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ウェルナー症候群〔WS:Werner syndrome〕

1 疾患概要■ 概念・定義ウェルナー症候群(Werner syndrome:WS)とは、1904年にドイツの眼科医オットー・ウェルナー(Otto Werner)が、「強皮症を伴う白内障症例(U[ウムラウト]ber Kataract in Verbindung mit Sklerodermie:Cataract in combination with scleroderma)」として初めて報告した常染色体劣性の遺伝性疾患である。思春期以降に、白髪や脱毛、白内障など、実年齢に比べて“老化が促進された”ようにみえる諸症状を呈することから、代表的な「早老症候群(早老症)」の1つに数えられている。■ 疫学第8染色体短腕上に存在するRecQ型のDNAヘリカーゼ(WRN)遺伝子のホモ接合体変異が原因と考えられる。これまで全世界で80種類以上の変異が同定されているが、わが国ではc.3139-1G>C(通称4型)、c.1105C>T(6型)、c3446delA(1型)の3大変異が症例の90%以上を占める。一方、この遺伝子変異が、本疾患に特徴的な早老症状、糖尿病、悪性腫瘍などをもたらす機序の詳細は未解明である。■ 病因希少な常染色体劣性遺伝病だが、日本、次いでイタリアのサルデーニャ島(Sardegna)に際立って症例が多いとされる。1997年に松本らは、全世界1,300例の患者のうち800例以上が日本人であったと報告している。症状を示さないWRN遺伝子変異のヘテロ接合体(保因者)は、日本国内の100~150例に1例程度存在し、WS患者総数は約2,000例以上と推定されるが、その多くは見過ごされていると考えられる。かつては血族結婚に起因する症例がほとんどとされたが、最近では両親に血縁関係を認めない患者が増え、患者は国内全域に存在する。遺伝的にも複合ヘテロ接合体(compound heterozygote)の増加が確認されている。■ 症状思春期以降、白髪・脱毛などの毛髪変化、両側性白内障、高調性の嗄声、アキレス腱に代表される軟部組織の石灰化、四肢末梢の皮膚萎縮や角化と難治性潰瘍、高インスリン血症と内臓脂肪蓄積を伴う耐糖能障害、脂質異常症、骨粗鬆症、原発性の性腺機能低下症などが出現し進行する。患者は低身長の場合が多く、四肢の骨格筋など軟部組織の萎縮を伴い、中年期以降にはほぼ全症例がサルコペニアを示す。しばしば、粥状動脈硬化や悪性腫瘍を合併する。内臓脂肪の蓄積を伴うメタボリックシンドローム様の病態や高LDLコレステロール(LDL-C)血症が動脈硬化の促進に寄与すると考えられている。また、間葉系腫瘍の合併が多く、悪性黒色腫、骨肉腫や骨髄異形成症候群に代表される造血器腫瘍、髄膜腫などを好発する。上皮性腫瘍としては、甲状腺がんや膀胱がん、乳がんなどがみられる。■ 分類WRN遺伝子の変異部位が異なっても、臨床症状に違いはないと考えられている。一方、WSに類似の症状を呈しながらWRN遺伝子に変異を認めない症例の報告も散見され、非典型的ウェルナー症候群(atypical Werner syndrome:AWS)と呼ばれることがある。AWSの中には、LMNA遺伝子(若年性早老症の1つハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候の原因遺伝子)の変異が同定された症例もあるが、WSに比べてより若年で発症し、症状の進行も早いことが多いとされる。■ 予後死亡の二大原因は動脈硬化性疾患と悪性腫瘍であり、長らく平均死亡年齢が40歳代半ばとされてきた。しかし、近年、国内外の報告から寿命が5~10年延長していることが示唆され、現在では60歳を超えて生活する患者も少なくない。一方、足部の皮膚潰瘍は難治性であり、疼痛や時に骨髄炎を伴う。下肢の切断を必要とすることも少なくなく、患者のADLやQOLを損なう主要因となる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)WSの診断基準を表1に示す。早老症候はさまざまだが、客観的な指標として、40歳までに両側性白内障を生じ、X線検査でアキレス腱踵骨付着部に分節型の石灰化(図)を認める場合は、臨床的にほぼWSと診断できる。診断確定のための遺伝子検査を希望される場合は、千葉大学大学院医学研究院 内分泌代謝・血液・老年内科学へご照会いただきたい。なお、本疾患は、難病医療法下の指定難病であり、表2に示す重症度分類が3度または「mRS、食事・栄養、呼吸の各評価スケールを用いて、いずれかが3度以上」または「機能的評価としてBarthel Index 85点以下」の場合に重症と判定し、医療費の助成を受けることができる。表1 ウェルナー症候群の診断基準画像を拡大する図 ウェルナー症候群のアキレス腱にみられる特徴的な石灰化像 画像を拡大する分節型石灰化(左):アキレス腱の踵骨付着部から近位側へ向かい、矢印のように“飛び石状”の石灰化がみられる。火焔様石灰化(右):分節型石灰化の進展した形と考えられる(矢印)。表2 ウェルナー症候群の重症度分類 画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 薬物療法WSそのものの病態に対する根本的治療法は未開発である。糖尿病は約6割の症例に見られ、高度なインスリン抵抗性を伴いやすい。通常、チアゾリジン誘導体が著効を呈する。これに対してインスリン単独投与の場合は、数十単位を要することも少なくない。ただし、チアゾリジン誘導体は、骨粗鬆症や肥満を助長する可能性を否定できないため、長期的かつ客観的な観察結果の蓄積が望まれる。近年、メトホルミンやDPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬の有効性を示唆する報告が増え、合併症予防や長期予後に対する知見の集積が期待される。高LDL-C血症に対しては、非WS患者と同様にスタチンが有効である。四肢の皮膚潰瘍に対しては、皮膚科的な保存的治療を第一とする。各種の外用薬やドレッシング剤に加え、陰圧閉鎖療法が有効な症例もみられる。感染を伴う場合は、耐性菌の出現に注意を払い、起炎菌の同定と当該菌に絞った抗菌薬の投与を心掛ける。足部の保護と免荷により皮膚潰瘍の発生や重症化を予防する目的で、テーラーメイドの靴型装具の着用も有用である。■ 手術療法白内障は手術を必要とし、非WS患者と同様に奏功する。40歳までにみられる白内障症例を診た場合、一度は、鑑別診断としてWSを想起して欲しい。四肢の皮膚潰瘍は難治性であり、しばしば外科的デブリードマンを必要とする。また、保存的治療で改善がみられない場合は、形成外科医との連携により、人工真皮貼付や他部位からの皮弁形成など外科的治療を考慮する。四肢末梢とは異なり、通常、体幹部の皮膚創傷治癒能はWSにおいても損なわれていない。したがって、甲状腺がんや胸腹部の悪性腫瘍に対する手術適応は、 非WS患者と同様に考えてよい。4 今後の展望2009年以降、厚生労働科学研究費補助金の支援によって研究班が組織され、全国調査やエビデンス収集、診断基準や診療ガイドラインの作成や改訂と普及啓発活動、そして新規治療法開発への取り組みが行われている(難治性疾患政策研究事業「早老症の医療水準やQOL向上をめざす集学的研究」)。また、日本医療研究開発機構(AMED)の助成により、難治性疾患実用化研究事業「早老症ウェルナー症候群の全国調査と症例登録システム構築によるエビデンスの創生」が開始され、詳細な症例情報の登録と自然歴を明らかにするための世界初の縦断的調査が行われている。一方、WSにはノックアウトマウスに代表される好適な動物モデルが存在せず、病態解明研究における障壁となっていた。現在、AMEDの支援により、再生医療実現拠点ネットワークプログラム「早老症疾患特異的iPS細胞を用いた老化促進メカニズムの解明を目指す研究」が推進され、新たに樹立された患者末梢血由来iPS細胞に基づく病因解明と創薬へ向けての取り組みが進んでいる。なお、先述の全国調査によると、わが国におけるWSの診断時年齢は平均41.5歳だが、病歴に基づいて推定された“発症”年齢は平均26歳であった。これは患者が、発症後15年を経て、初めてWSと診断される実態を示している。事実、30歳前後で白内障手術を受けた際にWSと診断された症例は皆無であった。本疾患の周知と早期発見、早期からの適切な管理開始は、患者の長期予後を改善するために必要不可欠な今後の重要課題と考えられる。5 主たる診療科内科、皮膚科、形成外科、眼科(白内障)※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報千葉大学大学院医学研究院 内分泌代謝・血液・老年内科学 ウェルナー症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター ウェルナー症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)米国ワシントン州立大学:ウェルナー症候群国際レジストリー(医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報ウェルナー症候群患者家族の会(患者とその家族および支援者の会)1)Epstein CJ, et al. Medicine. 1966;45:177-221.2)Matsumoto T, et al. Hum Genet. 1997;100:123-130.3)Yokote K, et al. Hum Mutat. 2017;38:7-15.4)Takemoto M, et al. Geriatr Gerontol Int. 2013;13:475-481.5)ウェルナー症候群の診断・診療ガイドライン2012年版(2019年中に改訂の予定)公開履歴初回2019年7月23日

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COPD増悪時のCRP検査、抗菌薬使用率を3割減/NEJM

 COPDの急性増悪でプライマリケア医の診察時に、C反応性蛋白(CRP)のポイントオブケア(臨床現場即時)検査を行い、その結果に基づく処方を行うことで、患者報告に基づく抗菌薬の使用率と医師から受け取る抗菌薬の処方率がいずれも低下することが示された。有害性は伴わなかった。英国・オックスフォード大学のChristopher C. Butler氏らが、653例の患者を対象に行った多施設共同非盲検無作為化比較試験の結果で、NEJM誌2019年7月11日号で発表された。CRPポイントオブケア検査の結果に沿って治療 研究グループは、プライマリケア診療録にCOPDとの診断記録があり、COPD急性増悪によりイングランドおよびウェールズの一般診療所86ヵ所のうちいずれか1ヵ所を受診した653例を対象に試験を行った。 被験者は無作為に2群に分けられ、一方の群ではCRPポイントオブケア検査に基づく通常治療が行われた(CRPガイド群)。もう一方の群は同検査なしで通常のケアのみが行われた(通常ケア群)。 主要評価項目は、無作為化後4週間以内のCOPD急性増悪に対する患者報告による抗菌薬の使用(優越性を示すための評価)と、無作為化後2週時点でのCOPD関連の健康状態(非劣性を示すための評価)とした。健康状態については、10項目からなる臨床COPD質問票(CCQ、スコア範囲:0[COPD健康状態が非常に良好]~6[COPD健康状態が極めて不良])で評価した。医師による抗菌薬投与率も約3割減少 抗菌薬を使用したと報告した患者は、通常ケア群(77.4%)よりもCRPガイド群(57.0%)のほうが少なかった(補正後オッズ比[OR]:0.31、95%信頼区間[CI]:0.20~0.47)。 2週時点のCCQ合計点の補正後平均差は、-0.19点(両側90%CI:-0.33~-0.05)で、CRPガイド群がより良好であることが示された。 初診時の臨床医による抗菌薬処方の決定は1例を除く全例で確認され、追跡当初4週間に抗菌薬の処方箋が交付された患者は96.9%であった。 初診時に抗菌薬を処方された患者の割合は、通常ケア群(69.7%)よりもCRPガイド群(47.7%)で低率だった(群間差:22.0ポイント、補正後OR:0.31、95%CI:0.21~0.45)。追跡4週間に抗菌薬を処方された人の割合も、通常ケア群(79.7%)よりもCRPガイド群(59.1%)で低率だった(20.6ポイント、0.30、0.20~0.46)。 なお、無作為化後4週間以内に通常ケア群で2例の死亡が報告されたが、研究者によって死因は試験とは無関係であるとみなされた。

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終末期がん患者、併発疾患への薬物療法の実態

 終末期緩和ケアを受けているがん患者において、併発している疾患への薬物療法はどうなっているのか。フランス・Lucien Neuwirth Cancer InstituteのAlexis Vallard氏らは、前向き観察コホート研究を行い、緩和ケア施設に入院した終末期がん患者に対する非抗がん剤治療が、一般的に行われていることを明らかにした。著者は「それらの治療の有益性については疑問である」とまとめている。Oncology誌オンライン版2019年6月20日号掲載の報告。 研究グループは、緩和ケア施設のがん患者に対する抗がん剤治療および非抗がん剤治療の実態と、非抗がん剤治療を中止するか否かの医療上の決定に至る要因を明らかにする目的で調査を行った。 2010~11年に緩和ケア施設に入院したがん患者1,091例のデータを前向きに収集し、解析した。 主な結果は以下のとおり。・緩和ケア施設入院後の全生存期間中央値は、15日であった。・緩和ケア施設入院後、4.5%の患者を除き、最初の24時間以内に特定の抗がん剤治療は中止されていた。・非抗がん剤治療については、患者が死亡するまで、強オピオイド(74%)、副腎皮質ステロイド(51%)、および抗うつ薬(21.8%)について十分に投与が続けられていた。・抗潰瘍薬(63.4%)、抗菌薬(25.7%)、血栓症予防療法(21.8%)、糖尿病治療薬(7.6%)、輸血(4%)もしばしば、継続して処方されていた。・多変量解析の結果、ECOG PS 4は、モルヒネについては継続の独立した予測因子であり、副腎皮質ステロイド、プロトンポンプ阻害薬、糖尿病治療薬、予防的抗凝固療法については中止の独立した予測因子であった。・感染症症状はパラセタモール継続の、麻痺および触知可能ながん腫瘤は副腎皮質ステロイド中止の、脳転移は抗潰瘍薬中止の、出血は予防的抗凝固療法中止の、それぞれ独立した予測因子であった。

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蜂窩織炎、丹毒、最適な抗菌薬治療は?

 蜂窩織炎や丹毒は、よくみる細菌感染症であり、抗菌薬治療が至適治療とされている。しかし、その治療法についてのコンセンサスは得られておらず、入手可能な試験データではどの薬剤が優れているのかを実証することができない。最適な投与ルート、治療期間のデータも限定的である。英国・ブリストル大学のRichard Brindle氏らは、システマティックレビューとメタ解析により、非外傷性の蜂窩織炎に対する抗菌薬治療の安全性と有効性を評価した。しかし、低質なエビデンス結果しか得られず、著者は「標準的なアウトカム(重症度スコア、用量、治療期間)を設定した試験を行う必要がある」と提言している。JAMA Dermatology誌オンライン版2019年6月12日号掲載の報告。 研究グループは、システマティックレビューとメタ解析による分析を行うため、2016年6月28日時点で次のデータベースを検索した-Cochrane Central Register of Controlled Trials(2016、issue 5)、Medline(1946年~)、Embase(1974年~)、Latin American and Caribbean Health Sciences Information System(LILACS、1982年~)。さらに、5つの試験データベースとその試験内リファレンスのほか、2016年6月28日~2018年12月31日の期間におけるPubMedとGoogle Scholarも検索した。適格試験は、異なる抗菌薬、投与ルート、治療期間などを比較している無作為化試験とした。 データの抽出と解析は、Cochrane Collaborationの標準的な方法論的手法を用い、2値アウトカムのリスク比とその95%信頼区間(CI)を算出。エビデンスの質を評価するGRADEアプローチに合わせて、主要評価項目の結果要約テーブルを作成した。 主要アウトカムは、治療終了時に治癒、改善・回復が認められた、または症状が消失もしくは軽減した患者の割合(試験で報告されていたもの)。副次アウトカムは、あらゆる有害事象とした。 主な結果は以下のとおり。・43試験、5,999例(生後1ヵ月~96歳)の適格患者のデータが包含された。・蜂窩織炎が原発例であったのは15試験(35%)、そのほかの試験では蜂窩織炎患者の割合は中央値29.7%(四分位範囲:22.9~50.3%)であった。・全体として、どれか1剤がほかの製剤よりも優れていることを支持するエビデンスは見つからなかった。・MRSA活性のある抗菌薬に優位性があるとの所見は認められなかった。・経口剤より静脈内投与を支持、また5日超の投与期間を支持するエビデンスは、いずれもなかった。

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メタゲノム解析による中枢神経感染症の原因診断(解説:吉田敦氏)-1068

 髄膜炎・脳炎といった中枢神経感染症では、速やかな原因微生物の決定と、適切な治療の開始が予後に大きな影響を及ぼす。ただし現実として、原因微生物が決定できない例のみならず、感染症と判断することに迷う例にも遭遇する。抗菌薬の前投与があれば、脳脊髄液(CSF)の培養は高率に偽陰性となるし、CSFから核酸ないし抗原検査で決定できる微生物の種類も限られている。このような例について、病原微生物の種類によらず遺伝子を検出できる次世代シークエンサー(NGS)によるメタゲノム解析を用いれば、原因微生物を決定でき、マネジメントも向上するのではないか―という疑問と期待はかねてから存在していた。 今回の検討では、1年余りの間に集積された中枢神経感染症疑い204例(うち23%が18歳以下、41%が免疫不全者、64%が脳炎、49%がICU入室)についてCSFのメタゲノム解析が行われ、その結果と、従来法(微生物検出と血清抗体)を合わせた臨床的最終診断に照らし合わせて、メタゲノム解析の有用性が評価された。結果として、微生物決定を伴った感染症と明らかにできたのは28%であり、8%は自己免疫疾患、3%は腫瘍性で、不明は50%に上った。微生物が決定された57例の中では、メタゲノム解析によって初めて原因微生物が決定できたのは13例(うち7例は結果を受けて治療を適正化できた)であり、メタゲノム解析で陽性にならなかった26例中、11例は血清抗体のみで診断、8例(*)はCSF中の微生物遺伝子量が少なかったため、メタゲノム解析で陰性と判断されていた。 本検討では、いわゆるgold standardが存在しない中で、従来法とNGSによるメタゲノム解析の結果を合わせ、その結果について臨床側と詳しく議論したうえで、メタゲノム解析の有用性を評価するという手法を採用している。この点が1つの限界になっているが、さらに著者らも述べているように、CSF採取のタイミングが遅い例も少なからず含まれている点も、微生物同定例を少なくさせた可能性はあるであろう。一方、NGSを使用した場合の感度であるが、微生物特異的な遺伝子の検出を上回るほど高くはないというのが一般的な印象である。そして本検討のように検出されたデータの中から、(バックグラウンドノイズとなる)ヒトゲノム分を差し引かねばならない(つまり白血球数の増加が大きくなるとバックグラウンドも大きくなる)となると、少量検出された微生物データを有意と取るべきかという問題が生じる。この閾値の設定と解釈が問題となり、上記の8例(*印)はこれに影響を受けたと思われる。したがってNGSのデータは、陽性、陰性では判定できず、臨床的妥当性に照合して判断することになってくる。 しかし一方で、微生物遺伝子が何も検出できなかったために、非感染性疾患の可能性が高くなり、感染性/非感染性の鑑別に役立ったという例も存在した。またこれまで病的意義が明らかでなかった微生物が検出されれば、その意義を議論する機会も増え、新規の神経感染症の病原微生物の提唱につながる可能性もある。メタゲノム解析は今後も続行されるべきであろうし、その結果と臨床的背景を詳細に照合し、意義をさらに深く追究する努力も怠ってはいけないと考える。

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家族性良性慢性天疱瘡〔familial benign chronic pemphigus〕

1 疾患概要■ 概念・定義家族性良性慢性天疱瘡(ヘイリー・ヘイリー病[Hailey-Hailey disease])は、厚生労働省の指定難病(161)に指定されている皮膚の難病である。常染色体優性遺伝を示す先天性の水疱性皮膚疾患で、皮膚病変は生下時には存在せず、主として青壮年期以降に発症する。臨床的に、腋窩・鼠径部・頸部・肛囲などの間擦部に小水疱、びらん、痂皮などによる浸軟局面を生じる。通常、予後は良好である。しかし、広範囲に重篤な皮膚病変を形成し、極度のQOL低下を示す症例もある。また、一般的に夏季に増悪、冬季に軽快し、紫外線曝露・機械的刺激・2次感染により急激に増悪することがある。病理組織学的に、皮膚病変は、表皮下層を中心に棘融解性の表皮内水疱を示す。責任遺伝子はヒトsecretory pathway calcium-ATPase 1(hSPCA1)というゴルジ体のカルシウムポンプをコードするATP2C1であり、3番染色体q22.1に存在する。類似の疾患として、小胞体のカルシウムポンプ、sarco/endoplasmic reticulum Ca2+ ATPase type 2 isoformをコードするATP2A2を責任遺伝子とするダリエ病があり、この疾患は皮膚角化症に分類されている。■ 疫学わが国の患者数は300例程度と考えられている。現在、本疾患は、指定難病として厚生労働省難治性疾患政策研究事業の「皮膚の遺伝関連性希少難治性疾患群の網羅的研究班」(研究代表者:大阪公立大学大学院医学研究科皮膚病態学 橋本 隆)において、アンケートを中心とした疫学調査が進められている。その結果から、より正確なわが国における本疾患の疫学的情報が得られることが期待される。■ 病因本症の責任遺伝子であるATP2C1遺伝子がコードするヒトSPCA1はゴルジ体に存在し、カルシウムやマグネシウムをゴルジ体へ輸送することにより、細胞質およびゴルジ体のホメオスタシスを維持している。ダリエ病と同様に、常染色体優性遺伝する機序として、カルシウムポンプタンパクの遺伝子異常によってハプロ不全が起こり、正常遺伝子産物の発現が低下することによって本疾患の臨床症状が生じると考えられる。しかし、細胞内カルシウムの上昇がどのように表皮細胞内に水疱を形成するか、その機序は明らかとなっていない。■ 症状生下時には皮膚病変はなく、青壮年期以降に、腋窩・鼠径部・頸部・肛門周囲などの間擦部を中心に、小水疱、びらん、痂皮よりなる浸軟局面を示す(図1)。皮膚症状は慢性に経過するが、温熱・紫外線・機械的刺激・感染などの因子により増悪する。時に、胸部・腹部・背部などに広範囲に皮膚病変が拡大することがあり、極度に患者のQOLが低下する。とくに夏季は発汗に伴って増悪し、冬季には軽快する傾向がある。皮膚病変上に、しばしば細菌・真菌・ヘルペスウイルスなどの感染症を併発する。皮膚病変のがん化は認められない。高度の湿潤状態の皮膚病変では悪臭を生じる。表皮以外にも、全身の細胞の細胞内カルシウムが上昇すると考えられるが、皮膚病変以外の症状は生じない。画像を拡大する2 診断 (検査・鑑別診断も含む)診断は主として、厚生労働省指定難病の診断基準に従って行う。すなわち、臨床的に、腋窩・鼠径部・頸部・肛囲などの間擦部位に、小水疱、びらんを伴う浸軟性紅斑局面を形成し、皮疹部のそう痒や、肥厚した局面に生じた亀裂部の痛みを伴うこともある。青壮年期に発症後、症状を反復し慢性に経過する。20~50歳代の発症がほとんどである。皮疹は数ヵ月~数年の周期で増悪、寛解を繰り返す。常染色体優性遺伝を示すが、わが国の約3割は孤発例である。参考項目としては、増悪因子として高温・多湿・多汗(夏季)・機械的刺激、合併症として細菌・真菌・ウイルスによる2次感染、その他のまれな症状として爪甲の白色縦線条、掌蹠の点状小陥凹や角化性小結節、口腔内および食道病変を考慮する。皮膚病変の生検サンプルの病理所見として、表皮基底層直上を中心に棘融解による表皮内裂隙を形成する(図2)。裂隙中の棘融解した角化細胞は少数のデスモソームで緩やかに結合しており、崩れかけたレンガ壁(dilapidated brick wall)と表現される。画像を拡大するダリエ病でみられる異常角化細胞(顆粒体[grains])がまれに出現する。棘融解はダリエ病に比べて、表皮中上層まで広く認められることが多い。生検組織サンプルを用いた直接蛍光抗体法で自己抗体が検出されない。最終的には、ATP2C1の遺伝子検査により遺伝子変異を同定することによって診断確定する(図3)。変異には多様性があり、遺伝子変異の部位・種類と臨床的重症度との相関は明らかにされていない。別に定められた重症度分類により、一定の重症度以上を示す場合、医療費補助の対象となる。画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)ステロイド軟膏や活性型ビタミンD3軟膏などの外用療法やレチノイド、免疫抑制薬などの全身療法が使用されているが、対症療法が主体であり、根治療法はない。2次的な感染症が生じたときには、抗真菌薬・抗菌薬・抗ウイルス薬を使用する。予後としては、長期にわたり皮膚症状の寛解・再燃を繰り返すことが多い。比較的長期間の寛解状態を示すことや、加齢に伴い軽快傾向がみられることもある。4 今後の展望前述のように、本疾患は、指定難病として厚生労働省難治性疾患政策研究事業の「皮膚の遺伝関連性希少難治性疾患群の網羅的研究班」において、各種の臨床研究が進んでいる。詳細な疫学調査によりわが国での本疾患の現状が明らかとなること、最終的な診療ガイドラインが作成されることなどが期待される。最近、新しい治療として、遺伝子上の異常部位を消失させるmutation read throughを起こさせる治療として、suppressor tRNAによる遺伝子治療やゲンタマイシンなどの薬剤投与が試みられている。5 主たる診療科皮膚科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報厚生労働省の難治性疾患克服事業(難治性疾患政策研究事業)皮膚の遺伝関連性希少難治性疾患群の網羅的研究班(研究代表者:橋本 隆 大阪公立大学・大学院医学研究科 皮膚病態学 特任教授)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 家族性良性慢性天疱瘡(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Hamada T, et al. J Dermatol Sci. 2008;51:31-36.2)Matsuda M, et al. Exp Dermatol. 2014;23:514-516.公開履歴初回2019年6月25日

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成人の8割が感染、歯周病予防に効く「ロイテリ菌」とは

 5月30日、オハヨー乳業・オハヨーバイオテクノロジーズは「歯周病への新たな良化習慣」をテーマとしたプレスセミナーを開催した。国内の歯周病(歯肉炎および歯周疾患)患者数は330万人を超え、30~50代の約8割が罹患するなど、最も罹患率の高い疾患とされる。本セミナーでは、若林 健史氏(日本歯周病学会理事・専門医・指導医/日本大学 客員教授)と坂本 紗有見氏(銀座並木通りさゆみ矯正歯科デンタルクリニック81 院長)が講演し、ロイテリ菌(Lactobacillus reuteri)の「バクテリアセラピー」によって歯周病予防効果が期待できる、との研究内容を発表した。歯磨き・歯科検診に続く予防策「バクテリアセラピー」 歯周病の治療を専門とする若林氏は、口腔内に生息する細菌が全身の健康に影響する、歯周病もむし歯も子供の頃からの感染予防が重要、という前提を説明した。また、最近の研究では、歯周炎によってアルツハイマーの発症リスク増加の示唆1)や介護施設で口腔ケアを徹底することで肺炎の発症・死亡者数が低下する報告2)がされるなど、「口腔内だけに留まらない疾患との関連性も指摘されている」とした。若林氏はこうした歯周病と全身疾患の関わりを「ペリオドンタルシンドローム」と名付け、啓蒙活動を行っている。次に、歯磨き・歯科定期検診に続く第3の歯周病予防策として注目される手法として「バクテリアセラピー」を紹介。バクテリアセラピーとは、“口の中にいる善玉菌を増やし、むし歯菌・歯周病菌を減らす”もので、抗菌薬による薬物治療と比較した場合、1)効果が持続する、2)耐性フリー、3)安全である、という優位点があるという。「ロイテリ菌」の歯周病予防効果に着目 続いて坂本氏が、「バクテリアセラピーにはロイテリ菌が有用である」と提唱。ロイテリ菌は、バクテリアセラピー研究で有名なスウェーデンのカロリンスカ研究所・医科大学と特許を持つBio Gaia社が、提携して研究を進めている。ロイテリ菌は1980年代にペルー人の母乳から発見されたもので、日本人は7人に1人が保有するが、そのほかの先進国のヒトから検出されることは少なく、米国人はまったく保有していない。世界100以上の国と地域で使用実績があり、200以上の臨床研究が発表される一方、副作用の報告は1件もないという。ロイテリ菌は体内で「ロイテリン」という有害な菌を抑える物質を生成し、歯周病菌の増殖を抑制する効果が期待できる。歯周病患者を対象とした二重盲検ランダム化比較試験において、ロイテリ菌とプラセボをそれぞれ30日間摂取した群を比較したところ、ロイテリ菌摂取群は、プラーク有りの患者数、歯茎の出血有りの患者数などが減少し、プラセボ摂取群に対し有意差が認められた3)。坂本氏は「安全性が高く、データも豊富なロイテリ菌を長年注目してきた。日本は平均寿命と健康寿命の差が最も大きい国。バクテリアセラピーで歯周病を予防することが、この差を縮めることに役立つはず」とコメントした。 ロイテリ菌関連商品としては、ヨーグルト・サプリメントが市販されている。

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犬との暮らし、乳幼児の食物アレルギーを予防か

 わが国ではペットの飼育方法が変化し、近年、室内での飼育が進んでいる。それに伴いペット飼育と健康について高い関心が集まっているなかで、犬を飼うことが乳幼児にメリットを与えるという新たな知見が報告された。英国・キングス・カレッジ・ロンドンのThomas Marrs氏らは、食物アレルギー予防の無作為化試験「Enquiring About Tolerance(EAT)試験」に登録された生後3ヵ月の児1,303人について、犬猫飼育の有無とアレルギー発症との関連を調査。その結果、犬の飼育が食物アレルギー予防と関連する可能性が示されたという。Allergy誌オンライン版2019年5月11日号掲載の報告。 アレルギー疾患の負荷を軽減する鍵として、食物アレルギーの予防が挙げられる。食物アレルギーの発現リスクは環境曝露によって左右され、一部は、乳幼児期のマイクロバイオームの発達による可能性がある。しかし、これまでペット飼育など、潜在的に保護的な環境曝露が食物アレルギーにもたらす影響については、大規模調査が行われていなかった。そこで、研究グループはEAT試験の被験者のサブ解析を行った。 試験登録時、被験者のペット所有とアトピー性皮膚炎(AD)について、それぞれの有無を調査。3、12、36ヵ月時に経皮および血清での試験にて、食物およびエアロアレルゲン感作を調べ、1~3歳時に二重盲検プラセボ対照食物負荷試験(DBPCFC)を行い、食物アレルギーの状態を確認した。 主な結果は以下のとおり。・食物アレルギーと確認されたのは、完全データが得られた参加者のうち6.1%(68/1,124人)であった。・食物アレルギーと帝王切開、生後間もない時期の感染症または抗菌薬曝露との間に、有意な関連は認められなかった。・アトピー性疾患の家族歴、母親の犬/猫感作、および参加者のADを補正後、犬と暮らすことによって乳幼児期の食物アレルギー発症率が90%低下するという関連が認められた(補正後オッズ比[aOR]:0.10、信頼区間[CI]:0.01~0.71、p=0.02)。・2匹以上の犬と暮らしていた乳幼児49人では、食物アレルギー発症者が1人もみられず、用量反応関係があることが示唆された(飼育する犬が増えるごとのaOR:0.12、CI:0.02~0.81、p=0.03)。・犬または猫を飼うこととAD発症との間に関連性は認められなかった。

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第23回 アジスロマイシン6日間連続投与はなぜ?【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 だいぶ前の話ですが、患者さんから次のような質問を受けたことがあります。「咳が出ているので受診して、アジスロマイシン500mg(力価)を1日1回3日分処方されました。飲みきりましたが、咳が残っているので再度受診したところ、また同じ量を処方されました(受け取りはほかの薬局)。3日間の服用で7日間作用が続くと説明書に書いてあるのに、6日間も飲むことがあるのですか?」。疑義照会の対象だと思いますよね。実際、2回目の処方箋を持って行った薬局もその処方に対して疑義照会をしましたが、医師がその飲み方でよいと指示を出したため、それに従って調剤をしたとのことです。こうなるとそれなりに根拠がないと医師にも患者さんにも意見を言いづらいため、アジスロマイシンの6日間投与について調べてみました。添付文書の用法・用量に関連する使用上の注意の項には、「4日目以降においても臨床症状が不変もしくは悪化の場合には、医師の判断で適切なほかの薬剤に変更すること」とあります。また、薬物動態の項には、半減期が長く分布容積が大きいことから、服用8日目でも十分な組織濃度を保つと書かれています。そもそも、血中から薬剤が消失した後も組織にとどまり効果が持続するので1日製剤や3日製剤があるわけですが、副作用も同様に持続する可能性があるため注意が必要です。アジスロマイシンのインタビューフォームには、米国では5日間投与(初日500mg 1日1回、2~5日目250mg 1日1回)、英国など欧州諸国では3日間投与が適応となっている、とありますが、6日間投与の記載はありません。そうなると、たまたま疑義照会を受けた医師が誤って変更を却下した可能性も否めませんが、イレギュラーな服用方法の論文も調べてみました。1つ目が、上記の患者さんと対象疾患は異なりますが、急性副鼻腔炎に対して、アジスロマイシン500mg/日を1日1回3日間服用(AZM-3)または6日間服用(AZM-6)と、アモキシシリン500mg/クラブラン酸塩カリウム125mgを1日3回10日間服用(AMC)の群に分けた二重盲検ランダム化比較試験です1)。アジスロマイシン6日間服用群を設定しているのは、日数に幅を持たせて最適な服用スケジュールを見いだすという意図のようです。主解析項目は、急性細菌性副鼻腔炎症状の改善でした。急性副鼻腔炎症状を呈している合計936例の患者をランダムに上記3群に振り分け(AZM-3:312例、AZM-6:311例、AMC:313例)比較したところ、治療終了時の治療成功率はAZM-3:88.8%、AZM-6:89.3%、AMC:84.9%で、試験終了時における治療成功率はAZM-3:71.7%、AZM-6:73.4%、AMC:71.3%でした。AMC投与群の副作用発生率は51.5%であり、AZM-3(31.1%、p<0.001)またはAZM-6(37.6%、p<0.001)よりも高いという結果でした。最も多かったのが下痢で、吐き気、腹部膨満感と続き、副作用による中止はAZM-3で7例、AZM-6で11例、AMCで28例でした。6日間投与が検討されていることはわかりましたが、効果と副作用のバランスをみると、あえて6日間も服用する必要性はなさそうです。アジスロマイシンを長期服用して安全性に影響なし?次に、気管支拡張症に対するアジスロマイシンの予防的投与についてです2)。またしても今回の患者さんとは対象疾患が異なる試験ですが、痰、咳、肺炎などが症状として出やすい疾患ですので、こちらのほうが患者像は近そうです。1999年2月~2002年4月に外来を受診し、以下の基準を満たした患者でアジスロマイシンの予防的投与が検討されています。CTスキャンで気管支拡張症と診断されたほかの原因となりうる要因に対する対処がなされている過去12ヵ月以内に4回以上の経口または静脈投与の抗菌薬治療を必要とする感染性の増悪エピソードあり慢性症状のコントロール不良 などマクロライドアレルギー例や肝機能異常例は除外され、平均年齢51.9歳(範囲18~77)の39例が組み込まれました。投与スケジュールは、500mgを1日1回6日間服用し、次に250mgを1日1回6日間服用し、その後は250mgを毎週月曜日/水曜日/金曜日服用するという、これはこれでまたイレギュラーなスケジュールです。治療開始1ヵ月後に血液検査を実施し、肺機能検査は開始後少なくとも4ヵ月後までに行っています。少なくとも4ヵ月の治療を完了した33例において、経口抗菌薬を必要とする感染性増悪エピソードが1ヵ月当たり平均0.71から0.13まで有意に減り(p<0.001)、抗菌薬の静脈内投与の必要量も月平均0.08から0.003へと有意に減少し(p<0.001)、肺機能パラメータも改善傾向がみられています。副作用による中止は、肝機能低下2例、下痢2例、発疹1例、耳鳴り1例で、すべてが治療初月に発生しています。そのほかの副作用は軽度なものばかりで、主に胃腸症状でした。アジスロマイシンを予防的投与として長期間服用しても、安全性には特段の問題はなさそうですが、こちらの論文も6日間投与の有用性に強い根拠を持てるものではなく、結局医師の意図はわかりませんでした。実はその後、いろいろ調べたものの、正当と思える理由が見つからないまま処方医へ再確認したところ、追加の3日分は服用なしとなったというオチがあります。いろいろと論文を読んで調べてもそういうときもあります。調べたことは無駄にはなりませんし、調べてもわからないことがあると知ったことに意味があったのかもしれません。1)Henry DC, et al. Antimicrob Agents Chemother. 2003;47:2770-2774.2)Davies G, et al. Thorax. 2004;59:540-541.3)ジスロマック錠 添付文書 2018年10月改訂(第24版)・インタビューフォーム 2018年12月改訂(第22版)

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特別編 ジェラシー全開で中山 祐次郎氏と話してみた!【Dr.倉原の“俺の本棚”】第18回

【第18回 特別編】ジェラシー全開で中山 祐次郎氏と話してみた!Dr.倉原の“俺の本棚”も連載開始から1年が経過し17冊を紹介しました。その中で、2回登場している『医者の本音』、『泣くな研修医』の著者である中山 祐次郎氏。『医者の本音』出版のためのクラウドファンディングへの支援※1といった接点はあるものの、直接お話はしたことがないという2人。今回CareNet.comで対談をセッティングしました。医師と物書きという2つの顔を持つ2人に共通するものとは?―幻冬舎・見城 徹氏との交流から出版に倉原:今日はまず、中山先生の最初、つまり「なぜ書き始めたのか」を教えてもらえますか?僕が最初に中山先生の名前をお見かけしたのは、Yahoo!ニュース個人※2でした。一介の外科医というプロフィールを覚えていて、この人のブログをよく見るなと思っていて。東日本大震災後に福島の病院に駐在されたという話を聞き、その後いろんなところでお名前を聞くようになって。ずっと何がきっかけで書くようになったのか、気になっていたんですよね。中山:ありがとうございます。僕はまず、いきなり本を書いたんです。卒後5年か6年くらいの2014年ごろのことです。僕は消化器がんが専門なので、やはり患者さんが亡くなっていくんですよ。だから死について考えることが多くなって、ある日突然、「これは書かねば自分が立ち行かなくなってしまう」と、考えていることをWordに書いていったんです。とくにきっかけもなく、ただ知って欲しい、と。今思えば押し付けがましい内容だったと思うんですが、ブログでもSNSでもなくWordに書きためていったんですよね。1冊の本を目指して。倉原:日々の診療がきっかけというか。中山:そうですね。そうとも言えるかもしれない。その原稿を友人経由で出版社に持ち込んだんですけど、8ヵ月待ってボツになりましてね。激しいショックで、落ち込んで1人毎日やさぐれて酒を飲んでいたときに、当時流行していた755というSNSを始めたんです。そのアプリはホリエモンと、サイバーエージェントの社長の藤田 晋さんが作ったSNSで、その当時はテレビCMも始まって話題になっていたんですよね。ツイッターと似た感じのアプリなんですけど。それで、面白そうだなと思って、僕は「藪医師」と名乗って、医者として恋愛相談と病気の相談を受ける「藪医者外来へようこそ」というタイトルで、755をやり始めたんです。フォロワーが200人くらいになって少し注目していただくようになったころ、幻冬舎という出版社の社長の見城 徹さんも、755をやり始めたんですよ。60歳を過ぎて、初SNSを始めます、と。755上で見城さんとやり取りをさせてもらい、「すべての新しいことは、たった1人の孤独な熱狂から始まる」という言葉を目にしたとき、やっぱり出版したいという気持ちが再燃したんです。それを755上で「このボツ原稿を、諦めない」と宣言したら、見城さんが原稿を見せてみろと言ってくれて、その後3ヵ月くらいの間に出版が決まったんです。幸いにもこの本※3が3万部以上売れてくれたことでYahoo!ニュースの立場を紹介いただいたという感じです。中山 祐次郎氏:1980年生。聖光学院中・高卒後2浪を経て、鹿児島大学医学部卒。都立駒込病院で研修後、同院大腸外科医師(非常勤)として計10年勤務。2017年2月から福島県高野病院院長、現在福島県郡山市の総合南東北病院外科医長として、手術の日々を送る。消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医(大腸)、外科専門医。モットーは「いつ死んでも後悔するように生きる」。倉原:SNSがきっかけというのは今っぽいですね。1作目は存じ上げませんでした。内容は「死」について。それにしても3万部か…。医学書はヒットして1万部くらいですから。3万部…すごい…。中山:いやいや、マーケットが10倍くらい違いますから、そこは比べないでおきましょう。それよりも、倉原先生はなぜ書き始めたんですか? 倉原:僕はブログがきっかけです。2008年に後期研修医になったときに「呼吸器内科医」というブログを始めたんです。高岸※4っていう、恐ろしい量の論文を読む後輩がいて、毎日、3本とか読んでるんですよ。中山:毎日ですか!倉原:そう、毎日。彼に触発されて、自分も1日1本は読もうと決めたんです。ブログは読んだものを記録するための自己満足で始めたんですけど、続けているうちにだんだんアクセスが増えていって。それを見たシーニュっていう会社の社長から、何か書いてみませんかと声をかけてもらったんです。2013年ごろでしたね。中山:もともとお知り合いだったんですか?倉原:ううん、ブログを見て連絡をくれたんです。ひたすら論文を訳しただけのブログだったんですけど、患者さんに届けたい! みたいな熱意が伝わったって言ってもらって。最初の本※5は、結局そういう本になりました。5年目の若造が何言ってるんだと当時は叩かれてへこみましたけど。中山:それはまた、なぜ批判があったんですか?倉原:扱ったテーマが、答えのない問題ばかりだったから、ですかね。正しい選択がAかBかわからないしエビデンスもないけど、その選択の向こうにある患者さんの未来を見越して、こういうふうに選びましょうとか、そういうことを書いたんです。中山:治療上根拠はないけど、臨床医が結論を出さないといけないような選択を扱ったと。倉原:そうです。具体的に言うと、間質性肺疾患で外科的肺生検とか安易にやっちゃうじゃないですか。当時は当たり前にやられていたけど、すごく疑問に感じていて。やってもIPFの患者さんはどんどん悪くなっていく。全身麻酔をかけてまでやる意味はどこにあるんだろうと思っていて。そういうのをぶつけたんです。まあ、学会とかで本の批判をする先生方の声を聞くたびに心が折れましたよ。だけどシーニュの社長が励ましてくれて、書き続けるにいたっています。医者で本を書くのってこういう始まり方が多いんじゃないかな。1冊出して出版社とつながりができて続いていく、みたいな。―『泣くな研修医』の生みの親は“無力感”倉原:新書ではなく、なぜ小説を書こうと思ったんですか?中山:僕、生きているだけで虚無感がそれほど弱くないレベルで常にあるんです。だってみんな死ぬじゃないですか。とくにこの地球にも、日本にも、大阪にも、何の意味も残さないわけじゃないですか。死んだら全部ゼロになるのに生きるって何なの、という虚無感がひどいんですよ。その中で死を思ったりするところがあると思います。それに気付いたのは最近なんですけどね。倉原:その出口が創作に向かうってすごいですね。中山:結局小説を書いてみて思ったのは、僕が書いていたのは無力感だったなと。やるせなさ、存在しているだけで悲しい、そんなこと。倉原:オーベンを前にしたときの無力感ってありますよね。小説でとてもリアルでした。中山:オーベンは書くのに苦労したからうれしいです。倉原:男性のオーベン、岩井先生、とても冷たいじゃないですか。でも実は…というシチュエーション、現実にも結構ありますよね。中山:ありますね。倉原:いつも冷たいんだけど、飲んだときとかにポロッと出てきたりするのね。中山:そうそう、早く教えてくださいよーってなるやつ。倉原:熱いもの持ってるじゃないですか! みたいにね(笑)。ベテランになってくると動揺しないんですよ。動揺しないべきでもある。それが指導医でもある。それを研修医から見ると冷たい指導医に見えてしまうんだよね。ツンデレと言ってしまえばそれまでだけど。―気持ち悪くなるほど生々しい描写はどうやってできた?倉原:ほかにも細かい描写が、本当にリアルですよね。ストレッチャーを押していてベッドが壁にぶつかるとか。中山:そこのところは自分でも気に入っていたのですが、指摘してくれたのは先生が初めてだったのでうれしいです。倉原:サイレン待つのも嫌ですね。中山:あはは、あれは本当に嫌ですよねー。倉原:あと、「人工呼吸器に乗っている」って。乗っているって何だよ、みたいなあの表現。こういうちょっとした言い回しが本当に生々しい。研修医のころを思い出す、と言われませんか。中山:当時を思い出してつらくなるとか、嫌になるとか。気分が悪くなるっていう人も多いですね。倉原:どう勉強したらこういう生々しい文章が書けるのか、めちゃくちゃ気になります。中山:うまいかどうかは別として、村上 龍氏の受け売りですが、「正確さ」にこだわりました。登場人物の行動と人物像に矛盾が生じないようにしています。このキャラクターだったら、この服は選ばない、きっと患者さんと話すときにこういう感情が生まれるだろうという必然性を見つけていく感じ。あと、妻に読んでもらっています。彼女は医療関係ではないので、わからないところや面白くないところに率直な意見をくれるので、それを参考にすることが多いですね。―中二病だと言われても、太宰の影響は大きい!倉原:読んできた本からの影響はないんですか?中山:ベタで恥ずかしいんですけど、太宰 治。僕、太宰の人には言えないような恥ずかしい感情の動きを書いてしまうところが好きなんです。中二病っぽいですけど。ほかにも夏目 漱石とか昭和の純文学をたくさん読んでいたから、その影響もあるかもしれません。倉原先生はどんな本を読むんですか?倉原:小説はそんなに読んできていなくて、読むのはもっぱら医学書ばかりです。中山:献本も全部ですか? 倉原:ええ、頂いたものはほぼすべて読みます。中山:それだけでも膨大そうですね。それこそ医学書もたくさん出版される中で、いい本に出合うコツはあります?倉原:はっきり言えば著者でしょうか。なかでもやっぱり岩田 健太郎先生はすごい。いい意味で怪物だと思います。中山:それはどういう意味ですか? 倉原:僕、医学書ってもともと読み物ではないと思っていたんです。アメリカの医学書も読みますが、あちらの本は今でも「ですます調」の硬い文体で、内容はもちろんムズカシイから、読んで笑う要素はないんですよ。それと比べて岩田先生は、『抗菌薬の考え方、使い方』※6という本で、医学書と小説を足した、寝転んで読めるような“読み物としての医学書”というジャンルを作り出した。これが、岩田先生は怪物級にスゴイと思う理由です。読み物としての医学書というジャンルができたことで、日本の医学書出版業界のトレンド―文化ができたんだと思います。だから、平均の売上部数が数千部の医学書業界で、岩田先生の本はフツウに1万部売れますからね。医学書業界で1万部は異例中の異例ですよ。そこにきて中山先生の本は10万部超えって本当にジェラシー以外の何物でもないです※7、ほんと。ジェラシー(笑)。中山:いやいや、比べないでおきましょう…。倉原:うん、そうですね。―医学書にストーリー性は必要か?中山:医学書って基本的には情報を得るためのものであって、勉強ができればストーリー性は必要ないと思っていました。でも、今のお話だと医学書にもストーリーが必要ということでしょうか?倉原:あくまで僕個人の体験談ですが、リファレンス、辞書みたいな使い方をする本って、本棚の奥にしまって出さなくなってしまうんです。眠くなっちゃうから。でも1度通読したものは記憶に残っていて、また読む。通読した本って、物語風だったり、話し口調だったりするものですよね。坂本 壮先生※8もそうですけど、本屋で手に取ったときに読みやすそうだなと思うとすぐ買っちゃうし、読んだ後も記憶に残る。中山:ああ、なるほど。倉原:だから、今のトレンドでは、1回すべて読み通させるだけの文章力がないと売れないのかなとも思います。中山:なるほど。今後もそのトレンドは続くのでしょうか。個人的にすごく気になります。倉原:硬い医学書を好む先生も一定数いるので、すみ分けがされるという感じじゃないでしょうか。中山:すみ分けは年齢層によるものですか? 倉原:そうですね…。基本的に僕らより上の世代のベテランドクターは硬い医学書を好むように見えますし、4~5年目までくらいの若手のドクターは、圧倒的に砕けた文体の読み物を読んでいる印象を受けます。でも、年齢で区切れるかというとそうでもないんじゃないかとも思うんです。僕は14年目だけど永遠の若手の自負があるし。岩田先生以降の“読み物としての医学書”に触れてきた人たちは年齢に関係なく、読みやすいものを手に取るから。全体としては読み物のシェアが増えていくんじゃないかな、というのが僕の見方です。―やっぱり医学書が書きたい!中山:それを聞いてやる気が出ました! 僕も医学書を書きたいと思っているんです!倉原:医学書! 中山先生は一般向けに発信しているイメージが強いから、少し意外です。中山:基本は一般の方に向けたものが多いんですが、やっぱり医者なので。ちょうど、小説と医学書の中間のようなものを書いている途中です。倉原:もうすでに書き始めていると。ちなみに内容はどういったもの?中山:ずばりコンサルトの極意です! コンサルト情報の書き方や電話のかけ方とか、自分が若手のときに困ったことをまとめている感じです。倉原:それはニーズあると思うな。それこそストーリー性があったらウケそう。さすがにこれは幻冬舎ではないですよね。中山:これは専門出版社からです。あと、まだ構想でしかないですけど、今、誰からも応援されていない医療者に光を当てるようなものが書きたいですね。倉原:誰からも応援されてない医療者?中山:例えばお局さんです。新人ナース向けの本はたくさんあっても、ある程度経験年数がある看護師さんって置き去りにされている気がして。お局っていう単語自体もあんまりよくないじゃないですか。もっとポジティブな意味付けをした単語を作り出したいと思っています。倉原:それは確かに。ぽっかり抜け落ちているところですね。目のつけどころが面白い。中山:倉原先生は今後、どんなものを書く予定なんですか?倉原:今は喘息関連の本を書いています。あと…、実は僕も読み物的な医学書を書きたいとずっと思っています。でも自分には文才がないなと思って踏みとどまってます。中山:ちょっと待ってください。僕、“文才”という言葉はないと思うんです。倉原:文才という言葉はない。それかっこいいな…。中山:文才っていうと特別なものに感じてしまうけど、率直に自分の感情の動きを書ける人のことを文才がある人というんじゃないかなという気がしています。倉原:かっこつけないで書けるのが文才? それは深いな…。中山:飾らないというか、感情と言葉の間に1個もフィルターのない人。CareNet.comの倉原先生の連載も、ご自身の体験談や時々奥さんとのやりとりが入っていたりしてリアルな感じがしますよね。倉原:下ネタが?中山:そこじゃないです(笑)。なぜ急に下ネタと。倉原:ブログから書き始めたのもあって、PVを上げる方法をつい考えるんです。そうすると自然と下ネタが多くなる。はっちゃけてごまかしている感じが自分ではしていて、だいぶ恥ずかしいです。中山:下ネタは人類共通の話題ですから。でも下ネタなら何でもいいわけではないでしょう。やっぱり文章力のなせる業だと思います。倉原:憧れの小説家に言われるとすごく照れますね。でも読み物的な医学書を書きたい、目指すところが似ている気がします。中山:それはとってもありますね。倉原:そう考えると、出会うべくして出会っているのかもしれませんね。※1第9回「何もかも前代未聞な本」※2Yahoo!ニュース個人中山祐次郎※3中山祐次郎.幸せな死のために一刻も早くあなたにお伝えしたいこと 若き外科医が見つめた「いのち」の現場三百六十五日. 2015.幻冬舎新書※4第1回「エビデンスが本の中で踊っている」※5「寄り道」呼吸器診療―呼吸器科医が悩む疑問とそのエビデンス※6岩田健太郎. 抗菌薬の考え方、使い方. 2004.中外医学社※7中山祐次郎. 医者の本音.2018.SBクリエイティブ※8第5回「指導医が語る心得のような本」(取材・構成・撮影 ケアネット 安原 祥)

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プロカルシトニン値による抗菌薬投与短縮と肺炎再発

 肺炎における抗菌薬投与について、プロカルシトニン(PCT)値に基づいた管理により、死亡率を増加させることなく投与期間を短縮したという研究がいくつか報告されている。今回、福岡大学筑紫病院の赤木 隆紀氏らの研究により、PCTガイドによる抗菌薬中止により、肺炎の再発を増加させることなく投与期間を短縮するのに役立つ可能性が示唆された。the American Journal of the Medical Sciences誌オンライン版2019年4月16日号に掲載。 本研究では、2014~17年、入院時PCT値が0.20ng/mLを超えていた市中肺炎または医療関連肺炎の入院患者を前向きに登録した。PCT値は5、8、11日目、その後必要があれば3日ごとに測定した。PCT値が0.20ng/mLを下回った場合に抗菌薬中止を勧奨され、0.10ng/mLを下回った場合は中止するよう強く勧奨された。なお、2010~14年の入院患者をヒストリカルコントロール(対照群)とした。主要評価項目は、抗菌薬投与期間と抗菌薬中止後30日以内の肺炎再発とした。 主な結果は以下のとおり。・PCTガイド群および対照群は、それぞれ116例であった。・肺炎の重症度およびPCT値を含む背景因子は、2つのグループ間で同様であった。・抗菌薬投与期間の中央値は、PCTガイド群で8.0日、対照群で11日であった(p<0.001)。・多変量回帰分析において、PCTガイドによる抗菌薬中止(偏回帰係数[PRC]:-1.9319、p<0.001)、PCT(PRC:0.1501、p=0.0059)およびアルブミン(PRC:-1.4398、p=0.0096)が、抗菌薬投与期間と有意に関連していた。・抗菌薬中止後30日以内の肺炎再発は、2群間で統計的に差がなかった(4.3% vs.6.0%、p=0.5541)。

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植込み型心臓用医療機器感染予防のための抗菌包装の有効性の検討(解説:許俊鋭 氏)-1037

背景 植込み型心臓用電子医療機器(Cardiac Implantable Electronic Devices:CIED)留置後のポケット感染は、術後の合併症率および死亡率と関連している。しかし、術前抗菌薬の使用以外のポケット感染を予防するための治療方法に関しては、限られたエビデンスしかない。方法 CIED植込み手術に関連するポケット感染の発生率を減らすための吸収性の抗菌薬溶出性包装(Antibacterial Envelope)の安全性と有効性を評価するために、無作為化比較臨床試験(WRAP-IT)を実施した。Antibacterial Envelopeは吸収性マルチフィラメントメッシュエンベロープ(Absorbable Antibacterial Envelope、Medtronic)を使用していて、皮下ポケット内のCIED安定性を改善するとともに、抗菌薬のミノサイクリンとリファンピンを溶出することができる。 両心室ペーシング機能付植込み型除細動器 (CRTD)の初回植込み手術症例、挿入ポケットの修復、ジェネレータの交換、およびシステムのアップグレード等の手術を受けた患者を、抗菌包装を行う群(エンベロープ群)と行わない群(対照群)に1:1の割合で無作為に割り付けた。感染防止のための標準治療は全症例に実施した。主要評価項目は、CIED植込み手術後12ヵ月以内の感染に起因したCRTDの摘出またはポケットの修復、感染の再発を伴う長期の抗菌薬療法、または死亡とした。安全性に関する副次的評価項目は、12ヵ月以内の植込み手術やデバイス関連の合併症とした。結果 6,983例の患者を無作為に割り付けた。エンベロープ群3,495例、対照群に3,488例であった。主要評価項目は、エンベロープ群の25例、対照群の42例の患者で発生した(12ヵ月のカプランマイヤー推定事象率、それぞれ0.7%および1.2%;p=0.04)。安全性の評価項目は、エンベロープ群の201例、対照群の236例の患者で発生した(12ヵ月カプランマイヤー推定事象率、それぞれ6.0%および6.9%;非劣性検定、p<0.001)。平均追跡調査期間は20.7±8.5ヵ月であった。追跡調査期間全体を通しての主要なCIED関連感染症は、エンベロープ群32例、対照群51例の患者で発生した。結論 抗菌包装の併用により合併症発生率が上昇することなく、単独の標準的感染予防戦略よりもCIED感染症の発生率が大幅に(約40%)低下した。

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第21回 関節リウマチとMTXにまつわるお役立ちエビデンス集【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 関節リウマチの罹患率は人口の1%とも言われ、とくに女性の患者は男性の2~3倍と多く、いずれの年代でも発症しうる疾患です1)。関節リウマチ治療の第1選択薬は言わずと知れたメトトレキサート(MTX)で、関節破壊の進行を抑制するために重要かつ有名な薬剤です。今回はそのMTXに関連するエビデンスをあらためて紹介します。有効性についてMTXの有効性については、関節リウマチ患者732例においてMTX単独投与の効果をプラセボと比較したコクランのシステマティックレビュー2)など、すでに十分なエビデンスがあります。これは1997年に発表されたレビューの2014年改訂版で、レビューに含まれているのは1980〜90年代の試験です。以前の治療や併用薬としてNSAIDsや他の抗リウマチ薬を使用している場合もありますが、有効性については、ほとんどの主要評価項目で有意な改善を認めています。ACR50(圧痛関節数、膨張関節数、患者による疼痛評価、患者による全般活動性評価、などの評価で必須項目を含む50%以上の改善)を達成したのは100人当たりプラセボ8例、MTX23例で、健康関連QOLのNNT(Number Needed to Treat:必要治療数)=9、X線写真における関節破壊の進行評価のNNT=13と、MTXの有意な効果が示されています。一方で、3~12ヵ月の評価では、プラセボと比較して100人当たり9例に、多くの有害事象による中止が報告されています。葉酸との併用について葉酸またはフォリン酸(ロイコボリン)を摂取することで、MTXによる悪心、腹痛、肝機能異常などが低減し、口内炎も減る傾向にあることが示唆されています3)。こちらもコクランに掲載された、MTXと葉酸またはプラセボ併用を比較した6つの二重盲検ランダム化比較試験、計624例を含むシステマティックレビューです。葉酸またはフォリン酸併用群では、24~52週のフォローアップで、消化器系の副作用(悪心、嘔吐、腹痛)の絶対リスク減少率-9.0%、相対リスク減少率-26.0%、NNT=11と、プラセボ群よりも有意に減少しています。同じ期間の口内炎の発生については、絶対リスク減少率-6.2%、相対リスク減少率-27.8%で、統計的有意差はないものの減少傾向にありました。また、肝毒性(トランスアミナーゼ上昇)の発生率は、8〜52週間のフォローアップ期間において、絶対リスク減少率-16.0%、相対リスク減少率-76.9%、NNT=6と、葉酸を併用する多くのメリットが示されています。なお、葉酸併用によるMTXの効果の有意な減弱はありませんでした。関節リウマチ治療におけるMTX診療ガイドライン 2016年改訂版においても、MTXを継続している患者では、必要に応じて葉酸を併用することが推奨されています4)。投与間隔については、MTX服用の24~48時間後が一般的です。同ガイドラインによれば、そのベストな投与間隔について明確なエビデンスはないとされていますが、少なくともその時間を空ければMTXの効果に影響はないだろうとのことです。なお、ロイコボリンレスキュー療法の研究では、MTX服用後42~48時間を過ぎてしまうとMTXの毒性が発現しやすくなることが報告されています5)。感染症リスクについてMTXは免疫抑制作用を有する薬剤ですので、肺炎、発熱、口内炎など感染兆候に注意を払うことも大切です。2015年にLancetに掲載されたネットワークメタ解析で、慢性関節リウマチ患者において、MTX使用時と生物学的製剤使用時の重篤感染症(死亡例、入院例、静脈注射の抗菌薬使用例)発現リスクについて検討されています6)。結果としては、生物学的製剤はDMARDsに比べて重篤感染症リスクが約30%高く、とくにMTX使用歴がある患者および標準〜高用量の生物学的製剤使用患者ではリスクが高いという傾向にありました。年間1,000人当たりの重篤感染症発生人数は、DMARDs服用群で20例、標準量の生物学的製剤使用群で26例、高用量の生物学的薬剤使用群で37例、生物学的製剤との併用群で75例です。MTX使用歴がない患者では、感染症リスクの有意な増加はありませんでした。近年では多くの生物学的製剤が発売されているので、MTXとの併用時や易感染性疾患罹患時の感染兆候モニタリングは意識しておくとよいでしょう。1)MSDマニュアル 関節リウマチ2)Lopez-Olivo MA, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2014;6:CD000957.3)Shea B, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2013;5:CD000951.4)関節リウマチ治療におけるメトトレキサート(MTX)診療ガイドライン 2016年改訂版5)Cohen IJ, et al. Pediatr Blood Cancer. 2014;61:7-10.6)Singh JA, et al. Lancet. 2015;386:258-265.

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第16回 発熱の症例・全てのバイタルが異常。何を疑う?-3【薬剤師のためのバイタルサイン講座】

今回の症例は、発熱を来した症例です。発熱のため受診される高齢者は少なくありませんが、なかには早期に治療を開始しないと生命にかかわる場合もあります。患者さんDの場合◎経過──3家族の到着後、医師・訪問看護師、施設の職員とあなたは、家族とよく相談して、近隣の救急病院に救急搬送することにしました。その晩、帰宅したあなたは、SIRSと敗血症について調べてみました。「サーズ、サーズっと。あら?SARS(Severe Acute Respiratory Syndrome;重症急性呼吸器症候群)とは違うのね?」教科書を読むと、細菌毒素などにより様々なサイトカインや血管拡張物質が放出されて末梢血管抵抗が低下し、相対的に循環血液量が減少することで血圧が低下、臓器への低灌流や臓器障害を来すことが書かれていました。臓器への低灌流や臓器障害を来している場合は重症敗血症(severe sepsis)」と呼ばれ、適切な補液を行っても改善しない血圧低下があること、血圧を維持するためにドパミンやノルアドレナリンなどの昇圧薬を必要とする場合には「敗血症性ショック(septic shock)」といわれること、さらに循環動態を安定化させるための初期治療(Early Goal Directed Therapy; EGDT)について学びました。「すぐに点滴を始めたのは、このためだったのね」敗血症診療ガイドライン2016(J-SSCG2016)と新しい敗血症の定義つい最近、敗血症診療ガイドラインが新しくなったのをご存知ですか?新しいガイドラインでは敗血症の定義は「感染症によって重篤な臓器障害が引き起こされる状態」と変更されました。敗血症の病態について、「感染症による全身性炎症反応症候群」という考え方から、「感染症による臓器障害」に視点が移されたわけです(図2)。本文の「経過3」には「臓器への低灌流や臓器障害を来している場合は『重症敗血症』と呼れ・・・」とありますが、この以前の重症敗血症が今回の敗血症になりました。また、敗血症性ショックの診断基準は、「適切な輸液にもかかわらず血圧を維持するために循環作動薬を必要とし、『かつ血清乳酸値>2mmol/Lを認める』」となりました。そこで何か感じませんか?そうなんです、敗血症の定義からSIRSがなくなったんです。SIRSは体温・脈拍数・呼吸数・白血球数から診断できますね。新しい敗血症はバイタルサインからその徴候に気付くことができるのでしょうか・・・。敗血症の診断「感染症によって臓器障害が引き起こされた状態」が新しい敗血症の定義でしたね。そこで、どうしたら臓器障害がわかるんだろうという疑問が出てきます。臓器障害は「SOFA(sequential organ failure assessment)スコア」によって判断します(表4)。感染症があり、SOFAスコアが以前と比べて2点以上上昇していた場合に臓器障害があると判断して、敗血症と診断します。この表をみるとすぐに点数を付けるのは難しいな・・・と思いますよね。そこで、救急外来などではqSOFA(quick SOFA)を使用します(表5)。意識の変容・呼吸数(≧22回/分)・収縮期血圧(≦100mmHg)の3項目のうち2項目以上を満たすときに敗血症を疑います。ガイドラインが新しくなったといっても、やはりバイタルサインによって敗血症かどうか疑うことができますね。敗血症が疑われたら、その次にSOFAスコアを評価して、敗血症と診断するわけです。具体的な診断の流れを図に示します(図3)。スライドを拡大するスライドを拡大するEGDT(Early Goal Directed Therapy)についてEGDTは、中心静脈圧・平均動脈圧などを指標にしながら、補液・循環作動薬などを使用して、尿量・血中乳酸値などを早期に改善しようとする治療法ですが、近年の臨床試験ではEGDTを遵守しても有益性は見いだせなかったという結果が得られました。ただ、敗血症性ショックに対する初期治療の一つは補液であることにかわりはありません。時の流れでガイドラインが変わっても患者さんを診るときにバイタルサインが重要なことは変わっていないようですね。エピローグ救急搬送先の病院で細菌学的検査、抗菌薬の投与、およびドブタミン、ノルアドレナリンによる治療が行われました。敗血症性ショックでした。約3週間が経ち、退院後にあなたが訪問すると、その91歳の女性は以前と同じようにベッドの上に寝ていました。以前と同じように寝たきりの状態で、以前と同じように職員の介助で何とか食事をしていました。本人の家族(長男)に新しく処方された薬について説明する機会がありました。ベッドサイドで長男と話をしていると、普段無表情な本人が、長男が来ているところを見て少しニコッと微笑んだように見えました。五感を駆使して、患者さんの状態を感じとる今回のポイントは、敗血症とSIRSの概念を知り、急を要する発熱を見極めることができるようになることでした。それともう1つ、今回のあなたは五感を駆使して患者さんの状態を知ろうとしました。ぐったりしているところや呼吸の状態を"視て"、呼吸が速い様子(息づかい)を耳で"聴き"ながら、手や手首を"触れて"体温や脈の状態を確認しました(味覚と嗅覚が入っていないなんて言わないでくださいね)。緊急度を素早く察知する手段のひとつですから、バイタルサインと併せて患者さんを注意して観察するとよいと思います。

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小児におけるリスペリドン使用関連有害事象

 リスペリドンは、小児の行動障害によく使用されるが、この集団における薬剤関連有害事象の定義は、あいまいである。米国・ヴァンダービルト大学のKazeem A. Oshikoya氏らは、リスペリドン治療を受けた小児における有害事象発生率およびリスク因子について検討を行った。Drugs-Real World Outcomes誌オンライン版2019年3月27日号の報告。 ジェネラリストおよび小児科専門医が所属する学術医療センターで、4週間以上のリスペリドン治療を受けた18歳以下の患者を対象とした。非特定化された電子健康記録よりデータを収集した。有害事象は、患者または親/保護者からの報告および、医師による発見もしくは研究室でのフォロー中に検出された、リスペリドンに起因する害のあるあらゆるイベントと定義した。有害事象と臨床変数との関連は、単変量および多変量解析を用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・対象患者は、371例(年齢中央値:7.8歳[四分位範囲:5.9~10.2]、男児:271例[73.0%])であった。・最も一般的な診断は、注意欠如多動症(160例[43.1%])と自閉症(102例[27.5%])であった。・リスペリドンのターゲット症状は、攻撃性(166例[44.7%])および問題行動(114例[30.7%])であった。・有害事象は、110例(29.6%)で156件認められた。・そのうち、最も一般的な有害事象は、体重増加(32件[20.5%])および錐体外路症状(23件、14.7%)であった。・攻撃性、過敏性、自傷行為は、有害事象と正の相関が認められ、鎮痛薬と抗菌薬の併用と負の相関が認められた。・多変量解析では、この関連性は、自傷行為(調整オッズ比:3.1、95%CI:1.7~5.4)および抗菌薬の併用(調整オッズ比:0.2、95%CI:0.1~0.9)において有意なままであった。 著者らは「1ヵ月以上のリスペリドン治療により、小児の3人に1人が1つ以上の有害事象を経験した。自傷行為を有する小児では、とくに注意が必要である」としている。■関連記事小児攻撃性に対する抗精神病薬の効果~メタ解析自閉スペクトラム症とADHDを有する小児における不安障害と気分障害第2世代抗精神病薬、小児患者の至適治療域を模索

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第15回 発熱の症例・全てのバイタルが異常。何を疑う?-2【薬剤師のためのバイタルサイン講座】

今回の症例は、発熱を来した症例です。発熱のため受診される高齢者は少なくありませんが、なかには早期に治療を開始しないと生命にかかわる場合もあります。患者さんDの場合◎経過──2 の続き観察とバイタルサインより今回の患者さんは、すべてのバイタルサインに異常があります。病態を知るためのヒントは数日間続いた発熱です。何らかの感染症(今回は尿路感染症)が増悪して、ABCのうちの呼吸や循環、さらに意識の状態にも異常を来したと考えられます。全身性炎症反応症候群(SIRS)と敗血症敗血症は、感染症によって生じた全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome; SIRS)と定義されます。と、いわれてもピンとこない人が多いと思いますので、図1をご覧ください。図1の右側の大きな円がSIRSで、感染症・外傷・熱傷・膵炎・その他の原因により、全身性に炎症反応を来した状態です。何らかの生体侵襲が加わると、まずは局所でサイトカインが産生されて炎症反応が起こります。さらに炎症が進むと炎症は局所に留まらず全身に広がります。そして、本来は有益であるはずの炎症反応が生体への破壊因子として働き、循環動態が悪くなり臓器不全が生じます。このように炎症反応は進行していきますが、表3の診断基準を満たすとき、私たちはSIRSと判断します。図1の左側の大きな円が感染症ですから、感染症によってSIRSを生じた場合(左右の大きな円が重なる部分です)、敗血症と診断されるわけです。ここで強調したいことは、SIRS診断基準の4項目〈表3〉のうち白血球数を除く3項目がバイタルサインであることです。詳しい診察や手間のかかる検査は必要なしにSIRSを見つけることができ、感染症があれば敗血症と診断できます。敗血症であれば一刻も早い抗菌薬の投与が必要になります。通常、補液(生理食塩液、乳酸リンゲル液)を開始しながら各種培養検査(細菌学的検査)を提出し、抗菌薬を開始しますが、この女性の場合は施設内での訪問診療なのでまずは補液を行いました。抗菌薬は広域の抗菌スペクトラムを持つ抗菌薬で開始し、細菌検査結果より狭域の抗菌薬にスイッチします。

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セファゾリンナトリウム注射用の代替薬

 2019年3月29日、厚生労働省は、事務連絡として「セファゾリンナトリウム注射用「日医工」が安定供給されるまでの対応について」を全国の関係機関に発出し、各医学会でも周知が開始された。 セファゾリンナトリウムは、日医工株式会社が製造・供給に大きなシェアをもつ抗菌薬だが、本年2月に製品供給に支障をきたす可能性がある旨の周知があり、現在も供給再開の目途が立っていない。そして、同製品の代替品と考えられる製品の一時的な供給不足も危惧されることから、安定供給が再開されるまでの間の対応として周知された。 利用にあたっては、「抗菌薬の処方に関する最終的な決定は、治療にあたる医師が行う」「一覧の病態・術式に対し本来の推奨薬とは限らない薬剤も含まれるので、個別の患者マネジメントにおいては病態や術式を十分に検討して決定すること」などの諸注意を踏まえ、院内などで情報共有をしつつ、活用してほしいとしている。周術期予防抗菌薬(カッコ内はターゲットとする細菌)・脳神経外科(黄色ブドウ球菌/レンサ球菌) 代替薬例:セフォチアム、セフォタキシムなど・耳鼻咽喉科(黄色ブドウ球菌/口腔内嫌気性菌/レンサ球菌) 代替薬例:アンピシリン・スルバクタム、セフォチアムなど・心臓血管外科(黄色ブドウ球菌/レンサ球菌) 代替薬例:セフォチアム、セフォタキシムなど・胸部外科(口腔内嫌気性菌/レンサ球菌) 代替薬例:アンピシリン・スルバクタム、セフォチアムなど・乳腺外科(黄色ブドウ球菌/レンサ球菌) 代替薬例:セフォチアム、クリンダマイシン・上部消化管外科(大腸菌/肺炎桿菌) 代替薬例:アンピシリン・スルバクタム、セフォチアム・消化器外科(腸内細菌科細菌) 代替薬例:アンピシリン・スルバクタム、セフォチアムなど・婦人科(腸内細菌科細菌、Bacteroides fragilisグループ) 代替薬例:アンピシリン・スルバクタム、セフォチアムなど・泌尿器科(腸内細菌科細菌) 代替薬例:アンピシリン・スルバクタム、セフォチアムなど・整形外科(黄色ブドウ球菌/レンサ球菌) 代替薬例:セフォチアム、セフメタゾールなど治療用抗菌薬(カッコ内はターゲットとする細菌)・黄色ブドウ球菌菌血症(黄色ブドウ球菌) 代替薬例:アンピシリン・スルバクタム、セフォタキシム、セフトリアキソンなど・軟部組織感染症[蜂窩織炎、丹毒など](黄色ブドウ球菌/レンサ球菌) 代替薬例:アンピシリン・スルバクタム、セフォタキシム、セフトリアキソンなど・急性骨髄炎、化膿性関節炎(黄色ブドウ球菌) 代替薬例:セフォタキシム、セフトリアキソン、クリンダマイシンなど・尿路感染症[急性腎盂腎炎](大腸菌) 代替薬例:セフォチアム、セフメタゾール、フロモキセフなど なお上記リストは、同製品の供給不足に伴う影響を最小限にし、かつ抗菌薬適正使用の観点から、既存の診療ガイドラインなどを踏まえ、国立研究開発法人国立国際医療研究センターAMR臨床リファレンスセンターの協力のもと作成された。■参考厚生労働省「セファゾリンナトリウム注射用「日医工」が安定供給されるまでの対応について」

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原発性硬化性胆管炎〔primary sclerosing cholangitis〕

1 疾患概要■ 概念・定義原発性硬化性胆管炎(primary sclerosing cholangitis:PSC)は、小胆管周囲にonion-skin様の結合織に囲まれる炎症により特徴付けられる肝の慢性炎症である。結合織の増加により胆管は狭窄、閉塞を起こし、胆汁うっ滞を来し、閉塞性黄疸となり、最終的には肝硬変、肝不全に進展する。PSCの発症・進展には、自己免疫機序が深く関わることが推定されているものの、血清学的に特異的な免疫指標は残念ながら同定されておらず、病因は現在も不明である。■ 疫学2012年の全国疫学調査によると、国内症例数は2,300名前後、人口10万人当たりの有病率は0.95程度と推測されている。しかし、欧米諸国で近年発症率の増加が報告されていること、画像検査の進歩により診断率が向上していることにより、実際の患者数はもう少し多いことが推察される。患者は、男性にやや多く、20代と60代の二峰性を示す。わが国では肝内・肝外胆管両者の罹患症例が多く、潰瘍性大腸炎の罹患合併が34%で、とくに若年者に高率である。また、胆管がんの合併を7.3%に認めている。■ 病因PSCには炎症性腸疾患との関連が認められており、欧米ではPSC患者の80%で合併がみられるが、わが国ではその頻度は低く、とくに高齢者では合併例は少ない。潰瘍性大腸炎患者の約5%とクローン病患者の約1%がPSCを発症する。こうした関連性といくつかの自己抗体(例:抗平滑筋抗体、核周囲型抗好中球抗体[pANCA])の存在から、免疫を介した発生機序が示唆されている。T細胞が胆管の破壊に関与するとみられることから、細胞性免疫の障害が示唆されている。家系内で集積傾向がみられ、自己免疫疾患との相関もしばしば報告され、HLAB8およびHLADR3を有する人々での頻度がより高いことから、遺伝的素因の存在が示唆されている。遺伝的素因のある人々では、おそらく原因不明の誘因(例:細菌感染、虚血性の胆管傷害など)によってPSCが引き起こされると考えられている。■ 症候病初期には無症状で、偶然の機会に胆道系酵素の上昇などで発見されることもある。発症は通常潜行性で、進行性の疲労や掻痒感が認められる場合が多い。約10~15%の症例では、右上腹部痛と発熱を認める。診断時の症状についての全国アンケート調査では、黄疸28%、掻痒感16%が認められるとの報告がある。病態が進行すれば、脂肪便、脂溶性ビタミン欠乏を来す場合があり、持続性の黄疸により病態は進行し、肝硬変の症状を呈する。約75%の症例で症状を伴う胆石や総胆管結石症を伴うことが報告されている。なお、一部の症例では晩期まで無症状のまま経過し、肝脾腫、肝硬変の状態で診断される場合もあるが、本疾患は緩徐ながら確実に進行し、末期には非代償期肝硬変に至る。診断から肝不全に至るまでの期間は、約12年とされている。なお、合併が多い炎症性腸疾患とは独立した経過をたどり、潰瘍性大腸炎はPSCに数年遅れて発現するケースがあり、合併が認められた場合、潰瘍性大腸炎は比較的軽症の経過をとる傾向があるとされている。結腸全摘術を施行された場合でも、PSCの経過には変化がないことが報告されている。そのほか、PSCと炎症性腸疾患両者が存在すると大腸がんのリスクが上昇し、このリスクはPSCに対して肝移植を施行しても変わらないことが報告されている。■ 予後わが国の全国調査によれば、肝移植なしの5年生存率は75%とされている。肝移植症例では、とくに近親者からの移植症例で再発が高頻度であるとの報告がある。早期症例では、肝硬変に至るまでの期間は15~20年とされているが、8~10%の症例では胆管がんの合併があるので注意が必要である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)確定診断に至る臨床的特異的マーカーは存在せず、また、肝生検でも確定診断は困難である。診断は、肝内外胆管病変の画像診断によるが、類似の画像所見を示す疾患、とくに自己免疫性膵炎(AIP)に伴う胆管炎との鑑別が重要である。診断に当たっては、以下の臨床像に十分留意する。(1)胆汁うっ滞に基づく腹痛、発熱、黄疸などの症状、(2)炎症性腸疾患、とくに潰瘍性大腸炎の存在、(3)6ヵ月以上持続する胆道系酵素、AlPの正常上限2~3倍以上の持続上昇。 また、画像所見や超音波検査では、(1)散在する胆管内腔の狭窄と拡張、(2)散在する胆管壁肥厚に留意が必要となる。そして、内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)では(1)肝内外胆管の散在する輪状、膜状、帯状狭窄および憩室様突出、数珠状狭窄、(2)肝内外胆管の毛羽立ち、刷子縁様の不整像、(3)肝内胆管分枝像の減少、(4)肝外胆管狭窄に符合しない肝内胆管拡張、などの特徴的所見が認められ、ERCP施行によりこれら所見はより明確になる(図1、2)。(図1、2入る)画像を拡大する画像を拡大するなお、診断確定に当たっては、以下の(1)~(9)の疾患の除外が重要であり、IgG4関連硬化性胆管炎の鑑別も重要である(下に挙げた厚生労働省研究班の診断基準を参照)。(1)IgG4関連硬化性胆管炎、(2)胆道感染症による胆管炎、(3)胆道悪性腫瘍、(4)胆管結石、(5)腐食性硬化性胆管炎、(6)先天性胆道異常、(7)虚血性胆管狭窄、(8)胆道外科手術後状態、(9)floxuridine動注による胆管障害。病変の広がりにより、1)肝内型、2)肝外型、3)肝内外型に分類される。2016年原発性硬化性胆管炎診断基準厚生労働省難治性肝・胆道疾患に関する調査研究班(滝川班)【原発性硬化性胆管炎の疾患概念】原発性硬化性胆管炎は病理学的に慢性炎症と線維化を特徴とする慢性の胆汁うっ滞を来す疾患であり、進行すると肝内外の胆管にびまん性の狭窄と壁肥厚が出現する。病因は不明である。胆管上皮に強い炎症が惹起され、胆管上皮障害が生ずる。診断においてはIgG4関連硬化性胆管炎*、発症の原因が明らかな2次性の硬化性胆管炎**、悪性腫瘍を除外することが重要である。わが国における原発性硬化性胆管炎の診断時年齢分布は2峰性を呈し、若年層では高率に炎症性腸疾患を合併する。持続する胆汁うっ滞の結果、肝硬変、肝不全に至ることがある。有効性が確認された治療薬はなく、肝移植が唯一の根治療法である。【原発性硬化性胆管炎の診断基準】IgG4関連硬化性胆管炎*、発症の原因が明らかな2次性の硬化性胆管炎**、胆管がんなどの悪性腫瘍を除外することが必要である。A.診断項目I.大項目A. 胆管像1)原発性硬化性胆管炎に特徴的な胆管像の所見を認める。2)原発性硬化性胆管炎に特徴的な胆管像の所見を認めない。B. アルカリフォスファターゼ値の上昇II.小項目a. 炎症性腸疾患の合併b. 肝組織像(線維性胆管炎/onion skin lesion)B.診断上記による確診・準確診のみを原発性硬化性胆管炎として取り扱う。*IgG4関連硬化性胆管炎は、“Clinical diagnostic criteria of IgG4-related sclerosing cholangitis 2012”(Ohara H,et al. J Hepatobiliary Pancreat Sci. 2012;19:536-542.)により診断する。**2次性硬化性胆管炎は以下の通りである(Nakazawa T, et al. World J Gastroenterol. 2013;19:7661-7670.)。先天性カロリ病Cystic fibrosis慢性閉塞性総胆管結石胆管狭窄(外科手術時の損傷によるもの、慢性膵炎によるもの)Mirizzi症候群肝移植後の吻合狭窄腫瘍(良性、悪性、転移性)感染性細菌性胆管炎再発性化膿性胆管炎寄生虫感染(cryptosporidiosis、microsporidiosis)サイトメガロウイルス感染中毒性アルコールホルムアルデヒド高張生理食塩水の胆管内誤注入免疫異常好酸球性胆管炎AIDSに伴うもの虚血性血管損傷外傷後性硬化性胆管炎肝移植後肝動脈塞栓肝移植後の拒絶反応(急性、慢性)肝動脈抗がん剤動注に関連するもの経カテーテル肝動脈塞栓術浸潤性病変全身性血管炎アミロイドーシスサルコイドーシス全身性肥満細胞症好酸球増加症候群Hodgkin病黄色肉芽腫性胆管炎通常、肝生検は診断に必須ではないが、施行した場合には、胆管増生、胆管周囲の線維化、炎症、および胆管の消失が認められる。疾患が進行するにつれて、胆管周囲の線維化が門脈域から拡大していき、最終的には続発性胆汁性肝硬変に至る。なお、小児症例では、自己免疫性肝炎との鑑別が困難な症例が多数存在することに、注意が必要である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)確立された治療法は現在なく、進行した場合は、肝移植が唯一の治療法となる。通常、無症状の患者はモニタリング(身体診察と肝機能検査を年2回など)のみで経過観察する。ウルソデオキシコール酸(商品名:ウルソ[5mg/kg、1日3回、経口、最大15mg/kg/日])は、掻痒を緩和し、生化学マーカー値を改善し、現在第1選択薬となっており、2012年の全国調査でも81%の症例で投与されているが、残念ながら、生存率は改善できない。脂質異常症の治療薬であるベザフィブラート(同:ベザトール)のPSCに対する有効性も報告されているが、報告では胆道系酵素の改善のみで、組織学的な改善や画像診断上の改善を促すものではないが、ウルソデオキシコール酸治療で十分な効果が得られなかった症例でも一定の改善効果がある点が注目されている。慢性胆汁うっ滞および肝硬変に至った場合には、支持療法が必要である。細菌性胆管炎の発症時には、抗菌薬が必要であり、必要に応じて治療的ERCPも施行する。単一の狭窄が閉塞の主な原因と考えられる場合(優位な狭窄、約20%の患者にみられる)は、ERCPによる拡張術(腫瘍の確認のための擦過細胞診も行う)とステント留置術により症状を緩和することができる。PSC患者では、肝移植が期待余命を延長する唯一の治療法であり、治癒も可能である。繰り返す細菌性胆管炎または肝疾患末期の合併症(例:難治性腹水、門脈大循環性脳症、食道静脈瘤出血)には、肝移植が妥当な適応である。脳死肝移植が少ない本邦では生体肝移植が主に行われているが、生体肝移植後PSCの再発率が高い可能性が、わが国から報告されている。4 今後の展望診断に有用な臨床マーカーの確立、病態の解明とそれに基づいた治療法の確立が大きな課題である。5 主たる診療科消化器科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 原発性硬化性胆管炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Nakazawa T, et al. J Gastroenterol. 2017;52:838-844.2)Chapman R,et al. Hepatology. 2010;51:660-678.公開履歴初回2019年4月9日

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プライマリケアにおける高齢者の尿路感染症には速やかな抗菌薬処方が有効(解説:小金丸博氏)-1023

 尿路感染症は高齢者における最も代表的な細菌感染症である。重症度は自然軽快する軽症のものから、死亡率が20~40%に至る重症敗血症まで幅広い。高齢者では典型的な臨床経過や局所症状を認めないことも多く、診断は困難である。そのうえ、65歳以上の女性の20%以上に無症候性細菌尿を認めることが尿路感染症の診断をさらに困難にする。 現在、薬剤耐性菌を減らすための対策として世界中で抗菌薬の適正使用を推進する動きがある。最近の英国からの報告によると、2004年~2014年の間にプライマリケアにおける高齢者の尿路感染症に対する広域抗菌薬の処方は減少していたが、その一方でグラム陰性菌による血流感染症が増加しており、その関連性が議論されている。 本研究は、高齢者の下部尿路感染症患者に対する抗菌薬治療介入の方法と治療成績の関係を検討した後ろ向きコホート研究である。英国のプライマリケアを受診した65歳以上の患者のうち、下部尿路感染症と確定診断、あるいは疑われた全患者を対象とした。無症候性細菌尿、複雑性尿路感染症、入院例などは除外された。抗菌薬の処方タイミングによって、即時処方群(初回診断日に処方)、待機処方群(初回診断日から7日以内に処方)、処方なし群の3群に分類し、診断から60日以内の血流感染症、全死亡率などを比較した。その結果、60日以内の血流感染症の発生率は即時処方群が0.2%だったのに対し、待機処方群は2.2%、処方なし群は2.9%と有意に高率だった(p=0.001)。共変量で補正すると、即時処方群と比較した待機処方群の血流感染症のオッズ比は7.12(95%信頼区間:6.22~8.14)、処方なし群のオッズ比は8.08(同:7.12~9.16)だった。60日以内の全死亡率は、即時処方群が1.6%、待機処方群が2.8%、処方なし群が5.4%だった。多変量Cox回帰モデルで解析した結果、高齢、男性、Charlson併存疾患指数、喫煙などが60日以内の死亡と関連があった。特に、85歳以上の男性において死亡リスクが高かった。 本研究において、高齢者の下部尿路感染症に対して抗菌薬を即時処方することで、その後の血流感染症発生率や死亡率を減らすことが示された。後ろ向き研究であるものの、英国のデータベースを用いた非常に患者数の大きい研究であり、結果の信頼度は高い。研究のlimitationとして、菌名や耐性菌の割合など原因微生物の情報がないこと、患者の服薬遵守率が不明なこと、続発した血流感染症の侵入門戸が尿路かどうか不明なことなどが挙げられる。耐性菌を蔓延させないために抗菌薬の使用量を減らす努力は重要であるが、高齢者の尿路感染症に対して抗菌薬を投与することは妥当と考える。ただし、無症候性細菌尿に対して抗菌薬を投与することは厳に慎まなければならない。 本研究の結果をみると即時処方群が86.6%を占めていたが、本邦では高齢者の尿路感染症に対してもっと高率に抗菌薬を処方していると思われる。処方された抗菌薬をみてみると、トリメトプリム、ニトロフラントインがセファロスポリンやペニシリン系より多かった。キノロン系抗菌薬の割合が4.4%と少なかったことは、日本のプライマリケアの現場でも大いに見習うべき点であろう。

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CIED留置後感染予防、生体吸収性抗菌薬溶出メッシュが有益/NEJM

 心臓植込み型電気デバイス(CIED)留置後の感染症を予防するための、CIEDを包む生体吸収性抗菌薬溶出メッシュの安全性と有効性を評価した、米国・クリーブランド・クリニックのKhaldoun G. Tarakji氏らによる無作為化比較臨床試験「Worldwide Randomized Antibiotic Envelope Infection Prevention Trial:WRAP-IT」の結果が示された。抗菌薬溶出メッシュの使用により、標準ケアによる感染予防戦略のみの実施と比較し、合併症の発生が増加することなく、重大なCIED感染症の発生が有意に低下したという。CIED留置後の感染症はその後の病的状態や死亡と関連しているが、術前抗菌薬投与以外に感染症を予防する方法に関するエビデンスは限定的であった。NEJM誌オンライン版2019年3月17日号掲載の報告。約7,000例を、抗菌薬溶出メッシュ使用あり/なしに無作為化 研究グループは、CIEDポケットの再建、ジェネレーター取り換え、除細動機能付き両心室ペースメーカのシステムのアップグレード・初回留置を実施する患者を、抗菌薬溶出メッシュ使用群または非使用群に1対1の割合で無作為に割り付けた。感染症予防のための標準ケア(術前の抗菌薬静脈投与および滅菌技術)は、全患者に対して行った。 主要評価項目は、CIED留置術後12ヵ月以内の、システム除去/再建を要する感染症、感染症再発を伴う長期抗菌薬療法ならびに死亡とし、安全性の副次評価項目は12ヵ月以内の施術関連またはシステム関連の合併症で、Cox比例ハザードモデルを用いて解析した。 計6,983例の患者が登録された(使用群3,495例、非使用群3,488例)。抗菌薬溶出メッシュ使用で重大なCIED関連感染症の発生が約40%低下 主要評価項目の発生は、使用群25例、非使用群42例で確認された(12ヵ月Kaplan-Meier推定イベント発生率はそれぞれ0.7%、1.2%、ハザード比[HR]:0.60[95%信頼区間[CI]:0.36~0.98]、p=0.04)。安全性に関する副次評価項目は、使用群201例、非使用群236例で発生した(12ヵ月Kaplan-Meier推定イベント発生率はそれぞれ6.0%、6.9%、HR:0.87[95%CI:0.72~1.06]、非劣性のp<0.001)。 平均(±SD)追跡調査期間は、20.7±8.5ヵ月であった。追跡期間全体を通して、重大なCIED関連感染症は、使用群32例、非使用群51例で確認された(HR:0.63、95%CI:0.40~0.98)。 なお、著者は、抗菌薬の感受性に関するデータが不足していること、周術期および術後の抗菌薬使用などの感染予防戦略の比較はしていないことなどを研究の限界として挙げている。

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