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乳腺疾患における生検、病理医による診断の精度は?(解説:廣中 愛 氏/吉田 正行 氏)-349

 乳腺疾患の治療方針の決定にあたり、針生検または切除生検の病理組織診断の果たす役割はきわめて大きい。生検で得られた標本には、悪性(浸潤がん、非浸潤がん)から良性病変、ないし正常組織まで含まれ、良性であっても異型を伴うものが存在する。マンモグラフィや検診が普及した今日では、良悪性の鑑別が困難な病変が針生検に提出される機会が増加しており、たとえばlow grade ductal carcinoma in situ(DCIS)とatypical ductal hyperplasia(ADH)では、診断者間での一致率が不良であることはしばしば指摘されている。また、良性病変でも異型を伴う病変の一部は、将来的に乳がん発生のリスクになると考えられるため、適切に診断することが求められている。しかし、これらの診断が、日常の病理診断で現在、どの程度の精度で行われているかは、十分に把握されていなかった。 本号のJAMA誌でElmore氏らは、全米8州の施設規模や病理診断経験年数の異なる病理医の診断と、乳腺病理を専門とする病理医のコンセンサス診断との一致率を調査した。コンセンサス診断は、3人のエキスパートが1枚のHE標本を基に各自診断し、不一致のものは合議して決定された。対象とした240例は最終的にinvasive carcinoma(23例)、DCIS(73例)、atypia(72例)、benign without atypia(72例)の4カテゴリーに分類された。エキスパート同士であっても初回診断完全一致率は75%と必ずしも高くないが、コンセンサス診断と個々の診断との一致率は90.3%であった。 続いてそれらの標本を、無作為に選ばれた115人の病理医が診断した。結果を確定させた延べ6,900件の診断を、コンセンサス診断と比較したところ、一致率は75.3%であった。カテゴリー別の一致率はinvasive carcinomaで96%、DCISで84%、atypiaで48%、benign without atypiaで87%であり、atypiaで一致率が低く、過大診断が17%で、過小診断が35%で認められた。ただし、今回の検討では、atypiaやlow grade DCISなどの診断困難例で一般的に行われる追加の切片作製や免疫染色、エキスパートへのコンサルテーションの機会が与えられていない。よって、Elmore氏らの指摘した一致率の低さは、必ずしも日常臨床の病理組織診断の実情を完全には反映していないことに留意する必要がある。一方、atypia以外の病変では従来の報告と同様、一致率が高いが、DCISの13%でがんとは診断されていない点に着目する必要がある。 診断不一致に関連する因子としては、マンモグラフィでの高濃度乳腺由来の生検、小規模施設勤務ないし診断症例数の少ない病理医の診断が挙げられた。診断困難な標本に関しては、経験のある施設、あるいは病理医へのコンサルテーションにより、診断精度の向上を図る必要がある。 診断の不一致率が高頻度にみられたatypiaのカテゴリーには、ADH、intraductal papilloma with atypia、flat epithelial atypia(FEA)、およびatypical lobular hyperplasia(ALH)が含まれている。FEAは近年、分子生物学的にADH からlow grade DCISに続く一連の病変として再認識されている1)。また、ALHはlobular carcinoma in situ と併せlobular neoplasiaとして包括して扱われる場合が多い2)。本邦では山口氏らが、上記4病型に含まれる組織像のうちintraductal papilloma with atypiaを除いた3病型をatypiaとして扱い、乳腺針生検での頻度を3.65%と報告している3)。Atypiaはそれぞれの病変により程度の差があるが、乳がん発生のリスク因子となり、後の手術検体でさまざまな頻度で浸潤がんが併存していることが知られている。現時点では、atypiaに相当する病変の診断には不確実さが一定頻度で伴うことを認識すると共に、必ず臨床経過や画像診断との整合性を取ることが重要である。

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LDL-コレステロール低下で心血管イベントをどこまで減少させられるか?(解説:平山 篤志 氏)-350

 2013年のAHA/ACCから発表された脂質異常症に関する治療ガイドラインで、LDL-コレステロールの値ではなく、Atherosclerotic Cardiovascular Disease(ASCVD)のリスクのある患者には強力なスタチンを投与せよという、Fire and Forgetの概念が提唱され大きな話題となった。 背景には、エビデンスがすべてスタチンの用量によってランダム化された試験に基づき確立されたもので、LDL-コレステロール値を目標と設定したものではなかったことがある。 昨年発表されたIMPROVE-ITはこれに対して、スタチン以外の薬剤でコレステロール値を低下させれば、イベントを減少させられるというものであったが、その有意差がわずかであったためにスタチンの減少効果からはインパクトが薄かった。その点で、PCSK9に対する抗体であるエボロクマブ(承認申請中)とアリロクマブ(Alirocumab、国内未承認)はスタチンの治療に加えて、さらに強力にLDL-コレステロールを低下させる効果のあることから、イベントを減少させる効果に大きな期待が寄せられている薬剤である。 Open Labelでの試験であったが、スタチンで治療されている患者にこの薬剤を投与することにより、LDL-コレステロール値の減少と共に1年間における心血管イベントの有意な減少が、エボロクマブおよびアリロクマブに認められたことが報告され、大きな話題となった。ただ、対照群のLDL-コレステロール値が平均120mg/dLと両試験で高値であったこと、一方、PCSK9抗体群では平均60~70mg/dL程度であったことから、スタチンの種類や用量が十分に管理された試験であったのか、あるいはオープン試験であることでバイアスがなかったかなどの疑問点が残る試験ではある。 ただ、イベント低下効果のインパクトは、スタチンのみに依存するしかなかった現状を大きく変える可能性を示す試験であり、現在進行形の二重盲検のイベント試験の結果が待たれる。スタチンで成し遂げられなかった、LDL-コレステロール値の平均70mg/dLの壁を、この薬剤が超えてさらなるイベント低下になるのか、大いに期待と興味をかき立てる結果であった。

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本当にあった医学論文 2

人間を科学する医学論文からはぐれた真面目な集大成大好評の『本当にあった医学論文』が帰ってきました!今回も「ヘッドバンギングで脳出血」「力士の左室肥大は発見しにくい」「浮気の予防薬が存在する?」「結婚すると女性の体重は何kg増える?」「ネギを用いた導尿」「手術と満月の関係」などなど、実在する驚きの症例報告、大真面目なだけにどこか笑える論文、臨床に役立つ(かもしれない)論文を紹介します。これを読めば、あなたも奥深い医学論文ワールドの虜になるかも!?画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。   本当にあった医学論文2定価 2,000円 + 税判型 A5判頁数 146頁発行 2015年4月著者 倉原 優Amazonでご購入の場合はこちら

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86)毎日の日課に運動を取り入れるコツの指導法【糖尿病患者指導画集】

患者さん用説明のポイント(医療スタッフ向け)■診察室での会話 患者なかなか運動ができなくて……。 医師何かペットを飼っておられますか? 患者はい。犬を飼っています。 医師心筋梗塞になった患者さんへの追跡調査によれば、犬を飼っている人は飼っていない人に比べると、心筋梗塞の再発で亡くなる人が少なかったそうです。ただし、猫を飼っている場合は関係なかったそうです。 患者ハハハ、そうなんですか。犬と散歩するのがいいのかも知れませんね。いつも犬の散歩は、妻や子どもにまかせているんですが、私もやってみようかな(気づきの言葉)。 医師それはいいですね。犬と散歩する習慣がつけば検査値もよくなると思いますよ。 患者はい。頑張ってやってみます(やる気の顔)。●ポイント犬と散歩する習慣が健康効果をもたらすことをわかりやすく説明 1) Friedmann E, et al. Am J Cardiol. 1995; 76: 1213-1217. 2) Parker GB, et al. Acta Psychiatr Scand. 2010; 121: 65-70. 3) Arhant-Sudhir K, et al. Clin Exp Pharmacol Physiol. 2011; 38: 734-738.

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研究の無駄は簡単・安価な補正で回避可能/BMJ

 研究が無駄になるのは、方法論が不十分であることと関連しており、簡便かつ安価な補正により一部は回避できるとする報告が、フランス国立保健医学研究所(INSERM)のYouri Yordanov氏らにより発表された。2009年に発表された先行研究で、研究の85%が無駄になっており、大部分が不十分な方法論と関連しているとする報告があった。BMJ誌オンライン版2015年3月24日号掲載の報告より。研究の無駄と方法論の関連を調べ、どれだけ回避できるかを検討 研究グループは、コクランレビューに含まれる試験において研究の無駄と不十分な方法論の関連を評価するとともに、そのうちどれだけが回避できるのかを調べた。また第二の目的として、この回避可能な無駄を再評価するシミュレーション研究を行い、全試験が十分に報告されうるかを調べた。 対象は、2012年4月~2013年3月に発表された、コクランレビューの主要アウトカムのメタ解析に組み込まれた試験。各試験のレビュー著者によるバイアスリスク評価を集め、バイアスリスクの高い1つ以上のドメインがある200試験を無作為収集し、バイアスリスクの再評価を行い、すべての関連する方法論的問題を特定した。 各問題について、可能な補正を行い、さらに専門パネルによってそれら補正の可能性(簡便か否か)およびコスト評価も行われた。 バイアスリスクの高い1つ以上のドメインがあるが、それらを費用を要さずにまたは少額費用で簡単に補正でき、すべてのドメインを低リスクに変えられる試験を、回避できる無駄がある試験と定義した。またシミュレーション研究では、全試験のバイアスリスクを再評価後、データの欠損による各ドメインの不明なリスクバイアスを評価した。リスクの高低を調べるために、複数の意見を取り入れた。バイアスリスクが高い試験のうち96%は補正可能 メタ解析205件、1,286試験において、556試験(43%)がバイアスリスクの高い1つ以上のドメインを有していた。 そこから収集したサンプル200試験において、142試験は、高リスクであると確認され、25タイプの方法論的問題が特定された。 補正が可能であったのは136試験(96%)であった。コストなしまたは少額で簡便に補正が可能であったのは71試験(50%)で、全ドメインを低リスクに変えることができたのは17試験(12%)であった。すなわち、1つ以上のハイリスクドメインを有する試験において、回避できる無駄は12%(95%信頼区間[CI]:7~18%)であることが示された。 また、不完全な報告を修正することで、回避できる無駄は42%(95%CI:36~49%)と推定された。

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非重症妊娠高血圧、早期分娩は早計か?/Lancet

 妊娠34~37週、非重症の妊娠高血圧症候群の妊婦について、早期の分娩は母体の有害アウトカムリスクを、わずかだが減少する可能性がある一方、新生児呼吸窮迫症候群(respiratory distress syndrome:RDS)のリスクが有意に増大することが示された。オランダ・フローニンゲン大学のKim Broekhuijsen氏らが非盲検無作為化試験HYPITAT-IIの結果、報告した。結果を踏まえて著者は「ルーチンな早期分娩が正しいとはいえない」と述べ、臨床症状の悪化がみられるまで待機的モニタリング戦略を考慮すべきであるとまとめている。Lancet誌オンライン版2015年3月24日号掲載の報告より。24時間以内出産の早期分娩群と37週出産の待機的モニタリングで検討 HYPITAT-II試験は、2009年3月1日~2013年2月21日に、オランダ国内7ヵ所の大学病院と44ヵ所の非大学病院で行われた。妊娠34~37週の非重症妊娠高血圧症候群の女性を、陣痛誘発または帝王切開で24時間以内に出産する群(早期分娩群)と、妊娠37週で出産することを意図する群(待機的モニタリング群)の2群に無作為に割り付けて検討した。 主要アウトカムは、有害母体アウトカム(血栓塞栓性疾患、肺水腫、子癇、HELLP症候群、胎盤剥離または妊産婦死亡)と新生児呼吸窮迫症候群の複合であった。早期分娩群の複合母体転帰はわずかに減少も、新生児のRDSが有意に増大 893例の女性が試験への参加を依頼され、703例が登録されて無作為に早期分娩群352例、待機的モニタリング群351例に割り付けられた。 主要複合母体アウトカムの発生は、早期分娩群4/352例(1.1%)、モニタリング群11/351例(3.1%)であった(相対リスク[RR]:0.36、95%信頼区間[CI]:0.12~1.11、p=0.069)。 新生児呼吸窮迫症候群と診断されたのは、それぞれ20/352例(5.7%)、6/351例(1.7%)で、早期分娩群の有意な増大が認められた(RR:3.3、95%CI:1.4~8.2、p=0.005)。 母体および周産期死亡の発生はなかった。

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医学・医療のグローバル化に向け 医学英語検定試験 開催

 医学・医療のグローバル化が進み、従来とは異なる医学英語教育の必要性が叫ばれている。そのような中、日本医学英語教育学会主催の日本医学英語検定(医英検)の第8回3級・4級検定試験が、本年(2015年)6月14日に全国で開催される。受験申し込みの締め切りは5月2日。 今回の試験開催にあたり、同学会理事長の伊達 勲氏(岡山大学 脳神経外科 教授)に聞いた。 医療・医学の国際化を推進するためには、医療・医学に特化した英語教育が必要である。そのためには、医療現場で必要とされる実践的な英語運用能力が必要とされ、医学英語検定はその能力を総合的に評価するものである。 医学英語検定は今回で第8回を迎え、これまでの受験者は2,000人を超える。近年は、学会での英語セッションの増加や、留学への関心の高さを反映し、医学生や若手医師を主体に毎年200~300人が受験しているという。 今回は3、4級の検定試験が行われる。4級は医学英語の語彙、医学論文の読解問題などの筆記試験。3級はそれに医療場面のリスニング問題が加わる。8月にはさらに上級の1、2級の試験も実施される。医学英語検定のHPはこちら

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統合失調症患者、どんな剤形を望んでいるのか

 統合失調症に対する抗精神病治療のベネフィットとリスクに関連した患者の選好を定量化し、治療の特性やアドヒアランスの相対的重要性を評価することを目的とした研究を、米国・ヤンセン・リサーチ&ディベロップメント社のBennett Levitan氏らが実施した。その結果、統合失調症の病識がある患者は陽性症状の改善が最も重要な治療効果であると考えていること、また、アドヒアランス良好の患者は月1回注射剤より経口剤のほうが好ましいと考え、逆にアドヒアランス不良の患者は経口剤より月1回注射剤のほうが好ましいと考えていることが明らかになった。Psychiatric Services誌オンライン版2015年3月16日号の掲載報告。 研究グループは、統合失調症と医師に診断されたと自己申告した米国住民を対象に、離散選択実験(discrete-choice experiment)という手法を用いた調査を行った。陽性症状・陰性症状・社会的機能の改善という3つの特徴と体重増加・錐体外路症状(EPS)・高プロラクチン血症・高血糖の出現という矛盾する仮想のシナリオおよび薬剤の剤形を提示し、その選択における患者の選好度を算出した。 主な結果は以下のとおり。・最終的な解析対象は、271例であった。・最も重要な治療ベネフィットとは、陽性症状の完全消失(相対的重要度スコア10)で、次いで高血糖の消失(3.6、95%信頼区間[CI]:2.6~4.6)、陰性症状の改善(3.0、1.6~4.3)、体重増加の減少(2.6、1.2~4.0)、高プロラクチン血症の回避(1.7、0.9~2.6)、社会的機能の改善(1.5、0.4~2.5)、EPSの回避(1.0、0.3~1.8)の順であった。・アドヒアランスが良好の患者は、3ヵ月ごとの注射剤より月1回注射剤のほうが、月1回注射剤より毎日の錠剤のほうがより好ましいと判断していた(いずれもp<0.01)。・アドヒアランスが不良の患者は、毎日の錠剤より月1回注射剤のほうがより好ましいと判断していた(p=0.01)。・最も重要な有害事象として挙げられたのは、高血糖であった。関連医療ニュース 抗精神病薬注射剤を患者は望んでいるのか 精神疾患患者は、何を知りたがっているのか 治療抵抗性うつ病患者が望む、次の治療選択はどれ  担当者へのご意見箱はこちら

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BEST試験、批判する資格は私にはありません!~言うは易く行うは難し~(解説:中川 義久 氏)-347

 多枝疾患の虚血性心疾患患者に、CABGを行うかPCIを行うかは議論が続くテーマである。薬物溶出性ステント(DES)を用いたPCIとCABGを比較したSYNTAX試験において、3枝疾患においてPCIはCABGに劣っていた(正確には非劣性の証明ができなかった)。この試験で用いられたDESは第1世代のパクリタキセル溶出性ステントであった。現在、最も治療成績が良好とされる第2世代のエベロリムス溶出性ステント(EES)を用いたPCIであればCABGに劣っていないのではないか、それどころか優っているかもしれない、と考えを抱くのは当然である。これに応えるために行われた試験がBEST試験である。 その結果が、2015年3月にACCで発表され、詳細は同日にNew England Journal of Medicine誌に掲載された。結果は、従来の研究結果を追認するものであった。2年後の死亡、心筋梗塞、標的血管再血行再建からなる主要有害心血管イベントで、EESを用いたPCIでもCABGに対して非劣性を示すことはできなかった。PCIを応援する立場の者にはがっかりした結果かもしれない。 このBEST研究に対しては、発表後に研究の枠組みについて批判的な論調が多い印象を持つ。本研究の代表的な限界点は、登録症例数が少ないことである。統計学的に算出された必要症例数は1,776例だが、登録の遅れのために約半数の880例で中止し、解析している。また、PCI群において完全血行再建の達成率が50.9%と低いことも指摘されている。FFRを患者選択基準に用いていないことも陳腐な印象を与える。これらの論評はいずれも間違っていない。しかし、……。 本研究は、韓国・中国・マレーシア・タイの27施設で遂行された。韓国のPark SJ医師らが主導した国際共同研究である。1つの無作為化比較試験を計画し、実施することは難事業である。日本においては、PCIとCABGを比較した無作為化比較試験はいまだにない。本論文の著者に名を連ねるアジア各国の有力医師は、自分の知る限り各々個性的な人物である。彼らを統率した主任研究者の行動力は称賛に値する。すべての臨床試験は、科学的真実を追求する理想論と、実現可能性を追求する現実論のトレードオフの関係に直面する。完璧な理想論では臨床研究は不可能である。このBEST研究の結果がNew England Journal of Medicine誌に掲載されたこと自体が、同誌編集部が無作為化比較試験の困難さを理解している証左であろう。日本国内で無作為化比較試験を実施できないものが、他国との国際共同研究を計画できるはずがない。この面において、小生には本研究を批判する資格はないと痛感するのである。言うは易く行うは難し、とはこのことか。

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CABGに内在する新規心筋梗塞発生抑制効果は疑いない(解説:中川 義久 氏)-348

 多枝冠動脈疾患患者における長期成績は、CABGのほうがPCIよりも良好であることが複数の無作為化比較試験および患者登録研究の結果から示されてきた。ここに新たなエビデンスが加わった。Bangalore氏らが米国における膨大な患者登録データから解析したもので、New England Journal of Medicine誌に結果が掲載された。同号にCABGとPCIの無作為化比較試験であるBEST研究の結果も掲載されていることは興味深い。  Bangalore氏らは、3万4,819 例の患者から、プロペンシティ・スコアで背景をマッチングさせた9,223 例のPCIと、9,223 例のCABGを抽出し比較している。このPCI症例は、治療成績が向上している第2世代の薬物溶出性ステントを用いた手技である。その結果、平均2.9年の観察期間において、PCI はCABG と比較して死亡リスクに有意な差はなく、同程度であった。一方で、PCI群における新規心筋梗塞発生リスクは1.51倍高く、再血行再建リスクも2.35倍高かった。第2世代の薬物溶出性ステントを用いたPCIによって、真のエンドポイントである死亡に差がなければ、手技の侵襲度の違いを念頭に置けばPCIの相対的立場は向上しているといえよう。第2世代の薬物溶出性ステントを用いても、多枝に複数の手技を行えば再血行再建リスクが高いことは理解しやすい。小生が最も興味を持つのは、心筋梗塞発生リスクがPCI群において高いことである。 このCABGによる新規心筋梗塞発生抑制効果は、日本人のデータであるCredo-Kyoto レジストリ・コホート2においても示されている。第1世代の薬物溶出性ステントであるシロリムス溶出性ステントを中心として用いた3枝疾患患者へのPCIはCABGと比較して、心筋梗塞発生リスクは2.39倍高く、その差は有意であった(95%信頼区間[CI]: 1.31~4.36、p=0.004)1)。これは、病変部の局所治療であるPCIと、冠動脈支配領域を治療するCABGの基本的な治療コンセプトの違いに由来すると考えられる。ステントのいっそうの改良がなされたとしても、このポイントでCABGを凌駕することは困難であろう。なぜなら、ステントの問題ではなく、むしろCABGに新規心筋梗塞発生抑制効果が内在されていると判断すべきだからである。 PCI群において新規心筋梗塞発生を減らすためには、ステントのいっそうの再狭窄率低減だけではなく、新規プラークラプチャーを抑制する方策の進展が必要であろう。生活習慣の改善はもとより、PCSK-9などに代表される強力な冠危険因子のコントロールが必要なのであろうか。現実的には、PCI施行医はPCIとCABGの選択において、このような心筋梗塞発生リスクの差があることを念頭に置き、判断することが必要である。

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テレビに影響された患者への対応

「テレビ、新聞、雑誌の健康情報をどう読み取るか?」について患者さん向けパンフレットを作りましたDr 小田倉の心房細動な日々 ~ダイジェスト版~日々の診療で、「昨日の新聞で○○という薬が脳梗塞を予防すると書いてありました」「テレビの番組で○○が認知症に良いと言っていました」といったいわゆる健康情報について、本当かどうか聞かれることは大変多いです。そこでこうしたお問い合わせの際に、とにかくこの点にだけは注意して読み取ってほしいというポイントを、私なりに書いてみました。(スライド2~6が患者さん向けパンフレットの内容です)Dr 小田倉の心房細動な日々 ~ダイジェスト版~下記の2つのポイントを満たしているか?1.2.ヒトが対象か?飲んだ人と飲まない人を比べた研究か?Dr 小田倉の心房細動な日々 ~ダイジェスト版~1. ヒトが対象か?新聞やテレビのニュースで時に取り上げられる大学などからの研究成果は、動物実験の結果に基づいたものが少なくありません。たしかに動物実験で効果が証明された薬や治療法は、ヒトに応用できる可能性が出てきたと言えます。しかしながら、これまで動物で認められた効果が、ヒトでは証明されなかった治療法は、実は非常に多く、むしろ実用化される治療法のほうが少ないことが指摘されています、また動物実験の段階から、ヒトでの効果が証明されるまでには少なくとも数年はかかると言われています。もし目にした記事がネズミなどの動物を対象にしたものであったら、その治療法についてはヒトでの効果が証明されるまで待つという姿勢で良いと思われます。Dr 小田倉の心房細動な日々 ~ダイジェスト版~2. 飲んだ人と飲まない人を比べた研究か?薬には「偽薬効果(プラシーボ効果)」といって、ニセの薬を飲んでも何らかの改善が見られることがよくあります。その原因としては、「薬を飲んでいる」と思いこむことによる安心感(暗示効果)や、そもそも薬を飲まなくても自然に治る病気だったことなどが考えられます。このため、必ず「その薬を飲まなかった人(または他の薬を飲んだ人)」に比べて、「その薬を飲んだ人」がどのくらい効いたのかを比べる必要があります。雑誌などの広告はだいたい次の5つの情報を掲載しています。1)体験談2)医学博士の推薦談 3)成分紹介 4)その治療をした人のデータ(比較なし)5)その治療をした人としない人の比較データ。とくにその薬や食品を摂って効いた人の体験談が掲載されていることが多いです。体験談しか掲載されていない場合は、先に述べたプラシーボ効果の可能性があり、良し悪しを判断できません。比べたかどうかがはっきり書いていない場合は、とりあえず判断を保留にするという姿勢で良いと思います。Dr 小田倉の心房細動な日々 ~ダイジェスト版~2つとも満たしている場合、どう判断?実は、その先は専門家でないと、なかなか判断が難しいかもしれません。その先は、2の「比較した試験」を更に詳しく考える必要があります。具体的には・ 医学論文に発表されているか?・ 複数の研究に支持されているか?・ その研究は前もって計画されたものか?・ 結果は何か?・ 統計学的に検討されているか?などです。2つの基準を満たした場合は、主治医の先生に相談することも一つの方法です。Dr 小田倉の心房細動な日々 ~ダイジェスト版~テレビ、新聞、雑誌の健康情報をどう読み取るか?ヒトが対象か?いいえはい判断保留飲んだ人と飲んでない人を比べた研究か?はいいいえ判断保留医学論文か?はいいいえ(学会発表含む)判断保留複数の研究に支持されているか?はい現段階では信憑性が高いいいえ判断保留参考図書:坪野 吉孝. 検証!がんと健康食品.河出書房新社.中山 健夫. 健康・医療の情報を読み解く 第2版 健康情報学への招待 (京大人気講義シリーズ).丸善出版.Dr 小田倉の心房細動な日々 ~ダイジェスト版~

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水泳は気管支喘息の子供の運動耐容能や呼吸機能を改善【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第41回

水泳は気管支喘息の子供の運動耐容能や呼吸機能を改善 >足成より使用 水泳は気管支喘息のリスクでもあり、一方で気管支喘息の呼吸リハビリテーションにもなりうるという二面性を持っています。といっても運動誘発性気管支攣縮は別に水泳に限ったことではないため、後者の利益を重視する研究者のほうが多いように感じます。 Beggs S, et al. Swimming training for asthma in children and adolescents aged 18 years and under. Cochrane Database Syst Rev. 2013; 4: CD009607. この報告は、18歳以下の気管支喘息患者さんに対する、水泳の訓練の効果と安全性を調べたシステマティックレビューです。水泳の訓練と他のケアを比較した試験を集め、メタアナリシスを行いました。その結果、8試験・262人が組み込まれました。安定した患者さんから重症の患者さんまで気管支喘息の重症度はさまざまでした。水泳の訓練はおおむね30~90分で、週2~3回、期間としては6~12週継続されました。水泳の比較対象としては、通常ケアが7試験、ゴルフが1試験でした。結果として、水泳は通常のケアやゴルフと比較してQOL、喘息発作、副腎皮質ステロイドの使用というアウトカムに対して統計学的に有意な効果をもたらしませんでした。ただし、水泳は通常のケアと比べて最大酸素消費量、すなわち運動耐容能に効果がみられました。また、呼吸機能検査のパラメータにもわずかながら効果があったと報告されています。プールに使用されている塩素の有無によって、これらのアウトカムに変化がみられるのかどうかはわかりませんでしたが、少なくとも水泳が気管支喘息の患者さんにとって悪さをするものではないだろうと結論付けられました。ただし、他の運動療法と比較して水泳がベストかどうかという点は、不明といわざるを得ません。この研究では塩素について触れられていましたが、とくに室内プールにおける塩素は小児の気管支喘息を悪化させるのではないかとする意見もあります(Immunol Allergy Clin North Am. 2013; 33: 395-408.)。水泳に運動耐容能を増加させる可能性があるにもかかわらず、塩素が気管支喘息を悪化させるのであれば本末転倒ですね。インデックスページへ戻る

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注意が必要、高齢者への抗コリン作用

 高齢者への薬物治療において、しばしば問題となる抗コリン作用。オーストラリア・フリンダース大学のKimberley Ruxton氏らは、抗コリン作用を有する薬剤と高齢者の認知機能障害や転倒、全死因死亡との関連をシステマティックレビューおよびメタ解析で検証した。British journal of clinical pharmacology誌オンライン版2015年3月2日号の報告。 65歳以上を対象とし、抗コリン作用を有する薬剤(DACEs)の使用と転倒、認知機能障害、全死因死亡との関連を検討したランダム化比較試験、前向きおよび後ろ向きコホート研究、ケースコントロールスタディを、CINAHL、Cochrane Library、EMBASE、PubMedのデータベースを使用し検索した。期間は2013年6月以前に公表されたものとした。抗コリン薬への曝露は、薬物クラス、DACEスコアリングシステム(anticholinergic cognitive burden scale [ACB]、anticholinergic drug scale [ADS]、anticholinergic risk scale [ARS]、anticholinergic component of the drug burden index [DBIAC])または各DACEsの評価により調べた。メタ分析は、個々の研究から結果をプールして行った。 主な結果は以下のとおり。・18報の研究が選択基準を満たした(合計参加者12万4,286例)。・DACEsへの曝露は、認知機能障害のオッズ増加と関連していた(OR 1.45、95%CI:1.16~1.73)。・オランザピンとトラゾドンは、転倒のオッズおよびリスクの増加と関連していた(各々OR 2.16、95%CI:1.05~4.44;RR 1.79、95%CI:1.60~1.97)。しかし、アミトリプチリン、パロキセチン、リスペリドンでは関連が認められなかった(各々RR 1.73、95%CI:0.81~2.65;RR 1.80、95%CI:0.81~2.79;RR 1.39、95%CI:0.59~3.26)。・ACBスケールの単位増加は、全死因死亡のオッズ倍増と関連していた(OR 2.06、95%CI:1.82~2.33)。しかし、DBIACまたはARSとの関連は認められなかった(各々OR 0.88、95%CI:0.55~1.42;OR 3.56、95%CI:0.29~43.27)。・特定のDACEsまたは全体的なDACE曝露の増加は、高齢者の認知機能障害や転倒リスク、全死因死亡率を増加させる可能性がある。関連医療ニュース長期抗コリン薬使用、認知症リスク増加が明らかに統合失調症患者の抗コリン薬中止、その影響は抗コリン薬は高齢者の認知機能に悪影響

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頭蓋内動脈狭窄へのバルーン拡張型ステントは転帰不良/JAMA

 頭蓋内動脈狭窄症の患者に対し、内科的治療+バルーン拡張型ステント治療は、内科的治療のみに比べ、12ヵ月間の同一部位の脳卒中やTIAのリスク増大、また30日間のあらゆる脳卒中やTIAのリスク増大に至ったことが報告された。米国・ウィスコンシン医科大学のOsama O. Zaidat氏らが無作為化比較試験の結果、示された。これまで、無作為化試験による、同比較の検討は行われていなかったという。著者は今回の結果について、「症候性頭蓋内動脈狭窄症の患者には、バルーン拡張型ステントの使用を支持しないものであった」とまとめている。JAMA誌2015年3月24・31日号掲載の報告より。主要複合アウトカムは同一部位の脳卒中または重度TIA Zaidat氏らは2009年1月~2012年6月にかけて、27ヵ所の医療機関を通じ、症候性頭蓋内動脈狭窄症の患者112例を対象に、無作為化比較試験を開始した。同グループは被験者を2群に分け、一方には内科的治療に加えバルーン拡張型ステントを(59例)、もう一方には内科的治療のみを行った(53例)。 主要複合評価項目は、無作為化後12ヵ月間の同一部位の脳卒中、または無作為化後2日~30日間の同一部位の重度(hard:10分以上24時間以内の症状がある)一過性脳虚血発作(TIA)の発生だった。 安全性に関する主要複合評価項目は、無作為化後30日時の全脳卒中、死亡、頭蓋内出血と、無作為化後2日~30日の重度TIAの発生だった。また、修正Rankin尺度を用いて障害を、EuroQol-5Dを用いて一般的な健康状態を、いずれも12ヵ月間評価した。安全性エンドポイント発生率、ステント群で24.1%、対照群で9.4% 試験は、別の試験結果でステント群のアウトカムが悪かったことを受け、当初予定していた被験者数250例を満たさないまま早期に中止された。 30日時点の主要安全性エンドポイントの発生率は、対照群で9.4%に対し、ステント群では24.1%だった(p=0.05)。また、30日時点の頭蓋内出血の発生率も、対照群では0%に対し、ステント群では8.6%と多かった(p=0.06)。 無作為化後1年時点の主要アウトカム発生率も、対照群で15.1%に対し、ステント群では36.2%と有意に多かった(p=0.02)。 修正Rankin尺度による生活障害に関するスコアが、ベースライン時より悪化した人の割合も、対照群で11.3%に対しステント群では24.1%と多かった(p=0.09)。EuroQol-5Dの得点(5領域すべて)は12ヵ月時点で両群間で差はみられなかった。

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PCI前の出血リスク予測は有用/BMJ

 ST上昇型心筋梗塞でPCI実施が予定されている患者に対し、術前に周術期出血リスク予測を行うことで、出血回避戦略の実施率が上がり、出血リスクが減少することが明らかにされた。米国Saint Luke’s Mid America Heart InstituteのJohn A Spertus氏らが、1万例超について行った前向きコホート試験の結果、報告した。BMJ誌オンライン版2015年3月24日号掲載の報告より。米国9ヵ所の医療機関でコホート試験 Spertus氏らは、米国9ヵ所の医療機関を通じて、ST上昇型心筋梗塞でPCI実施予定の患者について前向きコホート試験を行った。 術前に周術期出血リスク予測を行うことで、出血回避のための戦略実施が増加し、出血リスク減少につながるかどうかを分析した。術前出血リスク予測で出血率は4割減 被験者のうち、術前に周術期出血リスク予測を行わなかったのは7,408例で、同リスク予測を行ったのは3,529例だった。 術前の同リスク予測実施群のほうが非実施群に比べ、手術部位の出血回避のための戦略実施率が約1.8倍増大した(オッズ比[OR]:1.81、95%信頼区間[CI]:1.44~2.27)。なかでも高リスク患者の実施率の増大(OR:2.03、95%CI:1.58~2.61)のほうが、低リスク患者(同:1.41、1.09~1.83)より有意に大きかった(相互作用のp=0.05)。 手術部位の出血率も、出血リスク予測後のほうが有意に低下した(1.0% vs. 1.7%、OR:0.56、95%CI:0.40~0.78、p<0.001)。なかでも高リスク患者については、出血率の減少幅が大きかった。 なお、出血回避戦略実施率は、医療機関や医師によって大きなばらつきが認められた。著者は、このばらつきが、整合性、安全性および医療の質の改善に結び付く重要な視点になると指摘している。

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AMI発症に「4日前の黄砂曝露」が関連

 急性心筋梗塞(AMI)の発症は、発症数日前の黄砂曝露と関連することが、済生会福岡総合病院の松川 龍一氏らの研究により明らかになった。Circulation. Cardiovascular quality and outcomes誌2014年9月号の報告。 黄砂は、中国やモンゴルの砂漠や乾燥地域の砂塵が強風によって上空に巻き上げられ、春を中心に日本にも飛散する。最近、この黄砂の曝露による健康被害への懸念が高まっている。 本研究では、黄砂がAMIの発症率と関連しているかどうかを明らかにするために検討を行った。 福岡県の4施設でAMI発症から24時間以内に入院した心筋梗塞症例連続3,068例のカルテと、2003年4月から2010年12月に黄砂が観測された日のデータを用いて時間層別化症例クロスオーバー試験を実施し、黄砂と急性心筋梗塞の発症率との関連性を検討した。条件付きロジスティック回帰分析を用い、周囲温度および相対湿度をコントロールした後、黄砂に関連するAMIのオッズ比を推定した。 主な結果は以下のとおり。・入院4日前の黄砂発生は、AMIの発症と有意な関連が認められた(オッズ比:1.33、95%CI:1.05~1.69)。・入院0~4日前の黄砂発生は、AMIの発症と有意な関連が認められた(オッズ比:1.20、95%CI:1.02~1.40)。

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心房細動においても多職種が介入する疾病管理の概念が重要(解説:小田倉 弘典 氏)-346

 多職種が介入する慢性心不全の疾病管理プログラムは、国内外のガイドラインにおいても推奨度が高く、Class Iに位置付けられている。疾病管理とは、具体的には多職種(医師・看護師・薬剤師・栄養士など)によるチーム医療、退院時指導、フォローアップ計画(病診連携)、ガイドラインに沿った薬物治療、十分な患者教育・カウンセリング、患者モニタリングによる心不全増悪の早期発見などが挙げられる1)。しかしながら、心房細動においてはいくつかの報告があるものの、レベルの高いエビデンスに乏しかった。 本論文は、オーストラリアの三次医療機関において施行された、心房細動に特異的な疾病管理の有効性を検討したものである。 対象は、オーストラリア3ヵ所の三次医療機関において、新規に慢性心房細動と診断された心不全のない非弁膜症性心房細動335例。無作為割り付けにより、退院後ルーチンのプライマリケアと外来診察によるフォローアップから成る標準管理群(167例)と、心房細動に特異的な管理を行った「SAFETY管理群」(168群)に振り分けた。SAFETY管理の内容は、退院後7~14日間、心臓専門看護師による家庭訪問とホルターモニタリング、訪問時の家庭環境、症状、薬剤処方計画の確認、プライマリケア医、救急病院の連携、必要に応じた運動プログラム、ソーシャルワーカーや地域薬剤師のサポートなどから成る。 最低12~24ヵ月ごとに臨床的評価を施行。主要評価項目は全死亡、予期せぬすべての入院、副次評価項目としてイベントフリー時間、生存および非入院期間の実期間と最大期間の比率が設定された。 結果は、以下のとおりであった。 1)平均追跡905日、2)死亡49例、予期せぬ入院987例(全入院5,530日)、3)死亡+予期せぬ入院:SAFETY管理群76%・平均イベントフリー時間183日 vs. 標準管理群82%・199日;ハザード比0.97、p=0.851、4)生存および非入院時間の最大値に占める実測値の理合:SAFTY管理群99.5% vs. 標準管理群99.2%;p=0.039。心房細動に特化した管理は、標準管理に比べ生存日数や非入院日数の延長に関連し、疾患特異的な管理は慢性心房細動患者の乏しい健康アウトカムの改善戦略として有望と結論付けられている。 それぞれのケアの内容が重要なのでもう少しみてみると、標準管理とは、不具合時の対処や心房細動管理のキーポイントを記載した退院時の教育的ブックレット(「心房細動と共に生きる」)配布や、退院時の医師のサマリーおよび各種トライアルの情報の提供などであった。一方SAFETY管理は、退院後のナースの家庭訪問、GARDENメソッドによる個々の包括的な環境やセルフケアの能力の把握、臨床状況やガイドラインに基づいての管理の記録などである。ナースはこれら包括的なレポートを医療チームに送り、適切な抗凝固薬を選択し、心機能低下の進行を遅らせ、臨床的安定を図るとされている。 心房細動治療の慢性管理の目標は、心原性脳塞栓と心不全の予防である。とくに前者では抗凝固薬服用のアドヒアランスの維持、出血などのトラブルシューティング、後者では心不全症状の早期発見、食事運動といった管理などが主眼と考えられる。こうした管理は、医師だけで完結できるものではない。慢性心不全の管理同様、多職種で多角的に介入することにより管理の精度が向上することは容易に予想される。そのことが無作為割付試験で明確化された点で意義のある研究といえる。 ただし、死亡・入院といったイベント数だけをみると、標準管理と比べ有意差はなく、非入院期間の延長が複合評価項目の改善に寄与していた。本論文では看護師チームの定期的訪問が最大の特徴だが、この訪問により、抗凝固薬の服薬アドヒアランスや出血時の対処能力などの高まりが予測される。一方、大きなイベントを回避するまでのパワーには、いまだに不足している可能性がある。 また、訪問看護によるコストに関しては考慮されていない。現時点では、日本では心不全のない軽症の心房細動患者に対する訪問看護は保険償還されない。 しかしながら、看護師主導の心房細動ケアが心血管イベントを減らすとする別の無作為化試験も報告されており2)、医師だけでなく、多職種が介入することにより包括的に心房細動の慢性期を管理するという考え方は、非ビタミンK阻害経口抗凝固薬が出揃った現在、新たな心房細動治療の概念として重要視されることは間違いないと思われる。

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Vol. 3 No. 3 経カテーテル大動脈弁植え込み術(TAVI) 手技と治療成績

髙木 健督 氏新東京病院心臓内科治療手技Edwards SAPIEN(Edwards Lifesciences Inc, Irvine, CA)は、経大腿動脈、経心尖部アプローチが可能である(本誌p.27図1を参照)。(1) 経大腿動脈アプローチ(transfemoral:TF)(図1)現在、Edwards SAPIENの留置は16、18FrのE-Sheathを用いて行っている。E-Sheath挿入は、外科的cutdown、またはpunctureで行う2つの方法があり、どちらの場合も術前の大動脈造影、造影CTを用いて石灰化の程度、浅大腿動脈と深大腿動脈の分岐位置を確認することが大切である。TAVIに習熟している施設では、止血デバイス(パークローズProGlideTM)を2~3本使用し、経皮的に止血するケースも増えてきている。しかしながら、血管の狭小化、高度石灰化を認める場合、またTAVIを始めたばかりの施設ではcutdownのほうが安全に行うことができる。E-Sheathは未拡張時でも5.3~5.9mmあり、通常ExtrastiffTMのような固いワイヤーを用いて、大動脈壁を傷つけないよう慎重に進める。ガイドワイヤーの大動脈弁通過は、Judkins Right、Amplatz Left-1、Amplatz Left-2カテーテルを上行大動脈の角度に応じて使い分ける。また、ストレートな形状(TERUMO Radifocus、COOK Fixed Core wire)を用いると通過させやすい。ガイドワイヤーを慎重に心尖部に進めたあと、カテーテルも注意深く左室内に進める。その後、通常のコイルワイヤーを用いてPigtailカテーテルに入れ替える。さらに、Pigtailの形を用いながら、心尖部にStiffワイヤーを進める。StiffワイヤーはAmplatz Extra Stiff Jカーブを用いることが多い。左室の奥行きを十分に観察するため、RAO viewで可能な限りガイドワイヤーの先端を心尖部まで進めるが、経食道エコーを用いるとより正確に心尖部へ進めることが可能である。Edwards SAPIEN23mmには20/40mm、26mmには23/40mmのバルーンが付随しており、通常はこれを使用する。バルーン内の造影剤は15%程度に希釈すると粘度が下がり、バルーン自体の拡張、収縮をスムーズにする。バルーンを大動脈弁まで進め、一時的ペースメーカーにて180~200ppmのrapid pacingを行い、血圧を50mmHg以下にし、バルーンをinflation、そしてdeflationする。Rapid pacingは、血圧が50mmHg以下になるように心拍を調整する。一時pacingが1:2になるときは、160〜180ppmの低めからスタートし徐々に回数を上げるとよい。Pigtailカテーテルからの造影は、バルーンinflationの際に、冠動脈閉塞の予測、valveサイズの決定に有用である(図2a)。大動脈内にデリバリーシステムを進め、E-Sheathから出たところで、バルーンを引き込み、ステントバルブをバルーン上に移動させる。デバイスのalignment wheelを回転させバルーンのマーカー内にステントバルブの位置を調整する(図2b)。大動脈弓でデバイスのハンドルを回し、デバイスを大動脈に添わせるように進めていく(LAO view)。デバイスを左室内に進めたあと、システムの外筒をステントバルブから引き離し、Pigtailからの造影剤で位置を確認し、rapid pacing下で留置する(図2c, d)。留置後、経食道エコー、大動脈造影でparavalvular leakがないことを確認し、問題なければE-Sheathを抜去、止血を行う。図1 経大腿動脈アプローチ画像を拡大する(1)画像を拡大する(2)画像を拡大する(3)画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大する図2 経大腿動脈アプローチの画像a 画像を拡大するb 画像を拡大するc 画像を拡大するd 画像を拡大する(2) 経心尖部アプローチ(transapical:TA)(図3)左胸部に5~7cmの皮膚切開をおき、第5、6肋間にて開胸を行う。ドレーピング後に清潔なカバーをした経胸壁エコーを用いてアクセスする肋間を決定する。心膜越しに心尖部をふれ、心尖部であることを経食道エコーで確認する。心尖部の心膜を切開し、心膜を皮膚に吊り上げる。穿刺部位を決定したら、その周囲にマットレス縫合またはタバコ縫合をかける。縫合の中央より穿刺し、透視下にガイドワイヤーを先行させる。その後、Judkins Rightを用いて下行大動脈まで進め、Stiffワイヤーに変更する。さらに、24Frデリバリーシースに変更し、20mmバルーンで拡張したあとにスタントバルブを留置する(図4a, b)。図3 経心尖部アプローチ画像を拡大する(1)画像を拡大する(2)画像を拡大する(3)画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大する図4 経心尖部アプローチの画像a 画像を拡大するb 画像を拡大する治療成績症候性重症大動脈弁狭窄症(symptomatic severe AS:s AS)に対して、効果的な薬物療法がないため、保存的治療を選択した患者の予後が悪く、手術可能である患者には、外科手術(sAVR)が標準治療となっている1-3)。しかしながら、30%以上のs ASは、さまざまな理由で、sAVRは見送られているのが現状である4,5)。TAVIは、ハイリスクs ASに対して、sAVRの代替治療として2002年にDr. Alain CribierによってFirst In Man(FIM)が施行され6)、現在はヨーロッパを中心に10万例以上の治療が施行されている。TAVIは、balloon expandableタイプのEdwards SAPIEN、self expandableのCoreValve system(Medtronic, Minneapolis, MN)といった2つのシステムが、欧州を中心に用いられている。(1) Edwards' Registries現在までにEdwards SAPIENを用いたregistryでは、さまざまな報告がなされているが、有害事象が施設ごとに異なり統一された基準を用いていなかった。そうした状況を踏まえ、2011年には統一評価基準を定めたValve Academic Research Consortium (VARC)guidelines7)が発表され、その後はVARCを用いた治療成績が発表されるようになった。2012年に報告されたFrance 2 registryでは、3,195例の初期成績と1年成績が報告された(平均82.7歳、logistic EuroSCORE 21.9±14.3%、STS score 14.4±12.0%)。Edwards SAPIENが66.9%で用いられ、CoreValveは33.1%であった。アプローチはTF 74.6%、TS 5.8%、TA 17.8%であり、手技成功は96.9%で得られた。また、30日全死因死亡率9.7%、1年死亡率24.0%、30日心血管死亡率7.0%、1年心血管死亡率13.6%であり、手術ハイリスクであるs ASに対してTAVIは妥当な治療法であることが示された8)。また、長期予後に関しては、Webbら9)が、84人のTAVI施行後5年成績を発表しており、5年間で3.4%の中等度valve dysfunctionを認めたものの重篤なvalve dysfunctionを引き起こした症例は認めず、SAPIEN valveの長期耐久性が優れていることを証明した。またそのなかで、生存率は1年83%、2年74%、3年53%、4年42%、5年35%であり、COPD、中等度以上のmoderate paravalvular aortic regurgitation(PR)が全死因死亡に与える影響が大きいことを示した。(2) 無作為化比較試験PARTNER試験(Placement of AoRtic Tra-NscathetER Valves)はs ASにおけるハイリスク手術、手術不適応症例において、TAVIと標準治療(バルーン拡張術+薬物療法)、外科手術を比較した初めての多施設無作為試験である。Cohort Aは、手術ハイリスクのs AS患者をTAVIとsAVRに割りつけ、cohort Bにおいては手術適応がないと判断されたs AS患者をTAVIと標準治療(バルーン拡張術)に割りつけた。手術ハイリスクとは、(1) STSスコアが10%以上、(2)予想30日死亡率が15%以上、(3)予測30日死亡率が高く、また50%以上の死亡率の併存疾患がある状態、と考えられた。除外基準は、2尖弁、非石灰化大動脈弁、クレアチニン3.0mg/dLまたは透析の重症腎不全、血行再建が必要な冠動脈疾患、左室機能低下(EF 20%以下)、大動脈弁径18mm以下または25mm以上、重症僧帽弁逆流症(>3+)、大動脈弁逆流症(>3+)、そして6か月以内に起きた一過性脳虚血発作または脳梗塞であった。2つのコホートの主要エンドポイントは研究期間中の全死亡であり、全死亡、再入院を合わせた複合イベントも検討された。PARTNER trial -cohort A-PARTNER trial cohort Aでは、手術ハイリスク(STS平均スコア11.8%)と判断されたs AS患者(25施設、699例)をTAVIとsAVRに割りつけ、術後1年時(中央値1.4年)の全死因死亡、心血管死亡、NYHA分類のクラス、脳卒中、血管合併症、出血を比較した。TA 104人に対しsAVRから103人、TF 244人に対しsAVRから248人が割りつけられた。30日全死因死亡率はTAVI群全体で3.4%、sAVR群で6.5%(p=0.07)であった。またTF群3.3%に対しsAVR群は6.2%(p=0.13)、TA群3.8%に対しsAVR群は7.0%(p=0.32)で有意差は認めなかった。主要エンドポイントに設定された1年時死亡率は、TAVI群24.2%とsAVR群26.8%(p=0.44)であり、TAVIの非劣性が確認された(非劣性のp=0.001)。TF、TAに分けて分析しても、sAVRと比較し非劣性が確認された。脳卒中または一過性脳虚血発作の発生率はTAVI群で高かった(30日TAVI 5.5% vs. sAVR 2.4% p=0.04、1年時8.3% vs. 4.3% p=0.04)。しかしながら、重症の脳卒中(修正Rankinスケールが2以上)では、有意差はみられなかった(30日TAVI 3.8% vs. sAVR 2.1% p=0.20、1年5.1% vs. 2.4% p=0.07)。全死因死亡または重症脳卒中を合わせた複合イベントの発生率に差はなかった(30日TAVI 6.9% vs. sAVR 8.2% p=0.52、1年26.5% vs. 28.0% p=0.68)。主要血管合併症は、TAVI群に有意に多かったが(11.0% vs. 3.2% p<0.001)、大出血と新規発症した心房細動はsAVR群で多かった(出血9.3% vs. 19.5% p<0.001、心房細動8.6% vs. 16.0% p=0.006)。TAVI群では、sAVR群より多くの患者が30日時点で症状の改善(NYHA分類でクラスII以下)を経験していたが、1年経つと有意差がなくなった。TAVI群のICU入院期間、全入院期間はsAVR群より有意に短かった(3日 vs. 5日 p<0.001、8日間 vs. 12日間 p<0.001)。以上のように、PARTNER trial -cohort A-より、1年全死因死亡率においてTAVIはsAVRに劣らないことが証明された10)。PARTNER trial -cohort B-PARTNER trial cohort Bでは、手術不適応と判断されたs AS患者(21施設、358例)を、バルーン大動脈弁形成術を行う標準治療群(control群)と、TAVI群に無作為に割りつけ比較検討を行った。1年全死因死亡率はTAVI群30.7%、control群50.7%であり(p<0.001)、全死因死亡または再入院の複合割合は、TAVI群42.5%、control群71.6%であった(p<0.001)。1年生存は、NYHA分類でⅢ/Ⅳ度を示した症例はTAVI群のほうが有意に少なかった(25.2% vs. 58.0% p<0.001)。しかし、TAVI群はcontrol群と比較して30日での脳卒中(5.0% vs. 1.1% p=0.06)と血管合併症(16.2% vs. 1.1% p<0.001)を多く発症した。血管、神経合併症が多いものの、全死因死亡率、全死因死亡または再入院の複合割合は有意に低下し、心不全症状は有意に改善した10)。その後、2年成績も報告され、2年全死因死亡(TAVI群43.3% vs. control群68.0% p<0.001)、心臓関連死(31.0% vs. 68.4% p<0.001)はTAVI群で著明に少なく、TAVIで得られたadvantageは2年後も継続していることが示された11)。上記2つの試験により、現時点では手術不適応、手術がハイリスクであるs AS患者に対するTAVIはsAVRの代替療法になることが示されたが、中等度リスク患者においては、未だエビデンスが不十分である。そのため、中等度手術リスクのs AS患者に対する、TAVIの有効性、安全性を証明するには、TAVIとsAVRを比較したPARTNER2 trialの結果が待たれるところである。TAVIに関連する特記事項血管合併症(vascular complication)血管合併症はTFアプローチのTAVIの大きな問題であり、大口径カテーテルを用いること、治療対象がハイリスク症例であることから高率に発生する。小血管径、重篤な動脈硬化、石灰化、蛇行した血管はTAVIにおける血管合併症の主な原因である。最新の報告であるFrance 2 registryでは、デバイスは18Fr Edwards SAPIEN XTを含んではいるものの、全体で4.7%、TF群で5.5%と主要血管合併症の発生頻度は減少している8)。主要血管合併症、または主要出血と生存の関係は、何人かの著者によって証明されており、この合併症を予防するために、十分なスクリーニングが最も重要である。脳卒中(stroke)TAVIにおける有症状の脳梗塞は、致命的合併症である(1.7~8.3%)10-17)。脳梗塞発症の機序ははっきりしていないが、大口径のカテーテルが大動脈弓を通過するとき、高度狭窄した大動脈弁を通過させるとき、大動脈弁拡張時、rapid pacing中の血行動態に伴うもの、デバイス留置など、手技中のさまざまな因子によって引き起こされている可能性が示唆されている。現在のTAVI症例は、高齢であり心房細動、そして動脈硬化病変の割合が高く、脳梗塞イベントを増加させている。Diffusion-weighted magnetic resonance imaging(DW-MRI)を用いた2つの研究において、TFアプローチTAVI後に、新規に発症した脳梗塞が70%以上の患者に発生していたことが報告された18,19)。また、Rodés-CabauらはDW-MRIによってTAで71%、TFでも66%と同じように、脳梗塞を発症していることを報告した20)。しかしながら、ほとんどの症例が症状を伴わないため、臨床的なインパクトを決定するにはさらなる研究が必要である。脳梗塞予防デバイスが開発中であり、TAVI後の無症候性、症候性脳梗塞を減少させると期待されていたが、満足できる結果は報告されていない。また、術後の抗血小板療法については、抗血小板薬2剤併用療法を3か月以上行うのが主流だが、はっきりとした薬物療法の効果については報告されておらず、議論の余地がある。調律異常(rhythm disturbance)文献により新規ペースメーカー植え込み率は異なっているものの(CoreValve 9.3~42.5% vs. Edwards SAPIEN 3.4~22%)、CoreValveは、左室流出路深くに留置し、長期間つづく強いradial forcesを生じることから、Edwards SAPIENよりも新規ペースメーカー留置を必要とする頻度が高いと報告されている。持続する新しい左脚ブロックの新規発現は、TAVI後の最も明らかな心電図上の所見であると報告されており、CoreValve留置後1か月の55%の症例で、そしてSAPIEN留置後1か月の20%の症例において認められ21)、その出現は全死因死亡の独立した因子であることが報告されている22)。一方で、TAVI後の完全房室ブロックの予測因子は、右脚ブロック、低い位置での弁の留置、植え込まれた弁と比較して小さな大動脈弁径、手技中の完全房室ブロック、そしてCoreValveと報告されており23,24)、一般的に心電図モニター管理は最低72時間、TAVI後の患者すべてに行われるが、この合併症の高リスク患者は退院するまでのモニター管理が必要である。弁周囲逆流(paravalvular regurgitation)Paravalvular regurgitation(PR)は、TAVI後に一般的にみられる。多くの症例では、mild PRを認め、7~24%の患者でmoderate以上のPRが観察される12,25-28)。SAPIEN Valveにおいて、moderate以上のPRの割合に経年的変化は認められない12,28)。一方、CoreValveは強いradial forcesによりPRが改善したと報告があるが25)、はっきりとしたコンセンサスは得られていない。TAVI後のmoderate PRは(PARTNER試験ではmild PRであっても)長期成績に影響を与えることがわかっており29-31)、PRを減らすことが非常に重要な問題となっている。PRを減らすためには、より大きなvalve sizeを選択する必要があるが32,33)、致命的な合併症である大動脈弁破裂を引き起こす可能性が増える。そのため、慎重なCT、エコーでの大動脈弁径、石灰化分布の評価が必要である。冠動脈閉塞(coronary obstruction)左冠動脈主幹部閉塞は稀であるが、BAV、TAVIの最中に起こりうる重篤な合併症である。急性冠動脈閉塞に対して迅速なPCI、またはバイパス手術で救命されたという報告がされている34-36)。大動脈弁輪と冠動脈主幹部の距離は、分厚い石灰化弁と同様に重要な予測因子となり、3Dエコー、CTでの正確な評価がこの致命的な合併症を避けるために必要である37)。ラーニングカーブTAVIにはラーニングカーブがあり、正確な大動脈弁径、腸骨大腿動脈径の測定、リスク評価、適切な症例選択、手技の習熟により、治療成績は劇的に改善することが報告されている。Webbらは168例の成績を報告し、初期の30日死亡率がTF 11.3%、TA 25%から、後半でTF 3.6%、TA 11.1%と改善したことを示し、TAVIにおけるラーニングカーブの重要性を明らかにした38)。おわりに本邦でも、Edwards SAPIEN XTを用いたPREVAIL JAPAN試験の良好な成績が発表され、2013年から保険償還され、本格的なTAVIの普及が期待されている。しかしながら、現在の適応となる患者群のTAVI治療後の1年全死因死亡率は20%以上であり、TAVIの適応については、議論の余地がある。特にADLの落ちている高齢者、frailtyの高い患者は、ブリッジ治療としてBAVを行い、心機能だけでなくADLが改善することを確認したうえで、TAVI治療を選択するといったstrategyも考慮する必要があるのではないだろうか。文献1)Bonow RO et al. ACC/AHA 2006 Guidelines for the Management of Patients With Valvular Heart Disease: A Report of the American College of Cardiology/American Heart Association Task Force on Practice Guidelines (Writing Committee to Revise the 1998 Guidelines for the Management of Patients With Valvular Heart Disease): Developed in Collaboration With the Society of Cardiovascular Anesthesiologists: Endorsed by the Society for Cardiovascular Angiography and Interventions and the Society of Thoracic Surgeons. Circulation 2006; 114: e84-e231.2)Vahanian A et al. Guidelines on the management of valvular heart disease (version 2012): The Joint Task Force on the Management of Valvular Heart Disease of the European Society of Cardiology (ESC) and the European Association for Cardio-Thoracic Surgery (EACTS). 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【GET!ザ・トレンド】脳神経細胞再生を現実にする(3)

近年の研究で、ヒトの脳にも“神経幹細胞”が存在し、新たな神経細胞をつくっていることが証明された。この神経幹細胞を有効に活用することで、脳神経を再生させる。それを実現する再生医薬品、SB623が開発されている。すでに米国での臨床試験も終了し、著しい効果を示しているという。今回は米国でその臨床試験を統括したスタンフォード大学 神経外科 総責任者である Gary Steinberg氏に聞いた。喜ばしい結果をもたらした初回の臨床試験今回の臨床試験では18人の移植患者に対し、SB623の影響をみた。当初は安全性試験であったが、同時に効果もみることとなった。まず安全性の結果を振り返ると、重篤な有害事象はみられず、また軽度なものも薬剤関連のものはみられなかった。一方、効果の1次評価項目はESS、2次評価項目としてその他の脳卒中評価指標および画像所見も取り入れている。その結果、統計学的にもベースラインからの有意な神経学的な改善が、投与1ヵ月後からみられている。改善は3ヵ月後にはさらに上昇し、6ヵ月後および12ヵ月後も有意な改善が維持されている。この改善効果は、ESS以外の神経評価指標でも確認された。Steinberg氏は「この一連の効果はわれわれの予測を大きく上回り、非常に喜ばしい驚きを与えてくれた」と述べた。予想外 画像所見と神経学的回復が相関したまた、予想外の事実の1つとして、脳MRI所見の変化がある。この所見は投与1週間後にみられた新しいシグナル変化である。この変化は1~2ヵ月後には消失するものの、患者の神経機能は改善し続ける。このシグナルは脳卒中のシグナルではない。このシグナルは運動機能に影響する前運動野に出現する。驚くべきことは、この所見の変化が6ヵ月と12ヵ月の神経学的回復と統計学的に有意に相関する。今後さらに探索する必要があるが、細胞にとって有益な何らかの炎症反応という可能性がある。もう1つ興味深い所見がある。脳のグルコース代謝をみているPETスキャンで脳卒中の病変部位と反対側の領域の代謝活性が上がっていたのである。そして、この代謝活性の上昇は6ヵ月と12ヵ月の神経機能改善と相関している。動物やヒトの研究が今盛んに行われているが、この反対側は卒中部位の回復促進に非常に重要で、卒中側の機能を引き継ぐ、あるいは卒中域を調整できることがわかっている。講演で紹介した患者は非常に印象的な回復をみせた。回復は投与1日で確認された。このようなケースは体験したことがなく、その驚きはショックと表現したほうが適切であった。とはいえ、すべての患者がこのように急速に回復するわけではない。18人の患者の全体像をみると、早期は1ヵ月程度で回復がみられ、3ヵ月で改善が増加し、6ヵ月、12ヵ月においても持続している。24ヵ月観察している患者は多くはないが、同様に改善が持続している。ちなみに、神経学的改善は年齢、用量、罹病期間とも相関せず、前述のフレアシグナルの出現と相関する。脳卒中発症後6ヵ月経過すると脳神経回路は死んで回復できないというのが、従来の定説である。しかし、この試験の結果は考え方を変えさせるものだ。個人的な推察ではあるが、脳卒中になっても脳の神経回路は死んでおらず、大きな阻害により働かない状態になっているが、再活性化されることで回路が再び働き始めるのではないだろうか。SB623の今後の可能性脳卒中においては、さまざまな幹細胞が研究されている。SB623はすでに臨床プログラムに進んでおり、またこれほどの効果を示せたことは画期的である。他の細胞は臨床に入ったばかりであり、それらと比べると明らかにアドバンテージがある。また、慢性脳卒中で効果をみせた意味は大きく、これは時間が経つとともに大きなベネフィットを生むだろう。この試験結果はわれわれに希望を与えるものだった。しかし、症例数は少なく対照群もない。解明すべき点も多々ある。次の段階として150人のアームで対照群と比較するPhase2B試験に進む。そして、より多くの被験者で効果を確認するPhase3試験へとさらに発展させる必要がある。脳卒中は破壊的な病気である。世界では1500万人の患者がいる。この薬剤の効果が証明されれば非常に多くの患者の人生が変化する。脳卒中の治療においては飛躍的進歩になると考えられる。日本の臨床医へのメッセージSteinberg氏メッセージ:2’11″

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【GET!ザ・トレンド】脳神経細胞再生を現実にする(3)

近年の研究で、ヒトの脳にも“神経幹細胞”が存在し、新たな神経細胞をつくっていることが証明された。この神経幹細胞を有効に活用することで、脳神経を再生させる。それを実現する再生医薬品、SB623が開発されている。すでに米国での臨床試験も終了し、著しい効果を示しているという。今回は米国でその臨床試験を統括したスタンフォード大学 神経外科 総責任者である Gary Steinberg氏に聞いた。喜ばしい結果をもたらした初回の臨床試験今回の臨床試験では18人の移植患者に対し、SB623の影響をみた。当初は安全性試験であったが、同時に効果もみることとなった。まず安全性の結果を振り返ると、重篤な有害事象はみられず、また軽度なものも薬剤関連のものはみられなかった。一方、効果の1次評価項目はESS、2次評価項目としてその他の脳卒中評価指標および画像所見も取り入れている。その結果、統計学的にもベースラインからの有意な神経学的な改善が、投与1ヵ月後からみられている。改善は3ヵ月後にはさらに上昇し、6ヵ月後および12ヵ月後も有意な改善が維持されている。この改善効果は、ESS以外の神経評価指標でも確認された。Steinberg氏は「この一連の効果はわれわれの予測を大きく上回り、非常に喜ばしい驚きを与えてくれた」と述べた。予想外 画像所見と神経学的回復が相関したまた、予想外の事実の1つとして、脳MRI所見の変化がある。この所見は投与1週間後にみられた新しいシグナル変化である。この変化は1~2ヵ月後には消失するものの、患者の神経機能は改善し続ける。このシグナルは脳卒中のシグナルではない。このシグナルは運動機能に影響する前運動野に出現する。驚くべきことは、この所見の変化が6ヵ月と12ヵ月の神経学的回復と統計学的に有意に相関する。今後さらに探索する必要があるが、細胞にとって有益な何らかの炎症反応という可能性がある。もう1つ興味深い所見がある。脳のグルコース代謝をみているPETスキャンで脳卒中の病変部位と反対側の領域の代謝活性が上がっていたのである。そして、この代謝活性の上昇は6ヵ月と12ヵ月の神経機能改善と相関している。動物やヒトの研究が今盛んに行われているが、この反対側は卒中部位の回復促進に非常に重要で、卒中側の機能を引き継ぐ、あるいは卒中域を調整できることがわかっている。講演で紹介した患者は非常に印象的な回復をみせた。回復は投与1日で確認された。このようなケースは体験したことがなく、その驚きはショックと表現したほうが適切であった。とはいえ、すべての患者がこのように急速に回復するわけではない。18人の患者の全体像をみると、早期は1ヵ月程度で回復がみられ、3ヵ月で改善が増加し、6ヵ月、12ヵ月においても持続している。24ヵ月観察している患者は多くはないが、同様に改善が持続している。ちなみに、神経学的改善は年齢、用量、罹病期間とも相関せず、前述のフレアシグナルの出現と相関する。脳卒中発症後6ヵ月経過すると脳神経回路は死んで回復できないというのが、従来の定説である。しかし、この試験の結果は考え方を変えさせるものだ。個人的な推察ではあるが、脳卒中になっても脳の神経回路は死んでおらず、大きな阻害により働かない状態になっているが、再活性化されることで回路が再び働き始めるのではないだろうか。SB623の今後の可能性脳卒中においては、さまざまな幹細胞が研究されている。SB623はすでに臨床プログラムに進んでおり、またこれほどの効果を示せたことは画期的である。他の細胞は臨床に入ったばかりであり、それらと比べると明らかにアドバンテージがある。また、慢性脳卒中で効果をみせた意味は大きく、これは時間が経つとともに大きなベネフィットを生むだろう。この試験結果はわれわれに希望を与えるものだった。しかし、症例数は少なく対照群もない。解明すべき点も多々ある。次の段階として150人のアームで対照群と比較するPhase2B試験に進む。そして、より多くの被験者で効果を確認するPhase3試験へとさらに発展させる必要がある。脳卒中は破壊的な病気である。世界では1500万人の患者がいる。この薬剤の効果が証明されれば非常に多くの患者の人生が変化する。脳卒中の治療においては飛躍的進歩になると考えられる。日本の臨床医へのメッセージSteinberg氏メッセージ:2’11″

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