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【GET!ザ・トレンド】Less is More?β-ラクタマーゼ阻害薬nacubactamが拓くAMR治療の展望

薬剤耐性菌(AMR)は公衆衛生における世界的な社会課題である。なかでもカルバペネム系抗菌薬に耐性を示すカルバペネム耐性腸内細菌目細菌(CRE)はWHOの細菌優先病原体リストにおいて、クリティカル(最重要)に分類されている。そのCREに対し、Meiji Seikaファルマは新規β-ラクタマーゼ阻害薬nacubactam(OP0595)を承認申請中である。CRE感染症に対する同剤の特徴と効果、さらに新規抗菌薬開発の課題について、同社研究開発本部の加藤誠司氏らに話を聞いた。喫緊の課題カルバペネム耐性腸内細菌目細菌(CRE)AMRついての世界的な調査報告書であるJim O'Neill氏による耐性菌レポートによれば、新規抗菌薬の研究開発等の対策を講じなければ2050年までに年間1,000万人がAMRにより死亡すると報告されている。これを受け、WHOが薬剤耐性に関するグローバル・アクションプランを策定し、それを基に日本を含む世界各国がそれぞれの国の課題に応じたアクションプランを策定し取り組んでいる。抗菌薬に耐性を示す代表的な機序としてβ-ラクタム系抗菌薬の分解酵素であるβ-ラクタマーゼがある。カルバペネマーゼはβ-ラクタマーゼの1種で、その名のとおりカルバペネム系抗菌薬を分解する酵素である。カルバペネム系抗菌薬は重症感染症治療に使用される。最後の砦であるカルバペネム系抗菌薬を無効化するカルバペネマーゼ産生菌による感染症は、患者の重篤化、入院長期化、さらに死亡率の増加を招く。そのためCRE感染は5類感染症として全例報告が義務付けられるなど、日本でも喫緊の課題とされている。nacubactamによるβラクタマーゼへの阻害活性と、エンハンサー効果nacubactamは、Meiji Seikaファルマが自社で創出した新規β-ラクタマーゼ阻害薬である。2025年12月にカルバペネム系薬に耐性のグラム陰性菌による感染症治療薬として国内承認申請された。同剤はβ-ラクタム薬(セフェピム[CFPM]またはアズトレオナム[AZT])との併用で、CREに対するβ-ラクタム薬の分解を阻害するだけでなく、併用するβ-ラクタム薬の抗菌活性を増強させるという従来のβ-ラクタマーゼ阻害薬にはない特性を持っている。具体的には、nacubactamはPBP2の阻害作用を有する。一方、CFPMやAZTといったβ-ラクタム系抗菌薬はPBP3を阻害する。つまり、CFPMおよびAZTとnacubactamの併用により、PBP2とPBP3双方を阻害して抗菌活性・殺菌作用を増強することが可能となる(エンハンサー効果)。β-ラクタマーゼ阻害薬を単味製剤として開発していることも大きな意味を持つ。単味製剤のメリットとして既存抗菌薬との組み合わせ次第で将来出現する細菌にも柔軟に対応できる可能性がある。また、既存の抗菌薬と組み合わせて耐性菌に対応できるため、従来の配合剤のようにそれぞれのβ-ラクタム薬との配合剤を新薬として医療機関で保管する必要がなくなり、薬剤数抑制の観点からもメリットが生まれると考えられる。β-ラクタマーゼはAmbler分類でクラスAからDに分かれている。国や地域によって優勢なクラスや型が異なり、それに応じて有効な薬剤も変わる。画像を拡大するなかでもクラスBに有効な薬剤は限られており、その対策には課題が残る。最新報告によれば、国内のCREは約1,000例で、大部分はクラスBのIMP型だ。また、近年はクラスBのNDM型も増加傾向にある。厚生労働省によるカルバペネム低感受性腸内細菌目細菌株の感性率を見ると、セフェピムおよびnacubactamとの併用(以下、CFPM/NAC)はクラスA、C、Dのβラクタマーゼに高い感性率を示す。また、アズトレオナムおよびnacubactamとの併用(以下、AZT/NAC)はA、C以外にもクラスB(IMP型、NDM型とも)にも高い感性率を示すことが明らかになっている。画像を拡大する2つの第III相国際共同試験nacubactamの臨床開発では、欧州・日本を含むアジアで2つのグローバル第III相臨床試験(Integral-1、Integral-2)が実施された。Integral-1試験は、カルバペネム感受性の複雑性尿路感染症または急性単純性腎盂腎炎患者を対象に、CFPM/NACおよびAZT/NACをカルバペネム系抗菌薬であるイミペネム/シラスタチン(IPM/CS)と比較した二重盲検比較試験である※。IPM/CSに対する主要評価項目(投与終了7日後の総合臨床効果)において、AZT/NACは非劣性を、CFPM/NACは非劣性かつ優越性を証明した。結果は米国の感染症の学会であるIDWeek2025で反響を呼びThe Lancet Infectious Diseases誌による学会のハイライトにも取りあげられ、試験の内容はThe Lancet2026年5月16日号に掲載された。※通常の成人で、セフェピム2g+nacubactam1g、アズトレオナム2g+nacubactam1gまたはIPM1g /CS1g (いずれも1日3回静注)を投与もう1つの第III相試験であるIntegral-2試験は、CRE感染症患者を対象とした試験である。欧州臨床微生物学感染症学会議(ESCMID Global2026)では口頭演題に採択され発表に至っている。ESCMID Global 2026では、nacubactamに関する10演題が発表され、いずれも活発な議論が展開されたという。同剤に対する世界的な注目度の高さが窺える。新たなスタイルで行われたnacubactamの開発新規抗菌薬の開発にはさまざまな困難が伴う。感染症は被験者数が限られているため、臨床開発において症例を集積するには多くの国・施設の協力が不可欠だ。その分、開発コストは莫大になる。一方で、適正使用により患者数が限定されるなか、安定供給のための製造コストも増加しており経済合理性の欠如から、大手製薬メーカーが抗菌薬開発から撤退する負のサイクルに陥っている。nacubactamの開発に当たってはAMEDによる医療研究開発革新基盤創成事業(CiCLE)の支援を得ている※。この研究課題では、第I相試験の薬物動態(PK/PD)からシミュレーションした用法用量を、第II相を介さずに第III相試験で検証している。結果は評価項目を達成し、第II相試験を省略して開発することが可能となった。困難な状況の中で「プロジェクトメンバー全員が、CREによる感染症に苦しむ患者さん全員を救うという思いでnacubactamの開発にあたっている」と加藤氏は述べる。※CiCLE研究開発課題「非臨床PK/PD理論を活用した新規β-ラクタマーゼ阻害剤(OP0595)の単味製剤の研究開発」プル型インセンティブの拡大が抗菌薬開発の鍵を握る新規抗菌薬の開発にあたっては、承認取得後の課題も深刻だ。上市後の適正使用を徹底すると使用症例数は絞られ、販売額は縮小する。加藤氏によれば、新薬の上市まで至った会社も事業が維持できず倒産する事例も少なくない。新規抗菌薬の開発を支える仕組みとして、研究開発費を支援するプッシュ型インセンティブと、承認・発売後の採算性を維持・向上させるプル型インセンティブ制度がある。国内ではプル型インセンティブとして抗菌薬確保支援事業が設けられているが、その予算枠では安定供給に資する製造コストを維持するのに課題もあり、今後の抗菌薬開発においてはプル型インセンティブの拡充がより重要になっていくと考えられる。Meiji Seikaファルマとしても、製薬協と連携しながらプル型インセンティブの拡大に向け、国への働きかけを続けている。nacubactamは新たなβ-ラクタマーゼ阻害薬として、β-ラクタム薬との併用で従来にはない強力な抗菌活性を発揮する。また、単味製剤の利点を生かし、新たな組み合わせを開発することで将来的に新たな耐性菌に備えることができる可能性を持つ。第一歩としてCREという最重要耐性菌に立ち向かうnacubactamに注目したい。 参考 1) O'Neill J, Review on Antimicrobial Resistance. Tackling Drug-Resistant Infections Globally: Final Report and Recommendations. Wellcome Trust and HM Government 2) 厚生労働省 薬剤耐性ワンヘルス動向調査年次報告書(サマリ版) 3) 国立健康危機管理研究機構(JIHS)国際感染症センターカルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)感染症に関する一般的事項 4) 国際健康危機管理研究機構(JIHS)カルバペネム耐性腸内細菌目細菌(CRE)感染症, 2024年現在 5) Takahashi S, et al. Lancet.2026;407:1929-1940.

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MSSA菌血症、セファゾリンは抗ブドウ球菌ペニシリンに非劣性/NEJM

 メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)菌血症患者において、90日死亡率に関して抗ブドウ球菌ペニシリン(flucloxacillinまたはクロキサシリン)に対するセファゾリンの非劣性が認められ、急性腎障害の発生率はセファゾリンで低かった。カナダ・マギル大学のTodd C. Lee氏らStaphylococcus aureus Network Adaptive Platform(SNAP)Trial Groupが、多施設共同無作為化非盲検非劣性試験「SNAP試験」の結果を報告した。黄色ブドウ球菌菌血症は死亡率が高い。MSSA菌血症の治療において、セファゾリンと抗ブドウ球菌ペニシリンのどちらが望ましいかは明らかになっていなかった。NEJM誌2026年6月18日号掲載の報告。セファゾリンとflucloxacillinまたはクロキサシリンを比較 SNAP試験は、8ヵ国(オーストラリア、カナダ、イスラエル、オランダ、ニュージーランド、シンガポール、南アフリカ共和国、英国)の91施設において実施されている現在進行中のベイジアン・アダプティブ・プラットフォーム試験で、黄色ブドウ球菌菌血症に対する複数の治療(例:抗菌薬治療、クリンダマイシン併用療法、早期の経口薬への切り替えなど)を評価している。今回は、抗菌薬治療のMSSAに関する結果が報告された。 研究グループは、ペニシリン耐性MSSA菌血症の18歳以上の入院患者を、血液培養(黄色ブドウ球菌が初めて陽性となった培養)の検体採取後72時間以内に登録し、セファゾリン群とflucloxacillinまたはクロキサシリン群に1対1の割合で無作為に割り付けた。セファゾリンは2gを8時間ごと(重症例または心内膜炎の場合は6時間ごと)、flucloxacillinは2gを6時間ごと(重症例または心内膜炎の場合は4時間ごと)、クロキサシリンは2gを4時間ごとに静脈内投与し、腎機能に応じて用量を調整した。 投与期間は、非複雑性菌血症で最低14日間、複雑性菌血症で28~42日間とした。なお、非複雑性菌血症の場合は7日目に、複雑性菌血症の場合は14日目に、適格であれば早期の経口薬への切り替えを評価するドメインへの移行が許可された。 主要アウトカムは登録後90日以内の全死因死亡で、階層ベイズロジスティック回帰モデルを用いて解析し、セファゾリンがflucloxacillinまたはクロキサシリンに対して非劣性である事後確率(非劣性基準は補正後オッズ比[OR]<1.2と事前に規定、これはflucloxacillinまたはクロキサシリン群の死亡率が15%の場合に死亡率の絶対差が2.5%ポイント未満に相当することを示す)、ならびに優越性の事後確率(基準は補正後OR<1.0)を評価した。安全性の評価項目には、14日以内の急性腎障害の発症が含まれた。90日死亡率、セファゾリン群15%、flucloxacillinまたはクロキサシリン群17% 2022年2月17日より登録を開始し、2024年6月21日に、事前に計画された第4回中間解析に基づき、データ安全性モニタリング委員会から急性腎障害に関する安全性シグナルを理由に患者登録の中断が要請された。その時点の解析で非劣性の基準が満たされたことから、2024年8月7日に試験は終了した。 計1,341例が無作為化され、671例がセファゾリン、670例がflucloxacillinまたはクロキサシリンの投与を受け、追跡不能例等を除く1,287例(セファゾリン群645例、flucloxacillinまたはクロキサシリン群642例)が主要アウトカムの解析対象となった。 90日死亡率は、セファゾリン群15.0%(97/645例)、flucloxacillinまたはクロキサシリン群17.0%(109/642例)、補正後ORは0.81(95%信頼区間[CI]:0.59~1.12)であり、非劣性の事後確率は99.2%、優越性の事後確率は89.8%であった。 14日以内の急性腎障害は、セファゾリン群で660例中92例(13.9%)に、flucloxacillinまたはクロキサシリン群では648例中127例(19.6%)に認められた(補正後OR:0.67、95%CI:0.50~0.89、優越性の事後確率99.7%)。

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jmedmook104 プライマリ・ケアのギモンに応える 感染症Q&A

現場で生まれた数々の疑問に専門医が応えます!2019年から続く日本プライマリ・ケア連合学会と日本感染症学会のジョイントシンポジウム「感染症専門医はプライマリ・ケア医からの疑問に応えられるのか?」で熱く交わされた質疑応答をもとに、感染症診療に有用なQ&Aをピックアップ。「外来でグラム染色をすべきか」「風邪なのに抗菌薬を欲しがる患者さんにどう対応すべきか」「感受性のない抗菌薬が効いてしまう理由」など、プライマリ・ケアの現場で直面する答えの出ない疑問についてエキスパートが明快に解説します。専門性と総合性の融合、多職種連携の重要性にも光を当てた本書は、地域で感染症診療に携わる医師はもちろん、看護師、薬剤師、介護職の皆さまにもおすすめの一冊です。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大するjmedmook104 プライマリ・ケアのギモンに応える 感染症Q&A定価4,400円(税込)判型B5判頁数130頁発行2026年6月監修日本プライマリ・ケア連合学会感染症委員会/日本感染症学会学際化・国際化委員会ご購入はこちらご購入はこちら

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最適な輸液ルート選択の考え方 その参【ケースで学ぶ輸液オーダー】第4回

はじめに「点滴ラインを何度も自己抜去してしまう認知症の患者さん」「その都度ルート再確保に奔走する看護師」「内心心苦しさを感じながら点滴を指示する医師」は、病棟「あるある」な光景でしょう。しかし、たとえ1日500mLの維持輸液だけだったとしても、必要な治療であればやめるわけにはいきません。そんなとき、全員をwin-winの関係にしてくれるのが、古くて新しい存在の「皮下輸液」です。症例特別養護老人ホームから誤嚥性肺炎で入院した90代女性。総合診療科に配属されたばかりの研修医A君が担当になりました。施設では普通食だったとのことですが、いざ服薬してみると明らかにむせています。言語聴覚士(ST)が介入し、嚥下訓練をしながら少しずつ嚥下調整食を試すことになりました。段階的にカロリーを上げていく間、どうしても経口以外からの水分補給が必要です。とはいえ、経鼻胃管の留置は自己抜去のリスクが高すぎます。そこでA君は、末梢静脈路から維持輸液500mLを1日2時間ほどかけて、まずは1週間行う計画を立てました。しかし、患者さんの末梢血管は細くて見えにくく脆弱です。看護師がなんとか確保したルートは、あえなく2日連続で自己抜去されてしまいました。「もう刺せる血管がありません」と看護師に詰められるA君。中心静脈カテーテルを留置するなら自己抜去対策に身体拘束が避けられない状況です。ほかに優しくて安全な方法はないのでしょうか?考えかたの整理19世紀中頃に登場した古典的治療法である皮下輸液は、経静脈栄養の発展・普及により廃れかかっていました。しかし近年では、高齢者の脱水治療や終末期ケアにおける「低侵襲で安全なルート」として見直されています。「血管が見つからなくて針が刺せない」「どうしても点滴を抜いてしまう」という場面において、皮下輸液は重篤な合併症がほとんどない、極めて安全な選択肢です。緩和ケア領域では、持続注入ポンプを用いた鎮痛薬の持続皮下注射も普及しています。『終末期がん患者の輸液療法に関するガイドライン 2013年版1)』『症状緩和のためのできる!使える!皮下投与 改訂2版2)』を参考に、皮下輸液の方法、注意点、皮下投与可能な薬剤例(表1)をまとめてみました。皮下輸液の方法投与速度60~500mL/時間1日投与量1,500mLまで(2ヵ所の場合は3,000mLまで)管理1~4日ごとの針・チューブ交換と、刺入部の観察(浮腫、発赤、痛み、感染、液漏れがないか)注意点静脈と違って効果発現までに時間がかかる。浮腫がある場所は吸収されにくいため穿刺に向かない。皮膚障害が起こることがある。出血傾向がある患者さんには禁忌。表1 皮下投与可能な薬剤例1,2)※添付文書上、皮下投与が可能なもの。その他は文献や経験的使用に基づく。画像を拡大するベテラン看護師に聞きました<皮下輸液の実際>当院で高齢者の皮下輸液を日常的に行っている病棟看護師に、現場のリアルを聞いてみました。準備するもの普段の点滴に使う24Gの静脈留置針と点滴セット。特別な道具は不要。点滴の落とし方たとえば維持輸液(ソリタT3など)500mLなら、約4時間かけてゆっくり落とすように重力滴下でクレンメを調整する。おすすめの穿刺部位頻用するのは腹部で、腹壁の厚みが少ない場合は大腿部を選択する。自己抜去のリスク管理リスクが極めて高い患者さんは点滴終了ごとに抜針する。また、大腿部に穿刺し、衣服のズボンの裾からこっそりラインを外へ誘導すると、患者さんの視界に入らず抜かれにくくなる。 痛みを訴えたら?もし注入開始後に痛みの訴えがあった場合は、刺入部をカイロや蒸しタオルで温めると痛みが和らぐ。図2 当院で入院患者に行われる皮下輸液の実際画像を拡大する保険適用上の注意点今回参照した本邦の文献1,2)では、海外文献や成書での使用例や国内での臨床経験に基づいた豊富な実例を紹介しているとともに、皮下投与が添付文書上の適応外に該当する場合は、「患者・家族に対する十分な説明を行い、場合によっては説明文書や同意書を作成したうえで、院内の手続きを経て適応外申請を行うなど、より厳格な対応が求められていく可能性がある2)」との認識も示しています。海外では、セファゾリンやセフトリアキソンなど、本邦では皮下投与の適応外となっている抗菌薬の皮下投与の安全性を示す報告3,4)や、皮下投与実施ガイドライン5)も存在し、皮下投与の安全性や有益性のよりどころになりますが、本邦で実施する場合は、医学的な正しさと制度の順守の両輪を念頭におきましょう。本症例の対応A君は、当面の輸液ルートとして皮下輸液を選択しました。腹部の皮下に24G静脈留置針を刺入し、ソリタT3 500mLを1日1本4時間程度で点滴しました。患者さんは刺入部を気にすることなく穏やかに過ごされ、鎮静薬の投与や身体拘束は必要ありませんでした。「末梢が見えない」「自己抜去のリスクがある」患者さんに維持輸液を500mL行わざるを得ない場合、皮下輸液を選択肢に入れましょう。皮下輸液に適する製剤、適さない製剤皮下組織への輸液投与は、静脈内投与と比較して薬剤の希釈および全身への拡散が起こりにくく、投与部位において一時的に高濃度で滞留する可能性があります。そのため、浸透圧、pH、局所刺激性といった薬剤の物理化学的特性の影響を強く受ける点に留意が必要です。皮下輸液に使用する輸液製剤は、原則として等張(浸透圧比約1)であり、かつ生体に近いpHであることが求められます。皮膚のpHは、表面では弱酸性(pH4~6)、角質下では中性から弱塩基性(pH6~7)とされており、これらの範囲から逸脱する製剤は局所刺激や組織障害のリスクを高める可能性があります。この観点から、生理食塩液、5%ブドウ糖液、1・3号液、リンゲル液は皮下投与が可能とされています。一方で、末梢静脈栄養輸液、高カロリー輸液は浸透圧比が3以上と高く、皮下投与には適しません。また、脂肪乳剤は浸透圧比が約1でありpHも6.5~8.5に調整されていますが、血管外漏出時に壊死や潰瘍形成を引き起こした症例が報告されています6)。このため、安全性の観点から皮下投与は推奨されません。1)日本緩和医療学会緩和医療ガイドライン委員会編. 終末期がん患者の輸液療法に関するガイドライン 2013年版. 金原出版;2013.2)梶山 徹ほか編. 症状緩和のためのできる!使える!皮下投与 改訂2版. 診断と治療社;2023.3)Moreal C, et al. New Microbiol. 2024;47:227-242.4)Forestier E, et al. Infect Dis Now. 2026;56:105232.5)Broadhurst D, et al. J Infus Nurs. 2023;46:199-209.6)Lu YX, et al. World J Clin Cases. 2021;9:4599-4606.

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ST合剤に「急性汎発性発疹性膿疱症」の重大な副作用追加/厚労省

 2026年6月16日、厚生労働省より添付文書の改訂指示が発出され、抗菌薬のスルファメトキサゾール・トリメトプリム(商品名:バクタ配合錠、バクトラミン配合錠ほか、通称:ST合剤)の「重大な副作用」の項に「急性汎発性発疹性膿疱症」が追加された。急性汎発性発疹性膿疱症の発生状況と改訂の理由 急性汎発性発疹性膿疱症の症例を評価し、専門委員の意見も聴取した結果、本剤と事象との因果関係が否定できない症例が集積したことから、使用上の注意を改訂することが適切と判断された。なお、国内症例は12例で、うち医薬品と事象との因果関係が否定できない症例は4例(死亡0例)であった。その他、添付文書が改訂された薬剤 同日、ほかの医薬品についても使用上の注意の改訂指示が出されており、主な変更点は以下のとおり。◯炭酸リチウム 「禁忌」の項から「妊婦又は妊娠している可能性のある女性」が削除された。これに伴い、「特定の背景を有する患者に関する注意」において、妊婦には「治療上やむを得ないと判断される場合を除き、投与しないこと」に改められ、新たに「生殖能を有する者」への注意喚起(催奇形性に関する十分な説明など)が新設された。◯カルボキシマルトース第二鉄、含糖酸化鉄 「重大な副作用」の項に「低リン血症、骨軟化症」が新設・追加された。また、重要な基本的注意として、投与開始前や投与中の定期的な血清リン値の測定と、骨軟化症を疑う症状が現れた際の処方医への相談を患者に指導する旨が追記された。◯バレメトスタットトシル酸塩 「重要な基本的注意」の項に、「急性骨髄性白血病や骨髄異形成症候群などの二次性悪性腫瘍が発現する可能性」について追記され、患者の状態を十分に観察することが求められている。

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再発・難治性多発性骨髄腫、テクリスタマブ単剤でPFS延長(MajesTEC-9)/NEJM

 1~3ラインの治療歴のある再発・難治性多発性骨髄腫患者の治療では、担当医選択のレジメンと比較してテクリスタマブは、無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)を有意に改善し、その一方でGrade3または4の感染症の頻度が高いことが、フランス・ナント大学病院のCyrille Touzeau氏らが実施した「MajesTEC-9試験」で示された。テクリスタマブは、多発性骨髄腫細胞上に発現するB細胞成熟抗原(BCMA)とT細胞上に発現するCD3を標的とする二重特異性抗体である。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2026年5月29日号で報告された。24ヵ国の無作為化第III相試験 MajesTEC-9試験は、日本を含む24ヵ国162施設で実施した非盲検無作為化第III相試験(Johnson & Johnsonの助成を受けた)。2023年4月~2025年4月に参加者を登録した。 対象は、抗CD38モノクローナル抗体およびレナリドミドを含む1~3ラインのレジメンによる治療歴があり、病勢が進行または直近のレジメンが奏効しなかった再発・難治性多発性骨髄腫の患者であった。 被験者を、テクリスタマブ(皮下投与)または担当医が選択したレジメン(ポマリドミド+ボルテゾミブ+デキサメタゾン[PVd]、カルフィルゾミブ+デキサメタゾン[Kd]のいずれか)を受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。抗菌薬の予防投与と免疫グロブリン補充療法が推奨された。 主要評価項目はPFS(無作為化の日から病勢進行または死亡の日までの期間)とし、独立審査委員会が評価した。CR以上の達成率も有意に優れる 593例を登録し、テクリスタマブ群に296例、PVd/Kd群に297例を割り付けた。574例(テクリスタマブ群291例、PVd/Kd群283例)が実際に試験薬の投与を受け、PVd/Kd群のうち86例(30.4%)がPVd、197例(69.6%)はKdを受けた。 全体の年齢中央値は70歳(範囲:34~86)、173例(29.2%)が75歳以上で、290例(48.9%)が女性であった。前治療ライン数中央値は2(範囲:1~3)であり、128例(21.6%)が1ラインのみを受けていた。治療期間中央値は、テクリスタマブ群が13.1ヵ月、PVd/Kd群は7.0ヵ月だった。 追跡期間中央値17.3ヵ月の時点における推定18ヵ月PFS率は、PVd/Kd群が26.9%(95%信頼区間[CI]:21.1~33.0)であったのに対し、テクリスタマブ群は69.8%(95%CI:63.7~75.1)と有意に優れた(ハザード比[HR]:0.29、95%CI:0.23~0.38、p<0.001)。 完全奏効(CR)以上(65.9%vs.16.8%、リスク比:3.95、95%CI:3.03~5.14、p<0.001)の達成率はテクリスタマブ群で有意に高く、全奏効(部分奏効[PR]以上:84.5%vs.54.2%、リスク比:1.56[95%CI:1.39~1.75])の達成率もテクリスタマブ群で高かった。 また、推定18ヵ月OS率についても、テクリスタマブ群で有意に良好だった(79.2%[95%CI:73.5~83.8]vs.68.6%[95%CI:62.4~74.0]、HR:0.60[95%CI:0.43~0.83]、p=0.002)。Grade3、4の有害事象の頻度が高い、厳密な感染予防策が重要 Grade3または4の有害事象は、テクリスタマブ群の84.9%、PVd/Kd群の76.3%に発生し、Grade5(死亡)の有害事象の発生率はそれぞれ6.5%および3.5%であった。 テクリスタマブ群では、サイトカイン放出症候群が66.0%に発生し、そのほとんどがGrade1(48.8%)または2(16.5%)で、Grade3は2例のみであり、Grade4または5は認めなかった。免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)は4.1%にみられ、Grade1が2.4%、Grade2が1.4%で、Grade3の1例はテクリスタマブの投与中止に至った。 Grade3または4の感染症は、テクリスタマブ群で頻度が高かった(41.6%vs.29.0%)。致死的感染症は、テクリスタマブ群で16例(5.5%)、PVd/Kd群で8例(2.8%)に発生した。 著者は、「PVd/Kd群の3分の2以上が、後治療として二重特異性抗体療法またはCAR-T細胞療法を開始したにもかかわらず、テクリスタマブ群はCRの確率がより高く、OSがより延長した」「重篤な感染症のリスクがあるため、感染症管理では厳密な感染予防策と免疫グロブリン補充療法が不可欠である」としている。 また、「これらの結果は、多発性骨髄腫の2次治療およびそれ以降の治療選択肢として、テクリスタマブを基盤とし、グルココルチコイドの使用を控えるレジメンを支持するものである」と指摘している。

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抗菌薬使用とセリアック病発症に因果関係は認められず

 抗菌薬の使用はセリアック病(CD)の発症と関連付けられてきたが、新たな研究で、この因果関係を支持するエビデンスは認められないことが示された。CD患者では、CDではないきょうだいや一般集団と比較して抗菌薬使用のオッズが高かったものの、腸粘膜が正常な人では、そのオッズはさらに高かったという。ヨーテボリ大学(スウェーデン)のMaria Ulnes氏らによるこの研究は、「Clinical Gastroenterology and Hepatology」に4月27日掲載された。 Ulnes氏は、「CDと抗菌薬使用との間に因果関係は認められなかった。抗菌薬の適正使用が重要であることに変わりはないが、CD発症を恐れて抗菌薬の使用を避ける理由はない」と述べている。 CDは、小麦・大麦・ライ麦に含まれるタンパク質のグルテンに対する自己免疫反応によって腹痛や下痢などの症状が引き起こされる自己免疫疾患である。小腸粘膜に慢性的な炎症が生じ、栄養吸収不良を来すことを特徴とする。 今回の研究では、生検によりCDが確認された患者2万7,789人、非CDの一般集団13万3,451人、CD患者のきょうだい3万3,112人を対象に、抗菌薬使用とCDとの関連を検討した。さらに、二次解析として、生検で組織学的に正常な小腸粘膜と判定された22万5,548人と、その対照となる一般集団108万9,796人との比較も行った。 その結果、抗菌薬の使用歴を有する割合は、CD群で69%、一般集団で63%であり、CD群では抗菌薬使用のオッズが高いことが示された(調整オッズ比〔aOR〕1.24、95%信頼区間〔CI〕1.21~1.28)。この関連は、抗菌薬の使用回数が多いほど強くなり、未使用と比べて1~2回の使用でaORは1.21(95%信頼区間1.17~1.25)、3回以上で1.35(同1.30~1.41)であった。さらに、きょうだい同士の比較でも、この関連が認められた(aOR 1.29、95%信頼区間1.24~1.35)。しかし二次解析では、腸粘膜が組織学的に正常な人でも抗菌薬使用との強い関連が見られ、その関連はCD患者よりも強かった(同1.50、1.48~1.51)。このことから、抗菌薬使用がCDの原因ではない可能性が示唆された。 Ulnes氏は、「CDは抗菌薬使用の結果だと考えられがちだが、その関連は、実際にはもっと複雑だ。感染症への感受性や食習慣などが腸内細菌叢に影響を与え、それがCDの発症に関与している可能性が考えられる。この場合、抗菌薬の適切な使用自体がリスクになるとは考えられないだろう」と述べている。

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細菌性髄膜炎・HSV脳炎GL改訂、経験的治療の薬剤選択を見直し/日本神経学会

 2026年3月、『細菌性髄膜炎診療ガイドライン2014』と『単純ヘルペス脳炎診療ガイドライン2017』を統合した『細菌性髄膜炎・単純ヘルペス脳炎診療ガイドライン2026』(日本神経学会・日本神経感染症学会監修、南江堂)が発刊された1)。今回の改訂では、ワクチン定期接種化による起炎菌の変遷、薬剤耐性菌の動向、FilmArray髄膜炎・脳炎パネルに代表される遺伝子検査の普及などを反映し、初期治療から退院後のフォローアップに至る一連の流れが大幅に刷新されている。 5月20~23日に開催された第67回日本神経学会学術大会の生涯教育セミナーにおいて、本ガイドライン作成委員会委員長を務めた中嶋 秀人氏(日本大学医学部内科学系神経内科学分野 主任教授)が「細菌性髄膜炎・単純ヘルペス脳炎診療ガイドライン2026の改訂のポイント」と題して講演を行った。講演レポートとして、前編では「細菌性髄膜炎」、後編では「単純ヘルペス脳炎」について、2回にわたって紹介する。ガイドライン改訂の主なポイント【細菌性髄膜炎】初期の経験的治療(エンピリックセラピー)のレジメン変更と迅速性 今回の改訂では、経験的治療の薬剤選択が見直された。髄液由来肺炎球菌では第3世代セフェム耐性率・メロペネム(MEPM)耐性率がともに上昇傾向にあり、2023年のJANIS(厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業)データではMEPM耐性率が18.2%に上昇している。一方でバンコマイシン(VCM)は感性を維持している。そのため、第3世代セフェム(セフォタキシム[CTX]/セフトリアキソン[CTRX])またはMEPMのいずれを用いる場合もVCMを併用することが推奨され、年齢・免疫状態に応じた迅速な薬剤選択が求められる。年齢・免疫状態別のレジメン例・免疫正常(16〜49歳):肺炎球菌(60%以上)、髄膜炎菌 第3世代セフェム(CTXまたはCTRX)+VCM MEPM+VCM ・免疫正常(50歳以上):肺炎球菌が最多。リスクの高まるリステリア菌をカバーするためABPCを追加 アンピシリン(ABPC)+第3世代セフェム(CTXまたはCTRX)+VCM MEPM+VCM ・慢性消耗疾患・免疫不全:肺炎球菌・リステリア菌に加え、グラム陰性桿菌(GNR)やMRSAも考慮 ABPC+セフタジジム(CAZ)+VCM MEPM+VCM ・頭部外傷後・外科手術後:ブドウ球菌に加え、緑膿菌を含むGNRを考慮 MEPM+VCM CAZ+VCMTime is Brainの原則 細菌性髄膜炎は「Time is Brain」の病態であり、病院到着から1時間以内の抗菌薬投与開始を目標とする。頭部CTや腰椎穿刺によって投与が遅れる場合は、検査の完了を待たずに抗菌薬を先行投与する。なお、古典的三徴(発熱・項部硬直・意識障害)が揃う例は成人全体でも33%にすぎず、とくに高齢者では発熱が目立たないことや、意識障害が認知症・せん妄と誤認されやすいことから、厳重な警戒を要する。デキサメタゾン併用による炎症反応の抑制 炎症抑制による予後改善のため、すべての成人患者にデキサメタゾンの併用(最初の抗菌薬投与の前または同時開始、4日間)が推奨される。死亡率・神経学的後遺症・聴力障害の減少が期待できる。ただし、起炎菌が肺炎球菌・インフルエンザ菌以外なら中止し、とくにリステリアが起炎菌として判明した場合は死亡率悪化のエビデンスがあるため直ちに中止する。診断技術のアップデート:FilmArray髄膜炎・脳炎パネル 約1時間で主要病原体14種を同定できるマルチプレックスPCR遺伝子検査「FilmArray髄膜炎・脳炎パネル」が2022年10月に保険収載され、診断フローに位置づけられた。従来は培養検査やグラム染色の結果判明まで数日を要していたが、本検査による迅速な病原体同定は、経験的に開始したアシクロビル(ACV)の投与期間短縮など医療資源の適正使用に寄与する。起炎菌・感受性が判明した後は、速やかに狭域スペクトラムの抗菌薬へ変更する(De-escalation)。FilmArray検査のピットフォール 一方で、FilmArray検査には実臨床上の限界(ピットフォール)があり、結果は臨床症状・髄液所見と合わせて総合的に判断する必要がある。細菌性髄膜炎では、本検査で薬剤感受性(耐性菌の有無)が判別できないため、培養検査・グラム染色を省略せず必ず並行して実施しなければならない。また、結核菌はパネルに含まれず、院内感染や基礎疾患を有する例、脳外科術後の髄膜炎例には不向きである点にも注意を要する。抗補体薬を使用する患者への対応 重症筋無力症や視神経脊髄炎スペクトラム障害など神経疾患への抗補体薬(C5阻害薬:エクリズマブ、ラブリズマブ、ジルコプランなど)の適応拡大を反映し、抗補体薬使用患者への対応が新設された。抗補体薬使用患者では侵襲性髄膜炎菌感染症(IMD)のリスクが1,000〜2,000倍に上昇し、劇症型を呈しうる。本邦のIMD致命率は10〜12%と高く、発症から24〜48時間で致命的合併症を来しうるため、予防と早期対応がきわめて重要である。投与開始の2週間前までに4価髄膜炎菌ワクチン(販売名:メンクアッドフィ)を接種する(B群髄膜炎菌は本ワクチンの対象外で、B群ワクチンは国内未承認)。発熱時には髄膜炎症状がなくてもIMDを念頭に血液培養2セットを採取し、結果を待たずに第3世代セフェム(CTRXなど)を直ちに開始する。(後編「単純ヘルペス脳炎」に続く)

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未就学児の急性喘鳴へのアジスロマイシン、症状改善せず/NEJM

 救急外来を受診した中等度~重度の急性喘鳴を呈する未就学児において、アジスロマイシンはプラセボと比較して喘鳴関連症状を改善しなかった。米国・アリゾナ大学のKurt R. Denninghoff氏らPECARN AZ-SWED Trial Study Groupが、米国のPediatric Emergency Care Applied Research Network(PECARN)に加盟している小児救急外来8施設で実施した無作為化プラセボ対照試験「Azithromycin Therapy in Preschoolers with a Severe Wheezing Episode Diagnosed at the Emergency Department trial:AZ-SWED試験」の結果を報告した。喘鳴を伴う疾患は未就学児の入院の主な原因であり、また、抗菌薬による治療がしばしば行われている。観察研究では、喘鳴を繰り返す小児では喘鳴のない小児と比較し、鼻咽頭検体から3種類の病原性細菌(肺炎連鎖球菌、モラクセラ・カタラーリス、インフルエンザ菌)が高頻度に分離されることが示されていた。NEJM誌オンライン版2026年5月18日号掲載の報告。喘鳴で救急外来を受診した未就学児をアジスロマイシン群とプラセボ群に無作為化 研究グループは、救急外来を受診した中等度~重度の呼気性喘鳴(小児呼吸器評価尺度[Pediatric Respiratory Assessment Measure:PRAM]スコア4以上[スコア範囲:0~12、高スコアほど喘鳴が重度])の月齢18~59ヵ月児を、アジスロマイシン群またはプラセボ群に無作為に割り付け、1回12mg/kgを盲検下で1日1回5日間投与した。 主要アウトカムは、無作為化後5日間の幼児喘息発作日誌「Asthma Flare-up Diary for Young Children(ADYC)」スコアの合計スコアであった。ADYCは、17の質問(各質問のスコアは1~7で評価、高得点ほど喘鳴関連症状が重度であることを示す)から成り、1日のADYCスコアは、各質問の平均スコアとして算出。主要アウトカムとしたADYC合計スコアはその5日分の合計スコアで、想定されるスコア範囲は5~35であった。 副次アウトカムは、救急外来滞在時間、入院期間、および72時間以内の再受診(救急外来再受診または入院)とした。 投与前に病原性細菌が検出された患者については、無作為化後5~8日および14~21日の間に追跡調査を行い、細菌の有無と抗菌薬耐性を検査した。 有効性は、3種の病原性細菌検査で少なくとも1種について陽性であった患者(陽性コホート)と陰性であった患者(陰性コホート)で別々に評価した。喘鳴関連症状に関するADYCスコア、アジスロマイシン群9.59 vs.プラセボ群9.72 2021年9月~2024年12月に840例が登録され無作為化された。このうち、521例(62.0%)が病原性細菌陽性、312例(37.1%)が陰性、7例(0.8%)は不明であった。 事前に計画された中間解析の結果に基づき、データ安全性監視委員会は無益性のため本試験を中止した。 5日間のADYC合計スコアは、陽性コホートおよび陰性コホートのいずれにおいても、アジスロマイシン群とプラセボ群で有意差は認められなかった。ADYC合計スコアの中央値は陽性コホートでそれぞれ、9.59(四分位範囲[IQR]:7.29~12.60)vs.9.72(7.66~12.17)(p=0.70)、および陰性コホートで9.30(IQR:6.97~11.62)vs.9.10(7.19~11.45)(p=0.69)であった。 陽性コホートでは、細菌消失率はアジスロマイシン群で58.7%、プラセボ群で11.4%であった。 副次アウトカムも両コホートにおいて両群で類似しており、細菌耐性や有害事象の発現率も同様であった。

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頭皮から脳内にウジ虫が侵入した1例【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第307回

頭皮から脳内にウジ虫が侵入した1例「異物論文専門医」として毎日PubMedを眺めていて気付いたことがあるのですが、最近、寄生虫が体内を移動した、虫が臓器内に入り込んだ、といった論文が増えています。もしかして、この類の論文はアクセプト率が高いのではないかと愚考しております。異物論文のタイトルの最初に「Fatal」がついていると、これは世にも恐ろしい論文なのだろうと思い、手を震わせながら読んでいます。Togni Filho PHA, et al. Fatal cerebral myiasis secondary to squamous cell carcinoma: case report and scoping review. Rev Inst Med Trop Sao Paulo. 2026;68:e10.「蠅蛆症(ようそしょう、ハエウジ症:myiasis)」をご存じでしょうか。これはハエの幼虫、つまりウジ虫が生きた人間の体に寄生してしまう疾患です。皮膚や創傷に湧く皮膚蝿蛆症が大半ですが、まれに眼・耳・鼻・消化管・泌尿器にまで侵入することがあります。おえっぷ……書いていて気持ち悪くなってきました。今回ご紹介するのは、その中でも世界的にきわめてまれな「脳蝿蛆症」の症例報告です。1939年の初報告以来、世界でわずか20例しか報告されていなかった病態で、今回ブラジルから報告された症例が世界21例目となります。ブラジルのカタンドゥヴァで報告された症例です。78歳男性、独居、既往は高血圧のみ。「食欲がない、吐く、熱が出た」と訴えて家族に連れられて救急外来を受診しました。ところが診察すると、頭皮の左前頭部に7×8cmの潰瘍があったのです。潰瘍底は壊死に陥っており、強烈な悪臭、膿汁が滲み、そ、そ、そ、そしてウジが大量にうごめいていました。いやあああああああ!!!!本人いわく「この傷、1年くらいかけてだんだん大きくなったんだよね」。1年放置していたわけです。いや、ウジが湧いてますよ!頭部CTを撮ってみると、ただの皮膚病変ではありません。前頭骨が溶けてなくなっており、頭蓋内に空気が入り込んでいました。気脳症というやつです。つまりウジは、皮膚から皮下、骨を貫通して、髄膜のすぐそばまで達していたのです。治療チームはまずピンセットでウジを1匹ずつ除去し、生理食塩水で洗浄、ヨードホルムガーゼで覆い、セフトリアキソンを開始しました。ところが第9病日、患者さんの意識レベルが低下。再びCTを撮ると、前頭葉と頭頂葉に脳炎と膿瘍形成を認めました。緊急で開頭デブリードマンを実施し、壊死組織を徹底的に除去。ここで提出した病理組織から、驚きの結果が返ってきます。「中分化型扁平上皮がんの骨浸潤、および急性骨髄炎」つまりこの1年放置されていた頭皮潰瘍は、ただの傷ではなく皮膚がんだったわけです。そして膿の培養からは多剤耐性緑膿菌が検出されました。抗菌薬を強化しましたが、患者さんは意識を取り戻すことなく緩和ケアに移行し、最終的に亡くなられました。今回は扁平上皮がんでしたが、放置された皮膚潰瘍が悪性腫瘍であったというのは、皮膚科・形成外科領域では珍しくありません。大量にウジが湧いているときは、先生方も今回の症例を思い出してください。

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FAST試験:迅速抗菌薬感受性試験は菌血症患者の予後を改善するのか(解説:小金丸 博氏)

 グラム陰性菌菌血症に対する迅速抗菌薬感受性試験(迅速AST)の臨床的有用性を検証したランダム化比較試験がJAMA誌オンライン版2026年4月18日号に報告された。本研究の目的は、血液培養陽性後に迅速な表現型感受性試験を導入することで、患者予後が改善するかを明らかにする点にあった。 従来の感受性試験では、菌の同定から感受性結果の判明まで通常1~2日を要する。一方、本研究で用いられた迅速ASTは、陽性血液培養ボトルから直接感受性を測定することで、より早期に抗菌薬選択を最適化することが期待できる。研究は薬剤耐性菌頻度の高いギリシャ、インド、イスラエル、スペインの7施設で実施された。約900例が登録され、迅速AST群と標準AST群に割り付けられた。 主要評価項目にはDOOR(Desirability of Outcome Ranking)が採用された。これは死亡のみではなく、有害事象、再入院、治療失敗、多剤耐性菌獲得などを統合的に評価する新しいアウトカム指標であり、より患者中心の解釈が可能となる。 結果として、迅速AST群は抗菌薬調整までの時間を有意に早めた。とくにカルバペネム耐性菌感染症では、有効抗菌薬投与開始までの時間が大幅に短縮された。しかし、30日死亡率、入院期間、DOORなどの主要臨床アウトカムには統計学的有意差が認められなかった。すなわち、「診断速度の向上」が必ずしも「患者予後の改善」には直結しなかったのである。 本研究の価値は、迅速診断に対する期待に対し、ランダム化比較試験という高いエビデンスレベルの方法で現実的な解答を示した点にある。これまで同分野は、観察研究やbefore-after studyが中心であり、本研究は数少ないランダム化比較試験として重要性が高い。また、薬剤耐性を遺伝子検査ではなく表現型ASTを評価した点も特徴の1つである。遺伝子検査は既知の耐性遺伝子しか検出できない一方、表現型ASTは実際の菌の増殖抑制を評価するため、未知の耐性機序にも対応可能である。 さらに本研究は「迅速診断」のみでは限界があることを示唆した。感染症診療では、source control、集中治療、宿主因子、抗菌薬適正使用支援など多くの要素が転帰に影響する。そのため迅速ASTの価値は、全例への一律導入ではなく、薬剤耐性菌高リスク患者への選択的適用や抗菌薬適正使用支援との統合にあると考えられる。本研究は、感染症診断技術の有効性を実践的に評価した意義のある論文であると考える。

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広域抗菌薬が投与された肺炎患者の予後は?/感染症学会・化学療法学会

 市中肺炎(CAP)では、緑膿菌などを想定した広域抗菌薬が経験的に使用されることがある。実際に、本邦の研究において全CAP患者の27.4%に抗緑膿菌薬が投与されており、そのうち97.3%が潜在的に不必要な投与であったことが報告されている1)。また、β-ラクタム系薬が投与された耐性菌リスクの低いCAP患者において、β-ラクタム系薬の抗緑膿菌作用の有無別に臨床転帰を後ろ向きに検討した結果、抗緑膿菌作用のあるβ-ラクタム系薬を用いた群は、30日死亡率が有意に高かったことも報告されている2)。 そこで、市中発症肺炎(CAPおよび医療・介護関連肺炎[NHCAP])に対する広域抗菌薬投与の有益性を検討することを目的として、多施設共同後ろ向き観察研究が実施された。その結果、喀痰培養が提出された市中発症肺炎患者の30.9%に抗緑膿菌作用を有する広域抗菌薬が投与されており、広域抗菌薬を使用した群で入院死亡および入院肺炎死亡のオッズが有意に高かった。2026年5月22~24日に開催された第100回日本感染症学会総会・学術講演会/第74回日本化学療法学会総会 合同学会において、岩永 直樹氏(長崎大学病院 呼吸器内科)が本結果を報告した。 本研究は、2017~19年に長崎大学病院を含む関連7施設で実施された多施設共同後ろ向き観察研究である。解析対象は、CAPまたはNHCAPとして治療された市中発症肺炎患者1,907例中、喀痰培養検査が実施された1,542例とした。対象患者を広域抗菌薬群と狭域抗菌薬群に分類し、患者背景、死亡、入院期間、治療期間などを比較した。また、広域抗菌薬群におけるde-escalation実施の有無別にみたサブグループ解析も行った。なお、広域抗菌薬は「グラム陽性菌からグラム陰性菌(緑膿菌を含む)までカバーする抗菌薬」と定義した。 主な結果は以下のとおり。・喀痰培養が提出された1,542例のうち、広域抗菌薬が投与されたのは476例(30.9%)であった。・初期治療薬の割合は、広域抗菌薬群でタゾバクタム・ピペラシリン(68%)が最も多かった。次いでレボフロキサシン(16%)、カルバペネム系抗菌薬(10%)が使用されていた。狭域抗菌薬群では、スルバクタム・アンピシリン(63%)が最も多く、次いでセフトリアキソン(22%)が使用されていた。・広域抗菌薬が投与されやすい患者背景として、単変量解析では男性、NHCAP、PS不良、長期療養病床からの入院、ステロイドまたは免疫抑制薬の使用、90日以内の血管内治療歴、90日以内の入院歴、A-DROP高値が挙げられた。・同様に単変量解析において、併存疾患として間質性肺炎、気管支拡張症、非結核性抗酸菌症、血液がん、臓器移植歴などを有する患者で、広域抗菌薬が投与されやすい傾向がみられた。・多変量解析では、男性、長期療養病床からの入院、A-DROP 3点以上、間質性肺炎、気管支拡張症、非結核性抗酸菌症、血液がんが広域抗菌薬投与と有意に関連する因子として抽出された。・傾向スコアを用いた逆確率重み付け法による解析において、入院死亡のオッズが広域抗菌薬群で有意に高かった(調整オッズ比[aOR]:1.30、95%信頼区間[CI]:1.00~1.69、p=0.0473)。広域抗菌薬群は入院肺炎死亡のオッズも有意に高かった(同:1.65、1.11~2.03、p=0.0076)。・入院生存例のみを対象としたサブグループ解析では、入院期間および抗菌薬治療期間が広域抗菌薬群で有意に長かった(いずれもp<0.0001)。・広域抗菌薬群476例のうち、de-escalationが実施されたのは116例(24.4%)、実施されなかったのは360例(75.6%)であった。de-escalation実施の有無で患者背景を比較したところ、有意差のある項目はなかった。・de-escalationの有無で予後を比較すると、傾向スコアを用いた逆確率重み付け法による解析において、入院肺炎死亡のオッズがde-escalation実施群で有意に低かった(aOR:0.54、95%CI:0.33~0.89、p=0.0138)。 de-escalation実施群で入院肺炎死亡のオッズが有意に低下していたことについて、岩永氏は「de-escalationを実施した患者は、臨床経過が良いという主治医の判断のもとでde-escalationを実施していると考えられ、そのことが結果に反映されている可能性がある」と考察した。

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難治性肺MAC症へのベダキリン、培養陰性化を改善(TMC207NTM3002)/ATS2026

 肺非結核性抗酸菌症(肺NTM症)のうち、Mycobacterium avium complex(MAC)を原因菌とする肺MAC症では、多剤併用療法を6ヵ月以上実施しても細菌学的効果が不十分な患者を難治例としている。難治性肺MAC症の治療選択肢は限られている。ジアリルキノリン系抗菌薬であるベダキリンは、多剤耐性結核に対する併用療法の一部として用いられており、MACに対してin vivoでの活性も報告されている。そこで、難治性肺MAC症に対するベダキリンの有効性および安全性を検討することを目的として、国際共同第II/III相無作為化比較試験「TMC207NTM3002試験」が実施された。その結果、24週時点の喀痰培養陰性化率は、対照群と比較してベダキリン群で有意に高かった。米国胸部学会国際会議(ATS2026 International Conference)において、森本 耕三氏(公益財団法人結核予防会 複十字病院 呼吸器センター)が本結果を発表した。試験デザイン:国際共同無作為化非盲検第II/III相試験(日本、韓国、台湾で実施)対象:肺MAC症に対する標準治療を6ヵ月以上実施しても培養陽性が持続する成人肺MAC症患者129例試験群(ベダキリン群):ベダキリン+クラリスロマイシン+エタンブトールを48週間 65例対照群:リファンピシンまたはリファブチン+クラリスロマイシン+エタンブトールを60週間(24週時で培養陰性化未達成の患者はベダキリンにクロスオーバー可) 64例評価項目:[主要評価項目]24週時点の喀痰培養陰性化率(25日以上間隔をあけた喀痰培養で3回連続して陰性)[副次評価項目]喀痰培養陰性化までの期間(陰性化[3回連続の陰性]の時点は1回目の陰性が認められた時点と定義)、薬物動態、安全性など 主な結果は以下のとおり。・患者背景は両群でおおむね均衡がとれていた。年齢中央値はベダキリン群67歳(範囲:44~79)、対照群62歳(同:32~79)、女性の割合はそれぞれ80.0%、84.4%であった。日本からの登録はそれぞれ90.8%、92.2%であった。・ベースラインの原因菌種は、ベダキリン群ではM. avium 83.1%、M. intracellulare 15.4%、M. aviumおよびM. intracellulare 1.5%で、対照群ではそれぞれ70.3%、28.1%、1.6%であった。・24週時点の喀痰培養陰性化率は、ベダキリン群24.6%、対照群4.7%であった。群間差は19.7%ポイントであり、ベダキリン群が有意に高かった(95%信頼区間[CI]:8.3~31.2、p=0.002)。・24週までの喀痰培養陰性化までの期間についても、ベダキリン群は対照群より短かった(p<0.001、層別log-rank検定)。喀痰培養陰性化例における陰性化までの期間中央値は、ベダキリン群43日、対照群66.5日であった。・薬物動態解析において、ベダキリン群は対照群と比較してクラリスロマイシン濃度が高かった。・24週までの試験治療下における有害事象(TEAE)は、ベダキリン群93.8%、対照群76.6%に発現した。治療関連有害事象はそれぞれ32.3%、18.8%に発現した。・ベダキリン、リファンピシンまたはリファブチンの中止に至ったTEAEは、ベダキリン群3.1%、対照群7.8%にみられた。 なお、本結果は24週時点の主要な解析結果であり、24週以降の解析は現在進行中である。

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複雑性尿路感染症と腎盂腎炎、nacubactam併用で有効かつ安全な治療法は/Lancet

 グラム陰性菌による複雑性尿路感染症(cUTI)または急性単純性腎盂腎炎(AP)患者において、イミペネム/シラスタチンとの比較により、セフェピム/nacubactamおよびアズトレオナム/nacubactam併用投与の有効性および安全性が確認された。札幌医科大学の高橋 聡氏らが、「Integral-1試験」の結果を報告した。nacubactam(OP0595)は、新たに開発されたジアザビシクロオクタン系β-ラクタマーゼ阻害薬で、セフェピムまたはアズトレオナムとの併用投与により、カルバペネム耐性腸内細菌目細菌および第3世代セファロスポリン耐性腸内細菌目細菌(ESBL産生菌を含む)に対する強力な活性を示すことが確認されていた。Lancet誌2026年5月16日号掲載の報告。nacubactamとセフェピムまたはアズトレオナム併用投与の有効性と安全性をイミペネム/シラスタチンと比較 Integral-1試験は、ブルガリア、中国、チェコ共和国、エストニア、ジョージア、日本、ラトビア、リトアニア、スロバキアの79施設において実施された国際共同第III相無作為化二重盲検実薬対照試験。18歳以上、体重が140kg以下で、少なくとも5日間の注射用抗菌薬による治療が必要とされているcUTIまたはAP患者を対象とした。 研究グループは、対象患者をセフェピム(2g)/nacubactam(1g)群、アズトレオナム(2g)/nacubactam(1g)群、またはイミペネム(1g)/シラスタチン(1g)群に、診断(cUTI、AP)および地理的地域(日本、中国、その他)を層別因子として2対1対1の割合で無作為に割り付け、8時間(±1時間)ごとに60分間(±15分間)かけて、5~10日間、必要に応じて最長14日間、静脈内投与した。 主要エンドポイントは、微生物学的修正intention-to-treat(mITT)集団(無作為化され試験薬の投与を受け、かつベースラインで適格病原体がイミペネムおよびメロペネムに感受性のあるすべての患者)における、投与終了7日後の治癒判定時点での総合臨床効果とした。総合臨床効果は、臨床的成功(治験責任医師評価による臨床効果が治癒と判定)、および微生物学的成功(試験実施施設と中央検査室での検査結果に基づく細菌学的効果が消失と判定)の達成とした。また、試験薬を少なくとも1回投与されたすべての患者において安全性を評価した。 主要エンドポイントの非劣性マージンは、群間差の95%信頼区間(CI)の下限が-15%ポイント、優越性マージンは0%ポイントと事前に規定された。イミペネム/シラスタチンに対するセフェピム/nacubactam併用群の優越性を確認 2023年5月22日~2024年11月26日に、614例が無作為化され、うち微生物学的mITT集団は431例(セフェピム/nacubactam群214例、アズトレオナム/nacubactam群112例、イミペネム/シラスタチン群105例)であった(男性228例[53%]、女性203例[47%])。 主要エンドポイントを達成した患者の割合は、セフェピム/nacubactam群で82%(176/214例)、アズトレオナム/nacubactam群で72%(81/112例)、イミペネム/シラスタチン群で61%(64/105例)であった。イミペネム/シラスタチン群との差は、セフェピム/nacubactam群で21.3%ポイント(95%CI:10.9~32.0)(非劣性かつ優越性)、アズトレオナム/nacubactam群で11.4%ポイント(95%CI:-1.2~23.7)(非劣性)であった。 試験治療下で発現した有害事象は、セフェピム/nacubactam群で306例中100例(33%)、アズトレオナム/nacubactam群で152例中45例(30%)、イミペネム/シラスタチン群で150例中65例(43%)に報告された。治療に関連する死亡は認められなかった。

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第317回 夏到来!今年もクマ被害とダニが媒介するSFTS増加の予感

東京都の奥多摩でツキノワグマに襲われる事件頻発こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。本連載で、ゴールデンウィークの福島・西大巓(にしだいてん)登山で左膝の靭帯を損傷したことを書いたところ、知人から「そもそもクマは大丈夫だったの?」と聞かれました。福島、山形の県境の山にはツキノワグマも多く生息しているので、そうした心配をしてくれたのでしょう。幸いクマの足跡はいくつか見ましたが、遭遇することはありませんでした。とは言え、この日は、白布峠からの登山者は我々のパーティーだけだったこともあり、クマ鈴を付け、クマ笛を頻繁に鳴らすとともに、「ホー、ホー」と時折大声を上げながらの登山になりました。そうしたクマ対策に神経を使った結果、雪渓の安全性に対する注意力が鈍り、踏み抜いてしまったのかもしれません。クマ恐るべしです。そんな反省をしていたところ、先週、東京都の奥多摩で相次いでツキノワグマに襲われる事件が起こりました。5月17日、奥多摩駅から雲取山に連なる人気縦走路・石尾根の途中、三ノ木戸山付近でロシア国籍の男性登山者がクマに襲われました(命に別状なし)。さらに2日後の19日には、東京都と埼玉県の県境、蕎麦粒山近くの仙元峠付近で、クマに襲われたとみられる上半身がない遺体が見つかりました。身元はまだ不明とのことです。私自身、三ノ木戸山も蕎麦粒山も何度も行ったことのある山だけに、さすがに恐ろしくなりました(15年ほど前、三ノ木戸山近辺では木に登っている子グマを見たことがあります)。クマ外傷患者の受傷部位で一番多かったのは顔面で90%、次いで頭部60%クマによる人身被害については、昨年の本連載「第279回 『クマ外傷』の医学書が教えてくれるクマ被害の実態、『顔面、上肢の損傷が多く、挿管と出血性ショックに対する輸血が必要なケースも。全例で予防的抗菌薬を使用するも21.1%で創部感染症が発生』」で詳しく書きました。書籍『クマ外傷 クマージェンシー・メディシン』(編著・中永 士師明、新興医学出版社)によれば、クマ外傷患者20人の受傷部位で多かったのは、顔面90%(顔面骨折45%、眼球破裂15%)、次いで頭部60%(頭蓋骨骨折5%、硬膜下血腫5%)だったそうです。こうした知見が集積され、報道もされた結果でしょう、万が一襲われそうになった時の防御姿勢についてマスコミの多くはおおむね次のように報じています。「フードや帽子等で頭部を保護しつつ、うつ伏せになって顔や胸、腹部を守るとともに、手指を組み合わせて後頭部と首の後ろをガードする」。とにかく、「襲われたら頭と顔を守る」のが鉄則というわけです。今年は春から夏への移行が早く、クマの出没も過去最悪のペースで増えているようです。政府も「今年はヤバい」と考えたのか、5月23日付の新聞各紙に注意喚起のための全面広告を掲載、「山菜採りに行くみなさん。クマにご注意ください」というキャッチコピーとともに、「クマに出会わないための6ヶ条」の周知に務めています1)。同日に放送されたNHKの「サタデーウオッチ9」では、この政府の注意喚起にあわせて「緊急報告『クマ出没列島』」と題する特集レポートを放送、都市部での出没が相次ぐ中、東京都についても多摩川沿いにクマの生息範囲が広がる可能性があると報じていました。クマが生息する地域や、出没する可能性のある地域にある医療機関は、クマ外傷の患者が運ばれてきた時の対応(創処置、骨折対応、感染対策等)や必要な医薬品(抗菌薬等)について、改めて確認しておくべきだと思われます。今年もすでに死亡例が出ている重症熱性血小板減少症候群(SFTS)ということで、クマ出没やクマ被害も増えていますが、今年はマダニが媒介するあの感染症も立ち上がりが早く、昨年並みの増加を予感させます。感染症と言えば、ハンタウイルスやエボラ出血熱、そしてはしかが話題となっていますが、ごく身近で発生し、今年もすでに死亡例が出ているダニ媒介感染症「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」も頭に入れておきたいところです。以下、最近の報道からいくつかピックアップしてみます。5月12日付/神奈川新聞「相模原市は11日、マダニが媒介するウイルス感染症『重症熱性血小板減少症候群(SFTS)』に同市緑区在住の80代女性が感染したと発表した。神奈川県内では昨年7月に松田町在住の女性の感染が確認されており、今年に入ってからは初めて。市保健所によると、女性は4月29日に発熱や関節痛などの症状があり、30日に市内の医療機関を受診。5月9日にSFTSの陽性が確定した。女性は現在も入院中だが、軽快傾向にあるという。女性の行動歴を調べた結果、自宅周辺で畑仕事などをした際にマダニに刺されて感染したとみられ、市保健所は市内を感染地域と推定」。5月12日付/NHKニュース「熊本県内では先月、主にマダニが媒介する感染症に感染した患者が死亡しました。患者の治療にあたる医師は畑や草むらに入る場合などはマダニに刺されないよう対策を徹底するよう呼びかけています。先月、県内ではことし初めて、天草市の90代の女性が、主にマダニが媒介する感染症、SFTS=『重症熱性血小板減少症候群』で亡くなりました。これまでにも県内ではSFTSの感染が相次いで確認されていて、去年は11件、ことしに入ってからも今月10日までに2件確認されています」。5月13日付/産経新聞「奈良県は13日、マダニが媒介するウイルス感染症『重症熱性血小板減少症候群』(SFTS)に中和保健所管内の60代の男性が感染したと発表した。男性は意識障害を起こして入院中という。感染症法上では4類に位置付けられ、有効な治療法がないため、県はマダニにかまれた際は医療機関での受診を勧めている」。5月14日付/NHKニュース「高松市保健所は、市内の80代の男性が主にマダニが媒介する感染症、SFTS=重症熱性血小板減少症候群に感染し、14日死亡したと発表しました。保健所は、山や草むらで活動する場合は、肌の露出を控え、マダニに刺されないよう注意を呼びかけています。高松市保健所によりますと、今月1日、市内の80代の男性が発熱や全身のけん怠感などの症状を訴えて市内の病院に入院し、治療を受けていましたが、14日死亡しました」。5月19日付/NHKニュース「マダニが媒介する感染症、SFTS=『重症熱性血小板減少症候群』の患者が県内でことし初めて確認され、(福岡)県が注意を呼びかけています。SFTSへの感染が確認されたのは、宗像市の70代の男性で、県によりますと、今月14日に発熱や関節痛を訴えて医療機関を受診し、18日、食欲低下や意識がはっきりしないなどの症状で入院しました。粕屋保健福祉事務所から連絡を受けた県が検査したところ、19日、感染が確認されたということです。県内でSFTSへの感染が確認されたのは、ことし初めてです。男性は現在も意識がはっきりしない状態が続いていて、治療を受けているということです」。5月20日付/NHKニュース「京都府内に住む70代の男性が、先月(4月)、重症の場合、死亡することもある感染症のSFTS=『重症熱性血小板減少症候群』に感染したことが分かりました。媒介するマダニに京都市内で刺されたことが原因とみられ、府は草むらに入る際は肌の隠れる衣服を着用するなど、注意を呼びかけています。(中略)京都府によりますと、先月(4月)上旬、府の南部に住む70代の男性が京都市伏見区の竹やぶで作業をしたあと、発熱などの症状を訴え医療機関を受診したところ、SFTSに感染していることが確認されたということです。府によりますと、SFTSの感染場所が京都市内と推定されたのは、今回がはじめてだということです」。農作業などを行う人が発熱や嘔吐、下痢などで運ばれてきたらSFTSを疑う日本で確認されているマダニによる感染症は非常に多くあります。代表的なものが重症熱性血小板減少症候群(SFTS)、日本紅斑熱、ライム病、ダニ媒介脳炎(北海道中心)などです。これらの中でとくに注意が必要なのが、死亡例が多いSFTSです。夏の到来が遅い東北地方では患者の確認はまだのようですが、九州、四国、本州の西日本~関東ではすでに患者が発生しています。ちなみに2025年の報告数は191例で過去最高を記録、2014年の61例と比較すると約3倍だったそうです。本連載でも昨年7月掲載の「第272回 致死率30%!猛威を振るうマダニ感染症SFTS、患者発生は西日本から甲信越へと北上傾向」で詳しく書いたように、温暖化などの影響でSFTSウイルスを持ったマダニの生息域が日本で徐々に北上、シカなどの野生動物からネコ、イヌへの感染も手伝って、ヒトへの感染も増えているというわけです。そう言えば、昨年はSFTSのネコを治療した三重県内の獣医師がその後SFTSで死亡する、ということもありました。国立健康危機管理研究機構は「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)診療の手引き 2024年版」2)や「Q&A」3)を作成し公開していますので、これからの季節、農作業などを行う人が発熱・嘔吐・下痢や、意識障害や失語などの神経症状、下血などの出血症状で運ばれてきたら、SFTSも疑うようにしたいものです。 参考 1) 山菜採りに行くみなさん、クマにご注意ください/政府広報オンライン 2) 「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)診療の手引き 2024年版」/国立健康危機管理研究機構 3) 「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)に関するQ&A」/厚生労働省

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未治療の肺MAC症への吸入アミカシン上乗せ、呼吸器症状と培養陰性化を改善(ENCORE)/ATS2026

 肺非結核性抗酸菌症(肺NTM症)のうち、Mycobacterium avium complex(MAC)を原因菌とする肺MAC症では、初回治療において呼吸器症状の改善と培養陰性化を達成する有効な治療選択肢に関するエビデンスは十分でない。肺MAC症に対する新規治療薬としてアミカシンリポソーム吸入懸濁液(ALIS、商品名:アリケイス)が使用されているが、本邦での適応は「多剤併用療法による前治療において効果不十分な患者」である。そこで、新規に肺MAC症と診断された患者を対象に、アジスロマイシン+エタンブトールへのALIS併用の有用性を検討することを目的として、国際共同第IIIb相無作為化二重盲検比較試験「ENCORE試験」が実施されている。その結果、ALIS併用群では対照群と比較して、13ヵ月時点の呼吸器症状スコアの改善が有意に大きく、培養陰性化率も高かった。米国胸部学会国際会議(ATS2026 International Conference)において、Charles L. Daley氏(米国・National Jewish Health/コロラド大学医学部)が本結果を発表した。試験デザイン:国際共同無作為化二重盲検第IIIb相試験対象:新規に肺MAC症と診断され、現在のエピソードに対する抗菌薬治療を開始していない非空洞性肺MAC症成人患者425例試験群(ALIS群):アジスロマイシン(250mg/日)+エタンブトール(15mg/kg/日)+ALIS(590mg/日)を12ヵ月 213例対照群:アジスロマイシン(250mg/日)+エタンブトール(15mg/kg/日)+吸入プラセボを12ヵ月 212例評価項目:[主要評価項目]13ヵ月時点のRespiratory Symptom Score(RSS)のベースラインからの変化量[副次評価項目]13ヵ月時点の培養陰性化率(すべての喀痰培養が2回連続で陰性)、15ヵ月時点の培養陰性持続率(11、12、13、15ヵ月時点ですべて陰性)、15ヵ月時点のRSSのベースラインからの変化量、安全性など 主な結果は以下のとおり。・試験完遂率はALIS群90.6%、対照群93.4%であり、治療完遂率はそれぞれ81.7%、88.2%であった。・患者背景は両群でおおむね均衡していた。年齢中央値はALIS群68.0歳、対照群69.0歳で、女性の割合はそれぞれ80.3%、78.3%であった。日本からの登録はALIS群43例(20.2%)、対照群41例(19.3%)であった。・主要評価項目である13ヵ月時点(治療終了1ヵ月後)のRSSのベースラインからの変化量(最小二乗平均値)は、ALIS群17.77点、対照群14.66点であった。群間差は3.11(95%信頼区間[CI]:0.30~5.92、p=0.0299)であり、ALIS群で有意に改善した。・15ヵ月時点(治療終了3ヵ月後)でも、RSSの改善はALIS群で大きかった。ベースラインからの変化量(最小二乗平均値)は、ALIS群16.63点、対照群11.83点(群間差:4.80点[95%CI:1.83~7.76]、名目上のp=0.0015)であった。・6ヵ月、12ヵ月、13ヵ月時点の培養陰性化率は、いずれもALIS群が高かった。また、15ヵ月時点の培養陰性持続率もALIS群で高かった。詳細は以下のとおり(ALIS群vs.対照群、p値を示す)。 6ヵ月時点:87.8%vs.57.0%、p<0.001 12ヵ月時点:84.7%vs.61.3%、p<0.001 13ヵ月時点:82.4%vs.55.6%、p<0.001 15ヵ月時点(陰性持続率):76.2%vs.47.6%、p<0.001・試験治療下における有害事象(TEAE)は、ALIS群98.1%、対照群97.2%に認められた。重篤なTEAEはそれぞれ14.1%、11.3%、投与中止に至ったTEAEはそれぞれ14.6%、8.5%に認められた。死亡に至ったTEAEは各群1例に発現したが、いずれも試験治療との関連はないと判断された。・ALIS群で10%以上に認められ、対照群よりも多かったTEAEは、発声障害(ALIS群58.7%、対照群8.5%)、咳嗽(32.9%、14.6%)、疲労(17.4%、11.3%)、呼吸困難(16.4%、5.7%)、悪心(15.5%、12.7%)、頭痛(12.7%、11.8%)であった。・とくに注目すべきTEAEについて、気管支攣縮はALIS群23.0%、対照群11.8%に認められた。また、過敏性肺炎は対照群では認められなかったのに対し、ALIS群では2.3%に認められた。 本結果について、Daley氏は「新規に肺MAC症と診断された患者において、検証済みの患者報告アウトカム指標による呼吸器症状の改善が認められた。ENCORE試験は、臨床的に意義のあるベネフィットを検証した初の試験である」とまとめた。

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第296回 ナフサ不足で医療資材逼迫、医療用手袋5,000万枚を放出/政府

<先週の動き> 1.ナフサ不足で医療資材逼迫、医療用手袋5,000万枚を放出/政府 2.血管炎薬アバコパンで死亡20例、添付文書に「警告」新設/厚労省・キッセイ薬品 3.AIを悪用したサイバー攻撃に備え、医師会や病院団体と対策を協議/厚労省 4.マイナカード「任意」から義務化検討へ、全員保有を提言/自民党 5.禁忌の抗菌薬処方でSJS発症か、患者死亡で遺族に補償へ/三重県 6.東大医学系研究科の贈収賄事件、元特任准教授に有罪判決/東京地裁 1.ナフサ不足で医療資材逼迫、医療用手袋5,000万枚を放出/政府中東情勢の悪化を背景に、石油由来原料を使う医療資材の供給不安が医療現場に広がっている。政府は5月23日、感染症などの流行に備え国が備蓄していた医療用手袋のうち、まず5,000万枚の放出を開始した。都内の歯科診療所には同日、第1弾が到着。受け取った院長は「診療所は在庫を抱えられない。購入できて安心した」と語った。放出対象は、病院、診療所、訪問看護事業所、薬局、助産所など。在庫量が「今後1週間の想定消費量から購入見込み量を差し引いた数」の4週間分を下回る場合、医療機関等情報支援システム(G-MIS)を通じて申請できる。販売は1,000枚単位で、価格は1セット5,980円、1枚当たり約6円。購入可能数は想定消費量の2週間分を基準に決まり、条件を満たせば複数回の申請も可能とされる。21日時点で2,000を超える医療機関が対象となっており、茨城県でも第1弾として63医療機関から27万1,000枚の購入申し込みがあった。ただ、逼迫しているのは手袋だけではない。ナフサ価格の上昇を受け、廃液回収容器、投薬瓶、軟こう容器、点眼瓶、松葉杖、透析回路、医薬品包装用フィルムなどでも値上げや納期遅延、受注制限が相次いでいる。調剤薬局では小児用シロップ容器が不足し、粉薬での処方を依頼する例も出ている。医療資材卸では4月以降、平均2~3割の値上げが行われ、製品によっては1.5~2倍の値上げ要請もあるという。診療報酬や薬価は公定価格であり、医療機関や製薬企業は一般産業のようにコスト上昇分を価格転嫁しにくい。物価高、人件費高、光熱費高に加え、資材不足が中小医療機関の経営をさらに圧迫している。政府は追加放出も検討するとしているが、手袋の使用量は月9,000万枚規模ともされ、備蓄放出だけで不安を払拭するのは難しい。医療提供体制を維持するには、資材供給の安定化に加え、物価変動を診療報酬や薬価に反映する仕組みの検討が求められる。 参考 1) 医療用手袋の政府備蓄品が到着 厚労省、都内歯科で公開(日経新聞) 2) 国が備蓄している医療用手袋 購入要請があった医療機関にきょうから配送開始 中東情勢の影響を受けて放出(TBS NEWS) 3) ナフサ不足で医療資材逼迫 軟こう容器・松葉杖・手袋…中小医院資材逼迫で苦境(日経新聞) 4) 中東情勢悪化に伴う医療用グローブの国家備蓄放出、「医療機関在庫が不足する」場合に購入可能-厚労省(Gem Med) 2.血管炎薬アバコパンで死亡20例、添付文書に「警告」新設/厚労省・キッセイ薬品厚生労働省は5月21日、選択的C5a受容体拮抗薬アバコパン(商品名:タブネオスカプセル10mg)について、製造販売元のキッセイ薬品に対し、添付文書に「警告」欄を新設し、医療関係者へ安全性速報(ブルーレター)を発出するよう指示した。同薬の服用後、肝臓の胆管がなくなる「胆管消失症候群」を含む重篤な肝機能障害が報告され、国内で20例の死亡があったことを受けた措置。ブルーレターの発出は5年ぶりで、迅速な安全対策が必要と判断された。アバコパンは、顕微鏡的多発血管炎と多発血管炎性肉芽腫症を対象とする飲み薬で、いずれも国の指定難病。ステロイド使用量を減らせる薬として期待され、国内では2022年6月に発売され、直近1年間で推定約8,500例に使用された。死亡した20例は60~90代で、19例は投与開始から3ヵ月以内に肝機能障害を発症。胆管消失症候群は22例報告され、このうち13例が死亡しており、とくに深刻な副作用とみられている。改訂後の添付文書では、投与開始前と投与中の定期的な肝機能検査を求める。投与開始後3ヵ月間は少なくとも2週間に1回、その後3ヵ月間は少なくとも4週間に1回、6ヵ月以降も定期的に検査する。ALTまたはASTが基準値上限の3倍を超えた場合は投与を中断し、8倍超、5倍超が2週間以上続く場合、総ビリルビンやALPの上昇、黄疸やかゆみなどがあれば中止する。胆管消失症候群が疑われる場合も速やかに中止することを求めている。キッセイ薬品は、新規患者への投与を控えるよう注意喚起していたが、その後は頻回の検査を前提に新規投与も可能とされた。すでに服用中の患者には、自己判断で中止せず、体調変化があれば医師や薬剤師に相談するよう呼びかけている。その一方で、米国食品医薬品局(FDA)は有効性や承認申請資料を巡る疑義から米国での承認撤回を提案しており、厚労省も海外当局と連携し、有効性や安全性の確認を進める。 参考 1) タブネオスの安全性確保のための注意喚起について(キッセイ薬品) 2) タブネオスにブルーレター発出、添付文書の「警告」欄を新設(日経ドラッグインフォメーション) 3) 血管炎治療剤タブネオス 安全性速報を発出-添付文書に「警告」新設 キッセイ薬品(CB news) 4) キッセイ薬品工業が「ブルーレター」発出 タブネオス服用後の死亡患者20人報告で(中日新聞) 5) 投与患者20人死亡の血管炎治療薬、添付文書に「警告」欄を新設・頻繁な肝機能検査を要請…厚労省(読売新聞) 6) キッセイ薬品の血管炎薬、添付文書に「警告」欄 有効性に疑義も(朝日新聞) 7) キッセイ薬品、血管炎治療薬で安全性速報 死亡報告で厚労省指示(日経新聞) 3.AIを悪用したサイバー攻撃に備え、医師会や病院団体と対策を協議/厚労省厚生労働省は5月22日に、AIを悪用したサイバー攻撃への懸念が高まっているとして、医療機関や病院団体とサイバーセキュリティ対策に関する意見交換会を開いた。背景にあるのは、米アンソロピックが4月に発表した高性能AI“Claude Mythos”(クロード・ミュトス)で、ソフトウエアの脆弱性を自律的に検出し、攻撃プログラムの生成にもつながり得るとされる。国家サイバー統括室は18日、AIの急速な進展により攻撃の規模が拡大する恐れがあるとして、医療や金融など重要インフラ15分野に注意を呼びかけていた。意見交換には上野 賢一郎厚労相、厚労省や国家サイバー統括室の担当者、全国自治体病院協議会、全日本病院協会、日本病院会、日本医療法人協会などの関係者が出席した。上野厚労相は、医療現場では日々の診療や運営に追われ、サイバー対策が後回しになりがちだと指摘し、「現場任せではなく経営層の主体的な関与が不可欠」と強調。「サイバー攻撃の脅威はさらに増大する。必要な対応を速やかに進める」と述べた。医療機関ではこれまでも電子カルテが使えなくなり、診療を一時中断する被害が発生している。出席した医療機関側からは、「対策に充てる財源が乏しい」や「専門人材を確保できないこと」への不安が示され、国による財政的・技術的支援を求める声が上がった。厚労省は、医療情報システムの安全管理ガイドラインに基づく基本対策の徹底、攻撃を受けた場合の事業継続計画作り、補助金や経営層向け研修の活用を呼びかけた。政府は重要インフラ15分野ごとに安全基準を整備する方針で、厚労省も医療分野の実情に応じた対策を具体化する。今後、関係機関に事務連絡を出し、医療機関の機能停止が国民生活に重大な影響を及ぼさないよう、医療現場と連携して実効性ある体制作りを進める。診療継続を支える経営課題として、各病院の備えが問われる。 参考 1) ミュトス対応 医療機関と意見交換、厚労省 セキュリティー対策具体化へ(CB news) 2) 医療機関にサイバー攻撃対策を要請 厚労省、AI「ミュトス」念頭(日経新聞) 3) 新型AI「ミュトス」 厚生労働省と医療機関が意見交換 上野大臣「必要な対応を速やかに進める」 サイバー攻撃で診療一時中断も 「財源ない」「専門人材いない」の声も(TBS NEWS) 4) 「医療機関等におけるサイバーセキュリティ対策に関する厚生労働省との意見交換」を開催します(厚労省) 4.マイナカード「任意」から義務化検討へ、全員保有を提言/自民党自由民主党は5月19日、マイナンバーカードの取得義務化の検討を政府に求める政策提言「デジタル・ニッポン2026」を公表した。国民全員がカードを保有することを前提に、行政サービスの拡充や民間利用を進める狙いで、早ければ来年の通常国会で関連法改正を目指す。現在、マイナンバーカードの取得は任意で、4月末時点の保有率は82.7%。提言では、取得を法的に義務付ける必要性や実効性を検討すべきとするが、罰則は設けない方針。背景には、中低所得の現役世代支援として検討される「給付付き税額控除」や迅速な現金給付への活用がある。提言では、給付に必要な公金受取口座の登録義務化の検討も盛り込み、マイナカードを「デジタル社会のパスポート」と位置付けている。党デジタル社会推進本部長の平井 卓也衆院議員は、交付開始当初に比べ肯定的に受け止める人が増えたとして、「持っていることを前提に政策を組み上げる」と説明した。その一方で、個人情報の漏えいや目的外利用、プライバシー侵害への懸念はいまだに根強い。マイナ保険証の原則化を巡っては、医療機関の受付負担や高齢者の利用困難、資格確認書の併存などから「事実上の義務化」との批判もある。会計検査院の調査では、2025年7月末までに本人希望で廃止されたカードが累計93万枚に上り、トラブルへの不安や利便性を実感できないことが背景にあるとの見方も出ている。コンビニ交付や本人確認で「期待通りの使い勝手になっていない」との指摘もあり、普及策の妥当性が問われている。松本 尚デジタル相は22日の会見で、義務化について「法的に縛り付けることは議論が必要だ」と述べ、必要性への明言を避けた。カードを持ちたくない人が納得できる根拠や、どの政策と一体で進めるのかを検討する必要があるとの認識を示した。利便性向上と行政効率化を掲げる政府・与党に対し、制度への信頼回復と不安払拭が課題となる。 参考 1) デジタル・ニッポン2026ー責任あるアジャイル・ガバナンスー(自民党) 2) マイナカード、取得義務化を提言 自民「来年国会で法改正めざす」(朝日新聞) 3) マイナカード義務化「必要性もう少し議論」 松本デジタル相(日経新聞) 4) 任意だったのに…「マイナカード義務化」自民が提言へ 給付付き税額控除の議論が「絶好のラストチャンス」(東京新聞) 5) 「93万枚」が廃止されていたマイナンバーカード このままでは“第2の住基カード”に? 「多くの人が“便利さ”を感じていない」(デイリー新潮) 5.禁忌の抗菌薬処方でSJS発症か、患者死亡で遺族に補償へ/三重県三重県桑名市の地方独立行政法人 桑名市総合医療センターは5月21日、気管支喘息で入院した60代男性に禁忌薬を誤って処方し、男性が重い薬剤アレルギーとみられる症状を発症後、3月23日に死亡したと発表した。病院側は薬剤投与ミスを認め、遺族に謝罪するとともに補償する方針を示している。男性は2月中旬、喘息発作で同センターに入院し、ステロイド治療に伴う感染症予防のため、担当医が抗菌薬トリメトプリム スルファメトキサゾール(商品名:バクトラミン)を処方した。男性は退院後に服用したが、高熱や全身の発疹、皮膚や口腔内のただれなどを起こし、愛知県内の病院に搬送された。その後、スティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)を発症したとみられ、より重篤な中毒性表皮壊死症(TEN)の可能性も指摘されている。最終的には腸閉塞を伴う敗血症性ショックなどで死亡した。バクトラミンは、スルファメトキサゾール・トリメトプリムを成分とするST合剤で、男性は過去に同じ成分を含む別の商品名の抗菌薬でアレルギー症状を起こしていた。電子カルテには投与禁忌の記載があったが、担当医は商品名の違いから同一成分だと認識せず、成分確認を十分に行わなかったという。一部報道では、医師がアレルギー歴を別系統の薬剤と誤認していたともされる。病院は、誤投薬とアレルギー反応との関連性は極めて高いと説明する一方で、死亡との直接の因果関係については病理解剖の結果や外部専門家を含む調査で検証する方針。県医師会には医療事故として報告しており、院内事故調査委員会や第三者委員会で原因究明と再発防止策を検討する。山田 典一病院長は記者会見で「痛切に責任を感じている」と謝罪し、「全職員がリスクを感じたら拾い上げる体制に変えなければならない」と述べた。 参考 1) 桑名市総合医療センターで男性に禁忌薬処方、難病発症 別の病院に転院後死亡(中日新聞) 2) 禁忌薬誤投与後に患者男性が死亡 三重の医療センター 因果関係調査(産経新聞) 3) 抗菌薬誤投与で難病発症、患者死亡 医師が成分確認せず-三重・桑名市総合医療センター(時事通信) 4) 桑名市総合医療センターの患者死亡 薬剤の投与ミス認める(NHK) 6.東大医学系研究科の贈収賄事件、元特任准教授に有罪判決/東京地裁東京大学大学院医学系研究科の共同研究を巡る贈収賄事件で、収賄罪に問われた元特任准教授の吉崎 歩被告(46)に対し、東京地裁は5月22日、懲役1年、執行猶予2年、追徴金約196万円の有罪判決を言い渡した。求刑は懲役1年2ヵ月、追徴金約196万円で、吉崎被告は公判で起訴内容を認めていた。判決によると、吉崎被告は2023年3月から2024年8月にかけて、東京大学大学院医学系研究科皮膚科学分野の元教授、佐藤 伸一被告(62)とともに、一般社団法人日本化粧品協会の代表理事だった引地 功一被告(52)から、都内の高級クラブや性風俗店などで30回にわたり、計約196万円相当の接待を受けた。接待は、皮膚疾患に対する大麻草由来成分カンナビジオール(CBD)の有効性などを調べる「臨床カンナビノイド学社会連携講座」の設置や共同研究の推進で便宜を図る見返りだったとされた。吉崎被告は同講座の講座長として、佐藤被告と日本化粧品協会との間に入り、研究実務や接待の段取りを調整していた。弁護側は、吉崎被告が佐藤被告を師と仰ぎ、強い影響下にあったため異を唱えることは難しかったと主張。判決も、上司である佐藤被告の意向に反することが困難だった点は認めた。その一方で、吉崎被告が接待の調整役を担い、単独で接待を受けたこともあり、自ら積極的に接待を受けたい意向があったとして、「刑事責任は軽視できない」と指摘した。遊興接待の内容についても、職務の廉潔性を害したことは明らかだとした。判決はさらに、東大の社会連携講座についても言及。大学の看板を営利目的で利用しようとする企業に悪用されかねない側面があり、公益的な研究として適切に運用されるかどうかが、講座を統括する担当教授のモラルに大きく依存していたと指摘した。産学連携を進める上で、研究費の受け入れや企業との距離感を個人の倫理観に委ねる危うさが改めて浮き彫りになった形。しかしながら、吉崎被告が事件後に東大を退職し、犯行を認めて反省していること、再び公職に就く可能性が低く再犯の可能性も低いことなどから、執行猶予付き判決が相当と判断された。事件では、佐藤被告も収賄罪で起訴されているほか、贈賄罪に問われた引地被告の判決は5月26日に予定されている。東大では別件でも医療機器選定を巡る収賄事件が起きており、大学病院における企業連携と利益相反管理のあり方が厳しく問われている。 参考 1) 東大病院汚職、元特任准教授に有罪判決 風俗店やクラブで接待受ける(朝日新聞) 2) 東大院汚職で元特任准教授に有罪判決 東京地裁(日経新聞) 3) 懲役1年執行猶予2年、性接待などを受け 東大病院の収賄事件、「教授の強い影響下にあった」元特任准教授に有罪判決(日経メディカル)

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骨折手術後の抗菌薬併用で感染症リスクは低下せず

 関節周囲の脛骨骨折手術において、手術の最終段階である固定時に、創部にバンコマイシン粉末に加えてトブラマイシン粉末を投与しても、バンコマイシン粉末の単独投与と比較して、深部手術部位感染症のリスクは低下しないことが、新たな研究で示された。四肢外傷に関する臨床研究を行う多施設共同研究ネットワークであるMajor Extremity Trauma Research Consortium(METRC)が主導したこの研究の詳細は、「Journal of the American Medical Association(JAMA)」に4月15日掲載された。論文の共著者でMETRCのメンバーである米メリーランド大学整形外科准教授のNathan O’Hara氏は、「外科医は日常診療において、この併用アプローチによる追加の効果を期待すべきではない」とニュースリリースで述べている。 現在、医師は下肢骨折患者の手術において、深部手術部位感染症のリスクを低減する目的でバンコマイシンを局所投与する。バンコマイシンは、創部でよく認められるグラム陽性菌を標的とする抗菌薬であり、骨折後の感染症で問題となることの多いグラム陰性菌に対しては効果がない。 本研究では、米国の39施設においてランダム化比較試験を実施し、関節周囲の脛骨骨折手術の固定時に、創部にバンコマイシン(1.0g)を単独投与した場合と、バンコマイシン(1.0g)にグラム陰性菌を標的とするトブラマイシン(1.2g)を併用した場合とで、深部手術部位感染症の発生率を比較検討した。関節周囲の脛骨骨折とは、膝関節に近い脛骨高原骨折と、足関節に近い脛骨天蓋骨折(ピロン骨折)のことである。1,660人の患者が、単独投与群または併用群のいずれかにランダムに割り付けられ、1,528人(平均年齢47.0歳、男性60.5%)が一次解析の対象とされた。 その結果、併用群では753人中51人、単独投与群では775人中47人に深部手術部位感染症が発生した。182日間の発生率は、それぞれ7.4%、6.6%であった。ハザード比は1.11(95%ベイズ信用区間0.75~1.66)であり、両群間に統計学的に有意な差は認められなかった。また、バンコマイシンとトブラマイシン併用の方が優れている確率は29.7%と推定された。 論文の責任著者であるメリーランド大学R Adams Cowley Shock Trauma CenterのRobert O’Toole氏は、「われわれは、アミノグリコシド系抗菌薬であるトブラマイシンを追加することで、グラム陰性菌感染が減少するという一般的な考えを検証した。しかし、その仮説は支持されなかった。バンコマイシンの単独投与はグラム陽性菌感染の予防として有効な選択肢であるが、トブラマイシンを日常的に追加することを支持するデータは得られなかった」と述べている。 メリーランド大学医学部学部長のMark Gladwin氏は、「骨折手術後の感染症は再手術、抗菌薬の長期投与、治癒遅延、長期的な障害につながり得るため、感染対策は極めて重要である。本研究は、全国の多様な外傷センターを対象とし、高いプロトコル遵守率とフォローアップ率を伴うよく設計されたものであり、整形外科外傷における感染予防プロトコルに実践的な指針を提供している」とコメントしている。

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未治療の梅毒は心血管イベントリスクを高める

 梅毒は、長期間治療されないまま放置すると、心血管系の健康に深刻な影響を及ぼす可能性があるとする研究結果が報告された。梅毒は大動脈瘤または大動脈解離などの血管イベントのリスクを約2倍に高め、さらに脳卒中や心筋梗塞の発症リスクも大幅に上昇させることが明らかになった。この研究の詳細は、「JAMA Network Open」に4月13日掲載された。 論文の筆頭著者である米テュレーン大学医学部のEli Tsakiris氏は、「心血管疾患は米国における主要な死因である。最近の梅毒罹患者の増加傾向を考えると、この関連性は梅毒リスクの高い患者を診療する全ての医療従事者が認識すべき重要な問題だ」とニュースリリースで述べている。 梅毒は、梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)の感染により、主に性的接触を介して伝播する性感染症(STD)である。初期症状としては、感染部位(通常は陰茎、外陰部、膣など)に潰瘍が現れることが多く、進行すると、皮膚の発疹、湿潤部位の灰白色または白色の隆起、インフルエンザ様症状、脱毛、体重減少、頭痛、リンパ節の腫れなどが見られる。 研究グループによると、米国では梅毒患者が急増しており、2018年から2023年の間に80%以上増加したと報告されている。梅毒は多くの場合、既存の抗菌薬で治療可能であり、ペニシリンの単回投与で治癒が見込める。一方で、未治療で放置すると、神経系、眼、耳、脳、肝臓などに深刻な障害を引き起こす可能性がある。梅毒が心血管系の合併症と関連することは以前より知られていたが、心血管イベントリスクに与える影響を独立して評価した大規模研究はほとんどなかった。 今回の研究では、ニューオーリンズの3つの三次医療システムのデータを用い、8,814人の患者(平均年齢50.0歳、女性53.9%、梅毒患者1,469人、非梅毒患者〔対照群〕7,345人)を対象に、2011年から15年間にわたり、健康状態を追跡し、梅毒と心血管イベントとの関連を検討した。心血管イベントには、心筋梗塞、心不全、大動脈弁逆流症(大動脈弁閉鎖不全症)、心房細動、大動脈瘤または大動脈解離、脳梗塞、出血性脳卒中、末梢動脈疾患、静脈血栓塞栓症、および死亡を含めた。 解析の結果、梅毒群は対照群と比較して、大動脈瘤または大動脈解離(ハザード比2.08、P=0.001)、脳梗塞(同1.53、P<0.001)、出血性脳卒中(同1.92、P=0.004)、末梢動脈疾患(同1.28、P=0.04)、心筋梗塞(同1.33、P=0.01)、および死亡(同5.80、P<0.001)のリスクが有意に高いことが示された。一方、心不全、心房細動、大動脈弁逆流症、静脈血栓塞栓症については有意な関連は認められなかった。 ただし、この研究は観察研究であり、梅毒と心血管疾患の間の因果関係が証明されたわけではない。このことを踏まえたうえで、研究グループは、「それでも本結果は、長期的な梅毒感染に伴う心血管の問題が、これまで考えられていた以上に多い可能性を示している」と述べている。 論文の上席著者であるテュレーン大学心血管トランスレーショナルリサーチ部門ディレクターのAmitabh C. Pandey氏は、「梅毒は全身の炎症を引き起こすことが知られており、この炎症が心血管疾患の進行を加速させる可能性がある。今回の研究で示されたのは、梅毒の場合、こうした心血管疾患の兆候は見過ごされがちだが、決して無視すべきではないということだ。特に、梅毒の治療後でもこれらの影響が残ることは、心血管疾患の一因となり得る」と指摘している。

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市中肺炎への抗菌薬、3~4日vs.5日以上

 市中肺炎(CAP)に対する治療において、抗菌薬投与期間の短縮により有害事象や薬剤耐性リスクが抑制される可能性がある。一方、入院患者における3~4日間の短期治療を支持する実臨床データは限られている。そこで、米国・テキサス大学サウスウェスタン医療センターのGeorge Doumat氏らの研究グループは、CAPで入院し、抗菌薬投与3日目までに臨床的安定が得られた患者を対象として、3~4日間の抗菌薬治療と5日間以上の抗菌薬治療をtarget trial emulationの手法を用いて比較した。その結果、短期抗菌薬治療の適格基準を満たした患者は全体の10.1%にとどまっていた。また、この集団では3~4日間と5日間以上の治療で30日死亡や再入院などの評価項目に明確な差はみられなかった。本研究結果は、Annals of Internal Medicine誌オンライン版2026年4月14日号に掲載された。 研究グループは、米国ミシガン州の67施設のデータを用い、2017年2月23日~2024年7月31日にCAPで入院した成人患者5万5,517例を対象として、観察研究を実施した。対象患者のうち、入院1~2日目に抗菌薬治療を受けて抗菌薬投与3日目までに解熱し、臨床的に安定した短期抗菌薬治療の適格患者について解析した。解析対象患者を抗菌薬投与3日目以降に0~1日追加された短期治療群(総治療期間3~4日)、2日以上追加された長期治療群(総治療期間5日以上)に分類した。両群の比較には、target trial emulationの手法を用いた。主要評価項目は30日死亡とした。その他の評価項目として、30日以内の再入院、救急外来・緊急受診、Clostridioides difficile感染症を評価した。 主な結果は以下のとおり。・CAPで入院した5万5,517例のうち、短期抗菌薬治療の適格基準を満たしたのは5,620例(10.1%)であった。・適格患者5,620例の年齢中央値は68.2歳、男性の割合は54.3%であった。Charlson併存疾患指数の中央値は2、CURB-65スコアの中央値は2であり、中等度の重症度を有する集団であった。・適格患者における抗菌薬総投与期間の中央値は7日であり、3~4日間の短期治療を受けた患者は444例(7.9%[3日間4.4%、4日間3.5%])にとどまった。・エンピリック治療として多く使用された抗菌薬は、セフトリアキソン(89.3%)、アジスロマイシン(76.9%)であった。退院時に抗菌薬が処方された患者は80.8%で、退院時処方薬として多かったのは、経口セファロスポリン系薬(39.4%)、アジスロマイシン(34.2%)、アモキシシリン・クラブラン酸(19.9%)などであった。・30日死亡は短期治療群で3例(0.7%)、長期治療群で37例(0.7%)に発生した。短期治療群の長期治療群に対する30日死亡の調整リスク比(aRR)は0.89(95%信頼区間[CI]:0.01~2.25)であった。・30日以内の再入院は短期治療群40例(8.8%)、長期治療群417例(8.1%)に認められた(aRR:1.07、95%CI:0.81~1.42)。・緊急受診は短期治療群37例(8.1%)、長期治療群458例(8.8%)であった(aRR:0.94、95%CI:0.70~1.28)。・Clostridioides difficile感染症は、短期治療群1例(0.2%)、長期治療群11例(0.2%)に認められた(aRR:1.01、95%CI:0.18~5.68)。・抗菌薬に関連する有害事象は全体で131例(2.3%)に発現し、各群の発現割合は短期治療群3.3%、長期治療群2.2%であった。 本研究結果について、著者らは「CAPで入院した患者のうち、短期治療の適格基準を満たしたのは10.1%にとどまった。この集団では、死亡率は短期治療群、長期治療群のいずれにおいても低く、その他のアウトカムについても、短期治療と長期治療の間に差は認められなかった」とまとめた。

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