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マスクにアロマシールを貼るとメンタルにも好影響

 香りのするシール(アロマシール)をマスクに貼ると、息切れなどの症状が軽くなり、メンタルヘルスにも良い影響が生じることが、無作為化二重盲検比較試験の結果として報告された。星薬科大学の湧井宣行氏らの研究によるもので、詳細は「PLOS ONE」に11月16日掲載された。 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック以降、マスクを着用する機会が増加した。マスク着用時に8割以上の人が息苦しさや暑苦しさなどのストレスを感じていると報告されている。COVID-19の感染抑止にマスクが有効であったことが示されたことから、パンデミック終息後にも他の呼吸器感染症のリスク低減のために、引き続きマスク着用が推奨される傾向が続くと考えられ、着用時のストレス対策の重要性が増している。 対策の一つとして香り(アロマ)が役立つ可能性があり、夜勤看護師を対象に行われた研究では、アロマスプレーをマスクに吹きかけると眠気が抑制されて注意力が高まると報告されている。しかし、スプレーで噴射したアロマ成分は短時間で蒸発してしまい、効果が長続きしないという欠点がある。これに対してアロマシールは香りが長時間持続するという特徴があり、マスク貼付用のシールも流通している。ただし、マスク用アロマシールの効果をエビデンスレベルの高い研究手法で検証した結果は報告されていない。以上を背景として湧井氏らは、エビデンスレベルが最も高い研究手法とされる、プラセボ対照無作為化二重盲検比較試験を行った。 研究参加者は、18歳以上の大学生62人(平均年齢21.1±1.6歳、女性88.5%)。アロマオイルを習慣的に用いている学生、アロマオイルが好きでない、またはアレルギーのある学生、慢性疾患のある学生などは除外されている。無作為に31人ずつの2群に分け、1群には柑橘系の香りのするアロマシールを支給し、他の1群には無臭のシールを支給して、2週間にわたって使用してもらった。香りが強すぎる場合はシールをハサミで切り、任意の大きさに調節して良いこととした。なお、柑橘系の香りは世界で最も人気がある香りとされている。 主要評価項目は、抑うつや不安・ストレスの程度を把握する「DASS-21」という指標のスコアとした。そのほかに、マスク着用時の不快感を5点満点で回答してもらうアンケートを用いた評価、および、世界保健機関(WHO)によるメンタルヘルスの評価指標である「WHO-5」のスコアを、副次的評価項目とした。なお、DASS-21は63点満点でスコアが高いほど抑うつや不安・ストレスが強いことを表し、WHO-5は25点満点でスコアが高いほどメンタルヘルスが良好と判定する。本研究参加者のベースラインのDASS-21は8.33±7.26、WHO-5は15.39±4.01で、不快感のアンケートのスコアは2.43±1.01だった。 ベースラインにおいて、年齢、性別の分布、上記3種類の評価指標のスコア、および、外出頻度、香りの好みに有意差はなかった。2週間の介入期間中のシール利用日数は、アロマ群は5.6±1.2/週、プラセボ群は5.4±1.3/週であり、プラセボ群の1人が介入期間中に脱落し、最終的にアロマ群31人、プラセボ群30人が解析対象となった。 結果について、まず主要評価項目であるDASS-21の変化に着目すると、アロマ群ではベースラインから2週後に-3.68(95%信頼区間-5.42~-1.93)と有意に低下(改善)していたのに対して、プラセボ群は-1.06(同-2.48~0.71)であり有意な変化が観察されなかった。最小二乗平均の差(LSMD)は-2.61(同-5.10~-0.12)で群間に有意差が確認された(P=0.04)。また、DASS-21の下位尺度の中で、抑うつの指標についてもLSMDが-1.05(同-2.06~-0.04)であり、有意差が認められた(P=0.04)。 不快感のアンケートのスコアも、アロマ群は2週後に-0.62(同-0.87~-0.37)と有意に低下していたのに対して、プラセボ群では-0.09(同-0.34~0.16)であり有意な変化は観察されなかった。LSMDは-0.53(同-0.88~-0.18)で有意差が確認された(P=0.004)。 WHO-5については、下位尺度の「落ち着いたリラックスした気分で過ごした」というスコアの変化に有意差があり、アロマ群でより大きく上昇していた(P=0.02)。有害事象として、アロマ群で頭痛、プラセボ群で胸痛がそれぞれ1件報告されたが、いずれもシール貼付との関連性は確認されず、2日以内に改善していた。 著者らは、本研究の対象が若年者のみであり、かつ、男性よりも嗅覚が優れているとされる女性が大半を占めていたという限界点を挙げた上で、「マスクにアロマシールを貼ることで呼吸の快適性が向上し、メンタルヘルス上のメリットも得られることが実証された」と述べている。また、感染症抑止という目的だけでなく、リラックス効果を得るという目的で、例えば飛行機の長時間フライト時にアロマシールを貼付したマスクを着用するという使い方もあるのではないかとの提案を付け加えている。

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新型コロナJN.1が世界の主流株に、高い伝播力と免疫回避能/東大医科研

 2023年12月時点で、オミクロン株BA.2.86の子孫株であるオミクロン株JN.1が世界各地で流行を拡大し、JN.1は世界保健機関(WHO)により「注目すべき変異株(VOI)」に分類されている。東京大学医科学研究所の佐藤 佳氏らによる研究コンソーシアム「The Genotype to Phenotype Japan(G2P-Japan)」の研究で、JN.1は、これまで主流の1つだったXBB系統のEG.5.1より高い伝播力(実効再生産数)を有し、自然感染やワクチン接種により誘導される中和抗体に対しても高い回避能を有していることが認められた1)。本結果は、The Lancet Infectious Diseases誌オンライン版2024年1月3日号に掲載された。 2023年11月時点で、BA.2.86の子孫株であるJN.1(別名:BA.2.86.1.1)の感染が世界中で急速に拡大している。JN.1はBA.2.86と比較して、スパイクタンパク質の455番目のアミノ酸がロイシン(L)からセリン(S)に置換された変異(S:L455S変異)を有しており、JN.1の持つS:L455S変異が流行の拡大に重要であると考えられている。なお、11月30日~12月31日のデータによると、世界で検出された変異株のうちJN.1が占める割合は32.85%となり、世界の主流株になっている2)。 本研究ではJN.1の流行拡大のリスク、およびウイルス学的特性を明らかにするため、ウイルスゲノム疫学調査情報を基に、ヒト集団内におけるJN.1の実効再生産数を推定し、次に、培養細胞におけるウイルスの感染性を評価した。また、SARS-CoV-2感染によって誘導される中和抗体や、XBB.1.5対応ワクチンによって誘導される中和抗体に対しての抵抗性も検証した。 主な結果は以下のとおり。・フランス、英国、スペインのゲノム監視データを基にした調査において、JN.1の実効再生産数は、それまで主流だったEG.5.1やHK.3よりも高いことが確認された。・JN.1は親株のBA.2.86と比較して、S:L455S変異という1つのアミノ酸の違いしかないにもかかわらず、BA.2.86より高い感染価を示した。・XBB系統XBB.1.5およびEG.5.1のブレークスルー感染によって誘導される中和抗体の中和活性について検証したところ、JN.1はいずれの中和抗体に対しても、BA.2.86よりも3.8倍高い中和抵抗性を示した。・JN.1は、EG.5.1の子孫株であるHK.3に比べ、XBB.1.5ブレークスルー感染による中和抗体に対して2.6倍(p=0.0016)、EG.5.1ブレークスルー感染による中和抗体に対して3.1倍高い(p<0.0001)中和抵抗性を示した。・XBB.1.5対応1価ワクチンにより誘導される中和抗体に対して、JN.1は、XBB系統非感染の場合ではBA.2.86よりも3.6倍高い(p=0.016)、XBB系統感染の場合ではBA.2.86よりも4.5倍高い(p=0.0020)中和抵抗性を示した。

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鎮咳薬不足、増えた手間や処方優先患者は?/医師1,000人アンケート

 後発医薬品メーカーの不祥事などで医薬品供給不安が続いているなか、新型コロナウイルス感染症やインフルエンザの流行が鎮咳薬不足に追い打ちをかけている。昨年9月には厚生労働省が異例とも言える「鎮咳薬(咳止め)・去痰薬の在庫逼迫に伴う協力依頼」1)の通知を出し、処方医にも協力を仰いだことは記憶に新しい。あれから3ヵ月が経ち、医師の業務負担や処方動向に変化はあったのだろうか。今回、処方控えを余儀なくされていることで生じる業務負担や処方を優先する患者の選び方などを可視化すべく、『鎮咳薬の供給不足における処方状況』について、会員医師1,000人(20床未満:700人、20床以上:300人)にアンケート調査を行った。最も入手困難な薬剤、昨夏から変わらず まず、鎮咳薬/鎮咳・去痰薬の在庫逼迫状況の理解について、勤務先の病床数を問わず全体の95%の医師が現況を認識していた。なお、処方逼迫について知らないと答えた割合が高かったのは200床以上の施設に勤務する医師(8%)であった。 次に入手困難な医薬品について、昨年8~9月に日本医師会がアンケート調査を行っており、それによると、院内処方において入手困難な医薬品名2,096品目の上位抜粋30品目のうち9品目が鎮咳薬/鎮咳・去痰薬であった2)。これを踏まえ、本アンケートでは鎮咳薬/鎮咳・去痰薬に絞り、実際に処方制限している医薬品について質問した。その結果、最も処方制限している医薬品には、やはりデキストロメトルファン(商品名:メジコン)が挙がり、続いて、チペピジンヒベンズ酸塩(同:アスベリン)、ジメモルファンリン酸塩(同:アストミンほか)などが挙げられた。この結果は1~19床を除く施設で同様の結果であった。処方が優先される患者、ガイドラインの推奨とマッチ? 鎮咳薬/鎮咳・去痰薬の処方が必要な患者について、2019年に改訂・発刊された『咳嗽・喀痰の診療ガイドライン 2019』によると、“可能な限り見極めた原因疾患や病態に応じた特異的治療(末梢に作用する鎮咳薬や喀痰調整薬など)が大切”とし、中枢性鎮咳薬(麻薬性:コデインリン酸塩水和物ほか、非麻薬性:デキストロメトルファン、チペピジンヒベンズ酸塩ほか)の処方にはいくつか問題点があることを注意喚起しながらも、“患者の消耗やQOL低下をもたらす病的な咳の制御は重要であり、進行肺がんなど基礎疾患の有効な治療がない状況では非特異的治療は必要であるが3)、少なくとも外来レベルでは初診時からの中枢性鎮咳薬の使用は明らかな上気道炎~感染後咳嗽や、胸痛・肋骨骨折・咳失神などの合併症を伴う乾性咳嗽例に留めることが望ましい”と記している。よって、「高齢者」「疾患リスクの高い患者」への適切な処方が望まれるものの、不足している中枢性鎮咳薬を処方する患者の見極めが非常に重要だ。以下には、参考までにガイドラインのステートメントを示す。<ガイドラインでの咳嗽治療薬におけるステートメント>◆FAQ*1:咳嗽治療薬の分類と基本事項は 咳嗽治療薬は中枢性鎮咳薬(麻薬性・非麻薬性)と末梢性鎮咳薬に分類される。疾患特異的な治療薬はすべて末梢性に作用する。可能な限り原因疾患を見極め、原因に応じた特異的治療を行うことが大切である。中枢性鎮咳薬の使用はできる限り控える。*frequently asked question◆FAQ2:咳嗽治療の現状は さまざまなエビデンスが年々増加しているものの、咳が主要評価項目でなかったり評価方法に問題がある研究が多い。多種多様の治療薬選択における標準化はいまだ十分ではなく、臨床現場での有用性を念頭に本ガイドラインの改訂に至った。 では、処方の実際はどうか。本アンケート結果によると、20床未満の場合、2023年7月以前では「咳が3週間以上続く患者」「高齢者」「咳があるすべての患者」「処方を希望する患者」「喘息などを有する高リスク患者」の順で処方が多く、希望患者への処方が高リスク患者へのそれよりも上回っていた。しかし、12月時点では、「喘息などを有する高リスク患者」「咳が3週間以上続く患者」「高齢者」「処方を希望する患者」「咳があるすべての患者」と処方を優先する順番が変わり、希望患者への処方を制限する動きがみられた。一方、20床以上においては2023年7月以前では「高齢者」「咳が3週間以上続く患者」「処方を希望する患者」の順で多かったが、12月時点では、「咳が3週間以上続く患者」「高齢者」「喘息などを有する高リスク患者」の順で処方患者が多かった。このことからも、高齢者よりも咳が3週間以上続く患者(遷延性咳嗽~慢性咳嗽)に処方される傾向にあることが明らかになった。鎮咳薬不足による手間、1位は疑義照会対応 供給不足による業務負担や処方変化については、疑義照会件数の増加(20床未満:48%、20床以上:54%)、長期処方の制限(同:43%、同:40%)、患者説明・クレーム対応の増加(同29%、同17%)の順で医師の手間が増えたことが明らかになり、実践していることとして「患者に処方できない旨を説明」が最多、次いで「長期処方を控える」「処方すべき患者の優先順位を設けた」などの対応を行っていることがわかった。また、アンケートには「無駄な薬を出さなくて済むので、処方箋が一枚で収まるようになった(60代、内科)」など、このような状況を好機に捉える声もいくつか寄せられた。アンケートの詳細は以下にて公開中『鎮咳薬の供給不足における処方状況』<アンケート概要>目的:製造販売業者からの限定出荷が生じているなか、新型コロナウイルス感染症やインフルエンザ等の感染症拡大に伴い、鎮咳薬などの在庫不足がさらに懸念されることから、医師の認識について調査した。対象:ケアネット会員医師 1,000人(20床未満:700人、20床以上:300人)調査日:2023年12月15日方法:インターネット

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脂質異常症に対する遠隔栄養指導の効果は対面と同等

 脂質異常症の患者に対する管理栄養士によるオンラインでの栄養指導は、対面での指導と同等の効果があるとする研究結果が報告された。米ミシガン大学のShannon Zoulek氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of Clinical Lipidology」に11月17日掲載された。 オンラインによる遠隔医療は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックによって急速に普及した。その後、COVID-19は収束したが、引き続き遠隔医療を利用する患者が少なくない。本研究が行われたミシガン大学の心臓病予防のための栄養プログラムでは、2022年時点において受診者の約5人に1人が遠隔での指導を希望している。ただし、これまでのところ、脂質異常症に対する栄養指導の効果が、対面と遠隔で異なるのかどうかは十分検討されておらず、Zoulek氏らはその点を観察研究により検証した。 2019年3月末から2022年9月末に、同大学の心疾患予防プログラムの栄養指導を受けた274人のうち192人が解析対象とされた。このうち151人(78.6%)が対面、41人(21.4%)が遠隔で指導を受けていた。これら両群間で、性別、人種/民族、BMI、処方されているスタチンの強度、エゼチミブの処方率、およびその他の脂質異常症治療薬の使用状況などの群間差は非有意だった。 栄養指導の前と指導の後(間隔は中央値33日)に、血清脂質〔総コレステロール、善玉コレステロール(HDL-C)、中性脂肪〕を測定。それらの測定値からSampson式に基づき悪玉コレステロール(LDL-C)を算出し、また善玉以外のコレステロール(non-HDL-C)も算出した。これらの検査値の改善幅を両群間で比較したところ、総コレステロール、LDL-C、non-HDL-Cは、いずれも両群ともに指導後に有意に低下していて、低下幅に有意差は見られなかった。 この結果について論文の筆頭著者であるZoulek氏は、「われわれの研究は、バーチャルのフォーマットを利用した栄養指導でも、対面での介入と同等の短期的な臨床転帰を達成できるという考えを裏付けるものだ」と総括。その上で、「コレステロール値の改善は心血管イベントリスクの軽減につながると考えられ、治療アクセスの選択肢が増えることは、治療を受けようとしている患者にとってメリットとなるだろう」と付け加えている。 また、共著者の1人である同大学のBeverly Kuznicki氏は、「栄養ケアへのアクセスは非常に重要であり、われわれの研究はコレステロール値の改善に対してバーチャルケアがいかに効果的であるかを示している。バーチャルケアでは、栄養士が患者のキッチンの様子を覗き込み、2人が協力して冷蔵庫の中にある食材を使った献立を考えたりすることも可能だ」と、対面医療にはない遠隔医療の特色を強調している。 また研究グループによると、遠隔医療のそのほかのメリットとして、経済的弱者やマイノリティー、非都市部の居住者の医療アクセスが改善される可能性が、米国全土での調査結果として示されているという。さらに論文の上席著者である同大学のEric Brandt氏は、「バーチャルケアの推進は、COVID-19パンデミックという災禍の中から生まれた希望の光と言えるのではないか。従来型のケアにあった、いくつかの障壁の克服につながる多くのメリットが、バーチャルケアには存在している」と評している。

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医療者の燃え尽き、カギはトレーニングよりも看護師人数

 新型コロナウイルス感染症流行下では、世界中で多くの医療者が燃え尽き症候群に直面し、多くの離職者が出た。そして、日本では2024年4月から医師の働き方改革がスタートし、時間外労働への規制が厳しくなる。この状況において、パンデミックの経験から学ぶべきことは何か。 米国ペンシルベニア大学のLinda H. Aiken氏らは、医師と看護師の健康状態と離職率を測定し、有害な転帰、患者の安全性、介入に対する好みと関連する実行可能な要因を特定することを目的とした調査を行った。具体的には、臨床医のメンタルヘルスを改善する介入を優先すべきか、ストレスや燃え尽き症候群の修正可能な原因に対処して病院の労働環境を変えるべきかについて比較検討した。JAMA Health Forum誌2023年7月7日号に掲載。 2021年に米国看護師資格認定センターの指定を受けた60施設の医師と正看護師、計2万1,050人から電子調査でデータを得た。回答者はメンタルヘルスと幸福感、職場環境因子と燃え尽き症候群(バーンアウト)、病院スタッフの離職率、患者の安全性についての質問に回答した。バーンアウトはMaslach Burnout Inventory(MBI)、不安は全般性不安障害スケール、うつ病はPatient Health Questionnaireスケールを用いて測定した。データは2022年2月21日~2023年3月28日に解析された。 主な結果は以下のとおり。・53病院の医師5,312人(平均[SD]年齢44.7[12.0]歳、男性2,362人[45%]、白人2,768人[52%])と、60病院の看護師1万5,738人(平均[SD]年齢38.4[11.7]歳、女性1万887人[69%]、白人8,404人[53%])が回答した。1病院当たりの医師数平均は100人、看護師数平均は262人、回答率は26%(医師22%、看護師27%)だった。・医師の約3人に1人、看護師の約半数が高いバーンアウト状態だったが、その割合は病院によって大きく異なり、医師では9~51%、看護師では28~66%だった。・医師の5人に1人以上(23%)が、「可能であれば1年以内に現在の病院を辞めたい」と回答した。病院間の差を考慮すると、いくつかの病院では3~4割の医師が可能であれば現在の病院を辞めたいと考えていることが示唆された。・「患者の安全性に関して、自院は好ましくない状況だ」と評価したのは医師12%、看護師26%だった。「看護師の数が少な過ぎる」は医師28%、看護師54%、「劣悪な職場環境である」は医師20%、看護師34%、「経営陣に対する信頼がない」は医師42%、看護師46%だった。「職場が楽しい」と回答者した医師は10%未満であった。・医師も看護師も、医師のメンタルヘルスを改善する介入よりも、病院の労働環境改善のほうがより重要である、と回答した。・介入策の中で、看護師の人員配置の改善が最も高く評価された(医師45%、看護師87%)。 研究者らは、「看護師の数が少な過ぎる、職場環境が好ましくないと医療者が考える施設は、医師の燃え尽き症候群と離職が多く、患者の安全性に関する評価が好ましくないと評価する割合が高かった。医療者は看護師の人員不足、医師の仕事量に対するコントロール不足、劣悪な職場環境への経営陣の対応を望んでおり、心身の健康に関するプログラムやトレーニングへの関心は低かった」とした。

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米国成人の1.3%が慢性疲労症候群に罹患

 米国立保健統計センター(NCHS)によるデータ分析から、米国では2021〜2022年に成人の1.3%が筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)に罹患していることが示された。詳細は、「NCHS Data Brief」12月号に発表された。 ME/CFSは、年齢や性別、人種/民族にかかわりなく生じる、複雑で多系統に影響が及ぶ疾患。通常、休息によっても改善されない重度の疲労が6カ月以上続くほか、患者の多くは、運動や仕事などの活動後に悪化する痛み、ブレインフォグなどさまざまな症状を訴える。関連研究では、ME/CFSは感染症やその他の免疫系への衝撃に対する身体の長期にわたる過剰反応であることが示唆されている。しかし現状では、ME/CFSを確定診断するための検査法はなく、治療薬や治療ガイドラインもない。米ミシガン大学慢性疼痛・疲労研究センター所長のDaniel Clauw氏は、「ME/CFSと診断されるのはほんの一部の患者に過ぎないというのが専門家の考えだ。そのため、実際の有病率はこれよりも高い可能性がある」と語る。 この報告書の上席著者である米疾病対策センター(CDC)慢性ウイルス性疾患部門のElizabeth Unger氏は、AP通信の取材に対し、「ME/CFSは決して珍しい病気ではないが、新型コロナウイルス感染症罹患後の後遺症であるlong COVIDの患者がME/CFSの有病率を押し上げているのは確かだ」と話す。Long COVIDで現れる症状は多様だが、ME/CFSの患者と同じ症状を訴えることも多いと同氏は説明する。一方、米ベイトマン・ホーン・センターの専門医であるBrayden Yellman氏は、「われわれは、long COVIDとME/CFSを同じ疾患と見なしている。ただ、long COVIDは、ME/CFSよりも医師に受け入れられているため、診断されるのも早い」と話す。 今回、NCHS Data Briefに発表された内容は、2021年と2022年に米国の成人5万7,133人(2021年:2万9,482人、2022年:2万7,651人)を対象に実施された調査結果に基づくもの。これらの調査では、参加者全員に、医師または他の医療専門家からME/CFSであると告げられたことがあるかどうか、また現在もME/CFSを患っているかどうかを尋ねた。 その結果、参加者の1.3%が両方の質問に「イエス」と答えたことが明らかになった。CDCによると、この割合を成人人口に換算すると、約330万人に相当するという。また、ME/CFS罹患者数は、男性(0.9%)よりも女性(1.7%)の方が多く、人種/民族別ではアジア系(0.7%)やヒスパニック系(0.8%)よりも非ヒスパニック系白人(1.5%)の方が多かった。非ヒスパニック系白人と非ヒスパニック系黒人(1.2%)との差は統計学的に有意ではなかった。さらに、世帯収入が連邦貧困水準の100%未満の人(2.0%)の方が連邦貧困水準の100〜199%の人(1.7%)や200%以上の人(1.1%)よりも、ME/CFSであると回答する人が多かった。 過去の研究結果から、「ME/CFSは裕福な白人女性の病気である」との見方が広まっている。しかし、この調査では、男女間の差と白人・黒人の間の差は、これまで報告されていたほど大きなものではないことが示された。Yellman氏は、「ME/CFSに対するこのような誤った認識は、ME/CFSと診断されて治療を受けている患者が、もともと医療を受ける機会に恵まれていることや、疲労が続いて仕事に行くのは無理だという訴えを他人に信じてもらいやすいことに由来するのかもしれない」との見方を示している。

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高齢者RSV感染における予防ワクチンの意義(解説:山口佳寿博氏/田中希宇人氏)

 原著論文 Respiratory Syncytial Virus Prefusion F Protein Vaccine in Older Adults./NEJM―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 2023年夏以降、急性呼吸器感染症として新型コロナに加え、季節性インフルエンザ、呼吸器合胞体ウイルス(RSV:respiratory syncytial virus)の3種類のウイルス感染に注意すべき新時代に突入した。興味深い事実として、新型コロナが世界に播種した2020年度にはインフルエンザ、RSVの感染は低く抑えられていたが、2021年度以降、両ウイルス感染は2019年以前のレベルに戻りつつある。この場合、インフルエンザは11月~1月、RSVは7月~8月に感染ピークを呈した。 本邦にあっては、RSVは主として幼児/小児の感染症として位置付けられており、ウイルス感染症の有意な危険因子である高齢者に対する配慮が不十分であった。本論評では、高齢者RSV感染に適用される新たな遺伝子組み換えProtein-based vaccine(RSVPreF3 OA、商品名:アレックスビー筋注用、グラクソ・スミスクライン)とGene-based vaccine(mRNA-1345、Moderna)に関する治験結果を基に、高齢者RSV感染症の全体像について考察する。RSVの分子生物学 RSVは1956年に同定されたParamyxovirus科のPneumovirus属に分類されるウイルスである。エンベロープを有する直径150~300nmのフィラメント状の球形を示す一本鎖(-)RNAウイルスで、10種の遺伝子をコードする15,000個の塩基からなる。RSVにあって宿主細胞との接着、侵入を司るのがウイルス表面に発現する1,345個のアミノ酸配列を有するF蛋白(膜融合前F蛋白)である(コロナウイルスのS蛋白に相当)。RSVは表面抗原であるG蛋白の違いによってA型とB型の2種類の亜型に分類されるが、両者の膜融合前F蛋白には明確な差を認めない。RSVの自然宿主はヒトを中心とする哺乳動物である。高齢者RSV感染の疫学 すべての新生児において母親と同程度のRSV抗体(母体からの移行抗体)が認められるが、その値は徐々に低下し、生後7ヵ月目以降のRSV抗体は生後に起こった新規自然感染に由来する(生後2年までに、ほぼ100%が新規感染)。それ以降、生涯を通して再感染を繰り返す。RSV感染の最大の脅威は生後3ヵ月以内の乳児、未熟児、先天性心疾患を有する小児であることは間違いないが、近年、成人、とくに、高齢者におけるRSV感染の重要性が指摘されている。 欧米の検討では、看護施設に入所中の高齢者のうち年間で5~10%がRSVに罹患、うち10~20%が肺炎を合併、2~5%が死亡すると報告されている。さらに、65歳以上の高齢者にあってA型インフルエンザによる死亡が毎年3.7万人であるのに対し、RSVによる死亡は毎年1万人(インフルエンザの約30%)に達すると報告されている。18歳以上の成人を対象とした検討では、基礎疾患として喘息、COPD、糖尿病、冠動脈疾患、うっ血性心不全を有する人のRSV感染による入院比率は、基礎疾患を有さない人に比べ有意に高いことが示されている。高齢に加え、上記の基礎疾患は新型コロナ、季節性インフルエンザ感染の増悪因子としても作用するので、ウイルス性呼吸器感染症の普遍的危険因子として念頭に置く必要がある。インフルエンザ感染との比較において、RSV感染のほうが入院した症例の肺炎合併頻度、基礎疾患として存在する喘息、COPDの増悪頻度が高いことが示されている。 本邦においては、RSV感染が小児科定点からの報告のみであり、本邦独自の成人データは集積されていない。2024年以降、3種のウイルスによる急性呼吸器感染症の本邦における重要性を確立するためには、RSV感染症に関する情報収集は成人を含めた広範囲な対象に広げる必要があり、早期の法的整備を望むものである。先進国のデータからの外挿値ではあるが、本邦の60歳以上の高齢者におけるRSV感染による入院者数は毎年6.3万人、死亡者数は4.5千人と推定されている(Savic M, et al. Influenza Other Respir Viruses. 2023;17:e13031.)。RSVワクチン開発の軌跡 RSVに対するワクチン製造は1960年代に開始され、当初は不活化されたRSVを生体に導入する不活化ワクチンが中心であった。しかしながら、不活化ワクチンを用いた臨床治験の結果は悲惨なものであった。失敗の原因は、不活化ワクチンの導入によってウイルス殺傷能力の低い不適切IgG抗体が産生され抗体依存性感染増強(ADE:Antibody dependent enhancement of infection)が発生したためである。それ以降の検討で、RSVが宿主細胞に侵入する際に本質的な働きをする膜融合前F蛋白の重要性が明らかにされ、それを標的として20世紀後半から現在に通じるモノクローナル抗体薬(mAb)、ワクチンの製造が開始された。まず初めに、膜融合前F蛋白に対する遺伝子組み換えmAbであるパリビズマブ(商品名:シナジス、アストラゼネカ)が実用化され、種々のハイリスクを有する新生児、乳児、幼児のRSV感染に伴う下気道感染の重症化阻止治療薬として使用されている(本邦承認:2002年1月)。現在、パリビズマブの半減期を延長させたニルセビマブの開発が進行中である。 新型コロナ発生に伴い、高度の蛋白・遺伝子工学手法を駆使した数多くのワクチンが作成されたことは記憶に新しい。新型コロナに対するワクチンは2種類に大別され、1つ目はGene-based vaccineであり、標的S蛋白をコードするmRNAをヒトに直接導入するもの(ファイザーのコミナティ、モデルナのスパイクバックスなど)、2つ目はProtein-based vaccineあるいはSubunit vaccineと定義されるもので、S蛋白に関する遺伝子情報をヒト以外の細胞に導入しS蛋白を生成、それをヒトに接種するものであった(ノババックス[武田]のヌバキソビッドなど)。2017年以降、以上と質的に同様のワクチンが、RSVの膜融合前F蛋白を標的として作成され始めた。高齢者に対する治験結果が報告されているProtein-based vaccineとしては、アレックスビー筋注用(GSK)とアブリスボ筋注用(ファイザー)がある。アレックスビー筋注用は2023年9月に、60歳以上の高齢者に対するRSV予防ワクチンとして本邦で製造承認された(米国での承認は2023年5月)。2023年12月、GSKはアレックスビー筋注用の適用を50歳以上の成人に拡大する申請を厚労省に提出した。 米国においては、アブリスボ筋注用も60歳以上の高齢者に使用可能である(2023年8月承認)。しかしながら、アブリスボ筋注用の特記事項は、本ワクチンを妊娠24~36週の妊婦に1回接種し、母体で作られた抗体を胎児に移行させるという斬新な方法が提示されたことである(米国での承認:2023年8月)。この方法によって新生児のRSV感染に由来する重症下気道感染を予防できるようになった(生後3ヵ月以内のRSV感染による重症化予防率:81.8%、生後6ヵ月以内の重症化予防率:69.4%)。本邦にあっては、アブリスボ筋注用は母体/新生児用として認可されているが(2023年11月)、高齢者用としては認可されていないことに注意する必要がある。 RSV膜融合前F蛋白を標的とした高齢者用のGene-based vaccineとしてmRNA-1345(Moderna)の開発が進められている。2023年現在、本ワクチンは、米国、スイス、オーストラリアなどにおいて製造承認の申請が始まっているが、本邦においても2024年度内に製造申請がなされるものと予測される。高齢者におけるRSVワクチンの予防効果 Papiらは60歳以上の高齢者2万4,966例を対象としたアレックスビー筋注用に関する国際共同プラセボ対照第III相試験の結果を報告した(Papi A, et al. N Engl J Med. 2023;388:595-608.)。中央値が6.7ヵ月の追跡期間においてRSVの下気道感染全体に対する有効率(予防効果)は82.6%であった。RSV感染の重症化因子(COPD、喘息、慢性心不全、糖尿病、慢性心血管疾患、慢性腎臓病、慢性肝疾患)を有する対象での下気道感染症に対する有効率は94.6%であった。これらの結果は、アレックスビー筋注用が高齢者のRSV感染全体に対して臨床的に意義ある予防効果を発揮することを示す。RSV-A型に対する下気道感染に対する有効率は84.6%、RSV-B型に対する有効率は80.9%と両亜型間でほぼ同等の有効率を示した。 Wilsonらは60歳以上の高齢者3万5,541例を対象としたmRNA-1345に関する国際共同無作為化二重盲検第III相試験の結果を発表した(Wilson E, et al. N Engl J Med. 2023;389:2233-2244.)。追跡期間の中央値は3.7ヵ月でRSV関連下気道感染に対する予防有効率は83.7%であった。基礎疾患の有無、RSV亜型による予防有効率に明確な差を認めなかった。以上より、Gene-based vaccineであるmRNA-1345のRSV感染抑制効果はProtein-based vaccineアレックスビー筋注用と同等であり、2024年度内に本邦を含め世界各国で承認されるものと期待される。 高齢者に対するRSVワクチンにあって今後の課題の1つがワクチンの年間接種回数である。しかしながら、RSVにあっては年1回の流行ピークが同定されているので、その時期に合わせた年1回のワクチン接種で十分だと論者らは考えている。RSVに関するもうひとつの課題は抗ウイルス薬の確立で早期の開発が望まれる。

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コロナ外来患者への高用量フルボキサミン、症状期間を短縮せず/JAMA

 軽症~中等症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)外来患者において、高用量フルボキサミン(100mgを1日2回投与)を12日間投与しても、プラセボと比較してCOVID-19症状期間を短縮しなかった。米国・バージニア大学のThomas G. Stewart氏らが、無作為化二重盲検プラセボ対照プラットフォーム試験「ACTIV(Accelerating COVID-19 Therapeutic Interventions and Vaccines)-6試験」の結果を報告した。JAMA誌2023年12月26日号掲載の報告。発症から7日以内の軽症~中等症患者を対象に、高用量フルボキサミンvs.プラセボ ACTIV-6試験は、軽症~中等症のCOVID-19外来患者における既存治療転用を評価するようデザインされた分散型臨床試験である。 研究グループは、2022年8月25日~2023年1月20日に米国103施設において、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染確認後10日以内で、COVID-19の症状(疲労、呼吸困難、発熱、咳、悪心、嘔吐、下痢、体の痛み、悪寒、頭痛、喉の痛み、鼻の症状、味覚・嗅覚の異常)のうち2つ以上の症状発現後7日以内の、30歳以上の外来患者を、フルボキサミン群またはプラセボ群に無作為に割り付けた。 フルボキサミン群では、1日目にフルボキサミン50mg錠1錠を2回投与し、その後50mg錠2錠(100mg)を1日2回12日間投与した。 主要アウトカムは持続的回復までの期間(少なくとも3日間連続して症状がないことと定義)、副次アウトカムは28日以内の死亡、入院または死亡、あるいは入院・救急外来(urgent care)/救急診療部(emergency department)受診・死亡の複合などであった。持続的回復までの期間中央値、両群とも10日 無作為化されて治験薬の投与を受けた1,208例は、年齢中央値50歳(四分位範囲[IQR]:40~60)、女性65.8%、ヒスパニック系/ラテン系45.5%、SARS-CoV-2ワクチンの2回以上接種者76.8%であった。 有効性解析対象集団のフルボキサミン群589例およびプラセボ群586例において、持続的回復までの期間の中央値は両群とも10日(IQR:10~11)であり、持続的回復までの期間に差は確認されなかった(ハザード比[HR]:0.99、95%信用区間[CrI]:0.89~1.09、有効性の事後確率p=0.40)。 副次アウトカムついては、死亡例の報告はなく、入院はフルボキサミン群1例およびプラセボ群2例、入院・救急外来/救急診療部受診はそれぞれ14例および21例(HR:0.69、95%CrI:0.27~1.21、有効性の事後確率p=0.86)であった。 重篤な有害事象は、6例(フルボキサミン群2例、プラセボ群4例)で7件報告された。

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第79回 トイレの悪臭と極寒、被災地の看護師が見たもの

Unsplashより使用「令和6年能登半島地震」により、避難生活を余儀なくされている方がまだまだたくさんおられます。断水と停電の中、気温が低く、インフルエンザも流行しており、多くの避難者が精神的に疲弊しています。現地にいる看護師から、どのような現状なのかお聞きしました。発熱者が増加する避難所1~2日間程度の避難生活であればそこまで大きな問題にならないのですが、1週間を超えてくると、感染症などさまざまな医学的問題が勃発します。とくに現在流行しているインフルエンザはピークアウトの兆しがあったものの、避難所のように密に寄せ合う環境では、発熱者がちらほら出てきたみたいです。石川県の直近の定点医療機関当たりの感染者数はインフルエンザで22.69人、新型コロナで4.73人です(図)。じわじわと新型コロナが増えているのが気がかりですね。画像を拡大する図. 石川県の定点医療機関当たりのインフルエンザおよび新型コロナ感染者数(筆者作成)1、2)本来、手指衛生やマスクによって感染対策を講じる必要がありますが、断水で水不足の状況では手洗いがなかなかできず、マスクも何日も使えるものではありません。数十人規模の避難所では発熱者が10人を超えているところもあり、個々の感染対策ができない以上、感染症が広がるのは必然と言えます。とはいえ、診断キットが不足しており、発熱の原因の実態はよくわかっていないようです。避難所によって差私が話を聞いた看護師がいる七尾市の避難所は、ストーブも暖房も全然効かないような場所だそうで、支給されていた毛布は1枚のみだそうです。厚着していても、最低気温2度の状態では毛布1枚ごときでは全然眠れないという意見があったそうです。断水になっている地域はどこもトイレ環境は劣悪で、トイレの前に汚物を置いているため、悪臭が漂っていたようです。感染性腸炎も流行している避難所があり、悪臭が地獄だという投稿もありました。被災地では病院の水も不足しており、病院によっては雪を溶かして使っているところもあったそうです。テレビもネットもなかなかつながらず、情報が入ってこないことにストレスを感じて、その看護師のいる避難所では、避難者同士の揉め事が増えているようです。さすがに殴り合いや犯罪は起こっていないようですが、ネットでは詐欺や窃盗のニュースも増えており、危機感を持っていると言っていました。道路の補修が進んでいないことから、石川県に入る道路が渋滞しているため、これが物資が届きにくい要因になっています。とはいえ、すでにいろいろな公的ボランティアが現地入りできており、避難所で炊き出しや物資の配布が行われています。場所によって少し差が発生しているようですが、これも早晩解消されるのではないかと思います。参考文献・参考サイト1)厚生労働省:インフルエンザの発生状況2)厚生労働省:新型コロナウイルス感染症に関する報道発表資料(発生状況等)2023年6月~

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第194回 能登半島地震、被災地の医療現場でこれから起こること、求められることとは~東日本大震災の取材経験から~

木造家屋の倒壊の多く死因は圧死や窒息死こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。元日に起きた、最大震度7を観測した能登半島地震から9日が経過しました。最も被害が大きかった石川県では、1月9日現在、死者202人、負傷者565人、安否不明者102人と発表されています。1月8日現在の避難者数は2万8,160人とのことです。テレビや新聞などの報道をみていると、木造家屋の倒壊の多いことがわかります。その結果、死因は圧死や窒息死が大半を占めているようです。道路の寸断などによって孤立している集落がまだ数多く、避難所の中にも停電や断水が続いているところもあります。さらには、避難所が満員で入所できない人も多いようです(NHKニュースではビニールハウスに避難している人の姿を伝えていました)。本格的な冬が訪れる前に、被災した方々が、まずは一刻でも早く、ライフラインや食料が整った避難所やみなし避難所(宿泊施設等)への避難できることを願っています。東日本大震災との大きな違い1995年に起きた阪神・淡路大震災では、約80%が建物倒壊による圧死や窒息死でした。このときの教訓をもとに組織されたのがDMATです。しかし、2011年に起きた東日本大震災では津波の被害が甚大で、死亡者の8〜9割が溺死でした。震災直後、私は被災地の医療提供体制を取材するため宮城県の気仙沼市や石巻市に入りましたが、阪神・淡路と同じような状況を想定して現地入りしたDMATの医師たちが、「数多くの溺死者の前でなすすべもなかった」と話していたのを覚えています。今回の地震は、津波の被害より建物倒壊の被害が圧倒的に多く、その意味で震災直後のDMATなどの医療支援チームのニーズは大きいと考えられます。ただ、道路の寸断などで、物資や医療の支援が行き届くまでに相当な時間が掛かりそうなのが気掛かりです。これから重要となってくるのは“急性期”後、“慢性期”の医療支援震災医療は、ともすれば被災直後のDMATなどによる“急性期”の医療支援に注目が集まりますが、むしろ重要となってくるのは、その後に続く、“慢性期”の医療支援だということは、今では日本における震災医療の常識となっています。外傷や低体温症といった直接被害に対する医療提供に加え、避難所等での感染症(呼吸器、消化器)や血栓塞栓症などにも気を付けていかなければなりません。その後、数週間、数ヵ月と経過するにつれて、ストレスによる不眠や交感神経の緊張等が高血圧や血栓傾向の亢進につながり、高血圧関連の循環器疾患(脳梗塞、心筋梗塞、大動脈解離、心不全など)が増えてくるとされています。そのほか、消化性潰瘍や消化管穿孔、肺炎も震災直後に増えるとのデータもあります。DMAT後の医療支援は、東日本大震災の時のように、日本医師会(JMAT)、各病院団体や、日本プライマリ・ケア連合学会などの学会関連団体が組織する医療支援チームなどが担っていくことになると思われますが、過去の大震災時と同様、単発的ではなく、長く継続的な医療支援が必要となるでしょう。ちなみに厚生労働省調べでは、1月8日現在、石川県で活動する主な医療支援チームはDMAT195隊、JMAT8隊、AMAT(全日本病院医療支援班)9隊、DPAT(災害派遣精神医療チーム)14隊とのことです。避難所や自宅で暮らす高齢者に対する在宅医療のニーズが高まる医療・保健面では、高血圧や糖尿病、その他のさまざまな慢性疾患を抱えて避難所や地域で暮らす多くの高齢者の医療や健康管理を今後どう行っていくかが大きな課題となります。そして、避難所や自宅で暮らす住民に対する在宅医療の提供も必要になってきます。東日本大震災では、病院や介護施設への入院・入所を中心としてきたそれまでの医療提供体制の問題点が浮き彫りになりました。震災被害によって被災者が病院・診療所に通えなくなり、在宅医療のニーズが急拡大したのです。この時、気仙沼市では、JMATの医療支援チームとして入っていた医師を中心に気仙沼巡回療養支援隊が組織され、突発的な在宅医療のニーズに対応。その支援は約半年間続き、その時にできた在宅医療の体制が地域に普及・定着していきました。奥能登はそもそも医療機関のリソースが少なかった上に、道路が寸断されてしまったこと、地域の高齢化率が50%近いという状況から、地域住民の医療機関への「通院」は東日本大震災の時と同様、相当困難になるのではないでしょうか。東日本大震災が起こった時、気仙沼市の高齢化率は30%でした。今回、被害が大きかった奥能登の市町村の高齢化率は45%を超えています(珠洲市50%、輪島市46% 、いずれも2020年)。「気仙沼は日本の10年先の姿だ」と当時は思ったのですが、奥能登は20年、30年先の日本の姿と言えるかもしれません。テレビ報道を見ていても、本当に高齢者ばかりなのが気になります。東日本大震災では、被災直後からさまざまな活動に取り組み始めた若者たちがいたのが印象的でした。しかし、これまでの報道を見る限り、被災者たちは多くが高齢で“受け身”です。東日本大震災や熊本地震のときよりも、個々の被災者に対する支援の度合いは大きなものにならざるを得ないでしょう。プライマリ・ケア、医療と介護をシームレスにつなぐ「かかりつけ医」機能、多職種による医療・介護の連携これからの医療提供で求められるのは、プライマリ・ケアの診療技術であり、医療と介護をシームレスにつなぐ「かかりつけ医」機能、そしてさまざまな多職種による医療・介護の連携ということになるでしょう。東日本大震災、熊本地震、そして新型コロナウイルス感染症によるパンデミックで日本の医療関係者たちは多くのことを学んできたはずです。日本医師会をはじめとする医療関係団体の真の“力”が試される時だと言えます。ところで、被災した市町村の一つである七尾市には、私も幾度か取材したことがある、社会医療法人財団董仙会・恵寿総合病院(426床)があります。同病院は関連法人が運営する約30の施設と共に医療・介護・福祉の複合体、けいじゅヘルスケアシステムを構築し、シームレスなサービスを展開してきました。同病院も大きな被害を被ったとの報道がありますが、これまで構築してきたけいじゅヘルスケアシステムという社会インフラは、これからの被災地医療の“核”ともなり得るでしょう。頑張ってほしいと思います。耐震化率の低さは政治家や行政による不作為にも責任それにしても、なぜあれほど多くの木造住宅が倒壊してしまったのでしょうか。1月6日付の日本経済新聞は、その原因は奥能登地方の住宅の低い耐震化率にある、と書いています。全国では9割近くの住宅が耐震化しているのに対して、たとえば珠洲市では2018年末時点で基準をクリアしたのは51%に留まっていたそうです。ちなみに輪島市は2022年度末時点で46%でした。耐震化は都市部で進んでいる一方、過疎地では大きく遅れているのです。その耐震基準ですが、建築基準法改正で「震度5強程度で損壊しない」から「震度6強〜7でも倒壊しない」に引き上げられたのは1981年、実に40年以上も前のことです。きっかけは1978年の宮城県沖地震(当時の基準で震度は5、約7,500棟の建物が全半壊)でした。仙台で学生生活を送っていた私は、市内で地震に遭遇、ブロック塀があちこち倒れまくった住宅街の道路を自転車で下宿まで帰ってきた記憶があります。各地域(家の建て替えがないなど)や個人の事情はあるとは思いますが、法改正後40年経っても耐震化が進んでおらず、被害が大きくなってしまった理由として、政治家(石川県選出の国会議員)や行政による不作為もあるのではないでしょうか。もう引退しましたが、あの大物政治家は石川県にいったい何の貢献をしてきたのでしょうか。お金をかけてオリンピックを開催しても、過疎地の住民の命は守れません。いずれにせよ、全国各地の過疎地の住宅の耐震化をしっかり進めておかないと、また同じような震災被害が起こります。政府にはそのあたりの検証もしっかりと行ってもらいたいと思います。

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インフルエンザでも後遺症が起こり得る

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の罹患後症状、いわゆるlong COVIDでは、さまざまな症状が、数週間や数カ月間、時には何年もの間、続く可能性があることは広く知られている。こうした中、季節性インフルエンザ(以下、インフルエンザ)でも長期間にわたって症状が持続する「long Flu(ロング・フルー)」が起こり得ることが、米セントルイス・ワシントン大学の臨床疫学者Ziyad Al-Aly氏らが実施した研究で示された。詳細は、「Lancet Infectious Diseases」に12月14日掲載された。 Al-Aly氏らは今回、米国退役軍人省のデータを用いて、2020年3月1日から2022年6月30日の間にCOVID-19により入院した8万1,280人と、2015年10月1日から2019年2月28日の間にインフルエンザにより入院した1万985人のデータを解析。18カ月間の追跡期間中に生じた、体の主要な臓器系に影響を与える94種類の有害な健康アウトカムを両群間で比較した。 解析の結果、全体としてCOVID-19による入院患者ではインフルエンザによる入院患者と比べて、追跡期間中の死亡リスクが51%高く、死亡者は患者100人当たり8.62人多いことが示された。また、COVID-19による入院患者では、インフルエンザによる入院患者と比べて退院後に再入院するリスクが11%、集中治療室(ICU)入室のリスクが27%高く、再入院となる患者は100人当たり20.50人、ICU入室となる患者は100人当たり9.23人多いことが示された。さらに、COVID-19による入院患者では、94種類の健康アウトカムのうちの64種類(68.1%)でリスクの上昇が示され、COVID-19はより多くの臓器系にリスクをもたらすことも判明した。一方、インフルエンザによる入院患者でリスク上昇が認められたのは94種類中6種類(6.4%)のみで、その多くは呼吸器系のアウトカムだった。 Al-Aly氏は「この研究で得られた最も重要な知見は、COVID-19とインフルエンザはいずれも長期にわたる健康問題につながるということだ。また、長期的な健康の損失の大きさが感染の初期段階の問題を上回るというのは、大きな気付きだった」と説明している。 Al-Aly氏はまた、「明らかな例外は、インフルエンザはCOVID-19よりも、呼吸器系により大きなリスクをもたらすという点だった。これは、過去100年にわたる通説通り、インフルエンザは呼吸器系ウイルスそのものであることを示している。一方で新型コロナウイルスは呼吸器系だけでなく、さまざまな臓器系にも影響を与え、心臓や脳、腎臓などの臓器に関連した致死的あるいは重篤な症状を引き起こす可能性がある。こうした面からCOVID-19はインフルエンザよりも手ごわく、広範囲に影響を与える感染症であると考えられる」と付け加えている。 なお、Al-Aly氏は、「5年前であればlong Fluが存在する可能性について調べようとは思わなかった。われわれがCOVID-19から得た大きな教訓の一つが、当初は短期間の症状しかもたらさないと考えられていた感染症が、慢性疾患を引き起こすこともあるということだ」と話す。同氏によると、いずれの感染症においても、死亡や障害の半数以上が、感染後30日以内ではなく、感染から数カ月の間に発生していたという。これは、いずれの感染症も短期的な健康上の問題にはとどまらないことを示していると同氏は指摘する。その上で、「COVID-19やインフルエンザを急性疾患として捉えると、これらの疾患が健康に及ぼす長期的な影響を見逃してしまう。われわれは、これらの疾患では罹患後に後遺症が生じ得るという現実を直視し、ウイルス感染症を軽視せず、これらが慢性疾患の大きな要因であることを認識する必要がある」と強調している。

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第196回 コロナ後遺症の原因と思しきミトコンドリア異常を同定

コロナ後遺症の原因と思しきミトコンドリア異常を同定新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後症状(long COVID)の1つである疲労の根本原因と思しきミトコンドリア機能低下が被験者46例の試験で示唆されました1)。試験にはlong COVID患者25例と新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染したものの完全に回復した21例(回復例)が参加しました。心身を急に働かせた後の疲労や痛みの悪化はlong COVIDを特徴づける症状の1つである労作後倦怠感(post-exertional malaise:PEM)と関連します。試験ではPEMを誘発する15分間の自転車こぎ運動を被験者にあえて課しました。long COVID患者は自転車こぎの後に症状の悪化を呈し、筋肉組織を調べたところミトコンドリア異常が認められました。long COVID患者のミトコンドリアは回復例に比べて働きが悪く、エネルギー生成が劣りました。一方、long COVID患者の心臓や肺の機能に異常はなく、それらの異常によって長患いが生じているわけではなさそうです。また、SARS-CoV-2が居続けることがlong COVIDの原因の1つと想定されていますが、今回の研究で調べた筋肉組織にSARS-CoV-2のはびこりは見られませんでした。SARS-CoV-2に特有のヌクレオカプシドタンパク質の筋肉組織での検出はlong COVID患者と回復例で似たり寄ったりで、SARS-CoV-2残存もlong COVIDのPEMの発現や運動能力の原因ではなさそうです。ということはSARS-CoV-2残存以外の何かがlong COVID患者のミトコンドリア異常に寄与しているようであり、そのような異常をもたらす分子経路を今後調べる必要があります。long COVID患者のミトコンドリア異常はほかの研究でも示されています。昨年9月に報告されたlong COVID患者11例の検討結果では今回の報告と同様にミトコンドリア機能の指標の低下が認められました2)。また、ミトコンドリアの量や新生の指標の低下も観察されています。今回の試験の被験者は少なく、別の集団でも同じ結果になるかどうかを調べる必要があります。とはいえlong COVID患者の疲労はれっきとした生理的要因に基づくことはどうやら確からしく、生理作用に基づく適切な治療の研究がいまや可能になったと今回の研究の著者は言っています3)。long COVID患者の運動は許容範囲に抑えるべき自転車こぎ運動をしたlong COVID被験者が疲労の悪化や認知症状などのPEM症状を被ったことが示すように、long COVID患者の運動は有益とは限りません。ウォーキングなどで体調を維持することは好ましいですが、運動のしすぎで病状の悪化を招いては元も子もありません。そうならないように患者は許容範囲の運動量を各自あらかじめ設定し、病状を悪化させない程度の軽い運動を心がけるとよいようです3)。参考1)Appelman B, et al. Nat Commun. 2024;15:17. [Epub ahead of print]2)Colosio M, et al. J Appl Physiol(1985). 2023;135:902-917. 3)Tiredness experienced by Long-COVID patients has a physical cause / Eurekalert

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ホリデーパーティーは新型コロナの巣窟!【臨床留学通信 from NY】第55回

第55回:ホリデーパーティーは新型コロナの巣窟!11月の第4木曜日は「サンクスギビング(Thanksgiving)」と呼ばれる祝日です。米国人にとっては家族や親戚で集まったりする日のようですが、追加の休みを取って旅行に出かけたりもします。12月25日のクリスマスも祝日です。宗教的に全員がクリスマスを祝うわけではなく、たとえばユダヤ教の方々は「ハヌカ(Hanuka)」と呼ばれる祝い事を、クリスマスのちょっと前にしたりします。そのためか、お祝いのあいさつは「Merry Christmas」というよりは「Happy holidays」といって、サンクスギビングからクリスマスの時期はお祭りムードとなっています。サンクスギビングの次の日は「ブラックフライデー(Black Friday)」、次の週の月曜日は「サイバーマンデー(Cyber Monday)」と呼ばれて、お店の商品が一時的にグッと安くなったり、主に年末までセールが続いたりもするため、冬服や靴など日用品も含めて出費を抑えるべく、毎年いろいろ購入しています。日本のように、病棟の歓迎会、送別会、忘年会、新年会などいろいろあるわけではありませんが(コロナ禍以降はわかりませんが)、米国の病院でも年末の忘年会に相当する「ホリデーパーティー(Holiday party)」というものが、コロナが落ち着いてきた昨年から開催されるようになりました。Montefiore Medical Centerの循環器内科から開催費が支給されるため、参加者は基本タダ。配偶者などを一緒に連れて行くことも可能で、その際は追加料金が掛かる程度。こういう時に困るのは、音楽に合わせてみんな踊っているので、日本人としてはどう踊ったらいいのかわからないところです。もう1つの病院のJacobi Medical Centerのカテーテル室にも最近主に勤務しているため、そちらの忘年会にも顔を出しました。が、なんとそこはコロナの巣窟だったようです。微妙に体調不良な人が参加していたため、私を含めた参加者約30人中10人弱がその会の後に発症してしまいました。思い起こせば、米国でコロナが流行り始めた時に瞬く間に広がったのは、会えば握手、はたまたハグするという日本とは異なる文化、うつらないわけがありません。そんなこんなでコロナにかかってしまいました。CDCは医療従事者の隔離を症状発症から7日としていて結構長く感じました。米国の病院にはOHSと呼ばれるOccupational health serviceと呼ばれる部門があり、そこに電話し、抗原テストが陽性であることを告げると、「いついつまで休んでね、抗原テストをこの日にやってね」といった指示が出され、担当部署のトップにも連絡がいき、休みを余儀なくされます。2022年夏に初めてかかった時は、熱が3日くらい続いて結構つらかったのですが、今回は熱はほぼ出ず、最初は胃腸症状から鼻水が2日ほど立て続けに出て、その後は回復しました。よくなってから飲んでみたコーヒーの味がわからなかったような気がしましたが、大きな問題はありません。結局7日のうちの後半は大分調子は良かったのですが、休まざるを得ないという状況でした。次のホリデーシーズンは気を付けようと思った次第です。画像を拡大する

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出勤とテレワークの反復による時差ぼけで心理的ストレス反応が強まる可能性

 出勤日とテレワークの日が混在することによって生じる時差ぼけによって、心理的ストレス反応が強くなる可能性を示唆するデータが報告された。久留米大学の松本悠貴氏らをはじめとする産業医で構成された研究チームによるもので、詳細は「Clocks & Sleep」に10月16日掲載された。 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックとともに、新たな働き方としてテレワークが急速に普及した。テレワークによって、仕事と私生活の区別がつきにくくなることや孤独感を抱きやすくなることなどのため、以前の働き方にはなかったストレスが生じることが報告されている。また、テレワークの日と出勤日が混在している場合には睡眠時間が不規則になり、「ソーシャルジェットラグ(社会的時差ぼけ)」が発生しやすくなるとの指摘もある。 社会的時差ぼけとは、平日と休日の睡眠時間帯が異なることによって、週明けになるとあたかも海外から帰国した直後のような身体的・精神的不調が現れること。松本氏らは、テレワークと出勤の繰り返しによって生じる社会的時差ぼけを、「テレワークジェットラグ(テレワーク時差ぼけ)」と命名。社会的時差ぼけと同様にテレワーク時差ぼけも不調を来す可能性を想定し、オンラインアンケートによる検討を行った。 2021年10~12月に、東京都内にある企業4社の従業員2,971人(日勤者のみ)にアンケートへの協力を依頼。2,032人から回答を得て、過去1カ月以内にテレワークをしていない人や休職をしていた人などを除外して、1,789人(平均年齢43.2±11.3歳、男性68.8%)を解析対象とした(有効回答率60.2%)。出勤日とテレワークの日の就寝時刻と起床時刻の中央の時刻(睡眠中央値)の差が1時間以上ある場合を「テレワーク時差ぼけ」と定義。232人(13.0%)がこれに該当した。 心理的ストレス反応の評価には、「ケスラー6(K6)」という指標を用いた。K6は6項目の質問に対して0~4点で回答し、合計24点満点のスコアで評価する。本研究ではK6スコアが10点以上を「心理的ストレス反応が強い」と定義したところ、265人(14.8%)が該当した。 睡眠の時間帯に着目すると、テレワーク時差ぼけでない群の起床時刻は出勤日、テレワーク日ともに6時30分で、就床時刻は出勤日が0時30分、テレワーク日が23時30分だった。一方のテレワーク時差ぼけ群は、就床時刻はどちらも0時30分で変わらないものの、起床時刻は出勤日が6時30分であるのに対してテレワーク日は8時30分と2時間遅く起床していた。 心理的ストレス反応が強いと判定された人の割合は、テレワーク時差ぼけでない群は13.7%、テレワーク時差ぼけ群では22.0%であり、有意差が認められた(P<0.001)。 次に、結果に影響を及ぼし得る因子〔年齢、性別、テレワークの頻度や場所・期間、同居者の有無、職業、雇用形態、労働時間、仕事の裁量や他者からのサポート状況、通勤時間、飲酒・喫煙・運動習慣、カフェイン摂取量、睡眠時間、不眠症状(アテネ不眠尺度で評価)、仕事以外での電子端末等の使用など〕の影響を調整した上で比較。その結果、テレワーク時差ぼけと心理的ストレス反応の間には有意な関連性が示された〔オッズ比1.80(95%信頼区間1.16~2.79)〕。 著者らは本研究が横断研究であること、および交絡因子として収入や服薬状況が把握されていないことなどを限界点として挙げた上で、「出勤とテレワークが混在する『テレワーク時差ぼけ』が、心理的ストレス反応を増大させている可能性が示された」と結論付け、「労働者の健康を守りながらテレワークという新しい働き方を持続可能なものとするためにも、このトピックに関する縦断研究によって因果関係を確認することが望まれる」と述べている。 なお、時差ぼけによる不調には睡眠時間の長短自体が影響を及ぼしている可能性が考えられるが、本研究では上述のように交絡因子として睡眠時間を調整後にも有意なオッズ比上昇が観察された。この点について論文には、「テレワークの日の起床時刻が出勤日よりも遅くなることによって、起床直後に太陽光に当たる時間が遅くなり、メラトニンなどのホルモン分泌パターンが変動する。そのような変化も、テレワーク時差ぼけによってメンタルヘルス不調が生じる一因ではないか」との考察が加えられている。

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パンデミック中の自損行為による救急搬送の実態

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック中の自損行為による大阪府での救急搬送の実態が報告された。年齢別の解析で、20歳代では2020年の自損行為による搬送数がパンデミック前よりも有意に増加していたという。大阪大学医学部附属病院高度救命救急センターの中尾俊一郎氏らの研究結果であり、詳細は「BMJ Open」に9月12日掲載された。 パンデミック下で行われた外出自粛や会食の制限などは、感染拡大抑止には一定の効果があったと考えられるが、一方で人々のメンタルヘルスに負の影響を与えた可能性が指摘されている。また、パンデミック中に発生した非正規雇用者の解雇なども、同じような影響を及ぼしたと考えられる。加えて海外からは、パンデミック中に自損行為の発生率が上昇したとする研究結果が報告されている。これらを背景として中尾氏らは、国内でもパンデミックの発生後に自損行為による救急搬送件数が増加していた可能性を想定し、大阪府全域の救急搬送に関する情報を集約している「大阪府救急搬送支援・情報収集・集計分析システム(ORION)」のデータを用いた検討を行った。 パンデミック発生以前の2018年から2021年までの4年間で、自損行為(救急隊員の報告に基づく搬送理由であり、自殺企図かどうかは考慮されていない)による救急搬送患者が1万1,839人記録されていた。このうち、診療を受けなかった患者やデータ欠落者を除外した1万843人〔年齢中央値38歳(四分位範囲25~53)、女性69.0%〕を解析対象とした。主要評価項目は、パンデミック前の2018年を基準とする救急搬送の発生率比(IRR)とし、搬送から21日以内の死亡を副次的な評価項目とした。 救急搬送患者の全体的な傾向として、年齢層は20代が25.0%を占め最も多く、救急要請場所は自宅が82.6%と大半を占めており、時間帯別では18~24時が32.3%と最多だった。また、月別では7月(9.4%)や9月(9.3%)が多く、反対に2月(7.1%)や4月(7.2%)は少なかった。なお、年齢中央値の年次推移を見ると、2018年から順に40歳、39歳、38歳、36歳と、若年化する傾向が認められた(傾向性P=0.002)。 10万人年当たりの搬送件数は30.7であり、この年次推移を見ると2018年から順に29.4、30.5、31.8、31.2と経時的に上昇する傾向が認められた(傾向性P=0.013)。しかし、交絡因子(年齢層、性別、発生月)を調整すると、自損行為による救急搬送の発生率比はいずれの年も統計学的な有意差を認めなかった。 次に、この結果を2018年を基準として年齢層別に解析。すると20代ではパンデミック初年に当たる2020年に、交絡因子を調整後の発生率比(aIRR)が有意に上昇していたことが明らかになった〔aIRR1.117(同1.002~1.245)〕。なお、20代でもパンデミック前の2019年や2021年はaIRRの有意な変化がなく、また20代以外の年齢層ではいずれの年も有意な変化がなかった。 医療機関に搬送後の経過は、入院治療が4,766人(44.0%)、入院を要さずに帰宅が4,907人(45.3%)であり、1,170人(10.8%)は搬送後に死亡が確認されていた。入院を要した4,766人の21日後転帰は、退院が3,785人(79.4%)、入院中が405人(8.5%)で、576人(12.1%)が死亡だった。副次的評価項目として設定していた21日以内の死亡は、搬送後に死亡確認された患者を加えて1,746人であり、死亡率〔搬送者数に対する全死亡(あらゆる原因による死亡)者の割合〕は16.1%だった。この死亡率の年次推移に関しては、交絡因子の調整の有無にかかわらず、2018年から有意な変化が認められなかった。 以上を基に著者らは、「2020年には、自損行為による救急搬送患者の最多年齢層である20代の搬送が有意に増加していた。パンデミック自体とそれに伴う社会環境の変化が、若年者のメンタルヘルスに負の影響を及ぼしていた可能性がある」と総括。また、「本研究の結果は、若年世代への精神的サポートを強化する施策立案に有用な知見となり得るのではないか」と付け加えている。

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テレワークでの育児ストレス、出社より高い

 新型コロナウイルス感染症の影響で定着した在宅勤務(テレワーク)。子供を持つ親がテレワークをした場合、健康状態や精神的健康状態はどう変化するのか。米国・シカゴのアン&ロバート H. ルリー小児病院のJohn James Parker氏らは、パンデミック中の2022年5~7月にイリノイ州シカゴの全77地区でパネル調査を行った。参加資格は、18歳以上で1人以上の子供を持つ親であることだった。本研究の結果はJAMA Network Open誌2023年11月3日号にResearch Letterとして掲載された。 主な結果は以下のとおり。・1,060例の回答者のうち、825例がその時点で雇用されていた。599例が女性、548例がテレワークを実施していた。・テレワークをしている親を人種で見ると、白人(244例)が黒人(99例)またはヒスパニック系(145例)よりも多かった。・テレワークをしている親は、現場で働く親と比較して、育児ストレスのオッズが増加した(調整オッズ比[aOR]:1.88、95%信頼区間[CI]:1.20~2.93)が、健康状態(aOR:1.23、95%CI:0.78~1.93)や精神的健康の改善(aOR:1.14、95%CI:0.64~2.04)には差がなかった。・テレワークをする父親は、現場で働く父親よりも育児ストレスが高いと報告した(aOR:2.33、95%CI:1.03~5.35)が、母親には関連はなかった(aOR:1.53、95%CI:0.93~2.49)。 研究者らは、COVID-19パンデミック時にテレワークを行った親は、現場で働いた親と比較して育児ストレスが高いと報告しており、親、とくに父親にその傾向が顕著だった。これは育児ストレスにテレワークによるストレスが加わったり、よりストレスの多い育児状況にある親がテレワークを優先的に選択したりした可能性を示唆している。テレワークを行う親を支援する戦略、たとえば勤務スケジュールの自律性を促進することや従業員支援プログラムなどは、親と子供にとって重要な健康上の意味を持つ可能性がある、とした。

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麻疹患者が世界的に急増、2022年の死者数は13万6,000人に

 麻疹(はしか)の予防接種率が数年にわたり低下し続けた結果、2021年と比較して、2022年には麻疹の患者数が18%、死亡者数が43%増加したことが、世界保健機関(WHO)と米疾病対策センター(CDC)が「Morbidity and Mortality Weekly Report」11月17日号に発表した報告書で明らかにされた。この報告書によると、2022年の麻疹患者数は900万人、死亡者数は13万6,000人と推定され、そのほとんどは小児であったという。 CDCの世界予防接種部門のディレクターであるJohn Vertefeuille氏は、「麻疹のアウトブレイク(突発的な発生)と死亡者数の増加は驚異的であるが、残念ながら、ここ数年の麻疹ワクチンの接種率の低下に鑑みると、予想された結果ではある」とCDCのニュースリリースで述べている。同氏はさらに、「場所を問わず、麻疹患者の発生は、ワクチン接種が不十分なあらゆる国や地域社会に危険をもたらす。麻疹の発生と死亡を予防するためには、緊急かつ的確な取り組みが重要となる」と語る。 報告書では、大規模または破壊的な麻疹のアウトブレイクが発生した国の数は、2021年には22カ国だったのが2022年には37カ国に増えたことが指摘されている。2022年にアウトブレイクが発生した国を地域ごとに見ると、最も多かったのはアフリカで28カ国、次いで、東地中海地域6カ国、東南アジア2カ国、ヨーロッパ1カ国の順だった。 麻疹は予防接種を2回受けることで予防可能な疾患だが、麻疹ワクチン未接種の小児の数は3300万人(初回接種を受けていない小児が約2200万人、2回目の接種を受けていない小児が約1100万人)に上ると推定されている。2022年の世界全体でのワクチン接種率は、初回が83%、2回目が74%であり、集団免疫を獲得し、地域社会を麻疹のアウトブレイクから守るのに必要な2回目接種率(95%)を大きく下回っていた。特に、低所得国では、麻疹ワクチンの初回接種率が、2019年から2021年の間に71%から67%へ低下し、2022年にはさらに低下して66%と、経時的に低下し続けている。 さらに、麻疹ワクチンの初回接種を受けなかった2200万人の小児の半数以上が、わずか10カ国に住んでいることも示された。それらの国は、ナイジェリア、コンゴ民主共和国、エチオピア、インド、パキスタン、アンゴラ、フィリピン、インドネシア、ブラジル、マダガスカルである。 WHOの予防接種・ワクチン・生物製剤部門長であるKate O’Brien氏は、「新型コロナウイルス感染症のパンデミック後、低所得国での麻疹ワクチン接種率が回復していないことは、行動を起こすべきことを伝える警鐘だと言える。麻疹ウイルスが不公平なウイルスと言われるのは、麻疹に罹患するのがワクチンによる保護を受けていない人だからだ。どこの国の子どもも、住んでいる場所にかかわりなく、命を救う麻疹ワクチンで守られる権利がある」と話している。

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第77回 mRNAワクチン技術でまさかの「がん治療」

悪性黒色腫・膵がんに対するmRNAワクチン技術Unsplashより使用mRNAワクチンは、新型コロナウイルスに対して有効性や安全性が検証されましたが、がん細胞を対象とした研究が世界各国で進められています。がん細胞に特異的なタンパクを作るmRNAを接種することで、がん細胞を攻撃する細胞性免疫が成立するというメカニズムです。さて、mRNA-4157/V940は、がんの遺伝子変異に基づいて設計された、腫瘍特異的変異抗原(ネオアンチゲン)をコードするmRNAベースの個別化ワクチンです。完全切除後の再発リスクが高い病期のStageIII/IVの悪性黒色腫において、ペムブロリズマブ単剤療法と比較して、疾患の再発または死亡のリスクを有意に減少させたことが1年前に話題となりました。2023年12月14日のModerna社(米国)のプレスリリースでは、当該追跡3年の結果が報告されています。mRNA-4157/V940とペムブロリズマブ併用による術後補助療法によって、ペムブロリズマブ単剤より無再発生存期間の延長が確認され、再発または死亡のリスクが49%減少したことが報告されました(ハザード比[HR]:0.510、95%信頼区間[CI]:0.288~0.906、片側p=0.0095)。また、無遠隔転移生存期間も有意に延長し、遠隔転移の発生または死亡リスクを62%減少させました(HR:0.384、95%CI:0.172~0.858、片側p=0.0077)。―――かなり効果があると言っても差し支えのない成績です。生存期間が非常に短い膵がんにおいても、mRNAベースの個別化ワクチンによってT細胞応答がみられた症例では、生存期間が長くなるのではないかと期待されています1)。「mRNAワクチンを接種したらターボがんになる」というデマmRNAワクチンといえば、「遺伝子が書き換えられて発がんする」という根も葉もないウワサが流れ、一部トンデモがん情報提供インフルエンサーで騒がれたことがありました。とくに、がんの急速な進行のことを独自に「ターボがん」などと名付け、デマが流布されました。そもそも「ターボがん」自体がコンセンサスのない概念なので、二重デマなわけですが…。何億回と接種されてきた新型コロナワクチンですが、現時点で発がんに関する安全性シグナルは検知されていません。アメリカの国立がん研究所においても、「新型コロナワクチンが発がんを引き起こし、再発やがんの進行につながることを支持するデータはない」と明記されています2)。そんなmRNAワクチン技術によって、発がんどころか、がんの治療が行えるというのは、誠に興味深い現象です。参考文献・参考サイト1)Rojas RA, et al. Personalized RNA neoantigen vaccines stimulate T cells in pancreatic cancer. Nature. 2023 Jun;618(7963):144-150.2)National Cancer Institute:COVID-19 Vaccines and People with Cancer

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12月27日 国際疫病対策の日【今日は何の日?】

【12月27日 国際疫病対策の日】〔由来〕新型コロナウイルス感染の初確認から約1年となる2020年、疫病の大流行に対する備えの必要性を国際社会が認識し続ける狙いをこめて、国連総会の本会議で採択し、制定。関連コンテンツ新興再興感染症に気を付けろッ!コロナの症状、ワクチン回数による違い【患者説明用スライド】年齢別、コロナ後遺症の発生頻度【患者説明用スライド】コロナ再感染、高齢者よりも若年層で増加コロナとインフルの死亡リスク、最新研究では差が縮まる

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次世代mRNAコロナワクチン、国内第III相で有効性・安全性を確認/Meiji Seika

 Meiji Seika ファルマは12月21日付のプレスリリースにて、同社が国内における供給・販売を担う新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する次世代mRNAワクチン(レプリコンワクチン)「コスタイベ筋注用」(ARCT-154)について、追加免疫国内第III相試験の結果がThe Lancet Infectious Diseases誌オンライン版2023年12月20日号に掲載されたことを発表した。 本試験は、既存mRNAワクチンを接種済みの成人を対象とし、次世代mRNAワクチンと既存mRNAワクチンの追加接種を比較した初めての臨床試験だ。本試験の結果、ARCT-154の5μgの追加接種が、コミナティ(ファイザー製)の30μgの追加接種と比較して、武漢株(Wuhan-Hu-1)に対して非劣性を示し、オミクロン株BA.4/5株に対して優越性を示すことが認められた。 次世代mRNAワクチンのARCT-154は、新規のsa-mRNA技術を使用しており、細胞内に送達されたmRNAが増幅されるように設計されている。そのため、既存ワクチンよりも少ない接種量で高い中和抗体価、高い安全性と有効性、効果の持続が期待される。 本試験では、既存mRNAワクチンを3ヵ月以上前に3回接種した18歳以上の健康成人828例を対象に、1回の追加接種としてARCT-154を5μg(420例)、あるいはコミナティを30μg(408例)接種し、免疫原性および安全性を評価した。 主な結果は以下のとおり。・追加接種から4週間後の武漢株に対する中和抗体価の幾何平均(GMT)は、ARCT-154群:5,641(95%信頼区間[CI]:4,321~7,363)vs.コミナティ群:3,934(2,993~5,169)であった。GMT比:1.43(95%CI:1.26~1.63)。・武漢株に対する中和抗体応答率は、ARCT-154群:65.2%(95%CI:60.2~69.9)vs.コミナティ群:51.6%(46.4~56.8)で、差は13.6%(95%CI:6.8~20.5)となり、非劣性が示された。・オミクロン株BA.4/5に対する中和抗体価のGMTは、ARCT-154群:2,551(95%CI:1,687~3,859)vs.コミナティ:1,958(1,281~2,993)であった。GMT比:1.30(95%CI:1.07~1.58)。・BA.4/5に対する中和抗体応答率は、ARCT-154群:69.9%(95%CI:65.0~74.4)vs.コミナティ群:58.0%(52.8~63.1)となり、優越性が示された。・ARCT-154またはコミナティの追加接種により、重度または重篤な有害事象は認められず、忍容性は等しく良好だった。・特定局所反応については、ARCT-154群の95%、およびコミナティ群の97%から報告された。特定全身有害事象については、同じく66%および63%から報告された。 本試験結果は、ベトナムで実施された海外第I/II/IIIa相試験と海外第IIIb相試験、米国・シンガポールで実施された海外第II相試験などと合わせて申請資料として提出され、2023年11月28日に「コスタイベ筋注用」として厚生労働省より製造販売承認された。本試験は、接種後3ヵ月、6ヵ月、12ヵ月での安全性および免疫応答の持続性や細胞性免疫を検討するため現在も進行中。変異株対応の試験も進められており、2024年秋冬接種に向けて実用化を目指している。

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