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続・制約と擾乱(じょうらん)【Dr. 中島の 新・徒然草】(389)

三百八十九の段 続・制約と擾乱(じょうらん)前回は Resilient Health Care Society というオンライン国際学会に出席したことを述べました。私が発表したのは、COVID-19パンデミックに対する大阪医療センターおよび総合診療部の対応についてです。もともと忙しい医療現場に、新たに新型コロナウイルス対応が課せられてしまい、マンパワー不足の中でどのようにして通常診療とコロナ診療を両立させたのか、という話をいたしました。前回にも述べたように、医療現場をはじめとした複雑適応系の中の各ユニットは、手持ちの資源が限られているにもかかわらず、そのキャパを超えるイベントは恒常的に外部からもたらされるのだということです。そのような時には、「何で俺たちばかりがこんな目に遭わなくちゃいけないんだ!」と思うのではなく、「また来ましたね。今度はどう対応しましょうか?」と思うべきなのでしょう。このような場合の普遍的な対処法は、いろいろと提案されています。今回のコロナ対応の経験を通じてとくに大切だと感じたのは、「優先順位をつける」「最善策にこだわらない」「どんどん変化する状況に合わせたルール変更を躊躇(ためら)わない」というところだ、というのが私の発表の趣旨です。英語での発表になりますが、あらかじめパワーポイントに台詞を吹き込んでビデオ化したものを用いるので、さほど苦労することはありませんでした。できるだけ明瞭な発音でゆっくりとしゃべるように心掛けたので、聴いている人が理解に苦しむ、ということもなかったようです。発表自体はおおむね好評だったのですが、問題は質疑応答です。質問はいずれもアメリカ人からだったので、英語自体は聴き取りやすい……はずが、結局、何度も聞き直す羽目になりました。また内容も難しいというか、哲学的というか。「COVID-19パンデミックで、医療現場でも多くのことが変わってしまいましたが、変わらなかったこともあるかと思います。それはどのようなことですか?」ちょっと、それ! 日本語で答えようとしても難しいですよ。その場ではうまく答えられなかったので、後でいろいろと考えてみました。1つは、日々の診療スタイルでしょうか。外来受診した患者さんに発熱があれば、まずはコロナの有無を検査する、という手順が間に挟まるようになりました。単なる発熱でなさそうな場合には、コロナ検査のときに採血や各種培養検体まで採取するというところも違っています。しかし、熱のない患者さんの診療については、これまでと大きな違いはありません。病歴聴取、身体診察、検査、診断、治療という流れは全く同じです。もう1つは職場の人間関係ですね。昨年、コロナの流行が始まった頃は、現場でも対応がわからず大混乱でした。その影響は、どうしても人間関係の悪化という形で出てしまいます。皆で力を合わせてコロナに立ち向かう、という雰囲気になったのはしばらく経ってからです。現在は、いろいろな仕事や手続きがある程度はルーチン化されたので、淡々と業務をこなせるようになりました。それでも思いがけないことが起こるのは、医療現場の常ですが、以前ほどそのことが人間関係に響かなくなったように感じます。変わらなかったというよりも、一旦、混乱した後に元に戻ったというべきでしょう。もちろん、コロナで変わってしまったこともたくさんあります。宴会や飲み会なんかは全くなくなってしまいました。ネットニュースを見ていると、「どうして政府がオリンピックをやっているのに、俺たちが飲み会をしたらアカンねん!」と言っている人もいるようですが、飲み会の自粛は自分の命を守るためです。オリンピックがあろうがなかろうが関係ありません。車を運転するときにシートベルトをするのと同じですね。それはさておき、国際学会では質疑応答の不首尾が心残りです。まだまだ英語の勉強が足りません。今後もオンライン英会話教室でフィリピン人先生を相手に努力を続けたいと思います。最後に1句英語での 質疑応答 沈没す

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在宅療養COVID-19患者の呼吸困難への対応【非専門医のための緩和ケアTips】第10回

第10回 在宅療養COVID-19患者の呼吸困難への対応まだまだ収束の兆しが見えない、COVID-19のパンデミック。流行の状況によっては開業医も外来や在宅医療で感染患者の診療が求められます。今回は緩和ケア分野の経験を通じてCOVID-19感染症の診療に活用できる知見を共有したいと思います。今日の質問私の診療エリアでもCOVID-19感染患者が増えた際には、在宅療養者の対応が求められそうです。原疾患の改善を待つ期間、呼吸困難に対してどのような介入ができますか? 自宅療養を支えるための緩和手段があれば教えてもらいたいです。感染者の急増を受け、病院以外の現場でCOVID-19診療に関わる方も増えているのではないでしょうか。地域によっては有症状であっても、在宅療養で経過を見る必要も出ています。適切かつ可能な範囲の治療を在宅で行いながら、重症化した際に基幹病院と連携することが重要であることは言うまでもありません。加えて、不安を抱えながら在宅療養をする患者さんを支えるためには呼吸困難といった身体症状を和らげることが大切です。日本緩和医療学会では今回のパンデミックを受け、「COVID-19患者の呼吸困難への対応に関する手引き(在宅版)」を公開しています。この手引きでは、COVID-19患者の呼吸困難に関して、STEP1酸素投与・その他の対応STEP2オピオイド経口投与(内服できる患者)STEP3オピオイド非経口投与(内服できない患者)STEP4苦痛緩和のための鎮静の4つのステップに分けて対応を記載しています。薬物療法の中心となるのは、モルヒネなどの医療用麻薬です。ご存じのように、医療用麻薬の多くは保険適用外使用となりますので、処方の際は患者・家族への説明が必要です。また、在宅療養という環境下で安全に使用できる体制構築が重要なのは言うまでもありません。在宅医療下では常時のモニタリングはできません。そのような環境下で急性期医療に近い医療を提供することは非常に困難ですが、この手引きは現状の多くの在宅医療環境で運用可能な内容となっています。COVID-19患者の呼吸困難への対応に関するエビデンスはまだ確立されていない状況であり、この手引きはその他の疾患領域での対応を踏まえたエキスパート・オピニオンに基づいたものです。実際にどこまでの対応を在宅で取り組む必要があるかは、地域の感染者数や基幹病院の状況にもよるので、地域の実情に合わせてご活用ください。日本緩和医療学会はCOVID-19に関連した情報発信をする特設サイトを開設しています。皆さまの診療に役立つ内容が多く掲載されているので、ぜひ御覧ください。早く日常が戻ってくることを祈りつつ、今回のコラムを終えたいと思います。今回のTips今回のTipsCOVID-19患者の療養を支えるためにも、緩和ケアの症状緩和スキルを活用しよう!

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第72回 新型コロナ患者の自宅療養、開業医の懸念は?

新型コロナ中等症患者の「原則自宅療養」の方針が批判された政府は、「酸素投与が必要な者、重症化リスクがある者」を入院対象にし、入院の可否は最終的に医師が判断、またこの考えは、感染者急増地域の新たな選択肢として自治体が採否を判断するとした。しかし、基本方針自体は正式には撤回されていない。新型コロナウイルス感染者の激増に伴い、全国の自宅療養者は10万人規模に膨れ上がっている。病床も逼迫する中、政府は開業医に対し、入院できない自宅療養者への支援と協力を要請しているが、現場の医師たちはどう受け止めているのだろうか。6割が中等症患者の自宅療養に反対1日当たりの新規感染者が連日2,000人を超える大阪府。府保険医協会は8月10日、会員約4,000件を対象に、自宅療養者への在宅医療支援要請に関するFAXアンケートを実施し、19日現在で252件の回答を得た。自宅療養を基本とする政府の方針に対し、回答者(複数回答あり)の62%が「中等症を自宅療養とするのは反対」でトップ。次いで「自治体と開業医に責任を丸投げしている」(42.1%)、「現状の状態ではやむを得ない」(33.3%)が続いた。自宅療養者への対応に関しては、66.2%が「対応する」と回答。「条件次第」(8.3%)を含めると74.5%が積極的な対応を検討している。一方、「対応できない」は23.4%だった。具体的な対応内容については、▽電話対応のみ(85件)▽かかりつけ患者のみ対応(軽症111件、中等症17件)▽広く受け入れる(軽症17件、中等症8件)―だった。開業医はコロナ対応に関わっていないとの報道があるが、在宅を含む日常診療や発熱・検査、ワクチン接種など多くの業務を抱えつつも、積極的に関わろうとする医療機関は決して少なくないことが明らかになった。休日・夜間を含めた保健所の対応を要望開業医が自宅療養に対応するにあたっての「必要な条件」について、回答者の92%が「急変時の搬送先確保」を挙げた(複数回答あり)。以下、「入院の判断基準の明確化」(59.5%)、「患家へのパルスオキシメーター配布」(56.7%)、「休日・夜間も含めた保健所の対応」(55.5%)、「感染した際の補償」(53.6%)が続いた。「急変時の搬送先確保」は、「懸念されること」のトップ(95%)にもなっている。2番目は「自身とスタッフの感染」(76.2%)、3番目には「休日・夜間も含めた保健所の対応」(59.5%)が挙げられた。また、保健所との連絡については、7月以降の感染者に関わる報告や問い合わせなどに関して38.5%が「つながらない」「返事がない」と回答。一方で、「概ね問題ない」も37.3%あった。陽性患者を診療した場合の公費負担認定に対しては、「認定が遅い」「返事がない」が26.2%あった。一方、「認定は迅速」は20.2%だった。大規模入院施設の開設を求める意見も中等症患者への対応に関しては、「大規模入院施設を国や自治体が主体で開設し、十分な休業補償をした上で医師や看護師が交代で対応するようにすべき」という意見もあった。国や自治体は、自宅療養者の「急変時の搬送先」を確保した上で、開業医に支援や協力を求めるべきではないだろうか。大阪府保険医協会は今回のアンケート結果を受け、医療機関の自宅療養者への支援にあたっての課題を整理し、現場の実情を踏まえた上で、必要な措置などを講じるよう国や大阪府に要望していくという。自宅療養中の妊婦が早産し、受け入れ先が見つからないまま新生児が死亡した千葉県の事案が大きく報じられ、若年層や中年層の死亡事例も毎日のようにニュースになっている。現状のどこに問題があるのかを早急に洗い出し、喫緊の対応が迫られている。

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新型コロナの唾液PCR検査、無症候者へは推奨できない?/JAMA

 鼻咽頭スワブによるリアルタイム逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR法)は新型コロナウイルス検出のための標準検査として行われているが、唾液を用いたPCR法は鼻咽頭によるPCR法より簡便であることから診断・スクリーニングにおいて魅力的な代替手段である。現に日本国内においても帰省や出張の前に検査を希望する人らが市販の唾液PCR検査キットに依存する傾向にある。しかし、米国・Children’s Hospital Los AngelesのZion Congrave-Wilson氏らが調査した結果によると、唾液を用いたPCR法(以下、唾液PCR法)は、感染初期の数週間に有症状の人の新型コロナウイルスを検出するには感度が高かったものの、無症候性の新型コロナウイルスキャリアの感度はすべての時点で60%未満だった。このことから、同氏らは無症候性感染者の唾液の感度低下を踏まえ、無症候感染者には唾液PCR法を新型コロナのスクリーニングに使用すべきではないと示唆している。JAMA誌オンライン版2021年8月13日号のリサーチレターでの報告。 研究者らは新型コロナウイルス検出のために唾液PCR法の感度が最適な検査タイミングを調査するため、2020年6月17日~2021年2月15日の期間に前向き縦断研究を実施した。2週間以内にRT-PCR法で新型コロナウイルスと判定された家族と濃厚接触した人の便宜的サンプルをChildren’s Hospital Los Angelesとその近隣地域からHEARTS( Household Exposure and Respiratory Virus Transmission and Immunity Study )のサイトを通じて募集した。 鼻咽頭と唾液のRT-PCR法のペアサンプルを、3〜7日ごとに最大4週間にわたって、鼻咽頭の2回の結果が陰性になるまで収集した。唾液PCR法の感度は鼻咽頭での陽性を参照標準として計算した。また、唾液PCR法の感度に関する臨床的特徴は、鼻咽頭陽性ペアのオッズの高さから予測した。 主な結果は以下のとおり。・参加者404例から889組の鼻咽頭スワブと唾液サンプルを得た。そのうち新型コロナウイルスは鼻咽頭で524件(58.9%)、唾液で318件(35.7%)が検出された。・新型コロナウイルスが両方の検体から検出されたのは258組(29.0%)だった。・鼻咽頭で陽性だった256例(63.4%)は、平均年齢が28.2歳(範囲:3.0~84.5歳)で、108例(42.2%)が男性だった。また、93例(36.3%)は感染期間中、無症候のままだった。・有症状の163例のうち126例(77.3%)は重症度分類が軽症だった。・唾液の感度は、感染の最初の週に収集されたサンプルで71.2%(95%信頼区間[CI]:62.6~78.8)で最も高かったのに対し、その後、週を追うごとに低下した。・感染が確認された第1週の検体採取日に新型コロナ関連の症状を呈していた参加者は、無症候性の参加者と比較して唾液PCR法の感度が有意に高かった(88.2%[同:77.6~95.1] .vs 58.2%[同:46.3~69.5]、p<0.001)。・唾液PCR法による感度は、有症状の場合は2週目まで有意に高かった(有症状:83.0%[同:70.6~91.8] .vs 無症候:52.6%[同:42.6~62.5]、p<0.001)。しかし、発症後2週間以上が経過すると症状の有無による違いは観察されず、無症候性の参加者は34.7%(同:27.3~42.7) 、症状出現前の人は57.1%(同:31.7~80.2)、後に症状を有した人は42.9%(同:36.8~49.1)と、有意差はなかった(p=0.26)。・新型コロナ発症後の各日に対し、唾液検出のオッズ比を前日で比較すると0.94(同:0.91~0.96、p<0.001)だった。・検体採取時に新型コロナ関連の有症状者または鼻咽頭でのウイルス量が多かった参加者は、無症候性または鼻咽頭のウイルス量が少ない参加者と比較して、唾液陽性のRT-PCR結果が得られる確率が高く、それぞれのオッズ比は2.8(同:1.6~5.1、p<0.001)および5.2(同:2.9~9.3、p<0.001)だった。

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高リスクCOVID-19外来患者への高力価回復期血漿療法の効果は?/NEJM

 高リスクの新型コロナウイルス(COVID-19)外来患者に対する、発症1週間以内の早期高力価回復期血漿療法について、重症化の予防効果は認められなかったことが、米国・ミシガン大学のFrederick K. Korley氏らの研究グループ「SIREN-C3PO Investigators」が、救急診療部門を受診した511例を対象に行った、多施設共同無作為化単盲検試験の結果、示された。COVID-19回復患者の血漿を用いた早期回復期血漿療法は、高リスクCOVID-19患者の疾患進行を防ぐ可能性があるのではと目されていた。NEJM誌オンライン版2021年8月18日号掲載の報告。 15日後の疾患進行をプラセボ投与と比較 研究グループは、救急診療部門を受診した外来患者でCOVID-19症状が認められた511例を対象に試験を行った。 被験者を無作為に2群に分け、一方にはSARS-CoV-2に対する高力価抗体を含む回復期血漿を1単位投与し、もう一方の群にはプラセボを投与した。被験者は、全員が50歳以上、または疾患進行に関するリスク因子が1つ以上認められた。また、発症から7日以内に救急診療部門を訪れ、症状は安定しており外来管理が可能だった。 主要アウトカムは、無作為化15日後の疾患進行で、あらゆる入院、救急/緊急ケアを要する事態、非入院死亡のいずれかと定義した。 副次アウトカムは、最悪の重症度(8段階順序尺度で評価)、無作為化30日以内の非入院日数、全死因死亡だった。疾患進行患者の割合、両群とも30~32%で同等 被験者511例は、回復期血漿群257例、プラセボ群254例に無作為化された。年齢中央値は54歳、発症期間中央値は4日だった。ドナー血漿のSARS-CoV-2中和抗体価の中央値は1:641だった。 疾患進行が認められたのは、回復期血漿群77例(30.0%)、プラセボ群81例(31.9%)だった(リスク差:1.9ポイント、95%信用区間:-6.0~9.8、回復期血漿群の優越性の事後確率:0.68)。 死亡は、回復期血漿群5例、プラセボ群1例が報告された。最悪の重症度、非入院日数は、両群で同等だった。

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塩野義のコロナワクチン、日本人I/II相臨床試験で初回投与後の安全確認

 塩野義製薬は8月24日、同社が開発している新型コロナウイルスワクチン(S-268019)について、アジュバントを変更した新製剤による国内第I/II相臨床試験における全被験者60例への初回投与が8月19日までに完了したことを発表した。初回投与3日後までに生じた副反応は、いずれも軽度~中等度であり、安全性への懸念は確認されていないという。塩野義製薬のコロナワクチンS-268019はバキュロウイルスを用いた発現技術 塩野義製薬のコロナワクチン「S-268019」は、昆虫細胞とバキュロウイルスを組み合わせたタンパク発現技術であるBEVS (Baculovirus Expression Vector System)を活用した遺伝子組換えタンパクワクチンで、2020年12月より第I/II相臨床試験を開始。その後、検討結果や集積された知見を踏まえ、アジュバントを変更した新製剤で2021年7 月末より日本人成人を対象とした無作為化プラセボ対照二重盲検比較試験を新たに実施している。本試験では、20~64歳の日本人の男女60例を対象とし、同ワクチンを3週間間隔で2回接種した際の副反応などの安全性、忍容性および免疫原性の結果から、抗原タンパク量の低減化を含め至適な用量を検討すると共に、それぞれの指標について接種後1年間の追跡評価を実施する予定。 塩野義製薬では、これらの試験で用量を決定後、約3,000例の日本人対象の次相試験に速やかに移行して安全性や有効性をさらに検討し、最終段階の試験を年内にも開始したい考え。

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第72回 今さら「手紙」で協力求める日医・中川会長、“野戦病院”提言も動かない会員たちにお手上げ?

動き出した“野戦病院”だがこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。週末は、大学の山のクラブの先輩が茨城県で営む農園のビニールハウスの修繕(先々週の嵐で倒壊)に、仲間数人で行ってきました。先輩は昨年末に食道がんの手術を受けたばかりで体力的に一人で直せないとSOSを発信、身近な仲間に緊急招集がかかったのです。我々支援隊は万全の感染対策(食事は屋外、宿泊も納屋か持参のテント)をとっての農作業で、まさに“野戦病院”的でしたが、暑さには参りました。あと、奥さんが「ワクチンは怖いので打たない」と話していたことにも…。仲間たちと延々説得を試みて「では、打ちます」となったのですが、若年者でなくてもワクチンを根拠なく忌避する人が身近にいることに改めて驚いた次第です。さて、前回も書いた“野戦病院”ですが、感染拡大が止まらず、自宅療養者も急増する中、どうやら政府も重い腰を上げそうです。西村 康稔経済再生担当大臣は、8月17日に開かれた衆参両院の議院運営委員会で、公明党・佐藤 英道氏の「自宅療養者の不安を解消するため、宿泊療養施設の確保や、いわゆる『野戦病院』の検討も進めるべきではないか」との質問に、「臨時の医療施設として、野戦病院的な、テントやプレハブで早期に作ることは、特例が認められているので、各都道府県と連携して必要なところに必要な支援を進めていきたい」と述べました。翌18日には日本医師会の中川 俊男会長が記者会見で、新型コロナウイルス感染症の中等症患者の入院施設として、新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)に基づく臨時医療施設の設置を提言しました。中川会長は「民間が所有する大規模イベント会場や体育館など集中的に医療を提供できる場所を確保すべきだ」と話し、経団連と、加盟企業が保有している宿泊研修施設の活用について協議していることも明らかにしました。また同時に、医療従事者を確保するため、地域の医師会や看護協会と連携する考えも示した、とのことです。20日の閣議後の会見で、田村 憲久厚生労働大臣も、「全国的に、必要な自治体では臨時の医療施設の確保を検討してもらわなければならない」と述べました。政府、日医揃ってやっと重い腰を上げた格好ですが、気になることもあります。そうした施設に配置する人員です。会員の医師一人ひとりに協力を求める手紙を送ると日医会長8月18日に日本医師会から配信されたメール(「日医君」だよりNo.661)は、思わず脱力してしまう内容でした。中川会長は8月17日、新型コロナウイルスの爆発的な感染の拡大が全国規模で起きていることを受けて、会員の医師一人ひとりに改めて「協力を求める手紙」を送ることを決めた、というのです。手紙は8月28日から順次郵送を開始するそうです。決めてから10日以上先に発送とはすばらしいスピード感です。ひょっとしたら、手書きなのかもしれません。肝心の手紙の内容も公開されています。現在の日本の状況は緊急事態であり、新型コロナ医療と通常の医療の両立が崩れ始めているとした上で、新型コロナウイルスの感染拡大を徹底的に抑え込み、同時に、なんとしても医療提供体制を維持しなくてはならないとして、「どうか、新型コロナウイルス感染症患者さんの入院が難しい医療機関におかれましても、今一度、受け入れのご検討をお願いします。診療所におかれましては、どうか、できうる限り、自宅療養、宿泊療養の患者さんの健康観察、電話等による診療や往診を行っていただきますようお願いします」と、病院、診療所の両方にお願いする内容となっています。おいおい今ごろ手紙かよ、医療提供体制の構築に向けて春からきちんと取り組んで来たのではないのかよ……と、思わず口に出して突っ込んでしまいました。そう言えばアベノマスクの時も同じような脱力感を覚えました。8月3日に菅 義偉首相が中川会長と面会、往診や遠隔医療での医師会員の協力を養成した際には確か「特に自宅療養への対応に重点を置いた体制整備を進めている」と答えていたはずでしたが…。医療提供体制の確保に無力の日本医師会臨時医療施設の設置を提言する一方で、そこで働いてもらう医師をはじめとする医療スタッフの確保については、手紙ベースでこれからお願いするのでしょうか。今更ながら、人員含めた地域の医療提供体制の確保において、日本医師会という組織は無力だと再認識できた次第です。彼らは結局、患者や国民は二の次で、診療報酬というパイの確保や補助金を含めた医師へのお金の配分しか考えられないのかもしれません。仮にこれから臨時の医療施設ができても、都道府県医師会、あるいは地区医師会などが動かない限り、「仏作って魂入れず」という事態に陥るでしょう。ワクチン接種遅れ、原因の一つに日医肝いりの「個別接種」日本医師会については、月刊誌『文藝春秋』9月号に、「日本医師会の病巣にメス」と題する興味深い記事が掲載されています。辰濃 哲郎氏と同誌の取材班によるこの記事は、日本でワクチン接種が大幅に遅れた原因の一つが、日本医師会の肝いりで強引に進められた「個別接種」にあることを、詳細な経緯とともにリポートしています。診療所を含めることで、ワクチンの配送や管理、接種登録が煩雑になることや、集団接種への人員が割けないとなど、さまざまな問題点が指摘されていたにもかかわらず敢行された個別接種。同記事は日医が診療所の参画にこだわった理由について、「昨年来、コロナ院内感染を危惧して発熱患者を断る診療所が少なくなかった。(中略)。個別接種は診療所医師がコロナ禍で存在感を発揮するうえで、中川会長の起死回生の策だったと思える」と書いています。結果はどうだったか。手厚い協力金によって接種に参加した医療機関を潤しました。しかし一方で、自治体が進める集団接種の接種人員不足などの問題も引き起こしました。また、ワクチン接種記録の未入力の発生(その結果、在庫量の把握が困難に)や、“かかりつけ”の患者しかワクチン接種を行わない医療機関の存在など、「個別接種」が接種推進の妨げの一因となっていたことは事実でしょう。なお、この記事では、そうした「個別接種」の問題点のほか、日本医師会という組織が昔から抱える根本的な問題(開業医の権益を守るための組織でしかないこと)についても書かれています。興味がある人は、ご一読をお薦めします。医師動員は改正感染症法で対応可能私は、個別接種への取り組みは、地域の医療提供体制見直しを遅らせる一因でもあったと考えています。日医には「会員がワクチン接種に関わることで“やってる感”を出しているうちに、コロナは収まるだろう」という甘い考えがあったのではないでしょうか。“コロナ一本足打法”の菅首相と同じです。そのため、今問題になっている医療提供体制について真剣に議論せず、今ごろになって臨時医療施設を提言しているわけです。それも人員のあてもなく。政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身 茂会長は8月22日のNHK「日曜討論」で、新型コロナの全国的な感染拡大に関し、「コロナに関わっていない医療者がいるが、そういう人にもできる限り(対応を)やってもらいたい。国や自治体から強く要請してほしい」と、これまで治療などに当たってこなかった医療従事者に対する働きかけを強める必要があるとの認識を示しました。働きかけという点では、2月に施行された改正感染症法での対応が考えられます。同法では、感染症のまん延による緊急時に医師らに対して厚労相や都道府県知事が必要な協力を求めることができるとした上で、 正当な理由なく要請に応じない場合は「勧告」、勧告にも従わない場合はその旨を公表することができると規定しています(同法第16条の2)。これまでこの規定に基づく病床確保の要請は奈良県、大阪府、静岡県、茨城県、札幌市でありましたが(「第54回 なぜ奈良県で?「県内全75病院に病床確保要請」をうがった見方をしてみれば…」参照)、病院や医師個人に対する勧告や公表に至った事例はまだありません。と、ここまで書いてきて、大きなニュースが入って来ました。厚生労働省と東京都が8月23日、改正感染症法に基づいて都内の全医療機関に新型コロナウイルス患者の受け入れや医療従事者の派遣を連名で要請したのです。これまで要請してきたのは府県や市でした。国が要請に乗り出すのは初めてです。現在、都内で患者を受け入れているのは約400病院で、残り約250病院はコロナに直接関わっていないそうです。他に約1万3,500の診療所があり、要請はこれら全ての医療機関と医師・看護師の養成機関が対象とのことです。重点医療機関や協力病院にはさらなる患者受け入れや病床増、他の病院には宿泊療養施設や臨時医療施設の運営に関わるよう求め、診療所にも在宅医療や、宿泊療養施設・臨時医療施設への人材供給を求めるとしています。要請への回答期限は8月31日です。果たしてどれだけの病院、診療所が動くのかが注目されます。ロックダウン(都市封鎖)のような強制措置や、個人の行動制限の検討も始まるようです。ここは並行して、感染症法以外での、有事に病床を確保したり、医師を動員したりできる法的仕組みについても、ぜひ議論してもらいたいと思います。手紙や薄っぺらな言葉、実効性の薄い罰則では、今の時代人は動きません。

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百貨店など大型商業施設でのクラスターの共通所見と対策/感染研

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のいわゆるデルタ株の拡大で、百貨店やショッピングセンターなどの大規模商業施設のスタッフ間のクラスター感染が報告されている。生活に密着する施設での発生から今後のさらなる感染拡大が懸念されている。 この状況を受け、国立感染症研究所実地疫学研究センターは、現時点での、クラスターの発生原因に関する共通すると思われる代表的な所見を提示し、共通する対策に関して提案を行った。【代表的な所見】・売り場における従業員の衛生意識は高く、マスク着用はおおむね適切に行われていたが、手指衛生などさらに改善すべき点を認めた・時間帯によって、客が密集した状態になる売り場を認めた・従業員が利用する食堂や休憩所などで密となりがちな環境を一部認めた・店舗による接触者の把握や管理が十分ではなかったと考えられた状況を一部認めた【共通する対策に関する提案】・COVID-19の感染経路に基づいた適切な予防法、消毒法について、従業員全員がより正しく実践する・従業員による売り場での十分量の適切な濃度のアルコール消毒剤を用いた手指衛生、および従業員や客が高い頻度で触れる箇所の消毒を徹底する・客が密となる場所においては人の流れや(時間当たりの)入場者数の調整をする。その際、売り場では、たとえば混雑時・非混雑時の二酸化炭素濃度を参考に換気を工夫する・従業員が利用する食堂や休憩所などにおいて、密になる環境を作らない工夫と十分な換気、黙食を徹底する・複数店舗でCOVID-19の陽性者が判明した場合は、フロア全体など広めの検査実施を検討する・従業員の健康管理(観察と記録)を強化する・自治体または職域での新型コロナワクチン接種の推進を各店舗の従業員に対して働きかけていただきたい・これまで以上に、保健所との連携(報告や相談)を強化していただきたい 百貨店・ショッピングセンターなどだけでなく、人流の多い市役所などの行政機関、病院などの医療機関、学校などでも参考にできるので一読をお願いしたい。

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第74回 デルタ株優勢の感染流行にワクチンが苦戦/追加接種に理想的なワクチン

デルタ株優勢の感染流行にワクチンが苦戦新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンは重症化や死亡を依然としてよく食い止めていますが、デルタ変異株が優勢の目下の流行下で残念ながらワクチン接種完了者の感染は防ぎきれていないようです1)。米国全域の老人ホーム入居者を調べたところ、PfizerやModernaの新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)mRNAワクチン感染予防効果は今年初め(3~5月)の段階では75%でしたが、デルタ変異株が優勢となったその後の6~7月には53%に下落していました2)。英国でも予防効果の減弱が伺えます。無作為に選んだ30万人超を定期的に検査した結果、アルファ変異株優勢の去年2020年12月から今年2021年5月16日のPfizerワクチンBNT162b2接種完了者のCOVID-19発症予防効果は97%でしたがデルタ変異株優勢の5月17日から8月1日には84%に低下していました1,3)。AstraZenecaワクチンAZD1222(ChAdOx1)接種完了者のCOVID-19発症予防効果も同様で、アルファ変異株優勢のときには97%だったのがデルタ変異株優勢になってからは71%に低下していました。また、ワクチン接種完了にもかかわらずデルタ変異株に感染した人の鼻や喉のウイルス量はワクチン接種完了後でもアルファ変異株に感染した人より多めであり、他の試験でも示唆されているように、ワクチン接種完了者といえどもデルタ変異株に感染すれば他の人に広まりうるようです。ニューヨーク州のデータでもワクチン効果の衰えが示唆されています。米国FDAが取り急ぎ認可したワクチンのSARS-CoV-2感染予防効果は同州でデルタ変異株が他を凌駕するようになった今年5月から7月にはそれ以前の92%から80%に落ち込んでいました4)。ただしデルタ変異株が跋扈する現在でもワクチンの重症化予防は依然として健在です。たとえばニューヨーク州のデータではワクチンはCOVID-19による入院の95%近くを防いでいます4)。イスラエルのデータでは、ワクチンは50歳までの比較的若い人の92%、50歳を超えるより高齢の人の85%の重症化を防いでいます5)。重症化が防げているからこれまで通りで十分とする向きがある一方で軽症のCOVID-19予防効果をワクチン追加接種で底上げする価値はあるとみる専門家もいます。イェール大学の岩崎 明子(Iwasaki Akiko)氏はその一人で、とくに心配な人へのワクチン接種が第一なことは言うまでもないが、もしワクチンの備えに余裕があるなら追加接種は価値があると考えています。ワクチン接種完了にもかかわらず感染した人のウイルス量は年齢を問わず多く、たとえば20歳代でさえ多めです。ゆえに防御免疫を底上げしてウイルスを抑制することは感染の伝播阻止に貢献するでしょう。防御免疫の底上げはCOVID-19感染後の長引く症状(後遺症)の予防にも役立ちそうです。COVID-19後遺症はワクチン接種完了者の感染後にも生じうることが知られています。ワクチン接種完了者の感染後のCOVID-19後遺症の発現率がたとえわずか1%だったとしてもその危険性は無視できるものではなく、COVID-19後遺症を防ぐための手を尽くす必要があると岩崎氏は言っています1)。イスラエルではすでにPfizerのCOVID-19ワクチンの3回目接種が始まっていてその効果の片鱗が伺えるようになっています。同国の人口930万人の約4人に1人を受け持つ医療提供会社Maccabiの先週水曜日の発表によると、60歳を超える人の3回目接種はその1週間後からの感染の86%を防いでいます6)。イスラエル保健省もこの週末に3回目接種の予防効果改善を発表しています7)。追加接種に理想的なワクチン追加接種をするのであれば当面はイスラエルがそうであるように手持ちのワクチンが使われるでしょうが、これからを見据えるならデルタ変異株のみならずコロナウイルス全般に有効なワクチン接種手段が開発できれば理想的です。そういう理想的なワクチンの設計のヒントとなりそうな試験結果が先週のNEJM誌に報告されています8)。目下のCOVID-19流行を引き起こしているサルベコウイルスの一員・SARS-CoV-2とゲノム配列がおよそ80%一致する別のサルベコウイルス・SARS-CoVはより凶悪で、約20年前の2002~03年に8,000人超の感染を招き、それらの10人に1人近い700人超を死に追いやりました。そのSARS-CoV感染(SARS)を切り抜けて生き残り、Pfizer/BioNTechのCOVID-19ワクチンBNT162b2接種を最近済ませた8人の血液を調べたところSARS-CoV中和抗体が向上していました。そして驚くべきことに、既知のヒト感染SARS-CoV-2変異株・アルファ、ベータ、デルタのみならずコウモリやセンザンコウが保有するヒトに感染可能と思しきコロナウイルスの数々も阻止しうる汎サルベコウイルス中和抗体一揃いも備わっていました8)。調べた8人はSARS-CoV感染の後にSARS-CoV-2に対するmRNAワクチンを接種しました。逆にSARS-CoV-2に対するワクチンをまず接種して次にSARS-CoVに対するワクチンを接種することでも8人と同様に汎サルベコウイルス中和抗体が備わるかどうかを今後調べる必要があります。もしその接種の順番で汎サルベコウイルス中和抗体が備わるならSARS-CoV-2ワクチン接種が完了した人へ追加接種として理想的なのはSARS-CoVへのワクチンとなるかもしれません。参考1)Do Delta ‘breakthroughs’ really mean vaccine protection is waning, and are boosters the answer? / Science2)Effectiveness of Pfizer-BioNTech and Moderna Vaccines in Preventing SARS-CoV-2 Infection Among Nursing Home Residents Before and During Widespread Circulation of the SARS-CoV-2 B.1.617.2 (Delta) Variant - National Healthcare Safety Network, March 1-August 1. Morbidity and Mortality Weekly Report (MMWR) August 18, 2021. 3)Impact of Delta on viral burden and vaccine effectiveness against new SARS-CoV-2 infections in the UK / COVID-19 Infection Survey4)New COVID-19 Cases and Hospitalizations Among Adults, by Vaccination Status - New York, May 3-July 25, 2021. Morbidity and Mortality Weekly Report (MMWR) August 18, 2021. 5)Israeli data: How can efficacy vs. severe disease be strong when 60% of hospitalized are vaccinated? / Covid-19 Data Science6)Third Pfizer dose 86% effective in over 60s, Israeli HMO says / Reuters7)Israel finds COVID-19 vaccine booster significantly lowers infection risk / Reuters8)Tan CW,et al. N Engl J Med. 2021 Aug 18. [Epub ahead of print]

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コロナワクチン接種後の脳静脈血栓症、VITT併存で重症化/Lancet

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチン接種後の脳静脈血栓症は、ワクチン起因性免疫性血栓性血小板減少症(VITT)が併存すると、これを伴わない場合に比べより重症化し、非ヘパリン抗凝固療法や免疫グロブリン療法はVITT関連脳静脈血栓症の転帰を改善する可能性があることが、英国・国立神経内科・脳神経外科病院のRichard J. Perry氏らCVT After Immunisation Against COVID-19(CAIAC)collaboratorsの調査で示された。研究グループは、これらの知見に基づきVITT関連脳静脈血栓症の新たな診断基準を提唱している。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2021年8月6日号で報告された。VITT有無別の転帰を評価する英国のコホート研究 CAIAC collaboratorsは、VITTの有無を問わず、ワクチン接種後の脳静脈血栓症の特徴を記述し、VITTの存在がより不良な転帰と関連するかを検証する目的で、多施設共同コホート研究を行った(特定の研究助成は受けていない)。 COVID-19ワクチン接種後に脳静脈血栓症を発症した患者の治療に携わる臨床医に対し、ワクチンの種類や接種から脳静脈血栓症の症状発現までの期間、血液検査の結果にかかわらず、すべての患者のデータを提示するよう要請が行われた。 脳静脈血栓症患者の入院時の臨床的特徴、検査結果(血小板第4因子[PF4]のデータがある場合はこれを含む)、画像所見が収集された。除外基準は設けられなかった。 VITT関連の脳静脈血栓症は、入院期間中の血小板数の最低値が<150×109/L、Dダイマー値が測定されている場合はその最高値が>2,000μg/Lと定義された。 主要アウトカムは、VITTの有無別の、入院終了時に死亡または日常生活動作が他者に依存している患者(修正Rankinスコア3~6点[6点=死亡])の割合とされた。また、VITTの集団では、International Study on Cerebral Vein and Dural Sinus Thrombosis(ISCVT)に登録された脳静脈血栓症の大規模コホートとの比較が行われた。主要アウトカム:47% vs.16% 2021年4月1日~5月20日の期間に、英国43施設の共同研究者から脳静脈血栓症99例のデータが寄せられた。このうち4例は、画像で脳静脈血栓症の明確な所見が得られなかったため解析から除外された。残りの95例のうち、70例でVITTが認められ、25例は非VITTであった。 年齢中央値は、VITT群(47歳、IQR:32~55)が非VITT群(57歳、41~62)よりも低かった(p=0.0045)。女性はそれぞれ56%および44%含まれた。ISCVT群は624例で、年齢中央値37歳(VITT群との比較でp=0.0001)、女性が75%(同p=0.0007)を占めた。 ChAdOx1(Oxford-AstraZeneca製)ワクチンの1回目接種後に脳静脈血栓症を発症した患者が、VITT群100%(70例)、非VITT群84%(21例、残り4例のうち3例はBNT162b2[Pfizer-BioNTech製]の1回目接種後、1例は同2回目接種後)であり、接種から脳静脈血栓症発症までの期間中央値はそれぞれ9日(IQR:7~12)、11日(6~21)だった。 VITT関連脳静脈血栓症群は非VITT関連脳静脈血栓症に比べ、血栓を形成した頭蓋内静脈数中央値が高く(3[IQR:2~4]vs.2[2~3]、p=0.041)、頭蓋外血栓症の頻度が高かった(44%[31/70例]vs.4%[1/25例]、p=0.0003)。 退院時に修正Rankinスコアが3~6点の患者の割合は、VITT群が47%(33/70例)と、非VITT群の16%(4/25例)に比べて高かった(p=0.0061)。また、VITT群におけるこの有害な転帰の頻度は、非ヘパリン抗凝固療法を受けた集団が受けなかった集団に比べて低く(36%[18/50例]vs.75%[15/20例]、p=0.0031)、直接経口抗凝固薬投与の有無(18%[4/22例]vs.60%[29/48例]、p=0.0016)および静脈内免疫グロブリン投与の有無(40%[22/55例]vs.73%[11/15例]、p=0.022)でも有意な差が認められた。 著者は、「VITT関連脳静脈血栓症は他の脳静脈血栓症に比べ転帰が不良であることが明らかとなったが、VITTはChAdOx1ワクチン接種によるきわめてまれな副反応であり、COVID-19に対するワクチン接種の利益はリスクをはるかに上回る」としている。

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妊娠中のコロナ自宅療養、異常時の対応指針まとめる/日産婦

 新型コロナウイルスに感染して自宅療養中の妊婦が、受け入れ先が見つからずに自宅で早産し、新生児が必要な治療を受けられないまま死亡した千葉県の事案を受け、日本産科婦人科学会と日本産婦人科医会が、自宅などで療養する妊婦の異常時の対応指針をまとめ、8月23日付で各々の公式ページに掲出した。妊婦に向けては、すぐに救急車を要請すべきケースとして、「息苦しく、短い文章の発声もできない」もしくは「酸素飽和度(SpO2)92%以下」と具体的に指示している。 「自宅や宿泊療養施設(ホテル等)の新型コロナウイルス感染妊婦に関する対応について」と題した対応指針は、妊婦と産科医療機関、行政機関それぞれに向けて出されている。新型コロナを巡っては、全国的に新規感染者数が膨れ上がる中、各地で入院療養のキャパシティの限界に近付きつつある。患者が基礎疾患を有していたり、妊娠中であったりしても同様で、症状に応じて自宅療養や宿泊療養を余儀なくされるのが現状だ。とくに後期(8ヵ月以降、妊娠28週以降)の感染では、わずかながらも重症化しやすいとされている。そうした医療者が直ちに目視できない状況下では、患者自身がどう対応すべきか判断できる具体的な指針がとても重要だ。 指針では、かかりつけの産科医もしくは保健所に連絡するケースとして、▽1時間に2回以上の息苦しさを感じる時▽トイレに行くときなどに息苦しさを感じるようになった時▽心拍数が1分間に110回以上、もしくは呼吸数が1分間に20回以上▽安静にしていても酸素飽和度が93~94%から1時間以内に回復しない時―を挙げている。また、息苦しくなり、短い文章の発声もできなくなった時もしくはSpO2が92%以下になった時にはすぐに救急車を要請するよう指示している。

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第67回 新規感染者のワクチン接種割合は?/ワクチン健康被害で初の救済認定

<先週の動き>1.新規感染者のうち、ワクチン接種済の割合は?/厚労省アドバイザリーボード2.コロナワクチン健康被害で初の救済認定、41例中29例/厚労省3.ブースター接種に向け、モデルナに加えファイザーワクチンも追加確保4.妊婦は重症化リスク高、時期を問わずワクチン接種を推奨/産婦人科学会5.介護保険の主治医意見書の記入の手引きなどが変更に/厚労省6.病院を顧客にした口コミビジネスが暗躍1.新規感染者のうち、ワクチン接種済の割合は?/厚労省アドバイザリーボード18日に開催された新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードで、新型コロナウイルス感染患者のワクチン接種状況について報告があった。8月10~12日の期間に報告された全国の新規感染者5万7,293例のうち、ワクチン未接種は4万7,132例(82.3%)であり、1回のみ接種は2,956例(5.2%)、2回接種は1,768例(3.1%)、接種歴不明は5,437例(9.5%)であった。人口10万人当たりの新規感染者数としては、ワクチン未接種では67.6例、1回接種では22.7例、2回接種完了では4.0例と、ワクチン接種を2回完了した人は未接種者の約17分の1の割合であることが明らかとなった。(参考)全国の新規陽性者数等及び高齢者のワクチン接種率(厚労省)「ワクチン2回接種」で感染は未接種者の“約17分の1”厚労省(NHK)2.コロナワクチン健康被害で初の救済認定、41例中29例/厚労省厚生労働省の感染症・予防接種審査分科会は19日、新型コロナウイルスワクチンの接種後に健康被害を訴えた41例中29例について、接種との因果関係が否定できないとして、予防接種法に基づき医療費と医療手当の支給を認めた。新型コロナワクチンによる健康被害に対しての救済認定は初めてのこと。保留となった12例は、再度分科会で審議される。今回、自治体を通じて審査申請した10~80代の男女41例について審議が行われた。認定を受けたのは20~60代の男女29例(うち28例が女性)。内訳は、アナフィラキシー15例、アナフィラキシー様症状8例、急性アレルギー反応6例だった。(参考)接種後の健康被害、初の救済認定 コロナワクチンで29人(共同通信)コロナワクチンの健康被害で初救済 29人、因果関係否定できず(毎日新聞)<Q&A>ワクチン接種後に健康被害 医療手当支給の審査は厳しいの? 時間はかかる?(東京新聞)3.ブースター接種に向け、モデルナに加えファイザーワクチンも追加確保政府は、新型コロナウイルスワクチン接種を2回完了した人に対して、追加の3回目接種を実施するために、モデルナとはすでに来年に5,000万回分の供給を受ける契約を締結している。今回、ファイザー・ビオンテックのワクチンも、1億2,000万回分の追加契約を行い、実施への調整に入ったことを明らかにした。すでにイスラエルではブースター接種が開始されており、今後欧米でも感染対策強化として広がる見込み。一方、アフリカや南米など途上国においてはワクチン供給が遅れているため、接種を受けられない状況が続いている。世界保健機関(WHO)は、ブースター接種開始の延期や自制を求めている。(参考)政府、3回目接種へ調整本格化 ワクチン効果維持図る―WHOは自制求める(時事ドットコム)ファイザーワクチン1億2000万回分追加契約へ 3回目接種に向け(毎日新聞)4.妊婦は重症化リスク高、時期を問わずワクチン接種を推奨/産婦人科学会先日、千葉県柏市で自宅療養をしていた妊娠8ヵ月の30代女性が、早産の疑いにもかかわらず受け入れ先が見つからず、自宅出産の末に新生児が死亡する事例が報道された。日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会、日本産婦人科感染症学会は、妊婦に対して、妊娠中、とくに妊娠後期に新型コロナウイルスに感染すると重症化しやすいため、時期を問わずワクチンを接種することを推奨している。関係学会は、自宅療養中の妊婦が適切に医療機関に受診できるように、救急搬送が必要な呼吸状態などの具体的な目安をまとめた声明を公表する方針を固めた。(参考)千葉・柏の新生児早産・死亡問題、当日に9病院が受け入れ断る(東京新聞)コロナ感染の妊婦 搬送などの目安を関係学会が公表へ(NHK)妊産婦のみなさまへ 新型コロナウイルス(メッセンジャーRNA)ワクチンについて(第2報)(日本産婦人科学会)5.介護保険の主治医意見書の記入の手引きなどが変更に/厚労省厚労省は、16日に介護保険の認定のために必要な主治医意見書の記入の手引きを見直し、「認定調査票記入の手引き」「主治医意見書の記入の手引き」「特定疾病にかかる診断基準」の改定内容について、各都道府県などに通知を発出した。これは今年4月1日の厚労省老健局長通知に対応するもの。施設等利用の場合は、医療機関における病床の種別(精神病床等)や障害福祉サービス(グループホーム等)など、調査対象者の状況について記入することや、「傷病に関する意見」では、症状としての安定性について、進行がんなどで、急激な悪化が見込まれる場合は「特記すべき事項」ではなく、「傷病に関する意見」に記載することなどを求めている。(参考)要介護認定の主治医意見書記入の手引きなど見直し 厚労省(CBnewsマネジメント)介護保険最新情報 Vol.1003 令和3年8月16日(厚労省老健局老人保健課)6.病院を顧客にした口コミビジネスが暗躍病院の検索結果で表示される口コミについて、低評価が投稿された医療機関に対して、「高評価の口コミに書き換える」などと営業している一部の業者が問題視された。読売新聞の報道によれば、これまでに400以上の法人(うち医療関係は7割)に対し、口コミを改善させると持ちかけて、実態のない情報の書き込みを行ったことが明らかになった。業者の中には、複数のアカウントを使い分けて口コミ対策をするところもあるという。今後、患者に正しい医療情報の提供を進めていく上で、改善が求められるだろう。なお、厚労省は、医療機関のホームページについて、「医療情報の提供内容等のあり方に関する検討会」を開催し、医療広告ガイドラインを定めるなど正しい情報提供を行うよう規制強化を行なっている。今回の事例の場合、「誘引性」を伴う可能性があり、広告規制の対象範囲となる可能性が高いだろう。(参考)病院の口コミ、改ざん業者が高評価に書き換え…「評価3.5以下なら大変」と営業攻勢(読売新聞)医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針(医療広告ガイドライン)(厚労省)

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コロナ禍がもたらすストレスと解消法/アイスタット

 約2年にわたる新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行により、日常生活が失われ、生活のさまざまな面で自粛や我慢をする場面が散見される。また、経済活動の停滞は、収入減少など将来への不安要素となり、精神面に悪影響を及ぼしている。 そうした環境の中、COVID-19が私たちにもたらした精神面への影響はどのくらいあるのだろうか。株式会社アイスタットは、8月4日にアンケートを実施した。アンケートは、セルフ型アンケートツール“Freeasy”を運営するアイブリッジ株式会社の全国の会員20~49歳の東京在住の300人が対象。調査概要形式:WEBアンケート方式期日:2021年8月4日対象:セルフ型アンケートツール“Freeasy”の登録者300人(20~49歳/東京)を対象アンケートの概要・約2年に及ぶコロナ禍での「自粛生活」「予防対策」「感染不安」に、何らかのストレスを感じている人は約7割・政府・自治体の対策では、「外出・旅行・帰省の規制・制限」がストレス有無に最も影響・約2年に及ぶコロナ禍で、疲れを感じていると回答した人ほど、ストレスあり・緊急事態宣言の内容を守っている人ほど、ストレスがある傾向・コロナ禍になる前はストレス体質ではなかったが、コロナ禍によりストレスとなった人が26.5%・ストレスがある人とそうでない人の心がけの違いは、「家族・知人・友人・恋人との頻繁な会話」・コロナストレスの要因トップ8は、「コロナ禍による疲れ」「外出・旅行・帰省の規制・制限」「外食・飲み会・宴会の規制・制限」「イライラする」「気力・元気がなくなる」「体質」「仕事面」「将来不安」回答者の7割はストレスを認識 質問1として「約2年に及ぶコロナ禍での「自粛生活」「予防対策」「感染不安」に何らかのストレスを感じているか」(単一回答)を聞いたところ、「やや感じている」が37.7%と最も多く、「非常に感じている」が30.3%、「どちらでもない」が15.3%と続いた。なかでも「非常に/やや」を足し合わせた「ストレスあり」と「どちらでもない/あまり/全く」を足し合わせた「そうでない」のストレス有無に分別すると、「ストレスあり」は68%、「そうでない」は32%で、全体の約7割がストレスを感じていた。「ストレスあり」回答者の属性では、「30代」「女性」「既婚」「有職者」で最も多かった。 質問2として「政府や自治体がお願いしている対策でストレスにつながる内容は何か」(複数回答)を聞いたところ、「外出・旅行・帰省の規制・制限」が56.3%で最も多く、「外食・飲み会・宴会の規制・制限」が43.0%、「マスク着用・検温・消毒」が39.0%と続いた。コロナストレスの有無別にみると、「政府・自治体の対策」を回答した人ほど実際にストレスがある傾向がみられ、一方、「あてはまるものはない」を回答した人は「そうでない」の方が多い結果だった。 質問3として「『自粛生活・予防対策・感染不安』に何らかの疲れを感じているか」(単一回答)を聞いたところ、「やや感じている」が35.0%で最も多く、「非常に感じている」が26.0%、「どちらでもない」が17.3%と続いた。「非常に/やや」を足し合わせた「疲れあり」と「どちらでもない/あまり/全く」を足し合わせた「そうでない」の疲れ有無に分別すると、「疲れあり」は61%、「そうでない」は39%だった。コロナ禍のストレスの一番は「イライラ」 質問4で「4回目の緊急事態宣言の内容を遵守したか」(単一回答)を聞いたところ、「どちらかといえば守っている」が54.3%で最も多く、「完全に守っている」が22.3%、「どちらかといえば守っていない」が12.7%と続いた。「完全に/どちらかといえば」を足し合わせた「守っている」と「そうでない」の遵守有無に分別すると、「守っている」は76.7%、「そうでない」は23.3%で、全体の約8割が守っている結果だった。 質問5で「コロナ禍でストレスとならないように心がけていること」(複数回答)を聞いたところ、「おいしいものを食べる」が36.7%で最も多く、「十分な睡眠をとる」が34.3%、「適度な運動・体を動かす」が33.3%と続いた。コロナストレスの有無別にみると、心がけていることを回答した人ほど実際にストレスがある傾向がみられ、一方、心がけていることは「特になし」と回答した人は、「そうでない」の方が多い結果だった。 質問6で「現在、生活面でコロナ禍により悪影響を受けていることがあるか」(複数回答)を聞いたところ、「収入・金銭の面で」が31.0%で最も多く、「仕事の面で」が28.7%、「家族・家庭・友人・知人・恋人の面で」が26.3%と続いた。コロナストレスの有無別にみると、すべての内容で回答した人ほど実際にストレスがある傾向がみられ、一方、「現在、悪影響はない」を回答した人は「そうでない」の方が多かった。 質問7で「コロナ禍になる前、ストレスを生じやすい体質だったか」(単一回答)を聞いたところ、「どちらかといえばストレスを生じやすい体質だった」が42.7%と最も多く、「どちらかといえばストレスを生じない体質だった」が27.3%、「常にストレスを生じる体質だった」が19.7%と続いた。「常に/どちらかといえば」を足し合わせた「ストレス体質」と「ストレス体質でない」の体質の有無に分別すると、「ストレス体質」は62.3%、「ストレス体質でない」は37.7%で、今回の調査対象者ではストレス体質の方が多い結果だった。 質問8で「コロナ禍が原因で、こころや身体に不調を感じた症状があるか」(複数回答)を聞いたところ、「イライラする」が35.7%で最も多く、「気力・元気がなくなる」が30.0%、「眠れない・眠りが浅い」の23.0%と続いた。コロナストレスの有無別にみると、「不調を感じた症状」に回答した人ほど実際にストレスがある傾向がみられ、一方、「現在、悪影響はない」を回答した人は「そうでない」の方が多かった。

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異種ワクチン接種、AZ/ファイザーとファイザー/AZの有効性と安全性/Lancet

 アデノウイルスベクターワクチン(ChAdOx1 nCoV-19、AstraZeneca製、ChAd)とmRNAワクチン(BNT162b2、Pfizer-BioNTech製、BNT)の異なるワクチンを用いた接種法について、BNT/ChAd接種法はBNT/BNT接種法に対する非劣性基準を満たさなかったが、BNT/ChAdおよびChAd/BNTの2つの異種接種法はいずれもChAd/ChAd接種法と比べて、SARS-CoV-2抗スパイクIgG値が高く、COVID-19疾患および入院に対して有効であることが示された。英国・オックスフォード大学のXinxue Liu氏らが同種vs.異種COVID-19ワクチンプライムブースト接種法の安全性と免疫原性を検討した参加者盲検無作為化非劣性試験「Com-COV試験」の結果を報告した。結果を踏まえて著者は、「ChAd/ChAdと比べてBNT/ChAdの免疫原性は高いことに加えて、今回の試験データは、ChAdおよびBNTを用いた異種プライムブーストワクチン接種を柔軟に行うことを支持するものである」とまとめている。Lancet誌オンライン版2021年8月6日号掲載の報告。4週または12週間隔のChAd/ChAd、ChAd/BNT、BNT/BNT、BNT/ChAd接種法を比較 Com-COV試験の適格被験者は、併存疾患なし/治療中、SARS-CoV-2感染歴がない(検査で確認)50歳以上で、英国8地点で集められた。適格被験者の大半が一般コホート(28日[4週間]間隔または84日[12週間]間隔)に登録され、4週または12週間隔でChAd/ChAd、ChAd/BNT、BNT/BNT、BNT/ChAdのいずれかを受ける8群に無作為に割り付けられた(1対1対1対1対1対1対1対1)。 適格被験者の最小サブセット(100例)を免疫評価コホートに登録し、追加で血液検査を行い免疫反応を評価。これらの被験者は、無作為に4つのスケジュール群(4週間隔のみ)に割り付けられた(1対1対1対1)。 被験者は接種されたワクチンについてはマスクされたが、接種スケジュールはマスクされなかった。 主要評価項目は、2回目接種後28日時点のSARS-CoV-2抗スパイクIgG値(ELISAで測定)の幾何平均比(GMR)で、ChAd/BNT vs. ChAd/ChAd、BNT/ChAd vs. BNT/BNTを比較した。異種接種法の同種接種法に対する非劣性マージンは、GMRの97.5%信頼区間(CI)下限値が0.63超の場合とした。 主要解析は、ベースラインで血清陰性だった被験者を包含したper-protocol集団で行われた。安全性解析は、試験ワクチンを1回接種した全被験者を対象とした。ChAd/BNT接種はChAd/ChAd接種に対して非劣性 2021年2月11日~2月26日間に、830例の参加者が登録・無作為化された。そのうち本論では、4週間隔で接種を受けた463例の結果が報告された。 被験者の平均年齢は57.8歳(SD 4.7)、212例(46%)が女性、117例(25%)が少数民族であった。 2回目接種後28日時点のSARS-CoV-2抗スパイクIgGのGMRについて、ChAd/BNT接種群(1万2,906ELU/mL)は、ChAd/ChAd接種群(1,392ELU/mL)に対して非劣性であった(GMR:9.2、片側97.5%CI:7.5~∞)。 BNT接種を受けた被験者において、同種接種法(BNT/BNT、1万4,080ELU/mL)に対する異種接種法(BNT/ChAd、7,133ELU/mL)の非劣性は示されなかった(GMR:0.51、片側97.5%CI:0.43~∞)。 すべての接種群で4つの重篤な有害事象が発生したが、いずれも免疫に関連しているとは見なされなかった。

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第71回 コロナ感染対策はデルタ株でも一緒、では一般市民への具体的な伝え方とは?

「過去最高の××××人…」「〇曜日としては過去最高の…」のいずれかのフレーズを最近のニュースで聞くことが多くなっている。言わずもがな、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の発生動向に関するニュースについてだ。多くの医療関係者が現在流行の主流をなすデルタ株の登場で、「局面が変わった」と口にする。確かに基礎研究ではデルタ株の持つ免疫回避は液性免疫だけでなく細胞性免疫にもおよび、さらにウイルスの細胞への接着や膜融合力も強化されているとも報告されている。中国の研究グループが公表した査読前論文では、デルタ株感染者が体内で保持するウイルス量は、従来株感染者たちと比べ1,260倍も多いと報告されている。他人事のような言い方に聞こえてしまうかもしれないが、まさに「恐ろしいまでの最強(最凶)なウイルス」である。そして最近、一般向けメディアでこの件について書いて欲しいと言われて資料を読み返した。すでに内外で報じられているが、米国疾病予防管理センター(CDC)は、内部向け資料で「デルタ株の基本再生産数は5~9.5人で、従来株の1.5~3.5人より大幅に感染力が増し、水ぼうそうの8.5人と同等」と試算していたことを明らかにしている。まあ、端的に言うならば、この数字だけみればデルタ株の感染力は従来株の3倍程度となる。報道的には、空気感染もする水ぼうそうと同等の感染力という触れ込みは極めてキャッチ―なのだが、こういう時こそ一呼吸置くべきと個人的には思っている。そんなこんなでほかに類似データがないかをもう一度眺め渡してみた。そうした中で改めて目にしたのが厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードで、「8割おじさん」のあだ名でも知られる京都大学大学院医学研究科の環境衛生学分野教授の西浦 博氏が示していた試算だ。すでに流行株の約80%がデルタ株と見積もられている8月11日現在の東京都での新型コロナ感染の伝播力(感染力)を従来株の流行時と比較している。それによると現在の伝播力は従来株流行時の1.87倍。言い換えれば、デルタ株は従来のウイルスの1.87倍、ざっくり言えば約2倍の感染力となる。こうした2つのデータを同一記事内で引用する場合、当然のことながら3倍と2倍の差は何なんだと、読者の突っ込みが入る可能性がある。この違いは単純にCDCが基本再生産数、すなわち何も対策をせずに免疫を持たない集団で起こる二次感染の規模を示すのに対し、西浦氏の試算はある時点での感染力を示す実効再生産数を使っているからである。いわば西浦氏の数字は、市中でマスクをしている人が行き交い、店舗入口に消毒薬が設置され、多くの人が三密を避け、国民の4割以上がワクチンの1回接種を終えた今現在のデータを用いたものなので、CDCの試算よりも感染力が低く出るのは、このサイトの読者ならとくに不思議とは思わないはずだ。そこまで念頭に置いた瞬間ハッとした。そう、私たちの努力次第ではデルタ株の高い感染力も一定程度は相殺することが可能なのだと。そしてこの相殺の仕方は、すでに政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会が6月時点で「変異株が出現した今、求められる行動様式に関する提言」を発表している。改めて以下に列挙する。(1)マスクを鼻にフィットさせたしっかりとした着用を徹底すること。その際には、適切な方法で着用できることを第一とした上で、感染リスクの比較的高い場面では、できればフィルター性能の高い不織布マスクを着用すること。三密のいずれも避けること。特に人と人との距離には気を付けること。(2)マスクをしっかりと着用していても、室内でおしゃべりする時間は可能な限り短くして、大声は避けること。(3)今まで以上に換気には留意すること。(4)出来る限り、テレワークを行うこと。職場においても、(1)~(3)を徹底すること。(5)体調不良時には出勤・登校をせず、必要な場合には近医を受診すること。(6)ワクチン接種後にも、国民の多くがワクチン接種を終えるまでは、マスクを着用すること。(7)ワクチン接種後にも、国民の多くがワクチン接種を終えるまでは、大人数の飲み会は控えること。(8)ワクチン接種後にも、国民の多くがワクチン接種を終えるまでは、帰省先での同窓会や大人数での会食は控えること。とくに目新しいものはない。そもそも感染力が増そうとも、感染経路は変化していないのだから当然である。むしろこれまでのことをより徹底すべしということなのだ。ところが「これまでとやることは変わらない」は多くの人が聞き飽きているフレーズなので、それを聞いただけでうんざりする人も少なくない。「今までと同じことなら、もう知っているからそれ以上わざわざ話を聞く必要はない」ということになる。ところが「もう知っている」という場合、大概自分に都合の良い覚え方をするものなので、これまで繰り返されてきた感染対策を完全に網羅して記憶しているケースは案外少なかったりするものだ。その意味では、デルタ株対策の呼びかけに関しては、やることは従来と同じでも伝え方に変化をつけなければならない時期に来ているようにも思える。デルタ株は従来株では感染が起きなかったシーンでも感染が起きていることは、もはや周知のこと。たとえば職場でちょっとマスク着用に疲れて顎マスクにした時に、隣の同僚と二言三言会話をする、喫煙所・休憩所にいてほっとしてマスクを外している時に他人と会話をするなどが、そうしたシーンに当たる。また、提言にもあるようなマスク着用時の鼻部分のワイヤー密着の甘さも死角だ。今は飲食店をなるべく利用しないほうが良いものの、利用時のオーダーでは大声で人を呼ばず軽く手を挙げるなどの対策も考えられるだろう。要は一般人の生活に根差して、うっかりしそうなシーン、今までやり続けてきたけど面倒になり手を抜き始めたシーンなどを、さりげなくだが具体的に提示して対策の徹底を求める。中身は同じでもこれまでの「三密回避」「マスク着用」「手洗い励行」のような紋切り型の教条的なものからやや目新しさを加えた情報提供で、感染収束の方向に若干でも活路が見いだせないかと考え始めている。

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コロナ感染経路不明者、リスク高い行動の知識が不足/国立国際医療研究センター

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の変異株による感染拡大の勢いが止まらない。 感染の主役は、COVID-19ワクチン接種を終えた高齢者にとって代わり、50代以下の若年・中年層へと拡大している。 こうした働き盛り、遊び盛りのこれらの年代の陽性者が、どこで、どのように感染しているのか。「感染経路不明」とされる事例の解明は、感染の封じ込め対策で重要な要素となる。 国立国際医療研究センターの匹田 さやか氏(国際感染症センター)らの研究グループは、入院時に感染経路が不明であった事例を対象に調査を行い、その結果をGlobal Health & Medicine誌に発表した。親しき仲にもマスクはあり!方法:2021年5月22日~6月29日に同センター病院に入院したCOVID-19患者のうち、入院時に感染経路が明確であった、意思疎通が困難であった患者を除いた者を対象として、インタビュー調査を実施。結果:有効回答の得られた22例のうち、男性が17例(77%)、女性が5例(23%)、年齢の中央値(四分位範囲)は52.5歳(44~66)、日本人が19名(86%)。22例のうち14例(64%)において既知の感染リスクの高い行動歴(室内飲食、室内ライブ参加、トレーニングジムなど)があった。また、行動歴/接触歴を解析し、既知の感染リスクが高い場面がのべ24あった。そのうちの21(88%)がラーメン店やそば屋など飲食関連であり、22(92%)ではマスクが着用されていなかった。また、感染に関与しうると考えられた患者の考えや信念に関して、「仕事の後であれば職員同士でマスクなしで話しても大丈夫だろう」、「外食が感染のリスクだとは知らなかった」などが挙げられた。 以上から匹田氏らは、「新たな感染経路が明らかになったわけではなく、むしろ感染には飲食がやはり多くの事例で関係していることがわかった。感染防止に対する意識付けや十分な知識が不足していることがわかり、これらが感染拡大を助長する可能性がある」と今後解決すべき課題を示唆した。

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免疫不全者へのブースター接種、推奨事由と対象者/CDC

 米国・疾病対策センター(CDC)は免疫不全者を対象としたCOVID-19ワクチンの追加接種(ブースター接種)の承認を受け、8月16日付でサイトの情報を更新した。主な内容は以下のとおり。・中等度から重度の免疫不全状態にある人はCOVID-19に感染しやすく、重症化、長期化するリスクも高いとされる。これらの人にはワクチンの追加接種が有効であり、接種を推奨する。・mRNAワクチン(ファイザー製およびモデルナ製)の2回目の接種から少なくとも28日経ってから追加接種を行うことを推奨する。・現時点では、他の集団に対する追加接種は推奨しない。 中等度から重度の免疫不全者は成人人口の約3%を占めており、ワクチン接種後の抗体価が十分でないケースが報告1)されている。小規模な研究2)では、ワクチン接種完了後に感染するブレークスルー感染における入院患者の大多数を免疫不全者が占め、免疫不全者が家庭内の接触者にウイルスを感染させる可能性が高いことが示唆されている。 免疫不全者の定義は以下のとおり。・腫瘍や血液のがんに対する積極的ながん治療を受けている。・臓器移植を受け、免疫抑制剤を服用している。・過去2年以内に造血幹細胞移植を受けた、または免疫抑制剤を服用している・中等度または重度の原発性免疫不全症(DiGeorge症候群、Wiskott-Aldrich症候群など)。・進行または未治療のHIV感染症患者・大量のコルチコステロイドまたは免疫抑制の可能性のある薬剤を服用1)Science Brief: COVID-19 Vaccines and Vaccination/CDC2)Data and clinical considerations for additional doses in immunocompromised people/CDC

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モデルナ製ワクチン、12~17歳に対する安全性と有効性を確認/NEJM

 mRNA-1273ワクチン(Moderna製)は、12~17歳の若年者において良好な安全性プロファイルと、若年成人(18~25歳)と同等の免疫反応を示し、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の予防に有効であることが認められた。米国・DM Clinical ResearchのKashif Ali氏らが、mRNA-1273ワクチンの第II/III相プラセボ対照比較試験「Teen COVE試験(Teen Coronavirus Efficacy trial)」の中間解析結果を報告した。2021年4月1日~6月11日における米国12~17歳のCOVID-19発生率は、約900/10万人とされるが、若年者におけるmRNA-1273ワクチンの安全性、免疫原性および有効性は不明であった。NEJM誌オンライン版2021年8月11日号掲載の報告。12~17歳3,732例を対象に、プラセボと比較 研究グループは、健康な12~17歳の若年者3,732例を、mRNA-1273ワクチン群(2,489例)またはプラセボ(生理食塩水)群(1,243例)に2対1の割合で無作為に割り付け、それぞれ1回100μgを28日間隔で2回接種した。 主要評価項目は、mRNA-1273の安全性ならびに、免疫反応の非劣性(18~25歳の若年成人を対象とした第III相試験との比較)。副次評価項目は、COVID-19発症予防または、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の無症候性感染に対する有効性などとした。安全性は良好、免疫原性は若年成人に対して非劣性 1回目および2回目接種後に高頻度にみられた非自発的な報告による副反応は、mRNA-1273群が注射部位痛(それぞれ93.1%、92.4%)、頭痛(44.6%、70.2%)、疲労(47.9%、67.8%)、プラセボ群が同様に注射部位痛(それぞれ34.8%、30.3%)、頭痛(38.5%、30.2%)、疲労(36.6%、28.9%)であった。mRNA-1273またはプラセボに関連した重篤な有害事象の報告はなかった。 若年成人に対する若年者のSARS-CoV-2疑似ウイルス中和抗体価の幾何平均抗体価比は、1.08(95%信頼区間[CI]:0.94~1.24)、血清反応の絶対差は0.2ポイント(95%CI:-1.8~2.4)であり、非劣性基準を満たした。 2回目接種の14日後におけるCOVID-19発症例は、mRNA-1273群では報告されなかったが、プラセボ群では4例確認された。

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AZ製ワクチンによるVITTの臨床的特徴とは?/NEJM

 ワクチン誘発性免疫性血栓性血小板減少症(VITT)による死亡率は高く、とくに血小板数が低く頭蓋内出血を起こした患者で最も高いことが、英国のVITT 220例の検証の結果、明らかとなった。英国・Oxford University Hospitals NHS Foundation TrustのSue Pavord氏らが、報告した。VITTは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の原因ウイルスSARS-CoV-2に対するChAdOx1 nCoV-19ワクチン(アストラゼネカ製)に関連した新たな症候群で、この疾患に対する臨床特性や予後に関するデータは不足していた。結果を踏まえて著者は、「治療法は不明なままであるが、予後マーカーの特定が今後の有効な管理に役立つ可能性がある」とまとめている。NEJM誌オンライン版2021年8月11日号掲載の報告。VITT(definite/probable)220例について解析 研究グループは2021年3月22日~6月6日に、英国の病院を受診したVITTの疑いのある患者を対象に、前向きコホート研究を実施した。 匿名化された電子フォームを用いてデータを収集し、事前に定義した基準に従ってdefinite/probable VITT症例を特定し、ベースラインの患者特性と臨床病理学的特徴、リスク因子、治療、および予後不良マーカーについて解析した。 評価対象となった患者は294例で、このうち研究グループによってdefinite VITTと判定された患者は170例、probable VITT患者は50例であった。ベースラインの血小板数と頭蓋内出血の存在が死亡リスク増加の独立因子 definite/probable VITTと判定された220例全例が、ChAdOx1 nCoV-19ワクチンの初回接種後に発症していた。ワクチン接種後発症までの日数は、5~48日(中央値14日)であった。年齢は18~79歳(中央値48歳)で、男女差はなく、特定可能な医学的リスク因子もなかった。 全体の死亡率は22%であった。死亡オッズは、脳静脈洞血栓症の患者で2.7倍(95%信頼区間[CI]:1.4~5.2)、ベースラインの血小板数が50%減少するごとに1.7倍(95%CI:1.3~2.3)、ベースラインのDダイマー値が1万FEU(フィブリノゲン換算量)増加するごとに1.2倍(95%CI:1.0~1.3)、ベースラインのフィブリノゲン値が50%低下するごとに1.7倍(95%CI:1.1~2.5)にそれぞれ増大することが示された。 多変量解析の結果、ベースラインの血小板数と頭蓋内出血の存在が死亡と独立して関連していることが認められた。観察された死亡率は、血小板数3万/mm3かつ頭蓋内出血を認めた患者では73%であった。 なお、著者は本研究の限界について、「症例確認バイアスが潜在的な弱点として挙げられる。VITTは新しい症候群であり、病態生理が十分に理解されていないため、真のVITTではない症例が含まれている可能性や、入院時の血小板数が基準を満たしておらず見逃されてしまった症例がほかにもある可能性も考えられる」と述べている。

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AZワクチンとRNAワクチンによるハイブリッド・ワクチンの効果と意義 (解説:山口佳寿博氏/田中希宇人氏)

対象論文【NEJM】Heterologous ChAdOx1 nCoV-19 and mRNA-1273 Vaccinationハイブリッド・ワクチンの原型-Gam-COVID-Vac(Sputnik V) priming(1回目接種)とbooster(2回目接種)に異なるワクチンを使用する方法は“異種ワクチン混在接種(heterologous prime-boost vaccine)”と呼称されるが、本論評では理解を容易にするため“ハイブリッド・ワクチン接種”と命名する。この特殊な接種に使用されるワクチンの原型は、adenovirus(Ad)-vectored vaccineとして開発されたロシアのGam-COVID-Vac(Sputnik V)である(山口. CareNet 論評-1366)。Gam-COVID-Vacでは、priming時にヒトAd5型を、booster時にはヒトAd26型をベクターとして用いS蛋白に関する遺伝子情報を生体に導入する特殊な方法が採用された。ChAdOx1(AstraZeneca)など同種のAdを用いたワクチンでは1回目のワクチン接種後にベクターであるAdに対する中和抗体が生体内で形成され、2回目ワクチン接種後にはAdに対する中和抗体価がさらに上昇する(Ramasamy MN, et al. Lancet. 2021;396:1979-1993.、Stephenson KE, et al. JAMA. 2021;325:1535-1544.)。そのため、同種Adワクチンでは2回目のワクチン接種時にS蛋白に対する遺伝子情報の生体導入効率が低下、液性/細胞性免疫に対するbooster効果の発現が抑制される。一方、1回目と2回目のワクチン接種時に異なるAdをベクターとして用いるハイブリッドAdワクチンでは2回目のワクチン接種時のS蛋白遺伝子情報の生体への導入効率は同種Adワクチンの場合ほど抑制されず、ハイブリッドAdワクチンの予防効果は同種Adワクチンよりも高いものと考えられる。実際、従来株に対する発症予防効果は、ハイブリッドAdワクチンであるGam-COVID-Vacで91.1%(Logunov DY, et al. Lancet. 2021;397:671-681.)、同種AdワクチンであるChAdOx1で51.1%(ワクチンの接種間隔:6週以内)、あるいは、81.3%(ワクチン接種間隔:12週以上)であり(Voysey M, et al. Lancet. 2021;397:881-891.)、同種Adワクチン接種に比べハイブリッドAdワクチン接種のほうがウイルスに対する予防効果が高いことが示されている。Ad-vectored ChAdOx1とRNAワクチンによるハイブリッド・ワクチン 以上のような結果を踏まえ、ChAdOx1の使用量が多い欧州諸国(ドイツ、フランス、スウェーデン、ノルウェー、デンマークなど)ではprimingのための1回目接種時にChAdOx1を用い2回目接種時にはより高いbooster効果を得るためにRNAワクチンを用いる方法が模索されている(European Centre for Disease Prevention and Control. 2021年5月18日)。本論評では、Normark氏らの論文ならびにBorobia氏らの論文を基に、ChAdOx1にmRNA-1273(Moderna)、あるいは、ChAdOx1にBNT162b2(Pfizer)を追加するハイブリッド・ワクチン接種時の液性免疫、細胞性免疫の動態について検証する。 Normark氏らは、スウェーデンで分離されたコロナ原株とbeta株(南アフリカ株、B.1.351)における中和抗体価を、ChAdOx1を2回接種する同種ワクチン接種の場合と1回目ChAdOx1(priming)、2回目mRNA-1273(booster)を接種するハイブリッド・ワクチン接種の場合について検討した。ChAdOx1の同種ワクチン接種における原株に対する中和抗体価は2回目接種後に2倍増強、しかしながら、beta株に対する中和抗体価には有意な上昇を認めなかった。一方、ハイブリッド・ワクチン接種では、原株に対する中和抗体価が20倍増強、beta株に対する中和抗体価も原株に対するほどではないものの有意に上昇した。以上の結果は、ChAdOx1の同種ワクチン接種に比べChAdOx1にmRNA-1273を追加するハイブリッド・ワクチン接種のほうが液性免疫の面からはより優れた方法であることを示唆する。delta株(インド株、B.1.617.2)に対する検討はなされていないが、beta株とdelta株の液性免疫回避作用には著明な差が存在しないので(Wall EC, et al. Lancet. 2021;397:2331-2333.)、Normark氏らの結果はdelta株にも当てはまるものと考えてよいだろう。残念なことに、Normark氏らは、ハイブリッド・ワクチン接種におけるT細胞由来の細胞性免疫の動態については解析していない。 Borobia氏らは、primingのための1回目にChAdOx1、boosterのための2回目にBNT162b2を接種するハイブリッド・ワクチンを使用し、液性免疫(RBDに対する特異的IgG抗体、S蛋白に対する特異的IgG抗体、中和抗体)、IFN-γを指標とした細胞性免疫の推移を観察した(CombiVacS Study)。対照群としてChAdOx1を1回接種した症例を設定しているためChAdOx1同種ワクチン接種とChAdOx1とBNT162b2によるハイブリッド・ワクチン接種の差を検出できない、中和抗体もいかなるウイルス株に対するものなのかが判然としない、などの問題点を有する論文であるが、ハイブリッド・ワクチン接種群ではRBD特異的IgG抗体、中和抗体、細胞性免疫の上昇が確認された。文献的にChAdOx1同種ワクチン接種の場合、1回目接種後にT細胞性反応は上昇するが2回目接種後にはさらなる上昇を認めないことが報告されている(Folegatti PM, et al. Lancet. 2020;396:467-478.)。それ故、Normark氏らの論文とBorobia氏らの論文を併せ考えると、ChAdOx1とRNAワクチンを組み合わせたハイブリッド・ワクチン接種は、ChAdOx1のみを使用した同種ワクチン接種よりも液性免疫、細胞性免疫の両面で優れているものと考えられる。 現時点では、Ad-vectored ChAdOx1とRNAワクチンを組み合わせたハイブリッド・ワクチン接種とRNAワクチンの同種2回接種による予防効果を直接比較・検討した臨床試験は存在しない。それ故、変異株を含めたコロナ感染症に対する臨床的予防効果が両者において差が存在するかどうかに関しては今後の検討課題である。ハイブリッド・ワクチンの医療経済的効果 ワクチンの2回接種に必要な費用は、RNAワクチンに比べChAdOx1では5~10倍安い。PfizerのRNAワクチンは37~39ドル、ModernaのRNAワクチンは30~74ドル、AstraZenecaのChAdOx1は6~8ドルである(So AD, et al. BMJ. 2020;371:m4750.)。すなわち、ChAdOx1を基礎としたハイブリッド・ワクチン接種は、RNAワクチン2回接種に比べワクチン確保に必要な費用を下げるという医療経済的効果を有する。コロナ感染症がいつまで続くかが見通せない現在、また、変異株抑制のために3回目のワクチン接種が必要になる可能性が指摘されている現在(Wu K, et al. medRxiv. 2021 May 6.)、ワクチン確保のために費やされる世界各国の出費はさらに膨大なものになることが予想される。それ故、医学的側面に加え医療経済的側面からも今後のワクチン行政を考えていく必要があるものと論評者らは考えている。

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