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第133回 パキロビッド投与後のCOVID-19再燃は免疫障害に起因するのではなさそう

Pfizer社の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)プロテアーゼ阻害薬・パキロビッドパック(Paxlovid、以下パキロビッド)投与が済んだ後のSARS-CoV-2感染(COVID-19)再燃(再発症やSARS-CoV-2再検出)は心配されていた免疫反応の障害によるのではないらしいことが米国政府研究者の試験で示唆されました1-3)。米国メリーランド州のNIH Clinical Centerや同国のその他の病院で進行中の試験の被験者を調べたその結果によるとパキロビッド投与5日間は短すぎてSARS-CoV-2への確実な免疫反応を引き出せないという仮説はどうやら的外れなようです2)。Clinical Infectious Diseases誌に先週6日に掲載されたその研究ではパキロビッド使用後にCOVID-19再燃を被った6例と再燃症状なしのCOVID-19患者6例が調べられました。COVID-19再燃患者6例はCOVID-19ワクチンの追加接種まで済ませており、最初の発症から4日以内にパキロビッドを使い始め、その後にCOVID-19症状が再発しました。比較対照群であるCOVID-19非再燃6例もワクチン追加接種済みでした。COVID-19再燃患者6例も対照群の6例も最初の感染や再燃の時に入院を要する重病には陥らずに済みました。それら12例の病状の経過や血液/鼻ぬぐい液を解析した結果、パキロビッドを効かなくすると思しき変異は幸いにもCOVID-19再燃患者に認められませんでした。SARS-CoV-2スパイクタンパク質への抗体はどの患者でも豊富で、COVID-19再燃患者の抗体確立の遅れを示す所見はありませんでした。SARS-CoV-2特異的なT細胞反応も確かであり、COVID-19再燃患者のその反応は非再燃患者を上回っていました。昔ながらの手法の培養でCOVID-19再燃患者6例を調べたところ自己免疫疾患で免疫不全の1例から感染可能なSARS-CoV-2が検出されました。また、ウイルスの細胞侵入をおよそ10倍高める成分・ポリブレン添加による培養でCOVID-19再燃患者6例を調べたところ昔ながらの手法より多い4例からSARS-CoV-2が同定されました。それらの結果によると再燃症状はSARS-CoV-2の名残りのRNAへの確固たる細胞反応を一因とするのであって免疫反応の障害がウイルス複製を許してしまうことに起因するのではなさそうです。COVID-19再燃患者から感染可能なSARS-CoV-2が検出されたことから隔離を要する場合があるかもしれません。それに、免疫反応が不十分な免疫不全の人へのより長期のパキロビッド治療を検討する臨床試験が必要なようです2)。参考1)Epling BP, et al.Clin Infect Dis. 2022 Oct 6:ciac663. [Epub ahead of print]2)Findings suggest COVID-19 rebound not caused by impaired immune response / Eurekalert3)COVID rebound after Pfizer treatment likely due to robust immune response, study finds / Reuters

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コロナ陽性判定後の鼻洗浄で重症化リスクが1/8に!?

 新型コロナウイルスの陽性判定後であっても、1日2回の鼻洗浄によって入院や死亡のリスクが低減することが、米国・Augusta UniversityのAmy L Baxter氏らにより報告された。新型コロナウイルスはACE2受容体に結合して細胞内に侵入することが知られているが、ACE2受容体にまだ結合していないウイルスを洗い流すことで、重症化を防ぐことができる可能性がある。Ear, Nose & Throat誌オンライン版2022年8月25日掲載の報告。 解析対象は、2020年9月24日~12月21日に実施された新型コロナウイルスのPCR検査で陽性となり、24時間以内に登録された55歳以上のハイリスク患者79例。平均年齢64±8歳、女性が36例(46%)、非ヒスパニック系白人が71%、平均BMIが30.3であった。 参加者を、240mLの生理食塩水に、10%ポビドンヨード液(2.5mL)または重曹(2.5mL)を混和した群に無作為に割り付け、14日間、1日2回鼻洗浄を行った。ポビドンヨード群は37例、重曹群は42例であった。主要評価項目は登録28日以内の新型コロナウイルス感染による入院または死亡で、副次的評価項目は鼻洗浄による症状の軽減であった。対照群は、米疾病対策センター(CDC)のデータにより、同期間に新型コロナウイルス陽性が判明した50歳以上の296万2,541例であった。 主な結果は以下のとおり。・参加者は、79例中62例が連日鼻洗浄を行った(1日平均1.8回)。・入院はポビドンヨード群で1例発生し、重曹群ではいなかった(1.27%)。死亡は両群ともいなかった。・対照群では、28万533例(9.47%)が入院し、入院データのない患者の死亡は4万4,773例(1.5%)であった。・対照群の入院・死亡リスクは、鼻洗浄を実施した人の8.57倍であった(標準誤差[SE]:2.74、p=0.06)。・鼻洗浄液の種類にかかわらず、1日2回の鼻洗浄を実施した人のほうが症状の軽減が早かった(x2=8.728、p=0.0031)。

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免疫抑制患者、ブースター接種50日以降に入院・死亡リスク増/JAMA

 重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)のデルタ変異株とオミクロン変異株が優勢であった時期に、ワクチンの初回および追加接種を受けた集団では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に起因する肺炎による入院や死亡の発生率が低く、複数回接種により重症COVID-19関連疾患の予防効果がもたらされた可能性があることが、米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のJ. Daniel Kelly氏らの調査で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2022年9月26日号で報告された。米国の後ろ向きコホート研究 研究グループは、米国の退役軍人健康管理局で治療を受けた経験のある集団を対象に、ワクチンの初回接種と追加接種後における重症COVID-19関連疾患の発生の評価を目的に、後ろ向きコホート研究を行った(米国退役軍人省などの助成を受けた)。 試験期間は2021年7月1日~2022年5月30日で、参加者はワクチン(BNT162b2[ファイザー製]、mRNA-1273[モデルナ製]、Ad26.COV2.S[ヤンセン製])の初回接種と追加接種を受けた。 161万719例が解析に含まれた。このうち男性が147万8,476例(91.8%)、女性は13万2,243例(8.2%)で、全体の年齢中央値は71歳(四分位範囲[IQR]:61~76)、110万280例(68.4%)が65歳以上で、113万3,785例(70.4%)は高リスクの併存疾患を有しており、15万8,684例(9.9%)は免疫抑制の状態であった。また、146万7,879例(91.1%)は、初回と追加で同じmRNAワクチンの接種を受けていた。免疫抑制状態の患者では経時的な効果が確認できず 24週の追跡期間中に、161万719例中2万138例でワクチン突破型(追加接種後に検査で確定された症候性COVID-19の診断と定義)のCOVID-19(125.0件[95%信頼区間[CI]:123.3~126.8]/1万人)が発現した。また、1,435例でCOVID-19に起因する肺炎による入院または死亡(8.9件[8.5~9.4]/1万人)が、541例で重症COVID-19肺炎による入院または死亡(3.4件[3.1~3.7]/1万人)が認められた。 高リスク集団におけるCOVID-19肺炎による入院または死亡の発生率は、65歳以上では1.9件(95%CI:1.4~2.6)/1万人であり、高リスクの併存疾患を有する集団では6.7件(6.2~7.2)/1万人、免疫抑制状態の集団では39.6件(36.6~42.9)/1万人であった。 COVID-19肺炎による入院または死亡の集団のサブグループ解析では、追加接種後24週までに、ワクチン接種の5つの組み合わせ(BNT162b2の3回接種、mRNA-1273の3回接種、Ad26.COV2.Sの2回接種、異なるmRNAワクチンの接種、Ad26.COV2.SとmRNAワクチンの接種)で、経時的な累積発生率に差はみられず、全般に発生率は低かった。 高リスク集団の経時的な解析では、免疫抑制状態の患者は免疫抑制のない患者と比較して、追加接種後51~100日(1~50日との比較でp=0.004)および101~150日(同p<0.001)のCOVID-19肺炎による入院または死亡のリスクが有意に高かった。この傾向は、BNT162b2の3回接種(追加接種後51~100日:p=0.02、同101~150日:p=0.002)およびmRNA-1273の3回接種(p=0.22、p=0.006)を受けた患者でも認められた。一方、65歳以上や高リスク併存疾患を有する集団では、このような傾向はみられず有効性が保持されていた。 著者は、「この研究は、デルタ変異株およびオミクロン変異株(BA.1、BA.2、BA.2.12.1)を含むSARS-CoV-2が米国で優勢であった時期に行われており、ワクチンの追加接種は、ウイルスが進化しても引き続きCOVID-19による重症疾患に対する予防効果をもたらしたことが示唆される」としている。

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第129回 国のコロナ治療薬支援は適正価格?現況を列挙してみると…

前回、興和が実施していた新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)に対する抗寄生虫薬のイベルメクチンの第III相臨床試験で有効性を示せなかったことについて触れた。その際に、私は厚生労働省が開発支援として同社に約61億円を拠出したことについては、日本にとってやむなしという見解を示している。ところで国の新型コロナ治療薬の開発支援にはどの程度のお金がこれまで使われたのか? 実はこれを正確に計算することはなかなか困難である。というのも、まず財布(支出元)が厚生労働省、国立感染症研究所、日本医療研究開発機構(AMED)、内閣府、経済産業省、文部科学省など多岐にわたるからだ。また、この中には正規の当初予算の中の予備費などを活用したものや補正予算で対応したものなどさまざま。支出先も製薬企業だけでなく、大学その他の研究機関なども少なくない。こうした中で最も分かりやすい厚生労働省の「新型コロナウイルス感染症治療薬の実用化のための支援事業」で製薬企業に直接支出されたものは以下のようになる(金額は百万円単位を四捨五入)。エンシトレルビル(商品名:ゾコーバ):82億2,000万円[?]イベルメクチン(商品名:ストロメクトール):61億6,000万円[試験未達]ファビピラビル(商品名:アビガン):14億8,000万円[試験終了、申請意向は不明]カモスタット(商品名:フオイパン):6億円[コロナ対象の開発中止]AT-527:4億6000万円[国内開発終了]カシリビマブ/イムデビマブ(商品名:ロナプリーブ):3億2,000万円チキサゲビマブ/シルガビマブ(商品名:エバシェルド):2億8,000万円ソトロビマブ(商品名:ゼビュディ):2億6,000万円オチリマブ:1億9,000万円[開発中止]総額では約179億円になる。ちなみに各種報道によると、大学などへも含めた治療薬開発支援の総額は1,000億円超に上るという。現在までにこれらの中で上市に至ったものへの支援総額は8億6,000万円、支出総額の5%程度に過ぎない。開発が進行中で最多金額が支出されたエンシトレルビルは先日、第III相臨床試験でポジティブな結果が報告されたため、このままで行けば上市される可能性が高い。この分を含めると支援総額の半分はなんとか上市にこぎつけることになる。さて、この予算投入に対する評価は個人によってかなり変わるかもしれない。私はまずまずの結果と見ている。ただ、敢えて本音を言えば「ふーん、これが先進国である日本の有様?」とも考えてしまう。率直に言えば、支援額は「0が2つ足りない」とさえ思う。ご存じのように今や1つの新規成分を治療薬として上市するまでには、期間にして20年、費用にして200億円を要すると言われる。その中で抗ウイルス薬はかなり開発が難航する領域である。世界で初めて製品化された抗ウイルス薬といえば、ヘルペスウイルスに対するアシクロビルである。現在のグラクソ・スミスクラインの前身であるバローズ・ウエルカム社の研究所で1974年に開発され、開発者であるジョージ・H・ヒッチングスとガートルード・B・エリオンはその功績が評価され1988年にノーベル生理学・医学賞を受賞している。念のため言うと、世界で初めて合成に成功した抗ウイルス薬はリバビリンだが、当初の開発目的であったインフルエンザ治療薬としての上市は成功せず、C型慢性肝炎治療薬として世に出るには1990年代まで待たなければならなかった。このように抗ウイルス薬は数ある疾患治療薬の中で、まだ半世紀にも満たない歴史しかなく、合成には数多くのペプチド結合などが必要となるため、開発は容易ではない。ヒト免疫不全ウイルスの登場とその戦いにより抗ウイルス薬の開発に弾みはついたものの、現在ある何らかの抗ウイルス薬のうち国産(国内開発)はインフルエンザに対するバロキサビル(商品名:ゾフルーザ)とラニナミビル(商品名:イナビル)、ファビピラビル(商品名:アビガン)ぐらいである。また、今回の新型コロナでは感染症に抗体医薬品を用いるという新たな戦略が登場したが、抗体医薬品開発能力がある国内の製薬企業は限られている。さらにこの間、新型コロナに対する抗ウイルス薬や抗体医薬品の上市に成功した外資系製薬企業のほとんどが日本円換算で年間の研究開発費が1兆円超。かつ上市に成功した治療薬のほとんどは完全な自社創製ではなく導入品である。悪く言えば、札びらで横っ面をひっぱたきながら時間を買ったとも言えるが、もはやこれは製薬業界ではごく当たり前の開発プロセスの一つになっている。いずれにせよ、新型コロナ治療薬開発競争での日本のディスアドバンテージは大きく、実際、現在までに登場した国産治療薬はない。第8波を迎える前に、そろそろこの辺の総括に入っても良いのではないかと思っている。もっとも今後のパンデミックを見越してやらなければならないことは国と企業ではかなり違う。国がやるべきは、公的研究機関での創薬そのものと言うよりは創薬の基盤技術への大規模・持続的な投資である。もっとも創薬技術が長足の進歩で高度化している以上、すべての基盤技術を国内の公的研究機関で獲得することは困難である。私自身は以前の本連載でも触れたとおり、新薬開発の極端な国粋主義には批判的な立場である。その意味では海外の研究機関との人事交流も含めた提携も欠かせない。これらをいかに「年度主義」から脱して持続的に行えるかがカギである。そして公的研究機関もそれぞれの組織や個人によって特徴がある。その各機関の研究情報の集約と岸田首相が創設を打ち出した日本版CDCとの間のネットワーク化も整備しなければならない。一方、民間企業、すなわち製薬企業側に求められることの一つは日本を軸としたアジア圏での臨床試験実施体制の確立である。メガファーマと呼ばれる国際製薬大手の新型コロナ関連治療薬の臨床試験の多くは、被験者を集めやすいアメリカを中心にその地続きである近傍の北米のカナダや南米を中心に行われることが多い。製薬業界にとって巨大市場であるアメリカに対しては国内の製薬企業もある程度は進出しているが、ここで臨床試験実施競争に勝てる環境はない。その意味ではやはり距離的にも近いアジア圏内にネットワークを確立するほうが早道である。これは抗ウイルス薬の開発に限らないことである。そしてもちろん今回、新型コロナ関連治療薬の上市に成功した外資系の製薬企業各社のように社外のシーズを迅速に目利きすることは重要だが、何より先立つものは金である。有望なシーズを見つけてもそれを獲得する資金がなければ事は動かない。では、どうするのか? 言い古されたことになるが、規模の拡大、すなわち国内外を含めた業界再編が必要になる。ここは最も大きなハードルである。「何を理念的なことばかり言っているんだ」と各方面に叱責されるかもしれないが、次なる新興感染症、あるいは現在の新型コロナの新たな変異株の登場による状況の悪化を想定すれば、いずれも今から少しずつでも始めなければ「後の祭り」になりかねないのである。

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コロナ診断1週目のリスク、心筋梗塞17倍・脳梗塞23倍/Circulation

 英国・国民保健サービス(National Health Service:NHS)のデータに基づき、ブリストル大学のRochelle Knight氏ら多施設共同による、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後の動脈血栓塞栓症、静脈血栓塞栓症、およびその他の血管イベントの長期的な発生リスクについて大規模な後ろ向きコホート研究が実施された。その結果、COVID-19の既往がある人は既往がない人と比較して、COVID-19診断から1週目の動脈血栓塞栓症の発症リスクは21.7倍、静脈血栓塞栓症の発症リスクは33.2倍と非常に高く、27〜49週目でも、それぞれ1.34倍、1.80倍のリスクがあることが判明した。とくに患者数の多かった急性心筋梗塞と虚血性脳卒中では、COVID-19診断後1週目に、それぞれ17.2倍、23.0倍リスクが増加していた。Circulation誌2022年9月20日号掲載の報告。 本研究では、英国のイングランドおよびウェールズにて、全住民の電子カルテ情報を基に、2020年1月1日~12月7日(新型コロナワクチン導入以前)におけるCOVID-19診断後の血管疾患について検討された。COVID-19診断後の動脈血栓塞栓症イベント(急性心筋梗塞、虚血性脳卒中など)、静脈血栓塞栓症イベント(肺血栓塞栓症、下肢深部静脈血栓症、門脈血栓症、脳静脈血栓症など)、その他の血管イベント(心不全、狭心症、くも膜下出血など)の発生率を、COVID-19の診断を受けていない人との発生率を比較し、Cox回帰分析にて調整ハザード比(aHR)が推計された。 主な結果は以下のとおり。・イングランドおよびウェールズの成人約4,800万人のうち、COVID-19の診断から28日以内に入院したのは12万5,985人、入院しなかったのは131万9,789人であった。・イングランドでは、4,160万人年の追跡期間中に、26万279件の初回動脈血栓塞栓症と5万9,421件の初回静脈血栓塞栓症が発生した。・初回動脈血栓塞栓症は、COVID-19診断後1週目aHR:21.7(95%信頼区間[CI]:21.0〜22.4)、27〜49週目aHR:1.34(95%CI:1.21〜1.48)。・初回静脈血栓塞栓症は、COVID-19診断後1週目aHR:33.2(95%CI:31.3~35.2)、27〜49週目aHR:1.80(95%CI:1.50~2.17)。・動脈血栓塞栓症の多くは、急性心筋梗塞(12万9,799件)、もしくは虚血性脳卒中(12万8,539件)であった。・急性心筋梗塞は、COVID-19診断後1週目aHR:17.2(95%CI:16.3~18.1)と非常に高く、27〜49週目aHR:1.21(95%CI:1.03~1.41)となっている。・虚血性脳卒中は、COVID-19診断後1週目aHR:23.0(95%CI:22.0~24.1)と非常に高く、27〜49週目aHR:1.62(95%CI:1.42~1.86)となっている。・静脈血栓塞栓症の多くは、肺血栓塞栓症(3万1,814件)、もしくは深部静脈血栓症(2万5,267件)であった。・肺血栓塞栓症は、COVID-19診断後1週目aHR:33.2(95%CI:30.7~35.9)と非常に高く、2週目aHR:9.97まで低下するも、3~4週目aHR:10.5に一時的に増加し、27〜49週目aHR:1.61 (95%CI:1.23~2.12)となっている。・深部静脈血栓症は、COVID-19診断後1週目aHR:10.8(95%CI:9.32~12.5)と非常に高く、2週目aHR:4.00まで低下するも、3~4週目aHR:4.80に一時的に増加し、27〜49週目aHR:1.99(95%CI:1.49~2.65)となっている。 さらに本研究では、COVID-19の重症度、人口統計学的特性、既往歴によるサブグループ解析も行われ、白人よりも黒人やアジア系のほうがハザード比が高く、過去に血栓塞栓症の既往がある人よりも既往がない人のほうが高いということが認められた。COVID-19診断後49週目における全人口の動脈血栓塞栓症リスクの推定増加率は0.5%(7,200人相当)、静脈血栓塞栓症リスクの推定増加率は0.25%(3,500人相当)だという。

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ファイザーのBA.4/5対応2価ワクチン、6ヵ月~4歳用1価ワクチン承認/厚生労働省

 厚生労働省は10月5日、ファイザーのオミクロン株BA.4/5に対応した追加接種用の新型コロナウイルス2価ワクチンについて承認事項の一部変更の特例承認をしたこと、および同社の生後6ヵ月~4歳用の新型コロナウイルス1価ワクチンを特例承認したことを発表した。コミナティRTU筋注(2価:起源株/オミクロン株BA.4-5) 接種対象者が12歳以上であるオミクロン株BA.4/5対応の2価ワクチンの販売名は「コミナティRTU筋注(2価:起源株/オミクロン株BA.4-5)」となる。一部変更承認の概要として、起源株およびオミクロン株BA.4/5のスパイクタンパク質をコードするmRNAを含む2価ワクチンが追加され、有効成分のトジナメランはSARS-CoV-2の起源株を、リルトジナメランはオミクロン株BA.1を、ファムトジナメランはオミクロン株BA.4/5のスパイクタンパク質をコードするmRNAだとしている。9月12日に承認された「コミナティRTU筋注(2価:起源株/オミクロン株BA.1)」の有効成分はトジナメランおよびリルトジナメラン、今回承認された「コミナティRTU筋注(2価:起源株/オミクロン株BA.4-5)」の有効成分はトジナメランおよびファムトジナメランとなっている。 本剤の用法・用量は、追加免疫として、1回0.3mLを筋肉内に接種する。なお、接種間隔については、通常、前回の接種から少なくとも5ヵ月経過した後に接種を行うことができるとしているが、接種間隔の短縮について現在検討が成されており、10月下旬までに結論を得るという。 本剤の添付文書によると、変異株に対する中和抗体生産能として、マウスに1価(起源株)製剤を21日間隔で2回投与し、その1ヵ月後に1価(起源株)製剤、2価(起源株・オミクロン株BA.1)製剤または2価(起源株・オミクロン株BA.4/5)製剤を1回投与したところ、3回目投与から1ヵ月後、いずれの群でも起源株、デルタ株およびオミクロン株(BA.1、BA.2、BA.2.12.1およびBA.4/5)に対する中和抗体産生が認められ、オミクロン株BA.4/5に対する中和抗体価は、1価(起源株)製剤群および2価(起源株・オミクロン株BA.1)製剤群よりも2価(起源株・オミクロン株BA.4/5)製剤群で高値を示したとしている。コミナティ筋注6ヵ月~4歳用 生後6ヵ月~4歳用1価ワクチンの一般名は「コロナウイルス修飾ウリジンRNAワクチン(SARS-CoV-2)(有効成分名:トジナメラン)」、販売名は「コミナティ筋注6ヵ月~4歳用」となる。用法・用量は、本剤を日局生理食塩液2.2mLにて希釈し、1回0.2mLを合計3回、筋肉内に接種する。2回目は通常、3週間の間隔で、3回目は2回目の接種から少なくとも8週間経過した後に接種するとしている。 本剤の添付文書によると、6ヵ月~4歳の小児(6~23ヵ月群:82例、2~4歳群:143例)を対象としたC4591007試験第II/III相パートにおいて、本剤3μgを3回目接種後1ヵ月のSARS-CoV-2血清中和抗体価を評価した結果、6~23ヵ月群の幾何平均抗体価(GMT):1,406.5(両側95%信頼区間[CI]:1,211.3~1,633.1)、2~4歳群のGMT:1,535.2(95%CI:1,388.2~1,697.8)となり、本剤30μgを2回接種した16~25歳群に対して免疫ブリッジングの成功基準を満たしたとしている。また、6~23ヵ月群1,776例、2~4歳群2,750例が参加した安全性の評価では、治験薬接種後7日間の主な副反応の発現状況として、6~23ヵ月群では注射部位圧痛、食欲減退、傾眠、易刺激性、発熱(38.0℃以上)、2~4歳群では注射部位疼痛、疲労、頭痛、筋肉痛、悪寒、関節痛、発熱(38.0℃以上)が報告されている。 なお、オミクロン株BA.4/5対応の2価ワクチンについては、10月5日に、モデルナ・ジャパンも同社の「mRNA-1273.222」を、18歳以上を対象とした追加接種用ワクチンとして、厚生労働省に承認事項一部変更申請を行ったことをプレスリリースにて発表した。

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第14回 インフルエンザが流行すると、結局発熱外来が逼迫する構図

インフルエンザシーズンにおける混乱さて、インフルエンザシーズンとCOVID-19の第8波がやって来るのかどうかが、喧々囂々と議論が交わされています。もちろん、波がやって来ないに越したことはないのですが、どの専門家も「来るだろう」と言っています。次に到来するウイルスが、BA.5程度の変異株であれば、広くワクチン追加接種を行うことで、死亡者数を少なくすることができると思われます。諸外国のように、さらに感染者が増えてくると、ハイブリッド免疫を有する人が多くなるので、そこまでインパクトのない波になるかもしれません。現在多くの自治体では、新型コロナの自己検査を行い、その結果が陽性なら陽性者登録センターに連絡する形になっていますが、インフルエンザシーズンにおいて新型コロナが陰性であれば、皆さんどうするでしょうか?引き続き高熱が出ていたら、インフルエンザの検査をしたいと思う人が多いかもしれません(個人的には、このあたりをどうガイダンスするかだと思っていますが…)。COVID-19の自己検査が陰性であった場合、熱がある人はおそらく発熱外来に通されることになるでしょう。インフルエンザとCOVID-19の交差が起こってしまいますが、この動線を分離できる医療機関はほとんどないと思います。インフルエンザの抗原検査キットのOTC化を現場として1つ問題提起したいのは、インフルエンザの自己検査ができるようにしてほしいという点です。抗原定性キットをドラッグストアなどで購入できるよう、是非とも解禁していただきたい。COVID-19の抗原定性検査キット市販は特例的に承認されたものですが、インフルエンザ抗原検査キットを承認しないというのは、いささか不自然です。2つとも同じ検査法ですから、患者さんにとってテクニカルに検査がしにくいということもありません。自己検査は十分可能でしょう。また、現在は抗原定性検査に、COVID-19とインフルエンザの両方が測定可能な同時検査キットが登場しており、すでに薬事承認を受けています(表)1)。これが一般的に広く普及すれば、1回のぬぐい液で2つのウイルスを調べることが可能です。画像を拡大する表. COVID-19とインフルエンザの両方が検査可能な薬事承認抗原定性検査(参考文献1より筆者作成)規制改革推進会議 第8回 医療・介護・感染症対策ワーキング・グループでは、厚生労働省とこのようなやり取りが行われています(一部日本語表現を変更)2)。「冬を念頭に置く中で、今度はインフルエンザのほうも出てくる可能性があるのではないかと思っております。インフルエンザについても抗原検査キットと一緒に検査できるようなキットも考えうるところだと思います。コロナに比べると、現時点では感染症法上の位置付けとしても、エビデンス上もインフルエンザのほうがまだリスクが低いということだと思います。そうであるとすると、インフルエンザに関してもOTC化をすることも考えられるのではないかと思いますが。」という専門委員の質問に対して、厚労省(厚生労働省大臣官房審議官)は、以下のような回答をしています。「今回のコロナの検査キットOTC化というのは現下のパンデミックの状況に鑑み、特例的に対応を進めております。インフルエンザのキットのOTC化というのは、現時点で予定はしておりません。」参考文献・参考サイト1)厚生労働省 新型コロナウイルス感染症の体外診断用医薬品(検査キット)の承認情報2)内閣府 規制改革推進会議 第8回 医療・介護・感染症対策ワーキング・グループ 議事概要

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コロナ予防効果の長期観察、ワクチン歴・感染歴別に分析~1千万人コホート/JAMA

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンのプライマリシリーズ接種者は非接種者に比べて、またブースター接種ありはブースター接種なしに比べて、さらにSARS-CoV-2感染既往者は非既往者に比べ、いずれもSARS-CoV-2感染(オミクロン株を含む)や入院・死亡リスクが有意に低いことが、米国・ノースカロライナ大学チャペルヒル校のDan-Yu Lin氏らが行った、1,000万人超を対象に行ったコホート試験で明らかにされた。なお、これらの関連性は、とくに感染に対する保護効果について、時間とともに減弱が認められたことも示されている。COVID-19ワクチンの接種状況およびSARS-CoV-2感染既往と、SARS-CoV-2感染およびCOVID-19重症アウトカムリスクとの関連データは、予防戦略を導く可能性があり重視されている。JAMA誌オンライン版2022年9月26日号掲載の報告。ノースカロライナ州在住の1,060万人を対象に試験 研究グループは2020年3月2日~2022年6月3日に、米国ノースカロライナ州在住の1,060万人を対象にコホート試験を行った。 COVID-19ワクチンプライマリシリーズ接種、ブースター接種、SARS-CoV-2感染既往について調べ、SARS-CoV-2感染との関連を率比(RR)で評価し、またCOVID-19関連の入院・死亡との関連をハザード比(HR)で評価した。ブースター接種で1ヵ月後感染リスクは6~7割減、3ヵ月後は2~4割減に 被験者1,060万人の年齢中央値は39歳、女性51.3%、白人71.5%、ヒスパニック系9.9%だった。 2022年6月3日時点で、被験者の67%がワクチンを接種していた。被験者全体のSARS-CoV-2感染者数は277万1,364例、入院率は6.3%、死亡率は1.4%だった。 COVID-19ワクチンプライマリシリーズ接種者vs.非接種者の、初回接種10ヵ月後のSARS-CoV-2感染に関する補正後RRは、BNT162b2が0.53(95%信頼区間[CI]:0.52~0.53)、mRNA-1273が0.52(0.51~0.53)、Ad26.COV2.S(単回投与ワクチン)が0.51(0.50~0.53)だった。対COVID-19関連入院の補正後HRは、それぞれ0.29(0.24~0.35)、0.27(0.23~0.32)、0.35(0.29~0.42)だった。対COVID-19関連死亡の補正後HRは、それぞれ0.23(0.17~0.29)、0.15(0.11~0.20)、0.24(0.19~0.31)だった。 BNT162b2によるプライマリシリーズ接種に加え、2021年12月にBNT162b2によるブースター接種を受けた被験者は、非ブースター接種者に比べ、1ヵ月後のSARS-CoV-2感染に関する補正後RRは0.39(0.38~0.40)だった。また、mRNA-1273によるブースター接種を受けた被験者は同補正後RRが0.32(0.30~0.34)だった。3ヵ月後の補正後RRは、それぞれ0.84(0.82~0.86)と0.60(0.57~0.62)だった。 被験者全体で、オミクロン株感染既往者は非既往者に比べ、4ヵ月後のSARS-CoV-2再感染に対する補正後RRは0.23(0.22~0.24)と推定され、COVID-19関連の対入院の補正後HRは0.10(0.07~0.14)、対死亡の補正後HRは0.11(0.08~0.15)だった。

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第129回 大地震から丸山ワクチンまで、幅広いテーマを深く掘り下げた中井 久夫氏の作品

イベルメクチン臨床試験「主要な評価項目で統計学的有意差は認められず」こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。久しぶりに好天となった週末は、少々足を伸ばして、新潟県と長野県の県境に位置する苗場山に行って来ました。土曜に赤湯温泉まで入り、翌日、赤倉山経由で苗場山に登り、和田小屋に下山する長めのコース。苗場山頂上部の池塘が点在する草紅葉の絶景を堪能できたのはよかったのですが、行動時間は11時間近くになってしまい、和田小屋下の駐車場に着く頃には真っ暗になっていました。今の時期、山の日没はとても早いです。皆さんも気をつけてください。ところで、一部医師から熱狂的な支持を受けていた抗寄生虫薬イベルメクチンについて、第III相臨床試験を行っていた興和が9月26日記者会見を開き、「主要な評価項目で統計的な有意差が認められなかった」とする結果を発表しました。この試験は2021年11月~2022年8月、日本とタイの軽症の新型コロナウイルス感染症患者1,030人を対象に、国際共同、多施設共同、プラセボ対照、無作為化、二重盲検、並行群間比較試験で行われました。結果、より早く症状が治まることの有効性を見出すことができなかった、とのことです。なお、死亡例はないことなどから「安全性は確認された」としています。さらに9月30日には、イベルメクチンの開発者、大村 智博士が所属していた北里大学も2020年8月〜2021年10月まで実施した新型コロナウイルス感染症患者に対するイベルメクチンの多施設共同、プラセボ対象、無作為化二重盲検、医師主導治験の結果を公表、「プラセボ投与群との間に統計学的有意差を認めなかった」としています。イベルメクチンについては、新型コロナの感染拡大が始まったころから、一部の熱狂的な医師が「よく効く」「治った」とテレビ等、さまざまなメディアで喧伝、そうした流れに乗り、東京都医師会の尾崎 治夫会長も、「予防にも治療にも効果が出ているのだから、積極的に使うべき」と主張していました。そもそも、イベルメクチンについては、WHOも米国NIHも臨床試験に限定して使用するよう勧告してきました。2021年3月にはJAMA誌に、今年3月にはNEJM誌に、イベルメクチンが新型コロナウイルス感染症に効果がないことを結論付けた論文も発表されています。今回、興和と北里大学から改めて二重盲検で有効性が認められなかった、と発表されたことは、イベルメクチン信奉者に対する最後通牒になったと思われます。しかし、彼らから「科学的に嘘を言っていました」といった反省の声は聞こえてきません。何らかの弁明や反論をぜひ聞いてみたいところなのですが……。統合失調症の研究者としてだけでなく詩の翻訳やエッセイなどでも有名な中井氏さて、秋も深まって来ましたので、今回は“読書特集”として、ある著者の本を数冊紹介します。少々時間が経ってしまいましたが、今年8月に1人の高名な医師が亡くなりました。新聞でもその逝去は取り上げられ、全国紙の中には追悼記事を掲載するところもありました。その医師とは、『患者よ、がんと闘うな』の近藤 誠氏、ではなく、精神科医の中井 久夫氏です。神戸大学医学部精神神経科主任教授などを歴任した中井氏は、精神科の領域では統合失調症やPTSDの研究者として知られています。また、ラテン語や現代ギリシャ語、オランダ語も堪能で、詩の翻訳やエッセイなど文筆家としても有名でした。amazonで中井氏の著作を検索すると、膨大な数の著作があることに驚かされます。難解な著作も多い中、精神科に限らず、臨床医ならばぜひ読んでおきたい作品も少なくありません。災害医療に携わる医療人の必読書、『災害がほんとうに襲った時 阪神淡路大震災50日間の記録』精神科領域から少々外れたところでは、中井氏が1995年に起きた阪神・淡路大震災の時の記録を綴った『災害がほんとうに襲った時 阪神淡路大震災50日間の記録』(みすず書房、2011年)は災害医療に携わるすべての医療人の必読の書だと言えます。本書は、もともとは中井氏が神戸大学の精神神経科主任教授として経験した阪神淡路大震災の50日をまとめた『1995年1月・神戸より』(みすず書房、1995年)が原本です。東日本大震災直後の2011年4月、同書を読みたいという人が増えたことから、再編集して急遽刊行されました。『災害がほんとうに襲った時』には「東日本巨大災害のテレビをみつつ」と題した章が加えられており、16年前の大震災を経験した精神科医だからこそ書ける、さまざまな視点やアドバイスが盛り込まれています。東日本大震災ではその直後から、被災者の心のケアが重視されましたが、そうした動きには、阪神淡路大震災での中井氏らの活動やそこで得られた教訓が克明に記された本書の存在が大きく影響していたに違いありません。本書には、「孤独なうちに自分しかいないと判断してリーダーシップを発揮した人たちがいた。(中略)。いずれも早く世を去った」という一文があります。そして、PTSD含め、大災害での医療活動が現場の医療者に与えるダメージについても、中井氏自身の心身の状態の変化も含め、詳しく書かれています。その内容は、コロナ禍で疲弊した医療者に対するケアを考える上でも役立ちそうです。気軽に読める『臨床瑣談』、『臨床瑣談 続』中井氏の著作の中で気楽に読めるエッセイとしては、『臨床瑣談』(みすず書房、2008年)、『臨床瑣談 続』(みすず書房、2009年)がとくにお薦めです。月刊誌『みすず』に2007年から不定期連載してきたエッセイをまとめたもので、「『臨床瑣談』とは、臨床経験で味わったちょっとした物語」といった意味だそうです。目次の主な内容は、「院内感染に対する患者自衛策私案」「昏睡からのサルベージ作業」「がんを持つ友人知人への私的助言」(以上『臨床瑣談』)、「血液型性格学を問われて性格というものを考える」「煙草との別れ、酒との別れ」「インフルエンザ雑感」(以上『臨床瑣談 続』)と雑多で、中井氏の専門である精神科以外のテーマが多く、基本的に医師向けに書かれたものではありません。しかし、内容は十分に専門的で、臨床医が普通に読んでも参考になるトリビアが散りばめられています。丸山ワクチンを自ら試した中井氏この中でとくに面白く読めるのは、『臨床瑣談』に収められている「SSM 通称丸山ワクチンについての私見」です。当時、この回が『みすず』に掲載されると、全国紙の書評欄で取り上げられ、出版社への問い合わせが殺到、それが『臨床瑣談』の出版につながったのだそうです。「(丸山)先生を直接知る人が世を去りつつ今、少しくわしく、先生のことを記しておくのがよいだろう。私は丸山先生に直接お会いしてお話をうかがった最後の世代になりつつある。書き残しておく責任のようなものもある」として書かれたこのエッセイには、日本医科大の丸山 千里博士との面会の様子から、中井氏自身の使用経験、はては丸山ワクチンを使いたいという友人を日本医大に紹介する話まで、数々の興味深いエピソードが赤裸々に語られるとともに、丸山ワクチンに対する中井氏の私見が展開されています。「私は精神科医でありガン学会とはまあ無縁である」という中井氏は、総じて丸山ワクチンに好意的な立場を取りながら、その作用機序について、かつてウイルスの研究者だった頃の知見を生かして、論理的に考察していく経緯は読み応えがあります。イベルメクチンの信奉者たちも、「効くんだ」「承認しろ」とただただ騒ぐだけではなく、中井氏のように論理的な考察とともに、自分が「なぜ使うか」を冷静に訴えるべきだったと思いますが、どうでしょうか。ちなみに丸山ワクチンは今でも有償治験薬という特別な扱いが続いており、日本医科大学付属病院ワクチン療法研究施設を受診すれば、治療を受けることができます。余談ですが、日本経済新聞の今年7月の「私の履歴書」は、ソニー・ミュージックエンタテインメント元社長の丸山 茂雄氏でした。丸山博士の長男である茂雄氏も同連載の中で、がんに罹患した後、主治医に内緒で丸山ワクチンを投与したと書いていました。さまざまな治療法も組み合わせ、最終的にがんは消えたとのことですが、「もちろんいまも丸山ワクチンを打ち続けている」と締めくくっています。60年前に日本の医療を痛烈批判した『日本の医者』さて、中井氏の著作の中には、約半世紀の時を経て復刊されたものもあります。『日本の医者』(日本評論社、2010年)です。原本は、中井氏が東大伝染病研究所(現在の東大医科研)の研究員として働いている時に、ペンネームを使って共著で書いた『日本の医者』(三一書房、1963年)です。医学部講座制や全国の病院の系列化などを批判的に論じた内容で、3年後に今度は『病気と人間』(三一書房、1966年)という本を再び共著で出版、「医局制はそのうち崩壊する」との過激な予言が当時は話題になったそうです。2010年に復刊された『日本の医者』には、若き中井氏の原点ということで、三一書房から出版された『日本の医者』『病気と人間』に加え、「抵抗的医師とは何か」(岡山大学医学部自治会刊)という文章も収められています。60年前の日本の医学部、医師、医療機関の実態とその問題点を指摘した本書は、読んでみると半世紀以上たった今でもそんなに古びていないと感じます。技術はともかく、「日本の医者」の本質がほとんど進歩していないためかもしれません。事実、医局制度(教授の権限)はしぶとく生き残り続けています。今でも医局や大学教授に縛られ続ける、若い医者たちに読んでもらいたい1冊です。

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ブースター接種の入院予防効果、何日くらいで弱まる?/JAMA

 新型コロナのmRNAワクチン(以下、新型コロナワクチン)のブースター接種をすることで、どの程度の予防効果が補われ、それがどのくらい持続するかについてはあまり知られていない。そこで、シカゴ大学のJessica P. Ridgway氏らは初回ワクチン接種(2回接種)とブースター接種(3回目)でのコロナによる入院割合について評価した。その結果、ブースター接種が入院率の低下と関連したが、ブースター接種からの時間経過に伴い、その関連は弱まっていったことが明らかになった。2022年9月23日JAMA誌オンライン版のリサーチレターでの報告。 研究者らは過去の試験1)方法を基に、2021年10月1日~2022年7月26日に入院し新型コロナワクチンを2回または3回接種(ブースター接種)していた、米国西部6州のプロビデンスヘルスケアネットワークに登録されている成人データを用いて、ケースコントロール研究を実施した。本症例には、新型コロナと最終診断、症候性で新型コロナ核酸増幅検査 (NAAT)陽性、レムデシビル/デキサメタゾンによる治療を受けていた患者を組み入れた。なお、それぞれ4群を、同地域で3日以内に新型コロナ以外の理由で入院した症例かつ7日以内に新型コロナワクチンを2回接種した症例とマッチさせ、電子カルテからは人口統計、併存疾患、新型コロナワクチン接種情報などを収集した。 条件付きロジスティック回帰分析にて、新型コロナの入院に関連する因子を特定した。また、2回目およびブースター接種後の経過時間による入院のオッズを見るために、ブースター接種者と2回接種者での新型コロナによる入院のオッズを計算した。 主な結果は以下のとおり。・新型コロナで入院した3,062例 (平均年齢±SD:70.8±15.4歳)のうち男性は52.6%、ブースター接種済み者は34.7%だった。一方、対照群1万2,248例(平均年齢±SD:67.1±18.2歳)のうち46.7%が男性で、49.3%はブースター接種済みだった。・新型コロナによる入院のオッズが増加する要因として、70歳以上、男性、認知機能障害、慢性閉塞性肺疾患、糖尿病、免疫不全、肥満、リウマチ性疾患、移植、そしてBNT162b2(ファイザー製ワクチン)が関連した。 ・多変量解析の結果、ブースター接種は新型コロナによる入院オッズの低下と関連し、ブースター接種群:34.7% vs.対照群:49.3%だった(調整済みオッズ比[OR]:0.41[95%信頼区間[CI]:0.37~0.46])。・入院のオッズはブースター接種からの時間経過でも異なり、 50日未満では、調整済みOR:0.24(95%CI:0.18~0.30)、50~100日は同:0.24(95% CI:0.20~0.29)、101~150日は同:0.47(95%CI:0.38~0.58)、150日以上は同:0.72(95%CI:0.61~0.84)だった。 研究者らは「時間の経過とともにブースター接種の効果が弱まったものの、ワクチン接種を受けた者は全体的に入院リスクが低いままである」と記している。

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コロナ2価ワクチンの安全性と免疫原性、1価と比較~第II/III相試験/NEJM

 オミクロン株対応2価ワクチン「mRNA-1273.214」(モデルナ製)は、単価ワクチンmRNA-1273よりオミクロン株に対する中和抗体反応が優れており、安全性に関する懸念は認められなかったことを、米国・ブリガム&ウィメンズ病院のSpyros Chalkias氏らが、現在進行中の第II/III相試験の中間解析の結果、報告した。オミクロン株対応2価ワクチンmRNA-1273.214の追加接種の安全性および免疫原性は明らかになっていなかった。NEJM誌オンライン版2022年9月16日号掲載の報告。3回接種済み成人約800例に、2価または単価ワクチンを追加接種 研究グループは、単価ワクチンmRNA-1273(起源株Wuhan-Hu-1のスパイクタンパク質をコードするmRNA)を2回接種(100μg)し、1回目の追加接種(50μg)を3ヵ月以上前に受けた成人を対象に、50μgの2価ワクチンmRNA-1273.214(mRNA-1273を25μg、オミクロン株B.1.1.529[BA.1]のスパイクタンパク質をコードするmRNAを25μg)を接種する群(パートG)と、50μgの単価ワクチンmRNA-1273を接種する群(パートF)に順次登録し、2回目の追加接種を行い、接種後28日時点のmRNA-1273.214の安全性、反応原性、免疫原性を評価した。 2022年2月18日~3月8日(パートF)および2022年3月8日~23日(パートG)の期間に819例が登録され、パートFで377例がmRNA-1273ワクチンの追加接種を、パートGで437例がmRNA-1273.214ワクチンの追加接種を受けた。1回目と2回目の追加接種の間隔の中央値は、mRNA-1273群134日、mRNA-1273.214群136日で類似していた。2価ワクチンは単価ワクチンと比較してオミクロン株に対する中和抗体価が上昇 SARS-CoV-2感染歴がない被験者において、オミクロン株BA.1系統に対する中和抗体価の幾何平均値は、mRNA-1273.214群2,372.4(95%信頼区間[CI]:2,070.6~2,718.2)、mRNA-1273群で1,473.5(同:1,270.8~1,708.4)であった。 また、オミクロン株BA.4/5系統に対する中和抗体価の幾何平均値は、mRNA-1273.214群で727.4(同:632.8~836.1)、mRNA-1273群で492.1(同:431.1~561.9)であり、mRNA-1273.214群はこれまでに流行した複数の変異株(アルファ株、ベータ株、ガンマ株、デルタ株)に対しても結合抗体価が上昇した。 安全性および反応原性は、両ワクチンで類似していた。 ワクチンの有効性は評価されなかったが、探索的解析において、SARS-CoV-2感染がmRNA-1273.214群で11例、mRNA-1273群で9例に認められた。

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第118回 介護保険制度持続のため、負担と給付の見直しの議論開始

<先週の動き>1.介護保険制度持続のため、負担と給付の見直しの議論開始/厚労省2.医療人材確保のためにも働き方改革とデジタル化推進を/厚労省3.画期的な医薬品の早期の導入のために新しい薬価算定方式を/厚労省有識者会議4.かかりつけ医機能について議論開始/社会保障審議会5.大麻成分を含む医薬品の国内使用可能へ/厚労省6.イベルメクチン、コロナウイルス治療に有効性見出せず/興和1.介護保険制度持続のため、負担と給付の見直しの議論開始/厚労省厚生労働省は社会保障審議会介護保険部会を9月26日に開催し、介護保険制度における給付と負担についての本格的な議論に着手した。今年の6月に閣議決定された「骨太方針2022」には、持続可能な社会保障制度の構築するため、給付と負担のバランスの確保や、能力に応じた負担の在り方の検討などといった文言が盛り込まれており、介護保険サービスの利用者負担を原則2割とすることや、現役世代並み所得(3割負担)の判断基準の見直しを含んだ議論を行い、今年の12月までに取りまとめを行い、2024年の医療・介護報酬改定までに介護保険制度の改正を行う方針。(参考)給付と負担に関する指摘事項について(厚労省)「給付と負担」検討開始、介護保険部会 次期制度改正見据え(CB news)介護「給付と負担」見直し着手 2割負担の拡大など論点(日経新聞)2.医療人材確保のためにも働き方改革とデジタル化推進を/厚労省厚生労働省は9月30日に「医療介護総合確保促進会議」を開催した。2024年度から新たに第8次医療計画や介護保険事業計画が始まるのに合わせて、今後、団塊の世代が後期高齢者となり働き手が減少していく日本の人口構造の変化に対応して、地域医療構想の実現に向け、人材確保と構造改革のためには、医療のデジタル化の促進を行うことが求められる。年度内に総合確保方針の改正案をまとめ、2024年度の医療計画の策定などに向けて具体化を進める。(参考)第17回医療介護総合確保促進会議(厚労省)3.画期的な医薬品の早期の導入のために新しい薬価算定方式を/厚労省有識者会議厚生労働省は、「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」を9月29日に開催した。この中で、物価高で不採算品目への配慮を求める意見が出されたほか、既存の医薬品では治療困難な領域の疾患に対して新たな治療手段を提供する革新的な医薬品や医療ニーズの高い医薬品の日本への早期導入を進めるためにも、欧米と比較して、日本の薬価が低く抑えられている現状を見直すために、イノベーションを評価できる新算定方式の導入を求める意見が再生医療イノベーションフォーラムから出された。(参考)有識者検討会 物価高で不採算品目への配慮求める声相次ぐ 日薬連、GE薬協に次いで卸連も(ミクスオンライン)医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会 資料(厚労省)4.かかりつけ医機能について議論開始/社会保障審議会厚生労働省は、9月29日に社会保障審議会の医療部会を開催した。これまで「第8次医療計画等に関する検討会」において、かかりつけ医機能の定義やかかりつけ医機能を発揮させるための具体的な仕組みなどについて、議論をしてきたが影響が大きいため、上位会議体である「社会保障審議会・医療部会」での話し合いを行うことになった。2024年に第8次医療計画が始まるのに合わせ、初回はフリートークで行われたが、財務省が検討を求めているかかりつけ医の登録制や、英国で採用されている「人頭払い」の導入には日本医師会などの委員が反対し、賛成意見はでなかったが、今後の動きに注目したい。(参考)第91回社会保障審議会医療部会「かかりつけ医機能について」(厚労省)「かかりつけ医機能」制度整備、法改正視野 社保審医療部会でも議論開始(CB news)かかりつけ医機能は医療部会で議論!「全国の医療機関での診療情報共有」でかかりつけ医は不要になるとの意見も-社保審・医療部会(Gem Med)5.大麻成分を含む医薬品の国内使用可能へ/厚労省厚生労働省は9月29日に厚生科学審議会の大麻規制検討小委員会を開催し、大麻取締法の改正に向けた方向性について取りまとめた。大麻所持者の検挙の増加などを踏まえ、これまでは罰則規定のなかった「使用罪」を新設するほか、医療用に大麻由来のカンナビジオールを含む難治性てんかんの治療薬の使用を解禁する方針を確認した。近年、日本を除く先進主要国では承認されており、現在国内でも臨床試験を実施している。(参考)第4回厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会大麻規制検討小委員会大麻成分含む医薬品、国内使用に向け取締法改正へ 厚労省(産経新聞)大麻「使用罪」を新設=医療用解禁へ-取締法改正で骨子案・厚労省専門委(時事通信)6.イベルメクチン、コロナウイルス治療に有効性見出せず/興和興和株式会社は、9月26日、東京都内で記者会見を開き、軽症の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症を対象疾患として、抗寄生虫薬「イベルメクチン」の第III相臨床試験を進めていたが、今回の臨床試験の結果、主要評価項目において、統計的有意差が認めらず、開発を中止することを発表した。2021年7月から治験開始を発表、同年11月から今年の8月にかけ、日本とタイにおいて軽症患者1,030人を対象に二重盲検試験で実施していたが、投与開始4日前後で、37.5度以上の発熱や咽頭痛、筋肉痛などの症状は軽くなったが、統計的に有意差は認められなかった。一方、死亡例はなく、重症化例もほとんど認められず、安全性には問題はなかった。(参考)イベルメクチン「有効性見いだせず」 コロナ治療薬の臨床試験(朝日新聞)イベルメクチン コロナ治療薬の承認申請を断念 有効性見られず(NHK)興和 新型コロナウイルス感染症患者を対象とした「K-237」(イベルメクチン)の第III相臨床試験結果に関するお知らせ

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自己採取の抗原検査、口腔・鼻腔検体の併用で感度向上か/BMJ

 オランダ・ユトレヒト大学のEwoud Schuit氏らは、検体の自己採取による新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)迅速抗原検査キット3種類の感度について調査し、鼻腔拭い液の自己採取による検査の感度は、3種類ともSARS-CoV-2オミクロン株の出現により低下し、1種類のみ統計学的に有意であったことを示した。また、感度は検査の理由(自主検査陽性後の確認検査者の割合)に大きく影響されたこと、2種類については鼻腔に加えて口腔咽頭からの拭い液採取を追加することで感度が改善されたことを示し、「自主検査の結果が陽性の場合、確認検査は必要なく速やかに自主隔離し、自主検査が陰性の場合は偽陰性の可能性が否定できないため、一般的な予防策を順守しなければならない」とまとめている。BMJ誌2022年9月14日号掲載の報告。有症状者を対象に検体自己採取による迅速抗原検査の診断精度を前向きに評価 研究グループは、オミクロン株流行期における、非監視下での鼻腔や口腔咽頭拭い液の自己採取による迅速抗原検査の診断精度を評価する目的で、前向き横断研究を行った。 対象は、2021年12月21日~2022年2月10日の期間に、検査のためオランダ公衆衛生サービスのCOVID-19検査施設3ヵ所を訪れたCOVID-19症状を有する16歳以上の6,497例であった。参加者に対し、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)法(参照テスト)のために施設スタッフが検体採取を行った後、自宅にて非監視下で鼻腔拭い液または口腔咽頭と鼻腔拭い液を自己採取する迅速抗原検査キット1つを渡し、3時間以内に自宅で検査を完了してもらった。 評価した検査は、Flowflex(ACON Laboratories製、鼻腔のみ、後述の第1期のみ)、MPBio(MP Biomedicals製、鼻腔のみと口腔咽頭+鼻腔)、およびClinitest(Siemens Healthineers製、鼻腔のみと口腔咽頭+鼻腔)で、オミクロン株出現期(2021年および2022年第1週)、オミクロン株が感染の>90%を占める第1期、>99%を占める第2期に分けて評価した。 主要評価項目は、RT-PCR法による検査を参照基準とした各検査の診断精度(感度、特異度、陽性・陰性的中率)、副次評価項目は検査の理由(自主検査陽性後の確認検査、症状、濃厚接触、その他の理由)、COVID-19ワクチン接種状況、SARS-CoV-2感染歴、性別、年齢(16~40歳、40歳以上)で層別化した診断精度とした。感度は、鼻腔拭い液採取で約70~79%、確認検査者では上昇、口腔咽頭拭い液採取の追加で改善 第1期では、Flowflex群45.0%(279例)、MPBio群29.1%(239例)、Clinitest群35.4%(257例)が自主検査陽性後の確認検査者であった。鼻腔拭い液自己採取の感度は全体で、Flowflex群79.0%(95%信頼区間[CI]:74.7~82.8)、MPBio群69.9%(65.1~74.4)、Clinitest群70.2%(65.6~74.5)であった。感度は、確認検査者(それぞれ93.6%、83.6%、85.7%)が、その他の理由による検査者(52.4%、51.5%、49.5%)より著しく高かった。また、感度は、オミクロン株の感染に占める割合が29%から95%以上になると、Flowflex群で87.0%から80.9%(χ2検定のp=0.16)、MPBio群で80.0%から73.0%(p=0.60)、Clinitest群で83.1%から70.3%(p=0.03)へ低下した. 第2期では、自主検査陽性後の確認検査者の割合がMPBio群53.0%(288例)、Clinitest群44.4%(290例)であった。口腔咽頭および鼻腔の両方から拭い液を自己採取した場合の感度は全体で、MPBio群83.0%(95%CI:78.8~86.7)、Clinitest群77.3%(72.9~81.2)であった。確認検査者における感度は、鼻腔拭い液自己採取と比較して口腔咽頭+鼻腔拭い液自己採取でわずかに高く(86.1% vs.87.4%)、その他の理由による検査者においては非常に高い(59.9% vs.69.3%)ことが示された。 著者は、「MPBioとClinitestのメーカーは、口腔咽頭拭い液と鼻腔拭い液の自己採取を併用する使用方法の拡大を検討することができ、他の迅速抗原検査キットのメーカーも上記と同様の評価を検討する必要がある」と指摘している。

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第128回 「無理やり通す馬鹿なこと致しません」イベルメクチン第III相で有意差なし

つい先ごろまで世の中はシルバーウイークなる連休期間中だったが、「貧乏暇なし」フリーランスには無関係である。だいたいがこうした期間であることにすら気づかず、銀行や郵便局にノコノコと出かけてしまい、シャッターが下りているのを見て、「なぜ?」と思いながらスマートフォンのカレンダーを見てようやく気づくというのが間抜けな私のデフォルトである。と言いつつも先週末の金曜日は家族の予定などで“奇跡的”に祝日ということには気づいていた。そしてその日の朝、私の医薬業界紙記者時代の競合他社の同期(つまり同時期に競合他社に入社)SさんからSNSにメッセージが届いた。送信されていたのは前夜の午後8時40分。「ご存じかもしれませんが念のため」というメッセージとともに写真が添付されている。こうした文面は、こちらの面子を重んじた社交辞令で、たいがいこういう時は私のほうは何も知らない。写真を見ると、「『K-237』(イベルメクチン)の第III相臨床試験結果 記者発表会」とある。朝からぎょっとした。新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)に対して国内中堅製薬企業・興和が実施していたイベルメクチン投与の臨床試験結果を発表するというのである。メッセージによると木曜日の午後7時に報道各社に案内が来たらしい。まあ、過去にも触れているが記者クラブに所属していないフリーランスのデメリットがこれ。すなわち記者クラブの面々がごく当たり前に知っている記者会見情報を入手できないことである。フリーになってから会社員記者時代は良かったと振り返ることは極めて少ないが、こうした瞬間だけは羨ましく思ってしまう。もっとも過去とは違い、今はメールで記者個人へのニュースリリース配信が一般的になっているので、昔と比べればデメリットは少なくなってはいる。しかしながら、会社員記者時代から付き合いのある製薬企業広報担当者がいる場合や外部のPR支援会社に広報を委託している会社以外になると、こうした抜け落ちが時々ある。祝日であることを詫びながら、Sさんにこの会見案内のPDFファイルの入手を依頼すると、早速ご本人から私宛に会見申込ページも付いたファイルが送信されてきた。本当にSさんには感謝しかない。このファイルに必要事項を記入し、参加を申し込んだ。さて、イベルメクチンに話を戻そう。この連載でも何度か触れているように抗寄生虫薬のイベルメクチンは新型コロナパンデミック当初、海外でのin vitroデータから有効である可能性が指摘され、この薬が入手容易な発展途上国を中心に有効性を示唆する複数の研究が報告された。これに加え、イベルメクチンの発見者である北里大学特別栄誉教授の大村 智氏がその発見で2015年のノーベル医学・生理学賞を受賞していたこともあり、日本国内では「未知の新型コロナに対する特効薬になるかも」との期待が高まった。もっとも海外からの報告の多くは、症例報告や後ろ向き試験で、一部に二重盲検比較試験はあっても症例数が少ないなどのリミテーションもあり、数ヵ月もすると医療従事者の大勢は懐疑的になったと個人的には見ている。しかし、一部の医療関係者が同薬に対する期待値を過度に高める情報発信をSNS上などで展開したこともあり、中には海外から個人輸入をして予防的服用を行うケースもあった。過去の本連載でも取り上げたが、実際、私もそうした人に遭遇したことがある。そしてTwitter上などでは信奉派(主に一般人)vs.懐疑派(主に医療従事者)のバトルがこれまで断続的に繰り返されていた。最近では海外での二重盲検比較試験の結果として有効性を見いだせないとの報告も相次いでいたが、このバトルが止むことはなかった。海外でもこの薬の信奉者は一定数存在し、中には動物用のイベルメクチンを服用して事故になるケースも報告されている。あの米国食品医薬品局(FDA)が「あなたは馬でも牛でもないでしょう。真面目にそんなことすべて止めなさい」とギャグともとれる警告をTwitterで流すほどだ。そうした中で、国内では2020年9月に北里大学が医師主導治験を開始し、2021年11月には興和が企業治験を開始。しかし、北里大学の治験は2021年10月30日時点で被験者募集を完了し、間もなく1年が経過しようとしているが、いまだに結果は明らかになっていない。そんなこんなもあって興和の治験結果には注目が集まっていた。さてこの記者会見開催のリリースを見て、関係各位には申し訳ないが、私はすでに結果の察しがついていた。というのもリリースに記載のある記者会見時間、会社側からの発表内容説明とそれに伴う質疑応答の合計時間は30分しかないのである。迎えた当日。会見開始30分前の開場時間に赴き、受付を済ませて会場内に入った。ソーシャルディスタンスを意識してまばらに配置された椅子の上には大型封筒が置いてあった。これに会見資料が入っていることはほぼ確実。最前列の席に陣取り、封筒に入ったA4サイズ1枚のリリースを取り出し、サッと目を通した。やっぱりだった。「興和/新型コロナウイルス感染症患者を対象とした『K-237』(イベルメクチン)の第III相臨床試験結果に関するお知らせ」と題したプレスリリースの第1パラグラフ最終文は「主要評価項目において、統計的有意差が認められなかったことをお知らせいたします」とある。ちなみのこの第III相臨床試験は軽症の新型コロナ患者1,030例を対象に実施した国際共同、多施設共同のプラセボ対照無作為化二重盲検並行群間比較試験。主要評価項目はイベルメクチンあるいはプラセボの投与開始から168時間までの臨床症状が改善傾向に至るまでの時間である。リリースに試験結果の詳細なデータ記載はなかったが、「安全性は確認されました。また、死亡例はなく、重症化例もほとんど認められませんでした。しかしながら、オミクロン株が主流と考えられる今回の対象患者においては、本剤およびプラセボともに投与開始4日前後で症状の軽症化が認められましたが、本剤の有効性を見出すことができませんでした」と記述されていた。私は早速Twitterでの投稿準備にかかった。あれだけTwitter上でバトルが繰り広げられているのを目にしている以上、記事よりも先に発信しなければならないと考えたからだ。もっともプレスリリースは手元にあるものの報道の慣例は、会見開始が解禁時間。ということで投稿予定稿を用意して待機。会見者である同社代表取締役社長の三輪 芳弘氏らが会見直前に着席した様子を写真撮影し、それも投稿原稿に添付。16:30の司会者による会見開始のあいさつ直後にTwitterに送信した。三輪社長はプレスリリース記載内容を説明した後、現時点で未確認の今後の課題として以下の3点を挙げた。(1)用量相関、いわゆる用量依存性(2)発症3日間の効果比較(3)後遺症での効果会見での質疑応答の要旨は以下の通りである。 記者今回、主要評価項目の未達成についてどのようにお感じか?三輪氏試験開始から1週間で、プラセボ群、イベルメクチン群ともほとんど治癒してしまった。被験者に重症化例、死亡例もなく、オミクロン株に限れば、多分かなり集団免疫があるのではないかと推察する。記者後遺症への応用の話も出ていたが、今回の実用化に向けた計画は、事実上断念ということか?三輪氏断念と言うか、今の段階ではこれ以上は開発することはできない。製薬企業としては主要評価項目を達成できないものを無理やり通すような馬鹿なことはしないし、今回の結果は素直に受け入れなければいけない。今の時点では申請を考えることができない。記者1,030例に対する投与は、いつからいつまで行われたのか?奥村 睦男氏*1最初の患者がエントリーされたのが昨年の11月、最後の患者がエントリーされたのが8月初旬。基本的に被験者のほとんどがオミクロン株感染者となる。*1 取締役専務執行役員医薬事業部研究・開発本部長記者主要評価項目と用量設定が決まった経緯を教えてください。奥村氏主要評価項目は医薬品医療機器総合機構(PMDA)、厚労省と相談の上、決定した。投与量に関しては、第II相臨床試験を当社が行っておらず、基本的には諸外国での臨床研究論文などを参考に米国立衛生研究所(NIH)、オックスフォード大学での臨床研究と同じ用量とした。記者主要評価項目の「投与開始から168時間までの臨床症状が改善傾向に至る時間」は具体的にどのような評価を行ったか?成沢 隆氏*2発熱は37.5℃以上と定義し、その熱が下がり、なおかつ筋肉痛、咽頭痛、下痢、悪心・嘔吐、咳、息切れの症状の軽症化を72時間維持した時点を改善と定義した。*2 医薬事業部医療用医薬臨床開発統括部長記者この結果を北里大学の大村教授にはどのような形で報告し、大村教授からどんなコメントがあったか?三輪氏近々お会いするが、今の時点ではまだお会いしていない。もちろんご報告しなければならないし、一部先生方にはすでに報告している。記者良好な結果が示せなかった最大の要因は発症直後に投与ができなかったということか?三輪氏それはちょっとわからない。記者(筆者)早期の投与が難しかったとのことだが、新規陽性者の全数把握が簡略化された今、発症後3日目までの患者をエントリーし、新たに治験を実施することは難しいのではないか?奥村氏おっしゃる通り、今後臨床試験を続けていくのは難しい状況にある。また、患者数も減少しているので、もし臨床試験を再開するとなれば、さらなる工夫が必要になる。三輪氏(もし再開するならば)プロトコールを最初から作り直して臨まなければならない。ただ、私どもが今回実施した治験は関係各機関と確認した上で進めたので、これを変更して治験するのはかなり難しい。記者(筆者)副次評価項目などではウイルス量ほか、より定量的な検討はしているか?成沢氏今ちょうど解析中で、しかるべきタイミングで専門家の先生方と相談の上、公表したいと思う。記者(筆者)今回協力を得た北里大学が先行して医師主導治験を行っているが、その結果は共有しているか?奥村氏公表がまったくされておらず、われわれも結果についてはまったく知らない。記者条件を変更した治験、あるいは後遺症に対する治験をこれから実施する可能性はどれくらいあるのか?三輪氏先ほど申し上げたように若干の可能性は無きにしもあらずで、それを今解析中。そうした中で新たな可能性があるということになれば、新たなプロトコールで治験をやることは可能だとは思っている。記者オミクロン株で新型コロナが軽症化し、治験が難しさも増している中でも社長としては新たな治験の検討を前向きに考えているのか。三輪氏今回の治験を実施したことで、どうやって早く患者に治験に参加してもらえるかなど、ある程度新型コロナについては学習した。従ってテーマさえ良ければ、今後いち早くそれをやっていく可能性はある。ただ、いずれにせよ今回の治験では結果として軽症の場合はプラセボ群でも早期に回復してしまうことがわかった。記者たとえばインフルエンザ治療薬の場合、服用で症状回復までの時間が12~24時間程度短縮すると言われているが、今回のイベルメクチンの治験では当初どの程度の効果を期待して治験を実施したのか。菅波 秀規氏*3当初の計画では1.7日程度の症状改善までの時間短縮を見込んで実施した。*3 医薬事業部データサイエンスセンター長 この質疑応答を概観すればわかるように、かなり慎重に言葉は選んでいるものの、同社が今後イベルメクチンの治験を再度実施する可能性はほぼないだろう。さてこの会見中、私のポケットの中ではブンブンとスマートフォンのバイブレーションが鳴り続けていた。ツイートがリツイートされまくっていたからだ。かなり熱烈なイベルメクチン信奉者も多いので、そうした人たちから的が外れた引用リツイートやリプライが来そうだったが、現時点ではそうしたものは予想していたよりもはるかに少ない。一部誤解の多い反応としては「発表が遅すぎる」とか「ようやくか」というもの。これについては同じくツイートしたが、治験開始を興和が発表したのは昨年7月だが、実際の治験開始は同年11月で、会見の質疑応答でも説明があったように興和によるエントリー終了は8月上旬。むしろ今回の発表はかなりの速報で、そのため質疑応答にあったように主要評価項目以外はまだ解析が十分ではないことを明らかにしている。実際、会見終了後に興和側の出席者の1人に私が名刺を差し出しながらぶら下がり取材をした際に、「とにかく予断を持たずに迅速に発表しろと言うのが社長の指示だったんで」と言いつつ、「そんなこんなで今日自分の名刺も準備してなかった状態です」と苦笑いしていたほど。ネガティブデータにもかかわらず迅速に発表した同社の姿勢は高く評価して良いと個人的には思っている。実際、私のツイートに対する引用リツイートでもそうした反応が多かった。さて今回の興和による治験に対しては、今年3~4月にかけて厚労省が合計で約61億円の緊急支援を行っている。この点について当時はすでに米国医師会雑誌(JAMA)などにイベルメクチンに関してのプラセボ対照二重盲検試験などで有効性が証明できなかったとする研究が複数報告されていたことから、公費が支出されたことを問題視する向きがあるのは承知している。確かに今回の新型コロナに関しては公費支援を受けた医薬品などの開発の中でも「?」と思うものが個人的にはある。しかし、医薬品開発とは億単位の金額を投じても明確な効果が認められずに終わることは日常茶飯事。そしてイベルメクチンに関しては、私はやむを得なかったのではないかと思う。というのも極端なイベルメクチン信奉派は、発見者が日本人であったことなどから、とりわけ日本に多かったと思われるからだ。その人たちに明確な結果を示すためには日本で臨床試験を行い、その結果を明らかにすることが必要だったのではないかと考える。さてこれで一部のイベルメクチンへの過度な信奉は治まるだろうか? 一定程度は治まるだろうが、残念ながら完全にはなくならないだろう。これはTwitter上などでイベルメクチン信奉派の投稿を見ればよく分かる。こうした人たちの一部はこの件に限らず、社会現象全般を極端な「逆張り」で考察する人が少なくないからだ。いずれにせよ約61億円を投資(あくまで公費分のみ)した一つの熱狂がこれで一旦は終了する。追伸:これを読んだ製薬企業を含む医療関係企業や団体の皆さんへ。新たに私をリリース送信先に加えたいという奇特な方はページ下部の問い合わせフォーム(Q2にメールアドレスとお名前をご記入ください)を通じて編集部にご連絡を。ただし、常に良く書くという保証はできません。その点はあしからずご了承ください(笑)。

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妊婦コロナ患者、中等症以上になる3つのリスク/成育医研・国際医研

 国立成育医療研究センター 感染症科の庄司 健介氏と国立国際医療研究センター国際感染症センター・AMR臨床リファレンスセンターの都築 慎也氏らの研究チームは、デルタ株・オミクロン株流行期における妊婦の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)入院例の臨床的な特徴を分析した研究結果を発表した。 本研究は、国立国際医療研究センターが運営している国内最大のCOVID-19レジストリ「COVID-19 Registry Japan(COVIREGI-JP)」を利用したもの。 この研究は、2021年8月~2022年3月までの間に登録された妊婦のCOVID-19入院患者310人(デルタ期:111人、オミクロン期:199人)を対象に実施された。その結果、オミクロン期の患者はデルタ期の患者に比べ、鼻汁と咽頭痛が多く、倦怠感、嗅覚・味覚障害が少ない傾向にあった。また、多変量解析で、軽症の入院患者と中等症-重症の入院患者の比較を行ったところ、中等症-重症に至った患者は「デルタ期の患者」「妊娠中期以降」「ワクチン2回接種未完了」の患者が多いことが判明した。COVID-19で入院した妊婦310人を解析【背景・目的】 これまでわが国の妊婦におけるデルタ株とオミクロン株流行期の妊婦COVID-19の臨床的特徴に関する情報は限られていた。 そこで、COVIREGI-JPを利用して、妊婦のCOVID-19入院患者における(1)デルタ株流行期とオミクロン株流行の臨床的特徴の違いを比較すること、(2)中等症-重症に至った患者の特徴を明らかにすること、の2点について検討を行った。【研究概要・結果】研究対象:2021年8月~2022年3月の間にCOVIREGI-JPに登録された妊婦COVID-19入院患者。研究方法:対象患者の患者背景、重症度、治療内容などのデータを集計・分析。デルタ株・オミクロン株流行期の臨床的特徴についての比較検討を行った。また、軽症と中等症-重症の患者背景を多変量解析で中等症から重症に関連する要因を探索した。【研究結果】・期間中に1万4,006人の患者情報が登録され、そのうち研究対象となった妊婦の入院患者は310人(無症状患者38人を除く)。そのうち、デルタ期の妊婦は111人、オミクロン期の妊婦は199人だった。・オミクロン期の患者は、デルタ期の患者に比べて鼻汁(26.1% vs.15.3%)、咽頭痛(52.8% vs.37.8%)が多く、倦怠感(29.6% vs.43.2%)、嗅覚障害(1.5% vs.18.9%)・味覚障害(2.5% vs.16.2%)が少ないという結果だった。・本研究の定義による中等症-重症患者と軽症患者の多変量解析では、デルタ株流行期、妊娠中期以降のオッズ比はそれぞれ2.25(95%信頼区間[CI]:1.08~4.90、p=0.035)、2.08(1.24~3.71、p=0.008)、とそれぞれ有意に中等症-重症と関連していることがわかった。一方、ワクチン2回接種完了はオッズ比0.34(95%CI:0.13~0.84、p=0.021)と、中等症-重症となることを防ぐ方向に関連していることが判明した。・同様の検討をオミクロン株流行期の患者に限って実施したところ、ワクチン接種についてはオッズ比0.40(95%CI:0.15~1.03、p=0.059)と有意差は認めなかった。 研究チームは、これらの結果を踏まえ、「今後の妊婦COVID-19の診断、治療、予防を考えていく上での重要な基礎データとなると考えられる。今回の検討でも明らかであったように、流行している変異株によりその臨床的特徴が変化していくため、今後も最新の情報を用いた解析を実施し、情報をアップデートしていくことが必要」と展望を述べている。※なお本研究は、オミクロン株BA.5の流行前の時期に実施され、その影響は検討できていない点、各患者の株は明確に証明されているわけではなく、それぞれの株が国内の主流であった時期の患者を比較した研究である点、すべてのCOVID-19患者が登録されているわけではない点、中等症-重症の定義は本研究で定めた定義である点など注意が必要としている。

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コロナ診療報酬の臨時的な取扱いが延長・新設/日医

 日本医師会常任理事の長島 公之氏は、2022年9月28日の定例記者会見で、新型コロナウイルス感染症に係る診療報酬上の臨時的な取扱いが厚生労働省より示されたことを報告した。発熱外来の特例的加算が10月31日まで延長 2022年9月30日までを期限として算定可能な特例的加算である「2類感染症患者入院診療加算(250点)」および「電話や情報通信機器による療養上の管理に係る点数(147点)」は、1ヵ月延長して2022年10月31日まで引き続き算定が可能となる(新型コロナウイルス感染症に係る診療報酬上の臨時的な取扱いについて[その77])。1. 2類感染症患者入院診療加算(250点) 診療・検査医療機関(発熱外来)において、新型コロナウイルス感染症であることが疑われる患者に対し、必要な感染予防策を講じた上で外来診療を実施した場合に「2類感染症患者入院診療加算(250点)」の算定が可能となる。なお、「院内トリアージ実施料(300点)」と併せて550点が算定できる。2. 電話や情報通信機器による療養上の管理に係る点数(147点) 自宅・宿泊療養中の新型コロナウイルス感染症患者のうち重症化リスクの高い者に対し、保健所などから健康観察に係る委託を受けている保険医療機関または診療・検査医療機関の医師が、電話などを用いて診療を行った場合に「電話や情報通信機器による療養上の管理に係る点数(147点)」の算定が可能となる。なお、上記の「2類感染症患者入院診療加算(250点)」も算定できる。入院患者の2つの特例的加算が新設 疾患別リハビリテーションが必要な患者や、回復後も引き続き入院管理が必要な患者に関する2つの特例的加算が新設された(新型コロナウイルス感染症に係る診療報酬上の臨時的な取扱いについて[その76])。1. 2類感染症患者入院診療加算(250点) 入院中の新型コロナウイルス感染症患者に対し、必要な感染予防策を講じた上で疾患別リハビリテーションを実施した場合に「2類感染症患者入院診療加算(250点)」の算定が可能となる。2. 救急医療管理加算1の100分の200に相当する点数(1,900点) 新型コロナウイルス感染症から回復した後、引き続き入院管理が必要な患者が退院に関する基準を満たし、入院の勧告・措置が解除された後、最初に転院した保険医療機関における入院日を起算日として30日を限度として、「救急医療管理加算1」の100分の200に相当する点数(1,900点/日)の算定が可能となる。

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第13回 「療養証明書が発行されないなんて聞いていない」と苦情

「健康フォローアップセンター」構想9月26日から、(1)65歳以上の方、(2)重症化リスクがあり治療薬の投与等が必要と医師が判断する方、(3)入院を要する方、(4)妊婦、の4類型にCOVID-19の発生届が限定されるようになりました1)。また、療養証明書も4類型に限定され、今後は軽症者に発行されなくなります。入院給付金も同様の扱いで、9月26日以降は「みなし入院」での支払いはありません。「証明書好き」の日本人にとっては気になるテーマかと思いますが、そもそも「療養証明書提出を求めないように」と通達を出しているのですから、企業・学校・保険会社に対して求めないスタンスが正しい。それでも証明が必要な場合は、以下のもので代用します。My HER-SYSの療養証明書(電子的証明) ※みなし陽性者を除く届出対象者のみ発行可能保健所から陽性者に出された案内文(医療機関で配布された患者説明用シート等)診療明細書(医学管理料に「二類感染症患者入院診療加算」[外来診療・診療報酬上臨時的取扱を含む]が記載されたもの)医療機関等で実施されたPCR検査や抗原検査の結果がわかるものコロナ治療薬が記載された処方箋、服用説明書陽性者サポートセンターへの登録結果(SMS等)PCR検査や抗原検査を実施する検査センター(医療機関以外でも可)の検査結果(市販の検査キットは除く)など自治体によって少し差異はありますが、4類型以外の軽症者については陽性の自己登録を促しており、これによって健康サポート(悪化時の電話)や配食等のサービスを受けられることになります。東京都や大阪府のように、登録すれば手厚いサービスが受けられる自治体もあれば、先行して対応を簡略化している茨城県のように、届出対象外の軽症者の健康観察、食料配送などを取りやめている自治体もあります。これらは、まとめて「健康フォローアップセンター」という名称の構想になっています。概要は図のとおりとなっています。現場としては、とてもラクだなと思ったのですが、一般の人々への認知度が低過ぎました。ちょっと政府の啓発をしっかりしてほしいです。画像を拡大する図. 健康フォローアップセンター構想(自治体によって差異がある)(筆者作成)「そんな話は聞いていない」最近陽性になった患者さんを診察したのですが、30歳代の軽症者だったので発生届の対象外であることを説明して、「陽性者登録センター」へ誘導しようと思ったのですが、「軽症者が届出対象外なんて初耳だ、友人は保健所に届出を出してもらっている」「療養証明書がないと困る、そんな話は聞いていない」というご意見をいただき、この説明だけでかなり時間が掛かってしまいました。とくに療養証明書が発行されないというのは、かなり不満を持たれていた印象です。「なくても大丈夫」という安心感がまったくないわけですから、当然です。過渡期の混乱はやむを得ないとはいえ、せめて第8波までの間に、もう少し国民への周知を促してほしいところです。参考文献・参考サイト1)厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部 Withコロナの新たな段階への移行に向けた全数届出の見直しについて

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塩野義の経口コロナ治療薬、第II/III相Phase 3 partで主要評価項目を達成

 塩野義製薬は9月28日付のプレスリリースにて、同社が開発中の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬のensitrelvir(S-217622)について、第II/III相臨床試験Phase 3 partにおいて良好な結果を得たことを発表した。主な結果として、軽症/中等症患者において、重症化リスク因子の有無にかかわらず、オミクロン株に特徴的なCOVID-19の5症状(鼻水または鼻づまり、喉の痛み、咳の呼吸器症状、熱っぽさまたは発熱、倦怠感[疲労感])が消失するまでの時間(発症前の状態に戻るまでの時間)を、プラセボに対して有意に短縮することなどが認められたという。 プレスリリースによると、今回のPhase 3 partの臨床試験では、本剤(低用量、高用量の2用量)を1日1回、5日間経口投与した際の臨床症状の改善効果を検証することを主な目的として、日本、韓国、ベトナムの1,821例の患者が、重症化リスク因子の有無、またワクチン接種の有無にかかわらず登録され、軽症/中等症患者を対象に実施された。本試験における主要評価項目は、発症から72時間未満の患者集団における、オミクロン株流行期に特徴的な5症状(鼻水または鼻づまり、喉の痛み、咳の呼吸器症状、熱っぽさまたは発熱、倦怠感 [疲労感])の消失までの時間が設定された。 主な結果は以下のとおり。・申請用量(低用量)の本剤投与により、対象患者集団においてCOVID-19の5症状が消失するまでの時間は、プラセボ群と比較して約24時間短縮され、統計学的に有意な症状改善効果が確認された(p=0.04)。症状消失までの時間の中央値は、本剤の申請用量投与群167.9時間vs.プラセボ群192.2時間。・同患者集団における投与4日目(3回投与後)のベースラインからのウイルスRNA変化量は、プラセボ群と比較して1.4 log10コピー/mL以上大きく(p<0.0001)、これまでに実施された臨床試験と同様に優れた抗ウイルス効果が示された。・いずれの用量においても、本剤の投与による重篤な副作用や死亡例の報告はなく、これまでの試験と同様の良好な忍容性と安全性が確認されている。・比較的高頻度に見られた副作用は、これまでの試験でも観察された高比重リポ蛋白の減少および血中トリグリセリドの上昇であった。 同社によると、本結果は、厚生労働省と独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)とすでに共有されており、今後の承認審査ならびに審議について、協議が開始されたという。

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鼻腔ぬぐい液を用いた新型コロナウイルス検査-自己採取と医療従事者採取の比較-(解説:小金丸博氏)

 4~14歳の小児において、鼻腔ぬぐい液を用いた新型コロナウイルスの検出率を自己採取と医療従事者採取で比較した横断研究がJAMA誌オンライン版2022年8月26日号に報告された。自己採取は簡単な説明資材(ビデオと印刷物)を見た後に行い、その次に医療従事者が2回目の検体を採取した。その結果、陽性一致率は97.8%(95%信頼区間[CI]:94.7~100.0)、陰性一致率は98.1%(同:95.6~100.0)と高率だった。陽性検体のCt値も検討されているが、両群間で同等の結果であった。検査結果が不一致となったのが4例あったが、陽性検体において比較的高いCt値を示しており、ウイルスの排出量が少ない場合に一致率が低下する可能性が示唆された。 自己検体採取に関しては、過去に性感染症や呼吸器系ウイルス感染症で検討されており、成人において高い一致率が示されてきた。本研究では、小児において自己採取の高い精度を示しており、学校等におけるマススクリーニングで活用できる可能性がある。医療従事者が検体採取を行う場合、自己採取と比較して時間と費用がかかり、加えて、医療従事者は常に患者からの感染リスクを伴う。これらの観点から自己採取のメリットは大きく、自己採取と医療従事者採取で検査結果の一致率が高いのであれば、今後さらに自己採取による検査が広がる可能性がある。 本研究のLimitationとして以下のようなことが挙げられる。第1に、本研究の参加者はすべて有症状者であり、無症状の小児において同等の結果が得られるかは不明である。自己採取のメリットのひとつは、学校などの集団環境でのスクリーニング検査で用いることであるが、多くの人が無症候性であることが想定される場面での使用には大きな懸念事項がある。第2に、本研究は 2021年7月~8月のデルタ変異株の流行期に行われたことであり、変異株の違いがテスト結果に与える影響は不明である。第3に、不快感を伴う研究への自発的な参加においては、とくに子供が関与している場合、より協力的な子供だけが登録され、テストに消極的な子供の親は参加を辞退する可能性があるため、選択バイアスにつながる可能性がある。 新型コロナウイルス感染症は、早期に診断することによって重症化の防止や感染拡大の抑制につながる。自己検体採取はさまざまな場面で早期診断のための重要なツールとなりうるため、今後、無症候者や変異株の違いが検査結果に与える影響が検証され、検査方法として確立することを期待したい。

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第131回 感染症後の体調不良(sickness behavior)を誘発する脳神経を同定

感染症は病原体を直接の原因とはしない食欲低下、水分を摂らなくなる(無飲症)、倦怠感、痛み、寒気、体温変化などのとりとめのない種々の症状や生理反応を引き起こします。ともすると新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の罹患後症状の一因かもしれないそういう体調不良(sickness behavior)に寄与する脳の神経がマウス実験で同定されました1)。よく知られているとおり人体は絶えずある種の均衡を保とうとし、体温、食欲、睡眠などを調節しています。われわれが日々健康に生きられるのも恒常性と呼ばれるその均衡のおかげです2)。しかし病気になってその均衡が崩れると上述したような一連の症状や生理的反応が生じます。sickness behaviorの少なくとも幾らかは脳幹に端を発することが先立つ研究で示唆されています3)。今は米国バージニア州のJanelia Research Campusに籍を置くAnoj Ilanges氏やその同僚はさらに突き詰めて脳幹のどこがsickness behaviorの発端なのかを同定することを目指しました。最初にIlanges氏らは細菌感染と同様にsickness behaviorを引き起こす細菌毒素・リポ多糖(LPS)をマウスに注射し、続いて脳のどこが活性化するかをFOSと呼ばれるタンパク質を頼りに探りました。FOSは神経発火の後で発現することが多く、神経活動の目安となります2)。そのFOSがLPS注射マウスの脳幹で隣り合う2つの領域・孤束核(NTS)と最後野(AP)に多く認められました。LPSに反応するとみられるそれら2領域を活性化したところLPSがなくともsickness behaviorが生じ、NTS- AP領域こそsickness behaviorに寄与する神経の在り処であることが確かになりました。さらなる研究によりそれら神経はタンパク質(神経ペプチド)ADCYAP1を発現していることも判明し、ADCYAP1発現神経を活性化するとNTS- AP領域の活性化の時と同様にLPSが誘発するsickness behaviorが再現されました。また、それらADCYAP1発現神経を阻害するとLPS投与後に見られる食欲低下、無飲症、運動低下を解消とはいかないまでも和らげることができました。sickness behaviorに寄与するのはNTS- AP領域の神経のみというわけではなさそうで、今回の報告と同様にNatureに掲載された別のチームの最近の研究では発熱、食欲低下、暖を取る行動などのsickness behavior症状に視床下部の神経が不可欠なことが示されています4)。今回の研究で対象外だった睡眠障害や筋痛などの他のsickness behaviorの出どころの検討も興味深いところです2)。NTS-AP領域は脳と各臓器の連絡路・迷走神経からの信号を直接受け取り、血中に放たれたタンパク質などの体液性信号を感知することが知られています。今回の研究ではsickness behaviorを引き起こすNTS-AP神経の反応がどの生理成分を頼りにしているのかはわからず仕舞いでした。ウイルスや非細菌感染症でもNTS-AP神経が果たして活性化するのかどうかも調べられていません。ロックフェラー大学在籍時に今回の研究を手掛けたIlanges氏は今の職場であるJanelia Research Campusで続きに取り組む予定であり、他の研究者の加勢も期待しています。Ilanges氏等の今回の結果は何らかの理由でsickness behaviorが解消しない患者の治療の開発に役立ちそうです。たとえば慢性的に不調の患者の食欲を回復させる薬が実現するかもしれません。また、広い意味では感染症への対抗に脳の役割が不可欠なことを示した今回の成果を契機にADYAP1発現神経活性化後の脳の反応、sickness behaviorの持続の調節の仕組み、COVID-19の罹患後症状などの感染後慢性症状へのNTS-AP経路の寄与の検討5)などのさまざまな研究が今後続いていくでしょう2)。参考1)Ilanges A, et al.Nature.2022;609:761-771.2)Research Pinpoints the Neurons Behind Feeling Ill / TheScientist3)Konsman JP, et al. Trends Neurosci.2002;25:154-9. 4)Osterhout JA, et al.Nature.2022;606:937-944.5)Infection Activates Specialized Neurons to Drive Sickness Behaviors / Genetic Engineering & Biotechnology News.

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