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インフルにかかりやすい人の5つの特徴/弘前大学

 インフルエンザ感受性に関連する複数の背景因子とそれらの関連性を明らかにするため、大規模な健康診断データを解析した結果、インフルエンザにかかりやすい人の傾向として、高血糖、肺炎の既往、多忙・睡眠不足、栄養不良、アレルギーの5つの特徴パターンが特定されたことを、弘前大学の寺田 明秀氏らが明らかにした。Scientific Reports誌2025年8月21日号掲載の報告。 インフルエンザ感受性の生物学的および環境的リスク要因は広く研究されているが、これらの要因間の複雑な関係を包括的に分析した研究は存在しないという。そこで研究グループは、複数の要因とその因果関係を明らかにするため、岩木健康増進プロジェクトの健診データ(2019年分)を解析した。 岩木健康増進プロジェクトでは、血液検査、生活習慣、職業、既往歴、体組成など3,000項目以上の健康データを収集しており、今回の研究ではインフルエンザ発症に関連する165項目を抽出して解析した。 ロジスティック回帰分析でインフルエンザ発症に関連する因子を抽出し、ベイジアンネットワーク解析でそれらの因果関係を可視化した。さらに相対的寄与(RC)値に基づくクラスタリングにより、インフルエンザに罹患しやすい参加者の特徴パターンを抽出した。 主な結果は以下のとおり。・解析対象は1,062人(平均年齢52.7±15.3歳、女性59%)であった。121人が過去1年間にインフルエンザに罹患していた。・ロジスティック回帰分析では、肺炎の既往、睡眠不足、生活環境(同居人数や通勤環境など)、栄養状態、糖代謝異常、アレルギーなどがインフルエンザ発症に関連する因子として抽出された。・ベイジアンネットワーク解析では、「既往歴・心肺機能」と「睡眠」がインフルエンザ発症に直接関与する主要因子として抽出された。また、「栄養・食品」から「血液検査」「アレルギー」「生活習慣」などを介して発症に至る間接経路も示された。・全参加者を対象としたクラスタリングでは、肺炎の既往、睡眠障害、高血糖関連指標が高い集団におけるインフルエンザ罹患率のオッズ比は3.6であった。・インフルエンザ罹患者を対象としたクラスタリングでは、高血糖、肺炎の既往、多忙・睡眠不足、栄養不良、アレルギーの組み合わせが、インフルエンザにかかりやすい人の特徴パターンであることが明らかになった。 研究グループは「本研究は、より高度で個別化された疾病予防および治療戦略の構築に貢献する可能性がある」とまとめた。

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新規作用機序の高コレステロール血症治療薬ベムペド酸を発売/大塚

 大塚製薬の新規作用機序の高コレステロール血症治療薬ベムペド酸(商品名:ネクセトール)が2025年11月21日に発売された。効能・効果は「高コレステロール血症、家族性高コレステロール血症」で、スタチン効果不十分またはスタチンによる治療が適さない高コレステロール血症患者への新たな治療選択肢とされる。 本剤は、肝臓中のコレステロール合成経路においてスタチンの作用点よりも上流にあるATPクエン酸リアーゼに作用し、血中のLDLコレステロールの低下をもたらす。すでに米国や欧州をはじめ、世界の複数国・地域で高コレステロール血症治療薬として販売されており、国内においては、大塚製薬が2020年4月に本剤の独占的開発販売権を米国・エスペリオンから取得、2025年9月に製造販売承認を取得していた。<製品概要>販売名:ネクセトール錠180mg一般名:ベムペド酸製造販売承認日:2025年9月19日薬価基準収載日:2025年11月12日効能又は効果:高コレステロール血症、家族性高コレステロール血症用法及び用量:通常、成人にはベムペド酸として180mgを1日1回経口投与する。 薬価:371.50円製造販売元:大塚製薬株式会社

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NTRK陽性固形がんへのレポトレクチニブ承認/BMS

 ブリストル マイヤーズ スクイブは2025年11月20日、レポトレクチニブ(商品名:オータイロ)について「NTRK融合遺伝子陽性の進行・再発の固形」に対する効能・効果の追加に係る製造販売承認事項一部変更承認を取得したことを発表した。 本承認は、成人患者を対象とした国際共同第I/II相試験(TRIDENT-1試験)および小児・若年成人患者を対象とした海外第I/II相試験(CARE試験)の参加者のうち、NTRK融合遺伝子陽性固形がん患者から得られた結果に基づくものである。両試験のNTRK融合遺伝子陽性固形がん患者の結果は欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2025)で報告されており、主な結果は以下のとおりであった。【TRIDENT-1試験(TRK阻害薬未治療60例、既治療87例)】 ・確定奏効率:未治療58%、既治療52% ・PFS中央値:未治療未到達、既治療7.4ヵ月 ・1年PFS率:未治療61%、既治療29% ・OS中央値:未治療55.6ヵ月、既治療16.9ヵ月 ・1年OS率:未治療80%、既治療59%【CARE試験(TRK阻害薬未治療5例、既治療15例)】 ・確定奏効率:未治療60%、既治療27% なお、レポトレクチニブの「NTRK融合遺伝子陽性の進行・再発の固形」の適応判定に必要なNTRK1/2/3融合遺伝子を検出するコンパニオン診断には、FoundationOne CDx がんゲノムプロファイルを使用する。

264.

糖尿病治療薬がアルツハイマー病初期の進行を抑制する可能性

 糖尿病治療薬がアルツハイマー病の初期段階の進行を抑制する可能性のあることが報告された。米ウェイクフォレスト大学アルツハイマー病研究センターのSuzanne Craft氏らの研究によるもので、詳細は「Alzheimer’s & Dementia」に10月7日掲載された。この研究では、既に広く使われているSGLT2阻害薬(SGLT2-i)のエンパグリフロジンと、開発が続けられているインスリン点鼻スプレー(経鼻インスリン)という2種類の薬剤が、記憶力や脳への血流、および脳機能の検査値などの点で、有望な結果を示したという。 論文の上席著者であるCraft氏は、「糖尿病や心臓病の治療薬としての役割が確立されているエンパグリフロジンが、脳の重要な領域の血流を回復させ、かつ、脳のダメージを意味する検査指標の値を低下させることを初めて見いだした。われわれのこの研究の成果は、代謝に対する治療によって、アルツハイマー病の進行速度を変えることができることを示唆している」と解説。また経鼻インスリンについては、「新開発の機器を用いてインスリンを鼻から投与することで、インスリンが脳に直接的に送り届けられ、認知機能、神経血管の健康状態、そして免疫機能が向上することも確認された」と述べ、「これらの知見を合わせて考えると、代謝への働きかけという視点が、アルツハイマー病治療における、有力な新しい展開につながり得るのではないか」と期待を表している。 この研究で示された結果が、今後の研究でも確認されたとしたら、アルツハイマー病の進行抑制に効果的な治療法がないという現状の打開につながる可能性がある。最近、アルツハイマー病の原因と目されている、脳内に蓄積するタンパク質(アミロイドβ)を除去する薬が登場したものの、研究者らによると、その効果は限定的だという。また、副作用のためにその薬を服用できない人も少なくなく、さらに、アミロイドβの蓄積以外のアルツハイマー病進行のメカニズムとされている、代謝異常や血流低下の問題は残されたままだとしている。 報告された研究では、軽度認知障害または初期のアルツハイマー病の高齢者47人(平均年齢70歳)を無作為に、インスリン点鼻スプレー、エンパグリフロジン、それらの併用、およびプラセボのいずれかの群に割り付けた。なお、エンパグリフロジンはSGLT2-iの一種で、腎臓での血糖の吸収を阻害して尿の中に排泄することで血糖値を下げる薬。 研究参加者の97%が、4週間の試験期間を通じて、割り付けられた通りに薬を使用した。解析の結果、インスリン点鼻スプレーを使用した群では、記憶や思考の検査指標の改善が見られ、画像検査からは、脳の白質という部分の構造を保ったり、認知機能にとって重要な領域への血流低下を防いだりする効果が示唆された。またエンパグリフロジンを服用した群でも、アルツハイマー病に関連するアミロイドβとは別のタンパク質(タウ)が減少し、病気の進行を反映する神経・血管関連の指標も低下して、さらに脳の主要な領域の血流が変化し、善玉コレステロールが上昇した。 全体として、両薬剤によって生じる変化は炎症の軽減と免疫反応の活性化につながることを示唆しており、どちらも脳の健康をサポートする可能性が考えられた。Craft氏は、「これらの有望な結果に基づき、より大規模で長期にわたる臨床試験を実施していきたい」と述べている。

265.

特発性頭蓋内圧亢進症で視力を失いやすい人とは?

 頭蓋骨内で脳を保護する髄液に原因不明の圧力上昇が生じた状態を指す「特発性頭蓋内圧亢進症(idiopathic intracranial hypertension;IIH)」によって、視力障害が起こる可能性が高い患者を予測する方法を見出したと、南デンマーク大学神経内科学臨床教授のDagmar Beier氏らが報告した。眼内の視神経が網膜につながっている部分(視神経乳頭)の変化に基づき、将来的に視野に暗点(見えない部分)が現れる人や視覚の鮮明さが低下する人を予測できる可能性が示されたという。この研究の詳細は、「Neurology」に10月29日掲載された。 IIHは、出産可能年齢の肥満女性に多く見られ、未治療のまま放置すると失明につながることがある。米国眼科学会(AAO)によると、IIHに関連する症状には日常生活に支障をきたす慢性の頭痛や複視、視力低下、聴覚障害、吐き気などがある。Beier氏は、「IIHの症例数は増加傾向にあり、若い女性がその主な患者層となっている。それゆえ、どのような人が視覚障害を起こしやすいのか、また、どのような過程を経て進行するのかについて、より多くの情報が必要だ」とニュースリリースの中で述べている。 今回報告された研究では、デンマークの2施設の頭痛治療センターで、2018年1月から2022年9月までに治療を受けた18歳以上のIIH患者154人(平均年齢28歳、女性96.8%)のデータが分析された。網膜関連データがそろった124人のうち94%(117人)はうっ血乳頭を発症していた。また、69%(37/54人)の患者で、一時的または永続的な視野欠損をもたらす暗点が発生していた。さらに26%(17/66人)で視覚の鮮明さの低下(視力低下)が見られた。全ての患者が高い頭蓋内圧を下げる薬剤を使用しており、寛解に関するデータが113人で得られた。薬剤により頭蓋内圧が正常に戻った後も、半数の患者で暗点が残り、13%の患者で視力低下が続いていたが、完全な失明に至った患者はいなかった。 解析の結果、乳頭浮腫の重症度に応じ、網膜損傷には二つメカニズムがあることが明らかになった。一つは、網膜神経線維層および神経節細胞層の萎縮によるもので、周辺視野に暗点が生じるが中心視力は保たれるというもの。もう一つは、重度の乳頭浮腫が黄斑に影響を及ぼし、黄斑浮腫や滲出物、内網膜層の乱れを伴う場合に、中心視力の持続的低下を引き起こすというもの。 この結果に基づき、Beier氏らは、医師が視力障害を発症しやすいIIH患者を予測できるスコアシートを開発した。Beier氏は、「このスコアについては、実際に使用可能であると判断する前に別の集団で検証する必要があるが、われわれはうっ血乳頭の重症度と網膜内層の構造の乱れが持続的な視力障害が生じる患者を予測する主要な指標であることを突き止めたと考えている」と述べている。

266.

1日5,000〜7,500歩の歩行がアルツハイマー病から脳を守る?

 アルツハイマー病に関連する初期の脳の変化を遅らせたい人は、毎日の歩数を増やすと良いかもしれない。300人近い高齢者を最大14年間追跡調査した研究で、アルツハイマー病の早期兆候とされるアミロイドβ(Aβ)のレベルがすでに高い人でも、身体活動を行っている人では、記憶力や思考力の低下が遅いことが示された。このような身体活動の効果は、毎日の運動レベルが少量または中程度であっても認められ、1日の歩数が5,000〜7,500歩である人の思考力の低下率は、ほとんど活動していない人の半分程度であったという。米Mass General BrighamのWendy Yau氏らによるこの研究は、「Nature Medicine」に11月3日掲載された。 米国のアルツハイマー病患者数は現在約700万人とされるが、2060年までに倍増することが予想されている。現在、病気の進行を遅らせる薬としてレカネマブ(商品名レケンビ)とドナネマブ(商品名キスンラ)の2種類が利用可能だが、医師らは、進行を抑制する上では身体活動などの生活習慣が依然として重要であると述べている。 今回の研究では、米ハーバード加齢脳研究(Harvard Aging Brain Study;HABS)のデータを用い、認知機能の正常な高齢者296人を対象に、歩数計で測定した身体活動量がAβおよびタウタンパク質の蓄積速度の違いを介して、認知機能や日常生活機能の低下に関連するかを検討した。認知機能は最長14年にわたって毎年、追跡調査された。 その結果、試験開始時の身体活動量とAβ蓄積の進行速度との間に有意な関連は認められなかった。一方で、身体活動量が多い人ほど、認知機能や日常生活機能の低下速度が緩やかになる傾向が確認された。高い身体活動量と認知機能の低下速度の鈍化との間には独立した関連も認められた。 次に、身体活動と認知機能および日常生活機能の低下との関連がタウ病理に媒介されているかを検討した。その結果、高い身体活動量は、Aβ負荷が高い人におけるタウ蓄積速度の上昇を抑制していることが明らかになった。また、高い身体活動量とタウ蓄積速度の鈍化との間には独立した関連も認められた。 さらに、身体活動量とタウ蓄積、認知機能および日常生活機能の低下との関連について検討した。対象者は1日の歩数に応じて、非活動的(3,000歩以下)、低活動量(3,001〜5,000歩)、中活動量(5,001〜7,500歩)、高活動量(7,501歩以上)の4群に分類された。経時的な変化に関する解析では、非活動的な群に比べて、低・中・高活動量の全ての群で、Aβが多い人におけるタウ蓄積、認知機能、日常生活機能の低下速度は有意に遅いことが示された。量反応関係の解析からは、活動量を増やすほどタウ蓄積、認知機能、日常生活機能の低下速度が有意に鈍化するものの、それは1日の歩数が7,500歩までであり、7,501歩以上の歩数では改善効果は頭打ちとなった。 Yau氏は、「われわれは、より良い治療法やより良い薬の開発に取り組んでいるが、脳の健康を守るために自分で実践できるこれらの生活習慣要因の価値を過小評価することはできない」とSTAT Newsに語っている。  ただし、この研究は観察研究であるため、運動がアルツハイマー病を直接予防することを証明するものではない。それでも専門家らは、運動は「修正可能なリスク因子」であり、脳の健康増進のために変えることができることを示す研究が増えていることを裏付ける研究成果だとの見方を示している。

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高齢者への高用量インフルワクチンの入院予防効果:FLUNITY-HD試験(解説:小金丸 博氏)

 高齢者に対する高用量不活化インフルエンザワクチン(HD-IIV)の重症化予防効果を検証した国際共同プール解析「FLUNITY-HD試験」の結果が、Lancet誌オンライン版2025年10月17日号に報告された。標準用量インフルエンザワクチン(SD-IIV)では免疫応答が不十分なことが知られており、HD-IIVの高齢者における追加的な防御効果を明らかにすることを目的とした。 本試験は、デンマークのDANFLU-2試験(登録者:約33万人)とスペインのGALFLU試験(同:約13万人)という、同一デザインの実践的ランダム化比較試験を統合解析したものである。対象は65歳以上で、少なくとも1つの慢性疾患を有する者が約49%と重要なリスクグループが適切に含まれており、高齢者集団への一般化が可能であると思われる。いずれの試験も日常診療環境で実施され、主要評価項目は「インフルエンザまたは肺炎による入院」とされた。 その結果、HD-IIV接種群ではSD-IIV接種群と比較し、主要評価項目であるインフルエンザまたは肺炎による入院を8.8%低減させた。一方で、DANFLU-2試験単独では主要評価項目に有意差を認めなかった。HD-IIVの効果は季節や流行株の影響を受けやすい可能性があることや、インフルエンザ以外の病原体(肺炎球菌、マイコプラズマ、アデノウイルスなど)の流行が試験結果に影響した可能性が指摘されている。そのほか、副次評価項目である検査確定インフルエンザによる入院を約32%、心肺疾患による入院を約6%低減させており、インフルエンザによる入院の抑制効果は明確であった。また、HD-IIV接種群ではSD-IIV接種群と比較して、全原因による入院が2.2%減少した。これは、515人の高齢者にSD-IIVの代わりにHD-IIVを接種することで全原因による入院を1件予防できることを意味する。重篤な有害事象の発生は両群で同程度だった。 本試験は、高齢者において高用量インフルエンザワクチンが実際の重症転帰を減少させうることを大規模ランダム化試験で示した点で意義が大きい。インフルエンザワクチンの目的が「感染予防」から「重症化・入院予防」へとシフトする中で、より高い免疫原性を求める戦略として高用量ワクチンの価値が再確認された。とくに慢性心疾患や呼吸器疾患、糖尿病などの基礎疾患を有する高齢者において、インフルエンザ感染が直接的に入院や心血管イベントを誘発することを考慮すれば、臨床的意義は大きい。 米国や欧州では高齢者に対する高用量インフルエンザワクチンがすでに導入され、各国ガイドラインでも推奨されている。本邦では2024年12月に製造販売承認を取得し、60歳以上を対象に2026年秋から使用可能となる見込みである。このワクチンが定期接種に組み込まれるか、市場に安定供給されるかによって推奨される接種対象は左右されると思われるが、要介護施設入所者(フレイル高リスク群)、虚血性心疾患や慢性閉塞性肺疾患などの重症化リスクのある基礎疾患を持つ者、85歳以上の超高齢者や免疫不全者など抗体応答が弱いと想定される者では、積極的に高用量ワクチンを選択すべき集団として妥当であると考える。費用面では標準用量より高価だが、入院抑制による医療費削減効果も期待される(注:2025年11月19日の厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会「予防接種基本方針部会」は、高用量ワクチンを2026年10月から75歳以上の定期接種に追加する方針を了承した)。 FLUNITY-HD試験は、高用量インフルエンザワクチンが標準用量と比較して、65歳以上の高齢者の重症転帰を有意に減少させることを示した大規模ランダム化試験である。日本でも高齢者および基礎疾患を有する群への適用を念頭に、今後の季節性インフルエンザ予防戦略における選択肢として検討すべき重要なエビデンスといえる。

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手が大樹になった男性【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第294回

手が大樹になった男性ヒトパピローマウイルス(HPV)は、手足にできる小さないぼから、子宮頸がんの原因となる型まで、いろいろな疾患を起こすことで知られています。多くの人にとってのHPVは、自然に治ることも多いいぼの原因に過ぎませんが、体の免疫がうまく働かないと、全身に広がることがあります。Alisjahbana B, et al. Disfiguring generalized verrucosis in an indonesian man with idiopathic CD4 lymphopenia. Arch Dermatol. 2010;146:69-73. 2010年に報告されたインドネシア人男性の症例は、尋常性疣贅の原因であるHPV-2が全身に広がり、手足に大樹のような巨大な角化物まで作ってしまったというものです。論文には手が大きな木のようになってしまった写真が掲載されています。この男性、CD4陽性T細胞が慢性的に少ない特発性CD4リンパ球減少症を背景疾患として持ち、この細胞性免疫の低下が長年にわたってウイルスの増殖を許容してしまいました。最初は膝の小さな疣贅から始まりました。ところが数年で病変は顔、胸、背中、手足へと広がり、20代のうちに仕事ができないほどに増えました。診察時には、四肢の皮膚は厚い角質に覆われ、長いものでは30cmにも達する樹木のような突起が層状に曲がりくねっていました。見た目の衝撃は大きく、悪臭も伴っていたそうです。皮膚生検では、いぼに典型的な表皮の肥厚やウイルス感染細胞がみられました。病変から採った組織のDNAを調べると、どの検体からもHPV-2の遺伝子が見つかりました。まずQOLを最も損なっていた巨大な角化物を全身麻酔下で機械的に削り落としました。電気ノコギリなどを使用して約6kgの疣贅と壊死組織を除去しました。そして、再び厚くならないように高濃度サリチル酸で角質を軟らかくし続けました。顔や体幹の病変は切除やシェービングを少しずつ繰り返しました。角化を抑える飲み薬であるアシトレチンも試されましたが、実感できる効果は乏しかったそうです。

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第289回 RSVワクチン、「妊婦への定期接種」迅速決定の理由とは

11月19日に開催された第72回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会は、RSウイルス(RSV)感染症に対する母子免疫目的で、妊婦への組換えRSVワクチン(商品名:アブリスボ)の定期接種を来年4月から開始する方針を了承した。アブリスボは昨年5月に日本で発売されたばかりで、ワクチン後進国とも呼ばれる日本にしては、発売から2年弱というタイミングでの定期接種化は極めて迅速な対応と言える。海外について見てみると、アメリカで疾病予防管理センター(CDC)の「予防接種の実施に関する諮問委員会(ACIP)」とイギリスの予防接種・免疫合同委員会(JCVI)が同様の決定をしたのは2023年9月。さらにアルゼンチンは2024年4月、オーストラリアはまさに今月に決定をしている。国際共同第III相試験で示された妊娠24~36週の妊婦へのアブリスボ接種による母子免疫の有効性は、RSV関連下気道感染症に対して生後180日以内で51.3%、生後360日以内で41.0%、受診を要した重症RSV関連下気道感染症に対しては生後180日以内で69.4%。ちなみに日本人の部分集団解析では生後180日以内で前者が87.6%、後者が75.1%だった。また、接種時の母体妊娠週数別の有効性解析の結果からは、生後180日以内のRSV関連下気道感染症に対する有効性は24~27週が20.7%、28~31週が67.4%、32~36週が57.3%、受診を要した重症RSV関連下気道感染症に対しては24~27週が43.7%、28~31週が88.5%、32~36週が76.5%。この結果を踏まえ、定期接種化では妊娠28~36週の妊婦とする方針が了承された。この点、アメリカのACIPでは妊娠週数別での有効性は同様に28~31週がピークだったものの、妊娠32~36週の接種が最も安定して高い有効性を示し、かつ安全性も確保されていると判断され、32~36週での接種が推奨されている。これは有効性の95%信頼区間の幅が28~31週に比べ、32~36週のほうが狭かった、すなわちデータのばらつきが少なくより信頼性が高いと判断されたからだろう。一方、国際共同第III相試験でプラセボ群に比べて多く認められた副反応は、注射部位疼痛、筋肉痛ぐらいで、発熱や疲労感などのほかの副反応の発現率はプラセボ群と同等だった。さらに出生児での有害事象は、低出生体重児(2,500g以下)も含め、ワクチン接種群とプラセボ接種群で差はなかった。さて、日本で母子免疫を目的としたRSVワクチンの定期接種がこれほど迅速に認められた理由は何だろうと考えてみたが、おそらく接種対象者が絞られるからだろう。 多くの人がご存じのように少子高齢化の結果として、2024年の年間出生児数は68万6,061人にとどまる。約半世紀前の第2次ベビーブーム期の1973年が209万1,983人だったことを考えれば、現状はもはや見る影もない状態である。だが、それゆえに国としても予算の手当てがしやすいとも言える。アブリスボ1回の接種費用は2万7,500円(国立国際医療研究センタートラベルクリニックの場合)なので、予算規模は190億円強で済む計算になるからだ。裏を返せば、高齢者でのRSVワクチンの定期接種化は桁違いの予算規模になるため、実現したとしても、あの悪評高い5歳刻みの年齢区分による接種、かつB類疾病として自己負担が生じる形になるのかもしれない。さて、迅速とは評価したが、それでも諸外国と比べると、アブリスボの承認から定期接種化の政策決定まではアメリカ、イギリスがわずか1ヵ月、アルゼンチンが4ヵ月しかかかっていない。オーストラリアが日本とほぼ同じ。ここから考えれば、現状はワクチン後進国を脱したかもしれないが、ワクチン先進国へはあと一歩というところだろうか。

270.

胎児循環という神業、突貫工事の心臓が生み出す奇跡【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第90回

「オンギャー」それは新たな生命の始まりを告げる、母親にとって祝福の合図です。肺が初めて外の空気を抱きしめた瞬間の歓声でもあります。単なる泣き声ではありません。その声によって呼気に陽圧がかかり、肺の中の小さな部屋である肺胞が均一に拡がるのです。お母さんのお腹の中で沈黙していた肺は水(肺水)で満たされており、その水が空気に置き換わるために必要なのが、この「オンギャー」なのです。生命誕生の瞬間は感動に満ちていますが、その背景には驚くほど精巧でダイナミックな仕組みが隠れています。分娩に立ち会った日の感動30年ほど前に医学生として初めて分娩に立ち会った日のことを、今も忘れられません。手術室の光の下で静かな緊張が漂っています。帝王切開が始まり、産科医の手が正確に、しかし驚くほど柔らかに母体を守りながら進んでいきます。胎児の頭が見えた瞬間に、室内の空気が一変しました。手術という医療行為が、次の瞬間には生命の誕生に姿を変えたのです。自然分娩も見学する機会がありました。文字通り、「ぬるり」と赤ん坊の全身がこの世に現れ、産声が響きます。その声は思ったよりも高く、そして強かったです。母親の目に涙が浮かび、スタッフの顔がほころびます。医療の現場で、ここまで純粋な歓喜が生まれる瞬間を、自分はそれまで知らなかったのです。産科の先生が言いました。「この瞬間だけは、何度立ち会っても胸が熱くなるんですよ」その言葉の意味が少しわかる気がしました。医学生としての私が目の当たりにしたのは、人間としての最も根源的な喜びだったのです。あのとき分娩室で聞いた「オンギャー」の声は、今も私の心に響いています。いま目の前で成人先天性心疾患の患者さんの鼓動を聴くとき、私はあの産声の続きを聴いているのかもしれません。胎児循環の不思議、命が宿る初めの拍動人の心臓は、胎児の姿が豆粒のようなころ、すでに鼓動を始めています。それは、胎児の成長を支えるために血液を送り出す必要があるからです。ひとつ大きな問題があります。胎児はまだ肺呼吸をしていません。空気を吸っていないのに、血液をどうやって酸素化するのか? その答えが「胎盤」です。胎盤は、まるで人工心肺装置のECMOのように、母体の血液から酸素を取り込み、それを臍帯(へその緒)という管を通じて胎児へ送ります。母親がいわば酸素供給装置で、胎盤が人工肺、そして臍帯が回路チューブです。ECMOの回路図を、神が先に描いていたのです。胎児の脳に酸素化された血液が十分に届くように、そして未完成の肺に血液をあまり送らずに済むよう、右心房から左心房へ血液をバイパスさせる「卵円孔」と、肺動脈から大動脈への抜け道である「動脈管」があります。道路工事の仮設バイパスのように、胎児だけが使う特別ルートが設けられているのです。この神業のような仕組みを、胎児はごく短期間で完成させなければなりません。肺は、出産後から機能し始めれば良いのと対照的に、心臓は胎児期から循環を支える必要があります。受精後わずか3週間余りで、心臓は拍動を開始しています。この早さは、人間の発生のなかでも際立っており、心臓が「生命の最初の臓器」と呼ばれるゆえんです。いわば突貫工事で、胎児が、心房・心室・弁・中隔を形づくり、稼働を開始します。建築現場でも、急ぎの工事ではどうしても小さなズレや継ぎ目の不整合が生じるように、この過程で生まれる“設計上のゆらぎ”が、先天性心疾患の一因となることがあります。命を守るために早く動かさねばならない心臓が、ギリギリのバランスで仕上げた証ともいえます。生まれたあと、卵円孔や動脈管が閉じ、肺が働き始めて、赤ちゃんは独り立ちの循環系を完成させます。その瞬間、胎児循環という仮設システムは退場します。分娩・出産を集中治療室の患者に例えれば、肺水腫で人工呼吸器とV-A ECMOという補助循環装置をつけた状態から、抜管とECMO離脱を同時に行うようなものです。この荒業を成功させた赤ちゃんの雄叫びが「オンギャー」です。成人先天性心疾患へ、そしてその先に生まれつきの心臓病である先天性心疾患は、長い間、子供の病気と見られてきました。生まれつき心臓に小さな“ゆらぎ”を抱えた子どもたちは、今や成人となり、自分の人生を力強く生きています。これらを成人先天性心疾患(ACHD:Adult Congenital Heart Disease)と呼びます。心臓外科手術治療の発達、内科治療の進歩によって先天性心疾患の子供の85%以上は思春期、成人期まで到達する事が可能になってきました。複雑な先天性心疾患の子供も学校に通い社会に出ていく時代になっているのです。こうして突貫工事でつくられた心臓は、生まれた瞬間に肺呼吸へと切り替わり、そのまま何十年も鼓動を続けていきます。成人先天性心疾患の患者さんの心臓もまた、あの仮設バイパスの名残をどこかに抱えながら、けなげに働いているのです。思えば、あの胎児循環こそ、神様による究極の応急工事だったのかもしれません。もし建築基準法の審査があったら、「構造的に無理があります」と一蹴されていたことでしょう。それでも見事に稼働し、命を支え続ける。医者としてどれほど工夫を凝らしても、この“神業の設計図”にはとうていかなわないと思うのです。

271.

進展型小細胞肺がんにICI+Chemoはどの程度使われているか?臨床現場の実態【肺がんインタビュー】第116回

第116回 進展型小細胞肺がんにICI+Chemoはどの程度使われているか?臨床現場の実態進展型小細胞肺がんの治療にICIと化学療法の併用が導入されて久しい。アカデミックには証明されたレジメンだが、臨床現場での導入はどの程度なのか。信州大学の曽根原圭氏にリアルワールド研究の内容を紹介いただいた。 参考 Hirabayashi T, et al. Respir Investig. 2025;63:928-933.

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国試勉強を“未来の武器”づくりだと考える【研修医ケンスケのM6カレンダー】第8回

国試勉強を“未来の武器”づくりだと考えるさて、お待たせしました「研修医ケンスケのM6カレンダー」。この連載は、普段は初期臨床研修医として走り回っている私、杉田研介が月に1回配信しています。私が医学部6年生当時の1年間をどう過ごしていたのか、月ごとに振り返りながら、皆さんと医師国家試験までの1年をともに駆け抜ける、をテーマにお送りして参ります。今年もあっという間に秋が過ぎ、寒く感じる日が続くようになりましたね。先月より埼玉県和光市内の国立保健医療科学院を中心に、公衆衛生の研修をしています。約1ヵ月経ってみて、改めて公衆衛生に魅了されています。この研修がなければまず初期臨床研修医の時点で行くことはなかったであろう、WHO本部やGavi、Global Fundをはじめ、厚生労働省や千葉県庁、習志野保健所など、さまざまな層の政策立案と現場を視察できて、毎日ワクワクが止まりません。皆さまいかがお過ごしでしょうか。卒業試験で心の余裕が全くない、そんな方でも気軽に読むことができるよう、少し変わったトピックを今月は扱おうと思います。なぜ国試の知識は役に立たないと言われるか?(WHO本部にて「そちらの方」)この記事を読む皆さんには、国試対策に真面目に取り組むことが、合格後の自分を大いに助けてくれるということを知ってほしいです。「国試の知識なんて、役に立たないよ」こんな言葉を耳にしたことはないでしょうか。実習に出た時に現場のドクターからの質問に答えられなかった時や、研修先の先輩からやる気をそがれるような一言を受けたときに、そう感じたことがあるかもしれません。ですが、あえてポジショントークをするなら、私は「そんなことない」と断言します。医師国家試験対策に真面目に取り組んでいたおかげで、初期臨床研修に出た時にその恩恵を受けたことが何度もあるからです。とはいえ、先ほどの「役に立たない」という発言にも一理あります。きっと「医学」と「医療」の違いが、背景にあるのだと思います。学生時代の座学が、実践の土台となる(スイスといえばチーズフォンデュ!美味しい!けど、物価高いぃ)「医療とは、医学の社会的実践である」これは元日本医師会長である武見太郎先生の言葉で、私が大学の卒業式答辞でも用いた言葉です。初期臨床研修は研修として学ぶ側面を持ちながら、仕事をする訳です。皆さんが持つ医学的知識を活用し診療をするには、さらなる座学の知識と、現場での多職種連携や、社会的側面も考慮した包括的な視点がなければなりません。研修の始めのうちは国家試験以上の知識や実践的なスキルがなく、病院独自のルールや物品の場所もわからないため、仕事ができないと責められることはありません。指導してくれる2年目の先輩が神様のように見えることでしょう。ところが、数ヵ月もすると、ある程度コツが掴めてくるようになります。少しずつ症例をこなすことができるようになります。そして、ここで重要なのは「仕事に慣れる」と「理解してできる」は違う、ということです。できなかった仕事ができる、より効率的にできるようになることは素晴らしいことです。ただここは冷静に、医学的な背景知識を理解して医療を実践できているか、は日々振り返るようにしてください。診療の中でもらったフィードバックや講義内容が実践できたか、そこがポイントです。そして、現場に出てから得た診療技術を根本から支えるのには、やはり学生時代に積み上げた座学の知識が欠かせません。実感が湧かないこともあると思いますが、研修医になってもなお国家試験問題を見ている私はそう思います。試験対策でつけた知識が、現場に出たあなたを支えてくれます。初期臨床研修医向けの本を1冊買う(クラシックな街並みにうっとり)近年の国家試験では、実践的な知識を直接問う問題はさすがに出題されませんが、知っておくと解くのが楽になる問題はあります。特にA・Dブロックの判断力を問う、得点差がつく臨床問題です。「臨床やっている立場からは当たり前に感じるけどな」と評される問題ですね。ところが、実践的な知識やTipsを医師国家試験対策用の教材から学ぶことはやや難しいです(MECのサマライズなど一部例外はありますが)。そこで私からの提案としては、初期臨床研修医向けの入門書を1冊買ってみることです。研修医になって遭遇する主な疾患や症候について概要がまとまっていて、かつ実践的なTipsも載っているので国家試験対策に役立つことはもちろん、社会人・研修医としての心構えについても記載されており、来年度以降の働き方や生活のイメージが膨らむことと思います。いずれ4月頃には1冊手にするようなものなので、肩の力を抜いて気分転換がてら、サクッと読んでみるのもありです。思わぬTipsと巡り合うかもしれませんよ。デジタルで、まとめの土台を作っておくところでみなさんは普段の学習には何を用いているでしょうか、どんなツールを用いているでしょうか。学部学生時代のうちに、研修医以降も使うことができるまとめ、的なものを作っておくと便利です。まとめを作ることが目的で肝心の試験対策が進まないのは本末転倒ですが、学生時代に使っていた教材や成果物が研修医になってすっかり忘れ去られるのはもったいないです。そして研修医になってから、自分なりのまとめがあると、診療や診療後の振り返りに非常に役立ちます。まとめはぜひデジタルデバイスを用いてください。有名どころだと、NotionやEvernote、PowerPointでもWordでも何でも良いです(筆者のおすすめはNotion)。必ずいつでも、どこでも見返す、編集できる形が好ましいです。タイピング操作が必要なまとめ方が良いです。研修医になってから苦労することの1つにカルテ入力があります。電子カルテの表示や操作はメーカーによってそれぞれなので仕方がないところが多いですが、よくよく聞くとタイピングが遅いだけでは?ということがあります。基本的な入力はもちろん、ショートカットキーも使いこなすことができるようにトレーニングしましょう。最後に(ジュネーブのシンボル大噴水とスイス国旗。綺麗で治安のいい街だな)いかがだったでしょうか。今月は卒業試験・国家試験対策に直接関わらない、合格後の生活に向けた、少し背伸びをした内容でした。研修医になってから医師国家試験を解いてみると、「この問題サラッと流していたけど、現場のここにつながるのか!」ということが多々あります。もしこの記事を読んでくださっている研修医の先生がいらっしゃったら、数問ぜひチャレンジしてみてください。試験対策に日々励むことは合格を勝ち取ることはもちろん、未来の診療技術向上に大いに役に立つと信じて、今日もまた頑張ってください!応援しています!

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移植後再発抑止のための新規治療開発/日本血液学会

 2025年10月10~12日に第87回日本血液学会学術集会が兵庫県にて開催された。10月11日、内田 直之氏(虎の門病院 血液内科)、Konstanze Dohner氏(ドイツ・University Hospital of Ulm)を座長に、JSH-EHA Jointシンポジウム「移植後再発抑止のための新規治療開発」が行われた。登壇者は、Luca Vago氏(イタリア・San Raffaele Scientific Institute)、河本 宏氏(京都大学医生物学研究所 再生免疫学分野)、中前 博久氏(大阪公立大学大学院医学系研究科 血液腫瘍制御学)、名島 悠峰氏(がん・感染症センター都立駒込病院 血液内科)。白血病の再発メカニズムを解明し、再発予防を目指す 急性白血病に対する同種造血幹細胞移植(allo-HSCT)は、継続的に進歩している。しかし、再発は依然として大きな臨床課題であり、移植後の再発に対する普遍的に認められた標準治療はいまだ存在しない。ドナーリンパ球輸注(DLI)、サルベージ化学療法、二次移植などの介入はいずれも効果が限定的である。 また、治療耐性に関する新たな知見にも注目が集まっている。かつては、治療が十分に奏効しない場合は、薬剤の増量などで対応することが一般的であった。しかし近年は、治療そのものが腫瘍の変化を誘発し、多くの場合、初期治療で用いられた作用機序が再発メカニズムに影響を及ぼしている可能性が指摘されている。 最近の研究では、allo-HSCT後の再発は、多くの場合、白血病細胞がドナーの免疫系から逃れるために獲得した免疫回避機構に起因することが示唆されている。Vago氏は「allo-HSCTのメカニズムは非常に複雑であり、ドナーの種類や抗ウイルス薬などにより予期せぬ影響を受けると考えられる。そのため、臨床試験においては広範な適応症だけにとどまらず、個別のサブセットを対象とした検討が求められる。より詳細なデータを集積することで、さまざまな再発パターンやリスク因子をより適切に定義し、再発予防につなげることが可能となるであろう」と今後への期待を語った。多能性幹細胞から再生したT細胞製剤の開発状況 現在行われているCAR-T細胞療法をはじめとするadoptive T cell therapyは、主に「時間」「費用」「品質」という課題に直面している。これらの課題を解決するため、河本氏らは、ES細胞やiPS細胞(iPSC)といった多能性幹細胞を用いたT細胞作製法の開発を進めている。本講演では、その開発状況について解説が行われた。 まず、iPSC技術を用いて抗原特異的T細胞のクローニングと増殖を行い、抗原特異的CD8 T細胞をiPSCにリプログラム化する。さらにそのiPSCから、腫瘍抗原特異的CD8 T細胞を再生することに成功した。 また、CD8α-βヘテロダイマーを発現する強力な細胞傷害性Tリンパ球(CTL)を作製できる培養法も開発している。このアプローチをallo-HSCTに応用するため、T細胞由来ではないiPSCに外来性のTCR遺伝子を導入する方法も開発した。 そして現在、京都大学医学部附属病院では、2年後の開始を目指して、WT-1抗原特異的TCR導入HLAホモiPSCから再生した細胞傷害性CTLを用いた急性骨髄性白血病(AML)治療の臨床試験の準備を進めている。さらに、白血病プロジェクトと並行してCOVID-19に対するT細胞療法の開発にも着手している。COVID-19は免疫不全患者にとって依然として脅威であり、一定の頻度で長期化する。この課題に対処するため、ワクチン接種を受けた健康なボランティアから、日本人の約60%が保有するといわれているHLAクラスIアレルであるHLA-A*24:02に限定された複数のSタンパク質特異的TCR遺伝子のクローニングも行っている。その結果、Sタンパク質特異的TCRを効率的に発現するCTLは、SARS-CoV-2に感染した肺胞上皮細胞を殺傷することが示された。現在、藤田医科大学病院において本プロジェクトの臨床試験準備も進行中である。 これら複数のプロジェクトにおいてどのような結果が示されるのか、今後も注目される。Ph陽性ALLにおけるallo-HSCTの位置付けとTKI予防的投与への期待 フィラデルフィア染色体(Ph)陽性急性リンパ性白血病(ALL)は、従来の治療では困難であるとされてきた。しかし近年、チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)や二重特異性抗体の登場により、治療レジメンは一変した。これに伴い、これまで必須と考えられていたallo-HSCTを行わなくても長期生存を達成できる可能性が高まっている。移植適応は、画一的なアプローチから、遺伝子解析や微小残存病変(MRD)評価に基づく個別化アプローチへと移行しつつあり、有害事象の認められる患者に限定される傾向にある。 一方、移植適応患者においては、再発リスクを低減するためのTKI予防的投与が注目されている。しかし、allo-HSCT後のMRD陰性患者に対するTKI予防的投与と、MRD陽性を契機としたTKI先制的投与との間で、予後や有害事象発現率などの違いはいまだ明確でない。また、TKIが奏効する可能性の高い患者集団の特定、最適な薬剤選択、治療開始時期・期間の設定なども課題として残されている。TKIの移植片対白血病(GVL)効果への影響や、移植片対宿主病(GVHD)リスクを見極めつつ、有害事象を最小限に抑える最適な投与レジメンの確立が求められている。 実臨床では、MRD陰性で移植を受けた患者では最低2年間のTKI投与を行う傾向があるが、とくに高リスク患者では、患者の希望も考慮したうえで無期限に治療継続することが一般的となっている。これらの戦略の妥当性については、今後さらなる検証と評価が必要である。 中前氏は「TKIと二重特異性抗体の併用療法の可能性、予後に関連する新たな遺伝子異常の同定、次世代シークエンサーを用いた高精度・高感度MRDモニタリング技術の進歩は、Ph陽性ALLの治療成績を向上させ、さらにallo-HSCTの適応をより明確にすることが可能になる」と期待を述べた。移植後再発の克服を目指した最適な維持療法を探求 allo-HSCTは、AMLや骨髄異形成症候群(MDS)といった高リスク造血器悪性腫瘍に対する治療において欠かせない治療となっている。支持療法により非再発死亡率は低下したものの、移植後の再発は依然として治療失敗の主因となっている。とくに非寛解状態、複雑核型、TP53変異といった予後不良因子を有する患者において、移植後の再発は顕著である。強度減弱前処置の普及と適応拡大は、効果的な再発予防の必要性をさらに浮き彫りにしている。名島氏は、移植後維持療法戦略のための包括的な枠組みの原則に基づき、最新の臨床エビデンスとトランスレーショナルな視点に焦点を当て、本講演を行った。 再発の多くは allo-HSCT後6ヵ月以内に発生するため、早期介入が不可欠となる。維持療法は、寛解期の患者に対する「予防的アプローチ」とMRDに基づく「先制的アプローチ」の2つに大別される。予防的アプローチは再発予防の可能性を高める一方で、過剰治療のリスクを伴う。MRDに基づく治療戦略は、より標的を絞った治療といえるが、高感度な検出や最適な治療タイミングに留意する必要がある。 アザシチジン(AZA)は、その免疫調節作用と忍容性から、維持療法の候補として注目されている。名島氏らは、移植後のAZAの実現可能性を検証するため、日本で多施設共同第I相試験を実施している。さらに、AZAとゲムツズマブ オゾガマイシンの併用療法についても評価を行い、allo-HSCT後の維持療法としてAZAレジメンが忍容性と中程度の有効性を示したことを報告した。 FLT3-ITD変異陽性AMLは高リスクサブタイプであり、現在もFLT3阻害薬の評価が活発に行われている。移植後患者を対象としたMORPHO試験では、ギルテリチニブによる維持療法が検討されており、主要評価項目である無再発生存率は全体では有意差が得られなかったものの、MRD陽性患者では改善が認められた。フォローアップ解析により、MRD陽性が、とくにNPM1遺伝子重複症例で有益性を示す強力な予測因子であることが確認され、FLT3阻害薬はMRD依存的なベネフィットを示す可能性があると示唆されている。 現在の維持療法では薬理学的戦略が主流となっているが、免疫学的アプローチも注目されている。日本で広く使用されているDLIは、これまでの経験からも明らかなように、移植後の免疫学的維持療法として有望である。 最後に名島氏は「これらさまざまな研究やすべての努力が、最終的に allo-HSCTを通じてより多くの造血器悪性腫瘍患者の命を救うことに役立つことを願っている」と自身の思いを語り、講演を締めくくった。

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風邪や咳症状に対する日本での市販薬使用状況は?

 OTC医薬品の適切な使用を促進し、国民医療費の削減に貢献するうえで、OTC医薬品の使用に影響を与える要因を理解することは重要である。大阪大学の田 雨時氏らは、COVID-19パンデミック後の日本における風邪や咳に対するOTC医薬品を用いたセルフメディケーションの現状を調査し、関連要因を明らかにするため、本調査を実施した。BMC Public Health誌2025年5月24日号の報告。 2024年4月25日〜6月26日にオンライン横断調査を実施した。日本の風邪や咳に対するセルフメディケーション行動の現状および社会背景や心理評価尺度に関する共変量を収集した。これらの関連性の分析には、多変量ロジスティック回帰分析を用いた。結果のロバスト性を検証するため、サブグループ分析および感度分析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・分析には、参加者1,086例を含めた。・参加者の43.6%が風邪や咳の症状が出始めた時点でOTC医薬品を服用していた。・症状が1週間続いた後、医療機関を受診した割合は61.7%であった。・参加者の80%超が使用上の注意を厳守していた。・1週間以内に医療機関を受診することに関連する因子には、年齢、居住地域、教育水準、婚姻状況、保険の種類、基礎疾患の有無、定期的な医師の受診、外向性が挙げられた。・服用量順守に関しては、協調性が正の因子であり、子供がいることは負の因子であることが示された。・OTC医薬品の使用期限の認識については、健康関連情報を検索するためのインターネットリテラシーを示すeHEALSが、有意かつロバストな正の因子であることが明らかとなった。 著者らは「日本人の多くは、風邪や咳に対してOTC医薬品を使用していることが明らかとなった。また、ほとんどの参加者は、OTC医薬品の適切な使用を順守していた」とし、「OTC医薬品のさらなる普及促進のためには、本研究で明らかになった主な因子に対処することが重要である」と結論付けている。

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dMMR/MSI-H腫瘍へのニボルマブ+イピリムマブ、大腸がん以外で初の有効性を報告

 ミスマッチ修復欠損(dMMR)/高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-H)がんは、免疫原性が高く、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)への高い反応性が知られている。抗PD-1抗体ニボルマブと抗CTLA-4抗体イピリムマブの併用療法は、CheckMate 8HW試験によりdMMR/MSI-H大腸がんにおいて有効性が示されている。一方、非大腸がんにおけるdMMR/MSI-H腫瘍を対象としたICI併用の前向き試験はこれまでなかった。 MOST-CIRCUIT試験は、進行dMMR/MSI-H非大腸がんに対する抗PD-1/CTLA-4併用の有効性を検証した前向き多施設共同第II相バスケット試験である。Blacktown Hospital(オーストラリア)のMatteo S. Carlino氏らによる報告が、JAMA Oncology誌オンライン版2025年11月13日号に掲載された。 本試験は、進行dMMR/MSI-H患者(大腸がんを除く)52例が登録された。患者登録は2021年8月~2024年2月にオーストラリアとニュージーランドの17施設で行われ、解析は2025年5月に実施された。患者は、ニボルマブ3mg/kgおよびイピリムマブ1mg/kgを3週ごとに4回投与後、ニボルマブ480mgを4週ごと、最大2年間または病勢進行まで投与された。主要評価項目は奏効率(ORR)および6ヵ月時点の無増悪生存(PFS)率、副次評価項目は全生存期間(OS)、PFS、安全性であった。 主な結果は以下のとおり。・全体で52例が登録され、年齢中央値は62(範囲:29~84)歳、女性41例(79%)、男性11例(21%)であった。・腫瘍部位は17種で、子宮内膜がんが26例(50%)と最多だった。・26例(50%)が未治療で、残りは転移に対する治療歴があり、抗PD-1抗体単剤療法を受けていたのは1例だった。 ・ORRは63%(95%信頼区間[CI]:50~75)で、内訳は完全奏効(CR)が5例、部分奏効(PR)が28例だった。奏効期間中央値は未達で、奏効例の79%は治療継続中であった。・子宮内膜がん26例のうち15例(58%)がCRまたはPR、5例(22%)が病勢安定(SD)で、病勢コントロール率(DCR)は77%だった。・PFSおよびOSの中央値は未達で、6ヵ月PFS率は71%(95%CI:57~81)であった。・全体で12例(23%)にGrade3/4の免疫関連有害事象が発生した。 研究者らは「抗PD-1/CTLA-4阻害薬の併用療法は、dMMR/MSI-Hの非大腸がんにおいて、抗PD-1抗体単剤療法を用いた既報の試験と比較して、高い奏効率を示した。ニボルマブ+イピリムマブはこの患者集団において、単剤療法の代替治療選択肢となる可能性がある」とした。 一方、JAMA Oncology誌には米国オハイオ州立がんセンターのCasey M. Cosgrove氏による招待コメントも同時掲載された。同氏は「本試験の結果は、大腸がんにおける併用療法の有用性を示した第III相CheckMate 8HW試験の結果とも一致している。しかし、非大腸がん患者における併用療法の最適な投与時期、患者選択、単剤療法との比較については依然不明のままだ。併用療法は毒性が高くなるため、慎重な患者選択と継続的なバイオマーカー開発が不可欠である。さらに本試験はバスケット試験であり、最終的な判断にはランダム化比較試験が求められる」としている。

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実臨床における片頭痛予防薬フレマネズマブの有用性評価

 片頭痛は、社会的、経済的、機能的な負担を伴う疾患である。とくに慢性片頭痛(CM)または高頻度発作性片頭痛(HFEM)の患者において、その負担は顕著となる。イタリア・ローマ大学のFabrizio Vernieri氏らは、PEARL試験に登録されたイタリア人CMおよびHFEM患者を対象とした第2回中間サブ解析の結果として、イタリアの臨床現場における抗CGRPモノクローナル抗体フレマネズマブの使用に関する、最長12ヵ月間の治療期間における最新の実臨床データを報告した。Neurological Sciences誌オンライン版2025年10月17日号の報告。 第2回中間サブ解析では、PEARL試験に登録され、イタリアの頭痛専門施設で治療を受け、12ヵ月間のフレマネズマブ治療を完了した片頭痛患者のサブグループからデータを収集した(データカットオフ日:2023年6月15日)。主要エンドポイントは、フレマネズマブ投与開始後6ヵ月間における1ヵ月当たりの片頭痛日数(MMD)が50%以上減少した患者の割合とした。副次エンドポイントには、12ヵ月目まで評価されたベースラインからの平均MMDの変化量などを含めた。安全性の評価は、報告された有害事象に基づき行った。 主な結果は以下のとおり。・イタリアの頭痛専門施設に登録された片頭痛患者354例のうち、343例(CM:63.8%、HFEM:36.2%)を有効性解析対象に含めた。・データが利用可能な対象患者のうち、フレマネズマブ投与開始後6ヵ月間で平均MMDが50%以上減少した患者の割合は、61.2%であった。・ベースラインからの平均MMDの変化量は、1ヵ月目で-8.2±7.4、12ヵ月目で-8.9±6.9であった。・本試験において、新たな安全性に関する懸念は認められなかった。 著者らは「イタリアの片頭痛治療における臨床現場において、フレマネズマブは有効かつ忍容性が良好な治療選択肢であることが示された。この結果は、フレマネズマブに関するこれまでの実臨床における結果と一致している」としている。

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へき地の在宅医療の利用実態が判明/頴田病院・横浜市立大

 わが国では、急激な高齢化と地方での医療者の不足により医療の地域偏在が問題となって久しい。では、実際にこの偏在、とくに在宅医療の利用について、地域格差はどの程度あるのであろうか。この問題について、柴田 真志氏(頴田病院)と金子 惇氏(横浜市立大学大学院データサイエンス研究科)の研究グループは、レセプトデータを用いて、在宅医療利用の地域格差を調査した。その結果、日本全国で在宅医療の利用率に数十倍の地域格差が存在することがわかった。この結果は、Journal of General Internal Medicine誌オンライン版2025年10月30日号で公開された。 研究グループは、2019~20年度のレセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)から全国335の二次医療圏の在宅医療利用の実態を分析した。分析では、「訪問診療、緊急往診、死亡診断書、終末期ケア」の4指標を設定し、年齢・性別を調整した標準化レセプト出現比(SCR)を算出し、「へき地度」を表す尺度である「Rurality Index for Japan」(RIJ)との相関を分析した。 主な結果は以下のとおり。・SCRの最大値と最小値の比率は、訪問診療で82.0、緊急往診で210.3、死亡診断書で33.2、終末期ケアで29.5と顕著な地域格差が確認された。・SCRとRIJのスピアマンの順位相関係数は、訪問診療で-0.619、緊急往診で-0.518、死亡診断書で0.225、終末期ケアで-0.541だった(すべてp<0.001)。 研究グループは、この結果から「全国で在宅医療の利用率に数十倍の地域格差が存在し、へき地ほどほとんどのサービス利用率が低い。これらの結果は、地理的障壁が在宅医療へのアクセスに重大な影響を与えることを示唆し、RIJがこうした医療格差を特定・是正する有効な指標として有用であることを示している。わが国のへき地における在宅医療への公平なアクセス改善に向け、対象を絞った政策介入の指針となる」と結論付けている。

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75歳以上のNSCLC、術前ICI+化学療法は安全に実施可能?(CReGYT-04 Neo-Venus副次解析)/日本肺学会

 StageII~IIIの切除可能非小細胞肺がん(NSCLC)に対し、ニボルマブ+化学療法による術前補助療法が2023年3月より使用可能となった。そこで、実臨床におけるニボルマブ+プラチナ併用化学療法による術前補助療法の安全性・有効性を検討する多施設共同後ろ向き観察研究「CReGYT-04 Neo-Venus」が実施された。本研究では、第III相試験「CheckMate-816試験」と一貫した安全性が示され、実行可能であることが報告された1)。 ただし、実臨床における肺がん手術例の約半数は75歳以上の高齢者である。また、高齢者を対象に、免疫チェックポイント阻害薬+化学療法による術前補助療法の安全性・有効性を検討した報告はない。そこでCReGYT-04 Neo-Venusの副次解析として、75歳以上の高齢者における安全性・有効性に関する解析が実施された。本解析結果を松原 太一氏(九州大学病院 呼吸器外科)が、第66回日本肺学会学術集会で発表した。 対象は、ニボルマブ+プラチナ併用化学療法による術前補助療法を1サイクル以上受けた切除可能StageII~III NSCLC患者131例。このうち、登録時に術前補助療法を実施中であった1例を除外した130例を解析対象とした。解析対象患者を年齢で2群(75歳以上:28例/75歳未満:102例)に分類し、患者背景や治療成績を比較した。 主な結果は以下のとおり。・患者背景について、75歳以上の高齢群は非高齢群と比較して、男性が少ない(67.9%vs.87.3%)、他がんの既往ありが多い(32.1%vs.11.8%)という特徴があった。糖尿病や冠動脈疾患などの合併症については、2群間で差はみられなかった。臨床的StageやPD-L1発現状況についても2群間で差はみられなかった。・化学療法の種類について、高齢群はカルボプラチンベースのレジメンが多かった(96.4%vs.75.5%)。・術前補助療法の完遂割合は高齢群92.9%、非高齢群84.3%であった。・術前補助療法の奏効割合は高齢群68%、非高齢群66%であり、病勢コントロール割合はそれぞれ100%、96%であった。・術前補助療法におけるGrade3以上の治療関連有害事象は高齢群35.7%、非高齢群27.5%に発現した。全Gradeの免疫関連有害事象は高齢群7.1%、非高齢群25.5%に発現し、高齢群のほうが少なかった(p=0.0393)。・手術実施割合は高齢群92.9%(予定症例3.6%を含む)、非高齢群91.5%(同2.9%を含む)であった。非実施割合はそれぞれ7.1%(病勢進行1例、AE 1例)、8.8%(病勢進行4例、患者拒否2例、AE 1例、その他2例)であった。・手術実施例におけるR0切除割合は高齢群96.0%、非高齢群98.9%であった。・病理学的完全奏効(pCR)割合は高齢群20.8%、非高齢群39.3%であり、病理学的奏効(MPR)割合はそれぞれ54.2%、60.7%であった。 本結果について、松原氏は「pCR、MPR割合は非高齢群と比較するとやや低いものの、臨床試験の結果と比較しても全体的に良好な結果であった」と考察し「高齢者に対するニボルマブ+化学療法による術前補助療法は忍容性があり、病理学的奏効も期待できる治療であると考えられる。今後は長期フォローアップでの有効性の検討や、他の術前・術後補助療法の忍容性・有効性の検討も必要である」とまとめた。

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成人期発症ネフローゼ症候群、リツキシマブで再発抑制/JAMA

 成人期発症の頻回再発型ネフローゼ症候群(FRNS)またはステロイド依存性ネフローゼ症候群(SDNS)患者において、リツキシマブはプラセボと比較し49週時の再発率を有意に改善し、再発予防にリツキシマブが有用であることが示された。大阪大学大学院医学系研究科の猪阪 善隆氏らが、国内13施設で実施した無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験の結果を報告した。FRNSまたはSDNSの成人患者におけるネフローゼ症候群再発に対するリツキシマブの有効性は不明であった。JAMA誌オンライン版2025年11月5日号掲載の報告。リツキシマブまたはプラセボを、1週時、2週時、25週時に投与、1年間追跡 研究グループは、2020年9月1日~2022年6月28日に、直近の再発に対するステロイド治療開始後の尿検査で尿蛋白<0.3g/gCrを2回以上認めたFRNS(6ヵ月間に2回以上再発するネフローゼ症候群)またはSDNS(ステロイド薬を減量・中止後に再発を2回以上繰り返し、ステロイド薬を中止できないネフローゼ症候群)の成人患者を登録した。適格患者をリツキシマブ群またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付け、375mg/m2/回を1週時、2週時および25週時に静脈内投与し、49週間追跡した(最終追跡調査日2024年3月15日)。 主要アウトカムは、49週時点でネフローゼ症候群の再発が認められなかった患者の割合とした。再発は、尿蛋白1g/gCr以上を連続2回測定した場合と定義した。49週時の無再発率はリツキシマブ群87.4%、プラセボ群38.0% 計72例がリツキシマブ群(36例)とプラセボ群(36例)に無作為化された。患者背景は、平均年齢47.9歳、女性56.1%であった。このうち、66例(92%)が少なくとも1回試験薬を投与され、解析対象集団に含まれた。 49週時の無再発率は、リツキシマブ群で87.4%(95%信頼区間[CI]:69.8~95.1)、プラセボ群で38.0%(95%CI:22.1~53.8)であった(p<0.001、片側log-rank検定)。層別Coxモデルでは、リツキシマブ群のプラセボ群に対する再発のハザード比は0.16(95%CI:0.05~0.46;p<0.001)であった。 無再発期間中央値は、リツキシマブ群で>49.0週(範囲:4~≧50)、プラセボ群で30.8週(2~≧51)であった。 最も発現頻度が高い有害事象はインフュージョンリアクション(リツキシマブ群13例[40.6%]、プラセボ群1例[2.9%])であった。Grade3の有害事象は、リツキシマブ群で15.6%(5/32例)、プラセボ群で5.9%(2/34例)に認められた。

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女性のがん、39ヵ国の診断時期・治療を比較/Lancet

 英国・ロンドン大学衛生熱帯医学大学院のClaudia Allemani氏らVENUSCANCER Working Groupは、女性に多い3種類のがん(乳がん、子宮頸がん、卵巣がん)の治療提供状況について初めて世界規模で評価した「VENUSCANCERプロジェクト」の解析結果を報告した。低・中所得国では、早期がんと診断された女性がガイドラインに準拠した治療を受けやすくなってはいたが、早期診断される女性の割合は依然として非常に低いままであることを示した。著者は、「解析で得られた知見は、WHOの世界乳がんイニシアチブや子宮頸がん撲滅イニシアチブといった、がん対策への国際的な取り組みの実施とモニタリングを支援する重要なリアルワールドエビデンスである」としている。Lancet誌2025年11月15日号掲載の報告。ガイドライン準拠、診断~治療開始の期間中央値を評価、高所得国と低・中所得国の受療確率を分析 研究グループは、CONCORDプログラムに乳がん・卵巣がん・子宮頸がんのデータを提供した全322のがん登録に対して、VENUSCANCERプロジェクトへのデータ提供を要請し、世界39の国と地域における103のがん登録から得られた2015~18年のいずれかの1年間に乳がん、子宮頸がん、または卵巣がんと診断された女性の高精度データを解析した。高精度データには、診断時Stage、Stage分類手順、腫瘍グレード、バイオマーカー(ER、PR、HER2)、各治療法(手術、放射線療法、化学療法、内分泌療法、抗HER2療法)の初回治療コースおよび関連する日付が含まれた。 国または地域別に予後因子、国際臨床ガイドライン(ESMO、ASCO、NCCN)との整合性を示す主要な指標、および診断から治療開始までの期間中央値を評価した。年齢と腫瘍のサブタイプを調整し、高所得国と低・中所得国におけるガイドラインに沿った治療を受けられる確率を分析した。低・中所得国では、早期診断される女性の割合が依然として非常に低い 解析には、3種類のいずれか1つのがんと診断された女性計27万5,792例が包含された。乳がん診断者21万4,111例(77.6%)、子宮頸がん(上皮内がんを含む)診断者4万4,468例(16.1%)、卵巣がん診断者1万7,213例(6.2%)であった。 高所得国では、早期・リンパ節陰性のがんは乳がん診断者および子宮頸がん診断者の40%超を占めていたが、卵巣がん診断者では20%未満であった。一方、低・中所得国では、これらの割合は3つのがんすべてでおおむね20%未満であった。ただしキューバ(乳がん30%)、ロシア(子宮頸がん36%、卵巣がん27%)では高かった。 国際ガイドラインとの整合性には大きなばらつきが認められ、とくに早期乳がんに対する手術・放射線療法(ジョージア13%~フランス82%)、進行子宮頸がんに対する化学療法(モンゴル18%~カナダ90%)、転移のある卵巣がんに対する手術+化学療法併用(キューバ9%~米国53%)で顕著であった。 何らかの手術が提供されたのは、高所得国では78%、低・中所得国では56%であり、早期がんに対する初期治療(臨床ガイドラインに準拠した)は、乳がんと比べて子宮頸がんと卵巣がんのほうがより均一に行われていた。高所得国と低・中所得国のいずれにおいても、高齢女性(70~99歳)は50~69歳の女性との比較において臨床ガイドラインに準拠した初期治療を受ける確率が低かった。 早期がんの診断から治療までの期間中央値は、複数の高所得国では1ヵ月未満であったが、モンゴルの子宮頸がんおよびエクアドルの卵巣がんでは最大4ヵ月、モンゴルの乳がんでは最大1年であった。

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