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第20回 岡山医師不同意堕胎致傷事件で思い出した、ショーケン主演の昭和映画

女性をもうろう状態にさせて堕胎術こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。近年では珍しく、猛暑の夏がやって来ました。あまりの暑さに、昔から売っているカップのかき氷(森永乳業のみぞれ、赤城乳業の赤城しぐれ…)が食べたくなり、炎天下、わざわざコンビニに出かけました。ところが、おしゃれなアイスは大量にあるのですが、みぞれもしぐれもありません。売り切れなのか、入荷が少ないのか。複数の店舗を回っても見つけられず、結局ロッテのスイカバーを買って帰りました…。明治のカール生産中止の時も感じたのですが、昭和の時代からあるクラシカルなお菓子が段々とマイナーになり、徐々に消えていっているようで、中高年にはやや寂しく感じる今日この頃です。さて、今回気になったのは、岡山県で男性医師が不同意堕胎致傷の疑いで逮捕された事件です。8月12日付けの山陽新聞などの報道によれば、岡山済生会総合病院に勤務する男性の外科医(33)が、今年5月17日の日曜日、知人女性に「診察してあげる」と持ち掛けて病院に呼び出し、もうろう状態にさせて堕胎術を行い、全治約1週間のケガをさせたとみられています。婚約者との関係を守るために犯行を決意か事件があったとされる5月17日は日曜日で、非番だった男性医師が人目につきにくい診察室や、麻酔薬などの薬剤を無断で使用した可能性があるとのことです。5月19日、別の医療機関の女性の主治医が、胎児の心拍が聞こえないことを不審に思い調べたところ、胎児は胎内で死亡しており、警察に通報、事件が発覚しました。この女性は「堕ろすつもりはなかった」と話しているそうです。その他の報道等によれば、男性医師は2012年に香川大学医学部を卒業、2017年から同病院で外科医として勤務していたとのことです。男性医師は独身で別に婚約者がおり、妊娠させたとみられるこの女性に中絶を迫り、断られていたことも判明しています。岡山県警は婚約者との関係を守るために犯行を決意した可能性があるとみて、捜査を進めるそうです。男性医師は容疑を認めており、県警は10日、同医師を送検しています。なお、岡山済生会総合病院は同じく10日に記者会見を開き、塩出 純二院長が「管理者としての責任を痛感しており、職員の再教育を徹底して信頼回復に努める。被害に遭われた女性には深くおわび申し上げます」と謝罪しています。ショーケン主演の名作映画『青春の蹉跌』を思い出す社会的にエリートといえる医師が、婚約者がいながら他の女性を妊娠させ、堕胎を迫り、犯罪をおかす…。どこかで聞いたことがあるようなこの事件、私は、萩原 健一(ショーケン)と桃井 かおり主演の昭和の映画、『青春の蹉跌』を思い出しました。石川 達三の同名原作を映画化した1974年のこの作品、主人公(萩原 健一)は司法試験に合格した有名大学法学部の学生で、婚約者(檀 ふみ)もいます。その一方で家庭教師の教え子だった女性(桃井 かおり)とも付き合いを続けており、ある日、妊娠を告げられます。そして…。『青春の蹉跌』はロマンポルノの鬼才・神代 辰巳監督による初の一般映画作品で、『キネマ旬報』で日本映画第4位を獲得、物憂げなショーケンの演技は素晴らしく、最優秀主演男優賞を受賞、俳優としての地位を確立しました。岡山済生会の院長は「職員の再教育を徹底して」と話しましたが、一人前の大人に今さら何を再教育するのでしょうか。この古臭いけれどスタイリッシュな昭和の映画を、若い医師たちに観せるというのも一法かもしれません。「医師免許取り消し」は確実?ところで、医師が不同意堕胎罪(不同意堕胎致傷よりは刑が軽い)を犯した事件は平成にも起きています。「慈恵会医大病院医師不同意堕胎事件」です。2009年、慈恵会医大病院に努めていた東海大学医学部出身の男性医師(当時36歳)が、妊娠した交際相手の女性に子宮収縮剤や陣痛誘発剤などの薬剤を用いて流産させたのです。この事件で東京地方裁判所は2010年、男性医師に対し、懲役3年執行猶予5年の判決を言い渡しています。さらに翌2011年、厚生労働省は医道審議会医道分科会の答申を受け、行政処分の中で一番重い「医師免許取り消し」を決定しています。今回の岡山済生会のケースは、不同意堕胎罪よりも罪が重い不同意堕胎致傷罪なので、刑も重くなるでしょうし、「医師免許取り消し」も確実とみられます。まさに令和の「青春の蹉跌」とも言えそうな事件です。

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第15回 コロナ禍での面談で自己啓発本に溺れるMRの多さが浮き彫りに?

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックによる受診患者減少が医療機関の経営を直撃していることは繰り返し伝えられている。従来、医療は景気の波や社会情勢などに左右されにくい安定職種と考えられてきたものの、今回は院内・院外での感染回避のため、社会全体で外出自粛のような非常に原始的な戦略がとられた結果、慢性疾患患者を中心とする受診抑制という予想もしなかった事態にさらされた。同時に、この事態は医療機関周辺の患者以外のステークホルダーにも影響を及ぼしている。代表例が製薬企業、とりわけ医療機関を訪問し、医師に直接自社製品の情報提供を行う医薬情報担当者(MR)だ。彼らが感染源となって医療機関で感染者が発生した場合、業界全体の信用低下となってしまうこともあり、2~4月にかけて各社とも訪問を自粛するようになった。この訪問自粛を契機に各社とも盛んに行っているのがMicrosoft Teams、Zoom、Cisco WebexなどのWeb会議システムを通じた医師とのリモート面談である。企業によっては、チャットボットを利用したリモート面談予約機能を備えたり、AIを利用した音声での情報提供などを行ったりしている。医師にとっては自分が聞きたい時間に聞きたいことが聞ける、MRにとっては移動の手間暇がないメリットが挙げられる。もっとも、新型コロナパンデミック以降、知り合いの医師やMRに接触するたびにリモート面談の“使い心地”を尋ねているのだが、双方ともになかなかの“鬼門”だという。結局、こうしたシステムを利用して話すことは日時を設定したアポイントメント面談と同じで、互いに身構えて向き合わなければならない。全体の傾向を代表していそうな個別感想を紹介すると次のようになる。「結局、病院内でMRさんが出待ちして声をかけられるのは自分たちもある種、気が楽だったんですよ。とくに聞くべき情報がない時は歩きながら形式的な会話をして『ごめん、今日は忙しいんで』とほどほどに切り上げればいいし、ちょうど聞きたいことがあったら『ねえねえ…』と聞けばいいし。Webシステムを使って1週間先の日時のアポイントメントを入れたいと提案されると、『なんか聞きたいことあったっけ? まあ、今は思い当たらないし、別にいいや』となっちゃうんですよね」(30代:循環器内科医)「難なくリモート面談ができる医師というのは、ほとんどが普段から対面でそこそこ以上に話せる関係ができている医師です。結局、人間関係ができているので、その時々に応じてコンタクト手段を変えることができるということ。だから、今春に転勤で担当医療機関が変わった他社のMRなんかを見ていると苦労してますよね」(30代:外資系製薬企業MR)昨今では厚生労働省がMRによる不適正な情報提供を是正するため「医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドライン」を策定し、一部ではMR不要論もささやかれている。では、本当にMRは不要なのだろうか? このコロナ禍の最中に私が接触した医師たち(ざっと30人程度)に尋ねた結果を総合すると、「いなくてもめちゃくちゃ困ることはないが、いたほうがいい」という何とも曖昧な結果となった。ある基幹病院勤務の産婦人科医が絶妙な言い方をしてくれた。「簡単に言うと、風呂の蓋なんですよね。『要る(風呂に入る)時に要らなくて、要らない(風呂を出る)時に要る』みたいな。何か聞きたいことがある時ほど院内にいなくて、忙しくて話をしている時間もない時に限って『先生、先生』って追いかけてくるみたいな。でも聞きたいことがあると言ってもその内容は千差万別で、わざわざMR本人にメールや電話をしたり、製薬企業のDI部門に電話して聞きたいことも多かったり。だから結局、アポを取ってもらってまで訪問してもらうほどではないんです。なんかうまくかみ合わず難しいんですよね」では、MRから聞けるならばぜひ聞きたい情報は何かと尋ねると、意外にも共通していたのは“ほかの医師がどのような処方を行っているか”。「医学部の同級生や研修医時代の同期などに聞いても同じような悩みを抱え、彼らから答えは得られない。しかも、いわゆるKOL医師が講演会などで語る処方の考え方は建前であることも多く、必ずしも参考にはならない」(40代精神科医)からだという。要は、医師は必ずしも自分の処方に自信満々というわけではないということだ。もっともこうしたほかの医師の処方に関する情報をどの程度提供できるかは、製薬業界の自主基準(プロモーションコード)や各社のコンプライアンスに照らすと微妙な側面もある。ただ、いずれにせよ医師側は「今までのような訪問頻度は必要ない」という点でほぼ一致する。そして直接面談の一部がリモート面談に置き換わるだけでなく、医療機関によっては今回の訪問自粛を契機にMR訪問の意義を再検討し、今まで以上に訪問規制をする動きも容易に想像できる。最終的にはMRと医師のコンタクト総量そのものが減少することは必至だろう。もっともMRから聞きたい情報とて、どんなMRからでもいいというわけではない。大学病院の消化器内科で長らく勤務し、現在は開業する50代の医師は次のようにもらした。「基本的にMRの皆さんは一様に賢くて真面目なんですよね。でも、それだけなんですよ。話を聞くと、いろいろとセミナーに行って勉強している人も少なくないのに深みを感じない。非常に酷な言い方をすれば、頭は良いはずなのに教養は高くない。たとえば、私たち医師は多様な患者さんに接して単純にエビデンスで割り切れないことを数多く経験している。在宅医療をやっている開業医は亡くなる患者の看取りもするので生や死のことも考える。そんなことはMRの皆さんは百も承知なはずなのに、なぜか話していて、彼らに共感することも、彼らに共感されたと感じることもないんです。うるさいこと言っていると思われるかもしれないけど、どうせ直接面談するならそうした感性が共有できるMRさんと面談したいですよね」知り合いの製薬企業関係者には不快に思われてしまうかもしれないが、実は私はこの言葉に大きくうなずいてしまった。しかもこのコロナ禍の最中にそれを顕著に感じた瞬間があった。外出自粛で在宅勤務の人が増え、Web上ではこの退屈な雰囲気の中で楽しみながら人とつながるという動きが顕在化した。それがZoomなどを利用したオンライン飲み会であり、SNS上であるテーマについて人をつないで投稿する“バトン”である。このバトンの一つに自分が感銘を受けた本の表紙を1週間にわたって紹介する「ブックカバーチャレンジ」というものがあった。私自身も私の周囲もFacebookでブックカバーチャレンジの投稿をしていたが、私がFacebookでつながっている製薬企業関係者(私のつながっている友達の2割弱)の取り上げる本にはある種の共通した特徴があった。それは老いも若きも紹介する本は、事実上、ビジネスハウツーや自己啓発系に著しく偏るのである。少なくとも私のFacebook上では他の業界の人と比べ、あまりにも顕著過ぎた。これをn=1の事例と言ってしまえばそれまでだが、実は似たような経験は過去にもある。私は製薬産業や医療業界に関わるある研究会の裏方を務めているが、そこで開催する講演会では、まさにハウツー的なテーマではすぐ満席になるが、倫理などやや概念的なテーマになるとあっという間に閑古鳥が鳴く。さらに言えば、私の見立てでは製薬業界の人はかなりの比率でMBA(経営学修士)の取得を目指す人が目立つ。要は“人に勝つため”のテクニックに異常なまでに興味を示す。あまりに“現金”過ぎて思わず笑ってしまうほどだ。だが、医療はいま大きな変革期にある。これまではどちらかというとエビデンスという名の正義に押しやられていた患者個人の価値観が台頭し、国内の医療制度では「地域包括ケア」という概念が登場している。端的に言えば、医療の中に多様化の波が押し寄せ、“解”は一つではなくなっている。しかし、製薬企業関係者はその波に逆行するかのように、やたらと唯一絶対の“解”を求めているかのようだ。しかも、その求める“解”とは患者や医療をより高めるものというよりは、あまりにも自分を高みに置くことにより過ぎているように映る。そんなこんなでふと思い出した言葉がある。それはイギリスの経済学者アルフレッド・マーシャルがケンブリッジ大学教授となった際に唱えた「Cool head but warm heart(冷静な頭脳と温かい心)」。経済学とはお金の動きも含め、世の経済現象を探求する学問。ロンドンの貧民街を目にしたマーシャルは、冷静に経済を分析することで苦難にあえぐ人々を助けるのが経済学者の矜持だと指摘したのである。ちなみに経済学の世界では有名なケインズ経済学で有名な経済学者ジョン・メイナード・ケインズはこのマーシャルの直弟子である。この“warm heart”は共感と読み解くことができる。泥臭いと言われるかもしれないが、私はAI時代、直接面談減少時代に生き残れるMRに必要な資質の一つはこの“warm heart”なのではないかとの意を強くしている。

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恥ずかしいけど口に出したら幸せになるカード【これで「コロナ離婚」しなくなる!(レクリエーションセラピー)】Part 2

なんで幸せになりたいの?-幸福感はなんで「ある」の?そもそもなぜ幸せになりたいのでしょうか? あまりにも当たり前すぎて、考えたことがないかもしれません。幸せになりたいとは、幸福感を追い求めることです。つまり、言い換えれば、幸福感(主観的ウェルビーイング)はなぜ「ある」のでしょうか? その答えは、進化心理学的に言えば、生存、生殖、社会性(包括適応度)を促進し、集団的により多くの遺伝子を残せるからであると言えるでしょう。ここから、幸福感の心理の起源を進化心理学的に5つの段階に分けて探ってみましょう。さらに、それぞれの段階にマズローの欲求5段階説とポジティブ心理学(セリグマンによる)の「幸せのための5つの条件(PERMA)」を重ね合わせてみましょう。(1)快感約10数億年前に太古の原始生物が海で誕生してから、臭いや見た目でエサを見つけたら、ドパミンが活性化することで、より覚醒して近付くように進化しました。これが、報酬の起源です。この報酬によって食欲や性欲などが満たされることで、快感が得られます。また、獲物を追って無我夢中になっている瞬間にも、先行的に快感が得られます(報酬予測)。これは、擬似的な「狩り」「戦い」「冒険」であるスポーツや旅行にも通じます。やっているそれ自体が楽しいのです。1つ目の段階は、快感です。これは、マズローの1段目の「生理的欲求」に重なります。ポジティブ心理学では、「没頭(Engagement)」に重なります。さらには、「フロー」(チクセントミハイ)という概念にも重なります。なお、快楽の心理の詳細については、末尾の関連記事2をご参照ください。(2)安全感約5億年前に魚類が誕生し、海の中を動き回るようになってから、天敵からいち早く逃げるために、警戒センサー(扁桃体)が進化しました。これが、不安の起源です。この不安の感度が下がる、つまり不安を感じにくくなるのは、脳内のセロトニンの活性が高まっている時です。そして、この不安(危険)が少ないことで、安心・安全が得られます。2つ目の段階は、安全感です。これは、マズローのピラミッドの2段目の「安全欲求」に重なります。ポジティブ心理学では、はっきり当てはまるものはないです。(3)自尊心約2億年前に哺乳類が誕生してから、子どもはその母親からの乳によって育てられるように進化しました。子どもは、母親から無条件に守られます。この愛情によって、特定の相手とつながりたいという感覚が生まれます。これが、愛着の起源です。この愛着が高まるのは、愛情を注ぐ母親(人類では父親も)と愛情を浴びる子どもの脳内のオキシトシンが連動して活性化する時であることが分かっています。約700万年前に人類が誕生し、約300万年前にアフリカの森からサバンナに出てから、家族を中心とする親族の集団(部族)をつくるようになりました。すると、オキシトシンは、親子の愛着だけでなく部族の絆を強める役割も果たすようになりました。こうして、この愛着や絆によって、大切にされているという自尊心が得られるようになりました。3つ目の段階は、自尊心(自尊感情)です。これは、マズローの3段目の「愛情欲求、所属欲求」に重なります。ポジティブ心理学では、「関係性(Relation)」に重なります。(4)自信約300万年前に人類が部族で助け合う仲間であると認識したときに、ドパミンが活性化して心地良く感じるようにも進化しました。これが、社会的報酬の起源です。「好きだから助け合える」とよく言われます。しかし、社会的報酬の心理メカニズムを踏まえると、逆です。むしろ「助け合うと思うから好きになる」のです。これが、先ほどの魅力の返報性(互恵性)の起源です。この社会的報酬によって、仲間から役に立つと認められているという自信が得られます。4つ目の段階は、自信(自己効力感)です。これは、マズローの4段目の「承認欲求」に重なります。ポジティブ心理学では、「達成(Achievement)」に重なります。(5)自己実現約20万年前に現生人類(ホモ・サピエンス)が誕生し、複雑な発声ができるように喉(のど)の構造が進化しました。約10万年前から、言葉を使って、ものごとや出来事を関連付けたり、意味付けるようになりました。これが、概念化の起源です。この概念化によって、世界中の人たちや未来の子孫たちの幸せにも思いをめぐらすようになりました。すると、自尊心や自信を育む愛情や承認は、もはや受け取るものではなく、与えるものになります。そして、そこに幸福感を見いだすことができます。たとえば、それは、子育てや後進の育成、社会貢献をすることへの喜びです。これは、先ほど紹介した社会的な健康につながります。こうして、自分は最終的にどうなりたいのかという自分が生きる意味や生きた証を考えるようになりました。5つ目の段階は、自己実現です。これは、マズローの5段目の「自己実現欲求」に重なります。ポジティブ心理学では、「人生の意味(Meaning)」に重なります。さらには、「実存」という哲学用語にも重なるでしょう。 このカードゲームの使い道は?今回、カードゲームを通して、幸福感の起源まで迫りました。このカードゲームは、幸福感の大きな要素となる自尊心、自信、自己実現の心理を高めるセリフが盛り込まれています。このゲームは、ファミリーやカップルで楽しむだけでなく、夫婦カウンセリングやスクールカウンセリングでの「家族のルールづくり」(行動療法)のアイテムの1つとしても使うことができます。また、メンタルヘルス分野のデイケアのレクリエーションセラピーの1つとして使うこともできます。さらには、学校教育の分野や子育ての分野でも教材としても広く役立てることもできるでしょう。 ■関連記事ショーシャンクの空に【心の抵抗力(レジリエンス)】[改訂版]「カイジ」と「アカギ」(後編)【ギャンブル依存症とギャンブル脳】1)実践 ポジティブ心理学:前野隆司、PHP新書、20172)ポジティブなこころの科学:堀毛一也、サイエンス社、2019 << 前のページへ

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イソ吉草酸血症〔IVA:isovaleric aciduria〕

1 疾患概要■ 概念・定義イソ吉草酸血症(isovaleric aciduria:IVA)は、ミトコンドリアマトリックスに存在するロイシンの中間代謝過程におけるイソバレリルCoA脱水素酵素(IVDH)の障害によって生じる有機酸代謝異常症であり、常染色体劣性の遺伝性疾患である。■ 疫学わが国における罹患頻度は約65万出生に1人と推定されている。非常にまれだと思われていたが、新生児マススクリーニング(タンデムマススクリーニング)が開始されてから無症状の患児や母体が見つかっている。欧米では新生児スクリーニングで診断された患者の約2/3でc.932C>T(p.A282V)変異を認めており、この変異とのホモ接合体もしくは複合へテロ接合体を持つ場合、無症候性が多い。■ 病因遺伝性疾患であり原因遺伝子はIVD(isovaleryl-CoA dehydrogenase)であり、15q14-15にコードされている。この変異によってIVDH活性が低下することに起因する。IVDHはイソバレリルCoAから3-メチルクロトニルCoAが生成する反応を触媒している。この代謝経路は、飢餓やストレスによりエネルギー需要が高まるとロイシン異化によりクエン酸回路へアセチルCoAを供給してエネルギー産生を行うが、本症ではIVDH活性が低下しているためイソ吉草酸などの急激な蓄積とエネルギー産生低下を来し、尿素サイクル機能不全による高アンモニア血症や骨髄抑制を伴う代謝性アシドーシスを引き起こす。■ 症状1)特有の臭い急性期に「足が蒸れた」とか「汗臭い」と表現される強烈な体臭がある。2)呼吸障害急性期に見られ多呼吸や努力性呼吸、無呼吸を呈する。3)中枢神経症状意識障害、無呼吸、筋緊張低下、けいれんなどで発症する。急性期以降、もしくは慢性進行性に発達遅滞を認めることがある。4)消化器症状、食癖哺乳不良や嘔吐を急性期に呈することは多い。また、しばしば高タンパク食品を嫌う傾向がある。5)骨髄抑制汎血球減少、好中球減少、血小板減少がしばしばみられる。6)その他急性膵炎や不整脈の報告がある。■ 分類臨床病型は主に3つ(発症前型、急性発症型、慢性進行型)に分かれる。1)発症前型新生児マススクリーニングや、家族内に発症者がいる場合の家族検索などで発見される無症状例を指す。発作の重症度はさまざまである。2)急性発症型出生後、通常2週間以内に嘔吐や哺乳不良、意識障害、けいれん、低体温などで発症し、代謝性アシドーシス、ケトーシス、高アンモニア血症、低血糖、高乳酸血症などの検査異常を呈する。有症状例の約3/4を占めたとする報告がある。また、生後1年以内に感染やタンパクの過剰摂取などを契機に発症する症例もある。3)慢性進行型発達遅滞や体重増加不良を契機に診断される症例を指す。経過中に急性発症型の症状を呈することもある。■ 予後新生児・乳児の高アンモニア血症、代謝性アシドーシスをうまく予防・治療できればその後の神経学的予後は良好である。本症発症の女性の出産例も知られている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 一般検査急性発症時にはアニオンギャップの開大する代謝性アシドーシス、高アンモニア血症、高血糖、低血糖、低カルシウム血症を認める。高アンモニア血症の程度で他の有機酸血症や尿素サイクル異常症と区別をすることはできない。汎血球減少、好中球減少、血小板減少もしばしば見られる。高アンモニア血症は、細胞内のアセチル-CoAの減少によりN-アセチルグルタミン酸合成酵素活性が阻害され、尿素サイクルを障害するためと考えられている。■ 血中アシルカルニチン分析(タンデムマス法)イソバレリルカルニチン(C5)の上昇が特徴的である。■ 尿中有機酸分析イソバレリルグリシン、3-ヒドロキシイソ吉草酸の著明な排泄増加が見られる。■ 酵素活性末梢血リンパ球や皮膚線維芽細胞などを用いた酵素活性測定による診断が可能であるが、国内で実際に施行できる施設はほぼない。■ 遺伝子解析原因遺伝子のIVDの解析を行う。日本人患者8例のIVD解析では15アレルに点変異、1アレルにスプライス変異が同定されているが、同一変異はない。欧米におけるp.A282Vのような高頻度変異は報告されていない。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 急性期の治療診断を行いつつ、下記の治療を進め代謝クライシスを脱する。1)状態の安定化(1)気管挿管を含めた呼吸管理、(2)血液浄化療法を見据えた静脈ルート確保、(3)血圧の維持(昇圧剤の使用)、(4)生食などボリュームの確保2)タンパク摂取の中止最初の24時間はすべてのタンパク摂取を中止する。24~48時間以内にタンパク摂取を開始。3)異化亢進の抑制十分なカロリーを投与する(80kcal/kg/日)。糖利用を進めるためにインスリンを使用することもある。脂肪製剤の投与も行う(2.0g/kg/日まで可)。4)L-カルニチンの投与有機酸の排泄を図る。100mg/kgをボーラスで投与後、維持量として100~200mg/kg/日で投与。5)グリシンの投与イソ吉草酸とグリシン抱合させ、排泄を促す。150~250mg/kg/日分3。6)高アンモニア血症の治療迷わずカルグルミン酸(商品名:カーバグル)の投与を開始する(100mg/kgを初回投与し、その後100~250mg/kg/日で維持。経口、分2-4)。フェニル酪酸Naや安息香酸Naを100~250mg/kg/日で使用しても良い。7)代謝性アシドーシスの補正炭酸水素ナトリウム(同:メイロン)で行い、改善しない場合は血液浄化療法も行う。8)血液浄化療法上記治療を数時間行っても代謝性アシドーシスや高アンモニア血症が改善しない場合は躊躇なく行う。■ 未発症期・慢性期の治療ロイシンを制限することでイソバレリルCoAの蓄積を防ぐことを目的とするが、食事制限の効果は不定である。1)自然タンパクの制限:1.0~2.0g/kg/日程度にする。2)L-カルニチン内服:100~200mg/kg/日分3で投与。3)グリシンの投与:150~250mg/kg/日分3で投与。4)シック・デイの対応:感染症などの際に早めに医療機関を受診させ、ブドウ糖などの投与を行い異化の亢進を抑制させる。本疾患は急性期に適切な診断・治療がなされれば、比較的予後は良好であり思春期以降に代謝クライシスを起こすことは非常にまれである。急性期を乗り切った後(または未発症期)に、本疾患児をフォローしていく際は、一般に精神運動発達の評価と成長の評価が中心となる。■ 成人期の課題1)食事療法一般に小児期よりはタンパク制限の必要性は低いと思われるが、十分なエビデンスがない。2)飲酒・運動体調悪化の誘因となり得るため、アルコール摂取や過度な運動は避けた方が良い。3)妊娠・出産ほとんどエビデンスがない。今後の症例の積み重ねが必要である。4)医療費の問題カルニチンの内服は続けていく必要がある。2015年から指定難病の対象疾患となり、公的助成を受けられるようになった。4 今後の展望本症はタンデムマススクリーニングの対象疾患に入っている。一例一例を確実に積み重ねることにより、今後わが国での臨床型や重症度と遺伝子型などの関連が明らかになってくると思われる。5 主たる診療科代謝科、新生児科、小児科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本先天代謝異常学会ホームページ(新生児マススクリーニング診療ガイドラインは有用)公開履歴初回2020年05月26日

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3年B組金八先生(続編)【令和の金八先生になるには?わがままにさせない!(同調させるスキル)】Part 1

今回のキーワードリーダーシップ熱血教師観察力発信力調整力同調圧力ロボット生臭い人間皆さんは、リーダーとして現場を引っ張っていこうとする時、「なかなか思うように人が動いてくれない」とお悩みではないですか? こんな時、リーダーシップを発揮するため、周りからどう思われたらよいでしょうか? 叱って「恐い人だ」と恐れられるほうが良いでしょうか? それとも、褒めて「優しい人だ」と慕われるほうが良いでしょうか? それとも!?この答えを探るために、今回も前回に引き続いて、学園ドラマの金字塔「3年B組金八先生」を取り上げます。金八先生の「熱血」ぶりは、私たちが人を動かす上で最も必要なものを教えてくれます。彼をモデルに、子どもにも大人にも使えて、相手をわがままにさせない、同調させるスキルを紹介します。そして、私たちが令和の時代にバージョンアップした金八先生になるにはどうしたら良いか一緒に考えてみましょう。令和の金八先生なら集団心理をどう生かす?-同調させる3つのスキル以前の「褒めるスキル」の記事(2019年5月号)や「叱るスキル」の記事(2019年11月号)で、すでに5つの性格タイプ(パーソナリティ特性)を紹介しました。それは、優等生タイプ、お調子者タイプ、普通タイプ、ヤンキータイプ、劣等生タイプです。この中で、ひねくれ(反抗)の強いヤンキータイプや甘え(不安)の強い劣等生タイプを動かそうにも、もともとの不適応な傾向が強いと、褒めたり叱ったりする個人的な働きかけではやはり限界があります。そこで、個人的な働きかけだけで相手が動かないなら、あえて集団的な働きかけもして、揺さ振るのです。これが、同調させるスキルです。ここから、このスキルを3つの体の部位になぞらえて、令和の金八先生なら集団心理をどう生かすかを具体的に考えてみましょう。「目」-観察力金八先生は、生徒たち全員の性格や家族背景を知り尽くしています。1つ目の部位は、「目」です。これは、観察力です。これは、リーダーがメンバーのことをよく見ているということです。この真逆は、リーダーが対外的に忙しいなどの事情で現場にほとんどいなくて、メンバーのことをよく見ていない状況です。そうなると、現場の把握が困難になりますし、トラブルが発生した時の対応も遅れます。リーダーの存在感が薄まり、リーダーシップは危うくなります。かと言って、リーダーがただいれば良いかというと、それだけでもうまく行かないです。大事なのは、見られていることをメンバーに感じ取らせることです。それは、「振り向けば私がいるわよ」「すべてお見通しよ」「あなたのことよく分かってるわよ」という力強いメッセージです。それでは、普段から観察力を研ぎ澄ませるための具体的なスキルを3つ紹介しましょう。(1)目を増やす―情報収集1つ目は、目(見張り)を増やすことです。これは、とくに不適応なメンバーについての情報収集を徹底することです。ただし、リーダー個人の目だけでは限界があります。よって、まず、信頼できる側近(サブリーダー)に、自分のいない時の目になってもらいます。また、プラスαとして、優等生タイプの目も借ります。そして、不適応なメンバーの言動を細かく把握して、問題点や急所をはっきりさせ、うやむやにさせないことです。さらには、集団に直属しない他の集団のメンバーと信頼関係をつくり、「スパイ」の目になってもらうこともありでしょう。(2)目をかける―褒める2つ目は、目をかけることです。これは、とくに不適応なメンバーに個人的に興味津々になり、細かく褒めることです。この時、集めた情報も密かに利用できます。ここで誤解がないようにしたいのは、褒めると言っても、単にこちらが褒めたいから褒めるということはやらないことです。逆に、褒めることがないと思っても、褒めることを必死で探す必要もあるでしょう。なぜなら、ここでは、褒めることは目的ではなく手段だからです。褒めるという戦略(手段)によって得られる成果(目的)が3つあります。まず、リーダーの観察力が鋭いことを印象付けることができます。次に、褒められたメンバーが自分の良さを決め付けられることによって、その良さを本人自身が生かすことに意識を向けやすくなります(ピグマリオン効果)。最後に、メンバーはたびたび褒められることによって、リーダーに好意的になり、言われることを聞きやすくなります(魅力の互恵性)。たとえば、メンバーが「私、気にしすぎるんです」と相談を持ち掛けてきたら、何を気にしすぎるかを掘り下げて、最後は「だからこそ、この仕事(または勉強)に向いている。だって、観察力が鋭いってことだから」と断定します。この「だからこそ」はものごとのプラス面とマイナス面を逆転させるつなぎの言葉としての力を持っています。(3)目を光らせる―霊感3つ目は、目を光らせることです。これは、とくに不適応なメンバーに本人の考えていることを言い当てて、勘が良いアピールをすることです。たとえば、収集した事前の情報から推測して、「今日は顔色が珍しく冴えないね。何かあったでしょ?」と悩んでいることを言い当てる演出をします。そして、「私、分かるのよね」と自信満々でつぶやき、スピリチュアルな雰囲気をやや醸し出すことです。時に、「あなたってこうだよね」と本人も気付いていない癖を見抜いて、「なんで分かっちゃってるの?」と思わせ、「奇跡」を見せるという大技もあります。ただし、手口は基本的に霊感商法と同じであり、やりすぎるとうさん臭く思われるので、ほどほどが肝心でしょう。次のページへ >>

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3年B組金八先生(続編)【令和の金八先生になるには? わがままにさせない!(同調させるスキル)】Part 3

「手」―調整力ある男子生徒が、金八先生の娘に恋をするエピソードがあります。金八先生は、その男子生徒の母親から彼が高校に合格したら彼女と交際させてほしいと懇願され、苦々しい顔をします。その後、金八先生は、亡き妻の遺影に「坂本金八、講師になって22年。初めてあいつだけは高校落ちろと心から願ってしまう」と漏らします。金八先生の人柄のダークな部分が分かりやすく描かれています。3つ目の部位は、「手」です。これは、調整力です。一般的に、調整力とは、リーダーが集団の内と外との利害関係の調整やメンバー同士の人間関係の調整であると思われています。今回注目するのは、さらにリーダーとメンバーとの人間関係の距離を調整することです。この真逆は、リーダーが、誰に対しても平等に同じ距離で接する状況です。そうなると、現場は良く言えば居心地良くなりますが、悪く言えば、ナメてきます。なぜなら、そのようなリーダーは、良く言えば聖人君子ですが、悪く言えばロボットです。やがてメンバーの自己主張が強まっていき、だんだんとリーダーの存在感が薄まり、リーダーシップは危うくなります。かと言って、リーダーがただ厳しく感情的にしていれば良いかというと、それだけでもうまく行かないです。大事なのは、メンバーや状況によってリーダーの機嫌が変わるということをメンバーに感じ取らせることです。それは、「歯向かうと私が何かするわよ」という力強いメッセージです。それでは、普段から調整力を高めるための具体的なスキルを3つ紹介しましょう。(1)手のひらを返す―温度差1つ目は、手のひらを返すことです。これは、メンバーや状況によってリーダーが態度を変えることです。この時のポイントは、個人的に接している時は、誰に対してもあくまで興味津々になり、細かく褒めるのは変わらないことです。これは、すでに観察力の説明で触れました。一方、集団の場では、手のひらを返して、優等生タイプには温かく接して、不適応なメンバーには冷たく接して、対応にあえて温度差をつくります。好き嫌いを見せて、感情的で人間臭い演出をします。ここで誤解がないようにしたいのは、温度差をつくると言っても、単にこちらが本当に感情的になってそうしないことです。逆に、メンバーに優劣の差がないと思っても、あえて温度差をつくる必要もあるでしょう。なぜなら、ここでは、温度差は目的ではなく手段だからです。温度差という戦略(手段)によって得られる成果(目的)が3つあります。まず、リーダーが一筋縄ではいかな手強い「ボスザル」であると印象付けられます。次に、その「サル山」のメンバーの優劣の序列ができあがります。最後に、劣位の不適応なメンバーを際立たせます。人は本質的には社会的な「動物」であり、序列がある状況で安心するという心理をうまく利用しています。さらに、今回特別に、この手のひら返しの大技を紹介しましょう。名付けて、「あえて気分屋」です。これは、コンピュータのように一貫して正確にメンバーを評価しないことで、メンバーにもっとがんばろうという動機付けを高めさせるスキルです。たとえば、優等生タイプにいつも温かく接するのではなく、10回に1回くらい不機嫌を装い、あえて冷たくすることです。すると、そのメンバーは、「いつも褒められるはずなのに、なぜ今は褒められないの?」「自分の何がまずかったのかな?」と不安になり、次にもっと褒められるように努力するようになります。逆に、不適応なメンバーにいつも冷たく接するのではなく、10回に1回くらい上機嫌を装い、あえて暖かく接することです。たとえ褒めることがまったくなくても、「良い線行ってるね」「惜しいなあ」「もったいないなあ」「あともう少しなんだけどなあ」などの言い方が使えます。すると、そのメンバーは、「いつもは褒められないのに、なぜ今は褒められるの?」「自分の何が良かったのかな?」とうれしくなり、次にもっと褒められるように努力するようになります。ポイントは、いくら優等生タイプでも、100点にしないことです。なぜなら、人はゴールに達すると努力を怠るからです。また、いくら不適応なメンバーでも、100点になるかもしれないと思わせることです。なぜなら、人はゴールが見えると努力を始めるからです。つまり、人はもともと狩りをする動物であり、あとちょっとで獲物を仕留められるという状況でやる気が高まるという心理(ギャンブル脳)をうまく利用しています。ただし、やりすぎると、理不尽に思われるので、ほどほどが肝心でしょう。(2)手を増やす―温度差の同調2つ目は、手(フォロワーの手のひら返し)を増やすことです。全員(集団)に向けて、発信力を持って批判を繰り返しつつ、不適応なメンバーへの冷たい態度を繰り返し見せることで、その態度が集団のお手本(集団規範)になります。こうして、フォロワーたちが不適応なメンバーに冷たい態度をするように仕向けることができます。さらに、フォロワーたちには、自分も身勝手なことをして従わなければ周りから冷遇されると思い込ませることもできます。人は本質的には社会的な「動物」であり、自分に味方がいない状況を一番恐れているという心理をうまく利用しています。ただし、集団的な冷遇は、やりすぎると、不適応なメンバーが集団心理のスケープゴート(いけにえ)になってしまい、いじめのリスクが高まります。よって、リーダーとしては、不適応なメンバーがわがままにならずに従うようになれば、また手のひらを返して集団場面でも温かく接するように仕向けることも重要です。逆に、不適応なメンバーが心を入れ替えて従っているのに、スケープゴートとして集団の結束に好都合だからと野放しにするのは、不適切と言えます。また、歓送迎会、納涼会、忘年会などの仕事以外の集まりを有効活用できます。このような集まりは、もちろんメンバーにとっては楽しむ場です。しかし、リーダーにとっては楽しむ場とは限りません。ましてやリーダーが酔っ払って、ふんぞり返って、一方的にメンバーに説教話を聞かせるというのは、リーダーシップとしてはNG行為です。もちろん結果的に楽しい場になれば良いですが、楽しさよりも優先することが3つあります。まず、メンバーの話を親身になってよく聞くことです。そうすることで、ガス抜きと同時に情報収集が果たせます。次に、リーダーが自分から動き、盛り上げ役を担うことです。そうすることで、集団の同調の心理を高めることができます。最後に、リーダーは一貫して良い人を演じて、人間味が溢れることを印象付けることです。そうすることで、特に不適応なメンバーに「職場でみんなの前では冷たいけど、私のことを理解してくれていて悪い人じゃない」と理解してもらえます。(3)手を出す―威嚇3つ目は、手を出すことです。これは、本当に手を出して暴力を振るうわけではもちろんないです。あくまで、リーダーがカンカンに怒っている様を実際にメンバーたちに定期的に見せることです。こうして、リーダーは怒らせると怖いというイメージをメンバーに植え付けられます。さらには、「いざと言う時は刺し違えるよ」というくらいの気迫もあればなお良いでしょう。大事なのは、リーダーはロボットではなく、生臭い人間であると思わせることです。この時のポイントは、3つあります。まず、ブチ切れる状況は、個人的に接している時ではなく、数人以上いる時であることです。次に、ブチ切れる内容は、隣の職場(集団)からひどい目に遭った話とか、ひいきのスポーツチームが負けたなど、集団内とは直接関係のないことであることです。最後に、ブチ切れた後にすぐに、「我を失っちゃったわ」と状況を振り返り、自覚していることをメンバーに分からせることです。これらは、パワーハラスメントのリスクを低めることにもなります。ここで誤解がないようにしたいのは、ブチ切れると言っても、単にこちらが本当に感情的になってそうしないことです。逆に、ブチ切れることがないと思っても、あえてブチ切れるネタを探す必要もあるでしょう。なぜなら、ここでは、ブチ切れるのは目的ではなく、威嚇という手段だからです。人は本質的には社会的な動物であり、威嚇されると大人しくなるという心理をうまく利用しています。その他、「昔はやんちゃだった」「昔はもっと怖かった」などの武勇伝を時々に織り交ぜて、ナメられないように伝説をねつ造するのも良いでしょう。金八先生が「27年間の教師生活で、殴った生徒は3人です。・・・でもね、本当に殴って良かったかどうか、ときどき手のひらじっと見つめながら、いまだに考え込むことがあります」と生徒全員の前で打ち明けるシーンがあります。令和の金八先生になるには?金八先生をモデルに、同調させるスキルを、3つの体の部位になぞらえて、それぞれ3つのスキルをまとめました。今回学んだことを踏まえると、リーダーはメンバーからどう思われたら良いかという冒頭の問いへの答えは、「恐い人だ」と常に恐れられるのではなく、「優しい人だ」と常に慕われるのでもないです。それは、「熱い人だ」と付いていきたいと思われることです。ただ、リーダーの皆さんの中には「褒めるところがないのに褒めるのは、うそ臭くなるから言いたくない」「わざと不機嫌なふりをするのは心苦しい」と思う人もいるでしょう。もちろんこのようなスキルを使わないで済むならそれに越したことはありません。むしろ、このような演出が行き過ぎると、友人関係(フレンドシップ)や恋人関係(パートナーシップ)などの二者関係においては不誠実に思われるでしょう。しかし、リーダーシップにおいては別です。なぜならそもそもリーダーシップにおいては、相手が多すぎて、そのすべての相手が納得する「正解」がないからです。それでも、リーダーは、不適応なメンバーをまとめて最大限の結果を出すことで前に進まなければならないからです。よって、皆さんのリーダーシップが危うくなっているのであれば、そして皆さんがまだリーダーをやり続けたいと思うのであれば、何を優先すべきかがおのずと分かるでしょう。つまり、リーダーシップにおいて大事なことは、「個人として何が正しいか」ではなく、「リーダーとして何が使えるか」ということです。このことに気付いた時、今回紹介したその使える何かによって、皆さんのリーダーシップをもっと高めていくことができるのではないでしょうか? そして、金八先生の「熱血」さの普遍的な意味を理解することができるのではないでしょうか?<< 前のページへ

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血圧に差がついてしまっては理論検証にならないのでは?(解説:野間重孝氏)-1165

 マルファン症候群は細胞外基質タンパクであるfibrillin 1(FBN1)の遺伝子変異を原因とする遺伝性の結合織疾患であり、種々の表現型、重症度がみられるが、大動脈瘤(とくに大動脈基部)とそれに伴う大動脈弁閉鎖不全症が生命予後の決定因子としてとくに重要であるため、その発生予防が種々議論されてきた。近年、FBN1変異下においては炎症性サイトカインの1つである形質転換増殖因子β(TGFβ)の活性が亢進していることが明らかにされ、この活性亢進が結合織疾患の発生に関与している可能性が示され、動脈瘤の発生予防法として、シグナル伝達系でTGFβの上流に位置するアンジオテンシンII受容体1型活性をアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)によってブロックする治療法が有効である可能性が示唆され、注目を集めるに至った。 この概要が明らかになったのは、2011年にジョンズ・ホプキンズ大学のグループによって発表された2つの実験論文による(Holm TM, et al. Science. 2011;332:358-361. Habashi JP, et al. Science. 2011;332:361-365.)。本論文評は総説ではないので詳説は避けるが、概要を述べるならば、大動脈瘤の形成にはTGFβのシグナル伝達系の1つであるnon-canonical pathwayを介する分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ(ERK)、部分的にはMAPキナーゼ系に属するJNKが関与するが、FBN1変異下ではこの活性が亢進状態にある。ここでAT1刺激がERK活性を亢進させるのに対し、AT2受容体刺激はTGFβによるERK活性化を抑制する。ARBはAT1受容体を選択性にブロックするため、残ったAT2によりERK活性が強力に抑制され動脈の拡大が防止されるという機序が考えられ、動物実験により証明された。これに対し、ACE阻害薬はAT2の抑制作用まで抑えてしまうため、大動脈瘤の形成予防にARBは有効だがACE阻害薬は無効であることが考えられ、これも証明された。この研究は、遺伝子の異常そのものを直すことはできなくても、その下流のシグナル異常を抑制することにより遺伝子病の発症を防ぐことができる可能性を提示した研究として注目された。 一方、臨床面でもARBの有効性を示唆するデータが上記研究よりも早い時期から提出されていたのだが、症例数も少なく非盲検試験であったことから本格的な二重盲検試験による治験が期待されていた(Starzl TE. N Engl J Med. 358;2008:407-411.)。しかしその後ロサルタンとβブロッカーの併用による無作為化試験がいくつか行われたが、いずれにおいても有意なデータは得られなかった。ロサルタンはARBとしては強力な薬剤とは言えず、また血中半減期が6~9時間と短いこと、生体利用率が比較的低いことに鑑み、これらがいずれも優れたイルベサルタン(半減期11~15時間)を使って計画された二重盲検試験が本試験である。 前置きが長くなってしまったが、本論文は確かに有意なデータを提示することに成功したが、著者らの意気込みとは相違して、評者はこれがARBの効果によるものなのかどうかを断定することは早計なのではないかと考える。両群の間で大きくはないとはいえ、有意な血圧差が生じているからである。マルファン症候群は結合織疾患であり、結合織疾患に対してはたとえわずかな差とはいえ、持続的な血圧差は大きな影響を与える可能性が考えられるからである。 これはこの種の盲検試験の原則なのだが、主要検査項目以外の項目はそろえられていなければならないものである。とくに血圧は重要項目であり、これでは理論検証にはならないのではないかと考えるのは評者の偏見ではなく、統計の基礎だと思う。少々乱暴な提案にはなるが、そもそもARBは降圧薬として開発されたという経緯を考えると、このような理論検証型のモデルを組む以前に、何種類かの機序の違う降圧薬を用意して盲検のかたちで血圧をある一定レベルに降下させて一定期間観察するといった研究が、まず先行するかたちで行われるべきではないのだろうか。そうした治験でARBがとくに優れた結果を出したとすれば、機序はともかくとして確かに効果があったと立証されたといえる。もちろんこれは一案にすぎないが、臨床において理論検証型のモデルを組むことは非常に難しいのが通例なのである。血圧については著者らも気になったものとみえて、discussionの3分の1くらいをこの議論に当てているが、素直にうなずけるものではないように感じられた。とくに、何回も盲検試験の失敗が続いているにもかかわらず、「こうした結果はARBのclass effectである」とまで言い切っている根拠が理解できない。たとえそうであったとしても、それはもっと検証が重ねられたうえで言われるべきことではないのだろうか。 もう1つ気になる点を付け足すとすると、本研究だけではなく、一連の研究者たちが薬剤の1日1回投与にこだわっているように思われてならないことである。利便性より以前にまず安定的な薬剤血中濃度の動的平衡をつくることを考えるべきなのではないだろうか。ARBはそういう性格の薬ではないなどと反論する前に、まずオーソドックスな方法を取るべきだと思う。その後に、徐放剤をつくるなり半減期の長い薬剤を使用するなり(たとえばこの場合テルミサルタンなら半減期20~25時間)を考えればよいのではないかと思う。 TGFβ仮説は分子生物学分野の研究者たちにとって魅力的な仮説であることは十分理解できるが、まだ仮説の域を出てはいないのではないかと思う。まず、なぜFBN1異常下ではTGFβ活性が亢進するのかについても定説はないのである。臨床研究では動物実験のように種々の条件を正確にそろえて検証を行うことは無理である以上、もっと泥臭いアプローチが行われてもよいのではないかと感じたのだが、これは少し言い過ぎだろうか。

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加齢や疲労による臭い、短鎖脂肪酸が有効

 2019年9月11日、「大腸劣化」対策委員会が主催するメディアセミナーが開催され、松井 輝明氏(帝京平成大学健康メディカル学部 教授)が「『大腸劣化』を防ぐ短鎖脂肪酸のパワーについて」講演を行った。セミナー後半では沢井 悠氏(株式会社サイキンソー)、関根 嘉香氏(東海大学理学部化学科 教授)2名の専門家がそれぞれの視点から腸内細菌叢の重要性を語った。大腸劣化の予防には短鎖脂肪酸 大腸劣化とは、『大腸に多く存在する腸内フローラが、偏った食生活やストレス・睡眠不足などによって老廃物や有害物質が作られることで正常な機能が保てなくなり、最終的には大腸がんなどの大腸疾患のみならず全身の健康リスクにまで発展すること』を意味する。 腸内フローラには数千種類以上、数百兆個以上の種々の菌が存在し、善玉菌優位のバランス(善玉菌、悪玉菌、日和見菌それぞれの比率が2:1:7の状態)保持が必要とされる。しかし、無理なダイエットによる炭水化物制限による食物繊維不足、過度な動物性タンパク質摂取や食の欧米化進展という近年の日本人の偏った食文化が、悪玉菌へ餌を供給するとともに悪玉菌優位の環境をもたらし、最終的には腸内劣化により大腸がんなどの発症を招いてしまう。 そこで、松井氏はこのリスクを回避する方法として、善玉菌の餌となる短鎖脂肪酸を増やすコツとそのメカニズムについて解説した。短鎖脂肪酸とは、ビフィズス菌や酪酸菌が水溶性食物繊維などを食べた際に産生される物質で、酢酸や酪酸などを示し、腸内環境を弱酸性にして善玉菌が発育しやすい環境へ整える。ビフィズス菌から産生される酢酸には整腸作用、免疫力向上、血中コレステロール低下などの作用が期待でき、酪酸菌から産生される酪酸には、大腸のバリア機能強化や、大腸を動かすエネルギーの産生作用がある。これを踏まえ、同氏は「善玉菌の餌となるオリゴ糖、イヌリン、大麦や海藻類を積極的に取ることが重要」と述べ、穀物摂取量低下による食物繊維不足に危機感を示した。 短鎖脂肪酸の増加には食物繊維の摂取が有用であることについて、同氏は山口県岩国市で実施された臨床試験(水溶性食物繊維を多く含むスーパー大麦グラノーラを1ヵ月間、毎日摂取する試験)を例示し、「排便量や便の性状だけではなく、肌の状態や睡眠状態の改善もみられた。腸内環境の整備が整腸作用だけに留まらず、全身の健康に貢献することを示唆する結果が得られた」とコメントした。4人に1人が大腸劣化の可能性 腸内細菌叢の検査キットを開発・販売する沢井氏は「日本人の腸内フローラについて」を講演。同氏は「当社の検査結果を集計したところ、40代以降の4人に1人は大腸劣化の疑いがあることが明らかとなった。ただし、腸内フローラの多様性については、20代で低かった」とコメントし、加齢だけが大腸劣化の原因ではないことを明らかにした。疲労臭はビフィズス菌で解決 「腸内細菌叢と体臭の関係について」について講演した関根氏によれば、人間が放出するガスには皮膚ガスと呼ばれるものがあり、判明しているだけでも300種を超える。皮膚ガスの放散経路には、「表面反応由来」「皮膚腺由来」「血液由来」の3経路があり、表面反応由来の加齢臭は皮脂の酸化が原因のため、洗って落とすことができる。しかし、血液由来のダイエット臭(アセトン)や疲労臭(アンモニア)は洗っても落とすことができない。 では、どのように血液由来の臭いを減らせば良いのだろうか? 疲労臭の主成分アンモニアの血中濃度は、腸内細菌の改善によって減らせることが明らかになっている。そこで、関根氏らはラクチュロース(牛乳に含まれる乳糖を原料として作られる二糖類。大腸に到達後、ビフィズス菌の餌になる)の摂取試験を行い、「ビフィズス菌数の増加に伴う皮膚からのアンモニア放散量の減少を示唆した」という。この研究によって、腸内環境の改善で疲労臭が軽減できることを世界で初めて見いだした同氏は「これから体臭に関する新たな知見も報告する予定」と締めくくった。

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こんなにある子供の便秘サイン

 2018年3月18日、EAファーマ株式会社は、「大人が知らない『子供の慢性便秘症』の実態と世界標準へと歩み出した最新治療~便秘難民ゼロを目指して~」をテーマに、都内でプレスセミナーを開催した。 セミナーでは、子供が抱える「言うに言えない便秘の悩み」に大人がどう気付き、診療へ導くのか解説された。子供の5人に1人は便秘 セミナーでは、十河 剛氏(済生会横浜市東部病院小児肝臓消化器科)を講師に迎え、小児の便秘症について詳しくレクチャーを行った。 はじめに横浜市鶴見区で行われた調査報告を紹介。 3~8歳の子供3,595人に食事と排便に関するアンケート調査を行ったところ、718人(約20%)に慢性便秘症(ROMEIII診断基準による)がみられたという(全国平均では約15%)。とくに便秘の子供では、「便を我慢する姿勢や過度の自発的便の貯留の既往」「痛みを伴う便通の既往」「少なくとも週1回の便失禁」が散見されると報告した1)。 子供の便秘に関しては保護者の関心も高い一方で、しつけや教育の問題とされたり、周囲に相談できる人がいなかったり、かかりつけの医師に相談しても対症的な治療だけだったりと不安を訴える。また、子供たちは、友達から「臭い」と言われたり、恥ずかしくて言えなかったりと自尊心が傷つき行き場のない子供を診療で救う必要性があると同氏は問題を指摘する。気付きたい「便秘症」の症状 「便秘」について、その定義、診療はどのようにされるべきか。「小児慢性機能性便秘症診療ガイドライン」(2014年)によれば、「便秘とは、便が滞った、または便がでにくい状態」と定義され、とくに小児では、排便時に肛門が痛く泣いたり、いきんでも排便ができない状態がみられる。ただ注意すべきは、「便秘」の認識は、個々人で異なるため排便の回数などで判断せず、同時に家族の状況も確認した方がよいと語る。 そして、便秘の症状として「腹痛、裂肛、直腸脱、便失禁、肛門周囲の付着便や皮膚びらん、嘔吐・嘔気、胃食道逆流・げっぷ・口臭、集中力低下、夜尿・遺尿」があり、いかに医療者が気付き、診療介入できるかが重要だと指摘する。 具体的に10歳・女児の症例を紹介。この症例では、「口臭、げっぷ、嘔吐、排便時間30分超」の症状がみられ、他科診療の折に同氏の診療科を受診、便秘症の診療にいたったという。X線検査では、直腸に便塞栓が観察され、大腸に大量の便が貯留していた。慢性便秘症と胃食道逆流症の診断後、プロトンポンプ阻害薬とポリエチレングリコール(PEG)製剤で治療を開始。19日後には、排便時間が10分以内になり、当初の症状も消失したという。 小児の便秘症を疑うポイントとして、前記便秘症状の中でも触れているが、溜まった便で膀胱が圧迫されることによる夜尿やおもらしが多く、便塞栓のために液便による便漏れやこれらに伴う肛門部のびらんなどがみられ、診断の手助けになると語った。小児にも適用できるようになったPEG製剤 小児が便秘症を発症しやすい時期として、「食事の移行期(離乳食から普通食など)」「トイレットトレーニング」「通学の開始」の3期があり、排便への恐れが子供にできないように、環境を整えることも重要と指摘する。 また、便秘症の「便塞栓」について詳説し、本症を疑うポイントとして、「少量の硬い便」「肛門周囲や下着への便の付着」「便がでにくいのに下痢便」「1週間近く排便がない」などが見られたら治療介入し、便秘症の悪循環を断ち切る必要があると強調する。 便秘症治療の三大原則としては、「便塞栓があればその除去の後で、薬剤、食事、生活習慣改善などの治療を行う」「外したフタ(便塞栓)は外したままにする」「便を我慢せず出しきる習慣を身に付ける」ことを説明。とくに排便習慣については、直腸の排便へのセンサーを正常化させることが大事で、また、排便の姿勢についても、自然に排便できるように洋式便座では踏み台などの設置も効果的という。 そして、これら治療を補助するために治療薬があり、「浣腸だけでなく新しい経口治療薬も小児には適用できるようになった」と説明する。現在、わが国では、乳児・幼児に対してラクツロース、酸化マグネシウムなどの浸透圧性下剤、グリセリン、ビサコジルなどの刺激性下剤が便秘に多用されている。また、2018年11月からようやくわが国でもPEG製剤(商品名:モビコール)が、2歳以上の小児に使用できるようになったこともあり、便秘薬の選択肢は増えつつあるという(参考までに、海外では便塞栓除去に浣腸だけでなく経口治療薬も選択肢に入っており、イギリスではPEG製剤が第一選択薬となっている2))。 臨床上、成人の便秘症は治療に難渋することがあるが、子供の便秘症では薬剤療法が奏功することもあり、早く介入することが重要と語る。治療の目標は、便秘ではない状態の維持であり、そのためには3~4年近く必要という。 最後に同氏は、子供のトイレ指導のコツについて、「25%できたら褒める」「小さいことから少しずつ」「できた行動に着目する」「具体的な指示をする」「一度に一つだけ指示をする」などを挙げ、「便秘難民がゼロ」になることを期待すると講演を締めた。■参考EAファーマ株式会社 イーベンnavi

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尿失禁が生命予後に影響?OABに早期介入の必要性

 わが国では、40歳以上の約7人に1人が過活動膀胱(OAB)を持ち、切迫性尿失禁を併せ持つ割合は70%を超えると推定されている。定期通院中の患者が症状を訴えるケースも多く、専門医以外でも適切な診療ができる環境が求められる。 2019年2月28日、OAB治療薬「ビベグロン錠50mg(商品名:ベオーバ)」の発売元であるキョーリン製薬とキッセイ薬品が共催したメディアセミナーにて、吉田 正貴氏(国立長寿医療研究センター 副院長 泌尿器外科部長)が講演を行った。本セミナーでは、「OABの病態と治療―新たな治療選択肢を探るー」をテーマに、高齢のOAB患者を取り巻く現状と薬物療法について語られた。“過活動膀胱”もしくは“低活動膀胱”を持つ高齢者が増加 OABとは、尿意切迫感を必須症状とし、しばしば昼間/夜間頻尿や切迫性尿失禁を伴う症状症候群である。発症率は加齢とともに上がり、ホルモン変化、神経疾患や局所性疾患、生活習慣病など、さまざまな要因が関与すると考えられている。とくに最近では、下部尿路への血流の悪さが発症要因の1つとして注目されている。 吉田氏は、高齢者におけるOAB診療の問題点として、加齢に伴う副作用(口内乾燥、便秘)の発生頻度増加、フレイルとサルコペニア、認知症への影響、多剤服用の4つを提起した。さらに、高度の慢性膀胱虚血は、排尿筋の活動低下“低活動膀胱”を引き起こす。これは、近年増加しているため、高齢者に抗コリン薬を使用する際にはとくに注意が必要だという。フレイルと尿失禁による生命予後の悪化が危惧される 続いて、高齢者のフレイルと尿失禁の併発による生命予後への影響が語られた。これまでに、65~89歳の尿失禁有症者は尿禁制者に比べ、フレイルへ分類される可能性が6.6倍にもなること1)や、フレイルは1年以内の尿失禁発症の予測因子となり、尿失禁は1年後の死亡リスク上昇につながる恐れがあること2)などが海外で報告されている。 尿失禁がある患者は、臭いやトイレの近さを気にするため引きこもりがちになり、筋力が低下しやすいことを指摘し、「高齢者のフレイルや尿失禁は、生命予後にかかわる可能性があり、OAB患者の尿失禁にはとくに早期に介入していく必要がある」と強調した。高齢者のOAB治療における薬剤選択は慎重に行うべき 今回紹介されたビベグロンは、国内で2番目のβ3受容体作動薬で、膀胱の伸展を増強する。国内第III相比較試験では、プラセボ群に対して、1日の平均排尿回数を有意に減らし、すべての排尿パラメータを改善するなどの結果を収め、世界で初めてわが国で承認された薬剤だ。長期投与における安全性と有効性も確認されており、過活動膀胱診療ガイドライン(2015)の次回改定では、既存の同効薬ミラベクロンと同様の推奨グレードになる見通しだという。 同氏は、高齢者OAB患者に対する薬物療法の注意点について、ガイドラインに記載される6項目を紹介した。1.少量で開始し、緩やかに増量する2.薬剤用量は若年者より少なくする(開始量の目安は成人量の4分の1~2分の1)3.薬効を短期間で評価する:効果に乏しい場合は漫然と増量せず、中止して別の薬に変更4.服薬方法を簡易にする:服薬回数を減らす5.多剤服用を避ける:認知症患者ではとくに注意が必要6.服薬アドヒアランスを確認する:在宅患者では、一元的な服薬管理と有害事象の早期発見が重要 最後に、「高齢社会でOAB患者は増加しているが、これは健康寿命の延伸を抑制する一因となっている。高齢者の診療に当たって、多剤服用はフレイルの増悪因子であり、安易な薬剤の追加には注意が必要。とくに、抗コリン薬は認知機能やせん妄にも影響する恐れがあるため、患者の状況をしっかり確認して、慎重に治療薬を選択してほしい。β3受容体作動薬は、抗コリン作用を持たないため、高齢者にも比較的安全に使用できる可能性がある」と締めくくった。

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電子タバコは禁煙に役に立つか?(解説:桑島巖氏)-1003

 最近は、タバコの代わりに電子タバコを使っているという人が多くなっている。禁煙の手法として、ニコチンの量を徐々に減らす「ニコチン代替療法」と電子タバコで禁煙を目指すという2つの方法がある。 本研究はどちらの方法が1年後の禁煙率が高いかをランダム化試験で比較した論文である。 このコメントの読者である多くの医療関係者は非喫煙者が多いと思われるので、少し電子タバコについての予備知識が必要であろう。 普通のタバコは、煙を吸うのに対して、電子タバコは水蒸気を吸い込むという点が大きな違いである。したがって普通のタバコは、タバコの葉を燃やすことで生じる臭いや有害物質を発生する。 一方電子タバコはタバコの葉を使用せずに、e-リキッドといわれる液体を電力で熱することで生じる水蒸気を吸い込み、その臭いを自分の好みに合わせて楽しむことができるのが売りである。 電子タバコといってもすべてが完全にニコチン・フリーではなく、少量のニコチンを含有しているものもあり、本研究で用いられた電子タバコには18mg/mLのニコチンが含まれている。 一方ニコチン代替療法には、パッチ、ガム、スプレーなどのほか、わが国ではバレニクリン製剤(商品名:チャンピックス)という錠剤も使用されている。 さて、本研究は886名の喫煙者をニコチン代替療法群と電子タバコ群にランダマイズして、試験開始時、開始4週、52週の時点での喫煙状況とタバコの有害物質の1つである一酸化炭素の排泄量を測定した。 1次エンドポイントである1年時の禁煙率は、電子タバコ群が18%で、ニコチン代替療法群の9.9%に比して有意に高かった。この結果から禁煙には電子タバコが有用であるというのが本論文の結論であるが、しかし1年時の禁煙者といっても、電子タバコを続けていた人が80%もいたということは、はたして禁煙に成功したと言えるであろうか。電子タバコもニコチンは含まれており、完全に無害とは言えないのである。喫煙者はニコチンの血中濃度が一定に達して、主観的に満足感が得られるまで喫煙する傾向があるとされる。 一方ニコチン代替療法群で、1年後にニコチン代替療法を継続していたのは9%にすぎない。ということはある意味では禁煙できた人が多いという解釈もできるのである。 さらに喉や口腔の炎症などの副作用は電子タバコ群のほうが高率に認められたというから、電子タバコ自体が咽頭に対して刺激性を有しているのであろう。 またとくに注目すべきは、本研究の両群とも被検者の約75%が過去にニコチン代替療法を経験した症例である。つまり何度も禁煙療法を繰り返すリピーターであることから、本当に禁煙が達成できたかどうかはもう少し長いスパンで観察しなければならないのであろう。 いずれにしろ電子タバコの安全性は確立されていない。 最後に日本呼吸器学会から、下記のような声明を紹介する。1. 非燃焼・加熱式タバコや電子タバコの使用は健康に悪影響をもたらす可能性がある。2. 非燃焼・加熱式タバコや電子タバコの使用者が呼出したエアロゾルは周囲に拡散するため、受動喫煙による健康被害が生じる可能性がある。従来の燃焼式タバコと同様に、すべての飲食店やバーを含む公共の場所、公共交通機関での使用は認められない。

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上戸彩さんの風邪予防法は毎日のうがい

 うがいと手洗いは、医療者であれば普段から身に付いた習慣である。まして空気の乾燥する冬季には、なお重要となる。医療機関、家庭で愛用されてきたうがい薬ポビドンヨード(商品名:イソジン)を製造するムンディファーマ株式会社は、2018年10月11日、イソジンの新製品の記者発表会を都内で開催した。(写真は左からシン氏、上戸さん、木村氏) 発表会では同社の事業戦略の説明のほか、同社がパートナー契約を締結している横浜F・マリノスの現役の選手、および同社のCMに出演している女優の上戸 彩さんが応援に駆け付けた。新しいイソジンは無色でさわやかな風味 はじめに同社のラマン・シン氏(最高経営責任者)と木村 昭介氏(代表取締役社長)が、事業紹介と今後の展望を説明した。 同社は、イソジンをはじめとする「コンシューマヘルスケア」のほか、「疼痛」「がん」などの医療分野でわが国に製品提供を行っている。とくに総合感染対策としてうがい薬「イソジン」は長年愛され、医療現場だけでなく、家庭でも使用されている。 事業説明では、うがい薬市場がすこしずつ縮小していく中でイソジンは二桁の成長を遂げていること、そして、今後は「定期的なうがい習慣のない人々への浸透をいかに図っていくかが課題」と語った。 つぎに横浜F・マリノスとのブレーンストーミングで誕生した製品「イソジン のど飴」を紹介。本製品は、食品に位置付けられ、のどにやさしい亜鉛とヘスペリジンが配合されている。フレ-バーは、「フレッシュレモン」「はちみつ金柑」「ペパーミント」の3種類が用意されている。「うがいができないとき、のどを守るのに役立つアイテム」と同社は説明するとともに、今後日本発の製品として世界展開を行うとしている。 その他、新製品のイソジンとして無色透明で、風味をつけた「イソジン クリアうがい薬」(アップル風味/マイルドミント風味)を紹介。洗面台を汚さない、消毒薬の臭いのしない製品をユーザー目線で開発したと紹介した。 説明会では、シン氏は「日本からいくつか製品のイノベーションができた。今後もイソジンのブランド力を保持しつつ、より改良を行いたい」と抱負を語り、木村氏は「感染対策にさまざまな場面で提供できる製品を作っていきたい」と述べ、説明を終えた。水うがいで防ぎ切れないときはイソジンで トークセッションでは、横浜F・マリノスの選手たちがコンディション維持のためのうがいやのどの保湿の重要性を語るとともに、同社のCMに出演中の上戸さんが登場し、自己流の風邪予防法やCM撮影の裏話を披露した。扁桃腺が腫れやすいという上戸さんは、母親として子供からのもらい風邪対策や体調維持のために、うがいやイソジンの噴霧器、のど飴を携帯することで気を付けているという。最後にメッセージとして「自分が健康だと気分がいいし、周りにも風邪などうつさないことが大事。水うがいだけでは効果がないこともあるので、イソジンなどで感染予防をしてほしい」と語り、セッションを終えた。

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第2回 小児へのアモキシシリン 分2 10日間の処方 (後編)【適正使用に貢献したい  抗菌薬の処方解析】

前編 Q1処方箋を見て、思いつく症状・疾患名は?Q2患者さんに確認することは?Q3患者さんに何を伝える?Q4 疑義照会をする?しない?(状況によっては)疑義照会するアモキシシリンを分3にできないか疑義照会 荒川隆之アモキシシリンの1日3回投与をお勧めします。カルボシステインは通常体重1kgあたり0.02g製剤量を3回投与なので、処方から計算上は16.5kgとなります。2歳女児の平均体重10~13kgより少し大きいでしょうか?「JAID/JSC感染症治療ガイド2014」(日本感染症学会・日本化学療法学会発行)では、小児の咽頭・扁桃炎に対してアモキシシリンは10~20mg/kgを1日3回投与とありますので、16.5kgならば1回165~330mgを1日3回投与となります。本症例の場合、1回量は280mgとなり適正と考えられるのですが1日2回投与です。Wessels MR. Streptococcal pharyngitis. N Engl J Med. 2011; 364: 648-655. などにおいてもアモキシシリンは1日1~2回投与とありますが、アモキシシリンは時間依存性であり半減期が1.2時間と短いこと、また飲み忘れなども考え合わせると、JAID/JSCのガイドラインどおり1日3回10日間の投与が良いのではないかと考えます。母親の観点からの意見 わらび餅患児は保育園に通っているのでしょうか。保育園に与薬を依頼することができないのかもしれないですが、あのカサ高いアモキシシリン10%散を2歳児に飲ませることは大変で、分2だと1回飲ませるのに失敗したときのロスは大きいです。もう少し年齢が高ければ分2でも良いですが、1~2歳は必要性が理解できないので与薬が大変です。子供の普段の薬に対する忍容性がどうか、または保育園へ与薬依頼できるか母親へ確認し、分3にできるか医師に相談します。昼服用が可能なら疑義照会 柏木紀久保護者への確認で服薬支援が得られるならばRp.1~2を分3にするように疑義照会します。今回は昼服用を意図的に避けているようなので、お昼に服用できないとのことであれば「小児呼吸器感染症診療ガイドライン2011」(日本小児感染症学会)の「A群溶血性レンサ球菌による咽頭・扁桃炎の抗菌薬療法」の項、「推奨される抗菌薬療法」にある「アモキシシリン 30~50mg/kg/日 分2~3 10日間」から疑義照会しません。下痢対策 キャンプ人下痢を起こしやすいので、牛乳アレルギーなどがない場合は整腸剤の処方の検討も依頼します。アモキシシリン以外の処方について疑義照会 中西剛明アモキシシリン服用後にすぐに解熱する場合が多いので、他の薬は使わなくても済む可能性を患者さんに説明して、アモキシシリン以外の薬が不要という申し出があれば、処方取り消しのための疑義照会を行います。薬剤特有の臭いに配慮 中堅薬剤師1日3回、または4回投与を提案し、1日3回にするならばRp.2と合わせて朝・夕・寝る前で処方してもらいます。なお、アモキシシリンは開封後、時間経過すると次第に独特の臭いが強まりますので、開封後時間が経過していない商品で調剤します。あまり動きのない店舗であれば、分包品を採用します。小児の場合、矯味の問題でアドヒアランスが低下することはよくあるので、アモキシシリンの服薬アドヒアランスが低い子供にはセフェム系のセフジトレンピボキシルやセフジニルなどの提案も良いと思います。低カルニチン血症※を考慮して、ピボキシル基を含まないセフジニルを推奨することもあります。※ピボキシル基を有する抗菌薬によりカルニチン排泄が亢進し、低カルニチン血症に至ることがあり、小児(特に乳幼児)では血中カルニチンが少ないため、血中カルニチンの低下に伴う低血糖症状(意識レベル低下、痙攣など)に注意する3)。処方日数について 清水直明初回で10日分の処方は、抗菌薬の効果判定をせずに漫然と投与していると捉えられ、保険で査定される可能性があります。実際、私の勤務先では、初回投与で7日を超える抗菌薬の処方は査定されました。日数を短縮し(3~4日程度)、再度来院して1次効果を確認してから、継続投与の処方を行うほうが良いと考えます。疑義照会をしない分2投与は迷うが... 児玉暁人アモキシシリンの分2投与を疑義照会するかどうか迷うところです。「小児呼吸器感染症診療ガイドライン2011」の「A群溶血性レンサ球菌による咽頭・扁桃炎の抗菌薬療法」では分2~3となっているのと、Wessels MR. Streptococcal pharyngitis. N Engl J Med. 2011; 364: 648-655. にStreptococcal Pharyngitisの総説があり、アモキシシリン分2あるいは分1の記載もあることから、A群溶血性レンサ球菌であれば服用完遂を優先して分2のままでも良いかもしれません。協力メンバーの意見をまとめました今回の抗菌薬処方で患者さんに確認することは・・・(通常の確認事項は除く)ペニシリンアレルギーがあるか・・・5名溶連菌の検査を受けたかどうか・・・3名咽頭痛、苺舌など症状の有無・・・2名患者さんに伝えることは・・・アモキシシリンは症状が改善しても10日間しっかり飲みきること・・・12名全員小分けにして飲んだりアイスや乳製品などに混ぜてもよいこと・・・4名腹痛や下痢などの副作用について説明する・・・3名発熱時の水分補給の重要性を説明する・・・2名アモキシシリン以外は、症状によっては無理に服用する必要はないことを伝える・・・2名疑義照会については・・・(状況によっては)疑義照会する アモキシシリン分2処方について、患者背景を確認し、できれば分3~4になるよう疑義照会する・・・6名アモキシシリン以外の薬が不要との申し出があれば、処方取り消しの提案をする・・・1名下痢対策として、整腸剤の処方依頼をする・・・1名 疑義照会をしない アモキシシリンは分2でも分3と同様の効果が得られることが報告されているので、疑義照会しない・・・2名1)国立感染症研究所感染症情報センター. A群溶血性レンサ球菌咽頭炎とは. NIID国立感染症研究所.2)西本幸弘ら. 感染症により誘発される免疫疾患. 新領域別症候群25 感染症症候群(第2版)下. 2013: 742-748.3)(独)医薬品医療機器総合機構". ピボキシル基を有する抗菌薬投与による小児等の重篤な低カルニチン血症と低血糖について. "独立行政法人 医薬品医療機器総合機構.

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第3回 意識障害 その3 低血糖の確定診断は?【救急診療の基礎知識】

72歳男性の意識障害:典型的なあの疾患の症例72歳男性。友人と食事中に、椅子から崩れるようにして倒れた。友人が呼び掛けると開眼はあるものの、反応が乏しく救急車を要請した。救急隊到着時、失語、右上下肢の麻痺を認め、脳卒中選定で当院へ要請があった。救急隊接触時のバイタルサインは以下のとおり。どのようにアプローチするべきだろうか?●搬送時のバイタルサイン意識:3/JCS、E4V2M5/GCS血圧:188/102mmHg 脈拍:98回/分(不整) 呼吸:18回/分SpO2:95%(RA) 体温:36.2℃ 瞳孔:3/3mm+/+10のルールのうち低血糖に注目この症例は前回お伝えしたとおり、左中大脳動脈領域の心原性脳塞栓症でした。誰もが納得する結果だと思いますが、脳梗塞には「血栓溶解療法(rt-PA療法)」、「血栓回収療法」という時間に制約のある治療法が存在します。つまり、迅速に、そして正確に診断し、有効な治療法を診断の遅れによって逃すことのないようにしなければなりません。頭部CT、MRIを撮影すれば簡単に診断できるでしょ?! と思うかもしれませんが、いくつかのpitfallsがあり、注意が必要です。今回も“10’s Rule”(表1)にのっとり、説明していきます1)。今回は5)からです。画像を拡大する●Rule5 何が何でも低血糖の否定から! デキスタ、血液ガスcheck!意識障害患者を診たら、まずは低血糖を除外しましょう。低血糖になりうる人はある程度決まっていますが、緊急性、簡便性の面からまず確認することをお勧めします。低血糖の時間が遷延すると、低血糖脳症という不可逆的な状況となってしまうため、迅速な対応が必要なのです。低血糖によって片麻痺や失語を認めることもあるため、侮ってはいけません2)。低血糖の診断基準:Whippleの3徴(表2)をcheck!画像を拡大する低血糖と診断するためには満たすべき条件が3つ存在します。陥りがちなエラーとして血糖は測定したものの、ブドウ糖投与後の症状の改善を怠ってしまうことです。血糖を測定し低いからといって、意識障害の原因が低血糖であるとは限りません。必ず血糖値が改善した際に、普段と同様の意識状態へ改善することを確認しなければなりません。血糖低値と低血糖は似て非なるものであることを理解しておきましょう。低血糖の原因:臭いものに蓋をするな!低血糖に陥るには必ず原因が存在します。“Whippleの3徴”を満たしたからといって安心してはいけません。原因に対する介入が行われなければ再度低血糖に陥ってしまいます。低血糖の原因は表3のとおりです。最も多い原因は、インスリンやスルホニルウレア薬(SU薬)など血糖降下作用の強い糖尿病薬によるものです。そのため使用薬剤は必ず確認しましょう。画像を拡大するるい痩を認める場合には低栄養、腹水貯留やクモ状血管腫、黄疸を認める場合には肝硬変(とくにアルコール性)を考え対応します。バイタルサインがSIRS(表4)やqSOFA(表5)の項目を満たす場合には感染症、とくに敗血症に伴う低血糖を考えフォーカス検索を行いましょう(次回以降で感染症×意識障害の詳細を説明する予定です)。画像を拡大する画像を拡大する低血糖の治療:ブドウ糖の投与で安心するな!低血糖の治療は、経口が可能であればブドウ糖の内服、意識障害を認め内服が困難な場合には経静脈的にブドウ糖を投与します。一般的には50%ブドウ糖を40mL静注することが多いと思います。ここで忘れてはいけないのはビタミンB1欠乏です。ビタミンB1が欠乏している状態でブドウ糖のみを投与すると、さらにビタミンB1は枯渇し、ウェルニッケ脳症やコルサコフ症候群を起こしかねません。ビタミンB1が枯渇している状態が考えられる患者では、ブドウ糖と同時にビタミンB1の投与(最低でも100mg)を忘れずに行いましょう。ビタミンB1の成人の必要量は1~2mg/日であり、通常の食事を摂取していれば枯渇することはありません。しかし、アルコール依存患者のように慢性的な食の偏りがある場合には枯渇しえます。一般的にビタミンB1が枯渇するには2~3週間を要するといわれています。救急外来などの初療では、患者の背景が把握しきれないことも少なくないため、アルコール依存症以外に、低栄養状態が示唆される場合、妊娠悪阻を認める患者、さらにはビタミンB1が枯渇している可能性が否定できない場合には、ビタミンB1を躊躇することなく投与した方が良いでしょう。ウェルニッケ脳症はアルコール多飲患者にのみ発症するわけではないことは知っておきましょう(表6)。画像を拡大するそれでは、いよいよRule6「出血か梗塞か、それが問題だ!」です。やっと頭部CTを撮影…というところで今回も時間がきてしまいました。脳卒中や頭部外傷に伴う意識障害は頻度も高く、緊急性が高いため常に考えておく必要がありますが、頭部CTを撮影する前に必ずバイタルサインを安定させること、低血糖を除外することは忘れずに実践するようにしましょう。それではまた次回!1)坂本壮. 救急外来 ただいま診断中!. 中外医学社;2015.2)Foster JW, et al. Stroke. 1987;18:944-946.コラム(3) 「くすりもりすく」、内服薬は正確に把握を!高齢者の多くは、高血圧、糖尿病、認知症、不眠症などに対して定期的に薬を内服しています。高齢者の2人に1人はポリファーマシーといって5剤以上の薬を内服しています。ポリファーマシーが悪いというわけではありませんが、薬剤の影響でさまざまな症状が出現しうることを、常に意識しておく必要があります。意識障害、発熱、消化器症状、浮腫、アナフィラキシーなどは代表的であり救急外来でもしばしば経験します。「高齢者ではいかなる症状も1度は薬剤性を考える」という癖を持っておくとよいでしょう。また、内服薬はお薬手帳を確認することはもちろんのこと、漢方やサプリメント、さらには過去に処方された薬や家族や友人からもらった薬を内服していないかも、可能な限り確認するとよいでしょう。お薬手帳のみでは把握しきれないこともあるからです。(次回は7月25日の予定)

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アンパンマン【その顔はおっぱい?】

今回のキーワード乳幼児発達心理学「乳児脳」進化心理学子育て心理無条件の愛情協力関係想像力脱中心化みなさんは、「アンパンマン」をご存じでしょうか?顔があんパンでできた、子どもたちの人気ヒーローですね。特に、3歳児までに絶大な人気があります。それにしても、なぜ人気があるのでしょうか?そして、4歳児からなぜ人気がなくなるのでしょうか?そもそもなぜ自分の顔を食べさせるヒーローが子どもに受け入れられるのでしょうか?今回は、「アンパンマン」の人気の謎に迫ります。そして、そこから乳幼児の心の成長を発達心理学的に読み解き、心の起源を進化心理学的に掘り下げ、より良い子育てのやり方とあり方についての子育て心理に応用してみましょう。なぜ3歳児までに人気があるの?―「乳児脳」まず、アンパンマンはなぜ人気があるのでしょうか?それは、3歳までにすさまじいスピードで発達する「乳児脳」とも呼ばれる独特の心理と深い関係があります。その答えを3つ挙げ、乳幼児発達心理学、進化心理学、そして子育て心理に重ねてみましょう。(1)捨て身で守ってくれる―無条件の愛情のシンボルアンパンマンは、お腹のすいた人(子ども)のもとに降り立ち、自分の顔をちぎって、喜んで食べさせます。そして、顔の一部がなくなると、力がなくなり飛べなくなります。すると、ジャムおじさんができたての新しい顔に取り替えてくれます。ちなみに、アンパンマン自身はものを食べることはありません。1つ目は、捨て身で守ってくれることです。困っている人には、必ず、無条件に、自己犠牲的に助けてくれる存在であることです。それを、視覚的に分かりやすく描いています。そして、アンパンマン自身は食べないという設定から、困っている人には気兼ねさせずに一貫して食べさせる存在になれます。また、アンパンマンの顔は、ジャムおじさんによって新しく作られるため、なくならないという安心感もあります。発達心理学的に見ると、乳児は、泣けば必ず母親から授乳してもらえると認識しています。まさに、象徴的には、アンパンマンの顔はおっぱいと言えるでしょう。乳児がおっぱいを吸うと、オキシトシンというホルモンが母親の脳内で分泌され、お乳が出やすくなります。この時、同時に母親は自分の子どもを大切にしたいという気持ちが連動して高まります(愛情)。一方、乳児は、抱っこ、愛撫などによる肌の触れ合いがあると、乳児の脳内でも同じようにオキシトシンが分泌されることが分かっています。この時、同時に乳児はその母親にくっついていたいと思う気持ちが連動して高まります(愛着形成)。そのため、泣くだけでなく、機嫌が良い時は鼻にかかったような柔らかな音を出したり(クーイング)、笑顔を見せるようになります(社会的微笑)。つまり、親の愛情と子どもの愛着は相互作用をして高まります(共発達)。そして、これらの高まりは、オキシトシンの分泌や受容体の増加と密接な関係があります。よって、オキシトシンは、「愛情ホルモン」「愛着ホルモン」「絆ホルモン」とも呼ばれています。さらに、乳児にとって、母親をはじめとして父親や祖父母なども含めた家族は、自分を無条件に大切にしてくれる安心で安全な心のよりどころであると認識していきます(愛着対象)。これが土台となり、成長するにつれて家族だけではなく他人とのかかわりも求めるようになっていきます。進化心理学的に見ると、哺乳類が約2億年前に誕生してから、その母親は子どもを哺乳する、つまり乳を与えて育てるというメカニズムを進化させました。これは、自分の栄養を与えるという自己犠牲の上に成り立っています。飽食の現代では想像しにくいですが、常に飢餓と隣り合わせの原始の時代、それでも母親は命がけで自分の栄養を子どもに分け与えて、子孫を残してきました。人類が700万年前に誕生してから、もちろん父親も、猛獣から体を張って子どもを守り、子孫を残してきました。当時から、そうしたいと思う母親や父親の心理と、そうされたいと思う乳児の心理(愛着)が共に進化していったのでしょう(共進化)。ちなみに、比較動物学的には、サルなどの類人猿も、もちろん哺乳類で愛着形成があります。ただし、サルと人間の違いは、サルの乳児はあまり泣かないことです。その理由は、サルの乳児は生まれてすぐに母親の胸に自力でしがみつくことができるため、いつでも哺乳ができて、しかも天敵が来てもそのままいっしょに逃げることができるため、親の関心を引く必要がそれほどないからです。そもそも泣けば、それだけ天敵に気付かれるリスクを上げるため、泣くことはデメリットでもあります。一方、人間の乳児は、頭部を大きく進化させた代償として、母親の産道を通過するために、サルと比べて未熟児で生まれるように進化しました(生理的早産)。よって、生まれてしばらくは寝たままの状態になるため、親の関心をできるだけ引いて、天敵に見つかるリスクを上回って、生存の確率を高めたのでした。子育て心理に応用すると、いつもあなたは大切であると言語的にも非言語的にも伝え続けることです。例えば、イヤイヤ期(第一次反抗期)になって、腹が立って叱ったとしても、その後すぐに切り替えて、「それでも○○ちゃんは大好きよ」と優しく明るく抱きしめることです。アンパンマンもどんな時も守ってくれる味方であるという無条件の愛情のシンボルです。だからこそ子どもに受け入れやすいと言えるでしょう。(2)みんなと仲良くする―協力関係のモデルアンパンマンは、敵役のばいきんまんと永遠に戦っています。しかし、アンパンマンは、ばいきんまんを憎んでいません。みんなに迷惑をかけていることに厳しいだけで、むしろ仲良くしたいと思っています。よって、ばいきんまんを完全にやっつけるわけではなくただ追い払っているだけで、最後はいつも、ばいきんまんが「バイバイキーン」と捨て台詞を言って、家(バイキン城)に逃げ帰っています。ばいきんまん自身のキャラクターも、欲張りで食い意地が張っていたずら好きですが、単純で間抜けな愛すべきキャラクターです。2つ目は、みんなと仲良くすることです。アンパンマンワールドは1つの大きなファミリーです。たとえ困ったキャラクターがいても、仲間の一員とみなし、平和的に共存しています。発達心理学的に見ると、親が、あやしている時に、乳児の気持ちを共感的に汲み取って声かけや表情で鏡のように映し出します(ミラーリング)。すると、その乳児は親の動きのインプットと自分の動きのアウトプットを同じ脳のネットワークで処理するメカニズムを働かせるようになります(ミラーニューロン)。つまり、親が乳児の鏡(ミラー)になるのと相互作用して、乳児が親の意図と動作を同じくする「鏡の神経」(ミラーニューロン)を発達させていきます。こうして、乳児は、親のまねをするようになります(模倣)。その後、幼児になって保育園や公園などで、他の幼児といっしょになり、場所やおもちゃを取り合うなどのぶつかり合いやいざこざが起きます。この時、親などの周りの働きかけによって、最初は単純に抵抗するだけだったのが、やがて順番で共有すること、分け合うこと、じゃんけんをすることなどによって、仲良くすることができるようになります(社会性)。そして、自己主張と自己抑制のバランスをとるセルフコントロールを発達させていきます。これが土台となり、成長するにつれて、より高度で複雑化したコミュニケーションをするようになっていきます。進化心理学的に見ると、人類が約700万年前にアフリカの森に誕生し、約300~400万年前に草原(サバンナ)に出てから、母親と父親と子どもたちがいっしょに暮らす家族をつくりました。しかし、草原だからこそさらに猛獣に狙われたり、食料が獲れないという自然の脅威がありました。それでも、生き残るために、より大きな血縁集団をつくって、競い合いながらも助け合う中、相手の心を読む、つまり相手の視点に立つ心理を進化させてきました(心の理論)。ちなみに、比較動物学的には、サルなどの類人猿も、ミラーニューロンがあり、まねをします。ただし、サルと人間の違いは、サルは意図までは「まね」できない、つまり意図は理解できないことです。その理由は、サルのミラーニューロンの働きは、他のサルの次の動きを予測して素早く対応できれば良いだけで、意図まで理解する必要がないからです。子育て心理に応用すると、同じ幼児同士がいっしょになった時、たとえ相手がばいきんまんに見えたとしても、最初は「いいよ」「どうぞ」というアクションや「ありがとう」「うれしい」というリアクションをするように働きかけることです。このような、譲り合いや、あげる・もらう(ギブ&テイク)というやりとりの積み重ねを通して、時には距離を取りつつ、粘り強く仲良くなろうとすることです。アンパンマンは誰とでも仲良くするという協力関係のモデルです。だからこそ子どもに受け入れやすいと言えるでしょう。(3)様々な心を教えてくれる―想像力のツールアンパンマンワールドには、アンパンマン、ジャムおじさん、ばいきんまん、ドキンちゃんなどのメインキャラクターだけでなく、2000を超えるユニークなサブキャラクターたちがいます。その数は、「最も多いキャラクターが登場した単独のアニメーション・シリーズ」としてギネスブックに認定されるほどです。また、ばいきんまんだけでなく、かびるんるん、骸骨親子のホラーマンとホラ・ホラコなど、目に見えないものまでキャラクターにしています。さらに、ジャムおじさんとバタコさんは唯一の人間かと思いきや、人間の姿をした妖精という設定で、なるべく人間のリアリティを排除したファンタジーに仕上がっています。さらに、ばいきんまんが好きなドキンちゃんはしょくぱんまんが好きであるという三角関係や、みんなの前で威張っているばいきんまんがみみ先生(教師)の前ではかしこまるなどの上下関係が描かれるなど、いろいろなキャラクター同士の関係性も描かれています。3つ目は、様々なキャラクター(心)を教えてくれることです。それぞれのキャラクターの際立ったビジュアルから、性格や役割の違いを理解して、そのキャラクターらしさ(その人らしさ)を受け止めやすくなります。発達心理学的に見ると、乳児は、親の共感的なミラーリングによって、共感するミラーニューロンも発達させていきます。そして、自分の気持ちの変化を認識できるようになります。その後、幼児になって、徐々に家族や他の様々なお友達の気持ちの変化も察して、心を通わせようとするようになります(共感性)。この時、身の周りには、人だけでなく、自然物から人工物まで様々な物があることにも気付くようになります。その過程で、自分をはじめとする人に心があるように、万物にも心があると認識します(自己中心性)。これが土台となり、成長するにつれて、相手の気持ちを推し量ったり(心の理論)、思いやりを持つようになっていきます(愛他行動)。進化心理学的に見ると、現生人類が約10~20万年前に喉の構造を進化させてから、複雑な発声ができるようになり、言葉を話すようになりました。そして、言葉によって抽象的に考えることができるようになり、相手の視点に立つ心理は、人間だけでなく、自然や動物などあらゆるものに向けられ、それらとも協力関係を築こうとしました(アニミズム文化)。ちなみに、比較動物学的には、サルなどの類人猿も、共感します。ただし、サルと人間の違いは、サルの共感は痛み、恐れ、怒りなどの不快な感情に限定されていることです。その理由は、サルの共感は、他のサルの不快さを素早く感じ取って自分の身に降りかかるかもしれない危険を事前に避けることができれば良いだけで、喜びや安らぎなどの快の感情まで共感する必要がないからです。子育て心理に応用すると、相手の心、さらには人だけでなく身の回りの物の心も考えさせることです。例えば、子どもがいっしょにいる同じ幼児を押しのけた時、「押すのはだめ」とただ厳しく叱るよりも、「お友達は痛いって言ってるよ」と情緒的に伝えることです。また、食事の時にスプーンでお皿を叩いている時、「叩くと壊れるからだめ」と理屈で叱るよりも、「スプーンでお皿を叩くの、ママは嫌だよ」「スプーンとお皿が痛いって言ってない?」とやはり情緒的に伝える方が受け入れやすいでしょう。アンパンマンワールドのキャラクターたちは、様々な人や物の心に思いを馳せるという想像力のツールです。だからこそ子どもに受け入れやすいと言えるでしょう。なぜ4歳児から人気がなくなるの?―脱中心化それでは、アンパンマンはなぜ4歳児から人気がなくなるのでしょうか? その答えは、発達心理学的に考えれば、特に3~4歳時以降に発達する「なぜ?」という理屈を考える心理です。この時、表面的で主観的な物の見方から(自己中心性)、体系的で客観的なものの見方に変わっていきます(脱中心化)。進化心理学的に考えれば、現生人類が約10~20万年前に言葉を話すようになってから、抽象的に考える概念化の心理(脳)が進化しました。そして、概念化によって、原因と結果をつなぐ論理的思考が可能になり、ものごとの理屈が合うかを判断する心理が強まりました(合理性)。さらに、脳の重さで考えると、小学校1年生(6~7歳)で成人の脳の90%に達することが分かっています。まさに、乳幼児の脳の発達は、人類の心(脳)の進化の歴史を辿っているとも言えます。すると、先ほどの3つのアンパンマンの特徴は、4歳以降の子どもにどう映るでしょうか?(1)自分の顔をちぎってなぜ痛くないの?1つ目は、このような身体のメカニズムを考えることです。顔をちぎったり取り替えたりすることについて、3歳までは無邪気に面白がるのですが、4歳以降はその重大さや残酷さが少しずつ分かるようになります。これが、自分の顔を食べさせるヒーローが、3歳までの子どもにしか受け入れられない理由です。実際に、初代アンパンマンの絵本は、出版社から次作を止められるほど大人には不評でした。ところが、幼稚園や保育園から注文が殺到します。その子どもたちから一番ウケたのは「アンパンマンが頭をかじらせるところ」だったのでした。その後のアニメ化で、「かじらせる」から「ちぎって渡す」というふうにマイルドになり、今に至っています。また、ヒーローのビジュアルとしては、単純な顔立ちに3等身で全体的に丸みを帯びてぼんやりした素朴な姿です。親しみやすさがある一方、不格好です。よって、4歳以降の子どもは、美形・モデル体型で尖っていてキラキラした身なりの、戦隊ヒーロー、ロボットヒーロー、少女戦士に興味が移っていきます。(2)悪いことをしてなぜ罰を受けないの?2つ目は、このような善悪のルールを考えることです。ばいきんまんが周りに迷惑かけ続けることについて、3歳までは「嫌だなあ」と感情的に思うだけなのですが、4歳以降は親からのしつけの理解が進んでいくにつれて、「何とかしたい」「懲らしめなければ」と思うようになります。ばいきんまんは懲りていないけどアンパンマンも懲りていないということに気付くのです。アンパンマンは優しすぎるのです。それは、ばいきんまんに対してだけでありません。アンパンマンは、アンパンマンワールドの弱いキャラクターたちをかばった結果、それが甘やかしにつながってしまったことをジャムおじさんに指摘されています。また、ヒーローのポテンシャルとしては、アンパンチやアンキックには殺傷能力がなく、助けに行ったはずなのにしょっちゅう返り討ちにあい、逆に助けを求めてしまうことが多いです。ほのぼのと安心して見ることができる一方、物足りないです。アンパンマンは、史上最弱の情けないヒーローと言えるでしょう。よって、4歳以降の子どもは、特殊能力や武器の使用、柔軟な発想や知恵によって、敵にとどめを刺したり爆破したりする、戦隊ヒーロー、ロボットヒーロー、少女戦士に興味が移っていきます。(3)物に心があるってなぜ分かるの?3つ目は、このような根拠のレベルを考えることです。身の周りの様々な物に心があることについて、3歳までは疑うことはないのですが、4歳以降は自力で動くか動かないかで、5歳以降は成長するかしないかで、生物と無生物の違いが分かるようになります(素朴理論)。つまり、物に心があることに根拠がないと気付くようになります。また、アンパンマンワールドの世界観として、人間がいないファンタジーになっています。空想として気楽に見ることができる一方、リアリティがないため、ツッコミどころ満載で、耐えられなくなります。よって、4歳以降の子どもは、人間臭いリアリティ仕立てのストーリーが展開する、戦隊ヒーロー、ロボットヒーロー、少女戦士に興味が移っていきます。アンパンマンとは? ―「子育て脳」アンパンマンは、困っていれば捨て身で守ってくれるシンボルであり、誰にでも優しくみんなと仲良くなるモデルであり、アンパンマンワールドの仲間たちは様々な心を教えてくれるツールです。その点では、最弱のヒーローでありながらも、最初のヒーローとして欠かすことができないでしょう。子どもが4歳になって、そんなアンパンマンから心が離れる時、アンパンマンは寂しく思いつつも、そんな子どもたちにきっと温かいエールを送っているでしょう。そして、その子どもが親になって、子どものことをまず考えるアンパンマンの側に立った時、再びアンパンマンに感謝と敬意を払うようになるでしょう。子育て心理とは、まさに「乳児脳」といっしょに発達する「子育て脳」とも言えるでしょう。つまり、アンパンマンとは、子どもであった私たちの憧れであると同時、親になった私たちの分身であるとも言えるのではないでしょうか?1)ユリイカ2013年8月臨時増刊号「やなせたかし アンパンマンの心」2)乳幼児のこころ:遠藤俊彦ほか、有斐閣アルマ、20113)生涯発達心理学:鈴木忠ほか、有斐閣アルマ、20164)まねが育むヒトの心:明和政子、岩波ジュニア新書、2012

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絵画編【ムンクはなぜ叫んでいるの?】

今回のキーワード統合失調症過敏性侵入性妄想性創造性合理性産業革命人工知能みなさんは、ムンクの「叫び」を見たことはありますか? その絵を見ているだけでゾクゾクしませんでしたか? 以前に、オークションで100億円近い値が付いたことでも話題になりました。やはりそれくらいの価値があるほど、私たちの心を揺さぶる何かがあるのでしょうか?今回は、有名な絵画のムンクの「叫び」を取り上げます。いつもとは違い、シネマではなく、絵画から学ぶメンタルヘルスをお送りします。テーマは、ずばり統合失調症です。実は、ムンクは統合失調症を発症していたという説が有力で、この絵はそのムンクの自画像です(編注:絵の解釈には諸説あります)。実際に、この絵には統合失調症にまつわる3つの特徴が垣間見られます。その特徴を脳科学的そして進化精神医学的に掘り下げ、統合失調症の本質に迫っていきましょう。際立ち-過敏性ムンクの日記によると、「日が沈んだ時、突然空が血のように赤く染まり」「フィヨルドと町並みが青黒く彩られた」とあります。実際の絵の色使いは、赤、青、黒を主として、その取り合わせがとても際立っていて、まぶしいです。1つ目の特徴は、周りの世界が際立っていると感じる、つまり過敏性です。これを統合失調症の症状として見ると、見えるもの全てを鋭敏に見てしまい、感覚が研ぎ澄まされている状態です(気付き亢進)。そこから、不安感や緊迫感が煽られています(緊迫困惑気分)。さらに、何かとんでもないことが起きそうな不気味な雰囲気を醸し出していきます(妄想気分)。それでは、なぜ際立つのでしょうか? ここから脳科学的に考えてみましょう。際立つとは覚醒度が上がることです。この覚醒度が上がるのは、いつもと違う状況(新奇場面)が刺激となり、脳内ではドパミンという神経伝達物質が分泌される時です。さらに、その覚醒度を保つために、同じく神経伝達物質であるグルタミン酸が分泌されます。その後に、覚醒が度を超えないようにするために、視床という脳領域で入力情報の感度を下げるフィードバックが働きます(視床フィルター)。つまり、覚醒度を燃え上がる火に例えると、脳が暖炉、新奇場面が薪、ドパミンは点火装置、グルタミン酸は給油装置、そして視床は薪の入る数を調節する暖炉の扉と言えます。ここで、これらの点火装置や給油装置が過剰に作動したり、扉が閉まらなくなったらどうなるでしょう? 勝手に燃え上がってしまいます。いつもと同じ状況なのにいつもと違う状況に様変わりしてしまい、際立っていると感じてしまいます。これが、統合失調症の原因と考えられています。過剰作動を起こす原因としては、もともとの遺伝負因、胎児期や乳児期の感染症(神経発達障害仮説)、思春期以降の心理社会的ストレスなどによる相互作用が考えられています。ちなみに、ドパミンが急性的に過剰分泌された場合、興奮状態になった神経細胞は、損傷を避けるために、一時的に神経伝達を遮断するメカニズムがあります(脱感作)。例えるなら、暖炉が壊れないように点火装置のブレーカーが一時的に落ちてしまうことです。これは、統合失調症で興奮状態から突如動かなくって、刺激に反応しなくなる症状です(緊張病)。一方、ドパミンが慢性的に過剰分泌された場合は、興奮状態になった神経細胞は、損傷を避けられず、変性していき、脳が萎縮していきます(残遺症状)。例えるなら、暖炉が燃やし過ぎで消耗してしまうことです。これは、統合失調症で、感情的に鈍くなり(感情鈍麻)、特に何をすることもなく(無為)、ひきこもって暮らす(自閉)など、本来あるべき能力が失われていく一連の症状です(陰性症状)。そもそもなぜ際立ちは「ある」のでしょうか? さらに進化精神医学的に考えてみましょう。10数億年前に太古の原始生物が誕生してから、エサが近くにあることが臭いや見た目で分かったら、ドパミンによって覚醒度を上げて、必死に近付くように進化しました。5億年前に魚類が誕生してから、天敵の気配などいつもと違う状況で、ドパミンによって覚醒度を上げて、早くに離れるように進化しました。境目のなさ-侵入性ムンクの日記によると、「血のような炎を吐く舌のような空が青黒いフィヨルドと町並みに覆い被さるようであった」とあります。実際の絵の構成は、輪郭が重なり合い大きくうねるような筆遣いで、中心に置かれる本人は周りに飲み込まれて溶けてしまいそうです。2つ目の特徴は、自分と周りの世界の境目がなくなると感じる、つまり侵入性です。これを統合失調症の症状として見ると、自分と他人の境目(自我境界)がはっきりしなくなり、自分は自分であるという実感がなくなることです(自我障害)。体がスケスケなのと同じように、心もスケスケに感じてしまい、自分の考えが漏れていると思うようになります(自我漏洩体験)。周りの人の視線が自分に迫ってくるようにもなります(被注察感)。さらには、何か得体の知れない誰かに自分が操られている感覚に陥ります(作為体験)。それでは、なぜ境目がなくなるのでしょうか? ここから脳科学的に考えてみましょう。境目とは自分と周り(他人)を区別することで、前頭葉(前部傍帯状皮質)が司っています。これは、周りを認知している自分を認知する、つまり認知していることを認知することでもあります(メタ認知)。ここで、先ほどの過敏性によって境目はどうなるでしょうか? 周りの世界を認知する感度が上がり過ぎてしまい、自分の想像(内的体験)への認知も周りの現実(外的体験)への認知と誤認知(偽陽性)してしまい、自分への認知と周りへの認知を区別する精度が落ちてしまいます。つまり、周りの世界を過剰に認識してしまうと、逆に正確には認識できなくなってしまい、境目がはっきりなくなってしまうということです。これは、検査の検出の感度と分類の精度(特異度)の相関関係です。例えるなら、教科書でテストに出そうな箇所に赤線を引く時、全てが出そうに思えて、全てに赤線を引いてしまうことです。すると、本当に出そうな箇所とそうでない箇所の区別ができなくなってしまいます。境目がなくなることで、想像も現実の体験の一部として認識してしまいます。そこから、自分が世界に侵入されてしまう感覚に陥ります。例えば、自分の考えたことが声になって聞こえます(考想化声)。やがてそれは他人の声として聞こえてしまいます(幻聴)。そう考えると、先ほどの誰かに見られているという感覚(被注察感)や、誰かに操られているという感覚(作為体験)のその誰かとは、実は他でもない自分自身であるということが理解できるでしょう。そもそも、なぜ境目は「ある」のでしょうか? さらに進化精神医学的に考えてみましょう。人類は、約700万年前にアフリカの森に誕生し、約300~400万年前に草原(サバンナ)に出てから、助け合い(協力)と競い合い(競争)の狭間で、相手の心を読む、つまり相手の視点に立つ心理を進化させてきました(心の理論)。この心理から、自分自身を離れて自分自身を見る視点を持つようになり、自分と周りの世界を区別できるようになりました。さらに、この視点を手に入れたことで、周りの世界をより良く知りたいという好奇心の心理(新奇希求性)も進化したと考えられます。だからこそ、私たちは、新しかったり珍しかったりする状況(新奇場面)でも過敏になるのでしょう。つまり、境目という心の理論、さらには好奇心という新奇希求性は、人間の生存に必要だから「ある」のでしょう。逆に言えば、人間以外のほとんどの動物は、境目が最初からないわけなので、自分と周りはもともと一体であり、境目がなくなる危うさをそもそも感じることはないと言えるでしょう。意味付け-妄想性ムンクの日記によると、「2人の友人と歩道を歩いている時、やむことのない自然をつんざくような叫びを聞いた」とあります。実際の絵の状況は、実はムンクは叫んでいるわけではなく、叫びに恐れおののき、耳を塞いで、かろうじて突っ立っているだけなのでした。3つ目は、周りの誰かまたは世界が叫んでいると意味付ける、つまり妄想性です。これを統合失調症の症状として見ると、自分の心の中(内的世界)の「叫び」を、現実世界の誰か(外的体験)の「叫び」として聞いたとしています(幻聴)。さらに、何となく不気味な気分(妄想気分)や、自分が自分ではなくなり自分の存在が危うく感じる体験(自我障害)から、世界が終わってしまうと感じてしまいます(世界没落体験)。もはや2人の友人も、黒服で得体の知れない存在に見えてしまい、監視しているか、尾行しているかとも思ってしまいます(被害妄想)。それでは、なぜ意味付けるのでしょうか? ここから脳科学的に考えてみましょう。意味付けとは、それぞれの体験について、ある程度抽象的で大まかな言葉に置き換えること、つまり概念化です。これは、言葉を聞き取る能力を司る感覚性言語中枢(ウェルニッケ野)と言葉を話す能力を司る運動性言語中枢(ブローカー野)が司っています。そうすることで、過去の体験と関連付けをして、記憶に残しやすくなります。ここで、先ほどの過敏性よって意味付けはどうなるでしょうか? 意味付けがされ過ぎてしまいます。例えば、テーブルに携帯電話が置いてあったとしましょう。たまたま置いてあっただけなのに、「なぜあるの?」とその意味を考えるようになります。そして、意味が分からないことに違和感を覚えるようになり、何気ないことを何気なく思えなくなり、当たり前のことを当たり前に思えなくなります(自明性の喪失)。つまり、意味付けは、され過ぎると、逆に失われてしまうということです。全ての出来事に意味を求めてしまい、クタクタになってしまいます。その刺激を避けるために、統合失調症の人は、早い段階でひきこもりになることがよくあります。また、間違った意味を見いだしてしまうと、論理の飛躍が起こります。それが先ほどの世界没落体験や被害妄想です。さらに、意味付けが極端になり自覚がなくなれば、意味のつながりが失われて、話すことにまとまりがなくなります(滅裂思考)。また、侵入性に意味付けをするとどうなるでしょうか? 侵入する対象として言語化します。それが、統合失調症の人がよく言う「得体の知れない巨大なもの」です。さらに、この表現は時代や文化によって変わります。例えば、日本なら、現代は「悪の秘密結社」「ヤクザ・暴力団」が多いですが、昔は「狐憑き」などが多かったでしょう。欧米なら、現代は「テロ集団」、昔なら「悪魔」が多いでしょう。そもそも、なぜ意味付けは「ある」のでしょうか? さらに進化精神医学的に考えてみましょう。人類は、約10~20万年前に、喉の構造を進化させて、複雑な発声ができるようになり、言葉を話すようになりました。そして、人だけでなく、自然環境や様々な自然現象を名付けることによって、世界を区切り、関係付け、説明しようとしました。こうして、シンボルを使って抽象的思考をする概念化の心理が進化したと考えられます。概念化によって、道具、建築、美術、音楽、文学、宗教、政治などの文化が爆発的に発展していきました(文化のビッグバン)。これが、創造性です。こうして、人は、その文化を、神話や言い伝え、民謡などの様々な方法で子孫に伝えることができるようになりました。人は、約5000年前に文字を発明して、ようやく原因と結果をつなぐ論理的思考(システム化脳)の体系が可能になりました。それが、科学であり、合理性です。ということは、そもそも創造性には合理性があるわけではないと言えるでしょう。もっと言えば、創造性と妄想は、同じ概念化の心理として合理性がない点では、コインの表と裏ということです。まさに、ムンクの絵もその1つです。つまり、意味付けという概念化は、人間の生存、さらには文化の継承に必要だから「ある」のでしょう。統合失調症はいつ生まれたの? -産業革命これまでの際立ち(過敏性)、境目のなさ(侵入性)、意味付け(妄想性)という3つの特徴から、統合失調症は人類の心の進化の歴史と密接にかかわりがあることがわかります。そして、統合失調症が世界中のどの国や地域でもほぼ一定の割合で発症することから、統合失調症の心理には普遍性がありそうです。それでは、統合失調症という病はいつ生まれたのでしょうか? 正確には言えば、病として目立つようになったのはいつでしょうか?その答えは、18世紀の産業革命であると考えられています。それまで、幻聴は「神のお告げ」または「悪魔の囁き」であり、妄想は「神の思し召し」または「悪魔の仕業」であり、自我障害は「神との一体化」または「悪魔の憑依」と解釈されていました。そして、実際にこのような症状を持つ人は、シャーマン(巫女)や信心深い信者として社会的に一定のステータスがあり、文化の一部として、社会に溶け込んでいたでしょう。ところが、産業革命によって、生産性や効率性などの合理主義や、貨幣経済や民主政治によってはっきり個人を区別する個人主義が広く世の中に広がっていきました。社会構造の変化です。すると、根拠のない不合理な言動を繰り返す幻覚妄想や、自分らしさ(アイデンティティ)が危うくなる自我障害はネガティブで困ったもの、つまり病として認識されるようになったのでした。実際に、現代でも、農村地域よりも工業化や都市化が進む地域ほど、そして発展途上国よりも先進国ほど、統合失調症は回復しにくいことが統計的に分かっています。つまり、発症率は変わらなくても、社会構造の違いによって、回復率は変わるということです。統合失調症はどこに行くの? -人口知能創造性・妄想を生み出す概念化の心理が進化したのが10~20万年前に対して、産業革命により合理性に重きを置くように社会構造が変化したのはたかだか200年前です。つまり、創造性・妄想の心理の進化の歴史の方が、合理性の心理よりも圧倒的に長いと言えます。つまり、私たちは合理的であろうとしていますが、人類の心の進化の歴史から考えると、そこまで合理的ではないということです。さらに、これからはAI(人工知能)の時代です。近い将来には、合理的なことはほとんどAI化されるというさらに新しい社会構造への変化が予想されます。そうなると、私たちは、もはや合理的であることを追求する必要がなくなってしまいます。むしろ逆です。そもそも私たちに不合理な心理もあることを生かして、これからはその不合理さを楽しむ創造性が求められるでしょう。そう考えると、私たちは、ムンクの「叫び」から統合失調症の世界観を疑似体験する危うさと魅力を知るだけでなく、そこから私たちの創造性をくすぐりかき立てる何かがあり、そこに大きな価値があることをよく理解することができます。そして、AI化された将来の社会構造で統合失調症の創造性に再び目が向けられる時、もはや統合失調症は病ではなく、個性や多様性の1つになっているのではないでしょうか?1)井村裕夫:進化医学、羊土社、20132)臨床精神医学、心の進化と精神医学、アークメディア、2011年6月号3)岡田尊司:統合失調症、PHP新書、2010

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医師が選んだ"2017年の漢字"TOP5! 【CareNet.com会員アンケート結果発表】

毎年恒例となっている日本漢字能力検定協会の『今年の漢字』。今年も12月12日に京都の清水寺で発表されますが、CareNet.comでは由緒ある国民の恒例行事を出し抜き、会員の先生方に選んでいただいた今年の漢字を一足先に発表してしまいます。2017年の漢字、同点で1位に選ばれたのは「北」と「核」でした。何ともきな臭い感じ(漢字)ですが、3位以下にランクインした漢字にも、今年らしさがよく表れています。トップ5を弊社若手社員が発表します。1位北年間にわたって話題を提供してくれた「北」朝鮮。不安視するご意見が多くみられました。また、歌手 北島三郎さんの愛馬で、GIで5勝をあげているキタサンブラックの「北」でもあります。 「北」を選んだ理由(コメント抜粋)とにかく北朝鮮問題・ミサイル・暗殺など心乱された。(40代 内科医/北海道)北朝鮮、キタサンブラック。(20代 臨床研修医/岡山県)北の若大将、話題振りまきすぎ!(50代 脳神経外科医/岐阜県)北朝鮮に引っ掻き回された。(40代 消化器内科/広島県)1位核こちらも北朝鮮絡みです。唯一の被爆国である日本としては、何とかして最悪のシナリオを防ぎたいものです。 「核」を選んだ理由(コメント抜粋)心配事が増えました。(40代 消化器内科/広島県)北朝鮮の核開発に脅威を感じた。(60代 消化器内科/福島県)北朝鮮の核開発、ミサイルに翻弄された。(20代 臨床研修医/福島県)国際問題に発展している。(30代 循環器内科/岐阜県)3位乱昨年も第3位に入った「乱」。今年もまさしく、心「乱」される1年でした。 「乱」を選んだ理由(コメント抜粋)選挙の前に野党の乱立、相変わらずの不倫報道、不穏な空気の北朝鮮情勢すべてを一言で言うなら乱世と呼ぶにふさわしい。(70代以上 内科/愛知県)世相も政治状況も混迷し乱れている。(50代 精神科/長野県)政治も社会も混乱を極めているし、広島カープがCSで敗退して心を乱されたから。(50代 内科/広島県)さまざまな価値観が乱れ飛んでいるから。(40代 消化器外科/栃木県)4位変第4位の「変」は今年初登場。国内・国際状況の「変」化、そして「変」なヒトや事象が現れました。 「変」を選んだ理由(コメント抜粋)国会では野党が変なことばかり質問して空転させた。海外では変な指導者ばかり幅を利かせている。(50代 眼科/東京都)世の中の気候、社会情勢などかなり変だった。(50代 外科/神奈川県)小池政権の変動が大きく、今でも不思議なので。(30代 外科/大阪府)いろいろな意味で、変化の年だったと思うので。(50代 内科/和歌山県)5位倫「倫」は昨年も第5位に入っています。相変わらずの芸能人の不倫報道に、今年は政治家も仲間入り。さらに日本を代表する大企業にみられた倫理観の欠如。これからの日本を不安にさせる事件が数多くありました。 「倫」を選んだ理由(コメント抜粋)企業も人も倫理観が問われる事件が多かったから(40代消化器内科/京都府)大企業のコンプライアンス違反などが多かった。(60代心臓血管外科/千葉県)不倫問題が多かった。(40代 内科/大阪府)さまざまな意味で倫理観の欠落した人物が目立ったから。(30代 腎臓内科/神奈川県)アンケート概要アンケート名 :『2017年を総まとめ!今年の漢字と印象に残ったニュースをお聞かせください』実施日    :2017年11月9日~15日調査方法   :インターネット対象     :CareNet.com会員医師有効回答数  :552件

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「コード・ブルー」医療監修、松本 尚氏に聞くドラマの裏側

 テレビドラマでは、やればおおむね当たると言われている「職業モノ」が2つあり、その1つが医療ドラマである(ちなみにもう1つは刑事ドラマ)。この夏、『コード・ブルー~ドクターヘリ緊急救命~THE THIRD SEASON』(フジテレビ系列)が好評だ。本作は9年前のシーズン1、7年前のシーズン2に続く3作目。月曜9時枠としては硬派路線で、医療シーンが忠実に作り込まれているのが特徴だが、そのリアリティーを下支えしているのが医療監修である。今回、本作の医療監修を務め、自身も国内のフライトドクターの第一人者である松本 尚氏(日本医科大学千葉北総病院 救命救急センター長)に、医療者の視点からみたドラマの裏側についてお話を伺った。―『コード・ブルー』で医療監修はどの段階から関わるのですか? 現場によってさまざまで、私自身もシーズンを追うごとに変わっていきました。実際シーズン1の初めのころは、シーンもセリフも完成直前の脚本を渡されていました。たとえば、藍沢医師(山下 智久)が「××(症状)が出ている」、すると白石医師(新垣 結衣)が「〇〇(診断名)ね」と。さらに緋山医師(戸田 恵梨香)が「△△(処置)しましょう」という具合にセリフが書かれている。それに対してわれわれは、ブランクになっている「××」や「〇〇」を埋めるという流れです。あるいは、すでに書かれている内容に対して、医学的に不自然なところがないかをチェックする、ということもありました。 しかしこの手順だと、明らかにおかしい部分を見つけた時の修正が大変で、たとえば、大手術をしたその日の夕方にもう患者が喋っているセリフが書かれている。さっきまでショック状態だった患者なのに…!(笑)。そうなると、そこからすべてを変更しないと先に進まなくなるので、『コード・ブルー』で医療監修をする回数を重ねていく中で、もっと早いプロット(構想)の段階から脚本にも関わるようになりました。 具体的な話をしましょう。今シーズンの第1話では、プロデューサーから夏祭り会場で山車(だし)が暴走して民家に突っ込み、多数の負傷者が出るというのはどうか、というような提案があって、さらに子どもが関係していること、それぞれの主要キャストに見せ場を作ることなどの条件が出ました。この条件に合致して、なおかつ現実に起こりうる医療設定を考えていくわけです。たとえば、緋山医師は周産期医療センターから救命救急に戻ってきたという設定なので、産科に関連した症例にしたい、といった要望でした。ただし、今シーズンでは主人公たちは10年近いキャリアを積んでいますので、安易なミスや見落としは許されません。そこで、一見妊婦とわかりづらい肥満気味の女性患者にして、後に妊婦と気付くという仕掛けを張っておくのはどうか、といった具合に打ち返します。 そうしたプロデューサーとのやり取りと改稿を何度も経てできているのが、今シーズンのシナリオの制作過程です。 われわれもだんだん慣れて勘所も掴めてきているので、こちらからも積極的に、何歳くらいの患者の想定か、セリフがある設定なのか(それでケガの程度が決まる)、などといった重要なポイントを聞いて、一緒に考えています。 もう1つ具体的なケースを挙げると、シアン化合物を服用した患者をドクターヘリで搬送する回(第3話)がありましたが、まずプロデューサーからの要望で、ヘリの中で何か事件を起こしたいという要望がありました。そこで考えたのは薬物中毒です。有機リン系の薬物中毒で、患者が嘔吐して有機溶媒の臭いがヘリの中に充満することで、ほかのクルーたちが何らかの症状を訴えるというケースです。 現在は、薬物中毒の疑いのある時点で、ヘリではなく救急車で搬送するルールになっています。そこで考えたのは、何らかの理由で中毒に気付かなかったということにしなければならないということです。ならば、中毒患者が嘔吐した時点で臭いでわかる有機リン系は使えません。ではその代わりになるものは何かということで、実はかなりの数の文献を検索しました。その結果、カプセルに入れた青酸を服用したものの、少しずつ徐放したことで助かったという症例報告を見つけたので、「これだ!」と思ったわけです。これを根拠にして、物語の中で必ず種明かしもしようと考えました。 この「根拠」が医療監修ではかなり重要だと考えます。根拠のない医療行為を見せることは避けなければいけません。青酸を飲んでなぜ救命できたか、というところにちゃんと根拠を示すのが医療監修者の責任でもあります。 『コード・ブルー』に関しては、10年前のシーズン1から医療監修にあたっていますが、医学的にあり得るのか、あり得ないのか、という点ははっきり示すことが大事と考えます。―そうした、現実とフィクションの世界との折り合いを付けるのが難しそうですね 確かにそうなのですが、ルールは至ってシンプルで、「絶対無いこと」はしない。これに尽きます。絶対に無くはないけど、現実的に可能性として低いものについては、必ずどこかにエクスキューズを示すことが大事です。だから、「必ずこういうセリフを入れてほしい」とか「必ずここで種明かしをしてほしい」ということは、はっきりとお願いしています。 たとえば、移植医療は厳格にルールが決められているので、「絶対無いこと」に対してははっきりと言います。そこは、視聴者に誤解を与えてはいけない部分でもあります。 他にも、災害現場のシーンを描くことが多いのですが、患者が50人もいるなかで、医療行為をしているのが主人公たちだけなんていうことは「絶対無いこと」ですよね。そこには必ずDMATなどが臨場しているはずです。必ずいるはずなのに、画面上に1人も映らないなんていうのは不自然だし現実的じゃない。主人公たちに絡むことがなかったとしても、DMATの格好をした人たちが、背景に映り込むだけでもいいのです。大事なのは、そういう数多くのスタッフの中に主人公たちのような医療行為者がいるという状況をきちんと描くこと。小さなことかもしれませんが、そういうこだわりの積み重ねが非常に重要だと思います。 逆に、医療者として妥協せざるを得ない部分もあります。よく言われるのが医療者たちがマスクを着用していないところです。少なくとも、オペのシーンではマスクとキャップは必ず着用するという点は譲れない部分として徹底していますが、それ以外のシーンでは、役者さんたちの表情(演技)を生かすために顔を隠したくないというドラマの作り手側の理屈もわかるので、『コード・ブルー』の監修者としては譲歩しているところですね。 ただ本作に関しては、プロデューサーをはじめ監督やスタッフたちがリアリティーの追求に相当なこだわりを持っているのは確かです。それは画角に映っていないところにまで及んでいて、役者さんの表情しか撮っていないシーンでも、手元がどうあるべきかと尋ねたりするので、そこにかける熱意は本当にすごいと感じます。―リアリティー追求のために、ほかに『コード・ブルー』の監修でどんな点にこだわっていますか? 今作は、主要キャストたちがフェローだったシーズン1から9年の歳月が経過している設定です。自分たちに置き換えてみてもわかりますが、医師が9年間を経た経験値の大きさは相当なものです。立ち居振る舞いも変われば、会話の内容もそれに応じたレベル感に変わっていないとおかしいので、そこはかなり意識しています。以前は主人公たちにどんどん失敗させて、それを軸にストーリーを進めていけましたが、今はもう、そうそう主人公たちには失敗させられません。むしろ何でも織り込み済みでやっているという余裕感すら持たせないといけません。 役者さんもシーズンを重ねるごとに本当に「医療者らしく」なってきていて、医師としての所作はもちろん、歳月を感じさせるお芝居がちゃんとできているのですからたいしたものです。 だから医療監修者としては、さらに一歩踏み込んだ指導ができて、こういうシーンでは、上級医になるとこんな心情だというようなメンタルのあり方を伝えています。役者さんがお芝居をするにあたって役に立つような情報提供をして、単に手技を指導するだけで終わらないようにしています。―医療をドキュメンタリーではなくドラマで見せる意義とは? ドキュメンタリーと違い、ドラマだと感情移入できるということに尽きますね。たとえば、私が出演した「プロフェッショナル」などを観た視聴者は、「ああ、すごいなあ」と感心はするけど、そこから先、自分だったらというような感情移入は起こらないと思います。しかし同じことを役者さんがやってみせると、視聴者は主人公たちを自分に置き換えて、どうなるのか、どう考えるのかと入り込める。そこがドキュメンタリーとドラマの大きな違いだと考えます。その感情移入の先に、ドクターヘリを志す未来の医師やナースがいるかもしれません。心が動くというのには、そんな意義もあると思います。 本当の「リアル」と、ドラマの「リアリティー」には大きな違いがあって、「ドラマなんて」と思う人も実際には多いと思います。現実世界で医療現場に身を置く医師は、特にそう思うかもしれません。事実、医療ドラマと銘打ったものは医療者からみると陳腐なものも多いですから。だけど、医療監修としてドラマ制作に関わってみて、熱意をもって「リアリティー」を追求している作り手側を目の当たりにすると、ドラマに対する見方もこれまでとは少し変わってきたのを実感します。―『コード・ブルー』の医療監修を経験して自身にも変化が? 病院と収録現場は案外似ているんじゃないかと気付いたことです。われわれ救命の現場もドラマの撮影現場も非日常の連続で、1日として同じシーンはありません。また、役者さんを取り巻くさまざまなスタッフが大勢いるのも、患者を中心にチーム医療をしているわれわれの構成と非常によく似ている。いろんな職種の人がいて、それをひとつにまとめあげるリーダーシップがどうあるべきか、といった観点でも学ぶことは多いです。しかも、撮影現場にいるスタッフの大半は自分よりも若い人たち。そういう若いメンバーをいかにまとめるか、というところも大いに参考になりました。―CareNet.com会員にメッセージをお願いします まずはぜひドラマをご覧になってください。われわれ医療者だからこそ頷けるようなセリフも多いです。ある回で出てくる「いつから医者は“大丈夫”と言えなくなったのだろうか」というセリフ。実は私自身が考えていたことで、プロデューサーとのやり取りの中でふと口にした言葉なのですが、それを覚えていたようで劇中で使っていただきました。そんな、医師としての感情の機微も描かれているので、楽しんでいただけるのではないかと思います。松本 尚(まつもと・ひさし)氏プロフィール/1987年金沢大学医学部卒。同大第2外科学教室へ入局。外科医として金沢大学医学部附属病院、黒部市民病院など勤務した後、95年からは救急医療(外傷外科)に従事。現在、日本医科大学救急医学教授、日本医科大学千葉北総病院 副院長、救命救急センター長。『コード・ブルー~ドクターヘリ緊急救命~THE THIRD SEASON』フジテレビ系列で毎週月曜日21:00~21:54放映中http://www.fujitv.co.jp/codeblue/

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謝罪の王様【どう謝る?なぜ許す?】Part 2

謝られたらなぜ許すの?黒島は、セクハラで訴えられている沼田に、「(相手女性は)もう許してるかもしれないけどね。謝ってほしいってことは基本的には許したいってことでしょ」「引っ込み付かないだけでもう終わりにしたいというのが本音なんですよ」と言っています。つまり、私たちは、謝ることと許すことのやりとりを通して、お互いに人間関係をスムーズにしたいという思いがあります。逆にそうしなければ、いつまでも心に引っかかって、もやもやした不快な気持ちになってしまいます。それでは、そもそもそういう心理はなぜ「ある」のでしょうか? これを、私たちヒトが体と同じく心(脳)を進化させていった数百万年間の歴史から掘り下げてみましょう。300万年前に、ヒトはアフリカの森からサバンナの草原に出ていきました。この時、草原で猛獣などの天敵から身を守り、より大きな獲物を仕留めて生き残るために、ヒトは群れをつくって協力するようになりました。そして、より大きな群れ(集団)をつくるように脳が進化していきました(社会脳)。20万年前に、喉の構造が進化して、言葉が使えるようになり、抽象的な思考もできるようになりました。この頃から、協力をし続けるために、謝る心理や許す心理などの社会的感情を器用に使いこなすようになり、人間関係をよりスムーズにしていくことができるようになったでしょう。なぜなら、そうする種、そうしたいと思う種、そうしないと不快と思う種が、集団(社会)の一員でい続けられるため、生存に有利になるからです。その子孫が現在の私たちです。逆に、そうではない種は、生存に不利になり、集団の一員で居続けられなくなるため、生き残りにくくなってしまうというわけです。よって、私たちはそもそも謝られると、苦痛や相手への怒りが減って「胸がすっと」して(感情宥和効果)、相手の印象が良くなり(印象改善効果)、罰や償いを減らすようになります(罰軽減効果)。これら3つの要素をまとめると、私たちは相手に謝られると、寛容になり許したくなるという心理をもともと持っているというわけです(謝罪宥和理論)どううまく謝るの? ―表1それでは、許したいとより思われるためには、どううまく謝ることができるでしょうか? 先ほどの謝るための3つの心理と謝りたくない3つの心理を踏まえて、そのコツを大きく3つに整理してみましょう。そのキーワードは、不可抗力、優越感、そして”Be 土下座”です。(1)不可抗力黒島は、寝坊して遅刻したのに、待っていた相談者の沼田に「遅くなりました」「また人身事故で電車止まっちゃって」と言います。沼田が「あ、最近多いですもんね」と言ったところで、黒島は「ね。電車の事故は不可抗力だから、30分ぐらい仕方ないと思ったでしょ」と打ち明けます。1つ目は、自分の責任を認めつつも、それがたまたま不可抗力であったことと仕立て上げて、しょうがないという気持ちにさせることです。そのポイントは、病気、不慮の事故、他人のトラブルの巻き込まれなど、なるべく自分のコントロールが及ばない状況であることです(制御不能性)。また、黒島は「自分の責任じゃないのに、誠心誠意謝る」「謝らなくて良い時の謝罪ほど効果的なんです」と言います。つまり、理性的には責任がないように相手に思わせておいて、感情的には責任を感じて謝っているという演出が大事なのです。さらに、黒島は「目上の人間に立ち会ってもらう」「上司や先輩などあなたをよく知る人にあなたの長所や人間的魅力をアピールしてもらう」と言います。自分たちよりも立場が上の人の意見による保証を得ることで、もともと自分は過ちをする人ではなく、やはり不可抗力であったと相手に印象付けることができます(権威付け)。これらが、謝った時に許される決め手になります。不可抗力の事態により許す理由があると思わせることが重要です。(2)優越感黒島は、セクハラ訴訟を抱えている沼田に「相手が怒りをぶちまけ終えたら、次はほめまくる」「白々しくて全然良いの。100%お世辞でも褒められたら嬉しくなるのが人間なんだよ」とアドバイスします。また、黒島は、典子の「兄」の謝罪の一貫として、しばらく住み込みでヤクザの舎弟になり、献身的なサービスをして、親分から気に入られています。2つ目は、優越感を抱かせて気持ち良くさせて、許したくなる気持ちにさせることです。そのポイントは、相手を持ち上げることです。例えば「○○さんをとても頼りにしていただけに、なおさら申し訳ないです」「がんばってる○○さんだからこそ」とさりげなく褒めることです。また、「今回の件は今後の教訓になりました」「良い勉強になりました」「○○さんのおかげです」と感謝することです。逆に、相手を持ち上げるために、自分を引き下げる、つまり下手(したて)になることもできます(アンダードッグ効果)。例えば、「ええ~!?そんなことになっちゃったんですか!?」と慌てふためいてみっともないくらいの演出をすることです。遅刻した時などは、はあはあ息を切らして、汗を垂らしている方が許しを得やすいでしょう(レッドフェイス効果)。実際に、黒島は、ヤクザに謝罪をする時、顔面血まみれになり、けがをしているのに謝罪に来たという偽装をします。そうすることで、そこまでして相手が大切であるという思いが相手に伝わります。また、あえてつらい謝罪にすることです。黒島は、「大事なものを犠牲にする」「言葉や態度だけでは誠意が伝わらない場合、あなたにとっても大事なものを犠牲にすることで許しを請う」と沼田にアドバイスしています。つらい謝罪は、あえて大勢の前で謝罪することにも通じます。例えば、それが、有名人の謝罪会見です。また、自分の上司などの監督者に叱られている姿をあえて相手に見せることも効果的です(見える化)。さらに、謝ることに時間をかけることも重要です(コスト)。共感性が高い女性が相手の場合は、親身になり、傷付いた気持ちを癒やすことに重きを置くのが良いでしょう。一方、理屈っぽい男性が相手の場合は、原因の詳細化や数値化、今後の対策の説明に重きを置くのが良いでしょう。ちなみに、こちらが時間をかけることは、同時に相手にも時間を使わせていることになります。その時間が無意味なものに終わらせたくないという相手の心理を利用することにもなります。これらが、謝った時に許される強力な後押しになります。得られた優越感により許す価値があると思わせることが重要です。(3)”Be 土下座”黒島は、”Be together”を文字った”Be 土下座 ”をスローガンにしてます。帰国子女の典子から「Beじゃなくて、Doじゃないですか?」「するはDoだから”Do 土下座 ”じゃないですか?」と突っ込まれています。しかし、別のシーンで、黒島は典子に「むしろぶつける前(トラブルが起きる前)に謝る気持ちじゃないと」とも言っています。つまり、土下座は「する」ものではなく、「ある」ものであるという黒島ならではの発想です。3つ目は、トラブルが起きる前から土下座をしているような心のあり方で、謝る前からすでに許されている状況をつくっていることです。誤解がないようにしたいのは、実際に土下座するのではないです。日々、人と接する時は、相手を敬い、信頼関係を築こうとする心のあり方を「土下座」というユーモラスな言葉を使っています。そのポイントは、例えば「私はもともとせっかちなところがあります。それで迷惑なことがあったらごめんなさい」とあらかじめ謝っておくことです。これは、許しのハードルを下げることができます(セルフハンディキャッピング)。逆に、真面目で几帳面でミスしない優秀な人であると期待されてしまうと、いざミスして謝る時は、「ミスしないはずなのにしている」とがっかりされ、許しのハードルが上がってしまいます。自分が「ミスをしないロボット」ではなく、「ミスもする生臭い人間」であるという前提を日々強調しておくとが重要です(参照点の操作)。これらが、謝る時に許される土壌をつくります。許されている雰囲気があると最初から思われていることが重要です。「あやまる時、人は誰でも主人公」黒島は、「あやまる時、人は誰でも主人公」との座右の銘を掲げます。謝ることは、仕方なく嫌々やるものではなく、「主人公」として主体的に積極的にやるものであるということを私たちに教えてくれます。それは、プライド、パワーバランス、コストばかりを気にして、「謝ったら損をする」というネガティブな発想ではありません。それは、相手と分かり合える、仲良くなれるなどの信頼関係を強めることに目を向けて、「謝ったら得をする」というポジティブな発想です。つまり、謝ることは、重要なコミュニケーションの手段の1つであるということです。その大切さを理解した時、私たちは、「謝罪の王様」になることができるのではないでしょうか?<< 前のページへ1)大渕憲一:謝罪の研究―釈明の心理とはたらき、東北大学出版会、20102)内藤誼人:「人たらし」のブラック謝罪術、だいわ文庫、20093)間川清:うまい謝罪、ナナ・コーポレート・コミュニケーション、2011

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【第77回】子どもは学校のトイレを使いたがらない

【第77回】子どもは学校のトイレを使いたがらない >FREEIMAGESより使用 突然やってくる尿意や便意は、誰しも経験があるもの。尿意であれば遠慮なく近くのトイレで用を足すかもしれませんが、便意ともなると敷居が高くなりますよね。慣れた自宅のトイレではなく、見知らぬトイレですし、他人と便座を共有することに嫌悪感を持っている人もいるはずです。私もコンビニのトイレは、できるだけ使いたくありません。 Lundblad B, et al. Perceptions of school toilets as a cause for irregular toilet habits among schoolchildren aged 6 to 16 years. J Sch Health. 2005;75:125-128. この研究は、学校に通う児童が尿意や便意を感じてトイレに行きたくなったとき、その学校のトイレにどのような認識を持っているかを調査したものです。私もそうでしたが、子供のころは基本的に家の外ではトイレに行きたくないはずです。とくに学校で便意を催したときは、バカにされるのがイヤなので全力でガマンしていました。修学旅行中、一度も排便しなかったこともあります(さすがに神経質過ぎたかもしれません)。これは、スウェーデンの6歳~16歳までの児童を対象に行った認識調査です。調査でわかったのは、他人の目が気になる13~16歳ともなると、ほとんどがトイレに対してネガティブな認識を持っていました。彼らのうち、25%が尿意を催してもトイレに行かず、80%が便意を催してもトイレに行かないことがわかりました。ひどい結果ですね。その原因は、まちまちでした。前述したような他人の目、トイレの臭い、…などなど。もちろん、児童が使う学校のトイレが汚いなどもってのほかです。できる限り清潔な空間にすべきであって、子供たちが遠慮なく使えるようにしなければなりません1)。実際に、トイレを改装して生徒からの評価が良くなったという学校も報告されています2)。ただ、私立の学校ならそれなりに改築できる予算が組めるかもしれませんが、国公立ともなると大変です。参考資料1)Norling M, et al. J Sch Nurs. 2016;32:164-171.2)Senior E. Glob Health Promot. 2014;21:23-28.インデックスページへ戻る

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