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各抗うつ薬のセロトニン再取り込み阻害作用の違いは:京都大学

 臨床使用される抗うつ薬の大半は、シナプス間隙でのモノアミン濃度を急激に上昇させるが、その治療効果のために数週間の投与を必要とする。このように効果が遅発性なのは、セロトニン作動性神経における神経適応変化が緩徐なためと考えられている。京都大学大学院薬学研究科の永安一樹氏らは、抗うつ薬慢性処置のセロトニン遊離への影響について、ラットの縫線核脳切片培養系を用いて調べた。The International Journal of Neuropsychopharmacology誌オンライン版2013年8月7日号の掲載報告。 著者らは先の研究において、多量のセロトニン作動性神経を含むラット縫線核脳切片培養系に、選択的セロトニン(5-HT)再取り込み阻害薬(シタロプラム、フルオキセチン、パロキセチン)を持続的に曝露すると、セロトニンの開口放出の増大が生じることを報告した。そこで今回、まだ明らかになっていない他の抗うつ薬における同様の作用について、2つの三環系抗うつ薬(イミプラミン、デシプラミン)、1つの四環系抗抑うつ薬(ミアンセリン)、3つのセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(ミルナシプラン、デュロキセチン、ベンラファキシン)、1つのノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬(ミルタザピン)について検討した。 主な結果は以下のとおり。・9つの抗うつ薬のうち7つについて、0.1~100μmの持続的曝露により、細胞外セロトニン濃度の上昇が認められた。・その作用強度の順位は、ミルナシプラン>デュロキセチン>シタロプラム>ベンラファキシン>イミプラミン>フルオキセチン>デシプラミンであった。・ミルタザピン、ミアンセリンは少しも上昇しなかった。・持続的曝露による作用増強が最も大きかったミルナシプランは、α1-アドレナリン受容体遮断薬(ベノキサチアン)によって部分的に減弱された。一方、デュロキセチン、ベンラファキシン、シタロプラムの伝達増大は影響を受けなかった。・以上の結果から、5-HTトランスポーターの阻害が、セロトニン遊離増強には必要であることが示唆された。また、ミルナシプランによる増強は、α1-アドレナリン受容体の活性化を伴うことが明らかになった。関連医療ニュース 抗うつ薬による治療は適切に行われているのか?:京都大学 大うつ病性障害の若者へのSSRI、本当に投与すべきでないのか? 抗うつ薬を使いこなす! 種類、性、年齢を考慮

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慢性C型肝炎、経口薬のみの併用療法に現実味/NEJM

 C型肝炎ウイルス(HCV)の慢性感染に対し、インターフェロンを用いない経口薬だけの併用療法の有効性に関する報告がNEJM誌2013年8月15日号に発表された。ドイツ・ヨハン・ヴォルフガング・ゲーテ大学メディカルセンターのStefan Zeuzem氏らが行った、新規開発中の2剤のC型肝炎治療薬、ファルダプレビル(プロテアーゼ阻害薬)とデレオブビル(非ヌクレオシド系ポリメラーゼ阻害薬)に関する第2b相無作為化非盲検試験の結果で、治療終了後12週時点の持続性ウイルス学的著効(SVR)の達成は39~69%であったという。検討では2剤併用のほか、インターフェロンとの併用にも用いられる抗肝炎ウイルス薬リバビリン(商品名:コペガスほか)を組み合わせたレジメンの検討も行われ、3剤併用療法のほうがSVR達成が高率だったことも示された。経口薬のみの併用療法5群について検討 試験は、ヨーロッパとオーストラリア、ニュージーランドの48施設から被験者を登録して行われた。被験者は、HCV遺伝子1型に感染する未治療の患者で、肝硬変(Metavir分類ステージF4)を有する患者も対象に含まれた。 469例がスクリーニングを受け、362例が次の5群に無作為に割り付けられた。(1)ファルダプレビル120mg 1日1回+デレオブビル600mg1日3回+リバビリンの併用を16週(TID 16W群)、(2)同28週(TID 28W群)、(3)同40週(TID 40週群)、(4)ファルダプレビル120mg 1日1回+デレオブビル600mg1日2回+リバビリンの併用を28週(BID 28W群)、そして(5)ファルダプレビル120mg 1日1回+デレオブビル600mg1日3回でリバビリン併用なしの28週(TID 28W-NR群)であった。 主要エンドポイントは、各群の治療終了後12週時点のSVRだった。3剤併用28週投与のSVRが最も高く69%を達成 結果、TID 16W群59%、TID 28W群59%、TID 40週群52%、BID 28W群69%の達成率を示した。リバビリンを併用しなかったTID 28W-NR群は39%であった。 リバビリンを併用した治療群については、投与量の違いや治療期間の違いによる、治療後12週時点のSVRの達成に有意差はなかった(例:TID 16W群vs. TID 28W群のp=0.86、BID 28W群vs. TID 28W群のp=0.15)。 一方で、TID 28W群のSVRは、リバビリンを併用しなかったTID 28W-NR群よりも有意に高率だった(p=0.03)。 遺伝子型の違いでみると、1b型感染患者56~84%だったのに対して1a型感染患者11~47%であり、IL28B CCを有する患者58~84%に対しCCを有さない患者は33~64%だった。 なお有害事象は、発疹、光線過敏症、悪心、嘔吐、下痢の頻度が高かった。 これら結果を踏まえて著者は、HCV遺伝子1型への経口薬のみの併用療法は有効であり、「リバビリンが経口薬のみの治療に必要であることが判明した。今回の検討では、BID28Wレジメン(ファルダプレビル+デレオブビル+リバビリンを28週)がそのほかのレジメンよりも有効性、安全性プロファイルが良好であった」とまとめている。

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大うつ病患者のGERD有病率は高い

 大うつ病(MDD)患者における胃食道逆流症(GERD)の有病率は、健常人と比較して有意に高いことが台中ベテランズ総合病院のPo-Han Chou氏らの研究により明らかになった。精神科医は大うつ病患者を診る際、日常診療において、胸焼けや嚥下障害など、逆流性食道炎の症状がないか注意を払い、症状を認めた場合は専門医に相談すべきである。Psychosomatics誌オンライン版2013年8月13日号の報告。 GERDは、精神疾患の患者において一般的な疾患である。本研究では、GERD有病率とリスクを調査するために、台湾の国民健康保険の研究データベースを用いて横断的研究を行った。 調査対象は2005年にMDDと診断された4,790人(MDD群)と健常人72万8,749人(対照群)。GERD有病率は、カイ2乗検定を用いて、年齢、性別、所得、居住地域、他疾患の合併(糖尿病、高血圧症、腎疾患、高脂血症、虚血性心疾患などの治療中)ごとに比較した。また、GERDとMDDとの関連は、多変量ロジスティック回帰モデルを用いて分析した。 主な結果は以下のとおり。 ・GERDの年間有病率は、MDD群で3.75%、対照群で1.05%であった。・MDD群のGERDの有病率は、すべての年齢、性別、保険金額、居住地域、都市在住サブグループにおいて、対照群よりも有意に高かった(すべてp<0.001)。・GERDの増加率は、対照群のそれと比較し、MDD群で有意に高かった(オッズ比:3.16、95%CI:2.71~3.68、p<0.001)。・以上の結果より、MDD患者のGERD有病率は健常人と比較して有意に高いことが明らかとなった。

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国内初、乾癬治療の配合外用剤を承認申請

 レオ ファーマは23日、乾癬治療剤として、活性型ビタミンD3であるカルシポトリオールと副腎皮質ホルモン剤(以下、ステロイド)であるベタメタゾンジプロピオン酸エステルの配合外用剤の承認申請を行ったと発表した。 今回の申請は、主に日本における安全性試験ならびに尋常性乾癬患者を対象とした第III相試験の結果に基づいて同社が行ったもの。 乾癬は慢性かつ難治性の皮膚疾患で、日本における有病率は1,000人中1~2人と報告がある。乾癬の治療法には活性型ビタミンD3やステロイドなどの外用療法、光線療法、内服療法があり、近年は生物学的製剤による治療法が重症例に提供されるようになった。しかし、患者の大半を占める軽症から中等症に対しては、従来より活性型ビタミンD3やステロイドなどの外用剤による治療が主として行われており、単剤のみならず、多くの両剤併用、混合調製がされており、乾癬治療に用いられる外用剤には、より高い有用性ならびに投与の簡便性が求められているという。 今回申請した配合外用剤は、上記の課題を解決すべく開発したもので、2001年に尋常性乾癬に対する外用剤としてデンマークで上市されて以来、米国を含め世界97ヵ国で承認、販売されている薬剤で、尋常性乾癬治療の第一選択薬として世界的に汎用されているものである。日本では初めての活性型ビタミンD3とステロイドの配合外用剤(1日1回塗布)になる。 詳細はプレスリリースへhttp://www.leo-pharma.jp/ホーム/プレスリリース.aspx

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手根管症候群にHLTパッチが有用

 手根管症候群(CTS)は、疼痛、感覚異常、筋力低下などを特徴とする正中神経の圧迫性神経障害である。米国・International Clinical Research Institute社のSrinivas Nalamachu氏らが実施したパイロット試験の結果、発熱成分、リドカイン、テトラカインを組み合わせた局所貼付剤(HLTパッチ)がCTSの疼痛緩和に有用であることを報告した。著者は、「HLTパッチは、CTSによる疼痛をターゲットとした標準的な非外科的治療となる可能性がある」と述べている。Pain Practice誌オンライン版2013年8月1日号の掲載報告。 検討は非盲検試験にて実施された。対象は、電気生理学的検査により軽度から中等度と診断された片側CTSの成人患者20例(平均年齢44±12歳)。 被験者は朝および夜の1日2回(12時間ごと)、手のひら側の前腕と手首の境界付近にHLTパッチ1個を2時間貼付した。 ベースライン時および2週間の試験期間中、疼痛強度ならびに疼痛による日常生活・仕事・睡眠の障害度について、0~10の数値的評価スケールを用い評価した。 主な結果は以下のとおり。・試験を完遂したのは15例で、平均疼痛スコアはベースライン時5.1±1.5から試験終了時2.5±1.6に低下した(per protocol解析、p<0.001)。・患者の3分の2は、臨床的に有意な疼痛改善(平均疼痛スコアがベースラインから30%減少)が得られた。患者の40%は、3日目までにこの閾値に達した。・日常生活・仕事・睡眠の障害度についても、同様の結果であった。・忍容性は良好であった。~進化するnon cancer pain治療を考える~ 「慢性疼痛診療プラクティス」連載中!・脊椎疾患にみる慢性疼痛 脊髄障害性疼痛/Pain Drawingを治療に応用する・無視できない慢性腰痛の心理社会的要因…「BS-POP」とは?・「天気痛」とは?低気圧が来ると痛くなる…それ、患者さんの思い込みではないかも!?

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アイアムサム【知能】 

みなさんは、職場で「なんでギスギスしちゃうの?」と思ったことはありませんか?特に、医療の現場でギスギスしてコミュニケーションがうまくいっていないと、取り返しのつかないことになることがありえます。ギスギスするのを、どう考えたらよいのでしょうか?そして、どうしたらよいのでしょうか?これらの疑問を、今回、2001年の映画「アイアムサム」を通して、知能という視点で、みなさんといっしょに考えていきたいと思います。知能―ものごとを理解し判断する能力主人公のサムは、コーヒーショップで働きながら、1人娘のルーシーを育てています。しかし、彼は、一目でとても幼く見えます。彼の目付きや顔付きは締まってはいません。手付きや立ち振る舞いは機敏ではありません。話すと、のんびりとしていて、その語彙(ごい)は決して豊かではなく、まとまりよく伝わらないことが多いです。サムがこのように幼く見える理由は、サムの知能が7歳程度だからでした。知能とは、ものごとを理解し判断するための知的な能力で、生きていくために必要なものです。この知的な能力の目安として、実年齢に対して、精神的な年齢(精神年齢)があります。これが、知能テストによってはじき出される知能指数(IQ, intellectual quotient)とつながります。知能指数、精神年齢、支援のための診断を表1に示します。この表からサムは、中等度知的障害という診断が当てはまります。知的障害は行政で使われる用語で、学問的には精神遅滞という用語が使われています。サムには知的な制限(障害)があります。しかも残念なことに、ルーシーの母親はルーシーを生んですぐに出て行ってしまいました。そんな中、彼は障害者枠で仕事に就き、一生懸命に働きながら、男手一つで育てようとします。そして幸運にも、隣人のアニーや仲間たちが助けてくれたのでした。こうして、彼は、できることに限りがありながらも、周りに支えられながら、ルーシーに溢れるばかりの純粋な愛情を注いでいます。そして、真っ正直に素朴にそして幸せに暮らしてきました。表1 知能指数、精神年齢、診断知能指数精神年齢診断85≦IQ成人正常知能70≦IQ<85中学生境界知能60≦IQ<70高学年の小学生軽度知的障害50≦IQ<60中学年の小学生35≦IQ<50低学年の小学生中等度知的障害20≦IQ<35幼稚園児重度知的障害IQ<20乳幼児最重度知的障害障害を持つ家族の存在―人の弱さや心の痛みを鋭く感じ取る優しさを育むルーシーは、物心がつくと、父親の障害に気付きます。そして、「パパは、ほかのパパとは違う」「でもいいの、私は幸せ」「だってほかのパパは遊んでくれない」と彼女の方が大人びた考え方をするようになっていきます。小学校に入学してすぐの授業参観日、ルーシーが蝶の発表をします。暗記していた内容を一部忘れて困った瞬間、サムは「たくさんあって、覚え切れないよね」と全員の前で話しかけ、温かく見守ります。一方、次のクラスメートのコニーのクモの発表では、彼が言い間違えたら、彼の父親は厳しい表情ですかさず全員の前で訂正し、「どうした!勉強しただろ!」と叱りつけます。すると、コニーは「父さんが書いたんだろ」「僕はハムシをやりたかったのに」と悲しげな表情で言い返します。このシーンで、ルーシーとコニーの親子関係がとても対照的であることが分かります。サムは、ルーシーに対して、決してけなさずに共感し、彼なりにフォローする姿勢を持っています。これは、周りから助けられていることで、相手を感謝し尊敬する姿勢を常に持っているサムならではのものです。サムは、ルーシーをも、自分の分身としてではなく、尊敬する一人の人間として見ています。一方、コニーの父親はコニーを自分の分身、もっと言えば所有物として完全に支配し、自分の思い通りのやり方を押し付けていることが分かります。サムの無条件の愛情によって、そして障害のあるサムそのものの存在によって、ルーシーには人の弱さや心の痛みを鋭く感じ取る優しさ(共感性)が育まれていることが分かります。一方、コニーの父親は「私の言う通りにするなら愛する」という条件付きの愛情を押し付けることによって、コニーが人との勝ち負け(優劣)ばかりを気にする自己中心的な性格に歪んでいくおそれも描かれています。表2 親としての接し方の違いサムコナーの父親愛情は?無条件、共感的(尊敬)条件付き、支配的子どもに育まれるのは?人の弱さや心の痛みを鋭く感じ取る優しさ(共感性)勝ち負け(優劣)ばかりを気にする自己中心的な考え方家族の障害による葛藤―揺らぐ自尊心しかし、ルーシーが7歳の誕生日を迎える頃に、彼女の心は揺れていきます。彼女は勉強ができるのに、勉強をすることを拒み始めたのです。その理由は、自分の知能が父親のサムを上回ってしまう日が近いことに気付き、自分をサムに合わせようとしていたからでした。ルーシーが描いた「家族との時間」というテーマの絵が全てを物語っています。その絵には、ルーシーが自分より小さいサムを引っ張っていたのでした。また、コニーは、サムの違和感に気付き、「君の父さんは障害があるんじゃない?」「君も?」とからかいます。この時に初めてルーシーは他人の目に目覚めるのです。その後、ハロウィーンパーティで、大の大人のサムが小学1年生のクラスメートたち以上に無邪気にはしゃぎます。その様子にクラスメートたちが笑っている状況をルーシーは恥ずかしく思います。周りから父親がどう思われているかという葛藤によって、ルーシーの自尊心は危うくなっているのでした。そして「本当の親じゃない」とコニーに行ってしまうのでした。その後、ルーシーのサプライズ誕生パーティーを企画したサムは、コニー親子を含め、多くのクラスメートたちを家に呼びます。ところが、ルーシーが現れる直前に、サムをバカにしていたコニーは、「バレバレだよ」と白けたことを言います。サムが「そんなこと言うなよ」「隠れてよ」とコニーに触れたところ、「息子を離せ!」と過剰反応したコニーの父親がサムを突き飛ばします。その瞬間に、ルーシーが「あら、パパ!」と言って現れます。さらに追い打ちをかけたのは、コニーが「何がパパだよ、『本当の親じゃない』って言ったくせに」と爆弾発言をします。とんでもないサプライズになってしまったのでした。この様子から、コニーの父親は、その後にコニーをたしなめることはしないでしょう。このシーンは、ルーシーよりもコニーに将来的な危うさを感じさせます。能力の限界―新しいことに弱いサムは、新しい人間関係において、自己主張がうまくできません。パーティーでコニーの父親に突き飛ばされたのに、逆に、コニーへの暴行未遂があったとされてしまいます。また、ある時は、誤解から売春未遂で警察に誤認逮捕されています。ルーシーにせがまれて、サムはルーシーをいつもとは違うファミリーレストランに連れて行った時のことです。それは、同じ生活パターンを繰り返すことで安心感を得ていたサムにとっては、かなりの緊張を伴うものでした。注文したいメニューがないことでパニックになってしまい、テーブルを叩き、「ボブ(レストランチェーンのマスコット)に聞いて!」と言い、ウェイトレスを困らせています。そして、「お客様は神様だ」と連呼して、止まりません(常同症)。サムの職場の店長の寛大な配慮から、サムがコーヒーを運ぶ係から、作る係に昇進した時のことです。彼はマニュアル通りにコーヒーを作ることに問題はなく、順調にこなしていました。ところが、たくさんの注文を同時に受けると、パニックになります。そして、急いで作ろうとして失敗してしまいます。このように、サムの能力の限界は、特に、新しい所へ行く時、新しい仕事をする時、そして新しい人間関係を築く時にはっきりと表れます。つまり、サムは、新しいことへの対応や臨機応変な対応に限界があります。相手の心を読みにくい、物事の先を読みにくい、そして、自分自身の心の動きも読みにくいため、客観的にものごとを考えること(メタ認知)がうまくいかないのです。知能の多様性―頭の回転の速い人も遅い人もいるサムの知的な限界がルーシーに与える影響を心配され、ついに児童福祉局が動き出します。そして、ルーシーはサムから引き離され、裁判が始まります。その時にサムの弁護士として登場するのがリタです。彼女は、とても優秀で努力家で、社会的にも成功し、経済的に恵まれています。しかし、彼女は、金儲けや名声のことばかりを考え、家庭を顧みず、夫に浮気され、幼い息子から嫌われています。サムとは真反対の境遇です。その彼女が、同僚に見栄を張って、サムに無料奉仕で弁護を引き受けたのです。法廷では、検事が登場します。彼は、「子どもを守る」という彼なりの正義感があるようですが、サムを排除することに一生懸命になってしまいます。この検事とリタのやり取りがすさまじく描かれています。両者とも、お互いの言い分や証人の荒探しをして、作戦の読み合いをする知能戦を展開します。その目まぐるしさや冷酷さが、サムの視点で描かれています。このように、知的に制限のあるサムと知的に高いリタとのギャップが際立ちます。私たちは、足の速い人も遅い人もいるのと同じように、頭の回転の速い人も遅い人もいることが分かります。これは、人の多様性であり、個性とも言えます。知能指数(IQ)とは?もともと知能の程度を評価する知能テストは、20世紀に軍事目的で発展してきました。軍人の知的な能力をより効率的に把握していれば、戦闘をより有利に進めることができると考えられたからです。そして、この知能テストのスタイルは、現在まで、教育、医療、そして企業の就職の現場などに引き継がれています。私たちは、知能指数(IQ)が高いことに憧れてしまいがちです。IQが高い方が、仕事を早くこなせて、人間関係もうまくいき、世の中を有利に渡ることができると思うからでしょう。しかし、よくよく考えると、IQはあくまで知能テストによってはじきだされた1つの目安の数値であり、それがそのまま社会に順応する能力(適応度)の高さを表しているわけではないということです。IQが高いとは、知能テストという「ゲーム」がとても得意であるということに過ぎません。ちょうど、受験英語で偏差値が高いからと言って、実際の英語でのコミュニケーションの能力が高いわけではないのと同じです。もっと言えば、IQを高める手っ取り早い方法は、受験英語と同じように、知能テストを繰り返しやって問題慣れすることです。しかし、これで社会への適応度はいっさい高まりません。実際に、IQの数値と企業での勤務成績との相関関係は低いようです。ここで言えることは、IQは、あくまで知的な制限のある人への支援のための目安としてのみ活用するべきであるということです。知能とは?それではそもそも知能とは、何なのでしょうか? 知能とはものごとを理解し判断するための知的な能力であるとさきほど説明しました。しかし、その具体的な要素や重み付けは、時代、場所、文化、職場によって変わってきます。例えば、知能を伸ばすための英才教育として、フラッシュカードという記憶力を高めるトレーニングが注目されてきました。もちろん記憶力は高いに越したことはありませんが、問題は、記憶力を高めることばかりにエネルギーを注ぐことによって、想像力や発想力が疎かになってしまうということです。もはや、コンピュータが普及しているこれからの時代に求められる知的な能力は、記憶力ではなく、想像力や発想力です。記憶力はある程度あれば、あとはスマートフォンで検索すれば済むことです。これは、計算力に関しても同じです。さらには、語学力も、自動翻訳機の技術の進歩によって、あまりもてはやされなくなっていくでしょう。また、これまで求められてきた能力は製造業などでの緻密さですが、これからもっと求められていく能力はサービス業などでのコミュニケーション能力です。このように、知能に求められる価値観は、その時の、そしてその場所の社会によって、揺れ動いており、絶対的なものではないと言えます。知能の多義性―知能にはいろいろな意味や広がりがある知的な制限のあるサムならではの個性によって、リタは知的に高いがために忘れていた大事なことに気付かされます。それは、自分のためにではなく、息子のために大切なことは何かという視点です。裁判が進んでいく中、リタは、サムとルーシーのお互いを思いやる関係を自分と息子の関係に重ね合わせるようになったていたのです。リタはサムに「私の方があなたに救われた」と打ち明けます。「負けを知らない女」として日常的に嘘を平気でつく自分本位な雰囲気はもはやありません。このストーリーで最も成長したのは、リタなのでした。また、法廷に駆け付けた隣人のアニーの言葉が印象的です。「ルーシーはサムが親なのに賢いのではありません」「サムが親だから賢いのです」「引き離されると、彼女の心の中にぽっかりと穴が空いてしまう」「それが心配です」と言い、ルーシーの視点に立ち、ルーシーにとって望ましいのは何かを伝えます。ルーシーを引き取って養母になろうとしているランディの心の変化にも注目しましょう。最初、彼女はサムに対して「この子をどうやってでも守る」と敵意をむき出しにしていました。その後に、サムがランディに「僕には助けが必要だ」「ルーシーにはママが必要だ」と素直に言います。サムの純粋さに触れて、ランディは、共同親権という形で「ルーシーにいつでも会っていいわよ」とサムに申し出るのでした。これが、ルーシーにとって最も望ましい落としどころとなり、ハッピーエンドを迎えます。知能は、広い意味では人間的な賢さです。つまり、賢さという視点で見るなら、知能は、単に相手と敵対して有利になるための情報処理能力ではありません。逆に、敵対的にならないように、感情をコントロールする情動処理能力でもあります。これは、心の知能指数(EQ, emotional quotient)と呼ばれてきました。また、相手を配慮(共感)し、相手の視点に立つ能力(メタ認知)でもあります。そして、お互いの妥協点を探り、自分も相手も共存するために折り合いを付ける能力(社会性)でもあります。このように、知能にはいろいろな意味や広がりがあるのです。そして、この広い意味での知能は、社会的知能(SQ, social quotient)と呼ばれるようになってきています。表3 社会的知能(SQ)を高めるポイント例相手を知るギスギスしている相手ほど耳を傾ける自分を伝えるギスギスしている相手ほど働きかける場数を踏むギスギスしている状況に前向きになる社会的知能(SQ)を高めるには?―「社会力」これからの時代に求められる知能は、コニー親子やかつてのリタのように、相手と敵対して争うために有利な能力、つまり単なる知能指数(IQ)ではありません。それは、ランディのように、相手と協力してお互いを生かすための能力、社会的知能(SQ)です。それでは、このSQを高めるためには、どうしたらよいでしょうか? 3つのポイントがあります。1つ目は、相手のことをよく知ることです。知ろうと興味を持つ中で、相手とかかわり、相手の視点に立つことができるようになります。さらには、いろいろな人の価値観に触れて、バランス感覚を持つことでもあります。そして、相手の長所と短所を見抜く目を持つことで、より良い折り合いを見つけることにつながっていきます。例えば、ギスギスした時に、その相手を避けたり攻撃したりするのではなく、逆にそんな相手の言い分ほど耳を傾けることです。2つ目は、自分のことをうまく伝えることです。1つ目のいろいろな人を知ることを通して、その比較としての自分自身を俯瞰(ふかん)して見ることができるようになります。それは、自分の長所と短所を見極めることにもなります。その見極めを踏まえて、自分と相手が協力してできることをうまく伝えることです。例えば、ギスギスしている相手ほど、まめに働きかけて、前向きで建設的な話をしていく姿勢を示すことです。3つ目は、かかわり合いの場数を踏むことです。私たちは、いっしょに生きている限り、必ず主張の衝突は起こります。その時が自分のSQを高めるための実践トレーニングであると前向きにとらえることです。この姿勢自体ですでにSQは高まっていると言えます。SQは、IQと同じようにテストの数値によって推し量ろうとする研究もされていますが、むしろ、実践によって体得していくものとらえた方が良いでしょう。そして、SQが高いとは、自分と相手の主張の衝突を乗り越えて仲良くできているという実感そのものであると言えます。SQは、そもそもどちらが高いかと競い合うものではありません。自分と相手(社会)が築き上げていくものです。表4 知能指数(IQ)と社会的知能(SQ)の違い知能指数(IQ)社会的知能(SQ)評価方法知能テスト実践の積み重ね要素記憶力、情報処理能力→学力IQの要素に加えて、相手との折り合いをつけるための共感性、想像力、発想力→「社会力」モデルコニーの父親かつてのリタランディその後のリタ学力だけではなく「社会力」を映画では、サムの存在によって、ルーシーの社会的知能(SQ)はとても高まっていることが分かります。しかし、現在の日本の教育事情はどうでしょうか?ルーシーのクラスメートのコニーのように、学力という名の記憶力や情報処理能力ばかりに重きが置かれてしまっています。欧米先進国と違い、日本ではアルバイトが禁止とされている学校がほとんどです。勉強さえしていればよいという価値観が強まり、社会参加を通して人とかかわっていく経験がなくなっています。また、出生率の低下から、兄弟がほとんどいない一人っ子の家庭が多くなっています。その結果、兄弟間の葛藤がなく、人とのかかわりにおいて、押し引きのバランス感覚が伸びず、自分本位の発想をしてしまいがちになっています。それが、現在の引きこもりの社会現象を起こしている原因の1つとなっているように思われます。このように、SQが高まらない学校環境や家庭環境が危ぶまれます。SQを高めるためには、例えば学校教育の中でも、アルバイトやボランティアを推奨する仕組みが望まれます。また、家庭においては、地域のコミュニティでの集まりやイベントを通して、世代をまたいだより多くのかかわりが望まれます。IQを学力に近いものとすると、SQは「いっしょ(社会)に生きていく力」、つまり「社会力」とも言えます。これからのコミュニケーション重視の時代は、学力だけでなく、この「社会力」もとても必要になってきます。特に、人を相手とする医療関係者の私たちは、もちろん学力も必要ですが、バランスよくこの「社会力」を日々高めていく必要があるということです。なぜ知能は進化したのか?―社会脳原始の時代から現在まで、人が知能を進化させることができたのはなぜでしょうか?それは、過酷な環境を乗り越えるために、人が集団(社会)をつくり、助け合ったからでした。そして、その助け合いのためには、表情、身振り、言葉によって、相手の心を読む能力が進化していったからです(社会脳)。この能力から、自分の置かれた状況の先を読む能力、そして自分自身の心の動きを読む能力も進化していきました。これらは、ものごとに距離を置いて客観的にとらえる心の働き(メタ認知)でもあります。現在、この進化した知能が、知能指数(IQ)として相手と敵対して争うために有利な能力として使われすぎています。私たちは、この知能の進化の原点に立ち戻り、社会的知能(SQ)や「社会力」という新しい視点を通して、自分の社会へのかかわり方や社会のあり方そのものを見つめ直すことができるのではないでしょうか。1)ダニエル・ゴールマン:SQ 生き方の知能指数、日本経済新聞出版社、20072)村上宣寛:IQってホントは何なんだ?、日経BP社、20073)村井俊哉:社会化した脳、エクスナレッジ、2007

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杉本真樹氏「人を動かすプレゼンテーション」

診断画像の3D化や3Dプリンターによる生体質感造形などの研究開発を通じ、医療界のプレゼンテーションの新たなアプローチを提唱している神戸大学消化器内科の杉本真樹氏。このたび、杉本氏が著書『医療者・研究者のための人を動かすプレゼンテーション』を出版するのを記念し、7月28日、東京都内にて出版キックオフイベントが開催されました(主催・運営:オルタナジャパン株式会社)。ここでは、本イベントでの杉本氏による「人を動かすプレゼンテーション」をお届けします。杉本真樹氏プロフィール神戸大学大学院医師、医学博士 。帝京大学病院、米国退役軍人局パロアルト病院を経て、現在神戸大学大学院医学研究科特命講師。外科手術研究開発から医療ITシステム、手術ナビゲーション、次世代低侵襲内視鏡手術や手術ロボット、3Dプリンターによる生体質感造形など、最先端医療技術の研究発展に寄与。医療・教育・ビジネスなど多分野にてプレゼンテーションセミナーやコーチングを多数開催。国内外医学学術会議で学会賞を20件受賞(国際学会11件) 。各地のTEDxスピーカーに選出(TEDxOsaka・TiTec・SapporoSalon、FukuokaChange)。IT専門記者100人による「世界を元気にする100人」(2013年)にも選出。著書『ITが医療を変える  現場からの課題解決への提言』(アスキー・メディアワークス)『スマホ、タブレットが変えるIT医療革命』(アスキー・メディアワークス)『医用画像解析アプリOsiriXパーフェクトガイド(エクスナレッジ)『医療現場iPad実践ガイド』(エクスナレッジ)『DVD 3D臨床解剖アトラス CT・MRIとOsiriXで再構成された動画ライブラリー』(メディカ出版)『消化管・肝胆膵ベッドサイドイメージング Mac対応フリーソフトウェアOsiriXでつくる3Dナビゲーション(DVD付)』(へるす出版)※上記プロフィールは掲載時の情報です。

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改めて問われる、心血管リスクとしての腎結石の意義(コメンテーター:石上 友章 氏)-CLEAR! ジャーナル四天王(126)より-

 腎結石を有する女性に、冠動脈性心疾患(CHD)のリスクが増大することが報告された。Ferraroらの長期にわたる観察研究は、質・量において、従来のコホートを圧倒している。したがって、事実として彼らの定義する腎結石とCHDとが統計的に有意に関連していることは、疑いようがないだろう。 観察研究は、いかに質・量を確保したとしても、因果関係を説明しうる研究ではない。因果関係のない現象が結びついてしまったり(一種のαエラー)、解釈によっては因果の逆転現象がまかり通る可能性もある。本論文は、あくまで事実として、女性においてのみ、腎結石とCHDとの間に統計的に有意な関係が認められることを報告しているに過ぎない点に、限界がある。 一般的には、関連の密接性、関連の時間性、関連の普遍性、関連の論理性、関連の特異性といった5つの条件を満たしてはじめて因果関係があると結論できるとされている。本論文のように性差がある場合、性差に由来する特異的な因果関係を正当化する明白な論理性がなければ、事実を真実として了解することはできない。しかしながら、仮に腎結石と冠動脈性心疾患との間に共通する病的な基盤、生物学的な基盤があった場合は、因果関係はなくとも、少なからず関連性はあるといえる。果たして、腎結石とCHDとの間にはどのような関係があるのか? 本論文では、腎結石の有無に関して、HPFS cohort、NHS I cohort、NHS II cohortに対して、それぞれ1986年、1992年、1991年より2年毎の調査で判定している。血尿乃至、腹痛を契機に診断された腎結石を自己申告した参加者の97%に対して、2次的に質問紙法で確認している。CHDに関する1次アウトカムは、致死的、非致死的心筋梗塞、致死的冠疾患、冠血行再建術の複合アウトカムを採用している。致死的イベントに関しては、公的死亡統計および参加者の近親者による報告、郵便システムによって判定している。致死的冠疾患については、病院での検査、剖検記録、担当医によるレビューによって判定している。単なる死亡統計による判定だけではなく、病院での記録や、剖検記録にまでさかのぼってアウトカムの判定をおこなっている点は評価できる。 腎結石とCHDとを結びつける生物学的基盤は、栄養の問題や、副甲状腺ホルモン、あるいはオステオポンチンといった内分泌因子が関与している可能性が指摘されているが、本論文のデータからは明らかにされることはなく、推論の域を出ない。何より、症候性の腎結石に限定している解析なので、症候(とくに痛み)をもたらす閾値に個人差がある以上、全例調査であっても、生物学的に十分な判定ではない可能性がある。無症候性の腎結石や、連続性のある表現型の判定が十分ではないために、名ばかり(nominal)の関連(association)にとどまるのではないかという疑問を払拭することはできない。どれだけ観察数を増やしても、観察研究の限界、すなわち仮説提示にとどまるのが実状ではないだろうか。

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プロバイオティクスはアトピー感作や喘息のリスクを低下させるのか?

 出生前や出生後早期に、プロバイオティクスを投与することは、アトピー感作リスクや総IgEを低下させるが、喘息・喘鳴発症のリスクは低下させないことが、米国マイアミ大学小児科学のNancy Elazab氏らにより報告された。Pediatrics誌オンライン版2013年8月19日号の掲載報告。  プロバイオティクスは小児のアトピーや喘息発症のリスクを低下させる可能性があるとされているが、これまでの臨床試験では、矛盾する結果が出ていたり、試験自体が検出力不足だったりしていた。そこで著者らは、プロバイオティクスが小児のアトピーや喘息・喘鳴の発症に対し、予防効果があるのかを調べるため、無作為化プラセボ対照試験のメタアナリシスを行った。累積リスクの計算にはランダム効果モデルを用いた。プロバイオティクスの効果に影響する潜在的な因子を調べるため、メタ回帰分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・プロバイオティクスの投与は総IgEを有意に低下させた(平均低下値:-7.59 U/mL、95%信頼区間[Cl]:-14.96~-0.22、p=0.044)。・メタ回帰分析では、フォローアップ期間が長いほどIgEの低下がより顕著であることが示された。・出生前投与、出生後投与のいずれにおいても、アトピー感作リスクは有意に低下した。[出生前]皮膚プリックテスト陽性と一般的なアレルゲンに対する特異的IgEの上昇(両方またはどちらか)の相対リスク:0.88、95%CI:0.78~0.99、p=0.035。[出生後]皮膚プリックテスト陽性の相対リスク:0.86、95%CI:0.75~0.98、p=0.027。・好酸性乳酸桿菌(ラクトバチルス・アシドフィルス)の投与は、アトピー感作のリスク上昇と関係していた(p=0.002)。・プロバイオティクスの投与による喘息・喘鳴リスクの有意な減少はみられなかった(相対リスク:0.96、 95%CI:0.85~1.07)。 本研究により、プロバイオティクスの効果はフォローアップ期間と菌種により、大きく変わることがわかった。今後、喘息の抑制に関するプロバイオティクスの試験を行う場合は、注意深く菌種を選定し、より長いフォローアップ期間を考慮すべきである。

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確実な紫外線対策は物的バリアで

 日焼けによる損傷は、悪性黒色腫と関連した最も重要な環境要因だが、スペイン・バルセロナ大学のCristina Carrera氏らは、母斑への紫外線誘発の影響を防御することを目的とした日焼け止め外用の効果について、物的バリアとの比較で検証した。その結果、日焼け止めには物的バリアほど炎症性の紫外線の影響を防御する効果がないことを報告した。JAMA Dermatology誌2013年7月号の掲載報告。 日焼け止め外用と物的バリアを比較した母斑保護についての検討は、病院に通院する患者20人、母斑23例について前向き研究の手法にて行われた。 それぞれの母斑について、半分にSP50の日焼け止めを塗布し、半分は遮断バリアで覆い、紫外線B波(UVB)の単回照射を行った。 主要評価項目は、紫外線照射前と照射7日後の生体検査の結果と、7日時点での組織病理-免疫病理学的検査の結果であった。 主な結果は以下のとおり。・紫外線照射後の臨床的変化が最も大きかったのは、色素沈着、スケーリング、紅斑であった。・ダーモスコピーの所見で変化が最も大きかったのは、小球/斑点、非定型的色素ネットワーク、退縮、点状血管の増加であった。・物的バリアと日焼け止め塗布で保護された部位はいずれも、これらの変化が数度認められた。・母斑のうち、臨床的変化がみられなかったのは30%超(7例)であり、ダーモスコピー所見の変化がみられなかったのは18%(4例)であった。・生体検査で何もみつからなかった場合も、各母斑の日焼け止め塗布部と物的バリア部分の組織病理-免疫病理学的検査の結果は明白に異なっていた。最も顕著であった特徴は、不全角化スケール、表在性メラノーマの数および活性の上昇、ケラチノサイト増殖であった。・両バリア部位の唯一の違いは、日焼け止め塗布部位のほうが色素細胞活性と退縮の特徴がより認められたことであった。・特異的UVB反応の予測について、遺伝的表現型の特徴についてはわからなかった。・以上を踏まえて著者は、「物的バリアと日焼け止め外用はいずれも、部分的だが母斑へのUVB保護効果がある。UVの影響は必ずしも目に見える変化となっては現れず、保護していてもその後に変化が認められる可能性がある。日焼け止めは、UVB炎症への保護効果は、物的バリアと同程度ではなかった」とまとめている。

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SSRI/SNRI治療患者の約7割はアドヒアランス不良

 イタリア・ボローニャ大学のElisabetta Poluzzi氏らは、過去6年間の抗うつ薬処方の傾向と、SSRIまたはSNRIの治療を受ける患者のアドヒアランスについて評価した。その結果、過去6年間で抗うつ薬消費量は20%増えていたこと、SSRI/SNRI治療のアドヒアランスは23.8%であったことなどを報告した。European Journal of Clinical Pharmacology誌オンライン版2013年8月1日号の掲載報告。 Poluzzi氏らは、イタリア北東部に位置するエミリア・ロマーニャ地方における抗うつ薬使用について明らかにすること、またSSRI/SNRI治療を受ける患者のアドヒアランスを評価することを目的とした。同地方衛生局のデータベースで抗うつ薬の処方データ(償還ベース)を検索し、2006~2011年の全消費量から有病率と使用量を割り出した。また、SSRI/SNRI治療を受けていた患者の服薬アドヒアランスを、治療開始から6ヵ月間追跡して評価した。アドヒアランスは、治療期間≧120日間、処方に対する達成≧80%、処方とのギャップ<3ヵ月、の3つの指数で検討した。アドヒアランス不良の決定要因(社会人口統計学的変数、臨床変数など)を特定し、多変量ロジスティック回帰分析にて補正オッズ比(adjOR)と95%信頼区間(CI)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・2006~2011年に、抗うつ薬使用でみた有病率は5%上昇していた(住民1,000人当たり86例から90例に増大)。抗うつ薬の消費量は20%上昇していた(住民1,000人/日当たりの規定1日用量は43例分から51例分に上昇)。・SSRI/SNRI治療例は34万7,615例であった。そのうち良好なアドヒアランスが認められたのは23.8%のみであった。・良好なアドヒアランスは、共存症(adjOR:0.69、95%CI:0.67~0.72)、前年に抗うつ薬治療を繰り返している(同:0.91、0.89~0.92)と関連していた。・パロキセチン(商品名:パキシルほか)の治療を受けていた患者と比べて、デュロキセチン(同:サインバルタ、adjOR:0.58、95%CI:0.55~0.60)、エスシタロプラム(同:レクサプロ、0.64、0.62~0.66)、セルトラリン(同:ジェイゾロフト、0.65、0.64~0.67)の治療を受けていた患者のアドヒアランスは良好であった。・アドヒアランス改善は、より重症な患者で実際に薬物療法のアプローチを必要としている患者で認められるようであった。一方で、抗うつ薬のアドヒアランスの格差は、情報およびスポンサーのバイアスにより一部で起きている可能性があった。・症状の急速な改善あるいは副作用のために服薬を中断しがちな、閾値以下または軽度のうつ病ケースへの抗うつ薬処方は、プライマリ・ケアと精神科専門医との協力関係を改善することで減らせる可能性があった。関連医療ニュース 大うつ病性障害の若者へのSSRI、本当に投与すべきでないのか? 抗うつ薬による治療は適切に行われているのか?:京都大学 日本人のうつ病予防に期待?葉酸の摂取量を増やすべき

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大腸用カプセル内視鏡が承認取得~こわくない、恥ずかしくない大腸検査~

 大腸がん検診で便潜血検査が陽性となり要精密検査とされても、大腸内視鏡検査を受診しない人は4割以上に上る。その理由としては「自覚症状がないから」が最も多いが、「痛くてつらそう」「恥ずかしい」という理由も多いという。こうした状況のなか、2013年7月、ギブン・イメージング株式会社の大腸用カプセル内視鏡「PillCam® COLON 2カプセル内視鏡システム」が、審査期間10ヵ月というスピードで承認された。これにより、大腸内視鏡検査をさまざまな理由で受けられない人たちの精密検査のオプションとして提供されることになった。今後、保険適用が認められれば検査数が大幅に増加することが予想される。   ここでは、8月21日に開催されたギブン・イメージング株式会社主催のプレスセミナーから、大腸がん早期発見における大腸用カプセル内視鏡の可能性と今後の展望についてレポートする。精密検査の受診率アップに期待 わが国では、近年、大腸がんの死亡者数が増大し続けており、女性のがん死亡の原因では第1位である。また、がん罹患率についても、2020年までには男女を合わせた日本人における第1位になると予測されている。しかしながら、わが国の大腸がん検診受診率は2007年で約25%と低い。さらに、受診したとしても、精密検査が必要な人における精密検査受診率は57.9%(2012年日本消化器がん検診学会集計)と4割以上が受診していない。この現状を、日本カプセル内視鏡学会理事長の寺野 彰氏(学校法人獨協学園理事長/獨協医科大学名誉学長)は、大きな問題だと指摘した。 インターネットによるアンケート調査によると、大腸内視鏡検査を受けない理由としては「自覚症状がないから」が最も多いが、「痛くてつらそうだから」「恥ずかしいから」(とくに女性)といった受容性の問題も多い。そこで、低侵襲で受容性が高いカプセル内視鏡が、肉体的・精神的に大腸内視鏡検査ができない人や受診を避けてしまう人、地方で大腸内視鏡検査を受けにくい人などに利用されることによって、精密検査受診率のアップにつながり、ひいては大腸がんの早期発見・早期治療に大きく貢献する、と寺野氏は期待する。読影する医師や技師の教育が急務 一方、寺野氏は、カプセル内視鏡検査では多大な画像を読影する必要があるため、医師と技師との協力が重要と指摘した。また寺野氏は、今後、カプセル内視鏡検査が病院のPRとなることが予想されるため、読影できる医師や技師がいない病院でも検査が行われることを危惧している。そのような状況を避けるため、日本カプセル内視鏡学会では、2012年にカプセル内視鏡認定医制度、2013年にカプセル内視鏡読影支援技師制度を施行し、カプセル内視鏡に関する研究教育を行っているという。 また、読影には1時間程度かかるため、今後普及に伴って、検査・読影する医師や技師が不足することが考えられる。その対策として、PillCam® COLON 2カプセル内視鏡システムの治験を行った田中信治氏(広島大学病院内視鏡診療科教授)は、大腸カプセル内視鏡読影センターを整備し、一線を離れて家庭に入っている女性医師などの潜在能力を有効活用していくことが重要で、役割分担によって大腸がん診療の効率化が可能である、と今後の展望を語った。■「PillCam® COLON 2カプセル内視鏡システム」の承認された使用目的・適用対象【使用目的】本品は、大腸内視鏡検査を必要とするが、当該検査が施行困難な場合に、大腸疾患の診断を行うために、大腸粘膜の撮像を行い、画像を提供することを目的とする。【適用対象(患者)】1.大腸疾患が既知又は疑われる患者に使用すること。2.次の患者への使用には注意すること。[安全性が確認されていないため] -妊婦 -18歳未満の患者 -重篤な消化管憩室疾患の患者

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僧帽弁逆流、早期手術が長期生存率を有意に増大/JAMA

 僧帽弁尖動揺による僧帽弁逆流を呈する慢性僧帽弁閉鎖不全症の患者に対し、早期に僧帽弁手術を実施する治療戦略は初期薬物療法による経過観察戦略と比較して、長期生存率の増大および心不全リスクの低下に関連していることが示された。米国・メイヨークリニック医科大学のRakesh M. Suri氏らが、1,000例を超える多施設共同レジストリデータの分析の結果、報告した。クラスIトリガー(心不全または左室機能不全)を有さない重症僧帽弁閉鎖不全症患者の至適治療については、現状の治療戦略の長期結果の定義が曖昧なこともあり、なお議論の的となっている。同検討に関する臨床試験データはなく、それだけに今回の検討は重大な意味を持つところとなった。JAMA誌2013年8月14日号掲載の報告より。4ヵ国6施設1,021例を10.3年追跡 Mitral Regurgitation International Database(MIDA)レジストリデータの分析は、僧帽弁尖動揺による僧帽弁閉鎖不全症と診断後の、初期薬物治療(手術を行わず経過観察)と早期僧帽弁手術治療の有効性の比較を確認することを目的とした。MIDAには、1980~2004年に6つの高度医療施設(フランス、イタリア、ベルギー、米国)でルーチンの心臓治療を受けた同連続患者2,097例が登録されていた。平均追跡期間は10.3年で、98%が追跡を完了した。 検討は、1,021例のACCおよびAHAガイドラインのクラスIトリガーを有さない僧帽弁閉鎖不全症患者について行われ、575例が初期薬物治療を、446例が診断後3ヵ月以内に僧帽弁手術を受けていた。 主要評価項目は、治療戦略と生存率、心不全および新規の心房細動発症との関連だった。長期生存率は有意に増大、心不全リスクは有意に低下 診断後3ヵ月時点において、早期手術群と初期薬物治療群の間に、早期死亡(1.1%対0.5%、p=0.28)、新規の心不全発症(0.9%対0.9%、p=0.96)の有意差はみられなかった。 一方で、長期生存率は早期手術群で有意に高かった(10年時点で86%対69%、p<0.001)。同関連は、補正後モデル(ハザード比[HR]:0.55、95%信頼区間[CI]:0.41~0.72、p<0.001)、32の変数による傾向マッチコホート(同:0.52、0.35~0.79、p=0.002)、逆確率ウエイト(inverse probability-weighted:IPW)解析(同:0.66、0.52~0.83、p<0.001)でも確認され、5年時点の死亡率は52.6%有意に低下した(p<0.001)。同様の結果は、クラスIIトリガーを有したサブセット群の解析でもみられた(5年時点死亡率59.3%低下、p=0.002)。 また、長期の心不全リスクも、早期手術群で低下した(10年時点7%対23%、p<0.001)。リスク補正後モデル(HR:0.29、95%CI:0.19~0.43、p<0.001)、傾向マッチコホート(同:0.44、0.26~0.76、p=0.003)、IPW解析(同:0.51、0.36~0.72、p<0.001)でも確認された。 なお、心房細動の新たな発症の減少は、観察されなかった(HR:0.85、95%CI:0.64~1.13、p=0.26)。

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リセドロン酸、小児骨形成不全への有用性を確認/Lancet

 小児骨形成不全症に対する経口リセドロン酸の安全性と有効性を検討した結果、骨密度の増大、骨折の初発・再発リスクの減少が認められ、忍容性も良好であったことが、英国・シェフィールド小児病院のNick Bishop氏らによる多施設共同無作為化並行群間二重盲検プラセボ対照試験の結果、報告された。小児骨形成不全症に対しては、しばしばビスホスホネート製剤の静注投与が行われているが、定期的な入院治療を要するなど利便性、コスト面、また患児に与える精神的ストレスなどが大きい。経口治療はQOLの大きな改善につながるとして期待されているが、従来のビスホスホネート製剤を用いた試験では骨折リスクの改善が示されなかった。Lancet誌オンライン版2013年8月5日号掲載の報告より。13ヵ国20施設でプラセボ対照無作為化試験 Bishop氏らは、第三世代のビスホスホネート製剤であるリセドロン酸の、小児の疾患における安全性および有効性を評価することを検討目的とした。試験は、骨形成不全症を有する骨折リスクの高い4~15歳の小児(13ヵ国20施設で登録)を、リセドロン酸1日1回投与(2.5または5mg)群とプラセボ群に無作為に割り付け1年間投与を行い評価した。 試験の割り付けについては患児、研究者、試験参加施設スタッフともに知らされなかった。また全患児はその後2年間、非盲検でリセドロン酸投与を受けた。 主要有効性エンドポイントは、腰椎二次元骨密度(BMD)の1年の変化(%)であった。主要有効性エンドポイントの解析はANCOVA(analysis of covariance:共分散分析)にて行われた(治療、年齢群、施設、ベースライン共変量を考慮)。解析はintention-to-treat(ITT)法に基づき、無作為化され割り付けられた治療を1回以上受けたすべての被験者を組み込んだ。治療の選択肢とみなすべき 無作為化を受けたのは147例で、97例がリセドロン酸群に、50例がプラセボ群に割り付けられた。このうち治療を受けなかった患児を除く各群94例と49例についてITT解析を行った。 ベースライン時の両群の人口統計学的特性や腰椎二次元BMDは類似していた。ただし平均ボディBMD Zスコアは、リセドロン酸群-1.42、プラセボ群-1.82だった。治療コンプライアンスは、プラセボ対照試験期間およびその後の非盲検試験期間とも同様だった。 結果、1年時点の腰椎二次元BMDは、平均値でリセドロン酸群が16.3%増加したのに対し、プラセボ群は7.6%だった(格差:8.7%、95%信頼区間[CI]:5.7~11.7、p<0.0001)。臨床的骨折の発生は、リセドロン酸群は29/94例(31%)であったのに対し、プラセボ群は24/49例(49%)だった(p=0.0446)。 2年、3年時の非盲検試験期間の臨床骨折発生は、本試験スタート時からリセドロン酸投与を受けていた群では46/87例(53%)が報告された。一方、プラセボを受け続けていた群では32/49例(65%)の報告だった。 一方、有害事象の発生は、上部消化管や筋骨格系の有害事象の頻度を含め両群で同程度であった。 これらの結果を踏まえて著者は、「骨形成不全症の小児に対する経口リセドロン酸の投与は、BMDを増大し、初発・再発の骨折リスクを減少した。また、概して忍容性は良好であった。リセドロン酸は、小児骨形成不全症の治療の選択肢とみなすべきであろう」と結論している。

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帝王切開の決定時期が遅れて胎児仮死・低酸素脳症となったケース

産科・婦人科最終判決判例時報 1772号108-120頁概要妊娠経過中に異常はみられなかった24歳初産婦。破水から6時間後にいったん分娩停止となったため、陣痛促進剤を開始するとともに、仙骨硬膜外麻酔も追加した。分娩室に移動した直後から胎児心拍細変動の低下・消失、徐脈などが出現し、まずは吸引分娩を試みたが不成功。鉗子分娩は児頭が高位になったことから断念し、緊急帝王切開を行った。ところが胎児仮死の状態で出生し、重度の脳障害が残存した。詳細な経過患者情報24歳初産婦、分娩予定日1993年3月31日、身長154cm、体重55kg(非妊時46kg)、ノンストレステスト異常なし、子宮底32cm、推定胎児体重3,598g、骨盤X線計測では通過可能経過4月1日21:00陣痛が10分間隔となり分娩開始。4月2日02:00市立病院産婦人科に入院。子宮口2~3cm開大、展退80%、児の下降度stationマイナス1.5、陣痛間隔は間歇5分規則的、発作30~40秒。02:37外側式分娩監視装置を装着。07:45早期破水。08:00子宮口4cm開大、展退80~90%、児の下降度stationマイナス1.5。09:13内側式分娩監視装置を装着。10:30子宮口8cm開大、児心音130-140、児の下降度stationマイナス1。13:30子宮口8cm開大、児心音140、児の下降度stationマイナス0.5。子宮口の開大進まず、分娩遷延ないし停止状態。第2回旋が横定位の状態に戻る。15:45裁判所の認定:胎児心拍細変動の低下・減少(15分間持続しその後回復。あとからみるとごく軽度の遅発一過性徐脈ともとれるのでこの時点で酸素投与を開始するのが望ましかった)。16:00陣痛促進剤(プロスタグランデインF2α)開始。16:40裁判所の認定:胎児心拍細変動の低下・減少ともとれる所見が46分間継続(このような変化は正常な経過をとる分娩にはみられないので胎児仮死を想定すべきであった)。17:50内診にて横定位回旋異常が変化しないため、仙骨硬膜外麻酔施行。18:20~18:40(担当医師はトイレのため陣痛室を離れる)18:20裁判所の認定:胎児心拍細変動の低下・減少は著明で、遅発一過性徐脈を疑う所見がある。さらにこの時に子宮口は全開大していた可能性が高い(?)ので内疹をして確認するべきであった。18:30分娩室に移動。18:35裁判所の認定:胎児心拍数が110前後の徐脈。分娩室に移動して一時中断していた記録を再開したこの時点で急速遂娩を決定するべきであった。18:37胎児心拍数が80前後の高度徐脈。18:45胎児心拍数はいったん120を越えたため、徐脈は軽度であって経過観察をすることにした。予防的に酸素投与。18:502分間ほどの頻脈、基線の細変動は保たれていたので低酸素状態ではないと判断。18:54高度徐脈が1分間持続、臍帯の圧迫などによる低酸素と考え急速遂娩が必要と判断。18:58子宮口全開大。19:05児の下降度stationプラス1を確認したうえで、クリステル圧出法による吸引分娩を試みるが娩出せず。19:20ほかの医師に交代し鉗子分娩を試みるが、児頭が高位になったことから断念し帝王切開を決定。19:46重症仮死状態で出生。直後のアプガースコアは1点、5分後も4点であり、低酸素脳症による重度脳障害が発生し、日常生活全介護となった。裁判所からの依頼鑑定胎児が何らかの因子で分娩の初期から胎児心拍細変動の一時的な消失を示しており、また、分娩の後半における一連の変化は、たとえ遅発性一過性徐脈を伴う典型的なパターンではなくても、胎児仮死を疑い、より厳重な監視と迅速な対応が必要であった。当事者の主張患者側(原告)の主張担当医師は遅くとも18:35の時点で急速遂娩の決断をするべきであった。仮に急速遂娩を決断するべき時期が高度持続性徐脈のみられた18:54だとしても、その方法は吸引分娩ではなく帝王切開にするべきであった。このような判断の遅れから、胎児仮死による脳性麻痺に至った。患者側提出産婦人科専門医作成意見書心拍数曲線は記録の乱れのために判定は難しいが、18:37~18:42頃までのあいだに遅発性一過性徐脈を疑わせる所見がある。一般に胎児仮死の徴候は分娩経過とともに発現することが多いため、18:54まではまったく異常がなく、この時点で突然持続性徐脈で示される胎児仮死が現れる可能性は低い。したがって、18:54に持続性徐脈がみられた時点で、ただちに吸引遂娩術を試み、それが不成功であれば速やかに帝王切開術を実施していれば、胎児仮死を避けられた可能性が高い病院側(被告)の主張18:36突然の徐脈が出現するまでは胎児の状態は良好であり、突然の悪化は予見できない。裁判所からの依頼鑑定では、正常な状態で出現するレム・ノンレムおよび覚醒のサイクル(スリープウエイクサイクル)を無視している。18:54に急速遂娩を決定した時の判断として、吸引分娩が成功すれば帝王切開よりもはるかに短い時間ですむので、吸引分娩の判断は誤りではない。そして、帝王切開を決定してから児の娩出まで26分でありけっして遅滞とはいえない。アメリカ産婦人科学会の基準では、脳性麻痺の原因が胎児仮死にあると推定できる要件として4つ挙げているが、本件では2要件しか満たさないので、脳性麻痺の原因は胎児仮死ではない。病院側提出意見書(1)(産婦人科M教授)18:35までの胎児心拍数モニター上では、基準心拍数、胎児心拍数基線細変動、子宮収縮による心拍数の変化、一過性頻脈の存在、レム・ノンレムサイクルの存在からみても、胎児仮死を示唆する所見はない。分娩室移動後も、18:58までは正常範囲内である。本件における胎児心拍細変動の低下・消失は、健康な胎児がレム・ノンレムおよび覚醒のサイクルをくり返している典型的な胎児の生理的状態である病院側提出意見書(2)(産婦人科T教授)18:36から基準心拍数の低下と一過性徐脈があるようにもみえるが、この程度の変化では胎児仮死徴候の発現とみることはできない。18:50までの胎児心拍の不安定な推移はのちに起こる胎児仮死の予兆もしくは警戒信号といえなくもないが、あくまでも結果論であり、現場においてはその推移を注意深く見守るくらいで十分な状態であったといえる裁判所の判断分娩経過中には分娩監視装置を適切に使用するなどして、できる限り胎児仮死の早期診断、早期治療に努めるべきであるのに、担当医師は胎児心拍細変動の低下・消失、徐脈に気付いて急速遂娩を実施する義務を怠り、児を少なくとも1時間早く娩出できた可能性を見過ごし、胎児仮死の状態に至らせた過失がある。原告側合計1億5,200万円の請求に対し、1億812万円の判決考察今回のケースで裁判所は、分娩管理の「明らかな過失」という判断を下しましたが、はたして本当に医療過誤といえるほどの過失が存在したのか、かなり疑問に思うケースです。分娩経過を通じて担当医師は患者のそばにほとんど立ち会っていますし、その都度必要に応じた処置を施して何とか無事に分娩を終了しようとしましたが、(裁判官が指摘した時刻にはトイレにいっていたなど)さまざまな要因が重なって不幸な結果につながりました。そこには担当医師の明らかな怠慢、不注意などはあまり感じられず、結果責任だけを問われているような気がします。あとからCTG(Cardio-toco-graphy)を詳細に検討すると、確かに胎児心拍細変動の消失や低下が一過性にみられたり、遅発一過性徐脈を疑う所見もあります。そして、裁判所選出の鑑定医のコメントは、「典型的な遅発一過性徐脈が出ているとはいっていない。詳細にみるとごく軽度の遅発一過性徐脈ともとれる所見の存在も否定し得ない」となっているのに、裁判官の方ではそれを拡大解釈して、「遅発一過性徐脈を少しでも疑うのならば、即、急速遂娩しないのは明らかな過失」と断じているようなものではないかと思います。その背景として、出産は病気ではなく五体満足で産まれるのが普通なのに、脳性麻痺になったのは絶対に病院が悪い、という考え方があるのではないでしょうか。おそらく一般臨床家の立場では、病院側の意見書を作成したT教授のように、「胎児心拍の不安定な推移はのちに起こる胎児仮死の予兆もしくは警戒信号といえなくもないが、あくまでも結果論であり、現場においてはその推移を注意深く見守るくらいで十分な状態であったといえる」という考え方に賛同するのではないかと思います。今回のような産科領域、とくにCTGに関連した医事紛争はかなり増えてきています。CTGの重大な所見を過小評価して対応が遅れたり、あるいは分娩監視装置を途中で外してしまい再度装着した時にはひどい徐脈であったりなどといった事例が散見されます。やはり患者側は「お産は病気じゃない」という意識が非常に強いため、ひとたび障害児が生まれるとトラブルに巻き込まれる可能性がきわめて高くなります。そのため、普段からCTGの判読に精通しておかなければならないことはいうまでもありませんが、産科スタッフにも異常の早期発見を徹底するよう注意を喚起する必要があると思います。産科・婦人科

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