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複雑性黄色ブドウ球菌菌血症へのdalbavancin週1回投与、標準治療に非劣性/JAMA

 複雑性黄色ブドウ球菌菌血症で、初期治療により血液培養の陰性化と解熱を達成した入院患者において、標準治療と比較してdalbavancin週1回投与は、70日の時点で「アウトカムの望ましさ順位(desirability of outcome ranking:DOOR)」が優越する確率は高くないが、臨床的有効性は非劣性であることが、米国・デューク大学のNicholas A. Turner氏らが実施した「DOTS試験」で示された。黄色ブドウ球菌菌血症に対する抗菌薬静脈内投与は、一般に長期に及ぶためさまざまな合併症のリスクを伴う。dalbavancin(リポグリコペプチド系抗菌薬)は、終末半減期が14日と長く、in vitroで黄色ブドウ球菌(メチシリン耐性菌を含む)に対する抗菌活性が確認されていた。研究の詳細は、JAMA誌オンライン版2025年8月13日号で報告された。週1回投与2回の有効性を評価する北米の無作為化試験 DOTS試験は、複雑性黄色ブドウ球菌菌血症の初期治療を終了した入院患者におけるdalbavancinの有効性と安全性の評価を目的とする非盲検評価者盲検化無作為化優越性試験であり、2021年4月~2023年12月に米国の22施設とカナダの1施設で参加者を登録した(米国国立アレルギー感染症研究所[NIAID]の助成を受けた)。 年齢18歳以上、複雑性黄色ブドウ球菌菌血症と診断され、無作為化の前に、初期抗菌薬治療開始から72時間以上、10日以内に血液培養の陰性化と解熱を達成した患者を対象とした。被験者を、dalbavancin(1日目、8日目の2回、1,500mg/日、静脈内投与)または標準治療(メチシリン感受性の場合はセファゾリンまたは抗ブドウ球菌ペニシリン、メチシリン耐性の場合はバンコマイシンまたはダプトマイシン、治療医の裁量で4~8週間投与)を受ける群に無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、70日時点のDOORとし、次の5つの構成要素の組み合わせで優越性を評価した。(1)臨床的成功:黄色ブドウ球菌菌血症の徴候および症状が消失した状態での生存、(2)感染性合併症:新たな部位の感染発現、菌血症の再発、感染部位の管理のための予定外の追加処置、(3)安全性:重篤な有害事象、試験薬の投与中止に至った有害事象、(4)死亡率、(5)健康関連生活の質(HRQOL)。 dalbavancinのDOOR優越の確率に関する95%信頼区間(CI)が50%を超える場合に、優越性が達成されたと判定することとした。有害事象による投与中止が少ない 200例(平均[SD]年齢56[16.2]歳、女性62例[31%])を登録し、dalbavancin群に100例、標準治療群に100例を割り付けた。試験登録後の入院期間中央値はそれぞれ3日(四分位範囲:2~7)および4日(2~8)だった。167例(84%)が70日目まで生存し、有効性の評価を受けた。70日目に有効性の評価を受けなかった参加者は、解析では臨床的失敗と見なされた。 70日時点で標準治療群に比べdalbavancin群でDOORが優越する確率は47.7%(95%CI:39.8~55.7)であり、dalbavancin群の優越性は示されなかった。 DOORの各構成要素については、試験薬の投与中止に至った有害事象の頻度(3.0% vs.12.0%、DOOR優越の確率:54.5%[95%CI:50.8~58.2])がdalbavancin群で低かったが、臨床的失敗(20.0%vs.22.0%、51.0%[45.3~56.7])、感染性合併症(13.0%vs.12.0%、49.5%[44.8~54.2])、非致死性の重篤な有害事象(40.0%vs.34.0%、47.0%[40.4~53.7])、死亡率(4.0%vs.4.0%、50.0%[47.1~52.9])は、いずれも両群で同程度であった。忍容性は良好 副次エンドポイントである臨床的有効性(70日時点で次の3項目がない状態と定義。臨床的失敗[抗菌薬治療の追加または継続を要する黄色ブドウ球菌菌血症の徴候または症状が消失していない]、感染性合併症、死亡)の割合は、dalbavancin群73%、標準治療群72%(群間差:1.0%[95%CI:-11.5~13.5])と、事前に規定された非劣性マージン(95%CI下限値:-20%)を満たしたことから、dalbavancin群の非劣性が示された。 また、dalbavancinは良好な忍容性を示した。重篤な有害事象はdalbavancin群40%、標準治療群34%、試験薬の投与中止に至った有害事象はそれぞれ3%および12%、Grade3以上の有害事象は51%および39%、とくに注目すべき有害事象は12%および8%、治療関連有害事象は8%および6%で発現した。 著者は、「主要エンドポイントとして菌血症に特化したDOORを使用したため、単純な臨床的有効性のアウトカムよりもリスクとベネフィットのバランスをより適切に反映した結果が得られた可能性がある」「死亡率が低かったのは、菌血症の消失後に参加者を登録したため、生存の可能性が高い集団が選択されたことが一因と考えられる」「dalbavancinは標準治療に比べ、DOORに関して優れていなかったが、他の有効性や安全性のアウトカムを考慮すると、本研究の知見は実臨床におけるdalbavancinの使用の判断に役立つ可能性がある」としている。

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市中発症型MRSAと院内獲得型MRSAの比較【1分間で学べる感染症】第32回

画像を拡大するTake home message市中発症型MRSAは、若年者を中心に皮膚軟部組織感染症を引き起こすことが多く、院内獲得型MRSAとは臨床像・薬剤耐性・遺伝子背景が異なるため、その違いを理解しよう。MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)は、医療関連感染だけでなく市中でも発症することがあり、起因背景や臨床像、薬剤感受性に違いがあります。今回は、市中発症型MRSAと院内獲得型MRSAの主な違いについて整理し、それぞれの理解を深めていきましょう。リスク患者市中発症型MRSA(Community-associated MRSA:CA-MRSA)は、若年者、スポーツ選手、軍隊、薬物静注使用者、同性愛者など、医療機関と接点のない健康な方々に発症することが多く報告されています。接触機会の多い生活環境や皮膚の小さな外傷が感染契機となります。一方、院内獲得型MRSA(Healthcare-associated MRSA:HA-MRSA)は、入院患者、長期療養施設入所者、透析患者、長期カテーテル留置中の患者など、医療的介入を受ける方々に多く認められます。病院内の医療機器や環境が感染源となることがしばしばです。臨床症状CA-MRSAでは、皮膚軟部組織感染症(蜂窩織炎、膿瘍など)が主な臨床像であり、とくにPVL(Panton-Valentine leukocidin)遺伝子を保有する株では壊死性肺炎など重篤な病態を呈することもあります。一方、HA-MRSAは、肺炎、菌血症、術後創部感染、皮膚軟部組織感染症など、多彩な感染症を引き起こします。重篤な基礎疾患を有する入院患者では、全身感染に進展することも少なくありません。抗菌薬耐性CA-MRSAはβラクタム系抗菌薬に耐性を示す一方で、ST合剤(スルファメトキサゾール・トリメトプリム)、ドキシサイクリン、クリンダマイシンなどの非βラクタム系抗菌薬に感受性を示すことが多くあります。一方、HA-MRSAは、βラクタム系抗菌薬に耐性を示すことに加え、上記の抗菌薬にも耐性を示すことが多く、バンコマイシン、リネゾリド、ダプトマイシンなど、選択肢が限られます。SCCタイプCA-MRSAは、SCCmecタイプIVやVを有している一方、HA-MRSAは、SCCmecタイプI〜IIIを有することが多いとされています。PVL遺伝子CA-MRSAはPVL遺伝子を高頻度に保有し、この毒素が好中球を破壊することで強い炎症反応や組織破壊を引き起こします。PVL陽性株による壊死性肺炎や皮膚壊死病変の報告もあり、とくに注意が必要です。一方、HA-MRSAではPVL遺伝子の保有はまれであり、主に基礎疾患に伴う易感染性や長期医療介入が病態進展に関与します。このように、市中発症型MRSAと院内獲得型MRSAは臨床的背景や対応すべき抗菌薬の選択が異なるため、上記のポイントを十分に念頭に置いておく必要があります。1)Nichol KA, et al. J Antimicrob Chemother. 2019;74(Suppl 4):iv55-iv63.2)Naimi TS, et al. JAMA. 2003;290:2976-2984.3)Huang H, et al. J Clin Microbiol. 2006;44:2423-2427.

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妊娠中のST合剤予防投与、出生アウトカムを改善せず/NEJM

 ジンバブエ・Zvitambo Institute for Maternal and Child Health ResearchのBernard Chasekwa氏らが、同国で実施した無作為化二重盲検プラセボ対照試験「Cotrimoxazole for Mothers to Improve Birthweight in Infants(COMBI)試験」において、妊娠中のトリメトプリム・スルファメトキサゾール(ST合剤)の予防投与は、児の出生時体重を有意に増加させなかったことを報告した。有害な出生アウトカムの根底には、母体感染がある。妊娠中の抗菌薬投与は出生アウトカムを改善する可能性があるが、エビデンスにはばらつきがあり、また、試験の多くは高所得国で行われ、投与は特定の妊娠期間の短期間に限定され、検討されている薬剤も限られている。ST合剤は、サハラ以南のアフリカ諸国、とくにHIV感染者に使用され、薬剤耐性が広がっているものの有効性を維持している。しかし、妊娠中の予防投与が出生アウトカムを改善するかどうかは不明であったことから、研究グループは本検討を行った。NEJM誌2025年6月5日号掲載の報告。HIV感染の有無にかかわらず妊婦をST合剤群とプラセボ群に無作為化 試験は、マラリアが流行していないジンバブエ中央部に位置するシュルグウィ地区の産婦人科クリニック3施設において実施された。尿妊娠検査が陽性で、HIV感染状況が判明しており、ST合剤を現在投与されていないまたは適応のない妊婦を募集し、適格者をST合剤(960mg/日)群またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付け、妊娠14週以降出産または流産まで1日2回投与した。 主要アウトカムは出生時体重で、ITT解析を実施した。副次アウトカムは、低出生体重児(<2,500g)の割合、妊娠期間、早産(在胎37週未満)の割合、在胎不当過小児の割合、胎児死亡(流産または死産)、母親の入院または死亡、新生児の入院または死亡、および出生後6週時の年齢別体重・身長・頭囲のzスコアであった。出生時体重、その他の副次アウトカムに差はなし 2021年12月17日~2023年4月23日に計1,860例がスクリーニングを受け、適格者1,428例(76.8%)のうち1,000例が登録・無作為化された。ITT集団は、超音波検査で非妊娠子宮であることが確認された7例を除く993例(ST合剤群495例、プラセボ群498例)であった。 参加者のベースライン特性は、年齢中央値24.5歳、登録時妊娠週数中央値は20.4週、HIV感染者は131例(13.2%)で、ST合剤群495例中458例、プラセボ群498例中458例が試験薬の投与を受け、初回投与時の妊娠週数中央値は21.7週(四分位範囲:17.3~26.4)であった。 ITT集団において、出生時体重(平均値±SD)はST合剤群3,040±460g、プラセボ群3,019±526gであった(平均群間差:20g、95%信頼区間:-43~83、p=0.53)。副次アウトカムも、ほとんどが両群で同等であった。 有害事象の発現は両群で同程度であった。重篤な有害事象は、母親においてST合剤群31件(死亡例なし)、プラセボ群33件(死亡2例)、乳児においてそれぞれ22件(死亡14例)、20件(死亡12例)が報告された。

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救急診療所では不適切な処方が珍しくない

 救急診療所では、抗菌薬、ステロイド薬、オピオイド鎮痛薬(以下、オピオイド)が効かない症状に対してこれらの薬を大量に処方している実態が、新たな研究で示された。研究論文の筆頭著者である米ミシガン大学医学部のShirley Cohen-Mekelburg氏は、「過去の研究では、ウイルス性呼吸器感染症など抗菌薬が適応とならない疾患に対しても抗菌薬が処方され続けており、特に、救急診療所でその傾向が顕著なことが示されている」と述べている。この研究の詳細は、「Annals of Internal Medicine」に7月22日掲載された。 この研究では、2018年から2022年の間に行われた2242万6,546件の救急診療に関する医療データが分析された。これらの診療において、抗菌薬が278万3,924件(12.4%)、ステロイド薬のグルココルチコイドが203万8,506件(9.1%)、オピオイドが29万9,210件(1.3%)処方されていた。 これらの処方を検討した結果、相当数が、患者の診断を考慮すると「常に不適切」または「通常は不適切」な処方であることが判明した。抗菌薬の処方が「常に不適切」とされる診断のうち、中耳炎の30.7%、泌尿生殖器症状の45.7%、急性気管支炎の15.0%において同薬剤が処方されていた。また、グルココルチコイドの処方が「通常は不適切」とされる診断のうち、副鼻腔炎の23.9%、急性気管支炎の40.8%、中耳炎の7.9%において同薬剤が処方されていた。一方、オピオイドについては、処方が「通常は不適切」とされる背部以外の筋骨格系の痛みの4.6%、腹痛・消化器症状の6.3%、捻挫・筋挫傷などの4.0%において処方されていた。 Cohen-Mekelburg氏らは、「これらの結果は、ウイルス性呼吸器感染症の治療としての不適切な抗菌薬処方が最も多いのは救急医療であることを示した最近の研究結果と一致している」と述べている。同氏らによると、これらの薬が不適切に処方されるのは、救急医療スタッフの知識不足、患者による特定の薬剤の要求、処方を決める際のバックアップサポート体制の欠如などが原因になっている可能性が高いという。 これらの処方がもたらす影響は広範囲に及ぶ可能性がある。例えば、抗菌薬の過剰使用により、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)などの耐性菌が大きな脅威となりつつある。また、米国でのオピオイド危機は、あいまいな理由で大量の鎮痛薬が処方されてきたことによって悪化してきた。 こうしたことからCohen-Mekelburg氏らは、救急診療所が適切な病状に適切な薬を処方していることを確認するために、薬剤管理プログラムが必要であると結論付けている。「抗菌薬、グルココルチコイド、オピオイドの不適切な処方を減らすには、多角的なアプローチが必要だ。救急医療センターの医療従事者がこうした薬剤の処方について判断を下す際には、より多くの支援とフィードバックが役立つだろう」と述べている。

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急性腎盂腎炎、治療推奨は7日間?【Dr.山本の感染症ワンポイントレクチャー】第9回

Q9 急性腎盂腎炎、治療推奨は7日間?急性腎盂腎炎の標準的治療期間は10~14日とされますが、外来診療において単純性であれば治療開始後数日で解熱することが多く、抗菌薬を2週間も継続する必要はないのではと思われる症例が多々あります。実際1週間で治療終了しても再燃しない方がほとんどですが、いかがお考えでしょうか?

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チゲサイクリン、5つの重要事項【1分間で学べる感染症】第31回

画像を拡大するTake home messageチゲサイクリンは広い抗菌スペクトラムを有する一方で、使用に際しての注意点が多い抗菌薬であることを理解しよう。皆さんは、チゲサイクリンという抗菌薬を知っていますか? チゲサイクリンは日本では2012年に発売が開始されていますが、まだ使用実績は低い薬剤です。多剤耐性菌に対する治療選択肢の1つとして注目されており、特定の状況下での「最後の切り札」的な役割を有する抗菌薬の1つです。適応や使用上の注意点が多いため、正しい理解と慎重な使用が求められます。今回は、使用時に必ず押さえておきたい5つの重要事項について解説します。1.カバー範囲が広いチゲサイクリンは、テトラサイクリン系抗菌薬の構造を改変して開発されたグリシルサイクリン系抗菌薬であり、多剤耐性菌への活性を持つ静注薬です。チゲサイクリンは、グラム陽性菌(MRSA、VREなど)に加えて、グラム陰性菌(ESBL産生腸内細菌、カルバペネム耐性腸内細菌、カルバペネム耐性Acinetobacter属、Stenotrophomonas属など)や嫌気性菌にまで活性を示します。このように広範なカバー範囲を持つことが特徴です。2.消化器症状の頻度が高いチゲサイクリンの主な副作用として嘔気・嘔吐が挙げられ、これらは投与患者の20~30%にみられるとされています。これによってほかの薬剤の内服が困難となる場合や、チゲサイクリンの投与継続自体が難しくなる可能性もあるため、患者への事前の説明が必須です。3.菌血症には推奨されない分布容積が大きく、組織移行性に優れる反面、血中濃度が低いため、菌血症の治療には適していません。したがって、菌血症を伴わない腹腔内感染、肺炎、皮膚軟部組織感染症などへの適応が中心となります。4.3つの代表的な起因菌に推奨されないチゲサイクリンは、Pseudomonas aeruginosa、Proteus属、Providencia属といった一部のグラム陰性菌に対しては効果が乏しいとされています。これらの菌が起因菌として想定される場合は、ほかの抗菌薬を選択する必要があります。5.ほかの抗菌薬との併用を考慮チゲサイクリンは単剤での治療において失敗例が多く報告されていることから、ほかの抗菌薬との併用が望ましいとされています。起因菌や感受性を基に、ほかの選択肢がないかどうかを必ず確認するようにします。チゲサイクリンは感染症コンサルトが必須とされる薬剤の1つです。適切な使用のために最低限の知識を押さえておくことが重要です。1)Prasad P, et al. Clin Infect Dis. 2012;54:1699-1709.2)Tamma PD, et al. Clin Infect Dis. 2021;72:e169-e183.3)Cai Y, et al. Infect Dis (Lond). 2016;48:491-502.4)Hawkey PM. J Antimicrob Chemother. 2008;62 Suppl:i1-9.

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副作用編:発熱(抗がん剤治療中の発熱対応)【かかりつけ医のためのがん患者フォローアップ】第3回

今回は化学療法中の「発熱」についてです。抗がん剤治療において発熱は切っても切り離せない合併症の1つです。原因や重症度の判断が難しいため、抗がん剤治療中の患者さんが高熱を主訴に紹介元であるかかりつけ医に来院した場合は、多くが治療施設への相談になると思います。今回は、かかりつけ医を受診した際に有用な発熱の鑑別ポイントや、患者さんへの対応にフォーカスしてお話しします。【症例1】72歳、女性主訴発熱病歴局所進行大腸がん(StageIII)に対する術後補助化学療法を実施中。昨日から38.5度の発熱があったため、手持ちの抗菌薬(LVFX)の内服を開始した。解熱傾向であるが、念のためかかりつけ医(クリニック)を受診。診察所見発熱なし、呼吸器症状、腹部症状なし。食事摂取割合は8割程度。内服抗がん剤カペシタビン 3,000mg/日(Day11)【症例2】56歳、男性主訴発熱、空咳病歴進行胃がんに対して緩和的化学療法を実施中。3日前から38.2度の発熱と空咳が発現。手持ちの抗菌薬(LVFX)内服を開始したが、改善しないためかかりつけ医(クリニック)を受診。診察所見体温38.0度、SpO2:93%、乾性咳嗽あり、労作時呼吸苦軽度あり。腹部圧痛なし。食事摂取は問題なし。抗がん剤10日前に免疫チェックポイント阻害薬を含む治療を実施。ステップ1 鑑別と重症度評価は?抗がん剤治療中の発熱の原因は多岐にわたります。抗がん剤治療中であれば、まず頭に浮かぶのは「発熱性好中球減少症(FN:febrile neutropenia)かも?」だと思いますが、他の要因も含めて押さえておきたいポイントを挙げます。(1)発熱の原因が本当に抗がん剤かどうか確認服用中または直近に投与された抗がん剤の種類と投与日を確認。他の原因(主に感染:インフルエンザや新型コロナウイルス感染症、尿路感染症など)との鑑別。発熱以外の症状やバイタルの変動を確認。画像を拡大するFNは、末梢血の好中球数が500/µL未満、もしくは48時間以内に500/µL未満になると予想される状態で、腋窩温37.5度(口腔内温38度)の発熱を生じた場合と定義されています。FNは基本的には入院での対応が必要ですが、外来治療を考慮する場合には、下記のようなリスク評価が重要です。1)MASCC( Multinational Association for Supportive Care in Cancer)スコアMASCCスコアは、FN患者の重症化リスクを予測するための国際的に認知されたスコアリングシステムであり、低リスク群(21点以上)は外来加療が可能と判断されることがあります。画像を拡大する※該当する項目でスコアを加算し、スコアが高いほど低リスク。21点以上で低リスクとなる。2)CISNE(Clinical Index of Stable Febrile Neutropenia)スコア臨床的に安定している固形腫瘍患者では、CISNEスコアによる評価も推奨されています。画像を拡大する※低リスク群(0点)、中間リスク群(1~2点)、高リスク群(3点以上)。高リスクでは入院治療を考慮する。低リスク群:合併症1.1%、死亡率0%、中間リスク群:合併症6.2%、死亡率0%、高リスク群:合併症36%、死亡率3.1%。ステップ2 対応は?では、冒頭の患者さんの対応を考えてみましょう。【症例1】の場合、すでに抗菌薬を内服開始しており、解熱傾向でした。Vitalも安定しており、胸部X線写真でも異常陰影を認めませんでした。念のためインフルエンザおよび新型コロナウイルス感染症抗原検査を実施しましたが陰性でした。このケースでは抗菌薬の内服継続と解熱薬(アセトアミノフェン)処方、および抗がん剤の内服中止と治療機関への連絡(抗がん剤の再開時期や副作用報告)、経口補水液の摂取を説明して帰宅としました。【症例2】の場合、免疫チェックポイント阻害薬が投与されていて、SpO2:93%と低下しています。インフルエンザおよび新型コロナウイルス感染症抗原検査は陰性。胸部X線検査を実施したところ、両肺野に間質影を認めました。ただちに治療機関への連絡を行い、irAE肺炎の診断で即日入院加療となりました。画像を拡大する抗がん剤治療中の発熱対応フロー抗がん剤治療中の発熱は原因が多岐にわたるため、抗がん剤治療中に発熱で受診した場合は治療機関への受診を促してください。上記のケースはいずれも「低リスク」へ分類されますが、即入院が必要なケースが混在しています。詳細な検査や診察を行った上でのリスク評価が重要です。内服抗がん剤を中止してよいか?診察時に患者さんより「発熱しても抗がん剤を継続したほうがよいか?」と相談を受けた場合、基本的に内服を中止しても問題ありません。当院でも、「38度以上の発熱が発現した場合は、その日はお休みして大丈夫です」と説明しています。抗がん剤の再開については受診翌日に治療機関へ問い合わせるよう、患者さんへ説明いただけますと助かります。<irAEと感染>免疫チェックポイント阻害薬の普及した現代では、irAEはもはや日常的な有害事象となってしまいました。重篤なirAEに対して高用量のステロイド治療を導入することは年間で複数回経験します。その中で、最も注意が必要なのは、ステロイド治療中の感染症は発熱が「マスク」されるということです。採血検査ではCRPもあまり上昇しません。日々の身体診察がいかに重要であるかを痛感します。先日もirAE腎炎を発症した胆道がんの患者さんに対して、入院で高用量のステロイドを導入しました。順調に腎機能も改善し、ステロイド漸減に伴い外来へ切り替えてフォローしていましたが、ある日軽い腹痛で来院されました。発熱もなく、採血検査では炎症反応もさほど上昇していません。しかし、「何かおかしいな…」と思い、しつこく身体診察をすると右季肋部痛をわずかに認めました。胆管ステントを留置していたこともあり、念のためCT検査を実施してみると、以前存在した胆管内ガス(pneumobilia)の消失を認め、胆管ステント閉塞が疑われました。黄疸は来していないものの、ステント交換を依頼してドレナージをしてもらうと胆汁とともに膿汁が排液されました。初歩的なことですが、ステロイドカバー中は発熱もマスクされ、採血検査もアテにならないことが多いです。やっぱり基本は身体診察ですね。1)日本臨床腫瘍学会編. 発熱性好中球減少症(FN)診療ガイドライン(改訂第3版). 南江堂;2024.2)Klastersky J, et al. J Clin Oncol. 2000;18:3038-3051. 3)Carmona-Bayonas A, et al. J Clin Oncol. 2015;33:465-471.

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誤嚥性肺炎へのスルバクタム・アンピシリンvs.第3世代セファロスポリン~日本の大規模データ

 誤嚥性肺炎に対する抗菌薬として米国胸部学会/米国感染症学会(ATS/IDSA)の市中肺炎ガイドライン2019では、セフトリアキソン(CTRX)やセフォタキシム(CTX)などの第3世代セファロスポリンを推奨しており、膿胸や肺膿瘍が疑われない限り、スルバクタム・アンピシリン(SBT/ABPC)など嫌気性菌に有効な抗菌薬のルーチン投与は推奨されていない。今回、東京大学の谷口 順平氏らは全国DPCデータベースを用いて、誤嚥性肺炎の入院患者に対するこれらの単一抗菌薬治療の有効性を直接比較する大規模研究を実施した。その結果、SBT/ABPCが第3世代セファロスポリン(CTRXが主)より院内死亡率が低く、Clostridioides difficile(C. difficile)感染症の発生率が低いことが示された。Respiratory Medicine誌2025年10月号に掲載。 本研究では、わが国の包括的な全国入院患者データベースであるDPCデータベースを用いて、2010年7月~2022年3月に誤嚥性肺炎と診断された患者を同定し、投与薬剤に基づきSBT/ABPC群と第3世代セファロスポリン(CTRXまたはCTX)群に分けた。交絡因子を調整するため、傾向スコアオーバーラップウェイティングを用いて、両群間の院内死亡率およびC. difficile感染症の発生率を比較した。 主な結果は以下のとおり。・対象となった54万8,972例のうち、SBT/ABPC群は42万4,446例、第3世代セファロスポリン群が12万4,526例(CTRX 97.7%、CTX 2.3%)であった。・平均治療期間は、SBT/ABPC群が8.5日(標準偏差[SD]:4.3)、第3世代セファロスポリン群が7.9日(SD:4.1)であった。・傾向スコアオーバーラップウェイティングの結果、SBT/ABPC群のほうが院内死亡率が有意に低く(14.6%vs.16.4%、リスク差[RD]:-1.8%、95%信頼区間[CI]:-2.1~-1.5、p<0.001)、C. difficile感染症発生率も低かった(2.0%vs.2.8%、RD:-0.8%、95%CI:-0.9~-0.7、p<0.001)。 本結果から、著者らは「誤嚥性肺炎に対する抗菌薬選択は、個々の患者の臨床状況に応じて調整する必要があると考えられる」とした。

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胃がんはピロリ菌が主原因、米国の若年で罹患率が増加

 胃がん症例の4分の3(76%)はヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori、以下、ピロリ菌)感染が原因であることが、新たな研究で明らかになった。国際がん研究機関(フランス)のJin Young Park氏らによるこの研究結果は、「Nature Medicine」に7月7日掲載された。Park氏らは、「胃がんのほとんどはピロリ菌への慢性感染によって引き起こされていることから、抗菌薬とプロトンポンプ阻害薬(PPI)の組み合わせによる治療により予防できるはずだ」と述べている。 米メイヨー・クリニックによると、世界人口の半数以上が、生涯、どこかの時点でピロリ菌に感染する可能性があるという。ピロリ菌は、嘔吐物、便、唾液などの体液との接触により広がると考えられており、感染すると、胃痛、お腹の張り(膨満感)、頻回なげっぷなどの症状や、胃や小腸の消化性潰瘍などが引き起こされる。米国がん協会(ACS)によると、米国では2025年に胃がんの新規症例が約3万300件発生し、約1万780人が胃がんにより死亡すると予想されている。胃がん症例のほとんどは、高齢者であるという。 今回の研究では、2008年から2017年の間に生まれた185カ国の若年コホートの将来の胃がん症例数が、胃がんに対する現行の予防措置に変更がないとの仮定のもとで推定された。この推定は、グローバルがん統計(GLOBOCAN)2022による各国の年齢別胃がん罹患率と、国連の人口動態予測に基づくコホート別死亡率を組み合わせて行われた。 その結果、これらのコホート全体で1560万人が胃がんを発症することが推定された。症例の68%(約1060万人)はアジアに集中しており、とりわけ中国とインドでの症例数が多く、全体の42%(約650万人)を占めていた。アジアに次いで多かったのは、南北アメリカ(13%)とアフリカ(11%)であった。ピロリ菌を原因とする症例は全体の76%(約1190万人)であり、そのうちの67%(約800万人)はアジアで生じていた。また、新規症例の58%はもともと罹患率の高い地域での症例だったが、残りの42%は人口増加などの要因により、これまで罹患率が低かった地域で生じることが予想された。発症数の急増が特に大きかったのはサブサハラ・アフリカ地域であり、研究グループは、「将来的には2022年の推定発症数の6倍近くになると予測される」と記している。 研究グループは、「先進国においてさえもピロリ菌を原因とする胃がんが一定数見られるのは、公衆衛生対策が不十分だからだ」と指摘している。また、「米国では現在、胃がん予防に関する国のガイドラインや正式な勧告はないが、胃がんはアジア系・ヒスパニック系・アフリカ系米国人、アメリカ先住民やアラスカ先住民に不均衡に多く発生している。加えて、2016年から2022年の間に50歳未満での胃がん罹患率が増加傾向にあり、特に女性で顕著なことも報告されている」と記している。 Park氏らは、ピロリ菌除去の治療は簡単ではあるものの、この細菌に対するワクチンの開発が最善の策との考えを示している。その上で、「現在、第3相臨床試験で安全性と有効性が確認されたピロリ菌のワクチンは1種類だけだ。小児集団に焦点を当てた将来のワクチン試験へのさらなる投資を行い、ワクチン接種による免疫保護のメカニズムを解明する必要がある」と述べている。

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アルコールを一滴も飲んでいないのに「飲酒運転」で逮捕【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第287回

アルコールを一滴も飲んでいないのに「飲酒運転」で逮捕46歳の健康な建設業者が2011年、拇指外傷の治療でセファレキシンを3週間服用しました。抗菌薬終了後まもなく、記憶障害、集中力低下、攻撃的行動が現れ、温厚だった彼は別人のようになりました。そして、2014年のある朝、彼は飲酒運転で逮捕されました。「アルコールは一滴も飲んでいない」と訴えましたが、血中アルコール濃度はきわめて高い結果でした。医療スタッフも警察も、「飲んでいない」という彼の言葉を信じませんでした。Malik F, et al. Case report and literature review of auto-brewery syndrome: probably an underdiagnosed medical condition. BMJ Open Gastroenterol. 2019 Aug 5;6(1):e000325.その後6年間、複数の専門医を受診しても原因は不明。症状悪化により転倒して頭蓋内出血を起こし、入院中も血中アルコール濃度が高い状態で変動していました。「隠れてお酒を飲んでいるんでしょう」と疑っている人も多かったそうです。転機は、叔母がインターネットで見つけた類似症例の情報でした。2015年、オハイオ州の医師を訪れた彼に、ついに「自動醸造症候群」の診断が下されました。―――自動醸造症候群(Auto-brewery syndrome)。聞いたことありますか? これは、摂取した炭水化物が腸管内の真菌によってアルコールに変換される、きわめてまれな疾患です。患者は文字通り「体内で酒を造る」状態となります。便検査により醸造酵母であるSaccharomyces cerevisiaeとSaccharomyces boulardiiが検出されました。炭水化物チャレンジテストでは、50g摂取後8時間で血中アルコール濃度が57mg/dLまで上昇。彼の腸内で文字どおり「酒造り」が行われていたのです。2017年の精密検査では、内視鏡で採取した腸管分泌物からCandida albicansとCandida parapsilosisも検出されました。複数の真菌が入れ替わりながら、継続的にアルコールを産生していた可能性が示唆されました。何らかの理由により腸内細菌叢が破綻し、通常は抑制されている酵母菌が胃や上部小腸で異常増殖したことが推察されます。摂取した炭水化物(米、パン、パスタ)が腸内の真菌によってアルコールに変換され、血中に吸収されて酔っ払うという症状を引き起こしていました。治療としていろいろな抗真菌薬が試されましたが、最終的に6週間のミカファンギン点滴により真菌は完全除去されました。治療後は、炭水化物摂取でも血中アルコール濃度は上昇しなくなりました。現在、彼は正常な食事を摂り、仕事に復帰しているそうです。めでたし、めでたし。というわけで、「体内で酒を造る人間」というSFのような病態があることを、私たちは知っておく必要があります。

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第36回 重症熱中症には“Active Cooling”を!【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)意識レベルと体温に注目し、重症度を瞬時に見極めよう!2)重症熱中症では、まず「冷やす」ことが最優先! 3)冷却しながら、見逃してはいけない背景病態にも目を向けよう!【症例】74歳女性。自宅の庭で倒れているのを発見され救急要請。救急隊到着時、以下のようなバイタルサインであった。●受診時のバイタルサイン意識200/JCS血圧108/54mmHg脈拍128回/分呼吸25回/分SpO296%(RA)体温40.5℃既往歴不明内服薬不明熱中症2025今年は昨年を上回る勢いで熱中症が発生しています。梅雨がいつ明けたのかわかりませんが、とにかく暑く、気温の乱高下が激しく大変ですよね。電車内や屋内は、冷房の影響で寒く、外はうだるような暑さ、この差にも身体が堪え、これまで以上に身体に負担がかかっていることと思います。救急外来にも6月後半から熱中症患者が来院し、日に日に増加しています。多くの方は帰宅可能ですが、中には入院を要する重篤な転帰を辿る方もいます。暑熱順化が大切であり、熱中症を発症しないことが何よりも大切ですが、起こってしまった場合には然るべき対応を淡々と行うしかありません。そのためには、熱中症を早期に見抜き、重症度を見誤ることなく対応することが必要不可欠です。熱中症の重症度について「第33回 熱中症、初動が大事!」でも取り上げましたが、熱中症の重症度分類は従来の3段階から4段階へと変更されました(表1、2)1)。重要なポイントは、発生場所などの病歴から熱中症を早期に疑い、重症度の高いIV度やqIV度の症例に対して、迅速に介入することです。表1 熱中症の重症度分類画像を拡大する表2 熱中症の重症度分類(最重症群)画像を拡大する“Cool First,Transport Second!”重症度の高い熱中症に対しては、何よりも冷却が重要です。もちろん、バイタルサインを安定させることが最優先ですが、それと並行して積極的に冷却を行う必要があります。冷やした輸液を投与しただけで安心してはいけません。重症例では“Active cooling”が推奨されており、冷却輸液のような“Passive cooling”では効果が不十分とされています。最も効果的な冷却手段を選択し、迅速に実施することが求められます。冷却方法『熱中症診療ガイドライン2024』(日本救急医学会の熱中症および低体温症に関する委員会編)には、「CQ3-02:熱中症の治療において、いずれの冷却法が有用か?」というClinical Question(CQ)が提示されています。選択肢として、以下の10の方法が挙げられています。1)冷水浸水 (Cold water immersion)2)蒸散冷却法(Evaporative plus convective cooling)3)胃洗浄(Cold water gastric lavage)4)膀胱洗浄(Cold water bladder irrigation)5)血管内体温管理療法 (Intravascular temperature management)6)体外式膜型人工肺 (Extracorporeal membranous oxygenation:ECMO)7)腎代替療法 (Renal replacement therapy)8)ゲルパッド法による水冷式体表冷却(The Arctic Sun temperature management system)9)クーリングブランケット(Cooling blankets)10)局所冷却(Ice packs)このCQに対して、ガイドラインでは「熱中症診療における特定の冷却法について、明確な推奨は提示しない」と記載されています。その理由としては、特定の冷却法を支持する明確な根拠が乏しく、エビデンスの強さも十分ではないこと、また、それぞれの方法における有益性と有害性のバランスが明確でないと判断されたためです。では、どの冷却法を選べばよいのでしょうか。大切なのは、「安全に実施できること」および「自施設で対応可能であること」です。そうした手段を用いて最善を尽くすことが望ましいと考えられます。 私のお勧めは冷水浸潤(Cold water immersion:CWI)です。冷却効果が最も高く、スタッフが協力すれば安全に実施可能です(治療の詳細は後述します)。 たとえ体外式膜型人工肺(ECMO)や腎代替療法が理論的に有効であっても、すぐに準備できるわけではありませんし、これらは保険適用外である点も考慮が必要です。また、血管内体温管理療法は徐々に普及しつつあるものの、中心静脈穿刺が必要であり、治療コストも高いため、すべての医療機関で実施できるわけではありません。CWIの実際みなさんの施設では、CWIを実施しているでしょうか。手技自体はシンプルに見えますが、導入には意外と多くの準備や配慮が必要です。CWIとは、患者さんを水風呂のような冷水に浸し、体温を下げる方法です。 意識のはっきりしている若年者であれば、比較的容易に施行できますが、重症度の高い熱中症、とくに本症例のような高齢者の場合には、いくつか注意すべき点があります。(1)場の確保通常の診察室内での実施は困難です。CWIには専用のプールのような設備が必要であり、当院では空気で膨らませるタイプの介護用浴槽を使用しています。また、大量の水と氷を使用するため、水回りの環境も重要です。当院では、スペースと水の確保がしやすい除染室を使用しています。(2)人手の確保CWIが必要となるのは、重症度III~IV度の重篤な熱中症であり、気道管理を含む全身管理が必要となることが多く、人手を要します。医師や看護師を数名ずつ確保することが望ましいですが、手技の流れを理解しているスタッフであれば、医療職以外の協力も可能です。(3)深部体温のモニタリングqIV度では深部体温による重症度評価は必須ではありませんが、CWI中に過冷却を起こすリスクがあるため、深部体温(たとえば膀胱温など)をモニターしながらの介入が望まれます。(4)氷の確保水道水の温度は季節によっては高く、単独では十分な冷却効果が得られないことがあります。そのため、氷を用いて水温を下げる必要があります。あらかじめ準備手順を整備し、速やかに対応できるようにしておきましょう。クーラーボックスなどを常備しておくと便利です。(5)シミュレーションの実施CWIを年間に何十例も施行する施設はまれであり、個人単位でみると経験はごく少数に止まることが想定されます。そのため、実施機会に備えて事前にチーム全体でシミュレーションを行っておくことが重要です。毎年実施していても、その年の最初の1例目では混乱しやすいものです。新規スタッフの教育も兼ねて、定期的なトレーニングをお勧めします。※なお、当院ではCWIの実施に備えて定期的にシミュレーションを行っており、その様子を収めた簡易的な動画もあります。詳細な手技の解説までは含まれていませんが、実際の雰囲気をつかむには十分かと思いますので、ぜひご参考になさってください。早期に意識すべき3つの原因熱中症を疑うこと自体は比較的容易ですが、意識障害や体温の上昇が必ずしも熱中症だけを原因とするとは限りません。熱中症単独であれば、体温管理と輸液によって症状の改善が期待できますが、そもそも熱中症に至った背景に他の原因がある場合には、当然ながらその病態への介入が不可欠となります。 原因は多岐にわたりますが、まずは以下の3つを早期に意識しておくことが重要です。1)敗血症2)脳卒中3)外傷たとえば、敗血症により体動が困難となり熱中症を併発したケース、脳卒中を発症して動けなくなり熱中症を来したケース、あるいは熱中症による症状で転倒し、外傷を負った(あるいはその逆)ケースなど、救急外来ではしばしば遭遇します。これらのケースでは、抗菌薬の投与をはじめとした、それぞれの病態に応じた適切な対応が必要となります。 とはいえ、「原因検索を行ってから冷却を開始する」のでは遅すぎます。重症度の高い熱中症では、こうした原因を意識しつつも、冷却を迅速に開始することが求められます。CWIを実施することができれば、数十分のうちに目標体温に到達することも可能です。ぜひ実践してみてください。 1) 日本救急医学会. 熱中症診療ガイドライン2024

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非HIVニューモシスチス肺炎、全身性ステロイドの有用性は?

 非HIV患者におけるニューモシスチス肺炎は、死亡率が30~50%と高く予後不良である。HIV患者のニューモシスチス肺炎では、全身性ステロイドが有効とされるが、非HIV患者における有用性は明らかになっていない。そこで、フランス・Hopital Saint-LouisのVirginie Lemiale氏らの研究グループは、非HIVニューモシスチス肺炎に対する早期の全身性ステロイド追加の有用性を検討する無作為化比較試験を実施した。その結果、主要評価項目である28日死亡率に有意な改善はみられなかったものの、90日死亡率や侵襲的機械換気の使用率が低下した。本研究結果は、Lancet Respiratory Medicine誌オンライン版2025年7月10日号に掲載された。 本試験は、フランスの27施設で実施された。対象は、急性呼吸不全を呈する18歳以上の非HIVニューモシスチス肺炎患者で、すでに抗菌薬による治療が開始されており、その治療期間が7日未満であった226例とした。対象患者を、メチルプレドニゾロンを21日間投与する群(ステロイド群:112例)、プラセボを投与する群(プラセボ群:114例)に1対1の割合で無作為に割り付けた。ステロイド群は、1~5日目はメチルプレドニゾロン30mgを1日2回、6~10日目は30mgを1日1回、11~21日目は20mgを1日1回投与した。主要評価項目は28日死亡率とし、副次評価項目は90日死亡率、侵襲的機械換気の使用、安全性などとした。解析対象はITT集団(ステロイド群107例、プラセボ群111例)とした。 主な結果は以下のとおり。・主要評価項目である28日死亡率は、ステロイド群21.5%、プラセボ群32.4%であったが、両群間に有意差はみられなかった(群間差:10.9%、95%信頼区間[CI]:-0.9~22.5、p=0.069)。・90日死亡率は、ステロイド群28.0%、プラセボ群43.2%であり、ステロイド群が有意に低かった(ハザード比[HR]:0.59、95%CI:0.37~0.93、p=0.022)。・無作為化時点で非挿管であった患者のうち、28日以内に侵襲的機械換気を要したのは、ステロイド群10.1%、プラセボ群26.1%であり、ステロイド群が有意に低かった(HR:0.36、95%CI:0.14~0.90、p=0.020)。・2次感染(ステロイド群23.4%、プラセボ群34.2%)やインスリン需要増加(30.8%、22.5%)などの有害事象の発現率に、両群間で有意差は認められなかった。 著者らは「非HIV患者におけるニューモシスチス肺炎に対する全身性ステロイドの追加により、28日死亡率の有意な改善は得られなかったが、有害事象の増加はみられず、90日死亡率や侵襲的機械換気の使用を低下させたことから、有用性が示唆された。全身性ステロイドの追加によってベネフィットが得られる集団や、最適な治療期間を明らかにするために、さらなる研究が求められる」と結論付けている。

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家畜の糞尿は薬剤耐性遺伝子の主要なリザーバー

 基本的な抗菌薬が効かない細菌が増える中、薬剤耐性の問題は世界的に喫緊の公衆衛生上の脅威となっている。こうした中、家畜の糞尿が、人間の健康を脅かす可能性のある薬剤耐性遺伝子の主要なリザーバー(貯蔵庫)となっていることが、新たな研究で明らかになった。米ミシガン州立大学微生物学教授のJames Tiedje氏らによるこの研究結果は、「Science Advances」に6月27日掲載された。 農業での抗菌薬の過剰な使用が薬剤耐性菌の拡大を招く一因となっている可能性に対する懸念が広がりつつある。研究の背景情報によると、毎年9万3,000トン以上の抗菌薬が家畜に使用されている。また、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)などの耐性菌への感染例は毎年280万件以上発生しており、3万5,000人以上が死亡している。しかし、薬剤耐性菌の農場から人間への感染経路については不明点が多い。 Tiedje氏は、「いくつかの薬剤耐性遺伝子は、土壌や水、糞尿の中のDNAに広く存在することが知られているが、それらは本当に危険なDNAなのだろうか。われわれはさらに一歩踏み込んで、これらの遺伝子が可動性を持ち、健康を悪化させる有害な細菌に取り込まれるのかどうかについて調べた」と説明している。 Tiedje氏らはこの研究で、14年間にわたって26カ国で採取されたブタやニワトリ、ウシの糞尿サンプル4,017点を対象にメタゲノム解析を実施し、家畜由来の薬剤耐性遺伝子(ARG)とメタゲノム再構築ゲノム(MAG)の包括的なカタログを作成した。 その結果、家畜の糞便中には、既知の2,291のARGサブタイプに加え、潜在的なサブタイプとして新たに3,166が同定され、家畜の糞便がARGの主要なリザーバーとなっていることが示唆された。また、家畜由来のARGに臨床的に重要なARGも多く含まれており、抗菌薬の使用状況がそれに影響を及ぼしている可能性も示された。 これらの結果を基に研究グループは、家畜におけるARGの世界的な分布パターンと臨床的に重要なARGの分布状況を可視化した世界地図を作成した。さらに、ARGの可動性や治療困難度、病原性細菌における現時点での保持状況に基づき、人間の健康に対するリスクの大きさに応じて遺伝子を順位付けする新たなランク付けシステムも開発した。 論文の上席著者である西北農林科技大学(中国)のXun “Shawn” Qian氏は、「本研究結果は、主要な畜産国における標的を絞った薬剤耐性のモニタリングとリスク管理の必要性を強調するものだ。例えば、世界最大の牛肉生産国である米国では、他国と比べてウシの糞尿中のARGの量と多様性が高いことが分かった。同様に、世界最大の豚肉生産国である中国では、ブタの糞尿中の細菌の量や多様性、そして全体的な耐性リスクが他の全ての国を上回っていた」と説明している。 研究グループはまた、この結果によって家畜への抗菌薬使用の制限の有効性を裏付けるエビデンスがさらに増えたと述べている。抗菌薬は、病気の治療よりも成長を速める目的で家畜に使用されることが多いが、それが薬剤耐性が生じる可能性を高める。 一方で、勇気付けられる結果も得られた。農業での抗菌薬使用削減に向けた早期の取り組みが効果を上げている兆しが確認されたのだ。これは抗菌薬の使用を制限する政策が有効であることを示しているが、Tiedje氏はさらなる対策が必要であると主張している。同氏は、「問題は極めて深刻であり、国連は世界中の政府に対して薬剤耐性の問題に対応するための国家行動計画を策定するよう求めている。今回の研究から得られたデータは、各国が自国にとって何が最も重要か、またどこに注力すれば最大の効果が得られるかを判断する一助となるはずだ」と述べている。

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乳児ドナー心の手術台上での再灌流・移植に成功/NEJM

 米国・デューク大学のJohn A. Kucera氏らは、小児の心停止ドナー(DCD)の心臓を体外(on table、手術台上)で再灌流しレシピエントへの移植に成功した症例について報告した。DCDと再灌流をドナーの体内で行うnormothermic regional perfusion(NRP)法を組み合わせる方法は、ドナー数を最大30%増加させる可能性があるが、倫理的観点(脳循環温存に関する仮説など)からこの技術の導入は米国および他国でも限られており、DCD心臓の体外蘇生を容易にする方法が求められていた。NEJM誌2025年7月17日号掲載の報告。ドナーは生後1ヵ月、レシピエントは生後3ヵ月の乳児 ドナーは、生後1ヵ月(体重4.2kg、身長53cm)で、自宅にて心停止状態で発見され、救急隊到着までの25分間、心肺蘇生(CPR)を受けていなかった。到着後、アドレナリン投与により自発循環が一時的に回復したが、救急外来到着後に再度心停止を起こし、再度アドレナリンにより蘇生された。これ以前には健康に問題はなかったとされている。経胸壁心エコーでは両心室機能は正常、小さな卵円孔開存以外に解剖学的には正常であった。 レシピエントは、生後3ヵ月(体重3.9kg、身長48cm)の乳児で、ウイルス性心筋炎による拡張型心筋症と診断されていた。生後1ヵ月時に心原性ショックを呈し、静脈-動脈体外式膜型人工肺(VA-ECMO)、バルーン心房中隔裂切開術、動脈管開存のデバイス閉鎖術を受けていた。移植前には、壊死性腸炎、脳室上衣下胚芽層出血、低酸素性虚血性脳症の既往があり、搬送前には潜在性発作がみられた。 ドナーとレシピエントはABO血液型が適合し、共にサイトメガロウイルスIgG陽性およびEBウイルスIgG陽性であった。心摘出後の手術台上での再灌流で心移植に成功 手術室では、ドナーの生命維持治療の中止前に、ヘパリン投与を行うとともに、後方手術台で蘇生回路(小児用人工肺、遠心ポンプ、心臓から排出された血液を回収して再循環させるリザーバー)を準備した。 生命維持治療を中止し、心臓死宣言後に5分間の観察期間をおいたうえで、心臓を摘出し、蘇生回路に接続して動脈カニューレから37℃の血液を10mL/kg注入した。心臓はすぐに洞調律で拍動を開始し、冠動脈の灌流も良好で、心機能は正常と評価された。観察期間終了から心臓摘出まで3分38秒、摘出から再灌流まで1分32秒、蘇生時間は合計5分39秒であった。移植に適格と判断し、del Nido心筋保護液を注入して再度心停止を誘導し、冷却保存した。移植までの冷却保存時間は約2時間19分、冷虚血時間は合計2時間43分であった。 その後、移植手術は合併症なく終了した。レシピエントは、術後1日目の心エコーでは弁機能および両心室機能ともに異常は認められなかった。術後6日目に昇圧薬から離脱、術後7日目に抜管し、術後28日目には集中治療室(ICU)から退室、術後2ヵ月後には経口摂取が安定した状態で退院した。 有害事象は、術後2日目の経腸栄養開始後の腹部膨満(投与中止)、6日目の発熱(血液培養陰性、抗菌薬投与開始)、7日目および30日目の目標経管栄養速度での嘔吐、32日目および40日目の嘔吐であった。 本報告時点(術後3ヵ月)において、最新の心エコー検査でも正常な心機能が維持されており、移植片機能不全や急性細胞性または抗体介在性拒絶反応のいずれも認められていない。

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ST合剤処方の際の5つのポイント【1分間で学べる感染症】第30回

画像を拡大するTake home messageST合剤、特徴的な副作用を理解して、慎重に使用しよう。ST合剤(スルファメトキサゾール・トリメトプリム)は、幅広い抗菌スペクトラムを持つ重要な抗菌薬です。便利な反面、使用方法や副作用について十分理解しておくことが重要です。今回は、ST合剤処方で重要な5つのポイントを一緒に勉強していきましょう。成分ST合剤は、「トリメトプリム80mg」と「スルファメトキサゾール400mg」を含有しています。1対5の固定比率で調整されており、これに基づいて用量を計算します(後述)。スペクトラムメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)を含むグラム陽性菌およびグラム陰性桿菌に対して有効です。また、ニューモシスチスやトキソプラズマ、サイクロスポラなどもカバーします。適応疾患ST合剤は、MRSA感染症、膀胱炎、尿路感染症、ニューモシスチス肺炎(予防・治療)などに適応があります。ステロイド長期使用患者ではニューモシスチス肺炎の予防で使用されることも多いため、なじみのある方が多いかもしれません。また、リステリア感染症、ノカルジア症に対する選択肢として検討されることもあります。副作用見掛け上のクレアチニンの上昇が報告されていますが、これは実際の腎機能悪化を反映していない場合もあります。ST合剤の成分のうち、トリメトプリムは尿細管上皮細胞の「有機アニオントランスポーター」を阻害します。これにより尿細管クレアチニンの分泌が阻害され、血清クレアチニンが上昇するといわれています。しかし、ST合剤は真の急性腎障害(AKI)を来すこともあり注意が必要です。機序としては間質性腎炎や急性尿細管壊死などが報告されています。また、カリウムの上昇も認められ、とくにACE阻害薬やARBを併用している患者、重度腎障害がある患者では、高カリウム血症のリスクが高まるために注意が必要です。そのほか、食思不振、皮疹、消化器症状がみられることもあります。用量計算ST合剤の用量はトリメトプリムの含有量を基準に計算されます。感染症の重症度や患者の腎機能に応じて調整が必要です。たとえば、ニューモシスチス肺炎に対する治療として用いる場合、トリメトプリム換算で15~20mg/kgを1日に3~4回に分けて投与するため、体重65kgの患者さんの場合であれば、65kg×15mg=975mg(80mg×12錠=960mg)が必要です。以上、ST合剤は一般的に安全に使用される抗菌薬ですが、副作用を含めた上記のポイントを十分に念頭に置いておく必要があります。1)Gleckman R, et al. Pharmacotherapy. 1981;1:14-20.2)Cockerill FR 3rd, et al. Mayo Clin Proc. 1987;62:921-929.3)Nakada T, et al. Drug Metab Pharmacokinet. 2018;33:103-110.4)Fralick M, et al. BMJ. 2014;349:g6196.5)UpToDate. Trimethoprim-sulfamethoxazole: An overview. (last updated: Apr 25, 2025.)

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周術期の予防的抗菌薬、選択基準は?【Dr.山本の感染症ワンポイントレクチャー】第8回

Q8 周術期の予防的抗菌薬、選択基準は?周術期の予防的抗菌薬について教えてください。 術創と離れた場所から耐性菌が検出されている患者、たとえば「膀胱留置カテーテルからMRSAが分離されているが、尿路感染ではなく、頸部の手術を予定している」ような場合に、予防的抗菌薬はセファゾリン系以外に抗MRSA薬を選択すべきでしょうか?

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気管支拡張症に対する初めての有効な治療に注目(解説:田中希宇人氏 /山口佳寿博氏)

 本研究は気管支拡張症に対する初の有効な薬物療法に関する重要な知見と考える。現在、気管支拡張症に承認された治療薬が存在せず、去痰剤や反復する感染に対する抗菌薬投与、抗炎症作用を期待したマクロライド系抗菌薬の長期少量投与などが経験的に用いられている。しかもこれらの治療法に関してはエビデンスは限定的で、耐性菌やQT延長などの副作用も懸念される。brensocatibはカテプシンC(DPP-1)を抑えることで好中球の炎症酵素活性を阻害するというまったく新しい機序によって気管支拡張症そのものの病態に直接作用し、増悪頻度を減らしうる治療薬と捉えられる。 brensocatibは頻回に増悪を繰り返す中等症~重症の気管支拡張症に対する新たな治療選択肢として期待される。とくに、従来の非結核性抗酸菌症を合併しているなどの理由で長期マクロライド療法が使えない症例や、マクロライドで効果不十分な場合に有用と考えられる。本研究では約35%が緑膿菌陽性、29%が前年に複数回の増悪歴を持つなど比較的重症例が含まれており、こうした複雑かつ重症症例で有効性が証明されたことから、今後は増悪リスクが高い症例に対する治療となりうる。逆に軽症で増悪の少ない気管支拡張症に関しては、重症で増悪回数の多い症例と同等のメリットがあるかどうかは不明である。また、結核を含めた抗酸菌感染症の合併例は除外されているので、そのような実臨床で頭を悩ます症例に関しても治療効果は不透明である。 本研究の試験期間中における死亡者は限られており、brensocatibが生存や死亡を改善するかは現時点では不明である。筆者らも呼吸機能低下を遅らせることで罹患や死亡を改善させるのでは、と間接的に述べるにとどまっている。 長期の安全性に関しても現時点では不安要素が残る。brensocatibはカテプシンC(DPP-1)を抑えることによって好中球の活性化を阻害する薬剤であり、長期投与することで理論上は感染防御能の低下など免疫への影響も懸念される。本研究は52週間といった比較的限られた期間での評価であり、慢性疾患である気管支拡張症に対しては、さらに数年単位の長期服用時の安全性データの蓄積と検討が望まれる。 brensocatibは気管支拡張症治療に対する新たな選択肢であることは間違いないが、実臨床でとくに効果の高い症例を選ぶためにはさらに慎重な検討が必要である。既存治療とどう組み合わされるべきか、どのような症例に最も有益か、長期のメリット・デメリットは何か、知見を集積することが重要と考える。

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糞便移植、C. difficile感染症の一次治療になり得る効果を示す

 死に至る可能性もある細菌感染症、クロストリジオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficile、以下C. difficile)感染症(CDI)の治療に関する臨床試験で、糞便移植(FMT)に抗菌薬と同程度の効果のあることが示された。同試験について報告したオスロ大学(ノルウェー)のFrederik Emil Juul氏らによると、経口抗菌薬を1日4回、10日間服用した患者と比べて、FMTを1回受けた患者で治癒率がわずかに高いことが確認されたという。詳細は、「Annals of Internal Medicine」に6月17日掲載された。 FMTは、健康な人から採取した便サンプルを処理して、便に含まれている有益な腸内細菌を患者の消化管に移植することで健康的な腸内細菌叢を回復させる治療法である。CDIは通常、抗菌薬の使用により元々持っていた腸内細菌が失われた場合に発症する。米クリーブランド・クリニックの説明によると、C. difficileはこのような状況下において腸内で急速に増殖し、毒素を放出して水様性の下痢を引き起こす。米国では毎年約50万件のC. difficile感染症が発生し、1万5,000人がCDIによって命を落としているという。 現在、CDIに対する初回治療にはバンコマイシンなどの抗菌薬が用いられており、FMTは再発を繰り返す場合にのみ適用されるとJuul氏らは研究の背景情報の中で説明している。バンコマイシンに対するC. difficileの耐性はまだ確認されていないものの、FMTはCDIの根本原因に対処する治療法であることから、Juul氏らは、CDIの一次治療にFMTが有効ではないかと考えた。 今回の臨床試験でJuul氏らは、過去365日間にCDI罹患歴のなかったノルウェーのCDI患者104人を対象に、FMTによる治療と抗菌薬(バンコマイシン125mgを1日4回、10日間経口投与)による治療の効果を比較検討した。最終的に100人が、FMTによる治療、または抗菌薬による治療を受けた。主要評価項目は、追加の治療なしに14日時点で臨床的治癒(硬い便または1日3回未満の排便)を達成し、60日以内に再発しないこととした。 その結果、臨床的治癒を達成し60日以内に再発が見られなかった患者の割合は、抗菌薬治療群の61.2%に対してFMT群では66.7%だった。両群の差は5.4ポイント(95.2%信頼区間−13.5〜24.4、非劣性のP値<0.001)であり、統計学的に有意ではなかったが、FMTの効果がバンコマイシンより25ポイント以上劣るという仮説は棄却された。Juul氏らは、「この結果は、初回のCDI患者に対してFMTを行い、症状が続く場合やFMT後に再発した患者にのみ抗菌薬を投与するのが合理的であることを示している」と結論付けている。この結果が極めて強力なものであったことから、独立データ安全性モニタリング委員会は臨床試験の早期終了を勧告したとJuul氏らは説明している。  ただし、本論文の付随論評の中で米マサチューセッツ総合病院の感染症専門医であるElizabeth Hohmann氏は、CDIの一次治療としてFMTが広く適用されるようになるまでにはさらなる研究が必要だと指摘している。同氏は、「われわれが微生物製剤を使用すべきタイミングはいつなのか。初回のCDI罹患時なのか、それとも2回目、あるいは3回目なのか。また、抗菌薬による治療後、どれくらいの期間を空けて使用すべきなのだろうか。それは製剤により異なるのだろうか」と問いかけた上で、「FMTを行う際には、適切な患者の選定と投与のタイミングが重要」との見解を示している。 Hohmann氏はまた、「米国でFMTがCDIの一次治療としてすぐに採用されるとは思わない。しかし、FMTは今後も患者にとって利用可能な治療選択肢であるべきだ」と話している。

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診療科別2025年上半期注目論文5選(呼吸器内科編)

Addition of Macrolide Antibiotics for Hospital Treatment of Community-Acquired PneumoniaWei J, et al. J Infect Dis. 2025;231:e713-e722.<リアルワールドでの市中肺炎におけるマクロライド追加の有効性>:βラクタム薬にマクロライドを追加しても死亡率を改善せず英国のリアルワールドデータを用いた研究で、市中肺炎におけるβラクタム薬へのマクロライド系抗菌薬の追加は30日死亡率や入院期間に改善をもたらさないことが示されました。ACCESS試験後、マクロライド系抗菌薬追加を支持する声が高まる中、このデータはルーチンでの使用を支持しません。重症例への追加は国際ガイドラインで支持されていますが、すべての入院症例に併用が必要かについては議論が続くでしょう。Dupilumab for chronic obstructive pulmonary disease with type 2 inflammation: a pooled analysis of two phase 3, randomised, double-blind, placebo-controlled trialsBhatt SP, et al. Lancet Respir Med. 2025;13:234-243.<BOREAS・NOTUS試験統合解析>:デュピルマブは2型炎症を伴うCOPDの増悪を抑制COPD治療におけるIL-4/13受容体阻害薬デュピルマブの効果についての統合解析です。BOREAS試験とNOTUS試験の結果から、血中好酸球数が300/μL以上のCOPD患者に対し、デュピルマブがプラセボよりも有意に増悪を抑制することが示されました。「2型炎症」が関与するCOPDに対する新たな治療選択肢として期待されています。GOLDガイドライン2025でもデュピルマブが推奨に含まれました。Tarlatamab in Small-Cell Lung Cancer after Platinum-Based ChemotherapyMountzios G, et al. N Engl J Med. 2025 Jun 2. [Epub ahead of print]<DeLLphi-304試験>:タルラタマブ、進展型小細胞肺がんの2次治療に新標準を確立小細胞肺がん(SCLC)の治療における朗報です。プラチナ製剤抵抗性のSCLC患者に対する2次治療として、DLL3を標的とするBiTE免疫療法薬タルラタマブが標準化学療法より全生存期間(OS)を有意に延長しました(中央値13.6ヵ月vs.8.3ヵ月)。有効性が高く、Grade3以上の有害事象の頻度も低い(54%vs.80%)ため、今後はSCLC2次治療における標準治療となる可能性があります。Phase 3 Trial of the DPP-1 Inhibitor Brensocatib in BronchiectasisChalmers JD, et al. N Engl J Med. 2025;392:1569-1581.<ASPEN試験>:第III相試験でbrensocatibは気管支拡張の増悪を抑制本研究では、気管支拡張症患者において、brensocatib(ブレンソカチブ、10mgまたは25mg)の1日1回投与は、プラセボよりも肺増悪の年間発生率を低下させ、25mg用量のbrensocatibではプラセボよりもFEV1の低下が少なくなりました。これまで治療薬が存在しなかった気管支拡張症における待望の薬剤となります。世界初の気管支拡張症治療薬として、米国、日本で今後承認が期待されています。Nerandomilast in Patients with Idiopathic Pulmonary FibrosisRicheldi L, et al. N Engl J Med. 2025;392:2193-2202.<FIBRONEER-IPF試験>:nerandomilastが第III相試験でFVCの低下を抑制特発性肺線維症(IPF)に対する新規治療薬nerandomilast(ネランドミラスト)の第III相試験の結果です。本薬は、既存の抗線維化薬(ニンテダニブやピルフェニドン)を服用している患者も対象としており、その併用下でも努力肺活量(FVC)の低下を有意に抑制することが示されました。ただし、nerandomilast 9mg群においては、ピルフェニドン群で効果が落ちており、nerandomilastとの薬物相互作用が原因と考えられました。IPFの治療選択肢が増えることは、患者にとって大きな福音と考えられます。

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