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第56回 COVID-19の自宅ステロイド治療が有望/血栓症はワクチン後よりCOVID-19後の方が多い

COVID-19のステロイド治療で回復が早まり、悪化を減らしうる非入院の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者が入院せずに済むようにしうる治療幾つかをまとめて調べている英国の無作為化試験PRINCIPLE1)でステロイド・ブデソニド(商品名:パルミコート)吸入の効果が判明しました。65歳以上か持病がある50歳以上のCOVID-19患者の回復までの日数は通常療法に加えてブデソニドを14日間1日2回吸入する群751人の方が通常療法のみの群1,028人に比べて約3日間(3.011日間)短かったのです2,3)。入院率はブデソニド吸入群では8.5%、通常療法のみの群では10.3%でした。その差のベイズ95%確信区間(-0.7%~+4.8%)上限は0を超えており、今回の途中解析では残念ながらブデソニドが入院を減らす効果は示せませんでした。しかしPRINCIPLE試験の担当医一覧にも名を連ねるMona Bafadhel氏等が率いた別の無作為化試験STOICでは有望なことにブデソニド治療で救急科(ED)受診や入院を含む急な医療動員を減らすことができました。Lancet Respiratory Medicine誌4)に最近掲載されたSTOIC試験はPRINCIPLE試験よりも小規模で被験者数は146人です。PRINCIPLE試験では重症化の恐れが大きい高齢者への効果が調べられたのとは違ってSTOIC試験の被験者はより若く、18歳以上の患者を対象としました。軽度のCOVID-19発症から7日以内のそれら被験者の住まいに看護師が出向いて同意を得、通常療法かブデソニド吸入群に無作為に振り分け、吸入器を渡し、PCR検査用の鼻喉の拭い液を回収しました。患者には研究チームが毎日電話して酸素飽和度や体温が確認され、有害事象が把握されました。患者とそのようにやり取りして28日間追跡した結果、咳には蜂蜜(honey)、発熱症状にはアセトアミノフェンやアスピリン等の解熱剤使用が指示された通常療法群73人では15%(11/73人)がED受診や入院を含むCOVID-19関連の急な医療の出番を要しました。一方、残り半分73人のブデソニド吸入群でのその割合は僅か3%(2/73人)で済みました。ブデソニド吸入はCOVID-19感染初期に有効な治療として世界で広く利用しうると著者は言っています。今後の課題の一つとしてSTOIC試験で示されたCOVID-19悪化予防効果がブデソニドに限るのかそれともどの吸入コルチコステロイドにもあまねく備わっているのかを調べる必要があります5)。稀な血栓症・脳静脈血栓症はCOVID-19後の方がワクチン後より生じ易いAstraZenecaやJohnson & Johnson(J&J)のワクチンの稀な血栓症・脳静脈血栓症が心配されていますが、ではそれらワクチンで防ぎうるCOVID-19後はどうなのか?米国の8,100万人を網羅する医療情報集TriNetX Analyticsを使った解析によると脳静脈洞血栓症(CVST)とも呼ばれる脳静脈血栓症はどうやらワクチン後に比べてCOVID-19の後の方がずっと生じ易いようです6)。TriNetX Analyticsに記録されたCOVID-19患者51万3,284人のうち20人がその診断から2週間以内に脳静脈血栓症を発現しました。Pfizer/BioNTechやModerna のmRNAワクチンを接種した48万9,871人での発現数は2人のみでした。100万人当たりに換算するとCOVID-19後2週間の脳静脈血栓症発現数は39例、かたやmRNAワクチン接種後2週間は僅か4例であり、COVID-19後はmRNAワクチン接種後より10倍ほど生じ易いことが示されました。著者が言及している最近の欧州医薬品庁(EMA)推定によるとAstraZenecaのCOVID-19ワクチン接種後の脳静脈血栓症の発生率は100万人あたり5人です。AstraZeneca と同じくアデノウイルスを下地とするJ&Jワクチンがどうかは今回の解析では言及されていません。Pfizerは今回の結果に納得しておらず、同社のmRNAワクチンと血栓塞栓症は無縁との見解を科学ニュースThe Scientistに送っています7)。米国の疾病管理センター(CDC)や英国の医薬品医療製品規制庁(MHRA)の最近の検討でもPfizerワクチンと血栓症の関連はないと判断されていると同社は言っています。参考1)PRINCIPLE Trial2)Asthma drug budesonide shortens recovery time in non-hospitalised patients with COVID-19 / PRINCIPLE Trial3)Inhaled budesonide for COVID-19 in people at higher risk of adverse outcomes in the community: interim analyses from the PRINCIPLE trial. medRxiv. April 12, 20214)Ramakrishnan S, et al. Lancet Respir Med. 2021 Apr 9:S2213-2600.00160-0. 5)Agusti A, et al. Lancet Respir Med. 2021 Apr 9:S2213-2600.00171-5.6)Cerebral venous thrombosis: a retrospective cohort study of 513,284 confirmed COVID-19 cases and a comparison with 489,871 people receiving a COVID-19 mRNA vaccine. Center for Open Science. 2021-Apr-157)Blood Clot Risk from COVID-19 Higher than After Vaccines: Study / TheScientist

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AZ社新型コロナワクチンによる血栓症、血小板減少の原因は?/NEJM

 英・アストラゼネカ社製の新型コロナウイルス感染症に対するアデノウイルスベクターワクチン(ChAdOx1 nCov-19、以下AZD1222)接種後、異常な血栓イベントや血小板減少症の発生が世界各国で相次いで報告されている。今回、ドイツ・グライフスヴァルト大学のAndreas Greinacher氏らがそれらを発症した患者について調査した結果、AZD1222接種者は、ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)を引き起こすHIT抗体(血小板第4因子[PF4]・ヘパリン複合体を抗原として作られる抗体)によって血小板減少症を発症する可能性があることを明らかにした。NEJM誌オンライン版4月9日号掲載の報告。 研究者らは ドイツとオーストリアでAZD1222接種後に血栓症または血小板減少症を発症した11例の臨床および検査値の特徴について、標準的酵素免疫法を用いて評価。さまざまな反応条件下で、血小板が活性化するHIT抗体とPE4・PVS複合抗体(PF4 Enhanced®)の検出を確認した。また、ワクチン関連の血栓イベント調査用の紹介患者の血液サンプルを含めて測定したところ、PF4-ヘパリン抗原・抗体検査で28件が陽性だった。 主な結果は以下のとおり。・11例のうち9例は女性、年齢中央値は36歳(範囲:22〜49歳)だった。・ワクチン接種5〜16日後から、致命的な頭蓋内出血を呈した1例を除き、1つ以上の血栓イベントが発生した。・1つ以上の血栓イベントを呈した患者のうち、9例は脳静脈血栓症(CVT)、3例は内臓静脈血栓症(STV)、3例は肺塞栓症(PE)、4例はその他の血栓症を発症した。・6例が死亡し、5例は播種性血管内凝固症候群(DIC)だったが、いずれも症状出現前にヘパリン投与はなかった。・HIT抗体陽性の28件の検査全例で、ヘパリンとは関係なくPF4の存在下、血小板活性化を示した。また、この活性化は高濃度ヘパリン、FcRレセプターブロッキングモノクローナル抗体および免疫グロブリン(10mg/mL)によって阻害された。・2例を対象としたPF4またはPF4-ヘパリン抗原アフィニティー精製された抗体を用いた追加研究では、PF4とは関係なく血小板の活性化が確認された。

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総合内科専門医試験オールスターレクチャー 呼吸器

第1回 慢性閉塞性肺疾患(COPD) オーバーラップ症候群(ACO)第2回 特発性間質性肺炎(IIPs)第3回 咳嗽・喀痰第4回 喘息第5回 肺炎第6回 肺癌 総合内科専門医試験対策レクチャーの決定版登場!総合内科専門医試験の受験者が一番苦労するのは、自分の専門外の最新トピックス。そこでこのシリーズでは、CareNeTV等で評価の高い内科各領域のトップクラスの専門医を招聘。各科専門医の視点で“出そうなトピック”を抽出し、1講義約20分で丁寧に解説します。キャッチアップが大変な近年のガイドラインの改訂や新規薬剤をしっかりカバー。Up to date問題対策も万全です。呼吸器については、島根大学医学部附属病院の長尾大志先生がレクチャーします。ガイドラインの改訂がとくに顕著な呼吸器領域。疾患の概念や治療方針に関する大きな変更点、新たに採用された診断基準に注目します。※「アップデート2022追加収録」はCareNeTVにてご視聴ください。第1回 慢性閉塞性肺疾患(COPD) オーバーラップ症候群(ACO)タバコ煙を主とする有害物質を長期に吸入曝露することで生じる慢性閉塞性肺疾患(COPD)。2018年のガイドライン改訂により、炎症だけでなく非炎症性機転も重視され、FEV1の数値と合わせて、各症状の程度を加味した総合的な重症度の判断が求められるようになりました。喘息とCOPDを合併したACOは、COPD全体の10~20%を占め、治療には吸入ステロイドを併用します。増悪した際の治療手順も試験で問われやすいポイントです。第2回 特発性間質性肺炎(IIPs)特発性間質性肺炎(IIPs)は、明らかな原因を特定できない間質性肺炎の総称。主要6疾患と、その他の希少疾患に分類されます。各疾患名だけでなく、対応する病理組織パターンもしっかり確認しておきましょう。中でも重要なのが特発性肺線維症(IPF)。IPFの診断は、病理診断は必須ではありませんが、アルゴリズムに沿って複数の項目をチェックします。他のIIPsと唯一異なるIPF治療のポイントは、ステロイドを使用しないこと。第3回 咳嗽・喀痰「咳嗽喀痰の診療ガイドライン2019」では、咳嗽と密接に関連している喀痰の項目を新たに追加。咳嗽と喀痰の原因疾患は、急性と慢性に大別されます。狭義の感染性咳嗽、いわゆる風邪には、抗菌薬は不要です。多彩な疾患が鑑別に上がる遷延性・慢性の咳嗽。鑑別診断では、結核や肺癌など危険な疾患を見逃すことなく、後鼻漏の原因となる好酸球性副鼻腔炎や、喘息、胃食道逆流症なども念頭に置きます。※この番組は2020年3月に収録したものです。新型コロナウイルス感染症については取り上げていません。第4回 喘息変動性を持った気道狭窄や咳などの症状を起こす喘息。これまで明確な診断基準は示されていませんでしたが、「喘息とCOPDのACO診断と治療の手引き2018」に、呼気一酸化窒素濃度(FeNO)値が診断に有効な指標として記載されました。近年の重要な治療方針の変更点は、以前は重症のみに使用されていた抗コリン薬が、比較的初期から吸入ステロイドと併用可能になったこと。重症例に効果的な抗体医薬も増えているので、しっかり押さえておきましょう。第5回 肺炎市中肺炎、院内肺炎、医療・介護関連肺炎の3つの肺炎が統合されたガイドラインが2017年に発表されました。終末期の症例が含まれる院内肺炎と医療・介護関連肺炎を1つの診療群とし、市中肺炎と区別した診療プロセスが示され、終末期における患者の意志やQOLを尊重した治療・ケアのあり方が重要なトピックとなっています。肺炎の種別の重症度スコアリング法や、段階別の治療戦略、適応できる薬剤を解説します。第6回 肺癌今回は非小細胞肺癌について詳しく解説します。肺癌については新規薬剤の開発が盛んで、それに伴ってガイドラインもオンラインで頻繁に更新されています。まずTMN分類で、手術、放射線治療、または薬剤治療のどれを採用するか適応判断。キナーゼ阻害薬や免疫チェックポイント阻害薬の登場によって、生存期間の延長が見込めるようになりました。副作用に耐えられるか、患者さんの体力も考慮しながら使用できる薬剤を選択します。

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第51回 コロナワクチンの最新版手引き、1瓶から6回接種が前提に

<先週の動き>1.コロナワクチンの最新版手引き、1瓶から6回接種が前提に2.医師の働き方改革が衆議院通過、日医の見解は?3.接触確認アプリの杜撰な運用実態、業者が1,200万円を返納4.初の費用対効果評価で薬価引き下げ、類似品目も適用5.健康保険証の交付廃止、マイナンバーカード一体化を提案/財務省1.コロナワクチンの最新版手引き、1瓶から6回接種が前提に厚生労働省は、16日に新型コロナウイルス感染症にかかわる予防接種について、医療機関向け手引きの改訂版(2.1版)を公開した。今後、医療従事者の優先接種用として、1バイアルから6回分接種可能な注射針およびシリンジを配布する。また高齢者の優先接種についても、調整が順調に進めば、5月中には同注射器の配布が可能になることが明記された。優先接種順位については、居宅・訪問サービス事業所等の従事者も、高齢者以外で基礎疾患を有する患者と同じ優先対象とされた。なお、医療機関がワクチンを入手するためには、V-SYS(ワクチン接種円滑化システム)を導入しなければならない。(参考)資料 新型コロナウイルス感染症に係る予防接種の実施に関する医療機関向け手引き(2.1版)(厚労省)新型コロナワクチンの供給の見通し(同)「1瓶6回」の注射器、5月10日から供給 河野氏(日経新聞)2.医師の働き方改革が衆議院通過、日医の見解は?現在開催されている通常国会で、医師の働き方改革を含む医療法等の改正案が衆議院を通過し、参議院での法案審議が始まる。これを踏まえ、日本医師会は14日に記者会見を行った。大学病院・基幹病院における地域医療支援については、地方への医師派遣は「地域医療提供体制の観点からは必須である」とするとともに、「全国医学部長病院長会議とも連携し、継続されている大学病院からの医師派遣が妨げられることのないよう取り組んでいく」との考えを表明。医師の労働時間短縮計画については、各医療機関に対して「労働時間の把握など、36協定の締結、健康診断の実施などの基本的事項からしっかりと取り組んで欲しい」としたほか、評価機能の仕組みについては、医療機関を取り締まったり、罰則を与えたりするものではなく、体制が整備されていない医療機関に対し、取り組みの支援を行っていくものであることに理解を求めた。なお、4月14日の参議院本会議では医療法改正案について趣旨説明と質疑が行われ、その様子が川田 龍平参議院議員のブログに掲載されている。(参考)医師の働き方改革の進捗状況について(全国医学部長病院長会議との連携)(日本医師会)川田 龍平参議院議員ブログ3.接触確認アプリの杜撰な運用実態、業者が1,200万円を返納厚労省は、新型コロナウイルス感染者と濃厚接触した可能性を知らせるアプリ(COCOA)について、不具合の発生要因や再発防止策について、報告書を公開した。陽性者との接触通知が届かない状態のまま放置されたのは、アプリを管理する事業者と厚労省の間で認識が共有できていなかったと説明。また、短期スケジュールの中、アプリの開発ならびに保守運用を受託していたパーソルプロセス&テクノロジーが他社に再委託、再々委託することを容認し、事業者間の役割分担が不明確になったことや、厚労省の人員体制も不十分だったことが今回の不具合につながったと考えられる。厚労大臣は事務次官らを厳重注意処分しており、再発防止が求められる。また、パーソルプロセス&テクノロジーは、昨年8月以降の業務対価の1,200万円を自主返納することを発表した。(参考)接触確認アプリ「COCOA」の不具合の発生経緯の調査と再発防止の検討について(報告書)(厚労省)厚労省、COCOA不具合の検証結果を公表 業者任せ、多重下請けなどの課題が浮き彫りに(ITmedia)コロナ接触アプリ業者が対価返納 1200万円、COCOA不具合(共同通信)4.初の費用対効果評価で薬価引き下げ、類似品目も適用14日に行われた中央社会保険医療協議会総会において、費用対効果評価専門組織からの報告をもとに、CAR-T細胞療法(患者由来T細胞の遺伝子組み換えを行い、がん細胞を攻撃しやすくして患者の体内に戻す免疫細胞療法)に使われるチサゲンレクルユーセル(商品名:キムリア点滴静注)の価格調整が行われた。現行薬価3,411万3,655円から約146万円(約4.3%)引き下げられ、3,264万7,761円となる。なお、医療機関における在庫への影響などを踏まえ、調整後価格は7月1日付で適用。同日に、CAR-T細胞製品2番手のアキシカブタゲン シロルユーセル(商品名:イエスカルタ点滴静注)が薬価3,411万3,655円で承認されたが、21日の収載と同時に価格調整が適用され、保険償還価格は1番手と同じ3,264万7,761円となることが報告された。同様に、フルチカゾン/ウメクリジニウム/ビランテロール(商品名:テリルジー)の価格調整を受けて、類似品目のブデソニド/グリコピロニウム/ホルモテロール(同:ビレーズトリ)、インダカテロール/グリコピロニウム/モメタゾン(同:エナジア)も引き下げを受けた。(参考)中医協総会 イエスカルタの保険償還価格は3264万円 収載日に費用対効果評価結果を反映(ミクスonline)中医協総会 キムリアとテリルジーの薬価引下げを了承 初の費用対効果評価で7月1日から(同)資料 キムリアの費用対効果評価結果に基づく価格調整について(厚労省)資料 テリルジーの費用対効果評価結果に基づく価格調整について(同)5.健康保険証の交付廃止、マイナンバーカード一体化を提案/財務省13日に、首相が議長を務める経済財政諮問会議が総理大臣官邸で開催された。参加した民間議員からは、マイナンバーカードを健康保険証として使えるようにするため、単独交付を取りやめ、マイナンバーカードへの完全な一体化を実現すべきとの提案が示された。ほかにも、企業が希望する従業員に対して「選択的週休3日制」の導入を求める提言が出された。従業員のスキルアップや多様な働き方を支援し、育児や介護との両立を後押しするのが目的で、これらを「骨太の方針」に盛り込む見込み。ただし、マイナンバーカードとの一体化により、従来の健康保険証と異なり、受領には顔写真付きの身分証明書の提示が必須になるため、認知症や身体障害者などにも対応できる自治体の体制整備が必須となる。(参考)健康保険証の交付廃止を マイナンバーカードと一体化―民間議員が提言へ・諮問会議(時事通信)経済財政諮問会議 健康保険証の単独交付取りやめ マイナンバーカードへの一体化を民間議員が提案(ミクスonline)週休3日制、環境整備議論 諮問会議(日経新聞)資料 令和3年第4回経済財政諮問会議(内閣府)

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ワクチン接種後アナフィラキシー発症例、その特徴は/厚労省

 2021年2月17日~4月4日までに、日本国内で新型コロナワクチン接種後のアナフィラキシーとして医療機関から報告されたのは350例。これらの事例について専門家評価が行われ、実際にブライトン分類1~3に該当しアナフィラキシーとして判断されたのは79例であった。4月9日に開催された厚生労働省第55回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会1)では、この詳細が公開された2)。現時点での報告頻度は100万回当たり72 件 350例についての専門家評価の結果、ブライトン分類1*が14件(1回目接種:14件)、2が57件(1回目接種:53件/2回目接種:4件)、3が8件(1回目接種:8件)該当したことが報告された。 ブライトン分類レベル1~3の報告頻度は79 件/109万6,698 回接種(72 件/100万回)。米国での報告(4.7件/100万回)や英国での報告(17.7回/100万回)と比較すると高いようにもみられるが、米国の医療従事者調査では247回/100万回という報告も出ており、被接種対象者の違い、報告制度の違い等の理由から、単純な比較は難しい状況にあると検討部会では位置づけている。年齢別・性別・アレルギー歴別の報告数 ブライトン分類レベル1~3に該当した79例について年齢別・性別・アレルギー歴別に報告件数をみた結果は以下のとおり。[年齢別・性別]20~29歳:15件(男性6件/女性9件)30~39歳:20件(男性2件/女性18件)40~49歳:28件(男性0件/女性28件)50~59歳:13件(男性0件/女性13件)60~69歳:3件(男性0件/女性3件)[アレルギーの既往歴別(アナフィラキシーおよび薬剤アレルギーの既往歴の有無別)]ブライトン分類レベル1:既往歴有4件/既往歴なし9件/不明1件(計14件)ブライトン分類レベル2:既往歴有23件/既往歴なし32件/不明2件(計57件)ブライトン分類レベル3:既往歴有1件/既往歴なし7件/不明0件(計8件) なお、アナフィラキシーとして報告されたほぼ全ての症例で軽快したことが判明していると報告され、各症例の転帰や転帰日のほか基礎疾患などについての情報が、資料2)にまとめられている。日本アレルギー学会の専門委員による評価結果 今回の部会では、参考人として日本アレルギー学会理事の中村 陽一氏(横浜市立みなと赤十字病院アレルギーセンター センター長)を招聘。中村氏は、日本アレルギー学会 Anaphylaxis 対策委員会での検討結果3)について報告した。この検討は、3月11日までに医療機関からアナフィラキシーとして報告された35件について行われたもの(このうちブライトン分類1~3に該当とされたのは10件)。 11名の同委員会委員によるアレルギー学会ガイドラインに基づく重症度分類で、グレード1(軽症)としての評価が最も多かった事例は16例、グレード2(中等症)としての評価が最も多かった事例は10例、グレード3(重症)が9例となった。全体として重症度は低かったことになるが、アドレナリンを中心とする治療により重症への進展を防ぐことができた症例が含まれている可能性があると指摘している。β遮断薬使用者や高血圧患者でのアドレナリン使用の注意点 アドレナリン筋注の使用に関して、報告では使用された20例中「使用は適切であった」が15例、 使用されなかった11例は全て「使用しなかったのは適切であった」という結果であった。なお、4例ではアドレナリン使用の有無に関する記載がなかった。「アドレナリンの使用に関する記載が不十分ではあったものの、その使用については概ね適切な対応がなされていたのではなかったかと推察された」とまとめられている。世界的にもアナフィラキシーガイドラインでは一般的に、「現場の医師がアナフィラキシーと判断した場合はアドレナリン筋注を実施すべきであり、適切な実施がなされなかったために致命的となるリスクは過剰使用のリスクよりもはるかに大きい」と考えられている。 委員からは、β遮断薬使用者や高血圧患者でのアドレナリン使用、高齢者での接種開始にまつわる注意点についての質問が上がった。中村氏は、「β遮断薬使用者ではアドレナリンが効かない場合が多いので、グルカゴンの使用など、通常のルールに従って行われるべきではないか」と回答。「高血圧患者に対しては、例えば血圧が200近い場合などはアドレナリンの投与に躊躇するのではないかと思う。その場合、投与量を減らすのが一般的なアナフィラキシーに対する救急の処置になる。具体的には、通常、成人には0.3mgのところを0.2mgとするなどが考えられる」と説明した。投与量が少ないためにアナフィラキシーに対する効果が薄い場合には、例えば15分後に再投与するなどの工夫が必要になるとした。そのうえで、アナフィラキシーはその場で命に関わるものであり、高血圧はアドレナリン投与の絶対的な禁忌ではないことを補足した。 また高齢者の接種開始にまつわる注意点については、「コントロール不良の喘息患者さんでは、アナフィラキシーが重症化しやすい。そして重症喘息は高齢者に比較的多いので、注意が必要」と指摘した。*:ブライトン分類については、第53回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会(2021年3月21日)配布資料「国内でのアナフィラキシーの発生状況について」9ページ目に詳細が解説されている。

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新型コロナワクチン接種、51.7%が副反応に不安/MDV

 メディカル・データ・ビジョン(MVD)は4月13日、キャンサーネットジャパン(CNJ)と共同実施した新型コロナワクチン接種に関するアンケート結果をプレスリリースした。それによると、接種を希望する患者は80.0%で、全回答者のうち51.7%は副反応に不安を抱いていることが明らかになった。 本アンケートはMDVが3月25日~4月5日(CNJは4月6日~4月12日)にウェブを通じて実施、300人から回答を得た。「ワクチン接種に関して感じている不安」について聞いた結果、副反応に関して51.7%と最も多くの人が不安を感じ、次いで、効果が11.7%、供給体制は9.7%、他疾患に対する影響は9.0%だった。 自由記述の中には、「がんの進行に影響しないか」 「抗がん剤投与と併用しても効果があるのか」「ワクチン接種前に飲んではいけない薬などあるのか」「変異種にも効果があるのか」などがあった。そのほかに「いつになったら接種できるのか」「不安材料の情報ばかり伝わってくる」など、信頼できる情報が少ないことへの不安の声も寄せられていた。 今回アンケートを行ったCNJの理事を務める後藤 悌氏(国立がん研究センター中央病院 呼吸器内科)は「ワクチン接種による副反応を気にされている方が多い印象。どのような治療にも予防にもメリットデメリットがある。新型コロナウイルスに関する大量の情報が氾濫するなかで、不正確な情報や誤った情報が急速に拡散し、社会に影響を及ぼすと言われる”インフォデミック”の状況である。不安を背景に、科学的とは言えない対策がとられていることも多いようだが、ワクチン接種においても適切な情報を入手した上で判断いただきたい」とコメントしている。

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英国のEHR、COVID-19と心血管疾患の関連を解析可能なリソースに/BMJ

 イングランドではCOVID-19パンデミックを機に、研究者が全国の電子健康記録(EHR)にアクセスできるように、データリソースが改められた。パンデミック当初は認可を受けた研究者であっても、全国のEHRにアクセスはできず、医療や公衆衛生政策をサポートするための分析ができなかったからだという。データセキュリティーとプライバシーを確保し、国民の信頼を損なうことなくCOVID-19と心血管疾患に関する全国的な研究を可能とした新たなEHRのリソースについて、英国・ケンブリッジ大学のAngela Wood氏らがBMJ誌2021年4月7日号で報告している。全国民の健康関連情報にアクセス可能な、新たなデータリソースを構築 新たなデータリソースは、NHS Digitalが構築した信頼できる研究環境内で、イングランドの全健康関連施設からの個人レベルの記録にアクセスできるというものであった。具体的には、プライマリケアからのEHR、病院エピソード(入院、外来、救急救命)、死亡レジストリ、COVID-19検査施設の検査結果、地域薬局の調剤データなどであり、さらに今後は専門家による集中治療、心血管系の監査記録、病院の電子処方、COVID-19ワクチンデータを含むことが計画されており、イングランドのNHS一般開業医に登録の2020年1月1日時点で生存する5,440万人のデータが集約されるに至った。 研究グループはこの新たなデータリソースを使って、2020年1月1日~10月31日における、確認および疑われたCOVID-19診断記録、典型的な心血管症状(脳卒中または一過性脳虚血発作[TIA]および心筋梗塞)の発生、全死因死亡を評価した。心血管イベントとCOVID-19の関連はもとより幅広い研究も可能に リンクされたコホートには英国人の96%以上が含まれ、全国の健康関連施設の個人レベルのデータを集約することで、全人口の約95%の年齢、性別、民族性に関するデータを網羅できた。 脳卒中/TIAの診断歴のない5,330万人において、2020年1月1日~10月31日(評価対象期間)の初発脳卒中/TIA発症者は9万8,721人だった。そのうち30%がプライマリケアのみで記録されており、4%が死亡レジストリのみの記録だった。 心筋梗塞の診断歴のない5,320万人において、評価対象期間の心筋梗塞発症者は6万2,966人だった。そのうちプライマリケアのみで記録されていたのは8%で、死亡レジストリのみの記録は12%だった。 合計95万9,470人に、COVID-19と確認または疑いの診断記録があった(プライマリケアデータ71万4,162人、入院記録12万6,349人、COVID-19検査施設の検査データ77万6,503人、死亡レジストリの記録5万504人)。このうち58%がプライマリケアとCOVID-19検査施設の検査データ両方で記録されていたが、プライマリケアのみで記録されていたのは15%、検査施設の検査データのみで記録されていたのは18%だった。 これらの結果を踏まえて著者は、「この全国民を網羅したリソースは、主要な特性の完全性を最大化するために、また心血管イベントとCOVID-19の診断を確認するうえで、健康関連施設の個人レベルのデータを結び付けることの重要性を示すものであった」と述べるとともに、「今回構築したリソースは当初、COVID-19と心血管疾患の研究をサポートし、臨床ケアと公衆衛生に利益をもたらすことや医療政策への情報提供のために開発されたが、さらに幅広い研究を可能とするだろう」とまとめている。

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新型コロナウイルスに対する学校の感染対策

学校関係者・保護者の皆さん、コロナ禍における学校感染対策の本がついにできました!パンデミックの最中、一斉休校や学校行事の縮小・中止等で一番影響を被っているのは、子どもたちかもしれません。「休み時間ごとの手洗い」「冬場でも換気・換気・換気」「会話の奪われた給食」「運動会、修学旅行、遠足の縮小や見送り」…。学校の先生方もやれることはすべてされていると思います。でも、子どもたちへの感染対策は「何をどうしたらいいのか?」「どこまですればいいのか?」。教育現場の指針だけでは迷われることも多いでしょう。そんな疑問に感染症専門医が1つひとつ丁寧にお答えします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    新型コロナウイルスに対する学校の感染対策定価2,640円(税込)判型A5判頁数144頁発行2021年4月著者武藤 義和

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TNF阻害薬治療中のIBD患者でCOVID-19感染後の抗体保有率低下

 生物学的製剤であるTNF阻害薬を巡っては、これまでの研究で肺炎球菌やインフルエンザおよびウイルス性肝炎ワクチン接種後の免疫反応を減弱させ、呼吸器感染症の重症化リスクを高めることが報告されていた。ただし、新型コロナ感染症(COVID-19)ワクチンに対しては不明である。英国・Royal Devon and Exeter NHS Foundation TrustのNicholas A Kennedy氏らは、炎症性腸疾患(IBD)を有するインフリキシマブ治療患者のCOVID-19感染後の抗体保有率について、大規模多施設前向きコホート研究を実施した。その結果、インフリキシマブ治療群では、コホート群と比べ抗体保有率が有意に低いことがわかった。著者らは、「本結果により、COVID-19に対するインフリキシマブの免疫血清学的障害の可能性が示唆された。これは、世界的な公衆衛生政策およびTNF阻害薬治療を受ける患者にとって重要な意味を持つ」とまとめている。Gut誌オンライン版2021年3月22日号の報告。 研究グループは、2020年9月22日~12月23日に、英国の92医療施設に来院したIBD患者7,226例を連続して登録。このうち血清サンプルと患者アンケートが得らえた6,935例について調べた。被験者のうち67.6%(4685/6935例)がインフリキシマブによる治療を受け、32.4%(2250/6935例)がベドリズマブによる治療を受けた。 主な結果は以下のとおり。・インフリキシマブ治療群とベドリズマブ治療群において、SARS-CoV-2感染に関する割合は両群間で類似していた:疑い例(36.5%[1712/4685例] vs.39.0[877/2250例]、p=0.050)、PCR陽性(5.2%[89/1712例] vs.4.3%[38/877例]、p=0.39)、入院(0.2%[8/4685例] vs.0.2%[5/2250例]、p=0.77)。・血清有病率は、インフリキシマブ治療群のほうがベドリズマブ治療群よりも有意に低かった(3.4%[161/4685例] vs.6.0%[134/2250例])、p<0.0001]。・多変数ロジスティック回帰分析では、インフリキシマブ群(vs.ベドリズマブ群のOR:0.66、95%信頼区間[CI]:0.51〜0.87)、p=0.0027)および免疫抑制薬(同:0.70、95%CI:0.53〜0.92、p=0.012)において、より低い血清陽性と独立して関連していた。・SARS-CoV-2感染後、セロコンバージョンが認められた被験者は、インフリキシマブ治療群のほうがベドリズマブ治療群よりも少なかった(48%[39/81例] vs.83%[30/36例])、p=0.00044)。

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新型コロナ、第4波の大阪は「これまでとは別世界」~呼吸器科医・倉原優氏の緊急寄稿(2)

 「新型コロナウイルスの感染状況は第4波に入った」。変異株を含め、全国的に感染者が再び急増している現状について、識者らは相次いで明言した。なかでも、1日の新規感染者数が1,000人超を記録している大阪府はとりわけ深刻だ。渦中の医療現場は今、どうなっているのか。CareNet.com連載執筆者の倉原 優氏(近畿中央呼吸器センター呼吸器内科)が緊急寄稿でその詳細を明らかにした。大阪府コロナ第4波の現状 以前、大阪府コロナ第3波についての現状をお伝えしましたが1)、あれからいったん落ち着いたものの、現在第4波が到来しています。大阪府は1日の新規感染者数が過去最大規模になっており、医療現場は災害級に混乱しています。第3波と異なるのは、(1)年齢層(2)重症度(3)速度です。(1)年齢層 大阪府フォローアップセンターから入院要請のあるCOVID-19患者さんの年齢が、15歳ほど下押しされています。当院に入院した第1波~3波までの平均年齢(±標準偏差)は68(±17)歳、第4波の平均年齢は53(±19)歳です。直近のデータで、感染者が40代未満である割合が5割弱と引き続き高く、若い世代を中心に感染が広がっていることがわかります。(2)重症度 この第4波、来院して最初に撮影した胸部画像検査で背筋がゾっとすることが多くなりました。糖尿病コントロールが不良で高度肥満があり、SpO2が90%未満の場合、ある程度の覚悟を持って診療に当たることができますが、そこまでの基礎疾患がなく、SpO2が92~93%程度であるにもかかわらず、「エッ!」と声を上げてしまうほど両肺のすべての葉に肺炎が見られるケースが増えています。このパンデミックで、自分より年下のARDSを経験するなんて思いもしませんでした。基本的に中等症IIがメインで、中等症Iならホっとするくらいです。(3)速度 大阪府は、保健所および入院フォローアップセンターが連携して入院病床の管理を行っており、どの病院に入院してもらうかはフォローアップセンターの少数精鋭部隊が担っています(図1)。 第3波の時点で重症病床を約230床確保していましたが、第4波に入る前はかなり病床数を減らしていました。第3波の後半で、すでに重症病床が約60床埋まっている状態がスタートだったため、第4波で軽症中等症病床が埋まるより先に重症病床がパンクしてしまいました。 そのため、緊急増床に踏み切った大阪府の施策は間に合わず、あっという間に第4波の確保病床を超えてしまい、軽症中等症病床で挿管・人工呼吸管理のCOVID-19患者さんを診療する状態になってしまいました。当院でもすでにそういった患者さんが発生しており、重症病床が増えない限り、これが常態化するかもしれません。 「N501Y変異株」の症例が増えているのは確かですが、この病床逼迫の最たる原因なのかはわかりません。緊急事態宣言が緩和され、卒業・入学シーズンで人出が増えた影響もあり、相加相乗的に作用した可能性はあります。ただ、大阪府新型コロナウイルス対策本部会議の公開資料によると、この病床逼迫速度は第3波の約3倍とされており2)、きわめて想定外の事態であったことは間違いありません。また、「N501Y変異株」陽性者の発症から重症化までの日数は従来株よりも約1日早いとされており(表)、これが先述の状況に拍車をかけたのかもしれません。第4波を乗り越えたとしても… 第4波のCOVID-19、第3波までと実はまったく別の疾患なのではないかというくらい、ARDSの頻度が高いです。大阪に続いて東京にも第4波が到来する可能性は十分にあります。 とはいえ、ゴールデンウイークに向けて徐々に減ってくることに期待したいものです。4月5日からの「まん延防止等重点措置」が始まって2週間後にあたる4月19日以降、新規陽性者数が減ってくれば第4波は落ち着くかもしれません(図2)。 しかしながら、第4波を乗り越えたとしても遅滞なくワクチン施策が進まなければ、また7月頃に第5波がやってくる可能性はあります。そうなれば、オリンピック開催時期と完全に被ってしまうことになるでしょう。多方面へのシビアな調整が必要になるため、オリンピックを中止あるいは延期するという選択肢はないのだと思いますが、ハンマー・アンド・ダンスで時間稼ぎをするにも現場の疲弊は限界を迎えつつあり、もはやワクチンに希望を託すしかなさそうです。【倉原 優氏プロフィール】2006年滋賀医大卒。洛和会音羽病院を経て、08年より現職。CareNet.comでは、「Dr. 倉原の“おどろき”医学論文」「Dr.倉原の“俺の本棚”」連載掲載中。

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まず懐中電灯を掴め!【Dr. 中島の 新・徒然草】(370)

三百七十の段 まず懐中電灯を掴め!ついに大阪府での新型コロナの新規感染者数が1,000人を超えてしまいました。3波までとの違いは、PCRが陽性に出る確率が上がった若い人の感染が多くなった新規感染者数だけでなく重症者数も増える一方といったところで、残念ながら当院でも劣勢は否めません。この先、一体どうなってしまうのでしょうか?話は変わって、年をとると何もかも「面倒くせえ!」となります。書類作成とか診療行為とか家事だとか。昔は何とも思わなかったことが一々面倒。だからといって、仕事がなくなるわけではありません。むしろ、若いときよりもやるべき事が増える一方です。本日のお話は、どうやってこの面倒さを克服するのか、です。私のしている工夫を診療と家事に分けて述べましょう。まずは外来での患者さんの診察です。脳外科外来でも、腹に違和感があるとか足が痛いとかいう人はたくさんいます。もちろん、「ここは脳外科なんでほかに行ってください」で済ませることも可能です。でも、いったん手抜きすると歯止めが掛からない性格は自分が一番よく知っています。なので、私はできるだけ自分の目で確認するようにしています。この時に役立つのが懐中電灯です。髪の毛の中が痛いときも、腹がおかしいときも、まずは懐中電灯を掴む。そうすると、手に持った懐中電灯に引っ張られて当該部位を診ることになります。「牛にひかれて善光寺」とはまさにこのこと。異常ナシが大半ですが、時には帯状疱疹や鼠経ヘルニアが見つかることもあります。見なければわからないけど、見ればわかる典型です。次に足がどうとか言う人。この場合は、懐中電灯もさることながら足台も使います。手術室で使う足台を脳外科外来に準備しているので、まずはそれを患者さんの前に置き、それから懐中電灯を掴む。すると患者さんもゆっくりと靴を脱ぎ、ソックスを脱ぎしてくれます。動作が鈍いからと焦ってはいけません。その間に、電子カルテを使ってほかの雑用をササッと済ませておきましょう。足さえ出てきたら「痛風かな、足底筋膜炎かな」と前に進むことができますね。さらに家事の工夫を述べましょう。料理を作ったり食べたりするのはいいけど、後の皿洗いが面倒なのは誰でも同じです。そんなときにはYouTube!本欄でも紹介した中田 敦彦氏や懲役 太郎氏のチャンネルを聴きながら皿洗い。手際良くはありませんが、気がついたらいつの間にか終わっています。そういや、床掃除でも工夫がありました。ロボット掃除機のルンバです。ルンバくんが機嫌よく掃除をするためには、準備をしなくてはなりません。椅子を逆さにして机に上げたり、床に散らかったものを片付けたり。先に片付けるのがいいのはわかっているけど、なかなか取り掛かれない。でも、先にルンバのスイッチを入れておくと片付けざるを得ません。自らに強制的に仕事をさせる方法、いろいろありそうですね。読者の皆様の工夫があったら教えてください。最後に1句怠惰なる 我を動かす 一工夫

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第53回 臨床実習制限や生活困窮…コロナ禍がもたらす医学生への試練

大学医学部の学生自治組織でつくる全日本医学生自治会連合(医学連)は、新型コロナウイルス感染症の流行が医学生の生活や教育に及ぼす影響についてのアンケート調査をまとめた。それによると、国や大学による学生への経済的支援については、8割超の学生が受給できなかったり、実習では患者と直接触れ合う経験ができなかったりするなど、さまざまな影響が出ていることがわかった。アンケートは2020年8〜9月と同年12月の2回、インターネットで実施。1回目の調査結果は同年10月に速報で公開。2回目の調査結果は1回目の結果を踏まえつつ、この4月1日に最終報告書として公開した。2回目の回答総数は1,437件で、国公立大生が88.1%、私立大生が11.9%。また、アパートなどでの一人暮らしは77.4%だった。経済状況に関しては、「かなり良い」「まあまあ良い」という回答が36.3%だった一方、「少し悪い」「かなり悪い」は21.0%あり、医学生の5人に1人が経済的に苦しい現状であることが明らかになった。アルバイトの有無はほぼ半数に分かれたが、アルバイトをしていない学生のうち、大学やアルバイト先の制限で経済的不安を抱える学生が3人に1人以上いることがわかった。国や学生による学生への経済的な支援については、81.1%の学生が「受給しなかった・できなかった」と答えた。そのうち26.5%が「受給したかったが、要件に当てはまらず、申請できなかった」と回答。「受給したかったが、手順が複雑で申請しなかった」「支援も存在を知らなかった」も合わせると、4割以上の学生に必要な支援が届いていなかった。一方、受給した学生でも31.8%が「不十分だった」と答えた。臨床実習に関しては、「履修した」と答えた学生296人を調査対象とし、「病棟で、全面的あるいは制限付きで実習が再開している」と答えたのは225人(76%)であった。これら225人の学生に病棟実習で経験できなくなっていることを聞いたところ(複数回答)、「患者さんへの診察」(137人)を挙げる人が最も多く、次いで「回診」「外来見学」といった患者と直接触れ合う可能性あるものや、「大学病院外での実習」といった大学外の人と接触する可能性のあるものが挙げられた。一方、先述した296人の中には、病棟での実習が「再開しておらず、オンライン等で代替されている」と答えた学生も15.5%いた。就職活動の有無について、「活動中あるいは1年以内に予定している」という回答が23.9%、「就職活動は終了した」が14.0%いた。このうち「活動中あるいは1年以内に予定している」と回答した学生に対しては、さらに具体的な分析が行われた。それによると、県外移動に「制限がある」という回答者は89.9%おり、そのうち7割以上が「就職活動に支障がある(と予想される)」と回答。県外移動制限を受けている学生の多くが就職活動に支障が出ることを懸念していた。また、医師臨床研修マッチングに関する情報提供や病院見学などの機会について、十分かどうか5段階評価(1:不十分〜5:十分だ)で質問したところ、70.1%の学生が「1」「2」と回答した一方、「4」「5」と回答した学生はわずか5.2%。就職情報と病院見学機会の不足が浮上した。医学連は調査結果を踏まえ、以下の提言を発表している。(1)お金の心配なく学べる大学へ(2)感染対策の中でも最大限、学修機会の保障を(3)就職先の選択肢を狭めない、柔軟な対応を(4)学生の活動・交流の場を確保しよう(5)孤立を防ぎ、こころの健康を守ろう医学連は「困難ゆえに対話を諦めるのではなく、学生と大学が双方の意見を理解しようと努力し、解決に向かって話し合いを重ねることこそが重要」と述べる。コロナ禍は、現役医師たちにとって未曾有の試練となっているが、医学生たちにとっても大きな障壁になっている。これからの医療を担う人たちの希望や意志を挫くことなく、診療現場に仲間として迎え入れられる日が来るよう、サポートが望まれる。

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発症後2日でウイルス排出量ピーク、新型コロナ治療が困難な理由を解明

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を巡っては、病態の多様性もさることながら、いまだウイルス自体の全容が明らかになっていない。そんな中、九州大学大学院理学研究員の岩見 真吾氏らの研究グループは、米国インディアナ大学公衆衛生大学院の江島 啓介氏らとの共同研究により、SARS-CoV-2を特徴付ける感染動態の1つとして、生体内におけるウイルス排出量のピーク到達日数が既知のコロナウイルス感染症よりも早く、この特徴がゆえに、発症後の抗ウイルス薬による治療効果が限定的になっていることがわかった。研究結果は、PLOS Biology誌2021年3月22日号に掲載された。新型コロナのウイルス排出量のピークは発症から平均2.0日程度 研究グループは、新型コロナウイルス感染症に加えて、過去に流行した中東呼吸器症候群(MERS)および重症急性呼吸器症候群(SARS)の臨床試験データを分析。症例間の不均一性を考慮した上で、生体内でのウイルス感染動態を記述する数理モデルを用いて解析した。その結果、新型コロナウイルス感染症におけるウイルス排出量のピーク到達日数が発症から平均2.0日程度であり、MERS(12.2日)やSARS(7.2日)と比べ、かなり早期にピークに達することがわかった。 さらに、本研究で開発したコンピューターシミュレーションによる分析から、投与するウイルス複製阻害薬やウイルス侵入阻害薬が強力であったとしても、ピーク後に治療を開始した場合では、ウイルス排出量を減少させる効果はきわめて限定的であることも示唆された。 本結果は、新型コロナウイルス感染症に対する抗ウイルス薬治療が、ほかのコロナウイルス感染症と比べて困難である理由の1つを明らかにするものである。著者らは、「今回の研究は、新型コロナウイルス感染症を含む症例データを数理科学の力で分析することで、コロナウイルスのさまざまな感染動態を特徴付け、治療戦略を開発するうえで重要な定量的知見である」と述べている。なお、本研究で得られた知見に基づいた医師主導治験が、現在国内で進行中である。

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第53回 まだまだ続く日医工自主回収、ジェネリックが再び「ゾロ」と呼ばれる日

「日医工から変更 都内薬局の8割」こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末は東京都の「まん延防止等重点措置」適用を前に、久しぶりに奥多摩の山に行ってきました。奥多摩湖から御前山、鋸山、奥多摩駅というやや長いコース。ちょうどカタクリの花がシーズンで、いつもは人気がそれほどない山がそこそこ混雑しており、外国人のパーティも結構いました。六本木で遅くまで飲めないストレスが山に向かわせているのかもしれませんね。さて、今回はだらだら1年も続いている日医工の自主回収の話を取り上げます。2020年4月7日の12成分15品目の自主回収(クラスII)を皮切りに、2021年2月までにアレルギー性鼻炎薬、胃腸薬、糖尿病薬など合わせて75品目の製品の自主回収を繰り返したジェネリックの大手メーカー・日医工。4月10日付の朝日新聞朝刊は「日医工から変更 都内薬局の8割」という記事で、東京都薬剤師会が会員薬局に調査した結果を報じています。医師の「後発医薬品への変更不可」指示も増える傾向?同記事によれば、「86%が同社から他社製品に切り替えたと回答した」とのことです。1年間にわたり、自主回収の嵐に翻弄された現場の薬局や薬剤師の怒りが表れた結果と言えるでしょう。この調査は、東京都薬剤師会が3月13日〜31日に会員3,756人を対象に行ったものです(回答者は2,530人)。日医工製品への対応については「すべて他社製品に変更した(する予定)」が28%で、「一部のみ変更」を加えると86%に上っています。さらに、「将来においても採用しない」という厳しい回答も25%もあったそうです。調査では患者からの反応についても聞いているのですが、ジェネリック薬への不信感を抱いた患者から「先発医薬品への変更を求められた」との回答が25%と高くなっていました。薬局だけでなく、病院においても日医工製品の採用を再検討するところも出てきているようです。例えば、3月15日付の日刊薬業は「徳洲会(全国71病院)が、採用している日医工製品の一部切り替えの検討を始めている」と報じています。また、ある薬局関係者から聞いた話ですが、近隣の医療機関から発行される処方箋で、銘柄名処方で変更不可欄にチェックがある(後発医薬品への変更不可)ものが増えている、とのことです。変更不可が極端に増えると、後発医薬品調剤体制加算の算定にも影響が出てきます。日医工の事件は、単に医薬品流通を混乱させ、後発医薬品全体の評判を落としただけでなく、薬局の経営そのものにも影響を及ぼしかねない事態となっているようです。業務停止命令中も国が立ち入り調査しかし、この自主回収事件。新型コロナ感染症の感染拡大がなかったら、もっと大きな問題になっていたでしょう。不適合となった錠剤を砕いて製造し直していた、とのことですが、カップ麺やお菓子などの食品製造で同じことをしても大問題になりそうです。それを命や健康に関わる薬でやっていたのですから…。日医工の一連の回収のきっかけとなったのは、富山県が2020年2月に行った同社の富山第一工場(主に経口剤の生産拠点)への事前通告なしの抜き打ち査察でした。その後、PMDA(医薬品医療機器総合機構)から「富山第一工場での製造や品質管理に問題がある」との指摘を受け、社内調査を実施。出荷試験で「不適合」となった製品について別のロットで再試験を行ったり、国から承認されている工程と異なる工程で製造(品質試験で不適合となった錠剤を砕いて製造し直す等)した製品があったりしたことが判明し、一連の自主回収につながりました。今年3月には医薬品医療機器法に基づき同社の富山第一工場の製造業務を32日間、同社の販売業務を24日間(いずれも3月5日より)停止する命令が下されました。この業務停止期間中の3月24日、厚労省と富山県は合同で富山第一工場に医薬品医療機器法に基づく立ち入り調査に入っています。業務停止命令中に国が立ち入り調査を行うのは、極めて異例のことでした。自転車操業で収益確保の後発医薬品メーカー睡眠導入剤の成分を経口抗真菌薬に混入させ、死亡者2人を出した福井県の小林加工も2021年2月に116日間の業務停止命令を受けています。相次ぐ後発医薬品メーカーの不祥事は、企業のずさんな製造や品質管理が最大の問題と言えますが、後発品を製造する企業が置かれた環境にも原因がありそうです。国は医療費削減のため後発品の使用促進を強力に推し進めてきました。しかし、一方で診療報酬の改定財源などの確保のため薬価は下げ続けており、業界自体が「薄利多売」という構造的な問題を抱えています。後発薬の薬価は、はじめは先発品の5割程度ですが、薬価改定のたびに引き下げられます。使用量そのものは国の施策に乗って増大の一途ですが、価格はどんどん下るので、まさに自転車操業のように新しい後発医薬品を発売し続けないと収益が確保できないのです。日医工は近年、アステラス製薬子会社の工場、エーザイの後発薬子会社、武田テバファーマの後発品事業などを次々と買収、積極的に規模拡大を行っていました。そうした急速な規模拡大に、製造部門や管理部門の体制がついていけなかった、との指摘もあります。使用促進策を背景に「ゾロ」から「ジェネリック」にイメチェンしたものの後発医薬品は、かつて「ゾロ」と呼ばれ、「安かろう悪かろう」と言われていました。私が記者になった当時は「先発品しか使わない」という医師が普通にいました。しかし、2000年代以降、国が後発医薬品の使用促進策を本格化、診療報酬・調剤報酬などにより政策誘導が行われ、その使用率は着実に伸び、先発医薬品信奉も薄れていきました。エポックメーキングだったのは、2008年度の診療報酬改定です。この改定では「処方せん様式」が変更され、医師が「後発医薬品への変更不可」欄に署名しない場合、薬局は長期収載品から後発医薬品に切り替えることが可能となり、さらに患者に同意を得れば処方医に確認することなく、別銘柄の後発医薬品が調剤できるようになりました。薬局での使用率を高めるための調剤基本料の後発医薬品調剤体制加算もこのとき新設されました。こうした医療機関や薬局に対する経済誘導や、高橋 英樹や黒柳 徹子といった大物芸能人を起用した後発医薬品メーカーのCMなどの影響もあり、後発医薬品は「ゾロ」ではなく「ジェネリック(一般的な薬)」として、日本でも定着してきたのです。業務停止処分明け直後にまたまた自主回収そこに起こった日医工や小林化工の事件。「やっぱりゾロはだめだな」といったイメージを少なからぬ医師や薬剤師に改めて植え付けたのではないでしょうか。なんと言っても、日医工は沢井製薬と並ぶ後発品のトップメーカーです。それなのにこの体たらくでは、他のメーカーは大丈夫か、となっても不思議ではありません。とは言え、国は医療費削減のための手段である後発医薬品の使用促進策を推し進めて行くのは間違いありません。薬局も経営のために後発医薬品の使用割合を保持し続けるでしょう。後発医薬品使用割合については、2017年6月の閣議決定で2020年9月までに数量ベースでの使用割合80%達成の政府目標を掲げ、2020年9月時点の使用割合は78.3%となっています。一方、医師側は、医薬分業が進んだ結果““薬を手放し””てしまっていますから、薬局ほどがつがつと後発医薬品にこだわる必要がありません。冒頭で紹介したように、「少々お金はかかるが、この薬は患者のためにもゾロはNG」というトレンド、すなわち「後発医薬品への変更不可運動」が生まれてくる可能性は否定できません。厚生労働省が今回の事件の反省点を、後発医薬品の使用促進策などの政策の中にどう落とし込むか(あるいは無視するか)が注目されます。とここまで書いてきたら、また日医工の自主回収のニュースが入って来ました。4月8日、同社がオロパタジン塩酸塩OD錠5mg「日医工」と、レボセチリジン塩酸塩錠5mg「日医工」の2品目の自主回収(いずれもクラスII)を開始したと発表したのです。長期安定性試験において溶出性試験が承認規格に適合しない結果が得られたというのが理由で、いずれも富山第一工場で製造した製品とのことです。同社は業務停止処分が明け、4月6日から業務再開したばかり。その6日には日本経済新聞朝刊に一面広告を出し「日医工グループの品質行動指針」を公表、「安心と信頼を届けていきます」と宣言しています。これだけ立て続けに事件を起こしたら、普通ならば社長は辞任するものですが、日医工の社長(2代目のワンマン社長と言われているようです)は今のところ辞める気配はありません(小林化工の社長は3代目で、社外から新社長を招聘するとの報道があります)。日医工の自主回収問題、1年経っても回収は収まらず、その余波は続きそうです。

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コロナ禍の献血不足を救う?自己血輸血の効果を検証

 新型コロナウイルス感染症の影響はさまざまな側面で現れているが、献血の減少もその1つに挙げられる。保存血液の使用機会の多い外科領域では、現状に鑑みた効率的な保存血液の使用を検討する必要がある。欧米では、血液製剤の使用を減らすために希釈式自己血輸血が活用されている。京都大学の今中 雄一氏ら研究グループは、国内で手術を受けた患者の保存血液使用率について、希釈式自己血輸血を受けた患者と受けていない患者とで比較したところ、自己血輸血を受けている患者では赤血球製剤使用率が約2割少ないことがわかった。本結果は、PLOS ONE誌オンライン版2021年3月10日号に掲載された。 本研究では、日本の行政データベースを基に、2016~2019年に心臓手術(3万2,433例)および大動脈手術(4,267例)を受けた患者を登録し、保存血液使用率と使用量について、希釈式自己血輸血を受けた患者(自己血輸血群)と受けていない患者(コホート群)で比較した。病院情報と患者情報を調整するため、解析には多段階傾向スコアマッチングを用いた。 主な結果は以下のとおり。・保存血液の中で最もよく使われる赤血球製剤について、心臓手術における自己血輸血群では使用率38.4%(vs.コホート群:60.6%、p<0.001)、使用量は3.5単位(同:5.9単位、p<0.001)と減少効果を認めた。・同じく、心臓血管手術における自己血輸血群では使用率83.8%(vs.コホート群:91.4%、p=0.037)、使用量は7.9単位(同:11.9単位、p<0.001)と減少効果を認めた。・副次的転帰である輸血関連有害事象の発生や、術後ICU滞在期間は、両群間に差は認められなかった。 著者らによると、欧米では800mL以上の血液を採取して自己血輸血することが推奨されているが、欧米人に比して体格が小柄な日本人では、そのような大量の採血を行うのは容易ではなく、推奨量も不明であるという。加えて、国内における希釈式自己血輸血の保険適応は2016年で、現段階では十分に浸透しておらず、日本人における効果検証が十分に行われていないのが現状だという。 希釈式自己血輸血は、人工心肺開始前に採取した自己血を室温で保存し、術中に使用するため、凝固関連因子を不活性化することなく正常範囲内で迅速に提供でき、術中の輸血戦略には大きなメリットである。著者らは、「新型コロナウイルスの影響から献血の減少が深刻になっている地域もあり、効率的な保存血液の使用を検討する必要がある。血液が足りない患者に迅速かつ確実に保存血液を送るためにも、希釈式自己血輸血は重要な技術だ」と述べている。

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新型コロナワクチンによるアナフィラキシー、高齢者での管理は?

 COVID-19ワクチンによるアナフィラキシーの発生頻度は10万回に1回~100万回に5回程度と稀であるものの、高齢者のアナフィラキシーの管理はとくに慎重に対応する必要がある。欧州アレルギー臨床免疫学会(EAACI)、欧州老年医学会(EuGMS)らは合同のワーキンググループを発足、COVID-19ワクチンによる高齢者のアナフィラキシーの管理に関する公式見解(position paper)を、Allergy誌オンライン版2021年 4月2日号に報告した。 position paperは下記5項目で構成され、それぞれ推奨事項が提案されている。1.COVID-19ワクチンとアナフィラキシー2.高齢者におけるアナフィラキシー症状3.高齢者における重度のアナフィラキシーのリスク因子4.高齢者におけるアナフィラキシーの管理5.臨床でのアナフィラキシー反応の予防と管理 本稿では、一部内容を抜粋して紹介する。「COVID-19ワクチンとアナフィラキシー」、頻度や傾向は? 米国のワクチン有害事象報告システム(VAERS)で報告されたデータの最初の分析では、ファイザー社のmRNAワクチン100万回投与当たり11.1例のアナフィラキシーが報告された。続く2021年1月18日のVAERSレポートでは、ファイザー社ワクチン接種者で100万回投与当たり5回、モデルナ社ワクチン接種者100万回投与当たり2.8回のアナフィラキシーが報告されている。ワクチンに使用されているポリエチレングリコール(PEG)がアレルギー反応を引き起こす可能性があると指摘されている。 ファイザー社ワクチンでのアナフィラキシー症例の年齢中央値は40歳(27~60歳)で、報告された症例の90%は女性。アレルギー反応は、常にではないものの、多くの場合、重度のアレルギー反応の既往歴のある人に発生した。 また、mRNAワクチンの臨床試験段階では、痛み、倦怠感、頭痛、発熱などの局所および全身性反応の発生数は、若年者よりも高齢者で少なかった。「高齢者におけるアナフィラキシー症状」、若年者との違い 2019年に報告がまとめられた欧州のアナフィラキシーレジストリでは、昆虫毒や鎮痛薬、抗生物資などによりアナフィラキシーを発症した65歳以上1,123人のデータが解析されている。発現したアナフィラキシー症状は若年成人と高齢者で類似していたが頻度は異なり、高齢者では心血管症状がより頻繁に発生していた(若年成人の75%に対して80%)。 主な心血管症状は意識喪失(33%)で、めまいと頻脈については若年成人に多くみられた。心停止は、高齢者の3%と若年成人の2%で発生。皮膚症状は最も頻繁にみられ、蕁麻疹と血管性浮腫は通常は他の症状の前に現れる。皮膚症状のない高齢患者のアナフィラキシー反応の重症度は、若年成人と比較して増加した。消化器症状は、両方のグループで同様の割合で発生していた。 呼吸器症状、とくに呼吸困難は、高齢者で頻繁にはみられていない(若年成人の70%に対して63%)。ただし、チアノーゼ、失神、めまいは、高齢者のショック発症を高度に予測していた。Ring and Messmer 分類のGrade III(47%)およびGrade IV(4%)を含む重度のアナフィラキシー反応は、65歳以上で多くみられた。 高齢患者の30%でアドレナリンが投与され、60%で入院が必要であり、19%が集中治療室(ICU)で治療された。Grade IIおよびIIIの症例では、若年および中年の成人と比較して、有意に多くの高齢者が入院およびICUケアを必要としていた。「高齢者における重度のアナフィラキシーのリスク因子」 高齢者における重度のアナフィラキシーのリスク因子として、「併存疾患」と「服用薬と多剤併用」を挙げている。併存疾患として、上述のレジストリでは高齢であることと肥満細胞症の併存が重度のアナフィラキシーのリスク増加の最も重要な予測因子であった。遺伝性α-トリプトファン血症もリスク因子となる。虚血性心筋症ではアナフィラキシーの重症化および死亡リスクが高くなる。アテローム性動脈硬化症の病変により、アナフィラキシー中の低酸素症および低血圧に対する耐性が低下することも報告されている。レジストリでは、心血管疾患、甲状腺疾患、およびがんが若年成人よりも多くみられた。 服用薬については、レジストリでは重度のアナフィラキシーリスクの補因子となる薬剤(ACE阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬、β遮断薬、アセチルコリン、プロトンポンプ阻害薬など)は、若年成人(18%)よりも高齢者(57%)で有意に多く処方されていた。年齢とは独立して、アレルゲン曝露と近い時期に投与されたβ遮断薬とACE阻害薬は、重度のアナフィラキシー発症リスクとの関連がみられたが、アスピリンとアンジオテンシンII受容体拮抗薬では確認されなかった。 そのほか、抗不安薬、抗うつ薬、催眠薬等中枢神経系に作用する薬で治療されており、アナフィラキシー症状や兆候に対する認識に影響を与えている可能性のある高齢者には、注意を払うことが重要となる。「高齢者におけるアナフィラキシーの管理」、アドレナリン使用の注意点は? EAACI および世界アレルギー機構のガイドラインでは、アナフィラキシーの第一選択療法としてアドレナリンの迅速な筋肉内注射が推奨されており、高齢者においてもアドレナリンが重度のアナフィラキシーに作用することが報告されている。ただし、アドレナリンの多くの心血管系有害事象は血管内経路を介して発生すると考えられ、血管内投与は原則として避ける必要がある。 心血管疾患の併存は、アナフィラキシー発症時のアドレナリンの使用を制限するものではない。これは、この救急措置において他の薬剤が救命効果を発揮しないためである。高齢患者やアナフィラキシーリスクがある心血管疾患のある患者においても、アドレナリン投与に絶対的な禁忌はない。アドレナリン投与後、心室性不整脈、高血圧、心筋虚血などの重篤な副作用は報告されていない。ただし、アナフィラキシー発症の高齢患者では、アドレナリン注射後に有害心イベントを経験する可能性が高く、80歳以上の患者が最もリスクが高いという報告がある。そのため、心血管疾患併存患者がアナフィラキシーを発症した場合、アドレナリン投与のリスクとベネフィットを迅速・慎重に比較検討する必要がある。

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新型コロナワクチン対応シリンジが承認取得、1瓶で7回採取可能/ニプロ

 ニプロ株式会社(大阪市北区)は4月12日のプレスリリースで、新型コロナワクチン接種に伴う需要に応えて開発した「ニプロVAシリンジ」について、3月25日付で承認事項一部変更承認を取得したと発表した。 現在、国内で承認され接種可能なファイザー社製の新型コロナワクチンは筋肉注射が前提であることから、同シリンジは筋肉に確実に届くよう針長を25mmとし、薬液吸引および注入時の操作性などを考慮し、25G(0.5mm)の針を採用した。また、針と外筒を一体型にすることでローデッド化を実現。薬液の残るシリンジ先端部分は、従来型通常シリンジの約15分の1(約 0.002mL)程度であり、より残液量の少ないワクチン接種にも対応できる。社内検証では、ファイザー社製ワクチン1瓶から7回分の薬液が採取可能なことを確認したという。来月から国内工場で生産を開始する予定に加え、さらなる承認事項一部変更承認申請により、タイ工場でも製造を進める方針。 併せて同社は、「ニプロシリンジ」の製造ラインを強化したことも発表。ガスケット先端を突起型にしたローデッドモデルで、本製品はあらゆる太さ、長さの針が装着可能という。 これらの生産体制の確立により、ニプロ社における2タイプのシリンジ生産数量は、今年度で合わせて約1億本となる見込みだ。

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認知症患者さんのワクチン接種【コロナ時代の認知症診療】第2回

ワクチンによる副反応と予防効果、まず整理しておきたいこと新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、2回目の緊急事態宣言が終了したものの、リバウンド現象かと、第4波の始まりを危惧する声も出てきた。昨年2月頃から本格化したこのCOVID-19を抑える術は、現時点(2021年4月)では、予防ワクチン投与しかないとも考えられている。しかしワクチンで本当に予防できるのか? 安全なのか? さらには集団免疫を形成する上で有用なのか等と慎重論、反対意見も強い。医療関係のマスコミなどでもいくつかアンケート調査が行われている。直近ではだいぶ接種に前向きな人が増えてきた印象だが、自分自身が予防注射を、受けたい、受けたくない、どちらともいえない、への回答は見事に3分されていると筆者はみてきた。健常者でも、副反応の危険性が怖いのは当然だが、いわゆる基礎疾患ゆえに、高齢者、とくに認知症があればその恐さは倍増する。ワクチンの国内接種は今年の2月に始まり、1ヵ月余りが経過した。厚労省からこの中間集計が報告されている1)。注目すべきは、アナフラキシーショックもさることながら、一般的な副反応がどのようなもので、どの程度かという点であろう。その結果、発熱・だるさは1回目の投与ではさほどでもないが、2回目に注意が必要だとされる。例えば、37.5度以上の発熱は、1回目は3%、2回目では36%になる。だるさは23%から67%に上がる。インフルエンザワクチンでは、発熱3%、だるさ9%に過ぎないとされる。このような高率はCOVID-19 ワクチンでは、1回目で基礎的な免疫ができ、2回目ではより強い免疫反応が働くからと説明される。なおこうした症状は1週間近く続くようだ。ところでワクチンの予防効果については、筆者もこれまで、相当高いと思ってきた。たとえば国民の6割が接種を受けたイスラエルでは、年齢によらず9割以上の発症予防効果があったとされる2)。だがこの効果の正しい理解には注意がいる。と言うのは、「ワクチンを接種すると90%以上が発症しない」ということではない。例えばワクチン群とプラセボ群、各々1,000名に接種した後、プラセボ群で10例が、ワクチン群で1例が発症すれば、効果(有効性)は90%になる。だから90%がどこまでの効力かについては、インフルエンザ予防注射と同じで、接種されても発病する人もままあると考えるべきだろう。それぞれの“理解ストライクゾーン”を探して、伝え方の工夫認知症患者さんのワクチン接種を考える時、最も注意すべきは、副反応の問題だろう。最近ノルウェーで高齢者における23例の死亡が報告され話題になっている3)。けれどもこの報告は、ワクチンが直接死因となったと述べているわけではない。むしろ副反応としてありがちな発熱や悪心・嘔吐がしばらく続くことで、基礎疾患に更なるダメージが加わって死に至らしめるのではと考察している。それだけに、基礎疾患があり衰弱した高齢者や認知症患者では、接種に慎重さが求められる。つまりワクチンは、発症や重症化を防ぐと期待される反面、こうした危険性またアナフラキシーのような直の危険性もあるという認識が不可欠になる。話が複雑になるだけに、高齢者、とくに認知症のある方にとって受ける、受けない、の決断は難しい。もちろん認知症だから意思決定能力がないわけではない。認知症の程度によっては、十分な意思決定能力を有する人もいる。だが筆者が認知症の人の意思決定において最も危惧することがある。と言うのは、認知症の人は話す日時によって、また相手によって、など状況が異なれば、簡単に意見が変わることがある。次の機会は正反対の発言であることも珍しくない。まず周囲の人が、ワクチン接種の意思を問う際には、上記したようなメリットとデメリットを述べる必要がある。けれどもうこうしたCOVID-19の概況が理解できない場合も少なくはない。認知症の人の意思決定に関しては、「意思決定支援ガイドライン」4)があり、基本原則が挙げられている。最重要なのがご本人の意思尊重であることは言うまでもない。また「認知症の程度にかかわらず、本人には意思があり、意思決定能力があることを前提」、また「意思能力は固定的でない、本人の保たれている認知能力等を向上させる働きかけ」がポイントだろう。これを実際的に述べるならば、「難しいから答えられないだろうと諦めてはいけない。話す状況や話し方を変えるなど工夫をして、その人の理解ストライクゾーンにくるまで何度でも説明しようということ」になる。具体的には、コロナウイルスなどと言わないで「特別怖いインフルエンザ」、副反応やアナフラキシーではなく「ワクチンには毒もある」、さらにクラスターではなく「おじいちゃんがかかれば、家族みんながかかる可能性が大きい」などの表現だろうか。なおこうした話がまったく理解できないケースも想定される、こうした方では、これまでのインフルエンザの予防接種歴やこれに関する過去の発言や態度、さらに終末期医療など死生観に関わる意見などが参考になるかもしれない。参考文献・参考情報1)第54回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会、令和2年度第14回薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会(合同開催), 資料2 新型コロナワクチンの投与開始初期の重点的調査(コホート調査)-健康観察日誌集計の中間報告(2)2)Dagan N, et al. N Engl J Med. 2021 Feb 24. [Epub ahead of print]3)Torjesen I.et al. BMJ.2021 Jan 15;372:n149.4)厚生労働省, 認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン

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COVID-19ワクチン(2021年3月現在)【今、知っておきたいワクチンの話】各論 第8回

ワクチンの特徴(種類と製法)新型コロナワクチンは2020年12月に相次いで3製剤(Pfizer/BioNTech製、Moderna製、AstraZeneca/Oxford製)が治験を終え、米国および英国をはじめ各国で承認され接種が始まった。その後も複数の新規ワクチンが米国、中国、ロシアなどで順次承認され使用されている。わが国では2021年3月現在、Pfizer/BioNTech製の「コミナティ筋注」(以下、「コミナティ」)のみが承認され、医療従事者から順次接種が始まっている。早ければ4月中旬には地域の高齢者にも接種が始まる見込みである。Moderna製、AstraZeneca/Oxford製はいずれも承認申請済みであるものの現在審査中であり、具体的な承認時期は不明である。以下、コミナティに限定して解説する。コミナティの特徴コミナティはメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンである。新型コロナウイルスが持つ構造蛋白のうちヒト細胞への侵入のカギとなるのは、スパイク蛋白である。このワクチンは、ウイルス遺伝子からスパイク蛋白の配列部分だけを切り出し、安定化のためにリポ脂質で包んだもの(物質名「トジナメラン」1) )を主成分としている。コロナウイルスは1本鎖プラス鎖RNAウイルスであるため、切り出したウイルス遺伝子がそのままmRNAとして機能する。これを筋肉内に接種すると、ヒト筋細胞はmRNAを読み取って細胞質内でウイルスのスパイク蛋白を大量に生成し、細胞外に放出する。放出されたスパイク蛋白を免疫細胞が認識することで、スパイク蛋白に対する免疫を獲得するという仕組みである2)。mRNAワクチンがヒトで実用化されたのは今回が初めてである。ではなぜ、不活化や弱毒性などの既存製法ではなく、mRNAだったのか? 答えは開発速度にある。不活化や弱毒性その他の既存製法は基本的に、ウイルスそのものを原材料として大量に必要とする。そのためウイルスの適切な培養系の確立が必須となるが、通常は年単位を要する開発作業である。それに対してmRNAは、ウイルスの遺伝子配列さえ既知であれば、遺伝子工学によって迅速に原材料を大量生産できる。実際、Pfizer/BioNTech社は、2020年1月10日に中国保健当局が新型コロナウイルスの全遺伝子配列を発表したその日から開発に着手したとphase 3論文で明言している3)。全世界を覆う未曾有のパンデミックにおいて迅速なワクチン開発は決定的に重要であった。遺伝子工学による新技術がコロナ禍に迅速に希望をもたらしたのである。ウイルス遺伝子を接種することに漠然とした不安があるようだが、杞憂である。分子生物学のセントラルドグマに従い、ワクチンのmRNAがヒトDNAへと逆転写されることはけっして起きない。そもそも一般にウイルス感染のたびにヒト細胞は大量のウイルス遺伝子に晒されるが、レトロウイルスのようなごく一部のウイルスを除いて、ウイルス遺伝子がヒトDNAに直接影響を及ぼすことはないのだ。インフルエンザウイルスに感染しても新型コロナウイルスに感染しても、ヒトDNA自体が変化を受けることはない。よって、ワクチンとして接種した新型コロナウイルス・スパイク蛋白のmRNAが、ヒトDNAに影響を与えることも子孫に継代されることもあり得ないのである。コミナティの効果Phase 3論文で示された効果は、2回目接種完了後7日後以降におけるCOVID発症(発熱などで発症しPCR検査で陽性と確定される患者)が、プラセボ群に比べて95.0%(95%信頼区間90.3-97.6)減少するという驚異的数字であった。発症の減少に伴い、重症COVIDも88.9%(同20.1-99.7)と著しく減少した。世界で最も早く市民への接種が進んだイスラエルにおけるヒストリカルコホート研究4)でも、COVID発症が94%(同87-98)、重症COVIDが92%(同75-100)それぞれ減少した。これらはphase 3とほとんど同等の結果であり、治験内容が裏付けられた。さらに、同研究では無症候性感染に相当するPCR陽性者も90%(同83-94)減少したことも観察され、コミナティが発症のみならず感染自体も予防することが示唆された。一方で、コミナティ接種によって他者への感染伝播を減少するか、すなわち集団免疫の形成に寄与するかは、本稿執筆時点でpeer-reviewed journalに掲載された質の高い研究では示されていない。今後の報告が待たれる。ワクチンの副反応・有害事象懸念された副反応については、治験においては通常のワクチン反応性症状(発熱、倦怠感、接種部位疼痛、腫脹など)しか検出されなかった。これは人体が免疫獲得する際に生ずる自然な炎症反応の現れであり、何ら後遺症を残すことなく1日~数日で自然消失する。ただし、既知のワクチンに比べると頻度は高く、自覚症状も強めのようである。接種翌日には欠勤など、接種しやすくする配慮が望ましいであろう。アナフィラキシーについては、治験では検出されなかったが、市中接種開始後に報告され始めた。米国のワクチン有害事象報告システム(VAERS)に集積された報告の解析によると5)、コミナティは994万接種中47件のアナフィラキシー(ブライトン分類1~3)が生じ、100万接種あたり4.7件の頻度であった。接種から発症までの時間の中央値は10分であり、94%が女性であった。同じ米国VAERSに報告された既存ワクチンによるアナフィラキシーが100万接種あたり1.31件とされている6)のに比べても、極端に高い数字とは言えない。ただし、女性がほとんどを占めていることには注意を要する。もともとアナフィラキシーは女性に多いと報告されており7)、局所麻酔薬アナフィラキシーでも女性が多かったという報告もある8)。一方で、コミナティではmRNAを包むリポ脂質がポリエチレングリコール(PEG)で構成されているが、PEGはアナフィラキシー原因物質として知られる9)と同時に、多くの化粧品に含まれている。コミナティで女性にアナフィラキシーが多いのは化粧品にPEGが含まれていることと関係があるかもしれないが、現時点で詳細はわかっていない。上記以外には、副反応の可能性がある有害事象の報告は現時点ではなく、極めて安全なワクチンと言ってよい。コミナティは3月上旬時点ですでに世界で1億回以上接種されたと見込まれている。仮に100万接種分の1の極めてまれな頻度で生ずる重篤な副反応があったとしても、1億回接種してそれが1件も発生しない確率は、と、あり得ないほど小さな確率である。すなわち、1億回以上接種されたにもかかわらず新しい副反応報告がない時点で、確率100万分の1のような極めてまれな副反応も観察されていないと言ってよい。ただし、特定の人口集団(特定の年齢、特定の疾患患者など)に限定的な副反応は今後発見される可能性が残っている。たとえば、コミナティではなくAstraZeneca製のウイルスベクターワクチンではあるが、55歳以下の若年世代で接種によって血栓症(播種性血管内凝固症候群および脳静脈洞血栓症)が増える可能性が示唆されている10)。ただし、COVID-19感染そのものによって血栓症リスクが明らかに増大するため、接種による感染予防は接種による血栓症リスクを上回ると欧州医薬品局は判断している。ワクチンの保管と輸送の注意点、留意点mRNAは不安定な物質であるため、長期にはマイナス70℃前後の超低温保存が必要である。ただし2021年3月1日付で添付文書が改訂され、最長14日間までならマイナス20℃前後でも保存可能となった11)。解凍からシリンジ分注までは、冷蔵温度(プラス2~8℃)の場合は5日以内に、直接室温に出す場合は2時間以内に行わねばならない。1バイアルを溶解するとちょうど1.8mLとなり、1人分が0.3mLであることから、死腔の少ないシリンジで適切な手技にて吸引すれば1バイアル6人分採取が可能である。何らかの理由で6人分採取できない場合は残量を破棄する。シリンジに分注後は6時間以内に接種せねばならず、それ以上経過した場合は破棄する。またすべての過程において、十分に遮光し続けねばならない。図も参照いただきたい。図 コミナティの取扱い画像を拡大するmRNAが物質として不安定であることから、輸送時には振動を避けることとされている。オートバイのような輸送手段は不適切とされるが、乗用車の座席で丁寧に輸送する程度なら問題はないようだ。被接種者への説明のポイント筆者が確認している限りでは、コミナティその他新型コロナワクチンを不用意に危険と煽るような報道は幸いほとんど目にしていない。しかし、SNSや口コミでさまざまな否定的意見やデマの類が広まっているようである。医療従事者が、被接種者や患者から不安げに質問されたり、限られた情報だけに基づく否定意見を投げられたりするかもしれない。日頃の医療従事者-被接種者(患者)関係に基づいて、丁寧なコミュニケーションを是非ともお願いしたいところである。コミュニケーションのポイントは、下記のように整理できるだろう。効果として、発症、感染を共に90%以上予防できる、優れたワクチンであること。副反応は、世界で1億人以上が接種した時点で、一過性の発熱や痛みとごくまれなアナフィラキシーしか報告されていない、かなり安全なワクチンでもあること。遺伝子工学の発展のお陰で極めて短期間で開発できたが、治験の手順は一切省略されず丁寧に行われ、さらに市中接種開始後も効果と安全性を検証する研究が多数進行中であること。ウイルス遺伝子を体に注入することは自分や子孫の遺伝子に何ら悪影響はないこと。接種によって他人にも感染させないようになる(いわゆる「集団免疫」が付く)のかはまだわかっていないが、少なくとも接種した本人が極めて高い確率で感染から守られるのは確実であること。参考となるサイト(公的助成情報、主要研究グループ、参考となるサイト)新型コロナワクチンについては下記の各サイトも是非参照いただきたい。新型コロナウイルス感染症 診療所・病院におけるプライマリ・ケアのための情報サイト(日本プライマリ・ケア連合学会)こどもとおとなのワクチンサイト(日本プライマリ・ケア連合学会)新型コロナワクチンについて(厚生労働省)新型コロナワクチンについて(首相官邸)これでわかる!新型コロナワクチン情報(新型コロナワクチン公共情報タスクフォース)こびナビ(保健医療リテラシー推進社中)コロワくんサポーターズ(コロワくんサポーターズ)また、筆者自身もコロナワクチンの医療従事者向け情報を下記サイトで整理している。併せてご参考になれば幸いである。Vaccipediaワクチペディア プライマリケアのためのワクチンリソース1)コミナティ筋注添付文書.2)Pardi N, et al. Nat Rev Drug Discov. 2018;17:261-279.3)Polack FP, et al. N Engl J Med. 2020;383:2603-2615.4)Dagan N, et al. N Engl J Med. Published online 2021.doi:10.1056/NEJMoa21017655)Shimabukuro TT, et al. Jama. 2021;325:2020-2021.6)McNeil MM, et al. J Allergy Clin Immunol. 2016;137:868-878.7)Jensen-Jarolim E, et al. Allergy. 2008;63:610-615.8)Fuzier R, et al. Pharmacoepidemiol Drug Saf. 2009;18:595-601.9)Stone Jr. CA, et al. J Allergy Clin Immunol Pr. 2019;7:1533-1540.10)EuropeanMedicalAgency. COVID-19 Vaccine AstraZeneca: benefits still outweigh the risks despite possible link to rare blood clots with low blood platelets. 18 March. Published 2021. (2021年3月1日閲覧)11)ファイザー株式会社. COVID-19ワクチン『コミナティ筋注』の日本における添付文書改訂について.(2021年3月1日閲覧) 講師紹介

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