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肺結核患者へは、4種固定用量合剤が個別投与よりも好ましい

新たに肺結核の診断を受けた患者に対する、リファンピシン、イソニアジド、ピラジナミド、エタンブトールを含む固定用量合剤(FDC)の投与と、各薬剤の個別投与とを比較するオープンラベル非劣性無作為化試験「Study C」が、WHOのChristian Lienhardt氏ら研究グループにより、アフリカ、アジア、ラテンアメリカの9ヵ国11ヵ所で行われた。FDCは薬剤耐性の出現を防ぐ方法として提唱されたものだが、これまで有効性や安全性の評価に関する無作為化試験はほとんど行われていなかった。JAMA誌2011年4月13日号掲載より。4種FDC投与か個別薬剤投与を8週間毎日投与、18ヵ月後の細菌培養陰性率を比較研究グループは、2003~2008年にかけて、新たに診断を受けた塗抹陽性肺結核の成人1,585人について試験を行った。研究グループは被験者を無作為に二群に分け、一方の群(798人)には4種FDCを、もう一方の群(787人)には4種の薬剤を個別に、それぞれ8週間毎日投与した。両群ともに、投与量はWHOの勧告に従って、被験者の体重により調整した。その後18ヵ月は、両群ともに、2種(リファンピシン、イソニアジド)FDCを週3回投与した。主要アウトカムは、治療開始18ヵ月後の細菌培養陰性の割合だった。プロトコルに沿った被験者のみを分析したPPB分析と、治療を試みた全員を分析したITT分析2種の合わせて3種の分析を行い、非劣性マージンは4%と定義した。3分析中2分析で、FDCの非劣性を示す結果、PPB分析において18ヵ月後に細菌培養が陰性であったのは、FDC群は591人中555人(93.9%)に対し、個別投与群は579人中548人(94.6%)だった(リスク差:-0.7%、90%信頼区間:-3.0~1.5)。ITT分析の一つ目の分析方法では、細菌培養が陰性だったのは、FDC群684人中570人(83.3%)、個別投与群664人中563人(84.8%)だった(リスク格差:-1.5%、90%信頼区間:-4.7~1.8)。二つ目のITT分析では、同陰性は、FDC群658人中591人(89.8%)に対し個別投与群647人中589人(91.0%)だった(同:-1.2%、-3.9~1.5)。研究グループは、「3つの分析結果のうち2つで、FDCの個別投与に対する非劣性が示された。非劣性の証明は完全ではなかったが、FDC投与のほうが優位である可能性が示されたことにより、FDC投与のほうが好ましく優先される」と結論している。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

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HPVワクチン接種スケジュール、0・3・9ヵ月または0・6・12ヵ月でも

子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)のワクチン接種について、3回の接種を標準スケジュールの初回接種0・2・6ヵ月ばかりでなく、0・3・9ヵ月や0・6・12ヵ月で行っても、効果は非劣性であることが確認された。米国・ワシントン州シアトルのPATHに所属するKathleen M. Neuzil氏らが行った無作為化非劣性試験によるもので、JAMA誌2011年4月13日号で発表した。ベトナム21ヵ所の学校に通う11~13歳903人を対象に試験研究グループは、2007年10月~2010年1月にかけて、ベトナム21ヵ所の学校に通う11~13歳の女生徒903人について、オープンラベルクラスター無作為化試験を行った。研究グループは被験者を無作為に、HPVワクチンを「標準接種(0・2・6ヵ月)」「0・3・9ヵ月」「0・6・12ヵ月」「0・12・24ヵ月」のスケジュールで接種する4群に割り付けた。3回目接種後1ヵ月に血清抗HPVの幾何平均抗体価(GMT)を調べ、標準接種に対する非劣性試験を行った。各接種群GMT値の標準接種群GMT値に対する割合を調べ、95%信頼区間の下限値が0.5以上であれば非劣性が認められると定義した。被験者のうち、HPVワクチン接種を1回以上受け、3回接種後1ヵ月の時点で血清検査を行ったのは809人だった。0・12・24ヵ月の接種スケジュールでは非劣性は認められず結果、標準接種群の3回接種後のGMT値は、HPV-16が5808.0(95%信頼区間:4961.4~6799.0)、HPV-18が1729.9(同:1504.0~1989.7)だった。それに対し、9ヵ月スケジュール群のGMT値はそれぞれ5368.5(同:4632.4~6221.5)と1502.3(同:1302.1~1733.2)、12ヵ月スケジュール群はそれぞれ5716.4(同:4876.7~6700.6)と1581.5(同:1363.4~1834.6)と、いずれも標準スケジュール群に対する非劣性が認められた。一方で、24ヵ月スケジュール群については、3692.5(同:3145.3~4334.9)と1335.7(同:1191.6~1497.3)で、標準スケジュール群に対する非劣性は認められなかった。Neuzil氏は「このベトナムの青年期女児において、HPVワクチン投与は標準または選択スケジュールにおいても、免疫原性、忍容性ともに良好であった。標準接種法(0・2・6ヵ月)と比較して、2つのスケジュール法(0・3・9ヵ月、0・6・12ヵ月)は、抗体濃度について非劣性であった」と結論している。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

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スタチンによる血管疾患の1次予防の費用対効果:オランダの調査

プライマリ・ケアにおける血管疾患の1次予防としてのスタチン治療は、低リスク集団では費用対効果がよくないことが、オランダ・ユトレヒト大学医療センターのJP Greving氏らの検討で示された。スタチンは、心血管疾患のない集団における心血管/脳血管イベントのリスクを低減することが示されているが、スタチン治療の絶対的なベネフィットを規定するのは、個々のリスク因子よりもむしろ全体としての血管疾患イベントのリスクと考えられている。また、日常診療におけるスタチン服用のアドヒアランスは十分とは言えず、これが費用対効果を損なっている可能性もあるという。BMJ誌2011年4月9日号(オンライン版2011年3月30日号)掲載の報告。低用量スタチンの費用対効果をMarkovモデルで検討研究グループは、血管疾患の1次予防における低用量スタチンの費用対効果を、直近の薬価、服薬アドヒアランス不良(臨床効果は低いがコストは維持)、JUPITER試験(スタチンの1次予防効果に関する最新の大規模臨床試験)の結果を踏まえて検討した。オランダのプライマリ・ケアのデータを用い、血管疾患の既往歴のない45~75歳の健常者の仮説母集団において、10年以内に血管疾患(心筋梗塞、脳卒中)を発症するリスク(10年血管リスク)を、低用量スタチン(連日)群と無治療群で比較した。費用対効果の解析にはMarkovモデルを用いた。パラメータの不確実性については、Monte Carloシミュレーション(1,000回反復)を用いた確率的感度分析を行った。主要評価項目は、10年間の致死的および非致死的な血管疾患の発生、質調整生存年(QALY)、コスト、増分費用対効果比であった。10年血管リスクが低くなるにしたがって費用対効果が低下する傾向無治療に比べ10年間のスタチン治療のコスト/QALYは、10年血管リスクが10%の55歳男性では約3万5,000ユーロ(ほぼ3万ポンド、4万9,000ドルに相当)であった。全般に、増分費用対効果比は血管疾患リスクの増大とともに改善し、55歳男性では、10年血管リスクが25%の場合の約5,000ユーロから、リスク5%の場合の約12万5,000ユーロまでの幅が認められた。また、増分費用対効果比は加齢とともにわずかに低下する傾向がみられた。感度分析では、得られた結果はスタチン治療のコスト、スタチンの有効性、アドヒアランス不良、連日服用の不効用性、モデルの計画対象期間(time horizon)に対し高い感度を示した。著者は、「日常診療では、血管疾患のリスクが低い集団(10年血管リスク<5%)に対する1次予防としてのスタチン治療は、ジェネリック薬のコストが低いにもかかわらず費用対効果がよくないと考えられた」と結論し、「1次予防におけるスタチン使用の費用対効果のいっそうの改善には、スタチン服用のアドヒアランスの向上が求められる」と指摘する。(菅野守:医学ライター)

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乳幼児の急性細気管支炎、アドレナリン単剤の有効性示すエビデンス

2歳以下の乳幼児の急性細気管支炎に救急部外来で対処する場合、第1日の入院リスクを最も低減する治療法はアドレナリン(エピネフリン)単剤であることが、カナダAlberta大学小児科のLisa Hartling氏らの検討で示された。急性細気管支炎の治療法は世界中で大きなばらつきがみられ、それぞれの事情に基づいて異なる気管支拡張薬やステロイド薬が使用されている。系統的なレビューがいくつか実施されているが、個々の治療選択肢に関する信頼性の高いエビデンスはいまだに確立されていないという。BMJ誌2011年4月9日号(オンライン版2011年4月6日号)掲載の報告。乳幼児の急性細気管支炎の至適治療法に関するメタ解析研究グループは、2歳以下の乳幼児の細気管支炎の急性期管理における気管支拡張薬とステロイド薬の単剤あるいは併用療法の有効性と安全性について系統的にレビューし、メタ解析を行った。データベース(Medline、Embase、Cochrane Central Register of Controlled Trials、Scopus、PubMed、LILACS、IranMedEx)、関連学会プロシーディング、臨床試験登録を検索して、喘鳴を伴う細気管支炎を初めて発症した生後24ヵ月以下の乳幼児を対象に、気管支拡張薬とステロイド薬の単剤あるいは併用療法を、プラセボあるいは他の介入法(別の気管支拡張薬やステロイド薬、標準治療)と比較した無作為化対照比較試験を抽出した。2名のレビューワーが、患者選択基準やバイアスのリスクなどに関して各試験の評価を行った。主要評価項目は、外来患者の入院(第1日、第7日まで)および入院患者の入院期間であった。メタ解析には変量効果モデル(random effects model)を用い、全介入法を同時に比較するためにベイジアン・ネットワーク・モデル(Bayesian network model)による混合治療比較法(mixed treatment comparison)を使用した。1週間までの入院リスクの低減にはアドレナリン+デキサメタゾン併用療法が有用48試験(4,897例)が解析の対象となった。バイアスのリスクは、「低い」が17%(8試験)、「高い」が31%(15試験)、「不明」が52%(25試験)であった。プラセボとの比較において第1日の入院を有意に低減したのはアドレナリン単剤のみであった[920例のプール解析によるリスク比:0.67、95%信頼区間(CI):0.50~0.89、ベースラインの入院リスクが20%の場合に1例の入院を回避するのに要する治療例数(NNT):15、95%CI:10~45]。第7日までの入院の有意な低減効果を認めたのは、バイアスのリスクが低いと判定された1つの大規模試験(400例)で示されたアドレナリン+デキサメタゾン併用療法であった(リスク比:0.65、95%CI:0.44~0.95、ベースラインの入院リスクが26%の場合のNNT:11、95%CI:7~76)。混合治療比較法による解析では、外来患者に対する好ましい治療法としてアドレナリン単剤(第1日の入院を基準とした場合に最良の治療法である確率:45%)およびアドレナリン+ステロイド薬併用療法(同:39%)が示された。有害事象の報告に治療法による差は認めなかった。入院患者の入院期間については、明確な効果を示した介入法は確認されなかった。著者は、「急性細気管支炎の乳幼児に救急部外来で対処する場合、第1日の入院リスクを最も低減する治療法はアドレナリン単剤であり、アドレナリン+デキサメタゾン併用療法は第7日までの入院リスク低減に有用であることを示すエビデンスが得られた」と結論している。(菅野守:医学ライター)

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2つの新世代薬剤溶出性ステントの臨床転帰は2年後も同等:RESOLUTE All Comers試験

新世代の薬剤溶出性ステントであるzotarolimus溶出ステント(Resolute)とエベロリムス溶出ステント(Xience V)の安全性と有効性は、2年後もその同等性が維持されていることが、ドイツ・Isar心臓センターのSigmund Silber氏らが進めているRESOLUTE All Comers試験で明らかとなった。本試験は、冠動脈病変を有する患者におけるzotarolimus溶出ステントのエベロリムス溶出ステントに対する非劣性を検証するプロスペクティブな無作為化試験。すでに、フォローアップ期間1年におけるステント関連の標的病変不全発生の同等性が確かめられている。Lancet誌2011年4月9日号(オンライン版2011年4月3日号)掲載の報告。2年間の臨床転帰の報告RESOLUTE All Comers試験の研究グループは、今回、事前に規定された2年間のフォローアップの臨床転帰について報告を行った。2008年4月30日~10月28日までに、ヨーロッパとイスラエルの17施設から、1つ以上の冠動脈病変(直径2.25~4.0mm)を有し、50%以上の狭窄がみられる患者が登録され、zotarolimus溶出ステントを留置する群あるいはエベロリムス溶出ステントを留置する群に無作為に割り付けられた。主治医には治療割り付け情報が知らされたが、データの管理や解析を行うスタッフ、および患者にはマスクされた。治療病変数や血管数、および留置するステント数には制限を設けなかった。2年後のステント関連の複合アウトカム(心臓死、標的血管に起因する心筋梗塞、虚血に基づく標的病変の血行再建術)および患者関連の複合アウトカム(全死亡、全心筋梗塞、全血行再建術)について評価した。ステント関連複合アウトカム:11.2% vs. 10.7%、患者関連複合アウトカム:20.6% vs. 20.5%2,292例が登録され、zotarolimus溶出ステント群に1,140例が、エベロリムス溶出ステント群には1,152例が割り付けられ、2年間のフォローアップを完遂したのはそれぞれ1,121例、1,128例であった。ステント関連および患者関連の複合アウトカムの発生率はいずれも両群間に有意な差を認めなかったが、ステント関連複合アウトカムは患者関連複合アウトカムよりも実質的に発生率が低かった。すなわち、ステント関連複合アウトカムはzotarolimus溶出ステント群が11.2%(126/1,121例)、エベロリムス溶出ステント群は10.7%(121/1,128例)であり(群間差:0.5%、95%信頼区間:-2.1~3.1、p=0.736)、患者関連複合アウトカムはそれぞれ20.6%(231/1,121例)、20.5%(231/1,128例)であった(群間差:0.1%、95%信頼区間:-3.2~3.5、p=0.958)。1年以上が経過した後に発現した超遅発性(very late)のステント血栓症は、両群とも3例ずつに認められた。著者は、「2つの新世代の薬剤溶出性ステントの安全性と有効性の同等性は2年後も維持されていた」と結論し、「病変の臨床的背景が複雑な患者において、ステント関連イベントよりも患者関連イベントが高率に発生したことは、長期のフォローアップ期間中には、特定の病変に対していずれのステントを選択するかという問題と少なくとも同程度に、より強力な2次予防や総合的な治療の最適化が重要であることを強く示唆する」と指摘している。(菅野守:医学ライター)

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移植患者へのサイトメガロウイルス糖蛋白Bワクチン接種でウイルス血症が減少

腎/肝移植患者では、サイトメガロウイルス糖蛋白Bワクチンの接種で誘導された液性免疫によってウイルス血症が減少することが、イギリス・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのPaul D Griffiths氏らの検討で示された。サイトメガロウイルスによるウイルス血症がみられる同種移植患者では、ガンシクロビル(商品名:デノシン)あるいはそのプロドラッグであるバルガンシクロビル(同:バリキサ)の投与によりウイルスに起因する肝炎、肺炎、胃腸炎、網膜炎などの末梢臓器障害の予防が可能である。末梢臓器障害の発現はウイルス量と関連し、ウイルス量は既存の自然免疫の影響を受けるが、ワクチンで誘導された免疫にも同様の作用を認めるかは不明だという。Lancet誌2011年4月9日号掲載の報告。糖蛋白Bワクチンの免疫原性を評価する無作為化第II相試験研究グループは、イギリス・ロンドンのRoyal Free Hospitalの腎臓あるいは肝臓の移植術待機患者を対象に、MF59アジュバント添加サイトメガロウイルス糖蛋白Bワクチンの、安全性と免疫原性を評価する無作為化プラセボ対照第II相試験を実施した。妊婦、直近3ヵ月以内に血液製剤(アルブミンを除く)の投与を受けた患者、多臓器の同時移植患者は除外した。サイトメガロウイルス血清反応陰性の70例と陽性の70例が、MF59アジュバント添加サイトメガロウイルス糖蛋白Bワクチンあるいはプラセボを接種する群に無作為に割り付けられた。接種はベースライン、1ヵ月後、6ヵ月後に行い、移植が実施された場合はそれ以上の接種は行わないこととし、定量的real-time PCR法で血液サンプル中のウイルスDNAを解析した。サイトメガロウイルスのゲノムが200/mL以上(全血)の場合にウイルス血症と定義し、3,000/mL以上に達した患者にガンシクロビル5mg/kgの1日2回静注投与(あるいはバルガンシクロビル900mg 1日2回経口投与)を行い、2回の血液サンプルの検査でウイルスDNAが測定限界以下になるまで継続することとした。安全性と免疫原性の2つを主要エンドポイント(coprimary endpoints)とし、両群とも1回以上の接種を受けた患者についてintention-to-treat解析を行った。ワクチン群で、糖蛋白B抗体価が有意に上昇ワクチン群に67例(血清反応陽性例32例、陰性例35例)が、プラセボ群には73例(38例、35例)が割り付けられ、全例が評価可能であった。実際に移植を受けたのはワクチン群が41例(18例、23例)、プラセボ群は37例(22例、15例)であった。ワクチン群では、血清反応陰性例、陽性例ともに糖蛋白B抗体価がプラセボ群に比べ有意に上昇した。すなわち、血清反応陰性例の幾何平均抗体価(GMT)は、ワクチン群12,537(95%信頼区間:6,593~23,840)、プラセボ群86(同:63~118)、陽性例のGMTはそれぞれ118,395(同:64,503~217,272)、24,682(同:17,909~34,017)であり、いずれも有意差を認めた(いずれもp<0.0001)。移植後にウイルス血症を発症した患者では、糖蛋白B抗体価がウイルス血症の期間と逆相関を示した(p=0.0022)。血清反応陽性ドナーから移植を受けた血清反応陰性の移植患者では、ワクチン群がプラセボ群よりも、ウイルス血症の期間(p=0.0480)、ガンシクロビル治療日数(p=0.0287)が有意に短かった。著者は、「移植後の細胞性免疫の抑制を背景にサイトメガロウイルス症が起きるが、サイトメガロウイルス糖蛋白Bワクチンで誘導された液性免疫によってウイルス血症が減少することが示された」と結論し、「ワクチン群で有意に増加した有害事象は、事前に健常ボランティアで確認したとおり、注射部位の疼痛のみであった。それゆえ、本ワクチンは移植患者においてさらなる検討を進める価値がある」としている。(菅野守:医学ライター)

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急性呼吸促迫症候群(ARDS)生存患者の長期5年アウトカム

急性呼吸促迫症候群(ARDS)生存患者の長期5年アウトカムの追跡調査結果が、カナダ・トロント大学のMargaret S. Herridge氏らにより報告された。これまでの長期追跡調査は2年が最長で、患者本人へのインタビューや評価に基づく総合的・長期データ(肺機能、身体機能、健康関連のQOL、医療・介護サービス利用、費用)は集約されていなかった。報告は1998~2001年の間に登録された「TORONTO ARDS」追跡調査からの結果で、被験者は重度の肺障害を有するものの合併症はほとんどない比較的若い患者であった。NEJM誌2011年4月7日号掲載より。ARDS後の障害状況、医療・介護サービス利用増大の関連因子などを調査5年追跡調査は、ARDS後の身体的、精神的、QOLの障害状況を分類、定量化、描出し、不良アウトカムや医療・介護サービス利用増大と関連する因子を調べることを主要な目的に行われた。追跡された被験者はトロントの4つの大学病院のICUで登録された109例のARDS生存患者(ARDS発症時年齢中央値44歳)で、ICU退室後から3、6、12ヵ月時点および2、3、4、5年時点の外来受診時に、インタビューと検査を受け評価された。インタビューおよび検査の内容は、肺機能検査、6分間歩行テスト、安静時および運動時の酸素飽和度測定、胸部画像診断、QOL評価(SF-36;スコア0~100、よりスコアが高いほど良好)であった。若く合併症のない患者でも完全な回復は望めない5年時点の評価の結果、6分間歩行テストの結果は436m(年齢・性でマッチさせた対照群から算出した予測値の76%)で、QOL評価(特に身体的評価)スコアは41(年齢・性でマッチさせた対照群からの平均標準スコアは50)であった。これらスコアに関して、若い患者のほうが高齢の患者よりも回復の度合いが大きかったが、いずれも5年時点の身体機能レベルは標準予測値には達していなかった。一方で5年の間に、その他身体的、精神的な一連の問題が患者または家族介護者に発生したり、持続していた。また合併症が多い患者ほど5年間の費用負担が大きかった。Herridge氏は、「重度の肺障害後には、運動制限や身体的・精神的後遺症、身体的QOL低下、医療サービスの利用・費用の増大が重大な“遺産”として存在する」と結論し、若く合併症のない患者でも完全な回復は望めないことなどから、ICUで入手した虚弱状況を理解し、個別に家族にも目を向けた評価を行い、長期視点でのリハビリプログラムの調査を優先すべきとまとめている。(武藤まき:医療ライター)

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青年期のBMI高値は糖尿病、冠動脈心疾患の有意な予測因子

青年期のBMI高値は、中年となった現在の値が標準とみなされる範囲の値であっても、中年期の肥満関連の疾患の予測因子となるなど、これまで明確にされていなかった青年期から成人期のBMI値と若年成人期の肥満関連の疾患との関連が明らかにされた。米国・ブリガム&ウィメンズ病院内分泌学・糖尿病・高血圧部門のAmir Tirosh氏らが、イスラエル軍医療部隊の定期健診センターを通じて得られたデータを前向きに調査した「MELANY試験」の結果による。NEJM誌2011年4月7日号掲載報告より。3万7,674例のBMI値の17歳時からの推移と糖尿病、冠動脈心疾患発症を前向きに追跡MELANY(Metabolic, Lifestyle, and Nutrition Assessment in Young Adults)試験は、イスラエル軍医療部隊の定期健診センターを通じて得られた3万7,674例の外見上は健康な若い男性を対象としたのもので、血管造影で確認された冠動脈心疾患および糖尿病の発症について前向きに追跡された。部隊で最初に健診が行われたのは被験者が17歳時で、身長および体重が測定され、その後定期的に同測定が行われた。冠動脈心疾患発症プロセスは糖尿病発症プロセスよりも緩徐であるとの仮説が支持される平均追跡期間17.4年、約65万人・年追跡において、2型糖尿病発症は1,173例、心血管疾患発症は327例であった。年齢、家族歴、血圧、生活習慣因子、血中バイオマーカーで補正後の多変量モデル解析の結果、青年期のBMI値(被験者の十分位平均値範囲:17.3~27.6)が高いことは、糖尿病の有意な予測因子となり(最高十分位範囲 vs. 最低十分位のハザード比:2.76、95%信頼区間2.11~3.58)、また心血管疾患の有意な予測因子となる(同:5.43、同2.77~10.62)ことが示された。さらに成人期のBMIで補正すると、青年期BMIと糖尿病との関連は完全に断ち切られたが(ハザード比:1.01、95%信頼区間:0.75~1.37)、冠動脈心疾患との関連は継続した(同:6.85、3.30~14.21)。BMI値を多変量モデルにおける連続変数として補正すると、糖尿病と有意な関連は成人期BMI高値のみに認められた(β=1.115、P=0.003、交互作用のP=0.89)。対照的に冠動脈心疾患は、青年期(β=1.355、P=0.004)と成人期(β=1.207、P=0.03)の両時期のBMI高値との独立した関連が認められた(交互作用のP=0.048)。研究グループは、「青年期のBMI高値は、中年となった現在のBMI値が標準とみなされる値であっても、中年期の肥満関連の疾患の予測因子となる」と結論。また、「糖尿病のリスクは主として診断された時期に近いBMI高値と関連するが、冠動脈心疾患のリスクは青年期と成人期の両時期のBMI高値と関連しており、冠動脈心疾患、特にアテローム性動脈硬化の発症プロセスは糖尿病の発症プロセスよりも緩徐であるという仮説を支持するものである」とまとめている。(武藤まき:医療ライター)

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子宮摘出歴のある閉経後女性、エストロゲン投与中止後のアウトカム

子宮摘出歴のある閉経後女性で、エストロゲンを服用(5.9年)し、その後服用を中止した人の追跡10.7年時点における冠動脈心疾患や深部静脈血栓症(DVT)、股関節骨折の年間発生リスク増大との関連は、いずれも認められないことが明らかにされた。米国・Fred Hutchinsonがん研究センターのAndrea Z. LaCroix氏らが、被験者1万人超を対象に行った無作為化プラセボ対照二重盲検試験で、予定より早期にエストロゲン投与を中止した人についての、その後のアウトカムを追跡した結果による。JAMA誌2011年4月6日号で発表した。エストロゲン投与中止後、約7,600人について3年超追跡LaCroix氏らは、1993~2004年にかけて、1万739人の子宮摘出歴のある、50~79歳の閉経後女性を無作為に2群に分け、一方には結合型ウマエストロゲン0.625mg/日を、もう一方にはプラセボを投与するWHIエストロゲン単独療法試験(Women's Health Initiative Estrogen-Alone Trial)を開始した。追跡期間中、エストロゲン群の脳卒中リスク増加が認められたため、試験開始後平均7.1年の時点で投与は中止となった。エストロゲン服用期間の中央値は、5.9年だった。その後、被験者のうち7,645人について、2009年8月まで試験開始から平均10.7年追跡した。試験期間全体の乳がんリスク、エストロゲン群はプラセボ群の0.77倍結果、エストロゲン投与中止後の冠動脈心疾患の年間発症リスクは、エストロゲン群が0.64%に対し、プラセボ群が0.67%と、両群で有意差はなかった(ハザード比:0.97、95%信頼区間:0.75~1.25)。乳がんの年間発症リスクも、エストロゲン群が0.26%、プラセボ群が0.34%(同:0.75、同:0.51~1.09)と有意差はなく、年間総死亡リスクも各群1.47%、1.48%(同:1.00、同:0.84~1.18)と有意差は認められなかった。服用中止後の脳卒中リスクについても、エストロゲン群0.36%に対しプラセボ群0.41%、DVTリスクも各群0.17%と0.27%、股関節骨折リスクも0.36%と0.28%と、いずれも両群で有意差はみられなかった。試験期間全体では、乳がんリスクはプラセボ群が0.35%に対しエストロゲン群が0.27%と、有意に低率だった(ハザード比:0.77、同:0.62~0.95)。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

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1日100mg以上のオピオイド処方、過剰摂取による死亡リスクを4.5~12倍に増大

オピオイドの処方量と過剰摂取による死亡リスクとには関連があり、1日100mg以上処方した場合は、1日1~20mg未満処方した場合と比べて、過剰摂取による死亡リスクが4.5~12倍に増大することが明らかになった。投与の指示(「定期的に服用」と「必要に応じて服用」)と死亡リスクに関しては、差は認められなかったという。米国・ミシガン大学のAmy S. B. Bohnert氏らが明らかにしたもので、JAMA誌2011年4月6日号で発表した。米国ではここ10年ほどの処方オピオイドの過剰摂取による死亡が増大しており(1999~2007年で124%)、処方パターンと死亡リスクとの関連の可能性が指摘されていた。オピオイド過剰摂取による死亡率、0.04%と推定Bohnert氏らは、がん、慢性疼痛、急性疼痛、物質使用障害(substance use disorders)でオピオイドを使用していた患者において、1日の処方量や服薬スケジュール(必要に応じて服用、定期的に服用、両者)と過剰摂取による死亡リスクとの関連を評価することを目的に試験を行った。退役軍人健康庁(Veterans Health Administration;VHA)のデータを基に、2004~2008年までに故意ではなく過剰摂取により死亡した750人と、2004~2005年に診察を受けたオピオイド服用者から無作為に抽出した15万4,684人について検討した。主要評価項目は、年齢、性、人種、共存症で補正後の、処方量・スケジュールと死亡との関連とした。結果、オピオイド過剰摂取による死亡率は0.04%と推定された。がん患者への1日100mg以上投与、過剰摂取による死亡リスクは12倍故意ではないオピオイド過剰摂取による死亡リスクは、1日の最大処方量と直接的な関連が認められた。1日1~20mg未満投与に比べ、1日100mg以上投与のオピオイド過剰摂取による死亡に関する補正後ハザード比は、物質使用障害患者で4.54(95%信頼区間:2.46~8.37、絶対リスク差:0.14%)、慢性疼痛患者で7.18(同:4.85~10.65、同:0.25%)、急性疼痛患者で6.64(同:3.31~13.31、同:0.23%)、がん患者で11.99(同:4.42~32.56、同:0.45%)だった。服用に関する指示については、「定期的服用」と「必要に応じて服用」との補正後リスクに有意差はなかった。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

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准教授 長谷部光泉 先生「すべては病気という敵と闘うために 医師としての強い気持ちを育みたい」

1969年9月14日生まれ。博士(医学)、博士(工学)。1994年3月慶應義塾大学医学部医学科卒業後、同大学病院にて研修94年4月同大学大学院医学研究科博士課程。96年11月ハーバード大学医学部放射線科心臓血管造影およびIVR部門留学(~99年)。98年4月同大学医学部助手。04年4月同大学理工学部機械工学科・鈴木哲也研究室共同研究員および医療班チームリーダー。05年4月国家公務員共済組合連合会立川病院放射線科医長。08年4月東邦大学医療センター佐倉病院放射線科講師。09年8月同病院放射線科准教授。日本血管内治療学会評議員。日本IVR学会代議員、他。10年日本学術振興会 榊奨励賞受賞、第96回北米放射線学会Certificate of Merit受賞、他多数。低侵襲治療としてIVRカテーテル治療に大きな魅力を感じた放射線科領域を大別すると、X線検査、CT、MRI、核医学検査などに代表される放射線診断学とがん治療に代表される放射線治療学があります。CT、MRIなどが登場する前から存在した「血管造影法」は、私が専門とする放射線診断学の根幹です。血管のない臓器は存在しないため、古くから重要な診断法として発展してきました。しかしながら、CT、MRIなどの医療機器の技術革新によって血管造影の役割も変わってきました。皮膚に局所麻酔をしてほんの2㎜だけの傷をつけるだけで血管内に「カテーテル」と呼ばれる管を挿入し、臓器に直接アプローチできるので、たとえば循環器領域であれば心臓にアプローチして狭心症や心筋梗塞を治す。消化器領域では、肝臓がんであれば肝動脈塞栓術のように大腿動脈から患部のすぐそばまで細いカテーテルを挿入して抗がん剤を流して腫瘍を兵糧攻めにする。脳神経領域では、急性期の脳梗塞の血栓溶解療法や動脈瘤を詰めることもできます。また、下肢の動脈硬化の場合、風船付きカテーテルを挿入し直接狭くなった血管を広げ、歩けなかった患者さんが歩いて帰えれるようになる。CTやエコー、MRIなどの画像支援の下に血管内だけでなく臓器を直接穿刺して治療する。画像を使った血管内治療および血管以外の臓器などに対する、画像支援下の低侵襲治療、これが私の専門領域です。医学の世界に入った当初から、IVR(インターベンショナルラジオロジー)に興味があり魅力を感じていました。これからの治療は、身体に大きくメスを入れて手術するだけではなく、患者さんに優しい治療でありながら効果的な治療が求められています。カテーテルの技術にせよ、医療器具にせよ、どんどん進歩してくるであろうと考えました。その進歩と共に、カテーテル治療が今後の医療現場において主流になってくるのではないかとも考えていました。それは現実になってきていると確信しています。IVR治療で劇的に変わる患者さんのQOLIVRでできることは血管を開く、詰める、溶かす、生検のための組織を切除して取り出す、直接腫瘍を穿刺して治療する、簡単にいうとこれらが主な分野です。具体的には、動脈硬化で詰まった血管を開き、血栓で詰まった血管を溶かすことができる。体を大きく切開することなく組織を取り出し診断を確定する、ドレナージといって体内の深い部分の膿をCT・エコー・MRIで見ながら吸い取る。詰めるは塞栓術といって、肝臓がん治療の他、体の中で緊急出血した場合、血圧が低下し、身体を大きく開くことはできないので、救急治療として金属のコイルを詰めて止血し、一命を救うこともできます。今までは大きく開腹、開胸しなくてはならなかった手術が、IVR治療によって足の付け根や腕の部分を局所麻酔で2から3mm切開し、動脈や静脈にカテーテルを挿入して治すことができるようになっています。これにより患者さんの入院日数は劇的に短縮されました。局所麻酔のため危険性も減りますし、入院期間も短くなり、痛みが少ないなど多くのメリットがあります。心臓疾患の場合、以前ならば最低でも1から3ヵ月の入院を余儀なくされましたが、IVR治療では、長くて10日、われわれは3日から1週間入院を目安にしています。ただし、入院期間が短縮されたからといって、簡単な病気だったと勘違いはしないでほしい。血管内で手術は行われていますから、それなりのリスクがあることも十分知っておいてほしいと思います。患者さんにとって簡単そうに思えるIVR治療ですが、医師としては熟練した手技と全身疾患に対して知識や経験がないとできない分野です。実際に治療を行えるようになるまでには、綿密なトレーニングが必要です。東邦大学では後期研修医あるいは大学院生の1年目から血管内治療のトレーニングを本格的に重ねてもらいます。われわれの科では、画像診断もやりながら低侵襲の治療をする、研究にも取り組み積極的に国内外の学会で発表するという3本の柱を忘れることなく、必死で若手の医師が毎日を過ごしています。臨床医としての経験を活かした研究開発私がこの世界に入った時にはすでに、血管内治療のデバイスであるステントやバルーンの8割が輸入品でした。許認可の問題もあって、欧米の製品を平均2年遅れで買わなければいけない現状があります。その上、必ずしも日本人に適しているデバイスではありません。日本人にとって使いにくくて直してもらうにしても、製品ができあがってくるまでに1年、2年、3年かかる場合もあります。目の前の患者さんを治せるツールがあるのに、サイズが合わないだけで使えないという現実にジレンマを感じていました。私が慶應の研修医だった当時、恩師で、放射線医の第一人者であり、日本のIVRの父ともいえる平松京一教授(当時)の計らいで、医師になってから2年半後にハーバード大学で研鑚(けんさん)を積むようにと言われました。そこで約3年半、留学することになってしまいました。研修医が終わったばかりで、何の実力もないし、研究歴もなかった。渡米前には、多くの上司にも心配されました。ハーバード大学で最初の数ヵ月はお客さん扱いでしたし、もう帰国しようかとどまろうかと考えながら細々と実験を始めました。その実験データを基に数ヵ月後に書きあげたプロトコールが運良く認められて潤沢な公的研究費が与えられて、それをきっかけに状況が変わりました。そこのチームのチーフに任命され、血管の中の遺伝子治療研究が始まりました。詰まった心臓血管の中にステント(金属のメッシュ状の筒)を入れると、再狭窄が起こります。ステントは血流を劇的に改善しますが、血管を無理に開くため血管の内皮細胞や血管平滑筋細胞に傷がつきます。血管には破れると修復する作用があって、傷を修復する過程で、金属の周囲に血栓が付き、その刺激が過剰平滑筋細胞の増殖を促し、血管がまた詰まってしまうのです。それを治すために特殊なバルーンカテーテルというのを用いてそこから薬剤を出す。当時は、ステント留置後、20%から40%は半年後には詰まるといわれていました。確かに、血管内の遺伝子治療は実験的に成功し、米国IVR学会やNIHなどで受賞しました。けれども、やはり金属ステントそのものの留置が「諸刃の剣」だということに気づき、帰国後、材料工学の研究を独学で始めました。体になじみにくい金属が、長期的によい成績をだせるわけがないと考えたからです。しかしながら、金属の特性としてしなやかさや耐腐食性などを上回る素材はなかなかありません。それならば、既存のものにコーティングを施したらどうか、と考えました。ただし、コーティングするにしても体に害を及ぼすものでは当然使えません。行き着いたのがダイヤモンド系のコーティングでした。ダイヤモンドは、「物質の王様」といわれるだけあって、非常につるつるしているばかりではなく、耐摩耗性という特性があり、さらに炭素は身体を構成する成分の一つなので、人体に悪影響を及ぼしません。現在、主流となっている薬剤溶出性ステントから出てくる薬剤は薬効が強く正常の血管内皮細胞にダメージを与えるものが主流ですが、ダイヤモンドというのは化学的に安定しているばかりでなく、細胞に毒性を与えない特性を持っています。われわれは、さらにダイヤモンド系コーティングにフッ素を混在させることによって、血液の付着も防げることを初めて発見しました。つまり、フッ素を添加したDLC(ダイヤモンド・ライク・カーボン)というコーティングは、血液をはじき付着を防ぐので、血栓ができにくい。さらに、血管内に残るのは炭素を主流とするダイヤモンド系素材なので、身体に悪いものではありません。これらの研究開発には、医学の知識だけではなく工学知識の力が不可欠でした。そこで、臨床医の立場で工学との通訳をしなければいけないと痛感しました。なぜならば、工学の思考と医学の研究者の思考回路はまったく違うからです。ですが、工学者も研究の応用の幅を広げたいと考えているし、医学者もテクノロジーを利用する考えが必要です。互いの歩み寄りを円滑にするために、私は医学部の栗林幸夫教授のご指導の下、医学博士を取得し、その後、工学部の鈴木哲也教授の下で工学博士を取得しました。これからも研究開発において、医工連携のための通訳になれたらと思いますし、私に続く若い医師や研究者を育成することに力を注いでいます。ゼロからのスタートに惹かれ挑戦慶應からこちらへ来たのは、ここはほぼゼロからということに興味を持ちました。現在の教室の寺田一志教授の誘いもあり、今までやってきたことをここで一度リセットして挑戦してみるのもいいだろうと考えました。慶應もいい環境ではありましたが、東邦大学の伝統と自由な気風、研究に対しても「自由にやれ」というムードがありました。特に、東邦佐倉病院では、他の臨床医の方々も、慶應から来た新参者にすごく親切にしてくれて、雰囲気もよかったし、全体的にやる気の気運が高まっている瞬間でした。今では県内でもトップクラスのIVR症例数を誇る施設になりつつありますが、こちらに来た当時はIVR治療もあまり積極的に行われていませんでした。それでも、循環器センターや消化器センターなど各診療科の多くの先生のご協力があって、現在にいたっています。これは、東邦大学の気風とセンター単位で行われるチーム医療にうまく融合した結果だと思います。前病院長の白井教授が臨床・研究に対する基礎を構築し、現在の田上病院長を中心にした執行部の積極的な支援の賜物だと思います。当院循環器センターの専門外来である「血管内治療・IVR外来」は、循環器内科医、心臓血管外科医、臨床検査医、放射線科医、心臓リハビリ医、形成外科医、糖尿病代謝内科医など本当の意味でのチーム医療ができるように構築してきました。カンファレンスの意思が医師同士の間で一貫しているというのは、患者さんにとっても安心できることだと思います。臨床としては主に肝臓がんや救急出血や動脈瘤などの塞栓術と下肢の閉塞性動脈硬化症(ASO: arteriosclerosis obliterans)に伴い、詰まってしまった血管の血管形成術がメインです。糖尿病や動脈硬化で足が壊死してしまうのを治療するのがメインです。私にとって医療器具の研究はライフワークですが、実は臨床が9割。この臨床の経験があるからこそ研究のテーマが明確に打ち出せるのだと思います。これからは教育にも力を注ぐ私がこれから望むものは、若い人の教育です。まだ私も若いですけど……(笑)。若い人を教育するということは、自分が教育されることでもあります。教えるというのは、教えられることでもあります。先入観のない眼で若い人と日本から何かを発信したい。座右の銘は「感謝して今日もニコニコ働きましょう」。決して一人で仕事をしているのではなく、周りのスタッフ、上司、親、自分の周りの人すべてが笑顔でいられる医療をやりたい。そのために臨床はもちろん、研究や医療器具の開発もしたい。若い医師には、どんどん広い世界を見て、自分のアイデンティティ、日本人であるとか医師になるという明確な自覚を持ってほしい。勇気を持って新しいことにもチャレンジしてほしい。それらを一緒にやっていきたい。だからうちの科では工学部との交流や留学なども積極的にプログラミングしています。若いうちから何でも経験させ、国際学会発表も全員が入局2年以内に経験するように指導しています。敵は病気なので、最高の技術、最高の人間性、患者さんを治したいという気持ちを強く身につけてほしいと考えています。是非、そんなピュアな高い志を持った若い先生と学閥や分野を越えて一緒に働きたいという希望を持っています。質問と回答を公開中!

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准教授 長谷部光泉 先生の答え

研究費の調達方法記事拝見しました。「アメリカからの帰国後、材料工学の研究を独学で始めました」とありますが、研究にかかる費用はどのように捻出したのでしょうか?研究費の調達方法に興味を持っております。是非ご教示ください。これは非常に苦労しました。私は医師になってから帰国するまでの間、米国の教育の方が長くなっていたため、最初は日本での資金調達の勝手がわからず、四苦八苦しました。最初は、少額の市や財団の公的資金を片っ端から応募し少額の研究費でなんとか研究をはじめました。少額の研究費を有効に使い、なんとか国内外の学会で研究を発表し研究をつなぎました。正直なところ、自分の給料をつぎ込み、研究を行っていた苦しい時期もかなりありました。帰国後の研究では、2000年以降、国際学会で賞をとったりすることで、ある程度の注目が集まった段階で、国内施設での共同研究を模索し、その分担研究者となることで資金を調達し、研究を続けていた時期もあります。その後は、慶應大学理工学部(鈴木哲也教授)や東京大学医学部(髙橋孝喜教授)、横浜市立大学(上條亜紀准教授)などとの共同研究を軌道にのせ、日本での医学博士、工学博士を取得し、論文発表を行い始めると、経済産業省(NEDO)の大型プロジェクトや文科省科研費、東邦学内でのプロジェクト研究費、医学部推進研究費などを頂くことができ、ようやく安定的な研究ができるようになりました。しかしこれはごく最近のことで、研究費の調達には常に四苦八苦しているというのが現状でしょうか・・(笑)。やはり日本での資金獲得は、粘り強く自分の研究方向に信念をもって結果をだし、その結果を基に、公的資金を獲得していく方法が一番だとは思います。あるいは、多くの研究費をもった研究室に所属するのも一つの方法でしょう。良い研究の仲間や指導していただける先輩や上司の先生、そして後輩との出会いと研究への熱い思いが研究費の獲得につながることはいうまでもありません。臨床経験は必要?私は医学部生です。実は大学に入るときに、工学部と迷いました。私の将来の希望としては、患者さんを治療するというよりは、より良い治療を行うための機械や道具を開発したいと思っています。なので、この先は研究重視で、と思っていました。しかし、長谷部准教授の記事をみると、臨床経験が大変重要だとあります。やはりそうなのでしょうか?また、工学博士も取得されていますが、そのときも臨床をやりながら取得されたのでしょうか?拙い質問で申し訳ありませんが、ご回答宜しくお願いします。医学部の学生さんでこのような考え方を持っていただける人は非常に貴重と言わざるを得ません。医療機器やデバイスの開発には、現場でのニーズが最も重要です。現場でニーズのないものを開発しても患者様には意味がないからです。そして、工学部の持っているシーズを的確に把握し、それをどのようにものにしていくのかというトレーニングが必要です。ですから、私は、やはりこのような境界領域で活躍するためには臨床経験は必須だと思っています。もし工学部の学生さんであれば、早い段階で医師と接し、現場を垣間見ることができるような環境が必要です。なかなか日本にはまだこういった教育システムはないのですが、今後は医学部学生と工学部学生がカフェテリアや学食で常にディスカッションできるような教育システムが望まれます。もう一つのご質問ですが、工学博士を取得したときは、もちろんフルに臨床を行い、数少ない研究日を研究にあて(バイトは辞めて)、週末や日曜日、夜などに研究を行い、論文を作成しと、必死にやった記憶があります。是非、医工連携を志す医学部の学生さんがもっと増えてくるとうれしいです。また、私の研究室を見学にきていただいても大歓迎です。仕事の進め方(時間の使い方)について臨床も研究も、というと、ほとんど時間が足りないかと推察いたします。仕事の進め方や、時間の使い方で普段心がけていることや、Tips的なことがあればご教示お願いします。おっしゃる通りです。臨床も研究もやるためには、非常に時間の使い方に苦労します。実際は、臨床:研究=8:2といった配分になってしまいますが、現在は医工連携チームで仕事を分担し、それを週1回の合同ミーティングですべての研究のプレゼンを行っていただき、方向性や実験の修正などを行っています。最近は、スカイプを利用したテレビ電話ミーティングも行うこともあります。もちろん、血管内治療(IVR)の緊急症例なども夜間であろうとも積極的に行っていますので、寝る暇がないこともあり、肉体的・精神的に非常につらいことも多々あります。ただ、そういったことも、すべて患者様のためだと思うと乗り切れることもありますし、いつもサポート・理解してくれる上司の先生、後輩の先生や学生、そして家族のアドバイスによって乗り切っているのが現状です。お聞きしにくいですが、報酬について先生のように医療機器や資材の開発に携わっている先生方には敬服しております。常に疑問に思っているのですが、面と向かって聞きにくいので、この場を借りて質問させていただきます。このように研究開発に携わっているときには報酬がでるのでしょうか?場合によりけりだとは思いますが、一般的にはどうなのか、教えていただけるとありがたいです。下世話の話で恐縮ですが宜しくお願いします。現在理工学部に最低、週1回は夜から夜中、朝方までのミーティングで医工連携チームの指導を行っていますが、これは無報酬です。企業との開発を行う場合、研究費が得られる場合もありますが、これは純粋に研究のための資金で給料ではありません。私の海外のボスであった教授は、多くの会社のコンサルタントなり、副収入を得ていましたし、研究費の中には給料も含まれるのも当然というのが海外での状況ですが、日本の研究費のほとんどがそのようなものはありません。そのかわり、日本のような安定的な地位というものも存在せず、すぐにクビになることも多々あります。日本では大学や研究施設などで安定的な地位が得られることもありますが、医師が行う研究という意味では、まだまだボランティア的な要素が多分にあるのが実情かと思います。開発の体制長谷部先生のように、素材や機器の研究開発を行う場合、どんな体制がとられるのでしょうか?どんな役割の人間が何人いるのか?どんなチーム体制で実施されているのか?そのようなことを知りたいです。この分野は素人なので、まさに素人質問で申し訳ないですが。私がチームリーダとなっている医工連携グループの構成は以下の通りです。1)炭素材料やセラミックス、薄膜などの専門:慶應大学鈴木哲也研究室のメンバー教授1名、博士課程2名、修士課程3名、大学生2名2) 高分子・ポリマーなどの専門家:堀田篤准教授研究室のメンバー准教授1名、修士課程2名3) 東邦大学医学部大学院博士課程:3名(+私)4) 横浜市立大学医学部 細胞治療・輸血部:上條亜紀准教授(部長)5) 東京大学附属病院輸血部:髙橋孝喜教授、田中助教6) 東京大学附属病院脳外科:斎藤教授、大学院生博士課程1名以上がコアなメンバーとなっております。この範囲でプロジェクトの内容が完遂できないものに関しては、産業総合研究所や物質材料研究機構、海外研究施設との共同研究によってプロジェクトを推進しています。もちろん、国内外の関連企業との共同研究も必須となります。医工連携のポイントメディトウキングの記事を読みました。医工連携のための通訳が必要とありましたが、他に医工連携を成功させるために必要なポイントがあればご教示いただきたい。やはり、若い人達の教育と互いの文化の違いを認識することが重要なポイントとなります。医学部の博士課程の学生も、最初は全く別の世界に飛び込んだような感覚になってしまうので、かなり面食らってしまい、あまり積極的な参加をしてくれない時期もありました。ただ、現在では、工学部の若い人達と医学部大学院生の間でのコミュニケーションがとれるに従い、積極的なプロジェクトがいくつも進行するようになってきていますし、業績や成果がでるようになってきました。後進を育てるポイント長谷部先生のように臨床だけでなく研究開発も成功させていく人材を育てるのに必要なことはありますでしょうか?長谷部先生のように新しいものをどんどん創り出していく先生が増えることを期待します!激励のお言葉ありがとうございます。やはり医師になってからすぐの段階で、研究や研究開発に慣れておく環境作りが重要だと思います。特に研究していなくとも、違う文化との接触を毎週行っていくことで、皮膚吸収ともいえるような波及効果があるようです。若い時から、急激に頭角を現す後輩も増えてきており、それが臨床にも役に立っているようです。但し、なかなか時間が制約されますので、チームの維持には多くの努力と精力と忍耐が必要です。忍耐が一番重要でしょうか…。これはなくしたいと思う規制日本の医工連携が欧米よりも遅れをとっている理由のひとつに、「様々な規制」があると聞きました。先生のご経験の中で、この制度はいらないなーと思われるものはありますでしょうか?もしあれば(全部かも知れませんが…)是非お話いただきたい。宜しくお願いします。確かに日本の規制が厳しいのはそのとおりではあります。日本は国民皆保険の制度が確立されている状況ですので、欧米とは国の責任の度合いが違うというのも許認可申請が厳しい理由ではあるのでしょう。国には、なるべく、日本が世界に先駆けてよい製品をだせるような、一番になれるようなバックアップを望みたいです。そうでないと、現在抱えているデバイスでの輸入超過の状況は変わらず、日本国民は常に海外ででた製品の型落ちの製品を使用することになり、大きな不利益を受けることになるでしょう。しかし、現在は、PMDA(医薬品医療機器総合機構)や厚生労働省も、早期の許認可申請を目指し、体制は変化してきているように思います。病院のサポート医工連携を進める上で、病院のサポートはあるのでしょうか?もしあるのであれば、どんなサポートかご教示ください。また、こんなサポートがあれば、というものがあれば合わせてご教示お願いします。当院では、私の上司である寺田教授や院長の多大なご理解とサポートがあります。また、東邦大学では、若手研究者に限ったプロジェクト研究費や、重点的な領域に関する医学部推進研究費など、資金に関するバックアップもあることは非常に助かります。病院に工学部の学生や研究者が適宜自由に出入りし、医学部研究者や医学部大学院生と一緒に研究できるのも非常にいい環境といえます。今後は、やはり、抜本的には、どのように早い段階で医学部・工学部若い人達をミックスし、お互いの垣根を早い段階でなくす教育が一番重要と考えます。但し、その医工連携ユニットを指導できる指導者が不足しているもの現状ではないでしょうか。指導者と若手の両方の育成が急務です。医工連携における海外と日本の違い記事を拝見しました。先生は海外でのご経験も豊富ですが、医工連携における海外と日本の違いはなんでしょうか?留学した先生方からは、よく「海外の方が研究しやすいんだよね。」と聞きます。先生もそうだったのでしょうか?これは一長一短です。システムという面では、欧米にかなわない部分もあると思います。欧米だけがいいのではないと思います。日本から留学して、大きな研究室で、一つの研究に没頭しているときには、非常に研究がしやすいと感じるでしょう。但し。欧米では、やはり自由競争の社会であり、研究費がなくなれば、そのまま研究室がつぶれ、全員解散ということもよくあります。その緊迫感と各国から集まる研究者が切磋琢磨しているという点では、とくに米国での研究はやりやすいと感じるのではないでしょうか。日本の研究費が少ないわけではないと思いますし、日本人が劣っているわけでもないと感じました。ある程度の海外経験は非常に役に立ちますが、最終的には国内からの人材の流失がないように、国も対策を考えるべきだとは思います。アジアでは特に、韓国、シンガポールにおいては、すでに欧米化が研究分野では進んできていいますので、現在すでに負けている分野もあると思いますし、今後、どんどん抜かされてしまうかもしれないという驚異を持つ分野も沢山あり、我々も心して研究を進めていかねばなりません。総括大変熱心なご質問、激励のお言葉ありがとうございました。このような医工連携の分野に興味をもっていただけることは大変うれしいですし、私自身励みになります。まだまだ私自身、未熟であり、これからもっと大きな成果を上げて、少しでも患者さまの幸せに貢献できたらと思う次第です。もちろん、私が臨床でやっている血管内治療・IVRの分野においても、国産のすばらしいデバイスがあふれ、それを海外の医師や研究者が学びに来る日を夢見てがんばりたいと思います。また、この記事を読んでいただき、実臨床に即した医工連携や研究に興味を持って頂いた若い先生がいらっしゃるとしたら、是非、私にお声をかけていただき遊びにきていだけることを祈っています。今後とも、皆様のご指導をいただきたいと思っています。よろしくお願い申し上げます。この度は、このような機会をお与えくださりありがとうございました。准教授 長谷部光泉 先生「すべては病気という敵と闘うために 医師としての強い気持ちを育みたい 」

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患者さんのため、被災地の精神科医療施設の診療状況の情報入力を

3月11日(金)に発生した東日本大震災。被災地において、精神障害を持つ方は持たない方に比べ、より過酷な状況におかれている可能性があるという。その中で、NPO法人地域精神保健福祉機構・コンボ(COmmunity Mental Health & Welfare Bonding Organization)は、他団体とともに、いち早く被災地域の精神科病院および地域精神保健活動の状況を把握し共有するためのWebサイトを立ち上げ、情報を提供し始めた。Webサイトを運営する団体の一つであるNPO法人コンボ 丹羽大輔氏に、サイト立ち上げ当時と現在の状況について聞いた。-どのようにして、このWebサイト立ち上げに至ったのでしょうか?震災発生当初は、現地の情報が入りにくく、また被害が広域で何から手をつけてよいのかわからない状態でした。そこで地震の翌日3月12日に関係者が集まり、被災地の精神障害を持った方々に対し、迅速に支援できることは何か検討しました。その結果、彼らが一番必要としているのは、やはり精神科病院の状況についての最新情報だろうという結論にいたりました。ただし現地に入って調べることはできないので、現地にいる精神科病院関係者が書き込めるようなWebサイトを立ち上げ、そのサイトにアクセスすれば被災地域の精神科病院の状況が把握でき、また精神科医療機関同士で情報を共有できる仕組みを作ろうということになりました。Webサイト作成は、ACT全国ネットワーク(http://assertivecommunitytreatment.jp/)、国立精神保健研究所社会復帰研究部(http://www.ncnp.go.jp/nimh/fukki/index.html)と私たちNPO法人コンボで行い、打ち合わせの翌日3月13日には完成させました。そして、その日から現地の関係者に書き込んでもらうため、私たちのメーリングリストやTwitterを使って情報を流しました。そうしたところ、翌14日からすぐに書き込みが始まりました。現地の病院院関係者に情報が届き書き込みが始まる、という一連の流れが非常に短期間に行われたことに驚きました。 全文はこちらhttp://www.carenet.com/psychiatry/original/comhbo/ 《関連リンク》 NPO法人地域精神保健福祉機構・コンボhttp://www.comhbo.net/ 被災地の精神科病院状況リストhttp://assertivecommunitytreatment.jp/ph/編集ページhttp://j.mp/egqdru 被災地における地域精神保健福祉活動の情報http://www.comhbo.net/cr/編集ページhttp://bit.ly/dKZVMB (ケアネット 細田 雅之)

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教授 福島統 先生「国民のための医者をつくる大学 この理念の下に医師を育成する」

1956年3月21日東京都生まれ。1981年東京慈恵会医科大学卒業。84年同大学第1解剖学専攻博士課程修了、自治医科大学第1解剖学講座国内留学。85年東京慈恵会医科大学第1解剖学講座講師。87年ペンシルバニア州立大学分子細胞生物学講座留学。95年東京慈恵会医科大学カリキュラム委員。97年Harvard-Macy Program:Physician Educators修了。99年同大学医学教育研究室助教授。01年同大学同教授。07年同大学教育センター長。(社)日本医学教育学会副理事長、(財)日本医学教育振興財団運営委員・編集委員長、(財)柔道整復試験研修財団理事長。繰り返される医師不足と地域偏在第二次世界大戦後、日本の医学部定員は1万人を超えていました。GHQは医師養成のあり方をみて「医師粗製乱造だ」と、発言しました。当時は戦時下の軍医養成のため教育年限が短く、臨床のトレーニングが十分なされないまま、医師となって巣立っていきました。医師のレベルが下がるということは、日本の医療レベルが下がるとして、定員の削減を断行しました。3 千数名の入学定員とすれば、需要と供給が保たれるうえに医学教育の質も保てるとし、このときにシステムを確立してしまったのです。ですが、昭和36年に国民皆保険が実施されたことによって、安定供給のバランスが崩れます。すべての国民が医療へのアクセスが楽になり、徐々に医師不足が騒がれ始めます。そこで行われたのが、昭和45年3校の私立医科大学、秋田大学医学部設立と1県1医大政策です。なぜ秋田に医大をつくったかというと、今でもそうですが東北地方は慢性的に医師不足だったからです。つまり、診療科の偏在、地域偏在、研究医が少ない、基礎医学に進む医学部出身者がいないという現在と同じことが、昭和30年代にも起きていたのです。問題は、いきなり医大を増やしたので、教員が足りなくなってしまったことです。特に基礎医学を教えられる人材が不足してしまった。当然ですが、十分な教育なくして医師は育ちません。医学生の教育体制を考慮せずに、不十分なままに、定員を増やしてしまったことを反省すべきでしょう。結局のところ、地域偏在だ、診療科偏在だ、医師不足だといって医大をつくってはみたものの、実際に問題の解消にはなりませんでした。 医療現場の変化を捉えシステムを構築する医師不足問題を解決するためには、医療現場がどのように変化しているかを適格に捉えることです。現在医師不足といわれる最大の理由は、専門分化しすぎたからです。昔は内科医だったら、呼吸器、腎臓、心臓の悪い患者さんを分け隔てなく診ていました。一人の患者さんが複数の疾患に罹患していた場合でも、昔は一人の医師でカバーしていました。ですが今は、疾患ごとに専門医が必要になっています。つまり、一人当たりに必要な医師の数が増えているのです。高齢化社会が進めば、多臓器にわたって疾患のある患者さんが増えて、医師の数はもっと必要になるでしょう。すると医師の数は青天井に必要となるのです。これは高度医療の現場で増えているわけです。国民皆保険というフリーアクセスの現状では、どんなささいな病気でも専門家に診てもらいたくなる。それを許してきた。医療に対してフリーアクセスを許してきた日本、患者さんに対して医療レベルの振り分けをしませんでした。高度医療においては、疾患ごとに専門医が細分化されています。多臓器にわたって疾患のある患者さんが増えれば、一人の患者さんに対して必要な医師はますます増えることになります。これから高齢化社会が進むにつれ、医師の数がどれほど必要になるのかを算出するのは難しいことです。医学先進国のほとんどが、高度医療が必要な患者さんとそうでない患者さんを一次医療で振り分けているのは、本当に必要な医療を必要な患者さんが速やかに受けられるようにするためです。ですが、国民皆保険の日本では、極端にいえば単なる風邪であっても、高度医療の現場にいる専門医への受診もフリーアクセスを許してきました。では、何が必要かというと一次医療、二次医療、三次医療のシステム化を体制としても供給する側としても、階層性を構築することが求められています。たとえばイギリスのジェネラルプラテクショナー[General Practitioner (GP)]のようにかかりつけ医がいて、すべての患者さんはそこで診察を受けなければ、二次医療、三次医療には進めない。GPがゲートコントローラーの役割を果たせれば、患者さんは高度医療が本当に必要な人のみが受診し、非常に高度な医療に携わる医師は、その医師にしかできない治療に専念できるのです。大学の存在意義は社会への貢献である大学の存在意義とは、高度な学術や技能を持った人を社会に供給することによって、国民のために存在するものであると考えます。つまり地域に貢献するために存在しているのです。東京慈恵会医科大学の理念は明確で『国民のための医者をつくること』です。ところが各々の大学が社会に対する責任を考えてきたかというと疑問があります。日本はドイツから大学制度を持ってくるのですが、学問の自由とか大学の自治は受け入れたが、なぜそれらが大学にとって必要なのかは忘れてきてしまった。大学とは社会的存在であるという理念を置き忘れてきてしまいました。医師不足についても、ただ増やせばよいのではなく、医療システムそのものを見直さなければ、医療は社会的共通資本であり、つまり国民が守るものだという意識をつくっていかない限り、また同じ過ちを繰り返すだけです。医療はこれからも変化していくでしょう。10年前のデータを基に医師数を算出できても、明日では無理。なぜならば、医学生が独り立ちするまでに11年かかります。つまり、11年後の需要供給計画など立つわけがないのです。地域の教育力を活かす医療者教育私は1年生を地域医療実習へ送り出す前に「君たちは医者になる。医者になったら診る患者の半数は女性で、1.2%は統合失調症で2~3%は知的障害者だ。そして診る患者の10%には人格に偏りがある」と言います。まず1年生には授産・厚生施設へ1週間行かせます。2年生は、重症心身障害児療育体験を1週間実施した次の週に、児童館や幼稚園、保育園などで地域子育て支援体験実習に行かせます。これには理由があって、重度の病気を持つ子どもと元気な子どもをみることによって、病気とは何かを考えてほしいからです。病気であるがゆえに、人間としての活動を障害するとはどのようなことなのかを知ってほしい。医療とは患者さんがその人らしい人生を送れるように、すべてをサポートすることです。病気だけ診ればいいのか……そこで我が校の理念「病気を診ずして病人を診よ」につながるわけです。3年生には医学部なのに訪問看護ステーションで実習してもらいます。ある学生が言いました。「同じ認知症でも、家庭によって違う」。たとえ同じレベルの認知症であっても、その家庭環境が違えば、治療の方法もサポートも変わります。つまり、患者さんを取り巻く環境によって求められる医療のニーズは違うことを学んでほしいのです。それぞれの患者さんのバックグラウンドまでを知り、日常生活を想像した上で治療のできる医師を育成したいのです。4年生では院内の看護部や栄養部、薬剤部などの他職種に配属されます。5年生になると学内の臨床実習だけでなく、家庭医実習というのがあります。これは地域の開業医の下に1週間実習に行かせ、大学病院とは違った医療の現場を見てもらいます。これは、3年次の訪問看護による在宅ケア実習につながるわけです。また、医大の付属病院は高度医療を求めた患者さんが来院するところです。高度医療を必要としている患者さんは1,000分の1に過ぎません。まして、この中に予防医学は入っていないのです。では、あとの999をどこで学ぶか。それは学外で学ぶしかないのです。この実習の実現のために大変だったのは、よい開業医を探すことでした。よい医師でなければ、良い教育はできないからです。そのためは、学閥も何ものにも縛られることなく、高い理想を持った師となっていただく方を探し、お会いし、お願いしました。今では65名の先生にご賛同いただきご協力いただいています。医師は患者さんに貢献して幸せになれる職業臨床の場でわれわれが直接教えることはできません。けれども、学ぶ環境を提供することはできます。その環境をどう活かすかは学生次第です。1年生をいきなり外に出すのは、学びは現場にこそあるからです。現場にいて、自分に何ができて何ができないかを自覚させるためです。また、学生の学びのために臨床実習をさせているのではなく、患者さんへの貢献をするためなのだと教えています。病棟に学生がいたら「まずは、患者さんのベッド下の掃除でもやってなさい」と言う。これは、感染防御の第一です。 学生が臨床実習で何をするか? それはできることの最大限の力で、患者さんに貢献することです。採血ができなくても、ベッドの下の掃除はできる。看護師が荷物運びに難儀していたら、率先して手伝えばいい。このように職場の中でできる責任を果たしていきながら、できることが増えていく。すなわち、患者貢献が拡大していくのです。 医師育成のために国が税金を使うのは、医師がいなくては国民が困るからです。解剖の献体にしても、臨床実習にしても、医師を育てているのは国民なのです。あらゆる助成を国民から受けているのだから、医学を学ぶ者に自由はない。学ぶ義務があるだけなのです。質問と回答を公開中!

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教授 福島統 先生の答え

診療所医師による医学教育のためのシステム人口8万都市で小児科医を開業している者です。診療所で研修医の「地域保健研修」を、また、出身医大で「外来小児科学」の講義を行っています。先生のご意見、医学生をプライマリ・ケアの場に出す動きには全面的に賛同します。診療の質を上げるためには、診療を人に見せて教える必要があると考えますが、この波が拡がるためにはどうすればよいでしょうか?優秀な開業医が医学教育に関わることができずにいる環境があります。初期研修が始まった時に医師会が率先してシステムを作ればよかったのでしょうが…全国レベルでの医学部でのプライマリ・ケア実習の動きはありますでしょうか。あるいは今後の、それぞれの学会に依存しない医学部としてのシステム作りは可能でしょうか。ことば足らずで回答しにくいかと思いますが、医学部の変化がないことには診療所医師の関与は難しいと思いましたので。すでに医学部という大学と特定機能病院という大学附属病院のみでは、国民が求める医療を教えることはできないことは自明です。大学は医学教育をコーディネートする「教育機関」です。医学部が様々な医療ニーズを学生に見せ、学生一人ひとりが自分の仕事を知る機会を作ることがcommunity-based medical education です。このcommunity-based medical education は世界的な流れです。日本が遅れているだけです。医学部の中には専門医療だけでなく、地域が求める医療を学生に見せようとカリキュラムを工夫するところが増えてきています。医療の世界では、どの医療機関に所属する人も「教育」をしていかなければなりません。教育の場は大学と附属病院だけではありません。診療所も、地域病院も、在宅で頑張っている医師も、医師とは本質的に医師を育てる人たちだと思います。大学で医学教育を考える人たちが、自分の専門だけでなく、「医療」を学ぶ学生のことを考える日は近いと思います。その時に、地域の医師が「医師の役割の一つ」としての教育に夢を持って欲しいと思います。政治と現場で意見反対なのは何故ですか?福島先生の解説を読んで、医師不足問題について大変理解が深まりました。まだ私は医学生なので考察が甘いかもしれませんが、福島先生の意見が正論だと思いました。ただ、福島先生の意見が正論だと思う一方で、では何故、日本は医学部新設に向かっているのか?というところが分かりません。政治と現場で意見が対立しているのでしょうか?何故、日本は医学部新設の流れにあるのでしょうか?昭和45年に秋田大学医学部と北里大学医学部、杏林大学医学部、川崎医科大学が出来ました。昭和46年は私立医大がさらにできた後に、昭和47年からの1県1医大が始まります。この時、私立医大ができたのは、戦後の医専の卒業の大量の医師(開業医)たちの後継者問題があったからです(昭和20年の医学部入学定員は1万人を超えていました)。この時、裏口入学の問題が世間を騒がせました。1県1医大政策は田中角栄首相が押し進めました。その時の理由は東北・北海道の医師不足、医師の地域偏在、診療科偏在、基礎医学者と公衆衛生に関わる医師の不足が問題となりました。まさに今、政治が論じている問題と全く同じです。医師数をただ増やせばこの問題が解決するというのは幻想です。問題があるから、「何かを」しなければいけないという風潮になり、医学部を新設すれば「きっとよくなる」という積極策の幻想(ペーター・センゲ)になっていると思います。何かをすればそれが解決へつながるという言い訳でもあります。これは危険な考え方です。今こそ、なぜ日本の医療がうまくいかないのかをみんなで考えるべきです。学外実習に必要な開業医の数は?私も、現場で学ぶ機会は多い方がよいと考えます。学外実習に協力している開業医の先生が65名いらっしゃるとのことですが、慈恵さんレベルの大学ではその人数で十分なのでしょうか?理想としてはどのくらいの先生方を確保するべきなのでしょうか?数年前、韓国の医学教育学会で慈恵医大の「家庭医実習」の話をしました。その時、どうやって指導医を集めているのか、との質問を受けました。私は次のように答えました「医者には二通りの医者がいる、good doctors とnot good doctors だ」。会場に大きな笑いを誘いました。でも、私はこれが真実だと思います。そして、いい医者は良い医者が誰かを知っています。慈恵医大では、素敵な指導医と学生が評価した開業医に、「良い開業医を紹介してください」とお願いし、指導医を集めました。素敵な指導医が最低30人いれば、1年間で100名の学生の臨床実習を行うことができます。でも、無理をしないで1年間で100名の臨床実習をするには、60名必要と経験的に考えています。 トータルの実習成果は?学生の中には学外実習が苦手というか社交的ではない者も多いかと。皆がみな学外実習で何かを掴んで帰ってくるとは思えないのですが、実際はいかがでしょうか?個別には成果をあげる学生もいるでしょうが、トータルでみたときの実習成果について、差し支えなければご教示ください。昔、私が学生時代は先生が「あの学生は口下手だが、まじめでいい子だよ」と言っていました。私は、それは間違いだと思います。臨床医になるなら、どうにかして口下手を克服すべきだと思いますし、口下手を拡幅するために大学はその学生に手をかけるべきだともいます。人と話ができない医者を作るのではなく、たとえ上手ではなくても患者さんの話を聞く態度を持つ医師に育て上げるべきと思います。今までの初等、中等教育では、「職場の中で学ぶ」力を生徒に養ってきませんでした。しかし、医師になる者には「職場の中で学ぶ」力が必要です。医学部がただ知識と技能を教えていればいいのではありません。その学生が病棟で、患者さんから医療チームのメンバーから「人から学ぶ」ことのできる力を持てるようにしなければなりません。学外実習に行って、多くの学生は「自分に足りないもの」を見つけてくるように思います。自分に足りないもの、これこそが学習課題です。学習課題に気づいた人は自ら学習するでしょう。でも気づくチャンスがなければ学習は進行しません。そして気づきは異文化の中で起こることが多いのです。学生を学外に出し、「無理やりさせられ体験」をさせることで医学部の中にいるだけでは気づけない自分自身の学習課題を知って欲しいと思います。しかしながら、気づきはその学生のレディネスに負うところが多いことも事実です。スキャモンの成長曲線を思い出してください。大器晩成型も、早熟型もあります。学生に気づきの機会を与えますが、その学生が気づくまで待つことも大事です。学生の成長を待つだけでなく、成長を促すためにも「無理やりさせられ体験」は必要だと考えます。学生の反応は?医学生であれば目の前の国試対策に意識が集中して、学外実習は二の次ではないかと思います。実際、学外実習に対する医学生の反応はどうでしょうか?学生を説得して実習に出す感じでしょうか?※医師として患者を診ている今となれば、慈恵さんの学外実習が如何に素晴らしいかよく分かります!本当人間って勝手ですよね(笑)学生は医者になりたがっています。決して国家試験のプロになろうとはしていません。これは真実だと信じます。そして学生は実り多い自分の人生を求めています。人間とは自分自身の成長に気づいたとき、それを嬉しいと思う存在です。しかし、学生には今どのような体験をすべきか自分では分からないと思います。カリキュラムで必修とするのは、「無理やりさせられ体験」として学生が理解できなくても「行かせる」ためです。もちろん、オリエンテーションはたくさんしますが、実体験のない学生には理解は困難だと思います。学外実習は3年か4年しないと安定しません。教員がいくら大事だと言っても学生が理解しませんが、先輩の学生は「行ってみろよ、経験になるぜ」と言ってくれるようになったら実習が安定します。彼らは身近な先輩の言うことは素直に信じるのでしょう。実習を経験し、臨床実習に出たときにこの実習の意味を理解してくれれば学生は「無理やりさせられ体験」から「意味のある経験学習」へと認識を変えてくれます。国試対策について場違いな質問であれば無視していただきたいのですが、現在息子の入学先を検討している者です。私は地方の国立大卒です。私大医学部出身の友人もおらず、私大医学部のことがよく分かりません。慈恵医大ならではの特別な国試対策カリキュラムなどあるのでしょうか?学外実習は完璧だと思いました。親として心配なのは国試対策だけです。宜しくお願いします。慈恵医大は特別な国試対策はしません。むしろ6年生の後半には学生に自由な時間を与えるようにしています。学習で重要なのは、自分自身の能力を自分で評価し、自分の不足しているところを自分が認識して、自分の方法で学ぶことです。医学部6年生に「教え込み」は通じません。彼らは立派な「成人学習者」ですから。自分の不足を振り返り、自律的に学習する機会と時間を与えれば、医師になれるものは「国家試験」に合格します。何時までも教え込まれなければ勉強できない人はむしろ医者になるべきではありません。医者に必要な能力は生涯学習力ですから。私が医学教育の仕事をするようになった時、留年者や国試浪人の人にインタビュー調査をしたことがありました。彼らの欠点は明らかでした、解剖と生理学、すなわち基礎医学を知らないのです。国家試験のための勉強は基礎医学にあります。基礎医学をまなんだ人は病態を暗記ではなく、論理として理解します。そして今の国家試験は昔と違い、病態を理解してそのうえで薬理学の知識を応用した治療の選択を聞いてきます。国家試験は既に暗記の世界から、理解の世界へと変わってきているのです。国家試験は心配なら、基礎医学教育をしっかりしている医学部を受験させるべきと思います。医学を学ぶ者の自由とは、それを否定する理由はなんですか義務のみで自由はないのでしょうか、腑に落ちません。一人の学生が医師になるためには6年間に約1億円の経費がかかります。国公立であろうが私立であろうが多量の税金を使って医者になります。私は納税者です。自分が払った税金が「金儲けしか考えない医師」の養成に使われたとした、損害賠償請求をします。私は献体者です。死んだら、この体は解剖学実習に使われます(それまでには痩せようと思っています)。阿部正和慈恵医大元学長が講義のたびに学生に言っていました「患者こそ最高の師」と。医者になるためにたくさんの期待がかけられています。だから医学生はエリートだと思います。もし、自由に学びたいのなら、その経費は自分で払うべきです。税金とご遺体の行為と患者さんの協力を頂いて医師になるなら、国民から期待される医師になる責任があると思います。自分の自由のために他者の心もお金も使う必要はないと思います。この道に進まれたきっかけを教えて下さい。先生が、臨床でもなく研究でもなく教育を専門にされた「きっかけ」に興味があります。産婦人科開業の長男として生まれ、私立医大に入学してっきり産婦人科開業医になると思っていました。しかし、卒業時には少子高齢化が始まっており、産婦人科開業医の道はなくなり、面白そうと思った解剖学に進みました。解剖で業績を上げている最中に、急に大学から医学教育の仕事をしろ!と命令されました。いざ、医学教育の世界に入ってみたら、したいことがたくさんあったのです。だからそれをしただけです。多分、どの分野に行っても良かったのでしょう。今したいことを、今の立場で出来れば何でもよかったのかもしれません。いまは、この分野の仕事ができることを嬉しいと思っています、そしてもっとしたいと思っています。実習を阻む障害に関して1年生から地域実習へ出すとなると結構大変だと思います。受け入れ先を探す他にも障害が多かったと推察しますが、どのような障害がありましたでしょうか?1年生の福祉体験実習を作るとき、最も困ったことは「医学部と地域福福祉」があまりにも遠かったことです。特定機能病院には、知的障害や精神障害者の就労支援のことを知っている人がいませんでした。2年生の重症心身障害児の実習を作るときも地域で子どもがどのように生活しているかを考えている小児科以外の医師はほとんどいませんでした。3年生の訪問看護ステーションの実習に至っては、一部の神経内科医は理解を示したものの、多くの専門医たちは在宅医療の存在すら想像してくれませんでした。でも低学年の学外実習は臨床医たちの利害とは離れていたので実習を作りことができました。実習を作るためには何足もの靴が必要でした。医学部とは遠い福祉や在宅には、足を運び理想を話し、夢を共有してもらい一緒に医師を作ろうと説得しまわりました。多くの実習施設は共感を示してくださり、快く学生実習を受けてくださいました。特に福祉施設では、「良い医者を私たちもメンバーさんのために作ってください」と励ましていただきました。臨床実習での「家庭医実習」を必修化できたのはひとえに、阿部正和元学長のおかげです。慈恵医大は全国に先駆けて昭和61年に選択科目として開業医実習を導入していました。阿部正和先生という方が、素晴らしい指導医がたくさんいる実地医家の会との連携を作ってくれていたので、解剖上がりの臨床を知らない私が「家庭医実習」を必修化できたのだと思います。実習先になりうる開業医とは?実習を引き受ける開業医に必要な素質はありますが?また高い理想とは?もう少し具体的にご教示ください。該当する先生がいたら是非紹介したいと考えます。良い医者は誰が見ても「良い医者」です。それは誰もそう思うと思います。教授 福島統 先生「国民のための医者をつくる大学 この理念の下に医師を育成する」

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主要評価項目がネガティブな企業助成試験はサブグループ解析の報告頻度が高い

企業助成金の拠出を受けた無作為化対照比較試験は、主要評価項目に統計学的な有意差がない場合に、企業助成のない試験に比べサブグループ解析の報告を行う頻度が有意に高いことが、カナダ・マクマスター大学のXin Sun氏らの調査で示された。影響力の強いジャーナルに掲載された論文の60%、心血管領域の論文の61%、外科領域の論文の37%がサブグループ解析の報告を行っているとのデータがあるが、事前に規定されたサブグループ解析や、交互作用に関して正規の検定を行っているものは少ないという。BMJ誌2011年4月2日号(オンライン版2011年3月28日号)掲載の報告。サブグループ解析の報告と企業助成の有無との関連を系統的にレビュー研究グループは、無作為化対照比較試験のサブグループ解析の報告頻度に及ぼす、企業による助成金拠出の影響を評価するために、系統的なレビューを行った。Medlineを検索して、2007年に118のコア・ジャーナル(National Library of Medicineの規定による)誌上に掲載された無作為化対照比較試験のうち、影響力の強いジャーナル(2007年の総引用数が最も多い上位5誌:Annals of Internal Medicine、BMJ、JAMA、Lancet、New England Journal of Medicine)とそれ以外のジャーナルの掲載論文が1対1の割合になるように1,140編(570編ずつ)が無作為に選出された。2名のレビュアーが別個に適格基準を満たす報告を選択し、データを抽出した。明確な判定基準を用いてサブグループ解析の報告を行っている無作為化対照比較試験を同定した。ロジスティック回帰分析を行い、事前に規定された試験の特性とサブグループ解析の報告の有無との関連を評価した。事前に規定されたサブグループ解析や交互作用検定の頻度は有意に低い469編の無作為化対照比較試験(影響力の強いジャーナル掲載論文219編、それ以外のジャーナル掲載論文250編)のうちサブグループ解析の報告を行っていたのは207編(44%)であった。影響力の強いジャーナル掲載論文(調整オッズ比:2.64、95%信頼区間:1.62~4.33、p<0.001)、非外科領域の論文(外科領域論文との比較、同:2.10、1.26~3.50、p=0.005)、サンプルサイズの大きい論文(同:3.38、1.64~6.99、p=0.001)で、サブグループ解析の報告の頻度が高かった。企業の助成金拠出とサブグループ解析報告の関連の強さは、主要評価項目に有意差を認めた場合と認めなかった場合で有意に異なっており(交互作用の検定:p=0.02)、主要評価項目に有意差がない試験では、企業助成がない場合よりも助成がある場合にサブグループ解析の報告が多かった(調整オッズ比:2.29、95%信頼区間:1.30~4.72、p=0.005)。主要評価項目に有意差がある試験には、このようなサブグループ解析の報告頻度の差は認めなかった(同:0.79、0.46~1.36、p=0.91)。企業助成金の拠出を受けた試験は助成のない試験に比べ、事前に仮説を立てて規定されたサブグループ解析の報告頻度が有意に低く(31.3% vs.38.0%、調整オッズ比:0.49、95%信頼区間:0.26~0.94、p=0.032)、サブグループの効果解析の交互作用検定を行う頻度も低かった(41.4% vs. 49.1%、同:0.52、0.28~0.97、p=0.039)。著者は、「企業助成金の拠出を受けた無作為化対照比較試験は、主要評価項目に統計学的な有意差がない場合に、助成のない試験に比べサブグループ解析の報告を行う頻度が有意に高く、事前に規定されたサブグループ解析や交互作用検定を実施する頻度が有意に低かった」とまとめ、「主要評価項目の結果がネガティブであった企業助成試験のサブグループ解析には警戒を要する」と指摘する。(菅野守:医学ライター)

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研修医の勤務時間、週80時間未満でも患者転帰に有害な影響はない

アメリカでは卒後研修医の勤務時間を週80時間未満に短縮しても、患者転帰や研修内容への有害な影響はみられなかったことが、イギリス・ユニバーシティ・カレッジ病院のS R Moonesinghe氏らの調査で示された。欧米では、過去20年にわたり、患者の安全性や医師の労働条件の改善を目的とする勧告や法律に従って、卒後研修医の勤務時間の短縮を進めているが、患者の転帰や研修の内容に想定外の有害な影響が及ぶ可能性が懸念されるという。BMJ誌2011年4月2日号(オンライン版2011年3月22日号)掲載の報告。勤務時間短縮が研修内容や患者転帰に及ぼす影響を系統的にレビュー研究グループは、卒後研修医の勤務時間の短縮が研修の内容や患者の転帰に及ぼす影響を評価するために系統的なレビューを行った。データベース(Medline、 Embase、ISI Web of Science、Google Scholar、ERIC、SIGLE)を用いて、記述言語を制限せずに1990~2010年に発表された論文を検索し、抽出された論文の引用文献なども参照した。対象は、勤務時間の変動が卒後研修、患者の安全や転帰に及ぼす影響を検討した試験とし、試験デザインの違いは問わないこととした。週56時間/48時間未満への短縮の影響の検討は不十分適格基準を満たした72の試験のうち、38試験は研修内容のアウトカムを、31試験は患者の転帰を検討しており、3試験は両方の評価を行っていた。勤務時間を、週80時間以上から、アメリカの勧告に従って80時間未満に短縮しても、患者の安全性に有害な影響はなく、卒後研修への影響も少なかった。週56時間未満あるいは48時間未満というヨーロッパの規定に関する研究は全般に質が低く、結果も相反するものが多いため、確定的な結論は得られなかった。著者は、「アメリカでは、勤務時間を週80時間未満に短縮しても、患者転帰や研修内容への有害な影響は見られなかったが、イギリスにおける週56時間/48時間未満への短縮の影響については、質の高い研究が十分には行われていない」と結論し、「大規模な多施設共同試験によるさらなる検討が、特にEUで求められる」と指摘している。(菅野守:医学ライター)

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避難所からいかに高齢者を救うか

日本老年医学会は今回の東日本大震災に対して、『高齢者災害時医療ガイドライン』と『一般救護者用・災害時高齢者医療マニュアル』を、現在行われている被災地での高齢者災害時医療に活用いただくため、試作版ではあるがいち早く学会ホームページを通して公開した。当ガイドラインの作成者の一人であり、日本老年医学会として被災地に赴いた東京大学大学院医学系研究科・加齢医学講座 飯島勝矢氏からの寄稿文を紹介する。【本ガイドラインおよび一般向けマニュアル作成にあたっての経緯】私自身は日本老年医学会の代議員であると同時に、この『高齢者災害時医療ガイドライン』作成の研究班の一員でもあり、そして、急遽立ち上げた「日本老年医学会 東北関東大震災対策本部」の中心として動いております。本国(日本)は地震、台風、津波などの様々な災害が多い国であります。その災害時において、「被災高齢者」に対する医療は非常に重要であると常日頃から考えております。特に避難所での生活に入らざるを得なかった高齢者の方々は、生活環境が一変し多くの精神的・身体的ストレスを受けます。さらに、もともとかかりつけていた慢性疾患(高血圧,糖尿病,脳心疾患なども含めて)の管理を継続しづらくなってしまいます。さらに、家屋倒壊や津波などによる直接の死亡だけではなく、避難所にどうにか収容されたにもかかわらずさまざまな疾患が発症し、最終的には亡くなってしまう、いわゆる『震災関連死』も高齢者では無視できません。実際、今回の東日本大震災においても、避難所にいる高齢女性が心筋梗塞によって搬送先の病院で亡くなってしまったなど、同様の現象が起きております。これからは被災高齢者において、認知機能やメンタル管理も含めて、慢性的な管理の重要性が問われていると考えております。すでに厚生労働省・厚生労働科学研究費補助金を受け「災害時高齢者医療の初期対応と救急搬送基準に関するガイドライン作成研究班を立ち上げ、平成23年度内完成を目標に作業を進めておりましたが、今回の東日本大震災発生により被災高齢者の方々に対する医療現場の厳しい現状が数多く報告されているため、本ガイドライン作成研究班および日本老年医学会は「高齢者災害時医療ガイドライン」および「一般救護者用・災害時高齢者医療マニュアル」を被災地の高齢者医療の現場で一刻も早く役立てていただきたく、現段階では試作版ではありますが、公表に踏み切ることと致しました。また、私自身がすでに日本老年医学会の代表としてとして、(短い時間ではありますが)福島県の相馬市にある避難所にて医療支援を行ってきました。その時に、お一人お一人の高齢被災者を診察しながら、この一般救護者向けのマニュアルを1冊ずつ手渡し、今後も続くであろう避難所生活において活用して頂くよう配布してきました。(相馬市避難所医療支援の様子はこちらから)『高齢者災害時医療ガイドライン』と『一般救護者用・災害時高齢者医療マニュアル』を日本老年医学会ホームページ上に掲載致します。少しでも現在行われている被災地での高齢者災害時医療の一助なって頂ければ幸いです。また、一般救護者向けマニュアルを、今後、各避難所に数多く配布できればと考え、現在準備中でございます。リンク 日本老年医学会ホームページhttp://www.jpn-geriat-soc.or.jp/ ●医療者向け『高齢者災害時医療ガイドライン』一括ダウンロード 全329頁 (PDF:10.3MB)表紙・前付・目次 (PDF:68KB)I :災害発生時の経時的な医療需要予測・評価 (PDF:545KB)II:避難所における高齢者急性期疾患発症と初期対応,搬送基準 (PDF:221KB)III:避難所における高齢者慢性期疾患発症と対応,搬送基準 (PDF:1.75MB)IV:災害現場,避難所,仮設住宅における高齢者の主要症候と初期対応法 (PDF:1.84MB)V:自治体の初期対応と福祉避難所設営 (PDF:246KB)VI:自治体他の医薬品,医療機材の備蓄 (PDF:220KB)VII:高齢者家屋の防災処置 (PDF:103KB)VIII:高齢者の災害時緊急持ちだし用品 (PDF:88KB)IX:様式集(PDF:5.39MB)X:過去の災害における高齢者医療出動の内容(65歳以上の高齢者を中心に) (PDF:666KB) ●一般救護者向け「一般救護者用・災害時高齢者医療マニュアル」(試作版)(全25頁)(PDF:1.94MB)(ケアネット 細田 雅之)

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震災時の抗がん剤治療に指標を

今回の震災にあたり、時間の経過とともに、急性期から亜急性期・慢性期に対する医療の問題がクローズアップされてきている。がん治療も生存期間の延長により慢性期医療の側面が濃くなっており、例外ではない。なかでも、抗がん剤治療については術後補助療法、再発転移治療ともに医薬品の流通が良好ではない被災地では大きな問題を抱えている。このような状況のなか解決策はあるのか、がん薬物療法のスペシャリストがん研有明病院化学療法科の畠清彦氏に聞いた。 Q. 被災地での抗がん剤治療に関する懸念がでてきているようですが? A. 現在は、当院でも抗がん剤の流通が良好な状態であるとはいえません。被災地ではなおさら条件が厳しいと思います。がん患者さんへの抗がん剤の投薬については、私たちが想像する以上に多くの問題を被災地では抱えていると思います。治療がままならないとはいえ、患者さんを放っておくわけにはいかず、お悩みの先生も大勢いらっしゃると思います。また、治療途中の病院がなくなってしまい途方にくれている患者さんも数多くいらっしゃることと思います。… 全文はこちらhttp://www.carenet.com/oncology/keyword/12/ ※畠清彦氏作「震災時の抗がん剤治療」も上記からダウンロード可能

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看護師、助産師などによる人工妊娠中絶は安全に実施可能:ネパールの調査

適切な研修を受け国家資格を持つ看護師や助産師などの非医師医療者は、高度な技術が不要な、薬剤を用いた人工妊娠中絶処置を医師がいない状況下で安全に実施可能なことが、世界保健機構(WHO)リプロダクティブ・ヘルス部門のI K Warriner氏らがネパールで実施した調査で示された。毎年、世界で2億1,000万人の女性が妊娠するが、約5人に1人は出産に至らず、そのうち約2,200万人が危険な状態で妊娠を中断しており、そのほとんど(98%)が開発途上国で起きているという。看護師や助産師が、医師がいない状況下でも安全に人工妊娠中絶処置を実施できれば、このような危険は回避可能になると期待されている。Lancet誌2011年4月2日号(2011年3月31日号)掲載の報告。医師、非医師医療者による人工妊娠中絶処置の同等性を検証研究グループは、ネパールにおいて、国家資格を持つ看護師や助産師などの非医師医療者による人工妊娠中絶処置の安全性と有効性について、医師が行う場合との同等性を検証する無作為化対照比較試験を行った。ネパールの5つの地域病院から、妊娠9週(63日)以内で、病院までの所要時間が90分以内の場所に居住する妊婦が登録された。これらの妊婦が、医師(14人、平均年齢42.4歳、女性3人、診療経験14.1年)あるいは非医師医療者(11人、平均年齢41.9歳、全員女性、診療経験21.8年)による人工妊娠中絶処置を受ける群に無作為に割り付けられた。中絶処置は、mifepristone 200mgを経口投与し、2日後にミソプロストール800μgを経膣的に投与した。その後、10~14日間のフォローアップを実施した。主要評価項目は、30日以内に手動真空吸引法を施行せずに達成された中絶成功率とした。結果は成功、不完全、不成功(妊娠継続)に分類した。中絶成功率:医師群96.1% vs. 非医師医療者群97.3%、不成功率:1% vs. 0%登録された1,295人のうち1,077人(医師群535人、非医師医療者群542人)が無作為割り付けの対象となり、1,032人(514人、518人)で解析が可能であった。中絶成功率は、医師群が96.1%(494/514人)、非医師医療者群は97.3%(504/518人)であった。中絶成功のリスク差は1.24%(95%信頼区間:-0.53~3.02)であり、事前に定義された同等性の範囲(-5~5%)内であった。中絶不成功率は医師群が1%(5/514人)、非医師医療者群は0%(0/518人)であった。重篤な合併症は両群とも認めなかった。著者は、「妊娠9週以内の妊婦に対する医師あるいは非医師医療者が行う人工妊娠中絶処置の安全性および有効性は同等であった。適切な研修を受けて国家資格を持つ非医師医療者は、高度な技術を要しない人工妊娠中絶処置を、医師がいない状況下で安全に実施可能である」と結論している。(菅野守:医学ライター)

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