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大量輸血の外傷患者、4F-PCCの有効性認められず/JAMA

 大量輸血のリスクがある外傷患者において、高比率輸血戦略に4因子含有プロトロンビン複合体濃縮製剤(4F-PCC)を追加しても24時間の血液製剤消費量の有意な減少は認められず、血栓塞栓イベントの発生が有意に増加した。フランス・グルノーブル・アルプ大学のPierre Bouzat氏らが「PROCOAG試験」の結果を報告した。外傷性出血における最適な輸血戦略は不明である。最近の観察研究では、4F-PCCの早期投与と新鮮凍結血漿(FFP)の併用により、血栓塞栓イベントが増加することなく血液製剤の消費量と死亡率が低下することが示されていた。今回の試験を受けて著者は、「大量輸血のリスクを有する患者における4F-PCCの使用は支持されない」とまとめている。JAMA誌2023年4月25日号掲載の報告。24時間血液製剤消費量を4F-PCC群とプラセボ群で比較 「PROCOAG試験」は、フランスのレベルI外傷センター12施設において実施された無作為化二重盲検プラセボ対照優越性試験。 研究グループは、2017年12月29日~2021年8月31日の期間に、大量輸血が予想される外傷患者連続症例を登録し、4F-PCC群(第IX因子25 IU/kg[1mL/kg]静脈内投与)またはプラセボ群(生理食塩水1mL/kg静脈内投与)に無作為に割り付けた。全例、入院時に濃厚赤血球(PRBC)とFFPの比率が1対1から2対1の輸血を早期に受け、欧州外傷性出血ガイドラインの勧告に従って治療された。最終追跡調査日は2021年8月31日であった。 主要アウトカムは、24時間の血液製剤消費量(有効性)、副次アウトカムは動脈または静脈血栓塞栓イベント(安全性)とした。24時間血液製剤消費量に有意差なし、血栓塞栓イベントは4F-PCC群で増加 4,313例がスクリーニングされ、適格基準を満たした350例のうち327例が無作為化され、同意撤回を除く324例が解析対象となった(4F-PCC群164例、プラセボ群160例)。患者背景は、年齢中央値39歳(四分位範囲[IQR]:27~56)、Injury Severity Score中央値36(IQR:26~50[大外傷])、入院時血中乳酸値の中央値4.6mmol/L(IQR:2.8~7.4)。入院前動脈収縮期血圧90mmHg未満の患者割合は59%(179/324例)、233例(73%)が男性、226例(69%)が緊急の出血コントロールを要した。 24時間の血液製剤消費量の中央値は、4F-PCC群12 U(IQR:5~19)、プラセボ群11 U(IQR:6~19)であり、両群間に有意差はなかった(絶対差:0.2 U、95%CI:-2.99~3.33、p=0.72)。 少なくとも1つの血栓塞栓イベントが発現した患者は、4F-PCC群56例(35%)に対し、プラセボ群では37例(24%)で、4F-PCC群のほうが多かった(絶対差:11%[95%CI:1~21]、相対リスク:1.48[95%CI:1.04~2.10]、p=0.03)。

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インヒビター保有の重症血友病A・B、siRNA薬fitusiranが出血抑制/Lancet

 インヒビターを保有する重症血友病AまたはB患者において、fitusiranの予防的皮下投与は、年間出血率を統計学的有意に改善し、被験者の3分の2において出血を認めなかったことが、米国・南カリフォルニア大学のGuy Young氏らによる第III相多施設共同非盲検無作為化試験「ATLAS-INH試験」で示された。fitusiranは、アンチトロンビンを標的とする新規開発の短鎖干渉RNA(siRNA)治療薬で、インヒビター保有の有無を問わず血友病AまたはB患者の止血バランスを調整する。本検討は、fitusiranの予防的投与の有効性と安全性を評価したもので、結果を踏まえて著者は、「fitusiranの予防的投与が、血友病患者の治療管理を改善する可能性がある」と述べている。Lancet誌オンライン版2023年3月29日号掲載の報告。fitusiran予防的投与とBPA出血時投与で平均年間出血率を比較 ATLAS-INH試験は、12ヵ国26ヵ所の医療機関(主に第2次・3次医療センター)で実施された。第VIII因子または第IX因子に対するインヒビターを保有する重症血友病AまたはBで、出血時にバイパス製剤(BPA)投与を受けている12歳以上の男性患者を、fitusiran(80mg/月)を予防的に皮下投与する群(fitusiran予防的投与群)、出血時にBPA投与を継続する群(BPA出血時投与群)に2対1の割合で無作為に割り付けた。投与期間は9ヵ月だった。 主要エンドポイントは、有効性判定期間(29~246日目)のITT集団における平均年間出血率で、負の二項分布モデルで推定した。安全性については、副次エンドポイントとして安全性集団を対象に評価した。平均年間出血率はfitusiran群1.7%、BPA群18.1% 2018年2月14日~2021年6月23日に、85例がスクリーニングを受け、うち57例(67%)が無作為化を受け全例が試験を完了した(ITT集団、年齢中央値27.0歳[四分位範囲:19.5~33.5]、BPA出血時投与群19例[33%]、fitusiran予防的投与群38例[67%])。安全性集団は、60例(BPA出血時投与群19例、fitusiran予防的投与群41例[無作為化を受けずにfitusiranの予防的投与を受けた3例を含む])を対象とした。 負の二項分布モデルで推定した平均年間出血率は、BPA出血時投与群18.1%(95%信頼区間[CI]:10.6~30.8)に対し、fitusiran予防的投与群は1.7%(1.0~2.7)と有意に低率で(p<0.0001)、fitusiran予防的投与は年間出血率を90.8%(95%CI:80.8~95.6)低下させた。 治療を要する出血が認められなかったのは、BPA出血時投与群1例(5%)に対し、fitusiran予防的投与群は25例(66%)だった。 fitusiran予防的投与群で最も多くみられた治療中に発現した有害事象は、アラニンアミノトランスフェラーゼ増加で、13/41例(32%)に認められた。同有害事象はBPA出血時投与群では認められなかった。また、血栓イベントの疑いまたは確定例は、fitusiran予防的投与群で2例(5%)認められた。試験期間中の死亡は報告されなかった。

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血小板無力症〔GT:Glanzmann thrombasthenia〕

1 疾患概要■ 定義血小板無力症(Glanzmann thrombasthenia:GT)は、1918年にGlanzmannにより初めて報告された1)一般的な遺伝性血小板障害(Inherited platelet disorders:IPD)であり、その中でも最もよく知られた先天性血小板機能異常症である。血小板インテグリンαIIbβ3(alphaIIbbeta3:いわゆる糖蛋白質[glycoprotein:GP]IIb/IIIaとして知られている)の量的欠損あるいは質的異常のため、血小板凝集機能の障害により主に中等度から重度の粘膜皮膚出血を伴う出血性疾患である。インテグリンαIIbβ3機能の喪失により、血小板はフィブリノーゲンや他の接着蛋白質と結合できなくなり、血小板による血栓形成不全、および多くの場合に血餅退縮が認められなくなる。 ■ 疫学血液凝固異常症全国調査では血液凝固VIII因子の欠乏症である血友病Aが男性出生児5,000人に約1人,また最も頻度が高いと推定される血漿蛋白であるvon Willebrand factor(VWF)の欠損症であるvon Willebrand病(VWD)については出生児1,000人に1人2、3)と報告される(出血症状を呈するのはその中の約1%と考えられている)。IPDは、これらの遺伝性出血性疾患の発症頻度に比べてさらに低くまれな疾患である。UK Haemophilia Centres Doctors Organisation(UKHCDO)に登録された報告2)では、VWDや血友病A・Bを含む凝固障害(87%)に比較して血小板数・血小板機能障害(8%)である。その8%のIPDの中ではGTは比較的頻度が高いが、明らかな出血症状を伴うことから診断が容易であるためと想定される(GT:5.4%、ベルナール・スーリエ症候群:3.7%、その他の血小板障害:90.1%)。凝固異常に比較して、IPDが疑われる症例ではその分子的な原因を臨床検査により正確に特定できないことも多く、その他の血小板障害(90.1%)としてひとくくりにされている。GTは、常染色体潜性(劣性)遺伝形式のために一般的にホモ接合体変異で発症し、ある血縁集団(民族)ではGTの発症頻度が高いことが知られている。遺伝子型が同一のGT症例でも臨床像が大きく異なり、遺伝子型と表現型の相関はない1、4)。血縁以外では複合ヘテロ接合によるものが主である。■ 病因(図1)図1 遺伝性血小板障害に関与する主要な血小板構造画像を拡大するインテグリンαIIbサブユニットをコードするITGA2B遺伝子やβ3サブユニットをコードするITGB3遺伝子の変異は、インテグリンαIIbβ3複合体の生合成や構造に影響を与え、GTを引き起こす。片方のサブユニットの欠落または不完全な構造のサブユニット生成により、成熟巨核球で変異サブユニットと残存する未使用の正常サブユニットの両方の破壊が誘導されるが、例外もありβ3がαvと結合して血小板に少量存在するαvβ3を形成する5)。わが国における血小板無力症では、欧米例とは異なりβ3の欠損例が少なく、αIIb遺伝子に異常が存在することが多くαIIbの著減例が多い。また、異なる家系であるが同一の遺伝子異常が比較的高率に存在することは単民族性に起因すると考えられている6)。このほかに、血小板活性化によりインテグリン活性化に関連した構造変化を促す「インサイドアウト」シグナル伝達や、主要なリガンドと結合したαIIbβ3がさらなる構造変化を起こして血小板形態変化や血餅退縮に不可欠な「アウトサイドイン」シグナル伝達経路を阻害する細胞内ドメインの変異体も存在する。細胞質および膜近位ドメインのまれな機能獲得型単一アレル変異体では、自発的に受容体の構造変化が促進される結果、巨大血小板性血小板減少症を引き起こす。「インサイドアウト」シグナルに重要な役割を果たすCalDAG-GEFI(Ca2+ and diacylglycerol-regulated guanine nucleotide exchange factor)[RASGRP2遺伝子]およびKindlin-3(FERMT3遺伝子)の遺伝子変異により、GT同様の臨床症状および血小板機能障害を発症する。この機能性蛋白質が関与する他の症候としては、CalDAG-GEFIは他の血球系、血管系、脳線条体に存在し、ハンチントン病との関連も指摘されており、Kindlin-3の遺伝子変異では、白血球接着不全III(leukocyte adhesion deficiency III:LAD-III)を引き起こす。LAD-III症候群は常染色体潜性(劣性)遺伝で、白血球減少、血小板機能不全、感染症の再発を特徴とする疾患である5)。■ 症状GTでは鼻出血や消化管出血など軽度から重度の粘膜皮膚出血が主症状であるが、外傷・出産・手術に関連した過剰出血なども認める。男女ともに罹患するが、とくに女性では月経や出産などにより明らかな出血症状を伴うことがある。実際、過多月経を訴える女性の50%がIPDと診断されており、さらにIPDの女性は排卵に関連した出血を起こすことがあり、子宮内膜症のリスクも高いとされている7)。■ 分類GTの分類では、インテグリンαIIbβ3の発現量により分類される。多くの症例が相当するI型では、ほとんどαIIbβ3が発現していないため、血小板凝集が欠如し血餅退縮もみられない。発現量は少ないがαIIbβ3が残存するII型では、血小板凝集は欠如するが血餅退縮は認める。また、非機能的なαIIbβ3を発現するまれなvariant GTなどがある1、5)。■ 予後GTは、消化管出血や血尿など重篤な出血症状を時折引き起こすことがあるが、慎重な経過観察と適切な支持療法により予後は良好である。GTの出血傾向は小児期より認められその症状は顕著であるが、一般的に年齢とともに軽減することが知られており、多くの成人症例で本疾患が日常生活に及ぼす影響は限られている。診断された患者さんが出血で死亡することは、外傷や他の疾患(がんなど)など重篤な合併症の併発に関連しない限りまれである1)。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)血小板機能障害は1次止血の異常であり、主に皮膚や粘膜に発現することが多い。出血症状の状況(部位や頻度、期間、再発傾向、出血量)および重症度(出血評価ツール)を評価することは、出血症状を呈する患者の評価における最初の重要なステップである。出血の誘因が年齢や性別(月経)に影響するかどうかを念頭に、患者自身および家族の出血歴(術後または抜歯後の出血を含む)、服薬状況(非ステロイド性抗炎症薬)について正確な問診を行う。また、IPDを疑う場合は、出血とは無関係の症状、たとえば眼病変や難聴、湿疹や再発性感染、各臓器の形成不全、精神遅滞、肝腎機能など他器官の異常の可能性に注意を払い、血小板異常機能に関連した症候群型の可能性を評価できるようにする7)。【遺伝性血小板障害の診断】症候学的特徴(出血症状、その他症状、家族歴)血小板数/形態血小板機能検査(透過光血小板凝集検査法)フローサイトメトリー免疫蛍光法、電子顕微鏡法分子遺伝学的解析(Boeckelmann D, et al. Hamostaseologie. 2021;41:460-468.より作成)出血症状に対するスクリーニング検査は、比較的簡単な基礎的な臨床検査で可能であり非専門施設でも実施できる。血液算定、末梢血塗抹標本での形態観察、血液凝固スクリーニング、VWDを除外するためのVWFスクリーニング(VWF抗原、VWF活性[リストセチン補因子活性]、必要に応じて血液凝固第VIII因子活性)などを行う(図2)。上記のスクリーニング検査でIPDの可能性を検討するが、IPDの中には血小板減少を伴うものもあるので、短絡的に特発性血小板減少性紫斑病と診断しないように注意する。末梢血塗抹標本の評価では、血小板の大きさ(巨大血小板)や構造、他の血球の異常の可能性(白血球の封入体)について情報を得ることができ、これらが存在すれば特定のIPDが示唆される。図2 遺伝性血小板障害(フォン・ヴィレブランド病を含む)での血小板凝集のパターン、遺伝子変異と関連する表現型画像を拡大する血小板機能検査として最も広く用いられている方法は透過光血小板凝集検査法(LTA)であり、標準化の問題はあるもののLTAはいまだ血小板機能検査のゴールドスタンダードである。近年では、全自動血液凝固測定装置でLTAが検査できるものもあるため、LTA専用の検査機器を用意しなくても実施できる。図3に示すように、GTではリストセチンを除くすべてのアゴニスト(血小板活性化物質)に対して凝集を示さない。GTやベルナール・スーリエ症候群などの血小板受容体欠損症の診断に細胞表面抗原を測定するフローサイトメトリー(図4)は極めて重要であり、インテグリンαIIbβ3の血小板表面発現の欠損や減少が認められる。インテグリンαIIbβ3活性化エピトープ(PAC-1)を認識する抗体では、活性化不全が認められる8)。図3 血小板無力症と健常者の透過光血小板凝集検査法での所見(PA-200を用いて測定)画像を拡大する図4 血小板表面マーカー画像を拡大するGTでは臨床所見や上記の検査の組み合わせで確定診断が可能であるが、その他IPDを診断するための検査としては、顆粒含有量および放出量の測定(血小板溶解液およびLTA記録終了時の多血小板血漿サンプルの上清中での血小板因子-4やβトロンボグロブリン、セロトニンなど)のほか、血清トロンボキサンB2(TXB2)測定(アラキドン酸由来で生理活性物質であるトロンボキサンA2の血中における安定代謝産物)、電子顕微鏡による形態、血小板の流動条件下での接着および血栓形成などの観察、細胞内蛋白質のウェスタンブロッティングなどが参考となる。遺伝子検査はIPDの診断において、とくに病態の原因と考えられる候補遺伝子の解析を行い、主に確定診断的な役割を果たす重要な検査である。今後は、次世代シーケンサーの普及によるジェノタイピングにより、遺伝子型判定を行うことが容易となりつつあり、いずれIPDでの第一線の診断法となると想定される。ただしこれらの上記に記載した検査については、現段階では保険適用外であるもの、研究機関でしか行えないものも数多い。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)予防や治療の選択肢は限られているため、日常生活での出血リスクを最小限に抑えること、出血など緊急時の対応に備えることが必要である(図5)。図5 出血性疾患に対する出血の予防と治療画像を拡大する罹患している病名や抗血栓薬など避けるべき薬剤などの医療情報(カード)を配布することも有効である。この対応方法は、出血性疾患でおおむね同様と考えられるが、たとえばGTに対しては血小板輸血による同種抗体生成リスクを可能な限り避けるなど、個々の疾患において特別な注意が必要なものもある。この抗血小板抗体は、輸血された血小板除去やその機能の阻害を引き起こし、輸血効果を減弱させる血小板不応の原因となる。観血的手技においては、出血のリスクと処置のベネフィットなど治療効率の評価、多職種(外科医、血栓止血専門医、看護師、臨床検査技師など)による出血に対するケアや止血評価、止血対策のためのプロトコルの確立と遵守(血小板輸血や遺伝子組み換え活性化FVII製剤、抗線溶薬の使用、観血術前や出産前の予防投与の考慮)が不可欠である。IPD患者にとって妊娠は、分娩関連出血リスクが高いことや新生児にも出血の危険があるなどの問題がある。最小限の対策ですむ軽症出血症例から最大限の予防が必要な重篤な出血歴のある女性まで状況が異なるために、個々の症例において産科医や血液内科医の間で管理を計画しなければならない。重症出血症例に対する経膣分娩や帝王切開の選択なども依然として難しい。4 今後の展望出血時の対応などの臨床的な役割を担う医療機関や遺伝子診断などの専門的な解析施設へのアクセスを容易にできるようにすることが望まれる。たとえば、血友病のみならずIPDを含めたすべての出血性疾患について相談や診療可能な施設の連携体制の構築すること、そしてIPD診断については特殊検査や遺伝子検査(次世代シーケンサー)を扱う専門施設を確立することなどである。遺伝性出血性疾患の中には、標準的な治療では対応しきれない再発性の重篤な出血を伴う若い症例なども散見され、治療について難渋することがある。こうした症例に対しては、遺伝性疾患であるからこそ幹細胞移植や遺伝子治療が必要と考えられるが、まだ選択肢にはない。近い将来には、治療法についても革新的技術の導入が期待される。5 主たる診療科血液内科(血栓止血専門医)※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報小児慢性特定疾病情報センター 血小板無力症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)国立成育医療研究センター 先天性血小板減少症の診断とレジストリ(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)大阪大学‐血液・腫瘍内科学 血小板疾患研究グループ山梨大学大学院 総合研究部医学域 臨床検査医学講座(医療従事者向けのまとまった情報)1)Nurden AT. Orphanet J Rare Dis. 2006;1:10.2)Sivapalaratnam S, et al. Br J Haematol. 2017;179:363-376.3)日笠聡ほか. 日本血栓止血学会誌. 2021;32:413-481.4)Sandrock-Lang K, et al. Hamostaseologie. 2016;36:178-186.5)Nurden P, et al. Haematologica. 2021;106:337-350.6)冨山佳昭. 日本血栓止血学会誌. 2005;16:171-178.7)Gresele P, et al. Thromb Res. 2019;181:S54-S59.8)Gresele P, et al. Semin Thromb Hemost. 2016;42:292-305.公開履歴初回2023年3月30日

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DOAC時代のVTE診療の国内大規模研究、再発リスクの層別化評価と出血リスク評価の重要性が明らかに/日本循環器学会

 日本では過去に静脈血栓塞栓症 (肺塞栓症および深部静脈血栓症、以下VTE)の患者を対象とした多施設共同の大規模観察研究:COMMAND VTE Registry(期間:2010年1月~2014年8月、対象:3,024例)が報告されていた。しかしながら、同研究はワルファリン時代のデータベースであり、抗凝固薬の88%がワルファリンであった。現在はVTE患者の治療には直接経口抗凝固薬(DOAC)が広く普及しており、そこでDOAC時代における日本のVTE診療の実態を明らかにすることを目的としたCOMMAND VTE Registry-2が実施され、3月10~12日に開催された第87回日本循環器学会学術集会の「Late Breaking Cohort Studies Session」にて、同研究班の金田 和久氏(京都大学大学院医学研究科 循環器内科学)が、その主解析の結果を報告した。DOAC時代のVTE患者を対象とした大規模な観察研究 COMMAND VTE Registry-2は、日本の31施設において2015年1月~2020年8月の期間に、急性の症候性の肺塞栓症および深部静脈血栓症と診断された患者5,197例を登録した多施設共同の観察研究である。本研究の特徴は、1)DOAC時代に特化したデータベースであること、2)世界的にみてもDOAC時代を対象とした最大規模のリアルワールドデータであること、3)詳細な情報収集かつ長期的なフォローアップが実施されたレジストリであることだ。 日本循環器学会が発行するガイドライン最新版1)では、VTE再発リスクを3つのグループに分類し検討されていたが、近年は国際血栓止血学(ISTH)よりさらなる詳細なリスク層別化が推奨され、世界中の多くの最新のVTEガイドラインでは、VTE再発リスクに応じて5つのグループに分類している(メジャーな一過性リスク群[大手術や長期臥床、帝王切開など]、マイナーな一過性リスク群[旅などで長時間姿勢保持、小手術、ホルモン療法、妊娠など]、VTE発症の誘因のない群、がん以外の持続的なリスク因子を有する群[自己免疫性疾患など]、活動性のがんを有する群)。 今回の主解析では、ISTHで推奨されている詳細な5つのグループに分類し、患者背景、治療の詳細、および予後が評価された。 DOAC時代における日本のVTE診療の実態を明らかにすることを目的としたCOMMAND VTE Registry-2の主な結果は以下のとおり。・全対象者は5,197例で、平均年齢は67.7歳、女性は3,063例(59.0%)、平均体重は58.9kgだった。・PE(肺塞栓症)の症例は、2,787例(54.0%)で、DVTのみの症例は2,420例(46.0%)であった。・初期治療において経口抗凝固薬が使用されたのは4,790例(92.0%)で、そのうちDOACが処方されたのは4,128例(79%)だった。DOACの処方状況は、エドキサバン2,004例(49%)、リバーロキサバン1,206例(29%)、アピキサバン912例(22%)、ダビガトラン6例(0.2%)であった。・治療開始1年間の投与中止率は、グループ間で大きく異なっていた(メジャーな一過性リスク群:57.2%、マイナーな一過性リスク群:46.3%、VTE発症の誘因のない群:29.1%、がん以外の持続的なリスク因子を有する群:32.0%、活動性のがんを有する群:45.6%、p<0.001)。・メジャーな一過性リスク群(n=475[9%])はVTE再発リスクの5年間の累積発生率が最も低かった(2.6%、p<0.001)。・マイナーな一過性リスク群(n=788[15%])では、メジャーな一過性リスク群と比較するとVTE再発リスクの5年間の累積発生率が比較的高かった(6.4%、p<0.001)。・VTE発症の誘因のない群(n=1,913[37%])では長期にわたり再発リスクがかなり高かった(5年時点にて11.0%、p<0.001)。・活動性のがんを有する群(n=1,507、29%)では再発リスクが高く(5年時点にて10.1%、p<0.001)、また、大出血の5年間の累積発生率は最も高く(20.4%、p<0.001)、抗凝固療法の中止率も高かった。 発表者の金田氏は「欧米の最新のVTEガイドラインでもマイナーな一過性リスク群に対する抗凝固療法の投与期間は、短期vs.長期で相反する推奨の記載があるが、今回の結果を見る限り、日本人でも出血リスクの低い患者においては長期的な抗凝固療法を継続するベネフィットがあるのかもしれない。欧米のVTEガイドラインでは、VTE発症の誘因のない群では、半永久的な抗凝固療法の継続を推奨しているが、日本人でも同患者群での長期的な高い再発リスクを考えると、出血リスクがない限りは長期的な抗凝固療法の継続が妥当なのかもしれない。活動性がんを有する患者では、日本循環器学会のガイドラインでもより長期の抗凝固療法の継続が推奨されているが、DOAC時代となっても出血イベントなどのためにやむなく中止されている事が多く、DOAC時代となっても今後解決すべきアンメットニーズであると考えられる」と述べた。 最後に同氏は「今回、日本全国の多くの共同研究者のご尽力により実施されたDOAC時代のVTE患者の大規模な観察研究により、日本においても最新のISTHの推奨に基づいた詳細な再発リスクの層別化が抗凝固療法の管理戦略に役立つ可能性があり、一方で、より長期の抗凝固療法の継続が推奨されるようになったDOAC時代においては、その出血リスクの評価が益々重要になっていることが明らかになった」と話し、「本レジストリは非常に詳細な情報収集を行っており、今後、さまざまなテーマでのサブ解析の検討を行い共同研究者の先生方とともに情報発信を行っていきたい」と結論付けた。 なお、本学術集会ではCOMMAND VTE Registry-2からサブ解析を含めて総数20演題の結果が報告された。(下記、一部を列記)―――Actual Management of Venous Thromboembolism Complicated by Antiphospholipid AntibodySyndrome in Japan. From the COMMAND VTE Registry-2久野 貴弘氏(群馬大学医学部附属病院 循環器内科)Risk Factors of Bleeding during Anticoagulation Therapy for Cancer-associated Venous Thromboembolism in the DOAC Era: From the COMMAND VTE Registry-2平森 誠一氏(長野県厚生連篠ノ井総合病院 循環器科)Chronic Thromboembolic Pulmonary Hypertension after Acute Pulmonary Embolism in the Era of Direct Oral Anticoagulants: From the COMMAND VTE Registry-2池田 長生氏(東邦大学医療センター大橋病院 循環器内科)Clinical Characteristics and Outcome of Critical Acute Pulmonary Embolism Requiring Extracorporeal Membrane Oxygenation: From the COMMAND VTE Registry-2高林 健介氏(枚方公済病院 循環器内科)Clinical Characteristics, Anticoagulation Strategies and Outcomes Comparing Patients with and without History of Venous Thromboembolism: From the COMMAND VTE Registry-2土井 康佑氏(京都医療センター 循環器内科)Risk Factor for Major Bleeding during Direct Oral Anticoagulant Therapy in Patients with Venous Thromboembolism: From the COMMAND VTE Registry-2上野 裕貴氏(長崎大学循環病態制御内科学)Utility and Application of Simplified PESI Score for Identification of Low-risk Patients withPulmonary Embolism in the Era of DOAC西川 隆介氏(京都大学医学研究科 循環器内科学)Management Strategies and Outcomes of Cancer-Associated Venous Thromboembolism in the Era of Direct Oral Anticoagulants: From the COMMAND VTE Registry-2茶谷 龍己氏(倉敷中央病院 循環器内科)Clinical Characteristics and Outcomes in Patients with Cancer-Associated Venous Thromboembolism According to Cancer Sites: From the COMMAND VTE Registry-2坂本 二郎氏(天理よろづ相談所病院 循環器内科)Direct Oral Anticoagulants-Associated Bleeding Complications in Patients with Gastrointestinal Cancer and Venous Thromboembolism: From the COMMAND VTE Registry-2西本 裕二氏(大阪急性期・総合医療センター 心臓内科)Influence of Fragility on Clinical Outcomes in Patients with Venous Thromboembolism and Direct Oral Anticoagulant: From the COMMAND VTE Registry-2荻原 義人氏(三重大学 循環器内科学)Comparison of Clinical Characteristics and Outcomes of Venous Thromboembolism(VTE)between Young and Elder Patients: From the COMMAND VTE Registry-2森 健太氏(神戸大学医学部附属病院 総合内科)Off-Label Under- and Overdosing of Direct Oral Anticoagulants in Patients with VenousThromboembolism: From the COMMAND VTE Registry-2辻 修平氏(日本赤十字社和歌山医療センター 循環器内科)The Association between Statin Use and Recurrent Venous Thromboembolism: From theCOMMAND VTE Registry-2馬渕 博氏(湖東記念病院 循環器科)Clinical Characteristics and Outcomes of Venous Thromboembolism Comparing Patients with and without Initial Intensive High-dose Anticoagulation by Rivaroxaban and Apixaban大井 磨紀氏(大津赤十字病院 循環器内科)Initial Anticoagulation Strategy in Pulmonary Embolism Patients with Right Ventricular Dysfunction and Elevated Troponin Levels: From the COMMAND VTE Registry-2滋野 稜氏(神戸市立医療センター中央市民病院 循環器内科)Current Use of Inferior Vena Cava Filters in Japan in the Era of DOACs from the COMMAND VTE Registry-2高瀬 徹氏(近畿大学 循環器内科学)Patient Characteristics and Clinical Outcomes among Direct Oral Anticoagulants for Cancer Associated Venous Thromboembolism: From the COMMAND VTE Registry-2末田 大輔氏(熊本大学大学院生命科学研究部 循環器内科)―――

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甘味料エリスリトールに心血管リスク、想定される機序は?

 人工甘味料は砂糖の代用として広く使用されているが、人工甘味料の摂取が2型糖尿病や心血管疾患と関連するという報告もある。米国・クリーブランドクリニック・ラーナー研究所のMarco Witkowski氏らは、アンターゲットメタボロミクス研究において、糖アルコールに分類される甘味料エリスリトール(多くの果物や野菜に少量含まれる)が3年間の主要心血管イベント(MACE:死亡、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中)の発生と関連していることを発見し、その後の米国および欧州の2つのコホートを用いた研究でも、その関連は再現された。また、エリスリトールはin vitroにおいて血小板反応性を亢進し、in vivoにおいて血栓形成を促進することを明らかにした。健康成人にエリスリトールを摂取させたところ、血小板反応性の亢進および血栓形成の促進についての閾値を大きく超える血漿中エリスリトール濃度の上昇が引き起こされた。Nature Medicine誌オンライン版2023年2月27日号の報告。 米国において、心臓カテーテル検査を受けた患者1,157例を対象として、アンターゲットメタボロミクスにより3年間のMACE発生と関連のある物質を検討し、エリスリトールが同定された。その結果を受けて、米国において同様に2,149例(上記の1,157例とは重複しない)を対象に、血清中エリスリトール濃度で四分位に分類し、3年間のMACE発生との関係を検討した。また、欧州において慢性冠症候群の疑いで待機的冠動脈造影検査を受けた833例を対象に、血清中エリスリトール濃度で四分位に分類し、3年間のMACE発生との関係を検討した。さらに、米国の18歳以上の健康成人8人を対象に、エリスリトール30g(市販の人工甘味料入り飲料1缶、ケトアイス1パイントなどに相当)入りの飲料を摂取させ、血漿中のエリスリトール濃度を7日間測定した。 エリスリトールの血小板への作用を検討するため、健康成人の多血小板血漿(PRP)を用いて血小板凝集反応とエリスリトール濃度の関係を検討した。また、血小板を分離し、エリスリトールの血小板機能への影響も検討した。エリスリトールの血栓形成への影響は、ヒト全血における血小板の接着、頸動脈損傷モデルマウスにおける血栓形成率および血流停止までの時間により評価した。 主な結果は以下のとおり。・アンターゲットメタボロミクス研究において、血清中エリスリトール濃度第4四分位群は第1四分位群と比べて有意にMACE発生リスクが高く(調整ハザード比[aHR]:2.95、95%信頼区間[CI]:1.70~5.12、p<0.001)、MACE関連候補分子の中で非常に上位に位置していた。・米国および欧州のコホート研究においても、血清中エリスリトール濃度第4四分位群は第1四分位群と比べて有意にMACE発生リスクが高く、aHR(95%CI)はそれぞれ1.80(1.18~2.77)、2.21(1.20~4.07)であった(それぞれp=0.007、p=0.010)。・エリスリトール濃度とMACE発生リスクの関連は、米国および欧州のコホート研究において男女問わず観察され、年齢(70歳以上/未満)、高血圧の有無、eGFR(60mL/min/1.73m2以上/未満)などのサブグループ解析においても同様であった。・ADPまたはTRAP6存在下で、エリスリトールは用量依存的にPRPにおける血小板凝集反応を増加させ、トロンビン(0.02U/mL)曝露後の血小板の細胞内Ca2+濃度を増加させた。また、ADP(2μM)存在下の血小板において、エリスリトールは用量依存的にP-セレクチンの発現およびGP IIb/IIIaの活性化を増加させた(いずれもin vitro)。・ヒト全血においてエリスリトールは血小板の接着を増加させ(in vitro)、頸動脈損傷モデルマウスにおいて血栓形成率を上昇、血流停止までの時間を短縮させた(in vivo)。・健康成人にエリスリトールを摂取させた研究では、摂取後数時間は血漿中濃度がベースライン(中央値3.84μM)より千倍以上高い状態(30分後の中央値5.85mM)が続き、血小板反応性の亢進および血栓形成の促進についての閾値を大きく超えていた。すべての被験者において、ベースラインからの増加は2日以上継続した。 本論文の著者らは、「エリスリトールおよび人工甘味料の長期的な安全性を評価する試験が必要であることが示唆された。エリスリトールへの曝露後、血栓形成のリスクが高まる可能性のある期間が持続することが示され、これは心血管疾患の発症リスクの高い患者(糖尿病、肥満、CVDの既往、腎機能障害を有する患者)における懸念事項である」とまとめた。

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脳卒中治療は心筋梗塞治療の後追いをしているね(解説:後藤信哉氏)

 心筋梗塞症例の院内死亡がアスピリン、ストレプトキナーゼにて減少できることは、ISIS-2試験により示された。原因が血栓なので、フィブリン選択的線溶薬を使い、各種抗凝固薬、抗血小板薬を併用したが、有効性イベントの減少を明確に示すことはできなかった。アルガトロバンは日本が開発した世界に誇る選択的トロンビン阻害薬である。経静脈投与できるので急性期の症例に使いやすい。線溶薬に抗トロンビン薬を追加すれば、急性脳梗塞を起こした血栓は再発しにくいと想定されるが、臨床試験ではアルガトロバン追加の効果を明確に示すことができなかった。 本研究は中国一国にて施行されたランダム化比較試験である。巨大な人口を要する中国から、今後も世界の医療にインパクトを与える臨床試験の結果が報告される可能性は高いと思う。

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厚労省の「解熱鎮痛薬等110番」は供給不足の解決にはならない!【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第104回

 昨年末、厚生労働省に「医療用解熱鎮痛薬等110番」という相談窓口が設置されました。解熱鎮痛薬などを入手できない医療機関や薬局のために設置された供給相談窓口ですが、開始1ヵ月ですでに混乱が生じているようです。厚生労働省が12月14日に開設した医療用薬の「供給相談窓口」(医療用解熱鎮痛薬等110番)に対し、約3週間で薬局や医療機関から500件もの相談が寄せられていることがわかった。(中略)一方、厚労省への相談件数が伸びるほど、卸側の負担は増大していくかたちとなり「お上からの重圧感が強いので対応せざるを得ないが、その後の対応や価格に関するトラブルも出てきている」(広域卸関係者)という。(2023年1月5日 RISFAX)この相談窓口の対象は、発熱外来や新型コロナウイルス感染症の患者を受け入れている医療機関やこれらの医療機関の処方せんを受け付けている薬局で、かつ下記をすべて満たす必要があります。解熱鎮痛薬、鎮咳薬、トラネキサム酸の在庫が少ない平時に取引のある卸売業者に連絡しても入手が困難である業務に支障を来たすとともに患者に迷惑を掛けてしまう恐れがある全国的に医薬品の供給が不足しているのは言わずもがなの状態で、何も困っていません!と言える薬局は少ないのではないでしょうか。本来であればありがたい話のはずなのですが、この窓口は厚生労働省の中に設置されているため、相談を受け付けても医薬品を製造して出荷することも、納入を早めることもできません。厚生労働省が医薬品調達に窮している薬局などの訴えを聞き、卸売業者へ納入調整を依頼するというものです。調整依頼と言っていますが、厚生労働省から連絡があった卸売業者は、その相談元の薬局などに医薬品を納入せざるを得ない状態になるのではないかと思います。卸売業者も在庫が限られていて精一杯の調整をしている中、厚生労働省がそこにプレッシャーをかけて優先順位を繰り上げるというのは、本質的にはなんの解決にもなっていないのでは…と思うのは私だけではないはずです。医薬品の供給量が減っている一方で、解熱鎮痛薬や咳止め薬などの需要が高まっていることが原因なのに、なぜこのような窓口の設置が解決につながると思ったのかは不思議です。現場としては、どこか別のところにしわ寄せがいく納入調整ではなく、本質的な供給不足の解決や不適切処方に対する対応がとられることを期待したいと思います。

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日本で承認されていなくても科学論文には読む価値がある(解説:後藤信哉氏)

 心筋梗塞の症例に対してprimary PCIが日本では広く施行されている。多分、日本の臨床家は、抗血小板薬2剤併用療法にて血栓イベントは十分にコントロールされていると感じているだろう。しかし、心筋梗塞後とのこともあり、本試験では日本にて選択可能な抗凝固治療であるヘパリン群では全死因死亡・BARC分類3~5の重篤な出血イベントの発生は30日以内にて4.39%であった。 bivalirudinは日本では承認されていない選択的なトロンビン阻害薬である。ヒルジンから作成したbivalirudinに日本人は馴染みがない。しかし、臨床開発のための第III相試験も施行され欧米諸国では適応を取得している。エンドポイントの発現率がbivalirudin群では3.06%であった。bivalirudinにより有効性エンドポイント発現リスクがハザード比(HR)として0.69(95%信頼区間[CI]:0.53~0.91)になれば以後のprimary PCI後の抗凝固薬標準治療にbivalirudinを考えるのがランダム化比較試験による標準治療転換の発想である。日本では認可されていない薬剤であっても世界の標準治療転換に利用されるかもしれないランダム化比較試験はしっかり読んでおいたほうがよい。

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薬価4億8300万円超の血友病Bの遺伝子治療薬をFDAが承認

 米食品医薬品局(FDA)は11月22日、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いた血友病Bの遺伝子治療薬Hemgenix(一般名etranacogene dezaparvovec)を承認した。同薬剤による治療は1回の投与で完了するが、価格は1回当たり350万ドル(1ドル138円換算で約4億8300万円)に上るという。投与の対象は、現在、第IX因子製剤による補充療法を受けている成人患者、現在または過去に命に関わる出血を経験したか、重症の自然出血エピソードが繰り返し生じている成人患者である。 血友病Bは、血液凝固第IX因子が欠落しているか、その量や質が不十分であることから生じる遺伝性の血液疾患である。血液凝固第IX因子は、止血に必要な血栓を形成する際に不可欠なタンパク質である。血友病Bの主な症状は、けがや手術後、歯科治療後などに生じる、長引く出血または重度の出血である。重症例では、はっきりとした原因なしに自然に出血が発生することもある。また、止血に時間がかかると、関節や筋肉、脳などでの出血といった重度の合併症を招きかねない。有病率は4万人に1人で、罹患者は男性に多い。女性でも血友病Bの原因となる遺伝子変異を有する保因者はいるが、約10〜25%に軽度の症状が現れる程度であり、中等度または重度の症状が現れることはまれである。 血友病Bに対する一般的な治療法は、足りない血液凝固第IX因子を凝固因子製剤で定期的に補う補充療法である。FDA生物製品評価研究センター(CBER)所長のPeter Marks氏は、「血友病に対する遺伝子治療の可能性が見え始めてすでに20年以上が経過した。血友病の治療は進歩したが、それでも、出血エピソードの予防と治療は個人の生活の質(QOL)に悪影響を及ぼしかねない」と話す。その上で同氏は、「Hemgenixの承認は、血友病B患者に新しい治療法の選択肢をもたらした。また、血友病B関連の疾病負荷が高い人々にとっては、革新的な治療法の開発が大きく進歩したことを意味する」と述べている。 Hemgenixは、血液凝固第IX因子の遺伝子を運ぶウイルスベクターで構成されており、1回の静脈注射で投与される。ウイルスにより運ばれた遺伝子は肝臓で発現し、第IX因子を産生してその血中濃度を増加させ、それにより出血エピソードを制限するという仕組みだ。 Hemgenixの安全性と有効性は、重度または中等度の血友病Bの男性患者57人(18〜75歳)を対象にした2件の試験により確認された。有効性は、対象者の年間出血率(ABR)の減少に基づき確立された。また、54人を対象にした1件の試験では、第IX因子の活動レベルが増加し、定期的な第IX因子補充療法が必要になる頻度が減少し、ABRはベースラインと比べて54%減少した。確認された副作用は、肝酵素レベルの上昇、頭痛、軽度の注入反応、およびインフルエンザ様症状などであった。 Hemgenixの承認は、CSLベーリング社に対して付与された。AP通信によると、同社は、「この薬剤により、血友病B患者での出血に対する治療数が減るため、究極的には医療費の削減につながる」との見解を示しているという。ほとんどのFDA承認薬と同様に、Hemgenixの治療代は、患者ではなく民間または政府の保険が負担するものと見込まれている。

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第Xa因子阻害剤による出血時の迅速な薬剤特定システムを構築/AZ

 アストラゼネカとSmart119は、12月14日付のプレスリリースで、医療機関と救急隊における第Xa因子阻害剤服用中の出血患者を対象とした情報共有システムを構築し、病院到着時に患者の服用薬剤を特定することで、迅速かつ適切な処置を目指すと発表した。 直接作用型第Xa因子阻害剤を含む抗凝固薬は、非弁膜症性心房細動患者の脳梗塞予防や静脈血栓塞栓症の治療・再発予防を目的として広く使用されている。その一方で、服用中は通常より出血が起こりやすい状態となるため、事故や転倒などのきっかけで、大出血につながるリスクが高くなる。抗凝固薬服用中の患者において大出血が発現した際、抗凝固薬の中和剤を止血処置の一環として投与することで、出血の増大を抑えられる可能性がある。中和剤を適切に使用するためには、患者の服薬情報の把握が必要となるが、現状、救急隊の病院到着時に約30%の患者で、服用薬剤が特定できないと報告されている。  この現状を改善する1つの策として、アストラゼネカとSmart119の2社は、あらかじめ患者の服薬情報をデータベースに集約し、出血発現時に救急隊がSmart119を通じ、これらの情報を把握、搬送先の医療機関と迅速に情報共有できるシステムを構築するという。このシステムの構築は、i2.JP(アイツー・ドット・ジェイピー:Innovation Infusion Japan)―「患者中心」の実現に向けて、医療・ヘルスケア業界はどうあるべきか、といった難題の解決策を探るべく発足―というオープンなコミュニティにおいて、Smart119が運用する救急医療情報システム「Smart119」を活用するというアイデアから生まれた。 アストラゼネカは、「患者中心」の実現を目指す中で、抗凝固薬服用患者に対して、有事の際に一刻も早く適切な処置を届けることができるようSmart119と協力しながら取り組んでいく、としている。

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第21回 第8波で「風邪薬」が軒並み出荷調整へ

沖縄第7波と対照的第8波は北海道からスタートです。第7波で沖縄が壊滅的な医療逼迫に陥ったことが記憶に新しいと思います。夏の沖縄に観光に行って、そのまま新型コロナのホテル療養になるという災難な人もいました。第7波に大きな痛手を負った地域ほど今回流行がゆるやかな印象です。これまでの波の集団免疫が影響しているのかもしれません。また、北海道は一足早く紅葉シーズンと秋の味覚シーズンが到来しました。全国旅行支援の後押しもあって旅行客も多かったと聞いています。これが新規陽性者数の増加につながった可能性はあります。北海道第8波では、いとも簡単に1日の新規陽性者数1万人を超えてきました(図)。過去最多です。急峻なピークを描いて、そのまま収束してくれるとありがたいのですが、第6波のように二峰性の波になる可能性もあります。第6波は変異ウイルスによって波が2つに分離されたのですが、今回はBA.5が8割以上を占めているものの、BA.2.75、BF.7、BQ.1.1がじわじわと増えつつあります1)。かなり細分化されて報告されているため、個々の変異ウイルスが波を形成するには至らないかもしれませんが、すんなりと第8波が終わってくれるのかは神のみぞ知るです。インフルエンザとの同時流行があると、かなりやっかいなことになります。画像を拡大する図. 北海道の新型コロナ新規陽性者数(筆者作成)先日、北海道のクリニックの医師と電話でお話をしたのですが、風邪症状を治める薬剤に出荷調整がかかっており、厳しいという意見がありました。トラネキサム酸やトローチなどが出荷調整新型コロナやインフルエンザには抗ウイルス薬を使用しますが、症状の緩和のためには症状を治める薬剤を使用することが多いです。呼吸器内科医なので、血痰・喀血の患者さんにトラネキサム酸を使用することがあるのですが、ここ最近トラネキサム酸が処方しにくく、少し困っています。咽頭痛に対するトラネキサム酸自体もそこまでエビデンスがあるわけではないのですが、プライマリ・ケアでは結構頻用されることが多いです。今月から、デカリニウム(商品名:SPトローチ)の処方が厳しくなってきました。これもそんなにエビデンスがあるわけではないので、積極的に処方することは多くないのですが、こちらの製剤は抗がん剤などで口内炎や咽頭痛がしんどい患者さんが強く希望することもあります。処方してから初めて出荷調整がかかっていることを知ることもありますが、まあとにかく、風邪症状を治める薬剤が処方できない場面はよく経験されます。いやあ、この状況で第8波とインフルエンザシーズンを迎えるのはしんどいかもしれませんね。新型コロナの咽頭痛に対するデキサメタゾンに関しては、エビデンスは何とも言えませんが、個人的には強烈な咽頭痛でしんどそうな患者さんには、デキサメタゾンの単回投与を検討してもよいかなとも考えています。ただし、48時間以内の症状軽減でようやく有意差が付いたという、弱いエビデンスではありますが。参考文献・参考サイト1)(第107回)東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料(令和4年11月17日)

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極めて難しい妊婦・産婦の静脈血栓症に対して日本は世界の標準治療ができない?(解説:後藤信哉氏)

 血栓症を専門とする医師として最も困難な臨床病態の一つが妊婦・産婦の静脈血栓症である。高齢者の心筋梗塞であれば死亡などの合併症を起こしても納得しやすい。多くの妊婦が安全に出産するなかで自分の家族が静脈血栓症に凶変すれば家族としては納得できない。血栓性素因などが同定されたら、血栓予防を行うことになる。数ヵ月の妊娠期間内、継続的に血栓予防を行うためにはどうしたらいいだろうか? 経口抗凝固薬として長年のデータの蓄積のあるワルファリンは胎盤を通過する。催奇形性もあるため器官形成期には使用できない。選択的トロンビン、Xa阻害薬は心房細動の脳卒中予防などに広く使用されているが、妊婦への使用経験は少ない。低分子として胎盤を通過すれば胎児への影響も懸念される。 妊婦の血栓症に対して使用できる数少ない抗凝固薬がヘパリンである。ヘパリンは分子量の異なる物質が混在している。個人ごとに効果がばらつくためaPTTを用いたモニタリングが必須である。欧米では、ヘパリンから低分子量成分を抽出した低分子ヘパリンが静脈血栓症に対して使用できる。妊娠中、産後の血栓リスクの高い時期には低分子ヘパリンの自己皮下注射が広く普及している。いわゆる予防量とされる少量の固定量が良いか、体重に応じて投与量を調節した方がよいかは不明であった。つまり、妊産婦の静脈血栓症予防の最適治療について欧米諸国は相当標準化が進んでいたが、容量調節の要否についてコンセンサスがなかったので本ランダム化比較試験が施行された。妊娠14週よりも前に静脈血栓が確認された症例を1,110例集めた。出産後6週までの血栓イベント、出血イベントの群間比較を行い両群に差がないとされた。 残念なことに日本では低分子量ヘパリンが静脈血栓症において適応を取得していない。家族とトラブルになるリスクの高い妊産婦の血栓予防に低分子ヘパリンをチャレンジする勇気はない。世界の標準治療と異なるとしてもヘパリンカルシウムなどにて対応せざるを得ない。ランダム化比較試験のエビデンスが標準治療とされる原理の中で、一度世界と標準治療が異なってしまうと追いつくのが難しい。低分子ヘパリンの自己皮下注が使えれば…と思う症例が多い。せめて日本でも大規模な観察研究データでも作って、本研究のように治療下でも1%の症例には静脈血栓イベントが起こる、などの科学的事実を集積できれば患者さんへの説明に役立つ。

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論文検索で困惑…医療略語が複数存在する疾患【知って得する!?医療略語】第22回

第22回 論文検索で困惑…医療略語が複数存在する疾患ITPの和訳がよく分かりません。教えてください。ITPには現在「特発性血小板減少性紫斑病」「免疫性血小板減少性紫斑病」「免疫性血小板減少症」の3つの和訳が存在するようです。≪医療略語アプリ「ポケットブレイン」より≫【略語】    ITP【日本語/英字】特発性血小板減少性紫斑病/idiopathic thrombocytopenic purpura免疫性血小板減少性紫斑病/immune thrombocytopenic purpura免疫性血小板減少症/immune thrombocytopenia【分野】    血液【診療科】   血液内科・小児科【関連】    ―実際のアプリの検索画面はこちら※「ポケットブレイン」は医療略語を読み解くためのもので、略語の使用を促すものではありません。筆者が学生の頃、血小板減少疾患であるITPは、特発性血小板減少性紫斑病(idiopathic thrombocytopenic purpura)と覚えました。しかし、近年ITPが「免疫性血小板減少性紫斑病:immune thrombocytopenic purpura」と訳されているのを見かけるようになりました。医師国家試験関連の参考書を参照しても、ITPは「免疫性血小板減少性紫斑病」で記載されています。ITPの和訳は変更されたのでしょうか。調べてみると、成人特発性血小板減少性紫斑病治療の参照ガイド2019改訂版1)が存在します。また難病情報センターの登録難病の病名2)も特発性血小板減少性紫斑病となっています。一方、小児免疫性血小板減少症診療ガイドライン2022年版というものも存在し、小児慢性特定疾病情報センターのサイトを見ると、免疫性血小板減少性紫斑病が告示病名3)となっています。また同サイトによれば、ITPは血小板減少があっても必ずしも紫斑を伴わないため「紫斑病」は除き、免疫性血小板減少症(immune thrombocytopenia: ITP)と表記するとの記載があります。しかし、それぞれの資料で疾患概要を調べてみると、特発性血小板減少性紫斑病、免疫性血小板減少性紫斑病、免疫性血小板減少症は、同一の疾患です。ちなみに厚生労働省保険局が運営する傷病名マスター4)には、「特発性血小板減少性紫斑病」は存在しますが、「免疫性血小板減少性紫斑病」は登録されていません。ITPと同じように、同一疾患(病態)に複数の病名が存在して困惑するのが血球貪食症候群(hemophagocytic lymphohistiocytosis:HPS)、血球貪食性リンパ組織球症 (hemophagocytic lymphohistiocytosis:HLH)です5)。医学的知見の集積で、より適切な病名に変更されていくことに異義はありません。しかし、同一の疾患や病態に複数の病名が併存することは、少なからず混乱を生じます。まず、それぞれの病名で一見すると別疾患のように誤解を生じます。また、学会発表や論文作成をする時にどちらの用語を用いれば良いか迷いますし、症例集積などの臨床研究や文献検索においても支障を来すと考えられます。昨今注目される医療データ活用の観点でも、同一疾患に複数の病名が存在することは、医療データの活用を阻害しかねません。この問題は日本に医療用語の整備、統一病名変更を告知する組織がないことが原因だと思います。学会の垣根を越えて、用語の統一が図られることを切に願います。1)成人特発性血小板減少性紫斑病治療の参照ガイド 2019改訂版2)難病情報センター:特発性血小板減少性紫斑病(指定難病63)3)小児慢性特定疾病情報センター:免疫性血小板減少性紫斑病4)厚生労働省保険局:診療報酬情報提供サービス5)熊倉 俊一. 血栓止血誌. 2008;19:210-215.

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10月13日 世界血栓症の日【今日は何の日?】

【10月13日 世界血栓症の日】〔由来〕国際血栓止血学会が、血栓症の認識を高め、診断、治療を促進し、最終的に血栓症による障害、死亡を低下させることを目的に制定。わが国では日本血栓止血学会が血栓症の啓発活動に取り組んでいる。関連コンテンツ咳嗽も侮れない!主訴の傾聴だけでは救命に至らない一例【Dr.山中の攻める!問診3step】動脈硬化のナレノハテ【患者説明用スライド】急性期虚血性脳卒中へのtenecteplase、標準治療となる可能性/Lancet脳梗塞の血栓除去術、発症6h以降でも機能障害を改善/Lancet脳卒中治療ガイドラインが6年ぶりに改訂、ポイントは?

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その血栓症、CATの可能性は?【知って得する!?医療略語】第21回

第21回 その血栓症、CATの可能性は?がんと血栓症は関連があるのですか?そうなのです、がんと血栓症は密接に関連していて、CATとも呼ばれます。≪医療略語アプリ「ポケットブレイン」より≫【略語】CAT【日本語】がん関連血栓症【英字】cancer associated thrombosis【分野】腫瘍関連【診療科】脳神経、循環器【関連】―実際のアプリの検索画面はこちら※「ポケットブレイン」は医療略語を読み解くためのもので、略語の使用を促すものではありません。近年、がん関連血栓症(CAT:cancer associated thrombosis)という言葉を散見するようになりました。CATはがん、もしくはがん治療に関連した血栓症を幅広く表現した概念です。また、がん診療における血栓症の合併リスクを注意喚起するとともに、あらゆる血栓症を治療するにあたり、その血栓形成の背景に“悪性疾患が存在する可能性を念頭に置くべき”であることを認識させてくれる概念だと考えます。脳卒中患者の診療が多かった筆者にとって、最も身近なCATはTrousseau(トルーソー)症候群でした。トルーソー症候群はCATの概念に包含されます。脳塞栓症の多くは、心原性脳塞栓症ですが、一部の塞栓症はトルーソー症候群による脳梗塞で、悪性腫瘍による血栓形成傾向によるものでした。トルーソー症候群の多くが抗血栓療法に抵抗性で短期間に脳塞栓症再発を経験しました。がん治療を受ける方は、脳梗塞を発症しやすく、がん治療中に脳卒中を発症した4人に1人はトルーソー症候群とも言われています。赤塚氏の報告によれば、トルーソー症候群の27.5%は脳梗塞先行群であったことが示されています。このため、「血液凝固能亢進を伴った多発脳梗塞では、悪性腫瘍を念頭に精査を進めることが重要」と述べてられています。CATやトルーソー症候群の疾患概念を念頭に置いていない限り、悪性疾患の精査がなされていない患者に対し、その存在を見過ごしたまま脳梗塞のみを治療するようなことが起きてしまいます。心房細動のない多発性脳梗塞や原因不明のDダイマー上昇を見かけた時には、頭部以下の画像検査も積極的に検討する必要があります。脳領域に限らず、体のどこかで原因不詳の血栓症が見られたら、悪性疾患の併存を疑い、検索することを心がけたいですね。1)赤塚 和寛ほか:当院でのTrousseau症候群40例の臨床的特徴2)野川 茂. 血栓止血誌. 2016;27:18-28.3)岡 亨. 心臓. 2020;52:1337-1341.

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新規作用機序、後天性血栓性血小板減少性紫斑病治療薬「カブリビ」承認/サノフィ

 サノフィは、2022年9月26日付のプレスリリースで、「後天性血栓性血小板減少性紫斑病」の効能または効果として、カブリビ注射用10mg(一般名:カプラシズマブ(遺伝子組換え)、以下「カブリビ」)の製造販売承認を取得したと発表した。 後天性血栓性血小板減少性紫斑病(以下、後天性TTP)は、重篤でまれな自己免疫性血液疾患で、予後不良な急性疾患とされている。そのため、急性期における死亡を防ぐためにも、緊急の治療を要する。後天性TTPは、止血に関わるタンパク質であるフォン・ヴィレブランド因子(VWF)の特異的切断酵素であるADAMTS13(a disintegrin and metalloproteinase with a thrombospondin type 1 motif, member 13)の活性低下により、血液中にVWFが過剰に重合して蓄積し、血小板凝集を引き起こすことが原因で発症する。多くの場合、後天性TTPの診断直後の数日間は集中治療室で現行の治療(血漿交換療法と免疫抑制療法)を受けるが、死亡する患者は最大20%に及び、その大部分は診断後30日以内といわれているため、早期診断・早期治療が重要とされている。 今回承認されたカブリビは、止血に関わるVWFを標的とし、VWFと血小板の相互作用を阻害することで、微小血栓形成を阻害する薬剤である。これまで、後天性TTPの治療薬として微小血栓形成を直接阻害する治療薬はなく、カブリビは後天性TTPに対し新規の作用機序を持つ薬剤として発売されることが期待される。なお、欧州では2018年8月に、米国では2019年2月に薬事承認され、国内では2020年6月に希少疾病用医薬品に指定されている。

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虚血性脳卒中の2次予防、asundexian追加の有効性示せず/Lancet

 急性期非心原塞栓性虚血性脳卒中の2次予防治療において、抗血小板薬療法への血液凝固第XIa因子(FXIa)阻害薬asundexianの追加はプラセボと比較して、大出血または臨床的に重要な非大出血の複合の発生を増加させないものの、潜在性脳梗塞または虚血性脳卒中再発の複合の発生を抑制しないことが、カナダ・マックマスター大学のAshkan Shoamanesh氏らが実施した「PACIFIC-Stroke試験」で示された。研究の詳細は、Lancet誌オンライン版2022年9月2日号で報告された。23ヵ国の第IIb相試験 PACIFIC-Stroke試験は、脳卒中の2次予防におけるasundexianの有効性と安全性の評価を目的とする二重盲検無作為化プラセボ対照第IIb相試験であり、2020年6月~2021年7月の期間に、日本を含む23ヵ国196施設で参加者のスクリーニングが行われた(ドイツBayerの助成による)。 対象は、年齢45歳以上、急性期(発症から48時間以内)の非心原塞栓性虚血性脳卒中と診断され、抗血小板療法による治療を受け、ベースラインで(無作為化の前または割り付け後72時間以内に)MRI検査を受けることが可能な患者とされた。 被験者は、抗血小板薬による通常治療に加え、3種の用量のasundexian(10mg、20mg、50mg)またはプラセボを1日1回経口投与する4つの群に無作為に割り付けられた。治療期間は26~52週だった。 有効性の主要アウトカムは、無作為化から26週の時点またはそれ以前のMRIで検出された初発の潜在性脳梗塞または症候性虚血性脳卒中の再発の複合に関する用量反応効果とされた。また、安全性の主要アウトカムは、国際血栓止血学会(ISTH)の判定基準で定義された大出血または臨床的に重要な非大出血の複合であった。事後解析で50mg群の有効性が示唆 1,808例が登録され、asundexian 10mg群に455例、同20mg群に450例、同50mg群に447例、プラセボ群に456例が割り付けられた。全体の平均年齢は67(SD 10)歳、615例(34%)が女性で、1,505例(83%)が白人、268例(15%)はアジア人だった。 脳卒中発症から無作為化までの平均時間は36(SD 10)時間、ベースラインの米国国立衛生研究所脳卒中尺度(NIHSS)のスコア中央値は2.0(四分位範囲[IQR]:1.0~4.0)で、7日目の修正Rankin尺度スコア中央値は1.0(IQR:1.0~2.0)だった。783例(43%)は無作為化後に平均70.1(SD 113.4)日間にわたり抗血小板薬2剤併用療法を受けていた。 26週の時点で、有効性の主要アウトカムは、プラセボ群が19%(87/456例)で発現したのに対し、asundexian 10mg群の発現率は19%(86/455例)(粗罹患比:0.99、90%信頼区間[CI]:0.79~1.24)、同20mg群は22%(99/450例)(1.15、0.93~1.43)、同50mg群は20%(90/447例)(1.06、0.85~1.32)であった。プラセボ群と3種の用量群にはいずれも有意な差はなく、有意な用量反応は観察されなかった(t statistic:-0.68、p=0.80)。 MRI上の初発潜在性脳梗塞と、症候性虚血性脳卒中の再発にも、プラセボ群とasundexianの3種の用量群に有意差はみられなかった。 安全性の主要アウトカムは、プラセボ群が2%(11/452例)で発現したのに対し、asundexian 10mg群の発現率は4%(19/445例)、同20mg群は3%(14/446例)、同50mg群は4%(19/443例)であり、3種の用量のasundexian群全体では4%(52/1,334例)であった。有意な用量反応関係は認められず、ISTHの大出血または臨床的に重要な非大出血の複合の発現に関して、プラセボ群に比べasundexian群で有意な増加はみられなかった(ハザード比[HR]:1.57、90%CI:0.91~2.71)。 大出血と臨床的に重要な非大出血はいずれも、プラセボ群と、asundexianの3種の用量群および3用量全体に有意な差はなかった。 一方、探索的な事後解析では、asundexian 50mg群はプラセボ群に比べ、大出血や臨床的に重要な非大出血のリスクを増加させずに、虚血性脳卒中再発または一過性脳虚血発作の複合の予防効果が優れ(HR:0.64、90%CI:0.41~0.98)、とくにアテローム性動脈硬化を伴う患者で良好であった。 著者は、「事後解析の結果は有望であり、十分な検出力を有する無作為化第III相試験で確認する必要がある」としている。

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ワルファリンは揺るぎない経口抗凝固薬の本流!(解説:後藤信哉氏)

 抗凝固薬の重篤な出血合併症は怖い。ワルファリンの有効性は確実であるが、重篤な出血合併症が怖いため血栓イベントリスクの高い症例に絞って使用してきた。経口のトロンビン、Xa阻害薬ではワルファリンに勝る有効性は期待できない。ワルファリンの至適PT-INRを2~3と高めに設定して、辛うじて非弁膜症性心房細動にて適応を取得した。リウマチ性の僧帽弁狭窄症など、血栓リスクの高い症例の血栓イベントは単一の凝固因子の選択的阻害薬ではとても予防できないと想定されていた。高齢社会にて非弁膜症性心房細動の数は多い。経口のトロンビン、Xa阻害薬をごっちゃにしてNOAC/DOACなどの軽い名前のイメージで特許期間内に売りまくった。血栓イベントリスクの高い機械弁では、NOAC/DOACがワルファリンにとても勝てないことはすでに解明されていた(Eikelboom JW, et al. N Engl J Med. 2013;369:1206-1214.)。今回は弁口面積2cm2以下の僧帽弁狭窄症を含むリウマチ性の心房細動の症例をNOAC/DOACのリバーロキサバンとワルファリンに割り付け、両者の有効性・安全性を検証した。 非弁膜症性の心房細動の各種ランダム化比較試験と本試験では、有効性エンドポイントが同一ではない。本試験では脳卒中・全身塞栓症に加え、心筋梗塞、心血管死亡、原因不明の死亡が有効性のエンドポイントとされた。症例は50歳前後と典型的な非弁膜症性心房細動よりも若い。観察期間内の有効性エンドポイントしては脳梗塞・全身塞栓症よりも死亡が圧倒的に多い。非弁膜症性心房細動におけるNOAC/DOAC開発試験でも、脳卒中・全身塞栓症よりも死亡が多かった。心房細動の症例をみたら、近未来の死亡こそ警戒されるべきである! 脳卒中・全身塞栓症、死亡ともに、リバーロキサバン群よりもワルファリン群が少なかった。試験がオープンラベルでPT-INRは2~3を目標とされたが、各施設に任された部分が多かった。重篤な出血、頭蓋内出血ともに数の上ではワルファリン群に多いように見えるが、若年のこともあり絶対数は少ない。 リウマチ性心疾患の心房細動など、血栓リスクの高い症例ではワルファリンが必要であることが改めて示された。ワルファリンは古典的で使い方はNOAC/DOACより難しい。しかし、本当に血栓が心配な症例ではワルファリンが必要である。難しいけど若手には頑張って勉強してほしい!

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リウマチ性心疾患AF、ビタミンK拮抗薬がリバーロキサバンより有効/NEJM

 リウマチ性心疾患のAF(心房細動)患者において、ビタミンK拮抗薬治療はリバーロキサバン治療よりも、心血管イベントまたは死亡の複合発生率が低く、出血の発生率は両群で有意差はないことが、カナダ・マックマスター大学のStuart J. Connolly氏らによる4,565例を対象とした非盲検無作為化試験の結果、示された。リウマチ性心疾患の心房細動患者における心血管イベントの予防について、第Xa因子阻害薬の試験は限られていた。NEJM誌オンライン版2022年8月28日号掲載の報告。リバーロキサバンのビタミンK拮抗薬に対する非劣性を検証 研究グループは、心エコーでリウマチ性心疾患が確認された心房細動で、CHA2DS2VAScスコアが2以上(スコア範囲0~9、高スコアほど脳卒中リスクが高い)、僧帽弁口面積2cm2以下、左心房もやもやエコー、左房血栓のいずれかが認められた患者を登録し試験を行った。 被験者を無作為に2群に分け、一方にはリバーロキサバン標準量を、もう一方には用量調節にてビタミンK拮抗薬を投与した。 有効性に関する主要アウトカムは、脳卒中、全身性塞栓症、心筋梗塞、血管疾患(心臓性、非心臓性)または原因不明による死亡の複合だった。安全性に関する主要アウトカムは、国際血栓止血学会(ISTH)の定義による大出血。 研究グループは、リバーロキサバンがビタミンK拮抗薬に対し、非劣性であると仮説を立て検証した。死亡率もリバーロキサバン群がビタミンK拮抗薬群より高率 被験者は4,565例で、うち4,531例(リバーロキサバン群2,275例、ビタミンK拮抗薬群2,256例)を対象に最終解析を行った。被験者の平均年齢は50.5歳、72.3%が女性だった。 試験薬を完全に中止した割合は、すべての評価時点でリバーロキサバン群がビタミンK拮抗薬群より高率だった。 ITT解析では、主要複合アウトカムの発生は、リバーロキサバン群2,275例中560例、ビタミンK拮抗薬群2,256例中446例で認められた(比例ハザード比:1.25、95%信頼区間[CI]:1.10~1.41)。生存曲線は非比例であったため、境界内平均生存期間(RMST)分析を行った。主要複合アウトカムのRMSTは、ビタミンK拮抗薬群が1,675日に対し、リバーロキサバン群は1,599日で有意差が認められた(群間差:-76日、95%CI:-121~-31、p<0.001)。 死亡率は、リバーロキサバン群がビタミンK拮抗薬群より高かった(RMST:リバーロキサバン群1,608日vs.ビタミンK拮抗薬群1,680日、群間差:-72日、95%CI:-117~-28)。 大出血発生率は、両群で有意差は認められなかった。リバーロキサバン群40例、ビタミンK拮抗薬群56例で発生が認められ(比例ハザード比:0.76、95%CI:0.51~1.15)、RMSTはそれぞれ1,965日、1,954日だった(群間差:11、95%CI:-5~28、p=0.18)。

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サル痘+コロナ+HIVのトリプル感染が初報告、臨床経過は?

 サル痘、新型コロナ、HIV感染症に同時に感染した症例がイタリアで報告された。患者の男性は、発熱や咽頭痛などが生じて新型コロナ陽性の診断を受け、皮膚病変が発現・悪化したため入院し、サル痘とHIVの陽性が判明した。イタリア・カターニア大学のSanti Nolasco氏らによる、The Journal of infection誌オンライン版2022年8月19日号掲載の報告。 本患者は、イタリア人の男性(35歳)で、スペインに2022年6月16日~20日の5日間滞在していた。その間、避妊具なしで男性と性交渉を行ったという。主な臨床経過は以下のとおり。2022年6月29日・発熱(39.0℃)、咽頭痛、倦怠感、頭痛、右鼠径リンパ節肥大が発現。2022年7月2日・新型コロナ陽性の診断。・午後には左腕に発疹が生じ始める。2022年7月3日・痛みを伴う小さな発疹が体幹、下肢、顔、臀部に生じる。2022年7月5日・発疹は広がり、凹状の局面に進行したため、男性は大学病院の救急科を受診し、感染症病棟に入院した。・発熱(37.5℃)、咽喉痛、倦怠感、頭痛は続いていた。<入院時の聴取事項>・2019年に梅毒の治療を行っていた。・2021年9月の検査ではHIVは陰性であった。・双極性障害のため、日常的にカルバマゼピン200mg/日を服用していた。・2021年12月に2回目のSARS-CoV-2ワクチン(ファイザー製)を接種していたが、2022年1月には新型コロナ陽性となっていた。<入院時の検査結果>・右手掌や肛門部を含む男性の体には、さまざまな進行段階の水疱、膿疱、凹状の局面などの皮膚病変が見られた。・両側の扁桃肥大以外の口腔粘膜は正常であった。・軽度の肝脾腫、右鼠径部の可動性かつ痛みを伴うリンパ節肥大があった。・C反応性蛋白の上昇(69mg/L[正常:0.0~5.0mg/L])、フィブリノゲン上昇(713mg/dL[正常:170~400mg/dL])、プロトロンビン時間の延長(1.21[正常:0.8~1.2])。・胸部X線では右肺野の透過性の低下が見られた。2022年7月6日(入院2日目)・皮膚病変やスペインの滞在歴により、サル痘の疑いが強くなったため皮膚病変の浸出液および鼻咽頭分泌物のスワブを採取して検査したところ、サル痘と新型コロナの陽性を確認した。・血清学的検査では、単純ヘルペス、淋病、クラミジア、リンパ肉芽腫は陰性であったが、HIVは陽性であった(ウイルス量23万4,000コピー/mL)。2022年7月7日(入院3日目)・ほぼすべての皮膚病変は痂皮に変化し始めていた。・新型コロナ治療のため、ソトロビマブ500mgが静脈内投与された。2022年7月9日(入院5日目)・ほぼすべての体調不良は回復し、臨床検査値も正常化した。2022年7月11日(入院7日目)・新しい皮膚病変はなかったが、口腔咽頭スワブでサル痘と新型コロナは陽性であった。・症状が改善したため、患者は退院し、自宅隔離となった。2022年7月19日・検査のため受診、口腔咽頭スワブでサル痘は陽性のままであった。・痂皮はほぼ完治し、小さな跡が残るのみであった。・HIV治療のため、ドルテグラビル、アバカビル、ラミブジンの3剤併用療法を開始した。 著者らは、「口腔咽頭スワブでサル痘ウイルスは20日後も陽性であった。患者は症状消失後も数日間は感染リスクがある可能性がある」と述べるとともに、「広く利用できる治療法や予防方法がないため、リスクが高い患者に対しては迅速に診断・検査を行う必要がある」とまとめている。

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