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混合性結合組織病〔MCTD : mixed connective tissue disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義混合性結合組織病(mixed connective tissue disease: MCTD)は、1972年にGC Sharpが提唱した疾患概念である。膠原病の中で2つ以上の疾患の特徴を併せ持ち(混合性)、しかも抗U1-RNP抗体と呼ばれる自己抗体が陽性となるものである。これは治療反応性がよく、予後も良好であったことから独立疾患として提唱された。その後、この疾患の独立性に疑問がもたれ、とくに欧米では全身性エリテマトーデスの亜型、あるいは強皮症の亜型と考えられ、英語文献でもあまりみられなくなった。しかし後述するように、高率に肺高血圧症を合併することや膠原病の単なる重複あるいは混合のみからは把握できないような特異症状の存在が明らかとなってきたことから、その疾患独立性が欧米でも再認識されている。■ 疫学本症は厚生労働省の指定難病に認定されており、その個人調査票を基にした調査では平成22年だけでおよそ9,000名の登録が確認されている。性別では女/男比で15/1と圧倒的に女性に多く、年齢分布では40代にもっとも多く、平均年齢は45歳である。また、推定発症年齢は30代が多く、平均年齢は36歳である。■ 病因本症の病因は他の膠原病と同様、不明である。全身性自己免疫疾患の1つであり、疾患に特徴的な免疫異常は抗U1-RNP抗体である。本抗体を産生するモデル動物も作成されており、関与する免疫細胞や環境因子について研究が進められている。■ 症状1)共通症状レイノー現象が必発である。また手指や手背部の浮腫傾向がみられ、「ソーセージ様手指」「指または手背の腫脹」が持続的にみられる。これらの症状は、多くの例で初発症状となっている。なお手指や手背部の浮腫傾向は強皮症でも初期にみられるが、強皮症ではすぐに硬化期に入り持続しない。2)混合所見全身性エリテマトーデス、強皮症、多発性筋炎/皮膚筋炎の3疾患にみられる臨床症状あるいは検査所見が混在してみられる。しかもそれぞれの膠原病の完全な重複ではなく、むしろ不完全な重複所見がみられることが多い。混合所見の中で頻度の高いものは、多発関節痛、白血球減少、手指に限局した皮膚硬化、筋力低下、筋電図における筋原性異常所見、肺機能障害などである。3)肺高血圧症肺高血圧症は一般人口では100万人中5~10人程度と非常にまれな疾患であり、しかも予後不良の疾患である。このまれな疾患がMCTDでは5~10%と一般人口の1万倍も高率にみられ、さらに本症の主要な死因となっていることから重要な特異症状として位置付けられている。大部分の症例では肺動脈そのものに病変がある肺動脈性の肺高血圧症である。心エコー検査などのスクリーニング検査やその他の画像・生理検査などが重要であるが、確定診断には右心カテーテル検査が必要である。4)その他の特徴的症状肺高血圧症以外にもMCTDに比較的特徴的な症状がある。三叉神経II枝、III枝の障害による顔面のしびれ感を主体とした症状は、MCTDの約10%にみられる。レイノー現象と同じく、神経の血流障害と推測されている。また、イブプロフェンなどの非ステロイド性抗炎症薬による無菌性髄膜炎が、本症の約10%にみられる。MCTDあるいは抗U1-RNP抗体陽性患者では、この薬剤性髄膜炎に留意が必要である。5)免疫学的所見抗U1-RNP抗体が陽性である。間接蛍光抗体法による抗核抗体では斑紋型を示す。抗Sm抗体や抗Jo-1抗体、抗トポイソメラーゼ1抗体など他の膠原病の疾患特異的自己抗体が出現しているときには、本症の診断は慎重にすべきである。6)合併症上記以外にシェーグレン症候群(25%)、橋本甲状腺炎(10%)などがある。■ 予後当初は、治療反応性や予後のよい疾患群として提唱されてきた。確かに発病からの5年生存率は96.9%、初診時からの5年生存率は94.2%と高い。しかし、死亡者の死因を検討すると、肺高血圧症、呼吸不全、心不全など心肺系の死因が全体の60%を占めている。とくに肺高血圧症は、一般人口にみられる特発性肺高血圧症よりもさらに予後不良であり、その治療の進歩が望まれる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)わが国では1982年に厚生省の特定疾患に指定され調査研究班が結成されて以来、研究が続けられ、1993年には特定疾患治療研究対象疾患に指定された。1988年に「疫学調査のための診断の手引き」が作成され、何度か改訂されてきた。わが国の診断基準は国際的にも評価されていて、最も普遍的なものである。2004年の改訂では、共通所見に肺高血圧症が加えられ、中核所見と名称が変更された。この3所見のうち1所見以上の陽性と抗U1-RNP抗体陽性が必須であり、さらに混合所見の中で3疾患のうち2疾患以上の項目を併せ持てばMCTDと診断する(表1)。たとえば混合所見で多発関節炎とCK高値があれば、前者が全身性エリテマトーデス様所見、後者が多発性筋炎様所見として満たすこととなる。表1 MCTD診断の手引き(2004年度改訂版)■MCTDの概念全身性エリテマトーデス、強皮症、多発性筋炎などにみられる症状や所見が混在し、血清中に抗U1-RNP抗体がみられる疾患である。I.中核所見1.レイノー現象2.指ないし手背の腫脹3.肺高血圧症II.免疫学的所見抗U1-RNP抗体陽性III.混合所見A.全身性エリテマトーデス様所見1.多発関節炎2.リンパ節腫脹3.顔面紅斑4.心膜炎または胸膜炎5.白血球減少(4,000/μL以下)または血小板減少(10万/μL以下)B.強皮症様所見1.手指に限局した皮膚硬化2.肺線維症、肺拘束性換気障害(%VC:80%以下)または肺拡散能低下(%DLCO:70%以下)3.食道蠕動低下または拡張C.多発性筋炎様所見1.筋力低下2.筋原性酵素(CK)上昇3.筋電図における筋原性異常所見■診断1.Iの1所見以上が陽性2.IIの所見が陽性3.IIIのA、B、C項のうち、2項目以上につき、それぞれ1所見以上が陽性以上の3項目を満たす場合をMCTDと診断する。■付記抗U1-RNP抗体の検出は二重免疫拡散法あるいは酵素免疫測定法(ELISA)のいずれでもよい。ただし二重免疫拡散法が陽性でELISAの結果と一致しない場合には、二重免疫拡散法を優先する。(近藤 啓文. 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業 混合性結合組織病に関する研究班 平成16年度研究報告書:2005.1-6.)また、肺高血圧症については、予後不良であり早期発見、早期治療が必要なこともあり、その診断にはとくに継続的な注意が必要である。確定診断には、右心カテーテル検査が必要であるが、侵襲的検査であり、専門医の存在が必要なため、スクリーニング検査として心臓超音波検査が重要である。これを基にした「MCTD肺高血圧症診断の手引き」(図1)が作成されており、肺高血圧症を疑う臨床所見や検査所見がある場合には、早急に心臓超音波検査をすべきである。画像を拡大する<脚注>1)MCTD患者では肺高血圧症を示唆する臨床所見、検査所見がなくても、心臓超音波検査を行うことが望ましい。2)右房圧は5mmHgと仮定。3)推定肺動脈収縮期圧以外の肺高血圧症を示唆するパラメーターである肺動脈弁逆流速度の上昇、肺動脈への右室駆出時間の短縮、右心系の径の増大、心室中隔の形状および機能の異常、右室肥厚の増加、主肺動脈の拡張を認める場合には、推定肺動脈収縮期圧が36mmHg以下であっても少なくとも1年以内に再評価することが望ましい。4)右心カテーテル検査が施行できない場合には慎重に経過観察し、治療を行わない場合でも3ヵ月後に心臓超音波検査を行い再評価する。3)肺高血圧症の臨床分類、重症度評価のため、治療開始前に右心カテーテル検査を施行することが望ましい。(吉田 俊治ほか. 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業 混合性結合組織病に関する研究班 平成22年度研究報告書:2011.7-13.)3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 総論本症は自己免疫疾患であり、抗炎症薬と免疫抑制療法が治療の中心となる。非ステロイド性抗炎症薬もしばしば用いられるが、前述のごとく、時に無菌性髄膜炎が誘発されるので、その使用には慎重な配慮が必要である。急性期には、多くの場合で副腎皮質ステロイド薬が治療の中心となる。他の膠原病と同様、臓器障害の種類と程度により必要なステロイド量が決定される(表2)。表2 臓器障害別の重症度分類a)軽症レイノー現象、指ないし手の腫脹、紅斑、手指に限局する皮膚硬化、非破壊性関節炎b)中等症発熱、リンパ節腫脹、筋炎、食道運動機能障害、漿膜炎、腎障害、皮膚血管炎、皮膚潰瘍、手指末端部壊死、肺線維症、末梢神経障害、骨破壊性関節炎c)重症中枢神経症状、無菌性髄膜炎、肺高血圧症、急速進行性間質性肺炎、進行した肺線維症、重度の血小板減少、溶血性貧血、腸管機能不全(三森 経世 編. 混合性結合組織病の診療ガイドライン(改訂第3版). 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業 混合性結合組織病の病態解明と治療法の確立に関する研究班:2011.)前表のように、中枢神経障害、急速に進行する肺症状・腎症状、血小板減少症を除いて大量のステロイドを必要とすることは比較的少ない。ただ、ステロイドを長期に使用することが多いため、骨粗鬆症や糖尿病、感染症の誘発などの副作用には留意が必要である。■ 肺高血圧症MCTDの生命予後を規定する肺高血圧症(PH)については、病態からみて肺動脈性のもの以外に間質性肺炎によるもの、慢性肺血栓塞栓症によるもの、心筋炎など心筋疾患によるものなどがあり、これらは治療方法も異なるため、右心カテーテル検査などで厳密に識別する必要がある。もっとも頻度の高い肺動脈性肺高血圧症については、しばしば大量ステロイド薬や免疫抑制薬が奏効するため、これらの薬剤の適応を検討すべきである。また、通常の特発性肺動脈性肺高血圧症に用いられる血管拡張薬も有用性が確認されているため、プロスタサイクリン系薬、エンドセリン受容体拮抗薬、ホスホジエステラーゼ5阻害薬を併用して用いる(図2)。画像を拡大する<脚注>*ETR拮抗薬エンドセリン受容体拮抗薬(アンブリセンタン、ボセンタン)**PDE5阻害薬ホスホジエステラーゼ5阻害薬(シルデナフィル、タダラフィル)(三森 経世 編. 混合性結合組織病の診療ガイドライン(改訂第3版). 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業 混合性結合組織病の病態解明と治療法の確立に関する研究班:2011.)その後、マシテンタン(ETR拮抗薬)、リオシグアート(可溶性グアニルシクラーゼ刺激薬)なども使用できるようになっており、治療の幅が広がっている。これらは肺血管拡張作用に加えて肺動脈内皮細胞の増殖抑制作用も期待されている。ただ、肺血管のリモデリングが進行した場合や強皮症的要素の強い場合、これらの薬剤はしばしば無効であり、心不全のコントロールなども重要になるため、循環器内科などと共同して治療に当たることが必要になる。4 今後の展望遺伝子多型の検討やゲノムワイド関連解析によって、MCTDやMCTD合併肺高血圧症になりやすい危険因子が解明されつつある。これにより、さらに精度が高くこれらの診断を早期に行えることが期待される。また、予後に大きな影響を与える肺高血圧症に関する薬剤が少なからず開発されつつある。これらの出現により一段とMCTD合併肺高血圧症の治療成績が上昇する可能性がある。5 主たる診療科リウマチ膠原病内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 混合性結合組織病(一般利用者と医療従事者向けの情報)患者会情報全国膠原病友の会(膠原病全般について、その患者と家族向け)1)近藤 啓文. 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業 混合性結合組織病に関する研究班 平成16年度研究報告書:2005.1-6.2)近藤 啓文. 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業 混合性結合組織病に関する研究班 平成16年度研究報告書:2011.7-13.3)三森 経世編. 混合性結合組織病の診療ガイドライン(改訂第3版). 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業 混合性結合組織病の病態解明と治療法の確立に関する研究班:2011.7-13.公開履歴初回2014年10月07日更新2016年07月05日

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双極性障害患者の脳灰白質はどうなっている

 統合失調症、双極性障害、その他の精神神経疾患でみられる精神症状の神経生物学的基盤はいまだによくわかっていない。過去10年で、核磁気共鳴画像(MRI)の多くの研究において、異なる精神医学的症候群患者と健康成人対照者との間に、局所灰白質容積の差が認められている。しかし、これら症候群でみられる症状に焦点を当てた研究はほとんどない。スウェーデン・カロリンスカ研究所のCarl Johan Ekman氏らは、精神病の既往歴のある/ない双極性障害患者および健康成人を対象として、精神疾患と灰白質容量との関連を検討した。Schizophrenia bulletin誌オンライン版2016年6月11日号の報告。 対象は、精神病の既往のある/ない双極性障害患者167例と健康成人対照者102例。核磁気共鳴イメージングは、ボクセルワイズの単変量解析(ボクセルベースの形態計測)を使用して、グループレベルで分析した。 主な結果は以下のとおり。・精神病の既往歴のある双極性障害患者は、同既往歴のない患者、健康成人対照者と比較し、左紡錘状回、右吻側背外側前頭前皮質、左下前頭回の白質容積が小さいことが示された。・精神病の既往歴のない患者と健康成人対照者との間に、これら領域の容量の差は認められなかった。・以前より、これら領域は構造上および機能的に妄想や幻覚と結び付いているとされている。関連医療ニュース 統合失調症、大脳皮質下領域の新発見:東京大学 ドパミンD2/3受容体拮抗薬、統合失調症患者の脳白質を改善 統合失調症、脳容積とIQの関連

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特発性拡張型心筋症〔DCM : idiopathic dilated cardiomyopathy〕

1 疾患概要■ 概念・定義拡張型心筋症(idiopathic dilated cardiomyopathy: DCM)は、左室の拡張とびまん性の収縮障害を特徴とする進行性の心筋疾患である。心不全の急性増悪を繰り返し、やがて、ポンプ失調や致死性不整脈により死に至る。心筋症類似の病像を呈するが、病因が明らかで特定できるもの(虚血性心筋症や高血圧性心筋症など)、全身疾患との関連が濃厚なもの(心サルコイドーシスや心アミロイドーシスなど)は特定心筋症と呼ばれ、DCMに含めない。■ 疫学厚生省特発性心筋症調査研究班による1999年の調査では、わが国における推計患者数は約1万7,700人、有病率は人口10万人あたり14.0人、発症率は人口10万人あたり3.6人/年とされる。男女比は2.5:1で男性に多く、年齢分布は小児から高齢者まで幅広い。■ 病因DCMの病因は一様ではない。一部のDCMの発症には、遺伝子異常、ウイルス感染、自己免疫機序が関与すると考えられているが、その多くがいまだ不明である。1)遺伝子異常DCMの20~30%程度に家族性発症を認めるが、孤発例でも遺伝要因が関与するものもある。心機能に関与するどのシグナル伝達経路が障害を受けても発症しうると考えられており、心筋のサルコメア構成蛋白や細胞骨格蛋白をコードする遺伝子異常だけでなく、Caハンドリング関連蛋白異常の報告もある。2)ウイルス感染心筋生検検体の約半数に、何らかのウイルスゲノムが検出される。コクサッキーウイルス、アデノウイルス、C型肝炎ウイルスなどのウイルスの持続感染が原因の1つとして示唆されている。3)自己免疫機序βアドレナリン受容体抗体や抗Caチャネル抗体といったさまざまな抗心筋自己抗体が、患者血清に存在することが判明した。DCMの発症・進展に自己免疫機序が関与する可能性が指摘されている。■ 症状本疾患に疾患特異的な症状はない。初期には無症状のことが多いが、病状の進行につれて、労作時息切れ、易疲労感、四肢冷感などの左心不全症状を認めるようになり、運動耐容能は低下する。また、動悸、心悸亢進、胸部不快感といった頻脈・不整脈に伴う症状を訴えることもある。一般には、低心拍出所見よりもうっ血所見が前景に立つことが多い。両心不全へ至ると、全身浮腫、頸静脈怒張、腹水などの右心不全症状が目立つようになる。右心機能が高度に低下している重症例では、左心への灌流低下から、肺うっ血所見を欠落する例があり、重症度判断に注意を要する。■ 予後一般に、DCMは進行性の心筋疾患であり、予後は不良とされる。5年生存率は、1980年代には54%と低かったが、最近では70~80%にまで改善したとの報告もある。標準的心不全治療法が確立し、ACE阻害薬、β遮断薬、抗アルドステロン薬といった心筋保護薬の導入率向上がその主たる要因と考えられている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)DCMの診断は、特定心筋症の除外診断を基本とすることから、二次性心筋症を確実に除外することがDCMの診断に直結する。■ 身体所見一般に、収縮期血圧は低値を示すことが多く、脈圧は小さい。聴診所見では、心尖拍動の左方偏移、ギャロップリズム(III・IV音)、心雑音および肺ラ音の聴取が重要である。■ 胸部X線多くの症例で心陰影は拡大するが、心胸郭比は低圧系心腔の大きさに依存するため、正常心胸郭比による本疾患の除外はできない。心不全増悪期には、肺うっ血像や胸水貯留を認める。Kerley B line、peribronchial cuffingが、肺間質浮腫所見として有名である。■ 心電図疾患特異度の高い心電図所見はない。ST-T異常、異常Q波、QRS幅延長、左室側高電位、脚ブロック、心室内伝導障害など、心筋病変を反映した多彩な心電図異常を呈する。また、心筋障害が高度になると、不整脈を高頻度に認めうる。■ 血液生化学検査心不全の重症度を反映し、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)や脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)およびその前駆体N末端フラグメントであるNT-proBNPの上昇を認める。また、交感神経活性の指標である血中カテコラミンや微小心筋障害を示唆するとされる高感度トロポニンも上昇する。低心拍出状態が進行すると、腎うっ血、肝うっ血を反映し、クレアチニンやビリルビン値の上昇を認める。■ 心エコー検査通常、びまん性左室収縮障害を認め、駆出率は40%以下となる。心リモデリングの進行に伴い、左室内腔は拡張し、テザリングや弁輪拡大から機能性僧帽弁逆流の進行をみる。最近では、僧帽弁流入血流や組織ドップラー法を用いた拡張能の評価、組織ストレイン法を用いた収縮同期性の評価など、より詳細な検討が可能になっている。■ 心臓MRI検査シネMRIによる左室容積や駆出率計測は、信頼度が高い。ガドリニウムを用いた心筋遅延造影パターンの違いによるDCMと虚血性心筋症との鑑別が報告されており、心筋中層に遅延造影効果を認めるDCM症例では、心イベントの発生率が高く、予後不良とされる。■ 心筋シンチグラフィ123I-MIBGシンチグラフィによる交感神経機能評価では、後期像での心臓集積(H/M比)の低下や洗い出し率の亢進を認める。201Tlあるいは99mTc製剤を用いた心筋シンチグラフィでは、patchy appearanceと呼ばれる小欠損像を認め、その分布は、冠動脈支配に一致しない。心電図同期心筋SPECTを用いて、左室容積や駆出率も計測可能である。■ 心臓カテーテル検査冠動脈造影は、冠血管疾患、虚血性心筋症の除外を目的として施行される。血行動態の評価目的に、左室内圧測定や左室造影による心収縮能評価、肺動脈カテーテルを用いた右心カテーテル検査も行われる。左室収縮能(最大微分左室圧: dP/dtmax)の低下、左室拡張末期圧・肺動脈楔入圧の上昇、心拍出量低下を認める。■ 心筋生検DCMに特異的な病理組織学的変化は確立されていない。典型的には、心筋細胞の肥大、変性、脱落と間質の線維化を認める。心筋炎や心サルコイドーシス、心ファブリー病などの特定心筋症の除外目的に行われることも多い。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)DCMに対する根本的な治療法は確立していない。そのため、(1) 心不全、(2) 不整脈、(3) 血栓予防を治療の根幹とする。左室駆出率の低下を認めるため、収縮機能障害を伴う心不全の治療指針に準拠する。■ 心不全の治療1)心不全の生活指導生活習慣の是正を基本とする。適切な水分・塩分摂取量および栄養摂取量の教育、適切な運動の推奨、禁煙、感染予防などが指導すべきポイントとされる。2)薬物療法収縮機能障害を伴う心不全の治療指針に準拠し、薬剤を選択する。心臓のリバースリモデリングおよび長期予後改善効果を期待し、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬あるいはアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)といったレニン・アンジオテンシン系(RAS)阻害薬とβ遮断薬、抗アルドステロン薬を導入する。原則として、β遮断薬は、カルベジロールあるいはビソプロロールを用い、忍容性のある限り、少量より漸増する。さらに、うっ血症状に応じて、利尿薬の調節を行う。急性増悪期には、入院下に、強心薬・血管拡張薬といったより高度な点滴治療を行う。3)非薬物療法(1)心室再同期療法(CRT)左脚ブロックなど、心室の収縮同期不全を認める症例に対し、心室再同期療法が行われる。除細動機能を内蔵したデバイス(CRT-D)も普及している。心拍出量の増加や肺動脈楔入圧の低下、僧帽弁逆流の減少といった急性期効果だけでなく、慢性期効果としての心筋逆リモデリング、予後改善が報告されている。CRTによる治療効果の乏しい症例(non-responder)も一定の割合で存在することが明らかになっており、その見極めが課題となっている。(2)陽圧呼吸療法、ASVわが国では、心不全患者に対するASV(adaptive servo ventilation)換気モード陽圧呼吸療法の有用性が多く報告されており、自律神経活性の改善、不整脈の減少、運動耐容能およびQOLの向上、心および腎機能の改善などが期待されている。しかし、海外で行われた大規模臨床試験ではこれを疑問視する研究結果も出ており、いまだ議論の余地を残す。(3)心臓リハビリテーション“包括的心臓リハビリテーション”の概念のもと、運動のみならず、薬剤、栄養、介護など各領域からの多職種介入による全人的心不全管理が急速に普及している。(4)和温療法遠赤外線均等温乾式サウナを用いた低温サウナ療法が、心不全患者に有用であるとの報告がある。心拍出量の増加、前負荷軽減、肺動脈楔入圧の低下といった急性効果のみならず、慢性効果として、末梢血管内皮機能の改善、心室性不整脈の減少も報告されている。(5)僧帽弁形成術・置換術、左室容積縮小術高度の僧帽弁逆流を伴うDCM例では、僧帽弁外科的手術を考慮する。しかしながら、その有効性は議論の余地を残すところであり、左室容積縮小術の1つに有名なバチスタ手術があるが、中長期的に心不全再増悪が多いことから、最近は推奨されない。(6)左室補助人工心臓(LVAD)重症心不全患者において、心臓移植までの橋渡し治療、血行動態の安定を目的として、LVAD装着が考慮されうる。2011年以降、わが国でも植込型LVADが使用可能となり、装着患者のQOLが格段に向上した。現在、植込型LVAD装着下に長期生存を目指す“destination therapy”の是非に関する議論も始まっており、今後、重症心不全治療の選択肢の1つとして臨床の場に登場する日も近いかもしれない。しかし、ここには医学的見地のみならず、医療倫理や医療経済、日本人の死生観も大きく関わっており、解決すべき課題も多い。(7)心臓移植重症心不全患者の生命予後を改善する究極の治療法である。わが国における原疾患のトップはDCMである。不治の末期的状態にあり、長期または繰り返し入院治療を必要とする心不全、β遮断薬およびACE阻害薬を含む従来の治療法ではNYHA3度ないし4度から改善しない心不全、現存するいかなる治療法でも無効な致死的重症不整脈を有する症例が適応となる。(8)緩和医療高齢化社会の進行につれ、有効な治療効果の得られない末期心不全患者へのサポーティブケアが、近年注目されつつある。このような患者のエンドオブライフに関し、今後、多職種での議論・検討を重ねていく必要がある。■ 不整脈の治療致死性不整脈の同定と予防が重要となる。DCMによる心筋障害を基盤として発生し、心不全増悪期により出現しやすい。また、電解質異常も発生要因の1つである。そのため、心不全そのものの治療や不整脈誘発因子の是正が必要である。DCMにおける不整脈治療には、アミオダロンがよく使用される。カテーテルアブレーションが選択されることもあるが、確実に突然死を予防できる治療手段は植込型除細動器(ICD)であり、症候性持続性心室頻拍や心室細動既往を有する心不全患者の二次予防あるいは一部の心不全患者の一次予防を目的として適応が検討される。また、心房細動も高率に合併する。これまでリズムコントロールとレートコントロールで死亡率に差はないと考えられてきたが、近年これを否定するメタアナリシス結果もでており、さらなる研究結果が待たれる。■ 血栓予防治療非弁膜症性心房細動合併例では、ワルファリンのみならず、新規経口抗凝固薬の使用が考慮される。また、左室駆出率30%以下の低心機能例では、心腔内血栓の予防目的に抗凝固療法が望ましいとされるが、新規経口抗凝固薬の適応はなく、ワルファリンが選択される。4 今後の展望現在のところ、確立された根本治療法のないDCMにおける究極の治療法は、心臓移植であるが、わが国では、深刻なドナー不足により汎用性の高い治療法としての普及にはほど遠い。そのため、自己の細胞あるいは組織を用いた心筋再生治療の研究・臨床応用が進められている。しかしながら、安全な再生医療の確立には、倫理面などクリアすべき課題も多く、医用工学技術を応用した高性能・小型化した人工機器の開発研究も進められている。5 主たる診療科循環器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 特発性拡張型心筋症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)友池仁暢ほか. 拡張型心筋症ならびに関連する二次性心筋症の診療に関するガイドライン. 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2009−2010年度合同研究班報告).2)奥村貴裕, 室原豊明. 希少疾患/難病の診断・治療と製品開発. 技術情報協会; 2012:pp1041-1049.3)奥村貴裕. 心不全のすべて.診断と治療(増刊号).診断と治療社;2015:103.pp.259-265.4)松崎益徳ほか. 慢性心不全治療ガイドライン(2010年改訂版).循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2009年度合同研究班報告).5)許俊鋭ほか. 重症心不全に対する植込型補助人工心臓治療ガイドライン.日本循環器学会/日本心臓血管外科学会合同ガイドライン(2011-2012年度合同研究班報告).公開履歴初回2014年11月27日更新2016年05月31日

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脳卒中/TIA患者へのticagrelor vs.アスピリン/NEJM

 虚血性脳卒中や一過性脳虚血発作(TIA)の患者に対し、P2Y12受容体拮抗薬ticagrelor(国内未承認)を90日間投与しても、脳卒中や心筋梗塞、死亡の発生リスクは、アスピリンを投与した場合と同等であることが示された。米国・テキサス大学のS.Claiborne Johnston氏らが、33ヵ国1万3,000例超を対象に行った国際多施設共同無作為化二重盲検対照試験SOCRATESで明らかにした。ticagrelorはアスピリンと比べて、急性脳虚血を呈した患者において脳卒中の再発および心血管イベントの予防に、より有効な抗血小板療法とされていた。NEJM誌オンライン版2016年5月10日号掲載の報告より。非重症の虚血性脳卒中または高リスクTIAの患者を対象に試験  SOCRATES試験は2014年1月~2015年10月に33ヵ国674ヵ所の医療機関を通じて、非重症の虚血性脳卒中または高リスクTIAを発症し、静脈内または動脈内血栓溶解術を受けておらず、また心原性脳塞栓症は発症していない患者1万3,199例を対象に行われた。 研究グループは、発症後24時間以内に被験者を無作為に2群に分け、一方にはticagrelor(初日は180mg、その後90日まで90mgを1日2回)を投与し、もう一方にはアスピリン(初日は300mg、その後90日まで1日1回100mg)をそれぞれ投与した。 主要評価項目は、90日以内の脳卒中、心筋梗塞または死亡の発生だった。90日時点の複合アウトカムは同等、虚血性脳卒中の発症率も同等 その結果、90日間の主要評価項目の発生率は、ticagrelor群が6.7%(6,589例中442例)、アスピリン群が7.5%(6,610例中497例)と、両群間に有意差は認められなかった(ハザード比:0.89、95%信頼区間:0.78~1.01、p=0.07)。 また、虚血性脳卒中の発症率も、それぞれ5.8%(385例)、6.7%(441例)と、両群で同等だった(ハザード比:0.87、同:0.76~1.00)。 主な有害事象の発生も両群で有意差はなく、大量出血がticagrelor群で0.5%に対しアスピリン群0.6%、頭蓋内出血はそれぞれ0.2%、0.3%、致死的出血はいずれも0.1%で認められた。

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PATHWAY-2試験:治療抵抗性高血圧例の治療に非常に参考になるが、解釈には十分な注意が必要な研究結果(解説:桑島 巖 氏)-525

 カルシウム拮抗薬、ACE阻害薬/ARB、サイアザイド系利尿薬の3剤併用しても、降圧不十分な高血圧は治療抵抗性と呼ばれるが、日常診療でもしばしば遭遇し、次に何を追加するべきかに悩むことは少なくない。一般にはα遮断薬、β遮断薬、抗アルドステロン薬のいずれかを選択することになるが、その優劣に関するRCTによるエビデンスはほとんどなかった。 PATHWAY-2試験は、抗アルドステロン薬が、最も降圧効果に優れているという結果を示した点で、そのような疑問に1つの示唆を与えてくれる臨床研究である。とくに、ベースライン時の血漿レニン活性が低い例ほど降圧率が高いという結果は、低レニンを呈する副腎過形成によるアルドステロン分泌過多による高血圧では、スピロノラクトンが有効であることを示唆している。 しかし、本試験には注意すべき重大な点がいくつかある。 まず、eGFR<45mL/分の慢性腎臓病合併例は完全除外されており、対象例の平均eGFR 91.1±26.8という腎機能良好な症例のみの成績である点は認識すべきである。 一般に、治療抵抗性高血圧は、多かれ少なかれ腎障害が進行した症例にみることが多く、そのような例では抗アルドステロン薬によって高カリウム血症を誘発したときに死に至ることもある。本研究のエンドポイントは疾患発生や死亡ではないので、この点は明らかにできない。また、試験期間も1年間と短い。 とくに、心不全に対する抗アルドステロン症の有用性を証明したRALES試験では、試験結果発表後、爆発的にスピロノラクトンの処方が増加し、高カリウム血症による合併症および死亡率が増加したことを想起する必要がある1)。 本試験は臨床的に意義があるが、結果の解釈と臨床への適用に当たっては十分な注意が必要である。

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deferredステント留置はSTEMIの予後を改善するか/Lancet

 ST上昇型心筋梗塞(STEMI)患者の治療において、ステント留置を即座には行わないdeferredステント留置と呼ばれるアプローチは、従来の即時的な経皮的冠動脈インターベンション(PCI)に比べて、死亡や心不全、再発心筋梗塞、再血行再建術を抑制しないことが、デンマーク・ロスキレ病院のHenning Kelbaek氏らが行ったDANAMI 3-DEFER試験で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2016年4月3日号に掲載された。STEMI患者では、ステント留置を用いたPCIによって責任動脈病変の治療に成功しても、遺残血栓に起因する血栓塞栓症で予後が損なわれる可能性がある。これに対し、梗塞関連動脈の血流が安定した後に行われるdeferredまたはdelayedステント留置は、冠動脈の血流を保持し、血栓塞栓症のリスクを低減することで、臨床転帰の改善をもたらす可能性が示唆され、種々の臨床試験が行われている。deferredステント留置の有用性を無作為試験で評価 DANAMI 3-DEFER試験は、デンマークの4つのPCIセンターが参加する3つのDANAMI 3プログラムの1つで、STEMI患者においてdeferredステント留置と標準的PCIの臨床転帰を比較する非盲検無作為化対照比較試験(デンマーク科学技術革新庁などの助成による)。 対象は、年齢18歳以上、胸痛発症から12時間以内で、心電図の2つ以上の隣接する誘導で0.1mV以上のST上昇または新規の左脚ブロックの発現がみられる患者であった。 被験者は、deferredステント留置または即時的に標準的なプライマリPCIを施行する群に無作為に割り付けられた。プライマリPCIは薬剤溶出ステント留置が望ましいとされた。 deferred群では、病院到着時の冠動脈造影で梗塞関連動脈の血流が安定化する可能性がある場合は約48時間(最短でも24時間以上、この間にGP IIb/IIIa受容体拮抗薬などを4時間以上静脈内投与)後に再造影を行い、血流の安定化が確認されればステント留置を行わないこととした。 主要評価項目は、2年以内の全死因死亡、心不全による入院、心筋梗塞の再発、予定外の標的血管の血行再建術の複合エンドポイントとした。 2011年3月1日~14年2月28日までに1,215例が登録され、deferred群に603例、標準的PCI群には612例が割り付けられた。予定外の標的血管血行再建術はdeferred群で高頻度 年齢中央値はdeferred群が61歳、標準的PCI群は62歳、男性がそれぞれ76%、74%であった。糖尿病がそれぞれ9%、9%、高血圧が41%、41%、喫煙者が54%、51%、心筋梗塞の既往歴ありが6%、7%含まれた。多枝病変は41%、39%であった。 発症から施術までの期間中央値は両群とも168分であり、フォローアップ期間中央値は42ヵ月(四分位範囲:33~49)だった。 主要エンドポイントの発生率は、deferred群が17%(105/603例)、標準的PCI群は18%(109/612例)であり、両群間に有意な差は認めなかった(ハザード比[HR]:0.99、95%信頼区間[CI]:0.75~1.29、p=0.92)。 主要エンドポイントの個々の項目のうち、全死因死亡(p=0.37)、心不全による入院(p=0.49)、非致死的心筋梗塞の再発(p=0.49)には差がなかったが、予定外の標的血管の血行再建術はdeferred群のほうが有意に多かった(HR:1.70、95%CI:1.04~2.92、p=0.0342)。 また、心臓死(p=0.58)、PCIによる標的血管の血行再建術(p=0.11)、冠動脈バイパス・グラフト術(CABG)による標的血管の血行再建術(p=0.15)にも差はみられなかった。18ヵ月時の左室駆出率は、deferred群がわずかに良好だった(54.8 vs.53.5%、p=0.0431) 手技関連の心筋梗塞、輸血または手術を要する出血、造影剤誘発性腎症、脳卒中を合わせた発生率は、deferred群が4%(27/603例)、標準的PCI群は5%(28/612例)であり、両群間に差を認めず、個々の項目にも差はなかった。 著者は、「現在、類似の3つの臨床試験(MIMI試験、INNOVATION試験、PRIMACY試験)が進行中であり、これらの試験の結果がSTEMIにおけるdeferredステント留置の概念にさらなる光を投げかける可能性がある」としている。

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naltrexone、刑事犯罪者のオピオイド依存再発を抑制/NEJM

 オピオイド依存症歴のある成人刑事犯罪者に対し、徐放性naltrexoneはオピオイド使用再開の抑制効果があることが明らかにされた。米国・ニューヨーク大学のJoshua D. Lee氏らが、通常治療と比較した無作為化試験の結果、報告した。徐放性naltrexoneは、μオピオイド受容体完全拮抗薬の月1回投与の徐放性注射剤で、オピオイド依存症の再発防止効果はすでに確認されているが、刑事犯罪者への効果に関するデータは限定的であったという。NEJM誌2016年3月31日号掲載の報告。依存症歴のある犯罪者308例を対象に無作為化試験、naltrexone vs.通常治療 試験は2009年2月~13年11月に米国5地点で非盲検にて行われた。437例をスクリーニングし308例を、徐放性naltrexone(商品名:Vivitrol)を投与する群と通常治療(簡単なカウンセリングと地域治療プログラムへの紹介)群の2群に無作為に割り付けて、24週間介入を行い、オピオイド依存症再発防止について比較した。 被験者は、オピオイド依存症歴のある成人の刑事犯罪者(米国刑事裁判制度で被告人になった者など)で、オピオイド維持療法ではなくオピオイドからの離脱を選択し、無作為化を受ける時点で、オピオイド使用に対する自制ができていた人とした。 主要アウトカムは、オピオイド依存症再発までの期間とした。再発の定義は、28日間で10日以上使用した場合とし、自己申告または2週間ごとの尿検査の結果(陽性または未確認の場合はオピオイドを5日間使用とみなす)で評価した。また、治療後フォローアップを、27、52、78週時点で行った。依存症再発までの期間、naltrexone群が有意に延長、ただし治療中断後1年で同等に naltrexone群に153例、通常治療群に155例が割り付けられた。 24週の治療期間中、naltrexone群のほうが通常治療群よりも、再発までの期間が有意に延長し(10.5 vs.5.0週、p<0.001、ハザード比[HR]:0.49、95%信頼区間[CI]:0.36~0.68)、再発率は有意に低く(43 vs.64%、p<0.001、オッズ比[OR]:0.43、95%CI:0.28~0.65)、尿検査陰性の割合が有意に高かった(74 vs.56%、p<0.001、OR:2.30、95%CI:1.48~3.54)。 しかし、78週(治療終了後約1年)時点の評価では、尿検査陰性の割合について有意差はみられなくなっていた(両群とも46%、p=0.91)。 その他の事前に規定した副次アウトカム(自己申告でのコカイン、アルコール、静注薬物の使用、非安全な性行為、再収監)は、naltrexone群で低率であったが有意ではなかった。 78週以上の観察において、過量服薬行為の報告はnaltrexone群は0件、通常治療群は7件であった(p=0.02)。 これらの結果を踏まえて著者は、「刑事犯罪者に対し、徐放性naltrexoneの投与は、通常治療を行った場合と比べて、オピオイド依存症の再発率が低かった。再発防止効果は、治療中断後に減弱した」とまとめている。

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「処方箋を書く」医師の行為は「将棋」か「チェス」か?(解説:後藤 信哉 氏)-511

 医師の処方は、重要な治療行為である。「処方箋」が必要ということは、専門家が正確な知識に基づいて使用しなければ「危険」という意味もある。処方箋を書くときには、患者と危険を共有する勇気が必要である。 筆者の専門とする抗血栓薬では、薬剤使用のメリットとリスクが明確である。少量アスピリンでも年間0.2%程度は消化管、頭蓋内などの重篤な出血イベントを惹起する。ワルファリンでもPT-INRのコントロールに相応して重篤な出血が起こるし、いわゆるNOACsによる重篤な出血イベントリスクは、アスピリンの10倍である。 筆者は、自らの「処方」選択は、過去の世界の経験を踏まえた高速スパコンと情報技術に負けない「質」であると自信を持っている。しかし、今回の論文は、英国のGPのNSAIDs、アスピリンの処方は、コンピュータより「質」が低い可能性を示した。「将棋」において名人に常勝するコンピュータを聞かない。しかし、チェスではコンピュータに常勝できる名人はいなくなった。専門家としての医師の「処方選択」には「将棋」の複雑性があるか? 今回の研究は、NSAIDsとアスピリンの選択において、コンピュータの能力が標準的な医師を超える可能性を示した。 われわれはEvidence Based Medicineによる「標準治療」向上を選択して以来、個別患者を診る専門家としての長所を失ってきた。医師にしか捉えることのできない「個別患者の特性」に基づいて、「個別化医療」を実践していると主張し続ければ、われわれがコンピュータに負けることはなかった。対象とする個別患者は1人しかおらず、ランダム化比較試験による有効性、安全性の科学的検証は患者集団においてのみ可能であることが理由である。 しかし、われわれはEBMを志向した。行政、患者、企業にも専門的行為である「医療」の「質」の客観的評価が可能となった。過去の情報に基づいて未来を決めるEBMの世界では、過去の膨大な情報を一気に扱えるコンピュータは、個別医師の頭脳よりも有利である。個別のコンピュータも高速化したが、webを用いればコンピュータの情報ハンドル能力は一気に加速する。本研究では「薬剤師」が医師を教育し、医師には年収の0.6%に相当する「お小遣い」をくれるかわりに、医師の処方の妥当性がwebにより評価される。医師よりコンピュータがNSAIDs、アスピリンの処方が効率的であることを示しても、年収の0.6%に相当する「お小遣い」をもらえば損ではないと、試験の参加医師は考えたのかもしれない。 電子カルテにアクセスして、NSAIDs、アスピリンを処方した過去8週間の症例のうち、出血リスクの高い症例に「危険フラグ」を立てる。「危険フラグ」はEBMに基づいて科学的に立てられる。EBMの世界では、「この患者にはNSAIDs、アスピリンが危険な匂いがする」といっても価値はない。過去の文献をサーチして、高齢、2次予防群などをhigh risk群としてコンピュータが同定すれば、個別の医師には対抗する論理がない。 「危険フラグ」を消すためには、(1)医師が処方の理由を明確に記載する、(2)処方を中止する、(3)PPI、H2拮抗薬を処方する、などの対応が必要となる。このような「処方への介入」により、危険処方が3.7%から2.2%に減少した。また、消化管などの出血による入院率も、55.7/1万人年から37.0/1万人年へ減少した。医師に対して多少インセンティブを与えても、システムに基づく教育を導入することにより危険処方が減少し、全体としての医療費が削減されるとなれば、今回の方法は、他の領域にも積極的に導入されると予想している。 NSAIDsやアスピリンなどは、米国ではスーパーで売っている。薬局のパソコンとweb、スマホに自分の情報を入力し、low riskであれば販売許可票が出る仕組みを作ることは困難ではない。GPの教育者が本試験では「薬剤師」であることを考えると、情報端末の教育対象はGPでなく、薬剤師でなく、直接患者でもよいかもしれない。正確な知識に基づいて使用しなければ「危険」とされる薬剤の一部では、「危険」の判断はコンピュータができる。医師が患者と共に「危険」を共有する必要がある薬剤は、ワルファリンなどの「難しい薬剤」に限局される時代は近い。 エビデンスに基づいて「医療を標準化」すれば、コンピュータ医師がヒト医師を超える時代は必ず来る。医師が「自らは専門家である」と専門性を主張できる分野は、コンピュータ、人工頭脳が取って代わることのできない職人的領域に限局される。IT革命の影響が医学、医療に及ぶ時代が来た。専門職としての「ヒトの医師」には「コンピュータの医師」に取って代わることのできない役割があると筆者は信じたいが…。関連コメント高リスク処方回避の具体的方策が必要(解説:木村 健二郎 氏)診療所における高リスク処方を減らすための方策が立証された(解説:折笠 秀樹 氏)ステップウェッジ法による危険な処方を減らす多角的介入の効果測定(解説:名郷 直樹 氏)診療の現場における安全な処方に必要なものは何か…(解説:吉岡 成人 氏)

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ニフェジピンによるDES留置後の血管保護効果を確認

 2016年3月19日、宮城県仙台市にて開催された第80回日本循環器学会学術集会の「Late Breaking Clinical Trials/Cohort Studies III」にて、長時間作用型ニフェジピンの薬剤溶出ステント(DES)留置後の冠動脈に対する保護効果を検討した無作為化前向き試験“NOVEL study”の結果が、東北大学 循環器内科学の圓谷 隆治氏より発表された。 同氏の研究グループはこれまでに、第1世代のDESによる冠動脈過収縮反応を、長時間作用型ニフェジピンの慢性投与が抑制することが動物実験で示されたことを報告している。本試験では、現在主に臨床で使用されている第2世代のDESであるエベロリムス溶出ステントを用いて、ヒトにおける同様の効果について検討された。 対象は、左冠動脈へのDES留置を予定している146例の安定狭心症患者であった。被験者を、スタチン、レニン・アンジオテンシン系阻害薬、アスピリン、クロピドグレルによる一般的な薬物治療を実施する対照群と、それらに長時間作用型ニフェジピンを追加投与する群に無作為に割り付けた。ニフェジピン群57例および対照群53例に対し、ステント留置から8~10ヵ月後、冠動脈造影のフォローアップ検査を実施し、アセチルコリン負荷試験による冠動脈の収縮反応の確認が行われた。 その結果、冠動脈過収縮反応は、非治療血管に比べ、ステントの遠位部において顕著であった(p<0.001)。また、対照群と比較して、ニフェジピン投与群においてその反応は有意に抑制された(p<0.01)。さらには、血液検査により、炎症反応に関してもニフェジピン群のみにおいて改善が認められた(p<0.05)。 圓谷氏は、本試験の対象患者は、基礎疾患などのベースライン時の特徴から、比較的高リスクであったことを説明した。そのような患者においては、血管に対するストレスが減少したとされる第2世代のDESを用いた場合でも、血管の異常反応である過収縮が認められ、それに対して長時間作用型のニフェジピンの抗炎症作用が有益な効果に関連していることを述べた。 同発表のコメンテーターである岐阜大学 循環病態学・呼吸病態学・第二内科の西垣 和彦氏は、ニフェジピンの抗炎症作用が「クラスエフェクトとしてほかのカルシウム拮抗薬にもあるのか」、また、「ステントを留置した患者の長期予後へどのような影響を及ぼすのか」、という2点が、今後のさらなる研究で明らかになることに期待を寄せた。

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循環器内科 米国臨床留学記 第6回

第6回:米国で使用されている冠動脈疾患に対する新しい薬 ticagrelor、ranolazine前回に引き続き、日本では未承認ですがアメリカでは処方されている薬を紹介したいと思います。ticagrelor(商品名:Brilinta、日本では2016年2月現在、承認申請中)ticagrelorは、比較的新しいP2Y12受容体拮抗薬です。日本ではチカグレロルと呼ばれていると思いますが、アメリカではタイカグレロールと発音します。ご存じのとおり、日本では長らくチクロピジンしか使用できませんでしたが、その後クロピドグレルが登場し、最近ではプラスグレルも使用されていると思います。ticagrelorは、シクロペンチルトリアゾロピリミジン群に分類される新しい薬剤です。プロドラッグであるチエノピリジン系(クロピドグレルやプラスグレル)は肝臓で代謝された後、非可逆的にP2Y12受容体を阻害します。一方、ticagrelorは同じ受容体に直接かつ可逆的に作用します。結果として、作用が発現するまでの時間は短くなります。また、可逆的な結合のため、使用中止後、3日ほどで血小板機能も回復します。プラスグレルやticagrelorは血小板機能の抑制作用がクロピドグレルよりも早いため、急性冠症候群(ACS)の患者においては、より早い効果が期待できます。また、クロピドグレルに抵抗性のある患者は2割程度いますが、プラスグレルやticagrelorはその点でも優れています。ACS患者を対象にしたランダマイズド試験であるPLATO試験において、ticagrelorは、クロピドグレルに比べて死亡や心筋梗塞、脳卒中が少ないことが示されました(大出血イベントは同等、バイパス術に関連しない出血は増加)(図1)。表1 12ヵ月の時点での複合一次エンドポイント(心血管イベントによる死亡、心筋梗塞、脳卒中)の発生(PLATO試験) バイパス手術が必要となる3枝病変が予想されるようなACSの患者においては、P2Y12受容体拮抗薬の選択や投与のタイミングは難しい問題です。米国では、日本と比べて診断から手術までの時間が圧倒的に短いため、バイパス術が冠動脈造影の翌日となることも珍しくありません。初期投与(loading dose)だけなら気にされない心臓外科医もいますが、クロピドグレルやプラスグレルは手術を遅らせる原因となります(クロピドグレルやプラスグレルの使用中止後5~7日待つことが勧められている)。また、プラスグレルは、クロピドグレルに比べて、バイパスに関連した大出血イベントが有意に増加する可能性があります(TRITON-TIMI 38試験)。ticagrelorは可逆的な結合のため、使用中止後、3日ほどで血小板機能が回復します。実際、欧州心臓病学会(ESC)からの勧告でも、バイパス前の中止期間は、クロピドグレルとticagrelorでは最低でも3日となっていますが、プラスグレルは5日となっています。この待機時間は、入院費用が高い米国においては大きな問題です。このような背景から、現状では、費用の問題を除けばticagrelorが最も使いやすいP2Y12受容体拮抗薬と考えられています。同様の薬で静注薬であるcangrelorも2015年に認可されています。ranolazine(商品名:Ranexa、日本では未承認)ranolazineは、2006年に承認された慢性狭心症の薬です。2012年のガイドラインでは、β遮断薬に忍容性がないもしくは有効でない患者に、β遮断薬の代わりとしてもしくはβ遮断薬と組み合わせて用いることが、class IIaとして推奨されています。狭心症患者が多い米国では、経皮的冠動脈血行再建術(PCI)によって改善できない慢性狭心症の患者が非常に多く、治療に難渋することがあります。内向きの遅延ナトリウムチャネルを阻害し、心筋内のカルシウムを減らし、心筋の酸素消費を減らすと考えられていますが、詳しい効果の機序は不明です。TERISA試験は、14ヵ国で行われた、2型糖尿病と慢性狭心症を有する患者に対する前向きのプラセボ対照比較試験です。薬剤投与前の観察期間中の狭心症発作は、ranolazine群6.6回/週とプラセボ群で6.8回/週でしたが、薬剤投与開始後2~8週間後では、それぞれ3.8回/週(95% CI:3.57~4.05)と4.3回/週(95% CI:4.01~4.52)で、プラセボ群と比較してranolazine群で有意に減少したという結果でした(図2)。表2 ranolazine投与前後の狭心症状発生回数(TERISA試験) しかし、解釈には注意が必要です。というのも、有意といっても週0.5回というわずかなものでしたし、プラセボでも発作が減っていたのです。個人的には、プラセボ群でも発作が減る、狭心症状は経過とともに頻度が減っていくという結果のほうが、興味深く感じられました。実際には、ranolazineは最後の切り札といった感じで使用しています。なぜなら、前述のような軽度の改善効果に加えて、高価(1錠6ドル)であることもネックになっているからです。大規模で見ると改善効果があるのかもしれませんが、実際の臨床で効果を感じるのは難しい印象です。次回は、米国の心疾患治療で使用されている新しいデバイスについて書きたいと思います。

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“糖尿病合併高血圧にはRAS阻害薬”という洗脳から解き放たれるとき(解説:桑島 巖 氏)-487

 多くの臨床医は、“糖尿病合併高血圧にはRAS阻害薬”という考えにとりつかれてはいないだろうか。この問題にあらためて挑戦し、メタ解析を行ったのが、“的確な臨床試験コメンテーター”で知られるMesserli氏らのグループである。 彼らは、PubMed、Embaseやコクランライブラリーなどといった信頼性の高いデータベースから、糖尿病患者に対するRAS阻害薬の心血管合併症予防効果を、他の降圧薬と比較するメタ解析を行った。メタ解析で最も注意すべきセレクションバイアスは、独立した3名の専門家による論文選択と、コクランライブラリー基準にのっとりながら極力除外している。 RCT選択は、100例以上のサンプルサイズであること、最低1年以上の追跡期間であること、プラセボ対照試験を除外していること、そして注意すべきことは心不全を含んだトライアルは除外していることである。ACE阻害薬の心不全予防効果が他の降圧薬よりも優れていることは、証明されているからとしている。 そのメタ解析の結果、総死亡、心血管死、心筋梗塞、狭心症、脳卒中のいずれにおいても、RAS阻害薬が他の降圧薬よりも優れているという結果は得られなかったと結論付けている。個々の降圧薬との比較をみると、Ca拮抗薬との比較では、心不全以外ではまったく差が認められず、利尿薬、β遮断薬との比較においても、心血管イベント抑制効果に優位性は認めることができなかった。 そもそも、臨床医が“糖尿病合併高血圧ではRAS阻害薬”という考えにとりつかれたきっかけは、糖尿病性腎症に対するRAS抑制薬の蛋白尿抑制効果が大規模臨床試験で報告され、以来“糖尿病にはRAS阻害薬”というように拡大解釈された結果ではないかと著者らは考察している。 わが国の「高血圧治療ガイドライン2014」では、糖尿病合併高血圧患者における降圧薬選択に関しては、糖脂質への影響と糖尿病性腎症に対する効果のエビデンスより、RA系阻害薬(ARB、ACE阻害薬)を第1選択薬として推奨するとある。 しかも、その根拠としてABCD試験やFACET試験のようなきわめて小規模なトライアルを引用しているにすぎない。さらに問題は、CASE-Jのサブ解析結果を引用していることである。CASE-JにおけるARBカンデサルタンの糖尿病新規発症予防効果は、実はスポンサーの指示によって定義を後付けで変更するという不正な操作によって導き出されたことが、調査報告書で明らかになっているのである。それにもかかわらず、ガイドラインはいまだこの部分を訂正していない。 本メタ解析では、ベースライン時に腎症を合併している糖尿病のアウトカムについても解析しているが、他の降圧薬に比べて優位性を認めることができなかったとしている。 ここ20年間、ARBの降圧を超えて臓器保護効果や、糖尿病にはRAS阻害薬といった、誤ったマインドコントロールから覚めるときが来たようである。

412.

統合失調症、大脳皮質下領域の新発見:東京大学

 大脳辺縁系の基底神経節および基底部を含む大脳皮質下領域構造は、学習、運動制御、感情などの重要な役割を担っているだけでなく、高次の実行機能にも寄与する。これまでの研究では、統合失調症患者において、大脳皮質下領域での体積変化が報告されていた。しかし、報告された結果は、時に不均一であり、大規模研究はほとんど行われていなかった。さらに、統合失調症における大脳皮質下体積の非対称性が評価する大規模研究はほとんどなかった。そこで、東京大学の岡田 直大氏らは、ENIGMAコンソーシアムによって行われた研究と完全に独立し、統合失調症患者と健康成人の大脳皮質下体積の差を検討する大規模多施設研究を行った。また、特徴的な共通点と相違点を同定するため、大脳皮質下領域の左右差を検討した。Molecular psychiatry誌オンライン版2016年1月19日号の報告。 統合失調症患者884例、健康成人1,680例から得られたT1強調画像をFreeSurferで処理を行った(11施設、15画像プロトコル)。群間差は、各プロトコルおよびメタ分析により割り出した。 主な結果は以下のとおり。・統合失調症患者では、両側の海馬、扁桃体、視床、側坐核の体積および頭蓋内容積が健常者より小さく、両側の尾状核、被殻、淡蒼球、側脳室の体積が健康成人より大きいことが実証された。・本研究では、ENIGMAコンソーシアムによって報告されていた統合失調症患者における大脳皮質下体積変化の効果量順を再現していた。・左右差の検討では、健康成人および統合失調症患者の両方において、視床、側脳室、尾状核、被殻で左側優位、扁桃体、海馬で右側優位であることを明らかにした。・また、淡蒼球体積については、統合失調症患者における左側優位の非対称性を実証した。・本研究結果は、統合失調症の脳内神経回路と結合パターンにおける左右差の異常が淡蒼球に関連することを示唆している。関連医療ニュース 統合失調症の同胞研究、発症と関連する脳の異常 統合失調症患者の脳ゲノムを解析:新潟大学 ドパミンD2/3受容体拮抗薬、統合失調症患者の脳白質を改善

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悪性胸膜中皮腫へのシスプラチン+ペメトレキセド+ベバシズマブ療法(解説:小林 英夫 氏)-478

 悪性胸膜中皮腫は早期発見が困難で、診断時点では進行期である症例が大多数を占める。2003年のVogelzang 氏らの報告に基づいて、ペメトレキセドが世界初の悪性胸膜中皮腫治療薬として米国で承認され、わが国でも2007年に薬価収載された。現在、悪性胸膜中皮腫標準化学療法はペメトレキセド+シスプラチン併用と認識されている。しかし、その治療成績は必ずしも満足できるレベルには到達しておらず、胸膜肺全摘除術や片側全胸郭照射などを組み合わせたマルチモダリティー療法などが検討されている。 こうした中、中皮腫において血管内皮増殖因子(VEGF)シグナルが重大な役割を果たすことが示唆され、2010年以降いくつかの試験が実施された。そこで、VEGFをターゲットとする抗血管新生治療薬ベバシズマブの上乗せ効果について、Zalcman氏らによる本検討(第III相試験)が実施された。その結果、彼らは「循環器系の有害事象が増えるものの予想範囲内のものであり、ベバシズマブ上乗せは全生存期間(OS)を有意に改善する」とまとめている。Appendixを閲覧すると循環器系有害事象のほとんどは高血圧であった。 本研究デザインは、フランスの73病院において、18~75歳の切除不能悪性胸膜中皮腫、化学療法未治療、Eastern Cooperative Oncology Group PSスコア0~2、重大な心血管疾患の併存なし、CTで評価可能病変が少なくとも1つあり、余命12週超の症例が対象である。除外基準は、脳転移、抗血小板薬使用中、ビタミンK拮抗薬・ヘパリン・非ステロイド性抗炎症薬の投与中などであった。被験者は、ペメトレキセド+シスプラチン+ベバシズマブ投与のPCB群、またはベバシズマブの代わりにプラセボを投与するPC群に無作為に割り付け、3週間に1回を最大6サイクル、病勢進行または毒性効果が認められるまで投与した。主要アウトカムはOSである。 計448例が無作為化され、PCB群223例、PC群225例、男性75%、年齢中央値65.7歳、上皮型中皮腫81%であった。6サイクルを完遂したのは、PCB群74.9%、PC群76.0%。フォローアップ中央値は39.4ヵ月で両群に差はなかった。 主要アウトカムであるOS中央値は、PC群(16.1ヵ月、95%信頼区間[CI]:14.0~17.9)と比べPCB群(18.8ヵ月、15.9~22.6)で有意に延長した(ハザード比[HR]:0.77、95%CI:0.62~0.95、p=0.0167)。なお、PFS(無増悪生存)もPCB群で有意な改善が認められた(9.2ヵ月 vs.7.3ヵ月、HR:0.61、95%CI:0.50~0.71、p<0.0001)。 Grade3/4の有害事象は、PCB群158/222例(71%)、PC群139/224例(62%)であった。PC群と比べてPCB群では、Grade3以上の高血圧症(51/222例[23%] vs.0例)、血栓イベント(13/222例[6%]vs. 2/224例[1%])の頻度が高かった。 これまで進行性悪性中皮腫へのペメトレキセド+カルボプラチン療法効果は、OS中央値は約12ヵ月、無増悪生存(PFS)中央値は約6ヵ月、とされていた。抗血管新生治療の上乗せ効果は期待できそうだが、それでも5年生存率は20%弱であり、さらなる検討が望まれる。また、血清VEGF値により治療効果に差が生じる可能性も示唆されており、今後、中皮腫のバイオマーカーとして活用していくことも考慮される。 悪性胸膜中皮腫の臨床試験は、現在本邦で4試験が実施されている。免疫チェックポイント阻害薬トレメリムマブ、がん抑制遺伝子アデノウイルスベクター、シスプラチン+ペメトレキセド+Napabucasin、アネツマブ・ラブタンシン、の第I、II相試験であり、どのような結果が得られるのか注視していきたい。なお、胸膜腫瘍WHO分類は2015年に改訂され、Journal of thoracic oncology誌2016年2月号(オンライン版2015年12月22日号)1)で発表されている。

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ネフローゼ症候群〔Nephrotic Syndrome〕

1 疾患概要■ 概念・定義ネフローゼ症候群は高度の蛋白尿(3.5g/日以上)と低アルブミン血症(3.0g/dL以下)を示す疾患群であり、腎臓に病変が限局するものを一次性ネフローゼ症候群、糖尿病や全身性エリテマトーデスなど全身疾患の一部として腎糸球体が障害されるものを二次性ネフローゼ症候群と区別する(表1)。ネフローゼ症候群には浮腫が合併し、高コレステロール血症を来すことが多い。ネフローゼ症候群の診断基準を表2に示す。また、治療効果判定基準を表3に示す。画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大する■ 疫学新規発症ネフローゼ症候群は、平成20年度の厚生労働省難治性疾患対策進行性腎障害調査研究班の調査では年間3,756~4,578例の新規発症があると推定数が報告されている。日本腎生検レジストリーの中でネフローゼ症候群を示した患者の内訳は図1に示すように、IgA腎症を含めると一次性ネフローゼ症候群が2/3を占める。二次性ネフローゼ症候群では糖尿病が多く、ループス腎炎、アミロイドーシスが続く。ネフローゼ症候群を示す各疾患の発症は、図2に示すように年齢によって異なる。15~65歳ではループス腎炎、40歳以上で糖尿病、アミロイドーシスが増加する。図2に示すように一次性ネフローゼ症候群は、40歳未満では微小変化型(MCNS)が最も多く、60歳以上では膜性腎症(MN)が多くなる。巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)、膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)は全年齢を通じて発症する。画像を拡大する画像を拡大する■ 病因ネフローゼ症候群において大量の蛋白尿が出るときには、糸球体上皮細胞(ポドサイト)が障害を受けている。MCNSの場合には、この障害に液性因子が関連している可能性が示唆されているが、その因子はいまだ同定されていない。FSGSは、ポドサイトを構成するいくつかの遺伝子の異常が同定されており、多くは小児期に発症する。特発性のFSGSは成人においても発症するが、原因は不明である。MNの原因の1つに、ホスホリパーゼA2受容体(PLA2R)に対する自己抗体の存在が証明されており、ポドサイトに発現するPLA2Rに結合して抗原抗体複合物を産生することが示されている。MPGNは糸球体基底膜の免疫複合体の沈着位置によってI、II、III型に分類される。I型の原因は、補体の古典的経路による活性化が原因と考えられている。III型も同じ原因との説があるが、まだ明確にはわかっていない。II型は補体成分に対する、後天的な自己抗体が産生されることによるとされている。最近、MPGNはC3腎症として定義され、C3が主として糸球体に沈着する腎症群とする考え方に変わってきた。■ 症状1)浮腫ネフローゼ症候群には浮腫を合併する。浮腫の発症機序を図3に示す。画像を拡大する浮腫の発生には2つの仮説がある。循環血漿量不足説(underfill)と循環血漿量過剰説(overfill)である。underfill仮説は、低アルブミン血症のために、血漿膠質浸透圧が低下するとStarlingの法則に従い水分が血管内から間質へ移動することにより循環血漿量が低下する。その結果、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)や交感神経系が活性化され、二次的にNa再吸収を促進し、さらに浮腫を増悪するとされる。2つ目はoverfill仮説であり、遠位尿細管や集合管におけるNa排泄低下・再吸収の亢進が一次的に生じて、Na貯留により血管内容量が増加した結果、静水圧が高まり浮腫を生じるというものである。この原因に、糸球体から大量に漏れてくるplasminなどの蛋白分解酵素が、遠位尿細管や集合管に存在する上皮Naチャネルの活性化に関連し、Na再吸収が亢進するとの報告もある。低アルブミン血症が徐々に進行する場合には膠質浸透圧勾配はほとんど変化しないこと、ネフローゼ症候群患者では必ずしもRAS活性化がみられないことなど、underfill仮説に反する報告もあり、とくに微小変化型ネフローゼ症候群の患者が寛解する際、血清アルブミン値が上昇する前に浮腫が改善し始めるという臨床的事実は、overfill仮説を支持するものである。浮腫成立の機序は必ずしも単一ではなく、症例ごと、また同じ症例でも病期により2つの機序が異なる比率で存在するものと思われる。2)腎機能低下ネフローゼ症候群では腎機能低下を来すことがある。MCNSでは低アルブミン血症による腎血漿流量の低下から、一過性の腎機能低下はあっても、通常腎機能低下を来すことはない。それ以外の糸球体腎炎では、糸球体障害が進めば腎機能の低下を来す。3)脂質異常症肝臓での合成亢進と分解の低下から、高LDLコレステロール血症を来す。■ 予後MCNS、FSGS、MNの治療後の寛解率を図4に示す。画像を拡大するMCNSは2ヵ月以内に85%が完全寛解する。FSGSは6ヵ月で約45%、1年で約60%が完全寛解する。MNは6ヵ月では30%しか完全寛解しないが、1年で60%が完全寛解する。平成14年度厚生労働省難治性疾患対策進行性腎障害調査研究班の報告で、膜性腎症と巣状糸球体硬化症に関する予後調査の結果が報告されている。膜性腎症1,008例の腎生存率(透析非導入率)は10年で89%、15年で80%、20年で59%であった。巣状糸球体硬化症278例の腎生存率は10年で85%、15年で60%、20年で34%と長期予後は不良であった。2 診断 (病理所見)ネフローゼ症候群の診断自体は尿蛋白の定量と血清アルブミン値、血清総蛋白量を測定することにより行うことができる。しかし、実際の治療に関しては、二次性ネフローゼ症候群を除外した後、腎生検によって診断をする必要がある。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 浮腫に対する治療浮腫に対しては、利尿薬を使用する。第1選択薬としてループ利尿薬を使用する。効果がみられない場合には、サイアザイド系利尿薬を追加する。それでも効果のない場合や、低カリウム血症を合併する場合には、スピロノラクトンを使用する。アルブミン製剤は使用しないことが原則であるが、血清アルブミン値2.5g/dL以下で、低血圧、急性腎不全などの発症の恐れがある場合に使用する。しかし、その効果は一過性であり、かつ利尿効果はわずかである。利尿薬に反応しない場合には、体外限外濾過による除水を行う。■ 腎保護を目的とした治療1)低蛋白食ネフローゼ症候群への食事療法の有効性に十分なエビデンスはないが、摂取蛋白量を減少させることにより尿蛋白が減少することが期待できるため、通常以下のように行う。(1)微小変化型ネフローゼ症候群蛋白 1.0~1.1g/kg体重/日、カロリー 35kcal/kg体重/日、塩分 6g/日以下(2)微小変化型ネフローゼ症候群以外蛋白 0.8g/kg体重/日、カロリー 35kcal/kg体重/日、塩分 6g/日以下2)身体活動度ネフローゼの治療において運動制限の有効性を示すエビデンスはない。しかし、身体活動を制限することにより、深部静脈血栓のリスクが増大する。このため、入院中の寛解導入期であっても、ベッド上での絶対安静は避ける。維持治療期においては、適度な運動を勧める。3)レニン・アンジオテンシン系(RAS)阻害薬微小変化型ネフローゼ症候群を除き、尿蛋白の減少と腎保護を目的として、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、あるいはアンジオテンシン受容体拮抗薬を使用する。このとき高カリウム血症に注意する。RAS阻害薬を使用することにより、血圧が低下して、臓器障害を起こす可能性がある場合には、中止する。利尿薬との併用は、RAS阻害薬の降圧作用を増強するので注意する。アルドステロン拮抗薬を追加することにより、尿蛋白が減少する。■ 合併症の予防1)感染症の予防ネフローゼ症候群では、IgGや補体成分の低下がみられ、潜在的に液性免疫低下が存在することに加え、T細胞系の免疫抑制もみられるなど、感染症の発症リスクが高い。日和見感染症のモニタリングを行いながら、臨床症候に留意して早期診断に基づく迅速な治療が必要である。肺炎球菌ワクチンの接種を副腎皮質ステロイド治療前に行う。ツベルクリン反応陽性、胸部X線上結核の既往がある者、クオンティフェロン陽性者は、イソニアジド300mgを6ヵ月投与する。副腎皮質ステロイド・免疫抑制薬の治療と並行して投与を行う。1日20mg以上のプレドニゾロンや免疫抑制薬を長期間にわたり使用する場合には、顕著な細胞性免疫低下が生じるため、ニューモシスチス肺炎に対するST合剤の予防的投薬を考慮する。β-Dグルカン値を定期的に測定する。2)血栓症の予防ネフローゼ症候群では、発症から6ヵ月以内に静脈血栓形成のリスクが高く、血清アルブミン値が2.0g/dL未満になればさらに血栓形成のリスクが高まる。過去に静脈血栓症の既往があれば、ワルファリンによる予防的抗凝固療法を考慮する。D-dimer、FDPにて、血栓形成の可能性をモニターする。静脈血栓症由来の肺塞栓症が発症すれば、ただちにヘパリンを投与し、APTTを2.0~2.5倍に延長させて、血栓の状況を確認しながらワルファリン内服に移行し、PT-INRを2.0(1.5~2.5)とするように抗凝固療法を行う。肺塞栓症が発症すれば、ただちにヘパリンを経静脈的に投与し、APTTを2.0~2.5倍に延長させる。また、経口FXa阻害薬を投与する。■ 各組織型別の特徴と治療1)微小変化型(MCNS)小児に好発するが、成人にも多く、わが国の一次性ネフローゼ症候群の40%を占める。発症は急激であり、突然の浮腫を来す。多くは一次性であるが、ウイルス感染、NSAIDs、ホジキンリンパ腫、アレルギーに合併することもある。副腎皮質ステロイドに対する反応は良好である。90%以上が寛解に至る。再発が30~70%で認められる。ステロイド依存型、長期治療依存型になる症例もあり、頻回再発型を示す場合もある。わが国で行われた無作為化比較試験にて、メチルプレドニゾロンを使用したパルス療法は、尿蛋白減少効果において、経口副腎皮質ステロイドと変わらないことが示されている。寛解導入後の治療は、少なくとも1年以上継続して行ったほうが再発が少ない。(1)再発時の治療プレドニゾロン20~30 mg/日もしくは初期投与量を投与する。患者に、検尿試験紙を持たせて、自己診断できるように教育し、再発した場合にすぐに来院できるようにする。(2)頻回再発型、ステロイド依存性、ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群免疫抑制薬(シクロスポリン〔商品名:サンディミュン、ネオーラル〕1.5~3.0 mg/kg/日、またはミゾリビン〔同:ブレディニン〕150 mg/日、または、シクロホスファミド〔同:エンドキサン〕50~100 mg/日など)を追加投与する。シクロスポリンは、中止により再発が起こるリスクが高く、寛解が得られる最小量にて1~2年は治療を継続する。頻回再発を繰り返す症例や難治症例ではリツキサンを500mg/日 1回点滴静注投与することも検討する。2)巣状分節性糸球体硬化症巣状分節性糸球体硬化症(focal segmental glomerulosclerosis:FSGS)は、微小変化型ネフローゼ症候群(minimal change nephrotic syndrome:MCNS)と同じような発症様式・臨床像をとりながら、MCNSと違ってしばしばステロイド抵抗性の経過をとり、最終的に末期腎不全にも至りうる難治性ネフローゼ症候群の代表的疾患である。糸球体上皮細胞の構造膜蛋白であるポドシン(NPHS2)やα-アクチニン4(ACTN4)などの遺伝子変異により発症する、家族性・遺伝性FSGSの存在が報告されている。(1)初期治療プレドニゾロン(PSL)換算1mg/kg標準体重/日(最大60mg/日)相当を、初期投与量としてステロイド治療を行う。重症例ではステロイドパルス療法も考慮する。(2)ステロイド抵抗性4週以上の治療にもかかわらず、完全寛解あるいは不完全寛解I型(尿蛋白1g/日未満)に至らない場合は、ステロイド抵抗性として以下の治療を考慮する。必要に応じてステロイドパルス療法3日間1クールを3クールまで行う。a)ステロイドに併用薬として、シクロスポリン2.0~3.0 mg/kg/日を投与する。朝食前に服用したシクロスポリンの2時間後の血中濃度(C2)が、600~900ng/mLになるように投与量を調整する。副作用がない限り、6ヵ月間同じ量を継続し、その後漸減する。尿蛋白が1g/日未満に減少すれば、1年間は慎重に減量しながら、継続して使用する。b)ミゾリビン 150 mg/日を1回または3回に分割して投与する。c)シクロホスファミド 50~100 mg/日を3ヵ月以内に限って投与する。シクロホスファミドは、骨髄抑制、出血性膀胱炎、間質性肺炎、発がんなどの重篤な副作用を起こす可能性があるため、総投与量は10g以下にする。(3)補助療法高血圧を呈する症例では積極的に降圧薬を使用する。とくに第1選択薬としてACE阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬の使用を考慮する。脂質異常症に対してHMG-CoA還元酵素阻害薬やエゼチミブ(同:ゼチーア)の投与を考慮する。高LDLコレステロール血症を伴う難治性ネフローゼ症候群に対してはLDLアフェレシス療法(3ヵ月間に12回以内)を考慮する。必要に応じ、蛋白尿減少効果と血栓症予防を期待して抗凝固薬や抗血小板薬を併用する。3)膜性腎症膜性腎症は、中高年者においてネフローゼ症候群を呈する疾患の中で、約40%と最も頻度が高く、その多くがステロイド抵抗性を示す。ネフローゼ症候群を呈しても、尿蛋白の増加は、必ずしも急激ではない。特発性膜性腎症の主たる原因抗原は、ポドサイトに発現するPLA2Rであり、その自己抗体がネフローゼ症候群患者の血清に検出される。PLA2R抗体は、寛解の前に消失し、尿蛋白の出現の前に検出される。特発性膜性腎症の抗体はIgG4である。一方、がんを抗原とする場合の抗体はIgG1、IgG2である。約1/3が自然寛解するといわれている。したがって、欧米においては、尿蛋白が8g/日以下であれば、6ヵ月間は腎保護的な治療のみで、経過をみることが一般的である。また、尿蛋白が4g/日以下であれば、副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬は使用しない。わが国における本症の予後は、欧米のそれに比較して良好である。この原因は、尿蛋白量が比較的少ないことによる。このため、ステロイド単独投与により寛解に至る例も少なくない。通常、免疫抑制薬の併用により尿蛋白が減少し、予後の改善が期待できる。(1)初期治療プレドニゾロン(PSL)0.6~0.8mg/kg/日相当を投与する。最初から、シクロスポリンを併用する場合もある。(2)ステロイド抵抗性ステロイドで4週以上治療しても、完全寛解あるいは不完全寛解Ⅰ型(尿蛋白1g/日未満)に至らない場合はステロイド抵抗性として免疫抑制薬、シクロスポリン2.0~3.0 mg/kg/日を1日1回投与する。朝食前に服用したシクロスポリンの2時間後の血中濃度(C2)が、600~900ng/mLになるように投与量を調整する。副作用がない限り、6ヵ月間同じ量を継続し、その後漸減する。尿蛋白1g/日未満に尿蛋白が減少すれば、1年間は慎重に減量しながら、継続して使用する。シクロスポリンが無効の場合には、ミゾリビン 150 mg/日、またはシクロホスファミド 50~100 mg/日の併用を考慮する。リツキサン500mg/日 1回を、点滴静注することにより寛解することが報告されており、難治例では検討する。(3)補助療法a)高血圧(収縮期血圧130mmHg 以上)を呈する症例では、ACE阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬を使用する。b)脂質異常症に対して、HMG-CoA還元酵素阻害薬やエゼチミブの投与を考慮する。c)動静脈血栓の可能性に対してはワルファリンを考慮する。4)膜性増殖性糸球体腎炎膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)はまれな疾患であるが、腎生検の6%を占める。光学顕微鏡所見上、糸球体係蹄壁の肥厚と分葉状(lobular appearance)の細胞増殖病変を呈する。係蹄の肥厚(基底膜二重化)は、mesangial interpositionといわれる糸球体基底膜(GBM)と内皮細胞間へのメサンギウム細胞(あるいは浸潤細胞)の間入の結果である。また、増殖病変は、メサンギウム細胞の増殖とともに局所に浸潤した単球マクロファージによる管内増殖の両者により形成される。確立された治療法はなく、メチルプレドニゾロンパルス療法に加えて、免疫抑制薬(シクロホスファミド)の併用の有効性が、観察研究で報告されている。4 今後の展望ネフローゼ症候群の原因はいまだに不明な点が多い。これらの原因因子を究明することが重要である。膜性腎症の1つの原因因子であるPLA2R自己抗体は、膜性腎症の発見から50年の歳月をかけて発見された。5 主たる診療科腎臓内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本腎臓学会ホームページ エビデンスに基づくネフローゼ症候群診療ガイドライン2014(PDF)(医療従事者向けの情報)日本腎臓学会ホームページ ネフローゼ症候群診療指針(完全版)(医療従事者向けの情報)進行性腎障害に関する調査研究班ホームページ(医療従事者向けの情報)難病情報センターホームページ 一次性ネフローゼ症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)厚生労働省「進行性腎障害に関する調査研究」エビデンスに基づくネフローゼ症候群診療ガイドライン作成分科会. エビデンスに基づくネフローゼ症候群診療ガイドライン2014.日腎誌.2014;56:909-1028.2)厚生労働省難治性疾患克服研究事業進行性腎障害に関する調査研究班難治性ネフローゼ症候群分科会編.松尾清一監修. ネフローゼ症候群診療指針 完全版.東京医学社;2012.3)今井圓裕. 腎臓内科レジデントマニュアル.改訂第7版.診断と治療社;2014.4)Shiiki H, et al. Kidney Int. 2004; 65: 1400-1407.5)Ronco P, et al. Nat Rev Nephrol. 2012; 8: 203-213.6)Beck LH Jr, et al. N Engl J Med. 2009; 361: 11-21.公開履歴初回2013年09月19日更新2016年02月09日

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Vol. 4 No. 2 実地臨床における抗血小板薬選択のポイント

小田倉 弘典 氏土橋内科医院はじめに臨床医が抗血小板薬を使用する機会は多い。実地医家が最低限知っておくべき薬理学的知識をおさえ、疾患ごとに、1次予防と脳心血管疾患慢性期の2次予防において、どの場面でどういった薬剤を選べばよいか、あくまで現場からの視点で概説する。抗血小板薬でおさえるべき薬理学的知識実地臨床における抗血小板薬の使い分けについて論じる前に、人の止血機構とそこに抗血小板薬がどう働くかについての理解が欠かせない。筆者は止血血栓が専門ではないが、近年抗血栓薬に注目が集まっていることから、プライマリ・ケア医としておおよそ以下のように止血機構を把握することにしている。ヒトの血管壁が傷害された場合、1次血栓(血小板血栓)→ 2次血栓(フィブリン血栓)が形成される1次血栓:血小板が活性化され凝集することで形成される2次血栓:活性化された血小板表面で凝固系カスケードが駆動し、フィブリンが生成され強固な2次血栓(フィブリン塊)が形成される動脈系の血栓(非心原性脳塞栓、急性冠症候群など)では血小板血栓の関与が大きく、抗血小板薬が有効である。静脈系および心房内の血栓(心房細動、深部静脈血栓症など)ではフィブリン血栓の関与が大きく、抗凝固薬が有効である血小板活性化には濃染顆粒から分泌されるトロンボキサンA2(TXA2)とアデノシン2リン酸(ADP)による2つの正のフィードバック回路が大きく関与するアスピリンは、アラキドン酸カスケードを開始させるシクロオキシゲナーゼ(COX)-1を阻害することで、TXA2を抑制し血小板の活性化を阻害するチエノピリジン系(クロピドグレル、チクロピジン)はADP受容体P2Y12の拮抗作用により血小板の活性化を阻害するシロスタゾールは、血小板の活性化を抑制するcAMPの代謝を阻害するホスホジエステラーゼ3を阻害することで血小板凝集を抑制する虚血性心疾患のエビデンス・ガイドライン1. 1次予防古くは、Physicians’ Health Study1)において、虚血性心疾患の既往のない人へのアスピリン投与は、心血管死は減少させないものの心筋梗塞発症はアスピリン群のほうが低かったため、処方の機運が高まった時期がある。しかし、日本人の2型糖尿病患者2,539人を対象としたJPAD試験2)において、アスピリン群は対照群に比べ1次評価項目(複合項目)を減らさなかった(5.4% vs. 6.7%)。2次評価項目(致死性心筋梗塞、致死性脳卒中)および65歳以上のサブグループ解析における1次評価項目においては、アスピリン群で有意に少なかった。日本循環器学会の『循環器疾患における抗凝固・抗血小板療法に関するガイドライン(2009年改訂版)』においても、高リスクの脂質異常症におけるイコサペント酸エチル投与の考慮が推奨度クラスI、複数の冠危険因子をもつ高齢者に対するアスピリン投与がクラスIIとされているのみである。現時点では、虚血性心疾患を標的とした抗血小板薬の1次予防は有効性が確立されておらず、65歳以上の糖尿病患者で多数の冠危険因子を有する場合以外は、投与は控えるべきと考えられる。2. 2次予防(慢性期)2009年のATT4)によるメタ解析において、心筋梗塞(6試験)または脳卒中(10試験)の既往患者に対して、アスピリン投与群は対照群と比較して1次評価項目(心筋梗塞、脳卒中、血管死)を有意に低下させたが(6.7% vs. 8.2%、p<0.0001)、出血性合併症は増加させなかった。一方、脳心血管イベントの既往例19,815例を対象として、アスピリンとクロピドグレルを比較したCAPRIE試験5)においては、クロピドグレルはアスピリンに比較して心血管イベントの発生を有意に抑制した(5.3% vs. 5.8%、p=0.043)。一方、重篤な出血性イベントは、両群間で差はなかった。3. 冠動脈ステント治療後現在、日本循環器学会のガイドライン6)では、ベアメタルステント(BMS)植込み後は1か月、薬剤溶出性ステント(DES)植込み後は1年(可能であればそれ以上)のアスピリンとクロピドグレル併用療法(DAPT)が推奨されている(推奨クラスI、エビデンスレベルA)。ただし、いわゆる第二世代のDESでは遅発性血栓症リスクが低いため、DAPT期間の短縮を検証する大規模試験が現在進行中である。4. その他の抗血小板薬チエノピリジン系であるチクロピジンのアスピリンとの併用によるステント血栓予防効果は、確立したエビデンスがある。ただし、チクロピジンは肝障害や顆粒球減少などの副作用が多く、CLEAN試験7)の結果からも、アスピリンとの併用はクロピドグレルが第1選択と考えられる。プラスグレルは、クロピドグレル同様P2Y12受容体拮抗薬だが、クロピドグレルより効果発現が早く、CYP2C19の関与が少ないため、日本人に多いといわれている薬剤耐性に対しても有利と考えられている。今後の経験の蓄積が期待される。シロスタゾールは上記抗血小板薬に比べて抗血小板作用が弱いため、これらの薬剤が何らかの理由により使用困難な場合にその使用を考慮する。5. 抗凝固薬併用時2014年8月に、欧州心臓病学会(ESC)のワーキンググループから抗凝固薬併用時に関するコンセンサス文書が示され、注目されている8)。それによると、PCIを施行されたすべての抗凝固薬服用患者で、導入期には3剤併用(抗凝固薬+アスピリン+クロピドグレル)が推奨される。ただし、出血高リスク(HAS-BLEDスコア3点以上)かつ低ステント血栓リスク(CHA2DS2-VAScスコア1点以下)の場合はアスピリンが除かれる。その後3剤併用は、待機的PCIの場合、BMSは1か月間、新世代DESは6か月、急性冠症候群ではステントの種類を問わず6か月(ただし高出血リスクで新世代ステントの場合は1か月)を考慮するとされ、その後抗凝固薬+抗血小板薬1剤の維持期へと移行する。この際、抗血小板薬としてはアスピリンはステント血栓症や、心血管イベント率の点で抗血小板薬2剤よりも高率であることが知られているが9)、一方、アスピリンとクロピドグレルの直接比較はないため、個々の出血とステント血栓症リスクにより決めることが必要である。施行後12か月を経た場合の長期管理については、1つの抗血小板薬を中止することが、コンセンサスとして明記されている。ただしステント血栓症が致命的となるような左主幹部、びまん性冠動脈狭窄、ステント血栓症の既往や心血管イベントを繰り返す例では、抗凝固薬+抗血小板薬1剤を継続する必要がある。脳卒中(非心原性脳梗塞)のエビデンス・ガイドライン1. 1次予防脳梗塞の既往はないが、MRIで無症候性脳梗塞(特にラクナ梗塞)が見つかった場合、日本脳卒中学会の『脳卒中治療ガイドライン2009』10)においては、「無症候性ラクナ梗塞に対する抗血小板療法は慎重に行うべきである」として推奨度はグレードC1(行うことを考慮してもよいが、十分な科学的根拠がない)とされている。また最近の日本人高齢者約14,000人を対象としたJPPP試験11)では、心血管死+非致死的脳卒中+非致死的心筋梗塞の複合エンドポイントの5年発生率はアスピリン群、対照群で同等であった。脳卒中の1次予防に対する抗血小板薬の高度なエビデンスはまだなく、治療としては血圧をはじめとする全身的な動脈硬化予防をまず行うべきである。2. 2次予防『脳卒中治療ガイドライン2009』において、非心原性脳梗塞の再発予防にはアスピリン、クロピドグレルがグレードA、シロスタゾール、チクロピジンはグレードBの推奨度である。2014年米国心臓病協会(AHA)の虚血性脳卒中の治療指針12)では、非心原性脳梗塞、TIAに対しアスピリン(推奨度クラスI、エビデンスレベルA)、アスピリンと徐放性ジピリダモール併用(クラスI、レベルB、日本では未承認)、クロピドグレル(クラスIIa、レベルB)となっている。現時点ではアスピリン、クロピドグレル、シロスタゾールの3剤のいずれかのうち、エビデンス、患者の好みと状況、医者の専門性を考慮して選択すべきと考えられる。エビデンスとしては、上記のCAPRIE試験において、脳梗塞、心筋梗塞、血管死の年間発症率は、クロピドグレル単独投与群(75mg/日)が、アスピリン単独投与群(325mg/日)より有意に少なかった。またCSPS試験13)では、シロスタゾール(200mg/日、2分服)はプラセボ群に比し有意な脳卒中の再発低減効果を有し(プラセボ群に比し41.7%低減)、層別解析では、ラクナ梗塞の再発予防に有効であった。日本で行われたCSPS214)ではアスピリンとシロスタゾールの比較が行われ、脳梗塞再発抑制効果は両者で同等であり、出血性合併症がシロスタゾールで少ないことが報告されている。副作用として、アスピリンによる消化管出血、クロピドグレルによる肝障害、シロスタゾールによる頭痛、頻脈はよく経験されるものであり、これらとコストなどを考えながら選択するのが適切と考える。末梢血管疾患のエビデンス・ガイドライン下肢虚血症状(間歇性跛行)の治療と併存するリスクの高い心血管イベント予防とに分けて考える。下肢虚血症状に対する効果のエビデンスとしてはシロスタゾールおよびヒスタミン拮抗薬があることから、本邦および米国のガイドラインでは、まずシロスタゾールが推奨されている15)。心血管イベントの予防については、上記記載を参照されたい。現時点における抗血小板薬の使い方の実際以上をまとめると、虚血性心疾患、脳卒中ともに、1次予防に有効であるというアスピリンのエビデンスは確立されておらず、現時点では慎重に考えるべきであろう。また、2次予防に関しては、冠動脈ステント治療後の一定期間はアスピリンとクロピドグレルが推奨されるが、ステント治療後以外の虚血性心疾患および非心原性脳塞栓では、抗血小板薬いずれか1剤の投与が推奨されている。その際、複合心血管イベントの抑制という点で、クロピドグレルあるいはシロスタゾールがアスピリンを上回り出血は増加させないとのエビデンスが報告されている。現時点では、状況に応じてクロピドグレルあるいはシロスタゾールの使用が、アスピリンに優先する状況が増えているかもしれない。一方、アスピリンは上記以外にも虚血性心疾患、非心原性脳塞栓の2次予防に関して豊富なエビデンスを有する。またコストを考えた場合、アスピリン100mg1日1回の場合、1か月の自己負担金は50.4円(3割負担)に対し、クロピドグレル75mg1日1回の場合は2,475円とかなり差がある(表)。また、各抗血小板薬の副作用として、アスピリンは消化管出血、クロピドグレルは肝障害、シロスタゾールは頭痛と頻脈に注意すべきである。一律な処方ではなく、症例ごとにエビデンス、副作用(出血)リスク、医師の経験、コストなどを考慮に入れた選択が適切と考えられる。さらに、抗血小板薬2剤併用をいつまでつづけるか、周術期の抗血小板薬の休薬をどうするかといった問題に関しては、専門医とプライマリ・ケア医との連携が不可欠である。こうした問題に遭遇した際に情報共有が円滑に進むように、日頃から良好な関係を保つことが大切であると考える。表 抗血小板薬のコスト画像を拡大する文献1)Steering Committee of the Physicians' Health Study Research Group. Final report on the aspirin component of the ongoing Physicians' Health Study. N Engl J Med 1989; 321: 129-135.2)Ogawa H et al. Low-dose aspirin for primary prevention of atherosclerotic events in patients with type 2 diabetes: a randomized controlled trial. JAMA 2008; 300: 2134-2141.3)日本循環器学会ほか. 循環器病の診断と治療に関するガイドライン. 循環器疾患における抗凝固・抗血小板療法に関するガイドライン(2009年改訂版).4)Antithrombotic Trialists' (ATT) Collaboration. Aspirin in the primary and secondary prevention of vascular disease: collaborative meta-analysis of individual participant data from randomised trials. Lancet 2009; 373: 1849-1860.5)CAPRIE Steering Committee: A randomised, blinded, trial of clopidogrel versus aspirin in patients at risk of ischaemic events (CAPRIE). Lancet 1996; 348: 1329-1339.6)日本循環器学会ほか. 循環器病の診断と治療に関するガイドライン. 安定冠動脈疾患における待機的PCIのガイドライン(2011年改訂版).7)Isshiki T et al. Clopidogrel trial in patients with elective percutaneous coronary intervention for stable angina and old myocardial infarction (CLEAN). Int Heart J 2012; 53: 91-101.8)Lip GY et al. Management of antithrombotic therapy in atrial fibrillation patients presenting with acute coronary syndrome and/or undergoing percutaneous coronary or valve interventions: a joint consensus document of the European Society of Cardiology Working Group on Thrombosis, European Heart Rhythm Association (EHRA), European Association of Percutaneous Cardiovascular Interventions (EAPCI) and European Association of Acute Cardiac Care (ACCA)endorsed by the Heart Rhythm Society (HRS) and Asia-Pacific Heart Rhythm Society (APHRS). Eur Heart J 2014; 35: 3155-3179.9)Karjalainen PP et al. Safety and efficacy of combined antiplatelet-warfarin therapy after coronary stenting. Eur Heart J 2007; 28: 726-732.10)篠原幸人ほか. 脳卒中治療ガイドライン2009. 協和企画, 東京, 2009.11)Ikeda Y et al. Low-dose aspirin for primary prevention of cardiovascular events in Japanese patients 60 years or older with atherosclerotic risk factors: a randomized clinical trial. JAMA 2014; 312: 2510-2520.12)Kernan WN et al. Guidelines for the prevention of stroke in patients with stroke and transient ischemic attack: a guideline for healthcare professionals from the American Heart Association/American Stroke Association. Stroke 2014; 45: 2160-2236.13)Gotoh F et al. Cilostazol stroke prevention study: a placebo-controlled double-blind trial for secondary prevention of cerebral infarction. J Stroke Cerebrovasc Dis 2000; 9: 147-157.14)Shinohara Y et al. Cilostazol for prevention of secondary stroke (CSPS 2): an aspirin-controlled, double-blind, randomised non-inferiority trial. Lancet Neurol 2010; 9: 959-968.15)Rooke TW et al. 2011 ACCF/AHA Focused Update of the Guideline for the Management of Patients With Peripheral Artery Disease (updating the 2005 guideline): a report of the American College of Cardiology Foundation/American Heart Association Task Force on Practice Guidelines. J Am Coll Cardiol 2011; 58: 2020-2045.

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Vol. 4 No. 2 アスピリンの評価とコントロバーシー(1) 循環器内科の立場から

上妻 謙 氏帝京大学医学部内科学講座・循環器内科はじめに虚血性心疾患に対する治療は抗血小板療法の進歩とカテーテルインターベンション(percutaneous coronary intervention:PCI)の普及によって低侵襲かつ高い成功率で治療が可能となった。抗血小板療法ではアスピリンを常に標準薬として投与し、そこに血小板表面のP2Y12受容体のADPによる凝集を抑制するチエノピリジンなどの薬剤を追加する抗血小板薬2剤併用療法(dual antiplatelet therapy:DAPT)がステント血栓症予防とハイリスク患者の2次予防のために確立された治療となった。しかしDAPTによる出血合併症の増加が問題となり、近年P2Y12受容体拮抗薬に第3世代と呼ばれる新しい薬剤が登場して、より早期に有効性を発揮できるようになってきたことにより、アスピリンの役割、意義に見直しの気運がでてきた。アスピリンの抗血小板作用アスピリン(アセチルサリチル酸)は、何世紀にもわたって医学史上、代表的な薬物として使用されており、アテローム性血栓症の治療の主要な役割を担ってきた。アスピリンが合成できるようになって120年近くなるが、当初は消炎鎮痛薬として捉えられていた。抗血小板薬として認知されるようになったのは50年ほど前からで、日本で虚血性心疾患や脳梗塞予防に対する保険適応が認められたのは2000年と比較的最近のことである。アスピリンは、cyclooxygenase(COX)にあるsingle serine residue(Ser529)のアセチル化によって、アラキドン酸の代謝を阻害する。血小板が生きている間中、アスピリンはこのCOXを不可逆的に阻害する。また血小板の活性因子であるトロンボキサンA2(TXA2)の産生が減少する結果、COXを阻害することができる。もともとアスピリンは、用量依存性でTXA2を減少させ、一度COXがアスピリンによってアセチル化された場合、巨核球によって新しい血小板が産生されるまで、TXA2は結合できない。COXは2つの異なるアイソフォームが存在し、COX-1は血小板、マクロファージ、そして血管内皮細胞に表れる構成型であり、もう一方のCOX-2は、炎症性刺激を求める誘導型である。アスピリンは、基本的には不可逆的なCOX-1阻害薬であり、高用量であればCOX-2阻害をすることができる。このため、アスピリンは大量投与すると抗血小板作用が減弱する可能性が知られており、アスピリンジレンマとも呼ばれ、1日100mgの投与で十分である。アスピリンの役割と問題点アスピリンは急性冠症候群をはじめとする虚血性心疾患の2次予防に対して、有効性が確立された薬物である。ISIS-2とRISC研究の両方の研究において、急性冠症候群発症後にアスピリン内服を継続していると、心筋梗塞の再発率を軽減させるという結果が示されている1, 2)。ISIS-2研究では、アスピリン160mg/日で内服治療を行う群と対照群とを無作為化して、5週間両群を比較検討したところ、血管イベントによる死亡率は減少したと報告された(9.4% vs. 11.8%; 95% CI 15-30; p<0.00001)。アスピリンの最大の問題点は出血合併症である。Antithrombotic Trialists' Collaborationは、アテローム性血栓症のハイリスク患者において、心筋梗塞、脳卒中、そして死亡を予防するための抗血小板療法を研究した、287の無作為化研究のメタ解析である3)。脳出血の合併は787人に起こり、そのうちの20%は致死的な出血であった。対照群と比較してアスピリンを内服していた患者は、脳出血発生のリスクが60%増加していたと報告している。このAntithrombotic Trialists' Collaboration研究において、重大な血管イベントを予防することに関して、アスピリンの1日内服用量、75~150、160~325、500~1,000mgの3群間にて、有意な差を示さなかった。アスピリンによる消化管出血および脳内出血発症のリスクを解析している、28の無作為化研究を用いたメタ解析では、対照群に割り振られた患者の消化管出血発生率は1.42%であったが、アスピリンを内服していた患者の消化管出血発生率は2.47%であることがわかった(OR 1.68; 95% CI 1.51-1.88)4)。また、心血管もしくは脳血管イベントの2次予防に対する6つの無作為化研究では、1日325mg以下のアスピリンを内服する患者は、対照群に比べると消化管出血の発症を2.5倍程度増加することが明らかにされた(95% CI 1.4-4.7; p= 0.001)5)。この解析は、アスピリンで治療を行った場合、67人の内1人の割合で死亡を防げた一方で、100人のうち1人の割合で非致死性の消化管出血が起こるということを示した。最近MAGIC試験の結果が発表され、日本人のデータとして低用量アスピリン内服中の患者の内視鏡所見で消化管障害を合併する頻度を明らかにしている6)。この報告では直径5mm以上の消化性潰瘍が6.5%に存在し、びらんは29.2%の頻度で存在した。もともとアスピリンをはじめとした非ステロイド消炎鎮痛薬(NSAIDs)は上部消化管粘膜の障害を来す直接の作用があり、出血の元になる病変がアスピリンによって作られ、そこに他の抗血小板薬や抗凝固薬を併用することによって、臨床的に問題となる出血に発展するものと思われる。そして、消化管出血は心血管イベントの上昇につながることが示されている7)。そのため、海外のガイドラインでは低用量アスピリンに抗血小板薬や抗凝固薬を併用する時には、プロトンポンプ阻害薬を併用することを推奨するものが多い。DAPTにおけるアスピリンの役割現在、冠動脈ステント植え込み後の抗血小板療法として標準となっているのがアスピリンとチエノピリジン(クロピドグレル、プラスグレル、チクロピジン)の2剤併用療法、すなわちDAPTである。日本ではほとんどのACSがPCIで治療されているため、ステント治療のDAPTと同義になっている傾向がある。もともとステント血栓症の予防のために始まったDAPTは、アスピリンにワルファリンを併用していたものを、ワルファリンからチクロピジンに変更したことで始まった。特にチクロピジンは作用が十分に発現するまで1週間程度かかり、チクロピジン単剤という発想はまったくなかった。クロピドグレル、プラスグレル、チクロピジンはチエノピリジン系薬剤といわれ、血小板表面上にあるP2Y12受容体に結合し、ADPによる血小板凝集を抑制し、またcAMP濃度を上昇させることによる血小板凝集抑制作用をもち、強力な抗血小板作用を有する薬剤である。プラスグレルやチカグレロルのような新しい抗血小板薬の特徴は作用発現の早さと効果の個人差が少ないことである。今まではクロピドグレルの効果発現の早さに個人差があることから、効果発現の早いアスピリンの併用は、その早期作用不足の補完の意味があったが、新規抗血小板薬ではその必要がなくなってきている可能性がある。1. ステント血栓症予防のためのDAPT最近の大きな話題の1つが、「DAPTをいつまでつづけるか」というDAPT期間の問題である。ステント血栓症予防のためのDAPT投与期間に対する考えは、ステントの進歩に伴い大きく変わってきている。現在標準のDAPT期間は、ベアメタルステント(BMS)留置後は最低30日間、理想的には12か月間が推奨されており、薬剤溶出性ステント(DES)留置後は12か月となっている。BMSでは、臨床使用され始めた頃から30日以内の早期のステント血栓症が問題であった。これがDESに関しては、30日以降の遅発性ステント血栓症、さらに1年以降の超遅発性ステント血栓症(very late stent thrombosis:VLST)がクローズアップされ、2006年BASKET late試験では、6か月以降の心筋梗塞と死亡のイベントはDESのほうがBMSよりも高いと発表され、大きな問題点として取りざたされるようになった。2006年秋のヨーロッパ心臓病学会(ESC)においてその話題は一気に盛り上がり、その後追試もなされ、第1世代のDESでは5年経過しても年間0.2~0.5%程度のVLST発生がレポートされており8, 9)、一時は世界中で使用を控える動きがみられるようになった。以上の背景から、DES植え込み後のDAPT期間は無期限に延長される傾向があった。しかし、その後上市され現在使用されているDESは第2世代と呼ばれ、VLSTの問題が大きく改善されている。DAPTに関する臨床試験が多数行われており、3か月や6か月へのDAPT期間短縮が試みられるようになった。これまでに出版された6つの論文では、いずれも延長されたDAPTにイベント抑制のメリットが認められず、出血が増加するという結果となっており、6か月以上のDAPTに関してはデメリットがメリットを上回るとされている10-13)。したがって、最近改訂された2014年のESCのガイドラインでも待機的PCIのDAPTはDESでも6か月までに短縮された12)。しかし、2014年11月に発表されたDAPT試験の結果は、これまでの結果を否定するものとなった。DAPT試験は、DES植え込み後12か月経過した症例をランダマイズし、DAPTを30か月まで継続する群とアスピリン単剤とする群とに分けて検討した、FDA主導の産官学共同の臨床試験である。その結果、DAPTの継続によってステント血栓症、心筋梗塞の発症率は有意に抑制されることが示された。しかし重篤な出血はDAPT継続で有意に多く、死亡率もDAPT継続で高い傾向が示された。特にステント血栓症が少ないといわれるeverolimus-eluting stentが半数近くを占めており、現代のDES植え込み患者の実態で行われた試験のため、DAPTの継続が一定の意味をもつことが初めて示されたといえる。残された疑問は、DAPT終了後に残す薬剤として選択されているのが常にアスピリンであり、それがP2Y12受容体拮抗薬であったらどうかということである。この点について検討する臨床試験がGlobal Leadersで、1か月のDAPT後にP2Y12受容体拮抗薬(チカグレロル)を単剤で残す治療法と、12か月DAPT後にアスピリン単剤を残す従来療法とを比較する無作為化試験で、出血合併症と関連しやすいにもかかわらず、作用がP2Y12受容体拮抗薬よりも弱いというアスピリンの問題点について、解決策を示してくれる可能性がある。2. 急性冠症候群等アテローム血栓症2次予防としての抗血小板療法ステント血栓症予防で始まったDAPTであるが、ステント使用にかかわらず、抗血小板薬の内服治療でACS患者の心血管イベント抑制が得られることが多くの臨床試験で示され、DAPTを12か月間行うことがACS治療の標準となっている14)。不安定プラークを発症の基盤とするアテローム血栓症は同一患者に複数存在することが多く、同時期に心血管イベントを起こすことも多い。そのアテローム血栓症が症候性のACSや脳卒中として発症することを予防するために、強力な抗血小板療法が行われる。PCI施行患者の冠動脈3枝すべてをイメージングで解析し、その後3年間フォローしたPROSPECT試験では、PCI施行病変以外の病変に伴う心血管イベントは、治療病変と同等の頻度で起こることが示されている15)。さらに、そのイベントを起こす病変はもともと有意な狭窄病変であったものと、狭窄が存在しなかったところから急速に進展して発症したものがほぼ同頻度であることも示されている。したがって、一度アテローム血栓症によるイベントを発症した患者は、プラークが安定化するまで2次予防を厳重に行わなければならないわけである。末梢動脈疾患など、多臓器に病変がおよぶpolyvascular diseaseはアテローム血栓症発症のハイリスクであることが示されており、こういったリスクの高い疾患では、心血管イベントによる死亡率が末梢動脈疾患の存在しない患者と比較して1.76倍、心筋梗塞発症率が2.08倍という報告もあり16)、2次予防のための抗血小板薬としてアスピリン単剤では効果不十分な可能性があることがメタ解析によって指摘されている17)。そして、アスピリンよりもチエノピリジン系を中心としたアスピリン以外の抗血小板薬のほうが心血管イベントの抑制に有効であるというメタ解析も公表されている18)。20年前の臨床試験ではあるが、アスピリンとクロピドグレルを比較する二重盲検無作為化比較試験であるCAPRIE試験のサブ解析でも、末梢動脈疾患で組み入れられた患者では、アスピリンに比べクロピドグレルは心筋梗塞発症率を37%低減させたと発表されている19)。したがって末梢動脈疾患やpolyvascular diseaseなどのハイリスク患者については、アスピリンよりP2Y12受容体拮抗薬などのより強力な抗血小板薬の投与が推奨されてきている。DAPTとアスピリン単剤のどちらがよいかについては、CHARISMA試験が公表されている。2次予防患者については心筋梗塞発症などのリスク低下が示されているが、重篤でない出血合併症の増加が指摘されている20)。ここでもアスピリンが本当に必要なのかという点については、すべてのガイドラインでアスピリン投与が標準となっており、当初からのアスピリンoffについては今まで検討されたことがない。おわりに今まで述べてきたように、ゴールデンスタンダードとして常に投与が基本とされてきたアスピリンの有効性、安全性についてのエビデンスレベルは、近年急速に低下してきており、効果が確実で早いP2Y12受容体拮抗薬の普及もあり、治療の当初からP2Y12受容体拮抗薬単剤投与という選択肢を考慮していく必要が出てきた。今後のエビデンスの集積が望まれるが、アスピリンは安価であり、費用対効果も検討していく必要がある。文献1)Randomised trial of intravenous streptokinase, oral aspirin, both, or neither among 17,187 cases of suspected acute myocardial infarction: ISIS-2. 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肺動脈性肺高血圧症へのselexipag、第III相で有効性確認/NEJM

 肺動脈性肺高血圧症(PAH)の患者へのselexipag(国内承認申請中)投与は、エンドセリン受容体拮抗薬などによる治療の有無にかかわらず、死亡または合併症の複合エンドポイントの発生リスクを有意に低下したことが示された。なお死亡単独でみると有意差は認められなかった。フランス・ビセートル病院のOlivier Sitbon氏らによる第III相の無作為化プラセボ対照二重盲検試験の結果、報告した。selexipagは、経口IPプロスタサイクリン受容体選択的作動薬で、第II相試験でPAHに対する有用性が示されていた。NEJM誌2015年12月24日号掲載の報告。全死亡または合併症の複合エンドポイントをプラセボと比較 研究グループは、PAH患者1,156例を無作為に2群に分け、一方にはselexipagを個別化用量で(最大1,600μg、1日2回)、もう一方にはプラセボをそれぞれ投与した。被験者は、PAH治療を受けていないか、エンドセリン受容体拮抗薬、またはホスホジエステラーゼ5阻害薬のいずれかまたは両方を、安定用量で服用している患者だった。 主要評価項目は、治療期間終了までの全死亡またはPAH関連合併症の複合エンドポイントとした。エンドポイント発生リスク、selexipag群で4割減 その結果、同エンドポイントの発生は全体で397例、発生率はプラセボ群が41.6%に対し、selexipag群は27.0%と有意に低率だった(ハザード比:0.60、99%信頼区間[CI]:0.46~0.78、p<0.001)。エンドポイントの内訳をみると、病勢進行と入院で81.9%を占めていた。 ベースラインで未治療の群と、エンドセリン受容体拮抗薬/ホスホジエステラーゼ5阻害薬で治療を行っていた群で比較したサブグループ解析において、主要評価項目の発生率は同等だった。 なお試験終了までの全死因死亡の発生は、プラセボ群が105例、selexipag群が100例と、同程度だった。 有害事象による治療中断の発生は、プラセボ群7.1%、selexipag群14.3%だった。selexipag群の有害事象としては、頭痛、下痢、吐き気、顎関節痛などでいずれも既知のものだった。

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中皮腫の初回治療、ベバシズマブ上乗せでOS延長/Lancet

 悪性胸膜中皮腫の初回治療について、標準療法であるシスプラチン+ペメトレキセドの併用療法へのベバシズマブの上乗せは、全生存期間(OS)を有意に改善することが、フランス・カーン大学のGerard Zalcman氏らによる第III相の非盲検無作為化試験の結果、示された。毒性効果として循環器系の有害事象が増えるものの、著者は、「予想の範囲内のものであり、ベバシズマブの上乗せは適切な治療と見なすべきである」とまとめている。Lancet誌オンライン版2015年12月21日号掲載の報告。標準初回治療への上乗せ効果を無作為化試験で検討 悪性胸膜中皮腫は進行が早く予後は不良で、職業性のアスベスト曝露との関連が知られている。初回治療は、シスプラチン+ペメトレキセドの併用療法とされているが、その適用はシスプラチン単独との比較でOS中央値12.1(ビタミンB12、B9服用群では13.3) vs.9.3ヵ月、無増悪生存(PFS)中央値5.7 vs.3.9ヵ月のデータに基づく。また、進行性悪性中皮腫へのペメトレキセド+カルボプラチン併用療法の第II相の試験で示された結果は、OS中央値12.7ヵ月、PFS中央値6.5ヵ月であった。 こうした中、先行研究で、中皮腫細胞の病態生理において血管内皮増殖因子(VEGF)シグナルが重大な役割を果たすことが示唆されたことから、研究グループは、VEGFをターゲットとする抗血管新生治療薬が効果を示すのではないかと本検討を行った。 試験は、フランスの73病院から被験者を集めて行われた。18~75歳、切除不能の悪性胸膜中皮腫で化学療法未治療、全身状態はEastern Cooperative Oncology Group(ECOG)スコアで0~2、重大な心血管疾患の併存はなく、CTで評価が可能な病変(胸水)または測定可能な病変(胸膜肥厚)が少なくともいずれか1つあり、余命は12週超の患者を対象とした。除外基準は、中枢神経系への転移あり、抗血小板薬(アスピリン325mg/日以上、クロピドグレル、チクロピジン、ジピリダモール)を使用、ビタミンK拮抗薬を有効量使用、低分子量ヘパリンを有効量使用、非ステロイド性抗炎症薬の投与を受けている、であった。 被験者を、ペメトレキセド(500mg/m2)+シスプラチン(75mg/m2)+ベバシズマブ(15mg/kg)の静注投与(PCB)群、またはベバシズマブの代わりにプラセボを投与する(PC)群に1対1の割合で無作為に割り付け、3週間に1回を最大6サイクル、病勢進行または毒性効果が認められるまで行った。なお、無作為化には最小化法を用い、患者を組織学的(上皮型 vs.肉腫型、または混在型)、全身状態(ECOGスコア0~1 vs.2)、試験病院、喫煙状態(非喫煙 vs.喫煙)で層別化した。 主要アウトカムはOS。intention-to-treat解析にて評価した。OSが有意に延長、18.8ヵ月 vs.16.1ヵ月 2008年2月13日~14年1月5日に、計448例の患者を無作為化した(PCB群223例[50%]、PC群225例[50%])。被験者は、男性75%、年齢中央値65.7歳、上皮型81%、ECOGスコア0~1が97%、喫煙者57%などであった。 6サイクルを完遂したのは、PCB群74.9%、PC群76.0%。フォローアップ中央値は39.4ヵ月で両群に差はなかった。 主要アウトカムのOS中央値は、PC群(16.1ヵ月、95%信頼区間[CI]:14.0~17.9)と比べてPCB群(18.8ヵ月、15.9~22.6)で有意に延長した(ハザード比[HR]:0.77、95%CI:0.62~0.95、p=0.0167)。 なお、PFSもPCB群で有意な改善が認められた(9.2ヵ月 vs.7.3ヵ月、HR:0.61、95%CI:0.50~0.71、p<0.0001)。 Grade3/4の有害事象の報告は、全体ではPCB群158/222例(71%)、PC群139/224例(62%)であった。PC群と比べてPCB群では、Grade3以上の高血圧症(51/222例[23%] vs.0例)、血栓イベント(13/222例[6%] vs. 2/224例[1%])の頻度が高かった。

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治療前血圧によらず、降圧で心血管リスクが減少/Lancet

 英国・オックスフォード大学のDena Ettehad氏らは、システマティックレビューとメタ解析の結果、ベースラインの血圧値や併存疾患を問わず、降圧は心血管リスクを有意に減少することを明らかにした。結果を踏まえて著者は、「解析の結果は、130mmHg未満に対する降圧を、そして心血管系疾患、冠動脈疾患、脳卒中、糖尿病、心不全、慢性腎臓病を有する人の降圧治療の提供を強く裏付けるものであった」と報告している。心血管疾患予防に対する降圧のベネフィットは確立されているが、その効果が、ベースラインの血圧値や、併存疾患の有無、降圧薬の種類によって異なるかは明白になっていない。Lancet誌オンライン版2015年12月23日号掲載の報告。降圧ベネフィットをシステマティックレビューとメタ解析で評価 レビューはMEDLINEを介して1966年1月1日~2015年7月7日に発表された大規模降圧試験を検索して行われた(最終検索は2015年11月9日)。すべての降圧に関する無作為化試験を適格とし、各試験群のフォローアップが最低1,000人年であったものを包含した。ベースラインで併存疾患ありのものも除外せず、また高血圧症以外を指標とする降圧薬の試験も適格とした。 要約データレベルで、試験特性、重大心血管疾患イベント、冠動脈疾患、脳卒中、心不全、腎不全、全死因死亡のアウトカムを抽出。逆分散加重固定効果メタ解析にて求めたプール推定値で評価を行った。収縮期血圧10mmHg低下で各イベントの相対リスクは0.72~0.83に 検索により123試験61万3,815例のデータを特定。メタ回帰分析の結果、降圧が大きいほど相対的にリスクは低下することが示された。収縮期血圧10mmHg低下は、重大心血管疾患イベントリスク(相対リスク[RR]:0.80、95%信頼区間[CI]:0.77~0.83)、冠動脈心疾患(0.83、0.78~0.88)、脳卒中(0.73、0.68~0.77)、心不全(0.72、0.67~0.78)のリスクを有意に低下した。試験集団の全死因死亡率は有意に13%減少した(0.87、0.84~0.91)。しかしながら、腎不全に対する効果は有意ではなかった(0.95、0.84~1.07)。 同様のリスク減少(収縮期血圧10mmHg低下による)は、ベースラインの収縮期血圧の平均値が高値であった試験、および低値であった試験でもみられた(すべての傾向のp>0.05)。 ベースラインでの疾患歴の違い(糖尿病とCKDを除く)による重大心血管疾患の比例リスクの低下については、エビデンスは得られなかったものの、わずかだが有意なリスクの低下は認められた。 降圧薬別にみると、β遮断薬が重大心血管イベント、脳卒中、腎不全の予防について他剤と比べて劣性であった。Ca拮抗薬は、他剤と比べて脳卒中の予防について優れていたが、心不全予防については劣性であった。心不全予防については利尿薬が他剤と比べて優れていた。 なお、バイアスリスクについては113試験が低いと判定され、不明は10試験であった。アウトカムのばらつきも低~中等度であった。I2検定による結果は、重大心血管疾患イベント41%、冠動脈疾患25%、脳卒中26%、心不全37%、腎不全28%、全死因死亡35%であった。 また、層別解析の結果、ベースラインで130mmHg未満の低値であった人を包含した試験で比例効果が減弱したとの強いエビデンスはみられず、重大心血管イベントは、ベースラインでさまざまな併存疾患のハイリスク患者で明白に低下したことが示され、降圧効果についてはSPRINT試験と一致した所見が得られたとしている。

420.

ドパミンD2/3受容体拮抗薬、統合失調症患者の脳白質を改善

 精神病症状は、統合失調症の中核症状だが、デンマーク・コペンハーゲン大学病院のBjorn H. Ebdrup氏らは、陽性症状は前頭皮質に投影している白質路の不規則性に起因するという最近の仮説を検証する目的で、拡散テンソル画像を用いた解析を行った。その結果、未治療の統合失調症患者では、白質の微細な障害が認められることを明らかにした。とくに陽性症状は前頭の神経線維束の整合性と関連しており、選択的ドパミンD2/3受容体拮抗薬が白質を修復する可能性が示唆されたという。結果を踏まえて、著者らは「ドパミンD2/3受容体拮抗薬の再ミエリン化作用をさらに検討する必要がある」とまとめている。Journal of Psychiatry Neuroscience誌オンライン版2015年11月24日号の掲載報告。 検討は2008年12月~11年7月に、未治療の初回エピソード統合失調症患者(患者群)38例と、年齢、性別などをマッチさせた健常者(対照群)38例を対象に行われた。被験者はベースラインで、3-T MRI拡散テンソル画像(DTI)の撮像と臨床評価を受けた。研究グループは、全脳的DTIデータを単位画素(ボクセル)ごとに解析するTBSS(tract-based spatial statistics)法と、解剖的関心領域について解析するROI(region of interest)法を用いて、異方性比率(fractional anisotropy:FA)値の群間差を評価した。その後、患者群はアミスルピドによる抗精神病薬単独療法を行い、投与6週後に再度検査を行った。 主な結果は以下のとおり。・試験を完了し解析対象となったのは、各群28例であった。・ベースラインでのTBSS解析において、患者群では右前視床放線、右帯状束、右下縦束および右皮質脊髄路(CT)のFA値が低下しており、右前視床放線のFA値が陽性症状と相関していた(z=2.64、p=0.008)。・ROI解析では、前頭の神経線維束、とくに右弓状束(z=2.83、p=0.005)および右上縦束(z=-3.31、p=0.001)のFA値と陽性症状の有意な関連が認められた。・投与6週間後において、陽性症状と前頭の神経線維束とのすべての相関は消失しており、前視床放線のFA値は対照群と比較して患者群で増加した(z=-4.92、p<0.001)。・アミスルピリドの投与量が、右皮質脊髄路におけるFA値の変化と正の相関を示した(t=2.52、p=0.019)。・なお、喫煙および物質乱用の既往歴は潜在的な交絡因子であった。また、白質に対するアミスルピリドの長期的な作用は評価されなかった。

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