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第233回 各党の迷走ぶりをみる、衆院解散総選挙に向けた公約とは

さてさて、自民党総裁選が終わり、石破 茂氏が総裁に就任。そのまま首相になった途端、衆院解散総選挙となった。となれば、人気のないテーマとわかりつつも、毎度お馴染み各党の政策とそれに対する独断と偏見に基づく所感を書かないわけにはいかない。いやはや短期間でこれほど政治のことに触れなければならなくなるなど、まったく思っていなかった。毎度のごとく現在衆院に議席を有する国政政党に限定して取り上げていきたい。もっとも議席順や五十音順だとなかなかにバランスを欠く配置となるため、勝手ながら今回は各政党の議席順の奇数順位と偶数順位に分けたい。まずは奇数順である。自民党(1位:258議席)首相就任以来、言動がブレブレと言われる石破 茂氏。今回の選挙で自民党は「2024年政権公約」を公表した。これがどのようなものか、以前取り上げた石破氏の総裁選での公約との比較も交えて取り上げてみたい。総裁選時の石破氏の政策は「5つの『守る』」だったが、同じ「守る」を使いながら今回の自民党としての公約は6つに増えている。社会保障、医療・介護関連は、まず2番目の「暮らしを守る」に登場する。ここで社会保障の項目に記述してある内容(文意は変えずに一部改変)は年金を除くと以下の2点である。全ての世代が安心でき、能力に応じて支える、持続可能な全世代型社会保障の構築予防・健康づくりを強化し健康活躍社会を創る。女性の健康支援の総合対策、がん、循環器病、難病、移植医療、依存症等への対策を推進。食品の安全を確保し、公衆衛生の向上を図る観点からも生活衛生業を振興。感染症危機管理体制を整備。一番目は総裁選時の「従来の家族モデルを前提とした社会保障の在り方を脱却し、多様な人生の在り方、多様な人生の選択肢を実現できる柔軟な制度設計を行います」がやや言葉が丸くなった感じである。この辺は選択的夫婦別姓に関して従来は「選択なのだから反対する理由がない」から、首相就任後に「国民の間にさまざまな意見があり、政府としては、国民各層の意見や国会における議論の動向などを踏まえ、更なる検討をする必要がある」と発言が後退したことと関連があるかもしれない。いわゆる夫婦同姓に代表されるような「従来の家族モデル」に固執する党内保守派に配慮してフワッとおさめる戦略と見受けられる。2番目については総裁選時に掲げていた政策をより深化させた印象である。というのも総裁選時に「がん、循環器病、難病、移植医療、依存症等への対策を推進」に関連する文言はまったくなかったからである。また、同じ「暮らしを守る」内では、成長戦略の項目で「2025年大阪・関西万博を、AI、ロボット、ヘルスケア等の新技術の社会実装を先行体験する『未来社会のショーケース』として活用し、イノベーションの力で変革し続ける日本を発信する絶好の機会とします」と言及したほか、経済安全保障の項目で「半導体、医薬品、電池、重要鉱物等の重要技術・物資のサプライチェーンの強靱化」など、ややナショナリスティックなヘルスケア関連経済政策も掲げている。この辺は総裁選で争った高市 早苗氏や小林 鷹之氏らの政策にやや似通っている。経済に弱いと言われる石破氏の“汚名”返上とやはり党内保守派への配慮の産物だろうか?もっとも社会保障、医療・介護関連以外も眺めまわしてみたが、石破氏の総裁選時の公約と比べ、今回の党としての公約はかなり微に入り細を穿つ内容で、良く書き込まれている印象が強い。これほど短期間でどうしたのだろう? 順当に考えれば、側近がかなり練り込んだのだろうが、それが誰なのか気になってしまう。日本維新の会(3位:44議席)大阪・関西の地域政党から全国政党へと進化しようとしている日本維新の会。前回の2021年衆院選では公示前より4倍弱の議席を積み増したが、昨今では大阪・関西万博に対する支出増大などを背景に、以前より支持を落としているとも伝わる。同党のマニフェストでは、「将来世代への徹底投資で、新しい時代の政治を創る」をキャッチフレーズにしている。ここからは若年保守層への支持浸透を狙っていることが改めてうかがえる。今回、4大改革の1つとして掲げているのが「世代間不公平を打破する社会保障の抜本」だ。これ自体は以前から同党の姿勢として変わらず、「現役世代に不利な制度を徹底的に見直し。高齢者医療制度の適正化による現役世代の社会保険料負担軽減」として、低所得者等へのセーフティネットは確保しながら、高齢者医療費の原則3割負担を主張している。もっともこれまた現役世代への配慮のためか、「こども医療費の無償化」も掲げてしまうところが微妙な感じではある。これは従来から学術関係者からは指摘されている通り、無償化はモラルハザードと表裏一体の関係である。これは同党に限らず思うことだが、小児の医療費無償化を行うぐらいなら、それはせずに児童手当の支給額を積み増したほうが消費にも繋がり遥かにマシだと思うのだが。日本共産党(5位:10議席)日本の政党としてはすでに100年以上、同一政党名で活動し、旧西側諸国の共産党の中では党員数最大である。今回の衆院選では以下のような政策を掲げている。介護保険の国庫負担割合を現行の25%から35%に引き上げ、国費投入を1.3兆円増やし、ホームヘルパー、ケアマネジャーなど介護職の賃金を、「全産業平均」並みに施設職員の長時間・過密労働や「ワンオペ夜勤」の解消に向け、配置基準の見直しや報酬加算・公的補助などを実施介護事業所の人件費を圧迫している人材紹介業者への手数料に「上限」を設定今春の介護報酬改定で引き下げられた訪問介護の基本報酬を早急に元の水準に戻す介護事業が消失の危機にある自治体に対し、国費で財政支援を行う仕組みを緊急につくり、事業所・施設の経営を公費で支援70歳以上の医療費窓口負担を一律1割に引き下げ、負担の軽減・無料化を推進介護保険での軽度者の在宅サービスの保険給付外しや利用料の2割負担・3割負担の対象拡大などを止め、保険給付の拡充、保険料・利用料の減免を図る公費1兆円を投入し、国民健康保険料の抜本的に引き下げ後期高齢者医療制度を廃止病床削減や病院統廃合の中止と医師・看護師を増員で地域医療の体制を拡充マイナ保険証の強制をやめ、健康保険証を存続ざっと見まわせば、「いつもの共産党ポピュリズム」というイメージを抱く有権者が多いと思う。もっともこれまで毎回の国政選挙で各党の政策を見てきた身からすると、若干変化がある。たとえば1番目に挙げた予算について、投入金額など定量的な数字が散りばめられるようになった点である。もっとも公費負担割合の引き上げ率を定めれば、投入予算規模は計算できるので、むしろこれまで数字を積極的に記載してこなかったことが不思議と言ってしまえば、それまでではあるが…。そして毎度お馴染みが医療費や介護サービス利用料の引き上げ反対。しかし、現行や将来の財政負担を考えれば、この場合、その分の財源は若年勤労層への負担転嫁か蜃気楼のようにつかみどころがない将来の経済成長に財源を期待するしかなくなり、不透明感が増す。そもそも同党の場合、歴史の古い政党ゆえのイデオロギー縛りのためか、経済政策が相も変わらず、労働運動と所得再分配の目線が強過ぎる傾向にあり、経済振興策になっていない。余計なお世話を覚悟で言えば、そろそろこの現状から脱して経済政策と連動する財源論を唱えてほしいと思う。病床削減や病院統廃合の中止は、よくよく今後の医療需要の変動を考えれば、少なくとも単なる現状維持は、国民に均てん化した質の低い医療・介護を受けろというようなものだ。一方、比較的、現実味のある政策としては、介護事業所が支払う人材紹介業者への手数料の上限設定である。すでにこの件は社会保障審議会の介護給付費分科会でも議論されていることであり、介護事業所の経営改善の一助にはなる政策である。マイナ保険証の件については、同じ政策を掲げている後段のれいわ新撰組の政策で触れる。れいわ新撰組(7位:3議席)ご存じ山本 太郎氏が党首のリベラル系政党である。古い世代の私はどうしてもバラエティ番組「天才・たけしの元気が出るテレビ!!」の「高校生制服対抗ダンス甲子園」にスイミング・パンツ一丁で、全身にサラダ油を塗ってテカテカしたままおどけていたイメージが抜けない。今回の選挙マニフェストでは「世界に絶望している?だったら変えよう。れいわと一緒に。」のキャッチフレーズを掲げ、政策として01~06までの6つの大項目を掲げている。「01増税?ダメ 絶対!」では「社会保険料を下げる!年金は底上げ!」を掲げ、「国民健康保険料や介護保険料などの社会保険料を国庫負担で引き下げる」「後期高齢者医療制度は持続不可能なので、現役世代の負担と保険料をすべて国の負担とする」を謳っている。「03親ガチャ?国がやる!『子育ては自己責任』終了のお知らせ」では、子供医療費の完全無償化、「04 失われた30年を取り戻す!賃金爆上げ大作戦」では介護・保育の月給10万円アップ、民間事業者が少ない地域では、介護士を公務員化し「公務員ヘルパー」の復活を掲げている。さて、問題はこれらについては財源をどうするのか? に尽きる。従来から山本氏は3~5%までのインフレ水準までは国債を発行してもよいという考えを主張している。同時に同党が累進課税の強化や法人税引き上げを担保に消費税全廃を掲げていることも有名である。とはいえ、国によるインフレ率コントロールは、これまでの歴史から容易ではないことは明らかで、かつ日本の所得税収が中所得以下からの薄く広い徴収に依存している現実を見れば、れいわの財源論はかなり空想と言わざるを得ない。前述の中で「公務員ヘルパー」が何のことかわからない人もいるかもしれないが、介護保険制度創設以前の居宅訪問サービスがそうだったことに由来しているのだろう。これについては一考の余地はある。というのも居宅介護を拒否する人の中には公務員ならば受け入れるというケースもあるからだ。もっともこの場合は公務員と民間企業とで起こるであろう賃金格差をどのようにならすかの問題が生じる。一方、「05 あらゆる不条理に立ち向かう」では、「マイナンバーカードはいらない! 保険証・免許証はこれまでどおり」と主張している。これは個人監視や社会保障の削減につながる懸念があるためとしているが、社会保障の適切な提供のためにはデータ分析が必要であり、そのための基盤になる可能性のあるものは現時点でマイナンバーカードを軸に収集されるデータ以外にない。概観すると、日本共産党と共通する政策が多く、共産党よりもポピュリズム過ぎないか? という印象しかない。参政党(9位:1議席)2020年に結党され、「日本の国益を守り、世界に大調和を生む」との理念を掲げる保守政党である。2022年の参院選では約177万票を集め、元大阪府吹田市議の神谷 宗幣氏が議席を獲得した。これまで衆院に議席はなかったが、2021年の衆院選で国民民主党から出馬し、比例復活(神奈川10区[現18区])で当選した鈴木 敦氏は、旧民主党政権で国交相、外相などを務めた前原 誠司氏らが2023年に結党した「教育無償化を実現する会」に参加(のちに本人は国民民主党に離党届を提出するも党側から除籍される)。今回の衆院解散で同会が日本維新の会に合流を決めた中、選挙区の関係などで鈴木氏はこれに加わらず参政党に入党したため、同党は公示前1議席となった。さて同党は今回、「日本をなめるな」のスローガンの下、「3つの決意と7つの行動」を謳っている。「決意1 奪われる日本の国土と富を護り抜く」では、「消費税減税と社会保障の最適化により国民負担率に35%上限のキャップをはめる」と主張しているが、どのような社会保障最適化を行うかは、同党の衆院選特設ページを見る限りは不明である。また、「決意2 失われる日本の食と健康を護り抜く」では、「行動4 ワクチン薬害問題を党をあげて追究し、被害救済申請の負担軽減と審査の迅速化」を掲げる。同党HPでは令和6年9月時点で新型コロナウイルス感染症ワクチンによる予防接種健康被害救済制度認定件数が8,180件(うち死亡843人)で、これがコロナワクチン以外の過去すべての同制度認定総数3,687件を大幅に超えるペースとして、危険性を強調している。もっともこの数字を解釈なしで見ることが危険である。まず過去のワクチン接種による健康被害認定は、今ほど医療従事者の安全性認識が鋭敏ではなかった時代も含むことや、かつては事後の有害事象の追跡が十分にできない1回接種だったものもあったことから過少報告の可能性が十分にある。さらに制度の救済認定では、厳密な医学的な因果関係までは必要とせず、接種後の症状が予防接種で起きたことを否定できない場合も対象としており、新型コロナワクチンの被害救済認定=因果関係の認定ではない。仮に前述の8,000件超すべてに因果関係が認められたとしても、このワクチンの国内接種者は1億人超であり、認定対象となった副反応出現率は0.008%に留まる。一方で統計的な検討からこのワクチンにより数多くの死亡を防げたとする学術論文は多数ある。このようなことから新型コロナワクチンは社会全体で見れば明らかにメリットのほうが大きいと言える。これらのことから同党の主張は過剰にワクチンの危険性を強調していると言わざるを得ない。また、同党HPではレプリコンワクチンに対しても懸念を示しているが、これについては以前、本連載で触れたとおりだ。さらにこの行動4に関連し、以下のような政策を箇条書きしている。薬やワクチンに依存しない治療・予防体制強化で国民の自己免疫力を高める新型コロナワクチンの接種推進策の見直しを求める対症医療から予防医療に転換し、無駄な医療費の削減と健康寿命の延伸を実現「自己免疫力」という言葉もさることながら、それを国家として推進するのは半ば意味不明である。さらに予防を政策的に行う場合、実はそれなりにコストがかかるので、それで単純に将来的な医療費削減につながるとは言い難いのが現実。いずれにせよ同党関係者や支持者には申し訳ないが、かなり現実離れした政策が多い。さて、次回は残る立憲民主党、公明党、国民民主党、社民党についてご紹介したいと思う。

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ウイルスを寄せ付けない鼻スプレーを開発

 薬剤を含まない鼻スプレーが、理論的には、マスク着用よりもインフルエンザウイルスや新型コロナウイルスなどの呼吸器系病原体の拡散を防ぐのに効果的である可能性を示唆する研究が報告された。このスプレーに含まれている医学的に不活性な成分が、人に感染する前に鼻の中の病原体を捕らえるのだという。米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院麻酔科のNitin Joshi氏らによるこの研究結果は、「Advanced Materials」に9月24日掲載された。 論文の責任著者の一人である、ブリガム・アンド・ウイメンズ病院のJeffrey Karp氏は、「新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、呼吸器系病原体が非常に短期間で、人類に極めて大きな影響を与えることをわれわれに示した。その脅威は、今も続いている」と話す。 ほとんどの病原体は、鼻から人体に入り込む。インフルエンザウイルスや新型コロナウイルス感染者が吐き出す病原体を含んだ小さな飛沫を健康な人が吸い込むと、病原体が鼻腔内に付着して細胞に感染するのだ。こうした病原体に対する対抗手段の一つはワクチン接種だが、完璧ではなく、接種した人でも感染して病原体を伝播させ得る。また、マスク着用も有効な手段ではあるが、やはり完璧ではない。 今回、研究グループが開発した鼻スプレーは、Pathogen Capture and Neutralizing Spray(PCANS、病原体補足・中和スプレー)と名付けられたもの。スプレーに使用されている成分は、米食品医薬品局(FDA)の不活性成分データベース(IID)に登録されている、承認済みの点鼻薬用の化合物か、FDAによりGRAS(食品添加物に対してFDAが与える安全基準合格証)確認物質に分類されている化合物(ゲランガム、ペクチン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース〔HPMC〕、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩〔CMC〕、カーボポール、キサンタンガム)であるという。Joshi氏は、「われわれは、これらの化合物を使って、3つの方法で病原体をブロックする、有効成分に薬剤を含まない製剤を開発した。PCANSは、呼吸器からの飛沫を捕らえて病原体を固定し、効果的に中和して感染を防ぐゲル状のマトリックスを形成する」と語る。 研究グループは、3Dプリントされた人間の鼻のレプリカを用いた実験を行い、このスプレーの効果をテストした。その結果、このスプレーにより、鼻腔内粘液と比べて2倍の量の飛沫を捕らえることができることが示された。論文の筆頭著者で同大学麻酔科のJohn Joseph氏は、「PCANSは鼻腔内で粘液と混ざることでゲル化し、機械的強度を100倍まで高めて強固なバリアを形成する。インフルエンザウイルス、新型コロナウイルス、RSウイルス、アデノウイルス、肺炎桿菌など、われわれがテストした全ての病原体の100%近くをブロックし、中和した」と成果について語っている。 また、マウスを使った実験では、このスプレーを1回投与するだけで、致死量の25倍のインフルエンザウイルスの感染を効果的に阻止できることも示された。ウイルスがマウスの肺に侵入することはなく、炎症などの免疫反応も認められなかったという。 論文の共著者である、ブリガム・アンド・ウイメンズ病院のYohannes Tesfaigzi氏は、「マウスモデルを用いた厳密に計画された研究で、PCANSによる予防的治療は非常に優れた有効性を示し、治療を受けたマウスは完全に保護されたが、未治療のマウスではそのような効果は認められなかった」と述べている。 研究グループは、「今後は、人間を対象にした臨床試験でこのスプレーの効果をテストする必要がある」との考えを示している。また、このスプレーによりアレルゲンを効果的にブロックできるのかどうかについても調査中であるという。

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第118回 Meiji Seika ファルマがワクチンデマに法的措置

Meiji Seika ファルマがX公式アカウントを開設10月から新型コロナワクチンの定期接種が始まっていますが、次世代mRNAワクチン(レプリコン)であるコスタイベを販売しているのがMeiji Seika ファルマです。本連載の第115回で、「製薬会社に対するこのような誹謗中傷は許されていいのか」と発言しましたが、その直後にMeiji Seika ファルマはデマを発信する団体などに法的措置を講じるというニュースが流れました。「言わんこっちゃない」と思いました。報道にあるとおり、日本看護倫理学会などに対して科学的根拠がない悪質なものであるというコメントを出し、誹謗中傷に当たるものや、コスタイベに関する不適切な情報流布に対しては訴訟も辞さない構えです。10月11日、突如としてXに「Meiji Seika ファルマ株式会社」(@Meiji_Seika_p)の公式アカウントが登場。「科学的根拠のない主張やデマの投稿が相次いでいる」との声明とともに、積極的な情報発信の意向を表明しました。これを執筆している時点で、Meiji Seika ファルマの公式アカウントはすでに1万フォロワーを超えており、ワクチンデマに関して懸念する人が多いことの表れといえます。Meiji Seika ファルマ:X(旧Twitter)上での公式アカウント開設に関するお知らせ(2024年10月11日)もちろん、ワクチン以外の情報発信も期待しております。法的措置日本看護倫理学会だけでなく、「mRNAワクチン中止を求める国民連合」という団体に対しても法的措置が講じられる予定です。コロナ禍で、医療従事者への誹謗中傷が訴訟沙汰になるのは、もはや珍しくもない日常茶飯事です。しかし、最も厄介なのは、誹謗中傷の当事者たちが「正義の味方」を気取っていることです。ワクチンに反対する自由は尊重されるべきですが、他者への強制や医療従事者への中傷は論外。これは紛れもなく越えてはならない一線です。また、「殺人ワクチン」「政府による薬害の大量発生」など、過激な主張を展開すれば、製薬会社からの訴訟リスクという重荷を背負うことになりかねません。SNSの投稿は、消しても魚拓という形で後世に残る。これは肝に銘じておくべきでしょう。時間とお金を浪費し、自らの首を絞めるようなものです。誹謗中傷は、果たして自分の人生を賭けるに値するのでしょうか。どんな組織でも、偏った考えの持ち主が上層部にいれば、一触即発の状況に陥りやすい。とくに薬剤が絡むと、火種は一気に燃え広がります。アカデミアの世界にいらっしゃる方々、くれぐれも油断大敵です。

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世界で年間約700万人が脳卒中により死亡、その数は増加傾向に

 気候変動と食生活の悪化によって、世界の脳卒中の発症率と死亡率が劇的に上昇していることが、オークランド工科大学(ニュージーランド)のValery Feigin氏らのグループによる研究で示された。2021年には世界で約1200万人が脳卒中を発症し、1990年から約70%増加していたことが明らかになったという。詳細は、「The Lancet Neurology」10月号に掲載された。 本研究によると、2021年には、脳卒中の既往歴がある人の数は9380万人、脳卒中の新規発症者数は1190万人、脳卒中による死者数は730万人であり、世界の死因としては、心筋梗塞、新型コロナウイルス感染症に次いで第3位であったという。 専門家は、脳卒中のほとんどは予防可能だとの見方を示す。論文の共著者の1人である米ワシントン大学の保健指標評価研究所(IHME)のCatherine Johnson氏は、「脳卒中の84%は23の修正可能なリスク因子に関連しており、次世代の脳卒中リスクの状況を変える大きなチャンスはある」と述べている。脳卒中のリスク因子は、大気汚染(気候変動によって悪化)、過体重、高血圧、喫煙、運動不足などであり、研究グループは、これらのリスク因子は全て、低減またはコントロール可能であると指摘している。 脳卒中に関連する死亡者数は何百万人にも上る一方で、脳卒中を起こした後に重度の障害が残る患者も少なくない。今回の研究からは、脳卒中によって失われた健康寿命の年数(障害調整生存年;DALY)は、1990年から2021年にかけて32.2%増加していたことも明らかになった。 では、なぜ脳卒中がここまで増加したのだろうか。研究グループの分析によると、多くの脳卒中のリスク因子に人々がさらされる頻度が上昇し続けていることが原因である可能性があるという。本研究では、1990年から2021年までの間に、高BMI、気温の上昇、加糖飲料の摂取、運動不足、収縮期血圧高値、ω-6多価不飽和脂肪酸が少ない食事に関連してDALYが大幅に増加したことが示された(増加の幅は同順で、88.2%、72.4%、23.4%、11.3%。6.7%、5.3%)。 Johnson氏らは、気温の上昇は、もう1つの脳卒中のリスク因子である大気汚染の悪化を意味していると説明する。同氏らは、「暑くてスモッグの多い日が脳卒中リスクに与える影響を最も強く受けるのは貧しい国である可能性が高く、その影響は気候変動によってさらに悪化し得る」と指摘する。実際、出血性脳卒中のリスクに関しては、現在、汚染された空気を吸い込むことは、喫煙と同程度のリスクをもたらすと考えられているという。脳卒中全体に占める出血性脳卒中の割合は約15%で、虚血性脳卒中(脳梗塞)と比べると大幅に低いにもかかわらず、世界のあらゆる脳卒中に関連した死亡や障害の5割が出血性脳卒中に起因するという。 「脳卒中に関連した健康被害は、アジアやサハラ以南のアフリカ(サブサハラ・アフリカ)で特に大きい。こうした状況は、管理されていないリスク因子、特にコントロール不良の高血圧や、若年成人における肥満や2型糖尿病の増加といった負担の増大と、これらの地域における脳卒中の予防およびケアサービスの不足によって生まれている」とJohnson氏は指摘する。 しかし、こうした状況を変えることは可能であるとJohnson氏は主張する。例えば、大気汚染は気温上昇に密接に関連するため、「緊急の気候変動対策と大気汚染を減らす取り組みの重要性は極めて高い」と言う。さらに同氏は、「高血糖や加糖飲料の多い食事などのリスク因子にさらされる機会が増えているため、肥満やメタボリックシンドロームに照準を合わせた介入が急務である」と述べている。

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第213回 医療機関に迫る変化と課題、コロナ後の医療構造再編

経営悪化の先にあるもの2024年も残り3ヵ月となり、今春(令和6年度)の診療報酬改定の影響がみえてきました。多くの入院医療機関では、病床稼働率の低下に苦慮しているところが増えているのではないでしょうか?当院でも、近隣の病院でも同様の悩みがあり、コロナ前には一時的な病床稼働率の低下が、冬場に回復する傾向がみられましたが、現在は深刻な影響が続いています。従来の「医師不足」や「看護師不足」による医療崩壊とは異なるものが、新しい形で医療機関に迫っているようです。患者不足の原因まず、医療機関側に原因があると考えられます。今春の診療報酬改定により、急性期一般病床1(旧7:1病床)の平均在院日数が18日以内から16日以内に短縮されました。さらに、医療・看護必要度の見直しも影響しています。急性期病床における「重症度、医療・看護必要度」の評価が変更され、B項目が算定から外れたことや、A項目の「救急搬送後の入院」が、従来の5日から2日に短縮されたことで、急性期病床が絞り込まれました。これにより、軽症患者の早期退院や転院が求められ、結果として入院患者数が減少しています。患者側の原因としては、受療動向の変化が挙げられます。軽度の発熱や呼吸困難で来院した高齢患者は、以前であれば「精査目的」で入院することが一般的でした。しかし、コロナ禍を経て、多くの高齢者は「病院は快適な場所ではなく、長く滞在したい場所ではない」と感じるようになりました。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、面会制限や認知症の進行、ADLの低下を経験したことから、病院での不必要な入院を避ける傾向が強まっています。その結果、軽症の肺炎や心不全であっても、入院を希望せず、外来通院での治療を選ぶ患者が増加しています。また、訪問診療の急速な普及も要因の1つです。現在、わが国で訪問診療を受けている患者さんは100万人を超えています(在宅患者が100万人を突破、診療報酬も月1,000億円に[日経メディカル])。とくに重症の末期がん患者などが、在宅での療養を選ぶケースが増えています。地域によっては、人工呼吸器管理が必要な患者でも、訪問診療やサービス付き高齢者住宅では看取り対応が可能となっています。これまで、末期がん患者は症状が悪化すれば入院していましたが、現在は訪問診療や介護サービスを活用して在宅療養を続けるケースが多くなり、入院患者はより治療に特化した重症患者に限られている傾向があります。訪問診療や訪問看護の認知度向上により、急性期医療機関の役割が変わり、外来受診や訪問診療で療養を続ける患者が増加しています。このため、急性期医療機関への入院は難度の高い手術や高額な治療材料を用いたケースに限られるようになり、ADLの低下や嚥下困難など治癒が難しい症例は積極的に院外に移す傾向が強まっています。コロナ禍によって定期受診の間隔が広がったこと、後期高齢者の増加に伴い、大病院への通院や入院患者数の減少傾向が顕著です。2025年の地域医療構想に向けて政府は病床削減に取り組んでいたのが(病床数を最大20万削減 25年政府目標、30万人を自宅に[日経新聞])功を奏したとも言えますが、医療の構造変化のスピードがCOVID-19で早まったため、2025年までに実現を目指していた「地域医療構想」の必要病床数以上に医療ニーズが減少してしまい、大部分の医療機関で患者不足に見舞われたというのが真実の姿ではないでしょうか。今後の展望政府は、後期高齢者の増加と労働人口の減少に向けて、2040年を見据えた「新たな地域医療構想等に関する検討会」を立ち上げ、対策を検討しています。とくに75歳以上の高齢者に対する医療・介護の提供体制が今後の課題です。85歳以上の高齢者に対しては、積極的な手術や高度な医療を控える傾向がみられます。心臓手術の件数も減少し、代わりに低侵襲手術が増加しています。今後も内視鏡やロボット手術などの技術革新により、外来手術が増加し、入院期間が短縮されるものと予想されます。全国に整備されたICUやHCU病床も、コロナ禍以降の稼働率低下が問題となっていますが、今後は外来手術センターの設立や回復期への早期転院によって、必要な病床数がさらに減少し、病床再編が求められるでしょう。中小規模の病院では、従来の急性期医療にこだわらず、地域包括医療病棟などへの転換が進むと考えられます。また、政府が進める医療と介護の連携強化が重要となり、病院間の情報共有をデジタル化することで業務効率化が求められます。一般の開業医にとっても、今後、高齢者の歩行能力が低下してしまうと在宅での生活や通院が困難となり、さらに人口の高齢化が進んでいる場合、外来患者数の減少が進むため、新しい患者の獲得のためには、訪問診療の提供や施設などとの連携が必要になると思われます。参考1)在宅患者が100万人を突破、診療報酬も月1,000億円に(日経メディカル)2)自宅でのみとり急増 緊急事態宣言境に、終末期医療も 受診控え、面会制限影響か・慈恵医大など(時事通信)3)増える「老衰」「在宅みとり」人生の最期どう迎えるか(NHK)4)病床数を最大20万削減 25年政府目標、30万人を自宅に(日経新聞)5)新たな地域医療構想等に関する検討会(厚労省)

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セラピー犬は医療従事者の気分を改善する

 セラピー犬は、病院の患者の気分を明るくするのと同じように、医療従事者の気分を高めるのにも役立つことが、新たな研究で明らかになった。この研究では、セラピー犬セッションにより、米国中西部の外科病棟と集中治療室で働く少数の医療従事者の気分の改善したことが確認されたという。詳細は、「International Journal of Complementary & Alternative Medicine」に7月26日掲載された。 論文の筆頭著者である、米オハイオ州立大学統合健康センターのBeth Steinberg氏は、「病院のスタッフが、われわれが連れて行った犬と一緒に座り、その日の出来事を話しながら涙を流すのを何度も目撃した」と振り返る。同氏はさらに、「たいていの人は、傍に座ってじっと話を聞いてくれる、偏見のない、毛むくじゃらのやさしい動物に親しみを感じるものだ。犬は、あなたの容貌やその日の気分など気にしない。ただ、あなたが自分を必要としていることを感じ取り、寄り添ってくれるのだ」と述べている。 Steinberg氏は、オハイオ州立大学ウェクスナー医療センターのスタッフの精神的・情緒的健康の改善を目的に考案されたセラピー犬プログラム「Buckeye Paws」の共同創設者だ。Buckeye Pawsは、パンデミックが過重労働の医療従事者に打撃を与え始める直前の2020年3月に設立された。 このプログラムが実際に効果を上げているのかどうかを調べるため、研究グループは64人の医療従事者を対象にセラピー犬セッションを実施した。参加者には、医師、看護師、ナースプラクティショナー、呼吸療法士、リハビリテーション療法士、患者ケア担当者、病棟事務員が含まれていた。 Steinberg氏は、「この研究への参加者は信じられないほど簡単に集まった。『セラピー犬との交流の効果を調べる研究を実施する』と言うと、すぐに多くの人が『参加します』と答えたからだ」と振り返る。同氏は、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が病院に大きな打撃を与える以前でさえ、スタッフはすでにストレスやバーンアウト(燃え尽き症候群)、仕事への意欲の欠如に悩まされていた」と話す。 ほとんどが病院のスタッフのボランティアで構成されたBuckeye Pawsのハンドラーは、2021年10月から2022年3月までの間に、8週間にわたり週3回、認定セラピー犬7頭を連れてきて、試験参加者と交流させた。参加者は、犬と好きなだけ交流できたが、犬との交流の前後に、ストレス、バーンアウト、ワークエンゲージメントを測定する評価尺度に回答するとともに、気分について自己申告することが求められた。介入の効果はセッション待機者を対照群として検討された。 医療従事者とセラピー犬とのやり取りのほとんどは、臨床ワークステーションやチームルーム、休憩室でのほんの数分間程度のものだったが、結果として、短時間のセッションでも医療従事者に大きな影響を与えることが示された。ストレス、バーンアウト、ワークエンゲージメントについては介入による有意な改善は認められなかったものの、セラピー犬とのセッションを受けた人では、対照群と比べて自己報告による気分が有意に向上していた。 研究グループは、「われわれの研究結果は、入院患者の治療を行う慌ただしい臨床の現場で、動物を用いた介入が医療従事者の気分の改善を通じて即時のベネフィットをもたらす可能性があることを示唆している」と述べている。 Buckeye Pawsは2022年3月に拡大し、現在はオハイオ州立大学の学生と教職員に、セラピー犬による支援を提供している。研究グループによると、現在、このプログラムには29チームの犬ハンドラーチームが参加しており、さらに11チームがトレーニング中、8チームがそのプロセスを開始しているという。

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第212回 新型コロナウイルスワクチンの定期接種開始、新たにレプリコンワクチン導入/厚労省

<先週の動き>1.新型コロナウイルスワクチンの定期接種開始、新たにレプリコンワクチン導入/厚労省2.先発薬の自己負担増加、薬局でジェネリック薬不足が懸念/厚労省3.医師の偏在が深刻化、是正策を巡る議論が白熱/厚労省4.石破首相、厚労相に福岡氏を起用、社会保障制度の見直しに着手/内閣府5.法医学教室の解剖医不足が深刻化、定年退職で人材不足に拍車/日本法医学会6.千葉県の救急病院、不正請求発覚で保険医療機関指定取り消し/関東厚生局1.新型コロナウイルスワクチンの定期接種開始、新たにレプリコンワクチン導入/厚労省10月1日、65歳以上の高齢者や基礎疾患のある60~64歳の人を対象として新型コロナウイルスワクチンの定期接種が開始された。今回の接種では、新たに接種できるワクチンとして「レプリコンワクチン」が追加されており、このワクチンはmRNAが細胞内で自己複製する特徴を持つ。従来のmRNAワクチンと比較して少ない接種量で高い抗体価を得られる可能性があるが、発症や重症化に対する効果については、まだ不明と指摘もされている。臨床試験では、発症予防効果が約57%、重症化予防効果は95%と確認されている。レプリコンワクチンは、世界で初めて日本で実用化されたもので、国内外での承認が進められている。一方で、従来のワクチン同様、副反応として接種部位の痛みや発熱などが報告されており、安全性は過去のmRNAワクチンと大きな違いはないとされている。接種費用は、国が1回当たり約8,300円を補助するが、無料から7,200円の自己負担まで、自治体によって自己負担額が異なり、負担額に幅がある。また、健康被害が発生した場合の救済制度も一部変更され、軽度の症状での支給はなくなり、入院が必要な場合に限って補助が行われることになった。使用されるワクチンは5種類で、今回の定期接種では主にオミクロン株「JN.1」に対応したものが提供されるが、流行している「KP.3」に対しても一定の効果が期待される。参考1)新型コロナ、初の定期接種開始 高齢者ら対象、自己負担あり(共同通信)2)無料~7,200円 新型コロナ予防接種の自己負担 自治体ごとに開き(朝日新聞)3)新型コロナワクチン定期接種 5種類のうちレプリコンワクチンとは 効果や副反応 専門家の見方は(NHK)4)レプリコンワクチン、コロナ接種で世界初実用化 有効性や安全性は?(毎日新聞)2.先発薬の自己負担増加、薬局でジェネリック薬不足が懸念/厚労省2024年10月から、医療制度が改定され、ジェネリック医薬品の使用を促進するため、先発医薬品を希望する場合に患者の自己負担額が増加する制度が導入された。具体的には、先発薬とジェネリック薬の価格差の4分の1が患者の自己負担となり、患者が先発薬を選んだ場合、これまでより高額の費用を負担する必要が生じる。この制度の目的は、医療費抑制を図ることにあり、国はジェネリック薬の普及率をさらに高めることを目指している。たとえば、先発薬が1錠100円、ジェネリック薬が60円の場合、その差額40円の4分の1に当たる10円に消費税が加算され、患者の負担が増えることになる。この新制度は、あくまで医療上の必要性がなく、患者が先発薬を希望する場合に適用され、医師が先発薬を処方する必要があると判断した場合や、ジェネリック薬の在庫がない場合は例外となる。全国的にジェネリック薬の不足が続いており、薬局はこの制度導入によって需要が集中し、さらに供給不足が深刻化することを懸念している。とくに冬季の感染症流行時には、ジェネリック薬に対する需要がさらに高まると予想され、薬局では在庫管理が難しくなる可能性があると指摘されている。患者の間では、ジェネリック薬を選ぶ人が増えると見込まれる一方で、とくに子供に対しては先発薬を希望する家庭も一定数存在し、自己負担が増えても先発薬を選ぶ傾向がある。また、世帯収入が高い世帯ほど先発薬を選択する割合が増えるという調査結果も報告されている。さらに、厚生労働省は「在宅自己注射の薬剤も対象」になることを示しているが、外来や往診・訪問診療での「注射薬」は対象外となることを疑義解釈で通知を発出している。今回の改定は、医療費削減に向けた大きな一歩となるが、患者や医療現場に与える影響も少なくなく、今後の運用が注目される。参考1)後発医薬品のある先発医薬品(長期収載品)の選定療養について(厚労省)2)「長期収載品の選定療養」導入 Q&A(同)3)長期収載品の処方等又は調剤の取扱いに関する疑義解釈資料の送付について[その3](同)4)先発医薬品処方の自己負担額10月から引き上げ(NHK)5)先発薬の一部“値上げ” 自己負担 来月から新制度 厚労省、医療費削減へジェネリック促進(東京新聞)6)長期収載品の選定療養、在宅自己注射の薬剤は対象になるが、「外来や往診・訪問診療での注射薬」は対象外-厚労省(Gem Med)3.医師の偏在が深刻化、是正策を巡る議論が白熱/厚労省9月30日に厚生労働省は、「新たな地域医療構想等に関する検討会」を開催し、医師偏在是正に向けた総合的な対策パッケージの取組の方向性を示した。議題となった「医師の偏在」は過去10年で、人口規模が小さい二次医療圏においては診療所数が減少傾向にある一方、50万人以上の二次医療圏では、2012~2022年にかけて診療所数が増加傾向するなど深刻化しており、とくに地方や特定の診療科での医師不足が問題となっている。厚労省は医師偏在の是正に向けた対策として、都市部での新規開業を許可制にし、開業数の上限を設ける案を提示した。しかし、職業選択の自由や営業の自由との兼ね合いから慎重な意見も多く、議論は続いている。厚労省の対策パッケージでは、医師の不足する地域での勤務経験を医療機関の管理者要件とすることや、経済的インセンティブを通じて医師を誘導する方策が検討されている。また、医師が多数存在する地域での新規開業希望者に対しては、地域で不足している医療機能をカバーすることを求める仕組みの強化が提案された。しかし、日本医師会などからは、規制が過度に強化されると医師の志望者が減少する可能性があるとの反対意見が出るなど結論は出なかった。このほか、経済的なインセンティブによる誘導策として、医師不足地域への医師派遣の強化や、診療報酬の見直しなども提案され、「重点医師偏在対策支援区域」として特定の地域に医師を集中的に配置することや、派遣医師の待遇改善を進めることが提案されている。厚労省では、医師不足解消のため、国や地方自治体が協力して支援体制を整備し、大学病院などと連携して医師派遣を行う仕組みを強化する考えを示している。これに対し、日本病院会の相澤 孝夫会長は記者会見で、「医師の偏在を是正するための対策を国に提案する方針」を示し、今後も議論が継続される見通し。参考1)第9回新たな地域医療構想等に関する検討会(厚労省)2)診療所多い地域に「開業の上限」厚労省提案 新規開業を都道府県の「許可制」に(CB news)3)診療所の開業許可制に慎重論、厚労省の有識者検討会で(日経新聞)4.石破首相、厚労相に福岡氏を起用、社会保障制度の見直しに着手/内閣府石破 茂首相は、10月4日の就任後初めての所信表明演説で、社会保障制度の見直しに着手することを明言し、医療、介護、子育てを含む幅広い分野での改革を進めることを明らかにした。これによると、「現行の制度が時代に合っているかを再検討し、多様な人生選択を支える柔軟な制度設計を目指す」と語った。とくに、少子高齢化が進行する中で、現役世代の負担軽減が課題であり、子育て支援や年金制度改革が焦点となる。石破首相は子育て支援について「手当より無償化」を重視し、医療費や年金制度の見直しも検討される見通しだ。新たに就任した福岡 資麿厚生労働大臣は、社会保障制度改革に積極的に取り組むと期待され、財務大臣には厚労相を経験した加藤 勝信氏が起用された。両者ともに社会保障分野での豊富な経験を持ち、とくに年金制度や医療費負担の改革が大きなテーマとなる。日本医師会の松本 吉郎会長は、福岡厚労相と加藤財務相の就任を歓迎し、地域医療の守りを強調した。また、デジタル担当大臣に就任した平 将明氏は、健康保険証の廃止とマイナンバーカードへの一本化方針を堅持する姿勢を示し、医療DXの推進に力を入れる意向を表明した。保険証とマイナンバーカードの統合により、医療費やカルテのデジタル管理が進むことが期待される。参考1)第二百十四回国会における石破内閣総理大臣所信表明演説(内閣府)2)石破首相、社会保障全般の見直しを表明 時代に合った制度への転換も(CB news)3)現役世代の負担減、課題に 子育て支援、年金改正も焦点-石破新内閣の課題・社会保障(時事通信)4)平将明デジタル大臣、「保険証廃止」を堅持する理由説明-「医療DXの恩恵は桁違い」(CNET Japan)5.法医学教室の解剖医不足が深刻化、定年退職で人材不足に拍車/日本法医学会法医学教室の解剖医の不足がさらに深刻化することが、読売新聞の報道で明らかになった。報道によると2030年までに全国で24人の教授が定年退職する予定であり、とくに地方では解剖医が1人しかいない地域が14県、さらに1県では解剖医が不在となっている。今後、死亡者数の増加が見込まれる中、解剖医の供給が追いつかなくなる事態が懸念されている。解剖医の不足は、死因究明の遅れや犯罪の見逃しにつながる可能性があり、警察が取り扱う約20万体の遺体のうち、解剖されるのは1割程度に止まっている。日本法医学会は、各都道府県に専任の解剖医を配置する「死因究明医療センター」の設置を提言しているが、進展はみられない。法医学者の確保が急務とされる中、若い医師が敬遠しがちな分野であり、大学における解剖医の後任確保が難しい状況が続いている。さらに、解剖医が少ない地域では教授の退職や転任が発生すると、他県に依頼しなければならず、捜査に遅れが出る事象も起こっている。政府も法医学教室の人員確保を強調しており、死因究明の重要性を社会全体で共有する必要性があると指摘されている。同学会では、解剖医のキャリアパスを紹介するセミナーを開催し、将来の人材育成にも取り組んでいるが、現状の人員不足は依然として大きな課題となっている。参考1)死因究明の解剖医が足りない…法医学教室の教授の大量定年退職、2030年までに全国で24人(読売新聞)2)法医学会が初の学生向けセミナー開催~社会的ニーズ紹介、将来の人材確保へ~(時事通信)6.千葉県の救急病院、不正請求発覚で保険医療機関指定取り消し/関東厚生局関東信越厚生局は、9月30日に、千葉県野田市の小張総合病院が、看護職員の勤務実績を実際よりも多く申告するなどの不正により、診療報酬約5億7,000万円を不正請求していたとして、この病院の保険医療機関の指定を2025年4月1日付で取り消すと発表した。不正は2014~2017年にかけて行われ、元職員の内部告発により発覚した。これに対し、病院を運営する医療法人「圭春会」は、事業を医療法人「徳洲会」に譲渡する予定であり、診療は引き続き行われると発表した。小張総合病院は二次救急指定病院であり、野田市において重要な役割を果たしている。昨年度は約4,700件の救急搬送を受け入れており、病床数は350床、消化器内科や小児科を含む28の診療科を持つ。熊谷 俊人知事は、この不正行為が市の中核的な医療機関で発生したことを「誠に残念」としつつも、運営の引き継ぎを支援し、地域医療体制の維持に取り組む考えを示した。関東信越厚生局は、不正に受け取った診療報酬の返還を求めている。参考1)保険医療機関の行政処分について (関東厚生局)2)診療報酬5億7,000万円を不正請求 千葉・野田市の病院、保険医療機関の指定取り消し(産経新聞)3)救急病院が診療報酬不正疑い保険医療機関指定取消決定 野田(NHK)

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スマートマスクで呼気から健康状態をチェック

 実験段階にある「スマートマスク」によって、吐いた息からその人の健康状態をチェックできる可能性のあることが、新たな研究で明らかにされた。バイオセンサーが取り付けられたこのシンプルな紙製のマスクは、呼吸器疾患や腎臓病などさまざまな健康問題のモニタリングに使える可能性を秘めているという。米カリフォルニア工科大学(CalTech)医用工学教授のWei Gao氏らによるこの研究の詳細は、「Science」8月30日号に掲載された。 このマスクは、受動冷却システムにより人の呼気をマスク上で冷却して液体化し、リアルタイムでその分析を行う。この論文の筆頭著者でCalTechのWenzheng Heng氏によると、呼気の凝縮液には、溶解性のガスだけでなく、エアロゾルや飛沫の形で存在する揮発性ではない物質が含まれており、これらを疾患のマーカーとして検査することができるのだという。分析結果のデータは、ワイヤレスでスマートフォンやタブレット、コンピューターに転送される。Gao氏によると、このマスクは比較的低コストで製造でき、材料費はわずか1ドル程度だという。 このマスクの性能を確かめるために、Gao氏らは一連の実験を行った。そのうちの1つの実験では、このマスクを用いて喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)がある人の呼気を検査した。その結果、このマスクにより、両疾患における炎症マーカーである亜硝酸塩を正確に検出できることが確認された。また、別の実験では、血中アルコール濃度を検知するためにこのマスクを使用し、飲酒運転の現場での検査やアルコール摂取のモニタリングにも利用できることが示された。さらに3つ目の実験では、マスクによって腎臓病の指標となる呼気中のアンモニアガスの濃度を検知できるかが検証された。腎機能が低下すると、尿素などのタンパク質代謝の副産物が血液や唾液に蓄積し、呼気中のアンモニアガス濃度が高くなる。実験の結果、スマートマスクにより検知されたアンモニアガスの濃度から、血中の尿素濃度をかなり正確に知ることができることが確認された。 Gao氏は、「これらの初期の研究は、概念実証(PoC)段階のものだ。われわれはこの技術を拡大し、さまざまな健康状態に関連するマーカーを組み込みたいと考えている。これは、幅広い用途に使える全般的な健康状態のモニタリングのプラットフォームとして機能するマスクを作るための基礎となる」と説明している。 一方Heng氏は、CalTechのニュースリリースの中で、「このマスクは、呼吸器疾患や代謝性疾患の管理および精密医療における新たなパラダイムを象徴するものだ。なぜなら、毎日マスクをすることで呼気検体を簡単に得ることができ、さらに呼気中の化学分子をリアルタイムで分析できるからだ」と述べている。 なお、このマスクを着用した研究参加者は、呼吸器障害に苦しんでいる人も含めて、マスクが快適だと感じていたと研究グループは付け加えている。Gao氏は、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)以来、人々がマスクを使用する頻度は増えた。こうしたマスク使用の広がりを利用して、自宅やオフィスでリアルタイムで健康状態のフィードバックを得るための、個別化された遠隔モニタリングを実現できるはずだ。例えば、その情報を使って、治療の効果を評価することもできるかもしれない」と話している。

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第231回 某学会がレプリコンワクチンの安全性に懸念表明!?気になる内容は…

新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)のワクチンの特例臨時接種が今年3月末に終了したが、65歳以上の高齢者と60~64歳までの基礎疾患を有する人たちに対する定期接種が10月1日からスタートした。今回の定期接種はファイザー、モデルナ、第一三共のmRNAワクチン、ノババックス/武田薬品の組換えタンパクワクチン、Meiji Seikaファルマの次世代mRNAワクチンの5種類のワクチンが使用される。レプリコンワクチンの作用機序このうち巷で話題をさらっているのが、Meiji Seikaファルマの次世代mRNAワクチン「コスタイベ」である。これは通称レプリコンワクチンと称される。ウイルスのスパイクタンパク質とRNAを鋳型にRNAを複製する酵素であるレプリカーゼのmRNAを脂質ナノ粒子で包んだ自己増幅型mRNAワクチンである。これを筋肉注射すると、体内でレプリカーゼの働きによりウイルスのスパイクタンパク質のmRNAが多数複製され、それに応じて中和抗体も多数産生される。さらに、これまでよりも少量のmRNAを投与することで効率的に中和抗体が産生でき、かつ抗体価の持続期間も長いという仕組みである。端的に言えば、投与したmRNAが一時的に自己増幅(増殖ではない)するという新技術だ。さて、“これが巷で話題になっている”というのは、すでに多くの医療者がご存じのようにネガティブな意味でだ。主には「レプリコンワクチンは、接種した人の体内で増殖したmRNAが人やほかの動物に感染する危険性がある」という主張である。SNS隆盛の現在はとくにネガティブ情報は拡散されやすいが、こうした科学的に見て不可思議な説に医療系の国家資格を持つ人々も加担しているため、なんとも厄介である。学会がレプリコンワクチンを忌避!?そうした最中、日本看護倫理学会が「【緊急声明】 新型コロナウイルス感染症予防接種に導入されるレプリコンワクチンへの懸念 自分と周りの人々のために」を8月8日に公開した。ちなみに私自身は今回初めて同学会の存在を知ったが、「看護倫理の知を体系的に構築する」ことを目的に2008年に設立された学会とのこと。さて、その主張は主に5点である。1点目はコスタイベの主な治験実施国であるベトナムや、もともとMeijiがこのワクチンを導入したArcturus Therapeutics社が本社を置くアメリカでは承認されていないことに対する疑問であり、それゆえに安全性に懸念があるのではないかとの指摘だ。しかし、これ自体ははっきり言って揚げ足取りに近い。国情や規制当局の在り方によっても変わってくることだからである。ちなみに国外で米・Arcturus Therapeutics社は豪・CSL Seqirus社と開発提携しており、CSL社のホームページでは欧州連合で承認申請中と記載されている。また、Meiji側が9月末に行った記者会見では、ベトナムで承認準備、アメリカで承認申請に向けて準備が進むほか、数ヵ国で開発中である。そもそも新型コロナワクチンの場合、先行したファイザー、モデルナ両社の製品による接種が急速に進行したため、後発企業は被験者確保に苦労したことはよく知られている。こうした事情も併せて考えれば、日本が先行承認されたことは驚くに値しない。実はこの手の指摘は、今回の定期接種に用いられているノババックス/武田薬品の組換えタンパクワクチンの日本での緊急承認時も「ノババックスの本国であるアメリカでは承認されていない」とネガティブな方向性でSNS上では指摘されていた。しかし、当時すでにEUでは承認されており、後にアメリカでも承認されている。さて緊急声明の2点目は、このワクチンに関して最も多いネガティブ指摘である接種者から非接種者に感染(シェディング)するのではないかとの懸念があります」と言うもの。そもそもこの「シェディング」という用語自体は、以前からワクチンに懐疑的な人たちがSNS上で使っていたが、今回よく調べてみたところ、英語の「shed(発する、放つ)」の現在分詞らしい。声明では「望まない人にワクチンの成分が取り込まれてしまうという倫理的問題をはらんでいます」としているが、いやはやである。そもそも声明では「感染」という言葉を誤用している。感染とは微生物が生体内に侵入し、生体内で定着・増殖し、寄生した状態を指す。このワクチンも先行したファイザー、モデルナのワクチンも成分として封入されているmRNAは、新型コロナウイルスの表面にあるスパイクタンパクのみを生成する。これのみで医学的な定義の感染は起こりえない。しかも、元来、不安定で細胞内で分解されてしまうmRNAが、そのまま血中を流れて肺で呼気に混入してヒトから排出されるなど、もはやファンタジーの域である。それだったら、長年、麻疹や風疹で使われているウイルス本体を弱毒化した生ワクチンのほうがよっぽど危険であるし、生ワクチンではここで言うシェディングに相当するような現象が起きたことはあるが、大局的に問題になったことはない。極めて雑な例えをするが、この主張は私個人からすると「刺身を食べてしばらくしたら、その人の口から生きた小魚が継続的に飛び出すようになった」と言われるくらいナンセンスである。3点目は「人間の遺伝情報や遺伝機構に及ぼす影響、とくに後世への影響についての懸念が強く存在します」というもの。要は投与したmRNAがDNAそのものに影響を及ぼすのではないかとの主張である。この点はヒトでの逆転写酵素の有無に関連するものだが、厳密に言えばその可能性はゼロではない。しかし、率直に言って「あなたが明日死ぬ可能性はゼロではない」というレベルのものである。ちなみにここの項目ではスウェーデンで行われた培養細胞にファイザーのmRNAワクチンを曝露させたin vitroの実験でDNAへの逆転写が起こったとの論文を引用している。しかし、免疫応答も含め通常の生体内とは異なる条件で行われた実験であり、使用された細胞は高分化型ヒト肝癌由来細胞株 Huh-7。そもそもがん細胞由来の細胞株なら正常なDNA複製が行われるとは言えないはずで極めて特殊な条件で行われている。4点目は、そもそもファイザー、モデルナのmRNAワクチンですらリスクの説明が必ずしも十分ではないという指摘だが、これについてはさまざまな受け止めがあろうと思う。少なくとも私個人は、厚生労働省を筆頭に自治体も神経質なまでに情報発信をしていたとの認識である。5点目はレプリコンワクチンが定期接種に用いられることで、患者を守るとの至上命題で医療者を中心にワクチン接種に関する主体的な自己決定権が脅かされるとの懸念。正直、これもどちらかというと感情論であり、レプリコンワクチンに対する懸念とはやや別物ではないかと考える。いずれにせよ今回の声明は、ピッチャーがマウンドからいきなり外野スタンドに投球し始めたかのような違和感を覚えるもので、私個人は読み切るのに相当疲れた次第である。

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ワクチン接種はかかりつけ医に相談を/日医

 日本医師会(会長:松本 吉郎氏[松本皮膚科形成外科医院 理事長・院長])は10月2日、定例会見を開催した。会見では、松本会長が先日発足した石破 茂内閣誕生に言及し、医師会は地域を支える重要な医療インフラとして政権と一体となって政策を推進すること、防災省の提案もあるように医師会も災害対策を重要な事項と考えていること、医療・介護業界が物価高騰を上回る賃上げが実現できることなどを要望し、今後も諸政策で連携していくことを語った。また、先般発生した能登半島豪雨への支援金について10月末まで医師会員、一般からの寄付を募っていることを説明した。新型コロナウイルス感染症の重症化防止に高齢者はワクチン接種の検討を 次に感染症担当の笹本 洋一常任理事(ささもと眼科クリニック 理事長・院長)が 「季節性インフルエンザと新型コロナウイルス等の予防接種について」をテーマに、今秋の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)、季節性インフルエンザへのワクチン接種などについて医師会の取り組みや考えを説明した。 COVID-19と季節性インフルエンザは流行傾向にあるが、COVID-19ワクチンの接種が10月1日より開始された。大きな変更点は、公費による無料接種ではなくなったことで、自治体による定期接種となる。対象者は「65歳以上の方」、「60~64歳で心臓、腎臓などに基礎疾患がある方、免疫機能に障害がある方」などが定期接種の対象となり、一部自己負担の有料接種となる。対象者は重症化予防のためにも接種を検討していただき、接種できるワクチンの種類、自己負担額については各自治体により異なるために確認してもらいたいと説明した。また、COVID-19ワクチンは、医師が必要と認めた場合、季節性インフルエンザや肺炎球菌ワクチンとの同時接種もできるので、かかりつけ医に相談してもらいたいと述べた。 そのほか、HPVワクチンの公費負担によるキャッチアップ接種にも触れ、9月末日までの初回接種を医師会としては広く啓発してきたが、これを逃した方も10月中の接種で最短で4~5ヵ月で公費負担の期日内に終えることができるので、かかりつけ医などに相談して欲しいと説明するとともに、通常の定期接種についても近医に問い合わせをお願いしたいと述べた。

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コロナワクチン接種後心筋炎とコロナ感染後心筋炎の18ヵ月後予後〜関心はさらに長期的予後に(解説:甲斐久史氏)

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、COVID-19 mRNAワクチン接種と抗SARS-CoV-2ウイルス薬の普及、さらには急性期における重症化予防と重症例治療法の確立により、パンデミックの収束を迎え、いまやCOVID-19と共生する時代“Withコロナ時代”となった。今後は、感染者の10〜20%に長期間認められる罹患後症状(PCC:post-COVID-19 condition)をはじめ、未知の後遺症など長期的・超長期的影響が大きな課題となる。その1つが、COVID-19罹患後心筋炎やCOVID-19ワクチン接種後心筋炎である。 COVID-19罹患後心筋炎は、COVID-19感染者10万人当たり約150例(0.15%)に発症する。ワクチン接種後心筋炎は、mRNAワクチン接種(初回、2回目)10万回当たり1例(0.01%)に発症するが、10〜20代男性の2回目接種では発症率0.16%である。COVID-19罹患後心筋炎およびワクチン接種後心筋炎は、ほとんどが軽症であり、対症療法により軽快する。パンデミック初期には、通常の心筋炎と比較して劇症化率が高いものの、劇症化しても適切な治療により回復すると報告された。しかしながら、長期的な心筋炎再発・慢性化、心血管疾患発症や死亡のリスクについては検討が必要である。 Laura Semenzato氏らは、フランスのNational Health Dataシステムに登録された心筋炎4,635例を、ワクチン接種後心筋炎(ワクチン接種後7日以内発症)558例、COVID-19罹患後心筋炎(COVID-19発症30日以内発症)298例とその他の通常型心筋炎3,779例に分類し、退院後18ヵ月間の心筋心膜炎による再入院、その他の心血管イベント、総死亡およびそれらの複合アウトカムと医療管理状況を検討した。標準化複合アウトカム発生率は、通常型心筋炎の13.2%と比較して、ワクチン接種後心筋炎では5.3%と有意に低く、COVID-19罹患後心筋炎では12.1%と同等であった。総死亡は、ワクチン接種後心筋炎で0.3%とCOVID-19罹患後心筋炎の1.3%、通常型心筋炎の1.3%と比較して低値であったが、心筋心膜炎による再入院とその他の心血管イベントは3群間で差は無かった。また、心筋心膜炎以外による全入院は、ワクチン接種後心筋炎12.2%で、COVID-19罹患後心筋炎21.1%、通常型心筋炎19.6%より有意に低くかった。また、退院から18ヵ月後までの画像診断検査、トロポニン検査、負荷テストなどの検査や薬剤処方の頻度は、ワクチン接種後心筋炎およびCOVID-19罹患後心筋炎と通常型心筋炎で差はなかった。 本研究は、フランス全国に及ぶ大規模で悉皆性の高いデータベースに基づき、かつ18ヵ月というこれまでで最も長期間にわたる検討である。COVID-19罹患後心筋炎では、心臓MRIを用いた検討により、退院3ヵ月後の42%に心機能低下、26%に心筋炎症所見が認められたという報告や、急性期には入院を必要としない軽症例でも1年後になんらかの自覚症状が残存しているものでは、びまん性心筋浮腫所見が多くみられるという報告があり、慢性期における心不全など心血管イベント増加が危惧された。しかしながら、本研究により、少なくとも、発症18ヵ月の時点では、COVID-19罹患後心筋炎の心筋炎再発、心血管合併症発症と死亡のリスクは通常型心筋炎と同等であり、ワクチン接種後心筋炎ではさらにリスクが低いことが明らかとなった。医療処置や薬物処方については、心筋炎発症後18ヵ月間としては、わが国でも通常診療と思われる範囲内であり、各群ともに経時的に減少傾向である点に注目したい。 COVID-19パンデミックという特殊な状況下で、無症状やきわめて軽症なCOVID-19に対しても、心臓MRIや血中トロポニン検査を用いた高感度な心筋炎スクリーニングが行われた。その結果、感染急性期のみならず数ヵ月間にわたり潜在性心筋炎症、心機能障害が持続することが明らかとなっている。これらが今後、慢性心筋炎や心不全などの発症リスクとなるかについて、さらに数年、数十年といった時間軸での長期的・超長期的観察が必要となる。COVID-19罹患後心筋炎やワクチン接種後心筋炎で得られる知見の蓄積を通じて、今後、通常型心筋炎の慢性化やHFrEFや拡張型心筋症の概念、診断や治療にも大きな変化がもたらされるかもしれない。

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第211回 医師研修マッチング中間結果、都市部病院が上位独占/医師臨床研修マッチング協議会

<先週の動き>1.医師研修マッチング中間結果、都市部病院が上位独占/医師臨床研修マッチング協議会2.高齢社会対策大綱を改定、高齢者医療費の3割負担拡大を検討/政府3.臓器移植、509人が医療機関の態勢不足で手術を受けられず/厚労省4.特定機能病院の9割に改善指摘、安全管理体制強化を求める/厚労省5.病院経営の厳しさ浮き彫り、病院団体は特例的な財政支援を要請へ/四病協6.訪問看護の過剰請求にメス、厚労省が実態調査を開始/厚労省1.医師研修マッチング中間結果、都市部病院が上位独占/医師臨床研修マッチング協議会医師臨床研修マッチング協議会は、2024年度の医師臨床研修マッチングの中間結果を発表した。大学病院では、順天堂大学が最も多くの1位希望者(76人)を集め1位となり、続いて東京大学(60人)、東京医科歯科大学(56人)がそれぞれ2位、3位となった。順天堂大学は充足率も181.0%でトップ、帝京大学(117.9%)、東京慈恵会医科大学(103.1%)がこれに続き、いずれも定員を大幅に超える希望者を集めている。今年度、大学病院の1位希望者数は1,699人となり、昨年度の1,757人から58人減少し、減少傾向が続いている。大学病院の定員も減少しており、2021年度の3,715人から2024年度は3,467人となった。特筆すべきは、兵庫医科大学が32位から5位へと大きく順位を上げたことや、帝京大学が32位から10位へ急上昇したことだ。一方で、九州大学や浜松医科大学など、順位を大幅に下げた大学もみられた。市中病院では虎の門病院が1位希望者数で首位を獲得し、充足率は390.5%に達した。2位は川崎市立川崎病院、3位は市立豊中病院で、都市部に位置する病院が上位を占めた。とくに東京都立広尾病院は募集定員6人に対して45人が希望し、充足率750.0%で圧倒的な人気を誇った。この結果は、都市部の市中病院の人気が根強いことを示しており、医師志望者の関心がますます都市に集中していることがうかがえる。参考1)2024年度 医師臨床研修マッチング 中間公表(医師臨床研修マッチング協議会)2)【医師臨床研修マッチング2024】中間結果ランキング マッチング中間、大学病院は順天堂が1番人気に(日経メディカル)2.高齢社会対策大綱を改定、高齢者医療費の3割負担拡大を検討/政府政府は2024年9月13日、新たな「高齢社会対策大綱」を閣議決定し、75歳以上の高齢者の医療費負担拡大を検討する方針を示した。現行の制度では、75歳以上の高齢者の窓口負担は原則1割、一定の所得がある場合は2割、そして「現役並みの所得」がある場合は3割とされている。今回の大綱改定では、この「現役並み所得者」の3割負担対象を拡大し、社会保障制度の持続を図る狙いがある。高齢者の医療費は急増しており、政府はその抑制に向けて制度改革を進めている。すでに2023年末に決定された「社会保障改革工程表」にも、2028年度までにこの対象範囲の見直しを含めた議論を行う方針が明記されている。また、大綱では、年齢にかかわらず、能力に応じて社会を支える「全世代型社会保障」を目指す考えが示されている。高齢者が支えられるだけでなく、状況に応じて支える側にも回る社会を築くことを目指す。高齢者の就業促進も大綱に盛り込まれ、2029年までに65歳以上の就業率を大幅に引き上げる目標が掲げられている。現行の65~69歳の就業率は52%だが、2029年には57%まで高める方針。また、60~64歳の就業率も現在の74%から79%に引き上げることが目標とされている。これにより、少子化による労働力不足や経済規模の縮小への対応を図り、同時に高齢者の社会保障費負担を抑制しようとしている。一方で、認知症や孤立した高齢者に対する支援体制の強化も大綱では重視している。身寄りのない高齢者や単身世帯が増える中、身元保証制度や地域での見守り体制の充実が求められているため、民間事業者が提供する終身サポート事業の適正運営を促し、孤立を防ぐための取り組みが進められる見込み。医療費負担の拡大により、現役世代の負担軽減を図ることが期待される一方、高齢者にはさらなる負担が求められる。政府は、高齢者が安心して暮らせる社会の実現に向けて、医療や年金制度の見直しを進める方針を強調している。参考1)高齢社会対策大綱[令和6年9月13日閣議決定](内閣府)2)身寄りない人の支援 医療費3割負担の拡大検討も盛る 高齢大綱改定(朝日新聞)3)75歳医療費、負担増検討 高齢化対策指針に明記(東京新聞)4)医療費3割負担拡大「検討」 高齢社会大綱6年ぶり改定(日経新聞)3.臓器移植、509人が医療機関の態勢不足で手術を受けられず/厚労省2023年に行われた脳死者からの臓器移植で、509人の患者が医療機関の態勢が整わないことを理由に移植手術を受けられなかったことが、厚生労働省の初めての調査で明らかになった。移植を担当する医療機関の人員不足や集中治療室(ICU)の満床などが主な理由。この調査では、脳死者から提供された臓器のうち、複数の医療機関が移植を辞退したために成立しなかったケースが192件あり、心臓6件、肺25件、肝臓9件、膵臓45件、腎臓8件、小腸99件の移植ができなかった。辞退の理由として多かったのは「ドナーの医学的な理由」(2,195人)、「体格・年齢差」(573人)、院内態勢の不備(509人)が挙げられた。臓器移植を希望する患者が、医療機関を複数登録できるようにするなど、移植辞退を減らすための新たな仕組みも検討されている。移植希望者が手術を受けられなかった問題を受け、厚労省は今後、医療機関の受け入れ体制を強化する方針。日本臓器移植ネットワークによると、国内の移植待機期間は心臓で平均3年半、腎臓では14年9ヵ月と長期化している。臓器提供数を増やす取り組みが進められる一方で、医療機関の対応力不足が移植の実施を阻んでいる現状が浮き彫りとなった。参考1)臓器移植断念2023年に25施設、人員・病床不足が理由…厚労省が初の調査結果発表(読売新聞)2)臓器移植 去年509人が手術を希望するも不成立 医療機関の態勢整わず 厚労省が初調査(テレビ朝日)3)臓器移植、延べ3,706人の手術見送り 受け入れ態勢整わず 厚労省(毎日新聞)4)脳死からの提供臓器、2割が移植辞退 医学的理由や院内体制など理由(朝日新聞)4.特定機能病院の9割に改善指摘、安全管理体制強化を求める/厚労省厚生労働省は、2023年度に全88の特定機能病院に対して行った立入検査の結果、77病院に「医薬品や医療機器の安全管理体制」や「事故報告書の作成・提出」などに関して若干の改善が必要であることがわかった。9月20日に公表された報告によれば、指摘を受けた病院では、今後の改善状況については、次年度の立入検査で確認される予定。特定機能病院は国内最高水準の医療を提供する施設であるが、過去に発生した医療事故を受け、医療安全管理体制の強化が進められてきた。2023年度の立入検査では、88病院中77病院(87.5%)において改善指摘が行われ、とくに「医薬品、医療機器の安全管理体制の確保」に関する指摘が多くみられた。指摘は主に口頭で行われ、書面で「検討を要する事項」として通知された病院は6件に止まった。特定機能病院は重要な役割を担う施設であるため、多くの病院で医療安全管理の徹底や院内感染対策の強化が求められている。そのため医療法に基づく検査では、施設の安全基準や適切な人員配置が確認され、問題がある場合は翌年度の立入検査で改善状況がチェックされる仕組みとなっている。2023年度の検査では。新型コロナウイルス感染症の影響で一時的に縮小されていたが、24年度は通常通り全施設に対して実施された。今回の検査結果を受けて、医療機関はさらなる安全管理体制の強化に向けた取り組みが求められており、特定機能病院の質の向上が期待されている。参考1)特定機能病院に対する立入検査結果について(令和5年度)(厚労省)2)すべての特定機能病院で立入検査実施、「医薬品、医療機器の安全管理体制」や「事故等報告書の作成・提出」に若干の問題あり-厚労省(Gem Med)3)特定機能病院の9割弱に指摘事項、立ち入り検査で「不適切な事項」は該当なし 23年度(CB news)5.病院経営の厳しさ浮き彫り、病院団体は特例的な財政支援を要請へ/四病協四病院団体協議会は2024年9月25日に開催された総合部会で、深刻な経営不振に陥っている病院への特例的な財政支援を国に求める方針を発表した。日本病院会の相澤 孝夫会長は、病院経営定期調査の中間報告を基に、病院の収益減少とコスト増加による減収減益が顕著であり、とくに建築費の高騰により改修や設備投資が困難な状況にあることを指摘した。調査によれば、2024年6月時点で病院の医業収益は前年同月比で減少しており、医業費用は増加、結果として多くの病院が赤字となっている。経常赤字病院の割合は、2023年度の約22.7%から2024年度には51.0%と大幅に増加した。また、診療報酬改定やコロナ関連の補助金減少が収益減少に拍車をかけ、給与費や物価の上昇によりさらなるコスト増が経営を圧迫している。この状況を受け、記者会見で相澤会長は「このままでは来年にはさらに厳しい状況が予測され、地域医療が立ち行かなくなる恐れがある」として、2024年度中の診療報酬改定も含めた支援策を求めた。11月には調査結果の最終報告を国に提出し、財政支援の要望を行う方針。また、9月27日に総務省が発表した2023年度の地方公営企業等決算では、全国681の病院事業は2,055億円の赤字を計上し、4年ぶりに赤字に転落したことが明らかになっており、新型コロナウイルス感染症関連の補助金が減少し、人件費や薬剤費の高騰が大きな影響を与えていることがうかがえた。これにより累積欠損金が1兆6,974億円に達するなど、地域医療の維持のためには、政府に早急な対応が必要となってきている。参考1)四病協、中間年改定含む財政支援要請へ 日病相澤氏「病院は深刻な経営不振」(CB news)2)病院経営は減収・減益の危機的な状況、期中の診療報酬対応も含めた病院経営支援を国に強く要請へ-四病協(Gem Med)3)2024年度 病院経営定期調査-中間報告-(3病院団体)4)公立病院事業4年ぶり赤字 2023年度、コロナ補助金減少や人件費高騰影響(産経新聞)5)令和5年度地方公営企業等決算の概要(総務省)6.訪問看護の過剰請求にメス、厚労省が実態調査を開始/厚労省精神科訪問看護において一部の事業者が患者の状態に関係なく訪問回数を増やし、診療報酬を不適切に請求している問題を受け、厚生労働省は実態調査を行い、仕組みを見直す方針を固めた。訪問看護サービス最大手の「ファーストナース」などが不正な運用をしていると指摘されており、同社の訪問看護ステーションでは患者の必要度にかかわらず週3回の訪問を指示し、利益確保を優先していたことが明らかになった。厚労省は、2024年度に科学研究費を活用し、訪問看護の実態を把握する特別調査を実施する予定。訪問看護の役割や訪問回数の適正化、連携体制などを詳細に調査し、2026年度の診療報酬改定に反映させる考えだ。過剰な訪問を是正し、適切な支援を行うための新しい基準が検討される一方で、真面目に運営している事業者が評価される仕組みも求められている。ファーストナースの内部資料や元社員の証言によると、経営陣は売上増加を最優先とし、訪問回数や時間を操作して診療報酬を最大限に引き出すよう指示していた。また、社員には「ロレックスキャンペーン」など高額報酬を餌に、売上増を奨励していたという。今後、厚労省は、調査結果を基に訪問看護ステーションの基準を見直し、報酬体系の適正化を図る予定。過剰請求の是正と同時に、利用者の状態に応じた適切な支援が評価される仕組みが期待される。参考1)精神科の訪問看護、見直しへ 過剰請求受け、厚労省が実態調査(東京新聞)2)精神科訪問看護 見直し方針に期待と要望「良質な事業者評価を」(山陰中央新報)3)「ロレックスぐらいは買える!!」精神科の訪問看護最大手が社内LINEでハッパをかけた「売り上げ最大化」(共同通信)

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第230回 迫る自民党総裁選、立候補者の言い分は?(後編)

自民党総裁選は本日、ついに投開票が行われ、新総裁が決定する。与党の自民党と公明党が衆参両院の過半数を占めている現状では、当然ながら自民党総裁=日本国総理大臣となる。巷の報道では、議員票や党員・党友票、都道府県連票の票読みが行われているが、今回は上位2人による決選投票が確実視されているだけに、その段階で一気に票読みの困難度が増す。とりわけ自民党の総裁選は過去から権謀術数が渦巻く世界だ。現在の推薦人制による立候補となった1972年以降、決選投票となったのは3回。初めての決選投票は、1972年の田中 角栄氏vs. 福田 赳夫氏。第1回投票では第1位の田中氏と第2位の福田氏はわずか6票差だったが、決選投票では票差が92票まで開き、田中氏が総裁に選出された。残る2回のうち1回は2012年。この時は党員・党友票の過半数を獲得した石破 茂氏が1回目で安倍 晋三氏に58票もの差をつけて1位となったが、決選投票では逆に安倍氏が石破氏を19票上回り、逆転で総裁となった。ちなみに1972年以前の自民党でも決選投票が2回あり、1956年の初の決選投票では同じく1回目の1位、2位の逆転が起きた。この時勝利したのは石橋 湛山氏、逆転負けを帰したのは“昭和の妖怪”の異名を持つ安倍氏の祖父・岸 信介氏である。最も直近の決選投票は前回2021年の総裁選で1位の岸田 文雄氏と2位の河野 太郎氏の1回目の票差はわずか1票。これが決選投票では87票差となり、岸田氏が勝利した。このように概観するだけでも自民党総裁選は魔物である。さて誰が当選するのか? 前回紹介しきれなかった自民党総裁選候補者(五十音順)である小林 鷹之氏、高市 早苗氏、林 芳正氏、茂木 敏充氏の社会保障、医療・介護政策を独断と偏見の評価も交えながら紹介する。小林氏(千葉2区)今回、真っ先に出馬表明した小林氏だが、閣僚経験があるとはいえ、最も世間的には知名度が低かったのではないだろうか? 小林氏は東大法学部卒業後、旧大蔵省に入省。2010年に退官し、自民党の候補者公募に応募して2012年の衆議院で初当選して現在に至っている。大蔵省・財務省在籍中にはハーバード大学ケネディ行政大学院に留学し、公共政策学修士号を取得している。小林氏の特設ページでは、「世界をリードする国へ」をキャッチフレーズに掲げている。政策については直ちに取り組む3本柱とこれも含めたより詳細な7項目ごとの政策を披露している。前者では“02.暮らしを明るく:中間層「ど真ん中」の所得向上を実現”として以下の2点を挙げている。地方や若者も多く従事する介護・看護・保育従事者の賃上げ(「物価を超える処遇改善ルール」導入)。若年層の保険料負担軽減を図る「第3の道」の具体化。「社会保障未来会議(仮称)」立ち上げ。介護関係者などの賃上げは、ほかの候補者も挙げているが「物価を超える処遇改善ルール」とより具体的なのは小林氏だけである。もっとも現在の物価高騰を考えれば、介護報酬改定などでは相当な引き上げが必要になる。後者については小林氏の特設ページの7項目のうちの「V. 教育・こども・社会保障」では以下のように記述している(下線は筆者によるもの)。「社会保障未来会議(仮称)では、(1)データに基づく人的物的資源の適正配分、(2)ロボット、AI、アプリ等による健康管理、(3)健診・予防・リハビリ・フレイル対策・軽度認知症対策などの「健康づくり」とその行動や成果へのインセンティブ付与、(4)DX による効果的・効率的なサービスの提供を通じた費用の抑制に資する取組、などを通した医療・介護需要の低減を進めます。あらゆるアイデアをすべて俎上に載せ、国民の皆様とともに広く社会保障制度を考え、方向性を共有して、新たな時代の社会保障制度を作り上げます」DX(Digital Transformation)、EBPM(Evidence based policy making、エビデンスに基づく政策立案)、PHR(Personal Health Record)などを通じて、まずは需要そのものを適正化したいということらしい。もっとも日本記者クラブの候補者討論会では、「若い世代の社会保険料の軽減を主張していますが、財源はどこにあるんですか。結局、一定以上の所得・資産のある高齢者に負担を求める、かなり抵抗が強い方向になると思いますが、そういった覚悟はありますか」と問われたのに対し、前述の社会保障未来会議の説明を平たく語っただけでスルーしてしまっている。高齢者の負担増に関しては今の時点で単にかわしたか、あるいは念頭にあるからこそ敢えてかわしたかのどちらかではないだろうか? (ちなみに私は高齢者の負担増に反対ではない)この項では、ほかに以下のような政策を列挙している。家族等にとって大きな不安の源となる現役世代の怪我や疾病に対しサポート体制を築き、医療サービスの面からも現役世代を支えます。また、DXやイノベーションを通じ、健康医療分野でも世界をリードします。医師の地域偏在と診療科偏在を是正し医療へのアクセスを確保していきます。また、公的サービスの安定供給を前提に、医療法人等の経営改革も進めます。医療・介護・障害福祉等の人材確保を進めます。地域特性に応じた地域包括ケア体制を確立し、住み慣れた場所で生き生きと暮らせる社会の実現を目指します。あらゆるがん対策や研究支援を分野横断で進めると共に、腎疾患、アレルギー疾患等の重症化予防、移植手術の利用推進等に努めます。このなかで個人的に注目したのは2番目である。「医師・診療科の偏在是正」「医療法人等の改革」は若さゆえに繰り出せるパワーワードだろうか? これに手を突っ込めば、医療界、とりわけ日本医師会からの最強度の抵抗を受けることを小林氏は承知して言っているのか定かではない。むしろ、具体的にこれらをどのように実現したいかの詳細があれば、ぜひ聞いてみたいものである。また、これらとは別に「II.経済」では“創薬産業の競争力強化”を掲げ、そこでは「官民の連携を強化し、創薬のエコシステムと政府の司令塔機能を強化します。医療・介護分野のヘルスケアスタートアップを大胆に支援します。『ゲノミクスジャパン』を早期に構築し、ゲノム医療で世界と伍する創薬産業にします」と記述している。これについては7月30日に岸田首相の肝入りで開催された「創薬エコシステムサミット」に酷似した政策である。同サミットは医薬品産業を成長産業と位置付け、必要な予算を確保し、国内外から優れた人材や資金を集結させることで、日本を世界の人々に貢献できる『創薬の地』としていくというものだ。政策の大枠について異論はないが、現行では国際レベルと大きく差が開いた日本の創薬力を引き上げるのは容易ではない。また、コロナ禍中に開催された2020年4月3日の衆議院厚生労働委員会での小林氏の質疑を読むと、新型コロナウイルス感染症のワクチン、治療薬の国産を強く促しているが、失礼ながら製薬業界の現在地に対する理解はやや甘いようである。高市氏(奈良2区)意外と知られていないようだが、高市氏はもともと野党出身の政治家である。神戸大学経営学部経営学科卒業後、松下政経塾に入塾し、その資金提供を受けて米・民主党下院議員のもとで研修を積み、帰国後は日本経済短期大学(後の亜細亜大学短期大学部)助手に就任するとともに、テレビ朝日、フジテレビの番組でキャスターを務めた。テレビ朝日の番組では立憲民主党の前参院議員の蓮舫氏、フジテレビでは日本維新の会の参院議員の石井 苗子氏も同じ番組のキャスターだったのは、今となればなんと因果な巡り合わせかと思う。1992年の参院選・奈良県選挙区で自民党に公認申請をするも公認は得られず、無所属で出馬して落選。翌1993年には中選挙区時代の衆院選奈良全県区から再び無所属で出馬して初当選した。高市氏の当選時は折しも自民党が下野し、細川 護熙政権が発足した時期である。その後高市氏は、自民党を離党した柿澤弘治氏らが結党した自由党に参加。さらに非自民の自由改革連合(代表:海部 俊樹元首相)、新進党を経て、96年に新進党を離党して自民党に入党している。これまで衆院選は9選しているが、自民党入党以降は小選挙区で2度落選している(うち1度は比例復活)。さて安倍 晋三氏の秘蔵っ子とも言われるほど、自民党内でも保守色の強い政治家として知られる高市氏だが、特設サイトでは「日本列島を、強く豊かに。」とのスローガンを掲げている。このスローガンの下、総合的な国力を強化するための6項目のポリシーを掲げており、全体として経済、安全保障に関する高市氏の思考が背骨となっている印象だ。このため社会保障、医療・介護に関する政策もいくつかの項目に散らばっている。政策集を読むと、明らかにもっとも注力しているのは、ポリシー01の「大胆な『危機管理投資』と『成長投資』で、『安全・安心』の確保と『強い経済』を実現。」である。端的に言うと、積極的な財政出動で経済浮揚を図るという考え。そもそもご本人は昨今の日本銀行による利上げを「アホやと思う」とまでこき落としているほど積極財政論者である。そしてポリシー01では、さらに6つの詳細プランを提唱。プラン05の「健康医療安全保障の構築」では、以下のような政策が箇条書きで示されている。国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)が実施している「革新的がん医療実用化研究事業」「スマートバイオ創薬等研究支援事業」「医療機器開発推進研究事業」を促進します。AMEDが支援してきたiPS細胞由来の心筋細胞移植の臨床試験が大きく前進しました。「再生・細胞医療、遺伝子治療分野」における研究開発を推進し、その成果を早期に患者の皆様にお届けできるよう、取り組んでまいります。今後のパンデミックに備えるべき「重点感染症」の見直しと医薬品等の対応手段確保のための研究開発支援、有事において大規模臨床試験を実施できる体制の構築、緊急承認については新たな感染症発生時の薬事承認プロセスの迅速化に資する準備を進めます。CBRNEテロ(化学・生物・核・放射線兵器や爆発物を用いたテロ)の対策を検討する専門家組織を創設します。テロに悪用された微生物・化学物質などの特定と拮抗薬やターニケット(止血用の緊縛バンド)の使用が迅速に行われる体制の構築方法を検討します。「国民皆歯科健診」の完全実施に加え、PHRの活用と、「予防医療」や「未病」の取組へのインセンティブを組み込んだ制度設計を検討します。また、プラン06「成長投資の強化」では“工業製品、環境、エネルギー、食料、健康・医療など適用分野が広く、経済安全保障の強化にもつながる『バイオ分野の事業化・普及』に向けた取組を促進します”と謳っている。概観すると、成長が見込めそうな分野への財政出動を通じた徹底投資とそれに伴う製品の国産強化という方針だ。実はこの政策を列挙する前に「ワクチンや医薬品の開発・生産は、海外情勢に左右されてはならず、安全保障に関わる課題です。原材料・生産ノウハウ・人材を国内で完結できる体制を構築します」との基本的考えを示している。この辺は高市氏の保守色の強さを如実に表している。現在、世界水準からはかなり立ち遅れつつある創薬・バイオを安全保障の観点から捉えて強化する方針そのものに異論はない。むしろ日本に欠けているのは、安全保障の観点である。ただ、創薬・バイオは消費・貢献対象の多くが民生分野であり、安全保障視点が過度だと、逆に産業発展を阻害する面もある。また、コロナ禍での国政選挙の際の各政党の政策でも批判してきたことだが、創薬・バイオ技術のグローバル化が進展する今、国産にこだわり過ぎれば、国内での技術開発や社会還元はスピーディーさを欠く結果となる。ポリシー02「『全世代の安心感』を、日本の活力に。」で掲げているのは以下。私は、生涯にわたってホルモンバランス変化の影響を受けやすい女性の健康をサポートする施策の検討に平成25年に着手し、ようやく令和6年度新規事業として「『女性の健康』ナショナルセンター機能の構築」が開始されました。女性特有の疾患や不調について、予防・病態解明・治療・社会啓発の取組を推進します。人手不足の中でも就労時間調整の一因となっている「年収の壁」と「在職老齢年金制度」を大胆に見直し、「働く意欲を阻害しない制度」へと改革します。高齢者だけではなく、現役世代も将来に年金を受け取ることを踏まえ、年金に対する課税の見直しを検討します。物価が上昇する中で年金の手取りが減らないよう、公的年金等控除額の拡大を提案します。国民年金受給額と生活保護受給額の逆転現象を解消するため、低年金と生活保護の問題を一体的に捉えた新たな制度の在り方を検討します。ここに見える年金政策では、既存の制度内で負担と給付のバランスを取るというよりは、給付の拡充とそれによる消費拡大のほうに重点を置いているようだ。その意味で、高市氏は社会保障制度改革も経済政策の一環として捉える思考がほかの候補と比べても極度に強い「経済バカ一代」のような印象である。林氏(山口3区)旧大蔵相・旧厚生相を務めた林 義郎氏の長男。祖父・高祖父も衆院議員歴がある政治一家育ち。東大法学部卒業後、三井物産、サンデン交通(林家のファミリー企業)、山口合同ガスを経てハーバード大学ケネディ・スクールに入学、米・下院議員のスタッフや米・上院議員のアシスタントを経験した。父・義郎氏の大蔵相就任に伴い大学院を休学して帰国し、大臣秘書官を務めた(後に復学、修了した)。1995年の参院選で自民党公認として山口県選挙区で初当選し、同選挙区で連続5回当選。2021年の衆院選で鞍替えして当選。衆院議員としてはまだ1期目である。特設サイトでは「人にやさしい政治。」のキャッチフレーズの下で3つの安心を掲げる。このうちの1つ「底上げによる格差是正と、生活環境の改善・地域活性化を通じた、少子化対策」として「医療・介護DXの推進や医療・介護・福祉人材の処遇改善、医薬品の安定供給、医師の偏在是正、大学病院の派遣機能強化、歯科保健医療提供体制の構築、看護師確保対策などを推進します」と謳っている。概ねほかの候補と共通する政策だが、石破氏と同じく数少ない医薬品安定供給を掲げているほか、林氏の政策にのみ見られるのが「大学病院の派遣機能強化」である。もっとも後者に関して、そのためにどのようにするのかはわからない。また、日本記者クラブでの討論会では、林氏が出馬表明時にマイナ保険証に関して「皆さん納得の上でスムーズに移行してもらうための必要な検討をしたい」と述べたことの意味を問われた。以下は林氏の回答の要約である。林氏廃止という言葉でお伝えをしていたが、実際は新しい切り替えがなくなるということ。紙の保険証は12月3日以降、次の期限までは使え、その期限後は希望すれば資格確認書が発行される。聞くところによると、(資格確認証は)今の保険証とほぼ同じようなものであるとのことなので、私は廃止と言わずに新規発行がなくなることを丁寧に説明するだけで、かなりの不安は解消するのではないかと思っている。いや果たしてそうだろうか? デジタル慣れしていない高齢者などはそうかもしれないだろうが、若年者でマイナ保険証を躊躇する層は、これまでに明らかになったずさんな個人情報管理を問題視しているのが多数のように感じるのだが。この辺はやや危機感に欠けている印象は拭えない。茂木氏(栃木5区)東大経済学部卒業後、丸紅、読売新聞、マッキンゼー社を経て政界入りした茂木氏。政界入り前にはハーバード大学ケネディ行政大学院に留学し、行政学修士号も取得している。以前の立憲民主党代表選の時も触れたが、政界入りは政治改革を掲げた元熊本県知事の細川 護熙氏が立ち上げた日本新党を通じてであり、この時の当選同期が今回の立憲民主党代表に選出された元首相の野田 佳彦氏、野田氏と同代表選で決選投票を戦った枝野 幸男氏である(ほかに日本新党の当選同期は東京都知事の小池 百合子氏、名古屋市長の河村 たかし氏など)。日本新党が解党して新進党に合流した時に無所属となり、その後、自民党に入党して現在に至る。世間的には必ずしも知名度は高くないが、閣僚経験数は実は石破氏や高市氏よりも多い(もっともその多くは内閣府特命担当大臣ではあるが)。今回は「経済再生を、実行へ」をキャッチフレーズに掲げ、その下で6つの実行プランを掲げている。特設サイトを見ると、実行プラン3として「『人生100年時代』の社会保障改革 年齢ではなく経済力に応じた公平な負担へ」を謳っている。茂木氏の各実行プランは「何をする?」「具体的にどうする」の順で目指す政策の概念と具体的な施策を開示している点が特徴だ。実行プラン3の「何をする?」では、デジタル化で個々人の立場に応じた負担と給付へ。“余力のある人には払ってもらい、困難な人への負担軽減と支援拡大”。あらゆる世代が活躍し、生きがいを実感できる社会へ」とし、「具体的にどうする」では以下の3項目を列挙している。社会保障分野にデジタルを完全導入。“標準世帯”から“個々人のデータ”に基づく、負担と給付へ(標準報酬月額の上限も見直し)。在職老齢年金制度の見直しによる中高年層の労働意欲向上。給付手段の簡素化(スマホ搭載のマイナンバーカードにキャッシュレス決済機能を付与し、ここへの給付を可能に)。要はデジタル化で国民個々人の所得状況をガラス張りにし、そのデータを基に応分の負担を求めるということ。カッコ内でさらりと標準報酬月額上限の見直しに触れているが、前段で「余力のある人には払ってもらい」と書いている以上、上限見直しとは上限の引き下げ、すなわち高額所得者や高齢者を中心に保険料負担の引き上げを想定していると思われる。同時に年金の見直しの「中高年層の労働意欲向上」も聞こえを良くしただけで、素直に解釈すれば、給付開始年齢の引き上げや給付水準の引き下げで“労働意欲を持たざるを得ない”状況にするということではないだろうか?いずれにせよある程度“物は言い様”は確かだが、総理総裁を目指そうとするならば、それなりに意図していること臆せず表現する度胸も必要だと思うのだが…。さてさて9候補も紹介するとなると、なかなか骨が折れる。現時点での各社報道によると、上位3人は石破氏、小泉氏、高市氏だという。いずれにせよこの記事公開後、半日も経たずに日本の首相が決まることになる。

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定年後の人生、いろいろ【Dr. 中島の 新・徒然草】(548)

五百四十八の段 定年後の人生、いろいろ「暑さ寒さも彼岸まで」とはよく言ったもので、大阪では本当に秋分の日から涼しくなりました。もはやエアコンも不要で、夜なんかは寒いくらいです。ついに灼熱の夏が終わったという感じですね。さて、今回は医学部のクラス会の話。前回行われたのが2019年、コロナ直前でした。半年後に新型コロナという大変な災厄が降りかかってくるとは、誰一人想像していなかったあの夏から5年。1984年卒業のわれわれは、実にクラスの約3分の1が集合しました。最初は黙祷から始まります。合計7人の級友たちの名前が読み上げられ、黙祷を行いました。医学部を卒業して早や40年、われわれの多くは定年前後ですが、学士入学の人だと70代も珍しくありません。宴会の合間に、1人ずつ前に立って1分間スピーチをしましたが、それぞれに興味深いものがありました。まずは今でも現役バリバリの人。「もう70歳になりますが、ウン十億円の借金を背負って病院経営をしており、年間1,600件の手術のうちの400件は自分でやっています」「新薬を開発して動物実験もうまくいったので、ヒトを対象にした治験を目論んでいます」「すごい!」の一言ですね。一方、もう余生だという人もいます。「定年退職した後、亡くなった両親の家の中を片付けたり、庭の手入れをしたりする毎日です」「ぼちぼちクリニックを終わりにして、8人の孫の成長を見守る生活を送りたいと思っています」開業した人たちは「もう疲れた」と言っている人が多かった印象がありました。また、「今が一番!」という人も。「去年から勤め始めた病院には片道30分の自転車通勤をしていて、若い時より健康になりました」「定年退職して今年の4月から別の病院ですが、仕事量は半分で給料は1.5倍になりました。皆に大切にしてもらっている今が一番幸せです」健康とか幸せとか、素晴らしいですね。変わったところでは……「学生時代にやっていた合気道の稽古を再開しました」「大学を退官したら、地域の子供たちに生物学を教える予定です」「地下アイドルの推し活をしています。サイリウムを振りながら声を出すのは健康にもいいですよ」ちなみにサイリウムというのは光る棒のことで、YouTubeで「ヲタ芸」を検索すれば一目でわかる動画が大量に出てきます。ということで、それぞれの第2の人生。とくに定年前後の読者の皆さまの参考になるかと思って、紹介させていただきました。最後に1句夏過ぎて 振り返りたる 40年

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第115回 レプリコンワクチンの誹謗中傷、許されるのか?

炎上する「レプリコンワクチン」10月から始まる新型コロナワクチン接種。その中でも注目を集めているのが、Meiji Seika ファルマが開発した次世代mRNAワクチン、通称「レプリコンワクチン」です。しかし、このワクチンを巡り、SNSではさまざまな議論が巻き起こっています。立場を明確にしておきますが、エビデンスもしっかりそろえたうえで承認となっているので、個人的には懸念していません。気になる点があるとすれば、このワクチンは1瓶で16人分の設定になっているため、個人接種よりも集団接種に向いている仕様だということです。さて、「レプリコン」というなじみのない名前が原因なのか、SNSではフルボッコで叩かれているように思います。思い出してみてください、メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンが登場したときも、RNAという言葉に対して「遺伝子が改変されるのでは?」といった誤解や不安が広がったことがありました。この手の不安や誤解に敏感な人たちが、コロナ禍を通して浮かび上がってきました。私がかつて尊敬していた医師でさえも、いつの間にか反ワクチン派に転じ、「ワクチン後遺症にイベルメクチンを」という主張を繰り返すようになりました。また、大学時代の恩師も、今年に入ってから「ワクチンはむしろ薬害だ」という発言をするようになり、驚きを隠せません。とくに懸念すべきは、こうした陰謀論を広めるのがただのSNSインフルエンサーではなく、政治家もその一部にいるということです。彼らはワクチンの仕組みを十分に理解していなくても、人々に納得感を与える発信力を持っています。販売元への誹謗中傷レプリコンとは「自己増幅能」と言う意味です。細胞内でRNAが増殖するため、少量投与によって新型コロナの免疫が引き出されるという仕組みです。タンパクを作り出すのであって、ウイルスそのものが増殖するわけではありません。そもそも、これを言い出すと、じゃあ生ワクチンはどうなるんだということになりますので…。いずれにしても生ワクチンとはまったく異なるもので、従来のmRNAワクチンよりも少ない成分量で高い中和抗体価を維持できる次世代型のmRNAワクチンと言えます。注射部位のmRNAは投与してから8日以降で急速に低下することから、安全性にはほとんど問題ないとされています。レプリコンワクチンによってウイルスが体外に放出されることに反対するコメントを出している団体もありますが、医学的にはワクチンを接種したことで他者に何か影響が起こるということは、起こりません。Meiji Seika ファルマも明確にこの現象を否定しています。「もう薬害」「周囲へ感染を広げる兵器」「原爆と同じ人を殺すもの」といった販売元に対する度が過ぎた誹謗中傷は、個人的には訴訟されるリスクを天秤にかけたほうがよいのでは…とも感じます。

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高齢NSTEMI患者に、侵襲的治療は有益か/NEJM

 非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)の高齢患者では、保存的治療と比較して侵襲的治療は、心血管死または非致死的心筋梗塞の複合のリスクを改善しないことが、英国・ニューカッスル大学のVijay Kunadian氏らBritish Heart Foundation SENIOR-RITA Trial Team and Investigatorsが実施した「SENIOR-RITA試験」で示された。研究の詳細は、NEJM誌オンライン版2024年9月1日号で報告された。約3分の1がフレイルのNSTEMI患者集団で侵襲的治療の有用性を評価 SENIOR-RITA試験は、高齢NSTEMI患者における侵襲的治療の有用性の評価を目的とする非盲検無作為化対照比較試験であり、2016年11月~2023年3月にイングランドとスコットランドの48施設で参加者のスクリーニングを行った(英国心臓財団[BHF]の助成を受けた)。 年齢75歳以上のNSTEMI患者1,518例(平均年齢82歳、女性44.7%、フレイル32.4%、認知機能障害62.5%)を登録し、侵襲的治療戦略を受ける群に753例、保存的治療戦略を受ける群に765例を割り付けた。侵襲的治療群は、冠動脈造影と血行再建術を施行し、有効性が最も高いと考えられる薬物療法を行った。保存的治療群は薬物療法のみを行った。 主要アウトカムは、心血管系の原因による死亡と非致死的心筋梗塞の複合とし、time-to-event解析で評価した。心筋梗塞は少ないが主要アウトカムに差はない 追跡期間中央値4.1年の時点で、主要アウトカムのイベントは、侵襲的治療群で193例(25.6%)に、保存的治療群では201例(26.3%)に発生し、両群間に有意な差を認めなかった(ハザード比[HR]:0.94、95%信頼区間[CI]:0.77~1.14、p=0.53)。 心血管系の原因による死亡は、侵襲的治療群で119例(15.8%)、保存的治療群では109例(14.2%)に発生し(HR:1.11、95%CI:0.86~1.44)、非致死的心筋梗塞はそれぞれ88例(11.7%)および115例(15.0%)に発生した(0.75、0.57~0.99)。手技に関連した合併症は1%未満 副次アウトカムである全死因死亡と非致死的心筋梗塞の複合は、侵襲的治療群で319例(42.4%)、保存的治療群で321例(42.0%)に発生し(HR:0.97、95%CI:0.83~1.13)、致死的または非致死的心筋梗塞はそれぞれ100例(13.3%)および124例(16.2%)に発生した(0.79、0.61~1.02)。 また、一過性脳虚血発作は、侵襲的治療群で18例(2.4%)、保存的治療群で9例(1.2%)に発生し(HR:2.05、95%CI:0.92~4.56)、出血イベント(BARCタイプ2以上)はそれぞれ62例(8.2%)および49例(6.4%)に発生した(1.28、0.88~1.86)。侵襲的治療群では、手技に関連した合併症の発生率は1%未満だった。 著者は、「臨床医は、出血や手技関連合併症への懸念からフレイルの高齢者に侵襲的な処置を行うことに消極的だが、本研究では最新の血管造影とインターベンション戦略を用いたためこれらの合併症の発生は最小限であった」とし、研究の限界として「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行は、とくに併存疾患の負担が大きいフレイルの高齢患者の募集に影響を及ぼし、予定されていた症例数に達しなかった」と述べている。

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第233回 コロナワクチンとがん免疫治療患者の生存改善が関連/ESMO2024

コロナワクチンとがん免疫治療患者の生存改善が関連/ESMO2024がん患者は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を生じ易いことが知られます。幸い、がん患者の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチン接種の安全性はおおむね良好です。いまや可能な限り必要とされるがん患者のSARS-CoV-2ワクチン接種が、その本来のCOVID-19予防効果に加えて、なんとがん治療の効果向上という思わぬ恩恵ももたらしうることが、今月13~17日にスペインのバルセロナで開催された欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2024)での報告で示唆されました1)。報告したのは米国屈指のがん研究所であるテキサス大学MDアンダーソンがんセンターのAdam J. Grippin氏です。Grippin氏らは今回の報告に先立ち、mRNAワクチンがその標的抗原はどうあれ、腫瘍のPD-L1発現を増やして抗PD-L1薬などの免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の効果を高めうることを、げっ歯類での検討で見出していました。そこでGrippin氏らはCOVID-19予防mRNAワクチンがPD-L1発現を促すことでICIが腫瘍により付け入りやすくなるのではないかと考え、StageIII/IVの進行非小細胞肺がん(NSCLC)患者2,406例や転移黒色腫患者757例などの記録を使ってその仮説を検証しました。予想どおり、SARS-CoV-2 mRNAワクチン接種から100日以内のNSCLC患者の腫瘍では、PD-L1がより発現していました。また、5千例強(5,524例)の病理報告の検討でもSARS-CoV-2 mRNAワクチン接種とPD-L1を擁する腫瘍細胞の割合の55%上昇が関連しました。SARS-CoV-2 mRNAワクチンとICI治療効果の関連も予想どおりの結果となりました。ICIが投与されたNSCLC患者群のうち、その開始100日以内にSARS-CoV-2 mRNAワクチンを接種していた患者は、そうでない患者に比べて全生存期間(OS)がより長く(それぞれ1,120日と558日)、より多くが3年間を生きて迎えることができました(3年OS率はそれぞれ57.2%と30.7%)。一方、ICI非治療の患者の生存へのSARS-COV-2 mRNAワクチン接種の影響はありませんでした。黒色腫患者でも同様の結果が得られており、ICI治療開始100日以内のSARS-COV-2 mRNAワクチン接種はOS、無転移生存期間、無増悪生存期間の改善と関連しました。SARS-COV-2 mRNAワクチンはPD-L1発現亢進と黒色腫やNSCLC患者のICI治療後の生存改善と関連したとGrippin氏らは結論しています。Grippin氏らの研究はmRNAワクチンに的を絞ったものですが、昨年9月に中国のチームが報告した解析結果では、mRNA以外のSARS-CoV-2ワクチン接種とICI治療を受けたNSCLC患者の生存改善の関連が認められています2)。不活化ワクチン2種(BBIBP-CorVとCoronaVac)を主とするSARS-CoV-2ワクチンを接種してICI治療を受けたNSCLC患者は非接種群に比べてより長生きしました。中国からの別の2つの報告でもmRNA以外のSARS-CoV-2ワクチンのICIの効果を高める作用が示唆されています。それらの1つでは抗PD-1抗体camrelizumab治療患者2,048人が検討され、BBIBP-CorV接種と全奏効率(ORR)や病勢コントロール率(DCR)が高いことが関連しました3)。ただし年齢、性別、がんの病期や種類、合併症、全身状態指標(ECOG)を一致させたBBIBP-CorV接種群530例と非接種群530例のORRやDCRの比較では有意差はありませんでした。同じ研究者らによる翌年の別の報告では、抗PD-1薬で治療された上咽頭がん患者1,537例が調べられ、CoronaVac接種とORRやDCRの向上が関連しました4)。参考1)Association of SARS-COV-2 mRNA vaccines with tumor PD-L1 expression and clinical responses to immune checkpoint blockade / ESMO Congress 20242)Qian Y, et al. Infect Agent Cancer. 2023;18:50.3)Mei Q, et al. J Immunother Cancer. 2022;10:e004157.4)Hua YJ, et al. Ann Oncol. 2023;34:121-123.

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体重増加による血管への悪影響、年齢で異なる

 歳とともに体重が増えることによる血管への悪影響は60歳未満で顕著であり、60歳を超えると有意なリスク因子でなくなる可能性を示唆するデータが報告された。名古屋大学大学院医学系研究科産婦人科の田野翔氏、小谷友美氏らの研究結果であり、詳細は「Preventive Medicine Reports」7月号に掲載された。 BMIで評価される体重の増加が、動脈硬化性疾患のリスク因子であることは広く知られている。しかし、体重増加の影響力は人によって異なり、体重管理により大きなメリットを得られる集団の特徴は明らかでない。田野氏らは、動脈硬化の指標である心臓足首血管指数(CAVI)とBMIの変化との関連を検討することで、体重増加の影響が大きい集団の特定を試みた。 この研究は、愛知県で複数の医療施設を運営しているセントラルクリニックグループでの企業健診受診者データを用いて行われた。2015年から2019年(新型コロナウイルス感染症パンデミックにより人々のBMIなどに変化が生じる前)に年間BMI変化量を評価でき、かつ2019年にCAVIが測定されていた459人(男性71.9%)を解析対象とした。 459人中53人(11.5%)が、2019年時点のCAVIが9以上であり、動脈硬化の進展が疑われた。CAVI9以上/未満で比較すると、9以上の群は高齢で男性が多く、高血圧、脂質異常症、糖尿病などの動脈硬化リスク因子の保有率が高いという有意差が認められた。一方、BMIは2015年と2019年のいずれの時点でも有意差がなかった。ランダムフォレストモデルという統計学的手法により、CAVIが9以上であることに寄与する因子として、年齢が最も重要であり(重要度を表す値が17.09)、次いで脂質異常(総コレステロールが同7.86、HDL-コレステロールは7.04)で、その次が体重(現在〔2019年時点〕のBMIが6.09、年間BMI変化量が5.98)であることが分かった。 次に、交絡因子(年齢、性別、現在のBMI、年間BMI変化量、血圧、糖・脂質代謝指標など)の影響を調整し、2019年時点のCAVIと関連のある因子を重回帰分析で検討すると、独立した正の関連因子として、年齢と中性脂肪とともに、年間BMI変化量(β=0.09)が抽出された。反対に、独立した負の関連因子として、性別が女性であることと、現在のBMI(β=-0.34)が抽出された。 続いて年齢60歳未満/以上で層別化した上で、CAVI9以上に関連する因子を検討した。その結果、60歳未満の群では、年齢(調整オッズ比〔aOR〕1.32〔95%信頼区間1.15~1.52〕)以外では、年間BMI変化量(aOR11.98〔同1.13~126.27〕)のみが有意な関連因子として抽出された。性別や血清脂質および現在のBMIとの関連は有意でなかった。一方、60歳以上の群における有意な関連因子は年齢(aOR1.44〔同1.17~1.76〕)のみであり、現在のBMIや年間BMI変化量を含むその他の因子は独立した関連が示されなかった。なお、60歳以上における年齢の影響を性別に比較した場合、有意水準に至らないものの、女性の方がより大きな影響を及ぼしていた。 著者らは本研究で明らかになった主なポイントとして、第一にCAVIに最も影響を及ぼす因子は年齢であること、第二に年間BMI変化量はCAVIと正の関連があった一方で現在のBMIは負の関連があること、第三に60歳未満では年間BMI変化量がCAVI9以上の関連因子であるが60歳以上ではそうでないことを挙げている。中でも60歳未満で年間BMI変化量がCAVI高値の独立した関連因子であるという点は、肥満と動脈硬化進展に関する新たな知見だとしている。現在のBMIとCAVIとの関連が負であることについては、肥満が健康リスク因子であるにもかかわらず、生命予後に対して保護的に働くという、いわゆる「肥満パラドックス」を表しているのではないかと考察されている。 なお、本研究は観察研究のため、介入によって体重管理を行った場合にCAVI上昇が抑制されるかは不明なことなどが、解釈上の注意点として付記されている。

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第114回 10月からの新型コロナワクチンの値段がヤバイ

10月から定期接種次の新型コロナワクチンの案内はいつ来るのかと待ちわびていたら、秋冬のインフルエンザワクチン接種と時期を合わせるかのように定期接種が開始されることになりました。「2,000~3,000円なら余裕で打つっしょ!」と思っていたら、われわれ非高齢者の医療従事者の自己負担額は…1万5,300円!!!グハッ!鉄板焼の高級店のカウンターで、神戸牛フィレ肉をカットしてもらうくらい高いでんがな!もともと新型コロナワクチンというのは、1回接種すると原価で1万5,300円かかるのです。そもそもが高い。65歳以上の高齢者や、60~64歳の重度の疾患がある場合には定期接種が適用され、安い値段で接種できるような仕組みになっています。この負担軽減は、国と自治体の両方が頑張ってくれていて、渋谷区や足立区のように、高齢者の場合は無料で接種できるところもあるようです。問題はわれわれ任意接種世代です。過去には医療従事者にも新型コロナワクチンの接種費用が減免された時代もありましたが、今やもう一般の方々と同じ扱いです。当院のスタッフに聞いたところ、打たない人のほうが多かったです。子供についても、何らかの助成があってしかるべきと思いますが、今のところ自治体に委ねられているようです。ワクチン流通量は?これまで圧倒的なシェアを得ていたmRNAワクチンが流通量のほとんどを占め1)、おそらく主にこれが選択されるでしょう(表)。SNSで炎上気味のレプリコンワクチンについては400万回程度の流通です。画像を拡大する表. 10月以降流通する新型コロナワクチン(筆者作成)レプリコンワクチンについては、mRNAを自己複製できるという意味ですが、この言葉が独り歩きして、周囲にシェディングをもたらすなどというデマが広まっているようです。生物学の知識があれば、誤ったことであることは読者の皆さんもおわかりかと思いますが…。レプリコンワクチンは、1本16人分なので、集団接種とかそういうことになったら使いやすいかもしれませんが、クリニックや医療機関では外来用に使いづらいかもしれません。外来で聞かれることが増えた最近外来で、「10月以降、新型コロナワクチンを接種すべきかどうか」という質問を患者さんからよくいただきます。個人的には、「これまでインフルエンザワクチンを接種していたなら検討いただく形でよい」と返しています。ただ、この値段だと、全員に強くお勧めするとは簡単に言えなくなりました。最近だと、帯状疱疹ワクチンもそれなりに高いですが、今後ワクチンの原価は上がってくる時代なのかもしれません。参考文献・参考サイト1)厚生労働省 健康・生活衛生局 感染症対策部 予防接種課. 2024/25シーズンの季節性インフルエンザワクチン及び新型コロナワクチンの供給等について(2024年9月2日)

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新たな抗PACAPモノクローナル抗体、片頭痛予防に有効か/NEJM

 片頭痛の新たな治療手段として、下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド(PACAP)を標的とするアプローチの開発が進められている。デンマーク・コペンハーゲン大学のMessoud Ashina氏らは「HOPE試験」において、プラセボと比較してLu AG09222(PACAPリガンドに対するヒト化モノクローナル抗体)の単回投与は、4週間後の片頭痛の頻度を有意に減少させたことから、PACAPシグナル伝達の阻害は片頭痛の新たな予防的治療戦略となる可能性があることを示した。研究の成果は、NEJM誌2024年9月5日号に掲載された欧州と北米の無作為化プラセボ対照第IIa相試験 本研究は、片頭痛の予防におけるLu AG09222の有効性と安全性の評価を目的に、欧州と北米の25施設で概念実証試験として実施した二重盲検無作為化プラセボ対照第IIa相試験(投与期間4週間、追跡期間8週間)である(H. Lundbeckの助成を受けた)。 年齢18~65歳、前兆のない片頭痛、前兆のある片頭痛または慢性片頭痛と診断され、発症時期が50歳以下で、過去10年間に2~4つの予防的治療を受けたが効果が得られなかった患者を対象とした。 被験者を、ベースラインでLu AG09222 750mg、同100mg、プラセボを単回静注投与する群に、2対1対2の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、1~4週目における1ヵ月当たりの片頭痛日数のベースラインからの平均変化量であり、Lu AG09222 750 mg群とプラセボ群で比較した。750mg群で6.2日減少、プラセボ群より2.0日少ない 237例(平均年齢42.5歳[範囲19~65]、女性208例[88%]、白人237例[100%])を登録した。Lu AG09222 750mg群に97例、同100mg群に46例、プラセボ群に94例を割り付けた。 ベースラインの1ヵ月当たりの平均日数は、頭痛が17.4日、片頭痛が16.7日であり、1ヵ月当たりの頭痛または片頭痛の治療薬を使用した平均日数は13.1日であった。 片頭痛日数のベースラインから1~4週目の平均変化量は、プラセボ群が-4.2日であったのに対し、Lu AG09222 750mg群は-6.2日と有意に減少した(群間差:-2.0日、95%信頼区間[CI]:-3.8~-0.3、p=0.02)。 1ヵ月当たりの片頭痛の平均日数がベースラインから50%以上減少した患者の割合は、Lu AG09222 750mg群が32%、プラセボ群は27%であった。また、1ヵ月当たりの頭痛日数のベースラインから1~4週目の平均変化量は、Lu AG09222 750mg群が-5.8日、プラセボ群は-4.1日だった(群間差:-1.7日、95%CI:-3.5~0.0)。有害事象はプラセボ群に比べて多い 12週間における有害事象の件数(78件vs.45件)と1件以上発現した患者の割合(42% vs.32%)は、プラセボ群に比べLu AG09222 750mg群で多かった。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)(7% vs.3%)、鼻咽頭炎(7% vs.4%)、疲労(5% vs.1%)の頻度が高かった。 重篤な有害事象は、Lu AG09222 750mg群で1件発現したが、担当医により試験薬との関連はないと判定された。有害事象のために参加を取りやめたり、Lu AG09222の静注投与を中断することはなかった。 著者は、「これらの知見は、Lu AG09222によるPACAPシグナル伝達の阻害が、片頭痛の予防のための新しい、潜在的に有効なメカニズムであることを示しており、概念実証を確証するものである」としている。

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