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米国Moderna社の新型コロナワクチン、サルでの有効性確認/NEJM

 開発中の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチン「mRNA-1273」は、非ヒト霊長類において、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の中和活性と上気道・下気道の速やかな保護を誘導し、肺組織の病理学的変化は認められなかった。米国・ワクチン研究センターのKizzmekia S. Corbett氏らが、アカゲザルにおけるmRNA-1273の評価結果を報告した。mRNA-1273は、SARS-CoV-2の膜融合前安定化スパイクタンパク質をコードするmRNAワクチンで、第I相試験を含むいくつかの臨床試験において安全性および免疫原性が確認されているが、上気道・下気道でのSARS-CoV-2増殖に対するmRNA-1273の有効性を、ヒトと自然免疫やB細胞・T細胞レパートリーが類似している非ヒト霊長類で評価することが重要とされていた。NEJM誌オンライン版2020年7月28日号掲載の報告。mRNA-1273の2用量を4週間間隔で2回筋肉内投与し有効性を評価 研究グループは、米国国立衛生研究所(NIH)の規定を順守し、ワクチン研究センターの動物実験委員会(Animal Care and Use Committee of the Vaccine Research Center)ならびにBioqualの承認を得て本試験を実施した。 インド原産アカゲザル(雄と雌各12匹)を3群に割り付け(性別、年齢、体重で層別化)、0週目および4週目にmRNA-1273の10μg、100μgまたはリン酸緩衝生理食塩水1mL(対照)を右後脚に筋肉内投与した。その後、8週目に、すべてのサルにSARS-CoV-2(合計7.6×105PFU)を気管内および鼻腔内投与した。 抗体およびT細胞応答をSARS-CoV-2投与前に評価するとともに、PCR法を用いて気管支肺胞洗浄(BAL)液および鼻腔スワブ検体中のウイルス複製とウイルスゲノムを評価し、肺組織検体にて病理組織学的検査とウイルス定量化を実施した。高い免疫応答の誘導と感染抑制効果を確認 mRNA-1273を2回投与後4週時の生ウイルス中和抗体価幾何平均値(reciprocal 50% inhibitory dilution:log10)は、10μg投与群で501、100μg投与群で3,481であり、ヒトの回復期血清のそれぞれ12倍および84倍高値であった。ワクチン投与によって、1型ヘルパーT細胞(Th1)に依存したCD4 T細胞応答が誘導されたが、Th2またはCD8 T細胞応答は低いかまたは検出できなかった。 10μg投与群および100μg投与群のいずれも8匹中7匹で、SARS-CoV-2投与2日目にはBAL液中のウイルス複製が検出されず、100μg投与群の8匹は、SARS-CoV-2投与2日目には鼻腔スワブ検体でもウイルス複製が検出されなかった。また、いずれのワクチン投与群も、肺検体における炎症、検出可能なウイルスゲノムや抗原は限られていた。

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PCR拡充へ緊急提言、医師判断で迅速に実施可能な体制に/日本医師会

 日本医師会は8月5日付で、医師が必要と認めた場合に確実にPCR検査や抗原検査を実施できるよう、国に対しその実現について強く求める7項目の提言を公表した。背景として、複数の都道府県において過去最高の1日当たり新規感染者数を更新する中、夏季休暇などで移動の増加が予想され、全国的にさらなる感染拡大が懸念されること、行政検査の委託契約プロセスの煩雑さから、現行の枠組みを維持しながら検査能力を向上させるには限界があることを指摘している。希望者全員への検査を求めるものではなく、あくまで医師の判断を前提 同日行われた定例記者会見で、釜萢 敏常任理事はまず、不安を感じて検査を受けたいという人全員に実施できることを求めるものではなく、あくまで医師が必要と判断した場合に検査が適切に実施されるよう求めるものであることを強調。そのうえで、検査体制の整備状況は地域によって大きな差が出ており、厚生労働省からは行政検査の委託契約の簡素化を進める事務連絡等が発出されているが、この契約にかかる手続きの煩雑さが全国的な検査拡充の足かせになっていると指摘した。 提言では、新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HER-SYS)1)を活用し、陽性陰性を問わず全数報告を要件とする新たな仕組み2)により、検査にまつわる患者一部負担を公費で措置することを提案。PCR等検査時に患者一部負担は発生せず、その相当分の支払いを医療機関等が請求するには、都道府県等との委託契約が必要となる現行の仕組みを改善すべきとしている。提言7項目の改善を強く求めていく姿勢 中川 俊男会長は、感染は全国的に急速な広がりを見せており、必要な検査を可能なかぎり迅速に実施することが感染拡大防止につながるとし、医師が必要と判断したら、症状の有無にかかわらず検査が実施されるべきと強調した。医師の判断でスムーズに検査が実施されている地域と、制限のある地域に全国で大きな温度差があり、現行制度の枠組みを維持しながら全国的に検査能力を向上させるのは、「限界に達している」とした。 提言の7項目を改善することで、飛躍的に検査能力を上げることができるのではないかと話し、国に対してこの改善を強く求めていく姿勢を明らかにした。「新型コロナウイルス感染症の今後の感染拡大を見据えたPCR等検査体制の更なる拡大・充実のための緊急提言」1.保険適用によるPCR等検査の取り扱いの明確化 保険適用によるPCR等検査については、行政検査の委託契約締結が無くとも実施可能であることをあらためて明確化すること。 また、当該検査の実施料、判断料に係る患者一部負担金を公費で措置すること。2.検体輸送体制の整備 PCR等検査実施医療機関の拡大に対応可能な検体輸送体制を人的・物的両面から整備すること。その際、検体梱包・輸送等に係る費用の補助を行うこと。3.PCR等検査に係る検査機器の配備 新型コロナウイルス感染症対策の緊急性に鑑み、全国各地にPCR検査機器を大幅に増設すること。4.臨床検査技師の適切な配置 PCR等検査の実施にあたり、検査機関に検査に対応できる臨床検査技師を適切に配置すること。5.公的検査機関等の増設 検査対応能力の向上のため、民間検査機関に加え、各地域に公的検査機関等を増設すること。6.PCR等検査受検者への対応体制の整備 検査が終了し、検査結果が出るまでの受検者の待機場所を整備すること。さらに、陽性(軽症者、無症状者)の療養場所としての施設を整備すること。7.医療計画への新興・再興感染症対策の追加 都道府県が策定する医療計画の5疾病5事業に新興・再興感染症対策を速やかに追加すること。

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新型コロナ感染症、ARDSの新たな機序の発見?(解説:山口佳寿博氏)-1265

 本論文は、新型コロナ(SARS-CoV-2)に罹患し肺炎、ARDSを基礎とした重篤な呼吸不全のために死亡した7症例の肺組織を用いて病理・形態像(光顕、走査電顕、微小CT画像、免疫組織化学)ならびに血管増生に関与する323個の遺伝子の発現動態を解析したものである。比較として、A型インフルエンザ(AH1N1)で死亡した症例の肺(7例)と正常肺(10例、肺移植に使用されなかった肺)を用いて上記と同様の解析が施行された。SARS-CoV-2、AH1N1肺の基本病理像はDAD(diffuse alveolar damage)であったが、肺重量はAH1N1で重くSARS-CoV-2肺の1.4倍であった。すなわち、AH1N1肺では血液成分の漏出に起因する肺水腫がより著明であることが示唆された。免疫組織化学による肺胞上皮細胞、肺毛細血管細胞におけるACE2(angiotensin-converting enzyme 2:SARS-CoV-2の受容体でウイルスのS1-RBD[S1領域のreceptor binding domain]と結合)の発現は、正常肺に比べSARS-CoV-2、AH1N1肺で有意に増加していたが、AH1N1肺で最も著明であった。AH1N1の受容体はヒト型シアル酸でウイルスの血球凝集素(HA:hemagglutinin)と結合しACE2とは無関係である。にもかかわらず、AH1N1肺でACE2の発現が増加していたことは興味深い知見である。ARDSは非特異的にACE2の発現を抑制すると報告されてきたが(Patel AB, et al. JAMA. 2020 Mar 24. [Epub ahead of print])、本研究はそれと逆の結果を示しており、どちらが正しいのか、さらなる検討が必要である。CD8陽性T細胞はAH1N1肺で、CD4陽性T細胞はSARS-CoV-2肺で有意に増加していた。しかしながら、これらT細胞の違いがSARS-CoV-2とAH1N1のいかなる病態の差異に結び付いているかに関しては議論されていない。 本研究で最も価値ある解析は、血管内皮細胞傷害と微小血管病変に対する電子顕微鏡的、分子生物学的アプロ-チである。SARS-CoV-2肺では、血管内皮細胞内にウイルスが包埋され、一次性血管内皮細胞炎(endothelialitis)の所見を呈した。それと関連し、広範囲な肺循環(筋性肺動脈、前毛細管性肺細動脈、肺毛細血管、後毛細管性肺細静脈)で血栓形成を認めた。さらに、これらの血管病変には著明な血管増生(angiogenesis)が随伴していた。SARS-CoV-2肺の血管増生はAH1N1肺に比べ2.7倍強く、入院期間が長いほど血管増生の程度は強くなった。一方、AH1N1肺における血管増生は入院期間と無関係にほぼ一定に維持されていた。血管増生に関与する323個の遺伝子解析では、69個の遺伝子がSARS-CoV-2肺のみで変化(upregulation or downregulation)、26個の遺伝子がAH1N1肺のみで変化、45個の遺伝子が両肺で変化していた。すなわち、SARS-CoV-2肺で35%、AH1N1肺で22%の血管増生関連遺伝子が変化しており、SARS-CoV-2感染肺においてより強い血管増生が発生していることを支持する知見であった。 以上の結果は、SARS-CoV-2による重篤な肺病変(ARDS)の主体は、一次性のウイルス誘発性endothelialitisとそれに伴うangiogenesisであり、従来報告されていなかった新たなARDS発生機序を示唆するものである。重篤なendothelialitisはARDSの1つの特徴である肺循環の低酸素性肺血管攣縮麻痺(paralysis of hypoxic pulmonary vasoconstriction)をより強く発現させ、右-左血流シャントを増加、重篤な低酸素血症を惹起するものと予想される(Som A, et al. N Engl J Med. 2020 Jul 17. [Epub ahead of print])。すなわち、SARS-CoV-2由来の低酸素血症は他の原因によるARDSよりも重篤でECMOなどを用いた高度の呼吸管理が必要になることを示している。 本論文の結果は、十分に説得力のある内容であるが反対論文も散見される。SARS-CoV-2感染で死亡した14例の全臓器剖検例の検討で、Bradleyらは(Bradley BT, et al. Lancet. 2020 Jul 16. [Epub ahead of print])、14例中5例で肺微小血管に血栓を認めたものの肺を含む全臓器でendothelialitisを同定できた症例は1例もなかったと報告している。本論文は、SARS-CoV-2にあって最も重要な肺病変(ARDS)に関して新たな分子生物学的概念を提示したが、基本となるendothelialitisの存在については議論があるところであり、さらなる検討が望まれる。

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COVID-19パンデミック時の不安やうつ症状の有症率とその予測因子

 COVID-19による世界的なパンデミックの効果的なマネジメントのため、厳格な移動制限の実施とソーシャルディスタンスを保つことが求められている。キプロス大学のIoulia Solomou氏らは、一般集団におけるCOVID-19パンデミックの心理社会学的影響を調査し、メンタルヘルスの変化を予測するリスク因子と保護因子の特定を試みた。また、ウイルス蔓延を阻止するための予防策の準拠についても調査を行った。International Journal of Environmental Research and Public Health誌2020年7月8日号の報告。 社会人口統計学的データ、予防策の準拠、QOL、全般性不安障害尺度(GAD-7)およびこころとからだの質問票(PHQ-9)を用いたメンタルヘルスの状態を、匿名のオンライン調査で収集した。 主な結果は以下のとおり。・調査を完了した参加者は、キプロス島在住の成人1,642人(女性の割合:71.6%)。・重大な経済上の懸念が報告されたのは48%、QOLの有意な低下が認められたのは66.7%であった。・不安に関連する症状は、軽度が約41%、中等度~重度が23.1%報告された。・うつ病に関連する症状は、軽度が48%、中等度~重度が9.2%報告された。・不安やうつ病のリスク因子は、女性、若年(18~29歳)、学生、失業、精神疾患の既往歴、QOLへの悪影響の大きさであった(p<0.05)。・予防策の準拠レベルは、最も若い年齢層および男性で低かった。・予防策の準拠レベルが高いほど、うつ病スコアの低下が認められたが(p<0.001)、個人的な衛生状態の維持に関する不安は増加した。 著者らは「本研究により、COVID-19アウトブレイクがメンタルヘルスやQOLに及ぼす影響が明らかとなった。政策立案者は、効果的なメンタルヘルスプログラムおよび公衆衛生戦略としての予防策を実施するためのガイドラインを検討する必要がある」としている。

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インフルとCOVID-19同時流行の対策提唱/日本感染症学会

 2020年8月3日、日本感染症学会は『今冬のインフルエンザとCOVID-19に備えて』の提言を学会ホームページ内に公開した。 新型コロナウイルスの流行を推測した研究によると、この冬、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の大流行が予測されており、とくにインフルエンザの流行期と重なることで、重大な事態になることが危惧されている。また、インフルエンザとの混合感染は、COVID-19入院患者の4.3~49.5%に認められている1、2、3)。 そのため、本提言は、石田 直氏(インフルエンザ委員会委員長/倉敷中央病院)をワーキンググループ委員長に迎え、インフルエンザおよびCOVID-19の専門家、医師会の角田 徹氏(東京都医師会副会長/角田外科消化器科医院 院長)や釜萢 敏氏(日本医師会常任理事/小泉小児科医院 院長)が参加して作成された。開業医の視点を取り入れながら議論が進められており、検査の進め方については、両感染症の鑑別を第一とする原則を重視しながらも、流行行状況や感染者との接触、あるいは特徴的な臨床症状を考え、強く疑う感染症の検査を優先する考え方も提唱されている。 掲載内容は以下のとおり。――――――――――――――――――――――――――――I はじめにII インフルエンザとCOVID-19― インフルエンザとCOVID-19の相違(表1)― COVID-19流行レベルの定義の目安(表2)III 検査について  ―各流行レベルにおけるSARS-CoV-2検査の適応指針の目安(表3)  ―個人防護具の使用(表4)  ―鼻かみ液の使用について  ―唾液の使用について  ―鼻前庭検体の取り扱いについて   COVID-19およびインフルエンザを想定した外来診療検査のフローチャート(図)IV 治療について  ―薬剤感受性サーベイランスについて  ―バロキサビルと変異ウイルスについて  ―抗インフルエンザ薬についてV ワクチンについて小児(特に乳幼児〜小学校低学年) 2020-2021VI 基本的な考えVII 診断・検査-総論VIII 検査診断の実際  ― COVID-19流行レベルの定義の目安(表5)  ― 各流行レベルにおける SARS-CoV-2 迅速診断キット(供給状況により核酸増幅検査)の適応指針の目安(表6)  ― 施設別の検体採取部位・検体採取場所・PPE の目安(1)[感染リスクだけではなく、流行状況や診療効率を含めた総合的判定](表7-1)  ― 施設別の検体採取部位・検体採取場所・PPE の目安(2)[感染リスクだけではなく、流行状況や診療効率を含めた総合的判定](表7-2)IX 治療の実際―――――――――――――――――――――――――――― なお、本提言は7月時点での情報をもとに作成しており、検査法に関する新しい技術やエビデンスの発表を受けて適宜改訂される予定。

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COVID-19特別インタビュー 東京都の検査・トリアージ体制、最新状況と今後の見通しは?

抗原検査や唾液検体が使えるようになり検査の選択肢が広がる中、一般診療の現場ではどのような考え方で目の前の患者さんをトリアージしていくべきか。そして各医療機関は地域の検査体制にどのようにつながっていけばよいのだろうか。東京都では6月下旬からの感染者の再増加を受け、直近では最大約5,000件/日のPCR検査を実施している。検査体制の整備と検査実施の最新状況、そして今後の見通しについて、東京都医師会副会長の角田 徹氏に聞いた。PCRセンターの稼働状況など、現在の東京都の検査実施体制はどうなっていますか?東京都では5月以降、都内に47ある地区医師会を中心に、各地域でのPCR検査の実施を担う地域PCR検査センター(PCRセンター)の設置を進めてきました。現在では23区と多摩地区で、約40ヵ所が稼働しています。保険適用の行政検査を担うのが、このPCRセンターと、従来からの帰国者・接触者外来(都内に84ヵ所)です。その他に、保険診療外で行政が負担する「行政検体」と呼ばれる濃厚接触者の検査を担う東京都健康安全研究センターなどの地方衛生研究所があります。3~4月には、帰国者・接触者外来だけでは医師が「PCR検査が必要」と判断した症例に対応しきれず、検査ができないために診断ができない症例が急増したという状況がありました。こういった状況を改善するために、地域の状況を踏まえながらPCRセンターの設置を進めました。現在の約40ヵ所というのは適正な数ではないかと考えています。かかりつけ医の検査依頼先としては、どちらに依頼するかに差異はありませんが、現在も帰国者・接触者外来では対応しにくい場合もあると聞いていますので、各地域のPCRセンターを活用いただきたいと思います。発熱外来の設置も推進していますか?都医師会として、発熱外来の設置を積極的に推進するということはしていません。というのも、地域によって医療機関の状況に違いがあるからです。たとえば私のクリニックは三鷹市にありますが、三鷹市では医療機関に状況を聞いたところ、約半数の医療機関が発熱者の診療が可能との回答がありました。そこで、発熱者の診療はその半数の医療機関で行うという役割分担を行いました。ただ、地域によってはその役割分担が難しいという場合もあり、その場合は、都内でもいくつか発熱外来を設置している地域があります。「発熱外来の設置」という形式を重視するのではなく、各地域で発熱者の診療を適切に行う体制を整えることが重要と考えます。抗原検査や唾液検体の活用状況について教えてくださいまず抗原検査は、2つに分けて考える必要があります。簡易検査は30分ほどで結果が出て、非常に簡便ですが、精度は劣るようです。東京都で発生したあるクラスターで比較したところ、PCR検査結果との一致率は高くなかった。一方の定量検査は、精度は良好だが専用の機器が必要になる。この機器があるのは全国で現在800ヵ所程度と聞いているので、都内では80~100ヵ所程度ではないでしょうか。抗原定量検査は、救急の現場での活用を推進していくべきではないかと考えています。4~5月には、救急に運ばれてくる患者さんが新型コロナウイルス感染者かどうかわからないということが、現場の大きな負担になりました。各医療機関内で検査を完結することができれば、感染の有無によって対応できます。東京都医師会では東京都に対して、約250ある都内の2次救急病院へ抗原定量検査あるいはPCR検査の機器を導入してもらえるよう、要望をしています。唾液検体の活用がPCR検査と抗原定量検査で認められたことは、非常に大きな変化です。先ほど、PCRセンターの設置数は現状で適正と話しましたが、感染リスクの少ない唾液検体の採取であれば、より多くの医療機関で対応できる可能性がある。そこで当会では、人口1万人当たり1ヵ所(都内で約1,400ヵ所)を目途にPCR検査可能な医療機関を整備していきたいと考えています。行政との契約方法もより簡便に行えるようになってきており、地区医師会などを通じた集合契約が結べるようになったことで、たとえば練馬区などでは、約60人以上のかかりつけ医の先生方が手を上げていただいたと聞いています。7月17日の事務連絡では契約をさらに簡素化する通知が出ており、より多くの医療機関で担っていくことができるのではないかと期待しています。唾液検体の搬送については、従来の民間検査会社が行っている血液や尿検体の搬送と併せて行うことができ、大きな障壁にはならないだろうと考えています。今後、かかりつけ医に求められるのはどのような役割でしょうか?基本的な考え方は4~5月と変わりありません。発熱や感染の不安のある患者さんには、まず電話で相談してもらうよう伝え、電話で可能な範囲で対応をする。この時点で、不安のみが先行していた患者さんについては、除外することができます。先日発表された東京都での約2,000例の抗体検査結果では、感染者は0.1%程度。局地的にクラスターが発生する可能性は常にあるものの、基本的に発熱患者の多くが新型コロナ感染症以外であり、通常の発熱診療・トリアージを行っていただきたい。そして標準予防策をきちんと実施していれば、通常の診療だけでは濃厚接触者にはあたらず、感染リスクは非常に低い。ただし、これからインフルエンザのシーズンが始まると、検査時のリスクが高まります。そこで現在、日本感染症学会を中心にかかりつけ医のための診療のフローチャートをまとめていて、近日中に公表される予定です(注:8月3日に日本感染症学会ホームページ上で公表された)。また現在、宿泊療養施設を増やす努力がされていますが、それでも自宅療養者が激増することはありえます。保健所の業務量は過大となっており、自宅療養者に対しては、やはりぜひかかりつけ医の協力が必要です。陽性者が出た時点で、医師は発生届を提出する義務があります。そこで終わりではなく、継続的な支援をぜひお願いしたい。たとえば、濃厚接触歴をヒアリングすることもできるだろうし、自宅療養中に1日2回、電話で状況を聞くこともできる。それらにより、保健所の負担を軽減できるのではないかと思っています。いま以上に爆発的に感染者が増加する可能性に備えた、東京都医師会としての医療体制整備の考え方・対策案についてお聞かせください継続して要請を行っているのが、1,000~2,000床を備えた、新型コロナ専門病院の設置です。現在の各病院に病床数の確保を求めていくやり方では、通常の医療への影響が大きく、各病院への負担も大きい。新型コロナ専門病院に機能を集約させて、その他の病院では通常通りの診療を行っていくことが、医療全体を維持していくために必要ではないかと考えています。そのうえで、2次救急病院へのPCRないし抗原検査を実施するための機器および必要に応じた人的補完、唾液検査可能な医療機関の拡大、かかりつけ医による自宅療養者へのサポートを推進できるよう、東京都医師会として、各所に要請・支援を行っていきたいと考えています。(インタビュー:2020年7月27日、聞き手・構成:ケアネット 遊佐 なつみ)参考東京都医師会 新型コロナウイルス感染症情報

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COVID-19抗体検査の診断精度(解説:小金丸博氏)-1266

 COVID-19の感染拡大を制御するためには、迅速かつ精度の高い診断検査が求められる。COVID-19の診断検査には主にPCR検査、抗原検査、抗体検査があるが、今回、抗体検査の診断精度をシステマティックレビューとメタ解析により検証した研究がBMJ誌に報告された。本研究の要点は、(1)抗体検査法の感度は検査法によって差があること、(2)市販の検査キットは施設内検査(in-house assay)と比べて感度が低いこと、(3)抗体検査の感度は発症後1週間以内で低く発症後3週以上で高いこと、の3点である。ELISA法の感度は84.3%(95%信頼区間:75.6%~90.9%)、LFIA法は66.0%(同:49.3%~79.3%)、CLIA法では97.8%(同:46.2%~100%)だった。プール解析した特異度は、ELISA法が97.6%、LFIA法は96.6%であり、CLIA法はプール化に適さず評価できなかった。LFIA法の感度は他の検査法より低く、特異度に関しては大きな差は認めなかった。診断精度は検査法によって差があるため、抗体検査の結果を評価する際にはどの検査法を用いたかを考慮する必要がある。 いずれの検査法も検査キットが市販されているが、それらの感度は施設内検査に比べて低かった。とくにLFIA法は、市販キットの感度が65.0%だったのに対して市販されていない検査では88.2%であり、大きな差を認めた。これらの結果から、市販の抗体検査キットを用いたpoint-of-care test(POCT:臨床現場即時検査)は現時点では推奨できないと考察されている。 検体採取のタイミングも抗体検査の結果を左右する要因となる。発症後3週以上の感度が69.9~98.9%であったのに対して、発症から1週間以内では13.4~50.3%と低かった。抗体検査は感染急性期の診断には不向きであり、感染の既往を判定する疫学調査などに用いるのが妥当と考える。 抗体検査を含め、COVID-19を診断するための検査が急速に普及しており、今後も診断精度を検証した研究が報告されることが予想される。それぞれの検査方法のメリット、デメリットを考慮し、目的に合わせて適切な時期に適切な検査を選択することが求められる。

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第19回 COVID-19流行の拡大は小児ではなく無防備な大人が招いている?

5歳未満の幼い小児の上気道の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)RNA量が成人をおよそ10~100倍上回ることを示した試験結果が先週木曜日(7月30日)にJAMA Pediatrics誌に掲載されました1)。試験ではSARS-CoV-2(COVID-19)の感染しやすさは調べられていませんが、著者は幼い小児が一般集団でのCOVID-19流行に加担しうるとの懸念を示しています。しかしその懸念とは対照的に、韓国での最近の試験によると、10~19歳は成人と同様に家族に感染を広げましたが、9歳以下の幼い小児から家族への感染はよりわずかでした2)。他の報告を見ても、バーモント大学の小児感染症医師Benjamin Lee氏とWilliam Raszka氏が先月中旬のPediatrics誌3)で主張している通り、小児から他人にCOVID-19を感染させることは稀なようです。スウェーデンの16歳未満のCOVID-19感染者39人を調べたところ、感染が家族の誰よりも早かった小児はわずか3人(8%;3/39人)のみで小児から家族への感染はほとんどなかったことが示唆されました4)。小児は感染源とはいえず、感染を大人に広げるのではなく大人からより感染していたようです3)。COVID-19で入院した小児10人を調べた中国での試験では、子供から感染したと思われるのは1人のみで残りの9人は大人から感染したものでした5)。フランスでの試験では9歳のCOVID-19男児が接触したクラスメート80人超が調査され、その誰も感染しませんでした6)。オーストラリアのニューサウスウェールズ州でSARS-CoV-2に感染した学生9人と大人(職員)9人に密に接した生徒735人と大人128人を調べたところ感染は2人のみでした7)。そのどちらも大人ではなく生徒であり、1人は低学年生(primary school)で大人から感染し、もう1人は高学年生(high school)で他の学友から感染したと推定されました。それらの報告の通り、小児は恐らく感染し難く滅多に他者に感染させないことを示すデータがこれまでの半年で集まっており、感染食い止め手段を講じずに集う大人こそ流行の拡大を招いているのであって小児はCOVID-19流行の主要な媒介者ではないと上述のRaszka氏は言っています8)。参考1)Heald-Sargent TA, et al. JAMA Pediatr. 2020 July 30. [Epub ahead of print]2)Contact Tracing during Coronavirus Disease Outbreak, South Korea, 20203)Lee B, et al. Pediatrics. 2020 May 26:e2020004879. [Epub ahead of print]4)COVID-19 in Children and the Dynamics of Infection in Families5)Cai J,et al.Clin Infect Dis. 2020 Feb 28. [Epub ahead of print]6)Danis K,et al. Clin Infect Dis. 2020 Jul 28;71:825-832.7)COVID-19 in schools – the experience in NSW8)Kids Rarely Transmit Covid-19, Say UVM Docs in Top Journal / University of Vermont

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第18回 医師の勤務実態調査、上位10%の時間外労働時間は年間1,824時間

<先週の動き>1.医師の勤務実態調査、上位10%の時間外労働時間は年間1,824時間2.データヘルス改革、2年間で保健医療情報データの利活用を集中的に推進3.新出生前診断、学会認定なしの半数が美容系クリニック4.「医療的ケア児等医療情報共有システムMEIS(メイス)」が本格的に運用開始5.今年4月までの新型コロナ感染による超過死亡への影響1.医師の勤務実態調査、上位10%の時間外労働時間は年間1,824時間厚生労働省の医政局医師等医療従事者の働き方改革推進室は、7月31日、「令和元年 医師の勤務実態調査」および「医師の働き方改革の地域医療への影響に関する調査」の結果を公表した。「医師の勤務実態調査」は、前回(2016年度)と同様、病院勤務医の長時間労働の実態を把握することが主たる目的で行われ、3,967施設(20.8%)から回答が回収され、医師からのWEB回答を含め、2万382人からの回答が得られた。週4日以上働いている病院勤務医を対象に、兼業先の労働時間も含めたデータ調査が行われた。今回、宿日直許可を取得した医療機関に勤務する医師において、宿日直中の待機時間を労働時間から除外しているが、上位10%の時間外労働時間は、前回の年間1,860時間と比較して若干改善傾向が見られるものの、年間1,824時間と、長時間労働の実態が明らかとなった。また「医師の働き方改革の地域医療への影響に関する調査」は、2024年4月に時間外労働の上限規制(年960時間)が適用されることを見据えて、(1)大学医局から関連病院への医師派遣などに影響があるか、(2)副業・兼業に該当する関連病院における勤務に影響があるかなど、働き方改革による地域医療提供体制への影響について調査したもの。地方大学と都市部に近い大学の消化器内科・消化器外科・産科婦人科、救急科・循環器内科など、計6診療科の協力を得て調査を行い、さらに調査結果をもとに、各大学の医局教授や医局長、大学病院の管理者、当該大学が所在する都道府県庁の医療行政担当者などにヒアリングが実施された。大学病院で働く医師の時間外・休日労働時間が960時間/年以内であっても、兼務先の労働時間を通算すると960時間/年を超過する医師が多く、勤務医の外勤によって維持されていた地域病院の医療体制が危惧される。(参考)「令和元年 医師の勤務実態調査」及び「医師の働き方改革の地域医療への影響に関する調査」の結果の公表について(厚労省)2.データヘルス改革、2年間で保健医療情報データの利活用を集中的に推進厚労省は、7月30日、第7回データヘルス改革推進本部を開催した。中では、オンライン資格確認システムやマイナンバーなどを活用しつつ、2021年に必要な法制上の対応などを行った上で、2022年度中に運用開始を目指し、「新たな日常にも対応したデータヘルスの集中改革プランについて」が議論された。これまで、健康保険データや特定健診データの利活用のために、情報基盤整備を進めてきたが、今後2年間に改革をさらに進め、電子処方箋の仕組み構築のほか、患者の同意のもと、全国の医療機関が患者の医療情報を確認できるようにし、さらに患者が自身の保健医療情報を活用できる仕組みを整備し、順次、運用していくこととなる。(参考)第7回データヘルス改革推進本部 資料(厚労省)マイナンバーカード起点に医療機関と個人が医療情報を確認へ、厚労省が今後2年で(日経クロステック)3.新出生前診断、学会認定なしの半数が美容系クリニック厚労省は、母体血を用いた出生前遺伝学的検査(NIPT)の調査等に関するワーキンググループを7月22日に開催した。学会の認定を受けないまま検査を行っている54施設のうち、半数が美容系クリニックであったという結果をまとめた。2013年から始まった新生出生前診断は、学会認定を受けた大学病院など全国109施設で実施が認められているが、学会のルールに従わず、無認定のまま検査を行う施設が増加しており、問題となっている。中には年齢要件を設けず、性別判定など学会の指針では認められていない検査を提供するところもあった。このような実態から、出席した委員は「母体や胎児について詳しく知らない人が検査を提供しているのは問題」と指摘した。今回の調査結果を踏まえ、新出生前診断については何らかの形で対応がまとめられるだろう。(参考)母体血を用いた出生前遺伝学的検査(NIPT)の調査等に関するワーキンググループ(第4回)の資料について(厚労省)4.「医療的ケア児等医療情報共有システムMEIS(メイス)」が本格的に運用開始厚労省は、7月29日に、「医療的ケア児等医療情報共有システム(MEIS)」の本格運用を開始した。医療的ケア児らが旅行などで出掛ける場合、児童らに関する主治医情報や常用薬などの基本情報を登録し、救急サマリーを作成しておくことで、救急時や災害時などに迅速な情報共有が可能になる仕組み。本システムは5月より試験運用を行なっており、6月末時点では、医療的ケア児137人、医師118人が登録しているが、全国には医療的ケア児は約2万人いるとされている。本システムの利用に当たっては、利用者による申し込み申請の際に主治医の登録が必要だが、複数の利用者(患者)を受け持つ医師は、事前に「ご利用申込書(主治医用)」を用いて登録し、医師IDをあらかじめ取得することで、その後の手続きを簡略化することが可能となっている。(参考)医療的ケア児等医療情報共有システム(MEIS)について(厚労省)5.今年4月までの新型コロナ感染による超過死亡への影響厚労省の「新型コロナウイルス感染症等の感染症サーベイランス体制の抜本的拡充に向けた人材育成と感染症疫学的手法の開発研究」研究班(代表研究者:鈴木 基氏/国立感染症研究所感染症疫学センター長)は、7月31日に、新型コロナウイルスによる影響を推計するために行われた「超過死亡」の結果について、発表した。超過死亡は、今年の死者数が過去の平均的な水準をどれだけ上回っているかを示すものであり、調査班では米疾病対策センターと欧州死亡率モニターの計算モデルを使い、2012~19年の死者数に基づき予測した平均的な死者数(統計学的に不確かな数は除く)を、20年の死者数から差し引いて解析した。その結果、今年1~4月にかけて、東京など5都県で合計138例の超過死亡があったと推計された。鈴木氏は、今回の結果について「見落としは多くはない」とした。一方、厚労省が7月28日に発表した人口動態推計統計速報では、同時期における新型コロナ以外を原因とする(交通事故、自殺、インフルエンザなどによる)死亡が前年までと比べて減少しており、上記の超過死亡を相殺する可能性もあるが、現時点では、日本の人口動態に大きな影響が出るほどではないとされている。(参考)我が国における超過死亡の推定(国立感染症研究所)人口動態統計速報(令和2年5月分)(厚労省)

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COVID-19流行下の熱中症対応の手引き/日本感染症学会・日本救急医学会・日本臨床救急

 本格的な夏を迎え、熱中症による搬送数も増えている臨床現場では、今までの夏とは異なり、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への感染防止に配慮した対応に迫られている。 先般、日本感染症学会・日本救急医学会・日本臨床救急医学会・日本呼吸器学会の4学会はワーキンググループを構成し、6月1日付けで「新型コロナウイルス感染症の流行を踏まえた熱中症予防に関する提言」を発表した。そして、今回この提言の追補版として、国内外の論文2,736件の情報を抽出し、臨床現場で活用可能な「新型コロナウイルス感染症流行下における熱中症対応の手引き(医療従事者向け)」を作成し、公開を開始した。 本手引は、6つのクリニカルクエスチョンに対し、詳細に解説を加える体裁で書かれ、今後も4学会では情報収集とアップデートを行うとしている。クリニカルクエスチョン一覧・予防(マスク・エアコン) Q 熱中症を予防する上でのマスク着用の注意点は何か?A マスクを着用する際は、長期間(1時間以上)の運動を避けることが望ましい。Q COVID-19の予防で「密閉」空間にしないようにしながら、熱中症を予防するためには、どのようにエアコンを用いるべきか?A 換気により室内温度が高くなるため、エアコンの温度設定を下げるなどの調整を行い、熱中症対策とCOVID-19対策を両立することが望ましい。・診断(臨床症状・血液検査・CT 検査)Q 熱中症とCOVID-19は臨床症状から鑑別できるか?A 呼吸器症状や嗅覚障害・味覚障害を認める場合はCOVID-19を疑う根拠になるが、臨床症状のみから熱中症とCOVID-19を鑑別することは困難である。Q 血液検査は熱中症とCOVID-19の鑑別に有用か?A 両者の鑑別に有用な血液検査の検査項目はない。Q 高体温、意識障害で熱中症を疑う患者の CT 検査はCOVID-19の鑑別診断に有用か?A 確定診断のための有用性は低いが、除外診断に一定の役割を果たしうるため、とくにCOVID-19を疑う患者においては、スクリーニング検査として実施することが望ましい。・治療(冷却法) Q 従来同様、蒸散冷却法(evaporative plus convective cooling)を用いて、患者を冷却してよいか?A 蒸散冷却法は原則使用せず、各施設での使用経験や準備の状況に応じて、蒸散冷却法の代替となる冷却法を選択するのが望ましい。

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第17回 寄り添うほど医療者のメンタルにのしかかる患者の死、安楽死なら堪えられるか?

新型コロナウイルス感染症のパンデミック後、国内の医療界ではこの話題を吹き飛ばすほどインパクトのあるニュースはほとんどなかったように個人的には感じている。しかし、7月の連休中に表面化した京都での筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者に関する嘱託殺人事件は別格だ。言葉を換えれば、「安楽死」「尊厳死」となるが、現在まだ事件の詳細が明らかになっていないなかでこの事件の是非について言及する気はない。その意味では、これまでこの種の問題について自分が抱えているモヤモヤを少し文字にしてみたいと思う。事件が起きた京都の地元紙・京都新聞の報道によると、今回の「被害者」である女性のALS患者さんは、かなり前から主治医に栄養摂取中止による安楽死を申し出ていたという。そしてこの記事では、医療従事者側はこれまで彼女の療養のために保険医療の枠を超えた対応をしていたことも語られている。主治医が記事内で語っているように彼女自身は治療や安楽死・尊厳死に関して相当勉強し、安楽死願望も一時的な気の迷いではないことは今も残された本人のTwitterアカウントからも読み取れる(敢えてどのアカウントかは示さない)。安楽死を望む姿勢はTwitterアカウント開設時の2018年春からほぼ一貫しているものの、それでもなお、彼女の感情の起伏の激しさは外形的にも明らかである。その中で私が気になったのは以下のツイートだ。「緩和ケアと安楽死が同一線上に議論されることに疑問を感じる。緩和ケアとは身体的苦痛を和らげるものであり安楽死は精神的苦痛を取り除くことも担う。私のように耐え難い身体的痛みは無くとも総合的QOLが極端に低いと感じる患者のために緩和ケアが充実してれば安楽死は不要だとは思えない」本来、緩和ケアとは精神的苦痛を取り除くための行為も含まれる。しかし、彼女はそう思っていない。これは彼女に提供されているケアがまったくメンタルのケアに踏み込んでいないか、メンタルへのケアが彼女の要望に達していないかいずれかだとは思うが、そのことを持って彼女に接してきたケア関係者を一方的に責めるつもりはない(もっとも残された彼女の最後のツイートは担当ヘルパーの心無い言動への不満ではあるが)。むしろ前述の記事内にある主治医の証言を基にすれば、保険診療の枠を超えて彼女に尽くしても彼女が望む精神的苦痛を取り除くには及ばなかったという誰も責任を問えないミスマッチのように感じる。教科書的に考えるならば、そうしたミスマッチを最小化するためにこそ「人生会議(ACP:アドバンス・ケア・プランニング)を行おう」ということになるのだろう。ただ、患者を中心とするこの種の安楽死・尊厳死、終末期の緩和ケア、人生会議(ACP)の議論の中で私がいつも欠けていると感じていることがある。それはそこにかかわる医療従事者をいかにケアするかである。戦場ジャーナリストの経験が教えてくれたことやや話がそれるかもしれないが、私自身は1990年代半ばからフリーとして独立後の2010年頃まで海外の紛争地取材も行う、いわゆる「戦場ジャーナリスト」だった。今は一時そちらを休業しているが、戦場ジャーナリストとしてテレビで有名になった渡部 陽一氏も良く知っている(彼にまつわる裏話もあるが、ここでは控えておく)。戦場を取材していると言うと、今も昔も奇異な目で見られ、だいたい第一声で問われるのが「怖くないんですか?」である。もちろん怖いが、現場をこの目で確かめたい意思のほうがやや勝っているというのが正確な答えだ。そして次に多い問いは「人がバタバタ死ぬ現場によく平気で行けますね」というもの。「自分は叔母の死に立ち会った経験があり、その経験が強烈過ぎて、あなたのように人の死が起こる現場に進んで立っていること自体信じられない」と言われたことさえある。これに対しては次のように答えている。「私だって身内の死は堪えますよ。でも冷酷と言われるかもしれないですけど、戦場で目にする死は『現象』として捉えてます」もっともこれでこちらが言わんとすることをほぼ理解をしてくれる人は少ない。なので追加でこのように説明すると大方の人は納得してくれる。「事件や事故での人が亡くなったニュースを見聞きした際、自分の現在や過去の経験に重なる場合を除けば、気の毒に思ったり、気分が多少落ち込んだりすることはあっても精神をかき乱されるまでのことは少ないですよね。人は『身内の死』と『第三者の死』を自動的に切り分けているんですよ。私が戦場で死を見聞きする際も同じで、自動的に『第三者の死』=『現象』で整理しているのだと思います」要は人の死は、「一人称の死=自分の死」「二人称の死=身内・友人の死」「三人称の死=第三者の死」に分けられ、同じ死であっても「二人称の死」と「三人称の死」との間には接した時の心理的ダメージに大きな差があるということだ。人の死は日常的でもあり、非日常的でもあるが、とりわけ「三人称の死」については、日常生活の延長上の出来事の一部として捉えようとする「正常性バイアス」が働き、その結果、多くの人は比較的冷静に受け止めていると言える。これは人の死に接することが多い医療従事者でも共通する心理ではないだろうか。医療従事者-患者が二人称になるリスク今後、ACPや安楽死・尊厳死にかかわる議論がより進展し、そこに医療従事者が積極的にかかわるようになれば、当然ながら患者と医療従事者の関係は密になり、医療従事者にとってはこれまで「三人称」で整理していた関係の一部は「二人称」になってしまう。二人称と化した患者の生死にかかわること、さらにその死に立ち会う、あるいは一歩進んで安楽死・尊厳死という形で死への介添えをすることになるとしたら、その心理的なダメージは従来のレベルでは済まなくなるはずである。ここで非常に極端な例えで気を悪くする人もいるかもしれないが、日本の刑事罰で極刑の死刑について触れておきたい。なおその是非についてはここでは棚上げさせてもらいたい。日本の死刑は絞首刑で死刑囚の首に縊死(いし)用のロープを装着し、足元の床板が外れる形で執行される。床板外しは別室でのボタン操作で行われるが、このボタンは3個あるいは5個用意され、3人あるいは5人の刑務官が一斉同時に押す。これは刑務官の心理的負担を軽減するため、どのボタンで死刑が執行されたかを敢えてわからないようにする措置である。繰り返しになるが死刑の是非はさておき、被告人が死刑となる刑事事件はその事件概要を聞いてすら、身の毛もよだつような犯行が多い。そうした事件の被告人に対してでも、人を死に至らしめる刑を執行する側に最低限の心理的対処はしているのである。これからACP、さらには安楽死・尊厳死のより進化した議論を行うというならば、そこに向き合う医療従事者への心理的ケア体制の確立についてもより厳格な議論が必要ではないだろうか? 「患者中心」「患者の尊厳」のみを錦の御旗にして医療従事者へのケアを置き去りにして突き進むことは、ひいては医療従事者のこうした終末期医療、患者の命の尊厳に対する姿勢を及び腰にさせてしまう可能性がある。結果としてもし安楽死・尊厳死が法制化されたとしても、それを担当する医療従事者が実質不在になり、患者の希望はかなえられないという皮肉を生む危険性を内包していると個人的には思っている。

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新型コロナ抗原検査の同一検体でインフルの同定も可能に/富士レビオ

 2020年7月27日、富士レビオ株式会社(代表取締役社長:藤田 健、本社:東京都新宿区)は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)抗原の迅速診断キット「エスプライン(R) SARS-CoV-2」で用いる検体処理液が、インフルエンザウイルス抗原の迅速診断キット「エスプライン インフルエンザ A&B-N」においても使用できることを確認したと発表した。「エスプライン(R) SARS-CoV-2」の検体処理液、インフルエンザ抗原検査にも可 これまで、インフルエンザ流行時の新型コロナウイルスとの鑑別対応が不安視されているが、本キットにより、新型コロナウイルス抗原およびインフルエンザウイルス抗原の2 検査を同一の鼻咽頭拭い液検体で行うことが可能となった。また、検体採取が1回で済むことから、検体採取時の患者への負担軽減および医療者の感染リスク低減にも寄与できる。 既に販売済みの製品においても、「エスプライン SARS-CoV-2」の検体処理液により、同一検体から新型コロナウイルス抗原およびインフルエンザウイルス抗原の検査を行うことができる。 ただし、現時点では富士レビオのホームページ の製品概要 エスプライン(R)SARS-CoV-2 よくあるご質問内において、「インフルエンザA&B-Nの検体処理液と共用できますか?」の回答が「含まれる成分が異なるため使用出来ません。本製品専用の検体処理液をご使用ください」となっているため、注意が必要である。検査キットの特徴 このエスプラインシリーズの特徴は、特別な検査機器を要さず、簡便かつ短時間で検出結果が得られる点である。本キットは酵素免疫測定法とイムノクロマトグラフィー技術を組み合わせた迅速診断キットで、採取した検体中に含まれるウイルス抗原を検出する。

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中国の新型コロナワクチン、第II相試験で抗体陽転率96%以上/Lancet

 中国で開発されている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の、遺伝子組み換えアデノウイルス5型(Ad5)ベクター化ワクチンは、ウイルス粒子5×1010/mLの単回筋肉内投与により有意な免疫反応を誘導し、安全性は良好であることが示された。中国・江蘇省疾病管理予防センターのFeng-Cai Zhu氏らが行った第II相無作為化二重盲検プラセボ対照試験の結果を報告した。著者は、「結果は健康成人対象の第III相試験で、ウイルス粒子5×1010/mLのAd5ベクター化COVID-19ワクチンの有効性を検証することを支持するものであった」と述べている。Lancet誌オンライン版2020年7月20日号掲載の報告。中国のコロナワクチンの2つの用量とプラセボを比較 研究グループは、中国・武漢市の単一施設において、HIV陰性で重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の感染歴がない18歳以上の健康成人を、ウイルス粒子が1×1011/mL群、5×1010/mL群、またはプラセボ群のいずれかに、2対1対1の割合で無作為に割り付け(ブロックサイズ4)、単回筋肉内注射した。被験者、治験責任医師および検査室のスタッフは、割り付けに関して盲検化された。 免疫原性の主要評価項目は、投与後28日時点の受容体結合ドメイン(RBD)特異的ELISA抗体価ならびに中和抗体価の幾何平均値(GMT)とした。安全性の主要評価項目は、投与後14日以内の有害事象であった。いずれも少なくとも1回の投与を受けたすべての被験者を解析対象とした。1×1011/mLと5×1010/mLで、抗体陽転率96%と97%、重度有害事象9%と1% 2020年4月11日~16日の期間に603例がスクリーニングされ、適格基準を満たした508例(男性50%、平均[±SD]年齢39.7±12.5歳)が、無作為に割り付けられた(1×1011/mL群253例、5×1010/mL群129例、プラセボ群126例)。 中国で開発されているコロナワクチンの1×1011/mL群および5×1010/mL群では、28日時点のRBD特異的ELISA抗体のピークはそれぞれ656.5(95%信頼区間[CI]:575.2~749.2)および571.0(467.6~697.3)、抗体陽転率は96%(93~98)および97%(92~99)であった。いずれも、生SARS-CoV-2に対する有意な中和抗体反応が誘導され、GMTは1×1011/mL群で19.5(16.8~22.7)、5×1010/mL群で18.3(14.4~23.3)であった。 コロナワクチン投与後の特異的インターフェロンγ酵素結合免疫スポットアッセイ反応は、1×1011/mL群で253例中227例(90%、95%CI:85~93)、5×1010/mL群で129例中113例(88%、81~92)に確認された。 非自発報告による有害事象は1×1011/mL群で253例中183例(72%)、5×1010/mL群で129例中96例(74%)、重度の有害事象はそれぞれ24例(9%)および1例(1%)報告された。重篤な有害事象は確認されなかった。

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第17回 ウルムチ“ロックダウン”、搭乗前PCR検査義務化に見る中国的コロナ対策

日本では、外出自粛の緩和だ、Go Toキャンペーンだと言っているうちに、再び新型コロナウイルス感染患者が急増し、第2波の到来を予感させる状況となっている。一方、新型コロナの発生地である中国では、感染抑制に成功し、2020年4月~6月の国内総生産(GDP)は前年同期比で3.2%増加。世界では感染者や死亡者が増え、経済も低迷する中、一人勝ちの様相だ。しかし、国土が広大なだけに、感染者も各地に拡散。「一帯一路」経済圏構想の西部における拠点で、新彊ウイグル自治区の区都・ウルムチ市では、事実上ロックダウン(都市封鎖)される事態に陥っている。中国では、新型コロナの“震源地”となった湖北省武漢のロックダウンを4月8日に解除して以降、大都市では北京市・上海市、北京市の近隣では河北省・内モンゴル自治区、北朝鮮国境沿いでは吉林省・遼寧省、沿海部では福建省・広東省、内陸部では四川省などで感染者が見つかった。感染者数はいずれも1桁から2桁台で、どの都市もロックダウンには至っていない。一方、ウルムチ市では7月半ばから感染者が急増。市当局は「戦時状態に入った」とし、17人の新規患者が出た7月17日24時をもって、市民の行動や交通機関の運行を制限、400万人都市を事実上ロックダウンすると共に、全市民を対象にPCR検査を始めた。7月26日現在、同自治区における治療中の患者は178人、うちウルムチ市内の患者が176人とほとんどを占めている。ほぼ同様の人口を持つ日本の横浜市(約380万人)の新型コロナ感染者数は910人(27日現在)。横浜と比較すると、ウルムチ市のロックダウンは過剰反応にも思える。中央アジアやその先の欧州に向け、人と物が流れていく一帯一路の拠点都市であるため、再び震源地の汚名を被らぬようにした万全の措置なのか。また、中国当局は7月20日、中国に乗り入れる航空便の乗客に対し、搭乗日の5日以内に、中国の在外公館が指定・認可する機関でPCR検査を受け、陰性であることを証明することを求める公告を、中国民用航空局・税関総局・外務省の連名で発表した。取材したアメリカ滞在中の中国人留学生によると、症状がないとPCR検査を受けられない州が多く、病院は新型コロナ感染の危険性が高いので、「わざわざ検査を受けに行きたくない」「受けても5日以内に検査結果が出ない」などと留学生の間からぼやきの声があがっているという。航空機の減便でチケットの入手が困難な上、チケット代が10倍以上も高騰している中、やっと高額なチケットを手に入れた在米中国人達は「中国当局は国内の安全を守るためにわれわれを切り捨てた」と嘆いているようだ。新型コロナの感染防止には、人の移動を制限することが最も簡単で即効性があると中国政府は考えているようだが、やり方が強権的なのがいかにもかの国らしい。

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COVID-19、学校・職場閉鎖などの介入の効果は?/BMJ

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への介入としての身体的距離(フィジカルディスタンス)の確保は、COVID-19の発生を13%抑制し、移動制限(封鎖)は実施時期が早いほうが抑制効果は大きいことが、英国・オックスフォード大学のNazrul Islam氏らが世界149ヵ国を対象に実施した自然実験で明らかとなった。研究の成果はBMJ誌2020年7月15日号に掲載された。COVID-19に有効な治療レジメンやワクチンのエビデンスがない中で、感染を最小化するための最も実践的な介入として、身体的距離の確保が推奨されてきた。この推奨の目標には、公衆衛生や保健サービスにおけるCOVID-19による負担の軽減や、この疾患の予防と管理のための時間の確保も含まれている。これらの介入の有効性に関するこれまでのエビデンスは、主にモデル化研究に基づいており、実地の患者集団レベルの有効性のデータは世界的に少ないという。分割時系列解析による自然実験の結果をメタ解析で統合 研究グループは、身体的距離の確保とCOVID-19の世界的な発生の関連を評価する目的で、国別に分割時系列解析による自然実験を行い、得られた結果をメタ解析で統合した(筆頭著者は、オックスフォード大学ナフィールド公衆衛生学科[NDPH]から給与の支援を受けた)。 解析には、欧州疾病予防管理センターから毎日報告されるCOVID-19患者のデータと、オックスフォードCOVID-19政策反応追跡(Oxford COVID-19 Government Response Tracker)からの身体的距離の確保に関するデータを用いた。対象は、2020年1月1日~5月30日の期間に、5つの身体的距離の確保(学校閉鎖、職場閉鎖、公共交通機関閉鎖、大勢の集まりや公的行事の規制、移動制限[封鎖])のうち1つ以上を、少なくとも7日間実施し、30例以上のCOVID-19患者が発生した国であった。 主要アウトカムは、身体的距離の確保による介入の導入前後のCOVID-19発生率比(IRR)とし、5月30日または介入後30日目のいずれか先に到達した日のデータを用いて推定した。IRRは、変量効果によるメタ解析を用いてすべての国のデータを統合した。公共交通機関閉鎖を除く4つと、5つ全部で抑制効果に差はない 149ヵ国が1つ以上の身体的距離確保による介入を行っていた。学校閉鎖のみのベラルーシと、学校閉鎖と大勢の集まりの規制のみのタンザニアを除く国が、3つ以上の介入を実施していた。5つ全部を実施したのが118ヵ国、4つが25ヵ国(日本は公共交通機関閉鎖以外の4つを実施)、3つが4ヵ国で行われていた。 身体的距離確保の実施により、COVID-19の発生が全体で平均13%低下した(IRR:0.87、95%信頼区間[CI]:0.85~0.89、p<0.001、149ヵ国)。日本は、4つの介入の実施によりCOVID-19の発生が6%抑制された(0.94、0.90~0.99)。 介入前と比較したCOVID-19発生の低下率は、5つの身体的距離確保を実施した国(統合IRR:0.87、95%CI:0.85~0.90、118ヵ国)と、4つを実施した国(0.85、0.82~0.89、25ヵ国)で類似していた。3つを実施した国(0.88、0.77~1.00)では、COVID-19発生率の変化が小さかったが、適用されたのは4ヵ国のみだった。 学校閉鎖、職場閉鎖、大勢の集まりの規制、移動制限が実施された場合のCOVID-19発生の低下(統合IRR:0.87、95%CI:0.84~0.91、32ヵ国)は、これに公共交通機関閉鎖を加えて5つすべての介入を行った場合(0.85、0.82~0.88、72ヵ国)とほぼ同等で、付加的な抑制効果は得られなかった。また、学校閉鎖、職場閉鎖、大勢の集まりの規制が実施された場合のCOVID-19発生の抑制効果もほぼ同様であった(0.85、0.81~0.89、11ヵ国)。 介入の順序に関しては、移動制限を早期に実施した場合(統合IRR:0.86、95%CI:0.84~0.89、105ヵ国)のほうが、他の身体的距離確保による介入後に遅れて移動制限を行った場合(0.90、0.87~0.94、41ヵ国)に比べ、COVID-19発生の抑制効果が大きかった。 著者は、「これらの知見は、各国が現在または将来、COVID-19の流行が押し寄せた場合に、身体的距離を確保するための措置の発令やその解除に備える際の、施策決定に役立つ可能性がある」としている。

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英国の新型コロナワクチン、第I/II相試験で有望な結果/Lancet

 英国で開発中の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のスパイク蛋白を発現する、チンパンジー・アデノウイルスベクター型ワクチン(ChAdOx1 nCoV-19)の第I/II相臨床試験の結果が発表された。安全性プロファイルは許容可能で、ブースター投与後の抗体反応の増加も確認されたという。英国・オックスフォード大学のPedro M. Folegatti氏らによる検討で、著者は「今回の試験結果は液性免疫と細胞性免疫の両者の誘導を示すもので、この候補ワクチンの第III相試験における大規模評価の進行を支持するものであった」と述べている。Lancet誌オンライン版2020年7月20日号掲載の報告。被験者のうち10例に2回投与 研究グループは英国5ヵ所のセンターにて、検査でSARS-CoV-2感染歴がなく、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)様症状がみられない健康な18~55歳を対象に単盲検無作為化比較試験を行い、ChAdOx1 nCoV-19の安全性と有効性を検証した。 被験者を無作為に1対1の割合で2群に分け、一方にはChAdOx1 nCoV-19(5×1010ウイルス粒子)を、もう一方には髄膜炎菌結合型ワクチン(MenACWY)を、それぞれ単回筋肉内投与した。 なお、5ヵ所のセンターのうち2ヵ所についてはプロトコールを修正し、予防的パラセタモールの事前投与を認めた。また、被験者の10例は、非無作為化非盲検下で割り付け、ChAdOx1 nCoV-19を初回投与28日後にブースター投与を行う2回投与群とした。 ベースラインと28日後の時点で、液性免疫応答について、標準総IgG酵素結合免疫吸着検査法(ELISA)(三量体・SARS-CoV-2スパイク蛋白を測定)、マルチプレックスアッセイ、3つのSARS-CoV-2中和アッセイ(50%プラーク減少中和力価[PRNT50]、マイクロ中和力価[MNA50、MNA80、MNA90]、Marburg VN)、偽ウイルス中和アッセイを用いて評価した。また、細胞性免疫応答については、体外Enzyme-Linked ImmunoSpot(ELISpot)アッセイで測定した。 主要アウトカムは有効性と安全性の2つで、有効性はウイルス学的に確認された症候性COVID-19の症例数で評価し、安全性は重篤な有害イベントの発生数で評価した。安全性は、ワクチン投与後28日間にわたって評価した。中和抗体反応、2回投与後全員に 2020年4月23日~5月21日の間に、1,077例が登録され、ChAdOx1 nCoV-19群に543例、MenACWY群に534例が割り付けられた。このうち10例がブースター投与群に登録された。 ChAdOx1 nCoV-19に関連した重篤有害事象の発生はなかった。一方、疼痛、発熱感、悪寒、筋肉痛、頭痛、倦怠感といった局所・全身性反応は、ChAdOx1 nCoV-19群でより多く発生した(すべてのp<0.05)。また、それらの多くはパラセタモールの使用によって低下することが確認された。 ChAdOx1 nCoV-19群では、14日目にスパイク特異的T細胞反応がピークに達した(中央値:スポット形成細胞数856個/末梢血単核球100万個、IQR:493~1,802、43例)。抗スパイクIgG応答は28日目まで上昇し(中央値:157ELISA単位[EU]、96~317、127例)、その値はブースター投与後に上昇した(639EU、360~792、10例)。 SARS-CoV-2に対する中和抗体反応は、単回投与後にMNA80測定で32/35例(91%)、PRNT50測定では35例全員(100%)で検出された。ブースター投与後、全員に中和活性が認められた(42日目:MNA80測定で9/9例、56日目:Marburg VN測定で10/10例)。中和抗体反応は、ELISAで測定した抗体価と強い相関があることが確認された(Marburg VN測定でR2=0.67、p<0.001)。

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COVID-19流行下における緩和ケア、各施設の苦闘と工夫

 日本がんサポーティブケア学会、日本サイコオンコロジー学会、日本緩和医療学会は8月9~10日にオンライン形式で合同学術集会を予定している。これに先立って、7月上旬に特別企画として「COVID19と緩和ケア・支持療法・心のケア」と題するオンラインセミナーが行われた。3学会から立場の異なるメンバーが集まり、COVID-19が緩和ケアに与える影響とその対処法について、それぞれの経験を語り合った。COVID-19が緩和ケアにどのような影響を与えたかアンケートを分析【司会】・里見 絵理子氏(国立がん研究センター中央病院 緩和医療科科長)・林 ゑり子氏(藤沢湘南台病院 がん看護専門看護師)【登壇者】・廣橋 猛氏(永寿総合病院 がん診療支援・緩和ケアセンター長)・柏木 秀行氏(飯塚病院 連携医療・緩和ケア科部長)・秋月 伸哉氏(がん・感染症センター駒込病院 精神腫瘍科科長)・渡邊 清高氏(帝京大学医学部内科学 腫瘍内科准教授) 冒頭に、日本緩和医療学会COVID-19関連特別ワーキンググループらが5月上旬に行った「新型コロナウイルス感染症に対する対応に関するアンケート」の結果1)が共有された。これはCOVID-19が、全国の専門緩和ケアサービスにどのような影響を与えたかを調べる目的で実施されたもので、654件の回答のうち重複を除く598件を分析対象とした。 専門的緩和ケアの提供形態別に「A:ホスピス・緩和ケア病棟(PCU)のみ/109施設」「B:緩和ケアチーム(PCT)のみ/303施設」「C:PCUとPCTの両方/186施設」に分類したうえで、「A+C:緩和ケア病棟群/295施設」「B+C:緩和ケアチーム群/489施設」に分けて分析が行われた。これは全国の緩和ケア病棟の約70%、緩和ケアチームの約50%を占めるという。 緩和ケア病棟群では、「新型コロナウイルス感染症の流行後、緩和ケア病棟の患者受け入れ方針に変化があった」と回答した施設が55%(161施設)あり、うち22施設では緩和ケア病棟がCOVID-19患者用の専門病棟に変更されていた。 続いて、「新型コロナウイルス感染症の流行後、緩和ケア病棟での面会制限はあるか」という質問に対して、緩和ケア病棟群の98%にあたる289施設が「ある」と回答。ここでは、予測される患者の予後によって段階的な対応をする施設が多く、末期近いことが予測される患者には面会制限を緩めるケースが多かった。 面会制限を行っているあいだ、面会以外でのコミュニケーション支援をはかる医療機関もあり、「テレビ電話などでのコミュニケーション支援」が55%と最も多く、「Wi-Fi使用可」が15%、「院内にPC・タブレットを用意」が6%と続いた(複数回答可)。ただ、「とくに何もしていない」という回答が87%と大きな割合を占めており、支援にあたって設備や人員確保の難しさも見える結果となっている。COVID-19感染対策下の面会のため緩和ケア病棟にタブレット 続けて、アンケートの結果も踏まえつつ、登壇者が自施設でのこれまでの対策と現況について情報をシェアした。―COVID-19に対する自施設の対応は? 渡邊氏「流行が懸念される早めの時期から、院内・診療科・部門ごとに感染対策を立て、実行した。通常診療に対しても感染予防策を取り、がん患者さんに対しては個別にリスクの評価を行った上で、治療継続、手術予定の延期、経口の抗がん剤やホルモン薬の使用等の検討を行っている。感染流行の長期化を踏まえ、息の長い対策にしていくことが肝要だ」 秋月氏「患者と同時にスタッフのケアが必要だと考えた。COVID-19感染症病棟のスタッフが孤立しないようリエゾンチームとして感染症病棟を巡回するだけでなく、緩和ケアチームなどを含む院内組織を立ち上げ、院内向けの情報発信にも力を入れた」 廣橋氏「3月に院内でのCOVID-19感染が発生し、これまでに200名以上の感染者を出してしまった。緩和ケア病棟も閉鎖を余儀なくされていたが、5月下旬から診療を再開した。緩和ケアのカギとなる多職種チームの活動も制限せざるを得ず忸怩たる思いだが、現状では感染防止を最優先せざるを得ない状況が続いている」―緩和ケアで重要となる、在宅医療など他施設との連携はどうしていたか? 柏木氏「これまで、電話とFAXと対面で行っていた医療連携だが、対面が使えなくなり、手間がかかるようになったことは事実だ」 廣橋氏「確かに大変にはなったが、以前から『顔の見える連携』をしてきたことが生きている。緩和ケア病棟の事前面談をオンラインで行う試みも開始した」 林氏「対面の機会が限られ、退院前のカンファレンスや家族への介護指導ができないことは痛い。その患者様の安楽な移動方法や介助方法、人工肛門やいろいろな装具を直接見て頂く機会が少ないため、電話で時間をかけてイメージできるまで説明したり、訪問看護に助けて頂いたりするなど、できることを工夫しながら行っている」―患者・スタッフの心のケアをどう行っていたか? 秋月氏「強い呼吸困難を経験した感染患者は、症状が収まってからも強い恐怖感を訴えるケースがある。また、家族や同僚を感染させてしまった、という自責の念に捉われる方もいた。また、異なる視点として、高齢者施設内のクラスターにおいては認知症患者がいる。そうした方はゾーニングを理解できず歩き回ったり、家族と会えずにパニックになったりなど、異なるケアが必要となった」 柏木氏「軽症でホテルに隔離されている患者に対応したが、特殊な環境下で不安を抱える方が多かった。入院されていればすぐに対応できるのだが、やりとりは電話に限られており、診療には限界があった」 秋月氏「スタッフに関しては、感染患者に直接対応しているか、そうでないかで置かれた状況が大きく異なる。直接対応するスタッフは自分や家族への感染リスクに不安を持っており、急ごしらえの対応チームでコミュニケーションミスも起きやすい。直接対応していないスタッフは、対応チームに人員を割かれており、情報のシェアがないと不満がたまりやすい。ストレスチェックやアンケートだけでは現場の実態が把握できないため、『対応策をヒアリングする』と言って個別面接を行った。『声を上げれば、何らかのフィードバックがある』とスタッフに感じてもらえる仕組みづくりが大切だ」―家族へのケア、面会制限はどのように行ったか? 廣橋氏「COVID-19感染対策下におけるご家族との関わりにおいては、日本緩和医療学会の普及啓発ワーキンググループで作成した『感染症対策下における入院患者さんのご家族向けリーフレット』を役立ててもらいたい。面会制限中は、家族に写真やメッセージを持ってきてもらったり、スマートフォンやタブレットのビデオ通話を使った面会を支援したりなど、少しでもコミュニケーションがとれるように工夫している。私を中心に行ったクラウドファンディングでは多くの支援が集まり、今後は希望する緩和ケア病棟にタブレット配置などの環境整備をしていくことができそうだ」 各施設でスタッフ間や患者と家族のコミュニケーション支援においてIT機器やオンラインを使った各種の試みが行われていることが共有され、「今後に活かしていきたい」という声が上がっていた。本セミナーの動画は、合同学術集会の開催時に、参加者に対して公開される予定となっている。

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医師の2020年夏季ボーナス支給、新型コロナの影響は?

 6~7月と言えば、業務に追われるもボーナス支給日を心待ちに日々励んでいる人が多い時期。ところが今年は新型コロナウイルスの影響で状況は一変。外来患者減などが医療施設の経営に大打撃を与え、医療者の給与や将来設計もが脅かされる事態に発展している。 この状況を受け、ケアネットでは7月9日(木)~15日(水)、会員医師1,014名に「夏季ボーナスの支給状況などに関するアンケート」を実施。その結果、全回答者のうち14.6%は本来支給されるはずの夏季ボーナスが不支給または未定であり、支給された方でも25%は例年より減額されていたことが明らかになった。 本アンケートでは30代以上の医師(勤務医、開業医問わず)を対象とし、新型コロナ対応への危険手当の支給有無や夏季ボーナス支給状況を調査。集計結果を年代や病床数、診療科で比較した。ボーナス減の影響を強く受けていた診療科は主に、内科、循環器内科、整形外科、呼吸器内科で、支給状況を病床別でみると、支給されなかった・未定の割合は0床(16%)、1~19床(6%)、20~99床(20%)、100~199床(18%)、200床以上(13%)だった。 今回、ボーナスが支給された医師の中でも「冬季は不支給になりそう」などの懸念を抱いており、不支給だった医師には「ボーナス以前に月給が大幅に減った」 というコメントも。このほか、「異動予定が消滅」「賞与、昇給の取り消し」など自身のキャリアプランに影響した例もあった。 アンケート結果はこちら

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新型コロナウイルス診療の手引きをアップデート/厚生労働省

 7月17日、厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部は、全国の関係機関ならびに医療機関に向けに作成する「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き」を改訂し、2.2版として発表した。  3月17日に第1版が発行されたこの手引きは、5月18日に第2版が発行され、その後も毎月1回のペースで改訂されている。今回の改訂における主なポイントは以下のとおり。・国内データ:直近まで更新・診断:遺伝子増幅検査(LAMP法・PCR法)の解説を追加・診断:抗原定量検査の解説を追加・届出:新型コロナウイルス感染症医療機関等情報支援システム(MIS-G)の解説を追加・重症度分類:重症化マーカーとしてKL-6上昇を追加・薬物療法:承認された薬物療法としてデキサメタゾンを追加・薬物療法:ファビピラビル(商品名:アビガン)に関する臨床試験の経過を追加・環境整備:次亜塩素酸水を使用する場合の注意点を追加・退院基準:抗原定量検査の項目を追加

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COVID-19流行、 ACSの入院数減に影響か/Lancet

 イングランドでは、急性冠症候群(ACS)による入院患者数が、2019年と比較して2020年3月末には大幅に減少(40%)し、5月末には部分的に増加に転じたものの、この期間の入院数の低下は、心筋梗塞による院外死亡や長期合併症の増加をもたらし、冠動脈性心疾患患者に2次予防治療を提供する機会を逸した可能性があることが、英国・オックスフォード大学のMarion M. Mafham氏らの調査で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2020年7月14日号に掲載された。COVID-19の世界的流行期に、オーストリアやイタリア、スペイン、米国などでは、ACSによる入院数の低下や、急性心筋梗塞への直接的経皮的冠動脈インターベンション(PCI)の施行数の減少が報告されているが、入院率の変化の時間的な経過やACSのタイプ別の影響、入院患者への治療などの情報はほとんど得られていないという。ACSのタイプ別に、入院と手技の数、減少率を評価 研究グループは、イングランドにおける種々のタイプのACS入院患者数の変化の規模、性質、期間を把握し、COVID-19の世界的流行の結果としての、患者の院内管理への影響を評価する目的で検討を行った(英国医学研究評議会[MRC]などの助成による)。 解析には、Secondary Uses Service Admitted Patient Careデータベースに記録されたイングランドにおける2019年1月1日~2020年5月24日の、ACSのタイプ別の入院データを用いた。 入院患者は、ST上昇型心筋梗塞(STEMI)、非STEMI(NSTEMI)、タイプ不明の心筋梗塞、その他のACS(不安定狭心症を含む)に分類された。また、入院期間中に受けた血行再建術(PCIを行わない冠動脈造影、PCI、冠動脈バイパス術[CABG])が同定された。 入院と手技の数を週単位で算出し、入院とACSタイプ別の減少率および95%信頼区間(IC)が算定された。5月最終週の減少率は16%、入院日数も短縮 ACSによる入院は、2020年2月中旬から減少しはじめ、2019年のベースラインの3,017件/週から、2020年3月末には1,813件/週へと40%(95%CI:37~43)低下した。この減少傾向は、2020年4月~5月には部分的に増加に転じて、5月最終週には2,522件/週へと上昇し、ベースラインからの減少率は16%(13~20)となった。 入院数の減少期間中は、ACSのすべてのタイプで入院数が低下したが、STEMIとNSTEMIでは、NSTEMIで減少率が高く、2019年の1,267件/週から2020年3月末の733件/週へと42%(95%CI:38~46)低下した。 並行して、PCI施行数も減少し、STEMIでは2019年の438件/週から2020年3月末には346件へと21%(95%CI:12~29)低下し、NSTEMIでは383件/週から240件/週へと37%(29~45)減少した。 また、ACS患者の入院期間中央値は、2019年は4日(IQR:2~9)であったが、2020年3月末には3日(1~5)へと短くなった。STEMIは3日から2日へ、NSTEMIは5日から3日へ短縮した。 著者は、「ACSの患者管理へのCOVID-19の影響の全容は、これらの解析を更新することで、引き続き評価されるだろう」とし、「COVID-19の次なる流行時に、不必要な死亡や障害を回避するためにも、ACSなどの緊急性の高い疾患の患者が救急診療部を受診しない理由を解明し、速やかに対処すべきである」と指摘している。

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