン(GCG)受容体二重作動薬(cotadutide、survodutideなど)は、グルカゴン受容体刺激により、肝臓での細胞外分泌因子FGF21産生が増加する。FGF21は脂肪組織の炎症抑制、褐色脂肪活性化、内臓脂肪減少をもたらすため、さらなる代謝改善と体重減少が期待される。代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)を対象とした第II相試験ではMASH組織改善効果を認め18)、肥満患者を対象とした第III相試験は現在進行中であり19)、HFpEFへの応用が期待される。GLP-1/GIP/GCG受容体三重作動薬(retatrutideなど)は、3つの受容体を同時に刺激し、最大限の代謝改善を目指す薬剤である。肥満患者での第II相試験で顕著な体重減少を示しており20)、HFpEFへの応用が期待される。おわりに肥満合併HFpEF患者に対するインクレチン製剤は、STEP-HFpEF試験とSUMMIT試験により、症状改善、運動耐容能向上、そして心不全イベント減少という明確なエビデンスが示された。今後、次世代インクレチン製剤(GLP-1/GCG受容体二重作動薬、GLP-1/GIP/GCG受容体三重作動薬)の臨床開発や、治療反応性を予測するバイオマーカーの確立により、より個別化された効果的な治療が可能になることが期待される。肥満合併HFpEFの病態理解は急速に進展しており、これらの知見を臨床に活かし、エビデンスに基づいた最適な治療を提供することが、今後の日本のHFpEF診療における重要な課題である。 1) Hamo CE, et al. Nat Rev Dis Primers. 2024;10:55. 2) Obokata M, et al. Circulation. 2017;136:6-19. 3) Peikert A, et al. Eur Heart J. 2025;46:2372-2390. 4) Oguntade AS, et al. Open Heart. 2024;11:e002711. 5) Sorimachi H, et al. Eur Heart J. 2021;42:1595-1605. 6) WHO Expert Consultation. Lancet. 2004;363:157-163. 7) Borlaug BA, et al. Cardiovasc Res. 2023;118:3434-3450. 8) Packer M. J Am Coll Cardiol. 2025;86:1269-1373. 9) Kosiborod MN, et al. Diabetes Obes Metab. 2023;25:468-478. 10) Ferreira JP, et al. Diabetes Obes Metab. 2023;25:1495-1502. 11) Nogueriras R, et al. Nat Metab. 2023;5:933-944. 12) Kosiborod MN, et al. N Engl J Med. 2023;389:1069-1084. 13) Kosiborod MN, et al. N Engl J Med. 2024;390:1394-1407. 14) Packer M, et al. N Engl J Med. 2025;392:427-437. 15) Kushner R, et al. JAMA. 2025;334:822-823. 16) 吉池信男ほか. 肥満研究. 2000;6:4-17. 17) Melson E, et al. Int J Obes(Lond). 2025;49:433-451. 18) Sanyal AJ, et al. N Engl J Med. 2024;391:311-319. 19) Kosiborod MN, et al. JACC Heart Fail. 2024;12:2101-2109. 20) Jastreboff AM, et al. N Engl J Med. 2023;389:514-526.

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セフトリアキソン【Dr.伊東のストーリーで語る抗菌薬】第7回

セフトリアキソン前回はセファゾリンを勉強しました。そのスペクトラムは「S&S±PEK」です。復習は間に合っていますか? これらは皮膚軟部組織感染症や尿路感染症の起因菌でした。「±PEK」の部分は、厚生労働省のJANISなども参考にするという解説もしました。この知識を踏まえて、今回はセフトリアキソンについて紹介します。皆さんが毎日のように使われている抗菌薬なのではないでしょうか。セフトリアキソンのスペクトラムセフトリアキソンは第3世代セフェム系です。「トリ」がつくので「トリオ」で3。これで覚えてください。スペクトラムは「S&S+HMPEK」です。セファゾリンは「±」となっており、煮え切らない感じでしたが、今回は「+」で示しています。そして、HとMが加わりました。HMPEKは「ヘンペック」と呼んで「雌鶏がついばむ(hen pecks)」です。よくわからない語呂合わせなのですが、感染症科医の間で伝統的に使われている語呂なので覚えて損はないと思います。HはHaemophilus influenzae、MはMoraxella catarrhalisです。両方とも上下気道感染症の起因菌ですね(図1)。図1 セフトリアキソンのスペクトラム画像を拡大するそうすると、セフトリアキソンが皮膚軟部組織感染症、上下気道感染症、尿路感染症の代表的な起因菌を一通りカバーできることになるわけです。蜂窩織炎、肺炎、腎盂腎炎です。少なくとも救急外来でみかける感染症の半分くらいはこういった感染症ですね。残りはお腹の感染症くらいです。そのため、救急外来でよくセフトリアキソンが使われていると思いますが、それで大きな失敗をしない理由もこれでおわかりになるのではないでしょうか。ある意味、セフトリアキソンは救急外来の守護神と呼べてしまうわけです。ただその一方で、あくまで救急外来という点に注意が必要です。入院患者では緑膿菌感染症なども問題になるのですが、そういったところまではセフトリアキソンは対応しきれていません。院内感染症に対応するには、もっと世代の進んだセフェム系が必要になります。インフルエンザ桿菌の薬剤耐性分類HMPEKでHaemophilus influenzae(インフルエンザ桿菌)の話題が出てきたため、少しだけ補足します。インフルエンザ桿菌は、薬剤耐性機構を勉強するモデルとしてとっても使いやすいのです。インフルエンザ桿菌を薬剤耐性で分類すると、BLNAS、BLPAR、BLNARの3つにわかれます。とは言っても、覚えるのが大変なので、便宜的にレベル1、レベル2、レベル3でとりあえず十分です。レベル3のBLNARだけ、余力があれば覚えてください。図2 インフルエンザ桿菌の薬剤耐性分類画像を拡大するレベル1のBLNASタイプは楽勝です。アンピシリンを入れたら鍵穴にはまって簡単にやっつけることができます(図3)。図3 BLNASタイプへのアンピシリン画像を拡大するただし、インフルエンザ桿菌はアンピシリンに対抗すべく、レベル2のBLPARタイプにレベルアップします。これはβラクタマーゼを使ってアンピシリンを打ち落としてくるため、アンピシリンが効きません。そのため、βラクタマーゼ対策として人類側としては、アンピシリン・スルバクタムを使います。こうしてレベル2のBLPARタイプをやっつけることができます(図4)。図4 BLPARタイプへのアンピシリン・スルバクタム画像を拡大するしかし、インフルエンザ桿菌はさらに進化します。レベル3のBLNARでは、ペニシリン結合蛋白を変異させて、鍵穴の形を変えてしまいます。そうすると、アンピシリン・スルバクタムでも鍵穴が合わず太刀打ちできません(図5)。図5 BLNARタイプへのアンピシリン・スルバクタム画像を拡大するそのため、鍵穴の合うセフトリアキソンを持ってこないといけないわけです。これでやっとインフルエンザ桿菌をやっつけることができるわけです(図6)。図6 BLNARタイプへのセフトリアキソン画像を拡大するこのように、薬剤耐性機構を知っていると、抗菌薬をもっと楽しく勉強できると思います。今回出てきたBLNARはよく使う言葉なので、知っておいて損はないと思います。まとめセフトリアキソンは 「S&S+HMPEK」で覚えましょう。蜂窩織炎、肺炎、腎盂腎炎など救急外来でみる感染症の多くに対応しているため、使い勝手の良い抗菌薬です。ただし、あくまで救急外来、つまりは市中感染症に過ぎないわけで、院内感染症に対しては少々スペクトラムが不足している点にも気をつけていただければと思います。

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50代半ばで精神科から一転・総合診療でへき地へ【ReGeneral インタビュー】第2回

50代半ばで精神科から一転・総合診療でへき地へ精神科医として、大学教授として、文筆家として幅広く活動してきた中塚尚子氏。ペンネーム「香山リカ」の名でご存じの方も多いでしょう。いま中塚氏は、北海道勇払郡むかわ町穂別診療所で総合診療の現場に立っています。そこは医師2名、19床のへき地診療所。なぜ大胆なキャリアチェンジを選んだのか。総合医育成プログラムでどのように学び、現場で何を感じているのか。背景とリアルを伺います。「このままでいいのか?」―50代・趣味の延長から学び直しへ――執筆や大学での講義など多方面でご活躍の中で、へき地での総合診療に転向したきっかけを教えてください。精神科の外来で患者さんと話していると、50代半ばに差し掛かるころに「このままでいいのか」と人生を振り返る方が少なくありません。私は立教大学での教育と週2回の精神科外来を長く続けていました。どちらもやりがいがあって楽しかった。それが50代中ごろになって、患者さんたちと同じように「このまま同じ道を歩き続けていいのか」と思ったんです。自分にもこの問いがやってくるのかと本当に驚きでした。そんなとき、北海道の空港で偶然再会したのが、東京医大の同級生です。公衆衛生の分野で活躍していた彼が、いまは北海道オホーツク海沿岸のへき地で診療していると聞いて、「そんな転身ができるのか!」という驚きが心に残りました。――この出来事はいつ頃の話ですか。2016年頃です。このときはまだ、大学教員定年後の選択肢の一つくらいの考えでした。ただ、私が卒業した時代は今のような初期臨床研修はなく、大学教員になってからの臨床は外来だけ。精神科以外のことはほとんど知らず、全身管理や入院医療からは20年以上離れていたのが実情です。将来へき地で働きたいと思っても、準備なしで無理なのは明らかでしょう。だから、少しでも準備をと思いながらも、趣味や現実逃避に近い気持ちでプライマリ・ケアの本を手に取り始めました。どこでどう学ぶ? ―断られ続けた先に――そこからどのように具体的な学び直しに動き始めたのですか。ちょうど翌年、立教大学で1年間のサバティカル(研究休暇)にあたりました。臨床や介護の事情で海外留学は難しかったこともあって、総合診療の求人がある病院に片端から連絡してみました。総合診療の現場を体験してみたくて。結果は…散々です。理由は年齢や勤務日数などさまざまでしたが、すべて断られたときは落ち込みました。現実は厳しいと諦めかけたときに見つけたのが、母校・東京医大病院総合診療科の募集です。「他科出身でこれからプライマリ・ケアを学びたい医師も歓迎」とあり、連絡すると「週1〜2回でも自分のペースでどうぞ」と本当に快く受け入れてくださいました。外来で患者さんを受け持ってほかの先生に相談しながら診療する形で、ひやひやしながらも現場に立たせてもらいました。診療してみると何が自分に足りないかが明らかになって、体系的に学びたいという気持ちが高まりました。そうして総合医育成プログラムを受講しはじめたのが2020年です。――大学教員・精神科外来・総合診療の外来と三足のわらじでの参加だったのですね。そうです。1年間の研究休暇が終わって、東京医大での外来は週に半日。土曜日は精神科外来、日曜日は大学の入試業務などが重なります。プログラムに出席できたのは限られた日程しかなく、受けたい科目と時間が合わず歯がゆい思いもしました。講師の先生方のご負担は相当だったと思いますが、土日中心の運営だったからこそ参加できたことに感謝しています。「ここまではプライマリ・ケアで、ここからは専門医に」―線引きを知る安心感――受講中に苦労したことはありますか。正直、医学的な知識は知らないことが多すぎて、「こんなにたくさんのことを知らないと総合診療はできないのか」と何度も落ち込みました。事前に視聴する動画講義には確認テストがあるのですが、不正解のバツ印を画面で見るのは結構ショックでした。当時は教員としてテストを出すほうで、自分がテストを受けるのは学生以来ですから!とはいえ、大学と違って知識を整理するためテストなので、これで落第になるわけではないのは救いです。――印象的だった講義はありますか。耳鼻科の講義です。広島で開業されている講師の先生が「ここまではプライマリで診てください。ここからは専門医に紹介してください」と、総合診療で診る範囲と専門医へ紹介すべきときの線引きを明確に示してくださって、とてもほっとしたことを覚えています。「すべてを知らなくてもいい」とその領域の専門家に言ってもらえることは、大きな安心につながり、総合診療へ踏み出す背中を強く押してくれました。それから、ノンテクニカルスキルコースのひとつとして受けたMBTI(性格タイプ別コミュニケーション)1)も印象に残っています。単なる性格テストだろうと侮っていましたが、ユング心理学に基づく理論だと知って、若い頃読んだユングの著作をもう一度勉強し直したいと思いました。意外な発見で嬉しかったですね。得意を活かし、苦手は支え合う ―グループで学ぶ楽しさ――プログラムを受ける中で楽しかったことは。ブレイクアウトルームでの交流が本当に楽しかったです。同期型学習当日は、世代も専門も違う医師たちが、オンラインで全国から集まります。自然に助け合う空気があって、たとえば循環器のセッションで心電図を読むグループワークでは、循環器が専門の先生が率先して噛み砕いて教えてくれました。テーマが変われば別の専門の先生が手を挙げて助けてくれる。「わからない」と言っても軽蔑されない。休みを使ってでも学びたいという共通の動機が、お互いに得意なことを惜しみなく分かち合う雰囲気を支えていたように思います。グループで話すことが学び続ける励みになりましたし、実際に総合診療に進むようになったのも、自己紹介やここに来た経緯などを皆さんと話していたことが大きかったです。――プログラムの改善点はありますか。修了後も学び続けられる仕組みがあると心強いですね。正直なところ、日本プライマリ・ケア連合学会の勉強会までは手が回っていません。OB・OG向けの中級編として、単発でいいので、知識のアップデートをできるとありがたいです。修了生たちのクローズドな場で、現場で困ったことやこうやって乗り越えたというような話ができたら、知識面でも心理的な面でもサポートになるのではないかと思います。いざ実地で診療を開始 ー専門性は活かせるのか? 精神科の強みと悩み――2022年4月の赴任からもうすぐ4年、総合医として働いてみてご感想はいかがですか。60歳を過ぎて総合診療を始めたので、最低限のことを知って飛び込んでいる感じです。総合診療なので当たり前ですが、循環器疾患の患者さんを診察して体系的に考えたいと思っても、次に来るのは糖尿病の方、その次は転んで足を骨折した方、そのあとには不眠を訴える方―まったく違う問題を抱える患者さんが次々にやってきます。その場その場の対応で手一杯になってしまうこともあります。プログラムのテキストを振り返りたい気持ちはあっても余裕がないまま、気がついたら年月が経っているというのが正直なところです。――精神科のバックグラウンドは総合診療でどのように役立っていますか。 精神科医はとにかく話を聞くことからしか始められません。血圧に問題がある患者さんの診察でも、自然と仕事や家族、毎日の生活について伺うので、患者さんは「こんなことまで先生に話していいの?」と驚かれることもあります。かっこつけた言い方をするなら、全人的医療に近づけるのは精神科出身の強みだと思います。一方で、身体医学と精神医学を統合して見ることの難しさもあります。どちらかが前に出すぎてしまい、バランスを取ることが今も課題です。自分一人で完璧にバランスを取るのはまだ修行中で、周囲の助けに本当に支えられています。――周囲からはどのようなサポートを受けていますか。所長は総合診療専門医で、10年以上ここで診療している方です。私より3歳ほど年下ですが、頼って何でも聞いてしまっています。彼は私の診療をさりげなく見守り、気付いたことを「こうしたほうがいいんじゃない?」と助言してくれます。私もわからないことがあれば恥も外聞もなく、うるさいくらい質問しています。プライドも何もなく質問できる性格が役に立ったと思いますし、それを受け止めてもらえるのが本当にありがたいです。患者さんとの信頼関係が作れているのも大きな支えです。たとえば、万一検査を忘れてしまったとき、正直にお伝えして「もう一度来ていただけますか?」とお願いすると、午前に来た方が午後に「いいよ」と再来してくださることも珍しくありません。患者さんが近隣に住んでいる地域医療の強みだとも思います。へき地医療は苦労か?それとも癒しか?――地域で働くことのよさは何でしょうか。患者さん・地域の方との関係性でしょうか。患者さんは医師不足を理解していらして、「よく来てくれたね」「困ったことはない?」と気遣ってくれるほどです。怒られるどころか、甘やかされているように感じることもあります。身を粉にして苦労をする覚悟で来たのに、逆に患者さんや地域の人たちに癒されながら診療しています。都会で疲れを感じている医師は皆、へき地で働いたらいいのにと思うくらいです。この地域の医療の課題は。今、医師は所長と私の2人体制で、看護師、技師、リハビリテーション職、薬剤師、事務、介護やケアマネジャーまでそろって理想的に回っています。ただ、どの職種も1~2人しかいません。誰かが欠ければ一気に崩れる脆弱性があります。所長も60歳を超え、私は2026年3月で定年になります。定年後も一年更新の再雇用制度で続ける予定でいますが、スタッフも高齢化していて、病気や退職が重なればガラガラと崩れてしまう。誰かが欠けたとき、一時的に苫小牧や札幌から応援があっても常勤で長く働く人はほぼ来ません。継続性の担保は、ここだけでなく全国で共通する構造的な課題だと思います。専門医をやりきった世代こそ、新しい役割を――人生の意味を問い直すとき、医師のアドバンテージは。「もう一度、聴診器を」というコピーを見たとき2)、医師の原点に戻ろうとシニア医に促す秀逸なコピーだと思いました。最初にお話ししたように50代以降に「この先どうしよう」と悩む人は本当に多い。そんな中、医師は専門を変えるだけで、もう一度だれかの役に立てる。これは大きな強みです。専門医をやりきり、子育ても終えた世代に「最後は地域のために人助けしませんか」と伝えたい。外科の先生なら手術で無理ができなくなる年齢から総合診療に移ってもいい。農作業がしたくて地方に来る医師がいるように、趣味と仕事を組み合わせることもできます。一生都会を離れるのは難しいとしても、3~4年のローテーションで人が回って地域に貢献するモデルがあれば、医師も地域ももっと柔軟に動けると思います。完璧を目指さなくていい まずは総合診療の地図を手に入れる――総合医育成プログラムを受けようと思う方へメッセージを。精神科の経験しかなかった私には難しい内容もあり、「これは私にはとてもできない」「無理だ」と心が折れることもありました。でも、そこで選別されるわけではありません。このプログラムは「私がまったく知らなかったこの領域にはこういう疾患があり、こういう問題がある」と、総合的に診るための見取り図を手に入れるものだと思うのです。当然、見取り図を手に入れる段階ですべてが身に付くわけはありません。実践の場でテキストを見返し、周りの助けを借りて、少しずつ身に付けていけばいい。まずは受けてみてください。世界旅行をするような感覚で、総合診療の扉を開けてみることをお勧めします。 引用 1) Myers-Briggs Type Indicatorの略称。ユングのタイプ論をもとにして開発された自己分析メソッドを活用した、 性格タイプ別コミュニケーションに関する研修。 2) 2016年、へき地医療に興味をもった中塚氏が偶然見つけた、地域医療研究会が主催する「医師研修プログラム」に関するリポート冒頭のキャッチコピー。 中塚氏は著書の中で以下のように述懐している。 「このリポートのタイトルは「『もう一度聴診器を』、第二の人生にへき地医療」。へき地医療への転身を考え始めた私に、これ以上“刺さるタイトル”もないだろう。ダイエットを始めた人が「『もう一度Mサイズを』、落ちない脂肪にこのサプリ」という広告を目にしたようなものだ」(香山リカ.精神科医はへき地医療で“使いもの”になるのか?.星和書店;2024.p28.)

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麻雀で統合失調症患者の認知機能は改善するか

 麻雀は、認知機能の向上と密接に関連していることが広く報告されている。しかし、統合失調症患者の認知機能に対する麻雀の影響については、これまで研究されていなかった。中国・重慶医学大学のRenqin Hu氏らは、統合失調症患者の認知機能改善を目的とした麻雀介入の有効性を評価するため、パイロット単盲検ランダム化比較試験を実施した。BMC Psychiatry誌2025年11月7日号の報告。 本パイロット研究では、統合失調症患者49例を対象に、介入群(麻雀と標準治療の併用)と対照群(標準治療)にランダムに割り付けた。介入群は、麻雀による認知トレーニングを1日2時間、週4日、12週間にわたり行った。主要認知アウトカムは、ケンブリッジ神経心理学的検査自動化バッテリー(CANTAB)を用いて評価した。副次的アウトカムには、生活の質(QOL)、臨床症状、無快感症、副作用、個人的および社会的機能を含めた。評価は、ベースライン時および4週目、8週目、12週目に実施された。 主な結果は以下のとおり。・介入群は、研究期間を通して反応時間と運動時間の両方に対し、改善効果を示した。・視覚記憶、新たな学習、戦略活用、空間記憶能力、複雑視覚課題の正確性に関して、介入群と対照群の間に有意な差は認められなかった。・介入群は、QOLにおいて緩やかな改善を示した。しかし、その他の副次的アウトカムでは、有意な変化は認められなかった。 著者らは「麻雀介入は、統合失調症患者の特定の認知機能とQOLに有益である可能性が示唆された。しかし、これらの結果は慎重に解釈する必要がある。本結果を明らかにするためにも、より大規模で多様なサンプルや長期介入によるさらなる研究が求められる」とまとめている。

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ゾンゲルチニブ発売、HER2変異陽性NSCLCの治療の変化は?/ベーリンガーインゲルハイム

 日本ベーリンガーインゲルハイムは、ゾンゲルチニブ(商品名:ヘルネクシオス)を2025年11月12日に発売した。発売を機に「非小細胞肺がん(NSCLC)のアンメットニーズと最新治療」をテーマとしたメディアセミナーを2025年11月18日に開催した。後藤 功一氏(国立がん研究センター東病院 副院長 兼 呼吸器内科 科長)がHER2遺伝子変異陽性NSCLC治療のアンメットニーズと最新治療について紹介し、HER2遺伝子変異陽性NSCLC患者の清水 佳佑氏(肺がんHER2「HER HER」代表)が、患者会の運営経験、患者が抱える課題やアンメットニーズを述べた。HER2遺伝子変異陽性NSCLCの特徴 後藤氏は、LC-SCRUM-Asiaの取り組み、HER2遺伝子変異陽性肺がんの特徴や治療法などについて紹介した。 LC-SCRUM-Asiaは、肺がんの原因となる希少遺伝子変化を見つけ出し、有効な治療薬を届けることを主な目的としている。後藤氏によると、これまでに2万5千例以上の肺がん患者が登録され、これまでの活動に伴って14種類の分子標的薬が臨床応用されているとのことだ。 LC-SCRUM-Asiaにおける遺伝子解析結果によると、HER2遺伝子変異は日本人NSCLC患者の2.6%にみられる。このうちexon20挿入変異が79%であり、そのなかでYVMA変異(HER2 A775_G776insYVMA)が66%を占める。HER2遺伝子exon20挿入変異を有するNSCLC患者の特徴としては、若年発症が多い(年齢中央値65歳[範囲:29~90])、女性の割合が多い(57%)、非喫煙者が多い(55%)、腺がんがほとんど(98%)といったことが挙げられる1)。 現在、HER2遺伝子変異陽性NSCLC患者に対する1次治療の標準治療の1つとして、免疫チェックポイント阻害薬+化学療法があるが、LC-SCRUM-Asiaの登録患者における無増悪生存期間(PFS)中央値は8.5ヵ月であった1)。化学療法単独と比較してPFSは延長しているが、アンメットニーズが存在すると言える。新たな治療選択肢の登場 そのようななか、2次治療以降の選択肢として、HER2を標的とする抗体薬物複合体トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)が登場した。既治療のHER2遺伝子変異陽性NSCLC患者を対象とした国際共同第II相試験「DESTINY-Lung02試験」2)において、T-DXd 5.4mg/kgは奏効割合(ORR)50.0%(完全奏効[CR]2.9%、部分奏効[PR]47.1%)、PFS中央値10.0ヵ月、全生存期間(OS)中央値19.0ヵ月といった良好な治療成績を示した。ただし、後藤氏は「有効な薬剤であることに間違いないが、限界も存在する」と述べる。 そこで、新たな治療選択肢として登場したのがゾンゲルチニブである。ゾンゲルチニブは、HER2と構造的な関連のある野生型EGFRに対する阻害活性を弱め、HER2を選択的に阻害するように設計された薬剤である。野生型EGFRを阻害すると、発疹や下痢などのEGFR関連有害事象が生じやすくなるが、ゾンゲルチニブはその毒性を軽減するように開発された。 既治療のHER2遺伝子変異陽性NSCLC患者を対象とした国際共同第I相試験「Beamion LUNG-1試験」3)において、ゾンゲルチニブはORR 71%(CR 7%、PR 64%)、PFS中央値12.4ヵ月という良好な有効性を示した。安全性については、主な治療関連有害事象(TRAE)として下痢(56%)や肝機能障害(AST増加24%、ALT増加21%)、発疹(33%)などがみられたが、全体のGrade3以上のTRAEの発現割合は17%であった。 Beamion LUNG-1試験の結果から、『肺診療ガイドライン2025年版』では、T-DXdと並んで、2次治療以降でゾンゲルチニブ単剤療法を行うことが強く推奨された(推奨の強さ:1、エビデンスレベル:C)4)。 後藤氏は、ゾンゲルチニブについて「最も大きな特徴は毒性が軽いという点である。非常に使いやすい薬剤であり、HER2遺伝子変異陽性NSCLCの治療において、最も使われる薬剤になるのではないかと考えている」と期待を語った。HER2肺がんの患者会設立と活動 清水氏は、2017年にStageIIIBの肺腺がんの告知を受け、標準治療および臨床試験への参加を経てCRに至ったがんサバイバーであり、HER2遺伝子変異またはHER2過剰発現を有する肺がんを対象とした患者会として、2018年に肺がんHER2「HER HER」を設立した。 清水氏は「日常のことやHER2に関することを話したいと思っても話す場がない。臨床試験の情報を得ても共有する場所がなく、もったいない。HER2遺伝子変異またはHER2過剰発現を有する肺がん患者が安心して集まる場があるとよい」という思いを抱えていたという。そのようななか、日本臨床腫瘍学会学術集会の懇親会において、ROS1融合遺伝子陽性の肺がんを対象とした患者会の会員と出会ったことで、肺がんHER2「HER HER」の設立を決意したとのことだ。 現在(講演時)の会員数は52名であり、30~60代の患者が中心で、とくに50代の患者が多い。患者家族も会員の約4分の1を占めている。HER2遺伝子に特化した患者会であることから、沖縄県から宮城県まで会員が分布している。そのため、活動はオンラインが中心とのことである。 本患者会では「治療と共に」「仲間と共に」「社会と共に」という3つのテーマを掲げている。活動としては、患者同士で日々の治療や副作用、治療や生活の不安や悩みなどについて情報共有をするほか、臨床試験の情報を共有しているという。また、ほかの肺がんの患者団体、疾患を超えた団体とも活動を行っており、「社会と一緒に医療を作っていきたい」と考えながら、研究への患者・市民参画(PPI)の活動も積極的に進めているとのことである。患者会の活動で得られた変化とアンメットニーズ このような活動を進めていくなかで、周囲との関係性に変化があったと清水氏は語る。その例として、医療者とのコミュニケーションの変化、家族や周囲の方との関係の変化などを挙げた。医療者との関係性について、清水氏は「患者会内の先輩患者から医療者とのコミュニケーション方法を学ぶことで、医療者との信頼関係の構築につながることがあった。治療に関する知識や情報を持つことで、主治医と共に納得して治療を進められるようになった方もいた」と述べた。また、生活の工夫など、普段聞くことのできない体験談を聞くことで、家族や周囲の方との関係に変化が生まれ、生活がしやすくなったという方もいたとのことである。 一方で、課題も存在すると清水氏は述べる。EGFR遺伝子などの主要なドライバー遺伝子と比較し、希少遺伝子異常は治療選択肢が限られる場合があり、臨床試験情報へのアクセスが求められることもある。実際に、臨床試験の探し方や参加方法がわからないといった相談を受けることもあるという。これについて、後藤氏は「遺伝子解析結果とその結果に関連する臨床試験情報を患者へ直接提供するLC-SCRUM-Supportというプロジェクトを開始している。患者またはその近親者のメールアドレスを登録いただくと、現在進行中の臨床試験情報が届くため、患者会の皆さまにも活用いただきたい」と述べた。 以上を踏まえ、清水氏は「形式的なPPIにとどまらず、双方向のコミュニケーションが当たり前になることが重要だと捉えている。より患者の声が生きる設計を共に作っていき、情報が誰でも届く社会になることを期待している」と述べた。また、今後の活動について「がん治療を行っている患者や家族には、それぞれの悩みや不安がある。少しでもその不安や悩みを解消し、穏やかな生活を送っていただきたい。そのため、一人ひとりの声をしっかりと聞き、寄り添いながら活動を進めたいと考えている。私たちの声が誰かの治療に繋がり、誰かの声が私たちの希望に繋がる。『HER HER』はその架け橋のような存在でありたいと思っている」と語った。

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THP療法後に病勢進行のないHER2+転移乳がん維持療法、tucatinib追加でPFS改善(HER2CLIMB-05)/SABCS2025

 タキサン+トラスツズマブ+ペルツズマブ(THP)併用療法後に病勢進行のないHER2陽性(HER2+)転移乳がん患者における維持療法として、トラスツズマブ+ペルツズマブ(HP)へのtucatinibの追加は、プラセボ+HP療法と比較して無増悪生存期間(PFS)を統計学的有意に改善した。米国・Sarah Cannon Research InstituteのErika P. Hamilton氏が、日本を含む23ヵ国で実施された第III相HER2CLIMB-05試験の結果をサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS2025、12月9~12日)で発表した。なお、この結果はJournal of Clinical Oncology誌オンライン版2025年12月10日号に同時掲載されている1)。・試験デザイン:第III相無作為化二重盲検プラセボ対照国際多施設共同試験・対象:THP療法(4~8サイクル)後に病勢進行のない、スクリーニング時の造影MRIで脳転移がないもしくは無症候性の脳転移を有するHER2+転移乳がん患者(ECOG PS 0/1)・試験群:tucatinib(1日2回300mg、経口投与)+HP(3週間間隔)±内分泌療法 326例・対照群:プラセボ+HP±内分泌療法 328例・評価項目:[主要評価項目]RECIST v1.1を用いた治験担当医師評価に基づくPFS[重要な副次評価項目]全生存期間(OS)[副次評価項目]盲検下独立中央判定(BICR)によるPFS、中枢神経系無増悪生存期間(CNS-PFS)、安全性など・データカットオフ:2025年9月5日(追跡期間中央値:23ヵ月) 主な結果は以下のとおり。・ベースラインの患者特性は両群でバランスがとれており、年齢中央値はともに54歳、ホルモン受容体陽性がtucatinib+HP群51.5%vs.プラセボ+HP群53.7%で、脳転移ありもしくはあった症例が12.6%vs.12.2%、de novo転移が69.6%vs.68.9%であった。・治験担当医師評価に基づくPFS中央値は、tucatinib+HP群24.9ヵ月vs.プラセボ+HP群16.3ヵ月で、tucatinib+HP群における統計学的有意な改善が認められた(ハザード比[HR]:0.641、95%信頼区間[CI]:0.514~0.799、両側検定のp<0.0001)。・ホルモン受容体の状態、ベースラインでの脳転移の有無、年齢(<65歳/≧65歳)など事前に規定されたすべてのサブグループにおいて、tucatinib+HP群におけるPFSベネフィットが確認された。ホルモン受容体の状態別にみると、陽性患者においてもtucatinib+HP群における統計学的有意な改善が認められたが(25.0ヵ月vs.18.1ヵ月、HR:0.725、95%CI:0.535~0.983、p=0.0389)、陰性患者でより大きなベネフィットがみられた(24.9ヵ月vs.12.6ヵ月、HR:0.554、95%CI:0.403~0.761、p=0.0002)。・OSデータは未成熟であるものの、tucatinib+HP群において数値的に良好な傾向がみられた。・CNS-PFS中央値はITT集団全体では両群で未達、探索的解析項目であるベースラインで脳転移を有する患者(41例vs.40例)においてはtucatinib+HP群8.5ヵ月vs.プラセボ+HP群4.3ヵ月(HR:0.719、95%CI:0.406~1.273)であった。・Grade3以上の試験治療下における有害事象(TEAE)はtucatinib+HP群42.3%vs.プラセボ+HP群24.4%で発現した。tucatinib+HP群で多く発現したGrade3以上のTEAEは、ALT上昇(13.5%)、AST上昇(7.1%)、下痢(6.1%)などであった。 Hamilton氏は今回の結果について、HER2+転移乳がん患者に対するTHP療法後の維持療法として、HP+tucatinib療法が、病勢進行までの期間を延長し化学療法を受ける期間を短縮させるための選択肢の1つとなることを示したとまとめている。

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降圧薬数漸減で、フレイル高齢者の死亡率は改善するか/NEJM

 介護施設に入居し、複数の降圧薬による治療を受けているフレイルの高齢者では、通常治療と比較して降圧薬数を漸減する治療法は、全死因死亡率を改善せず、転倒や骨折の頻度は同程度であることが、フランス・Universite de LorraineのAthanase Benetos氏らが実施した「RETREAT-FRAIL試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2025年11月20日号で発表された。降圧治療中の80歳以上の無作為化対照比較試験 研究グループは、フレイル高齢者における降圧薬中止の便益とリスクの評価を目的に、フランスの108の介護施設で非盲検無作為化対照比較試験を行った(フランス保健省などの助成を受けた)。2019年4月~2022年7月に参加者を登録し、2024年7月に追跡を終了した。 年齢80歳以上、介護施設に入居し、降圧治療として2種類以上の降圧薬の投与を受け、収縮期血圧が130mmHg未満の患者を対象とした。被験者を、プロトコールに基づき降圧薬の投与を段階的に中止する治療法を受ける群(漸減群)または通常治療を受ける群(通常治療群)に、1対1の割合で無作為に割り付け、最長で4年間追跡した。 漸減群では、無作為化の直後にプロトコールに基づき降圧薬の投与中止を開始し、その後は3ヵ月後および6ヵ月後、引き続き6ヵ月ごとの受診時に、急性期の内科的疾患がなく収縮期血圧が130mmHg未満であれば順次降圧薬の投与を中止することとした。 主要エンドポイントは全死因死亡とし、副次エンドポイントはベースラインから最終受診時までの降圧薬数の変化量、追跡期間中の収縮期血圧の変化量などであった。全死因死亡率、漸減群61.7%vs.通常治療群60.2%で有意差なし 1,048例(平均[±SD]年齢90.1[±5.0]歳、女性80.7%)を登録し、528例を漸減群に、520例を通常治療群に割り付けた。追跡期間中央値は38.4ヵ月(四分位範囲:30.0~48.0)と推定された。ベースラインの平均(±SD)収縮期血圧は、漸減群113±11mmHg、通常治療群で114±11mmHgであり、平均拡張期血圧は両群とも65±10mmHgであった。 平均(±SD)降圧薬数は、漸減群ではベースラインの2.6±0.7種類から最終受診時には1.5±1.1種類へ、通常治療群では2.5±0.7種類から2.0±1.1種類へと減少した。 また、追跡期間中における収縮期血圧の変化量の補正後平均値の群間差(漸減群-通常治療群)は4.1mmHg(95%信頼区間[CI]:1.9~5.7)であり、同様に拡張期血圧では1.8mmHg(0.5~3.0)であった。漸減群の7例で、収縮期血圧が160mmHg以上に上昇したため降圧薬を再導入した。 全死因死亡は、漸減群で326例(61.7%)、通常治療群で313例(60.2%)に発生し(補正後ハザード比:1.02、95%CI:0.86~1.21)、両群間に有意差を認めなかった(p=0.78)。MMSE、SPPB、QOLも同程度 副次エンドポイントである心血管系以外の原因による死亡(漸減群53.8%vs.通常治療群53.5%)、急性心不全(12.7%vs.11.0%)、転倒(50.0%vs.50.0%)、骨折(7.8%vs.9.2%)、新型コロナによる死亡(1.1%vs.3.1%)、主要心血管イベント(MACE、19.3%vs.17.3%)の発生率にも、両群間に有意な差はなかった。 ミニメンタルステート検査(MMSE)、Short Physical Performance Battery(SPPB)、日常生活動作(ADL)、生活の質(EQ-5D-3L質問票)、握力のベースラインからの変化量の最小二乗平均曲線下面積は、いずれも両群で同程度であった。また、主要および副次エンドポイントの定義に含まれない重篤な有害事象は、漸減群で132例、通常治療群で128例に発現し、両群間に大きな差はなかった。 著者は、「本試験では、この患者集団において降圧薬漸減戦略は通常治療より全死因死亡率を25%低下させるとの仮説は確認されなかった」「通常ケア群でも降圧薬数の減少が観察されたが、漸減群ほど顕著ではなかった。この知見は、患者が高齢化しフレイルが進むにつれて、医師が日常的に治療の強度を軽減する可能性があることを示唆する」「すべての併用薬の数はベースラインと最終受診時でほぼ同じであることから、通常治療群における降圧薬数の減少は、予期せぬクロスオーバー効果による可能性が高い。2つの群を診察する総合診療医(GP)が、通常治療群の患者ケアにおいて意図せずに漸減戦略を採用した可能性がある」としている。

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メトホルミンが運動療法の効果を阻害してしまう可能性

 古くからある経口血糖降下薬で、米国では現在も2型糖尿病の第一選択薬として位置付けられているメトホルミンが、運動療法の効果を阻害してしまう可能性を示唆するデータが報告された。米ラトガーズ大学ニューブランズウィック校のSteven Malin氏らの研究によるもので、詳細は「The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism」に10月7日掲載された。 この研究の背景について、論文の筆頭著者であるMalin氏は、「多くの医療従事者は、1+1=2だと考えている。しかし、メトホルミンがわずかながら運動の効果を弱めることを示唆するエビデンスも存在する」と話している。この問題の本質を探るため同氏らは、メタボリックシンドロームのリスクのある成人において、同薬が血管インスリン感受性(インスリンによる血管拡張や血流促進作用)を低下させる可能性の有無を、二重盲検プラセボ対照試験で検討した。 研究参加者を、低強度運動(最大酸素摂取量〔VO2max〕の55%の運動)を週5回行うプラセボ服用群(22人)、低強度運動を行うメトホルミン(1日2,000mg)服用群(21人)、高強度運動(VO2maxの85%の運動)を週5回行うプラセボ服用群(24人)、高強度運動を行うメトホルミン服用群(24人)という4群にランダムに割り付け、16週間介入した。 その結果、プラセボを服用した2群ではともにVO2maxが有意に上昇したが、メトホルミンを服用した2群はともに有意な変化が見られなかった。体脂肪は高強度運動を行った2群でのみ有意に減少した。また、メトホルミンを服用した群では、インスリンによる血管拡張反応や血流促進作用が小さくなり、さらに、運動による空腹時血糖値の低下幅が少なくなっていた。 この結果についてMalin氏は、「強度にかかわらず運動によって血管の機能が改善した。ところがメトホルミンはこの効果を弱めてしまった。メトホルミンを服用して運動をしたからといって、血糖値がより大きく下がるわけではないことも見過ごせない。加えて、メトホルミンを服用した人は体力(VO2max)も向上しなかった。つまりこれは、身体機能が改善されていないことを意味し、長期的な健康リスクにつながる可能性がある」と総括している。 本研究で観察されたメトホルミンの負の影響のメカニズムとして研究者らは、メトホルミンが人間の細胞の原動力とも言えるミトコンドリアの働きに影響を及ぼすため、運動の効果を鈍らせるのではないかと推測している。同薬が血糖コントロールを改善する作用機序の一部に、ミトコンドリアの働きを部分的に阻害する作用が含まれており、その作用が運動によって得られる効果を妨げてしまう可能性があるとのことだ。 Malin氏は、「メトホルミンと運動の最適な併用方法を探し出さなければならない。また、メトホルミン以外の薬剤と運動の相互作用についても検討が必要だろう」と述べている。

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脳腫瘍内部に細菌シグナルの存在を発見

 脳は、細菌の存在しない無菌環境と考えられている。しかし新たな研究で、脳腫瘍の内部に細菌が存在することを示唆するシグナルが確認された。研究グループは、これらの細菌は、がんの成長や挙動に影響を与えている可能性があると考えている。これまでにも大腸がんなどの消化器がんにおいて細菌が発見されているが、他の部位の腫瘍における細菌の存在については議論があった。米テキサス大学MDアンダーソンがんセンター外科腫瘍学およびゲノム医学分野のJennifer Wargo氏らによるこの研究結果は、「Nature Medicine」に11月14日掲載された。 Wargo氏は、「この研究は、脳腫瘍の生物学に対する理解に新たな次元を開くものだ。微生物の要素が脳腫瘍の微小環境(がん細胞の周囲にある細胞や分子、構造のまとまりのこと)にどのような影響を与えるかをマッピングすることで、がん患者の転帰を改善するための新たな治療戦略を特定できる可能性がある」とニュースリリースの中で述べている。 この研究では、221人の患者から採取した243個の脳組織サンプルが分析された。サンプルには、脳腫瘍(神経膠腫、転移性脳腫瘍)由来のサンプルが168個、非がんまたは腫瘍隣接組織のサンプルが75個含まれていた。 蛍光 in situ ハイブリダイゼーション法(FISH法)、免疫組織化学、高解像度イメージング技術を用いた解析の結果、神経膠腫および転移性脳腫瘍の両サンプルで細菌の16SリボソームRNA(16S rRNA)やリポ多糖(LPS)が検出された。これらの細菌シグナルは、腫瘍細胞や免疫細胞、間質細胞の内部に局在していた。また、カスタム16S rRNA解析およびメタゲノム解析により、腫瘍微小環境における細菌シグナルと関連する特定の菌群が同定されたが、標準的な培養法では生菌は得られなかった。空間解析からは、細菌16S rRNAシグナルのパターンが、抗菌反応や免疫代謝の特徴と、領域レベル・細胞近傍レベル・細胞レベルで相関していることが示された。さらに、腫瘍内の細菌16S rRANの配列は、サンプル提供者自身の口腔や腸内の細菌と重複しており、離れた場所の微生物叢との関連も示唆された。 論文の筆頭著者であるMDアンダーソンがん研究センター外科腫瘍学分野のGolnaz Morad氏は、「本研究により、脳腫瘍の微小環境において、これまで知られていなかった役割を担う要素が明らかになった。この要素は、脳腫瘍の挙動を説明する手がかりとなる可能性がある」とニュースリリースの中で述べている。また同氏は、「細菌要素は腫瘍内の免疫細胞と相互作用し、腫瘍の成長や治療への反応に影響を与える可能性がある」との見方を示している。ただし研究グループは、この研究では、脳腫瘍内に存在する細菌ががんの増殖を直接促進するような、意味のある変化を引き起こすかどうかは不明であるとしている。 研究グループは現在、細菌がどのように脳に到達し、脳腫瘍の形成に関与しているのかをより深く理解するための研究に取り組んでおり、その一つとして、歯周病が脳への細菌の拡散に影響を与えるかどうかを調査しているという。

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ロボット支援直腸がん手術、国内リアルワールドデータが示す新たな標準治療の可能性

 国内約1.8万人分のリアルワールドデータを解析した多施設後ろ向きコホート研究により、進行直腸がんに対するロボット支援手術が、開腹および腹腔鏡手術と比較して短期・長期の両成績で有意に優れていることが示された。5年全生存率はロボット支援手術で94%と最も高く、術後合併症の発症率や総入院費用も最小であったという。研究は東京科学大学消化管外科学分野の花岡まりえ氏、絹笠祐介氏らによるもので、詳細は10月28日付で「Colorectal Disease」に掲載された。 従来の腹腔鏡手術(LRR)は直腸がん治療に有効であるが、長期的な腫瘍学的成績は開腹手術(ORR)と同等で、直腸膜間全切除(TME)が不完全になるリスクがあることが報告されている。ロボット支援手術(RARR)は低侵襲なアプローチとして短期成績に優れるとされる一方、長期成績のデータは限られている。そこで本研究では、国内大規模リアルワールドデータを用いて、進行直腸がん患者に対するORR、LRR、RARRの短期・長期成績を比較することを目的とした。 本研究では、国内の大規模診療データベース(メディカル・データ・ビジョン株式会社保有)を用い、2018年4月~2024年6月に直腸切除術を受けた3万7,191人のうち、cT3またはcT4aの患者1万7,793人を解析した。ベースラインのバランスを調整するためオーバーラップ重み付けを行い、有効サンプルサイズは1万4,627人となった。主要評価項目は5年全生存率(OS)および無再発生存率(RFS)で、副次評価項目には周術期成績を設定した。データの分布に応じて、Welchのt検定、Mann-WhitneyのU検定、カイ二乗検定、Fisherの正確確率検定を適用した。生存アウトカム(OSおよびRFS)については、オーバーラップ重み付けを用いてKaplan-Meier曲線を作成し、log-rank検定を行った。 オーバーラップ重み付け後の患者数の内訳は、RARR群で2,247人、LRR群で1万339人、ORR群で2,041人であった。平均年齢は70歳で、男性が66%を占めた。 短期成績では、RARR群は術後合併症の発生率が最も低かった(RARR:16.54%、LRR:19.95%、ORR:29.68%、P<0.001)。また、入院期間も最も短く(RARR:15.69日、LRR:18.87日、ORR:25.38日、P<0.001)、入院から退院までの総医療費も最も低かった(RARR:184万9,029円、LRR:193万4,626円、ORR:201万2,968円、P<0.001)。さらに、90日死亡率もRARR群で有意に低かった(RARR:0.23%、LRR:0.70%、ORR:1.21%、P<0.001)。 5年OSはRARR群で最も高く(94%、95%信頼区間91~97%)、次いでLRR群(86%、同85~88%)、ORR群(78%、同75~81%)の順であった。また、5年RFSもRARR群で最も高く(93%、同91~95%、)、次いでLRR群(83%、同81~84%)、ORR群(74%、同71~77%)の順であり、OSおよびRFSの両方でRARR群が他の2群に比べてそれぞれ良好であった(P<0.001)。これにより、RARR群が一貫して最良の転帰を示すことが示された。 OS不良と関連する因子を多変量Cox回帰分析で検討したところ、TNM分類以外の項目では、ORR(ハザード比〔HR〕4.69 、95%信頼区間3.42~6.43)、LRR(HR 2.50、同1.85~3.37)、男性(HR 1.35、同1.31~1.81)、腹会陰式直腸切断術(APR;HR 1.57、同1.33~1.86)、大学病院以外での手術(HR 3.53、同2.37~5.24)などが同定された(P<0.001)。一方でRARRはLRR、ORRと比べてOSの有意な予後良好因子として同定された。 著者らは、「本研究は進行直腸がんに対して大規模なリアルワールドデータを用いて、RARRの短期・長期アウトカムを評価した初めての研究である。今回の結果は、ロボット支援手術がこの領域における新たな標準治療となり得ることを支持している」と述べている。

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ウォートンゼリー由来間葉系幹細胞の冠動脈内注入は心筋梗塞後の心不全を予防するかもしれない(解説:原田和昌氏)

 間葉系幹細胞による再生医療に関心が高まっている。幹細胞治療における最大規模の第III相BAMI試験では、急性心筋梗塞後において骨髄由来単核球細胞の冠動脈内注入により主要評価項目の総死亡率に有意な利益は示されなかったが、心不全による入院は有意に減少した。間葉系幹細胞は骨髄由来単核球細胞よりも大きな可能性がある。間葉系幹細胞の全体的な安全性に加え、ウォートンゼリー由来間葉系幹細胞(WJ-MSC)は分離が容易で、体外やin vitroで増殖しやすく、免疫適合性が高く拒絶反応のリスクがほとんどないという。ウォートンゼリーは、胎児の臍帯の中にあるゼラチン状の組織で、胎児の成長過程で形成される間葉系の組織である。 イラン・シラーズ医科大学のAttar氏らは第II相試験で、心筋梗塞後にWJ-MSCの冠動脈内投与により左室駆出率の改善を確認した。今回、WJ-MSCの冠動脈内投与の、心筋梗塞後の心不全発症に対する効果を第III相PREVENT-TAHA8試験により評価した。WJ-MSCの冠動脈内注入により心不全の発症および心不全による再入院のリスクが有意に低減し、心血管死と心不全/心筋梗塞による再入院の複合エンドポイントが有意に改善した。 イラン・シラーズ市の3つの病院で行われた単盲検無作為化対照比較優越性試験である。年齢18~65歳、試験登録日前の3~7日以内に初回のST上昇型急性前壁心筋梗塞を発症し、心エコー検査で左室駆出率<40%、プライマリPCIが成功した患者396例を対象とした。これらを1対2の割合で介入群(136例、平均57.8歳、男性85%)または対照群(260例、59.2歳、79%)に無作為に割り付けた。介入群では標準治療に加え、同種WJ-MSCを冠動脈内に注入した。対照群は標準治療のみを受けた。 主要エンドポイントは心不全の発症で、副次エンドポイントは心不全による再入院、全死因死亡、心血管死、心筋梗塞による再入院などであった。また、心筋梗塞発症から6ヵ月までの左室駆出率の変化を両群で比較した。追跡期間中央値33.2ヵ月で心不全の発症率は対照群が100人年当たり6.48に対し、介入群は2.77と有意に良好であった。心不全による再入院(介入群0.92 vs.対照群4.20/100人年、ハザード比:0.22、95%信頼区間:0.06~0.74、p=0.015)、心血管死と心筋梗塞/心不全による再入院の複合エンドポイント(2.80 vs.7.16/100人年、0.39、0.19~0.82、p=0.012)は、介入群で有意に優れた。心筋梗塞による再入院、全死因死亡、心血管死は両群間に有意差を認めなかった。左室駆出率はベースラインから6ヵ月までに、介入群で14.28%、対照群で8.16%、有意に上昇し、左室駆出率の改善は対照群に比べ介入群で有意に良好だった。不整脈、過敏反応、再梗塞、腫瘍形成などの有害事象の報告はなかった。 Sham手技のない単盲検試験であり、結果をうのみにすることはできないが、再生医療の試験としては規模が大きく、長期間の追跡を行っており興味深い論文である。しかし、本論文はBMJ誌のウェブサイトに掲載後、いくつかの問題点(データの不整合、年齢基準を満たさない参加者の組み入れの懸念、未申告の利益相反の懸念など)が指摘されているという。

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第292回 クマ外傷、被害者にある共通点

INDEXクマ被害の原因クマとの遭遇、西日本でも普通に被害者の共通点クマ被害から病院到着に要する時間クマ被害の原因もう今年も残すところあと半月ほどだが、今年下半期に世間を賑わした話題の一つがクマ被害だろう。環境省が発表している本州でのツキノワグマ出没件数は2025年度上半期だけで2万792件。過去5年間の最多は2023年度の2万4,348件だが、今年度は上半期でそれに迫る勢いだ。だが、それ以上に深刻なのが人身被害だ。12月5日現在、全国でクマの襲撃による死者は13人、行方不明者は1人、負傷者は217人。統計がある2006年度以降、これまでの人身被害の最多は2023年度の死者6人、負傷者213人だが、今年度はいずれもこれを上回り、死者に至ってはすでに2023年度の2倍超だ。もはや災害級と言っても過言ではないだろう。この背景には、過疎化や耕作放棄地の増加といった社会構造の変化により人と野生動物の緩衝帯だった里山地域にクマの生息域が拡大し、図らずもヒトと遭遇してしまう機会が全国的に増加していることがある。ちなみにクマの生息域拡大は、個体数増加が最大の要因だ。公益財団法人日本野生生物研究センター(現・一般財団法人 自然環境研究センター)が推計した1980年代の本州でのツキノワグマ個体数は最大1万2,600頭だったが、その後の緩やかな保護政策やハンター数の激減により個体数が増加。環境省が発表している本州のツキノワグマの最新推計個体数は約4万2,000頭と、約40年で3倍以上に膨れ上がっている。日本のツキノワグマが増え過ぎなのは別のデータからも明らかだ。ツキノワグマは中国などのアジア圏にも生息しているが、中国政府が2003年に公表した国内の推計個体数は約2万7,500頭。国土面積で中国の25分の1に過ぎない日本に中国の約1.5倍ものツキノワグマが生息しているわけで、すでにバケツの水があふれ出している状態なのである。クマとの遭遇、西日本でも普通にこのような状況では各地でクマによる重篤な外傷のリスクは高まる。今年5月には秋田大学医学部救急・集中治療医学講座教授の中永 士師明(なかえ はじめ)氏の編著『クマ外傷 クマージェンシー・メディシン』(以下、クマージェンシー)が発刊されて話題になり、現状で5刷まで重版している。そこで同書や国立情報学研究所(NII)のCiNii(NII学術情報ナビゲータ、通称・サイニィ)でクマ外傷に関する主な論文を拾って、その疫学、病態や治療戦略について、2回に分けてまとめてみることにする。はっきり言って個人的な興味が発端だが、実際論文を検索してみると、今話題の岩手県、秋田県だけでなく、新潟県、富山県、山梨県、岐阜県、島根県など各所から症例報告があることに驚く。全体的に西日本地域は無縁だと思うかもしれないが、昨今の情勢はそうとも言えない。たとえば、現在では数年前まで月間1件程度の目撃情報しかなかった奈良県や三重県ではいまや月間10件超の目撃情報があることは珍しくなくなった。京都府の昨今の目撃情報は月間300件を超えることもある。これは西日本地域のツキノワグマ個体群は、これまで環境省のレッドリストに掲載されて保護されてきたが、急速に個体数が増え、保護地域からあふれ出してきているからである。しかも厄介なことに保護政策によりクマの狩猟ができるハンターがほかの地域に比べほとんどいないのが現状である。このままで行けば、いまの北東北地域のような状況は西日本でも起こりえるのである。被害者の共通点まず、クマ外傷について効果的な医療体制を考えるうえで重要となるのが被害者の属性である。参照したのは前出、クマージェンシーと参考文献欄に示す16論文で、論文での単純合算症例数は113例(一部症例重複の可能性あり)となる。そして被害者の属性には明確な傾向が見てとれる。まず、113例の年齢は38~84歳までばらつくが、クマージェンシー第2章で挙げられた30例は平均年齢74.5歳、新潟大学で治療された10例の平均年齢は73歳、岩手医科大学で治療された50例の平均年齢は69±5歳であり、被害者は高齢者に集中している。しかも性別では、8割強が男性である。この理由は被害に遭ったシーンに依存すると考えられる。多くは山菜採りや畑作業、猟友会活動などでクマと遭遇して被害に遭っており、こうした活動をする人に占める高齢男性の多さが反映されているのだろう。ちなみに被害シーンには明らかな山林内だけでなく、観光バスのターミナル(乗鞍岳)、勤務先駐車場、川釣り中、犬の散歩中などもある。しかし、クマージェンシーで紹介されている直近の2023年の秋田大学高度救命救急センターへの搬送例20例のうち15例は、市街地で被害に遭っている。やはりクマの個体数の増加とその時々の餌の多寡が相まって、市街地での被害が多くなっているのは確かだろう。また、発生時期は113例中、発生月がわかる43例で見ると、主な被害発生時期は5~11月である。ただし、クマの冬眠期と言われる1月や12月にもまれだが被害は発生している。発生ピークは岩手医科大学の50例の検討では山菜採りの時期と重なる5月、新潟大学の10例では冬眠準備期にあたる10月がピークとなっている。さらにクマージェンシーに記載の2023年の事例も10月がピークである。ただし、クマージェンシーでは5月の時期は発生場所が山林のみで、10月に近づくにつれて人の生活圏での発生が増え、山林での発生よりも多い点は注目される。つまるところ春先は人間が山林に分け入ることで被害が発生するのに対し、冬眠直前の10月は冬眠を控えたクマが採餌を強化することでヒトの生活圏に分け入り、被害が発生すると考えられる。いわば地域の環境要因や秋期のクマの主食となる堅果類の豊凶などが被害に影響を与えることを示唆している。2時間刻みで被害発生時間帯がわかる113例中25例で見ると、最多発生時間は午前8~10時、次いで午前6~8時、午前10~12時となっている。ヒトとクマの行動時間帯が重なる午前中に被害が集中するパターンが見てとれる。クマージェンシーでは最も多いのが午前3~6時と午後3~6時である。たぶんこの違いは、地域の日照時間や人の行動パターンなどが影響しているのだろう。ただ、いずれにせよ午前中は要注意と言える。クマ被害から病院到着に要する時間そして、こうした症例が救急搬送にどれだけの時間を要するかは、その後の治療にも影響する重要な要素である。もっとも症例が多い岩手県50例の検討では、直接搬送された症例の受傷から病院搬入まで平均時間は182±10分。かなり長時間だが、論文内ではとくに山林で受傷した場合は自力下山後に救急要請を行うため、救急隊接触までに時間がかかっているとその要因を指摘している。また、新潟大学10例の検討では同じ受傷から病院搬送までの平均時間は104分と岩手のケースと比べて短いが、これは10例のうち7例の受傷場所が人の生活圏内(里山地域)だったためだろう。ちなみにクマ外傷の場合、出血性ショックなどの危険も高いことから、多くは三次救命救急センターで対応することになるが、新潟県でのドクターヘリ10例の検討によると、この10例での消防覚知から収容までの時間は中央値64.5分(54.5~80.0分)で、ドクターヘリの活用で救急車による陸路搬送よりも、医療介入が推定48分、病院到着が推定11分、早く行えたと報告している。もっとも救急車、ドクターヘリいずれでの搬送でも、とくに山林での受傷の場合、携帯電話が不通な地域もあるため、前出のように被害者が自力で下山するまで救急要請が行えないために搬送までに時間を要する問題のほかにも、たとえ携帯電話が通じる場合でも通報後に駆け付けた救急隊が現場の特定に苦労する場合やクマがまだ捕獲されていない現場での二次災害のリスクもあるという。このようにすでに医療アクセスの段階で困難に直面するという意味で、やはりクマによる被害は災害と同じと言わざるを得ない。さて次回は実際の病態、治療について紹介する。 1) 高橋 学ほか. 日外傷会誌. 2017;31:442-447. 2) 齊藤 景ほか. 創傷. 2021;12:98-105. 3) 田中 宏和ほか. 日口外誌. 2014;60:581. 4) 玉置 盛浩ほか. 日口外誌. 2007;53:732. 5) 松本 尚也ほか. 日救急医会誌. 2015;26:105-110. 6) 大滝 真由子ほか. 日形会誌. 2023;43:60-66. 7) 木原 健仁. 昭和医科大学雑誌. 2025;85:123-128. 8) 出内 主基. 新潟医学会雑誌. 2023;137:19-27. 9) 加藤 雅康ほか. 日救急医会誌. 2011;22:229-235. 10) 村山 和義ほか. 日口外傷誌. 2021;20:17-21. 11) 石戸 克尚ほか. 日口外傷誌. 2019;42:51-56. 12) 石戸 克尚ほか. 日口外傷誌. 2020;19:50-56. 13) 鈴木 真輔ほか. 頭頸部外科. 2018;28:183-190. 14) 陳 貴史ほか. 形成外科. 2003;46:1203-1208. 15) 川合 唯ほか. 耳鼻免疫アレルギー. 2023;3:95-100. 16) 中村 彩芳ほか. 島根県中病医誌. 2024;49:43-47. 17) 中永 士師明 編著. クマ外傷 クマージェンシー・メディシン. 新興医学出版社;2025.

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いま知っておきたい二重特異性抗体~固形がんで進む開発と期待~【Oncologyインタビュー】第54回

出演公益財団法人がん研究会 有明病院 北野 滋久氏近年、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)や抗体薬物複合体(ADC)、二重特異性抗体などの抗体技術を応用した薬物療法の開発が著しい進展をみせている。血液がんでの開発が先行していたT Cell Engagerなどの二重特異性抗体は、固形がん領域においても開発が進み、2024年にはアミバンタマブ、タルラタマブが製造販売承認を取得した。そこで、固形がんにおける抗体技術を利用した薬物療法の開発の歩みや現状、将来への期待について、北野 滋久氏が詳説する。将来の臨床応用が期待される新世代のICI、二重(多重)特異性ADCについても紹介する。※番組冒頭にDoctors'PicksのCMが流れます

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大阪大学医学部 血液・腫瘍内科学【大学医局紹介~がん診療編】

保仙 直毅 氏(教授)福島 健太郎 氏(准教授)菅 真紀子 氏(医員)講座の基本情報医局独自の取り組み・特徴大阪大学血液・腫瘍内科学の最大の特徴は“多様性”にあると思います。現在、大学には30人程度、関連施設を含めると100人を超える医局員が在籍しておりますが、それぞれ皆異なった志向、価値観、ライフスタイルを有しており、お互いに異なるそれらを尊重しながら協力して臨床・研究・教育に臨んでいます。これは人数が多いからこそできることで、より人の和を広げるよう、いろいろな人を柔軟に受け入れています。現在では新入医局員の半数以上が他学の出身者で、皆のびのびとやっていると思います。今後医局をどのように発展させていきたいか今のまま、どんどん人が加わって、皆が自由に活躍していただけば何よりです。ただ、全体としては臨床でも研究でも大きな仕事を成し遂げられるようにまとめていきたいと思います。医師の育成方針受験秀才から脱却して、「なぜかと問いかける血液内科医」になっていただくようにと思っています。治せる病気はきちんと治せるようになるのはもちろんのことですが、治らない病気は「なぜ治らないのだろう」と考えられるようになってほしいと思います。力を入れている治療/研究テーマ白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫をはじめとする血液悪性疾患は「不治の病」として長く知られてきましたが、治療の進歩や支持療法の強化により長期の生存、治癒が見込める病気になりつつあります。私たちの医局では、血液悪性疾患の標準治療はもちろん、新規薬剤の臨床試験(治験)に積極的に参加し国内外の診療をリードしております。またここ数年来で実臨床で使用できるようになった細胞療法、CAR-T療法により再発・難治の悪性リンパ腫・急性リンパ芽球性白血病の患者さんが長期生存できる可能性が高まってきました。さらには、当科で開発された新規細胞療法がいちはやく臨床使用できるよう、早期臨床試験(First in Human、Phase1)を行っています。このように新規の治療を臨床の場で体験し、その開発に携わり安全性や効果、注意すべき有害事象を深く学ぶことは、次世代の患者さんの治療に役立つことになり、さらには現状の治療の問題点を認識することができます。医局の雰囲気、魅力当医局では子育て世代の先生方も多く、業務のオン・オフは明確に分けられるようにしており、ワークライフバランスを保ちつつ、キャリアパスを積んでいくことができます。また各種専門医・指導医を各自の希望に合わせて取得できるよう、幅広く症例を経験することが可能です。私たちと一緒に、未来のがん治療を創っていきませんか?同医局を選んだ理由長崎大学での学生時代に血液内科の魅力を知り、卒業後は大阪大学の初期研修プログラムで血液・腫瘍内科の研修を受けました。造血幹細胞移植を含む高度な診療や最新の臨床研究への参加、研究室と病棟が連携し患者検体を迅速に解析できる環境は魅力的で、また厳しい状況にある患者さんに真摯に向き合いながらも、前向きにかつ楽しそうに診療に取り組む先生方の姿に触れ、自分もここで学びたいと入局を決めました。出身大学や経歴の異なる多くの先生方が所属して活躍しており、多様なキャリアを尊重する柔軟な医局の風土にも惹かれました。現在学んでいること市中病院で研鑽を積んだ後に大学院へ進学し、現在は白血病に対する新規細胞療法の研究に携わっています。自ら計画を立案し実験を重ね、新たな知見を築いていく過程は非常に刺激的で、臨床を離れて研究に没頭できた時間は医師として大きな財産となりました。研究を通じて細胞療法の可能性と限界を学び、今後の治療開発に必要な視点を養えたことは臨床医としても得難い経験だったと感じています。今後のキャリアプラン研究を継続するため海外留学に向けた準備を進めています。将来的にはトランスレーショナル・リサーチを軸に、造血器腫瘍に対する新たな治療開発を前進させる一助となれるよう臨床・研究の双方から研鑽を積んでいきたいと考えています。大阪大学大学院医学系研究科 血液・腫瘍内科学住所〒565-0871 大阪府吹田市山田丘2-2問い合わせ先ikyoku@bldon.med.osaka-u.ac.jp医局ホームページ大阪大学大学院医学系研究科 血液・腫瘍内科学専門医取得実績のある学会日本内科学会日本血液学会日本臨床腫瘍学会日本血栓止血学会日本輸血・細胞治療学会日本造血・免疫細胞療法学会日本がん治療認定医機構研修プログラムの特徴(1)臨床・研究ともに自身の希望に合わせたキャリアプランをサポートしております。(2)子育てに配慮した働き方支援をしております。(3)内科専門医、血液専門医、造血・免疫細胞療法学会認定医など資格取得を研修当初から視野においたプログラムを支援しております。詳細はこちら

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