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第123回 マジか…コーヒー店で遭遇したコロナ様症状有する“抗原検査で陰性”の人

先日、私はあるコーヒーチェーンの店舗にノートパソコンを持ち込んで仕事をしていた。電源のある席は窓際に位置する横一列のカウンター席。隣の席との間がアクリル板ならぬ、卵パック程度の薄さのプラスチックシートで区切られていた。私の隣には女性が座っていたが、その彼女がマスクを外した状態で時折軽い咳をする。私は気にしないふりをして実は気にしていた。「気にしないふり」を敢えてしていたのは、人によっては呼吸器感染症ではなくとも咳が出てしまう人もいるからだ。昨年、私がお世話になっている編集者が咳喘息と診断され、外出先でマスク越しに咳をしても周囲から白眼視されるのがつらいという話を聞いていた。そして私もごくまれにどうしても咳が出てしまうこともある。咳一つであまり神経質にはなりたくない。やせ我慢と言われようとも人にはそれぞれ事情があるのだからと、こうしたシーンでは努めて平静を装っている。仕事を始めて1時間半ぐらい経った時も隣にはその女性がいた。しかも数分おきに咳をしている。その彼女が突然スマートフォンを片手に話し始めた。「ああ、○○(人の名前)!うん、夕べさ38℃を超える熱が出てさ、すぐあの抗原検査キットっていうの? で検査したけど陰性だった。今朝はまだ37℃台だったけどお昼には37℃切ったんで、たぶん何でもない。もう平気。今日の夜は行けるよ」これを聞いた瞬間、私は凍り付いた。この状況下を考えれば、抗原検査とはまさに新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)で使う抗原定性検査(以下、抗原検査)に他ならない。もやはここで書くのは釈迦に説法だが、抗原検査の感度は発売当初よりも改善されたとはいえ、PCR検査よりは劣る。しかも、現時点でインターネット上では国による性能確認が行われていない研究用のものが購入できる。念のため記述しておくと、発売当初は陽性判定をそのまま確定診断として用いることができたが、陰性の場合はPCR検査による確定診断が必要だった。その後、発症2~9日以内の有症状者では、抗原検査キットとPCR検査の結果の一致率が高いことが確認されたため、該当する人で鼻咽頭拭い液による抗原検査の陰性でも確定診断が行えるようになっている。私が遭遇したこの女性がもし新型コロナだったと仮定したら検査をしたのは発症当日。この段階の陰性という結果は信頼性が担保されているとは言えない。この女性には悪いが私はすぐさま荷物を持って席を立ち、そこからかなり離れた電源のない席に慌てて移動した。この後、3日間、私は仕事場とするアパートにほぼこもりきりになり、自宅に戻った際もマスクを着用したまま過ごすことになった。この日から既に2週間弱が過ぎているが、私も家族もとくに異常はない。現在の第7波の感染拡大と発熱外来のひっ迫を受け、国はインターネットで医療用の認可を受けた抗原検査の販売を解禁する方針を明らかにしている。販売に当たっては薬剤師がメールなどで正しい使用法や陽性時の対応を説明することにはなっている。しかし、こうしたものはかなり薬剤師が徹底して説明したとしても、消費者は自分に都合の良い情報しか記憶に残さないものだ。そしてこの抗原検査も唾液ではなく鼻咽頭ぬぐい液の場合、消費者が自分で正確に検体を採取することができるかはかなり疑問である。少なくとも自分はできる自信があまりない。また、有症状者ならばまだしも、そうした人と濃厚接触者あるいはその疑いのある無症状者が抗原検査で陰性と判定された場合、人との接触を一時的に控え目にするなどの対策を取るだろうか? むしろ前述の女性のように安易に「セーフ」判定と思い込むのではないだろうか?「発熱外来の逼迫を避けるため」という目的で解禁される医療用抗原検査キットが逆に感染拡大傾向に拍車をかけてしまうのではないかと老婆心ながら危惧している。また、私はこのほかにも危惧していることがある。この第7波の影響で医療用の解熱鎮痛薬アセトアミノフェンが供給不安定な状態にあることは医療従事者ならご存じのはず。そして約2週間前にはこの余波でアセトアミノフェンの代替にもなる医療用のロキソニン、呼吸器症状の緩和に使うカルボシステインやトラネキサム酸も出荷調整中となった。さて、万が一の時に備えて、あるいは何らかの症状を感じてインターネットで抗原検査キットを購入する人は併せて解熱鎮痛薬も購入するだろうか? 私には彼らの多くは抗原検査キットのみを購入し、万が一陽性となった時に慌てふためくだけの姿が思い浮かぶ。販売時に説明を行った薬剤師が適切に相談に応じ、OTC医薬品のアセトアミノフェンやそのほかの解熱鎮痛薬の購入を勧める、あるいは直接配達するなどの対応が取れれば良いかもしれないが、平時から多忙な薬局に単価の安いOTC医薬品の配達などをお願いするというのは酷である。結局のところ、有症状者・無症状者を含め陽性となった人は医療機関に向かうだけではないだろうか? その結果、発熱外来などは逼迫し、アセトアミノフェンなどもさらに供給不安に陥ってしまうかもしれない。アセトアミノフェンと言えば、一般人も昨今の感染拡大や新型コロナワクチン接種後の発熱の緩和のために使用するようになり医療用の製品名「カロナール」として知っている人も増えてきた。しかし、こうした一般人はアセトアミノフェンを発熱患者だけでなく、がん性疼痛や高齢者では珍しくない変形性膝関節症や腰痛などの整形外科領域の症状でも使うメジャーな薬であるとはほとんど知らないだろう。先日、都内のある保険薬局の薬剤師と話していて、「すでに供給不安は現実になっていて、オピオイドと併用している患者では医師と相談しながら恐る恐るアセトアミノフェンを減量している」と聞かされ、私もその深刻度を改めて思い知った。この薬剤師によると、もし錠剤の供給が今以上に不足すれば、最悪は原末で提供しなければならなくなるという。がん性疼痛で使われるアセトアミノフェンの1日量は最大4,000mg。原末でこれだけの量を服用することになったら患者はどんなにつらいことだろうと思う。正直なところ、今回の国が決めた医療用抗原検査のインターネット販売解禁は、単に目先の患者の流れを変えるためだけに場当たりで行っているようにしか思われない。その司令塔、過去の本連載(第120回)で私が「延焼を続ける山火事の消火を部下の消防士に適当に指示して、自らは外出先で火遊びをする消防署長」と評した岸田 文雄首相は8月21日に新型コロナを発症し、現在はリモートで業務に当たっている。ちなみに首相とその周辺は1週間に2回ほど抗原検査を行い、頻繁に行っていた夜の会食時には出席者に事前に抗原検査の陰性確認を求めていたという。やらないよりはましだが、今風に言えば「もにょる」*対応である。*「もにょもにょする」というほかに形容しがたい感覚、感情、感触などを表現する言い回し。こそばゆい感じ、違和感やわだかまりを覚える感じ、すっきりしない印象、などを形容する場合に用いられることが多く、その意味では「むずむず」「もやもや」のニュアンスに近い。口ごもる様子をもにょると表現する例もある(実用日本語表現辞典より)その岸田首相を筆頭とする国へより緻密な対応を求めるのは「木に縁りて魚を求む」なのか?

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第124回 ワルファリン解毒酵素が半世紀超を経てついに判明

1936年にデンマークの生化学者Henrik Dam氏が発見したビタミンKは同氏の母国語で凝固を意味するkoagulationにちなんで名付けられ、その由来の通り血液凝固を促します1)。ビタミンKがとる姿はいくつかありますが、血液凝固に携わるのは1つで、ビタミンKヒドロキノン(VKH2)と呼ばれる還元型です。VKH2へのビタミンKの還元には世界で最もよく使われている抗凝固薬ワルファリンによって阻害されるビタミンKエポキシド還元酵素(VKOR)またはワルファリンに邪魔されない別の還元経路が携わります。ワルファリンに阻害されない(warfarin-resistant)ビタミンK還元酵素は半世紀以上前にその存在が予想されましたが今までわからずじまいでした。ドイツ・ミュンヘンのヘルムホルツ研究所のチームによる新たな研究でVKH2の抗酸化作用がフェロトーシスと呼ばれる細胞死を防ぐ役割を担い、VKH2を維持してそのフェロトーシス阻止作用を支えるビタミンK還元酵素FSP1が同定されました。そしてその還元酵素FSP1こそ半世紀以上前にその存在が予想されたワルファリンに阻害されないビタミンK還元酵素であることが判明しました2,3)。高用量のビタミンKはワルファリン過剰による脳出血などの副作用(ワルファリン中毒)を食い止める解毒作用があります。そのビタミンKのワルファリン中毒解消作用をFSP1が介することもマウス実験で示されています。ワルファリン過剰投与FSP1欠損マウスをビタミンK治療してもプロトロンビン時間は非常に長いままであり、ほぼ全頭が主に脳出血により死なねばなりませんでした。一方、FSP1遺伝子があるマウスは高用量ビタミンK治療で救われ、FSP1はワルファリン中毒の解毒作用に携わることが裏付けられました。フェロトーシスの新たな抑制因子FSP1を発見した今回の成果はアルツハイマー病や急な臓器損傷などのフェロトーシスと関連するらしい病気の数々の新規治療の開発に役立つでしょう。また、フェロトーシスは原核生物や植物から哺乳類に至る種々の生物に備わり、どうやら最古の細胞死の一つらしく、ゆえにそのフェロトーシス阻止を担うビタミンKは自然界で最初に誕生した抗酸化成分の一つかもしれません3)。 参考1)Long-sought mediator of vitamin K recycling discovered / Nature2)Mishima E, et al. Nature. 2022 Aug 3. [Epub ahead of print]3)Vitamin K prevents cell death: a new function for a long-known molecule / Eurekalert

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トラネキサム酸、高用量で心臓手術関連の輸血を低減/JAMA

 人工心肺を用いた心臓手術を受けた患者では、トラネキサム酸の高用量投与は低用量と比較して、同種赤血球輸血を受けた患者の割合が統計学的に有意に少なく、安全性の主要複合エンドポイント(30日時の死亡、発作、腎機能障害、血栓イベント)の発生は非劣性であることが、中国国立医学科学院・北京協和医学院のJia Shi氏らが実施した「OPTIMAL試験」で示された。研究の成果は、JAMA誌2022年7月26日号に掲載された。中国4施設の無作為化試験 OPTIMAL試験は、人工心肺を用いた心臓手術を受けた患者ではトラネキサム酸の高用量は低用量に比べ、有効性が高く安全性は非劣性との仮説の検証を目的とする二重盲検無作為化試験であり、2018年12月~2021年4月の期間に、中国の4施設で参加者の登録が行われた(中国国家重点研究開発計画の助成による)。 対象は、年齢18~70歳、人工心肺を用いた待機的心臓手術を受ける予定で、本試験への参加についてインフォームド・コンセントを受ける意思と能力を持つ患者であった。患者はいつでも試験参加への同意を撤回できるとされた。 被験者は、高用量トラネキサム酸または低用量トラネキサム酸の投与を受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。高用量群では、麻酔導入後、トラネキサム酸30mg/kgがボーラス静注され、術中は維持量16mg/kg/時がポンプ充填量2mg/kgで投与された。低用量群は、トラネキサム酸10mg/kgがボーラス静注され、術中は維持量2mg/kg/時がポンプ充填量1mg/kgで投与された。 有効性の主要エンドポイントは、手術開始後に同種赤血球輸血を受けた患者の割合(優越性仮説)とされ、安全性の主要エンドポイントは、術後30日の時点での全死因死亡、臨床的発作(全般強直間代発作、焦点発作)、腎機能障害(KDIGO基準のステージ2または3)、血栓イベント(心筋梗塞、虚血性脳卒中、深部静脈血栓症、肺塞栓症)の複合であった(非劣性仮説、非劣性マージン5%)。副次エンドポイントには、安全性の主要エンドポイントの各構成要素など15項目が含まれた。輸血:21.8% vs.26.0%、安全性:17.6% vs.16.8% 3,079例(平均年齢52.8歳、女性38.1%)が無作為化の対象となり、このうち3,031例(98.4%)が試験を完了した。高用量群に1,525例、低用量群に1,506例が割り付けられた。追跡期間中に48例(高用量群23例、低用量群25例)が脱落し、安全性の主要複合エンドポイントの評価から除外された。 手術開始から退院までに、少なくとも1回の同種赤血球輸血を受けた患者は、高用量群が1,525例中333例(21.8%)であり、低用量群の1,506例中391例(26.0%)に比べ、有意に割合が低かった(群間リスク差[RD]:-4.1%、片側97.55%信頼区間[CI]:-∞~-1.1、リスク比:0.84、片側97.55%CI:-∞~0.96、p=0.004)。 また、安全性の主要複合エンドポイントが発現した患者は、高用量群が265例(17.6%)、低用量群は249例(16.8%)と、高用量群の低用量群に対する非劣性が確認された(群間RD:0.8%、片側97.55%CI:-∞~3.9、非劣性検定のp=0.003)。 同種赤血球輸血量中央値は、高用量群が0.0mL(四分位範囲[IQR]:0.0~0.0)、低用量群は0.0mL(0.0~300.0)と、高用量群で有意に少なかった(群間差中央値:0.0mL、95%CI:0.0~0.0mL、p=0.01)。一方、新鮮凍結血漿や血小板、クリオプレシピテートの輸注量には両群間に差はなかった。 術後の胸部ドレナージによる総排液量、出血による再手術、人工呼吸器の使用期間、集中治療室(ICU)入室期間、術後入院期間にも、両群間で差は認められなかった。また、心筋梗塞の30日リスクや、腎機能障害、虚血性脳卒中、肺塞栓症、深部静脈血栓症、死亡の発生率にも有意な差はみられなかった。 発作は、高用量群が15例(1.0%)、低用量群は6例(0.4%)で発現したが、トラネキサム酸の用量が増加しても発作が有意に多くなることはなかった(群間RD:0.6%、95%CI:-0.0~1.2、相対リスク:2.47、95%CI:0.96~6.35、p=0.05)。 著者は、「トラネキサム酸の高用量と低用量のどちらを用いるかは、開心心臓手術と非開心心臓手術における手術関連の出血リスクによって決まる可能性がある」としている。

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破傷風の予防は?【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q26

破傷風の予防は?Q26症例とくに既往、アレルギー歴のない28歳男性、自宅でリンゴの皮剥きをしていた際に誤って左中指DIP腹側を切ってしまった。左中指DIP腹側に深さ3~4mm程度、長さ20mm程度の切創あり。明らかな神経障害や動脈性出血、腱損傷はなさそう。バイタルは安定しているが、止血をえられず、縫合処置が必要と判断される。最後に破傷風の予防だけして、あとは1週間後に抜糸を依頼すればよいだろう。破傷風の予防は何をしよう。定期予防接種はすべて受けているようだし、汚染のない傷だから、予防は必要なかったかな?

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処置後の予防的抗菌薬【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q25

処置後の予防的抗菌薬Q25症例とくに既往、アレルギー歴のない28歳男性、自宅でリンゴの皮剥きをしていた際に誤って左中指DIP腹側を切ってしまった。左中指DIP腹側に深さ3~4mm程度、長さ20mm程度の切創あり。明らかな神経障害や動脈性出血、腱損傷はなさそう。バイタルは安定しているが、止血をえられず、縫合処置が必要と判断される。非滅菌手袋もつけたし、指ブロックのうえ、創部を水道水でしっかり洗った。縫合し、ドレッシング材で被覆もしたぞ。あとは…創部の感染予防に抗菌薬を処方しないとな。何を処方しよう?

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第117回 なぜその情報が必要か―安倍氏銃撃事件から医療者や報道陣が学ぶべきこと

参議院選挙最中の7月8日、奈良県奈良市の近鉄大和西大寺駅前で選挙応援中だった安倍 晋三元首相が凶弾に倒れた。殺人未遂(後に殺人に切り替え)の現行犯で逮捕された容疑者は、母親が宗教団体に入信し、その寄付が原因で家庭が崩壊。この団体と安倍元首相が親しいと考え、安倍元首相を標的にしたとしている。安倍元首相は現場で応急処置後に救急車とドクターヘリを使って奈良県立医科大学(以下、奈良医大)高度救命救急センターに搬送されたが、同日午後5時3分、死亡が確認された。日本国内では明治期の内閣制採用以降これまで64人の首相経験者がいるが、在任中あるいは退任後に殺害されたのは、安倍氏を含め7人。第二次世界大戦後では安倍氏が初めてである。今回、この件を医療・報道の側面から振り返りたい。まず、事件が発生したのは8日午前11時31分ごろ。奈良県選挙区の自由民主党公認候補の応援演説のため、奈良県入りした安倍氏は近鉄大和西大寺駅前の横断歩道中ごろにあるカードレールで囲まれた安全地帯で午前11時29分ごろから演説を開始。その直後、背後の車道に侵入してきた容疑者が安倍氏の背後約3mの距離から自作銃で発砲し、爆音と白煙が発生。一瞬後方を振り返った安倍氏だったが、容疑者がすぐさま2発目を発射した直後、避難するかのようにうずくまったまま倒れ込んだ。その後のタイムラインは以下のようになる。▽午前11時31分:奈良市消防局に通報▽午前11時32分:救急隊出動▽午前11時36分:消防局がドクターヘリを要請▽午前11時37分:救急隊などが現場に到着▽午前11時54分:現場から安倍元首相を搬送開始▽午後 0時 9分:平城京跡歴史公園で搬送をドクターヘリに引き継ぐ▽午後 0時20分:ドクターヘリが奈良県立医科大学到着安倍元首相が搬送される直前、現場の写真がネット上に公開されているが、そこで写っていた安倍元首相の顔面は蒼白。当時、駆け付けた現場近くのクリニックの医師の証言では、すでに看護師と思われる女性が心臓マッサージ中で自発呼吸はなく、ほぼ心肺停止状態。眼球結膜が真っ白でかなり出血していると考えられ、瞳孔も開きかけていたという。さらに周囲の呼びかけにはすでに反応がなく、痛覚を確認するための爪床刺激にも反応はなかった。この医師は、クリニックにあった自動体外式除細動器(AED)を装着させるも、解析の結果、適応はないと判断されたと語っている。適応がないということはすでに心停止ということになる。そこで心臓マッサージが再開されたという。同時に脳に血流が少しでも行くように医師が下肢挙上を行った。その後は上記のタイムライン通り。死亡確認後に行われた奈良医大による記者会見で、高度救命救急センター長で教授の福島 英賢氏が語った内容を箇条書きにする。救急隊接触時・搬送時にすでに心肺停止状態右頸部に約5cm間隔で2ヵ所の銃創らしきもの、左肩に射出口らしき傷処置中に体内から弾丸は未発見心臓および大血管の損傷による心肺停止と推定心室にも損傷対応は外来処置室で実施処置内容は蘇生的開胸による胸部止血と輸血輸血量は100単位以上一部止血をできたところもあったが、凝固能が失われさまざまなところから出血死因は失血死奈良県警が同日午後10時40分から翌日早朝にかけて約6時間半にわたって行った司法解剖の結果では、銃弾による傷は首と左上腕部の計2カ所。奈良医大の会見で射出口の可能性があると説明されていた左肩は射入口で、右頸部の銃創と思われた2か所のうち、片方については県警の司法解剖では銃創であるかは判別できなかったという。そのうえで死因は「左上腕部射創による左右鎖骨下動脈損傷にもとづく失血死」とされている。前述の奈良医大の会見での質疑については、SNS上で医療関係者を中心に“質問内容が稚拙”と批判も多かった。この印象はほぼ私も同じだが、その一部を改めて振り返り論評を加えたい。まず、記者と福島氏との間では同じようなやり取りが何度か繰り返されている。 記者A 無くなられた時間は5時3分ということですが、家族が到着されていたのは確か5時過ぎだったような気がするのですが、到着されていた時はすでにお亡くなりになられていたということでしょうか?福島氏救急隊接触時からずっと心肺停止状態であられました 記者B 今回、撃たれた現場で即死したという理解でよろしいでしょうか?福島氏撃たれた現場で心肺停止状態になったという表現になるかと思います 記者C 搬送された時点で手遅れという言い方をしてもよろしいでしょうか?福島氏すでにかなり大きな怪我があったことには違いありませんので、一般的にはそういうご理解になるのかもしれませんが、われわれとしては心肺停止状態ということで対応しています 当初の報道では救急隊の現場到着時に意識があったとも伝えられていたが、前述の現場で対応した医師の証言や会見を聞く限りでは、救急隊到着時から心肺停止状態だったことは間違いないようである。意識があったという報道は、おそらく銃撃のまさに直後の周囲の呼びかけに対してだったのだろう。本サイトの読者に対しては釈迦に説法だが、心停止、自発呼吸の停止、瞳孔散大の3点を医師が確認して死亡と判定されるまでは、心肺停止と定義されることが多い。一般人からすると、この状態は「死亡判定を受けていない事実上の死体」と捉えられがちで、海外の一部ではこの状態では報道上死亡扱いをすることも少なくない。その点で実は日本の報道のほうがきわめて厳格な扱いをしている。にもかかわらず、会見で上記のようなちぐはぐな応答が散見されたのは、おそらく記者の配置上の問題だろう。この「死亡」と「心肺停止」の定義について最も敏感と思われるのが、事件、事故、災害時を担当する社会部の警察担当記者、あるいは科学部記者。しかし、今回の事件の重大さを考えれば警察担当記者はおそらく奈良県警察本部に詰めていただろうし、事件時に科学部記者が出動することは少ない。つまり奈良医大の会見では、そのどちらでもない記者が大勢を占めていただろうと推定される。それゆえのちぐはぐさが上記のやり取りには表れていると思う。なお、SNS上では奈良医大に到着した昭恵夫人の様子を聞き出そうとしたかのような質問をした記者と、そのことには触れなかった福島氏のやり取りについて記者を批判しているケースが少なくない。私個人としてはどちらの立場も正しいと敢えて言及しておきたい。記者は聞けることは、真空ポンプで空気を吸い取るがごとくすべて聞くのが鉄則。初めから「どうせ答えてもらえないだろうから」と尻込みする記者は記者とは言えない。一方で患者を治療した際の医学的側面のみを語り、みだりにプライバシーや推定を語らない福島氏の立場も医療従事者として当然かつ正しい在り方である。メディア全般に不信感を持つ人にとってはこの評価は「身内びいき」と思われるかもしれないが、取材とは例えは悪いが「狐と狸の化かし合い」が常である。そのうえでこのやり取りの記者側の意図を私なりに推測すると、単純にどれだけ搬送時の安倍氏の状態がどれだけ深刻なものだったかを知りたかったということだろう。たぶん私が会見場にいたら、回答が得られたかどうかは別にして搬送時の推定失血量を聞いただろう。銃創の場合、発生から10分以内に開胸が行える医療機関への搬送ができるか否かが救命のカギを握る。また、循環血液量の30%以上の出血があれば生命の危機となる。以前官邸ホームページで公開されていた安倍氏の身長は175cm、体重は70kgだったことから、おおよその循環血液量は体重の約13分の1である5.8L。約1.7Lの出血で致命的だ。会見時に福島氏が説明した輸血量100単位以上について、記者から100単位以上とは何mLか問われ、福島氏は現時点でわからないと回答をしている。これはたぶん輸血したのが赤血球濃厚液(1単位140mL)、濃厚血小板液(10単位約200mL)、新鮮凍結血漿液(1単位約120mL)が入り混じって使われたからだろうと推察される。100単位を単純計算すれば、赤血球濃厚液換算で14L、濃厚血小板換算で2L、新鮮凍結血漿液で12Lとなる。治療時間5時間ということを加味しても搬送時点ですでに生命の危機の失血量だったことはほぼ確実と言って良いだろう。ちなみに事件発生当初、搬送時に意識があったと誤報(あくまで結果論だが)されたこともあり、私個人はなぜ奈良医大に搬送したのだろうと考えていた。もちろん奈良県内で重篤な患者を受け入れる三次救命救急施設3ヵ所のうち、ドクターヘリも有している奈良県立医科大学附属病院高度救命救急センターが最高位にあることから考えれば、常道ではある。ただ、繰り返しになるが銃創は発生から10分以内に開胸が行える医療機関への搬送が救命の鉄則。そうした中で同県内の三次救命救急施設3ヵ所のうち奈良県立病院機構奈良県総合医療センター救急・集中治療センターが現場から車で15分ほどだったことから、当初は私は上記のように思った。しかしながら、前述の奈良医大の会見を聞けば、極端な言い方をすれば事件現場で開胸して止血・輸血でも行わなければ、救命の可能性を見いだすことは難しかっただろうと考えた。また、輸血量からしても奈良医大のほうがそのストックが多かったと考えられるので、その点からも最終的には合点がいった。また、奈良医大の会見で、ある記者が心臓への損傷が疑われる際のAED使用や心臓マッサージを行うことの是非について尋ね、福島氏が一般論として正しい処置だと答えた件について、SNS上では記者に向けてやや批判めいた言説が目立つ。これは福島氏の答え次第では現場で処置した人が非難されかねないことを危惧した言説だろう。ただ、一般人ならば心臓に損傷の可能性がある時に本当にこうした処置をしていいものか悩むのはある意味当然である。というか、一般人はそうした知識がほとんどない。そうしたことを加味すれば、このやり取りは一般人に応急措置に対する知識を普及する上では有用なものだったと個人的には考えている。一方、今回の事件に関して私が1つだけ完全にNGと思った報道人の言動がある。安倍元首相に関する著作もある元民放記者が安倍氏の死亡時刻の1時間半ほど前に「安倍さんがお亡くなりになった」とのタイトルでSNSに投稿を行ったことだ。当然ながらこの投稿は批判されたが、元記者は正式な死亡発表後に「(投稿した時点で)家族にもすでに情報が伝わっていた」と強弁。しかし、最終的には提供された情報が誤っていた(その時点で家族は知らされていなかった)として謝罪している。そもそも人一人の死を外部にどのように伝えるかは例え公人でもあっても相当な慎重さが必要である。まして元民放記者の投稿時点で安倍元首相の妻である昭恵夫人は奈良に向けて移動中で、報道でも移動状況が逐次報じられていた。元民放記者はSNS投稿時点ですでに昭恵夫人が奈良に到着済みと聞いていたとの弁解を後に投稿していたが、リアルタイムの報道で得られる情報すら確認できていなかったのはお粗末としか言いようがない。元民放記者本人が弁解として書いていた「『確認された情報は出来るだけ早く報道する』というジャーナリズムの基本に立ち返って」という点は完全には否定しないが、たとえ家族の死亡確認後であってもそれをいつ報じるかの判断は各方面への影響を考えると容易ではない。一例を挙げると、公人の死去の報道は株式市場に影響を与えることもある。報道というのはそうしたことなども多角的に踏まえて行う仕事であり、いかように元民放記者が弁解しようが今回の行動は唾棄に値する。すでに一部の人はSNS上で見聞きしているかもしれないが、安倍氏の容体については当日の午後2~3時に「蘇生はほぼ不可能」という情報が永田町界隈に駆け回っていたことを一部の記者が死亡の公表後に明らかにしている。これは確かに事実で、筆者も耳にしている。しかしながら、例え家族による死亡確認後であってもそれを公にすることは、報道人としての確実な事実確認に加え、社会的にも心理的にも、いくつものハードルを超えなければならない。そのためこの元記者のような言動には私個人は驚きを隠せないのが本音ではある。

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創部の縫合後の処置【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q24

創部の縫合後の処置Q24症例とくに既往、アレルギー歴のない28歳男性、自宅でリンゴの皮剥きをしていた際に誤って左中指DIP腹側を切ってしまった。左中指DIP腹側に深さ3~4mm程度、長さ20mm程度の切創あり。明らかな神経障害や動脈性出血、腱損傷はなさそう。バイタルは安定しているが、止血をえられず、縫合処置が必要と判断される。非滅菌手袋もつけたし、指ブロックのうえ、創部を水道水でしっかり洗ったぞ。縫合自体は、過去と大きく変わりはないな。なんとか終えたぞ。処置後の創部は浸出液多いな。ガーゼと包帯で固定がよかったかな。乾燥させるとよいって習った気がするけども、合っていたかな?

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第117回 医師法違反は手術だけではない!工学技士に手術をさせた病院が研修すべき「もう一つのこと」

安倍元首相の医療政策を振り返るこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末は安倍 晋三元首相が銃撃されて亡くなったり、参議院選挙で自民党が大勝したりと、さまざまなことが起こりました。安倍元首相の政権は合計8年8ヵ月と長期に渡りましたが、医療政策の面でもいくつかのエポックメーキングな改革を行っています。大きなところでは、「医師の働き方改革」があります。2017年3月に安倍晋三元首相の肝煎りで策定された「働き方改革実行計画」が、医師の働き方改革の先鞭をつけたことは記憶に新しいところです。個人的にもう一つ挙げるとすれば「オンライン診療の定着」でしょうか。きっかけは、2016年11月の第2回未来投資会議における安倍元首相の「ビッグデータや人工知能を最大限活用して『遠隔診療』や『予防・健康管理』を推進する」という発言でした。翌2017年には「経済財政運営と改革の基本方針2017」(骨太の方針)、「未来投資戦略2017」、「規制改革実施計画」に遠隔診療推進の内容が盛り込まれ、2018年の診療報酬改定でのオンライン診療項目の新設につながりました。とはいうものも、安倍元首相自身は自民党内でもイデオロギー的に保守的色彩がとくに強く、医療提供体制の抜本的な改革にまでは踏み込んでいなかった印象です。経済産業省の官僚を重用し、未来投資会議などで医療の産業化政策がいくつか提案されましたが、最終的に実を結んだ政策は多くはありません。あえて言えば、地域医療連携推進法人の制度ですが、これも当初の構想(非営利ホールディングカンパニー型制度)とは全く異なる制度に落ち着いています。今回の参院選で与党が改選過半数を獲得したことで、岸田 文雄首相は当面の安定的な政権運営の基盤を確保した、と言われています。本連載でも度々書いてきたように、これから財務省主導の医療政策が、医療提供体制改革の“本丸”(病院の再編や、かかりつけ医の制度化など)に、どこまで切り込んでいくかが注目されます。臨床工学技士が手術時に患者の皮膚縫合さて今回は、6月末に発覚した千葉市美浜区の市立海浜病院(吉岡 茂院長、293床)において臨床工学技士が手術時に患者の皮膚縫合を行っていた事件について書いてみたいと思います。事件は千葉市が6月29日、市立海浜病院で2021年7月に行った手術で医師資格を持たない臨床工学技士が執刀医の指示で患者の皮膚の縫合を行っていた、と明らかにしたことで発覚しました。患者に健康被害は出ていませんが、同病院は今年3月に患者に謝罪し、執刀医と臨床工学技士を訓告処分としています。千葉日報や朝日新聞などの報道によれば、同病院で昨年7月に行われたペースメーカーの交換手術において、左側胸部を縫合する際、執刀医が臨床工学技士に「少し縫合してみるか」と声を掛け、執刀医と技士が立ち位置を交代。皮膚の縫合の最後の1針分ほどを任せました。臨床工学技士はうまく縫合できず、最終的に執刀医が縫合したとのことです。臨床工学技士はペースメーカーの作動確認のために立ち会っていました。術後、看護師から報告を受けた看護師長や執刀医、心臓血管外科統括部長が話し合った結果、重大事案ではないと判断し、医療事故対策を担当する同病院の医療安全室への報告は見送っていました。しかし、今年1月、市への情報提供制度である「市長への手紙」に匿名の情報提供があり、無資格での縫合が発覚しました。同病院では外部有識者を交えた医療事故検討委員会を2月に設置し、事実関係を調査していました。その後、3月に患者に説明と謝罪を行い、4月28日付で執刀医と臨床工学技士を訓告の処分にしたとのことです。医師以外も医療行為を行うことができると勝手に誤認同病院の聞き取り調査に執刀医は、「ペースメーカーを埋め込む深さがどのくらいか学んでほしかった」と説明。医療法改正などによるタスクシフト推進策などにより、医師以外も医療行為を行うことができると勝手に思い込んでいたとのことです。29日に開かれた記者会見で吉岡茂院長は「臨床工学技士が医療行為を行ったことを重く受け止めており、市民や患者におわびする」と謝罪。その一方で「顧問弁護士らから刑事罰に当たらないとの見解をもらっている」として、今回の事案は医師法違反に該当しない旨を強調したとのことです。2021年の医療法等改正で医療関係職種の業務範囲は拡大したが執刀医は医療法改正などによるタスクシフト推進策などにより、医師以外も医療行為を行うことができると勝手に誤認していたとのことですが、もしそれが事実ならば、現場の医師は法律知識もないままに漠然と医療行為を行っていたことになります。確かに、2021年5月に成立した医療法等改正によって、タスクシフト・シェアを推進するため医療関係職種の業務範囲が拡大されてはいますが、そこにはもちろん臨床工学技士による皮膚縫合は含まれていません。本連載でも「第66回 医療法等改正、10月からの業務範囲拡大で救急救命士の争奪戦勃発か」で詳しく書きましたが、臨床工学技士について新たに認められた業務は以下です。手術室等で生命維持管理装置を使用して行う治療における▼静脈路確保と装置や輸液ポンプ・シリンジポンプとの接続▼輸液ポンプ・シリンジポンプを用いた薬剤(手術室等で使用する薬剤に限る)投与▼当該装置や輸液ポンプ・シリンジポンプに接続された静脈路の抜針・止血心・血管カテーテル治療における生命維持管理装置を使用して行う治療に関連する業務として、身体に電気的負荷を与えるための当該負荷装置操作手術室での鏡視下手術における体内に挿入されている内視鏡用ビデオカメラの保持、術野視野を確保するための内視鏡用ビデオカメラ操作クラークなどに「予診」業務を行わせるのも医師法違反の可能性同病院は再発防止のため、5月から職員全員を対象に、医師法など法律を周知徹底するための研修を毎月実施しているそうです。この事件、「うちは手術なんて任せないので無関係」と思っている医療機関は少なくないと思いますが、実際には医師法違反スレスレの医療行為を行っているところは意外に多いようです。その背景にあるのが、診療報酬の医師事務作業補助体制加算です。この加算を取るため、全国の医療機関(病院、有床診療所)において医師事務作業補助者・クラーク体制が導入されています。医師事務作業補助体制加算における、医師事務作業補助者の業務範囲は細かく決められていますが、多くの病院できわめて「危うい」業務をさせているケースもあると聞きます。医師が行っている業務には、法律上、医師免許を持つ医師しか行えない「医行為」と、そうでないものがあります。そして、医師の業務を別の分け方で二分すると、メスや注射、薬剤、放射線などで患者の体に侵襲を加える「侵襲的業務」(今回の事件の皮膚縫合)と、診察や診断書発行など侵害を加えない「非侵襲的業務」に分かれます。体に侵襲を加えない「非侵襲的業務」、つまり、医師が行う事務的に見える行為の中にも「医行為」があります。代表的な行為が問診です。問診は「医行為」なので医師しか行えません。医師以外のものが 患者の症状について情報収集をするのは「予診」と位置付けられ、あくまでも医師の問診の前に行うものです。看護師が「予診」を行うのは法律上「診療の補助」として認められていますが、それ以外の職種については現在明確に許可されてはいません。というわけで、看護師でなくクラークなどに「予診」業務を行わせることも、医師法違反の可能性があるということになります。この他にも「あらかじめ業務規程に明記されていない代行業務は行えない」など、医師事務作業補助には細かなルールがあります。千葉海浜病院は、医師法など法律を周知徹底するための研修を行うようになった、とのことですが、どうせ研修を行うなら、医師事務作業補助体制加算における医師事務作業補助者の業務範囲についても、しっかりと研修を行っておくことをお勧めします。

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創部の消毒【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q23

創部の消毒Q23症例とくに既往、アレルギー歴のない28歳男性、自宅でリンゴの皮剥きをしていた際に誤って左中指DIP腹側を切ってしまった。左中指DIP腹側に深さ3~4mm程度、長さ20mm程度の切創あり。明らかな神経障害や動脈性出血、腱損傷はなさそう。バイタルは安定しているが、止血をえられず、縫合処置が必要と判断される。外科医のいる二次救急病院に送るのもためらわれるため、自分で縫ってみる。非滅菌手袋もつけたし、指ブロックのうえ、創部を水道水でしっかり洗ったぞ。あとは…縫合前に消毒か?「看護師さん、ポビドンヨードある?」

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オンデキサの臨床的意義とDOAC投与中の患者に伝えておくべきこと/AZ

 アストラゼネカは国内初の直接作用型第Xa因子阻害剤中和剤オンデキサ静注用200mg(一般名:アンデキサネット アルファ[遺伝子組み換え]、以下:オンデキサ)を発売したことをうけ、2022年6月28日にメディアセミナーを開催した。 セミナーでは、はじめに緒方 史子氏(アストラゼネカ 執行役員 循環器・腎・代謝/消化器 事業本部長)により同部門の新領域拡大と今後の展望について語られた。 AstraZeneca(英国)とアレクシオン・ファーマシューティカルズが統合したことで、今後多くのシナジーが期待されるが、今回発売されたオンデキサはその象徴的なものであると考えている。同部門では、あらゆる診療科に情報提供を行っているため、オンデキサの処方が想定される診療科だけでなく、直接作用型第Xa因子阻害剤を処方している診療科にも幅広く情報提供が可能である。オンデキサが必要な患者さんに届けられるよう、認知拡大や医療機関での採用活動に注力していきたいと述べた。DOACを投与しても出血リスクは残存する 続いて、国立病院機構 九州医療センター 脳血管・神経内科 臨床研究センター 臨床研究推進部長 矢坂 正弘氏による国内初の直接作用型第Xa因子阻害剤中和剤における臨床的意義と今後の展望が語られた。 心房細動などにより心臓内でできた血栓が脳に詰まることで生じる脳卒中を心原性脳塞栓症という。心原性脳塞栓症は再発率が高いことから、発症リスクの高いCHADS2スコア1点以上の患者では、直接経口抗凝固薬(DOAC)の投与による予防治療が推奨されている1)。DOACは従来の抗凝固薬であるワルファリンに比べ脳梗塞予防効果は同等かそれ以上、大出血発症リスクは同等かそれ以下とされるが、時には生命を脅かす出血あるいは止血困難な出血に至ることもあるため、投与中は出血時の止血対応が重要となる。出血時の対応として中和剤が使用されるが、これまでDOACのうち中和剤があるのはダビガトランのみで、直接作用型第Xa因子に対する中和剤はなかった。今回発売されたオンデキサは、国内初の直接作用型第Xa因子阻害剤中和剤である。オンデキサの有効性と安全性 オンデキサはヒト第Xa因子の遺伝子組換え改変デコイタンパク質で第Xa因子のデコイとして作用し、第Xa因子阻害剤に結合してこれらの抗凝固作用を中和する作用をもつ。 第Xa因子阻害剤(アピキサバン、リバーロキサバン、エドキサバン、エノキサパリン)投与中の第Xa因子活性抑制下で急性大出血を発現した患者を対象にした試験では、評価可能であった有効性解析集団のうちエノキサパリン投与例を除く全体集団324例において79.6%(95%信頼区間[CI]:74.8~83.9%)の患者で有効な止血効果が得られた。正確な95%CIの下限値が50%を上回ったため、オンデキサによる止血効果が認められた2)。副作用の発現割合は11.9%(57/477例)であり、主な副作用は虚血性脳卒中1.5%(7例)、頭痛1.0%(5例)、脳血管発作、心筋梗塞、発熱、肺塞栓症が各0.8%(各4例)であった2)。DOAC投与中の患者に伝えておくべきこと 止血を適切に行うためには、患者さんが服薬中のDOACを特定しそれに対する中和剤を投与することが重要である。そのため、医療機関と調剤薬局が協力して、DOAC服薬の患者さんに対して、最新のお薬手帳や抗凝固薬のカードを持ち歩いてもらうことや、自身の病名や服薬中の薬剤を家族と共有してもらうことの重要性を伝えていく必要がある、と締めくくった。

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異物の評価【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q22

異物の評価Q22症例とくに既往、アレルギー歴のない28歳男性、自宅でリンゴの皮剥きをしていた際に誤って左中指DIP腹側を切ってしまった。左中指DIP腹側に深さ3~4mm程度、長さ20mm程度の切創あり。明らかな神経障害や動脈性出血、腱損傷はなさそう。バイタルは安定しているが、止血をえられず、縫合処置が必要と判断される。外科医のいる二次救急病院に送るのも気が引ける…。初期研修ぶりだけど、自分で縫ってみるか。非滅菌手袋もつけたし、指ブロックのうえ、創部を水道水でしっかり洗ったぞ。洗いながら異物がないことも確認したし、金属やガラス片くらいしかレントゲンで写らないから、これ以上の評価の方法はないよな?

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創部の洗浄【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q21

創部の洗浄Q21症例とくに既往のない28歳男性、左中指DIP腹側に深さ3~4mm程度、長さ20mm程度の切創あり。明らかな神経障害や動脈性出血、腱損傷はなさそう。バイタルは安定しているが、止血をえられず、縫合処置が必要と判断される。外科医のいる二次救急病院に送るのもためらわれるため、自分で縫ってみる。非滅菌手袋もつけたし、1%リドカインで皮線上皮下1回局注法で麻酔したぞ、よし、創部を洗おう。ここの夜間診療所には洗えるもの何かあったかな?

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創部の麻酔【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q20

創部の麻酔Q20症例とくに既往のない28歳男性、左中指DIP腹側に深さ3~4mm程度、長さ20mm程度の切創あり。明らかな神経障害や動脈性出血、腱損傷はなさそう。バイタルは安定しているが、止血をえられず、縫合処置が必要と判断される。外科医のいる二次救急病院に送るのもためらわれるため、自分で縫ってみる。非滅菌手袋もつけたし、1%リドカインで指神経ブロックしなきゃな。どこに何回局注するんだっけ?

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縫合時の手袋【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q19

縫合時の手袋Q19症例自宅近くの夜間診療所で当直バイト中のこと。とくに既往、アレルギー歴のない28歳男性、受診3時間前に自宅でリンゴの皮剥きをしていた際に誤って左中指DIP腹側を切ってしまった。深さ3~4mm程度、長さ20mm程度で、明らかな神経障害や動脈性出血、腱損傷はなさそう。バイタルは安定しているが、止血をえられず、縫合処置が必要と判断される。外科医のいる二次救急病院に送るのも気が引ける…。初期研修ぶりだけど、自分で縫ってみるか。さて、看護師さんにどんな手袋を用意してもらうべきか?

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縫合のgolden time【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q18

縫合のgolden timeQ18症例自宅近くの夜間診療所で当直バイト中のこと。とくに既往、アレルギー歴のない28歳男性、受診3時間前に自宅でリンゴの皮剥きをしていた際に誤って左中指DIP腹側を切ってしまった。深さ3~4mm程度、長さ20mm程度で、明らかな神経障害や動脈性出血、腱損傷はなさそう。バイタルは安定しているが、止血をえられず、縫合処置が必要と判断される。外科医のいる二次救急病院に送るのも気が引ける…。初期研修ぶりだけど、自分で縫ってみるか。19時間以内1)なら大丈夫と習った気がするけど、単純な創閉鎖は受傷何時間以内なら可能だったかな?

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オンデキサ発売、国内初の直接作用型第Xa因子阻害剤中和剤/アレクシオンファーマ・アストラゼネカ

 アストラゼネカは5月25日付のプレスリリースで、アレクシオンファーマが製造販売承認を取得したオンデキサ静注用 200mg(一般名:アンデキサネット アルファ[遺伝子組換え]、以下:オンデキサ)の販売を開始したことを発表した。オンデキサ投与後12時間で患者の79.6%に有効な止血効果 直接作用型第Xa因子阻害剤は、血栓が形成されないよう血液の凝固を防ぐ一方で、生命を脅かす重大な出血のリスクを高める可能性がある。しかし、大出血を起こした直接作用型第Xa因子阻害剤を服用している患者に対して中和剤はこれまでなく、高いアンメットニーズが存在していた。 オンデキサは、血液凝固に関与するヒト血液凝固第Xa因子の遺伝子組換え改変デコイタンパク質であり、国内で唯一第Xa因子阻害剤に結合し、その抗凝固作用を速やかに中和する作用をもつ薬剤として承認された。 オンデキサ承認の根拠となった国際共同第IIIb/IV相14-505(ANNEXA-4)試験では、直接作用型第Xa因子阻害剤の投与を受けており、急性の大出血を起こした患者を対象に、オンデキサの有効性(第Xa因子阻害剤の抗第Xa因子活性の中和効果、および止血効果)と安全性が評価された。 オンデキサ承認の根拠となったANNEXA-4試験の主な結果は以下の通り。・オンデキサはいずれの第Xa因子阻害剤を投与した患者でも、本剤を静脈内投与後には抗第Xa因子活性を速やかかつ有意に低下させた。・オンデキサ投与後12時間の時点で患者の79.6%(258/324例)に有効な止血効果が確認された。・オンデキサの副作用の発現頻度は、11.9%(57/477例)で、主な副作用は、虚血性脳卒中1.5%(7/477例)、頭痛1.0%(5/477例)、脳血管発作、心筋梗塞、肺塞栓症、発熱各0.8%(4/477例)、脳梗塞、塞栓性脳卒中、心房血栓症、深部静脈血栓症、悪心各0.6%(3/477例)であった。 オンデキサは、第Xa因子阻害剤であるアピキサバンまたはリバーロキサバン投与中に大出血を起こした患者に対する中和剤として、2018年5月に米国食品医薬品局より迅速承認制度による承認を受け、2019年4月に欧州委員会から条件付き承認を取得した。日本でオンデキサは、2019年11月19日付で希少疾病用医薬品に指定されている。

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口腔の傷(歯牙や舌、頬粘膜損傷)に対する縫合処置【漫画でわかる創傷治療のコツ】第10回

第10回 口腔の傷(歯牙や舌、頬粘膜損傷)に対する縫合処置《解説》今回は幸いキズモンスターの発生前に正しい処置をすることができました。詳細は後述しますが、歯牙損傷がある場合は先に歯科受診を勧めることもあります。口腔内の傷について、食物が残留しやすい場所であることを考えると、目安として2cm以上の創は縫合を検討しましょう。2cm以下の場合、止血が得られていれば自然治癒が期待できます。それでは、部位による処置について簡単に解説していきます。(1)舌損傷浅い創でも出血が持続することがあります。粘膜と筋層を大きめに4−0、5−0の吸収糸で緩めに縫合しましょう。縫合糸を締め込むと舌浮腫になり、断裂や壊死の原因となります。(2)頬粘膜損傷必ず耳下腺管、顔面神経損傷の有無と、異物の有無を確認しましょう。耳下腺管の損傷を疑う所見自覚症状に乏しいとしても、創部からの唾液とおぼしき滲出液を持続的に見て、滲出液のアミラーゼ値を調べて高値であるかどうかを確認します。顔面神経の損傷を疑う所見顔面神経頬枝は耳下腺管とほぼ平行に走行しています。口角や上口唇を引き上げる動作を担っており、損傷している場合は口唇が下垂して鼻唇溝が消失したり、口笛を吹くように口をすぼめたときに左右差があったりするので、確認しましょう。上記を疑う場合は可及的速やかに形成外科へ紹介すべきです。粘膜のみの損傷であれば4−0、5−0の撚り糸の吸収糸を大きめにかけて最小限の縫合を行います。貫通創の場合は、筋層を含む皮下組織と表皮を縫合し、口腔内はまばらに縫合しましょう。縫合時に耳下腺の開口部(乳頭部)を損傷しないように注意しましょう(下図参照)。硬口蓋、軟口蓋損傷は上皮化良好な場合が多いです。口蓋刺創の場合、外見上の傷はわずかでも頭蓋内などに達している可能性を常に念頭に置く必要があります。図:耳下腺周囲の解剖図(3)歯牙損傷欠けたり抜けたりした歯がある場合は、捨てずに元の場所に整復した後、隣接歯牙とワイヤーなどで応急的な固定処置を行っておき、歯科処置を依頼しましょう。受診相談時に歯牙損傷を疑う場合は、その時点で歯科のある病院を勧めるのが良いでしょう。永久歯が完全脱臼した場合、予後は歯槽骨外に置かれていた条件と時間に直接相関します。乳歯が脱落した場合、発育中の後継永久歯が損傷される危険性があれば再植はしないのですが、判断は歯科口腔外科でしてもらいましょう。脱落歯は保存溶液に入れて、できるだけ早く歯科口腔外科を受診してもらいましょう!保存溶液は、望ましい順に、1.移植臓器輸送用溶液2.細胞培養用培地3.冷たいミルク(ロングライフミルクや低脂肪乳を除く)4.生理食塩水となっています1)。参考1)日本外傷歯学会. 歯の外傷治療ガイドライン 改訂版. 2012.波利井 清紀ほか監修. 形成外科治療手技全書III 創傷外科. 克誠堂出版;2015.安瀬 正紀監修, 菅又 章編. 外傷形成外科―そのときあなたは対応できるか. 克誠堂出版;2007.Frank H. Netter著, 相磯 貞和訳. ネッター解剖学アトラス 原著第4版. 南江堂;2007.

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世界血栓デーWEB講演会の開催について【ご案内】

 世界血栓症デーとは、国際血栓止血学会(ISTH)が「血栓症に関する正しい知識を広め、血栓症に起因する障害や死亡を減らす」ことを目的に制定したものである。一般社団法人日本血栓止血学会では日本における血栓症の啓発活動の一環として取り組んでおり、2022年度最初の世界血栓症デーWEB講演会として2022年5月17日(火)に『がん関連血栓症:がんと血栓の新たな関係』をテーマとしてWEB開催する。今回の講演内容は医療関係者を対象としているが、誰でも無料で視聴可能である。 開催概要は以下のとおり。【日時】2022年5月17日(火) 19:00~20:30【参加条件】登録方法:オンライン参加登録が可能(下記URLからお申込み可能)https://coubic.com/morishita/622935参加費:無料【テーマ】『がん関連血栓症:がんと血栓の新たな関係』-perspective of cancer-associated thrombosis-司会:向井 幹夫氏(大阪国際がんセンター成人病ドック科)1.「がん関連血栓症の成因と病態」森下 英理子氏(金沢大学大学院医薬保健学総合研究科 金沢大学附属病院血液内科)2.「がん関連脳卒中-動脈塞栓症の新展開」野川 茂氏(東海大学医学部付属八王子病院脳神経内科)3.「がん治療関連血栓症とその対応」向井 幹夫氏(大阪国際がんセンター成人病ドック科)4.質問・討論【主催】一般社団法人 日本血栓止血学会【お問い合わせ】WTD講演会担当E-mail:kanazawa.u.hoken.morishita@gmail.com

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AF患者へのXIa因子阻害薬asundexian、出血リスクは?(PACIFIC-AF)/Lancet

 心房細動患者に対し、新規開発中の第XIa因子(FXIa)阻害剤asundexianの20mgまたは50mgの1日1回投与は、アピキサバン標準用量投与に比べ、ほぼ完全なin-vivoのFXIa阻害を伴い、出血を低減することが示された。米国・デューク大学のJonathan P. Piccini氏らが、日本や欧州、カナダなど14ヵ国93ヵ所の医療機関を通じ約800例を対象に行った第II相無作為化用量設定試験「PACIFIC-AF試験」の結果を報告した。心房細動の脳卒中予防のための直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)の使用は、出血への懸念から制限されている。asundexianは、止血への影響を最小限とし血栓症を軽減する可能性が示唆されていた。Lancet誌2022年4月9日号掲載の報告。CHA2DS2-VAScスコアが男性2以上、女性3以上を対象に用量設定試験 研究グループは、心房細動患者におけるasundexianの最適用量を決定すること、および出血の発生率をアピキサバンの発生率と比較するため、心房細動患者でCHA2DS2-VAScスコアが2以上の男性または3以上の女性で出血リスクが高い45歳以上を対象に試験を行った。 被験者をウェブ自動応答システムで無作為に3群に分け、試験開始前からのDOAC服用の有無により層別化し、asundexian 20mg、50mg(いずれも1日1回)、アピキサバン5mg(1日2回)をそれぞれ投与し、出血リスクを比較した。ダブルダミーデザイン法を用いてマスキングが行われ、被験者は試験薬とプラセボの両者を受け取った。 主要エンドポイントは、国際血栓止血学会(ISTH)基準による大出血または臨床的に重大な非大出血の複合エンドポイントで、試験薬を1用量以上服用した全被験者を対象に評価した。主要エンドポイントの発生率比、20mg群0.50、50mg群0.16 2020年1月30日~2021年6月21日の期間に862例が登録され、755例が無作為化を受けた。そのうち試験薬を全く服用しなかった2例を除く、753例(asundexian 20mg群249例、同50mg群254例、アピキサバン群250例)を対象に解析した。 被験者の年齢中央値は73.7歳(SD 8.3)、女性が309例(41%)、216例(29%)が慢性腎臓病(CKD)を有し、平均CHA2DS2-VAScスコアは3.9(SD 1.3)だった。 asundexian 20mg群では、FXIa活性がトラフ値で81%、ピーク値で90%阻害され、同50mg群ではそれぞれ92%と94%が阻害された。 主要エンドポイントのアピキサバン群(発生6件)に対する発生率比は、asundexian 20mg群(3件)が0.50(90%信頼区間[CI]:0.14~1.68)、同50mg群(1件)が0.16(0.01~0.99)、asundexian群統合(4件)では0.33(0.09~0.97)だった。 有害事象の発現頻度は3群間で同等であり、asundexian 20mg群118件(47%)、同50mg群120件(47%)、アピキサバン122件(49%)だった。

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非重症コロナ入院患者の心肺支持療法離脱に有用な治療法は?/JAMA

 非重症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)入院患者の治療において、治療量のヘパリンにP2Y12阻害薬を上乗せしても、ヘパリン単独療法と比較して21日以内の心肺支持療法離脱日数(organ support-free days)は増加しなかった。米国・NYU Grossman School of MedicineのJeffrey S. Berger氏らが、ブラジル、イタリア、スペイン、米国の病院60施設で実施した非盲検並行群間比較ベイズ流適応型無作為化試験「Accelerating COVID-19 Therapeutic Interventions and Vaccines 4 Acute:ACTIV-4a」の結果を報告した。非重症のCOVID-19入院患者に対するヘパリン療法は、マルチプラットフォーム無作為化比較試験で生存日数や心肺支持療法離脱日数を増加することが示されたものの、患者の24%が死亡または集中治療を必要としたことから、この集団における追加治療が検討されていた。JAMA誌2022年1月18日号掲載の報告。ヘパリン+P2Y12阻害薬またはヘパリン単独に無作為化 研究グループは、2021年2月26日~6月19日の期間に、COVID-19で入院後72時間以内の患者で集中治療室(ICU)への入室は不要の非重症患者562例を、治療量のヘパリン+P2Y12阻害薬併用群(P2Y12阻害薬群、293例)、または治療量のヘパリン単独群(標準治療群、269例)に1対1の割合で無作為に割り付け、14日間または退院のいずれか早い日まで投与した。P2Y12阻害薬としてはチカグレロルが推奨されたが、クロピドグレルやプラスグレルの使用も認められた。90日間の最終追跡日は、2021年9月15日であった。 主要評価項目は、21日間における心肺支持療法離脱日数で、院内死亡(-1)と退院まで生存した患者については21日目までに呼吸/心臓系の心肺支持療法を受けなかった日数(範囲:-1~21日、スコアが高いほど心肺支持療法が少なくアウトカム良好を示す)を組み合わせた順序尺度で評価した。安全性の主要評価項目は、国際血栓止血学会により定義された28日までの大出血とした。ヘパリン+P2Y12阻害薬で、心肺支持療法離脱日数は改善せず、大出血リスクは3倍 無作為化された全562例(平均年齢52.7歳[SD 13.5]、女性41.5%)が試験を完遂し、87%が1日目に治療量のヘパリン投与を受けた。P2Y12阻害薬群では、63%がチカグレロル、37%がクロピドグレルを投与された。 心肺支持療法離脱日数の中央値は、P2Y12阻害薬群で21日(IQR:20~21)、標準治療群で21日(IQR:21~21)であった(補正後オッズ比[OR]:0.83、95%信頼区間[CI]:0.55~1.25、無益性の事後確率[オッズ比<1.2と定義]=96%)。死亡または心肺支持療法を必要とした患者の割合は、P2Y12阻害薬群(75例、26%)が標準治療群(58例、22%)より高かった(補正後ハザード比[HR]:1.19、95%CI:0.84~1.68、p=0.34)。 大出血は、P2Y12阻害薬群6例(2.0%)、標準治療群2例(0.7%)に認められた(補正後OR:3.31、95%CI:0.64~17.2、p=0.15)。

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