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第233回 コロナ罹患後症状の診療手引きがアップデート-支援制度を明記/厚労省

<先週の動き>1.コロナ罹患後症状の診療手引きがアップデート-支援制度を明記/厚労省2.高額療養費の引き上げを凍結、参院選への影響か-与党内にも異論噴出/政府3.2026年度診療報酬改定、医療機関の経営危機対応が最優先課題/三保連4.自治医大卒業生が修学資金返還を巡り提訴、「契約は憲法違反」と主張/自治医大5.吉祥寺南病院、事業継承が決定 救急・災害医療の機能維持へ/東京都6.殺人隠蔽のみちのく記念病院、元院長ら2人を起訴/青森県1.コロナ罹患後症状の診療手引きがアップデート-支援制度を明記/厚労省厚生労働省は2025年2月26日、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 別冊 罹患後症状のマネジメント 第3.1版」を公開した。前回の改訂から1年4ヵ月ぶりで、各章の要点をまとめた「Point」を追加し、罹患後症状が続く場合に利用できる支援制度の解説や患者向け説明資料を付録として掲載した。改訂では、罹患後症状の疫学に関する最新知見が追加され、大阪府八尾市の調査結果を基に、感染者の罹患後症状の割合が3ヵ月後の14.3%から18ヵ月後には5.4%に低下する傾向が示された。また、罹患後症状ごとの診療アプローチを整理し、プライマリ・ケアの対応や専門医への紹介基準などを明確化した。さらに、労災保険や障害年金、自立支援医療制度など、患者が利用できる支援制度を詳述し、厚労省は2月27日に関連Q&Aも改訂した。今回の改訂により、医療従事者の診療支援強化と患者への適切な情報提供が期待されている。参考1)新型コロナウイルス感染症COVID-19 診療の手引き 別冊 罹患後症状のマネジメント 第3.1版(厚労省)2)新型コロナウイルス感染症の罹患後症状(いわゆる後遺症)に関するQ&A(同)3)罹患後症状が続く場合に活用できる支援制度を追記「コロナ罹患後症状のマネジメント」が1年4ヵ月ぶりに改訂(日経メディカル)4)新型コロナウイルス感染症に係る罹患後症状 (いわゆる後遺症)実態把握調査結果について(愛知県)2.高額療養費の引き上げを凍結、参院選への影響か-与党内にも異論噴出/政府政府は3月7日、今年8月に予定していた高額療養費制度の自己負担上限額の引き上げを見送ることを決定した。患者団体の強い反発に加え、与野党からの批判が高まり、夏の参院選への影響を懸念する声が強まったことが背景にある。当初、政府は医療費の増大に対応するため、2025年8月~2027年8月にかけて3段階で負担上限を引き上げる方針だった。しかし、患者団体から「治療を続けられなくなる」との訴えが相次ぎ、政府は2月末に2026年以降の引き上げを再検討すると発表した。それでも批判は収まらず、与党内でも選挙への悪影響を懸念する声が拡大。公明党や自民党の参議院議員が見直しを求め、政府は最終的に引き上げそのものを見送る判断を下した。石破 茂首相は7日夜、患者団体と面会し、「8月の改定を含め、全体の見直しを見合わせる。秋までに改めて方針を検討する」と述べた。患者団体の代表は「われわれの声が一定程度届いた」と評価する一方で、再検討の期間が短く、当事者の意見が十分反映されるか懸念を示した。政府がこの制度の見直しを進めた背景には、医療費の増加と社会保障費の持続可能性確保の問題がある。高額な医薬品の普及により高額療養費の支給額は増加傾向にあり、政府は負担区分の細分化や負担上限の引き上げによって、財政の健全化を図る考えだった。しかし、拙速な決定プロセスが批判を招き、結果的に3度目の方針転換を余儀なくされた。今後の焦点としては、秋までに政府がどのような新方針を打ち出すかにある。代替財源の確保や制度の持続可能性を維持しつつ、患者の負担を最小限に抑える方策が求められる。また、予算案の再修正が必要となるため、国会での審議にも影響が及ぶ見通しだ。参考1)石破首相、高額療養費上げ見送り=今秋までに新方針検討-25年度予算案再修正へ(時事通信)2)高額療養費制度 負担上限額 ことし8月の引き上げ見送りへ 政府(NHK)3)高額療養費の負担引き上げ見送り、参院選への影響考慮…新年度予算案は衆院で再議決の異例の展開へ(読売新聞)4)高額療養費上げ見送り、拙速議論のツケ 医療改革に逆風(日経新聞)5)高額療養費の負担増見送り表明、石破首相 秋までに改めて方針を検討・決定へ(CB news)3.2026年度診療報酬改定、医療機関の経営危機対応が最優先課題/三保連3月6日に開催された三保連合同シンポジウムで、2026年度の診療報酬改定において、病院の経営危機への対応が最優先課題であるとの声が相次いだ。内科系学会社会保険連合(内保連)の小林 弘祐理事長は「病院が赤字で潰れてしまえば、良い医療を提供することもできない」と強調し、医療従事者の人件費高騰や医療材料のコスト増加が経営を圧迫している現状を指摘した。政府が25年度予算案で社会保険料の負担軽減を目的に医療費削減を打ち出したことについて、関係者からは強い警戒感が示された。外科系学会社会保険委員会連合(外保連)の瀬戸 泰之会長も「医療機関が経営危機にあるのは間違いない」と述べ、診療報酬の適切な引き上げを求めた。看護分野では、看護系学会等社会保険連合(看保連)が専門性の高い看護師を手術室や救急外来に配置することへの評価を求める方針を示し、具体的な提案を月内に厚生労働省へ提出する予定だ。また、がん患者への妊孕性相談指導の評価など、看護ケアの質向上に向けた要望も出された。外科分野では、外保連の渡邊 雅之実務委員長が、ロボット支援手術の評価向上や整形外科の手術コード(Kコード)の精緻化を求める方針を示した。現行の評価では、ロボット支援手術は従来の手術法に比べて収益が低く、医療機関の負担が大きいことが問題視されている。また、物価高騰や人件費増加が病院経営に大きな影響を与えており、診療報酬の総枠拡大が不可欠とされた。全国医学部長病院長会議の相良 博典会長は、高額医療機器の更新が困難になっている現状を指摘し、「医療の質を維持するためには診療報酬の適切な引き上げが必要」と述べた。今後、三保連は診療報酬改定に向けた提言をまとめ、政府への働きかけを強める方針だ。医療機関の経営基盤を強化し、持続可能な医療提供体制を確保するため、適切な診療報酬改定が求められる。参考1)令和8年度診療報酬改定に期待するもの 三保連の重点要求項目(三保連)2)経営危機への対応を最優先に、学会から指摘相次ぐ 三保連シンポで(CB news)3)2026年度診療報酬改定で医療技術の適切な評価・点数引き上げを行い、病院経営の持続性を確保せよ-内保連・外保連・看保連(Gem Med)4.自治医大卒業生が修学資金返還を巡り提訴、「契約は憲法違反」と主張/自治医大自治医科大学を卒業した医師が、同大学の修学資金貸与制度の違法性を主張し、自治医大と愛知県を相手取り訴訟を提起した。訴えの内容は、修学資金の返還義務の不存在確認と国家賠償請求である。自治医大の修学資金貸与制度は、医師不足地域の医療確保を目的とし、学生に修学資金を貸与し、卒業後に指定された公立病院などで一定期間勤務することで返還が免除される仕組み。しかし、途中で指定病院を辞職した場合、修学資金と損害金を一括返済する義務が発生する。原告の医師は、大学在学中に約2,660万円を貸与されたが、家庭の事情により指定勤務先を退職しようとした。しかし、自治医大や愛知県は退職を認めず、最終的に一方的に退職を迫られたと主張。その後、大学側から修学資金と損害金の一括返済を求められたため、契約条項の憲法違反や労働基準法違反を理由に訴訟を起こしたもの。代理人の弁護士は「指定勤務を強制することは憲法が保障する居住・移転の自由に反する可能性がある」と指摘し、修学資金返還義務の法的根拠の正当性を問うている。一方、自治医大は公式声明で「本学の修学資金制度は、地域医療を確保するために合理的かつ重要な制度であり、関係法令にも適合している」と反論。これまで原告に対し返還請求の説明を行ってきたとした上で、訴訟の提起を「遺憾である」と表明し、法廷で制度の正当性を主張していく方針を示している。今回の訴訟は、地域医療を担う医師確保の必要性と、医師のキャリア選択の自由とのバランスが問われる問題として、今後の医療政策にも影響を与える可能性がある。参考1)本学卒業生からの訴訟提起に関する本学の見解(自治医大)2)「無知な受験生を囲い込む、悪魔のような制度」自治医大の修学金貸与制度巡り卒業生の医師が提訴(弁護士JPニュース)3)Dr.NKMR〈自治医大卒医師/弁護士志望の法科大学院生/アンチ地域枠制度〉@自治医大・愛知県を提訴5.吉祥寺南病院、事業継承が決定 救急・災害医療の機能維持へ/東京東京都武蔵野市の吉祥寺南病院は老朽化と建設費高騰のため2024年9月に診療を休止していたが、社会医療法人社団・東京巨樹の会が事業を継承することが決定した。東京巨樹の会は関東や九州で病院を運営するカマチグループに属し、今後、既存の建物を取り壊し、新たな病院を建設する予定。新病院は、これまでの二次救急医療機関や災害拠点連携病院としての役割を引き継ぎ、病床数も増やす方針だが、開院時期は未定。吉祥寺エリアでは過去10年間で病院の閉鎖が相次ぎ、救急病床が大幅に減少していたため、地域住民の不安が高まっていた。小美濃 安弘市長は「地域医療の再建に向け、市としても支援を行う」と述べ、事業継承を歓迎した。市民からも「医療機関の減少は困る」「存続が決まり安心した」との声が上がっている。東京巨樹の会は「地域とともに、救急や災害対応に強い病院を作りたい」とし、早期の診療再開を目指している。参考1)“存続危機”の吉祥寺南病院、事業後継者が決定 診察再開時期は未定(TOKYO MX)2)吉祥寺南病院 品川の法人が事業継承 二次救急機能も受け継ぐ(東京新聞)3)休止の東京・吉祥寺南病院、東京巨樹の会へ事業承継(日経新聞)6.殺人隠蔽のみちのく記念病院、元院長ら2人を起訴/青森県青森県八戸市の「みちのく記念病院」で発生した患者間の殺人事件について、青森地検は7日、当時の院長・石山 隆被告(61)と主治医である弟の哲被告(60)を犯人隠避罪で起訴した。両被告は、2023年3月、入院患者の男性(73)が別の患者に殺害されたことを知りながら警察に通報せず、虚偽の死亡診断書を作成し、事件を隠蔽したとされる。死亡診断書の名義人となった医師は認知症を患い、実際には意思疎通が困難な状態であったことも明らかになった。青森県と八戸市は病院に対して立ち入り検査を実施し、医師の勤務実態と記録の不一致、病室の定員超過、許可を得ない設備変更などの問題を確認した。7日には病院に対し改善勧告を行い、勤務証明書類の提出や病床数の適正化を求めた。また、専門家は精神科病棟の特性として外部のチェックが入りにくいことを指摘し、病院内での権力乱用が放置されていた可能性を示唆した。さらに、行政の監査が書類確認に止まり、実質的な医療の質の検証が行われていなかった問題点も浮かび上がった。この病院では、死亡診断書を専門に作成する「みとり医」と呼ばれる高齢医師を雇用し、適切な診療を行わないまま死亡診断書を発行していた疑いもある。警察の捜査では、この名義の診断書が200件以上確認され、その7割が「肺炎」とされていた。事件の背景には、医療機関の管理体制の不備や、社会的に「必要悪」として機能してきた病院の構造的問題がある。地域医療の維持と患者の人権保護の両立が求められる中、今後の行政の対応が注視されている。参考1)病院内殺人隠蔽事件 死亡診断書専門の高齢“みとり医”も(NHK)2)殺人隠蔽の「みちのく記念病院」元病院長らを起訴 青森県と市が改善勧告も(産経新聞)3)患者殺害隠蔽で虚偽診断書 病院元院長ら2人を犯人隠避罪で起訴(毎日新聞)

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事例019 外来感染対策向上加算の算定(続き)【斬らレセプト シーズン4】

解説前回の「事例18 外来感染対策向上加算の算定」に引き続いて、今回も同じテーマの追加事項を解説いたします。外来感染対策向上加算(以下「同加算」)にかかる「協定指定医療機関」の指定を受けているものと見做す経過措置は、2025年1月に終了しました。同加算を新規で届け出る場合には、医療機関所在地の都道府県知事による指定を受けてから、「様式1の4 外来感染対策向上加算に係る届出書添付書類」を届け出ることが必要となります。様式の5項目に対して、記載にかかる質問が多いことから現時点での具体的要件を紹介します。1項目目「院内感染管理者」は、専任であって週1回以上感染対策にかかる院内巡回を行う必要があります。年2回の感染対策にかかる院内研修も必要です。これらは書面で記録を残す必要があります。院長自らが就任されてもよいですが、雇用している看護師などの医療有資格者を選任することもできます。2項目目「抗菌薬適正使用のための方策」は、地域医師会において準備されている手引きに沿っての実践と、連携医療機関から助言を受けている内容の記載が必要です。3項目目「連携保険医療機関名又は地域の医師会」は、感染向上対策加算1の届出医療機関と直接に連携の了解を得て書面を交わすか、地域医師会に相談をお願いします。4項目目「発熱患者等への対応」は、車内待機や発熱患者を時間で分離するなどの対応が記入されていれば要件を満たすとされています。5項目目「新興感染症の発生・まん延時の対応」は、所在地の感染症対策課から指定を受けたことがホームページに掲載された以降にチェックを入れて届け出ることができます。そのほか、各項目と同時に提出する付随書類のひな型は地域医師会に準備されていますので地域医師会への問い合わせなどお願いします。

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第252回 定期接種が目前の帯状疱疹ワクチン、3つの悪条件とは

帯状疱疹という病気を知る人は、医療者に限らず神経痛でのたうち回るイメージを持つ人が多いだろう。周囲でこの病気を体験した人からはよく聞く話である。身近なところで言うと、私の父は今から10年ほど前に帯状疱疹の痛みがあまりにひどく、夜中に救急車で病院に運ばれたことがある。私自身は現在50代半ばだが、実は18歳という極めて若年期に帯状疱疹を経験している。当時はアシクロビル(商品名:ゾビラックスほか)さえなかった時代だ。ただ、私の場合は軽い痛みはあったものの騒ぐほどではなかった。おそらく非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を処方されたと思うのだが、それを服用するとその軽い痛みすらなくなった。受診した皮膚科の看護師からは「痛くない帯状疱疹、いいね」と謎のお褒めをいただいた。さて、帯状疱疹については1990年代以降、アシクロビルをはじめとする抗ウイルス薬や帯状疱疹の神経障害性疼痛治療薬のプレガバリン(商品名:リリカほか)などが徐々に登場し、薬物治療上は進歩を遂げている。加えて2020年には帯状疱疹専用の乾燥組換えタンパクワクチン・シングリックスが登場した。シングリックス登場以前は水痘の生ワクチンも帯状疱疹予防として使用されていたが、極端に免疫が低下しているケースなどには使えないので、この点でも進歩である。ちなみに新型コロナウイルスワクチンも含め21種類のワクチンを接種し、従来からワクチンマニアを自称する私は、2020年の発売後すぐにシングリックスの接種を終えている。それまで接種部位疼痛ぐらいしか副反応を経験していなかったが、シングリックスの1回目接種時は38℃を超える発熱を経験した。全身症状の副反応を経験した唯一のワクチンでもある。そして今春からはこの帯状疱疹ワクチンが定期接種化する。私自身はワクチンで防げる感染症は、積極的に接種を推進すべきとの考えであるため、これ自体も喜ばしいことである。だが、この帯状疱疹ワクチンの定期接種化がやや面倒なスキームであることはすでに多くの医療者がご存じかと思う。とにかく対応がややこしいB類疾病今回の帯状疱疹ワクチンの定期接種は、「個人の発症・重症化予防を前提に対象者内で希望者が接種する」という予防接種法に定めるB類疾病に位置付けられた。疾患特性上、この扱いは妥当と言えるだろう。季節性インフルエンザや肺炎球菌感染症などが該当するB類疾病はあくまで法的に接種の努力義務はなく、接種費用の一部公費負担はあるものの、接種希望者にも自己負担が生じる。まあ、これはこれで仕方がない。しかし、私見ながら国が定期接種と定めながら、市区町村による接種勧奨義務がないのはいただけない。自治体の対応は任意のため、地域によっては勧奨パンフレットなどを個々人に郵送しているケースもある。もちろんそこまではしていなくとも、個別配布される市区町村報などに接種のお知らせが掲載されている事例は多い。とはいえ、市区町村報は制作担当者の努力にもかかわらず、案外読まれないものである。集合住宅に居住する人ならば、郵便ポスト脇に設置されたポスティングチラシ廃棄用のゴミ箱に市区町村報が直行しているのを目にした経験はあるはずだ。しかも、今回の帯状疱疹ワクチンの定期接種スキームは、一般人はおろか医療者にとってもわかりにくい高齢者向け肺炎球菌ワクチンの接種スキームに酷似している。具体的には開始から5年間の経過措置を設け、2025年度に65歳となる人とそこから5歳刻みの年齢(70、75、80、85、90、95、100歳)の人が定期接種対象者になり、2025年度は特例として現時点で100歳以上の人はすべて対象者とする。今後、毎年この65歳とそこから5歳刻みの人が対象となるのだ。これ以外には60~64歳でヒト免疫不全ウイルス(HIV)による免疫機能障害があり、日常生活がほとんど不可能な人も対象である。この肺炎球菌ワクチンや帯状疱疹ワクチンの定期接種での対象者の5歳刻みは、私の知る限り医師からの評判はあまりよろしくない。「それだったら65歳以上の高齢者を一律接種可能にすべき」という声はたびたび聞くが、この措置はおそらくは公費負担分の予算確保の問題があるからとみられる。とりわけ今回の帯状疱疹ワクチンの場合の予算確保は、国や市区町村担当者にとってかなりの負担だろう。というのも、定期接種では水痘生ワクチンとシングリックスが使われる予定だが、前者は1回接種で全額自己負担の場合は約8,000円、後者は2ヵ月間隔の2回接種で計約4万円。後者は安めの居酒屋で何回たらふく飲み食いできるのだろうという価格である。すでに知られていることだが、今回の定期接種化決定以前に帯状疱疹ワクチンの接種に対して独自の助成を行っている自治体もあり、その多くは接種費用の5割助成、つまり自己負担割合は接種費用の5割である。今回の定期接種化で対象者の自己負担割合がどの程度になるかはまだ明らかになってはいないが、一説には接種費用の3割程度と言われている。この場合、より安価な接種が可能になるが、3割だとしてもシングリックスならば患者自己負担額は2回合計で約1万2,000円と決して安くはない。この(1)5歳刻みの複雑な接種スケジュール、(2)自治体の接種勧奨格差、(3)自己負担額、の3つの“悪”条件は、定期接種という決断を「絵に描いた餅」にしてしまう、いわゆる接種率が一向に高まらないとの懸念を大きくさせるものだ。実際、(1)~(3)がそのまま当てはまる肺炎球菌ワクチンの2019~21年の接種率は13.7~15.8%。この接種率の分母(推計対象人口)には、2019年以前の接種者を含んでいるため、現実の接種率よりは低い数字と言われているものの、結局、累積接種率は5割に満たないとの推計がある。接種率の低さゆえに2014年の定期接種化から設けられた5年間の経過措置は1度延長されたが、事実上対象者の接種率が5割に満たないまま、経過措置は今年度末で終了予定である。接種率向上がメーカーと現場の裁量に任されている?今回の帯状疱疹ワクチンをこの二の舞にしないためには、関係各方面の相当な努力が必要になる。接種率の貢献において一番期待されるのは現場の医師だが、かかりつけの患者であっても全員の年齢を正確に記憶しているわけではないだろうし、多忙な日常診療の中で、まるでA類疾病の自治体配布資料に当たるような説明に時間を割くのは容易ではないだろう。そんな中で先日、シングリックスの製造販売元であるグラクソ・スミスクライン(GSK)が帯状疱疹ワクチンに関するメディアセミナーを開催した。そこで質疑応答の際にこの懸念について、登壇した岩田 敏氏(熊本大学 特任教授/東京医科大学微生物学分野 兼任教授)、永井 英明氏(国立病院機構東京病院 感染症科部長)、國富 太郎氏(GSK執行役員・ガバメントアフェアーズ&マーケットアクセス本部 本部長)に尋ねてみた。各氏の回答の要旨は以下の通りだ。「われわれ、アカデミアが積極的に情報発信していくことと、かかりつけ医は専門性によってかなり温度差はあると思うが、やはりワクチンはかかりつけ医が勧めるのが一番有効と言われているので、そこの点をもう少し攻めていく必要があると思う」(岩田氏)「肺炎球菌ワクチンの場合は、啓発活動が十分ではなかったのかもしれない。肺炎球菌ワクチンではテレビCMなども流れていたが、やはり私たち医師や自治体がワクチンのことを知ってもらうツールを考えなければならない。その点で言うと私案だが、帯状疱疹ワクチンも含め高齢者に必要なワクチンの種類と接種スケジュールが記載された高齢者用ワクチン手帳のようなものを作成し、それを積極的に配布するぐらいのことをしないとなかなかこの状況(肺炎球菌ワクチンで現実となったB類疾病での低接種率)を打開でないのではないかと思っている」(永井氏)「疾患啓発、ワクチン啓発、予防の大切さを引き続きさまざまなメディアを使って情報発信を継続していきたい。一方、実施主体となる自治体も難しい内容をどう伝えたらよいか非常に苦慮し、限られた資材の中で住民にいかにわかりやすく伝えるかの相談を受けることも非常に多い。その場合に弊社が有するさまざまな資材を提供することもある」(國富氏)また、永井氏が講演の中で示した別の懸念がある。それは前述のように現時点では自治体が帯状疱疹ワクチンの接種に公費助成を行っているケースのこと。現在、その数は全国で700自治体を超える。そしてこの公費助成はワクチンの適応である50歳以上の場合がほとんどだ。ところが今回の定期接種化により、この公費助成をやめる自治体もある。となると、こうした自治体では今後50~64歳の人は完全自己負担の任意接種となるため、永井氏は「助成がなくなった年齢層の接種率は下がるのではないか?」と語る。もっともな指摘である。定期接種化により接種率が下がるというあべこべな現象がおきる可能性があるのだ。昨今は高額療養費制度の改正が大きな問題となっているが、たとえばその渦中で危惧の念を抱いているがん患者などは、抗がん剤治療などにより帯状疱疹を発症しやすいことはよく知られている。自治体の公費助成がなくなれば、該当する自治体で治療中の中年層のがん患者は、帯状疱疹ワクチンで身を守ろうとしても、これまた自己負担である。これでさらに高額療養費が引き上げられたら、たまったものではないはずだ。もちろん国や市区町村の財布も無尽蔵であるわけではないことは百も承知だ。しかし、今回の帯状疱疹ワクチンの定期接種化は喜ばしい反面、穴も目立つ。せめてB類疾病の自治体による接種勧奨の義務化くらい何とかならないものか?

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日本人の4人に1人がコロナ陰謀論を信じている!?

 日本人の約4人に1人は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する何らかの陰謀論を信じているとする調査結果が報告された。旭川医科大学社会医学講座の佐藤遊洋氏、東北大学大学院医学系研究科公衆衛生学分野の田淵貴大氏らの研究によるもので、詳細は「PLOS One」に12月30日掲載された。収入や保有資産が多い人、正規雇用されている人に陰謀論を信じている人が多いという、海外とは異なる傾向が観察されたとのことだ。 COVID-19パンデミック以降、製薬会社が利益を得るためにウイルスを作成した、世界人口を減らすためにウイルスがばらまかれたといった、さまざまな陰謀論が拡散された。そのような陰謀論、または不正確な情報の流布と支持の高まりのために、社会不安の拡大、あるいは公衆衛生対策への悪影響が生じ得ることが指摘されている。例えば国内では、陰謀論とは異なるが、偏った報道の影響でヒトパピローマウイルスワクチンの積極的勧奨一時中断に至り、子宮頸がん対策が遅延した。よってCOVID-19陰謀論についても、今後への備えとして、国内でそれを信じる人の割合や特徴の傾向を明らかにしておく必要がある。 以上を背景に佐藤氏らは、COVID-19パンデミックの社会・医療への影響を把握するために実施された大規模調査「JACSIS(Japan COVID-19 and Society Internet Survey)」のデータを用いた解析を行った。JACSISは、インターネット調査会社のパネル登録者対象のweb調査として、パンデミック発生以降継続的に行われている。今回の研究では、2021年9~10月に行った調査で得られた2万8,175人(年齢範囲16~81歳)の有効回答を解析対象とした。 英オックスフォード大学での先行研究に基づき、1. 大手製薬会社が、ワクチンで利益を上げるために新型コロナウイルス感染症を作った、2. 新型コロナウイルス感染症は、全ての人々にワクチン接種を余儀なくさせるために作られた、3. このワクチンを使って、大規模な不妊化を実行しようとしている――という3項目を、COVID-19陰謀論として採用。これらについて、「強く賛成する」、「多少賛成する」、「どちらでもない」、「多少反対する」、「強く反対する」の五つから選択してもらい、前二者を選択した場合に「その説を信じている」と判定した。このほかに、COVID-19に関する情報源、行政発情報への信頼の強さなども調査した。 その結果、全体の10.2%は前記の陰謀論のうち一つを信じており、6.5%は二つ、7.3%は三つ全てを信じていた。年齢や性別、居住地、婚姻状況、世帯収入、教育歴などを日本の人口構成に一致させて調整すると、日本人の約4人に1人(24.4%)が何らかの陰謀論を信じていることが分かった。信じている陰謀論の数と背景因子との関連を線形回帰モデルで検討した結果、教育歴、世帯収入、資産額、雇用状況、行政発情報への信頼などと、以下のような有意な関連が認められた。 教育歴については高校卒を基準として、教育歴が長い場合(修士または博士課程修了でΒ=-0.066)と短い場合(中学卒でΒ=-0.089)の双方で、信じている陰謀論が少ないという負の関連が見られた。世帯収入については高収入者において、信じている陰謀論が多いという正の関連が見られた(400~500万円を基準として800万円以上でΒ=0.069)。資産については100万円未満を基準として900~2000万円(Β=0.060)で正の関連が見られた(2000万円以上では非有意)。雇用状況については正規雇用者を基準として、失業・退職者(B=-0.078)、専業主婦・主夫(B=-0.086)、パートタイム(B=-0.051)、自営業(B=-0.102)のいずれも、負の関連が見られた。 COVID-19の情報源に関しては、政府機関のウェブサイトの利用者は非利用者よりも、信じている陰謀論が少なかった(B=-0.109)。一方、X(旧Twitter)以外のSNS(Facebook、Instagram、YouTube、LINE)利用者は非利用者に比べて、信じている陰謀論が多かった(B値は0.053~0.093の範囲)。このほか、日本政府を信頼している人はそうでない人に比べて、信じている陰謀論が多いことも分かった(B=0.175)。 以上の結果に基づき著者らは、「日本においてCOVID-19陰謀論は24.4%の人に支持されている」と推定している。また本調査で明らかになった特筆すべき点として、海外での先行研究とは逆の傾向が示されたことを指摘している。即ち、高収入、高資産、正規雇用が陰謀論の支持と正の関連があり、一方、高学歴とともに教育歴が短いことも、陰謀論の支持と負の関連が認められたことから、「このような日本特有の傾向の根底にあるメカニズムの解明が求められる」と付言している。

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第253回 石破首相・高額療養費に対する答弁大炎上で、制度見直しの“見直し”検討へ……。いよいよ始まる医療費大削減に向けたロシアン・ルーレット

高額療養費制度の負担限度額引き上げ問題ひとまず決着こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。日本経済新聞朝刊の名物コラム、「私の履歴書」の3月は政府の新型コロナ対策分科会の会長を務めた尾身 茂氏(現結核予防会理事長)です。まだ4回ほど終わったところですが、感染拡大が始まった2020年2月、政府が国民に感染状況の説明をすることを嫌がる中、専門家会議が独自の視点で見解を表明する場面など、当時の緊迫した状況が赤裸々に描かれています。「私の履歴書」と言えば、だいたい前半は企業人のルーツ(父親や母親のこと)について書かれることが多く、退屈なのですが、今回はなかなか読ませる構成になっています。わずか5年前、パンデミックの最中に国の中枢で何が起こっていたのかをおさらいする意味でも、尾身氏の「私の履歴書」は医療関係者必読と言えます。さて、国会で侃々諤々の議論が続いていた高額療養費制度の負担限度額引き上げ問題が2月28日、ひとまず決着しました。2025年8月の引き上げは予定通り実施、2026年8月以降の制度について、石破茂首相は「再検討する」と表明しました。また2月25日には、自民、公明両党は2025年度予算修正案の成立に向け、日本維新の会の賛成を取り付けました。教育無償化の具体策や社会保険料の負担軽減策などについて正式に合意し、3党の党首らが文書に署名しました。高額療養費制度見直しの“見直し”など医療の給付削減(自己負担増)に対する強い抵抗感がある中、一方で「社会保険料を引き下げろ」という声も高まっています。保険給付のレベルは現状そのままに、保険料は引き下げるなんてことが本当にできるのでしょうか。少数与党となった自民党は非常に難しい状況に追い込まれています。今後、医療費削減、医療の効率化に向けて本格的な議論が始まります。選挙もそうですが、今や政治状況はSNSなど、世論の動きによって瞬時に風向きが変わります。それはまさにロシアン・ルーレットのようなもので、標的が誰(あるいは何)になるかは予測しづらく、医療費大削減を迫る“弾丸”も最終的にどこに向かって発せられることになるのか、予断を許しません。石破首相、キムリア、オプジーボを名指しで批判して炎上「瞬時に風向きが変わる」ことでは、高額療養費制度の負担限度額引き上げがまさにそうでした。そもそも限度額引き上げは、1年以上前、2024年1月26日の社会保障審議会で示された「全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋(改革工程)」の中に、経済情勢に対応した患者負担などの見直しの一つとして明記されていました。昨年12月の社会保障審議会医療保険部会ではさまざまな意見を踏まえた見直し案が提示され、年末には高額療養費制度の負担限度額引き上げを含めた2025年度当初予算案を閣議決定しています。つまり、この1年余りのあいだ、負担限度額引き上げに対する大きな反対運動は起こっていなかったのです。政治状況がそれを許していたのか、野党の政治家たちが不勉強だったのか理由はわかりません。それが、年が明けて1月31日に立憲民主党の酒井 菜摘議員が予算委員会において、高額療養費制度の上限額引き上げに反対する質問を患者たちの反対意見を紹介しながら行うと、一気に社会問題化しました。石破首相は2月21日の衆院予算委員会で、酒井議員の再度の質問に対して「せっかくだから申し上げておくが、キムリアという薬は1回で3,000万円。有名なオプジーボが年間に1,000万円。ひと月で1,000万以上の医療費がかかるケースが10年間で7倍になっているということは、これは保険の財政から考えて何とかしないと制度そのものがもちません」と説明すると世の中が一気に騒ぎ始めました。同日、東京新聞がウェブサイトで「石破首相、がんや白血病の治療薬を『名指し』して医療費逼迫を強調 患者側から『薬を使う患者を傷つけた』の声」の記事を配信するとSNS上でも大炎上しました。石破首相としては、厚労省の用意した説明資料を参考に答弁を行ったに過ぎないと思われます。しかし、「超高額だがよく効く」薬である点など費用対効果については触れず、ただただ「高いからダメ」といった論調だったことは、その後の高額療養費制度の見直し議論に少なからぬ影響を及ぼしたようです。実際、「超高額だがよく効く」薬より、「安いが効果は今ひとつ(あるいはOTCで十分)」な薬を保険給付から外したりするほうがはるかに大きな医療費削減につながる、といった意見も出てきたからです。自民、公明、日本維新の3党合意で社会保険料の負担軽減へこうした議論とも関連するのが、自民、公明、日本維新の3党合意です。自民、公明両党は2025年度予算修正案の成立に向け日本維新の会の賛成を取り付けました。その条件として、教育無償化の具体策や社会保険料の負担軽減策などについて検討を進めることを正式に合意しました。合意文書には具体的検討事項として、「OTC類似薬の保険給付のあり方の見直し」「現役世代に負担が偏りがちな構造の見直しによる応能負担の徹底 」「医療 DXを通じた効率的で質の高い医療の実現 」「医療介護産業の成長産業化」が盛り込まれました。それぞれの具体策についてはこれから詰めるとされています。党幹部が参加する3党の協議体が設置される予定で、年末までに論点を検討し、早期に可能な施策については2026年度から実行に移すとしています。「2026年度から」ということは次期診療報酬改定に施策を盛り込むということです。上記の検討事項の中で診療報酬に直接関係するのは「OTC類似薬の保険給付のあり方の見直し」です。「昔から言われてきたことで、本当に実現するのか?」といった声もあるようですが、これを機に大きな改革につながっていく可能性もあります。なぜならば、合意文書にはこれらの具体策検討にあたって、政府与党の「全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋(改革工程)」等で「歳出改革等によって実質的な社会保険負担軽減の効果を1.0兆円程度生じさせる」とされていることや、公明党「公明党 2040 ビジョン(中間とりまとめ)」で「多剤重複投薬対策や重複検査対策などを進めることで医療費適正化の効果も得られる」と記されていること、さらには、日本維新の会の「社会保険料を下げる改革案(たたき台)」で「国民医療費の総額を、年間で最低4兆円削減することによって、現役世代一人当たりの社会保険料負担を年間6万円引き下げる」とされていることなどを「念頭に置く」と明記されたからです。OTC類似薬の保険外しが実現しなければ別の診療報酬にメスが入る可能性も「OTC類似薬の保険給付のあり方の見直し」などの改革は、直接、日本医師会などと利害がバッティングすることになります。しかし、「国民医療費を削減し社会保険料負担を引き下げる」という大方針が掲げられた以上、OTC類似薬の保険外しが実現しなければ、数点のマイナスで大きな医療削減効果がある別の診療報酬にメスが入る可能性もあるでしょう。高額医療費制度の見直しの議論の最中や3党合意に至る過程で、日本医師会は世の中に向かってあまり意見をアピールしていません(OTC類似薬の保険外しについては宮川政昭常任理事が記者会見でコメントしていましたが)。今、下手に意見を言うと、“弾丸”が弾倉から自分たちに向かって飛び出してくることを恐れているのかもしれません。2012年の3党合意はその後の社会保障制度改革の道筋を作った「3党合意」で思い出すのは、2012年の民主党政権下、野田 佳彦首相が主導して民主党、自民党、公明党の3党間において取り決められた社会保障と税の一体改革に関する合意です。この3党合意を経て同年8月に社会保障制度改革推進法を含む関連8法案が国会で可決成立しました。この推進法に基づいて「社会保障制度改革国民会議」が設置され、2013年5月に報告書がまとめられました。この報告書を踏まえて「社会保障制度改革プログラム法案」が国会に提出され、同年12月に成立しています。この間、政権は民主党から自民党に戻っていますが3党合意は堅持され、2018年頃までの社会保障制度改革の多くはこのプログラム法に沿って進められてきました。その意味でこの時の3党合意は大きな意味があったと言えるでしょう。今回の3党合意についても3党の協議体が設置される予定とのことです。2012年の時のように、突っ込んだ議論が行われ、プログラム法のような大胆なロードマップが描かれて実行に移されることになるのか。今後に注目したいと思います。

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急性呼吸器感染症の5類位置付けに関するQ&A

2025年4月7日より急性呼吸器感染症が5類感染症に位置付けられます急性呼吸器感染症って何? インフルエンザや新型コロナウイルス感染症とは違う?⚫ 急性呼吸器感染症とは、急性の上気道炎(鼻炎、副鼻腔炎、中耳炎、咽頭炎、喉頭炎)や下気道炎(気管支炎、細気管支炎、肺炎)など、細菌やウイルスによる症候群の総称。⚫ インフルエンザ、新型コロナウイルス、RSウイルス、咽頭結膜熱、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎、ヘルパンギーナなども含まれる。なぜ、急性呼吸器感染症が5類感染症に位置付けられるのか?⚫ 急性呼吸器感染症は飛沫感染などにより周囲の人にうつしやすい。新型コロナウイルス感染症の経験を踏まえ、流行しやすい急性呼吸器感染症の流行の動向を把握すること、未知の呼吸器感染症が発生し増加し始めた場合にすぐに探知することができるように、平時からサーベイランスの対象とするため。患者さんには影響がある? 風邪のために病院に行く際の負担などが変わる?⚫ 影響はなく、診療上の扱いも変わらない。医療機関や高齢者施設などにおける面会制限は変わる?⚫ 変更はない。風邪も就業制限や登校制限の対象となる?⚫ 対象にはならない。インフルエンザなど個別の感染症について定められている運用についても変更はない。厚生労働省ホームページ「急性呼吸器感染症(ARI)に関するQ&A」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/ari_qa.htm)より抜粋Copyright © 2025 CareNet,Inc. All rights reserved.

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拡大中のコロナ変異株LP.8.1のウイルス学的特性/東大医科研

 2025年2月現在、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のJN.1の子孫株であるXEC株による感染拡大が主流となっており、さらに同じくJN.1系統のKP.3.1.1株の子孫株であるLP.8.1株が急速に流行を拡大している。東京大学医科学研究所システムウイルス学分野の佐藤 佳氏が主宰する研究コンソーシアム「G2P-Japan(The Genotype to Phenotype Japan)」は、LP.8.1の流行動態や免疫抵抗性等のウイルス学的特性について調査結果を発表した。LP.8.1は世界各地で流行拡大しつつあり、2025年2月5日に世界保健機関(WHO)により「監視下の変異株(VUM:currently circulating variants under monitoring)」に分類された1)。本結果はThe Lancet Infectious Diseases誌オンライン版2025年2月10日号に掲載された。 本研究ではオミクロンLP.8.1の流行拡大リスクおよびウイルス学的特性を明らかにするため、まずウイルスゲノム疫学調査情報を基に、ヒト集団内におけるオミクロンLP.8.1の実効再生産数を推定し、次に、培養細胞におけるウイルスの感染性を評価した。また、日本人の血清を用いて、オミクロン系統の流行株(JN.1とKP.3.3)の既感染もしくはブレイクスルー感染およびJN.1対応1価ワクチン接種により誘導された中和抗体が、LP.8.1に対して感染中和活性を示すか検証した。 主な結果は以下のとおり。・米国ではLP.8.1の実効再生産数はXECより1.067倍高かったが、日本ではLP.8.1とXECの実効再生産数の差は比較的小さく、1.019倍にとどまった。・疑似ウイルス感染アッセイの結果、LP.8.1の感染力はJN.1よりも有意に低く(67%減少)、XECとJN.1の感染力は類似していた。・中和アッセイを以下の3種類のヒト血清を用いて実施した:JN.1感染後の回復者血清、KP.3.3感染後の回復者血清、JN.1対応ワクチン接種者の血清。すべての血清群において、KP.3.1.1、XEC、LP.8.1は、JN.1に対してよりも高い免疫逃避能を示した。しかし、KP.3.1.1、XEC、LP.8.1の間で中和回避能力に有意な差は認められなかった。 本結果により、LP.8.1がJN.1よりも感染力は低いが、より高い免疫逃避能を獲得し、現在主流のXECよりも高い伝播力(実効再生産数)を有することが明らかとなった。著者らによると、一部の国でLP.8.1がXECより優位になっている理由は、各国の免疫背景、SARS-CoV-2感染歴、ワクチン接種状況に依存している可能性があるという。LP.8.1は今後全世界に拡大し、主流株として台頭する恐れがある。

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新たな慢性血栓症、VITT様血栓性モノクローナル免疫グロブリン血症の特徴/NEJM

 ワクチン起因性免疫性血小板減少症/血栓症(またはワクチン起因性免疫性血栓性血小板減少症、VITT)は、血小板第4因子(PF4)を標的とする抗体と関連し、ヘパリン非依存性であり、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するアデノウイルスベクターワクチンまたはアデノウイルス感染によって誘発される急性の血栓症を特徴とする。オーストラリア・Flinders UniversityのJing Jing Wang氏らの研究チームは、VITT様抗体と関連する慢性的な血栓形成促進性の病態を呈する患者5例(新規症例4例、インデックス症例1例)について解析し、新たな疾患概念として「VITT様血栓性モノクローナル免疫グロブリン血症(VITT-like monoclonal gammopathy of thrombotic significance:VITT-like MGTS)」を提唱するとともに、本症の治療では抗凝固療法だけでなく他の治療戦略が必要であることを示した。研究の詳細は、NEJM誌オンライン版2025年2月12日号に短報として掲載された。本研究は、カナダ保健研究機構(CIHR)などの助成を受けた。従来のVITTとは異なる病態の血栓症の病因か 対象となった5例すべてが慢性の抗凝固療法不応性血栓症を呈し、間欠性の血小板減少症を伴っていた。これらの患者はM蛋白の濃度が低く(中央値0.14g/dL)、各患者でM蛋白がVITT様抗体であることが確認された。 また、PF4上の抗体のクローン型プロファイルと結合エピトープは、ワクチン接種やウイルス感染後に発症する急性疾患で観察されるものとは異なっており、これは別個の免疫病因を反映した特徴であった。さらに、VITT様抗体は、一般的なヘパリン起因性血小板減少症(HIT)の抗体とは異なり、ヘパリン非依存性に血小板を活性化することが示された。 VITT様MGTSという新たな疾患概念は、このような従来のVITTとは異なる病態を示す慢性的な抗PF4抗体による血栓症の病因として、ほとんどの抗PF4障害、および明確な原因のない異常や再発性の血栓症を説明可能であることが示唆された。抗PF4抗体、M蛋白が新たな治療標的となる可能性 新規の4例の中には、VITT様の特性を有する血小板活性化抗PF4抗体が検出されたため、MGTSを疑い、ブルトン型チロシンキナーゼ阻害薬イブルチニブによる治療を行ったところ、血栓症が抑制された症例を認めた。 また、従来の抗凝固療法を含むさまざまな治療を行っても、血栓症と血小板減少症が再発したため、MGTSを疑ってボルテゾミブ+シクロホスファミド+ダラツムマブ療法を施行したところ、血小板数が正常化し、M蛋白および抗PF4抗体が検出されなくなり、血栓症が改善した症例もみられた。 著者は、「慢性血栓症患者の診断に抗PF4抗体およびM蛋白の検査を追加することで、VITT様MGTSの早期発見が可能になると考えられる」「既存のVITT治療に加え、経静脈的免疫グロブリン療法(IVIG)やイブルチニブ、ボルテゾミブ+ダラツムマブなどを適用することで、より効果的な治療戦略を構築できるだろう」「これらの知見は、他の自己免疫性血小板減少症や血栓症における新たな治療標的としての抗PF4抗体およびM蛋白の役割を研究する基盤となる」としている。

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妊娠可能年齢の女性と妊婦を守るワクチン 後編【今、知っておきたいワクチンの話】総論 第8回

本稿では「妊娠可能年齢の女性と妊婦を守るワクチン」について取り上げる。これらのワクチンは、女性だけが関与するものではなく、その家族を含め、「彼女たちの周りにいる、すべての人たち」にとって重要なワクチンである。なぜなら、妊婦は生ワクチンを接種することができない。そのため、生ワクチンで予防ができる感染症に対する免疫がない場合は、その周りの人たちが免疫を持つことで、妊婦を守る必要があるからである。そして、「胎児」もまた、母体とその周りの人によって守られる存在である。つまり、妊娠可能年齢の女性と妊婦を守るワクチンは、胎児を守るワクチンでもある。VPDs(Vaccine Preventable Diseases:ワクチンで予防ができる病気)は、禁忌がない限り、すべての人にとって接種が望ましいが、今回はとくに妊娠可能年齢の女性と母体を守るという視点で、VPDおよびワクチンについて述べる。今回は、ワクチンで予防できる疾患、生ワクチンの概要の前編に引き続き、不活化ワクチンなどの概要、接種スケジュール、接種で役立つポイントなどを説明する。ワクチンの概要(効果・副反応・不活化・定期または任意・接種方法)妊婦に生ワクチンの接種は禁忌である。そのため妊娠可能年齢の女性には、事前に計画的なワクチン接種が必要となる。しかし、妊娠は予期せず突然やってくることもある。そのため、日常診療やライフステージの変わり目などの機会を利用して、予防接種が必要なVPDについての確認が重要となる。そこで、以下にインフルエンザ、百日咳、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)、RSウイルス(生ワクチン以外)の生ワクチン以外のワクチンの概要を述べる。これら生ワクチン以外のワクチン(不活化ワクチン、mRNAワクチンなど)は妊娠中に接種することができる。ただし、添付文書上、妊娠中の接種は有益性投与(予防接種上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ接種が認められていること)と記載されているワクチンもあり注意が必要である。いずれも妊娠中に接種することで、病原体に対する中和抗体が母体の胎盤を通じて胎児へ移行し、出生児を守る効果がある。つまり、妊婦のワクチン接種が母体と出生児の双方へ有益ということになる。(1)インフルエンザ妊婦はインフルエンザの重症化リスク群である。妊婦がインフルエンザに罹患すると、非妊婦に比し入院率が高く、自然流産や早産だけでなく、低出生体重児や胎児死亡の割合が増加する。そのため、インフルエンザ流行期に妊娠中の場合は、妊娠週数に限らず不活化ワクチンによるワクチン接種を推奨する1)。また、妊婦のインフルエンザワクチン接種により、出生児のインフルエンザ罹患率を低減させる効果があることがわかっている。生後6ヵ月未満はインフルエンザワクチンの接種対象外であるが、妊婦がワクチン接種することで、胎盤経由の移行抗体による免疫効果が証明されている1,2)。接種の時期はいつでも問題ないため、インフルエンザ流行期の妊婦には妊娠週数に限らず接種を推奨する。妊娠初期はワクチン接種の有無によらず、自然流産などが起きやすい時期のため、心配な方は妊娠14週以降の接種を検討することも可能である。流行時期や妊娠週数との兼ね合いもあるため、接種時期についてはかかりつけ医と相談することを推奨する。なお、チメロサール含有ワクチンで過去には自閉症との関連性が話題となったが、問題がないことがわかっており、胎児への影響はない2)。そのほか2024年に承認された生ワクチン(経鼻弱毒生インフルエンザワクチン:フルミスト点鼻薬)は妊婦には接種は禁忌である3)。また、経鼻弱毒生インフルエンザワクチンは、飛沫または接触によりワクチンウイルスの水平伝播の可能性があるため、授乳婦には不活化インフルエンザHAワクチンの使用を推奨する4)。(2)百日咳ワクチン百日咳は、成人では致死的となることはまれだが、乳児(とくに生後6ヵ月未満の早期乳児)が感染した場合、呼吸不全を来し、時に命にかかわることがある。一方、百日咳含有ワクチンは生後2ヵ月からしか接種できないため、この間の乳児の感染を予防するために、米国を代表とする諸外国では、妊娠後期の妊婦に対して百日咳含有ワクチン(海外では三種混合ワクチンのTdap[ティーダップ]が代表的)の接種を推奨している5,6)。百日咳ワクチンを接種しても、その効果は数年で低下することから、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)は2回目以降の妊娠でも、前回の接種時期にかかわらず妊娠する度に接種することを推奨している。百日咳は2018年から全数調査報告対象疾患となっている。百日咳感染者数は、コロナ禍前の2019年は約1万6千例ほどであったが、コロナ禍以降の2021~22年は、500~700例前後と減っていた。しかし、2023年は966例、2024年(第51週までの報告7))は3,869例と徐々に増加傾向を示している。また、感染者の約半数は、4回の百日咳含有ワクチンの接種歴があり、全感染者のうち6ヵ月~15歳未満の小児が62%を占めている8)。さらに、重症化リスクが高い6ヵ月未満の早期乳児患者(計20例)の感染源は、同胞が最も多く7例(35%)、次いで母親3例(15%)、父親2例(10%)であった9)。このように、百日咳は、小児の感染例が多く、かつ、ワクチン接種歴があっても感染する可能性があることから、感染源となりうる両親のみならず、その兄弟や同居の祖父母にも予防措置としてワクチン接種が検討される。わが国で、小児や成人に対して接種可能な百日咳含有ワクチンは、トリビック(沈降精製百日咳ジフテリア破傷風混合ワクチン)である。本ワクチンは、添付文書上、有益性投与である(妊婦に対しては、予防接種上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ接種が認められている)10)が、上記の理由から、丁寧な説明と同意があれば、接種する意義はあるといえる。(3)RSウイルスワクチン2024年より使用可能となったRSウイルスワクチン(組み換えRSウイルスワクチン 商品名:アブリスボ筋注用)11)は、新生児を含む乳児におけるRSウイルス感染症予防を目的とした妊婦対象のワクチンである(同時期に承認販売開始となった高齢者対象のRSウイルスワクチン[同:アレックスビー筋注用]は、妊婦は対象外)。アブリスボを妊娠中に接種すると、母体からの移行抗体により、出生後の乳児のRSウイルスによる下気道感染を予防する。そのため接種時期は妊娠28~36週が最も効果が高いとされている12)(米国では妊娠32~36週)。また、本ワクチン接種後2週間以内に児が出生した場合は、抗体移行が不十分と考えられ、モノクローナル抗体製剤パリミズマブ(同:シナジス)とニルセビマブ(同:ベイフォータス)の接種の必要性を検討する必要があるため、妊婦へ接種した日時は母子手帳に明記することが大切である13)。乳児に対する重度RSウイルス関連下気道感染症の予防効果は、生後90日以内の乳児では81.8%、生後180日以内では69.4%の有効性が認められている14)。これまで、乳児のRSウイルス感染の予防には、重症化リスクの児が対象となるモノクローナル抗体製剤が利用されていたが、RSウイルス感染症による入院の約9割が、基礎疾患がない児という報告もあり15)、モノクローナル抗体製剤が対象外の児に対しても予防が可能となったという点において意義があるといえる。一方で、長期的な効果は不明であり、わが国で接種を受けた妊婦の安全性モニタリングが不可欠な点や、他のワクチンに比し高額であることから、十分な説明と同意の上での接種が重要である。(4)COVID-19ワクチンこれまでの国内外の多数の研究結果から、妊婦に対するCOVID-19ワクチン接種の安全性は問題ないことがわかっており16,17)、前述の3つの不活化ワクチンと同様に、妊婦に対する接種により胎盤を介した移行抗体により出生後の乳児が守られる。逆にCOVID-19に感染した乳児の多くは、ワクチン未接種の妊婦から産まれている17)。妊婦がCOVID-19に罹患した場合、先天性障害や新生児死亡のリスクが高いとする報告はないが、妊娠中後期の感染では早産リスクやNICU入室率が高い可能性が示唆されている17)。また、酸素需要を要する中等症~重症例の全例がワクチン未接種の妊婦であったというわが国の調査結果もある17)。妊婦のCOVID-19重症化に関連する因子として、妊娠後期、妊婦の年齢(35歳以上)、肥満(診断時点でのBMI30以上)、喫煙者、基礎疾患(高血圧、糖尿病、喘息など)のある者が挙げられており、これらのリスク因子を持つ場合は産科主治医との相談が望ましい。一方で、COVID-19ワクチンはパンデミックを脱したことや、インフルエンザウイルス感染症のように、定期的流行が見込まれることから、2024年度から第5類感染症に変更され、ワクチンも定期接種化された。よって、定期接種対象者である高齢者以外は、妊婦や、基礎疾患のある小児・成人に対しても1回1万5千円~2万円台の高額なワクチンとなった。接種意義に加え、妊婦の基礎疾患や背景情報などを踏まえた総合的・包括的な相談が望ましい。また、COVID-19ワクチンについては、いまだにフェイクニュースに惑わされることも多く、医療者が正確な情報源を提供することが肝要である。接種のスケジュール(小児/成人)妊婦と授乳婦に対するワクチン接種の可否について改めて復習する。ワクチン接種が禁忌となるのは、妊婦に対する生ワクチンのみ(例外あり)であり、それ以外のワクチン接種は、妊婦・授乳婦も含めて禁忌はない(表)。表 非妊婦/妊婦・授乳婦と不活化/生ワクチンの接種可否についてただし、ワクチンを含めた薬剤投与がなくても流産の自然発生率は約15%(母体の年齢上昇により発生率は増加)、先天異常は2~3%と推定されており、臨界期(主要臓器が形成される催奇形性の感受性が最も高い時期)である妊娠4~7週は催奇形性の高い時期である。たとえば、ワクチン接種が原因でなくても後から胎児や妊娠経過に問題があった場合、実際はそうでなくても、あのときのあのワクチンが原因だったかも、と疑われることがあり得る。原因かどうかの証明は非常に困難であるため、妊娠中の薬剤投与と同様に、医療従事者はそのワクチン接種の必要性や緊急性についてしっかり患者と話し、接種する時期や意義について理解してもらえるよう努力すべきである。※その他注意事項生ワクチンの接種後、1~2ヵ月の避妊を推奨する。その一方で、仮に生ワクチン接種後1~2ヵ月以内に妊娠が確認されても、胎児に健康問題が生じた事例はなく、中絶する必要はないことも併せて説明する。日常診療で役立つ接種ポイント1)妊娠可能年齢女性とその周囲の家族について妊孕性(妊娠する可能性)が高い年代は10~20代といわれているが、妊娠可能年齢とは、月経開始から閉経までの平均10代前半~50歳前後を指す。妊娠可能年齢の幅は非常に広いことを再認識することが大切である。また、妊婦や妊娠可能年齢の女性を守るためには、その周囲にいるパートナーや同居する家族のことも考慮する必要があり、その年齢層もまちまちである(同居する祖父母や親戚、兄弟など)。患者の家族構成や背景について、かかりつけ医として把握しておくことは、ワクチンプラクティスにおいて、非常に重要であることを強調したい。2)接種を推奨するタイミング筆者は下記のタイミングでルーチンワクチン(すべての人が免疫を持っておくと良いワクチン)について確認するようにしている。(1)何かしらのワクチン接種で受診時(とくに中高生のHPVワクチン、インフルエンザワクチンなど)(2)定期通院中の患者さんのヘルスメンテナンスとして(3)患者さんのライフステージが変わるタイミング(進学・就職/転職・結婚など)今後の課題・展望妊娠可能年齢の年代は受療行動が比較的低く、基礎疾患がない限りワクチン接種を推奨する機会が限られている。また、妊娠が成立すると、基礎疾患がない限り産科医のみのフォローとなるため、妊娠中に接種が推奨されるワクチンについての情報提供は産科医が頼りとなる。産科医や関連する医療従事者への啓発、学校などでの教育内容への組み込み、成人式などの節目のときに情報提供など、医療現場以外での啓発も重要であると考える。加えて、フェイクニュースやデマ情報が拡散されやすい世の中であり、妊婦や妊娠を考えている女性にとっても重大な誤解を招くリスクとなりうる。医療者が正しい情報源と情報を伝える重要性が高いため、信頼できる情報源の提示を心掛けたい。参考となるサイト(公的助成情報、主要研究グループ、参考となるサイト)妊娠可能年齢の女性と妊婦のワクチン(こどもとおとなのワクチンサイト)妊娠に向けて知っておきたいワクチンのこと(日本産婦人科感染症学会)Pregnancy and Vaccination(CDC)参考文献・参考サイト1)Influenza in Pregnancy. Vol. 143, No.2, Nov 2023. ACOG2)産婦人科診療ガイドライン 産科編 2023. 日本産婦人科学会/日本産婦人科医会. 2023:59-62.3)経鼻弱毒生インフルエンザワクチン フルミスト点鼻液 添付文書4)経鼻弱毒生インフルエンザワクチンの使用に関する考え方. 日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会(2024年9月2日)5)Tdap vaccine for pregnant women CDC 6)海外の妊婦への百日咳含有ワクチン接種に関する情報(IASR Vol.40 p14-15:2019年1月号)7)感染症発生動向調査(IDWR) 感染症週報 2024年第51週(12月16日~12月22日):通巻第26巻第51号8)2023年第1週から第52週(*)までに 感染症サーベイランスシステムに報告された 百日咳患者のまとめ 国立感染症研究所 実地疫学研究センター 同感染症疫学センター 同細菌第二部 9)全数報告サーベイランスによる国内の百日咳報告患者の疫学(更新情報)2023年疫学週第1週~52週 2025年1月9日10)トリビック添付文書11)医薬品医療機器総合機構. アブリスボ筋注用添付文書(2025年1月9日アクセス)12)Kampmann B, et al. N Engl J Med. 2023;388:1451-1464.13)日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会. 日本におけるニルセビマブの使用に関するコンセンサスガイドライン Q&A(第2版)(2024年9月2日改訂)14)Kobayashi Y, et al. Pediatr Int. 2022;64:e14957.15)妊娠・授乳中の新型コロナウイルス感染症ワクチンの接種について 国立感染症成育医療センター16)COVID-19 Vaccination for Women Who Are Pregnant or Breastfeeding(CDC)17)山口ら. 日本におけるCOVID-19妊婦の現状~妊婦レジストリの解析結果(2023年1月17日付報告)講師紹介

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日本の大学生の血圧、コロナ禍後に上昇

 日本の大学生における血圧の5年ごとの調査で、コロナ禍後の2023年に血圧が上昇していたことが、慶應義塾大学の安達 京華氏らの研究でわかった。一方、喫煙・飲酒習慣や睡眠不足、精神的ストレス、ファストフードやスナック菓子の摂取は減少、運動習慣は増加しており、血圧上昇の原因は特定されなかった。Hypertension Research誌2025年2月号に掲載。 高血圧は中高年だけでなく、若年者においても心血管疾患のリスクを高める。コロナ禍では世界中で血圧の上昇傾向が観察されたが、若年成人については十分な評価がなされていない。本研究では、コロナ禍の前後を含む2003~23年の20年間、5年ごとに大学生(10万6,691人)の血圧を調査した。  主な結果は以下のとおり。・2003~18年において血圧に目立った変化はなかったが、コロナ禍後に男女とも血圧の上昇がみられ、収縮期血圧は、男性が2018年の118.1(SD:14.2)mmHgから2023年の120.6(SD:12.5)mmHgに、女性が104.6(SD:11.8)mmHgから105.1(SD:11.7)mmHgに上昇した。・これらの傾向は、標準体重/低体重の学生、および1年生と2年生で顕著であった。・生活習慣を調査した結果、喫煙・飲酒習慣、睡眠不足、精神的ストレス、ファストフードやスナック菓子の摂取が減少し、運動習慣が増加していた。

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コロナ関連の小児急性脳症、他のウイルス関連脳症よりも重篤に/東京女子医大

 インフルエンザなどウイルス感染症に伴う小児の急性脳症は、欧米と比べて日本で多いことが知られている。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症においても、小児に重篤な急性脳症を引き起こすことがわかってきた。東京女子医科大学附属八千代医療センターの高梨 潤一氏、東京都医学総合研究所の葛西 真梨子氏らの研究チームは、BA.1/BA.2系統流行期およびBA.5系統流行期において、新型コロナ関連脳症とそれ以外のウイルス関連脳症の臨床的違いを明らかにするために全国調査を行った。その結果、新型コロナ関連脳症は、他のウイルス関連脳症よりもきわめて重篤な脳症の頻度が高く、27%の患者が重篤な神経学的後遺症または死亡という転帰であったことが判明した。Journal of the Neurological Sciences誌2025年2月15日号に掲載。 本研究では、日本小児神経学会会員を対象としたWebアンケートを用い、2022年1~5月のBA.1/BA.2系統流行期と2022年6~11月のBA.5系統流行期において、新型コロナ関連脳症を発症した18歳未満の103例の患者を対象に臨床症状について調査した。 主な結果は以下のとおり。・全103例のうち、BA.1/BA.2系統流行期の患者は32例(0~14歳、中央値5歳)、BA.5系統流行期の患者は68例(0~15歳、中央値3歳)だった。103例中95例(92.2%)が新型コロナウイルスワクチンを接種していなかった。・オミクロン株BA.1/BA.2系統流行期とBA.5系統流行期で新型コロナ関連脳症の臨床症状に有意差は認められないものの、BA.5系統流行期は新型コロナ関連脳症の発症時にけいれん発作を起こす患者が多く、68例中50例において、発症時にけいれん発作が認められた。・急性脳症症候群のタイプとして、けいれん重積型(二相性)急性脳症(AESD)が最も多く、103例中27例(26.2%)を占めた。・103例中6例が劇症脳浮腫型脳症(AFCE)、8例が出血性ショック脳症症候群(HSES)という最重度の急性脳症症候群であり、他のウイルス関連脳症と比べて高頻度だった。AFCEおよびHSESの患者はすべて新型コロナワクチンを接種していなかった。・新型コロナ関連脳症の転帰は、完全回復が45例、軽度から中等度の神経学的後遺症は28例、重度の神経学的後遺症は17例、死亡は11例であった。新型コロナ関連脳症は他のウイルス関連脳症と比べて予後不良の転帰となる患者が多かった。 著者らは本結果について、「AFCEやHSESは脳浮腫が急速に進行し致死率が高い疾患である一方、発症がきわめてまれであるため診断法や治療法が十分に解明されていない。今後は、新型コロナ関連脳症の中でもこれら2つに注目し、詳細な臨床経過を把握し、迅速診断のためのバイオマーカーや有効な治療開発に向けてエビデンスを構築していきたい。小児に対する新型コロナワクチンの接種が急性脳症の予防につながるかどうかも確かめる必要がある」としている。

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第231回 高額療養費制度の行方、医療現場はどう変わる?

今年2月になって突然、飛び込んできた「高額療養制度の見直し」について多くの方はなぜそんなに急に? と疑念を抱かれたと思います。わが国はバブル景気の後の「失われた30年」の間、経済が停滞していた間も少子化と高齢人口の増加が続いてきました。リーマンショック後の安倍政権をきっかけに、日本経済も回復したとはいえ、2040年まで高齢化が続く中、増大する医療費や介護費のため、社会保障制度の持続可能性について検討が続いています。社会保障改革の経過の振り返り令和元(2019)年から開かれていた全世代型社会保障検討会議の最終報告からまとめられた「全世代型社会保障改革の方針」(令和2年)でも、少子化対策の子育て支援とともに、医療提供体制の改革や後期高齢者の自己負担割合の在り方について検討をすることが盛り込まれていました。これらについて政策の実際の発動は、新型コロナウイルス感染症の拡大で延期され、令和4年1月から開催された「全世代型社会保障構築会議」で、すべての世代が安心できる「全世代型社会保障制度」を目指し、働き方の変化を中心に据えながら、社会保障全般にわたる改革を検討しました。この会議の中で「給付と負担のバランス・現役世代の負担上昇の抑制」について、「高額療養費制度の見直しも併せてしっかり取り組んでいただきたい。厚生労働省からはそれを検討するという報告があったわけで、これはぜひ1つでも2つでもできるものをどんどん実現してほしい」という発言がなされていました(【第20回全世代型社会保障構築会議議事録】)。このような発言を反映してか、令和6年1月26日の社会保障審議会で「全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋(改革工程)」の中で、経済情勢に対応した患者負担などの見直し(高額療養費自己負担限度額の見直し/入院時の食費の基準の見直し)が入っていました。2月に入り厚労省の社会保障審議会医療保険部会の「令和7年8月~令和9年8月にかけて段階的に実施高額療養費制度の見直し」を行うという資料【高額療養費制度の見直しについて】をもとに国会の予算審議で大きく取り上げられたのをきっかけに大きな話題となりました。画像を拡大する当然ながら、高額療養費の対象となるがんや難病の患者さんの団体から反対の声が上がり、2月7日に厚労省で鹿沼 均保険局長と患者団体が面会を行い、いったん凍結を求められました。厚労省側から改革案を部分修正する意向を示されたものの、患者団体はこれを反対するなどしばらく予算審議を進めていく中、予定通り令和7年8月からの引き上げは難しくなっています。Financial toxicityがクローズアップされている高額療養費制度はわが国の保険診療のセーフティネットとして必要なもので、これが十分に機能しているため患者さんは安心して高額な抗がん剤や先進的な治療を受けることができますが、一方で、諸外国ではこのようなシステムがないため、すでに2000年代になって画期的な新薬の承認とともに問題となっていました。高額療養費制度の見直しが必要になったのは高額な新薬の登場です。近年登場する抗がん剤は非常に高額なため、公的な保険で十分にカバーできない問題が諸外国で話題になっていました。筆者も以前、製薬企業で勤務していたときに有害事象として報告された用語に“financial toxicity”という言葉を目にしたことがあります。Financial Toxicity(ファイナンシャル・トキシシティ:経済毒性)とは、国際医薬用語集にも掲載されている用語で、医療費による経済的負担が患者さんや家族に与える悪影響を指します。高額な新薬によって医療費が増大するのを抑制するため、欧米諸国では保険制度で新薬については、適応とする患者さんの症状によっては処方制限するなどしてアクセス制限をしています。新薬が使えない場合は、患者団体がメーカー側に働きかけて医薬品価格を引き下げさせたり、欧州では医療経済学者を中心に費用対効果を審査して、薬価と効果の面で医薬品を経済評価するようになっており、新薬として承認されても保険償還について別個で審査してアクセス制限をしています。実際にイギリスでは2009年から、新規の抗がん剤への患者アクセスを改善するためにNICE(国立保健医療研究所)によって「非推奨」とされた抗がん剤を中心に対象とする薬剤を評価後にリスト収載し、それらに対する費用をCDF(Cancer Drugs Fund:英国抗がん剤基金)から拠出してきましたが、財政負担の著しい増加に対して、2016年からは新CDFを含むNICEの抗がん剤評価に関する新スキームの運用が開始され、新薬として承認を取得するすべての新規抗がん剤は、NICEにより評価され、「推奨」とされた場合には、英国国民保健サービス(NHS)から償還を受けることができますが、「非推奨」の場合には、Individual Funding Request(IFR)による1件ごとの審議となり、使用は大きく制限されています。わが国でも2014年に承認されたニボルマブ(商品名:オプジーボ)をきっかけに、主に高額な薬価をめぐって国内で大きく取り上げられました。ニボルマブの承認時の償還薬価は100mg1瓶72万8,029円と高額でしたが、その後、適応症の拡大と処方患者の増加で急速に売り上げが伸びたため、厚労省が新たに設けた特例拡大再算定などの薬価引き下げ策で、新薬承認からわずか4年で75%も安くなり【「オプジーボ」続く受難 用量変更でまたも大幅引き下げ…薬価収載時から76%安く】、その後も薬価は低下し、現在は当初の価格から13万1,811円(2024年4月以降)と18.1%の価格になっています。過剰な薬価抑制策にはネガティブな側面もわが国では承認された新薬の保険償還の価格を引き下げることはよくありますが、国際的にみて、新薬の価格は特許がある間は開発費を回収して、さらに画期的な新薬開発への投資を行う原資を得るために保証されているのが通常で、わが国のように日本発の新薬ですら大きく価格を抑制することは、新薬を開発する製薬会社からみて市場としては魅力的には映りません。さらに日本では薬価制度で対応しつつ、同時に新薬の承認・審査するPMDA(医薬品医療機器総合機構)は「新規作用機序を有する革新的な医薬品については、最新の科学的見地に基づく最適な使用を推進する観点から、承認に係る審査と並行して最適使用推進ガイドラインを作成し、当該医薬品の使用に係る患者及び医療機関等の要件、考え方及び留意事項を示すこととしています」とあり、また、「症例ごとに適切な処方を求めるようになっています」として、処方する専門医に対して、学会や製薬企業から情報提供がなされるようになっています。現実問題として、わが国では以前、ドラッグラグ(承認の遅れ)が目立っていましたが、薬事審査に当たってのさまざまな障壁(日本人データの要求など)が業界側や患者側からの働きかけで短縮していました。一方、最近問題となっているのはドラッグロスと言って、そもそも日本市場に参入がないことです。これについては企業側の努力不足もあるとは思いますが、大手製薬企業としては日本の薬価制度がハードルになっている以外にも、近年ベンチャー創薬によって開発されているオーファンドラッグ(希少薬品)のようにニーズはあるが売り上げが大きくない医薬品の場合、企業側の体力がないため日本での薬事承認申請まで辿り着けないなどの問題も発生しています。わが国もこのままでは新規医薬品の開発力が低下してしまうのを避けるため、日本人データを必ずしも必須としないなど条件緩和を進めていますが、医療分野でのイノベーションに見合うだけの収益が得られないため、日本の製薬企業でも海外での開発や販売を優先するケースが近年目立っています。国民の生活にかかわる政策決定には透明化も必要わが国の製薬市場が欧州やアメリカより小さいながらも、中小の製薬企業がそれぞれ得意分野で活躍して開発競争を行ってきましたが、21世紀に入った今、低分子薬を中心とした生活習慣病の開発競争から、抗がん剤など中分子~高分子の医薬品に競争分野が変化し、より高い薬価の医薬品を開発する必要があります。薬価引き下げで多くの製薬企業は特許切れの長期収載品による安定した収益を失い、より新薬開発競争を国際的に進めねばならず厳しい状態が続いています。今回の見直しのように薬価は高いけれど、効果の高い新薬を使用して治療を受けたいという国民の声に政府は応える必要があり、薬価引き下げではなく、患者自己負担を増やすことで一定のバランスを得ようとしたことはある意味正しいと考えます。しかし、高薬価の新薬の開発は続いており、続々と新薬が承認されています。ニボルマブのような強制的な薬価引き下げを続けることは、国際的にみても日本の製薬市場の縮小、ひいてはわが国の制約産業の衰退を招く可能性もあり、薬価引き下げだけでは持続可能性は乏しいと考えます。医療費用の増加は高齢化もあり、やむを得ない事情があり、経済成長に見合った形であれば社会保障費の経済的な負担増大にはつながらないのですが、今回のように患者数の増加や治療費の増加をどう抑えるかは国の中でも結論がでておらず、2024年の国政選挙でもこの話題はまったく討論されず、話の持って行き方にかなり問題があったと感じています。高額療養費の引き上げについて、厚労省の審議会では「既定路線」であったものの、患者さんやその家族にとって貧困を理由に治療が中断することは、国民のコンセンサスを得ていたとは考えにくいです。今後も増え続けるキャンサーサバイバーの患者さんのニーズに応えるためには、財源を用意する必要があります。政府の中できちんと討論した上で、患者自己負担をなるべく広く薄くなるのか、それとも患者自己負担を一定の割合で求めるか、すでに問題となっている多重受診の患者さんの自己負担や軽症疾患のビタミン剤や湿布をOTC化の促進で医療費を抑制した分を回すか、あるいは別のタバコ税や酒税のような形で財源を調達するか、何らかの形で国民に問う必要があったと考えています。すでに津川 友介氏のような一部のオピニオンリーダーからは解決策を提示する意見【「国民の健康を犠牲にすることなく、2.3~7.3兆円の医療費削減が実現可能な『5つの医療改革』」】も出ていますが、他にもさまざまな方策を考えるには絶好のタイミングだと思います。今回のように国民に知らされないまま、審議会という密室で大事な政策が決められるようなやり方を日本人は好みません。わが国は民主主義国家ですから、今年の夏から患者さんの高額療養費を引き上げるのであれば、参議院議員選挙で各政党から意見を出してもらい、どういう形をとるかを決めるべき時期かと考えています。参考1)高額療養費制度の見直しについて(厚労省)2)全世代型社会保障改革の方針[令和2年](同)3)社会保障審議会(同)4)「全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋(改革工程)」、「こども未来戦略」について(同)5)Financial Toxicityおよびがん治療[PDQ](がん情報サイト)6)「オプジーボ」続く受難 用量変更でまたも大幅引き下げ…薬価 収載時から76%安く(Answers News)7)最適使用推進ガイドライン(PMDA)8)レカネマブ(遺伝子組換え)製剤の最適使用推進ガイドラインについて(日本精神神経学会)

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事例018 外来感染対策向上加算の算定【斬らレセプト シーズン4】

解説2025年4月から急性呼吸器感染症(ARI:風邪症候群、急性上気道炎など)が感染症法上の5類に位置付けられて、定点サーベイランスの対象となるとのニュースが報道されました。定点サーベイランス対象の医療機関数は増やさないとされていますが、受診データの作成が必要になるのか、初診料または再診料の注の「外来感染対策向上加算」の届出をしたほうが良いのかと相談を受ける事例が増えています。日常的に感染防護体制をとられて発熱外来を提供しているにもかかわらず、「外来感染対策向上加算」を算定されていない診療所もみかけます。また、「届出要件がわからない」との声も聞きます。この加算には届出た後、施設基準維持にかかる研修会などの出席や複数の記録が継続的に必要になるというデメリットがあります。メリットは、新しい感染対策や地域の感染症対応状況などの情報が手に入りやすくなります。熱発に対応されている診療所にお勧めです。届出には「新型コロナウイルス感染症をはじめとする発熱感染症に適切に対応する」と申し出て、第二種協定指定医療機関(発熱外来の実施)の指定を受けることが必須となります。この指定は、診療所であれば「発熱外来の(適切な)実施」のみで受けられます。現状の発熱患者対応とほぼ同じように、通常患者との動線の分離(時間差、駐車場車内待機など)があれば認められています。施設基準の届出は様式1の4を使用します。感染対策にかかる必要書類の見本は地域医師会に整備されていますし、連携先も相談いただけます。いまだ要件解釈が揺れているところもありますので、届出前には必ず所在地医師会と都道府県感染症対策課にメールでご相談を願います。そして、相談をいただくと届出用の資料が届きます。次回は本加算の届出書類記載にかかる留意事項をお届けします。

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重度の感染症による入院歴は心不全リスクを高める

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)やインフルエンザなどの感染症による入院は、心臓病リスクを高める可能性があるようだ。重度の感染症で入院した経験のある人が後年に心不全(HF)を発症するリスクは、入院歴がない人と比べて2倍以上高いことが新たな研究で示された。米国立衛生研究所(NIH)の資金提供を受けて米メイヨー・クリニックのRyan Demmer氏らが実施したこの研究の詳細は、「Journal of the American Heart Association」に1月30日掲載された。 この研究では、1987年から2018年まで最大31年間にわたる追跡調査を受けたARIC研究参加者のデータを分析して、感染症関連の入院(infection-related hospitalization;IRH)とHFとの関係を評価した。ARIC研究は、アテローム性動脈硬化リスクに関する集団ベースの前向き研究で、1987〜1989年に45〜64歳の成人を登録して開始された。本研究では、研究開始時にHFを有していた人などを除外した1万4,468人(試験開始時の平均年齢54歳、女性55%)が対象とされた。対象者は、2012年までは毎年、それ以降は2年に1回のペースで追跡調査を受けていた。左室駆出率(LVEF)が得られた患者については、LVEFが正常範囲(50%以上)に保たれたHF(HFpEF)患者と、LVEFが低下(50%未満)したHF(HFrEF)患者に2分して検討した。 追跡期間中(中央値27年)に、6,673人が1回以上のIRHを経験し、3,565人が新たにHFを発症していた。IRH歴を持たない人と比べて、IRH歴を持つ人のHF発症のハザード比(HR)は2.35(95%信頼区間2.19〜2.52)であった。この関係は、呼吸器感染症や泌尿器感染症、血流感染症など、感染症の種類に関わりなく認められた。さらに、HFのタイプが判明した7,669人を対象にした解析でも、IRHはHFrEFおよびHFpEFと有意な関連を示した(HFrEF:HR 1.77〔95%信頼区間1.35〜2.32〕、HFpEF:同2.97〔同2.36〜3.75〕)。 研究グループは、「本研究の対象者の半数近くがIRHを経験していた。このことは、感染症が米国人の心臓の健康に極めて大きな影響を与えていることを示唆している」と述べている。 Demmer氏は、「本研究は、重度の感染症とHFの因果関係を証明したわけではないが、人々は変わらず、重度の感染症を予防するための常識的な対策を取るべきことを示唆している」との見方を示す。同氏は、「特に、心臓病リスクが高く、重度の感染症を患っている人は、かかりつけ医に相談し、心臓の健康を守るための対策を講じるべきだ」と付け加えている。 一方、米国立心肺血液研究所(NHLBI)のSean Coady氏は、「これは、注目に値する知見だ。感染症罹患歴と心筋梗塞との関連についてのエビデンスは豊富にあるが、本研究は、心筋梗塞ではなくHFに焦点を当てている点が異なる。米国でのHF患者数は推定600万人に上るが、HFについての研究はあまり進んでいない」と話している。

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コロナは続く【Dr. 中島の 新・徒然草】(568)

五百六十八の段 コロナは続く寒い、寒すぎる!一時は暖かい日が続いていたのに、再び冬の寒さが戻ってきました。外を歩くと風が顔に当たるし、吸う空気まで冷たいです。今朝も出勤時に車に乗ろうとしたところ、フロントガラスがバリバリに凍りついていました。お湯をかけて溶かそうとしたのですが、一度では足りず。結局、家とパーキングを2往復する羽目になりました。いつになったらこの寒さが終わるのでしょうか。さて、先日の脳外科外来。定期的に通院しているご夫婦がお見えになりました。ご主人はいろいろな病気を持っているのですが、私が担当しているのは外傷性てんかん。3ヵ月ごとの抗痙攣薬処方ですね。ところでこのご主人、昨年に新型コロナウイルスに感染してしまったのです。別の病院のICUに入院しているということで、奥さんから私に電話がありました。奥さん「主人がコロナにかかり、気管切開をして人工呼吸器につながれているんです。主治医の先生から『もし心臓が止まったら心臓マッサージをしますか』って尋ねられたんですが、どう返事したらいいのでしょうか?」突然の相談に私も驚きましたが、ご主人の50歳という年齢を考えると、まだまだ諦めるわけにはいきません。中島「まだ若いのですから、諦めないで! 必要な時には心臓マッサージもしてもらいましょう」そうお伝えしました。幸いにもご主人は回復し、リハビリ病院経由で自宅に戻ることができました。退院当初は多少の麻痺が残っていましたが、自転車に乗るようになったらなぜか少しずつ回復してきたとのこと。仕事への復帰にはまだもう少しかかりそうではありますが、何と言ってもご本人の努力、奥さんの協力があったからこそでしょう。感動した私は「それもこれも奥さんの支えがあったからですよね!」とご主人に言ったのですが、その反応はあっさりしたものでした。「そうなんですかね」とだけ。中島「いやいやいや、そこは『家内がいたからここまで回復できたんです!』と言ってくださいよ。声に出して練習しましょう」そう励ましてみましたが、ご主人の反応は今ひとつ。照れくさいのかもしれませんが、やはり感謝の気持ちは言葉で伝えてこそ。ご主人を励ました後で、私は奥さんのほうにも声をかけました。中島「奥さんもですね、次に『心臓マッサージしますか?』と尋ねられたら即座に『お願いします。どんな後遺症が残っても私が全部背負って生きていきます!』と言ってみたらどうですか」するとニコニコしながらも奥さんからはあっさりした反応が返ってきました。奥さん「あまり大きな後遺症が残ってもちょっと困りますから」何だか私1人が感動物語を作ろうと空回りしているみたいでした。とはいえ、これまで何度もご主人の大病を経験している奥さんのこと。「後遺症」という言葉ひとつにも重みが違います。口調は淡々としていますが、いつも献身的に外来受診に付き添う姿には感心せざるを得ません。忘れてはならないのがコロナ治療をした病院です。「心臓マッサージしますか」と尋ねられたりしたということで冷たい印象を持つ人もいるかもしれませんが、気管切開してまで救命したのですから大したものです。感謝しかないですね。それとは別に驚いたことがありました。私の処方していた抗痙攣薬が、コロナ治療中から中止されっぱなしだったのです。いろいろ考えた末の決断なのか、単に再開するのを忘れていただけなのか。それは謎です。とはいえ、数ヵ月間の服薬中断にもかかわらず、一度も痙攣は起きていないとのこと。経緯はどうあれ、投薬が減るのならありがたいことです。いずれにせよ、新型コロナウイルスとの戦いはまだ終わったわけではありません。今後も引き続き、気を引き締めつつ診療を続けていく必要がありますね。最後に1句ご夫婦と コロナを語る 冬の朝 

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米国ではCOVID-19が依然として健康上の大きな脅威

 新型コロナウイルスは依然として米国人の健康に対する脅威であり、インフルエンザウイルスやRSウイルスよりも多くの感染と死亡を引き起こしていることが、新たな研究で示唆された。米国退役軍人省(VA)ポートランド医療システムのKristina Bajema氏らが「JAMA Internal Medicine」に1月27日報告したこの研究によると、2023/2024年の風邪・インフルエンザシーズン中に米国退役軍人保健局(VHA)で治療を受けた呼吸器感染症患者の5人中3人(60.3%)が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患していたという。 この研究でBajema氏らは、呼吸器感染症の2022/2023年シーズンと2023/2024年シーズンのVHAの医療記録を後ろ向きに解析し、COVID-19、インフルエンザ、RSウイルス感染症の重症度を比較した。対象は、2022年8月1日から2023年3月31日、または2023年8月1日から2024年3月31日の間に、COVID-19、インフルエンザ、RSウイルス感染症の検査を同日に受け、いずれかの診断を受けたが入院はしなかった退役軍人とした。 その結果、2022/2023年コホート(6万8,581人)の66.2%、2023/2024年コホート(7万2,939人)の60.3%がCOVID-19の診断を受けていたことが明らかになった。一方、インフルエンザとRSウイルス感染症の診断を受けた割合は、2022/2023年コホートでそれぞれ24.7%と9.1%、2023/2024年コホートで26.4%と13.4%であった。2023/2024年シーズンにおける診断から30日間での入院リスクは、COVID-19で16.2%、インフルエンザで16.3%と同程度であった(RSウイルス感染症では14.3%)。 2022/2023年シーズンにおける診断から30日間の死亡率は、COVID-19で1.0%、インフルエンザで0.7%、RSウイルス感染症で0.7%であり、COVID-19の死亡率はインフルエンザやRSウイルス感染症をわずかに上回った。しかし、2023/2024年シーズンでの同死亡率は、それぞれ0.9%、0.7%、0.7%であり、COVID-19の死亡率はインフルエンザやRSウイルス感染症と類似していた。 一方、180日間の累積死亡率は、両シーズンともCOVID-19で最も高く、2022/2023年シーズンでは3.1%、2023/2024年シーズンでは2.9%に達した。2022/2023年シーズンでは、COVID-19とインフルエンザの180日間の死亡リスク差(RD)は1.1%(95%信頼区間0.6〜1.5)、COVID-19とRSウイルス感染症のRDも1.1%(同0.6〜1.4)、2023/2024年シーズンでは、それぞれ0.8%(同0.3〜1.2)、0.6%(同0.1〜1.1)と推定された。これに対し、インフルエンザとRSウイルス感染症の180日間の死亡リスクに有意な差は見られなかった。 このほか、両シーズンとも、COVID-19ワクチンの未接種者は、インフルエンザワクチンの未接種者よりも死亡リスクが高い傾向にあったことも示された。一方、ワクチン接種者の間では、COVID-19とインフルエンザの死亡リスクに有意な差は認められなかった。 Bajema氏は、「新型コロナウイルスはインフルエンザウイルスやRSウイルスよりもはるかに多くの感染者を出し、短期入院リスクや死亡リスクの上昇など、より重篤な転帰をもたらした」と話す。研究グループは、「ワクチン接種は今も、ウイルス性の呼吸器疾患、特に新型コロナウイルスのオミクロン株の影響を最小限に抑えるための重要な戦略である」と結論付けている。

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妊娠可能年齢の女性と妊婦を守るワクチン 前編【今、知っておきたいワクチンの話】総論 第7回

本稿では「妊娠可能年齢の女性と妊婦を守るワクチン」について取り上げる。これらのワクチンは、女性だけが関与するものではなく、その家族を含め、「彼女たちの周りにいる、すべての人たち」にとって重要なワクチンである。なぜなら、妊婦は生ワクチンを接種することができない。そのため、生ワクチンで予防ができる感染症に対する免疫がない場合は、その周りの人たちが免疫を持つことで、妊婦を守る必要があるからである。そして、「胎児」もまた、母体とその周りの人によって守られる存在である。つまり、妊娠可能年齢の女性と妊婦を守るワクチンは、胎児を守るワクチンでもある。VPDs(Vaccine Preventable Diseases:ワクチンで予防ができる病気)は、禁忌がない限り、すべての人にとって接種が望ましいが、今回はとくに妊娠可能年齢の女性と母体を守るという視点で、VPDおよびワクチンについて述べる。ワクチンで予防できる疾患(疾患について・疫学)妊娠可能年齢・妊婦にとってワクチン接種が重要な理由は下記3つである。(1)妊婦がVPDに感染すると、重症化しやすい感染症がある。また、胎児に感染すると胎児に健康問題が生じ、最悪の場合、流産/早産を含め、胎児の生命に関わることがある。(2)一方で、あらかじめワクチンで予防できていれば、高確率でVPDによる上記の事態を免れる。(3)しかし、妊婦は生ワクチンを接種できないため、「妊娠前」に(計画的な)接種が必要である。上記の理由以外に、妊婦が免疫をつけておくと新生児のVPD感染や、それによる重症化を予防することにもつながるVPDもある。つまり、女性1人のワクチン接種の有無が、その女性(妊婦)以外に、胎児、産後の新生児の健康問題にまで関りうるという点において、本稿の重要性は高い。妊娠前に免疫をつけておくべきVPDを表に示す。表 感染症に罹患した場合の胎児および母体への影響画像を拡大する上記以外のあらゆる感染症でも、流早産のリスクが伴うどのワクチンも世界的に安全性と有効性が確かめられているワクチンの概要(効果・副反応・生または任意・接種方法)妊婦に生ワクチンの接種は禁忌である。そのため妊娠可能年齢の女性には、事前に計画的なワクチン接種が必要となる。しかし、妊娠は予期せず突然やってくることもある。そのため、日常診療やライフステージの変わり目などの機会を利用して、予防接種が必要なVPDについての確認が重要となる。一方、不活化ワクチンは妊娠中でも接種が可能である(詳細は後編で詳述する)。以下に生ワクチン(麻疹、風疹、水痘、ムンプス)について説明する。1)麻疹、風疹、水痘、ムンプス(生ワクチン)これら4つの生ワクチンはしばしばMMRV(Measles Mumps Rubella Varicella)と略して表現されることが多い、重要性の高いVPDである。MMRVそれぞれのワクチンについての共通点としては、1歳以上でそれぞれ計2回の接種を受けていることが必要であることが挙げられる。また、感染症としても基本再生産数(R0)*1が高く、麻疹・水痘は空気感染するなど、その感染性の高さも共通項といえる(R0:麻疹12-18、風疹6-7、水痘8-10、ムンプス4-7)。いずれも子供の感染症であるという印象を持つ医師も少なくないかもしれないが、現代においては、小児は定期接種で予防されている割合が格段に増えた。そして、幼少期に定期接種になっていなかったがために、ワクチンを接種する機会がなく、かつ、感染機会もないまま、キャッチアップの機会に恵まれなかった、「置いてけぼりの成人」が主に罹患する感染症であると心得たい。*1基本再生産数(R0:アールノート)集団にいるすべての人間が感染症に罹る可能性をもった(感受性を有した)状態で、1人の感染者が何人に感染させうるか、感染力の強さを表す。つまり、数が大きいほど感染力が強い。それぞれの疾患やワクチンの詳細については、本コンテンツのバックナンバーを参照していただきたい。MRワクチン(麻疹・風疹)水痘、帯状疱疹ワクチン流行性耳下腺炎(ムンプス)妊婦に関連する内容を下記に述べる。(1)麻疹麻疹は先進国でも死亡率0.1%の重症感染症である。また、命をとり止めたとしても、呼吸器(肺炎、中耳炎など)や消化器(下痢、口内炎)の合併症が多い。頻度は少ないが神経系合併症は予後不良で、感染してから数週間、数年、数十年後に発症するものもある。胎児が麻疹に感染しても奇形などを来すことはないが、妊婦が感染することで、妊婦の重症化やそれに伴う流・早産のリスクが伴う。わが国での麻疹発生数は、コロナ禍はその感染対策の影響で年間10例以下であったが、いわゆる「コロナ明け」に伴いその数は徐々に増加傾向にある。世界全体では継続的に毎年12~15万人の死者が出ている。麻疹感染の発端はそのほとんどが輸入麻疹(海外から持ち込まれた麻疹のこと:日本人が渡航先で感染して帰国するパターンや、麻疹に感染した海外の人がわが国で発症するパターンなどが代表例)である。インバウンド(海外からの旅行客)が確実に回復し、増加傾向である以上、再度感染者数が増えるのは想像に難くない(図)。図 麻疹累積報告数の推移 2017~2024年(第1~47週)画像を拡大する感染症発生動向 2024年第47週(2024/11/27) 国立感染症研究所より引用麻疹の年代別感染者の割合は、例年20~30代が約半数以上を占めており、女性では妊孕性の高い年代といえる。2000(平成12)年4月2日以降に生まれた人(2024年4月1日時点で23歳以下)は、予防接種制度で2回のワクチン接種を推奨されていた年代であるが、それ以外(24歳以上)は、接種回数が不足している可能性がある*2。妊娠可能年齢の女性には、日常診療での積極的なワクチン接種歴の確認が望ましい。*2 2008(平成20)年4月1日から行われた特例措置(5年間)では、1990(平成2)年4月2日~2000(平成12)年4月1日生まれの人に対して、MRワクチン2回目接種が行われた。そのため、この24~33歳(2024年4月1日時点)で特例措置を受けている人は2回接種していることになる。(2)風疹妊婦が妊娠初期に風疹に感染すると、高い確率で胎児にも感染し、先天性風疹症候群(Congenital Rubella Syndrome:CRS)の赤ちゃんが生まれる可能性がある。CRSの3大症状は、難聴、心疾患、白内障だが、その他、精神や身体の発達の遅れなどもある。感染時期が、妊娠初期であればあるほど胎児に異常が認められる確率は高くなるが、妊娠20週以降では異常がないことが多いと報告されている1)。また、成人でも15%程度不顕性感染があるため、母親が無症状であってもCRSは発生し得ることにも留意したい。2012~13年の風疹大流行時には45例のCRSの赤ちゃんが生まれた。その後のフォローアップ調査でCRS児の致命率は24%、CRSを出生した母親の中で風疹含有ワクチンを2回接種した人は0人であった2)。CRSを出生した母親の多くは、単に「風疹ワクチンの必要性や重要性について知らなかった」「誰かが教えてくれていたら…」という、自身の無知に対する後悔の念を述べている3)。妊娠可能年齢の女性やそのパートナーへの事前の情報提供がいかに重要か、また、他人事ではなく、自分事として考えることの難しさについて考えさせられる体験談をぜひご一読頂きたい。なお、風疹流行時の首座は、幼少期に予防接種の機会がなかった40~50代の成人男性である。その年代に対して2019年4月から実施された風疹第5期定期接種は2024年度末まで延期されたが、2024年11月時点で抗体検査を受けた人は500万人弱(対象男性人口の32.4%)、ワクチン接種を受けた人は107万人強(対象男性人口の7.0%)*3と、目標には程遠い結果である。残りの期間(抗体検査は2月末、定期接種は3月末まで)でどこまで接種率が伸びるか、これにはわれわれ医療従事者の啓発力が試されるかもしれない。*3 風疹に関する疫学情報 2025年1月29日現在(3)水痘水痘は2014年10月に1~2歳児での2回の接種が定期接種化され、患者数は大幅に減少した。しかし、そんな中でも国立感染症研究所(感染研)のレポートでブレイクスルー水痘による集団感染事例が報告されるなど、気が抜けない感染症である。水痘は小児に比し、成人で重症化しやすく、中でも妊婦は重症化しやすいハイリスク者である。風疹は妊娠初期の感染でCRSとなるリスクが高いと述べたが、水痘は妊娠中だけでなく、周産期の母児に対しても大きな影響を及ぼす。たとえば、水痘に対する免疫がない妊婦が妊娠中に初感染すると、10~20%で水痘肺炎を発症し、時に致死的となる。その他、妊娠中期の感染で胎児が先天性水痘症候群(Congenital Varicella Syndrome:CVS)を発症するリスク(2%程度の頻度で出生)があり、周産期(分娩5日前~2日後)では重篤な新生児水痘を生じ得る。妊娠前のブライダルチェックなどで、麻疹・風疹についてはよく議論に上がりやすいが、水痘はなぜか忘れられがちである。妊娠前に接種記録を確認し、1歳以降で2回の接種歴が確認できない場合は不足分の接種を推奨したい。次回、後編では、不活化ワクチンなどの概要、接種のスケジュール、接種時のポイントなどを説明する。参考文献・参考サイト1)病原微生物検出情報 (IASR) 先天性風疹症候群に関するQ&A(2013年9月)2)2012~2014年に出生した先天性風疹症候群45例のフォローアップ調査結果報告. 国立感染症研究所.3)体験談「妊娠中に風疹になって~予防の大切さを伝えたい!~」(風疹をなくそうの会 「hand in hand」)講師紹介

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未治療CLLへの固定期間のアカラブルチニブ併用療法、PFSを改善/NEJM

 未治療の慢性リンパ性白血病(CLL)患者において、BTK阻害薬アカラブルチニブとBCL-2阻害薬ベネトクラクスの併用療法は、抗CD20抗体オビヌツズマブの追加有無にかかわらず、化学免疫療法と比較し無増悪生存期間(PFS)を有意に延長したことが、米国・ダナ・ファーバーがん研究所のJennifer R. Brown氏らAMPLIFY investigatorsが27ヵ国133施設で実施した第III相無作為化非盲検試験「AMPLIFY試験」で示された。未治療CLL患者において、アカラブルチニブ+ベネトクラクスの固定期間併用投与が、化学免疫療法と比べてPFSが優れるかどうかは不明であった。NEJM誌オンライン版2025年2月5日号掲載の報告。アカラブルチニブ+ベネトクラクス併用療法と医師選択化学免疫療法を比較 研究グループは、18歳以上、ECOG PS 0~2で、17p欠失またはTP53変異のない未治療CLL患者(>65歳はCumulative Illness Rating Scale for Geriatrics[CIRS-G]スコアが>6の場合は除外)を、アカラブルチニブ+ベネトクラクス(AV)群、アカラブルチニブ+ベネトクラクス+オビヌツズマブ(AVO)群、または化学免疫療法群に1対1対1の割合で、無作為に割り付けた。 AV群では、1サイクル28日として、アカラブルチニブ(100mgを1日2回)をサイクル1~14に、ベネトクラクス(20mgを1日1回から開始し5週間をかけて400mgを1日1回に増量)をサイクル3~14に投与した。 AVO群では、上記のAVに加えてオビヌツズマブ(1,000mg)をサイクル2~7の1日目に静脈内投与した。 化学免疫療法群では、医師選択によるフルダラビン+シクロホスファミド+リツキシマブまたはベンダムスチン+リツキシマブを標準投与プロトコールに従い、サイクル1~6に投与した。 主要評価項目は、盲検下独立中央判定によるPFSで、AV群と化学免疫療法群を比較した(ITT解析)。アカラブルチニブ+ベネトクラクスのPFSが有意に延長 2019年2月25日~2021年4月5日に、1,141例がスクリーニングを受け、867例が無作為化された(AV群291例、AVO群286例、化学免疫療法群290例[フルダラビン+シクロホスファミド+リツキシマブ群143例、ベンダムスチン+リツキシマブ群147例])。患者背景は、年齢中央値61歳(範囲:26~86)、男性64.5%、IGHV(免疫グロブリン重鎖可変領域遺伝子)変異なし58.6%であった。 追跡期間中央値40.8ヵ月において、36ヵ月PFS率推定値はAV群76.5%(95%信頼区間[CI]:71.0~81.1)、AVO群83.1%(78.1~87.1)、化学免疫療法群66.5%(59.8~72.3)であり、化学免疫療法群に対するAV群の疾患進行または死亡のハザード比は0.65(95%CI:0.49~0.87、p=0.004)であった(AVO群と化学免疫療法群の比較のp<0.001)。 重要な副次評価項目である全生存期間(OS)については、36ヵ月OS率推定値がAV群94.1%、AVO群87.7%、化学免疫療法群85.9%であった。 主な臨床的に関心のある有害事象のうち、Grade3以上の好中球減少症はAV群、AVO群および化学免疫療法群でそれぞれ32.3%、46.1%、43.2%に報告された。また、新型コロナウイルス感染症による死亡はそれぞれ10例、25例、21例報告された。

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COVID-19は筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群リスクを高める

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)の発症リスクを高めるようだ。新型コロナウイルス感染者は、ME/CFSを発症するリスクが5倍近く高くなることが、新たな研究で示された。研究グループは、このことからME/CFSの新規症例がパンデミック前の15倍に増加している理由を説明できる可能性があるとの見方を示している。米ベイトマンホーンセンターのSuzanne Vernon氏らによるこの研究結果は、「Journal of General Internal Medicine」に1月13日掲載された。Vernon氏らは、「われわれの研究結果は、新型コロナウイルス感染後にME/CFSの発症率と発症リスクが大幅に増加することのエビデンスとなるものだ」と結論付けている。 米疾病対策センター(CDC)によると、ME/CFSの患者は慢性的な倦怠感に悩まされており、用事を済ませる、学校行事に参加する、仕事をこなす、シャワーを浴びるなどの日常的な活動を行った後には倦怠感が増幅するという。また、睡眠障害やめまい、記憶や思考能力の低下などの症状に悩まされることもある。これらの症状の多くは、COVID-19罹患後症状(long COVID)にも見られることから、研究グループは、両者の間に関連性があるのではないかと考えた。研究グループによると、EBウイルス(エプスタイン・バーウイルス)やロスリバーウイルスのようなウイルスによる感染症罹患者の11%も、ME/CFSの診断基準を満たすという。 今回の研究は、COVID-19の健康への長期的な影響に関するプロジェクトRECOVER(Researching COVID to Enhance Recovery)の一環として、RECOVERの成人を対象とした縦断観察研究RECOVER-Adultのデータを用い、新型コロナウイルス感染者1万1,785人と非感染者1,439人を対象に、ME/CFSの罹患率と有病率を調査した。対象者は、新型コロナウイルス感染後のME/CFSの有無に基づき、ME/CFSの診断基準を満たす者、診断基準を満たさないがME/CFS様の症状がある者、ME/CFSの症状を報告しない者の3群に分類された。 新型コロナウイルス感染者のうち、531人(4.5%)がME/CFSの診断基準を満たし、4,692人(39.8%)がME/CFS様の症状を持ち、6,562人(55.7%)はME/CFSの症状を有していなかった。非感染者では、それぞれ9人(0.6%)、232人(16.1%)、1,198人(83.3%)であった。ME/CFSの100人年当たりの罹患率は新型コロナウイルス感染者で2.66件(95%信頼区間2.63〜2.70)であったのに対し、非感染者では0.93件(同0.91〜10.95)であった。ハザード比(HR)は4.93(同3.62〜6.71)であり、新型コロナウイルス感染がME/CFSの発生リスクを大幅に増加させることが示された。新型コロナウイルス感染者において最もよく報告されたME/CFSの症状は労作後の倦怠感で、全感染者の24.0%(2,830人)に認められた。さらに、新型コロナウイルス感染後にME/CFSの診断基準を満たした参加者の大多数(88.7%、471/531人)は、RECOVER研究で定義されるlong COVIDの基準も満たしていた。 研究グループは、「さらなる研究で、一部の新型コロナウイルス感染者が他の患者よりも感染後にME/CFSを発症しやすい理由を解明する必要がある」と結論付けている。

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第229回 高額療養費制度の自己負担の引き上げ案、政府が修正を検討/政府

<先週の動き>1.高額療養費制度の自己負担の引き上げ案、政府が修正を検討/政府2.医療存続のためJA県厚生連に19億円支援、経営改革が課題/新潟県3.東京女子医大元理事長を再逮捕 不正支出1.7億円、還流の疑い/警視庁4.若手医師の過労死、甲南医療センターの院長ら不起訴処分に/神戸地検5.維新の会、医療費4兆円削減と社保料6万円減を提案/国会6.28億円の診療報酬不正請求発覚、訪問看護で虚偽記録横行/サンウェルズ1.高額療養費制度の自己負担の引き上げ案、政府が修正を検討/政府政府は、高額な医療費の自己負担を軽減する「高額療養費制度」の見直し案について、修正を検討している。政府案では、2025年8月から3段階に分けて自己負担の上限額を引き上げる方針だったが、長期治療を必要とするがん患者などから「受診抑制につながる」との懸念が相次ぎ、負担軽減に向け、見直し案の修正が求められていた。高額療養費制度は、医療費が一定額を超えた場合に、患者の自己負担額に上限を設ける仕組み。政府の見直し案では、70歳未満の年収約370~770万円の層で、1ヵ月の自己負担限度額が現行の8万100円から最終的に13万8,600円に引き上げられる予定だった。さらに、12ヵ月以内に3回以上限度額を超えた場合、4回目以降は負担を軽減する「多数回該当」制度についても、上限額が4万4,400円から7万6,800円に引き上げられることになっていた。この見直し案に対し、全国がん患者団体連合会などの患者団体が強く反発し、12ヵ月以内に6回以上限度額を超えた場合、7回目以降の負担を現行水準に据え置く案を提案。政府はこれを参考に、長期治療を受ける患者の負担増を抑える方向で修正を検討している。また、患者団体からの意見聴取が行われなかったことも問題視され、国会では見直し案の凍結や再検討を求める声が上がった。これを受け、石破 茂首相は「患者の理解を得ることが必要」とし、福岡 資麿厚生労働大臣が患者団体との意見交換を行う方針を示した。野党側も見直し案に強く反対し、立憲民主党は高額療養費の負担引き上げを凍結する修正案を国会に提出予定。新型コロナウイルスワクチンの基金や予備費を財源に充当できると主張している。一方、政府は「制度の持続可能性を確保するために負担増は必要」との立場を維持しており、今後の調整が注目される。全国保険医団体連合会の調査では、がん患者の約半数が自己負担増による「治療の中断」を検討し、6割以上が「治療回数の削減を余儀なくされる」と回答。生活面では、8割以上が「食費や生活費を削る」とし、子供の教育への影響も懸念されている。政府は今後、長期治療を受ける患者の負担軽減を含めた修正案をまとめるが、財源確保の問題もあり、与野党の調整は難航する可能性が高い。高額療養費制度の持続性と患者負担のバランスをどう取るか、引き続き議論が続く見通し。参考1)「治療諦めろというのか」子育て中のがん患者 高額療養費見直し案に(毎日新聞)2)高額療養費引き上げ凍結を 立民、財源はコロナ基金(日経新聞)3)高額療養費の負担増なぜ見直し? 政府・与党、患者に配慮(同)4)高額療養費、負担引き上げで「治療断念」検討も がん患者ら調査(朝日新聞)5)子どもを持つがん患者さんに高額療養費アンケート 記者会見で中間報告(保団連)2.医療存続のためJA県厚生連に19億円支援、経営改革が課題/新潟県新潟県内で11病院を運営するJA県厚生連が経営危機に直面し、2025年度中にも運転資金が枯渇する恐れがあることを受け、県と病院所在の6市が総額19億円の財政支援を行う方針を決定した。6日に県庁で開かれた会合で、新潟県は国の交付金を活用しながら10億円程度を負担し、6市は約9億円を拠出することを表明。これにより、当面の資金不足は回避される見込みとなった。県厚生連は、人口減少に伴う患者数の減少が影響し、2023年度決算で35億9,000万円の赤字を計上。2024年度は職員の賞与削減など緊急対策を実施しているが、12月時点で45億6,000万円の赤字が見込まれている。病院運営に必要な運転資金は月額90億円に上るため、早急な財政支援が求められていた。会合では、県の花角 英世知事が「持続可能な経営には抜本的な改革が必要」と述べ、病院再編を含めた地域医療の効率化を求めた。6市を代表して糸魚川市の米田 徹市長は、「県として3ヵ年の財政支援を継続して欲しい」と要望し、国に対しても診療報酬制度の見直しを求める姿勢を示した。県厚生連の塚田 芳久理事長は「さらなる経営改革を進め、県民に安心できる医療を提供しながら安定経営の確保に努める」と表明。年度内に2025年度から3年間の経営計画を策定し、経営改善を図る方針という。しかし、長期的な経営安定には根本的な改革と継続的な財政支援が不可欠であり、今後の動向が注目されている。参考1)県厚生連へ19億円支援 県と6市方針 病院運営危機受け(読売新聞)2)JA県厚生連に19億円 25年度分 県と6市が支援表明(毎日新聞)3)新潟県、病院経営危機のJA県厚生連への支援を10億円規模で調整 2025年度の運転資金枯渇は回避できる見通し(新潟日報)3.東京女子医大元理事長を再逮捕 不正支出1.7億円、還流の疑い/警視庁東京女子医科大学の建設工事を巡る背任事件で、警視庁は3日、元理事長の岩本 絹子容疑者(78)を再逮捕した。岩本容疑者は2020年から翌年にかけて、足立区に新設された大学付属病院「足立医療センター」の建設工事に関連し、「建築アドバイザー報酬」名目で約1億7,000万円を大学から1級建築士の男性に支払わせ、損害を与えた疑いが持たれている。うち約5,000万円が岩本容疑者に還流されていたとみられる。岩本容疑者は1月、新校舎建設を巡る背任容疑で逮捕されていた。警視庁の調べによると、同様の手口で1億1,700万円の不正支出が行われ、そのうち約3,700万円が還流されたとされる。これにより、架空の「建築アドバイザー報酬」による大学の損害は総額3億円超に上る可能性がある。捜査関係者によると、建築士の男性は大学から受け取った資金の一部について元女子医大職員を通じて岩本容疑者に現金で渡していた。元職員の女性は岩本容疑者の直轄部署に所属しており、容疑者の指示の下、資金移動を担っていたとみられる。大学側が承認した建設に関係する稟議書によると、建築士への支払いは施工費(約264億円)の0.7%に相当し、理事会で承認されていた。しかし、実際には業務実態が乏しく、大学関係者からは「理事会での異議申し立てが困難な状況だった」との証言も出ている。さらに、内部文書の解析から、理事長自らが申請者兼承認者となっていたことも判明し、不正の組織的な側面が浮かび上がっている。警視庁は、還流資金がブランド品購入など私的な用途に充てられた可能性もあるとみており、資金の流れや関係者の役割について捜査を進めている。岩本容疑者の認否は明らかにされていないが、背任の疑いは一層強まっている。参考1)本日2/3(月)元理事長の再逮捕について(女子医大)2)東京女子医大元理事長、背任容疑で再逮捕…業務実態ない男性への報酬で1・7億円の損害与えた疑い(読売新聞)3)東京女子医大の女帝再逮捕 内部文書で明らかになった“デタラメやりたい放題”の仕組み「女子医大には元理事長の手足となって動いた人間たちがたくさんいる」(文春オンライン)4.若手医師の過労死、甲南医療センターの院長ら不起訴処分に/神戸地検2022年に神戸市の甲南医療センターで勤務していた専攻医・高島 晨伍さん(当時26歳)が長時間労働を苦に自殺した問題で、神戸地検は4日、労働基準法違反の疑いで書類送検されていた病院運営法人「甲南会」と院長ら2人を不起訴処分とした。検察は不起訴の理由を明らかにしていない。西宮労働基準監督署の調査では、高島さんの亡くなる直前の1ヵ月間の時間外労働が113時間を超えていたと認定されていた。高島さんの母は「非常に残念。この結果が若手医師の労働環境改善を阻むものであってはならない」とコメント。病院側は「事実に基づく捜査を経ての判断」と述べるにとどまった。この問題は、医師の働き方改革とも密接に関係し、2024年4月から医師の時間外労働に上限規制が導入され、基本的には年間960時間(月80時間)が上限とされた。しかし、研修医や特定の医療機関では、最大で年間1,860時間(月155時間)までの時間外労働が認められており、現場の実態との乖離が指摘されている。また、医療現場では「自己研鑽」として学会準備や研究活動が労働時間に含まれず、事実上の無償労働が横行しているとの批判もある。厚生労働省の通達では「上司の指示がある場合は労働」とされるが、実際には上司の関与が曖昧なケースも多く、勤務時間の過少申告につながる恐れがあると指摘されている。さらに、病院側は「宿日直許可制度」を利用し、夜間の長時間勤務を労働時間に含めない運用を行っている。この制度の適用件数は2020年の144件から2023年には5,000件を超え、病院経営の抜け道として使われているのが実情である。若手医師の過重労働は、医療の安全性や医師不足の深刻化にも影響を及ぼす。すでに「地域医療の維持よりも働きやすさを求め、美容医療などに転職する若手医師が増えている」との指摘もあり、医療界全体のモラルハザードが懸念さている。医師の長時間労働は、単なる労働問題ではなく、患者の安全にも直結する。自己犠牲を前提とした医療制度の見直しが急務となっている。参考1)甲南医療センター若手医師の過労自死 労基法違反疑いの院長ら不起訴処分 神戸地検(神戸新聞)2)若手医師の過労死、労基法違反疑いの病院運営法人や院長ら不起訴 神戸地検、理由明かさず(産経新聞)3)医師不足に拍車をかける「偽りの働き方改革」(東洋経済オンライン)5.維新の会、医療費4兆円削減と社保料6万円減を提案/国会日本維新の会は2月7日、政府の2025年度予算案への賛成条件として、医療費の年間約4兆円削減と国民1人当たりの社会保険料を約6万円引き下げる改革案を提示した。これにより、高校授業料無償化と並び、社会保障制度の見直しを求める構え。自民・公明両党は慎重な対応をみせており、今後の協議の行方が注目されている。維新の青柳 仁士政調会長は、自民・公明両党の政調会長との会談で、医療費削減策として「市販薬と類似する医薬品(OTC類似薬)の保険適用除外」「医療費窓口負担の見直し」「高額療養費の自己負担限度額の判定基準再検討」などを提案。さらに、社会保険加入が義務付けられる「年収106万円・130万円の壁」問題への対応も要請した。維新は、これらの改革を2025年度から実施すれば、年間4兆円の医療費削減が可能であり、国民の社会保険料負担を1人当たり年間6万円減らせると主張している。とくに、OTC類似薬の保険適用除外については、湿布や風邪薬など、処方薬として購入すれば1~3割の自己負担で済むが、全額自己負担とすることで約3,450億円の医療費削減が見込まれると試算。さらに、窓口負担割合の見直しでは、所得に加え、預貯金や株式などの金融資産を考慮する仕組みを導入し、資産の多い高齢者の負担を増やすことを提案した。また、電子カルテと個人の健康情報を統合する「パーソナル・ヘルス・レコード(PHR)」の普及促進も掲げ、医療コストの効率化を狙う。一方、維新は医療費削減策だけでなく、社会保険料負担軽減のための年収の壁問題にも言及。現在、51人以上の企業に勤めるパート労働者は年収106万円を超えると社会保険加入が義務付けられ、130万円を超えると企業規模に関係なく加入が求められる。この制度が労働時間の抑制を生み、人手不足を助長しているとの指摘もあり、維新は政府に対策を求めた。自民党は、まずは高校授業料無償化の議論を優先し、維新の予算案への賛成を取り付けたい考えだが、維新は「高校無償化と社会保険料引き下げの両方が必要条件」と主張し、交渉は難航する可能性がある。自民・公明両党は改革案の具体的な影響を精査するとして回答を留保しており、維新の提案が実現するかは不透明だ。政府は社会保障費の増大に対応するため、医薬品の公定価格(薬価)引き下げによる財源捻出を続けている。しかし、薬価改定による削減効果は限界に達しつつあり、新たな医療費抑制策が求められる状況。維新の提案がこの課題にどう影響を与えるのか、今後の国会審議に注目が集まる。参考1)維新が医療費4兆円削減、社会保険料は6万円引き下げ提案 新年度予算案賛成の条件に(産経新聞)2)「市販品類似薬を保険外に」維新、社保改革で具体案 自公に提案、予算賛成の条件(日経新聞)3)高額療養費の「自己負担の上限引き上げ」見直しへ…政府・与党、がん患者らに反発広がり(読売新聞)4)少数与党国会、厚労省提出法案の「熟議」を注視(MEDIFAX)6.28億円の診療報酬不正請求発覚 訪問看護で虚偽記録横行/サンウェルズパーキンソン病専門の有料老人ホーム「PDハウス」を運営する東証プライム上場のサンウェルズ(金沢市)が、全国のほぼ全施設で診療報酬の不正請求を行っていたことが、7日に公表された特別調査委員会の報告書で明らかになった。調査の結果、不正請求額は総額28億4,700万円に上ると試算されている。報告書によると、サンウェルズは全国14都道府県で約40ヵ所の「PDハウス」を運営。訪問看護事業において、実際には数分しか訪問していないにもかかわらず、30分間訪問したと虚偽の記録を作成し、診療報酬を請求するなどの不正が横行していた。また、実際には1人で訪問しているにもかかわらず、2人で訪問したと装い、加算報酬を請求するケースも確認された。さらに、特定の入居者に対し、必要がないにもかかわらず毎日3回の訪問を行い、過剰な請求を行っていたことも判明。現場の職員の間では「訪問回数を減らせばペナルティーが科される」という認識が広まり、不正が慣例化していた可能性が高い。経営陣はこうした問題について複数回の内部通報を受けていたものの、実態把握に動かなかったとされる。サンウェルズは当初、不正の疑惑を全面否定していたが、昨年9月の報道を受けて特別調査委員会を設置。今回の調査結果を受け、「多大なご迷惑をおかけし、深くお詫び申し上げます。再発防止策を速やかに策定し、信頼回復に努める」と謝罪のコメントを発表した。一方で、同社の経営陣にはインサイダー取引の疑惑も浮上している。昨年7月、サンウェルズは不正の指摘を受けながらも、東証プライム市場へ移行し、野村證券を主幹事とする株式の売り出しを実施。社長の苗代 亮達氏は個人で34億円の売却益を得ていた。市場関係者からは「不正を認識したまま株式を売却した可能性がある」として、金融商品取引法違反の疑いも指摘されている。今回の不正請求問題は、サンウェルズだけでなく、業界全体にも波紋を広げる可能性がある。ホスピス型老人ホームの需要が高まる中で、制度の見直しや行政のチェック体制の強化が求められている。参考1)特別調査委員会の調査報告書の受領に関するお知らせ(サンウェルズ社)2)約28億4,700万円の不正請求と調査委が試算…金沢市に本社の「サンウェルズ」の訪問看護事業めぐり(石川テレビ)3)老人ホームのサンウェルズ、ほぼ全施設で不正請求 調査委が報告書(毎日新聞)4)ほぼ全施設で不正請求 PDハウス運営サンウェルズ 調査委報告書 過剰訪問看護で28億円(中日新聞)5)東証プライム上場サンウェルズが老人ホームほぼ全てで介護報酬不正請求!社長の「インサイダー取引」疑惑に発展か(ダイヤモンドオンライン)

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