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特例承認された新型コロナ治療薬「ベクルリー点滴静注用100mg」【下平博士のDIノート】第49回

特例承認された新型コロナ治療薬「ベクルリー点滴静注用100mg」今回は、抗ウイルス薬「レムデシビル注射用凍結乾燥製剤(商品名:ベクルリー点滴静注用100mg、製造販売元:ギリアド・サイエンシズ)」を紹介します。本剤は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬として、時限的かつ特例的に承認されました。<効能・効果>本剤は、SARS-CoV-2による感染症の適応で、2020年5月7日に特例承認されました。なお、臨床試験などにおける主な投与経験を踏まえ、SARS-CoV-2による肺炎を有する患者を対象に投与を行うこと。<用法・用量>本剤は、生理食塩液に添加し、30~120分かけて点滴静注します。通常、レムデシビルとして、成人および体重40kg以上の小児には投与初日に200mg、2日目以降は100mgを、体重3.5kg以上40kg未満の小児には投与初日に5mg/kg、投与2日目以降は2.5mg/kgを1日1回点滴静注します。なお、総投与期間の目安は5日までとし、症状の改善が認められない場合は10日目まで投与します。<安全性>SARS-CoV-2による感染症患者1,313例を対象とした国際共同第III相試験において、因果関係ありと判断された有害事象は175例(13.3%)報告されました。主な副作用としては、悪心34例(26%)、ALT増加33例(2.5%)、AST増加32例(2.4%)、トランスアミナーゼ上昇15例(1.1%)など。重大な副作用として、肝機能障害、過敏症(Infusion Reaction、アナフィラキシーを含む)が現れることがあります。<重要な基本的注意>1.肝機能障害が現れることがあるので、投与前および投与中は定期的に腎機能検査、肝機能検査を行い、患者の状態を十分に観察する必要があります。2.低血圧や嘔吐、発汗、振戦などのインフュージョン・リアクション(急性輸注反応)が現れることがあるので、異常が認められた場合はただちに投与を中止し、適切な処置が必要です。これらの発現を回避できる可能性があるため、本剤の緩徐な投与を考慮してください。3.添加剤スルホブチルエーテルβ-シクロデキストリンナトリウムにより腎機能障害が現れる恐れがあるので、投与前および投与中は定期的に腎機能検査を行い、患者の状態を十分に観察する必要があります。<Shimo's eyes>今回、COVID-19に対する初めての治療薬が承認されました。SARS-CoV-2は「一本鎖プラス鎖RNAウイルス」で、同類としてはエンテロウイルス、C型肝炎ウイルス、ノロウイルスなどが知られています。本剤は、RNA依存性RNAポリメラーゼを選択的に阻害することでウイルスの増殖を抑制する作用を持ち、新型インフルエンザ治療薬ファビピラビル(商品名:アビガン)と同じ機序となります。本剤は、もともとエボラ出血熱などの新興感染症の治療薬として開発されていた抗ウイルス薬で、米国では5月1日から緊急的に重症患者への使用が認められました。これを受け、わが国でも特例承認制度が適用され、申請からわずか3日という異例の速さで承認されました。なお、承認薬となったのはわが国が世界初です。本剤は、重症患者の症状改善や回復までの期間短縮が期待されています。米国国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)が主導するプラセボ対照第III相試験(ACTT試験:COVID-19による中等度から重度の症状を呈する患者[きわめて重症の患者を含む]を対象としたレムデシビルのランダム化比較試験)において、レムデシビル群の回復までの日数中央値は11日で、プラセボ群の15日より4日短いことが示されました。一方で、死亡率については、統計学的に有意な差は得られませんでした(8.0% vs.11.6%、p=0.059)。重大な副作用として、肝機能障害、インフュージョン・リアクションなどが報告されています。なお、SARS-CoV-2による感染症患者を対象とした臨床試験(NIAID ACTT-1)では、プロトロンビン時間延長または国際標準化比(INR)増加の発現割合はプラセボ群と比較して本剤投与群で高かったことが報告されています。両投与群間で出血イベントの発現に差は認められていません。なお、本剤は2021年8月から保険適用となりました。※2021年8月、一部内容の修正を行いました。参考1)PMDA 添付文書 ベクルリー点滴静注用100mg

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COVID-19にレムデシビルが有意な効果示せず、早期なら有効か/Lancet

 中国で行われた無作為化二重盲検プラセボ対照多施設共同試験では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の入院患者へのレムデシビル投与は、臨床的改善までの期間を統計学的に有意に短縮しなかったことが報告された。しかし、発症後10日以内の患者に限定した解析で、有意差は示されなかったものの、臨床的改善までの期間はレムデシビル群で短縮する傾向が認められた。中国・中日友好医院のYeming Wang氏らによる試験の結果で、著者は「早期投与については大規模な研究で確認する必要がある」とまとめている。Lancet誌オンライン版2020年4月29日号掲載の報告。症状発症12日以内の肺炎確認例にレムデシビルを10日間静脈投与 研究グループは、中国・湖北省の10病院を通じて、検査でSARS-CoV-2ウイルスへの感染が確認された入院患者を対象に試験を行った。被験者は18歳以上で、症状発症から試験登録までの経過日数が12日以内であり、室内空気中の酸素飽和度(SpO2)が94%以下または動脈血酸素分圧(PaO2)が300mmHg以下で、放射線学的画像診断により肺炎が確認された患者だった。 被験者は無作為に2対1の割合で2群に分けられ、一方の群にはレムデシビル(1日目200mg、2~10日目は100mgを1日1回静脈投与)を、もう一方の群にはプラセボを10日間投与した。試験期間中も、ロピナビル・リトナビル配合剤、インターフェロン、副腎皮質ステロイドの併用は可能とした。 主要エンドポイントは、無作為化後28日目までの、臨床的改善までの時間とした。臨床的改善の定義は、生存退院を1、死亡を6とした6段階スケールで評価し、2段階以上の改善か生存退院の、いずれか早期に達成した場合とした。 主要解析(有効性)についてはITT解析で、また安全性解析は割り付け治療を開始した全患者を対象とした。発症10日以内の患者、症状改善までレムデシビル群は18日、プラセボ群は23日 2020年2月6日~3月12日に237例が登録され、レムデシビル群に158例、プラセボ群に79例が無作為に割り付けられた。無作為化後に試験参加を取り下げたプラセボ群の患者1例は、ITT集団に含まれなかった。 臨床的改善までの期間中央値は、プラセボ群23.0日に対しレムデシビル群は21.0日で、レムデシビルと臨床的改善までの期間に関連性は認められなかった(ハザード比[HR]:1.23、95%信頼区間[CI]:0.87~1.75)。 一方で統計学的に有意ではなかったが、レムデシビル投与患者は、症状の持続期間が10日以下の患者に限定すると、プラセボ投与患者と比べて臨床的改善までの期間中央値が短く、プラセボ群23.0日に対し、レムデシビル群は18.0日だった(HR:1.52、95%CI:0.95~2.43)。 有害事象の報告は、レムデシビル群155例中102例(66%)、プラセボ群78例中50例(64%)だった。 研究グループは今回の試験について、「中国ではCOVID-19の流行が収束したため、当初目標としていた被験者数を達成できず、統計的検出力が不十分だった」としている。また、「今後、レムデシビルの有効性を検証するための試験としては、COVID-19重症患者への早期投与やより高用量の投与、また他の抗ウイルス薬やSARS-CoV-2中和抗体との併用投与なども必要だ」と述べている。

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第6回 新型コロナ感染者、全国で一元管理へ 厚労省の新システム

<先週の動き>1.新型コロナ感染者、全国で一元管理へ 厚労省の新システム2.COVID-19治療薬「レムデシビル」が7日に特例承認3.新型コロナ相談・受診の目安改訂 「37.5度」が削除4.「アビガン」に注がれる期待と安全性 民間機関が意見書を提出5.やまない医療従事者への誹謗中傷・風評被害に苦悩6.医療従事者の新型コロナ感染、世界で9万人超も1.新型コロナ感染者、全国で一元管理へ 厚労省の新システム先月、厚生労働省より「新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム」についての事務連絡が出されており、今週にも一部保健所などで先行利用開始、5月中旬以降には全国で利用されるようになる見通し。新型コロナ感染者の情報を全国で一元管理し、国・都道府県だけでなく、医療機関や医師会なども即時に情報共有できる仕組み。新型コロナの動向を迅速に把握・対応できる体制を築く。稼働後は、感染症法に基づく保健所への発生届などが、本システムに入力する形式に変更される見込み(具体的な運用方法に関しては、別途通知が発出される予定)。また、各医療機関からの報告に基づいて、行政が医療物資の優先配布や重症患者の受け入れ先の調整などに活用する。(参考)新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(仮称)の導入について(厚労省 事務連絡 令和2年4月30日)厚労省が新型コロナ感染者情報を一元管理する新システム、開発費用は10億円(日経クロステック)2.COVID-19治療薬「レムデシビル」が7日に特例承認ギリアド・サイエンシズの抗ウイルス薬「レムデシビル(商品名:ベクルリー点滴静注液・同点滴静注用)」が、申請からわずか3日後の7日に特例承認された。翌8日には中央社会保険医療協議会が開催され、レムデシビルの医療保険上の取り扱いについて議論が行われた。現時点では供給量がきわめて限定的であるため、公的な管理の下で無償提供され、時限的・特例的な対応として、公的医療保険との併用が可能とされる。この間、薬価収載はされない予定。レムデシビルは、エボラ出血熱などの治療薬として開発されていた薬剤であり、ウイルスのRNAポリメラーゼを阻害する作用を有する。適応患者の選定においては、7日に発出された留意事項に、適格基準と除外基準が示されている。(参考)COVID-19に特例承認のレムデシビル、添付文書と留意事項が公開レムデシビル製剤の使用に当たっての留意事項について(厚労省)新型コロナウイルス感染症に係る医薬品(レムデシビル)の医療保険上の取扱いについて(同)3.新型コロナ相談・受診の目安改訂 「37.5度」が削除以前から、相談・受診の目安を参考にPCR検査を希望しても、帰国者・接触者相談センターには受け入れてもらえないなどの意見が聞かれたが、8日、専門家会議の議論を踏まえ、相談・受診の目安についての改訂が行われた。従来との違いは、「37.5度以上の発熱が4日以上続く」としていた記載が、個人差があるなどの理由で削除された。改訂版では、「息苦しさ(呼吸困難)・強いだるさ(倦怠感)・高熱などの強い症状のいずれかがある」、「重症化しやすい方で、発熱や咳などの比較的軽い風邪症状がある」、「これら以外で、発熱や咳など比較的軽い風邪の症状が4日以上続く」場合には、すぐに相談するよう促している。各自治体は、地域の医師会と連携するなどしてPCR検査の実施施設を増やしており、今後の検査件数は増えていくと考えられる。(参考)【改訂版】新型コロナウイルス感染症についての相談・受診の目安(厚労省)新型コロナウイルス感染症についての相談・受診の目安について(事務連絡 令和2年5月8日)4.「アビガン」に注がれる期待と安全性 民間機関が意見書を提出中国でいち早く臨床試験が行われた新型インフルエンザ治療薬「ファビピラビル(商品名:アビガン)」は、新型コロナ患者への有効性について大きく期待されている。本剤は富山化学工業が開発したRNA依存性RNAポリメラーゼ阻害薬であり、厚労省は、治療薬候補として5月中の承認を目指している。その一方で、動物実験で観察された催奇形性などの副作用が懸念されている。民間の医薬品監視機関である「薬害オンブズパースン会議」が、厚労省に「アビガンに関する意見書(新型コロナウイルス感染症に関して)」を5月1日付けで提出している。COVID-19治療薬として、科学的根拠の乏しい過剰な期待に対する厳しい警告を含んでおり、メディアの過熱報道とは裏腹に十分なエビデンスと安全性の確立が求められる。(参考)「アビガンに関する意見書(新型コロナウイルス感染症に関して)」を提出(薬害オンブズパースン会議)5.やまない医療従事者への誹謗中傷・風評被害に苦悩現場で奮闘する多くの医療従事者に感謝の気持ちを示すため、ライトアップや拍手などの報道がされる一方で、近隣の住民などから医療従事者やその家族に対して嫌がらせや誹謗中傷を受けたという話が報道されている。感染者の受け入れによって、医療機関が院内外の感染対策に追われ、一般人に十分に説明する機会がないまま、メディアを通して恐怖心が増幅された結果かもしれない。医療従事者は患者さんの治療と安全を最優先に働いているが、最前線で尽力している医療機関や医療者に対してそのような事例があるのは残念でならない。メディアには医療・介護従事者を支援する輪を積極的に広げていただきたい。(参考)医療従事者への風評被害に対する国民へのメッセージ動画を制作(日本医師会)「会社辞めるか、奥さんが辞めるか」看護師と家族に誹謗中傷(神戸新聞)6.医療従事者の新型コロナ感染、世界で9万人超も世界的に広がる新型コロナウイルスにより、医療従事者の感染が問題となっている。先日、国際看護師協会(International Council of Nurses)が30ヵ国の看護協会のデータを元に推計した結果によると、世界全体で新型コロナウイルスに感染した医療従事者は9万人以上、その内死亡した看護師は260人を超えると推測されている。全感染者のうちの平均6%が医療従事者であるとされる。同協会は、医療従事者の感染について正確なデータがないため、「より大きなリスクにさらされている」と指摘している。各国の政府が医療従事者の感染と死亡に関するデータを体系的に収集し、それを世界保健機関(WHO)が保管することを求めている。(参考)ICN calls for data on healthcare worker infection rates and deaths(ICN)

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COVID-19に特例承認のレムデシビル、添付文書と留意事項が公開

 2020年5月8日、ギリアド・サイエンシズ社(以下、ギリアド社、本社:米カリフォルニア州)は、特例承認制度の下、レムデシビル(商品名:ベクルリー)が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬として承認されたことを発表した。現時点では供給量が限られているため、ギリアド社より無償提供され、公的医療保険との併用が可能である。 本治療薬は5月1日に米国食品医薬品局(FDA)よりCOVID-19治療薬としての緊急時使用許可を受け、日本では5月4日にギリアド社の日本法人から厚生労働省へ承認申請が出されていた。レムデシビル投与、対象者の選定に注意 レムデシビルはエボラウイルス、マールブルグウイルス、MERSウイルス、SARSウイルスなど、複数種類の新興感染症病原体に対し、in vitroと動物モデルを用いた試験の両方で広範な抗ウイルス活性が認められている核酸アナログである。 添付文書に記載されている主なポイントは以下のとおり。・投与対象者は、酸素飽和度(SpO2)が94%(室内気)以下、酸素吸入を要する、体外式膜型人工肺(ECMO)導入または侵襲的人工呼吸器管理を要する重症患者。・警告には急性腎障害、肝機能障害の出現について記載されており、投与前及び投与中は毎日腎機能・肝機能検査を行い、患者状態を十分に観察する。・臨床検査値(白血球数、白血球分画、ヘモグロビン、ヘマトクリット、血小板数、クレアチニン、グルコース、総ビリルビン、AST、ALT、ALP、プロトロンビン時間など)について、適切なモニタリングを行う。・Infusion Reaction(低血圧、嘔気、嘔吐、発汗、振戦など)が現れることがある。・用法・用量は、通常、成人及び体重40kg以上の小児にはレムデシビルとして、投与初日に200mgを、投与2日目以降は100mgを1日1回点滴静注する。通常、体重3.5kg以上40kg未満の小児にはレムデシビルとして、投与初日に5mg/kgを、投与2日目以降は2.5mg/kgを1日1回点滴静注する。なお、総投与期間は10日までとする。ただし、これに関連する注意として、「本剤の最適な投与期間は確立していないが、目安としてECMO又は侵襲的人工呼吸器管理が導入されている患者では総投与期間は10日間までとし、ECMO又は侵襲的人工呼吸器管理が導入されていない患者では5日目まで、症状の改善が認められない場合には10日目まで投与する」「体重3.5kg以上40kg未満の小児には、点滴静注液は推奨されない」との記載があり、投与期間や体重制限などに注意が必要である。・小児や妊婦への投与は治療上の有益性などを考慮する。・主な有害事象は、呼吸不全(10例、6%)、急性呼吸窮迫症候群(3例、1.8%)、呼吸窮迫(2例、1.2%)、敗血症性ショック(3例、1.8%)、肺炎(2例、1.2%)、敗血症(2例、1.2%)、急性腎障害(6例、3.7%)、腎不全(4例、2.5%)、低血圧(6例、3.7%)など。 このほか、厚生労働省が発出した留意事項には、適応患者の選定について、以下を参考にするよう記載されている。■■■<適格基準> ・PCR検査においてSARS-CoV-2が陽性 ・酸素飽和度が94%以下、酸素吸入又はNEWS2スコア4以上・入院中 <除外基準>・多臓器不全の症状を呈する患者 ・継続的に昇圧剤が必要な患者 ・ALTが基準値上限の5倍超 ・クレアチニンクリアランス30mL/min未満又は透析患者 ・妊婦■■■ また、本剤を投与する医療機関において迅速なデータ提供を求めており、「本剤には承認条件として可能な限り全症例を対象とした調査が課せられているが、本剤については安全性及び有効性に関するデータをとくに速やかに収集する必要がある」としている。2つの臨床試験と人道的見地に基づき承認へ 今回の承認は、アメリカ国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)が主導するプラセボ対象第III相臨床試験(ACTT:Adaptive COVID-19 Treatment Trial、COVID-19による中等度から重度の症状を呈する患者[極めて重症の患者を含む]を対象)、ならびにギリアド社が実施中のCOVID-19重症患者を対象とするグローバル第III相試験(SIMPLE Study:重症例を対象にレムデシビルの5日間投与と10日間投与を評価)の臨床データ、そして、日本で治療された患者を含むギリアド社の人道的見地から行われた投与経験データに基づくもの。 ギリアド社によると、2020年10月までに50万人分、12月までに100万人分、必要であれば2021年には数百万人分の生産量を目標としている(各患者が10日間投与を受けると想定して計算)。

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第5回 新型コロナ治療薬、レムデシビルは武器か凶器か

これまで治療薬もワクチンもなかった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対して、ようやく新たな「武器」が登場する。厚生労働省の薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会は2020年5月7日、ギリアド・サイエンシズがCOVID-19の中等度~重症入院患者向けに開発中の抗ウイルス薬・レムデシビル(商品名:ベクルリー)をCOVID-19の治療薬として「特例承認」した。緊急対応を要する際に他国で販売されている薬剤など国内臨床試験を省いて承認する「特例承認制度」の適用は、2010年の新型インフルエンザワクチン以来。しかも、日本に先だって米国食品医薬品局(FDA)は緊急時の使用許可を認めたものの、これは正式承認までの暫定措置なため、レムデシビルの正式な製造販売承認は日本が世界初だ。国の焦りや危機感が垣間見える決定とも言える。しかし、この特例承認は歓迎すべき決定である反面、医療現場では新たな「火種」になるかもしれない。4月29日にアメリカ国立衛生研究所(NIH)傘下の国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)が主導した世界68施設での重症COVID-19患者に対する臨床試験の予備的解析結果が発表された。臨床試験は1,063例を登録したプラセボ対照二重盲検無作為化比較試験であり、一定の信頼度はおける試験デザインである。その結果は、主要評価項目である回復までの期間はレムデシビル群:11日、プラセボ群:15日、副次評価項目の患者死亡率はレムデシビル群:8.0%、プラセボ群:11.6%。この発表以降、報道が一気に過熱した。4月30日以降、一般紙では「肯定的な結果」「新型コロナ有望薬」などの見出しが躍った。これに加え、「特例承認」「緊急承認」などの見出しも次々に登場する。もちろん報道側にいる私もこうした報道になるのは、ある意味やむを得ないとは思う。ところが、一般読者は各紙の報道を繰り返し聞かされることで生じる「リフレイン効果」によって、脳内には「有望」「肯定」「特例」「緊急」といった断片的なキーワードが残る。結果として一般読者は「新型コロナに良く効く薬が(or だから)緊急承認される」と脳内で変換してしまう可能性がある。そして、今後は検査で陽性となった患者が重症度にかかわらず医療機関に「私にあのレムデシビルとかいう薬を投与してください」という問い合わせをする現象が起きる可能性がある。実際、免疫チェックポイント阻害薬であるオプジーボの原理を発見した本庶 佑氏のノーベル医学生理学賞の受賞決定時、医療機関ではオプジーボの投与を求める各種がんの患者から問い合わせが殺到しているからだ。医療機関がこうした患者の問い合わせで疲弊するという現象は想像に難くない。しかも今回の試験結果は非常に微妙な内容、突き詰めればCOVID-19による死を恐れる一般人の期待に応えきれるものでないことは医療従事者ならば先刻ご承知だろう。前述の臨床成績のうち統計学的有意差が認められたのは回復までの期間のみで、死亡率では有意差は認められていない。しかも、主要評価項目である回復までの期間ですらハードエンドポイントではなく、ソフトエンドポイントと言ってよい。加えてNIAIDの発表同日に中国の国立呼吸器疾患臨床研究センターのグループが237人の重症新型コロナ患者を対象に同じ手法でプラセボ対照比較試験の結果を「Lancet誌」に報告したが、こちらはレムデシビル群とプラセボ群で症状改善効果に有意差はないという結果になった。レムデシビルは現在も症例規模を拡大したフェーズIII試験が進行中であるため、このように書くと「やや辛口すぎる評価では?」という意見もあるだろう。だが、2群間の比較試験では症例規模を拡大すればするほど統計学的有意差が生じやすいのは周知のこと。今後、より症例規模の大きい試験で死亡率に統計学的有意差が認められたとしても、それは一般人が期待するような死亡率急低下につながるような差にはならないだろうと推定できる。現状、レムデシビルで見込める可能性のある効果とは、回復期間の短縮、すなわち患者の入院期間短縮を通じた病床不足への歯止めという点くらいである。これはその通りならば一定の意義はあるが、なかなか患者・一般生活者には伝わりにくい。レムデシビル登場が逆に現実と一般人の期待の板挟みになる医療従事者を増やすことになるかもしれない。「それは報道のせいだろう」とも言われてしまいそうだが、実は医療を担当する一般向けメディアの記者もその点は悩みなのだ。本連載の第3回でも書いたように記事内にアルファベットが出てくるだけで目を逸らすほど一般読者・視聴者は浮気な存在である。その彼らに「統計学的有意差」「ハードエンドポイント」「ソフトエンドポイント」という言葉は、かみ砕いても伝わりにくい。そんなことを伝えようとしようもなら新聞ならスポーツ面に、テレビならお笑い番組に飛ばされてしまう。しかも、紙面や放送時間には常に限りがあるので、かみ砕けばかみ砕くほどリソース不足となる。よく、一般では代表的な医療批判として「3時間待ち5分診療」が挙げられる。しかし、限られたリソースの中で患者を診察するうえではやむを得ないことは理解できる。そして実は報道する側も似たようなジレンマを常に抱えている。もっとも個人的にはその不可能をどこまで可能にするかの取り組みはやってみるつもりだが…。

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CMV抗体陰性肝移植のCMV感染症予防、先制治療は有効か/JAMA

 サイトメガロウイルス(CMV)抗体陽性ドナーから肝臓の移植を受けるCMV抗体陰性レシピエントでは、先制治療は抗ウイルス薬予防投与に比べ、1年後のCMV感染症(CMV disease)の予防効果が優れることが、米国・ピッツバーグ大学のNina Singh氏らの検討で示された。研究の成果は、JAMA誌2020年4月14日号に掲載された。CMV抗体陽性ドナーから肝臓の移植を受ける高リスクのCMV抗体陰性レシピエントにおいては、抗ウイルス薬の予防投与によるCMV予防戦略は、予防投与後の遅発CMV感染症の発生率が高いとされる。代替アプローチとして先制治療(サーベイランス検査で検出された無症候性のCMV血症への抗ウイルス薬治療の開始)が行われているが、これらを直接比較した研究はないという。米国の6施設が参加した無作為化試験 本研究は、CMV感染症の予防において、バルガンシクロビルを用いた先制治療と予防治療の効果を比較する無作為化臨床試験であり、2012年10月~2017年6月の期間に、米国の6つの移植施設で患者登録が行われた(米国国立アレルギー・感染症研究所[NIAID]の助成による)。 対象は、年齢18歳以上、初回の同所性肝移植(死体肝または生体肝)が予定され、ドナーがCMV抗体陽性のCMV抗体陰性レシピエントであった。被験者は、先制治療または抗ウイルス薬予防投与を受ける群に無作為に割り付けられた。 先制治療群では、高感度リアルタイム血漿CMVポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)を用いて、100日間に週1回のCMV血症の検査を行い、CMV血症が検出された場合にバルガンシクロビル900mgの1日2回経口投与を開始し、1週間間隔での2回の検査が連続で陰性となるまで継続した。一方、予防投与群では、バルガンシクロビル900mgの1日1回経口投与が、100日間行われた。 主要アウトカムは、12ヵ月後のCMV感染症(CMV症候群[CMV血症、臨床所見・検査所見]または標的器官CMV感染症)の発生とした。副次アウトカムには、遅発CMV感染症(移植後100日~12ヵ月に発生)、急性同種移植片拒絶反応(生検で確定)、日和見感染、移植片機能喪失、12ヵ月時の全死因死亡、好中球減少(末梢血好中球絶対数<500/μL)などが含まれた。CMV感染症:9% vs.19%、遅発CMV感染症:6% vs.17% 205例(平均年齢55歳、女性62例[30%])が無作為化の対象となり、全例が試験を完遂した。先制治療群が100例、抗ウイルス薬予防投与群は105例だった。 CMV感染症の発生率は、先制治療群が予防投与群に比べ有意に低かった(9%[9/100例]vs.19%[20/105例]、群間差:10%、95%信頼区間[CI]:0.5~19.6、p=0.04)。また、遅発CMV感染症も先制治療群で有意に少なかった(6%[6/100例]vs.17%[18/105例]、11%、2.4~19.9、p=0.01)。 一方、同種移植片拒絶反応(先制治療群28% vs.予防投与群25%、群間差:3%、95%CI:-9~15)、日和見感染(25% vs.27%、2%、-14~10)、移植片機能喪失(2% vs.2%、<1%、-4~4)、好中球減少(13% vs.10%、3%、-5~12)には、有意な差は認められなかった。 また、全死因死亡にも、両群間に有意な差はなかった(先制治療群15% vs.予防投与群19%、群間差:4%、95%CI:-14~6)。 プロトコールで規定された有害事象は、先制治療群が2例(2%)で発現したが(心膜液貯留1例、腎臓結石1例)、予防投与群ではみられなかった。 著者は、「これらの知見の再現性を確認し、長期アウトカムを評価するための研究が必要である」としている。

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新型コロナ危機に直面した米国ニューヨークの今【臨床留学通信 from NY】番外編3

番外編:新型コロナ危機に直面した米国ニューヨークの今(3)コロナの激震地となったニューヨークの患者総数は、4月22日現在で25万人を超えています1)。しかしながらクオモ知事の声明によりますと、総入院患者がマイナス傾向になったということで、ようやくピークを超えつつあるようです2)。また、ようやく(?)ニューヨークにおいてもマスクが義務付けられました。通常のマスクは、防御機構に関しては不明ですが、ウイルスを拡散しないという効果はあると私は思います。もちろん市民に対し早めに声明を出したかったのだとは思いますが、医療従事者への確保が先決であり、それがようやく担保されたためとも考えられます。当院(Mount Sinai Beth Israel)の現状は、相変わらずの病床拡大傾向ですが、それがそのままレジデントの労働時間の負担になっている訳ではなく、外部から委託することで人員を確保しているという状況です。実際に、待機的な一般病院や開業医の不要不急の外来はすべて閉鎖されており、そこから人的資源を確保していると考えられます。現在、市内中心部のマンハッタンよりも郊外に位置するクイーンズ地区などで医療崩壊が起きており、ピークを超えていても当院がいまなお病床拡大傾向にあるのは、そこの負担を軽減するための措置であります。確かに、マンハッタンには多くの病院がありますが、実際に住んでいるのは郊外のほうが多く、患者さんの数も同様に多いため、医療の需要と供給のアンバランスが起きやすいのです。それは東京都23区とそれ以外の関係にも似ているように思えますし、関東でパンデミックが起きると、人口が多く医者の数が少ない郊外エリアで医療崩壊が起きる懸念があります。私の病院はMount Sinai医科大学系列なので、経営母体が同じグループ内で疲弊している病院があれば、それらの患者を受け入れるたり人的資源を派遣することは合理的であり、経営的にも好ましいとも言えます。そのような協力は日本においてはなかなか難しく、パンデミックではない地区からのボランティアでしか成り立たないのかもしれませんが、一般病院だけでなく開業医の先生方の協力もニューヨークのように必要なのかもしれません。肝心の治療方法については、依然として模索状態が続いています。前稿で紹介したヒドロキシクロロキンおよびアジスロマイシンについては、ウイルス量を減らすかもしれないと言われていますが3)、あまり効果がないように思いつつ使い続けているというのが正直なところです。QT延長が双方に副作用があり、心電図を何度も取ることで医療従事者への曝露を助長しているようにも思われ、大規模な研究が待たれます。アクテムラ(トシリズマブ)は重症例に使用しておりますが、当院でRCTが始まったのは、同じIL-6 inhibitorのサリルマブでした。抗ウイルス薬のremdesivirについてもRCTも始まりましたが、観察研究の結果を見る限り、ある程度の期待は持てるのかなと思います4)。しかし、これらの治療法が正しいのかどうかも、やはり大規模な研究を待たなければわからない部分も多いです。また、D-Dimerが高値ならば、死亡率が上昇するというデータが出ており5)、D-Dimer高値の重症例については、当院では抗凝固療法を開始しておりますが6)、ほかの施設では推奨していないなど、まったくのエビデンス不足であり、欧米人より出血が多いと言われる日本人に当てはまるかどうかも不明です。ただ、治療に当たった実感としては、COVID-19の重症患者では凝固系が更新しているのだとは思います。ステロイドも予後を改善するというデータが出たため7)使い始めたところ、その後、真菌感染が発症したため、現時点では使用を控えております。ECMOについては、パンデミックになってしまうと医療資源の兼ね合いで推奨されるものではないように思えます8)。また、一度挿管すると抜管は非常に厳しく、低めの酸素飽和度であったとしても、なるべく避けたほうがいいのではないかという印象があります。いざ挿管が必要となった場合、管理は通常のARDSと異なるのかもしれません9)。以上は個人的見解が含まれており、治療法は刻一刻と変化すること、また当院の意見を代表するものではありませんので、その点をご了承ください。1)https://en.wikipedia.org/wiki/2020_coronavirus_pandemic_in_New_York_(state)2)https://twitter.com/NYGovCuomo3)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/322052044)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/322758125)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=Lancet+2020%3B+395%3A+10546)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=322201127)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/321675248)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/322790189)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/32228035

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第4回 COVID-19診療医療機関の具体的な支援策が取りまとめられた

<先週の動き>1.COVID-19診療医療機関の具体的な支援策が取りまとめられた2.地域でのがん患者、透析患者、妊産婦などへの医療提供体制がまとまる3.医療・介護現場で足りないマスク、防護具、消毒薬の対策が進む4.新型コロナウイルスに対する新薬開発状況が明らかに1.COVID-19診療医療機関の具体的な支援策が取りまとめられた新型コロナウイルス感染による重症患者を診療する医療機関に対して、17日に開催された中央社会保険医療協議会 総会(第455回)において、具体的な支援策が打ち出された。中等症・重症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の受入れに係る特例的な対応は以下の3点にまとめられている。1)重症COVID-19患者の治療に係る評価体外式心肺補助(ECMO)や人工呼吸器による管理が必要な重症患者などへの対応として、救命救急入院料、特定集中治療室管理料またはハイケアユニット入院医療管理料を算定する病棟において、2倍の点数を算定できる。また、急性血液浄化(腹膜透析を除く)を必要とする状態、急性呼吸窮迫症候群または心筋炎・心筋症のいずれかに該当する患者については21日間、ECMOを必要とする状態の患者については35日間まで、算定日数が延長される。2)患者の重症化等を防ぐための管理および医療従事者の感染リスクを伴う診療の評価中等症以上のCOVID-19患者については、患者の重症化や他患者および医療従事者への感染拡大を防ぐための管理の評価として、救急医療管理加算の2倍相当(1,900点)を算定可能になった。さらに、人員配置に応じて、追加的に二類感染症患者入院診療加算に相当する加算を算定できる。3)受入れに伴い必要な手続き等への柔軟な対応救命救急入院料、特定集中治療室管理料およびハイケアユニット入院医療管理料と同等の人員配置とした病床において、COVID-19患者または本来当該入院料を算定する病床において受け入れるべき患者を受け入れた場合には、運用開始日や人員配置など簡易な報告をした上で、該当する入院料を算定できる。なお、救命救急入院料について、COVID-19患者の受入れなどにより、当該医療機関内の特定集中治療室管理料などを算定する病棟に入院できない場合には、患者の同意を得た上で、入院経路を問わず算定可能。(参考)新型コロナウイルス感染症患者(中等症・重症患者)への診療報酬における対応について(中医協 第455回総会)2.地域でのがん患者、透析患者、妊産婦などへの医療提供体制がまとまる地域で医療提供体制を協議する上で配慮が必要となるがん患者、透析患者、障害児者、妊産婦、小児に係る対応について、厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部が、都道府県などに向けて14日付で事務連絡を発出した。がん治療を受けている患者がCOVID-19に罹患した場合には、重症化する可能性を念頭に置き、がん治療を中断し、コロナに対応した医療機関への入院を原則とするなど、細心の注意を要する。日本透析医学会の報告によると、国内の透析患者の感染者数は累計47人だ。全体の死亡率は、8.5%(4/47人)と、基礎疾患のない患者と比較して高率であることも含め、適切な病床の確保などが望まれる。都道府県には、各学会から発出される情報を参考にし、医療機関への周知を行うなどの対応が求められている。(参考)新型コロナウイルス感染症に対応したがん患者・透析患者・障害児者・妊産婦・小児に係る医療提供体制について(厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部)透析患者における累積の新型コロナウイルス感染者数(2020年4月17日)(一般社団法人 日本透析医学会)3.医療・介護現場で足りないマスク、防護具、消毒薬の対策が進む厚生労働省は10日に「N95マスクは滅菌により2回までの再利用等が可能」とする事務連絡を出していたが、現場で増え続ける疑い症例への防護策として必要なマスクや防護具の不足に対して、新たな工夫をして乗り越えようとする動きが見られる。東京都医師会では、COVID-19の流行に伴うマスク不足を受け、「【縫わずに作れる!】簡易マスクの作り方」をホームページで公開している。フェイスシールドについても、100円ショップなどで入手可能なクリアファイルを利用して自作する代用案が動画サイトで共有されるなど、さまざまなアイデアが共有されている。消毒用アルコールについては、13日から若鶴酒造(富山県砺波市)が「砺波野スピリット77%」の発売開始、今月下旬からサントリースピリッツ大阪工場で医療機関等向けにアルコールの提供開始などが発表されており、不足が徐々に解消すると考えられる。また、17日に北里大学大村智記念研究所の片山 和彦教授らの研究グループが発表した「医薬部外品および雑貨の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)不活化効果について」により、一般の医薬部外品や生活雑貨の中でも、消毒用に使えるものが公開されている。(参考)N95 マスクの例外的取扱いについて(厚労省 事務連絡 令和2年4月10日/4月15日一部追記)消毒アルコール、酒で代替 品不足受け、業者次々参入―行政も柔軟対応・新型コロナ(時事通信)医薬部外品および雑貨の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)不活化効果について(学校法人 北里研究所)4.新型コロナウイルスに対する新薬開発状況が明らかに第94回 日本感染症学会学術講演会 特別シンポジウム(テーマ:COVID-19シンポジウム -私たちの経験と英知を結集して-)が18日に開かれた。最後の演題「臨床試験の進行状況と新知見」では、藤田医科大学の土井 洋平教授より、国内におけるファビピラビルの治療成績について観察研究の報告がされた。新型コロナウイルス感染患者300例に投与した結果、軽・中等症の患者で約9割、人工呼吸器が必要な重症・重篤患者で約6割に症状の改善が見られた一方、高尿酸血症や肝機能障害といった有害事象が17%で報告されたという。ほかにも、喘息治療に用いる吸入ステロイド薬シクレソニド(商品名:オルべスコ)、抗インフルエンザ薬のファビピラビル(同:アビガン)、エボラ出血熱の治療薬として開発されていた抗ウイルス薬レムデシビル(ギリアド・サイエンシズ)などが挙げられる。また、抗マラリア薬の一つで、新型コロナウイルスの治療薬として期待されるヒドロキシクロロキンについては、ブラジルで行われた治験で81例の被験者のうち11例が死亡し、臨床試験は6日目で中止となった。フランスでも同様の臨床試験に着手したが、副作用と心臓損傷のリスクのため直ちに中止になるなど、当初の期待通りとはいかないものもある。なお、日本感染症学会のCOVID-19シンポジウムについては、NHKチーフ・ディレクター市川 衛氏によるシンポジウム関連ツイートのまとめが掲載されている。(参考)アビガン投与2週間で重症者6割が改善、軽症者では9割…「それぞれの薬に長所と短所」(読売新聞)新型コロナ治療薬、開発急ピッチ 世界で治験650件(日経新聞)日本感染症学会ウェブセミナー COVID-19シンポジウムまとめ(市川衛@医療の「翻訳家」/@mam1kawa)

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重症COVID-19へのremdesivir、68%で臨床的改善か/NEJM

 抗ウイルス薬remdesivirを、重症新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者53例(日本からの症例9例を含む)に投与したところ、36例(68%)で臨床的改善がみられた。米国・シダーズ・サイナイ医療センターのJonathan Grein氏らが、remdesivirの人道的使用によるコホート分析データを、NEJM誌オンライン版2020年4月10日号で発表した。<試験概要>・対象:COVID-19感染による重度急性呼吸器症状を呈する入院患者で、酸素飽和度≦ 94%もしくは酸素補充を受けている患者・治療概要: remdesivirの10日間投与(1日目に負荷投与量として200mg、その後 9 日間は100mgを1日1回静脈内投与)・観察期間:投与開始から28日間 本研究では、評価項目は事前に設定されていない。しかし分析の一環として、酸素補充の必要レベルの変更、退院、remdesivirの投与中止につながった有害事象(報告ベース)、死亡など、主要な臨床的事象の発生率を定量分析。本研究での臨床的改善を、WHOの「R&Dブループリント(戦略対策計画)」の推奨に従い、(1)退院、(2)入院や酸素補充の必要レベルなどで評価する6段階の評価基準でベースラインから2段階以上の改善の、少なくともどちらかを満たす場合と定義している。 主な結果は以下のとおり。・2020年1月25日~3月7日に少なくとも1回remdesivirを投与された61例のうち、8例のデータが除外された(7例で治療後のデータがなく、1例は投与エラーのため)。・データが分析された53例のうち、22例が米国、22例がヨーロッパまたはカナダ、9例が日本の症例。年齢中央値は64歳(四分位範囲:48~71)、40例(75%)が男性であった。・remdesivir投与開始前の症状持続期間の中央値は12日間。ベースライン時に30例(57%)が人工呼吸器、4例(8%)が体外式膜型人工肺(ECMO)を使用していた。・40例(75%)で10日間のフルコースの投与が実施され、10例(19%)は 5~9日間、3例(6%)は5日未満であった。・追跡期間中央値は18日間。この間、36例(68%)で酸素補充の必要レベルが改善し、人工呼吸器使用者30例のうち17例(57%)が抜管した。・Kaplan-Meier分析の結果、観察期間中に認められた臨床的改善の累積出現率は84%(95%信頼区間[CI]:70~99)。臨床的改善がみられた症例の割合は、侵襲的換気療法実施例(非侵襲的換気療法実施例に対するハザード比[HR]:0.33、95%CI:0.16~0.68)、70歳以上で低かった(50歳未満に対するHR:0.29、95%CI:0.11~0.74)。・25例(47%)が退院し、7例(13%)が死亡。死亡リスクは、70歳以上(70歳未満に対するHR:11.34、95%CI:1.36~94.17)、ベースライン時の血清クレアチニン値が相対的に高い症例(mg/dL ごとのHR:1.91、95%CI:1.22~2.99)、侵襲的換気療法実施例(非侵襲的換気療法実施例に対するHR:2.78、95%CI:0.33~23.19)で高い傾向がみられた。・32例(60%)がフォローアップ中に有害事象を報告した。最も一般的な有害事象は、肝酵素値の上昇、下痢、発疹、腎障害、低血圧。12例(23%)で多臓器不全症候群、敗血症性ショック、急性腎障害、低血圧等の深刻な有害事象が発生し、これらはベースライン時に侵襲的換気を受けていた症例で報告された。・4例が治療途中で投与が中止され、その理由は既存の腎機能障害の悪化が1例、多臓器不全が1例、肝酵素値の上昇が2例(うち1例は斑状丘疹状皮疹発現)であった。 著者らは、コホートサイズの小ささ、フォローアップ期間の短さ、無作為化対照群がないこと等の本研究の限界に触れ、支持療法の種類や施設での治療プロトコル、入院のしきい値の違いなどが、結果に寄与している可能性を指摘。そのうえで、今回の分析からはremdesivirが重症Covid-19患者に臨床的利益をもたらす可能性が示唆されたとし、進行中の無作為化プラセボ対照試験の結果が待たれるとしている。(ケアネット 遊佐 なつみ)専門家はこう見る:CLEAR!ジャーナル四天王

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COVID-19、軽症者の増悪時にみられた所見―自衛隊中央病院

 クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」から搬送された、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者104例について、2020年3月24日、自衛隊中央病院がその経過と得られた知見をホームページ上で公開した。CT検査所見の特徴、重症化や他疾患との鑑別におけるマーカーとしての各検査値の有用性など、これまでに報告されている事項をふまえ、自院での症例について考察している。<症例の特徴>平均年齢:68歳(48.75~75)、男性:45.2%国籍:東アジア52.9%を含む、17の国と地域基礎疾患:あり48.1%(心血管系31.7%、内分泌系[甲状腺疾患等]8.7%、糖尿病6.7%、呼吸器系6.7%、がん3.8%)喫煙歴:あり17.3%観察期間:2月25日まで※全例が船内の検疫における咽頭スワブPCR検査でSARS-CoV-2陽性軽症者の多くが症状に変化なく軽快、しかし異常影有の3分の1で増悪 観察期間を通して全く症状や所見を認めなかった症例は全体の31.7%で、軽症例が41.3%、重症例は26.9%。無症候性陽性例が多く、軽症例でも、そのほとんどが一般診療の基準に照らし合わせれば、医療機関を受診するような病状ではなかったと考察している。 しかしこれまでの報告でも指摘されているように、無症候性および軽症例でも、約半数に胸部単純CT検査での異常陰影を認めた。陰影は両側末梢胸膜下に生じるすりガラス様陰影が特徴で、胸部単純レントゲン写真では異常を指摘できない症例が多かった(画像も公開中)。無症候性および軽症例で、CT検査で異常影を認めたうち、約3分の2はそのまま症状が変化することなく軽快し、約3分の1は症状が増悪した。増悪する場合の画像変化は、経過とともにすりガラス様陰影の範囲が広がり、徐々に濃厚なair-space consolidationを呈することであった。<重症度、主な臨床症状(ともに入院時/全観察期間)>重症度無症状:41.3%/31.7%軽症:39.4%/41.3%重症:19.2%/26.9%臨床症状(一部抜粋)発熱:28.8%/32.7%咳嗽:27.9%/41.3%呼吸困難:6.7%/18.3%頻呼吸:15.4%/23.1%SpO2<93%:2.9%/13.5%高齢者ではSpO2低下、若年者では頻呼吸が出現する傾向 無症状あるいは軽微な症状にもかかわらずCT検査で異常陰影を認める病態を「Silent Pneumonia」とし、「Silent Pneumonia」から「Apparent」になる際は、発熱や咳嗽の増悪や呼吸困難の出現ではなく、高齢者ではSpO2の低下、若年者では頻呼吸の出現で気づくことが多かった、としている。症状増悪は初発から7~10日目であることが多く、比較的病状はゆっくりと進行。このため疾患の増悪に気づきにくいおそれがあり、このことが、高齢者の死亡率上昇に関係している可能性がある、と指摘している。 酸素投与が必要となった症例は全体の13.5%であり、そのうちの約半数がいわゆるネーザルハイフローやNPPVなどの高流量酸素投与を必要とした。気管挿管による人工呼吸管理を必要としたのは1例。観察期間中の死亡例はなく、3月24日時点で全員退院している。中等症~重症化しても、適切な酸素投与を実施するなどの対応をとれれば救命可能な症例は多いと考えられるとし、重症例では抗ウイルス薬の投与も実施している。 また血液生化学検査所見について、COVID-19症例ではCRP、LDH、AST、eGFR、Naに有意な差があり、リンパ球減少が観察されるとの報告がある。同院の症例では、無症状あるいは軽症例では検査値異常を認めないことが多かったが、重症例ではリンパ球減少が認められた。多くは陰圧機能のない一般病室に収容、ゾーニングを徹底 多数の患者を受け入れたため、陰圧室は不足し、患者の多くは陰圧機能のない一般病室に収容された。ウイルス量が多く、ネーザルハイフローや人工呼吸器などのエアロゾル発生機器・手技を多く必要とするであろう重症例から陰圧室を使用し、ゾーニングを徹底した。主な予防策は下記の通り:・原則N95マスクを使用・アイガードの徹底に加えて脱衣に熟練を要するワンピース型PPEは用いず、アイソレーションガウン使用を標準とした・挿管時にはPAPR(電動ファン付呼吸用保護具)を装着・平素、感染症診療に携わっていないスタッフに対しては、N95マスクフィットテストやPPE着脱訓練を実施・ゾーニング要領を徹底

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新型コロナウイルスの鎮静化の鍵を歴史から学ぶ【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第22回

第22回 新型コロナウイルスの鎮静化の鍵を歴史から学ぶこの原稿を執筆している2020年3月下旬には、新型コロナウイルス騒動は収束の気配がなく、感染拡大防止のために精一杯の対応が続いています。学校は再開のめどが立たない地域が多く、渡航制限があり、商店街や飲食店はガラガラで、イベント中止が相次いでいます。皆様が、この記事に目を通している時には良い方向に向かっていることを願うばかりです。対策として、ワクチンや抗ウイルス薬の開発が急ピッチで進んでいます。21世紀の現代においても、患者を隔離し他人との濃厚接触を避けるという、旧知の公衆衛生学的な措置が感染予防の中心となっています。現在もなお通用する方策を見出した先人の知恵には感服するばかりです。疫病の侵入を防ぐための検疫は、英語でクワランティーン(quarantine)と言います。イタリア語由来で、元の意味は「40日間」です。イタリア語で数字の40をクワランタ(quaranta)ということからも類推できます。ヨーロッパでは14世紀にペスト(黒死病)が一気に拡大し、人口が約3割も減ったと言われます。ヴェネツィア共和国では、流行している地域からの船舶を、ペストの潜伏期間である40日間にわたり、港外に強制的に停泊させる措置を行いました。このように検疫の語源は、ペスト流行期の隔離政策に由来していることは知っておくべき知識です。さらに、旧約聖書の「ノアの方舟」も興味深いです。神は、ノアに洪水の到来を告げ、方舟の建設を命じました。巨大な方舟を完成させ、ノアは家族とすべての動物のつがいを乗せます。洪水は40日続き、地上の生き物を滅ぼします。水が引いた後にノアは人類の新たな始祖となった、これが伝説のあらすじです。伝説ではなく実話であると信じる方もいるようですが、ここで驚くのは「40日間」が登場することです。方船の真偽は別にして、災いから逃れ、生き延びるためには、40日間が鍵となる時間であることを人類は紀元前から知っていたのです。知っていたのではなく、人類の滅亡を覚悟する疫病の流行によって、脳裏に叩き込まれたのかもしれません。話は再び700年以上も昔のペストの時代です。14世紀は、猫にとって暗黒の時代でした。中世ヨーロッパは魔女狩りの時代です。猫は魔女の使いとされ忌み嫌われ、多くの猫が犠牲になっていたのです。本当に悲しい歴史です。ペストは、ネズミにたかったノミが媒介して人間に伝染することが知られています。猫が減ったヨーロッパの街々では、ネズミが大量発生し、その結果多くの伝染病、中でもペストの大流行に繋がったそうです。インドや東南アジアなどの猫が多く飼われていた地域では、ペストの流行が抑えられたと伝えられています。多くの人々が亡くなる中、ネズミを退治する猫が必要であると認識され、猫は敬われるようになったのです。さすが猫さまです。ネズミ退治すらできるとは思えない、腰抜けの我が家の猫には疫病退散を期待できませんが、ただただ新型コロナウイルス騒動を収束させる人類の英知を信じるばかりです。

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多剤耐性HIV-1感染、fostemsavirの追加が有効/NEJM

 治療の選択肢が限られた多剤耐性ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)感染患者において、fostemsavirはプラセボと比較して投与開始後8日間のHIV-1 RNA量を有意に減少し、その有効性は48週まで持続することが認められた。米国・イェール大学医学大学院のMichael Kozal氏らが、23ヵ国で実施中の第III相試験の結果を報告した。fostemsavirは、画期的医薬品(ファーストインクラス)として開発中のHIV-1接着阻害薬temsavirのプロドラッグである。複数の抗ウイルス療法を受け治療の選択肢が限られているHIV-1感染患者に対する、新しい作用機序を持つ新クラスの抗レトロウイルス薬が必要とされていた。NEJM誌2020年3月26日号掲載の報告。多剤耐性HIV-1感染患者約370例を対象に、2つのコホートで評価 研究グループは、多剤耐性HIV-1感染患者を、残された治療選択肢に従って2つのコホートに登録した。第1コホートでは、治療選択肢として少なくとも1剤以上の承認された抗レトロウイルス薬(1クラス以上2クラス以下)を有する患者を、失敗したレジメンにfostemsavir(600mgを1日2回)またはプラセボを8日間追加する群に3対1の割合で割り付け、その後は非盲検下でfostemsavir+最適基礎療法を行った(無作為化コホート)。 第2コホートは、対象を抗レトロウイルス薬の選択肢が残されていない患者とし、非盲検下でfostemsavir+最適基礎療法を1日目から開始した(非無作為化コホート)。 主要評価項目は、無作為化コホートにおけるHIV-1 RNA量の1日目から8日目までの平均変化量とした。fostemsavir追加で8日間のHIV-1 RNA量が有意に減少 解析対象は、治療を受けた無作為化コホート272例、非無作為化コホート99例の計371例であった。 8日時点で、HIV-1 RNA量の平均減少量は、fostemsavir群で0.79 log10コピー/mL、プラセボ群で0.17 log10コピー/mLであった(p<0.001)。48週時点でのウイルス陰性化率(HIV-1 RNA量<40コピー/mL)は、無作為化コホートで54%、非無作為化コホートで38%であり、CD4陽性T細胞数の平均増加量はそれぞれ139/mm3および64/mm3であった。 fostemsavir投与中止に至った有害事象は、7%の患者で確認された。 無作為化コホートでは、47例でウイルス学的失敗が確認され、そのうち20例(43%)で糖蛋白120(gp120)の置換が認められた。

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アルナイラムとVir社、siRNAによるCOVID-19治療薬を共同開発

 Vir Biotechnology社およびアルナイラム社は、2020年3月4日、両社の既存の提携関係を拡大し、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の原因ウイルスであるSARS-CoV-2を標的とする RNAi治療薬の開発と実用化も共同で行うと発表した。 この合意で、アルナイラム社のsiRNA(低分子干渉 RNA)新規コンジュゲートの最新の肺への薬剤送達技術、およびVir Biotechnology社の感染症の専門知識と能力を合わせ、SARS-CoV-2および他のコロナウイルスによる感染症の治療薬として、一つ以上のsiRNAの開発を前進させる。 今回の共同開発ではとくに、コロナウイルスが高度に保存されたRNA領域を標的とするものとして、アルナイラム社が最近特定したsiRNAの開発に注力する。 アルナイラム社はこれまで、現存するSARS-CoVおよびSARS-CoV-2のすべてのゲノムを標的とする350以上のsiRNAをデザイン・合成してきた。これらの中で有力なsiRNA候補薬についてVir社が抗ウイルス作用をin vitroおよびin vivoで評価し、開発候補薬を選定するという。

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新型コロナ治療薬の有力候補、「siRNA」への期待

2019年末に中国湖北省武漢で最初の症例が確認された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は世界各地への感染が急速に拡大しており、世界保険機関(WHO)はパンデミック(世界的大流行)と認定した。国内でも医療機関や行政の関連機関により懸命な対策が進められている。コロナウイルスの種類コロナウイルスは、ヒトに日常的に感染するウイルスと動物から感染する重症肺炎ウイルスの2つのタイプに分類される。ヒトに日常的に感染するコロナウイルスはこれまで4種知られており、風邪の原因の10~15%を占めている。そして、ほとんどの子供はこれらのウイルスに6歳までに感染するとされている。一方で、重症肺炎ウイルスには、2002年末に中国広東省から広まった重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)および2012年にサウジアラビアで発見された中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)、さらに2019年の新型コロナウイルス(SARS-CoV遺伝子と80%程度の類似性があることからSARS-CoV-2と命名された)が含まれる。COVID-19の臨床的特徴COVID-19は2020年3月22日現在、世界で30万人以上が感染し、さらに感染が拡大しているという驚異的な勢いで蔓延しており、致死率は2%程度とされている。感染者数はSARSやMERSに比べるとはるかに多いが、致死率はSARSで10%、MERSは34%であることからCOVID-19は最も低いといえる。SARSの感染源はキクガシラコウモリ、MERSはヒトコブラクダとされており、COVID-19の感染源はまだ不明であるが、SARSとよく似ていることからおそらくコウモリと考えられている。このように動物の種を超えて感染するコロナウイルスは重症化しやすい。COVID-19やSARSの感染経路は、患者と濃厚に接触することによる飛沫感染、ウイルスに汚染された環境にふれることによる接触感染が考えられているが、MERSは限定的であるとされている。新型コロナウイルスの実体コロナウイルスはプラス鎖一本鎖のRNAをゲノムとして持つウイルスで、感染すると上気道炎や肺炎などの呼吸器症状を引き起こす。コロナウイルスはそのRNAゲノムがエンベロープに包まれた構造を持ち、感染にはウイルス表面に存在する突起状のタンパク質(スパイクタンパク質)が必要である。スパイクタンパク質は感染細胞表面の受容体に結合することで、ウイルスが細胞内に取り込まれ感染するが、SARS-CoV-2の受容体はアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)受容体であり、SARS-CoVの受容体と同じである。スパイクタンパク質は王冠(crown)に似ていることから、ギリシャ語にちなみコロナcoronaと名付けられた。COVID-19治療の現状通常1つの薬を開発するには10年以上の年月と300億円以上の費用が必要とされており、SARSやMERSなどのこれまでの重症肺炎コロナウイルス感染症に対する特異的な治療法はいまだになく、ワクチンや抗ウイルス薬も開発されていない。そのため、COVID-19に対しても現状では熱や咳などの症状を緩和するという対症療法が中心である。しかし、エイズウイルスであるHIV感染症やエボラ出血熱に対して有効性の認められた薬やインターフェロン療法がSARSやMERSに対しても有効であったことから、COVID-19での利用も検討されている。治療薬・ワクチンの開発動向現在、COVID-19に対する治療薬の開発は大手製薬会社を中心に世界的に精力的に進めれられている。ワクチンの開発も急速に進められているが、従来の組換えタンパク質や不活化ウイルスを抗原とするワクチンは製造用のウイルス株や組換え株を樹立するのに時間がかかるうえに、安定的に製造できる工程を確立するのにさらに時間がかかる。一方で、近年の次世代シークエンサー技術の進歩によりウイルスのゲノム情報が簡単に解読されるようになった。およそ3万塩基長のSARS-CoV-2の全ゲノム情報も、2020年1月中旬に中国の研究チームが公表した。そのため、ゲノム情報を利用した新たな治療法の開発も進められている。最も早く臨床試験が始まりそうなのが、米国アレルギー・感染症研究所とModerna社が開発しているメッセンジャーRNA(mRNA)をベースにしたワクチンである。遺伝子発現の流れにおいては、ゲノムDNAからmRNAが転写され、mRNAからタンパク質が翻訳される。タンパク質ではなく、ウイルス表面のスパイクタンパク質をつくるmRNAを細胞に接種するとスパイクタンパク質が産生され、それを抗原とする免疫が誘導される。mRNAは化学合成できるため、ゲノム情報が公開されてから治験薬を製造するまでにわずか40日程度であったとされている。さらに、国内ではDNAワクチンというスパイクタンパク質を発現するDNAを接種するという特徴ある開発研究も、大阪大学とバイオベンチャーのアンジェス、さらにタカラバイオが加わって行われている。しかし、このような抗体を利用する手法では、抗体依存性感染増強という、初感染よりも再感染のほうが重篤な影響を及ぼす危険性があることも指摘されており、大規模な臨床試験が必要とされる。そこで、抗体を利用せずにゲノム情報を利用した治療法として、近年、siRNA(small interfering RNA)によるRNA干渉(RNA interference, RNAi)法による核酸医薬品開発が進められている。siRNAとはsiRNAは21塩基程度の小さな二本鎖RNAであり、化学合成できる。siRNAはヒト細胞内でRISC(RNA-induced silencing complex)と呼ばれる複合体に取り込まれて一本鎖化し、その片方のRNA鎖と相補的な配列を持つRNAを切断する。コロナウイルスのようにRNAをゲノムとして持つウイルスに対しては、ゲノムから産生されたタンパク質を標的とするよりもゲノムRNAを標的にするほうがより直接的な効果が期待できる。実際、RNA干渉は植物・菌類・昆虫などではRNAウイルス感染から自身を守る生体防御機構として働く。siRNA核酸医薬品開発の最前線米国Alnylam Pharmaceuticals社が開発した世界で最初のsiRNA核酸医薬品はアミロイドニューロパチーの原因遺伝子を抑制するものであり、2018年に米国・欧州で承認され、2019年には日本でも承認された。Alnylam Pharmaceuticals社は、Vir Biotechnology社と共同で、すでにSARS-CoV-2に対する350種類以上のsiRNA候補を設計・合成しその有効性のスクリーニングを開始し、肺への送達システムも開発しているようである。また、筆者らのグループは、siRNAの配列選択法はきわめて重要であることを明らかにしており、内在の遺伝子発現にはほとんど影響を及ぼさず、感染したコロナウイルスのみを特異的に抑制するsiRNA配列を選択できる方法論を開発している。そのような方法を用いれば、たくさんのsiRNAをスクリーニングする最初のステップを回避でき、開発の時間をさらに短縮することができる。siRNA核酸医薬品への期待感染症は、過ぎてしまえば忘れられてしまう疾患である一方で、SARS-CoV-2のように、SARS-CoVの改変型ともいえるウイルスが再燃してパンデミックをひき起こす場合もある。そのため、どこまで開発に時間と費用を使えるか、すなわち、いかに効率よく感染症治療薬を開発できるかは全人類にとってきわめて重要な課題といえる。siRNA核酸医薬品は、ゲノム情報に基づいて比較的短時間で、かつ副作用を回避して特異性の高い医薬品を開発できる可能性があり、新しい時代の医薬品として大きな期待を寄せている。講師紹介

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COVID-19標準治療薬を決めるべく国際共同治験を実施/国立国際医療研究センター

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の国内発生の初期から本感染症患者の診療にあたってきた国立国際医療研究センター(NCGM)は、3月23日にメディア勉強会を開催し、アメリカ国立衛生研究所(NIH)と共同で抗ウイルス薬remdesivir(ギリアド・サイエンシズ)の医師主導治験を行うと発表した。勉強会ではNCGMの国際感染症センター長の大曲 貴夫氏が、治験の概要と今後の展開について説明した。どれがCOVID-19の標準治療薬として有望か 大曲氏は冒頭で高齢男性のCOVID-19症例を呈示し、「発症から重症化への進行が速いのが特徴」と述べ、人工呼吸器をつけて容体が好転し装置を外すまで1ヵ月を要したという。また、COVID-19では、致死率が高齢になるほど上がるとの中国の報告を示した。 現在、わが国で検討中の候補薬は、抗HIV薬ロピナビル・リトナビル(商品名:カレトラ)、インフルエンザ治療薬ファビピラビル(同:アビガン)、吸入ステロイド薬シクレソニド(同:オルベスコ)、セリンプロテアーゼ阻害薬ナファモスタット(同:フサンほか)/カモスタット(同:フオイパンほか)、抗ウイルス薬remdesivir(日本未承認)の5剤であり、ウイルスの増殖を抑える機能を持つ治療薬が期待されている。今後、「薬剤の不用意な使用を控えるために、まず標準治療薬を決めることが重要」と同氏は治験の意義を説明した。 今回、治験で使用されるremdesivirは、ウイルスRNA産生の減少を引き起こし、RSウイルス、コロナウイルスなどの1本鎖RNAウイルスに対し抗ウイルス活性を示すことが見いだされている。実際、2019年のエボラ出血熱流行時に使用され、安全性プロファイルも確立されている。また、SARS-CoV-2を含む複数のコロナウイルスでの抗ウイルス活性も示されているという。アダプティブCOVID-19治療試験の概要 remdesivirの治験は、本剤の安全性および有効性を検証する他施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照比較臨床試験で実施され、「アダプティブCOVID-19治療試験」(ACTT)と呼称されている。また、試験の特徴としては、アダプティブであるので、別の治療法が有効であると判明した場合、その治療法が新たな試験的治療法と比較するための対照群となる点である。 ACTTは、日本だけでなくアメリカ、韓国、シンガポールなど約75の医療機関で実施される国際多施設共同試験であり、当初の被験者数は440例とされている(ただし新治療群の追加により再計算もあり得る)。主要評価項目は15日における被験者の臨床状態で判断され、その評価項目は死亡、入院(5態様)、入院なし(2態様)など8項目で評価される。 試験の選択基準では、COVID-19感染を示唆する症状で入院している患者で試験手順などを順守・同意する患者などが対象となる(ALT/AST高値、eGFR50未満または透析者、妊娠または授乳中などの患者は除外される)。 治験介入は2群で実施、被験者は無作為化され実薬またはプラセボの投与を受ける。実薬は1日目に200mg負荷用量を静脈内投与され、入院期間中に100mg維持用量が1日1回静注投与される。治験の結果は、ギリアド・サイエンシズ社から公表される予定。 今回の治験以外にもNCGMでは、COVID-19の包括的治療・研究開発戦略として症状により段階的にシクレソニド、remdesivir、ファビピラビル、ナファモスタット、 救命治療(免疫調整薬など)などによる治療の研究を行う。 大曲氏は、最後に本症の患者登録による観察研究に触れ「1人1人の患者登録が大事になる。患者からの細かい情報が今後の研究を進展させるので、登録をお願いしたい」と期待をこめた。

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き・第1版/厚生労働省

 厚生労働省より、『新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き・第1版』の周知について、事務連絡が発出されている。本手引きは2020年3月6日時点の情報を基に作成され、17日に第1版が発行された。 概要は以下のとおり。はじめに1. 病原体・臨床像 1)感染経路・潜伏期・感染可能期間・季節性 2)臨床像 3)血液検査所見 4)画像所見2. 症例定義・診断・届出 1)症例定義 2)病原体診断 3)届出3. 治療 1)人工呼吸実施時の注意点 (1)気管挿管手技 (2)人工呼吸管理 (3)ECMO (4)中国・武漢からの報告および今後の集中治療の方向性4. 抗ウイルス薬5. 院内感染防止 1)個人防護具 2)換気 3)環境整備 4)廃棄物 5)患者寝具類の洗濯 6)食器の取り扱い 7)死後のケア 8)職員の健康管理6. 退院・生活指導 1)退院等基準 2)生活指導

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COVID-19患者、ウイルス排出期間中央値が20日/Lancet

 新型コロナウイルスへの感染が確認された成人入院患者について調べたところ、高齢、高Sequential Organ Failure Assessment(SOFA)スコア、Dダイマー値1μg/L超が、院内死亡リスク増大と関連することが示された。また、生存者のウイルス排出期間中央値は20.0日であった。中国・北京協和医科大学付属医院のFei Zhou氏らが、患者191例について行った後ろ向きコホート研究を報告した。Lancet誌オンライン版2020年3月9日号掲載の報告。1月末までに退院・死亡した患者を比較 研究グループはCOVID-19患者について、疫学的および臨床的特性は報告されているが、死亡リスク因子やウイルス潜伏期間など詳細な臨床経過は十分に描出されていないことから今回、後ろ向き多施設コホート研究を行った。 対象は、中国湖北省武漢市の金銀潭病院とWuhan Pulmonary Hospitalに入院し、2020年1月31日までに退院または死亡した18歳以上の患者。患者に関する人口統計学的特性、臨床、治療、ウイルスRNA検出のために連続的に採取された検体に関する情報などの検査データを電子医療記録から抽出し、生存者と非生存者の比較を行った。 単変量および多変量解析を行い、入院中の死亡と関連したリスク因子を調べた。年齢1歳増加で死亡リスクは1.1倍に 解析対象患者は191例(金銀潭病院135例、Wuhan Pulmonary Hospital 56例、年齢中央値56.0歳[範囲:18~87]、男性62%)で、そのうち137例が退院し、入院中の死亡は54例だった。 対象患者のうち91例(48%)は併存疾患があり、そのうち高血圧症が最も多く58例(30%)、糖尿病36例(19%)、冠動脈性心疾患15例(8%)だった。 多変量解析の結果、院内死亡リスク増大と関連していたのは、入院時において、高齢(1歳増加当たりのオッズ比[OR]:1.10、95%信頼区間[CI]:1.03~1.17、p=0.0043)、高SOFAスコア(OR:5.65、95%CI:2.61~12.23、p<0.0001)、Dダイマー値が1μg/L超(同:18.42、2.64~128.55、p=0.0033)だった。 生存者におけるウイルス排出期間中央値は20.0日(IQR:17.0~24.0)であったが、非生存者は死亡までCOVID-19の起因ウイルス(SARS-CoV-2)が検出可能だった。なお生存者においてウイルス排出が観察された最長期間は37日だった。 結果を踏まえて著者は、「医師が患者の予後不良を予見可能なリスク因子として、初期段階で高齢、高SOFAスコア、Dダイマー値が1μg/L超であることだ」と述べるとともに、「ウイルス排出が長期にわたることは、今後の感染患者の隔離および最適な抗ウイルス治療戦略の理論的根拠となる」とまとめている。

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COVID-19肺炎初期~中期にシクレソニドで改善、国内3症例の詳細

 国内における新型コロナウイルス感染症の患者を多く出したダイヤモンドプリンセス号。患者の一部について治療に当たった神奈川県立足柄上病院は3月2日、喘息治療の第1選択薬である吸入ステロイド薬のシクレソニドの投与により症状が改善した3例について、日本感染症学会のホームページにその詳細を報告した。いずれもCOVID-19による酸素化不良やCT所見などが見られたが、薬剤投与により良好な経過を得ているという。 症例の臨床的特徴や経過については、以下のとおり。症例1:73歳女性 2020年1月20日にダイヤモンドプリンセス号乗船、25日に香港に上陸。2月4日より咽頭痛、 倦怠感、食欲不振を認め、7日には38℃の発熱が出現。翌8日に検体が提出され、10日にPCR検査にてSARS-CoV-2陽性の判定となり、11日下船後、当該病院に搬送された。 入院時の採血では抗核抗体1,280倍で、手指の色調不良もあり、強皮症が疑われた。胸部レントゲンでは右下肺野に浸潤影を認め、CTでは両側中下肺野にかけてすりガラス陰影(GGO)が胸膜に沿って認められた。 当初は倦怠感が強く、ほとんど臥床状態であり、食事もできない状態であった。疎通不良や見当識障害も見られた。維持輸液およびセフトリアキソン、アジスロマイシンを開始したが改善せず、ロピナビル・リトナビル(LPV/r)を開始。解熱し、酸素化も改善したが、食欲は改善せず倦怠感が著明。GGOの陰影が増強し、領域の拡大も認められた。LPV/rの有害事象と見られる症状も出現したため、LPV/r中止後、シクレソニド吸入(200μg、1日2回)を開始(入院10日目)。開始後2日程度で発熱および酸素化が改善。食欲の回復も著明で、全身倦怠感も改善し、室内独歩可能に。鼻腔拭いPCRでSARS-CoV-2陰性を確認し、退院となった(入院19日目)。症例2:78歳男性 2020年1月20日にダイヤモンドプリンセス号乗船。2月6日より乾性咳嗽、倦怠感、食欲不振、下痢が出現し、固形物はほとんど食べられなくなった。37.4℃の発熱も見られた。16日のPCR検査でSARS-CoV-2陽性となり、16日に当該病院に入院した。 初診時の身体所見では、咽頭発赤やリンパ節腫脹はなく、肺野呼吸音に異常雑音はなかった。入院当初の胸部レントゲンでは右下肺野に浸潤影が認められた。入院5日目よりシクレソニド吸入(200μg、1日2回)を開始。来院時より水様便が持続し、食事もほとんど摂れない状態だったが、入院6日目から食欲が徐々に改善。下痢も回復し普通便となった。入院6日目には酸素中止が可能となり、倦怠感も改善。食事もほぼ全量摂取できるまでに回復した。咽頭拭いPCRでは、入院12日目の施行時にも陽性となり、シクレソニドを1,200μg/日(400μg、1 日3回)に増量して継続中。症例3:67歳女性 2020年1月20日にダイヤモンドプリンセス号乗船。2月6日より乾性咳嗽、8日より倦怠感、関節痛が出現。9日には38.9℃の発熱あり、その後食欲不振および下痢が出現し、食事がほとんどとれなくなった。16日のPCR検査でSARS-CoV-2陽性となり、そのまま当該病院に入院となった。 初診時の身体所見では、咽頭発赤やリンパ節腫脹はなく、肺野呼吸音に異常雑音はなかった。入院当初の胸部レントゲンでは右中肺野肺門部に浸潤影が認められた。来院時より倦怠感を認め、ベッドで横になっていることが多かった。食事は半量程度。増悪予防を目的として入院5日目からシクレソニド開始。入院6日目には胸部聴診で背側部からfine crackleが聴取され、CTでは両側下肺野背側にGGOを認めた。引き続き、シクレソニド投与のみで経過観察したところ、入院7日目ごろにはほとんどの症状が改善した。咽頭拭いPCRでは、入院12日目の施行時にも陽性となり、シクレソニドを1,200μg/日(400μg、1日3回)に増量して継続中。現在までの知見および考察・COVID-19に対し、シクレソニドの抗ウイルス作用と抗炎症作用が、重症化しつつある肺炎治療に有効であることが期待される。ただし、シクレソニド以外の吸入ステロイドには、COVID-19の抗ウイルス作用は現時点では認められない。・これまでの研究で、COVID-19に対するステロイド治療は、ウイルス血症を遷延させる可能性や糖尿病等の合併症があり推奨されないと報告されているが、シクレソニドはプロドラッグの吸入薬であり、肺の表面に留まるため、血中濃度増加はごく微量である。・投与時期は重症化する前の、感染早期〜中期あるいは肺炎初期が望ましく、ウイルスの早期陰性化や重症肺炎への進展防止効果が期待される。・新型コロナウイルスの増幅時間は6~8時間と考えられ、シクレソニドを頻回投与かつ肺胞に充分量を到達させるため、高用量投与を推奨する。・残存ウイルスの再活性化および耐性ウイルスの出現を避けるため、開始後は14日程度以上継続するのが望ましい。・ウイルスは肺胞上皮細胞で増殖しているため、吸入はできるだけ深く行うことが効果を高めると考えられる。・これらの知見から、以下の投与方法を提案する。 適応:COVID-19陽性確定者の肺炎 用法容量: (1)シクレソニド200μgを1日2回、 1回2吸入、14日分 (2)シクレソニド200μgを1日3回、 1回2吸入、約9日分・(1)を基本とし、重症例、効果不十分例に対しては(2)を検討する。

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COVID-19への治療薬の考え方/日本感染症学会

 日本感染症学会(理事長:舘田 一博)は、今般の新型コロナウイルス感染症の治療に関し、「COVID-19に対する抗ウイルス薬による治療の考え方 第1版」を2月26日に公開した。 本指針は、現時点で収集されている知見より抗ウイルス薬に関するわが国における暫定的な指針を示すのが目的。そして、抗ウイルス薬の使用にあたっては、現在わが国ではCOVID-19に適応を有する薬剤は存在しないことを前提に、行うことのできる治療は、国内ですでに薬事承認されている薬剤を適応外使用することであり、使用では各施設の薬剤適応外使用に関する指針に則り、必要な手続きを行うことになるとしている。抗ウイルス薬の対象と開始のタイミング 現時点では、患者の臨床経過の中における抗ウイルス薬を開始すべき時期は患者が低酸素血症を発症し、酸素投与が必要であることが必要条件。そのうえで次の4点を考慮する。1)おおむね50歳未満の患者では肺炎を発症しても自然経過の中で治癒する例が多いため、必ずしも抗ウイルス薬を投与せずとも経過を観察してよい。2)おおむね50歳以上の患者では重篤な呼吸不全を起こす可能性が高く、死亡率も高いため、低酸素血症を呈し酸素投与が必要となった段階で抗ウイルス薬の投与を検討する。3)糖尿病・心血管疾患・慢性肺疾患、喫煙による慢性閉塞性肺疾患、免疫抑制状態などのある患者においても上記2)に準じる。4)年齢にかかわらず、酸素投与と対症療法だけでは呼吸不全が悪化傾向にある例では抗ウイルス薬の投与を検討する。抗ウイルス薬の選択 現時点でのわが国における入手可能性や有害事象などの観点より次の2剤を治療薬として提示。今後、臨床的有効性や有害事象などの知見の集積に伴い、COVID-19の治療のための抗ウイルス薬の選択肢や用法用量に関し新たな情報が得られる可能性が高い。●ロピナビル・リトナビル ロピナビルはHIV-1に対するプロテアーゼ阻害剤として有効性が認められ、シトクロームP450の阻害によりロピナビルの血中濃度を保つためリトナビルとの合剤として使用。・投与方法(用法・用量)1)ロピナビル・リトナビル(商品名:カレトラ配合錠):400mg/100mg経口12時間おき、10日間程度2)ロピナビル・リトナビル(同:カレトラ配合内用液):400mg/100mg(1回5mL)経口12時間おき、10日程度*上記は抗HIV薬としての承認用量であるが、高濃度のEC50を示す可能性があり、用量については有害事象のモニターと合わせ今後の検討が必要・投与時の注意点:(1)本剤の有効性に関し、適切な重症度や投与開始のタイミングは不明(2)使用開始前にはHIV感染の有無を確認し、陽性の場合には対応について専門家に相談(3)リトナビルによる薬剤相互作用があるため、併用薬に注意する(4)錠剤の内服困難者に内用液を使用する場合、アルコール過敏がないか確認する また、本指針には、国立国際医療研究センターでの本剤使用7症例の臨床経過(2020年2月21日まで)のほか、海外での臨床報告なども記載されている。●ファビピラビル 本剤は「新型又は再興型インフルエンザウイルス感染症(但し,他の抗インフルエンザウイルス薬が無効又は効果不十分なものに限る)」に限定して承認。本剤のCOVID-19への使用実績は無い。・投与方法(用法・用量) ファビピラビル(同:アビガン)を3,600mg(1,800mgBID)(Day1)+1,600mg(800mgBID)(Day2以降)、最長14日間投与。・投与時の注意点:(1)本剤の有効性に関し、適切な重症度や投与開始のタイミングに関しては不明(2)以下の薬剤については、薬物相互作用の可能性があることから、本剤との併用には注意して使用する:1)ピラジナミド、2)レパグリニド、3)テオフィリン、4)ファムシクロビル、5)スリンダク(3)患者の状態によっては経口投与が極めて困難な場合も想定される。その場合は55°Cに加温した水を加えて試験薬懸濁液を調製する(簡易懸濁法)。被験者に経鼻胃管を挿入し、経鼻胃管が胃の中に入っていることを胸部X線検査で確認した後、ピストンを用いて懸濁液をゆっくりと注入する。その後、5mLの水で経鼻胃管を洗浄する(4)動物実験において、本剤は初期胚の致死および催奇形性が確認されていることから、妊婦または妊娠している可能性のある婦人には投与しない(5)妊娠する可能性のある婦人に投与する場合は、投与開始前に妊娠検査を行い、陰性であることを確認した上で、投与を開始する。また、その危険性について十分に説明した上で、投与期間中および投与終了後7日間はパートナーと共に極めて有効な避妊法の実施を徹底するよう指導する。なお、本剤の投与期間中に妊娠が疑われる場合には、直ちに投与を中止し、医師などに連絡するよう患者を指導する(6)本剤は精液中へ移行することから、男性患者に投与する際は、その危険性について十分に説明した上で、投与期間中および投与終了後7日間まで、性交渉を行う場合は極めて有効な避妊法の実施を徹底(男性は必ずコンドームを着用)するよう指導する。また、この期間中は妊婦との性交渉を行わせない(7)治療開始に先立ち、患者またはその家族などに有効性および危険性(胎児への曝露の危険性を含む)を十分に文書にて説明し、文書で同意を得てから投与を開始する(8)本剤の投与にあたっては、本剤の必要性を慎重に検討する 指針では以上の他にも、「COVID-19に対する治療に使用できる可能性のある抗ウイルス薬にはレムデシビル、インターフェロン、クロロキンなどがあるが、それらの効果や併用効果に関しては今後の知見が待たれる」と期待を寄せている。

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COVID-19、重症肺炎の臨床経過や投与薬剤は?/Lancet

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)関連肺炎の重症例について、臨床経過・転帰などを調査する目的で中国・華中科技大学のXiaobo Yang氏らがレトロスペクティブスタディを実施。その結果、SARS-CoV-2感染症による重症肺炎患者の死亡率の高さが明らかとなった。また、死亡者の生存期間は集中治療室(ICU)入室後1〜2週間以内の可能性があり、併存疾患や急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を有する高齢者(65歳以上)では死亡リスクの上昇もみられた。Lancet誌オンライン版2020年2月24日号掲載の報告。 研究者らは、2019年12月下旬~2020年1月26日の期間、武漢市・Jin Yin-tan hospitalのICUに入院したSARS-CoV-2関連肺炎の重症患者52例を登録。人口統計、症状、検査値、併存疾患、治療、および臨床結果などのデータを収集し、生存者と死亡者のデータを比較した。2020年2月9日時点での主要評価項目は28日間の死亡率だった。副次評価項目は、SARS-CoV-2関連のARDSの発生率と人工呼吸器を使用した患者割合だった。 主な結果は以下のとおり。・SARS-CoV-2関連肺炎710例のうち、重症患者は52例だった。・52例の内訳は、平均年齢:59.7歳(±SD:13.3)、男性:35例(67%)、慢性疾患を有する:21例(40%)で、51例(98%)が発熱した。・32例(61.5%)が28日で死亡し、死亡者のICU入室から死亡までの中央値は7日(四分位範囲:3~11日)だった。・死亡者は生存者と比較して高齢(64.6歳±11.2 vs.51.9歳±12.9)で、ARDSを発症する可能性が高い(26例[81%]vs.9例[45%])、侵襲的または非侵襲的な機械的換気を受ける可能性が高い(30例[94%]vs.7 例[35%])患者だった。・ほとんどの患者は臓器機能の障害を有し、ARDS:35例(67%)、急性腎障害:15例(29%)、心機能障害:12例(23%)、肝機能障害:15例(29%)、気胸:1例(2%)が含まれた。・37例(71%)が人工呼吸器を必要とした。・院内感染は7例(13.5%)で認められた。・治療として抗ウイルス薬が投与されたのは23例(44%)で、18例にオセルタミビル、14例にガンシクロビル、7例にロピナビルが投与された。

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