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IBDの新規経口薬ozanimod、潰瘍性大腸炎の導入・維持療法に有効/NEJM

 中等症~重症の活動期潰瘍性大腸炎(UC)患者に対する導入および維持療法として、新規経口薬として開発中のozanimodはプラセボと比較して、より有効であることが、米国・カリフォルニア大学サンディエゴ校のWilliam J. Sandborn氏らによる、多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照第III相試験の結果、示された。ozanimodは、選択的スフィンゴシン-1-リン酸受容体調整薬で、炎症性腸疾患(IBD)の治療薬として開発が進められている。NEJM誌2021年9月30日号掲載の報告。中等症~重症の活動期UC患者を対象にozanimodとプラセボを比較 研究グループは中等症~重症の活動期UC患者を対象に、10週間の導入期間において、コホート1ではozanimod群(ozanimod塩酸塩1mg[ozanimod 0.92mg相当])またはプラセボ群に2対1の割合で無作為に割り付け、それぞれ1日1回経口投与し、コホート2では非盲検下でozanimod(コホート1と同用量)を投与した。10週時点で、各コホートにおいてozanimodに対し臨床的反応を示した患者をozanimod群またはプラセボ群に再び無作為に割り付け、二重盲検下で52週間まで(維持期間)投与した。 両期間の主要評価項目は、臨床的寛解率として、3項目(直腸出血、排便頻度、内視鏡)のMayoスコアで評価した。主要な副次評価項目は、臨床的反応、内視鏡的改善、組織学的治癒とし、階層的検定を行った。安全性についても評価した。臨床的寛解率は導入期18.4% vs.6.0%、維持期37.0% vs.18.5% 導入期間において、コホート1に645例、コホート2に367例が割り付けられ、計457例が維持期間に再び割り付けられた。 臨床的寛解率は、導入期間でozanimod群18.4%(79/429例)vs.プラセボ群6.0%(13/216例)(p<0.001)、維持期間でそれぞれ37.0%(85/230例)vs.18.5%(42/227例)(p<0.001)であり、両期間においてozanimod群がプラセボ群と比較して有意に高かった。 臨床的反応率も、導入期間(47.8% vs.25.9%、p<0.001)および維持期間(60.0% vs.41.0%、p<0.001)のいずれにおいてもozanimod群がプラセボ群より有意に高率であった。その他のすべての副次評価項目も、両期間においてozanimod群がプラセボ群より有意に改善した。 安全性については、ozanimod群の感染症(あらゆる重症度)発生率がプラセボ群と比較し、導入期間では同程度、維持期間では増加した。重篤な感染症の発生率は、52週の試験期間を通していずれの群も2%未満であった。肝アミノトランスフェラーゼ値の上昇は、ozanimod群で多くみられた。 なお、著者は、日常診療での幅広い患者集団においては結果が異なる可能性があること、長期データが不足していることなどを挙げて結果は限定的だとしている。現在、非盲検延長試験が進行中である。

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超加工食品の高摂取で炎症性腸疾患のリスク大/BMJ

 超加工食品の摂取量増加は、炎症性腸疾患(IBD)のリスク増加と関連していることが、前向きコホート研究「Prospective Urban Rural Epidemiology(PURE)」で明らかとなった。カナダ・マックマスター大学のNeeraj Narula氏らが報告した。IBDは先進国で多くみられ、食事などの環境因子が影響していると考えられている。しかし、添加物や保存料を含む超加工食品の摂取とIBDとの関連性についてのデータは限られていた。著者は、「今後はさらに、超加工食品中の寄与因子を特定するための研究が必要である」とまとめている。BMJ誌2021年7月14日号掲載の報告。35歳以上の約11万6千例で超加工食品摂取とIBD発症の関連を評価 研究グループは、PURE研究のうち欧州・北米、南米、アフリカ、中東、東アジア、東南アジアおよび中国の7地域における、低・中・高所得国を含む21ヵ国のデータを用いて評価した。 解析対象は、2003年1日1日~2016年12月31日に登録され、ベースラインの食物摂取量調査(各国で検証済みの食物摂取頻度調査票を使用)ならびに、3年ごとの前向き追跡調査を少なくとも1サイクル完遂している、35~70歳の成人11万6,087例である。 主要評価項目は、クローン病や潰瘍性大腸炎を含むIBDの発症とした。Cox比例ハザードモデルを用い、超加工食品とIBDリスクとの関連についてハザード比(HR)およびその95%信頼区間(CI)を算出した。超加工食品の摂取量増加で、IBDリスクが約1.7~1.8倍に上昇 追跡期間中央値9.7年(四分位範囲:8.9~11.2)において、解析対象11万6,087例中467例がIBDを発症した(クローン病90例、潰瘍性大腸炎377例)。潜在的な交絡因子で補正後、超加工食品の摂取量が多いほどIBDの発症リスクが高いことが認められた(1日1サービング未満と比較した1日5サービング以上のHR:1.82[95%CI:1.22~2.72]、同1日1~4サービングのHR:1.67[95%CI:1.18~2.37]、傾向のp=0.006)。 清涼飲料水、精製甘味料入り食品、塩分の多いスナック菓子、加工肉などの超加工食品のさまざまなサブグループで、IBDのリスク上昇との関連が認められた。結果はクローン病と潰瘍性大腸炎で一貫しており、異質性は低かった。 一方、白身肉、赤身肉、乳製品、でんぷん、果物、野菜、豆類の摂取量は、IBD発症と関連していなかった。 なお、著者は、参加者の年齢が35~70歳であったためクローン病の発症例が少数であったこと、小児や若年成人でIBDを発症した患者に一般化できるかは不明であること、経時的な食事の変化は考慮されていないこと、観察研究の特性上バイアスが残存している可能性があること、などを研究の限界として挙げている。

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総合内科専門医試験オールスターレクチャー 消化器(消化管)

第1回 ピロリ菌感染症関連第2回 消化管悪性腫瘍第3回 消化管出血 腹部緊急疾患第4回 消化管機能性疾患第5回 感染症 炎症性腸疾患第6回 遺伝性疾患 好酸球性胃腸症 内分泌 総合内科専門医試験対策レクチャーの決定版登場!総合内科専門医試験の受験者が一番苦労するのは、自分の専門外の最新トピックス。そこでこのシリーズでは、CareNeTV等で評価の高い内科各領域のトップクラスの専門医11名を招聘。各科専門医の視点で“出そうなトピック”を抽出し、1講義約20分で丁寧に解説します。キャッチアップが大変な近年のガイドラインの改訂や新規薬剤をしっかりカバー。Up to date問題対策も万全です。消化器の消化管については、公立豊岡病院の宮垣亜紀先生がレクチャー。消化管は内視鏡画像の診断がポイント。豊富な症例画像を使って、頻出の内視鏡検査問題を徹底的にトレーニングします。※「アップデート2022追加収録」はCareNeTVにてご視聴ください。第1回 ピロリ菌感染症関連消化管は、内視鏡画像診断がポイント。非専門医にとっては普段見慣れない内視鏡画像ですが、試験に出題される疾患はある程度絞られているので、それを押さえれば攻略できます。第1回は、胃十二指腸潰瘍や胃がんのリスクとなるヘリコバクター・ピロリ菌。ピロリ菌に起因する疾患は、胃がんや潰瘍だけではありません。ピロリ菌感染関連疾患は、内視鏡で胃炎を証明し、ピロリ菌を証明するための各種検査も覚えておくことが重要です。第2回 消化管悪性腫瘍消化管悪性腫瘍には、胃がん、大腸がん、食道がん、消化管間質腫瘍GISTがありますが、共通して問われやすいのは、リスクファクター、内視鏡所見の診断、疾患に関する知識です。胃がんは内視鏡所見から深達度と組織型を診断し、内視鏡的粘膜下層剥離術の適応を判断。近年のトピックスとして、バレット食道がんの報告が増えています。粘膜下腫瘍の形態をとるGISTは、どの消化管でも起こりえます。超音波内視鏡やCTで診断します。第3回 消化管出血 腹部緊急疾患消化管出血と、試験に出題されやすい腹部緊急疾患について、身体所見、検査、治療を整理します。上部消化管出血の中でも緊急性が高いのは静脈瘤出血。静脈瘤結紮術で治療します。下部消化管出血で最もコモンな疾患は虚血性腸炎と大腸憩室出血。X線・CTで特徴的な画像所見を示すS状結腸軸捻転。腸閉塞とイレウスは概念を混同しないように注意。生の海産物を摂取した後の激烈な腹痛はアニサキス症を疑います。第4回 消化管機能性疾患機能性疾患の中でもよく出題される食道アカラシア。見た目ではっきりわかる腫瘍があるわけではないので、内視鏡検査では見つかりにくく、食道造影やマノメトリーという検査が有用です。新たな治療法として、経口内視鏡的括約筋切開術POEMが注目されています。機能性ディスペプシアと過敏性腸症候群は器質的疾患の除外が重要。胃食道逆流症にはびらん性と非びらん性があり、同じ薬剤でも効果に差があります。第5回 感染症 炎症性腸疾患多岐にわたる腸管感染症から、感染性腸炎、アメーバ性大腸炎、抗菌薬起因性腸炎について解説します。感染性腸炎は、抗菌薬が必要な状況の見極めがポイント。内視鏡的所見が特徴的なアメーバ性大腸炎。潰瘍の周囲にタコいぼ様びらんが見られます。日常臨床でもよくある潰瘍性大腸炎は、重症度に応じて薬剤か手術を選択。非連続性の全層性の肉芽腫性炎症が起きるクローン病は、狭窄を考慮しながら適した画像検査を選択します。第6回 遺伝性疾患 好酸球性胃腸症 内分泌好酸球性消化管疾患は、原因がまだ明らかになっていないアレルギー疾患です。遺伝性疾患では、大腸にポリープが多発する家族性腺腫性ポリポーシスは、放置するとがん化するため、大腸全摘が必要です。Peutz-Jeghers症候群は過誤腫性ポリープで、こちらはほとんどがん化しません。毛細血管拡張の画像所見が特徴的なオスラー病も覚えておきましょう。消化管内分泌のトピックスとして、神経内分泌腫瘍のガストリノーマについて確認します。

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JAK阻害薬フィルゴチニブ、潰瘍性大腸炎の寛解導入・維持に有効(解説:上村直実氏)

 潰瘍性大腸炎(UC)は特定疾患に指定されている原因不明の炎症性腸疾患(IBD)であり、最近の全国調査によると18万人以上の患者が存在している。UCに対する薬物治療については、寛解導入および寛解維持を目的として5-ASA製剤、ステロイド製剤、免疫調節薬、生物学的製剤が使用されている。なかでも生物学的製剤については、抗TNF阻害薬、インターロイキン阻害薬ウステキヌマブ、インテグリン拮抗薬ベドリズマブ、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬など、異なる作用機序を有する分子標的薬が次々と開発され、それぞれの臨床試験結果が報告されている。なお、本邦のIBD診療ガイドライン2020において、血球成分除去療法や生物学的製剤の適応はステロイド依存例で免疫調節薬も効果のない患者やステロイド抵抗性の患者に限定されている。さらにJAK阻害薬と免疫調節薬チオプリン製剤との併用が原則禁忌となっている。 今回は中等度から重度の難治性UCを有する成人患者を対象として、10週間での寛解導入と58週間の寛解維持に対するJAK阻害薬フィルゴチニブの有効性と安全性に関する、第III相臨床試験(SELECTION試験)の結果がLancet誌に報告された。わが国では慢性関節リウマチ(RA)に対して承認されている経口剤フィルゴチニブが、TNF阻害薬やベドリズマブの治療歴の有無にかかわらず、難治性UCの寛解導入と寛解維持においてプラセボに比べて有意な有効性と同等の安全性を示したとされている。 今回の研究結果から、フィルゴチニブはステロイド依存性や抵抗性の難治性UCに対して有用性の高い経口治療薬として期待される。しかし、わが国においてRAに対して保険承認されている5種類のJAK阻害薬の中で唯一UCに対して保険適用を得ているトファシチニブに関しては、RA患者を対象とした安全性臨床試験の予備結果において、TNF阻害薬や低用量トファシチニブと比べて高用量のトファシチニブが心血管血栓イベントと死亡のリスク上昇を認めた結果、FDAにより慎重な使用に関する警告が発出されている。同じJAK阻害薬であるフィルゴチニブに関してもRAに加えてUCの適応が追加された場合、一般診療現場における長期間のリスクに注意した慎重な使用が必要と思われる。

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フィルゴチニブ、潰瘍性大腸炎の寛解導入・維持に有効/Lancet

 中等症~重症の活動期潰瘍性大腸炎患者の治療において、JAK阻害薬フィルゴチニブ(200mg)は、忍容性が良好で、プラセボと比較して寛解導入療法および寛解維持療法における臨床的寛解の達成割合が高いことが、カナダ・ウェスタンオンタリオ大学のBrian G. Feagan氏らが実施した「SELECTION試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2021年6月3日号で報告された。生物学的製剤治療歴の有無別の寛解導入療法と、維持療法を評価 研究グループは、潰瘍性大腸炎の治療におけるフィルゴチニブの有効性と安全性を評価する目的で、2つの寛解導入療法試験と1つの寛解維持療法試験から成る二重盲検無作為化プラセボ対照第IIb/III相試験を行った(米国・Gilead Sciencesの助成による)。本試験には、日本を含む40ヵ国341施設が参加し、2016年11月~2020年3月の期間に患者登録が行われた。 対象は、年齢18~75歳で、試験登録時に中等症~重症の活動期潰瘍性大腸炎の発症から6ヵ月以上が経過していた患者であった。参加者は、腫瘍壊死因子(TNF)阻害療法およびベドリズマブによる治療歴の有無で、生物学的製剤治療を受けていない患者(導入試験A)と、同治療を受けている患者(同B)に分けられた。 被験者は、各導入試験でそれぞれフィルゴチニブ100mg、同200mgまたはプラセボを、1日1回、11週間経口投与する群に、2対2対1の割合で無作為に割り付けられた。10週時に、いずれかの導入試験で臨床的寛解またはMayo Clinic Score(MCS)で奏効を達成した患者が、11週時に維持試験として導入療法と同じ用量またはプラセボ(各用量で個別にプラセボ群を設定)を58週まで継続投与する群に、2対1の割合で再無作為化された。 主要エンドポイントは、10週および58週の時点での臨床的寛解(Mayo内視鏡所見、直腸出血、排便回数のサブスコアで評価)とされた。導入試験と維持試験を通じてプラセボの投与を受けた患者は、維持試験の最大の解析対象集団(FAS)には含まれなかった。 導入試験Aには659例が登録され、フィルゴチニブ100mg群に277例(平均年齢42歳、女性43.3%)、同200mg群に245例(42歳、49.8%)、プラセボ群に137例(41歳、36.5%)が割り付けられた。また、導入試験Bには689例が登録され、それぞれの群に285例(43歳、34.7%)、262例(43歳、43.5%)および142例(44歳、39.4%)が割り付けられた。100mg群も、58週時には有意に良好 10週以内に、導入試験Aで34例、同Bで54例が試験薬の投与を中止した。10週時の有効性評価後に、664例(導入試験A:391例、同B:273例)が維持試験に登録された。93例が、導入試験でプラセボにより臨床的寛解を達成し、維持試験でもプラセボの投与を継続した。 導入試験の100mg群のうち270例が臨床的寛解またはMCS奏効を達成し、このうち維持試験の100mg群に179例、プラセボ群に91例が無作為化された。また、導入試験の200mg群の臨床的寛解またはMCS奏効達成例301例のうち、維持試験の200mg群に202例、プラセボ群に99例が無作為化された。263例が、維持試験期間中に投与を中止した。 10週時の臨床的寛解の達成率は、導入試験AおよびBのいずれにおいても、200mg群がプラセボ群よりも有意に良好であった(A:26.1% vs.15.3%[群間差:10.8%、95%信頼区間[CI]:2.1~19.5、p=0.0157]、B:11.5% vs.4.2%[7.2%、1.6~12.8、p=0.0103])。 維持試験における58週時の臨床的寛解の達成率は、200mg群が37.2%と、プラセボ群の11.2%に比べ有意に優れた(群間差:26.0%、95%CI:16.0~35.9、p<0.0001)。 一方、100mg群では、10週時の臨床的寛解の達成率にプラセボ群との差はなかった(19.1% vs.15.3%、群間差:3.8%、95%CI:-4.3~12.0、p=0.3379)が、58週時は有意に高率であった(23.8% vs.13.5%、10.4%、0.0~20.7、p=0.0420)。 重篤な有害事象および注目すべき有害事象の発現は、各群で同程度であった。重篤な有害事象は、導入試験では100mg群で5.0%(28/562例)、200mg群で4.3%(22/507例)、プラセボ群で4.7%(13/279例)に認められた。維持試験における重篤な有害事象は、100mg群で4.5%(8/179例)、100mg群に対応するプラセボ群で7.7%(7/91例)、200mg群で4.5%(9/202例)、200mg群対応プラセボ群で0%(0/99例)であった。また、2つの導入試験で死亡例の報告はなかった。維持試験中に2例が死亡したが、いずれも試験薬との関連はなかった。 著者は、「本薬は、生物学的製剤による治療歴の有無を問わず、中等症~重症の活動期潰瘍性大腸炎患者の新たな治療選択肢となる可能性がある」としている。

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潰瘍性大腸炎、患者の90%が持つ自己抗体を発見/京大

 潰瘍性大腸炎(UC)は、その発症に免疫系の異常が関連していると考えられているが、原因はいまだ解明されておらず、国の指定難病となっている。京都大学・塩川 雅広助教らの研究グループは3月9日、潰瘍性大腸炎患者の約90%に認められる新たな自己抗体を発見したことを発表した。現在、この自己抗体を測定する検査キットを企業と共同開発中。Gastroenterology誌オンライン版2021年2月12日号に掲載。潰瘍性大腸炎患者の大多数はインテグリンαVβ6に対する自己抗体を持っていた 本研究は、潰瘍性大腸炎患者112例と対照患者165例が登録された。潰瘍性大腸炎は、症状、内視鏡所見、組織学的所見、および代替診断の欠如の組み合わせによって診断。血清サンプルは、2017年7月~2019年11月までに京都大学医学部附属病院で採取され、潰瘍性大腸炎患者112例と対照患者155例が、それぞれトレーニング群と検証群に分けられた。 23の組換えインテグリンタンパク質を使用して、潰瘍性大腸炎患者と対照患者の血清に対して酵素免疫測定法を実施した。また、結腸組織におけるインテグリン発現とIgG結合を、それぞれ免疫蛍光抗体法と共免疫沈降法を使用し、自己抗体の遮断活性は、細胞接着アッセイを使用して調べた。 潰瘍性大腸炎患者の抗体を調べた主な結果は以下のとおり。・スクリーニングにより、潰瘍性大腸炎患者はインテグリンαVβ6に対するIgG抗体を持っていることが明らかになった。両群では、潰瘍性大腸炎患者の92.0%(103/112例)と対照患者の5.2%(8/155例)が抗インテグリンαvβ6抗体を持っていた(p<0.001)。・潰瘍性大腸炎に対する抗インテグリンαVβ6のIgG自己抗体における感度は92.0%、特異度は94.8%だった。・抗インテグリンαVβ6抗体価は、疾患の重症度と一致し、IgG1が主要なサブクラスだった。・免疫蛍光法により、結腸上皮細胞におけるインテグリンαVβ6タンパクの発現が示され、免疫沈降法が、潰瘍性大腸炎患者の結腸粘膜におけるインテグリンαVβ6へのIgG結合を明らかにした。潰瘍性大腸炎患者のIgGは、インテグリンαVβ6-フィブロネクチンの結合を阻害した。 研究者らは、「潰瘍性大腸炎患者の大多数はインテグリンαVβ6に対する自己抗体を持っていた。これは、高い感度と特異性を備えた潜在的な診断バイオマーカーとして役立つ可能性がある」と結論している。

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HPVワクチン接種と33の重篤な有害事象に関連なし、韓国/BMJ

 韓国のヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン接種を受けた11~14歳の女子において、コホート分析では33種の重篤な有害事象のうち片頭痛との関連が示唆されたものの、コホート分析と自己対照リスク間隔分析(self-controlled risk interval[SCRI] analysis)の双方でワクチン接種との関連が認められた有害事象はないことが、同国・成均館大学校のDongwon Yoon氏らの調査で示された。研究の成果は、BMJ誌2021年1月29日号に掲載された。HPVワクチン接種後の重篤な有害事象は、このワクチンの接種に対する大きな懸念と障壁の1つとなっている。HPVワクチンの安全性に関する実臨床のエビデンスは、西欧では確立しているが、アジアのエビデンスは十分ではないという。韓国の大規模データベースを用いたコホート研究 研究グループは、韓国の思春期女子におけるHPVワクチン接種と重篤な有害事象の関連を評価する目的で、コホート研究を実施した(韓国Government-wide R&D Fund project for infectious disease research[GFID]などの助成による)。 韓国予防接種登録情報システムと国立保健情報データベースのデータを統合し、2017年に11~14歳だった女子の同年1月~2019年12月の大規模データベースを構築した。 44万1,399人のデータが解析に含まれた。このうち、38万2,020人が42万9,377回のHPVワクチン接種を受け(HPVワクチン接種群)、残りの5万9,379人はHPVワクチン接種を受けず、8万7,099回の日本脳炎ワクチンまたは破傷風・ジフテリア・無細胞性百日咳混合ワクチンの接種を受けた(HPVワクチン非接種群)。 主要アウトカムは、33種の重篤な有害事象とした。重篤な有害事象には、内分泌(グレーブス病、橋本甲状腺炎など)、消化器(クローン病、潰瘍性大腸炎など)、心血管(レイノー病、静脈血栓塞栓症など)、筋骨格・全身性(強直性脊椎炎、ベーチェット症候群など)、血液(特発性血小板減少性紫斑病、ヘノッホ-シェーンライン紫斑病)、皮膚(結節性紅斑、乾癬)、神経系(ベル麻痺、てんかんなど)の疾患が含まれた。 主解析はコホートデザインで行い、SCRI分析を用いて2次解析を実施した。4価ワクチン接種者で片頭痛が増加 ワクチン接種時の平均年齢は、HPVワクチン接種群が12.42(SD 0.82)歳、HPVワクチン非接種群は11.84(0.56)歳であった。接種群のうち38.7%は1回、61.3%は2回のHPVワクチン接種を受け、29万5,365人が4価、8万6,655人は2価ワクチンの接種を受けた。合計51万6,476回のHPVワクチン接種が行われた。 コホート分析では、たとえば橋本甲状腺炎(10万人年当たりの発生率:接種群52.7 vs.非接種群36.3、補正後率比[RR]:1.24、95%信頼区間[CI]:0.78~1.94)や、関節リウマチ(168.1 vs.145.4、0.99、0.79~1.25)などではHPVワクチン接種との関連はみられず、唯一の例外として片頭痛(1,235.0 vs.920.9、1.11、1.02~1.22)で関連が認められた。 SCRI分析による2次解析では、片頭痛(補正後相対リスク:0.67、95%CI:0.58~0.78)を含め、HPVワクチン接種と重篤な有害事象には関連がないことが確かめられた。 フォローアップ期間の違いやHPVワクチンの種類別でも、結果の頑健性は高かった。また、2価ワクチン接種者では、片頭痛の有意な増加はみられなかった(補正後RR:1.07、0.96~1.20)が、4価ワクチン接種者では非接種者に比べ片頭痛が有意に増加していた(1.13、1.03~1.24)。 著者は、「これらの結果は、西欧の集団でHPVワクチン接種の安全性を示した試験と一致する」とまとめ、「片頭痛に関する矛盾した知見については、その病態生理と関心対象の集団を考慮して慎重に解釈すべきである」と指摘している。

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治療が変わる!希少疾病・難病特集 ~潰瘍性大腸炎

潰瘍性大腸炎の治療は従来、5-ASA製剤と免疫抑制剤に不応であれば、TNFα抗体が用いられてきた。しかしTNFα抗体不応例も少なくないため、現在、TNF-α以外の経路に介入して炎症を抑制すべく、以下のような薬剤の開発が進められている。まず注射剤としては、IL-23p19モノクローム抗体のリサンキズマブである。中等症以上の活動性潰瘍性大腸炎を対象に、維持療法としての有用性を検討する第III相試験が、2013年末の終了を目指してわが国で進行中である [参考] 。同じくIL-23阻害剤のグセルクマブも、同様の第IIb/III相試験が国内で走っており、'24年夏の終了を見込んでいる。同様にミリキズマブでも第III相試験が進んでいるが、終了予定時期不明である[参考]。一方、IL-36モノクローム抗体のSpesolimabは、中等症以上の活動性潰瘍性大腸炎を対象とした第II/III相試験が2020年3月に終了している [NCT03482635]。新規免疫抑制剤の開発も進んでいる。TLR9アゴニストであるコビトリモド(cobitolimod)は治療抵抗性左側潰瘍性大腸炎を対象とした第IIb相試験で、プラセボに比べ、臨床的寛解が有意に多かった [Lancet GH 2020; 5: 1063]。経口薬では、JAK阻害薬と抗α4β7インテグリン抗体製剤が先頭を走っている。まずJAK阻害薬のウパダシチニブは、中等症以上例を対象とした第III相試験において、プラセボを上回る臨床的寛解が得られた [Abbvi Press Release 2020 Dec. 24] 。フィルゴチニブも現在、第III相試験が進んでいる[Gilead Press Release 2020 May 20]。一方抗α4β7インテグリン抗体製剤であるベドリズマブは、中等症以上の活動期潰瘍性大腸炎患者において、アダリアマブを上回る臨床的寛解率がすでに報告されている [NEJM 2019; 381:1215] 。なお、ベドリズマブと異なり、経口投与が可能なカロテグラストメチル(AJM300)は本年1月、第III相試験においてプラセボを上回る臨床的寛解率を達成したと公表された [Kissei Press Release 2021 Jan 13]。消化管へのリンパ球動員抑制を介した抗炎症作用が期待されるスフィンゴシン-1-リン酸(S1P1)受容体1、5アゴニストは、オザニモド(RPC1063)による寛解率がプラセボを上回り [NEJM 2016; 374: 1754]、寛解例を延長介入した試験も昨年10月に終了したが、本年になり長期間の寛解維持作用が報告された [Sandborn WJ et al. J Crohns Colitis. 2021 Jan 13]。またIL-12や23情報系を下流でブロックするチロシンキナーゼ 2(TYK2)の阻害剤は現在、BMS-986165を用いた第II相試験が始まっており、2023年夏に終了予定である [NCT03934216] 。また、すでに注腸製剤として潰瘍性大腸炎に用いられているブデソニドは、経口投与による有用性も検討されており、メサラジンに対する非劣性を調べたわが国における第III相試験が、2020年5月に終了している [NCT03412682] 。

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ゴリムマブ、1型糖尿病若年患者のインスリン産生能を改善/NEJM

 新たに顕性1型糖尿病と診断された小児および若年成人において、ゴリムマブの投与はプラセボに比べ、内因性インスリン産生能が優れ、外因性インスリンの使用量は少ないことが、米国・ニューヨーク州立大学バッファロー校のTeresa Quattrin氏らが行った「T1GER試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2020年11月19日号に掲載された。1型糖尿病は、膵β細胞の進行性の低下で特徴付けられる自己免疫疾患である。ゴリムマブは、腫瘍壊死因子αに特異的なヒトIgG1-κモノクローナル抗体であり、欧米では成人の関節リウマチや潰瘍性大腸炎などの自己免疫疾患、欧州などでは多関節型若年性特発性関節炎や小児の非X線的体軸性脊椎関節炎などの治療法として承認されている。ゴリムマブによる1型糖尿病若年患者の改善効果を評価 本研究は、新規の顕性1型糖尿病若年患者におけるゴリムマブによる膵β細胞機能の保持および糖尿病関連の臨床・代謝指標の改善効果の評価を目的とする二重盲検プラセボ対照無作為化第II相試験であり、米国の27施設が参加した(Janssen Research and Developmentの助成による)。 対象は、年齢6~21歳、米国糖尿病学会(ADA)の判定基準で新たに顕性(ステージ3)1型糖尿病と診断され、4時間混合食負荷試験でC-ペプチド値が0.2pmol/mL以上の患者であった。被験者は、ゴリムマブを皮下投与する群またはプラセボ群に2対1の割合で無作為に割り付けられ、52週間の投与を受けた。 主要エンドポイントは、52週の時点における内因性インスリン産生量とし、4時間混合食負荷試験で産生されたC-ペプチドの濃度-時間曲線下面積(4時間C-ペプチドAUC)で評価された。副次および追加エンドポイントは、インスリン使用量、糖化ヘモグロビン値、低血糖のイベント数、経時的空腹時プロインスリン/C-ペプチド比などであった。ゴリムマブによりβ細胞の健全性が改善されたと示唆される 顕性1型糖尿病若年患者84例が登録され、56例はゴリムマブ群(平均年齢[±SD]13.9±3.7歳、男性55%)、28例はプラセボ群(14.0±4.0歳、64%)に割り付けられた。52週の期間中の平均投与期間は、ゴリムマブ群が47.1週、プラセボ群は49.0週であり、この期間に可能であった27回の注射のうち、それぞれ平均24.2回および24.9回の注射が行われた。 52週の時点における4時間C-ペプチドAUCの平均値(±SD)は、ゴリムマブ群が0.64±0.42pmol/mLと、プラセボ群の0.43±0.39pmol/mLに比べ有意に高かった(p<0.001)。4時間C-ペプチドAUCのベースラインからの変化の平均値は、ゴリムマブ群が-0.13pmol/mL、プラセボ群は-0.49pmol/mLであり、平均低下率はそれぞれ12%および56%であった。 目標達成に向けた治療(treat-to-target)アプローチによって、両群とも良好な血糖コントロールが達成された。平均糖化ヘモグロビン値は、ベースラインがゴリムマブ群7.0±1.1%、プラセボ群7.1±1.2%で、52週時はそれぞれ7.3±1.5%および7.6±1.2%であった。ベースラインから52週までの変化の最小二乗平均値(±SD)には、両群間に有意な差は認められなかった(0.47±0.21% vs.0.56±0.29%、p=0.80)。 平均インスリン使用量は、ベースラインがゴリムマブ群0.42±0.26U/kg/日、プラセボ群0.44±0.20U/kg/日、52週時はそれぞれ0.51±0.28U/kg/日および0.69±0.26U/kg/日であり、ベースラインから52週までの変化の最小二乗平均値(±SD)はゴリムマブ群で有意に低かった(0.07±0.03U/kg/日 vs.0.24±0.04U/kg/日、p=0.001)。 52週時の低血糖イベント数の平均値は、ゴリムマブ群38.2±35.7件、プラセボ群42.9±4.0件であり、両群間に差はなかった(p=0.80)。部分寛解反応(インスリン量で調整した糖化ヘモグロビン値スコア[糖化ヘモグロビン値+4×インスリン量]≦9)は、ゴリムマブ群43%、プラセボ群7%で観察された(群間差36ポイント、95%信頼区間[CI]:22~55)。また、52週の期間中の空腹時プロインスリン/C-ペプチド比中央値は、ゴリムマブ群のほうが安定しており、両群間の差は0.124(95%CI:0.064~0.184)と、ゴリムマブ群で効果が高いことが示唆された。 有害事象は、ゴリムマブ群91%、プラセボ群82%で発現した。感染症はそれぞれ71%および61%で発症したが、重度および重篤な感染症はみられなかった。担当医の判定で有害事象として記録された低血糖イベントは、ゴリムマブ群13例(23%)、プラセボ群2例(7%)で報告された。また、ゴリムマブに対する抗体は30例(54%)で検出され、29例は抗体価が1:1,000未満であり、このうち12例が中和抗体陽性だった。 著者は、「膵β細胞機能障害の指標である空腹時プロインスリン/C-ペプチド比が、プラセボ群では試験期間中に経時的に増加したのに対し、ゴリムマブ群ではほとんど変化しなかったことから、ゴリムマブによりβ細胞の健全性が改善されたと示唆される」としている。

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医師が選ぶ「2020年の顔」TOP5!(医療人、政治家部門)【ケアネット医師会員アンケート結果発表】

新型コロナの国内発生と流行、緊急事態宣言、東京五輪延期…本当にいろいろあった2020年―。今年を振り返ってみて思い浮かぶのは誰の顔でしょうか。ケアネットでは医師会員にアンケートを実施。535人の先生方にご協力いただき、選ばれた「今年の顔」は?今回は、医療人部門と政治家部門のTOP5をご紹介します!新型コロナのコメンテーター部門 、文化・芸能人部門 はこちら!医療人部門第1位 尾身 茂氏ダントツの得票数で第1位となったのは、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議およびその後の分科会で、中心的役割を担っている尾身 茂先生。経験に裏付けされたリーダーシップはもちろん、記者会見などでは報道陣からの質問に根気強く答える姿も印象的でした。選んだ理由のコメント中には、「安定」や「信頼」という言葉が多く並びました。 「尾身 茂」氏を選んだ理由(コメント抜粋)指導者として信頼しています。(60代 産婦人科/大阪府)今年はこの人しかいないでしょう。(40代 内科/東京都)医療と政治の板挟みに苦悩しているところが印象に残った。(50代 精神科/神奈川県)第2位 忽那 賢志氏コメンテーター部門での1位に続き、医療人部門でも2位にランクイン。新型コロナの最前線で診療に当たる感染症専門医として、医師からの知名度と信頼度の高さが伺える結果となりました。国内での症例数があまり多くなかった段階から、エビデンスに自身の診療経験からの知見を織り交ぜ、わかりやすく解説されていた姿が印象に残った先生も多かったのではないでしょうか。 「忽那 賢志」氏を選んだ理由(コメント抜粋)臨床で活躍されており、経験、知識も豊富で、説明も論理的で分かりやすい。(40代 内科/埼玉県)最も信頼できるから。(40代 精神科/愛知県)さまざまなメディア、講演会などで見かける機会が多かったから。(20代 臨床研修医/滋賀県)第3位 岩田 健太郎氏ダイアモンドプリンセス号についてのYouTube動画の配信は、大きな反響を呼びました。選んだ理由についてのコメントでは、「世の中にインパクトを与えた」という声のほか、「良くも悪くも発信力があった」といった声も。現場の医療者が発信する情報として、その後も発信を継続的にチェックしていたという声もあがっています。 「岩田 健太郎」氏を選んだ理由(コメント抜粋)新型コロナウイルス感染症に関する行動および発言が際立っていた。(40代 精神科/北海道)現場の実態をわかっているから。(30代 糖尿病・代謝・内分泌内科/兵庫県)いい意味でも悪い意味でも印象に残ったから。(50代 神経内科/徳島県)第4位 西浦 博氏 「西浦 博」氏を選んだ理由(コメント抜粋)純粋に学問的見地からがんばっておられた。(40代 皮膚科/東京都)統計を介したモデルだが世間で議論するたたき台となった。(30代 膠原病・リウマチ科/北海道)コロナ対策で奮闘された。(20代 臨床研修医/東京都)第5位 山中 伸弥氏 「山中 伸弥」氏を選んだ理由(コメント抜粋)独自の視点で情報発信されているので。(50代 消化器内科/山口県)ツベルクリンの話に共感したから。(50代 産婦人科/愛媛県)政治家部門第1位 安倍 晋三氏憲政史上最長となる7年8ヵ月の長期政権を築き、今年9月に体調不良を理由に辞任した安倍 晋三前内閣総理大臣が第1位に。 アベノマスクや給付金支給などの施策を含め、先進諸国の中では結果的に感染者数を抑えたことを評価する声、体調を慮る声が多くみられました。持病とされる潰瘍性大腸炎に光を当てることにも貢献されたのではないでしょうか。 「安倍 晋三」氏を選んだ理由(コメント抜粋)日本で結果的に感染者を増やさなかったから。(30代 泌尿器科/福岡県 他多数)体調の悪い中リーダーとして可能なかぎりの仕事をされたと思います。(30代 耳鼻咽喉科/福岡県)在任時のさまざまな対策は今も続行されている。(50代 消化器外科/鹿児島県)第2位 吉村 洋文氏新型コロナウイルス感染拡大で各首長のリーダーシップが求められるなか、1975年生まれ45歳の大阪府知事はスピード感のある対応や発信力の高さで注目を集めました。ポピドンヨード入りのうがい薬を推奨した件では批判を浴びましたが、「何とか状況を改善しようと先頭に立って行動している」と評価する声が多く上がりました。 「吉村 洋文」氏を選んだ理由(コメント抜粋)誤った情報もあるが、責任ある立場でより良い方向を目指している姿勢が伝わるから。(30代 小児科/大阪府)第一波の時の対応の早さは今までの日本の政治家ではあまり見られなかったと思う。(40代 泌尿器科/兵庫県)フットワーク良く決断力がある。(40代 糖尿病・代謝・内分泌内科/京都府)第3位 菅 義偉氏第2次安倍政権が発足した2012年以降、長きにわたり官房長官を務めてきた菅氏が、安倍政権を引き継ぐ形で第99代内閣総理大臣に就任しました。突然の交代、そして新型コロナ感染症対応が求められる難しいタイミングでの就任となりましたが、官房長官としての第一波への対応経験に期待するコメントが多く寄せられました。 「菅 義偉」氏を選んだ理由(コメント抜粋)官房長官として初期対応から重責を担っていたから(20代 臨床研修医/滋賀県)安倍政権時代から比較的バランスのとれた政策、実行力が感じられた(40代 血液内科/宮城県)期待も込めて(40代 病理診断科/島根県)第4位 オードリー・タン(唐 鳳)氏 「オードリー・タン」氏を選んだ理由(コメント抜粋)封じ込めに成功した台湾のキーマンである。(40代 神経内科/茨城県)日本のITがいかに遅れているのかを気づかせてくれた。(30代 臨床研修医/福岡県)若くて頭も切れて素晴らしい。(40代 皮膚科/群馬県)第5位 蔡 英文氏 「蔡 英文」氏を選んだ理由(コメント抜粋)民主主義的な手法でコロナ収束に導いた。(30代 内科/広島県)初期のコロナ対策は見事。(30代 心療内科/東京都 他多数)★アンケート概要★アンケート名 :『2020年振り返り企画!さまざまな分野の「今年の人」を挙げてください』実施日    :2020年11月12日~19日調査方法   :インターネット対象     :CareNet.com会員医師有効回答数  :535件

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潰瘍性大腸炎、治療の最適解を導くために必要なこと

 国の指定難病・潰瘍性大腸炎は、安倍元首相の辞任理由として注目を集めたことが記憶に新しい。さまざまな憶測が飛び交い、疾患に対する誤った認識も見られるが、これは正しい理解を広めるチャンスでもある。 先日、ヤンセンファーマが開催した潰瘍性大腸炎セミナーでは、鈴木 康夫氏(東邦大学医療センター佐倉病院 IBDセンター センター長)が、潰瘍性大腸炎の患者が直面する実態と最新治療について講演を行った。症状の個人差が大きく理解が得られにくい現状 わが国における潰瘍性大腸炎の患者数は、2016年度の全国疫学調査研究で22万人と推計され、数ある指定難病の中で最も多い。現在も増え続けており、将来的に30万人を超えるのではと危惧されている。 潰瘍性大腸炎の重症度について、2007年に厚労省が調査したデータ(n=4万6,223)によると、日常生活に影響が少ない軽症患者が63%を占める一方で、中等症が28%、重症が3%、劇症が0.3%(不明6%)という内訳だ。重症例では入院治療が必要で、中にはやむを得ず大腸全摘に至る例も存在する。個人差の幅が大きいことが、疾患に対する理解の得にくさにつながっているのかもしれない。ステロイド依存・抵抗性などの難治例、発がんリスクなどが問題に 治療は、5-ASA(メサラジン)製剤とステロイド製剤を基本として、症状を抑え正常状態に近付ける寛解導入療法と、再発を予防する寛解維持療法を組み合わせて継続する。鈴木氏は、「大事なのは、再発時早期に十分な治療をして、病状の悪化・進展を防ぐこと。多くの症例を診ている専門医は、早い段階で再発の徴候をキャッチできる。たとえずっと同じ薬が出ているとしても、主治医には定期的に顔を見せて、病状を伝えてほしい」と、通院の重要性を強調した。 とくにステロイドは中等症以上に著効し、初回治療では84%の寛解導入率が得られたという報告もある。しかし、全身的な副作用などの懸念があり、さらには2年以上経過してもステロイド治療から離脱できない依存例や、効きにくくなる抵抗例が半数近くも存在するなどの問題がある。このような例や頻回に再燃を繰り返す例などは“難治性”と定義付けられ、専門医により適切な治療法が日々検討されている。 また、もう1つの問題として炎症性発がんについて触れた。「一番危険なのは、炎症が治まり切らないまま再燃を繰り返す症例。落ち着いている時期は正常に近付いたように見えるが、トイレが近かったり、食べたいものが食べれなかったり、患者のQOLは著しく低下している。このような症例は、健康な人に比べて大腸がんリスクが8倍以上になる」と注意を呼び掛けた。患者の症状を踏まえ、生活スタイルやニーズに合わせた治療法を 潰瘍性大腸炎に対しては、平成~令和にかけて、新しい治療薬が次々と登場している。今年3月には、クローン病治療薬のヒト型抗ヒトIL-12/23p40モノクローナル抗体製剤「ウステキヌマブ(商品名:ステラーラ)」が、潰瘍性大腸炎の追加適応を取得した。 鈴木氏は、「同じ潰瘍性大腸炎でも、患者ごとに病態は異なる。個々の患者が持つ背景因子と病歴から将来を予測し、各治療法の特性を理解した上で、治療を選択することが大事。また、もう1つ大事なのは、患者さんの生活スタイルやニーズを考えること。治療薬によって、通院頻度や投与法などさまざまなので、患者さんの気持ちを汲み取りながら、治療を進めることも重要」とアドバイスを送った。 潰瘍性大腸炎の患者が少なかった時代は、専門医中心の診療でも成り立ったが、個々の患者はいろんな問題を抱えており、患者数が増え続けている現状に対応しきるのは難しい。同氏は、「これからは、各領域の専門職がチームとして協力し、トータルケアを目指して行くことがまさに大事だろう。また、患者をできるだけ良い状態にして、地元の医療機関に通えるよう支援(逆紹介)できる体制整備も必要だ」と講演をまとめた。

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第22回 急転直下の安倍首相辞任-振り返れば“異変”はアノ時からだった

先週の本コラムで、私の脳内で展開する『世界びっくり人間コンテスト』の対象者の一人として取り上げた安倍首相が、コラム公開前日の8月27日夕刻から始まった記者会見で突如辞任を表明した。会見では持病の潰瘍性大腸炎の悪化がその理由だと説明された。私も一応職歴26年のニュース屋の端くれであり、この会見が決まった後に首相が何を話すつもりなのか、ちょこちょこ探りは入れていた。しかし、この日の午前中まで“辞任”の“じ”の字すら聞こえてこない状況。そこから急転直下の「辞任表明の見込み」の一報が流れ、まさに青天の霹靂だった。そしてこうしたニュースというのは、発表後に「実はあの時は…」と振り返ることができる事象があることも少なくない。「異変」は7月中旬から始まった既に約1年半にわたって原則毎日運動する習慣を取り入れていた私は、午後5時から始まった安倍首相の会見を所属しているスポーツジムのトレッドミル(いわゆるランニングマシン)に一体化されたテレビのディスプレイにイヤホンを差し込み、走りながら聞いていた。午後5時の会見開始2分前からトレッドミルで走り出し、9分くらいになる時だった。安倍首相が自身の健康問題に触れ始めた。その中で安倍首相が言った次の言葉に私はハッとした。「先月中頃から体調に異変が生じ、体力をかなり消耗する状況となりました」ここでいう先月中旬とは7月中旬である。この頃、今考えれば不思議なことが起きていた。というのもこの時期に旧知の大手新聞社の記者2人(それぞれ別々の会社)から「親族がかかったので潰瘍性大腸炎について教えて欲しい」と連絡があったのだ。当時は何も思わずに基礎的なことを話した。一般人は“難病”という言葉で“数の少ない病気”と先入観を持ってしまうようだが、国内の潰瘍性大腸炎患者は20万人超で、俗に3大がんといわれる胃がん、大腸がん、肺がんのそれぞれの年間新規診断者数よりも多い一般的な病気である。実際、私の周辺には、仕事に関係なく出会った6人と関連して出会った4人の合計10人の潰瘍性大腸炎患者がいる。ちなみに私が医療を取材するようになってから、この病気に関わった機会は結構多い。最初は1997年。ちょうど5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤の中で、初めて大腸のみで成分が放出されるよう設計されたメサラジン(商品名:ペンタサ)の発売から約1年が経過し、その臨床での評価を取材して回ったのである。その後も折に触れてこの病気を取材する機会は少なくなかった。そんなこんなで新聞記者からの問い合わせにも5-ASA製剤、ステロイド、免疫抑制薬、免疫調節薬、生物学的製剤の特徴や日常生活での注意点などはとくに何も見なくとも一通り話すことはできた。突飛すぎる週刊誌記者からの依頼ところがそれから10日以上経った7月下旬、私の携帯電話にやはり旧知の週刊誌記者から着信があった。あいにく私は電話を受けることができなかったが、当人からすぐに「メールをお送りします」とのSMSが届いた。たまたま、メールは確認できる状態だったため、メーラーを立ち上げておいたところ、それから約15分後に次のようなメールが届いた。「首相が持病の潰瘍性大腸炎が悪化し、9月にも退陣するという情報があるのですが、これに関連して、専門医に安倍首相の顔色や表情、皮膚の状態などから、病状を判断してもらおうかと考えています。そこでお願いですが、こうしたリクエストに応じてくれる医師をご存じないでしょうか。こちらも何人か当たっているのですが、なかなか応じてもらえません。心当たりがあれば、教えていただけませんでしょうか」旧知の記者なのに申し訳ないが、無茶苦茶な依頼である。そもそも潰瘍性大腸炎の診療経験値が極めて高い専門医でも、ぱっと見で重症度・病状が判断できるわけはない。私は次のように返信メールを書いた。「潰瘍性大腸炎は下痢や血便の頻度、血液検査、大腸内視鏡で病状を判断するものなので、ぱっと見で病状診断は無理です。見た目でこの病気の病状を診断するというのは、およそ星占いの1000倍以上当てにならない話です」また、潰瘍性大腸炎の専門医は国内に数百人程度で、大御所を中心にヒエラルキーが確立しているのは医療関係者なら周知のこと。その環境下でこの記者が要望するような非科学的コメントをする医師がいれば袋叩きにあってしまう。その旨も返信メールに記述し、協力は難しいと伝えた。そしてこの瞬間、私の記憶に蘇ってきたのは7月中旬の新聞記者からの問い合わせだ。一瞬、「もしかしてこのこと?」とは思ったものの、週刊誌記者からの依頼があまりにも突拍子もないものだったことの反動もあって、この時点では首相の体調悪化→辞任というシナリオもないだろうとの判断に傾いた。もっとも、やはり記者は自分が思うことでも一度は疑ってかかるもの。念のため、ある雑誌で長年政治取材をしている記者に8月上旬に連絡を取った。ちなみにこの頃、一部の週刊誌の誌面では「首相が官邸で吐血した」との情報が躍っていた。私が聞いた記者は次のように答えた。「あの吐血情報はどう考えても官邸から出てるんですよね。でももし事実ならば、絶対かん口令が敷かれるはずなんですが…」その後、2度にわたり安倍首相が慶應義塾大学病院を受診したことは報道されている通りである。まさかまさかの辞任表明そしてあの首相の辞任表明会見の前夜から、念のため何人かの記者や関係者に話を振ってみた。要は「辞任があるやなしや」という点である。皆一様に辞任を否定した。「いやいや、前回の政権投げ出し批判があるから、本人も周囲もことさら体調理由の辞任になることは絶対避けたいシナリオ。ここではないですよ」「結局、メディアがことさら騒いでいるだけで、会見も言ってしまえば『大山鳴動して鼠一匹』になりますよ」まあ、これで今回は何もないかと思った。28日午前にもある政治担当記者とやり取りすると、夕方の会見でも述べられた「指定感染症見直し」で厚生労働省と官邸側が話をつめているらしいとの情報のみで、やっぱり「今日はまず辞任はないと思います」との返事。実はかくいう私もそれらの情報を受け、原稿のやり取りをしている当コラムの担当編集者へのお昼直前のメールに次のように書いている。「本日の会見、今の時点でさすがに辞任はなさそうです」各種報道によると、安倍首相が辞意を明らかにしたのは、この日の閣議後に麻生副総理と2人で会談した場だったという。首相動静によれば午前11時過ぎ。それから2時間と経たずに空気は一変した。あとは冒頭に触れたとおりである。潰瘍性大腸炎と私の出会いちなみに首相の辞任表明会見後、7月中旬に私に電話をしてきた新聞社の記者に連絡を取ってみた。うち1人は「ノーコメ(ノーコメント)ということで…」とごまかし笑い。もう1人はいまだ電話を受けてくれていない(笑)。ちなみに私が初めてこの病気の患者と出会ったのは大学1年の時で、その患者は同級生である。彼とは実験などで同じ班だったが、時々、実験の最中に忽然と姿を消すことがあった。大学の実験はギリギリの人数でやっているので、そうそう姿を消してもらっては困る。姿を消した彼がひょっこり戻ってくると、同じ班のほかのメンバーが「おい、何してたんだよ」と詰める。彼はいつも苦笑いしながらぽつりと言った。「うん、ウンコ」そこで班内は爆笑になる。いつのまにか彼は陰で「ウンコ○○(○○は彼の名字)」と呼ばれるようになった。そんなある日、学食で私が一人で食事をしているとトレーを持った彼が「おう」と言いながら、向かいに座った。そして自らこう語り出した。「実はさ、しょっちゅうトイレ行くの病気なんだよね。潰瘍性大腸炎っていう」今のように医学の知識のなかった私はこう返した。「それって治るの」彼は私のほうも見ずにうどんをすすりながら言った。「いや、治らない」なんと返していいかわからなかった。彼はうどんを食べ終わると、私の前に大きなオレンジ色の錠剤を出して見せてくれた。「これが薬なんだ」当時は何もわからなかったが、今ならあれが初期の5-ASA製剤サラゾピリンだとわかる。男女問わず、尿や汗をオレンジ色にしてしまい、男性では精液にまで色を付けてしまうあの薬だ。そして今ならわかる。彼が堂々と笑いながら「ウンコ」と口にしたのは彼が身につけた防衛策だろうと。首相辞任会見を難病周知のきっかけに先週の安倍首相の辞任会見以来、この記事を執筆している今現在までに各紙・各週刊誌の記者とやり取りする中で、必ず話題になるのが首相の病気である潰瘍性大腸炎のことだ。そして20万人もの患者がいながら、案外この病気のことは知られていないことに驚く。ちなみにこの間、両手指を超える記者と話して、知り合いにこの病気の患者がいると答えたのは1人のみ。だが、そんなはずはない思う。身の回りで大腸がん、肺がん、胃がんの患者の話を聞いたことがない成人はいないと思う。潰瘍性大腸炎の患者はそうしたがんの患者よりも多いのだ。結局のところ排泄のことも関係するために多くの患者は周囲に言えないだけなのだろうと思う。その意味で私が仕事とは直接関係なく出会った潰瘍性大腸炎の患者の一部からはこういわれたことがある。「医療に詳しいみたいだから言っても問題ないかなと思って」そうした彼らの期待に今の自分が応えられているかと問われれば私も自信はない。だが、日本の国家元首自らのカミングアウトは、アンサングな患者たちのことに今一度思いをはせる良い機会ではないだろうか。もっともこの職業ゆえの余計な一言かもしれないが、安倍首相の政治的成果に対する評価は別途厳格に行わなければならないし、そこでは基本、鞭を打つ姿勢で臨むべきであり、手を緩める必要はまったくないと思っている。

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単一遺伝子異常に伴う炎症性腸疾患、疑うべき臨床所見は?

 小児の炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease:IBD)は発症時期によって特徴が異なり、臨床像が多様だ。とくに早期に発症するケースでは、単一遺伝子異常に伴うIBDの頻度が高く、原発性免疫不全症候群の可能性も考慮する必要がある。しかし、その詳細な有病率は明らかになっていない。今回、カナダ・トロント小児病院のEileen Crowley氏らは、小児IBD患者1,005例のゲノムを解析し、単一遺伝子異常に伴うIBDの有病率を決定するとともに、予測可能な臨床所見を検討した。Gastroenterology誌オンライン版2020年2月18日号掲載の報告。 0〜18歳(診断時年齢の中央値:11.96歳)の小児IBD患者1,005例、およびその家族の血液サンプル(合計2,305サンプル)を用いて、全エクソームシークエンスを実施した。IBDの原因と考えられる遺伝子変異はサンガーシークエンスで確認し、生検は免疫蛍光染色、組織化学分析を実施した。 小児IBD患者1,005例のうち、3%にIBD関連の単一遺伝子変異が確認された。年齢別の割合は、6歳未満で7.8%、6〜18歳で2.3%だった。このうち1%の患者の変異は、同種造血幹細胞移植で治療できる可能性があるものだった。 単一遺伝子異常に伴う小児IBD患者の臨床的特徴は、発症年齢が2歳未満(OR:6.30、p=0.020)、自己免疫疾患の家族歴(OR:5.12、p=0.002)、腸管外症状(OR:15.36、p<0.0001)などだった。 単一遺伝子異常に伴う小児IBD患者のうち17例がクローン病であり、症状は35%に腹痛、24%に軟便、18%に嘔吐、18%に体重減少、5%に断続的な血便がみられた。また、14例は潰瘍性大腸炎もしくは分類不能型のIBDであり、顕著な症状として78%に緩い血便がみられた。 これらの結果から、単一遺伝子異常に伴う小児IBDの予測には、早期発症、自己免疫疾患の家族歴、腸管外症状などの所見が役立つ可能性が示唆された。また、単一遺伝子異常に伴う小児IBDの一部は、同種造血幹細胞移植によって治療可能であることから、積極的に遺伝子検査を検討するべきだ、との見解を示した。

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潰瘍性大腸炎の大腸がんリスクに関する北欧の大規模コホート研究(解説:上村直実氏)-1201

 10年以上の長期経過を有する潰瘍性大腸炎(UC)が大腸がん(CRC)発症の明らかなリスクであることは従来からよく知られている。しかし、UCの中でもCRCのリスクが異なることは明らかになっていなかった。今回、スウェーデンとデンマークのナショナルデータベースを用いてUC患者10万人と一般住民100万人を対象として、ほぼ50年近くの長期にわたる大規模集団コホート研究の結果がLancet誌に掲載された。 特筆すべき結果はUC患者の中でCRCハイリスクの特徴を明らかにした点である。すなわち、発症年齢が低い若年発症型、罹患範囲の広い全大腸炎型、CRCの家族歴陽性者、原発性硬化性胆管炎(PSC)の合併、これら4因子を有する患者はCRCのリスクが高いことを明確に示している。さらに若年発症のリスクが高いとする一方、高齢発症のCRCリスクは一般住民と同じであることやPSC合併者のリスクが高いことは、臨床現場でのUC診療にとって非常に重要な情報である。 この臨床診療に直結する結果を得ることができたのは、うらやましいほどに大規模で精緻な研究デザイン、すなわち50年間にわたる大規模コホート研究を実践可能とした医学研究に対する両国の底力と思われた。UCを抽出するための国際疾病分類ICDコードを用いた患者登録簿、死因登録簿、すべてのがん登録簿、がんのステージも記述されている病理組織データ登録簿、これらのデータベースが国民・居住者に割り当てられた個人識別番号(マイナンバー)にリンクされていることから、UCのタイプ、発症年齢、合併症、CRCの発症年齢および死亡年齢を計算することが可能であった点が驚きである。 最近、台湾や韓国においても全国レジストリを用いた疫学研究の報告が散見されるようになっている。日本でも入院症例のDPCデータやレセプトから得られたNDBデータを用いた疫学研究が開始されているが、不完全ながん登録や病理組織登録制度、浸透しないマイナンバー制度(カード)の状況など多くの課題がある。ちなみに、日本では内視鏡的なサーベイランスにより大腸がんの早期発見が可能となっており、北欧と比べてUCの大腸がん死亡リスクが高くない可能性もあるが、現時点ではこのような大規模なコホート研究は不可能である。今後、世界に向けて日本独自の信頼できるデータを発信できる体制を国家的戦略として構築する必要があると思われた。

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クローン病〔CD : Crohn’s disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義クローン病(Crohn’s disease: CD)は消化管の慢性肉芽腫性炎症性疾患であり、発症原因は不明であるが、免疫異常などの関与が考えられる。小腸、大腸を中心に浮腫や潰瘍を認め、腸管狭窄や瘻孔など特徴的な病態を生じる。■ 疫学主として若年者(10代後半~30代前半)に好発する。年々増加傾向にあり、わが国のCDの有病率は最近15年間で約4倍に増加、患者数4万人以上と推測され、日本では1.8:1.0の比率で男性に多い。現在も増加していると考えられる。■ 病因原因はいまだ不明であるが、遺伝的素因と食事などの環境因子の両者が関与し、消化管局所の免疫学的異常により、慢性の肉芽腫性炎症が持続する多因子疾患である。喫煙が増悪因子とされている。ほかに長鎖脂肪酸、多価不飽和脂肪酸、精製糖質の過剰摂取などが増悪因子として想定されている。■ 症状主症状は腹痛(70%)、下痢(80%)、体重減少・発熱(40~70%)である。肛門病変はCD患者の半数以上にみられ、先行する場合も多い(36~81%)。検査値の異常として、炎症所見(白血球数、CRP、血小板数、赤沈)の上昇、低栄養(血清総蛋白、アルブミン、総コレステロール値の低下)、貧血を示す。■ 分類正しい治療を考える上で、病変部位、疾患パターン、活動度・重症度の把握が重要である。病変部位は小腸型、小腸大腸型、大腸型の3つに大きく分類される。日本では小腸型20%、小腸大腸型50%、大腸型30%とされている。疾患パターンとして炎症型、狭窄型、瘻孔形成型の3通りに分類することが国際的に提唱されている。さらに疾患活動性として、症状が軽微もしくは消失する寛解期と、症状のある活動期に分けられる。重症度を客観的に評価するために、CD活動指数CDAI(表1)、IOIBDなどがあるが、日常診療に適した重症度分類は現在のところまだないため、患者の自覚症状、臨床所見、検査所見から総合的に評価する。画像を拡大する■ 予後CDは再燃、寛解を繰り返し慢性に経過する疾患である。病初期は消化管の炎症が中心であるが、徐々に狭窄型・瘻孔型へ移行し、手術が必要となる症例が多い。2000年に提唱されたCDの分類法であるモントリオール分類(表2)では発症時年齢、罹患範囲、病気の性質により分類されている。病型や病態は罹患期間により比率が変化し、Cosnes氏らは診断時に炎症型が85%であっても、20年後には88%が狭窄型から瘻孔型へ移行すると報告している 。累積手術率は発症後経過年数とともに上昇し、生涯手術率は80%以上になるという報告もある。海外での累積手術率は10年で34~71%である。わが国の累積手術率も、10年で70.8%、初回手術後の5年再手術率は16~43%、10年で26~67%と報告されている。とくに瘻孔型では手術率、術後再発率とも高くなっている。死亡率に関しては、Caravanらのメタ解析によるとCDの標準化死亡率は1.5(1.3~1.7)と算出されている。死亡率は過去30年で減少傾向にあるが、CDの死亡率比は一般住民よりやや高いとの報告がある。わが国では、やや高いとする報告と変わらないとする報告があり、死亡因子としては肝胆道疾患、消化管がん、肺がんが挙げられている。画像を拡大する2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 診断基準厚生労働省の診断基準(表3)に沿って診断を行う。2018年に改訂した診断基準(案) ではCDAI(Crohn’s disease activitiy index)や合併症、炎症所見、治療反応に基づくECCO(European Crohn’s and colitis organisation )(表4)の分類に準じた重症度分類(軽症、中等症、重症)が記載されている。画像を拡大する■ 診断の実際若年者に、主症状である腹痛(70%)、下痢(80%)、体重減少・発熱(40~70%)が続いた場合CDを念頭に置く。肛門病変はCD患者の半数以上にみられ、先行する場合も多い(36~81%)。血液検査にて炎症所見、低栄養、貧血がみられたら、CDを疑い終末回腸を含めた下部消化管内視鏡検査および生検を行う。診断基準に含まれる特徴的な所見および生検組織にて、非乾酪性類上皮肉芽腫が検出されれば診断が確定できる。病変の範囲、治療方針決定のためにも、上部消化管内視鏡検査、小腸X線造影検査を行うべきである。CDと鑑別を要する疾患として、腸結核、腸型ベーチェット病、単純性潰瘍、非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)潰瘍、感染性腸炎、虚血性腸炎、潰瘍性大腸炎などがあるため、服薬歴の確認・便培養・ツベルクリン反応およびクォンティフェロン(QFT)、病理組織検査を確認する。診断のフローチャートを図に示す。画像を拡大する1)画像検査所見(1)下部消化管内視鏡検査、小腸バルーン内視鏡検査検査前に、問診やX線にて強い狭窄症状がないか確認する。60~80%の患者では大腸と終末回腸が罹患する。病変は非連続性または区域性に分布し、偏側性で介在部はほぼ正常である。活動性病変として、縦走潰瘍と敷石像が特徴的な所見である。小病変としてはアフタや不整形潰瘍が認められる。(2)上部消化管内視鏡検査胃では、胃体上部小弯側の竹の節状外観、前庭部のたこいぼびらん・不整形潰瘍が認められる。十二指腸では、球部と下行脚に好発し、多発アフタ、不整形潰瘍、ノッチ様陥凹、結節状隆起が認められる。(3)消化管造影検査(X線検査)病変の大きさや分布、狭窄の程度、瘻孔の有無について簡単に検査ができる。所見の特徴は、縦走潰瘍、敷石像、非連続性病変、瘻孔、非対称性狭窄(偏側性変形)、裂孔、および多発するアフタがある。(4)その他近年、機器の性能向上および撮影技法の開発により、超音波検査、CT、MRIにより腸管自体を詳細に描出することが可能となった。小腸病変の診断に、経口造影剤で腸管内を満たし、造影CT検査を行うCT enterography(CTE)や、MRI撮影を行うMR enterography(MRE)が欧米では広く用いられており、わが国の一部の医療施設でも用いられている。撮影法の工夫により大腸も同時に評価ができるMR enterocolonography(MREC)も一部の施設では行われており、検査が標準化されれば、繰り返し行う場合も侵襲が少なく、内視鏡が到達できない腸管の評価にも有用と考えられる。2)病理検査所見CDには病理診断上、絶対的な基準となるものがなく、種々の所見を組み合わせて診断する。生検診断をするにあたっては、その有無を多数の生検標本で連続切片を作成し検討する。組織学的所見として重要なものは(1)全層性炎症像、(2)非乾酪性類上皮肉芽腫の検出、(3)裂溝、(4)潰瘍である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)CDは発症原因が不明であり、経過中に寛解と再燃を繰り返すことが多い。CDの根治的治療法は現時点ではないため、治療の目標は病勢をコントロールし、炎症を繰り返すことによる患者のQOL低下を予防することにある。そのため薬物療法、栄養療法、外科療法を組み合わせて症状を抑えるとともに、栄養状態を維持し、炎症の再燃や術後の再発を予防することが重要である。■ 内科治療(主に薬物治療として)活動期の治療と寛解期の治療に大別される。活動期CDの治療方針は、疾患の重症度、病変範囲、合併症の有無、患者の社会的背景を考慮して決定する。初発のCDでは、診断および病変範囲、重症度の確定と疾患に関する教育や総合的指導のため、専門医にコンサルトすることが望ましい。また、ステロイド依存や免疫調節薬の投与経験がない場合においても、生物学的製剤の投与に関しては専門医にコンサルトすべきである。わが国における平成30年度 CD治療指針、および各治療法の位置づけ(表5)を示す。画像を拡大する1)5-ASA製剤CDに適応があるのはメサラジン(商品名:ペンタサ)、サラゾスルファピリジン(同:サラゾピリン)の経口薬である。治療指針においては軽症~中等症の活動期の治療、寛解維持療法、術後再発予防のための治療薬として推奨されている。CDの寛解導入効果および寛解維持効果は限定的であるが有害性は低い。腸の病変部に直接作用し炎症を抑えるため、製剤の選択には薬剤の放出機序に注意して病変範囲によって決める必要がある。2)ステロイド(GS)5-ASA製剤無効例、全身症状を有する中等症以上の症例で寛解導入に有効である。関節症状、皮膚症状、眼症状などの腸管外合併症を有する場合や、発熱、CRP高値などの全身症状が著明な場合は、最初からステロイドを使用する。寛解維持効果はないため、副作用の面からも長期投与は避けるべきである。ステロイド依存となった場合は、少量の免疫調節薬(アザチオプリン〔AZA〕、6-メルカプトプリン〔6-MP〕)を併用し、ステロイドからの離脱を図る。軽症あるいは中等症例の回盲部病変の寛解導入には、全身性副作用を軽減し局所に作用するブデソニド(同:ゼンタコート)9mg/日の投与が有効である。3)免疫調節薬(AZA、6-MPなど)免疫調節薬として、AZA(同:イムラン、アザニン)、6-MP(同:ロイケリン)が主なものであり、AZAのみ保険適用となっている。AZAと6-MPは寛解導入、寛解維持に有効であり、ステロイド減量効果を有する。欧米の使用量はAZA 2.0~3.0mg/kg/日、6-MP 50mg/日または1.5mg/kg/日であるが、日本人は代謝酵素の問題から用量依存性の副作用が生じやすく、欧米より少量のAZA(50~100mg/日)、6-MP(20~50mg/日)が投与されることが多い。チオプリン製剤の副作用の中で、服用開始後早期に発現する重度の急性白血球減少と全脱毛がNUDT15遺伝子多型と関連することが明らかとされている。2019年2月よりNUDT15遺伝子多型検査が保険適用となっており、初回チオプリン製剤治療前には本検査を施行し、表6に従ってチオプリン製剤の適応を判断することが推奨される。AZA/6-MPの効果発現は緩徐で2~3ヵ月かかることが多いが、長期に安定した効果が期待できる。適応としてステロイド減量効果、難治例の寛解維持目的、瘻孔病変、術後再燃予防、抗TNF-α抗体製剤を使用する際の相乗効果があげられる。画像を拡大する4)抗体製剤(1)抗TNF-α抗体製剤わが国ではインフリキシマブ(同:レミケード)、アダリムマブ(同:ヒュミラ)が保険適用となっている。抗TNF-α抗体製剤は、CDの寛解導入、寛解維持に有効で外瘻閉鎖維持効果を有する。適応として、中等症~重症のステロイド・栄養療法が無効な症例、重症例で膿瘍や狭窄がない治療抵抗例、抗TNF-α抗体製剤で寛解導入された症例の寛解維持療法、膿瘍がコントロールされた肛門病変が挙げられる。早期に免疫調節薬と併用での導入が治療成績がよいとの報告があるが、副作用と医療費の問題もあり、全例導入は避けるべきである。早期導入を進める症例として、肛門病変を有する症例、穿孔型の症例、若年発症が挙げられる。(2)抗IL12/23p40抗体製剤2017年5月より中等症から重症の寛解導入および維持療法としてウステキヌマブ (同:ステラーラ)が使用可能となっている。導入時のみ点滴静注(体重あたり、55kg以下260㎎、55kgを超えて85kg以下390㎎、85kgを超える場合520㎎)、その後は12週間隔の皮下注射もしくは活動性が高い場合は8週間隔の皮下注射であり、投与間隔が長くてもよいという特徴がある。また、安全性が高いことも特徴である。腸管ダメージの進行があまりない炎症期の症例に有効との報告がある。肛門病変への効果については、まだ統一見解は得られていない。(3)抗α4β7インテグリン抗体製剤2018年11月より中等症から重症の寛解導入および維持療法としてベドリズマブ (同:エンタイビオ)が使用可能となっている。インフリキシマブ同様0週、2週、6週で投与後維持療法として8週間隔の点滴静注 (30分/回)を行う。抗TNF-α抗体製剤failure症例よりもnaive症例で寛解導入および維持効果を示した報告が多い。日本での長期効果の報告に関してはまだ症例数も少なく、今後のデータ集積が必要である。5)栄養療法活動期には腸管の安静を図りつつ、栄養状態を改善するために、低脂肪・低残渣・低刺激・高蛋白・高カロリー食を基本とする。糖質・脂質の多い食事は危険因子とされている。「クローン病診療ガイドライン(2011年)」では、栄養療法はステロイドとともに主として中等症以上が適応となり 、痔瘻や狭窄などの腸管合併症には無効である。1日30kcal/kg以上の成分栄養療法の継続が再発防止に有効であるが、長期にわたる成分栄養療法の継続はアドヒアランスの問題から困難であることも少なくない。総摂取カロリーの半分を成分栄養剤で摂取すれば、寛解維持に有効であることが示されており、1日900kcal以上を摂取するhalf EDが目標となっている。6)抗菌薬メトロニダゾール、シプロフロキサシンなどの抗菌薬は中等度~重症の活動期の治療薬として、肛門部病変の治療薬として有効性が示されている。病変部位別の比較では小腸病変より大腸病変に対して有効性が高いとされる。7)顆粒球・単球吸着療法(granulocyte/monocyte apheresis: GMA)2010年より大腸病変のあるCDに対しGMAが適応拡大となった。GMAは単独治療の適応はなく、既存治療の有効性が乏しい場合に併用療法として考慮すべきである。施行回数は週1回×5回を1クールとして、最大2クールまで施行する。8)内視鏡的バルーン拡張術(endoscopic balloon dilatation: EBD)CDは、経過中に高い確率で外科手術を要する疾患であり、手術適応の半数以上は腸管狭窄である。EBDは手術回避の目的として行われる内視鏡的治療であり、治療指針にも取り上げられている。適応としては、腸閉塞症状を伴う比較的短く(3cm以下)屈曲が少ない良性狭窄で、深い潰瘍や瘻孔を伴わないものである。適応外としては、細径内視鏡が通過する程度の狭窄、強度に屈曲した狭窄、長い狭窄、瘻孔合併例、炎症や潰瘍が合併している狭窄である。■ 外科的治療CDの外科的治療は内科的治療で改善しない病変のみに対して行い、QOLの改善が目的である。腸管病変に対する手術では、原則として切除をなるべく小範囲とし、小腸病変に対しては可能な症例では狭窄形成術を行い、腸管はなるべく温存する。5年再手術率16~43%、10年で32~76%と高く、可能な症例では腹腔鏡下手術が有効である。緊急手術、穿孔、広範囲膿瘍形成、複数回の開腹手術既往、腸管外多臓器への複雑な瘻孔などは開腹手術が選択される。厚生労働省研究班治療指針によるCDの手術適応は表7の通りである。完全な腸閉塞、穿孔、大量出血、中毒性巨大結腸症は緊急に手術を行う。狭窄病変については、活動性病変は内科治療、線維性狭窄で口側拡張の著しいもの、短い範囲に多発するもの、狭窄の範囲が長いもの、瘻孔を伴うもの、狭窄症状を繰り返すものは手術適応となる。肛門病変は、難治性で再発を繰り返す痔瘻・膿瘍が外科的治療の対象となる。治療として、痔瘻根治術、シートン法ドレナージ、人工肛門造設(一時的)、直腸切断術が選択される。治療の目標は症状の軽減と肛門機能の保持となる。画像を拡大する4 今後の展望現在、各種免疫を ターゲットとした治験が行われており、進行中の治験を以下に示す。グセルクマブ(商品名:トレムフィア):抗IL-23p19抗体(点滴静注および皮下注射製剤)Upadacitinib:JAK1阻害薬(経口)E6011:抗フラクタルカイン抗体(静注)Filgotinib:JAK1阻害薬(経口)BMS-986165:TYK2阻害療法(経口)5 主たる診療科消化器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療・研究に関するサイト難病情報センター CD(一般利用者と医療従事者向けの情報)東京医科歯科大学消化器内科 「潰瘍性大腸炎・クローン病先端治療センター」(一般利用者向けの情報)JIMRO IBD情報(一般利用者と医療従事者向けの情報)患者会に関するサイトIBDネットワーク(IBD患者と家族向け)1)日比紀文 監修.クローン病 新しい診断と治療.診断と治療社; 2011.2)難治性炎症性腸管障害に関する調査研究班プロジェクト研究グループ 日本消化器病学会クローン病診療ガイドライン作成委員会・評価委員会.クローン病診療ガイドライン: 2011.3)NPO法人日本炎症性腸疾患協会(CCFJ)編.潰瘍性大腸炎の診療ガイド. 第2版.文光堂; 2011.4)日比紀文.炎症性腸疾患.医学書院; 2010.5)渡辺守.IBD(炎症性腸疾患を究める). メジカルビュー; 2011.公開履歴初回2013年04月11日更新2020年03月09日

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若年性特発性関節炎〔JIA:juvenile idiopathic arthritis〕

1 疾患概要■ 概念・定義若年性特発性関節炎(juvenile idiopathic arthritis:JIA)は、滑膜炎による関節の炎症が長期間繰り返す結果、関節軟骨および骨破壊が進行し関節拘縮や障害を引き起こすいまだ原因不明の慢性の炎症性疾患であり、小児期リウマチ性疾患の中で最も頻度が多い。「16歳未満で発症し、6週間以上持続する原因不明の関節炎で、他の病因によるものを除外したもの」と定義されている1)(表)。表 JIAの分類基準(ILAR分類表、2001、Edmonton改訂)画像を拡大する■ 疫学本疾患の頻度は、わが国では海外の報告と同程度の小児人口10万人対10〜15人といわれ、関節リウマチの1/50~1/100程度である。■ 病因、発症病理各病型により病態が大きく異なることが知られている。全身型は、自己免疫よりも自己炎症の要素が強い。関節型に包含される少関節型やリウマトイド因子(rheumatoid factor:RF)陽性多関節型は、自己抗体の頻度が高く液性免疫の関与が強い。RF陰性多関節型や腱付着部炎関連型ではHLA遺伝子多型の関与が示されている。いずれも活性化したT細胞やマクロファージが病態に深く関わっていると推測されている。また、家族歴が参考となる病型を除き、通常家族性発症は認めない。近年、炎症のメカニズムについての知見が集積し、関節炎の炎症病態形成における炎症性サイトカインの関与が認識されるようになった。全身型ではインターロイキン(interleukin:IL)-1βとIL-6が、関節型では腫瘍壊死因子(tumornecrosis factor:TNF)-α、IL-1β、IL-6のいずれもが、炎症の惹起・維持に主要な役割を果たしている。現在治療として重要な地位を占める生物学的製剤の臨床応用が、全身炎症と関節炎症における個々のサイトカインの役割について重要な示唆を与えている。■ 症状1)全身型発熱、関節痛・関節腫脹、リウマトイド疹、筋肉痛や咽頭痛などの症状を呈する。3割は発症時に関節症状を欠く。マクロファージ活性化症候群(macrophage activation syndrome:MAS)(8%)、播種性血管内凝固症候群(5%)などの重篤な合併症に注意を要する。2)関節型(1)少関節型関節痛・関節腫脹、可動域制限、朝のこわばりなどに加え、ぶどう膜炎の合併が見られる。少関節型に伴うぶどう膜炎は女児、抗核抗体(antinuclear antibody:ANA)陽性例に多く無症候性で前部に起こり、放置すれば失明率が高い(15~20%)。5〜10年の経過では、3割が無治療、5割が無症状であった。ぶどう膜炎は10〜20%に認め、関節炎発症後5年以内に発病することが多い。関節機能は正常~軽度障害が98%で、最も関節予後はよい。(2)多関節型(RF陰性)関節痛・関節腫脹、可動域制限、朝のこわばりに加え、4割で発熱を認める。5〜10年の経過では、3割が無治療で4割が無症状であった。関節可動域制限や変形を認める例があるものの、95%が関節機能正常~軽度障害と、少関節型に次いで関節予後はよい。(3)多関節型(RF陽性)この病型は関節リウマチに近い病態である。関節痛・関節腫脹・可動域制限・朝のこわばりが著明で、初期にすでに変形を来たしている例もある。皮下結節は2.5%と欧米の報告(30%)に比べ少ない。5〜10年の経過では、無治療はわずか8%で、無症状は3割とほとんどの患者が治療継続し、症状も持続していた。可動域制限を7割、変形を2割で認め、16%に中等度~重度の関節機能障害を認める。■ 分類疾患は、原因不明の慢性関節炎を網羅するため7病型に分けられているが、病型ごとの頻度は図1に示した通りである2)。ここでは、わが国の小児リウマチ診療の実情に合わせ、本疾患群を病態の異なる「全身型」(弛張熱、発疹、関節症状などの全身症状を主徴とし、症候の1つとして慢性関節炎を生じる)、「関節型」(関節炎が病態の中心となり、関節滑膜の炎症による関節の腫脹・破壊・変形を引き起こし機能不全に陥る)の2群に大別して考えていくことにする。また、乾癬や潰瘍性大腸炎などに併発して、二次的に慢性関節炎を呈するものは「症候性」と別に分類する。図1 JIA発症病型の割合画像を拡大する■ 予後全身型、関節型JIAとも、生物学的製剤が出現する以前は全患者の75%に程度の差はあるが身体機能障害が存在していたものの、普及した後は頻度が明らかに減少した。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)日本小児リウマチ学会と日本リウマチ学会は、共同でJIAの適切な診断と標単的な治療について、わが国の一般小児診療に関わる医師のために「初期診療の手引き2015年版」3)を作成しているので、詳細は成書にてご確認願いたい。1)全身型JIA全身型JIAではIL-6とIL-6受容体が病態形成の核となっていることが判明しており、高サイトカイン血症を呈する代表的疾患である。症状としては、とくに弛張熱が特徴的で、毎日あるいは2日毎に定まった時間帯に38~40℃に及ぶ発熱が生じ、数時間すると発汗とともに解熱する。発熱時は体全体にリウマトイド疹という発疹が出現し、倦怠感が強く認められる。本病型は、敗血症、悪性腫瘍、特殊な感染症あるいは感染症に対するアレルギー性反応などを除外した上で診断される。検査所見では、左方移動を伴わない好中球優位(全分画の80~90%以上)の白血球数の著増を認め、血小板増多、貧血の進行などが特徴である。赤血球沈降速度(erythrocyte sedimentation rate:ESR)、CRP値、血清アミロイドA値が高値となる。凝固線溶系の亢進があり、D-ダイマーなどが高値となる。炎症が数ヵ月以上にわたり慢性化すると、血清IgG値も高値となる。フェリチン値の著増例では、MASへの移行に注意が必要である。IL-6/IL-6Rの他に、IL-18も病態形成に重要であることが判明しており、血清IL-18値の著増も特徴的である。関節炎の診断には前述の通り、血清MMP-3値が有用である。鑑別診断として、深部膿瘍や腫瘍性病変が挙げられるが、これらの疾患に対して通常治療薬として使用するグルココルチコイド(glucocorticoid:GC)は疾患活動性を修飾し原疾患の悪化などを来す可能性がある。これらの鑑別のため、画像検査としては18F-FDG-positron emission tomography(PET)やガリウムシンチグラフィーが有用である。全身炎症の強く生じている全身型の急性期には骨髄(脊椎、骨盤、長管骨など)や脾臓への集積が目立つことが多い。2)関節型JIA関節炎が長期に及ぶと関節の変形(骨びらん、関節脱臼/亜脱臼、骨性強直)や成長障害が出現し、患児のQOLは著しく障害される。また、関節変形による変形性関節症様の病態が出現することもある。少関節炎では下肢の関節が罹患しやすく、多関節炎では左右対称に大関節・小関節全体に見られる。関節炎症の詳細な臨床的把握(四肢・顎関節計70関節+頸椎関節の診察)、血液検査による炎症所見の評価(赤沈値、CRP)、血清反応による関節炎の評価(MMP-3、ヒアルロン酸、FDP-E)、病型の判断(RF、ANA)を行う。また、抗CCP抗体は関節型で特異的に検出されるため、診断的意義と予後推定に有用である。関節部位の単純X線検査では、発症後数ヵ月の間は一般的には異常所見は得られないため、有意な所見がなくても本症を否定できない。関節炎が長期間持続した例では、X線検査で関節裂隙の狭小化や骨の辺縁不整などを認める。また、罹患関節の造影MRIにより、関節滑液の貯留と増殖性滑膜炎の存在を確認することも重要である。関節の炎症を検出し得る検査法として、MRIに加え超音波検査が有用である。ただし、発達段階の小児の画像評価を行う際は、成人と異なり、関節軟骨の厚さや不完全骨化に多様性があるため注意して評価する。鑑別疾患として、感染性関節炎、他の膠原病に伴う関節炎、整形外科的疾患(とくに十字靭帯障害)、小児白血病が挙げられる。外来診療で多いのは「成長痛」で、夕方から夜にかけて膝や足関節の痛みを訴えるところがJIAとの相違点である。関節型では関節炎が診察により明確に認められる対称性関節炎であり、関節症状は早朝から午前中に悪化する。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 全身型(図2)図2 全身型に対する治療画像を拡大する1)初期対応全身型JIAにおいて非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)で対応が可能な例は確かに存在するが一部の症例に限られる。したがってGCが全身型JIA治療の中心であるが、これまでしばしば大量GCが漫然と長期にわたり投薬されたり、種々の免疫抑制薬も併用され続けたが不応である患児、MASへ病態移行した患児などを診療する機会も多く見受けられた。NSAIDs不応例にはプレドニゾロン(prednisolone:PSL)1~2mg/kg/日が適用される。メチルプレドニゾロン・パルス療法を行い、後療法としてPSL0.5~0.7mg/kg/日を用いると入院期間の著しい短縮に繋がる場合もある。免疫抑制薬としてシクロスポリン、メトトレキサート(methotrexate:MTX)が加えられることもあるが、少なくとも単独で活動期にある全身型の炎症抑制はできず、また併用効果も疑問である。また、関節炎に対しMTXの効果が期待されるが、一般に有効ではない。このことは、関節型JIAと全身型JIAとでは関節炎発症の機序が異なることを示唆している。本病型は、基本的には大量GCだけが炎症抑制効果をもつと考えられてきた。GCは他の薬剤と異なり、副腎という器官が生成する生理的活性物質そのものである。GCの薬理作用はすでに身体に備わっている受容体、細胞内代謝機構などを介して発現するので、一定量投与の後に減量に入ると、安定していたこれらの生体内機構の機能縮小が過剰に生じるため、直ちに再燃が起こることがある。したがってGCの減量はごく微量ずつ漸減するのが原則となる。2)生物学的製剤(抗IL-6レセプター抗体:トシリズマブ〔商品名:アクテムラ〕)の投与難治性JIAの場合、以下の条件を満たしたら、速やかに専門医に相談し、トシリズマブ(tocilizumab:TCZ)の投与を検討すべきである。(1)治療経過でGCの減量が困難である場合(2)MASへの病態転換が考えられる場合(3)治療経過が思わしくなく、次の段階の治療を要すると判断された場合TCZによる全身型JIAに対する治療は、臨床治験を経てわが国で世界に先駆けて認可され、使用経験が増加することで、有効性が極めて高く、副作用は軽微である薬剤であることが現在判明している。エタネルセプトなどの抗TNF治療薬の散発的な報告によると効果は10~30%程度といわれている。また、IL-1レセプターアンタゴニストは本症に有効であるとの報告が海外であるが、わが国でもカナキヌマブ(同:イラリス)が臨床試験を経て2018年7月に適用を取得することができた。■ 関節型(図3)図3 関節型への治療画像を拡大する1)診断確定まで臨床所見、関節所見、検査所見から診断が確定するまで1~2週間は要する。この間、NSAIDsであるナプロキセン(同: ナイキサン)、イブプロフェン(同: ブルフェンほか)を用いる。鎮痛効果は得られることが多く、一部の例では関節炎そのものも鎮静化するが、鎮痛に成功しても炎症反応が持続していることが多く、2〜3週間の内服経過で炎症血液マーカーが正常化しない場合は、次のステップに移る。NSAIDsにより鎮痛および炎症反応の正常化がみられる例ではそのまま維持する。2)MTXを中心とした多剤併用療法RF陽性型、ANA陽性型およびRF/ANA陰性型のうち多関節型の症例は、できるだけ早くMTX少量パルス療法に切り替える。当初スタートしたNSAIDsの効果が不十分であると判断された場合にも、MTX少量パルス療法へ変更する。MTXの効果発現までには少なくとも8週間程度の期間が必要で、この期間を過ぎて効果が不十分と考えられた例では、嘔気や肝機能障害が許容範囲内であるならば、小児最大量(10mg/m2)まで増量を試みる。また、即効性を期待して治療の初めからPSL5~10mg/日を加える方法も行われている。この方法では効果の発現は2~4週間と比較的早い。MTX効果が認められる時期(4~8週間)になれば、PSLは漸減し、維持量(3~5mg/日)とする。PSLによる成長障害や骨粗鬆症などの副作用の心配は少なく、かえって炎症を充分に抑制するため骨・軟骨破壊は多くない。3)生物学的製剤治療前述のMTXを中核におく併用療法にても改善がみられない症例では、生物学的製剤の導入を図る。生物学的製剤の導入の時期は、MTX投与後3〜6ヵ月が適当で、以下の場合が該当する。(1)「初期診療の手引き」に沿って3ヵ月間以上治療を行っても、関節炎をはじめとする臨床症状および血液炎症所見に改善がなく治療が奏効しない場合(2)MTX少量パルス療法およびその併用療法によってもGCの減量が困難またはステロイド依存状態にあると考えられる場合(3)MTX基準量にても忍容性不良(嘔気、肝機能障害など)である場合わが国では2008年にヒト化抗IL-6レセプター抗体トシリズマブ、2009年にはTNF結合蛋白であるエタネルセプト(同:同名)、2011年にはヒト化TNF抗体アダリムマブ(同:ヒュミラ)に加え、2018年にはCD28共刺激シグナル阻害薬アパタセプト(同: オレンシア)がいずれも臨床試験の優れた安全性および有効性の結果をもって、関節型JIAの症例に対して適応拡大を取得した。安全性についても、重篤な副作用はいずれの薬剤についてもみられていない。4 今後の展望上述の通り、わが国では、JIA治療に関わる生物学的製剤(全身型:トシリズマブ、カナキヌマブ、関節型:エタネルセプト、アダリムマブ、トシリズマブ、アバタセプト)が適用を取得したことで、小児リウマチ診療は大きく変貌し、“CARE”から“CURE”の時代が到来したと、多くの診療医が実感できるようになっている。今後もさまざまな生物学的製剤の開発が予定されており、その薬剤の開発、承認および臨床現場への早期実用化を目指すために、わが国での小児リウマチ薬の開発から承認までの問題点を可視化し、将来に向けての提案を行っている。5 主たる診療科小児科、(膠原病リウマチ内科、整形外科)※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本小児リウマチ学会(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本リウマチ学会(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)小児慢性特定疾病情報センター 若年性特発性関節炎(一般利用者向けと医療従事者向けの公費助成などのまとまった情報)難病情報センター 若年性特発性関節炎(一般利用者向けと医療従事者向けの公費助成などのまとまった情報)患者会情報若年性特発性関節炎(JIA)親の会「あすなろ会」(患者とその家族および支援者の会)1)Fink CW. J Rheumatol. 1995;22:1566-1569.2)武井修治. 小児慢性特定疾患治療研究事業を利活用した若年性特発性関節炎JIAの二次調査.小児慢性特定疾患治療研究事業.平成19年度総括・分担研究報告書. 2008;102~113.3)日本リウマチ学会小児リウマチ調査検討小委員会. 若年性特発性関節炎初期診療の手引き(2015年). メデイカルレビュー社:2015.公開履歴初回2020年03月09日

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潰瘍性大腸炎患者の大腸がんリスク、時間の経過で変化?/Lancet

 潰瘍性大腸炎(UC)患者は非UC者に比べて、大腸がん罹患のリスクが高く、大腸がん診断時の進行度は低いが、大腸がんによる死亡リスクは高いことが示された。一方で、それらの過剰なリスクは時間の経過とともに大幅に低下することも認められたという。スウェーデン・カロリンスカ研究所のOla Olen氏らによる、UC患者9万6,447例を対象とした住民ベースのコホート試験の結果で、著者らは、「国際的なサーベイランスガイドラインを改善する余地がまだあるようだ」と述べている。Lancet誌2020年1月11日号掲載の報告。デンマークとスウェーデンのUC患者9万6,447例を対象にコホート試験 研究グループは、1969年1月1日~2017年12月31日に、デンマークのUC患者3万2,919例と、スウェーデンのUC患者6万3,528例の計9万6,447例を対象に、住民ベースのコホート試験を行った。一般住民コホートから対照群として94万9,207例をマッチングし、大腸がん罹患と大腸がん死亡について比較した。 UC患者は、国内患者登録名簿の中に2つ以上の適切な国際疾病分類(ICD)記録がある場合、または、ICD記録が1つと大腸生検レポートに炎症性腸疾患(IBD)を示す形態診断コードが認められた場合を解析対象とした。また、UC患者全員について、性別、年齢、出生年、居住地でマッチングした個人をデンマークおよびスウェーデンの全住民登録から適合参照として選出した。 Cox回帰分析を行い、腫瘍ステージを考慮したうえで、大腸がん罹患、大腸がんによる死亡のハザード比(HR)を求めた。UCにより大腸がんリスクは増大、ただし直近5年ではリスクが低減 追跡期間中の大腸がん罹患者は、UC群1,336例(1.29/1,000人年)、対照群9,544例(0.82/1,000人年)だった(HR:1.66、95%信頼区間[CI]:1.57~1.76)。また、大腸がんによる死亡は、UC群639例(0.55/1,000人年)、対照群4,451例(0.38/1,000人年)だった(HR:1.59、95%CI:1.46~1.72)。 大腸がんのステージ分布を比較したところ、UC群は対照群に比べ進行度は低かったが(p<0.0001)、腫瘍ステージを考慮に入れても、UCで大腸がんの患者は、大腸がんによる死亡リスクが高かった(HR:1.54、95%CI:1.33~1.78)。 しかし、そうした過剰なリスクは、追跡期間中に低減していることが認められた。スウェーデン・コホートの直近5年の追跡期間(2013~17年)において、UC群の大腸がん罹患HRは1.38(95%CI:1.20~1.60、5年間でUC患者1,058例につき1件追加)で、大腸がんによる死亡HRは1.25(同:1.03~1.51、5年間でUC患者3,041例につき1件追加)だった。

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強直性脊椎炎に、選択的JAK1阻害薬upadacitinibが有効/Lancet

 非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)への反応が不十分またはNSAIDが禁忌の強直性脊椎炎患者の治療において、upadacitinibはプラセボに比べ、疾患活動性、腰背部痛、身体機能、炎症の統合指標(ASAS40)を改善し、忍容性も良好であることが、オランダ・ライデン大学医療センターのDesiree van der Heijde氏らが行ったSELECT-AXIS 1試験で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2019年11月12日号に掲載された。体軸性脊椎関節炎は、炎症性の腰背部痛、脊椎可動性の制限、付着部炎、末梢関節/関節外症状を特徴とする慢性進行性のリウマチ性疾患であり、X線所見で仙腸関節炎の十分な証拠がある場合に、強直性脊椎炎と呼ばれる。JAKシグナル伝達経路は、強直性脊椎炎の治療標的となる可能性が示唆されている。upadacitinibは選択的JAK1阻害薬であり、乾癬性関節炎や潰瘍性大腸炎、クローン病、アトピー性皮膚炎などの免疫性炎症性疾患の治療薬としても開発が進められている。14週時ASAS40達成を評価するプラセボ対照無作為化試験 本研究は、日本を含む20ヵ国62施設が参加した多施設共同二重盲検無作為化プラセボ対照第II/III相試験であり、2017年11月30日~2018年10月15日の期間に患者の割り付けが行われた(AbbVieの助成による)。 対象は、年齢18歳以上、ニューヨーク改訂基準を満たす強直性脊椎炎で、生物学的疾患修飾抗リウマチ薬(bDMARD)による治療歴がなく、2剤以上のNSAIDの効果が不十分か、不耐または禁忌の患者であった。 被験者は、upadacitinib(15mg、1日1回)またはプラセボを経口投与する群に、1対1の割合で無作為に割り付けられ、14週の治療が行われた。 主要エンドポイントは、14週時における国際脊椎関節炎評価学会(ASAS)アウトカム評価の40%改善基準(ASAS40)の達成とした。解析は、最大の解析対象集団(FAS、無作為割り付けの対象となり、試験薬の投与を1回以上受けた患者)で行われた。14週時ASAS40達成率:52% vs.26% 187例が登録され、upadacitinib群に93例、プラセボ群には94例が割り付けられ、178例(95%、各群89例ずつ)が治療を完遂した。 ベースラインの全体の平均年齢は45.4(SD 12.5)歳、男性が71%で、症状発現からの平均期間は14.4(10.8)年、診断からの平均期間は6.9(8.9)年であった。76%がHLA-B27陽性、81%がNSAIDの投与を受けていた。 14週時のASAS40達成率は、upadacitinib群が52%(48/93例)と、プラセボ群の26%(24/94例)と比較して有意に優れ(p=0.0003)、治療群間差は26%(95%信頼区間[CI]:13~40)であった。 upadacitinib群はプラセボ群に比べ、14週時に、以下の項目についても改善が認められた。ASAS20(p=0.0010)、ASAS部分寛解(p<0.0001)、強直性脊椎炎疾患活動性指標の50%以上(BASDAI50)の改善(p=0.0016)、カナダ脊椎関節炎研究コンソーシアム(SPARCC)のMRI脊椎スコア(p<0.0001)とMRI仙腸関節スコア(p<0.0001)、疾患活動性スコア(ASDAS、p<0.0001)、身体機能指標(BASFI、p=0.0013)、マーストリヒト強直性脊椎炎付着部炎スコア(MASES、p=0.0488)、強直性脊椎炎測定指数(BASMI、p=0.0296)、強直性脊椎炎QOL(ASQoL、p=0.0156)、ASAS健康指標(p=0.0073)。 有害事象は、upadacitinib群が62%(58/93例)、プラセボ群は55%(52/94例)で報告された。upadacitinib群で最も頻度の高い有害事象は、クレアチン・ホスホキナーゼ上昇(9%[8例])であり、次いで下痢、鼻咽頭炎、頭痛がそれぞれ5%(5例)に認められた。重篤な感染症、帯状疱疹、悪性腫瘍、静脈血栓塞栓イベントおよび死亡はみられず、重篤な有害事象は1例ずつ(upadacitinib群:変形性脊椎関節症、プラセボ群:心血管疾患)で発現した。 著者は、「これらのデータは、体軸性脊椎関節炎の治療におけるupadacitinibのさらなる検討を支持するもの」としている。現在、非盲検下での90週の継続試験が進行中だという。

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