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第97回 COVID-19後遺症様の症状が稀にワクチン接種後にも生じうる

イスラエルでもワクチンのCOVID-19後遺症予防効果あり去年9月に発表された英国での試験1)と同様に、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチン接種済みの人のSARS-CoV-2感染後の長引く症状(COVID-19後遺症)の主なものはどれも非接種の人に比べて少ないことがイスラエルでの試験でも示されました2,3)。もっと言うと、ワクチン接種済みの人のそれらの症状はSARS-CoV-2に感染したことのない人より多くもありませんでした。COVID-19後遺症全般についてはワクチンによる予防効果が認められなかった試験報告4)もありますが、エール大学の岩崎明子(Akiko Iwasaki)氏によれば今回のイスラエルでの試験や英国での試験結果はともあれ吉報です。「COVID-19後遺症は悲惨で、消耗を強いる。そうならないようにする手立ては何であれCOVID-19後遺症がこれ以上増えるのを防ぐのに必要であり、(その手立てを担いうるという)ワクチン接種理由がまた1つ増えた」と同氏は言っています2)。ワクチン接種後にも稀ながら生じうる後遺症ワクチンがCOVID-19後遺症を予防しうるとの期待がある一方で、その後遺症に似た症状がワクチン接種後に生じることが稀ながらあるようです5)。かつて幼稚園の先生をしていたBrianne Dressen氏は2020年11月にSARS-CoV-2ワクチンを接種し、その日の晩までに目がぼやけはじめました。また、貝殻を耳に当てているように音が変になりました。症状は急激に悪化し、やがては心拍異常や筋肉の脱力に見舞われ、電気ショックのような感覚を被るようになりました。Dressen氏はいまやそのほとんどの時間を暗い部屋で過ごし、歯を磨くことや幼い我が子に触れられるのさえ耐えることができません。医師がDressen氏を不安症と診断してからときが過ぎ、今から1年前の2021年1月になると米国国立衛生研究所(NIH)の研究者はDressen氏に降り掛かったような事態を把握し始め、Dressen氏や他の患者をNIH施設に招いて検査し、時には治療も施しました。しかし手がかりは少なく、Dressen氏が被ったような長く続く体調不良をワクチンが引き起こしたのかどうかは分からずじまいでした。NIHと患者のやり取りは昨年2021年の遅くまでに途絶えてしまいました。内々で研究は続いているとDressen氏等の調査を率いたNIHの研究者Avindra Nath氏は言うものの、唯一の頼みの綱であったNIHが手を引いたことに患者は困惑し、がっかりしています。NIHの研究は尻すぼみとなりましたが、ワクチン接種後の後遺症を理解することはそれらで悩む人の助けになるでしょうし、もしワクチンとの関連の仕組みが明らかになれば次世代のワクチン開発の参考になるに違いありません。また、そういう後遺症の恐れがある人を事前に同定可能になるかもしれません。カリフォルニア大学の免疫学者William Murphy氏はSARS-CoV-2スパイクタンパク質が誘発する自己免疫で感染後とワクチン接種後のどちらの長患いも説明できるかもしれないとの論説をNEJM誌に去年11月に発表しました6)。感染後やワクチン接種後の好ましい抗ウイルス効果と生じて欲しくない副作用の両方に免疫反応がどう寄与しているかをもっと基礎から調べる必要があります。Murphy氏はワクチン接種の支持者ですが、ワクチンを皆に安心して接種してもらうにはワクチン接種に安全性の心配はないと言って済ますのではなくワクチンについて隈なく調べ尽くすことが必要だと述べています5)。しかしMurphy氏の期待とは裏腹にNIHのNath氏が率いた患者研究は長続きしませんでした。NIHの研究には患者34人が参加し、そのうち14人がNIHで診られ、残り20人は血液検体、それに何人かは脳脊髄液(CSF)検体を提供しました。しばし治療も受けた患者もおり、たとえばステロイド高用量投与や免疫グロブリン静注(IVIG)が施されました。そのようにNIHは初めこそ患者を助けようとしていたにもかかわらずやがて患者との接触を断つようになりました。去年の9月のDressen氏の神経検査の予定は遠隔面談となり、12月になるとNath氏は患者を来させないようにしました。多くの患者を長期間治療するようにNIHは設えられておらず、患者の地元の担当医が手当てにあたるのが最良だとNath氏は言っています。しかしNath氏の言い分とは裏腹に医師には何もしてもらえないという患者もいますし、気のせいだと決めつけられることもあります。そうして表向きは梯子を外したNIHですが、エール大学の岩崎 明子氏はNIHのNath氏の協力を仰いでワクチン接種後の反応とCOVID-19後遺症がどう関連するかを調べることを計画しています。すでに患者との話が始まっており、血液や唾液などの検体を患者から集めるつもりです。また自己抗体を疑うドイツの研究者Harald Pruss氏はマウスへのSARS-CoV-2ワクチン接種後の自己抗体の特定に取り掛かっています。Pruss氏は感染後やワクチン接種後の患者の治療にもあたっており、患者の血液から抗体のほとんどを取り除く治療を調べる臨床試験を近々開始したいと考えています。自己抗体などの免疫系の関与は患者の体験でも示唆されており、ワクチン接種後に不調に陥った患者の何人かはScienceの取材に応じて免疫抑制剤でいくらか良くなったと言っています。NIHのNath氏も同様の効果を把握しており、免疫抑制/調節作用があるIVIGやステロイドによるCOVID-19後遺症治療を調べているNIH主催臨床試験結果がワクチン関連の合併症にも役立つことを期待しています。岩崎氏がワクチン開発にも着手COVID-19研究で何かと目に耳にすることが多いエール大学の岩崎氏の取り組みは今やワクチン開発にも及んでいます。先週26日にbioRxiv誌に発表された同氏率いるチームのマウス実験の結果、mRNAワクチン筋肉注射に続くSARS-CoV-2スパイクタンパク質やそのmRNAの点鼻投与で呼吸器粘膜の免疫を安全に底上げして感染や発病を防ぎうることが示されました7)。次の段階として、より大きな動物や臨床試験での安全性や有効性の検討が必要です8)。将来的には他の粘膜ウイルス病原体にも今回と似た手段が通用しそうであり、岩崎氏の活躍を見聞きすることは今後ますます多くなりそうです。参考1)Antonelli M,et al.Lancet Infect Dis. 2022 Jan;22:43-55. 2)Long-COVID symptoms less likely in vaccinated people, Israeli data say / Nature3)Association between vaccination status and reported incidence of post-acute COVID-19 symptoms in Israel: a cross-sectional study of patients tested between March 2020 and November 2021. medRxiv. January 17, 20224)Six-month sequelae of post-vaccination SARS-CoV-2 infection: a retrospective cohort study of 10,024 breakthrough infections. medRxiv. November 08, 20215)In rare cases, coronavirus vaccines may cause Long Covid-like symptoms. Science.6)Murphy WJ, et al. N Engl J Med. 2022 Jan 27;386:394-396. 7)Unadjuvanted intranasal spike vaccine booster elicits robust protective mucosal immunity against sarbecoviruses. bioRxiv. January 26, 20228)岩崎 明子氏のTwitter投稿(2022年1月27日)

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治療抵抗性うつ病への薬理学的増強戦略~包括レビュー

 治療抵抗性うつ病(TRD)は、治療転帰不良であることは言うまでもないが、最良の薬理学的増強戦略にどの抗うつ薬を用いるべきかに関するエビデンスは十分ではない。イタリア・Azienda Socio Sanitaria Territoriale MonzaのAlice Caldiroli氏らは、TRDに対する抗うつ薬の薬理学的増強療法に関するエビデンスを包括的にレビューした。International Journal of Molecular Sciences誌2021年12月2日号の報告。 TRDに対する抗うつ薬の薬理学的増強療法に関する利用可能なエビデンスを特定するため、主要な精神医学データベース(PubMed、ISI Web of Knowledge、PsychInfo)より検索を行った。TRDに対する薬理学的増強療法を主なトピックスとし、TRDの明確な定義が記載されている英語論文を抽出した。 主な結果は以下のとおり。・最も研究されていた薬剤は、アリピプラゾールとリチウムであった。・有効性に関して、最も強力なエビデンスが示された薬剤は、アリピプラゾールであった。・オランザピン、クエチアピン、cariprazine、リスペリドン、ziprasidoneは、良好な結果が認められたが、その程度は低かった。・ブレクスピプラゾール、esketamine点鼻薬については、実臨床でのさらなる研究が求められる。・ケタミン静脈内投与は、短期的な抗うつ効果が認められた。・補助的な治療薬(抗てんかん薬、神経刺激薬、プラミペキソール、ロピニロール、アスピリン、メチラポン、レセルピン、テストステロン、T3/T4、naltrexone、SAM-e、亜鉛)の有効性に関するエビデンスは限られており、その有効性を正確に推定することは困難であった。・ラモトリギン、ピンドロールに関するエビデンスは、否定的なものであった。 著者らは「リチウムに関するデータは多少の議論の余地があるものの、TRD患者に対する効果的な増強療法として、アリピプラゾールとリチウムが有効であることが示唆された。他の薬剤については、信頼できる結論を導き出すことができなかった。これらの結果を明らかにするためには、標準化されたデザイン、用量、治療期間を用いて制御された比較研究が必要であろう」としている。

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咳嗽も侮れない!主訴の傾聴だけでは救命に至らない一例【Dr.山中の攻める!問診3step】第10回

第10回 咳嗽も侮れない!主訴の傾聴だけでは救命に至らない一例―Key Point―咳は重大な疾患の一つの症状であることがある詳細な問診、咳の持続時間、胸部レントゲン所見から原因疾患を絞り込むことができる慢性咳に対するアプローチを習得しておくと、患者満足度があがる症例:45歳 男性主訴)発熱、咳、発疹現病歴)3週間前、タイのバンコクに出張した。2週間前から発熱あり。10日前に帰国した。1週間前から姿勢を変えると咳がでる。38℃以上の発熱が続くため紹介受診となった。既往歴)とくになし薬剤歴)なし身体所見)体温:38.9℃ 血圧:132/75mmHg 脈拍:88回/分 呼吸回数:18回/分 SpO2:94%(室内気)上背部/上胸部/顔面/頭部/手に皮疹あり(Gottron徴候、機械工の手、ショールサインあり)検査所見)CK:924 IU/L(基準値62~287)経過)胸部CT検査で両側の間質性肺炎ありCK上昇、筋電図所見、皮膚生検、Gottron徴候、機械工の手、ショールサインから皮膚筋炎1)と診断された筋力低下がほとんど見られなかったので、amyopathic dermatomyositis(筋無症候性皮膚筋炎)と考えられるこのタイプには、急性発症し間質性肺炎が急速に進行し予後が悪いことがある2)本症例ではステロイドと免疫抑制剤による治療を行ったが、呼吸症状が急速に悪化し救命することができなかった◆今回おさえておくべき臨床背景はコチラ!急性の咳(<3週間)では致死的疾患を除外することが重要である亜急性期(3~8週間)の咳は気道感染後の気道過敏または後鼻漏が原因であることが多い慢性咳(>8週間)で最も頻度が高い原因は咳喘息である【STEP1】患者の症状に関する理解不足を解消させよう【STEP2】緊急性のある疾患かどうか考えよう咳を伴う緊急性のある疾患心筋梗塞、肺塞栓、肺炎後の心不全悪化重症感染症(重症肺炎、敗血症)気管支喘息の重積肺塞栓症COPD (慢性閉塞性肺疾患)の増悪間質性肺炎咳が急性発症ならば、心血管系のイベントが起こったかをまず考える心筋梗塞や肺塞栓症、肺炎は心不全を悪化させる心筋梗塞や狭心症の既往、糖尿病、高血圧、喫煙、脂質異常症、男性、年齢が虚血性心疾患のリスクとなる3つのグループ(高齢、糖尿病、女性)に属する患者の心筋梗塞は非典型的な症状(息切れ、倦怠感、食欲低下、嘔気/嘔吐、不眠、顎痛)で来院する肺塞栓症のリスクは整形外科や外科手術後、ピル内服、長時間の座位である呼吸器疾患(気管支喘息、COPD、間質性肺炎、結核)の既往に注意するACE阻害薬は20%の患者で内服1~2週間後に咳を起こす【STEP3-1】鑑別診断:胸部レントゲン所見と咳の期間で行う胸部レントゲン写真で肺がん、結核、間質性肺炎を確認する亜急性咳嗽(3~8週間)の原因の多くはウイルスやマイコプラズマによる気道感染である細菌性副鼻腔炎では良くなった症状が再び悪化する(二峰性の経過)。顔面痛、後鼻漏、前かがみでの頭痛増悪を確認する百日咳:咳により誘発される嘔吐とスタッカートレプリーゼが特徴的である2)【STEP3-2】鑑別診断3):慢性咳か否か8週間以上続く慢性咳の原因は咳喘息、上気道咳症候群(後鼻漏症候群)、逆流性食道炎、ACE阻害薬、喫煙が多い上記のいくつかの疾患が合併していることもある咳喘息が慢性咳の原因として最も多い。冷気の吸入、運動、長時間の会話で咳が誘発される。ほかのアレルギー疾患、今までも風邪をひくと咳が長引くことがなかったかどうかを確認する非喘息性好酸球性気管支炎(NAEB:non-asthmatic eosinophilic bronchitis)が慢性咳の原因として注目されている3)上気道咳症候群では鼻汁が刺激になって咳が起こる。鼻咽頭粘膜の敷石状所見や後鼻漏に注意する夜間に増悪する咳なら、上気道咳症候群、逆流性食道炎、心不全を考える【治療】咳に有効な薬は少ないハチミツが有効とのエビデンスがある4)咳喘息:吸入ステロイド+気管支拡張薬上気道咳症候群:アレルギー性鼻炎が原因なら点鼻ステロイド、アレルギー以外の原因なら第一世代抗ヒスタミン薬3)逆流性食道炎:プロトンポンプ阻害薬<参考文献・資料>1)Mukae H, et al. Chest. 2009;136:1341-1347.2)Rutledge RK, et al. N Engl J Med. 2012;366:e39.3)ACP. MKSAP19. General Internal Medicine. 2021. p19-21.4)Abuelgasim H, et al. BMJ Evid Based Med. 2021;26:57-64.

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点鼻薬 使い方と使い分けのポイントは?【ママに聞いてみよう(6)】

ママに聞いてみよう(6)点鼻薬 使い方と使い分けのポイントは?講師:堀 美智子氏 / 医薬情報研究所 (株)エス・アイ・シー取締役、日本女性薬局経営者の会 会長動画解説OTCの点鼻薬はどれがお薦めか、花粉症の患者さんに尋ねられた沙耶華さんは、一定期間使用することから、血管収縮成分を含まないものを提案しました。ほかにどのようなことを確認、説明すべきだったのか、美智子先生が教えます。

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コロナ禍の中で花粉症診療へ行くべきか/アイスタット

 花粉症の季節が到来した。街中ではマスクだけでなく、花粉防止のゴーグルをかけた人を見かけるようになった。新型コロナウイルス感染症が収束をみせない中、慢性疾患や花粉症に代表される季節性疾患の診療に例年とは異なる動きはあるのであろうか。 株式会社アイスタット(代表取締役社長:志賀 保夫)は、2月25日に花粉症の理由で病医院を受診する人の割合、傾向を知る目的として、花粉症に関するアンケート調査を行い、その結果を発表した。 アンケートは、業界最大規模のモニター数を誇るセルフ型アンケートツール“Freeasy”の会員で20~69歳、東京・神奈川・千葉・埼玉に在住の300人を対象に実施した。同社では今後も毎月定期的に定点調査を行い、その結果を報告するとしている。調査概要形式:WEBアンケート方式期日:2021年2月19日対象:セルフ型アンケートツール“Freeasy”の登録者300人(20~69歳)で東京・神奈川・千葉・埼玉在住者アンケート結果の概要・花粉症が「現在ない」と回答した割合は46.3%、花粉症歴が「長い」は26.0%、「中間」は16.0%、「短い」は11.7%・花粉症歴が「長い」と回答した人ほど、医療機関を「毎年、受診している」が多い結果に・花粉症の強さが「軽症」と回答した人は、医療機関を「1度も受診したことがない」が最多に。「中等症」「重症」と回答した人は、医療機関を「毎年、受診している」が最多に・花粉症の三大症状の「鼻水」「目のかゆみ・痛み・涙」「くしゃみ」は70%以上に・花粉症の症状で「鼻水」を回答した人は、医療機関を「1度も受診したことがない」が最多に・コロナ禍により、花粉症の症状で病医院の受診を控えるかは、「そう思う」42.9%が「そう思わない」24.8%を上回ったアンケート結果の概要 「花粉症と自覚した時期」について聞いたところ、「現在、花粉症でない」が46.3%で最多であり、次に「長い」(約15年超)が26.0%、「中間」(約5~15年)が16.0%、「短い」(最近~5年以内)が11.7%だった。※以下は「花粉症歴があると回答した161人」の回答 「花粉症の症状」を聞いたところ、「鼻水」、「目のかゆみ・痛み・涙」がともに77.0%で最も多く、次に「くしゃみ」が73.9%、「鼻づまり」が56.5%、「だるい、ボーっとする」が26.1%と多かった。 「花粉症の強さを自身の判断」で聞いたところ、「軽症」が47.2%で最も多く、次に「中等症」が42.2%、「重症」が8.1%だった。 「花粉症対策として病医院の処方箋・市販薬も含め服用・使用している薬」について聞いたところ、「飲み薬(1種類)」が42.9%と最も多く、次に「点眼薬」が32.9%、点鼻薬が21.1%と上位を占めた。その一方で、「薬を服用、使用していない」が29.2%いた。薬に頼らずに我慢する患者の存在もうかがわれた。 「花粉症の理由で病院に受診したことがあるか」を聞いたところ、「1度も受診したことがない」が45.3%で最も多く、「その年の症状により受診」が32.3%、「毎年、受診している」が22.4%だった。花粉症軽度の割合が多いことから医療機関へ受診につながらないことが推定された。 「今シーズン(2021年春季)、花粉症の治療のために病院を受診するか」を聞いたところ、「受診する予定はない」が70.2%と最多で、「受診する予定」が18.0%、「すでに受診した」が11.8%だった。花粉症診療へ消極的な動きが判明した。 「昨今のコロナ禍により病医院へ受診することを控えようと思うか」を聞いたところ、「非常に」「やや」を足し合わせた「そう思う」が42.9%、「どちらともいえない」が32.3%、「あまり思わない」「まったく思わない」を足し合わせた「そう思わない」の24.8%と診療を控える傾向がうかがわれた。 「花粉症で病医院を受診する決め手」を聞いたところ、「病医院で処方される薬の方がドラッグストアなどの市販薬より、効果があるから」が34.2%で最も多く、次に「病医院で処置・治療してもらうと効き目があるから」が26.7%、「病医院を受診することで安心感を得たいから」が19.9%と上位を占めた。受診の決め手となる動機では、医療機関から処方される治療薬への期待がうかがわれた。

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頬粘膜投与でてんかん重積発作を抑える「ブコラム口腔用液2.5mg/5mg/7.5mg/10mg」【下平博士のDIノート】第68回

頬粘膜投与でてんかん重積発作を抑える「ブコラム口腔用液2.5mg/5mg/7.5mg/10mg」今回は、抗けいれん薬「ミダゾラム(商品名:ブコラム口腔用液2.5mg/5mg/7.5mg/10mg、製造販売元:武田薬品工業)」を紹介します。本剤を使用することで、医療機関外であっても18歳未満のてんかん重積状態患者の発作を速やかに抑えることができます。<効能・効果>本剤は、てんかん重積状態の適応で、2020年9月25日に承認され、2020年12月10日より発売されています。<用法・用量>通常、ミダゾラムとして、修正在胎52週(在胎週数+出生後週数)以上1歳未満の患者には1回2.5mg、1歳以上5歳未満の患者には1回5mg、5歳以上10歳未満の患者には1回7.5mg、10歳以上18歳未満の患者には1回10mgを頬粘膜投与します。シリンジ液剤の全量を片側の頬粘膜に緩徐に投与しますが、体格の小さい患者や用量が多い場合は、必要に応じて両側の頬粘膜に半量ずつ投与することができます。なお、18歳以上の患者に対する有効性および安全性は確立されていません。<安全性>国内第III相試験(SHP615-301試験、SHP615-302試験)において、副作用は25例中5例(20.0%)で報告されており、主なものは、鎮静、傾眠、悪心、嘔吐、下痢各1例(いずれも4.0%)でした。なお、重大な副作用として、呼吸抑制が1例(4.0%)で報告されており、無呼吸、呼吸困難、呼吸停止などが注意喚起されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、歯ぐきと頬の間に投与することで、脳内の神経の過剰な興奮を鎮めて、てんかん重積状態の発作を抑えます。2.発作が開始してすぐに本剤を投与せず、自然に発作がおさまるかどうか観察し、投与判断の目安は医師の指示に従ってください。患者さんに嘔吐やよだれがある場合は、投与前に拭き取ってください。3.投与する際は、片側の頬をつまみ広げ、シリンジの先端を下の歯ぐきと頬の間に入れ、ゆっくりと全量を注入します。体格が小さい場合や使用量が多い場合は、医師の指示によって両側の頬に半量ずつ注入することもできます。4.この薬は頬粘膜から吸収されるため、可能な限り飲み込まないように注意してください。5.投与後は、原則救急搬送の手配を行い、医療者がこの薬の使用状況を確認できるように使用済みのシリンジを提示してください。6.保管時は、プラスチックチューブに封入された状態でふた側を上向きにして立てた状態にしてください。ふた側を下向きまたは水平にして保管すると、含量が低下する恐れがあります。<Shimo's eyes>通常、てんかん発作の多くは1~2分でおさまりますが、30分以上持続すると脳への長期的な後遺障害に至る可能性が高くなります。そのため、発作が5分以上持続する場合はてんかん重積状態と判断して、治療を始めることが国内外のガイドラインで推奨されています。2020年2月時点で、ミダゾラム口腔用液は欧州を中心に世界33ヵ国で承認されていますが、わが国で発売されているのは注射製剤(商品名:ミダフレッサ)のみで、ほかの小児を含む早期てんかん重積状態の第1選択薬として推奨されている薬剤もジアゼパムやロラゼパムの注射製剤でした。注射製剤は医療機関で投与されますが、救急搬送に時間を要して治療開始までに30分以上経過してしまう例が多く、患者団体や関連学会から非静脈経路で利便性および即効性の高い薬剤の開発が要望されていました。本剤は、国内初のてんかん重積状態に対する頬粘膜投与用のプレフィルドシリンジ製剤で、医療機関外でも家族や介護者などによって投与することができます。第III相臨床試験では、5分以内に64%、10分以内に84%で持続性発作が消失するという速やかな効果が認められました。適応があるのは18歳未満の患者さんで、年齢別に4種類の投与量のシリンジがあり、ラベルで色分けされています。主成分であるミダゾラムはCYP3A4の基質であり、本剤はCYP3A4を阻害あるいは誘導する薬剤との併用は禁忌です。副作用として呼吸抑制および徐脈などが現れる恐れがあるため、本剤の投与時は患者さんの呼吸や脈拍数に異常がないかなどを注意深く観察するとともに、救急車の手配も並行して行うなど冷静な対応が求められます。近年、アナフィラキシーに対するアドレナリン注射液(同:エピペン)に加え、糖尿病の低血糖状態に対する点鼻グルカゴン製剤(同:バクスミー点鼻粉末剤)、そして本剤など、患者さんの緊急時に身近な人が対応できる製剤が増えてきました。薬局では、患者さんや家族・介護者がいざというときに正しく安全に使えるよう、使用方法について理解度の確認が重要です。※2022年7月より、学校・保育所等で児童がてんかんを発症した場合、教職員が当該児童生徒等に代わって投与可能となりました。参考1)PMDA 添付文書 ブコラム口腔用液2.5mg/ブコラム口腔用液5mg/ブコラム口腔用液7.5mg/ブコラム口腔用液10mg

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重症低血糖に迅速対応できる初の点鼻グルカゴン製剤「バクスミー点鼻粉末剤3mg」【下平博士のDIノート】第65回

重症低血糖に迅速対応できる初の点鼻グルカゴン製剤「バクスミー点鼻粉末剤3mg」今回は、重症低血糖治療薬「グルカゴン点鼻粉末(商品名:バクスミー点鼻粉末剤3mg、製造販売元:日本イーライリリー)」を紹介します。本剤は、患者の意識がない場合であっても家族などが使いやすい経鼻投与のグルカゴン製剤で、重症低血糖の迅速な救急処置が可能になると期待されています。<効能・効果>本剤は、低血糖時の救急処置の適応で、2020年3月25日に承認され、同年10月2日より発売されています。<用法・用量>通常、グルカゴンとして1回3mgを鼻腔内に投与します。なお、飢餓状態、副腎機能低下症、頻発する低血糖、一部糖原病、肝硬変などの場合は血糖上昇効果がほとんど期待できず、アルコール性低血糖の場合は血糖上昇効果がみられません。<安全性>日本人1型および2型糖尿病患者を対象とした国内第III相臨床試験(IGBJ試験)において、安全性評価対象症例71例中12例(16.9%)に副作用が報告されました。主な副作用は、鼻痛6例(8.5%)、血圧上昇、悪心各4例(5.6%)、嘔吐、耳痛各2例(2.8%)でした(承認時)。なお、重大な副作用として、ショック、アナフィラキシー(いずれも頻度不明)が現れる恐れがあります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、低血糖を起こした際の救急処置に用います。肝臓に働きかけてブドウ糖の放出を促すことで、血糖を一時的に上げます。2.「意識がはっきりしない」「口から糖分を摂れない」など、周りの人の助けが必要な低血糖状態になったときに使用する1回使い切りタイプの点鼻粉末薬です。3.包装フィルムは使用する直前まではがさないでください。使用時は、赤い部分を引っ張って、容器から噴霧器を取り出します。噴霧器を支える人差し指また中指が鼻に当たるまで、点鼻容器の先端を片方の鼻の穴にゆっくり差し込んでから、注入ボタンを緑色の線が見えなくなるまで押し切ってください。4.噴霧後は、すぐに主治医に連絡し、医療機関を受診してください。その際、低血糖の発生状況や使用した結果などを主治医に伝えてください。5.本剤の効果は一時的なものなので、意識がある場合は速やかに糖分を摂取してください。追加投与による効果は期待できないため、本剤またはほかのグルカゴン製剤の追加投与は行わないでください。<Shimo's eyes>糖尿病治療による低血糖は、症状が起きたときに速やかかつ適切に対処することができれば回復が見込めますが、進行すると重症低血糖に陥り、昏睡や痙攣、脳障害などの後遺症を起こすほか、死に至ることもあります。従来、医療機関外であっても緊急時に対処できるようにグルカゴン注射薬が用いられていますが、使用時の手順が複雑で、患者およびその看護者(家族など)の負担が大きいという問題があります。本剤は、注射薬以外の低血糖治療薬として初のグルカゴン製剤です。室温で持ち運びができる1回使い切りタイプの点鼻粉末製剤で、看護者などが投与することで重症低血糖の救急処置を行うことができます。本剤は鼻粘膜から吸収されるため吸入や深呼吸の必要がなく、意識がない患者にも使用可能です。患者およびその看護者が、本剤を必要とする場面で迅速に対処できるように、投与方法・保管方法について十分に指導する必要があります。いざという場面で戸惑わないために、デモ機などを活用して理解度に合わせた指導を行いましょう。参考1)PMDA 添付文書 バクスミー点鼻粉末剤3mg

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セルメ税制の延長・拡大でスイッチOTC化は増える?【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第55回

セルフメディケーション税制は、スイッチOTC医薬品を購入した際に、その購入費用が所得控除できる制度で、5年間の特例として2017年に始まりました。あまり盛り上がることもなく若干忘れられつつある気がしますが、このセルフメディケーション税制が延長・拡大しそうです。厚生労働省は21年度税制改正要望をまとめた。(中略)セルフメディケーション税制は、2017年~2021年の5年間に限って適用が認められている。厚労省は「インセンティブ効果の維持・強化が重要で、政策効果の検証を引き続き実施することが必要」とし、「2022年から5年間の延長」(2026年まで)を求める。対象品目については既存制度の対象である「スイッチOTC薬」に加えて、「非スイッチOTC薬のうち、治療・療養に使用されるものも対象とする」ことを要望する。(RISFAX 2020年9月25日)期間の延長だけではなく、対象となる医薬品の拡大や所得税控除額上限の引き上げなども要望しています。昨年の調査では、セルフメディケーション税制の認知度は71.3%と高いものの、利用意向は11.0%と低調でしたが、これが実現するとずいぶん使いやすくなりそうです。また、5月には、内閣府の規制改革推進会議において、「一般用医薬品(スイッチOTC)選択肢の拡大に向けた意見」が示され、スイッチOTC医薬品の開発や普及のための取り組みを求めるなど、セルフメディケーションに関する議論が活発化しています。スイッチOTCについてはもはや説明するまでもありませんが、医療用医薬品として用いられている成分を一般用医薬品へ転用することです。スイッチOTC化する成分については、以前は日本薬学会が候補成分を選定し、日本医学会などの関係医学会に意見を聞いたうえで了承していましたが、2015年6月の閣議決定を受けて、関連学会や団体、消費者などから候補成分の要望を受け付けて、医学・薬学の専門家などで構成される評価検討会議が議論、承認するという新しいスキームができました。この新しいスキームでは消費者の意見も反映されるため脚光を浴びました。しかし、実際に新しいスキームによって発売されたスイッチOTC医薬品は「フルコナゾール点鼻薬」の1成分のみです。この新しいスキームなるものは、スイッチOTC化を推進するどころか、結果的にスイッチOTC化をせき止めてしまったと言っても過言ではないかもしれません。この問題に着目した規制改革推進会議は、スイッチOTC化を推進するだけでなく、評価検討会議の役割の見直しなどセルフメディケーション全体を促進する仕組みを再構築する旨の意見を提出しています。セルフメディケーションの推進はもはや国策ですので、おそらく今後はスイッチOTC化が進むと想像できます。コロナもセルフメディケーションを推進国の政策とは別に、セルフメディケーションが進む要因として新型コロナウイルス感染症の流行も考えられます。医療機関への受診が抑制されたこともあり、軽い症状の場合は自宅での療養を選択する患者さんが多くなってきました。思ってもみなかったセルフメディケーションへの追い風で、受診しなくても購入可能なOTC医薬品の利用がさらに進むのではないかと思っています。これらの変化が実際にセルフメディケーションにどう影響するのか、そして販売する薬剤師の役割がどう変わるのか、引き続きウオッチしていきたいと思います。

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低血糖時の救急処置に初の点鼻薬、バクスミー発売/日本イーライリリー

 2020年10月2日、日本イーライリリーは、「低血糖時の救急処置」を効能・効果として、低血糖時救急治療剤「バクスミー点鼻粉末剤3mg」(一般名:グルカゴン)を発売したと発表した。本剤はグルカゴン点鼻粉末剤で、注射剤以外の低血糖治療剤として初の製剤。室温(1~30℃)で持ち運びができる1回使い切りの製剤で、看護者(家族等)が投与することにより重症低血糖の救急処置を行うことができる。また、鼻粘膜から吸収されるため、重症低血糖に陥り意識を失っている患者に対しても使用可能である。薬剤は噴霧器に充填されており、点鼻容器の先端を鼻に入れ、注入ボタンを押すことで緊急時に迅速かつ簡便に投与できる。 本剤の迅速性および確実性については、糖尿病患者の介護者20例(1型糖尿病患者および2型糖尿病患者の2親等以内の同居家族各10例)を対象とした国内単一施設非盲検部分的クロスオーバー模擬投与試験で検証されている。本剤の経鼻投与およびグルカゴン注射剤1mg筋肉内投与、双方の使用方法の説明を受けた看護者(家族等)がマネキンへの模擬投与を行い、その成功率を確認したところ、本剤を模擬投与した89.5%が全量投与に成功した。模擬投与完了までの平均時間は24秒だった。 製品概要製品名:バクスミー点鼻粉末剤3mg一般名:グルカゴン効能・効果:低血糖時の救急処置用法・用量:通常、グルカゴンとして1回3mgを鼻腔内に投与する製造発売承認日:2020年3月25日発売日:2020年10月2日薬価:8,368.60円(3mg1瓶)

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第18回 待望のプラセボ対照無作為化試験でCOVID-19にインターフェロンが有効

中国武漢での非無作為化試験1)や香港での無作為化試験2)等で示唆されていたインターフェロン1型(1型IFN)の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療効果が小規模ながら待望のプラセボ対照無作為化試験で裏付けられました3,4)。先週月曜日(20日)の速報によると、英国のバイオテクノロジー企業Synairgen社の1型IFN(インターフェロンβ)吸入薬SNG001を使用したCOVID-19入院患者が重体になる割合はプラセボに比べて79%低く、回復した患者の割合はプラセボを2倍以上上回りました。わずか100人ほどの試験は小規模過ぎて決定的な結果とはいい難いと用心する向きもありますが、SNG001は新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)食い止めに大いに貢献する吸入薬となりうると試験を率いた英国・サウサンプトン大学の呼吸器科医Tom Wilkinson教授は言っています5)。Synairgen社を率いるCEO・Richard Marsden氏にとっても試験結果は朗報であり、COVID-19入院患者が酸素投与から人工呼吸へと悪化するのをSNG001が大幅に減らしたことを喜びました。投資家も試験結果を歓迎し、Synairgen社の株価は試験発表前には36ポンドだったのが一時は236ポンドへと実に6倍以上上昇しました。この記事を書いている時点でも200ポンド近くを保っています。Synairgen社は入院以外でのSNG001使用も視野に入れており、COVID-19発症から3日までの患者に自宅でSNG001を吸入してもらう初期治療の試験をサウサンプトン大学と協力してすでに英国で始めています6)。米国では1型IFNではなく3型IFN(Peginterferon Lambda-1a)を感染初期の患者に皮下注射する試験がスタンフォード大学によって実施されています7)。インターフェロンは感染の初期治療のみならず予防効果もあるかもしれません。中国・湖北省の病院での試験の結果、インターフェロンを毎日4回点鼻投与した医療従事者2,415人全員がその投与の間(28日間)COVID-19を発症せずに済みました8)。インターフェロンはウイルスの細胞侵入に対してすぐさま強烈な攻撃を仕掛ける引き金の役割を担います。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)はどうやらインターフェロンを抑制して複製し、組織を傷める炎症をはびこらせます4,9)。ただしSARS-CoV-2がインターフェロン活性を促すという報告10)や1型IFN反応が重度COVID-19の炎症悪化の首謀因子らしいとする報告11)もあり、インターフェロンは場合によっては逆にCOVID-19に加担する恐れがあります。米国立衛生研究所(NIH)のガイドライン12)では、重度や瀕死のCOVID-19患者へのインターフェロンは臨床試験以外では使うべきでないとされています。2003年に流行したSARS-CoV-2近縁種SARS-CoVや中東で依然として蔓延するMERS-CoVに感染したマウスへのインターフェロン早期投与の効果も確認されており13,14)、どの抗ウイルス薬も感染初期か場合によっては感染前に投与すべきと考えるのが普通だとNIHの研究者Ludmila Prokunina-Olsson氏は言っています15)。参考1)Zhou Q, et al. Front Immunol. 2020 May 15;11:1061.2)Hung IF, et al. Lancet. 2020 May 30;395:1695-1704.3)Synairgen announces positive results from trial of SNG001 in hospitalised COVID-19 patients / GlobeNewswire 4)Can boosting interferons, the body’s frontline virus fighters, beat COVID-19? / Science 5)Inhaled drug prevents COVID-19 patients getting worse in Southampton trial 6)People with early COVID-19 symptoms sought for at home treatment trial 7)OVID-Lambda試験(Clinical Trials.gov)8)An experimental trial of recombinant human interferon alpha nasal drops to prevent coronavirus disease 2019 in medical staff in an epidemic area. medRxiv. May 07, 2020 9)Hadjadj J, et al. Science. 2020 Jul 13:eabc6027.10)Zhuo Zhou, et al. Version 2. Cell Host Microbe. 2020 Jun 10;27(6):883-890.11)Lee JS, et al. Sci Immunol. 2020 Jul 10;5:eabd1554.12)Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) Treatment Guidelines,NIH 13)Channappanavar R, et al. Version 2. Cell Host Microbe. 2016 Feb 10;19:181-93. 14)Channappanavar R, et al. J Clin Invest. 2019 Jul 29;129:3625-3639.15)Seeking an Early COVID-19 Drug, Researchers Look to Interferons / TheScientist

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バクスミー:重症低血糖治療薬に初の点鼻粉末剤が登場

重症低血糖治療の現状日本では、年間約2万件の重症低血糖が発生していると推計されている1)。重症低血糖では、急激に血糖値が低下し自己対処が間に合わないケースや、自覚症状なく意識消失に至るケースがあり、回復には家族など看護者の援助が必要となる。重症低血糖を来した際の緊急処置は、これまでグルカゴン注射が主流だった。しかしグルカゴン注射は、消毒、グルカゴンの溶解、溶解液の注入、と注射に至るまでに煩雑な処置を要することから、より簡便に使用できるグルカゴン製剤が求められていた。迅速な投与が可能なグルカゴン点鼻粉末剤2020年3月、グルカゴンの点鼻粉末剤であるバクスミー(一般名:グルカゴン)が製造販売承認を取得した。注射剤以外の重症低血糖治療薬としては初の選択肢となる。重症低血糖の患者に対し、家族などの看護者が薬剤を鼻腔内に噴射して使用する。薬剤は点鼻容器に充填されており、調整作業が不要なため迅速な投与が可能だ。マネキンを用いた薬剤の摸擬投与試験によると、投与完了までの平均時間はグルカゴン注射剤で約207秒に対し、バクスミーで約24秒との報告もある2)。また、バクスミーは室温(1~30℃)で持ち運びができることも特徴の一つだ。グルカゴン筋注に対する非劣性と忍容性を確認 バクスミーの有効性および安全性は、1型糖尿病患者33例、2型糖尿病患者39例を対象とした国内第III相臨床試験で検討された。主要評価項目はインスリン誘導による低血糖からの回復率であり、バクスミー3mgの鼻腔投与群とグルカゴン注射剤1mgの筋肉内投与群が比較された。その結果、いずれの群においても30分以内の低血糖回復率が100%であり、バクスミーのグルカゴン注射剤に対する非劣性が確認された(非劣性マージン10%)。なお回復までの時間の平均値はそれぞれ12.0分、11.0分だった。 また本試験の副作用発現率は、バクスミー投与、グルカゴン注射剤投与でそれぞれ16.9%、12.9%であり、忍容性も確認された。もしもの場合に備えを重症低血糖に陥った場合、痙攣や脳障害などの重篤な症状、また死亡リスクにもつながる可能性がある。そのため低血糖リスクを減らすことはもとより、低血糖を来した際、適切に処置できるよう備えておくことが重要だ。重症低血糖治療薬にバクスミーが加わったことにより、重症低血糖のリスクやその対処法について、より患者を指導しやすくなる可能性を秘めている。その結果、重症低血糖の軽減、さらには早期のインスリン導入の促進につながることが期待できる。1)日本糖尿病学会-糖尿病治療に関連した重症低血糖の調査委員会-. 糖尿病. 2017;60:826-842.2)Aranishi T, et al. Diabetes Ther. 2020;11:197-211.

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吸入ステロイド使用者、認知症リスクが35%低い

 アルツハイマー病の病理学的カスケードにおいて神経炎症が重要な役割を示すことが報告され、神経炎症が治療標的として認識されてきている。今回、ドイツ・ロストック大学のMichael Nerius氏らが、ドイツにおける縦断的健康保険データを用いて認知症リスクに対するグルココルチコイドの影響を検討したところ、グルココルチコイドの使用が認知症リスクの低下に関連していることが示唆された。Journal of Alzheimer's disease誌オンライン版2019年11月18日号に掲載 本研究では、50歳以上の17万6,485人のベースラインサンプルにおいて、ドイツ最大の健康保険会社の2004~13年の健康保険データを使用し、グルココルチコイド治療と認知症の発症率との関連を調べた。Cox比例ハザードモデルにより、性別、年齢、認知症の主要な危険因子として知られている併存疾患を調整後、ハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)を算出した。さらに、グルココルチコイド治療について投与経路および治療期間で層別化して検討した。 主な結果は以下のとおり。・認知症ではない17万6,485人のうち、2013年の終わりまでに1万9,938人が認知症と診断された。・認知症発症リスクは、グルココルチコイド非使用者に比べ、使用者で有意に低かった(HR:0.81、95%CI:0.78~0.84)。・投与経路別にみると、吸入グルココルチコイドの使用者で最もリスクが低く(HR:0.65、95%CI:0.57~0.75)、次いで点鼻(HR:0.76、95%CI:0.66~0.87)、その他(HR:0.84、95%CI:0.80~0.88)と経口(HR:0.83、95%CI:0.78~0.88)の使用者で低かった。・長期使用者と短期使用者でリスク減少に差はなかった。 著者らは「グルココルチコイドが神経炎症にプラスの影響を与え、人々から認知症から守ることができるかどうかを判断するには、前向き臨床試験が必要」としている。

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国内初1日1回経口投与の子宮筋腫症状治療薬「レルミナ錠40mg」【下平博士のDIノート】第25回

国内初1日1回経口投与の子宮筋腫症状治療薬「レルミナ錠40mg」今回は、GnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)アンタゴニスト製剤「レルゴリクス錠(商品名:レルミナ錠40mg)」を紹介します。本剤は、フレアアップ現象を生じることなく子宮筋腫に基づく諸症状を改善する国内初の経口薬です。<効能・効果>本剤は、子宮筋腫に基づく諸症状(過多月経、下腹痛、腰痛、貧血)の改善の適応で、2019年1月8日に承認され、2019年3月1日より発売されています。また、2021年12月に「子宮内膜症に基づく疼痛の改善」の適応が追加されました。<用法・用量>通常、成人にはレルゴリクスとして40mgを1日1回食前に経口投与します。なお、初回投与は月経周期1~5日目に行います。本剤の投与によって、エストロゲン低下作用に基づく骨塩量の低下がみられることがあるので、6ヵ月を超える投与は原則として行われません。<副作用>国内第III相試験で認められた主な副作用は、不正子宮出血(46.8%)、ほてり(43.0%)、月経異常(15.5%)、頭痛、多汗、骨吸収試験異常(各5%以上)などでした。なお、重大な副作用としてうつ状態(1%未満)、肝機能障害(頻度不明)、狭心症(1%未満)が認められています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、下垂体に作用して卵巣からの女性ホルモンの分泌を低下させることで、子宮筋腫に基づく過多月経、下腹痛、腰痛、貧血などの症状を改善します。2.初回は、月経が始まった日から5日目までの間に服用を開始してください。3.食後の服用では薬の効き目が低下するため、食事の30分以上前に服用してください。4.この薬を服用している間はホルモン性避妊薬以外の方法で避妊をしてください。5.長期に使用すると骨塩量が低下することがあるため、日ごろから適度な運動を心がけ、カルシウムやビタミンD、ビタミンKを含む食材を積極的に取りましょう。6.気分が憂鬱になる、悲観的になる、思考力が低下する、眠れないなど、うつ様の症状が現れた場合にはご連絡ください。7.女性ホルモンの低下によって、ほてり、頭痛、多汗などの症状が現れることがあります。症状がつらいときはご相談ください。<Shimo's eyes>従来、子宮筋腫の薬物療法としてGnRHアゴニストであるリュープロレリン酢酸塩(商品名:リュープリン注)やブセレリン酢酸塩(同:スプレキュア皮下注/点鼻液)などが用いられています。GnRHアゴニストは、下垂体前葉にあるGnRH受容体を継続的に刺激することで本受容体を減少させ、卵胞刺激ホルモン(FSH)や黄体形成ホルモン(LH)の分泌を抑制させます。投与開始初期にはFSHやLH分泌が一過性に増加するため、不正性器出血や月経症状の増悪などのフレアアップ現象が生じやすいことが知られています。これに対しGnRHアンタゴニスト製剤である本剤は、GnRH受容体を選択的に阻害することでFSHとLHの分泌を抑制します。このため、投与開始初期であってもフレアアップ現象を生じることなく女性ホルモンであるエストラジオールおよびプロゲステロンの産生を低下させます。本剤は1日1回服用の経口薬であり、子宮筋腫に伴う諸症状に悩んでいる患者さんのアドヒアランスとQOLの向上が期待できます。投与に当たっては、妊娠中や授乳中でないかを確認するとともに、服用タイミングなどの指導をしっかり行ってこまめに経過を観察するようにしましょう。※2021年12月の添付文書改訂に伴い、一部内容の修正を行いました。

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第18回 花粉症患者に使える!こんなエビデンス、あんなエビデンス【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 インフルエンザがやっと落ち着いてきたと思ったら、花粉症が増える季節になりました。症状がひどい方は本当につらい季節で、身の回りでも花粉症の話題でもちきりとなっています。今回は、服薬指導で使える花粉症に関するお役立ち情報をピックアップして紹介します。アレルゲンを防ぐには?アレルギー性疾患では、アレルゲンを避けることが基本です1)。花粉が飛ぶピークタイムである昼前後と日没後、晴れて気温が高い日、空気が乾燥して風が強い日、雨上がりの翌日や気温の高い日が2~3日続いた後は外出を避けたり、マスクやメガネ、なるべくツルツルした素材の帽子などで防御したりしましょう。それ以外にも、鼻粘膜を通したアレルゲンの吸入を物理的にブロックするために、花粉ブロッククリームを直接鼻粘膜に塗布するという方法もあります。この方法は、ランダム化クロスオーバー試験で検証されており、アレルギー性鼻炎、ダニおよび他のアレルゲンに感受性のある成人および小児の被験者115例を、花粉ブロッククリーム群とプラセボ軟膏群に割り付けて比較検討しています。1日3回30日間の塗布で、治療群の鼻症状スコアが改善しています。ただし、必ずしも花粉ブロッククリームでないといけないわけではなく、プラセボ群でも症状改善効果が観測されています2)。ほかにも小規模な研究で鼻粘膜への軟膏塗布で有効性を示唆する研究3)がありますので、やってみる価値はあるかもしれません。症状を緩和する食材や栄養素は?n-3系脂肪酸大阪の母子健康調査で行われた、サバやイワシなどの青魚に多く含まれるn-3系脂肪酸の摂取量とアレルギー性鼻炎の有病率に関する研究で、魚の摂取量とアレルギー性鼻炎の間に逆の用量反応関係があることが指摘されています4)。ただし、急性の症状に対して明確な効果を期待できるほどの結果ではなさそうです。ビタミンEビタミンEがIgE抗体の産生を減少させる可能性があるとして、アレルギー性鼻炎患者63例を、ビタミンE 400IU/日群またはプラセボ群にランダムに割り付け、4週間継続(最初の2週間はロラタジン/プソイドエフェドリン(0.2/0.5/mg/kg)と併用)した研究があります。しかし、いずれの群も1週間で症状が改善し、症状スコアにも血清IgEにも有意差はありませんでした5)。カゼイ菌アレルギーは腸から起こるとよく言われており、近年乳酸菌やビフィズス菌が注目されています。これに関しては、カゼイ菌を含む発酵乳またはプラセボを2~5歳の未就学児童に12ヵ月間摂取してもらい、アレルギー性喘息または鼻炎の症状が改善するか検討した二重盲検ランダム化比較試験があります。187例が治療群と対照群に割り付けられ、アウトカムとして喘息/鼻炎の発症までの時間、発症数、発熱または下痢の発生数、血清免疫グロブリンの変化を評価しています。通年性の鼻炎エピソードの発生は治療群でやや少なく、その平均差は―0.81(―1.52~―0.10)日/年でした。鼻炎にわずかな効果が期待できるかもしれませんが、喘息には有効ではないとの結果です6)。薬物治療の効果は?薬物治療では、抗ヒスタミン薬、抗ロイコトリエン薬、アレルゲン免疫療法が主な選択肢ですが、抗ヒスタミン薬にフォーカスして見ていきましょう。比較的分子量が小さく、脂溶性で中枢性の副作用を生じやすい第1世代よりも、眠気など中枢性の副作用が少ない第2世代の抗ヒスタミン薬がよく用いられています。種々の臨床試験から、第2世代抗ヒスタミン薬は種類によって効果に大きな差はないと思われます。たとえば、ビラスチンとセチリジンやフェキソフェナジンを比較した第II相試験7)では、効果はほぼ同等でビラスチンは1時間以内に作用が発現し、26時間を超える作用持続を示しています。なお、ルパタジンとオロパタジンの比較試験では、ルパタジンの症状の改善スコアはオロパタジンとほぼ同等ないしやや劣る可能性があります8)。また、眼のかゆみなど症状がない季節性のアレルギー性鼻炎であれば、抗ヒスタミン薬よりもステロイド点鼻薬の有効性が高いことや、ステロイド点鼻薬に抗ヒスタミン薬を上乗せしても有意な上乗せ効果は期待しづらいことから、点鼻薬を推奨すべきとするレビューもあります9)。副作用は?抗ヒスタミン薬の副作用で問題になるのがインペアード・パフォーマンスです。インペアード・パフォーマンスは集中力や生産性が低下した状態ですが、ほとんどの場合が無自覚なので運転を控えるようにすることなどの指導が大切です。フェキソフェナジン、ロラタジン、またそれを光学分割したデスロラタジンなどはそのような副作用が少ないとされています10)。口渇、乏尿、便秘など抗コリン性の副作用は、中枢移行性が低いものでも意識しておくとよいでしょう。頻度は少ないですが、第1世代、第2世代ともに痙攣の副作用がWHOで注意喚起されています11)。万が一、痙攣などが起こった場合には被疑薬である可能性に思考を巡らせるだけでも適切な対応が取りやすくなると思います。予防的治療の効果は?季節性アレルギー性鼻炎に対する抗ヒスタミン薬の予防的治療効果について検討した二重盲検ランダム化比較試験があります12)。レボセチリジン5mgまたはプラセボによるクロスオーバー試験で、症状発症直後の早期服用でも花粉飛散前からの予防服用と同等の効果が得られています。予防的に花粉飛散前からの服用を推奨する説明がされがちですが、症状が出てから服用しても遅くはないと伝えると安心していただけるでしょう。服用量が減らせるため、医療費抑制的観点でも大切なことだと思います。鼻アレルギー診療ガイドラインでも、抗ヒスタミン薬とロイコトリエン拮抗薬は花粉飛散予測日または症状が少しでも現れた時点で内服とする主旨の記載があります1)。以上、花粉症で服薬指導に役立ちそうな情報を紹介しました。花粉症対策については環境省の花粉症環境保健マニュアルによくまとまっています。また、同じく環境省による花粉情報サイトで各都道府県の花粉飛散情報が確認できますので、興味のある方は参照してみてください13)。1)鼻アレルギー診療ガイドライン2016年版2)Li Y, et al. Am J Rhinol Allergy. 2013;27:299-303.3)Schwetz S, et al. Arch Otolaryngol Head Neck Surg. 2004;130:979-984.4)Miyake Y, et al. J Am Coll Nutr. 2007;26:279-287.5)Montano BB, et al. Ann Allergy Asthma Immunol. 2006;96:45-50.6)Giovannini M, et al. Pediatr Res. 2007;62:215-220.7)Horak F, et al. Inflamm Res. 2010;59:391-398.8)Dakhale G. J Pharmacol Pharmacother. 2016 Oct-Dec 7:171–176.9)Stempel DA, et al. Am J Manag Care. 1998;4:89-96.10)Yanai K, et al. Pharmacol Ther. 2007 Jan 113:1-15.11)WHO Drug Information Vol.16, No.4, 200212)Yonekura S, et al. Int Arch Allergy Immunol. 2013;162:71-78.13)「環境省 花粉情報サイト」

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慢性不眠症患者におけるバイオレットオイルの有効性に関するランダム化二重盲検プラセボ対照試験

 バイオレットオイルは、昔ながらのイランの診療所において、不眠症を治療するため広く用いられてきた古典的なハーブ薬である。バイオレットオイルは、アーモンドまたはゴマ油をベースとするニオイスミレ(Viola odorata)の抽出物であり、点鼻薬として用いられる。イラン・マシュハド医科大学のZohre Feyzabadi氏らは、不眠症治療におけるバイオレットオイルの有効性を評価するため、検討を行った。Journal of ethnopharmacology誌2018年3月25日号の報告。 本研究は、3アーム二重盲検ランダム化比較試験として実施された。慢性不眠症患者75例を対象に、イラン・マシュハド医科大学の昔ながらの診療所において3群にランダムに割り付けられた。バイオレットオイル、アーモンドオイル、プラセボ(カルボキシメチルセルロースの1%液)のいずれかを、就寝前に鼻腔内投与(3滴)を30日間行った。すべての患者に対し、ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)および不眠症重症度質問票(ISI)による評価を行った。 主な結果は以下のとおり。・介入前、3群間に有意な差は認められなかった(p>0.05)。・介入後、ISIスコア(p<0.002)およびPSQIスコア(p<0.001)において、3群間に有意な差が認められた。・治療前後のデータを比較すると、ISIスコアおよびPSQIスコアは、バイオレットオイル、アーモンドオイル、プラセボの3群すべてにおいて、有意な改善が認められた(各々p<0.001)。・3群間において、バイオレットオイルが、最も効果的であることが認められた。・睡眠量よりも睡眠の質において、より効果的であった。 著者らは「不眠症患者に対する睡眠の質への改善効果を考慮すると、天然およびハーブ薬であるバイオレットオイルは、重大な副作用を伴うことなく不眠症治療に用いることができる」としている。■関連記事不眠症の人おすすめのリラクゼーション法とは音楽療法が不眠症に有用チェリージュースによる不眠症治療とそのメカニズムを研究するためのパイロット研究

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オーソライズド・ジェネリックで逆戻りが約3割低下/BMJ

 先発医薬品(branded drug products)からオーソライズド・ジェネリック医薬品(authorized generic drug products)へ切り替えた患者は、先発医薬品からジェネリック医薬品(generic drug products)への切り替え例に比べ、先発医薬品への再切り替えの割合が低いことが、米国・ブリガム&ウィメンズ病院のRishi J. Desai氏らの調査で明らかとなった。研究の成果は、BMJ誌2018年4月3日号に掲載された。ジェネリック医薬品は、先発医薬品と有効成分は同じだが、外観や賦形剤が異なる後発薬であり、オーソライズド・ジェネリック医薬品は、先発医薬品を開発した製薬企業が製造したジェネリック医薬品であるため、両者は有効成分、外観、賦形剤が同じである。先発医薬品とジェネリック医薬品の外観、賦形剤の違いは、ジェネリック医薬品への否定的な見方に寄与する可能性があり、先発医薬品への逆戻りは医療費の増大を招くという。オーソライズド・ジェネリック医薬品切り替え患者の先発薬への再切り替え状況 研究グループは、先発医薬品から、オーソライズド・ジェネリック医薬品に変更した患者またはジェネリック医薬品に変更した患者が、再び先発医薬品に変更する割合を比較する観察的コホート研究を行った(米国食品医薬品局[FDA]の助成による)。 解析には、2004~13年の米国の民間保険(大規模な商業医療保険)の加入者(プライマリ・コホート)と、2000~10年の公的保険(メディケイド)の加入者(再現コホート)のデータを用いた。 8つの試験薬(アレンドロン酸錠、アムロジピン錠、アムロジピン/ベナゼプリル・カプセル、サケカルシトニン点鼻スプレー、エスシタロプラム錠、glipizide徐放錠、キナプリル錠、セルトラリン錠)のうち1つの先発医薬品投与を受け、ジェネリック医薬品の上市以降にオーソライズド・ジェネリック医薬品またはジェネリック医薬品に切り替えた患者を同定した。これらの患者を追跡し、先発医薬品への再切り替え状況を評価した。 Cox比例ハザードモデルを用いて、年齢、性別、暦年で調整したハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)を推算した。逆分散法によるメタ解析を行い、全医薬品の補正後HRを統合した。オーソライズド・ジェネリック医薬品は再切り替え発生率が28%低下 サケカルシトニン点鼻スプレーについてはサンプルサイズが不十分であったため、再切り替えの解析からは除外した。先発医薬品から、9万4,909例がオーソライズド・ジェネリック医薬品に、11万6,017例がジェネリック医薬品に切り替えていた。 再切り替えの補正前発生率は、医薬品によってばらつきがみられ、100人年当たりアレンドロン酸錠の3.8から、アムロジピン/ベナゼプリル・カプセルの17.8までの幅が認められた。全医薬品における再切り替え発生率は100人年当たり8.2(発生の率比:0.83、95%CI:0.80~0.87)だった。 プライマリ・コホートにおける補正後再切り替え発生率は、先発医薬品からオーソライズド・ジェネリック医薬品に切り替えた患者が、ジェネリック医薬品への切り替え例に比べ28%低かった(統合HR:0.72、95%CI:0.64~0.81)。再現コホートでも、ほぼ同様の結果が観察された(0.75、0.62~0.91)。 著者は、「先発医薬品への逆戻りを防ぐには、患者-医療者間のコミュニケーションを改善する介入を行って、質、安全性、有効性に関する先発医薬品とジェネリック医薬品の同等性の認知度を上げることが、きわめて重要と考えられる」とし、「先発医薬品とジェネリック医薬品の外観を一致させることも、先発医薬品への逆戻りを防ぐ手立てとなる可能性がある」と指摘している。

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012)憎き花粉との戦い【Dr.デルぽんの診察室観察日記】

第12回 憎き花粉との戦いしがない皮膚科勤務医デルぽんです☆小4の頃から毎年のように悩まされている、この時期の花粉…!(スギ・ヒノキ)今年はいよいよ抗アレルギー薬の内服量を増やし、毎度ぬかりなく点眼・点鼻も併用し、たまの外出には必ずマスクとメガネとつるつるの服の完全防護。そして、帰宅の際には室内に花粉を持ち込まないよう、しっかりと払い落としてから中に入り、掃除も万全。とにかく目は掻かないように、冷やしたり、なんだりしているものの…。痒い!今年は「目が痒い」という患者さんがたくさん来ていますが、たしかに今年はとくに目が痒いです!!風の強い日には(極力外出しないようにしているものの、どうしても出るときは)、もはや目を閉じ気味にし、いざとなったら瞳を閉じてシャットアウト(※気持ちだけ)。皮膚に花粉が直接つかないよう、目の周りに軟膏(プロペト)を塗ってみたり、静電気防止の花粉ガードスプレーをしてみたり、とあの手この手で挑んでいますが、今年はなかなか苦戦中です…。全国の杉がニクイ!!では、また次回! バーイ☆

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遺伝性出血性毛細血管拡張症〔HHT:hereditary hemorrhagic telangiectasia〕

1 疾患概要■ 概念と疫学血管新生に重要な役割を持つTGF-β/BMPシグナル経路の遺伝子異常により、体のいろいろな部位に血管奇形が形成される疾患である。わが国では「オスラー病(Osler disease)」で知られているが、世界的には「遺伝性出血性毛細血管拡張症(HHT)」の病名が使われる。常染色体優性遺伝をするため、子供には50%の確率で遺伝するが、世代を超えて遺伝することはない。その頻度は5,000~8,000人に1人とされ、世界中で認められる。性差はなく、年齢が上がるにつれ、ほぼ全例で何らかのHHTの症状を呈するようになる。■ 病状繰り返し、誘因なしに鼻出血が起り、特徴的な皮膚・粘膜の毛細血管拡張病変(telangiectasia)が鼻腔・口唇・舌・口腔・顔面・手指・四肢・体幹などの好発部位に認められ、脳・肺・肝臓の血管奇形による症状を呈することもある。消化管の毛細血管拡張病変から慢性の出血が起こる。鼻出血や慢性の消化管出血による鉄欠乏性貧血が認められる。脳の血管奇形(頻度10%)により、脳出血や痙攣が起こる。肺の動静脈奇形(頻度50%)により呼吸不全、胸腔内出血、喀血、右→左シャントによる奇異性塞栓症で脳膿瘍や脳梗塞が起こる。肝臓の血管奇形(頻度70%)が症候性になることは少ないが、高齢者、とくに後述の2型のHHTの女性では、心不全、胆道系の虚血、門脈圧亢進症を呈することがある。頻度は低いが、脊髄にも血管奇形が起こり(頻度1%)、出血による対麻痺や四肢麻痺を呈する。 原発性肺高血圧症や肝臓の血管奇形による高心拍出量による心不全から二次性の肺高血圧症をまれに合併する。HHTは知識と経験があれば、問診・視診・聴診のような古典的な診療で診断可能な疾患であり、まずはこの疾患を疑うことが肝要である。■ 病因と予後家族内の親子・兄弟に同じ病的遺伝子変異があっても、必ずしも同じ症状を呈するわけではない。現在までにわかっているHHTの原因遺伝子は、Endoglin、ACVRL1、SMAD4遺伝子の3つであり、これら以外にも未知の遺伝子があるとされる。Endoglin変異によるHHTを1型(HHT1)といい、ACVRL1変異によるHHTを2型(HHT2)という。1型のHHTには、脳病変・肺病変が多く、2型のHHTには肝臓病変が多いが、1型に肝臓病変が、2型に脳病変・肺病変が認められることもある。遺伝子検査を行うと、1型と2型のHHTで約90%を占め、SMAD4遺伝子の変異は1%以下である。1型と2型の割合は地域・国によって異なり、わが国では1型が1.4倍多い。約10%で遺伝子変異を検出できないが、これは遺伝子変異がないという意味ではない。SMAD4遺伝子の変異によりHHTの症状に加え、若年性ポリポーシスを特徴とするため「juvenile polyposis(JP)/HHT複合症候群(JPHT)」と呼ばれる。このポリポーシスは発がん性が高いとされ、定期的な経過観察が必要である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ HHTの臨床的診断基準2000年に提唱された臨床的診断基準(表)には、以下の4項目がある。(1)繰り返す鼻出血(2)粘膜・皮膚の毛細血管拡張病変(3)肺、脳・脊髄、肝臓などにある血管奇形と消化管の毛細血管拡張病変(4)第1度近親者(両親・兄弟姉妹・子供)の1人がHHTと診断されているこれら4項目のうち、3つ以上あると確診(definite)、2つで疑診(probable)、1つ以下では可能性は低い(unlikely)とされる。この診断基準は、16歳以上の患者に関しては、その信頼性は非常に高いが、小児では無症状のことが多いため使えない。画像を拡大する遺伝子検査は、Endoglin、ACVRL1、SMAD4遺伝子の変異の検査を行う。成人のHHTの確定診断に遺伝子検査は必ずしも必要なく、臨床的診断基準の3~4項目があれば確定する。遺伝子検査では、約10%に遺伝子変異はみつからないが、これによりHHTが否定された訳ではない。家族内で発端者の遺伝子変異がわかっている場合、遺伝子検査は、その家族、とくに無症状の小児の診断に有用である。発端者の既知遺伝子変異がその家族にない場合に、はじめてHHTが否定される。オスラー病の疑いまたは確定した患者に対して、肺、脳、肝臓のスクリーニング検査を行うことが勧められる。通常、消化管と脊髄のスクリーニング検査は行われない。臨床的診断基準で、家族歴と鼻出血または毛細血管拡張症の2項目でHHT疑いの場合、内臓病変のスクリーニング検査を行い、3項目にしてHHTの確診にする場合もある。■ 部位別の特徴1)肺動静脈奇形まず酸素飽和度を検査する。次にバブルを用いた心臓超音波検査で右→左シャントの有無の検査する。同時に肺高血圧のスクリーニングも行う。これで肺動静脈奇形が疑われれば、肺の非造影CT検査(thin slice 3mm以下)を行う。バブルを用いた心臓超音波検査では、6~7%の偽陽性があるため、超音波検査を行わず、最初から非造影CT検査を行う場合も多い。コイル塞栓術後の経過観察には造影CT検査や造影のMR検査を行う場合がある。肺高血圧(平均肺動脈圧>25mmHg)が疑われれば、心臓カテーテル検査が必要であり、原発性肺高血圧と二次性肺高血圧を鑑別する。2)脳動静脈奇形頭部MR検査(非造影検査と造影検査)を行う。MRアンギオグラフィーも行う。脳動静脈奇形や陳旧性の脳出血・脳梗塞も検査する。T1画像、T2画像、FLAIR画像、T2*画像を得る。造影T1画像は3方向thin sliceで撮像し、小さな脳動静脈奇形を検出する。通常、小児例では造影検査は行わない。3)脊髄動静脈奇形頻度が1%とされ、スクリーニング検査は行われない。検査をする場合、全脊髄のMR検査になる。4)肝臓血管奇形スクリーニング検査として、腹部超音波検査が勧められる。拡張した肝動脈や門脈、胆道系などを検査する。Dynamic CT検査で、動脈相と静脈相の2相の撮像を行えば、arterio-venous shunt、arterio-portal shuntの検出・鑑別が可能である。シャントがあると太い肝動脈(>10mm)が認められる。肝動脈を含め腹腔動脈に動脈瘤がしばしば認められる。Porto-venous shuntがあれば、脳MR検査のT1強調画像で、マンガンの沈着による基底核、とくに淡蒼球に左右対称性の高信号域が描出される。5)消化管病変通常、スクリーニング検査は行われない。上部消化管に毛細血管拡張病変が多い。上部消化管と下部消化管の検査にはファイバー内視鏡を用い、小腸の検査はカプセル内視鏡で行う。鼻出血の程度では説明できない高度の貧血がある場合には、消化管病変の検査を行う。中年以降の患者の場合、悪性腫瘍の合併の可能性も念頭において、その検査適応を考える。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)現時点では、HHTに対する根治的な治療はなく、種々の症状への対症療法が主となっている。1)鼻出血出血の予防に必ず効く方策はなく、どんな治療も対症療法であることを患者に説明する。エストロゲンやトラネキサム酸の内服、軟膏塗布、点鼻スプレーなどが試みられるが、トラネキサム酸以外の有用性は証明されていない。現実的には、通気による鼻粘膜の外傷をできるだけ減らすために、1日数回、鼻孔にワセリン軟膏を塗布し、湿潤(乾燥させない)が勧められる。抗VEGF薬のベバシズマブは国外で試されているが、その点鼻の効果は、生理的食塩水の点鼻と同じであった。外科的治療には、コブレーターやアルゴンレーザーによる焼灼法、鼻粘膜皮膚置換術、外鼻孔閉塞術が行われるが、どの治療も根治性はない。出血時の対応法として、通常の鼻出血ではボスミンガーゼ挿入が効果的であるが、HHTでは病変の血管が異常なためボスミンガーゼ挿入にはあまり効果がなく、逆にガーゼの抜去時に再出血を惹起するので勧められない。出血側の鼻翼を指で外から圧迫するのが効果的とされ、それでも止血できない場合、サージセルなどを挿入し、止血する。鼻出血による鉄欠乏性貧血には、鉄剤を内服投与し、内服できない場合は静注投与する。鼻出血が継続する限り、データ上、貧血が改善しても、鉄剤投与の継続が必要である。悪心・吐気などの消化器症状の少ない経口鉄剤(商品名:リオナ)が最近認可された。高度貧血には積極的な輸血を行う。心不全があれば、高度の貧血はさらに心不全を悪化させる。定期的な血液検査で貧血のチェックが必要である。2)脳動静脈奇形無症候性の脳動静脈奇形の侵襲的治療に否定的な研究結果(ARUBA study)が報告されて以来、脳動静脈奇形の治療は症例ごとに検討されるようになった。MR検査で、脳動静脈奇形が認められれば、カテーテルによる脳血管撮影が行われ、詳細な検討を行い、治療戦略を練る。治療方法には、開頭による外科的摘出術・カテーテル塞栓術・定位放射線療法がある。HHTにおける脳動静脈奇形の出血率は、非HHTの脳動静脈奇形よりも低いとされ、自然歴やそれぞれの治療に伴うリスクを鑑み、治療方針を立てる。3)肺動静脈奇形栄養動脈が径3.0mm以上の場合、コイルや血管プラグを用いた塞栓術が第1選択となる。3.0mmより小さい病変でも、治療が可能な場合は、塞栓術の対象とされる。塞栓術においてはシャント部の閉塞が必要であり、栄養動脈の近位塞栓を避ける。非常に大きな病変や複雑な構造の病変で、塞栓術に適さない場合は外科的な切除術が選択される。治療後は、5年に1度、CT検査で経過をみる。妊娠する可能性のある女性は、妊娠前のコイル塞栓術が強く勧められる。スキューバ・ダイビングは禁忌とされ、肺動静脈奇形の治療後も勧められない。4)肝臓血管奇形塞栓術は適応とならず、逆にリスクが大きく禁忌である。症候性の心不全・胆道系の虚血・門脈圧亢進症などは、利尿剤など積極的な内科的管理が行われる。内科的治療が、困難な状況では、肝移植が考慮される。5)消化管病変予防的な治療は行わない。出血例では、内視鏡下でアルゴンプラズマ凝固(APC)が行われる。高度貧血には積極的な輸血を行う。4 今後の展望HHTは、その認知度が低いため、診断・治療が遅れることが多い。本症は常染色体優性遺伝し、年齢とともに必ず発症するが、スクリーニングにより脳と肺病変は発症前に対応ができる病変でもある。この疾患の認知度を上げることが重要であり、さらに国内での診療体制の整備、公的助成の拡充が必要とされる。遺伝子検査は、2020年から保険収載されたが、検査が可能な施設は限定されている。将来的には、発症を遅らせる・発症させない治療も期待される。TGF-β/BMPシグナル経路の遺伝子変異により血管新生に異常が起こる疾患であり、抗血管新生薬のベバシズマブの効果が期待されているが、副作用の中には重篤なものもあり、これらのHHTへの適応が模索されている。同様に抗血管新生のメカニズムの薬剤であるサリドマイドの限定的な投与も考えられる。5 主たる診療科疾患の特殊性から、単一の診療科でHHT診療を行うことは困難である。したがって複数科の専門家による治療チームが担当し、その間にコーディネーターが存在するのが理想的であるが、現実的には少ない診療科による診療が行われることが多い。そのなかでも脳神経外科、放射線科、呼吸器内科、耳鼻咽喉科、循環器内科、小児科、遺伝子カウンセラーなどが窓口になっている施設が多い。HHT JAPAN (日本HHT研究会)では、HHTを診察・加療を行っている国内の47施設をweb上で公開している。HHTの多岐にわたる症状に必ずしも対応できる施設ばかりではないが、その場合は、窓口になっている診療科から、症状に見合う他の診療科・他院へ紹介することになっている。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療・研究情報難病情報センター:オスラー病(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)小児慢性特定疾患情報センター:遺伝性出血性末梢血管拡張症(オスラー病)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)HHT JAPAN (日本HHT研究会)(医療従事者向けのまとまった情報)脳血管奇形・血管障害・血管腫のホームページ(筆者のホームページ)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)オスラー病のガイドライン(医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報日本オスラー病患者会(患者とその家族および支援者の会)公開履歴初回2017年07月11日更新2022年01月27日

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リンパ脈管筋腫症〔LAM : lymphangioleiomyomatosis〕

1 疾患概要■ 概念・定義リンパ脈管筋腫症(lymphangioleiomyomatosis: LAM)は、ほぼ女性に限って発症する性差の著しい疾患である。主として妊娠可能年齢の女性に発症するまれな疾患で、腫瘍抑制遺伝子(TSC遺伝子)の異常により腫瘍化した平滑筋様細胞(LAM細胞)が肺や体軸中心リンパ系(骨盤腔、後腹膜腔および縦隔にわたる)で増殖し、慢性に進行する腫瘍性疾患である。肺では、多発性の嚢胞形成を認める。自然気胸を反復することが多く、女性自然気胸の重要な基礎疾患である。肺病変が進行すると拡散障害と閉塞性換気障害が出現し、労作性の息切れ、血痰、咳嗽などを認める。肺病変の進行の速さは症例ごとに多様であり、比較的急速に進行して呼吸不全に至る症例もあれば、年余にわたり肺機能が保たれる症例もある。肺外では、体軸リンパ流路に沿ってリンパ脈管筋腫(lymphangioleiomyoma)を認めることがある。リンパ脈管筋腫はCT画像では、嚢腫様あるいはリンパ節腫大様に描出され、LAM細胞の増殖により拡張したリンパ管あるいはリンパ節と考えられている。腎臓には、血管筋脂肪腫(angiomyolipoma: AML)を合併する場合もある。常染色体優性遺伝性疾患である結節性硬化症(TSC)を背景として発症する例(TSC-LAM)、TSCとは関連なく発症する例(孤発性LAM)の2つのタイプがある。■ 病名や疾患概念の変遷本疾患は1940年前後から記載され始め、Frack ら(1968年)により初めてpulmonary lymphangiomyomatosis という言葉が用いられ、Corrin ら(1975年)により 28 例の臨床病理学的特徴がまとめられた。Pulmonary lymphangioleiomyomatosis という言葉は、Carrington ら(1977年)が、本疾患の生理学的、病理学的、画像の各所見の関連性を詳細に検討した際に使用された。現在では、主にlymphangioleiomyomatosisが用いられている。日本においては、山中、斎木(1970年)が 2 例の剖検例と 1 例の開胸肺生検例を検討し、びまん性過誤腫性肺脈管筋腫症として報告したのが最初である。一方、症例の集積に伴い、LAMは肺のみに限局した疾患ではなく全身性疾患として認識されるようになり、「肺」を病名から除いて「リンパ脈管筋腫症(lymphangioleiomyomatosis)」という病名で呼ばれるようになった。すなわち、肺外病変としての後腹膜腔や骨盤腔のリンパ脈管筋腫が主体で、肺病変が軽微である症例の存在も認識されるようになったためである。■ 疫学まれな疾患であるため、有病率や罹患率などの正確な疫学データは得られていない。疫学調査の結果から、日本でのLAMの有病率は100万人当たり約1.9~4.5人と推測されている。米国などからの報告でも人口100万人当たり2~5人と推測されている。■ 病因腫瘍抑制遺伝子である TSC 遺伝子の変異が LAM 細胞に検出される。LAMは、Knudson の 2-hit 説が当てはまる腫瘍抑制遺伝子症候群のひとつである。TSC 遺伝子には TSC1 遺伝子と TSC2 遺伝子の2種類があり、TSCはどちらか一方の遺伝子の胚細胞遺伝子変異による遺伝性疾患である。TSC-LAM 症例はTSC1あるいはTSC2遺伝子のどちらの異常でも発生しうるが、sporadic LAM 症例ではTSC2遺伝子異常により発生する。TSC 遺伝子異常により形質転換した LAM 細胞は、病理形態学的にはがんといえる程の悪性度は示さないが、転移してリンパ節や肺にびまん性、不連続性の病変を形成する。 LAM病変に認められる豊富なリンパ管や乳び液中に検出されるLAM細胞クラスターは、LAMの病態進展におけるリンパ行性転移の重要性を示唆する所見である。片肺移植後のドナー肺に LAM が再発した症例では、レシピエントに残存する体内病変からドナー肺に LAM 細胞が転移して、再発したことを示唆する遺伝学的解析結果が報告されている。最近の研究では、必ずしもすべてのLAM細胞がTSC遺伝子変異を有するわけではなく、変異遺伝子のallelic frequencyは約20%前後と報告されている。TSC1、TSC2遺伝子は、それぞれハマルチン(約130kDa)、ツベリン(約180kDa)というタンパク質をコードし、両者は細胞質内で複合体を形成して機能する。ハマルチン/ツベリン複合体は、細胞内シグナル伝達に関与するさまざまなタンパク質からリン酸化を受けることにより、mTORの活性化を制御している。LAMでは、ハマルチン/ツベリン複合体が機能を失い、恒常的にmTORが活性化された状態となるため、LAM細胞の増殖を来す。そのため、mTOR阻害薬のシロリムス(国内未承認)は、LAM細胞増殖を抑制し病状の進行抑制に寄与すると考えられる。■ 症状以下のカッコ内の数値は、呼吸不全に関する調査研究班による平成18年度の全国調査集計において報告された、LAM診断時の頻度である。1)胸郭内病変に由来する症状労作性の息切れ(48%)や自然気胸(51%)で発症する例が最も多い。そのほかに、血痰(8%)、咳嗽(27%)、喀痰(15%)などがある。肺内でのLAM細胞の増殖により生じる肺実質破壊(嚢胞性変化)、気道炎症、などによると考えられる。労作性の息切れは、病態の進行とともに頻度が高くなる。進行例では、血痰、咳嗽・喀痰などの頻度も増加する。気胸は、診断後の経過中を含め患者の約7割に合併するとされる。LAMは、女性気胸の重要な原因疾患である。2)胸郭外病変に由来する症状腹痛・腹部違和感、腹部膨満感、背部痛、血尿など胸郭外病変に由来する症状(16%)がある。腎AML(41%)、後腹膜腔や骨盤腔のリンパ脈管筋腫(26%)、腹水、などによると考えられる。3)リンパ系機能障害による症状乳び胸水(8%)、乳び腹水(8%)、乳び喀痰、乳び尿、膣や腸管からの乳び漏などがある。約3%の症例では、診断時あるいは経過中に下肢のリンパ浮腫を認める。4)無症状人間ドックなどの健診を契機に、偶然発見される場合もある。自覚症状はないが、腹部超音波検査や婦人科健診において腎腫瘍、後腹膜腫瘤、腹水などを指摘され、これを契機としてLAMと診断される例がある。■ 経過と予後LAMは、慢性にゆっくりと進行する腫瘍性疾患であるが、進行の早さには個人差が大きく、その予後は多様である(図1)。わが国での全国調査によると、初発症状や所見の出現時からの予測生存率は、5年後が91%、10年後が76%、15年後が68%であった。予後は診断の契機となった初発症状・所見によって異なり、息切れを契機に診断された症例は、気胸を契機に診断された症例より診断時の呼吸機能が有意に悪く、また、予後が不良であった。画像を拡大する図1では、Aは重症例、Bは中等症例、Cは軽症例、Dは最軽症例と呼ぶ。Aは息切れ発症のLAMを想起すればよい。AにGnRH療法を行っても、A’では肺機能や生存期間の改善に寄与していない。A’’では、肺機能の低下スピードはやや軽減し、そのため生存期間は伸びている。C、Dは気胸発症例、あるいは偶然の機会に胸部CTで多発性肺嚢胞を指摘されたような症例を想起すればよい。これらの症例では、特別な治療を考える必要はないであろう。Bは中間の症例である。B’は、GnRH療法により肺機能の低下速度が緩徐となり、生命予後は延長することが明らかである。この図から読み取れる点は、治療的介入が肺機能の低下速度を緩徐にできるならば、ゆっくりと進行する慢性疾患では比較的長期間の生命予後の延長をもたらすことができる点である。後述するように、シロリムスによる分子標的療法は、肺機能の低下速度を軽減するのではなく、安定化ないしは治療前よりやや改善することが示されており、LAMの自然史を大きく変える治療として期待されるゆえんである。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)診断にあたっては、特徴的な臨床像と胸部CT所見からLAMを疑い、図2のような手順に沿って診断する。画像を拡大する■ 画像診断診断には高分解能CT(HRCT)が推奨され、境界明瞭な数 mm~1 cm大の薄壁を有する嚢胞が、両肺野にびまん性に、比較的均等に散在しているのが特徴である(図3A)。通常の撮影条件では、肺気腫と鑑別が難しい場合がある(図3B)。診断にあたっては、HRCTで特徴的な所見を確認し、かつ慢性閉塞性肺疾患(COPD)やBirt-Hogg-Dubè(BHD)症候群など他の嚢胞性肺疾患を除外することが重要である。また、腎血管筋脂肪腫、後腹膜腔や骨盤腔のリンパ節腫脹、TSCに合致する骨硬化病変、腹水などの有無について、腹部~骨盤部のCT検査やMRI検査で確認することも診断にあたって有用である(図3C、3D)。可能であれば、経気管支肺生検あるいは胸腔鏡下肺生検により病理診断を得ることが推奨される。画像を拡大する■ 病理診断LAMの病理組織学的特徴は、LAM細胞の増殖とリンパ管新生である(図4)。画像を拡大するLAM細胞はやや未熟で肥大した紡錘形の平滑筋細胞様の形態を示し、免疫染色ではα-smooth muscle actinやHMB45陽性である。女性ホルモンレセプター(エストロゲンレセプターやプロゲステロンレセプター)を発現する。LAM細胞は、集簇して結節性に増殖し、肺では嚢胞壁、胸膜、細気管支・血管周囲、体軸リンパ流路などで不連続性に増殖している。ヘモジデリンを貪食したマクロファージが高頻度に認められ、LAMの肺実質では不顕性に肺胞出血を繰り返していると想像される。乳び胸水や腹水合併例では胸腹水中のLAM細胞クラスター(図5)を証明することで診断可能である。画像を拡大する■ 肺機能検査肺機能検査では、拡散能障害と閉塞性換気障害を認め、経年的に低下する。換気障害よりも拡散障害を早期から認める点が特徴である。MILES試験の偽薬群では、FEV1は-144 ± 24 mL/年の低下率であった。一方、閉経前と閉経後の症例では、平均-204 vs.-36 mL/年(p<0.003)と有意に閉経後症例の低下率が低かった。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)LAMに対する根治的治療法、すなわちLAM細胞を完全に排除し、破壊された肺を元に戻す治療法はない。MILES試験によりLAMの分子標的薬として確立されたmTOR阻害薬のシロリムスは、肺機能を安定化、乳び胸水・腹水・リンパ浮腫などのLAMに合併するリンパ系機能障害の病態の改善、合併する腎血管筋脂肪腫の縮小などの効果が報告されている。そして、その作用はLAM細胞に対して、殺細胞的ではなく静細胞的であると考えられている。すなわち、シロリムス内服を中止すると効果は消失し、元の病態が再来する。したがって、長期に内服することが必要であるが、免疫抑制薬でもあるシロリムスをLAM患者が長期内服した際の安全性についてのエビデンスはない。このような背景から、現時点では、LAMという疾患の自然史(図1)に照らして目の前の患者の状態を評価し、治療介入の利益と損益を熟考して治療方針を立てるべきである。以下に、LAMとその合併病態に対する治療を概説する。■ LAMに対する薬物療法1)シロリムス(国内未承認)肺機能が進行性に低下する場合(目安としてはFEV1<70 %pred)や内科的に管理困難な乳び胸水や腹水の合併例では、シロリムスの投与を考慮する。治験では血中トラフ値5 ~ 15 ng/mLを維持するように投与量が調節され、おおよそ2ないし3 mg/日(分1、朝食後)が必要となった。しかし、シロリムス1 mg/日の低用量(血中トラフ値<5 ng/mL)でも、十分な治療効果が得られたとの報告がある。シロリムスはCYP3A4で代謝されるため、肝障害やCYP3A4活性に影響を与える薬剤との相互作用に注意する。2)GnRH療法(偽閉経療法)女性ホルモンはLAM細胞の増殖に関与するため、gonadotropin-releasing hormone(GnRH)誘導体を投与して偽閉経状態にすることが、従来は経験的に行われてきた。リュープロレリン(商品名: リュープリン)1.88 mg 皮下注/4週ごと(保険適用外)、ゴセレリン(同: ゾラデックス)1.8 mg 皮下注/4週ごと(保険適用外)、ブセレリン(同: スプレキュア)1.8 mg皮下注/4週ごと(保険適用外)などの皮下注薬剤は月1回の投与で利便性が高く、かつ、女性ホルモンを確実に低下させ偽閉経状態をもたらすことができ、点鼻製剤より有用である。シロリムスが何らかの理由により投与できない場合、あるいは乳び漏の管理に難渋するなどの場合にはGnRH療法を考慮する。投与に際しては、更年期症状や骨粗鬆症が生じうるため、これらの治療関連病態を念頭におく必要がある。■ LAMの病態あるいは併存疾患の治療1)気管支拡張療法閉塞性換気障害があり労作性に息切れを認める症例では、COPDと同様に、抗コリン薬チオトロピウム(同: スピリーバ レスピマット)あるいはβ2刺激薬インダカテロール(同: オンブレス)などの長時間作用性気管支拡張薬の吸入を処方する(保険適用外)。2)気胸気胸を繰り返すことが多いため、気胸病態に対する治療とともに再発防止策を積極的に検討する。酸化セルロースメッシュ(同: サージセル)とフィブリン糊による胸腔鏡下全肺胸膜被覆術(カバリング術)は癒着を起こさず、再発防止が可能である。技術的に実施困難な施設では、気胸手術時の胸膜焼灼・剥離術、内科的癒着術[自己血、OK432(同: ピシバニール)ほか]などが行われる。3)乳び漏(乳び胸水や腹水など)に代表されるリンパ系機能障害乳び胸水、乳び腹水、乳び心嚢液、乳び喀痰、乳び尿、膣や腸管からの乳び漏、後腹膜腔や骨盤腔のリンパ脈管筋腫、下肢のリンパ浮腫、肺内のリンパ浮腫像などはLAMにみられる特徴的なリンパ系の機能障害である。LAM細胞の増殖に伴うリンパ管の閉塞・破綻が原因と考えられているが、LAM細胞増殖に伴うリンパ管新生がその背景要因である。脂肪制限食は、腸管からの脂肪吸収に伴うリンパ液の産生を減少させ、結果として乳び漏出を減少させる。下半身の活動量が増加するとリンパ流も増加するため、活動量を制限して安静にすることはリンパ漏を減少させる。リンパ浮腫は後腹膜腔や骨盤腔のリンパ脈管筋腫を合併する症例にみられ、複合的理学療法(弾性ストッキング、リンパマッサージなど)が治療として有用である。これらの食事指導、生活指導、理学療法では乳び漏やリンパ浮腫の管理が困難な場合には、シロリムス投与を考慮する。何らかの理由でシロリムスを投与できない場合には、GnRH療法、胸膜癒着術(乳び胸水例に対して)、Denver® shunt(乳び腹水例に対して)などを適宜、考慮する。乳び漏を穿刺・排液し続けることは、栄養障害、リンパ球喪失に伴う二次性免疫不全状態を招来するので慎むべきである。4)腎血管筋脂肪腫AMLからの出血リスクを予測する因子は、腫瘤径よりもAMLに合併する動脈瘤の大きさのほうが感度・特異度ともに優れている。動脈瘤径≧5 mmでは出血のリスクが高まるため動脈瘤に対する塞栓術を考慮する。腫瘍径≧4 cmもひとつの目安であるが、4 cm以上であっても動脈瘤の目立たない例もあり、このような症例では腫瘍径≧4 cmであっても経過観察可能である。一般に、巨大なAMLを有していても腎機能は良好に保たれるため、安易な腎臓摘出術は慎むべきである。5)慢性呼吸不全在宅酸素療法、COPDに準じた呼吸リハビリテーションを行う。常時酸素吸入が必要な呼吸不全例、あるいはFEV1<30 %predでは肺移植を検討する。6)妊娠・出産妊娠・出産に伴う生理的負荷に耐えうる心肺機能を有することが前提となるが、妊娠・出産は必ずしも禁忌ではない。しかし、妊娠中の症状の増悪や病態の進行、気胸や乳び胸水を合併する可能性などのリスクを説明し、患者ごとの対応が必要である。妊娠・出産に際しては、気流制限が重症であるほどリスクが高い。4 今後の展望シロリムスは、二重盲検比較試験によりLAMに対して有効性が確認された薬剤であり、今後のLAMの自然史を大きく変える治療法として期待される。一方、長期投与による安全性は未確認であり、治療中は効果と有害事象のバランスを慎重に観察する必要がある。シロリムスは、LAM細胞に対して殺細胞的ではないため、シロリムスに他の薬剤を併用し、治療効果を高める基礎研究や臨床研究が考案されている。5 主たる診療科主たる診療科は呼吸器内科となる。また、連携すべき診療科は次のとおりである。産婦人科(妊娠・出産、合併あるいは併存する女性生殖器疾患)放射線科あるいは泌尿器科(腎血管筋脂肪腫の塞栓術)脳神経内科・皮膚科(結節性硬化症に関連したLAM)※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター LAM(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)呼吸不全に関する調査研究班(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)気胸・肺のう胞スタディグループ(医療従事者向けのまとまった情報)The LAM foundation(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった英文情報)患者会情報J-LAMの会(リンパ脈管筋腫症患者と支援者の会)※おもに若年女性に発症するため、仕事、結婚、妊娠・出産、育児などの諸問題に対して、患者のみならず家族を含めた心のケアやきめ細かな対応が望まれる。LAM患者と支援者によるJ-LAMの会は、医療者との連携、疾患についての情報提供や患者同士の交流促進の場として利用されている。1)Hayashida M, et al. Respirology. 2007; 12: 523-530.2)林田美江ほか. 日呼吸会誌. 2008; 46: 428-431.3)Johnson SR, et al. Eur Respir J. 2010; 35: 14-26.4)林田美江ほか. 日呼吸会誌. 2011; 49: 67-74.5)McCormack FX, et al. N Engl J Med. 2011; 364: 1595-1606.

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