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自分の動脈硬化病変を見せられると生活習慣病が改善する(解説:佐田政隆氏)-994

 急性心筋梗塞は、狭心症を生じるような高度の冠動脈の動脈硬化病変が進行して完全閉塞することで生じると従来考えられていた。しかし、最近の研究によると、6~7割の急性心筋梗塞の原因は、軽度な内腔の狭窄しか来さない動脈硬化病変の破裂やびらんに起因する急性血栓性閉塞であるとされている。急性心筋梗塞は発症してしまうと突然死につながる怖い病気であるが、その多くは前兆がなく、発症を予知することは困難である。 ヒトの動脈硬化は、従来考えられていたよりかなり早期に子供の頃から始まり、生活習慣病のコントロールが悪いと無症状のうちに進行して、突然心血管イベントを誘発することが多くの研究で示されている。そこで、将来の心筋梗塞の発症を防ぐためには、糖尿病、高血圧、脂質異常症といった生活習慣病のコントロールや禁煙といった1次予防が重要である。しかし、多くの人は、食事などの生活指導、運動指導、場合によっては薬物療法を行っても、現在は痛くも痒くもないため、アドヒアランスは悪く改善に結びつかない。 そこで、現場の先生方にお尋ねすると、発症してしまうと突然死になることを話したり、実際の頸動脈エコーでプラークの存在を見せるなど、工夫を凝らしておられる経験をお聞きする。しかし、どのような生活指導、服薬指導が効果的であるのか、エビデンスがないのが現状であった。 このスウェーデンで約3,500例を対象に1年追った、オープンラベルの無作為化比較試験では、介入群では、頸動脈の中膜複合体や無症候性のプラークといった頸動脈エコー所見を、血管年齢を色分けするわかりやすい図を用いて説明して、看護師が電話で理解していることを確認した。一方、対照群では通常の方法で生活指導、服薬指導をした。1年後のフラミンガム・リスクスコア(FRS)と、欧州のSCORE(systematic coronary risk evaluation)は、介入群で有意に改善していた。生活習慣の改善もあったと思われるし、服薬のアドヒアランスも向上したと思われる。 やはり、無症状でも自分の動脈硬化が思いのほか進行しているのを見せつけられると、生活習慣病治療へのモチベーションが上がると思われる。日本では、日本人の死亡原因の約6割を占める生活習慣病の予防のために、40~74歳までの人を対象に特定健診が行われて、特定保健指導が行われている。しかし、必ずしも効果を上げているとは言えない。生活習慣病に有効に介入することで、心筋梗塞の発症はもっと低下させることができるはずである。今回の研究などが積み重なって、有効な1次予防の方法が確立することを期待する。

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第10回 初心忘るべからず~心電図に先入観は禁物~【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

第10回:初心忘るべからず~心電図に先入観は禁物~新年、明けましておめでとうございます。2019年が皆さまにとって素敵な1年になるといいですね。おかげさまで、本連載も10回目を迎えることができ、今後ますます、心電図に関するわかりやすく有益な情報発信をしてゆく所存です。さて、新年一発目は初心にかえるべく大事な症例を扱いましょう。症例提示67歳、男性。糖尿病、高血圧で治療中。10年前に冠動脈インターベンション(PCI)実施の既往あり。4ヵ月前にも急性冠症候群(ACS:Acute Coronary Syndrome)で入院し、再狭窄(ステント内高度狭窄病変)の治療がなされていた。1ヵ月前から明け方の胸部不快・倦怠感が出現し、2週間前に救急外来を受診。諸検査結果から“帰宅可”とされた。今回は定期外来で受診し、以下のように症状を訴え、緊急入院となった。『今朝もまた調子が悪かったです。こないだ救急で来たときは大丈夫って言われました。前回の狭心症の時より軽いような気がするんですけど、なーんかやっぱり変なんです』定期外来時(図1)および救急外来時(図2)の心電図を以下に示す。(図1)定期外来時の心電図画像を拡大する(図2)救急外来時の心電図(2週間前)画像を拡大する【問題1】外来時の心電図(図1)の所見として正しくないものを2つ選べ。1)心室期外収縮2)心房細動3)ST低下4)異常Q波5)房室ブロック解答はこちら2)、4)解説はこちら1)×:肢誘導3拍目はワイドで洞周期のタイミングよりも早期に出ており、「心室期外収縮(PVC)」で間違いありません2)○:自動診断下部のコメントを見ると「心房細動が疑われます」となっていますね。でもこれは誤り。“悪魔のささやき”です(笑)。期外収縮の部分を除いてR-R間隔も整で、特徴的なf波(細動波)もありません(第4回)3)×:目を皿のようにして眺めると、I、II、そしてV2~V6誘導で「ST低下」があります。しかも、心筋虚血ありの時に多い“悪性”な「水平型」のようです4)○:aVR誘導を除き、最初に陰性に振れているQRS波はどこにもありません5)×:自動診断の「房室ブロックII度(Mobitz)」は×ですが、選択肢の「房室ブロック」は正しいです。これが最初から一人で見抜けたのなら、今回ボクから学ぶことはあまりないかも!?お決まりの読み“型”を思い出せ!さぁ、2019年はじめの症例は、冠危険因子リッチで、実際に心カテ治療歴もある男性です。ただ、今回は循環器外来での一場面。4ヵ月前に緊急PCIをされた時とは性状が少し違う、弱い胸部症状を訴えています。まずは、心電図(図1)を系統的な読み“型”(第1回)で判断すると、R-R間隔は不整、心拍数は期外収縮がない右側(胸部誘導)に対して検脈法を用いると48/分ですし、また、全体の10秒間の記録からは60/分(QRS波が10個)と算出できます(第3回)。ちなみに、どうしても最初に自動診断に目がいく人! それ自体は別に構いませんが、できれば自分で系統的な読みをした上での“たしかめ”に活用するほうが良いでしょう。次に、“ピッタリ”のP波はカタチがやや気になりますが、「向き」的には洞調律ですかね(第2回)。以下“クルッとスタート バランスよし!”でひっかかるのは、“スター”部分のST変化。なんだかST低下がありそうです。ここで、なーんかオカシイナと思ったら…過去の心電図との比較が重要です。この人の場合、2週間前にも同じような症状で救急受診しているので、その際の心電図(図2)と比べてみます。冠動脈疾患の既往がガッツリある人なので、どうしてもST変化に目がいってしまうのは医師の“性”でしょうか。現場では2枚の心電図を横に並べて、どこが変化したのかを見るのでしょう(そんなクイズも世間にありますね)。すると新規にST低下が出現しており、しかも虚血性ST変化としては“ホンモノ”を示唆することが多い「水平型」ではないですか! 左室肥大で見られるV5・V6誘導でのQRS高電位所見を伴わないST低下であることも重要だとボクは考えます。つまり、 このST変化は左室肥大では説明できないわけです。また、ST変化以外に今回問題となるのは、自動診断でも挙げられている「房室ブロック」です。細かく言うと「房室ブロックII度(Mobitz)」なので間違いもありますが、心電計がP波をきちんと認識できているということですから、ある意味スゴいです。これらの問題点を踏まえて次の問題をどうぞ。【問題2】心筋トロポニン、CK・CK-MBの上昇はなく、心エコーでの左室壁運動異常もなかった。以上のことからどんな病態を想定し、どうマネジメントするか?解答はこちら病態の想定:ACSや有症候性徐脈(房室ブロック)、冠攣縮性狭心症などマネジメント:冠動脈造影、房室ブロックの精査・加療を行う解説はこちらこの問題は、今回ボクが最も伝えたいことに関係します。この方は採血や心エコーでの異常はないようです。でも、濃厚な狭心症治療歴、加えて新出のST変化、とくに水平型ST低下ですから、冠動脈病変、なかでもACS再発を第一に疑うこと自体は悪くありません。“早朝だけ”のようなキーワードから「冠攣縮性狭心症」を思い浮かべた人もセンス良しです。また、既往にも以前の心電図にもない「房室ブロック」が認められていますので、これに関連した胸部症状ではないかどうかも疑うべきです。マネジメントとしては…狭心症を疑い、冠動脈造影を実施。また、房室ブロックについても精査する必要がありますね。実際、この方は「不安定狭心症(急性冠症候群)」の疑いで緊急入院となりました。これはGood-Jobだったのですが、まずかったのは、“その他”の選択肢を考えるのをやめてしまったこと。心臓カテーテル検査を行って冠動脈狭窄(動脈硬化症)や冠攣縮を評価し、場合によっては血行再建治療をすると同時に、もう一つの大きな異常である「房室ブロック」への対処も想定してこそデキるドクターです。徐脈に関連した症状や心不全徴候ありと考えればペースメーカー植え込みの適応がありますし、その前に一時ペーシングを行う必要性はありませんか…?ST部分にばかり気をとられて、心電図から「房室ブロック」を指摘できない人は、その先に進みようがありません。ST変化のほかに不整脈もあるぞ!病歴や背景因子からして、患者さんの胸部症状の原因として、冠動脈疾患(虚血性心疾患)を疑うのは定石ですし、できて当然だと思います。この方は左冠(状)動脈(前下行枝)に治療歴があり、心電図(図1)をよく見るとaVR誘導でST上昇もあるので、『かなり上流でのヤバイ病変なのでは…』と、とらえる人もいるかもしれません。もちろん、悪くないでしょう。同日に入院後、“準緊急”でなされた冠動脈造影では、ステント狭窄やほかの新規病変もありませんでした。そのためか、この時点で担当医は、心電図(図1)に心室期外収縮以外の大事な不整脈があるということを完全に見落とし、安心しきってしまいました。たしかに、心拍数もメチャクチャ遅いわけでもない、期外収縮もある、「心拍数62/分」と表示されていた…そのため「徐脈性不整脈」の存在と影響を頭に思い描くことができなかったのでしょう。ここで、心電図(図1)より抜粋したV1誘導(あるいは“僧帽性P”に見えるII誘導)を見て下さい(図3)。(図3)心電図(図1)よりV1誘導のみ抜粋画像を拡大する左から奇数個目のP波はブロックされており、QRS波は続きません。つまり、2:1房室ブロックと診断できるんです。自動診断の言う「II度(Mobitz)」ではなく、「2:1房室ブロック」。これが正しい心電図診断です。「2:1」というのは、“つながる”(房室伝導できる)と“落ちる”(房室伝導できずにQRS波が脱落する)が交互にくるという意味です。担当医はまず、2週間前の心電図(図2)のV1誘導と比べて、明らかにT波のカタチが変わっている(おかしい)ことに気づくべき(クルッ“ト”チェックの時点でね)。図中の矢印はP波ですよ! QRS波の直前にコンスタントにあるP波とまったく同じ波形がT波終末部に重なっているのです。このようにV1誘導のP波は、“2相性”であるなど目立つ形状のことも少なくありません。なので、P波の認識が外せない不整脈解析において、ほかよりもV1誘導が不整脈を読み解くのに適している理由の一つなんです。心電図のメッセージは漏れなく受信したい実際のカルテには「洞調律、以前にないST低下」という記載のみで、カテの翌日に退院可とされていました。サマリーにも房室ブロックに関する言及はありませんでした。この房室ブロックは間欠的(一過性)だったため、めまいやふらつき、息切れなどの典型的な徐脈症状もこの患者さんにはありませんでした(その後しばらく外来心電図でも房室ブロックなし)。そのためか、退院後も不定期に続く類似の訴えが問題提起されませんでした(外来担当医には“真実”が見えてなかったためでしょう)。そして緊急入院から半年以上も後のこと。患者さんは『以前は、時折、朝だけ出現していた症状が、最近は1日中になって身体全体が重くてだるい』と訴えて、再び救急受診することになります。この時に担当した別の医師は、「2:1房室ブロック」に気づき、最終的にペースメーカー植え込みがされました。幸い、術後は胸部症状と倦怠感が完全に消失(主訴が房室ブロックによるものであることを示唆しています)したそうです。めでたし、めでたし。ちなみに、心電図(図1)で認められたST低下についてはどうでしょう?血行再建を要するほどではない狭窄が数カ所あり、それが房室ブロックに伴う徐拍化で相対的に心筋虚血を生じた可能性などを考えますが、正確な機序に関しては難しいように思います。最後に述懐。当初、入院担当医、そして心カテも含め指導した上級医(外来医)は共に循環器医でした。彼らを笑う、あるいは責めたところで、何も問題は解決しませんし、ボクが最も嫌いなことです。むしろ“人の振り見て我が振り直せ”。先入観は時に“プロ”であっても盲目にさせるもの。担当者が心電図の放つメッセージをすべて受信できていたら、今回のようなジャッジには絶対ならなかったはずですし、どんな立場の医師であろうと、患者さん本人や家族にとっては“ヤブ医者”と感じるかもしれません。でも、もし半年前にペースメーカーを入れてあげられていたら、患者さんをもっと早く快適にできたわけですし、もしも「冠動脈狭窄なし=冠攣縮」のような短絡的思考でジルチアゼムなどを処方していたら、医原性に完全房室ブロックを作っていた可能性もあります。すべてがすべて、心電図の“読み落とし”に起因する結果と考えられませんか…?もちろん仮定の話で、悲観しすぎかもしれませんが。『この患者さんは“冠疾患の人”だから…』だと決めつけて、心電図でST変化だけしか見ない医師に“正解”は見えません。心電図を読む時は、まず先入観なく真っ白な気持ちで読むのです。その上で所見を解釈し、行動に移す段階で患者背景などの追加情報を乗せるのが正しい“順序”なのです。過剰な先入観の怖さ、そして系統的な心電図判読の重要さ…それを本症例が教えてくれている気がします。サン=テグジュペリの星の王子さまは、「大切なものは目に見えない」と言いました。ただ、心電図の場合には少し違います。すべて“見えてる”んです。でも、読む側の頭と心とが整わないと消えてしまうだけ。「心電図は漏れなく系統的に読むぞ!」皆さんが新年にDr.ヒロと改めてそう誓ってくれることを祈りたいと思います。Take-home Message1)「異常かな?」と思う所見があったら、必ず過去の心電図と比較せよ!2)強すぎる先入観は、心電図を読む上では障害! まずは頭を“真っ白”にして読もう3)不整脈解析にはV1誘導が最適な判断材料となることが多い【古都のこと~下鴨神社~】ボクの初詣といえば下鴨神社。この名前、実は通称で、本当は賀茂御祖(かもみおや)神社と言うそうです。1994年(平成6年)、世界遺産に登録されたこともあり、今年も全国からの参拝客で大賑わいでした(写真は早朝に撮影)。ボクの元日は家族とともにご祈祷を受けることから始まるのですが、このご祈祷、国宝の本殿に通されてさい銭を投げる参拝客の真ん前で執り行われるのです。そんな気恥ずかしさや足に心地よい玉砂利の感覚を味わうのが、ここ数年恒例の醍醐味なのです。

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第8回 冬の救急編:心筋梗塞はいつ疑う!?【救急診療の基礎知識】

12月も終盤。最近では都内も一気に冷え込んできました。毎朝布団から出るのが億劫になってきた今日この頃です。救急外来では急性冠症候群や脳卒中の患者数が上昇しているのではないでしょうか?ということで、今回は冬に多い疾患にフォーカスを当てようと思います。脳卒中は第5回までの症例で述べたため、今回は急性冠症候群(acute coronary syndrome:ACS)に関して、初療の時点でいかにして疑うかを中心に考えていきましょう。●今回のPoint1)胸痛を認めないからといって、安易に否定してはいけない!?2)急性冠症候群?と思ったら、常に大動脈解離の可能性も意識して対応を!?3)帯状疱疹を見逃すな! 必ず病変部を目視し、背部の観察も忘れるな!?はじめに急性冠症候群は、冠動脈粥腫の破綻、血栓形成を基盤として心筋虚血を呈する症候群であり、典型例は胸痛で発症し、心電図においてST上昇を認めます(ST-elevation myocardial infarction:STEMI)。典型例であれば誰もが疑い、診断は容易ですが、そればかりではないのが現実です。高感度トロポニンなどのバイオマーカーの上昇を認めるものの、ST変化が認められない非ST上昇型心筋梗塞(non-ST elevation myocardial infarction:NSTEMI)、バイオマーカーの上昇も伴わない不安定狭心症(unstable angina pectoris:UAP)の診断を限られた時間内で行うことは難しいものです。さらに、胸痛が主訴であれば誰もがACSを疑うとは思いますが、そうではない主訴であった場合には、みなさんは疑うことができるでしょうか。STEMI患者であれば、発症から再灌流までの時間を可能な限り短くする必要があります。そのためには、より早期に疑い対応できるか、具体的にはいかにして疑い心電図をとることができるかがポイントとなります。今回はその辺を中心に一緒に考えていきましょう。急性冠症候群はいつ疑うべきなのか?胸痛を認める場合「胸痛を認めていれば10分以内に心電図を確認する」。これは救急外来など初療に携わる人にとって今や常識ですね。痛みの程度がたいしたことがなくても、「ACSっぽくないなぁ」と思っても、まずは1枚心電図検査を施行することをお勧めします。何でもかんでもというのは、かっこ悪いかもしれませんが、非侵襲的かつ短時間で終わる検査でもあり、行うことのメリットが大きいと考えます。胸痛を認めACSを疑う患者においては、やはり大動脈解離か否かの鑑別は非常に重要となります。頻度は圧倒的にACSの方が多いですが、忘れた頃に解離はやってきます。まずはシンプルに理解しておきましょう。突然発症(sudden onset)であった場合には、大動脈解離をまず考えておいたほうがよいでしょう。ACSも急性の胸痛を自覚することが多いですが、大動脈解離はそれ以上に瞬間的に痛みがピークに達するのが一般的です。数秒内か数分内かといった感じです。「なんだか痛いな、いよいよ痛いな」というのがACS、「うわぁ!痛い!」というのが解離、そんな感じでしょうか。皮膚所見は必ず確認ACSを数時間の診療内にカテーテル検査を行わずに否定することは意外と難しく、HEART score(表1)1)などリスクを見積もるスコアリングシステムは存在しますが、低リスクであってもどうしても数%の患者を拾いあげることは難しいのが現状です。しかし、胸痛の原因となる疾患がACS以外に確定できれば、過度にACSを心配する必要はありません。画像を拡大する画像を拡大する高齢者の胸痛の原因として比較的頻度が高く、発症時に見逃されやすい疾患が帯状疱疹です。帯状疱疹は年齢と共に増加し、高齢者では非常に頻度の高い疾患です。痛みと皮疹のタイムラグが数日存在(長ければ1週間程度)するため、発症時には皮疹を認めないことも多く診断では悩まされます。胸痛患者では心電図は必須であるため、胸部誘導のV6あたりまでは皮膚所見が勝手に目に入ってくるとは思いますが、背部の観察もきちんと行っているでしょうか。観察を怠り、ACSの可能性を考えカテーテル検査が行われた症例を実際に耳にします。皮疹がまったくない状態でリスクが高い症例であれば、カテーテル検査を行う状況もあるかもしれませんが、明らかな皮疹が支配領域に認められれば、帯状疱疹を積極的に疑い、無駄な検査や患者の不安は回避できますよね。疼痛部位に加えて、神経支配領域(胸痛であれば背部、腹痛であれば背部に加え臀部)は必ず確認する癖をもっておくとよいでしょう。胸痛を認めない場合ACSを疑うことができなければ、心電図をオーダーしないでしょう。いくら高感度トロポニンなど有効なバイオマーカーが存在していても、フットワークが軽い循環器医がいても、残念ながら目の前の患者さんを適切にマネジメントできないのです。胸痛を認めない患者とは(1)高齢、(2)女性、(3)糖尿病、これが胸痛を認めない心筋梗塞患者の3つの代表的な要素です。2型糖尿病治療中の80歳女性の約半数は痛みを認めないのです2,3)。これがわずか数%であれば、胸痛がないことを理由にACSを否定することが可能かもしれませんが、2人に1人となればそうはいきません。3大要素以外には、心不全や脳卒中の既往症がある場合には、痛みを認めないことが多いですが、これらは普段のADLの低下や訴えが乏しいことが理由でしょう。既往症から心血管系イベントのリスクが高い患者ということが認識できれば、虚血性病変を疑い対応することが必要になります。胸痛以外の症状無痛性心筋梗塞患者の入口はどのようなものでしょうか。言い換えれば、胸痛以外のどのような症状を患者が訴えていたら疑うべきなのでしょうか。代表的な症状は表2のとおりです。これらの症状を訴えて来院した患者において、症状を説明しうる原因が同定できない場合には、ACSを考え対応する必要があります。65歳以上の高齢者では後述するcoronary risk factorが存在しなくても心筋梗塞は起こりえます。年齢が最大のリスクであり、高齢者ではとくに注意するようにしましょう。画像を拡大するたとえば、80歳の女性が嘔気・嘔吐を主訴に来院したとしましょう。バイタルサインは意識も清明でおおむね安定しています。高血圧、2型糖尿病、脂質異常症、骨粗鬆症の指摘を受け内服加療中です。さぁどのように対応するべきでしょうか。そうです、病歴や身体所見はもちろんとりますが、それと同時に心電図は一度確認しておきましょう。症状が数日持続している、食欲は通常どおりあるなど、ACSらしくないなと思ってもまずは1枚心電図を確認しておくのです。入口を広げると、胸痛ではなく失神や脱力、冷や汗などを認める患者においても「ACSかも!?」と思えるようになり、「胸痛はありませんか?」とこちらから問診できるようになります。患者は最もつらい症状を訴えるのです。胸痛よりも嘔気・嘔吐、脱力や倦怠感が強ければ、聞かなければ胸痛を訴えないものなのです。Coronary risk factorACSを疑った際にリスクを見積もる必要があります。冠動脈疾患の家族歴、高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙者、慢性腎臓病などはリスクであり、必ず確認すると思いますが、これらをすべて満たさない場合にはACSは否定してよいのでしょうか。答えは「No」です。 年齢が最大のリスクであり、65歳以上の高齢者では、前述したリスクファクターのどれも該当しなくても否定してはいけません。逆に40~50代で該当しなければ、可能性はきわめて低くなります。ちなみに家族歴はどのように確認していますか? 「ご家族の中で心筋梗塞や狭心症などを患った方はいますか?」と聞いてはいませんか。この問いに対して、「私の父が80歳で心筋梗塞にかかった」という返答があった場合に、それは意味があるでしょうか。わが国における心筋梗塞の平均発症年齢は、男性65歳、女性75歳程度です。ですから年齢を考慮すると心筋梗塞にかかってもおかしくはないなという、少なくともそれによって診療の方針が変わるような答えは得られませんね。ポイントは「若くして」です。先ほどの問いに対して「私の父は50歳で心臓の病気で亡くなりました」や、「私の兄弟が43歳で数年前に突然死して、不整脈が原因と言われました」といった返答があれば、今目の前にいる患者さんがたとえ若くても、家族歴ありと判断し、慎重に対応する必要があるのです。さいごに胸痛を認めればACSを疑い、対応することは誰もができるでしょう。しかし、そもそも疑うことができず、診断が遅れてしまうことも一定数存在するはずです。高齢者では(とくに女性、糖尿病あり)、入口を広げること、そして帯状疱疹に代表される心筋梗塞以外の胸痛疾患もきちんと鑑別に挙げ、対応することを意識してください。次回は、意識障害のピットフォールに戻り、アルコールによる典型的な意識障害のケースを学びましょう。1)Poldervaart JM, et al. Ann Intern Med. 2017;166:689-697.2)Canto JG, et al. JAMA. 2000;283:3223-3229.3)Bayer AJ, et al. J Am Geriatr Soc.1986;34:263-266.

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スタチンに加え注射でLDL-Cをさらに下げると、心血管リスクが減少(解説:佐田政隆氏)-980

 約30年前にスタチンが発売されてから、数々のエビデンスが築かれてきた。2次予防はもちろん、ハイリスク症例の1次予防にも、有効性が示された。その後、スタチン間のhead to headの試験が組まれ、LDLコレステロールを大量のストロングスタチンで積極的に低下させる方が、より心血管イベント抑制効果が大きいことが示され、Lower is Better という概念が確立した。そして、LDLコレステロール値と心血管イベントがほぼ直線的に低下するグラフが作られ、その直線を外挿するとLDLコレステロールを20~30mg/dL程度まで低下させれば心血管イベントを0にすることができるのではないかと予想されていた。しかし、最大耐用量のストロングスタチンと小腸でのコレステロール吸収阻害薬であるエゼチミブを用いても、LDLコレステロールはせいぜい50mg/dLまでしか下げられなかった。そして、至適薬物療法を施しても、冠動脈病変が進行していく症例が存在し、いわゆるスタチン投与後の残余リスクとして問題になっている。 そのような中、PCSK9というLDL受容体の分解を促進するタンパク質に対する中和抗体が発売された。抗PCSK9抗体は、肝臓でLDL受容体を増やして血中LDLコレステロールを著明に低下させる。本ODYSSEY OUTCOMES研究では、最大用量のスタチンを用いてもLDLコレステロールが70mg/dL以上の急性冠症候群の患者に、抗PCSK9抗体であるアリロクマブを投与して、40mg/dL程度まで低下させると、複合エンドポイント(冠動脈性心疾患死、非致死的心筋梗塞、致死的または非致死的虚血性脳卒中、入院を要する不安定狭心症)が2.8年のフォローアップ中15%有意に低下した。エボロクマブを用いたFOURIER試験でも同様の結果が昨年報告されている。 本試験をみると、最大耐用量のスタチンを投与してもイベントが生じる一部の急性冠症候群患者で、抗PCSK9抗体を用いてLDLコレステロールをさらに低下させると、心血管イベントを防げることが明らかになった。抗PCSK9抗体は、Lp(a)低下作用やHDLコレステロール上昇作用があり、LDLコレステロール低下以外の抗動脈硬化効果が期待される。一方、極端なLDLコレステロール低下療法の長期安全性もこれから確認していかなければならないであろう。 スタチンに加えて、抗PCSK9抗体を、どのような患者に、どのくらいの期間で用いたらよいのか、今後明らかにしていかないといけない点が多い。

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BVSにまだ将来性はあるのか?(解説:上田恭敬氏)-970

 BVS(Absorb bioresorbable vascular scaffolds)とDES(Xience everolimus-eluting stent)を比較した国際多施設RCTであるABSORB IV試験の結果である。1,296例がBVS群に1,308例がDES群に割り付けられ、主要評価項目を30日でのtarget lesion failure(TLF:cardiac death、target vessel myocardial infarction、ischaemia-driven target lesion revascularisation)、主要副次評価項目を1年でのTLFと狭心症症状として非劣性が検討された。 30日でのTLFは5.0% vs.3.7%(BVS vs.DES)で非劣性が証明された。1年でのTLFは7.8% vs.6.4%(BVS vs.DES)、狭心症症状は20.3% vs.20.5%(BVS vs.DES)で非劣性が証明された。1年のステント血栓症は0.7% vs.0.3%(BVS vs.DES)と有意差はなかった。 結果からは、1年までの臨床成績はBVSとDESで同等であるということになるが、Ischaemia-driven TLRやQ-wave MIの発生頻度は有意ではない(p=0.08)もののBVSでやや多い印象がある。1年で非劣性なら長期的にはBVSが勝るだろうとの期待もあるのだろうが、やや不安の残る非劣性である。 また、「至適な方法で留置されたBVS」と記載されているが、前拡張が必要で高圧での後拡張が推奨されただけで、IVUSガイドでの至適拡張が大きく結果を改善するエビデンスが出ている現在においては、この試験のBVS留置方法およびDES留置方法が至適とは言えない。イメージングガイド下に真に至適に留置されたBVSとDESの比較がどのような結果になるかは誰にもわからないが、BVS留置早期の血管内視鏡画像を見ると、黄色病変と血栓像が見られ、Cypherステントに近い印象がある。死亡例での病理所見のみならず、生体内での各種血管内イメージングの所見を合わせて解釈し、BVSの早期血栓症の発症機序を解明して適切に対応することが、BVSの将来性を評価するためにぜひ必要と思われる。

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第5回 再診料CT検査での査定/セルベックス処方での査定/カデュエット配合錠処方での査定/強力ネオミノファ-ゲンシ-増量処方での査定【レセプト査定の回避術 】

事例17 再診料CT検査での査定再診料で、他院の撮影したフィルムについて診断を行い、コンピュ-タ-断層診断料を請求した。●査定点コンピュ-タ-断層診断料が査定された。解説を見る●解説「点数表の解釈」のコンピュ-タ-断層診断に、「当該保険医療機関以外の医療機関で撮影したフィルムについて診断を行った場合には、区分番号「A000」に掲げる初診料(注5のただし書に規定する2つ目の診療料に係る初診料を含む)を算定した日に限り、コンピュ-タ-断層診断料を算定できる」と記載されています。再診料での請求は認められていないのです。事例18 セルベックス処方での査定慢性胃炎の急性増悪でテプレノン(商品名:セルベックス)50mg 3カプセルを先月まで処方していたが、今月の請求から「急性増悪」を外して請求した。●査定点セルベックス50mg 3カプセルが査定された。解説を見る●解説添付文書の「効能・効果」に「下記疾患の胃粘膜病変(びらん、出血、発赤、浮腫)の改善」として「急性胃炎、慢性胃炎の急性増悪期」と「胃潰瘍」が対象になっています。慢性胃炎から急性増悪期を外すと査定となります。このケ-スでは、「胃潰瘍」の病名に変更可能か検討することが必要です。事例19 カデュエット配合錠処方での査定他院から紹介され、狭心症でアムロジピン・アトルバスタチン配合剤(商品名:カデュエット配合錠)1番を処方した。●査定点カデュエット配合錠1番が査定された。解説を見る●解説添付文書の「効能・効果」に「本剤(アムロジピン・アトルバスタチン配合剤)は、アムロジピンおよびアトルバスタチンによる治療が適切である以下の患者に使用する。高血圧症または狭心症と、高コレステロ-ル血症または家族性高コレステロ-ル血症を併発している患者。なお、アムロジピンとアトルバスタチンの効能・効果は以下のとおりである」と示し、●アムロジピン・高血圧症・狭心症●アトルバスタチン・高コレステロ-ル血症・家族性高コレステロ-ル血症となっています。カデュエット配合錠を処方するときは、「高血圧症または狭心症」+「高コレステロ-ル血症または家族性高コレステロ-ル血症」の病名が求められています。事例20 強力ネオミノファ-ゲンシ-増量処方での査定C型肝炎でグリチルリチン・グリシン・システイン配合剤(商品名:強力ネオミノファ-ゲンシ-)20mL 3Aの請求をしていたが、今月から強力ネオミノファ-ゲンシ-20mL 5Aで請求した。●査定点強力ネオミノファ-ゲンシ-20mL 2Aが査定された。解説を見る●解説添付文書の「用法・用量」に「通常、成人には1日1回5~20mLを静脈内に注射する。なお、年齢、症状により適宜増減する。慢性肝疾患に対しては1日1回40~60mLを静脈内に注射または点滴静注する。年齢、症状により適宜増減する。なお、増量する場合は1日100mLを限度とする」となっています。このケ-スのように60mL以上で請求するには、増量した理由の「症状詳記」が求められます。

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低用量メトトレキサートは冠動脈疾患例のMACEを抑制せず:CIRT/AHA

 LDLコレステロール(LDL-C)を低下させることなくアテローム性動脈硬化性イベントを抑制したCANTOS試験は、心血管系(CV)イベント抑制における抗炎症療法の重要性を強く示唆した。メトトレキサート(MTX)も、機序は必ずしも明らかでないが抗炎症作用が知られている。また関節リウマチ例を対象とした観察研究や非ランダム化試験では、低用量MTXによるCVイベント抑制作用が報告されている。ではMTXも、アテローム性動脈硬化性イベントを減少させるだろうか? ランダム化試験"CIRT"の結果、その可能性は否定された。米国・シカゴで開催された米国心臓協会(AHA)学術集会のLate Breaking Clinical Trialsセッションにて、11月10日、CANTOS試験の報告者でもある米国・ブリガム&ウィメンズ病院のPaul Ridker氏が報告した。対象は炎症亢進例に限定せず CIRT試験の対象は、スタチンやレニン・アンジオテンシン系阻害薬などの標準的治療下にあった、安定冠動脈疾患4,786例である。平均年齢は66歳、20%弱が女性だった。61%が心筋梗塞既往例で、残りは糖尿病/メタボリックシンドローム合併多枝病変1次予防例である。CANTOS試験とは異なり、「高感度C反応性蛋白(hs-CRP)高値」は導入条件となっていない。 これら4,786例は全例が葉酸1mg/日を服用の上、低用量(15~20mg/週)MTX群(2,391例)とプラセボ群(2,395例)にランダム化され、二重盲検法で追跡された(早期中止)。MTXの用量は、臨床検査値と症状に基づいて、詳細なアルゴリズムに従い、必要があれば2ヵ月ごとに変更された。1次エンドポイントはプラセボと有意差なし、皮膚がんは有意増加 その結果、2.3年間(中央値)の追跡期間後、当初の1次エンドポイントであるMACE(心血管系[CV]死亡・心筋梗塞・脳卒中)のリスクは両群間に有意差を認めなかった(MTX群:3.46%/年、プラセボ群:3.43%/年、p=0.91)。盲検解除前に追加されたもう1つの1次エンドポイント「MACE・緊急血行再建が必要となる不安定狭心症」でも、同様だった(MTX群:4.13%/年、プラセボ群:4.31%/年、p=0.91)。 一方、肝機能異常、白血球減少症の発現はMTX群で有意に多く、基底細胞がん以外の皮膚がんが有意に増えていた(33例 vs.12例、p=0.0026)。炎症性サイトカインも減少せず Ridker氏が強調したのは、炎症性サイトカインの変化が、CANTOS試験と異なっていた点である。すなわち、インターロイキン-1β(IL-1β)抗体を用いたCANTOSではIL-1βはもとより、IL-6、hs-CRPも減少していたが、CIRTではいずれのマーカーの低下も認めなかった。このためCVイベント抑制には、IL-1βからCRP産生に至る経路の遮断が重要と考えられた。Ridker氏は、NLRP3インフラマソームやIL-6をターゲットにした治療による、CVイベント抑制の可能性を指摘した。 本試験は米国NHLBIからの資金提供を受けて行われた。また発表と同時に、NEJM誌にオンライン掲載された。(医学レポーター/J-CLEAR会員 宇津 貴史(Takashi Utsu))「速報!AHA2018」ページへのリンクはこちら【J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)とは】J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)は、臨床研究を適正に評価するために、必要な啓発・教育活動を行い、わが国の臨床研究の健全な発展に寄与することを目指しています。■関連記事メトトレキサート、重症円形脱毛症に有効

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スタチンにアリロクマブ追加で、ACS症例のイベント抑制/NEJM

 抗PCSK9モノクローナル抗体アリロクマブは、急性冠症候群(ACS)の既往歴を有し、高用量スタチン治療を行ってもアテローム生成性リポ蛋白の値が高い患者において、虚血性心血管イベントの再発リスクを有意に低減することが、米国・コロラド大学のGregory G. Schwartz氏らが行ったODYSSEY OUTCOMES試験で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2018年11月7日号に掲載された。ACS患者は、現行のエビデンスに基づく治療を行っても虚血性心血管イベントの再発リスクが高い。これまで、PCSK9抗体がACS発症後の心血管リスクを改善するかは不明とされていた。LDL-C 25~50mg/dLを目標とする用量調節戦略を検討 ODYSSEY OUTCOMESは、57ヵ国1,315施設が参加した二重盲検プラセボ対照無作為化試験。2012年11月~2015年11月(中国のみ2016年5月~2017年2月)の期間に無作為割り付けが行われた(SanofiとRegeneron Pharmaceuticalsの助成による)。 対象は、年齢40歳以上、無作為割り付け前の1~12ヵ月の期間にACS(心筋梗塞または不安定狭心症)で入院し、LDLコレステロール値70mg/dL以上、non-HDLコレステロール値100mg/dL以上、アポリポ蛋白B値80mg/dL以上のいずれかを満たし、高用量スタチン(アトルバスタチン40~80mg、ロスバスタチン20~40mg)またはこれらのスタチンの最大耐用量の投与を受けている患者であった。 被験者は、アリロクマブ75mgまたはプラセボを2週ごとに皮下投与する群にランダムに割り付けられた。アリロクマブの用量は、LDLコレステロール値25~50mg/dLを目標に、盲検下で調節された。 主要エンドポイントは、冠動脈性心疾患死、非致死的心筋梗塞、致死的または非致死的虚血性脳卒中、入院を要する不安定狭心症の複合であった。ベネフィットはLDL-C値100mg/dL以上の患者でより顕著 1万8,924例が登録され、アリロクマブ群に9,462例(平均年齢:58.5±9.3歳、女性:25.3%)、プラセボ群にも9,462例(58.6±9.4歳、25.1%)が割り付けられた。全体のACS患者のうち、心筋梗塞が83.0%、不安定狭心症が16.8%であった。患者の92.1%がLDLコレステロール70mg/dL以上であり、non-HDLコレステロール100mg/dL以上のみを満たした患者は7.2%だった。フォローアップ期間中央値は2.8年。 ベースライン時の全体の平均LDLコレステロール値は92±31mg/dLであった。アリロクマブ群の平均LDLコレステロール値は、4ヵ月後には40mg/dLに低下し、12ヵ月後は48mg/dL、48ヵ月後は66mg/dLであった。これに対し、プラセボ群の平均LDLコレステロール値の推移は、それぞれ93、96、103mg/dLであった。 主要複合エンドポイントのイベント発生率は、アリロクマブ群が9.5%(903例)と、プラセボ群の11.1%(1,052例)に比べ有意に低く、推定4年発生率はそれぞれ12.5%および14.5%であった(ハザード比[HR]:0.85、95%信頼区間[CI]:0.78~0.93、p<0.001)。4年間に、主要エンドポイントのイベントを1件予防するのに要する治療必要数は49例だった。 主な副次エンドポイントのうち、冠動脈性心疾患イベント(冠動脈性心疾患死、非致死的心筋梗塞、入院を要する不安定狭心症、虚血による冠動脈血行再建術)(12.7 vs.14.3%、HR:0.88、p=0.001)、主要冠動脈性心疾患イベント(冠動脈性心疾患死、非致死的心筋梗塞)(8.4 vs.9.5%、0.88、p=0.006)、心血管イベント(冠動脈性心疾患死、非致死的心筋梗塞、入院を要する不安定狭心症、虚血による冠動脈血行再建術、非致死的虚血性脳卒中)(13.7 vs.15.6%、0.87、p<0.001)、全死因死亡・非致死的心筋梗塞・非致死的虚血性脳卒中の複合(10.3 vs.11.9%、0.86、p<0.001)の発生率は、アリロクマブ群で有意に良好であった。 また、複合主要エンドポイントに関するアリロクマブの絶対ベネフィットは、ベースラインのLDLコレステロール値100mg/dL以上の患者が、100mg/dL未満の患者よりも大きかった(交互作用検定のp<0.001)。アリロクマブ群の3.5%(334例)、プラセボ群の4.1%(392例)が死亡した(HR:0.85、95%CI:0.73~0.98)。 有害事象および検査値異常の発生率は、アリロクマブ群で局所の注射部位反応(そう痒、発赤、腫脹)(3.8 vs.2.1%、p<0.001)が有意に高頻度であったが、これ以外は両群でほぼ同等であった。重篤な有害事象はアリロクマブ群が23.3%、プラセボ群は24.9%に認められた。 著者は、「盲検下の用量調節戦略が、安全性や有効性に影響を及ぼしたかは不明である」としている。

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TG低下療法によるCVイベント抑制作用が示される:REDUCE-IT/AHA

 スタチン服用下でトリグリセライド(TG)高値を呈する例への介入は、今日に至るまで、明確な心血管系(CV)イベント抑制作用を示せていない。そのような状況を一変させうるランダム化試験がREDUCE-IT試験である。その結果が、米国・シカゴで開催された米国心臓協会(AHA)学術集会の11月10日のLate Breaking Clinical Trialsセッションで報告された。精製イコサペンタエン酸エチル(EPA-E)を用いた服用で、プラセボに比べ、CVイベントリスクは、相対的に25%の有意減少を認めた。スタチン服用下で高TGを呈するCV高リスク例が対象 REDUCE-IT試験の対象は、スタチン服用下でTG「150~499mg/dL」の、1)CV疾患既往例(2次予防:5,785例)、2)CVリスクを有する糖尿病例(高リスク1次予防:2,394例)である。LDLコレステロール(LDL-C)「≦40mg/dL」と「>100mg/dL」例、魚類に対する過敏症例などは除外されている。 平均年齢は64歳、30%弱が女性だった。試験開始時のTG値の平均は216mg/dL、全体の60%が「TG≧200mg/dL」だった。 これら8,179例はEPA-E群とプラセボ群にランダム化され、二重盲検法で4.9年間(中央値)追跡された。EPA-EでTGは低下、HDL-Cは増加せず まず脂質代謝の変化を見ると、試験開始1年後、EPA-E群のTG値は175mg/dLへ有意に低下し(p<0.001)、プラセボ群では逆に221mg/dLへ上昇していた(p<0.001)。またHDLコレステロール(HDL-C)は、EPA-E群で39mg/dLへの有意低下と、プラセボ群における42mg/dLへの有意上昇を認めた(いずれもp<0.001)。CVイベント4.9年間NNTは21例 その結果、プライマリーエンドポイントである「CV死亡・心筋梗塞・脳卒中・冠血行再建術・不安定狭心症」の発生率は、EPA-E群で17.2%、プラセボ群で22.0%となり、EPA-E群における有意なリスク低下が認められた(ハザード比[HR]:0.75、95%信頼区間[CI]:0.68~0.83)。21例でプラセボをEPA-Eに切り替えれば、4.9年間(中央値)に1例でプライマリーエンドポイントを回避できる計算になる。 EPA-E群におけるプライマリーエンドポイント抑制作用は、「2次予防と1次予防」や治療前TG値「200mg/dLの上下」「150mg/dLの上下」、「糖尿病合併の有無」など、さまざまなサブグループで検討しても一貫していた。 有害事象は、EPA-E群で「末梢浮腫」が有意に多く(6.5% vs.5.0%、p=0.002)、同様に「便秘」(5.4% vs.3.6%、p<0.001)、「心房細動」(5.3% vs.3.9%、p=0.003)の発現も、EPA-E群で有意に多かった。一方、「下痢」(9.0% vs.11.1%、p=0.002)と「貧血」(4.7% vs.5.8%、p=0.03)の発現は、EPA-E群で有意に少なかった。 その結果、試験薬服用中止に至った有害事象発現率は、EPA-E群(7.9%)とプラセボ群(8.2%)の間に有意差を認めなかった(p=0.60)。重篤な出血も、EPA-E群2.7%、プラセボ群2.1%で、有意差はなかった(p=0.06)。 本試験はAmarin Pharmaの資金提供を受けて実施された。また発表と同時に、NEJM誌オンライン版で公開された。(医学レポーター/J-CLEAR会員 宇津 貴史(Takashi Utsu))「速報!AHA2018」ページはこちら【J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)とは】J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)は、臨床研究を適正に評価するために、必要な啓発・教育活動を行い、わが国の臨床研究の健全な発展に寄与することを目指しています。

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肩腰膝の痛みをとる Dr.究のあなたもできるトリガーポイント注射

第1回 トリガーポイントとは何か? 第2回 トリガーポイントを見つける 診察の基本 第3回 肩痛で触るべき筋肉 第4回 腰痛は、ヘルニアを探すよりも筋肉を触る 第5回 膝痛では大腿から下腿まで触る 第6回 頭痛のトリガーポイント 第7回 胸痛・腹痛のトリガーポイント 慢性的な痛みを訴える患者さんに出会うのは日常茶飯事。根本的な解決にはならないけれど、唯一の選択肢として鎮痛薬や貼付剤を処方していませんか?整形外科領域の疾患やレッドフラッグを除外しても続く痛みの原因の多くは実は筋肉にあります。 トリガーポイント注射は、これにアプローチする、新しい治療方法です。 なぜ筋肉が原因で身体のあちこちに痛みが生じるのか?そのメカニズムは、実にシンプル。筋肉に痛い箇所がひとつあれば、それを代償するように体を使い、さらに痛みが連続していくのです。遭遇頻度の高い肩痛、腰痛、膝痛、そして、ときに筋肉が原因となっている腹痛や頭痛について、それぞれ診察、触診、注射のポイントを伝授します。第1回 トリガーポイントとは何か? 腰や膝の痛みを訴える患者さんに、鎮痛薬や貼付剤を処方するだけ?これからはトリガーポイント注射も選択肢に入れてください!”筋肉”が原因で慢性的な疼痛が生じるのはしばしばあること。トリガーポイント注射は、筋肉が原因の痛みにアプローチする、新しい治療方法です。 普段、筋骨格系の診察をしない先生でも、明日から実践できるよう、筋肉の位置や名称は3DCGでわかりやすく提示。トリガーポイント注射を第一線で実践する斉藤先生が、診察と注射のノウハウを実技で伝授します。第2回 トリガーポイントを見つける 診察の基本 痛みの原因になっている筋肉はどこなのか。注目すべきは、「痛みがある箇所よりも、つっぱりを感じるところ」。筋肉が短縮しているところにトリガーポイントがあります。今回は、視診、動作、触診とトリガーポイントを特定するための診察ノウハウを伝授。もちろん、見つけたトリガーポイントにどうやって安全に注射をしていくか、そのコツをお伝えします。第3回 肩痛で触るべき筋肉 肩痛で見るべきは、筋肉は3つ。どの筋肉にTPがあるかで、痛みの場所が違います。原因になる筋肉を特定する診察の方法、トリガーポイントを探す触診まで実技でわかりやすく解説します。第4回 腰痛は、ヘルニアを探すよりも筋肉を触る 腰痛の原因は椎間板ヘルニア?もちろんそういう場合は多いですが、神経所見をとると痛みやしびれの原因がヘルニアでないことはよくあります。ヘルニアがあってもなくても、一度トリガーポイントを探索してみましょう。今回は、腰痛を訴える場合に触るべき脊柱起立筋群、殿筋群の診察ノウハウを解説します。さらに、意外な部位にある腰痛の原因も紹介します。第5回 膝痛では大腿から下腿まで触る 膝関節だけに注目しても、痛みが取れない原因は、膝痛には大腿から下腿までの筋肉がかかわっているから。大腿から下腿まで、確認すべき筋肉を、CG、触診、超音波を駆使して立体的に解説します。膝の前面か後面か、痛む部位に応じたトリガーポイントを見つけるコツを詰め込みました。第6回 頭痛のトリガーポイント 緊張性頭痛や片頭痛といった頭痛には肩、首、顔、頭の筋肉が関与している可能性があります。レッドフラッグを除外しても、鎮痛薬を処方しても、継続する頭痛に、トリガーポイントを取り入れることで苦痛を和らげられる可能性が大きく広がります。触るべき筋肉の位置とトリガーポイント、触診のコツを押さえましょう。第7回 胸痛・腹痛のトリガーポイント 筋肉があれば、そこにはトリガーポイントが形成される可能性があります。人間は全身筋肉に覆われているので、どの部位であってもトリガーポイントによる痛みが生じるとも言えます。胸部のトリガーポイントでは狭心症と見まがう痛みを生じることがあります。腹部では逆流性食道炎や過敏性腸症候群、胃潰瘍など消化器疾患と似た症状がでることも。いずれも触るべき筋肉の解剖と触診、超音波像で診察のポイントを解説します。

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抗肥満薬であるlorcaserinは日本でも使用できるのだろうか(解説:吉岡成人氏)-942

抗肥満薬は臨床の現場に出てこない 肥満治療の基本は、食事療法と運動療法であり、非薬物療法を3ヵ月をめどに行ったうえでも、改善が認められない場合に薬物治療が考慮される。しかし、日本で使用が可能な薬剤はマジンドールしかない。米国では、膵リパーゼ阻害薬で腸管からの脂肪吸収を抑制する作用を持ったorlistatも発売されているが、日本での発売の予定はない。脳内で摂食亢進や快楽・報酬系に作動するカンナビノイド受容体の拮抗薬であるrimonabantは、自殺企図を含む重篤な精神疾患を引き起こすことから2008年に開発が中止となっている。また、ノルアドレナリンとセロトニンの再吸収取り込み阻害薬であるsibutramineは、血圧の上昇や心筋梗塞、脳卒中のリスク増加のため2010年に欧米の市場から撤退している。このように、抗肥満薬は開発・中断を繰り返しており、臨床の現場で応用されることがきわめて難しい薬剤となっている。lorcaserin 今回、抗肥満薬として期待されていたlorcaserinが、肥満2型糖尿病患者に対して有用である可能性を示す論文がLancet誌に報告された(Bohula EA, et al. Lancet. 2018 Oct 3. [Epub ahead of print])。lorcaserinはセロトニン5-HT(5-hydroxy-triptamine)2c受容体のアゴニストである。セロトニンは脳内に存在するモノアミンで、5-HT受容体を介して摂食抑制、睡眠、鎮静、疼痛閾値の調整、母性行動などに関与している。5-HT2c受容体は視床下部に発現し、食欲抑制に関与しており、そのノックアウトマウスでは過食や肥満をもたらすことが知られている。5-HT2c受容体への選択性が強いlorcaserinは、2010年に前臨床試験段階で乳腺腫瘍と星細胞腫の発生を増加させるリスクが懸念され、米国食品医薬品局(FDA)で認可されなかった。しかし、その後の第III相試験で腫瘍発生の増加がなかったため、2012年にFDAが認可した薬剤である。lorcaserinの心血管安全性 lorcaserinの心血管系に対する安全性を評価した二重盲検試験であるCAMELLIA(Cardiovascular and metabolic effects of lorcaserin in overweight and obese patients)-TIMI 61試験の結果が、2018年8月26日にNEJM誌電子版に掲載されている(Bohula EA, et al. N Engl J Med. 2018;379:1107-1117.)。 心血管死亡、心筋梗塞、脳卒中を合わせた複合イベントを主要評価項目とし、有効性については主要評価項目に不安定狭心症、心不全、冠動脈血行再建術を追加した複合イベントについて評価している。中央値3.3年間の追跡で、主要評価項目についてはlorcaserin群6.1%、プラセボ群6.2%(ハザード比:0.99、99%信頼区間:0.85~1.14)であり、安全性が確認された。有効性については、lorcaserin群11.8%、プラセボ群12.1%(ハザード比:0.97、99%信頼区間:0.87~1.9714)でプラセボに勝る心血管イベントの減少は示されなかった。lorcaserinは糖尿病治療にも有用 CAMELLIA-TIMI 61試験の副次評価項目である、2型糖尿病患者における血糖コントロール、糖尿病発症前から2型糖尿病への移行の遅延、糖尿病発症阻止の可能性を検討した詳細な結果が、今回Lancet誌に掲載された論文である。 アテローム動脈硬化性心疾患、または複数の心血管リスクを保有するBMI 27以上の肥満者を対象として、lorcaserinを投与した群では、1年時において糖尿病患者で平均107.6kgの体重がプラセボ群に比較して2.6kg(95%信頼区間:2.3~2.9)減少し、HbA1c 5.7~6.5%未満、空腹時血糖値100~125mg/dL未満の「前糖尿病」状態の対象者が糖尿病に移行するリスクも19%減少(8.5% vs.10.3%、ハザード比:0.81、95%信頼区間:0.66~0.99)し、糖尿病の発症予防に対するNNTは3年で56であると報告している。糖尿病患者においては、細小血管障害(網膜症、持続アルブミン尿、末梢神経障害)の発症も抑止された(10.1% vs.12.4%、ハザード比:0.79、95%信頼区間:0.69~0.92)という。代謝の改善と心血管イベント lorcaserinは従来の抗肥満薬と同様に、体重の減少と糖尿病の発症予防、糖尿病の病態の改善に有用であり、かつ、心血管安全性も確認されたといえる。しかし、減量に成功し、血糖コントロールが改善しても、3.3年の期間では心血管イベントの発症に好影響をもたらさなかった。 はたして日本でも市場に登場する薬剤となるのかどうか、今後の展開が注目される。

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第6回 心電図、正しくとれてる?(後編)~自動診断の「側壁梗塞」にご用心!~【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

第6回:心電図、正しくとれてる?(後編)~自動診断の「側壁梗塞」にご用心!~第5回では、心電図電極のつけ間違い、なかでも最も典型例な「手電極を逆につけてしまうミス」を取り上げ、所見の様相とその理由、およびI誘導の“オール下向き”から不正を疑う方法までを解説しました。今回も同じ女性の症例で“気づき”を与えてくれる所見を解説します。また、最後のオマケ、女性の狭心症のpitfall(落とし穴)にもご留意あれ!前回のおさらい症例48歳。女性。昨晩からの心窩部痛にて救急受診。以前より血圧高値を指摘されるも受診せず。間欠的に“さしこむような”痛みがあり、発作時には冷汗を伴う。何度か嘔吐もした。労作時症状はない。昼過ぎに市販の制酸剤を服用したが改善しないため、夕刻に受診し、来院時に心電図検査を行なった(図1)。喫煙:20-30本/日(18歳~:現在も喫煙中)家族歴:冠動脈バイパス術(父親)身長156cm、体重105kg。体温36.9℃、血圧154/95mmHg、脈拍62/分。(図1)来院時心電図画像を拡大する冠危険因子リッチな女性が冷汗をかくような心窩部痛ですから、心電図検査もマストですね。「ST変化はどうかな…」と見る前に、肢誘導の電極が左右逆じゃないかしら、通常あまり見ないI誘導のカタチ(すべて下向き)だな、という疑問から根本的“ミス”に気づけるか?…それが前回と今回のテーマです。今回は、I誘導以外に“手の電極が左右逆かも?”と気づかせてくれる所見について2つ紹介します。1つ目は、とかく無視されがちなaVR誘導、ここを見て下さい。aVR誘導で陽性QRS波なら“左右逆”の線がさらに濃厚になります。今回の例もそうなっていますよね。次の図を使って、そのワケを理解しましょう(図2)。(図2)aVR誘導で上向きQRS波が起こりにくい理由画像を拡大するQRS電気軸は4つの領域からなります(図2-A)。これを意識した上でaVR誘導のQRS波が上向き(陽性)となる領域を考えます(図2-B)。すると、一番ヤバいゾーンである高度軸偏位(ないし北西軸)にほぼ一致します。ところが、この状態は現実的に起こりにくいので、「aVR誘導の上向きQRS波なんてオカシイよ。正しく記録できてないんじゃない?」、そう思える感覚が大事なんです。I誘導とは逆に、aVRはP-QRS-Tすべて下向き(陰性)が“お約束”な誘導と覚えておいて下さい。少し余談です。ボクが医学部生の頃、確認テストに「正常(代表的)なII誘導とV5誘導の波形を描きなさい」という問題が出ました。当時は、講義をしていたのが心電図界の“大家”(今でもご活躍されています)なことを知る由もなく…P波がどれで何を意味するのかわからないボクは『なんたる悪問! 何言ってんの、あのオジサン…。』と毒づきながら、最初に目についた波形を写したのを記憶しています(笑)「頭の中に心電図波形の“テンプレート”を入れておく」、「比較できる過去の心電図がなくても、目の前の波形を“テンプレート”と比較しながら異常を抽出する」。循環器のプロたちって、みな無意識にそうしてるんです。いろいろな方々にレクチャーする立場になった今、“あの先生の意図はそういうことだったんじゃないかなぁ”と感じています。普通はここまでですが、Dr.ヒロ的ポイントがもう一つ!「側壁梗塞」という自動診断を見たら、ズバリ左右電極間違いを疑うのです。これもボク以外、強調している人は少ないかも!?側壁梗塞の場合、I誘導とaVL誘導に大きな(深くて広い)異常Q波が出るんです。aVL誘導に単独でQ波が見られるのは正常亜型の一種でもあるんですが、I誘導も含む側壁梗塞パターンは現実にはかなり起こりにくいのです。なので、ボクの頭の中では「自動診断で側壁梗塞?→嘘でしょ?→電極でもつけ間違ってんじゃないの?」と分析します。実際に心電図(図1)にも「側壁心筋梗塞」って書いてますでしょ。最近の心電計はだいぶ優秀になってきていて、「左右電極のつけ間違い(の可能性)」などとズバッと教えてくれる場合もあるので、もちろんそれも参考にしましょう。【左右電極のつけ間違いを疑うヒント】すべて“サカサマ”(陰性)のI誘導aVR誘導で上向き(陽性)QRS波自動診断の指摘した「側壁梗塞」や「左右電極のつけ間違い(の可能性)」さぁ、ここまで聞いたら、自分でも上肢電極の左右つけ間違いを見抜けるはず! 最後に鑑別すべき病態も示したので、これも参考に。【電極の左右つけ間違い(疑)で鑑別すべき病態】右胸心(肢誘導はソックリ、胸部誘導で鑑別できる)右心系負荷を生じる疾患(右軸偏位や左室肥大を伴うとヤッカイ)肺全摘術・気胸療法後など(心臓が正常な位置からだいぶズレる)鑑別には、胸部X線でも心エコーでも何でも参考にするとよいでしょう。この状況で心電図だけで“勝負”しようとするのは愚かなことですし、多くは他の検査を見たら一発で診断可能なはず。Dr.ヒロの口ぐせは“心電図だけで考えようとしない”なんですよね。心電図がデキる人ほど、そうだと思っています。自分が間違えないのはもちろん、時には他人の記録ミスを指摘できる、そんなスゴ腕ドクターにぜひなって下さい。もちろん、指摘するときは“やさしく”ね(笑)さて、電極の間違いに気づいて心電図をとり直しても“本題”は解決していません。心電図だけではなく、他の情報も総合して患者さんの病態に迫りましょう。自分ならどんな検査をするか考えつつ、次問をどうぞ。【問題】血液検査では、WBC:11,980/μL、CRP

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重度肥満2型DM、肥満手術で大血管イベントリスク低下/JAMA

 肥満外科手術を受けた重度肥満の2型糖尿病患者は、肥満外科手術を受けなかった場合と比較し、大血管イベント(冠動脈疾患、脳血管疾患)のリスクが低下したことが、米国・カイザーパーマネンテ北カリフォルニアのDavid P. Fisher氏らによる後ろ向きマッチングコホート研究の結果、明らかとなった。大血管イベントは、2型糖尿病患者の障害および死亡の主たる原因であり、生活習慣の改善を含む内科的治療ではリスクを低下させることができない場合がある。いくつかの観察研究では、肥満外科手術が2型糖尿病患者の合併症を低下させる可能性が示唆されていたが、症例数が少なくBMI値が試験に利用できないこと(非手術群では入手不可のため)が課題であった。JAMA誌2018年10月16日号掲載の報告。重度肥満の2型糖尿病患者、手術vs.通常ケアの大血管イベント発生を比較 研究グループは、米国の4つの統合医療ネットワークにおいて2005~11年の期間に肥満外科手術を受けた19~79歳の重度肥満(BMI≧35)の2型糖尿病患者5,301例(手術群)について、施設・年齢・性別・BMI・HbA1c・インスリン使用歴・糖尿病罹病期間・以前の医療利用をマッチングした対照1万4,934例を非手術群とし、肥満外科手術(ルーワイ胃バイパス術76%、スリーブ状胃切除術17%、調節性胃バンディング術7%)と通常の糖尿病治療を比較した(追跡は2015年9月まで)。 主要評価項目は、大血管疾患(冠動脈疾患[急性心筋梗塞、不安定狭心症、経皮的冠動脈インターベンションまたは冠動脈バイパス術]あるいは脳血管疾患[脳梗塞、脳出血、頸動脈ステント留置術または頸動脈内膜剥離術]の初発)発生までの期間とし、統計解析には多変量調整Cox回帰モデルを使用した。手術で複合大血管イベントと冠動脈疾患の発生が低下、脳血管疾患は有意差なし 手術群と非手術群を合わせた2万235例は、平均年齢(±SD)50±10歳で、女性が手術群76%、非手術群75%、ベースラインの平均BMI(±SD)はそれぞれ44.7±6.9、43.8±6.7であった。 追跡期間終了時において、手術群で106件(脳血管疾患37件、冠動脈疾患78件、追跡期間中央値:4.7年[四分位範囲:3.2~6.2])、非手術群で596件(脳血管疾患227件、冠動脈疾患398件、追跡期間中央値:4.6年[四分位範囲:3.1~6.1])の大血管イベントが認められた。 肥満外科手術は、5年時の複合大血管イベント発生率低下と関連しており(手術群2.1% vs.非手術群4.3%、ハザード比:0.60[95%信頼区間:0.42~0.86])、冠動脈疾患発生率の低下も同様であった(1.6% vs.2.8%、0.64[0.42~0.99])。脳血管疾患発生率は、5年時で両群に有意差はなかった(0.7% vs.1.7%、0.69[0.38~1.25])。 結果を踏まえて著者は、「本研究の結果について無作為化臨床試験で検証する必要がある」と提言するとともに、「医療従事者は、重度肥満で2型糖尿病を有する患者の肥満外科手術の意思決定に関与する際は、大血管イベント予防における肥満外科手術の潜在的役割を共有する必要がある」とまとめている。

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日本の常識、世界の常識(解説:野間重孝氏)-931

 2015年にLancet誌(オンライン版)に発表されたSCOT-HEART試験は、安定胸痛患者の管理に冠動脈造影CT(CTA)を利用することにより、診断精度、診断頻度を上げることができることを示したが、フォローアップ期間が短かったこともあり、非致死性・致死性心筋梗塞の発症頻度の低下を証明することはできなかった(低下傾向はみられたが統計学的有意差が得られなかった)。このことから、CTAの利用が非致死性・致死性心筋梗塞の発症を低下させることを示すことを主な目的として、同研究グループが前研究の参加者を対象に5年間(中間値で4.8年)の長期フォローを行ったのが本研究である。結果: 1. 主要評価項目の5年発生率は、標準治療群3.9%(81例)に対し、CTA群2.3%(48例)と、CTA群が有意に低いことが示された(ハザード比[HR]:0.59、95%信頼区間[CI]:0.41~0.84、p=0.004)。 2. 侵襲的冠動脈造影と冠血行再建術の実施率は、追跡開始当初の数ヵ月間はCTA群で標準治療群より高率だったが、5年時点では両群で同程度に認められた。 3. 一方で、予防療法や抗狭心症療法を開始した患者の割合は、CTA群が標準治療群より多かった。 4. 心血管系の原因による死亡、心血管以外の原因による死亡、全死因死亡の発生率は、いずれも両群で有意差は認められなかった。彼らの結論を要約すれば: 1. 安定胸痛の患者に対し、標準治療に加えCT冠動脈造影(CTA)を行うことで、5年間の非致死性・致死性心筋梗塞の発生リスクを約4割低下させることができる。 2. 一方、侵襲的冠動脈造影や冠血行再建術の5年実施率は、両群で有意差が認められなかった。 結論の1と2の関係に戸惑う人もいるかもしれない。実際率直な疑問として、冠動脈造影・血行再建の実施率に差がないのに、どうして非致死性・致死性心筋梗塞の発症に差がなかったんだろう、と素朴な疑問をお持ちになる方も多いのではないかと思う。 致死性心筋梗塞の発症、非致死性心筋梗塞の発症ともに、時間を追うごとに差が開いていっている。この差が約4割に達したのである。 侵襲的CAGの施行、血行再建の割合は両者で差がついていない。 なぜ差がつかなかったかについては、CTA非活用群では診断がきちんとなされないまま、フォローされているうちに非致死性・致死性心筋梗塞がどんどん発症してしまい、その結果としてこういう集団がフォローアップから脱落し、結果CAGや血行再建の頻度に差がでなかったと解釈されるのである。さらに、早期の血行再建だけではなく、診断確定の有無により両群で至適内科療法の実施状況に差があったことも当然挙げられなくてはならないだろう。 そんなに差がでるものか? フォローアップの姿勢に問題があったんじゃないのか? と思われる方もいらっしゃると思う。ここであらためてご注意したいのは、彼らがフォローしたのは“stable chest pain”であって“stable angina”ではないことで、実際、論文中で著者らが「おそらく半数は実際には有意な動脈硬化を持っていない可能性がある」という記述をしていることである。英国全体における虚血性心疾患の取り扱いがどうなっているかまでは言及できないが、少なくとも彼らが扱った集団のフォローアップ体制はその程度だったのであり、それは世界的にみても決して珍しいことではないのである。 一方、以上の結果をみて「なんだ、当たり前じゃないか」と思われる方も多いのではないかと思う。わが国においては心電図・胸部レントゲン写真・経胸壁心エコー図等のスクリーニング項目を一通りこなして、少し怪しいと思った患者に対してCTAを撮るのは当たり前になっている。以前は運動負荷が行われたが、現在では運動耐容量の不明な狭心症患者に対していきなり運動負荷検査を行うことは危険であり、運動負荷検査は(決まりきった健康診断のスクリーニングを除けば)すでに診断の確定した狭心症患者の運動耐容量の決定に用いられるほうが普通になっている。 しかし、わが国において以上は常識とされているが、日本以外の国においては必ずしもそうではないことには注意が必要である。日本はCTの普及率がOECD加盟国の中でも群を抜いた1位であり(世界CTの10台に1台はわが国にある)、簡単に造影CTができる環境にある。また健康保険制度が整備されているため、収入の低い人であってもCTやシンチグラムなどの高価な検査を受けることができる。さらに、わが国では患者はどの医療機関にも原則自由にアクセス可能である。これらは世界ではまれなことであることを認識しておかなければ、現在の日本の医療に対する評価を誤ることになる。 本研究はCTAの、というよりも虚血性心疾患の治療において、速やかかつ正確な診断がいかに重要であるかを示した論文として、重要な研究であると考える。さらにいえば、医療と医療費の問題についてあらためて考えさせられた論文であったともいえる。

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BVS vs.DES、30日・1年時評価は?/Lancet

 拡大患者集団において、最適化された手技で留置された生体吸収性スキャフォールド(BVS)は金属製薬剤溶出ステント(DES)と比較して、30日時点と1年時点の標的病変不全および狭心症の発生について非劣性であることが示された。米国・コロンビア大学医療センターのGregg W. Stone氏らによる無作為化試験「ABSORB IV試験」の結果で、Lancet誌オンライン版2018年9月24日号に掲載された。先行研究で、BVSはDESよりも有害事象の発現頻度が多いことが示されていたが、1件の無作為化試験で狭心症の頻度がBVS群で低下したことが報告されていた。しかしながら、それら初期に行われた試験は、マスキングがされておらず、スキャフォールドにとって至適とされるサイズよりも小さい病変が登録された頻度が高く、留置テクニックは未熟であり、さらにBVSがより適しているのではと目されていた心筋梗塞の患者は除外されていた。安定性CAD/ACS患者を登録し、Absorb vs.Xienceの標的病変不全発生を追跡評価 ABSORB IV試験は、5ヵ国(米国、ドイツ、オーストラリア、シンガポール、カナダ)147病院で、安定性冠動脈疾患(CAD)または急性冠症候群(ACS)の18歳以上の患者を登録して行われた多施設共同の実対照盲検化無作為化試験であった。 登録された患者は、ポリマー・エベロリムス溶出BVS(Absorb)、またはコバルトクロム合金製・エベロリムス溶出ステント(EES;Xience)の留置を受ける群に、無作為に1対1の割合で割り付けられた。無作為化は、糖尿病の状態、先行研究のABSORB III試験における適格性、試験地による層別化も行われた。患者と臨床評価者は無作為化に対してマスキングされた。 主要評価項目は、30日時点の標的病変不全(心臓死、標的血管関連の心筋梗塞、虚血による標的病変の血行再建)の発生で、非劣性マージンはリスク差で2.9%とした(intention-to-treat解析)。主要評価項目の30日時点、また1年時点もAbsorbの非劣性を確認 2014年8月15日~2017年3月31日に1万8,722例が試験適格性についてスクリーニングを受け、2,604例が登録された。 BVS群に1,296例が、EES群に1,308例が割り付けられ、30日時点のフォローアップデータを入手できたのはそれぞれ1,288例、1,303例、1年時点は1,254例、1,272例であった。また、ベースラインでのバイオマーカー陽性ACS患者は622/2,602例(24%)、微小血管(2.25mm未満)の病変例は78/2,893例(3%)であった(中央検査室での血管造影画像解析による)。 30日時点の標的病変不全発生は、BVS群64例(5.0%)、EES群48例(3.7%)であった(群間差:1.3%、97.5%信頼上限:2.89、片側検定による非劣性のp=0.0244)。また、1年時点の標的病変不全発生は、BVS群98例(7.8%)、EES群82例(6.4%)であった(群間差:1.4%、97.5%信頼上限:3.4、片側検定による非劣性のp=0.0006)。 1年時点で中央イベント委員会が判定した狭心症の発生は、BVS群270例(20.3%)、EES群274例(20.5%)であった(群間差:-0.3%、95%信頼区間[CI]:-3.4~2.9、片側検定による非劣性のp=0.0008、両側検定による優越性のp=0.8603)。1年間に発生したデバイス血栓症は、BVS群9例(0.7%)、EES群4例(0.3%)であった(p=0.1586)。

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安定胸痛への標準治療+CTA、5年アウトカムを改善/NEJM

 安定胸痛の患者に対し、標準治療に加えCT冠動脈造影(CTA)を行うことで、5年間の冠動脈疾患死または非致死的心筋梗塞の発生リスクは約4割低下することが示された。侵襲的冠動脈造影や冠血行再建術の5年実施率は、いずれも増加は認められなかったという。英国・エジンバラ大学のDavid E. Newby氏らによる、Scottish Computed Tomography of the Heart(SCOT-HEART)試験の結果で、NEJM誌2018年9月6日号で発表された。安定胸痛の患者への評価では、CTAにより診断の確実性が増すことが示されていたが、5年後の臨床アウトカムに及ぼす影響は不明であった。5年冠動脈疾患死または非致死的心筋梗塞の発生を評価 SCOT-HEART試験では、安定胸痛を有し、その評価を目的に循環器診療所に紹介された18~75歳の患者4,146例を対象に、非盲検多施設共同並行群間比較試験を行った。 研究グループは被験者を無作為に2群に分け、一方の群には標準治療に加えCTAを(2,073例)、もう一方には標準治療のみを行った(2,073例)。 主要評価項目は、5年時点における冠動脈疾患死または非致死的心筋梗塞の発生だった。予防療法・抗狭心症療法の実施率がCTA併用群で1.3~1.4倍 追跡期間中央値は4.8年、2万254患者年を追跡した。 主要評価項目の5年発生率は、標準治療群3.9%(81例)に対し、CTA群2.3%(48例)と、CTA群が有意に低かった(ハザード比[HR]:0.59、95%信頼区間[CI]:0.41~0.84、p=0.004)。 侵襲的冠動脈造影と冠血行再建術の実施率は、追跡開始当初の数ヵ月間はCTA群で標準治療群より高率だったが、5年時点では両群で同程度に認められた。侵襲的冠動脈造影の実施者は、CTA群491例、標準治療群502例(HR:1.00、95%CI:0.88~1.13)、冠血行再建術はそれぞれ279例、267例だった(同:1.07、0.91~1.27)。 一方で、予防療法や抗狭心症療法を開始した患者の割合は、CTA群が標準治療群より多かった。予防療法のオッズ比は1.40(95%CI:1.19~1.65)、抗狭心症療法は同1.27(1.05~1.54)だった。 心血管系の原因による死亡、心血管以外の原因による死亡、全死因死亡の発生率は、いずれも両群で有意差は認められなかった。

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高血圧患者への降圧と脂質低下療法、その長期的効果は?/Lancet

 高血圧患者における、降圧療法および脂質低下療法が心血管死、全死因死亡に及ぼす長期的な効果は十分には検証されていないという。英国・ロンドン大学クイーンメアリー校のAjay Gupta氏らは、ASCOT試験終了後に10年以上の長期フォローアップを行い(ASCOT Legacy試験)、Ca拮抗薬ベースの治療レジメンによる降圧療法と、スタチンによる脂質低下療法は、高血圧患者の死亡を長期に改善することを示した。Lancet誌オンライン版2018年8月26日号掲載の報告。英国の参加者を16年フォローアップ ASCOT Legacy試験では、ASCOT試験の英国からの参加者において、フォローアップ期間16年の死亡に関する調査が行われた(Pfizerの助成による)。 ASCOT試験は、1998年2月~2000年5月に北欧、英国、アイルランドで患者登録が行われた2×2ファクトリアルデザインの多施設共同無作為化試験。対象は、年齢40~79歳、心血管疾患のリスク因子を3つ以上有し、直近3ヵ月以内の冠動脈性心疾患や狭心症、脳血管イベントの既往歴がない高血圧患者であり、主要評価項目は非致死的心筋梗塞および致死的冠動脈性心疾患であった。 ASCOT試験の降圧療法アーム(BPLA)に登録された患者は、ベースライン時に、アムロジピンまたはアテノロールベースの降圧療法を受ける群に無作為に割り付けられた。さらに、BPLAのうち総コレステロール値が6.5mmol/L以下で脂質低下療法歴のない患者が、脂質低下療法アーム(LLA)として、アトルバスタチンまたはプラセボを投与する群に無作為に割り付けられ、残りの患者は非LLAとされた。 2人の医師が独立に、全死因死亡、心血管死(冠動脈性心疾患死、脳卒中死)、非心血管死の判定を行った。Ca拮抗薬は脳卒中死を、スタチンは心血管死を抑制 ASCOT Legacy試験に含まれたのは、8,580例(ベースラインの平均年齢64.1歳[SD 8])で、3,282例(38.3%)が死亡した。内訳は、アテノロールベース治療群1,640/4,275例(38.4%)、アムロジピンベース治療群1,642/4,305例(38.1%)であった。 また、LLAの4,605例中1,768例が死亡した。内訳は、アトルバスタチン治療群865/2,317例(37.3%)、プラセボ群903/2,288例(39.5%)であった。 全死亡例のうち1,210例(36.9%)が心血管関連の原因によるものであった。BPLAの患者では、全死因死亡はアテノロールベース治療群とアムロジピンベース治療群に有意な差はなかったが(補正後ハザード比[HR]:0.90、95%信頼区間[CI]:0.81~1.01、p=0.0776)、脳卒中による死亡は、アムロジピンベース治療群がアテノロールベース治療群に比べ有意に少なかった(0.71、0.53~0.97、p=0.0305)。 BPLAとLLAに交互作用は認めなかったが、非LLAの3,975例では、アムロジピンベース治療群がアテノロールベース治療群に比べ心血管死が有意に少なかった(補正後HR:0.79、0.67~0.93、p=0.0046)。LLAの4,605例では有意な差はなく、2つの降圧療法の効果の差は、患者がLLAか非LLAかに依存していた(交互作用のp=0.0220)。 LLAでは、アトルバスタチン治療群がプラセボ群よりも心血管死が有意に少なかった(HR:0.85、0.72~0.99、p=0.0395)。 著者は、「全体として、ASCOT Legacy試験は、血圧とコレステロールへの介入が心血管アウトカムに長期的な利益をもたらすとの見解を支持するものである」としている。

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第2回 洞調律を知る【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

第2回:「洞調律を知る」洞調律、またはサイナス・リズム…言葉だけは知っていても、心電図で何がどうならそういえるのか? 今ひとつ曖昧な人にDr.ヒロがズバッとレクチャーします。今回は、洞調律“ではない”場合の表現もあわせて学びましょう。症例提示57歳。女性。降圧薬を内服中。犬の散歩中に転倒。左腕を強打して救急受診。骨折と診断され、待機的に手術が予定されることとなった。入院時心電図(図1)に関して整形外科よりコンサルトされた。(図1)来院時心電図画像を拡大する【問題1】心電図所見として正しくないものを2つ選べ。1)洞調律2)異所性心房調律3)ST低下4)左室高電位(差)5)反時計回転解答はこちら 1)、5)解説はこちら 左腕骨折で整形外科に入院となった女性です。手術が前提であったためか、入院時に心電図がとられています。自動診断では、(1)房室接合部調律、(2)左室肥大、(3)ST-T異常となっています。1)×:R-R間隔は整で、きれいにP-QRSが並んでいるようですが、P波の様式が洞調律とは異なります。I、V4~V6でフラット、II,aVFで下向き(陰性)となっており、洞調律の条件を満たしません。2)◯:洞調律ではなく、固定のP波を伴う心房調律がこう呼ばれます。3)○:II、aVF(ともに軽度)、そしてV4~V6誘導でST低下があります。4)◯:“スパイク・チェック”(第1回参照)を思い出して、V5,V6誘導のR波の高さに反応して下さい。「V5またはV6誘導でR波高が26mm超なら左室高電位」という基準は余裕があれば覚えましょう。5)×:胸部誘導の移行帯に注目します。V2~V3誘導の間でR波の高さがS波の深さと逆転しており、これは正常です。“洞調律の定義、知ってる?”というわけで、今回ポイントにしたいのは、ズバリ「洞調律を正しく診断できる」。ただただコレだけ。普段、「洞調律って何ですか?」と医学生や研修医の先生に聞くと、『えー、P波があってQRS波がレギュラーで…』『P波とQRS波が1:1の関係でずっと続いて…』というのが代表的な答え。だとすると、今回の心電図も“洞調律”になってしまいますよね。でも否。洞調律(サイナス・リズム、略してサイナス)は洞結節が心臓の収縮ペースを統率している状態を表し、概念的にはみんな知ってます。残念ながら、体表面の心電図では洞結節の活動(興奮)を直接とらえることはできません。そこで、その“命令”に従い、はじめに興奮する心房の興奮様式から判断するんです。具体的にはP波の向きで決めています。詳しく解説するため、別症例の心電図を示します(図2)。(図2)正常洞調律[34歳・女性]画像を拡大する(図2)は34歳、女性のものです。R-R間隔は整で、QRS波の直前にはコンスタントにP波があります。肢誘導も胸部誘導も左から4拍目のP波の向き(極性)に着目すると、I、II、aVF、V4、V5、V6誘導で上向き、aVR誘導で下向きであり、洞調律と判断できるんです。(図中赤矢印:↗)ここで皆さん、いいですか?「イチニエフ・ブイシゴロ。そしてアールに注目!」なんだか呪文みたいでしょ。これは、I、II、aVF、V4~V6とaVRを見なさいってこと。僕はこれを“イチニエフの法則”と呼んでいます。「イチニエフ・ブイシゴロで上向き(陽性)、アールで下向き(陰性)」が洞調律の定義なんです。そして、一括りに「洞調律」といってもイチニエフ・ブイシゴロ以外の誘導の場合、P波の向きには個人差があり、洞調律の判定には使わないので、P波は原則見ないでOK。イチニエフの法則さえおさえれば、洞結節はほぼ規則的に興奮しますし、途中で電気の伝達に妨げがなければ、R-R間隔も整、かつ、P:QRSも1:1になります。これで多くの人が洞調律の定義と考える内容がほぼ自動的に満たされますが、これはあくまでも結果なので、本質は「P波の向き」にあることをきちんと理解して下さい。もちろん、同じ形のP波がコンスタントにあるかどうかも見ますが、それはR-R間隔が整であれば基本見なくてもOKです。ちなみに、全部で7個の誘導でチェックするなんて面倒と思う方はいますか?実は、簡易的に「II誘導とaVR誘導だけ」に着目した“ニアル(II・aVR)法”(ボクが勝手にそう呼んでるだけ)もあります。実際に「II:陽性、aVR:陰性だけでOKだよ」とする本もあります。肢誘導の円座標を思い浮かべて、心房内の興奮はaVR誘導から離れ、II誘導の方向に向かうからですね。しかし、ボク的には他のチェックとの兼ね合いもあり、やはり“イチニエフ法”がイチ押しです。“異所性心房調律って言えたらステキ”ということで、今回の心電図(図1)は洞調律ではなく、異所性心房調律が正解でした。循環器専門医だと、「異所性」に関して、さらに“心房のどこが起源か”なんてのが多少気になりますが(自動診断の「房室接合部」、もっと言うと「冠静脈洞」を疑います)、深入りは禁物。非専門医であれば異所性心房調律と言えるだけで“おつり”が来ます(笑)【問題2】整形外科の先生に「STが下がっているけど、この人は狭心症なんですか?オペいけます?」と尋ねられた。どう答えるか。解答はこちら ST低下は左室肥大に伴う二次性変化、耐術性は問題なし解説はこちら “ST変化は心筋虚血の「専売特許」にあらず”これはオマケの問題です。ちまたには、「ST低下=虚血性心疾患」と思っている人がたくさんいます。安静時心電図のST低下は狭心症のST低下ではないことが大半です。不安定狭心症などのひどい病態は別ですが。この人は普段まったく無症状だそう。その上、高血圧で治療中。ブイゴロク(V5、V6)の左側胸部誘導で高電位(差)プラスST-T変化(この人はT波異常はなし)と言ったら…そう、左室肥大(LVH)で説明可能です。以上を基に心電図から疑われる診断名異所性心房調律(冠静脈洞調律)左室肥大という訳で…、「いやー、先生。この人は心電図で左室肥大が疑われますし、ST変化はそのせいですかね。患者さんから話を聞くには、平時から駅の階段や坂道などはスイスイのスイーッみたいで、胸部症状の自覚なんかも全然ないようです。あと、ちょっとマニアックな異所性心房調律という基本リズム(調律)だったりもしますが、これも普通は特に問題になりません。一応、できたら心エコーしますけど、整形の手術なら全身麻酔でも問題ないと思いますよ」。そう答えられたら、アナタはスゴい!Take-home Message洞調律かどうかはP波の「向き」で決めよ:イチニエフ法(またはニアル法)安静時ST低下は虚血性ではないことが大半【古都のこと~Y字の鴨川~】「鴨川はY字なんだよ」こちらに来たばかりの時、そう教えられました。高野川と賀茂川の水が出会う場所、奥には糺(ただす)の森の深遠な霊気が漂います。市内のごくありふれた風景が、無常観を綴った鴨長明にはどう映っていたのでしょうか。悠久の時の流れ、“うたかた”の自分を感じながら、仕事場に向かう日もあります。

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中等度CVDリスクへのアスピリン1次予防効果は?/Lancet

 心血管疾患リスクが中等度の55~60歳以上の患者に対し、アスピリン100mgを毎日投与しても、プラセボと比較して心血管イベントの発生率に有意差は認められなかったという。米国・ブリガム&ウィメンズ病院のJ. Michael Gaziano氏らが、7ヵ国の約1万3,000例を対象に5年間追跡したプラセボ対照無作為化比較試験「ARRIVE試験」の結果を、Lancet誌オンライン版2018年8月26日号で発表した。心血管イベント1次予防におけるアスピリン投与については、なお議論の的となっている。ARRIVE試験では、中等度リスクを有する患者におけるアスピリンの有効性と安全性の評価が行われた。55歳以上の男性、60歳以上の女性を対象に 試験は2007年7月5日~2016年11月15日にかけて、7ヵ国、501ヵ所の医療機関を通じ、心血管疾患リスクが中等度(特定リスクの因子数で規定)の55歳以上の男性、または60歳以上の女性、合わせて1万2,546例を対象に行われた。消化管出血やその他の出血リスクが高い患者、および糖尿病患者は除外された。 被験者をコンピュータ生成無作為化コードにより1対1の割合で2群に分け、一方にはアスピリン腸溶錠(100mg)を、もう一方にはプラセボをそれぞれ1日1回投与した。患者、研究者、その他の治療・データ解析者は、割付治療についてマスキングされた。 主要有効性エンドポイントは、心血管死、心筋梗塞、不安定狭心症、脳卒中、一過性脳虚血発作(TIA)の複合アウトカム。安全性エンドポイントは、出血イベントおよびその他の有害イベント発生だった。解析はいずれもintention-to-treat集団にて行った。アスピリンよりもリスクマネジメント戦略の効果が勝る? 追跡期間中央値は、60ヵ月だった。有効性のエンドポイント発生率は、アスピリン群4.29%(269/6,270例)、プラセボ群4.48%(281/6,276例)で、有意な差はみられなかった(ハザード比[HR]:0.96、95%信頼区間[CI]:0.81~1.13、p=0.6038)。 一方、消化管出血の発生は、プラセボ群0.46%(29例)に対し、アスピリン群は0.97%(61例)と2倍強認められた(HR:2.11、95%CI:1.36~3.28、p=0.0007)。 重篤な有害事象発生率については両群とも20%程度(アスピリン群20.19%、プラセボ群20.89%)、有害事象全般の発生率はともに80%強(82.01%、81.72%)と、いずれも同程度だった。治療関連の有害事象については、プラセボ群13.54%に対しアスピリン群16.75%と、より高率に認められた(p<0.0001)。 死亡の報告は、アスピリン群2.55%(160/6,270例)、プラセボ群2.57%(161/6,276例)で有意差はなかった(HR:0.99、95%CI:0.80~1.24、p=0.9459)。 これらの結果について著者は、「イベント発生率が予想よりも大幅に低かった。おそらく、近年のリスクマネジメント戦略が功を奏しており、試験対象が実質的に低リスク集団になっていたと思われる」と指摘し、中等度リスク患者におけるアスピリンの1次予防を検証する試験にはならなかったとしている。そのうえで、「先行研究で公表されている低リスク集団に観察されたアスピリン効果の所見が、今回の試験でもみられた」とまとめている。

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FFRジャーナルClub 第11回

FFRジャーナルClubでは、FFRをより深く理解するために、最新の論文を読み、その解釈を議論していきます。第11回目の今回は、ステント内再狭窄(in-stent restenosis:ISR)の重症度評価をFFR-CTによって行った、という症例報告です。単なる症例報告ですが、何が面白いか、気づきましたか? Heart Flow社の提供するFFR-CTは、ステントが留置されている症例では計測できませんでした。最近1枝にステントが留置されているものは計測可能となりましたが、それでもステント留置血管自体のFFR-CTは計測できません。ステント部の血管内腔のトレースが不確実であるからです。それを可能とするテクノロジーの進歩、すなわちFFR-CT計算方法のブラックボックス、とされていた部分が垣間見られる報告と思います。このような計算も行っていたのだ、という眼で読んでいきましょう。第11回 ステント内狭窄の重症度評価Andreini D, et al, Severe in-stent restenosis missed by coronary CT angiography and accurately detected with FFR-CT. Int J Cardiovasc Imaging.2017;33:119-120.Sand NPR, et al. PRrospEctive Comparison of FFR Derived From Coronary CT Angiography With SPECT PerfuSion Imaging in Stable Coronary ArtEry DiSeaSe: The ReASSESS Study. J Am Coll Cardiol Img.2018 Jun 9.[Epub ahead of print]冠動脈CTを用いたISR評価においては、ステントストラットによるアーチファクトのため、判定が困難なことが多い。非侵襲的に冠動脈CTデータからFFRを計算するFFR-CTは、その臨床使用における有用性、安全性が報告されているが、冠動脈ステントの評価に関する有効性は検討されていない。症例は62歳、男性。3枝に計4つのステントが留置されている。ステント留置1年後に胸痛を生じたため冠動脈CTにより精査された。冠動脈CT上は新規病変を認めず、また明らかなISRも認めなかった。それぞれのステント内腔の染影も良好と思われた。右冠動脈では、CT値(Hounsfield Units:HU)が、ステント近位部571HU、ステント内遠位端付近555HU、ステント遠位約10mmの部位529HU、であり、ステント遠位において軽度の低下を認めるのみであった。一方、FFR-CTによる解析では、右冠動脈遠位部のFFR-CT値<0.50と有意な低値を示し、ステント内再狭窄が疑われた。その後冠動脈造影により、右冠動脈ステント内遠位部に99%のISRが確認され、drug-eluting balloonによる治療が行われた。考察(勝手な想像を含む)いたってシンプルな症例報告(Images in CV applications)であり、計測を可能としたアルゴリズムについてのコメントは一切ない(上記が本文のほぼすべてである)。なので、ここからは私自身の想像により、そのブラックボックスを少しだけ開けてみたい。ステントストラットの影響により内腔がトレースできない、というのは、人間の目を用いて解析する前提の話である。コンピュータ技術(いやスーパーコンピュータ技術)をもって、内腔を決定するためのある一定のアルゴリズムを作れば、ステント部であっても常に客観的に内腔を決定することはできるはずである。その内腔が正しいかどうか、症例を積み重ねることにより正確性を増すと考えられる。コンピュータを使う利点は、常に同じ基準で正確に内腔を決定できる、という点が挙げられる。ステント同様、冠動脈CTで内腔評価が難しい病変として石灰化病変が挙げられる。通常の冠動脈CTでは評価が困難と思われる程度の石灰化病変であっても、FFR-CTでは計算できることも少なくない。人間の目よりも、コンピュータの眼のほうが優れている、と言えばそれまでだが、客観的に同じ基準で評価している、ということの信頼感は大きい。また本症例では、冠動脈内のCT値が提示されている。その変動は大きくないように見えるが、おそらくこのような情報もFFR-CT計算に用いられているのだろう、と推察できる。冠動脈CTは安静時血流下での撮影となるが、その条件下でもCT値の変動を捉えられるとうことは、最大充血時の血流低下を推測する一助となりうる。今後ますます技術革新が進み、ステント留置血管においてもFFR-CTが応用できるとなれば、その臨床的役割はさらに増すことが予想される。このFFR-CTは、日本においても近々臨床使用が可能となる見込みである。実臨床での安定狭心症診断Treeはさまざまなオプションが考えられるが、冠動脈CTにより中等度以上の狭窄が検出された場合、(1)そのまま侵襲的冠動脈造影(場合によって侵襲的FFR計測)、(2)負荷心筋シンチグラムSPECT、そして(3)FFR-CT、という3つからの選択となると考えられる。FFR-CTがSPECT同様十分に信頼される検査法となれば、侵襲的冠動脈造影のgate-keeperとして働くことが可能となる。ReASSESS studyは、安定狭心症診断のfirst lineとして冠動脈CTを行い、まず正常冠動脈、明らかな重症冠動脈病変を診断し、それらを除いた中等度病変を有する患者にFFR-CTを用いる場合の診断制度をSPECTと比較した。有意病変の診断精度、FFR guideにてPCI施行が必要と判断された症例を検出する精度に関して、両者は同等であったが、FFR-CTはとくに感度において良好な結果であった。冠動脈CTが多く行われている日本の診断Treeに近いプロトコールでの有用性が示されたものと思われる。画像を拡大する画像を拡大する

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