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腎結石の女性、CHDリスクが増大/JAMA

 腎結石を有する女性は冠動脈心疾患(CHD)のリスクが有意に増大しているが、男性にはこのような関連は認めないとの研究結果が、JAMA誌2013年7月24日号に掲載された。これまでの検討では、腎結石の既往歴とCHDリスクの上昇との関連について一貫性のある結果は得られていないという。今回、イタリア・Columbus-Gemelli病院(ローマ市)のPietro Manuel Ferraro氏らは、米国の医療従事者を対象とした3つの大規模な前向きコホート試験のデータを解析した。24万例以上の前向きデータを解析 米国の調査では、腎結石の有病率は1976~1980年の3.8%から2007~2010年には8.8%(男性10.6%、女性7.1%)へと増加している。腎結石は動脈硬化、高血圧、糖尿病、メタボリック症候群、心血管疾患などとの関連が示唆されているが、これらの疾患は腎結石患者に多い腎疾患やカルシウム代謝異常に起因する可能性もあるという。 研究グループは、米国で医療従事者を対象に実施された以下の3つの前向きコホート試験の参加者のうち、ベースライン時にCHDの既往歴のない24万2,105例(男性4万5,748例、女性19万6,357例)について検討した。 Health Professionals Follow-up Study(HPFS:男性4万5,748例、40~75歳、1986~2010年)、Nurses’ Health Study I(NHS I:女性9万235例、30~55歳、1992~2010年)、Nurses’ Health Study II(NHS II:女性10万6,122例、25~42歳、1991~2009年)。 主要評価項目はCHDであり、致死的または非致死的心筋梗塞の発症および冠動脈血行再建術の施行と定義した。フォローアップ期間中は2年に1回、質問票を用いて腎結石とCHDを同定し、診療記録で確認した。HRは男性1.06、女性1.18、1.48 男性は最長24年、女性は18年のフォローアップが行われ、期間の中央値はHPFSが9.8年、NHS Iが8.2年、NHS IIは8.9年であった。1万9,678例が腎結石を、1万6,838例がCHDを発症した。 平均年齢は、HPFSの腎結石群が55.8歳、非腎結石群は53.7歳、NHS Iはそれぞれ59.0歳、58.4歳、NHS IIは37.4歳、36.6歳だった。3試験とも腎結石群で高血圧、チアジド系利尿薬の使用、高コレステロール血症が多く、NHS Iでは腎結石群で糖尿病が、HPFSとNHS Iでは腎結石群で痛風が多かった。また、腎結石群ではカルシウム、カフェイン、ビタミンDの摂取量が少なかった。 女性の交絡因子調整後のCHD発生率は、腎結石群が非腎結石群に比べ有意に高かった。すなわち、NHS Iでは10万人年当たりのCHD発生率が腎結石患群754、非腎結石群514(ハザード比[HR]:1.18、95%信頼区間[CI]:1.08~1.28)、NHS IIではそれぞれ144、55(HR:1.48、95%CI:1.23~1.78)であった。 男性(HPFS)では、10万人年当たりのCHD発生率が腎結石群1,355、非腎結石群1,022(HR:1.06、95%CI:0.99~1.13)であり、有意な差は認めなかった。 致死的/非致死的心筋梗塞(HPFS=536 vs 432/10万人年、HR:1.01、95%CI:0.92~1.11、NHS I=289 vs 196、1.23、1.07~1.41、NHS II=61 vs 25、1.42、1.07~1.90)および冠動脈血行再建術(HPFS=941 vs 706、1.06、0.98~1.14、NHS I=605 vs 401、1.20、1.09~1.32、NHS II=107 vs 40、1.46、1.17~1.81)についても同様の結果が得られた。 著者は、「腎結石の女性ではCHDのリスクが、強固ではないが有意に増大していた。このような性差の原因を解明し、病態生理学的な基礎を確立するために、さらなる検討を進める必要がある」と指摘している。

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重症薬疹

薬剤性とウイルス性の発疹症の鑑別法について教えてください。これは難しい質問です。薬剤によって出来る発疹とウイルスによって出来る発疹はメカニズムが似ています。薬剤もウイルスもMHC(主要組織適合遺伝子複合体)を介してT細胞に抗原認識されるという点では同じであり、実際の鑑別も簡単ではありません。ただ、ウイルスには流行がありますし、麻疹や風疹などウイルスでは抗体価が上がります。鑑別では、これらの情報を有効活用すべきだと思います。重症薬疹の、ごく初期の場合の見分け方を教えてください。初期段階での重症化予測については盛んに研究を行っているものの、まだ結論にはたどり着かない状態です。“軽く見える薬疹が2日後に非常に重症になる”といった症例を臨床の場でも経験することがあります。実際、初期であればあるほど見分けは難しく、大きな問題です。しいてコツをあげれば、思い込みを捨てて経過を良く観察する事でしょう。経過を良く見ていると、問題の発疹の原因や悪化要因となっている病気の本態やその赴く方向・勢いが顕になり、おかしいと点に気づくようになります。そこが非常に大事な点だと思います。重症化する薬疹の診断基準や早期診断の項目で、とくに重要な項目はありますか?粘膜疹と高熱の発現は重要です。とくに熱については、高熱がなければウイルス関与の薬疹ではない事が多いといえます。いずれにせよ、この2項目が出た場合は、注意しなければいけないと思います。また一般検査では、白血球増多と白血球減少のどちらも要注意で、血液像で核左方移動を伴う好中球増多がるのなのか、異形リンパ球の出現とその増加があるのか、また特殊検査になりますがTh2の活性化を示唆する血清TARC値の上昇が見られるのかも、薬疹の病型・重症度・病勢を推定・判定する上で重要です。マイコプラズマ感染症に続発する皮疹と薬疹を鑑別する方法はありますか?この2つはきわめて似ています。しかしながら、マイコプラズマに続発する場合は、気道が障害される傾向がありますし、胸部所見からの情報も得られます。また子供よりも大人の方が鑑別難しい症例が多いといえます。これも一番のコツは経過をじっと観察し、通常の定型的薬疹と違うことに気づくことだと思います。同じ薬剤でも薬疹の臨床型には個人差があるが、その要因を知りたい。難しい質問ですが、その患者さんの持っている免疫応答性とそれに影響を及ぼす遺伝的・非遺伝的な各種要因に関係した患者さんの持っている特性などが影響するのでしょう。SJSからTENへの移行とありますが、病理組織学的に両者は別疾患と聞いたことがあります。疾患連続性について御教授ください。これにはいろいろな意見があります。SJSは、通常SJSの発疹の拡大と病勢の伸展・進行によりTENに移行します。しかし、TENの場合、SJSを経ないで現れるものもあります。そのため、現時点ではSJSからTENに移行するものは一群として考えているといってよいと思います。免疫グロブリンは、軽症でも粘膜疹があれば早期投与した方が良いのでしょうか?免疫グロブリンを用いるのは、通常の治療で治らない場合と明らかにウイルス感染があるなど免疫グロブリンの明らかな適応がある場合などに限ります。このような症例を除いては、早期に使わないのが原則だと考えます。また、高価であり保険の問題もありますので、当然ながら安易な処方は避けるべきでしょう。AGEPにおける、ステロイド投与適応の指標は?AGEPには原因薬を中止して治る例とそうでない例があります。ステロイド適応は原因薬をやめて治らない場合ですね。なお、AGEPの場合は、TENやSJSとは異なり比較的低用量のステロイドでも治る症例があることに留意すべきものと思われます。初期に判断が難しい際には、全身ステロイドは控えるべきですか?判断が困難な場合は、第一の選択肢は、まず専門医に紹介するべきでしょう。中途半端な治療の後、悪化してわれわれの施設に来られる患者さんも少なくありません。こういった医療が最も良くないといえるでしょう。そういう意味で、病気に寄り添い、責任を持ってとことん病気を見切ることが重要です。その経過中に無理だと判断したら専門の医師に紹介した方が良いといえます。重症薬疹の原因薬剤として意外なもの(あまり認識されていないもの)はありますか?抗痙攣薬、消炎鎮痛解熱薬(NSAIDs)、抗菌薬、痛風治療薬などが原因薬としてよく取り上げられますが、どんな薬剤でも起こり得ると思った方が良いと思います。被疑薬の特定が困難である場合、治療のために全て薬剤を中止することが多いですが、どのように因果関係を証明したらよいでしょうか?とくに多剤内服中の方について病気の程度によりますが、軽くて余裕があれば、怪しい薬剤から抜いていって、良くなったらその薬剤が原因である可能性が高いわけです。一方、薬疹の進行が激しく一刻の猶予もない場合は、すべて中止したほうが良いと考えます。そして、その症状が治るか収まるかして、ステロイドなどの治療薬を中止できるか、ある程度まで減量できた時に、推定される原因薬剤を用いて、患者さんの末梢血に由来するリンパ球の刺激培養(in vitroリンパ球刺激試験)を実施し、出来れば、in vivoのパッチテストも行い、原因薬を診断・推定することは今後の予防という視点からも重要です。

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尿酸値の低下は虚血性心疾患を予防?/BMJ

 尿酸値の低下による心血管疾患予防効果が示唆されている。観察試験では尿酸値上昇と虚血性心疾患や血圧との関連が示されているが、交絡要因やバイアス、逆因果性のため解釈は困難だという。英国・ウォーリック大学のTom M Palmer氏らは、メンデル無作為化(Mendelian randomization)解析を用いて、これら観察試験の知見を検証し、尿酸と虚血性心疾患の因果関係を示すエビデンスは得られなかったとの結果を、BMJ誌オンライン版2013年7月18日号で報告した。2つのコホート試験のデータを用いたメンデル無作為化分析 メンデル無作為化分析は、リスク因子と強く相関する遺伝子型を操作変数(instrumental variable)とすることで、未測定の交絡要因や逆因果性の調整が可能であり、リスク因子とアウトカムの因果効果の検証に有用とされる。SLC2A9遺伝子は、循環血中の尿酸値との強い関連が確認されており、操作変数に適すると考えられている。 研究グループは、血漿尿酸値と虚血性心疾患、血圧との関連の評価を目的にメンデル無作為化分析を行い、尿酸値に対する交絡因子としてのBMIの可能性について探索的検討を実施した。 メンデル無作為化分析では、尿酸の操作変数としてSLC2A9(rs7442295)を用い、BMIとの強い関連が示されているFTO(rs9939609)、MC4R(rs17782313)、TMEM18(rs6548238)をBMIの操作変数として使用した。デンマークの2つの大規模コホート試験(Copenhagen General Population Study:CGPS、Copenhagen City Heart Study:CCHS)からデータを収集した。BMIへの介入で尿酸関連疾患が改善する可能性が CGPSには5万8,072例(平均年齢57歳、男性45%、尿酸値0.30mmol/L、高尿酸血症12%、血圧143/84mmHg、BMI 26)が登録され、そのうち虚血性心疾患が4,890例(8%)含まれた。CCHSの登録数は1万602例(60歳、44%、0.31mmol/L、16%、140/86mmHg、25)、虚血性心疾患は2,282例(22%)だった。 観察的検討では、尿酸値の1SD上昇と虚血性心疾患の関連が認められ(調整ハザード比[HR]:1.21、95%信頼区間[CI]:1.18~1.24)、高尿酸血症と虚血性心疾患との関連も確認された(調整HR:1.41、95%CI:1.32~1.51)。尿酸値、高尿酸血症と収縮期/拡張期血圧との間にも同様の関連がみられた。 その一方、SLC2A9(rs7442295)変異の解析では、尿酸値と虚血性心疾患(CGPS=HR:0.99、95%CI:0.95~1.04、CCHS=0.96、0.89~1.03)、収縮期血圧(CGPS:0.17、-0.17~0.51、CCHS:0.12、-0.50~0.73)、拡張期血圧(CGPS:0.11、-0.07~0.29、CCHS:0.40、0.00~0.80)の間の因果関係を示す強力なエビデンスは得られなかった。 BMIの交絡因子としての可能性に関する遺伝子学的解析では、BMIが尿酸値に影響を及ぼすことが示された。BMIが4単位上昇するごとに尿酸値が0.03mmol/L(95%CI:0.02~0.04)増加し、高尿酸血症のリスクが7.5%(95%CI:3.9~11.1)増大した。 著者は、「観察的な知見に反し、尿酸値と虚血性心疾患、血圧の因果関係のエビデンスは得られなかったが、BMIと尿酸値、高尿酸血症との関連が示唆された」とまとめ、「BMIや肥満への介入により、高尿酸血症や尿路結石などの尿酸関連疾患が改善される可能性がある」と指摘している。

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ERCP検査で十二指腸穿孔を来し死亡したケース

消化器最終判決判例タイムズ 579号26-51頁概要胆嚢の精査目的でERCP検査を施行した67歳男性。10回前後にわたる胆管へのカニューレ挿管がうまくいかず、途中で強い嘔吐反射や蠕動運動の亢進がみられたため検査終了となった。検査後まもなくして腹痛が出現、当初は急性膵炎を疑って保存的治療を行ったが、検査翌日になって腹腔内遊離ガスが確認され緊急開腹手術が行われた。ところが手術翌日から急性腎不全となり、さらに縫合不全、腹壁創離開、敗血症などを合併し、検査から約2ヵ月後に死亡した。詳細な経過患者情報某大学附属病院で数回にわたり健康診断を行い、肥満症(身長165cm、体重81.5kg)、動脈硬化症、高尿酸血症、左上肢筋萎縮症と診断された67歳男性。過去の健康診断でも胆嚢を精査するよう指摘されていた経過1979年4月10日腹部超音波検査では高度の肥満により鮮明な画像が得られなかった。テレパーク経口投与による胆嚢造影検査でも不造影となり、胆石や胆嚢がんなどの異常が疑われた。4月24日静注法による胆嚢造影検査を追加したが、やはり不造影に終わった。4月27日11:40ERCP開始。左側臥位とし側視鏡型式ファイバースコープを経口挿入、十二指腸下行部までは順調に到達した。この時点で蠕動運動が始まったため、鎮痙剤ブトロピウム(商品名:コリオパン1A)を静注。蠕動が治まったところで乳頭開口部を確認し、胆管造影を試みたが失敗、カニューレは膵管にしか進められなかった。2名の担当医師により前後約10回にわたって胆管への挿管が試みられたがいずれもうまくいかず、そうしているうちに再び蠕動運動の亢進が出現した。さらに、強い嘔吐反射が2度にわたって生じたことや、検査担当医自身も疲労を感じたことから胆管造影を断念。12:30スコープを抜管して検査終了となった(検査時間約50分)。担当医によれば、検査中穿孔の発生を疑わせる特段の異常はなく、造影剤が十二指腸から漏れ出た形跡や検査器具による損傷を思わせる感触もなかった。13:00患者は検査後の絶飲食および安静の指示を守らず、自家用車を運転して勝手に離院。13:30その帰途で腹痛を覚え、タクシーで帰院。腹部に圧痛・自発痛がみられたが腹膜刺激症状は認められず、検査後の膵炎を考慮してガベキサートメシル(商品名:エフオーワイ)、コリオパン®を投与。14:00腹痛が治まらなかったので、ペンタゾシン(商品名:ペンタジン)、コリオパン®を筋注し、約10分後にようやく腹痛は治まった。16:00担当医師は病院にとどまるように説得したが、患者は聞き入れず、「腹痛が再発したら来院すること」を指示して帰宅を許可した。19:00腹痛が再発したため帰院。当直医によりペンタジン®筋注、エフオーワイ®の点滴が開始された。20:00腹部X線写真にて上腹部付近に異常な帯状のガス影がみつかったが、その原因判断は困難であった。22:00担当医師らが協議した結果、消化管穿孔による腹膜炎で生じるはずの横隔膜下遊離ガス像が明確でないこと、検査担当医には腸管穿孔の感触がなかったこと、腹膜炎の徴候であるデファンスやブルンベルグ徴候がなかったことから、急性膵炎の可能性が高いと考えた(この時アミラーゼを測定せず)。4月28日翌日になっても腹痛が持続。10:40再度腹部X線撮影を実施したところ、横隔膜下に遊離ガス像を確認。11:00下腹部試験穿刺にて膿を確認。13:50緊急開腹手術施行。十二指腸第2部と第3部の移行部(尾側屈曲部)に直径1cmの穿孔があり、十二指腸液が漏出していた。穿孔部は比較的フレッシュで12~24時間以内に形成されたものと思われ、腹腔内の洗浄に加えて穿孔部の縫合閉鎖を行った。また、膵頭部は腫大しており、周囲の脂肪組織や横行結腸間膜に膵液による壊死性変化がみられた。胆嚢は異常に拡張し、内腔には3個の結石が確認され、胆嚢摘除術が追加された。なお、体表には打撲、皮下出血などの外傷所見はみられなかった。16:40手術終了。4月29日手術翌日から急性腎不全を発症。4月30日BUN 47.3、K 6.3と上昇がみられたためシャント作成、血液透析開始。5月5日縫合不全を併発。5月13日腹壁開腹創全離開、感染症増悪、敗血症を併発。5月22日頭蓋内出血および数回にわたる腹腔内出血を起こす。6月16日各種治療の効果なく多臓器不全に進行し、肺機能不全により死亡。当事者の主張患者側(原告)の主張1.ERCP検査に際しスコープ操作に細心の注意を払う義務を怠った2.漫然と長時間にわたってERCP検査を施行し、ついには操作を誤って十二指腸を穿孔させた。その結果、急性腎不全、敗血症、頭蓋内出血などを起こし、汎発性腹膜炎により死亡した病院側(被告)の主張1.スコープの操作にあたっては確立された手技にしたがって慎重に実行し、不必要、不用意あるいは乱暴な操作を行ったことはなく、器具損傷の感触もなかったまた、スコープ自体は十二指腸の湾曲に沿った形で滑り易くなっていて、さらに腸管の柔軟性、弾力性、および腸管内面の粘滑性に照らすと、スコープの挿入によって腸管穿孔を生じるほどの強い力が働くことはないし、嘔吐反射によって腸管穿孔が生じるとも考えがたい2.十二指腸穿孔の原因は、穿孔部位の解剖学的関係から交通事故などによる外的鈍力の作用によるものである(ただし外傷所見は確認されていない)3.そして、十二指腸穿孔はただちに死に結びつくものではなく、予後を悪化させて死の転帰に至らしめた最大かつ根本的な要因は急性腎不全であり、その原因は本人の腎不全に陥りやすいという身体的理由と、医師の指示を無視した患者自身の自由勝手な行動にある裁判所の判断1.ERCP検査中に、蠕動亢進、嘔吐反射の反覆がみられたにもかかわらず穿孔を生じうるスコープ操作を継続したため、十二指腸が穿孔したと推認される2.患者には交通事故その他鈍的外傷を受けたと認めるに足る事実(体表の打撲傷、十二指腸周辺の合併損傷など)がなく、万一交通事故に遭遇していたのであれば検査や診療に当たった医師などに告知するはずである3.担当医らは腹痛が出現した後も、事態に対する重大な認識をまったくもっておらず、十分な経過観察をしようとする姿勢がみられなかった。仮に患者の自由勝手な行動がなかったとしても、適切な診断や早急な開腹手術が実施された可能性はきわめて低い担当医はERCP検査の危険性などを十分に認識していたにもかかわらず、必ずしも慎重、冷静な心身の状態なくして胆管へのカニューレ挿入を10回も試み、老齢で薄い十二指腸壁をこすり、過進展させ、また、蠕動運動の亢進や嘔吐反射の反覆にもかかわらず検査を続行し、結果回避義務を違反して穿孔を生じさせた結果死亡した。ただし、医療に対する協力を怠り不注意な問題行動をとった点は患者側の過失であり、損害額の2割は過失相殺するのが相当である。原告側合計5億1,963万円の請求に対し、3億1,175万円の判決考察本件は医療過誤裁判史上、過去最高の賠償額ということで注目を集めたケースです(なお2審判決では1億4,000万円とかなり減額され、現在も最高裁で係争中です)。病院側は本件で生じた十二指腸の穿孔部位が、スコープなどの器具で発生することの多い「腹腔側穿孔」ではなく、交通事故などの鈍的外力の時によくみられる「後腹膜腔穿孔」であったことを強調し、スコープ操作が原因の十二指腸穿孔ではなく、「患者が検査後の医師の指示を守らず、自由勝手な行動をとって病院から離れた時に、きっと交通事故でも起こして腹部を打撲した結果十二指腸が穿孔したのだろう」と主張しました。しかし、患者さんは検査後に交通事故などでケガをしたとは申告していませんし、開腹手術時にも外傷所見は認められませんでしたので、未確認の鈍的外力が原因とするのは少々無理な主張ではないかと思います。それ以外にも病院側の対応にはさまざまな問題点があり、それらを総合して最終判断に至ったと思われます。たとえば、開腹手術後には「若い者がやったことだから大目にみてくれ」と上司から説明があったり、検査担当医も「穿孔を生じさせ申し訳ない」と謝意を述べていながら、訴訟へ発展した後になって「交通事故など鈍的外傷による穿孔である」とERCP検査による穿孔を真っ向から否定し始めました。また、腹痛発症当初は「急性膵炎」と診断してエフオーワイ®などの投与を行っていましたが、検査当日にアミラーゼ検査をまったく実施しなかったことや、2回目の帰院時には、ほかの関連病院へ入院させる途中で容態が悪化し、やむなく大学附属病院に入院処置をとった点も、「事態に対する重大な認識の欠如」という判断を加速させたようです。そもそも本件では本当に無理な内視鏡操作が行われていたのでしょうか。その点については担当医にしかわからないことだと思いますが、胆管へのカニューレ挿入がなかなかうまくいかず、試行錯誤しながらも10回挿管を試みたのは事実です。その間に十二指腸の蠕動運動が始まったり、強い嘔吐反射が反覆したことも確認されていますので、やはり腸管が穿孔してしまうほどの外力が加わったと認定されてもやむを得ないように思います。担当医らは「無理な操作はしていない」とくり返し主張しましたが、胆管へ10回も挿管を試みたということは多少意地になって検査を遂行したという側面もあるのではなかと推測されます。裁判記録によれば、担当医は消化器内科の若手医師でERCPを当時約200例以上こなしていましたので、この検査にかけてはベテランの域に達していたと思います。そして、検査がうまくなるにつれ、難しい病気を診断したり、同僚の医師がうまくいかないような検査をやり遂げることができれば、ある意味での満足感や達成感が得られることは、多くの先生方が経験されていると思います。しかし、いくら検査に習熟していたといっても、自らが行った医療行為によって患者さんが不幸な転帰をとるような事態は何としても避けなければなりませんので、検査中は常に細心の注意を払う必要があると思います。と同時に、たとえ検査の目的が達成されなくても、けっして意地を張らずに途中で検査を中止する勇気を持たなければならないと痛感しました。最近の統計(日本消化器内視鏡学会雑誌 Vol.42 308-313, 2000)によると、1993~1997年のERCP検査の偶発症は189,987件中190例(0.112%)であり、急性膵炎がもっとも多く、穿孔、急性胆道炎などがつづきます。そのうち死亡は12例(0.0063%)で、急性膵炎による死亡6名、穿孔による死亡3名という内訳です。このような統計的数字をみると、過去3回の大規模調査でも偶発症発生頻度はほとんど変化はないため、偶発症というのは(検査担当医にかかわらず)一定の確率で発生するものだという印象を受けます。しかし、昨今の社会情勢をみる限り、検査前までは健康であった患者さんに内視鏡偶発症が発生した場合、けっして医療側が無責ということにはならないと思います。このような場合、裁判所の判決に至るよりも和解、あるいは示談で解決する場合が多いのですが、本件のように当初は謝意を示していながら裁判となったとたんに前言を翻したりすると、交渉が相当こじれてしまうと思われますので、医療側としては終始一貫した態度で臨むことが重要であると思います。なお、ここ数年はMRIを用いた膵胆管造影(MRCP)の解像度がかなり向上したため、スクリーニングの目的ではまずMRCPを考えるべきであると思います。消化器

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基準通り抗がん剤を投与したにもかかわらず副作用で急死した肺がんのケース

癌・腫瘍最終判決判例時報 1734号71-82頁概要息切れを主訴としてがん専門病院を受診し、肺がんと診断された66歳男性。精査の結果、右上葉原発の腺がんで、右胸水貯留、肺内多発転移があり、胸腔ドレナージ、胸膜癒着術を行ったのち、シスプラチンと塩酸イリノテカンの併用化学療法が予定された。もともと軽度腎機能障害がみられていたが、初回シスプラチン、塩酸イリノテカン2剤投与後徐々に腎機能障害が悪化した。予定通り初回投与から1週間後に塩酸イリノテカンの単独投与が行われたが、その直後から腎機能の悪化が加速し、重度の骨髄抑制作用、敗血症へといたり、化学療法開始後2週間で死亡した。詳細な経過患者情報12年前から肥大型心筋症、痛風と診断され通院治療を行っていた66歳男性経過1994年3月中旬息切れが出現。3月28日胸部X線写真で胸水を確認。細胞診でclass V。4月11日精査治療目的で県立ガンセンターへ紹介。外来で諸検査を施行し、右上葉原発の肺がんで、右下肺野に肺内多発転移があり、がん性胸膜炎を合併していると診断。5月11日入院し胸腔ドレナージ施行、胸水1,500mL排出。胸膜癒着の目的で、溶連菌抽出物(商品名:ピシバニール)およびシスプラチン(同:アイエーコール)50mgを胸腔内に注入。5月17日胸腔ドレナージ抜去。胸部CTで胸膜の癒着を確認したうえで、化学療法を施行することについて説明。シスプラチンと塩酸イリノテカンの併用療法を予定した(シスプラチン80mg/m2、塩酸イリノテカン60mg/m2を第1日、その後塩酸イリノテカン60mg/m2を第8日、第15日単独投与を1クールとして、2クール以上くり返す「パイロット併用臨床試験」に準じたレジメン)。医師:抗がん剤は2種類で行い、その内の一つは新薬として承認されたばかりでようやく使えるようになったものです。副作用として、吐き気、嘔吐、食欲低下、便秘、下痢などが生じる可能性があります。そのため制吐薬を投与して嘔吐を予防し、腎機能障害を予防するため点滴量を多くして尿量を多くする必要があります。白血球減少などの骨髄障害を生じる可能性があり、その場合には白血球増殖因子を投与します患者:新薬を使うといわれたが、具体的な薬品名、吐き気以外の副作用の内容、副作用により死亡する可能性などは一切聞いていない5月23日BUN 26.9、Cre 1.31、Ccr 40.63mL/min。5月25日シスプラチン80mg/m2、塩酸イリノテカン60mg/m2投与。5月27日BUN 42.2、Cre 1.98、WBC 9,100、シスプラチンによる腎機能障害と判断し、輸液と利尿薬を継続。6月1日BUN 74.1、Cre 2.68、WBC 7,900。主治医は不在であったが予定通り塩酸イリノテカン60mg/m2投与。医師:パイロット併用臨床試験に準じたレジメンでは、スキップ基準(塩酸イリノテカンを投与しない基準)として、「WBC 3,000未満、血小板10万未満、下痢」とあり、腎機能障害は含まれていなかったので、予定通り塩酸イリノテカンを投与した。/li>患者:上腹部不快感、嘔吐、吃逆、朝食も昼食もとれず、笑顔はみせるも活気のない状態なのに抗がん剤をうたれた。しかもこの日、主治医は学会に出席するため出張中であり、部下の医師に申し送りもなかった。6月3日BUN 67.5、Cre 2.55、WBC 7,500、吐き気、泥状便、食欲不振、血尿、胃痛が持続。6月6日BUN 96.3、Cre 4.04、WBC 6,000、意識レベルの低下および血圧低下がみられ、昇圧剤、白血球増殖因子、抗菌薬などを投与したが、敗血症となり病態は進行性に悪化。6月8日懸命の蘇生措置にもかかわらず死亡。当事者の主張患者側(原告)の主張1.シスプラチンと塩酸イリノテカンの併用投与当時は副作用について十分な知識がなく、しかも抗がん剤使用前から腎機能障害がみられていたので、腎毒性をもつシスプラチンとの併用療法はするべきではなかった2.塩酸イリノテカンの再投与塩酸イリノテカン再投与前は、食欲がなく吐き気が続き、しかも腎機能が著しく低下していたので、漫然と再投与を行ったのは過失である。しかも、学会に出席していて患者の顔もみずに再投与したのは、危険な薬剤の無診察投与である2.インフォームドコンセント塩酸イリノテカン投与に際し、単に「新しい薬がでたから」と述べただけで、具体的な薬の名前、併用する薬剤、副作用、死亡する可能性などについては一切説明なく不十分であった。仮にカルテに記載されたような説明がなされたとしても、カルテには承諾を得た旨の記載はない病院側(被告)の主張1.シスプラチンと塩酸イリノテカンの併用投与シスプラチン、塩酸イリノテカンはともに厚生大臣(当時)から認可された薬剤であり、両者の併用療法は各臨床試験を経て有用性が確認されたものである。抗がん剤開始時点において、腎機能は1/3程度に低下していたが、これは予備能力の低下に過ぎず、併用投与の禁忌患者とされる「重篤な腎障害」とはいえない2.塩酸イリノテカンの再投与塩酸イリノテカン研究会の臨床試験実施計画書によれば、2回目投与予定日に「投与しない基準」として白血球数の低下、血小板数の低下、下痢などが記載されているが、本件はいずれにも該当しないので、腎機能との関係で再投与を中止すべき根拠はない。なお当日は学会に出席していたが、同僚の呼吸器内科医師に十分な引き継ぎをしている2.インフォームドコンセント医師は患者や家族に対して、詳しい説明を行っても、特段の事情がない限りその要旨だけをカルテに記載し、また、患者から承諾を得てもその旨を記載しないのが普通である裁判所の判断1. 腎機能悪化の予見可能性抗がん剤投与前から腎機能障害が、シスプラチンの腎毒性によって悪化し、その状態で塩酸イリノテカンの腎毒性によりさらに腎機能が悪化し、骨髄抑制作用が強く出現して死亡した。もし塩酸イリノテカンを再投与していなければ、3ヵ月程度の余命が期待できた。2. 塩酸イリノテカンの再投与塩酸イリノテカン再投与時、腎機能は併用療法によって確実に悪化していたため、慎重に投与するかあるいは腎機能が回復するまで投与を控えるべきであったのに、引き継ぎの医師に対して細かな指示を出すことなく、主治医は学会に出席した。これに対し被告はスキップ基準に該当しないことを理由に再投与は過失ではないと主張するが、そもそもスキップ基準は腎機能が正常な患者に対して行われる併用療法に適用されるため、投与直前の患者の各種検査結果、全身状態、さらには患者の希望などにより、柔軟にあるいは厳格に解釈する必要があり、スキップ基準を絶対視するのは誤りである。3. インフォームドコンセント被告は抗がん剤の副作用について説明したというが、診療録には副作用について説明した旨の記載はないこと、副作用の説明は聞いていないという遺族の供述は一致していることから、診療録には説明した内容のすべてを記載する訳ではないことを考慮しても、被告の供述は信用できない。原告側合計2,845万円の請求に対し、536万円の判決考察本件のような医事紛争をみるにつけ、医師と患者側の認識には往々にしてきわめて大きなギャップがあるという問題点を、あらためて考えざるを得ません。まず医師の立場から。今回の担当医師は、とてもまじめな印象を受ける呼吸器内科専門医です。本件のような手術適応のない肺がん、それも余命数ヵ月の患者に対し、少しでも生存期間を延ばすことを目的として、平成6年当時認可が下りてまもない塩酸イリノテカンとシスプラチンの併用療法を考えました。この塩酸イリノテカンは、非小細胞肺がんに効果があり、本件のような腺がん非切除例に対する単独投与(第II相臨床試験;初回治療例)の奏効率は29.8%、パイロット併用試験における奏効率は52.9%と報告されています。そこで医師としての良心から、腫瘍縮小効果をねらって標準的なプロトコールに準拠した化学療法を開始しました。そして、化学療法施行前から、BUN 26.9、Cre 1.31、クレアチニンクリアランスが40.63mL/minと低下していたため、シスプラチンの腎毒性を考えた慎重な対応を行っています。1回目シスプラチンおよび塩酸イリノテカン静注後、徐々に腎機能が悪化したため、投与後しばらくは多めの輸液と利尿薬を継続しました。その後腎機能はBUN 74.1、Cre 2.68となりましたが、初回投与から1週間後の2回目投与ではシスプラチンは予定に入らず塩酸イリノテカンの単独投与でしたので、その当時シスプラチン程には腎毒性が問題視されていなかった塩酸イリノテカンを投与することに踏み切りました。もちろん、それまでに行われていたパイロット併用試験におけるスキップ基準には、白血球減少や血小板減少がみられた時は化学療法を中止しても、腎障害があることによって化学療法を中止するような取り決めはありませんでした。したがって、BUN 74.1、Cre 2.68という腎機能障害をどの程度深刻に受け止めるかは意見が分かれると思いますが、臨床医学的にみた場合には明らかな不注意、怠慢などの問題を指摘することはできないと思います。一方患者側の立場では、「余命幾ばくもない肺がんと診断されてしまった。担当医師からは新しい抗がん剤を注射するとはいわれたが、まさか2週間で死亡するなんて夢にも思わなかったし、副作用の話なんてこれっぽっちも聞いていない」ということでしょう。なぜこれほどまでに医師と患者側の考え方にギャップができてしまったのでしょうか。さらに、死亡後の対応に不信感を抱いた遺族は裁判にまで踏み切ったのですから、とても残念でなりません。ただ今回の背景には、紛争原因の一つとして、医師から患者側への「一方通行のインフォームドコンセント」が潜在していたように思います。担当医師はことあるごとに患者側に説明を行って、予後の大変厳しい肺がんではあるけれども、できる限りのことはしましょう、という良心に基づいた医療を行ったのは間違いないと思います。そのうえで、きちんと患者に説明したことの「要旨」をカルテに記載しましたので、「どうして間違いを起こしていないのに訴えられるのか」とお考えのことと思います。ところが、説明したはずの肝心な部分が患者側には適切に伝わらなかった、ということが大きな問題であると思います(なお通常の薬剤を基準通り使用したにもかかわらず死亡もしくは後遺障害が残存した時は、医薬品副作用被害救済制度を利用できますが、今回のような抗がん剤には適用されない取り決めになっています)。もう一つ重要なのは、判決文に「患者の希望を取り入れたか」ということが記載されている点です。本件では抗がん剤の選択にあたって、「新しい薬がでたから」ということで化学療法が始まりました。おそらく、主治医はシスプラチンと塩酸イリノテカンの併用療法がこの時点で考え得る最良の選択と信じたために、あえて別の方法を提示したり、個々の医療行為について患者側の希望を聞くといった姿勢をみせなかったと思います。このような考え方は、パターナリズム(父権主義:お任せ医療)にも通じると思いますが、近年の医事紛争の場ではなかなか受け入れがたい考え方になりつつあります。がんの告知、あるいは治療についてのインフォームドコンセントでは、限られた時間内に多くのことを説明しなければならないため、どうしても患者にとって難解な用語、統計的な数字などを用いがちだと思います。そして、患者の方からは、多忙そうな医師に質問すると迷惑になるのではないか、威圧的な雰囲気では言葉を差し挟むことすらできない、などといった理由で、ミスコミュニケーションに発展するという声をよく聞きます。中には、「あの先生はとても真剣な眼をして一生懸命話してくれた。そこまでしてくれたのだからあの先生にすべてを託そう」ですとか、「いろいろ難しい話があったけれども、最後に「私に任せてください」と自信を持っていってくれたので安心した」というやりとりもありますが、これほど医療事故が問題視されている状況では、一歩間違えると不毛な医事紛争へと発展します。こうした行き違いは、われわれすべての医師にとって遭遇する可能性のあるリスクといえます。結局は「言った言わないの争い」になってしまいますが、やはり患者側が理解できる説明を行うとともに、実際に患者側が理解しているのか確かめるのが重要ではないでしょうか。そして、カルテを記載する時には、いつも最悪のことを想定した症状説明を行っていること(本件では抗がん剤の副作用によって死亡する可能性もあること)がわかるようにしておかないと、本件のような医事紛争を回避するのはとても難しくなると思います。癌・腫瘍

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日本でほとんど報道されなかった驚愕のインパクト、冠動脈疾患の二次予防に対するコルヒチンに迫る!

 2012年11月、AHA(米国心臓病学会)学術集会が開催され、多くの新しい知見が発表された。その中に、日本では、ほとんど報道されてはいないが、冠動脈疾患の二次予防において、臨床的にきわめてインパクトの高い試験結果が発表されていた。その試験名は、「The LoDoCo Trial」という。LoDoCo試験に用いられた新たな治療選択肢は、わが国でも古くから使用されている痛風発作予防薬コルヒチンだった。ケアネットでは、この試験に注目し、情報を提供してくださった東海大学医学部 後藤信哉氏に直接お話を伺った。後藤氏は、AHA発表時のDiscussantでもある。安定狭心症への低用量コルヒチン投与によって心血管イベントが減少 LoDoCo (Low Dose Colchicine)試験は、低用量コルヒチンが、安定狭心症患者の心血管イベントを抑制するかを検討したオープン試験である。血管造影にて確認された安定狭心症532例を、低用量コルヒチン(0.5mg/日)群(282例)またはコルヒチン非投与群(250例)に無作為に割り付け、最初の臨床イベント(急性冠症候群、院外心停止、非心原性脳梗塞)を主要評価項目として、平均3年間追跡した。その結果、イベント発症率は、非投与群が40/250(16%)、低用量コルヒチン群が15/282(5.3%)となり、HRは0.33 (95%CI: 0.18~0.60、p

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聖路加GENERAL 【腎臓内科】

第1回「CKD」第2回「尿異常の検査方針」第3回「高カリウム血症」第4回「急性腎障害(AKI)」 第1回「CKD」健診で、腎機能低下を指摘され、精査を指示された65歳の女性。糖尿病で通院しているが、今まで腎臓については何も言われたことがありませんでした。検査の結果、Cr値がやや高めである以外は、特に異常はありません。しかし、このCr値を元に推算GFR推算式によってeGFRを求めてみると、意外に腎機能が低下しているらしいということがわかりました。放置すれば、約5年で人工透析という予測結果です。腎疾患の治療の目的は、まず腎機能の低下を抑えることです。腎機能は年齢とともに低下しますし、糖尿病患者では、健常な人の約10倍も低下の速度が高くなります。また、CKDは、腎臓のみならず心血管事故を起こす可能性もあります。特に欧米では、透析適応になるより、その前に心疾患で死亡する方が多いという報告もあります。まずは、自覚症状が少ないため見逃しがちなCKDについて、その診断方法と、適切な治療によって悪化を抑え、腎不全と心血管事故を防ぐための方法をお伝えします。第2回「尿異常の検査方針」健診で尿潜血と尿蛋白を指摘された28歳の男性。健診で見つかる血尿は、尿潜血反応によるもので、実際に血尿があるかどうかは顕微鏡による尿沈査検査によって確認します。実際、健診においては、3〜10%という高率で顕微鏡的血尿が見つかります。これら全員を泌尿器科に送るわけにもいきません。そこで、まず泌尿器悪性腫瘍を除外します。特に、40歳以上の男性、喫煙歴などはリスクファクターになりますので、さらに検査を進めます。そして、さらに尿蛋白も陽性だった場合、IgA腎症などの慢性糸球体腎炎の可能性が高くなります。IgA腎症は、約30%が将来的に腎不全に至ると言われており、早期発見、早期対処が求められます。この他にも、血尿と尿蛋白が出るさまざまな例について解説します。また、尿蛋白を定量するための蛋白クレアチニン比の算出方法についても、具体的な事例を用いて解説します。第3回「高カリウム血症」数日前から感冒、発熱のある65歳の男性。知人からいただいたスイカを2個食べたところ、全身脱力、筋力低下が強まり歩行困難となって受診。実は、昔から腎臓によいとされているスイカは、豊富にカリウムを含んでおり、高カリウム血症の患者にとってはとても危険。それ以外にも、糖尿病性腎症、横紋筋融解症などの既往、ARB、Nsaidsなどの薬剤など、高カリウム血症に悪影響を及ぼす要因はさまざまです。高カリウム血症への対応において、最も重要なのは不整脈を起こさないということです。そのために、積極的に心電図を活用します。治療については、一時的に細胞内へカリウムを移動する方法、体外にカリウムを排泄する方法があります。程度に応じた治療法について、具体的に丁寧に解説します。第4回「急性腎障害(AKI)」痛風、高血圧の既往歴があり、全身倦怠感と嘔気を主訴に来院した55歳男性。血清クレアチニン値が高い場合、最初にやることは、それが慢性腎臓病(CKD)なのか、急性腎障害(AKI)なのかを鑑別することです。ところが、いつからCr値が上がったのか、なかなかわからないことが多いと思います。過去の健診のデータ、前医のカルテなどが入手できればよいですが、それも難しい場合は身体所見と病歴聴取から推測します。AKIの診察のポイントは、腎前性、腎性、腎後性に分けて考えることです。特に、腎前性と腎後性は重症化する場合がありますので、見逃してはいけません。他に気を付けなければならないものとして、造影剤腎症があります。腎機能が低下している患者に造影剤を使ってよいかどうか・・・。そんな現場の悩みにも、小松先生が丁寧に答えてくださいます。

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関節疾患にみる慢性疼痛

関節痛の概要・特徴痛みを呈する関節で最も多いのが膝関節、次いで肩こりを含めた肩関節が多い。股関節では骨形成不全などがあると痛みが発症するが、膝関節や肩関節に比べて頻度は低い。また、肩関節、手関節および肘関節の痛みの訴えはそれ以上に少なく、治療上も問題になることは多くない。関節痛の原因としては変形性関節症が最も多く、次に痛風、偽痛風、関節リウマチなどの炎症性関節炎、そして感染性関節炎となる。関節痛の多くは、慢性的なケースが多く、継続して痛みがあるか亜急性的に痛みが悪化する患者さんが多い。関節痛のリスク因子には、下肢(股関節、膝関節、足関節)のアライメントの異常(関節の歪み)や肥満、筋力低下がある。日本人にはO脚が多いため、膝の内側が摩耗しやすく、体重増や筋力低下により摩耗が進むと関節痛がさらに悪化するというのはその典型といえる。関節痛の原因関節痛についても、痛みの原因を明らかにし、その原因に対処していくことが必要である。変形性関節症の場合、過労時や荷重時の痛みが多く、安静時痛がない。ちなみに、安静時痛のある場合は、関節リウマチや痛風などの炎症性関節炎や細菌感染などの化膿性関節炎などのこともあるので注意が必要である。炎症性関節炎の場合、痛みの原因となる内科疾患を明らかにする必要がある。痛風であれば熱感や発赤が認められるが関節液の濁りは少なく、採血でCRPおよび尿酸値の高値が認められる。偽通風であれば関節液からピロリン酸が検出される。炎症性関節炎では、感染性関節炎と鑑別しにくい場合もある。化膿性関節炎では、熱感、発赤が非常に強く、白血球は10万レベルになる。一方、炎症性関節炎であれば上がっても白血球は数千から1万程度である。また、化膿性関節炎の関節液では白色の膿が確認されるが、炎症性関節炎の関節液は少し濁っている程度である。炎症性、感染性が除外された場合、単純X線所見と併せて変形性関節症と診断することになる。また、胆嚢疾患や心疾患などの内科疾患が原因で肩関節が痛む関連痛が報告されているが、整形外科に来院する場合もあるので注意が必要である。変形性関節症の特徴的X線所見骨棘形成関節裂隙の狭小化軟骨下骨の硬化関節裂隙の消失関節痛の治療変形性関節症はセルフリミティングな疾患であり、ある程度までしか進行せず自然治癒力が期待できるため治療の緊急性は少ない。NSAIDsで効果を期待できるため、治療初期の2週間ほどはNSAIDsを処方して様子をみて、運動療法を行う。長期にわたり鎮痛効果が必要な場合は、NSAIDsの長期服用による腎障害や胃潰瘍の発現を考慮し、弱オピオイド鎮痛薬の併用あるいは切り替えを検討する。また、変形性関節症ではX線の所見と痛みの程度は必ずしも一致せず、進行した例でも薬物療法や運動療法が有効な場合がある。関節破壊が進展し十分な保存療法を行っても症状の改善が得られず、患者さんの希望するレベルの生活に障害がある場合などは手術の適応を検討する。炎症性関節炎の場合、原因となる内科疾患、関節リウマチであればその治療を、痛風であれば尿酸値を下げるなど、その疾患の治療を行う。感染性疾患は治療に緊急性を要する場合が多い。たとえば化膿性関節炎では、関節破壊が進行し、さらに敗血症で死亡する危険があるため緊急手術を要する。運動療法の積極導入ある程度痛みが軽減したら、運動療法、筋力トレーニング、関節可動域改善のトレーニングを行う。痛みがあると、その部位の筋力が低下していることが多く、運動療法で筋力を回復するだけでも随分痛みが改善することが多い。変性疾患で軟骨が摩耗している変形性膝関節症であれば、むしろ運動療法することでが機能が回復するとされている1)。「痛み=安静」という意識を変え、症状改善のためには、少し痛みが残っていても動くことを勧めるのも治療選択肢であろう。代表的な運動療法としては、肩関節周囲のコッドマン体操や滑車体操、膝関節の大腿四頭筋訓練、股関節の股関節周囲筋筋力体操などがある。いずれの場合も運動療法を導入する際は、管理下の運動療法といって、PTや整形外科医の指導・監視下で行うことが基本であり、その際には、整形外科医との連携を図っていただくべきであろう。高齢者の肩の腱板断裂関節痛とは異なるが整形外科では高齢者の肩の腱板断裂という疾患が近年多くみられるため紹介する。この疾患は、急に肩が動かなくなり、夜も寝られない程の肩の痛みを訴える。しかしながら、単純X線検査では診断がつきにくく、内科からの紹介も多い。検査としてはドロップアームサインがある。腕を上げてバンザイはできるが、肩の腱板が切れているため腕をおろしてゆくと保持できず途中でドロップする。つまり、棚の上の物が取れなくなるが、腕をおろした状態では問題がないため字は書ける。治療として、NSAIDsで痛みをある程度軽減してから、手術療法が必要なければ運動療法により肩の可動域を保持する。症例ごとに最適の疼痛診療を目指す整形外科領域の疼痛の診療にはさまざまなピットフォールがあるが、どんな場合でも痛みの原因を明らかにし、それぞれの症例に適した診療が必要となる。また、疼痛患者さんはどの診療科を受診するかわからず、他診療科からの紹介も多い。整形外科と他診療科が連携して、患者さんの痛みをうまくコントロールしていくことが、超高齢化社会に入っていくこれからの医療には重要なのではないだろうか。参考文献1)岩谷 力 (監修)ほか 変形性膝関節症の保存的治療ガイドブック;メジカルレビュー社2006年

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筋・骨を極める!Dr.岸本の関節ワザ大全

第4回「単関節炎へのアプローチ痛風」第5回「単関節炎へのアプローチ偽痛風」第6回「身体診察のコツ顎関節・頸部・肩」 第4回「単関節炎へのアプローチ痛風」足の親指の付け根が痛む、場合によっては救急車でやってくるほどの激烈な痛み。そう、それは痛風です。誰でも一度は見たことがある症状ではないでしょうか。今回は一般診療でも良く見かける、この痛風についての知識を掘り下げます。 「痛風が起こるのは足の親指だけ?」「痛風だと思うが、尿酸値は正常値だったが…?」「高尿酸血症の患者さんに尿酸降下薬を使う基準は?」「NSAIDsもコルヒチンも使えない急性発作の患者さんはどう治療したらいいのだろう?」「尿酸降下薬は何を選んで、どう使えばいいのか?」「食事指導はどうすればいいの?」など、痛風は非常に多い疾患でありながら、そのマネジメントには疑問も多いのです。岸本先生の明解な解説で、痛風の診断と治療をしっかりと身に付けてください。第5回「単関節炎へのアプローチ偽痛風」偽痛風は、第4回の痛風と同じように、高齢者や入院患者さんによく見られる疾患です。しかし「痛風に似てるから偽痛風」と、実はおぼろげな知識しか持ち合わせていない人も多いようです。 「痛風は尿酸血症、偽痛風はピロリン酸カルシウムが引き起こす病気」ということは広く認知されていると思われますが、その診断やマネジメントには「偽痛風は、リウマチ、痛風、変形性関節症とはどう見分ければいいのか?」「偽痛風を疑ったらまずすることは?」「治療は痛風と同じでいいの?」など、多くの疑問が寄せられています。岸本先生の明快な解説で、数々の疑問を吹き飛ばしてください!第6回「身体診察のコツ顎関節・頸部・肩」この回から、実際にそれぞれの体の部位での関節痛にどのように対応するか、実践的に学んでいきます。 まずは、どんな部位の身体診察でも三つの基本「視診」、「可動域(Rangeof motion)」、「触診」を忘れないでください。これさえ会得しておけば診療の現場で迷うことはありません。 さらに、簡単にできる神経所見の取り方を伝授します。これを知っていればあなたの身体診察の幅がぐっと広がり、今まで漠然と捉えていた、「首が痛い、肩が痛い」という患者さんの訴えが手に取るように分かるようになります!

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USA発!関節X線ASBCD

第1回「基本を覚えよう!」第2回「手のX線写真をマスター!」第3回「肘と肩に応用しよう!」 第1回「基本を覚えよう !」『Dr.岸本の関節ワザ大全』の講師・岸本暢将先生が、ご同僚の山本万希子先生とともに関節X線写真の見方を分かりやすく解説していきます。「X線?今はCTやMRIの時代じゃない?」という声が聞こえそうですが、一枚のX線写真には意外なほどたくさんの情報が隠されているのです。X線は安価なため多くの病院、診療所で気軽に利用することが出来る、非常に有用なツールです。 まずは山本先生の提唱する関節X線の見方、ASBCD(Alignment, Softtissues, Bones, Cartilage, Distribution)を覚えていただきます。これに沿って読影していけば見落としがなく、診断にぐっと近づくことが出来ます。今まで曖昧だったX線写真の見方をしっかり覚えて、リウマチや骨格筋系疾患の診断に自信をつけましょう。第2回「手のX線写真をマスター !」ASBCDを使った「手」の読影を完璧にマスターしていきます。よく見る関節リウマチや変形性関節症はじめ、実は以外と見逃されてしまう乾癬性関節炎、偽痛風痛風などの疾患は、それぞれX線上に特徴的な所見を現します。これまで曖昧だった疾患もASBCDでこの特徴を押さえておけば簡単に診断がつきます。たった一枚の両手X線写真が絶大な威力を発揮します!第3回「肘と肩に応用しよう !」今回は更にASBCDを全身の関節読影に応用していきます。もちろん部位は変わっても基本は変わりません。肘や肩に特徴的な所見、よく見る疾患(例えば、関節リウマチや変形性関節症)、そして肩の痛みで最も多い回旋筋腱板炎について詳しく解説します。手の読影で基本が身に付いていれば、構造の比較的簡単な肘や肩は簡単にクリアできるので是非挑戦してみてください!

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腎結石にかかった人は要注意!CHD発症リスク因子の蓄積―日本人男性を対象とした研究

 腎結石に罹患したことがある人は、現在検査で異常が認められなくても、冠動脈心疾患(CHD)発症リスク因子を有している可能性が高いことが名古屋市立大学大学院 安藤亮介氏らの研究で明らかになった。The Journal of Urology誌オンライン版2012年11月14日付の報告。 日本人男性における腎結石とCHD発症リスクとの関連について調べるため、横断研究を行った。対象は1995年4月から2001年3月までに自発的に健康診断を受けた日本人男性1万3,418人(30~69歳)。超音波検査の結果と腎結石の既往歴に基づき、コントロール群、過去罹患群、現在罹患群に分けられた。標準的なCHD発症リスク因子(太りすぎ/肥満、高血圧、糖尿病、痛風/高尿酸血症、脂質異常症、慢性腎臓病)について評価し、腎結石形成との関連を調べた。 主な結果は以下のとおり。 ・超音波検査により、腎結石を認めた人は、404人(全体の3.0%)であった(現在罹患群)。・腎結石の既往があるが、検査で腎結石を認めなかった人は、1,231人(全体の9.2%)であった(過去罹患群)。・BMI、収縮期/拡張期血圧、血清尿酸値は、現在罹患群・過去罹患群の両群とも、コントロール群に比べて有意に高値であった。・ロジスティック回帰分析の結果、太りすぎ/肥満、高血圧、痛風/高尿酸血症、慢性腎臓病発症の多変量調整後のオッズ比(95%CI)は、コントロール群、過去罹患群、現在罹患群の順に有意に増加した。

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整形外科領域にみる慢性疼痛

整形外科疼痛の特徴腰痛・関節痛といった整形外科領域の疼痛は慢性疼痛の3割以上を占め最も多い1)。なかでも腰痛が多く、肩および手足の関節痛がこれに続く2)。整形外科での痛みの発生頻度は年齢および性別により偏りがあるが、多くは変性疾患が原因となっていることから、50歳代頃から増加し60歳代、70歳代ではおよそ3割近くが痛みを訴える。高齢者においては、もはやコモンディジーズといっても過言ではないであろう。整形外科領域の痛みは慢性の経過をたどるものが多い。患者さんの訴えは「突然痛みが起こりました」と急性を疑わせるものが多いが、単純X線所見ではかなり時間経過した骨の変形が確認されることもしばしばであり、長期間にわたって徐々に進行し最終的に痛みが発症するケースが多いと考えられる。変性疾患の多くは荷重関節に生じ、加齢に伴い関節に痛みが起こる。日本人はO脚が多いため痛みは負荷がかかる膝関節に多くみられるのが特徴である。近年、食生活や生活習慣の変化に伴って肥満が多くなり、その傾向に拍車がかかっていることから、膝人工関節手術は年約10%の割合で増加している。また、肥満や運動不足との関係もあり、生活習慣病などの内科疾患との関連も深くなっている。一方、股関節の痛みは減少傾向である。出生時から足を真っすぐにしてオムツをしていた時代、日本人には臼蓋形成不全が多かったが、現在は紙おむつで足を開いている。その結果、臼蓋形成不全も先天性股関節脱臼も減少している。国民性の変化は整形外科治療に大きな影響をもたらしているといえるだろう。一昔前であれば、膝が曲がっていてもあきらめて治療を受けなかったが、今では膝が曲がっていると見た目も悪いし、痛いから手術したいという人が多くなっている。また、痛みがあれば家で寝ている人が多かったが、痛みを改善して運動や旅行をしたいなど積極的に治療を受ける患者さんが、多くなっている。慢性疼痛の病態慢性疼痛には、侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛、非器質性疼痛の三つの病態があるが、整形外科の患者さんでは約8割に侵害受容性疼痛の要素がみられる。疼痛の原因として多い変性疾患は軟骨の摩耗が原因であり、滑膜の炎症が併発して痛みを引き起こす。神経障害性疼痛も侵害受容性疼痛ほどではないが、整形外科領域でみられる痛みである。これは神経の損傷により起こる痛みであるが、以前はその詳細について十分に解明されておらず、また有効な治療薬がなかったため疼痛非専門医には治療が困難であった。しかし現在ではMRIなどの検査で診断可能であり、プレガバリンが末梢性神経障害性疼痛に効能・効果を取得したことにより、広く認知されてきた。侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛といった器質的疼痛のほかに機能性疼痛症候群がある。機能性疼痛症候群は諸検査で器質的所見や病理所見が明らかにできず、持続的な身体愁訴を特徴とする症候群である。その中には中枢機能障害性疼痛があり、線維筋痛症はその代表と考えられる。全身の筋肉、関節周囲などにわたる多様な痛みを主訴とし、種々の随伴症状を伴うが、その病態は明らかになっていない。治療アプローチ痛みの治療にあたっては、症状だけをみてに安易にNSAIDsで治療するのではなく、痛みの原因を明らかにすることが重要である。痛みの原因となるものには前述の変性疾患以外にも炎症性疾患や感染性疾患があるが、いずれによるものかを明らかにして、適切な評価と適切な原疾患の治療を行う。変性疾患の進行は緩徐であるため、極端にいえば治療を急がなくてもとくに大きな問題はない。炎症性疾患では、痛風やリウマチなど内科疾患の診断を行い、それぞれの適切な治療を速やかに行うことになる。感染性疾患は治療に緊急性を要し、中には緊急手術が必要となる場合もある。痛みの原因を調べる際には、危険信号を見逃さないようにする。関節疾患の多くは、触診、採血、単純X線検査などで診断がつき、内臓疾患との関連は少ないが、脊椎疾患では重大な疾患が潜在するケースがある。とくに、がんの脊椎転移は頻度が高く注意を要する。よって、高齢者で背中が痛いという訴えに遭遇した場合は、結核性脊椎炎などに加え、がんも念頭にておく必要がある。さらに、高齢者で特定の場所に痛みがあり、なおかつ継続している場合もがんである事が少なくない。また、感染性脊髄炎では、早期に診断し適切な治療を行わないと敗血症により死にいたることもある。このような背景から、1994年英国のガイドラインでred flags signというリスク因子の概念が提唱された。腰痛の場合、この危険信号をチェックしながら診療にあたることが肝要である3)。red flags sign発症年齢<20歳または>55歳時間や活動性に関係のない腰痛胸部痛癌、ステロイド治療、HIV感染の既往栄養不良体重減少広範囲に及ぶ神経症状構築性脊柱変形発熱腰痛診療ガイドライン2012より治療期間、治療目標、治療効果を意識すべし疼痛の治療期間は痛みの原因となる疾患によって異なる。たとえば変形性腰椎症など不可逆的な疾患では治療期間は一生といってもよく、急性の疾患であれば治療期間も週単位と短くなる。初診時にどのような治療がどれくらいの期間必要で、薬はどのくらい続けるかなどについて患者さんに説明し同意を得ておく必要がある。疼痛の診療にあたり、治療目標を設定することは非常に重要である。急性の場合は痛みゼロが治療目標だが、慢性の場合は痛みをゼロにするのは困難である。そのため、痛みの軽減、関節機能の維持、ADLの改善が治療目標となる。具体的には、自力で歩行できる、以前楽しんでいた趣味などが再開できる、買い物などの外出ができる、睡眠がよくとれる、仕事に復帰できる、などのようなものである。痛みは主観的なものであり、本人の感覚で弱く評価したり、疼痛(顕示)行動で強く訴えたりする。そのため、効果判定はADLの改善を指標として行う。患者さんへの聞き方として、少し歩けるようになったか、家事ができるようになったか、以前よりもどういう不自由さがなくなったかなどが具体的である。患者さんの痛みの訴えだけを聞いて治療しているとオーバードーズになりがちであるが、ADLの改善をチェックしていると薬剤用量と効果、副作用などのかね合いが判定できる。たとえば、痛みが少し残っていてもADLの改善が目標に達していれば、オーバートリートメントによる薬剤の副作用を防止できるわけである。痛みと寝たきりの関係寝たきり高齢者の医療費や介護費は一人年間300~400万といわれる。日本では寝たきりの高齢者が非常に多い。この高齢者の寝たきりの原因の第2位は痛みであることをご存じだろうか。痛みによりADLが落ち、寝たきり傾向になる。すると筋肉や関節機能が低下して痛みがより悪化し、重度の寝たきりになっていくという悪循環に陥る。寝たきりから自立するためには、痛みを減らして動いてもらうことが重要なのである。動くことで筋力がつき姿勢が矯正され痛みが改善する。バランスも良くなるので寝たきりの原因となる転倒も減るという好循環を生み出す。痛みの診療における運動の重要性は近年非常に注目されている。参考文献1)平成19年度国内基盤技術調査報告書2007;1-222)平成22年9月 厚生労働省「慢性の痛みに関する検討会」今後の慢性の痛み対策について(提言)3)矢吹省司:ガイドライン外来診療2012:P.243

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もっと知ってほしい、乾癬患者 心の苦しみと全身炎症による合併疾患のリスク 臨床医と患者が語る、乾癬の研究と治療の最新動向

 6月25日、アボット・ジャパン株式会社、エーザイ株式会社の主催でプレスセミナー「もっと知ってほしい、乾癬患者 心の苦しみと全身炎症による合併疾患のリスク」が開催された。聖母病院皮膚科 小林里実氏を講師に、乾癬患者さんをゲストに迎え、乾癬がおかれている現状と、乾癬に罹患した患者さんがどのような症状で苦しんでいるのかを紹介した。乾癬の現状 乾癬では、炎症による表皮細胞の増殖を伴う疾患である。炎症と増殖があるという点で、皮膚炎の中でも湿疹とは異なる。表皮細胞は増殖分化する細胞であり、表皮は常に新生を繰り返すこと(turn over)で外傷や炎症に対処している。乾癬では、炎症により通常は有棘層28日+角層14日のturn overサイクルが4~7日+2日にまで亢進しているため、表皮が厚くなるとともに角層が鱗屑としてどんどん落ちていく。 また、これらの炎症は皮膚表面で起こっているため、見た目にも非常に目立ち、感染症や特殊な皮膚病などと誤解されることが多い。 乾癬の皮膚症状は、境界明瞭な紅斑、銀白色雲母様の鱗屑、盛り上がって触れる浸潤が特徴的である。初発部位は頭部、次いで肘膝などが多いが、全身どこにでも出現する。尋常性乾癬が90%近くを占めるが、そのほかにも関節症性乾癬、滴状乾癬、乾癬性紅皮症、膿疱性乾癬がある。 膿疱性乾癬のうち、急性型は重症で治療に難渋する例が少なくない。また、乾癬性紅皮症は、正常な皮膚がほとんどない、紅皮症を呈する病型である。そして、関節症性乾癬は、非リウマチ性関節炎一つで、の不十分な治療により関節破壊や屈曲変形をきたす。しかしながら、症状に消長があるため、軽症と判断されたり、仙腸関節炎や脊椎炎も腰痛症などとして見逃されることも少なくない。 乾癬の罹患率は欧米で2%。本邦では0.1~0.2%とされているが、生活の欧米化により日本人での発症は増えている。発症年齢は、20歳と40~50歳代の二峰性といわれているが、実際には10代での発症も稀ではない。治療をあきらめて受診しない例のほか、きちんと診断されていない例、脂漏性湿疹などと誤診される例もあり、実際は乾癬として登録されるデータ以上の患者さんがいると予想される。 このような症状を示す乾癬では患者さんのQOLは著しく低い。鱗屑は軽く触れるだけで大量に落ちる。そのために温泉やプールに行けない。皮膚症状が手足にでるため、スカートがはけない、半袖のシャツが着られないなど日常生活での支障は多い。また、このような状態におかれた患者さんは人に見られることが大きな精神的ストレスとなる。ひどい場合は引きこもりとなったり、精神的に支障を来す例も少なくない。生物学的製剤が、より高い治療レベルを達成 乾癬の治療は、外用療法、光線療法、免疫抑制剤など進歩してきたが、近年の生物学的製剤の登場で治療は格段に向上した。これにより、重症の患者さんでも皮疹のない状態を保持する事が可能となってきたのである。PASI(Psoriasis Area Sensitivity Index)90、つまり皮疹の90%改善を達成すると、QOLは著明に改善する事が明らかになった。従来の治療では、皮疹が減り医療者が「良くなった」と思っても、患者さんにとっては満足できる状態ではなく、認識の乖離がみられることも少なくなかった。生物学的製剤によりPASI90を目指すことができるようになり、患者さんのQOLもDLQI 0~1と、日常生活にほとんど支障のない状態を実現することが可能となった。また、生物学的製剤の適応となる関節症性乾癬では、有効な治療を得たことにより医療者側の治療意欲の向上、知識の普及にもつながるなど、生物学的製剤は、乾癬治療を格段に進歩させた。乾癬の病態解明とメタボリックシンドローム 近年、乾癬はメカニズムが解明されて、Th17リンパ球、またその活性経路に関わるTNFα、IL12、IL23などのサイトカインが重要であることがわかってきた。そして、これらのサイトカインをブロックするターゲット療法として、生物学的製剤の登場へとつながった。 さらに、ここ1~2年で新たな知見が加わっている。乾癬に高血圧、脂質異常症、高血糖、高尿酸血症などの合併が多いことは以前から知られていたが、これらの疾患にもTNFαが強く関連することがわかったのである。その結果、乾癬によるTNFαの増加が、イ ンスリン抵抗性、動脈硬化、虚血性疾患のリスクを上昇させるという乾癬マーチの概念まで出てきている。 乾癬の治療目的とゴールは、皮疹の改善からQOLの改善へと変化している。そして、生物学的製剤の出現により、関節症性乾癬も有効に治療できるようになった。さらに、今後はメタボリックシンドロームと心血管イベントの低減までも視野に入れた治療へと変わっていく可能性がある。社会にもっと知ってほしい セミナーでは、3名の患者さんもゲストとして発言をした。そのなかで、患者B氏の事例を紹介する。 B氏は長年、関節症状で悩まされてきた患者さんである。初期は、ふけが出始めることから始まった。その後、背中のこわばり、足先の痛み、そして2ヵ月後に足親ゆびが曲がり始める。皮膚科医を受診し、乾癬と診断されるが、その際に不治の病であるといわれた。そのショックから、診療所、病院、鍼灸など数えきれないほどの医療機関を受診する。その経過の中で、免疫抑制剤で副作用が現れるなど多くの苦痛を経験した。 少し関節症状がよくなると皮膚症状が悪化し始めた。強いステロイド外用薬を大量に使い、ついには全身が赤くなり、やけどのように、少し触っただけで皮膚がむけてしまうようにもなった。服を脱ぐと砂糖を撒いたように皮膚が落ちたそうだ。 このような状態から、勤務先を解雇になり生活保護を余儀なくされる。精神的にも支障をきたし、うつ病と診断される。自暴自棄となりギャンブル依存症、ついに自殺寸前まで精神的に追い込まれたという。 しかしながら、昨年からの生物学的製剤治療が奏効し、現在は誰もBさんを見て病気だという人はいない。だが、関節症性乾癬の症状である脊椎炎が続いて定職につけず、ボランティア活動をしているという。Bさんは長年の経験を話し、「22年間病気を理解してくれる日がくる事を望んでいた。社会にもっと知って欲しい、メディアももっと取り上げてほしい」と訴えた。 最後に小林氏は、「医師は患者から得た乾癬の情報を研究し、新たな治療法の開発に努めている。患者さんや患者会は、患者間の情報共有、医師への疑問・要望の提供など素晴らしい活動をしている。しかし、それだけでは不十分であり、社会の理解とサポートが必要だ。メディアの今後の啓発活動に大いに期待したい」と語った。(ケアネット 細田 雅之)

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エキスパートへのQ&A ~エキスパートDrに聞く~

慢性腎臓病(CKD)の概念が提唱され、10年が経ちました。この間、本疾患に対する注目度や臨床医の治療経験が飛躍的に向上し、今では、コモン・ディジーズの一つとなりました。このCKD診療の浸透に大きな役割を果たした『CKD診療ガイド』が、2012年6月に改訂されました。ケアネットでは、『CKD診療ガイド』改訂を機に、CKD診療に関する質問を会員の医師より募集しました。この質問に、常喜信彦先生(東邦大学医療センター大橋病院 腎臓内科 准教授)が回答します。常喜信彦先生東邦大学医療センター大橋病院 腎臓内科 准教授CKD患者を専門医に紹介するにしても、腎臓専門医の人数は少なく、それほど多くの患者を診療することは難しいかと思います。どのような患者であれば、専門医に紹介すべきでしょうか?とくに軽症の患者さんを専門医に送るときの判断について教えてください。たとえ蛋白尿が認められていても、またeGFRが45 mL/分/1.73m2と低下していたとしても、極論を言えばそれ以上悪くならなければ、臨床上まったく問題はないわけですが、進行性のCKDが疑われるならば、専門医への紹介が望まれます。進行性を疑う最も強力なマーカーは蛋白尿の量になります。1日換算量で0.5 g以上認められ、かつその量が半年から1年の経過で増加傾向を示す時には積極的に専門医に紹介すべきです。eGFRについても進行性に低下する場合は同様です。尿蛋白の測定は、どのようにしていますか? 自費で行う場合もありますか? 対象となる患者を教えてください。最も一般的な方法は、随時尿の蛋白尿量を尿中Cr値で割った1日換算量を求める方法です。この方法で算出された1日換算量は、24時間畜尿により求められた蛋白尿と非常によく相関することがわかっています。高血圧、糖尿病、高脂血症といったいわゆる古典的な動脈硬化危険因子で診療中の患者、メタボリックシンドロームの患者には積極的に尿蛋白の測定を行うことを推奨します。蛋白尿をきたす原因として、若年では慢性糸球体腎炎も頻度が高くなります。微量アルブミン尿は保険診療の上では、糖尿病性腎症が疑われる時に適応となります。日常診療の中で、それ以外の疾患にまで微量アルブミン尿を計測拡大させる必要はないと思います。それよりも、まず通常の尿蛋白1日換算量を忘れずに確実に測ることが推奨されます。病状評価にあたり、初診時に何を行いますか? 定期検査の頻度についても教えてください。慢性腎臓病の診断、重症度の評価をするときに必須の検査は、1日換算量の蛋白尿ないしアルブミン尿とeGFR値になります。この2つの検査は必須とお考えください。加えて、腎の形態的異常の把握のために腎臓超音波を行えば、慢性腎臓病の病状評価としては必要な検査はそろいます。今回renewalされたCKD診療ガイドでは、尿蛋白1日換算量とeGFR値から、腎臓専門医への受診間隔の目安が示されています。ご参考いただければと思います。腎臓専門医への受診間隔(月)画像を拡大する血圧やコレステロールもそれほど高くない患者の場合、尿所見とeGFRのみで患者さんの受診を持続させられるものでしょうか? 患者さんの受診モチベーションをあげる方法などありますか?CKD診療ガイドに示されている、慢性腎臓病の重症度評価の色別表を使用されてはいかがでしょうか。将来、末期腎臓病に至るリスクや心血管イベントを起こすリスクが色別に表記されており、患者さんにお見せしても非常にわかりやすい表かと思います。今回、同時に、その表をもとにした、診療間隔目安表も公開されました。ご参考いただければと思います。CKDの重症度分類画像を拡大するLDL-Cと中性脂肪の両方が高いCKD患者さんには、フィブラートとスタチンのいずれを用いればよいでしょうか?まだ、答えの出ていない分野かもしれません。まずフィブラート系の治療薬はeGFR30 mL/分/1.73m2未満では使用できませんので、CKDステージ3までの患者でどう考えるべきか、ということになります。CKD患者における脂質代謝異常の治療に関する証拠はかなり限られたものになり、不十分と言わざるを得ません。しかしながらLDL-CとTGを比較したとき、どちらのパラメーターに関する治療成績が多いかと言えばLDL-Cになるかと思われます。選択するとなれば、LDL-C低下作用に秀でたスタチンになるかと思います。参考までに、スタチンとフィブラートの併用は横紋筋融解症の危険が高まるため、原則禁忌とされています。必然的にCKD患者の高TG血症へはニコチン酸系薬剤を使用することが多くなります。高尿酸血症の管理について、管理する患者や介入開始尿酸値、管理目標値などについて教えてください。高尿酸血症がCKDの発症、進行に深くかかわる因子であることが明らかとなってきました。わが国の報告で、住民健診で尿酸値について男性7.0mg/dL以上、女性6.0mg/dL以上を高尿酸血症と定義したとき、高値群で末期腎臓病への移行リスクが高くなることが報告されています。男性7.0mg/dL未満、女性6.0mg/dL未満を管理目標値と考えてよいでしょう。管理の第一段階は、過食、高プリン・高脂肪・高たんぱく質食の嗜好、常習飲酒、運動不足などを是正する生活習慣の改善です。一方、CKD ステージ 4~5 において生活習慣改善にもかかわらず血清尿酸値が9.0mg/dL 超える無症候性高尿酸血症では、証拠はないものの薬物治療が考慮される場合が多いです。結局は血圧、血糖、脂質を良好にコントロールすることがCKD進行の予防になると考えます。血清クレアチニン正常の患者さんをあえて混んでいる大病院腎臓内科に紹介するメリットは何でしょうか?ひとつは潜在する腎炎の合併を除外するためです。とくに蛋白尿量が多い患者さんでは、その疑いが強くなります。たとえ腎炎であっても、血圧、血糖、脂質の管理を厳密に行うことに変わりはありませんが、腎炎を併発していれば、その腎炎に介入治療することで、腎障害の進行を抑えられる可能性もあります。また、栄養指導、食事療法を行うという意味では、基幹病院の方が有利かもしれません。eGFR60以上でも、3-6ヵ月に1回、腎臓専門医を受診することが推奨されています。

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関節リウマチ患者が求める治療とは? ~患者パネルを用いた実態調査~

関節リウマチ(RA)治療は、痛みを取ることしかできなかった“care”の時代から、メトトレキサート(MTX)と生物学的製剤の登場によって、臨床的寛解や生命予後改善を目指す“cure”の時代へとめざましい進歩を遂げている。現在は、5年後10年後を考えて治療することが重要となってきているが、現在の薬物治療の実態や患者さんの意識はどうなのか? ここでは、2011年11月24日に開催されたセミナー「リウマチ治療が抱える課題:治療が遅れ、痛みがとりきれない患者さんも ~早期診断・治療が十分でない現状が明らかに~」(主催:ファイザー株式会社)から、RA患者を対象としたインターネット調査結果に関する山中 寿氏(東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター 所長)の講演をレポートする。■500名のRA患者を対象としたインターネット調査今回のインターネット調査は、電通リサーチ・ミリオネットのパネル登録者から、RA治療のために医療機関に通院中で、薬剤によるRA治療が行われているRA患者500名(RA罹患率に合わせ、男女比を1:4に調整)を対象に2011年6月に実施された。患者背景は、年齢49.8±10.6歳、JHAQスコア0.55±0.64、生物学的製剤使用患者割合24%であった。 本調査の対象患者は、自らパネルに登録していることを考慮すると、治療や情報収集におけるモチベーションはより高いと考えられる。しかしながら、山中氏によると、同氏が2000年から実施し、毎回約5,000名のRA患者の情報を集積している前向き観察研究のJ-ARAMIS(Japanese Arthritis Rheumatism and Aging Medical Information System、2006年にIORRA;Institute of Rheumatology, Rheumatoid Arthritisと改称)とほぼ同様な結果が得られたとのことである。■発症から確定診断・薬物治療までの現状自覚症状発現から確定診断までの期間は、3ヵ月以上が53.6%、4割近くが6ヵ月以上であった。自覚症状発現からMTX開始までの期間は2年以上が56.5%を占め、またMTX無効な場合に投与できる生物学的製剤使用までの期間は、78.5%が自覚症状発現から2年以上の期間を要していた。なおMTXについては、2011年2月に添付文書が改訂され、治療の最初から使用できるようになったため、今後、この期間は短くなるものと思われる。 また本調査では、RAの確定診断やMTXおよび生物学的製剤の投与は、整形外科よりも膠原病・リウマチ科で積極的に実施されている傾向が認められた。診療科におけるこれらの差は、地域の医療環境に差がある可能性が高い、と山中氏は推察している。■生物学的製剤による治療状況生物学的製剤の使用状況については、エタネルセプト(商品名:エンブレル)が45.0%ともっとも多く、次いでインフリキシマブ(商品名:レミケード)が27.5%であった。IORRAのデータ(2011年4月時点)でも、エタネルセプトが47.6%であり、同様の傾向を示していた。 RA治療に対する満足度では、生物学的製剤使用患者では72.5%、非使用患者では49.7%が「満足である」と回答し、生物学的製剤を使用している患者のほうが治療満足度が高いことが示された。しかし、生物学的製剤使用患者では、二次無効や副作用などで薬剤変更経験がある患者は31.6%存在していた。 実際の生物学的製剤の選定においては、71.7%が医師主導で薬剤を選定しており、投与方法や投与回数などの使い方はよく理解しているものの、長期にわたる効果や安全性については理解が十分ではないことが明らかとなった。その一方で、生物学的製剤使用患者は長期的な治療効果の維持を望んでいることが示されたことから、長期的な治療効果や副作用についてもしっかりと情報提供を行い、長期的な治療の必要性を伝えていくことが必要である、と山中氏は指摘した。■就労・医療費における問題RAの発症によって、仕事を辞めたり変更したりしたことのある患者は4割を超え、とくに女性は5割近くにのぼり、就労に支障を来たしていることが示された。 医療費に関する調査結果からは、医療費の問題で生物学的製剤を使用していない患者さんが存在する可能性が示唆された。現在、生物学的製剤を使用する場合の薬剤費が年間約140万円であり、3割負担でも月々4~5万円かかることが生物学的製剤使用のネックとなっていることがうかがわれる。また、世帯年収別の生物学的製剤の使用状況を調べたところ、300万円未満の世帯を除くと、年収の増加に伴って使用患者の割合が増加していた(300万円未満の世帯での使用割合は、生活保護などのサポート制度などの影響が推察される)。山中氏は薬剤選定の際には患者さんに治療費用を含めて選択肢を示しているが、ほとんどの患者さんがその場では決められないという。■RA患者が求める情報提供情報の入手度に関する質問には、半数以上のRA患者が「適切な治療や薬剤に関する情報」や「RAに関する一般疾病情報」については「得られている」と回答している。しかし、「研究成果などに関する最新診療情報」や「医療機関およびサービスの選択に関わる情報」については3割前後であり、今後はこれらについての情報提供が望まれる。■「壁抜け」まであと少し今回の調査結果について、山中氏は、「これらのRA治療における問題点を今後の診療に生かし、RA患者さんが少しでも楽な生活、楽しい人生を送るためによい方向に向けていきたい」と語り、さらにRA診療について「かなり進歩したが、まだ壁を抜けきったわけではない。半分は壁の向こうにあり、まだまだ解決すべき問題は多い。それを自覚して努力していきたい」と述べて講演を締めくくった。(ケアネット 金沢 浩子)

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田中良哉教授が語る関節リウマチ治療の展望

2011年10月27日、東京で開催された関節リウマチ治療に関するプレスセミナー(主催:アボット ジャパン株式会社/エーザイ株式会社)において、産業医科大学医学部第1内科学講座教授 田中良哉氏=写真=による講演が行われた。講演では、2010年に発表された関節リウマチ治療における新分類基準および寛解基準、治療のあり方を示す「Treat to Target(T2T)」などについて解説したが、田中氏は、新分類基準を治療の「入り口」、新寛解基準を「ゴール」、そしてT2Tを「入り口」から「ゴール」へ至る「道筋」に例え、関節リウマチ診療における意義を強調した。また、最新関節リウマチ治療研究の1つとして、国内4施設(慶應義塾大学医学部内科、埼玉医科大学総合医療センター リウマチ・膠原病内科、産業医科大学医学部第1内科学、東京女子医科大学 膠原病リウマチ痛風センター)が共同で行った「HARMONY Study」を取り上げた。本試験は、平均罹患年数9年の関節リウマチ患者に生物学的製剤「アダリムマブ」(商品名:ヒュミラ)を投与、その治療効果を検証したレトロスペクティブ試験で、検証の結果、投与1年後には約4割の患者が臨床的寛解に入り、約6割の患者で関節破壊進行が止まったことが明らかになっている 1)。講演の最後、田中氏は「関節破壊を進行させないためには、まず臨床的寛解を達成すべきであり、その寛解を維持することが重要である」と強調した。また、寛解に向けた治療について、「ステロイド薬などによる対症療法は最小限にとどめ、MTXや生物学的製剤などによる根本療法を徹底的に行うべき」と述べ、本講演を締めくくった。 参考文献:1)T Takeuchi, Y Tanaka et al. Mod Rheumatol. 2011 Sep 7.(ケアネット 呉 晨)

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治療抵抗性の慢性痛風に対するpegloticase、プラセボ群に比べ尿酸値低下

慢性痛風で従来療法に治療抵抗性の患者に対する、新規痛風治療薬のpegloticaseについて、有効性と耐用性に関する、投与間隔が異なる2つの無作為化プラセボ対象試験の結果が報告された。8mg投与を2週間ごとまたは4週間ごとに6ヵ月間投与した結果は、いずれもプラセボ群と比べ血漿尿酸値低下に結びついたという。米国・デューク大学医療センターJohn S. Sundy氏らが、2つの無作為化試験の結果を、JAMA誌2011年8月17日号で発表した。pegloticaseは、従来療法に代わる酵素として、モノメトキシポリエチレングリコール(mPEG)結合の哺乳類組み換え型ウリカーゼが特徴の尿酸降下薬である。隔週投与群、月1回投与群、プラセボ群の、3、6ヵ月時点の尿酸値降下達成を比較2つの反復無作為化二重盲検プラセボ対照試験(C0405とC0406)は2006年6月~2007年10月の間に、米国、カナダ、メキシコから56のリウマチ診療所で行われた。被験者は、重度の痛風で、標準薬となっているアロプリノール(商品名:ザイロリックほか)に不耐性または不応性であり血清尿酸値8.0mg/dL以上の患者であった。両試験合計225例(C0405試験109例、C0406試験116例)の患者は、隔週投与群(8mg投与を2週間に1回静注、これを12回行う)、月1回投与群(前述投与スケジュールで2回に1回はプラセボに替えて静注)、プラセボ群に割り付けられ、主要評価項目を3~6ヵ月の間の5つの事前特定測定ポイントにおける、血漿尿酸値6.0mg/dL未満達成とし評価が行われた。プール解析で、隔週投与群42%、月1回投与群35%、プラセボ群0%C0405試験での主要エンドポイント達成は、隔週投与群で20/43例(47%、95%信頼区間:31~62)、月1回投与群8/41例(20%、同:9~35)、プラセボ群0/20例(0%、同:0~17)であった(隔週投与群と月1回投与群vs. プラセボ群の比較はそれぞれP<0.001、P<0.04)。C0406試験では、隔週投与群で16/42例(38%、95%信頼区間:24~54)、月1回投与群21/43例(49%、同:33~65)、プラセボ群0/23例(0%、同:0~15)であった(それぞれP=0.001、P<0.001)。2試験データのプール解析の結果、隔週投与群で36/85例(42%、95%信頼区間:32~54)、月1回投与群29/84例(35%、同:24~46)、プラセボ群0/43例(0%、同:0~8)であった(それぞれのP<0.001)。無作為化から研究データベース締め切り時点まで(2008年2月15日)の間の死亡発生は、7例(pegloticase投与群4例、プラセボ投与群3例)であった。(武藤まき:医療ライター)

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エベロリムスベースの免疫抑制療法、腎移植におけるカルシニューリン阻害薬回避戦略として有望:ZEUS試験

 腎移植患者に対する免疫抑制療法として、哺乳類ラパマイシン標的タンパク質(mTOR)阻害薬エベロリムス(商品名:サーティカン)をベースとするレジメンは、標準治療であるカルシニューリン阻害薬と同等の有効性および安全性を維持しつつ、12ヵ月後の腎機能を有意に改善し、長期予後の改善をさらに促進する可能性があることが、ドイツ・Charite大学のKlemens Budde氏らが実施したZEUS試験で示された。腎移植では、免疫抑制療法による予後の改善が示されているが、標準的な免疫抑制薬であるカルシニューリン阻害薬には急性/慢性の腎毒性がみられ、心血管リスク因子の増悪という長期予後に悪影響を及ぼす有害事象も認められる。そのため、腎毒性を伴わない免疫抑制療法として、カルシニューリン阻害薬と同等の有効性と安全性を維持しつつ、その使用を回避する治療戦略の開発が求められているという。Lancet誌2011年3月5日号(オンライン版2011年2月21日号)掲載の報告。エベロリムスベースのレジメンの有用性を移植後12ヵ月の腎機能で評価 ZEUS試験の研究グループは、腎移植後の免疫抑制療法において、カルシニューリン阻害薬と同等の効果を維持しつつ、これを使用せずに移植腎の機能を最適化する治療戦略として、エベロリムスベースのレジメンの有用性を評価するプロスペクティブな多施設共同オープンラベル無作為化試験を実施した。 2005年6月~2007年9月までに、17施設(ドイツ15施設、スイス2施設)から、18~65歳の新規腎移植患者503例が登録された。 4.5ヵ月間のシクロスポリン、腸溶性ミコフェノール酸ナトリウム、コルチコステロイド、バシリキシマブによる導入療法を施行後に、300例(60%)がエベロリムスベースのレジメンを施行する群あるいは標準的なシクロスポリン療法を継続する群に無作為化に割り付けられた。 主要評価項目は、移植後12ヵ月における腎機能[Nankivell式で評価した糸球体濾過量(GFR)]とし、intention-to-treat解析を行った。エベロリムス群でGFRが有意に改善 シクロスポリン群に146例(実際に投与されたのは145例)、エベロリムス群には154例(同155例)が割り付けられ、そのうち移植後12ヵ月間の免疫抑制療法を完遂したのはそれぞれ118例(76%)、117例(81%)であった。 移植後12ヵ月におけるGFRは、シクロスポリン群の61.9mL/分/1.73m2に比べ、エベロリムス群は71.8mL/分/1.73m2と有意に良好であった(平均差:-9.8mL/分/1.73m2、95%信頼区間:-12.2~-7.5、p<0.0001) 無作為割り付け後の期間(4.5ヵ月の導入療法後~12ヵ月)に生検で確認された急性拒絶反応率は、シクロスポリン群の3%(5/146例)に比べエベロリムス群は10%(15/154例)と有意に高かった(p=0.036)が、試験期間全体(ベースライン~12ヵ月)では両群で同等であった(15% vs. 15%)。 シクロスポリン群に比べエベロリムス群で頻度の高い有害事象として、血小板減少(全試験期間:3% vs. 11%、p=0.0144、無作為割り付け後:0% vs. 6%、p=0.0036)、アフタ性口内炎(3% vs. 17%、p<0.0001、1% vs. 15%、p<0.0001)、下痢(27% vs. 36%、p=0.1063、8% vs. 21%、p=0.0030)が認められた。高尿酸血症はシクロスポリン群で高頻度であった(14% vs. 6%、p=0.0527、3% vs. 0%、p=0.0254)。 著者は、「カルシニューリン阻害薬回避戦略としてのエベロリムスベースの免疫抑制療法は、有効性および安全性を維持しつつ12ヵ月後の腎機能を改善したことから、腎移植患者の長期予後の改善をさらに促進する可能性がある」と結論している。

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果糖を多く含む飲料摂取で女性の痛風リスクが増大、1日1杯で1.74倍に

加糖炭酸飲料やオレンジジュースのような果糖(フルクトース)を多く含む飲料の摂取量が多いと、女性の痛風発症リスクが増大することが報告された。米国ボストン医科大学リウマチ・臨床疫学部門のHyon K. Choi氏らが、大規模前向きコホート試験「Nurses’ Health Study」の中から、8万人弱の女性について調べた結果明らかにしたもので、JAMA誌2010年11月24日号(オンライン版2010年11月10日号)で発表した。果糖を多く含む飲料摂取が尿酸値の増加につながることは知られていたが、痛風発症との関連についての前向き試験データはほとんどなかったという。1日2杯以上なら痛風リスクは約2.4倍に研究グループは、Nurses’ Health Studyの被験者のうち、痛風歴がなく、食事に関する必要データが得られた7万8,906人について、1984~2006年まで22年間追跡した。追跡期間中、痛風を発症したのは778人だった。加糖炭酸飲料の摂取量と痛風発症リスクについてみてみると、1日1杯(serving)摂取する人は、1ヵ月に1杯未満しか摂取しない人に比べ、痛風の発症に関する多変量相対リスクは1.74(95%信頼区間:1.19~2.55)に増加した。1日に2杯以上摂取する人はさらにリスクが増大し、同多変量相対リスクは2.39(同:1.34~4.26)だった(傾向p<0.001)。オレンジジュースとの関連についてみてみると、1日1杯摂取する人の同多変量相対リスクは、1ヵ月に1杯未満しか摂取しない人に比べ1.41(95%信頼区間:1.03~1.93)、1日2杯以上摂取する人は2.42(95%信頼区間:1.27~4.63)だった(傾向p=0.02)。ダイエット飲料は痛風リスクを増大せず痛風発症に関する絶対格差は、加糖炭酸飲料1日1杯摂取では36人/10万人年、1日2杯以上摂取では68人/10万人年だった。オレンジジュースでは、1日1杯摂取では14人/10万人年、1日2杯以上摂取では47人/10万人年だった。果糖摂取量が多くなるほど痛風発症に関する多変量相対リスクは増大し、摂取量上位五分位範囲の群は、下位五分位範囲の群に比べ、同リスクは1.62(同:1.20~2.19、傾向p=0.004)だった。なお、ダイエット飲料の摂取は、痛風発症リスクの増大には関与していなかった(傾向p=0.27)。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

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高尿酸血症治療薬アロプリノール、慢性安定狭心症患者の運動能を改善

痛風高尿酸血症の治療薬として用いられているアロプリノール(商品名:ザイロリックなど)の高用量投与により、慢性安定狭心症患者の運動能が有意に改善することが、イギリスDundee大学Ninewells病院のAwsan Noman氏らが行った無作為化試験で明らかとなった。実験的な研究では、キサンチンオキシダーゼ阻害薬は1回拍出量当たりの心筋酸素消費量を低下させることが示されている。このような作用がヒトでも起きるとすれば、アロプリノールなどこのクラスのキサンチンオキシダーゼ阻害薬が狭心症患者における心筋虚血の新たな治療薬となる可能性があるという。Lancet誌2010年6月19日号(オンライン版2010年6月8日号)掲載の報告。高用量アロプリノールの運動能改善効果を評価する二重盲検プラセボ対照クロスオーバー試験研究グループは、高用量アロプリノールによる慢性安定狭心症患者の運動能の延長効果について検討する二重盲検プラセボ対照クロスオーバー無作為化試験を行った。イギリスの1病院と2診療所に、血管造影にて冠動脈疾患を認め、運動負荷試験で冠動脈の狭窄が確認された18~85歳の慢性安定狭心症患者(2ヵ月以上が経過)65例が登録された。これらの患者が、アロプリノール600mg/日を投与する群あるいはプラセボ群に無作為に割り付けられ、6週間の治療ののち治療法のクロスオーバーが行われた。主要評価項目はST低下までの時間とし、副次評価項目は総運動時間および胸痛発現までの時間とした。ST低下までの時間が43秒、総運動時間が58秒、胸痛発現までの時間は38秒有意に延長クロスオーバー前の6週間の治療においては、アロプリノール群に割り付けられた31例のうち28例が、プラセボ群の34例のうち32例が評価可能であった。クロスオーバー後の治療では、60例全例で評価が可能であった。ST低下までの時間の中央値は、アロプリノール群がベースラインの232秒から6週後には298秒にまで延長したのに対し、プラセボ群の延長は249秒までであり、有意な差が認められた(p=0.0002)。両群間の絶対差は43秒(95%信頼区間:31~58秒)であった。総運動時間の中央値は、アロプリノール群がベースラインの301秒から393秒にまで延長したのに対し、プラセボ群の延長は307秒までであり、有意な差を認めた(p=0.0003)。両群間の絶対差は58秒であった(95%信頼区間:45~77秒)。胸痛発現までの時間の中央値は、アロプリノール群が234秒から304秒へ、プラセボ群は272秒まで延長し、やはり有意な差が確認された(p=0.001)。両群間の絶対差は38秒であった(95%信頼区間:17~55秒)。治療に関連した有害事象は両群ともにみられなかった。著者は、「アロプリノールは、狭心症患者の運動能の改善薬として有用であり、安価で耐用性にも優れ高い安全性を有する可能性が示唆された」と結論している。(菅野守:医学ライター)

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