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第17回 COVID-19の疲労症候群~筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群研究のまたとない機会

ウイルス感染が去ってすぐの疲労感は珍しいことではなく、たいていすぐに消失しますが、長引く疲労を特徴とする筋痛性脳脊髄炎(ME)/慢性疲労症候群(CFS)に時に陥る恐れがあります。かつて単に慢性疲労症候群(CFS)と呼ばれていたME/CFSは運動や頭を使った後に疲労が悪化することを特徴とし、軽く歩いただけ、または質問に答えただけで何日も、悪くすると何週間も起き上がれなくなることがあります1)。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染(COVID-19)を経た患者の長患いも最近明らかになっており、COVID-19を経た640人へのアンケートでは多くが胸痛や胃腸不調、認知障害や酷い疲労が収まらないと回答しました2)。米国国立アレルギー感染病研究所(NIAID)を率いるAnthony Fauci(アンソニー・ファウチ)氏もCOVID-19一段落後のそういった症状を認識しており、長きにわたる疲労症候群がCOVID-19に伴う場合があり、その症状はME/CFSに似ているとの見解を今月初めのAIDS学会での記者会見で表明しています3)。ME/CFSは謎に包まれており、それ故に偏見を通り越して無きものとする医師や研究者も少なくありません。ウイルス感染や神経疾患などの何らかの診断を試みた上でどこも悪くないとし、挙げ句にはもっと運動することを勧める医師もいるほどです。運動はME/CFSを悪化させる恐れがあります1)。無きものとして長くみなされていたため患者の多くは病因と思しき脳や脊髄の炎症の関与を見て取れる病名・筋痛性脳脊髄炎(ME)と呼ばれることを好みます。しかしながら脳脊髄炎の裏付けといえば脳の炎症マーカー上昇や脊髄液のサイトカイン変化を報告している日本での被験者20人ほどの試験4)ぐらいであり、米国疾病管理センター(CDC)を含む研究団体のほとんどはME/CFSと呼ぶようになっています。ME/CFSの原因は謎ですが、感染症との関連が示唆されており、米国・英国・ノルウェーでの調査によるとME/CFS患者の75%近くがその発症前にウイルス感染症を患っていました5)。また、西ナイルウイルス(WNV)、エボラウイルス(EBV)、エプスタインバーウイルス(EBV)等の特定の病原体とME/CFS様症状発現の関連が相当数の患者で認められています。2003年に蔓延したSARS-CoV-2近縁種SARS-CoVの感染患者の退院から1年後を調べた試験6)では、実に6割が疲労を訴え、4割以上(44%)が睡眠困難に陥っており、6人に1人(17%)は長引く不調で仕事に復帰できていませんでした。そういった試験結果を鑑みるに、SARS-CoV-2感染患者の体の不具合が収まらずに続く場合があることはほとんど疑いの余地がないとME/CFS研究連携を率いるモントリオール大学のAlain Moreau氏は言っており、同氏や他の研究者の関心は今やSARS-CoV-2がME/CFSを引き起こすかどうかではなく、どう誘発しうるのかに移っています。いくつか想定されている誘発の仕組みの中で自己免疫反応の寄与を米国NIHの神経ウイルス学者Avindra Nath氏はとくに有力視しています。最近イタリアの医師は重度のSARS-CoV-2感染症(COVID-19)患者に自己免疫様症状・ギランバレー症候群(GBS)が認められたことを報告しており7)、ME/CFS患者を調べた2015年報告の試験8)では自律神経系受容体への自己抗体上昇が認められています。もしCOVID-19が自己免疫疾患を招きうるなら何らかのタンパク質へのT細胞やその他の免疫の担い手の反応が血液中に現れるはずです。そこでエール大学の免疫学者岩崎 明子氏等はCOVID-19入院患者数百人の血液検体を採取し、すぐに元気になった場合とそうでない場合の免疫特徴を比較する試験を開始しています。Moreau氏とNath氏等もCOVID-19患者を長く追跡してME/CFSの原因を探る試験9)を始めており、それらの試験結果はCOVID-19を経た人のみならず世界中のME/CFS患者のためにもなるはずです。研究所や政府はCOVID-19患者がME/CFSに陥りうることに目を向け、資源や人を配して事に当たるべきであり、さもないとME/CFSの謎の解明のまたとない機会がふいになってしまうとNath氏は言っています1)。参考1)Could COVID-19 Trigger Chronic Disease in Some People? 2)What Does COVID-19 Recovery Actually Look Like? An Analysis of the Prolonged COVID-19 Symptoms Survey by Patient-Led Research Team3)Coronavirus may cause fatigue syndrome, Fauci says4)Nakatomi Y, et al. J Nucl Med. 2014 Jun;55:945-50.5)Pendergrast TR, et al. Chronic Illn. 2016 Dec;12:292-307.6)Tansey CM, et al. Arch Intern Med. 2007 Jun 25;167:1312-20. 7)Toscano G, et al. N Engl J Med. 2020 Jun 25;382:2574-2576.8)Loebel M, et al. Brain Behav Immun. 2016 Feb;52:32-39.9)OMF Funded Study: COVID-19 and ME / CFS

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COVID-19死亡例、肺病理所見の特徴は?/NEJM

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行における主な死因は進行性呼吸不全であるが、死亡例の末梢肺の形態学的・分子的変化はほとんど知られていないという。ドイツ・ヴィッテン・ヘアデッケ大学のMaximilian Ackermann氏らは、COVID-19で死亡した患者の肺組織の病理所見を調べ、インフルエンザで死亡した患者の肺と比較した。その結果、COVID-19患者の肺で顕著な特徴として、重度の細胞膜破壊を伴う血管内皮傷害がみられ、肺胞毛細血管内の微小血栓の有病率が高く、新生血管の量が多いことを確認した。NEJM誌2020年7月9日号掲載の報告。インフルエンザ例の剖検肺、非感染対照肺と比較 研究グループは、COVID-19で死亡した患者の剖検時に得られた肺の形態学的・分子的特徴を、インフルエンザで死亡した患者の肺および年齢をマッチさせた非感染対照肺と比較した(米国国立衛生研究所[NIH]など助成による)。 COVID-19で死亡した患者7例(女性2例[平均年齢68±9.2歳]、男性5例[80±11.5歳])、インフルエンザA(H1N1)感染に続発した急性呼吸促迫症候群(ARDS)で死亡した患者7例(女性2例[62.5±4.9歳]、男性5例[55.4±10.9歳])、年齢をマッチさせた非感染対照(肺移植ドナー)10例(女性5例[68.2±6.9歳]、男性5例[79.2±3.3歳])の肺組織が、解析の対象となった。 肺の評価は、7色免疫組織化学的解析、マイクロCT画像、走査型電子顕微鏡、血管鋳型法、遺伝子発現の直接多重測定法を用いて行われた。ACE2発現細胞が多い、微小血栓9倍、新生血管量2.7倍に インフルエンザ肺炎患者の肺は、COVID-19患者の肺に比べて重く(平均重量:2,404±560g vs.1,681±49g、p=0.04)、非感染対照肺(1,045±91g)はインフルエンザ肺(p=0.003)およびCOVID-19肺(p<0.001)に比べ軽かった。 1視野当たりのアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)発現細胞数は、非感染対照群の肺胞上皮細胞(0.053±0.03)と毛細血管内皮細胞(0.066±0.03)ではまれであったが、これに比べCOVID-19群とインフルエンザ群の肺胞上皮細胞(0.25±0.14、0.35±0.15)、および毛細血管内皮細胞(0.49±0.28、0.55±0.11)では多く認められた。ACE2陽性リンパ球は、非感染対照群の血管周囲組織や肺胞内にはみられなかったが、COVID-19群とインフルエンザ群では認められた(0.22±0.18、0.15±0.09)。 COVID-19群とインフルエンザ群の末梢肺の組織パターンでは、血管中心性炎症所見として、血管周囲のT細胞浸潤を伴うびまん性肺胞傷害が認められた。また、COVID-19群の肺では、このほかに、内皮細胞内の重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2型(SARS-CoV-2)の存在と細胞膜破壊を伴う重度の血管内皮傷害に基づく特徴的な血管像が確認された。 249個の遺伝子に関して炎症関連遺伝子発現の多重解析を行ったところ、79個の炎症関連遺伝子がCOVID-19群の肺にのみ発現していたのに対し、インフルエンザ群の肺にのみ発現していたのは2つだけで、7つの遺伝子は両群で共通に発現していた。 一方、COVID-19群の肺血管の組織学的解析では、微小血管障害を伴う広範な血栓がみられた。肺胞毛細血管内の微小血栓の有病率は、COVID-19群がインフルエンザ群の9倍であった(血管腔面積1cm2当たりの平均血栓数:159±73個vs.16±16個、p=0.002)。 また、COVID-19群の肺では、重積型血管新生による新生血管の量がインフルエンザ群の2.7倍であり(1視野当たりの新生血管数:60.7±11.8 vs.22.5±6.9)、非感染対照群(2.1±0.6)と比べても密度が高かった(p<0.001)。発芽型血管新生の量も、インフルエンザ群に比べCOVID-19群で多かった。 COVID-19群では、重積型血管新生による新生血管の量は、入院期間が長くなるに従って増加した(p<0.001)のに対し、インフルエンザ群では経時的な重積型血管新生の増加が少ないか、まったく増加しなかった。同様のパターンが、発芽型血管新生でも認められた。 323個の遺伝子に関して血管新生関連遺伝子発現の多重解析を行ったところ、69個の血管新生関連遺伝子はCOVID-19群の肺にのみ発現し、26個の遺伝子はインフルエンザ群の肺にのみ発現しており、45個の遺伝子は両群で共通に発現していた。 著者は、「内皮細胞内のSARS-CoV-2の存在は、内皮傷害には血管周囲の炎症だけでなくウイルスの直接的な作用の関与が示唆される」と指摘し、「これらの知見の普遍性と臨床的意義を明らかにするには、さらなる研究を要する」としている。

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無症状者でも唾液を用いたPCR検査が可能に/厚労省

 新型コロナウイルスへの感染を調べる検査について、厚生労働省は7月17日より、無症状者に対しても、唾液を用いたPCR検査(LAMP法含む)および抗原定量検査※を活用可能とすることを発表した1)。ただし、簡易キットによる抗原検査については今後研究を進める予定で、現状唾液検体の活用は認められていない。これまで、PCR検査、抗原定量検査ともに唾液検体については、発症から9日目以内の有症状者のみ活用が認められていた。※6月25日保険適用。簡易キットよりも感度が高いが、専用の測定機器が必要2)。 今回の決定は、都内で無症状者を対象に、唾液を用いたPCR検査および抗原定量検査と、鼻咽頭拭い液PCR検査結果を比較し、高い一致率を確認したことを受け3)、7月15日開催の第44回厚生科学審議会感染症部会の審議を経て、活用可能と判断されたことに基づく。 同部会では、「研究結果および感染管理の観点から、無症状者に対し、現状の鼻咽頭検体に加えて、唾液検体を用いることは可能と考える」と結論づけたうえで、「一般的に検査について感度・特異度ともに 100%でない以上、これまでと同様に陰性であっても、感染していないことの証明にはならない点に留意が必要であることを被験者に十分説明し、被験者の検査後の行動に留意を求めていくことが必要」とまとめている4)。唾液を用いたPCR検査と鼻咽頭ぬぐい液の比較結果 唾液を用いたPCR検査およびLAMP法検査について、鼻咽頭ぬぐい液を用いたPCR検査と比較した結果、90%程度の陽性者一致率・陰性者一致率ならびに一致率が確認された:(鼻咽頭ぬぐい液を用いたPCR検査結果との)陽性者一致率 唾液を用いたPCR検査:91.9% 唾液を用いたLAMP検査:86.5%陰性者一致率 唾液を用いたPCR検査:88.9% 唾液を用いたLAMP検査:92.6%一致率 唾液を用いたPCR検査:90.1% 唾液を用いたLAMP検査:90.1% なお、鼻咽頭ぬぐい液PCR検査で陽性であり、唾液PCRまたは唾液LAMP検査で陰性となった症例については、いずれも、検査時点で鼻咽頭ぬぐい液中のウイルス量はきわめて少ないことが確認された(Ct値が39以上)。他方、鼻咽頭ぬぐい液PCR検査で陰性にもかかわらず、唾液PCRまたは唾液LAMP検査で陽性となった症例ではいずれも、検査時点での唾液中のウイルス量は少ないことが確認された(Ct値が33以上)。 唾液を用いた抗原定量検査と鼻咽頭ぬぐい液の比較結果 唾液を用いた抗原定量検査について、鼻咽頭ぬぐい液を用いたPCR検査と比較した結果、陽性者一致率は約76%、陰性者一致率は100%、一致率は約90%であった。なお、鼻咽頭ぬぐい液PCR検査で陽性であり、唾液抗原定量検査で陰性となった症例(9例)のうち、鼻咽頭ぬぐい液では9例中7例、唾液では全例について検査時点でのウイルス量が少ないことが確認された(Ct値が34以上)。

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第16回 乳腺外科医の有罪判決、日本医師会・東京保健医協会などが強く抗議

<先週の動き>1.乳腺外科医の有罪判決、日本医師会・東京保健医協会などが強く抗議2.健康保険証のオンライン資格確認が来年から可能に3.循環器病対策推進基本計画の骨子案、2040年までに健康寿命の3年延伸など4.生活保護受給者の医療扶助、頻回受診対策などの検討が開始5.コロナ感染拡大が続き、今後の社会経済活動はどうなる?1.乳腺外科医の有罪判決、日本医師会・東京保健医協会などが強く抗議足立区・柳原病院の乳腺外科医が準強制わいせつ罪に問われ、13日の控訴審で言い渡された懲役2年の実刑判決をめぐって、日本医師会の今村 聡副会長は見解を示した。裁判では、独自の基準でせん妄や幻覚の可能性を否定した原告側の医師の見解を採用したこと、全身麻酔からの回復過程で生じるせん妄や幻覚は通常の医療現場でも生じていること、検察側が根拠としたDNA鑑定などの証拠がずさんな検査に基づくことなどを指摘し、控訴審の有罪判決に強く抗議した。同様に、東京保健医協会からも、「医師団体としても一般市民としても絶対に許容できない」として、抗議の見解を声明として発表している。(参考)乳腺外科医控訴審判決に関する日医の見解について(日本医師会)東京高裁 第10刑事部の乳腺外科医裁判逆転有罪判決に対する声明(東京都保険医協会)2.健康保険証のオンライン資格確認が来年から可能に厚生労働省は、オンラインで健康保険証の確認ができるように、健康保険法施行規則の改正に乗り出すことを決定し、省令案を公表した。本年10月に施行予定であり、医療機関などで療養の給付を受ける際、被保険者はマイナンバーカードをカードリーダーにかざすことで、資格確認することが可能となる見込み。なお、オンライン資格確認や特定健診情報の閲覧は2021年3月から、薬剤情報の閲覧は2021年10月から開始される予定。医療機関向けのカードリーダーは、「医療機関等向けポータルサイト」で申し込むことができる。医療情報化支援基金により補助されるため、原則医療機関の負担は生じない。(参考)医療情報化支援基金に関するポータルサイト開設のお知らせについて(厚労省)オンライン資格確認の導入について(医療機関・薬局、システムベンダ向け)(同)オンライン資格確認で健康保険法施行規則改正へ 厚労省が省令案公表、10月に施行予定(CBnews)3.循環器病対策推進基本計画の骨子案、2040年までに健康寿命の3年延伸など厚労省は、16日に第5回循環器病対策推進協議会を開催し、第1期循環器病対策推進基本計画案をとりまとめた。2019年12月に施行された「脳卒中・循環器病対策基本法」に基づいて策定され、国の循環器病対策の基本的な方向について明らかにするものである。主に「循環器病の予防や正しい知識の普及啓発」、「保健、医療及び福祉に係るサービスの提供体制の充実」、「循環器病の研究推進」の3つの施策を実施することにより、「2040年までに3年以上の健康寿命の延伸及び循環器病の年齢調整死亡率の減少」を目指す。(参考)循環器病対策推進基本計画(案)(厚労省)循環器病対策の現状等について(同)4.生活保護受給者の医療扶助、頻回受診対策などの検討が開始厚労省は「医療扶助に関する検討会」の第1回会合を15日に開催した。これは、2019年12月に閣議決定された「新デジタル・ガバメント実行計画」において、個人番号カードを利用したオンライン資格確認について、2023年度の導入を目指し検討を進めることとなっている。このため、生活保護受給者の医療扶助資格について、オンライン資格確認導入に向けた議論が開始される。今年中に取りまとめ、年度内を目処に頻回受診対策などの議論が行なわれる見込み。(参考)第1回 医療扶助に関する検討会(厚労省)5.コロナ感染拡大が続き、今後の社会経済活動はどうなる?東京都では連日多くの新型コロナウイルス感染者が確認されており、経路不明者も多い。一方、政府は22日から開始されるGo Toキャンペーンの内容や条件について、直前に変更を発表したが、再度の緊急事態宣言については否定するコメントを出すなど、難しい状況が続いている。感染拡大の防止対策として、PCR検査の積極的な実施、保健所の体制強化、感染防止のガイドライン徹底などを事業者に求め、利用者にはガイドラインを守った店の利用を求めている。海外のように再度の規制強化には動いてはいないが、屋内のイベント開催における人数制限の撤廃などを見直す可能性もある。さらに、夜の繁華街などに立ち入り検査を行うことや、新型コロナ対策特別措置法の再改正などにより、今後新しい動きが出てくる可能性は高い。(参考)接待伴う飲食店対応 経済再生相 1都3県知事に協力要請 コロナ(NHK)コロナ感染防止図り 社会経済活動の段階的な引き上げ目指す(同)

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第43回 心電図中級への道:右心系を“チラ見”するテクニック(後編)【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

第43回:心電図中級への道:右心系を“チラ見”するテクニック(後編)前回は「心室肥大」、なかでも右室に関して肥大の病態について考えました。心電図は肥大の診断精度の面では心エコーに及びませんが、実臨床で右室肥大(RVH)を思わせる所見に出くわした時、どう考え対処すれば良いのかを考えていきましょう。実際の心電図を用いてDr.ヒロなりの実用的な診断手順を丁寧にレクチャーします!【問題1】歩行時の息切れを主訴に紹介受診した80歳、女性。膠原病の加療中。来院時心電図(図1)に関して、以下の文章を埋めよ。基本調律は、心拍数約80/分の(A:異所性心房調律、洞調律、心房細動)である。QRS電気軸は(B:  )°と(C:正常軸、左軸偏位、右軸偏位)を示し、V1誘導に「高いR波」を(D:認めない、認める)。また、同誘導には“ストレイン型”を思わせるST-T変化を(E:認めない、認める)。また、V5、V6誘導で(F:R≒S、R>S、R<S)の所見も認められる。右房拡大の所見は(G:認めない、認める)。以上から総合するに、本心電図は「右室肥大」と診断(H:できない、できる)。(図1)来院時の心電図画像を拡大する解答はこちらA:洞調律、B:120(130)、C:右軸偏位、D:認める、E:認める、F:R<S、G:認めない、H: できる解説はこちら今回は実際の心電図を用いて前回から引き続き「右室肥大」(RVH)について考えてみたいと思います。Dr.ヒロ流の心電図の系統的判読(第1回)に触れつつ解説していきましょう。Aこれは“イチニエフの法則”そのものですね(第2回)。B出た!電気軸の数値を求める問題。これは“トントン法”でしょう。aVRが“トントン・ポイント”(TP)で良ければ「+120°」、もう少し欲張ってaVL、Iに続いて「-aVR」はまだ下向き、TPは続くIIよりも「-aVR」サイドと読んで「+130°」と答えてくれたら熱心な“ドキ心”受講生ですかね(トントン法Neo、第9回、第11回)。CQRS波がIは下向き、II(aVF)は上向きです(第8回)。D「右軸偏位」とともに「RVH」診断の根幹をなす所見です。絶対値では「7mm」ですが、本来「rS型」(第17回)が標準的なV1誘導にあって、陽性(上向き)成分がこれだけ目立つのは異常です(波形はやや非典型の「qRS型」です)。E「ストレイン型」という言い方はあまり推奨されませんが、説明や理解には好都合です。“寝そべった2の字”を思い出してください(第39回)。FV5やV6では本来左室収縮をモロに反映した“ご立派”なR波がテッパンですが、これが逆転(R<S)してしまうのが「RVH」の特徴の1つです。G左室肥大(LVH)でも「左房拡大」は参考所見でした(第39回)。心臓そのものを直接画像化して診断する心エコーとは異なる、心電図なりの“苦肉の策”は、周囲(心房)の状況から推察するというものです。う~ん、なんか“探偵”チックですね(笑)H以上から心電図(図1)は「RVH」に該当します。精査の結果、膠原病に起因する肺高血圧症を認める症例でした。“とにかくニガテなんです”問題1はどうでしたか? 日々の臨床現場で皆さんが遭遇する心電図には、“(ごく)たまに”このようなモノが混じります。ここでは問題を“穴埋め”としましたが、実際ノーヒントでこうした考察が自然にできますか? そうです。実臨床にはヒント付きの問題文も“選択肢”もないのです。う~ん…それが冒頭で『RVH心電図の克服は“中級”へのパスポート』と述べた理由です。意外に難しいんですよ、実際。かつてのボクもそうでしたが、“時たま”しか出会わない異常な所見にアンテナを作動させ、拾い集めた所見を総合して「RVH」と診断するのは難しい、というかニガテだという方は少なくないと推察します。しかし、人間だけではなく、心電図自体も「RVH」の診断が得意ではないんです。一部に特異度はまずまずとする報告がありますが1)、とにかく感度が低いんです。心エコーに比べて心電図による「左室肥大」の診断力は見劣りしますが、「RVH」となるとそれに輪をかけて差が開くわけです。この理由はいくつかありますが、一番大きいのは左室と右室の重量の差からくる“筋力”(より正確には筋量)の違いです。医学部生の時、心臓のサイズはたしか“握りこぶし”(手拳大)くらい、重さは約300gと習いました(ボクは今でも患者さんにそう説明しています)。では、心室つまり右室や左室の重さってどうなんでしょう? もちろん、性別や体格(骨格筋量)にもよるでしょうね。海外データでは心室中隔を除いた「自由壁」(free wall)と呼ばれる部分の場合、右室は約45g、左室はその2.5倍くらいと報告されています2)。現実的には心室中隔も左室の“所有物”ですから、左室の重量は右室の3倍超であることがわかります。心電図の世界では、波高が心筋重量を反映するので、この比を信じるのなら私たちが普段目にするQRS波形は、“8割方”ほぼ左室成分で構成されていると考えられるわけです。「肥大」の心電図は極論したら “目立つ”(QRS)波形になるということなので、RVHが成立するには、ちょっとやそっとの筋量アップではダメで、正常な左室でも3倍超、左室に肥大があればさらに高いハードルを乗り越える必要があるわけです。もともとの頻度の差に加えて、左室の影響で“薄まって”しまい、程度が弱いものは心電図に表出しにくいというRVHの背景を知っておきましょう。■「RVH」心電図が難しいワケ■1)もともと疾患(病態)頻度が低く見慣れない2)左室の影響で所見が薄まりがち3)「右脚ブロック」とややこしい最後の「右脚ブロック」とややこしいという点は、同じことを意識されている方も多いかもしれません。かつてのボクも似ている所見にかなり困惑した記憶があります。この点について次回に詳しく述べたいと思います。“2大所見から押さえよう”悲観的な話ばかりするのはボクの本意ではありません。稀にでも出くわした時、ビシッと見逃さずに「RVH」と指摘するための基本からお話します。拙著から抜粋した図をご覧ください(図2)。(図2)代表的なRVHの心電図基準画像を拡大する左室の場合もそうでしたが、単一の心電図所見で「RVH」の診断を下すことはできず、複数の所見の“合わせ技”が基本となります。左室肥大では、あの“浪費エステ”として有名なRomhilt-Estesポイントでも注目点が5つくらいありましたよね(笑)。基本はそれの“左⇔右チェンジ”を行えばいいのです。まずは必須の2所見から。■1:右軸偏位-これはほぼマスト(MUST)1つ目は「右軸偏位」です。定性的には、QRS波の「向き」がI誘導で下向きとなります。基本的には“右軸偏位なくしてRVHなし”と考えてもらってOKなくらい重要な所見です。「左室肥大」では「左軸偏位」は補助基準の一つであったのと対照的です。これは、しばしば右室と左室の“綱引き”で例えられますが、普通なら「1人 vs. 3人」で試合している圧倒的不利な状況なはずが、自分のゾーン(右方)に引っ張り込んでいるという状況は、「RVH」があるなら相当のもんだということ。実は「+110°以上」という条件もついているのですが、“トントン法Neo”を知らない場合は、自動計測結果に頼らざるを得ないでしょう(第11回)。「左軸偏位」で「-30~0°」なら“軽度の”と呼んだように、正常者(とくに若年者)でも時に認める「+90°+α」くらいの軽い変化ではなく、ガッツリ右軸に向いていることが重要だというわけです。「右軸偏位」では、普通はII(とaVF)のQRS波は上向きですが、「RVH」がキツイ例ではここも下向きになることがあります。“ドキ心”では「高度の軸偏位」ゾーンに該当しますが、その場合は右側から“振り切れて”この領域に達したという「強い右軸偏位」ととらえるようです。代表的には「S1S2S3パターン」というI、II、IIIすべてで陰性成分が優勢となる所見も右心系負荷を示唆する所見の一つですが、軸偏位と関連付けて覚えておけば良いと思います。■2:V1はキーとなる誘導2つ目は波高に関してです。これも「肥大」では大切な所見です。ボクは人間の選り好みは基本しませんが、こと誘導に関しては「V1誘導」がかなり好きです。不整脈から波形診断まで随所で活躍してくれるブイワン君は「RVH」でもキーとなる誘導です。もちろんそれは、位置的に右室のド真ん前に電極を貼るからです。左室肥大では「(左室)高電位」が特徴でしたが、“左方面”の代表であるV5(またはV6)の反対側に視点を移しましょう。それが“右方面の雄”V1で見られます。V1誘導では、正常ですと「rS型」(右室パターン)が見られるのですが(第17回)、「RVH」では普段小さい「r波」が高い「R波」に“変身”します。絶対値では「7mm以上」ですが、定性的な「RV1>SV1」*1も相対的なR波増高ととらえてください3)。*1:「R>S in (lead) V1」や「R:S ratio in V1>1」などの表現もすべて同義。この所見は、Dr.ヒロ流の判読語呂合わせでは、“クルッと”の“ル”でスパイク・チェックをする時に行うと良いでしょう。側胸部誘導(V4~V6)の波高や全体的な振幅に加えて胸部誘導は「R波の増高過程」(R-wave progression)を確認しますよね? V1から下方に行くに連れ徐々にR波は大きくなり、逆にS波はすぼんでいくというヤツです。はじめは小さい「r波」であるはずが、スタート(V1)からいきなりドンッと7mmもあると、目にギョッときます。これで気づいてください。そのほか、何かと足し算が好きで“そこのライオン”でも登場したSokolow & Lyonペアの「RV1+SV5(V6)>10.5mV」という基準4)まで知っている人は少々マニアックかな。現実的には11mm以上ですが…。昔に比べて格段に記憶力の衰えたDr.ヒロはこうした細かな数字を逐一覚えられません。先ほどの心筋重量が右室は左室の3~4分の1だと知っておいて、「左室肥大」の基準Sokolow-Lyon index「SV1+RV5(V6)≧35mV」や単体の「RV5(V6)≧25~30mm」(諸家で多少の差あり)の数値を同じくらいの“縮尺”にして考えるというイメージ作戦で「10.5」も「7」も何とかなっております(笑)。これらの所見を1つでも満たす場合、個人的には“右室高電位(差)”とでも呼びたいところなんですが、正式には「高いR波(V1)」という所見になります。■3:「高いR波」インスピレーションこれはおまけです。V1誘導で「高いR波」を見た時に考える病態を5つ言えますか? ボクがレジデントか大学院生になりたての頃、ある先生に質問されました。解答は以下通り。■高いR波(V1誘導)を見たら何を考える?■右室肥大(RVH)(陳旧性)後壁梗塞WPW症候群(A型)完全右脚ブロック反時計回転(小児・若年成人≒正常亜型)実はコレ、見逃しやすい疾患の“備忘録”的にも使えるんです。当時とても感動したように思います。後年、BMJ誌でほぼ同様のリストが列挙されていた5)ことに“身震い”し、それ以来、決して忘れることはありません。それぐらいインパクトのある内容だと思います。“補助所見も知っておくと強い”「RVH」に関しては上の2つはほぼ“must”と言える所見です。そのほか以下の所見も参考にしてください。■「RVH」の参考所見■(a)2次性ST-T変化(V1ほか:右前胸部誘導)(b)V5、V6で“目立つ”S波(c)右房拡大(d)R peak time(V1)≧0.04秒(40ms)(a)いわゆる“ストレイン型”ですね。右室への圧負荷で求心性肥大を呈する場合が典型的で、「高いR波」が出るV1誘導でこれも確認すれば良いでしょう。心電図所見としては、“お隣”(V2)以下、V3くらいまで(右前胸部誘導)見られることもあります。(b)上記1の「高いR波」所見を反対側から見るイメージですか。V1・V2の「R波」は反対側(V5・V6)で言う「S波」で、そこが出張ってきます。まぁ結局同じことととらえても悪くないですが、「RVH」では胸部誘導が上から下までS波が目立ち、V5(またはV6)でも「R<S」(反時計回転)というケースをまとめ(図2)の3つ目の条件として挙げています。心電図(図1)の胸部誘導も全部「rS型」になっていますでしょ。これがポイントなんです。「deep S(-wave)」と呼べる絶対値基準の「10mm」(V5)、3mm(V6)はメチャクチャ余裕がある方だけでOKです。ボクはV5で勝負することにしているので、前者は“1cm”として頭に記憶させています。(c)これも「左室肥大」の時の「左房拡大」を“左⇔右チェンジ”するだけです。負荷が心室から心房へ波及することを想定しています。II、III、aVF(下壁誘導)やV1(V2)誘導でP波高が高くなるのでした。(d)「左室肥大」でQRS幅がややワイドになる、という話をしましたが、その時に“(delayed onset of) intrinsicoid defletion”や“R peak time”と呼んだQRS波の「はじまり」~「頂点」までの時間です。これが1mm(0.04秒[40ms])以上*2でやや右室興奮が“もたつく”様子を反映していると考えて下さい。ただしQRS幅全体としては幅広(wide)の基準(0.12秒[120ms]:横幅3mm)には至らないことも大事です(右脚ブロックとの大きな違いがココ)。*2:正確には>0.035秒[35ms]。“本日のまとめ”今回の原稿を書くにあたり、愛用している教科書や論文・ガイドライン4)、6)、7)を見直してみました。ただ、「RVH」の心電図については、明快に統一された診断基準を見つけることはできませんでした。「右軸偏位」と「高いR波(V1誘導)」の2つを中核に、「+α的な補助所見が何個あったら」みたいなのもありません。国内の心電計メーカーの自動診断法も参照しましたが、人間にはおよそわかりにくい数値基準であることを除いては類似の要素を組み合わせたスコアリングシステムが採用されているようでした。という訳で、Dr.ヒロは普段どのように「RVH」の心電図と向き合っているのかを図式化してみました。LVHの解説に際して作成したような実践的なフローチャート(図3)を提示してレクチャーを終わろうと思います。もちろん論文レベルのエビデンスはないですし、そういう意味で「信じるか否かはアナタ次第」(笑)という面がぬぐえませんが…。一人の若き“心電図職人”のアタマの中がどんなものか興味本位で見てもらったら幸いです。(図3)Dr.ヒロオリジナル右室肥大[RVH]の診断フローチャート画像を拡大するはじめに「wide QRS」、とくに「右脚ブロック」はひとまず除いて議論する点と、やはり「RVH」と診断するには中核2所見を中心に全体的に3つ以上は基準を満たして欲しいと思っています。ここでも得意の「あり」(definite)と「疑い」(probable)で自分なりの“重みづけ”もしています。「右軸偏位」と「高いR波(V1)」のどちらを先に見るかですが、Dr.ヒロ流ではQRS波のスパイク・チェックを「向き」「高さ」「幅」の順で捉えていきます。まず「右軸偏位」に気づいて右心系負荷を疑い、次に「高さ」で胸部誘導のR波増高過程を確認してください。その段階で「高いR波(V1)」もあったら、いよいよ「右室肥大(RVH)」が怪しいという風に考えましょう。補助所見の中では、(図2)で取り上げたV1(またはV2)“ストレイン所見”(2次性ST-T変化)とV5・V6での「深いS波」が特に重要ですが、もともと感度が低いわけですから、病歴・背景疾患や心エコー・MRI・CTなど、ほかの画像所見などもしながら考える姿勢を身に付けることで臨床的に深い洞察が可能になると信じています。では、また次回。次回は「右脚ブロック」での状況などを話したいと思います!Take-home Message心電図による「右室肥大」(RVH)の診断感度は低く、過剰な期待は禁物!「右脚ブロック」と混同せず、「右軸偏位」と「高いR波(V1)」に補助所見、自動診断結果や他の画像検査も合わせて総合的に判断するのが大事。1:Lehtonen J, et al. Chest. 1988;93:839-842. 2:Doherty NE 3rd, et al. Am J Cardiol. 1992;69:1223-1228. 3:Myers GB, et al. Am Heart J. 1948;35:1-40. 4:Sokolow M, et al. Am Heart J 1949;38:273-294.5:Harrigan RA, et al. BMJ. 2002:324:1201-1204. 6:Hancock EW, et al. Circulation 2009;119:e251-61.7:Buxton AE, et al. J Am Coll Cardiol 2006;48:2360-2396.【古都のこと~今宮神社】新型コロナウイルスが猛威を振るう中、アマビエという疫病退散の妖怪が話題になりましたね。長い歴史において多くの疫病に悩まされるたびに人々は祈りを捧げてきましたが、今宮神社(北区)も鎮疫の神として有名です。ボクが京都に移住してまだ間もない頃、市内(紫野付近)を運転中、道路沿いに一際目立つ楼門の存在感に圧倒された記憶があります。今まさに行きたい―そう思ったある日に早起きして訪れました。この地には平安遷都よりも前から摂社・疫神社*1があったとされます。994年(正暦5年)、一条天皇は二基の神輿(みこし)とともにその疫神を船岡山に奉安し、神慮を慰め悪疫退散を祈る御霊会(ごりょうえ)*2を斎行しました。その後、再び疫病の流行った1001年(長保3年)、現社地に新たに三柱*3を祀る神殿(本社)を建造し、「今宮社」と名付け御霊会を営まれました。これが今宮神社の創祀なのですが、1000年以上経っても“新しい宮”の名称が残っていることに感動しつつも、今なお疫病に苦しめられる我々の現状に複雑な気持ちも介在します。本社と摂社それぞれにお参りし、平成29年10月の台風被害により解体となった今宮の大鳥居の再建もお祈りし、休日の職務に向かいました。*1:祭神は素戔嗚尊(すさのおのみこと)。*2:古くは疫病などの災いは、不慮の死を遂げた人の御霊(怨霊)に由来すると考えられており、これを鎮め災厄を祓うための儀礼。この紫野御霊会が今宮祭の起源とされる。*3:御祭神である大己貴命(おおなむちのみこと)、事代主命(ことしろぬしのみこと)、奇稲田姫命(くしなだひめのみこと)。

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第15回 コロナ禍での面談で自己啓発本に溺れるMRの多さが浮き彫りに?

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックによる受診患者減少が医療機関の経営を直撃していることは繰り返し伝えられている。従来、医療は景気の波や社会情勢などに左右されにくい安定職種と考えられてきたものの、今回は院内・院外での感染回避のため、社会全体で外出自粛のような非常に原始的な戦略がとられた結果、慢性疾患患者を中心とする受診抑制という予想もしなかった事態にさらされた。同時に、この事態は医療機関周辺の患者以外のステークホルダーにも影響を及ぼしている。代表例が製薬企業、とりわけ医療機関を訪問し、医師に直接自社製品の情報提供を行う医薬情報担当者(MR)だ。彼らが感染源となって医療機関で感染者が発生した場合、業界全体の信用低下となってしまうこともあり、2~4月にかけて各社とも訪問を自粛するようになった。この訪問自粛を契機に各社とも盛んに行っているのがMicrosoft Teams、Zoom、Cisco WebexなどのWeb会議システムを通じた医師とのリモート面談である。企業によっては、チャットボットを利用したリモート面談予約機能を備えたり、AIを利用した音声での情報提供などを行ったりしている。医師にとっては自分が聞きたい時間に聞きたいことが聞ける、MRにとっては移動の手間暇がないメリットが挙げられる。もっとも、新型コロナパンデミック以降、知り合いの医師やMRに接触するたびにリモート面談の“使い心地”を尋ねているのだが、双方ともになかなかの“鬼門”だという。結局、こうしたシステムを利用して話すことは日時を設定したアポイントメント面談と同じで、互いに身構えて向き合わなければならない。全体の傾向を代表していそうな個別感想を紹介すると次のようになる。「結局、病院内でMRさんが出待ちして声をかけられるのは自分たちもある種、気が楽だったんですよ。とくに聞くべき情報がない時は歩きながら形式的な会話をして『ごめん、今日は忙しいんで』とほどほどに切り上げればいいし、ちょうど聞きたいことがあったら『ねえねえ…』と聞けばいいし。Webシステムを使って1週間先の日時のアポイントメントを入れたいと提案されると、『なんか聞きたいことあったっけ? まあ、今は思い当たらないし、別にいいや』となっちゃうんですよね」(30代:循環器内科医)「難なくリモート面談ができる医師というのは、ほとんどが普段から対面でそこそこ以上に話せる関係ができている医師です。結局、人間関係ができているので、その時々に応じてコンタクト手段を変えることができるということ。だから、今春に転勤で担当医療機関が変わった他社のMRなんかを見ていると苦労してますよね」(30代:外資系製薬企業MR)昨今では厚生労働省がMRによる不適正な情報提供を是正するため「医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドライン」を策定し、一部ではMR不要論もささやかれている。では、本当にMRは不要なのだろうか? このコロナ禍の最中に私が接触した医師たち(ざっと30人程度)に尋ねた結果を総合すると、「いなくてもめちゃくちゃ困ることはないが、いたほうがいい」という何とも曖昧な結果となった。ある基幹病院勤務の産婦人科医が絶妙な言い方をしてくれた。「簡単に言うと、風呂の蓋なんですよね。『要る(風呂に入る)時に要らなくて、要らない(風呂を出る)時に要る』みたいな。何か聞きたいことがある時ほど院内にいなくて、忙しくて話をしている時間もない時に限って『先生、先生』って追いかけてくるみたいな。でも聞きたいことがあると言ってもその内容は千差万別で、わざわざMR本人にメールや電話をしたり、製薬企業のDI部門に電話して聞きたいことも多かったり。だから結局、アポを取ってもらってまで訪問してもらうほどではないんです。なんかうまくかみ合わず難しいんですよね」では、MRから聞けるならばぜひ聞きたい情報は何かと尋ねると、意外にも共通していたのは“ほかの医師がどのような処方を行っているか”。「医学部の同級生や研修医時代の同期などに聞いても同じような悩みを抱え、彼らから答えは得られない。しかも、いわゆるKOL医師が講演会などで語る処方の考え方は建前であることも多く、必ずしも参考にはならない」(40代精神科医)からだという。要は、医師は必ずしも自分の処方に自信満々というわけではないということだ。もっともこうしたほかの医師の処方に関する情報をどの程度提供できるかは、製薬業界の自主基準(プロモーションコード)や各社のコンプライアンスに照らすと微妙な側面もある。ただ、いずれにせよ医師側は「今までのような訪問頻度は必要ない」という点でほぼ一致する。そして直接面談の一部がリモート面談に置き換わるだけでなく、医療機関によっては今回の訪問自粛を契機にMR訪問の意義を再検討し、今まで以上に訪問規制をする動きも容易に想像できる。最終的にはMRと医師のコンタクト総量そのものが減少することは必至だろう。もっともMRから聞きたい情報とて、どんなMRからでもいいというわけではない。大学病院の消化器内科で長らく勤務し、現在は開業する50代の医師は次のようにもらした。「基本的にMRの皆さんは一様に賢くて真面目なんですよね。でも、それだけなんですよ。話を聞くと、いろいろとセミナーに行って勉強している人も少なくないのに深みを感じない。非常に酷な言い方をすれば、頭は良いはずなのに教養は高くない。たとえば、私たち医師は多様な患者さんに接して単純にエビデンスで割り切れないことを数多く経験している。在宅医療をやっている開業医は亡くなる患者の看取りもするので生や死のことも考える。そんなことはMRの皆さんは百も承知なはずなのに、なぜか話していて、彼らに共感することも、彼らに共感されたと感じることもないんです。うるさいこと言っていると思われるかもしれないけど、どうせ直接面談するならそうした感性が共有できるMRさんと面談したいですよね」知り合いの製薬企業関係者には不快に思われてしまうかもしれないが、実は私はこの言葉に大きくうなずいてしまった。しかもこのコロナ禍の最中にそれを顕著に感じた瞬間があった。外出自粛で在宅勤務の人が増え、Web上ではこの退屈な雰囲気の中で楽しみながら人とつながるという動きが顕在化した。それがZoomなどを利用したオンライン飲み会であり、SNS上であるテーマについて人をつないで投稿する“バトン”である。このバトンの一つに自分が感銘を受けた本の表紙を1週間にわたって紹介する「ブックカバーチャレンジ」というものがあった。私自身も私の周囲もFacebookでブックカバーチャレンジの投稿をしていたが、私がFacebookでつながっている製薬企業関係者(私のつながっている友達の2割弱)の取り上げる本にはある種の共通した特徴があった。それは老いも若きも紹介する本は、事実上、ビジネスハウツーや自己啓発系に著しく偏るのである。少なくとも私のFacebook上では他の業界の人と比べ、あまりにも顕著過ぎた。これをn=1の事例と言ってしまえばそれまでだが、実は似たような経験は過去にもある。私は製薬産業や医療業界に関わるある研究会の裏方を務めているが、そこで開催する講演会では、まさにハウツー的なテーマではすぐ満席になるが、倫理などやや概念的なテーマになるとあっという間に閑古鳥が鳴く。さらに言えば、私の見立てでは製薬業界の人はかなりの比率でMBA(経営学修士)の取得を目指す人が目立つ。要は“人に勝つため”のテクニックに異常なまでに興味を示す。あまりに“現金”過ぎて思わず笑ってしまうほどだ。だが、医療はいま大きな変革期にある。これまではどちらかというとエビデンスという名の正義に押しやられていた患者個人の価値観が台頭し、国内の医療制度では「地域包括ケア」という概念が登場している。端的に言えば、医療の中に多様化の波が押し寄せ、“解”は一つではなくなっている。しかし、製薬企業関係者はその波に逆行するかのように、やたらと唯一絶対の“解”を求めているかのようだ。しかも、その求める“解”とは患者や医療をより高めるものというよりは、あまりにも自分を高みに置くことにより過ぎているように映る。そんなこんなでふと思い出した言葉がある。それはイギリスの経済学者アルフレッド・マーシャルがケンブリッジ大学教授となった際に唱えた「Cool head but warm heart(冷静な頭脳と温かい心)」。経済学とはお金の動きも含め、世の経済現象を探求する学問。ロンドンの貧民街を目にしたマーシャルは、冷静に経済を分析することで苦難にあえぐ人々を助けるのが経済学者の矜持だと指摘したのである。ちなみに経済学の世界では有名なケインズ経済学で有名な経済学者ジョン・メイナード・ケインズはこのマーシャルの直弟子である。この“warm heart”は共感と読み解くことができる。泥臭いと言われるかもしれないが、私はAI時代、直接面談減少時代に生き残れるMRに必要な資質の一つはこの“warm heart”なのではないかとの意を強くしている。

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新型コロナ抗体検査「陽性」8例で中和抗体を確認、国内初

 厚生労働省は7月14日、6月に3都府県で実施した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の抗体検査で陽性となった8例について抗体量を測定したところ、全例で実際にウイルス感染阻害機能を持つ抗体量(中和抗体価)が確認されたと発表した。新型コロナウイルスに対する免疫獲得が確認されたのは、国内では初めてとなる。 厚労省は、6月1~7日に東京都・大阪府・宮城県の一般住民それぞれ約3,000名を無作為化抽出して抗体保有調査を実施。対象者は本調査への参加に同意した一般住民(東京都1,971名、大阪府2,970名、宮城県3,009名、計7,950名)で、より正確に判定するため、2種の検査試薬(アボット社、ロシュ社)の両方で陽性が確認されたものを「陽性」とした。 今回の測定調査では、抗体検査で「陽性」だった8例の検体すべてから中和抗体が確認された。一方、1種類の検査試薬のみで陽性だったケースや、いずれかが閾値付近だったケースでも測定が実施されたが、いずれも抗体量が検出感度以下だった。 新型コロナウイルス感染後の抗体については、持続期間や、再感染を防ぐ機能の有無などは依然不明である。中国やスペインからは、いずれも発症後2~3ヵ月が経過した時点で抗体量が急激に減少したという研究データが示されている。一方、英国・キングスカレッジロンドンが7月9日に発表したCOVID-19患者65例を対象に抗体量の経過を観察した研究で、プレプリントの報告ではあるが、抗体量は発症後平均23.1日(範囲:1~66日)でピークに達し、このうち60%の人は強力な中和抗体を有していたという。しかし、発症から3ヵ月以降では、中和抗体を持つ患者は16.7%まで減少。多くの患者で抗体量は約23分の1まで低下し、なかにはまったく検出されなかった人もいたという。

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第15回 「戦時と平時の医療体制」支えられる?国の危うい台所事情

政府の2020年度第2次補正予算では、新型コロナウイルス対策の医療提供体制の整備に1兆6,279億円が計上された。「大盤振る舞い」との声もあるが、新型コロナの感染第2波・第3波に備え、「コロナ対応の医療体制」と「通常の医療体制」の両方の整備が急務となっている中、第2次補正予算だけでは不十分であることが明らかになってきた。その根拠となるのが、健康保険加入者の6割をカバーする社会保険診療報酬支払基金が7月1日に公表した4月分の診療報酬請求件数だ。総計は7,432万件で、前年同月比22.9%減、金額は9,460億円で同10.2%減となった。金額で言うと、1,070億円のダウンだ。内訳は、いずれも前年同月比で、入院が6.3%・203億円、入院外が16.0%・645億円、歯科が12.7%・125億円それぞれ減少した。とりわけ入院外と歯科の落ち込みが大きく、医科・歯科診療所が大きく減収していることだろう。都道府県別に金額ベースで見ると、入院外では東京(23%)、福井(22%)、埼玉(21%)、神奈川(20%)などで落ち込み幅が大きく、歯科では東京(26%)、神奈川・福井(20%)、埼玉(19%)の落ち込みが目立った。しかし、第2次補正予算による医科・歯科診療所への支援は限定的だ。感染拡大防止対策への支援(2020年4月1日~21年3月31日の実費補填)の上限は、無床診療所(医科・歯科)が100万円、有床診療所(医科・歯科)が200万円にすぎない。医療従事者への慰労金は1人5万円だ。持続化給付金、家賃補助もあるが、減収5割超などと要件が厳しい。国民健康保険団体連合会はまだ発表していないが、同様の傾向が予想される。その場合、両団体を合わせると、4月だけで2,000億円ほどダウンしているのではないだろうか。4月7日~5月24日の緊急事態宣言の期間を踏まえると、7月までに1兆円近いダウンが予想される。これほどの赤字が累積し、経営が危機的な状況にある中、交付金が支払われるとはいえ、“戦時”と“平時”の医療体制を並行して整えるのは簡単な話ではない。問題は、医療機関の減収だけではない。全国保険医団体連合会(保団連)では、「受診抑制、乳幼児の予防接種・健康診断控えによって、慢性疾患の悪化、重大疾患の見落としなど、国民の健康への悪影響が危惧される」と警鐘を鳴らす。このような状況が続く先には事業縮小や廃業、倒産による医療崩壊が懸念される中、自民党の「新型コロナウイルス関連肺炎対策本部」(本部長=田村 憲久・政調会長代理)は7月6日、厚生労働省に対し、国民が従前の受診行動に戻るための方策と、それまでの間の医療機関の減収への対策を講じるように求めた。また、超党派の「コロナと闘う病院を支援する議員連盟」(幹事長=増子 輝彦・国民民主党参議院議員)が翌7日、設立総会を開いた。病院だけでなく、診療所や歯科、薬局など医療関係施設を対象に、長期的な支援体制の構築を目的としている。事の重大さに気付いていないのか、あるいは知らないふりをしているのか、政府の対応にはいまひとつ危機感が感じられない。コロナ禍は一向に収まる気配がなく、地域によっては激甚災害級の豪雨に見舞われダブルパンチの状態だ。政府には、「これまで経験がない」ことを盾にせず、前例や慣例にとらわれない医療機関に対する一層の支援を求めたい。

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新型コロナ集団免疫は期待薄、感染者25万人のスペインでの調査/Lancet

 スペインで6万人超の国民を対象に新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の血清疫学調査を行ったところ、感染蔓延(ホットスポット)地域でさえも大部分の人が血清反応陰性で、PCR検査で確認された大半の症例で検出可能な抗体が認められる一方、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関連した症状を有するかなりの人がPCR検査を受けておらず、血清反応陽性者のうち3分の1以上の人が無症状であることが明らかにされた。スペイン・National Centre for EpidemiologyのMarina Pollan氏らが、約3万6,000件の家庭を対象に行った調査の結果で、著者は、「スペインでは、COVID-19の影響が大きいにもかかわらず推定有病率は低いままで、集団免疫の獲得には明らかに不十分である。獲得には多くの死亡者や医療システムへの過度な負担なしにはなし得ない状況にある」と述べ、「今回の結果は、新たなエピデミックを回避するためには、公衆衛生上の対策を継続していく必要性を強調するものであった」とまとめている。Lancet誌オンライン版2020年7月3日号掲載の報告。スペイン6万1,075人を対象に調査 スペインは、ヨーロッパ諸国の中でCOVID-19のパンデミックによる影響が最も大きな国の1つであるが、無症状のケースが存在し、診断テストへのアクセスがほとんどないことから、エピデミックの程度の評価に有用なツールである血清学的調査を行った。全国的な住民ベースの調査によって、SARS-CoV-2の国および地域レベルの血清有病率を推定することを目的とした。 地方自治体名簿を基に、州および市の規模により層別化した2段階無作為抽出法を用いて3万5,883世帯を選択し、各世帯すべての住民に同調査への参加を促した。 2020年4月27日~5月11日にかけて、6万1,075人(選択世帯住民の75.1%)がCOVID-19に関連した症状の履歴やリスク因子に関する質問票に回答し、ポイント・オブ・ケア(POC)の抗体検査を受けた。さらに同意が得られた場合には、採血を行い化学発光微粒子免疫測定法(CMIA)を行った。IgG抗体の有病率は、サンプリング重み付け・事後層別法で補正を行い算出し、年齢群や性別、国勢統計区の所得に基づく非回答率の格差は許容した。 両方の検査結果から、特異度(両検査ともに陽性)または感度(いずれかの検査が陽性)を最大化する血清有病率の範囲値を求めた。各検査による血清有病率は5%前後、地域差大 血清有病率はPOC検査では5.0%(95%信頼区間[CI]:4.7~5.4)、CMIAでは4.6%(4.3~5.0)、特異度-感度の範囲値は3.7%(3.3~4.0、両検査陽性)~6.2%(5.8~6.6、いずれかの検査陽性)だった。性差は認められず、また10歳未満の子供の血清有病率は低かった(POC検査で3.1%未満)。 地域による差は大きく、マドリード周辺では10%超だったのに対し、沿岸部では3%未満だった。調査開始の14日以上前にPCR検査で陽性だった195人の血清有病率は、87.6%(95%CI:81.1~92.1、両検査陽性)~91.8%(86.3~95.3、いずれかの検査陽性)だった。 嗅覚消失または3つ以上の症状が認められた7,273人の血清有病率は、15.3%(95%CI:13.8~16.8、両検査陽性)~19.3%(17.7~21.0、いずれかの検査陽性)だった。 血清反応陽性者のうち約3分の1が無症状者で、21.9%(95%CI:19.1~24.9、両検査陽性)~35.8%(33.1~38.5、いずれかの検査陽性)だった。症状が認められた者のうち、POC抗体検査、CMIAともに血清反応陽性だったのは、わずかに19.5%(95%CI:16.3~23.2)だった。

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第15回 凋落の東京女子医大、吸収合併も現実味?

看護師退職希望が400人超こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。先週も書きましたが、東京の新型コロナウイルス感染症患者の数が減っていきません。この状況下で、国は7月22日から国内観光需要喚起を目的とした「Go To Travelキャンペーン」をスタートさせようとしています。地方への感染拡大が気になるところですが、このキャンペーン、旅行者が事務局に還付を申請する仕組みもあるようで、何やら特別定額給付金のときのような混乱がまた起こるのではと、イヤな予感がします。さて、今回気になったのは、東京女子医科大学病院(東京)で看護師の退職希望者が400人を超えた、というニュースです。この事実が全国に広まったきっかけは、7月2日の参議院厚生労働委員会です。日本共産党の小池 晃書記局長が、新型コロナ対応で経営危機に直面している医療機関の支援措置を政府に要請しました。その際、東京女子医大の名を挙げ、同大が「夏季一時金を支給しない」と労組に回答したことに言及、さらに看護師の退職希望が法人全体の2割にあたる400人を超えている、と指摘したのです。7月3日付けのしんぶん赤旗によれば、小池氏は「大学側にも責任がある」としつつ、コロナ感染症対策の先頭に立つ医療機関が経営危機に直面している事実を指摘。コロナ患者を受け入れた医療機関だけでなく、受け入れていない医療機関も経営が悪化しているとして、「日医や病院団体が要求しているように、過去の診療実績による概算払いを認めるなど、当面の資金ショートやボーナスカットを回避する緊急措置が必要だ」と迫ったそうです。コロナで約30億の赤字コロナ患者への対応で疲弊した職員にボーナスを払わない、400人超の看護師が離職しようとしている、というニュースは医療メディア以外にもインパクトがあったようで、日刊ゲンダイのほか、多くの一般メディアもこのニュースを取り上げました。同大学の労働組合のホームページには、「組合だより」が公開されています。そこに書かれた大学側と組合の交渉経緯によれば、大学側は「コロナ感染の影響は想像以上に大きい。4月、5月の2カ月間で30億円近いマイナスとなっている。現状では上半期賞与を支給する要素は全くない」として、ボーナスゼロの回答を行ったようです。7月8日の日刊ゲンダイはこうした大学側の対応への職員の声として、「実際、同大の看護師が投稿したとみられる口コミサイトには、<コロナ騒動の際も毎日出勤していたが、ボーナスなしの仕打ち。大学側からは大学の運営のために我慢しろという回答><コロナ対応など必死に取り組みました。世間も医療関係を応援してくれています。なのにこの法人はコロナ赤字でボーナス0><コロナを受け入れて経営悪化。危険手当なし、夏季ボーナスなし>……など怨嗟の声で溢れている」と書いています。「最終的にベッド数に見合った看護師を補充すれば良い」6月29日発行の「組合だより」に書かれた団体交渉のやり取りを見ると、「看護師の退職希望者の予想数が400名を超えると聞いたが、そのことに対してどう考えているのか」という質問に対し、大学側の代理人である弁護士は「深刻だとは思うが、足りなければ補充するしかない。現在はベッド稼働率が落ちているので、仮に400名が辞めても何とか回るのでは。最終的にベッド数に見合った看護師を補充すれば良いこと。申し訳ないが、これは完全に経営の問題であり、組合に心配してもらうことではない」と答えたとのことです。ボーナスの交渉は、労使のあいだの問題なので外野がとやかく言うことではありませんが、この弁護士の言葉が東京女子医大の経営者の考えを本当に代弁しているとしたら、とても残念なことです。看護師を単なる診療報酬を得るためのコマとしか考えていないように見えるからです。また、コロナによる影響で収入が激減しボーナスが払えない、とのことですが、それはどこの医療機関でも同様な状況にあるわけで、東京女子医大だけが特別ではありません。7月13日のNHKニュースは「医療機関の3割で夏のボーナス引き下げ」として、日本医療労働組合連合会が加盟する医療機関を対象に今年の夏のボーナスについて調査した結果を報じています。それによると、6月30日の時点で回答した338の医療機関のうち、およそ3割にあたる115の医療機関でボーナスの額が去年より引き下げられていたということです。このコロナ禍の中、3割は引き下げるものの、7割の医療機関は昨年並にボーナスを払おうとしているわけです。特定機能病院、承認未だ取り消し中東京女子医大病院については、最近は悪い話しか聞こえてきません。同院は2014年に人工呼吸中の2歳10ヵ月の男児に、ICUの小児には「原則禁忌」(当時)とされていたプロポフォールを大量投与し、結果として患児が死亡するという医療事故を起こし、2015年に特定機能病院の承認を取り消されています。同院が特定機能病院の承認取り消しにあったのは2度目です。1度目は2002年で(2007年に再承認)、前年に起こった日本心臓血圧研究所(心研、現:心臓病センター)の医療事故がきっかけでした。当時12歳の患者が心房中隔欠損症と肺動脈狭窄症の治療目的で手術を受けたものの、脱血不良で脳障害を来し、死亡したという事故です。この事故については、その後起訴された医師の1人(人工心肺装置の操作を担当した助手)が裁判で無罪となっています。その背景には、東京女子医大が設置した院内事故調査委員会の報告書がありました。同委員会には心臓血管外科医や人工心肺のことがわかる人が1人もおらず、死亡した手術に携わった当事者の意見聴取すらされないままに報告書が作成されていたのです。このことが後に判明し、報告書の内容は否定されています。2015年に取り消された東京女子医大の特定機能病院の承認は、今も再承認に至っていません。取り消し直後は、患者数の激減や私学助成金の減額等で、経営状況の悪化や経営陣の内紛に関する報道もありました。2019年には理事長が交代し、新体制で特定機能病院の再承認を目指していた矢先の、今回の新型コロナ感染症の感染拡大です。病院も大学も経営の舵取りはますます難しくなっているとは思いますが、職員の働きをリスペクトするような経営を行ってもらいたいものです。疲弊と不満が現場に広がってしまっては医療安全上も心配です。どこか似ているフジテレビと女子医大東京女子医大は1970〜90年代には、日本の大学病院としては最先端の経営を行っていました。心研をはじめ、消化器病・脳神経・腎臓病の各センターなど、臓器別のセンター方式をどこよりも早く導入、それぞれにスター教授を配して、臨床だけではなく、研究でも最先端をいっていました。80~90年代にかけ、私はよく新宿区河田町にある東京女子医大病院に取材に通っていました。隣にはお台場に移転する前のフジテレビ本社がありました。フジテレビも「オレたちひょうきん族」のヒットなどで、視聴率で在京キー局のトップを走っていたと記憶しています。あれから30〜40年が経ち、どちらも昔日の面影はありません。フジテレビでは最近、女子プロレスラーを自殺に追い込んだ「テラスハウス」事件がありました。週刊誌などの報道では、出演者を「視聴率をとるためのただのコマ」としか考えない、テレビ局側の姿勢が問題視されています。どこでどう間違ってしまったのでしょうか…。東京女子医大は、このまま経営難が続けば、ことあるごとに噂になる早稲田大学による吸収合併も現実味を帯びてくるかもしれません。

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コロナ自粛でイライラや暴力行為、低年齢ほど傾向強く

 新型コロナウイルスの流行は、感染への不安や恐れもさることながら、さまざまな社会・経済行動の自粛とstay homeによる生活の変化がもたらした緊張やストレスも大きかった。国立成育医療センターは、全国の7~17歳までの子供および0~17歳の子供がいる保護者を対象に、インターネットでアンケートを実施。その回答結果によると、すぐにイライラしたり、自傷や他人への危害といった何らかのストレス反応を呈したりした子供が75%にのぼった一方、保護者の62%が心に何らかの負担を感じていたことがわかり、これまでに経験したことのない自粛生活が親・子の双方に大きく影響を及ぼしていた様子がうかがえる。 本調査は、4月30日~5 月31日、インターネット上で実施された。アンケート内容は、(1)コロナ関連(2)学校・勉強・友人への連絡状況(3)外出頻度・運動・スクリーンタイム・生活リズム(4)子供たちの健康とQOL(5)ストレス反応(6)親子の関わり(7)保護者のメンタルヘルス(8)子供たちが必要としている支援や情報について、などを選択式で回答する項目と、自由記述で構成。2,591人の子供と6,116人の保護者、計8,707人が回答した。 このうち、ストレス反応についての項目で、「最近集中できない」は、小学4~6年生と中学生が40%、高校生が42%だった。「すぐにイライラする」は、小学4~6年生が38%と最も多く、小学1~3年生が33%、中学生が30%、高校生が29%だった。「自分の体を傷つけたり、家族やペットに暴力をふるうことがある」(原文ママ)は、小学1~3年生の16%、小学4~6年生の10%が該当し、中学生・高校生は各5%だった。イライラしたり、暴力的になったりする傾向は低学年ほど強く表れる結果となった。 一方、保護者の回答では、子供に対して「感情的に怒鳴った」が49%と約半数が該当し、とくに年少~年長、小学1年~3年の保護者では6割にのぼった。こうした家庭内のトラブルについて、コロナ流行前の今年1月時点と比べて「少し増えた」「とても増えた」と回答したのは、年少の保護者が45%ともっとも多く、以下、小学1年~3年(38%)、小学4~6年(27%)、未就学児(26%)の保護者の順に多かった。 学校や園の季節休暇以外で、今回ほど長期の休みが続き、外出を制限されるという経験は誰もしたことがなく、在宅ワークが急きょ始まって戸惑う保護者も多かった。こうした状況下で、子供全体の78%が保護者について「一緒にいると安心できる」と回答しているのに対し、保護者のメンタルヘルスを問う6項目の質問について5段階に点数化したところ、全体の62%が中等度(心に何らかの負担がある状況)~極強度(深刻な心の状態のおそれがある)に該当した。家の中で、大人への安心感を感じる子供と、仕事やコロナ感染への不安、子供の教育などに対する情報不足などが相まって大きなストレスを抱えている保護者のあり様が対照的な結果となった。 本調査をまとめた報告書の終わりには、「急性期には目立たなかった影響が、少し時間が経ってから顕在化していることもある。今後もし感染が早期に完全に終息して日常が取り戻されたとしても、子供たちの様子はしばらくの間、注意深く見守る必要がある」と記されている。また、本調査に関し、「より強いストレスや苦しい生活状況に直面している子供や保護者には、本調査の案内が届かなかったり、協力いただけなかったりした可能性もある」とし、国立成育医療センターでは、同調査を今後も継続的に実施する予定だ。 コロナ収束には今しばらくかかる様相だが、学校が再開され、社会が本格的に再稼働し始めた。かかりつけ医の皆さんには、子供や保護者と顔を合わせた際、長い自粛期間を経た後に、心身の小さな変化がないか、注意してみていただきたい。

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アビガン、ウイルス消失傾向も有意差示せず/多施設無作為化試験

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の無症状および軽症患者に対するファビピラビル(商品名:アビガン)のウイルス量低減効果を検討した多施設非盲検ランダム化臨床試験の最終結果の暫定的な解析から、通常投与群(1日目から投与)は遅延投与群(6日目から投与)に比べて6日までにウイルスの消失や解熱に至りやすい傾向が見られたが、統計学的に有意ではなかったことを、7月10日、藤田医科大学が発表した。本研究の詳細なデータを速やかに論文発表できるよう準備を進めるという。 本研究は、藤田医科大学を代表機関とし全国47医療機関で実施している「SARS-CoV2感染無症状・軽症患者におけるウイルス量低減効果の検討を目的としたファビピラビルの多施設非盲検ランダム化臨床試験」(研究責任医師:藤田医科大学医学部感染症科 教授 土井 洋平氏)。 3月上旬~5月中旬にCOVID-19患者89例が参加し、うち44例がファビピラビルの通常投与群、45例が遅延投与群に無作為割り付けされた。遅延投与群のうち1例が割り付け直後に不参加を希望したため、臨床的評価は通常投与群44例、遅延投与群44例を対象とした。またウイルス量に関する評価は、研究参加時に既にウイルスが消失していたことが後日判明した19例を除外し、通常投与群36例、遅延投与群33例を対象とした。研究参加中に重症化または死亡した患者はいなかった。 主な結果は以下のとおり。・主要評価項目である「6日目まで(遅延投与群が内服を開始するまで)の累積ウイルス消失率」は、通常投与群66.7%、遅延投与群56.1%で、調整後ハザード比(HR)は1.42(95%信頼区間[CI]:0.76~2.62、p=0.269)であった。・副次評価項目である「6日目までのウイルス量対数値50%減少割合」は、通常投与群94.4%、遅延投与群78.8%で、調整後オッズ比は4.75(95%CI:0.88~25.76、p=0.071)であった。・探索的評価項目である「37.5℃未満への解熱までの平均時間」は、通常投与群2.1日、遅延投与群3.2日で、調整後HRは1.88(95%CI:0.81~4.35、p=0.141)であった。・ファビピラビル投与に関連する有害事象については、血中尿酸値上昇が84.1%、血中トリグリセライド値上昇が11.0%、肝ALT上昇が8.5%、肝AST上昇が4.9%に見られた。これらの異常値は、内服終了後(16日目または28日目)に再度採血された患者(38例)のほぼ全員で平常値まで回復していた。また、痛風発症例はいなかった。

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HIV感染症患者は新型コロナウイルスに罹りにくいのか?【新興再興感染症に気を付けろッ!】

ケアネットをご覧の皆さま、こんにちは。国立国際医療研究センター 国際感染症センターの忽那です。本連載「新興再興感染症に気を付けろッ!」、通称「気を付けろッ」は「新興再興感染症の気を付け方」についてまったりと、そして時にまったりと、つまり一貫してまったりと学んでいくコーナーです。1年半ぶりに復活! 今回も少数精鋭の読者に向けてと何事もなかったかのように普通に冒頭を書き出してみましたが(正確に言うと前回の文章をコピペした)、実に1年半ぶりの再開です。この1年半、いろいろなことがありました…。「ピエール瀧の逮捕」、「沢尻エリカの逮捕」、そして「新型コロナウイルスの流行」…。ピエール瀧と新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を並べて書いたのは私が世界初ではないでしょうか。そんなわけで、「新興再興感染症」という誰も興味のなさそうなテーマの連載でしたが、よく考えたら「今しか注目されるときはないんちゃうか」というタイミングであり(むしろ若干タイミングを逃した感あり)、「医療界の冨樫」がついに重い腰を上げたわけです。というわけで、冨樫義博先生(漫画家)を見習って10回くらいの予定で(打ち切られなければ)、新型コロナウイルスに関する話題を皆様にご提供したいと考えております。ときどき「Yahooの記事とほぼ同じやないか!」と思われる回が登場するかもしれませんが(予言)、それはご愛嬌ということでよろしくお願いします。でもね、Yahooの記事って「いつも読んでます!」とかめっちゃ言われるんですが、この連載でそんなこと言われたことほとんどないんですよ、悲しいことに。たぶん5人くらいしか読んでないんじゃないでしょうか。まあどっちにしても原稿料はもらえるし、別に5人でも構いません。少人数制で頑張っていきましょう。HIV治療薬とCOVID-19の治療薬?の関係それでは5人の読者の皆様、お待たせいたしました、新型コロナシリーズ第1回は「HIVとコロナ」です。HIV感染症と言えば世界3大感染症の1つであり、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)に感染することでCD4陽性リンパ球が減少し、細胞性免疫不全が起こる疾患です。日本でも約3万人の感染者がおり、今もなお年間1,000人以上が新規患者として診断されています。CD4数が低下すると「日和見感染症」と呼ばれるニューモシスチス肺炎やサイトメガロウイルス網膜炎などの感染症に罹患しやすくなり、また、一般の感染症に罹患した際も重症化しやすいとされます。しかし、一般的にHIV感染症の患者さんも“ART(Antiretriviral Therapy)”と呼ばれる抗HIV薬を組み合わせた治療を行えば、CD4数は正常の範囲を保つことができることが多く、その場合は日和見感染症に罹るリスクはほとんどなくなります。では、HIV感染症の患者がCOVID-19に感染した場合、重症化するのでしょうか。「COVID-19の悪化にはサイトカインストームが関与しており、免疫反応が弱いHIV感染症患者では重症化しないのではないか」という仮説を唱えている人もいるようですが、この辺はまだ結論が出ていません。まだプレプリントですが、HIV感染症患者はHIV-negativeの人と比べて死亡リスクが高いという南アフリカの大規模コホート研究があります。その前に、そもそもHIV感染症の患者はCOVID-19に感染するのでしょうか? 答えはもちろんイエスであり、国内最初のHIV感染症患者のCOVID-19症例は我々が診断しています(てへん)1)。しかし、「HIV感染症の患者でART中の方はCOVID-19に罹患しにくいのではないか」という説がまことしやかに囁かれていました。正確には私自身が囁いていました。なぜならば、一部の抗HIV薬はin vitroでは新型コロナウイルスに活性があるためです。一時期、国内でもCOVID-19症例の治療にカレトラが使用されていましたが、これはリトナビルというプロテアーゼ阻害薬がSARSコロナウイルスやMERSコロナウイルスにin vitroで活性があるためでした2)。しかし、リトナビル/ロピナビルの合剤であるカレトラはRCTで有効性を示せず3)、現在カレトラはCOVID-19の治療では積極的に使用されなくなっています。しかし、今度は核酸系逆転写酵素阻害剤(NRTIs)が新型コロナウイルスに動物実験系では有効性を示したという報告も出てきており4)、「何だやっぱりARTはCOVID-19に効くんじゃないか」という揺り戻しが起こっていました。最新の臨床研究からみてみたさて、そんな中、ついに「実際にARTを受けているHIV感染症患者はCOVID-19に罹っているのか」という命題に応える臨床研究が出ました5)。概要としては、スペインでARTを受けている77,590人のコホート研究で、このうち236人がCOVID-19と診断され、151人が入院し、15人がICUに入院し、20人が死亡した。COVID-19の診断および入院のリスクは、男性および70歳以上の高齢者で高かった。1万人あたりのCOVID-19の入院リスクはテノホビル アラフェナミド/エムトリシタビン(TAF/FTC)投与群で20.3(95%CI、15.2~26.7)、テノホビル ジソプロキシルフマル酸塩//エムトリシタビン(TDF/FTC)投与群で10.5(CI、5.6~17.9)、アバカビル/ラミブジン(ABC/3TC)投与群で23.4(CI、17.2~31.1)、その他のレジメン投与群で20.0(CI、14.2~27.3)であった。1万人あたりのCOVID-19罹患(診断)リスクは、それぞれTAF/FTC投与群で39.1(CI、31.8~47.6)、TDF/FTC投与群で16.9(CI、10.5~25.9)、ABC/3TC投与群で28.3(CI、21.5~36.7)、その他のレジメン投与群で29.7(CI、22.6~38.4)であった。TDF/FTCを受けた患者でICUに入院した患者や死亡した患者はいなかった。比較対象として、同期間のスペインの20~79歳の一般集団では、COVID-19の診断リスクは1万人あたり41.7人(医療従事者を除くと1万人あたり33.0人)であり、死亡リスクは1万人あたり2.1人であった。というものであり、このコホート研究からはやはり「ART中、特にTDF/FTCを飲んでいるHIV感染症患者ではリスクが多少低くなるかもしんまい!」ということが言えそうです。現在、TDF/FTCを内服していた患者は腎臓や骨への副作用が少ないTAF/FTCへの切り替えが行われていることが多いと思いますが、思いがけずTDF/FTCの方が優れた結果になっていますが、これはTDFの方がTAFよりも血漿中および細胞外濃度が高いためではないかと考えられます(もともとTAFはTDFよりも効率的にリンパ球などの標的細胞に取り込まれるというのがTAFのメリットだったわけですが)。ARTを受けていない患者では、非HIV感染者と比較してどうかはこの研究からはわかりません。結論はまだ出ていないこうなってくると、HIV感染症じゃない人もCOVID-19予防効果を期待してTDF/FTCを内服したいという人が出てきそうですが、これはあくまでコホート研究ですので、一時期のトランプ大統領のように結果的に「ヒドロキシクロロキン、やっぱ効果ありませんでした」みたいな結果にならないとも限りませんし、スペインの単施設の研究ではテノホビルを内服していた方がCOVID-19に罹患しやすかったという真逆の結果の報告も出ています6)ので、とりあえず今行われているRCTの結果を待ちましょう。ちょっと1年半ぶりで気合が入りすぎてしまったかもしれません。次回からはもう少し適当に書きたいと思います。それでは(たぶん)また2週間後にお会いしましょう!1)Nakamoto T, et al. J Med Virol. 2020;10.1002/jmv.26102. doi: 10.1002/jmv.26102.2)de WildeAH, et al. Antimicrob Agents Chemother. 2014;58:4875-4884.3)Cao B, et al. N Engl J Med. 2020;382:1787-1799. 4)Park SJ, et al. mBio. 2020;11:e01114-20.5)Del Amo J, et al. Ann Intern Med. 2020. doi: 10.7326/M20-3689.6)Vizcarra P, et al. Lancet HIV. 2020;S2352-3018(20)30164-30168.

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第16回 COVID-19食い止めにT細胞が貢献?/ジャーナル購読の莫大な費用をソフトウェア解析で節約

COVID-19食い止めにT細胞が貢献か?抗体検査のみでは感染者数過小評価の恐れ新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)への抗体は検出されずともT細胞は検出される場合があり、抗体検査だけではその感染(COVID-19)者数を少なく見積もってしまう恐れがあります1)。また、SARS-CoV-2への曝露があっても軽症か発症しないケースではT細胞が貢献しているかもしれません2)。フランスの7家族を調べた試験の結果1)、SARS-CoV-2感染者と密に接したその家族8人のうち6人からはSARS-CoV-2へのT細胞が検出されましたが抗体は見つかりませんでした。スウェーデンの約200例を調べた試験では無症状か軽症のSARS-CoV-2感染者のほとんどから強いメモリーT細胞反応が検出され、それらのT細胞反応獲得者に抗体反応が欠如していることは稀ではありませんでした3)。SARS-CoV-2に曝露か感染すれば抗体がどうあれ重度COVID-19を防げるようになる可能性があるようです。また、メモリーT細胞反応は抗体反応より2倍多く認められ、抗体検査頼りだとSARS-CoV-2に対抗する免疫がどれだけ広まっているかを少なく見積もってしまうようです。SARS-CoV-2へのT細胞反応は風邪症状を引き起こす別のコロナウイルスへの感染によって備わるらしいことも示されています4)。目下のCOVID-19流行からだいぶ前の2015~18年に採取されて保管されていた血液検体を調べたところ約半数にSARS-CoV-2を認識するヘルパーT細胞が備わっていました。風邪を引き起こす4つのヒトコロナウイルスのいずれかに感染したことでSARS-CoV-2も認識しうるT細胞が発生したのだろうとLa Jolla Instituteの研究チームは考えています。そのチームはCOVID-19から回復した10人の全員からSARS-CoV-2スパイクタンパク質を認識するヘルパーT細胞が検出されたことも併せて報告しています。また、スパイクタンパク質以外のタンパク質に反応するヘルパーT細胞も検出されました。現在開発中のワクチンのほとんどはスパイクタンパク質への免疫反応を誘発することを目指しています。しかしもっと欲張った方が良さそうです。他のタンパク質に反応するヘルパーT細胞が今回確認されたことから察するに、それらのタンパク質へも免疫系を駆り立てるワクチンはいっそう有効かもしれません。1つのタンパク質だけにぞっこんにならない方が良いと米国ノースカロライナ大学の分子微生物学者Rachel Graham氏はScience誌に話しています5)。ジャーナル購読の莫大な費用をソフトウェア解析で節約可能に?今年2020年4月にニューヨーク州立大学(SUNY)はオランダの巨大出版会社Elsevier(エルゼビア)との値が張る一括購読契約を打ち切り、248雑誌の購読を中心とするこじんまりとした契約に切り替えました6)。SUNYはその絞り込みで年間購読料を500~700万ドルも減らせる見込みです。Science誌のニュースによるとUnsubというソフトウェアがその絞り込みを手伝いました7)。SUNYがそれまで年間およそ900万ドルを払っていた2,200ものElsevier発行雑誌の10分の1ほどの248雑誌を年間200万ドル払って購読すればSUNYの64施設の研究者は今後5年間に読むであろうElsevier出版論文の約7割を制限なく入手できるとUnsubは推定しました。UnsubはSUNYのそれぞれの図書館の雑誌利用データを解析し、SUNYの施設や学生がすでに無料で利用できるネット上の論文を考慮してそう推定しました。SUNYは支払いを続ける必要がある雑誌を独自に見繕い、その一覧はUnsubが打ち出した一覧と一致していました。Unsubは一大技術であり、おかげで大学の図書館がもはや大金を注ぎ込まずとも機能を保ってやっていけると分かったとSUNY図書館の運営戦略リーダーMark McBride氏は言っています。Unsubは2017年に誕生したUnpaywallというツールを発展させて去年2019年11月に発売されました。Unsubの前身のUnpaywallはネットから無料の論文を探し出し、合法的に支払いを回避して目当ての論文を読めるようにするものです。Unpaywallの欠点を解消して出来上がったUnsubの年間使用料は1,000ドルであり、Unsubを販売する学術支援企業Impactstoryの設立者の1人・Jason Priem氏によるとすでに300の図書館がUnsub使用を決めています。SUNYが踏み切ったような巨額契約打ち切りがこの夏には増え、図書館は交渉力を取り戻すことになるだろうとPriem氏は言っています。SUNYが新たな契約の下で手に入れうる論文のうちおよそ30%はオープンアクセスなのですでに無料で読むことができ、25%はSUNYが何年か契約を続けたことで入手可能です。新たな契約の下で入手不可能な論文はどうするかというと、SUNYのそれぞれの施設ごとに必要な雑誌を個別購読したり他の図書館から一時的な閲覧権を購入して読めるようにします。また、論文の単品購入もあります。それらの追加出費を含めても新たな契約は余りある節約をもたらすと前述のMcBride氏は言っています。顧客の好みがどうあれ高品質な出版物をお値打ち価格で公平にいらつかせず提供することに変わりはないとElsevierの広報担当者はScience誌に話しており、Unsubが台頭したところで同社は特に何か手を打つつもりはないようです。ところでUnsubと似た目的の1figrというソフトがあったのですが、その販売会社1Scienceとその親会社Science-MetrixがElsevierに取得された後に残念ながら姿を消しました。参考1)Intrafamilial Exposure to SARS-CoV-2 Induces Cellular Immune Response without Seroconversion. medRxiv. June 22, 20202)Scientists focus on how immune system T cells fight coronavirus in absence of antibodies / Reuters 3)Robust T cell immunity in convalescent individuals with asymptomatic or mild COVID-19. bioRxiv. June 29, 2020 4)Grifoni A, et al. Cell. 2020 Jun 25. [Epub ahead of print]5)T cells found in COVID-19 patients ‘bode well’ for long-term immunity / Science 6)State University of New York Steps Away From the “Big Deal” with Elsevier 7)This tool is saving universities millions of dollars in journal subscriptions / Science

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COVID-19でみられる後遺症は?/JAMA

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)では、回復後もなお、しつこく残るだるさや息苦しさを訴えるケースが多くみられるが、その実態は不明である。イタリア・ローマの大学病院Agostino Gemelli University PoliclinicのAngelo Carfi氏ら研究グループは、COVID-19回復後に退院した患者の持続的な症状について追跡調査を行った。その結果、COVID-19発症から約2ヵ月の時点においても87.4%の患者が何らかの症状があることがわかった。COVID-19を巡っては、これまでもっぱら急性期に焦点を当てて研究や分析が進められてきたが、著者らは、退院後も継続的なモニタリングを行い、長期に渡る影響についてさらなる検証を進める必要があるとしている。JAMA誌2020年7月9日号リサーチレターでの報告。 本研究では、2020年4月21日~5月29日までの間に、COVID-19から回復し、退院した患者179例が対象となった。このうち、研究への参加を拒否した14例およびPCR検査陽性の22例を除く143例の患者について追跡調査を実施した。COVID-19の急性期における症状の有無を遡及的に再評価し、各症状が調査時も持続しているか尋ねた。また、患者自身にCOVID-19の前および調査時のQOLを0(最低)~100(最高)のスコアで評価してもらった。  主な結果は以下のとおり。・患者143例の平均年齢は56.5(SD 14.6)歳(範囲:19~84歳)、男性90例(63%)で女性53例(37%)だった。・COVID-19症状発現から平均60.3(SD 13.6)日後に患者を評価したところ、評価時点で無症状だったのは18例(12.6%)で、患者の32%は1~2つの症状があり、55%は3つ以上の症状が見られた。・患者の44.1%でQOLの低下が見られ、とくに倦怠感(53.1%)、呼吸困難(43.4%)、関節痛(27.3%)、胸痛(21.7%)を訴える人の割合が高かった。このほか、咳、臭覚の異常、ドライマウス/ドライアイ、鼻炎、目の充血、味覚の異常、頭痛、喀痰、食欲不振、咽頭痛、めまい、筋肉痛、下痢といった症状を訴える患者もいた。・本研究では、COVID-19から回復した患者の87.4%が何らかの症状を有していた。 著者らは、143例という比較的少数の患者による単一施設の研究であること、ほかの理由で退院した患者の対照群がないことなど研究の限界として挙げ、これらの所見が必ずしもCOVID-19によるものとは限らない可能性があるとしている。

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第15回 医師過労死の長崎みなとメディカル、控訴から一転和解へ

<先週の動き>1.医師過労死の長崎みなとメディカル、控訴から一転和解へ2.日本医師会、「骨太の方針2020」(原案)に対する3つの懸念3.情報ギャップを解消し、信頼できる医療情報へのアクセスを支援/Google4.コロナに直面する医療機関の経営支援を!超党派議連が発足5.がん疑い3例、診断遅れによる死亡を旭川医科大学病院が公表1.医師過労死の長崎みなとメディカル、控訴から一転和解へ長崎市立病院機構・長崎みなとメディカルセンターに勤務して過労死した医師の遺族が損害賠償を求めていた裁判で、病院側に1億7,000万円の支払いを命じた1審判決に対し、控訴を取り下げ、和解することとなった。今回、過労死を認めないとの方針を大きく変えたのは、理事長、病院長の交代を機にメンバーが一新された理事会において、当時、過労死水準をはるかに超える異常な長時間労働に当該医師が従事していたことを大学側が認め、遺族との和解に至った。医師の働き方改革により、2024年4月以降は医師の時間外労働の上限規制が強化される。病院の勤務医に限らず、労働者の働き方改革については大きな関心が寄せられており、今回の動きはほかの医療機関にも大きく影響を与えると考えられる。(参考)当院の医師の過労死事案について(長崎みなとメディカルセンター)医師の働き方改革について(厚生労働省医政局 医療経営支援課)2.日本医師会、「骨太の方針2020」(原案)に対する3つの懸念日本医師会の中川会長は、政府が現在取りまとめに動いている「骨太方針2020」の原案について、「薬価調査・薬価改定」、「医療機関経営」、「オンライン診療」の主に3点に関する見解を10日に取りまとめた。薬価調査・薬価改定については、新型コロナで予断を許さない状況下、製薬企業や医薬品卸の営業が医療機関にほとんど訪問できていないため、薬価調査を実施できる環境ではないとしている。また、医療機関の経営状態については、コロナ感染拡大に伴い、受診抑制など深刻な影響が出ており、新型コロナウイルス感染症重点医療機関などを支えるための支援も不可欠とし、追加支援を求めている。最後に、オンライン診療についても、原文に「診察から薬剤の受け取りまでオンラインで完結する仕組みを構築する」とあることに対し、ただちに現状と平時の対面診療とを比較できるわけでないため、合意形成しながらの仕組み構築を要望した。(参考)「経済財政運営と改革の基本方針2020(仮称)」(原案)について(日本医師会)3.情報ギャップを解消し、信頼できる医療情報へのアクセスを支援/Google検索エンジン大手Googleは、信頼できる医療情報へのアクセスを支援するために、新たなツール「Question Hub (クエスチョンハブ)」を設け、7日から運用を開始した。これは、ユーザーが適切な情報にたどり着けていないと考えられる検索キーワードを自動的に収集し、表示するもの。今回はβ版として、新型コロナウイルス感染症に関する未回答のキーワードを集め、医療従事者および専門家、メディカルノート、メドレーのプロジェクトチームと協力することで、情報ギャップの解消を目指す。(参考)より信頼できる医療情報へのアクセスを(Google Japan Blog)4.コロナに直面する医療機関の経営支援を!超党派議連が発足7日、有志の国会議員による「コロナと闘う病院を支援する議員連盟」の設立総会が開かれた。新型コロナウイルス感染拡大により、経営が悪化している医療機関への財政的な支援を求める目的で設立された。当日は会場に100名以上の国会議員、秘書などが集まった様子が、参加した議員などから報告されている。今後は日本医師会、日本病院協会からヒアリング、病院の視察など実施し、具体的には省庁予算概算要求の前の8月までに提言の形で政府に申し入れをする見込み。メンバーは自民党、公明党、立憲民主党、国民民主党、日本維新の会以外にも超党派のメンバーにより形成され、共同代表に中谷 元氏(自民党)、富田 茂之氏(公明党)、羽田 雄一郎氏(国民民主党)が選ばれ、幹事長には増子 輝彦氏(国民民主党)が就いた。(参考)超党派「コロナと闘う病院を支援する議員連盟」(仮称)の設立趣意書(案)5.がん疑い3例、診断遅れによる死亡を旭川医科大学病院が公表10日に、旭川医科大学病院が開催した記者会見において、がんが疑われた8人の患者のうち、診断が遅れて3人が死亡していたことが発表された。大学側によると「がん疑い」の画像診断報告書がありながら、主治医に共有されていなかったことが原因であったとし、今後は医師の確認漏れを防ぐために、未読の報告書があれば、自動的に通知が届く新たなシステムを導入するなど再発防止に努めるという。日本医療機能評価機構によれば、医師が画像診断の報告書などを確認しないまま、病気を見逃して治療が遅れたケースは、2012年から8年間で125件報告されている。厚労省は、2019年12月に「画像診断報告書等の確認不足に対する医療安全対策の取組について」として、「医療安全に資する病院情報システムの機能を普及させるための施策に関する研究」の事務連絡を医政局総務課医療安全推進室より発出している。(参考)旭川医大病院 診断遅れで陳謝(NHK)「画像診断報告書の確認不足(第2報)」(医療安全情報No.138)(日本医療機能評価機構)「医療安全に資する病院情報システムの機能を普及させるための施策に関する研究」報告書資料(厚労省)

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COVID-19、市販の抗体検査の診断精度は?/BMJ

 カナダ・Research Institute of the McGill University Health CentreのMayara Lisboa Bastos氏らは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の血清検査(抗体検査)の診断精度をシステマティックレビューおよびメタ解析により検証し、現在のエビデンスでは既存のポイントオブケア(迅速)抗体検査の使用を継続することは支持されないと報告した。著者は、「COVID-19抗体検査の診断精度を評価する質の高い臨床試験が早急に必要」と強調している。抗体検査は急速に普及してきており、多くが迅速検査として市販されているが、これら抗体検査の診断精度に関するエビデンスは、正式に評価されていなかった。BMJ誌2020年7月1日号掲載の報告。抗体検査の診断精度をメタ解析で評価 研究グループはMedline、bioRxiv、medRxivを用いて、2020年1月1日~4月30日の期間に発表された、COVID-19の概念および抗体検査に関する単語を見出しまたは小見出しに含む論文を検索した。 適格基準は、COVID-19抗体検査の感度または特異度、あるいはその両方を、標準試料のウイルス培養または逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)検査と比較した研究とし、5例または5検体未満の研究は除外した。QUADAS-2(Quality Assessment of Diagnostic Accuracy Studies 2)を用いてバイアスリスクを評価し、併合した感度と特異度はランダム効果二変量解析を用いて推定した。 主要評価項目は、抗体検査法(酵素結合免疫吸着測定法[ELISA]、ラテラルフローイムノアッセイ[LFIA]、化学発光免疫測定法[CLIA])と免疫グロブリンクラス(IgG、IgM、または両方)で層別化した感度および特異度。副次評価項目は、研究あるいは患者特性(発症からの期間など)で定義されたサブグループ内における感度および特異度であった。迅速抗体検査の市販キットの感度は65.0% 5,016報が特定され、40件の研究が解析に組み込まれた。バイアスリスクについては、母集団および方法を含め49の評価が行われ、患者の選択バイアスは98%(48/49評価)が高リスク、性能または解釈のバイアスは73%(36/49評価)が高リスクまたは不明であった。外来患者も対象とした研究は10%(4/40件)のみで、迅速抗体検査を評価した研究は2件のみであった。 各検査法の感度と特異度は、免疫グロブリンクラスと関連しなかった。抗体検査の感度は、ELISA法(IgGまたはIgM測定)が84.3%(95%信頼区間[CI]:75.6~90.9)、LFIA法が66.0%(49.3~79.3)、CLIA法が97.8%(46.2~100)であった。すべての解析において、感度は迅速抗体検査であるLFIA法で低下した。特異度の範囲は、96.6~99.7%であった。 特異度の推定に用いられた検体のうち、83%(1万465/1万2,547例)がCOVID-19の流行前または疑いがない集団からの検体であった。LFIA法の中でも、市販の抗体検査キットの感度(65.0%、95%CI:49.0~78.2)は、非営利の検査よりも低値であった(88.2%、83.6~91.3)。 すべての解析で異質性が認められ、感度は、発症後1週以内(13.4~50.3%)と比較して発症後3週以上(69.9~98.9%)で高かった。

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第14回 尾身副座長すら寝耳に水だった?急転直下の専門家会議廃止の裏側

政府の「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」(以下、専門家会議)が廃止され、代わりに新設された「新型コロナウイルス感染症対策分科会」(以下、分科会)が7月6日、初会合を開いた。一連の背景には、担当大臣のスタンドプレーや経済活動を優先したい官邸の思惑もあり、果たして分科会が有効に機能するかどうかは疑問だ。廃止の一報が流れたのは、6月24日、専門家会議の尾身 茂副座長らがまさに日本記者クラブで会見中のことだった。席上、記者から質問された尾身氏が「知りませんでした」と答え、多くの人に奇異な印象を与えた。同じ時間帯に、別の会見で廃止を発表した西村 康稔・経済再生相兼新型コロナ対策担当相は、「唐突」などと与野党から批判を受け、「『廃止』と強く言い過ぎたことを反省している。十分に説明できず申し訳ない」と陳謝。首相の座を目指す西村大臣の“スタンドプレー”が明らかとなる一幕であった。専門家会議は、政府の新型インフルエンザ感染症対策本部の下、医学的な見地から適切な助言を行うことを目的に、2月に設けられた。「3密」「オーバーシュート」「ロックダウン」などの言葉も専門家会議から広がり、新型コロナ対策で大きな影響を与えた。一方で、議事録を作成していなかったことなど、多くの批判にもさらされた。専門家会議を前面に出し、責任回避とも取れる西村大臣の言動も影響していると思われる。特定業種名を挙げたクラスター情報も発信していたことから、ある構成員は「身の危険を感じる人もいた」と打ち明ける。このような経緯も踏まえ、専門家会議は6月24日の会見で、「あたかも専門家会議が政策を決定しているような印象を与えた」と振り返り、「政府との関係性を明確にする必要がある」と提言。それを制するかのように、西村大臣は「廃止」を公表したのだった。西村大臣は以前、感染症や公衆衛生の専門家が中心の同会議に、経済の専門家を入れるよう打診したが、断られた。一方、分科会には感染症の専門家や医療関係者だけでなく、経済学者や県知事、政権に近い新聞社の役員なども構成員となっている。また、新型インフルエンザ等対策閣僚会議の下、特別措置法を根拠とする有識者会議の分科会として発足しており、責任や権限の範囲も明確になった。分科会は経済活動を優先したい首相にとって、専門家会議より都合の良い組織に衣替えした。しかし、経済活動を優先するあまり、新型コロナ対策の科学的知見が軽視される懸念はないだろうか。東京を中心に感染者数が大きく右肩上がりになっている昨今。分科会が医学的見地をなおざりにした結果、収束が遠のいたなんていうことになれば、本末転倒という以外の何物でもない。

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COVID-19重症例、フサン+アビガンで臨床症状が改善/東大病院

 2020年7月6日、東京大学医学部附属病院は医師主導の多施設共同研究である『集中治療室(ICU)での治療を必要とした重症新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するナファモスタットメシル酸塩(以下、ナファモスタット[商品名:フサン])とファビピラビル(商品名:アビガン)による治療』の成績について発表した。それによると、治療対象者11例(男性:10例、女性:1例、年齢中央値:68歳)のうち10例で臨床症状の軽快が見られた。また、回復症例は人工呼吸器使用が7例、うち3例がECMOを要したが、16日(中央値)で人工呼吸器が不要となった」ことが明らかになった。本研究成果はCritical Care誌2020年オンライン版7月3日号に掲載報告された。 東京大学医学部附属病院救命救急センター・ER准教授の土井 研人氏らが5月8日に実施を発表した本研究(国内8施設で実施)では、ナファモスタットとファビピラビルをICU管理が必要なCOVID-19の重症患者11例(2020年4月6日〜21日に入院)に投与し、臨床経過について観察を行った。11例のうち8例は人工呼吸器を、うち3例でECMOを使用した。ナファモスタットの点滴静注を0.2mg/kg/時で14日間投与(中央値)、ファビピラビルの内服を初日3,600mg/日、2日目から1,600mg/日で14日間(中央値)投与した。 研究者らは今回の結果に対し、「新型コロナウイルス抑制に対するナファモスタットとファビピラビルの異なる作用機序、ナファモスタットの抗凝固作用の有効性が示唆された。ファビピラビル単独での効果について、現時点では国内臨床研究の結果が報告されていない。そのため、ナファモスタット単独の効果、ナファモスタットとファビピラビル併用効果の両方が考えられ、今後の臨床研究の必要性を示唆する結果」としている。

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