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消化性潰瘍診療GL2026」、ボノプラザンの位置付けを強化/J Gastroenterol

消化性潰瘍では、ヘリコバクター・ピロリ(H. pylori)感染と非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)使用が主要因である一方、除菌治療の普及や強力な酸分泌抑制薬の登場により、有病率や死亡率は低下している。しかし、特発性潰瘍や非H. pylori性ヘリコバクター(NHPH)感染による潰瘍の増加傾向が注目されている。日本消化器病学会(JSGE)は2026年4月に「消化性潰瘍診療ガイドライン2026(第4版)」を公表し、治療アルゴリズムの骨格は大きく変えず、H. pylori除菌治療について状況に応じた選択肢を整理するとともに、薬物療法ではボノプラザンの位置付けを強化した。本改訂内容は、ガイドライン作成・評価委員会の杉本 光繁氏らによって論文化され、Journal of Gastroenterology誌オンライン版2026年8月24日号に掲載された。本ガイドラインは、JSGEによるエビデンスに基づく「消化性潰瘍診療ガイドライン」の第4版として改訂された。対象領域は、疫学、出血性消化性潰瘍、H. pylori除菌治療、非除菌治療、薬剤性潰瘍、非H. pylori・非NSAIDs潰瘍、残胃潰瘍、外科治療、穿孔および狭窄に対する保存的治療などである。改訂版では、H. pylori感染、NSAIDsまたは低用量アスピリン(LDA)使用、潰瘍既往、出血などの潰瘍合併症に基づく治療アルゴリズム、除菌治療の選択肢、薬物療法における酸分泌抑制薬の位置付けが示された。主な改訂ポイントは以下のとおり。・H. pylori感染とNSAIDs使用は、消化性潰瘍の2大原因として引き続き位置付けられた。・近年、除菌治療の普及と強力な酸分泌抑制薬の開発により、消化性潰瘍の有病率および死亡率は低下しているとされた。・一方で、特発性潰瘍やNHPH感染に起因する潰瘍の増加傾向が注目点として示された。・消化性潰瘍治療のアルゴリズムは、H. pylori感染の有無、LDAまたはNSAIDs使用、潰瘍既往、出血などの潰瘍合併症に基づく構成が、前版からおおむね維持された。・H. pylori除菌治療については、前版と比較して、状況に応じたさまざまな選択肢が提示された。また、国内保険適用の有無にかかわらず、最も有効なレジメンが推奨された。・本改訂版では、除菌治療の流れを示す新たなフローチャートが提示された。・薬物治療に関する主な変更点として、プロトンポンプ阻害薬(PPI)と比較した酸分泌抑制作用、有効性および安全性に関するエビデンスの蓄積を踏まえ、カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)ボノプラザンについて、消化性潰瘍およびNSAIDs・LDA起因性潰瘍における位置付けが強化された。

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第308回 手足口病、全国25都道県で警報レベル 東北でも感染拡大/JIHS

<先週の動き> 1.手足口病、全国25都道県で警報レベル 東北でも感染拡大/JIHS 2.千葉の豪雨で25市町に災害救助法、マイナ保険証なくても受診可能に/厚労省 3.地域ごとに「推奨薬」選定へ 地域フォーミュラリ普及を本格化/厚労省 4.チルゼパチドの薬価25%減 低価格化による不適正使用を懸念/リリー 5.MMR混合ワクチンを個別接種へ 接種率低下と感染拡大に懸念/米国 6.沢井製薬が46品目販売中止、低薬価・設備老朽化で安定供給が課題に/沢井 1.手足口病、全国25都道県で警報レベル 東北でも感染拡大/JIHS国立健康危機管理研究機構(JIHS)の感染症動向調査によると乳幼児を中心に流行する手足口病が、東北各県で高い水準となっている。青森県では8月3~9日の患者報告数が257人で、6週間ぶりに減少したものの、1定点医療機関当たり7.56人と警報基準の5人を上回った。県内6保健所管内のうち5管内が警報レベルで、青森市・東津軽では10.33人、八戸市・三戸では9.14人だった。その一方で、岩手県では同期間の患者数が415人と前週から69人増加。1定点当たり15.37人で10週連続の増加となり、警報基準の3倍を超えた。一関27.0人、中部26.5人、県央25.0人など、10管内中7管内が警報レベルとなっている。宮城県も1定点当たり10.45人と今季最多を更新し、4週連続で警報基準を超えた。同じく福島県でも9.71人と2週連続で今季最多となり、警報レベルが4週続いている。全国では7月27日~8月2日の定点当たり報告数は6.03人。2週連続で減少したものの、25都道県で警報基準を超えており、依然として広範な流行が続いている。手足口病はエンテロウイルスなどによる感染症で、多くは軽症だが、まれに脳炎などの中枢神経合併症を来す。飛沫や接触のほか便を介して感染し、症状消失後も数週間にわたり便中へウイルスが排泄されることがある。医療現場では乳幼児の発熱、口腔内病変、手足の発疹に加え、意識障害、けいれんなど重症化を示唆する症状に注意が必要である。家庭や保育施設では石けんと流水による手洗い、タオルの共用回避、おむつ交換時の排泄物処理の徹底が求められる。 参考 1) 手足口病の減少続くも、感染性胃腸炎やコロナは増転【感染症動向調査第31週:7月27日~8月2日】(Medical Tribune) 2) 青森「手足口病」感染者数減少も依然5保健所管内で警報レベル(NHK) 3) 岩手県内「手足口病」患者数さらに増加 警報基準の3倍余に(同) 4) 福島県内 「手足口病」今季最多に お盆休みの感染対策徹底を(同) 2.千葉の豪雨で25市町に災害救助法、マイナ保険証なくても受診可能に/厚労省8月13日に千葉県を中心に発生した記録的豪雨で、県内の医療機関にも浸水や停電などの被害が広がっている。厚生労働省によると、14日午前10時時点で大規模病院を含む22医療機関から被害報告があり、千葉市、柏市、八千代市などを中心に影響が確認された。内閣府は多数の住民が生命・身体に危害を受ける、またはその恐れがあるとして、千葉県の21市4町、計25市町に災害救助法を適用した。厚労省は14日、被災者の保険診療や診療報酬に関する特例措置を通知した。避難時にマイナンバーカードや資格確認書を紛失、または自宅に残した場合でも、氏名、生年月日、連絡先に加え、被用者保険では事業所名、国保・後期高齢者医療では住所などを申し立てれば保険診療を受けられる。医療機関は可能な限り保険者を確認した上でレセプト請求するが、特定できない場合も住所や事業所名、連絡先などを記載して請求できる。被災者受け入れに伴う診療報酬上の特例も適用される。許可病床数を超えて患者を受け入れても減額措置を適用せず、DPC病院も従来通り診断群分類点数表による算定が可能となる。患者急増や災害支援への職員派遣によって看護配置や夜勤時間などの施設基準が一時的に満たせなくなった場合も、一定範囲では変更届を不要とする。また、被災医療機関からの転院患者については、平均在院日数や重症度、医療・看護必要度などの算定から除外できる場合があり、ICU・HCUにやむを得ず本来の対象外患者を収容した場合も特例が設けられた。そのほか、避難所で継続的な診療が必要な通院困難患者には、条件を満たせば在宅患者訪問診療料の算定も認められる。その一方で、保団連は医療機関や介護施設、在宅人工呼吸器・酸素療法、人工透析患者への電力・水供給の早期確保、医薬品・医療材料の供給、被災者の医療費窓口負担免除などを政府に要望した。豪雨災害では直接的な外傷だけでなく、停電・断水による透析や在宅医療の継続困難、慢性疾患治療の中断も重要な課題となる。 参考 1) 令和8年8月13日からの大雨に伴う災害に係る災害救助法の適用について(内閣府) 2) 令和8年8月13日からの大雨に伴う災害の被災者に係るマイナ保険証又は資格確認書の提示等について(厚労省) 3) 千葉豪雨 県内の22の医療機関から被害報告 厚労省(テレビ朝日) 4) 千葉の大雨、死者8人に…被災者の“医療費免除”と“最大850万円の支給”を医師団体が国に緊急要望(弁護士JPニュース) 5) 2026年8月13日からの千葉県を中心とする大雨被害、保険診療受診や診療報酬算定に関する特例を適用-厚労省(Gem Med) 3.地域ごとに「推奨薬」選定へ 地域フォーミュラリ普及を本格化/厚労省厚生労働省は、地域ごとに使用を推奨する医薬品を定める「地域フォーミュラリ」の普及を本格化させる。今秋をめどに、医療関係者らを対象とした全国説明会を開き、制度への正確な理解を広げる方針。地域フォーミュラリは、高血圧、脂質異常症、胃潰瘍などの治療薬について、有効性、安全性、費用、供給状況などを踏まえ、地域で推奨する医薬品をリスト化する仕組み。院内フォーミュラリと異なり、病院だけでなく診療所や薬局も含む地域全体で運用する。医師の処方権を制限するものではなく、標準的な薬物療法の共有、後発医薬品の適正使用、医薬品の安定供給を目的とする。日本フォーミュラリ学会によると、2026年2月時点で18都道府県30地域に導入が済んでおり、31地域が準備中。大阪府八尾市ではスタチンなど10薬効群、茨城県つくば地域では14薬効群について策定している。学会も31薬効群の「モデルフォーミュラリ」を公開しており、各地域はこれを参考に独自の事情を加味して策定できる。2026年度診療報酬改定では、医科・調剤の施設基準に、地域の医療機関、薬局、関係団体と医薬品の品目情報を共有し、安定供給に向けた事前の取り決めを行うことが望ましいとの考え方が盛り込まれた。現時点では努力目標だが、国が地域フォーミュラリを政策的に後押しする姿勢が鮮明になった。厚労省は全都道府県に医師会や薬剤師会などが参画する検討会の設置を求める。普及の背景には医療費適正化に加え、後発薬の供給不安や災害対応がある。健保連は2019年、高血圧、脂質異常症、糖尿病で後発薬への切り替えが進めば、全国で年間3,100億円の薬剤費削減につながると試算している。また、地域で使用薬をある程度集約すれば、薬局の在庫負担軽減や供給途絶時の代替、災害時の備蓄・配送にも役立つ。今後は、地域の実情を反映しながら、医師の処方判断とどう両立させるかが普及の鍵となる。 参考 1) 地域フォーミュラリ、厚労省が「全国説明会」今秋、医療関係者ら向けも(MEDIFAX) 2) 高血圧・脂質異常症・胃潰瘍…地域ごとに異なる「使用が推奨される医薬品」、リスト作りを国が推進(読売新聞) 3) 報酬改定も策定を後押し、広がる地域フォーミュラリ(日経メディカル) 4.チルゼパチドの薬価25%減 低価格化による不適正使用を懸念/リリー日本イーライリリーは、2型糖尿病治療薬チルゼパチド(商品名:マンジャロ皮下注)の薬価が8月1日付で25%引き下げられたことを受け、「画期的な医薬品に対する不当に不利益な対応」とする声明を発表した。今回の引き下げは、販売額が想定を上回った医薬品の価格を調整する「持続可能性特例価格調整」の適用によるもの。厚生労働省によると、同薬の保険診療での年間販売額は1,000~1,500億円規模に達している。薬価は2.5mg製剤で1本1,443円、15mg製剤で8,658円となった。リリーは、日本の価格は従来からG7で最も低い水準にあり、今回の引き下げにより同規模の経済圏でも最低水準になるとしている。同社は低価格化により、適応外となる痩身目的での不適正使用、海外からの医療ツーリズム、利益目的の買い占めや海外転売が拡大し、本来治療を必要とする2型糖尿病患者への安定供給に影響する可能性があると警告。政府に海外転売を厳格に規制する措置を求めている。チルゼパチドは週1回投与のGIP/GLP-1受容体作動薬で、食欲を抑制する作用も有する。わが国では2023年に2型糖尿病治療薬として発売されたほか、2025年には肥満症治療薬として別製品が発売されている。その一方で、糖尿病治療用製剤を美容・ダイエット目的で自由診療に使用する例が広がっており、適応外使用に伴う健康被害や、医薬品副作用被害救済制度の対象外となる可能性も指摘される。リリーは、今回の薬価引き下げについて、研究開発や国内投資の予見可能性を損ない、将来的なドラッグラグ・ドラッグロスにつながる恐れもあると主張している。高額な革新的医薬品による医療費増大への対応と、適正使用、安定供給、創薬イノベーションをどう両立させるか、薬価政策のあり方が改めて問われている。 参考 1) マンジャロの大幅な薬価引き下げに対する声明を発表~国際競争下における日本への長期的投資の持続のために、そして患者さんがイノベーションを享受するためには、予見可能で透明性の高い政策環境が不可欠~(日本イーライリリー) 2) 糖尿病薬マンジャロ「インドより安い」 不適正使用の助長に懸念(日経新聞) 3) 英アストラゼネカCSO 革新医薬への支出「先進国で公平負担を」(同) 4) リリー、マンジャロ薬価引き下げは「不当に不利益な対応」(AnswersNews) 5.MMR混合ワクチンを個別接種へ 接種率低下と感染拡大に懸念/米国米国のトランプ大統領は8月10日、小児のワクチン接種方針を見直す大統領令に署名した。麻しん、おたふく風邪、風しんを予防するMMR混合ワクチンについて、それぞれを別の機会に接種することを推奨するとともに、すべての小児に一律で推奨するワクチンを従来の17種類から11種類に縮小する方針を示した。A型・B型肝炎、ロタウイルス、髄膜炎菌、インフルエンザ、新型コロナワクチンなどは、医師と保護者による個別判断に移行するとしている。トランプ氏はワクチン接種数の増加と自閉症との関連を示唆しているが、米国小児科学会は「数百万人を対象とした多くの研究で関連がないことが示されている」と反論し、今回の見直しを「危険で誤解を招く」と批判している。WHOも、ワクチンと自閉症との因果関係を示す証拠はなく、MMRを単独接種に分ける医学的利点を裏付ける根拠もないとしている。さらに、麻しん・風しん・おたふく風邪の単独ワクチンは現在米国内では入手ができず、分割接種には製造体制の整備が必要となる。接種回数や受診回数の増加により、接種完遂率が低下するとの懸念も強い。米国では今年、8月6日時点で麻疹患者が2,465人に達しており、専門家はワクチン忌避の拡大がさらなる流行につながる可能性を警告している。なお、接種義務の決定権は各州にあり、大統領令のみでただちに接種スケジュールや保険適用が変更されるわけではない。 参考 1) 米、混合ワクチンを個別接種に 推奨対象も削減(共同通信) 2) 「ワクチンと自閉症が関連」が持論のトランプ氏、混合ワクチンを別々に接種する方針打ち出す…感染リスク拡大の恐れ(読売新聞) 3) 米医師ら、トランプ氏の大統領令に懸念 家庭でのワクチン離れにつながるか(CNN) 6.沢井製薬が46品目販売中止、低薬価・設備老朽化で安定供給が課題に/沢井沢井製薬は、後発医薬品22成分46品目について、在庫がなくなり次第、順次販売を中止すると医療関係者に通知した。大半は安定供給体制の構築と生産効率改善を目的とした製品構成の見直しによるもので、一部は協業する日医工グループ製品などへ統合する。対象にはアテノロール、アマルエット配合錠、アルファカルシドール、エバスチン、クアゼパム、テルミサルタンOD錠、ドネペジル、ニフェジピン、フルボキサミン、ブロナンセリン、メマンチンなど、日常診療で処方される薬剤も多数含まれる。沢井製薬は各品目について代替品・代替候補品を提示している。たとえばアマルエット配合錠はアムロジピンとアトルバスタチンの単剤、セチリジンOD錠は通常錠、ドネペジル錠は同社OD錠への切り替えが候補とされている。在庫消尽時期は品目ごとに異なり、多くは2027年4月だが、プロブコールは2026年10月、ザルトプロフェンやプロピベリン20mgは同年11月、ニフェジピンカプセルは2028年3月とされる。その一方で、アテノロールやアルファカルシドール、クアゼパムなどはすでに供給停止中となっている。経過措置期間の満了は2028年3月の予定。背景には後発薬業界の構造的な供給問題がある。日本製薬団体連合会の調査では、医療上の必要性が高い2,882品目のうち255品目、約9%で将来の供給継続が困難と回答された。主因は薬価低下や製造設備の老朽化であり、なかには全身麻酔薬や注射用抗菌薬など重要薬も含まれている。臨床現場では今後、単なる銘柄変更だけでなく、剤形や規格、配合剤から単剤への変更が必要となるケースもあり、処方時には院内採用品や地域薬局の在庫状況を含めた確認が求められる。 参考 1) 販売中止品目のお知らせ(沢井製薬) 2) 沢井製薬、後発薬46品目を販売中止へ 供給安定へ製品構成見直し(日経新聞) 3) 沢井製薬が46品目、高田製薬が31品目を販売中止に(日経メディカル) 4) 重要度高い薬「供給継続できず」1割 低薬価や老朽化で、日薬連調査(日経新聞) 5) 医療用医薬品供給状況報告(厚労省)

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GERD診療30年の変遷―PPIの時代からP-CABを軸とする時代へ【温故知新30年】

講師紹介H2受容体拮抗薬(H2RA)が中心であった1980年代胃食道逆流症(GERD)診療の変遷を振り返る際には、わが国における酸関連疾患全体の変化を抜きにして語ることはできない。1980年代の消化器診療において、酸関連疾患の中心は胃潰瘍・十二指腸潰瘍であった。H. pylori感染率は現在よりはるかに高く、胃粘膜萎縮を背景に加齢とともに胃酸分泌が低下する症例が多く、GERDは日常診療のなかで大きな位置を占める疾患ではなかった。胸焼けや呑酸など逆流症状を訴える患者は存在していたが、主な治療対象は内視鏡でびらんや潰瘍を認める逆流性食道炎であり、内視鏡所見に乏しい症例をどのように診断し、治療するかについては整理されていなかった。非びらん性胃食道逆流症(NERD)、食道知覚過敏、機能性胸焼けという概念は、診療現場でほとんど浸透していなかったのである。治療の中心は、生活指導と1980年に登場したH2RAであった。H2RAは、外科的治療が中心であった消化性潰瘍診療を内科的治療へと大きく変えた薬剤であり、当時の臨床的意義は大きかった。しかし、逆流性食道炎(とくに重症例や再発例)に対しては、酸分泌抑制の強さと持続性に限界があった。PPIの普及により、大きな変化を迎えた1990年代今から30年前に感じた最大の進歩は、プロトンポンプ阻害薬、すなわちPPIの普及である。PPIはH2RAより強力かつ持続的に胃酸分泌を抑制し、逆流性食道炎の治癒率を大きく改善した。とくに中等症から重症の逆流性食道炎において、PPIは標準治療としての地位を確立した。PPIの登場に伴って、全国GERD研究会が立ち上がり、GERD診療が大きく標準化された。逆流症状を訴える患者にPPIを投与し、症状の改善を確認する。内視鏡で逆流性食道炎の重症度を評価し、必要に応じて維持療法を行う。こうした診療の流れが一般診療に定着したことはGERD診療の歴史における大きな転換期といえる。同じ時期に、保険収載されたH. pylori除菌治療の普及により消化性潰瘍の再発が大きく減少した。これは酸関連疾患の交代を意味していた。H. pylori感染率の低下、除菌後患者の増加などで胃粘膜萎縮の少ない高齢者が増え、胃酸分泌が保たれる日本人が多くなってきた。その結果、GERD(とくに逆流性食道炎)は、日常診療でより頻繁に遭遇する疾患となった。PPIの普及は新たな課題も明らかにした。PPIを適切に投与しても症状が十分に改善しない患者が一定数存在すること、内視鏡では食道炎が治癒しているにもかかわらず強い症状が残る症例、夜間の逆流症状や再発を繰り返す症例もみられた。PPIはGERD診療を標準化したが、同時に「酸を抑えればすべて解決するわけではない」という事実が私たちに突きつけられた時代であった。P-CABの登場で変わる治療:2015年〜この10年のGERD診療で重要な変化は、カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)の登場である。わが国で開発されたボノプラザンは、従来のPPIと異なる機序でプロトンポンプを阻害し、速やかで強力かつ持続的な酸分泌抑制を示す。GERD診療は、PPIの時代から、P-CABをどう位置付けるかを考える時代に入った。臨床的意義が大きかったのは、重症逆流性食道炎、再発を繰り返す症例、夜間酸逆流が問題となる症例、PPIで十分な効果が得られない症例に対する有効性であった。従来は、PPIを増量する、投与タイミングを工夫する、就寝前にH2RAを併用するなどの対応が行われてきた領域に、より強力な酸分泌抑制という新たな選択肢が加わった。この変化は、GERD診療の治療設計そのものを変える可能性を持っていた。初期治療でどの患者にP-CABを用いるのか、治癒後の維持療法をどうするのか、軽症例ではどの時点で休薬やオンデマンド療法を検討するのか、NERDではPPIとP-CABをどう使い分けるのか。これらの問いが、GERD診療の中心課題となっている。一方で、P-CABは強力であるがゆえに、漫然と使用すべき薬剤ではない。酸分泌抑制が強いほどよい、という単純な時代ではない。長期投与に伴う高ガストリン血症、胃底腺ポリープなど胃粘膜の変化、さらに病理組織学的変化をどう評価するかは、今でも重要な検討課題となっている。私にとってのパラダイムシフト従来、内視鏡所見や組織学的所見、胃酸分泌能および消化管ホルモンを研究してきた私にとって、GERD診療における第1のパラダイムシフトはPPIの登場であった。PPIによる酸分泌抑制は、組織学的胃炎とガストリン動態に影響するとともに、逆流性食道炎を確実に治癒が目指せる疾患とした。H2RAの時代には難しかった重症例の治癒、再発抑制、維持療法が可能になり、GERD診療は大きく進歩した。第2のパラダイムシフトはP-CABの登場である。P-CABは、従来のPPI治療で残されていた課題に正面から向き合う薬剤である。すなわち、酸抑制の立ち上がり時間、夜間酸分泌抑制、重症食道炎の治癒、再発抑制、PPI抵抗性症状に対する対応である。症状が残る患者の中には、真の酸逆流が主因ではなく、逆流に対する過敏性や機能性胸焼け、機能性ディスペプシア、心理的社会的因子が関与する症例もあり、P-CABによってGERD診療のすべてが解決するわけではない。むしろ重要なのは、強力な酸分泌抑制が必要な患者を正しく選択し、投与期間および用量を適切に判断することである。この点で、P-CABはGERD診療の成熟を促している。従来は「PPIで効かなければ難治例」と考えていた症例の一部に、より強力な酸分泌抑制で対応していたが、P-CABでも改善しない症例では、そもそも酸逆流が症状の主因なのかを再検討すべきである。P-CABの登場により、酸抑制治療の限界が押し広げられると同時に、GERDの精緻な病態診断の重要性が増したのである。次の5年、GERD診療はP-CABを中心に再編される? 内視鏡的治療の普及も?今後5年のGERD診療では、P-CABの位置付けがさらに明確になるだろう。重症逆流性食道炎、再発リスクの高い症例、PPIで十分な効果を得られない症例では、P-CABをより早期から用いる診療が広がる可能性がある。GERD治療は、PPIを基本としながら必要時にP-CABを追加する時代から、病態に応じて最初からPPIとP-CABを使い分ける時代へと移行していくと考えられる。一方で、軽症例やNERDでは、過剰な酸分泌抑制を避ける視点も重要である。症状が軽く、再発リスクが低い患者では、短期間治療、休薬、間欠療法、オンデマンド療法を組み合わせる。P-CABを使う場合でも、初期治療後にどのように減量・中止・維持へ移行するかを考える必要がある。今後のGERD診療では、「強く抑える」ことと同じくらい、「適切にやめる」「必要最小限にする」こと、さらにはアルギン酸製剤やプロバイオティクスの併用による酸分泌抑制薬中止後のリバウンド抑制なども課題となると思われる。P-CAB中心の診療になるほど、長期安全性の評価は避けて通れない。ボノプラザンは発売から11年が経過し、H. pylori陰性者を対象としたVISION研究など長期維持療法に関するエビデンスも蓄積されつつある。今後は、実臨床での長期使用データ、病理組織学的変化、血清ガストリン値の推移、胃粘膜の変化、患者背景別の安全性を丁寧に評価していく必要がある。さらに、P-CABでも改善しない症例への対応が、専門医療の質を左右する。食道インピーダンス、pHモニタリング、食道内圧検査を適切に用い、真のGERD、逆流過敏、機能性胸焼けを区別することが求められる。今後のGERD診療は、薬剤治療の効果が乏しい症例、長期投与が必要な若年症例に対して内視鏡的逆流防止術が選択される時代が到来する可能性もある。過去30年で、GERDの薬物診療はH2RAからPPIへ、そしてP-CABへと進歩してきた。これからの課題は、P-CABという強力な治療選択肢を、いかに過不足なく使いこなすかである。必要な患者には十分な酸抑制を行い、不要な患者には漫然投与を避ける。長期安全性を見据えながら、症状、内視鏡所見、再発リスク、患者の生活背景を総合的に判断し、内視鏡的治療にも目を向ける。GERDはありふれた疾患である。しかし、ありふれているからこそ、治療の質が問われる。P-CABの登場は、GERD診療を新しい段階へ押し上げた。次の5年は、その力を最大限に活かしながら、患者一人ひとりに適したGERD治療を設計する時代になる。

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ピロリ菌で大腸がんリスク増、除菌の恩恵を受けやすい人は?

 Helicobacter pylori(H. pylori)感染は大腸がん発症リスクを高める可能性があり、除菌治療が長期的なリスク低減につながる可能性が示された。中国で実施された2つの大規模ランダム化試験の解析により、遺伝的リスクや病原性因子を考慮した層別解析では、除菌の恩恵を受けやすい集団が存在することも明らかになった。北京大学のXuan Han氏らによる研究結果は、Gut誌オンライン版2026年6月30日号に掲載された。 H. pyloriは胃がんや消化性潰瘍の原因菌として知られる一方、近年は慢性炎症や腸内細菌叢の変化などを介して大腸がんにも関与する可能性が指摘されている。今回の解析では、中国・山東省で実施された2つのランダム化試験を対象とした。1つは1995年開始のShandong Intervention Trial(SIT、3,365例、追跡期間29.4年)、もう1つは2011年開始のMass Intervention Trial in Linqu, Shandong Province(MITS、18万284例、追跡期間13.8年)である。MITSでは、宿主の遺伝的リスクとH. pyloriの病原性因子に対する血清陽性率に基づいて大腸がんリスクを評価するケースコホート研究も実施された。 主な結果は以下のとおり。・H. pylori陰性例と比較して、除菌治療を受けていないH. pylori陽性例は、大腸がんリスクが有意に高かった(SIT/ハザード比[HR]:2.96、95%信頼区間[CI]:1.30~6.71、MITS/HR:1.27、95%CI:1.04~1.55)。このリスク増加は、4つのH. pyloriの病原性因子(CagA、HpaA、Omp、HP0305)に対する血清陽性例、および遺伝的リスクが高い例(ポリジェニックリスクスコア上位10%)でとくに顕著であった。・SITでは、H. pylori除菌治療は29.4年間の追跡期間において大腸がんリスクの有意な低下と関連しており(HR:0.47、95%CI:0.22~0.99)、除菌成功例ではより大きな低下が観察された(HR:0.38、95%CI:0.15~0.94)。一方、MITSでは、治療後13.8年時点で全体的な効果は認められなかった(HR:1.17、95%CI:0.95~1.43)。しかし、病原性因子に対する血清陽性例と遺伝的リスクが高い例では保護効果が認められた。 著者らは、試験間の相違について、追跡期間の長さ、除菌レジメン、対照群治療の違いに加え、生活習慣や時代背景の差が影響した可能性を挙げている。さらに「H. pylori感染は胃がんだけでなく大腸がんリスクにも関与する可能性がある。除菌治療による大腸がん予防効果は長期間の追跡で初めて明らかになる可能性があり、とくに遺伝的高リスク者や病原性菌株感染例で恩恵が大きいことが示唆された。また、今後は遺伝情報や菌株情報を組み合わせたリスク層別化により、より個別化された大腸がん予防戦略の構築につながる可能性がある」としている。

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PPI、P-CABなどに「低マグネシウム血症」の重大な副作用追加/厚労省

 2026年7月14日、厚生労働省より添付文書の改訂指示が発出され、PPIやP-CABなどの消化性潰瘍治療薬の「重大な副作用」および「重要な基本的注意」の項に、「低マグネシウム血症」に関する注意が追加された。  各製剤における低マグネシウム血症関連事象を評価した結果、PPI含有製剤と低マグネシウム血症との因果関係が否定できない症例*1が集積したことから、使用上の注意を改訂することが適切と判断された。ただし、PPI単剤で因果関係の否定できない症例が複数確認できるため、一部のパック剤および配合剤*2についての集積状況は未確認であるという。*1:医薬品医療機器総合機構(PMDA)副作用等報告データベースに登録され、MedDRA PT「低マグネシウム血症、血中マグネシウム減少、マグネシウム欠乏」で当局報告された症例のうち、CTCAE(ver.6.0)におけるGrade3以上の症例かつPPI中止後に複数点での血中マグネシウム値が測定されている症例を抽出したもの。*2:アスピリン・ランソプラゾール配合剤、アスピリン・ボノプラザンフマル酸塩配合剤、ボノプラザンフマル酸塩・アモキシシリン水和物・クラリスロマイシン、ボノプラザンフマル酸塩・アモキシシリン水和物・メトロニダゾール 改訂内容は以下のとおり。【重要な基本的注意】 プロトンポンプインヒビター等の長期投与により低マグネシウム血症があらわれることがあるので、本剤を長期投与する際は、定期的に血中マグネシウム濃度を測定すること。 【重大な副作用】 低マグネシウム血症:プロトンポンプインヒビターの長期投与により、QT延長、痙攣、しびれ等を伴う低マグネシウム血症があらわれることがある。また、低マグネシウム血症に起因した低カルシウム血症、低カリウム血症等の電解質異常を伴う場合がある。これらの電解質異常が疑われる症状があらわれた場合には、血中マグネシウム濃度の測定を行い、異常が認められた場合は、マグネシウムの補充等の適切な処置を行うこと。 <医療用医薬品> ・オメプラゾール(商品名:オメプラール錠ほか) ・オメプラゾールナトリウム(オメプラゾール注射用20mg「日医工」ほか) ・ラベプラゾールナトリウム(パリエット錠ほか) ・ランソプラゾール(経口/注射、タケプロンほか)・エソメプラゾールマグネシウム水和物(ネキシウムほか)・ボノプラザンフマル酸塩(タケキャブほか) ・アスピリン・ボノプラザンフマル酸塩(キャブピリン配合錠)・アスピリン・ランソプラゾール(タケルダ配合錠)・ボノプラザンフマル酸塩・アモキシシリン水和物・クラリスロマイシン(ボノサップパック) ・ボノプラザンフマル酸塩・アモキシシリン水和物・メトロニダゾール(ボノピオンパック)OTCの胃腸薬にも「相談すること」として追加 また、一般用医薬品で要指導医薬品として販売されているオメプラゾール、ランソプラゾール、ラベプラゾールナトリウム含有製剤についても「相談すること」の項に改訂がなされた。服用後に副作用として、「吐き気、嘔吐、食欲不振、体がだるい、顔や手足の筋肉がぴくつく、一時的にボーっとする、意識の低下、手足の筋肉が硬直しガクガクと震える、しびれ、めまい、動悸、気を失う等があらわれる」可能性が追記され、症状があらわれた場合は直ちに医師の診療を受けるよう注意が追加された。 その他の医薬品における重大な副作用等の追加  また、同日付で以下の薬剤等についても改訂が行われたほか、インスリン アスパルト(フィアスプ注)においては、「37℃を超える高温下でのゲル化によるインスリンポンプ内部の閉塞(重篤な高血糖や糖尿病性ケトアシドーシスの発現リスク)」に関する記載が「重要な基本的注意」に追加となった。<重大な副作用などが追加された製剤>・免疫チェックポイント9成分*3:血管炎・グセルクマブ(トレムフィア):肝機能障害・ドキソルビシン塩酸塩(リポソーム製剤、ドキシル):腎臓限局型血栓性微小血管症・イキサゾミブクエン酸エステル(ニンラーロ):血栓性微小血管症・カルボプラチン(カルボプラチン点滴静注液50mg「NK」):抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)・組換えRSウイルスワクチン(アブリスボ):ギラン・バレー症候群・抗ヒト胸腺細胞ウサギ免疫グロブリン(サイモグロブリン):血栓性微小血管症*3:アテゾリズマブ、アベルマブ、イピリムマブ、セミプリマブ、チスレリズマブ、デュルバルマブ、トレメリムマブ、ニボルマブ*4、レチファンリマブ)*4:血栓性微小血管症も追加

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ロキソプロフェン、トラマドール、PPI…、高齢者疼痛管理の見直しポイント【高齢者処方のデザイン】第1回

以下の症例に対する前医での処方箋には「替えるべきポイント」が3つ隠れています。あなたは見抜けますか?【症例】患者78歳・女性変形性膝関節症と慢性腰痛で整形外科に通院中。既往に胃潰瘍(8年前、ピロリ菌除菌後)、高血圧、脂質異常症、骨粗鬆症があり、直近の血液検査でeGFR 48と腎機能低下を認める。前医では疼痛に対してロキソプロフェンが定期処方され、痛みが強い時にはトラマドールを頓用、加えてランソプラゾールが継続されている。また、併存症に対してロサルタン、ロスバスタチン、アレンドロン酸が処方されている。最近、食欲低下と軽度の倦怠感を訴えて来院した。痛みのコントロールは「まあまあ」とのことだが、便秘とふらつきも自覚しているという。トラマドールは1日平均1~2錠程度内服している。診察上、両膝に軽度の腫脹を認めるが、消化器症状や明らかな浮腫は乏しい。【Before:前医の処方箋】A)ロキソプロフェン 60mg 1日3回 毎食後B)トラマドール 25mg 疼痛時頓用C)ランソプラゾール 15mg 1日1回 朝食後D)ロサルタン 50mg 1日1回 朝食後E)ロスバスタチン 2.5mg 1日1回 朝食後F)アレンドロン酸 35mg 週1回 起床時A)ロキソプロフェン 60mg 1日3回 毎食後B)トラマドール 25mg 疼痛時頓用C)ランソプラゾール 15mg 1日1回 朝食後D)ロサルタン 50mg 1日1回 朝食後E)ロスバスタチン 2.5mg 1日1回 朝食後F)アレンドロン酸 35mg 週1回 起床時 1) Lapi F, et al. BMJ. 2013;346:e8525. 2) Derry S, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2017;5:CD008609. 3) Roth SH, et al. J Pain Res. 2011;4:159-167. 4) Chappell AS, et al. Pain. 2009;146:253-260. 5) Chappell AS, et al. Pain Pract. 2011;11:33-41. 6) Kolasinski SL, et al. Arthritis Rheumatol. 2020;72:220-233. 7) 日本整形外科学会 変形性膝関節症診療ガイドライン策定委員会編. 変形性膝関節症診療ガイドライン2023. 南江堂; 2023. 8) 2023 American Geriatrics Society Beers Criteria Update Expert Panel. J Am Geriatr Soc. 2023;71:2052-2081. 講師紹介

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外来での立ち往生【Dr. 中島の 新・徒然草】(631)

六百三十一の段 外来での立ち往生日が長くなってきました。考えてみれば、あと1ヵ月少しで夏至。そりゃあ、日も長くなるはずです。さて、先日の脳外科外来でのこと。若者の男性患者さんがこんなことをおっしゃっていました。 患者 「実は、こないだ救急室に運ばれたんですよ」 電子カルテを調べてみると、確かに数週間前に当院に救急搬入されています。 患者 「蕎麦を食べたら身体が赤くなって、息も苦しくなってきて」 カルテには「蕎麦を食べて15分後に皮膚の発赤、呼吸苦」とあります。これはまずい!が、この患者さんはのんびりしたものです。 患者 「でも、薬を使われるのは嫌だったんで、そのまま帰ってきました。薬っていろいろと副作用があるんでしょう」 はあ?何を言ってるの!副作用がどうとかいう屁理屈に、私は思わず説教を始めてしまいました。 中島 「それ、死にますよ。生きていたのは単にラッキーだっただけです」 カルテの記載はこうです。ご本人は生理食塩水以外の薬剤投与を拒否、入院も拒否したため帰宅とする。ただし、再び皮膚の発赤・発疹や呼吸困難などが見られたら、すぐに医療機関を受診するよう説明した。確かに昨今は、患者さんの意思に逆らってまで治療を無理強いしない傾向にあります。が、あっさりし過ぎじゃないですかね、これ。私の思いを無視して、患者さんは無邪気に尋ねてきます。 患者 「薬って、どんなのを使うんですか?」 中島 「まずはアドレナリンで、あとは抗ヒスタミン薬やステロイドですね」 患者 「救急室に着いた時にはもう症状が良くなってきていたんですが、それでも薬を使わないといけないんですか?」 中島 「えっ?」 思わぬ質問に、私は反論できなくなってしまいました。 患者 「そもそもヒスタミンって、人体にあるものですよね。どんな役割があるんですか?」 中島 「ぐぬぬ」 ヒスタミンといえば、胃潰瘍に関係したりアレルギー性鼻炎を起こしたり、悪いイメージしかありません。普段はどんな働きをしているのだったかな? 中島 「それを説明し始めたら、いくら時間があっても足りません」 患者 「そうなんですか」 中島 「あとは『アナフィラキシー』と『ヒスタミン』というキーワードで、ネットか何かを使ってご自分で調べてください」 そう強弁して終えました。でも、本当はどう答えればよかったのでしょうか?抗ヒスタミン薬やステロイドはともかく、症状が改善しつつある状況でアドレナリンまで使うべきなのか。躊躇してしまうのも無理はありません。が、後でいろいろ調べてみると「皮膚の発赤と呼吸困難という複数系統の症状がそろった時点でアナフィラキシーと判断し、症状が改善しつつある状況でもアドレナリンを使うべし」ということになっていました。その主要な理由として、蕎麦が胃の中に残っているのでアナフィラキシー症状が再燃する可能性が十分にある若さゆえの代償機構で何とか血圧を保っているものの、急変する可能性があるアドレナリンが肥満細胞からのヒスタミン放出を抑制するということがあるようです。また「ヒスタミンは普段どんな働きをしているのか?」という質問にもうまく答えられず。これも調べてみると、脳の覚醒作用、胃液を介しての食物消化作用、免疫システムの一部という働きがあることがわかりました。考えてみれば、抗ヒスタミン薬で眠くなる、H2受容体拮抗薬が胃酸分泌を抑制する、アナフィラキシーではヒスタミンが大量放出される、という常識から導き出される当然の結果でしたね。ぬかった!というわけで、外来での何げないやり取りから、あれこれ考えさせられたというお話でした。多少は自分も賢くなったと思えば、それも良しとしておきましょう。最後に1句 夏来たる 年を取っても 日々勉強

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消化性潰瘍診療ガイドライン」改訂、ポストピロリ時代に対応/日本消化器病学会

 2026年4月、「消化性潰瘍診療ガイドライン」が改訂された。2021年から5年ぶりの改訂で、第4版となる。2026年4月16~18日に開催された第112回日本消化器病学会総会では、「日常臨床の現場に残された消化性潰瘍の解決すべき課題 ポストピロリ時代におけるガイドラインの改訂」と題したパネルディスカッションが行われ、各セクションを担当したガイドライン作成委員会委員から、改訂のポイントが紹介された。 冒頭では、ガイドライン作成委員会委員長を務めた鎌田 智有氏(川崎医科大学)が基調講演を行った。ガイドライン改訂総論/鎌田 智有氏(川崎医科大学) 今回のガイドラインの改訂の骨子は、以下となっている。1)近年H.pylori感染率の低下や除菌治療のさらなる普及を背景に、H.pylori関連の消化性潰瘍の頻度は減少傾向にある。一方で、薬物性潰瘍や非H.pylori、非NSAIDs潰瘍、特発性潰瘍が増加傾向にある。こうした現状に即したガイドラインにした。2)ボノプラザン(P-CAB)が上市されて10年が過ぎ、さまざまなデータが蓄積してきた。再度P-CABを含めたシステマティックレビューを行い、予防を含めたこの薬剤の位置付けを広く検証した。 対象疾患は胃と十二指腸にできる潰瘍であり、成人18歳以上に対する診療を基礎とした。GRADEシステムに準拠し、エビデンスの確実性(A〜D)と推奨強度(強い推奨/弱い推奨)を明確に提示した。Clinical Question(CQ)25項目に加え、Background Question(BQ)51項目、Future Research Question(FRQ)7項目を設定し、現時点のエビデンスと今後の課題を整理した。専門医のみならず非専門医、看護師、保健師など多職種の方、学生教育、市民の方などにもわかりやすいステートメントを書くように心掛けたので、ぜひご一読いただきたい。H.pylori除菌治療/伊藤 公訓氏(広島大学)CQ3-1 プロトンポンプ阻害薬に比してボノプラザンで除菌率は向上するか?(二次除菌を含む)・一次除菌治療時にはボノプラザンを使用することを推奨する。(推奨の強さ:強[合意率100%]、エビデンスレベル:A)・二次除菌治療時にはアモキシシリン-メトロニダゾール療法に併用する酸分泌抑制薬はプロトンポンプ阻害薬、ボノプラザンのいずれかを提案する。(推奨の強さ:弱[強い推奨合意率66.7%、弱い推奨合意率33.3%]、エビデンスレベル:B) 除菌治療パートの大きな改訂点としては、一次除菌におけるP-CABの推奨がある。メタアナリシスにより、PPIに比して除菌率が有意に高いことが示されており、副作用発現率に有意差は認められなかった。一方、二次除菌ではPPIとP-CABの有効性に有意差はなく、いずれの使用も許容される「提案」としている。CQ3-2  一次除菌前にはクラリスロマイシン耐性の有無を検査すべきか?・一次除菌前には可能ならクラリスロマイシン感受性検査を行い、最も高い除菌率が期待される除菌レジメンを選択することを推奨する。(推奨の強さ:強[合意率100%]、エビデンスレベル:A) 本改訂で最も重要な変更点の1つが、感受性検査によるクラリスロマイシン耐性確認と、その結果を考慮した個別化除菌の推奨である。H.pylori除菌治療不成功の最大の原因はクラリスロマイシン耐性であり、日本における耐性率は35.5%に上る。根拠としたメタアナリシスでは個別化治療のほうが除菌率が高く、これは臨床の経験からも妥当な結果と考えられるだろう。感受性の場合はP-CAB+アモキシシリン+クラリスロマイシン、耐性の場合はPPI/P-CAB+アモキシシリン+メトロニダゾールの3剤併用療法が推奨となる。 一方で、日本ヘリコバクター学会が会員医師を対象に行ったアンケート調査では、「除菌治療前に感受性試験を行っている」と回答した医師は15%に過ぎなかった。検査には手間と費用がかかり、全例に実施するのは困難であることは想定できる。さらに、感受性試験は保険適用とされているにもかかわらず、社会保険診療報酬支払基金から査定される場合があり、その点も実施が躊躇される要因となっていた。しかし、今年2月に厚労省から「ピロリ菌の感受性検査によるクラリスロマイシン耐性の存在が明らかで」ある場合には、一次除菌としてP-CAB+アモキシシリン+メトロニダゾールの使用を認めるとの通達が出ており、保険診療による感受性検査の妥当性が裏付けられたという点は強調したい。検査ができなかった場合のレジメンについてもCQに記載した。FRQ3-3 泥沼除菌とは何ですか?泥沼除菌の際に気をつけることはありますか?・泥沼除菌とは、除菌治療が成功しているにもかかわらず、尿素呼気試験で偽陽性となり不必要な除菌治療を追加する医療行為を指す。自己免疫性胃炎症例で見られることが多く、注意が必要である。 除菌後の尿素呼気試験偽陽性により、不必要な除菌治療が繰り返される「泥沼除菌」について新たにFRQとして提示した。背景として自己免疫性胃炎の関与が指摘されており、診断精度の向上が求められる。 薬物性潰瘍の治療と予防/千葉 俊美氏(岩手医科大学) 薬物性潰瘍の章は、1)NSAIDs潰瘍、2)選択的NSAIDs(COX-2選択的阻害薬)潰瘍、3)低用量アスピリン(LDA)潰瘍、4)抗凝固薬などその他の薬物潰瘍、5)PPI/P-CAB有害事象の5つの項目を設け、20のBQ、9つのCQ、1つのFRQを設定した。全体としてP-CABのエビデンスが蓄積したため、各項目で推奨に入れている。BQ5-12 非ステロイド性抗炎症薬誘発性潰瘍の治療はどのように行うか?・非ステロイド性抗炎症薬は中止し、抗潰瘍薬を投与する。・非ステロイド性抗炎症薬中止が不可能な場合、第一選択薬としてボノプラザンまたはプロトンポンプ阻害薬を投与する。 NSAIDs継続下でのPPIとP-CABの潰瘍治癒効果の比較についてメタアナリシスの結果、潰瘍治癒効果においてP-CABのPPI(ランソプラゾール)に対する非劣性が示されたため、第1選択薬はP-CABまたはPPIとした。CQ5-2 潰瘍既往歴、出血性潰瘍既往歴がある患者が非ステロイド性抗炎症薬を服用する場合、再発予防はどうするか?・(潰瘍既往歴ありの予防)ボノプラザンまたはプロトンポンプ阻害薬の投与を推奨する。(推奨の強さ:強[合意率100%]、エビデンスレベル:B)・(出血性潰瘍既往歴ありの予防)COX-2選択的阻害薬にボノプラザンまたはプロトンポンプ阻害薬の併用を提案する。(推奨の強さ:弱[強い推奨合意率33.3%、弱い推奨合意率66.7%]、エビデンスレベル:B) NSAIDs誘発性潰瘍において、潰瘍既往歴を有する患者は再発リスクが高く、予防的介入が必要である。PPIの潰瘍再発予防効果については、複数のRCTおよびメタアナリシスにより、プラセボと比較して有意に再発率を低下させることが示されている。また、P-CABはPPIと比較して強力な酸分泌抑制作用を有しており、NSAIDs潰瘍の再発予防においてPPIに対する非劣性が示されている。したがって、P-CABもPPIと同様に再発予防薬として使用可能と判断された。 これらのBQ・CQでP-CABの推奨を明確にしたほか、CQ5-5、5-6では低用量アスピリン服用者における予防として潰瘍既往歴なしの場合はPPI、既往歴ありの場合はP-CABまたはPPIを第一選択とした。 さらに、FRQ5-1では「プロトンポンプ阻害薬/ボノプラザンの長期投与により胃腫瘍などの粘膜病変は生じるか?」という項目を設定した。この分野におけるエビデンスは観察研究が大半であり、まだ確定した推奨はできないため、「さまざまな胃粘膜病変が生じる可能性があることから、長期投与は慎重に行うべきである」としている。臨床医に関心の高い設問であり、新たな試験を経て、次の改訂ではCQへの格上げを期待したい。その他のポイント このほか、「非H.pylori・非NSAIDs潰瘍」「球後部十二指腸潰瘍出血」「NHPH(Non-Helicobacter pylori Helicobacters)」などについて解説が行われた。総括/丹羽 康正氏・愛知県がんセンター総長 従来の消化性潰瘍はH.pylori/NSAIDsが主因だったが、現在ではH.pylori感染率低下、高齢化、抗血栓薬使用の増加などを背景に特発性の潰瘍が増加し、感染症モデルから多因子疾患モデルへと移行しつつある。本ガイドラインはその流れを汲むものであり、今後は「除菌療法の最適化」「薬物性潰瘍の予防戦略」「出血/穿孔などの合併症管理」「非H.pylori潰瘍の体系化」といった点が求められる。

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ピロリ除菌10年経過後の胃がん発症リスク因子~日本での研究

 Helicobacter pylori除菌療法後10年以上経過した患者における胃がん発症のリスク因子を検討した横浜市立大学の小野寺 翔氏らの症例対照研究の結果、開放型萎縮と重度腸上皮化生が独立したリスク因子であることが明らかになった。Scandinavian Journal of Gastroenterology誌2026年3月号に掲載。 本研究では、除菌療法後10年以上経過してから胃がんと診断され内視鏡的粘膜下層剥離術を受けた患者を胃がん群、除菌療法後10年以上胃がんを発症していない患者を非胃がん群とした。年齢、性別、除菌後の期間について傾向スコアマッチングを実施後、両群の臨床所見および内視鏡所見を比較した。 主な結果は以下のとおり。・胃がん群は105例、非胃がん群は127例で、マッチング後、95組のペアを作成した。・胃がん群では、開放型萎縮(p<0.001)、重度腸上皮化生(p<0.001)、地図状発赤(p=0.002)、黄色腫(p=0.005)が有意に多かった一方、胃潰瘍の既往(p=0.022)、十二指腸潰瘍の既往(p=0.015)、胃底腺ポリープ(p=0.006)は有意に少なかった。・多変量解析により、開放型萎縮(オッズ比[OR]:10.40、95%信頼区間[CI]:4.57~23.80)および重度腸上皮化生(OR:5.15、95%CI:2.06~12.90)が独立したリスク因子として特定された。

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細胞外液補充液と維持輸液【ケースで学ぶ輸液オーダー】第1回

細胞外液補充液と維持輸液研修医が病院で初めて自らオーダーを立てる薬剤はおそらく点滴でしょう。いろいろな種類があり戸惑うかもしれませんが、原則は難しくありません。オーダーを受けた看護師から「輸液、わかってないな」と呆れられないよう、今一度原則を確認しましょう。症例洗面器約1杯分の鮮血を吐いた患者さんが救急搬入され、指導医とともに緊急で呼び出しされた初期研修医A君。指導医が緊急上部消化管内視鏡検査で出血性胃潰瘍と診断し、確実な止血処置を実施しました。現在の輸液内容は、救急科初療医が開始した細胞外液補充液(以下「外液」)です。治療終了時のバイタルサインは血圧120/60mmHg、脈拍90/分、ヘモグロビン値は正常範囲でした。「食事は明日からにしよう。じゃ、輸液オーダーは頼んだよ」と言って指導医は去っていきました。A君は翌日まで外液を継続する指示を出しました。このままでよいでしょうか。考えかたの整理輸液は「目的」によって以下の2つに整理できます1)。出血時など循環血漿量の補充外液絶食中の水分、電解質、糖の補充維持輸液イメージ的には、血液の代わりが外液、ごはんの代わりが維持輸液です。止血が得られ、循環動態が安定した時点で「失血に対する輸液」は役目を終えています。出血分を補えたら、止血後も外液を続ける理由はありません。一方、絶食が続く患者にブドウ糖を含まない輸液だけを投与すると、飢餓状態による低血糖を回避するために蛋白異化が進んでしまいます2)。図1 外液、維持輸液の組成の違いと輸液時の体液分画における分布画像を拡大する細胞内外を比較すると、細胞外はNaが多く、細胞内はKが多いのがポイントです。輸液の組成上、理論的には外液は細胞外へ、維持輸液は細胞内外へ分布するため役割が異なります。本症例の対応本症例では、出血は止血済み、バイタル安定、経口摂取は翌日から再開が予定されています。したがって、外液は減量・終了、維持輸液へ切り替えが妥当です。一方、止血されていたとしてもそれまでの出血量が多く、外液の投与量が出血量に追いついていなければ、維持輸液に並行して外液も投与すべきです。図2 臨床現場でよく見られる輸液療法の流れ画像を拡大する輸液は漫然と「昨日と同じ」にせず、目的を考えてオーダーしましょう。初期輸液は「とりあえずの輸液」英国のNICEガイドラインでは、routine maintenanceの目的の輸液組成には、25~30mL/kg/日の水分、1mmol/kg/日のNa、K、Cl、50~100g/日の糖(5%ブドウ糖液)が必要とされています3)。本邦で絶食時に頻用される維持輸液の3号液は合計2,000mL投与することにより、成人男性の1日の必要水分、電解質、最低限のブドウ糖を補える設定になっています4)。しかし、これら維持輸液のNa濃度は外液よりも低く、医原性の低Na血症が懸念されるため、海外ではNa濃度が外液並みの5%糖含有等張液の使用を提案する5)意見があります。こちらは3号液よりもK濃度が著しく低いため、長期の継続には低K血症に注意が必要です。いずれにしても初期輸液は居酒屋のお通し的立場の「とりあえずの輸液」と割り切り、数日間以上の絶食が予測される場合は、漫然と同じ輸液メニューを続けずに、電解質異常のチェックや補正、本格的な栄養輸液への移行を怠らないようにしましょう。輸液においては初回で満点を目指さず、追試上等と考えて大丈夫です。1)森本康裕. 【総論】輸液の基本のキ 輸液の調節をしてみよう. In:森本康裕. レジデントノート:羊土社;2017.p505-509.2)Gamble JL, et al. 水と電解質. 医歯薬出版;1957.p134-147.3)National Institute for Health and Care Excellence(NICE):Intravenous fluid therapy in adults in hospital. London4)室井延之. 静脈栄養剤の種類と組成、特徴. In:日本臨床栄養代謝学会. JSPENテキストブック:南江堂;2021.p.288-289.5)Moritz ML, et al. N Engl J Med. 2015;373:1350-1360.

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リードレスペースメーカと愉快なパラダイムシフトの話【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第93回

止まらない「言わずにおれない症候群」おやじギャグは寒い、寒いと言われますが、なぜか思いつくと口にしてしまうものです。私は周囲から「言わずにおれない症候群」と揶揄されています。頭に浮かぶと止まらないのは、単なる「悪ふざけ」ではなく、脳の構造や心理的なメカニズムが関わっているらしいのです。ダジャレは、右脳で言葉の響きを連想し、左脳で意味をつなげるという作業だといわれています。思い付いた瞬間、脳内では快楽物質であるドーパミンが分泌されます。この快感が強すぎて、理性のブレーキ役である前頭葉が「あ、これ言ったらスベるな」と判断する前に、口が動いてしまうのです。ダジャレは音の重なりを見つける、いわばパズルを解くような知的快感でもあります。「布団が吹っ飛んだ」といった低レベルな古典から新作まで、その「完璧な一致」を自分一人の中にとどめておくのは、もったいないと感じてしまうのが人間の性(さが)なのでしょう。私の最近の傑作を紹介します。「リードレスが、ペースメーカ治療をリードする」初めてこの言葉を口にしたとき、われながら少し寒いダジャレだなと思いました。しかし不思議なことに、この言葉遊びは考えれば考えるほど、本質を突いているように思えてきます。「リードレス」とは文字どおりリードがないという意味です。それなのに「リードしている」とはこれいかに。医学の世界は、しばしばこうした逆説に満ちています。これは単なる語呂合わせではありません。長年当然とされてきた構造を一度疑い、「本当にそれは必要なのか」というシンプルな問いに立ち返った結果が、医療を前進させることを示しています。「完成された治療」に潜んでいた死角ペースメーカは、循環器治療の中でも完成度の高い医療技術の一つであり、長らく「ほぼ完成された治療」と考えられてきました。植込み手技は確立され、長期成績も良好で、多くの患者の生活を劇的に改善してきました。「もう大きな進歩はないだろう」そう感じていた医師は、決して少なくなかったはずです。しかし、その完成度の裏側で、私たち医療者は問題を抱え続けてきました。リード断線、静脈閉塞、ポケット感染、そしてリード抜去の困難さです。ペースメーカ治療の合併症の多くは、本体ではなく“リード”に起因していました。完成された治療であるがゆえに、その弱点は長年、半ば受け入れられてきたともいえるでしょう。「リードをなくす」という発想の大胆さその常識を真正面から疑ったのが、「リードレス」という発想でした。皮下ポケットを作成せず、静脈リードも用いず、デバイスそのものを心臓内に留置する。言葉にすれば簡単ですが、そこには技術的にも概念的にも大きな飛躍がありました。初期のリードレスペースメーカはVVIペーシングに限られ、適応も限定的でした。当時は、「特殊な症例向けのデバイス」「補助的、あるいは一時的な選択肢」と見られていたのが正直なところです。しかし、“リードをなくす”という一点の変革は、想像以上に大きな波紋を広げていきました。失ったものは小さく、得たものは大きかったのです。ポケット感染という概念からの解放、感染症時代における異物量の最小化、透析患者における静脈アクセスの温存、そしてデバイスを意識せずに生活できる患者のQOL向上など、その恩恵は枚挙にいとまがありません。ただし、手技時の心タンポナーデなど特有のリスクや、電池寿命後の扱いなどが課題として残っており、すべての患者に最適というわけではありません。しかし、その臨床的恩恵は十分に示されています。エビデンスが証明した「非常識」の正体普及までの足取りを振り返ってみましょう。ヒトへの初植込みは2012年12月、チェコでJ. W. Spickler氏らによって施行されました。2016年には New England Journal of Medicine誌 に、Micra Transcatheter Pacing Study が報告され、決定的なエビデンスが示されました1)。19ヵ国56施設で実施された国際多施設単群試験で、725例中99.2%で植込みに成功し、6ヵ月時点の主要合併症回避率は96%でした。安全性・有効性が従来型ペースメーカに劣らないことが明確に示されたのです。日本人症例も36例含まれ、小柄な体格においても安全に植込み可能であることが確認されました。2015年4月に欧州でCEマークを取得し、2016年4月に米国FDA承認、2017年2月に日本で薬事承認されました。2017年9月の保険償還開始は、日本においてリードレスペースメーカが日常診療へと踏み出した節目といえるでしょう。さらに近年では、加速度センサーなどを用いて心房収縮を検知し、リードなしで房室同期を実現するデュアルチャンバ相当のリードレスペーシングも登場し、治療の幅は着実に広がっています。画像を拡大するパラダイムシフトとは何かパラダイムシフトとは、「それまで疑いなく共有されていた前提や枠組みが、根本から入れ替わること」を指します。「地球は宇宙の中心である」から「地球は回っている」へ、「胃潰瘍はストレスが原因」から「ピロリ菌が原因」へ。科学史は、パラダイムシフトの連続です。新しい考え方が登場した瞬間、それはたいてい非常識に見えます。リードレスペースメーカが登場したときの違和感は、まさにこのパラダイムシフト前夜の空気に似ていました。医療の世界でのパラダイムシフトは、実はとても静かに起こります。「革命だ!」という掛け声と共に訪れることは、ほとんどありません。最初は、「まあ、そういう選択肢もあるよね」という控えめな居場所から始まります。そしてある日ふと、「あれ? これ、前提が変わっていないか」と気付くのです。ペースメーカ治療は今や、「リードレスがリードする」という言葉遊びを超え、治療戦略の中心的な選択肢の一つになりつつあります。医療の進歩は、技術の問題である以前に、発想の問題なのだということを、この小さなデバイスは教えてくれます。医療は、まだまだ前に進めるのかもしれません。医療の進歩は、何かを足すことで起こるとは限りません。時にそれは、「当たり前だと思っていた1本のリードを、思い切って引き算すること」から始まります。どうやら私は、ダジャレだけでなく、パラダイムシフトについても、言わずにおれない性分だったようです。1)Reynolds D, et al. N Engl J Med. 2016;374:533-541.

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GLP-1受容体作動薬は大腸がんリスクを低下させる?

 オゼンピックやウゴービなどのGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)受容体作動薬は、減量や糖尿病の管理だけでなく、大腸がんの予防にも役立つ可能性のあることが、新たな研究で示唆された。GLP-1受容体作動薬の使用者では、アスピリン使用者と比べて大腸がんを発症するリスクが26%低かったという。米テキサス大学サンアントニオ校血液腫瘍内科のColton Jones氏らによるこの研究結果は、米国臨床腫瘍学会消化器がんシンポジウム(ASCO GI 2026、1月8〜10日、米サンフランシスコ)で発表された。 Jones氏は、「これまでアスピリンの大腸がん予防効果について研究されてきたが、効果は限定的であり、また、出血リスクが使用の妨げになる。糖尿病や肥満の治療で広く使われているGLP-1受容体作動薬は、代謝管理とがん予防の両面で、より安全な選択肢になる可能性がある」と述べている。 米国では、2025年には約15万人が大腸がんと診断され、5万人以上が死亡したと推定されている。GLP-1受容体作動薬は、インスリンや血糖値の調節を助け、食欲を抑え、消化を遅らせるホルモンであるGLP-1の作用を模倣する薬剤である。代表的な薬剤には、オゼンピックやウゴービなどのセマグルチド、マンジャロやゼップバウンドなどのチルゼパチドがある。 今回の研究では、商業医療データベースTriNetXから、GLP-1受容体作動薬の使用者と、アスピリン使用者を傾向スコアマッチング後に14万828人ずつ(計28万1,656人、平均年齢58歳、女性69%)抽出し、大腸がんの発症を比較した。各薬剤の初回処方日を起点に、その6カ月後から追跡を開始した。追跡期間中央値は、GLP-1受容体作動薬群で2,153日、アスピリン群で1,743日であった。 その結果、GLP-1受容体作動薬群ではアスピリン群と比較して、大腸がんリスクが26%低いことが明らかになった(リスク比0.741、95%信頼区間0.612〜0.896)。絶対リスク差から算出した治療必要数(NNT)は2,198であった。この結果は、追跡開始後12カ月および36カ月を対象とした感度解析においても、また、年齢層、BMI、糖代謝などで層別化したサブグループ解析においても、概ね一貫していた。GLP-1受容体作動薬を個別に解析すると、セマグルチドのみが有意な効果を示した。副作用については、GLP-1受容体作動薬使用者の方が、腎障害、胃潰瘍、消化管出血といった重篤な副作用は少なかった一方で、下痢や腹痛はより多く発生していた。 この研究をレビューした米クリーブランド・クリニックTaussig Cancer CenterのJoel Saltzman氏は、「GLP-1受容体作動薬は、体重減少以上の恩恵をもたらす可能性がある。これらの結果は、がん予防戦略においても重要な役割を果たす可能性を示している。アスピリンや非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、スタチンの大腸がん予防効果は長年研究されてきたが、今回のリアルワールドデータは、GLP-1受容体作動薬がこの分野で有望な役割を担う可能性を示唆している」と述べている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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PPI長期使用は本当に胃がんリスクを高めるのか/BMJ

 2023年に発表された3つのメタ解析では、プロトンポンプ阻害薬(PPI)の使用により胃がんのリスクが約2倍に増加することが示されているが、解析の対象となった文献にはいくつかの方法論的な限界(因果の逆転[プロトパシック バイアス]、症例分類法の違い[方法論的異質性]、Helicobacter pylori[H. pylori]菌感染などの交絡因子の調整不能など)があるため、この結論は不確実とされる。スウェーデン・カロリンスカ研究所のOnyinyechi Duru氏らは、これらの限界を考慮したうえで、無作為化試験の実施は現実的でないためさまざまなバイアスの防止策を講じた観察研究「NordGETS研究」を行い、PPIの長期使用は胃腺がんのリスク増加とは関連しない可能性があることを示した。研究の成果は、BMJ誌2026年1月21日号に掲載された。北欧5ヵ国の人口ベースの症例対照研究 NordGETS研究は、1994~2020年に、北欧5ヵ国(デンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、スウェーデン)の各国で前向きに収集されたレジストリデータを用いた人口ベースの症例対照研究(Swedish Research Councilなどの助成を受けた)。 噴門部を除く胃腺がん患者1例に対し、背景因子をマッチさせた対照を10例ずつ5ヵ国の全人口から無作為に抽出した。胃噴門部の腺がんは、PPIの適応症である胃食道逆流症による交絡を回避するために除外した。 曝露は長期(1年超)のPPIの使用とし、診断日(症例)と登録日(対照)の前の12ヵ月間のアウトカムは解析から除外した。PPI使用に関する知見の妥当性と特異性を評価するために、ヒスタミンH2受容体拮抗薬(H2RA)の長期(1年超)使用の解析も行った。 主要アウトカムは、胃(非噴門部)腺がんであった。マッチング変数の調整とともに、多変量ロジスティック回帰分析により、国、H. pylori菌治療、消化性潰瘍、喫煙関連疾患、アルコール関連疾患、肥満または2型糖尿病、メトホルミン・非ステロイド性抗炎症薬・スタチンによる薬物療法を調整したオッズ比(OR)と95%信頼区間(CI)を算出した。H2RAの長期使用も関連がない 胃(非噴門部)腺がん群に1万7,232例(年齢中央値74歳[四分位範囲:65~81]、女性42.4%)および対照群に17万2,297例(74歳[65~81]、42.4%)を登録した。PPIの長期使用は、胃(非噴門部)腺がん群で1,766例(10.2%)、対照群で1万6,312例(9.5%)であった。 最長で26年に及ぶ調査期間中に、PPIの長期使用は胃(非噴門部)腺がんの発症と関連しなかった(補正後OR:1.01、95%CI:0.96~1.07)。粗オッズ比は上昇していたが(1.16、1.10~1.23)、交絡因子(とくにH. pylori菌関連の変量)で調整すると関連性は消失した。 また、H2RAの長期使用も、胃(非噴門部)腺がんのリスク上昇とは関連がなかった(補正後OR:1.03、95%CI:0.86~1.23)。長期使用の利益と不利益を慎重に検討すべき 偽陽性をもたらすエラーの発生源として、(1)胃腺がん診断直前のPPI使用の包含、(2)PPIの短期使用、(3)噴門部腺がん、(4)H. pylori菌関連の変数の調整不足を特定した。 著者は、「本研究の結果は、PPIの長期使用が胃腺がんのリスク増加と関連するとの仮説を支持しない」「バイアスの防止に用いたさまざまな手順のすべてが、潜在的な誤った関連性の発生を防ぐために不可欠であった」「これらの知見は、胃食道逆流症などの適応症の治療でPPIの長期使用を要する患者に安心感をもたらすが、クロストリジウム・ディフィシル関連下痢や骨粗鬆症、ビタミン・電解質吸収不良などの重篤な病態のリスク増加の可能性が指摘されているため、長期使用の利益と不利益を慎重に検討し、PPI継続の必要性を定期的に再評価する必要があると考えられる」としている。

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併存疾患を有する関節リウマチ患者の疼痛・ADLを処方提案で改善【うまくいく!処方提案プラクティス】第71回

 今回は、関節リウマチの疼痛増悪により日常生活動作(ADL)に支障を来していた慢性骨髄性白血病も併存する患者について、病態と治療を評価して処方提案を行うことで疼痛とADLの顕著な改善を達成した症例を紹介します。慢性骨髄性白血病治療中の患者では、免疫抑制薬の追加・増量は慎重に検討する必要があり、薬剤の特性を理解した処方提案が重要となります。患者情報80歳、女性(外来)、身長147cm、体重46kg基礎疾患関節リウマチ、慢性骨髄性白血病、脂質異常症、不安神経症、高血圧症、腰部脊柱管狭窄症、睡眠障害生活状況独居(近くに娘が居住)ADL障害高齢者の日常生活自立度J1、認知症高齢者の日常生活自立度I検査値Scr 0.71mg/dL(推定CCr>60)、AST 23U/L、ALT 27U/L、Hb 10.9g/dL薬学的管理開始時の処方内容1.プレドニゾロン錠1mg 1錠 分1 朝食後2.ボノプラザン錠10mg 1錠 分1 朝食後3.ロスバスタチン錠2.5mg 1錠 分1 朝食後4.アムロジピンOD錠2.5mg 1錠 分1 朝食後5.デュロキセチンOD錠20mg 2錠 分1 朝食後6アセトアミノフェン錠500mg 疼痛時頓用 1回1錠他科受診・併用薬大学病院にて慢性骨髄性白血病をフォロー中アシミニブ錠40mg 2錠 分1 朝食後本症例のポイント患者は関節リウマチによる疼痛増悪(Numerical Rating Scale[NRS]:9)により、服の着脱も困難な状態でADLが著しく低下していました。施設入居を計画していましたが、疼痛のため外出もできず、このままでは生活の質がさらに低下します。この状況では疼痛管理の強化が急務であり、通常であればMTXなどの免疫抑制薬の追加や服薬中のプレドニゾロンの増量を検討します。しかし、本患者は慢性骨髄性白血病を併存しておりアシミニブを内服中です。免疫抑制薬やプレドニゾロンを追加・増量すると、感染リスクの増大や慢性骨髄性白血病治療に影響する恐れがあるため慎重に検討すべきです。そこで、NSAIDsの導入を提案することにしました。NSAIDsは中等度の活動性を持つ関節リウマチ患者において、痛みや全体的な健康状態を効果的に管理できることが報告されています1)。適切なNSAIDsを選択すれば安全に導入でき、患者のADL制限を解除することができると考えました。医師への提案と経過まず、医師に現状の課題として、患者の疼痛が高度でADLが著しく低下していること、そしてアセトアミノフェン頓用では疼痛コントロールが不十分であることを伝えました。懸念事項として、慢性骨髄性白血病治療中であることから免疫抑制の恐れのある薬剤の追加・増量は慎重に検討すべきであること、そして疼痛管理が不十分なままではADLのさらなる低下や施設入居計画にも支障を来す可能性があることを伝えました。その上で、メロキシカムの追加を提案しました。幸い、患者の腎機能(推定CCr>60)は保たれており、NSAIDsの使用に大きな障壁はありません。すでにボノプラザンが併用されているため胃粘膜保護が図られており、消化性潰瘍の既往もとくにありません。メロキシカムは選択的COX-2阻害薬であり、非選択的NSAIDsと比較して消化管障害のリスクが相対的に低く、1日1回投与のため服用時点を朝食後に統一できることから服薬アドヒアランスの維持も期待できます。医師に提案を採用いただき、翌日からメロキシカム5mg 1錠 分1 朝食後が開始となりました。開始1週間後のフォローアップの電話では、患者から「だいぶ痛みがすっきりしてきた。手先も動くので服の着脱がしやすくなった」とのうれしい報告がありました。NRSは9から4まで改善し、可動範囲が広がり行動制限が解除されました。さらに、入居を希望していた施設の見学にも行けるようになるなど、ADLの顕著な改善を認めました。考察とまとめ本症例では、慢性骨髄性白血病を併存する関節リウマチ患者に対してNSAIDsを適切に選択することで、免疫抑制薬を追加・増量させずに疼痛とADLの改善を達成できました。また、患者の腎機能や消化管リスクなどを総合的に評価し、NSAIDsの中でも消化管リスクが相対的に低いメロキシカムを選択したことで、高齢者でも安全に治療をすることができました。特殊な背景を有する患者では、リスク・ベネフィットバランスを慎重に検討することがとくに重要です。参考文献1)Karateev AE, et al. Mod Rheumatol. 2021;15:57-63.

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逆流性食道炎へのボノプラザン、5年間の安全性は?(VISION研究)

 逆流性食道炎は再発や再燃を繰り返しやすく、カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)やプロトンポンプ阻害薬(PPI)による維持療法が長期に及ぶことがある。P-CABのボノプラザンは、PPIより強力かつ持続的な酸分泌抑制を示すが、長期使用による高ガストリン血症を介した胃粘膜の変化や、腫瘍性変化のリスクが懸念されていた。 CareNet.comでは、P-CABとPPIの安全性に関するシステマティックレビューおよびメタ解析結果を報告した論文(Jang Y, et al. J Gastroenterol Hepatol. 2026;41:28-40.)について、記事「P-CABとPPI、ガストリン値への影響の違いは?」を公開している。本論文では、P-CAB群はPPI群と比較して血清ガストリン値が高かったものの、有害事象プロファイルはPPI群と同様であることが示唆された。しかし、メタ解析に含まれた研究は観察期間が短く、本邦で実施されたボノプラザンとランソプラゾールの比較試験「VISION研究」は含まれていない。 そこで本稿では、逆流性食道炎患者を対象に、5年間の維持療法としてボノプラザンとランソプラゾールを比較した国内第IV相試験「VISION研究」について紹介する。本試験では、維持療法を実施した5年間において、ボノプラザン群とランソプラゾール群のいずれでも、腺窩上皮細胞の腫瘍性/異形成性変化が1例も認められず、逆流性食道炎の累積再発率はボノプラザン群で低かった。本試験の結果は、上村 直実氏(国立国際医療研究センター国府台病院 名誉院長/東京医科大学内視鏡センター 客員教授)らによって、Clinical Gastroenterology and Hepatology誌2025年4月号で報告された。【VISION研究の概要】・試験デザイン:国内多施設共同非盲検無作為化並行群間比較第IV相試験・対象:Helicobacter pylori(H. pylori)陰性で、ロサンゼルス分類A~Dの逆流性食道炎患者(H. pylori除菌歴のある患者は除外)・試験群(ボノプラザン群):ボノプラザン(20mg、1日1回)を最大8週間→ボノプラザン(10mgまたは20mg、1日1回)を最大260週間 139例対照群(ランソプラゾール群):ランソプラゾール(30mg、1日1回)を最大8週間→ランソプラゾール(15mgまたは30mg、1日1回)を最大260週間 69例・評価項目:[主要評価項目]胃粘膜病理組織学的検査で臨床的に問題となる症例の割合(腺窩上皮細胞の腫瘍性/異形成性変化など)[副次評価項目]内視鏡所見での逆流性食道炎再発割合、治療期終了時における逆流性食道炎の治癒割合、安全性[その他の評価項目]血清ガストリン値、血清クロモグラニンA値など 主な結果は以下のとおり。・本試験において、最大8週間の治療期から最大260週間の維持療法期へ移行したのは、ボノプラザン群135例、ランソプラゾール群67例であった。・維持療法期へ移行した患者の平均年齢は、ボノプラザン群60.4歳、ランソプラゾール群61.5歳であった。男性の割合はそれぞれ71.9%、61.2%であり、治療開始時の血清ガストリン値(平均値)はそれぞれ130.2pg/mL、155.4pg/mLで、血清クロモグラニンA値の中央値は両群ともに0ng/mLであった。・260週時における血清ガストリン値の中央値は、ボノプラザン群625pg/mL、ランソプラゾール群200pg/mL、血清クロモグラニンA値の中央値はそれぞれ250ng/mL、100ng/mLであり、ボノプラザン群が高かった(p<0.0001)。血清ガストリン値と血清クロモグラニンA値は、両群で投与期間を通じて安定して推移し、4~260週時のいずれの測定時点においてもボノプラザン群が高値であった(p<0.001)。・260週時点までに、腺窩上皮細胞の腫瘍性/異形成性変化が認められた症例は、ボノプラザン群、ランソプラゾール群のいずれも0例であった。260週時点の病理組織学的所見の発現割合の詳細は以下のとおり(ボノプラザン群vs.ランソプラゾール群)。 腺窩上皮細胞の腫瘍性/異形成性変化:0%vs.0% 壁細胞隆起/過形成:97.1%vs.86.5%(p=0.01) 腺窩上皮細胞過形成:14.7%vs.1.9%(p=0.01) G細胞過形成:85.3%vs.76.9%(p=0.29) ECL細胞過形成:4.9%vs.7.7%(p=0.49)・維持療法期に胃底腺ポリープ(260週時の発現割合:ボノプラザン群72.1%、ランソプラゾール群84.9%)および胃過形成性ポリープ(同:23.1%、11.3%)の発現が増加したが、いずれも両群に有意な差はみられなかった。・神経内分泌腫瘍は、いずれの群にも認められなかった。・有害事象の発現割合は、ボノプラザン群93.3%(126/135例)、ランソプラゾール群95.5%(64/67例)であり、治療関連有害事象は、それぞれ45.9%(62/135例)、53.7%(36/67例)に発現した。204週時までに、ボノプラザン群で腺窩上皮型腺腫が1例、ランソプラゾール群で胃底腺型胃腺腫が1例認められた。・260週時点までの逆流性食道炎の累積再発率は、ボノプラザン群10.8%、ランソプラゾール群38.0%であった(p=0.001、log-rank検定)。 本結果について、本論文の筆頭著者である上村氏にコメントを求めたところ、以下の回答が得られた。【上村氏のコメント】日本人の胃酸分泌はH. pylori感染率の低下とともに増えてきた 日本人の胃酸分泌はH. pyloriの感染率の低下に伴い次第に増加してきた。すなわち50年前の1970年代には陽性者が80%以上であり、加齢とともに胃酸分泌が低下していた。その後、感染率が低下するとともに、高齢になっても胃粘膜の老化現象を認めず胃酸分泌の低下を認めないH. pylori未感染者が多数を占めるようになり、2020年代の30歳未満の感染率は5%台まで低下し、除菌治療の影響も加わって高酸分泌を呈する高齢者も多くなり、逆流性食道炎を含む胃食道逆流症(GERD)の患者が増加している。胃酸分泌の増加と酸関連疾患の変化とともに新たな胃酸分泌抑制薬が開発された 1980年に登場したヒスタミン受容体拮抗薬(H2ブロッカー)により外科的治療が必要であった胃潰瘍や十二指腸潰瘍に対して、H2ブロッカーを用いた内科的な治療が主体となった。さらに強力な胃酸分泌抑制が必要となった1990年にPPIが登場して、難治性潰瘍やGERDの治療および低用量アスピリン(LDA)や非ステロイド消炎鎮痛薬(NSAID)による潰瘍の予防に大きな役割を果たしている。2000年に保険適用となったH. pylori除菌治療により消化性潰瘍の再発がほぼ消失して、コントロールが必要な主な酸関連疾患は逆流性食道炎・GERDとなってきた。2015年には、PPIよりさらに強力な酸分泌抑制薬のボノプラザン(VPZ)が日本において開発されて、PPIから置き変わりつつあるのが現状である。VISION研究はボノプラザン長期投与の安全性を検証する試験 H2ブロッカーが出現した当初から酸分泌抑制に対するフィードバックとして出現する高ガストリン血症によるEnterochromaffin-like(ECL)細胞の過形成に続く神経内分泌腫瘍(Neuroendocrine cell neoplasm:NEN[カルチノイド])の発生が危惧されていた。しかし、より強力な酸分泌抑制を有するPPIの長期投与による高ガストリン血症が、胃カルチノイドの発生リスクを著明に上昇させる明確なエビデンスも得られていない。 筆者らが本研究を企画したのは、VPZの承認を目的とした臨床治験の結果において、血清ガストリン値がPPIに比べてもさらなる高値を示し、3,000pg/mL以上の高値を示す症例が存在したことから、一般診療現場における長期投与が胃内微小環境に与える影響、とくに腫瘍性変化のリスクを危惧したためである。 VPZを含むP-CABとPPIの安全性に関するYewon Jang氏らによるメタ解析には、日本の臨床治験3試験と米国の1試験を含む11の研究結果が解析されているが、CareNet.comの記事に指摘されているように、観察期間が1年以下と短く、腫瘍の発生や組織学的変化のリスクを評価するには短期間にすぎるものである。さらに一般臨床の現場では数年間使用されることもあり、長期間の胃酸分泌抑制に伴う副事象の解明が必要と考えて5年間の経過観察とした次第である。 VISION研究では、VPZ群とPPI群に無作為に分類して、5年間毎年、生検を含む内視鏡検査により胃内微小環境の変化を観察した結果、内視鏡的に胃底腺ポリープや過形成ポリープの新たな発生や数の増加を認めた。一方、PPIに比べてVPZは有意な高ガストリン血症および高クロモグラニンA血症を呈したものの、カルチノイドなどの組織学的腫瘍性変化を認めなかった。内分泌腫瘍の腫瘍マーカーとして知られている血清クロモグラニンA値が高値を示した点から、ECL細胞が胃底腺粘膜全体に増加している可能性も推測され、カルチノイドの発生には5年よりさらに長期間の慎重な観察が必要と思われた。 VISION研究の結果から、著明な肝機能異常や骨折および重篤な腸管感染症のリスクはPPIと同様の安全性を示すことが確認された。しかし、本研究はH. pylori陽性や除菌後を除く陰性の逆流性食道炎患者としている点は非常に重要であり、一般の診療現場では、本試験の結果をそのまま充当できないH. pylori現感染者や除菌後の患者に対する診療では胃がんやカルチノイドのリスクにも注意することが必要である。

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P-CABとPPI、ガストリン値への影響の違いは?

 胃食道逆流症(GERD)および消化性潰瘍患者において、カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)はプロトンポンプ阻害薬(PPI)と比較して、全体的な有害事象プロファイルは同様であるが、血清ガストリン値の上昇が有意に大きいことが示された。韓国・亜洲大学校のYewon Jang氏らが、システマティックレビューおよびメタ解析の結果をJournal of Gastroenterology and Hepatology誌オンライン版2025年12月2日号で報告した。 研究グループは、MEDLINE、Embase、Cochrane Libraryのデータベースを用いて、2024年6月3日までに公開された文献を検索した。対象は、GERDまたは消化性潰瘍胃潰瘍または十二指腸潰瘍)患者において、P-CABとPPIの安全性を比較した無作為化比較試験(RCT)および観察研究とした。なお、Helicobacter pylori除菌療法での使用は除外した。主な評価項目は有害事象および重篤な有害事象の発現割合とし、血清ガストリン値の変化についても解析した。最終的に11件の研究(RCT 10件、観察研究1件)が抽出され、合計5,896例(P-CAB群3,483例、PPI群2,413例)が解析に含まれた。 主な結果は以下のとおり。・特定の有害事象を報告した9件の研究において、下痢(7研究)、便秘(4研究)、上気道炎(4研究)、鼻咽頭炎(3研究)、悪心(3研究)、肝機能検査値異常(3研究)などが報告された。・主な有害事象(5%超に発現)は、鼻咽頭炎(P-CAB群16.4%vs.PPI群16.2%)、上気道炎(7.4%vs.5.1%)、下痢(5.2%vs.5.2%)であった。・P-CAB群ではPPI群と比較して、骨折が多く発現する傾向にあった(1.3%vs.0.4%)。・多くの研究で既存の肝障害患者は除外されていたにもかかわらず、肝関連有害事象は一定数発現した(ALT増加:P-CAB群2.9%vs.PPI群3.1%など)。・重篤な有害事象の発現割合は、ほとんどの研究で両群とも10%未満であり、両群で同程度であった。・血清ガストリン値の具体的な変化を報告した6件の研究のメタ解析の結果、P-CAB群はPPI群と比較して、血清ガストリン値の上昇が有意に大きかった(平均差:130.92pg/mL、95%信頼区間[CI]:36.37~225.47、p<0.01)。ただし、研究間の異質性が高かった(I2=98%)。・ボノプラザンとランソプラゾールを比較した3研究の解析でも、ボノプラザン群で血清ガストリン値の上昇が有意に大きかった(平均差:174.03pg/mL、95%CI:78.43~269.52、p<0.01、I2=98%)。 著者らは、本研究結果について「P-CABの有害事象プロファイルはPPIと同様であることが示唆された。しかし、P-CABを用いる患者では、胃酸分泌抑制に伴う血清ガストリン値上昇のモニタリングが不可欠である。また、P-CABとPPIのいずれを用いる場合でも、肝機能障害について注意深くモニタリングすることが求められる」と結論付けた。また、骨折について「先行研究では、長期のPPI使用者において、高ガストリン血症が骨折リスクの重要な要因であることが報告されている。P-CABも血清ガストリン値の上昇を誘発することから、同様のリスクを有する可能性が考えられる。そのため、とくに骨粗鬆症リスクのある患者において、P-CABの長期安全性を評価するためのさらなる検討が求められる」と考察した。

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事例37 タケキャブの査定と復活【斬らレセプト シーズン4】

解説事例では継続して投与していたPPI、ボノプラザン(商品名:タケキャブOD錠)20mgがB事由(医学的に過剰・重複と認められるものをさす)を適用されて査定になりました。傷病名には、「胃潰瘍」と「維持療法の必要な難治性逆流性食道炎」があります。添付文書と照らし合わせても投与は妥当ではないかと考えられます。ただし「胃潰瘍」が傷病名欄上位に表示されていたため、審査機関におけるAIによるレセプト振分にてこちらを主病と判断され、査定対象に分類された可能性もあるのではないかと考えました。医師と相談して、「当初、十二指腸吻合部に潰瘍を認めPPI処方。胸やけ症状が持続。2025年1月の上部消化管内視鏡検査にて、潰瘍は改善傾向にあったが、LA Grade(改訂版 ロサンゼルス分類)Bの逆流性食道炎を認め、維持療法が必要な難治性と判断し、PPIを継続処方している」と理由を添えて再審査申請を行ったところ、復活しました。傷病名に「胃潰瘍」と併存の「逆流性食道炎」の場合は、それぞれに対するPPIの処方限度日数が異なるため(事例内「要約」参照)、8週間を超える場合には「維持療法の必要な難治性逆流性食道炎」と表記されているかを確認するようにアラートを表示させて、査定対策としています。

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ドキドキして眠れません【漢方カンファレンス2】第7回

ドキドキして眠れません以下の症例で考えられる処方をお答えください。(経過の項の「???」にあてはまる漢方薬を考えてみましょう)【今回の症例】50代女性主訴不眠既往40歳、50歳に胃潰瘍生活歴パート病歴数年前に不審者が自宅に侵入した被害にあった後から不眠になった。寝つきが悪く、小さな物音でも目が覚めてしまい、中途覚醒2〜3回。また日中も動悸がある。近医を受診して心電図異常はなく、ゾルピデム5mgを処方されたが効果が不十分、できたら睡眠薬は飲みたくないと受診。現症身長158cm、体重45.1kg。体温35.8℃、血圧110/60mmHg、脈拍90回/分 整。経過初診時「???」エキス3包 分3を処方した。(解答は本ページ下部をチェック!)1ヵ月後寝つきがよくなった。中途覚醒はまだある。2ヵ月後動悸、悪夢がなくなった。眠れるようになり、睡眠薬を飲まない日もある。4ヵ月後睡眠良好。睡眠薬は不要になった。1年後漢方薬も飲まずに眠れているとのことで終診。問診・診察漢方医は以下に示す漢方診療のポイントに基づいて、今回の症例を以下のように考えます。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?(冷えがあるか、温まると症状は改善するか、倦怠感は強いか、など)(2)虚実はどうか(症状の程度、脈・腹の力)(3)気血水の異常を考える(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む【問診】<陰陽の問診> 寒がりですか? 暑がりですか? 体の冷えを自覚しますか? 横になりたいほどの倦怠感はありませんか? 暑がりです。 冷えは感じません。 睡眠不足がつらくて、きついですが横になりたくはありません。 入浴では長くお湯に浸かるのが好きですか? 冷房や暖房は苦手ですか? 湯船には浸からずほとんどシャワーです。冷房は苦手ではありません。暖房はすぐに顔が赤くなるので嫌いです。 入浴するとのぼせませんか? はい、すぐに顔がのぼせるので湯船に浸かることはあまりないです。 のどは渇きますか? 飲み物は温かい物と冷たい物のどちらを好みますか? のどはあまり渇きません。 冷たい物、温かい物どちらも好きです。 <飲水・食事> 1日どれくらい飲み物を摂っていますか? 食欲はありますか? 1日1.5Lくらいです。 食欲はあります。 <汗・排尿・排便> 汗はよくかくほうですか? 尿は1日何回出ますか? 夜、布団に入ってからは尿に何回行きますか? 便秘や下痢はありますか? 汗はよくかきます。 尿は8〜10回/日です。 夜はトイレに行きません。 便は毎日出ます。下痢もしません。 <睡眠> 何時に寝て、何時に起きますか? 寝つきはよいですか? 途中で目が覚めますか? 悪夢をみませんか? 日中の眠気はありませんか? 毎晩23時に就寝して、6時に起きます。 1時間以上寝つけません。 2〜3度目が覚めてしまいます。 毎晩のように悪夢をみます。追いかけられるような夢です。 日中は仕事で気を張っていて眠くありません。 <ほかの随伴症状> 全身倦怠感はありますか? 帰宅後にぐったりしませんか? 朝、調子が悪いですか? きつい感じはありますが、休んでも楽にはなりません。 帰宅後もとくにぐったりする感じはありません。 帰宅しても気が休まらず、落ち着かない感じです。 とくに朝調子が悪いということはありません。 足はむくみませんか? のどのつまりはありませんか? みぞおちがつかえたり、お腹が膨れる感じはありませんか? 抜け毛が多い、皮膚の乾燥はありませんか? 動悸はありませんか? 足はむくみません。 のどはつまりません。 つかえやお腹の張る感じはありません。 抜け毛や皮膚の乾燥はありません。 動悸をよく感じます。 イライラはありませんか? 落ち込むことはありませんか? 不安を感じることが多いですか? 驚きやすくありませんか? イライラしません。 落ち込みはありません。 不安はそこまで強くないと思っています…。 小さな物音にもすぐにビクッとなります。 ほかに困っている症状はありますか? 可能であれば睡眠薬をやめたいです。 【診察】顔色は普通。脈診ではやや浮・弱の脈、脈拍も90回/分程度とやや多い(数脈[さくみゃく])。また、舌は暗赤色、湿潤した白苔が少量、舌下静脈の怒張あり。腹診では腹力は軟弱、胸脇苦満(きょうきょうくまん)・心下痞鞕(しんかひこう)はなし、腹直筋の緊張あり、腹部大動脈の拍動あり(心下悸[しんかき]、臍上悸[せいじょうき]、臍下悸[せいかき])、両側臍傍の圧痛なし。四肢の触診で冷感なし。カンファレンス 今回は、不眠の症例です。 不眠を訴える患者さんは多いですね。うつ病や不安障害のような精神疾患のほか、睡眠時無呼吸症候群やレストレスレッグス症候群などの器質的疾患は見逃さないようにしています。 そうですね。若年世代ではゲームやスマホを原因とする不適切な睡眠衛生が問題となるケースも増えていますね。それでは、漢方診療のポイント(1)陰陽の判断からいきましょう。 暑がりで入浴はシャワー、冷房は苦手でない、自覚的・他覚的に冷えなしと陽証です。 陽証だね。六病位はどうだろう? 陽証で太陽病の悪寒・発熱なく、陽明病を示唆する熱感、腹満、便秘もないから今回も少陽病ですね。 少陽病だね。次は漢方診療のポイント(2)の虚実の判断にいこう。 脈は弱、腹力は軟弱とあるので虚証です。 今回の症例は陽証・虚証ですね。漢方診療のポイント(3)気血水の異常はどうでしょうか? 今回の症例は不審者に自宅侵入されたことをきっかけとして不眠が出現していて、気の異常と考えられますね。 「気のせいです」っていわないところが漢方治療のいいところだね。お気の毒な症例だけれども…。 気が動転してしまっている感じですね。 そう! 気が動転するように、逆走することを気逆(きぎゃく)とよぶよ(気逆については本ページ下部の「今回のポイント」の項参照)。 気逆は更年期障害、パニック発作とイメージするとわかりやすいですね。そのような症状に悩む患者さんが目に浮かびます。 本症例の気逆の症状を挙げてみてください。 顔色は普通なので顔面紅潮はありません。 ただし、「暖房は顔がすぐに赤くなるから嫌い」とあるのは気逆だね。気逆の患者さんではのぼせるから入浴や暖房が嫌という人は多いよね。 動悸や驚きやすいことも気逆ですね。 気逆の代表的な症状ですね。睡眠の特徴はどうですか? 入眠困難、中途覚醒でしょうか? 入眠困難、中途覚醒は気逆の特徴とはいえません。睡眠に関して気逆で必ず聞くことは悪夢の有無です。不眠の患者さんには必ず問診しましょう。 動悸や悪夢がある場合は竜骨(りゅうこつ)と牡蛎(ぼれい)という気を鎮める作用がある生薬が含まれる漢方薬が適応になるよ。竜骨は哺乳動物の化石、牡蛎は貝のカキの殻で、どちらも炭酸カルシウムが主成分だね。ほかの生薬より重量があるため、重鎮安神薬(じゅうちんあんじんやく)といわれます。 悪夢の有無はあまり気にしたことはありませんでした。 悪夢に加えて、気逆の他覚所見として、腹診での腹部大動脈の拍動があります。今回の症例でも、心下悸、臍上悸、臍下悸と3ヵ所で拍動が触れています。最も上部の心窩部で触れる拍動が心下悸で、この場所が触れる頻度が少ないことから病的意義が大きいとされます。腹動が触れる患者さんには、「悪夢をみませんか?」、「驚きやすいですか?」と診察中に質問するとよいですよ。 具体的には「携帯電話がなるとビクッとしませんか?」、「後ろから呼びかけられると驚きませんか?」などと聞くとよいね。 おぉ。問診のコツですね。 気逆以外に気血水の異常はありますか? 全身倦怠感は気虚ですね。眠れずにきつそうです。 気逆には、気虚が合併しやすいからね。 いつもドキドキしていると疲れてしまいますね。のどのつまり、腹満感、不安感などはなく気鬱は目立ちません。 そうですね。鬱々しているというよりビクビクした感じですね。気鬱の要素は少ないようです。 水毒はありません。 血の異常では血虚はなく、舌の暗赤色、舌下静脈の怒張が瘀血です。 そうだね。本症例をまとめよう。 解答・解説【解答】本症例は、陽証・虚証・気逆に対して用いる桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)で治療をしました。【解説】竜骨と牡蛎が含まれる漢方薬には柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)、柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)(牡蛎のみ)、桂枝加竜骨牡蛎湯があります。このうち、桂枝加竜骨牡蛎湯が最も虚証の漢方薬で、太陽病の桂枝湯(けいしとう)に竜骨と牡蛎が加わった構成です。古典にはいわゆる性的神経衰弱で、妙に性欲が亢進して夢精、夢交といった病態に用いると書かれています。添付文書では神経質、小児夜尿症、神経衰弱、遺精などのほか、陰萎にも適応になり、性的な愁訴が目立つ場合に用います。「高齢者の性的逸脱行動に桂枝加竜骨牡蛎湯が有効であった2症例」という報告もあります1)。しかし、実際の臨床では性的愁訴ではなく、虚弱で神経質な人でドキドキ、ビクビクと不安と緊張が強く、眠れない、動悸がするなどの場合に用いることが多いです。柴胡加竜骨牡蛎湯は少陽病・実証で、腹力や胸脇苦満が強く、過度のストレスによりイライラ、過緊張、抑うつが目立つ場合に用います。柴胡桂枝乾姜湯は少陽病・虚証でより華奢なタイプで、ストレスを溜め込んで疲弊している状態に用います。職場ではがんばれるけれども、家に帰ったらぐったり疲れてしまうような疲労感が特徴です。気逆はドキドキしやすいといった患者さんのもともとの性格に加え、何かショッキングなことが起こった後に生じることが多くあります。実際に、東日本大震災後のPTSD様症状に柴胡桂枝乾姜湯が有効であったRCTがあります2)。当科でも福岡西方沖地震後のめまい感に柴胡加竜骨牡蛎湯が有効であった症例を経験しました。今回のポイント「気逆」の解説気の異常は気虚(ききょ)、気鬱(きうつ)、気逆の3つに分類します。気の異常に共通して、変動性、発作的、朝調子が悪い、憂うつ感を伴うなどの特徴があります。気逆は気の循環の失調で、主に上から下へ巡る気が、逆走することによって起こります。更年期障害でみられるホットフラッシュが代表で、顔にのぼせが出現する、さらに上半身は熱いが下肢が冷える上熱下寒(じょうねつげかん)といわれる冷えのぼせがみられます。また、パニック発作のような動悸も気逆の症状です。気逆の治療は、桂皮(けいひ)、黄連(おうれん)といったのぼせを改善させる生薬や竜骨、牡蛎といった気を鎮める作用のある生薬で治療します。気が胸腹部を支点として上方へ発作性に舞い上がるという意味から、のぼせや顔面紅潮以外にも頭痛、胸満感、発作性咳嗽、嘔吐(吐き気は少ない)などの症状も気逆と考えます。麦門冬湯(ばくもんどうとう)は発作性の咳嗽に用いられますが、古典には「大逆上気(たいぎゃくじょうき)」と記載があります。また、気逆の精神症状として、驚きやすい、悪夢をみる、焦燥感があります。また気逆には程度の差はあれ、全身倦怠感などの気虚の状態を伴うことが多いです。今回の鑑別処方不眠を大きく3つ「ドキドキして不眠」、「疲労困憊で不眠」、「気が昂って不眠」に分けて考えます。「ドキドキして不眠」は動悸や悪夢を伴う気逆として竜骨や牡蛎が含まれる漢方薬で治療することを解説しました。「疲労困憊で不眠」では、第6回で解説したように、「眠るにも体力が必要」として、全身倦怠感や日中の眠気など気虚のみが目立つ場合は補中益気湯の適応です。気虚に加えて、ストレスから精神的な症状も目立つ場合には酸棗仁湯(さんそうにんとう)や加味帰脾湯(かみきひとう)を用います。酸棗仁湯や加味帰脾湯は気を補う作用以外にも酸棗仁(さんそうにん)などの精神安定作用がある生薬が含まれます。酸棗仁湯は疲れ過ぎてかえって眠れない、加味帰脾湯はあれこれとつまらないことが気になる、思い悩んで憂鬱、悲哀感がある場合に用います。酸棗仁湯が不眠に対して有効であったというRCT論文から12本を抽出したシステマティックレビュー3)や、担がん患者において加味帰脾湯を投与した群で、Insomnia Severity Indexが有意に改善したというRCTの報告4)があります。「気が昂ぶって不眠」では交感神経の過緊張状態が持続して不眠をきたしている場合で、イライラや胸脇苦満を伴えば柴胡剤(さいこざい)の適応です。抑肝散(よくかんさん)や加味逍遙散(かみしょうようさん)も柴胡が含まれることから広義の柴胡剤です。抑肝散は「怒り」が投与目標になりますが、現代の日本人は怒りをうちに秘めて、怒りの自覚がない例も多く眼瞼けいれんや舌のぴくつきなど怒りのサインを見逃さないようにする必要があります。抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)は胃腸症状を伴う場合や抑肝散よりも怒りがやや弱い場合に用います。加味逍遙散はホットフラッシュやイライラを伴う更年期障害や月経前症候群、多くの不定愁訴がある場合に適応です。柴胡加竜骨牡蛎湯や柴胡桂枝乾姜湯は柴胡剤で、かつ気逆に対する作用をもつことから「ドキドキ」と「気の昂ぶり」の要素を併せもつことになります。加味逍遙散よりもさらにイライラや顔面紅潮が強い熱感を伴う場合は、より鎮静・清熱作用の強い黄連解毒湯(おうれんげどくとう)が適応になります。参考文献1)田原英一ほか. 日東医誌. 2003;54:957-961.2)Numata T, et al. Evid Based Complement Alternat Med. 2014;2014:683293.3)Xie CL, et al. BMC Complement Altern Med. 2013;13:18.4)Lee JY, et al. Integr Cancer Ther. 2018;17:524-530.

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ピロリ除菌は全年齢層で有効、国際的なコンセンサス発表/Gut

 台湾・台北で行われた「Taipei Global Consensus II」において、Helicobacter pylori(H. pylori)感染の検査・除菌による胃がん予防戦略に関する国際的な合意文書が公表された。日本を含む12ヵ国・地域(台湾、中国、香港、韓国、日本、タイ、シンガポール、マレーシア、ベトナム、ドイツ、フランス、オーストラリア、米国)の32人の専門家がGRADEシステムを用いてエビデンスを評価し、28のステートメントで80%以上の合意が得られた。この内容はGut誌オンライン版2025年9月5日号に掲載された。 主なステートメントの内容は以下のとおり。H. pylori除菌は全年齢層で有効 H. pyloriは胃がんの主要因であり、除菌により全年齢層で胃がんリスクが減少することが確認された。とくに前がん病変(萎縮性胃炎・腸上皮化生など)が発症する前に除菌することで、最大のリスク低減効果が得られる。また、除菌は消化性潰瘍の治癒促進と再発予防、NSAIDs/アスピリン関連の潰瘍リスク低減にも有効である。家族単位でのアプローチが重要 H. pyloriの感染経路は主に家庭内であり、家族全員を対象とした検査と治療が感染拡大防止と治療効果向上の両面で有効とされた。推奨される検査と治療[検査法]尿素呼気検査、便中抗原測定法を推奨。陽性率が低い地域では血清抗体検査も容認されるが、非血清学的検査で確認が必要。[治療法]抗菌薬耐性率が高い地域では、ビスマス系4剤併用療法(PPIもしくはP-CAB+ビスマス製剤+テトラサイクリン系抗菌薬+ニトロイミダゾール系抗菌薬)が第1選択となる。P-CABを基本とするレジメンも選択肢となる(※日本における初回標準治療は、PPIもしくはPCAB+アモキシシリン+クラリスロマイシンの3剤併用療法)。[除菌確認]全例で再検査による除菌確認が強く推奨される。[内視鏡検査]胃がんリスクが高い、またはアラーム症状を有する感染者には内視鏡検査が推奨される。[安全性と今後の課題]除菌による逆流性食道炎と食道腺がんのリスク増加は認められなかった。一方で、長期的な腸内細菌叢・耐性菌への影響、抗菌薬使用増加による環境負荷などは今後の研究課題とされた。さらにH. pyloriワクチン開発の必要性や、遺伝子研究に基づくリスク層別化戦略の確立も未解決の課題である。結論 本コンセンサスは、・成人のH. pylori感染者全員に除菌を推奨・胃がん予防に有効な戦略として臨床実装を推進を結論とした。今後は最適な検査の時期、長期アウトカム評価、精密なリスク層別化の検証が求められる。

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irAE治療中のNSAIDs多重リスク回避を提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第68回

 今回は、免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連有害事象(irAE)の治療でステロイド投与中の高齢がん患者に対し、NSAIDsによる多重リスクを評価して段階的中止を提案した事例を紹介します。複数のリスクファクターが併存する患者では、アカデミック・ディテーリング資材を用いたエビデンスに基づくアプローチが効果的な処方調整につながります。患者情報93歳、男性基礎疾患肺がん(ニボルマブ投与歴あり)、急性心不全、狭心症、閉塞性動脈硬化症、脊柱管狭窄症ADL自立、息子・嫁と同居喫煙歴40本/日×40年(現在禁煙)介入前の経過2020年~肺がんに対してニボルマブ投与開始2025年3月irAEでプレドニゾロン40mg/日開始、その後前医指示で中止2025年6月3日irAE再燃でプレドニゾロン40mg/日再開処方内容1.プレドニゾロン錠5mg 8錠 分1 朝食後2.テルミサルタン錠40mg 1錠 分1 朝食後3.クロピドグレル錠75mg 1錠 分1 朝食後4.エソメプラゾールカプセル10mg 2カプセル 分1 朝食後5.フロセミド錠20mg 1錠 分1 朝食後6.スピロノラクトン錠25mg 1錠 分1 朝食後7.フェブキソスタット錠10mg 1錠 分1 朝食後8.リナクロチド錠0.25mg 2錠 分1 朝食前9.ジクトルテープ75mg 2枚 1日1回貼付本症例のポイント本症例は、93歳という超高齢で複数の基礎疾患を有するがん患者であり、irAE治療のステロイド投与とNSAIDsの併用が引き起こす可能性のある多重リスクに着目しました。患者は肺がんに対する免疫チェックポイント阻害薬の副作用であるirAEに対して、プレドニゾロン40mg/日という高用量ステロイドの投与を受けていました。同時に疼痛管理としてNSAIDsであるジクトルテープ2枚を使用していました。一見すると症状は安定していましたが、薬剤師の視点で患者背景を詳細に評価したところ、見過ごされがちな重大なリスクが潜んでいることが判明しました。第1に胃腸障害リスクです。高用量ステロイドとNSAIDsの併用は消化性潰瘍の発生率を相乗的に増加させることが知られており、93歳という高齢に加え、既往歴も有する本患者ではとくにリスクが高い状況でした。第2に心血管リスクです。患者には急性心不全や狭心症の既往があり、さらに閉塞性動脈硬化症も併存していました。NSAIDsは心疾患患者において心血管イベントのリスクを増加させるため、この併用は極めて危険な状態といえました。第3の最も注意すべきは腎臓リスク、いわゆる「Triple whammy」の状況です。NSAIDs、ループ利尿薬(フロセミド)、ARB(テルミサルタン)の3剤併用は急性腎障害の発生率を著しく高めることが報告されており、高齢者ではとくに致命的な合併症につながる可能性がありました。これらの多重リスクは単独では見落とされがちですが、患者の全体像を包括的に評価することで初めて明らかになる重要な安全性の問題です。医師への提案と経過患者の多重リスクを評価し、服薬情報提供書を用いて医師に処方調整を提案しました。現状報告として、irAE治療でプレドニゾロン40mg/日投与中であり、ジクトルテープ2枚使用で疼痛は安定しているものの、複数のリスクファクターが併存していることを伝えました。懸念事項については、アカデミック・ディテーリング※資材を用いて消化性潰瘍リスク(ステロイドとNSAIDsの併用は潰瘍発生率を有意に増加)、心血管リスク(NSAIDsは既存心疾患患者で心血管イベントリスクを増加)、Triple whammyリスク(3剤併用による急性腎障害発生率の増加)について説明しました。※アカデミック・ディテーリング:コマーシャルベースではない、基礎科学と臨床のエビデンスを基に医薬品比較情報を能動的に発信する新たな医薬品情報提供アプローチ 。薬剤師の処方提案力を向上させ、処方の最適化を目指す。提案内容として段階的中止プロトコールを提示し、ジクトルテープ2枚から1枚に減量、2週間の疼痛評価期間を設定、疼痛悪化がないことを確認後に完全中止するという方針を説明しました。将来的な疼痛悪化時のオピオイド導入準備と疼痛モニタリング体制の強化についても提案しました。医師にはエビデンス資料の提示により多重リスクの危険性について理解が得られ、段階的中止プロトコールが採用となり、患者の安全性を優先した方針変更となりました。経過観察では1週間後にジクトルテープ1枚に減量しましたが疼痛悪化はなく、2週間後も疼痛コントロールが良好であることを確認し、3週間後にジクトルテープを完全中止しましたが疼痛の悪化はありませんでした。現在も疼痛コントロールは良好で、多重リスクからの回避を達成しています。参考文献1)日本消化器病学会編. 消化性潰瘍診療ガイドライン2020(改訂第3版). 南山堂;2020.2)Masclee GMC, et al. Gastroenterology. 2014;147:784-792.3)Lapi F, et al. BMJ. 2013;346:e8525.

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