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虫垂炎に対する抗菌薬治療の長期転帰は良好

 虫垂炎(盲腸)患者の多くでは、虫垂切除術を実施する代わりに抗菌薬を投与しても、長期にわたって良好な経過をたどることが、スウェーデンで長期(19〜26年間)にわたり患者の転帰を追跡した研究で示された。英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)グレート・オーモンド・ストリート小児保健研究所のSimon Eaton氏らによるこの研究結果は、「JAMA Surgery」に8月9日掲載された。 虫垂炎は、右下腹部の大腸の部分(盲腸)から出る管状の臓器である虫垂に細菌が感染して炎症を起こした状態である。20世紀以前は、多くの患者が虫垂炎で死亡していたが、外科手術の進歩により、現在では低侵襲の「非常に安全」な鍵穴手術(腹腔鏡手術)が標準的な治療法とされている。「とはいえ、これは虫垂炎に対して抗菌薬が使用されるようになる前の話だ。虫垂を含む腸内に生息する細菌についての理解が深まった現在では、虫垂を残すことに長期的な利点がある可能性も考えられる」とEaton氏は説明する。 虫垂炎に抗菌薬を用いる治療法は1990年代に初めて登場した。しかし、抗菌薬治療後の患者の転帰に関する追跡調査のスパンは5年以内と短かった。そこでEaton氏らは、292人(男性279人)の虫垂炎患者を対象に、虫垂切除術による治療と抗菌薬による治療を比較した2件のランダム化比較試験参加者のデータを用いた長期追跡調査により、患者の転帰を明らかにしようと試みた。1件目の研究では1992年から1994年の間に40人を、2件目の研究では1996年から1999年の間に252人を、虫垂切除術を受ける群と抗菌薬による治療を受ける群にランダムに割り付けていた。この中から追跡データのそろっていた259人(虫垂切除術群122人、抗菌薬群137人)を対象に解析を行った。対象者は2018年12月31日まで追跡された。 その結果、抗菌薬群では15%(21人)で入院中に抗菌薬による治療が奏効しなかったため虫垂切除術を受け、25%(34人)は抗菌薬による治療後に急性虫垂炎を発症したため虫垂切除術を受けたが、残りの60%(82人)は追跡終了時点まで虫垂切除術を受けることがなかった。また、全体で5人に炎症性腸疾患(IBD)が生じたが、虫垂切除術群に比べて抗菌薬群でリスクが上昇することはなかった。その一方で、退院後に腹痛が生じて外科外来で治療を受けた患者の割合は、抗菌薬群では9.5%(13人)であったのに対し、虫垂切除術群では0.01%(1人)にとどまっていた。 これらの結果を受けてEaton氏は、「この結果は、どちらの治療法が優れているかということではない」と強調。その上で、「しかし、現在では、虫垂炎患者に対して、手術をしないで治療すれば、半数以上は治療後も手術を受けずに済む可能性があると言えるようになった」と話している。 Eaton氏はさらに、「われわれは今や、虫垂炎に対しては2つの治療選択肢があると考えている。この情報を提示された患者の中には、虫垂炎のひどい痛みが再発する可能性を恐れて手術を選択する人がいる一方で、メスに対する恐怖から手術を受けずに済むことを喜ぶ人もいるだろう。結局のところ、もし虫垂炎の外科的治療が安全になる前に抗菌薬が発見されていたのなら、手術をしない治療が虫垂炎の標準治療になっていた可能性がある」と語っている。

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英語で「薬を中止する」は?【1分★医療英語】第97回

第97回 英語で「薬を中止する」は?He had a tarry stool this morning.(彼は今朝、タール便がありました)Okay, let’s hold aspirin.(わかりました、アスピリンは中止しましょう)《例文1》Steroid was held yesterday.(ステロイドは、昨日中止しました)《例文2》We are going to discontinue antibiotics tomorrow.(明日、抗菌薬を中止する予定です)《解説》「薬を開始する・中止する」というのは、患者さんや医療者同士のコミュニケーションで頻繁に行われるやりとりです。“hold”は「持っておく」という意味の動詞ですが、「やめておく」「控えておく」という意味もあり、hold+薬で、「薬を中止する・休止する」という意味になります。ちなみに、動詞の“hold”にはほかの使い方もあり、“Hold on please.”(ちょっと待ってください)、“Hold your breath.”(息を止めてください)といった表現も覚えておくと便利です。また、「中止する」を表すほかの動詞としては、“stop”や“discontinue”などがあります。“discontinue”という動詞は、“continue”(継続する)に否定を表す“dis”が接頭語に付いているので、継続の反対、つまりは「中止する」という意味を覚えやすいでしょう。講師紹介

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NSAIDsがC. difficile感染症を悪化させる機序とは

 多くの人々に鎮痛薬や抗炎症薬として使用されている非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)は、クロストリディオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficile;C. difficile)への感染により生じる消化管感染症(C. difficile感染症;CDI)を悪化させることが報告されている。こうした中、マウスを用いた研究でこの機序の解明につながる結果が得られたことを、米ペンシルベニア大学のJoshua Soto Ocana氏らのグループが発表した。詳細は、「Science Advances」に7月21日号に掲載された。 C. difficileは世界の抗菌薬関連下痢症の主要な原因菌である。CDIは、軽度の下痢から複雑な感染症まで多様な症状を引き起こし、死亡の原因になることもある。先行研究では、インドメタシンやアスピリン、ナプロキセンといったNSAIDsが、CDI患者だけでなく、クローン病や潰瘍性大腸炎といった炎症性腸疾患(IBD)の患者の消化管に有害な影響を与えることが示されていた。 また、長期間のNSAIDsの使用は、胃潰瘍や小腸壁の出血および穿孔といったさまざまな問題を引き起こすことがある。その理由には、NSAIDsによるシクロオキシゲナーゼ(COX)阻害が関与しており、そのプロセスによって炎症や痛みが抑制される一方で、上部消化管の粘膜機能が障害される可能性が示唆されている。さらに、NSAIDsが、本来の標的とは異なる細胞内小器官のミトコンドリアと相互作用して脱共役を起こし、ATP産生を低下させるなど、ミトコンドリアの機能を阻害するオフターゲット効果を持つことを示した研究報告もあるという。 研究グループは今回、in vitroおよびCDIマウスを用いた研究で、NSAIDsの一種であるインドメタシンの存在下で大腸上皮細胞の透過性を評価し、NSAIDsがどのようにCDIを悪化させるのかを明らかにしようと試みた。 その結果、インドメタシンとC. difficile由来の毒素の両方が上皮細胞のバリア透過性と炎症性細胞死を増加させることが明らかになった。この効果は相乗的であり、毒素とインドメタシンの両方が細胞透過性を高める作用は、それぞれ単独で作用した場合よりも大きかった。また、インドメタシンは、大腸の粘膜細胞のミトコンドリアにオフターゲット効果を与えて、C. difficile由来の毒性によるダメージを大きくする可能性のあることも示された。ただし、動物実験の結果が必ずヒトに当てはまるとは限らない。 論文の上席著者で、米ペンシルベニア大学病理診断学助教のJoseph Zackular氏は、「われわれの研究は、CDI患者にとってNSAIDsが臨床的に問題となることをさらに示したものだ。なぜNSAIDsとC. difficileの二つが組み合わさるとこのような有害な影響がもたらされるのか、その理由を解明するための一助となる知見が得られた」と述べている。 Zackular氏はさらに、「この知見は、C. difficile感染時のミトコンドリアの機能への影響について理解を深めるための研究の第一歩となるものだ。今回の研究から得られたデータはまた、NSAIDsを介したミトコンドリア脱共役が、小腸損傷やIBD、大腸がんといった他の疾患に与える影響についての有用な情報となる可能性がある」との見方を示している。 なお、本研究は、米国立衛生研究所(NIH)の助成を受けて実施された。

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にきびに対して最も効果的な治療法とは?

 生活の質(QOL)に大きな影響を与えかねないにきび(ざ瘡)に対する最も効果的な治療法は何なのだろうか。台大病院(台湾)のChung-Yen Huang氏らによる200件以上の研究を対象にしたレビューから、その答えは、経口イソトレチノイン(商品名アキュテイン)であることが明らかになった。この研究結果は、「Annals of Family Medicine」7/8月号に掲載された。 Huang氏らは、にきびに対する薬物療法に関する包括的な比較を行うために、論文データベースを用いて2022年2月までに発表された関連論文を検索し、221件の臨床試験を含む210件の研究論文(対象者の総計6万5,601人、平均年齢20.4歳)をレビュー対象として抽出。これらの研究で検討されていた37種類のにきび治療法を、総皮疹数、炎症性皮疹数、非炎症性皮疹数の減少率に基づき比較した。対象とした37種類のにきび治療法には、外用と経口の抗菌薬、外用レチノイド、経口イソトレチノイン、過酸化ベンゾイル(BPO)、アゼライン酸、ホルモン治療薬の単剤療法と併用療法が含まれていた。治療期間中央値は12週間だった。 解析の結果、総皮疹数、炎症性皮疹数、非炎症性皮疹数のいずれについても、最も効果的な治療法は経口イソトレチノインであることが示された。イソトレチノインは、皮脂腺を縮小して皮脂分泌を抑制するとともに抗炎症作用も持つ。 経口イソトレチノインに次いで効果的な治療法は、総皮疹数と非炎症性皮疹数に対してはいずれも、外用の抗菌薬・BPO・レチノイドの3剤併用療法、経口抗菌薬・外用BPO・外用レチノイドの3剤併用療法の順であった。炎症性皮疹数に対しては、2番目に効果的な治療法が外用抗菌薬と外用アゼライン酸の2剤併用療法、3番目が経口抗菌薬・外用BPO・外用レチノイドの3剤併用療法であった。また、単剤療法に関しては、経口または外用抗菌薬と外用レチノイドは炎症性皮疹数に対して同等の効果があるが、抗菌薬は非炎症性皮疹数に対してあまり効果のないことが示された。 今回の研究には関与していない、米アラバマ州バーミンガムを拠点とする皮膚科医であるJulie Harper氏は、「経口イソトレチノインは、にきびの治療薬として最も効果が期待できる薬だ。イソトレチノインを服用した多くの人で、にきびが消えるだけでなく、その状態を長期にわたり維持できる」と言う。ただし、副作用として肝障害や抑うつ症状などが生じたり、妊娠中の女性では胎児に重篤な先天異常をもたらす可能性もあるため、誰もが服用できる薬剤ではないことも同氏は指摘している。 また、米ボストンの皮膚科医であるEmmy Graber氏は、「臨床試験参加者は、外用の抗菌薬・BPO・レチノイドによる3剤併用療法を処方されても遵守する可能性が高いが、実臨床で患者に複数の外用薬を1日に何度も使わせるのは困難だ」と指摘する。そして、「外用薬でも優れた効果を得ることはできるが、そのために重要になるのがコンプライアンスと併用だ」と述べ、「3剤併用療法では、内服薬を含める方が外用薬だけを3種類用いるよりも効果的だろう」との見方を示している。 一方、米Acne Treatment & Research Center(にきび治療研究センター)のメディカルディレクターを務めるHilary Baldwin氏は、「全ての外用レチノイドが同じように作られているわけではないのに、この研究では、外用レチノイドとしてまとめられている。外用レチノイドの強さを一括りにして評価することは不可能だ」と研究の限界点に言及する。同氏はさらに、「にきびは、その数だけでなく、病変の大きさ(赤み)も評価して、重症度を判断するべきだ」と主張する。さらに、「患者ごとにパラメーターは大きく異なっており、にきびの治療成績は、治療の遵守、皮膚の敏感さ、ライフスタイルの特徴など多くの要因に左右されるものだ」と説明している。

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不要な抗菌薬処方、60歳以上の医師に多く特定の医師に集中か

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を含むウイルス感染症には、抗菌薬が無効であるにもかかわらず、抗菌薬が処方されている実態が報告されている1,2)。ただし、抗菌薬処方に関連する医師や患者の特徴については明らかになっていない。そこで、東京大学大学院医学系研究科の宮脇 敦士氏らは、本邦の一般開業医を対象としたデータベース(Japan Medical Data Survey:JAMDAS)を用いて、COVID-19の外来受診データを分析した。その結果、本邦の新型コロナのプライマリケアにおいて、抗菌薬の処方は少数の診療所に集中していた。また、60歳以上の医師は抗菌薬の処方が多かった。本研究結果は、JAMA Network Open誌2023年7月25日号のリサーチレターで報告された。新型コロナの抗菌薬処方の傾向についてJAMDASを用いて解析 2020年4月1日~2023年2月28日の期間において、継続観察された843診療所の新型コロナの外来受診データ(JAMDAS)を分析し、抗菌薬処方の傾向について検討した。ロジスティック回帰モデル(月と都道府県で調整)を用いて、患者特性(性、年齢、合併症の有無)や医師特性(性、年齢)と抗菌薬処方の関連を調べた。なお、抗菌薬の処方が適切である可能性のある疾患の診断を有する患者の受診データは除外した。 JAMDASを用いて新型コロナの抗菌薬処方の傾向について検討した主な結果は以下のとおり。・COVID-19患者52万8,676例(年齢中央値33歳[四分位範囲:15~49]、女性51.6%)のうち、4万7,329例(9.0%)に抗菌薬が処方された。・新型コロナで最も多く処方された抗菌薬は、クラリスロマイシン(25.1%)であった。次いで、セフカペン(19.9%)、セフジトレン(10.2%)、レボフロキサシン(9.9%)、アモキシシリン(9.4%)の順に多かった。・新型コロナの抗菌薬処方絶対数の上位10%の診療所で、全体の処方数の85.2%を占めていた。・新型コロナの抗菌薬処方絶対数の上位10%の診療所における抗菌薬の平均処方率が29.0%であったのに対し、残りの90%の診療所における抗菌薬の平均処方率は1.9%であった。・医師が新型コロナに抗菌薬を処方する割合は、44歳以下の医師と比較して、60歳以上の医師で高かった(調整オッズ比[aOR]:2.38、95%信頼区間[CI]:1.19~4.47、p=0.03)。医師の性別によって、抗菌薬の処方に違いはなかった。・新型コロナ患者が抗菌薬を処方される割合は、18歳未満の患者と比較して、18~39歳(aOR:1.69、95%CI:1.37~2.09、p<0.001)および40~64歳(aOR:1.36、95%CI:1.11~1.66、p=0.01)の患者で高かった。・併存疾患のない新型コロナ患者と比較して、併存疾患を有する患者は抗菌薬を処方される割合が高かった(aOR:1.48、95%CI:1.09~2.00、p=0.03)。 本研究結果について、著者らは「本研究の限界として、患者の重症度など、未測定の交絡因子の影響を十分に考慮できないこと、JAMDASに含まれない診療所などへの一般化可能性には限界があることなどが挙げられる」としたうえで、「本研究結果は、抗菌薬の適正使用促進の取り組みに役立つ可能性がある」とまとめた。

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小児の急性副鼻腔炎、鼻汁の色で判断せず細菌検査を/JAMA

 急性副鼻腔炎の小児において、鼻咽頭から細菌が検出されなかった患児は検出された患児に比べ抗菌薬による治療効果が有意に低く、その有意差を鼻汁の色では認められなかったことが、米国・ピッツバーグ大学のNader Shaikh氏らによる多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験で示された。急性副鼻腔炎とウイルス性上気道感染症の症状の大半は見分けることができない。そのため小児の中には、急性副鼻腔炎と診断されて抗菌薬による治療を受けても有益性がない集団が存在することが示唆されていた。結果を踏まえて著者は、「診察時に特異的な細菌検査をすることが、急性副鼻腔炎の小児における抗菌薬の不適切使用を減らす戦略となりうる」とまとめている。JAMA誌2023年7月25日号掲載の報告。急性副鼻腔炎の持続・増悪患児約500例を、抗菌薬群とプラセボ群に無作為化 研究グループは2016年2月~2022年4月に、米国の6機関に付属するプライマリケア診療所において、米国小児科学会の臨床診療ガイドラインに基づいて急性副鼻腔炎と診断された2~11歳の小児で、急性副鼻腔炎が持続または増悪している症例515例を、アモキシシリン(90mg/kg/日)+クラブラン酸(6.4mg/kg/日)投与群(抗菌薬群)またはプラセボ群に1対1の割合に無作為に割り付け、1日2回10日間経口投与した。 割り付けは、鼻汁の色の有無(黄色または緑色と透明)によって層別化した。また、試験開始前および試験終了時の来院時に鼻咽頭スワブを採取し、肺炎球菌、インフルエンザ菌およびモラクセラ・カタラーリスの同定を行った。 主要アウトカムは、適格患者(症状日誌の記入が1日以上あり)における診断後10日間の症状負荷で、小児鼻副鼻腔炎症状スコア(Pediatric Rhinosinusitis Symptom Scale:PRSS、範囲:0~40)に基づき判定した。また、鼻咽頭スワブ培養での細菌検出の有無、ならびに鼻汁色でサブグループ解析を行うことを事前に規定した。副次アウトカムは、治療失敗、臨床的に重大な下痢を含む有害事象などとした。診断時の鼻咽頭からの細菌検出の有無で治療効果に有意差あり 無作為化後に不適格であることが判明した5例を除く510例(抗菌薬群254例、プラセボ群256例)が試験対象集団となった。患者背景は、2~5歳が64%、男児54%、白人52%、非ヒスパニック系89%であった。このうち、主要アウトカムの解析対象は、抗菌薬群246例、プラセボ群250例であった。 平均症状スコアは、抗菌薬群9.04(95%信頼区間[CI]:8.71~9.37)、プラセボ群10.60(10.27~10.93)であり、抗菌薬群が有意に低かった(群間差:-1.69、95%CI:-2.07~-1.31)。症状消失までの期間(中央値)は、抗菌薬群(7.0日)がプラセボ群(9.0日)より有意に短縮した(p=0.003)。 サブグループ解析の結果、治療効果は細菌が検出された患児(抗菌薬群173例、プラセボ群182例)と検出されなかった患児(それぞれ73例、65例)で有意差が認められた。平均症状スコアの群間差は、検出群では-1.95(95%CI:-2.40~-1.51)に対し、非検出群では-0.88(95%CI:-1.63~-0.12)であった(交互作用のp=0.02)。 一方、色あり鼻汁の患児(抗菌薬群166例、プラセボ群167例)と透明の鼻汁の患児(それぞれ80例、83例)では、平均症状スコアの群間差はそれぞれ-1.62(95%CI:-2.09~-1.16)、-1.70(95%CI:-2.38~-1.03)であり、治療効果に差はなかった(交互作用のp=0.52)。 なお、著者は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行により試験登録が中断され症例数が目標に達しなかったこと、重症副鼻腔炎の小児は除外されたことなどを研究の限界として挙げている。

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日本人NSCLCへのICI、PPI使用者は化学療法の併用が必要か/京都府立医大ほか

 現在、PD-L1高発現の非小細胞肺がん(NSCLC)患者に対する初回治療の選択肢として、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)単剤療法、複合免疫療法が用いられている。しかし、その使い分けの方法は明らかになっていない。また、プロトンポンプ阻害薬(PPI)、抗菌薬の使用歴があるNSCLC患者は、ICI単剤療法の効果が減弱する可能性が指摘されている1,2)。そこで、京都府立医科大学大学院の河内 勇人氏らは、ペムブロリズマブ単剤療法、複合免疫療法の効果と各薬剤の使用歴の関係について検討した。その結果、PPIの使用歴がある患者は、複合免疫療法の効果がペムブロリズマブ単剤療法と比較して良好であった。一方、PPIの使用歴がない場合は、治療効果に有意差は認められなかった。本研究結果は、JAMA Network Open誌2023年7月11日号で報告された。 国内13施設において、初回治療としてペムブロリズマブ単剤療法(単剤療法群)またはペムブロリズマブと化学療法の併用療法(併用療法群)を受けたPD-L1高発現(TPS≧50%)のNSCLC患者425例を後ろ向きに追跡し、治療開始時の薬剤使用歴(PPI、抗菌薬、ステロイド)を含む患者背景と治療効果の関連を検討した。単剤療法群と併用療法群の比較は、傾向スコアマッチングにより背景因子を揃えて行った。 主な結果は以下のとおり。・単剤療法群は271例(年齢中央値[範囲]:72歳[43~90]、男性:215例)併用療法群は154例(同:69歳[36~86]、男性:121例)が対象となった。・多変量解析の結果、単剤療法群においてPPI使用歴は、無増悪生存期間(PFS)の短縮に有意な関連があった(ハザード比[HR]:1.38、95%信頼区間[CI]:1.00~1.91、p=0.048)。一方、併用療法群では関連が認められなかった(同:0.83、0.48~1.45)。・多変量解析において、単剤療法群と併用療法群のいずれも、抗菌薬使用歴やステロイド使用歴とPFSには有意な関連が認められなかった。・PPI使用歴のある患者集団において、PFS中央値は単独療法群が5.7ヵ月であったのに対し、併用療法群は19.3ヵ月であり、併用療法群は単独療法群と比較してPFSが有意に改善した(HR:0.38、95%CI:0.20~0.72、p=0.002)。・同様に、全生存期間(OS)中央値は単独療法群が18.4ヵ月であったのに対し、併用療法群は未到達であり、併用療法群は単独療法群と比較してOSが有意に改善した(HR:0.43、95%CI:0.20~0.92、p=0.03)。・PPI使用歴のない患者集団において、PFS中央値は単独療法群が10.6ヵ月であったのに対し、併用療法群は18.8ヵ月であったが、併用療法群と単独療法群に有意差は認められなかった(HR:0.81、95%CI:0.56~1.17、p=0.26)。・同様に、OS中央値は単独療法群が29.9ヵ月であったのに対し、併用療法群は未到達であったが、併用療法群と単独療法群に有意差は認められなかった(HR:0.75、95%CI:0.48~1.18、p=0.21)。 著者らは、「PPIの使用歴が、PD-L1高発現のNSCLCに対するペムブロリズマブ単剤療法と複合免疫療法の治療選択の予測因子として、有用であるであることが示唆された。すなわち、いずれの治療選択肢も選択可能な患者では、PPIの使用歴がある場合、複合免疫療法が推奨される治療法であると考えられた」とまとめた。

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動物咬傷(蛇)【いざというとき役立つ!救急処置おさらい帳】第5回

今回は蛇咬傷についてです。私は小さいころにアオダイショウの首根っこを捕まえてかまれたことがありますが、大した傷もなく、とくに何の治療もしませんでした。しかし、蛇にかまれた患者さんは傷に関して困っているのではなく、「毒蛇かもしれない」という恐怖を感じていることが多いように思います。今回は毒蛇かどうかを見分けるコツとその治療を紹介します。<症例>10歳代、男子関東の公園に遊びに行き、蛇が泳いでいるのを見つけた。追いかけて捕まえたら指をかまれた。蛇の種類がわからず、親が毒蛇の可能性を考えて救急外来を受診させた。アレルギー歴、既往歴、内服薬:特記事項なし右手の人差し指に擦過創あり(図1)図1 擦過創のような傷画像を拡大する画像を拡大するこの患者さんの対応について順を追って考えてみましょう。現在日本には60種類程度の蛇が存在していると言われています1)。データは少ないですが、蛇咬傷による入院で最も頻度が高いのがマムシ、次いでハブ、まれにヤマカガシです2)。よって、今回はマムシとハブを重点的に記載し、最後にヤマカガシに触れます。毒蛇かどうかの判断(1)蛇の種類を特定するマムシは北緯30度(鹿児島県の口之島)~46度(日本の最北端)に広く生息し、ハブは北緯24度~29度と沖縄周辺に生息しています2)。そのため、かまれた地域でマムシかハブか悩むことは少ないです。では、マムシorハブvs.そのほかの蛇を区別するにはどうしたらよいでしょうか? 蛇の模様は個体差が大きいので手っ取り早く見分けるとしたら頭の形です。毒蛇は三角形の頭をしていることが多いです。とっさのことですので難しいですが…。マムシ体に斑紋があり、頭が三角形に近い形をしている。ハブ 毒腺と毒をしぼり出す筋肉があるため、あごが張った三角形をしている。大部分のハブの背中には、黄色をベースにした黒の絣模様があるが種類によって異なる。図2 左:無毒の蛇、右:毒蛇の頭部の例最近ではスマートフォンを持っている人が多いため、写真に撮って持って来てくれるケースが多くなりました。今回の患者さんも動画を撮ってくれていました。少し画像が粗いですがアオダイショウとわかります(図3)。図3 患者さんが持ってきてくれた動画の一部(2)かみ傷を確認する動画があったので本症例は毒蛇でないことがわかるのですが、それだと話が終わってしまうので、動画や写真がなかったとしましょう。その場合、かみ傷を確認します。冒頭の図1の写真を見てもらいたいのですが、擦り傷のようなかみ傷が多数あります。マムシやハブにかまれた場合はこういった傷にはなりにくいです。というのも、マムシやハブなどの毒蛇は毒を体内に注入するための鋭い2本の歯を持っています(図4)。図4 左:マムシの歯、右:ハブの歯このためかみ傷は2つの小さな穴が空いたような傷になり、図1のような傷にはなりにくいです(図5)。よって、本症例は毒蛇にかまれた可能性は低いと考えます。図5 マムシやハブのかみ傷のイメージ報告によると、2つ穴のかみ傷が毒蛇咬傷を示唆する感度は100%、陽性的中率は89%で、図1のような擦過創の場合の毒蛇以外の咬傷を示唆する陽性的中率は100%とのことです3)。(3)腫れ具合を確認するかみ傷で毒蛇であるかどうかはだいたい判断できますが、腫れ具合がおかしいときは悩むことがあります。毒素が入った場合、通常の咬傷では考えられない急速な腫脹が広がり、水泡などが伴うことがあります(図6)。「指先をかまれて2時間ほどしたら手首も腫れてきた」というのは通常の咬傷では起き得ず、感染が生じるにしても早すぎるため違和感を持ちましょう。一説によると受傷後、3時間経っても腫脹が進展している場合は重傷化の可能性があるとされています4)。よって、かまれてすぐに受診した場合は外来で数時間フォローする必要があります。時間単位で腫脹が進展する場合は毒蛇にかまれた可能性を考えましょう。本症例は、診察などを合わせて受傷から2時間ほど経過をみましたがわずかな腫脹のみでした。やはり毒蛇にかまれた可能性は低いでしょう。図6 マムシのかみ傷(聖隷横浜病院 入江康仁先生のご厚意で画像をご提供いただきました)以上が毒蛇かどうかを見分けるコツでした。では、診療所でできる毒蛇と毒蛇以外の咬傷の治療方針の決定についてです。蛇咬傷の治療(1)毒蛇以外の場合基本的に、犬や猫による動物咬傷と治療は変わりません3)。まず洗浄してガーゼで保護します。そして、抗菌薬の予防投与や破傷風の予防接種を検討します。本症例は擦過創程度であり、洗浄後にガーゼで保護して帰宅としました。(2)毒蛇の場合毒蛇にかまれ、腫脹が存在する場合は基本的に入院の適応があります。というのも、蛇の毒素は急速に進行し、筋肉の破壊による横紋筋融解、コンパートメント症候群、毒素による血液凝固障害などさまざまな症状が出現し、ショックや急性腎不全など命が脅かされることがあります5)。なので、毒蛇にかまれて症状があると判断した場合は早急に高次医療機関に紹介しましょう。ただし、毒蛇にかまれてもほとんど症状がない患者さんがまれにいて、この場合が悩みます。私自身、「草刈り中に蛇に手をかまれ、持っていた鎌で蛇の首を切り落としたらマムシだった」という強者のおばあちゃんを診たことがあります。かみ傷は2つ穴で確かにマムシにかまれたと考えられるのですが、局所の腫脹はほとんどなく、採血も何も異常がありませんでした。蛇にかまれて毒が入ることを「Wet bite」、無毒の蛇や毒蛇にかまれても毒が入らなかったとき、つまり咬傷による傷害のみの場合を「Dry bite」と言います。毒蛇は一度毒を出すと元通りになるまで14日かかると報告があり、毒がないという毒蛇側の要因や、ほかにもさまざまな要因がかかわることで毒蛇にかまれても20%程度がDry biteになります6,7)。どのようにフォローすべきか悩ましいところですが、毒蛇にかまれてDry biteと判断された場合、12~24時間の経過観察が推奨されており、局所症状の有無にかかわらず入院し、24時間後に何も症状がないことを確認して退院することが推奨されています5,8)。結局のところDry biteは最終的に何もなければDry biteだったという診断になります。ただ、ほぼ無症状の人を入院させるハードルは高く、Dry biteと考えられる局所の軽度の炎症のみの人なら6時間の経過観察で進展がなければ帰宅でもよいという報告もありますが、議論の余地があるようです8)。私は毒蛇咬傷の経験は5例で、Dry biteは2例しか経験がなく、いずれも総合病院の救急外来で診察しました。受傷後2~3時間経っても咬傷部位に変化がなかったものの、リスクを説明して入院を勧めました。2例とも入院を希望しなかったため、腫脹の出現など異変がある場合はすぐに受診するように指導して、翌日外来でフォローしました。重症化した場合は、血清の投与、減張切開、集中治療などが必要になることがあり、もし診療所で診察する場合は可能であれば対応できる病院に紹介するのがよいと考えます。今回は蛇咬傷の治療を紹介しました。私は、蛇にかまれた人に、今後は見つけても近づかない、草むらに入るときは手袋や長ズボンで防御するよう指導しています。近年はペットショップで購入した毒蛇にかまれたなどの報告もあります11)。それらが逃げ出した可能性もあり得るので、やはりむやみに近づかないのが重要です。蛇に関する豆知識意外に危険なヤマカガシ:ヤマカガシは1〜1.5mほどの大きさで、水田、河川付近に生息しています。牙は後方に位置し、毒腺はその根元に開口しています(図6)。ヤマカガシ毒の作用は、ほぼ血液凝固促進作用のみであり、ハブやマムシ毒のように直接組織を損傷させることはないため、局所症状がなく診断は難しいです。症状は受傷後数時間して、強烈な頭痛とともに血栓を生じ、梗塞部位からの出血症状(脳出血、歯肉出血)が出現します。ただし、報告数は40年間で34件しかなく珍しい疾患です9)。図7に示すように歯が後ろにあるため、よほどしっかりとかみつかれないと毒は入りません。そのため、かまれても毒が入らないケースが多く、医療者も無毒と考えていることが多いようです。実は私も無毒だと思っていました…。外観の観察によって蛇の種類を特定しようにも、ヤマカガシは地域によって色が違い、個体差が大きいため難しいです10)。もし迷うようでしたらジャパンスネークセンターの毒蛇110番という連絡先がありますので相談することも1つの手です。図7 ヤマカガシ(毒牙は棒の先端に乗っている小さなとげ)中枢側を縛るべき?傷口から毒を吸い出す?:昔の映画で毒蛇にかまれた際に、中枢側(指先であれば前腕)を縛るシーンがよく出てきました。これは、血流に乗った毒が中枢側に行かないようにするために行われたそうですが、残念ながら有効性は証明されず現在は推奨されていません。同様に、傷口に口を付けて毒を吸い出す処置も昔は行われていましたが、これも効果がなく、口腔内は雑菌だらけで感染のリスクを上げるため現在では推奨されていません。現在のところ傷口の処置で推奨されているのは患部の安静です5)。1)鳥羽 通. 爬虫両棲類学会報. 2007;2007:182-203. 2)Yasunaga H, et al. Am J Trop Med Hyg. 2011;84:135-136.3)Savu AN, et al. Plast Reconstr Surg Glob Open. 2021;9:e3778.4)辻本登志英ほか. 日本救急医学会雑誌. 2017;2:48-54.5)Ralph R, et al. BMJ. 2022;376:e057926.6)Pucca MB, et al. Toxins(Basel). 2020;12:668.7)Young BA, et al. BioScience. 2002;52:1121-1126.8)Naik BS. Toxicon. 2017;133:63-67. 9)抗毒素製剤の高品質化、及び抗毒素製剤を用いた治療体制に資する研究 [AMED阿戸班] ヤマカガシ10)ジャパン・スネークセンター 身近な毒ヘビ11)大野 裕ほか.日本臨床救急医学会雑誌. 2022;25:735-739.

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ウクライナの戦争負傷者で薬剤耐性菌が増加

 ウクライナで戦争により負傷して入院した患者の多くが、極度の薬剤耐性を獲得した細菌に感染していることが、ルンド大学(スウェーデン)臨床細菌学分野教授のKristian Riesbeck氏らによる研究で示された。研究グループは、このような状況が戦争により荒廃したウクライナの負傷者や病人に対する治療をいっそう困難なものにしているとの危惧を示している。この研究は、「The Lancet Infectious Diseases」7月号に掲載された。 Riesbeck氏は、「私はこれまでに多くの薬剤耐性菌と患者を目にしてきたため慣れているが、今回目撃したほど強烈な薬剤耐性菌に遭遇したことは、これまでなかった」と話している。 今回の研究は、国立ピロゴフ記念医科大学(ウクライナ)の微生物学者であるOleksandr Nazarchuk氏が、戦争で負傷した入院患者から採取した検体に含まれる細菌が、どの程度薬剤耐性を獲得しているのかを調べるために、ルンド大学に協力を求めて実施された。対象患者はいずれも、重症のやけどや榴散弾による負傷、骨折により緊急手術や集中治療が必要だった。患者の傷ややけどの部位に感染の兆候が認められた場合には、皮膚や軟部組織から検体を採取した。また、中心静脈カテーテルを使用している患者に感染の兆候が認められた場合にはカテーテル先端の培養を行い、人工呼吸器関連肺炎の兆候が認められた患者からは気管支洗浄液の採取を行った。総計141人(負傷した成人133人、肺炎と診断された乳幼児8人)の患者から156株の細菌株が分離された。これらの菌株について、まず、広い抗菌スペクトルを持つカルバペネム系抗菌薬のメロペネムに対する耐性をディスク拡散法で調べた。次いで、耐性が確認されるか抗菌薬への曝露増加に感受性を示した株については、微量液体希釈法での分析が行われた。 その結果、テストした154株中89株(58%)がメロペネム耐性を示すことが明らかになった。耐性を示した菌株は、肺炎桿菌(34/45株、76%)とアシネトバクター・バウマニ複合体(38/52株、73%)で特に多かった。また、微量液体希釈法での分析を行った107株中10株(9%;肺炎桿菌9株、プロビデンシア・スチュアルティ1株)は、「最後の砦」とされる抗菌薬のコリスチンにさえ耐性を示した。さらに156株中の9株(6%、いずれも肺炎桿菌)は、新しい酵素阻害薬(β-ラクタマーゼ阻害薬配合抗菌薬)を含む、今回の試験で試した全ての抗菌薬に対して耐性を示した。 Riesbeck氏は、「私は以前、インドや中国で同様のケースに遭遇したことはあるが、この研究で観察された薬剤耐性菌の耐性は次元が違う」と驚きを表す。同氏は特に、肺炎桿菌で認められた耐性に懸念を示す。肺炎桿菌は、健康で免疫系が十分に機能している人にさえ病気を引き起こす可能性があるからだ。同氏は、「これは非常に心配な結果だ。これほど高いレベルの耐性を持つ肺炎桿菌に遭遇することはまれであり、われわれもこのような結果が出るとは予想していなかった」と付け加えた。 Riesbeck氏は、「多くの国がウクライナに軍事援助や資源を提供しているが、同国で進行している薬剤耐性菌の増加という事態への対処を支援することも、それと同じくらい重要だ。薬剤耐性菌のさらなる広がりは、欧州全体にとっての脅威となる可能性がある」と述べている。

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8月1日 肺の日【今日は何の日?】

【8月1日 肺の日】〔由来〕「は(8)い(1)」(肺)と読む語呂合わせから、肺の健康についての理解を深め、呼吸器疾患の早期発見と予防についての知識を普及・啓発することを目的に日本呼吸器学会が1999年に制定し、翌2000年から実施。学会では、肺の病気・治療について全国で一般市民を対象にした講座会や医療相談会を行っている。関連コンテンツ軽症の肺炎は入院適応ではないのか?【救急診療の基礎知識】電子タバコは紙巻きタバコの禁煙には役立たない【患者説明用スライド】抗菌薬の長期使用で肺がんリスクが増加肺炎の予防戦略、改訂中の肺炎診療GLを先取り/日本呼吸器学会軽症の肺炎は入院適応ではないのか?【救急診療の基礎知識】

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オズウイルス感染症に気をつけろッ! その1【新興再興感染症に気を付けろッ!】

ケアネットをご覧の皆さん、こんにちは。大阪大学の忽那です。この連載では、本連載「新興再興感染症に気を付けろッ!」、通称「気を付けろッ」は「新興再興感染症の気を付け方」についてまったりと、そして時にまったりと、つまり一貫してまったりと学んでいくコーナーです。本日のテーマは「オズウイルス感染症」です。皆さんはすでにオズウイルス感染症についてのニュースはご覧になったでしょうか。2023年6月23日、国立感染症研究所から日本初、いやむしろ世界初となるオズウイルス感染症の症例が報告されました。世界で初めて報告されたオズウイルス感染症例症例の概要は以下の通りです。2022年初夏、高血圧症・脂質異常症を基礎疾患に持ち、海外渡航歴のない茨城県在住の70代女性に倦怠感、食欲低下、嘔吐、関節痛が出現し、39℃の発熱が確認された。肺炎の疑いで抗菌薬を処方されて在宅で経過を観察していたが、症状が増悪し、体動困難となったため再度受診し、その後、紹介転院となった。身体所見上は右鼠径部に皮下出血がみられたが皮疹はなかった。血液検査では、血小板減少(6.6万/µL)、肝障害、腎障害、炎症反応高値(CRP22.82mg/dL)、CK高値(2,049U/L、CK-MB14IU/L)、LDH高値(671U/L)、フェリチン高値(10,729ng/mL)が認められた。入院時、右鼠径部に飽血に近い状態のマダニの咬着が確認されたため、マダニ媒介感染症が疑われたが、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)やリケッチア症は陰性であった。入院後、心筋炎によるものと考えられる房室ブロックが出現し、ペースメーカーが留置され、心筋炎が疑われた。入院20日目には意識障害が出現し、多発脳梗塞が確認されたため抗凝固療法を開始した。治療継続中の入院26日目、突如心室細動が生じて死亡し、病理解剖が行われた。キーワード的には、「マダニ刺咬後の発熱」「血小板減少」「肝障害」「腎障害」「CK上昇」「フェリチン高値」「心筋炎」「凝固障害」などでしょうか。マダニ媒介感染症は流行地域も重要ですので、「茨城県」というのも大事な情報です。とくに心筋炎については、他のマダニ媒介感染症でもあまり報告がなく、オズウイルス感染症に特徴的なのかもしれません。とはいえ、まだ世界で1例ですので、オズウイルス感染症の典型的な経過なのかもよくわかっていません。オズウイルス肉眼で確認この症例は、原因不明でありましたが、茨城県衛生研究所において実施した次世代シーケンサー(NGS)によるメタゲノム解析とMePIC v2.0を用いた検索で、血液、尿などの検体からオズウイルスの遺伝子断片が検出され、国立感染症研究所でウイルスが分離され、遺伝子の配列が解析された結果、オズウイルスであることが確認されました(図1)。図1 患者検体から分離されたオズウイルス粒子の電子顕微鏡写真画像を拡大する(出典:国立感染症研究所.IASR.「初めて診断されたオズウイルス感染症患者」)本症例で初めてオズウイルスがみつかったわけではなく、実は以前からオズウイルスの存在は知られていました。ヒトで世界初の感染例なのに、その前からウイルスの存在が知られており、本症例ではそのオズウイルスの遺伝子断片を検出するためのRT-PCR検査まで行われています。これはなぜかと言うと、マダニからオズウイルスからみつかっており、「いつかこのようなオズウイルスによるヒト感染例が現れるのではないか」と予想され検査体制も整えられていたためです。ぶっちゃけ、マダニ媒介感染症の世界では、SFTSがみつかって以降、ヒトでの感染例が出る前から、マダニが持っているウイルスを先回りして調べるというのがトレンドとなっており、このオズウイルスも2018年に愛媛県のタカサゴキララマダニというマダニからオズウイルスがみつかっていました1)(なお、このオズウイルスは現時点では日本以外の国ではみつかっていません)。オズウイルスの正体とは、バーボンとの関係はオズウイルス(通は「OZV」と呼ぶ)は、オルソミクソウイルス科トゴトウイルス属に属するウイルスです。オルソミクスウイルス科と言えばインフルエンザウイルスが有名ですね。オルソミクスウイルスは、(1)Influenzavirus A、(2)Influenzavirus B、(3)Influenzavirus C、(4)Thogotovirus(トゴトウイルス)、(5)Isavirus(アイサウイルス)の5つの属に分類されます。トゴトウイルス属には他にもトゴトウイルス、ドーリウイルスなどがあり、とくにオズウイルスはアメリカで報告されている「バーボンウイルス」に近縁のウイルスです。えっ…バーボンウイルスを知らないッ!?バーボンウイルス感染症は、2014年にカンザス州東部のバーボン郡の住民が感染したとして初めて報告され2)、その後ミズーリ州でも観察されている感染症です。お酒のバーボンとは関係ありません。このバーボンウイルスも致死率の高い感染症であり、その類縁ウイルスということでオズウイルスもヒトが感染すれば重症度は高いのではないかと予想されていました。ではわが国で今後もオズウイルス感染症の症例が報告される可能性はあるのでしょうか?次回、その可能性を解説します!1)Ejiri H, et al. Virus Res. 2018;249:57-65.2)Kosoy OI, et al. Emerg Infect Dis. 2015;21:760-764.

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人工骨頭置換術の骨セメント、抗菌薬1剤含有vs.高用量2剤含有/Lancet

 大腿骨頸部内側骨折で人工骨頭置換術を受ける60歳以上の患者において、高用量抗菌薬2剤含有骨セメントを使用しても深部手術部位感染の発生率は減少しなかった。英国・Northumbria Healthcare NHS Foundation TrustのNickil R. Agni氏らが、同国の26施設で実施した無作為化比較試験「WHiTE 8試験」の結果を報告した。股関節骨折の人工骨頭置換術では、深部手術部位感染のリスクを減らすため抗菌薬含有骨セメントが使用されているが、最近登場した高用量抗菌薬2剤含有骨セメントの使用に関しては議論の的となっていた。Lancet誌2023年7月15日号掲載の報告。無作為化後90日以内の深部手術部位感染の発生を比較 研究グループは、人工骨頭置換術を予定している60歳以上の転位型大腿骨頸部内側骨折患者を、セメント40g当たりゲンタマイシン0.5gを含有する骨セメント群(標準治療群)と、セメント40g当たりゲンタマイシン1gおよびクリンダマイシン1gを含有する骨セメント群(高用量抗菌薬2剤含有骨セメント群)に、1対1の割合で無作為に割り付けた。患者および評価者は盲検化された。 120日後に患者(または主たる介護人)に電話インタビューを行うとともに、手術記録、抗菌薬の詳細、画像診断報告等を含む医療記録からアウトカムに関するデータを入手した。 主要アウトカムは、120日時点のデータ入手に同意が得られた患者集団における、無作為化後90日以内の深部手術部位感染(米国疾病予防管理センターの定義による)であった。副次アウトカムは、120日時点における死亡率、抗菌薬の使用状況、健康関連QOLなどであった。抗菌薬1剤含有と2剤含有で、有意差なし 2018年8月17日~2021年8月5日の間に、4,936例が標準治療群(2,453例)または高用量抗菌薬2剤含有骨セメント群(2,483例)に無作為に割り付けられた。追跡終了日は2022年1月2日。 無作為化後90日以内の深部手術部位感染の発生は、標準治療群では主要アウトカム解析対象の2,183例中38例(1.7%)に、高用量抗菌薬2剤含有骨セメント群では2,214例中27例(1.2%)に認められた。 補正オッズ比は1.43(95%信頼区間[CI]:0.87~2.35、p=0.16)で、両群に有意差はなかった。

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思わぬ情報収集から服薬直前の抗菌薬の変更を提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第55回

 今回は、抗菌薬の服薬直前に患者さんから飛び出た思わぬ発言から処方変更につなげた症例を紹介します。患者さんの話をしっかり聞き、気になることは深掘りすることが大事だと改めて感じた事例です。患者情報50歳、男性(施設入居中)基礎疾患多発性血管炎性肉芽腫、脊髄梗塞、仙骨部褥瘡既往歴半年前に総胆管結石性胆管炎副作用歴シロスタゾールによる消化管出血疑い処方内容1.アザルフィジン錠50mg 1錠 朝食後2.プレドニゾロン錠5mg 2錠 朝食後3.ランソプラゾールOD錠15mg 1錠 朝食後4.アムロジピン錠5mg 1錠 朝食後5.エルデカルシトールカプセル0.75μg 1C 朝食後6.アピキサバン錠5mg 2錠 朝夕食後7.マクロゴール4000・塩化ナトリウム・炭酸水素ナトリウム・塩化カリウム散 13.7046g 朝食後本症例のポイント訪問診療に同行したところ、この患者さんは褥瘡の状態が悪く、処置後の感染リスクを考慮して抗菌薬が処方されることになりました。アモキシシリン・クラブラン配合薬+アモキシシリン単剤(オグサワ処方)が処方となり、緊急対応の指示で当日中の服薬開始となりました。薬を準備して再度訪問した際に、患者さんより「過去に抗菌薬でひどい目にあったと思うんだよなぁ」と発言がありました。お薬手帳や過去の診療情報提供書には抗菌薬による副作用の記載はなく、その症状はいつ・何があったときに服用した薬なのかを患者さん確認してみると、「胆管炎を起こして入院したとき、抗菌薬を服用して2日目くらいに悪心と発疹が出て具合がものすごく悪くなった。医師に相談したら薬剤誘発性リンパ球刺激試験(DLST)のようなものを行ったら抗菌薬が原因だということで治療内容が変更になったことがある」とのことでした。準備した薬は服薬させず、過去に胆管炎で入院した病院に連絡し、病院薬剤師に詳細を確認することにしました。担当薬剤師によると、副作用の登録はシロスタゾールしかありませんでしたが、カルテの詳細な経過を追跡調査してもらうことにしました。すると、胆管炎時に使用したアンピシリン・スルバクタムを投与したところ、アナフィラキシー様反応があったという医師記録があり、投与を中止して他剤へ変更したことがわかりました。処方提案と経過病院薬剤師から得たペニシリン系抗菌薬アレルギーの結果をもとに、医師にすぐ電話連絡をして事情を話しました。そこで、代替薬として皮膚移行性が良好かつ表層菌をターゲットにできるドキシサイクリンを提案しました。医師より変更承認をいただき、ドキシサイクリン100mg 2錠 朝夕食後へ変更となり、即日対応で開始となりました。施設スタッフおよび本人には、過去に副作用が生じた抗菌薬とは別系統で問題ない旨を伝えて安心してもらいました。お薬手帳にも今後の重要な情報なのでペニシリンアレルギーの記載を入れ、臨時で受診などがある場合は必ずこのことを伝えるように共有しました。変更対応後に皮疹や悪心、下痢、めまいなどが出現することなく経過し、皮膚症状も悪化することなく無事に抗菌薬による治療は終了となりました。

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ヒドロコルチゾン単体では敗血症性ショックによる死亡リスクは低下せず

 敗血症性ショックの患者に副腎皮質ステロイド(以下、ステロイド)のヒドロコルチゾンを単独投与しても死亡リスクを低下させることはできないが、他のステロイドと併用することで生存率が向上し、昇圧薬を使用せずに済む可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)の麻酔科教授であるRomain Pirracchio氏らが実施したこの研究結果は、「NEJM Evidence」に5月22日掲載された。 敗血症とは、感染に対して全身が極端な反応を示し、心臓や肺などの体の重要な臓器に障害が生じる病態をいう。毎年、世界中で約5500万人が敗血症を発症し、1100万人が死亡している。敗血症では早期に気付くことが重要であり、治療としては、感染源のコントロール、抗菌薬の投与、輸液、昇圧薬(血圧を上昇させる働きを持つ薬剤)の投与などが行われる。敗血症のうち、輸液負荷を行っても血圧が危険なレベルに低下した状態が続き、血中乳酸値が高いままの病態を敗血症性ショックと呼ぶ。 敗血症性ショックに対する治療では、ステロイドが50年以上前から使用されているが、それが患者の死亡に与える影響については不明な点が多い。今回、Pirracchio氏をメンバーに含む国際共同研究チームは、敗血症性ショックの成人患者の管理におけるヒドロコルチゾンの静脈内投与の効果について、メタ解析で検討した。最大400mg/日のヒドロコルチゾンの静脈内投与を72時間以上受けた敗血症または敗血症性ショックの成人患者の群と、プラセボか通常のケア、または別のレジメンでヒドロコルチゾンの投与を受けた対照群を比較したランダム化比較試験を検索し、計24件の臨床試験(対象者の総計8,528人)を選出した。このうち17件の研究(同7,882人)には個々の患者データが、また7件の研究(同5,929人)には90日間での死亡率に関するデータがそろっていた。主要評価項目は90日間での全死亡、副次評価項目は、28日および180日時点での集中治療室での全死亡または退院、昇圧薬や人工呼吸器離脱までの時間、昇圧薬や人工呼吸器の使用・臓器不全が認められない日数とした。 その結果、ヒドロコルチゾン群では対照群と比べて90日間での死亡率の有意な低下は認められなかった(相対リスク0.93、95%信頼区間0.82〜1.04、P=0.22)。ただし、二次解析では、ヒドロコルチゾンに加え、同じくステロイドのフルドロコルチゾンを併用した場合には、対照群に比べて90日間での死亡率に有意な低下が認められた(同0.86、0.79〜0.92)。副次評価項目に関しては、昇圧薬の使用についてのみ、対照群との間に有意な差が認められ、ヒドロコルチゾン群では昇圧薬を必要としない日数が平均1.24日多かった。 Pirracchio氏は、「本研究は、敗血症性ショック患者に対するヒドロコルチゾン投与の効果を、これまでに報告された主なランダム化比較試験の個々のデータの分析により初めて検討したものだ」と述べる。そして、「本研究により、敗血症性ショックによる死亡に対するヒドロコルチゾン投与の効果はわずかではあるが、投与することで患者への昇圧薬の使用を控えることができ、その結果、合併症を予防できる可能性のあることが明らかになった。また、ヒドロコルチゾンとフルドロコルチゾンの併用は、死亡率の点では大きなベネフィットをもたらす可能性も示唆された」と話している。

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