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第二アンジオテンシン変換酵素(ACE2)は、ヒトの運命をつかさどる『X因子』か?(解説:石上友章氏)-1309

 米国・ニューヨークのマクマスター大学のSukrit Narulaらは、PURE(Prospective Urban Rural Epidemiology)試験のサブ解析から、血漿ACE2濃度が心血管疾患の新規バイオマーカーになることを報告した1)。周知のようにACE2は、古典的なレニン・アンジオテンシン系の降圧系のcounterpartとされるkey enzymeである。新型コロナウイルスであるSARS-CoV-2が、標的である肺胞上皮細胞に感染する際に、細胞表面にあるACE2を受容体として、ウイルス表面のスパイクタンパクと結合することが知られている。降って湧いたようなCOVID-19のパンデミックにより、にわかに注目を浴びているACE2であるが、本研究によりますます注目を浴びることになるのではないか。 Narulaらの解析によると、血漿ACE2濃度の上昇は、全死亡、心血管死亡、非心血管死亡と関係している。さらに、心不全、心筋梗塞、脳卒中、糖尿病の罹患率の上昇にも関係しており、年齢、性別、人種といったtraditional cardiac risk factorとは独立している。ここまで幅広い疾病に独立して関与しているとすると、あたかも人の運命を決定する「X因子」そのものであるかのようで、にわかには信じることができない。COVID-19でも、人種による致命率の差を説明する「X因子」の存在がささやかれていることから、一般人にも話題性が高いだろう。COVID-19とRA系阻害薬、高血圧との関係が取り沙汰されていることで、本研究でも降圧薬使用とACE2濃度との関係について検討されている(Supplementary Figure 1)。幸か不幸か、ACE阻害薬、ARB、β遮断薬、カルシウム拮抗薬、利尿薬のいずれの使用についても、有意差はつかなかった。血漿ACE2濃度は、血漿ACE2活性と同一であるとされるが、肺胞上皮細胞での受容体量との関係は不明である1)。したがって、単純にSARS-CoV-2の感染成立との関係を論ずることはできない。 COVID-19の「X因子」については、本年Gene誌に本邦のYamamotoらが、ACE遺伝子のI(挿入)/D(欠失)多型であるとする論文を発表している2)。欧米人と日本人で、ACE遺伝子多型に人種差があることで、COVID-19の致命率の差を説明できるのではないかと報告している。欧州の集団はアジアの集団よりもACE II遺伝子型頻度が低く、一方、高い有病率とCOVID-19による死亡率を有していた。何を隠そう、ACE遺伝子多型に人種差があることを、初めて報告したのは本稿の筆者である3)。自分の25年前の研究とこのように再会することになるとは、正直不思議な思いである。

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第40回 降圧薬は就寝時服用でより心血管イベントリスクを低減の報告【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 痒みなどのアレルギー症状や喘息発作、片頭痛発作など、特定の時間に症状が出やすい疾患では、日内リズムや薬物の時間薬理学的特徴に応じて薬剤の服用タイミングが設定されることがあります。血圧にも日内変動がありますが、こうした時間治療(chronotherapy)は高血圧に対しても有用なのでしょうか。今回は、降圧薬の服用タイミングと心血管イベントについて検討したHygia Chronotherapy Trial1)を紹介します。対象は、スペイン在住の18歳以上の白人で、普段は日中に活動して夜間は就寝し、1剤以上の降圧薬を服用している高血圧患者1万9,084例(男性1万614例、女性約8,470例、平均年齢60.5歳)です。夜勤のある人やほかの人種では結果が変わるかもしれない点には注意が必要です。降圧薬を就寝時に服用する群9,552例、起床時に服用する群9,532例に分け、中央値6.3年追跡しています。ランダム化の方法は厳密には本文からは読み取れませんが、結果的に振り分けられたベースラインでの群間の特徴は似通っているため、おおむね平等な比較とみてよいかと思います。試験期間を通して定期的な血圧測定を行い、さらに年に1回は2日間にわたり携帯型の自動血圧計を装着して、自由行動下の24時間血圧も測定しています。服用薬の内訳は、アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)、ACE阻害薬、Ca拮抗薬、β遮断薬、利尿薬で、評価者のみを盲検化するPROBE(Prospective Randomised Open Blinded-Endpoint)法を用いて評価しています。アウトカムは、主要なCVDイベント(CVDによる死亡、心筋梗塞、冠動脈再建術、心不全、脳卒中)の発生でした。医師と患者のいずれも治療内容を知っているためバイアスは避けられませんが、実臨床に近いセッティングともいえるでしょう。判断に揺らぎが出やすいアウトカムだと評価者の判断が影響を受けかねませんが、心筋梗塞や死亡など明確な場合は問題になりづらいと思われます。結果としては、追跡調査期間中に、1,752例で主要なCVDイベントがあり、就寝時服薬群の起床時服薬群と比較してのハザード比は次のとおりでした。 心血管イベントの複合エンドポイント 0.55(95%信頼区間[CI]: 0.50-0.61) 心血管死亡 0.44(95%CI:0.34~0.56) 心筋梗塞 0.66(95%CI:0.52~0.84) 冠動脈再建術 0.60(95%CI:0.47~0.75) 心不全 0.58(95%CI:0.49~0.70) 脳卒中 0.51(95%CI:0.41~0.63)降圧薬を起床時に服用した群と比べて、就寝時に服用した群では、心血管死亡リスクは56%、心筋梗塞リスクは34%、血行再建術の施行リスクは40%、心不全リスクは42%、脳卒中リスクは49%、これらのイベントを併せた複合アウトカムの発症リスクは45%と、それぞれ有意に低いという結果でした。これらの結果は、性別や年齢、糖尿病や腎臓病といったリスク因子の有無にかかわらず一貫しています。就寝時服薬群は24時間血圧で夜間の血圧が低下本文では著者らは相対ハザード比のみを報告し、絶対リスク減少率(ARR)や必要治療数(NNT)を報告していませんでしたが、批判を受けたためコメント欄に補足する形で各アウトカムのARRとNNTを追記しています。それによると、全CVDイベントは起床時服用群で1,566、就寝時服用群で888、ARRは 7.08(95%CI:6.13~8.02)、NNTは14.13(95%CI:12.46~16.30)でした。24時間血圧の測定値からも、就寝時服用群では睡眠中の血圧値が有意に低いこともわかっており、心筋梗塞や脳卒中のリスク因子である夜間高血圧の改善が結果に寄与したのではないかと仮説が述べられています。現時点では高血圧症診療ガイドラインに服用タイミングについて明確な言及はありませんが、就寝時の処方が増えてもおかしくない結果ではないでしょうか。もちろん、夜間の血圧が昼間に比べ20%以上低くなるようなextreme-dipper型などでは注意が必要です。利尿薬を夜に服用することを避けたいという患者さんもいれば、一部のCa拮抗薬は朝食後服用となっているものもあります。そうした個別の事情を踏まえつつ、用法提案の1つの選択肢として覚えておいて損はないかと思います。1)Hermida RC, et al. Eur Heart J. 2019; ehz754.

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女性化乳房患者の原因を探って長期フォローを実施【うまくいく!処方提案プラクティス】第27回

 今回は、女性化乳房の原因薬を作用機序から判断して中止提案を行った事例を紹介します。女性化乳房は症状消失までに数ヵ月かかることもあるため、患者さんに説明しながら長期フォローを行う必要があります。患者情報80歳、男性(施設入居)基礎疾患機能性ディスペプシア、身体表現性障害、高血圧、レストレスレッグス症候群既往歴2年前に加齢黄斑変性、白内障を手術訪問診療の間隔2週間に1回服薬管理看護師が管理処方内容1.アコチアミド塩酸塩水和物錠100mg 3錠 分3 朝昼夕食前2.酸化マグネシウム錠330mg 3錠 分3 朝昼夕食後3.プラミペキソール塩酸塩OD錠0.125mg 1錠 分1 就寝前4.クロナゼパム錠0.5mg 1錠 分1 就寝前5.センナ・センナ実顆粒 1g 分1 就寝前6.ペルフェナジンマレイン酸塩錠2mg 1錠 分1 就寝前本症例のポイントこの患者さんは、施設に入居する前に、抑うつの診断からミルタザピン、エチゾラム、ガランタミン、フェキソフェナジン、エソメプラゾールなど多数の薬剤を服用していました。入居後は体調が安定したため、医師と相談しながら薬剤数を段階的に減らして現在の服用薬に落ち着けることができました。体調が安定して数ヵ月が経過したところで、訪問診療中に本人より「乳房が張って痛みがある。痛みを減らす軟膏を処方してほしい」と相談がありました。医師とともに患者さんの胸の症状を確認したところ、女性化乳房であることが発覚しました。そこで、対応を考えるために下記のように思考を整理しました。女性化乳房の原因と薬剤間の相互作用をチェック女性化乳房を引き起こす薬剤としては抗アルドステロン薬のスピロノラクトンが有名ですが、ドパミン受容体拮抗薬でも生じることがあります。ペルフェナジンなどのフェノチアジン系抗精神病薬は、ドパミンD2受容体に拮抗し、ドパミンのプロラクチン分泌阻害活性を消失させて高プロラクチン血症となり、女性化乳房・乳房痛へ至る可能性があります。今回の女性化乳房でも長期間服用しているペルフェナジンによる抗ドパミン作用の影響が少なからずあるのではないかと疑いました。ペルフェナジンの処方理由を探ったところ、機能性ディスペプシアや身体表現性障害による周辺症状に対してだと思われましたが明確な理由は不明で、現状は状態が安定して低用量の服用であることから中止が可能と考えました。また、レストレスレッグス症候群のためプラミペキソールも服用中でしたが、ペルフェナジンもプラミペキソールもドパミン作動性で拮抗薬となっていることからも中止するのが妥当と考えました。処方提案と経過今回の女性化乳房の原因としてペルフェナジンによる可能性を医師に伝え、現在服用中のプラミペキソールへの拮抗作用もあることからペルフェナジンの中止を提案しました。新規に薬を追加することよりも、薬剤数を減らすことで改善できるのであれば賛同できると医師に承認を得ることができました。ペルフェナジンを服用中止して2週間経過したところ、悪心・嘔気などの胃部不快感や不眠などの影響はありませんでした。肝心の乳房痛は改善がありませんでしたが、女性化乳房は原因薬の中止から症状消失までに約2ヵ月程度かかるという報告もあることから、経過を根気強くフォローすることにしました。その2週間後には、前ほど気にならなくなったと患者さんより聴取しました。さらにもう2週間経過したところで症状がずいぶん軽くなったと自覚できるまで改善し、最終的には消失しました。なお、レストレスレッグス症候群の病状に改善も悪化もなく安定した状態が続いています。ピーゼットシー錠2mg/4mg/8mg インタビューフォーム抗精神病薬による高プロラクチン血症に関するレビュー

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COVID-19重症化への分かれ道、カギを握るのは「血管」

 COVID-19を巡っては、さまざまなエビデンスが日々蓄積されつつある。国内外における論文発表も膨大な数に上るが、時の検証を待つ猶予はなく、「現段階では」と前置きしつつ、その時点における最善策をトライアンドエラーで推し進めていくしかない。日本高血圧学会が8月29日に開催したwebシンポジウム「高血圧×COVID-19白熱みらい討論」では、高血圧治療に取り組むパネリストらが最新知見を踏まえた“new normal”の治療の在り方について活発な議論を交わした。高血圧はCOVID-19重症化リスク因子か パネリストの田中 正巳氏(慶應義塾大学医学部腎臓内分泌代謝内科)は、高血圧とCOVID-19 重篤化の関係について、米・中・伊から報告された計9本の研究論文のレビュー結果を紹介した。論文は、いずれも同国におけるCOVID-19患者と年齢を一致させた一般人口の高血圧有病率を比較したもの。それによると、重症例においては軽症例と比べて高血圧の有病率が高く、死亡例でも生存例と比べて有病率が高いとの報告が多かったという。ただし、検討した論文9本(すべて観察研究)のうち7本は単変量解析の結果であり、交絡因子で調整した多変量解析でもリスクと示されたのは2本に留まり、ほか2本では高血圧による重症化リスクは多変量解析で否定されている。田中氏は、「今回のレビューについて見るかぎりでは、高血圧がCOVID-19患者の重症化リスクであることを示す明確な疫学的エビデンスはないと結論される」と述べた。 一方で、米国疾病予防管理センター(CDC)が6月25日、COVID-19感染時の重症化リスクに関するガイドラインを更新し、高血圧が重症化リスクの一因であることが明示された。これについて、パネリストの浅山 敬氏(帝京大学医学部衛生学公衆衛生学講座)は、「ガイドラインを詳細に見ると、“mixed evidence(異なる結論を示す論文が混在)”とある。つまり、改訂の根拠となった文献は、いずれも高血圧の有病率を算出したり、その粗結果を統合(メタアナリシス)したりしているが、多変量解析で明らかに有意との報告はない」と説明。その上で、「現時点では高血圧そのものが重症化リスクを高めるというエビデンスは乏しい。ただし、高血圧患者には高齢者が多く、明らかなリスク因子を有する者も多い。そうした点で、高血圧患者には十分な注意が必要」と述べた。降圧薬は感染リスクを高めるのか 高血圧治療を行う上で、降圧薬(ACE阻害薬、ARB)の使用とCOVID-19との関係が注目されている。山本 浩一氏(大阪大学医学部老年・腎臓内科学)によれば、SARS-CoV-2は気道や腸管等のACE2発現細胞を介して生体内に侵入することが明らかになっている。山本氏は、「これまでの研究では、COVID-19の病態モデルにおいてACE2活性が低下し、RA系阻害薬がそれを回復させることが報告されている。ACE2の多面的作用に注目すべき」と述べた。これに関連し、パネリストの岸 拓弥氏(国際医療福祉大学大学院医学研究科)が国外の研究結果を紹介。それによると、イタリアの臨床研究1)ではRA系阻害薬を含むその他の降圧薬(Ca拮抗薬、β遮断薬、利尿薬全般)について、性別や年齢で調整しても大きな影響は見られないという。一方、ニューヨークからの報告2)でも同様に感染・重症化リスクを増悪させていない。岸氏は、「これらのエビデンスを踏まえると、現状の後ろ向き研究ではあるが、RA系阻害薬や降圧薬の使用は問題ない」との認識を示した。COVID-19重症化の陰に「血栓」の存在 パネリストの茂木 正樹氏(愛媛大学大学院医学系研究科薬理学)は、COVID-19が心血管系に及ぼす影響について解説した。COVID-19の主な合併症として挙げられるのは、静脈血栓症、急性虚血性障害、脳梗塞、心筋障害、川崎病様症候群、サイトカイン放出症候群などである。SARS-CoV-2はサイトカインストームにより炎症細胞の過活性化を起こし、正常な細胞への攻撃、さらには間接的に血管内皮を傷害する。ウイルスが直接内皮細胞に侵入し、内皮の炎症(線溶系低下、トロンビン産生増加)、アポトーシスにより血栓が誘導されると考えられる。また、SARS-CoV-2は血小板活性を増強することも報告されている。こうした要因が重ることで血栓が誘導され、虚血性臓器障害を起こすと考えられる。 さらに、SARS-CoV-2は直接心筋へ感染し、心筋炎を誘導する可能性や、免疫反応のひとつで、初期感染の封じ込めに役立つ血栓形成(immnothoronbosis)の制御不全による血管閉塞を生じさせる可能性があるという。とくに高血圧患者においては、血管内細胞のウイルスによる障害のほかに、ベースとして内皮細胞の障害がある場合があり、さらに血栓が誘導されやすいと考えられるという。茂木氏は、「もともと高血圧があり、血管年齢が高い場合には、ただでさえ血栓が起こりやすい。そこにウイルス感染があればリスクは高まる。もちろん、高血圧だけでなく動脈硬化がどれだけ進行しているかを調べることが肝要」と述べた。 パネリストの星出 聡氏(自治医科大学循環器内科)は、COVID-19によって引き起こされる心血管疾患の間接的要因に言及。自粛による活動度の低下、受診率の低下、治療の延期などにより、持病の悪化、院外死の増加、治療の遅れにつながっていると指摘。とくに高齢者が多い地域では、感染防止に対する意識が強く、自主的に外出を控えるようになっていた。その結果、血圧のコントロールが悪くなり、LVEFの保たれた心不全(HFpEF、LVEF 50%以上と定義)が増えたほか、血圧の薬を1日でも長く延ばそうと服用頻度を1日おきに減らしたことで血圧が上がり、脳卒中になったケースも少なくなかったという。星出氏は、「今後の心血管疾患治療を考えるうえで、日本においてはCOVID-19がもたらす間接的要因にどう対処するかが非常に大きな問題」と指摘した。

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慢性心不全にARNIのエンレスト発売/ノバルティス ファーマ

 ノバルティス ファーマは8月26日、アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)のエンレスト(一般名:サクビトリルバルサルタンナトリウム水和物)を「慢性心不全 ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る」を効能・効果として発売した。医療従事者への情報提供はノバルティス ファーマと大塚製薬が共同で行う。ARNIのエンレストには効能又は効果に関連する注意 ARNIのエンレストは、ネプリライシン阻害作用をもつサクビトリルとアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)であるバルサルタンを1:1のモル比で含有する単一の結晶複合体。心不全の病態を悪化させる神経体液性因子の1つであるレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)の過剰な活性化を抑制するとともに、RAASと代償的に作用する内因性のナトリウム利尿ペプチド系を増強し、神経体液性因子のバランス破綻を是正する。 ARNIのエンレストは欧米を含む世界100ヵ国以上で承認されており、米国では収縮不全を伴う心不全(NYHAクラスII~IV)、欧州では成人の左室駆出率が低下した症候性慢性心不全を適応として承認されている。日本では「慢性心不全」を適応として承認され、効能又は効果に関連する注意として「1)本剤は、アンジオテンシン変換酵素阻害薬又はアンジオテンシンII受容体拮抗薬から切り替えて投与すること。2)「臨床成績」の項の内容を熟知し、臨床試験に組み入れられた患者の背景(前治療、左室駆出率、収縮期血圧等)を十分に理解した上で、適応患者を選択すること。」と記載されている。製品概要■製品名:エンレスト錠50mg、100mg、200mg■一般名:サクビトリルバルサルタンナトリウム水和物■効能又は効果:慢性心不全ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。■用法及び用量:通常、 成人にはサクビトリルバルサルタンとして1回50mgを開始用量として1日2回経口投与する。忍容性が認められる場合は、2~4週間の間隔で段階的に1回200mgまで増量する。1回投与量は50mg、100mg又は200mgとし、いずれの投与量においても1日2回経口投与する。なお、忍容性に応じて適宜減量する。■薬価:エンレスト錠50mg:65.70円、同100mg:115.20円、同200mg:201.90円

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双極性障害のうつ症状の適応も有する非定型抗精神病薬「ラツーダ錠20mg/40mg/60mg/80mg」【下平博士のDIノート】第56回

双極性障害のうつ症状の適応も有する非定型抗精神病薬「ラツーダ錠20mg/40mg/60mg/80mg」今回は、抗精神病薬/双極性障害のうつ症状治療薬「ルラシドン塩酸塩(商品名:ラツーダ錠20mg/40mg/60mg/80mg、製造販売元:大日本住友製薬)」を紹介します。本剤は、長期間の治療が必要な統合失調症や双極性障害のうつ症状の患者に対し、忍容性を保ちながら適切な治療効果を維持することが期待されています。<効能・効果>本剤は、統合失調症および双極性障害におけるうつ症状の改善の適応で、2020年3月25日に承認され、2020年6月11日より発売されています。<用法・用量>《統合失調症》通常、成人にはルラシドン塩酸塩として40mgを1日1回、食後に経口投与します。なお、年齢、症状により適宜増減しますが、1日量は80mgを超えることはできません。《双極性障害におけるうつ症状の改善》通常、成人にはルラシドン塩酸塩として20mgから開始し、1日1回、食後に経口投与します。年齢、症状により適宜増減しますが、増量幅は20mgとして、1日量60mgを超えることはできません。<安全性>国内で実施された臨床試験において、安全性評価対象876例中338例(38.6%)に臨床検査値異常を含む副作用が認められました。主な副作用は、アカシジア75例(8.6%)、悪心40例(4.6%)、統合失調症29例(3.3%)、傾眠28例(3.2%)、頭痛、不眠症各25例(2.9%)などでした(承認時)。なお、重大な副作用として、遅発性ジスキネジア、高血糖、白血球減少(いずれも1%未満)、悪性症候群、痙攣、糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病性昏睡、肺塞栓症、深部静脈血栓症、横紋筋融解症、無顆粒球症(いずれも頻度不明)が報告されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、脳内のドパミン、セロトニンなどのバランスを整えることで、幻覚、幻聴、妄想、不安、緊張、意欲低下などの症状を和らげ、また、双極性障害におけるうつ症状を改善します。2.薬の飲み始めや増量した時期に低血圧が起こることがあります。眠気が出たり、注意力・集中力・反射運動能力が低下したりすることもあるので、自動車の運転など危険を伴う機械の操作はしないでください。3.薬を飲み始めてから、じっとしていられない、興奮が強くなる、ちょっとしたことで怒りっぽくなるなど、普段と異なる様子がみられた場合は、医師または薬剤師に相談してください。4.血糖値が上がることがあるので、本剤を服用後に激しい喉の渇きを感じたり、尿の回数や量が増えたりしたら連絡してください。5.動きが遅い、手足の震えやこわばり、呼吸回数の減少、低血圧などが現れたらご相談ください。6.アルコールは薬の効果を強めることがあるので、本剤を服用中は飲酒を控えてください。また、グレープフルーツを含む飲食物によっても、薬の作用が強く現れることがあるので、本剤を服用中は摂取しないよう気を付けてください。<Shimo's eyes>本剤は第2世代の抗精神病薬(非定型抗精神病薬)で、SDA(セロトニン・ドパミン拮抗薬)に分類されます。既存のSDA内服薬としては、リスペリドン(商品名:リスパダール)、ペロスピロン(同:ルーラン)、ブロナンセリン(同:ロナセン)、パリペリドン(同:インヴェガ)の4剤があり、本剤が5番目となります。本剤は、ドパミンD2受容体、セロトニン5-HT2A受容体および5-HT7受容体に対してはアンタゴニスト、5-HT1A受容体に対してはパーシャルアゴニストとして作用する一方で、抗ヒスタミン作用や抗コリン作用は少ないと考えられています。そのため、本剤は既存のSDAにはない、統合失調症における幻聴や妄想といった陽性症状、意欲減退や感情鈍麻といった陰性症状の改善のほか、不安や落ち込みといったうつ症状の改善も期待できます。統合失調症患者もしくは双極I型障害うつ患者を対象とした国際共同第III相試験において、本剤の忍容性に関して大きな問題は認められませんでした。また、長期投与試験において、統合失調症患者の精神症状に対する効果および双極性障害患者のうつ症状に対する効果は、それぞれ52週にわたり維持されたことが確認されています。2020年5月現在、統合失調症治療薬として、欧米を含む47の国と地域で承認されており、また、双極I型障害のうつ症状治療薬としては米国を含む7つの国と地域で承認されています。海外の最新治療ガイドラインでは、体重増加、糖代謝異常などの代謝系副作用が少ないなどの観点から統合失調症に対して推奨され、双極性障害におけるうつ症状では第一選択薬の1つとして推奨されています。処方時の注意点として、中等度以上の腎機能・肝機能障害のある患者では、投与量の制限があるため、投与量を適宜減量し、慎重に投与することとされています。また、本剤は、1日1回食後に服用することで最高血中濃度が引き上げられ、効果が継続するため、食後投与を厳守する必要があります。なお、本剤と同様に「双極性障害におけるうつ症状」の適応を有するクエチアピンフマル酸塩徐放錠(商品名:ビプレッソ)は就寝前投与なので、服用時点を混同しないように注意しましょう。相互作用としては、CYP3A4の基剤であるため、クラリスロマイシン、アゾール系抗真菌薬などのCYP3A4を強く阻害する薬剤や、リファンピシンなどのCYP3A4を強く誘導する薬剤は禁忌です。アルコールやグレープフルーツ含有食品も併用注意になっており、摂取には注意が必要であることを伝えましょう。参考1)PMDA 添付文書 ラツーダ錠20mg/ラツーダ錠40mg/ラツーダ錠60mg/ラツーダ錠80mg

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不眠症に対するレンボレキサントの長期有効性・忍容性

 新規デュアルオレキシン受容体拮抗薬レンボレキサント(LEM)の成人不眠症患者に対する長期の有効性および安全性を評価するため、フィンランド・オウル大学のMikko Karppa氏らは第III相ランダム化臨床試験を行い、その結果を報告した。Sleep誌オンライン版2020年6月26日号の報告。 本検討では、6ヵ月のプラセボ対照試験(第1段階)および治療群のみの6ヵ月フォローアップ試験(第2段階)で構成される12ヵ月間の国際多施設ランダム化二重盲検並行群間第III相試験のうち、第1段階の結果が報告された。18歳以上の不眠症患者949例を対象とし、LEM 5mg群、LEM 10mg群、プラセボ群にランダムに割り付けた。エンドポイントである睡眠開始および睡眠継続は、毎日の電子睡眠日誌のデータを用いて分析した。治療中に発生した有害事象(TEAE)は、研究全体を通じてモニタリングを行った。 主な結果は以下のとおり。・LEM 5mg群およびLEM 10mg群は、プラセボ群と比較し、主観的な入眠時間、中途覚醒、睡眠効率のベースラインからの有意な改善が認められた。・有意な改善効果は、6ヵ月にわたり認められており、LEMの持続的な長期の有効性が示唆された。・LEM治療により、睡眠開始および睡眠継続の治療反応者の割合が有意に上昇した。・LEM治療群では、プラセボ群と比較し、6ヵ月後の睡眠の質の有意な改善が認められた。・TEAEの大部分は、軽度または中等度であった。・重度なTEAEの発生率は低く、死亡例は認められなかった。 著者らは「LEM 5mgまたは10mgによる治療は、プラセボと比較し、不眠症患者の睡眠開始および睡眠継続に大きなベネフィットをもたらし、忍容性も良好であった」としている。

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シランを知らんと知らんよ!新薬開発の潮流を薬剤名から知る!【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第26回

第26回 シランを知らんと知らんよ!新薬開発の潮流を薬剤名から知る!「肉納豆」と聞いて、すぐに「ワルファリン」を思いつく方も多いと思います。ワルファリンはビタミンKに拮抗して作用する薬剤です。ビタミンK依存性凝固因子は医師国家試験の頻出課題です。これを記憶する呪文が「肉納豆」で、「2・9・7・10」の4つの番号の凝固因子が該当します。この語呂合わせは、納豆というワルファリン使用者には薦められない食品も記憶できることが長所です。小生が医学生であった30年以上も昔から、このような語呂合わせは沢山ありました。β遮断薬は交感神経を抑制しますから、脈拍が遅くなります。「プロプラノロール」という代表的なβ遮断薬を記憶するために、「プロプラノロール」は、プロプラノローくなると覚えなさいと、薬理学の講義で聞いたことが妙に頭に残っています。確かに、脈がノロくなるので、「~ノロール」を「~ノローく」と変換するとピッタリきます。現在も「カルベジロール」や「ビソプロロール」などのβ遮断薬をしばしば処方します。どのβ遮断薬も語尾に「~ロール」とあるのはなぜでしょうか。薬剤の名前に共通な部分が多いことには皆さんお気づきでしょう。このように薬剤名の根幹となるものを「ステム(共通語幹)」といい、「stem:幹・茎」に由来します。カルシウム拮抗薬のステムは「~ジピン」です。ニフェジピンやアムロジピンなどが思い浮かびます。プロトンポンプ阻害による抗潰瘍薬では「~プラゾール」です。分子標的薬として注目される、モノクローナル抗体薬は「~マブ」で、抗悪性腫瘍剤のリツキシマブなどがあります。ステムは、世界保健機関(WHO)によって、医薬品の化学構造や標的分子および作用メカニズムなどに基づいて定義されます。今、一番の話題は「~シラン(siran)」をステムに持つ薬剤です。シランはsiRNAからの造語でsmall interfering RNAを意味します。この薬剤は遺伝情報に関係するRNAがターゲットです。ゲノム(全遺伝情報)はDNAの塩基配列として記録されています。これがメッセンジャーRNA(mRNA)に転写され、タンパク質に翻訳されます。このDNA→mRNA→タンパク質の流れを、セントラルドグマといい分子生物学の根幹とされます。この過程のどこかを妨害すれば、遺伝子が機能しなくなるはずです。標的タンパク質のmRNAに対して相補的な塩基配列をもつ一本鎖RNA(アンチセンス鎖)と、その逆鎖である一本鎖RNA(センス鎖)からなる短い二本鎖RNAで、RNA干渉を誘発します。RNA干渉とは、RNAどうしが邪魔し合って働かなくなるようにする技術で、標的タンパク質の発現を抑制し、治療効果を発揮します。病気の原因となる遺伝子の発現を封じ、疾患の発現に関わるタンパク質の合成を抑制することができれば、医療は一変する可能性があることは理解できると思います。抗体医薬品がタンパク質をターゲットにするのに対し、siRNA医薬品は、その上流のRNAをターゲットにします。アミロイドーシス治療薬のパチシラン(patisiran)、脂質異常症へのインクリシラン(inclisiran)をはじめとして、「~シラン」という薬剤は目白押しで開発が進行しています。siRNA医薬品を含む核酸医薬品は、100種類以上の薬剤が開発の俎上にあり、この流れに日本の製薬企業が乗り遅れていることは懸念材料です。皆さん、「~シラン」を知らんのは残念です。語呂合わせから始めた話が、世界の新薬開発の潮流を紹介する方向にそれてきました。パソコンに向かって真面目に原稿を打っていると、猫がすり寄ってきて邪魔をします。膨大な記憶を要する医師国家試験対策では、語呂合わせがありがたいです。語呂合わせよりも、もっと素晴らしいのは、猫さまが発するゴロゴロ音です。摩訶不思議な音で、ゴロゴロと鳴らしている猫の首元に耳を寄せると振動しているのがよくわかります。これは猫と暮らす醍醐味で、まさに究極のゴロ合わせです。この至福を「~シラン」のは残念すぎます。

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セロトニン5-HT2B拮抗作用と選択的セロトニン再取り込み阻害作用の影響

 これまでの研究では、抗うつ作用に対するセロトニン2B(5-HT2B)受容体の関与が示唆されている。アリピプラゾールは、治療抵抗性うつ病に対し選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)との併用で有効性が認められており、すべての受容体のうち5-HT2B受容体への親和性が最も高い薬剤である。しかし、治療抵抗性うつ病の補助療法において5-HT2B受容体拮抗作用の潜在的な影響はあまり知られていなかった。カナダ・オタワ大学のRami Hamati氏らは、SSRI存在下における5-HT2B受容体拮抗作用の神経ニューロンに対する影響を検討した。Neuropsychopharmacology誌オンライン版2020年5月30日号の報告。 麻酔後のSprague-Dawleyラットに5-HT2B受容体リガンドを単独またはSSRI(エスシタロプラム)との組み合わせで投与し、腹側被蓋野(VTA)のドパミンニューロン、背側縫線核(DRN)のセロトニンニューロン、内側前頭前野(mPFC)および海馬の錐体ニューロンのin vivo電気生理学的記録を行った。 主な結果は以下のとおり。・5-HT2B受容体の発火活性ではなく、SSRI誘発のドパミン減少は、選択的5-HT2B受容体拮抗薬(LY266097)の2日間併用投与により回復した。・mPFCにおいて、SSRIの14日間単独投与では錐体ニューロンの発火やバースト活性に影響を及ぼさなかったが、アリピプラゾールを単独またはSSRIとの組み合わせで14日間投与すると、錐体ニューロンの発火やバースト活性の増加が認められた。・LY266097の14日間単独投与または14日間のうち最後の3日間にSSRI追加投与では、錐体ニューロンの発火やバースト活性の増加が認められた。・これらの結果は、5-HT2B受容体が少なくとも部分的に、この増強に関与していることを示唆している。・海馬では、BW723c86による5-HT2B受容体の活性化が、SSRIによるセロトニン再取り込み阻害を減少させたが、5-HT2B受容体拮抗薬により回復した。 著者らは「5-HT2B受容体拮抗作用は、SSRIで治療中のうつ病患者に対するアリピプラゾール補助療法の治療効果に寄与すると考えられる」としている。

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進行前立腺がんへのレルゴリクス、持続的アンドロゲン除去療法で好成績/NEJM

 進行前立腺がん患者の治療において、レルゴリクス(進行前立腺がん治療薬としての適応は未承認)はリュープロレリンに比べ、テストステロンをより迅速かつ持続的に抑制し、主要有害心血管イベント(MACE)のリスクをほぼ半減させることが、米国・Carolina Urologic Research CenterのNeal D. Shore氏らの検討「HERO研究」で示された。研究の成果は、NEJM誌2020年6月4日号に掲載された。リュープロレリンなどの黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)作動薬の注射剤は、投与初期においてテストステロン値が上昇し治療効果発現の遅延が認められるが、前立腺がんにおけるアンドロゲン除去療法の標準薬とされる。一方、レルゴリクスは、経口ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)受容体拮抗薬で、下垂体からの黄体形成ホルモン(LH)と卵胞刺激ホルモン(FSH)の放出を迅速に阻害し、テストステロン値を低下させることが、複数の第I相および第II相試験で確認されている。2剤を直接比較する無作為化第III相試験 本研究は、日本を含む世界の155施設が参加した非盲検無作為化第III相試験で、2017年4月~2018年10月の期間に患者登録が行われた(Myovant Sciencesの助成による)。 対象は、年齢18歳以上、組織学的または細胞学的に前立腺の腺がんと確定され、1年以上の持続的アンドロゲン除去療法が可能と判定された患者であった。 被験者は、レルゴリクス(120mg、1日1回、経口)またはリュープロレリン(3ヵ月ごとに注射)の投与を受ける群に2対1の割合で無作為に割り付けられ、48週の治療が実施された。 主要エンドポイントは、48週を通じてテストステロン値が去勢レベル(<50ng/dL)で持続することとした。副次エンドポイントは、主要エンドポイントの非劣性、4日目のテストステロン値の去勢レベルおよび15日目の高度去勢レベル(<20ng/dL)の達成などであった。また、テストステロン回復に関してサブグループ解析を行った。主要エンドポイント:96.7% vs.88.8%、MACEリスク54%低下 930例が登録され、レルゴリクス群に622例、リュープロレリン群には308例が割り付けられた。ベースラインの全体の年齢中央値は71歳(範囲:47~97)で、日本人患者が11.5%含まれた。前立腺特異抗原(PSA)の平均値はレルゴリクス群が104.2±416.0ng/mLと、リュープロレリン群の68.6±244.0ng/mLに比べ高かったが、中央値ではそれぞれ11.7ng/mL、9.4ng/mLであり、類似していた。追跡期間中央値は52週だった。 去勢レベル(<50ng/dL)のテストステロン値が48週間持続した患者の割合は、レルゴリクス群が96.7%(95%信頼区間[CI]:94.9~97.9)、リュープロレリン群は88.8%(95%CI:84.6~91.8)であった。群間の差は7.9ポイント(95%CI:4.1~11.8)であり、レルゴリクス群の非劣性と優越性が示された(優越性のp<0.001)。 主な副次エンドポイントである4日目のテストステロン値が去勢レベル(<50ng/dL)の患者の割合(レルゴリクス群 56.0% vs.リュープロレリン群 0%)、15日目のテストステロン値が去勢レベルの患者の割合(98.7% vs.12.0%)、15日目のPSA奏効(PSA値の50%以上の低下)が29日目にも確認された患者の割合(79.4% vs.19.8%)、15日目のテストステロン値が高度去勢レベル(<20ng/dL)の患者の割合(78.4% vs.1.0%)、24週時の平均FSH値(1.72 IU/L vs.5.95 IU/L)はいずれも、レルゴリクス群がリュープロレリン群に比べて良好であった(いずれもp<0.001)。 テストステロン値の回復を追跡した184例のサブグループでは、投与中止後90日目の平均テストステロン値はレルゴリクス群が288.4ng/dL、リュープロレリン群は58.6ng/dLであった。90日目に280ng/dL(正常範囲の下限値)以上に回復した患者の割合は、レルゴリクス群が54%、リュープロレリン群は3%だった(名目上のp=0.002)。 有害事象の発生率は、両群でほぼ同様であった。最も頻度の高い有害事象はホットフラッシュ(レルゴリクス群54.3%、リュープロレリン群51.6%)だった。致死的有害事象が、レルゴリクス群7例(1.1%)およびリュープロレリン群9例(2.9%)で認められた。48週時のMACE(非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、全死因死亡)の発生率は、それぞれ2.9%および6.2%であった(ハザード比:0.46、95CI:0.24~0.88)。 著者は、「進行前立腺がん男性の経口薬による治療では、アドヒアランスの低下が懸念されるが、この研究では99%以上であり、注射剤とほぼ同等であった」としている。

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漫然とした多剤併用に一石!(解説:桑島巖氏)-1239

 高齢者におけるpolypharmacy(多剤併用)が社会問題化している。確かに高齢者では複数の疾患が多くなり薬剤数が増えることはある程度やむを得ないかもしれない。しかし効果のない薬を漫然と処方することはぜひ避けなければならない。 英国から発表されたOPTIMISE研究は臨床に即した重要な論文である。 収縮期血圧が150mmHg未満で2種類以上の降圧薬を服用している80歳以上の症例(平均84.8歳)を、1種類降圧薬を減らす群(介入群)282例と従来どおりの治療群(対照群)に非盲検化にランダム化して12週後の血圧に差がないことを確認する非劣性試験である。 その結果、12週後の収縮期血圧が150mmHg未満を維持していた症例は、介入群86.4%、対照群87.7%で両群に有意差はなかった。 つまり1剤降圧薬を減らしても血圧は上がってこなかったということであり、無駄な降圧薬が処方されていたという訳である。 この結果はしばしば経験するところであり、当に我が意を得たりというところである 白衣高血圧は降圧薬の影響を受けにくいため、高齢者の研究では白衣高血圧の除外は必須である。その対策として、この研究ではBpTRUという自動血圧測定器を用いている。この機器は最初の1回だけ医療スタッフがボタンを押して血圧を測定するが、その後スタッフがいなくなっても1分おきに最低でも5分間自動的に血圧測定を行うことで“白衣効果”を除外する工夫をしている。 もう一つの可能性としては、両群とも降圧薬として、ACE阻害薬またはARBが84%に処方され、Ca拮抗薬も70%近く処方されているところから、ACE阻害薬/ARBとCa拮抗薬の併用が多かったことがわかる。 高齢者では、低レニンがほとんどでありACE阻害薬/ARBの降圧効果はCa拮抗薬に比べるとはるかに弱い。最強のARBと販売企業が宣伝するアジルサルタン(商品名アジルバ)とCa拮抗薬を1対1で比較したACS 1研究(Hypertension2015:65:729)の結果をみると一目瞭然である。 Ca拮抗薬とARBの併用はわが国でも非常に多いが、高齢者でもARBを除いてみても血圧は上昇してこない場合がほとんどであり、この研究はその臨床経験を裏付けるものである。 ただしこの研究に参加した高齢者は、英国のGP(総合医)が薬を減らしても問題がないと考えた症例のみが選ばれており、当然心不全、心筋梗塞、脳卒中既往などのリスクの高い症例は含まれていないことには注意が必要である。

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ARNI・β遮断薬・MRA・SGLT2阻害薬併用で、HFrEF患者の生存延長/Lancet

 左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)患者において、疾患修飾薬による早期からの包括的な薬物療法で得られるであろう総合的な治療効果は非常に大きく、新たな標準治療として、アンジオテンシン受容体・ネプリライシン阻害薬(ARNI)、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)および選択的ナトリウム・グルコース共役輸送体2(SGLT2)阻害薬の併用が支持されることが示された。米国・ハーバード大学のMuthiah Vaduganathan氏らが、慢性HFrEF患者を対象とした各クラスの薬剤の無作為化比較試験3件を比較した解析結果を報告した。3クラス(MRA、ARNI、SGLT2阻害薬)の薬剤は、ACE阻害薬またはARBとβ遮断薬を併用する従来療法よりも、HFrEF患者の死亡リスクを低下させることが知られている。これまでの研究では、それぞれのクラスは異なる基礎療法と併用して検証されており、組み合わせにより予測される治療効果は不明であった。Lancet誌オンライン版2020年5月21日号掲載の報告。MRA、ARNI、SGLT2阻害薬に関する3つの臨床試験をクロス解析 研究グループは、包括的疾患修飾薬物療法と従来療法の無イベント生存期間と全生存期間の増分を推定する目的で、従来療法へのMRA追加を検討したEMPHASIS-HF試験(2,737例)、ARNIと従来療法を比較したPARADIGM-HF試験(8,399例)および従来療法へのSGLT2阻害薬追加を検討したDAPA-HF試験(4,744例)の3つの臨床試験のクロス解析を行った。 慢性HFrEF患者における包括的疾患修飾薬物療法(ARNI、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬)および従来療法(ACE阻害薬またはARB+β遮断薬)の有効性を推算し、間接的に比較した。 主要評価項目は、心血管死または心不全による初回入院の複合エンドポイントとし、それぞれのエンドポイントと全死因死亡率も同様に評価した。これらの相対的な治療の影響は長期にわたり一貫していると仮定し、EMPHASIS-HF試験の対照群(ACE阻害薬またはARB+β遮断薬)に対する、包括的疾患修飾薬物療法による無イベント生存期間および全生存期間の長期的な増分を推算した。ARNI、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬の包括的疾患修飾薬物療法は全生存期間も延長 包括的疾患修飾薬物療法vs.従来療法の主要評価項目に関するハザード比(HR)は、0.38(95%信頼区間[CI]:0.30~0.47)であった。心血管死(HR:0.50、95%CI:0.37~0.67)、心不全による初回入院(0.32、0.24~0.43)および全死因死亡(0.53、0.40~0.70)も包括的疾患修飾薬物療法が好ましい結果であった。 ARNI、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬の包括的疾患修飾薬物療法は従来療法と比較し、心血管死または心不全による初回入院までの無イベント期間を推定2.7年(80歳時)~8.3年(55歳時)延長し、全生存期間は推定1.4年(80歳時)~6.3年(55歳時)延長した。

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COVID-19の入院リスク、RAAS阻害薬 vs.他の降圧薬/Lancet

 スペイン・University Hospital Principe de AsturiasのFrancisco J de Abajo氏らは、マドリード市内の7つの病院で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)入院患者の調査「MED-ACE2-COVID19研究」を行い、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAAS)阻害薬は他の降圧薬に比べ、致死的な患者や集中治療室(ICU)入室を含む入院を要する患者を増加させていないことを明らかにした。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2020年5月14日号に掲載された。RAAS阻害薬が、COVID-19を重症化する可能性が懸念されているが、疫学的なエビデンスは示されていなかった。重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)は、そのスパイクタンパク質の受容体としてアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)を利用して細胞内に侵入し、複製する。RAAS阻害薬はACE2の発現を増加させるとする動物実験の報告があり、COVID-19の重症化を招く可能性が示唆されている。一方で、アンジオテンシン受容体遮断薬(ARB)は、アンジオテンシンIIによる肺損傷を抑制する可能性があるため、予防手段または治療薬としての使用を提唱する研究者もいる。また、RAAS阻害薬は、高血圧や心不全、糖尿病の腎合併症などに広く使用されており、中止すると有害な影響をもたらす可能性があるため、学会や医薬品規制当局は、確実なエビデンスが得られるまでは中止しないよう勧告している。他の降圧薬と入院リスクを比較する症例集団研究 研究グループは、COVID-19患者において、RAAS阻害薬と他の降圧薬による入院リスクを比較する目的で、薬剤疫学的な症例集団研究を実施した(スペイン・Instituto de Salud Carlos IIIの助成による)。 2020年3月1日~24日の期間に、マドリード市内の7つの病院から、PCR検査でCOVID-19と確定診断され、入院を要すると判定された18歳以上の患者を連続的に抽出し、症例群とした。対照群として、スペインの医療データベースであるBase de datos para la Investigacion Farmacoepidemiologica en Atencion Primaria(BIFAP)から、症例群と年齢、性別、地域(マドリード市)、インデックス入院の月日をマッチさせて、1例につき10例の患者を無作為に抽出した。 RAAS阻害薬には、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、ARB、アルドステロン拮抗薬、レニン阻害薬が含まれた(単剤、他剤との併用)。他の降圧薬は、カルシウム拮抗薬、利尿薬、β遮断薬、α遮断薬であった(単剤、RAAS阻害薬以外の他剤との併用)。 症例群と対照群の電子カルテから、インデックス入院日の前月までの併存疾患と処方薬に関する情報を収集した。主要アウトカムは、COVID-19患者の入院とした。重症度にかかわらず、入院リスクに影響はない 症例群1,139例と、マッチさせた対照群1万1,390例のデータを収集した。年齢(両群とも、平均年齢69.1[SD 15.4]歳)と性別(両群とも、女性39.0%)はマッチしていたが、心血管疾患(虚血性心疾患、脳血管障害、心不全、心房細動、血栓塞栓性疾患)の既往(オッズ比[OR]:1.98、95%信頼区間[CI]:1.62~2.41)と、心血管リスク因子(高血圧、脂質異常症、糖尿病、慢性腎不全)(1.46、1.23~1.73)を有する患者の割合が、対照群に比べ症例群で有意に高かった。 RAAS阻害薬の使用者では、他の降圧薬の使用者と比較して、入院を要するCOVID-19のリスクに有意な差は認められなかった(補正後OR:0.94、95%CI:0.77~1.15)。また、ACE阻害薬(0.80、0.64~1.00)およびARB(1.10、0.88~1.37)のいずれでも、他の降圧薬に比べ、入院を要するCOVID-19の有意な増加はみられなかった。これらの薬剤は、単剤および他剤との併用でも、入院リスクに有意な影響はなかった。 性別、年齢別(<70歳vs.≧70歳)、高血圧の有無、心血管疾患の既往、心血管リスク因子に関しては、他の降圧薬と比較して、RAAS阻害薬の使用による入院を要するCOVID-19のリスクに有意な交互作用は確認されなかった。一方、RAAS阻害薬を使用している糖尿病患者では、入院を要するCOVID-19患者が少なかった(補正後OR:0.53、95%CI:0.34~0.80、交互作用検定のp=0.004)。 COVID-19の重症度を最重症(死亡、ICU入室)と、低重症(最重症以外のすべての入院患者)に分けた。いずれの重症度でも、RAAS阻害薬、ACE阻害薬、ARBは、他の降圧薬と比較して、入院を要するCOVID-19のリスクに有意な差はなかった。 これらの結果を踏まえて著者は、「RAAS阻害薬は安全であり、COVID-19の重症化を予防する目的で投与を中止すべきではない」と指摘している。

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入眠と中途覚醒を改善するオレキシン受容体拮抗薬「デエビゴ錠2.5mg/5mg/10mg」【下平博士のDIノート】第50回

入眠と中途覚醒を改善するオレキシン受容体拮抗薬「デエビゴ錠2.5mg/5mg/10mg」今回は、不眠症治療薬「レンボレキサント(商品名:デエビゴ錠2.5mg/5mg/10mg、製造販売元:エーザイ)」を紹介します。本剤は、わが国で2剤目のオレキシン受容体拮抗薬です。より自然に近い催眠作用によって、スムーズな入眠と睡眠維持、翌朝の覚醒改善が期待されています。<効能・効果>本剤は不眠症の適応で、2020年1月23日に承認されています。<用法・用量>通常、成人にはレンボレキサントとして1日1回5mgを就寝直前に経口投与します。なお、患者の症状により1日1回10mgを超えない範囲で適宜増減できます。本剤とCYP3Aを中程度または強力に阻害する薬剤(フルコナゾール、エリスロマイシン、ベラパミル、イトラコナゾール、クラリスロマイシンなど)を併用する場合は、1日1回2.5mgが上限となっています。<安全性>不眠症患者を対象とした国際共同第III相試験において、本剤が投与された884例(日本人155例を含む)中249例(28.2%)に副作用が認められました。主な副作用は、傾眠95例(10.7%)、頭痛37例(4.2%)、倦怠感27例(3.1%)などでした(承認時)。<患者さんへの指導例>1.本剤は、覚醒と睡眠リズムを調整することで寝つきをよくし、より正常な睡眠の維持を促します。2.このお薬は、食直後を避け、就寝直前に服用してください。入眠後、一時的に起床して活動する必要がある日には服用しないでください。3.眠気や注意力・集中力・反射運動能力の低下など、薬の影響が翌朝以降も続くことがありますので、自動車の運転など危険を伴う機械の操作は行わないようにしてください。4.不眠症の改善は、適度な運動を心掛けるなど、生活習慣を見直すことも大切です。起床時間と就寝時間を一定にし、睡眠リズムを整えましょう。<Shimo's eyes>不眠症治療の中心的薬剤として、ベンゾジアゼピン系薬剤が長年使用されていますが、長期服用時の依存形成や薬物の不適切使用が問題となっています。近年では、より自然に近い睡眠・覚醒リズムを整える薬剤として、2010年にはメラトニン受容体作動薬のラメルテオン(商品名:ロゼレム)、2014年にはオレキシン受容体拮抗薬のスボレキサント(同:ベルソムラ)が発売されました。本剤は、国内で2番目のオレキシン受容体拮抗薬で、オレキシン神経伝達に作用して過剰な覚醒状態を抑制するため、より自然な睡眠を促し、中途覚醒時間を短縮することが可能と考えられています。本剤の特徴として、年齢による用量の制限がなく、また調剤時の一包化が可能となっているため、高齢者にも比較的使用しやすい薬剤といえるでしょう。第III相試験においては、入眠と睡眠維持の両方の改善を示し、プラセボと比較して翌日のふらつきや記憶力においても問題となる悪化は認められず、日中機能の改善が確認され、6ヵ月投与した中止後の離脱症状は見られませんでした。なお、<用法・用量>に記載のとおり、相互作用については禁忌ではないものの、肝薬物代謝酵素CYP3Aを中程度または強力に阻害する薬剤と併用する場合には、本剤の投与量を1日1回2.5mgに制限する必要があります。また、中等度肝機能障害の患者に対しては、本剤の血中濃度が上昇する可能性があるため、1日1回5mgが上限となっています。医薬品リスク管理計画書(RMP)における本剤の潜在的リスクとして、ナルコレプシー症状が挙げられています。副作用については、日中の過剰な眠気、睡眠時麻痺、入眠時幻覚がないかなど、細やかな聞き取りを心掛けましょう。参考1)PMDA デエビゴ錠2.5mg/5mg/10mg

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COVID-19、主要5種の降圧薬との関連認められず/NEJM

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者が重症化するリスク、あるいはCOVID-19陽性となるリスクの増加と、降圧薬の一般的な5クラスの薬剤との関連は確認されなかった。米国・ニューヨーク大学のHarmony R. Reynolds氏らが、ニューヨーク市の大規模コホートにおいて、降圧薬の使用とCOVID-19陽性の可能性ならびにCOVID-19重症化の可能性との関連性を評価した観察研究の結果を報告した。COVID-19患者では、このウイルス受容体がアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)であることから、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAAS)に作用する薬剤の使用に関連するリスク増加の可能性が懸念されていた。NEJM誌オンライン版2020年5月1日号掲載の報告。患者1万2,594例について、降圧薬とCOVID-19陽性および重症化との関連を解析 研究グループは、ニューヨーク大学の電子カルテを用い、2020年3月1日~4月15日にCOVID-19の検査結果が記録された全患者1万2,594例を特定し検討を行った。 ACE阻害薬、ARB、β遮断薬、Ca拮抗薬およびサイアザイド系利尿薬の治療歴と、COVID-19検査の陽性/陰性の可能性、ならびに陽性と判定された患者における重症化(集中治療室への入室、非侵襲的/侵襲的人工呼吸器の使用または死亡と定義)の可能性との関連を評価した。 解析はベイズ法を用い、上記降圧薬による治療歴がある患者と未治療患者のアウトカムを、投与された薬剤クラスについて傾向スコアマッチング後に、全体および高血圧症患者とで比較した。事前に、10ポイント以上の差を重要な差と定義した。陽性率は全体46.8%/高血圧患者34.6%、重症化率17.0%/24.6% COVID-19の検査を受けた1万2,594例中5,894例(46.8%)が陽性で、このうち重症化したのは1,002例(17.0%)であった。高血圧症の既往歴を有する患者は4,357例(34.6%)で、うち2,573例(59.1%)が陽性、さらにこのうち634例(24.6%)が重症化した。 薬剤のクラスとCOVID-19陽性率増加との間に、関連性は確認されなかった。また、検討した薬剤のいずれも、陽性患者における重症化リスクの重要な増加と関連がなかった。 なお著者は、COVID-19検査の診断特性の多様性、検査の真の感度が不明なままであること、COVID-19の重症例の割合が過大評価されている可能性などを挙げ、本研究の結果は限定的であるとしている。

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衝撃のISCHEMIA:安定冠動脈疾患に対する血行再建は「不要不急」なのか?(解説:中野明彦氏)-1224

はじめに 安定型狭心症に対する治療戦略は1970年代頃からいろいろな構図で比較されてきた。最初はCABG vs.薬物療法、1990年代はPCI(BMS) vs.CABG、そして2000年代後半からPCI(+OMT)vs.OMT(最適な薬物療法)の議論が展開された。PCI vs.OMTの代表格がCOURAGE試験(n=2,287)1)やBARI-2D(n=2,368)、FAME2試験(n=888)である。とりわけ米国・カナダで行われ、総死亡+非致死性心筋梗塞に有意差なしの結果を伝えたCOURAGE試験のインパクトは大きく、米国ではその後の適性基準見直し(AUC:appropriate use criteria)や待機的PCI数減少につながった。一方COURAGEはBMS時代のデータであり、症例選択基準やPCI精度にバイアスが多いなど議論が沸騰、結局「虚血領域が広ければPCIが勝る」とのサブ解析2)が出て何となく収束した。しかしこの仮説は後に否定され3)、本試験15年後のfollow-up4)も結論に変化はなかった。ISCHEMIA試験:主要評価項目安定冠動脈疾患、侵襲的戦略と保存的戦略に有意差なし/NEJM 上記PCI vs.OMTの試験はサンプルサイズ・デバイス(BMSが主体)・虚血評価不十分・低リスクなどが問題点として指摘された。ISCHEMIA試験はこうしたlimitationを払拭し COURAGEから10年以上の時を経て発表されたが、そのインパクトはさらに大きかった。構図は侵襲的戦略 vs.保存的戦略、すなわち血管造影を行い可能なら血行再建療法(PCI or CABG)を行う群と、基本的にはOMTで抵抗性の場合のみ血行再建療法を加える群との比較である。米国の公的施設(NHLBI)の援助を受けた37ヵ国の国際共同試験で、対象はストレスイメージング・FFRや運動負荷試験によって中等度~高度の虚血が証明された安定型狭心症である。そもそもOMTで事足りるということか、血管造影は行わず冠動脈CT で左冠動脈主幹病変を除外してランダム化された(n=5,179)のも特徴的であり、結果として造影による選択バイアスは減少した。実際の血行再建はそれぞれ79%(PCI 76%、CABG 24%)と21%に施行され、PCIはDESを原則とした。 今度こそは侵襲的戦略(血行再建療法)有利と思われたが、3.2年以上(中間値)の追跡期間で、主要評価項目(心血管死、心筋梗塞、不安定狭心症・心不全・心停止後の蘇生に伴う入院、の複合エンドポイント)の血行再建群の調整後ハザード比は0.93(95%CI:0.80~1.08、p=0.34)と優位性は示されなかった。 ACSの多くは非狭窄部から発生することが以前から指摘されている。したがってPCIで stable plaqueをつぶしても予後改善や心筋梗塞発症抑制につながらない。これが永らくPCI がCABGに勝てない理由である。しかしISCHEMIA試験ではそのCABGを仲間に加えてもOMTに勝てなかった。ソフトエンドポイント:QOLの改善効果 ISCHEMIA試験の「key secondary outcomes」の1つに狭心症由来のQOLが加えられ、今回その詳細が報告された。1次エンドポイントである「SAQ Summary score:Angina Frequency score・Physical Limitation score・Quality of Life scoreの平均値」は両群とも平均70強(登録時)だった。Angina Frequency scoreは登録時平均80強(週1回程度の狭心症状に相当)で、それ以上(毎日あるいは週数回)が2割、無症状も1/3を占めていた。少なくとも36ヵ月までは血行再建群で症状緩和効果は維持され、登録時に狭心症状が強い症例ほど恩恵が多い、という骨子は常識的な結論であろう。 しかし同様の検討が行われたCOURAGE試験では、24ヵ月まで保たれたQOLの改善効果が36ヵ月後には消滅してしまった5)。確かに本試験でもポイント差が縮まってきており、この先を注視する必要がある。予後もイベントも抑えないから「不急」であるが、もし症状を抑える効果も限定的なら「不要」の議論も起こり得る。そして折しも 新たなデバイスや手技の進化に閉塞感が漂う血行再建術と、PCSK9阻害薬・SGLT2阻害薬・新規P2Y12受容体拮抗薬など次々EBMが更新される薬物療法、両者の位置付けはこれからどうなるだろうか? 日本でも数年前から安定冠動脈疾患に対する治療戦略が問われており、PCIへの診療報酬はAUCを前提にしつつ冷遇の方向に改定されている。折しも、新型コロナウイルスパンデミックへの緊急事態宣言発令を受けて、日本心血管インターベンション治療学会(CVIT)から“感染拡大下の心臓カテーテル検査及び治療に関する提言”が出された。曰く「慢性冠症候群、安定狭心症に対するPCIで、緊急性を要しないものについては延期を推奨する」である。時同じくして掲載されたISCHEMIA試験はこれにお墨付きを与えることになった。 今回のパンデミックにより今まで当たり前だったことが当たり前ではなくなった。人々の価値観や人生観・死生観までもが変容するに違いない。虚血性心疾患に対する医療もアフター・コロナでは新たなパラダイムシフトで臨むことになるのかもしれない。

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メトホルミン製剤の一部ロット自主回収

 2020年4月27日、大日本住友製薬株式会社のメトグルコ錠250mgおよび錠500mgの一部ロットおよび日本ジェネリック株式会社のメトホルミン塩酸塩錠500mgMT「JG」の一部ロットが自主回収(クラスI)されることとなった。厚生労働省がメトホルミン製剤の分析を全15社に指示 昨年、シンガポール保険科学庁より、メトホルミン塩酸塩含有製剤から発がん性物質であるN-ニトロジメチルアミン(NDMA)が検出されたことに伴い、シンガポールの一部事業者が自主回収に着手した旨が発表された。これを受け、厚生労働省は2019年12月9日付け事務連絡「メトホルミン塩酸塩における発がん性物質に関する分析について(依頼)」において、メトホルミン製剤におけるNDMAの分析を全15社に対して依頼した。 なお、NDMAに関しては、メトホルミン製剤のみではなく、アンジオテンシンII受容体拮抗薬や一部のH2受容体拮抗薬に対しても分析が依頼されている。 大日本住友製薬株式会社は、「分析の結果PTP包装品の複数のロットから管理指標(メトホルミン塩酸塩として1日2,250mgを70年間服用し続けた場合に10万人に1人に発がんするリスクが増える量)を超えるNDMAが検出されたため、管理指標を超えたロットおよび超えている可能性のあるロットのPTP包装品について、自主回収することとしました。原因は明確ではありませんが、PTPアルミ箔の錠剤接着面の印刷インクに含まれるニトロセルロース系樹脂由来の物質が、錠剤中の原薬に僅かに残留していた原料であるジエチルアミンと反応してNDMAが生成された可能性があると考えています」としている。学会は医療者に対し、回収への協力と患者への治療継続の必要性の説明を依頼 日本糖尿病学会は、学会ホームページにおいて、「これまでに本製品によるNDMAに関連した重篤な健康被害等の報告はありません。メトグルコなどメトホルミン製剤を服用中の患者の皆様は、本件について心配な点があれば独断で服用を中止せず、主治医に相談してください。また、医療従事者の皆様におかれましては、当該ロットの回収へのご協力と、患者さんから相談を受けた場合には糖尿病に対する治療継続の必要性のご説明をお願いいたします」として声明を発表している。

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RA系阻害薬、COVID-19の重症度に関連みられず/JAMA Cardiol

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で入院中、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)またはアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)を服用している高血圧患者が、COVID-19の重症度や死亡リスクを上昇したかどうかを中国・武漢市の華中科技大学のJuyi Li氏らが検討した。その結果、これらのRA系阻害薬の服用はCOVID-19の重症度や死亡率と関連しないことが示唆された。JAMA Cardiology誌オンライン版2020年4月23日号に掲載。 本研究では、2020年1月15日~3月15日に武漢中央病院に入院したCOVID-19患者1,178例を後ろ向きに調査した。COVID-19はRT-PCR検査で確認し、すべての患者の疫学、臨床、放射線、検査、薬物療法のデータを分析した。ACEI/ARBを服用している高血圧患者の割合を、COVID-19重症者と非重症者、および生存者と死亡者の間で比較した。 主な結果は以下のとおり。・1,178例の平均年齢は55.5歳(四分位範囲:38~67歳)で、男性が545例(46.3%)だった。・入院中の全死亡率は11.0%だった。・高血圧患者は362例(30.7%)、平均年歳は66.0歳(四分位範囲:59~73歳)、男性が189例(52.2%)で、115例(31.8%)がACEI/ARBを服用していた。・高血圧患者の入院中の死亡率は 21.3%だった。・ACEI/ARBを服用していた高血圧患者の割合は、COVID-19重症者と非重症者の間で差はなく(32.9% vs.30.7%、p=0.65)、死亡者と生存者の間でも差はなかった(27.3% vs.33.0%、p=0.34)。・ACEI服用患者とARB服用患者のデータの分析でも同様の結果が観察された。

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新型タバコにも含まれるニコチンによる免疫機能の低下【新型タバコの基礎知識】第18回

第18回 新型タバコにも含まれるニコチンによる免疫機能の低下Key Pointsニコチンは免疫機能の低下をもたらす加熱式タバコに替えても、ニコチンによる免疫機能の低下は防げない新型コロナウイルス対策の1つとして禁煙を推進してほしい今回の記事は予定を変更して、新型コロナ問題にも関連する「ニコチンによる免疫機能の低下」について解説します。アイコスなどの加熱式タバコにも、紙巻タバコと同様に多くのニコチンが含まれています(第3回記事参照)。ここでは、タバコ研究データの決定版、US Surgeon General Report 2014年号(図)から、喫煙と免疫システムの関連についてお伝えしたいと思います1)。画像を拡大する(出典)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK179276/pdf/Bookshelf_NBK179276.pdf喫煙と免疫システムの関係は?まず簡単に、喫煙と免疫の関係について述べます。免疫システムは、感染や病気から体を守るためのもの、風邪やインフルエンザなどのウイルスからがんなどの疾患に至るまで、あらゆる異物と戦っています。喫煙は免疫機能を低下させ、病気との戦いをうまくいかなくさせていきます。喫煙者は非喫煙者よりも呼吸器感染症に罹りやすくなるのです。これは、タバコに含まれる化学物質が、呼吸器感染症の原因となるウイルスや細菌を正常に攻撃するための、免疫システムの機能を低下させていることが理由の1つです。実際に、喫煙者は非喫煙者に比べて肺炎になりやすく、より重症化しやすくなります。ここまでの話だけなら、ある意味単純で簡単な話(ニコチンだけでなく、タバコが免疫機能を低下させ、感染症への罹患を増やし、肺炎などの重症化リスクを上げること)として理解されるものと思います。しかし、免疫に対するタバコの煙の悪影響があまり理解されていない理由は、免疫系の研究が複雑でややこしく、次のような研究の状況にあるからなのかもしれません。ニコチンは免疫系を抑制し、一方で刺激する?ニコチンは、免疫系を刺激する機序と抑制する機序の両方に作用すると考えられています。尿中マーカーから推測されるニコチンのレベル(すなわち通常の喫煙者と同等のニコチン量)で十分に、リウマチなどの自己免疫系疾患や感染症、がんといった免疫学的に誘導される疾患と関連していると考えられています2)。ニコチンは、ニコチンレセプターを介してその効果を発揮します3)。ニコチンは細胞に直接作用することができる一方、生体内ではそれ自体が強力な免疫調整機能を持つ交感神経系へも直接的に作用します。ニコチンを含んではいるが燃焼・不完全燃焼しきった紙巻タバコの煙由来成分は、まだ燃焼しきっていない紙巻タバコの煙由来成分(酸化作用を多く持つ)と比較して、免疫系への作用がかなり小さいとされています4,5)。禁煙補助薬として使用されるニコチンパッチまたはニコチン部分拮抗薬(たとえば、バレニクリン)は、ヒトでは免疫系への作用が少なく6)、またスヌース(スウェーデンでのみ広く使用されているニコチンを含む低ニトロサミンの無煙タバコ製品)ではニコチンを含むにもかかわらず、紙巻タバコと同等の免疫系への影響はみられません。このような結果の解釈として、紙巻タバコによる免疫への影響は、ニコチンによる影響だけでなく酸化作用等と関連しているものと考えられます7)。こうしたある意味で矛盾した、免疫抑制と免疫促進の両方向への影響がタバコにはあるようです。ニコチンが樹状細胞を抑制するのではなく、樹状細胞を刺激することで免疫系応答によりアテローム性動脈硬化へとつながるとされています8)。一方では、ニコチンは神経細胞のニコチンレセプターを介して作用し、in vivoおよびin vitroの両方で細胞性免疫を抑制するとされています。ニコチンはB細胞における抗体産生を抑制し、T細胞を減らし、T細胞受容体を介したシグナル伝達が減衰したアレルギー様状態を誘導します9,10)。動物実験で、ニコチンによる免疫系への作用により、動物は細菌およびウイルスに感染しやすくなると分かっているのです。前述したとおり、ニコチンは、免疫系を刺激する機序と抑制する機序の両方に作用するため話が理解されにくいようです。免疫促進と抑制のどちらの方向であっても行き過ぎると免疫機能は異常を来すと言えるでしょう。喫煙により、関節リウマチのような自己免疫疾患も、免疫機能の低下により誘導されやすくなるがんも増えると分かっているのです。そのため、「喫煙により免疫異常が引き起こされる」とまとめて書かれるわけです。ただし、今回の新型コロナ問題のように感染症に関して喫煙やニコチンの害を考える場合には、単純に「ニコチンにより免疫機能が低下する」と受け止めると分かりやすいでしょう。新型コロナ時代の禁煙のすゝめ新型コロナウイルスの感染および感染後の重症化を防ぐためにできることの一つとして禁煙があります。タバコ会社は「自宅では加熱式タバコを吸ってください」などとマーケティング活動に熱心だが、それにダマされてはなりません。加熱式タバコに替えてもニコチンは含まれますから、免疫機能の低下は防げないのです。しかし、すべてのタバコを止めれば、ニコチンによる免疫機能の低下から回復できます。その禁煙の効果は数日で得られ、何歳でも禁煙の効用が得られるものと考えられます。日本における新型コロナウイルスの蔓延はまだ始まったばかりであり、これから先に多くの人が新型コロナウイルスに感染する可能性があります。数ヵ月先かもしれないし、1年先かもしれません。日本に2千万人程度存在するすべての喫煙者が禁煙することにより、新型コロナウイルスの流行を収束させる一助としていただきたいと思います。第19回は、「禁煙をし続けるために本当に必要なこと(2)」です。1)US Surgeon General Report 2014.2)Cloez-Tayarani I1, Changeux JP. J Leukoc Biol. 2007 Mar;81:599-606.3)US Surgeon General Report 2010.4)Laan M,et al. J Immunol. 2004 Sep 15;173:4164-70.5)Bauer CM,et al. J Interferon Cytokine Res. 2008 Mar;28:167-79.6)Cahill K,et al. Cochrane Database Syst Rev. 2008 Jul 16:CD006103.7)McMaster SK,et al. Br J Pharmacol. 2008 Feb;153:536-43.8)Aicher A,et al. Circulation. 2003 Feb 4;107:604-11.9)Geng Y,et al. Toxicol Appl Pharmacol. 1995 Dec;135:268-78.10)Geng Y,et al. J Immunol. 1996 Apr 1;156:2384-90.

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デエビゴ:不眠症治療に新たな選択肢

オレキシン受容体拮抗薬「デエビゴ」不眠症治療薬「デエビゴ(一般名:レンボレキサント)」が、2020年1月、製造販売承認を取得した。デエビゴは、オレキシン受容体の2種のサブタイプ(オレキシン1および2受容体)に対し、オレキシンと競合的に結合する拮抗薬である。その名の由来はDay(日中)+Vigor(活力)+Go(ready to go)だ。夜間の睡眠だけでなく日中の機能を改善し、活動的に過ごせるように、との想いが込められている。日本の不眠症治療の課題これまで不眠症治療においては、睡眠薬の長期服用による依存や乱用が問題となっていた1)。また日本人は睡眠薬に対する不安が強く、「依存性がありやめられなくなる」というイメージを持つ人も多い1)。しかし、一部の患者では不眠が慢性化し、睡眠薬の長期服用が必要になることもある。こうした背景から、より副作用のリスクを減らした睡眠薬の開発が進み、今回新たな選択肢としてデエビゴが加わった。医師、患者の両者が有効性を実感デエビゴについて、2つのピボタル臨床第III相試験(SUNRISE 1試験、SUNRISE 2試験)が実施されている。SUNRISE 1試験は、55歳以上の不眠症患者1,006例を対象に、デエビゴ(5mg、10mg)を1ヵ月間投与した際の有効性および安全性をゾルピデム酒石酸塩徐放性製剤(ゾルピデムER 6.25mg[国内未承認])と比較した、プラセボ対照試験だ。主要評価項目である睡眠潜時などについて、睡眠ポリグラフ検査法を用いて客観評価した。睡眠潜時について、ベースラインからの変化量のプラセボ群との比は、デエビゴ5mg群で0.773(p=0.0003)、10mg群で0.723(p<0.0001)であり、プラセボ群と比較して有意な短縮が認められた。また、ベースラインからの変化量のゾルピデムER群との比は、デエビゴ5mg群で0.634(p<0.0001)、10mg群で0.594(p<0.0001)であり、ゾルピデムER群との比較でも有意な短縮が認められた。SUNRISE 2試験は、18~88歳の不眠症患者949例を対象にデエビゴ(5mg、10mg)を6ヵ月間投与し、長期の有効性および安全性を評価したプラセボ対照試験である。主要評価項目である睡眠潜時などについて、電子睡眠日誌を用いて患者の主観評価による検討を行った。投与6ヵ月時における睡眠潜時のベースラインからの変化量のプラセボ群との比は、デエビゴ5mg群では0.732(p<0.0001)、10mg群では0.701(p<0.0001)であり、プラセボ群と比較して有意な短縮が認められた。2つの試験から、デエビゴは客観評価と主観評価、すなわち睡眠ポリグラフ検査法による評価と患者による評価の両方において、有効性が示された。また、ゾルピデムERとの比較で有意差が認められこともポイントだ。なおデエビゴ投与による副作用は、傾眠、頭痛、倦怠感などが報告されている。デエビゴへの期待不眠症治療においては、睡眠薬を可能な限り減薬・休薬していくことが求められる1)。また、夜間の不眠症状の消退だけでなく、良眠によって日中の機能を改善することも重要だ。デエビゴはその両者の改善に寄与し、休薬後の離脱症状や反跳性不眠も臨床試験で認められていないことから、不眠症治療のゴールである減薬・休薬も目指せると期待したい。また、デエビゴは軽度・中等度アルツハイマー型認知症に伴う不規則睡眠覚醒リズム障害(ISWRD)に関しても開発が進められている。現在ISWRDを適応症とする睡眠薬は承認されておらず、デエビゴが承認されれば世界初となる可能性が高い。1)厚生労働科学研究・障害者対策総合研究事業「睡眠薬の適正使用及び減量・中止のための診療ガイドラインに関する研究班」および日本睡眠学会・睡眠薬使用ガイドライン作成ワーキンググループ編. 睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン-出口を見据えた不眠医療マニュアル- 改訂版. 2013.

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