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入院をためらう親を納得させるセリフ~RSウイルス感染症

 2017年8月3日、アッヴィ合同会社は、都内でRSウイルス感染症啓発のプレスセミナーを開催した。例年RSウイルス感染症は秋~早春にかけて流行するが、2017年は春先から初夏にかけて感染者の報告があり、今回、注意喚起のため開催された。 セミナーでは、本症の診療概要などのレクチャーのほか、実子が本症に感染した経験を持つ鈴木 おさむ氏(放送作家・タレント)を迎えてトークセッションも行われた。例年の流行パターンではない2017年 はじめに「子どもを持つ親御さんに知ってほしいこと~子どものRSウイルス感染症~」をテーマに今川 智之氏(神奈川県立こども医療センター感染免疫科 部長)が、疾患の概要とアッヴィ社が実施したアンケート調査の結果について説明を行った。 RSウイルス感染症は、感染動向調査の小児科定点把握であり、5類感染症に指定される小児科領域に多い感染症。従来、晩秋~早春が感染の流行時期だったものが、ここ数年来、流行時期が徐々に早くなっており、本年はすでに感染した患児が報告されている。 潜伏期は2~8日、生後1歳までに50%以上が、2歳までにほぼ100%が初感染をする。風疹のように免疫獲得はなく、成人でも再感染はあるが、症状が比較的軽微であり風邪と間違われやすい。 主な症状として40℃近い発熱、鼻汁、咳嗽など上気道症状が出現し、初回の感染が重症化しやすく、約20~30%で気管支炎や肺炎などの下気道症状へ進展するとされる。乳幼児の肺炎の約50%、細気管支炎の約50~90%がRSウイルス感染症との報告もある。 とくにハイリスク群として新生児、生後6ヵ月以内の乳児、早産児、(月齢24ヵ月以内の)免疫不全児、ダウン症児、高齢者が挙げられ、注意が必要という。 診断は、(小児のみ保険適用の)迅速検査とX線検査で行われ、治療では、抗ウイルス薬がないため、主に諸症状への対症療法となる。なお、ダウン症児などのハイリスク患児を対象にした抗体であるパリビズマブ(商品名:シナジス)もあるが、適応はかなり限定されている。 そこで感染予防が重要となるが、本症の感染は、飛沫感染と接触感染の2つの経路がある。とくに家庭内や保育園、学校など集団内での感染が多く、咳へのマスク使用、手指消毒など、家族で感染対策を行うことが大切だという。 本症の親の認知度は約40% 同社が行った「RSウイルス感染症・子どもの健康に関する意識調査」(実施:2017年6月、対象:2歳未満の子どもを持つ親1,800名)によれば、本症を知っている親は約40%と、百日咳、プール熱(咽頭結膜熱)とほぼ同じ程度だった。また、本症の認知度について保育施設利用者(55.2%)と非利用者(30.1%)では利用者のほうが25.1ポイントも多く、親同士のネットワークにより知識が拡散されていることがうかがわれた。本症の流行時期に関しては、「RSウイルスの流行時期が秋~春だけではなく、夏にもみられる」ことを知らないと答えた割合が半数以上の54.5%と、夏の流行への認識不足も読み取れた。入院を勧める場合の説明法 後半では、「家庭内で知っておくべき知識と予防策」をテーマに、今川氏と鈴木 おさむ氏のトークセッションが行われた。 鈴木氏のお子さんが、昨夏に本症を発症。41℃近い発熱と咳をしたことでRSウイルス検査を受け、本症と確定診断された。そのときの経験から、本症について親として知っておくべきこと、感染予防での子どもへの接し方、医師との付き合い方などを、親の目線から語った。 とくに患児の重症度について両氏は、親が医師に聞きたい場合、「子供が先生のお子さんなら入院させますか?」という尋ね方は、的確な回答がもたらされる良い質問法であり、逆に医師が親に患児の入院を勧める場合、「私の子供なら入院させます」という説明は、親に重症の度合いを理解してもらう良い説明法であると語った。 また、本症の啓発について鈴木氏は「患児を持った親が情報を拡散していくことが大事。親もWEBやSNSで調べる時代なので、経験者の情報が後で役立つ」と述べた。 本症全般について今川氏は、「医師は、本症の流行時期に夏も考慮に入れ、診療時に思いつくことが大事。また、親御さんも風邪だと簡単に片付けず、高熱やひどい咳をお子さんがしていたら診療を受けさせること。その際、感染症などの既往歴、予防接種の有無、普段服用のお薬など、お子さんの情報は診療の参考になるので、お母さんだけでなく、お父さんもきちんと知っていてほしい」と思いを語り、トークセッションを締めた。■参考RSウイルス感染症・子どもの健康に関する意識調査

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地域ベースの健診・治療介入がHIVを抑制/JAMA

 国連合同エイズ計画(UNAIDS)が東アフリカで実施した、地域ベースの健診・治療介入について、目標としていたHIV陽性者の診断率90%、HIV陽性診断者への抗ウイルス薬治療(ART)の実施率90%、集団ベースのHIVのウイルス抑制達成73%を、プログラム開始2年以内で達成したと、米国・カリフォルニア大学のMaya Petersen氏らが報告した。JAMA誌2017年6月6日号掲載の報告。地域での健診・治療介入を2年実施 今回の報告は、ケニア6ヵ所、ウガンダ10ヵ所の農村部(計16ヵ所)で行われた集団無作為化試験SEARCH Study(現在も継続中)の中間解析の結果である。試験は15歳以上の地域住民(7万7,774例)を2年(2013~14年、2015~16年)追跡して行われた。 HIV血清および血漿HIV RNAを毎年、さまざまな疾患に関連した健康キャンペーン時に計測、キャンペーンへの非参加者については居宅ベースの健診でフォローした。そしてすべてのHIV陽性者にARTを提供した。その際に構造的な障壁を減じるにあたって、患者と医師の関係性を改善し、HIVに関する知識と向き合う気持ちを強化、具体的には、(1)臨床的に安定した患者については3ヵ月間のフォローアップスケジュールを用意、(2)柔軟な時間と歓迎ムードの創出、(3)臨床医の電話番号提供などを含む、円滑なモデルを用意して行った。 主要アウトカムは、全HIV陽性者におけるウイルス抑制(血漿HIV RNA<500コピー/mL)で、ベースライン時、1年時、2年時に評価した。副次アウトカムは、HIV診断率、陽性診断者へのART実施率、ART導入者におけるウイルス抑制率などであった。地域のウイルス抑制率、2年で35.5ポイント上昇し80.2%に 住民7万7,774例(男性45.3%、15~24歳35.1%)において、ベースラインでのHIV有病率は10.3%(7,108/6万9,283例)であった。 主要アウトカムのHIV陽性者におけるウイルス抑制率は、ベースライン時44.7%(95%信頼区間[CI]:43.5~45.9、3,464/7,745例)であったが、介入2年時点では80.2%(同79.1~81.2、5,666/7,068例)と35.5ポイント(95%CI:34.4~36.6)上昇した。 また、2年時点で、HIV陽性者の95.9%(95%CI:95.3~96.5、6,780/7,068例)が診断済みとなり、そのうち93.4%(同:92.8~94.0、6,334/6,780例)がARTを受け、さらにそのうち89.5%(同:88.6~90.3、5,666/6,334例)でHIVのウイルス抑制の達成が認められた。

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DAAレジメン無効のHCVに3剤合剤が効果/NEJM

 C型肝炎ウイルス(HCV)慢性感染患者で、直接作用型抗ウイルス薬(DAA)を含むレジメンで治療を行っても持続的ウイルス学的著効(SVR)が得られない患者に対し、ヌクレオチドポリメラーゼ阻害薬ソホスブビル+NS5A阻害薬velpatasvir+プロテアーゼ阻害薬voxilaprevirの配合剤を12週間投与することで、9割超のSVRが達成できることが示された。フランス・セントジョセフ病院のMarc Bourliere氏らが、2件の第III相無作為化比較試験を行って明らかにしたもので、NEJM誌2017年6月1日号で発表した。現状では、DAAを含む治療でSVRが達成できない場合には、次の治療選択肢は限られているという。「POLARIS-1」と「POLARIS-4」の2試験で評価 研究グループは2015年11月~2016年5月にかけて、DAAを含むレジメン治療歴のある患者を対象に、2件の第III相試験「POLARIS-1」と「POLARIS-4」を行った。 「POLARIS-1」試験では、HCV遺伝型1型に感染しNS5A阻害薬を含むレジメンの治療歴がある患者を無作為に2群に分け、一方にはソホスブビル+velpatasvir+voxilaprevirの配合錠を(150例)、もう一方にはプラセボを(150例)、それぞれ1日1回12週間投与した。また、その他のHCV遺伝型の患者については、ソホスブビル+velpatasvir+voxilaprevirの配合錠を投与した(114例)。 「POLARIS-4」試験では、HCV遺伝型1型、2型、3型に感染しNS5A阻害薬を含まないDAAレジメンで治療歴のある患者を無作為に2群に分け、ソホスブビル+velpatasvir+voxilaprevirの配合錠(163例)、またはソホスブビル+velpatasvirの配合錠を(151例)、それぞれ12週間投与した。また、HCV遺伝型4型の患者については、ソホスブビル+velpatasvir+voxilaprevirの配合錠を投与した(19例)。 主要エンドポイントは、治療終了12週時点のSVR率とした。ソホスブビル+velpatasvir+voxilaprevirでSVR率は96~98% 被験者のうち、実薬を投与した3群では、その46%が代償性肝硬変だった。 POLARIS-1試験では、SVR率はプラセボ群で0%だったのに対し、ソホスブビル+velpatasvir+voxilaprevirの3剤合剤群では96%(95%信頼区間[CI]:93~98)と、事前に規定した効果目標の85%に比べ、有意に高かった(p<0.001)。 POLARIS-4試験ではまた、ソホスブビル+velpatasvirの2剤合剤群のSVR率は90%だったのに対し、ソホスブビル+velpatasvir+voxilaprevirの3剤合剤群では98%(95%CI:95~99)と、同じく効果目標の85%に比べ有意に高率だった(p<0.001)。 発生頻度の高かった有害事象は、頭痛、疲労、下痢、悪心などだった。実薬を投与した群で、有害事象により治療を中断した人の割合は1%以下だった。

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HIVの広域中和抗体VRC01のウイルス抑制効果/NEJM

 HIV患者に対し、HIV CD4結合部位を標的にする広域中和抗体(bNAb)「VRC01」を、抗レトロウイルス療法(ART)の中断前後に投与し受動免疫を試みた結果、中断後の血清ウイルスが再び増殖する(viral rebound)までの経過時間をわずかだが遅らせることができるが、その効果は8週時までは継続しないことが示された。米国・ペンシルベニア大学のKatharine J. Bar氏らが、患者24例を対象に2つの試験を行い明らかにした。HIVの中和抗体の発見は、HIV感染症の予防および治療における受動免疫戦略を可能とするものである。研究グループは、VRC01が安全にウイルス・リバウンドを防止または遅延できるかを調べた。NEJM誌オンライン版2016年11月9日号掲載の報告。VRC01の安全性や抗ウイルス活性などを検証 研究グループは、HIV患者24例を対象に、2つの非盲検試験「A5340」と「NIH 15-I-0140」を行った。ARTを計画的に中断し、その前後にVRC01を投与して、投与の安全性、副作用、薬物動態特性、抗ウイルス活性について検証した。ART中断4週間時点でのウイルス抑制率は有意に高率 結果、ウイルスのリバウンドは、血清VRC01濃度が50μg/mL超でも発生が認められた。ART中断からリバウンドまでの経過時間の中央値は、A5340群が4週間、NIH群が5.6週間だった。 両試験の被験者は、従来療法対照群に比べ、ART中断4週間時点でのウイルス抑制率が高かった。A5340試験では、VRC01群38% vs.対照群13%(フィッシャー正確両側検定のp=0.04)、NIH試験では80% vs.13%(同p<0.001)だった。しかし、その後ART中断8週間時点の評価では、A5340試験、NIH試験共に対照群との有意差は認められなかった。 ART実施前、ART中断前後のウイルス集団分析では、VRC01がウイルスのリバウンドを抑制し、ウイルス再発を抑制し、既存または新たな中和抵抗性ウイルス抗体の選別を促したことがわかった。 なお、被験者のうち1人が、アルコール関連の重篤な有害事象を発症したが、著者は被験者が少数であり、安全性の懸念をVRC01による受動免疫と関連づけることはできないとしている。

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70歳以上高齢者に対する帯状疱疹サブユニットワクチンの有効性(解説:小金丸 博 氏)-596

 帯状疱疹の罹患率や、その合併症である帯状疱疹後神経痛の発生率は、年齢とともに増加することが知られている。帯状疱疹を発症した場合、抗ウイルス薬の投与によって罹病期間を短縮することはできるが、帯状疱疹後神経痛の減少効果は示されておらず、ワクチンによる予防効果が期待されてきた。日本や米国では、50歳以上の成人に対して帯状疱疹の予防に生ワクチンが認可されているが、帯状疱疹の予防効果は50%程度とそれほど高くなく、さらに年齢とともに有効性が低下することが指摘されていた。  2015年に、組み換え水痘帯状疱疹ウイルス糖蛋白EとAS01Bアジュバントを組み合わせた帯状疱疹サブユニットワクチン(HZ/su)の有効性が報告された。この試験は、50歳以上を対象としたもの(ZOE-50)であったが、今回は70歳以上の高齢者に対象を限定して、帯状疱疹と帯状疱疹後神経痛へのサブユニットワクチンの有効性を検証するために、プラセボ対照ランダム化比較試験(ZOE-70)が行われた。ZOE-50と足し合わせた解析では、帯状疱疹に対する有効性が91.3%(95%信頼区間:86.8~94.5、p<0.001)、帯状疱疹後神経痛に対する有効性が88.8%(同:68.7~97.1、p<0.001)であり、プラセボと比較して高い有効性が示された。また、70~79歳と80歳以上の2群で有効性は同等であり、高齢者では有効性が低下した生ワクチンとは対照的な結果であった。 有効性、有害事象のデータを見る限り、非常に有望なワクチンと思われる。一般的に生ワクチンは免疫不全者では使用できず、高齢者に対しては不活化ワクチンのほうが安全に接種できる。安全性のさらなる確認は必要であるが、サブユニットワクチンの認可、導入が待たれる。 多くのワクチンでみられるように、帯状疱疹サブユニットワクチンの効果も経年的に減弱する傾向があるようである。今後は、どのくらいの期間ワクチンの効果が持続するのか、追加接種の必要性などについても検証する必要があると考える。

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亜急性硬化性全脳炎〔SSPE : subacute sclerosing panencephalitis〕

1 疾患概要■ 概念・定義亜急性硬化性全脳炎(subacute sclerosing panencephalitis: SSPE)は、1934年Dawsonにより急速進行する脳炎として初めて報告された。この疾患は、麻疹に感染してから数年の潜伏期間を経て発症する。発病後は数ヵ月から数年の経過(亜急性)で神経症状が進行し、病巣の性状はグリオーシス(硬化)であり、全脳を侵すことにより、亜急性硬化性全脳炎と呼ばれる。このように潜伏期間が長く、緩徐に進行するウイルス感染を遅発性ウイルス感染と呼び、ほかにはJCウイルスによる進行性多巣性白質脳症(progressive multifocal leukoencephalopathy: PML)が知られている。根本的治療法は確立されておらず、現在でも予後不良の疾患である。■ 疫学わが国での発症者は、麻疹ワクチンが普及する以前は年間10~15人程度であったが、麻疹ワクチン普及後は減少し、現在は年間5~10人程度となっている。男女比は2 : 1でやや男性に多く、潜伏期間、症状の発症とも女性と比較すると長く、遅くなっている。SSPEの発症年齢は平均12歳で、20代をピークに10~30歳代で96%を占める。麻疹ワクチンによるSSPEの発症は認められておらず、SSPE発症には直接的な麻疹ウイルス(MV)感染が必要であるため、発症予防には麻疹への感染予防が重要であるが、わが国では他の先進国に比べて麻疹ワクチンの接種率が低く、接種率向上が必要である。■ 病因SSPEの発症のメカニズムは現在まで十分には判明していないが、発症に関与する要因として、ウイルス側のものと宿主側のものが考えられている。1)ウイルス側の要因MVの変異株(SSPEウイルスと呼ぶ)が、中枢神経に持続感染することで起こる。SSPEウイルスは野生のMVと比較すると、M遺伝子やF遺伝子の変異が生じている。M遺伝子は、ウイルス粒子形成とカプシドからの粒子の遊離に重要なMタンパク質をコードし、Mタンパク質機能不全のため、SSPEウイルスは、感染性ウイルス粒子を産生できない。そのため隣接する細胞同士を融合させながら、感染を拡大していく。F遺伝子は、エンベロープ融合に関与するFタンパク質をコードし、一般にはSSPEウイルスはFタンパク質の膜融合が亢進しており、神経親和性が高くなっている。2)宿主側の要因幼少期にMV初感染を受けると免疫系や中枢神経系が十分に発達していないため、MVの脳内での持続感染が起こりやすく、SSPE発症リスクが上がる。ほかにSSPE発症に関わる遺伝的要因として、これまでにIL-4遺伝子多型とMxA遺伝子多型が報告されている。IL-4は、ヘルパーT細胞のTh1/Th2バランスをTh2(抗体産生)側に傾けるサイトカインで、SSPE患者ではIL-4産生が多いタイプの遺伝子多型を持つことが多いために、IL-4産生が亢進してTh2側に傾き、細胞傷害性T細胞の活性が抑えられて、MVの持続感染が起こりやすくなっていると考えられている。また、SSPE患者はインターフェロンによって誘導され、細胞内でのウイルス増殖を抑える機能を持つ、MxAの産生が多くなる遺伝子多型を持つことも知られている。MxA産生が多いと、中枢神経系のMV増殖が抑制され、MVに感染した神経細胞が免疫系から認識されにくくなり、中枢神経系での持続感染が起こりやすくなると考えられている。■ 症状と特徴初発症状として、学校の成績低下、記憶力低下、行動の異常、性格の変化があり、その後、歩行障害、ミオクローヌス、痙攣、自律神経症状、筋固縮を来し、最終的には無言・無動となり、死に至ることが多い。これらの症状の分類には、Jabbourが提唱した臨床病期分類が一般的に用いられる。■ Jabbourの分類第1期精神神経症状性格変化(無関心、反抗的)、学力低下、行動異常など第2期痙攣および運動徴候痙攣のタイプは全身強直発作、失神発作、複雑部分発作など運動徴候として運動機能低下、不随意運動(SSPEに特徴的な四肢の屈曲や進展を反復するミオクローヌス)第3期昏睡に至る意識障害の進行、筋緊張の亢進、球症状の出現による経口摂取困難、自律神経症状など第4期無言無動、ミオクローヌス消失全経過は通常数年だが、数ヵ月以内に死に至る急性型(約10%)、数年以上の経過を示す慢性型(約10%)がある。■ 予後SSPE症例は、無治療の場合は約80%が亜急性の経過をたどり、約1~3年の経過で第1期から第4期の順に進行し死亡する。約10%は発症後急速に進行し、3ヵ月以内に死亡する。また、残り約10%の進行は緩徐で、約4年以上生存する。無治療で寛解する症例や、寛解と増悪を繰り返す症例も報告されている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)診断は、臨床症状を軸に血液、髄液、脳波、画像検査を統合して行う。■ 特徴的な検査所見1)麻疹抗体価血清および髄液の麻疹抗体価が上昇する。髄液麻疹抗体価の上昇はSSPEに特異的であり、検出されれば診断的意義が高い。SSPE患者の抗体価は異常高値が特徴とされたが、最近では、軽度上昇にとどまる症例も多く、注意が必要である。また、抗体価の推移と臨床経過は必ずしも一致しない。2)髄液検査多くの場合は細胞数・糖・蛋白とも正常だが、細胞数・蛋白が軽度上昇することもある。また、髄液IgGおよびIgG indexの上昇も認める。3)脳波検査Jabbour2期から3期にかけて、左右同期性または非同期性で3~20秒間隔で出現する周期性同期性高振幅徐波をほとんどの症例で認めるが、Jabbour4期になると消失する(図)。画像を拡大する4)画像検査MRIは、疾患の推移を評価するのに有用である。画像変化は臨床病期とは一致せず、主に罹患期間に依存する。病初期のMRI所見では、正常または後頭葉の皮質・皮質下に非対称なT2強調画像での高信号の病変を認める。病期の進行とともに脳萎縮が進行し、側脳室周囲に対称性の白質病変が出現・拡大する。5)病理病理所見の特徴は、灰白質と白質の両方が障害される全脳炎であることと、線維性グリオーシスにより硬化性変化を示すことである。組織学的には、軟膜と血管周囲の炎症細胞浸潤、グリア細胞の増生、ニューロンの脱落および神経原線維変化の形成、脱髄などの所見がみられる。炎症所見は、発症からの経過が長いほど乏しくなる。麻疹ウイルス感染に関連した所見として、核内および細胞質の封入体を認める。■ 鑑別診断SSPEは急速に進行する認知症、ミオクローヌス、痙攣などを来す疾患の一部であり、ADEM(acute disseminated encephalomyelitis)、亜急性および慢性脳炎、脳腫瘍、多発性硬化症、代謝性白質脳症、進行性ミオクローヌスてんかんなどが鑑別に挙がる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ イノシンプラノベクスイノシンプラノベクス(商品名: イソプリノシン)は、抗ウイルス作用と免疫賦活作用を併せ持つ薬剤で、保険適用薬として認可されている。通常50~100mg/kg/日を3~4回に分割し、経口的に投与する。これにより生存期間の延長が得られるとされている。副作用として、血中および尿中の尿酸値の上昇(18.8%)があり、注意を要する。■ インターフェロン(IFN)インターフェロンは、ウイルス増殖阻害作用を持つ薬剤であり、IFNα、IFNγともに保険適用薬として認可されている。イノシンプラノベクスとの併用により有効であったとの報告例を多数認める。通常100~300万単位を週1~3回、脳室内に直接投与する。副作用として一過性の発熱をほぼ全例で認める。頻度は低いが、アレルギー反応を来す症例も認める。イノシンプラノベクス経口投与とIFN髄腔内または脳室内投与を併用するのが一般的で、有効性は言われているものの進行を阻止した例はまれであり、治療効果として不十分と考えられている。■ リバビリン近年、研究的治療(保険適用外)として、リバビリンの髄腔内または脳室内投与療法が試みられている。リバビリンは、広い抗ウイルススペクトラムを有する薬剤であり、麻疹(SSPE)ウイルスに対しても優れた抗ウイルス効果を示す。直接脳室内に投与することで、髄液中のリバビリン濃度はウイルス増殖を完全に抑制する濃度に維持され、重篤な副作用を認めず、少数例ではあるが臨床的有効性が報告されている。しかし、病初期(Jabbour2期)に投与した症例においては、臨床症状に明らかな改善を認めたとする報告が多く、病期の進行した症例(Jabbour3期)では改善効果に乏しかったとする報告が多い。以上のことから、リバビリン療法は、リバビリンがウイルスの増殖を抑制して病期の進行を抑制する治療法であり、進行した神経障害を改善させるものではないと考えられている。■ 対症療法上記の治療のほかには対症療法として、ミオクローヌスのコントロールや呼吸管理、血圧コントロールなどの対症療法を行っていく必要がある。4 今後の展望SSPEの重症度の評価として、新たにトリプトファン代謝の主要経路であるキヌレニン経路の代謝産物の髄液中濃度について検討されている。SSPE群では対象例と比較し、髄液中のキノリン酸濃度が有意に高値であり、病期の進行とともに増加が認められている。代謝産物であるキノリン酸の増加はキヌレニン経路の活性化が示唆され、その活性化はSSPEにおける変異型麻疹ウイルスの持続感染に関与している可能性がある。さらにキノリン酸は NMDA型グルタミン酸受容体アゴニストとして興奮性神経毒性を持つため、SSPEにおける神経症状との関係が示唆されている。また、前述したが、研究的治療としてリバビリン髄腔内または脳室内投与が有望である可能性が考えられている。具体的な投与方法として、リバビリン1mg/kg/回、1日2回、5日間投与から開始し、1回量、投与回数を調整し、髄液リバビリン濃度を目標濃度(50~200μg/mL)にする。投与量が決定したら、5日間投与・9日間休薬を12クール(6ヵ月)継続するものとなっている。効果としては、国内で詳細に調査された9例において、治療前後の臨床スコアの平均は前が52.9、後が51.0であり、治療前後で有意差は認めなかった。しかし、イノシンプラノベクスとIFNの併用療法を施行された48症例では治療前後の臨床スコアは前が54.3、後が61.1と悪化を認めており、リバビリン脳室内投与群のほうが優る結果となっている。しかしSSPEは、症例により異なる経過をたどり、その経過も長いため、多数例の調査を行ったうえでの慎重な判断が必要である。5 主たる診療科神経内科および小児科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 亜急性硬化性全脳炎(一般利用者向けと医療従事者むけのまとまった情報)プリオン病及び遅発性ウイルス感染症に関する調査研究班プリオン病のサーベイランスと感染予防に関する調査研究班(医療従事者向けの情報)患者会情報SSPE青空の会(SSPE患者とその家族の会)1)厚生労働省難治性疾患克服研究事業 プリオン病及び遅発性ウイルス感染症に関する調査研究班. 亜急性硬化性全脳炎(SSPE)診療ガイドライン(案)2)平成27年度(2015年度)プリオン病及び遅発性ウイルス感染症に関する調査研究班 総括研究報告書3)Gutierrez J, et al. Dev Med Child Neurol.2010;52:901-907.公開履歴初回2014年05月19日更新2016年09月20日

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高ウイルス量のHBVを有する母親で母児感染を防ぐためのテノホビル療法(解説:中村 郁夫 氏)-568

 本論文は、HBe抗原陽性でHBV-DNAが20万IU/mL より高い母親 200例を対象とした治験である。 (1)抗ウイルス療法なしで予防処置を含む通常のケアを受けるか、(2)テノホビル(TDF)を1日300mg経口・妊娠30~32週から産後4週まで内服するかに、ランダムに1対1に割り付けた。 その結果、分娩時にHBV-DNAが20万IU/mLより低かった頻度は、TDF群68%(66例/97例) vs.対照群 2%(2例/100例)と有意な差を認めた(p<0.001)。さらに、産後28週における母児感染率は、ITT解析では、TDF群5%(5例/97例) vs.対照群18%(18例/100例)(p=0.007)、per-protocol解析では、TDF群 0% vs.対照群7%(6例/88例)(p=0.01)と、どちらも有意な差を認めた。母児の安全性に関しては、児の先天異常の頻度を含めて、TDF群2%(2例/95例)と対照群1%(1例/88例)で差は認められなかった。 一方、TDF中止後に母親の血中ALT値が基準値を超える頻度が、対照群においてALT値が高値となる頻度と比較して高かった[TDF群 45%(44例/97例) vs.対照群 30%(30例/100例)(p=0.03)]。しかし、母体の血中HBVマーカーに関しては、両群で有意な差を認めなかった。 結論として、妊娠第3期でHBe抗原陽性でHBV-DNAが20万IU/mLより高い母親を対象としたコホートで、母児感染の頻度は、TDF療法を受けた群において、抗ウイルス療法なしで通常のケアを受けた群と比べて、有意に低かった。 本邦では、B型肝炎ウイルス母子感染予防のための指針が2013年に変更され(出生直後にHBグロブリンとHBワクチン、生後1ヵ月・生後6ヵ月にHBワクチン投与を行う。さらに、生後9~12ヵ月を目安にHBs抗原・HBs抗体検査を実施し、結果に応じた対応をとる。)、その指針に基づいた診療が行われている。今後、本論文のTDF療法がさらに母子感染を減少させる1つの方策となる可能性が示唆された。

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B型肝炎の母子感染予防、テノホビルが有効/NEJM

 B型肝炎e抗原(HBeAg)陽性で、HBV-DNA量20万IU/mL超の妊婦に対し、妊娠30~32週からテノホビル・ジソプロキシル・フマル酸塩(TDF)の経口投与を始めると、母子感染率は低下することが示された。米国・ニューヨーク大学のCalvin Q.Pan氏らが、妊婦200例を対象に行った無作為化比較試験の結果で、NEJM誌2016年6月16日号で発表された。TDFを妊娠30~32週から出産後4週まで投与 研究グループは、HBeAgが陽性でHBV-DNA量が20万IU/mL超の妊娠中の女性200例を対象に試験を行った。被験者を無作為に2群に分け、一方の群には抗ウイルス療法を行わない通常療法を、もう一方の群にはTDF(300mg/日)を妊娠30~32週から出産後4週まで経口投与した。すべての出生児に対して、免疫学的予防を実施。被験者のフォローアップは、分娩後28週まで行った。 主要評価項目は、母子感染率と先天異常の発生率だった。副次的評価項目は、TDFの安全性と、母体の分娩時HBV-DNA量が20万IU/mL未満だった割合、出産後28週時のHBeAgまたはB型肝炎表面抗原の消失や陽転の割合などだった。分娩後28週時の母子感染率、TDF群5%、対照群18% その結果、分娩後28週時の母子感染率は、intention-to-treat解析では対照群が18%(18/100例)に対し、TDF群が5%(5/97例)と有意に低率だった(p=0.007)。per-protocol解析では、対照群7%に対しTDF群は0%だった(p=0.01)。 分娩時のHBV-DNA量が20万IU/mL未満だった母体の割合は、対照群2%に対し、TDF群では68%と有意に高率だった(p<0.001)。 母子の安全性については両群で類似しており、クレアチンキナーゼ値の上昇は、TDF群で高率に認められた(p=0.006)が、先天性異常発生率について、対照群1%、TDF群2%と同等だった(p=1.00)。 また、TDF群では、TDF服用中止後、アラニンアミノトランスフェラーゼ値について正常値を上回る上昇がみられた人の割合が45%と、対照群の30%と比べて有意に多くみられた(p=0.03)。母体のHBV血清学的転帰は、両群で有意な差はみられなかった。

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慢性リンパ性白血病〔CLL : chronic lymphocytic leukemia〕

1 疾患概要■ 定義慢性の小型成熟Bリンパ球の単クローン性の腫瘍であり、末梢血、骨髄、リンパ節で増殖する。リンパ節外の病変はなく、末梢血では5,000/mm3以上の腫瘍細胞が観察される。通常腫瘍細胞はCD5とCD23との両者を発現する。■ 疫学欧米の成人の白血病のなかでは最も多く、10万人当たり3.9人の発症率であるが、東アジアでは少なく、日本では、およそ0.48人とする報告がある1)。欧米のアジア系移民でも少ないので、遺伝的素因が考えられている。■ 病因他の白血病、リンパ性腫瘍と同様、ゲノム異常によると考えられている。第13番染色体のmiR 15、16の欠失によるBCL2の活性化を始めとして、NOTCH1、MYD88、TP53、ATM、SF3B1などの遺伝子異常が複数関与している2)。■ 症状多くはまったく無症状であり、血液検査による異常値で発見される。一部、リンパ節腫脹、肝脾腫、体重減少、発熱、全身倦怠感、貧血症状を呈する例や繰り返す感染症から発見される例がある。また頻度は低いが、自己免疫性溶血性貧血、赤芽球癆、自己免疫性血小板減少症、無顆粒球症、低γグロブリン血症を合併することが知られている。■ 分類近縁疾患に、単クローン性B細胞リンパ球増加症(monoclonal B-cell lymphocytosis: MBL)と小リンパ球性リンパ腫(small lymphocytic lymphoma : SLL)がある。MBLは、健常人に認められるモノクローナルなBリンパ球の増殖である。臨床症状はなく、Bリンパ球は、CLLと同様の細胞表面抗原を呈していることが多いが、5,000/μL以下であるのでCLLの定義は満たさない。CLLへ進行することが知られている。SLLは、末梢血や骨髄への浸潤がないCLLと同一の腫瘍と考えられ病期や治療は低悪性度B細胞リンパ腫として扱われる。■ 予後一般に緩徐な経過をたどることが知られているが、初回診断時からの生存期間は症例により2~20年と大きなばらつきがあり、生存期間中央値は約10年といわれている。そのため治療開始時期の決断が困難であり、病勢を評価し、予後を予測するための臨床病期分類がいくつか報告されている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 診断基準末梢血中のリンパ球絶対数が3ヵ月以上にわたって、継続的に5,000/mm3を超えている。末梢血塗抹標本では、細胞質をほとんど持たない成熟小型リンパ球が一様に増加しており、フローサイトメトリーで、Bリンパ球がモノクローナルに増殖している。細胞表面抗原は、Tリンパ球抗原であるCD5およびBリンパ球抗原であるCD19、CD20、CD23が発現している。細胞表面免疫グロブリンやCD20の発現レベルは、正常Bリンパ球に比べて低いことが多い。免疫グロブリン軽鎖はκ型またはλ型のいずれかのみを発現している。■ 鑑別診断リンパ球数が増加する他の疾患との鑑別が問題となる。結核、梅毒、伝染性単核球症、百日咳、トキソプラズマ症などの感染症では、リンパ球増多を呈するが、いずれも反応性であり数週間で正常化する。CLL以外のリンパ増殖性疾患との鑑別も重要であり、hairy cell leukemia、prolymphocytic leukemia、large granular cell lymphocyte leukemia、mantle cell lymphomaを代表とする、リンパ腫の白血化などがある。■ 病期分類現在広く使われている病期分類には2種類ある。Rai分類(表1)は米国で、Binet分類(表2)は欧州で用いられており、リンパ節病変数および貧血、血小板減少の有無により分類する。画像を拡大する画像を拡大する■ その他の予後予測因子RaiおよびBinet分類により予後分類を行うが、low risk群に分類された症例のなかでも急速に進行する例がある。そのため、分子生物学的研究により、新たな予後因子も近年では提唱されている。(1)短いLymphocyte doubling time(LDT)(2)高い血清マーカー(LDH、β2 microglobulin、β2M)(3)免疫グロブリン重鎖変異(IgVH mutation)がない(4)CD38陽性(5)ZAP70(Zeta chain associated protein 70)が発現している(6)細胞遺伝学的検査での11q欠失・17p欠失が予後不良とされる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 治療開始時期Rai分類low risk群およびBinet分類A群の症例では、診断早期の治療が推奨されない。Rai分類intermediate・high risk群およびBinet分類B・C群の症例で治療開始が勧められる。ただし、intermediate risk群・B群においては、症状の出現まで経過観察が一般的である。一方で、リヒター症候群と呼ばれるトランスフォームを起こし、急速にリンパ節腫大を生じ、予後不良となることがある。無治療経過観察中に一転して、治療が無効となるので、患者説明の際に留意する。■ 治療薬剤現状ではCLLに対する標準治療は確立されていない。治療の選択肢が広がり、アルキル化剤に加えプリンアナログ、モノクローナル抗体が登場している。1)アルキル化剤クロラムブチルは、わが国では本疾患には未承認である。単剤治療について奏効率は40~60%で、完全寛解(complete response:CR)は4~10%であった3)。わが国では、シクロホスファミド(商品名: エンドキサン)が使用される。差違はほとんどないとされており、伝統的に併用療法中で用いられることが多いが、アントラサイクリンを加えるメリットはない4)。2)プリンアナログフルダラビンは(同: フルダラ)、わが国では静注薬に加え経口薬も承認されており、同等の効果が知られている。北米のintergroup studyでの、未治療CLLに対するフルダラビン単剤治療の第III相比較試験の結果5)では、奏効率60~70%であり、CR率も20~40%と良好なものであった。奏効率は有意差をもってクロラムブチルに優っており、無増悪生存期間(PFS)も有意に延長していた。しかし、クロスオーバーデザインであったためか、生存率の有意差は得られていない。3)モノクローナル抗体CD20に対する抗体のリツキシマブ(同: リツキサン)は、CLLに対しては単剤では奏効率10~15%と結果は乏しい6)。毒性として輸注関連反応が強く出現する可能性がある。オファツムマブ(同: アーゼラ)は、再発・難治性の場合に使用される。リツキシマブに比べてCD20エピトープに高い親和性で結合することと、結合後の解離速度が遅いことが特徴である7)。CD52に対するモノクローナル抗体であるアレムツズマブ(同:マブキャンパス)も再発・難治性の場合に用いられる。クロラムブチルとの第III相比較試験が行われ、奏効率83%、CR率24%でより高かったが、T細胞も抑制するためサイトメガロウイルスを始めとするウイルス感染の管理が重要である8)。4)併用療法フルダラビンとシクロホスファミドとの併用(FC療法)は、奏効率80~90%、CR率30~40%とフルダラビン単剤と比較して有効性が高い。PFSも有意に延長していたが、全生存期間(OS)については、観察期間が短い影響か、有意差は認められていない9)。フルダラビンとリツキシマブの併用(FR療法)も同様にフルダラビン単剤と比較して優れていることが示されている。リツキシマブとフルダラビンの同時投与法と連続的投与法の比較では、前者で奏効率90%(CR率47%)、後者で77%(CR率28%)であり、同時投与法が有意に優れていた10)。さらにフルダラビン、シクロホスファミド、リツキシマブの3剤併用(FCR療法)は、FC療法と比較され、CR率、OSで有意に優れていた11)。5)新規抗がん剤ベンダムスチン(同:トレアキシン)は、アルキル化剤とプリンアナログの両者の作用特徴を有する静注薬である。悪性リンパ腫に対する有効性が報告されているが、CLLに対しても第III相比較試験にてクロラムブチルよりも優れた有効性を示している12)。わが国でも、再発例に対して承認申請され認可待ちである(平成28年5月末現在)。BTKシグナルの抑制薬であるイブルチニブ(同:インブルビカ)が欧米だけではなく、わが国でも再発・難治例に対して承認され、米国ではPI3Kδを抑える idelalisibが認可されている。いずれも経口薬である。イブルチニブ13)は、オファツムマブに対して第III相比較試験で有効性のため中途終了、 idelalisibはリツキシマブ単独に比べて14)リツキシマブとの併用療法でPFSで優っていた。さらに高齢化などのために全身状態の悪い症例でchlorambucilとの併用で、あらたなCD20抗体であるobinutuzumab(GA101)は、リツキシマブよりPFSで有意に優っており15)、米国で承認されている。6)造血幹細胞移植若年者を主体に治癒を目指して同種造血幹細胞移植が行われ、40~50%の長期生存が報告されている。リツキシマブ、フルダラビン、ベンダムスチンを用いた骨髄非破壊的前処置を用いた移植成績は、第II相比較試験の結果ではきわめて良好であった16)。■ 合併症治療CLL患者では、正常リンパ球が低下しており、免疫不全状態にあることが多く、感染症の合併には常に注意を払う必要がある。P. jiroveciによるニューモシスチス肺炎、CMV感染、帯状疱疹を発症する危険性が高く、ST合剤や抗ウイルス薬の予防内服を検討する。4 今後の展望わが国でも米国発の経口薬である新薬が、使用できるように期待したい。5 主たる診療科血液内科、血液腫瘍科、血液・腫瘍科、造血器科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)アメリカ国立がん研究所のCLLの総合情報のページ(医療従事者向けの情報)1)Tamura K, et al. Eur J Haematol.2001;67:152-157.2)Puente XS, et al. Nature.2011;475:101-105.3)Dighiero G, et al. N Engl J Med.1998;338:1506-1514.4)CLL Trialists' Collaborative Group. J Natl Cancer Inst.1999;91:861-868.5)Rai KR, et al. N Engl J Med.2000;343:1750-1757.6)O'Brien SM, et al. J Clin Oncol.2001;19:2165-2170.7)Cheson BD. J Clin Oncol.2010;28:3525-3530.8)Lemery SJ, et al. Clin Cancer Res.2010;16:4331-4338.9)Flinn IW, et al. J Clin Oncol.2007;25:793-798.10)Byrd JC, et al. Blood.2005;105:49-53.11)Tam CS, et al. Blood.2008;112:975-980.12)Hillmen P, et al. J Clin Oncol.2007;25:5616-5623.13)Byrd JC, et al. N Engl J Med.2013;369:32-42.14)Furman RR, et al. N Engl J Med.2014;370:997-1007.15)Goede V, et al. N Engl J Med.2014;370:1101-1110.16)Kahr WH, et al. Blood.2013;122:3349-3358.公開履歴初回2014年07月01日更新2016年06月21日

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結節性多発動脈炎〔PAN: polyarteritis nodosa〕

1 疾患概要■ 概念・定義主として中型の筋性動脈が侵される壊死性動脈炎である。国際的な血管炎の分類であるChapel Hill Consensus Conference 2012分類(CHCC2012)1)では、血管炎を障害される血管のサイズにより分類しており、本疾患はmedium vessel vasculitis(中型血管炎)に分類されている。剖検時に動脈に沿って粟粒大から豌豆大の小結節が多発して認められる場合があり、KussmaulとMaierにより結節性動脈周囲炎として1866年に提唱された。現在では、結節性多発動脈炎(polyarteritis nodosa:PAN)の呼称が一般的に用いられている。本症の壊死性動脈炎は、肝臓、胆嚢、脾臓、消化管、腸間膜、腎泌尿生殖器、皮膚、骨格筋、中枢神経系、心臓、肺など全身に認め、とくに血管の分岐部が侵されやすい。肺では気管支動脈に病変を認め、肺動脈が侵されることはまれである。原則として腎糸球体は侵されない。■ 疫学50~60歳に好発し、男女比では男性にやや多い。厚生労働省より結節性動脈周囲炎として、特定疾患医療受給者証を交付された患者数は2011年の時点でおよそ9,000人であるが、この中には顕微鏡的多発血管炎の患者も含まれているので、PANの患者が実際にどのくらい存在するかは不明である。しかしながら、PANの患者数は顕微鏡的多発血管炎に比べて圧倒的に少なく、500人未満と推定される。2006年以降、PANと顕微鏡的多発血管炎は別個に登録されるようになったため、今後その実数が明らかになるものと思われる。■ 病因不明である。アデノシンデアミナーゼ2(adenosine deaminase 2: ADA2)の一塩基多型による先天的機能欠損が、小児期のPAN類似血管症の原因となることが報告されている2、3)が、成人例でADA2の量的または質的異常があるとの報告はない。本疾患に特徴的な自己抗体は知られていない。■ 症状発熱や全身倦怠感、体重減少のほか、急速進行性腎障害、高血圧、中枢神経症状、消化器症状、紫斑、皮膚潰瘍、末梢神経障害などの多彩な症状を呈する。■ 分類本症の組織学的病期はArkinにより、I期:変性期、II期:炎症期、III期:肉芽期、IV期:瘢痕期に分類されている(Arkin分類)。変性期には内膜から中膜にかけて、浮腫とフィブリノイド変性が認められる。炎症期には中膜から外膜にかけて、好中球、時に好酸球、リンパ球、形質細胞が浸潤し、フィブリノイド壊死は血管全層に及ぶ。その結果、内弾性板は破壊され、断裂、消失する。炎症期が過ぎると、組織球や線維芽細胞が外膜より侵入し、肉芽期に入る。肉芽期には内膜増殖が起こり、血管内腔が閉塞するほど高度になることがある。瘢痕期では、炎症細胞浸潤はほとんどみられず、血管壁は線維性組織に置換される。このような場合でも、弾性線維染色を行うと内弾性板の断裂が認められ、診断に有用である。また、これら各期の病変が、同一症例内に同時期に混在して認められることも特徴である。■ 予後本症の予後は急性期の治療によるところが大きい。副腎皮質ステロイドによる治療を基本としたフランスの臨床研究では、57例中48例(84.2%)が初期治療により寛解し、残りの9例中8例も免疫抑制薬の併用などにより寛解導入されている4)。しかしながら、寛解導入された56例中、26例(46.4%)で再燃しており、再燃率は比較的高いといえる。5年生存率は90%強である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)厚生労働省指定難病診断基準(難治性血管炎に関する調査研究班2006年改訂)に基づいて行われる(表1)。重症度に応じて、1度~5度に分類される(表2)。表1 結節性多発動脈炎の診断基準(厚生労働省難治性血管炎に関する調査研究班2006年改訂)【主要項目】1) 主要症候(1)発熱(38℃以上、2週以上)と体重減少(6ヵ月以内に6kg以上)(2)高血圧(3)急速に進行する腎不全、腎梗塞(4)脳出血、脳梗塞(5)心筋梗塞、虚血性心疾患、心膜炎、心不全(6)胸膜炎(7)消化管出血、腸閉塞(8)多発性単神経炎(9)皮下結節、皮膚潰瘍、壊疽、紫斑(10)多関節痛(炎)、筋痛(炎)、筋力低下2) 組織所見中・小動脈のフィブリノイド壊死性血管炎の存在3) 血管造影所見腹部大動脈分枝(とくに腎内小動脈)の多発小動脈瘤と狭窄・閉塞4) 判定(1)確実(definite)主要症候2項目以上と組織所見のある例(2)疑い(probable)(a)主要症候2項目以上と血管造影所見の存在する例(b)主要症候のうち(1)を含む6項目以上存在する例5) 参考となる検査所見(1)白血球増加(10,000/μL以上)(2)血小板増加(400,000/μL以上)(3)赤沈亢進(4)CRP強陽性6) 鑑別診断(1)顕微鏡的多発血管炎(2)多発血管炎性肉芽腫症(旧称:ウェゲナー肉芽腫症)(3)好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(旧称:アレルギー性肉芽腫性血管炎)(4)川崎病動脈炎(5)膠原病(SLE、RAなど)(6)IgA血管炎(旧称:紫斑病性血管炎)【参考事項】(1)組織学的にI期:変性期、II期:急性炎症期、III期:肉芽期、IV期:瘢痕期の4つの病期に分類される。(2)臨床的にI、II期病変は全身の血管の高度の炎症を反映する症候、III、IV期病変は侵された臓器の虚血を反映する症候を呈する。(3)除外項目の諸疾患は壊死性血管炎を呈するが、特徴的な症候と検査所見から鑑別できる。表2 結節性多発動脈炎の重症度分類●1度ステロイドを含む免疫抑制薬の維持量ないしは投薬なしで1年以上病状が安定し、臓器病変および合併症を認めず、日常生活に支障なく寛解状態にある患者(血管拡張剤、降圧剤、抗凝固剤などによる治療は行ってもよい)。●2度ステロイドを含む免疫抑制療法の治療と定期的外来通院を必要とするも、臓器病変と合併症は併存しても軽微であり、介助なしで日常生活に支障のない患者。●3度機能不全に至る臓器病変(腎、肺、心、精神・神経、消化管など)ないし合併症(感染症、圧迫骨折、消化管潰瘍、糖尿病など)を有し、しばしば再燃により入院または入院に準じた免疫抑制療法ないし合併症に対する治療を必要とし、日常生活に支障を来している患者。臓器病変の程度は注1のa~hのいずれかを認める。●4度臓器の機能と生命予後に深く関わる臓器病変(腎不全、呼吸不全、消化管出血、中枢神経障害、運動障害を伴う末梢神経障害、四肢壊死など)ないしは合併症(重症感染症など)が認められ、免疫抑制療法を含む厳重な治療管理ないし合併症に対する治療を必要とし、少なからず入院治療、時に一部介助を要し、日常生活に支障のある患者。臓器病変の程度は注2のa~hのいずれかを認める。●5度重篤な不可逆性臓器機能不全(腎不全、心不全、呼吸不全、意識障害・認知障害、消化管手術、消化・吸収障害、肝不全など)と重篤な合併症(重症感染症、DICなど)を伴い、入院を含む厳重な治療管理と少なからず介助を必要とし、日常生活が著しく支障を来している患者。これには、人工透析、在宅酸素療法、経管栄養などの治療を要する患者も含まれる。臓器病変の程度は注3のa~hのいずれかを認める。注1:以下のいずれかを認めることa.肺線維症により軽度の呼吸不全を認め、PaO2が60~70Torr。b.NYHA2度の心不全徴候を認め、心電図上陳旧性心筋梗塞、心房細動(粗動)、期外収縮あるいはST低下(0.2mV以上)の1つ以上を認める。c.血清クレアチニン値が2.5~4.9mg/dLの腎不全。d.両眼の視力の和が0.09~0.2の視力障害。e.拇指を含む2関節以上の指・趾切断。f.末梢神経障害による1肢の機能障害(筋力3)。g.脳血管障害による軽度の片麻痺(筋力6)。h.血管炎による便潜血反応中等度以上陽性、コーヒー残渣物の嘔吐。注2:以下のいずれかを認めることa.肺線維症により中等度の呼吸不全を認め、PaO2が50~59Torr。b.NYHA3度の心不全徴候を認め、胸部X線上CTR60%以上、心電図上陳旧性心筋梗塞、脚ブロック、2度以上の房室ブロック、心房細動(粗動)、人口ペースメーカーの装着のいずれかを認める。c.血清クレアチニン値が5.0~7.9mg/dLの腎不全。d.両眼の視力の和が0.02~0.08の視力障害。e.1肢以上の手・足関節より中枢側における切断。f.末梢神経障害による2肢の機能障害(筋力3)。g.脳血管障害による著しい片麻痺(筋力3)。h.血管炎による肉眼的下血、嘔吐を認める。注3:以下のいずれかを認めることa.肺線維症により高度の呼吸不全を認め、PaO2が50Torr 未満。b.NYHA4度の心不全徴候を認め、胸部X線上CTR60%以上、心電図上陳旧性心筋梗塞、脚ブロック、2度以上の房室ブロック、心房細動(粗動)、人口ペースメーカーの装着、のいずれか2つ以上を認める。c.血清クレアチニン値が8.0mg/dLの腎不全。d.両眼の視力の和が0.01以下の視力障害。e.2肢以上の手・足関節より中枢側の切断。f.末梢神経障害による3肢以上の機能障害(筋力3)、もしくは1肢以上の筋力全廃(筋力2以下)。g.脳血管障害による完全片麻痺(筋力2以下)。h.血管炎による消化管切除術を施行。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)2006~2007年度合同研究班による『血管炎症候群の診療ガイドライン』の中で、「寛解導入療法と寛解維持療法の指針」が示されているので、以下に示す。■ 寛解導入療法1)副腎皮質ステロイドプレドニゾロン0.5~1mg/kg/日(40~60mg/日)を重症度に応じて経口投与する。腎、脳、消化管など生命予後に関わる臓器障害を認めるような重症例では、パルス療法すなわちメチルプレドニゾロン大量点滴静注療法(メチルプレドニゾロン500~1,000mg + 5%ブドウ糖溶液500mLを2~3時間かけ点滴静注、3日間連続)を行う。後療法としてプレドニゾロン0.5~0.8mg/日の投与を行う5)。2)ステロイド治療に反応しない場合シクロホスファミド点滴静注療法(intravenous cyclophosphamide:IVCY)または経口シクロホスファミド(CY)の経口投与(0.5~2mg/kg/日)を行う。IVCYは、シクロホスファミド500~600mg/生理食塩水または5%ブドウ糖溶液500mLを2~3時間かけて点滴静注し、4週間間隔、計6回を目安に行う6、7)。IVCY治療中は白血球減少に注意し3,000/㎜3以下にならないように次回のIVCY量を減量する。なお、CYは腎排泄性のため腎機能低下に応じて減量投与を行う(クラスIIb、レベルC)8)。表3に年齢、腎機能に応じたIVCY量を示す。なお、IVCYは経口CYに比べて有効性は同等だが副作用が少ないと報告されている9)。画像を拡大するその他の免疫抑制薬としてアザチオプリン、メトトレキセートも用いられる(クラスIIb、レベルC)9)。いずれも腎排泄性である。アザチオプリンは腎機能低下時には減量が必要であり、メトトレキセートは腎不全には禁忌である。3)重要臓器傷害の重症例肺・腎・消化管・膵などの重要臓器を2ヵ所以上傷害された重症例では、ステロイドパルスと共に血漿交換療法を行い、生命予後を改善させるようにする(クラスIIb、レベルC)10、11)。4)HBウイルス肝炎併発例活動性のHBウイルス肝炎を伴っている場合には、抗ウイルス薬および免疫複合体除去目的で血漿交換療法を併用する(クラスIIb、レベルC)5、6)。■ 寛解維持療法初期治療による寛解導入後は、再燃のないことを確認しつつ副腎皮質ステロイド薬(プレドニゾロン)を漸減し維持量(5~10mg/日)とする。副腎皮質ステロイド薬や免疫抑制薬の治療期間は原則として2年を超えない(クラスIIb、レベルC)12)。CYは3ヵ月間用い、その後寛解維持薬として、より副作用の少ないアザチオプリンに変更し、半年~1年間用いる(クラスIIb、レベルC)13)。なお、免疫抑制薬、血漿交換療法は、本疾患に対する保険適用薬でないため、投薬時には十分なインフォームドコンセントが必要である。4 今後の展望血管炎症候群の中でも、顕微鏡的多発血管炎などのANCA関連血管炎の病因・病態解明が進み、新規治療法が考案されてきているのに対し、PANに対する基礎研究ならびに臨床研究は、ここ数年あまり大きな進展が得られていないのが実情である。とはいえ、厚生労働省難治性血管炎に関する調査研究班をはじめとする地道な基礎的・臨床的研究が継続されており、その中からブレイクスルーが生まれることが期待される。5 主たる診療科膠原病・リウマチ科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 結節性多発動脈炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本血管病理研究会(医療従事者向けのまとまった情報)1)Jennette JC, et al. Arthritis Rheum. 2013;65:1-11.2)Zhou Q, et al. New Engl J Med.2014;370:911-920.3)Navon Elkan P, et al. New Engl J Med.2014;370:921-931.4)Samson M, et al. Autoimmun Rev. 2014;13:197-205.5)中林公正ほか. ANCA関連血管炎の治療指針. 厚生労働省厚生科学特定疾患対策研究事業難治性血管炎に対する研究班(橋本博史編). 2002;19-23.6)Gayraud M, et al. Br J Rheumatol. 1997;36:1290-1297.7)Guillevin L, et al. Arthritis Rheum. 2003;49:93-100.8)難病医学研究財団/難病情報センター 免疫疾患調査研究班(難治性血管炎に関する調査研究班). IVCY治療における年齢、腎機能に応じたシクロホスファミドの投与量設定表. 難病情報センター. (参照 2015.1月26日)9)Jayne D. Curr Opin Rheumatol. 2001;13:48-55.10)Guillevin L, et al. Arthritis Rheum. 1995;38:1638-1645.11)寺田典生ほか. 日内会誌. 1988;77:494-498.12)Guillevin L, et al. Arthritis Rheum. 1998;41:2100-2105.13)Jayne D, et al. N Engl J Med. 2003;349:36-44.公開履歴初回2015年05月15日更新2016年06月07日

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遺伝子型2/3型HCV、ソホスブビル+velpatasvirが有効/NEJM

 遺伝子型2および3型のC型肝炎ウイルス(HCV)感染患者の治療において、ソホスブビル(SOF)とvelpatasvir(VEL)の併用療法は、従来の標準治療に比べ持続性ウイルス学的著効(SVR)の達成率が優れることが、英国・ロンドン大学クイーンメアリー校のGraham R Foster氏らが実施した2つの臨床試験(ASTRAL-2、-3試験)で示された。ヌクレオチドアナログNS5Bポリメラーゼ阻害薬であるSOFは、リバビリン(RIB)との併用で2/3型HCVの治療薬として使用されている。VELは、すべての遺伝子型のHCVに抗ウイルス活性を有する新規NS5A阻害薬であり、SOFとの併用の第II相試験で慢性2/3型HCV感染患者において良好なSVR率が報告されている。NEJM誌オンライン版2015年11月17日号掲載の報告。遺伝子型別の2つの試験に800例以上を登録 ASTRAL-2試験は遺伝子型2型HCVを、ASTRAL-3試験は3型HCVを対象とする多施設共同非盲検無作為化第III相試験(Gilead Sciences社の助成による)。 対象は、両試験とも年齢18歳以上で、6ヵ月以上のHCV感染歴がある患者とし、インターフェロンを含むレジメンでSVRが達成されなかった患者を約20%、代償性肝硬変を有する患者を約20%登録することとした。 ASTRAL-2試験では、SOF(400mg)とVEL(100mg)を1日1回、12週投与する群(SOF+VEL群)またはSOF(400mg)とRIB(体重<75kg:1,000mg、≧75mg:1,200mg)を1日1回、12週投与する群(SOF+RIB群)に無作為に割り付けられた。ASTRAL-3試験では、SOF+VEL群はASTRAL-2試験と同じく12週、SOF+RIB群は24週の投与を行った。 主要評価項目は、治療終了から12週時のSVRとし、SVRはHCV RNA<15IU/mLと定義した。 ASTRAL-2試験では、2014年10月15日~12月18日に米国の51施設に266例が登録され、SOF+VEL群に134例、SOF+RIB群に132例が割り付けられた。ASTRAL-3試験では、2014年7月30日~12月17日に北米、欧州、オセアニアの8ヵ国の76施設に552例が登録され、SOF+VEL群に277例、SOF+RIB群には275例が割り付けられた。12週時SVR達成率:2型 99 vs.94%、3型 95 vs.80% 平均年齢は、ASTRAL-2試験が両群とも57歳、ASTRAL-3試験はSOF+VEL群が49歳、SOF+RIB群が50歳で、男性がそれぞれ64%、55%、61%、63%であった。ASTRAL-2試験は肝硬変患者が両群とも14%、既治療例がそれぞれ14%、15%含まれ、ASTRAL-3試験は肝硬変患者が29%、30%、既治療例は両群とも26%だった。 治療終了から12週時のSVR達成率は、遺伝子型2型HCVではSOF+VEL群が99%(95%信頼区間[CI]:96~100)と、SOF+RIB群の94%(95%CI:88~97)に比べ有意に良好であった(p=0.02)。3型HCVでは、それぞれ95%(95%CI:92~98)、80%(95%CI:75~85)であり、SOF+VEL群で有意に優れた(p<0.001)。 治療終了後の再燃が、2型HCVではSOF+VEL群には認めなかったが、SOF+RIB群で6例(5%)にみられ、3型HCVではそれぞれ11例(4%)、38例(14%)に認められた。治療中のウイルス学的治療不成功が、3型HCVのSOF+RIB群で1例に認められた。 3型HCVでは、未治療の非肝硬変例の12週時SVR達成率はSOF+VEL群が98%、SOF+RIB群は90%、肝硬変例はそれぞれ93%、73%であり、既治療の非肝硬変例は91%、71%、肝硬変例は89%、58%と、いずれもSOF+VEL群で良好な傾向がみられた。 最も頻度の高い有害事象は、疲労(2型:SOF+VEL群15%、SOF+RIB群36%、3型:SOF+VEL群26%、SOF+RIB群38%)、頭痛(18、22、32、32%)、悪心(10、14、17、21%)、不眠(4、14、11、27%)であった。有害事象による治療中止は、2型HCVのSOF+VEL群で1例(不安、頭痛、集中力低下で第1日に中止)、3型HCVのSOF+RIB群で9例に認められた。 重篤な有害事象は、2型HCVのSOF+VEL群で2例(1%、肺炎が1例、腸炎と腹痛が1例)、SOF+RIB群で2例(2%、関節炎が1例、うつ状態が1例)、3型HCVではSOF+VEL群が6例(2%)、SOF+RIB群が15例(5%)に発現した。 著者は、「代償性肝硬変例を含む遺伝子型2および3型HCVに対し、ソホスブビル+velpatasvir併用療法は、前治療の有無にかかわらずソホスブビル+リバビリンによる標準治療よりも高いSVR率を達成し、有害事象や検査値異常の頻度が低かった」とまとめ、「遺伝子型1、2、4、5、6型HCVを対象としたASTRAL-1試験の結果と統合すると、SOF+VEL併用の12週投与は遺伝子型にかかわらず高い有効性を発揮すると考えられる」と指摘している。

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C型慢性肝炎ジェノタイプ1型治療薬「ヴィキラックス配合錠」発売

 アッヴィ合同会社(本社:東京都港区、社長 : ジェームス・フェリシアーノ)は、ジェノタイプ1型C型慢性肝炎ウイルス(HCV)に感染した成人患者(代償性肝硬変を含む)の治療薬として「ヴィキラックス配合錠」(オムビタスビル水和物・パリタプレビル水和物・リトナビル配合錠)を11月26日に発売した。ヴィキラックスの薬価は1錠26,801.20円。 ヴィキラックスは、2種の直接作用型抗ウイルス剤であるオムビタスビルとパリタプレビルにリトナビルを加えた配合剤で、12週間にわたって固定用量を1日1回服用する。厚生労働省より2015年4月に優先審査対象に指定され、2015年2月の製造販売承認申請後、7ヵ月後の2015年9月承認された。 本承認は第III相臨床試験のGIFT-I試験を根拠とし、主要評価項目であるIFN治療の対象で肝硬変を発症していない高ウイルス量(≥100,000 IU/mL)の未治療患者においては、ウイルス学的著効率(SVR12)95%(n=106/112)であった。また、GT1b型C型代償性肝硬変患者を対象とした副次的評価項目では、SVR12が91%(n=38/42)であった。NS5A領域のY93変異(耐性変異)による影響では、変異なし症例でSVR12が99%(301/304)と非常に高い効果を示し、GT1b型感染患者の13%に見られた変異症例では83%(39/47)となった。 全治療群のうち、3例(n=3/363)が治療期間中にウイルス学的無効となり、8例(N=8/354)が治療後の再燃を示し、有害事象により治療を中止したのは3例であった。また、多く認められた有害事象(5%超)は、鼻咽頭炎、頭痛、末梢性浮腫、悪心、発熱、および血小板数減少であった。アッヴィ合同会社からのお知らせはこちら。

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C型肝炎治療が一変、時代は内服療法へ

 2015年7月14日、東京都中央区でギリアド・サイエンシズ株式会社(以下、ギリアド)の主催により、「国内のC型肝炎の70~80%を占める“ジェノタイプ1型”治療のこれから」をテーマに、C型慢性肝炎プレスセミナーが開催された。冒頭では、代表取締役社長 折原 祐治氏により同社の会社紹介が行われた。ギリアドについて ギリアドは、開発当初から患者さんの服薬アドヒアランスを考え、STR(single tablet resume)により、可能な限り1日1回1錠の薬剤を開発している。この特徴に加えて、アクセス・プログラム(薬剤の特許期間中、低所得国の患者さんであっても1日でも早く治療を開始してもらうためのギリアド・サイエンシズ独特のプログラム)を実施し、世界中の「治したい」に応えている点も特徴的である。 折原氏は、「C型肝炎だけではなく、今後はB型肝炎にも注力し、さらに並行してオンコロジー領域の新薬開発に取り組む」と今後の展望を述べた。インターフェロンフリー時代の展望 次に、溝上 雅史氏(国立研究開発法人 国立国際医療研究センター 国府台病院 内科系統括部長、肝炎・免疫研究センター長)より「ジェノタイプ1型のC型慢性肝炎における最新治療~インターフェロンフリー時代の展望~」と題した講演が行われた。 わが国において肝がんは、男性、女性ともに部位別がん死亡数の上位を占め1)、予後不良な疾患といわれている。肝がんの発症原因は、約7割がC型肝炎ウイルス(HCV)の感染といわれており2)、わが国のHCV感染者は、150~200万人に上ると推測されている。 これまで、C型肝炎治療は、インターフェロンによる治療が一般的だったが、患者の多くが高齢(65~76%が60歳超)で合併症を有していることや、すでに治療経験があることなどから、インターフェロンが使えないケースや効かないケースが増加している。 こうした背景の下、インターフェロンフリーの治療薬発売が続いているが、今月3日、新たにジェノタイプ 1 型 C型慢性肝炎治療薬「ハーボニー配合錠」(以下、ハーボニー、一般名:レジパスビル・ソホスブビル配合錠)が、製造販売承認を取得した。ハーボニーは、1)1日1回1錠、12週間の経口投与で治療を完了する抗ウイルス剤、2)SVR12率は100%を達成、3)治療歴、代償性肝硬変の有無、年齢および投与前のNS5A耐性変異の有無にかかわらず、SVR12率は100%、4)HCV RNA合成を直接阻害する世界初の核酸型NS5Bポリメラーゼ阻害剤ソホスブビルとNS5A阻害剤レジパスビルの配合剤、5)良好な安全性と忍容性、などの特性がある。溝上氏は、「これまでHCV治療薬の課題とされている点をクリアする驚くべき薬剤」と驚嘆する。一方、「しっかり服用すれば効果が期待できる薬剤だが、中途半端な服用では、十分な効果が得られない。薬局などの力も借りて、患者さんにしっかりと服用してもらう工夫が必要だ」と指摘した。新薬を待つ患者の声 最後に、米澤 敦子氏(特定非営利活動法人 東京肝臓友の会 事務局長)より「患者視点からのC型慢性肝炎におけるアンメットニーズ~東京肝臓友の会の活動について~」と題した講演が行われた。 東京肝臓友の会は、肝臓病の相談や情報提供を行うほか、講演・交流・相談会を通じて肝炎対策の推進などを行う患者の会である。特徴は、相談を受ける東京肝臓友の会の方自身が、B・C型肝炎患者や自己免疫肝疾患などの治療経験者という点である。ここ最近、同社より発売されたソバルディや、ハーボニーの製造販売承認の取得に伴い、相談件数が増えているという。 米澤氏によると、実際の患者さんからの声として、「うつのため、インターフェロン治療が受けられなかったが、私でも新しい治療は受けられるか」などの相談や、「インターフェロン治療は、仕事との両立が難しく、仕事を辞めざるを得ないケースもあったが、今度の新薬はどうか」といった質問が増えてきているという。 米澤氏は、「薬価が高いため、服用できる患者さんが限られてしまったり、治療開始が遅れる、服用が続けられなくなるといった事態が問題だ」と述べた。 ハーボニーの登場により、今までのインターフェロン療法(注射剤、治療期間24週)から、治療期間12週(1日1回)の内服療法が可能になる。これにより患者さんの治療負担が軽減され、またSVR 100%と効果が優れていることから、実際に治療を受ける患者さんおよび医師からも大きな期待が寄せられている。本剤が1日でも早く患者さんの元へ届くことを願ってやまない。参考文献1)国立がん研究センターがん情報サービス2)工藤正俊 ほか. 肝臓. 2010; 51: 460-484.(PDF)

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特別編 MERSに気を付けろッ!【新興再興感染症に気を付けろッ!】

2015年5月末からの韓国でのMERS流行を受けて、日本国内でも危機感が高まっています。今回、緊急特集として拙著『症例から学ぶ 輸入感染症 A to Z』(中外医学社)でおなじみの忽那・上村コンビが「MERSの気を付け方」について語ります。韓国へ焼肉に行く前に 上村「くつな先生、ちょっとお願いがあるんですけどいいですか?」 忽那「なんだ?」 上村「明日から韓国に焼肉を食べに行ってきますので、その間の当直をお願いしてもいいですか? 当直代は僕がもらいますんで」 忽那「ちょっと待て。いい訳ないだろう」 上村「大丈夫ですよ、先生にもキムチを買ってきますから」 忽那「そうじゃない。おまえ、今の状況がわかってないのか」 上村「わかってますよ。今は日韓関係が冷えきっているから渡航は控えたほうがいいんじゃないかってことでしょ? でもね、先生…逆にそんな今だからこそ思うんですよ、僕が焼肉を食べることで日本と韓国の距離が縮まれば最高じゃないかってね…」 忽那「何が『逆に』なのかわからんが、オレが言ってるのは、日韓関係のことじゃない。MERSだよ、MERS」 上村「またまた~。マーズレンS®のことをそんなオシャレな言い方しちゃって~、胃でも荒れてるんですか~?」 忽那「マーズレンS®は今関係ない! おまえ、ホントにテレビとか見てないんだな。MERSと言ったら『中東呼吸器症候群』のことだろ。韓国は今MERSで大変なことになってるんだよ!」 上村「いつから韓国は中東になったんですか!」 忽那「ああ、もう!おまえと話してると話が一向に進まないな! 中東ではやってた感染症が、韓国でも流行してるんだよ!」 上村「ふーん…中東呼吸器症候群って名前なのに中東だけじゃないんですか」 忽那「そうだ。サウジアラビアを中心に中東で流行しているMERSだが、これまでに25ヵ国で症例が報告されている(図1)1)。MERSは中東以外でも発生しているのだッ!」画像を拡大する 上村「でも発端となったのは中東からの輸入例ってことですよね?」 忽那「そのとおり! そして、その中でもイギリス、フランス、チュニジアでは輸入例を発端とした国内でのヒト-ヒト感染事例が報告されているのだッ!1)」 上村「オソロシス!!」 忽那「そう、恐ろしいね……そして2015年5月現在、韓国でも輸入例を発端としたMERSのヒト-ヒト感染がこれまでにない規模で起こっているんだ」 上村「なるほど…韓国でMERSってのはそういう意味だったんですね。じゃあ今は韓国でも10人くらいの患者が出てるんですか?」 忽那「10人なんてもんじゃない。とっくに100人を超えているレベルだ」 上村「ワンハンドレッド・パーソンズ! チャバイじゃないですか!それ、チャバイじゃないですか!」 忽那「2015年5月24日に、中東地域に渡航歴のある60代男性の確定例が報告されてからというもの、日に日に症例は増え、7月22日現在感染者は186人、死者は36人に達している。今や4次感染例まで報告されているんだ(図2)2)」画像を拡大する 上村「そうか…さっきの言葉は『韓国に旅行するのは危ない』って意味だったんですね」 忽那「まあ『韓国に旅行するとMERSに感染するぞ』って意味ではないけどね」 上村「えっ? 言ってることがわからないんですけど! 韓国ではMERS患者があふれてるんじゃないんですか?」 忽那「いや、今のところ韓国で報告されているMERS患者はすべて疫学的なリンクが追えている症例ばかりだし、しかもそのほとんどが病院内での曝露によって感染していると考えられている」 上村「じゃあ韓国に焼肉を食べにいっても、感染しないってことですか?」 忽那「まあ現時点では可能性はきわめて低いだろうね…でも、わざわざ今韓国にいくのはお勧めしないけど。帰ってきてから熱が出ようものなら面倒なことになるよ?」 上村「確かに…焼肉はMERSが落ち着いてからにしようかな…」 忽那「その前に、われわれはいつMERSが来てもいいように、十分な準備をしておくべきではないだろうか」 上村「ほほん。つまり『MERSの気を付け方』を知っておくということですね」 忽那「そういうことだ」MERSの実体は何だ? 上村「でも、そもそもMERSってそんなに怖い病気なんですか? マーズレンS®は効かないんですか?」 忽那「現時点でMERSに有効な抗ウイルス薬はない。それは胃薬であるマーズレンS®も例外ではないッ!」 上村「頼みの綱のマーズレンS®が…」 忽那「2012年4月から2015年6月10日までに全世界で1,288例のMERS症例が報告されているが、そのうち498例が亡くなっている。つまり致死率は38.7%ということになる」 上村「38.7%って…エボラ並みじゃないですか! MERS激ヤバでしょ! 終わりだ…もう世界は終わりだ~!」 忽那「落ち着けッ! MERSが恐ろしい感染症であることは間違いない…だが、実際のMERSの致死率はここまでは高くないだろう」 上村「実際のって…実際のMERSの致死率が38.7%って話でしょ~がよ!なに訳わかんないこと言ってるんですか!?」 忽那「感染症はしばしば軽症では、検査が行われずに見逃されやすい。逆に重症例はしっかりと診断されることが多い。つまり、見かけの致死率は高くなりやすい傾向にあるんだ。現に、積極的な検査が行われている韓国では、致死率は10%前後と低い状態にある」 上村「10%でも十分高いでしょ!」 忽那「そのとおり。いずれにしても怖い感染症には間違いないね」 上村「MERSの怖さはわかったんですが…どういう症例でMERSを疑ったらいいんでしょうか?」MERSへの対応 忽那「厚生労働省は、1.中東地域・韓国などの感染地域から帰国後14日以内に、38℃以上の発熱及び咳を伴う急性呼吸器症状を呈し、臨床的又は放射線学的に肺炎、ARDSなどの実質性肺病変が疑われる場合 2.発症前14日以内にそれらの国において、医療機関を受診もしくは訪問した者、MERSであることが確定した者との接触歴がある者、ヒトコブラクダとの濃厚接触歴がある者で発熱を伴う急性呼吸器症状(軽症の場合を含む。)を呈する場合 3.発症前14日以内にそれらの国によらず、MERSが疑われる患者を診察・看護もしくは介護していた者、MERSが疑われる患者と同居(当該患者が入院する病室又は病棟に滞在した場合を含む。)していた者、MERSが疑われる患者の気道分泌液もしくは体液等の汚染物質に直接触れた者で発熱または急性呼吸器症状(軽症の場合を含む。)を呈する場合の3つのいずれかに該当し他の原因が明らかでない場合、MERS疑似症として対応するように、という通知を2015年6月4日に出している。これを念頭に置いておくことが重要だね」 上村「なんか言い回しが難しくてよくわからないんですけど!」 忽那「上村…『症例から学ぶ 輸入感染症 A to Z』でさんざん教えただろう。輸入感染症で重要なのは『渡航地・潜伏期・曝露歴』の3つだと!」 上村「…ハッ! そうでした…友情ッ!努力ッ!勝利ッ!」 忽那「MERSの感染が持続的に見られているのは中東と韓国であること、MERSの潜伏期は2~14日であること3)、MERSの感染はラクダとの濃厚接触や病院内感染が多く、ヒト-ヒト感染では原則として飛沫感染であることを考えると、渡航地中東または韓国に渡航していたか潜伏期渡航から発症までが14日以内か曝露歴ラクダとの接触歴があるか、現地で病院を受診または入院しているか、MERS患者と接触があったかが重要ということになる。このポイントを覚えておくことが重要なんだ」 上村「なるほど…勉強になるっす!」 忽那「これらの疑似症に当てはまる症例は、ただちに保健所に連絡し、感染症指定医療機関(特定、第1種または第2種)に搬送され、地方衛生研究所で気道検体のPCR検査が行われることになる。ちなみに日本国内におけるMERS診断までの流れは厚生労働省のホームページ(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/dl/20150604_01.pdf)で確認することができるので、これも確認しておこう」MERSの診断と対策 上村「了解です!ちなみに中東呼吸器症候群っていうくらいだから、まず間違いなく呼吸器症状があるんですよね?」 忽那「呼吸器症状の頻度は高いと言われている…が、100%ではない。サウジアラビアで診断された47人のMERS症例の臨床症状がまとめられている4)が、それによると、発熱(>38℃) - 46人(98%)悪寒と戦慄を伴った発熱 - 41人(87%)咳 - 39人(83%)(乾性47%、湿性36%)息切れ - 34人(72%)血痰- 8人(17%)咽頭痛 - 10人(21%)筋肉痛 - 15人(32%)下痢 - 12人(26%)嘔吐 - 10人(21%) 腹痛 - 8人(17%)胸痛- 7人(15%)頭痛- 6人(13%) 鼻炎- 2人(4%)胸部X線所見の異常 - 患者47人(100%)となっており、咳や息切れも100%ではなく、また消化器症状や頭痛・筋肉痛といった全身症状もみられることがある。つまり、呼吸器症状がなければMERSの可能性は下がるが、完全に除外することはできないということになる」 上村「難しいなあ…なんか見逃しちゃうのが怖いんですけど」 忽那「少しでも疑わしい症例をみたら、ひとりで抱え込まずに保健所に相談するほうが安全だろうね」 上村「わかりました!悩んだらくつな先生を呼びます」 忽那「うん、悩んだら保健所に相談しようね」 上村「頼りないなあ…もし本当に疑わしい症例の対応をすることになったら感染対策はどうすればいいんですか?」 忽那「現時点ではまだ完全にはわかっていないこともあるけど、MERS-CoVは飛沫感染および接触感染で伝播すると考えられている。なので、WHOは飛沫感染予防策と接触感染予防策の徹底を推奨している5)」 上村「ふーん、N95マスクは要らないんですか?」 忽那「気管挿管や気管内吸引などのエアロゾルが発生するような場合には、N95マスクの着用を含む空気感染予防策を推奨している」 上村「ですよね~。なんとなくN95がないと不安なんですよ…」 忽那「確かにCDCはエアロゾル発生手技に限らず、空気感染予防策を推奨してるけどな6)。この違いは、まだMERSという感染症がよくわかっていないからということもあるだろうし、CDCは資源が豊富なアメリカのための機関であり、WHOは世界中の感染症対策のことを考えないといけない機関であり、途上国の状況も配慮した感染症対策を提示しなければならないという、それぞれの立場の違いも関係しているのかもしれないね」 上村「じゃあN95マスクを付けておいたほうが無難ってことですね!」 忽那「いや、現時点ではなんとも言えないなあ…でも大事なことは、中東からの輸入例が報告された国の大半ではMERSは広がっていないということだ。N95マスクにこだわらなくても、適切な接触感染予防策と飛沫感染予防策を行えばMERSの伝播は抑えられると思うよ」 上村「んな~る」Take Home MessageMERSを疑う手がかりは渡航地・潜伏期・曝露歴!MERS疑似症を満たす症例は、ただちに保健所に連絡を!MERSに対する感染対策は、接触感染予防策と飛沫感染予防策が重要!エアロゾル発生手技のときには空気感染予防策も!1)European Centre for Disease Prevention and Control. RAPID RISK ASSESSMENT. Middle East respiratory syndrome coronavirus (MERS-CoV) 17th update, 11 June 2015.2)World Health Organization. Middle East respiratory syndrome coronavirus (MERS-CoV) maps and epicurves. 3)Assiri A, et al. N Engl J Med. 2013;369:407-416.4)Assiri A, et al. Lancet Infect Dis. 2013;13:752-761.5)World Health Organization. Middle East respiratory syndrome coronavirus (MERS‐CoV) summary and literature update - as of 9 May 2014. 6)Centers for Disease Control and Prevention. Interim infection prevention and control recommendations for hospitalized patients with Middle East respiratory syndrome coronavirus (MERS-CoV). ※ イラスト協力:中外医学社『症例から学ぶ 輸入感染症 A to Z』より転載

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「伝染性紅斑」と「手足口病」に気を付けろッ!

国立感染症研究所の『感染症週報』(2015年第21週)によると、「伝染性紅斑(リンゴ病)」と「手足口病」が、例年に比べ早いペースで感染が拡大している。小児だけでなく成人にも感染する疾患であることから、両疾患の概要とその対応策について、CareNet.comでお馴染みの忽那 賢志氏(国立国際医療研究センター 感染症内科/国際感染症センター)にお話を聞いた。伝染性紅斑(リンゴ病)の気を付け方約5年ごとに大流行を繰り返す伝染性紅斑は、ヒトパルボウイルスB19が原因となる感染症である。主に気道分泌物から飛沫する鼻水、咳・くしゃみで感染し、毎年、年始めから7月頃をピークに以降は減少していく。約5年ごとに大きな流行を繰り返す傾向があり、本年は、その大流行期に当たるのかもしれない。症候として、小児では、感染後10~20日の潜伏期間の後、頬に真っ赤な発疹が出現するのが特徴。また、先行する感冒症状として、頬に発疹が出る約7日前に発熱する患児もいるが、発熱がなく、急に発疹が出る患児もいる。そのほか、手足にレース様の紅斑の皮疹が出現する場合もある。成人では、頬に発疹が出ることはなく、四肢にレース様の紅斑が現れることがある。また関節炎の頻度が高く、時に歩行が困難になるくらいである。女性のほうが関節炎が起こりやすい。ウイルスの排出は、先行する感冒症状の時期に排出され、顕在症状期には感染は広がらないとされている。診断では、問診や視診などが中心となるが、患児では頬に紅斑が出るなど顕在症状があるので、診断はつきやすい。しかし、成人では関節炎や皮疹などにより、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス(SLE)との鑑別診断も必要となるので、本来はパルボウイルスB19IgM抗体検査などで確定診断することが望まれる。現在パルボウイルスB19IgM抗体検査は妊婦以外では保険適用外のため、1日も早い保険適用を期待したい。治療については、抗ウイルス薬がないために、対症療法が行われる。本症は自然寛解する感染症であるが、発熱があれば水分補給をしっかりとし、関節炎などが強ければ非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などの使用が必要となることもある。なおワクチンについては、現在有効なものはない。過去に1度罹患すると免疫獲得により再罹患はないとされている。成人の罹患はさまざまなリスクに注意注意すべきポイントとして、本症は小児と成人では症状が異なることである。成人では、妊婦が罹患した場合、胎児水腫などの発生が懸念され、自己免疫性溶血性貧血などの血液疾患の既往がある場合には一過性骨髄無形成クリーゼと呼ばれる合併症のリスクが、また免疫不全患者での慢性パルボウイルスB19感染では赤芽球癆による重症貧血などの合併症のリスクがあるので、外出時にマスクの着用や子供の多いところに出かけないなどの対策が必要となる。診療する医療側の対策としては、ウイルス排出時期にパルボウイルスB19感染症と診断することは難しいため、適切に感染対策を行うことは難しい。本症の流行期にはインフルエンザ流行期と同様に本症を疑う患者には、サージカルマスクや手袋を着用しての診療が望まれる。手足口病の気を付け方3種類のウイルスが交互に流行手足口病は、わが国では主にコクサッキーウイルスA6、同A16、エンテロウイルス71(EV71)などが原因となり、飛沫感染と接触感染(糞口感染も含む)などで感染する。毎夏にピークが来るが、秋から冬にかけても流行する。今季はコクサッキーウイルスA16が流行している模様である。重複することもあるが3種類のウイルスが交互に流行を繰り返すのが特徴で、年によって流行するウイルスは異なる。症候としては、3~5日間の潜伏期間の後、口腔内粘膜、手のひら、足の裏などに水疱性病変ができる。患児によってはひざ、ひじ、臀部などでも観察される。これは、成人もほぼ同様で、口腔内の水疱のため、嚥下がしづらくなるなどの主訴を経験する。水痘、単純ヘルペスと区別がつかないことがあり、鑑別診断で注意を要する。治療については、抗ウイルス薬がないために、対症療法が行われる。本症は自然寛解する感染症であるが、口腔内の水疱の痛みで水分補給が不足する場合など補液が必要となる。なおワクチンについては、現在有効なものはない。過去に1度罹患しても、原因ウイルスの違いにより、再度罹患することもあるので注意が必要である。インフルエンザと同様の対応で感染防止注意すべきポイントとしては、小児が罹患した場合、とくにエンテロウイルス71が脳炎、髄膜炎を引き起こすなど、重症化することもある。成人も同様に注意が必要だが、合併症の頻度は小児のほうが高いとされる。診療する医療側の対策としては、本症を疑う患者には、個室に入ってもらい、飛沫感染予防、接触感染予防を行う。また、インフルエンザ流行時のようにマスク、ガウン、手袋着用での診療が望ましい。トピックスとして、重症化した小児の脳症がとくに東南アジア、東アジアでは問題となっており、中国ではEV71ワクチンの開発が進められている(現在第III相試験)。流行を防ぐためにいずれの疾患も小児領域では、お馴染みの疾患であるが、どちらも成人にも感染し、重症化リスクを伴うものである。これからの流行拡大の注意喚起のために現在の状況を解説いただいた。両症ともにとくに家族内感染が多く、患者には、こまめな手指消毒や外出の注意などの指導で感染を防ぐ取り組みが必要とされる。関連リンク感染症週報(2015年第21週)

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HCV1型感染に経口3剤配合剤が高い効果/JAMA

 代償性肝硬変を伴うC型肝炎ウイルス(HCV)遺伝子型1型感染者に対し、経口薬のみの3剤配合錠ダクラタスビル(商品名:ダクルインザ)+アスナプレビル(商品名:スンベプラ)+ベクラブビル(beclabuvir、国内未承認)の12週間治療は、87~98%と高い割合で持続的ウイルス学的著効率(SVR)を達成可能であることが示された。これまでにインターフェロンや直接作用型抗ウイルス薬(DAA)で治療を受けた人についても、同達成率は高かったという。米国・デューク大学のAndrew J. Muir氏らが、約200例の患者を対象に行った試験UNITY-2の結果、報告した。ダクラタスビルとアスナプレビルは日本で先行発売されている。ベクラブビルは非ヌクレオシド系NS5B阻害薬である。JAMA誌2015年5月5日号掲載の報告より。4ヵ国、49施設で試験を実施 UNITY-2試験は非盲検非対照無作為化試験で、2013年12月~2014年10月にかけて、米国、カナダ、フランス、オーストラリアにある49施設で、代償性肝硬変を伴うHCV遺伝子型1型感染者を対象に行われた。被験者のうち、インターフェロンやDAAで未治療の人は112例、すでに治療を受けたことのある人は90例だった。 同グループは全被験者に対し、ダクラタスビル(30mg)+アスナプレビル(200mg)+ベクラブビル(75mg)を1日2回、12週間投与した。 被験者を遺伝子型1aまたは1bで層別化し、無作為にリバビリン(1,000~1,200mg/日)またはプラセボを併用する群に割り付けて評価を行った。 主要評価項目は、治療12週後のSVR(SVR12)だった。リバビリン投与群でSVR12は未治療群98%、既治療群93% 被験者の年齢中央値は、未治療群が58歳、既治療群が60歳で、74%が遺伝子型1a感染者だった。 SVR12は、リバビリン投与群で未治療群が98%(97.5%信頼区間[CI]:88.9~100.0)、既治療群が93%(同:85.0~100.0)だった。プラセボ群では、それぞれ93%(同:85.4~100.0)と87%(同:75.3~98.0)だった。 なお、治療に関連する重度有害事象の発生は3例、有害事象による治療中止は4例だった。 治療により現出したグレード3または4のALT上昇は4例でみられ、総ビリルビン値の上昇がみられたのはそのうち1例だった。

277.

TAF配合の新規抗HIV薬、TDF配合薬に非劣性/Lancet

 HIV-1感染症の初回治療としての新規抗HIV薬配合薬エルビテグラビル/コビシスタット/エムトリシタビン/テノホビル-アラフェナミド(E/C/F/TAF、国内承認申請中)の安全性と有効性を、E/C/F/テノホビル-ジソプロキシルフマル酸塩(E/C/F/TDF、商品名:スタリビルド配合錠)と比較検討した2つの第III相二重盲検無作為化非劣性試験の結果が、米国・ブリガム&ウィメンズ病院のPaul E Sax氏らにより報告された。48週時点で両投与群とも90%超の患者で抗ウイルス効果が認められた一方で、腎臓と骨への影響は、E/C/F/TAF投与群がE/C/F/TDF投与群に比べて有意に低かった。著者は、「いずれの試験も、骨折や腎障害といった臨床的安全性イベントを評価する検出力はなかったが、E/C/F/TAFは、良好で長期的な腎臓および骨の安全性プロファイルを有すると思われる」と結論している。Lancet誌オンライン版2015年4月15日号掲載の報告より。TDF配合薬と比較、国際多施設共同の二重盲検無作為化非劣性試験 テノホビルのプロドラッグである既存のTDFは、血漿中の高いテノホビル濃度に関連した腎臓や骨への毒性作用を引き起こす可能性が指摘されている。TAFはテノホビルの新規プロドラッグで、TDFと比べて血漿中テノホビル濃度を90%低く抑えることを可能とした。第II相の試験において、TAF配合薬はTDF配合薬に比べて、eGFR、尿細管性蛋白尿、骨密度への影響の低下がみられ、腎臓や骨の安全性を改善する可能性が示唆された。同所見を確認するため第III相試験では、腎臓と骨の安全性に関するプロトコルを事前に規定して検討された。 報告された2つの試験は、日本を含む16ヵ国178施設の協力の下で行われ、推定クレアチニンクリアランス50mL/分以上で未治療のHIV感染症患者を対象とした。 被験者は、E/C/F/TAF(各含有量は150mg/150mg/200mg/10mg)またはE/C/F/TDF(TDF含有量300mg)を投与する群に無作為に割り付けられた。無作為化はコンピュータ生成配列法(4ブロック)にて行われ、HIV-1 RNA量、CD4数、参加国(米国とそれ以外)による層別化も行った。 主要アウトカムは、FDA が定義したSnapshot アルゴリズム解析を用いて、48週時点で血漿中HIV-1 RNA値50コピー/mL未満の患者の割合(事前規定の非劣性マージン12%)と、事前規定の48週時点の腎および骨のエンドポイントであった。 有効性と安全性に関する主要解析は、試験薬を1回受けたすべての患者を含んでintention-to-treatにて行われた。抗ウイルス効果は同等、腎臓と骨のエンドポイントはTAF配合薬のほうが良好 2013年1月22日~2013年11月4日に2,175例の患者がスクリーニングを受け、1,744例が無作為に割り付けられ、1,733例が治療を受けた(E/C/F/TAF群866例、E/C/F/TDF群867例)。 結果、48週時点の血漿中HIV-1 RNA値50コピー/mL未満患者の割合は、E/C/F/TAF群800/866例(92%)、E/C/F/TDF群784/867例(90%)、補正後両群差は2.0%(95%信頼区間[CI]:-0.7~4.7%)で、E/C/F/TAFのE/C/F/TDFに対する非劣性が認められた。 また、E/C/F/TAF群のほうが、血清クレアチニンの平均値上昇が有意に少なく(0.08 vs. 0.12mg/dL、p<0.0001)、蛋白尿(ベースラインからの%変化中央値:-3 vs. 20、p<0.0001)や、脊椎(同:-1.30 vs. -2.86、p<0.0001)および腰椎(-0.66 vs. -2.95、p<0.0001)の骨密度低下が有意に低かった。

278.

HCVとHIV重複感染に3D+リバビリンレジメン有効/JAMA

 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)とC型肝炎ウイルス(HCV)の重複感染患者の治療において、インターフェロン(IFN)フリーの全経口3剤組み合わせ直接作用型抗ウイルス薬(3D)+リバビリン併用レジメンは、治療期間12週または24週についていずれも高い持続性ウイルス学的著効(SVR)率に結び付いたことが示された。米国ジョンズ・ホプキンス大学のMark S. Sulkowski氏らによる非盲検無作為化非対照試験TURQUOISE-Iのパイロット試験パート1aの結果、報告された。3Dレジメンは、オムビタスビル、パリタプレビル(またはリトナビル併用[パリタプレビル/r])、ダサブビルから成る。本検討の結果を受けて著者は、「重複感染患者について本療法の第III相試験を行うべき根拠が示された」とまとめている。JAMA誌オンライン版2015年2月23日号掲載の報告より。63例を対象に非無作為化非対照試験で12週、24週投与について評価 TURQUOISE-Iパート1a試験は、米国およびプエルトリコの17ヵ所で2013年9月~2014年8月に行われた。被験者は、HCV遺伝子型1型とHIV遺伝子型1型に重複感染しており、HCV未治療またはペグIFN+リバビリン治療が無効であった63例であった。被験者には肝硬変を有するものも含まれ、CD4+T細胞数は200/mm3超もしくはT細胞割合が14%超、血清HIV-1RNAはアタザナビルまたはラルテグラビルを含む抗レトロウイルス(ART)レジメンにより安定していた。 被験者は無作為に2群に割り付けられ、一方は3D+リバビリンレジメンを12週(31例)、もう一方は同24週(32例)の治療を受けた。 主要評価は、治療後12週時点のHCV RNA<25 IU/mLで規定したSVR12達成患者の割合で検討した。SVR12達成患者、12週治療群94%、24週治療群91% 結果、SVR12達成患者は、3D+リバビリンレジメン12週治療群は29/31例で94%(95%信頼区間:79~98%)、同24週治療群は29/32例で91%(同:76~97%)であった。 SVR未達成だった5例の患者のうち、1例は同意の段階での中断例であり、2例はウイルス学的再発または再燃が確認され、2例はHCVの再感染が臨床歴および系統的エビデンスとして認められた患者であった。 最も頻度が高かった治療に関連した有害事象は、疲労感(48%)、不眠(19%)、悪心(18%)、頭痛(16%)であった。有害事象は概して軽度であり、重篤あるいは治療中断に至った報告例はなかった。 なお治療中にHIV-1再燃(200コピー/mL超)となった患者はいなかった。

279.

HCV治療レジメン、3剤目は直接作用型が有用/Lancet

 未治療の肝硬変なしC型肝炎ウイルス(HCV)遺伝子型1型感染患者に対しソホスブビル+レディパスビルに直接作用型抗ウイルス薬を加えた3剤併用レジメンは、6週間で高率のウイルス学的著効(SVR)が示され忍容性も良好であることが、米国立衛生研究所(NIH)のAnita Kohli氏らによる概念実証(proof-of-concept)第IIA相コホート試験の結果、報告された。ソホスブビル+レディパスビル+リバビリンの3剤併用レジメンでは、高いSVRを得るには8週間が必要なことが先行研究で示されており、著者は「直接作用型抗ウイルス薬を加えた3剤併用は、肝硬変なしHCV遺伝子型1型感染患者の治療期間を短縮可能である」と述べている。Lancet誌オンライン版2015年1月12日号掲載の報告より。 2種の直接作用型抗ウイルス薬で3剤併用6週治療のSVR12達成を評価 試験はNIHの臨床研究センターにて、非盲検にて行われた。3剤目として検討された直接作用型抗ウイルス薬はGS-9669、GS-9451でいずれも開発中である。直接作用型抗ウイルス薬は、HCV患者に対する高い治癒率と良好な忍容性が示されていた。 研究グループは、被験者を次の3群に割り付けて検討した。ソホスブビル+レディパスビルの2剤併用12週治療群、+GS-9669の3剤併用6週治療群、または+GS-9451の3剤併用6週治療群である。適格患者は、18歳以上、遺伝子型1型感染患者(血中HCV RNA値2,000 IU/mL以上)で、肝硬変を有する患者は評価から除外した。 主要エンドポイントは、治療後12週時点のSVRを認めた患者の割合(SVR12)とした。達成の目安は、HCV RNA値43 IU/mL未満とした。 2剤併用12週100%に対し、3剤併用は6週で95% 2013年1月11日~12月17日の間に、患者60例が登録され、3群に20例ずつ順次割り付けられた。 ソホスブビル+レディパスビルの2剤併用12週治療群20例は全例が、SVR12を達成した(100%、95%信頼区間[CI]:83~100%)。一方、+GS-9669の3剤併用6週治療群、+GS-9451の3剤併用6週治療群ともに19例(95%、同:75~100%)が、SVR12を達成した。なお、前者群の未達成1例は、治療完了後2週時点で再活性が認められたケースで、後者群の未達成1例は、4週間以降追跡不能となったケースであった。 有害事象の大半は軽度で、治療中断となった患者はいなかった。重大有害事象は2例に認められた(治療後の肝生検後の疼痛、めまい)が、いずれも試験薬とは無関係であった。

280.

腎移植後のBKウイルス尿症、キノロンで予防できるか/JAMA

 腎移植後レシピエントの重大合併症であるBKウイルス感染症に対して、移植後早期開始のレボフロキサシン(商品名:クラビットほか)療法(3ヵ月間投与)は、BKウイルス尿症発症を予防しなかったことが、カナダ・オタワ大学のGreg A. Knoll氏らによる、前向き二重盲検プラセボ対照無作為化試験の結果、判明した。BKウイルスの一般集団保有率は60~80%であり、移植後免疫療法は同ウイルスを再活性化することが知られる。ウイルス尿症に始まり、ウイルス血症、最終的にウイルス腎症に至る感染症の進行は、レシピエントの移植失敗に結びつくこと(10~100%)から問題視されている。今のところ同感染症に対する有効な治療戦略はないが、後ろ向き検討において、キノロン系抗菌薬の抗ウイルス効果が示されたことから、前向き試験による予防的投与の効果を検討する本試験が行われた。JAMA誌2014年11月26日号掲載の報告。移植後5日以内に3ヵ月間投与、プラセボ群と比較 試験は、2011年12月~2013年6月にカナダの7つの移植医療施設で行われた。被験者は、死体または生体腎移植を受けた154例で、移植後5日以内に開始する3ヵ月間のレボフロキサシン投与(500mg/日、76例)を受ける群と、プラセボ群(78例)に無作為に割り付けられ追跡を受けた。 主要アウトカムは、移植後1年以内のBKウイルス尿症発症(定量リアルタイムPCR法で検出)までの期間。副次アウトカムは、BKウイルス血症の発生率、ウイルス量最大値、拒絶反応、患者死亡率および移植片生着失敗率などであった。BKウイルス尿症発生のハザード比0.91で有意差なし、むしろ耐性菌リスク増大 本試験は、被験者154例のうち38例が追跡予定期間(12ヵ月)を完遂できなかった。38例のうち11例はウイルス尿症を発症したため、また27例はリスクが認められ、試験を早期に終了した(全被験者が完了した追跡期間は8ヵ月間)。全体の平均追跡期間は、レボフロキサシン群46.5週、プラセボ群46.3週であった。 BKウイルス尿症の発生は、レボフロキサシン群22例(29%)、プラセボ群26例(33.3%)で、両群に有意差は認められなかった(ハザード比:0.91、95%信頼区間[CI]:0.51~1.63、p=0.58)。また、各副次エンドポイントについても、両群間で有意差はみられなかった。 一方で、レボフロキサシン群でキノロン耐性菌感染症のリスク増大が認められた(58.3%vs. 33.3%、リスク比:1.75、95%CI:1.01~2.98)。また、有意ではなかったが腱炎リスクの増大も認められた(7.9%vs. 1.3%、リスク比:6.16、95%CI:0.76~49.95)。 試験期間中の腎機能は両群で同等であった。

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