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IL-6受容体拮抗薬の新型コロナ重症化阻止には低用量ステロイドの併用が必要?(解説:山口佳寿博氏)-1383

 新型コロナ感染症の重症化は生体の過剰免疫反応に誘発されたサイトカイン・スト-ムに起因する。サイトカイン・スト-ムの形成にはIL-6関連細胞内シグナル伝達系の賦活が重要な役割を担うと考えられており、IL-6受容体拮抗薬の効果を検証するために多数の試験が施行されてきた。しかしながら、期待とは裏腹に新型コロナ感染症の重症化に対するIL-6受容体拮抗薬の効果を肯定する論文と否定する論文が混在し、IL-6受容体拮抗薬の効果が確実だと断定できないのが現状である。本論評では、2021年2月下旬にNEJM に同時に掲載されたIL-6受容体拮抗薬の効果を肯定する論文(REMAP-CAP Investigators. N Engl J Med. 2021 Feb 25. [Epub ahead of print])と否定する論文(Rosas IO,et al. N Engl J Med. 2021 Apr 22;384:1503-1516.)をとり上げ、なぜこのような正反対の結果が得られたのか、その原因について考察する。 新型コロナ重症肺炎に対するIL-6受容体拮抗薬(トシリズマブ、商品名:アクテムラ)の効果を肯定した最初の論文は、イタリアにおける後ろ向き観察研究TESEO Trialであった(Guaraldi G,et al. Lancet Rheumatol. 2020 Aug;2:e474-e484.)。この解析では、静注、皮下注の別なくトシリズマブ投与は、重症肺炎患者における入院2週間以内の累積死亡率を62%低下させることが示された。中等症以上の肺炎患者を対象としたフランスの多施設ランダム化非盲検対照試験CORIMUNO-19 Trialでは入院後4週までの死亡率に有意差を認めなかったものの2週までの死亡率はトシリズマブ群で有意に低かった(Hermine O,et al. JAMA Intern Med. 2021 Jan 1;181:32-40.)。米国の多施設観察研究STOP-COVID Trialは、ICU入院の重症~重篤肺炎患者を対象としたものである(Gupta S,et al. JAMA Intern Med. 2021;181:41-51.)。この解析では、ICU入院2日以内の早期にトシリズマブを投与すると4週後の死亡リスクが29%低下すると報告された。英国での多施設ランダム化非盲検対照試験REMAP-CAP Trialは、ICU入院の重篤肺炎患者を対象として2種類のIL-6受容体拮抗薬(トシリズマブ群: 353例、サリルマブ[商品名:ケブザラ]群: 48例)の効果を解析したものであり、対照群として402例が登録された(REMAP-CAP Investigators. N Engl J Med. 2021 Apr 22;384:1491-1502.)。本試験では、全対象の93%で何らかのステロイドが基礎治療として導入されていた。IL-6受容体拮抗薬はICU入院1日以内に静脈投与されており、その結果として、IL-6受容体拮抗薬は、ICU入院3週目までの心肺機能支持療法の必要日数、病院内死亡率、3ヵ月後の死亡率において有意な改善効果を示した。4月29日現在、正式論文として出版されていないが英国の大規模RECOVERY Trial(多施設ランダム化非盲検対照試験、トシリズマブ群: 2,022例、対照群: 2,094例)でもIL-6受容体拮抗薬によって4週間以内の死亡率が有意に低下すると報告された(RECOVERY Collaborative Group. medRxiv.)。RECOVERY Trialにおいては、基礎治療としてのステロイドが全対象の82%に投与されていた。 トシリズマブの効果を否定した最初の論文は、イタリアから報告された(Salvarani et al. JAMA Intern Med. 2021;181:24-31.)。この試験は、前向き多施設ランダム化非盲検対照試験で中等症の急性呼吸不全/ARDSを呈した肺炎患者を対象としたものであり、ランダム化は症状発現から8日以内に行われ、トシリズマブはランダム化から8時間以内に投与された。本試験では、トシリズマブの効果を認めず、2週、4週以内の死亡率はトシリズマブ群と対照群でほぼ同一であった。米国における多施設ランダム化二重盲検対照試験BACC Bay Tocilizumab Trialでは、中等症~重症の肺炎患者を対象としてインフォ-ムド・コンセント取得3時間以内にトシリズマブが投与された。4週目までに挿管に至った、あるいは、死亡した患者の割合は、トシリズマブ群と対照群で有意差を認めなかった。英国、米国など世界9ヵ国62施設が参加して施行された国際的多施設ランダム化二重盲検対照試験COVACTA Trialでは、重症肺炎患者を対象とし、トシリズマブ群:294例、対照群:144例が登録された(Rosas IO,et al. N Engl J Med.2021 Apr 22;384:1503-1516.)。本試験では、退院までの日数はトシリズマブ群で有意に短かったが、4週目までの死亡率には両群間で有意差を認めなかった。本試験における基礎治療としてのステロイドは全対象の24%のみにしか投与されておらず、REMAP-CAP Trial、RECOVERY Trialに比べ明らかに少なかった。 REMAP-CAP Trial(IL-6受容体拮抗薬の効果を肯定)とCOVACTA Trial(IL-6受容体拮抗薬の効果を否定)における試験計画には種々の差が存在する。たとえば、対象患者のエントリ-基準(対象患者の重症度など)、IL-6受容体拮抗薬の投与時期、Primary endpointの内容ならびに判定時期、試験の盲検性(二重盲検か非盲検か)などが異なっている(Angriman F,et al. Lancet Respir Med. 2021 Apr 27. [Epub ahead of print])。しかしながら、論評者は、両試験の差の中で最も重要なものは基礎治療としてのステロイドの導入頻度だと考えている(REMAP-CAP Trial: 93%、COVACTA Trial: 24%)。 新型コロナ感染症における重症化の最も重要な機序であるサイトカイン・スト-ムの発生にはIL-6関連シグナル伝達経路の賦活化が重要である。コロナウイルスが生体細胞に感染し細胞のACE2を占有すると、ACE2のリガンドであるアンギオテンシンII(AT)はACE2ではなくType 1アンギオテンシン受容体(AT1R)と結合する経路に流入する(AT-AT1R複合物の形成)。AT-AT1R複合物は、細胞膜に存在するタンパク分解酵素ADAM-17を賦活化し、細胞膜に付着しているTNFα、IL-6受容体α(IL-6Rα)を膜から切断、可溶性TNFα、可溶性IL-6Rα(sIL-6Rα)を産生する。可溶性TNFαは転写因子NF-кBを活性化し、TNFα、IL-1、IL-6、IL-8など多様な炎症性サイトカインを産生する。すなわち、可溶性TNFαは、NF-кBを活性化、活性化されたNF-кBはTNFαを再度産生するという“positive feed back回路”を形成する。本論評では、この回路をTNFαル-プと定義する。一方、sIL-6RαはIL-6と結合し、種々の細胞において転写因子STAT3を活性化する。STAT3はNF-кBとの物理的結合などの機序を介してNF-кBの活性を上昇させる(STAT3とNF-кBのcross talk)。このようなSTAT3を介するNF-кBの活性化はIL-6 amplifier(IL-6アンプ)と呼称される(Hirano T, et al. Immunity. 2020 May 19;52:731-733.)。IL-6アンプは、NF-кBの活性化によって細胞遊走因子(ケモカイン)を含む多様な炎症性サイトカイン(TNFα、IL-1、IL-6、IL-8など)の持続的過剰産生を惹起する。それ故、IL-6アンプはNF-кBの活性化を持続させる“positive feed back回路”の1つと考えることができる。以上のTNFαル-プとIL-6アンプは互いに連携しており、サイトカイン・スト-ムの主たる発生機序として重要である。IL-6アンプを阻止するためには、可溶性IL-6Rαの効果を抑制すればよく、IL-6受容体拮抗薬が最もシンプルかつ有効な手段である。しかしながら、IL-6受容体拮抗薬はTNFαル-プの一部を抑制するもののすべてを抑制する訳ではなく、TNFαル-プの確実な抑制のためにはTNFα阻害薬の投与が必要である(Feldmann MJ,et al. Lancet. 2020 May 2;395:1407-1409.)。TNFαル-プとIL-6アンプの同時抑制には、これら2つの経路に対して“扇の要”として作用するNF-кBの活性を、たとえば、低用量ステロイドなどによって阻害すればよい。 以上の分子生物学的機序を基礎として、IL-6受容体拮抗薬が新型コロナ感染症の重症化阻止に有効であると報告したREMAP-CAP Trial、RECOVERY Trialとそれらとは逆に無効と報告したCOVACTA Trialの意味する内容について考察する。有効と報告した前2つの試験では、対象の82~93%に基礎治療としてステロイドが投与されていた。すなわち、REMAP-CAP Trial、RECOVERY Trialは、IL-6アンプとTNFαル-プに対して“扇の要”として作用するNF-кB活性をステロイドによる基礎治療によって抑制したものであり、IL-6ル-プ単独の効果を見たものではない。言い換えれば、REMAP-CAP Trial、RECOVERY TrialからはIL-6受容体拮抗薬が単独で新型コロナ感染症の重症化阻止に真に有効であるとは結論できない。一方、無効と報告したCOVACTA Trialでは基礎治療としてステロイドが投与されていた対象の割合は24%と低いものであった。すなわち、COVACTA Trial は、ほぼ純粋にIL-6アンプの効果を観察したものであり、COVACTA Trialの結果は、IL-6受容体拮抗薬の単独投与が新型コロナ感染症におけるサイトカイン・スト-ムに起因する病態の重症化を有意に抑制するものではないことを示唆する。以上の考察より、現時点では、IL-6受容体拮抗薬自体の新型コロナ感染症重症化阻止作用は否定的と考えなければならず、IL-6受容体拮抗薬の臨床的効果発現のためには、ステロイド(低用量)の併用が必要であるものと推察される。これに関する明確な機序は不明であるが、IL-6受容体拮抗薬の効果発現には、IL-6アンプに加えTNFαル-プの同時抑制が必要、あるいは、IL-6受容体拮抗薬とステロイドとの間に本論評で考察した機序以外の相加/相乗効果が存在するのかもしれない。今後、IL-6アンプの抑制、TNFαル-プの抑制、あるいは、両者の同時抑制を意識した確実な臨床試験を期待するものである。

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メマンチンによるPTSD治療の有効性

 現在、心的外傷後ストレス障害(PTSD)に対する薬理学的治療の選択肢は十分でなく、新たな薬物治療アプローチの開発が待たれている。国立精神・神経医療研究センターの堀 弘明氏らは、一般人のPTSDに対するNMDA受容体拮抗薬であるメマンチンの有効性および安全性を評価するため、12週間のオープンラベル臨床試験を実施した。European Journal of Psychotraumatology誌2021年1月15日号の報告。 対象は、一般人女性のPTSD成人患者13例(DSM-IV基準)。対象患者には、4週目までは毎週、その後は12週目まで4週間ごとに外来診療を行った。各患者の現在の治療薬に、メマンチン5mg/日を追加し、その後用量調整を行った。基本的に併用薬は、試験期間中に変更しなかった。主要アウトカムは、外傷後ストレス診断尺度(PDS)で評価したPTSD診断および重症度とした。 主な結果は以下のとおり。・13例中1例が脱落、2例がプロトコール逸脱のため試験を終了したため、10例について分析を行った。・平均PDS総スコアは、ベースライン時の32.3±9.7から12週目の12.2±7.9へ有意な改善が認められた(paired t検定:p=0.002、d=1.35)。侵入症状、逃避症状、過覚醒症状の有意な改善が認められた。・6例は、12週目にPTSD診断基準を満たさないまで回復がみられた。・睡眠障害、眠気、鎮静、体重変化、低血圧などメマンチンに関連する可能性のある有害事象が観察されたが、いずれも重篤ではなかった。 著者らは「メマンチン治療は、一般のPTSD女性の症状を有意に改善し、忍容性も良好であった。PTSDに対するメマンチンの有効性および安全性を検証するためにも、今後のランダム化比較試験が求められる」としている。

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全身性アミロイドーシス〔amyloidosis〕

1 疾患概要アミロイドーシスとは、通常は可溶性である蛋白質が、さまざまな要因により不溶性の線維状構造物であるアミロイドヘと変性し、諸臓器に沈着することで種々の機能障害を来す疾患群である1)。全身の諸臓器にアミロイド沈着が起こり臓器障害を引き起こす全身性アミロイドーシス、1つの臓器に限局してアミロイド沈着を起こす限局性アミロイドーシスに分類されるが、これまで37のアミロイド前駆たんぱく質が明らかになっている(表)。表 主なアミロイドーシスの分類画像を拡大するその中で患者数も多く、治療できる疾患は以下の通りである。ALアミロイドーシス、家族性アミロイドポリニューロパチー([familial amyloid polyneuropathy:FAP]、ATTRv)、老人性全身性アミロイドーシス(ATTRwt)は厚生労働省に難病指定されている。1)ALアミロイドーシス異常形質細胞が単クローン性に増殖し、その産物である免疫グロブリン(M蛋白)の軽鎖(L鎖)がアミロイドを形成する。まれに重鎖(H鎖)が前駆蛋白質となるAHアミロイドーシスもある。2)ATTRvアミロイドーシス遺伝的に変異を起こしたトランスサイレチン(transthyretin:TTR)が前駆蛋白となり末梢神経、自律神経系、心、腎、消化管、眼などの臓器に沈着する常染色体優性遺伝形式のアミロイドーシスを言う。3)AAアミロイドーシス関節リウマチ(RA)など慢性炎症に続発し、血清アミロイドA蛋白が原因蛋白質となる。4)ATTRwtアミロイドーシスTTRが前駆蛋白となり、70歳代以降に発症しやすく、主に心臓や運動器に疾患を来す。5)透析アミロイドーシス長期の透析に伴いβ2ミクログロブリンが前駆蛋白となり、 手根管や運動器に沈着する。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)アミロイド蛋白質の沈着臓器は、心臓、腎臓、消化管、神経など多臓器にわたり、臨床症状は多彩である。初期にはALアミロイドーシスでは全身倦怠感、体重減少、浮腫、貧血などの非特異的症状があるが他の病型では特徴的な症状がない。経過中にうっ血他心不全、蛋白尿、吸収不良症候群、末梢神経障害、起立性低血圧、手根管症候群、肝腫大、巨舌、皮下出血などを呈する。1)心アミロイドーシス超音波エコーや心電図、MRI、血清NT-proBNPなどでスクリーニングができるが、ピロリン酸心筋シンチを行うと90%以上の感度でFAPや老人性全身性アミロイドーシス症例では陽性になることが明らかになっている。本症は最も生命予後を左右する。2)末梢神経障害FAP、老人性全身性アミロイドーシス、ALアミロイドーシスなどで認められるが、皮膚パンチ生検、神経伝導速度、SudoScanなどで小径線維の障害を証明することが重要である。3)腎アミロイドーシスしばしばネフローゼ症候群を呈し、蛋白尿や浮腫、 低アルブミン血症を呈する。胸水や心嚢液貯留をみることもある。4)消化管胃および十二指腸に沈着しやすい。交替性下痢便秘が起こり吸収不良症候群や下痢がみられる。血管周囲へのアミロイドの沈着が起こり 消化管出血が起こることもある。■ 診断全身性アミロイドーシスの診断には、 少なくとも2臓器にわたる病変を認めることが重要であり、限局性アミロイドーシスと鑑別する必要がある。確定診断は病理検査が必要で、アミロイドーシス全般のスクリーニングとしては腹壁脂肪生検が広く行われている。低侵襲性で簡便であるが、FAP以外では感度が低いため、複数の臓器(消化管[特に胃・十二指腸]、口唇、皮膚、唾液腺、歯肉生検など)での生検を行いコンゴレッド染色で陽性を確認する必要がある。その後、前駆蛋白を免疫組織染色で決定し(決定できないときは質量分析装置を使用する)、各種検査により病変臓器の範囲を決定し、治療の方針を決めていく。ALアミロイドーシスではM蛋白の検出には、血清・尿の電気泳動が行われてきたが、遊離軽鎖(free light chain:FLC)が保険適用となり感度が98%と高いことから、広く行われるようになっている。アミロイドーシスでは疾患特異的なマーカーがないので、既存の疾患に該当しない場合、まず本症を疑うことが重要である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)1)ALアミロイドーシスボルテゾミブ、サリドマイドなどの化学療法薬が用いられるようになった。発症早期患者では、化学療法後の末梢血自家移植療法で寛解が得られる。2)ATTRvアミロイドーシス(1)肝移植アミロイド原因蛋白質である異型TTRの95%以上が肝臓で産生されることから、1990年以来、世界各国で肝移植が試みられてきたが治療薬剤の登場と共に行われなくなった。(2)薬剤療法TTRの四量体を安定化させアミロイド沈着を防ぐdiflunisal(外国購入で使われている)、タファミジス(商品名:ビンダケル)が使用可能になり、ニューロパチー、心機能悪化が抑制されている。また、RNAi治療薬パチシランナトリウム(同:オンパットロ点滴静注)も点滴静注で使用可能となり、ニューロパチーには改善効果が認められている。トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーでは、タファミジス20mg 1日1回、パチシランナトリウム2mg/mL 3週間1回点滴静注を、トランスサイレチン型心アミロイドーシスではタファミジス80mg 1日1回を使用する。(3)眼科的治療緑内障や硝子体混濁に関しては手術を行う。3)ATTRwtアミロイドーシスタファミジスが心不全の改善効果を示し、死亡率を抑制することが明らかになっている。SiRNA TTRもATTRvに伴う心不全に対し改善効果があることが明らかになっている。4)AAアミロイドーシス本症を引き起こす原疾患はRAが大多数であるため、リウマチ治療薬が結果として本症の治療になる。IL6受容体抗体トシリズマブ(同:アクテムラ)投与によりアミロイド沈着が完全に消失したとする報告もある。5)透析アミロイドーシス透析膜の改良により発症頻度が低下している。透析にアミロイド吸着カラム(リクセル)を用いることがある。6)その他の対症療法心アミロイドーシスは利尿薬による対症療法が中心となる。ジギタリスやカルシウム拮抗薬はアミロイド線維と結合し感受性が高まるため、中毒のリスクや血行動態悪化の危険があるので、注意が必要である。腎アミロイドーシス蛋白尿の減少にACE阻害薬が有効であることもある。末期の腎不全に関しては腹膜透析、血液透析を行う。腎移植は腎以外のアミロイドの沈着がない場合に考慮する。消化管アミロイドーシスでは下痢に注意が必要である。低栄養状態の患者には十分な栄養を経口、経静脈的に補給する。4 今後の展望ALアミロイドーシスでは、ミエローマ細胞に対する治療薬の開発が進んでいる。ATTRvアミロイドーシスではgene silencing治療に加え、Crisper Cas9システムによるゲノム編集治療がPhase studyに入っている。AAアミロイドーシスは原因疾患としては最も多いRAの生物製剤治療が進み、今後さらに患者数は減っていくものと思われる。透析アミロイドーシスは透析膜の改良によりさらに患者数が減少している。ALアミロイドーシスとATTRvの組織沈着アミロイドをターゲットとした抗体治療の開発が進んでいる。5 主たる診療科ALアミロイドーシスは血液内科、ATTRvアミロイドーシスは神経内科、ATTRwtアミロイドーシスは循環器内科、AAアミロイドーシスはリウマチ科、透析アミロイドーシスは腎臓内科などの診療科が、これまで主に診療にあたってきたが、アミロイドーシス全体の啓発活動が活発化し、横断的な診療が行われるようになった。心アミロイドーシスを来すのはAL 、TTRv、ATTRwt アミロイドーシスなどで高率にみられる。どの全身性アミロイドーシスも腎にアミロイド沈着がみられるので腎臓内科の関与が必要である。また、ATTRvアミロイドーシスにおいては眼アミロイドーシスを呈するため、眼科の関与が必要となる。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報「アミロイドーシス調査研究班」(厚生労働省)ホームページ(医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報道しるべの会(FAP患者家族会)(患者とその家族および支援者の会)1)植田光晴 編集、安東由喜雄 監修. アミロイドーシスのすべて. 2017;医歯薬出版.2)Merlini G. Hematology Am Soc Hematol Educ Program. 2017;8:1-12.3)Ando Y, et al. Orphanet J Rare Dis. 2013;8:31-43.4)Frederick L. et al. J Am Coll Cardiol. 2019;73:2872-2891.公開履歴初回2021年4月28日

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新型コロナワクチンによるアナフィラキシー、高齢者での管理は?

 COVID-19ワクチンによるアナフィラキシーの発生頻度は10万回に1回~100万回に5回程度と稀であるものの、高齢者のアナフィラキシーの管理はとくに慎重に対応する必要がある。欧州アレルギー臨床免疫学会(EAACI)、欧州老年医学会(EuGMS)らは合同のワーキンググループを発足、COVID-19ワクチンによる高齢者のアナフィラキシーの管理に関する公式見解(position paper)を、Allergy誌オンライン版2021年 4月2日号に報告した。 position paperは下記5項目で構成され、それぞれ推奨事項が提案されている。1.COVID-19ワクチンとアナフィラキシー2.高齢者におけるアナフィラキシー症状3.高齢者における重度のアナフィラキシーのリスク因子4.高齢者におけるアナフィラキシーの管理5.臨床でのアナフィラキシー反応の予防と管理 本稿では、一部内容を抜粋して紹介する。「COVID-19ワクチンとアナフィラキシー」、頻度や傾向は? 米国のワクチン有害事象報告システム(VAERS)で報告されたデータの最初の分析では、ファイザー社のmRNAワクチン100万回投与当たり11.1例のアナフィラキシーが報告された。続く2021年1月18日のVAERSレポートでは、ファイザー社ワクチン接種者で100万回投与当たり5回、モデルナ社ワクチン接種者100万回投与当たり2.8回のアナフィラキシーが報告されている。ワクチンに使用されているポリエチレングリコール(PEG)がアレルギー反応を引き起こす可能性があると指摘されている。 ファイザー社ワクチンでのアナフィラキシー症例の年齢中央値は40歳(27~60歳)で、報告された症例の90%は女性。アレルギー反応は、常にではないものの、多くの場合、重度のアレルギー反応の既往歴のある人に発生した。 また、mRNAワクチンの臨床試験段階では、痛み、倦怠感、頭痛、発熱などの局所および全身性反応の発生数は、若年者よりも高齢者で少なかった。「高齢者におけるアナフィラキシー症状」、若年者との違い 2019年に報告がまとめられた欧州のアナフィラキシーレジストリでは、昆虫毒や鎮痛薬、抗生物資などによりアナフィラキシーを発症した65歳以上1,123人のデータが解析されている。発現したアナフィラキシー症状は若年成人と高齢者で類似していたが頻度は異なり、高齢者では心血管症状がより頻繁に発生していた(若年成人の75%に対して80%)。 主な心血管症状は意識喪失(33%)で、めまいと頻脈については若年成人に多くみられた。心停止は、高齢者の3%と若年成人の2%で発生。皮膚症状は最も頻繁にみられ、蕁麻疹と血管性浮腫は通常は他の症状の前に現れる。皮膚症状のない高齢患者のアナフィラキシー反応の重症度は、若年成人と比較して増加した。消化器症状は、両方のグループで同様の割合で発生していた。 呼吸器症状、とくに呼吸困難は、高齢者で頻繁にはみられていない(若年成人の70%に対して63%)。ただし、チアノーゼ、失神、めまいは、高齢者のショック発症を高度に予測していた。Ring and Messmer 分類のGrade III(47%)およびGrade IV(4%)を含む重度のアナフィラキシー反応は、65歳以上で多くみられた。 高齢患者の30%でアドレナリンが投与され、60%で入院が必要であり、19%が集中治療室(ICU)で治療された。Grade IIおよびIIIの症例では、若年および中年の成人と比較して、有意に多くの高齢者が入院およびICUケアを必要としていた。「高齢者における重度のアナフィラキシーのリスク因子」 高齢者における重度のアナフィラキシーのリスク因子として、「併存疾患」と「服用薬と多剤併用」を挙げている。併存疾患として、上述のレジストリでは高齢であることと肥満細胞症の併存が重度のアナフィラキシーのリスク増加の最も重要な予測因子であった。遺伝性α-トリプトファン血症もリスク因子となる。虚血性心筋症ではアナフィラキシーの重症化および死亡リスクが高くなる。アテローム性動脈硬化症の病変により、アナフィラキシー中の低酸素症および低血圧に対する耐性が低下することも報告されている。レジストリでは、心血管疾患、甲状腺疾患、およびがんが若年成人よりも多くみられた。 服用薬については、レジストリでは重度のアナフィラキシーリスクの補因子となる薬剤(ACE阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬、β遮断薬、アセチルコリン、プロトンポンプ阻害薬など)は、若年成人(18%)よりも高齢者(57%)で有意に多く処方されていた。年齢とは独立して、アレルゲン曝露と近い時期に投与されたβ遮断薬とACE阻害薬は、重度のアナフィラキシー発症リスクとの関連がみられたが、アスピリンとアンジオテンシンII受容体拮抗薬では確認されなかった。 そのほか、抗不安薬、抗うつ薬、催眠薬等中枢神経系に作用する薬で治療されており、アナフィラキシー症状や兆候に対する認識に影響を与えている可能性のある高齢者には、注意を払うことが重要となる。「高齢者におけるアナフィラキシーの管理」、アドレナリン使用の注意点は? EAACI および世界アレルギー機構のガイドラインでは、アナフィラキシーの第一選択療法としてアドレナリンの迅速な筋肉内注射が推奨されており、高齢者においてもアドレナリンが重度のアナフィラキシーに作用することが報告されている。ただし、アドレナリンの多くの心血管系有害事象は血管内経路を介して発生すると考えられ、血管内投与は原則として避ける必要がある。 心血管疾患の併存は、アナフィラキシー発症時のアドレナリンの使用を制限するものではない。これは、この救急措置において他の薬剤が救命効果を発揮しないためである。高齢患者やアナフィラキシーリスクがある心血管疾患のある患者においても、アドレナリン投与に絶対的な禁忌はない。アドレナリン投与後、心室性不整脈、高血圧、心筋虚血などの重篤な副作用は報告されていない。ただし、アナフィラキシー発症の高齢患者では、アドレナリン注射後に有害心イベントを経験する可能性が高く、80歳以上の患者が最もリスクが高いという報告がある。そのため、心血管疾患併存患者がアナフィラキシーを発症した場合、アドレナリン投与のリスクとベネフィットを迅速・慎重に比較検討する必要がある。

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成人不眠症に対するレンボレキサントの長期有効性、安全性~第III相臨床試験

 レンボレキサント(LEM)は、成人の不眠症治療薬として日本、米国、カナダで承認されているデュアルオレキシン受容体拮抗薬である。LEMを最大12ヵ月間継続使用した際の有効性および安全性を評価したE2006-G000-303研究(Study 303;SUNRISE-2)の結果を、英国・エーザイのJane Yardley氏らが報告した。Sleep Medicine誌オンライン版2021年2月1日号の報告。 Study 303は、2つの治療期間における12ヵ月間グローバル多施設共同ランダム化二重盲検並行群間第III相臨床試験として実施された。治療期間1(前半6ヵ月間)では、成人不眠症患者949例(完全分析セット)を対象に、プラセボ群、LEM 5mg群、LEM 10mg群にランダムに割り付けた。治療期間2(後半6ヵ月間)では、プラセボ群を再びLEM 5mg群とLEM 10mg群にランダムに割り付け、治療期間1のLEM 5mg群およびLEM 10mg群は、そのまま治療を継続した(LEM 5mg群:251例、LEM 10mg群:226例)。エンドポイントである入眠および睡眠維持は、毎日の電子睡眠日誌のデータより分析した。治療に起因する有害事象(TEAE)のモニタリングを行った。 主な結果は以下のとおり。・LEM 5mg群およびLEM 10mg群は、プラセボ群と比較し、すべての睡眠パラメータにおける有意な効果が観察され、その効果は12ヵ月間維持された。・LEM治療中止後、両群ともに不眠症状のリバウンドまたは離脱症状を示す根拠は見当たらなかった。・12ヵ月以上のLEM治療におけるTEAEは、ほとんどが軽度または中等度であった。・主なTEAEは、鼻咽頭炎、傾眠、頭痛であった。 著者らは「LEM 5mgおよび10mgによる治療は、プラセボと比較し、入眠および睡眠維持に有意な効果をもたらし、その効果は12ヵ月間維持された。成人不眠症患者に対するLEM治療は、長期的なベネフィットをもたらす可能性があることが示唆された」としている。

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トランスサイレチン型心アミロイドーシス〔ATTR-CM:transthyretin amyloidosis cardiomyopathy〕

1 疾患概要■ 概念・定義アミロイドーシスは、βシート構造を豊富にもつ蛋白質がさまざまな病因により前駆蛋白となり、立体構造を変化させながら、重合、凝集を来すことによりアミロイド線維を形成し、細胞外間質に沈着することで臓器障害を生じる疾患の総称である。アミロイド前駆蛋白の種類により、傷害される臓器が異なる。心アミロイドーシスとして、臨床的な心臓の障害を呈するのは、トランスサイレチン(transthyretin:TTR)を前駆蛋白とするATTRアミロイドーシスと免疫グロブリン軽鎖(L鎖)を前駆蛋白とするALアミロイドーシスが主な病型である(図1)。さらにATTRアミロイドーシスは、TTR遺伝子変異を認めない野生型ATTRアミロイドーシス(ATTRwt)とTTR遺伝子変異を認める遺伝性TTRアミロイドーシス(ATTRv)に分けられる。図1 心アミロイドーシスの病型分類画像を拡大する(日本循環器学会.2020年版 心アミロイドーシス診療ガイドライン.https://www.j-circ.or.jp/guideline/guideline-series/(2021年2月閲覧).2020.p.11より引用)■ 疫学本症は従来まれな疾患と考えられてきた。しかし、後で述べる検査法の進歩により、特にATTRwt心アミロイドーシスは、高齢者の心不全(高齢者心不全の数%の可能性)や大動脈弁狭窄症にある一定数存在することが明らかになり、日常臨床で比較的遭遇する疾患であると考えられるようになった。性差があり、高齢男性に多い。ATTRvアミロイドーシスの患者は、わが国は、ポルトガル、スウェーデンに次いで世界で3番目に多いと考えられている。数百人の患者が報告されているが、診断されていない患者も相当数いると考えられる。■ 病因TTRはおもに肝臓、一部脳の脈絡叢や網膜色素上皮細胞で産生される127個のアミノ酸からなる蛋白質であり、甲状腺ホルモンであるサイロキシンやレチノール結合蛋白を運搬する役割を担っている。TTRは、血中では四量体を形成することで安定して存在するが、何らかの原因で四量体が不安定となると解離し、単量体を形成しアミロイド線維の基質となる。TTRが不安定となる原因としては、加齢とTTR遺伝子変異が挙げられる。加齢とともにTTR四量体が不安定となる理由はいまだ明らかではないが、肝臓でのトランスサイレチンあるいはシャペロン蛋白の翻訳後の生化学的変化などが可能性として報告されている。TTR遺伝子における150 種類以上の変異型が報告されている。わが国では、30番目の アミノ酸であるバリンがメチオニンに変異するVal30Met変異型がもっとも高頻度に認められる。■ 症状心アミロイドーシスの特異的な症状はなく、心不全による症状や不整脈や伝導障害による脳虚血症状などを認める。ATTRwtアミロイドーシスの主な障害臓器は、心臓に加え、腱や末梢神経が多いため、手根管症候群や脊柱管狭窄症が心症状に数年先行して出現することが多く、診断の一助となる。ATTRvアミロイドーシスは、全身臓器障害による多彩な症候を認める(図2)。図2 ATTRv アミロイドーシスの多様な全身症状(日本循環器学会.2020年版 心アミロイドーシス診療ガイドライン.https://www.j-circ.or.jp/guideline/guideline-series/(2021年2月閲覧).2020.p.23より引用改変)■ 予後ATTRwtアミロイドーシスは、確定診断からの生存期間の中央値は約3年半、ATTRvアミロイドーシスでは、未治療の場合は発症からの平均余命は10年程度と報告されている。2 診断 (検査・鑑別診断を含む)心アミロイドーシスの診断において最も重要なことは、原因不明の心不全や心肥大などにおいて本症を疑うことである(図3)。図3 心アミロイドーシス診療アルゴリズム画像を拡大する(日本循環器学会.2020年版 心アミロイドーシス診療ガイドライン.https://www.j-circ.or.jp/guideline/guideline-series/(2021年2月閲覧).2020.p.62より引用)1)スクリニーング検査(1)心電図検査心房細動や伝導障害を認めることが多い。従来心アミロイドーシスの特徴と言われた低電位と偽心筋梗塞パターンの出現頻度は、ATTR心アミロイドーシスでは高くはないので注意が必要である。(2)心エコー左室壁の肥厚、心房中隔の肥厚、心房の拡大、左室心筋のgranular sparklingを認める。ドプラー検査では左室の拡張障害を認める。病期が進行すると左室長軸方向のストレイン値は心室基部から低下していくため、apical sparing(心基部の長軸方向ストレインが低下し、相対的に心尖部では保たれている所見)を認める。(3)採血検査高感度心筋トロポニンの持続高値が診断に有用である。重症度に応じて、B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)およびB型Na利尿ペプチド前駆体N端フラグメント(NT-proBNP)が上昇する。(4)心臓MRICine MRIによる肥大の確認と遅延造影 MRIにおける左室内膜下優位のびまん性(late gadolinium enhancement:LGE)が典型的な所見である。近年T1 mapping法における他の肥大心との鑑別が期待されている(心アミロイドーシスではNative T1値高値、細胞外容積分画(ECV)高値)。2)二次検査(1)99mTc ピロリン酸シンチグラフィ(骨シンチグラフィ)99mTc ピロリン酸シンチグラフィが、ATTR心アミロイドーシスで高率に陽性になり、診断に有用である(図4)。実際には判断が困難な例も存在するが、高い感度、特異度で非侵襲的に本症を疑うことが可能である。図4 99mTc ピロリン酸シンチグラフィ画像を拡大する(2)M蛋白ALアミロイドーシスの除外診断のため、血液あるいは尿中のM 蛋白の有無を確認する。3)生検および病理診断によるアミロイドタイピングアミロイドーシス確定診断のためには組織へのアミロイド沈着の証明と病理学的なタイピングが必要である。心筋生検の陽性率は100%とされるが、その侵襲性の高さより、まずは腹壁脂肪吸引、皮膚生検、口唇唾液腺生検、胃・十二指腸などからの生検が行われるが、いずれの部位もアミロイドの検出は100%ではなく、1つの部位からの生検が陰性の場合は、他部位からの生検や繰り返しの生検、心筋生検を検討すべきである。特にスクリーニングとして行われることの多い腹壁脂肪吸引は、ATTRwtアミロイドーシスでは陽性率が低い(15%前後)ので注意が必要である。病理検査でアミロイドの沈着が証明された場合、各種抗体を用いた免疫染色によるタイピングが必須である。免疫染色でアミロイドタイピングの鑑別ができないときには、質量解析が有用である。4)遺伝子診断アミロイドタイピングでATTRアミロイドーシスと診断された場合、十分な配慮のもと遺伝子診断を行い、確定診断を行う。5)診断基準アミロイドーシスに関する調査研究班が各学会のコンセンサスのもと作成したATTRwtおよびATTRvアミロイドーシスの診断基準を示す(図5)。図5 ATTRwtおよびATTRvアミロイドーシスの診断基準画像を拡大する(日本循環器学会.2020年版 心アミロイドーシス診療ガイドライン.https://www.j-circ.or.jp/guideline/guideline-series/(2021年2月閲覧).2020.p.18-20.より引用)3 治療1)アミロイドーシスに対する一般的治療(1)心不全基本は利尿剤を中心とした治療である。左室駆出率の低下した心不全(HFrEF)で生命予後改善効果のあるβ遮断薬やACE阻害薬/アンギオテンシン受容体拮抗薬の効果は明らかでは無い。(2)不整脈心アミロイドーシスに伴う心房細動では塞栓症を来しやすく、禁忌でない限りCHADS2スコアに関係なく抗凝固療法を行うべきである。心房細動の心拍数管理に関して、ジギタリスは副作用を来しやすいため禁忌である。ベラパミルも変時作用や変陰力作用が強く出やすく、左室収縮性の低下した症例では禁忌である。完全房室ブロックなどの徐脈性不整脈を認めれば、恒久的ペースメーカーを植え込む。2)TTRアミロイドーシスに対する疾患修飾治療(図6)(1)TTR産生の抑制ATTRvアミロイドーシスに対して、異常なTTRの産生を抑える目的で、肝移植による治療が行われてきた。一方、TTRのほとんどが肝臓で産生されるため、遺伝子サイレンシングの手法を用いた遺伝子治療の良い標的と考えられる。パチシラン(商品名:オンパットロ)は、TTRメッセンジャーRNAを標的とし、遺伝子発現を抑制し、TTRの産生を阻害する低分子干渉RNA製剤である。本剤は、トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーに対し使用可能である。(2)TTR 四量体の安定化TTRを安定化させ、単量体になることを防ぐことで、TTRアミロイドーシスの進行が抑制されることが期待される。タファミジス(商品名:ビンダケル)は、TTRのサイロキシン結合部位に結合し、四量体を安定化させる。ATTR-ACT試験において、ATTRwtおよびATTRvによる心アミロイドーシス患者に対して、全死因死亡と心血管事象に関連する入院頻度を減少し、トランスサイレチン型心アミロイドーシス(野生型および変異型)に対して適応拡大が行われた。心アミロイドーシス患者に投与する際の適正投与のための患者要件(資料)、施設要件、医師要件に関するステートメントが日本循環器学会より出されている。図6 ATTRアミロイドの形成機序およびわが国で認可されている疾患修飾療法の作用機序画像を拡大する(日本循環器学会.2020年版 心アミロイドーシス診療ガイドライン.https://www.j-circ.or.jp/guideline/guideline-series/(2021年2月閲覧).2020.p.56より引用)【資料】トランスサイレチン型心アミロイドーシス症例に対するビンダケル適正投与のための患者要件(1)野生型の場合ア心不全による入院歴または利尿薬の投与を含む治療を必要とする心不全症状を有することイ心エコーによる拡張末期の心室中隔厚が12mmを超えることウ組織生検によるアミロイド沈着が認められることエ免疫組織染色によりTTR前駆蛋白質が同定されること(2)変異型の場合ア心筋症症状および心筋症と関連するTTR遺伝子変異を有することイ心不全による入院歴または利尿薬の投与を含む治療を必要とする心不全症状を有することウ心エコーによる拡張末期に心室中隔厚が12mmを超えることエ組織生検によるアミロイド沈着が認められること4 今後の展望次世代RNA干渉剤であるVutrisiran、TTR四量体安定化剤AG10、ATTRアミロイドを標的としたモノクロナール抗体などの試験が現在進行中である。5 主たる診療科循環器内科、脳神経内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本アミロイドーシス学会(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 全身性アミロイドーシス(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本循環器学会 トランスサイレチン型心アミロイドーシス症例に対するビンダゲル適正投与のための施設要件、医師要件に関するステーテメント(医療従事者向けのまとまった情報)1)安東由喜雄 監修. 最新アミロイドーシスのすべてー診療ガイドライン2017とQ&A―. 医歯薬出版:2017.2)2020年版 心アミロイドーシス診療ガイドライン(2021年2月閲覧)3)佐野元昭 編. Heart View 11月号.Medical View:2020. 4)Ruberg FL, et al. J Am Coll Cardiol. 2019;73:2872-2891.5)Kittleson M, et al. Circulation. 2020;142:e7–e22.公開履歴初回2021年4月5日

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なぜあえてCa拮抗薬にフェロジピン?【処方まる見えゼミナール(眞弓ゼミ)】

処方まる見えゼミナール(眞弓ゼミ)なぜあえてCa拮抗薬にフェロジピン?講師:眞弓 久則氏 / 眞弓循環器科クリニック院長動画解説68歳の男性患者に処方されたCa拮抗薬はフェロジピン。ACE阻害薬やサイアザイド系、β遮断薬も併用されており、複雑な患者背景が予想されます。Ca拮抗薬の中で現場でなかなか目にすることの少ないフェロジピンが選ばれたのはどのような経緯があるのでしょうか。

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Ca拮抗薬をアムロジピンからニフェジピンに変更した理由【処方まる見えゼミナール(大橋ゼミ)】

処方まる見えゼミナール(大橋ゼミ)Ca拮抗薬をアムロジピンからニフェジピンに変更した理由講師:大橋 博樹氏 / 多摩ファミリークリニック院長動画解説30歳、女性。降圧薬がアムロジピン+エナラプリルマレイン酸塩からメチルドパに変更されました。しかし、メチルドパだけでは血圧コントロールができなかったのか、増量したうえで、ニフェジピンも追加されました。この女性には、どのような臨床背景があったのでしょうか。

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アムロジピンをエナラプリルに変更した理由は?【処方まる見えゼミナール(三澤ゼミ)】

処方まる見えゼミナール(三澤ゼミ)アムロジピンをエナラプリルに変更した理由は?講師:三澤 美和氏 / 大阪医科大学附属病院 総合診療科動画解説入院を機にCa拮抗薬からACE阻害薬に変更された患者さん。この変更には、高血圧関連の理由ではない、意外な狙いが2つありました。薬剤の機序を利用した薬物選択のほか、高齢者において使用開始を検討しないといけない治療の考え方などを解説します。

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Ca拮抗薬使用中の患者にPPIが処方されたら…?【ママに聞いてみよう(2)】

ママに聞いてみよう(2)Ca拮抗薬使用中の患者にPPIが処方されたら…?講師:堀 美智子氏 / 医薬情報研究所 (株)エス・アイ・シー取締役、日本女性薬局経営者の会 会長動画解説高血圧症の患者さんにプロトンポンプ阻害薬が追加になり、服用中のCa拮抗薬が関係しているのかどうか考える正隆さん。Ca拮抗薬が胃食道へどのように影響するのか、また起こりうる症状や注意すべき患者について美智子先生が教えます。

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新しい作用機序の睡眠薬 使い分けのポイントは?【ママに聞いてみよう(4)】

ママに聞いてみよう(4)新しい作用機序の睡眠薬 使い分けのポイントは?講師:堀 美智子氏 / 医薬情報研究所 (株)エス・アイ・シー取締役、日本女性薬局経営者の会 会長動画解説メラトニン受容体作動薬やオレキシン受容体拮抗薬など、新しい作用機序の睡眠薬はどのような患者に適しているのでしょうか?睡眠・覚醒のメカニズムから、ベンゾジアゼピン系などのこれまでの睡眠薬との違いや使い分けについて美智子先生が解説します。

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米国におけるerenumab使用患者の特徴

 片頭痛は、中等度から重度の再発性発作を特徴とする衰弱性疾患であり、多くの患者が罹病している。erenumabは、クラス初のカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)受容体拮抗薬であり、成人の片頭痛予防に適応を有する薬剤である。米国・IQVIAのDionne M. Hines氏らは、米国の成人片頭痛患者において、erenumabが処方されている患者の特徴、アドヒアランス、治療パターンについて調査を行った。Headache誌オンライン版2021年2月16日号の報告。 IQVIAの薬局および医療機関のオープンソースレセプトデータベースを用いて、レトロスペクティブ縦断的コホートを実施した。データベースより、2018年5月~2019年4月にerenumabを初めて処方された成人片頭痛患者を特定した。患者のフォローアップ期間は、180日以上を必要とした。erenumabの処方パターン、継続性、アドヒアランス(薬剤保持率[MPR]、治療日数率[PDC])、急性片頭痛治療薬または他の片頭痛の予防薬の中止について調査を行った。erenumab開始後の急性期治療における用量変化は、erenumabにて適切な試験を行った患者のサブセット(処方開始後80日以内に2回以上のレセプトデータを有する)を用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・選択基準を満たした患者は、6万4,174例。・平均年齢は48±13歳で、女性の割合は85.2%(5万4,656例)であった。・erenumabの初回投与量は、過半数の患者(65.1%、4万1,790例)で70mgであった。・erenumab開始時の投与量から用量変更がなかった患者は3万4,019例(81.4%)であった。・PDCが0.80以上の患者は1万9,797例(30.8%)、MPRが0.80以上の患者は2万6,769例(41.7%)であった。・erenumab開始後、急性片頭痛治療薬の中止率は48.7%(2万2,965例/4万7,190例)、他の片頭痛予防薬の中止率は36.1%(1万6,602例/4万6,006例)であった。・トリプタン、エルゴット化合物、オピオイド、バルビツール酸を使用していた患者は、erenumab開始後に用量の減少が観察された。 著者らは「多くの患者は、片頭痛の急性期治療または予防の治療歴を有していた。erenumabのアドヒアランスは、従来の経口片頭痛予防薬よりも高かったが、全体のアドヒアランスはまだ十分とはいえない。erenumab開始後に急性期治療薬および予防薬の使用量が減少していることから、実臨床における有効性が示されている」としている。

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CGRPを標的とした片頭痛治療薬の作用機序比較

 カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)を標的とした片頭痛治療薬の臨床効果は、片頭痛の病因に対し重要な役割を果たしている。3つのCGRPリガンドに対する抗体(fremanezumab、ガルカネズマブ、eptinezumab)とCGRP受容体に対する抗体(erenumab)は、米国において片頭痛予防に承認された薬剤である。また、2つの小分子CGRP受容体拮抗薬(ubrogepant、rimegepant)は、急性期片頭痛の治療薬として承認されている。片頭痛の治療では、CGRPリガンドまたは受容体を標的とすることが効果的であるが、これらの治療薬を比較したエビデンスは十分ではなかった。米国・Teva BiologicsのMinoti Bhakta氏らは、これらCGRPを標的とした薬剤における作用機序の違いを明らかにするため、検討を行った。Cephalalgia誌オンライン版2021年2月24日号の報告。片頭痛に対するCGRPを標的とした薬は標的部位により薬剤間で作用機序が異なる CGRPリガンド抗体(fremanezumab)、CGRP受容体抗体(erenumab)、小分子CGRP受容体拮抗薬(telcagepant)の潜在的な違いを評価するため、結合能、機能、イメージングアッセイの組み合わせを用いた。 CGRPを標的とした薬剤における作用機序の違いを明らかにするために検討を行った主な結果は以下のとおり。・erenumabやtelcagepantは、古典的な(canonical)ヒトCGRP受容体においてCGRP、アドレノメデュリン、インテルメジンのcAMPシグナル伝達と拮抗する。・fremanezumabは、ヒトCGRP受容体においてCGRP誘導cAMPシグナル伝達のみと拮抗する。・erenumabは、古典的なヒトCGRP受容体と結合し、内在化するだけでなく、ヒトAMY1受容体に対しても同様に作用する。・erenumabやtelcagepantは、アミリン誘発性cAMPシグナル伝達と拮抗したが、fremanezumabでは認められなかった。 著者らは「片頭痛の予防や急性期の治療に対するCGRPを標的とした薬剤を用いた治療では、標的部位により薬剤間で作用機序が異なる。この異なるメカニズムは、片頭痛患者に対する有効性、安全性、忍容性に影響を及ぼす可能性がある」としている。

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心血管リスク因子のないSTEMIは死亡リスクが高い/Lancet

 標準的な心血管リスク因子(SMuRFs:高血圧、糖尿病、高コレステロール血症、喫煙)のないST上昇型心筋梗塞(STEMI)患者は、少なくとも1つのSMuRFsを有する患者と比較して全死因死亡のリスクが有意に高く、とくに女性で顕著である。オーストラリア・Royal North Shore HospitalのGemma A. Figtree氏らが、スウェーデンの心疾患登録研究であるSWEDEHEART研究を用いた後ろ向き解析結果を報告した。心血管疾患の予防戦略はSMuRFsを標的とすることが重要であるが、SMuRFsのない心筋梗塞はまれではなく、SMuRFsを有していない患者の転帰についてはよく知られていなかった。著者は、「早期死亡リスクの上昇は、ガイドラインで示された治療を追加することで弱まる。今回得られた所見は、ベースラインでのリスク因子や性別にかかわらず、心筋梗塞発症直後のエビデンスに基づいた薬物療法の必要性を強調するものである」とまとめている。Lancet誌オンライン版2021年3月9日号掲載の報告。STEMI患者約6万2千例を対象にSMuRFsの有無別で死亡率を解析 研究グループはSWEDEHEART研究のデータを用い、SMuRFsの有無にかかわらずSTEMI成人患者の臨床特性と転帰について、全体および性別ごとに解析した。冠動脈疾患の既往歴がある患者は除外された。 主要評価項目は、STEMI発症後30日以内の全死因死亡、副次評価項目は30日以内の心血管死、心不全および心筋梗塞であった。各評価項目は、退院まで、ならびに12年間の追跡終了時まで調査。多変量ロジスティック回帰モデルを用いて院内死亡率を比較し、Cox比例ハザードモデルおよびカプランマイヤー法により長期転帰を比較した。 解析対象は、2005年1月1日~2018年5月25日の期間に登録されたSTEMI患者6万2,048例であった。このうち、診断を要するSMuRFsを認めなかったのは9,228例(14.9%)で、年齢中央値はSMuRFsあり群68歳(四分位範囲:59~78)、SMuRFsなし群69歳(60~78)であった。SMuRFsなしで30日死亡リスクは約1.5倍、とくに女性は一貫して死亡率が高い SMuRFsなし群はあり群と比較して、経皮的冠動脈インターベンション実施率は類似していたが(71.8% vs.71.3%)、退院時におけるスタチン、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)/アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)、β遮断薬の投与率は有意に低かった。 発症後30日以内の全死因死亡リスクは、SMuRFsなし群で有意に高かった(ハザード比:1.47、95%信頼区間[CI]:1.37~1.57、p<0.0001)。30日以内の全死因死亡率が最も高かったのはSMuRFsがない女性(17.6%、381/2,164例)で、次いでSMuRFsあり女性(11.1%、2,032/1万8,220例)、SMuRFsなし男性(9.3%、660/7,064例)、SMuRFsあり男性(6.1%、2,117/3万4,600例)の順であった。 SMuRFsなし群における30日以内の全死因死亡リスクの上昇は、年齢、性別、左室駆出率、クレアチニン、血圧で補正後も有意であったが、退院時の薬物療法(ACEI/ARB、β遮断薬、スタチン)を組み込んだ場合は減弱した。 さらに、SMuRFsなし群はあり群と比較して、院内の全死因死亡率が有意に高かった(9.6% vs.6.5%、p<0.0001)。30日時点の心筋梗塞および心不全は、SMuRFsなし群で低かった。全死因死亡率は、男性では8年強、女性では追跡終了時である12年後まで、SMuRFsなし群が一貫して高いままであった。

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1日1回服用の卵巣がんPARP阻害薬「ゼジューラカプセル100mg」【下平博士のDIノート】第70回

1日1回服用の卵巣がんPARP阻害薬「ゼジューラカプセル100mg」今回は、ポリアデノシン5'二リン酸リボースポリメラーゼ(PARP)阻害薬「ニラパリブトシル酸塩水和物(商品名:ゼジューラカプセル100mg、製造販売元:武田薬品工業)」を紹介します。本剤は、BRCA遺伝子変異の有無にかかわらず、白金系抗悪性腫瘍剤を含む初回化学療法後もしくは再発時の化学療法後維持療法として、1日1回の服用で腫瘍細胞の増殖を抑制することが期待されています。<効能・効果>本剤は、「卵巣癌における初回化学療法後の維持療法」「白金系抗悪性腫瘍剤感受性の再発卵巣癌における維持療法」「白金系抗悪性腫瘍剤感受性の相同組換え修復欠損を有する再発卵巣癌」の適応で、2020年9月25日に承認され、同年11月20日より発売されています。<用法・用量>通常、成人にはニラパリブとして1日1回200mgを経口投与します。ただし、本剤初回投与前の体重が77kg以上かつ血小板数が15万/μL以上の成人には、1日1回300mgを経口投与します。なお、患者の状態により適宜減量し、本剤投与により副作用が発現した場合は、添付文書の基準を参考にして休薬、減量、中止します。<安全性>国内第II相試験(Niraparib-2001試験、Niraparib-2002試験)において、副作用は39例中39例(100%)で報告されました。主なものは、悪心25例(64.1%)、血小板数減少23例(59.0%)、貧血17例(43.6%)、好中球数減少14例(35.9%)、嘔吐13例(33.3%)、食欲減退11例(28.2%)、白血球数減少10例(25.6%)でした。なお、国内外の臨床試験(上記とNOVA試験、QUADRA試験、PRIMA試験)において、本剤が投与された937例で発現した重大な副作用として、骨髄抑制(78.8%)、高血圧(9.8%)、間質性肺疾患(0.6%)、可逆性後白質脳症症候群(頻度不明)が報告されています。<患者さんへの指導例>1.卵巣がんの初回化学療法後や再発時の維持療法に使われる薬です。1日1回、連日服用します。2.薬によって血液を作る機能が低下するため、あざができやすくなる、鼻をかんだときに血が出る、顔色が悪くなる、心拍数が増える、立ちくらみや息切れ、めまいが起こることがあります。定期的に血液検査が行われますが、気になる症状があったらすぐにご連絡ください。3.血圧が高くなることがあります。自覚症状はほとんどないため、定期的に血圧や心拍数を測定しましょう。4.吐き気や嘔吐、便秘、疲労感などが現れることがあります。小まめに水分を摂り、消化の良い食事を心掛け、疲れを溜めないようにするなど、生活に工夫を取り入れることで対処できる場合もあります。強い症状が続く場合はご相談ください。5.妊娠中の方や妊娠している可能性がある方は服用できません。また、本剤服用中や服用を中止してから一定の期間は適切な方法で避妊を行い、授乳中の方は授乳を中止する必要があります。<Shimo's eyes>卵巣がんは主に閉経後の女性に多く発症するがんですが、初期段階では症状に乏しく、早期の検出が困難であるため、女性生殖器の悪性腫瘍の中では最も死亡者数の多い疾患です。一般的な卵巣がんの治療では、まず手術で可能な限りがんを取り除いてから抗がん剤による化学療法を行い、その後、再発リスクを下げるための維持療法を実施することが多いです。PARP阻害薬は、白金系抗悪性腫瘍剤を含む初回化学療法後もしくは再発時の化学療法後の維持療法として用いられます。本剤は、卵巣がんに適応のあるPARP阻害薬として、国内ではオラパリブ(商品名:リムパーザ)に次ぐ2剤目であり、BRCA遺伝子変異の有無によらず使用できます。1日1回の経口投与で食事の影響を受けにくいため、生活リズムに合わせて服用タイミングを選択できるなどのメリットもあります。副作用としては、一般的な抗がん剤と同様に、骨髄抑制、血小板減少、好中球減少などが発現することが多いため、血液検査などによるモニタリングが求められます。また、『NCCN制吐ガイドライン2020年版』において、中等度~高度の嘔吐リスク(頻度30%以上)に分類されており、嘔吐を予防するため、服用前に5-HT3受容体拮抗薬の連日経口投与が推奨されています。重大な副作用として、高血圧クリーゼを含む高血圧などが報告されており、とくに降圧薬を服用中の患者さんは投与前に血圧が適切に管理されていることを確認する必要があります。本剤の貯法は、2~8℃で遮光保存です。患者さんにはPTPシートを冷蔵庫で保管するように指導しますが、持ち運ぶ必要がある場合は専用の保冷遮光ポーチがあるので、MRに相談しましょう。参考1)PMDA 添付文書 ゼジューラカプセル100mg

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トシリズマブとサリルマブ、重症COVID-19患者に有効/NEJM

 集中治療室(ICU)で臓器補助(organ support)を受けた重症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者において、インターロイキン6(IL-6)受容体拮抗薬のトシリズマブとサリルマブによる治療は、生存を含むアウトカムを改善することが認められた。英国・インペリアル・カレッジ・ロンドンのAnthony C. Gordon氏らが、現在進行中の国際共同アダプティブプラットフォーム試験である「Randomized, Embedded, Multifactorial Adaptive Platform Trial for Community-Acquired Pneumonia:REMAP-CAP試験」の結果を報告した。重症COVID-19に対するIL-6受容体拮抗薬の有効性は、これまで不明であった。NEJM誌オンライン版2021年2月25日号掲載の報告。アダプティブプラットフォーム臨床試験でトシリズマブとサリルマブの有効性を評価 研究グループは、ICUで臓器補助開始後24時間以内のCOVID-19成人患者を、トシリズマブ(8mg/kg体重)群、サリルマブ(400mg)群、または標準治療(対照群)のいずれかに無作為に割り付けた。 主要評価項目は、21日以内の非臓器補助日数(患者が生存し、ICUで呼吸器系または循環器系の臓器補助を要しない日数)で、患者が死亡した場合は-1日とした。 統計にはベイズ統計モデルを用い、優越性、有効性、同等性または無益性の事前基準を設定。オッズ比>1は、生存期間の改善、非臓器補助期間の延長、あるいはその両方を示すものとした。標準治療と比較しトシリズマブ、サリルマブで非補助日数が増加、90日生存も改善 トシリズマブ群およびサリルマブ群のいずれも、事前に定義された有効性の基準を満たした。 解析対象は、トシリズマブ群353例、サリルマブ群48例、対照群402例であった。非臓器補助期間の中央値は、トシリズマブ群10日(四分位範囲:-1~16)、サリルマブ群11日(0~16)、対照群0日(-1~15)であった。対照群に対する補正後累積オッズ比中央値は、トシリズマブ群1.64(95%信頼区間[CI]:1.25~2.14)、サリルマブ群1.76(1.17~2.91)で、対照群に対する優越性の事後確率はそれぞれ99.9%、99.5%であった。 90日生存についても、トシリズマブ群とサリルマブ群のプール解析群で改善が認められ、対照群に対するハザード比は1.61(95%CI:1.25~2.08)、優越性の事後確率は99.9%超であった。 その他のすべての副次評価項目についても、これらIL-6受容体拮抗薬の有効性が支持された。

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BRACE-CORONAにより“COVID-19とRA系阻害薬問題”はどこまで解決されたか?(解説:甲斐久史氏)-1360

 2020年9月、欧州心臓病学会ESC2020で発表され、論文公表が待たれていたBRACE-CORONAがようやくJAMA誌に報告された。COVID-19パンデミック拡大早期から危惧された「レニン・アンジオテンシン(RA)系阻害薬が、新型コロナウイルス感染リスクおよびCOVID-19重症化・死亡に悪影響を与えるのではないか?」というクリニカル・クエスチョンに基づく研究である。2020年4月から6月の間に、ブラジル29施設に入院した軽症および中等症COVID-19患者のうち、入院前からアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)を服用していた659例がRA系阻害薬中止群(他クラスの降圧薬に変更)と継続群にランダム化され、入院後30日間の臨床転帰が比較検討された。主要評価項目は、30日間の生存・退院日数。副次評価項目は、入院日数、全死亡、心血管死亡、COVID-19進行(COVID-19悪化、心筋梗塞、心不全の新規発症または増悪、脳卒中など)であった。主要評価項目およびいずれの副次評価項目についても両群間に差はなかった。また、年齢、BMI、入院時の症状・重症度などのサブグループ解析でも主要評価項目に差はみられなかった。以上から、軽症/中等症COVID-19入院患者において、RA系阻害薬をルーチンとして中止する必要はないと結論付けられた。 本研究は、“COVID-19とRA系阻害薬問題”に関する初めての多施設ランダム化臨床試験(RCT)である。これによって、何らかの症状を有した急性期COVID-19の重症化・予後悪化に関してのRA系阻害薬悪玉説は否定されたと考えてもよいだろう。ただし、本研究の対象は高血圧患者で、心不全は約1%(1年以内に心不全入院を有するものは除外)、冠動脈疾患は約4.5%しか含まれないことには注意したい。とはいえ、心不全や冠動脈疾患はCOVID-19重症化・予後悪化の危険因子であり、また、パンデミック下での臨床経験から重症COVID-19による心不全治療においてもRA系阻害薬は有用とされる。したがって、これらの病態を対象に、あえてRA系阻害薬を中止するRCTを行う必要は、理論的さらには倫理的観点からもないであろう。一方、ARB新規投与がCOVID-19入院患者および非入院患者の急性期予後を改善するかについて、感染拡大早期からそれぞれRCTがなされていた。今年2月にようやく症例登録が終了したようである。RA系阻害薬善玉説の観点からの検討であり、その公表が待たれる。 しかし、われわれが最も知りたいことは、このような急性効果ではない。高血圧、腎疾患、さらには心不全や冠動脈疾患といった心疾患に対して、日頃から長期間処方しているRA系阻害薬により、患者さんを感染や重症化のリスクに曝していないかということである。ワクチンや抗ウイルス薬とは異なり、従来の大規模な多施設RCTによる検証は、RA系阻害薬長期服用の感染予防・重症化予防に関してはなじまないであろう。この命題に関しては、中国での感染拡大初期から、単施設や小規模コホートでの後ろ向き登録研究が多くなされた。中にはRA系阻害薬の有用性を強調した報告もみられる。しかし、欧州・米国さらにわが国からの大規模な後ろ向きおよび前向き登録研究、それらを含めた観察研究のメタ解析が次々に報告され、感染確認前のRA系阻害薬服用は、SARS-CoV-2検査陽性、COVID-19重症化や死亡のリスクを増大させることも抑制させることもなく、明らかな影響を与えないことが示されている。有用性評価には依然検討の余地があるが、RA系阻害薬は感染性増大や重症化・予後悪化といった有害事象を増加させないという点では、コンセンサスが得られるのではなかろうか。 そもそも、“COVID-19とRA系阻害薬問題”は、ACE2に関する基礎研究において、「RA系阻害薬がACE2発現を増加させる」「SARSなど急性肺障害モデルにおいてRA系阻害薬が臓器保護的に働く」といった一部の報告が強調され、それぞれ、悪玉説と善玉説の根拠とされている。しかしながら、別稿で詳述したように、これまでの基礎研究を網羅的かつ詳細に検討すると、いずれの主張もその根拠はどうも薄弱なようである(甲斐. 心血管薬物療法. 2021;8:34-42.)。急性期COVID-19に関しては、両仮説ともその妥当性から見直す必要があるかもしれない。最近、急性期に無症候性であった患者も含めて、味覚・嗅覚異常、脱毛、倦怠感、brain fogといった精神症状、息切れなどの症状が数ヵ月間持続するlong COVIDに注目が集まっている。心臓MRIで慢性的な心筋炎症がみられるなど、long COVIDには全身の慢性心血管炎症が関与する可能性が示唆されている。今後、long COVIDの発症予防・治療に対するRA系阻害薬を含めスタチンなどの薬剤の有用性についてRCTを含めた検証を進める意義があろう。 “COVID-19とRA系阻害薬問題”を通じて、質の高い観察研究・ビッグデータ解析の必要性が痛感された。実際にCOVID-19パンデミックをきっかけに、電子診療データやAIを活用したデータの収集、スクリーニング、解析などの各分野に目覚ましい革新が引き起こされている。災い転じて、臨床疫学によるエビデンス構築の新時代を迎えようとしているようである。ちなみに、BRACE-CORONAは、ブラジル全国規模のCOVID-19 registryに基づくregistry-based RCTである。電子診療データなどのリアルワールドデータシステムの枠組み内にRCTを構築することにより、膨大かつ検証可能なデータプールから、自動的に対象症例を抽出し、経時的にデータを収集することができるのみならず、1つのシステム内に複数のRCTを走らせることも可能となる。わが国も遅れをとらないように、情報インフラ・診療情報データベース構築を推し進めなければならない。

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降圧薬の有害事象メタ解析、急性腎障害や失神が関連か/BMJ

 降圧薬による高血圧治療は、転倒との関連はないものの、軽度の有害事象として高カリウム血症および低血圧と関連し、重度の有害事象として急性腎障害および失神との関連が認められることが、英国・オックスフォード大学のAli Albasri氏らの調査で示された。研究の成果は、BMJ誌2021年2月10日号に掲載された。降圧治療の有効性を評価した無作為化対照比較試験のメタ解析は多いが、潜在的な有害性を検討したメタ解析はほとんどない。また、既存のメタ解析は、降圧治療とすべての有害事象の関連に重点を置き、特定の有害事象との関連は明らかにされていないという。降圧治療と特定の有害事象の関連をメタ解析で評価 研究グループは、降圧治療と特定の有害事象との関連を評価する目的で、系統的レビューとメタ解析を実施した(英国Wellcome Trustなどの助成による)。 成人(年齢18歳以上)で、降圧薬とプラセボまたは無投与、降圧薬数が多い群と少ない群、降圧目標値の高値と低値を比較した無作為化対照比較試験を対象とした。小規模な初期段階の試験を回避するために、試験はフォローアップ期間が650人年以上であることが求められた。 2020年4月14日の時点で、4つの学術データベース(Embase、Medline、CENTRAL、Science Citation Index)に登録された文献を検索した。 主要アウトカムは、試験のフォローアップ期間中の転倒とした。副次アウトカムは、急性腎障害、骨折、痛風、高カリウム血症、低カリウム血症、低血圧、失神であった。また、死亡や主要心血管イベントと関連する追加アウトカムのデータを抽出した。 バイアスのリスクはCochrane risk of bias toolで評価した。変量効果メタ解析で、試験の異質性(τ2)を考慮してすべての試験の率比(RR)、オッズ比(OR)、ハザード比(HR)を統合した。死亡、心血管死、脳卒中を抑制、心筋梗塞との関連は不明確 58件の無作為化対照比較試験(28万638例、フォローアップ期間中央値:3年[IQR:2~4])に関する63本の論文が解析に含まれた。多くの試験(40件[69%])はバイアスのリスクが低かった。 転倒のデータを報告したのは7件の試験(2万9,481例、1,790イベント)で、降圧治療との関連を示すエビデンスは認められず(要約RR:1.05、95%信頼区間[CI]:0.89~1.24)、この関連に関する試験間の異質性はほとんどなかった(τ2=0.009、I2=31.5%、p=0.372)。 一方、降圧薬は、急性腎障害(要約RR:1.18、95%CI:1.01~1.39、τ2=0.037、15試験)、高カリウム血症(1.89、1.56~2.30、τ2=0.122、26試験)、低血圧(1.97、1.67~2.32、τ2=0.132、35試験)、失神(1.28、1.03~1.59、τ2=0.050、16試験)との関連が認められた。 降圧治療と骨折(要約RR:0.93、95%CI:0.58~1.48、τ2=0.062、I2=53.8%、5試験)、および痛風(1.54、0.63~3.75、τ2=1.612、I2=94.3%、12試験)との関連のエビデンスは明確ではなく、CIの幅の広さは試験の異質性が大きいことをある程度反映すると考えられた。 レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系拮抗薬に限定すると、急性腎障害と高カリウム血症のイベントを評価した試験間の異質性は低くなった。また、個々の試験で投与中止の原因となった有害事象に焦点を当てた感度分析では、結果の頑健性が示された。 さらに、降圧治療は、全死因死亡(HR:0.93、95%CI:0.88~0.98、τ2=0.008、I2=50.4%、32試験)、心血管死(0.92、0.86~0.99、τ2=0.011、I2=54.6%、21試験)、脳卒中(0.84、0.76~0.93、τ2=0.013、I2=44.8%、17試験)のリスク低減と関連したが、心筋梗塞(0.94、0.85~1.03、τ2=0.013、I2=40.7%、19試験)との関連は明確ではなかった。 著者は、「これらのデータは、降圧治療の開始や継続について医師と患者が協働意思決定を行う際に、とくに有害事象の既往歴や腎機能低下により有害性のリスクが高い患者にとって、有益な情報となるだろう」としている。

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小児がん患者の悪心嘔吐予防に対するパロノセトロンの有効性/日本臨床腫瘍学会

 小児がん患者での化学療法に伴う悪心嘔吐(CINV)は、催吐性の抗がん剤治療を受けた約70%発現することが報告されているが、研究結果は少ない。第2世代5-HT3受容体拮抗薬パロノセトロンは、とくに遅発期(抗がん剤投与後 24〜120時間)におけるCINV抑制効果が確認されており、本邦では成人での使用にて承認されているが、小児のCINV予防の制吐薬としては承認されていない。そこで、わが国の小児がん患者を対象にパロノセトロンの有効性と安全性を検討する第III相試験が実施され、第18回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO Virtual2021)において、九州大学病院の古賀 友紀氏がその結果を発表した。・対象:生後28日~18歳の高度または中等度催吐性抗がん剤を含む初回化学療法が計画または実施されている小児がん患者・介入:抗がん剤投与開始30分~直前にパロノセトロン(PALO)20μg/kg(最大1.5mg)とデキサメタゾン(DEX)を投与。DEXは2および3日目も投与・評価項目:化学療法1サイクル目における全期間(抗がん剤投与後0~120時間)の嘔吐完全抑制率(嘔吐・空嘔吐の発現がなく、制吐処置を実施していない状態、以下CR)率。CR率の閾値は事前に30%に設定 主な結果は以下のとおり。・2016年12月~2019年6月に60例が登録され、PALOが投与された58例にて有効性、安全性が評価された。・全期間CR率は58.6%(95%CI:44.9~71.4、p

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第25回 その吐血、緊急内視鏡は必要ですか?【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)上部消化管出血を疑うサインを知ろう!2)緊急内視鏡の判断を適切に行えるようになろう!【症例】45歳男性。自宅で洗面器1杯分の吐血を認めたため、両親の運転する車で救急外来を受診した。独歩可能な状態で、その後吐血は認めていない。どのようなマネジメントが適切だろうか?●受診時のバイタルサイン意識清明/JCS血圧128/51mmHg脈拍95回/分(整)呼吸20回/分SpO297%(RA)体温36.0℃瞳孔3/3 +/+既往歴高血圧内服薬定期内服薬なしはじめに吐血を主訴に救急外来を受診する患者さんは多く、救急外来が血の海になることも珍しくありません。バイタルサインの管理、内視鏡のタイミング、輸血のタイミングなど悩んだ経験があるのではないでしょうか?今回はまず押さえておくべき上部消化管出血の管理についてまとめておきます。上部消化管出血を疑うサインとは新鮮血の吐血やコーヒー残渣様の嘔吐を認める場合には、誰もが上部消化管出血を疑うと思いますが、それ以外にはどのような場合に疑うべきでしょうか。黒色便、鉄欠乏性貧血などは有名ですね。救急外来などの外来で見逃しがちなのが、訴えがはっきりしない場合です。脱力など自宅で動けない、元気がない、倦怠感などの主訴で来院した場合には、消化管出血に代表される出血性病変を考えるようにしましょう。その他、急性冠症候群、カリウムやカルシウムなどの電解質異常、そして敗血症や菌血症を考えるとよいでしょう。[失神・前失神を見逃すな]失神は以前に「第13回 頭部外傷その原因は?」でも取り上げましたが、診察時には状態は安定しており重症度を見誤りがちです。しかし、心血管性失神を見逃してしまうと致死的となり得ます。また、出血に伴う起立性低血圧も対応が遅れれば、予後はぐっと悪くなってしまうため必ず出血源を意識した対応が必要になります。ちなみに、前失神は失神と同様に危険なサインであり、完全に意識を失っていなくても体内で起こっていることは同様であり軽視してはいけません。意識を失ったか、失いそうになったかは必ず確認しましょう。緊急内視鏡の適応は?目の前の上部消化管出血疑い患者さんの内視鏡はいつ行うべきでしょうか?ショックバイタルでマズい場合には誰もが緊急内視鏡が必要と判断できると思いますが、本症例のように、一見するとバイタルサインが安定している場合には意外と判断は難しいものです。いくつかの指標が存在しますが、今回は“Glasgow Blatchford score(GBS)”(表1)を覚えておきましょう。GBS≦1の場合には入院の必要性はなく、緊急での対応は一般的には不要です1,2)。前述した通り、失神は重要なサインであり、点数も2点と黒色便よりも高く設定されています。失神を認める上部消化管出血は早期の内視鏡治療が必要と覚えておきましょう。1分1秒を争うわけではありませんが、血圧が普段よりも低めであるが故に止まっているだけですので、処置を行うことなく帰宅の判断はお勧めできません。表1  Glasgow Blatchford score(GBS)画像を拡大するちなみに、Hb値は濃度であり、また早期に変化は認められないため、Hb値が問題ないからと出血はたいしたことないと判断してはいけません。黒色便を認める場合には、数日の経過が経っていることが多く、Hb値も普段よりも低下しています。GBSも2点以上となりますが、即刻内視鏡なのか、24時間以内に内視鏡なのか、より具体的な緊急度は、その他バイタルサインやNSAIDs、抗血栓薬などのリスク因子も考慮し判断します。[抗血栓薬内服中の患者ではどうする?]絶対的な指標はありませんが、頭部外傷患者の対応と同様に、内服しているから緊急かというとそうではありません。しかし、リスクの1つではあるため、具体的な処方薬と用量、内服している理由、効果の評価(PT-INRなど)などと共に慎重な経過観察が必要となります。抗血栓薬を止めるのは簡単ですが、そのおかげで脳梗塞などを引き起こしてしまっては困りますよね。明らかな出血を認めている場合に内服を中止することはもちろんですが、その後の具体的な対応をきちんと決めておく必要があります。GBS以外の有名なリスクスコアに“AIMS65”(表2)がありますが、それにはPT-INRの項目が含まれており、緊急度に関わるとされます3)。また、PT-INRが1.5未満であってもDOAC(Direct oral anticoagulants)内服中の患者では、早期の内視鏡が推奨されています。そのような理由から、抗血栓薬を内服している患者さんでは、早期の内視鏡(24時間以内)を行うのが理想的でしょう。※GBSもAIMS65も覚えるのは大変ですよね。私は“MDCalc”というアプリをスマホに入れて計算しています。表2 AIMS65画像を拡大する現実問題として、夜間や時間外などに来院した患者の内視鏡をすぐに行うのか、一晩様子をみてOKなのかどうかを判断する必要があります。上記の内容を頭に入れつつ、施設毎の対応を構築しておきましょう。消化器内科医師などがいつでもすぐに対応可能な施設であれば、GBS≧2でも輸液や輸血でバイタルサインが安定している場合には一晩待てるかもしれませんが、そうではない場合には、「GBSで◯点以上の場合」、「肝硬変患者の吐血の場合」、「抗血栓薬を内服している場合」には緊急で行うなど、具体的なプランを立てておくとよいでしょう。スコアは絶対的なものではありませんが、GBSやAIMS65などを意識しておくと、確認すべき項目を見落とさなくなるでしょう。失神の有無は前述の通り重要ですし、抗血栓薬などの影響から凝固線溶機能に異常を来している場合には拮抗薬など追加の対応が必要なこともありますからね。最後に、上部消化管出血に伴い緊急内視鏡の判断をした場合には、気管挿管など気道の管理が必要ないかは必ず意識してください。ショックや重度の意識障害は気管挿管の適応であり、バイタルサインが不安定な場合には確実な気道確保目的の気管挿管が必須となります。慌てて内視鏡室へ移動し、不穏になり急変、誤嚥して酸素化低下などは避けなければなりません。救急外来で人数をかけ対応することができればベストですが、どうしても少ない人数で対応しなければならない場合には、確実な気道確保を行い万全の状態で内視鏡を行うようにしましょう。まとめ失神・前失神を伴う上部消化管出血は緊急性が高い!GBSやAIMS65を参考に、患者背景・薬の内服理由も考慮し対応を!緊急内視鏡を行う場合には、気管挿管など気道管理の徹底を!1)Blatchford O, et al. Lancet. 2000;356:1318-1321.2)Stanley AJ, et al. BMJ. 2017;356:i6432.3)Saltzman JR, et al. Gastrointest Endosc. 2011;74:1215-1224.

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