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第236回 はしか患者が全国で32人と急増、厚労省・外務省が注意喚起/厚労省

<先週の動き> 1.はしか患者が全国で32人と急増、厚労省・外務省が注意喚起/厚労省 2.大腸がん検診、精度管理と受診率向上が急務 /国がん 3.2025年度の専攻医は過去最多の9762人、外科医が増加/専門医機構 4.マイナ保険証トラブルが多発、9割の医療機関で発生 /保団連 5.医療費4兆円削減? 社会保障改革でOTC類似薬の保険適用除外を巡り3党協議へ 6.地域医療構想推進区域を全国決定 兵庫県の「東播磨」も指定/厚労省 1.はしか患者が全国で32人と急増、厚労省・外務省が注意喚起/厚労省日本国内で、はしか(麻しん)の患者報告が増加しており、注意が必要となっている。国立感染症研究所の調査によると、今年の患者数はすでに32人に達し、昨年の総患者数に迫る勢い。とくに、ベトナムへの渡航歴がある患者が多く報告されている。患者の年齢層は20~30代が中心で、全患者の7割近くを占めている。はしかは感染力が非常に強く、空気感染、飛沫感染、接触感染によって人から人へと伝播する。免疫のない人が感染すると、ほぼ100%発症すると言われており、発熱、咳、鼻水などの風邪のような症状や、発疹が現れる。重症化すると肺炎や中耳炎を合併し、脳炎を発症する場合もある。こうした状況を受け、厚生労働省と外務省は、国民に対し注意喚起を行っている。海外渡航を予定している人は、渡航先の流行状況を確認し、予防接種歴を確認することが推奨されている。予防接種を受けていない場合は、渡航前に接種を検討することが重要である。 参考 1) 麻しんについて(厚労省) 2) 海外における麻しん(はしか)に関する注意喚起(外務省) 3) 麻しん累積報告数の推移 2018年~2025年(第1~11週)(国立感染症研究所) 4) はしか患者報告相次ぐ 全国で32人 ベトナム渡航で感染か(毎日新聞) 2.大腸がん検診、精度管理と受診率向上が急務/国がん国立がん研究センターは、大腸がんの死亡率低減に向け、全国統一の検診プログラム導入を提言する「大腸がんファクトシート」を公開した。ファクトシートによると、わが国における75歳以上の大腸がん年齢調整死亡率は、諸外国と比較して高い水準にある。1992年から導入された便潜血検査による対策型検診は、死亡率の減少に一定の効果をみせたものの、その減少幅は他国に比べて緩やかである。この要因として、住民検診、職域検診、人間ドックなど、多岐にわたる検診が混在し、精度管理指標の評価が困難であることが指摘されている。結果として、検診の効果が十分に発揮されていない可能性がある。提言では、検診プログラムの全国統一化、または全数把握システムの構築を求め、データの一元管理による精度管理の向上、受診率・精密検査受診率の向上が重要であると強調している。現状では、大腸がん検診の受診率は低迷しており、2023年度の住民検診受診率はわずか6.8%に止まる。また、職域検診など、法的根拠のない検診も存在し、データが十分に公表されていない点も課題となっている。ファクトシートでは、大腸がんの病態、罹患・死亡の動向、リスク要因、検診、治療、今後の対策など、多岐にわたる情報が網羅されている。とくに、日本人のリスク要因として「喫煙、飲酒、肥満、高身長」が挙げられ、食生活や運動習慣の改善が重要であることが示された。また、便潜血検査の有効性が改めて示される一方で、大腸内視鏡検査については、現在進行中の大規模試験の結果を踏まえた慎重な検討が必要とされている。国がんは、今後の対策として、日本人に適した予防法の確立、全国統一プログラムによる検診の実施、受診勧奨の強化、精度管理の徹底などを提言している。とくに、大腸内視鏡検査については、有効性の検証とともに、対象者、処理能力、精度管理、安全性、検査歴などの課題解決に向けた検討を求めている。 参考 1) 大腸がんファクトシート(国立がん研究センターがん対策研究所) 2) 大腸がん検診、全国統一のプログラム実施を 諸外国より高い死亡率 国がんがファクトシート公開(CB news) 3) 大腸がんの罹患数・死亡数低下に向け、まず住民検診、職域検診、人間ドック等に分かれている「がん検診データ」を集約し実態把握をー国がん(Gem Med) 3.2025年度の専攻医は過去最多の9,762人、外科医が増加/専門医機構日本専門医機構は、2025年度の専攻医採用数は過去最多の9,762人となる見込みであることを明らかにした。医学部定員の増加を背景に、全体として採用数は増加傾向にある。とくに、医師不足が深刻な外科では、前年度比56人増の863人と増加が顕著であった。耳鼻咽喉科も72人増と大幅な伸びを示した。一方、精神科、産婦人科、放射線科などでは減少がみられた。地域別では、東京近郊で増加傾向にあるが、医師不足が深刻な東北地方での増加は限定的。この地域偏在の解消に向け、2026年度からは新たなシーリング制度が導入され、医師不足地域との連携を促進する仕組みとなる。専門研修と並行して研究を目指す「臨床研究医コース」は、25人と増加に転じた。機構は、2026年度に研究奨励賞を創設するなど、研究医育成への支援を強化する方針を示している。また、機構では、医師の地域・診療科偏在を解消しつつ、質の高い専門医育成を目指すため、今後も制度の改善に取り組むとしている。 参考 1) 2025年度専攻医採用数一覧(日本専門医機構) 2) 来年度の専攻医数、過去最多に(Medical Tribune) 3) 新専門医目指す「専攻医」の2025年度採用は9,762名、外科専攻医が増加、東北地方での専攻医増は限定的-日本専門医機構(Gem Med) 4.マイナ保険証トラブルが多発、9割の医療機関で発生/保団連マイナ保険証の利用を巡り、全国保険医団体連合会(保団連)が実施した調査で、医療機関の約9割で何らかのトラブルが発生していたことが明らかになった。トラブルの内容としては、氏名や住所の漢字が正確に表示されないケースが最も多く、次いでカードリーダーの接続不良や認証エラー、資格情報が無効となるケース、マイナ保険証の有効期限切れなどが報告されている。これらのトラブルにより、医療機関では窓口業務の負担が増加し、とくに高齢者を中心に、カードリーダーの使用が困難な患者や、使用方法を理解できない患者への対応に時間を要している。また、資格情報などの確認が取れるまで、患者に医療費を全額負担させるケースも発生している。保団連は、こうした状況を受け、トラブル時にバックアップとなる健康保険証の存続を訴えている。従来の保険証は、患者が医療機関を受診する際に資格を証明する重要な役割を果たしており、医療機関と患者の双方にとって有益であることが調査結果からも示唆されている。マイナ保険証の利用には、初診の患者の登録が簡単になる、資格情報の確認がオンラインで可能になるなどのメリットもある。しかし、トラブル発生時の対応に時間がかかることや、再診の患者が多い現状を考慮すると、マイナ保険証のメリットは限定的であるという指摘もある。さらに、マイナンバーカードのICチップに搭載されている電子証明書の有効期限は5年であり、2020年にマイナポイント事業でカードを作成した人の更新時期が迫っている。今後、電子証明書の失効によりマイナ保険証が利用できなくなる人が増加し、医療現場でのトラブルがさらに多発することが懸念されている。 参考 1) 保険証発行停止後の医療現場のマイナ保険証トラブルは? 8,000医療機関から回答(保団連) 2) マイナ保険証エラーで「いったん全額負担」1,720件 医療機関を全国調査したら「トラブルあった」9割(東京新聞) 3) マイナ保険証移行後にトラブル 9割の医療機関で 保団連の中間集計(CB news) 4) “マイナ保険証”使えず医療費「患者が全額負担」のケースも多数…保団連が現場トラブルの実態を報告(弁護士JP) 5.医療費4兆円削減? 社会保障改革でOTC類似薬の保険適用除外を巡り3党協議へ自民・公明・維新の3党は3月27日に、社会保障改革に関する協議体の2回目の会合を開き、OTC類似薬(市販薬と類似の医療用医薬品)の保険適用除外について、来週開催される次回の会合で議論することを決定した。維新の会の岩谷 良平幹事長は、会合後の記者会見で、主な議題は協議テーマの選定であり、1回目の会合に続きOTC類似薬の保険給付の見直しを提案したと説明。これに対し、自民・公明両党は改革案の提出を求め、岩谷幹事長は弊害や課題を整理し、協議を進める考えを示した。また、自民・公明両党は専門家を招いての議論を提案したが、維新の会は迅速な改革を主張し対立。結果として、次回の会合に専門家を招くことは見送られた。一方、日本医師会はOTC類似薬の健康保険からの適用除外に強く反対している。保険適用除外による患者の経済的負担増加や受診控えによる健康被害、薬の適正使用が困難になることを懸念している。とくに高齢者や基礎疾患を持つ患者への影響は大きく、医療費全体の増加も指摘した。ドラッグストア協会は、医療費抑制には理解を示しつつも、患者の負担増を懸念し、財源の活用方法を含めた議論を求めている。3党は今後、週1回のペースで協議を重ね、5月中旬までに一定の方向性をまとめる予定。しかし、専門家の参加や改革案の内容を巡り、早くも意見の隔たりが表面化しており、議論の行方は不透明である。 参考 1) 社保改革で実務者が初会合 自公維3党協議(日経新聞) 2) OTC類似薬の保険適用除外、3党で来週協議へ 専門家の出席巡り激しい応酬も 社会保障改革(CB news) 3) 社会保険料の削減を目的としたOTC類似薬の保険適用除外やOTC医薬品化に強い懸念を表明(日医ニュース) 4) ドラッグストア協会 OTC類似薬の保険適用除外論議にコメント(ドラビズオンライン) 6.地域医療構想推進区域を全国決定 兵庫県の「東播磨」も指定/厚労省厚生労働省は、地域医療構想の実現を加速化するため、各都道府県に「推進区域」を設定する取り組みを進めており、新たに兵庫県の「東播磨構想区域」を推進区域に追加した。これにより、全都道府県から計74ヵ所の推進区域が出そろった。高齢化の進展に伴い、2025年度には、人口の大きなボリュームゾーンを占める「いわゆる団塊の世代」がすべて75歳以上の後期高齢者となる。これに伴い、今後、急速に医療ニーズが増加・複雑化することが予想される。地域医療構想は、こうした医療ニーズの増加・複雑化に対応できるような効率的かつ質の高い医療提供体制を構築するために、各地域で進められている取り組みである。しかし、2025年度を目前に控えた現時点でも、地域医療構想の実現に向けた取り組みの進捗状況は地域によって大きなばらつきがある。具体的には、「病床の必要量と2025年の病床数見込みとの乖離があり、それに関する分析が進んでいない地域がある」「医療提供体制の課題解決に向けた工程表作成が進んでいない地域がある」といった状況となっている。さらに、すべての構想区域で、救急医療提供体制や医師確保など、医療提供体制に何らかの問題を抱えていることが判明している。そこで厚労省は、地域医療構想実現に向けた動きを加速化するため、2024年3月に、各都道府県におおむね1~2ヵ所ずつ「推進区域」を指定し、当該区域において「推進区域対応方針」を作成し、地域医療構想実現に向けた取り組みを加速化する方針を固めた。推進区域は、厚労省と都道府県とで調整し、データ特性だけでは説明できない病床数の差異や、再検証対象医療機関の対応状況、その他医療提供体制上の課題などを総合的に勘案して設定される。各都道府県は、2024年度中に、推進区域の地域医療構想調整会議で協議を行い、当該区域における将来のあるべき医療提供体制、医療提供体制上の課題、当該課題の解決に向けた方向性・具体的な取り組み内容を含む「区域対応方針」を策定し、それに基づく取り組みを推進することが求められる。また、推進区域のうち10~20ヵ所程度は「モデル推進区域」として指定され、厚労省による技術的・財政的支援が行われる。 参考 1) 地域医療構想における推進区域及びモデル推進区域の設定等について(厚労省) 2) 推進区域74ヵ所出そろう、兵庫の「東播磨」追加 25年の地域医療構想 モデル推進区域は16ヵ所(CB news) 3) 地域医療構想実現に向けた取り組みの加速化を目指す【推進区域】、兵庫県明石市、加古川市など含む「東播磨」区域を追加決定-厚労省(Gem Med)

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「H. pylori感染の診断と治療のガイドライン」改訂のポイント/日本胃癌学会

 2024年10月に「H. pylori感染の診断と治療のガイドライン」(日本ヘリコバクター学会ガイドライン作成委員会 編)が8年ぶりに改訂された。2000年の初版から4回の改訂を重ね、2024年版は第5版となる。2009年の改訂版ではH. pylori感染症の疾患概念が提起され、慢性胃炎患者に対する除菌が保険適用される契機となった。今回の2024年版は初めてMindsのガイドライン作成マニュアルに準拠して作成され、「1)総論、2)診断、3)治療、4)胃がん予防―成人、5)胃がん予防―未成年」という章立てで、CQ(クリニカル・クエスチョン)、BQ(バックグラウンド・クエスチョン)、FRQ(フューチャー・リサーチ・クエスチョン)から構成されている。 感染診断と除菌治療に関わる医師に向けた改訂ポイントとしては、「3)治療」の章の冒頭にフローチャートが追加され、通常の1~3次治療の流れとペニシリンアレルギーなどの特殊な除菌治療の流れが明確になった。また、 これまで標準的な1次除菌はプロトンポンプ阻害薬(PPI)もしくはカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)にβ-ラクタム系抗菌薬アモキシシリンとクラリスロマイシンを加えた3剤併用療法だったが、 これまでにPPIベースの3剤併用療法に比してP-CABベースの3剤併用療法の除菌率が高いというエビデンスが集積したことを踏まえ、 本ガイドラインではP-CABであるボノプラザンを軸にした3剤併用療法が推奨となっている。 胃がん診療医や内科医が患者から聞かれることの多いH. pylori検査と胃がん予防効果の関連についてはどのように記載されているか。2025年3月12~14日に行われた第97回日本胃癌学会ではヘリコバクター学会との合同シンポジウムが行われ、本ガイドライン作成委員会委員長を務めた青森県総合健診センター所長の下山 克氏が胃がん診療医向けに「H. pylori感染の診断と治療のガイドライン2024改訂版の『胃がん予防』」と題した発表を行い、「4)胃がん予防―成人」の項目を中心に改訂点やポイントを紹介した。CQ3-1 無症候一般住民への血清抗H. pylori抗体検査and(/or)ペプシノゲン(PG)検査は、胃がん予防に役立つか?A. 無症候一般住民への血清H. pylori抗体検査andペプシノゲン(PG)検査によるリスク層別化検査は胃がん予防効果が期待されるが、エビデンス不足のため現時点での推奨提示は困難である。――エビデンスが不十分な場合、CQ自体をなくすことが多いが、重要な設問であるためにあえてCQとして残し、現状を解説することとした。実際、韓国のガイドラインでは同様の内容がガイドラインに掲載されなかった。H. pylori感染未検査者を対象とし、血清H. pylori抗体検査と除菌の胃がん死亡抑制効果を長期にみた研究は少なく、現状では推奨は出せないという判断となった。CQ3-2 血清抗H. pylori抗体検査and(/orペプシノゲン)検査は胃がん予防のため毎年必要か?A. 胃がん予防のために血清抗H. pylori抗体検査およびペプシノゲン(PG)検査を毎年行うことは推奨しない。【推奨の強さ:強い、エビデンスの確実性:C】――職域の健診、人間ドックで毎年検査を受けているケースがしばしばあるが、多くの場合、H. pylori感染の確認・除菌が伴っておらず、正しい運用を徹底させることが基本となる。複数回測定することが胃がん予防につながるというエビデンスはなく、コスト面からも毎年の検査のような、繰り返すだけの実施は推奨されない。 また、血清抗体検査に関する注意点としては、測定キットの種類に違いがあることだ。少し前まではEIA法(Eプレート)が多く使われていたが、現在ではコストや利便性に勝るラテックス法が主流となっている。問題は測定法により抗体価の分布が異なることで、ラテックス法ではEプレートに比べてカットオフ以上の中に未感染者、既感染者が相当数含まれる。除菌後6年間の検査陽性率の推移を見ても、ラテックス法では6年後でも4割近くが陽性となるが、EIA法ではわずか2%程度だ。胃がんリスク検診においてはEIA法では分類基準となる抗体価として「陰性高値」を設定しているが、ラテックス法で陰性高値を設定することは誤りであることに留意してほしい。CQ3-3 一般住民への胃がん検診(X線、内視鏡検査)は胃がん診断だけでなく、一次予防に役立つか?A. 胃がん検診はH. pylori感染診断としても有用であり、一次予防効果が期待できるが、今後の検証が必要であり、現時点での推奨提示は困難である。――胃がん検診は、世界的に日本(X線、内視鏡検査)と韓国(内視鏡)でのみ行われている。胃がん検診が1次予防の役割も果たすのは、H. pylori感染胃炎患者を発見し、除菌治療につなげることである。H. pylori感染胃炎患者のほとんどが無症状で、H. pyloriの検査を受ける機会が少ないことから、健康な人が受ける胃がん検診とその画像は、感染の有無を知る貴重な機会となる。日本消化器がん検診学会では「胃X線検診のための読影判定区分」を公開しており、精検不要症例でもH. pylori感染が疑われる場合は「カテゴリー2」として区分し、必要に応じてH. pylori感染検査や除菌治療の情報提供などを行うよう推奨している1)。このように胃がん検診は一次予防効果が期待されるものの、現時点で胃がん死亡を減少させるというエビデンスは確立しておらず、今後の検証が必要な分野である。BQ1-4 内視鏡画像はH. pylori現感染の診断に有用か?A. 内視鏡画像によりH. pylori感染状態を分類できるため、現感染の診断に有用である。BQ1-5 胃X線画像はH. pylori現感染の診断に有用か?A. 胃X線画像はH. pylori現感染の診断に有用である。ただし、既感染胃の増加や、自己免疫性胃炎、PPI関連胃症の混在の可能性を考慮する必要がある。――H. pylori抗体検査の前提となる厚生労働省の指針では、胃がん検診の対象となるのは50歳以上(40歳以上も可)とされているにもかかわらず、一部の市町村や、少なくない企業健診では25~35歳から実施されている。胃がん罹患率が低い世代では、被曝をはじめとする検査のデメリットがメリットを上回ってしまう可能性がある。少なくとも胃がん検診がH. pylori感染の発見、除菌につながるものでなければならない。さらに内視鏡検査でH. pylori感染が診断されない、という問題もある。内視鏡検査で胃粘膜の状態を評価しない、要精査となった場合の内視鏡検査でもチェックされた部位のみを観察して胃粘膜を評価しない、といった意識での検査ではH. pylori感染が見落とされ、長い年月を経てからようやく診断されることもある。この点については内視鏡医の意識改革も期待したい。いずれにせよ、H. pylori感染の診断と除菌による慢性胃炎の治療と胃がんの一次予防が基本となる。BQ1-6 PPIやP-CABを使用している場合に感染診断・除菌判定は可能か?A. 尿素呼気試験(UBT)、迅速ウレアーゼ試験(RUT)、血清ペプシノゲン(PG)濃度はPPI、P-CABの影響を受けるので検査の2週間前から休薬して実施する。その他の診断法はPPI内服のまま実施できる。――以前はPPIを使用しているとほとんどの検査ができない状況だったが、その根拠となっていたエビデンスが古いもので、国内の現状に当てはまらない部分があった。PPIの影響を受けるエビデンスがある検査を挙げ、それ以外は実施可能であることを明記した。学会からの働きかけで、昨年10月には厚労省からガイドラインで実施可能とする検査についてはPPI内服中も検査の費用を算定できる旨の通達も出ている。 下山氏は「新ガイドラインでは、抗体検査に関するエビデンスなどの一般的な事項から、PPIと検査の関連など、新たなエビデンスを反映した項目までを網羅した。近年注目されているH. pylori以外のHelicobacteriについても触れている。ぜひガイドラインで最新の情報をキャッチアップしてほしい」とまとめた。

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botulism(ボツリヌス症)【病名のルーツはどこから?英語で学ぶ医学用語】第23回

言葉の由来「ボツリヌス症」は英語で“botulism”といいます。この病名の語源はラテン語の“botulus”に由来し、これはなんと「ソーセージ」を意味する言葉です。病名に食品名とは奇妙な印象ですが、この名前は1820年代にドイツ南部で発生した「ソーセージ中毒」の集団発生に関連しています。当時はソーセージ製品の保存技術が未熟だったため、毒素が産生されやすい環境が整っていたのです。ドイツの医師ユスティヌス・ケルナーが、ソーセージを食べた後の中毒症状を詳細に記述し、これが最初の臨床的なボツリヌス中毒の記述となりました。ボツリヌス中毒の原因菌であるClostridium botulinumが同定されたのは、約80年後の1895年のことでした。ベルギーの小さな村で発生した葬儀の夕食会での集団食中毒をきっかけに、ゲント大学の細菌学教授、エルメンゲムが発見しました。なお、近代以前にも、ボツリヌス中毒が認識されていた可能性はあります。たとえば、10世紀のビザンチン帝国の皇帝レオ6世が血のソーセージの製造を禁止する勅令を出していたという記録があり、これは古代からこの種の食中毒の危険性が認識されていた可能性を示唆しています。また、現代でもこの食中毒は定期的に発生しており、日本では辛子蓮根や小豆ばっとう(小豆汁にうどんが入った東北地方の郷土料理)など、真空パック製品などを原因とするボツリヌス食中毒が報告されています。併せて覚えよう! 周辺単語神経毒neurotoxin食中毒food poisoning麻痺paralysis嫌気性菌anaerobesこの病気、英語で説明できますか?Botulism is a rare but serious illness caused by a toxin that attacks the body's nerves. It causes difficulty breathing, muscle paralysis, and can be fatal. The toxin is produced by bacteria called Clostridium botulinum bacteria, which can grow in improperly preserved food.講師紹介

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家庭内空気汚染の疾病負担、1990~2021年の状況は?/Lancet

 世界的には家屋内で固形燃料(石炭・木炭、木材、作物残渣、糞)を用いて調理をする家庭は減少しており、家庭内空気汚染(household air pollution:HAP)に起因する疾病負担は大幅に減少しているものの、HAPは依然として主要な健康リスクであり、とくにサハラ以南のアフリカと南アジアでは深刻であることが、米国・ワシントン大学のKatrin Burkart氏ら世界疾病負担研究(Global Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors Study:GBD)2021 HAP Collaboratorsの解析で示された。著者は、「本研究で得られたHAPへの曝露と疾病負担に関する推定値は、医療政策立案者らが保健介入を計画・実施するための信頼性の高い情報源となる。多くの地域や国でHAPが依然として深刻な影響を及ぼしている現状を踏まえると、資源の乏しい地域で、よりクリーンな家庭用エネルギーへ移行させる取り組みを加速させることが急務である。このような取り組みは、健康リスクの軽減と持続可能な発展を促進し、最終的には何百万もの人々の生活の質と健康状態の改善に寄与することが期待される」とまとめている。Lancet誌オンライン版2025年3月18日号掲載の報告。1990~2021年の204の国と地域のデータを解析 研究グループは、1990~2021年の204の国と地域におけるHAPへの曝露と傾向、ならびに白内障、慢性閉塞性肺疾患、虚血性心疾患、下気道感染症、気管がん、気管支がん、肺がん、脳卒中、2型糖尿病および生殖に関する有害なアウトカムの媒介要因に関する疾病負担を推定した。 まず、調理に固形燃料を使用する人が曝露する微小粒子状物質(PM2.5)の燃料種別平均濃度(μg/m3)を、燃料種、地域、暦年、年齢および性別ごとに推定した。次に、疫学研究のシステマティック・レビューと、新たに開発されたメタ回帰ツールを用いて、疾患特異的ノンパラメトリック曝露反応曲線を作成し、PM2.5濃度の相対リスクを推定した。 また、曝露推定値と相対リスクを統合し、性別、年齢、場所、暦年ごとの原因別の人口寄与割合と疾病負担を推定した。HAP起因の疾病負担は減少、ただしサハラ以南アフリカと南アジアでは高リスク 2021年には、世界人口の33.8%(95%不確実性区間[UI]:33.2~34.3)にあたる26億7,000万人(95%UI:26億3,000万~27億1,000万)が、あらゆる発生源からのHAPに曝露しており、平均濃度は84.2μg/m3であった。これは、1990年にHAPに曝露した世界人口の割合(56.7%、95%UI:56.4~57.1)と比較すると顕著に減少しているが、絶対値でみると、1990年のHAP曝露者30億2,000万人から3億5,000万人(10%)の減少にとどまった。 2021年には、HAPに起因する世界の障害調整生存年(DALY)は1億1,100万(95%UI:7,510万~1億6,400万)であり、全DALYの3.9%(95%UI:2.6~5.7)を占めた。 2021年のHAPに起因する世界のDALY率は、年齢標準化DALYで人口10万人当たり1,500.3(95%UI:1,028.4~2,195.6)で、1990年の4,147.7(3,101.4~5,104.6)から63.8%減少した。 HAP起因の疾病負担は、サハラ以南のアフリカと南アジアで依然として最も高く、それぞれ人口10万人当たりの年齢標準化DALYは4,044.1(95%UI:3,103.4~5,219.7)と3,213.5(2,165.4~4,409.4)であった。HAP起因DALY率は、男性(1,530.5、95%UI:1,023.4~2,263.6)のほうが女性(1,318.5、866.1~1,977.2)よりも高かった。 HAP起因の疾病負担の約3分の1(518.1、95%UI:410.1~641.7)は、妊娠期間の短縮と低出生体重が媒介要因であった。 HAP起因の疾病負担の変化の傾向と要因分析の結果、世界のほとんどの地域で曝露の減少がみられたが、とくにサハラ以南のアフリカでは曝露の減少が人口増加によって相殺されていたことが示された。

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新型コロナ入院患者、退院後も2年以上にわたり死亡リスクは高い

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による入院歴がある人は、回復して自宅に戻れたとしても、決して安心できる状態とは言えないことが新たな研究で示唆された。COVID-19で入院した患者は、初回の感染から最長で2年半の間、全死亡リスクの高いことが明らかになったという。パリ・ビシャ病院(フランス)のSarah Tubiana氏らによるこの研究の詳細は、「Infectious Diseases」に2月27日掲載された。 Tubiana氏は、「これまで人々の関心の多くは新型コロナウイルスの短期的な危険性に向けられてきたが、われわれの研究では、COVID-19による入院歴のある人では、数カ月後、さらには数年後まで、重度の合併症リスクが高い状態が続くことが示された。この公衆衛生に対する長期的な影響は重大だ」と指摘する。 Tubiana氏らは今回の研究で、2020年1月1日から8月30日までの間にCOVID-19に罹患して入院したフランスの成人6万3,990人(平均年齢65歳、男性53.1%、COVID-19入院群)を追跡し、年齢、性別、居住地を一致させた、同時期にCOVID-19で入院していない対照群31万9,891人の健康状態と比較した。追跡期間中央値は、COVID-19入院群で894日、対照群で896日だった。 最長で30カ月間にわたる追跡期間中の10万人年当たりの累積全死亡率は、COVID-19入院群で5,218件であったのに対し、対照群では4,013件であった(発生率比1.30、95%信頼区間1.27〜1.33)。6カ月単位で分けて分析すると、COVID-19入院群の全死亡リスクは最初の6カ月間で最も高く(調整ハザード比2.93)、6〜12カ月後では低下し(同1.08)、その後は30カ月後まで大きく変化することはなかった(同1.07)。 また、COVID-19入院群はあらゆる原因により再入院するリスクも高く、10万人年当たりの累積入院率は対照群の1万2,095件に対してCOVID-19入院群では1万6,334件であった(発生率比1.35、95%信頼区間1.33〜1.37)。6カ月単位で見ると、COVID-19入院群の再入院リスクは、最初の6カ月間で最も高く(全入院の調整部分分布ハザード比2.47)、6〜12カ月後の期間で低下し(同1.21)、その後、30カ月後まで低下し続けた(同1.05)。 疾患別にCOVID-19入院群の再入院リスクを見ると、特に呼吸器疾患による再入院リスクが約2倍高かった(発生率比1.99)。また、糖尿病、慢性腎臓病、神経疾患、心血管疾患、精神疾患による再入院リスクも高かった。このような過剰リスクは、入院から6カ月(0〜6カ月)および6〜12カ月後では低下したが、24〜30カ月後では、神経疾患、呼吸器疾患、慢性腎不全、糖尿病による再入院リスクが統計学的に有意に上昇していた。 論文の上席研究者で、パリ・シテ大学(フランス)の感染症専門家であるCharles Burdet氏は、「入院から30カ月が経過しても、COVID-19患者では死亡あるいは重度の健康上の合併症リスクが高い状態が続いていた。これは、この疾患が人々の生活に長期にわたって広範な影響を及ぼすことを示している」と「Infectious Diseases」を発行するTaylor & Francis社のニュースリリースの中で述べている。同氏は、「この研究結果は、こうした長期的な健康リスクの背後にあるメカニズムと、リスクを軽減する方法を解明するための、さらなる研究の必要性を明確に示している」と付け加えている。 研究グループによると、COVID-19は全身の臓器やシステムにダメージを与えることが知られており、特に命に関わる重症の感染症となった場合、その可能性が高いという。「ただ、今回の研究は新型コロナウイルスの新しい変異株が出現する前の感染者を対象としているため、こうしたリスクはその後に新型コロナウイルスに感染した、より最近の入院患者には完全には当てはまらないかもしれない」と研究グループは付け加えている。

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デジタルアドヒアランス技術は、結核の治療アウトカムを改善するか/Lancet

 結核治療では、治療のアドヒアランスが不良であると治療アウトカムの悪化のリスクも高まることが知られており、近年、服薬アドヒアランスを改善するためのデジタル技術の評価が進められ、WHOは条件付きでこれを推奨している。オランダ・KNCV Tuberculosis FoundationのDegu Jerene氏らは、ウェブベースのアドヒアランスプラットフォームと連携したスマートピルボックスまたは薬剤ラベルを用いたデジタルアドヒアランス技術(digital adherence technologies:DAT)は、薬剤感受性結核患者における不良な治療アウトカムを低減しないことを示した。研究の詳細は、Lancet誌オンライン版2025年3月11日号で報告された。4ヵ国220施設のクラスター無作為化試験 研究グループは、薬剤感受性結核患者におけるスマートピルボックスおよび薬剤ラベルに基づくDATの有益性の評価を目的に実践的なクラスター無作為化試験を行い、2021年6月~2022年7月に4ヵ国(フィリピン、南アフリカ、タンザニア、ウクライナ)の220の施設で患者を募集した(ユニットエイド[Unitaid]の助成を受けた)。 220の参加施設(クラスター)を、標準治療群(110施設)または介入群(110施設)に無作為に割り付け、ウクライナを除いて介入群をさらにスマートピルボックス群または薬剤ラベル群に1対1の割合で無作為に割り付けた。年齢18歳以上の薬剤感受性結核患者を対象とした。 ピルボックス群の施設の患者は薬剤を保管するピルボックス(薬箱)を配布され、視覚・聴覚的に服薬を促すリマインダーが発せられて、ボックスを開けるとアドヒアランスプラットフォームに信号が送信され、服薬したとみなされた。薬剤ラベル群の患者は、コードが表示されたラベルを貼った薬剤を受け取り、治療量を服薬すると、携帯電話で無料のテキストメッセージをアドヒアランスプラットフォームに送り、これをもって服薬が完了したとみなされた。標準治療群の患者は、各国のガイドラインに準拠した標準治療を受けた。 主要アウトカムは、不良な治療終了の複合アウトカムとし、治療失敗、追跡不能(連続で2ヵ月以上の治療中断)、治療開始から28日以降における多剤耐性レジメンへの切り換え、死亡と定義した。不良な治療終了、フィリピンで8.8%、ウクライナで26.7% 2万5,606例を登録した(介入群1万2,980例、標準治療群1万2,626例)。このうち2万3,483例(91.7%)(それぞれ1万2,170例、1万1,313例)をITT集団とした。ITT集団の35.0%(8,208例)が女性で、年齢中央値は南アフリカの介入群41歳、標準治療群40歳から、フィリピンのそれぞれ47歳および46歳までの範囲であった。ITT集団のうち、介入群の1万540例(86.6%)と標準治療群の9,717例(85.9%)を主要アウトカムの解析の対象とした。 主要アウトカムの発生率は、フィリピンで最も低く(8.8%)、ウクライナで最も高く(26.7%)、南アフリカ(16.0%)とタンザニア(17.1%)はその中間であった。主要アウトカムのリスクは、4つの国のいずれにおいても介入による差は生じず、補正後オッズ比はフィリピンで1.13(95%信頼区間[CI]:0.72~1.78、p=0.59)、タンザニアで1.49(0.99~2.23、p=0.056)、南アフリカで1.19(0.88~1.60、p=0.25)であり、ウクライナの補正リスク比は1.15(0.83~1.59、p=0.38)だった。PP解析では、ウクライナを除き差はない ピルボックス群で、不注意による治療状況の開示に起因する社会的問題が2件発生し、患者の脱落につながった。また、per-protocol(PP)集団の介入群における、解析からの除外の最も頻度の高い原因は、DAT開始の失敗であった(4,884件の解析からの除外のうち4,311件[88.3%])。 PP解析による主要アウトカムの発生率は、ウクライナでは介入群で低かった(14.7%vs.25.5%、補正後リスク比:0.66[95%CI:0.46~0.94])が、他の国では差を認めなかった。 著者は、「これまでに得られたエビデンスは、DATによるアドヒアランスの改善を示しているが、治療アウトカムの結果にはばらつきがみられるため、評価されたアウトカムでは検出されなかったDATの有益性が存在する可能性が示唆されている」「追加的介入として、患者のニーズに基づくトリアージ、最小限の社会的基盤による支援しか必要としないDATの使用、低コストの携帯電話の提供、標準化されたさまざまなアプローチに関する医療従事者の訓練などを導入することで、治療アウトカムに及ぼすDATの効果が改善する可能性がある」「DATの使用は、経済的評価や、患者および関係者の嗜好、計画された治療アウトカム以外の重要な患者アウトカムへの影響に関する追加的なデータを慎重に検討したうえで行うべきである」としている。

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第256回  “撤退戦”が始まっていることに気付かない人々(後編)  長崎大病院全病床の1割以上に当たる98床削減、国も「病床1床減らせば410万円」の補助金用意、“撤退戦”本格化の兆し

メジャーで通用しなければ撤退・帰国の日本人投手、病床が埋まらなければ再編・病床削減という“撤退戦”必至の病院こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。MLBの東京シリーズ、シカゴ・カブス対ロサンゼルス・ドジャース、すごかったですね。個人的には、山本 由伸投手が好投した開幕戦よりも、佐々木 朗希投手がよれよれになりながらも、3回をなんとか1失点でしのいだ第2戦を興味深く観戦しました(もちろんテレビで)。160キロ近いスピードは出ていましたが、制球が悪く四球を連発、盗塁も2つ決められていました。それでも試合を壊さなかったのはさすがと言えるでしょう。スプリットがコントロールできない、投球フォームを盗まれるなど、多くの課題が浮き彫りになった佐々木投手ですが、逆に言えばファンは今後それらの課題克服の過程を見ることができるわけです。米国開幕3戦目の3月30日(日本時間)に予定されている米国初登板が楽しみです。一方で、今季からMLBに渡った何人かの投手の不調も伝わって来ています。中日ドラゴンズからワシントン・ナショナルズに移籍した小笠原 慎之介投手はオープン戦で打ち込まれ、防御率11.25でマイナー降格が決まっています。また、阪神タイガースからフィラデルフィア・フィリーズとマイナー契約を結んだ青柳 晃洋投手も、招待選手としてメジャーキャンプに参加しましたが、オープン戦は防御率12.00と、やはりマイナーが確定しています。ちなみに、2年前から米国で挑戦を続ける藤浪 晋太郎投手も、マイナー契約の招待選手としてシアトル・マリナーズのメジャーキャンプに参加していましたが、オープン戦の防御率5.40、制球の悪さは相変わらずでマイナー行きとなりました。日本で“そこそこ”の選手が、ただのあこがれだけでMLBに行ってもまったく通用しないということがよくわかります。この3人、昨年の上沢 直之投手のように日本に出戻る(撤退する)ことになるのでしょうか。今年のMLBはそのあたりにも注目です。さて、前回は人口減少が続き、病床が埋まらなくなれば再編や病床削減という“撤退戦”に入らなければならないのに、そうした状況に気付かない人々について、「首長や行政の人間はなぜ財政的に大赤字になることが見えているのに、立派な病院を作りたがるのでしょうか」と書きました。しかし、最前線の現場では、変化の兆しも見え始めているようです。今回はそうした動きについて書いてみたいと思います。資材や人件費の高騰を背景に各地で相次ぐ新病院の計画中止2月25日付の中国新聞によると、2月21日、広島県三次市の福岡 誠志市長は市立三次中央病院を現地で建て替え、2029年春の開院を目指す計画について、建築単価の高騰や現病院の収支悪化などを理由に「一時立ち止まり、事業の再構築を検討せざるを得ない」と明らかにしました。2025年5月を目処に基本設計を終える予定でしたが、計画は中断に至りました。また、3月6日付のNHK・青森 NEWS WEBによれば、青森県下北半島のむつ市にあるむつ総合病院で計画されていた新病棟の建設は、総事業費が当初の2倍以上に膨らんだことから計画をいったん白紙にした上で、現在の病棟の改修も含めて再検討することになりました。むつ総合病院を運営する「下北医療センター」の管理者を務めるむつ市の山本 知也市長が同日、会見を開いて明らかにしたもので、山本市長は3月に予定していた病棟の建設工事の入札を中止したことを報告、「資材の高騰などに伴って総事業費がこの3年で2倍以上のおよそ415億円に膨らみ、新たな財源を確保できないため」とその理由を説明したとのことです。さらに、3月7日付の奈良新聞によると、奈良県大和高田市の堀内 大造市長は3月6日、建物の老朽化が課題となっている市立病院について、JR高田駅東側にある県産業会館の場所を活用した新築移転計画を断念すると発表しました。施政方針で堀内市長は「市の将来の財政見通しで、物価高騰や人件費の上昇が予想され、一般会計において今後厳しい状況が見込まれる」とし、「市立病院の新築移転は大変困難であると判断した」と語ったとのことです。長崎大学病院は4月1日から一般病床を827床から729床へ98床削減2、3月には、都道府県、市町村で新年度予算を審議する議会が開かれます。病院建設計画がある自治体ではそのための予算措置が議案になるため、こうした報道が続出したものと考えられます。こうした報道から、建設費や機器・備品・システム費の高騰を背景に、前回も書いた順天堂大学の埼玉新病院建設断念と同じ状況が、病院の規模は違いますが全国各地で起こっていることがわかります。闇雲に突っ走らず、計画を中断し再考するという点は評価できます。建設費等の高騰は、自治体の首長に病院建設の再考を迫る、いいきっかけになったと言えるでしょう。とはいうものの、各地の老朽化した古い病院、病棟はそのままとなるので、これからの医療提供体制を考えると、より大胆で効率的な(かつ安上がりで済む)病院再編計画が必要になって来るでしょう。再編・リストラでは、今月はこんな報道もありました。3月13日付の長崎新聞の報道によると、長崎市にある長崎大学病院が、4月1日から一般病床を現在の827床から1割強の98床削減し、729床に再編すると発表しました。長崎大学病院の入院延べ患者数は2019年度が約27万6,000人でしたが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大で急激に減り、2023年度は約25万人に留まっていました。病床稼働率も2019年度の86.35%から2023年度は78.27%に低下していました。同紙によれば、全国42の国立大学病院で昨年までの過去10年間で一度に病床を100床規模で削減したケースはないとのことです。長崎大学病院は大学病院の大規模病床削減の先駆けになるわけです。国は病床削減した病院に1床につき410万円補助へ贅沢な大病院計画は中止する、大学病院でも大規模な病床削減を敢行する……など、医療機関の“撤退戦”が本格化しそうな2025年ですが、国もそうした状況を後押しする施策を用意しています。2024年度厚生労働省補正予算で決定した「医療施設等経営強化緊急支援事業」の中の「病床数適正化支援事業」がそれです。「効率的な医療提供体制の確保を図るため、医療需要の急激な変化を受けて病床数の適正化を進める医療機関に対し、診療体制の変更等による職員の雇用等の様々な課題に際して生じる負担について支援を行う」もので、期日(2024年度中が原則だが、2025年9月末日までになる模様)内に病床数(一般病床、療養病床及び精神病床) の削減を行う病院又は診療所に対し、削減した病床1床につき410万4,000円が交付される、というものです。国の予算では428億円が計上されています。単純に割れば、1万床分になります。同種の補助金としては、すでに地域医療介護総合確保基金の中の「病床機能再編支援交付金」があります。こちらは制度区分にもよりますが1床あたり200万円程度なので、410万円はその倍額です。各都道府県では2024年度分は申請を締め切ったようですが、知人の医療コンサルタントは「各都道府県ともかなりの申し込みが来ているようだ」と話していました。こうした補助金が、地域の医療機関の“撤退戦”や病床削減の呼び水となれば、国は2024年度だけでなく、2025年度以降も同じ規模の補助金を用意して、さらなる削減を進めることになるでしょう。ただ、こうした“店じまい”補助金はいつまでも続くとは限らないので、“早い者勝ち”になる可能性もあります。今回、「病床数適正化支援事業」の申請ができなかった病院も、次年度に向け、早めに病床削減計画を立てておいたほうがいいかもしれません。

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再発を繰り返す女性の膀胱炎【日常診療アップグレード】第26回

再発を繰り返す女性の膀胱炎問題35歳女性が繰り返す頻尿と残尿感、排尿時痛のため受診した。抗菌薬を飲むとすぐにこれらの症状は改善する。2年前から膀胱炎様症状がよく起こるようになり、昨年は3回このような症状があった。妊娠はしていない。診察時には症状はない。身体所見はとくに異常を認めない。ニューキノロン系抗菌薬を7日間処方し、膀胱炎症状が出現したらすぐに内服するよう指導した。

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治療ワクチンで超高齢社会を乗り越える!~医療の2050年問題解決に向けて

日本抗加齢医学会総会が2025年6月13日(金)~15日(日)の3日間、大阪国際会議場にて開催される。今回のテーマは『抗加齢医学4半世紀、頑張ろうぜ』。大会長である中神 啓徳氏(大阪大学大学院医学系研究科健康発達医学講座寄附講座 教授)に本総会に込める思いや注目演題について話を聞いた。医学における2050年問題のカギは技術と心の調和日本抗加齢医学会総会は今年で25年目、四半世紀の節目を迎えます。数年前には2025年問題が国内で取り沙汰されていましたが、2025年を迎えた現在、そのさらに25年後の2050年にもさまざまな分野において問題が立ちはだかっており、“2050年問題”が話題になっています。2050年という年は、第2次ベビーブームの世代が後期高齢者となる一方で労働生産人口は少ない、“支える人と支えられる人のバランスが非常に崩れた状態”で、言い換えると、後期高齢者・要介護者・認知症患者が増加する「多死の時代」です。そのような時代を迎える前に、この2025年に向けて行われてきた政府による社会保証制度の整備、医療界での健康寿命延伸などの試みなどについて効果検証し、どういう未来が待っているのかなどを議論する機会として、本学会総会がその役割を担えればと考えています。また、生成AI技術の発展などに伴い、医学が進歩するスピードはこの十数年で目まぐるしく加速し、将来予測が不能な状況にあります。今後さらにこのスピードは加速すると考えられますが、そんなときこそ医学界において重要なのは、医療技術の進歩と心の調和であり、人間に調和するような技術が必要なのではないでしょうか。治療ワクチンの現状と展望 そのような思いを込めて活動し続けているのが、疾患予防・早期治療介入のためのワクチン開発です。もともとは高血圧症や糖尿病の治療薬となるようなワクチン開発を行っていましたが、現在はその基盤やシステム構築が確立した点を活かして、眼科(網膜症)や整形外科(脊椎関節炎)などのさまざまな領域で共同研究を始めています。そして、抗体医薬品が効果を発揮しているような分野(関節リウマチ、がんなど)ではワクチンの効果が得られやすい可能性があるとも言われ、試行錯誤しながら取り組んでいます。治療薬をワクチンにするメリットには、既存医薬品のように連日投与し続ける必要がなくなる可能性がある、遺伝子検査と組み合わせることで早期の個別化治療が可能となることが挙げられます。ワクチンによる予防医学が慢性疾患などの治療選択肢の1つとなるよう、長期の効果持続が得られるように目指しています。画像を拡大するまた、近年では老化細胞を標的としたワクチンの開発研究が世界中で進められていますが、われわれも順天堂大学の南野 徹教授らと共に取り組んでいるところです。この老化細胞にはsenescenceが影響しているのですが、このsenescenceというのは“細胞が老化した状態”のことを言い、細胞が細胞分裂を繰り返していく中で「増殖を続ける(がん細胞)」「細胞が減少(apoptosis)」とも異なる、「細胞は死なないが増殖もしない」フェーズに入る状態のことです。このような老化細胞が存在するとその周囲の細胞も巻き込まれて一緒に老化が進んでしまうため、それを除去するためのワクチンを開発しています。一方で、細胞が老化することでがん化を抑制できる可能性もあるわけで、そのような視点からも老化細胞は世界中の研究者に注目されています。画像を拡大するなお、ワクチンを将来的に実用化するうえで非常に重要な指標となるのが、生物学的年齢です。暦年齢は絶対に変わることはありませんが、本当に老化を抑制できたのかどうかの判定に必要なため、生物学的年齢に関しても併せて理解しておかねばなりません。<生物学的年齢とは>「老化」は、生活習慣・外的ストレスなどの後天的要因に影響暦年齢とは異なり、「老化」をさまざまな指標で高い精度で定量生物学的年齢は介入により改善「老化」を標的とした治療薬や予防法の開発指標として着目大会長厳選、ぜひ聴講してほしい講演今大会にはこのような社会問題やわれわれの取り組みなどを反映した会⾧企画シンポジウムを予定しております。『2050年の未来医療予想図』において、小林 宏之氏(危機管理専門家・航空評論家)が「2050年の社会における危機管理」、高山 義浩氏(沖縄県立中部病院感染症内科 副部長)が「地域医療と地域包括ケアにおける連携」と題して講演を行う予定です。2050年の世界をどのように想像しているのか、危機管理の観点からぜひお話をお伺いしたく小林氏をお招きしました。また、沖縄県において急性期在宅を推進している高山氏からは、コロナパンデミックを振り返り、地域医療の観点から将来の医療の形などについてお話を伺います。画像を拡大するそしてInvited Lecture1では、生物学的年齢についてMahdi Moqri氏やSteve Horvath氏にご講演いただき、生物学的年齢が現段階でどの程度利用可能で、今後どのような活用方法がなされていくのかなどを議論したいと考えています。画像を拡大する最後となりますが、会長特別企画では元マラソンランナーでスポーツ解説者の野口 みずき氏をお招きして参加者と一緒に走るモーニングファンラン企画や万博会場内に多数のスペシャルゲストをお迎えする音楽とパフォーマンスが融合したステージイベントなどを企画しています。この機会にぜひ、職場の皆さまやご家族と共に第25回日本抗加齢医学会総会をお楽しみください。

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臨床に即した『MRSA感染症の診療ガイドライン2024』、主な改訂点は?

 2013年に『MRSA感染症の治療ガイドライン』第1版が公表され、前回の2019年版から4年ぶり、4回目の改訂となる2024年版では、『MRSA感染症の診療ガイドライン』に名称が変更された1)。国内の医療機関におけるMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)の検出率は以前より低下してきているが、依然としてMRSAは多剤耐性菌のなかで最も遭遇する頻度の高い菌種であり、近年では従来の院内感染型から市中感染型のMRSA感染症が優位となってきている。そのため、個々の病態把握や、検査や診断、抗MRSA薬の投与判断と最適な投与方法を含め、適切な診療を行うことの重要性が増している。本ガイドライン作成委員長の光武 耕太郎氏(埼玉医科大学国際医療センター感染症科・感染制御科 教授)が2024年の第98回日本感染症学会学術講演会 第72回日本化学療法学会総会 合同学会で発表した講演を基に、本記事はガイドラインの主な改訂点についてまとめた。 厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業(JANIS)の検査部門(入院検体)の2023年報では、MRSAの分離率は中央値として5.95%を示し、耐性菌の中で最も高い割合であった2)。がん患者や維持透析患者などのICU患者では、多剤耐性菌の血流感染症による死亡率が高く、MRSA感染症の死亡率は約20%とされる。 2024年版の改訂点の特徴として、臨床に即したガイドラインをめざし、従来の叙述的な内容に加えてクリニカル・クエスチョン(CQ)方式を採用し、13のCQを記載して、より臨床を意識した構成となっている。第V章の「疾患別抗MRSA薬の選択と使用」では、疾患別に11の各論で網羅的に扱い、とくに整形外科領域(骨・関節感染症)では、3つのCQで詳細に解説している。光武氏は、本ガイドラインではCQに対する推奨やエビデンスの度合いをサマリーで端的に示しているが、Literature reviewにて膨大な文献を検討したプロセスを詳細に記載しているので、各読者がとくに関心の高い項目についてはぜひ目を通してほしいと語った。 光武氏は本ガイドラインに記載されたCQのうち、以下の7項目について解説した。CQ1. MRSA感染症の迅速診断(含む核酸検査)は推奨されるか・推奨:MRSA菌血症が疑われる場合、迅速診断を行うことを提案する。・推奨の強さ:弱く推奨する(提案する)・エビデンス総体の確実性:C(弱い) 血液培養でグラム陽性ブドウ状球菌もしくは黄色ブドウ球菌が検出された患者において、MRSA迅速同定検査は従来の同定感受性検査と比較し、死亡率や入院期間を改善しないが、適切な治療(標的治療)までの期間を短縮する可能性がある。皮膚軟部組織感染症における死亡率に関しては、1件の観察研究において、疾患関連死亡率は迅速検査群が有意に低い(オッズ比[OR]:0.25、95%信頼区間[CI]:0.07~0.81)とする報告がある3)。CQ4. ダプトマイシンの高容量投与(>6mg/kg)は必要か・推奨:MRSAを含むブドウ球菌等により菌血症、感染性心内膜炎患者に対して、高用量投与(>6mg/kg)はCK上昇発生率を考慮したうえで、その投与を弱く推奨する。・推奨の強さ:弱く推奨する・エビデンス総体の確実性:B(中程度) 今回実施されたメタ解析により、複雑性菌血症および感染性心内膜症患者では、標準投与群(4~6mg/kg)のほうが、高容量投与群(>6mg/kg)よりも有意に治療成功率が低いとする結果が示された(複雑性菌血症のOR:0.48[95%CI:0.30~0.76]、感染性心内膜症のOR:0.50[95%CI:0.30~0.82])4)。そのため、病態によっては最初から高用量投与することが推奨される。CQ5. 肺炎症例の喀痰からMRSAが分離されたら抗MRSA薬を投与すべきか・推奨:一律には投与しないことを提案するが、MRSAのみが単独で検出された肺炎では抗MRSA薬投与の必要性を検討してもよい。・推奨の強さ:実施しないことを弱く推奨する・エビデンス総体の確実性:D(非常に弱い) 肺炎症例に対して、かつてはバンコマイシンを投与することがあったが、抗MRSA薬を投与することによる死亡率改善効果は認められなかったため、一律に投与しないことが提案されている(死亡リスク比:1.67[95%CI:0.65~4.30、p=0.18、2=39%])。一方で、MRSAのみが単独検出された肺炎で、とくに人工呼吸器関連肺炎(VAP)はMSSA肺炎と比較して死亡率が高い可能性があるため、グラム染色を活用しながら抗MRSA薬投与を検討する余地がある。CQ7. 血流感染においてリネゾリドは第1選択となりうるか・推奨:MRSA菌血症において、リネゾリドやバンコマイシンやダプトマイシンと同等の第1選択とすることを弱く推奨する(提案する)。・推奨の強さ:弱く推奨する(提案する)・エビデンス総体の確実性:C(弱い) MRSA菌血症に対するリネゾリド投与例は、バンコマイシン、テイコプラニン、ダプトマイシン投与例と比較し、全死因死亡率等の治療成功率において非劣性を示す結果であり、第1選択となりうる(エビデンスC)。ただし実臨床では、リネゾリド投与期間中の血小板減少発現によって投与中止や変更を余儀なくされる症例が少なくない。とくに維持透析患者を含む腎機能障害者では、血中リネゾリド濃度が高値となり、血小板減少が高率となるため、注意が必要だ。CQ8. 整形外科手術でバンコマイシンパウダーの局所散布は手術部位感染(SSI)予防に有効か・推奨:整形外科手術でSSI予防を目的としたルーチンの局所バンコマイシン散布を実施しないことを弱く推奨する。・推奨の強さ:実施しないことを弱く推奨する・エビデンス総体の確実性:D(非常に弱い) 局所バンコマイシン散布は実臨床にて行われてきたものではあるが、今回実施されたメタ解析の結果、推奨しない理由として以下の項目が挙げられた。1. 全SSIの予防効果を認めない(エビデンスD)2. インプラントを用いる手術でも、SSI予防効果は認められない(エビデンスD)3. グラム陽性球菌に伴うSSIを予防する可能性はある(エビデンスC)4. SSI予防を目的とした局所バンコマイシン散布の、MRSA-SSI予防効果は明らかでない(エビデンスD)CQ11. 耐性グラム陽性菌感染症が疑われる新生児へのリネゾリドの投与は推奨されるか・推奨:バンコマイシン投与が困難な例に対してリネゾリドを投与することを弱く推奨する。・推奨の強さ:弱く推奨する・エビデンス総体の確実性:C(弱い) リネゾリドは新生児・早期乳児・NICUで管理中の小児におけるMRSAや耐性グラム陽性球菌感染症の治療薬として考慮される。バンコマイシンの使用が困難な状況では使用は現実的とされる。新生児へのリネゾリドの投与を弱く推奨する理由として以下の項目が挙げられた。1. リネゾリドの有効性は、バンコマイシン投与の有効性と比較して差を認めなかった(エビデンスC)2. リネゾリド投与後の有害事象発生率は、バンコマイシンと比較して差を認めなかった(エビデンスC)。リネゾリド投与例では血小板減少を認めることがあり注意が必要。出生時の在胎週数が低い児に、その傾向がより強いCQ13. 抗MRSA薬と他の抗菌薬(β-ラクタム系薬、ST合剤、リファンピシン)の併用は推奨されるか・推奨:心内膜炎を含む菌血症において、バンコマイシンもしくはダプトマイシンとβ-ラクタム系薬の併用を、症例に応じ弱く推奨する(提案する)。その他の併用はエビデンスが限定的であり、明確な推奨はできない。・推奨の強さ:弱く推奨する(提案する)・エビデンス総体の確実性B(中程度) 基本は単剤治療を行い、感染巣/ソースコントロールが重要となるが、抗MRSA薬の効果がみられない場合がある。バンコマイシンの最小発育阻止濃度(MIC)=2µg/mLを示すMRSAの菌血症に対し、高用量のダプトマイシン+ST合剤(スルファメトキサゾール/トリメトプリム)併用により、臨床的改善および微生物学的改善が期待される(エビデンスB)。バンコマイシンもしくはダプトマイシン+β-ラクタム系薬併用は、菌血症の持続時間や発生は減少させるものの死亡率に差はない。バンコマイシンもしくはダプトマイシン+リファンピシン併用は、血流感染症で死亡者数、細菌学的失敗率、再発率に差はなかった。 光武氏は最後に、抗MRSA薬の現状ついて述べた。日本では未承認だが、第5世代セフェム系抗菌薬のceftaroline、ceftobiprole、oritavancin、dalbavancin、omadacycline、delafloxacinといったものが、海外ではすでに使用されているという。現時点では実臨床での使用は難しいが、モノクローナル抗体製剤、バクテリオファージ、Lysinsの研究も進められている。また、MRSA治療にAIを導入する試みも各国から数多く報告されており5)、アップデートが必要な状況となっているという。 本ガイドラインは、日本化学療法学会のウェブサイトから購入することができる。

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世界初!デューク大学の医師らが生体ドナーからの僧帽弁移植に成功

 米デューク・ヘルスの医師らが、世界で初めて心臓ドナーから提供された僧帽弁を用いた移植手術を成功させたことを、2月27日報告した。この画期的な手術により、米ノースカロライナ州の3人の少女の命が救われたという。 この手術は、ノースカロライナ州ウィルソン在住のJourni Kellyさん(11歳)が、デューク大学で心臓移植手術を受けたことで可能になった。医師らは、彼女の元の心臓から健康な弁を二つ取り出し、他の子どもに移植したのだ。 弁の一つは、ノースカロライナ州シャーロット在住のクロスカントリーランナー、Margaret Van Bruggenさん(14歳)に移植された。Margaretさんは重度の細菌感染により緊急に僧帽弁置換術を必要としていた。もう一つの弁は、ノースカロライナ州ペンブローク在住の9歳のKensley Frizzellさんに移植された。Kensleyさんは、先天性の染色体異常であるターナー症候群で生まれ、心臓に構造的な異常が認められたため、生後2カ月を迎える前に、すでに2回の心臓手術を受けていた。 現在、心臓弁の置換を必要とする子どもは、無細胞生体弁か機械弁のいずれかを移植される。ただ、いずれの弁も、子どもの身体的な成長とともに大きくならないため、数カ月以内に機能不全を起こすことが多い。「子どもには、良い弁の選択肢がない」とデューク大学医学部外科分野のDouglas Overbey氏は言う。「どちらのタイプの弁を使おうと複数回の手術が必要になるし、いずれ機能不全に陥ることも避けられない。子どもの成長に伴い弁が合わなくなるため、おそらくは6カ月後に再び同じ手術を行い、新しい弁に取り替えなければならない。このことを親に説明するのは、本当に辛いことだ」と話す。 デューク大学の新しいアプローチは、提供された心臓の生体弁を使用するもので、「部分心臓移植」と呼ばれている。生体弁を使えば、子どもの成長とともに弁も成長するため、将来の手術の必要性を減らせる可能性がある。デューク大学は、2022年にこの技術を開発して以来、米食品医薬品局(FDA)の指導下で、これまでに20件の部分心臓移植手術を行っている。 今回の3例の手術は、Journiさんが突然の心不全でデューク大学に緊急搬送されたときに始まった。Journiさんは心臓移植リストに載せられた。彼女の両親は、移植後に元の心臓の一部を提供する意思はあるかを尋ねられたという。Journiさんの継母であるRachel Kellyさんはそのときのことを、「彼らは、Journiの心臓の健康的な部分を、他の子どもを助けるために使えると説明してくれた。私たちが次に聞いたのは、『どこにサインすればいいの?』だった」と振り返る。その後、Journiさんの心臓移植の実施が可能になったとき、彼女の元の心臓の弁がMargaretさんとKensleyさんの心臓に完全に適合することが判明したという。 Margaretさんは、心内膜炎と呼ばれる重篤な細菌感染症の経験後に僧帽弁に大きな穴が開き、健康状態が急速に悪化し始めていたまさにそのタイミングで、Journiさんの生体弁を移植されたという。Margaretさんの母親であるElizabeth Van Bruggenさんは当時の心境を、「Margaretは入院していて、私たちは彼女を失う可能性もあった。でも、彼女はとても勇敢だった。だから、私も勇敢にならなければならないと思った。彼女には、世界に貢献できることが、まだたくさんある」と語る。 一方、ターナー症候群に関連した心臓病を抱えていたKensleyさんにとって、この移植は長く続いた一連の心臓手術の終わりを意味するかもしれない。Kensleyさんの父親であるKenan Frizzellさんは、「手術が必要だとは思っていたが、こんな選択肢があるとは思っていなかった。科学の進歩という観点から見ても、一般人の視点から見ても、この状況はこれまででは考えられないようなことだ。この手術の実現にどれほどの調整が必要だったのか私には想像もつかないが、恩恵を受けた家族の一員として、ただ感謝するよりほかない」と話している。

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第235回 日本人の死因、認知症が首位に、30年間の健康分析で判明/慶大

<先週の動き>1.日本人の死因、認知症が首位に、30年間の健康分析で判明/慶大2.がん医療の集約化へ、高度治療の質向上と医療資源の有効活用を目指す/厚労省3.iPS細胞による脊髄損傷治療で世界初の回復/慶大4.政府、病院船の整備を閣議決定 2026年1月までに運用開始へ/政府5.美容医療の違法広告が急増、ネットパトロールを強化/厚労省6.有料老人ホームの不正是正へ、運営透明化に向け検討会設置/厚労省1.日本人の死因、認知症が首位に、30年間の健康分析で判明/慶大慶應義塾大学と米ワシントン大学の研究グループは3月21日、過去30年間の日本人の健康状態を分析し、2015年以降、認知症が死因の第1位になったと発表した。高齢化が進む中、医療技術の向上で脳卒中などの死亡が減少したことが要因。2021年の認知症による死亡は10万人当たり約135人と、世界的にみても高い水準。研究によると、2021年の平均寿命は85.2歳と延びたが、健康上の問題なく生活できる健康寿命との差は11.3年に拡大。健康を損なってから亡くなるまでの期間が長期化している。都道府県別では、平均寿命の差は1990年の2.3年から2.9年に拡大。滋賀県が最長で青森県が最短であり、医療アクセスや生活習慣の違いが影響しているとみられる。また、高血糖や肥満といった生活習慣病のリスク増加も明らかになった。これらは認知症の発症リスクと関連しており、生活習慣の改善が重要。専門家は、認知症予防や医療体制の強化、患者が安心して暮らせる環境整備の必要性を指摘。厚生労働省の推計では、2050年には認知症高齢者が586万人に達する見込み。研究グループは、健康寿命の延伸と地域格差の是正に向け、生活習慣病対策を含めた総合的な取り組みが不可欠としている。この研究成果は、ランセット・パブリック・ヘルス誌に掲載され、日本の健康政策の指針となる可能性がある。参考1)Three decades of population health changes in Japan, 1990?2021: a subnational analysis for the Global Burden of Disease Study 2021(Lancet Public Health)2)認知症、死因首位に 医療技術進み脳卒中減少 慶大など30年分析(日経新聞)3)寿命の地域格差30年で拡大 都道府県間最大2.9年に 医療、生活習慣影響か 慶応大など分析(東京新聞)4)全国47都道府県の30年間の健康傾向を包括分析 平均寿命延長も「健康でない期間」長期化、地域格差の拡大も明らかに-認知症が死因1位に、健康改善の鈍化、糖尿病・肥満リスク増、心の健康悪化も判明-(慶大) 2.がん医療の集約化へ、高度治療の質向上と医療資源の有効活用を目指す/厚労省厚生労働省は、3月21日に「がん診療提供体制の在り方に関する検討会」を開催し、がん医療の質向上と医療資源の有効活用を目的に、高度ながん手術療法・薬物療法・放射線治療の「集約化」の必要性について議論した。少子高齢化の進行により、医療従事者の確保が困難になる中、がん診療の質を維持しつつ持続可能な体制を整えるため、拠点病院の役割分担を強化する方針が示された。検討会では、医療の集約化を「医療需給の観点」と「医療技術の観点」の2軸で分類。医療需給の面では、需要と供給のバランスを考慮し、高度な治療を特定の施設に集約することで医療の効率化を図る。医療技術の面では、新規治療や特殊設備が必要な治療を対象とし、症例の集積による技術向上を目指す。具体的には、日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会、日本放射線腫瘍学会が手術療法、薬物療法、放射線療法の各分野で集約化すべき治療法を提案。たとえば、食道がんや膵がんの高度手術、小児がんの薬物療法、粒子線治療などを対象とする案が示された。とくに手術療法については、高度な治療を国立がん研究センターや大学病院本院などで実施することが望ましいとされた。ただし、がん医療の集約化には、患者や地域住民、医療現場の理解と納得が不可欠である。治療のための長距離移動や費用負担の問題も考慮し、地域の実情に応じた柔軟な対応が求められる。今後、2025年6月に議論を整理し、夏頃に厚労省が「がん医療提供体制の均てん化・集約化」に関する通知を都道府県に発出する予定。これに基づき、各自治体での具体的な議論が進められる見込み。参考1)第17回がん診療提供体制のあり方に関する検討会(厚労省)2)高度ながん手術療法・薬物療法・放射線治療は「集約化」を検討せよ、その際、患者・地域住民・医療現場の理解も重要-がん診療提供体制検討会(Gem Med)3.iPS細胞による脊髄損傷治療で世界初の回復/慶大慶應義塾大学などの研究チームは、iPS細胞から作製した神経細胞のもとを脊髄損傷患者に移植する臨床研究を実施し、4例中2例で運動機能の回復がみられたと発表した。これはiPS細胞を用いた脊髄損傷治療で、症状の改善が確認された世界初の事例となる。今回の臨床研究では、脊髄を損傷し、体を動かせなくなった4例の患者に、iPS由来の神経細胞200万個を移植。その後1年間、免疫抑制剤を投与しながらリハビリを実施した。その結果、1例は3段階改善し、支えなしで立てるようになり歩行訓練を開始。もう1例は2段階改善し、補助具を使って食事ができるようになった。残る2例はスコアに変化はなかったが、筋力の向上がみられた。重篤な副作用は確認されなかった。脊髄損傷の患者は国内に10万人以上おり、年間6,000人が新たに診断されている。しかし、現在、確立された治療法はなく、リハビリによる改善が期待できるものの、最重度の「完全まひ」から2段階以上回復する例は約10%に止まる。今回の研究では、4例中2例が2段階以上改善し、従来の回復率を上回ったが、症例数が少ないため、iPS細胞の効果とリハビリの影響を区別することは難しいとされる。今後、研究チームは、治療の有効性を確認するための治験を行い、移植細胞の数を増やすことや、損傷から時間が経過した慢性期患者への適用も検討する。参考1)iPS細胞使った脊髄損傷治療で機能改善 慶応大学などのグループ(NHK)2)脊髄損傷の患者にiPS由来の細胞移植、4人中2人で一部回復 慶大(朝日新聞)3)iPS細胞で脊髄損傷治療「2人の重症度が改善」 慶応大など発表(毎日新聞)4.政府、病院船の整備を閣議決定 2026年1月までに運用開始へ/政府政府は3月18日、大規模災害時や感染症の拡大時に医療を提供する「病院船」導入に向けた整備推進計画を閣議決定した。石破 茂首相は関係閣僚に対し、2026年1月までに船舶を活用した医療提供体制を整備するよう指示した。病院船の運用は、南海トラフ巨大地震や首都直下地震などの大規模災害発生時に、陸上医療の補完を目的とする。計画では、患者を被災地外の医療機関へ搬送する「脱出船」と、被災地付近に停泊し、医療を提供する「救護船」の2種類を想定。これらの病院船は災害派遣医療チーム(DMAT)や日本赤十字社の協力のもと運用される。政府は、多額の費用を要する専用病院船の新造には慎重な姿勢を示しており、当面は民間の既存船舶を活用する方針を採る。とくに、医療スペースを確保しやすいカーフェリー型船舶が候補とされ、民間事業者との協定締結や必要な資機材の調達を進める。実際の運用を通じて実績を重ねた後、国が病院船を保有する可能性も検討されている。今後は、医療従事者や船舶職員の確保、実地訓練の実施、運用ガイドラインの策定などが課題となる。坂井 学防災担当相は「船舶活用医療の実効性を高めるため、1つ1つ着実に進めていく」と述べ、関係機関と連携しながら運用開始に向けた準備を進める方針を示した。参考1)病院船運用体制、来年1月までに整備 政府が推進計画閣議決定(時事通信)2)政府が海上治療できる「病院船」整備へ 災害時に活用(毎日新聞)3)災害時に船舶で医療提供 来年までに体制整備を指示 石破首相(NHK)4)来年1月までに災害時の病院船活用体制構築へ 閣議決定、民間船で運用しDMATなど従事(CB news)5.美容医療の違法広告が急増、ネットパトロールを強化/厚労省美容医療クリニックの競合が高まる中で、違法な広告がネット上で急増している。厚生労働省の調査によると、2023年度に美容医療関連の違反広告は362サイト、計2,888件確認され、とくにSNSでの「ビフォーアフター」動画や主観的な「体験談」の広告が問題視されている。こうした広告は、施術の効果を誇張し、リスクを十分に説明していないため、患者に誤解を与える可能性が高い。厚労省は、この状況を受け、ネットパトロールを強化。違反広告を掲載した医療機関に通知し、修正を促すとともに、悪質なケースについては自治体を通じた行政処分を検討する方針を明らかにしている。また、日本美容外科学会などの業界団体もガイドラインを策定し、適切なクリニック選びを支援する仕組みを構築しようとしている。違反広告の影響で、施術後にトラブルを抱えるケースも増えている。SNSの広告をみて美容整形を受けた20代女性は、施術後に鼻の穴が狭まり、呼吸困難に陥ったが、クリニックの対応は不十分だったという。患者は「リスクをもっと重く受け止めるべきだった」と語り、違法広告に対する警戒が必要だと訴えている。厚労省は、違反広告の横行を受け、「医療広告規制におけるウェブサイト等の事例解説書」を今年3月に改訂し、SNS広告の規制を強化。とくに動画広告内での体験談掲載を明確に禁止し、違反広告の具体例を示すことで、患者の誤認防止を図る方針。美容医療は本来、医学的根拠に基づいた安全な治療を提供するものであり、広告の適正化が求められる。今後、行政と業界の双方が協力し、患者が正しい情報に基づいて治療を選択できる環境を整備することが急務となっている。参考1)医療広告規制におけるウェブサイト等の事例解説書[第5版](厚労省)2)美容医療で法令違反の広告 厚労省 取り締まり強化へ(NHK)3)二重整形や医療脱毛などの美容広告 何が違反?(同)4)SNS・動画の医療広告、注意点を追記 「解説書」改訂、医政局(MEDIFAX)6.有料老人ホームの不正是正へ 運営透明化に向け検討会設置/厚労省厚生労働省は、有料老人ホームにおける高額な紹介料の支払いや過剰な介護サービス提供といった問題を受け、施設の運営透明性とサービスの質の向上を目的とした有識者検討会を設置する。検討会では、施設運営の適正化や不適切な慣行の是正に向けた具体策を議論し、2025年夏頃までに対策を取りまとめる予定。有料老人ホームは近年急増し、2023年6月時点で全国に1万6,543施設と、この10年でほぼ倍増した。しかし、施設は届け出制が中心であり、入居者の要介護度やサービス実態の把握が自治体に任されているため、運営の実態を十分に把握できていない状況が続いていた。その結果、施設を紹介する業者が、入居者の要介護度に応じて高額な紹介料を請求し、施設側が過剰な介護サービスを提供し、より多くの介護報酬を得る「囲い込み」の実態が指摘されている。厚労省の検討会には、学識経験者、事業者、消費者団体、自治体関係者のほか、国土交通省もオブザーバーとして参加し、有料老人ホームの運営基準や指導・監督の強化策について議論する。具体的には、(1)施設紹介事業の適正化、(2)施設のケアプランが利用者のニーズに即しているかの検証、(3)届け出制の改善と監督の強化が論点となる見込み。今回の対策は、2023年12月の社会保障改革方針や2024年の「骨太の方針」において、有料老人ホームの「囲い込み」防止や不適切な人材紹介手数料の是正が求められたことを受けたもの。介護保険部会では、不適切な事業者への立ち入り調査の実施や、「囲い込み」の明確な定義を求める声も上がっている。検討会の結果は、社会保障審議会の介護保険部会に報告され、2027年度に予定される介護保険制度改正にも反映される見通し。参考1)有料老人ホームの“質の確保”へ 厚労省 有識者の検討会設置(NHK)2)有料老人ホームの「囲い込み」対策具体化へ 新たな検討会で夏までに 厚労省(CB news)3)有料老人ホームの高額な紹介料問題受け 検討会立ち上げへ 厚労省(朝日新聞)4)ホスピス最大手で不正か 全国120ヵ所「医心館」(東京新聞)

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3月24日 世界結核デー【今日は何の日?】

【3月24日 世界結核デー】〔由来〕ドイツのロベルト・コッホが結核菌を発見し演説した日にちなみ、世界保健機関(WHO)が1997年に制定。世界中でこの日の前後に結核撲滅や結核の啓発について、イベントが開催されている。関連コンテンツ集団感染相次ぐ、結核の4年連続低蔓延国化は厳しいか【現場から木曜日】tuberculosis(結核)【病名のルーツはどこから?英語で学ぶ医学用語】結核再増加、「3年間限定の低蔓延国」となるか?【現場から木曜日】結核薬ベダキリンを米国と欧州が本承認【バイオの火曜日】多剤耐性結核の家庭内感染予防、レボフロキサシンは有効か/NEJM

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レナカパビル筋注、年1回でHIV予防の可能性/Lancet

 年1回筋肉内投与の2種類のレナカパビル製剤は血漿中濃度の中央値に関して、年2回皮下投与の第III相試験において有効性と関連した血漿中濃度を、少なくとも56週間にわたり上回った。2種類の製剤はどちらも安全で忍容性も良好であった。米国・Gilead SciencesのVamshi Jogiraju氏らが、年1回筋肉内投与の2種類のレナカパビル製剤の、第I相非盲検試験の結果を報告した。著者は、「今回示されたデータは、年1回の投与間隔で生物医学的にHIVの予防が可能であることを示唆するものである」と述べている。Lancet誌オンライン版2025年3月11日号掲載の報告。年1回の筋肉内投与を2種類の濃度で、年2回の皮下投与と比較検証 研究グループは、18~55歳のHIV非感染者を対象に、2種類のレナカパビル遊離酸製剤(製剤1:エタノール5%w/w、製剤2:エタノール10%w/w)を、腹側臀部筋肉内注射として単回5,000mg投与し、薬物動態、安全性および忍容性を評価した。 検体は、56週まで事前に指定された時点で採取した。レナカパビルの血漿濃度は、液体クロマトグラフィータンデム質量分析法で測定し、非コンパートメント解析で要約した。 評価した薬物動態パラメータは、年1回の投与間隔における1~365日目までの血中濃度-時間曲線下面積(AUCdays1-365)、最高血漿中濃度(Cmax)、最高血漿中濃度に達するまでの時間(Tmax)、およびトラフ濃度(Ctrough)であった。さらに、レナカパビル年2回皮下投与の第III相試験(PURPOSE 1およびPURPOSE 2)のデータと比較するため、血漿濃度データを統合した。 安全性および忍容性については、疼痛スコアなども含み評価された。年1回のレナカパビル筋肉内投与は有効、安全性と忍容性も良好 レナカパビル製剤1を20例に、製剤2を20例に投与した。試験薬とは無関係の理由による早期中止で、薬物動態パラメータの解析対象は時間の経過とともに変化し、試験参加者は少なくとも13例(製剤1)および19例(製剤2)となった。 レナカパビル筋肉内投与後、血漿中濃度は急速に上昇し、Tmax中央値は、製剤1で84.1日(四分位範囲[IQR]:56.1~112.0)、製剤2で69.9日(55.3~105.5)であった。年1回レナカパビル筋肉内投与のCmax中央値(製剤1:247.0ng/mL[IQR:184.0~346.0]、製剤2:336.0ng/mL[233.5~474.3])は、年2回レナカパビル皮下投与のCmax中央値(67.3ng/mL[46.8~91.4])を上回っていた。 52週終了時のCtrough中央値は、製剤1で57.0ng/mL(IQR:49.9~72.4)、製剤2で65.6ng/mL(41.8~87.1)であり、年2回レナカパビル皮下投与の26週終了時のCtrough中央値23.4ng/mL(15.7~34.3)を上回った。 AUCdays1-365の中央値は、製剤1で1,011.1 h*μg/mL(IQR:881.0~1,490.2)、製剤2で1,274.0 h*μg/mL(1,177.3~1,704.8)であった。 有害事象は、ほとんどがGrade1または2であった。最も多かった有害事象は注射部位の痛みであったが(製剤1:16例[80%]、製剤2:15例[75%])、一般的に軽度で1週間以内に消失し、アイスパックによる前処置によって大幅に軽減された。

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第254回 肥満症治療薬の販売が絶好調!おかげで販売元は豊満に?

海外企業の多くは12月末が決算である。このため5月以降に佳境を迎える日本と違い、すでに主要企業の決算はほぼ出そろっている。医療に関係する企業で言うならば、やはり一番大きいのが製薬業界である。2023年実績で世界ランキング20位までの製薬企業のうち、日本企業ゆえにまだ決算が発表されていない武田薬品、大塚ホールディングスと非上場のためまだ発表されていない独・ベーリンガー・インゲルハイム以外の17社はすでに決算を発表済みだ。これら各社の決算結果では当然、各社の主要製品の売上高も公表されている。この各社発表の医療用医薬品の売上高をランキング化すると、改めて近年の傾向が見えてくる。そのトップ10を見ていきたい。なお、売上高はドル換算だが、各薬剤を円換算に表示すると、やや読みづらいと思うので、100億ドル=約1兆5,000億円を軸に各読者が概算で捉えていただければと思う。売上高トップ5、2024年で変わったことまず、2024年の売上高トップの医薬品は抗PD-1モノクローナル抗体のペムブロリズマブ(商品名:キイトルーダ)の294億8,200万ドルである。近年、免疫チェックポイント阻害薬ががん治療の主流を占める中で、2023年からこの薬が世界売上高トップにつけている。第2位が抗凝固薬のアピキサバン(同:エリキュース)の206億9,900万ドル(併売するブリストル・マイヤーズスクイブとファイザーの合算)。以下順に第3位がGLP-1受容体作動薬のセマグルチドの注射薬(同:オゼンピック)の176億4,200万ドル、第4位が抗IL-4/13受容体モノクローナル抗体のデュピルマブ(同:デュピクセント)の139億4,700万ドル、第5位が抗HIV薬のビクテグラビルナトリウム・エムトリシタビン・テノホビル アラフェナミドフマル酸塩の配合剤(同:ビクタルビ)の134億2,300万ドル。このトップ5は2023年とほぼ順位は同じなのだが1点だけ異なる点がある。2023年は第3位に抗TNFαモノクローナル抗体のアダリムマブ(同:ヒュミラ)がランクインしていた。同薬は免疫疾患に広く使われ、ペムブロリズマブが同年にトップになるまで、医療用医薬品売上高の王座だった。で、2024年にはどうなったのかというと、売上高89億9,300万ドルでトップ10圏外の第11位までランクダウンした。それもこれも2023年に特許が失効し、バイオ医薬品版ジェネリックのバイオシミラーが登場し始めたからである。ちなみに特許失効前の2022年の売上高は212億3,700万ドル。実に過去2年間で57.7%の減収である。製薬業界ではこの特許失効時期を境に該当製品の売上が急減することを「パテントクリフ」、日本語で直訳すると「特許の崖」と評するが、まさにその状況である。もっともこれでもアダリムマブはまだましなほうである。というのも、低分子の経口薬ならば、特許失効後半年程度で売上高の6割がジェネリック医薬品に置き換わるからである。ご存じのように低分子の経口薬と違い、培養が必要なバイオ医薬品では完全に同一条件で製造ができないため、バイオシミラーは先発のバイオ医薬品の同一成分ではなく同等・同質の成分。この結果、経口薬のジェネリック医薬品に比較的寛容な欧米の医師でも処方には慎重になりがちだ。6~10位にもある変化がさて第6位以降はどうだろう。第6位が抗IL-23p19モノクローナル抗体のリサンキズマブ(同:スキリージ)の117億1,800万ドル、第7位が抗CD38モノクローナル抗体のダラツムマブ(同:ダラザレックス)の116億7,000万ドル、第8位が持続性GIP/GLP-1受容体作動薬のチルゼパチド(同:マンジャロ)の115億4,000万ドル、第9位が抗IL-12/23p40モノクローナル抗体のウステキヌマブ(同:ステラーラ)の103億6,100万ドル、第10位が抗PD-1モノクローナル抗体のニボルマブ(同:オプジーボ)の93億400万ドル(ブリストル・マイヤーズスクイブ分のみの売上高)だった。第6~10位を2023年と比べると、トップ5と同じくある医薬品がトップ10外にランクダウンしている。それは一般人にとってはもはや喉元過ぎた熱さと言えるかもしれない、ファイザーの新型コロナウイルス感染症ワクチンのコミナティである。2023年には112億2,000万ドルの売上高だったが、2024年は53億5,300万ドルで52.3%の減収となった。もっとも新型コロナに限らず、感染症ワクチンはある種季節もの的な側面はあるため、取り立てて驚くような話でもない。一方、アダリムマブとコミナティのランクダウンに代わって2024年に新たにトップ10入りしたのが第6位のリサンキズマブと第8位のチルゼパチドである。前者はアダリムマブの製造販売元のアッヴィが戦略上、アダリムマブの後継品の1つに位置付けている医薬品である。現状、両薬で共通する適応症は乾癬と炎症性腸疾患だが、今後、新規患者では企業側自体がリサンキズマブに注力する可能性が高いため、アダリムマブの後退に代わって、より伸長していく可能性が高いだろう。そして第8位のチルゼパチドは前年比2.24倍という驚異的な売上伸長で初めてトップ10入りした。もともとは2型糖尿病治療薬として発売(同:マンジャロ)され、2025年4月11日に肥満症治療薬(同:ゼップバウンド)として発売が決定している。ちなみに第3位のセマグルチドも商品名としてのオゼンピックは2型糖尿病が適応だが、同一成分で肥満症を適応とするウゴービがある。ただ、以前の本連載でも触れたが、オゼンピック、マンジャロとも純粋に2型糖尿病治療薬として使われているとは言い難く、実際にはいわゆるダイエット目的の自由診療で相当程度使われ、今回の両製品の公式売上高もその分が相当含まれていると思われる。そして公式の肥満症治療薬としての2024年の製品売上高は、ウゴービが85億3,300万ドル、ゼップバウンドが49億2,600万ドルだった。それぞれ2023年比で1.86倍、24.6倍も売上高が伸長している。この調子だとウゴービ、ゼップバウンドともに2025年もかなりの売上伸長となりそうだ。ウゴービの場合は今回の集計では第12位で、2025年売上高はトップ10にGLP-1受容体作動薬関連が4製品もランクインする事態が現実味を帯びている。もちろんこれが適応症に沿って医学的に正しく使われているのならば何も問題はないが、そうではないことを否定できる人は誰もいないはずだ。もはや世界的に“なんだかなあ?”と言いたくなるような状況なのである。

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獨協医科大学 血液・腫瘍内科【大学医局紹介~がん診療編】

今井 陽一 氏(主任教授)遠矢 嵩 氏(准教授)中村 文美 氏(講師)吉原 さつき 氏(助教)講座の基本情報医局独自の取り組み・特徴獨協医科大学病院は圧倒的症例数と最新鋭の設備で北関東の医療をリードする特定機能病院です。血液・腫瘍内科は広範囲の医療圏から多くの血液疾患の患者さんにご来院いただき、白血病・悪性リンパ腫・多発性骨髄腫を中心とした造血器腫瘍から再生不良性貧血などの造血障害まで幅広く血液疾患の診断と治療にあたっています。患者さんお一人おひとりに寄り添いながら、キメラ抗原受容体T細胞療法(CAR-T細胞療法)などの最先端治療を積極的に導入するなど最適な血液診療の提供を心掛けています。とくに多発性骨髄腫はCAR-T細胞療法、二重特異性抗体療法を取り入れ最先端の治療を推進しています。臨床研究では、16施設の多施設共同前向き臨床研究を主導して、多発性骨髄腫の維持療法における遺伝子変異・免疫状態の変化を世界に先駆けて解明すべく取り組んでいます。基礎研究は、ゲノム・フローサイトメトリー解析、分子生物学、疾患モデルマウスを駆使して造血器腫瘍の病態解明を目指し、新規治療法の開発を目指しています。このように、私たちの教室は目の前の患者さんの癒しを第一に考えることを礎に、さまざまな形で血液診療の推進に貢献できる医療人の育成を目指しています。日光・那須の素晴らしい景観に囲まれた充実した環境で共に切磋琢磨する仲間をお待ちしております。力を入れている治療/研究テーマ当科では、急性白血病などの造血器腫瘍のほか、再生不良性貧血などの特発性造血障害も含めた幅広い血液疾患に対する診療を行っています。通常の化学療法に加えHLA半合致移植(ハプロ移植)を含む造血幹細胞移植も行い、2025年にはCAR-T細胞療法も開始し、豊富かつ多彩な臨床経験を積むことができます。また、近年は血液疾患診療を行うにも遺伝子変異の理解が必要です。当科では次世代シーケンスを用いた遺伝子変異解析も行っており、経験知と理論的理解の双方に基づいた診療を行っています。研究についても、基礎研究から臨床研究まで幅広く行っています。私個人としては造血器腫瘍の遺伝子変異と病態の関連性や、日和見ウイルス感染症にとくに注目して研究を行っています。学会参加に対する補助もあり、学会発表や論文執筆の機会も多いです。医学生/初期研修医へのメッセージ血液内科に多忙、激務といったイメージをお持ちの方もいるかもしれません。当院ではチーム診療を行っており休日は交代制で十分確保できますし、残業も少なく、無理なく持続可能な形で経験や実績を積むことができると思います。同医局でのがん診療/研究のやりがい、魅力北関東で高度な血液診療を提供できる施設は限られているため、遠方からも患者さんが来院されています。当院に対する期待と信頼を感じ、患者さんに希望を提供できるように、日々取り組んでいます。当科では症例報告や後方視的研究について学会発表をするだけではなく、多施設共同前向き研究の提案や参加をすることで、新たなエビデンスの確立にも貢献しています。基礎研究では、技術的なサポートが充実しているおかげで、診療と研究の両立が可能になっています。医局の雰囲気、魅力若手、ベテランを問わず、よりよい診療を提供するために、助け合っています。治療方針に悩む場合には、定時のカンファレンスだけでなく、随時、相談することが可能となっており、安心して診療ができます。週末・休日は当番制のため、プライベートとの両立が可能です。また、それぞれのキャリアプランに応じて、医局がサポートしてくれます。医学生/初期研修医へのメッセージ血液内科は新規薬剤や細胞療法の導入で、治療成績の向上を実感できるとてもやりがいのある科です。血液内科に興味のある先生方、一緒に頑張ってみませんか?これまでの経歴獨協医科大学病院で初期研修、国立病院機構栃木医療センターで内科専門医プログラムを修了し、2024年4月に獨協医科大学病院血液・腫瘍内科に入局しました。同医局を選んだ理由患者さんの診断から看取りまで伴走したいと思い、総合内科で学んでいましたが、より専門的な知識や技術があれば、治療や終末期といった患者さんの重要な意思決定により深く関われるのではないかと思いました。血液疾患は症状が多彩で診断の面白さがあり、急性期は集中治療の側面もあることから内科の醍醐味だと思いました。また、当医局では臨床医としてもきめ細やかな先生が研究にも従事しており、多面的に疾患や臨床を捉えている姿を見て、こういう医師になりたいと思いました。当院は県内外から多くの患者さんが集まるため血液疾患も多彩であり、他診療科との連携もしやすく、良い環境と考えました。現在学んでいること悪性リンパ腫や急性白血病の入院患者さんを担当し、化学療法について学んでいます。大学院進学予定であり、今は臨床研究の準備をしています。獨協医科大学 血液・腫瘍内科住所〒321-029 栃木県下都賀郡壬生町北小林880問い合わせ先ketsueki@dokkyomed.ac.jp医局ホームページ獨協医科大学 血液・腫瘍内科専門医取得実績のある学会日本内科学会(認定内科医・総合内科専門医)日本血液学会日本造血・免疫細胞療法学会日本輸血・細胞治療学会日本感染症学会日本臨床腫瘍学会研修プログラムの特徴(1)幅広い症例と専門的な指導急性白血病や悪性リンパ腫、多発性骨髄腫など多様な疾患を経験でき、造血幹細胞移植やCAR-T細胞・二重特異性抗体療法など最先端の治療にも携わることができます。専門医の手厚い指導のもと、診断から治療まで実践的に学べる環境です。 (2)充実した設備と豊富な実践機会無菌室を備えた移植ユニットや最新の検査・治療設備を活用し、骨髄穿刺や腰椎穿刺などの基本手技から移植管理まで幅広く経験できます。学会発表や研究のサポートも整い、学術的な成長も後押しします。 (3)働きやすい環境とキャリア支援都市部の利便性を持ちながら、地方ならではの温かい雰囲気の中で研修でき、研修医一人ひとりに合った指導を受けられます。計画的なローテーションで血液内科の基礎をしっかり固め、専門医取得や大学院進学、海外研修など多様なキャリアを支援します。詳細はこちら

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細菌性膣症、男性パートナーの治療で再発予防/NEJM

 細菌性膣症は生殖可能年齢の女性の約3分の1に認められ、再発は一般的である。細菌性膣症の原因菌のパートナー間での感染エビデンスは、半面で男性パートナーへの治療が治癒を高めることも示唆することから、オーストラリア・モナシュ大学のLenka A. Vodstrcil氏らStepUp Teamは、一夫一婦関係にあるカップルを対象とした非盲検無作為化比較試験を行い、細菌性膣症の女性への治療に加えて、男性パートナーに対して経口および局所抗菌薬治療を行うことにより、12週間以内の細菌性膣症の再発率が標準治療と比べて低下したことを報告した。NEJM誌2025年3月6日号掲載の報告。一夫一婦関係のカップルをパートナー治療群または女性のみ治療群に無作為化 試験は2019年4月~2023年11月に、オーストラリアの3州で展開する2つの性の健康サービス(sexual health services)および3つの家族計画サービス(family-planning services)の施設で行われた。 一夫一婦関係にあるカップルを1対1の割合でパートナー治療群(女性とその男性パートナーに治療)または対照群(女性のみに治療)に無作為に割り付けた。パートナー治療群では、女性は初回治療として推奨される抗菌薬の投与を受け、男性パートナーは経口および局所の抗菌薬治療(メトロニダゾール400mg錠の投与および2%クリンダマイシン クリームの陰茎皮膚への塗布、いずれも1日2回を7日間)を受けた。対照群では、基材を問わずクリーム塗布による陰茎部の細菌叢構成の変化への懸念から、女性にのみ初回抗菌薬治療を行った。再発の絶対リスク差、パートナー治療群が-2.6例/人年で有意差 81組のカップルがパートナー治療群に、83組のカップルが対照群に無作為化された。 試験はデータおよび安全性モニタリング委員会の判断によって、150組が12週の追跡調査完了後に、女性のみの治療が女性および男性パートナー両者への治療に対して劣性であったため中止された。 修正ITT集団において、12週間以内の細菌性腟症の再発はパートナー治療群の女性で24/69例(35%、再発率1.6例/人年[95%信頼区間[CI]:1.1~2.4])、対照群の女性で43/68例(63%、4.2例/人年[3.2~5.7])であった。再発の絶対リスク差は-2.6例/人年(95%CI:-4.0~-1.2)であった(p<0.001)。 治療を受けた男性における有害事象は、悪心、頭痛、金属味などが報告された。

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高齢者のために開発された抗原量4倍のインフルワクチン「エフルエルダ筋注」【最新!DI情報】第35回

高齢者のために開発された抗原量4倍のインフルワクチン「エフルエルダ筋注」今回は、「高用量4価インフルエンザHAワクチン(商品名:エフルエルダ筋注、製造販売元:サノフィ)」を紹介します。本剤は、国内初の高用量4価インフルエンザHAワクチンであり、60歳以上の成人におけるインフルエンザの新たな予防選択肢として期待されています。<効能・効果>インフルエンザの予防の適応で、2024年12月27日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>60歳以上の人に1回、0.7mLを筋肉内接種します。なお、医師が必要と認めた場合には、他のワクチンと同時に接種することができます。<安全性>重大な副反応として、ショック、アナフィラキシー、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)、脳炎・脳症、脊髄炎、視神経炎、ギラン・バレー症候群、けいれん(熱性けいれんを含む)、肝機能障害、黄疸、喘息発作、血小板減少性紫斑病、血小板減少、血管炎(IgA血管炎、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、白血球破砕性血管炎など)、間質性肺炎、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)、急性汎発性発疹性膿疱症、ネフローゼ症候群(いずれも頻度不明)があります。その他の副反応は、疼痛(43.8%)、頭痛、筋肉痛、倦怠感(いずれも10%以上)、紅斑、腫脹、硬結、内出血、そう痒感(注射部位そう痒感、ワクチン接種部位そう痒感)、下痢、嘔吐、咳嗽、口腔咽頭痛、鼻炎、上咽頭炎、悪寒、発熱、疲労(いずれも0.1~10%未満)などがあります。<患者さんへの指導例>1.このワクチンは、60歳以上の人に対してインフルエンザの予防目的で接種されます。2.このワクチンの接種により、インフルエンザウイルスに対する抗体ができてかかりにくくなります。3.接種後一定時間は体調に変化がないか様子をみるため、背もたれや肘かけのある椅子など、体重を預けられるような場所で座るなどして待っていてください。4.待っている間は、なるべく立ち上がることを避け、座っていてください。5.接種当日は激しい運動を避け、接種部位を清潔に保ってください。<ここがポイント!>インフルエンザは、インフルエンザウイルスにより引き起こされる感染力の強い急性ウイルス性疾患です。流行するインフルエンザウイルスには、A型(H1N1亜型およびH3N2亜型)とB型(山形系統およびビクトリア系統)の4種類があります。インフルエンザは、すべての年齢層で感染して発症しますが、とくに65歳以上の高齢者が罹患すると、重症化するリスクが高くなり、死亡に至ることがあります。インフルエンザの発症や重症化の予防にはワクチン接種が効果的です。通常、4価インフルエンザHAワクチン(各インフルエンザウイルス株につき15μg)が接種されますが、高齢者では若年成人と比較して免疫応答が不十分なことがあります。エフルエルダ筋注は、60歳以上の高齢者に対する予防効果を高めるために、1株当たりの抗原量を60μgに増量した国内初の高用量4価インフルエンザHAワクチンです。65歳以上の成人を対象とした海外第III/IV相試験(FIM12試験)におけるインフルエンザ発症率について、高用量ワクチン群の標準用量ワクチン群に対する相対的有効性は24.24%であり、高用量ワクチンの優越性が検証されました。また、60歳以上の日本人健康成人を対象とした国内第III相試験において、赤血球凝集抑制(HAI)幾何平均抗体価(GMT)比およびHAI抗体陽転率から、標準用量4価インフルエンザHAワクチンに対する優越性が検証されました。

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Fusobacterium necrophorum【1分間で学べる感染症】第22回

画像を拡大するTake home messageFusobacterium necrophorumは、嫌気性のグラム陰性桿菌でLemierre症候群の原因菌として重要である。今回は、多彩な病状と重篤な病態を引き起こす可能性のあるFusobacterium necrophorumに関して一緒に学んでいきましょう。Fusobacterium necrophorumとはFusobacterium属は、偏性嫌気性のグラム陰性桿菌で、口腔内を中心に消化管や女性の生殖器に常在しています。グラム染色では長桿菌またはフィラメント状を呈することが多いです。Fusobacterium属の中でもFusobacterium necrophorumはとくに病原性が強く、壊死性・血栓形成性の感染症を引き起こしやすいとされています。どんな感染症を引き起こすかFusobacterium necrophorumは、咽頭炎を契機に内頸静脈血栓性静脈炎を引き起こすLemierre症候群の原因菌として知られていますが、それ以外にも歯周膿瘍や扁桃周囲膿瘍、肝膿瘍や脳膿瘍などの播種性転移性病変を合併することがあります。Lemierre症候群とはLemierre症候群とは、敗血症性内頸静脈血栓性静脈炎のことを指します。一般的に健康な成人に好発し、咽頭炎に続発して発症します。Fusobacterium necrophorumによる血流感染に伴い、両側化膿性肺塞栓症や時には化膿性関節炎、肝膿瘍、脳膿瘍などを合併することもあります。稀にFusobacterium necrophorum以外にA群β溶血性連鎖球菌やS. anginosus group、Porphyromonasなど、ほかの嫌気性菌や腸内細菌などが原因のこともあります。薬剤感受性・治療のポイントFusobacterium属は、β-ラクタマーゼを産生する株が4~23%と一定の割合で存在することが報告されています。また、メトロニダゾールには一般的に感受性を示し、マクロライド系(アジスロマイシンなど)やアミノグリコシド系には耐性を示すことが知られています。したがって、第1選択としては、アンピシリン・スルバクタム、タゾバクタム・ピペラシリン、またはカルバペネム系が推奨されます。またメトロニダゾールも検討されます。膿瘍形成の大きさによっては上記の抗菌薬に加え、外科的ドレナージ術を並行して行うことも重要です。Fusobacterium necrophorumは壊死性感染を引き起こすこともあります。健康な若年成人の咽頭炎後の頸部痛、敗血症を診たらLemierre症候群を疑い、血液培養を採取し、速やかに抗菌薬治療を開始することが重要です。1)Holm K, et al. Anaerobe. 2016;42:89-97.2)Nygren D, et al. Clin Microbiol Infect. 2020;26:1089.e7-1089.e12.

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高齢の市中肺炎、セフトリアキソンvs.スルバクタム・アンピシリン

 高齢者の市中肺炎の初期対応として、嫌気性菌をカバーするスルバクタム・アンピシリン(SBT/ABPC)などが用いられることがある。しかし、カナダの市中誤嚥性肺炎患者を対象とした多施設後ろ向きコホート研究では、嫌気性菌カバーは院内死亡リスクを低下させず、C. difficile大腸炎リスクを上昇させたことが報告されている1)。そこで、山本 舜悟氏(大阪大学)らの研究グループは、市中肺炎により入院した65歳以上の患者を対象としたデータベース研究を実施し、セフトリアキソン(CTRX)とSBT/ABPCを比較した。その結果、SBT/ABPCのほうがCTRXよりも院内死亡率が高かった。本研究結果は、Open Forum Infectious Diseases誌2025年3月5日号に掲載された。 研究グループは、健康・医療・教育情報評価推進機構が管理するデータベースを用いて、2010~23年に市中肺炎により入院した65歳以上の患者のうち、初期治療としてCTRXまたはSBT/ABPCを用いた患者2万6,633例を抽出した。CTRX群とSBT/ABPC群の比較にはtarget trial emulationのデザインを用いた。主要評価項目は院内死亡率とし、副次評価項目はC. difficile感染症(CDI)の発生率とした。逆確率重み付け法を用いて、両群の調整リスク差(aRD)、調整オッズ比(aOR)、それらの95%信頼区間(CI)を推定することで評価した。 主な結果は以下のとおり。・CTRX群は1万1,727例、SBT/ABPC群は1万4,906例であった。・院内死亡率はCTRX群9.0%、SBT/ABPC群10.5%であり、SBT/ABPC群が高かった(aRD[95%CI]:1.5%[0.7~2.4]、aOR[95%CI]:1.19[1.08~1.31])。・CDIの発生率はCTRX群0.4%、SBT/ABPC群0.6%であり、SBT/ABPC群が高い傾向にあった(aRD[95%CI]:0.2%[0.0~0.4]、aOR[95%CI]:1.45[0.99~2.11])。・誤嚥リスク因子を1つ以上有する集団を対象としたサブグループ解析において、院内死亡率はCTRX群11.5%、SBT/ABPC群14.2%であり、SBT/ABPC群が高かった(aOR[95%CI]:1.27[1.14~1.40])。・同様に、誤嚥リスク因子を1つ以上有する集団のCDIの発生率はCTRX群0.5%、SBT/ABPC群0.8%であり、SBT/ABPC群が高い傾向にあった(aOR[95%CI]:1.52[1.00~2.31])。 本研究結果について、著者らは「膿胸や肺膿瘍などの嫌気性菌の関与が明らかな場合を除き、高齢の市中肺炎患者に対する初期治療として、嫌気性菌カバーする抗菌薬の使用は避けるべきである可能性が示された」とまとめた。

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