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薬物溶出性ステント(DES)植込み後の患者には、アスピリン+チエノピリジン系抗血小板薬によるDAPT(Dual Antiplatelet Therapy)を用いることが通常である。しかし、そのDAPTを継続する期間については見解が一致していない。 とはいえ、議論は続いているものの、一定の方向に意見が一致してきていた。その収束の方向とは、DAPT期間を延長することにより出血性合併症の発症リスクは増加し、虚血性イベントの明確な抑制は認められない、というものである。1年間または6ヵ月間のDAPTで十分であり、むしろ論点は3ヵ月間などいっそう短いDAPT期間を模索する方向に推移していた。 しかし、その収束に向けての方向を逆転するような驚きの結果が、2014年11月にAHAで発表された。その名も、DAPT試験である。詳細は同日にNew England Journal of Medicine誌に掲載された。 その試験は、DES後の患者9,961人で、DAPT期間12ヵ月と30ヵ月を比較する、無作為割付、プラセボ対照、多施設試験である。その結果では、30ヵ月DAPT 群でステント血栓症および主要有害複合エンドポイント(死亡、心筋梗塞、脳卒中)が有意に低かった。出血性合併症(GUSTO基準による中等度~重度)の発症リスクは30ヵ月DAPT 群で有意に高かった。 この発表を受けてDAPTの至適期間をいかに考えるかについて議論が再燃している。米国食品医薬品局(FDA)も、本発表を受けて臨床試験の詳細な検証が行われるまでは、現在の処方を変更すべきではないとの声明を発表した。 ここで、このDAPT試験に内在する問題点について考えてみたい。 まず、本試験のデザインは、DES植込み直後にDAPT期間12ヵ月と30ヵ月に割り付けた訳ではなく、植込み当初の1年間のDAPT期間に出血を含めイベントなく経過した患者のみを対象としている。背景にいるDES植込み患者は2万2,866人おり、そのうちの44%にすぎない9,961人が無作為化試験に参加している。この44%の患者を選択する過程でバイアスが生じている可能性が十分にある。この除外された半数を越える56%の患者に、本試験の結果を敷衍できるのかは不明である。 また、この試験の結果では30ヵ月DAPT 施行による主要有害の抑制は、心筋梗塞イベントの抑制に依存している。心筋梗塞が増せば死亡が増えることが自然に思えるが、心臓死・非心臓死ともに30ヵ月DAPT群において有意差はないが実数として多く発生している。本試験で報告されている心筋梗塞サイズは不明であるが、心筋梗塞イベントが臨床的に持つ意味合いについても考える必要がある。 筆者は、本試験の結果を考えたうえでも、少なくとも1年間のDAPT期間で十分であるものと考えている。出血リスクが低く心血管イベントの発生するリスクが非常に高い患者でDAPT期間の延長も考慮する、テーラーメードの選択を行うことが現実的であろう。