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小児の原因不明の肝炎は日本で24例に増え1)、米国では先週18日までに180人が調べられています2)。米国が調査を進めるそれら180例のおよそ9%は肝臓移植が必要となりましたが、死亡したという報告は幸いありません。英国で先週月曜日16日までに確認されている急な肝炎小児197人にも幸いにして死亡例はありません3)。英国ではそれら197人のうち11人(約6%)が肝臓移植を受けています。たいていは対症療法でなんとかなりますが、手遅れにならないように親は子供の皮膚が黄色くなったり目が白っぽくなったらすぐに医者に連れていく必要があります。健康な小児が黄疸を突然呈して急な肝炎を伴う重病に陥る原因はいまだ不明ですが、米国も英国もアデノウイルスを原因とする見方を強めています4)。米国疾病管理センター(CDC)は同国での180例の半数近くに認められているアデノウイルスが引き続きとくに目立つ(strong lead)と言っています。英国でのアデノウイルス検出率はさらに高く、検査した170例中116人(68%)から検出されており、英国保健安全保障庁(UKHSA)もCDCと同様にアデノウイルス感染との関連が引き続き示唆されていると言っています。しかし、アデノウイルスは免疫抑制小児に肝炎を引き起こしうるものの健康な小児をそうすることはこれまで知られておらず、アデノウイルスは主役ではないかもしれないと考える研究者もいます。アデノウイルス原因説を疑う向きによるとアデノウイルス肝炎の典型的な特徴であるアデノウイルス感染細胞が肝炎小児の肝生検で見つかっておらず、もっと目を向けるべき原因候補・新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が見過ごされがちです。SARS-CoV-2感染の数週間後に複数の臓器が傷んで小児多臓器炎症症候群(MIS-C)が生じうることが知られるように、SARS-CoV-2感染からしばらくして肝臓への免疫絡みの攻撃が生じてもおかしくありません4)。SARS-CoV-2が検出された英国の肝炎小児の割合はアデノウイルス検出率よりずっと低い15%です。しかしCDCの最近の報告によると米国の12歳未満の小児の75%がSARS-CoV-2感染を経ていると推定されています5)。また、欧州疾病予防管理センター(European Centre for Disease Prevention and Control)と世界保健機関(WHO)が20日に報告した原因不明肝炎小児の疫学データによると26人の血清検査で大半の19人(73%)がSARS-CoV-2感染歴を裏付ける陽性でした6)。原因を見極めることは患者の治療手段に直結します。もしアデノウイルスが肝臓を害しているなら強力な抗ウイルス薬cidofovir(シドホビル)の出番です4)。しかし免疫反応の持続で肝臓が傷んでいるなら免疫抑制剤が命を救う治療になりえます。仮にSARS-CoV-2が誘発する過度の免疫が肝炎に寄与しているとするならアデノウイルス感染が共謀してその引き金の役割を果たすのかもしれません。小児から検出されているアデノウイルス41F型は胃腸に感染し、SARS-CoV-2は感染後に胃腸に長居しうることが知られており、それらが相まって肝炎を招きうるとの仮説がLancet姉妹誌に最近掲載されました7)。T細胞の見境ない活性化を誘発しうることが知られるSARS-CoV-2スパイクタンパク質がSARS-CoV-2感染小児のMIS-Cで認められる深刻な炎症にどうやら寄与する8)のと同様にスパイクタンパク質の一部がアデノウイルスへの免疫反応を過剰にしてその無法な免疫反応が肝臓を傷めるのかもしれないと著者は示唆しています。仮説の検証のために原因不明肝炎の小児の便を回収して腸に潜むSARS-CoV-2の検出を試みたり免疫系の過剰な活性化の検査が必要です。免疫の過剰が原因と今後の研究で判明したならば免疫抑制が適切な治療となるはずです。原因が判明して治療の方針が定まることは表沙汰となった肝炎の背後で知らずに肝臓を傷めているかもしれない多くの小児の助けにもなる可能性があります。米国のSARS-CoV-2感染小児とSARS-CoV-2以外の呼吸器感染小児(対照群)それぞれ約25万人を比較した最近の試験結果9)によるとSARS-CoV-2はアデノウイルスとの関連はどうあれ小児の肝臓を悪くすると傷めることがあるようです。試験の結果、SARS-CoV-2感染小児の6ヵ月間の肝酵素・ASTやALTの上昇(それぞれ110U/L以上と100U/L以上)は対照群より2.5倍多く認められました。黄疸を引き起こしうる赤血球分解産産物ビリルビンの血清濃度上昇(2mg/dL以上)もSARS-CoV-2小児に3.3倍多く認められました。小児に発生している原因不明の肝炎はSARS-CoV-2感染に伴う数多の肝臓損傷の氷山の一角なのかもしれず4)、そうであるなら肝炎の原因解明はその他多数の肝臓損傷の手当てを見出すことにも役立つでしょう。参考1)小児の原因不明の急性肝炎について / 厚生労働省2)Update on Children with Acute Hepatitis of Unknown Cause / CDC3)Increase in hepatitis (liver inflammation) cases in children under investigation / UK Health Security Agency4)What’s sending kids to hospitals with hepatitis-coronavirus, adenovirus, or both? / Science5)Clarke KEN,et al. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2022 Apr 29;71:606-608. [Epub ahead of print]6)European Centre for Disease Prevention and Control/WHO Regional Office for Europe. Hepatitis of Unknown Aetiology in Children. Joint Epidemiological overview, 20 May, 2022.7)Brodin P, et al. Lancet Gastroenterol Hepatol. 2022 May 13:S2468-1253.00166-2. [Epub ahead of print] 8)Porritt RA, et al. J Clin Invest. 2021 May 17;131:e146614. [Epub ahead of print]9)Elevated liver enzymes and bilirubin following SARS-CoV-2 infection in children under 10. medRxiv. May 14, 2022.