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ASCO2023 レポート 血液腫瘍

レポーター紹介はじめにASCO2023の年次総会(6月2日~6日)は、ようやくCOVID-19が感染症法上の5類扱いとなったことで海外への渡航もしやすくなり、米国シカゴで現地参加された日本人の先生方もおられたと思います。今年も現地参加に加えWEBでの参加(視聴)も可能であり、私は昨年と同様に、現地まで行かずに通常の病院業務をしながら、業務の合間や終了後に時差も気にせず、オンデマンドで注目演題を聴講したり発表スライドを閲覧したりしました。それらの演題の中から、今年も10の演題を選んで、発表内容をレポートしたいと思います。以下に、悪性リンパ腫(慢性リンパ性白血病含む)関連4演題、多発性骨髄腫関連3演題、白血病/MDS関連3演題を紹介します。悪性リンパ腫(慢性リンパ性白血病含む)関連SWOG S1826, a randomized study of nivolumab(N)-AVD versus brentuximab vedotin(BV)-AVD in advanced stage (AS) classic Hodgkin lymphoma (HL). (Abstract #LBA4)本臨床試験は、プレナリーセッションで発表された注目演題である。昨年のASCO2022にて、進展期の未治療ホジキンリンパ腫に対し、それまでの標準治療であったABVD療法と、ブレンツキシマブ ベドチンとブレオマイシンを置き換えたA-AVD療法を比較したECHELON-1試験の6年のフォローアップの結果が示され、全生存率でもA-AVDがABVDよりも優れていたという結果が発表された。今回の試験では、進展期の未治療ホジキンリンパ腫に対し、抗PD-1抗体薬ニボルマブとAVDを併用したN-AVDと、新たな標準治療となったA-AVDを比較した試験の中間解析結果が報告された。N-AVD(496例)、A-AVD(498例)に割り付けられた。本試験では、ECHELON-1試験には組み入れられなかった12~17歳の未成年患者が約4分の1含まれていた。主要評価項目のPFS(1年時点)は、94%と86%でHRは0.48と有意にN-AVDが優れていた。また、副作用として、G-CSFの1次予防の実施がA-AVDではほぼ全例、N-AVDでは約半数だったことで、好中球減少はN-AVDで多く認められたが、感染症の発症率はほぼ同等であった。末梢性神経障害はA-AVDで多く認められた一方、ニボルマブによる免疫関連の副作用(IrAE)は、ほとんど問題なかった。今後、フォローアップを継続し、晩期の副作用の発現や再発後の治療選択なども見ていく必要がある。Results of a phase 3 study of IVO vs IO for previously untreated older patients (pts) with chronic lymphocytic leukemia (CLL) and impact of COVID-19 (Alliance). (Abstract #7500)未治療高齢CLL患者に対し、イブルチニブ(I)とオビヌツズマブ(O)併用後のI治療継続(IO)と、IOにベネトクラクス(V)を12ヵ月間併用し、MRD陰性の場合は治療を終了し、MRDが残存する場合はI治療を継続する(IVO)治療を比較する第III相試験の中間解析結果が報告された。465例(IO群:232例、IVO群233例)がエントリーされ、18ヵ月時点でのPFSは、IO群87%、IVO群85%で差を認めなかった。14サイクル終了時点でのCR率とMRD陰性率は、IO群で31.3%と33.3%、IVO群で68.5%と86.8%であり、IVO群で高かった。18ヵ月時点でのIVO群のMRD陰性例と陽性例のPFSには差がみられなかった。有害事象としては、両群ともCOVID-19による死亡例が最も多く(IVO群>IO群)、COVID-19の流行により、臨床試験の結果は大きな影響を受けることとなった。今後、長期のフォローアップにより、MRD陰性例(治療中止例)のPFSのデータが出た時点で、Vの併用の意義が明らかになると考える。A phase 2 trial of CHOP with anti-CCR4 antibody mogamulizumab for elderly patients with CCR4-positive adult T-cell leukemia/lymphoma. (Abstract #7504)日本からの発表。同種移植の適応とならない高齢アグレッシブCCR4陽性ATL患者に対するモガムリズマブ(Moga)とCHOP-14の併用療法(Moga-CHOP-14)の第II相試験の結果である。アグレッシブATLは難治性の疾患であり、同種移植の適応とならない患者の生命予後はきわめて不良である。寛解導入療法のCHOP療法は、奏効率も低く、生命予後の改善も乏しい。50例のATL患者(年齢中央値74歳)にMoga-CHOP-14×6サイクル+Moga×2サイクルが実施された。1年PFSが36.2%、ORRが91.7%(CRが64.6%)、1年OSが66.0%であった。主な有害事象は、血球減少とFN(G3以上64.6%)、皮疹(G3以上20.8%)であった。Moga-CHOP-14療法は、高齢ATL患者に対する治療オプションとして有用と考えられる。Epcoritamab + R2 regimen and responses in high-risk follicular lymphoma, regardless of POD24 status. (Abstract #7506) 再発・難治の濾胞性リンパ腫(FL)に対し、CD20×CD3の二重特異性抗体薬epcoritamab(Epco)とリツキシマブ・レナリドミド(R2)を併用した治療の第II相試験(Epcoの投与スケジュールが異なる2群)の統合解析結果が報告された。2つの試験の対象となった111例が解析された。患者の年齢中央値は65歳で、CS III/IVが22%/60%であり、FLIPIの3〜5が58%であった。57%は前治療のライン数が1であり、POD24は38%が該当した。全奏効率は98%、完全代謝奏効(CMR)は87%であった。POD24に該当するハイリスク患者においてもそれぞれの奏効率は98%/75%と、治療効果は良好であった。有害事象は、CRSと好中球減少をそれぞれ48%で認めたが、CRSは46%がGrade1〜2であり、Grade3は2%であった。また、有害事象によって治療中止となった例はなかった。現在、第III相試験(EPCORE FL-1試験、EPCORE NHL-2試験)が行われている。多発性骨髄腫関連Carfilzomib, lenalidomide, and dexamethasone (KRd) versus elotuzumab and KRd in transplant-eligible patients with newly diagnosed multiple myeloma: Post-induction response and MRD results from an open-label randomized phase 3 study. (Abstract #8000)未治療の多発性骨髄腫(MM)患者に対するKRd療法とエロツズマブ(E)を併用したE-KRd療法の第III相比較試験(DSMM XVII試験)が行われた。試験デザインは6サイクルの寛解導入後、1回の自家移植(CRが得られない場合あるいはハイリスク染色体異常の場合は2回)を実施し、4サイクルの地固め実施後、レナリドミド(R)あるいはエロツズマブ+レナリドミド(ER)の維持療法を行うこととなっている。579例がランダム化された。寛解導入後の効果について、主要評価項目の1つでもあるVGPR以上でMRD陰性例の割合は、KRd/E-KRdで、35.4/49.8%であり、Eの併用効果を認めた。Grade3以上の有害事象もE併用により、66.3%から75.3%に増えているが、感染症による死亡例はそれぞれ0.3/1.2%で差はなく、COVID-19例も4.4/3.2%で差を認めなかった。未治療MMに対し、Eの併用の有用性が初めて示された試験である。First results from the RedirecTT-1 study with teclistamab (tec) + talquetamab (tal) simultaneously targeting BCMA and GPRC5D in patients (pts) with relapsed/refractory multiple myeloma (RRMM). (Abstract #8002)トリプルクラス抵抗性のMM患者の生命予後は、きわめて不良であり、それらの患者に二重特異性抗体薬が高い有効性を示すことが報告され、欧米では承認されている。標的分子が異なるそれらの治療薬を併用することで、さらなる治療効果の増強が期待される。本発表では、BCMA×CD3の二重特異性抗体薬のteclistamab(Tec)とGPRC5D×CD3の二重特異性抗体薬のtalquetamab(Tal)の併用治療の第Ib相試験(RedirecTT-1試験)の結果が報告された。93例の再発・難治MM患者(前治療のライン数:4、33.3%がハイリスクの染色体異常を有し、79.6%がトリプルクラスレフラクトリー、37.6%が髄外腫瘤を有していた)が参加している。本試験は用量設定試験であり、用量は4段階あるが、有効性は全奏効率が86.6%、CR以上が40.2%であり、第II相の推奨用量(Tec:3.0mg/kg+Tal:0.8mg/kg Q2W)では、全奏効率が96.3%、CR以上が40.7%と、優れた治療成績が示された。また、CRSや骨髄抑制などの有害事象は単剤治療とほぼ変わりなかった。今後のさらなる開発が期待される。Talquetamab (tal) + daratumumab (dara) in patients (pts) with relapsed/refractory multiple myeloma (RRMM): Updated TRIMM-2 results. (Abstract #8003)再発・難治MM患者に対するGPRC5D×CD3の二重特異性抗体薬のtalquetamab(Tal)とダラツムマブ(Dara)を併用した試験(TRIMM-2試験)のアップデート成績が報告された。65例(前治療のライン数:5、トリプルクラス抵抗性:60%、抗CD38抗体薬抵抗性:78%、二重特異性抗体薬抵抗性:23%、BCMA標的治療歴:54%)が参加した。追跡期間中央値16ヵ月時点の成績は、全奏効率81%(VGPR以上:70%、CR以上:50%)であり、奏効が得られた症例の80.9%で、12ヵ月時点で奏効が持続しており、PFSの中央値は19.4ヵ月、1年PFS率は70%、1年OS率は92%であった。有害事象は既知のものであり、CRSも78%で認められたが、すべてGrade1〜2であった。TalとDaraの併用は、トリプルクラス抵抗性(とくに抗CD38抗体薬抵抗性)のMMに対し、新たな治療オプションとして注目される。白血病/MDS関連Efficacy and safety results from the COMMANDS trial: A phase 3 study evaluating lus patercept vs epoetin alfa in erythropoiesis-stimulating agent (ESA)-naive transfusion dependent (TD) patients (pts) with lower-risk myelodysplastic syndromes (LR-MDS). (Abstract #7003)赤血球輸血依存のLow-リスクMDS患者に対するluspatercept(Lus)とエリスロポエチン製剤(ESA)との第III相比較試験の中間解析結果が報告された。対象となった患者は、IPSS-RでのLow-リスクであり、環状鉄芽球の有無は問わず、血清Epo値が500U/L未満であり、ESAの投与歴がない輸血依存(4~12単位の輸血を8週間以上継続している)状態の患者であった。Lusは3週に1回の皮下注、ESAは週1回の皮下注にて投与され、24週以上継続した。Lusは178例、ESAは176例の患者が割り付けられた。主要評価項目である開始24週以内における12週以上の輸血非依存の達成率(Hb 1.5g/dL以上上昇を伴う)は、Lusで58.5%、ESAで31.2%であった。治療薬関連の副作用は、Lusで30.3%、ESAで17.6%に認められ、副作用による中止はLusで4.5%、ESAで2.3%であった。また、AMLへの進行は、それぞれ2.2%と2.8%であった。Lusは、輸血依存のLow-リスクMDSに対し、貧血の改善効果がESAよりも優れていることが示された。A first-in-human study of CD123 NK cell engager SAR443579 in relapsed or refractory acute myeloid leukemia, B-cell acute lymphoblastic leukemia, or high-risk myelodysplasia. (Abstract #7005)CD123(IL-3レセプターのα鎖)を発現している細胞とNK細胞を結び付けるSAR443579(SAR)の再発・難治AML、およびCD123陽性HighリスクMDS、B-ALL患者に対する第I/II相試験の結果が発表された。SARは、週2回と週1回の静脈内投与で2週間投与され(10~3,000μg/kg/dose)、その後、週1回(100~3,000μg/kg)の投与スケジュールとなり、寛解導入期は3ヵ月、その後、維持療法期には約28日ごとの投与となる。23例の患者(全員AMLの診断)が登録され、最高用量の3,000μg/kgまで用量制限毒性は認められなかった。有害事象で最も多かったのはIRR(13例)であり、CRSは1例(Grade1)のみに認められた。有効性は、3例でCR/CRiが得られており、その3例は1,000μg/kgの投与量であった(1,000μg/kgでは8例中3例がCR/CRi:37.5%)。新たなNK細胞エンゲージャー治療薬の今後の開発の進展が期待される。Chemotherapy-free treatment with inotuzumab ozogamicin and blinatumomab for older adults with newly diagnosed, Ph-negative, CD22-positive, B-cell acute lymphoblastic leukemia: Alliance A041703. (Abstract #7006)未治療Ph陽性のALLに対し、TKIとブリナツモマブ(Blina)を併用したケモフリーレジメンの有用性が示されているが、本研究では、未治療Ph陰性、CD22陽性のB-ALLの同種移植の適応とならない高齢患者に対し、イノツズマブ オゾガマイシン(Ino)とBlinaの併用によるケモフリーレジメンが試験されている。Inoを1~2サイクル投与し、その後、Blinaで地固めを行う。33例(年齢中央値:71歳)が試験に参加し、最良治療効果のCRcは96%、1年EFS率が75%、1年OS率が84%であった。主な有害事象は骨髄抑制(Grade3以上の好中球減少:87.9%、血小板減少:72.7%)で、FNは21.2%にみられ、有害事象での死亡例は2例(脳症と呼吸不全)のみにみられた。通常の化学療法と比較し、とくに寛解期での死亡例が少なく、移植非適応のPh陰性ALL患者には、安全性の高い治療法である。おわりに以上、ASCO2023で発表された血液腫瘍領域の演題の中から10演題を紹介しました。ASCO2021、ASCO2022でも10演題を紹介しましたが、今年も昨年、一昨年と同様、どの演題も今後の治療を変えていくような結果であるように思いました。来年以降も現地開催に加えてWEB開催を継続してもらえるならば、ASCO2024にオンライン参加をしたいと考えています(1年前にも書きましたが、もう少しWEBでの参加費を安くしてほしい、円安が続く今日この頃[笑])。

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円安に負けず、お得に海外旅行に出かけよう!【医師のためのお金の話】第70回

ようやく日本でも、新型コロナウイルス感染症の規制が緩和されました。世界に遅れること約1年。最後尾での規制緩和ですが、ようやくコロナ禍前のように気軽に海外旅行に行けるようになりました。新型コロナウイルス感染症のために海外旅行に行けない状況はなくなりましたが、別の理由で海外旅行の敷居は高いです。その理由とは、もちろん急激に進行した円安。もともと日本円の購買力低下は、静かに進行していました。しかし、2022年になってから、目に見える形で円安が進行しました。残念ながら、主要通貨の中で日本円よりも弱い通貨は存在しません。日本円の実力を示す実質実効為替レートは、50年前の1970年代前半レベルにまで落ち込んでいます。ようやく新型コロナウイルス感染症の制限がなくなったと思ったら、海外旅行が辛くなるほど日本円の購買力が落ちていた…。笑えない状況ですが、やはり海外旅行に出かけて新しい体験をしたいですね。円安に負けず海外に行く方法を考えてみましょう。3年ぶりの海外は驚きの連続だった!今年のゴールデンウイークに、私は2週間ほど東ヨーロッパに旅行しました。コロナ禍が始まった2020年3月のタイ旅行以来、初めての海外旅行だったのでとても新鮮でした。そして3年振りの海外は、日本国内とまったく異なる風景で驚きの連続でした。まず、マスクをしている人が皆無です。コロナ禍の痕跡は「keep distance」という張り紙をところどころで見かける程度。コロナ? 何それ? といった感覚で、日本とのギャップに驚きました。唯一マスクをしていたのは、航空会社の客室乗務員だけでした。マスク姿を見かけないだけではありません。航空機の搭乗券がほぼなくなっていることにも驚きました。スマホのQRコードをかざすだけで搭乗です。入出国審査も自動化ゲートがメジャーでした。現地通貨も使用機会がありません。クレジットカードのみでほぼOK。いまだにクレジットカードお断りの店が少なくない日本との格差に、ただただ驚くばかりでした。そして非接触型(コンタクトレス)決済ではないクレジットカードは使い物にならず、骨董品扱いでした。最大の衝撃は、アジア系のほとんどの人たちは、韓国もしくは中華系だったことです。ポーランド、チェコ、ハンガリーで2週間の間に会った日本人は皆無でした。私たちにとって、海外旅行はかなりハードルが上がってしまったのかもしれません。格安に海外旅行をする方法私たち日本人にとって、今の円安状況が海外旅行のハードルを上げていることは事実でしょう。しかし、海外旅行は高いからといって、ただただ指をくわえているのは避けたいところです。お得に海外旅行に行く方法を考えてみましょう。旅行の時期を考える航空機のチケットや宿泊施設の価格は、時期や曜日によって大きく異なります。最も旅行費用を抑えることができるのは、日本発着の時期を閑散期にすることでしょう。しかし、医師は時間的融通の利きにくい職種。長期休暇を取得できる時期は限られています。次善の策として、日本を発着する曜日を数日ずらして混雑しない平日を検討しましょう。私はゴールデンウイーク期間中に海外旅行をしましたが、2日ほど日本発着をずらしただけで、大幅に航空機費用を削減できました。少しマイナーな目的地を選ぶ人気のある観光地や都市は高価になる傾向にあります。一方、あまり知られていない観光地を選ぶと、旅行費用を節約できます。東ヨーロッパのプラハやブダペストは、パリやロンドンほど人気の観光地ではないので、リーズナブルな価格で旅行できました。フライトの価格を比較するスカイスキャナーやGoogle flightなどの価格比較サイトやアプリを利用すると、複数の航空会社のフライト価格を一括して比較できます。最安値のフライトを簡単に見つけることができるのでお勧めの方法です。できるだけ早い時期に予約する航空業界やホテル業界では、レベニューマネジメントという手法でフライト価格や宿泊価格を決めています。端的に言うと、顧客の需要に応じて商品やサービスの料金を変動させる価格決定手法です。一般的には、早い時期に予約すればするほど、フライト価格や宿泊価格は安価です。半年前から予約可能なケースが多いので、この時期に予約すると安価で済むケースが多いです。ちなみに、今年のゴールデンウイーク旅行は、2022年12月に予約しました。地元レストランはGoogle mapを利用しよう!海外旅行では、地元レストランの食事も楽しみの1つです。しかし、日本語メニューは期待できません。しかし、英語メニューで十分かというと、そういうわけでもありません。英訳の精度が低いため、予想外の食事が出てくるケースが多いのです。そのような時に役立つのがGoogle mapです。Google mapの店舗紹介では、大量の食事の画像がアップされています。たくさんオーダーされているメニューほどたくさんの画像がアップされているので、人気メニューも一目瞭然です。オーダーするときには、Google mapの画像を店員に指し示すだけでOK。面倒なメニュー解読も必要ありません。もちろんGoogle mapでお店にも間違いなくたどり着けます。海外旅行ではGoogle mapは必需品といえるでしょう。ここまで述べてきたように、海外旅行も日々進化しています。ちょっとした工夫と便利なアプリ利用を組み合わせることで、お得な海外旅行が可能です。チャンスがあれば、夏休みは海外に行きたいものですね!

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COVID-19罹患前の睡眠状態が長期的な罹患後症状に影響

 多くのCOVID-19生存者が長期にわたる罹患後症状を経験しており、公衆衛生上の深刻な問題となっている。これまでのところ、COVID-19罹患後症状の状態に影響を及ぼすリスク因子の特定はあまり進んでいない。イタリア・ラクイラ大学のFederico Salfi氏らは、COVID-19の長期的な罹患後症状の発生に対する感染前の睡眠の質や時間、不眠症の重症度の影響について評価を行った。その結果、感染前の睡眠の質/量および不眠症重症度には、罹患後症状の発生数と用量依存的な関連性があることが示唆された。著者らは、「睡眠の健康状態の予防的な改善がCOVID-19の罹患後症状を軽減できるかを判断するためには、さらなる研究が必要である」としている。Brain, Behavior, and Immunity誌8月号の報告。  本研究は、2020年4月と2022年4月の2つの評価を含めたプロスペクティブ研究である。ベースライン時(2020年4月)に、SARS-CoV-2感染が現在または過去にない参加者において、睡眠の質/時間、不眠症状を評価した。睡眠状態の評価には、ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)、不眠症重症度質問票(ISI)を用いた。フォローアップ時(2022年4月)には、COVID-19生存者に対し、罹患後1ヵ月(713例、2020年4月~2022年2月に感染)および3ヵ月(333例、2020年4月~2021年12月に感染)の21症状の有無をレトロスペクティブに調査した。また、COVID-19から完全に回復するまでの期間も調査した。長期的な罹患後症状の数に対する感染前の睡眠状態の影響を推定するため、zero-inflated負の二項回帰モデルを用いた。睡眠変数、罹患後症状それぞれの発生率と、感染4週後/12週後の回復割合との関連性の評価には、二項ロジスティック回帰を用いた。 主な結果は以下のとおり。・感染前の睡眠状態が、COVID-19後1ヵ月/3ヵ月の罹患後症状の数に大きく影響していることが明らかとなった。・過去にPSQIスコア、ISIスコアが高く、睡眠時間が短い人では、COVID-19後1ヵ月/3ヵ月の時点におけるほぼすべての長期的な罹患後症状のリスクが有意に高かった。・ベースライン時の睡眠障害は、COVID-19後、感染前の日常的な機能レベルに戻るまでの期間が長期化することとも関連していた。

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COVID-19罹患後症状の追跡調査(解説:小金丸博氏)

 COVID-19に罹患した一部の患者にさまざまな罹患後症状(いわゆる後遺症)を認めることがわかってきたが、その原因やメカニズムはまだ解明されておらず、効果的な介入方法も確立していない。罹患後症状はpost COVID-19 condition、long COVID、post-acute sequelae of SARS-CoV-2 infection(PASC)などと呼ばれ、WHOは「新型コロナウイルスに感染した人にみられ、少なくとも2ヵ月以上持続し、他の疾患による症状として説明できないもの」と定義している。罹患後症状の種類や有病率、長期経過の把握は、治療方法や介入方法を検討するための臨床試験の設計につながる有益な情報となる。 今回、COVID-19罹患2年後までの健康状態の変化を追跡したスイスの人口ベース前向き縦断コホート研究の結果がBMJ誌2023年5月31日号に報告された。感染者と未感染者を比較していることが本研究の特徴の1つである。患者の訴える症状がCOVID-19に関連する症状かどうかを判断することは難しいが、未感染者と比較することで統計学的に評価することが可能となっている。時間の経過とともに症状の重症度や健康障害は軽減していたが、罹患24ヵ月後の時点で感染者の18.1%(95%信頼区間:14.8~21.9)にCOVID-19関連症状を認めた。罹患6ヵ月後の時点で頻度の高かった罹患後症状と思われる症状は、味覚・嗅覚の変化(9.8%)、労作後倦怠感(9.4%)、集中力低下(8.3%)、呼吸困難(7.8%)、記憶障害(5.7%)、疲労(5.4%)などであった。 COVID-19罹患後症状の長期的な転帰を評価した過去の研究の多くは入院患者などに限定した集団を対象としており、さまざまな重症度のCOVID-19の症状や回復経過のばらつきを完全には反映していない可能性があった。本研究では疾患の重症度では対象を限定せず、幅広く解析対象に組み込んでいることが特徴である。ただし、18歳以上の成人、ワクチン未接種者、初回感染である者などに対象を限定しており、小児やワクチン接種者での罹患後症状の経過については判断できない。とくに現在はワクチン接種者が数多く存在するようになっており、ワクチン接種が罹患後症状にどのような影響を与えるかは興味ある点である。 本研究では解析されていないが、抗ウイルス薬の投与が罹患後症状の予防に有効であることが報告されてきている。重症化防止のみならず、罹患後症状の予防という観点は、今後の抗ウイルス薬投与の方針を決めるうえで重要な要素になると考える。

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オミクロン株(XBB.1.5)に対応した追加免疫に関する承認事項一部変更申請/モデルナ

 メッセンジャーRNA(mRNA)治療薬とワクチンのパイオニアであるバイオテクノロジー企業 Moderna(米国)の日本法人モデルナ・ジャパンは2023年7月7日、「スパイクバックス筋注」において、12歳以上を対象にオミクロン株(XBB.1.5)に対応した追加免疫用1価ワクチンとして厚生労働省に承認事項一部変更申請を行ったことを発表した。 Modernaは、6月に開催された米国食品医薬品局(FDA)の諮問会議VRBPACにおいて、オミクロン株の派生型であるXBB.1.5、XBB.1.16およびXBB.2.3.2などのXBB亜系統に対して免疫応答を示すXBB.1.5対応の1価ワクチンに関する予備的な臨床データを発表している。 モデルナ・ジャパン代表取締役社長の鈴木 蘭美氏は、「今回承認事項一部変更を申請したModernaのワクチンは、現在流行しているオミクロン株の派生型であるXBB.1.5に対応している。新型コロナウイルス感染症は、日本の公衆衛生にとって引き続き警戒が必要であり、とくに高齢者や基礎疾患がある重症化リスクが高い人への接種が推奨される。この重要なワクチンを一刻も早く皆さまへ届けられるよう、引き続き厚生労働省と協力していく」としている。

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ワクチン別、デルタ/オミクロン期の重症化抑制効果/BMJ

 米国退役軍人の集団において、デルタ株およびオミクロン株の優勢期で、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染して30日以内の人を対象に、ワクチン接種の回数や種類と、入院や死亡などの重症アウトカムとの関連性を調べた後ろ向きコホート研究が、米国・Lieutenant Colonel Charles S. Kettles VA Medical CenterのAmy S. B. Bohnert氏らにより実施された。本研究の結果、ワクチンの種類にかかわらず、未接種者よりも接種者のほうが重症化率や死亡率の低下が認められた。また、mRNAワクチンに関しては、ファイザー製よりもモデルナ製のほうが高い効果が得られることが示唆された。BMJ誌2023年5月23日号に掲載の報告。 本研究の対象となったのは、デルタ株流行期(2021年7月1日~11月30日)およびオミクロン株流行期(2022年1月1日~6月30日)において、SARS-CoV-2感染が初めて記録された退役軍人会に所属する18歳以上の27万9,989例で、平均年齢59.4歳(SD 16.3)、男性87%であった。なお、対象者は試験登録以前の18ヵ月以内にプライマリケアを受診していない人に限られた。対象者が接種した新型コロナワクチンは、ファイザー/ビオンテック製(BNT162b2)、モデルナ製(mRNA-1273)、ヤンセンファーマ/ジョンソン・エンド・ジョンソン製(Ad26.COV2.S)のいずれかで、異なる種類のワクチンの組み合わせは除外した。主要評価項目は、SARS-CoV-2陽性判定から30日以内での入院、ICU入室、人工呼吸器の使用、死亡とした。 主な結果は以下のとおり。・デルタ株流行期では、9万5,336例が感染し、47.6%がワクチン接種を1回以上受けていた。2回接種は3万5,994例(37.8%)、3回接種は1,691例(1.8%)。・オミクロン株流行期では18万4,653例が感染し、72.6%がワクチン接種を1回以上受けていた。2回接種は5万6,911例(30.8%)、3回接種は5万6,115例(30.4%)。・デルタ株流行期では、mRNAワクチン2回接種は、ワクチン未接種と比較して、重症アウトカムの発生率低下と関連していた。入院 調整オッズ比(OR):0.41(95%信頼区間[CI]:0.39~0.43)、ICU入室 OR:0.33(95%CI:0.31~0.36)、人工呼吸器 OR:0.27(95%CI:0.24~0.30)、死亡 OR:0.21(95%CI:0.19~0.23)。・オミクロン株流行期では、mRNAワクチン2回接種は、ワクチン未接種と比較して、重症アウトカムの発生率低下と関連していた。入院 OR:0.60(95%CI:0.57~0.63)、ICU入室 OR:0.57(95%CI:0.53~0.62)、人工呼吸器 OR:0.59(95%CI:0.51~0.67)、死亡 OR:0.43(95%CI:0.39~0.48)。・さらに、オミクロン株流行期でmRNAワクチン3回接種は、2回接種と比較して、入院OR:0.65(95%CI:0.63~0.69)、ICU入室 OR:0.65(95%CI:0.59~0.70)、人工呼吸器 OR:0.70(95%CI:0.61~0.80)、死亡 OR:0.51(95%CI:0.46~0.57)となり、すべてのアウトカムの発生率低下と関連していた。・ヤンセン製ワクチンは、ワクチン未接種と比較して転帰が良好であったが(オミクロン期における入院 OR:0.70[95%CI:0.64~0.76]、ICU入室 OR:0.71[95%CI:0.61~0.83])、mRNAワクチン2回投与と比較して、入院およびICU入室の発生率が高かった(オミクロン期における入院 OR:1.16[95%CI:1.06~1.27]、ICU入室 OR:1.25[95%CI:1.07~1.46])。・ファイザー製ワクチンは、モデルナ製ワクチンと比較して、より悪いアウトカムと関連している傾向が示された。オミクロン期で3回接種の場合、入院 OR:1.33(95%CI:1.25~1.42)、ICU入室 OR:1.21(95%CI:1.07~1.36)、人工呼吸器 OR:1.22(95%CI:0.99~1.49)、死亡 OR:0.97(95%CI:0.83~1.14)。・オミクロン株流行期でmRNAワクチン接種を3回受けた人では、最後のワクチン接種からの期間が7~90日よりも91~150日のほうが、より悪いアウトカムと関連していた。入院 OR:1.16(95%CI:1.07~1.25)、死亡 OR:1.31(95%CI:1.09~1.58)。 著者らは、「重症アウトカムを起こした患者の割合は、デルタ期よりもオミクロン期のほうが低かったが、ワクチン接種のステータスと結果については、2つの期間で同様のパターンが観察された。この結果は、治療薬がより普及していても、新型コロナの感染予防だけでなく重症化や死亡リスクを低減するための重要なツールとして、ワクチン接種が引き続き重要であることを裏付けている」とまとめている。

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第155回 史上初の7月に継続するインフルエンザ流行、コロナ禍で免疫低下か/厚労省

<先週の動き>1.史上初の7月に継続するインフルエンザ流行、コロナ禍で免疫低下か/厚労省2.急性期充実体制加算について議論、地域格差や医療体制の影響を懸念/中医協3.2022年度の労災補償状況:精神障害に関する労災、医療・福祉が最多/厚労省4.製薬業界と診療側が対立-薬価と安定供給問題で/中医協5.人件費の高騰やコロナの影響で2022年度の決算は減少、先進医療にも影響/国立大学病院6.返上相次ぐマイナンバー、個人情報保護委員会が立ち入り検査へ/デジタル庁1.史上初の7月に継続するインフルエンザ流行、コロナ禍で免疫低下か/厚労省厚生労働省の発表によると、インフルエンザの流行が史上初めて7月にも続いていることや、コロナ禍による免疫低下が影響している可能性があることが判明した。7月7日に発表された都道府県別のインフルエンザ患者数では、1医療機関当たりの患者数では、鹿児島県が20.07人と最も多く、宮崎県が7.34人、長崎県5.26人、熊本県3.99人と九州で感染が広がっていた。一方、新型コロナウイルスの感染状況では、沖縄県に次いで鹿児島県が全国で2番目に感染者数が多く、数の増加が報告されている。専門家らは、手洗いやうがいなど基本的な対策の徹底を呼びかけている。参考1)2023年7月7日 インフルエンザの発生状況について(厚労省)2)2023年7月7日 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生状況等について(同)3)新型コロナ 定点把握で全国2番目 インフルエンザは全国最多(NHK)4)インフルエンザ、史上初めて7月もなお流行…コロナ禍で免疫低下が影響か(読売新聞)2.急性期充実体制加算について議論、地域格差や医療体制の影響を懸念/中医協厚生労働省は、7月6日に中央社会保険医療協議会の入院・外来医療等の調査・評価分科会を開催した。この中で2022年度の診療報酬改定で新設された「急性期充実体制加算」の届け出が42都道府県の病院からあったことを明らかにした。急性期充実体制加算は、急性期一般入院料1の病院が整備する高度で専門的な急性期医療の評価として導入されたもので、急性期一般入院料1の病院の占める割合では、島根県が最も高い割合で取得していた。しかし、5つの県では届け出がなく、地域ごとにばらつきがあると指摘されている。また、総合入院体制加算から急性期充実体制加算への移行に伴って、小児・周産期・精神科入院医療の体制が縮小する可能性が懸念されており、地域医療の影響について、引き続き注視する必要があるとしている。参考1)令和5年度第3回 入院・外来医療等の調査・評価分科会(中医協)2)急性期充実体制加算、42都道府県で届け出 22年9月時点、厚労省集計(CB news)3)総合入院体制加算から急性期充実体制へのシフトで地域医療への影響は?加算取得病院の地域差をどう考えるか-入院・外来医療分科会(Gem Med)3.2022年度の労災補償状況:精神障害に関する労災、医療・福祉が最多/厚労省厚生労働省が公表した2022年度の労災補償状況によると、精神障害に関する労災の請求件数と支給決定件数では「医療、福祉」が最も多かったことが明らかになった。精神障害に関する労災の請求件数は2,683件で、そのうち「医療、福祉」が624件と最も多く、支給決定件数も「医療、福祉」の164件が最多だった。一方で、過労死ライン未満の事案での労災認定が増加していることも報告された。労働時間以外の要因も考慮する改正基準の影響で、過労死ラインを下回る事案でも認定されるケースが増えたと考えられる。脳・心臓疾患や精神障害に関する労災の認定件数は増えており、労働時間以外の要素も総合的に評価されるようになったことも要因。精神障害の労災認定件数は最も多く、2022年度に2,683件の申請があり、そのうち710件が認定されている。参考1)令和4年度「過労死等の労災補償状況」を公表します(厚労省)2)精神障害の労災請求・支給「医療、福祉」が最多 厚労省が22年度の補償状況を公表(CB news)3)過労死ライン未満、労災認定が増加 基準見直し影響か 精神障害での認定は最多(朝日新聞)4.製薬業界と診療側が対立-薬価と安定供給問題で/中医協厚生労働省は、7月5日に薬価について協議する中央社会保険医療協議会(中医協)の薬価専門部会を開催し、来年度の薬価改定に向けて、本格的な議論に着手した。この中で、製薬業界からは医薬品の安定供給に向けた薬価下支えの充実を求めた。一方、診療側の長島委員からは、後発医薬品の安定供給は企業の品質管理やガバナンスの問題であり、薬価維持だけでは解決しないと指摘。また、森委員も安定供給は当たり前のことで評価すべきではないと述べた。支払側の松本委員も、薬価下落の原因は卸の納品価格の低さであり、薬価差は国民に還元すべきであると主張した。業界側は不採算品再算定や基礎的医薬品の対象範囲拡充などを求め、安定供給を重視した制度改革を訴えた。ただし、診療側と支払側はエビデンスに基づく議論を求め、具体的なデータや長期トレンドの分析を要望した。業界や診療側の意見の食い違いや課題の解決に向けた具体的な方策については、さらなる議論が見込まれる。参考1)中央社会保険医療協議会 薬価専門部会 議事次第(中医協)2)薬価下支えする仕組み「充実を」日薬連 中医協・部会(CB news)3)中医協 薬価下支え求める業界に診療側「安売りが原因」「安定供給は評価するものでない」厳しい声飛ぶ(ミクスオンライン)5.人件費の高騰やコロナの影響で2022年度の決算は減少、先進医療にも影響/国立大学病院国立大学病院が昨年度、全国の医療機関に医師を派遣し、兼業や副業の形態で医療活動を行っていたことを国立大学病院長会議が明らかにした。しかし、医師の時間外労働に関する規制を受けて、国立大学病院は兼業先を含めた時間外労働が上限を超える医師がいると予想し、規制に対応するための申請を行う予定。一方、国立大学病院全体の2022年度の決算は、経常利益は前期比で336億円減の386億円と減少し、経常利益率も低下していることが明らかになった。収益は215億円増加したものの、人件費や診療経費の増加により費用は552億円増え、経常利益率は2.5%に減少していた。コロナ補助金の影響で赤字にはならなかったものの、光熱費の増加や物価上昇の影響で利益の確保が困難となったためと考えられている。2023年度の見通しでは、コロナ補助金や診療報酬の特例の廃止や働き方改革による費用負担の増加が予想され、事業の継続が困難となってきており、医療機器の更新にも影響が出ており、耐用年数を超えて使用されている資産が多く、先進医療の提供にも影を落とす可能性が指摘された。参考1)国立大、計9,628医療機関に医師派遣 22年度、国立大学病院長会議(CB news)2)国立大学病院、2022年度の経常利益は2.2ポイント減(日経ヘルスケア)6.返上相次ぐマイナンバー、個人情報保護委員会が立ち入り検査へ/デジタル庁デジタル庁によれば、マイナンバーカードの本人希望による返納件数は先月1ヵ月間で約2万件だった。これは平成28年1月以降の7年間での累計返納件数のうちの一部とされ、返納の理由には引っ越しに伴う再発行や在留期間の短縮などが含まれている。河野デジタル大臣は、カードの自主返納がリスク軽減につながるわけではないとし、マイナンバー制度の理解を求めている。また、河野氏は、マイナンバーの誤登録問題に関して、デジタル庁が個人情報保護委員会の立ち入り検査を受ける方針であることを認めた。問題は、公的給付金の受取口座に他人のマイナンバーが登録されたことであり、河野氏は「適切に対応する」と述べた。デジタル庁は問題について報告書を提出し、個人情報保護委員会は詳細な把握を目指して検査を行う予定。また、マイナンバーに関するトラブルに対しても行政指導を検討しているという。参考1)マイナカード 先月の本人希望の返納件数 約2万件 デジタル庁(NHK)2)河野デジタル相「適切に対応」 マイナ巡り立ち入り検査(日経新聞)3)河野太郎デジタル相、マイナカード「自主返納せず確認を」(神奈川新聞)

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第167回 首都圏に漂う“コロナ第9波は沖縄県特有”という幻想

非常に嫌な雰囲気だと思う。全国での新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の感染者が増加傾向にある件だ。感染症法上の5類移行により、現在の新型コロナ感染者報告は定点医療機関で行われているのは周知のこと。その数字を参照すると、全国の定点当たりの感染者報告数は、5類移行直後の5月8~14日の2.63人以降はじわじわと増加を続け、最新の6月19~25日では6.13人にまで達している。とりわけ増加傾向が顕著なのは沖縄県。同県の定点当たりの感染者数は、6月19~25日は39.48人で全国平均(6.13人)の6倍以上、すでに第8波のピークを越えたとの指摘もある。一部の民間検査センターでは、検査陽性率が5割に達するとも報じられており、この数字すら氷山の一角に過ぎないことがわかる。これまでのコロナ禍を振り返っても、沖縄県は日本国内でも最も新型コロナが流行しやすい地域の1つだが、その背景には活動性の高い若年人口比率が都道府県別で最も高く、これに対しワクチン接種率は都道府県別で最低などの事情があると思われる。以下は私個人の感覚に過ぎないのだが、コロナ禍の中で沖縄県での感染流行を話題にすると、友人・知人の多くはそれを「沖縄県特有のこと」と捉えがちと感じている。数日前にも友人との会話で今の感染状況が話題になったが、彼は「まあ、沖縄県とは距離があるし、即座に本州には波及しないでしょう」と言ってのけた。確かに前述のような人口構成比などに限らず、これまで抱えてきた歴史や風俗習慣の点でも沖縄県は独特である。これに加え、とくに首都圏在住者からすれば、物理的に離れていることも「沖縄県特有」との言葉で片付けられがちな大きな理由なのだろう。さらに友人は「そもそもたくさんの島が散らばっていて人口規模も小さいからさ」と言っていた。確かにこの友人が言うとおり、沖縄県の人口は約143万人で、都道府県別人口順位では真ん中より下の第25位。ただ、人口密度で見ると、全国第8位となる。ちなみに人口密度第10位までの都府県で、政令指定都市を含まないのは沖縄県だけである。その意味ではこの辺も沖縄県で新型コロナの感染が拡大しやすい要因の1つだろう。そして同じく友人が口にした「距離がある」のもそのとおりだが、今や一般人が「高嶺の花」と思わないコストで足を運べる時代だ。その証拠に沖縄県文化観光スポーツ部 観光政策課が公表している同県年間入域観光客数は、コロナ禍前の2019年度が1,016万3,900人。同県人口の約8倍で、うち7割以上が日本人である。コロナ禍でこの数字は大きく減ったとはいえ、2022年度は677万4,600人まで回復している。2022年度は外国人観光客数があまり回復していないため、このうちの97%が日本人、なおかつ半数弱が東京方面からである。この状況で、容易に時空を超える性質が最大の特徴である感染症が紛れ込めば、どうなるかは少し想像力を働かせればわかることだ。さらに付け加えれば、沖縄県外との行き来は多くが3密空間の代表格と言える航空機である。その意味で、沖縄県での感染流行を対岸の火事と思って眺めている間に、いきなり自分の背後から火の手が上がるというシナリオは、「とりあえず可能性がある」という程度の確率の低いものではないはず。少なくとも私自身、この状況を受けて行動制限まではしていないが、マスクを着用する局面(現在屋外では原則外している)は増やして対応している。

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新型コロナ、軽症でも精子に長期ダメージ

 欧州ヒト生殖医学会(European Society of Human Reproduction and Embryology:ESHRE)第39回年次総会で発表された新たな知見によると、COVID-19に感染した男性は、3ヵ月以上が経過しても精子の濃度が低下し、泳ぐことのできる精子も減少していたという。同学会が2023年6月26日付のプレスリリースで発表した。 スペイン・IERA財団の生殖専門家であるRocio Nunez-Calonge氏は、COVID-19感染後、平均100日が経過しても精子の質と濃度に改善はみられなかった、と述べた。 「COVID-19感染後、短期的に精液の質が影響を受けることを示した研究は過去にあるが、私たちが知る限り、長期間追跡調査した研究はなかった。新しい精子が生成されれば、精液の質は改善すると考えられていたがそうではなかった。精液の質が回復するのにどれくらい時間がかかるかは不明であり、たとえ軽症の感染であっても、永久的なダメージを受けた可能性もある。」 Nunez-Calonge氏は、生殖補助医療のためにスペインのクリニックに通院している一部の男性において、COVID-19感染後に回復し、軽症であったにもかかわらず、精液の質が悪化している患者がいることを確認していた。そこで、COVID-19感染が精液の質の低下に影響しているかどうかを調査した。 「新しい精子を作るまで 約78日かかるので、COVID-19から回復して少なくとも3ヵ月後に精液の質を評価するのが適切だと考えた」とNunez-Calonge氏は述べた 2020年2月~2022年10月、スペインの6つの生殖クリニックに通う男性45例が組み入れられた。全員が軽症のCOVID-19と診断されており、クリニックには感染前に採取された精液サンプルの分析データがあった。感染後17~516日に別の精液サンプルを採取した。患者の平均年齢は31歳、感染前と感染後のサンプル採取の経過日数中央値は238日だった。研究者らは、感染後100日以内の全サンプルを分析し、その後100日以上が経過したサンプルのサブセットを分析した。 その結果、精液量:2.5mL→2mL(20%減)、精子濃度:射精液1mLあたり6,800万→5,000万(26.5%減)、精子数:精液1mLあたり1億6,000万→1億(37.5%減)、総運動率:49%→45%(9.1%減)、生きた精子の数:80%→76%(5%減)に統計学的有意差を認めた。 Nunez-Calonge氏によれば、運動性と総精子数が最も深刻な影響を受けたという。半数の男性の総精子数は、感染前後で57%減少していた。そして、感染後100日以上経過してサンプルを提供した男性グループを調査したところ、精子の濃度と運動性は依然として改善されていなかった。 「軽度の感染であっても、ウイルスによる永続的なダメージが原因である可能性がある。臨床医はSARS-CoV-2が男性の生殖能力に及ぼす有害な影響について認識すべきだ。」 SARS-CoV-2が睾丸や精子に影響を与えることは知られているが、そのメカニズムはまだわかっていない。Calonge氏によれば、Long COVID患者にみられる炎症や免疫系の損傷が関与している可能性があるという。 本研究に関与していない、ESHRE委員長であるリスボン北部病院センターのCarlos Calhaz-Jorge 氏は「本研究はCOVID-19感染後の不妊患者の長期フォローアップの重要性を示している。しかし、感染後の患者の精液の質は、世界保健機関(WHO)が定める『正常な』精液と精子の基準内であることに注意する必要がある。COVID-19感染後の精液の質の低下が生殖能力の低下につながるかどうかは不明であり、さらなる研究の対象とすべきである」とコメントしている。

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既存の保険証の有効期限の延長も必要/日医

コロナ第9波に入ったと判断 日本医師会常任理事の釜萢 敏氏が、7月5日の定例記者会見で、新型コロナウイルス感染症の現在の感染状況について報告し、「現状は第9波に入ったと判断するのが妥当」との見解を示した。 「4月上旬から、緩やかではあるけれども新規感染者が増えているという状況が今日までずっと続いていて、今後も夏に向けて引き続き感染者が増える恐れがある。幸いに全国的には医療の逼迫はまだそれほど多くはなく、救急搬送困難事例は少し増えてはいるがまだそれほどではない」と述べた一方で、感染者が増加している沖縄県の状況について危機感を示した。 釜萢氏が個人的に沖縄の医師に聞いた話によると、医療の逼迫は明らかに強まっているという。「5類移行後は行政の関与が少なくなり、その結果として医療の逼迫状況が地域に十分周知されていないという現象がみられる。非常に逼迫している医療機関はとても大変な状況だが、その状況が地域で幅広く共有されておらず、協力が得られるという状況にはない」としたうえで、「今後の検討・改善の取り組みとして、5類移行後もなるべくその地域の感染状況を地域の関係者がしっかり共有し、適切に対応していく必要がある。医療の逼迫については、前兆を感じたところで情報共有し、どういう風に対応するかを考えていく。とくに入院の調整は行政の関わりが減ったので、速やかに入院の必要な方がきちんとベッドに割り振られるように、各地域において準備をしなければならない」とまとめた。既存の保険証の有効期限の延長も必要 常任理事の長島 公之氏は、現時点のマイナ保険証に関する日本医師会の見解を述べた。オンライン資格確認については、マイナ保険証のひも付けの誤りや資格確認ができない場合の対応方法が明確でなかったことにより、患者にも医療現場にも不安と混乱が生じている。 「6月29日に開催された社会保障審議会医療保険部会において、保険者による迅速かつ正確なデータ登録の確保のための取り組みと、マイナカードでオンライン資格確認を行うことができない場合の対応が示された。とくに資格確認ができない場合にも自己負担分で必要な保険診療を受けられるようにする、また医療機関には未収金と経済的負担が発生しないようにするための対応を明確化することは大きな前進である」と評価した。 さらに、「保険証が廃止された後も国民・患者や医療現場に混乱が生じないよう、資格確認書が必要な人全員に確実かつ迅速に、大きな負担なく交付される必要がある。そのための体制を保険証が廃止される2024年秋までに確実に整備するために、国として全力を尽くすことを要望した。万が一その整備が間に合わない場合には、国民・患者に不利益が生じないよう、また誰一人取り残されることのないよう、既存の保険証や資格確認書の有効期限の扱いについて、延長を含めて対応をお願いする必要がある」と見解を述べた。

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7月6日 ワクチンの日【今日は何の日?】

【7月6日 ワクチンの日】〔由来〕1885年の今日、細菌学者のルイ・パスツール(フランス)が開発した狂犬病ワクチンが、少年に接種されたことを記念し、ワクチンの大切さを多くの人に知ってもらうことを目的に日本ベクトン・ディッキンソン株式会社が制定。関連コンテンツ今、知っておきたいワクチンの話成人のワクチンキャッチアップの重要性「全ワクチン拒否」の医師は勤務可能?帯状疱疹ワクチンで認知症発現率低下 / タウリンでより健康に長生きできるかも【バイオの火曜日】肺炎の予防戦略、改訂中の肺炎診療GLを先取り/日本呼吸器学会

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潰瘍性大腸炎へのミリキズマブ、導入・維持療法で有効性示す/NEJM

 中等症~重症の活動期潰瘍性大腸炎患者において、ミリキズマブはプラセボよりも、臨床的寛解の導入・維持に有効であることが、オランダ・アムステルダム大学医療センターのGeert D'Haens氏らが行った2つの第III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験(導入療法試験と維持療法試験)で示された。一方で、ミリキズマブ群では少数の患者ではあるが、帯状疱疹などの日和見感染症およびがんの発生も報告されている。ミリキズマブはIL-23p19を標的とするヒト化モノクローナル抗体で、第II相試験で潰瘍性大腸炎の治療における有効性が示されていた。NEJM誌2023年6月29日号掲載の報告。導入療法試験で反応した患者に対し、維持療法試験を実施 研究グループは、中等症~重症の活動期潰瘍性大腸炎の成人患者におけるミリキズマブの有効性と安全性を評価する、2つの第III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験(導入療法試験[LUCENT-1、12週、2018年6月18日~2021年1月21日]と維持療法試験[LUCENT-2、40週、2018年10月19日~2021年11月3日])を行った。 導入療法試験(34ヵ国383施設で実施)では、被験者を3対1の割合で無作為に割り付け、ミリキズマブ(300mg)とプラセボの静脈内投与を4週ごと12週間行った。続く維持療法試験(34ヵ国367施設で実施)では、導入療法に反応した患者を2対1の割合で無作為に割り付け、それぞれミリキズマブ(200mg)とプラセボの皮下投与を4週ごと40週間行った。 主要エンドポイントは、導入療法試験の12週時点、維持療法試験の40週時点(全体の52週時点)の臨床的寛解だった。副次エンドポイントは、臨床的反応、内視鏡的寛解、便意切迫の改善などとした。 導入療法試験で反応のなかった被験者については、維持療法試験の最初の12週間に、延長導入療法としてミリキズマブの非盲検投与を行った。また、安全性の評価も行った。ミリキズマブ投与の1,217例中8例でがん発生 合計1,281例が導入療法試験で無作為化され、うちミリキズマブに反応した544例が維持療法試験で無作為化された。 導入療法試験12週時点の臨床的寛解が認められた患者の割合は、ミリキズマブ群(24.2%)のほうがプラセボ群(13.3%)よりも有意に高率だった(p<0.001)。また、維持療法試験の40週時点でも、それぞれ49.9%、25.1%と、ミリキズマブ群で有意に高率だった(p<0.001)。 両試験において、すべての主な副次エンドポイントの結果が、プラセボ群よりもミリキズマブ群で良好であった。 一方、有害事象については、上咽頭炎と関節痛がミリキズマブ群でプラセボ群より高率だった。両試験の対照期間・非対照期間(非盲検延長導入療法期・維持療法期を含む)にミリキズマブ投与を行った1,217例のうち、15例で日和見感染症(帯状疱疹6例を含む)、8例でがん(大腸がん3例を含む)の発生が報告された。導入療法試験のプラセボ群では、帯状疱疹が1例報告されたが、がんの発生は認められなかった。

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低中所得国において、せっけん手洗いによる介入は急性呼吸器感染症(ARI)の減少に寄与する(解説:寺田教彦氏)

 本研究は、低所得国および中所得国(LMIC)において、せっけんを用いた手洗いにより急性呼吸器感染症(ARI)の減少が推定されることを示した研究である。研究グループは、公衆衛生・感染症研究においてハーバード大学やジョンズ・ホプキンズ大学に並び有名なロンドン大学衛生熱帯医学大学院(LSHTM)である。 2020年以降、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが世界的な問題となったが、それ以前はARIが世界的に罹患および死亡の主な原因であり、そしてARIによる死亡の83%が低中所得国で発生していた。本研究の和文要約は「せっけん手洗いで、低中所得国の急性呼吸器感染症が減少/Lancet」にまとめられている。 本研究の主要アウトカムでは、せっけんによる手洗いの促進による介入であらゆる病原体によるARI罹患率の減少が示されており、低中所得国でせっけん手洗いを行える環境を整える根拠とされるだろう。副次アウトカムでは、下気道感染症と上気道感染症がともに減少している。他の副次アウトカムである「診断検査で確認されたインフルエンザウイルス感染症」については減少を指摘できず、「COVID-19」との関連を対象にした研究は0件であり、全死因死亡について調査した研究は1件のみだった。 ところで、インフルエンザウイルス感染症では、せっけんによる手洗いによる発症率の減少は見込めないのだろうか? 確かに、ウイルス性呼吸器感染症といっても、接触感染、飛沫感染、エアロゾル感染の感染経路のうち、どの経路が主となるかはウイルスごとに多少異なるのかもしれない。また、過去の報告では学校環境ではインフルエンザの減少に手洗いが寄与したが、家庭内の2次感染では寄与しなかった可能性も指摘されており(McGuinness SL, et al. Trop Med Int Health. 2018;23:816-833.)、ウイルスごとの特性以外に環境設定(保育現場、学校環境、家庭内など)により研究結果が変わる可能性もある。ただし、今回の研究で採用された研究は3件のみであり、今後さらなる研究が行われてデータが蓄積されると、「診断検査で確認されたインフルエンザウイルス感染症」も、せっけんによる手洗いが有効とされるかもしれない。せっけんによる手洗いによりインフルエンザウイルス感染症が減るかの結論は、まだ待つ必要があるだろう。 全死因死亡率も減少しなかったが、原因の1つは、全死因死亡率に関する報告が1件(Pickering AJ, et al. Lancet Glob Health. 2015;3:e701-e711.)のみと少数であったことが考えられる。そして、この1件についてもせっけん手洗いとARIの関係を主目的に研究した論文ではないと考えられ、低中所得国でせっけん手洗いを行うことで全死因死亡率の低下を認めるか否かを判断するにはさらなる研究が必要だろう。 さて、本邦は高所得国であるとはいえ、せっけんによる手洗いはARIや他のウイルス感染症疾患を減らすことに役立つことが期待される。今後も、ウイルス感染症流行時期などを中心に、食事前や帰宅後の手洗いをすることは感染対策に有用と考える。 世界では手洗いを行うためのせっけんや、流水が確保できない地域もある。グローバルな視点から見ると、筆者の主張どおり、COVID-19などの特定の感染症が流行していないような平時でも、ARIを減らすために、低中所得国での手指衛生環境を整えてゆくことの促進が望ましいのだろう。

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第168回 3年連続3回目、地域医療連携推進法人言及の背景 「骨太の方針2023」で気になった2つのこと(後編)

3年連続3回目のオールスターこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。ロサンゼルス・エンジェルスの大谷 翔平選手の打撃の勢いが止まりません。6月は27試合すべてに先発出場し、104打数41安打で打率.394、15本塁打29打点でした(投手としては2勝2敗)。全試合をテレビ観戦しているわけではありませんが、朝、NHK BSにチャンネルを合わせると大谷が打席に立っていて、ホームランを打っている印象です。「見ると打っている」、まさにそんな感じです。3年連続3回目の出場となるオールスターゲームもいよいよ来週7月11日(現地時間)に迫り、楽しみです。前日に行われるホームランダービーへは「出場しない」との下馬評ですが、「大谷のことだから」とダービー出場にほのかな期待を抱く人も少なくないようです。さて今回も前回に引き続き「骨太方針2023」について書きます。政府は16日、「経済財政運営と改革の基本方針2023 加速する新しい資本主義〜未来への投資の拡大と構造的賃上げの実現〜」(骨太方針2023)を閣議決定しました1)。盛りだくさんの医療や社会保障関連の項目の中から個人的に気になったものとして、前回は「長期収載品等の自己負担の在り方」について書きました。今回は、もう一つ気になった「地域医療連携推進法人」への言及について書いてみたいと思います。地域医療連携推進法人について骨太方針が言及するのは、大谷選手のオールスターと同じく、「3年連続3回目」となります。「骨太の方針2023」では「地域医療連携推進法人制度の有効活用」「骨太の方針2023」の「第4章 中長期の経済財政運営」「2.持続可能な社会保障制度の構築」の(社会保障分野における経済・財政一体改革の強化・推進)には、次のように書かれています。「引き続き都道府県の責務の明確化等に関し必要な法制上の措置を含め地域医療構想を推進するとともに、都道府県のガバナンス強化、かかりつけ医機能が発揮される制度整備の実効性を伴う着実な推進、地域医療連携推進法人制度の有効活用、(中略)を図る」「骨太方針2021」では「連携推進法人制度の活用等により病床機能の分化・連携を進め地域医療構想を推進」「地域医療連携推進法人」が最初に言及されたのは2年前の「骨太方針2021」でした。「第3章 感染症で顕在化した課題等を克服する経済・財政一体改革」「2.社会保障改革」の「(1)感染症を機に進める新たな仕組みの構築」には次のように書かれました。「今般の感染症対応の検証や救急医療・高度医療の確保の観点も踏まえつつ、地域医療連携推進法人制度の活用等による病院の連携強化や機能強化・集約化の促進などを通じた将来の医療需要に沿った病床機能の分化・連携などにより地域医療構想を推進する」。「骨太方針2022」では必要な法制上の措置を求める続く、「骨太方針2022」では、「第4章 中長期の経済財政運営」「2.持続可能な社会保障制度の構築」で次のように書かれました。「質の高い医療を効率的に提供できる体制を構築するため、機能分化と連携を一層重視した医療・介護提供体制等の国民目線での改革を進めることとし、かかりつけ医機能が発揮される制度整備を行うとともに、地域医療連携推進法人の有効活用や都道府県の責務の明確化等に関し必要な法制上の措置を含め地域医療構想を推進する」新類型新設などの制度変更を機に、再度有効活用をダメ押し表現は微妙に変わっていますが、「有効活用」という点は一貫しています。おおまかな流れとしては、「骨太方針2021」で、地域医療構想を推進するために地域医療連携推進法人制度の活用を謳い、「骨太方針2022」で必要な法制上の措置を求め、2023年5月成立の全世代型社会保障法(全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律)で新類型新設などの制度変更を実現、それを受けた今年の「骨太方針2023」でダメ押し的に「地域医療連携推進法人制度の有効活用」を再度強調した、ということになります。6月末現在の連携推進法人の数は全国で34地域医療連携推進法人(以下、連携推進法人)については、本連載でも度々書いてきました(「第138回 かかりつけ医制度の将来像 連携法人などのグループを住民が選択、健康管理も含めた包括報酬導入か?」、「第69回 「骨太」で気になった2つのこと(後編) 制度化4年目にして注目集める地域医療連携推進法人の可能性」)。制度がスタートして6年ですが、実際のところ、まだそれほど普及・定着していません。2023年6月末現在の連携推進法人は全国で34(累計認定数は35だが1法人解散で34)。47都道府県のうち、まだ半数以下の21道府県でしか認定されていない連携推進法人制度に、国がここまでこだわる理由は一体何でしょうか。最大の理由は地域医療構想の進捗がはかばかしくないことでしょう。地域医療構想については当面は策定された2025年の目標に向けての取り組みが進められていることになっています(次の地域医療構想については2040年頃を視野に入れつつ策定される予定ですが、詳細は未定)。しかし、そもそも各地の地域医療構想調整会議がほとんど機能しなかったことに加え、大規模な再編が本格化しようとした矢先、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが起こり、地域の病院再編の多くが先延ばしとなってしまいました。財務省は、今年4月28日に開かれた医療や介護など社会保障分野の改革を検討する政府のワーキング・グループで、地域医療構想について「過去の工程表と比較して進捗がみられない」「目標が後退していると言われかねない」などと指摘しています。地域医療構想調整会議が機能しないならば、連携推進法人を各地でつくってもらい、“同じ法人”の中で実のある話し合いを進め、本当に実効性のある医療連携を進めてほしい、というのが国の本音というわけです。「かかりつけ医機能の制度整備」にも連携推進法人活用をもう一つの理由としては、全世代型社会保障法の成立で新たに進められる「かかりつけ医機能の制度整備」があります。これについても連携推進法人の制度の活用が期待されているわけです。昨年12月16日に公表された、全世代型社会保障構築会議の報告書では、「かかりつけ医機能が発揮される制度整備」の項で以下のように書かれています。「医療機関が担うかかりつけ医機能の内容の強化・向上を図ることが重要と考えられる。また、これらの機能について、複数の医療機関が緊密に連携して実施することや、その際、地域医療連携推進法人の活用も考えられる」。どう活用するかについては細かくは言及されていませんが、病院だけではなく、診療所も参加した連携法人の中で、それぞれの専門領域を補完しあいながら、面の連携を進めることでかかりつけ医機能を強化していってほしい、と読み取れます。「個人立医療機関」も参加できる類型が新設その連携推進法人の制度ですが、全世代型社会保障法(全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律)が2023年5月成立したことに伴い、大幅に見直されます。医療法の一部が改正され、連携推進法人については、従来の「法人のみが参加できる」類型に加え、「個人立医療機関」も参加できる類型が新設されます。新類型では、出資、貸付は不可となる一方、外部監査等が不要になったり、一部事務手続きが簡素化されたりなど、“使い勝手”がよく、設立の敷居が低い類型となる予定です(施行は2024年4月)。これまでは、高度急性期病院から、急性期、回復期、慢性期へと退院患者の流れ(上流から下流へ)を効率化することに重点を置いた、いわゆる“垂直連携”の連携推進法人が比較的多かった印象です。そういったところでは、各病院の役割分担を明確にし、経営的にもプラスになるようなスキームを組んでいました。今後、診療所も参加した新類型の連携推進法人が増えていくと思われますが、わかりやすい“垂直連携”ではなく、医療機能が同レベルの医療機関による“水平連携”は経営的なメリットが見えづらいかもしれません。制度見直しで、連携推進法人制度が果たして順調に普及・定着していくのか、これからの動きに注目したいと思います。参考1)経済財政運営と改革の基本方針2023/内閣府

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スコアに基づくコロナ罹患後症状の定義を提案した論文報告(解説:寺田教彦氏)

 新型コロナウイルス感染症罹患後、数週間から数ヵ月にわたってさまざまな症状が続くことがあり、海外では「long COVID」や「postacute sequelae of SARS-CoV-2 infection:PASC」、本邦では新型コロナウイルス感染症の罹患後症状と呼称されている。世界各国から報告されているが、この罹患後症状の明確な診断基準はなく、病態も判明しきってはいない。WHOは「post COVID-19 condition」について、新型コロナウイルス感染症に罹患した人で、罹患後3ヵ月以上経過しており、少なくとも2ヵ月以上症状が持続し、他の疾患による症状として説明がつかない状態を定義しており(詳細はWHO HP、Coronavirus disease (COVID-19): Post COVID-19 condition.[2023/06/18最終確認]を参照)、本邦の「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 別冊 罹患後症状のマネジメント 第2.0版」でも引用されている。 このPASC(本研究同様、コロナ罹患後症状をこの文章ではPASCと記載する)は世界各地から報告されているが、有病率や認められる罹患後症状の頻度は地域差がある。筆者らはこの有病率の違いについて、過去の報告は個々の症状の頻度に焦点を当てている点、後ろ向き研究である点や、非感染者といった比較群が存在しない点が理由ではないかと提案し、本研究では前向きコホート研究の結果に基づいてPASCの疾患定義を作成し、PASCの調査を行っている。 さて、一般に疾患定義は、医師や研究者に疾患の理解や研究を進めるための基準を提供し、原因や病態の推定・把握、治療方法の開発に役立ち、疾患の発生率や流行の推移を追跡するなどの疫学調査を行う場合にも重要である。PASCの定義を作成するに当たって、病態について考えると、PASCは単一の病態で説明することができるのか、先行するCOVID-19により引き起こされる複数の異なる病態なのかはわかっていない。病態が複合的に関与する可能性を提案する論文では(1)持続感染、(2)Epstein-Barrウイルスやヒトヘルペスウイルス6などのような再活性化、(3)腸内細菌叢に対するSARS-CoV-2の影響、(4)自己免疫、(5)微小血管血栓症、(6)脳幹・迷走神経の機能障害といった病態を指摘している(Davis HE, et al. Nat Rev Microbiol. 2023;21:133-146.)。PASCの病態が単一ではない場合は、患者の表現型となる症状も複数のパターンがある可能性があり、治療法も個々の病態で異なるかもしれない。 本研究でも、PASCが複数の病態から構成される可能性は検討しており、PASCのサブグループについても記載があるが、今後の研究によっては、PASCの診断は単一のスコアリングで判断するのではなく、PASCのクラスターごとに診断基準を作成する必要が出てくる可能性がある。また、仮に、診断基準が1つでまとめられることとなったとしても、筆者も述べているように、今回提案された診断定義は、今後のさらなるデータを追加して改良を重ねてゆくことが求められるとともに、世界的な基準とする場合は外的妥当性を確認するための追加研究も必要となる。 最後に、本研究から得られたPASCの特徴についても確認してゆく。 PASC陽性者の特徴は過去の報告と同様の傾向で、オミクロン株以前が流行していた時期の罹患者がオミクロン株流行時期よりもPASCの割合は高く、COVID-19ワクチン接種非完了者のほうが完了者よりも高く、初回感染よりも再感染の患者で罹患率が高かった。また、急性期に入院している患者や、女性でPASC陽性の割合は高かった。 PASCは、オミクロン株ではデルタ株などよりも罹患後症状有病率は低下しているが、COVID-19患者が増えれば、PASCも増加することが懸念される。抗ウイルス薬がPASC予防に有効であることを示唆する後ろ向きコホート研究(Xie Y, et al. JAMA Intern Med. 2023;183:554-564., Xie Y, et al. BMJ. 2023;381:e074572.)も報告されつつあるが、抗ウイルス薬は高価であり、不確定な情報を参考に、COVID-19患者というだけでやみくもに処方するわけにもゆかないだろう。PASCのために困っている患者さんがいることも事実であり、病態解明が進み、より正確な罹患後有病率や罹患因子の把握、抗ウイルス薬のエビデンスが確立して、現在および未来の患者さんによりよいCOVID-19の治療が行われることを願っている。

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熱中症【いざというとき役立つ!救急処置おさらい帳】第4回

今回は「熱中症」についてです。夏場では熱中症はCommonな疾患で、さまざまな原因によって生じます。地球温暖化も相まって、熱中症は気象の影響による死亡の中で最も多いという報告があり1)、すべてのかかりつけ医にとって必修の疾患と言えるでしょう。私も救命センターで働いていると、熱中症患者の搬送や受診が年々増えていることを実感しています。熱中症の診療を若手医師に教える機会は多いのですが、しばしば「言葉の定義や治療方法があやふやだな」と感じることがあります。これは自分が研修医のときに上級医に言われたことでもありますが、系統立てて熱中症を勉強した経験が少ないことが影響しているのではないかと思います。今回は熱中症の定義や臨床像を整理し、かかりつけ医が熱中症患者を診る際のポイントや対処法をお伝えし、さらに帰宅時に「暑い中で作業する時は水分をしっかり取ってね」と指導する「しっかり」がどの程度かを解説します。熱中症の診断熱中症の診断で重要なのは「病歴の聴取」です。熱中症以外の疾患を見落とさないために、どんな場所で何をしていたか、随伴症状がないか、など聞ける範囲でしっかりと聴取しましょう。私が以前経験した苦い症例を挙げます。公園で遊んでいた母親と2人の子供が救急外来を受診。トリアージには一言「熱中症」と記載があり、体温は3人とも37.5℃程度であった。救急外来が混雑しており、3人ともぐったりしていたため、すぐに冷たい点滴を施行した。子供はすぐに元気になったが、母親はガタガタ震え、体温は39℃になり、嘔吐し始めた。よくよく聞くと、公園に着いたあたりから母親は倦怠感を感じて木陰で休んでいたとのことで、実は胃腸炎であった。この母親は運動性(労作性)熱中症にアンカリング(先に与えられた数字や情報を基に検討を始めることにより、その後の意思決定に影響を及ぼすこと)され、病歴をしっかりと聴取できていませんでした。熱中症診断の難しさを再確認した反省症例です。なお、古典的(非労作性)熱中症では、認知症や意識障害などにより病歴聴取が困難なことが多く、高温の環境から離れられなかった理由(図1)をしっかりと調べる必要があります2)。図1 熱中症と鑑別が必要な疾患例画像を拡大する熱中症の治療古典的熱中症は死亡率が高く、ほとんどの症例が総合病院に搬送されるため、ここからは、一般外来でもよく出会う運動性熱中症を中心にお話しします。目の前に熱中症患者がいた場合、まず現場で対応できるかどうかの判断が求められます。つまり、総合病院に搬送すべきかどうかという判断です。III度熱中症でジャパン・コーマ・スケール(JCS)2以上(見当識障害があり場所、日付、周囲の状況が正確に言えない)であれば、すぐに総合病院に搬送すべきです。JCS2程度であっても急性腎不全や横紋筋融解症など早期加療が必要な疾患を合併する可能性は高くなります。I度熱中症とII度熱中症の違いは、JCS0かJCS1かの違い、つまり意識清明か、見当識障害はないがぼーっとしているかの違いです。両方とも高温の環境から涼しい環境に移し、経口補水液を摂取させることが重要な治療です。ただし、II度熱中症で加療を開始して30分経っても意識が清明にならない場合は総合病院への搬送を検討しましょう3)。I度熱中症でも失神した場合はしっかりと鑑別を行い、病院での検査が必要になることがあるため搬送を検討します。熱痙攣(こむら返り)が収まらない場合は痛みで満足に水分摂取ができないことがあり、その際も搬送を検討します。私は熱痙攣が治まらず満足な水分摂取が困難な場合、生理食塩水の点滴と除痛目的のアセトアミノフェンを投与します。脱水による急性腎不全を合併していることがあるためNSAIDsの使用は控えます。また、報告は限られますが、芍薬甘草湯は熱中症に伴うこむら返りに効果があるという報告があり、頑張って1包(2.5g)を服薬してもらっています4)。これらの処置により1時間ほどで症状が改善することがしばしばあります。基本的にII度熱中症までは体温中枢が働いていて深部体温の上昇は軽度であるため、体表面の冷却が推奨されます。一般外来や院外でできることは、うちわや扇風機を使用する氷嚢を頸部、腋下、鼠経に設置する(直接では凍傷を生じることがあるので、必要に応じて間にタオルなどをはさむ)体に霧吹きで水をかけるなどがあります。氷水のプールに全身を浸して冷却するという方法が最も効果的だという報告がありますが、実行できる設備が少ないので現実的ではありません5)。霧吹きにはよく冷えた水を入れたほうがよいと思われがちですが、実はこれはお勧めできません。霧吹きによる体温降下は、水が蒸発する際に周囲の熱を奪うことで体内の熱を空気中に逃がすことができます(気化熱)。よって、常温~温かい水を使用するのがベストです。熱中症のピットフォール熱中症診療で注意しなければならないのが横紋筋融解症です。国家試験などにも出るほどメジャーな疾患ですが、診断が難しい疾患の1つでもあります。適切に治療しないと電解質異常や腎不全などを合併する恐れがあるため、早期診断・加療が必要です。熱中症の後に横紋筋融解症を合併した場合、尿がコーラ色になることがあります。これはミオグロビン尿と言われ、赤血球が尿沈渣では陰性で、尿定性では陽性になるのが特徴です。しかし、横紋筋融解症でミオグロビン尿が発現するのは19%程度であまり高くはありません6)。そこで診断基準に多く使われるのがクレアチニンキナーゼ(CK)です。多くの文献では正常値の5倍(1,000U/L)超を診断基準にしています。5,000U/L以下であれば横紋筋融解症の発症率は低いとされていますが、遅れて上がってくることもあるため注意が必要です7,8)。これらを聞くと「結局どうすればいいの?」となると思います。I度・II度熱中症であれば基本的に重症の横紋筋融解症は合併しないため、患者全員を病院に搬送して血液検査を行うというのは現実的ではありません。横紋筋融解症の治療は水分摂取が第1であり、認知症や意識レベルが低下している患者など水分摂取に懸念がある場合は積極的に病院受診を促すべきと考えます。私は患者を自宅に帰すときには、尿が出ない、尿が黒くなるなどの症状が現れた場合はすぐに病院を受診するよう指導しています。熱中症の予防最後に熱中症の予防です。環境省は熱中症の予防として、涼しい服装日陰の利用日傘・帽子の使用水分摂取を推奨しています。私も熱中症の患者さんは、水分摂取が少ないなと感じます。私が熱中症になった方に「水分を取りましたか?」と聞くと、多くの人が「取っている」と答えますが、よくよく聞くと「暑い環境で5時間働いていたのにコーヒー牛乳500mLを1本だけ」だったという経験があり、その量はさまざまです。では、よく言われる「こまめな水分摂取」とはどの程度でしょうか? 私が探した範囲では日本語で具体的に水分摂取量を記載しているものは見つかりませんでしたが、米国CDCによると、暑い環境で作業するときは水を15~20分ごとに8ounces(240mLくらい)、1時間で1Lくらいが摂取の目安となっています。この際、糖分の多いジュースなどは控えてもらいます。スポーツドリンクも糖分が多いので長時間継続的に摂取することは勧められませんが、状況に応じて活用しましょう。気温や活動の負荷によって異なりますが、最低基準としてこちらを患者へ説明してはいかがでしょうか。今回は、熱中症の診断、治療、予防について紹介しました。熱中症はCommonな病気であり、しっかりと治療し、適切に予防することが重要です。これからさらに暑くなると熱中症患者さんが増えてくるため、復習になれば幸いです。先生自身の熱中症対策もお忘れなく!熱中症の基礎知識<発熱と高体温>発熱とは体温中枢による調整によって体温が上昇することを指し、高体温は体温中枢のコントロールが破綻してしまっている状態を指します。前者の代表は感染症であり、後者は熱中症や甲状腺機能亢進症などが挙げられます。前者による体温上昇であればアセトアミノフェンなどの解熱鎮痛薬は効果がありますが、後者は解熱鎮痛薬で体温低下は期待できず、原因を解除する必要があります9)。<運動性(労作性)熱中症と古典的(非労作性)熱中症>運動性熱中症とは読んで字のごとく、屋外や炎天下で活動して水分摂取が足りないときに生じます。数時間以内で急激に発症し、発汗と脱水が必ず伴います。一方、古典的熱中症とは、小児や高齢者が安静時であっても高温の環境に置かれたときに生じます。毎年夏になると親がパチンコに行き子供を車に放置して熱中症で亡くなる、高齢者がクーラーをつけずに自宅にいて熱中症で亡くなるというニュースを聞くと思います。これらが古典的熱中症で、体温が急速に上がった結果、中枢神経の機能が破綻して発症します。発汗がないのが特徴であり、高度の脱水を伴わないこともあります3)。運動性熱中症は、若年~中年に多いということもあり死亡率は低く、5%未満ですが、古典的熱中症は高齢者が多く、また室内で発生することが多いため発見が遅れることもあり、死亡率は約50%と非常に高いです10)。<重症度分類>熱中症の重症度分類であるI度、II度、III度は日本救急学会の定義であり、日本オリジナルの分類です。従来から言われている熱失神(Heat syncope)、熱痙攣(Heat cramp)、熱疲労(Heat exhaustion)、熱射病(Heat stroke)では重症度のイメージがつきにくいため作成されました(図2)。ちなみに、熱痙攣は痙攣発作のことではなくこむら返りのことを指し、熱失神は立ち眩み~失神を指します。図2 日本救急学会提唱の熱中症重症度分類画像を拡大する 1)Summary of Natural Hazard Statistics for 2017 in the United States2)Epstein Y, et al. NEJM;380:2449-2459.3)Glazer JL. Am Fam Physician. 2005;71:2133-2140.4)中永 士師明. 日本東洋医学雑誌. 2013;64:177-183.5)Ito C, et al. Acute Medicine & Surgery. 2021;8:e635.6)Melli G, et al. Medicine. 2005;84:377-385.7)Stahl K, et al. J Neurol. 2020;267:8778-8782.8)Giannoglou GD, et al. Eur J Intern Med. 2007;18:90-100.9)Stitt JT. Fed Proc. 1979;38:39-43.10)Bouchama A, et al. NEJM. 2002;346:1978-1988.

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コロナ入院患者の他疾患発症、インフルと比較

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が重症化した人は、急性期後も心血管疾患、神経疾患、精神疾患、炎症性疾患や自己免疫疾患などを発症するリスクが高まり、Long COVIDとして問題になっている。しかし、それはほかの感染症と比較した場合にも、リスクが高いと言えるのだろうか? カナダ・トロント大学のKieran L Quinn氏らはカナダのオンタリオ州において、臨床データベースと医療行政データベースをリンクさせた集団ベースのコホート研究を実施し、研究結果はJAMA Internal Medicine誌オンライン版2023年6月20日号に掲載された。 2020年4月1日~2021年10月31日にCOVID-19で入院した全成人を試験群とし、「過去にインフルエンザで入院」「過去に敗血症で入院」した人を対照群とした。さらにパンデミック中に治療パターンや入院の閾値が変化した可能性を考慮するため「期間中に敗血症で入院」も対照群に加え、年齢、性別、過去5年内の肺炎による入院、COVID-19ワクチン接種状況などの交絡因子を調整した。 アウトカムは入院後1年以内の虚血性および非虚血性の脳血管障害、心血管障害、神経障害、関節リウマチ、精神疾患など、事前に規定した13疾患の新規発症だった。 主な結果は以下のとおり。・試験群として期間中のCOVID-19入院:2万6,499例、対照群として過去にインフルエンザで入院:1万7,516例、過去に敗血症で入院:28万2,473例、期間中に敗血症で入院:5万2,878例が登録された。年齢中央値75(四分位範囲[IQR]:63~85)歳、54%が女性だった。・COVID-19入院は、インフルエンザ入院と比較して、入院1年以内の静脈血栓塞栓症(VTE)の発症リスク上昇と関連していた(調整ハザード比:1.77、95%信頼区間:1.36~2.31)。しかし、インフルエンザまたは敗血症コホートと比較して、その他の規定された13疾患の発症リスクは上昇しなかった。 研究者らは「COVID-19入院後は、他疾患の発症リスクが高まると考えられるが、その程度はVTEを除けば他感染症と同じであった。このことは、COVID-19の急性期以降のアウトカムの多くは、SARS-CoV-2感染による直接的な結果ではなく、入院を必要とする重症の感染症に罹患したことに関連している可能性がある」としている。

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第154回 小児科の病床不足で医療現場が逼迫、感染症対策の重要性が明らかに

<先週の動き>1.小児科の病床不足で医療現場が逼迫、感染症対策の重要性が明らかに2.マイナンバーカードと健康保険証の一体化に向けて推進本部を設置/厚労省3.後期高齢者医療制度の支援金が過去最大の6.5兆円へ、現役世代の負担増/厚労省4.救急車出動件数の増加に対応 新たな運用方法とアラート導入へ/東京消防庁5.後発薬の政府目標見直し、薬剤師・薬局の役割を強化、パブリックコメント募集/厚労省6.全国で相次ぐコロナ検査の不正、悪質な事業者が検査件数を水増し1.小児科の病床不足で医療現場が逼迫、感染症対策の重要性が明らかに6月下旬、全国で小児科の病床がひっ迫し、小児の入院患者数が急増していることが報じられている。千葉市の中核病院の千葉市立海浜病院では、RSウイルス感染症に感染した子供の症状が悪化し、入院するケースが増加、病床の稼働率は9割前後のため、受け入れ制限を余儀なくされている。沖縄でも新型コロナウイルスの感染拡大により小児医療が限界に近付き、重点医療機関で休職する医療従事者が増加、病棟が逼迫している。医師会や県立病院の関係者は、医療現場が逼迫している状況を訴え、基礎疾患を持つ人々を守るために全体的な感染対策が必要であると呼びかけている。各地では、小児科の病床不足や医療現場の逼迫が深刻な課題であり、感染症対策の重要性が浮き彫りになっている。参考1)RSウイルス感染症 症状悪化で入院急増 小児科病床ひっ迫 千葉(NHK)2)小児科パンク寸前 コロナに加え、子の感染症が流行 沖縄 PICU満床 入院先見つからず(琉球新報)3)コロナ拡大で小児医療が限界間近に 重点病院の医療従事者565人も休職で現場が逼迫 県医師会、緊急会見で感染対策を呼び掛ける(同)2.マイナンバーカードと健康保険証の一体化に向けて推進本部を設置/厚労省加藤厚生労働大臣は、マイナンバーカード(マイナカード)と健康保険証の一体化について問題を解決するために、「オンライン資格確認利用推進本部」を設置することを明らかにした。情報登録の正確性や医療費の取り扱いなどの対策を進める予定で、高齢者施設の入所者にも対応することを検討する。また、厚生労働省はオンラインで資格確認するための推進本部を設置、迅速かつ正確なデータ登録やトラブル対応に取り組むことを発表した。マイナカードに関連するトラブルについて、政府は、デジタル庁と厚労省、総務省が共同して「マイナンバー情報総点検本部」を6月に設置し、秋までに全データの点検を行う予定。加藤大臣は国民の不安を解消し、安心してマイナカードを利用できる環境を整備すると述べている。参考1)第1回 マイナンバー情報総点検本部(デジタル庁)2)第1回 オンライン資格確認利用推進本部(厚労省)3)“保険証廃止を円滑に” 厚労相を本部長とする推進本部 設置(NHK)4)「オンライン資格確認利用推進本部」を設置へ マイナ保険証の利用環境の整備に向け 厚労省(CB news)3.後期高齢者医療制度の支援金が過去最大の6.5兆円へ、現役世代の負担増/厚労省厚生労働省は6月30日、2021年度の後期高齢者医療制度の財政状況を発表した。現役世代からの支援金は6兆5,266億円で過去最大となった。今後は、団塊の世代が後期高齢者になることから、医療費はさらに増える見通し。2021年度の後期高齢者への医療費支出は16兆6,129億円で、前年度比5.6%増加した。保険給付費は15兆8,079億円で3.1%増加。公費による支援金は収入の約半分を占めているが、国庫支出金は5兆3,354億円で1%減少。都道府県支出金は1兆3,530億円で2.8%増加し、市町村負担金は1兆2,830億円で1%増加。75歳以上の高齢者が支払う保険料は1兆3,893億円で、収入の8%程度を占めている。残りは現役世代の加入している健康保険組合や国民健康保険からの交付金で4割ほどを負担している。2022年5月末時点の75歳以上の被保険者は1,853万人で、5年前より170万人ほど増加している、今後はさらに高齢者人口の増加に伴い、現役世代の負担増が見込まれている。参考1)令和3年度後期高齢者医療制度(後期高齢者医療広域連合)の財政状況について(厚労省)2)後期高齢者医療、現役からの支援金最大、21年度6.5兆円(日経新聞)4.救急車出動件数の増加に対応 新たな運用方法とアラート導入へ/東京消防庁東京消防庁の救急車出動件数が、昨年の過去最多を超えるペースで増加していることが明らかとなった。増加要因としては、行動制限の緩和による外出増や熱中症などが挙げられる。その結果、救急車の到着が遅れる事態が発生しており、同庁は、緊急性の高い通報に迅速に対応するため、7月1日から新たな救急車の運用方法を導入すると発表した。新たな救急車運用では、重症対応救急小隊を設置し、緊急性の高い傷病者に優先的に対応する救急車を配置する予定。今年の救急出場件数は、6月25日時点で過去最多のペースで増加しており、同庁は適正な利用を呼びかけている。また、救急車逼迫アラートを導入し、状況を周知することで適切な利用を促す取り組みも行う予定。参考1)令和5年中の救急出場件数が過去最多を超えるペースで増加中!~救急車の適時・適切な利用をお願いします~(東京消防庁)2)「救急車逼迫アラート」開始 出動最多ペース、適正利用を-東京消防庁(時事通信)3)“救急車ひっ迫”ことしも過去最多の去年を超えるペースで増加 東京消防庁が「救急車の新たな運用」あすから開始(日テレ)5.後発薬の政府目標見直し、薬剤師・薬局の役割を強化、パブリックコメント募集/厚労省後発薬の政府目標を金額ベースで見直し、使用促進を図る方針と、薬剤師・薬局の役割を啓発するための「薬と健康の週間」実施が厚生労働省から発表され、後発医薬品の使用促進に関して、政府目標が2023年度中に見直されることが明らかになった。この新目標に基づき、各都道府県は第4期医療費適正化計画の目標を24年度中に設定する見込み。厚労省は、医薬品の迅速かつ安定した供給を基本としながら、有識者検討会の議論を踏まえ、目標を見直すことを決めた。後発薬の使用促進に関しては、各都道府県の80%以上の数量シェアを23年度末までに達成する目標が定められており、現在29道県が達成している。また、厚労省は、2024年度からの第4期医療費適正化計画に向けた基本方針の改正案について、パブリックオピニオンを募集している。改正案では、効果が乏しいとされる医療や地域差のある医療資源の投入に対して取り組みを進めるほか、後発医薬品の使用促進のために保険者などが差額通知を実施する支援、フォーミュラリに関する情報を医療関係者に周知する取り組みが追加されている。意見募集は7月4日まで行われ、中旬に告示する予定。参考1)第四期医療費適正化基本方針について(厚労省)2)後発薬の政府目標「金額ベース」に、年度内に見直し さらなる使用促進へ(CB news)3)後発医薬品の使用推進、薬剤師・薬局の役割を啓発-厚労省、10月に「薬と健康の週間」実施(同)4)医療費適正化の基本方針、7月中旬告示へ 厚労省、意見募集開始(同)5)医療費適正化に関する施策についての基本的な方針の全部を改正する件(案)に関する御意見の募集について(政府)6.全国で相次ぐコロナ検査の不正、悪質な事業者が検査件数を水増し新型コロナウイルスの感染拡大防止のため政府が行なった感染対策の一環で行われた無料検査事業を巡って不正を行う業者が問題となっているが、検査業者の内部関係者により不正の実態が明らかとなった。大阪府の委託先では、過去の検査事業で億単位の補助金を受け取ったとされ、不正の実態が産経新聞の報道で明るみにされた。大阪府内の無料検査場では2年間、無料のPCR検査や抗原検査を受けるために訪れた患者に対して行われていた。もともと検査場ではPCR検査は受検者の唾液を専用施設に送り、最短2日で結果を通知していた。典型的な不正な手口は、「PCR検査だけ受けた人が抗原検査も受けたと偽り、検査件数を水増し、補助金を申請する」ことだった。内部関係者は自分の検査場ではほとんどなかったとしながらも、別の検査場では不正が珍しくなかったと告白した。さらに、抗原検査では、現場で結果が判明する。申込書は府側に提出せず、1週間ごとに件数のみを報告していた。内部関係者によると、抗原検査の申込書にPCR検査を受けた人の情報を勝手に記入し、架空の抗原検査結果を報告していたという。府側の担当者も抗原検査は水増しの痕跡が残りにくいと明かしている。大阪府は不正に関する情報を受け、15事業者の立ち入り調査を行った結果、7事業者で補助金の不正申請が確認され、補助金42億円余りを不交付とし、約11億円の返還となった。同様の不正行為は東京都でも認められており、6月2日に11の事業者が都に総額約183億円の補助金を不正に請求していたと発表している。6月19日には、埼玉県の無料検査事業で抗原検査を実施したように装い、補助金をだまし取ったとして、詐欺容疑で社長ら2人が逮捕された。不正請求の総額は7千万円以上とみられており、県側は補助金の返還を求めている。参考1)コロナ無料検査の不正「当たり前」 公金食い物に…内部関係者が明かす水増しの実態(産経新聞)2)抗原検査やってないのに…新型コロナ検査補助金だまし取る、容疑の社長ら逮捕 不正請求の総額7千万円超か(埼玉新聞)

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