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至適用量って、わからないのね?(解説:後藤信哉氏)-944

 ワルファリン以外の抗凝固薬としてトロンビン阻害薬、Xa阻害薬が開発された。ワルファリンと異なり「用量調節不要!」と当初宣伝された。しかし、心房細動の脳卒中予防以外の適応拡大においてリバーロキサバンでは「節操がない」ほど各種用量が選択された。2.5mg×2/日の用量は急性冠症候群(ATLAS TIMI 51)、冠動脈疾患・末梢血管疾患(COMPASS)では有効性が示された(重篤な出血合併症は増加したが…)。同一用量が心不全では有効性を示せなかった(COMMANDER HF)。 今回は、COMMANDER HFのような収縮機能の阻害された心不全を含む内科疾患の入院症例における、症候性静脈血栓塞栓症・静脈血栓塞栓が疑われる死亡の複合エンドポイントとした試験が、リバーロキサバン10mg/日とプラセボにて比較された。1万2,024例を対象としたランダム化比較試験にてリバーロキサバン群では重篤な出血は多く、血栓イベントは少なめだったが1次エンドポイントとしてはプラセボ群と差がなかった。「適応拡大」のための用量設定根拠が明確とはいえない試験の繰り返しの結果、Xa阻害薬を追加すれば血栓イベントは予防するっぽく、出血は増えることがわかった。ランダム化比較試験は本来普遍的な科学としての仮説検証試験であったはずではあるが、用量が揺らげば普遍性も揺らぐことがあらためてわかった。

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第4回 DICへのアンスロビンP500の査定/セロクエル錠処方に伴うHbA1c検査の査定/腫瘍マーカー検査の査定/C型慢性肝炎検査の査定【レセプト査定の回避術 】

事例13 DICへのアンスロビンP500処方の査定アンチトロンビンIII低下を伴うDICで乾燥濃縮人アンチトロンビンIII(商品名:アンスロビンP)500注射用3瓶を点滴静注した。●査定点アンスロビンP500注射用3瓶が査定された。解説を見る●解説アンスロビンP500注射用の添付文書に「アンチトロンビンIII低下を伴う汎発性血管内凝固症候群(DIC)→アンチトロンビンIIIが正常の70%以下に低下した場合は、通常成人に対し、ヘパリンの持続点滴静注のもとに、本剤1日1,500単位(又は30単位/kg)を投与する」と記載があります。アンチトロンビンIII検査が先月末に行われ、アンスロビンP500注射用投与時の月にはアンチトロンビンIII検査が施行されていませんでした。このケースでは、アンスロビンP500注射用投与時の月に症状詳記に「〇月〇日+検査数値」を記載することが必要でした。事例14 セロクエル錠処方に伴うHbA1c検査の査定統合失調症で、クエチアピン(商品名:セロクエル錠)を25mg 2T投与し、HbA1cの検査を請求した。●査定点HbA1c検査が査定された。解説を見る●解説セロクエル錠の添付文書の副作用に「著しい血糖値の上昇から、糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病性昏睡等の重大な副作用が発現し、死亡に至る場合があるので、本剤投与中は、血糖値の測定等の観察を十分に行うこと」と警告されているため、HbA1c検査を施行しました。しかし、その場合でも、「糖尿病の疑い」の病名がないと査定されます。ここでは処方のつど、病名を追記するよりも、症状詳記での記載が求められます。事例15 腫瘍マーカー検査の査定初診月の病名で胃潰瘍、胃がんの疑いでCEA、CA19-9の検査を請求した。●査定点CEA、CA19-9が査定された。解説を見る●解説「点数表の解釈」の腫瘍マーカーに、「診療及び腫瘍マーカー以外の検査の結果から悪性腫瘍の患者であることが強く疑われる者に対して、腫瘍マーカーの検査を行った場合に、1回に限り算定する」となっています。他の検査が施行されていない場合でCEA、CA19-9だけを請求すると査定の対象になります。また、他院からの紹介の場合では、「〇〇医療機関から〇月〇日に紹介された」と記載することが求められています。事例16 C型慢性肝炎検査の査定C型慢性肝炎でHCV核酸検出とHCV核酸定量の検査を請求した。●査定点HCV核酸定量が査定された。解説を見る●解説「点数表の解釈」の微生物核酸同定・定量検査に、「HCV核酸検出とHCV核酸定量を併せて実施した場合には、いずれか一方に限り算定する」と通知があるため、両検査の請求は認められません。

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冠動脈疾患の心不全、洞調律患者に対するリバーロキサバンの効果(COMMANDER HF)検証すべき仮説だったのか?(解説:高月誠司氏)-927

 本研究は、冠動脈疾患の心不全、洞調律患者に対するリバーロキサバンの効果を検証する二重盲検の多施設ランダム化比較試験である。プラセボ群とリバーロキサバン2.5mgを1日2回投与群の2群に分け、主要アウトカムは全死亡、心筋梗塞、脳卒中の複合エンドポイントである。なぜ洞調律の冠動脈疾患の心不全例にリバーロキサバンを投与するのか、という疑問をまず持たれると思う。リバーロキサバンは非弁膜症性の心房細動の脳梗塞予防、深部静脈血栓症および肺血栓塞栓症の予防・治療薬である。本研究の背景には慢性心不全増悪後に心不全の再入院や死亡を起こすことが多く、その原因としてトロンビン関連の経路により惹起された、炎症や内皮機能不全や動脈・静脈血栓症が考えられると記載されている。思い切った仮説を検証しに行ったものである。確かに重症心不全例は心房細動や深部静脈血栓症を合併しやすく、本研究では登録時に心房細動例は除外されたものの、その後に発症した隠れ心房細動例には、若干の効果があるかもしれない。 5,022例の患者がランダム化され、フォローアップの中央値は21.1ヵ月であった。結果は、主要アウトカムの1年あたりの発症率は、リバーロキサバン群で25.0%、プラセボ群で26.2%で、有意差を認めなかった(ハザード比[HR]:0.94、95%信頼区間[CI]:0.84~1.05、p=0.27)。本研究では冠動脈疾患患者が対象で、93.1%の患者が抗血小板薬を内服し、34.8%の患者は2剤の抗血小板薬を内服していた。当然、出血性の合併症が危惧される。結果、致死的な大出血は両群間で差がなかったが、ISTHによる大出血がリバーロキサバン群でプラセボ群よりも多かった(年間発症率2.04% vs.1.21%、HR:1.68、95%CI:1.18~2.39、p=0.003)。また、プロトコールからの脱落率はリバーロキサバン群で年間あたり16.3%、プラセボ群で13.6%。理由の内訳は出血イベントがリバーロキサバン群で多かった。 本研究の結果はある意味予想どおりのnegative studyである。それを研究者が正直に発表すること、そしてnegative studyであっても雑誌がしっかり評価し公表することはきわめて大事である。ただ本研究の仮説、冠動脈疾患で洞調律の慢性心不全に抗凝固療法が有効か、これが検証すべき仮説だったかどうか、皆さんはどう感じられるだろうか。

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合成カンナビノイド関連凝固障害が米国で集団発生/NEJM

 2018年3~4月に、米国イリノイ州で合成カンナビノイドの使用に関連する凝固障害の患者が集団発生した。予備検査で抗凝固薬の混入の可能性が示されたため、確認検査を行い、患者データを再検討したところ、数種のスーパーワルファリンの混入が確かめられた。多くの患者は、ビタミンK1補充療法で症状が抑制されたが、合成カンナビノイド化合物の詳細は判明していないという。米国・University of Illinois College of Medicine at PeoriaのAmar H Kelkar氏らが、NEJM誌2018年9月27日号で報告した。45件の入院中に34例が合成カンナビノイド関連凝固障害と判定 2018年3~4月に、150例以上の患者が、凝固障害および出血性素因でイリノイ州の病院を受診した。地域の医師と公衆衛生機関は、凝固障害と合成カンナビノイドの使用との関連を確認した。患者の血清と薬剤のサンプルの予備検査では、抗凝固薬brodifacoumの混入の可能性が示唆された。 そこで、研究チームは、2018年3月28日~4月21日にイリノイ州ピオリアのSaint Francis医療センターに入院した患者について、医師から報告されたデータを再検討した。ケースシリーズには、合成カンナビノイド関連凝固障害の診断に用いられる判定基準を満たした成人患者を含めた。確認として行われた抗凝固薬中毒の検査は、担当医の判断で指示された。 45件の入院中に、34例が合成カンナビノイド関連凝固障害と判定された。年齢中央値は37歳(IQR:27~46歳)、24例(71%)が男性で、32例(94%)が白人であった。合成カンナビノイドへのスーパーワルファリンの混入により臨床的に重大な凝固障害の可能性 受診時に最も頻度の高かった出血症状は肉眼的血尿(19例、56%)であり、非出血症状では腹痛(16例、47%)の頻度が高かった。合成カンナビノイドの使用頻度は、毎日(16例、47%)から初めて(4例、12%)まで、大きなばらつきが認められた。集団発生に関連した合成カンナビノイドの詳細は明らかではないが、いくつかの市販品が報告されている。 重度の腹痛または側腹部痛がみられる患者の出血状況を評価するために、画像検査が行われた。最も多い異常所見は、CTが施行された23例中12例にみられた腎臓の異常であった(腎周囲線状陰影[perinephric stranding]、充血、びまん性肥厚など)。 抗凝固薬の確認検査は34例中15例で行われ、15例でスーパーワルファリン中毒が確認された。brodifacoumが15例(100%)、difenacoumが5例(33%)、bromadioloneが2例(13%)、ワルファリンが1例(7%)で陽性であった。 ビタミンK1(フィトナジオン)が、34例全例に経口投与された。23例(68%)には静注投与も行われた。赤血球輸血が5例(15%)に、新鮮凍結血漿輸注が19例(56%)に施行され、4因子含有プロトロンビン複合体濃縮製剤が1例に使用された。治療により、入院中に死亡した1例を除き、出血は止まった。 この死亡例(37歳、女性)は、特発性頭蓋内出血の合併症で死亡した。集団発生中に全州で4例が死亡したが、死亡と関連した出血症状が認められたのは、本症例のみであった。この症例は、合成カンナビノイドとアンフェタミンを使用しており、受診時に頭部外傷は確認されておらず、凝固障害の既往歴や家族歴がなく、抗凝固薬は処方されていないことが確認された。 著者は、「これらのデータは、合成カンナビノイドへのスーパーワルファリンの混入は、臨床的に重大な凝固障害を引き起こす可能性があることを示すもの」としている。

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リバーロキサバン、 非心房細動・冠動脈疾患併発の心不全増悪に有効か/NEJM

 心不全は、不良な予後が予測されるトロンビン関連経路の活性化と関連する。フランス・Universite de LorraineのFaiez Zannad氏らCOMMANDER HF試験の研究グループは、慢性心不全の増悪で入院し、左室駆出率(LVEF)の低下と冠動脈疾患がみられ、心房細動はない患者の治療において、ガイドラインに準拠した標準治療に低用量のリバーロキサバンを追加しても、死亡、心筋梗塞、脳卒中の発生を改善しないことを示した。リバーロキサバンは、トロンビンの産生を抑制する経口直接第Xa因子阻害薬であり、低用量を抗血小板薬と併用すると、急性冠症候群および安定冠動脈疾患の患者において、心血管死、心筋梗塞、脳卒中の発生が低減することが知られている。NEJM誌オンライン版2018年8月27日号掲載の報告。32ヵ国628施設で、心不全増悪患者約5,000例を登録 本研究は、32ヵ国628施設が参加した二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験(Janssen Research and Development社の助成による)。対象は、3ヵ月以上持続する慢性心不全がみられ、LVEF≦40%、心不全増悪(インデックスイベント)による入院後21日以内で、冠動脈疾患を有し、ガイドラインに準拠した適切な薬物療法を受け、抗凝固療法は受けていない患者であった。心房細動がみられる患者は除外された。 2013年9月~2017年10月の期間に、5,022例(ITT集団)が登録され、リバーロキサバン(2.5mg、1日2回)+標準的抗血小板療法を施行する群に2,507例、プラセボ+標準的抗血小板療法を施行する群に2,515例が割り付けられた。追跡期間中央値は21.1ヵ月であった。 有効性の主要アウトカムは、全死因死亡、心筋梗塞、脳卒中の複合であり、安全性の主要アウトカムは、致死的出血と、後遺障害が発生する可能性がある重要部位(頭蓋内、髄腔内、眼内など)の出血の複合であった。脳卒中は抑制、大出血リスクが高い 平均年齢はリバーロキサバン群が66.5±10.1歳、プラセボ群は66.3±10.3歳で、女性がそれぞれ22.0%、23.8%含まれた。心筋梗塞が76.2%、75.2%、脳卒中が8.3%、9.7%、糖尿病が40.8%、40.9%、高血圧が75.7%、75.0%に認められた。 有効性の主要複合アウトカムの発生率は、リバーロキサバン群が25.0%(626/2,507例)、プラセボ群は26.2%(658/2,515例)であり、両群間に有意な差は認めなかった(ハザード比[HR]:0.94、95%信頼区間[CI]:0.84~1.05、p=0.27)。項目別にみると、全死因死亡はリバーロキサバン群:21.8% vs.プラセボ群:22.1%(HR:0.98、95%CI:0.87~1.10)、心筋梗塞3.9 vs.4.7%(0.83、0.63~1.08)、脳卒中は2.0 vs.3.0%(0.66、0.47~0.95)であった。 安全性の主要複合アウトカムの発生率は、リバーロキサバン群が0.7%(18/2,499例)、プラセボ群は0.9%(23/2,509例)と、両群間に有意な差はみられなかった(HR:0.80、95%CI:0.43~1.49、p=0.48)。項目別にみると、致死的出血(リバーロキサバン群:0.4% vs.プラセボ群:0.4%、HR:1.03、95%CI:0.41~2.59、p=0.95)および後遺障害が発生する可能性のある重要部位の出血(0.5 vs.0.8%、0.67、0.33~1.34、p=0.25)について両群間の有意差はなかったが、大出血リスクはリバーロキサバン群のほうが有意に高かった(3.3 vs.2.0%、1.68、1.18~2.39、p=0.003)。 著者は、「リバーロキサバンが心血管アウトカムを改善しなかった最も可能性の高い理由は、トロンビン介在性イベントは、心不全で入院したばかりの患者における心不全関連イベントの大きな要因ではないことである」とし、「事実、本試験で最も頻度の高い単一のイベントは心不全による再入院であり、アテローム血栓性イベントよりもむしろ心不全が、実質的な死亡割合に寄与している可能性がある」と指摘している。

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トラネキサム酸の分娩後出血予防は?/NEJM

 経膣分娩時にオキシトシンの予防的投与を受けた女性において、トラネキサム酸の併用投与はプラセボ群と比較し、500mL以上の分娩後出血の発生を有意に低下しなかった。フランス・ボルドー大学病院のLoic Sentilhes氏らが、トラネキサム酸の予防的投与追加による分娩後出血の発生率低下を検証した多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験「TRAAP試験」の結果を報告した。分娩直後のトラネキサム酸の使用により、分娩後出血に起因する死亡率低下が示唆されているが、トラネキサム酸の予防的投与の有効性を支持するエビデンスは十分ではなかった。NEJM誌2018年8月23日号掲載の報告。オキシトシン+トラネキサム酸vs.オキシトシン+プラセボ 研究グループは2015年1月~2016年12月の期間に、妊娠35週以上で経腟分娩予定の単胎妊娠女性を、分娩後オキシトシンの予防投与に加え、トラネキサム酸1g(トラネキサム酸群)あるいはプラセボを静脈内投与する群に無作為に割り付けた。 主要評価項目は、分娩後出血とし、目盛付き採集バッグによる測定で500mL以上の出血と定義した。 4,079例が無作為化され、このうち3,891例が経腟分娩であった。トラネキサム酸追加で、医療者評価の臨床的に重大な分娩後出血発生率は低下 主要評価項目である分娩後出血の発生率は、トラネキサム酸群8.1%(156/1,921例)、プラセボ群9.8%(188/1,918例)で有意な差はなかった(相対リスク:0.83、95%信頼区間[CI]:0.68~1.01、p=0.07)。 トラネキサム酸群ではプラセボ群と比較し、医療提供者評価による臨床的に重大な分娩後出血の発生率は有意に低下し(7.8% vs.10.4%、相対リスク:0.74、95%CI:0.61~0.91、p=0.004、多重比較事後補正後p=0.04)、子宮収縮薬の追加投与も有意に少なかった(7.2% vs.9.7%、相対リスク:0.75、95%CI:0.61~0.92、p=0.006、補正後p=0.04)。他の副次評価項目については、両群間に有意差は確認されなかった。 分娩後3ヵ月間の血栓塞栓性イベントの発現率は、トラネキサム酸群とプラセボ群とで有意差はなかった(それぞれ0.1%および0.2%、相対リスク:0.25、95%CI:0.03~2.24)。 なお、著者は研究の限界として、分娩前のヘモグロビン値測定などは多くが外来で実施されるため、評価時期が標準化されていないこと、重度の分娩後出血に対するトラネキサム酸の有効性や、治療法としてのトラネキサム酸の使用に関しては検出力不足であったことなどを挙げている。

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第1回 小児へのアモキシシリン 分2 10日間の処方 (前編)【適正使用に貢献したい  抗菌薬の処方解析】

Q1 処方箋を見て、思いつく症状・疾患名は?A群溶血性レンサ球菌咽頭炎・・・12名全員 柏木紀久アモキシシリン10日分の処方と、咽頭・扁桃炎をうかがわせるトラネキサム酸から、A群溶血性レンサ球菌(溶連菌)感染症と思われます。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎潜伏期は2~5日。突然の発熱と全身倦怠感、咽頭痛によって発症し、しばしば嘔吐を伴う。咽頭壁は浮腫状で扁桃は浸出を伴い、軟口蓋の小点状出血あるいは苺舌がみられることがある1)。合併症として、肺炎、髄膜炎、敗血症などの化膿性疾患、あるいはリウマチ熱※、急性糸球体腎炎などの非化膿性疾患を生ずることもある1)。※リウマチ熱A群溶血性レンサ球菌感染症後の合併症として発症する非化膿性後遺症である。主要症状として、心炎、多関節炎、輪状紅斑、皮下結節、舞踏病を認める。予後を判断するうえで最も重要なのは心炎で、リウマチ熱患者の30~45%に合併する。心炎が進行することで死亡、または心臓弁置換を要するリウマチ性心疾患となる2)。Q2 患者さんに確認することは? (通常の確認事項は除く)溶連菌検査の有無 中西剛明溶連菌の検査をしたか確認します。ペニシリンアレルギーの有無 ふな3ペニシリン系抗菌薬へのアレルギーの有無について確認します。Q3 患者さんに何を伝える?アモキシシリンを飲みきること 佐々木康弘アモキシシリンは10日間しっかり飲みきることを指導します。これにより、リウマチ熱の発症を抑えることができます。溶連菌感染後急性糸球体腎炎に注意 奥村雪男溶連菌感染から1~3週(平均10日)で溶連菌感染後急性糸球体腎炎を生じる場合があります。これは抗菌薬服用による予防効果がありません。患者さんには「おしっこに赤い色がついたり、おしっこの量や回数が減ったり、まぶたや腕が腫れたりすることがあれば医師に相談してください」と伝えます。下痢や発疹の可能性 中西剛明アモキシシリンにより下痢をする可能性を伝え、血液が混じっていなければ心配しなくて良いことを伝えます。溶連菌ならば治療中に発疹が出るかもしれません。薬剤性か溶連菌が原因かはっきりさせるため、面倒でも念のため受診するように伝えます。何事もなければ溶連菌感染後急性糸球体腎炎の予防のためにもアモキシシリンを10日間きちんと飲みきるように指導します。服薬以外の解熱処置方法 中堅薬剤師アセトアミノフェンは本人が辛そうなら使えばいいですが、安易な使用は控えるよう伝えます。解熱する目的は、あくまで本人の負担軽減のため。水分摂取や腋下や首元、鼡径部などのクーリングを優先するよう説明します。再診の助言 柏木紀久「アモキシシリンは溶連菌に効くお薬です。2~3日で症状が治まっても飲みきるようにしてください。飲みにくければ小分けにしたり、アイスなどに混ぜてもいいです。トラネキサム酸とカルボシステインは喉の症状がある間は服用してください。アセトアミノフェンは熱が高く、ぐったりしているような場合に服用、咽頭痛が辛いなら熱が高くなくても服用できます」と説明します。また、2週間後位に再診するよう言われていると思うので「きちんと溶連菌がいなくなっているか、他の病気(リウマチ熱や溶連菌感染後急性糸球体腎炎など)になっていないかも調べるので、すぐ良くなっても再診するようにしてください」と助言します。こまめな水分補給と服薬に関する助言 ふな3特に発熱中はこまめにしっかり水分補給をすること食欲がない、咽頭痛がひどくて食事が摂れない場合は、空腹で服用しても構わないこと粉薬が飲みにくかったり、飲むのを嫌がる場合には、アイスクリームなどに混ぜると飲みやすくなること(保育園児であれば)保育園の登園は、医師の指示に従うこと。指示がなければ、服薬後2~3日経過し、症状が改善すれば登園可能と考えられるが、通園先で治癒証明などが必要か確認すること後編では、本症例の疑義照会をする/しない 理由を聞きます。1)国立感染症研究所感染症情報センター. A群溶血性レンサ球菌咽頭炎とは. NIID国立感染症研究所.2)西本幸弘ら. 感染症により誘発される免疫疾患. 新領域別症候群25 感染症症候群(第2版)下. 2013: 742-748.3)(独)医薬品医療機器総合機構". ピボキシル基を有する抗菌薬投与による小児等の重篤な低カルニチン血症と低血糖について. "独立行政法人 医薬品医療機器総合機構.

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救急ヘリ搬送中の出血性ショックの外傷患者、血漿輸血は有効か/NEJM

 外傷による出血性ショックのリスクがある患者に対し、病院到着前に解凍した血漿輸血をすることで標準蘇生処置と比較し、安全性の問題を伴うことなく病院到着時のプロトロンビン時間比が改善し、30日死亡率も低下した。米国・ピッツバーグ大学医療センターのJason L. Sperry氏らが、救急搬送中の解凍血漿輸血の有効性と安全性を検証した第III相優越性試験「PAMPer(Prehospital Air Medical Plasma)試験」の結果を報告した。外傷患者では、病院到着前に標準的な蘇生処置に加え血漿を輸血することで、出血やショックによる合併症リスクを軽減できる可能性がある。しかし、これまで大規模臨床試験による検討は行われていなかった。NEJM誌2018年7月26日号掲載の報告。救急ヘリコプターで搬送中の血漿輸血の有効性を30日死亡率で評価 PAMPer試験は、出血性ショックのリスクがある外傷患者を対象に、病院到着前の解凍血漿輸血の有効性と安全性を検証する、第III相の多施設共同プラグマティッククラスター無作為化優越性試験であった。航空医療基地を、ブロックランダム化法を用いて1ヵ月ごとに解凍血漿輸血群と対照群に割り付け、それぞれ救急ヘリコプターで外傷センターへ患者を搬送中に、解凍しておいた血漿を輸血または標準的な蘇生処置を行った。主要評価項目は、30日死亡率であった。 2014年5月~2017年10月に登録され解析対象となった患者は501例で、230例が解凍血漿輸血を、271例が標準的な蘇生処置を受けた。30日死亡率は血漿群23%、対照群33%で、血漿群で有意に低下 30日死亡率は、解凍血漿輸血群が対照群より有意に低かった(23.2% vs.33.0%、群間差:-9.8ポイント、95%信頼区間[CI]:-18.6~-1.0%、p=0.03)。事前に規定した9つのサブグループで同様の治療効果が確認された(異質性のχ2検定:12.21、p=0.79)。Kaplan-Meier曲線では、無作為化3時間後という早期に両群が分離しはじめ、無作為化30日後まで持続した(log-rank χ2検定:5.70、p=0.02)。 外傷センター到着後の患者のプロトロンビン時間比中央値は、解凍血漿輸血群が対照群より低値であった(1.2[四分位範囲:1.1~1.4] vs.1.3[同:1.1~1.6]、p<0.001)。多臓器不全、急性肺損傷・急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、院内感染、アレルギー/輸血関連反応については、両群間で有意差はなかった。 なお、著者は研究の限界として、解凍血漿の保存可能期間が短く利用に制限があり盲検化できないこと、外傷センター到着前に受けた治療の違いによってバイアスが生じる可能性があることなどを挙げている。

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都市部救急搬送中の出血性ショックの外傷患者、血漿輸血は有効か/Lancet

 出血性ショックの外傷患者を、都市部のレベル1外傷センターへ救急車で搬送中、病院到着前に血漿輸血を行っても生命予後は改善しなかった。米国・コロラド大学デンバー校のHunter B. Moore氏らが、救急車で搬送中の血漿輸血の有用性を検証したプラグマティック無作為化試験「COMBAT(Control of Major Bleeding After Trauma Trial)試験」の結果を報告した。血漿は外傷後の止血重視輸血法(haemostatic resuscitation)に不可欠であるが、投与のタイミングについては議論が続いていた。著者は、「血液製剤は、搬送時間が長くかかるような環境においては有益かもしれないが、外傷センターまでの距離が短い都市部においては経済的負担を考慮すると妥当とはいえないだろう」とまとめている。Lancet誌オンライン版2018年7月19日号掲載の報告。救急車で搬送中の血漿輸血の有効性を28日死亡率で評価 COMBAT試験は、デンバー健康医療センター(DHMC)で実施された。出血性ショック状態(収縮期血圧≦70mmHgまたは71~90mmHg+脈拍数≧108回/分)にある外傷の連続症例を、訓練を受けた救急隊員が外傷現場でその適格性について評価し、適格患者は血漿輸血を受ける血漿群または生理食塩水の投与を受ける対照群に、無作為に割り付けられた。無作為化は、DHMCに拠点を置く33台の全救急車に、密封された保冷バッグを各々始業前に先行載荷することで行われた。 保冷バッグに凍結血漿2単位が入っていた場合は、救急車で解凍し、投与を行った。保冷バッグにダミーの凍結水が入っていた場合は、生理食塩水が投与された。 主要評価項目は外傷後28日死亡率で、解析はas-treated集団とintention-to-treat集団で実施した。28日死亡率は血漿群15%、対照群10%で有意差なし 2014年4月1日~2017年3月31日に、144例が血漿群と対照群に割り付けられた。as-treated解析の適格患者は125例(血漿群65例、対照群60例)で、年齢中央値は33歳(IQR:25~47)、新外傷重症度スコアの中央値は27(10~38)であった。 70例(56%)が外傷後6時間以内に輸血を要した。両群の患者背景は類似しており、搬送時間中央値も同程度であった(血漿群19分[IQR:16~23]vs.対照群16分[14~22])。 28日死亡率は、両群で有意差が確認されなかった(血漿群15% vs.対照群10%、p=0.37)。intention-to-treat解析(144例)において、安全性転帰や有害事象に両群で差はなかった。 なお、これらの解析結果に基づき、有効性が認められないことから、本研究は144例を登録後に中止となっている。

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PBCに対するベザフィブラートの有用性がフランスで証明された(解説:上村直実氏)-876

 原発性胆汁性胆管炎(PBC)は、原因不明の胆管に対する自己免疫疾患で国の特定疾患に指定されており、現在、日本における患者数は5〜6万人で軽症の症例が増加している。男女比は約1:7であり、50~60歳の中年以降の女性に最も多くみられる疾患である。 PBCに対する根治的な治療法は確立しておらず、薬物療法が奏効せずに顕著な黄疸を伴う肝硬変へと進展して肝不全状態に至った場合に肝移植が考慮される。薬物療法に関しては1980年代から使用されているウルソデオキシコール酸(UDCA)が肝硬変への進展を遅くする成績を有して一定の評価を得ているが、UDCAが無効な患者に対して有効な薬剤に関するエビデンスはなかった。 今回NEJM誌に掲載された論文では、UDCAで効果不十分な患者100例を対象としてフランスで施行されたRCTの結果、ベザフィブラート併用群はプラセボと比較して、生化学的完全奏効(総ビリルビン、ALP、AST、アルブミンがいずれも正常値かつプロトロンビン指数が正常値を示す場合)が有意に高率であった。すなわち、24ヵ月後の完全奏効率はプラセボ群では皆無であったのに対して併用群31%であり、患者さんに勇気を与えるものである。なお、リスクに関しては有害事象として腎機能に対する悪影響が懸念されると考察されている。 高脂血症に使用されているベザフィブラートがPBCに対して有用である可能性については20年以上前に日本から報告1,2)されていた。PBC診療ガイドラインの2017年改定版では、UDCA無効例に対してベザフィブラートの使用を検討する旨が明記されている。すなわち、古くからある薬剤の意外な有用性に関して日本から発信された治療法がフランスで施行されたRCTにより証明されたものである。PBCは長期経過が重要な疾患であるので、今後、長期的な有用性と安全性に関するエビデンスはなんとしても日本から発信してもらいたいものである。さらにベザフィブラートが有効である患者を抽出可能な宿主因子を探求することも重要である3)。

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ウルソデオキシコール酸無効のPBCにベザフィブラートの追加投与/NEJM

 ウルソデオキシコール酸治療で効果不十分な原発性胆汁性胆管炎(PBC)の患者に対し、ベザフィブラートの追加投与はプラセボ追加投与と比較して、生化学的完全奏効率が有意に高いことが、フランス・Assistance Publique-Hopitaux de Paris(APHP)のChristophe Corpechot氏らによる第III相の二重盲検プラセボ対照無作為化試験の結果、示された。ウルソデオキシコール酸治療で効果不十分なPBC患者は、病勢進行のリスクが高いが、PPAR(peroxisome proliferator-activated receptors)アゴニストのフィブラート系薬を併用することでベネフィットがもたらされる可能性が示唆されていた。NEJM誌2018年6月7日号掲載の報告。ウルソデオキシコール酸治療が効果不十分のPBC患者にベザフィブラートを投与 試験は、ウルソデオキシコール酸治療が効果不十分であるとParis 2基準(血清中ALPまたはAST値が正常上限値の1.5倍超、または総ビリルビン値が異常値を示すなど)に基づき確認されたPBC患者100例を対象に、24ヵ月間にわたり行われた。被験者は無作為に2群に割り付けられ、ウルソデオキシコール酸治療は継続したまま、ベザフィブラートを400mg/日(50例)、またはプラセボ(50例)を投与された。 主要評価項目は、24ヵ月時点で評価した生化学的完全奏効(総ビリルビン、ALP、AST、アルブミンがいずれも正常値、かつプロトロンビン指数[プロトロンビン時間の派生尺度]が正常値を示す場合と定義)であった。PBC患者の生化学的完全奏効率、ベザフィブラート併用群31% vs.プラセボ0% 24ヵ月時点で生化学的完全奏効が認められたPBC患者は、ベザフィブラート併用群31%、プラセボ群0%であった(群間差:31ポイント、95%信頼区間[CI]:10~50、p<0.001)。また、ALP正常値であった患者は、ベザフィブラート併用群67%、プラセボ群2%であった。掻痒、疲労感、非侵襲的評価(肝硬度やELF[Enhanced Liver Fibrosis]スコアなど)による肝線維化の変化に関する結果も、主要評価項目の結果と一致していた。 ベザフィブラート併用群、プラセボ群とも2例のPBC患者が、末期肝疾患から合併症を呈した。 クレアチニン値のベースラインからの変化は、ベザフィブラート併用群は5%上昇、プラセボ群は3%低下であった。筋痛は、ベザフィブラート併用群20%、プラセボ群10%でみられた。

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第4回 施設内でオペ!流血あり(>_

在宅訪問専任薬剤師のはらこし なみです。褥瘡の外科処置が目の前で・・・!高齢者専用住宅で外科的処置を経験しました...。訪問医のA先生は麻酔科出身。外科的処置も慣れていらっしゃいます。褥瘡の処置+デブリードマン(感染、壊死組織を除去し創を清浄化する)を、その場で行います。「はい、デブリするよ!」麻酔なしで痛くないのだろうか・・・。患者さんは普通の顔しています。新聞紙敷いて、ガーゼ敷いて、「はい、消毒」「はい、メス」。ザクザク皮膚を切っていきます。出血する人もいれば、そうでない人も・・・。(は~終わった。)最近、外科的な褥瘡の処置には慣れてきました。最初の頃はオロオロして見ていられませんでした。次のお部屋・・・足の親指の腫れに外用抗菌薬で様子を見ていた患者さんにオペ!足の親指が腫れて、フロモックス®錠+ゲンタマイシン®軟膏で様子を見ていた患者さんが、一向に良くなりません。点滴は嫌だとおっしゃるので、内服+外用で対応していたのですが、爪の下に膿が溜まっている様子。A先生:こりゃ~切ったほうが早いかな。私:き、切るって?どこを?(私は患者さんと同じ反応・・・汗)A先生:ん?指だよ。爪とっちゃったほうがいいよ私:爪を剥ぐってことですか?(無理です!無理です!)と思いきや、患者さんは意外に、「それでよくなるん?痛くないん?(いやいやいや、痛いだろ~!)A先生:麻酔するし大丈夫。とりあえず爪は残して下から膿み出そう!看護師さんがちゃちゃっと準備し、キシロカイン®注登場。アンプルにシリンジ。「麻酔の注射がちょっと痛いけど・・」。チューとシリンジに吸引して、足の指に何箇所も刺す。爪の周りに6箇所くらい。(ああ、だめ~!あれ?でも、最近注射針が見られるようになったかも)患者さんは口を押さえて我慢。そして、注射が終わってすぐに「消毒・メス!」爪の周りをザクザク切っていく。ひえ~血だらけ・・・どんどん下のガーゼは真っ赤になり「ガーゼだして!」。看護師さんは足を持って補助しているし、ガーゼを出すのは...私ですか!(はい、はい、はい、はい・・・ドキドキドキドキ)処置を見ながら、患者さんに痛くないですか?と聞くと、全然大丈夫と。すごいな~麻酔って。あんなにすぐ効果が出るのかあ。「はい、おしまい。あとは圧迫止血して!」看護師さんに代わり、先生はグローブを取る。お~、ドラマみたいだ。いや~現場ってすごい!先生、看護師さんてすごい!そして、やっぱり血は怖い。この頻脈・・・ケアマネさんに伝達しているときも続いていました。

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第2回 意識障害 その2 意識障害の具体的なアプローチ 10’s rule【救急診療の基礎知識】

72歳男性の意識障害:典型的なあの疾患の症例72歳男性。友人と食事中に、椅子から崩れるようにして倒れた。友人が呼び掛けると開眼はあるものの、反応が乏しく救急車を要請した。救急隊到着時、失語、右上下肢の麻痺を認め、脳卒中選定で当院へ要請があった。救急隊接触時のバイタルサインは以下のとおり。どのようにアプローチするべきだろうか?●搬送時のバイタルサイン意識:3/JCS、E4V2M5/GCS血圧:188/102mmHg 脈拍:98回/分(不整) 呼吸:18回/分SpO2:95%(RA) 体温:36.2℃ 瞳孔:3/3mm+/+意識障害のアプローチ意識障害は非常にコモンな症候であり、救急外来ではもちろんのこと、その他一般の外来であってもしばしば遭遇します。発熱や腹痛など他の症候で来院した患者であっても、意識障害を認める場合には必ずプロブレムリストに挙げて鑑別をする癖をもちましょう。意識はバイタルサインの中でも呼吸数と並んで非常に重要なバイタルサインであるばかりでなく、軽視されがちなバイタルサインの1つです。何となくおかしいというのも立派な意識障害でしたね。救急の現場では、人材や検査などの資源が限られるだけでなく、早期に判断することが必要です。じっくり考えている時間がないのです。そのため、意識障害、意識消失、ショックなどの頻度や緊急性が高い症候に関しては、症候ごとの軸となるアプローチ法を身に付けておく必要があります。もちろん、経験を重ね、最短距離でベストなアプローチをとることができれば良いですが、さまざまな制約がある場面では難しいものです。みなさんも意識障害患者を診る際に手順はあると思うのですが、まだアプローチ方法が確立していない、もしくは自身のアプローチ方法に自信がない方は参考にしてみてください。アプローチ方法の確立:10’s Rule1)私は表1の様な手順で意識障害患者に対応しています。坂本originalなものではありません。ごく当たり前のアプローチです。ですが、この当たり前のアプローチが意外と確立されておらず、しばしば診断が遅れてしまっている事例が少なくありません。「低血糖を否定する前に頭部CTを撮影」「髄膜炎を見逃してしまった」「飲酒患者の原因をアルコール中毒以外に考えなかった」などなど、みなさんも経験があるのではないでしょうか。画像を拡大する●Rule1 ABCの安定が最優先!意識障害であろうとなかろうと、バイタルサインの異常は早期に察知し、介入する必要があります。原因がわかっても救命できなければ意味がありません。バイタルサインでは、血圧や脈拍も重要ですが、呼吸数を意識する癖を持つと重症患者のトリアージに有効です。頻呼吸や徐呼吸、死戦期呼吸は要注意です。心停止患者に対するアプローチにおいても、反応を確認した後にさらに確認するバイタルサインは呼吸です。反応がなく、呼吸が正常でなければ胸骨圧迫開始でしたね。今後取り上げる予定の敗血症の診断基準に用いる「quick SOFA(qSOFA)」にも、意識、呼吸が含まれています。「意識障害患者ではまず『呼吸』に着目」、これを意識しておきましょう。気管挿管の適応血圧が低ければ輸液、場合によっては輸血、昇圧剤や止血処置が必要です。C(Circulation)の異常は、血圧や脈拍など、モニターに表示される数値で把握できるため、誰もが異変に気付き、対応することは難しくありません。それに対して、A(Airway)、B(Breathing)に対しては、SpO2のみで判断しがちですが、そうではありません。SpO2が95%と保たれていても、前述のとおり、呼吸回数が多い場合、換気が不十分な場合(CO2の貯留が認められる場合)、重度の意識障害を認める場合、ショックの場合には、確実な気道確保のために気管挿管が必要です。消化管出血に伴う出血性ショックでは、緊急上部内視鏡を行うこともありますが、その際にはCの改善に従事できるように、気管挿管を行い、AとBは安定させて内視鏡処置に専念する必要性を考える癖を持つようにしましょう。緊急内視鏡症例全例に気管挿管を行うわけではありませんが、SpO2が保たれているからといって内視鏡を行い、再吐血や不穏による誤嚥などによってAとBの異常が起こりうることは知っておきましょう。●Rule2 Vital signs、病歴、身体所見が超重要! 外傷検索、AMPLE聴取も忘れずに!症例の患者は、突然発症の右上下肢麻痺であり、誰もが脳卒中を考えるでしょう。それではvital signsは脳卒中に矛盾ないでしょうか。脳卒中に代表される頭蓋内疾患による意識障害では、通常血圧は高くなります(表2)2)。これは、脳卒中に伴う脳圧の亢進に対して、体血圧を上昇させ脳血流を維持しようとする生体の反応によるものです。つまり、脳卒中様症状を認めた場合に、血圧が高ければ「脳卒中らしい」ということです。さらに瞳孔の左右差や共同偏視を認めれば、より疑いは強くなります。画像を拡大する頸部の診察を忘れずに!意識障害患者は、「路上で倒れていた」「卒倒した」などの病歴から外傷を伴うことが少なくありません。その際、頭部外傷は気にすることはできても、頸部の病変を見逃してしまうことがあります。頸椎損傷など、頸の外傷は不用意な頸部の観察で症状を悪化させてしまうこともあるため、後頸部の圧痛は必ず確認すること、また意識障害のために評価が困難な場合には否定されるまで頸を保護するようにしましょう。画像を拡大する意識障害の鑑別では、既往歴や内服薬は大きく影響します。糖尿病治療中であれば低血糖や高血糖、心房細動の既往があれば心原性脳塞栓症、肝硬変を認めれば肝性脳症などなど。また、内服薬の影響は常に考え、お薬手帳を確認するだけでなく、漢方やサプリメント、家族や友人の薬を内服していないかまで確認しましょう3)。●Rule3 鑑別疾患の基本をmasterせよ!救急外来など初診時には、(1)緊急性、(2)簡便性、(3)検査前確率の3点に意識して鑑別を進めていきましょう。意識障害の原因はAIUEOTIPS(表4)です。表4はCarpenterの分類に大動脈解離(Aortic Dissection)、ビタミン欠乏(Supplement)を追加しています。頭に入れておきましょう。画像を拡大する●Rule4 意識障害と意識消失を明確に区別せよ!意識障害ではなく意識消失(失神や痙攣)の場合には、鑑別診断が異なるためアプローチが異なります。これは、今後のシリーズで詳細を述べる予定です。ここでは1つだけおさえておきましょう。それは、意識状態は「普段と比較する」ということです。高齢者が多いわが国では、認知症や脳卒中後の影響で普段から意思疎通が困難な場合も少なくありません。必ず普段の意識状態を知る人からの情報を確認し、意識障害の有無を把握しましょう。前述の「Rule4つ」は順番というよりも同時に確認していきます。かかりつけの患者さんであれば、来院前に内服薬や既往を確認しつつ、病歴から◯◯らしいかを意識しておきましょう。ここで、実際に前掲の症例を考えてみましょう。突然発症の右上下肢麻痺であり、3/JCSと明らかな意識障害を認めます(普段は見当識障害など特記異常はないことを確認)。血圧が普段と比較し高く、脈拍も心房細動を示唆する不整を認めます。ここまでの情報がそろえば、この患者さんの診断は脳卒中、とくに左大脳半球領域の脳梗塞で間違いなしですね?!実際にこの症例では、頭部CT、MRIとMRAを撮影したところ左中大脳動脈領域の急性期心原性脳塞栓症でした。診断は容易に思えるかもしれませんが、迅速かつ正確な診断を限られた時間の中で行うことは決して簡単ではありません。次回は、10’s Ruleの後半を、陥りやすいpitfallsを交えながら解説します。お楽しみに!1)坂本壮. 救急外来 ただいま診断中. 中外医学社;2015.2)Ikeda M, et al. BMJ. 2002;325:800.3)坂本壮ほか. 月刊薬事. 2017;59:148-156.コラム(2) 相談できるか否か、それが問題だ!「報告・連絡・相談(ほう・れん・そう)」が大事! この単語はみなさん聞いたことがあると思います。何か困ったことやトラブルに巻き込まれそうになったときは、自身で抱え込まずに、上司や同僚などに声をかけ、対応するのが良いことは誰もが納得するところです。それでは、この3つのうち最も大切なのはどれでしょうか。すべて大事なのですが、とくに「相談」は大事です。報告や連絡は事後であることが多いのに対して、相談はまさに困っているときにできるからです。言われてみると当たり前ですが、学年が上がるにつれて、また忙しくなるにつれて相談せずに自己解決し、後で後悔してしまうことが多いのではないでしょうか。「こんなことで相談したら情けないか…」「まぁ大丈夫だろう」「あの先生に前に相談したときに怒られたし…」など理由は多々あるかもしれませんが、医師の役目は患者さんの症状の改善であって、自分の評価を上げることではありません。原因検索や対応に悩んだら相談すること、指導医など相談される立場の医師は、相談されやすい環境作り、振る舞いを意識しましょう(私もこの部分は実践できているとは言えず、書きながら反省しています)。(次回は6月27日の予定)

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バッド・キアリ症候群〔BCS:Budd-Chiari Syndrome〕

1 疾患概要バッド・キアリ症候群(Budd-Chiari Syndrome:BCS)とは、肝静脈の主幹あるいは肝部下大静脈の閉塞や狭窄により門脈圧亢進症に至る症候群をいう。わが国では両者を合併している病態が多い。重症度に応じ易出血性食道・胃静脈瘤、異所性静脈瘤、門脈圧亢進症性胃腸症、腹水、肝性脳症、出血傾向、脾腫、貧血、肝機能障害、下腿浮腫、下肢静脈瘤、胸腹壁の上行性皮下静脈怒張などの症候を示す1)。■ 概念・定義肝静脈の主幹あるいは肝部下大静脈の閉塞や狭窄により門脈圧亢進症に至る症候群。■ 疫学2004年の年間受療患者数(有病者数)の推定値は、190~360人である(2005年全国疫学調査)。男女比は約1:0.7とやや男性に多い。確定診断時の年齢は、20~30代にピークを認め、平均は約42歳である2)。2013年の門脈血行異常症に関する定点モニタリング調査では、発症時平均年齢が32.2歳、診断時平均年齢が44.7歳であった3)。■ 病因本症の病因は明らかでない例が多く、わが国では肝部下大静脈膜様閉塞例が多い。肝部下大静脈の膜様閉塞や肝静脈起始部の限局した狭窄や閉塞例は アジア、アフリカ地域で多く、欧米では少ない。発生は、アランチウス静脈管の異常をもとに発症するとする先天的血管形成異常説が考えられてきた。最近では、本症の発症が中高年以降で多いこと、膜様構造や肝静脈起始部の狭窄や閉塞が血栓とその器質化によって、その発生が説明できることから後天的な血栓説も考えられている。これに対して欧米では、肝静脈閉塞の多くは基礎疾患を有することが多い。基礎疾患としては、血液疾患(真性多血症、発作性夜間血色素尿症、骨髄線維症)、経口避妊薬の使用、妊娠出産、腹腔内感染、血管炎(ベーチェット病、全身性エリテマトーデス)、血液凝固異常(アンチトロンビンIII欠損症、protein C欠損症)などが挙げられる。多くは発症時期が不明で慢性の経過(アジアに多い)をたどり、うっ血性肝硬変に至ることもあるが、急性閉塞や狭窄により急性症状を呈する急性期のBCS(欧米に多い)もみられる。アジアでは下大静脈の閉塞が多く、欧米では肝静脈閉塞が多い。分類として、原発性BCSと続発性BCSとがある。原発性BCSの病因はいまだ不明であるが、血栓、血管形成異常、血液凝固異常、骨髄増殖性疾患の関与が疑われている。続発性BCSを来すものとしては肝腫瘍などがある。■ 症状BCSは発症形式により急性型と慢性型に分けられる。急性型は一般に予後不良であり、腹痛、嘔吐、急速な肝腫大および腹水にて発症し、1~4週間で肝不全により死の転帰をたどる重篤な疾患であるが、わが国ではきわめてまれである。一方、慢性型は80%を占め、多くの場合は無症状に発症し、次第に下腿浮腫、腹水、腹壁皮下静脈怒張、食道・胃静脈瘤を認める。重症度に応じ易出血性食道・胃静脈瘤、異所性静脈瘤、門脈圧亢進症性胃腸症、腹水、肝性脳症、出血傾向、脾腫、貧血、肝機能障害、下腿浮腫、下肢静脈瘤、胸腹壁の上行性皮下静脈怒張などの症候を示す3)。■ 分類1)病型杉浦らは本症の病型を以下の4つに分類している(図1)4)。図1 BCSの病型画像を拡大する(文献4より引用改変)I型:横隔膜直下の肝部下大静脈の膜様閉塞例、このうち肝静脈の一部が開存する場合をIa、すべて閉塞している場合をIbII型:下大静脈の1/2から数椎体にわたる完全閉塞例III型:膜様閉塞に肝部下大静脈全長の狭窄を伴う例IV型:肝静脈のみの閉塞例出現頻度は各々34.4%、11.5%、26.0%、7.0%、5.1%と報告がある。2)発症形式発症形式により急性型と慢性型に分けられる。上記の症状でも既述したが、急性型は一般に予後不良であり、腹痛、嘔吐、急速な肝腫大および腹水にて発症し、1~4週間で肝不全により死の転帰をたどる重篤な疾患であるが、わが国ではきわめてまれである。一方、慢性型は80%を占め、多くの場合は無症状に発症し、次第に下腿浮腫、腹水、腹壁皮下静脈怒張、食道・胃静脈瘤を認める。わが国においては慢性型が典型例として考えられている。■ 予後慢性の経過をとる場合、うっ血性肝硬変に至る。また、病状が進行すると肝細胞がんを合併することがある。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 診断基準本症は症候群として認識され、また病期により病態が異なることから一般検査所見、画像検査所見、病理検査所見によって総合的に診断されるべきである。確定診断は、造影CTや肝静脈造影による下大静脈・肝静脈閉塞(狭窄)と、肝臓の病理組織学的所見に裏付けされることが望ましい。1)一般検査所見血液検査:1つ以上の血球成分の減少を示す。肝機能検査:正常から高度異常まで重症になるにしたがい、障害度が変化する。内視鏡検査:しばしば上部消化管の静脈瘤を認める。門脈圧亢進症性胃腸症や十二指腸、胆管周囲、下部消化管などにいわゆる異所性静脈瘤を認めることがある。2)画像検査所見(1)超音波、CT、MRI、腹腔鏡検査肝静脈主幹あるいは肝部下大静脈の閉塞や狭窄が認められる(図2)。超音波ドプラ検査では肝静脈主幹や肝部下大静脈流ないし乱流が見られることがあり、また、肝静脈血流波形は平坦化あるいは欠如することがある。脾臓の腫大を認める。肝臓のうっ血性腫大を認める。とくに尾状葉の腫大が著しい。肝硬変に至れば、肝萎縮となることもある。図2 BCSの腹部造影CT(門脈相)像画像を拡大する2A:水平断、2B:冠状断、2C:矢状断。肝部レベルで下大静脈が高度狭窄している(矢印)。肝静脈の3主幹および分枝も閉塞し、造影されない。肝内は粗雑化し、硬変様に変化し、肝表に腹水も見られる。また、肝内に腫瘍性病変も出現している(矢頭)。(2)下大静脈、肝静脈造影および圧測定肝静脈主幹あるいは肝部下大静脈の閉塞や狭窄を認める(図3)。肝部下大静脈閉塞の形態は膜様閉塞から広範な閉塞まで各種存在する。また、同時に上行腰静脈、奇静脈、半奇静脈などの側副血行路が造影されることが多い。著明な肝静脈枝相互間吻合を認める。肝部下大静脈圧は上昇し、肝静脈圧や閉塞肝静脈圧も上昇する。図3 BCSの下大静脈造影像画像を拡大する右大腿静脈からカテーテルを入れて造影した。肝部下大静脈の一部分が完全に狭窄化し、血流がほとんど途絶している。3)病理診断(1)肝臓の肉眼所見急性期のうっ血性肝腫大、慢性うっ血に伴う肝線維化、さらに進行するとうっ血性肝硬変となる。(2)肝臓の組織所見急性のうっ血では、肝小葉中心帯の類洞の拡張が見られ、うっ血が高度の場合には中心帯に壊死が生じる。うっ血が持続すると、肝小葉の逆転像(門脈域が中央に位置し、肝細胞集団がうっ血帯で囲まれた像)や中心帯領域に線維化が生じ、慢性うっ血性変化が見られる。さらに線維化が進行すると、主に中心帯を連結する架橋性線維化が見られ、線維性隔壁を形成し、肝硬変の所見を呈する。■ 重症度分類表に重症度分類を示す。画像を拡大する● 重症度重症度I:診断可能だが、所見は認めない。重症度II:所見を認めるものの、治療を要しない。重症度III:所見を認め、治療を要する。重症度IV:身体活動が制限され、介護も含めた治療を要する。重症度V:肝不全ないしは消化管出血を認め、集中治療を要する。● 付記1.食道・胃・異所性静脈瘤(+):静脈瘤を認めるが、易出血性ではない。(++):易出血性静脈瘤を認めるが、出血の既往がないもの。易出血性食道・胃静脈瘤とは『食道・胃静脈瘤内視鏡所見記載基準(日本門脈圧亢進症研究会)』『門脈圧亢進症取扱い規約(第3版、2013年)』に基づき、F2以上のもの、またはF因子に関係なく発赤所見を認めるもの。異所性静脈瘤の場合もこれに準じる。(+++):易出血性静脈瘤を認め、出血の既往を有するもの。異所性静脈瘤の場合もこれに準じる。2.門脈圧亢進所見(+):門脈圧亢進症性胃腸症、腹水、出血傾向、脾腫、貧血のうち1つもしくは複数認めるが、治療を必要としない。(++):上記所見のうち、治療を必要とするものを1つもしくは複数認める。3.身体活動制限(+):当該3疾患による身体活動制限はあるが歩行や身の回りのことはでき、日中の50%以上は起居している。(++):当該3疾患による身体活動制限のため介助を必要とし、日中の50%以上就床している。4.消化管出血(+):現在、活動性もしくは治療抵抗性の消化管出血を認める。5.肝不全(+):肝不全の徴候は、血清総ビリルビン値3mg/dL以上で肝性昏睡度(日本肝臓学会昏睡度分類、第12回犬山シンポジウム、1981)II度以上を目安とする。6.異所性静脈瘤門脈領域の中で食道・胃静脈瘤以外の部位、主として上・下腸間膜静脈領域に生じる静脈瘤をいう。すなわち胆管・十二指腸・空腸・回腸・結腸・直腸静脈瘤、および痔などである。7.門脈亢進症性胃腸症組織学的には、粘膜層・粘膜下層の血管の拡張・浮腫が主体であり、門脈圧亢進症性胃症と門脈圧亢進症性腸症に分類できる。門脈圧亢進症性胃症では、門脈圧亢進に伴う胃体上部を中心とした胃粘膜のモザイク様の浮腫性変化、点・斑状発赤、粘膜出血を呈する。門脈圧亢進症性腸症では、門脈圧亢進に伴う腸管粘膜に静脈瘤性病変と粘膜血管性病変を呈する。■ 鑑別診断特発性門脈圧亢進症、肝外門脈閉塞症、肝硬変との鑑別を要する。BCSは進行すれば肝硬変に至り鑑別困難になることが多いが、肝静脈や下大静脈の閉塞・狭窄の有無がポイントとなる。閉塞部(狭窄部)を開存させる治療で症状の著明な改善が望まれる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)肝静脈主幹あるいは肝部下大静脈の閉塞ないし狭窄に対しては臨床症状、閉塞・狭窄の病態に対応して、カテーテルによる開通術や拡張術、ステント留置あるいは閉塞・狭窄を直接解除する手術、もしくは閉塞・狭窄部上下の大静脈のシャント手術などを選択する。急性症例で、肝静脈末梢まで血栓閉塞している際には、肝切離し、切離面-右心房吻合術も選択肢となる。肝不全例に対しては、肝移植術を考慮する。門脈圧亢進の症候に対する治療法は以下のとおりである。■ 食道静脈瘤に対して1)食道静脈瘤破裂による出血中の症例では、一般的出血ショック対策、バルーンタンポナーデ法などで対症的に管理し、可及的速やかに内視鏡的硬化療法、内視鏡的静脈瘤結紮術などの内視鏡的治療を行う。上記治療によっても止血困難な場合は緊急手術も考慮する。2)一時止血が得られた症例では状態改善後、内視鏡的治療の継続、または待期手術、ないしはその併用療法を考慮する。3)未出血の症例では、食道内視鏡所見を参考にして内視鏡的治療、または予防手術、ないしはその併用療法を考慮する。4)単独手術療法としては、下部食道を離断し、脾摘術、下部食道・胃上部の血行遮断を加えた「直達手術」、または「選択的シャント手術」を考慮する。内視鏡的治療との併用手術療法としては、「脾摘術および下部食道・胃上部の血行遮断術(Hassab手術)」を考慮する。■ 胃静脈瘤に対して1)食道静脈瘤と連続して存在する噴門部の胃静脈瘤に対しては、上記の食道静脈瘤の治療に準じた治療によって対処する。2)孤立性胃静脈瘤破裂による出血中の症例では一般的出血ショック対策、バルーンタンポナーデ法などで対症的に管理し、可及的速やかに内視鏡的治療を行う。上記治療によっても止血困難な場合は、バルーン閉塞下逆行性経静脈的塞栓術(balloon-occluded retrograde transvenous obliteration:B-RTO)などの血管内治療や緊急手術も考慮する。3)一時止血が得られた症例では状態改善後、内視鏡的治療の継続、B-RTOなどの血管内治療、または待期手術(Hassab手術)を考慮する。4)未出血の症例では、胃内視鏡所見を参考にして内視鏡的治療、血管内治療、または予防手術を考慮する。5)手術方法としては「脾摘術および胃上部の血行遮断術(Hassab手術)」を考慮する。■ 異所性静脈瘤に対して1)異所性静脈瘤破裂による出血中の症例では、一般的出血ショック対策などで対症的に管理し、可及的速やかに内視鏡的治療を行う。 上記治療によっても止血困難な場合は、血管内治療や緊急手術を考慮する。2)一時止血が得られた症例では状態改善後、内視鏡的治療の継続、血管内治療、または待期手術を考慮する。3)未出血の症例では、内視鏡所見を参考にして内視鏡的治療、血管内治療、または予防手術を考慮する。■ 脾腫、脾機能亢進症に対して巨脾に合併する症状(疼痛、圧迫)が著しいとき、および脾腫が原因と考えられる高度の血球減少(血小板5×104以下、白血球3,000以下、赤血球300×104以下のいずれか1項目)で出血傾向などの合併症があり、内科的治療が難しい症例では、部分的脾動脈塞栓術(partial splenic embolization:PSE)ないし脾摘術を考慮する。4 今後の展望國吉 幸男氏(琉球大学大学院 医学研究科 胸部心臓血管外科学講座)らが行っている直達手術(senning手術)が根治手術として有名であり、好成績をおさめている5,6)。肝移植も有効なことが多いが、ドナーの問題などから、わが国ではあまり行われていない。しかし、根治的治療として今後の期待がかかった治療法といえる。外科治療に至るまでの間に、カテーテル治療による閉塞部拡張術やステント挿入術(経頸静脈的肝内門脈静脈短絡術)が行われることもあり、良好な効果を得ている。5 主たる診療科消化器内科、消化器外科、血管外科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」(厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業) バッド・キアリ症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Moriyasu F, et al. Hepatol Res. 2017;47:373-386.2)廣田良夫ほか. 2005年全国疫学調査. 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等克服研究事業「門脈血行異常に関する調査研究」平成25年度研究報告書;2013.3)廣田良夫ほか. 門脈血行異常症に関する定点モニタリングシステムの構築. 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等克服研究事業「門脈血行異常に関する調査研究」平成25年度研究報告書;2013.4)Okuda H, et al. J Hepatol. 1995;22:1-9.5)國吉幸男ほか, 日本心臓血管外科学会雑誌. 1991;20:919-921.6)Pasic M, et al. J Thorac Cardiovasc Surg. 1993;106:275-282.公開履歴初回2018年05月08日

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三正面作戦【Dr. 中島の 新・徒然草】(213)

二百十三の段 三正面作戦ある日の朝。出勤したばかりの私に脳外科の同僚から申し訳なさそうな声で電話がかかってきました。同僚「昨晩、外傷の人が搬入されまして」中島「ああ、左の急性硬膜下血腫の人? 確か術後に脳実質に血腫ができて、2回目の手術をした症例ね」同僚「正確には3回なんです」外傷の恐ろしいのは、止血機能の極端な悪化が時々みられることです。俗に「死んでも血が止まらない」といわれる現象で、おそらくは一次線溶が亢進してしまっているのでしょう。血がまったく固まりません。このような症例に遭遇すると、急性硬膜下血腫を除去すると脳内血腫が発生し、それを除去しても脳実質の別の部位に血腫ができてしまうという地獄絵図になってしまいます。同僚「さきほど瞳孔不同が出て、CTを撮ったらまた血腫ができていたんです」中島「あらら、そら大変やな」同僚「もう1回開ける必要があるんですけど、僕は血管吻合の予定手術が入っていまして。すみませんが、代わりに外傷の手術をしてもらえないでしょうか?」中島「もちろん」その日は朝から血管吻合の手術と頭蓋形成術が2列横並びで予定されていました。緊急手術が入るとなると、頭蓋形成術を後にして、先に外傷の手術をすれば何とか収まりがつきそうです。中島「じゃあ、頭蓋形成は外傷の後にするわけね」同僚「いや、吻合も頭蓋形成ももう入室してしまっているんです」中島「えええっ! ほんなら3列同時ってこと? 人手が足りんがな。まさか1人で手術ってわけじゃないよね」同僚「レジデントの〇〇先生と研修医の△△くんにも行かせます」実に前代未聞の三正面作戦!大変すぎる話ではありますが、私のミッションはとにかく自分の担当部分を確実に遂行することです。頭の中で手術の段取りを考えました。まずはトラネキサム酸投与で線溶亢進を止める。骨折線を避けつつ両側開頭に備えた3点ピン固定。あらかじめ右側開頭用の予定皮切線を入れておく。手術開始。左側の頭皮を縫合している糸を外して脳を露出。左硬膜下血腫と脳内血腫を除去。減圧により対側の薄い硬膜下血腫が増大するかも。閉頭前にエコーで対側血腫のサイズを確認。万一増大していたら、すぐに左側頭皮を閉創。いったん、手術中断。CT撮影は省略。3点ピンを外さず、その場で右側開頭をセッティング。手術再開。あらかじめ入れていた右側の予定皮切線を使って開頭。血腫除去。閉創して手術終了。CT撮影なしに対側開頭をするためには術野の脳表からのエコーで判断しなくてはなりません。画像の鮮明さでは劣るものの、CTを省略すれば30分は時間を稼ぐことができ、余計な労力も使わなくてすみます。頭の中で考えた段取りをレジデントや研修医だけでなく、麻酔科医や手洗いナース、外回りナースにも説明した上で、いざ開始。最初のうちこそ全く止まる気配を見せなかった血液が、トラネキサム酸の効果か、あるいは時間が味方したのか、次第に止まるようになりました。脳実質内の血腫を取っては止血、取っては止血。時々エコーをあてて対側血腫のサイズを確認しつつ、再び止血、ひたすら止血。幸いなことに今度こそ出血を止めることができました。しかし、エコーで見る対側血腫は確実に増大しています。果たして右側も開頭すべきか、ここでひくべきか?皆の視線が私に集まる中、厳かに宣言しました。中島「よっしゃ、今日はこの辺で勘弁しといたろか」結局、準備したことの3割も使わず手術はあっさり終わりました。うまく行くときというのはこんなものでしょう。心配された対側血腫もそれ以上は増大しませんでした。後はこの患者さんの回復力に期待するばかりです。それにしても長い1日でした。最後に1句嵐でも 準備万端 立ち向かえ

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抗血栓治療でPPAPは成立するか?(解説:香坂俊氏)-777

 動脈系血栓予防(冠動脈疾患など)に最適とされている薬剤はアスピリンである。静脈系血栓予防(深部静脈血栓や心房細動など)には長らくワルファリンが用いられてきた。では、冠動脈疾患に心房細動が合併したりして、その2つを一度に行わなければならないときはどうするか? 数年前までは何も考えずこの2剤を併用してきた。2016年の流行語にPPAP(PEN-PINAPPLE-APPLE-PEN:ペンパイナッポーアッポーペン)というものがあったが、まさに・動脈系血栓予防にはASPIRIN・静脈系血栓予防にはWARFARIN・それをくっつけASPIRIN-WARFARIN-APPLE-PENといった塩梅である(苦しいですが、年の瀬なので許してください)。 しかし冠動脈疾患の治療にステントが使われるようになると、インターベンション治療(PCI)を行った患者にはアスピリンに2剤目の抗血小板薬(クロピドグレルやプラスグレル)をかぶせなければならなくなった。いわゆるDAPT(Dual AntiPlatelet Therapy:抗血小板2剤併用療法)である。すると、例えばステント治療を行った心房細動患者にはDAPTに加えさらにワルファリンを投与することになり「ちょっと多いかもな」ということになる。これが杞憂でないことはWOESTという医師主導の臨床試験で立証され、3剤で行くよりもアスピリンを抜いた2剤(クロピドグレル+ワルファリン)のほうが出血イベントが半分程度になることがわかった(DOI)。 その後、ワルファリンの代替薬としてNOAC(Non-Vitamin K Oral Anticoagulant:非ビタミンK経口抗凝固薬)が使われる時代になり、メーカーがこうした臨床試験に協力してくれるようになった。そうした流れの中で初代NOACであるダビガトランを用いて行われたのがRE-DUAL PCI試験である(これより前にリバーロキサバンでPIONNEER AF-PCI試験が行われており[DOI、さらにアピキサバンでもAUGUSTUS試験が現在行われている)。 結果の詳細は別記事(CareNet該当記事参照)に譲るが、・ダビガトラン 150mg BID+P2Y12阻害薬単剤(2剤)・ダビガトラン 110mg BID+P2Y12阻害薬単剤(2剤)・ワルファリン+DAPT(3剤併用) の3群で比較され、WOESTとほぼ同様の結果が得られている。 掲載誌のEditorialにはこれまでの3つの試験(WOEST、PIONNEER、RE-DUAL)のメタ解析が掲載されているが、出血イベントに関する安全性はもちろんのこと(OR:0.49、95%CI:0.34~0.72)、2剤のほうが虚血イベント抑制に関しても有利でありそうだ(OR:0.80、95%CI:0.58~1.09)という結果が示されている。これは、出血に伴い血栓傾向が強まることを考え合わせると(以下の3つのメカニズムによる)首肯できる結果である。(1)抗血小板薬や抗凝固薬の中止を余儀なくされる(2)出血そのものが炎症反応を惹起する(3)輸血や止血手技でも同様に炎症反応が惹起される 昨今、効果に差を見出すのではなく(Efficacy Trial)、安全性やQOLの確保に重点をおいた減算型の臨床試験が多く行われているが、RE-DUALもその好例といえる(3剤から2剤に引いても安全ですよということを明示)。今後おそらくこの領域では、安易な足し算の発想(PPAP式?)で3剤併用が行われることは【圧倒的】に少なくなることが予想される。

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昔の日本人は偉かった!(解説:後藤信哉氏)-766

 第2次世界大戦後の荒廃の中でも、研究意欲を持ち続けた日本人研究者は多かった。岡本 彰祐・歌子ご夫妻は特筆されるべき存在である。線溶系に着目して彼らが開発した薬剤にトラネキサム酸がある。開発の経緯は『世界を動かす日本の薬』(岡本 彰祐 編著. 築地書館. 2001年)に詳しい。線溶を担うプラスミンの酵素機能を阻害する画期的薬剤である。筆者の世代の臨床医は、止血にアドナ・トランサミンを使うことが多かった。論理的には止血効果を期待できる薬剤であるためだ。日本は巨大企業が利益を独占するEvidence Based Medicineの論理に乗り遅れた。せっかくの薬剤もエビデンスがないとして広く使用されない現状にある。 英国人は視座が時間的に広い。Antithrombotic Trialists’ Collaboration、Cholesterol Treatment Trialists’ Collaborationにて過去の臨床データを徹底的に集めていることは、読者も広くご存じと思う。今回はAntifibrinolytic Trials Collaborationにて線溶阻害薬の臨床データを徹底して集めた。本研究は止血効果があると想定されたトラネキサム酸に、臨床的にも止血効果があることを40,138例ものメタ解析にて示した。 日本人の記憶は短いとされる。岡本 彰祐・歌子ご夫妻の御功績はトラネキサム酸にとどまらず、現在のNOACのもとになった選択的トロンビン阻害薬アルガトロバンの開発にも及ぶ。日本血栓止血学会では両先生の御功績を記念して岡本賞(Shosuke Award、Utako Award)の顕彰を始めた。こつこつ努力して素晴らしいものづくりをするが、宣伝が下手な日本人研究者の業績を拾い上げた英国は、大英帝国の余力を持った戦略国家である。NOACのみならずスタチンも日本の発明である。医学の世界における日本の貢献は特筆すべきである。あらためて「昔の日本人は偉かった!」

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急性重症出血、トラネキサム酸投与は3時間以内に/Lancet

 外傷性/分娩後出血死の多くは、出血が起きてから短時間で死に至っており、トラネキサム酸による抗線溶療法の開始がわずかでも遅れると、そのベネフィットは減少することを、英国・ロンドン大学衛生熱帯医学大学院のAngele Gayet-Ageron氏ら研究グループが、被験者4万138例のデータを包含したメタ解析の結果、明らかにした。結果を踏まえて著者は、「重症出血患者は、ただちに治療が開始されなければならない」と提言するとともに、「さらなる研究で、トラネキサム酸の作用機序の理解を深める必要がある」と述べている。抗線溶療法は、外傷性/分娩後出血死を減らすことが知られている。研究グループは、治療の遅れが抗線溶薬の効果に及ぼす影響を調べる検討を行った。Lancet誌オンライン版2017年11月7日号掲載の報告。治療ベネフィットについてメタ解析で評価 研究グループは、急性重症出血患者への抗線溶療法を評価した、1,000例以上参加の無作為化試験における被験者個人レベルのデータを用いてメタ解析を行った。MEDLINE、Embase、Cochrane Central Register of Controlled Trials(CENTRAL)、Web of Science、PubMed、Popline、WHO International Clinical Trials Registry Platformの検索から、1946年1月1日~2017年4月7日に行われた試験を特定した。 治療ベネフィットの主要尺度は、非出血死。治療の遅れが治療効果に及ぼす影響を調べるため、ロジスティック回帰モデルを用いて評価した。また、感度解析で測定誤差(誤分類)の影響を調べた。急性重症出血が始まって3時間で治療ベネフィットは消失 検索により、急性重症出血患者に対するトラネキサム酸投与を評価した2つの無作為化試験(外傷性出血患者対象の「CRASH-2試験」、分娩後出血患者対象の「WOMAN試験」)の被験者計4万138例のデータ(各試験2万127例、2万11例)を入手し解析を行った。 全体で死亡は3,558例、そのうち1,408例(40%)が出血死であった。 出血死は、発症後12時間以内の死亡が最も多かった(884/1,408例[63%])。分娩後出血死は、出産後2~3時間がピークであった。 全体で、トラネキサム酸投与が出血後の生存を有意に増大したことが確認された(オッズ比[OR]:1.20、95%信頼区間[CI]:1.08~1.33、p=0.001)。出血部位別による不均一性はみられなかった(交互作用p=0.7243)。 治療の遅れは治療ベネフィットを減少することが(p<0.0001)、一方で、即時治療は生存率を70%超増と有意に改善することが認められた(OR:1.72、95%CI:1.42~2.10、p<0.0001)。その後3時間まで、治療開始が15分遅れるごとに10%ずつ生存ベネフィットは減少し、3時間以降はベネフィットを確認できなかった。 トラネキサム酸投与に伴う血管閉塞性イベントの増大はみられず、出血部位別による不均一性はみられなかった(p=0.5956)。また、トラネキサム酸投与に伴う血管閉塞性イベントへの、治療の遅れの影響は認められなかった。

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「血友病周産期管理指針」の意義と狙い

 2017年11月2日、バイオベラティブ・ジャパン株式会社は、希少血液疾患の啓発事業の一環として、都内でメディアセミナーを開催した。セミナーでは、血友病に関連する周産期管理について、その背景と指針作成の目的などが語られた。血友病保因者妊婦の出産は、母体と新生児にリスク セミナーでは、講師に瀧 正志氏(聖マリアンナ医科大学 小児科学 特任教授)を迎え、「血友病周産期管理の重要性~血友病保因者妊婦・血友病新生児の出血回避に向けての取り組み~」をテーマにレクチャーが行われた。 一般的に新生児の頭蓋内出血は0.05%、血友病の頭部出血(頭蓋内外)は3.5~5.5%とされ、血友病および同保因者の母親からの出産では、リスクが高いことが知られている。 実際、瀧氏が自院で早期新生児の出血に関する検討を行ったところ、93例の血友病患者のうち13例で分娩に関連した出血があったという。その特徴として、全例が経腟分娩で、7例に吸引・鉗子分娩がなされていた。また、9例で赤血球輸血を行い、2例で重篤な神経学的後遺症を認め、1例で緊急硬膜下血種除去を行ったという1)。別の研究で血友病保因者である母体の状況をみてみると、凝固因子活性が非保因者(1.02 IU/mL)と比較して0.60 IU/mLと低く、手術後の相対危険度は保因者では高いとされる2)。 こうした状況を踏まえ、母体であるホモ接合体血友病の妊婦および保因者妊婦と、血友病新生児および保因者新生児の出血をできるだけ回避し、出血症状を伴う場合は早期に適切な治療を図る目的で、「ホモ接合体血友病妊婦および保因者妊婦の管理指針」と「血友病新生児および保因者新生児の管理指針」の2つからなる『エキスパートの意見に基づく血友病周産期管理指針 2017年版』が作成された。血友病患者、保因者の周産期における注意点を網羅 「ホモ接合体血友病妊婦および保因者妊婦の管理指針」では、主にヘテロ接合体保因者に関して記述され(ホモ接合体血友病は女性にまれ)、妊娠管理では産科、本症に詳しい内科医、小児科医、麻酔科医が連携し、集学的医療チームとしてケアに当たるべきであるとしている。また、妊娠中の予防的補充療法では、血友病Aは定期的な活性値測定のほか、必要により第VIII因子製剤の補充療法を行うこと、血友病Bでは第IX因子活性値の有意な上昇がみられない一部の保因者には第IX因子製剤の補充療法が必要だとされている。そのほか、妊娠中の血中モニタリング、分娩計画の立案(必要により紹介・移送)が必要とされ、分娩方法では経腟分娩の場合はできる限り自然分娩としながらも、胎児に血友病または保因者である可能性が排除できない場合は、吸引、鉗子、遷延分娩は避けることが望ましいとしている。帝王切開分娩への切り替えは、早期に判断する。とくに瀧氏は、私見としながら「予定帝王切開分娩」について言及し、「麻酔、出血量など母体への負担は増加するものの、血友病児の頭蓋内出血リスクの減少、止血管理の容易性、分娩スタッフのスケジュール対応の面からも考慮すべきだ」と示唆した。 分娩・産褥期の至適血中レベルについては、経腟分娩で血中第VIII因子、第IX因子活性値ともに50%以上維持(帝王切開では80%以上)が示され、この値を下回る場合は予防的補充療法の施行が記述されている。妊娠中のデスモプレシンの使用では、妊娠高血圧症候群合併例への使用は避けるべきとし、使用する場合は水分や電解質管理を慎重に行う必要があるとしている。血友病および保因者新生児のフォローを網羅 「血友病新生児および保因者新生児の管理指針」では、出生前の一般的な取り扱いとして、母体および新生児に出血リスクが増すような手技を最小限にするよう呼び掛けている。 新生児の血友病診断では、出生後に臍帯血を用い速やかに診断を行うとともに、第VIII因子、第IX因子の活性値を測定する。また、孤発例の見逃しを避けるために、疑いのある新生児のAPTTの測定、延長時には第VIII因子、第IX因子の活性値の測定も行うとしている。 血友病新生児の止血管理では、製剤投与中の凝固因子活性のモニタリングとインヒビター出現の有無の確認および、確定診断後に欠損または欠乏している凝固因子の製剤投与への切り替えが示されている。そして、出生後に脳内出血を臨床的に強く疑う場合は凝固因子製剤をただちに投与し、確定診断のために頭部超音波検査、脳MRIやCT検査を行う。 凝固因子製剤の予防投与は、自然分娩や帝王切開分娩では一般的に行わない。しかし、分娩外傷、吸引、鉗子分娩などのリスクの高い分娩では、診断後に短期間の予防投与を考慮し、早産児にも状況に応じて行うとしている。 血友病患児への予防接種については、原則として筋肉注射は避けるべきとし、ルーチンの予防接種の皮下注射は禁忌事項がない限り行うことが望ましいとしている。 最後に瀧氏は、本指針の目的を「血友病、血友病保因者の妊婦・新生児の出血をできる限り回避し、出血症状を伴う場合には早期に適切な止血治療を図ることにある」と繰り返すとともに、「血友病保因者は『ハイリスク妊婦である』という認識を医療従事者は共有し、周産期管理を行ってもらいたい」と期待を述べ、レクチャーを終えた。■参考1)長江千愛 ほか. 日産婦新生児血液. 2017;26:61-69.2)Plug I, et al. Blood. 2006;108:52-56.■関連記事希少疾病ライブラリ 血友病

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自分の舌を切り落とした男性【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第102回

自分の舌を切り落とした男性 いらすとやより使用 今日紹介する論文は、イターイ論文です。 Erdur B, et al.An unusual form of self-mutilation: tongue amputation with local anesthesia.Am J Emerg Med. 2006;24:625-628.自分の体を切断する症例報告は過去にも何度か紹介していますが、多くが精神科疾患によるものです。この症例は27歳の統合失調症の男性で、過去に陰部の切断の既往があります。今回は「舌を切れ…、おまえの舌を切れ…」という声が頭の中に鳴り響いたそうです。彼はその声の言うとおりに、ハサミで自分の舌の3分の1を切り落としました。そして、血がボトボトと滴った状態で、異変に気付いた家族が救急車を要請しました。しかし、ただ舌を切っただけにしては何か様子がおかしい。そう、切断された舌がみじん切りになっているではありませんか。彼は言いました。「私は病院で舌の形成ができないように、事前に麻酔薬を手に入れ、切断した舌をそこにあるハサミで丁寧にジョキジョキと切り刻んだんですよ」ちょ、ちょっと…な、なんてことを……! もう元通りに戻せねぇじゃねぇか…!担当した医師も、舌の再建は不可能と判断し、感染予防と止血に重点を置いて姑息的手術が行われました。その後、彼は精神科医によるアフターケアを受けたようです。それにしても「自分の体を切れ」という幻聴ほど恐ろしいものはありませんね。その矛先が他人に向かうようなことを想像したら、もっと恐ろしい。

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