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Austrian症候群【1分間で学べる感染症】第20回

画像を拡大するTake home messageAustrian症候群は、肺炎球菌による肺炎、髄膜炎、感染性心内膜炎の3つがそろった症候群。とくに脾臓摘出後の患者を中心に液性免疫低下患者では、脾臓摘出後重症感染症(overwhelming postsplenectomy infection:OPSI)と呼ばれる致死率の高い重症感染症を引き起こすことがある。皆さんは、Austrian症候群という言葉を聞いたことがありますか。Austrian症候群は、肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)を原因菌とする肺炎、髄膜炎、感染性心内膜炎の3つが、同時または短期間に発生することを特徴とする疾患です。疾患名を覚えることは必須ではありませんが、肺炎球菌による感染症はこれまで取り上げた感染症の中でも頻度が高い感染症であり、肺炎球菌は世界的にも重要な菌の1つです。今回は、Austrian症候群を入口として、肺炎球菌感染症について学んでいきます。背景Austrian症候群はRichard Heschlがドイツで最初に提唱したとの記述がありますが、正式には1881年にWilliam Oslerによって「Osler's triad(オスラーの3徴)」として報告されました。そして、1957年にRobert Austrianが詳細な臨床報告を発表したことから、その名を取ってAustrian症候群という疾患名で広く認知されています。リスク因子肺炎球菌は、市中肺炎や細菌性髄膜炎、さらに菌血症の原因菌として最も頻度が高い病原体の1つです。リスク因子を持つ患者では、通常よりも侵襲性感染症に進行する可能性が高くなります。具体的には、アルコール多飲、高齢、脾摘後や脾機能低下、免疫抑制(HIV感染者や化学療法中の患者など)が主なリスク因子として挙げられます。臨床症状近年では、Austrian症候群の「オスラーの3徴」がすべてそろうことはまれですが、3つの中で最も頻度の高い肺炎球菌による肺炎患者において、頭痛、発熱、意識障害、項部硬直など髄膜炎を疑う症状を合併する、心雑音、塞栓症状、持続的菌血症などを伴い感染性心内膜炎を疑う所見を合併する、といった場合には、血液培養のみならず髄液検査、心エコー検査(とくに経食道エコー)など、それぞれの診断のための精査を進めることが求められます。治療法、予防Austrian症候群は致死率が高いため、迅速な治療が求められます。臨床的に髄膜炎を疑った段階では、抗菌薬の髄液移行性とペニシリン耐性肺炎球菌の可能性を考慮し、セフトリアキソンとバンコマイシンの併用療法をただちに開始します。とくに脾摘後患者を中心に液性免疫低下患者では、致死率が高い脾臓摘出後重症感染症を引き起こすことがあります。こうしたリスクのある患者に対しては、肺炎球菌感染症の予防のために、積極的な肺炎球菌ワクチン接種やペニシリンの予防内服が推奨されます。1)AUSTRIAN R. AMA Arch Intern Med. 1957;99:539-544.2)Rakocevic R, et al. Cureus. 2019;11:e4486.3)Rubin LG, et al. N Engl J Med. 2014;371:349-356.

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“添付文書に従わない経過観察”の責任は?【医療訴訟の争点】第8回

症例薬剤の添付文書には、使用上の注意や重大な副作用に関する記載があり、副作用にたりうる特定の症状が疑われた場合の処置についての記載がされている。今回は、添付文書に記載の症状が「疑われた」といえるか、添付文書に記載の対応がなされなかった場合の責任等が争われた京都地裁令和3年2月17日判決を紹介する。<登場人物>患者29歳・女性妊娠中、発作性夜間ヘモグロビン尿症(発作性夜間血色素尿症:PNH)の治療のためにエクリズマブ(商品名:ソリリス)投与中。原告患者の夫と子被告総合病院(大学病院)事案の概要は以下の通りである。平成28年(2016年)1月妊娠時にPNHが増悪する可能性を指摘されていたため、被告病院での周産期管理を希望し、被告病院産科を受診。4月4日被告病院血液内科にて、PNHの治療(溶血抑制等)のため、エクリズマブの投与開始(8月22日まで、薬剤による副作用はみられず)7月31日出産のため、被告病院に入院(~8月6日)8月22日午前被告病院血液内科でエクリズマブの投与を受け、帰宅昼過ぎ悪寒、頭痛が発生16時55分本件患者は、被告病院産科に電話し、午前中にエクリズマブの投与を受け、その後、急激な悪寒があり、39.5℃の高熱があること、風邪の症状はないこと等を伝えた。電話対応した助産師は、感冒症状もなく、乳房由来の熱発が考えられるとし、本件患者に対し、乳腺炎と考えられるので、今晩しっかりと授乳をし、明日の朝になっても解熱せず乳房トラブルが出現しているようであれば、電話連絡をするよう指示した。21時18分本件患者の母は、被告病院産科に電話し、熱が40℃から少し下がったものの、悪寒があり、発汗が著明で、起き上がれないため水分摂取ができず脱水であること、手のしびれがあること、体がつらいため授乳ができないこと等を伝えた。21時55分被告病院産科の救急外来を受診し、A医師が診察。診察時、血圧は95/62 mmHgであり、SpO2は98%、脈拍は115回/分、体温は36.3℃(17時に解熱鎮痛剤服用)、項部硬直及びjolt accentuation(頭を左右に振った際の頭痛増悪)はいずれも陰性であった。22時45分乳腺炎は否定的であること、エクリズマブの副作用の可能性があること等から、被告病院血液内科に引き継がれ、B医師が診察した。診察時、本件患者の意識状態に問題はなく、意思疎通可能、移動には介助が必要であるものの短い距離であれば介助なしで歩行可能であった。血液検査(22時15分採血分)上、白血球、好中球、血小板はいずれも基準値内であった。23時30分頃経過観察のため入院となった。8月23日4時25分本件患者の全身に紫斑が出現、血圧67/46mmHg、血小板数3,000/μLとなり、敗血症性ショックと播種性血管内凝固症候群(DIC)の病態に陥った。抗菌薬(タゾバクタム・ピペラシリン[商品名:ゾシンほか])が開始された。10時43分敗血症性ショックとDICからの多臓器不全により、死亡。8月24日本件患者の細菌培養検査の結果が判明し、血液培養から髄膜炎菌が同定された。8月29日薬剤感受性検査の結果、ペニシリン系薬剤に感受性あることが判明した。実際の裁判結果本件では、(1)エクリズマブの副作用につき血液内科の医師が産科の医師に周知すべき義務違反、(2)8月22日夕方に電話対応した助産師の受診指示義務違反、(3)8月22日夜の救急外来受診時の投薬義務違反等が争われた。本稿では、このうちの(3)救急外来受診時の投薬義務違反について取り上げる。本件で問題となったエクリズマブの添付文書には、以下のように記載されている。※注:以下の内容は本件事故当時のものであり、2024年9月に第7版へ改訂されている。「重大な副作用」「髄膜炎菌感染症を誘発することがあるので、投与に際しては同感染症の初期徴候(発熱、頭痛、項部硬直、羞明、精神状態の変化、痙攣、悪心・嘔吐、紫斑、点状出血等)の観察を十分に行い、髄膜炎菌感染症が疑われた場合には、直ちに診察し、抗菌薬の投与等の適切な処置を行う(海外において、死亡に至った重篤な髄膜炎菌感染症が認められている。)。」「使用上の注意」「投与により髄膜炎菌感染症を発症することがあり、海外では死亡例も認められているため、投与に際しては、髄膜炎菌感染症の初期徴候(発熱、頭痛、項部硬直等)に注意して観察を十分に行い、髄膜炎菌感染症が疑われた場合には、直ちに診察し、抗菌剤の投与等の適切な処置を行う。髄膜炎菌感染症は、致命的な経過をたどることがある」この「疑われた場合」の解釈につき、患者側は、「疑われた場合」は「否定できない場合」とほぼ同義であり、症状からみて髄膜炎菌感染症の可能性がある場合には「疑われた場合」に当たる旨主張した。対して、被告病院側は、「疑われた場合」に当たると言えるためには、「否定できない場合」との対比において、「積極的に疑われた場合」あるいは「強く疑われた場合」であることが必要である旨を主張した。このため、添付文書に記載の「疑われた場合」がどのような場合を指すのかが問題となった。裁判所は、添付文書の上記記載の趣旨が、エクリズマブは髄膜炎菌を始めとする感染症を発症しやすくなるという副作用を有し、髄膜炎菌感染症には急速に悪化し致死的な経過をたどる重篤な例が発生しているため、死亡の結果を回避するためのものであることを指摘し、以下の判断を示した(=患者側の主張を積極的に採用するものではないが、被告病院側の主張を排斥した)。積極的に疑われた場合または強く疑われる場合に限定して理解することは、その趣旨に整合するものではない少なくとも、強くはないが相応に疑われる場合(相応の可能性がある場合。他の鑑別すべき複数の疾患とともに検討の俎上にあがり、鑑別診断の対象となり得る場合)を含めて理解する必要がある添付文書の警告の趣旨・理由を強調すると、可能性が低い場合かほとんどゼロに近い場合(単なる除外診断の対象となるにすぎない場合)を含めて理解する余地があるその上で、裁判所は、以下の点を指摘し、本件は添付文書にいう「疑われた場合」にあたるとした。『入院診療計画書』には、「細菌感染や髄膜炎が強く疑われる状況となれば、速やかに抗生剤を投与する」ために入院措置をとった旨が記載されており、担当医は、髄膜炎菌感染症を含む細菌感染の可能性について積極的に疑っていなくとも、相応の疑いないし懸念をもっていたと解されること(CRPや白血球の数値が低い点はウイルス感染の可能性と整合する部分があるものの)ウイルス感染であれば上気道や気管の炎症を伴うことが多いのに、本件でその症状がなかった点は、これを否定する方向に働く事情であり、ウイルス感染の可能性が高いと判断できる状況ではなかったといえること(CRPや白血球の数値が低いことは細菌感染の可能性を否定する方向に働き得る事情ではあるものの)細菌感染の場合、CRPは発症から6~8時間後に反応が現れるといわれており、それまではその値が低いからといって細菌感染の可能性がないとは判断できず、疑いを否定する根拠になるものではないこと。同様に、白血球の数値も重度感染症の場合には減少することもあるとされており、同じく細菌感染の疑いを否定する根拠になるものではないことそして、裁判所は「細菌感染の可能性を疑いながら速やかに抗菌薬を投与せず、また、(省略)…細菌感染の可能性について疑いを抱かなかったために速やかに抗菌薬を投与しなかったといえるから、いずれにしても速やかに抗菌薬を投与すべき注意義務に違反する過失があったというべき」として、被告病院担当医の過失を認めた。この点、被告病院は「すぐに抗菌薬を投与するか経過観察をするかは、いずれもあり得る選択であり、いずれかが正しいというものではない」として医師の裁量である旨を主張したが、裁判所は、以下のとおり判示し、添付文書に従わないことを正当化する合理的根拠とならないとした。「あえて添付文書と異なる経過観察という選択が裁量として許容されるというためには、それを基礎づける合理的根拠がなければならないところ、細菌感染症でない場合に抗菌薬を投与するリスクとして、抗菌薬投与が無駄な治療になるおそれ、アレルギー反応のリスク、肝臓及び腎臓の障害を生じるリスク、炎症の原因判断が困難になるリスクが考えられるが、これらのリスクは、髄膜炎菌感染症を発症していた場合に抗菌薬を投与しなければ致死的な経過をたどるリスクと比較すると、はるかに小さいといえるから、添付文書に従わないことを正当化する合理的根拠となるものではない」注意ポイント解説本件では、添付文書において「髄膜炎菌感染症が疑われた場合には、直ちに診察し、抗菌薬の投与等の適切な処置を行う」となっているところ、抗菌薬の投与等がなされないまま経過観察となっていた。そのため、「疑われた場合」にあたるのか、あたるとして経過観察としたことが医師の裁量として許容されるのかが問題となった。添付文書の記載の解釈について判断が示された比較的新しい裁判例である上、添付文書でもよく目にする「疑われた場合」に関する解釈を示した裁判例として注目される。「疑われた場合」の判断において本判決は、その記載の趣旨が、エクリズマブは髄膜炎菌を始めとする感染症を発症しやすくなる副作用を有し、髄膜炎菌感染症は急速に悪化し致死的な経過をたどる例があり、そのような結果を避けるためであることを理由とする。そのため、本判決の判断が、他の薬剤の添付文書の解釈でも同様に妥当するとは限らない。とくに、可能性が低い場合かほとんどゼロに近い場合(単なる除外診断の対象となるに過ぎない場合)を含めて理解する余地があるかについては、生じうる事態の軽重によりケースバイケースで判断されることとなると考えられる。しかしながら、一定の悪しき事態が生じうることを念頭に添付文書の記載がなされていることからすると、添付文書に「疑われた場合」とある場合は、強くはないが相応に疑われる場合(相応の可能性がある場合。他の鑑別すべき複数の疾患とともに検討の俎上にあがり、鑑別診断の対象となり得る場合)を含めるものとされる可能性が高いと認識しておくことが無難である。また、本判決は、添付文書と異なる対応をすることが医師の裁量として許容されるかについて、生じうるリスクの重大性を比較しており、生じ得るリスクの重大性の比較が考慮要素の一つとして斟酌されることが示されており参考になる。もっとも、添付文書の記載に従ったほうが重大な結果が生じるリスクが高い、という事態はそれほど多くはないと思われるうえ、そのような重大な事態が生じるリスクが高いことを立証することは容易ではないと考えられる。このため、前回(第7回:造影剤アナフィラキシーの責任は?)にコメントしたように、添付文書の記載と異なる使用による責任が回避できるとすれば、それは必要性とリスク等を患者にきちんと説明して同意を得ている場合がほとんどと考えられる(ただし、医師の行ったリスク説明が誤っている場合には、患者の同意があったとして免責されない可能性がある)。なお、本件薬剤の投与にあたり、患者に「患者安全性カード」(感染症に対する抵抗力が弱くなっている可能性があり、感染症が疑われる場合は緊急に診療し必要に応じて抗菌剤治療を行う必要がある旨が記載されたもの)が交付されており、診療にあたりすべての医師に示すように伝えられていたものの、このカードが示されなかったという事情がある。しかし、裁判所は、患者からは本件薬剤の投与を受けている旨の申告がされており、このカードの記載内容は添付文書にも記載されているとして、患者からカードの提示がなかったことが医師の判断を誤らせたという関係にはないとしている。医療者の視点本判決の焦点は、添付文書の記載の解釈でした。しかし、一臨床医としてより重要と考えた点は、「普段使用することが少ない薬剤であっても、しっかりと添付文書を確認し、副作用や留意点に目を通しておく必要がある」ということです。本件においても、関係した医療者がエクリズマブという比較的新しい薬剤の副作用を熟知していれば、あるいは処方した医師や薬剤師から情報共有がなされていれば、このような事態は回避できたかもしれません。エクリズマブの適応疾患は非常に限られており、使用経験のある医師は少ないと考えられます。たとえそのような稀にしか使用されることがない薬剤であっても、その副作用を熟知しておかなければならない、という教訓を示した案件と考えました。昨今は目まぐるしい速度で新薬が発表されています。常に知識・情報をアップデートしていないと、本件のようなトラブルを引き起こしかねません。多忙な勤務の中、各科の学会誌やガイドラインを熟読することは困難です。医療系のウェブサイトやSNSなどを有効的に活用し、効率よく情報を刷新していくことも重要と考えます。Take home message普段使用することが少ない薬剤であっても、その副作用や留意点を熟知しておく必要がある。添付文書に「疑われた場合」とある場合は、強くはないが相応に疑われる場合(相応の可能性がある場合。他の鑑別すべき複数の疾患とともに検討の俎上にあがり、鑑別診断の対象となり得る場合)を含めるものとされる可能性が高い。副作用と疑われる症状が発症した場合、副作用であることを念頭に添付文書の推奨に従って対応することが望ましく、もし添付文書と異なる対応をする場合、患者や家族に十分な説明を行う必要がある。キーワード添付文書(能書)の記載事項と過失との関係最高裁平成8年1月23日判決が、以下のように判断しており、これが裁判上の確立した判断枠組みとなっているため、添付文書の記載と異なる対応の正当化には医学的な裏付けの立証が必要であり、それができない場合には過失があるものとされる。「医薬品の添付文書(能書)の記載事項は、当該医薬品の危険性(副作用等)につき最も高度な情報を有している製造業者又は輸入販売業者が、投与を受ける患者の安全を確保するために、これを使用する医師等に対して必要な情報を提供する目的で記載するものであるから、医師が医薬品を使用するに当たって右文書に記載された使用上の注意事項に従わず、それによって医療事故が発生した場合には、これに従わなかったことにつき特段の合理的理由がない限り、当該医師の過失が推定されるものというべきである」

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小児の急性単純性虫垂炎、抗菌薬は切除に非劣性示せず/Lancet

 小児の急性単純性虫垂炎に対する治療について、抗菌薬投与の虫垂切除術に対する非劣性は示されなかった。米国・Children's MercyのShawn D. St. Peter氏らが、カナダ、米国、フィンランド、スウェーデンおよびシンガポールの小児病院11施設で実施した無作為化非盲検並行群間比較試験の結果を報告した。合併症のない虫垂炎に対して、手術治療よりも非手術的治療を支持する文献が増加していることから、研究グループは抗菌薬投与の虫垂切除術に対する非劣性を検討する試験を行った。Lancet誌2025年1月18日号掲載の報告。抗菌薬群vs.虫垂切除術群、1年以内の治療失敗率を比較 研究グループは、X線検査の有無にかかわらず単純性虫垂炎と臨床診断された5~16歳の小児を、抗菌薬群と虫垂切除術群に、性別、試験施設、症状持続時間(48時間以上vs.48時間未満)で層別化し、1対1の割合で無作為に割り付けた。 抗菌薬群では、観察のため入院した患児に、各施設の虫垂炎に対する標準治療に基づき選択した抗菌薬を最低12時間点滴静注にて投与し、通常食を摂食でき疼痛コントロールが良好でバイタルサインが正常範囲内であれば退院可とした。入院翌日に改善がみられない場合は、抗菌薬をさらに1日投与するか虫垂切除術を予定した。退院後は経口のアモキシシリン・クラブラン酸またはシプロフロキサシンおよびメトロニダゾールを10日分処方し、患児がこれらを7日間以上服用した場合に試験完了とした。家族には、1年以内に虫垂炎が再発した場合、虫垂切除術を行うことが事前に説明された。 虫垂切除術群では、輸液と抗菌薬の点滴を開始した後、腹腔鏡下虫垂切除術を行った。穿孔が認められなければ術後の抗菌薬投与は行わず、当日を含み可能な時点で退院とした。 主要アウトカムは、無作為化後1年以内の治療失敗。抗菌薬群では1年以内の虫垂切除、虫垂切除術群では陰性虫垂切除または1年以内の全身麻酔を要する虫垂炎関連合併症と定義した。 非劣性マージンは、治療失敗率の両群間差の90%信頼区間(CI)の上限が20%とした。治療失敗率、抗菌薬群34% vs.虫垂切除術群7% 2016年1月20日~2021年12月3日に9,988例がスクリーニングを受け、978例が登録された。このうち936例が抗菌薬群(477例)または虫垂切除術群(459例)に無作為に割り付けられた。 12ヵ月時点で、主要アウトカムのデータが得られたのは846例(90%)であった。このうち、治療失敗率は抗菌薬群34%(153/452例)、虫垂切除術群7%(28/394例)、群間差は26.7%(90%CI:22.4~30.9)であり、90%CIの上限が20%を超えており、抗菌薬群の非劣性は検証されなかった。 虫垂切除術群の治療失敗例は、1例を除きすべて陰性虫垂切除の患児であった。抗菌薬群で虫垂切除術を受けた患児のうち、13例(8%)は病理所見が正常であった。 いずれの群でも死亡や重篤な有害事象は認められず、抗菌薬群の虫垂切除術群に対する、治療に関連した有害事象発現の相対リスクは4.3(95%CI:2.1~8.7、p<0.0001)であった。

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敗血症、thymosinα1は死亡率を改善するか/BMJ

 敗血症の成人患者の治療において、プラセボと比較して免疫調整薬thymosinα1は、28日以内の全死因死亡率を低下させず、90日全死因死亡率や集中治療室(ICU)内死亡率も改善しないが、60歳以上や糖尿病を有する患者では有益な効果をもたらす可能性があり、重篤な有害事象の発生率には両群間に差を認めないことが、中国・中山大学のJianfeng Wu氏らTESTS study collaborator groupが実施した「TESTS試験」で示された。研究の詳細は、BMJ誌2025年1月15日号で報告された。中国の無作為化プラセボ対照第III相試験 TESTS試験は、thymosinα1は敗血症患者の死亡率を低減するかの検証を目的とする二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2016年9月~2020年12月に中国の22施設で患者を登録した(Sun Yat-Sen University Clinical Research 5010 Programなどの助成を受けた)。 年齢18~85歳、Sepsis-3基準で敗血症と診断された患者1,106例を対象とし、thymosinα1の投与を受ける群に552例、プラセボ群に554例を無作為に割り付け、それぞれ12時間ごとに7日間皮下注射した。 主要アウトカムは、無作為化から28日の時点における全死因死亡とし、修正ITT集団(試験薬を少なくとも1回投与された患者)について解析した。副次アウトカムもすべて有意差はない 試験薬の投与を受けなかった17例を除く1,089例(年齢中央値65歳[四分位範囲[IQR]:52~73]、男性750例[68.9%])を修正ITT集団とした(thymosinα1群542例、プラセボ群547例)。スクリーニングの時点で1,046例(96.1%)が抗菌薬の投与を受けており、APACHE-IIスコア中央値は14点(IQR:10~19)、SOFAスコア中央値は7点(5~10)だった。 28日全死因死亡は、thymosinα1群で127例(23.4%)、プラセボ群で132例(24.1%)に認め、両群間に有意な差はなかった(ハザード比[HR]:0.99、95%信頼区間[CI]:0.77~1.27、p=0.93[log-rank検定])。また、90日全死因死亡率(thymosinα1群31.0% vs.プラセボ群32.4%、HR:0.94、95%CI:0.76~1.16、p=0.54)にも差はみられなかった。 ICU内死亡率(thymosinα1群8.5% vs.プラセボ群9.9%、p=0.40)、SOFAスコア変化率中央値(38% vs.40%、p=0.56)、28日間における新規感染症発症率(25.3% vs.26.1%、p=0.74)・機械換気を受けない日数中央値(19日vs.21日、p=0.15)・昇圧薬治療を受けない日数中央値(23日vs.23日、p=0.84)・持続的腎代替療法を受けない日数中央値(17日vs.19日、p=0.88)などの副次アウトカムもすべて両群間に有意差を認めなかった。予想外の重篤な有害事象はない 事前に規定されたサブグループ解析では、主要アウトカムの発生率が年齢60歳未満ではthymosinα1群で高かった(HR:1.67、95%CI:1.04~2.67)が、60歳以上ではthymosinα1群で低く(0.81、0.61~1.09)、有意な交互作用を認めた(交互作用のp=0.01)。 また、糖尿病を有する集団ではthymosinα1群で主要アウトカムの発生率が低かった(HR:0.58、95%CI:0.35~0.99)が、糖尿病がない集団ではthymosinα1群で高く(1.16、0.87~1.53)、交互作用は有意であった(交互作用のp=0.04)。さらに、冠動脈性心疾患(p=0.06)および高血圧(p=0.06)を有する集団でも、thymosinα1群で主要アウトカムの発生率が低い傾向がみられた。 90日の追跡期間中に、少なくとも1つの有害事象が、thymosinα1群で360例(66.4%)、プラセボ群で370例(67.6%)に認め(p=0.70)、少なくとも1つの重篤な有害事象は、それぞれ145例(26.8%)および160例(29.3%)に発現した(p=0.38)。全体で最も頻度の高い有害事象は貧血(10.7%)で、次いで発熱(9.6%)、腹部膨満(5.4%)、凝固障害(4.8%)の順であった。試験期間中に、thymosinα1に起因する予想外の重篤な有害事象はみられなかった。 著者は、「thymosinα1が成人敗血症患者の死亡率を減少させるという明確なエビデンスは得られなかったが、本薬の良好な安全性プロファイルが確認された」「thymosinα1は60歳以上の患者や糖尿病などの慢性疾患を有する患者にも有益な効果をもたらす可能性があり、今後、これらの患者に焦点を当てた研究が進むと考えられる」としている。

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敗血症へのβ-ラクタム系薬+VCM、投与順序で予後に差はあるか?

 敗血症が疑われる患者への治療において、β-ラクタム系薬とバンコマイシン(VCM)の併用療法が広く用いられている。しかし、β-ラクタム系薬とVCMの投与順序による予後への影響は明らかになっていない。そこで、近藤 豊氏(順天堂大学大学院医学研究科 救急災害医学 教授)らの研究グループは、β-ラクタム系薬とVCMの併用による治療が行われた敗血症患者を対象として、投与順序の予後への影響を検討した。その結果、β-ラクタム系薬を先に投与した集団で、院内死亡率が低下することが示唆された。本研究結果は、Clinical Infectious Diseases誌オンライン版2024年12月5日号に掲載された。 研究グループは、米国の5施設において後ろ向きコホート研究を実施した。対象は、救急外来到着後24時間以内に、β-ラクタム系薬とVCMの併用による治療が行われた18歳以上の敗血症患者2万5,391例とした。対象患者を抗菌薬の投与順に基づき、β-ラクタム系薬先行群(2万1,449例)、VCM先行群(3,942例)に分類した。主要評価項目は院内死亡率とし、傾向スコアによる逆確立重み付け法(Inverse Probability Weighting:IPW)を用いて解析した。 主な結果は以下のとおり。・β-ラクタム系薬先行群は菌血症(β-ラクタム系薬先行群51.7%、VCM先行群46.4%)、尿路感染症(それぞれ10.3%、7.5%)、腹腔内感染症(それぞれ9.2%、7.7%)が多かった。・VCM先行群は皮膚および筋骨格系感染症(β-ラクタム系薬先行群7.8%、VCM先行群20.0%)、その他の感染症(それぞれ7.3%、10.5%)が多かった。・主要評価項目の院内死亡率は、β-ラクタム系薬先行群13.4%、VCM先行群13.6%であり、未調整の解析では両群間に有意差はみられなかった。しかし、IPW解析ではβ-ラクタム系薬先行群がVCM先行群と比べて、院内死亡のオッズが有意に低下した(調整オッズ比[aOR]:0.89、95%信頼区間[CI]:0.80~0.99、p=0.046)。・サブグループ解析において、敗血性ショックのない集団ではβ-ラクタム系薬先行群がVCM先行群と比べて、院内死亡のオッズが低下した(aOR:0.80、95%CI:0.64~0.99)。その他の集団でも一貫してβ-ラクタム系薬先行群で院内死亡のオッズが低下する傾向にあったが、有意差はみられなかった。・主にVCMを用いて治療されるMRSAが陽性であった集団でも、β-ラクタム系薬先行群はVCM先行群と比べて、院内死亡のオッズが上昇しなかった(aOR:0.91、95%CI:0.55~1.51)。・傾向スコアマッチングを行った場合、院内死亡率について両群間に有意差はみられなかった(aOR:0.94、95%CI:0.82~1.07)。 本研究結果について、著者らは「敗血症治療においてβ-ラクタム系薬とVCMを併用する場合は、β-ラクタム系薬を優先して投与することを支持する結果であった。しかし、本研究は観察研究であり、交絡が残存する可能性を考慮すると、無作為化比較試験による評価が理想的であると考えられる」とまとめた。

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若い女性への再発予防の指導方法について 実際どう指導していますか?【とことん極める!腎盂腎炎】第11回

若い女性への再発予防の指導方法について 実際どう指導していますか?Teaching pointリスク因子を評価し適切な再発予防指導(飲水励行や排泄後の清拭など)までできるようになるはじめに女性は解剖学的に尿路感染症を起こしやすく、約3人に1人は24歳までに尿路感染症を少なくとも1回は経験する1)。尿路感染の既往をもつ女性のうち30〜44%が再発し、0.3〜7.6回/年生じるという報告もあり、生活の質(QOL)にかかわる重要な問題である2)。再発防止は本人のQOL維持、繰り返す抗菌薬曝露による耐性菌発生の予防の観点からも重要である。若い女性への尿路感染症の再発予防の生活指導方法について紹介する。1.若い女性の再発性尿路感染症のリスク因子閉経前の女性のリスク因子として、(1)性的活動の活発であること、(2)殺精子剤の使用、(3)新たな(1年以内の)性的パートナー、(4)尿路感染症の既往のある母親、(5)小児尿路感染症の既往がある。しかし、遺伝的な素因よりも性交や殺精子剤のリスクのほうが大きいとされ、行動への介入は予防可能なリスクとなる3)。2.再発予防への日常生活への指導防御機構とリスク因子を踏まえ予防的な介入を考えていく。本項では介入として日常生活への指導をまとめる(薬剤、サプリメントによる予防は第13回で紹介する)。日常生活への指導の有効性を裏づけるエビデンスは限られるが、介入によるリスクの低さから薬物などによる介入前に実践することが推奨されている。飲水量の増加は単施設であるがRCTで有効性が示されている4)。水分摂取量が少ない(1.5L/日未満)、再発性膀胱炎(3回以上繰り返す)を来たした成人女性において通常量の飲水に加えて、1.5L/日の追加飲水の介入を行ったところ非介入群と比較して、膀胱炎の発症が1年あたり1.5回減少した(1.7回[95%信頼区間[CI]:1.5~1.8]vs. 3.2回[95%CI:3.0~3.4])。筆者はさらに飲水行動について詳しく問診するようにしている。飲水量が少なかった場合、「なぜ飲水量が少ないか」を聞くとさらに背景に迫れることがある。気軽に排泄に行きづらい職場環境(例:コンビニ店員でトイレに行くタイミングがないなど)が背景にあり飲水を控えているというケースも経験する。その場合は、職場環境改善への働きかけなどに協力してあげることも大切となる。また、性交や殺精子剤は尿路感染症のリスク因子であり、性交を減らすことや殺精子剤を含む避妊具を避けることを、本人やパートナーとカウンセリングを行うこともリスクを減らすと期待される。その他、明確な関連は示されていない個別での相談や効果を評価する指導内容も含め表にまとめた4,5)。小児期から繰り返している場合や腎結石、尿路閉塞、間質性膀胱炎、尿路上皮がんが疑われるような場合は泌尿器科受診を勧めることも忘れてはならない。表 若年女性の単純性尿路感染症の再発を予防するための日常生活への指導画像を拡大する再発性の膀胱炎の最終手段として抗菌薬投与が選択されることもあるが、耐性菌のリスクの観点からも導入しやすい日常生活への指導からしっかりと介入していくことは大切である。生活へのアプローチは一人ひとりの事情もあるので、本人の生活について丁寧に聴取し生活に合わせた指導内容を一緒に考えていくことはプライマリ・ケア医の重要な役割である。1)Foxman B. Dis Mon. 2003;49:53-70.2)Gupta K, Trautner BW. BMJ 2013;346:f3140.3)Hooton TM, et al. N Engl J Med 1996;335:468-474.4)Hooton TM, et al. JAMA Intern Med 2018;178:1509-1515.5)Hooton TM. N Engl J Med 2012;366:1028-1037.

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高齢患者の抗菌薬使用は認知機能に影響するか

 高齢患者の抗菌薬の使用は認知機能の低下とは関連しないことが、新たな研究で明らかにされた。論文の上席著者である米ハーバード大学医学大学院のAndrew Chan氏は、「高齢患者は抗菌薬を処方されることが多く、また、認知機能低下のリスクも高いことを考えると、これらの薬の使用について安心感を与える研究結果だ」と述べている。この研究の詳細は、「Neurology」に12月18日掲載された。 研究グループは、人間の腸内には何兆個もの微生物が存在し、その中には認知機能を高めるものもあれば低下させるものもあると説明する。また、過去の研究では、抗菌薬を使用すると、腸内細菌叢のバランスが崩れる可能性のあることが示されているという。Chan氏は、「腸内細菌叢は、全体的な健康の維持だけでなく、おそらくは認知機能の維持にも重要とされている。そのため、抗菌薬が脳に長期的な悪影響を及ぼす可能性が懸念されている」と話す。 今回の研究でChan氏らは、低用量アスピリンの毎日の使用が健康に与える影響を検証する臨床試験のデータを用いて、抗菌薬の使用と認知機能との関連を検討した。対象は、最初の2年間の追跡期間中に認知症を発症しなかった70歳以上の健康なオーストラリア人高齢者1万3,571人(平均年齢75.0歳、女性54.3%)。Anatomical Therapeutic Chemical(ATC)コードを基に、対象者の追跡期間中における抗菌薬の使用を特定したところ、約63%が2年間に少なくとも1回は抗菌薬を使用していた。 2年間の追跡調査終了後、対象者は中央値で4.7年間追跡された。その間に、461人が認知症を発症し、2,576人が認知機能障害はあるが認知症ではない状態を指すCIND(cognitive impairment, no dementia)と診断されていた。社会人口統計学的特徴やライフスタイル因子、認知症の家族歴、試験開始時の認知機能、認知機能に影響を与えることが知られている薬剤の使用を考慮して解析した結果、抗菌薬使用者では非使用者に比べて、認知症リスク(ハザード比1.03、95%信頼区間0.84〜1.25)やCINDリスク(同1.02、0.94〜1.11)の有意な上昇や認知機能スコアの有意な低下は認められなかった。また、抗菌薬の累積使用頻度、長期使用、特定の抗菌薬クラス(β-ラクタム系、テトラサイクリン系、サルファ剤など)や、リスク因子に基づき分類されたサブグループにおいても、抗菌薬の使用と認知機能との間に有意な関連は認められなかった。 このような結果が示されたとはいえ、Chan氏および付随論評の著者である米ジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生大学院のWenjie Cai氏とAlden Gross氏は、「さらなる研究で、抗菌薬の使用と認知機能低下との間に関連性はないことを確かめる必要がある」と述べている。Chan氏は、今回の研究の限界点として、対象者の追跡期間が短期間であった点を挙げ、より長期間の研究を実施して、抗菌薬の使用が長期的に脳の健康に悪影響を及ぼさないことを確認する必要があるとしている。 また、Cai氏らは、「この研究は処方箋の記録に依存しているため、対象者の実際の抗菌薬の使用状況を正確に追跡することはできなかった」ことを別の限界点として挙げている。その上で同氏らは、今後の研究では、抗菌薬の正確な投与量と使用期間を記録し、潜在的な用量反応関係を調査すること、また、異なるクラスの抗菌薬とその相互作用が認知機能に与える影響を調査することの必要性を強調している。

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敗血症が疑われる入院患者に対するバイオマーカーガイド下の抗菌薬投与期間(解説:寺田教彦氏)

 本研究は、敗血症が疑われる重篤な入院成人患者に対して連日血液検査を行い、バイオマーカー(プロカルシトニン[PCT]またはC反応性タンパク質[CRP])のモニタリングプロトコールに基づいた抗菌薬中止に関する助言を臨床医が受けた際の、標準治療と比較した有効性(総抗菌薬投与期間)と安全性(全死因死亡率)を評価している。 本論文の筆者は、ジャーナル四天王「敗血症疑い患者の抗菌薬の期間短縮、PCTガイド下vs.CRPガイド下/JAMA」にもあるように、有効性(無作為化から28日までの総抗菌薬投与期間)はDaily PCTガイド下プロトコール群(以下PCT群)で認め(期間短縮)、Daily CRPガイド下プロトコール群(以下CRP群)では有意差なし。安全性(無作為化から28日までの全死因死亡)はPCT群で非劣性だが、CRP群では非劣性の確証は得られなかった、と結論付けている。 本研究を評価するに当たって、まず、ガイド下とは具体的にどのような手順だったのかを確認する。 本文のInterventionによると、試験患者らは、無作為化後、敗血症に対する抗菌薬の中止あるいは退院まで毎日血液を採取された。そして、患者の治療医師らは、以下のような抗菌薬中止に関する書面助言を毎日受け取っていた(Supplement3のeTable1参照)。(1)PCT群:PCT<0.25μg/Lの場合は、強く抗菌薬中止を支持する(STRONGLY SUPPORTS)。PCTがベースラインから80%以上低下、あるいは0.25μg/L≦PCT≦0.50μg/Lの場合は、抗菌薬中止を支持する(SUPPORTS)。それ以外の場合は、標準療法を支持する。(2)CRP群:CRP<25mg/Lの場合は、強く抗菌薬中止を支持する(STRONGLY SUPPORTS)。CRPがベースラインから50%以上低下した場合は、抗菌薬中止を支持する(SUPPORTS)。それ以外の場合は、標準療法を支持する。(3)標準治療群:常に標準療法を支持する。 次に、上記のプロトコールにより、書面助言で抗菌薬中止の推奨や強い推奨をされた頻度を確認する。 無作為化から抗菌薬を最初に中止あるいは強く中止の書面助言を受け取るまでの期間は、eTable29によると、PCT群が中止の推奨を受け取るまでの時間は平均3.7日、SDは1.9日、件数は502件だった。強く中止の推奨を受け取るまでの時間は平均3.5日、SDは3.8日、件数は248件だった。CRP群では中止の推奨を受け取るまでの時間は平均3.7日、SDは2.3日、件数は519件だった。強く中止の推奨を受け取るまでの時間は平均5.1日、SDは4.0日、件数は139件だった。 敗血症期間の抗菌薬総投与期間は、PCT群では平均7.0日、SDは5.7日で、CRP群では平均7.4日、SDは6.0日だった。 それぞれの治療群で受け取った書面助言の割合は、Supplement3のeFigure6とeTable30に示され、以下のような結果である。PCT群は、1日目の書面助言で約10%程度が強く中止の助言を受けており、その後も10%以上程度は強く中止の助言を受けていそうなグラフだが、CRP群は強く中止の助言は多くはなされず、中止の助言の割合が高かった。このグラフは、上記のPCT群とCRP群の中止や強く中止の推奨の件数と一致する情報と考えられた。 以上のことを参考に、本研究で得られたアウトカムについて考えてみる。今回のアウトカムは抗菌薬総投与期間だが、バイオマーカー結果は臨床医に抗菌薬中止に関する書面助言を与えたのみで、最終的に抗菌薬の投与中止を判断したのは臨床医だった。臨床医は、抗菌薬中止の書面助言が、PCTに基づく推奨かCRPに基づく推奨かはわからなかったため、書面助言結果を科学的な判断材料には用いづらかったのではないかと思う。 本研究での、PCTやCRPに基づく抗菌薬の中止助言の役割は、科学的な知見を臨床医に与えることで抗菌薬を中止したというよりも、単に臨床医に抗菌薬終了のプレッシャーをかけたのではないだろうか。そして、PCTはCRPよりも強く中止を推奨する助言の割合が高かったので、抗菌薬投与期間が短縮されたのではないかと予測する。 本研究結果からわかったこととして、「この研究に参加した医療機関では、PCTガイドにより全死因死亡率を上げることなく、0.88日の抗菌薬投与期間短縮を示した」は事実ではあるが、臨床医の判断基準は所属施設や国により異なる可能性があり、他の医療機関や本邦でも当てはめることができるかは疑問である。また、本研究では連日の採血と生化学検査を必要とするが、本研究で示されたメリットが、連日の血液検査およびPCT/CRP評価による医療従事者(採血者、検査技師)や患者の肉体的・金銭的負担の割に合うかを考える必要もあるだろう。 本研究ではPCTの比較対象としてCRPが用いられた。CRPガイドでは「抗菌薬投与期間の短縮なしで、全死因死亡の非劣性の確証が得られなかった」ことは、PCTが優れていると考えるよりも、CRPの結果をうのみにする診療は避けるべきであることを示唆しているのだろう。 抗菌薬投与期間について、バイオマーカーを利用して患者ごとに適切な治療期間を判断するという試みには興味をそそられるが、現時点では、感染症の治療期間は患者背景や感染臓器、原因微生物のすべてを考慮して決定するのがよいと考える(「抗微生物薬適正使用の手引き 第三版」)。

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自壊創への対応【非専門医のための緩和ケアTips】第91回

自壊創への対応がん患者の緩和ケアでは、皮膚症状の対応が求められることもあります。中でもがん患者の「自壊創」は、経験がないと対応に苦慮することが多いでしょう。今回は、この自壊創の対応について考えます。今回の質問今度、訪問診療で新たに担当する乳がん患者がいます。紹介状では自壊創があり、訪問看護など定期的な創処置が必要とのことです。経験がないのですが、どのような対応や経過が想定されるのでしょうか?緩和ケアを実践していると、悪性腫瘍による自壊創を経験します。乳がんがその代表例ですが、ほかにも喉頭がんや子宮頸がんの患者さんもいました。腫瘍が増大して表層に露出した場合、そこが自壊創として難治性の潰瘍となります。ほかにも、頸部や鼠径部のリンパ節転移が増大して自壊創になったケースもありました。どのがん種でも、自壊創が引き起こす問題はある程度共通しています。出血、滲出液、そして悪臭です。そしてこれらは直接見えるため、患者本人や家族にとってつらい問題となります。私の経験では、滲出液や悪臭のために外出することすらできなくなってしまった患者さんもいました。このような創に対しては1)洗浄2)滲出液のドレッシング3)適切な薬剤の使用が基本的なアプローチとなります。自壊創は常にじわじわと滲出液が染み出しており、かつ創部には壊死組織があるため、定期的に洗浄することが有効です。そのうえで滲出液の多い部位に、吸水性のある被覆材でドレッシングします。創部が滲出液で湿ったままになると、そこが嫌気性菌などの繁殖源となり、悪臭が発生します。定期的な洗浄と適切なドレッシングで、まずはこれを阻止します。薬剤は疾患の状態によって使い分けますが、緩和ケアの面からは2つの軟膏について知っておくと良いでしょう。1)メトロニダゾール軟膏自壊創の悪臭は滲出液と壊死組織により繁殖した嫌気性菌が原因です。なので、嫌気性菌をカバーする抗菌薬であるメトロニダゾールを含む軟膏を創部に塗るというのは理にかなっていますよね。以前は薬剤部での製剤が必要でしたが、今はロゼックスゲルという製品が登場しており、そのまま使えて便利です。2)モーズ軟膏これは聞いたことがない方が多いかもしれません。塩化亜鉛による腐食作用により、自壊創のタンパク質を硬化することで効果を発揮します。化学的に熱傷をつくるような作用ですので、使用することで腫瘍塊も徐々に小さくなるケースも見られます。また圧迫で止血されない、じわじわとした出血を止める効果もあります。ただ、モーズ軟膏については、私は皮膚科の先生に対応をお願いしています。モーズ軟膏は刺激が非常に強く、正常皮膚に付くとその部位が化学的熱傷を起こしてしまいます。また、塩化亜鉛を溶かした軟膏の硬さは水分と亜鉛華デンプンの配合バランスで調節するのですが、これがなかなか難しく経験を要します。これらの理由から、使い慣れてない中で処置するのは危険もあるため、ぜひ専門の先生と相談しながら活用してください。今回のTips今回のTipsたまに遭遇する自壊創の対応、皮膚科の知識を身に付けて対応しましょう。

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1月9日 風邪の日【今日は何の日?】

【1月9日 風邪の日】〔由来〕寛政7(1795)年の旧暦の今日、第4代横綱で63連勝の記録を持つ谷風 梶之助が風邪で亡くなったことに由来して制定。インフルエンザや風邪が流行する季節でもあることから、医療機関や教育機関で風邪などへの予防啓発で周知されている。関連コンテンツこじれた風邪には…【漢方カンファレンス】風邪で冷えてきつい…【漢方カンファレンス】風邪の予防・症状改善に亜鉛は有用か?~コクランレビュー“風邪”への抗菌薬処方、医師の年齢で明確な差/東大小児の風邪への食塩水点鼻、有症状期間を2日短縮か/ERS2024

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ミノサイクリン処方の際の5つの副作用【1分間で学べる感染症】第18回

画像を拡大するTake home messageミノサイクリンを使用する際には、皮膚症状の副作用を中心とした5つの副作用を覚えておこうミノサイクリンはテトラサイクリン系抗菌薬の1つで、あらゆる感染症に対して効果を発揮します。腎機能にかかわらず使用できるため便利な反面、いくつかの重要な副作用には注意する必要があります。今回は、とくに気を付けるべき5つの副作用を学んでいきます。1. 皮膚:光線過敏症まれに光線過敏症が生じることがあります。日光に長時間さらされることを避け、外出時には日焼け止めの使用や遮光性の高い衣類の着用を推奨します。2. 皮膚:色素沈着(青灰色・褐色)青灰色や褐色の色素沈着がみられることがあり、長期使用で患者の3~15%に発現するという報告もあります。この色素沈着は、タイプ1~4が報告されており、分布や機序が異なります。高用量のミノサイクリンを長期間使用した場合に発生率が高くなるといわれますが、短期間の使用における報告もあります。色素沈着の改善には時間を要することが多く、一部では不可逆的な場合の報告もあるため、注意が必要です。3. 消化器系および前庭神経症状(嘔気・嘔吐、めまい・運動失調)最も一般的な副作用として、消化器系症状(嘔気・嘔吐)および前庭系症状(めまい・運動失調)が挙げられます。前庭神経症状は、ミノサイクリンがほかのテトラサイクリンと異なり、血液脳関門を通過しやすい特性を持つために発生すると考えられています。とくに女性に多くみられる傾向があり、対症療法で改善する場合が多いものの、症状が継続する場合は薬剤変更を検討します。4. 良性頭蓋内圧亢進症(偽脳腫瘍)これもまれですが、良性頭蓋内圧亢進症(偽脳腫瘍)が発生することがあります。とくに女性に多くみられ、頭痛が主な症状です。偽脳腫瘍が疑われる場合は、眼科での診察を依頼し、乳頭浮腫の有無を確認することが重要です。この副作用は通常は可逆的ですが、まれに視覚障害が回復しないケースも報告されているため、早期発見と対応が重要です。5. 小児/胎児における歯の変形および着色、骨発達の遅延小児/胎児において歯の変形および着色、骨発達の遅延を引き起こす可能性があるとされています。ミノサイクリンは胎盤を通過するため、妊婦には禁忌とされています。また、8歳未満だけでなく、歯冠がすべて発達する(13~19歳)までミノサイクリンの使用は避けるべきという報告もあるため、ほかに選択肢がある場合は小児への使用は避けたほうがよい、という意見が多いです。このように、ミノサイクリンは頻度の高いものからまれなものまで多様な副作用があり、十分に理解しておくことが重要です。とくに色素沈着に関しては青黒色や灰色の外観が非常に印象的であること、回復まで時間を要することが多いため、患者に対する十分な説明と理解が必要です。ほかの抗菌薬と同様に、可能な限り短期間の使用にとどめることが重要です。1)Wang P, et al. JAMA Dermatol. 2021;157:992.2)Katayama S, et al. N Engl J Med. 2021;385:2463.3)Martins AM, et al. Antibiotics (Basel).4)Smilack JD, Mayo Clin Proc. 1999;74:727-729.5)Mouton RW, et al. Clin Exp Dermatol. 2004;29:8-14.6)Raymond J, et al. Australas Med J. 2015;8:139-142.

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抗菌薬と手術、小児の虫垂炎に最善の治療法はどちら?

 過去数十年にわたり、小児の虫垂炎(いわゆる盲腸)に対しては、手術による虫垂の切除が一般的な治療とされてきた。しかし、新たな研究で、手術ではなく抗菌薬を使う治療が、ほとんどの症例で最善のアプローチであることが示唆された。この研究では、合併症のない虫垂炎(単純性虫垂炎)の治療に抗菌薬を使用することで、痛みが軽減し、学校を休む日数も減ることが示されたという。米ネムール小児医療センターのPeter Minneci氏らによるこの研究結果は、「Journal of the American College of Surgeons」に11月19日掲載された。 本研究の背景情報によると、米国では、小児の入院理由として5番目に多いのが虫垂炎であり、また、入院中の小児に対して行われる外科手術の中で最も多いのが虫垂切除術だという。Minneci氏らは、2015年5月から2018年10月の間に中西部の小児病院で単純性虫垂炎の治療を受けた7〜17歳の小児1,068人のデータを分析し、1年間の追跡期間を通じて、抗菌薬による非手術的管理と手術的管理(緊急腹腔鏡下虫垂切除)の費用対効果を比較した。対象者の親には、子どもの虫垂を切除するか、手術回避の可否を確認するために少なくとも24時間の抗菌薬による点滴治療を行うかの選択肢が与えられていた。370人(35%)は抗菌薬による非手術的な管理、698人(65%)は手術的管理を選んでいた。 費用対効果の評価では、増分費用効果比(ICER)を主な指標として採用した。これは、非手術的管理と手術的管理の費用の差を健康アウトカムの差で割ったもので、1単位の質調整生存年(QALY)または障害調整生存年(DALY)を得るために必要な追加費用を意味する。1QALYまたは1DALY当たりの支払い意思額(WTP、支払っても良いと思う最大金額)を10万ドル(1ドル150円換算で1500万円)に設定し、この閾値を基準として費用対効果を評価した。 その結果、非手術的な管理は手術的管理よりも費用対効果の高いことが明らかになった。手術的管理にかかった費用は、1人当たり平均9,791ドル(1ドル150円換算で146万8,650円)であり、平均0.884QALYを獲得していた。一方、非手術的管理にかかった費用は1人当たり平均8,044ドル(同約120万6,600円)であり、平均0.895QALYを獲得していた。 Minneci氏は、「この結果は、合併症のない小児の急性虫垂炎に対しては、非手術的管理の方が手術的管理よりも1年を通して最も費用対効果の高い治療戦略であることを示している」と述べている。 Minneci氏はさらに、「われわれの研究は、抗菌薬のみの治療の方が小児にとって安全かつ効果的であるだけでなく、費用対効果も高いというベネフィットがあることを明らかにした。虫垂炎に対する非手術的管理は、安全かつ費用対効果の高い初期治療であり、手術に代わる合理的な選択肢だ」と述べている。 研究グループは今後、それぞれの治療法が失敗する頻度を比較し、虫垂炎の小児に病院ではなく自宅で抗菌薬を投与できるかどうかを検討する予定だとしている。

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敗血症疑い患者の抗菌薬の期間短縮、PCTガイド下vs.CRPガイド下/JAMA

 敗血症が疑われる重篤な入院成人患者において、バイオマーカー(プロカルシトニン[PCT]とC反応性タンパク質[CRP])のモニタリングプロトコールによる抗菌薬投与期間の決定について、標準治療と比較してPCTガイド下では、安全に投与期間を短縮でき全死因死亡も有意に改善したが、CRPガイド下では投与期間について有意な差は示されず、全死因死亡は明らかな改善を確認することはできなかった。英国・マンチェスター大学のPaul Dark氏らADAPT-Sepsis Collaboratorsが、多施設共同介入隠蔽(intervention-concealed)無作為化試験「ADAPT-Sepsis試験」の結果を報告した。敗血症に対する抗菌薬投与の最適期間は不明確であり、投与中止の判断はバイオマーカー値に基づいて行われているが、その有効性および安全性の根拠は不明確なままであった。JAMA誌オンライン版2024年12月9日号掲載の報告。総抗菌薬投与期間(有効性)と全死因死亡(安全性)を評価 ADAPT-Sepsis試験は2018年1月1日~2024年6月5日に、英国国民保健サービス(NHS)の集中治療室(ICU)41ヵ所で行われた。敗血症が疑われ24時間以内に抗菌薬の静脈内投与を開始した、少なくとも72時間の投与継続の可能性がある18歳以上の成人患者2,760例を対象に、PCTまたはCRPの評価に基づく決定が抗菌薬期間を安全に短縮可能かどうかについて検証した。 被験者は、daily PCTガイド下プロトコール群(918例)、daily CRPガイド下プロトコール群(924例)、標準治療群(918例)に無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、無作為化から28日までの総抗菌薬投与期間(有効性)と全死因死亡(安全性)であった。副次アウトカムは、CCU(critical care unit)入室期間、入院期間データなどであった。90日全死因死亡も評価した。PCTガイド下の有効性、安全性を確認 無作為化された2,760例のベースライン特性は3群間で類似しており、平均年齢は60.2(SD 15.4)歳、男性60.3%であった。ほぼすべての患者が敗血症診断Sepsis-3基準を満たしていたと考えられ(SOFAスコア:7[四分位範囲:5~9])、敗血症患者は1,397例(50.8%)、敗血症性ショック患者は1,352例(49.2%)であった。 無作為化から28日までの総抗菌薬投与期間は、daily PCTガイド下プロトコール群が標準治療群と比較して有意に短縮した(平均期間:9.8日[SD 7.2]vs.10.7日[7.6]、平均群間差:0.88[95%信頼区間[CI]:0.19~1.58]、p=0.01)。一方、daily CRPガイド下プロトコール群は標準治療群と比較して、総抗菌薬投与期間について差はみられなかった(10.6日[SD 7.7]vs.10.7日[7.6]、平均群間差:0.09[95%CI:-0.60~0.79]、p=0.79)。 無作為化から28日までの全死因死亡について、daily PCTガイド下プロトコール群(全死因死亡率20.9%[184/879例])の標準治療群(19.4%[170/878例])に対する非劣性(非劣性マージンは5.4%)が示された(絶対群間差:1.57[95%CI:-2.18~5.32]、p=0.02)。daily CRPガイド下プロトコール群(全死因死亡率21.1%[184/874例])の標準治療群に対する非劣性は確証が得られなかった(絶対群間差:1.69[95%CI:-2.07~5.45]、p=0.03)。

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再利用ペースメーカーは安全で再利用可能

 再利用ペースメーカーは新しいペースメーカーと同程度に安全かつ効果的であり、低・中所得国の多くの人に利用可能な治療選択肢を提供する可能性があるとする研究結果が報告された。この研究を実施した米ミシガン大学医学部循環器科内科部門のThomas Crawford氏は、「米国と異なり、低・中所得国の人は、ペースメーカー治療が利用できなかったり、利用できたとしても費用が高額過ぎたりすることが多い」と指摘。「われわれのMy Heart Your Heart(MHYH)プログラムは、それを変えることを目指している」と話している。この研究結果は、米国心臓協会年次学術集会(AHA 2024、11月16〜18日、米シカゴ)で発表された。 Crawford氏らは、7カ国の298人の成人を対象にしたランダム化比較試験で、再利用ペースメーカーの機能と安全性を、新しいペースメーカーと比較した。対象者は149人ずつ、新しいペースメーカーを植え込む群(新規ペースメーカー群)と再利用ペースメーカーを植え込む群(再利用ペースメーカー群)にランダムに割り付けられ、植え込みから2週間後と最長90日後に転帰の評価が行われた。 その結果、植え込み部位での感染症が生じ、ペースメーカーの抜去が必要になった患者は5人であり、そのうちの3人は新規ペースメーカー群、2人は再利用ペースメーカー群の患者であったことが明らかになった。また、新規ペースメーカー群の1人に、抗菌薬で対応可能な表在性皮膚感染症が発生した。ペースメーカーの植え込み後にリードの移動または交換手術を必要とした患者は、新規ペースメーカー群で5人、再利用ペースメーカー群で6人だった。ペースメーカーの故障は、いずれの群でも報告されなかった。再利用ペースメーカー群では死亡が3件発生したが、ペースメーカーの植え込みとは無関係だった。新規ペースメーカー群に死亡は発生しなかった。 こうした結果を受けてCrawford氏は、「これらの肯定的な初期の結果により、ペースメーカーの大規模な寄付とその再利用により世界中の人々の命を救うという現実に一歩近付いた」とAHAのニュースリリースの中で述べている。 研究者らは、「今回の3カ月間の結果は希望が持てるものだった。6カ月後と12カ月後の転帰を調査することで、電池の寿命を除けば、再利用ペースメーカーが新品同様に機能するかどうかが明らかになるだろう」と述べている。 米国では、リサイクルされたペースメーカーを植え込むことは違法だが、米食品医薬品局(FDA)は、それを海外に送ることは許可している。2010年、MHYHプログラムは、命を救うための代替治療法がない心臓病患者に対する人道的な使用のために、再利用ペースメーカーの海外への送付を開始した。リサイクルされるペースメーカーは、死亡した患者や、より高度なデバイスへのアップグレードを必要とする患者が使っていたものである。同プログラムでは、電池の寿命が4年以上のペースメーカーが、ミシガン州の研究所で再処理され、コネチカット州で再滅菌される。多くは墓地や火葬場業界にサービスを提供するリサイクル会社が回収したもので、全国の葬儀場からも寄付が寄せられているという。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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尿グラム染色でグラム陽性球菌が見えたとき何を考える?【とことん極める!腎盂腎炎】第10回

尿グラム染色でグラム陽性球菌が見えたとき何を考える?Teaching point(1)尿からグラム陽性球菌が検出されたときにどのような起因菌を想定するかを学ぶ(2)腸球菌(Enterococcus属)に対して、なぜグラム染色をすることが重要なのかを学ぶ(3)尿から黄色ブドウ球菌(S. aureus)が検出された場合は必ず菌血症からの二次的な細菌尿を考慮する(4)一歩進んだ診療をしたい人はAerococcus属についても勉強しよう《症例1》82歳女性。施設入所中で、神経因性膀胱に対し、尿道カテーテルが挿入されている方が発熱・悪寒戦慄にて救急受診となった。研修医のA先生は本連載の第1~4回(腎盂腎炎の診断)をよく勉強していたので、病歴・身体所見・血液検査・尿検査などから尿路感染症と診断した。グラム染色では白血球の貪食像を伴うグラム陽性の短レンサ球菌が多数みられた。そこから先はよく勉強していなかったA先生は、尿路感染症によく使われる(とA先生が思っている)セフトリアキソン(CTRX)を起因菌も考えず「とりあえず生ビール」のように投与した。A先生は翌朝、自信満々にプレゼンテーションしたが、なぜか指導医からこっぴどく叱られた。《症例2》65歳女性、閉経はしているがほかの基礎疾患はない。1ヵ月前に抜歯を伴う歯科治療歴あり。5日前からの発熱があり内科外来を受診。後期研修医のB先生は病歴・身体所見・血液検査・尿検査を行った。清潔操作にて導尿し採取した尿検体でグラム染色を行ったところ、グラム陽性球菌のcluster像(GPC-cluster)が確認できた。「尿路感染症の起因菌でブドウ球菌はまれって書いてあったので、これはコンタミネーションでしょう! 尿路感染症を疑う所見もないしね!」と考えたA先生は患者を帰宅させた。夕方、A先生のカルテをチェックした指導医が真っ青になって患者を呼び戻した。「え? なんかまずいことした…?」とA先生も冷や汗びっしょりになった…。はじめに尿路感染症を疑い、グラム染色を行った際に「グラム陽性球菌(GPC)」が検出された場合、もしくは細菌検査室から「GPC+」と結果が返ってきた場合、自信をもって対応できるだろうか? また危険な疾患を見逃しなく診療できるだろうか? 今回は、なかなか整理しにくい「尿からグラム陽性球菌が検出されたときの考え方」について解説する。1.尿路感染症の起因菌におけるグラム陽性球菌検出の割合は?そもそも尿路感染症におけるグラム陽性球菌にはどのような種類がいるのか、その頻度はどれくらいなのかを把握する必要がある。表11)は腎盂腎炎の起因菌を男性・女性・入院の有無で分けた表である。なお、このデータは1997〜2001年とやや古く、かつ米国の研究である。表22)にわが国における2010年のデータ(女性の膀胱炎患者)を示すが、表1のデータとほぼ同様であると考えられる。画像を拡大する画像を拡大するほかの文献も合わせて考えると、おおよそ5~20%の割合でグラム陽性球菌が検出され、Staphylococcus saprophyticus、Enterococcus faecalis、Staphylococcus aureus、Streptococcus agalactiaeなどが主な起因菌であるといえる3)。閉経後や尿道カテーテル留置中の患者の場合はどうだろうか? 閉経後に尿路感染症のリスクが上昇することはよく知られているが、その起因菌にも変化がみられる。たとえば若年女性では高齢女性と比較してS. saprophyticusの検出割合が有意に多かったと報告されている2)。また尿道カテーテル留置中の患者の尿路感染症、いわゆるCAUTI(カテーテル関連尿路感染症)においてはEnterococcus属が約15%程度と前述の報告と比較して高いことが知られている4)。グラム陽性球菌が検出されたときにまず考えるべきこと尿からグラム陽性球菌が検出された際にまず考えるべきことはコンタミネーションの存在である。これは女性の中間尿による検体の場合、とくに考慮する必要がある。過去の文献によると、女性の膀胱炎において、S. saprophyticusはコンタミネーションの可能性が低いとされる一方で、Enterococcus属やS. agalactiaeはコンタミネーションの可能性が高いとされている5)。中間尿を用いた検査結果の判断に悩む場合はカテーテル尿による再検を躊躇しない姿勢が重要である。また採取後常温で長時間放置した検体など、取り扱いが不適切な場合もコンタミネーションの原因となるため注意したい。グラム染色でこれらをどう判断する?コンタミネーションの可能性が低いと判断した場合、次に可能な範囲でグラム染色による菌種のあたりをつけておくことも重要である。以下に各菌種の臨床的特徴およびグラム染色における特徴について簡単に述べる。●Enterococcus属Enterococcus属による尿路感染症は一般的に男性の尿路感染症やCAUTIでしばしばみられる一方で、若年女性の単純性尿路感染症では前述のとおり、コンタミネーションである可能性が高いことに注意する必要がある。Enterococcus属は基本的にセフェム系抗菌薬に耐性を示す。言い換えると「グラム染色なしに『尿路感染症なのでとりあえずセフトリアキソン』と投与すると治療を失敗する可能性が高い」ということである。つまり、グラム染色が抗菌薬選択に大きく寄与する菌種ともいえる。Enterococcus属は一般的に2〜10個前後の短連鎖の形状を示すことが特徴である。また、Enterococcus属は一般的にペニシリン系抗菌薬に感受性のあるE. faecalisとペニシリン系抗菌薬への耐性が高いE. faeciumの2種類が多くを占め、治療方針を大きく左右する。一般的にE. faecalisはやや楕円形、E. faeciumでは球形であることが多く、両者を区別する一助になる(図1)。画像を拡大するまた血液培養においては落花生サイン(2つ並んだ菌体に切痕が存在し、あたかも落花生のように見える所見)が鑑別に有用という報告もあるが6)、条件のよい血液培養と異なり、尿検体ではその特徴がハッキリ現れない場合も多い(図2)。画像を拡大する●Staphylococcus属Staphylococcus属は前述のとおり、S. saprophyticusとS. aureusが主な菌種である。S. saprophyticusは若年女性のUTIの原因として代表的であるが、時に施設入所中の高齢男性・尿道カテーテル留置中の高齢男性にもみられる。一方で、S. aureusが尿路感染症の起因菌となる可能性は低く、前述の表1などからも全体の約1〜2%程度であることがわかる。またその多くは妊娠中の女性や尿道カテーテル留置中の患者である。ただし、S. aureus菌血症患者で、尿路感染症ではないにもかかわらず尿からS. aureusが検出されることがある7)。したがって、尿からS. aureusが検出された場合は感染性心内膜炎を含む尿路以外でのS. aureus感染症・菌血症の検索が必要になることもある。Staphylococcus属はグラム染色でcluster状のグラム陽性球菌が確認できるが、S. saprophyticusの同定にはノボビオシン感受性テストを用いることが多く、グラム染色だけでS. saprophyticusとS. aureusを区別することは困難である。●Streptococcus属Streptococcus属ではS. agalactiae(GBS)が尿路感染症における主要な菌である。一般的に頻度は低いが、妊婦・施設入所中の高齢者・免疫抑制患者・泌尿器系の異常を有する患者などでみられることがあり、またこれらの患者では感染症が重篤化しやすいため注意が必要である。グラム染色ではEnterococcus属と比較して長い連鎖を呈することが多い。●Aerococcus属前述の頻度の高い起因菌としては提示されていなかったが、Aerococcus属による尿路感染症は解釈や治療に注意が必要であるため、ここで述べておく。Aerococcus属は通常の検査のみではしばしばGranulicatella属(いわゆるViridans streptococci)と誤認され、常在菌として処理されてしまうことがある。主に高齢者の尿路感染症の起因菌となるが、スルホンアミド系抗菌薬に対して耐性をもつことが多く、Aerococcus属と認識できずST合剤などで治療を行った場合、重篤化してしまう可能性が指摘されている8)。グラム染色では球菌が4つくっついて四角形(四量体)を形成するのが特徴的だが、Staphylococcus属のようにクラスター状に集族することもある。《症例1》のその後また別の日。過去に尿路感染症の既往があり、施設入所中・尿道カテーテル挿入中の80歳女性が発熱で救急搬送された。A先生は病歴・身体所見・検査所見から尿路感染症の可能性が高いと判断した。また、尿のグラム染色からは白血球の貪食像を伴うグラム陽性の短レンサ球菌が多数みられた。1つ1つの球菌は楕円形に見えた。過去の尿培養からもE. faecalisが検出されており、今回もE. faecalisによる尿路感染症が疑われた。全身状態は安定していたため、治療失敗時のescalationを念頭に置きながら、E. faecalisの可能性を考慮しアンピシリンで治療を開始した。その後、患者の状態は速やかに改善した。《症例2》のその後指導医から電話を受けた患者が再来院した。追加検査を行うと、経胸壁エコーでもわかる疣贅が存在した。幸いなことに現時点で弁破壊はほとんどなく、心不全徴候も存在しなかった。黄色ブドウ球菌による感染性心内膜炎が疑われ、速やかに血液培養・抗菌薬投与を実施のうえ、入院となった。冷や汗びっしょりだったA先生も、患者に大きな不利益がなかったことに少し安堵した。おわりに尿グラム染色、あるいは培養検査でグラム陽性球菌が検出された場合の対応について再度まとめておく。尿路感染症におけるグラム陽性球菌ではS. saprophyticus、E. faecalis、S. aureus、S. agalactiaeなどが代表的である。グラム陽性球菌が検出された場合、S. saprophyticus属以外はまずコンタミネーションの可能性を考慮する。コンタミネーションの可能性が低いと判断した場合、Enterococcus属やStreptococcus属のような連鎖状の球菌なのか、Staphylococcus属のようなクラスター状の球菌なのかを判断する。また四量体の球菌をみつけた場合はAerococcus属の可能性を考慮する。また、S. aureusの場合、菌血症由来の可能性があり、感染性心内膜炎をはじめとしたほかの感染源の検索を行うこともある。<謝辞>グラム染色画像は大阪市立総合医療センター笠松 悠先生・麻岡 大裕先生よりご提供いただきました。また、笠松先生には本項執筆に際して数々のご助言をいただきました。この場を借りて厚くお礼申し上げます。1)Czaja CA, et al. Clin Infect Dis. 2007;45:273-280.2)Hayami H, et al. J Infect Chemother. 2013;19:393-403.3)Japanese Association for Infectious Disease/Japanese Society of Chemotherapy, et al. J Infect Chemother. 2017;23:733-751.4)Shuman EK, Chenoweth CE. Crit Care Med. 2010;38:S373-S379.5)Hooton TM et al. N Engl J Med. 2013;369:1883-1891.6)林 俊誠 ほか. 感染症誌. 2019;93:306-311.7)Asgeirsson H, et al. J Infect. 2012;64:41-46.8)Zhang Q, et al. J Clin Microbiol. 2000;38:1703-1705.

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喘息予防・管理ガイドライン改訂、初のCQ策定/日本アレルギー学会

 2024年10月に『喘息予防・管理ガイドライン2024』(JGL2024)が発刊された。今回の改訂では初めて「Clinical Question(CQ)」が策定された。そこで、第73回日本アレルギー学会学術大会(10月18~20日)において、「JGL2024:Clinical Questionから喘息予防・管理ガイドラインを考える」というシンポジウムが開催された。本シンポジウムでは4つのCQが紹介された。ICSへの追加はLABAとLAMAどちらが有用? 「CQ3:成人喘息患者の長期管理において吸入ステロイド薬(ICS)のみでコントロール不良時には長時間作用性β2刺激薬(LABA)と長時間作用性抗コリン薬(LAMA)の追加はどちらが有用か?」について、谷村 和哉氏(奈良県立医科大学 呼吸器内科学講座)が解説した。 喘息の治療において、ICSの使用が基本となるが、ICS単剤で良好なコントロールが得られない場合も少なくない。JGL2024の治療ステップ2では、LABA、LAMA、ロイコトリエン受容体拮抗薬、テオフィリン徐放製剤のいずれか1剤をICSへ追加することが示されている1)。そのなかでも、一般的にICSへのLABAの追加が行われている。しかし、近年トリプル療法の有用性の報告、ICSとLAMAの併用による相乗効果の可能性の報告などから、LAMA追加が注目されており、LABAとLAMAの違いが話題となることがある。  そこで、ICS単剤でコントロール不十分な18歳以上の喘息患者を対象に、ICSへ追加する薬剤としてLABAとLAMAを比較した無作為化比較試験(RCT)について、既報のシステマティックレビュー(SR)2)のアップデートレビュー(UR)を実施した。 8試験の解析の結果、呼吸機能(PEF[ピークフロー]、トラフFEV1[1秒量] )についてはLAMAがLABAと比べて有意な改善を認め、QOL(Asthma Quality of Life Questionnaire[AQLQ])についてはLABAがLAMAと比べて有意な改善を認めたが、いずれも臨床的に意義のある差(MCID)には達しなかった。また、喘息コントロール、増悪、有害事象についてはLABAとLAMAに有意差はなく、同等であった。 以上から、「ICSへの追加治療としてLABAとLAMAはいずれも同等に推奨される(エビデンスの確実性:B[中])」という推奨となった1)。ただし、谷村氏は「ICS/LAMA合剤は上市されていないため、アドヒアランス・吸入手技向上の観点からはICS/LABAが優先されうると考える。個別の症状への効果などの観点から、LABAとLAMAを使い分けることについては議論の余地がある」と述べた。中用量以上のICSでコントロール良好例のステップダウンは? 「CQ4:成人喘息患者の長期管理において中用量以上のICSによりコントロール良好な状態が12週間以上経過した場合にICS減量は推奨されるか?」について、岡田 直樹氏(東海大学医学部 内科学系呼吸器内科学)が解説した。 高用量のICSの長期使用はステロイド関連有害事象のリスクとなることが知られ、国際的なガイドライン(GINA[Global initiative for asthma]2024)3)では、12週間コントロール良好であれば50~70%の減量が提案されている。しかし、適切なステップダウンの時期や方法、安全性については十分な検討がなされていないのが現状であった。 そこで、中用量以上のICSで12週間以上コントロール良好な喘息患者を対象に、ICSのステップダウンを検討したRCTについて、既報のSR4)のURを実施した。 抽出された7文献の解析の結果、ICSのステップダウンは経口ステロイド薬による治療を要する増悪を増加させず、喘息コントロールやQOLへの影響も認められなかった。単一の文献で入院を要する増悪は増加傾向にあったが、イベント数が少なく有意差はみられなかった。一方、重篤な有害事象やステロイド関連有害事象もイベント数が少なく、明らかな減少は認められなかった。 以上から、「中用量以上のICSでコントロール良好な場合はICS減量を行うことが提案される(エビデンスの確実性:C[弱])」という推奨となった1)。岡田氏は、今回の解析はすべての研究の観察期間が1年未満と短く、骨粗鬆症などの長期的なステロイド関連有害事象についての評価がなかったことに触れ、「長期的な高用量ICSの投与により、ステロイド関連有害事象のリスクが増加することも報告されているため、高用量ICSからのステップダウンにより、ステロイド関連有害事象の発現が低下することが期待される」と述べた。FeNOに基づく管理は有用か? 「CQ1:成人喘息患者の長期管理において呼気中一酸化窒素濃度(FeNO)に基づく管理は有用か?」について、鶴巻 寛朗氏(群馬大学医学部附属病院 呼吸器・アレルギー内科)が解説した。 FeNOは、喘息におけるタイプ2炎症の評価に有用であることが報告されている。FeNOは、未治療の喘息患者ではICSの効果予測因子であり、治療中の喘息患者では経年的な肺機能の低下や気道可逆性の低下、増悪の予測における有用性が報告されている。しかし、治療中の喘息におけるFeNOに基づく長期管理の有用性に関するエビデンスの集積は十分ではない。 そこで、臨床症状とFeNO(あるいはFeNOのみ)に基づいた喘息治療を実施したRCTについて、既報のSR5)のURを実施した。 対象となった文献は13件であった。解析の結果、FeNOに基づいた喘息管理は1回以上の増悪を経験した患者数、52週当たりの増悪回数を有意に低下させた。しかし、経口ステロイド薬を要する増悪や入院を要する増悪については有意差がみられず、呼吸機能の改善も得られなかった。症状やQOLについても有意差はみられなかった。ICSの投与量については、減少傾向にはあったが、有意差はみられなかった。 以上から、「FeNOに基づく管理を行うことが提案される(エビデンスの確実性:B[中])」という推奨となった1)。結語として、鶴巻氏は「FeNOに基づく長期管理は、増悪を起こす喘息患者には有用となる可能性があると考えられる」と述べた。喘息の長期管理薬としてのマクロライドの位置付けは? 「CQ5:成人喘息患者の長期管理においてマクロライド系抗菌薬の投与は有用か?」について、大西 広志氏(高知大学医学部 呼吸器・アレルギー内科)が解説した。 小児を含む喘息患者に対するマクロライド系抗菌薬の持続投与は、重度の増悪を減らし、症状を軽減することが、過去のSRおよびメタ解析によって報告されている6)。しかし、成人喘息に限った解析は報告されていない。 そこで、既報のSR6)から小児を対象とした研究や英語以外の文献などを除外し、成人喘息患者の長期管理におけるマクロライド系抗菌薬の有用性について検討した適格なRCTを抽出した。 採用された17文献の解析の結果、マクロライド系抗菌薬は、入院を要する増悪や重度の増悪を減少させず、呼吸機能も改善しなかった。Asthma Control Test(ACT)については、アジスロマイシン群で有意に改善したが、MCIDには達しなかった。同様にAsthma Control Questionnaire(ACQ)、AQLQもマクロライド系抗菌薬群で有意に改善したが、MCIDには達しなかった。 以上から、本解析の結論は「マクロライド系抗菌薬の持続投与は、喘息患者に有用な可能性はあるものの、長期管理に用いることを推奨できる十分なエビデンスはない」というものであった。これを踏まえて、JGL2024の推奨は「マクロライド系抗菌薬を長期管理の目的で投与しないことが提案される(エビデンスの確実性:C[弱])」となった1)。また、この結果を受けてJGL2024の「図6-5 難治例への対応のための生物学的製剤のフローチャート」における2型炎症の所見に乏しい喘息(Type2 low喘息)から、マクロライド系抗菌薬が削除された。■参考文献1)『喘息予防・管理ガイドライン2024』作成委員会 作成. 喘息予防・管理ガイドライン2024.協和企画;2024.2)Kew KM, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2015;2015:CD011438.3)Global Initiative for Asthma. Global Strategy for Asthma Management and Prevention, 2024. Updated May 20244)Crossingham I, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2017;2:CD011802.5)Petsky HL, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2016;11:CD011439.6)Undela K, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2021;11:CD002997.

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血流感染症の抗菌薬治療、7日間vs.14日間/NEJM

 血流感染症の入院患者への抗菌薬治療について、7日間投与は14日間投与に対して非劣性であることが示された。カナダ・トロント大学のNick Daneman氏らBALANCE Investigatorsが、7ヵ国の74施設で実施した医師主導の無作為化非盲検比較試験「BALANCE試験」の結果を報告した。血流感染症は、罹患率と死亡率が高く、早期の適切な抗菌薬治療が重要であるが、治療期間については明確になっていなかった。NEJM誌オンライン版2024年11月20日号掲載の報告。重度の免疫抑制患者等を除く患者を対象、主要アウトカムは90日全死因死亡 研究グループは、血流感染症を発症した入院患者(集中治療室[ICU]の患者を含む)を抗菌薬の短期(7日間)治療群または長期(14日間)治療群に1対1の割合で無作為に割り付け、治療チームの裁量(抗菌薬の選択、投与量、投与経路)により治療を行った。 重度の免疫抑制状態にある(好中球減少症、固形臓器または造血幹細胞移植後の免疫抑制治療を受けている)患者、人工心臓弁または血管内グラフトを有する患者、長期治療を要する感染症(心内膜炎、骨髄炎、化膿性関節炎、未排膿の膿瘍、未除去の人工物関連感染)、血液培養で一般的な汚染菌(コアグラーゼ陰性ブドウ球菌など)が陽性、黄色ブドウ球菌またはS. lugdunensis菌血症、真菌血症などの患者は除外した。 主要アウトカムは血流感染症診断から90日以内の全死因死亡で、非劣性マージンは4%ポイントとした。診断後90日以内の全死因死亡率は7日群14.5%、14日群16.1% 2014年10月17日~2023年5月5日に、適格基準を満たした1万3,597例のうち3,608例が無作為化された(7日群1,814例、14日群1,794例)。登録時、1,986例(55.0%)はICUの患者であった。 血流感染症の発症は、市中感染75.4%、病棟内感染13.4%、ICU内感染11.2%であり、感染源は尿路42.2%、腹腔内または肝胆道系18.8%、肺13.0%、血管カテーテル6.3%、皮膚または軟部組織5.2%であった。 血流感染症診断後90日以内の全死因死亡は、7日群で261例(14.5%)、14日群で286例(16.1%)が報告された。群間差は-1.6%ポイント(95.7%信頼区間[CI]:-4.0~0.8)であり、7日群の14日群に対する非劣性が検証された。 7日群の23.1%、14日群の10.7%でプロトコール不順守(割り付けられた日数より2日超短縮または延長して抗菌薬が投与された)が認められたが、プロトコール順守患者のみを対象とした解析(per-protocol解析)においても主要アウトカムの非劣性が示された(群間差:-2.0%ポイント、95%CI:-4.5~0.6)。 これらの結果は、副次アウトカムや事前に規定されたサブグループ解析においても一貫していた。

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“しなくてもいいこと”を言う【もったいない患者対応】第18回

“しなくてもいいこと”を言う患者さんに対して指示を出す際に、「〇〇してください」だけでなく、「〇〇しなくてもいいですよ」という指示が必要なケースがあります。軽度外傷の消毒、抗菌薬たとえば、縫合処置のいらないような切り傷や擦り傷など、軽度の外傷で来院した患者さんには、「以前はこういった傷にはイソジン(ヨード液)のような消毒液で消毒していたんですが、いまは消毒が傷の治りを悪くすることがわかっているのでやらないんですよ」といった説明をしておくのが望ましいと考えています。というのも、「傷は消毒しなければならないものだ」と考えている患者さんは多いので、消毒をせず水道水による洗浄だけで対処し、のちに創部感染を起こしたりすると、「消毒してもらえなかったからではないか」と医師に対して不信感を抱くおそれがあるからです。ほかにも、「こうした小さな傷であれば抗生物質(抗菌薬)は不要です。傷が膿んだりしたときには抗生物質を処方しますが、いまの時点では必要ないんですよ」といった説明が必要なのも、同じ理由です。患者さんによっては、過去の経験から「怪我には抗生物質が必要だ」と思い込んでいる方が多いからです。消毒と同様に、創部感染などの合併症を起こした際に問題になるため、あらかじめ説明すべきです。風邪に対する抗菌薬抗菌薬でいえば、風邪も同じです。もし風邪の患者さんから「抗生物質をもらえませんか?」と言われたら、前述のとおり「風邪はほとんどがウイルス感染なので、抗生物質は効かないんですよ。吐き気や下痢、アレルギーなどの副作用のデメリットのほうが大きいので、いまの時点では使用しないほうがいいでしょう」といった説明を返すことができますが、なかにはこうした質問をわざわざせず、心の中で、「抗生物質がもらえると思っていたのにもらえなかった」という不満を抱える患者さんもいるかもしれません。すると、のちに悪化して肺炎などを起こしてから、「あのとき、抗生物質を処方してもらえなかったからこんなことになったのだ」と誤解されるリスクがあるのです。医師が説明する必要がないと思ったことでも、一般的に知られておらず、かつ患者さんが誤解しがちなポイントは、先回りして伝えておくことが大切です。“すべきこと”に比べると“しなくてもいいこと”は、きちんと意識していないと抜け落ちてしまいがちです。十分に注意しましょう。

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Staphylococcus lugdunensis【1分間で学べる感染症】第15回

画像を拡大するTake home messageS. lugdunensisは、ほかのコアグラーゼ陰性ブドウ球菌と異なる特徴を持つ。黄色ブドウ球菌と同様に侵襲性感染を引き起こすことを覚えておこう。皆さんはStaphylococcus lugdunensis(スタフィロコッカス・ルグドゥネンシス:S. lugdunensis)という菌の名前を聞いたことがありますか? 今回は、この菌になじみがある方もそうでない方も、いま一度一緒に学んでいきましょう。では、なぜこの菌が重要なのでしょうか。結論から言うと、S. lugdunensisは「治療が遅れると致死率が高いから」です。皆さんは、表皮ブドウ球菌にはなじみがあるかもしれません。S. lugdunensisは表皮ブドウ球菌と同じコアグラーゼ陰性ブドウ球菌であるにもかかわらず、黄色ブドウ球菌に非常によく似た特徴を持っています。最も重要なポイントは、コンタミネーションが疑われることの多い表皮ブドウ球菌をはじめとするほかのコアグラーゼ陰性ブドウ球菌と異なり、血液培養でS. lugdunensisが検出されたら、メチシリン感受性ブドウ球菌(MSSA)と思って、その後の感染巣の検索や治療を検討しなければならない、ということです。S. lugdunensisの歴史から簡単に紹介すると、1988年にフランスのリヨンで初めて報告されました。lugdunumはリヨンのラテン語名であり、報告された土地の名が付けられました。微生物学的特徴としては、グラム陽性球菌に分類され、上記コアグラーゼ陰性を示します。コロニーはクリーム色で血液寒天培地において溶血を示すことが特徴です。粘着因子を有することが、高い病原性を示す理由でもあり、人工物が体内に存在する場合にはバイオフィルムを形成して抗菌薬が効果を発揮するのに難渋することがあります。主な臨床的な特徴としては、感染性心内膜炎や菌血症、皮膚軟部組織感染症や骨関節感染症など、黄色ブドウ球菌と類似の感染症を引き起こします。抗菌薬の感受性に関しては、セファゾリンを中心とした抗MSSA用の抗菌薬のほか、バンコマイシン、ダプトマイシン、ST合剤などにも感受性を示すことが多いとされます。以上、S. lugdunensisについて解説しました。「S. lugdunensisを見たらMSSAと思って治療する」という鉄則を念頭に置き、迅速な診断と適切な治療を心掛けるようにしましょう。1)Aldman MH, et al. Eur J Clin Microbiol Infect Dis. 2021;40:1103-1106.2)Heilbronner S, et al. Clin Microbiol Rev. 2020;34:e00205-e00220.3)Argemi X, et al. J Clin Microbiol. 2017;55:3167-3174.

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第239回  温暖化でツツガムシ病はこれから増える?須藤・秋田大名誉教授の訃報を聞いて考えたこと

ツツガムシ病の早期診断法の開発、危険性・治療法の啓発活動に尽力した須藤恒久氏こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。いやあ、米国の大統領選に続き、兵庫県知事選の結果には驚きました。報道ではSNSを駆使して選挙運動を行ったとのことですが、誤情報も多く発信され、対立候補はその対応に相当苦慮したようです。新聞やテレビといった旧来のマスコミ報道の限界も垣間見えました。日本もポピュリズム政治がメインストリームになっていきそうで心配です。さて、今回は突然ですが、「ツツガムシ病」について書いてみたいと思います。というのも、私が新人記者時代、何度も取材でお世話になった秋田大学名誉教授の須藤 恒久氏が10月23日、98歳で逝去されたニュースを読んだからです。ツツガムシ病の早期診断法の開発、その危険性・治療法の啓発活動に尽力された須藤先生を悼みつつ、ツツガムシ病をはじめとするダニ媒介性疾患のこれからについて勝手に予想してみます。医師の頭にツツガムシ病の知識があれば診断できるが、なければ診断できず死に至る病ツツガムシ病は、ダニの一種であるツツガムシに刺されることによって発症する感染症です。かつては山形県、秋田県、新潟県などで夏季に河川敷で感染する“風土病”と言われていましたが、現在は媒介するツツガムシの種類も増え、ほぼ全国(北海道以外)で発生が確認されています。国立感染症研究所のWebサイトなどによれば、潜伏期は5〜14日で、典型的な症例では39℃以上の高熱、頭痛が現れます。その他の症状としては筋肉痛、咳、全身性のリンパ節腫脹、悪心、嘔吐、腹痛などがあります。早期に適切な治療を受けないと間質性肺炎、急性呼吸促迫症候群(ARDS)、髄膜脳炎、急性腎障害、播種性血管内凝固(DIC)などを起こし、死亡する患者もいます。皮膚のどこかに特徴的なダニの刺し口がみられ、発症後数日で体幹部を中心に発疹が出るのも特徴です。この病気の最大のポイントは、ダニ媒介性のリケッチア症であることです。リケッチア症にはβラクタム系抗菌薬は効きません。ミノサイクリンなどのテトラサイクリン系抗菌薬が第一選択となります。というわけで、ツツガムシ病の診療経験がなく、リケッチア症の存在や、その治療法に疎い医師が初診でこの病気を診た場合、通常の抗菌薬が効かないために右往左往し、最悪、患者は死に至ることになります。実際、昨年1月、千葉県船橋市で70歳男性がツツガムシ病で死亡しています。この男性は、ツツガムシ病の発生が多い千葉県の南部地域に滞在中に草刈りをし、その約1週間後から咽頭痛や発熱、発疹の症状が出て、入院先の病院で約18日後に敗血症で死亡しています。ツツガムシ病との検査結果が出たのは死亡後でした。抗菌薬使用の主流がβラクタム系に変わり、知らないうちに治っていたツツガムシ病が治らなくなるさて、私が新人記者だった1980年代半ば頃、ツツガムシ病はまだ“風土病”の範疇で、全国的にはそれほど知られた病気ではありませんでした。ですから、医師向け月刊誌の企画にも選ばれたのでしょう。須藤氏に取材を依頼したのは、学会発表を聞いたか、学会誌などでの論文を読んだことがきっかけだったと思います。秋田大医学部の微生物学教室の狭い教授室で会った須藤氏は実に温厚で、秋田弁なまりの言葉でゆっくりと、そしてわかりやすくツツガムシ病について解説してくれました。須藤氏は秋田県由利本荘市出身で、東北大医学部を卒業後、県立中央病院微生物検査科長などを経て、1971年に秋田大医学部に創設された微生物学教室の教授に就任しました。1973年にツツガムシ病の研究を始め、1976年頃からツツガムシ病の早期診断・早期治療の啓発に取り組みました。その理由を須藤氏は、「秋田県の雄物川水系の風土病と言われていたツツガムシ病をなんとかしたかった」ことと、「医師の抗菌薬使用の主流がクロラムフェニコールやテトラサイクリン系からβラクタム系に変わってきたことで、それまで抗菌薬投与で知らないうちに治っていたツツガムシ病が治らなくなり、死亡例も多くなってきた」ことを挙げていました。須藤氏は1980年に免疫ペルオキシダーゼ反応による迅速血清診断法を確立、この診断法が普及していなかった当初は、全国からの検査依頼に対応したそうです。また、この方法は世界保健機関(WHO)の標準診断法に推薦され、東南アジア各国でも活用されるに至っています。こうした功績が認められ、須藤氏は1987年には病原微生物学、感染症学、公衆衛生学分野でわが国最高の賞とされる小島三郎記念文化賞を受賞しています。1992年に大学を退職した後も、医学誌などでツツガムシ病への注意喚起や早期診断・早期治療の啓発を続けられていました。4、5年おきに雑誌に掲載すると定番のように読まれたツツガムシ病の記事1980年代に書いた私の記事はとても読まれました。それだけ当時の医師にツツガムシ病の知識がなかったからだとも言えます。その後、日本紅斑熱(やはりマダニに刺されて発症するリケッチア症)やライム病(やはりマダニに刺されて発症するが、こちらはスピロヘータ感染症)などの取材で、幾度か秋田を訪れ、須藤氏を取材しました。当時は秋田の飲み屋街、川反通りも大変賑やかで、それはそれでいい思い出です。ツツガムシ病の記事は、4、5年おきに雑誌に掲載すると定番のように読まれました。それは、一定の期間が経てばこの病気を知らない医師が出てくることを意味します。須藤氏が生涯にわたって啓発活動に取り組んだ理由がわかる気がします。なお、ツツガムシ病は1999年4月に新感染症予防法の施行に伴って第4類感染症となり全数把握の対象となりました。ということで、国立感染症研究所のWebサイトに行けばその発症数を確認することができます。夏に患者数が多いわけではなく、むしろ今の時期、11月〜12月に患者数が多い地域もツツガムシ病は1種類のツツガムシによって発症するのではありません。かつての東北地方の”風土病”のように、夏に患者数が多いわけでもありません。むしろ今の時期、12月に患者数が多い地域もあります(先述した千葉県の死亡例は1月でした)。国立感染症研究所の病原微生物検出情報(IASR)の2022年8月号によれば、「全国集計では3~5月の春と11~12月の秋~初冬にかけた2つのピークがある。患者発生時期はツツガムシの種ごとの生息地域での幼虫の活動時期に左右される。寒冷に強いフトゲツツガムシが主に分布する地域では、孵化後の秋~初冬に患者が発生すると同時に、越冬した幼虫により春にも患者届出数のピークがみられる。一方、寒冷に弱いタテツツガムシの幼虫は越冬できず、その生息地では孵化した後の秋~初冬にかけて患者発生数のピークを示す」とのことです。ちなみに、かつて秋田県雄物川流域のほかに山形、新潟県の一部河川流域で多発していたツツガムシ病はアカツツガムシによるものだったそうです(最近は症例数が少なく、「古典型つつが虫病」と呼ばれています)。つまり、生息するツツガムシの種類とその地域の気候によって、患者の発生パターンは変わってくるということです。今後、温暖化が進めば、患者発生パターンも変動していくでしょう。たとえば、寒冷に弱いタテツツガムシが越冬できる地域が増えれば、そこでの春の発生も増えてくるかもしれません。ツツガムシ病は微増傾向、マダニが媒介する日本紅斑熱は明らかに増加傾向気になって、国立感染症研究所のWebサイトで年別の発生動向を調べてみました1)。それによると、ツツガムシ病は微増傾向、そしてマダニが媒介する日本紅斑熱は明らかに増加傾向にあるようです。マスコミは、北海道でブリが大漁となるなど、地球温暖化でとれる魚が変化することなどは大騒ぎしますが、ツツガムシ病などのダニの生息域の変化は大きくは報道されていません。日常診療と温暖化は今のところ関係ないように見えますが、昆虫などが媒介する感染症は大きな影響を受けます。ヤブ蚊(ヒトスジシマカ)が媒介するデング熱の発症地域が日本でも北上中との報道もあります。日頃から各都道府県の衛生研究所や地元の保健所からの最新情報には敏感になっておきたいものです。参考1)発生動向調査年別一覧(全数把握)/国立感染症研究所

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