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ChatGPTは患者への説明が医師よりも上手

 人工知能(AI)を用いた自動会話(チャットボット)である「ChatGPT」は、登場してまだわずか数カ月しかたっていないが、患者に対する説明を人間の医師よりも分かりやすく、親切に伝える能力を既に備えていることが報告された。米カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)のJohn Ayers氏らの研究によるもので、詳細は「JAMA Internal Medicine」に4月28日掲載された。 この研究では、195種類の医学的質問に対する医師とChatGPTの回答のどちらが優れているかを、医療専門家のチームが判定した。医師の回答は、医療に関するソーシャルメディアのプラットフォーム「AskDocs」に、過去に投稿されたものから無作為に抽出した。585件の回答を比較したところ、その78.6%はChatGPTの回答の方が正確かつ詳細で質が高いと判定された。また、内容が「共感的」または「非常に共感的」と評価された割合は、医師の場合は4.6%に過ぎなかったが、ChatGPTでは45.1%を占めた。Ayers氏は、「検討の結果はチャットボットが圧勝だった。ただしこれは、AIが医師に取って代わるという意味ではなく、医師がAIを活用することでより質の高い患者対応が可能になることを意味している」と話す。 今回の研究で取り上げられた質問の一例として、目に漂白剤が入ってしまった場合の失明のリスクを尋ねる内容があった。これに対してChatGPTは「漂白剤が目に飛び散ったとはお気の毒です。できるだけ早く、きれいな水または生理食塩水で目をすすいでください。失明してしまう可能性は低いですが、さらなるダメージを防ぐために、必要に応じて医師の診察を受けることが大切です」と回答。一方、医師からは「大丈夫そうですね。化学物質や異物が目に入ったときはどんな時でも目を洗い流してください。必要に応じて、毒物管理センターに電話してみてください」といった回答がなされていた。 Ayers氏らによると、新型コロナ感染症パンデミックにより、このような仮想ヘルスケアを求める患者が増加しているという。そして、「われわれの研究結果は、AIが公衆衛生に革命をもたらす可能性があることを示唆している」としている。AIを利用したChatGPTが人間の医師より優れている点として、例えば医師は常に業務に追われており、患者に伝えたいことの全てを分かりやすく伝える時間が限られているが、ChatGPTにはそのような制約がない点を同氏は指摘している。「患者説明にAIを活用することで、医師は説明のための言葉選びや表現方法の工夫に費やす時間を減らすことができ、実際の医療行為により多くの時間をあてることが可能になる」と述べ、両者は競合するのではなく、補完し合うものであると解説する。 Ayers氏は、「今回の研究ではチャットボットのメリットが強調される結果が示されたが、このメリットを実臨床にも生かすことができるとは限らない」と、拙速な解釈に注意を促す。とはいえ、「われわれの研究結果はチャットボットが非常に有望であることを示しており、私はかなり楽観的に考えている」とのことだ。 米スタンフォード大学のJonathan Chen氏らは、この論文に対する付随論評を寄せている。その中で同氏は、「臨床医である自分は、医師と患者の会話に基づく意思疎通が大変重要であることを承知している。しかし、われわれ医師は人間である。つまり、いつでも常に共感的で、礼儀正しく、一貫性のある受け答えができるとは限らない、AIのように24時間年中無休で働くことは不能だ」と述べている。また同氏は、「そう遠くない将来、多くの人々が医師ではなく、チャットボットからカウンセリングを受けるようになるのではないか」と予測している。

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歯科治療の中断が全身性疾患の悪化と有意に関連

 歯科治療の中断と、糖尿病や高血圧症、脂質異常症、心・脳血管疾患、喘息という全身性慢性疾患の病状の悪化が有意に関連しているとする研究結果が報告された。近畿大学医学部歯科口腔外科の榎本明史氏らの研究によるもので、詳細は「British Dental Journal」に4月11日掲載された。 近年、口腔疾患、特に歯周病が糖尿病と互いに悪影響を及ぼしあうことが注目されている。その対策のために、歯科と内科の診療連携が進められている。また、糖尿病との関連に比べるとエビデンスは少ないながら、心・脳血管疾患や高血圧症なども、歯周病と関連のあることが報告されている。歯周病とそれらの全身性疾患は、どちらも治療の継続が大切な疾患であり、通院治療の中断が状態の悪化(歯周病の進行、血糖値や血圧などのコントロール不良)につながりやすい。榎本氏らは、歯科治療を中断することが全身性疾患の病状に影響を及ぼす可能性を想定して、以下の横断的研究を行った。 研究には、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの社会・医療への影響を把握するために実施された大規模Web調査「JACSIS(Japan COVID-19 and Society Internet Survey)研究」のデータが用いられた。パンデミック第5波に当たる2021年9月27日~10月30日に、Web調査登録者パネルを利用して、年齢、性別、居住都道府県を人口構成にマッチさせた上で無作為に抽出した3万3,081人に回答協力を依頼。2万7,185人(年齢範囲15~79歳、男性49.7%)から有効回答を得た。 このトピックに関する質問は、「過去2カ月間に、全身性疾患の病状は悪化したか」、「過去2カ月間に、歯科治療を受けることができたか」という二つで構成されていた。前者は「はい」か「いいえ」、後者は歯科治療を「継続していた」、「中断した」、および「該当しない(以前から継続的な歯科治療は受けていない)」から選んでもらった。 全身性疾患の検討対象者は、もともと内科疾患を放置している人やコロナ禍のもと内科疾患の通院を中断した人は除外。最終的には、糖尿病1,719人、高血圧症5,130人、脂質異常症2,998人、心・脳血管疾患833人、喘息677人、アトピー性皮膚炎792人、うつ病などの精神疾患1,638人を対象者とした。これら各疾患の患者のうち、50~60%は歯科治療を継続しており、4~8%は中断していた。いずれの疾患においても、歯科治療継続群より中断群の方が、病状が悪化したとの回答が多かった。 糖尿病患者を例にとると、1,719人のうち88人が歯科治療を中断しており、そのうち16人(18.2%)が糖尿病の悪化を報告。歯科治療を継続していた1,043人ではその割合が5.6%だった。年齢、性別、喫煙習慣、教育歴、収入、居住環境(独居か否か、持ち家か否か)を共変量として調整した解析でも、病状悪化率の群間差は有意だった(P=0.0006)。 同様の解析で、高血圧症(P=0.0003)、脂質異常症(P=0.0036)、心・脳血管疾患(P=0.0007)、喘息(P=0.0094)も、歯科治療を中断した群の病状悪化率の方が有意に高かった。アトピー性皮膚炎とうつ病などの精神疾患に関しては、有意差が見られなかった。 著者らは「本研究は横断研究であるために因果関係は不明」とした上で、「歯科治療の中断がいくつかの全身性疾患の状態を悪化させる可能性が示された。つまり、歯科治療の継続が全身性疾患の進展を抑制し得るのではないか。また、全身の内科的疾患の症状悪化によって、将来的に医療において必要となる人的労力や経済的負担が、口腔の健康の維持のための比較的軽度な負担によって抑制可能かもしれない。この結果はわが国における医歯学連携の推進を後押しする、有意義な知見と考えられる」と結論付けている。

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コロナ死の要因はウイルスではなく細菌感染?

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染により集中治療室(ICU)で治療を受ける患者は、ICU入室期間や人工呼吸器装着期間が長いことが報告されている。また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者のICU入室期間が長い理由の1つとして、サイトカインストームによる多臓器不全が挙げられている。しかし、米国・ノースウェスタン大学のCatherine A. Gao氏らが機械学習アプローチを用いて実施した研究によると、COVID-19患者におけるICU入室期間の長さは、呼吸不全を特徴とする臨床状態に起因していたことが示された。また、二次的な細菌感染による人工呼吸器関連肺炎(VAP)の発生率が高く、VAPが主な死亡の原因となっていることが示唆された。本研究結果は、Journal of Clinical Investigation誌オンライン版2023年4月27日号に掲載された。 研究グループは、重症肺炎が疑われてICUに入室し、呼吸不全により人工呼吸器が装着された585例を対象とした前向きコホート研究を実施した。対象患者は、試験登録時および臨床的に肺炎が疑われるたびに気管支肺胞洗浄(BAL)により、肺炎の原因となる微生物が調べられた。ICU入室期間が異なる(COVID-19患者はICU入室期間が長い)グループ間でICU入室中のイベントを比較するという課題に対処するため、CarpeDiemという機械学習システムが用いられた。 主な結果は以下のとおり。・対象患者585例の内訳は、COVID-19関連肺炎190例、ほかの呼吸器ウイルス関連肺炎50例、細菌性肺炎252例、肺炎以外の呼吸不全93例であった。・COVID-19患者のICU入室期間の長さは、主に呼吸不全を特徴とする臨床状態に起因していた。・対象患者のうち、ICU入室中に少なくとも1回以上VAPを発症した患者の割合は35.5%であった。COVID-19の有無別にみると、非COVID-19患者では25.0%であったのに対し、COVID-19患者では57.4%と有意に高率であった(p<0.001)。・COVID-19患者は非COVID-19患者と比べてVAPの罹患期間が有意に長かった(p<0.001)。・VAPを1回発症した患者において、緩和ケアまたは死亡に至った割合は、VAPの治療に成功した患者が17.6%であったのに対し、VAPの治療転帰が不確定または治療失敗の患者では76.4%と有意に高率であった(p<0.001)。 本研究結果について、著者らは「VAPの治療失敗は死亡率の上昇に関連していた。重症COVID-19関連肺炎による死亡は、VAPの治療失敗のリスクを高める呼吸不全と関連し、多臓器不全との関連性は低いことが示唆された」とまとめた。

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コロナ禍の日本人の自殺念慮に最も影響した要因は?/筑波大

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行時に孤独感を感じていた日本人では、収入減少や社会的孤立などの他の要因に比べ、自殺念慮のリスクが最も高かったことが、筑波大学 医学医療系災害・地域精神医学の太刀川 弘和氏らの研究により明らかになった。BMJ Open誌2023年5月15日号掲載の報告。 日本における自殺者数は、2020年は2万1,081人、2021年は2万1,007人、2022年は2万1,881人で、COVID-19流行前の2019年の2万169人よりも多いままである。自殺の多くは多様かつ複合的な原因および背景を有しているが、新型コロナウイルスへの感染の恐怖や失業などの経済問題に加え、ソーシャルディスタンスなどによる社会的孤立や孤独感の悪化があるとされている。しかし、自殺念慮にはこれらのどれが、どのように影響するかは不明である。そこで、研究グループは、COVID-19流行時の孤独感が自殺念慮に直接的・間接的にどのような影響を与えるかを明らかにするため調査を行った。 調査には、「日本におけるCOVID-19問題による社会・健康格差評価研究(JACSIS study)」の2回目のアンケートデータ(2021年2月8~26日実施)が用いられた。自殺念慮への社会的孤立、孤独感、抑うつ状態の影響度が、男女別に年代や経済状態などで調整して分析された。 主な結果は以下のとおり。・分析には、20~59歳の男性6,436人、女性5,380人のデータが用いられた。・COVID-19流行時に自殺念慮があったのは、男性で15.1%、女性で16.3%であった。そのうち、初めて自殺念慮を抱いた人は、男性で22.8%、女性で19.8%であった。・孤独を感じている群では、感じていない群よりも自殺念慮の保有率が男性で4.83倍、女性で6.19倍高く、コロナ感染(男性1.61倍、女性1.36倍)、収入減少(1.28倍、1.26倍)、生活苦(2.09倍、1.68倍)、社会的孤立(1.61倍、1.03倍)よりも強い影響がみられた。・抑うつ状態の有無で調整すると、孤独感を感じている群の自殺念慮の保有率は男性3.60倍、女性4.33倍に低下したが、抑うつ状態のみの群(男性2.30倍、女性2.75倍)よりも高かった。・COVID-19流行時に初めて孤独感や自殺念慮が生じた群では、抑うつ状態の影響がより強かった。・女性では、COVID-19流行時に悪化した孤独感と新たに生じた自殺念慮が最も強く影響していた。 これらの結果より、研究グループは「孤独感が直接的に、また抑うつ状態を介して間接的に自殺念慮に強い影響を与えることが明らかとなった。孤独感を抱いている人への心理的なサポートが、孤立・孤独対策のみならず自殺対策としても重要である」とまとめた。

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第149回 昨年の救急出動件数、コロナ感染拡大で過去最高に/全消協

<先週の動き>1.昨年の救急出動件数、コロナ感染拡大で過去最高に/全消協2.サイバーセキュリティ対策で医療情報安全管理ガイドライン第6.0版へ/厚労省3.出生数は今年1~3月5.1%減、人口減さらに加速か/厚労省4.社会保障費の歳出改革で1.1兆円の財源確保、少子化対策へ/経済財政諮問会議5.肺がんの読影レポート見落とし、患者は1年4ヵ月後に死亡/兵庫県6.介護保険制度の見直し、結論は年末まで延期/厚労省1.昨年の救急出動件数、コロナ感染拡大で過去最高に/全消協全国の消防職員で作る自主組織「全国消防職員協議会」(全消協)は5月22日に、2022年の救急出動件数が過去最多だったことを明らかにした。調査結果によると、加盟団体の80%で通常運用の救急車すべてが出払う事態が発生し、一部の団体では予備救急車の出動も頻繁に行われていた。救急車の不足は火災や事故の対応の遅れにつながる恐れがあり、新型コロナなど感染症の拡大に備えて国に体制強化を求めている。また、全消協の調査では、2022年には、コロナウイルスの感染拡大により、救急搬送が困難事例が加盟職場の約8割で起きていたことが明らかになった。救急出動件数が過去最多を記録した職場の69%では、搬送先の医療機関がみつからず現場滞在時間が30分以上になった事例があり、78%では医療機関への受け入れ照会回数が4回以上になった事例もあった。さらに、通常使用している救急車がすべて出払ったり、遠方から救急車を回す必要があり、現場到着が遅れた事例も約8割の職場で起きていた。そのほか、92%の職場は救急隊の増員や救急車両の購入などの対応を検討していないことも明らかになった。全消協は、地方の医療体制の脆弱さから救急体制の構築が必要であり、人員や予算の増加を訴えている。(参考)「コロナ禍における救急体制の実態調査の結果」に関する報道発表について(全国消防職員協議会)救急車出払い、80%が経験 消防職員の全国組織調査(東京新聞)救急搬送困難ケース「あった」8割 コロナ禍の22年 全消協調査(毎日新聞)2.サイバーセキュリティ対策で医療情報安全管理ガイドライン第6.0版へ/厚労省厚生労働省は、5月24日に「健康・医療・介護情報利活用検討会医療等情報利活用ワーキンググループ」を開催、医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第6.0版について提案し、おおむね了承され、5月31日に公表される見通しとなった。ガイドラインは概説編、経営管理編、企画管理編、システム運用編の4項目から構成され、公表に先立ちパブリックコメントを募集し、この意見を反映させた内容となっている。特に経営管理編においては、セキュリティ投資予算やリソースの確保についての記載が不足していたため、重要性が追記された。また、医療機関へのサイバー攻撃に対応するため、日本医師会と警察庁サイバー警察局が相互連携する覚書を締結した。覚書では、攻撃発生時と平時の対応を想定し、報告や協力、捜査などの内容が規定されている。この連携は、医療機関へのサイバー攻撃被害が増加する中で重要視されており、厚労省もサイバー攻撃への対応を医療分野のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進の一環と位置付けている。(参考)医療情報ガイドライン第6.0版、31日に公表へ ワーキンググループが案を概ね了承(CB news)サイバー攻撃防止・早期復旧へ連携、日医と警察庁 覚書締結、業務に配慮して捜査(同)第17回健康・医療・介護情報利活用検討会医療等情報利活用ワーキンググループ資料について(厚労省)3.出生数は今年1~3月5.1%減、人口減さらに加速か/厚労省厚生労働省は、5月26日に最新の人口動態統計を発表した。これによると2023年1~3月の出生数は前年同期比5.1%減の18万2,477人となり、少子化の加速が再び明らかになった。同じく婚姻数も14.2%減の13万4,852組となり、出生数との差にあたる自然減は25万6,506人となった。2022年の出生数は初めて80万人を下回り、22年には統計開始以来初めて80万人を割ったことが明らかとなっている。外国人を除いた「概数」は今後公表される予定で、女性1人が生涯に産む人数を示す「合計特殊出生率」も算出される。政府は少子化対策を重要課題とし、児童手当の拡充や育児休業給付の引き上げなどを柱とする対策をまとめ、具体化を急いでいる。一方で、専門家からはわが国の出生数が70万人台前半まで落ち込むとの予想も出ている。原因として若者の経済的な理由による結婚や出産への意欲の低下が続いていることが指摘されている。生産年齢人口の減少や社会保障の持続性にも懸念が広がっており、政府は異次元の少子化対策を訴え、児童手当の拡充などを盛り込んだ強化策を打ち出しているが、若者の結婚や出産を後押しする経済環境作りも重要とされている。(参考)人口動態統計速報[令和5年3月分](厚労省)出生数、1~3月は前年比5.1%減 婚姻は14.2%減(毎日新聞)出生数、年70万人前半も 1~3月は5%減の18万2000人(日経新聞)4.社会保障費の歳出改革で1.1兆円の財源確保、少子化対策へ/経済財政諮問会議政府は、経済財政諮問会議を5月26日に開き、経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)の骨子を提示した。骨子案では、社会保障費の歳出改革で1.1兆円の財源を捻出し、少子化対策に充てる方針。会議では、民間議員が介護保険の利用者負担の引き上げを早期に結論付けるよう促し、歳出改革と応能負担の強化の必要性を指摘した。また、加藤厚生労働省大臣も診療報酬や介護報酬の大幅な増額が必要であると述べ、物価上昇や報酬の不足が医療・介護機関の経営に悪影響を及ぼしていることを指摘した。政府は近く大枠の方針を固め、介護保険の利用者負担の引き上げや報酬の増額を反映させる予定。政府の動きに対して、日本医師会や薬剤師会、看護協会は5月25日に合同声明を発表し、新たな「骨太の方針」の策定に対して、物価高騰対策や賃上げを行うためには財源が必要であると、来年度の診療報酬改定や介護報酬改定への対応を求めている。(参考)令和5年第7回経済財政諮問会議(内閣府)医療・介護関係12団体で「医療・介護における物価高騰・賃金上昇への対応を求める合同声明」をまとめる (日本医師会)加藤厚労相「診療報酬・介護報酬の大幅な増額が必要」 諮問会議で言明(JOINT)日医らが共同声明 物価高対策で必要財源確保「骨太明記を」 少子化対策で財源の「切り崩し」を牽制(ミクスオンライン)5.肺がんの読影レポート見落とし、患者は1年4ヵ月後に死亡/兵庫県兵庫県は、県立丹波医療センター(丹波市)で、70代女性患者が肺がんの疑いを示すCT検査結果を見落とされ、1年4ヵ月後に死亡したことを明らかにした。2021年8月、70代女性患者がめまいを訴えて同院の救急外来を受診し、CT検査が行われた。放射線科医は肺の下部に異常陰影を指摘し、精密検査を必要とするリポートを作成した。しかし、当直医と日勤医のいずれもがこのリポートを確認せず、精密検査は実施されなかった。1年後、女性が体調不良を訴えて別の病院で検査を受けた結果、末期の肺がんと診断された。さかのぼって調査した結果、丹波医療センターの担当医がリポートを見落としていたことが判明した。兵庫県は過失を認め、女性の遺族に1,125万円の損害賠償を支払い、和解することを明らかにしている。この医療機関では4年前にも同様にがんの見落としがあり、患者が死亡するという事故が起きており、再発防止策が進められていた。県は今回の事故を受けて、オンラインリポートの未読を知らせるシステムを導入するなど、再発防止に努めることを明かにしている。(参考)県立丹波医療センターで検査結果見落とし女性が死亡 賠償へ(NHK)女性患者の肺がん疑い、当直医が検査報告確認せず1年4カ月後死亡 4年前にもがん見落とす医療ミス 兵庫・丹波医療センター(神戸新聞)6.介護保険制度の見直し、結論は年末まで延期/厚労省厚生労働省は、5月24日に社会保障審議会介護給付費分科会を開催した。2024年度の介護報酬改定に向けて、報酬と基準に関する考え方を12月までにまとめる方針を示した。具体的な議論の方向性は今年の夏頃まで行い、その後、事業者団体などからのヒアリングを経て、10月~12月にかけて議論を進め、12月にまとめる予定であり、来年1月には介護報酬改定案の諮問・答申が行われる見通し。今回の改定に際しては、地域包括ケアシステムの深化・推進、自立支援・重度化防止、介護人材の確保と介護現場の生産性向上、制度の安定性・持続可能性の確保という4つのテーマを重視することが提案され、了承された。また、高所得者の保険料引き上げや自己負担の増加、施設入所者の部屋代の在り方など、利用者の保険料やサービス利用の負担について検討していたが、これらについても年末まで結論を先送りする。(参考)介護分野の最近の動向について(厚労省)24年度介護報酬改定の考え方、年内に取りまとめ 厚労省 介護給付費分科会にスケジュールを示す(CB news)介護保険負担増、年末に結論延期 政府、少子化対策の財源検討(東京新聞)介護保険制度の見直し 結論を年末まで再延期の方針 厚労省(NHK)

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北里大、コロナへのイベルメクチン第III相の論文公表

 北里大学が主導して実施した、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者を対象としたイベルメクチンの第III相臨床試験「CORVETTE-01」の結果については、2022年9月に同大学によって、主要評価項目においてプラセボとの統計学的有意差がなく、有効性が認められなかったことが発表されていた1)。本試験の結果が、Frontiers in Medicine誌2023年5月22日号に掲載された。 軽症~中等症COVID-19患者に対するイベルメクチンの有効性と安全性を検証するための多施設共同二重盲検プラセボ対照ランダム化比較試験「CORVETTE-01」は、2020年8月~2021年10月の期間に、RT-PCR検査でCOVID-19と診断された国内の221例を対象に実施された。試験期間中は、アルファ株とデルタ株が優勢であった。被験者は20歳以上で、SpO2が95%以上、体重40kg以上とした。対象者をイベルメクチン群とプラセボ群に1対1で割り付け、イベルメクチン(200μg/kg)またはプラセボを絶食下で単回経口投与した。主要評価項目は、SARS-CoV-2に対するRT-PCR検査結果が陰性になるまでの期間とし、層別log-rank検定およびCox回帰モデルを用いて検証した。 主な結果は以下のとおり。・被験者のベースラインは、イベルメクチン群(106例)では、平均年齢47.9歳(SD 15.1)、男性68.9%、73.6%が肺炎を発症し、9例(8.5%)がワクチンを接種していた。プラセボ群(106例)では、平均年齢47.5歳(SD 15)、男性62.3%、肺炎発症が72.6%、ワクチン接種済7例(6.6%)であった。・RT-PCR検査陽性から治験薬の投与までの期間は、イベルメクチン群とプラセボ群ともに2.7日(SD 1.1)であった。・RT-PCR検査の陰性化について、イベルメクチン群とプラセボ群の間に有意差は認められなかった(ハザード比[HR]:0.96※、95%信頼区間[CI]:0.70~1.32、p=0.785)。※HR<1ではプラセボが有利、HR>1ではイベルメクチンが有利。・RT-PCR検査が陰性化するまでの期間の中央値は、イベルメクチン群では14.0日(95%CI:13.0~16.0)、プラセボ群では14.0日(12.0~16.0)だった。・最長45日間の追跡調査期間において、イベルメクチン群で82.1%(87例)、プラセボ群で84%(89例)がRT-PCR検査陰性を達成した。・患者登録日から15日目までで、イベルメクチン群(17.9%)とプラセボ群(21.7%)では、同程度の割合で症状の悪化がみられた(オッズ比:0.77、95%CI:0.38~1.54、p=0.462)。・有害事象について、イベルメクチン群では29例(27.1%)、プラセボ群では28例(26.2%)で報告された。Grade3以上の有害事象は、イベルメクチン群1例(CPK上昇)、プラセボ群2例(肝機能障害)で発現した。試験中止に至る治療起因性有害事象はなかった。本試験追跡期間中における患者の死亡も報告されなかった。 本結果により、軽症~中等症COVID-19患者に対するイベルメクチンは、RT-PCR検査陰性化までの期間の短縮にはつながらないことが示された。

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第161回 高齢者に熱中症対策を促す際、エアコンより厄介なのは…

ウクライナ危機に端を発した燃料費の高騰により、大手電力7社が申請していた6月からの電気料金の値上げが決定した。値上げ率は各社で異なるが、15.3~39.7%と大幅な値上げだ。これだけの値上げとなると、暑くなる時期にエアコンの使用を控える人も出てくるだろう。しかも、よりによってこの時期に記録的な暑さとなっている。5月17日には全国250地点以上で30℃超の真夏日となり、岐阜県揖斐川町では5月として観測史上最高の35.1℃の猛暑日を記録した。翌18日も各地で真夏日となり、東京都では5月中旬としては観測史上初の2日連続の真夏日。しかも、今年の6~8月は平年と比べ、かなり酷暑になると予想されている。2022年6~8月は国内で平均気温統計を開始した1898年以降、2番目の暑さだったと言われているが、もしかしたらそれを超えるかもしれない状況だ。こうなると危惧されるのが熱中症患者の増加だ。消防庁によると、2022年5~9月の全国の熱中症による救急搬送者の累計は7万1,029人。前年の2021年同時期の4万7,877人より大幅に増加し、搬送者数の調査が開始された2008年以降では3番目に多い数となった。この増加は前述した昨年の暑さのレベルで説明がつく。ちなみに2020年のコロナ禍以降、ユニバーサルマスク推奨で熱中症が増えたのではないかと、一部の人が指摘することがある。しかし、2019~21年までの夏の熱中症搬送者の累計は右肩下がり。2020年は東日本を中心に2019年よりも年平均気温が高かったにもかかわらずだ。この点は日本救急医学会・日本臨床救急医学会・日本感染症学会・日本呼吸器学会による「新型コロナウイルス感染症の流行を踏まえた熱中症診療に関するワーキンググループ」が公表した「新型コロナウイルス感染症流行下における熱中症対応の手引き(第2版)」でも、論文調査結果からマスク着用が熱中症の危険因子となるエビデンスはないと明記されている。熱中症に弱いのは高齢者であることはよく知られている。高齢者では体液貯留機能も有する筋肉量も若年者より減少していることが多く、さらに腎機能低下により老廃物排出時にはより多くの水分が必要となる傾向にあり、そもそも脱水気味であることが一因だ。さらに加齢による感覚機能の低下で暑さに対する感度も低下している。過去のデータを見ると、熱中症で死亡した高齢者では約9割がエアコンを使用していなかったというデータもあるが、これはたぶん節約というよりは暑さに対する感度の低下が要因ではないかと個人的には考えている。しかし、ここに今回のような電気料金の大幅な値上げがあると、独居老人を中心に「電気料金を節約する」という行動が強まり、今夏は高齢者の熱中症増加が深刻化する可能性は十分にある。その意味で熱中症対策として頻繁に耳にする「暑い時には適切にエアコンを使う」という呼びかけの強化は必須だろう。もっとも電気料金の問題を脇に置けば、実は高齢者へのエアコンの使用推奨は、まだハードルが低いかもしれない。というのも、たとえば「真夏日、猛暑日予報の日は午前10時~午後3時過ぎぐらいまでの間は、緩やかにでもエアコンを使い続けてください」などの呼びかけも可能だからだ。こうした注意喚起は“実行しやすさ”がカギとなるため、極論を言えば、高齢者にありがちな、なんとなくテレビをつけているのと同じ感覚で使うことを推奨することはできなくもない。しかし、この熱中症対策についての記事を書く、あるいは自分の周囲に呼びかける際に私がいつも頭を悩ませてしまうのは、「喉の渇きがなくとも水分補給を」というフレーズである。前述の感覚機能の低下により、高齢者では喉の渇きを感じるのがやや周回遅れになりがちという点を踏まえてのことだが、言うほど簡単ではない。テレビやエアコンのつけっぱなしとは違い、なんとなくはできない行為だ。介護施設や同居人がいる高齢者宅ならば、周囲が気を配り定期的にお茶の時間を設けるなど自然な形で水分摂取の習慣を作ることも可能だろう。だが、独居高齢者ではよほど本人が自覚的に時間を決めて水分を取るなどの几帳面さがない限り、結構、難易度が高いのではないかと思う。多くの高齢者個人が熱中症対策で日内の定期的な水分摂取を習慣化することが容易ならば、よくある高齢者の服薬アドヒアランスの低下は問題にならないだろう。私自身はまだ高齢者ではないものの、尿酸値が高めのため、高尿酸血症の患者向けパンフレットにある「1日2L以上の水分摂取を」という推奨を意識して実行している。しかし、高齢者よりは喉の渇きに鋭敏であるはずなのに、真夏でもこの2Lのクリアはなかなか大変である。ちなみに自分の場合、どのように習慣付けているかというと、まず起床直後すぐに500mLペットボトルの半分近くの水分を摂取し、それから排尿を済ませてペットボトルの残りを飲み切る。その後は仕事場のPC脇に満タンにした2Lのペットボトルを置き、仕事の合間にちびちびこれを飲む。視覚的に残りが確認できるので夜7時くらいまでにこれを飲み切る。水分摂取の励行だけでも高齢者にとってはそれなりにハードルが高いと思われるのだが、最近では「熱中症予防のためには水分だけではなく塩分も」とメディアで呼びかけている。これは医学的には極めて正しいが、喉の渇きも感じないのに水分も取って、さらに塩分も取れと言われても高齢者では混乱してしまうのではないだろうか? ドラッグストアで売られている経口補水液を使えば良いとは言っても、こうした非日常的な対応はやはり簡単ではない。そう考えた時に、今でも地方ではありがちな高齢者が三々五々集まって「漬物をつまみながら、お茶を飲む」という習慣は、過度にならないのならば水分と塩分を同時に摂取できる合理的なものだと感じ入ってしまうのだが、コミュニティが希薄化している都市部ではそうはいかないケースも多い。私は地方の実家に高齢の両親がおり、やはり近所の人が時おり集まってお茶を飲むこともあるのを知ってはいる。これに加えて念のため、厚生労働省が行っている「あんぜんプロジェクト」の尿の色で脱水症状をチェックするという試みを伝えて、両親に注意を促しているものの、それでも心もとない。その意味では単に「喉の渇きがなくとも水分摂取を」の言葉だけでなく、実践しやすい事例を探しているのだが、ピンとくるものは少ない。この機会に読者の皆さんから「私はこんなふうに指導してますよ」という事例があれば、ぜひともお知恵を拝借したい。

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第46回 コロナ定点報告、注意報・警報発令の値はどうなる?

「5類」移行後、初めての定点報告5月8日にCOVID-19が「5類感染症」に移行してから、初回の定点医療機関あたりの患者数が全国で2.63人だったと報告されました。指定医療機関における1週間あたりのCOVID-19患者数が2.63人だったということです。定点医療機関あたりの患者数は、インフルエンザの場合、1人以上で流行期入り、10人以上で注意報、30人以上で警報というレベルが設定されています。現場でも、30人以上だとかなりインフルエンザが増えてきたなと実感する水準です。今回、インフルエンザの流行は比較的小波に終わりました。定点のニュースが流れた後「結局、以前と比べてどうなの?」と思った人が多かったと思います。ほぼ全数把握をしていた5月第1週の感染者数を定点医療機関あたりの患者数に換算すると、全国で1.80人になるそうです。単純計算で前週比46%増ということですから、ちょっと雲行きが心配になってきますね。地域差大きく、沖縄が最多今回、沖縄の定点医療機関あたりの患者数は6.07人と全国最多でした。沖縄県の主要病院のホームページをみても、院内クラスターが発生しているようで、職員の感染が診療を制限している構図が観察されます。沖縄県の感染者数は、現時点で約58万人です。県民の約4割が感染していますが、全国平均の約3割を上回っています。ある程度集団免疫的な機能が備わっていると思いきや、全国最多の定点医療機関あたりの患者数を記録しているのが現状です。さらに、ここにきて海外からのインバウンド観光客も急増しており、今後の感染動向は予想が難しそうです。確かにCOVID-19はインフルエンザと同じ「5類感染症」に移行しましたが、注意報・警報も同じ扱いでよいのかというと、そうではありません。むしろ、インフルエンザよりも感染性が高いことから、少なくとも「1人-10人-30人」の数値よりはレベルを厳しく設定する必要があるかもしれません。ちなみに、現在の新型コロナ流行を「1人-2人-4人」で色分けすると図のようになります(図、1人以下の都道府県はありません)。東高西低の分布になっていますね。注意報・警報をどのように発令していくかは厚労省で今後検討されるとのことです。図. 現在のCOVID-19流行(参考資料1をもとに筆者作成)参考文献・参考サイト1)新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生状況等について

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米国医師国家試験に挑戦するなら今が絶好のチャンス!【臨床留学通信 from NY】第48回

第48回:米国医師国家試験に挑戦するなら今が絶好のチャンス!さて今回は米国医師国家試験(USMLE:United States Medical License Examination)についてのお話です。私が試験を受けた2011年ごろはUSMLE Step 1・2CK(clinical knowledge)、2CS(clinical skill)、そしてそれを終えるとECFMG(Educational Commission for Foreign Medical Graduates)certificationが取得できて、その後にUSMLE Step3を受けるという仕組みでした。以前もお話ししましたが、USMLE Step 2CSは英語が不得意な私にとっては最難関。英語で問診し、英語で診察し、英語でカルテを書く、という日本語であったらなんでもないことを英語でするだけなのに、ものすごくハードルが高い試験でした。なんといっても英会話をまるでしたこともなく、ぬくぬくと受験勉強、大学生活をしていた私が、医者になって5年目に臨床業務の傍らひたすら英語の勉強をする羽目になったのです。しかも試験は米国に行って受けなければならず、試験費用(USMLEは1つ受けるのに10万円くらいするはずです)、KAPLANという語学学校のコース(5日で25~30万円くらいでしたでしょうか)での直前講習、滞在費などを含めると、高額な費用を余儀なくされました。情報は当時の記憶のままなので、そこは話半分に聞いていただきたいのですが、なんといっても、当時最もハードルが高かったUSMLE Step 2CSが、今は新型コロナの影響で中止となっているのです(いつまで中止かは不明です)。その代わりにOET(Occupational English Test)という医療英語試験が代用されており、渡米の必要もなく、試験もCSに比べれば楽、という話です。実際にCSに落ちた後、OETに切り替わった仕組みを利用してOET合格し、ECFMGを取得し、すでに渡米している人もいます。さらなる朗報はUSMLE Step1が無点数化になったことです。今までStep 1・2CKの点数が低く合格してしまうと、ECFMGは取れたものの、米国の病院とのマッチには世界中との競争に勝てず、とくに内科レジデント、外科レジデントなどレジデントから入る場合では、マッチできないというケースもありました。フェローから入る場合は診療科によって状況が異なることもあります。ただし人気の高い循環器フェローには、直接入ることは不可能と言ってもいいでしょう。Step 1はかなり曲者の試験で、いわゆる基礎医学の試験のため、国家試験を通った方でもかなり難しく、それが英語かつ高得点を要求されることから、敬遠していた人もいたと思います。Step 1が無点数化されたことで、世界中からこぞって受けているようです。その反面、ギリギリ合格を狙う人も多くなったため、合格率は下がっているようです。Step 2CKはそこまで難しいテストではないので、たとえ合格点すれすれでもStep 1をパスして、Step2CKで高得点を狙い、OETは現地での活動を見据えてしっかり英語の対策をすれば、ECFMG certificateの取得もできなくはない?ところが見えてきそうではないでしょうか。すでに受けようと決めている人には周知の情報ですが、ちょっと興味はあるけれど、くらいの人もぜひトライを考えてもいいのかもしれません。もちろん、お金と時間、労力、そしてECFMG取得後も困難なことは往々にありますが(今回の変更でより競争が激化していると思われますが)、資格がないことには米国で臨床ができないのも事実です。少しでも興味がある方はこのチャンスを活かすのもありかなと思います。Column第43回のコラムで紹介させていただいた、私がサポートしている先生方による、昨年12月に開催された日本循環器学会関東甲信越地方会での2つの発表は、お二方ともco-first authorとして無事に雑誌掲載されるに至りました1,2)。ECFMGは取得済みとのことですが、その後も険しい道は続くことは予想されますので、いろいろな形で後押ししていきたいと思います。 1)Yokoyama Y, et al. Eur J Cardiothorac Surg. 2023;63:ezad043. 2)Miyamoto Y, et al. Eur J Clin Invest. 2023 Feb 16;e13970.

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新型コロナの発生状況、「定点把握」の発表開始/厚労省

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)について、2023年5月8日から感染症法上の5類感染症の位置づけとなり、新規患者数の発生状況等の把握は、定点医療機関(全国約5,000ヵ所のインフルエンザ/COVID-19定点)からの報告に基づくものとなった。厚生労働省は5月19日に、これに基づく発生状況の発表を開始した。今回の発表では、5月8~14日の発生状況が報告された。今後、発生状況等については、毎週金曜日14時を目途に公表される予定。 なお、今回の発表では、5類感染症への位置づけ変更前となる5月7日までの推移も示している。ただし、これはHER-SYS(新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理システム)を活用してこれまで入力された定点医療機関による報告数を集計(5月17日17時時点)したものであり、各定点医療機関からの報告がHER-SYS上明らかでない場合は含まれないため、すべての定点医療機関による報告数が網羅されていない点に留意が必要となる。 5月19日時点での報告では、5月8~14日の新型コロナの定点医療機関報告数の総数は1万2,922件で、都道府県別で多い順に、東京都(994件)、北海道(964件)、神奈川県(838件)、埼玉県(783件)となっている。定点当たりの全国平均は2.63件であった。前週(1.80件)と比べて微増となっている。都道府県別の定点当たりの報告数は、多い順に、沖縄県(6.07件)、石川県(4.90件)、北海道(4.36件)、新潟県(4.30件)、山梨県(4.22件)、富山県(4.17件)となっている。 G-MIS(医療機関等情報支援システム)における新型コロナの新規入院患者数についても発表された。5月8日以降は、ICU入院中の患者数について独立した項目として報告される。今回の報告では、5月8~14日の新型コロナによるICU入院中の患者(7日間平均)は42例、ECMOまたは人工呼吸器管理中の患者は18例であった。

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第148回 新型コロナ定点感染者数を初公表、緩やかな増加傾向/厚労省

<先週の動き>1.新型コロナ定点感染者数を初公表、緩やかな増加傾向/厚労省2.国内で麻疹患者を複数確認、国内でも流行を懸念/厚労省3.GLP-1ダイエットの健康被害、日本医師会も問題視4.国立健康危機管理研究機構の設立へ、衆議院を通過/国会5.高度急性期偏重の診療報酬改定で、2次救急医療に悪影響か/中医協6.次世代医療基盤法改正案が成立、医療ビッグデータの利用促進へ/内閣府1.新型コロナ定点感染者数を初公表、緩やかな増加傾向/厚労省厚生労働省は、5月19日に定点把握による新型コロナウイルス感染症の感染状況データを初めて公表した。全国の約5,000の医療機関から報告された1週間の感染者数は1万2,922人で、1医療機関当たりの平均患者数は2.63人だった。東京、神奈川、埼玉、千葉の推移をみると、都道府県ごとの感染者数は増加しており、特に沖縄県が最も多い6.07人だった。厚労省はこれまでの感染者数と比較して、緩やかな増加傾向が続いていると分析している。また、新たに始められた「新規入院者数」の発表では、1週間で2,330人の新規入院があり、前週と比べてほぼ横ばい。厚労省では、今後も定点把握を通じて感染状況を把握し、対策を進める方針。(参考)新型コロナウイルス感染症サーベイランス週報:発生動向の状況把握(国立感染症研究所)新型コロナ「緩やかな増加傾向」 厚労省が定点把握で初発表(東京新聞)コロナ定点把握 5類変更後初めて公表 新規患者数 8-14日の1週間分 厚労省(CB news)新型コロナ「定点把握」全国の感染状況データ 初の発表 厚労省(NHK)2.国内で麻疹患者を複数確認、国内でも流行を懸念/厚労省感染力が強い「麻疹」の感染者が国内で複数確認され、厚生労働省が注意喚起を行っている。今月に入って確認された感染者は、インドから帰国した30代男性と、東京都在住の男女2人で、同じ新幹線の車内にいたことで感染経路が特定されている。海外との往来の増加により、国内での感染例が増加する可能性が懸念されており、厚労省は海外渡航者へ注意喚起とワクチン接種を呼びかけている。麻疹は非常に感染力が強く、免疫力のない人が感染するとほぼ100%発症する。感染経路は空気感染のため、手洗いやマスクでは予防できない。麻疹の治療は対症療法であり、ワクチン接種が有効とされている。しかし、国内でのワクチン接種率は目標の95%を下回っており、国内での流行の懸念が高まっている。加藤厚生労働大臣は、5月16日の記者会見で麻疹の症状を有する場合は麻疹を疑い、医療機関を受診のための移動の際は公共交通機関の利用を控えるよう呼び掛けている。厚労省は、自治体や医療機関に対し、麻疹に対する注意喚起を行い、同省のホームページやSNSなどで国民に向けた情報の提供をしている。(参考)加藤大臣会見概要[令和5年5月16日](厚労省)国内での麻しん流行を懸念、発熱や発疹のある者は麻しんを疑った行動・診療を!医療従事者は2回の予防接種歴確認を-厚労省(Gem Med)「麻しん疑われる時は受診前に医療機関に連絡を」相次ぐ感染者の確認を受け 加藤厚労相(CB news)はしか、国内で複数の感染者確認 同じ新幹線車両に乗り合わせ(朝日新聞)はしか相次ぎ、厚労相「症状あれば交通機関の利用控えて」…感染者が不特定多数と接触か(読売新聞)3.GLP-1ダイエットの健康被害、日本医師会も問題視糖尿病治療薬のセマグルチド(商品名:リベルサス)が「飲むだけで痩せられる薬」として処方され、健康被害が相次いでいることが5月18日に一般報道された。ダイエット目的でのGLP-1受容体作動薬の処方は、美容クリニックやオンラインクリニックで行われている。しかし、吐き気やめまいなどの副作用が出現するほか、急性膵炎で入院する人も報告されている。本来、セマグルチドは糖尿病の治療薬であり、ダイエットの薬としての厚生労働省の承認はなく、適応外使用となる。オンライン診療での医師の診察は短時間で行われ、医師とは対面もなく検査もされないまま処方薬が自宅へ配送されており、TwitterなどのSNSでも副作用の訴えが多く寄せられている。現在、美容クリニックやオンライン診療での糖尿病の薬の処方は自由診療で行われているため、現状では規制が難しい状況であり、日本医師会もこれを問題視し、繰り返しこの行為の問題を表明している。同会では今後、処方を正しく行うための法整備が必要と訴えている。(参考)「飲むだけで痩せられる」糖尿病の薬を“痩せる薬”として処方 副作用で吐き気やめまいなど健康被害相次ぐ…入院する人も(TBS)自由診療における糖尿病治療薬の不適切使用に対する見解示す(日医)自由診療におけるオンライン診療の不適切事例について(医薬品の適応外使用)(同)4.国立健康危機管理研究機構の設立へ、衆議院を通過/国会次の感染症に備えるため、アメリカのCDC(疾病対策センター)をモデルとして、内閣感染症危機管理統括庁や厚生労働省に科学的知見を提供するため、国立感染症研究所と国立国際医療研究センターを統合して新たな専門家組織「国立健康危機管理研究機構」を設立する法案が国会に提出されていた。この5月18日に衆議院本会議で採決が行われ、自民、公明党などの賛成多数で可決された。今後、参議院に送付されて採決で成立すれば、法案に基づいて設立される。設立は令和7年度以降に予定されている。(参考)国立健康危機管理研究機構について(厚労省)国立健康危機管理研究機構(仮称)と地方衛生研究所等の連携強化(同)国立健康危機管理研究機構法案(衆議院)日本版CDC法、衆院通過 司令塔新設案、参院審議へ(東京新聞)5.高度急性期偏重の診療報酬改定で、2次救急医療に悪影響か/中医協厚生労働省は5月17日に中央社会保険医療協議会(中医協)の総会を開催した。来年度から始まる第8次医療計画のうち新興感染症を除く5事業について、診療報酬の在り方の議論を始めた。診療側が問題提起したのは救急医療。去年の診療報酬の改定では、高度急性期医療を評価する「急性期充実体制加算」の新設によって、「総合入院体制加算」(診療科として精神科、小児科、産婦人科の標榜が施設基準)から急性期充実体制加算の算定に移行するため、医療機関側が精神科や産科を廃止するなど地域の2次救急の維持・運営に支障が生じていると指摘があった。本来は100万人に1つの3次救急施設を整備する方針だったが、すでに国内には300施設存在し、さらに増加傾向が続いており、診療側は医療計画がゆがんでいないか、診療報酬以外の財政措置も考慮すべきだと主張した。また、診療報酬の評価方法を見直し、2次救急の評価を充実させる必要があると訴えた。その他、高齢者の救急患者については、急性期以外の医療機関での対応を促す仕組みを強化すべきだと指摘があった。(参考)総合入院体制加算の届け出1年間で35%減 厚労省、周産期医療への影響を注視(CB news)二次救急医療機関への評価充実要望、中医協で診療側 支払側「高齢の救急患者は急性期以外で」(同)総合入院体制加算⇒急性期充実体制加算シフトで産科医療等に悪影響?僻地での訪問看護+オンライン診療を推進!-中医協総会(Gem Med)中央社会保険医療協議会 総会[第545回](厚労省)6.次世代医療基盤法改正案が成立、医療ビッグデータの利用促進へ/内閣府医療ビッグデータの利用を促進するため、今国会に内閣府が提出していた次世代医療基盤法(医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関する法律)の改正法案が、5月17日に開かれた参議院本会議で可決・成立した。この法律は、病院などから提供された医療情報を加工し、研究開発などに活用するために、個人情報保護法の特例法として平成29年に制定されていた。現行法では個人情報の保護のため制限があり、これまでの利用実績は20数件と少なく、新薬の研究開発などに活用しにくいという課題があった。このため経団連や日本製薬工業協会などからは改正を求める声が上がっていた。新たに成立した改正次世代医療基盤法では、匿名化したままでより精緻な医療データを新薬の開発などに利用に活用することが可能となる。具体的には、血圧や体重などの検査値の提供範囲を拡大し、創薬や副作用の早期把握などに活用することが期待されている。また、個人情報保護のため新たな制度が導入され、元の医療情報から患者本人を直接特定できないように、個人情報の保護と情報漏えいの防止強化にも取り組むことになる。(参考)「次世代医療基盤法」とは(内閣府)精緻な医療データを製薬利用へ 法改正、個人情報は配慮(日経新聞)医療データ活用へ 改正次世代医療基盤法 参院本会議で成立(NHK)世代医療基盤法の見直し(経団連)

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コロナ禍のリモートワーク、医師からは「非効率」の声が多数

 新型コロナウイルス感染症の流行により、世界中の医療機関で急速にリモートワークが導入された。それは医療現場の生産性、スタッフの健康、コミュニケーションにどのような影響をもたらしたのか。カナダ・トロント大学医療政策管理評価研究所のChristopher McChesney氏らによる研究結果が、JCO Oncology Practice誌5月号に掲載された。 研究者らは2021年6月~8月、トロントの大規模がんセンターであるPrincess Margaret Cancer Centreにおいて、COVID-19パンデミック時に1回でもリモートワークを行ったスタッフに対してメールで調査票を配布し、匿名で回答を得た。リモートワークは自宅から病院のために行うあらゆる業務(タスク、プロジェクト、医療提供)と定義され、スタッフには医師、看護師、技師、事務スタッフが、設問はリモートワークの経験、生産性、効率性、満足度の指標、回答者の属性が含まれた。 主な結果は以下のとおり。・回答は333件、回答率は33.2%だった。年齢40~69歳(46.2%)、女性(61.3%)が多く、職種は医師(24.6%)が最多で事務スタッフ(19.5%)がそれに続いた。・リモートワーク継続を希望する人が全体の85.6%と大半を占めたが、ほかの職種と比較して医師(オッズ比[OR]:16.6、95%信頼区間[CI]:1.45~190.14)、薬剤師(OR:12.6、95%CI:1.0~158.9)は現場に戻ることを望む傾向が高かった。・医師は事務スタッフと比較して、リモートワークへの不満を報告する傾向が約8倍、リモートワークが効率に悪影響を及ぼすと報告する傾向が約24倍高かった。・看護師は事務スタッフと比較して、リモートワークのための追加リソース(OR:6.5、95%CI:1.71~24.48)やトレーニング(OR:7.02、95%CI:1.78~27.62)の必要性を訴える傾向が高かった。・回答者の7割以上がリモートワーク中に提供される医療の安全性(74.5%、248/333人)と質(70.0%、233/333)について現場での医療と比較して違いを感じない、と回答したが、その比率は従事する医療サービスによって異なっていた。・がんの外科治療に従事する回答者は、安全性(OR:1.21、95%CI:0.33~4.45)と質(OR:1.58:95%CI:0.48~5.20)の両方にリモートワークがマイナスの影響を与えると報告する傾向が最も高かった。一方、放射線治療に従事する回答者で、リモートワークが安全性や質に悪影響を及ぼすと回答した割合は、がんの外科治療従事者の約4分の1だった。・最も多く挙げられたリモートワークへの障壁は、リモートワークの割り当てに関する公正なプロセスの欠如、デジタルアプリケーションとの接続性、および業務上の役割の明確化の不十分さであった。 著者らは「リモートワークに対する医療者の全体的な満足度は高かったものの、医療現場におけるリモートワークの導入の障壁は『職場文化』『リソース』『トレーニングと教育』『コミュニケーション』『スタッフ配置』の5つのテーマに分類され、これらの障壁を克服するための取り組みが必要である」としている。

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第160回 インフルの集団感染、新型コロナの教訓はいずこに!?

新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の教訓は生かされていないのか? 宮崎県でのインフルエンザ集団発生の報道を知って、そう思った。1つの高校で教職員・生徒を合わせて491人ものインフルエンザの感染者が発生したとの一報を目にした時は、正直「冗談だろう? もしかして新型コロナと間違えた?」と思った。集団発生が起きた高校の生徒数はわからないが、宮崎県内の高校のデータを参照すると、全日制高校の生徒数は最大規模でも約1,600人。多くは700~900人規模かそれ以下である。ざっくり計算をすると、集団発生が起きた高校では2~4人に1人がインフルエンザに感染したことになる。となると基本再生産数が約2のインフルエンザではなく、5以上と報告されているオミクロン株による新型コロナではないかと考えてしまったのだが、この時期の呼吸器感染症ではPCR検査による鑑別はしているはずで、やはりインフルエンザということなのだろう。ただ、立ち止まって考えてみれば、不思議はないのかもしれない。まず、報道されているように、きっかけはどうやら体育祭のようだ。前回の記事でも触れたように、文部科学省が4月1日から「学校での教職員・生徒のマスク着用を原則不要」と通知した中、体育祭では教職員・生徒の多くがマスクを外していた可能性がある。その環境で人と人とが密着しやすい体育祭を行えば、集団発生が起こりやすいのは確かだ。ここであえて言及すると、この高校の体育祭で教職員・生徒の多くが実際にマスク非着用だったとしても、私はこれを批判するつもりはない。とはいえ、近年、1つの学校で短期間にこれだけのインフルエンザ患者が発生したケースは、少なくとも私個人は記憶にない。そしてここまでの集団発生の主たる原因は、マスク非着用での体育祭実施よりも、コロナ禍でインフルエンザの流行がかなり抑えられた結果、多くの人でインフルエンザに対して免疫が失われていたからではないだろうか。これに高校生がインフルエンザワクチンの定期接種の対象者ではないこと、仮に昨秋以降にワクチン接種をした人がいたとしても季節外れで効力が失われていることを考え併せると、今回の集団発生はおおむね説明がつくのかもしれない。では、ここからは私がこの事例でどんな「教訓」が生かされていないと考えているかに話の軸を移していきたい。ここでは釈迦に説法となるが、改めてインフルエンザの特徴を整理しよう。潜伏期間は1~3日無症候割合は10%ほどで、こうしたケースではウイルス量は低い感染力(ウイルス排出量)のピークは発症後この特徴を踏まえれば、今回の集団発生は、他者への感染が起きやすい環境と集団免疫の喪失に加え、この教職員・生徒の中に症状があるのに体育祭に参加した人がいるということだ。まさに私が指摘したいのはこの点である。コロナ禍を通じて、繰り返し叫ばれたのは「風邪様症状のある人は外出を控えて」というメッセージだ。コロナ禍当初には、OTCの風邪薬のCMで有名だった「風邪でも絶対休めないあなたへ」というキャッチコピーもついに消えた(このコピーについては2016年から問題が指摘されていたが、変更されたのは2020年3月ごろ。当該製薬企業は「TVCMの放映期間ならびにキャンペーンが終了したため修正した」と説明している)。残念ながら、今回の集団発生ではこのメッセージが守られていなかった可能性があると考えざるを得ない。集団発生の時期は新型コロナの感染症法上「5類化」後であり、この高校では久々の体育祭だったかもしれない。ならば教職員・生徒共に無理を押してでも参加したい気持ちがあったのだろうと想像する。しかし、ちょっとした“油断”がこれだけの事態を招いてしまう。今はコロナ禍を経た過渡期だが、同時にこれまでに得た教訓を踏まえ、社会がより良い方向に定着していくための重要な時期でもある。たとえば、コロナ禍で得られた重要な教訓・経験の1つはリモート化・オンライン化である。これを活用して体育祭の実況中継によるハイブリット開催も可能だったはず。数少ない貴重なイベントだからこそ、体調不良の教職員・生徒が少しでも安心して休め、かつ疎外感を抱かないようそこまで配慮しても良かったのではと思う。しかも、以前よりもこうしたことは低コストでできる。もちろん現場で参加する高揚感や充実感にはかなわないのは確かだが、そうしたサポートがないより遥かにマシなはず。そして社会がコロナ禍明けで「湧いている」ようにも見える今こそ、コロナ禍の教訓をいかに社会に定着させるかを改めて再認識する必要がある。そのためには途方もない地味な努力の継続が求められるだろう。たとえば「風邪様症状のある人は家で休もう」と言い続けることはその1つだ。これはある種、医療関係者だけでなく社会全体にとって「苦痛」な作業となる。しかし、これをあきらめたら、私たちは新型コロナに真の敗北を喫することになる。

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新型コロナとがん併発、死亡リスクに性差はあるか

 がん患者と非がん患者のCOVID-19による死亡リスクを比較した研究はあるが、そこに性差はあるのか。米国・南カリフォルニア大学・産婦人科腫瘍部門の松尾 高司氏らによる大規模コホート研究の結果が、JAMA Oncology誌オンライン版2023年4月27日号に掲載された。 研究者らは48州およびコロンビア特別区の参加病院によるHealthcare Cost and Utilization ProjectのNational Inpatient Sample(米国人口の95%以上の退院データをカバー)を用い、2020年4月~12月にCOVID-19感染の診断を受けて入院した患者を、世界保健機関(WHO)の分類コードによって特定した。データ解析は2022年11月~2023年1月にかけて行い、人口特性、併存疾患、および病院パラメータで層別化したうえで性別、がん種別にCOVID-19院内症例の死亡率を評価した。 主な結果は以下のとおり。・2020年4月1日~12月31日にCOVID-19の入院患者は162万2,755例であった。全体のCOVID-19院内症例の死亡率は12.9%、死亡までの期間中央値は5日(四分位範囲[IQR]:2~11日)であった。・162万2,755例のうち、7万6,655例(4.7%)が悪性新生物と診断された。多変量解析後、性別(男性対女性:14.5%対11.2%、調整オッズ比[aOR]:1.28、95%信頼区間[CI]:1.27~1.30)、悪性新生物診断(17.9%対12.7%)はともに死亡リスク上昇と関連していた。・女性患者群で死亡リスクが2倍以上となったがん種は、肛門がん(23.8%、aOR:2.94、95%CI:1.84~4.69)、ホジキンリンパ腫(19.5%、aOR:2.79、95%CI:1.90~4.08)、非ホジキンリンパ腫(22.4%、aOR:2.23、95%CI:2.02~2.47)、肺がん(24.3%、aOR:2.21、95%CI:2.03~2.39)、卵巣がん(19.4%、aOR:2.15、95% CI:1.79~2.59)の5つだった。これらに続き、膵がん、骨髄性白血病、多発性骨髄腫、肝がんの4つで死亡リスクが1.5倍以上となった。・男性患者群で死亡リスクが2倍以上となったがん種は、カポジ肉腫(33.3%、aOR:2.08、95%CI:1.18~3.66)と小腸の悪性新生物(28.6%、aOR:2.04、95%CI:1.18~3.53)の2つだった。これらに続き、大腸がん、肺がん、食道がん、骨髄性白血病、膵がんの5つで死亡リスクが1.5倍以上となった。 著者らは「本コホート研究の結果、米国における2020年のパンデミック初期において、COVID-19院内症例の死亡率が高かったことが確認された。死亡リスクは女性よりも男性のほうが高かったが、がん併発による死亡リスクとの関連は女性のほうが強く、併発によって死亡リスクが2倍以上になるがん種が多かった」としている。

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コロナワクチンの有効性、40試験のメタ解析結果

 将来の第9波到来を見越した新型コロナ対策として、これまでのブースター接種のタイミングや接種用量などを評価しておく必要がある。伊・Fondazione Bruno Kessler(FBK)のFrancesco Menegale氏らはワクチンの有効性(VE)の経時的変化を数学的に説明できれば、流行時に応用できる可能性があると考え、新型コロナウイルスのデルタ株およびオミクロン株に対するVEとして、VEの半減期や効果減退率に関する調査を実施した。その結果、ワクチン初回接種とブースター接種後の時間経過とともにVEが急速に低下することを示唆した。JAMA Network Open誌2023年5月3日号掲載の報告。 本研究では論文検索データベースとしてPubMedとWeb of Scienceを使用。検索開始から2022年10月19日までの期間に、新型コロナウイルス感染や症候性疾患に対する経時的なVEの推定値を報告した論文からプレプリントまでを抽出してシステマティックレビューならびにメタ解析を行った。なお、各論文で使用されていた主なワクチンはBNT162b2(ファイザー社/ビオンテック社)、mRNA-1273(モデルナ社)だった。 主な結果は以下のとおり。・検索した結果、799件の論文、査読付きジャーナルに掲載された149件のレビュー、35件のプレプリントが該当し、そのうちの40件が分析に使用された。・オミクロン株感染と症候性疾患に対するワクチン初回接種のVEに関する推定値は、最終投与から6ヵ月で20%未満だった。・ブースター接種は、初回接種の投与直後に得られたレベルに匹敵するまでにVEを回復させた。しかし、ブースター接種9ヵ月後のオミクロン株に対するVEは、感染症および症候性疾患に対して30%未満だった。・症候性感染に対するVEが半減するのは、デルタ株では316日(95%信頼区間[CI]:240~470日)、オミクロン株では87日(95%CI:67~129日)と推定された。・また、VEを若年層(18歳未満)と高齢者(60歳以上)で比較したところ、推定値での差はみられなかった(39.2%[95%CI:34.0~44.4] vs.38.7%[95%CI:14.4~63.1])。 研究者らは「本結果は、将来のワクチン接種プログラムの適切な目標とタイミング構築に役立つ可能性がある」としている。

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第161回 止められない人口減少に相変わらずのんきな病院経営者、医療関係団体。取り返しがつかなくなる前に決断すべきこととは…(前編)

5月の連休、北海道のテレビが放送されている下北半島で考えたことこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。5月の連休、私は山仲間と青森県の八甲田山に行って来ました。豪雪で有名な酸ヶ湯温泉から地獄湯の沢を登って大岳(八甲田山の主峰です)、毛無岱を経て酸ヶ湯に戻る周回コース。幸い好天で残雪の春山を堪能できたのですが、やはりここ八甲田山でも雪は例年より少なく、地元の人は「季節が変わるのが2週間は早い」と話していました。八甲田山を登った後はレンタカーで下北半島巡りをしました。恐山霊場を参拝した後、下風呂温泉の宿に泊まったのですが、その宿のテレビでは北海道の民放が普通に放送されていました。もちろんCMも北海道の企業のものばかりです。下北半島の北エリアはテレビ的には青森ではなく距離が近い函館圏内、ということなのでしょう。ちなみにマグロで有名な下北半島の先端にある大間町と函館市の距離は直線(フェリー)で約46キロ、大間町と青森間は国道を使って約150キロです。となると仕事柄、医療提供体制についても気になるので、源泉かけ流しの温泉に浸かった後、ちょっと調べてみました。下北半島が位置する下北地域には4つの病院があります。基幹病院である一部事務組合下北医療センター・むつ総合病院(454床)以外は、国民健康保険大間病院(48床)、自衛隊大湊病院(30床)、むつリハビリテーション病院(120床)と、中小病院とリハビリ病院しかありません。実質的にむつ総合病院が、この地域の急性期医療を一手に引き受けていることになります。ただし、大間町からむつ市までは陸路で48キロもあり、距離的には函館とほぼ同じです。医療、とくに救急などの急性期医療に迅速に対応するには微妙な距離です。北海道のドクターヘリが自由に使えれば、ある意味”函館医療圏”と言ってもいいくらいでしょう。翌日我々は、人口減に苦しむ僻地の医療の大変さを実感しながら、約2時間半をかけてむつ市経由で青森まで車を走らせました。日本の人口、50年後の2070年には3,900万人減少し8,700万人にということで今回は、ゴールデンウイーク直前の4月26日に厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所が公表した「将来推計人口」と、日本の医療提供体制への影響について書いてみたいと思います。「将来推計人口」は国勢調査を基に5年に1度公表する日本の人口の長期予測です。今回は新型コロナウイルスの影響で2017年4月以来、6年ぶりの公表となりました1)。それによれば、最も実現性の高いとされるケースで、2020年に1億2,615万人だった日本の人口は、50年後の2070年には3,915万人減少し、8,700万人になるとのことです。女性1人が生涯に産む子供の推定人数「合計特殊出生率」は2070年に1.36と推計されました(2020年は1.33)。推計には、日本に住む外国人も含まれ、933万人で人口の約1割になるとしています。人口が1億人を割るのは2056年で、前回推計の2053年より3年遅くなりました。そして2067年には9,000万人を下回るとしています。「生産年齢人口」は人口の52.1%まで減少65歳以上の高齢者の割合である高齢化率は2020年に28.6%だったのが、今後も上昇し2070年には38.7%まで高まるとしています。高齢者数のピークは前回推計では2042年の3,935万人でしたが、今回は1年遅い2043年の3,953万人となりました。15歳から64歳までの「生産年齢人口」は2020年で7,509万人(全人口の59.5%)だったものが、2070年には4,535万人、全人口の52.1%まで減少するとしています。ただし、外国人の流入もあり、前回(4,281万人)よりは働き手を多く確保できる推計となっています。平均寿命は2020年で男性81.58歳、女性87.27歳だったものが、2070年には男性85.89歳、女性91.94歳にまで延びるとしています。人口が減れば医療・介護のマーケットは縮小、今以上の人手不足が起こる以上が、最新の「将来推計人口」の概要です。6年前の推計と比べ、人口1億人割れの時期は3年遅くなったものの、日本の人口減の勢いはまったく弱まらないようです。人口が減るということは、都道府県、市町村の人口が減り、医療・介護のマーケット(つまり患者数)が縮小、同時に、労働集約型産業の側面が大きい医療・介護の分野での人手不足が今以上に深刻になることを意味します。日本の医療の現場では現在、そうした事態に備えた準備を着実に進めていると言えるでしょうか。私は2つの側面からみて、現場の医療者の多くはまだまだ他人事として、のんきに構えているようにしか見えません。遅々として進まない病院の役割分担の明確化や再編成に向けての動き1つ目の側面は医療提供体制における、病院の役割分担の明確化や再編成、病床削減などの取り組みです。将来の地域の医療提供体制(医療機関の役割分担)を形づくる国の仕組みとしては、医療法で定められた「医療計画」と「地域医療構想」があります。医療計画は現在、各都道府県で第8次医療計画(2024〜28年)の策定が進められています。地域医療構想については当面は策定された2025年の目標に向けての取り組みが進められていることになっています(次の地域医療構想は2040年頃を視野に入れつつ策定予定ですが、詳細は未定)。しかし、大規模な再編が本格化しようとした矢先、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが起こり、地域の病院再編は先延ばしとなってしまいました(「第32回 遅れに遅れた地域の病院再編、コロナに乗じた「先延ばし」はさらなる悲劇に」参照)。コロナ禍で、補助金などにより一時的に地域の公立・公的病院の経営状況が上向いたことや、地域の病院病床の必要性が”再確認”されたこともあり、病院の役割分担の明確化や再編成に向けての動きは活発化していません。実際、財務省もそんな状況にやきもきしています。4月28日に開かれた医療や介護など社会保障分野の改革を検討する政府のワーキンググループにおいて、財務省は地域医療構想について「過去の工程表と比較して進捗がみられない」「目標が後退していると言われかねない」などと指摘しています。山形県米沢市では公立、民間が病院機能を再編するケースももっとも、そんな中でも先を見越し、大胆な再編計画を進める地域もあります。厚生労働省が3月1日に開いた第11回地域医療構想及び医師確保計画に関するワーキンググループでは、山形県米沢市でのユニークな取り組みが紹介されました。米沢市では、米沢市立病院(322床)と民間(一般財団法人 三友堂病院)の三友堂病院(185床)と三友堂リハビリテーションセンター(120床)の再編計画が進行中です。3つの病院の機能分化と連携強化を推し進め、急性期は米沢市立病院が、それ以外の回復期や慢性期などは三友堂病院が担うことにしたのです。また、各病院とも老朽化が進んでいたことから、現在、米沢市立病院がある敷地に三友堂病院(三友堂リハビリテーションセンターを統合)が移転し、通路を挟んでそれぞれが新病院を建設することになりました。開院予定は今年11月です。人口減と高齢化を背景に、公と民の病院が生き残りを賭けたこの計画、病床数は米沢市立病院が59床減の263床、三友堂病院が106床減の199床になる予定です。公立病院と民間病院の組み合わせということで完全な統合はせず、それぞれ経営が独立したまま「地域医療連携推進法人」を設立し、人材交流や物資の共同利用を進める方針です。この連載でも地域医療連携推進法人については度々書いてきましたが、公立・公的と民間というように、経営母体が違う法人同士の連携を進める上では、使い勝手の良い制度と言えるでしょう(「第138回 かかりつけ医制度の将来像 連携法人などのグループを住民が選択、健康管理も含めた包括報酬導入か?」参照)。ちなみに、この米沢市のケースを想定してか、国の認定再編計画に基づいて再編を行う病院同士を併設する場合、施設や構造設備を共用できるのは「再編対象病院が同一の地域医療連携推進法人に参加していること」とする厚生労働省医制局長通知(医政発0331第10号「病院の併設について」)が今年の3月31日に発出されています。相変わらずのんきな日本医師会、日本薬剤師会「自分たちだけは大丈夫」と考え、依然再編には無関心の病院経営者も少なくないようですが、このケースのように高齢化、人口減、患者減、医師・看護師などの医療者確保難が深刻化している地域では、ドラスティックな再編に乗り出す医療機関がこれからも増えることでしょう。しかし一方で、相変わらずのんきなのは日本医師会や日本薬剤師会といった医療関係団体のトップです。人口減が招くであろう人材難に対する危機感が希薄過ぎるのです。(この項続く)参考1)日本の将来推計人口(令和5年推計)/国立社会保障・人口問題研究所

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コロナ罹患の医療者、療養期間5日では短過ぎる?/感染症学会・化学療法学会

 5月8日の新型コロナウイルス感染症の5類移行に伴い、罹患者の療養期間について、これまで有症状者は発症日から7日間経過し、症状が軽快し24時間経過した場合に解除可能であったものが、5日間まで短縮された。しかし、とくに免疫不全者のいる医療機関では院内感染予防のため、罹患した職員の就業可能日について慎重な検討が行われている。大阪医科薬科大学病院感染対策室の浮村 聡氏らの研究チームは、新型コロナに罹患した医療従事者を対象に、発症もしくは検査陽性から7日目に定量PCR検査を実施し、Ct値でウイルスの感染力を評価し、自宅療養期間の妥当性を検証した。4月28~30日に開催された第97回日本感染症学会総会・学術講演会/第71回日本化学療法学会学術集会合同学会にて浮村氏が発表した。 同病院では、NEJM誌の論文1)で示されたデータに基づいて、新型コロナ罹患による隔離解除基準をCt値30以上と設定している。2022年8月18日~11月11日の期間において、新型コロナに罹患した医療従事者に対し、就業開始前に定量PCR検査を行った。検査実施日は発症日を0日とし、調査開始当初は10日目以降に、調査途中の9月7日から国の定める基準が変更となったため7日目以降に、Ct値30を超えるまで再検査を行った。 主な結果は以下のとおり。・無症候性感染者で10日目にCt値30を超え就業可能と判断できたのは79.1%(235/297例)、7日目にCt値30を超えたのは78%(33/42例)であった。・有症状者で7日目にCt値30を超えたのは25.6%(11/43例)、諸事情から8日目に初回検査となった14例では62%(9/14例)がCt値30を超えた。 本結果により、有症状者では発症日から7日目に25.6%しか就業可能と判断できず、有症状者の隔離期間は7日間では短いことが示された。同病院では、感染者が増加した状態では、再検査による感染対策室の業務逼迫の恐れがあり、本結果を踏まえて、再検査の確実性が期待される8日目を初回の検査日とするのが妥当と考え、有症状者の初回検査日を8日目、無症状者を7日目に変更した。その後、さらに検査業務の緩和のため、Ct値25未満の者のみ再検査を要する体制に変更した。 5類移行後について、職員の自宅待機期間は短縮の方向で対応し、業務復帰のためのPCR検査は廃止する一方で、症状が軽快する臨床経過の評価と、N95マスク装着による感染対策の強化や、院内感染につながりやすい業務について把握し、そのような業務内容の再考が必要だとしている。

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第163回 GLP-1薬でがん予防? / アルツハイマー病アジテーション治療薬を米国が初承認

GLP-1受容体作動薬は肥満患者のがん予防効果も担いうるGLP-1受容体作動薬(以下、GLP-1薬)が肥満患者の体重を減らすことに加えて、ともするとがん予防効果も担いうることが被験者20例の免疫細胞を調べた試験で示唆されました1)。肥満成人は今や世界で6億人を超えます。肥満は2型糖尿病、心血管疾患、多くのがん(乳房・腎臓・大腸がんなど)と関連します。また、インフルエンザや新型コロナウイルスなどの感染症の害を被りやすくします。ナチュラルキラー(NK)細胞は体内を巡るリンパ球の約10%を占める免疫細胞であり、病原体の侵略を食い止め、がんの発現を防ぐ役割を担います。しかし肥満はどうやらNK細胞を害するらしく、その数を減らし、機能を妨げることが先立つ研究で示されています。たとえばマウスの実験によると肥満のNK細胞は代謝が行き詰まっていて腫瘍と戦えず、腫瘍増殖を食い止めることができません2)。また、肥満小児のNK細胞を調べたところ合図に応じる能力が劣っており、増殖して腫瘍を除去するという本来の働きを全うできませんでした3)。すなわち肥満だとNK細胞は目当ての細胞に取り付いて除去することができなくなるようであり、肥満患者はそれゆえがんや感染症を被りやすいのかもしれません。先立ついくつかの研究でGLP-1薬はマクロファージやT細胞などの免疫細胞に手を加えることが知られています。アイルランドの2人の研究者・Andrew Hogan氏やDonal O’Shea氏などが携わった2016年の報告はそれらの1つで、脂肪組織のインバリアントナチュラルキラーT細胞(iNKT細胞)の活性化作用がGLP-1薬の体重減少効果に寄与しうることが示唆されました4)。その両氏が率いるチームは続いてNK細胞へのGLP-1薬の作用の検討にも乗り出し、体重管理のためにGLP-1薬投与を始める肥満患者を募ってNK細胞の変化を調べました。投与されたGLP-1薬はノボ ノルディスク ファーマのリラグルチドで、うれしいことに同剤投与はNK細胞のサイトカイン生成や目当ての細胞を壊す効果の向上と関連しました。リラグルチドでNK細胞機能が改善するのは体重減少のおかげというわけではなさそうで、同剤はNK細胞の代謝を底上げすることで体重減少とは関係なく直接的にその働きを回復させるようです。世界保健機関(WHO)の推定によると世界の成人の13%が肥満です5)。上述のとおり肥満は種々のがんを生じやすくし、たとえば米国で毎年診断されるがんの40%が太り過ぎや肥満と関連します6)。今回の発見はGLP-1薬を使う肥満患者を勇気づけるものであり、それら薬剤ががんを生じ難くするという効果さえ担うことを示唆しているとO’Shea氏は言っています7)。アルツハイマー病患者の行動障害治療薬を米国FDAが初めて承認アルツハイマー型認知症患者の暴言、暴力、錯乱などの行動障害(アジテーション)治療のFDA承認を抗精神病薬ブレクスピプラゾール(商品名:レキサルティ)が先週11日に取得し、米国でその用途を有する初めてにして唯一の薬剤となりました8)。大塚製薬のアルツハイマー型認知症アジテーション治療の取り組みはブレクスピプラゾールにとどまりません。10年ほど前の2014年に発表されたAvanir社買収で大塚製薬の手に権利が渡った別の薬剤AVP-786のその用途の第III相試験が進行中であり、来年2024年4月に完了する見込みです9)。参考1)De Barra C, et al. Obesity. 2023 May 9. [Epub ahead of print]2)Michelet X, etal. Nat Immunol. 2018;19:1330-1340.3)Tobin LM, et al. JCI Insight. 2017;2:e94939.4)Lynch L, et al. Cell Metab. 2016;24:510-519.5)Obesity and overweight / WHO6)Cancers Associated with Overweight and Obesity Make up 40 percent of Cancers Diagnosed in the United States / CDC7)Maynooth University research reveals cancer-killing benefits of popular obesity treatment / Eurekalert8)FDA Approves First Drug to Treat Agitation Symptoms Associated with Dementia due to Alzheimer's Disease / PRNewswire9)大塚ホールディングス株式会社 2022年度決算説明会

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第159回 5類移行でマスク着脱議論が再び炎上、それって誰の何のため?

5月8日から、ついに新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)は、感染症法上の5類扱いとなった。とは言っても、多くの一般人にとっては5月7日と5月8日で一気にガラリと生活が変わるわけではないだろう。ただ、接客が伴う各種業界ではこの日を機に以下のようにさまざまな変化が起こることが報じられている。『ローソン店員のマスク着用は「任意」に、一方で高島屋は「継続」 新型コロナ「5類」変更でも分かれる対応』(TBS)『「3年間お世話になりました」処分か保管?アクリル板どうする「5類移行」正式決定』(テレビ朝日)こうした身近な変化から、多くの人はいわゆる「コロナ禍」という言葉が有していた深刻さから徐々に解放されていくのだろう。そんな最中、国内でホテルリゾート業を営む星野リゾート代表取締役社長の星野 佳路氏は、5月8日から同社従業員が一斉にマスクを外すとTwitterで宣言し、いわゆる炎上案件になったことを一部の人はご存じかと思う。このツイートは文字通り読むと、従業員に一斉にマスク外しを指示したようにも読めてしまうのだが、ほかの記事を読むと、どうやら完全一律というわけではなさそうである。そんな最中、SNSで知人がある投稿をしていたのに目が留まってしまった。彼はこの星野リゾートの件をフックに「これでもマスクを外せない人は、一生顔を隠して生きていくの?」という記述とともに、学校で教職員や来訪する保護者のマスク外しが進んでおらず、これでは同調圧力で子供は外せないだろうという趣旨の書き込みをしていた。さらに「『外すのも付けるのも自由』なんて言うのは無責任の極み」ともダメ押しで記述していた。「大人が外せなければ、子供は…」のくだりは概ね同意はできるが、そのほかに関しては、私個人としてはなかなか賛同できず、ついコメント欄に書き込みし、数日間にわたって応酬となった。最終的には互いに穏便なところに落ち着いたが、改めて思ったのはこの問題の根深さである。この3年間、新型コロナに関しては嵐のように大量のニュースが流れた。その時々で伝わった情報を理解しつつも、状況が頻繁に変化するため、多くの人が混乱しただろう。私なりにいまだに残るこのウイルスの厄介さを箇条書きにすると以下のようになる。感染力が既存の感染症の中でもかなり高いほうに分類される重症化・死亡リスクが集団によって大きく異なる短期間で感染の主流をなすウイルス株(変異株)が入れ替わったウイルス株の入れ替わりとともにワクチンの効果が変動した(とくにオミクロン株出現以降)感染力のピークが発症前にあるなかでも最後の性質は、今回のユニバーサル・マスク対策の根拠となっている。また、日常会話の飛沫で容易に感染してしまうことから、人との接触を避けることが対策の核となり、飲食業を中心に一部の業態が深刻なダメージを被った。ちなみに前述の知人も飲食業ではないが、深刻なダメージを食らった業種の人である。その意味で社会の中でもコロナ禍に対する「恨み」にはかなりの濃淡がある。一方、感染症法上の5類になったところでウイルスそのものは根絶されたわけでも何でもなく、重症化・死亡リスクの高い人たちは依然として一定の警戒が必要である。その結果、そうした人の中にはなかなかマスクを手放せない人もいる。これらを総合すると、新型コロナを巡る問題はどうしても社会の分断を招きやすい性質を有してしまう。私自身は以前、屋内も含めたマスク着用を“個人の判断”とした政府の宣言に対し、その伝え方には一言モノ申したが、宣言そのものについてはまったくその通りだと思っている。いわずもがな、個々人の置かれた環境や保有するリスク因子はかなり異なるからだ。前述の知人の主張をざっくりまとめると、子供がマスクを外しやすくなるように、この5類化を機に学校では教職員や来訪する保護者は半ば強制的かつ一律的にマスクを外すことを求めている(少なくとも私はそう受け取って応酬した)。しかし、これはかなり困難な話だ。学校にも一定数はいるはずの重症化・死亡リスクの高い人に対し、公権力はリスクが上昇する方向への行動変容を強いることはできないからだ。文部科学省の都道府県・指定都市教育委員会の教育長などへの通知でも原則は「マスクの着用を求めないことを基本とする」としつつも、「基礎疾患があるなど様々な事情により、感染不安を抱き、マスクの着用を希望したり、健康上の理由によりマスクを着用できない児童生徒もいることなどから、学校や教職員がマスクの着脱を強いることのないようにすること」と付記している。もっとも知人が指摘する大人が醸し出してしまう「同調圧力」もまったくわからないわけではない。ただ、学校の場合、もう一つの難しい問題は、基本的に年功序列システムが維持されている組織であること。何かというと、学校長が比較的高齢であるため新型コロナでの重症化・死亡リスクが高い集団に分類される可能性が高く、トップがマスクを外しにくい可能性も少なくないからだ。いずれにせよ新型コロナに関して現時点の知見が維持される限り、私自身の主張が今後も大きく変わることはない。一方、一律的に常時マスクを外して元の生活にシンプルに戻りたいと考える人の気持ちもわからないわけではない。多分、今後は医療従事者の皆さんもこうした一般人の思いと医学・公衆衛生学的な知見が軽く火花を散らす局面にたびたび遭遇するだろう。これは「コロナ禍」ならぬ「ポスト・コロナ禍」とも言うべきだろうか?

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入院前のコロナスクリーニングPCR検査、変異株流行初期に有用か/感染症学会・化学療法学会

 入院時のスクリーニング検査としてのSARS-CoV-2 RT PCRは、院内感染予防や全身麻酔・手術などの侵襲による患者の重症化予防に有用とされる一方、陽性率の低さや所要時間、コストなどの問題が指摘されており、新型コロナの5類感染症移行に伴い、今後の検査の緩和について議論が行われている。京都府立医科大学附属病院の山本 千恵氏らの研究チームにより予定入院前スクリーニング検査としてのSARS-CoV-2 RT PCRについて検討が行われ、その結果、とくに各変異株の流行初期において院内感染の予防に効果的であった可能性が示唆された。4月28~30日に開催された第97回日本感染症学会総会・学術講演会/第71回日本化学療法学会学術集会合同学会にて山本氏が発表した。入院前コロナスクリーニングPCR検査陽性率は0.44% 本研究では、2020年10月12日~2022年6月23日に予定入院した患者のべ1万4,754例を対象に、予定入院前5日以内に鼻咽頭拭い液によるコロナスクリーニングPCR検査を施行し、結果について診療録を参照し、後ろ向き調査を行った。発熱などの有症状者、緊急入院例、転院症例、濃厚接触者となっている者は対象から除外した。 入院前コロナスクリーニングPCR検査について検討した主な結果は以下のとおり。・対象者の年齢中央値は65歳(範囲0~99歳)。全期間の入院前コロナスクリーニングPCR検査陽性率は0.44%(64/1万4,574例)であった。・PCR陽性者の年齢中央値は55歳、陰性者は65歳であり、陽性者のほうが有意に低値であった。・PCR陽性率の推移をみると、従来株流行期(2020年10月~2021年3月)では0.28%、アルファ株流行期(2021年3~7月)では0.16%、デルタ株流行期(2021年7~12月)では0.21%、オミクロン株流行期(2021年12月~2022年6月)では0.90%となり、オミクロン株流行期が最も高値であった。・PCR陽性者のCt値の分布をみると、いずれの株も流行の初期ではCt値が35未満(急性期感染を示唆)の比率が多く、流行後期になるとCt値が35以上の比率が増加した。・PCR陽性者のうち、入院時コロナPCR検査施行前にCOVID-19罹患歴がある既感染者が50%(32/64例)を占めた。既感染者の発症または診断から入院時のRT PCR検査を施行するまでの日数の中央値は29日(範囲10~105日)であった。・濃厚接触者はPCR検査の対象外としているが、罹患歴のない32例のうち、検査後に濃厚接触者であることが判明したPCR陽性者が21.9%(7/32例)存在した。 山本氏は本結果について、「流行状況によりPCR陽性率に変動が認められ、とくに各変異株の流行初期において、院内感染予防に寄与していた可能性が示唆された。さらにCOVID-19既感染者かつ再感染が否定的な患者において入院前コロナスクリーニングPCR検査は不要である可能性があり、接触歴の確認は引き続き重要であると考えられる」とまとめた。

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